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ハンジ「みんなの贈り物」

24 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:21:09 ID:K/9dguUM


「うわっ! 何これ山を成してるの? 集まる習性があるの?」


バシャバシャと音を豪快に立てながら近寄ってきたハンジは、
海芋虫の山の前で止まると手をひざに置き、腰を曲げて覗き込んだ。


「んん? 星の形っぽいものがいるね?」


目敏く海芋虫に隠れた生き物を見つけて観察する。


「集まる習性があるのなら何匹か持ち帰って観察してみようか……いや、持ち帰ったら怒られそうだな」


ブツブツと呟きながらそれらを見つめる。
何か誤解をさせてしまっているかもしれないとジャンが口を開いた。

25 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:21:52 ID:K/9dguUM


「ち、違うんです! あの、その、ゲームみたいなもので!」

「! そうなんです! どれだけ集められるかって!」


すぐに意図に気づいたアルミンがジャンの話に乗る。一寸、目を合わせ頷く。


「いや、そんなにいないんじゃないかと思って探してたら結構いたな!」

「うん、数を競ってたけどもう何匹いるかわからないね」

「じゃあ、数えてみっか。どんだけ捕まえたんだろうな、俺ら」


コニーが意図を知ってか知らずか話に参加する。
いや、もうそろそろ休憩も終わるし職務に戻ろうとみんなで海から上がる。

後ろ手にモゴモゴと蠢く袋を持って。

26 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:22:28 ID:K/9dguUM



蠢く袋は海に漬け込む形で口の所に石を起き、固定した。
岩の陰に置いているので気づかれないはずだ。

それを遠くで見ていたリヴァイが何かに気付き、彼らに近づいて一言訊ねた。


「お前ら、ソレ壁内でどうやって育てるんだ?」


全員があっと声をあげた。


海芋虫をどう育てたらいいのかわからない。

27 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:23:01 ID:K/9dguUM


海の水も補充が難しいし、餌も何を食べるのやら……。
だからハンジさんは持って帰らなかったのか、とそこで気づいた。気づくのが遅かった。
アルミンが恐る恐るみんなの方を見る。


「どう、しようか? こんなに集めちゃったし」

「せっかく集めたんだから勿体ねぇよなぁ」


そう言いながらコニーがアゴに手をやり首を傾げた。うーん、とみんなで頭を悩ませる。


「あ!」


またもや短い声をあげたのはサシャだ。それに「何だよ」とコニーが言う。

28 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:23:47 ID:K/9dguUM


「兵長、ハンジさんの誕生日って明日、5日ですよね!?」

「……ああ、確かそうだったと思うが」

「うん、それならこうしましょう!」


サシャが思い付いたことをみんなに告げると
せっかく集めたコレを無駄にするよりいいかとその提案に乗った。

リヴァイはそれを眉間に眉を寄せ、目を細めて見つめていた。

29 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:50:50 ID:K/9dguUM



「さっきからずっと睨んでるけど何なんだい?」

「睨んでねぇ」

「なんか見張られてる気分なんだけど」

「そりゃ気のせいってやつだ」

「いや、気のせいじゃないだろ」


リヴァイは腕を組み、ハンジの近くで仁王立ちで立っている。
突然やって来て、ずっとこんな感じだ。

ハンジを奇行種などと呼ぶ彼だが、今はよほど彼が奇行種然としている。

30 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:51:26 ID:K/9dguUM

さっぱり行動の意味がとれずハンジは首を捻るばかりだ。
とりあえず放っておいても問題はないので放っておくことにした。
その内意味はわかるだろう…………多分。


「兵長! 準備が出来ました!!」


ジャンが敬礼をしながら告げる。
やっとかと、小さく息を吐いてリヴァイはうなずいた。


「へ? 何? なんの準備?」

「ハンジさん、来てください」


突然現れたミカサがハンジの手を取り引っ張っていく。そこにサシャも加わった。
二人に引っ張られ、海岸にあった岩に近づく。そして目を瞑ってくれと言われ瞑ると、そのまま登らされた。

31 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:52:12 ID:K/9dguUM


「いいですか? まだ目は瞑っていてくださいね」

「おお? ちょっと怖いね」


サシャに手を引かれ、ミカサが体を支えてフォローする。


「着きましたよ。では、目を開いてください!」


パチリと残った片目を開く。
目の前には見事な水平線、眼下には太陽の光を反射してキラキラと光る青い海が広がっていた。
陸に近い手前の海は砂地が透けて見えている。

その透き通った砂地に黒い何かが並べられていた。

32 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:53:36 ID:K/9dguUM




      ☆    ☆
  ☆            ☆
☆たんじょうびおめでとうございます☆
  ☆            ☆
      ☆    ☆




.

33 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:54:25 ID:K/9dguUM

白い砂地に黒い海芋虫で書かれた祝いの言葉だった。
ざざーん、と波の音が響く。

やはりはずしたか、とジャンは白目になりかけた。
アルミンは気まずそうに笑い、エレンは海芋虫が動いて文字が崩れないように見張っていた。コニーは満足げな様子だ。

リヴァイは真顔だった。


「どうでしょうか? 持ち帰るのは困難だったのでこうしてみたのですが……」


覗き込むようにサシャがハンジを見た。

34 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:54:57 ID:K/9dguUM


「どうもこうも…………すっごいじゃないか!!」


キラキラと隻眼を輝かせ、とても嬉しそうだ。
良かった、報われたな。とジャンが白目から戻ってアルミンを見るとアルミンはうんうんと頭を上下に振る。


「よくこんなに集めたもんだね! あっ、さっきの山盛りは……!」

「あれは……本当はこれを集めて贈ろうと思っていたのですが……」


少し目を逸らしてミカサが申し訳なさそうにしている。

35 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:55:30 ID:K/9dguUM


「あー、育て方わからないからねぇ。でもとても嬉しいよ! あの星のやつも集めてたね」

「飾り付けに丁度よかったです!」


サシャは満面の笑顔で答えた。


「みんな、本当にありがとう。凄く嬉しいよ」


涙ぐみながらみんなに礼を言うハンジ。
それを受けて照れてみたり、ですよね!と自信満々に笑顔になってみたりと反応は様々だ。

本当にこれで良かったのだろうか? いや、喜んでいるのだからいいのか?
とそれを少し離れた所で見ていたリヴァイは思ったが無言を貫いた。

36 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:56:49 ID:K/9dguUM




壁内に戻った次の日。ハンジの誕生日当日だ。
アレをプレゼントにはしたものの、それだけではと104期で集まりささやかな祝宴を開くことにした。

とは言うもののそれほど経済的に芳しくない104期達はパトロンに先立つものを出してもらっていた。
足りない分をと申し出たがほとんどを出すと言ってくれた。
さすがに多すぎると断ろうと少し揉めたが料理を担当しろと言われ話は落ち着いた。

場所は調査兵団の食堂。食事の準備もほとんど終わった頃、パトロン、リヴァイが現れた。


「リヴァイ兵長、どうされたんですか?」


宴はまだですよ、と待てずに来たのかといった風情でサシャが言う。
いや、お前じゃないんだから宴が待ち遠しくて来たわけじゃないだろうとみんなは思った。

37 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:57:19 ID:K/9dguUM


「そういえば兵長には先立つものを出していただきましたが、他に何かあげたりするんですか?」


リヴァイが何か返事をする前に続けてサシャが質問をする。
その質問に104期の面々は興味を持った。贈り物をあげるとするなら兵長はどんなものを贈るのだろう。


「……酒だな」


それにすりゃ良かった! なんで俺は奇をてらったんだ……。
そうジャンは心の中で叫び、頭を抱えた。

38 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:58:03 ID:K/9dguUM


「それで、手が空いてる者はいるか?」


話を切り上げ、ここに来た目的を果たすべくリヴァイが104期達を見回しながら訊ねる。

なんの用事だろうか? もしやどこかの掃除がなっていなかったのだろうか?
と思い悩んでる間に料理が早めに終わった所為で手持無沙汰だったコニーが元気良く声をあげた。


「はいはい! 俺手ぇ空いてます! なんスか?」


それに続いてエレンやジャン、アルミンが手を上げる。
人数は充分とサシャとミカサは料理の番をすることになった。

39 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:58:45 ID:K/9dguUM



「もう海で祝いの品は貰ったってのにこんなにしてくれて……ありがとうね」


嬉しそうに優しく微笑みながらハンジは礼を言った。
大したものではありませんが、と料理を運び終えると皆席に着く。


「そういえば、兵長も贈り物があるんですよね?」

「え? そうなのかい? 何かな? 楽しみだな」


サシャがそう言うとハンジはわくわくしたように笑いながらリヴァイに向き直る。

40 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 19:59:42 ID:K/9dguUM


「……ただの酒だ」


そう言ってコニー、エレン、ジャン、アルミンを見やって首を縦に振る。
リヴァイが立ち上がると四人はそれを合図に席を立ち食堂の奥に行くと手に酒を持って現れた。

料理の皿を避けたハンジの机の周りにそれらを並べる。数は20は下らないだろう。
高級なものから珍しいもの、少し値の張るものと様々だ。


「これまた盛大な贈り物だね。数が多すぎやしないかい?」


面白そうに笑いながら近くにあった酒瓶を軽く指で弾くとキンッと音が響いた。
リヴァイは一つの酒瓶の天辺に指を置き、ほんの少し傾ける。

41 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 20:00:28 ID:K/9dguUM


「こいつはゲルガーの酒だ」


低くも耳に届く声が食堂を静寂にさせた。
特にコニーとジャンは身を固くする。その名には聞き覚えがあった。

ウトガルド城で自分達を守って亡くなった兵士の内の一人だ。


「空瓶がえらく転がってやがったがこいつは寝床の近くに隠してあった。こっちはナナバのだ」


青みがかった瓶のそれは果実酒のようだ。
なかなか手に入りにくい物で取って置きだったのかもしれない。

42 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 20:01:43 ID:K/9dguUM


「これはミケ、香りの良いものをよく飲んでやがったな」


スンッと鼻を鳴らしている姿が目に浮かぶ。
調査兵団でも特に背が高く、寡黙で少々妙な癖を持った男だった。

淡々とその他の酒も誰の物だったのかを告げていく。
そして、残りもあと2つ。リヴァイはその内の一つの天辺に指をかけた。


「こいつは……モブリットの物だ」


ハンジの視線が……残った右目がその酒を見つめる。彼が、守ってくれた目だ。


「あいつはよく呑む奴だったな。うちで一番飲んでやがった。
 ……まぁ、いろいろと大変だったんだろうが」


ちらりとハンジを見やる。その視線に気付いて思い当たる節がいろいろとあったハンジはすぐさま目を逸らした。

43 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 20:02:36 ID:K/9dguUM


「そして…………エルヴィンの物だ」


沢山並べられている中で一際高そうな酒。
リヴァイがどの酒が誰の物かを言い始めた時からハンジは恐らくこれがそうであろうと思っていた。

きっと、みんなも。

その酒に皆が釘付けになる。
しんとした食堂で今やあちこちで使われているあの光る鉱石の明かりが酒瓶を照らしている。


「……勝手に持ってきちゃったのかい?」


静寂を打ち破るように、しかし微笑みを湛(たた)えてハンジが訊ねる。

44 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 20:03:59 ID:K/9dguUM


「祝い事だ。文句言わねぇだろ」

「そうだね。何かしら理由を付けては飲むための口実にしてたね」


そうして在りし日を思い出すかのように目を細めた。
その時の光景を今此処に重ね合わせているのかもしれない。


「ああ、あいつらもどうせ持ち出して飲んでいただろうよ」

「確かに。でもこんなに飲めないよ」

「一気に飲む必要もねぇだろ。泥酔されても困る」

「そりゃそうだ」


そう言ってハンジは肩をすくめた。
リヴァイが酒瓶に手を伸ばし、少し迷って一つの酒瓶を手にする。

45 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 20:05:57 ID:K/9dguUM

それはモブリットの物だった。

もう一つ、迷った酒瓶はエルヴィンの高そうな酒だ。
最初に飲んでしまっては他の物を楽しめないだろうと思ったのかもしれない。


「そう来たか」


ハンジは楽しそうに、頬杖をついて酒の栓が開けられるのを眺めている。
次に何を飲むかもあなたが決めてよ、と選択を全てリヴァイに任せた。

リヴァイは無言だったがハンジはそれを了承と捉えたようだ。

46 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 20:06:48 ID:K/9dguUM


「待たせてごめんよ。さ、食べようか」


一部始終を黙って見ていた104期はハンジのその言葉にハッとし、
みんなで言うはずだった祝いの言葉をサシャがフライング気味に言うことで食堂に騒がしさが戻った。

わいわいと賑わう食堂をハンジは嬉しげに優しく、どこか懐かしむように見つめる。
ふと光に反射したグラスの中身に目をやると軽く揺らした。

全てを飲み干すにはどれくらいかかるだろうか?
どうせ飲むのならツマミはこの子たちが作ったものがいいな。

騒がしさを増す食堂で、そんなことを思いながらハンジはグラスを傾けた。






47 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 20:08:32 ID:K/9dguUM
ハンジさんの誕生日は9月5日です

なんとか9月内に投下できたから良し……なわけがないな
間に合わなかったどころの話じゃないwwどうしてもやりたかっただけなんす……

読んでくれた人ありがとうございました

48 以下、名無しが深夜にお送りします :2018/10/01(月) 08:20:28 ID:L8V7tOs2
今回は事情が事情だししゃーない
にしても予想の斜め上をいくサプライズに喜んじゃうハンジさん流石w
乙でした

49 以下、名無しが深夜にお送りします :2019/01/05(土) 00:48:36 ID:pv88HJMI
遺品…泣ける


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