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ハンジ「みんなの贈り物」

1 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 17:59:53 ID:K/9dguUM



「あ」


昼食を食べ終わり、
コニーと共に頬杖をついてぼぉーっとしていたサシャが唐突に顔と声をあげた。


「なんだ? また腹でも減ったのか?」


その声にコニーは頬杖のまま身動きをしたないまま口を開いた。

2 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:00:46 ID:K/9dguUM


「違いますよ! 確かもうすぐ誰かの誕生日だった気がして」

「ふぅーん、そりゃめでたいな」

「そうですよ。めでたい時にはご馳走が出ると相場が決まってます!」

「あー、って結局食いもんの事じゃねぇか」

「おい、お前ら昼休憩だからってだらけすぎんなよ」


食器を片付けていたジャンが騒がしい二人の所に近づくと側の椅子を引き、
そこへ座った。

3 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:01:22 ID:K/9dguUM


「あ、ジャン。聞いてくださいよ、近々誰かの誕生日のはずなんですよ!」

「あぁ、ハンジさんのだろ?」


ジャンは事もなくそう返す。


「そう! ハンジさんの誕生日なんですよ! コニー!!」

「いや、お前誰のかわかってなかったじゃねぇか」


まるでコニーだけが知らなかったとばかりに言うサシャにコニーがツッコんだ。

4 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:02:05 ID:K/9dguUM


「いつでしたっけね?」

「確か5日だろ。9月5日」

「そうそう! 5日です! 何かお祝い事をするんでしょうか?」


こいつ、絶対詳しい日付なんて知らなかっただろうとジャンは訝しげに横目でサシャを見た。
太陽に雲がかかったのか窓からの陽射しが陰る。視線をサシャから窓の外へと移し、口を開いた。


「……どうだろうな。壁の外の巨人はもう全滅させちまったけど大変さも忙しさも変わってねぇしな」


ジャンは頭を片手で支えて肘を机につき、窓から見える流れる雲と青い空を眺めている。
さっきまで騒がしかったコニーとサシャもそっと空に視線を移す。

5 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:03:12 ID:K/9dguUM

外は良い天気でまだ陽射しが強く、入道雲が見える。風はほんのりと冷たい。
真夏が過ぎ、秋へと移り変わろうとしていた。

つい最近、彼らは"海"を見た。空とはまた違う青さでどこまでも広がる塩水だった。


「あ」


またもやサシャの口から言葉が漏れた。


「今度はなんだよ。また別の誰かの誕生日でも思い出したのか?」


頬杖をつき続けているコニーが空をみたままそう言った。

6 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:03:44 ID:K/9dguUM


「誕生日の贈り物、あの"生き物"なんてどうですか?」


その場にいた男二人の頭に「?」が浮かぶ。
生き物なんて贈ったって世話が大変だろうとジャンは思い、
いろいろ生き物いたからわかんねぇな、とコニーは思った。


「あれですよ。いつのまにかハンジさんが両手で掴んでた海の芋虫みたいなやつです」

「……あれ、貰って喜ぶか?」

「いや……いや、でもあれ見つけて喜んでたよな、ハンジさん」


ジャンは誰かよろしく眉間にシワをよせて疑問を抱き、
コニーはその疑問に肯定しようとして思い直した。

7 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:04:24 ID:K/9dguUM


「あぁ……確かに。喜びそうだ」


軽くため息を吐きながらジャンも肯定する。


「それならあれにしましょう!」

「いや、でも勝手に海には行けねぇだろ」


決定したとばかりに喜ぶサシャにコニーが待ったをかけた。


「何言ってるんですか! 近々もう一度壁外、海に行くでしょう?
 確かハンジさんの誕生日前日だったかと思うのですがそれがチャンスです!」

8 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:05:00 ID:K/9dguUM


サシャの言うとおり壁外調査が予定されている。この前に行ったのは道筋と海の確認だ。
詳しく調べるには時間がかかる。


「何がチャンスなの?」


遅れて入ってきたのはアルミンだ。その後ろにはエレンとミカサがいる。


「今度のハンジさんの誕生日にあの海の芋虫をあげようかと!」


得意気に、自信満々といった体(てい)で胸を張ってサシャは答えた。

9 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:05:31 ID:K/9dguUM


「海の……芋虫」

「それ、嫌がらせじゃねぇのか」


ミカサは嫌そうに眉をひそめ、エレンは素直な感想を述べた。


「えーっと、ジャン、説明してもらえるかな?」


アルミンはそこにいる三人を流し見て、ジャンに目を止めて言った。

10 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:06:34 ID:K/9dguUM




「海だぁーー!!」

「海でーーす!!」

「おいコラ、コニー、サシャ!!」


ジャンの制止にも聞く耳を持たず二人は海に飛び込んでいく。
壁からここまではそれなりに遠いため、調査兵団は海に着くとひとまず休息をとることにした。

秋に近づいたとはいえまだまだ暑い。適度に休憩を取らなければ下手をすると倒れてしまう。

11 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:07:17 ID:K/9dguUM

そうして休憩にしようとハンジが言ったとたんに二人は海へと突撃したのだ。
いくらなんでもそれはねぇだろうとジャンはたしなめに行ったが二人に海に引きずり込まれ沈められたようだ。


「またやってる」


アルミンが笑いながら三人をを見ている。
ミカサも三人を見て呆れたような様子だ。


「あの変なの捕まえるんじゃねぇのか」


幼馴染三人はあの後、ジャンから説明を受け海芋虫を贈り物にすることに同意した。
あのハンジさんだから喜ぶ! と力説されれば確かにそうかと納得してしまったからだ。

12 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:08:05 ID:K/9dguUM

今では少し後悔している。
本当に誕生日プレゼントが"あれ"でいいのかと。

しかしここまで来たのならやるしかない。
そう心に決めたエレンは海に着く頃には捕まえようと意気込むほどになっていた。

が、あれである。海で遊ぶ三人を見て少しがっかりだ。


「エレン、アルミン。とりあえず海の中を見てみよう」


ミカサがエレンとアルミンの手を取って海へと向かう。

13 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:08:51 ID:K/9dguUM


「おい、お前ら調査に来てるんだぞ。全身ずぶ濡れはねぇだろ」


ジャンたち三人に少し離れたところからフロックが声をかけた。


「俺は巻き込まれたんだよ! おい、いい加減、海から出るぞ!」

「ダメですよ。"あれ"を探さないと」

「そうそう。さっき潜ったけど見当たらなかったな」

「……お前ら」


まさかさっきのはしゃぎっぷりは演技だったのか?
と驚きを隠せないジャンだが……

14 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:09:28 ID:K/9dguUM


「しかしいつ来ても海ってでっけぇよな!」

「ええ! 広いし大きいし、つい飛び込みたくなりますよね!」


あ、違った。飛び込んだのはただ遊びたいだけだからだった。
そう理解したジャンは二人の頭を上から掴んで海に沈めた。


「あいつら、何やってんだか。風邪引いてもしらねぇからな」


フロックはもう呆れて注意する気も起きなくなった。

15 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:10:06 ID:K/9dguUM


遊びながらもジャンたちはエレンたちと合流し、海芋虫を探す。
よく見ればそこかしこにいるようだ。


「うっし! 捕まえた」


コニーが右手で海芋虫を持ち上げた。
それを見てジャンはどん引く。


「うわぁ、間近で見ると気持ち悪ぃな」

「……これ、食べられるんですかね?」


ジャンの横で真剣な顔をしたサシャが呟いた。一斉にみんながサシャを見る。

16 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:10:50 ID:K/9dguUM

全員が顔で

『こいつ、正気か!?』

と訴えていた。


「あ、これなんですかね?」


ひょいっとサシャが持ち上げたのは星形の生き物だった。


「なんじゃそりゃ。手みてぇだな」


海芋虫をにぎにぎしながらコニーはサシャの持つ生き物を見つめる。
にぎにぎされているモノを嫌そうに見ながらミカサが注意をする。

17 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:11:24 ID:K/9dguUM


「コニー、それはずっと持っていると内臓を吐き出すらしい。
 以前ハンジさんが言っていた。早く何かに入れないと」


それは大変だ! 生きたままじゃないと!
と大慌てで海の水を袋に入れ、捕まえたものも入れる。
これで一安心と、また更に探し始めた。

あまり見た目が良いとは言えないがプレゼントだからと、なんとか集めていく。
ついでとばかりに人の手のような生き物も捕まえていく。

その内になんとなく楽しくなり、みんなは夢中で集め始めた。

18 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:11:56 ID:K/9dguUM


「おい、お前ら。何してやがる」


突然、なんの前触れもなく、聞けば背筋が伸びるような声が聞こえた。
何人かが「ひっ」と短い悲鳴を漏らす。


「何か集めてやがったな。なんだ?」

「それは、そのぅ……」

「いいから見せやがれ」


リヴァイは言い淀んだジャンから袋を奪い、中を覗いて一瞬ビクリとした。

19 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:12:31 ID:K/9dguUM


「……お前ら、なんでこんなもんを」


眉間にシワをよせ、心底嫌そうな顔をして部下たちを見る。

珍しく兵長の表情が読めるなーとジャンとアルミンは少しばかり現実逃避した。
エレンは体を強ばらせ、ミカサは目を明後日の方向へ向けている。


「あの、ハンジさ……団長には内緒にしてください」


サシャがおずおずとリヴァイへ告げる。
リヴァイは何故だとばかりにサシャへと目を向けた。

20 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:13:09 ID:K/9dguUM


「その、団長への誕生日プレゼントなんです」


海からよせては返す波の音が一際大きく聞こえる。
先程まで騒がしかった声が一瞬にして静まり返ったからだろうか。

リヴァイがかわいそうなものを見るような目をしている……ように104期の目には見えた。


「いや! 違うんです! 嫌がらせじゃないっス!
 その、初めて海に来たとき嬉しそうに掴んでたから!」


慌ててジャンが必死で弁解をするが、だからといってこれを? とリヴァイは袋の中を覗く。
袋に詰まったそれらはもぞもぞとうねっている。

21 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:14:12 ID:K/9dguUM

今すぐにでも遠くへ投げ飛ばしたくなったリヴァイはとりあえずジャンへ袋を返した。
袋を開いたまま渡した所為でジャンもその様子を見てしまい、
やはり投げ飛ばしたくなったが耐えて袋の口を閉めた。


「何かもっとマシなもんはなかったのか」


リヴァイは全員を残念そうに見つめて呆れた。

これしか浮かばなかったわけではないがサシャの力説と何か奇抜で喜びそうなものと考えてこれになってしまった。
やはり普通のプレゼントにするべきだったと後悔が全員によぎる。

理由を告げるとリヴァイはみんなが持つ袋に目線をやり、軽くため息をついて好きにしろと去っていった。

22 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:15:06 ID:K/9dguUM


去っていく後ろ姿を見送ってから集めてしまったものをみんなで確認する。


「なぁ、これ……」

「ちょっと多くねぇか?」


コニーが言い淀んでいるとエレンが後を継いだ。
それにジャンがうなずく。


「確かに……これはヤバイな」


先程リヴァイから袋を返された際に見た時より前に気づいてはいた。
が、正直集めることが楽しくなってしまって手を止められなかった。

23 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:20:27 ID:K/9dguUM

全員で顔を見合せてうなずき合うと、袋から半分くらい海へ戻した。
1ヶ所にまとめて戻したものだから海芋虫の山ができた。

なんともいえない表情でそれをみんなで見つめる。

――なんで俺達はこんなもんを嬉々として集めていたんだろうか?

そんな心の声が聞こえてきそうだ。


「おーい。君達何してんの? そろそろ休憩終わるよ」


みんなはハッとして声のした方向を見る。
この海芋虫を集めることの要因となった人、ハンジ・ゾエだ。

わたわたと海芋虫の山を隠そうとするがすでに遅かった。

24 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:21:09 ID:K/9dguUM


「うわっ! 何これ山を成してるの? 集まる習性があるの?」


バシャバシャと音を豪快に立てながら近寄ってきたハンジは、
海芋虫の山の前で止まると手をひざに置き、腰を曲げて覗き込んだ。


「んん? 星の形っぽいものがいるね?」


目敏く海芋虫に隠れた生き物を見つけて観察する。


「集まる習性があるのなら何匹か持ち帰って観察してみようか……いや、持ち帰ったら怒られそうだな」


ブツブツと呟きながらそれらを見つめる。
何か誤解をさせてしまっているかもしれないとジャンが口を開いた。

25 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:21:52 ID:K/9dguUM


「ち、違うんです! あの、その、ゲームみたいなもので!」

「! そうなんです! どれだけ集められるかって!」


すぐに意図に気づいたアルミンがジャンの話に乗る。一寸、目を合わせ頷く。


「いや、そんなにいないんじゃないかと思って探してたら結構いたな!」

「うん、数を競ってたけどもう何匹いるかわからないね」

「じゃあ、数えてみっか。どんだけ捕まえたんだろうな、俺ら」


コニーが意図を知ってか知らずか話に参加する。
いや、もうそろそろ休憩も終わるし職務に戻ろうとみんなで海から上がる。

後ろ手にモゴモゴと蠢く袋を持って。

26 ◆uSEt4QqJNo :2018/09/30(日) 18:22:28 ID:K/9dguUM



蠢く袋は海に漬け込む形で口の所に石を起き、固定した。
岩の陰に置いているので気づかれないはずだ。

それを遠くで見ていたリヴァイが何かに気付き、彼らに近づいて一言訊ねた。


「お前ら、ソレ壁内でどうやって育てるんだ?」


全員があっと声をあげた。


海芋虫をどう育てたらいいのかわからない。


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