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男「お願いだ、信じてくれ」白蓮「あらあら」
1
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2016/01/20(水) 05:32:56 ID:GS4PMXIs
このSSは東方の二次創作であり、
男「どこだよ、ここ」幽香「誰!?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1388583677/
男「なんでだよ、これ」ぬえ「あう」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1400909334/l50
の続きとなっております。
そちらを先にご覧くださると幸いです。
また、オリジナル設定、オリジナルキャラ、東方キャラクターの死亡などが含まれますので苦手な方はご注意ください。
321
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/10(月) 15:35:40 ID:IXjfrWdw
男「あ、れ? 射命丸さん」
文「なにやってるんですかあなたは!?」
こいし「ジャンプ!」
文「なんで、いきなり落ちてきて。結界があるからって飛び降りたんですか!?」
男「いや、あの子に引きづられて」
指を指した先にいる少女はにこにことこっちを見ている。行動は殺意しかなかったが表情はそんなこと微塵も感じさせない。
文「あの子って………んん!? こいしさん!?」
こいし「やっほぅ!」
文「なんでこいしさんが、というかなんで、いやなぜ!?」
なぜか混乱している射命丸さんとにこにこの少女。
収拾なんてつくわけがない。
俺は射命丸さんが落ち着くまで黙って抱きとめられていた。
322
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/10(月) 15:40:34 ID:IXjfrWdw
文「ふぅ。ところでなぜ貴方がここに」
男「理由は分かるでしょうに」
文「………私は謝りませんからね」
そういってふいと横を向いた射命丸さん
こいし「目と目を合わせてー」
の顔をむりやり少女が曲げた。
さっきから行動がよく分からないな。なにが目的なんだろう。
文「やめふぇくだふぁい」
文「とにかく入ってきてしまったものはしかたありませんが、こちらの命令に従って」
マミ「ゴミ漁りがずいぶんとまぁ、偉そうにしてるじゃあないかね」
文「うひゃあ!?」
またどこからともなく現れたマミゾウが射命丸さんの頭をキセルで数度軽く叩く。それに続いてナズーリン階段を駆け下りてきて
ナズ「おろかものめっ!」
そう叫びながら俺たち二人の頭にとび蹴りをかました。
323
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/10(月) 15:59:13 ID:IXjfrWdw
ナズ「なにがしたいんだい君は!」
文「な、なんで私まで」
ナズ「裏切り者には良い罰さっ」
激昂するナズーリンはその体躯ながらも迫力がある。俺たち二人は思わず正座をし、それからしばらくの間ナズーリンの説教を聞くこととなった。
ナズ「分かったかい?」
男「はい、すいません」
文「もうしません」
射命丸さんはともかく俺に関しては一切非は無いと思うのだがそれを証明する少女はいつのまにか消え、無実を証明することはできなかった。
結局俺の不注意で穴から落ちたということになり、ナズーリンからは愚か者という大変不名誉なあだ名された。
反論に意味はないと判断して耐え忍んではみたが、30分を越えたあたりからナズーリンは本来の目的を見失っているのではないかと思い、こんなことより先を急ごうと提案してはみるものの「こんなこと」といった表現が気に障ったらしくさらに激昂したナズーリンの説教は伸びた。
そうしてやっと終わったころには二人ともうなだれてトボトボと徒歩で地底を進むほどに疲れていた。
マミ「ナズーリンはおぬしのことを心配しておるのよ。くくく、愛情表現と思っておけ」
ナズ「そこ! 変なこと言うんじゃないよ!!」
マミ「おう、怖い怖い」
324
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/20(木) 10:06:36 ID:YX8O3/46
文「よく躊躇なく結界に入ってきましたね。普通しませんよそんな行動」
普通はしないだろう。普通じゃないからやったんだ。
射命丸さんは俺の言い分を信用してないためか、いまだに横目でじろじろと見てくる。
まぁ、当り前だよな。素直に受け入れてくれた聖さんたちが特別なだけだ。本当、頭が上がらないな。
男「それにしても、不思議な場所ですね、ここ」
地底は文字通り地の底だった。上も下も、一面岩肌に覆われていて寒々しい。しかしなぜか明るい。
岩肌に生えた光るコケのせいだろう。不規則に灯された青白い炎のせいだろう。
なぜか空に輝く光のせいだろう。
男「なんなんだろうな。この場所」
325
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/20(木) 10:20:30 ID:YX8O3/46
10分ほど歩いただろうか。あたりを照らす輝きが一層強さを増した。
一面に見えるのは白塗りの壁に朱色の柱。教科書で見たような優美で雅な建物でできた町が広がっていた。
そのどれもが多少の差はあれ、傷ついているが、岩肌で囲まれた空間よりはよっぽどマシだ。
岩肌と町の境目には大きな朱色の橋があり、その下には暗闇が流れている。底にあるのは水か地か。石ころでも投げ入れてみればわかるだろう。
「………誰、それ」
橋を渡ろうとしたときだった。橋の中腹で欄干に両腕を乗せ黄昏ていた少女がちらりとこちらを一瞥して声を投げかけてきた。
少女の髪は金色で目は深い緑色。それだけでも目立つ風貌だが顔の横にある耳は人間のものと違い尖っていた。
文「これはこれは水橋さん。奇遇ですねぇ」
パル「奇遇もなにも私は橋姫よ? ここにいて当然じゃない。それで、ネズミにタヌキはまだいいわ。誰よそれ」
パル「人間に見えるんだけど?」
そう水橋と呼ばれた少女が首を大きく傾けた瞬間だった。垂れた金色の髪から除く緑色の瞳が大きく揺らいだ。
ゾクリと背筋を震わすのは今まで何度も体験した殺気。今思えば人それぞれで持つ殺気の種類が違う。
彼女が持つ殺気は心を掴まれ地の底へ引っ張られるようなとても不気味で恐ろしいもの。
素直に殺されるんだと思わせた萃香のものとは対照的で、先の見えないおどろおどろしいものだった。
326
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/20(木) 23:05:06 ID:d7sU2Dtw
支援
327
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/21(金) 18:55:43 ID:WAgTHoPI
紫煙
328
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 13:22:58 ID:a1AQiFo.
文「あやや、落ち着いてください。これにはわけがありまして」
パル「この危ない時に外から人間を連れてくるわけって何よ。食料?」
射命丸さんの弁解甲斐なくいつのまにか指の間に挟んだ五寸釘を携え水橋がさらに歩みを進める。
彼我の距離はざっと5メートルほどまで迫っている。ゆらゆらと揺らぐ緑色の瞳の奥まで覗けるほどの距離。
ナズ「話を聞かないなんて。これだから嫌われものなのさ」
パル「ドブネズミとタヌキの害獣共が良く言うわね。煮ても焼いても臭くて食えたもんじゃないくせに」
ナズーリンの悪態に言葉を返す。ナズーリンは少し顔をしかめたがそれ以上悪態をつくことはなかった。
マミ「ぽんぽこタヌキは商売繁盛の人気者じゃて。まぁ、それはよい。大事なのは我らが何かではなくて、我らが何をするかじゃろう?」
パル「舌を斬って四肢を落とせば関係はないわ。貴方たちが善であれ悪であれ私たちは変化を望んでないわ」
話は通じない。百篇言葉を繰り返したところでおそらく止まらない。排除するという意思に対して話し合いを求む努力は不毛なようだ。
更に距離は詰められ2メートルほど。踏み込み腕を振るえば簡単に届く距離。距離は敵意の高さと反比例している。つまりこの距離は一触即発というわけで俺たちの間に緊張が走る。
男「分かった。手錠でも縄でもなんでも」
パル「斬りおとす方が早いわ」
最後の交渉は決裂。釘が地底の光を受け、鈍色に輝く。雰囲気は濁りあたりの臭いが変わる。戦いの雰囲気に周囲は呑まれ―――
「止まりな、パルスィ」
329
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 13:35:18 ID:a1AQiFo.
この場を制したのは俺たちでも水橋でもない猛る風と共に現れた第三者だった。
そいつに遅れ一層強い風が俺たちの体を押す。転ばないように踏ん張っていると俺の右手を引いてそいつが支えてくれた。
見ると長い金色の髪。それよりも目立つのは体格と額から生えた朱色の角。顔だちと過剰な胸のふくらみがなければ俺は男と思っていただろう。
身長はおそらく2メートル近く、肩幅も俺より太い。大きさは原初からある強さをはかる基本的な物差しだ。そんな彼女からなぜか俺は体格がまったく違う萃香を感じ取っていた。
パル「なんで止めるのよ、勇儀」
勇儀「ありゃあ誰が見たって止める。血みどろ沙汰は勘弁さ。酒が不味くなる」
今なお距離を詰めようとする水橋の頭を大きな手で押さえ制する。水橋は数度頭を動かそうとしたが諦めて釘を橋の下へと放り投げた。
パル「鬼のくせに」
男「あんた鬼なのか?」
とっさに反応してしまい、口走る。突然の言葉に勇儀が目を丸くしていた。
勇儀「あぁ、鬼だけどそれがどうかしたか?」
男「いや、萃香の」
と言った瞬間に気づく。
俺と萃香の関係性について説明ができないと。言い換えようにも萃香の名前を取り繕うことはできない。
勇儀は更に目を丸くして、そのあとにかっと大きく笑った。
330
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 13:39:19 ID:a1AQiFo.
勇儀「なんだい、萃香の知り合いかい!」
そういってぽんと頭を叩く。
しかし動作とは裏腹にその衝撃は重く軽く前のめりになってしまった。
マミ「で、通してくれるのかね?」
勇儀「拒む理由はないねぇ。それじゃあまず出会いの一献」
マミ「酒を拒む理由があるから勘弁願いたい」
勇儀「そりゃあ残念」
ナズ「なんだかよくわからないけど丸く収まったのかな」
文「みたいですねぇ」
331
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 14:26:42 ID:a1AQiFo.
恨めしそうな目で水橋に見送られ、勇儀さんに連れられ街道を進む。
地底では人間の姿は珍しいらしく、周りの妖怪からはじろじろと見られていた。目立つ理由はそれだけではないだろうが。
文「どうもありがとうございます勇儀さん」
勇儀「パルスィは融通が利かないからねぇ。門番としては正しいのかもしれないけど窮屈で退屈だろう?」
まぁ、嫌いじゃあないけどねと勇儀さんが付け加える。
俺はどうも好きになれないタイプだったが、その懐の広さは鬼特有のものか。
勇儀「しかし地底に用事があるならそこの射命丸にでも言伝を頼めばよかっただろう?」
ナズ「その予定だったのさ。だけど直前でこれが私達を謀って逃げてね。いやぁ、困った困った」
ナズーリンが悪戯染みた口調でそう言ったとたん、勇儀さんの足が止まり
勇儀「あん?」
呼吸が止まるほどの殺気が辺りに噴き出した。
文「あややややや、こ、これはですね」
勇儀「嘘をつくやつ、約束を破る奴は、私は嫌いだね。それがただの他人ならまだよし、まさかぁ私が目をかけてやったお前がそれをするとはなぁ」
文「り、りだっ―――」
眼にもとまらぬ速さで逃げようとした射命丸の足首を勇儀が眼がくらむほどの速さで捕まえる。
332
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 14:32:03 ID:a1AQiFo.
勇儀「仁義は通しな。先にさとりのところへ行って話をつけてくるんだ。いいね?」
文「は、はいぃっ。今すぐ行かせてもらいますっ!」
勇儀「よし、なら行って―――こいっ!!」
射命丸さんが逃げようとした方向とは逆方向に勇儀さんが射命丸さんの体を放り投げる。錐もみ回転したのちに蛇行しながら射命丸さんは飛んで行った。
勇儀「これでよし、と」
ナズ「ふぅ。少しは気が晴れた」
男「大丈夫なのかあれ」
ナズ「腐っても射命丸 文だよ。問題ないさ」
そういって笑うナズーリンに対し、やはり性格に難ありと首を縦に振った。
マミ「それでは、さとりのところへ向かうとしようか」
333
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/07/22(土) 14:50:29 ID:a1AQiFo.
勇儀に連れられ更に進んでいく。街の風景はどんどん変わっていき、辺りは白壁から木造の建物が目立つ、あまり人間の村と変わらない風景になっていた。
勇儀「不思議かい? 妖怪のための場所がこんなに人間くさいだなんて」
男「えぇ、まぁ」
妖怪が人間より遅れた生活をしているとは思わない。だがしかしそれでもここはあまりにも人間染みていた。
勇儀「前までは人妖まみえる場所だったのさ。古明地当主さとりの手によって温泉が出来てから」
勇儀「そのころは平和で愉快だったさ。騒がしいのが好きな私達にとっちゃあいい場所だった」
こんなことになるまではねと付け加える勇儀さんの表情は物悲しげだったがすぐに表情を改めた。
マミ「おう、見えてきたぞ男よ。あれが地底が誇る温泉宿じゃ」
マミゾウが指差した先に見えたのは予想よりも立派で大きな宿だった。
マミ「さて話をつけにいこうかね」
話をつけに行こう。
かつて命を奪った負い目はあるが、今度は彼女を、皆を生かすために。
334
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/24(月) 10:32:02 ID:AzVP0jCs
支援ぬ
335
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/07/26(水) 01:52:58 ID:19.D4ZFw
始園
336
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/06(日) 00:33:35 ID:DvokWNrs
支援
337
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/15(火) 20:54:51 ID:mFE7nkno
紫焔
338
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/20(日) 21:06:52 ID:asIs4i2g
支援
339
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/21(月) 18:32:37 ID:u0dlETkE
安価スレだった頃から数えてもだいぶ経ったな…最初のスレからしたら尚更…早いもんだ
340
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/27(日) 23:29:50 ID:QqDRCM4s
時が経つのが早いなと思った(小並感)
341
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/30(水) 00:15:39 ID:phkufThI
支援
342
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/08/31(木) 00:43:50 ID:IEnbyyYs
支援
343
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/09/06(水) 05:49:03 ID:/PSy6drE
支援
344
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/07(木) 22:54:46 ID:m.FE6kXk
こんな時でなければ感嘆の声をあげていそうな立派な玄関に入るとそこは閑散とし、人気を感じさせなかった。
辛うじて灯りは積もっているがそれでも薄ぼんやりとで、足元が十分に見えないほどには暗い。
不気味というよりはどこかもの悲しさを覚える空間だ。客足が途絶えてかなり経つのだろう。床には薄く埃が積もっている。
本当にここに? と疑問を投げかけてしまいそうになるほどには日々を過ごすに不適当な場所。
しかし勇儀さんと射命丸さんは先に進んでおり続かないわけにはいかない。埃まみれになるのが嫌そうな顔をしていたナズーリンの手を引いて進む。
靴を脱いで上がったため、足の裏はすぐにザラザラと不快な感触を覚える。前を行く二人を見れば靴を履いていたため脱がなくてもよかったのかもしれない。
屋敷の廊下は人気を失い活発さを失った見た目とは裏腹にかなりしっかりとしている。妖怪のために頑丈にしているのだろうと関係ないことを思った。
しかし見れば見るほどにここがどれほど力を入れて作られているのかが分かる。本当にこんな時でなければよかった。
どうやら見た目にふさわしく広いようで、何度も廊下を曲がりながら奥へ進んで行く。途中見えた厨房も立派なもので、煮炊きしかできない寺とは大違いだ。
掃除をすれば活動拠点としてこれ以上ないものになるだろう。そのためには話を通すことが重要だ。
何を語ろう。何を話そう。いや、相手は心を読むのだから関係はない。
嘘を付けない。誤魔化せない。
口先だけで今までを乗り切ってきた俺にとって相性の悪い相手。
一番心配なのは前の世界を知られることだ。
きっと、さとりにとって心地よいものではないはずだから。
345
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/07(木) 23:12:39 ID:m.FE6kXk
対策なんて当然取れないまま、ようやく目的の部屋についた。
そこは襖ばかりの旅館の中で唯一の木製の扉だった。文が控えめに扉を叩くと、中からか細く誰かと尋ねる声が返ってきた。
文「あやや。貴方なら訊ねなくてもわかるでしょう?」
そう苦笑しながら文が扉を開ける。中の空気は暖かく、そして濃く甘い伽羅のような香りがした。
勇儀「それじゃあ私はここいらで失礼するよ」
さとり「…あら、勇儀も来てたのね。つれないじゃない。私から逃げるなんて」
勇儀「この話し合いに私は必要ないだろう? あるのはこいつらだけさ」
むんずと勇儀さんが胸元を掴み部屋の中へ押し入れる。手をほどくのを忘れていたナズーリンもつられて部屋の中へ入り、絡まった二人は床に尻もちをついて倒れた。
さとり「そう、あなたが………」
部屋の中では赤い重厚そうな椅子に座っているさとりがいた。
紫の髪の色は変わりないが、前見た時と違って痛んでおり、気怠そうな瞳の下には濃く大きいくまができていた。調子がよさそうには思えない。
さとりはちらりと俺を見た後、左手に持った煙管を大きく吸い、ゆっくりゆっくり、細く煙を吐きながら最後にため息と一緒に吐き出した。
甘くそしてほろ苦い香りが強くなる。どうやらこの香りはその煙管のものらしい。狭い部屋ではない。この部屋に充満するほどとはどれほど吸っているのだろうか。
346
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/07(木) 23:32:14 ID:m.FE6kXk
さとり「心配してくれてありがとう。でも妖怪だもの。この程度じゃ死なないわ」
もう一度深くさとりが煙管を大きく吸い込む。
濁った瞳は俺を捉えているのかどうかが分からない。見ている気もするし、ここではないどこかを見ている気がする。
瞳自体は別物だが、どこかさきほどの少女と同じ印象を抱かせる。
文「また寝てないんですか? 妖怪は丈夫と言いましても精神はそうではないのですよ?」
さとり「寝れないわ。寝れないのよ。大丈夫、まだ健康よ。なにも問題はない」
その言葉は射命丸さんに返したものなのだろうか。俺には自分自身に言い聞かせてるように思える。
文「それでは少年さんも心配するでしょう。睡眠不足でそんなもの吸ってちゃ倒れてしまいますよ」
さとり「大丈夫。私がこんななのはここだけ。あの子は知らないわ。それよりもお話に来たんでしょう?」
さとりが座ってる対面の椅子を顎で示される。椅子は一人用で三人では到底座れそうにない。誰を座らせようかと考えたがどうやら指名されているのは俺だけらしい。
さとりの三つの瞳にじっとりと見られながら席に着く。
ナズ「いや、待っておくれよ。そいつはただの人間さ。話なら私やマミゾウが」
さとり「あなたはお客様じゃないの。私のお客様はあなただけよ。男」
さとり「話はあまり得意じゃないの。口下手でね。だから見せてくれるかしら。貴方の心」
訊ねてはいるが有無を言わせぬじっとりとした陰鬱な迫力があった。俺は断ることもできずに少し頷き、さとりは少し大きく目を開け俺を見つめた。
347
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/07(木) 23:35:18 ID:m.FE6kXk
直後、さとりの手から煙管が落ちる。
ジュッ
毛足の長い絨毯が焦げ、煙管の火が消える。
瞳は大きく開かれ上下左右にせわしなく揺れ、青白かった顔はさらに血の気を失っていく。
だらりと下がった腕はわなわなと振るえ、震えた歯が触れ合ってかちかちと音を立てる。
明らかに正常ではない反応に射命丸さんが心配そうに近寄った瞬間。
絶叫が辺りの空間を裂いた。
348
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/07(木) 23:46:07 ID:m.FE6kXk
想定できていたため、とっさに耳を抑えることに成功する。
しかし手で覆っても頭の中に響くその叫び声をもろに受けた射命丸さんはのけぞり、ナズーリンは白目を向いて気絶した。
咳だけでなく血をも噴き出しそうなほどの激しい声。それを止めたのは帰ろうとしていた勇儀さんだった
勇儀「おい!? どうしたさとり!? 大丈夫かさとり!? おいっ、おいっ!?」
その巨躯でさとりさんを抱きしめ背中を撫でながら呼びかける。叫び声は勇儀さんの体である程度阻まれ不快なくらいには低減したが続いてあふれ出した涙と嗚咽と鼻水が勇儀さんを汚していく。
想定はしていたが、心が揺れないわけじゃない。
かつて敵であった少女が苦しむ姿を見て何も感じないわけじゃない。
あぁ、やはりこうなってしまったかと頭を悩ませる前にすべきことが何かあるはずだと立ち上がろうとした時、射命丸さんに腕を捻られ床へ叩きつけられた。
文「やっぱりあなたは」
マミ「待ったっ!」
間にマミゾウさんが入ってくれ、どうやら怪我を負うことは避けられたらしい。しかし射命丸さんの視線は鋭く、勇儀さんもさとりさんを宥めながら怒りを含んだ視線をこちらへ向けてきた。
マミ「これには事情があるんじゃ。さとりが落ち着くまで待ってくれんか」
勇儀「こいつがここまでなるんだ。ろくな理由じゃないね」
にべもなく打ち切られる会話。一触即発のその状況でマミゾウさんは座り込んで、顎を大きく上に向けた。
マミ「納得いかなかったら儂の首をくれてやる。この男も、そこのネズミも好きにせい」
349
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/07(木) 23:57:54 ID:m.FE6kXk
三人の命。どれほどの重さなのか計る定規はないが、勇儀さんと射命丸さんを抑える重石ぐらいにはなったらしい。
眉をひそめながらも二人が渋々うなずく。再びさとりの嗚咽だけが響く。
解決するための言葉を発することすら許されない状況。
首筋によく切れる刃を向けられているような寒々しさに耐えながら、時間が解決してくれるのを待つ。
長い呼吸を何度したことだろう。どくどくと激しく打つ痛いほどの鼓動を奥歯を食いしばりながら耐えているとさとりの嗚咽が徐々に小さくなる。
その声が完全に消えたときさとりは勇儀の胸元から抜け、火の消えた煙管を咥えた。
さとり「すいません。取り乱しました」
勇儀「大丈夫かい? さとり」
さとり「大丈夫です。心配をおかけしました。………申し訳ありませんが席を外してくれませんか皆さん。男と二人きりで話したいのです」
勇儀「あんなことがあってこいつと二人きりにはできないね」
さとり「良いんです。大丈夫ですから」
頑として譲らないさとりに勇儀は渋々と折れ、射命丸を連れて廊下へ出ていった。勇儀さんのことだ。廊下で聞き耳を立てるなんてこともないだろう。
マミ「何かあったら呼ぶといい。すぐに駆け付けるからの」
マミゾウさんも席を外す。ずりずりと気絶したナズーリンも引きずられて外へ連れて出された。
350
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/09/08(金) 00:13:37 ID:ZLreOKHA
完全に二人だけの空間。
なんだか俺から話を始める気には慣れず、じっとさとりの言葉を待った。
しかし第一声を待つ間、さとりは煙管の中から灰と燃えカスを取り出し、薄い布で雁首を拭き始めた。
煙管を分解し、一通りの掃除が終わると再び組み立て、さとりはじっと何も入ってない雁首の中を見つめた。
さとり「………………本当?」
やっと出た言葉はたったこれだけ。しかしこれだけで良かった。
長々と尋ねられるより、怨嗟の言葉を吐かれるより、俺のことを信じればいいのかを尋ねるその一言だけが良かった。
本当だと言ってしまえば信用と同時に彼女を傷つける事になる。だが彼女を庇っているわけにはいかない。狂人の妄想であれば彼女は救われる。しかし救われなかった人たちを見捨てるわけにはいかなかった。
男「あぁ」
さとり「そう」
短い言葉のやり取りだけですべてを把握したさとりは、近くにあった小さな箱から葉っぱを取り出し丸め、雁首に乗せ火をつけた。
さとりがそれを吸い終わるまで俺たちは無言で、さとりはもう一度だけ涙を流し、俺は見るわけにはいかず瞼を閉じた。
351
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/09/08(金) 00:26:20 ID:AqwxcVSI
とんでもねぇ待ってたんだ
352
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/09/08(金) 00:27:42 ID:AqwxcVSI
そりゃあさとりんも発狂するよなぁ
353
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/09/09(土) 00:53:47 ID:x3UivLnU
これは物語が進んだ感あるな
354
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/09/14(木) 17:28:27 ID:o0sn9s6M
ナズが気絶するほどの大声で発狂するとは・・・そりゃそうか・・・
355
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/09/19(火) 21:16:45 ID:s2zJQtwk
支援
356
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/09/19(火) 22:08:16 ID:P1Z/WB3k
ずっとシングルでいいやと諦めてたワイ、ついにリア充になる。
たった2日分の飯代弱で人生が変わった。
ttp://urx2.nu/D8Ur
357
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/10/07(土) 00:23:42 ID:wy0G02fo
支援
358
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/10/09(月) 20:54:56 ID:AZE9AlJA
乙
359
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/10/27(金) 00:34:18 ID:63tpyHQM
支援
360
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/02(木) 23:14:49 ID:CLRgTOk6
支援
361
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/07(火) 03:54:15 ID:JGLmyg32
支援
362
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/21(火) 01:44:19 ID:kvNRNlpc
まだ待ってます
363
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/21(火) 02:07:58 ID:WXfNt01o
支援
364
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/23(木) 05:44:36 ID:gwtNksxw
し
365
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/25(土) 16:36:10 ID:2FNKP4tI
え
366
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/11/30(木) 21:41:06 ID:bfbrpKmM
ん
367
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/01(金) 10:05:08 ID:NrGRhTiI
私怨
368
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/11(月) 02:22:21 ID:Ok03LmtU
支援
369
:
ぬえ
◆HQmKQahCZs
:2017/12/13(水) 00:47:06 ID:W53qE/hA
宣言したのに更新できなくて本当に申し訳ありません。
今日の夜には更新しますので、まだ見てくれている方はどうぞよろしくお願いします
370
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/13(水) 00:47:44 ID:W53qE/hA
トリップ間違えました
371
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/13(水) 17:22:16 ID:auK2FmnE
キタ――(゚∀゚)――!!
372
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/13(水) 21:05:58 ID:W53qE/hA
しばらくののち、先に口を開いたのは俺だった。
男「出ていく、つもりですか」
聞かないほうがいいかもしれない。それでも俺はそれを聞かずにはいられなかった。
さとり「………心を読みましたか? それとも顔にでてましたか? 鉄面皮と呼ばれてるはずなのですが」
茶化そうとする声。それが震えていた。今までのことでわかってはいたが、この人は明らかに弱い。
いや、弱いんじゃない。色々な事に心を痛めすぎているんだ。それはさとりという種族ゆえか、それともこの人だからか。
さとり「自分のことが知られているというのはここまでも心地悪いものですか。貴重な経験、ですね」
男「さとりさん」
さとり「わかってます。ここで私が逃げてはいけないということは」
男「いえ、違うんです。その逆で、さとりさんには」
この地底を出ていってもらいたいんです。
さとり「………正気?」
えぇ。さとりさんを残せばさとりさんが折れる。さとりさんを行かせれば残りの者が壊れる。
だから、さとりさんには二人を連れて行ってもらいたいんです。
火焔猫燐と霊烏路空の二人を。
373
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/13(水) 21:26:24 ID:W53qE/hA
神に届く力。少なくとも吸血鬼や鬼を消すに値する力。
神に背く力。人の尊厳を踏みにじり、命を嘲る力。
そんな能力を持つのに、言っては悪いがその精神は獣に近い。だからその力に制限をかける者が必要だ。
実際それがなかったために前の世界ではその能力は暴走していた。その結果があれだ。
さとり「もう一度聞くけど正気? そんな力を持つものを敵に回す。そう言っているのよ、貴方は」
それ以外の手段が見つかりません。
さとり「簡単よ。お燐とお空を封印すればいい。私が命じればいいだけだもの」
それが正しいのかもしれない。ただ………
さとり「ただ?」
これ以上悲しい戦いにしたくない。
さとり「貴方………本当に正気?」
あと一つ理由が
古明地ことりの制御。
374
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/13(水) 21:38:51 ID:W53qE/hA
この戦いの主犯の一人。
詳しくは分からないが重要なことを担っている気がする。
さとり「気がする、でしょう?」
さとり「姉さんはさとりの出来損ないよ。人の心が読めず、自分の思いを漏らすだけ」
さとり「脅威になるわけがないわ」
男「とりあえず、以上です。伝えたいことはそれだけで」
さとり「ありがとう。貴方の主張は私とこいしを地底に監禁。お燐とお空を封印する」
え?
さとり「確かにそれが正しいわ。私も地底の管理者ですもの。私のわがままでみんなを巻き込むわけにはいかないわ」
さとり「貴方の言う通りにする。でも最後にお願いがあるの。最後は皆で宴会を開きましょう」
さとり「最後にそれくらいのわがまま、いいでしょう?」
男「ちょっと、さとりさ―――」
さとりさんが背伸びをして俺の口を塞ぐ。その瞳は明るさを取り戻していた。
さとり「ありがとう。私のわがままを聞いてくれて」
そしてその夜。さとりさんたちはいなくなった。
375
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/13(水) 22:00:56 ID:HJ4kShFM
支援
376
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/13(水) 22:21:10 ID:W53qE/hA
俺を眠りから覚ましたのはどたばたと周りを駆け回る足音だった。
瞼を開けると揺らぐ灯篭と転がった酒瓶。
残った強いアルコールの香りが気付け代わりとなり、一気に眠気が飛ぶ。
男「いったいなにが―――」
ナズ「こんな時に何寝っ転がっているんだ!」
起き上がろうとした瞬間にナズーリンに小突かれる。とりあえず何かあったということは分かった。
男「どうした?」
ナズ「地底の結界が吹き飛んだんだ!」
男「は?」
文「というより、結界ごと縦穴を吹き飛ばした、というのが正しいですね。やられました」
文「酔っぱらわせて気が緩んでいる隙にお空さんの力で脱出。さとりさんとお燐さんとお空さんと少年さんがどこかへ行きました。おそらくはことりさんも」
そこまで聞いた感想はそうか、よかったな。と肯定的な反応だった。と同時に昨日のさとりさんの言葉の意味を知る。
当然だが、ひどいことになると知ってさとりさんを行かせる者はいやしない。そんなことを提案したら責められるのは俺だろう。
あまりにも理にかなってない行動だからな。さとりさんは俺の意を酌んだうえで俺に責任を負わせまいと。
これはやられたなぁ。
377
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/13(水) 22:39:35 ID:W53qE/hA
ナズ「なに笑ってるんだい」
ナズーリンがじとーっとした視線を俺に送る。慌てて表情を引き締めるとナズーリンは昨日のことをまだ根に持ってるらしく数度軽く俺を小突いた。
ナズ「確かに星蓮船は入りやすくなったけど」
文「いやいや、そんなこと言ってる場合じゃなくて、これからどうすればいいのかの話をしましょうよ! さとりさんってこの地底のトップなんですよ!?」
ナズ「じゃあトップをうちの聖にするってことでいいね」
文「んなむちゃくちゃな!?」
目の前で言い争いを始める二人を横目に慌ただしくなった地底の喧騒を聞く。
こんな状況だがなぜかどこか楽しそうに感じるのは地底の住民の気質か。
どうせこんな連中ならなるようになるだろう。聖さんか勇儀さんか。そこら辺を一応のトップにあげれば良い話だ。
酔いの席の狂乱のような雰囲気と共にからからと乾いた風が開けた障子を通して吹いてきた。
378
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/14(木) 00:00:14 ID:X9LAMwoY
勇儀「とりあえず、状況の整理でもしようかい」
白蓮「そうですね」
空いた大穴から星蓮船を下ろし、一応のトップ代表二人が対談する。
その周りを囲むのは俺、星さん、ナズーリン、パルスィさん、射命丸さん、白衣の男。
白衣の男は初めてみたがどうやら人間らしい。なにやら尊大な口調をしていたが、世間でいうところの中二病みたいに見える。
が、ここは幻想郷。不思議も魔法もある世界だ。見えるだけでそうじゃないのだろう。
しかし人間なのに地底ではそこそこ有名人らしい。妖怪の中で過ごす人間とは少し親近感を覚える。
勇儀「そこの男は未来を知ってて、最悪を回避するために動いている。だね」
男「あぁ、そうだ」
勇儀「信じられない話だが信用はしてるさ。あのさとりが認めてたんだから」
まず大前提を受け入れてくれることは非常に助かる。
勇儀「それで、さとりはさとりたちの監禁と、お燐とお空の封印を受け入れたように見せて、逃亡」
勇儀「簡単にするとそれだけの話さ。だけどどうも腑に落ちないところがある。あのさとりがそんな行動にでたことさ。あいつにそこまでの勇気はない。それに無責任でもない。一応だけどこの地底の管理者たるあいつがここまで事を大きくして逃げた理由。知ってるんだろう? 男」
勇儀「私はさとりを信頼してる。話してくれるよな。男」
379
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/14(木) 00:08:52 ID:X9LAMwoY
即座に全部バレていた。
いやバレてはいない。たださとりさんを勇儀さんが信頼していたからこその問い詰めなだけ。
なのに呑まれる。追い詰められる。
初めは軽い口調で話していた勇儀さんの言葉がいきなりずどんと重くなる。表情も語り口もなにも変わっていない。
ただ、汗が吹き出し、口の中が渇くほどの殺気が俺を襲っただけ。
大丈夫だ。殺気には慣れている。そのはずなのに。
勇儀「どうした男。私は本当のことを聞きたいだけさ。さとりが勝手に行動したならそれでいいさ。知らないなら知らないっていいな」
勇儀「知らないのなら、だけどね」
質が違う。殺気の質が違う。
暗くもなく、淀んでいるわけでもない。背筋がぞくりともしない殺気だからなおのこと恐ろしい。
相手に殺意を抱かずにこうまで殺気を向けることができるのか?
あぁ、なるほど。やはりこれが鬼なのだと。
当たり前のように相手の上に立つ。
これが鬼なのか。
380
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/14(木) 00:18:03 ID:X9LAMwoY
白蓮「殺気を飛ばすのはやめていただけませんか? ここは話し合いの場ですよ?」
勇儀「いや、凄む気はなかったんだ。ただ純粋に疑問に思っただけさ」
パル「そうよ。勇儀が言うことは筋が通ってるわ。さとりらしくないってことは私たちは一番よくわかってること」
パル「どうせなにかやったんでしょ。あの二人だけの空間で。さとりを唆すような―――」
勇儀「パルスィ。決めつけは良くないね。だからそう、誤解がないように話してくれないかい? 信用する、からさ」
ナズ「ち、地底の連中は躾がなってないね。私にはどうも男を責めているように聞こえる。これじゃあ話す言葉もでないさ。真実はでてきやしない」
パルスィ「ちょっとそっちも躾がなってないんじゃない? たかだか鼠風情が偉そうにちゅーちゅーちゅーちゅー、耳障りでしかないわ」
ナズ「ふんっ、ここは議論の場で君みたいな―――」
白蓮「ナズーリン」
勇儀「パルスィ」
二人が同時に制す。臨界点を超えかけた緊張が再び張り詰める。
男「俺は、あ、あのとき、さとりさんに」
でなくなった唾液にカラカラに乾いた口で途切れ途切れで言葉を繋ぐ。
男「こいし、とさとりさんの、姉さんが死ぬ姿を」
男「見せたんだ」
381
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/14(木) 00:26:00 ID:X9LAMwoY
そう、俺の心を覗いたさとりさんは全てを知った。
絶叫したのはそのせい。
それは勇儀さんが知っている情報。
そしてこの先の情報は言うわけにはいかない。
誰よりも強いと思われていた彼女とそのやさしさを汚すわけにはいかないから。
男「追い込んだ、のかも、しれません」
男「そのあと、俺はさとりさんに、あの提案をしました」
勇儀「監禁と封印?」
男「………さとりさんたち、全員の封印です。なぜなら、敵の主犯に、彼女の姉がいるから、です」
文「傷ついたさとりさんに追い打ちをかけた、ってことですか」
男「はい」
全員が黙り込む。
382
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/14(木) 00:30:39 ID:X9LAMwoY
白蓮さんは静かに目を閉じて小さく何かを呟いた。
ナズーリンは呆れたような目で俺を見た。
パルスィは悪人を見る目で俺を見た。
勇儀さんは苦虫をかみつぶしたような顔をした。
射命丸さんは何度もため息をついた。
白衣の男は何か言いたそうにしていた。
俺はたった数秒でこの場での味方を失った。でもそうせざるを得ない。
筋の通った悪手を打たなければ納得しないはずだ。
そして俺の評判が下がれば、それだけこの話は通りやすくなる。
俺の言葉がさとりを追い詰めて、追い詰められたさとりは逃げた。それでいい。
それが俺ができる精一杯の優しさだった。
383
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/14(木) 00:48:25 ID:X9LAMwoY
やはり俺は何度も何度も最悪の手を打つ。
これは逃げられない因果かなにかか。
勇儀「話は分かった。お前が言うことは間違っちゃいないさ。褒められたことじゃないが、最善のみを尽くせとは私も言わない」
勇儀「だけど、それでも………」
ナズ「………話を進めようか。今はこれからの話、だろう?」
白蓮「地底と私たちの協力をどうするか。そしてどう協力するかを話しましょう」
勇儀「………あぁ」
それからの話に口を出すことはできなかった。
結局勇儀さんが地底を纏め、協力するか、どこまで協力するかをそのたびに話し合うことに決まった。
一番とは言えないが、悪くない結果だ。命蓮寺と地底は纏まった。
あと人間に対抗するために必要な勢力は紅魔館。
少なくとも紅魔館と地底が衝突する事態は避けられたがここから先の未来は分からない。
できるだけ迅速に動いたほうがいいだろう。
384
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/14(木) 00:59:22 ID:X9LAMwoY
話し合いが終わり一人になる。
孤独を感じる。ここに来てから一人きりになるのは久しぶりだ。
祭りのような地底の雰囲気が俺を避けているようだ。
自分で選んだ選択肢はいつもこうで。他のみんなほど強くない俺の心はまたも軋む。
覚悟が足りないのだろうか。
霊夢みたいに強くなれれば………。
星「男、さん」
男「あれ、どうしました。星さん」
いつの間にか後ろに立っていた星さんが俺の背中に手をあてる。
星「さっきのは、嘘ですね。不器用な」
男「はは、買い被りすぎですよ、ただ俺が焦りすぎただけで、本当、さとりさんを傷つけてしまって」
男「………なんでわかりました?」
星「倒れそうに見えましたから」
385
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2017/12/14(木) 01:05:11 ID:X9LAMwoY
星「男さんは、優しいです。だけれど、不器用で、弱い」
星「だから私が支えるって、約束したではありませんか。辛い時は肩を貸しますから、一緒に行こうって」
男「………星、さん」
星「はい、なんでしょうか」
男「さとりさんを守りたくて………でも守られて」
男「だから、またさとりさんを守って………」
男「それで理解されなくていいって、思っても。やっぱり駄目で」
男「かっこいいヒーローにはなれなくて、かっこ悪いことしかできなくて」
男「悲しくて」
星「大丈夫です。私がいますよ。知ってますから。貴方がどれだけ優しいか」
星「かっこいいですよ。頑張るあなたはとっても」
386
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/15(金) 01:28:56 ID:pYb/AzV2
星ちゃんヒロイン感
387
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/15(金) 03:14:52 ID:G5paRWxU
星ちゃんは困ったことがある時に助けてくれる優しい先輩的なポジション
388
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/15(金) 23:16:45 ID:.ik6inE2
星ちゃんルートあるなこれは
389
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/18(月) 04:54:04 ID:ZtAuWJ7U
あの頃のぬえがいないなら俺は星ちゃんを選ぶ的なね
390
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/18(月) 05:09:12 ID:LZPP3JaY
ぬえはもう戻らないと思うと悲しい
四季映姫も一瞬正ヒロイン感出てたのに
391
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2017/12/27(水) 20:26:21 ID:Ygc6yicc
支援
392
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/01/06(土) 01:12:26 ID:JEb3O3oc
どう見ても正ヒロインな星ちゃん
393
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/01/19(金) 23:22:26 ID:qoJh6Y/A
支援
394
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/01/29(月) 21:39:18 ID:0dAWIB2I
支援
395
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/02(金) 11:41:50 ID:XMktsSQo
共感し、自分の事を理解してくれる人がいれば絶望の中でも人は歩いていける。
前の世界では映姫さん。この世界では星さん。
ならこの二人が倒れた時、俺はどうすればいいのだろうか。
悲しみを背負って歩いていく?
男「そこまで俺は強くないよな」
星「どうしました?」
男「いえ、ただの独り言です」
これからどうしようか。感情的な行動で信頼を失った俺にできることは
なんてことを考えていると、おもむろに扉が開いた。
入ってきたのは話し合いの時にいた白衣の人間だった。
俺に怒っているのだろうかと思ったがその瞳は意外にも冷静な光を帯びていた。
白衣男「邪魔をしたか?」
男「いや、そんなことないですが。どうしました?」
白衣男「畏まらなくていい。見たところ同じくらいの歳だろう? ちょっと顔を貸してくれ」
男「? あぁ、わかった」
396
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/02(金) 11:50:01 ID:XMktsSQo
白衣の男に連れられた場所は小さな居酒屋だった。客が入ってないところを見るに人払いをしているのだろうか。
いや、流石にこの状況で昼間から飲んだくれる奴がいないだけだと信じたいが。
男「ここは?」
白衣男「俺の家だ。適当なところに座ってくれ」
言われた通りにカウンターに座る。壁にならぶ酒瓶を眺めていると目の前に透明な液体の入ったコップが置かれた。
男「昼間からお酒はちょっと」
白衣男「酒じゃない。ただの水だ」
違ったのか。地底といえば水の代わりに酒がでるものと思っていたが。口をつけると確かに水だった。
無味のはずの水に生臭い味を感じる。どうやら口の中を傷つけていたらしい。
白衣男「単刀直入に聞くんだが」
男「なんだ?」
白衣男「さっきの話は嘘偽りだろう?」
男「んげっふっ」
いきなりの確信に焦った俺はむせてしまい机の上に飲んでいた水を吐き出した。
その行動が回答になっていたらしく白衣男は何度か大きく頷いた。
397
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/02(金) 12:03:53 ID:XMktsSQo
男「なんでわかった?」
もはや取り繕う必要はなかった。あの場で誰もが信じ込んだのになぜ、この男だけが見抜いたのだろうか。
白衣男「人間のことを一番わかるのは人間だ。いくら似通っていても種族の差はある」
白衣男「弱いやつのたわごとは理屈に勝り信憑性を帯びる。違うか?」
その通りだ。強者は弱者の事を知らず、誰しも情けなさを嫌う。だからこその弱者という隠れ蓑。それを容易く見抜いたのは同じ人間だった。あの時何か言おうとしていたのはその疑惑があったからだったようだ。
白衣男「さすがの俺もなぜ嘘をついたかの理由まではわからんが、それが嘘であると知った以上聞かせてくれるよな」
あの数瞬の出来事は俺にとってもさとりさんにとっても語るには能わず。
その秘密に意味はない。少なくとも重要な秘密ではない。ただの責任の奪い合い。そこに結論を変えるような力はない。
男「………」
だから口を噤むしかなかった。言葉を出さなければ受け取られることはない。
沈黙から意味をくみ取ることは流石にできないはずだ。そうして空想は俺の都合のいい方向に転がればいい。
白衣男「俺はさとりの恋人である、小さな少年に武器を渡した。戦う力をやってしまった。自衛じゃない。さとりに、強者についていくためのささいな力だ」
白衣男「だからあいつがさとりについて行ったのは俺の責任だ。だがな、あいつは子供だが自分でしっかり考えて行動をしている。おそらく俺よりも自問自答して答えを出してきたやつだ」
白衣男「そんなあいつが、さとりが傷ついて逃げ出すのを止めないはずがない。あいつは流されずにさとりを止めるはずだ。傷を負ったさとりを癒すはずなんだ。だから俺は納得がいかない」
白衣男「さとりは自分の確固たる意志で出て行った。違うか? 少なくともお前のせいじゃない、そこまで古明地さとりは愚かじゃない」
398
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/02/02(金) 21:15:48 ID:9HmUsoxY
キタ――(゚∀゚)――!!
399
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/02/03(土) 14:54:42 ID:xgb58qfc
乙
400
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/02/04(日) 15:30:19 ID:ZK3f6knI
乙です
401
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/25(日) 17:59:29 ID:rVGswkgE
言葉は返せなかった。口を噤んだわけじゃない。
白衣男「沈黙は肯定と受け取るがいいな?」
肯定。頷く。
白衣男「ならやはり疑問なんだが自分が不利になると分かっていただろうになぜ嘘をついたんだ?」
言葉を返さない。今となっては無意味かもしれないが、譲るわけにもいかない。
白衣男「察するにどうせ逃がそうとしたんだろう? さとりの未来とさとり本人の人となりを知ってしまったから」
白衣男「お前の人となりを理解すれば簡単な話だ。優しすぎると言われたことはないか?」
男「ずいぶんと、人を見てるんです、ね」
白衣男「俺は人間だからな。目で見て考え結論を出すことに関しちゃ一級品だ。まぁ、さとりを逃がした云々はどうでもいいんだ。俺もそれについて責めるつもりもなければチクるつもりは毛頭ない」
白衣男「ただその嘘の方向性を知りたかった。お前が敵なのか味方なのか」
男「お眼鏡にはかなったかね。一応これでも正義の味方を目指してるんだ」
白衣男「あぁ、信じることにするよ。それに未来が見えるってのも気になるしな」
男「見えるわけじゃない、一度経験しただけだ」
そう、一度経験しただけ。だからこそこれからの行動は薄氷を踏むようなものだ。
だからこそ最悪は避けなければいけないってのに
402
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/25(日) 18:04:51 ID:rVGswkgE
男「でもいいのか。俺は嘘つきかもしれないぞ?」
白衣男「もしそうなら吐かせる手段はいくらでもある。機械や薬や催眠術。だがする気はない。なぜだかわかるか?」
男「体に悪いから、とかか?」
白衣男「それじゃあ信頼できないからさ。俺はお前を信頼したかったんだ。もしかすると希望となりうるかもしれないお前を」
なぜだ。なぜこの男はこうも俺をまっすぐ見る。なぜ真正面から見る。
なんで幻想郷にはまっすぐな奴が多いんだ。映姫さんに白蓮さん、そして星さん。
まるで俺が馬鹿みたいじゃないか。いや、そうではあるんだけど。
自分の小ささに落ち込んでしまうじゃないか。
403
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/25(日) 18:13:43 ID:rVGswkgE
男「俺を信頼して意味はあるのか? なぜこうも部外者に肩入れするんだ」
精一杯強がってみせる。ここで開き直れるほど人間できてない。
ただここまで言い負かされるのが悔しかっただけだ。
白衣男「復讐だよ」
そう短くつぶやいて白衣男は水を一気に飲み干した。
そこからは白衣男の言葉しかなかった。白衣男の今までの事。
自分の兄を妖怪に殺されたこと。人間から逃げ妖怪のもとへ身を寄せたこと、そして地底に来た経緯まで。
一つも包み隠さずに語ってくれた。打てる相槌はない。
白衣男「ということだ。これで全部だが質問はあるか?」
男「ない。できるわけがない」
白衣男「そうか。それで俺はお前のお眼鏡にかなったかな?」
拒否をする権利は俺にはない、と思う。
だから頷く。一人でも味方が欲しいのは確かだ。
俺が頷くと白衣男は満足そうに白衣を翻して高笑いをした。
白衣男「安心しろ。この俺は頭脳明晰万知万能であるぞ!」
404
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/25(日) 18:20:16 ID:rVGswkgE
白衣男「ではこの私の仲間を紹介しよう!」
男「仲間?」
白衣男「こいつらだ!」
そういって白衣男が天井から伸びている紐を引っ張った。
直後歯車が動く音がしてぱかっと天井の一部が開いた。
「ひゅいっ!?」
「………」
「ウケるwwwww」
落ちてくる青と赤と黒。青はそのまま尻もちをついて落ち、赤はふわりと着地をし、
「ひぎぃっ!」
黒は青の上に着地をした。
男「これが、仲間?」
白衣男「もう一人いるが今は出かけてるな」
405
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/25(日) 18:24:09 ID:rVGswkgE
聞くと青はかっぱの河城にとり、赤はその姉のみとり、黒………色の甲冑のようなものを纏っているのが幼馴染らしい。
何者だろうか。
にとり「ひどいじゃないか! というかいつこんなギミック作ったのさぁ!」
白衣男「作ったのお前だろうが」
にとり「え? そ、そうだっけ?」
白衣男「ロマンとか言いながら作ってた」
にとり「うぅ、覚えてないよ」
みとり「………」
にとりと白衣男の問答の間にみとりがじぃっと俺を見てくる。
男「あの、な、なにか?」
みとり「…誰」
白衣男「おぉっと! お前の紹介を忘れてたな。こいつは男。どうやら未来を知っているらしい」
にとり「未来を」
みとり「知ってる?」
装甲娘「うけるwwwww」
406
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/25(日) 18:39:21 ID:rVGswkgE
男「あー、未来を知ってるというと少し語弊があるな。未来から戻ってきただけだ」
装甲娘「同じじゃねぇの?wwwwww」
装甲の奥からケラケラと笑い声がする。なんだか無性に癇に障る声だ。
男「行動でいくらでも未来は変わる。もともとの世界では地底に俺はいなかったんだ」
もっと言うならお前らは皆死んでるんだが。
白衣男「だがアドバンテージは確かにある。だからこそ我が軍勢に取り込んだのだ!」
にとり「まぁ、私は異論はないけどね。男が誘ったんだから信頼はできるんだろうしね」
みとり「………うん」
装甲娘「私的にはおっけーwwwww」
信頼されているみたいだな。誰も異論を唱えない。俺じゃなくて白衣男を信じているから。
白衣男「あとはもう一人なんだが」
文「ただいま戻りまし………た」
白衣男の言葉と同時に開く玄関。そうして現れたのは射命丸 文だった。
なぜか家の中にいる俺を二度見し、その後全員の顔を見回した。そして目をこすって一度外へ出た。
どうやら射命丸は理解できなかったみたいだな。
407
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/25(日) 20:28:48 ID:rVGswkgE
文「なぜあなたがいるのですか」
再度家に入ってきた射命丸は不服そうな顔で俺を睨みつけていた。実際不服なのだろうが俺のせいじゃない。
そもそも白衣男が射命丸と知り合いだなんて知らなかったんだが。
しかし射命丸から見た俺はどうやら白衣男を誑かしたように見えるらしい。
白衣男「俺が招いたんだ」
文「なんでこいつ………この人を? 貴方もあの場にいたでしょう」
白衣男「あぁ、あの場での発言は嘘だ」
男「嘘だ」
ある程度の事情を話すと射命丸は面白いように顔色と表情を変えた。
そして最終的にはがっくりとうなだれ長い溜息をついた。
男「あの場の嘘については他言無用で頼む」
文「さすがに言いふらすほど野暮じゃないですよ。それに言いふらしたとしても詳しい理由が分からないのですからジャーナリスト失格です」
文「私は勘違いで記事は作りますが嘘で記事は作らないのですよ」
それは読者にとってさほど変わりはないのではないだろうか。と思ったがもちろん口には出さない。
408
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/25(日) 20:55:21 ID:rVGswkgE
文「それで、未来を知る貴方は次に何をしようというのですか。白衣男さん達を巻き込んで」
ずいぶんと刺々しい言葉だ。巻き込まれたのは俺の方だというのに。
男「紅魔館に行く」
白衣男「紅魔館か。それはなぜだ?」
男「もうすぐレミリアは紅魔館を捨て人間の基地を襲撃する」
男「それを止める」
文「なぜです。人間を襲うのならばなにも問題はないでしょう」
問題はないように思えるだろう。俺たちの目的も人間の打倒なのだから。
しかし今じゃない。まだ紅魔館を巻き込めてない今、紅魔館を孤立させるわけにはいかない。
白衣男「紅魔館に協力を仰ぐことは問題ないとは思うが、あのお子様君主が首を縦に振るかどうか」
男「やってみなきゃわかんないだろう」
にとり「それで、紅魔館はいつ人間の基地を襲うのさ」
それは確か………
男「今日の昼だ」
409
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/02/25(日) 20:58:21 ID:rVGswkgE
みとり「もう…昼」
にとり「うん、昼になるね」
男「………だなぁ」
白衣男「なぁ、文」
文「なんですか、男さん」
白衣男「連れてってやれ」
文「ですよねぇっ! やっぱり私ですか!!」
射命丸が机をばんと叩く。両手で髪を掻き毟ったかと思うとずんずんと俺に向かって近づいてきた。
文「行きますよ」
そして俺の後ろに回り背伸びをしながら羽交い絞めにした。
男「あぁ、なるほ―――」
それを言い終わる前に俺の意識は途切れた。
410
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/02/27(火) 19:36:10 ID:d5aEZMZo
2週目は上手くやってくれてますね...
411
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/02/27(火) 20:39:11 ID:6wg6nfMg
四季映姫に触れてくれたのは読者の気持ちを汲んでくれたのだろうか
白衣男の幼馴染とかマジで忘れてた……もう何年前だろう
期待してます!
412
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/02/27(火) 23:45:57 ID:LJyb7vwM
し
413
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/03/01(木) 10:45:31 ID:1hiktW4U
目が覚めたとき、地上ははるか下にあった。気圧や空気の濃度の影響によって頭がふらつく。
男「どれくらい寝てた?」
文「ほんの二三分ですよ。人間にしてはずいぶんと回復が早かったですね」
気絶をすることは慣れている。なんてどうも自慢できないことだ。
文「レミリアさん率いる一団は捕捉しました。見つからないように高高度を超速で飛んでますけどあと数分で急降下します」
男「つまり?」
文「苦しいですよ」
こころなしか文が速度を上げ更に高度も上げた気がする。
冬の風が身を裂くように冷たい。まさかとは思うが嫌がらせではなかろうか。
文「では、行きますよ」
数分後、文が合図をし宙を蹴る。それと同時に頭の中を素手でかき混ぜられるかのようなめまいと不快感。
なんとか耐えて見せようと思ったのだが容易く俺の意識は暗闇へと落ちた。
414
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/03/01(木) 11:29:01 ID:1hiktW4U
次に目を覚ました時には冷たい地面に横たわっていた。
はっきりとしない頭のためか周りの音がひどく遠くに聞こえる。
その音は言い争っているような………いや、一方的に捲し立てているだけ………?
だめだ、はっきりしない。とりあえず無理をしてでも起き上がらなければ。
立ち上がろうとし、一度ふらついて顔面から地面へと崩れ落ちる。思ったよりもふらつきが酷い。しかしそれを理由に寝ているわけにもいかない。
男「うぇ……おぇっ」
「大丈夫ですか?」
男「え? ぁあ。なんとか」
話しかけてきた誰かの手を借りてなんとか立ち上がる。あたりを見回すと妖怪に囲まれていた。
「それで、あなたは一体?」
手を貸してくれた人を見る。赤い髪にチャイナドレスのような服装。
たしか紅美鈴さんだったろうか。
少し困ったような顔で俺を見ている。
415
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/03/01(木) 11:37:55 ID:1hiktW4U
男「説明したいからレミリア、さんに会わせてくれないか? それと一緒に射命丸が来たはずなんだけど」
美鈴「射命丸さんなら向こうに」
紅さんが指を指した先にいたのはロープでぐるぐる巻きにされ猿轡をかまされた射命丸だった。
よく射命丸を捕まえられたなと感心していると首筋にひやりとした冷たさと針でつつくような痛さを感じた。
「こいつらのために足を止めることは無意味よ。縛って転がせばいいわ」
美鈴「まぁまぁ咲夜さん、落ち着いてください。話を聞いてあげたって」
咲夜「こいつらが来たせいで今お嬢様と娘様が喧嘩なさってるの。処する理由はあっても許し計らう理由はないわ」
首筋にあてられた何かが更に押し込まれる。すでに痛みは針ほどでなく明確に苦痛になっていた。
男「レミリアさんに会わせてくれ。そのためにここまで来たんだ」
咲夜「お嬢様は忙しいの。それに文屋の仲間ほど信用できないものはないわ」
態度は変わらず言い争っても時間の無駄のように思える。言い争う前に転がされそうだが。
男「レミリアさんに会わせてくれ。レミリアさんは運命が見えるかもしれないが俺には未来が見える」
結局素直に事情を話すしかなく、未来の事についてある程度の情報を話す。
おそらく癪に触れることになるだろうと思ったが咲夜が何かを言おうとする前に小走りで駆け付けたメイド服を着た妖精が咲夜に耳打ちをした。
咲夜「………会われるそうよ。不愉快だけど案内はしてあげる。せいぜい貴方に奪われた時間分の価値はみせることね」
416
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/03/01(木) 14:06:54 ID:1hiktW4U
周りには多数の妖怪と妖精。逃げようにも逃げれそうにない。
もちろん逃げるつもりはないが、いざというときは覚悟したほうがいいのかもしれない。
男「結構いるんだな。紅魔館はそれほど大きくないと思っていたが」
咲夜「………」
答えてはくれないみたいだ。当り前だが警戒されているし、どこか嫌われているように思える。
案内されること数分。長身の男がさす巨大な日傘の下でレミリア・スカーレットは苛立たしそうな顔でこちらを睨みつけていた。
レミリア「あんたが謎の侵入者ね。うちの娘が止めなきゃ今頃あんたは妖怪の餌よ。感謝することだな」
レミリアがくいと顎で指す先にはレミリアの娘(正しくは“この”レミリアの娘ではないが)ウィルヘルミナ・スカーレットがいた。
彼女に視線を移すとスカートの端をつまんで恭しく一礼をした。
レミリア「ナイトウォーカーがわざわざ憎たらしい太陽の下を無理して進んでいるんだ。この苛立たしさを解消してくれるんだろうな? それができなきゃ道化らしく命乞いでもしてもらうわよ」
男「まさかウィルがかばってくれるとはな」
レミリア「なぜ我が娘の名前を知っているのかしら。それも愛称まで」
レミリア「あんたたち関係あるの?」
ウィル「私はないぞお母様」
男「俺はある」
417
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/03/01(木) 14:11:47 ID:1hiktW4U
レミリア「知り合いじゃないのになんで庇ったのよ」
ウィル「そんな運命を感じたから」
レミリア「私の運命にこいつなんていなかったわ」
と言ってレミリアは眉をひそめた。左右に首を振りながら唸っている。何か考え込んでいるように見えるが。
レミリア「私の運命にこいつなんていなかったのよ。何やったのウィル」
ウィル「私は何もしてない。神に誓ってもいいぞ」
レミリア「神に誓える子に育てた覚えはないわよ。じゃああんた何者なのよ」
何者かと聞かれれば答えには詰まる。
種族で言えば人間。立場で言えば寺の保護下。地底と寺に協力を仰ぎこの異変を解決しようとしているもの。
もっと言えば俺は………………
男「正義の味方だ」
418
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/03/04(日) 12:34:20 ID:8K31NVQU
支援
419
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/03/09(金) 00:24:14 ID:a4FJnYmg
乙です
420
:
ぬえ
◆ufIVXIVlPg
:2018/03/10(土) 08:27:51 ID:gbUCXliQ
そうなりたかった。
霊夢の背中を追って、俺は正義の味方になりたかったんだ。
普通に考えれば道化た答えに対しレミリアはその小さな左手を顎に当て考え込んだ。
ウィル「絶対に会ったことない。絶対に知らない。だけど私はお前と会ったことがあるか? なんで私はお前を知ってるんだ?」
続いてウィルも頭をかしげる。ウィルヘルミナに関してはおそらくだがうっすらと前の世界と繋がっているのかもしれない。
もともとこの世界の住民じゃない故に、世界が巻き戻ったとしても完全にその影響を受けているわけではないのだろう。
そういえば彼女はどうしているのだろうか。
レミリア・フランドール・ウィルヘルミナに続く第四の吸血鬼。
吸血鬼でありながらレミリアに隷属するメイド服の名も無き彼女は。
レミリア「何見回してるのよ。逃がすつもりはないし、逃げ場もないわよ」
男「望んで飛び込んだんだ。逃げる気はないよ。ただ予想より妖怪の数が多いなって思ってさ」
レミリア「ふんっ。この私のカリスマにかかれば周囲の困っている妖怪を携えることなど納豆をかき混ぜることよりたやすいわ」
よくわからない例えをしながらレミリアが不敵に笑う。見た目は少女を越え幼女のように見えるがそれでも実力者であり強者なのだ。
まったく、見た目だけでは何も判断できない世界だな。ここは。
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