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梨子「ピアノの発表会」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:20:30 ID:BA8s88hk


・男性の登場人物がいます(セリフなし、名前もありませんが、梨子たちに関わりはします)
・スクスタ時空のため、同い年ですが、2人は初対面という設定です

2以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:21:56 ID:BA8s88hk
梨子「会場はここね…」

今日は学校も、スクールアイドル部もお休み。

同じステージに立つピアニストが、どんな人なのか。

それを知るために沼津からここ、東京に、

私はもう一度やってきた。


夏の、ラブライブ予備予選の裏で開催されたコンクールで、

私は千歌ちゃん達と見つけ出したあの曲を演奏した。

その演奏が都の音楽団体の目に留まり、

今度開かれる『高校生によるピアノ演奏会』の

演奏者のひとりとして招かれることになった。



あと、もう15分程で開演になる。

すこし道に迷ったけど、間に合いそう。

東京都出身の、私と同じ2年生の彼は、両親共にピアニスト。

好きでやっていた私と、全く違う境遇の人。

3以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:22:26 ID:BA8s88hk
今日はその両親のコンサートに、子息である彼も出演するのだ。

そんな彼の血統書付きの演奏を聴くことが、ちょっとだけ怖い。

受付から客席に向かうと、中は彼らの演奏を聴きにきた人でいっぱいで、チケットの番号を見なくても自分の席が分かった。

隣は…私と同じくらいの年の女の子。

おじさんや幼い子供じゃないことに内心、ほっとして着座する。

綺麗な髪を、くるっと頭の上で留めているその子は、
少し、退屈そうに見えた。

梨子(どうしたのかな… )

普段ならパンフレットを読んで、演奏を待つところが、
彼の演奏が怖いからか、隣の不思議な子が気になったからか、
私の視線はその子の方に向いていた。

4以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:23:05 ID:BA8s88hk
ことり(はぁ〜あ、つまんないなぁ…)

今日は、お母さんの付き添いでピアノを聴きに来てるの。

穂乃果ちゃんと海未ちゃん今頃、楽しいんだろうなぁ…

ことり(こんなに人がいっぱいのコンサートなのに、隣はずっと空いてる…来れなくなっちゃったのかな…)

そう思ってると、赤い髪の女の子がこっちの方に早足で向かって来た。

ことり(真姫ちゃん…? じゃないよね…このあたりでは見ない感じの子…)

ことり(でも、なんだろう…… あの子を見てると、穂乃果ちゃん達に会いたくなるような…)

やっぱり、帰っちゃだめかな…………

5以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:24:26 ID:BA8s88hk
『ねぇ、お母さん、ことり、帰っちゃだめ…?』

『ダメよ、たまにはこういう音楽も良いものなのよ?』

『それに、穂乃果ちゃんの宿題は「私が見ます」って海未ちゃんが言ってたじゃない。』

『むぅ…私も行きたかったのに…』

梨子(本当に聴きたくて来てる訳じゃないんだ…)

『ほら、もう少しで始まるわよ』

『はぁ〜い…』

親に逆らえず、退屈そうな彼女は、ささやかな抵抗か、母親から顔を背ける。私は咄嗟に目を反らそうとしたが、間に合わない。

ばつが悪そうな表情のまま私を見つめる隣の子に、その子の金色の瞳に、釘付けになってしまった。

梨子(…!)

盗み聞きしている事がバレたかもしれない…!

でも、ごまかし様はないし…


梨子「コ、コンサート、楽しみですね」

ぎこちなく、自然な言葉になるように努めて、話しかける。

『……………。』

6以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:25:35 ID:BA8s88hk
焦る私を見る彼女は、さっきよりも断然面白そうで。

梨子「えっ、……あっ、その……」

『……ふふっ♪』ニコッ

梨子「……すみませんっ///」

『……………♪』ジーッ

梨子(なにやってるんだろう私…! )


楽しそうに微笑む目の前の女の子。

彼女に遊ばれているうちに、演奏に対する怖い気持ちはいつの間にか無くなっていた。

初対面なのに、こんなに気持ちが落ち着くなんて……
もしかして、小さい頃に私と会ったことがあるのかな……

ブーーーーーーー

梨子「もう、始まりますね」

『そうですね♪』

お決まりのアナウンスの後、幕が上がり、壇上のピアニストは一礼する。

今日のコンサートのトップバッターは、例の彼のようだ。隣を気にしつつも、私は彼の演奏を聴き入ることにした。

7以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:26:17 ID:BA8s88hk
お母さんはすっかり演奏に夢中……。

確かに演奏は綺麗だけど、真姫ちゃんほど詳しくないから楽しめないし…

ことりにとっては、特に興味のない演奏。

このまま聴いていると、眠くなりそう…

そうだ♪ 隣の面白い子を見てみようっと。

右に目をやると、さっきまでのあたふたしていた時と違って、真剣に、落ち着いた顔で演奏を聴いていた。まるで、別人みたい…

ことり(目が、きらきらしてる…きっと音楽が好きなんだ)

ことり(どうしてかな…あの子のことが気になっちゃう)

何曲かの演奏が終わり、休憩時間に。

ことり「音楽、好きなんですか?」

『えぇ、はい…』

ことり(…? ちょっと、悲しそう…?)

ことり「…どうか、しましたか…?」

『ううん、なんでもないんです…』

ことり「そう…ですかぁ」

8以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:27:01 ID:BA8s88hk
ことり(なんでもないはず、ないと思うけど… )


『実は…私もピアノを弾くんです』

ことり「そうなんですね♪ 部活動とかですか?」

『はい、趣味でもあるんですけどね』

『今度、さっきの男の子と同じコンサートに出ることになったんです。それで、どんな演奏をする人なのか、聴きにきていて…』

ことり「聴いてみて、どうでした…?」

『私よりも、上手…でした』

ことり(だから、悲しそうだったんだ…)


ことり「私、南ことり。高校2年生。あなたは?」

『桜内…梨子です。 同じ学年、だね』

ことり「よろしくね、梨子ちゃん♪」

梨子「うん、こちらこそ、ことりちゃん」

ことり(梨子ちゃんを見てると、力を貸してあげたくなる…ことりにはピアノは分からない…けど…)

ことり「梨子ちゃんのピアノも、聴いてみたいなぁ」

9以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:27:35 ID:BA8s88hk
梨子「私のなんて… さっきの子に比べれば、全然……」

ことり「でも、おんなじステージに立つんだよね?」

梨子「うん…」

ことり「それなら、自信持って良いと思うよ♪同じくらい、すごいってことだもん」

梨子「ありがとう、ことりちゃん…」


ブザーの後、またピアノの演奏が始まった。

曲目がすべて終わり、拍手喝采の中、3人の演奏者が一礼する。

ことり(梨子ちゃん、また落ち込んでないかなぁ…)

休憩前よりは、暗くはなかったけど…不安そうな表情で湿った拍手を送っていた…。

『ことり、お母さんちょっと他の学校の理事長さん見つけたから、挨拶してくるわね。ロビーで待ってるのよ』

ことり「あ、うん」

ことり「梨子ちゃん、ロビーでことりとお話、しない?」

梨子「えっ…うん、いいよ」

10以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:28:19 ID:BA8s88hk
もうピアノは鳴ってないのに。

梨子ちゃんの意識はまだステージの上に行ってたみたい…。

ことり「座ろう?あそこ、空いてるよ」

梨子「うん…」

また隣同士で座ったことりと梨子ちゃんだけど、

言葉が、うまく出てこない…

こんなに助けたいのに、どうして…?

自分の気持ちも整理がつかなくなっちゃって、ことりまでちょっと暗くなっちゃった…

梨子「それで、お話って…?」

ことり「えっ、と…その…」

精一杯目を泳がせても、答えは見つからなくて。

梨子「…………?」

ことり「梨子ちゃん、元気にならないかなって…」

ことり「励まそうと…したんだけどぉ……」

梨子「…!」

11以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:30:15 ID:BA8s88hk
梨子「………………♪」ジーッ

ことり(えっ…!)

梨子「……ふふっ♪ありがと」

ことり「あっ……もぉ〜…」

梨子「ごめんなさいね、私の都合で…、今日初めて会ったことりちゃんにまで心配かけて……」

ことり「ううん、いいの」

ことり「梨子ちゃん、元気、出た…?」

梨子「うんっ 今は、私も頑張らなきゃ って気持ちだよ」

ことり「よかったぁ〜〜」

ことり「ごめんね、ことり、なんだか梨子ちゃんのこと放っておけなくって…」

梨子「もう謝らないで……嬉しかったよ」


梨子「…そうだ、ねぇ、ことりちゃん」

ことり「なぁに?」

梨子「私達、小さい頃に会ってたり、してないかな…どこかで…」

12以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:30:55 ID:BA8s88hk
ことり「…うーん…、ことりは、覚えてないなぁ…」

ことり「でも、梨子ちゃんは他人の気がしないの」

梨子「なにそれ?」クスッ

ことり「あー!笑った〜! むぅ〜」

梨子「ふふっ、なんだかおかしいね」

ことり「そうだね♪」


ことりが梨子ちゃんに元気づけられちゃった。

梨子ちゃんには笑われちゃったけど、
他人の気がしないのは本当。

梨子ちゃんも、そんな気がしてたのかな♪


ことり(梨子ちゃん…?)

梨子ちゃんの視線の先には…さっきの高校生ピアニストが。

梨子ちゃんを見つけて、手を振って、手招きしてる…

ことり「あの人、今度一緒に演奏する人だよね…?」

13以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:31:34 ID:BA8s88hk
梨子「う、うん、呼ばれてるみたい。ちょっとごめんね」

ことり「うんっ」

彼の方へ小走りで向かっていく梨子ちゃん。

ことり(どんなことお話ししてるんだろう…大丈夫かな…)

少し緊張した様子だった梨子ちゃんは、ぺこぺこしながらもその人と話していて、時には笑顔になったり、驚いたような顔もしてた……謙遜してる様にも見えた。

ことり(きっと、今度の演奏会についてかな…)

彼がバイバイ、と手を小さく振ると、梨子ちゃんはまたぺこりとお辞儀して、こっちに戻ってきた。

梨子「おまたせ」

ことり「演奏会、うまくいきそう?」

梨子「うんっ! 思ってたより怖い人じゃなかったし、実は私の演奏も聴いたことがあるって……お互いに自信無くしてたみたい」

さっきよりも、断然明るい表情で話す梨子ちゃん。

ことり「そうだったんだ!良かったね 梨子ちゃん♪」


『ことり、ここに居たのね!』

ことり「あっ、お母さん」

14以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:32:13 ID:BA8s88hk
『その子、お友達?』

ことり「うん、梨子ちゃんっていうの」

梨子「あっ、どうも…」

『うちのことりがごめんねぇ、ほら、ことり、行くわよ』

ことり「うんっ 梨子ちゃん、またね」

ことり「これ、アドレス。あとで梨子ちゃんのも教えてね♪」

梨子「メールするね! じゃあ、またね」



それから、お母さんとお家に帰ってきたの。

梨子ちゃん、まだかなぁ…

【Eメール受信中…】

ことり「メール、梨子ちゃんからだ」

ことり「…良かった。もう大丈夫みたい…」

ことり「今度、東京に来たら、言ってね、遊びに行こう っと」

【Eメール送信中…】

15以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:33:53 ID:BA8s88hk
偶然出会った、不思議な友達、桜内梨子ちゃん。

悩んでいたことも解決しそうで、二人で笑いあって、

また、会う約束もした。今日は楽しかったな♪





でも、どうしてかな……





胸のあたりが、すこし痛むの…………


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