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企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.4
5
:
スゴロク
:2014/03/08(土) 15:18:48
「……ここに『も』いる、だって?」
「そう、ここに『も』です。ワタシはここにいる。そして、秋山神社にいる。『運命の歪み』の本拠にいる。ストラウル跡地にいる。いかせのごれ高校にいる。UHラボ跡地にいる。ホウオウグループの支部にいる……」
「な、に?」
不意にすっ、と笑みが消える。
「ワタシはね、空橋 冬也さん。『遍在』しているのですよ」
「遍、在?」
「『遍』く『在』る。もっとも、『こう』なったのは少し前の話ですがね。そう、ワタシの死亡記事が出たあの日ですよ」
その記事は冬也も知っていた。左目のない、黒ずくめの男の身元不明死体が発見され、今なお身元がわかっていないというあのニュースだ。
ウスワイヤ情報ではその後、回収された遺体が消えた、と掴んでいる。
「諸事情あって一度死にましたが……これによってワタシという存在は、遍在へと変わりました」
「…………?」
意味のつかめない冬也に、ヴァイスはなおも語る。
「今のワタシは、場所も、時間も関係なく『在る』モノです。過去も、未来も関係なく、ワタシは『在る』。ですから、そう」
「語られていない過去の事件に、ワタシが関わっていたとしても、何の不思議もないのですよ。例え遙かな過去だろうと、今のワタシが『在る』のですから」
「な……!」
「アナタは不思議に思いませんか? このいかせのごれは、世界全体を見ても類のないほど、能力者や超常の存在が闊歩している。言うなればここは、神の手違いが集約された場所なのですよ」
ヴァイスは言う。それはつまり、このいかせのごれには世界……運命の歪みとでもいうべきモノがあふれているのだと。
「歪みが大きくなれば、その分事象にもズレが生じ、やがてはいかせのごれ全体のバランスの崩壊を招きかねません。そう、明らかに超常の事件でありながら、未だ解決されていない事象などがね」
トリガーの定かならぬ事象は、いずれ巡り巡っていかせのごれ全体に波及する。
「今のワタシは言うなれば、世界の歪みの化身にして、それを是正する者。霧に隠された事件に『原因』という形で関わり、世界に調和を齎すための必要悪。それが、アナタ達の知る、あの死亡記事以降のワタシです。………都市伝説に近いですかね?」
「………!」
「以前のワタシには人としての過去がありましたが、『こう』なった時点でほぼ無意味となりましたよ。ま、どうでもいい話ですが」
絶句する他なかった。それでは、まるで……。
「まあ、ワタシ個人の趣味も多分に含まれていますがね。大仰な使命感など背負った覚えはないのですよ。ワタシはどこまでも運命の歪みであり、それ以上に演出家なのですから」
くつくつと、心底愉しげに笑う。
「ともかくそういうワケです。今のワタシは、殺すことは出来ても滅ぼすことは出来ません。例えここにいるワタシを殺したとて、仮に存在を消し去ったところで、それはワタシの『遍在』を否定するには足りないのですから」
「……何度殺しても、何度滅ぼしても、また現れるっていうのか」
「そういうコトです。もっとも、だからと言って素直に殺されるつもりはありませんがね」
それでは、と一礼し。
「長話はこれまでとして、失礼させていただきます。今後の健闘をお祈りしますよ、アースセイバーの皆さん」
前触れもなく、不意に、ヴァイスの姿が消えた。
「…………」
残された冬也は、ただ呆然と、彼のいた場所を見つめていた。
道化師、遍く
(暗躍はなおも続く……)
6
:
スゴロク
:2014/03/20(木) 00:04:40
「シュロ」「アズール」をお借りしています。
――――いつからそういう風に思うようになったのか、覚えていない。
気づけばただ一つ、「あれ」を殺さなければならない、そんな意識だけが根付いていた。
妹の姿を奪った、あのまがい物を殺さなければ、いつまでたっても妹はこの世界から解放されない。
いい加減、休ませなければならない。
そのためにも、あれは殺さなければ。
そんなことを考え続けながら、彼はそこに現れた。
「……来たわね」
「? どないしましてん、マナさん」
某日、白波家。アカネが仕事(何の仕事かは知らない)に出ており、娘二人とアズールが留守番をしている中、神経衰弱に苦戦していたマナがふと顔を上げて言った。
人化状態のアズールが首をかしげる。
「表。詠人が来てる」
「え?」
「詠人はんって……いつぞやここを襲ってきたあの兄さんでっか!?」
「マナちゃんのお兄さん、だったよね……」
「今は違う。向こうは私をまがい物呼ばわりしてるし、私ももう彼を兄とは思ってない」
私の家族はここにいるもの、と言い置いて、マナは立ち上がるとすたすた玄関へ向かう。
その刹那、ちらりと電話に目を向けてから。
「破らなくても、こっちから出ていくわ」
そして、何でもないようにがちゃりと扉を開け、
「……随分拙速ね」
「黙れ、まがい物が!」
既に「ハングイーター」を発動していた詠人の一撃を波動化してかわし、屋根の上から見下ろす。
そこにはもはや、血を分けた兄妹の絆はない。あるのはただ、敵意のみ。
「今度こそ、お前を殺す……そうして、マナをこの世界から解放させてもらう!」
「…………」
血を吐くような叫びに、マナは応えない。今の詠人には何を言っても無駄だ。
原因も理由もわからないが、今の彼は自分を殺すことに文字通り取り付かれている。
その事実があれば十分だ。
「……アズール」
「はいな!」
玄関から飛び出して来たアズールを追って、ランカも出て来る。
「マナちゃん!」
「お姉ちゃん、中に入ってて。詠人とは私達が戦う」
「その口を閉じろ、まがい物……その顔で、その声で僕に話しかけるな!」
「……ほんま、何があったんでっしゃろ? シドウはんがお帰りになる前は、まともでしたが」
首をかしげるアズールに、マナは冷たく返す。
「さあ。ここまで来たらもう興味もないわ」
「ほな……どうするんで?」
「叩き潰すわ。……“シーリングウェーブ”」
右手を差し上げて指を鳴らす。途端、周囲から一切の気配が消えた。
「!? これは……」
「私の特殊能力は波動を操り、また自らをも波動に変じる力。波と名のつくものは、全て私の思うが儘。電波だろうと、磁力波だろうと」
つまり、
「……超音波も同じことよ」
“シーリングウェーブ”は、マナを中心とした一定範囲に、可聴域を超えた超音波を放射する技だ。
無論、特殊能力による音波がただの音波であるはずもない。
「この音波には、私の意思が乗っている。この範囲内にいて特殊能力を持たない者は、例外なく昏倒する。そして、外から入ろうとしても、強烈な不快感によって遠ざかることになる」
「まるで結界でんな……」
「似たようなものよ」
さらりと返し、
「さあ、始めるわよ。あなたが生きていると、誰も安心できないから」
「……マスターのためにも、ウチも力を貸しますさかい」
「何でもいい……僕はただ、お前を殺すだけだ!」
7
:
スゴロク
:2014/03/20(木) 00:05:50
始まった戦いは、一進一退の攻防で推移していた。
「うおおおお!!」
「遅いでっせ!」
スピードもパワーも段違いの詠人の攻撃は、マナの命を刈り取らんと唸りを上げる。しかし、元々防御に特化した能力を持つマナは、それをひらりひらりと躱し続け、出来た隙にアズールが狐火を叩き込む。
「えぇい、鬱陶しい! 邪魔をするな!」
「そう言われて、ハイそうでっかと退くアホがどこにおりますかいな!」
狐火を連射、これを詠人は大きく跳び退って躱す。しかしその先には、
「ふぐっ!?」
「……ドジ」
マナの波動が溶け込んで彼女の一部となった、瓦の一枚が浮いていた。彼女の「ウェーブリンク」は、波動を操る能力だ。本来、この能力そのものに攻撃性はない。だが彼女は、試行錯誤の末、“波動化”を応用して、周囲の物体を念力のように操る技を身につけている。この状態だと、本体は姿と意識だけが残った幽霊状態になる。
「この、なめるなッ!」
次々と襲い来る瓦を、詠人は片っ端から牙だらけの両腕で粉砕する。刹那、
「!! ぐわぁっ!!?」
無造作に打ち砕いた一枚が、大爆発を起こした。完全に油断していた詠人は爆風をもろに受け、もんどりうって転がる。
「な、何や!?」
「……間に合ってくれたわね、シュロ」
視線を向けた先。
白黒のチャイナ服と白のズボン、両腕にアームウォーマーをつけた白髪の少女。
「マナちゃんから連絡があって来てみりゃ……てめえかよ、夜波 詠人!」
「何だ、お前は……!?」
シュロが詠人を知っているのは、「警戒対象」としてスザクから話を聞いていたからだ。
「あのまがい物の仲間か! なら、容赦はしない!」
「その口閉じろ! てめえなんぞにあたしがやられるかよッ!!」
そこからは、シュロのターンだった。特殊能力「ブレイブフィスト」で造られた砲台から、爆弾化した鉄くずが嵐のような勢いで襲い掛かり、詠人は完全に防戦一方になっている。
彼の「ハングイーター」は直接能力者に接触しないと効果がないため、シュロのような遠隔型の能力持ちとは相性が悪かった。
「この……いい加減にッ!」
「いい加減にするのはてめーだァッ!!」
怒りの叫びと共に砲台がナックルダスターへと変化し、一気に間合いを詰めたシュロの鉄拳が襲い掛かる。
が、マナが叫ぶ。
「! ダメ、近寄ったら……!!」
「な!」
「……もらった、ぞ」
遅かった。詠人は繰り出された鉄拳を牙だらけの右腕で受け止めていた。瞬間、シュロの腕を覆うナックルダスターが分解、鉄くずに戻って落ちる。
「喰らえッ!!」
次の瞬間には、その鉄くずがシュロ目がけて凄まじい勢いで射出されていた。
直前に危機を察したマナが波動障壁を展開していたが、それで威力を減殺されつつも鉄くずの弾丸はシュロを至近距離から捉え、
「うわあああッ!!」
「シュロ!」
「シュロはんッ!?」
大爆発を起こして彼女を吹き飛ばしていた。詠人の「ハングイーター」は、能力をコピー・使用する特殊能力だ。これを喰らうと、現在発動している能力が未発動にリセットされるため、「喰らう」とも表現される。
吹き飛んで蹲るシュロに、詠人は笑んだまま言う。
「どうだ? 自分の能力を喰らった感想は?」
「ぐ……」
「シュロッ!」
友人の危機に、思わず屋根から飛び降りて駆け寄るマナ。
だが、それが悪手だったことに一瞬遅れて気づいた。その時には、
「終わりだ、まがい物ッ!」
「! クッ……」
「マナちゃんッ!!」
家の前から響くランカの絶叫を置いて、詠人の腕がマナ目がけて振り落とされていた。そして、
「ぐおわああッ!!?」
横合いから突然襲ってきた「何か」が、彼を先程のシュロのように吹き飛ばして転がしていた。
「が、う、な、何、が……!?」
事態が把握できないのはマナも同じだった。咄嗟、瓦にかけていたリンクを解除し、それを“シーリングウェーブ”に同調させて探査する。
と、
「!」
感覚が人影を捉えた。詠人に攻撃を加えた、誰かを。
それは――――。
ほつれる因縁の糸車
(現れたのは……?)
8
:
しらにゅい
:2014/03/25(火) 11:37:48
『八十神千鶴はほっとけない』
千鶴という人物は空気を読めない節がある。
ジャーナリストの立場を考えれば、この特性は強力な武器であり、同時に致命的な欠点でもある。
相手の迫力をものとも言わず質問を投げれば、誰も知らないネタという宝を手に入れられるが、時にはその宝を抱き墓場へ持っていかされる事態にもなってしまう。
しかし、彼女はその危険性に目を向けていない、というよりもただ、単に知らないだけだった。
だから、おぼつかない足取りで向こうから歩いてくる夜波詠人にも、何の疑問も持たずに声をかけたのも当然の事であった。
----
「いやー、よかったね!なんでもなくて!」
「………」
いかせのごれにある小さな診療所から千鶴が出てくると、その後ろから続いて現れた詠人へと声を掛けた。
いつものように散策をしていた彼女の目の前に現れたのは、夜波マナの急襲に失敗してしまった後の夜波詠人であった。
アカネから受けた痛みは予想以上に長引いていた為、追撃を受けぬようなるべく人と出会わずに歩いていたのだが、たまたま彼女に見つかってしまったのだ。
具合の悪そうな人を見かけたら介抱をしてあげる…なんとも献身的な精神だが、今の彼にとっては迷惑でしかならない。当然何度か断りも入れたのだが、あまりの剣幕に最終的には頷いてしまった。
幸い、診療所はウスワイヤとは関係しておらず個人で経営されている場所であった為、一般人と同様に扱われた。診察費も治療費も千鶴から提供され、その上で応急処置を施された詠人は何とも言えない表情を浮かべている。
どこの誰かも知らない人物に(半ば強引ではあるが)助けられたのだから、どう対応すればいいのか分からない。
「もう気分は平気?だいぶ落ち着いた?」
「え?え、えぇ…まぁ…」
「よかったー!ホント痛そうだったもんね。」
特にここ、と千鶴は顎を押さえると詠人は苦笑を浮かべた。
千鶴は詠人の気も知らずに、続けて質問を投げた。
「エイト君は学生さんだっけ?不良にでも絡まれたの?」
「まぁ、そんなところです…」
正直に話す理由もない為、適当にぼかして応える詠人に千鶴は素直に頷く。
不良にしては傷の出来方が随分綺麗だな、とただ不思議そうに思いながら。
「弱いものいじめは駄目だよ!力があるからって力で訴えちゃ駄目!」
「…そうですかね…」
その言葉に詠人は引っかかったが、その思惑は彼女は知らない。
そして彼女の場合、暴力の他の意を含んでいたが、その意図も彼に伝わることはなかった。
「なんでもかんでも力に訴えるとね、神様が…あっ」
ふと、突然の風で千鶴の帽子が飛んでいった。
いつもは身に付けていない、今日の気まぐれで被ったハンチング帽。
思わず手をのばすと、その指先に導かれて虚空から"木部隊"が放たれる。自然と一体である彼女らは周囲の風と共鳴して、その帽子を手にとって主の元へと運んでいった。
それは彼女にとって、とても自然な動作だった。
もちろん詠人には妖精の姿は見えなかった、が、離れた筈の帽子が彼女のもとに戻った一連の流れを目撃してしまい、思わず、
9
:
しらにゅい
:2014/03/25(火) 11:38:32
「怖い目をするんだね。」
「!」
千鶴はそう言うと、帽子をかぶり直し、優しい目で詠人を見つめた。
彼女は、あ、と声を上げた後、続けてこう問い掛ける。
「エイトくんも能力者嫌いさんかな?」
「…は、」
「んー、いかせのごれって割とそういう人よく見かけるんだよね…そうそう、キミと似たような人に前出会ったんだ、お友達になろうって言ったんだけど返事はもらえてなくて…パニ・シーって言うんだけど、知ってる?」
思わず詠人は黙ってしまった。
仲が良いわけではないが知らないわけでもなかった。だが、あの異端な存在を彼女が知っている事に驚き、そして恐れた。
何故知っているのか、それだけが詠人の思考を縛り付けた。
「人じゃないヒトって、嫌い?みんな違いなんてないと思うんだけどなぁ。」
「……変な、人ですね…初対面なのに、見透かしたようにそんなことを言って。」
「あはは、よく言われる。けど、気になるなら当然でしょ?」
「………」
詠人の警戒は解けず、彼は思わず腕を押さえた。
ピリピリとした空気に、少しばかりの殺気を感じて彼女の神衛隊が警鐘を発する。
千鶴はその音を聞いたが、その場に出す事をしなかった。出す必要が、ないからだ。
千鶴は微笑んで、また問い掛けた。
「あのさ、エイトくんって友達いない?」
「………」
ちゅんちゅん、と雀が西から東へと飛んでいき、どこからか子供の声が聞こえてくる。
とても意外性に富んだ質問だ、その上人によっては失礼に値するような問い掛けでもある。
しかし、素直に答えられないのもまた事実であった。
千鶴は手を差し伸べて、こう言った。
「ね、私と友達になろう?いいでしょ?」
「…は?いや、待ってください、なんでそうなるんですか?」
「だって、私エイトくんがどうしてそんな悲しい目をするか知りたいもの。」
「え?」
「エイトくんさ、あの時すごい怖い顔してたけど、眼はすごく悲しそうだった。キミは怒りだけが全てじゃなくて、何かしら悲しい出来事があったんだと思う。」
けどね、と千鶴は続ける。
「そうじゃないんだ、キミはその一面だけにしか目を向ける事が出来ない。
私も、キミがその一面だけしか見ている事しか知る事が出来ない。私は、キミが何故そんな思いを抱くのか知りたい。だから、その為にお友達になりたいの。」
「………」
詠人は差し出された手をしばらく見つめていたが、手に取る事は出来なかった。
「…要は、自分がただ知りたいだけじゃないですか。助けてくれた事には感謝しますが…その誘いは、断ります。」
そう言って詠人は千鶴の横を通り過ぎて、去って行ってしまった。
その時、千鶴は彼の背に何も言葉を掛けることはなかったのだった。
それが、千鶴と詠人の初めての出会いだった。
詠人にとってその日以降、彼女と出会う事はもう無いと思っていたのだが…
「あ、エイトくん!」
と、下校途中や仇を探している最中に何故かよく声を掛けられるのであった。
千鶴はこの前の出来事なんてまるでなかったかのように、また友達になろうと申し出るが詠人は断った。
彼が逃げても、彼女は追い掛けてくる。どんな言葉をかけても、決して諦めることはなかった。
そのやり取りが、つい先日であった。
10
:
しらにゅい
:2014/03/25(火) 11:39:31
----
「っげほ…げほ…!」
詠人は起き上がりながら、自分を吹き飛ばした相手を睨んだ。
その人物はあの時と同じように帽子を被っており、周りに何かを漂わせている。
詠人はその時、初めて妖精の姿を捉えたのだった。
「…っなんだよ、やっぱり……敵じゃないか…!」
視線の先には、千鶴が立っていた。
夜波マナの正面に立っている彼女は詠人と対峙している。その表情はいつも彼に見せていた笑顔ではなく、無表情だった。
詠人を背にしてマナに向き直ると、千鶴は笑った。
「初めまして、エイトくんの妹さん?」
「え、…」
「私はチヅル、いかせのごれでジャーナリストやってるの。えーっと、その白い子は…」
「なんで邪魔をするんだ?!アンタもそのまがい物の仲間だったのか!?」
マイペースにシュロに自己紹介をしようとする千鶴に詠人は叫んだ。
千鶴は再度振り向くと、詠人にこう答えた。
「違うよ?だってエイト君の妹さんと出会ったのが今が初めてだもの。邪魔をする理由なんてないわ。」
「なら!」
「私はさ、兄妹喧嘩に口を出すつもりはないよ。当人同士の問題に他人が口を出す事自体、そもそも間違ってる。けど…」
千鶴は、ちらり、と戸惑うマナの表情を見る。
「何も知らないで、妹の存在を消そうとする事は理解出来ない。」
「ソレはあの日!妹の存在を喰らって、マナに成り替わった…!妹じゃない、大事な存在を奪った能力そのものだ!!」
「だから?」
詠人以上の声の強さで、千鶴は制した。
「エイト君がこの子を妹と認めない理由は、その時見たものだけで全てなの?肉体がなければ妹と認めないの?血縁がなければ妹と認めないの?声は?姿は?好きなモノは?嫌いなモノは?この子自身の中身も、考えも、想いも、何も理解していなくせにまがい物だって決め付けて消そうとするの?」
「黙れ!!僕らの何を知っている!?」
「それは、エイトくんも一緒でしょ?」
「っ!」
思わず、言葉が詰まってしまった。
千鶴は、もう一度マナへと向き直り、しゃがんで頬を触る。突然頬を触られて、少しだけマナの身体が震えた。千鶴の手は通り抜ける事は無く、確かにその掌に頬が触れた。そして、マナから離れると詠人の傍に寄り、彼女と同様に身体へ触れた。彼はその手を振り払った。
「やめ、っ」
「エイトくん、言ったよね?私。キミの事を知らないからキミの一面しか見る事が出来ない。きっと、あの時出会わないで今出会ったら、エイトくんは酷い事をしようとする人にしか見えてないと思う。けど、キミを少しずつ理解していって、やっぱりその憎しみには悲しい出来事があったんだ、って知る事が出来た。」
「………」
千鶴は穏やかな声色で告げる。
彼女は今までの詠人とマナの攻防を知らないし、マナを庇う考えも無かった。もし千鶴が満足するほど今の状況を理解していれば、詠人の振り落とされる腕を払おうなんて思っていなかっただろう。
ただ、彼女の中にある正義がそれを許さなかったのだ。お互いの全てを知らないまま、取り返しの付かない事態になる事を。
「ねぇ、エイトくんは妹であったマナちゃんの何を知っているのかな?何をもって、妹と認めていたのかな?そして、あの子をまがい物だっていうけどそれだけで判断していいのかな?生まれ変わっただとか生き残れただとか、そういう考えには至らなかったのかな?
もう一度よく考えてみて、もっとよく、彼女の事を知ってあげて。それを知った上でやっぱりまがい物だって言うなら、私は止めないよ。さっきも言ったけど、兄妹喧嘩に口を出さないから。」
「っ待てよ、あんた何言って!」
「びっちゃん、」
千鶴がシュロ達へ手を伸ばすと、指先から"木部隊"が放たれるのを詠人は目撃した。その妖精たちが彼女達の足元へとそれぞれ潜り込むと、突然、蔦のようなものが生え、それぞれ彼女達を取り囲んだ。
「なんやこれ!?」
「っマナちゃん!!」
「敵かよ…!」
シュロは振り解こうとするが上手く力が入らない。実質、この場で動けるのは詠人とマナ、そして千鶴の三人だけとなってしまった。詠人は千鶴を見ると、彼女は笑った。
「さ、話してごらん?本当に妹なのか、って。」
「………」
詠人は立ち上がり、千鶴の横を通り過ぎた。
その瞬間、彼女はこう言った。
「私、エイトくんの事信じてるからね。」
それがどのような意図なのか、彼にしか分からなかった。
11
:
しらにゅい
:2014/03/25(火) 11:47:39
>>8-10
お借りしたのは夜波 詠人、夜波 マナ、ブランカ・白波、名前のみで白波 アカネ(スゴロクさん)
シュロ(紅麗さん)、アズール((六x・)さん)でした!
こちらからは千鶴です。
前半の時系列は「白波一家、それぞれの動向」直後で後半は「ほつれる因縁の糸車」直後になります。
この後書きやすいように千鶴の行動に補足を付けておきますね!
詠人君がマナちゃんを「まがい物」と判断し再度攻撃
→千鶴は詠人君を手伝ったりはしません。ただ戦いが終わるのを傍観しています。
自分が攻撃される事があれば彼女の妖精たちが応戦します。
蔦について
→なんでもないただの植物の蔦なので必要に応じて振り解いて貰っても問題無いです。
シュロちゃんの力で破るもよし、アズールちゃんの炎で焼くもよし。
他に何か不明点また時系列おかしいんじゃない?がありましたら雑用スレまでどうぞー!
前から詠人君と交流したかったので叶ってよかった…!
12
:
スゴロク
:2014/03/25(火) 15:43:08
>しらにゅいさん
ありがとうございます! では、そのパス受け取りましょう。
「……何だ、あれは?」
その日、ブラウ=デュンケルは、いかせのごれの街を散策していた。彼の服装は傍から見ると結構異様な部類だったが、カモフラージュに持っている大きなトランクがそれをある程度中和していた。
そんな彼の「インサイトシーイング」が、ヴァイスを探して巡らされていたそれが、覚えのある力の展開を発見したのだ。
「……こんな使い方は記憶にないが……波動を操る力とくれば……」
思い当たるのは一人だけだった。さらに、そちらを「見る」ために焦点を合わせてみると、視界の片方がみるみるそちらに跳んで行く。
そして、そこで繰り広げられている光景を目の当たりにした時。
「!」
ブラウは、心底からの驚愕に襲われた。
「詠人、愛菜……!?」
他人では決してない、二人の姿。周りに何か、蔦のようなものが巡っているのが見える。が、考えるのは後だ。
「放ってはおけん、か」
これはもしかすると、諸々の因縁に、その半分にカタをつける絶好の機会ではないのか。
そう考えたブラウは、踵を返してそちらの方向へ全力疾走を始めた。
詠人の胸中を占めていたのは、困惑だった。
今の今まで、眼前の彼女……妹の姿をしたそれをまがい物と断じていた根拠が、いきなり揺らがされたのだ。
(…………)
渦巻く感情が、先ほどまでと違って上手く言葉にならない。ただ、千鶴に言われたことが、口を突いて出ていた。
「……覚えているか?」
「え?」
「孤児院が火事になった、あの日だ」
詠人自身も鮮明に記憶している。ヴァイスによって強引に能力を引き出され、内側から侵食されていたマナが、巻き込まれて完全に消え去ったあの火事の日だ。
妹を救おうとして果たせなかった、詠人にとっては忌むべき日だ。
「…………」
今なら消せる。だが、千鶴の言葉が、詠人の心の中の何かに働きかけ、彼をとどめていた。
「どうなんだ」
「……覚えてるわ、とてもよく」
「……そうか」
次の問いも、やはり意図せぬままに飛び出していた。
「父さんや、母さんのことは」
「忘れるはずがない。お父さんは……厳しいけど、優しくて。煙草もお酒も、嫌いで」
「そうだ。……健康には人一倍、気を使う人だったな。母さんは優しかった。笑顔が綺麗で、料理が上手で……」
「……でも、怒らせると物凄く怖かった。笑顔のままプレッシャーかけて来るから、反論が出来なくなる」
「そこにこそ惚れ込んだ父さんは……どうなんだろう?」
場違いにも、父の女性の好みというものに対し、今更のように疑問を持つ詠人だった。
「さあ? そっちの気があったとか」
「やめろ!? 考えたくない!!」
一瞬で浮かんでしまったビジョンを頭を振ることで打消した詠人だが、おかげで困惑がどんどん膨れ上がる。
目の前のこれは、本当に紛い物か?
「……ヴァイスが来た日のことは?」
「雨だったわね。迎えに出たお父さんが操られて、お母さんは殺されて……私達も常人ではなくなった。その後、あなたが飛び出した」
「父さんを追って行ったが、結局追いつけなかった。あれからどうなったかはわからないけど……多分、死んだんだろうな」
事実を確認するかのような淡々としたやり取りの後、詠人は自身にとって本命となる問いを口にする。
「……マナのことは?」
13
:
スゴロク
:2014/03/25(火) 15:43:43
「…………」
目の前の少女は、すぐには応えなかった。瞑目し、俯き、何かを整理するように沈黙する。
そして、
「……普通に育っていれば、16歳だった」
まずはそう、返した。
「……そうだな」
「偏食家だった。お母さんのつくるサラダが好きで、魚が嫌いで……」
「……特にサンマが駄目だったな。骨もそうだけど、ワタ」
「あれは苦いから嫌。好き嫌いのないお姉ちゃんは本当に凄いと思う」
ちらりと向けられた視線を追うと、そこには特殊能力への抗体とも言える少女・ブランカの姿。
「あと、お肉も嫌い」
「肉野菜炒めは器用に肉だけ避けて食べてたな。喘息の薬も嫌いだったな」
「あれは好きな方がおかしいと思う。子供向けに味がつけてあるんだろうけど、あの嫌な甘さは未だに思い出す」
「……それはわかる気がするな。僕も嫌いだ」
内容の真偽はさておき、その意見には全面的に同感だった。
「勉強は得意だったけど、運動は苦手だった」
「確かに。体育はいつも1だったな」
「逆上がりとか。あれ、出来る必要性が認められない」
「出来なかったのか? 腹筋、背筋、握力。鍛えるべき点は色々とあるぞ」
「あと水泳。生徒をプールに投げ込むとか。あり得ない」
「……その話は初めて聞いたぞ? ……待てよ、いつだったか母さんが本気で怒ったことあったな」
いつもは笑顔を絶やさない母が、その時ばかりは憤怒の形相で学校に怒鳴り込んだことがあったことを思い出す。
「……それか」
「……多分」
問答は続く。
「得意なのは片付け。お兄ちゃんの部屋もいつも私の担当だった」
「なに?」
「服を畳むのは下手、本の置き方もバラバラ。部活に出ている間に私がやってた」
「……と言うことは何か? 本棚も整理したと?」
「当たり前。私は知っている、あなたの部屋の本棚の奥の方にあった――――」
「どわ――――ッ!!?」
慌てて少女の言葉を遮ったが、察せられたのか千鶴がくすりと笑ったのがわかった。
一方アズールとブランカはよく分かっていない様子だが、これには心の底から感謝した。もし彼女らにまで察知されていたら、本気で死にたくなっただろう。
が、少女はその辺を察知したのかニヤリと口元だけで笑い。
「大丈夫。後で、私が説明する」
「余計なことをするなぁっ!? 何でそういうところだけ無駄に鋭いんだ!」
「身内の感情なら能力を使うまでもなくわかる。ましてや」
す、と表情が消え。
「……実の兄なら、なおの事よ」
「…………」
一秒だけ、詠人は目を閉じた。込み上げるいろいろなものを、呑み込むように。
目を開き、一つだけ問う。
「……お前は―――――」
「――――『誰』だ?」
その問いこそが、彼の心境を物語っていた。
少女は表情を変えず、しかし、やはり一秒だけ目を閉じてから答える。
「…………私は……」
ちらり、と背後のランカを見てから。
「……私が本当に『夜波 マナ』なのか、正直言うと自信がない。もしかしたら、本当にあなたの言うような紛い物なのかも知れない」
「………………」
「けれど、私は『ここにいる』。それだけは揺るぎのない事実。あなたがどう思おうと、お姉ちゃんが、スザクが、ゲンブが、ユウイが、トキコが……みんなが、私を『そう』呼んでくれる限り」
「私は、夜波 マナよ」
14
:
スゴロク
:2014/03/25(火) 15:45:01
「…………」
お前の妹なのだ、と。少女は、はっきりとそう言った。
「…………」
それをどう受け止めるべきなのか、詠人にはよくわからなかった。今までなら、一言で切って捨てていただろう。
だが、今は敵愾心よりも憎悪よりも、困惑と混乱が先に立っていた。
「…………」
言葉はやはり、口をついて出ていた。
「……誰かが、言ってたな」
「え?」
「何かの存在を定義するには、他者の存在が必要だと」
「…………」
「それに従う、ならば」
何となく、視線が合う。
「お前が何者であったとしても、僕以上の多くがそう認める限り」
「……」
「……マナ以外の、何者でもないんだろう。きっと、そういうことだ」
声音には、重いものが混じる。
言葉は続く。
「……詠人……?」
「……僕は……マナが羨ましかった」
不意に始まった独白に、マナのみならず、その場に居合わせた全員が怪訝な顔になる。
「家族を失ったのは同じ……なのに、僕は地べたを這いずりまわり、マナはこの街で仲間と家族を手に入れていた」
それが羨ましくて、妬ましくて仕方がなかったのだと。
「僕には何もなかった。僕には誰もいなかった。だから、僕が求めても手に入らないものを、当たり前のように取り戻しているマナが気に食わなかった」
奪われた家族のことなど、まるでなかったかのように振る舞うマナが許せなかったのだと。
「……だけど……だけど、なぁ……」
無意識に、天を仰ぐ。
「わかってた……わかってたんだ、本当は……」
「…………」
「マナは死んでなんかいない、まだ『ここにいる』んだって……本当は、わかってたんだ……」
「ほな……どうして」
アズールの掠れたような問いに、答えるでもなく答える。
「マナを見るたびに、僕は嫉妬せずにはいられなかった。何もなくなった僕には、多くを持っているマナが……眩しくて仕方なかったんだ」
「…………」
「理不尽だと、不公平だと思ったよ。どうして僕にだけ何もないんだと、思ったよ」
だから、
「マナちゃんを、消そうとしたの……? 許せないから? 自分にないものを持ってるのが、妬ましかったから!?」
「ああ……そうだよ、その通りだ。だけど、妹だ」
「え?」
「たった一人の、妹なんだ。だから、例えどんなに羨んでも、この手で消そうなんて思えなかった」
それが、なぜ?
「いつだったかもう覚えていない……けど、僕の中で何かが囁いたんだ。マナはあの時に死んだ。今いるのは唯の偽物だと。マナに成り代わった紛い物だと」
だから、消し去れと。肯定などする必要はない、と。
「まがい物を消し去るんだから、何も気にしなくていいんだと。……そう思ったら、止まれなかった」
15
:
スゴロク
:2014/03/25(火) 15:45:34
「そんな……」
息を飲んだのは、ブランカだ。
「酷い……酷いよ! そんなのってないよ! 何でそんなことのために、マナちゃんが死ななくちゃならないの!?」
「……そうだな、その通りだ。どうして僕は、気づかなかったんだろうな……」
不意に、
「どうして、僕は……」
どこかから、
「……!?」
声が。
(――――「ソレ」は紛い物だ。妹の偽物だ。殺せ。殺せ。殺せ、殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ――――――)
「う、ぐっ、がアアァァァァァッ!?」
「お兄ちゃん!?」
「ま、まがい、物を……ち、違うッ! こ、これは、僕の意識じゃない! 退け、消えろぉっ!!」
「――――やれやれ。ついに効果が切れてしまいましたか」
『!!!!』
良く通るが、同時に耳障りな声。
一度聞いてしまえば二度と忘れられない、嘲りと悪意に満ちた道化師の声。
「御機嫌よう、皆さん。思わぬ閉幕となりましたが、楽しんでいただけましたかな?」
声の響きに強くなる頭痛を堪えつつ、振り返った詠人は、そこにいた男を睨みつける。
「ヴァイス……シュヴァルツ……ッ!!」
「ククク。お久しぶりですねぇ、夜波 詠人さん。どうでしたか、ワタシの与えたその感情は?」
「な、なん、だと……ッ!!」
聞き捨てならない言葉に、意識が一瞬晴れる。そこに、
「……“チューニングウェーブ”」
とん、と額をマナがつつく。そこから広がる波動が、昂る感情を平静に戻していく。
同時に、
「!!」
クリアになった記憶が、「その時」のことを鮮やかに思い出させた。
「お前……そう、か。その声、覚えがある。あの日じゃない、ここに来てからだ。お前が僕を……」
静かに憤るその言葉を、道化師は拍手によって肯定する。
「その通り、その通りですとも。情愛と嫉妬の狭間で揺れる感情……それをマイナスの方向に傾けるのは、ワタシにとっては造作もないコトでしてね?」
「『マニピュレイト』……相も変わらず、人の心を操って、下らないことを企んでいるのね」
「そういうことですな。夜波 マナさん」
嗜虐的に笑むその口元が、人を嘲笑する言葉を発する。
「人間の精神というのは、存外脆いモノでしてね。例えばそう、たかが音楽、たかが文章。音や言葉の羅列ごときに強く影響され、人は己の精神の中に全く別の人物を造り上げます。宗教的な要素が絡むと、神を創造する者すらいますね」
「何を……」
ククク、と嗤う。
「想像力とは生きる力そのもの……ですが、強すぎるそれは時に己自身をも蝕む。記憶が作り上げたナニモノカが支配力とカリスマを備えた瞬間、人はいとも簡単に、その操り人形と化してしまうのですよ」
誇るように、両手を広げる。
「それこそが、我が『マニピュレイト』の本質。ワタシの意志が、相手の記憶を完全に支配してしまうのですよ」
「なら、僕の時は……!」
「『跡地』の入口付近でしたかね。妹さんから逃げるように彷徨っていたアナタに、少しばかり囁いただけのコトですよ」
「『あれは妹ではなく、その姿と記憶を奪い取った紛い物です。ですから、あれを殺すことに何の抵抗も抱く必要はないのです』とね」
心を踏みにじるようなその言葉に、詠人は、マナは、怒る。
「貴様……!」
「人はね、皆さん。記憶と感情の辻褄というものを、意外とあっさり合わせてしまうのですよ。例えば詠人さんの場合、マイナスに傾いた感情を正当化すべく、過去の記憶を元にもっともらしい理由を自ら作り上げ、それを己のものと思い込んでいた。それに従い、人外と化しながら生き延びた妹を消し去ろうとしたのですよ」
16
:
スゴロク
:2014/03/25(火) 15:47:38
ワタシの思惑通りにね、と嗤うヴァイスに、シュロがたまりかねて叫ぶ。
「……ッザケんじゃねェぞヴァイス!! てめえ、人を何だと思ってやがる!!」
「さて? 随分前に同じことを聞かれたような気がしますが、忘れてしまいましたね。まあ、どうしてもというなら答えましょうか」
つまり、
「ただの駒ですよ。ワタシ以外の人間など、ワタシの思い通りに踊る人形でしかない。事実、そこの詠人さんはついさっきまでワタシのマリオネットだったわけですからね」
「く……」
「おぉっと、ワタシを恨むのは筋違いではありませんか? きっかけを与えたのはワタシですが、大本の感情はアナタ自身の中にあったもの。ワタシがいなくとも、いずれアナタは同じことをやったでしょう」
「それは!」
「違うとでも? 本当に、そう断言できますか?」
じろり、と詠人を睨み返すヴァイス。その眼光に、思わず詠人は口を噤んでしまう。
「ぐ……」
「あれだけ妹を妬んでおいて、本当にそんなことはしなかったと言い切れますか? 情愛如きで劣等感を中和出来たとでも? 笑わせないで下さい、結局はアナタの責任ではないですか。ここまでしておいて、操られていましたごめんなさい、で済むとでも?」
「う、それ、は……」
「本当に自分勝手な人ですねぇ、全く。今更自分だけ被害者面が出来るとでも? アナタがその手で妹を殺そうとしたことは、紛れもない事実。それをなかったことに出来るとでも?」
「…………」
捲し立てるヴァイスに、反論ができない詠人は思わず足を引きかける。
それを、
「……黙れ」
「マナ……?」
「見えない波紋」が、支える。
「……何か?」
「何か、じゃない。さっきから聞いていれば勝手なコトを」
「勝手なコトとはまた理不尽な。そこの詠人さんがアナタを消し去ろうとしたのは事実でしょうに」
「だとしても、そのきっかけはお前が与えたもの。お前さえ余計なことをしなければ、こんなことにはならなかった」
「本当にそうでしょうか? 今ではないにしても、いずれ同じことが起きていた可能性は」
「詭弁はもういい。歴史にIFはない。お前が干渉してお兄ちゃんを狂わせた。その事実があれば十分。何より」
すい、とその目が細められる。
「……スザクのこと、トキコのこと、凪さんのこと、シドウさんのこと、思いつく限りでもお前の下らない人形劇に巻き込まれた人がこれだけいる。お兄ちゃんのことがなくても、それだけでお前を許さない理由になる」
「おや、アナタは詠人さんを許すと? 存在そのものを完全否定して、消し去ろうとしたのに?」
後悔の滲む詠人を一瞥した後、マナは彼を庇うように一歩、前に出る。
「それをさせたのはお前よ、他でもなく」
「……あくまでワタシとやり合う気ですか。全く、下らない情愛にほだされるなど、理解が出来ませんね」
「それ以上の理由が必要なら……言ってやる、はっきりと」
「ほう?」
興味深げに顔を上げるヴァイスに、夜波 マナは声を張り上げて叫んだ。
「ヴァイス=シュヴァルツ!! 私はお前が嫌いなのよッ!!」
回帰、そして急転
(ほだされるとは、ある文字を使う)
(柵を乗り越え、あるべき姿へ)
(夢でも幻でもなく、厳然として存在する縁)
(人、それを絆という)
(六x・)さんより「アズール」紅麗さんより「シュロ」しらにゅいさんより「八十神 千鶴」をお借りしました。
どなたか拾ってくださると筆者が喜びます。ヴァイスに関しては「道化師、遍く」で言った通りですので、扱いはお任せします。
しかし、ああいうキャラの台詞は凄く書きやすい……。
17
:
しらにゅい
:2014/03/31(月) 21:31:25
『八十神千鶴は物言うだけ』
千鶴は、ヴァイス=シュヴァルツという人物を目にしたことはなかった。
話に聞くと、彼について3つの特徴があるらしい。
まず、1つ目は彼の能力は主に思考を支配し本人の意図しないアクションを起こさせること。
2つ目は彼が愉快犯であること。
3つ目はといえば…彼が既に亡き者である、ということだった。
「○月△日のニュースを見たか?あの黒ずくめの男が殺された、ってニュース。どうやら、ヴァイス=シュヴァルツ本人らしいぞ。」
情報提供者である日出太陽にそう断言され、千鶴は肩を落としたのだった。
彼女は彼の手掛けた事件を見ていて思うところがあり、その思いを伝えるべく計画を立てていたのだが、その一言で砕けてしまったからだ。
「…それすらも思わせられてるんじゃないんですか?」
負け惜しみのように言ったが、太陽は首を横に振り、平和が一番じゃないか、と呟いた。
確かに何事も無いのが一番だが今だけは少し、彼が恨めしい。そのような経緯もあり、千鶴の中ではヴァイス=シュヴァルツという存在は死んでいた。だから彼が生きていた事は、この瞬間になるまで分からなかったのだった。
尚、彼女が以前ヴァイス=シュヴァルツと接触し会話した事についてはもちろん、気付いていない。
----
「…貴方が、ヴァイス=シュヴァルツ…さん?」
一瞬即発、そんな雰囲気を漂わせている場に相応しくない、か細く尋ねる声。
千鶴の視線の先には件の人物、ヴァイス=シュヴァルツが夜波マナと対峙している。
夜波詠人を惑わし、妹へ怒りの矛先を向け、それを傍観し嘲笑していた男。
ヴァイスは掛けられた声に気付き、顔を向けると笑う。
「…おや、貴方には以前、お会いしましたね。」
亡霊を思わせるような不気味な笑みを余所に、千鶴は首を傾げ、素直に尋ねる。
「え、初対面…ですよね?」
「覚えていらっしゃらないんですか?あの時、お茶会をしたじゃないですか。」
お茶会、と言われ、千鶴の脳裏に浮かんだのはいつかの霜月堂での出来事。
あ、と声を上げ、千鶴は驚いた。それはヴァイスが死亡を偽装する前の事だったが、既に彼女はヴァイスに出会っていたのだ。
気付いた彼女は思わずこんな事を呟く。
「名刺とか、準備しておけばよかった…」
「後でサインでも書きましょうか?」
ヴァイスがジョークを飛ばせば、千鶴は、え、と本気で反応したが、マナが視線を配り、暗に引き止めた。
「下がってて、こいつはきけ、」
「私、貴方に言いたい事があったんです。」
しかしマイペースに、彼女の制止を聞かず千鶴はヴァイスへと話しかける。
ほう、と興味深そうに彼が呟いた後、彼女は少しだけ間を空け、想いを告げた。
「貴方って、面白く無いですね。」
沈黙。
彼が口を開く前に、更に千鶴は思いの丈を述べた。
「独り善がりの作品だから仕方が無いと思うんですけどなんだかパターン化してませんかねもっと言っちゃうとありきたりな気がするんですあと時間が掛かり過ぎてるとも言うんでしょうか他の人々が事件について関わり始めてやがて一つの場に収束するっていうのはよく使われる手法なのですが都市伝説としては広まりすぎてると思うんですよねというか都市伝説ですらない神秘性が掛けています私貴方が関わったであろう事件を今まで見てきたのですがあれぐらいにしか出来ないのはやっぱり独り善がりだからですかね仕方ないですよねでも視野が狭いあれが足りないからですねきっと大体壊す事だけにしか縛ってないからパターン化しちゃうんです独り善がりですものねでももしですよそれで演出家を気取ってるなら辞めたほうがいいと思います。」
言葉の羅列。感想を述べるにしては、賛辞の言葉が備わっていない、ただの批判であった。
ヴァイスに対し言葉で責めた相手は確かにいたが、千鶴はヴァイス個人というよりも、彼の事件…いや、彼の脚本を責めた。
18
:
しらにゅい
:2014/03/31(月) 21:32:27
当の本人は、といえば、突然、
「ハ、ハハハハ!!」
腹を抱えて、笑う始末であった。それもまるで、演じるかのように大袈裟な動作をして。
ひとしきり彼は笑った後、千鶴に向けて拍手をした。
「いやはや、伝えたい事とはそういう事だったのですね。貴重なご意見、ありがとうございます。…それで、何が足りないのですか?」
「気付かないんですか?」
「ええ、ですから教えて頂きたいのです。」
言葉は丁寧だが、ひとつも汲んでいないであろうとマナは察している。
この男に何かを訴えたところで通用するわけがないと知っていたからだ。
千鶴は少しだけ、残念そうに表情を浮かべた。
「貴方が下らないと嗤った『情愛』が無いんですよ。」
今度はヴァイスが、眉を顰めた。想定していた答えに、返事を返す。
「貴方は私に触れたのなら、分かるでしょう?情愛なんて、必要ない。何故人形を愛でる必要があるのですか?」
「神は人を愛でます。」
千鶴は、ヴァイスを真っ直ぐと見つめ、そう答える。
得体の知れない奇妙な感覚を覚えたが、あの日、千鶴に触れようとした時の感覚と似ている事に彼は気が付いた。
「神は人を平等に愛でる、その上で試練を課します。それは、人間では想定出来ないほどの残酷な試練を彼の者に与えます。そこに慈悲などありません。貴方は『人間』であるにも関わらず、その要素を棄てている。その上で神のように啓示をし、掌で操っている。だから、貴方の作品は面白く無いのです。…もっとも、『人間』ならこの程度が限界だと思いますけどね。」
「下らない、神の真似事をしているから面白くないと仰るのですねぇ。」
「んー、先駆けた人物がいれば、その者と比べてしまうのは当然だってヴァイスさんだって知ってますよね?」
それが皮肉かどうかは千鶴本人にしか分からなかったが、ヴァイスは聞き入れることはなかった。
「…面白いお話をどうもありがとうございます。」
そして気が付けば、彼は千鶴の前へと立っていた。
「千鶴さん!!」
「お礼に、貴方にも面白いものを見せてあげましょうか。」
詠人の叫びは虚しく、彼女に催眠が施される___
「そこまで、だ。」
筈、だったが、千鶴の視界は突如、藍色に染まったのであった。
19
:
しらにゅい
:2014/03/31(月) 21:35:51
>>17-18
お借りしたのはヴァイス、夜波 マナ、夜波 詠人(スゴロクさん)でした。
こちらからは千鶴です。
色々言っちゃってますが、千鶴に悪意はないです!もっとよくならないかなー程度にしか思ってないです!
ある意味ぶっ飛んでる考えですが!
後単なる場繋ぎなので後はブラウさんお願いします!たすけてー!
20
:
スゴロク
:2014/04/02(水) 20:39:29
>しらにゅいさん
わかりました、それではブラウ出撃! ということで。
「そこまで、だ。ヴァイス=シュヴァルツ」
「む……」
その声が響いた瞬間、常に余裕と嘲笑を崩さないヴァイスの表情が、はっきりと顰められた。ばっ、と後ろに飛びのく。
彼にこの顔をさせるのは、二人。
一人は以前関わって以来、ちょっとした勘違いからヴァイスを追い続けているシャルラ=ハロート。
そしてもう一人が、この男。
「またアナタですか。ブラウ=デュンケル」
「お互い縁があったということだ。これがな」
現れたのは、色合いと顔だけが違う、ヴァイスの鏡映しのような男。ブラウ=デュンケルを名乗る男だった。
その目線が、ちらりと「シャットアウト」で隔離された千鶴に向けられる。
「……奴にいろいろ言っていたようだが、遅きに失したな」
「? どういう……」
「今の意見は、あるいは異見は、奴が『人間』であるという前提がなければ成立しないからな」
つまり、今のヴァイスはもはや人間ではないのだと。
「死体が発見された時点で奴は人間としての存在を放棄している。今の奴は、ヴァイス=シュヴァルツの姿を取った現象そのものだ」
「……間違ってはいませんがね」
「だろうな。でなければ、貴様の操り人形だった俺がこうして自由意志で動ける理由がない」
聞き捨てならない言葉に詠人とマナが一瞬反応したが、ブラウは一瞬だけ目線を向けるとまたヴァイスを見る。
「……さて、さっきの指摘について何か言うことはないのか? 貴様のことだ、反論はいくらでも用意しているだろう」
今のヴァイスは、言うなれば「ヴァイスという男を構成していた要素」を拾い出して具現化させたような存在だ。
それくらいはあり得るだろう、と予測していた。
「そうですねェ。そもそもワタシは、特に何かを求めて事件を起こしているワケではありませんしね」
「愉快犯だからな、貴様は」
「ワタシが楽しければそれでいいのです。……と思っていたのは『生前』の話でしたが」
つまり?
「今は本当に何一つ目的はありません。言うなれば事件を起こすことそのものが目的です」
「……何だと?」
「今のワタシには時間すらも無意味な概念です。かつてのワタシは完全な愉快犯でしたが、今はそのようなレベルでは動いていません」
「どういうことだ……なら、何故僕を!?」
詠人の叫びにも、何でもない事のように答える。
千鶴へ話しかける形で。
「チヅルさん、先程アナタはワタシの演出を独りよがりであり、情愛という視点が欠けているがゆえにつまらない、ゆえに演出家を気取るのはやめた方がいいと。神の真似事であるがゆえに下らないと、そう言いましたね」
しかし、
「ワタシという存在は、その根幹が『神』という存在、あるいは概念の模倣という側面を持っています。ですから、どう足掻こうとワタシのすることは神の模倣でしかないのですよ」
千鶴の言うような「面白さ」が現れることは、ヴァイスである限りあり得ない。
21
:
スゴロク
:2014/04/02(水) 20:40:07
「ありきたりなのも当然です。何故なら、ワタシはそもそも造り出すことを最初から求めていないのですからね」
「それは」
「『人間』だからこの辺りが限界……ですか? さあて、それはどうでしょうかね」
今も昔も、この男は容易に本音を悟らせない。表に出ている言葉や態度が真か偽か、確かめる方法はないのだから。
「今のワタシの存在概念は『原因』。答えなき問いの答え、理由なき事象の理由となるコトがワタシの存在です」
つまりは「だいたいこいつのせい」である。
「そこに情愛など必要ないのですよ。重要なのは、それによって事象が確定するコトです。それがどれほど有り触れた、つまらないものであっても、原因となるならば問題などないのですよ」
面白さを求める段階はとうに過ぎ去り、今は演出そのものが手段に切り替わっている。
千鶴の指摘は「作品」に対する評価のようなものだったが、ヴァイスはそもそも他者の評価というものを求めていない。ましてや今は、「作品」はただの手段。
他者からみてどれほど下らなかろうと、それは問題ですらないのだ。
「同時に、ワタシ個人の目的というものも消えました。まあ、演出を続ける中で何かしら面白そうなことが起きないか、とは考えていますが」
それでもやはり、本質は変わらない。人を操って嘲笑する、愉快犯。
ヴァイス=シュヴァルツとはそういう遍在だった。
「……あなたは……何なんですか」
千鶴の呟きは、まさに心底からの疑問、と言った風情だった。
ヴァイスは帽子を深くかぶり直して視線を隠し、その裏から言う。
「さあて、ね。演出家、道化師、愉快犯、人形遣い、あり得ざる遍在、眠らぬ死者、神の手違い、あざ笑う者、闇の彷徨者……」
さて、
「ワタシは、何なのでしょうねェ……?」
黒ずくめの男の姿をしたナニモノカは、そう言ってくつくつと嗤った。
永遠にも似たしばしの静寂の後、ブラウが口を開いた。
「……貴様が何なのかなど、どうでもいい。ただ、殺すだけだ」
「さすがにそれは御免被りたいですねぇ。このワタシが死んだところで、それはヴァイス=シュヴァルツという存在の消滅を意味するところではありませんが……」
どこまで本気かわからないような声音で、ヴァイスは首を竦めつつ言う。
そんな黒ずくめの男を複雑な感情を宿した目で見る、詠人。
「……だとしても。僕が、お前を見逃す理由にはならない」
「見逃す見逃さないではありません。ワタシがどうするか、なのですよ」
逃げようと思えばいつでも逃げられる。ただ、退屈しのぎにこうして話に興じているだけなのだと。
「それに、今まで自分が為したコトを棚に上げて言いますか? 厚顔無恥とはこのコトですね」
「言われる筋合いはない、お前には」
ばっさりと切り捨てたのはマナだ。詠人を庇うように一歩前に出る。
「今の言葉を返してやる、そっくりそのまま」
「……ふむ。これは困りましたねェ」
全く困ってなどいない、むしろ面白そうな顔で、ヴァイスはその言葉を受け取る。
「お前の言葉はただの呪い。聞く価値はない、全く」
「では、どうしますか?」
「決まっている」
きり、と睨み付け。
「―――ここで、終わらせる」
差し上げた手で、
「―――“ウェーブファンクション・リミテッド”」
指をひとつ、打ち鳴らす。
22
:
スゴロク
:2014/04/02(水) 20:40:39
瞬間、場の空気が、いや流れが、明らかに「変わった」。
「!!? こ、コレは!?」
「……馬鹿な!? この力は……」
はっきりと驚きをあらわにしたのは、自身既に現象そのものに近いヴァイスと、マナの成したことを「見」たブラウの二人。
ついて行けず当惑する詠人やシュロ達に、マナは淡々と説明する。
「私の『ウェーブリンク』は波動を操り、また同化する力。超音波、電波、真空波、電磁波、物質波、脳波、重力波、光波……波とつくものは全て私の思うが儘」
それは、何を意味するのか?
「……ねえ。『波動関数』って知ってる?」
「……わかんないよ、マナちゃん。それ、何なの?」
「波動関数とは、簡単に言うと『何かの状態そのものを波として表した概念』のコトよ。波というものは、重ね合わせの概念を実現する……つまり、1つのナニカが、全く異なる状態を同時に取り得る、そんなコトを引き起こせる」
しかし、
「世界の構造上そんなコトは無理。状態は必ず、1つに収束される」
「つまり……どういうことなんだ?」
「……私の“ウェーブファンクション”は、物質、状況、なんでもいい、それらの状態を波として捉える技法。そして“リミテッド”は、それを私の望む形に収束させる力」
ここに来てマナが何をしたのか理解した面々が、一様に最大の驚愕を表に現した。千鶴や、ヴァイスですらも。
「ま、さか……」
ブラウの絞り出すような声に、マナは―――ニヤリ、と嗤う。
「―――そうよ」
「私は、私の望むままに状況を規定することが出来る。世界を波として捉え、そこに私という『観測者』を規定することで、淘汰された可能性を引き寄せて実現化する……それが、私の特殊能力」
……もはや、絶句するしかなかった。そして、それを聞いたランカとアズールは、まさにそれが齎したであろう結果に思い当たって驚愕した。
「! ほ、ほな……」
「まさか、お母さんや琴音さんが帰って来たのって……!?」
「多分、それも“リミテッド”の作用ね。死んで『ここからいなくなった』二人を、私は観測して『ここにいる』と認識していた。そこに諸々の要素が重なってたまたま“リミテッド”が発動して……」
「……マナちゃんの観測した『二人がここにいる』って認識を、現実に持ってきたってワケか」
シュロの推測に「恐らくは」と注釈しつつ頷くマナ。
つまり彼女は、正しく「世界を左右する力」を手に入れたのだ。
その力を、彼女、夜波あらため白波 マナはどう使ったのか?
「……この力も万能ではない。あったコトをなかったコトには出来ない」
事実として規定されている事柄を覆すことは出来ない。アカネと琴音の場合は、『ここからいなくなったが、もう一度戻って来た』という流れを造り上げたのであり、二人が死んだという事実を覆したわけではない。
「けれど、その逆。なかったコトを実現させるコトは、出来る」
つまりは、予想外の事態を任意に引き起こせる。
「この状況を覆すために、私が望むのはずばり介入者」
「助っ人?」
「そう。ヴァイス、お前を倒すために、あるいは状況を進めるために、もっとも適任となる存在」
マナがそこまで行ったところで、突然「流れ」が途切れた。
同時に“リミテッド”がその作用を顕在化させ、マナが望んだ「適任」がどこからともなく、現れる。
「……ほら。もう来てくれたわ」
微笑んでマナが見やる、そこにいたのは――――。
集束する、可能性
(少女の指先が導く未来は―――?)
(六x・)さんより「アズール」紅麗さんより「シュロ」しらにゅいさんより「八十神 千鶴」をお借りしています。
パスに対してさらにパスを返すという……。
23
:
スゴロク
:2014/04/03(木) 23:38:41
「集束する、可能性」の続きです。
「むう!?」
背後……否、頭上から突如として気配を感じたヴァイスは、危機感の導くままにその場から飛び退った。同時、「運命の歪み」に入った際に授けられた「ヤミまがい」を発動、襲撃者を迎撃する。
一瞬前までいた場所に黒いナニカが凝り、棘のように先鋭化して敵を貫かんとする。だがそれは、
「無駄だぁッ!」
降って来た襲撃者がその身にまとう、赤い光に弾かれて霧消した。
立ち上がってヴァイスと相対するのは、一人の少女。
伸びたのか、肩の後ろまである赤い髪。炎を宿したような真紅の瞳。身にまとう赤い光は、肩甲骨の辺りで肥大化して一対の翼を象る。
この事象を呼び込んだ当人・マナが、その名を呼ぶ。
「スザク」
「マナ……何だか胸騒ぎがしたと思ったら……」
「どうやって来たかは言わなくていいわ。観測されなければごまかしようはあるもの」
「ん……了解。とりあえず」
ひゅん、と右腕を一振りして。
「こいつを潰せば、いいんだな?」
「そうよ。お願い」
「任せろ!」
飛び出すその手には、幻龍剣から変化した……。
「……何、あの剣」
奇妙な剣が握られていた。幻龍剣や朱羽剣と違い、拳から突き出るのではなく、手に持つタイプの武器だ。ナックルガードつきのグリップから、無数の小さな刃が鎖状に連なった赤い刀身が伸びている。
蛇腹剣と呼ばれる、創作上の武器だ。
「『幻鳳刃』か。なかなか奇想天外な武器を使う……」
「インサイトシーイング」でその本質を見切ったブラウが呟く。その手に握った拳銃は、その時には既にヴァイスの足元目がけて撃ち込まれていた。
「ぬおっ!」
「伸びろーッ!」
回避運動を中断させられて不自然な態勢で固まるヴァイス目がけて、スザクが『幻鳳刃』を叩き付ける。意志を持っているかのように伸びた刀身は、黒ずくめの男の身体を縛り上げて拘束、
「“破斬”ッ!」
振り上げられたスザクの右腕に従い、そのまま引き戻される。
途中の空中で、刀身が一気に迸り、
「ぐ、はッ!?」
ヴァイスの身体を文字通り、上下に真っ二つにしていた。と思った次の瞬間、その体が崩れて消える。
「! 身代わり……」
「綾ちゃん、上ッ!」
「!」
ランカの警告に従い、直上を振り仰いだスザクの眼には、ナイフを構えて突っ込んでくるヴァイスの姿。
左手を振り上げ、叫ぶ。
「“刃転光”、弾き返せッ!」
広げた掌の上に、何か複雑な文様の刻まれた円形の力場が出現する。それは、落下の勢いが乗った刺突を、金属同士が衝突するような鈍い音を立てて完全に弾き返し、ヴァイス自身をも空中に跳ね上げていた。
「くっ!」
だが、追撃をかけようとしたところに「ヤミまがい」の闇が横合いから襲い掛かり、やむなくスザクはその場を後退した。
24
:
スゴロク
:2014/04/03(木) 23:39:13
「ちっ、仕留め損ねた!」
「厄介ですね……それが噂のデッド・エボリュートですか、っと!」
軽くスウェーバックしたその眼前を、ブラウの放った銃弾が貫いていく。
「……やはり、ただの拳銃では通じんか」
本当は「シャットアウト」で隔離した後、その空間ごと何らかの手段で滅殺するつもりだったのだが、こうも位置が入り乱れる接近戦が展開されてはその方法は使えない。今のブラウに出来るのは、スザクの援護がせいぜいだった。
「全く鬱陶しい……さっきから『ヤミまがい』の制御が上手くいきませんね」
「当たり前。ここは私の“シーリングウェーブ”の中。全ての波動は私のもの……だから」
すっ、と指を指す。
「敵の能力だけを妨害するなんて、簡単よ」
「……なるほど」
しかし、とヴァイスはまだ笑う。
「火波 スザクを倒せれば、まだ逃亡の余地はありますね。今の彼女は超接近戦には対応できませんから」
蛇腹剣の弱点はこれだ。鞭と同じで、間合いが開かないと攻撃がまともに出来ない。
スザクといえど例外ではないが、ここで戦っているのは彼女一人ではない。
「なら、接近戦は僕が相手だ!」
「!」
いつの間にか間合いに飛び込んでいた詠人が、「ハングイーター」を発動させた右腕で思いきり殴りつける。
ヴァイスはこれを大きく飛びのくことでかわしたが、そこにスザクの幻鳳刃が襲い掛かる。
(ちいっ!)
舌打ちしつつ「ヤミまがい」で防御するが、マナの言うとおり妨害されているのか、ヤミの生成と制御が上手くいかない。
星の魔術師の一件の時のように、義体を生成して逃げるという方法が使えない。
(面倒な! まさか、夜波 マナにこれほどの力があったとは……!!)
ここに来てようやく、ヴァイスはマナを最大級の脅威と認識した。文字通り、場をたった一人で制圧し、状況すらも己の意のままに変えてしまう能力。
それを操る、否そのものである彼女は、まさに驚異、脅威の存在だった。
(どうにかここを脱し、ピエロにこの事を伝えねば)
「運命の歪み」にとって、状況を文字通り、思い通りに「調律」するマナの存在は最悪の敵だった。
排除せねばならない、何としても。ただ、そのための逃走手段が、今使えない。
(……いや!)
1つだけあった。そう、それは「運命の歪み」に入った時の説明。
―――メンバーは、ピエロの「ヤミまがい」を除き、それぞれの能力を必要なときに借り受けて発動することができる。
そしてもう一つ。アジトには、メンバーならば任意のタイミングで入ることができる。
単独行動が長すぎて忘れていた。だが、上手くすればこの状況を脱することができる。
確信したところに、スザクの大技が襲ってきた。
「貫けッ! “朱雀衝天”ッ!!」
「援護しまっせー!!」
アズールの放った炎をも一部として纏い、翼を広げたスザクが幻鳳刃を渦のように展開して突っ込んでくる。まるで、ドリルか何かのように。
(まずい……!!)
だが、間に合った。手をかざし、呟く。
「―――『廻れ』」
ゲブラーの「輪廻の法」だ。これの応用で、アジトへの転移を実行した。
視界が歪み、そして、
「―――小生の世界へようこそ、でありマス」
赤い空の下、神社に通じる道で、そんな声が、ヴァイスを――――否、彼らを出迎えた。
25
:
スゴロク
:2014/04/03(木) 23:39:35
「え……!?」
「んな、アホな……ッ!?」
叫んだのは、この中でもっとも「彼」に関わりのあった、ランカとアズール。
その「彼」は、知人の声に顔を上げ、微かに笑んだ。
顔を隠すほど伸びた漆黒の髪。切れ長の赤い瞳、頬まで裂けた口。
ボロボロの軍服を纏い、包帯を巻き付けた上から上着を羽織る。
手に握るは、妖怪と化してからの最大の得物であり、母の形見の化身たる大鋏。
「な――――」
本当の意味で予想外の事態を前に、余裕を完全になくして硬直するヴァイスは、
「不本意でありマスが……お前だけは、生かしておくと色々マズいのでありマスゆえ」
無造作に振るわれた鋏の一閃により、顔を刈り取られてその場に倒れ伏した。
全てが終わった後、結界が解ける。戻って来た白波家前で、「彼」はマントの下をちらりと確認する。
「……彼奴の『顔』はないでありマスな。やはり、今の小生と同様、遍在しているということでありマスか」
まだヴァイスが滅んだわけではないと判明し、珍しく嘆息する。
そして顔を上げ、ランカとアズール、スザク、千鶴の順で視線を巡らせ、最後にマナで止める。
そのマナは、「彼」に向けて一礼して言う。
「来てくれてありがとう。……お久しぶりです、キリさん」
その言葉に、「彼」――――百物語組第九十八話「切り裂き魔のとおりゃんせ」は、頬まで裂けた口元だけで笑った。
リターン・オブ・リッパー
(そこにどんな事象があったにせよ)
(確かに、今)
(彼は、ここにいる)
名前のみ込みで、(六x・)さんより「アズール」しらにゅいさんより「八十神千鶴」YAMAさんより「ピエロ」「ゲブラー」クラベスさんより「キリ」をお借りしました。
26
:
akiyakan
:2014/04/06(日) 10:20:05
※本作は番外編的な趣が強いです。
「……行くのですか、アッシュ」
歩いて行く背中に向かって、ジングウは問いかけた。
「……うん」
「〝彼〟は強いですよ。まだ人を傷付ける程の固さも強さも持たなかった彼の角は、今や魔獣さえも殺す領域に届いている。模造品に過ぎない貴方の実力では――」
その先を言わせまいとするように、アッシュは手を向けた。
「分かっているよ、父さん。僕の能力で〝兄さん〟には届かないって事ぐらい」
「…………」
「それでも――僕はあの人に勝ちたいんだ。それが、僕が生まれた理由なのだから」
【Outer Line -Twin Fist-】
子供達が仲良く遊んでいる。それ見て、都シスイはふっと小さく微笑んだ。
そこは広大な空間だ。広大であるが、閉ざされている。彼らはここで育っていき、外の世界を知らずに生きていくのだろう。
それは不幸な事なのかもしれない。だが、人間の人生などそう言うものだ。一つの幸福を得ると言う事は、別の幸福を捨てると言う事。少なくとも彼らは狭い世界で生きなければならないが、一方でその特異な出生に悩む事は無い。
これが、現状におけるヒトの限界。それでも今は良いと、シスイは思う。
「――!?」
不意に、シスイは強烈な殺気を感じて振り返り、そして目を見開いた。
そこに、彼の〝影〟が立っていた。
「やぁ、兄さん。久し振りだね」
〝影〟はそう言って、にこやかに笑い掛けてきた。本当に、何年もあっていない友人や家族と再会したかのような、気軽さだった。
シスイそっくりの顔立ち。しかし、彼のように髪を結っていないので、心なしかシスイよりも髪を伸ばしているように見える。温和な表情も似ているが、一方で彼よりも幼く見える。私服姿のシスイに対して、〝影〟は首から下を青みがかかった黒色のバトルドレスで覆っていた。
何もかもが似ているのに、何もかもが違っている。酷く歪んだ、歪な鏡像が向かい合っていた。
「……アッシュ」
「ちょっと付き合ってくれないかな、兄さん」
まるで、「ちょっと一緒に買い物に来てよ」と言っているようなセリフ。しかしその実、それは脅迫だった。アッシュの身体は、全身が赤い返り血に濡れていた。一人や二人なんてものではない。部外者である彼がここにいる事実に当てはめれば、それが何を意味するのか容易に想像がつくだろう。
「これ以上人を死なせたくなかったら、大人しくついて来い」。アッシュは言外に、そう告げていたのだ。
――・――・――
荒れ果てた、無数のビルの廃墟が、まるで墓標のように突き立っている。
巨大な廃墟街。そこで、二人は対峙していた。
「お前の目的は俺だったんだろ……何で、余計な人間まで殺した」
「余計? 余計な訳が無いだろう? 君達は僕らの敵だ。敵なら殺して当然だろう」
愚問だと言うようにアッシュは言う。それを見て、シスイの表情が悲しげに歪んだ。
「……前のお前は、そんなんじゃなかった」
「…………」
「前のお前は、確かにふざけてはいたけど、そんな風に平然と命を奪うような奴じゃなかっただろ」
「……兄さんに、僕の一体何が分かるって言うんだ」
「それは――」
「何も知らない癖に、分かった風な口を利かないでくれよ!」
アッシュが叫んだ。その声が廃墟の壁に反響し、エコーとなって消えていく。
27
:
akiyakan
:2014/04/06(日) 10:20:41
「気持ち悪いんだよ、疎ましいんだよ! 実際に母の胎内から血を分けて生まれた兄弟でも何でもないんだ、僕達は! 僕が兄さんなんて呼ぶから、兄弟心でも芽生えたのか? 皮肉も分からないのか、この脳みそお花畑野郎が!」
「アッシュ……」
「僕はお前なんだよ、都シスイ! お前のクローン! お前の模造品! だからこそ、お前と言う存在が僕は許せない……! こんなお人好しの腑抜けが僕のオリジナルなんて、そんな事!」
一気にまくしたてたせいか、アッシュは肩で息をしていた。その程度で呼吸が乱れる程、彼は柔に出来ていない。それだけ、彼は今の言葉に己の感情を乗せていたのだ。
深呼吸で息を整え、感情を抑えていく。瞳を開いたアッシュの表情は、いつもの飄々とした態度に変わっていた。
「さぁ、始めようか――都シスイ」
右手に下げていた、二本の角を持つ兜(メット)を被り、口元を覆い隠すマスクを嵌める。そうする事で、彼は変身するのだ。ヒトの形を持ちながら、ケモノの存在へと。二本の角を持ち、乙女を汚す、背徳の獣(バイコーン)へと。
ブゥンと起動音が鳴り、赤い瞳が輝く。その双眸が、シスイの姿を見据えた。
「「――…………」」
シスイの身体から金の、アッシュの身体から銀のオーラが立ち昇る。それは麒麟が持つ、祝福の力が可視化出来るレベルで顕現化した姿だ。聖獣の祝福を施され、万象はその存在を強固な物へと変貌する。
【まずは挨拶だ】
くぐもった声。マスクを通したアッシュの声が聞こえ、彼の姿がその場から消える。と、次の瞬間、二人の今まで立っていた中間の距離に、彼らの姿が現れた。お互いに突き出した右の拳をぶつけ合っている。
「ふ――ッ!!」
アッシュの顎を狙い、シスイが垂直に蹴り上げる。その攻撃を、アッシュは身体を逸らす事でかわした。マスクの顎の先がかすれ、その衝撃がビリビリと内部にいる装着者に伝わってくる。
【おぉォ――ッッ!!】
お返しにと、姿勢を戻したアッシュが回し蹴りを放つ。避けられないと判断したシスイは、左腕でそれを受け止め――そのまま真横に、一直線に、まるで砲弾のように吹っ飛んだ。延長線上にあるビル壁に激突し、壁面に亀裂が発生し、まるで爆発でも起きた様に砂埃が舞い上がった。
【まさか、これで終わりとか言うんじゃないだろうな?】
そう言って、アッシュは追撃を加える為に、シスイが吹っ飛んで行った先へと飛び込んで行った。
「がはッ――!!」
【オオォォォォォォォォォ!!!!】
ビルにめり込むようにして倒れていたシスイの顔面を掴み、そのまま壁に向かって押し付ける。既にシスイの身体が直撃した事で脆くなっていた壁は、続けて襲って来たアッシュの膂力に耐え切れず、コンクリート製の壁は呆気無く内側に向かって砕けた。
だが、アッシュは止まらない。ビルの内側に飛び込んだ彼は、シスイを掴んだまま、そのまま更に加速する。進行方向にある柱を砕きながら、シスイの身体を引き摺りながら、彼は更に進む。そして彼は、自分が入って来た壁の反対側にある壁に、シスイを叩き付け、そこでようやく停止した。
壁に叩き付けられ、瓦礫に押し付けられ。シスイの衣服はボロボロになっていた。全身の皮膚や肉が千切れて血が噴き出している。しかしそれでも、まだ原型を留めているのは麒麟の加護のおかげだ。常人であったなら、最初の一撃で腕ごと胴を割られ、臓腑と血肉を撒き散らして絶命していた筈であろうから。
28
:
akiyakan
:2014/04/06(日) 10:21:13
【……どうしたんだよ、都シスイ。お前の本気はこんなものか?】
「…………」
【張り合いがないよ。こんなお前を倒したところで、僕は満足しないぞ】
「…………」
【それとも、あれか。お前の本気を出させるには、もう何人か殺さないといけないかな】
「……――!!」
アッシュがそう言った瞬間、だらりと下を向いていたシスイの右腕が、自分の頭を掴むアッシュの左腕を掴んだ。ブルブルと彼の手が震えているが、それは満身創痍だからではない。バチバチと火花が散り、バトルドレスの腕部分が握り潰されていく。
「お前の相手は……この、俺だ……!」
【がッ!?】
左手を顔から引き剥がし、血塗れになった顔面で、シスイはメット目掛けて頭突きをぶつけた。一瞬、アッシュの視界の役割をしている画面がホワイトアウトし、彼はたまらず数歩後退する。
「――其は、四天の中心に座したる天帝の証」
【!】
呪文が聞こえる。都シスイを変革する、彼だけに与えられた呪文。彼の為の呪文が。
「目覚めよ、黄道の獣。汝が往くは、王の道」
呪文が紡がれるにつれて、シスイが纏っている金色の気の量が増えていく。それは周囲を包み込む程に溢れ、光輝いている。シスイの全身に出来ていた傷が、高められた自己治癒力によって見る見る消えていく。
「我、護国の剣となりて――魑魅魍魎を打ち破らんッ!!」
最後の言葉が紡がれ、都シスイもまた変身していた。
守る者から、戦う者へ。打ち破る者から、撃ち滅ぼす者へと。
天士麒麟。死の淵に立った彼が手に入れた境地。自らの天敵を倒す為に手に入れた、縁覚の角だった。
【く……くくくくっ】
変貌したシスイの姿に、アッシュは堪えきれずに笑みを浮かべた。マスクの内側で、彼は口端を歪め、三日月状に口角を吊り上げ、凄絶な笑みを浮かべている。
【そうだよ……それだよ! そうでなければ、張り合いが無ィッ!!】
バトルドレスの、バイコーンヘッドの胸部装甲に備わった赤い光球が輝き、そこから二振りの剣が出現する。その柄を深く握りしめ、アッシュはシスイへと飛び掛かる。
「水装!」
【ッ!!】
身体を駒の様に回転させながら、アッシュは右側から二つの刃を叩き付けた。しかし、その一撃は防がれる。シスイと刃の間に水の防護壁が出現し、刃を受け止めていた。しかもその水はただ刃を受け止めるに留まらず、鉄製の刃を侵食し、まるで何年も風雨に晒されていたかのように、赤錆た姿へと変えていく。
「火装ッ!!」
シスイが纏う属性が変化し、水から炎へと変わる。シスイの周囲にあった防護壁は消失し、代わりに灼熱の火炎へと変貌する。水の浸食によって強度を奪われていた剣は、その炎に焼かれて一瞬の内に融解し、燃え尽きてしまった。
【ぐ……】
「アッシュうぅぅぅぅぅぅ!!」
炎を纏った拳を振り上げ、シスイが向かって来る。放つ技は「炎槌」。以前にも、アッシュを破った技だった。
だが、
「な――!?」
【馬鹿の一つ覚えかよ……!】
突き出された拳を、アッシュは右の掌で受け止めている。彼の様子に変化は無く、技が効いているようにも見えない。
不発。シスイの放った技は、完全に威力が殺され、受け流されていた。
29
:
akiyakan
:2014/04/06(日) 10:21:43
「そんな……!?」
【一流相手に、同じ技を使う奴がいるかよ……前勝てた技だからって、二度も通じる訳が無いだろッ!】
「くっ!?」
胸の光球が輝き、そこから槍の石突が飛び出してきた。不意を突かれたシスイはそれに胸を打たれ、数メートル後ろへと弾かれる。咄嗟に体勢を立て直すが、その表情には驚愕の色が浮かんでいた。
「まさか、お前も天装を……!?」
【それこそまさかだよ。守り人の里に通って、何年も薫陶を受けた君ならともかく、一朝一夕で身に付く技術じゃあない。技術ってのは、そう簡単に得られるものじゃないでしょう?】
「だったら……」
その時、シスイは気付いた。アッシュの全身から立ち昇る麒麟のオーラ。それに交じって、別の力が生じている事に。
「それは……魔力か!?」
【見せてあげるよ、都シスイ。本物の魔獣の力って奴をさぁ……!】
アッシュの身体から放たれた圧力に、シスイの身体が弾かれる。地面を滑りながらシスイが顔を上げると、アッシュの身体は銀色だけではなく、紫色の光が混じったオーラに包まれていた。バイコーンヘッドの容姿と合わさり、正しく魔獣のような姿へと変貌している。
「……俺達聖獣属は、基本的に魔力を持たない」
【確かにね。魔力は魔属由来の力だから、僕達聖獣属が持つのは理屈としておかしい】
「だったら、」
【だがね、聖獣属としての相が濃いお前には無理でも、僕には可能なのさ。聖獣属としての相よりも、人間としての相が濃いからね――それでも、実用可能な状態にまで力を貯めるには少々苦労したけど】
実用可能。その言葉に、シスイは思わず苦笑を浮かべる。これがゼロから魔力を貯め続けた人間の量か。ちょっとした大魔導士クラスの総量がある。
「何を食った? 竜の生き血か? 魔女の心臓か?」
【強いて言うなら、そうだね……孤島に咲いている妖花、ってところかな】
「妖花?」
【お前には関係の無い話さ!】
地面を踏み砕きながら、アッシュが走って来る。それに立ち向かうべく、シスイもまた右手に出現した籠手「幻獣拳・麒麟」からオーラを噴出させる。
「土装!」
土の気を纏い、シスイの髪の毛が黄色へと変化する。自らと相性の良い大地の気を取り込み、更にそれを麒麟の力で増幅。その一撃は、巨人の怪力に勝るとも劣らない。
だが、止められている。シスイの放った拳は、先程同様に、アッシュの掌で止められている。
「ぐ……」
【無駄だよ】
金属の様に硬質化した蹴りを放ち、それがアッシュの放った蹴りと激突する。しかし、ダメージは無い。むしろ、攻撃を行ったシスイの顔が苦痛で歪み、弾き返された。
「はぁッ!」
【それも無駄だ】
木気を纏い、風の速さで相手をかく乱しようとする。だが、アッシュもまた同じ速さでシスイの動きに追従してくる。
【火には水を、土には風を。金には火を……お前が使う属性に対応し、僕もまた属性を切り替える。火に勝てるモノに。或いは、風に対抗出来るモノに】
それが「魔装」。森羅万象、天地に存在する属性の気を取り込んで己を変革する天装に対し、魔装は自らの内側にある魔力を用いて属性を変える。
シスイが炎を纏うならば、アッシュは水を放ち、シスイが土の盾を持てば、アッシュは風の刃でそれを切り裂く。
【せぇいッ!!】
「ぬッ!? ――ぐあッ!!」
アッシュが放った回し蹴りを、両腕を固めてシスイがガードする――だが、やはり受け切れない。一瞬の拮抗こそすれ、シスイはガードごと蹴り飛ばされ、遥か後方にある瓦礫の山に叩き付けられた。
30
:
akiyakan
:2014/04/06(日) 10:22:22
【後出しジャンケンだよ、早い話が】
シスイが激突し、もうもうと砂煙を上げる場所へと歩きながら、アッシュが言う。
【森羅の気を借りるその性質上、天装で属性を纏うのには、どうしてもタイムラグが生じる。気を引き出すのに1ターン、それを纏うのに更に1ターン、計2ターンかかる。一方、魔装は内側から捻出した魔力を使い、属性を纏う。気を造り出し、纏うまでの肯定すべてをひっくるめて1ターンだ。従って、僕の方が速い。僕は2ターンかけて纏ったお前の気を見て、1ターンでその為の迎撃策を用意するんだ】
だからお前より強い。
だからお前に勝てる。
傍目には、そう言っているように見える。
だが、だったらさっさとシスイに止めを刺せば良いだけの話だ。慢心しているのか――否、メットの下にあるアッシュの表情は全く油断していない。いつも浮かべている薄笑いは無く、その表情は煙の向こうに倒れているであろう、シスイの方を真っ直ぐに向いている。まるで、次に相手が繰り出してくるであろう技に対し、警戒しているかのように。
「――全は、一」
【!】
短く、小さな声。しかし、煙の向こうから聞こえたその声に、アッシュは足を止めた。
「火は木から成り、」
「木は水から成り、」
「水は金から成り、」
「金は土から成り、」
「土は火より成る」
「万象を観よ」
「眼下に拡がる世界のように、己の内にもまた世界がある事を識れ」
「一は、全」
「人もまた世界なれば、」
「ここに、我は天を紡ぎ、天を纏う」
「天装――」
瞬間、目も眩むような光が爆発した。
【――ッッッッ!!!!】
圧倒的な気配の出現に、網膜を焼く閃光にすら構う事無く、アッシュはただ前方を見つめていた。
シスイがいる。ただし、それは先程までと更に様子が異なっている。髪は金色に変色し、その背後に五色を放つ五つの宝珠が浮かんでいた。それは後光を放つ観音像か、或いは都シスイ自身を中心とした天体であるかのようだった。
31
:
akiyakan
:2014/04/06(日) 10:22:59
【……そうだ。それが正解だ】
これまでとは比較にならない程の力を感じていると言うのに、冷や汗を浮かべながら、それでもアッシュの口元に浮かんでいたのは笑みだった。痩せ我慢でも無ければ、虚勢でもない。そもそも彼は、自分が笑みを浮かべている事すら実感してはいないだろう。
そうだ、それでいい。全力のお前を破ってこそ、意味がある。
胸の転送装置から、赤い二振りの刀が出現する。それはアーネンエルベであり、どちらも火気を備えた魔剣だ。それらの力を増幅させ、アッシュは大地を蹴り砕きながら向かっていく。
【おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!】
「でいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
雄叫びを上げながら向かって来るアッシュに、シスイは右腕の籠手を振った。展開された装甲から鬣のようなオーラが吹き出し、物理的な力を持って彼の前方を薙ぎ払う。だが時既にアッシュの姿はそこには無く、薙ぎ払いで生じた砂埃を飛び越えるように、刀を振り上げた彼の姿が飛び込んで来た。
キィン、と言う金属質がぶつかり合う音。前方に翳したシスイの籠手が、振り下ろされた斬撃を受け止めていた。
すかさず横からの回し蹴りをアッシュは放つ。だが、シスイの方が速い。アッシュの蹴りが届くよりも先に、シスイの左腕がバイコーンヘッドの腹部装甲に触れていた。
「ふッ!!」
一瞬、すべての音が消えたかと思ったかと思うと、それから遅れるようにしてアッシュの身体が吹き飛ばされた。
【ぐがッ!?】
地面を滑りながら転がっていくアッシュ。その腹部、シスイが触れていた部分を中心に、バイコーンヘッドの装甲には亀裂が走っていた。直接触れていた部分に至っては、何層もの特殊装甲が完全に貫通し、その下にあるインナースーツ部分、つまりほぼ生身の部分が露出してしまっている。
意識を失いそうになる衝撃の中、しかしアッシュは血が出る程に歯を食いしばり、胸の転送装置を起動させた。鎖鎌がすぐさま現れ、その分銅部分をシスイ目掛けて投擲する。
「なッ!?」
【油断してんじゃ――ねえぇぇぇぇぇぇ!!】
鎖がシスイの右腕に絡み付き、二人の身体を繋ぐ。滑っていく身体を止めるようにアッシュは足に力を入れ、逆にシスイはそれに引き摺られないように踏ん張る。鎖が一本の棒のように張り詰め、ギチギチと音を立てる。
「がッ!」
だが、その拮抗も数秒だった。一発の弾丸がシスイの額に命中した。転送した拳銃をアッシュが撃ったのだ。堪えていた力が無くなり、すかさずアッシュは鎖を引き、シスイの身体を放り投げた。十メートル程離れた廃墟にシスイの身体は激突し、その衝撃に耐え切れず、廃墟が崩れていく。
駄目押しとばかりにバズーカを取り寄せ、その照準をシスイの落ちたポイントに合わせる。しかしその時、スコープ越しにこちらに向かって飛んで来る五つの光が見えた。
【くっ!】
飛来した光はバズーカを砕き、更にそのままの勢いでアッシュに襲い掛かる。光はそれぞれが属性を持ち、赤い光が触れた場所はその熱で融解し、青い光に触れた場所は逆に凍りついた。土色と金色は砲弾のように固く、緑色の光は風を纏っている。
「アッシュうぅぅぅぅぅぅ!!!」
砂埃を吹き飛ばし、シスイが向かって来る。その額は裂けて血が流れていたが、銃弾は防がれたらしく、傷は浅い。五色の光に気を取られていたアッシュは不意を突かれ、シスイの放った拳はバイコーンヘッドの頭部を捉えた。攻撃はクリーンヒットし、馬に似た頭部装甲に罅が入る。
【がはッ――……なんのおぉぉぉぉ!!」
顔面を打たれながら、しかしアッシュはそれに抗うように顔を向け直し、自らもシスイに向かって拳を放った。腕を伸ばしきっていたシスイはそれを防ぐ事は出来ず、彼もまた横殴りに拳を受ける。
32
:
akiyakan
:2014/04/06(日) 10:23:31
「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
殴り、殴られ、殴り返し、殴り返され。
戦術も何も無い、至近距離での殴り合いだった。お互いにただ拳をぶつけ合い、蹴り合い、身体をぶつけ合う。技量も何も関係無く、ただ文字通りに自分達の持てるエネルギーをぶつけ合っている。ただそれだけの戦いだった。
シスイの拳がアッシュに届く度、彼の纏う装甲が砕けて剥がれ落ちた。
アッシュの拳がシスイに届く度、彼は血を吐き出した。
お互いに限界だった。攻撃を放ち、受け止める毎に、それぞれの身に纏うオーラが目に見えて弱まっていくのが分かる。膝が嗤い、全身を貫く痛みで意識がショートしそうになっている。それでも、どちらも、拳を振り上げるのを止めはしない。
「あぐっ!?」
「ぎッ!?」
一体何発ぶつけあっただろう。丁度その時、それぞれの左拳がぶつかり合った。その瞬間、両者の腕ともバキッと嫌な音を立てて折れた。
それまで続いていた殴打の音が止んだ。左腕をだらりと垂らし、しかし何時でも自分の拳が届く距離から離れようとはしない。肩で息をしながら、ぎらつく眼光で互いを睨みつけている。
両者共に残すは右腕のみ。次の一発で勝負がつくのだと、お互いが感じていた。
「――……ふふ」
先に動いたのはアッシュだった。笑みを零したかと思うと、彼の右腕に銀色のオーラが集まり始めた。やがてそれは、シスイにとって見慣れたモノを形作った。
銀色の籠手、幻獣拳・麒麟。シスイと同じく麒麟の頭部に似ているが、こちらは角が二本ある。
「僕の勝ちだ……兄さん……!!」
残された麒麟の力を、すべて右腕に注ぎ込む。装甲版が開き、そこから銀色の鬣が出現した。
「いいや……俺の勝ちだ……!!」
ぐっと拳に力を入れると、殴り合いで傷付いた籠手の表面が修復された。こちらも装甲版を展開し、金色の鬣が溢れ出す。
腰を落とし、右腕を引く。両者共に、相手に合わせた訳では無いのに、それらの動作が全く同じタイミングで行われていた。だが、珍しい事ではないだろう。彼らは共に、お互いの鏡像であるのだから。
そして、
「「ッ――!!!!!!!!!!」」
金と銀が激突した。その衝撃が「爆心地」を中心に波紋状に伝わり、周囲の物を薙ぎ払う。
暴風の様に衝撃波が周囲に伝わり――それから静寂が訪れた。
勝者はどちらだったのか。
結末は誰にも分からない。
33
:
akiyakan
:2014/04/06(日) 21:06:49
※十字メシアさんより「神江裏 灰音」をお借りしました。
<やぁ、久しぶり>
<神江裏 灰音だよ>
<神江裏 灰音はいつも通りなんだが、>
<今日は少々、勝手が違うんだ>
<諦観者であるが故の厄介というかね>
<ちょっと代役を頼まれたのさ>
<誰に、だって?>
<薬缶被ったどこぞの邪神さ>
<何でも、みんなに少々説明したい事があるらしい>
<そんな事自分でやればいいと神江裏 灰音は思うんだけど、>
<それじゃあ面白くないだろ? って言うんだ>
<迷惑な話だ>
<まぁ、だからこいつはいわゆる「戯言」だよ>
<どうか適当に聞き流してほしい>
【解説:色違いの世界線】
<邪神からの言伝は、端的に説明するなら≪another line≫と【Outer Line -Twin Fist-】、この二つの作品に関する補足、つまり言い訳をして欲しいと言う訳だ。邪神の癖に、根性の無い事だ
>
<まずは≪another line≫から解説しよう>
<君達は、この作品を読んで奇妙に感じた事がある筈だ>
<本来なら幼体である筈のレリックが、成体の姿でいると言う事>
<死んだ筈の人造天使、ミツが生きていると言う事>
<察しの良い人は、もう気付いているんじゃないかな>
<そう。これは所謂、パラレルワールドの話だ>
<まぁ、前例が無い訳でも無い。あくまで心象世界での話だったけど、ファスネイ・アイズの平行世界存在がいたね>
<物凄く近くて、しかし遠い世界の物語。それがパラレルワールド>
<ここではなく、あり得た世界>
<可能性は無限大って言う。もしかしたら、ホウオウグループが世界征服に成功した世界が存在するかもしれないし、超能力者が闊歩し、アースセイバーがそれを取り締まる世界なんかもあるか
もしれないね>
34
:
akiyakan
:2014/04/06(日) 21:07:06
<次は【Outer Line -Twin Fist-】だ>
<これも先と同様に、パラレルワールドの話みたいだね>
<ただ、微妙に違うのが、設定がほとんど「こちら」と同じである事かな>
<さっきの≪another line≫ならともかく、設定に差異が無いのだから、「こちら」の時間軸の出来事でも良かったんじゃないのかな>
<そんな諦観者の疑問に対する、邪神からの返答だよ>
「この二人のガチの対決は、一度書いておかないといけないと思った。だが、ナイアナ企画本編の時間軸において、まだその時ではない。だから外伝形式にした」
<要は、「俺の妄想だ、見てくれ」って言いたかったらしいよ>
<ただ、まぁ、そこそこ上手い手だね。本編と関係無いのだから、仮に死人が出たとしても問題は無い。あの戦いの結末において、麒麟が勝とうと、双角獣が勝とうと、邪神にとってはどちらで
あっても好都合な訳だ>
<……それなら、どうしてあんなどっちつかずな終わり方にしたんだろうね>
<まぁ、諦観者には関係無いか>
――・――・――
<こんな感じかな。時間を無駄に浪費させてしまった事と思う、申し訳ない>
<まぁそれでも、あの邪神なりに言いたい事があったようだ>
<それじゃあね――>
35
:
えて子
:2014/04/15(火) 21:26:14
「【流星ガーディアン】」から続きます。
ヒトリメさんから「コオリ」、思兼さんから「アリス」をお借りしました。
コオリと一緒におばけさんを探してたら、不思議な女の人に会ったの。
「アリス」っていうんだって。
お話してたら、アリスもおばけさん探してくれるんだって。
「アリスは、おばけさん見たことあるの?」
「え?いや、僕はないよ」
「そうなんだ」
「じゃあ、バイクのおねえさんは“れいかん”がないの?」
「れ、れいかん?」
「おねえさん、しらないの?おばけさんがみえるひとは、“れいかん”があるのよ」
「え、えーっと…どうだろうね…」
「コオリ、きっとアリスもおばけさんに会ったことがないんだよ」
「じゃあ、コオリたちとおなじね」
「うん、同じ」
「…そうかもね」
アリスも、おばけさんに会ったことがないんだね。
アオたちと一緒。
みんなで、“れいかん”があるかたしかめるの。
みんなでならんで、てくてく歩く。
アリスと、いろんなお話をしたの。
コオリのお人形のことや、アリスのお勉強のこと。たくさん。
それでね、アオ、気がついたことがあるの。
「…アリスって、あまり顔がかわらないのね。アオやコオリと、同じ」
「?…どういうこと?」
「アオの知ってる人、顔がよくかわる人が多いの。わらう、って顔や、おこる、って顔」
トキコやアッシュは、よく「わらう」って顔をするの。
クロウはあまり「わらう」はしないね。いつもぎゅーって顔。
「きむずかしい」っていうんだって。教えてもらった。
アリスは、あんまりそういう顔をしないの。アオたちと同じ。
「…二人は、笑ったり、怒ったり、しないの?」
アリスにそう聞かれた。
「アオ、わからないや」
「コオリも、わからない」
「分からない?」
「うん。アオね、わらうって顔やおこるって顔、どうやってすればいいのかわからないの」
「あかいおねえちゃんがいってたよ。うれしかったりたのしかったりすれば、わらうの」
「うれしいや、たのしいって、何だろう」
「コオリ、わかんない」
「アオも、わかんない」
「アリスは、わかる?」
「え、僕?」
アリスに聞いたら「おどろく」って顔をした。
びっくりした時にするんだって、教えてもらった。
どうして、びっくりしたんだろう。
「うん。アリスは、うれしいや、たのしいって、知ってる?」
「………う、うん」
「それって、なあに?」
「えっ?えっと…うーん…」
アリス、考えちゃった。
むずかしいのかな。
「バイクのおねえちゃん、だいじょうぶ?」
「ん……ああ、大丈夫」
「本当?」
「本当だよ」
アリス、それから顔の話しなくなっちゃった。
やっぱりむずかしかったのかな。
「おばけさん、見つからないね」
「みつからないね」
「どこにいるのかなあ」
「きっと、くらいところにいるのよ」
「くらいところ?」
「うん。おばけさん、くらいところがすきなんだって」
「そうなんだ。じゃあくらいところを探そう」
「そうしよう」
おばけさん、くらいところが好きなんだって。
こういうの、「ゆうえきなじょうほう」っていうんだよね。
たくさん探したら、おばけさんに会えるかな。
あえるといいな。
白い二人とおばけさん〜アリスといっしょ〜
「アリス、アリス、次はこっちに行こう」
「くらいところで、おばけさんさがすのよ」
「ちょ、ちょっと待って、二人で先に行っちゃ危ないよ」
36
:
思兼
:2014/04/20(日) 03:45:02
白い二人とおばけさん〜アリスといっしょ〜 より、続きです。
キャストは前回と同じです。
【人工ファンタズマ】
第15話、心を持った機械の話。
アリスはサイボーグである。
その内臓の大半は人工物に置き換えられ、筋肉はCNT製の人工筋肉で、人間サイズの体躯ながらそのパワーは超大型ダンプカーと力比べをしても圧倒してしまうほどで、極限状態での活動も可能、更には脳に埋め込まれたチップで高度な演算能力と判断力も備える。
ここまで過剰な性能を持つのも、元々アリスは戦闘・決戦用サイボーグとして改造されたことによるらしく、現行技術を遥かに凌駕するオーパーツ・オーバーテクノロジーの塊だった。
誰が何の為に作ったかは不明だが、結局静葉によって起動され現在はシリウス団に所属している。
元々のアリスがどんな人間だったかは不明だが、現在のアリスは感情に乏しい。
改造の影響らしく、徐々に取り戻しつつある今でさえまだぎこちなく不自然な面が多々ある。
だが、アリスは決して無感情なんかではない。
ある意味団の誰よりも静葉のことを思い慕っているのはアリスだし、表現できなくてもアリスにはちゃんと喜怒哀楽がある。
悩むこともあれば怒ることもある、ただ表現できないだけで。
それでも、アリスは感情を現せないことを思いつめている。
小さな2人の子供にそれを言われた時、アリスの心に影ができた。
自分は何なのだと。
本当は機械が人間のフリをして滑稽に人間を演じているだけかもしれない。
そもそも、決戦兵器の自分が感情を語るなど、おかしな話なのかもしれない。
だからアオとコオリの2人の問いかけに、答えることができなかった。
同時にそれは宣告のようにも聞こえた。
『お前は人間じゃない、戦争兵器だ』と。
うれしいや楽しいとは何かアリスには分からないし、そんなことを表現することさえできないのだから。
本来自分はただ機械的に敵を殲滅し、やがては敵に破壊されるか役目が終わった後で朽ちて消え去るだけの存在だったのだろうことを、アリス自身はよくよく理解している。
それがどうしてか、感情を持った、あるいは少しだけ取り戻した。
だからこそ、思い悩んでいる。
「アリス?」
「どうしたの?」
「ううん、アリスがなにかいやなかおしてたから。」
コオリがそういう。
微細なアリスの表情の変化を捉えることができたのはこの2人だったからだろう。
「…大丈夫だ、心配しないで。」
それでもアリスは、隠した。
また宣告されるのが、怖かったから。
「そう?じゃあ、おばけさんさがそう?」
アオがアリスの手を引く…遠くにはトンネルが見えた。
なるほど、確かによくある心霊スポットだ。
「(静葉…僕は、何なんだろう?)」
アリスの心は曇ったままだった。
本当に兵器なら『曇る心』など、無いはず…そんな些細なことに英知の結晶は気づけないまま、歩を進めた。
<To be continued>
37
:
思兼
:2014/04/20(日) 03:49:03
もう一つ投稿、シリウス団がついに本格行動開始。
【改変ミリオンズ】
番外編、大胆不敵な話
「全員揃っているか?」
「勿論だよ静葉!で、今日は何をするんだい?」
「大丈夫だ静葉、初めてくれ。」
私の言葉に反応したのは団のメンバーであり、その中でも最古参の一人でもある亮と影士。
二人だけでは無く『集会場』にはどうやら全てのメンバー(構成員)が揃っているようだった。
「じゃあ確認だ…団長、静葉。」
「副団長、影士だ。」
「はいは〜い!亮でぇ〜す!」
「何でお前はそんなテンション高いんだよ。あ、優人な。」
「御主人様がそんなテンション低すぎるだけかと。皆々様のアイですよ〜」
「あはははははは!シャルルあはははははっ!」
「シャル…挨拶はきちんとな。ああ、重久だ。」
「ふぁ〜あ、眠い…しかもうるさい。ニコラスだ…寝起き頭に響くから静かにしてくれよ。」
「アリスだ、ちゃんといるよ。」
「直子博士降臨!へっへ〜ん、このためだけに授業休講にしちゃった♪」
「ダメ大人発見…成見ね。」
「アルルだ。静葉が呼んでるって聞いてね、どんな要件だい?」
「ダニエルだぜぃ。静葉、この前頼まれてた情報リサーチしといたから。」
どうやら全員漏れなく居るらしい、良かった。
今日話すことはそうそう適当なことではない…いや、かなり重要な案件で俺たちの今後の活動を方向付けるであろう内容だ、その通達と行動開始の宣言の為にも、どうしても団の全員を招集する必要があった。
「いいか、今日話すことはかなり重要なことだ。」
喋っていた皆が静かになる。
私がこうやって前置きして言うことがどれだけ重要なことか、皆は察しがついている。
流石、家族に等しいメンバーたち。同じ目的を持つ結束した団員。
それだからこそ俺は安心してこの決断ができて、この作戦を開始することができる。
「ああ、これよりシリウス団は『アースセイバー長期諜報作戦』を開始する。」
私の言うことに薄々感づいていたのか、影士や亮を筆頭に、皆さして驚いた素振りは見せない。
ただ、少し緊張したように感じる。
緊張するのも、無理もない。
『あのアースセイバー』を相手に諜報作戦を敢行することがどれだけ危険でリスクあることか、それは他でもない俺が一番よく理解している。
だが、これ以上この都市の暗部に触れる為にはこれしか方法は残されていない。
俺たちは俺たちの望みを果たすため、もう立ち止まれないのだから。
「それならメインの諜報部隊は俺と亮か?」
影士が言う通り、影士の『影走り』と亮の『かくれんぼ』は諜報作業に最適だ。
「そうなるな。あと、未来視のできる成見だ。後方支援は博士、ハッキングにはダニエルとアイが中心となってやって貰う。そして…」
そこまで言って俺は一度口を閉じる。これは出来れば言いたくないことだった。
「戦闘部隊はアリスとニコを中心にやって貰う。」
俺たちは超能力者の集団『シリウス団』だ。
奴さんたちにとって『野放しの超能力者』である俺たちは犯罪組織『ホウオウグループ』とさして変わらない存在だろう。
万一俺たちの素性がバレたら、間違いなく摘発隊が来る。
もしそうなった場合、それを拒む俺たちは全力で戦わなければならない。
現行技術を遥かに凌駕するテクノロジーがふんだんに使われた元々戦闘・決戦用サイボーグであるアリス、数百年もの時を生き人智を超えた力を振るう真祖の吸血鬼ニコラスの2人はシリウス団の保有する最大戦力でもある。
だが、公認組織に対してそれで対抗できる筈は無い。
せいぜい秘密を知った隊員を全力で強襲し『口封じ』するのが関の山だ…無論、仮に完全抗争状態となった場合でも俺たち最期まで徹底抗戦を行い、戦い果てることを選ぶだろう。
人として生き、人として死ぬ為にも投降してその保護下に置かれる訳にはいかない。
だからこそ、隠密を貫く必要がある。
「大丈夫だ静葉、あたしたちがみんなで静葉を支えるから。」
ライカンスロープ(のワーパンサー)であるアルルが俺の方に手を置きながら、そう言ってくれた。
皆もアルルと同じ気持ちらしく(シャルルすらも)静かに頷く。
「…そうだな。全ては俺たちの目的の為に。」
暗部に潜り込み、グレーゾーンに足を踏み入れてまで俺たちが目指すもの。
『超能力を捨てて、普通の人間として生きるため。』
全員の声が重なった。
<To be continued>
38
:
えて子
:2014/04/20(日) 14:29:26
佑のお話。
十字メシアさんから「角枚 海猫」、名前のみスゴロクさんから「赤銅 理人」をお借りしました。
とある日の放課後。
佑は、いつものように図書室のカウンターで本を読んでいた。
「………」
頬杖をつき、どこか心ここにあらずといった表情でページをめくる。
当然というべきか、本の内容など少しも頭に入ってこない。
佑の頭の中は、先日のことで一杯だった。
特殊能力のこと、それを巡る組織のこと、自分のこと。
あの日以来、それらを考えなかった日は一日もない。
本を閉じると、深くため息を吐いた。
「…佑、来たよ」
扉を開ける音と共に、そう声がかかる。
佑が顔を上げると、親友の海猫がちょうど車椅子を押して入ってくるところだった。
「ごめんね、急に呼び出して」
「ううん、平気。どうかした?」
「……。話したいことがあってね…ちょっと待ってて」
そう言うとカウンターから立ち上がり、図書室内をぐるりと歩き回る。
図書室内に自分と相手以外誰もいないことを確認すると、扉へ歩み寄り鍵をかけた。
「…佑?どうして鍵なんか…」
「ん…ちょっとね。海猫以外にはあまり聞かれたくないから」
誰か入ってこないように保険、と困ったように笑う。
その様子をみて、海猫は軽く目を丸くした。
「そんなに聞かれたくないことなの?」
「うん、まあ…正直、今も海猫に話していいのかどうか…迷ってる」
珍しい。それが海猫の本音だった。
あまり相談事をしない佑がこうして呼び出すこともそうだが、いつもはっきりと物事をいう彼女がここまで歯切れが悪いのも珍しいことだ。
「それで、話したいことって?」
「うん。…その前に聞いておきたいことがあるんだけど…」
「ん?何?」
「…海猫さ、“特殊能力”って…知ってる?」
「え…?」
「…知ってる?」
ゆっくりと、言葉を確かめるように問いかける。
ぐっと拳を握り、強張った表情で海猫の目を見る。
海猫は最初驚愕の表情で佑を見ていたが、嘘や誤魔化しは通用しないと思ったのだろう、やがて小さく頷いた。
39
:
えて子
:2014/04/20(日) 14:30:34
「………そっか」
海猫が頷いたのを見て、佑は安堵の表情で息を吐く。
「よかった、何それとか言われなくって…海猫、現実的だからこの時点で一蹴されるかと思った」
「さすがにこれを妄想だとは言えないよ。佑がここまで悩んでるってのに」
「ん、うん…悩んでるというか…一度にいろんなことがありすぎてついていけてないというか、何というか…」
「ゆっくりでいいよ。落ち着いて」
「う、うん…ありがとう」
軽く深呼吸をして気を落ち着かせると、言葉を選ぶように続きを話し始める。
「…それで、その特殊能力なんだけどね……どうも、私、持ってるらしいんだ」
「…嘘」
「本当。……私も、聞いただけなんだけどね…どうもあるみたい」
ゆっくりと話す佑の言葉を聞きながら、海猫は驚愕しながらもどこか納得していた。
それもそうだ。以前パニッシャーと戦った時、赤銅という人物は「佑がパニッシャーに襲われていた」と言っていた。
能力者以外は襲わないパニッシャーに目をつけられた時点で、佑が能力者だということは確定されたようなものだ。
それでも、やはり驚きのほうが大きかった。
「……そう、なんだ。…どんな?」
「うん……理人さんが言うには、コピー…なんだって」
「コピー?」
「うん。その…特殊能力を持っている人の血がかかると、その人の持っている能力を使える…とかって聞いた」
「聞いたって…その理人って人に?」
「…うん。らしいとか、そういうのばっかりでごめん。…私もほとんど分からないんだ」
本当にごめん、と頭を下げる佑に、気にしていないという意味を込めて首を振る。
「仕方ないよ。佑も知ったの最近なんでしょ?」
「う、うん…ごめん。あ、あとね…」
「ん?」
「その……勝手に呼び出して一方的にこういうのいろいろ喋って、さらに我侭なお願いなのは分かってるんだけどさ…よかったら、この話は内緒にしてほしいな〜…なんて…」
「…?それは構わないけど、何で?」
「あ、あの、理人さんがね…特殊能力を持っているって知られるといろいろ狙われたりするから、本当に信頼できる人にだけ話して、後は隠して生きろって…」
「……それで、あたしに話したの?」
「うん。……現時点で、身近にいる一番信頼できる人って、海猫ぐらいだから。海猫、人の秘密を周囲に漏らすような人じゃないしさ」
そう言って佑は海猫を見た。
海猫のことを、欠片さえ疑っていない。そんな表情だった。
「………分かった。言わないよ。誰にも、絶対に」
「……ありがとう、海猫。あと…ごめんね、こんなこと急に話しちゃって」
「いいって。あたしで良ければいくらでも聞くよ。親友の頼みだしね」
「…ありがとう。本当に」
ようやっと、佑にいつもの笑顔が戻る。
それを見て、海猫も笑った。
図書委員長の内緒の話
「…あ、佑。佑の能力のことは、誰も知らないの?」
「うん……教えてくれた理人さんと、今話した海猫以外は知らないよ」
「…この話を誰かが聞いちゃってたら、分からないけど」
40
:
スゴロク
:2014/04/29(火) 00:15:22
前回の続きです。詠人関連はひとまずこれでひと段落です。「キリ」「アズール」「シュロ」をお借りしています。
赤い世界が解け崩れ、見慣れた町並みが戻ってくる。
その中で、マナは自らが呼び寄せた存在――――百物語組の一人、キリと向かい合っていた。
「ありがとう、キリさん」
「礼には及ばないでありマス。むしろ、僅かなりともこうして言葉を交わす場を用意してもらった小生こそ、礼を言いたいところでありマス」
軽く会釈してハサミをどこかへしまうキリ。その彼に、狐の姿に戻ってランカの腕に抱かれるアズールが呟く。
「……どないなっとるんや……キリさん、しばらく前にシン・シーに殺されたんと違うんですか」
「それは事実でありマス。小生の消滅により、その部分が空席となっているのも承知でありマス」
ではどういうことか、と問いたげなアズールに、キリは「つまり」と前置きして簡単に説明する。
「小生ども百物語組は、主の能力によって妖怪という形で実体を与えられた魂でありマス。裏を返すと、主の『語り』によって鬼門を潜らぬ限り、百物語組とは看做されないのでありマス」
「つまり……どういうことなんですか?」
ランカの問いには、キリではなく状況を見守っていたブラウが応えた。
「主……秋山春美の持つ、ある種のネットワークにかからなくなっており、かつ能力の影響からも外れている。そういうことか」
「正解でありマス。現在の小生は、マナ殿の力で一時的にかつての姿と力で実体化した、いわば『切り裂き魔のとおりゃんせ』の模倣でありマス。次に小生が百物語組として現れることがあらば、その時はこのままなのか、百一話として新たな姿を得るのか……それはまだ不明でありマス」
「それじゃ、あんまり長くはこっちにいられないのか?」
シュロの問いには、頷くことで肯定する。
「残念でありマスが、小生に残された時間は残り僅かでありマス。今はマナ殿の結界のおかげでこうして話していられるでありマスが、それでももうすぐ鬼門の向こうに戻ることになるでありマス。ゆえに、主やクランケ、ミサキの元に戻る時間もないのでありマス」
語るキリの様子は心底残念そうだったが、どうすることも出来ない。
もとより、今こうして存在していること自体がイレギュラーなのだ。それを成したマナこそが、むしろ恐るべきといえる。
「なので、どなたか伝言を頼まれて欲しいのでありマス」
「僕が聞くよ。内容は?」
伝言を請け負ったスザクに、キリは一つ頷いて言った。
「では、ミサキに伝えて欲しいのでありマス。小生は、決して裏切られていない、と」
「え?」
「もう一つ、これは主と、百物語組の皆にでありマス」
薄く透け始めた体で、キリは言う。
「待っている、と」
「……わかった。確かに伝えるよ」
「かたじけないのでありマス。それと、最後に一つだけ」
消えかけた顔で真剣な表情を作り、「切り裂き魔のとおりゃんせ」は最後にこう言った。
「確証はないのでありマスが、近いうちに大きな戦いがあるような予感がするでありマス。どうか、お気をつけて」
「え……!?」
だが、その意を問う前にキリの姿は完全に消えてしまった。
同時、“リミテッド”の結界がほどけて通常の世界が戻ってくる。
41
:
スゴロク
:2014/04/29(火) 00:16:27
「……まだ、終わらないみたいね」
呟いたのはマナだ。ランカの方を見て、まず口を開く。
「お姉ちゃんとアズールは家にいて。この先何が起こるかわからないわ」
「う、うん。マナちゃんも気をつけてね」
「マスターはうちが守りますよって、ご心配なく」
「お願いね」
次に、シュロの方を向いて言う。
「シュロ、あなたはミレイを探しておいてくれない?」
「ミレイ、って……こないだランカちゃんトコに来た妖怪の子か? あの子がどうかしたのか?」
「自分を捨てた持ち主を探して回ってる『メリーさんの電話』の子なんだけど……方向音痴で、ここ最近戻ってないの。多分どこかで行き倒れてると思うから、見かけたら回収してくれる?」
「回収って……んー、まあ、わかった」
「お願いね。あの子、ほっといたら死ぬまで家に帰れないかもしれないもの」
一度はスザクの家に電話をかけてきたはいいが、道が分からなくなって迷いに迷い、最後には「迎えに来て」と泣きついたという話は記憶に新しい。
「……スザク、あなたは秋山神社に伝言お願い」
「わかってる、そのつもりだ」
「ヴァイスには最大限の注意を払っておいて。今のあいつはどこにいても、どんな形で何に関わっていてもおかしくない。下手をすると今までの事件が全部自分の仕業だって言い出しかねない」
現在のヴァイスは事象の「原因」となるための偏在だ。解決されないまま藪に紛れた事件に「実は」関わっていても不思議はない。
その危険性は理解しているのだろう、スザクも神妙な面持ちで頷く。
「それと……あら?」
次に声をかけようとした相手・ブラウは、結界が解けると同時にいつの間にか姿を消していた。よく見ると千鶴の姿もない。
「……いつの間に」
特に千鶴には、マナとしても色々言いたいことがあった。詠人を阻んだあの攻撃は、特殊能力によるものではなかった。
マナの知識では、アレは土地神の類が使う力にとてもよく似たものだった。
(なぜ人間があの力を?)
聞いてみたかったのだが、いないのでは仕方がない。放置しておくと色々と起こりそうな気がするのだが。
(まあ、仕方がないわ。今はそれよりも、気にすることがあるから)
最後に目を向けたのは、覇気なく佇む詠人。彼にかける言葉は、指示ではなく問いかけ。
「あなたは、これからどうするの?」
「…………」
答えは返らない。復讐の動機も理由も失った今、彼に目的はない。
マナとしては思うところがないわけではなかったが、同情はしなかった。いくら操られていたといっても、それで全てを許せるほど彼女は大人ではない。
「わからないなら、分からなくていいわ」
「!」
「私は夜波 マナ。それだけよ」
自身の存在を告げるそれは、詠人を受け入れるように見えて、はらむ意味はまるで反対。
どんなに言い方を変えても、マナにとってはそれが真実。
「今の私には家族がいる。お兄ちゃん……あなたが操られていたとしても、あなたのしてきたことが許されるわけじゃない」
「……わかってる」
「私には、もう家族がいる。そして、そこにあなたの居場所はないわ」
マナがヴァイスと戦った理由は明らかだ。悪意のままに人をもてあそぶ、ヴァイスが嫌いだから。
それだけだ。そこに、詠人の敵討ちという目的はない。どんな経緯があったにせよ、詠人のして来たことを許すつもりは、マナにはないのだ。
だからこそ、因縁に決着がついた今、二人がすべきことは和解ではない。本当の決別と、それぞれの道を歩むこと。
だから、マナは告げる。もう、あの時には戻れないのだと。
スザクやランカの時とは、違うのだと。
――――二つの道が交わることはあれど、重なることは二度とないのだと。
42
:
スゴロク
:2014/04/29(火) 00:17:27
「……そうか」
「そうよ」
呟きには、容赦ない断言が返る。その意味を飲み込むかのように何拍かの時をおいて、詠人は顔を上げた。
「……なら、それでいい」
「……本当にいいのか? 詠人。お前は、それで……」
当惑したようなスザクの問いに、詠人はどこかすがすがしい表情で応えた。
「未練はある。けど、許してもらおうとは思わない。僕はそれだけのことをして来た」
「なら……本当に、これからどうするんだ」
「さてな。とりあえずはいかせのごれを放浪して見るさ。幸い、ツテはそれなりにあるんでね」
肩をすくめる詠人。そこには、戦う前の狂気や焦燥は欠片もない、ただの少年の姿があった。
そんな彼に、マナはあくまで冷静に言う。
「……なら、わかってるわね」
「ああ。……お別れだ、マナ」
「ええ。今度こそ、本当に」
そうして、
「さよならだ、マナ」
「さようなら、お兄ちゃん」
兄妹の道は、再び分かたれた。
あなたに、さよならを
(別れ際の、最後の瞬間)
(背を向けた兄は寂しげに笑い)
(見送る妹は、少し泣いた)
(あの時も、見えなかった)
43
:
スゴロク
:2014/06/20(金) 10:36:17
スザクの能力についての話。単発です。
「……うーん」
その日、スザクはウスワイヤの訓練施設で一人頭を抱えていた。
周囲には破壊されたターゲットの残骸が散らばっているが、それが床といわず壁といわずそこら中にめり込み、あるいは突き刺さっている辺り、彼女が行っていた戦闘訓練の凄まじさを物語っている。
ここまで出来れば十分に一線級なのだが、彼女が悩んでいるのはそこではない。
「やっぱり、維持が難しいなぁ、朱羽剣」
カチナとの戦いで限りなく死に近づいた結果、元々持っていた特殊能力が変化した「焔天朱鳥」。それに伴い幻龍剣から進化した新たな武器・朱羽剣についてだった。
何を悩んでいるのかというと、この武器、形状の維持が難しい。
初めて使ったときは柄の部分がクチバシに変わっただけだったが、2度目の時は黒い蛇腹剣になっていた。3度目の今回は、なぜか真紅の刀身を伸ばした片手持ちの直剣。
しかも短時間しか持たず、形状の指定も出来ない。
強力ではあるが、なかなかに使いにくい武器だった。とはいえ、これを使いこなせなくては新たな能力を制御するのは難しい。辛うじて翼を構成しての飛行は会得したが、実際にはかなり使いどころを選ぶ能力だった。いまや名ばかりとはいえウスワイヤに属している以上、おおっぴらに能力を使うわけにも行かない。
「本当にコレ、どうやって使うんだ? 出し方としまい方はわかるけど」
軽く手を振ると、剣は赤い光になって消えた。多分ここにヒントがあるのだろう、とは思うが皆目見当がつかない。一度シノに聞いてみたこともあるが、前例がなさ過ぎて推測も困難だといわれた。
とどのつまり、現在スザクがここで訓練をしているのはそこに起因する。つまり、
「お疲れっス、スザク」
「シノさん」
外で訓練の様子を最初から最後まで見届けていたシノに、この力に関する解析をしてもらうためである。
「知識の悪夢」を持つ彼女の力は、いわば完全記憶だ。彼女はこれを使いこなすために、常日頃から「わかる」ための努力を重ねている。現状のアースセイバーでは、彼女以上の知識人はまずいないと言ってよかった。
「それで、どうでしたか?」
「んー、そうっスね……」
スザクの訓練の光景をつぶさに記憶したシノは、早速それを引き出して鍛えに鍛えた理解力と思考回路で分析を試みる。
「……アタシの考えだと、『焔天光』って言ったっスか? アレがキモっスね」
「焔天光が?」
「そうっス。あの剣は、多分あの光で構成された、いわばオプションっスね」
「……翼や盾と同じで、剣も焔天光から構成されたってことですか?」
頷くシノ。
「多分、スザクが本能的にイメージしてる、その時々で必要な剣の形を、そのまんまトレースしてるんスよ。はっきり意識したわけじゃないから、長時間維持することは出来ない」
「僕のイメージを……『偽』の時はそんなことなかったのに」
「大本の『龍義真精・偽』からして、ケイイチ君のアレとは全然違ってたっスからねぇ。ましてやそれが進化したとなると、どこまで行っても仮説の域を出ないっスよ」
デッド・エボリュート。スザク以前にはただ一人、都シスイだけが覚醒している、いわば「特殊能力のナイトメアアナボリズム」。アナボリズムの根源自体未だ不明瞭だというのに、その詳細がわかるはずもない。
「でも、シスイは思いっきり使いこなしてるんですよね……僕はそこが悔しい」
「アタシも一度見せてもらったっスけど、アレはスザクのと違ってスイッチが利く上に、元々の能力をそのまんま強化した力みたいっスからね。ノウハウは同じだし」
「むー……負けてられない」
ぐ、と拳を握り、一人対抗意識を燃やすスザクであった。
その頃、彼女の心の底。
「……よかれと思って構成の手助けしたけど……邪魔だったかしら?」
主人格・綾音は一人、ありもしない冷や汗を流していた。
朱雀、麒麟に対抗する
(片やのんびり、片や緊迫)
(この温度差は、何だろう)
十字メシアさんより「シノ」をお借りしました。
44
:
名無しさん
:2014/07/13(日) 12:06:29
※抱えた爆弾シリーズの佳境になります。
しらにゅいさんとの合作です。画面越しの表現って難しいですね。
<災厄の蛟と対峙する鬼>
ショウゴがボロ雑巾にされ、死線を彷徨ってから1週間後。
道着の帯にモデルガン二丁を挟み、その上からスポーツ用の
ベンチコートを羽織り、ショウゴは川原に立っていた。
川原は増水し、積んであった工事用の資材が風でガタガタと揺れていた。
のちに、とある男はまるで激しい嵐のような戦いだった、と語った。
のちに、とある女はまるで激しいダンスのようだった、と語った。
恐らく監視カメラをハッキングしたのであろう画面には、ショウゴの姿だけが写っていた。
何かをしゃべっているが、生憎音声はついていない。
やがて画面外から女が姿を現した。ミヅチである。
いくつか言葉を重ねているようだったが、聞き取れない。
画面の前にいる者が、チャンネルを変える。
別視点からの映像。先ほどのカメラよりも少し遠く、唇の動きすら読み取れない。
画面の中で動きがあった。先に動いたのはミヅチだ。
出雲寺を襲撃し、ショウゴを嬲ったのと同じ動きだった。
瞬間的な移動によるヒット&ウェイ。真正面に現れ、掌底で顎を打つ。
一瞬ひるむが、掴もうと手を伸ばすショウゴ。恐らく無意識で。
勿論その手がミヅチを掴むことは無く、たやすく瞬間移動で逃げられ後ろに回られ首を絞められた。
極められれば一瞬で意識を刈られると言われる絞め技だが、ショウゴは頭突きしながら押し潰すように後ろに倒れ込み、衝撃で緩んだ拍子に抜け出した。
柔道での経験が役立ったのだろう。あるいは体格差もか。
再び正面で相対し、何かを言い合う。風雨が激しくなってきた。
ブツ、という音と共に画面がブラックアウトする。
再びチャンネルが切り替わり、別視点。
画面が切り替わった途端、ショウゴが抜き撃ちを始めた。
数秒もしないうちに撃ち切ったのか、ピースメーカーを即座に仕舞うとコルトパイソンに切り替える。
が、切り替えた所を肉薄され、防戦一方になる。
鳩尾、鎖骨、こめかみなど急所を狙われた。
そして、信じられない事が起こる。
ショウゴが撃ったわけでもない。
第三者の介入があったわけでもない。
突如、ミヅチの腿から血飛沫が上がった。
驚くミヅチと、ニヤリと笑うショウゴ。
その正体はさらに別視点のカメラに切り替えた途端明らかになった。
縦横無尽に付近を飛び回る弾丸が写る。
それは、ショウゴが先に撃った弾丸だった。
さながら「魔弾」のように飛び回る弾丸。それに驚いたミヅチだったが、さらに衝撃は続く。
付近に落ちていた鉄パイプが爆ぜる。
その鉄パイプの延長線上にいたミヅチの体が吹き飛ぶ。
鉄パイプを銃身とし、空気を圧縮し弾丸として発射したのだ。
ショウゴの能力は射弾の悪夢。鉄パイプは元からの能力で発動できる。しかし、魔弾のように撃った後の弾の調節が出来るのは、その力のおかげでは無い。
2度目の死の間際に訪れるという「デッドエボリュート」。彼の体にも発症したのだ。
瞬間的な移動で翻弄し、接近してショウゴをタコ殴りにするミヅチと、
それを追う魔弾。
やがて動きを捉えられ、足を傷つけられ、ミヅチは膝を折った。
ショウゴの顔は腫れあがり、肩は外れ骨は折れそれでもなお立っていた。
45
:
しらにゅい
:2014/07/21(月) 10:27:22
【蛟という女】
ラーメン屋『大将』は、どこにでもあるようなラーメン店だ。
いかせのごれ駅前から少し歩き、雑居ビルとの間に挟まれている古くて汚い店。
でも、自分の味だけで勝負する頑固な大将が作るラーメンはとても美味しくて、高い評判を得ている。
流行りに乗らず、何があっても揺るがないその姿勢だからこそ出せる味なのだろうと思う。
そんな大将に、どうせなら学生向けにトッピングを全部乗せたラーメンを出してみてはどうですか、と冗談で言った事がある。
おめぇはバカか、と罵られてしまったけども、次の日には『トッピング乗せ放題』と書かれた看板が出てた時は嬉しかった。
もし、美奈子様を坊と救出出来たとしたら、私はずっとここで働き続けたいと思う。
身分を隠している事を知っているのに、ここにおいてくれた大将に個人的に恩返しがしたいのだ。
…あぁ、でも給料は今より増えなさそうだな、多分。
----
右足に、激痛が走った。
「…っ!?」
超音速の世界の中で何かが私に当たるとは有り得ない。だが目の前の坊が、ニヤリと笑っている。
事態が飲み込めないまま、私は痛さに耐えつつ正体不明の何かから逃げる。しかし、逃げ切れる気がしない。
(いったい、なに…が…っ!?)
視界の端に捉えた、銀色の輝き。あれは、坊が撃った弾丸だ。いや、驚くところはそこじゃない。
弾丸は自ら意志を持っているように動き、私を狙っている。壁か何か、障害物にでも当たらない限り、あんな複雑な動きを出来る筈はない。
坊の持つ"悪夢"とやらも、そんな能力でない事は事前の調査で分かり切っている。そもそも今戦っているこの場所は、障害物というものも少ない。
なら、あの魔弾は一体何だ。
「…まさか、がはっ!?」
考えが直結する間もなく、腹部に衝撃が走り、身体が横に飛ぶ。
あまりの強さに、意識が飛びかけた。
----
46
:
しらにゅい
:2014/07/21(月) 10:32:42
「メグミ、客だ。」
「え?」
とある雨の日のことだった。昼過ぎの午後に食器を洗っていると、隣で湯を沸かしていた大将が顎で入り口を指したのだ。
視線を向ければ、和服に身を包んだ黒髪の女の子が傘を畳んでこちらを見ている。
数日前、どこかの屋敷で見た組長さんじゃないか。
「こんにちは。」
にこやかな笑顔で挨拶する彼女…出雲寺愛澄さんから、敵意は感じなかった。
どのような意図で来たのかは気になったが、私もいつも通りに挨拶をしたのだった。
「いらっしゃいませー!お席にどうぞ!」
愛澄さんは頭を軽く下げた後、私の前にあるカウンター席へと座る。今日の悪天候で客は1人もいなかったので、カウンター席も彼女1人だけだ。
注文は、と聞けば、凛とした声で、味噌ラーメンをお願いします、と返される。大将は沸かした湯に早速麺を入れて作り始めている。
私は冷やを作り、彼女の目の前に置くと愛澄さんは1人にも関わらず、こそ、と話しかける。
「今日、アキトに内緒でここに来たんです。」
「あらら、お忍びって事ですか。」
「きっと言ったら止めてましたから…」
「あの方、ちょっと過保護なとこありません?」
二人で笑うような、そんな他愛のない話をしていると大将は無言で味噌ラーメンを愛澄さんの前に置いた。
出来たてほかほか、湯気のたったラーメンから味噌のいい匂いがして思わず唾を飲み込んでしまう。
…と、ラーメンを眺めていたら、大将は営業中にも関わらず頭の布を取り奥へ消えようとしたので、私は慌てて引き止めた。
「ちょ、大将?!どこいくんですか!?」
「今日はもう閉めだ。メグミ、戸締まりしておけよ。」
そうぶっきらぼうに言って、大将はさっさと出て行ってしまった。
大将の突拍子もない行動は今に始まった事ではないけども、込み入った話だろうと、私が言う前に察してくれたのだろうか。
大将の粋な計らいに少しだけ笑い、私は愛澄さんへ向き直った。
「さて、ご用件を伺いましょうか。わざわざ足を運んでくだすったんですから。」
愛澄さんは割り箸を割って、麺を口にしている。ずず、と麺を啜る様子は優雅だが、とても美味しそうに見える。そして、割り箸をどんぶりの上に置くと改めて話を切り出した。
「本日は、貴方の…ミヅチさんのお話を聞きたくて、足を運びました。」
「私?」
「ええ。」
どのような意図があるのだろうか、と思わず腹の中を探ってしまう。
日和組…とはいえ、腐っても組長の器に収まっているのだ。何の目的もなしに足を運ぶわけはないだろう。
言動のひとつひとつを逃さないように、彼女を注視する。
「…これは、あくまで私の憶測ですが、」
彼女の、憶測。
「ミヅチさんは、ショウゴさんを殺すつもりはないと思います。…何か、別の目的があるのではないでしょうか。」
「………」
愛澄さんは確信を持っているのかのように、真っ直ぐ私を見つめている。
予想が外れていたら、私は今頃大笑いしているところだろう。そう出来ないのは、その憶測が当たっているからだ。
「…確かにアタシは、坊を殺すつもりはありません。」
ふ、と微笑んで、アタシは答える。
「その、目的は。」
「妹様…ミナコ様を救出する為です。」
愛澄さんは目を見開く。知らない様子ではなさそうだ。
アタシは、スムーズに話が進みそうだと思いながら、胸の内に秘める目的を愛澄さんへと伝えたのであった。
----
47
:
しらにゅい
:2014/07/21(月) 10:35:54
アタシの義父にあたる九鬼兵二が得体の知れない女を連れてきた。
冷たい目の女だなと思った以外は特に何も感じなかったが、その数日後、義父は突然、鬼英会を襲撃したのだ。
まだ数年燻るかと思っていたが、あの女に押されるように、あっという間に壊滅まで追い込んでしまった。
あの女の、得体の知れない力のせいだ。武器をもっても、女にも化け物にも当たらない。世話になった総長も殺され、ついには妹の美奈子様にも手をかけようとした。
咄嗟にアタシが前へ出て、叫んだ。
『ミナコ様は坊の…ショウゴ様の妹だ!あの方は仁義に厚い、今ここでミナコ様を殺してはアタシらは不利になる!
貴方は人の感情が分からないだろう?この世界にも、血の繋がりで事が有利に進むことがあるんだ…この程度の事で判断を見誤ってしまえば、いずれ貴方は喉元を掻き切られてしまう!』
命乞いにしては随分陳腐な台詞であっただろう、しかし結果として美奈子様は命だけ助かった。
ただし、美奈子様の身柄をあの女に渡す、という条件を突き出された。幸い、美奈子様は五体満足で帰ってきた。ニエンテという名前を与えられ、感情を奪われた以外は何も変わらずに。
もう、アタシの声は美奈子様に届かない。唯一救えるのは、もはや肉親である坊しかいないと悟った。だから、坊にはこの事実を知って貰って、美奈子様を助けなければいけない。
これが、私の全ての目的だった。
「…坊は、やる男だと私は思っています。でも、坊がアタシを倒せなければ…その時は坊を殺し、アタシは死んでも美奈子様を助けに行きます。」
「待ってください、そんな思いを抱えていたのなら、どうして素直に伝えなかったのですか…!?ショウゴさんだって、聞き入れてくれる筈…!」
愛澄さんは戸惑った様子で、アタシに問い掛けた。
どうして素直に伝えられなかったのか。確かに、ありのまま事実を伝えていればもっと安全に事を進める事が出来たかもしれない。
だが、アタシも所詮は、囲われている者に過ぎないのだ。
それを愛澄さんに今、伝える必要はない。
「今の坊では殺されてしまう。強くなって、私を乗り越えて貰わなければミナコ様は救えない。」
それなら、と続ける。
「アタシは坊の敵に、喜んでなってやりますよ。」
----
ぺっ、と口から血を吐けば、落ちた血は赤黒の華となって地面に咲き、浸透して消えた。
どうやら本当に、坊はアタシを越えたようだ。いくら動いても、弾丸はどこまでも追ってくる。
「ふ、ふふ……っあはははは!!!」
何故だろう、追い詰められているのに笑いが止まらない。
昔に戻ったような、不思議な気持ちだ。坊と戦える事が、こんなにも楽しかっただろうか。
限界点まで速くなり、坊の顔目掛け拳を放つ。当たった衝撃で坊は大きくぶれても、銃口だけは真っ直ぐ向けている。
放たれた弾丸が足にいくつも食い込み、痛い。それでも、高揚する気持ちは止まらない。
(この前まで、あんなに小さな子どもだったのに。)
まるで子を思う親のよう。成長を感じて、楽しくて、そして、悲しい気持ちになる。
やがて舞踏は終わりとなり、先にアタシが膝を付いてしまった。
重点的に追い詰められた足は点々と紅くなっていて、もうあの速さに乗ることは出来なかった。
対して、坊の顔は腫れ上がっていて、身体も見るだけで痛々しい。正直、アタシよりボロボロだった。
「……っはは、…」
これが、答えか。…まったくもって、坊らしい答え方だ。
「負け、ました、…完敗です。」
坊は私の言葉が聞こえたのか、糸が切れたかのように後ろへと倒れてしまった。
私は足を引きずって坊の近くまで来ると、大の字で倒れていたが表情は穏やかだ。
「った、く……ミヅチさん、にゃ…敵わねぇな。」
「わざと、トドメを刺さなかった口が…それを、言いますか?」
苦笑いしながら、アタシは携帯電話を抜き取ると番号を押す。無論、掛けたところは出雲寺組だ。
「坊、お互い、怪我を抱えているから、手短に伝えます。」
足から流れ出る血の熱さにクラクラしながらも、アタシは目的を達成する為に坊へ伝えた。
「奇襲があったあの日、組長は、死にました。」
「……だろう、な。」
「ですが、妹の、ミナコ様は、生きています。五体、満足に。」
「!」
坊は目を見開いた後、片腕で目を覆った後、そうか、とだけ呟いた。心なしか、安心しているように見える。
思い上がりでもいい、坊が安心していれば、アタシはそれだけで満足だ。
48
:
しらにゅい
:2014/07/21(月) 10:37:31
「今は、クルデーレ、という…冷たい目をした、桃色頭の女のところに、います。…ニエンテ、という名に、変えられて…おそらく、洗脳されて、います。」
「くそっ…」
「その、女は得体の知れない、能力を持っています。…動物でない、何か、生物を操っていて…銃は効きませんでした…」
思い出すのはあの時の惨状。一方的に嬲られ、肉塊と化していく構成員達を、ただ見ているだけしか出来なかった。
あの女さえ、どうにかすれば美奈子様は元に戻るのだ。
「それで、そいつは今、」
肝心な事を伝えようと口を開いた瞬間、どろり、と何か落ちた。
坊が、驚いた様子でアタシを見ている。
「え…」
視線を下に落とせば、黒い血のようなものがある。それが、蠢いている。
それに気付いた瞬間、唐突に嘔吐感が襲い掛かり、思わず口を押さえる。
坊が動かない身体を起こそうとし、必死になって何か叫んでいる。
くぐもって聞こえないのは、耳からもそれが出ているからだ。
(何か、何かが、アタシの中に、いる。)
抑える指の間からもドロドロと流れ落ちてきて、呼吸もままならない。
こいつらはアタシの腹の中から出てこようとしているのだ。気持ち悪さと痛さに視界が段々歪み、黒ずんでいく。
「ぼ、う、」
すいません、ここで、御役目御免になるなんて。
ドバッ、と口から何か吐き出されたのを最期に、アタシは闇で覆われた。
----
「なん、だよ…!?」
ミヅチが突如、出血多量と思わしき量の血を吐いて倒れた。いや、正確には血ではない。
本来赤い筈の血が墨汁のように黒く、質量を含んでいるようにどろり、としているのだ。
彼女は必死に抵抗していたが、卵のような黒い玉を吐き出した瞬間、そのまま崩れ落ちてしまった。ぴくりとも、動かない。
省吾は身体を引きずりながら、その物体と距離を置いた。正体不明の黒い玉が波打つと、周りの黒い液体が呼ばれているかのようにそれに集まる。
不気味な動きをしながら人の形へと変化すると、中から異様な格好をした少年が現れたのであった。
少年はギョロリとした目を何度かパチパチさせた後、省吾の方へと振り向いた。
「ショ、ウ、ゴ、タガ、リ、ショウゴ。ショウゴ、あなたは、タガリショウゴ。」
少年は対象を覚えようとしているのか、省吾を指差して何度も呟いている。
そして今度は、自分を指差したのであった。
「ぼ、くは、フォリ、ア。これ、の、中に、いたのです。」
フォリアの指先は、これ、と称した倒れているミヅチへと向けられていた。
その動作が省吾を苛立たせ、彼は険しい表情をしながらフォリアへと銃口を向けた。
「テメェ何者だ!クルデーレの配下か!?」
「はい、はい、クルデーレさまがどうかしたんですか?」
素っ頓狂な態度に省吾は痺れを切らし、弾丸を放った。
フォリアは避けることもなく、弾丸を真正面から受けて仰け反った。しかし、すぐに立ち直ると掌に何かを吐き出した。
省吾の放った、弾丸だった。
「クルデーレさま、が、伝言だと、おっしゃっていましたので、伝えに来たのです。」
『おめでとう、妹まであとすこしだ。』
「だ、と。」
そしてフォリアは頭を下げると、それでは、と、あろうことかその場から立ち去ろうとしたのであった。
省吾は立ち上がろうとして、叫んだ。
「…っ待ぁちやがれェェェ!!」
「だ、めです。」
威嚇する省吾を他所に、フォリアは背中からメキメキと音を立てて翼を生やした。
鳥の翼ではない、肉を繋げ、無理矢理形を作った翼であった。
省吾は何度か狙撃を試みたが、身体のダメージと相まって、結局フォリアを見逃してしまったのであった。
後に残ったのは省吾と、死んでしまったミヅチだけ。
「…っくそが!!」
省吾はボロボロにも関わらず、怒りのまま拳を地面に打ち付けた。
光が見えた矢先に起こってしまった悲劇。今やっと立ち上がろうとしていたのを嘲笑うかのように、また奪われてしまった。
しかし、
その瞳には絶望ではなく、
抗うかの意思のままに、強い光を灯していた。
省吾はもう、迷わない。
49
:
しらにゅい
:2014/07/21(月) 10:39:30
>>45-48
お借りしたのは汰狩省吾(サイコロさん)、名前のみ出雲寺愛澄、クルデーレ(十字メシアさん)
こちらからはミヅチ、フォリアになります。
フォリアの詳細はまた後程上げます!
50
:
スゴロク
:2014/07/31(木) 11:59:52
スザクの話。短いです。
――――夢を見ていた。長い、長い夢を。
「鳥さん?」
目を覚ますといつもの教室で、僕は机に突っ伏していた。傍らからかけられた声に振り向くと、トキコがいた。
「よく寝てたねー……って何、その顔」
「え?」
「すっごい難しい顔してる。何の夢見てたの?」
夢、か。
「……そうだな。楽しいような、哀しいような……」
僕の見た夢。
いかせのごれとはまた違う、遠い、遠い……きっと、この世界ですらないどこか。
色んな人がいた。
色んなモノがいた。
いかせのごれほど混沌とはしていないけど……それでも、そこには確かに、人の営みがあった。
例えそれが、覚めれば消える泡沫の幻であったとしても。
「幻……っていうのは違うかな」
多分、あれは過去に、本当にあったこと。
あるいは、これから起こる未来のことなんだろう。
もう、どんな内容だったのか全然覚えてないけれど。
きっとそこには、僕の知らない物語があるんだろう。
「?」
「っ」
気がつくと、トキコが僕の腕を握っていた。なんだか必死な顔をしてる。
「どうしたんだ?」
「何か……鳥さんが遠くに行っちゃいそうな、変な気分がして……気がついたら」
遠く、か。
もしかしたら。
もしかしたら、あそこには。
僕ではない、僕に良く似た誰かがいるのかもしれないな。
「―――大丈夫だよ。僕は、どこにも行かない」
「本当に?」
「ああ。僕は―――火波 スザクは、確かにここにいる。これからも、ここに」
そう。確かに僕は、今、ここにいる。
他の場所でどうであったとしても、僕にとっては、今、ここにいる僕が全てだ。
だから、今は歩いていこう。
「トキコ、次は何時間目だっけ?」
「お昼休み。レーダー君に聞いたけどさ、鳥さん、4時間目の間ずーっと寝てたでしょ」
「あれ?」
「あれ、じゃなくてー!?」
今はまだ見えない、あの夢へと。
明日見る夢
(それは、きっと)
(これからも続いていく、物語)
しらにゅいさんから「トキコ」をお借りしました。
書いてみたら最終回っぽくなってしまいましたが、まだ色々と考えてはいます。
51
:
しらにゅい
:2014/07/31(木) 20:25:51
滾ってしまったので即席でレスポンスです!
ちょっと捏造してるところがあるかも…
四時間目の授業はとっても暇だった。
鴉さんの説教ぐらいにつまらなかった。
周りを見れば、一角くんは相変わらず真面目に黒板見てるし、ハヤトくんは既に夢の中。
鳥さんは、
(あれ、)
珍しい、ハヤト君と同じく寝てる。いや、上手い具合に聞いていそうな姿勢で寝てる。
いつもならちゃんと授業聞いてるのに、疲れてるのかな。
(そっとしておこー)
今は寝顔を見るのが、ちょっと楽しいし。
----
「鳥さん?」
結局レーダー君に聞いたら、鳥さんは授業の終わりまで寝てたようだ。そんな彼女へ、私は近寄って声を掛けた。
突っ伏していた鳥さんがゆっくりと起き上がると、眠そうに眼を擦っている。
「よく寝てたねー…」
ちょっとだけ呆れた感じでぼやいたけど、ふと、鳥さんの顔を見て違和感を感じた。
なんだか疲れてるような、何か考えてるような、そんな難しい顔だ。
思わず声にも出てしまった。
「って、何その顔」
「え?」
「すっごい難しい顔してる。何の夢見てたの?」
悪夢でも見ていたのかな。例えば、昔施設にいた時の事とか…。
鳥さんは私の自慢の強い人、でも、心は繊細なのを私は知っている。
「……そうだな。楽しいような、哀しいような……」
鳥さんは遠くを見て、懐かしむような声色でそう呟く。
なんだか、置き去りにされた子供のように寂しそうだった。
「幻……っていうのは違うかな」
少しだけ苦笑いを浮かべる鳥さん。
なんでだろう、鳥さんはここにいる筈なのに、どこかに行きそう。
或いは煙のように消えてしまいそうな、そんな感じがする。
行っちゃ、やだよ。
ねぇ、鳥さん。
52
:
しらにゅい
:2014/07/31(木) 20:26:22
「?」
「っ」
思わず手を伸ばして、鳥さんの腕を握った。
少しだけ擦り寄ると、ちゃんと鳥さんがここにいる気配を噛み締める。
「どうしたんだ?」
鳥さんは不思議そうに、私に尋ねる。
「何か……鳥さんが遠くに行っちゃいそうな、変な気分がして……気がついたら」
嗚呼、きっとあの時鳥さんはこんな気分だったのかな。
大切な人がどこかに行ってしまう不安。とっても胸が締め付けられて、痛い。
少しだけ間が空いた後、ぽん、と頭の上に手が置かれた。
「―――大丈夫だよ。僕は、どこにも行かない。」
鳥さんは微笑んで、そう言った。
「本当に?」
思わず聞き返してしまったけど、ああ、と彼女は答えてくれた。
「僕は―――火波 スザクは、確かにここにいる。これからも、ここに」
―――よかった。
私は少しだけ泣きかけてた気持ちを隠して、鳥さんに笑って、答えを返した。
鳥さんはここにいる、ずっと、ずっと。
歩き続ける今
(ずっとここにいよう)
(それが私達の『今』だから)
「トキコ、次は何時間目だっけ?」
「お昼休み。レーダー君に聞いたけどさ、鳥さん、4時間目の間ずーっと寝てたでしょ」
「あれ?」
「あれ、じゃなくてー!?」
53
:
(六x・)
:2014/07/31(木) 22:55:55
「ねえ美弦さん」
「何かな、笙子さん」
「私ね、美琴が怒ったり泣いたりしてるところ数えるくらいしか見たことなくてね、天然だからよくわかってないだけだとばかり思ってたけど、本当はずっと我慢してたんじゃないかって、
今回の事件で思ったの。威力は感情に左右されるからある程度はコントロールできるようになれとは言ったけど…暴走するまで抑圧してたなんて…」
「美琴は真面目だからね。僕たちを心配させないようにか、つらいとかしんどいとか、そういうこともあまり言ってなかった気がする。」
「どうして…」
「嫌だからに決まってるじゃないですか」
「美琴?!あなた、具合は…」
「…私はもう、怒るのも泣くのも嫌です。私はみんなに笑っててほしいんです。私が我慢してみんなが楽しいなら、幸せなら、それでいいんです。
そのためなら、我慢くらい簡単なのに…それなのに、無理して笑うな、嫌ならやるな、誰もそこまで望んでないってなんなんですか?だったら私が今までやってきたことってなんですか?!
全部無駄だとでも言うんですか!?どうしたらいいんですか!!!教えてよ!!どうしたら誰も傷つかないで済むのか教えてよ!!」
「美琴…」
今まで見たことのない表情で必死に叫ぶ美琴。それを見て、美弦は呆然とすると同時に、後悔した。
僕はなぜもっと早く向き合わなかったのか。ずっと抱え込んでいることに、どうして気付かなかったのか。
笙子もまた、娘には悩みがないと思いこんで気付いてやれなかったことに泣いていた。
「なんてね、ほんとはわかってるんです。なんでも引受けて、いつも笑ってたのも、嫌われたくない、誰かのために何かしてあげないと存在意義がなくなっちゃうってだけ。
みんなのためとか言っておきながら、結局は自分のため…ひどいよね、こんなの。こんなひどい子、誰ともお友達でいる資格ないよね。」
「そうでもないんじゃないかな。誰かのために何かしてあげよう、喜ぶことをしてあげようっていう気持ちは本物だと思うよ。それは僕たちが一番よく知ってるからね。
ただ、嫌われないようにするってのは良くないね。嫌われないためって知られたら、後で美琴がつらい思いするかもしれない。だからといってすぐにやめる必要もない。
無理しなくていい、それだけだよ。美琴は1人じゃないんだから、大丈夫。」
「お父さん…」
「何かあったらすぐに言うんだよ。疲れているだろう、まだ休んでいなさい。」
「はい…。おやすみなさい」
「ねぇミコト」
「はい」
誰でしょう。お父さんによく似ていますが、目の色が違います。
「あ、あの、あなたは」
「いいから聞いてほしいなー」
「ふえぇ、はい…」
「僕はね、ミコトのしたいようにすればいいと思うんだー。ミコトは良くも悪くも他人のこと気にし過ぎ。
そりゃ人に迷惑かけるのはダメだけどさー、結構自分が思うほど相手は君の事気にしてないんだからもう少し力抜いていいと思うよー。
ちょっと疎まれたからって何さー、そんな奴ら気にしなくていいじゃん。好きなように生きなよ。
今ぐらいしか遊べないんだからさー!あ、家族と友達は大切にねー!」
「えっと、ありがとう、ございます…」
「お礼なんていいよー、妹を助けてあげるのは兄の役目だからね!!じゃあ、がんばって!!」
「えっ・・・?」
気付いたときには、お兄ちゃん…はいなくて、髪飾りとタクトが光っていました。
後でお父さんに聞いたところ、ミコトはパワーアップしたんじゃないかと言われました。よくわかんないですが。
数日後
「いってきまーす」
「いってらっしゃい。」
「学校へ行けるほど元気になってよかったよ。」
「ええ。本当によかった。」
「それにしても、急に元気になったよね。笙子さん、何かした?」
「いえ、美弦さんこそ何か」
「僕も何もしてないよ。となると、父さんかな…」
「解決したようだな」
「おじいちゃんが急に呼んだときは何事かと思ったよー。でも助けられてよかったー。」
「わしの判断は正しかったようじゃな。」
「能力使ったのなんて久しぶりだよー。手伝ってくれた子にもちゃんとお礼しといてね?」
「わかっとるよ。あの子がいなければ今回のことは解決できなかったからな」
「結局本人次第なんだけどねー」
他人と全く関わらず生きてくのは無理だよ。でも、世界は君が思ってるほど酷くはないんだよ。
ちょっと力抜いてみてもいいんじゃないかな?
「何か言ったか?」
「ううん別にー。一時期はゴミ扱いされた僕が役に立ててよかったなってー」
スターライト・ファミリア
54
:
スゴロク
:2015/05/26(火) 23:49:43
久々に来て見ました。足跡代わりに一筆。
「……なぁ、ランカ」
「何、綾ちゃん?」
ある日曜日。母さんがアオイと一緒に秋山神社に出かけてしまって暇になった僕は、ランカの家に遊びに来ていた。
シドウさんはまたもどこかをふらついてるらしくて、入れ違いにアカネさんが凄い顔で飛び出して行ったのを見た。
アズールは今は狐の姿で、ランカの膝の上で寝息を立ててる。マナはというと、最近レストランに入り浸ってる。
というわけで、今日の僕はランカと取りとめもない話をして時間を潰していた。
その中で、ふと思ったことがあった。
「ここ最近は平和だよなー……UHラボの残党も、ホウオウグループも、ヴァイスも、シン・シーも動いてない。ウスワイヤの方でも何か起きたって話は聞かないし」
「そうだね……ちょっと前まで騒動ばっかりだったのが嘘みたい」
言って笑うランカ。この子がこうして自然に笑えるようになったのも、ごく最近のことだ。
ちょっと前まではまあ、色々複雑な事情が絡み合って大変だった大変だった。
ただ、
「嘘みたいだよな、ホントに……」
「え、っ?」
「ここ最近のいかせのごれは静かだよ。本当に何もおきてない……まるで、作者に忘れられた物語みたいだ」
「綾ちゃん……?」
……なんてな。
「冗談だよ。正直なところ、僕自身死にかけたり生き返ったりで現実感マヒしてるからなー」
「だ、だよね。最近『綾音ちゃん』とはどう?」
「ぜーんぜん。僕がいくら話しかけても答えやしない。その癖僕が忘れた頃にふらーっと出て来るんだ。いくら僕の主人格だからって、フリーダム過ぎるだろ」
そう、この「火波 スザク」という人格、つまり僕はこの体においては従人格だ。ただ、メインであるはずの本来の綾音の方が、表に出るのを面倒がって精神の底で眠りこけてる……ありていに言うと、僕に主導権を丸投げしてるのが現状だ。
デッド・エボリュート能力も、僕じゃないと使えないし。
「そもそも僕っていう存在自体が、元をただせば幻みたいなもんだからな」
「……んー、認めたくないけど」
この間、家族や友達に僕自身のことは話した。まあ、能力者だったり、ウスワイヤの関係者に限るけど。
つまり、「スザク」としての人格の方はUHラボでの体験で精神が崩壊し、そこに上書きされる形で構築されたペルソナで、生死の境を何度もさまよう内に、今の「僕=スザク」ともともとの「私=綾音」に分離した、ということだ。
まだ僕の髪が真っ白だった頃、ランカが入院していた頃は、お見舞いに行くたびに「僕」を「私」に切り替えてたけど、今はそれがすっぱり切り離されて独立した形だ。ただ、「私」の方は美容には気を使うけど基本ものぐさな性格らしい。
(誘拐されたのが良いとは絶対思わないけど、普通に過ごしてたら物凄い自堕落な女になってただろうなー)
というか最近は、「火波 綾音」という人格の、男性格が僕なんじゃないかと思ってる、割とマジで。
トキコと付き合い始めてから余計にそう思うようになった。なにせ、一時は好きになった相手を本気で殺そうとする超危険人物だったもん、僕。
(思えば、トキコも最初の頃は割りとそんな感じだったよーな)
今でこそかなーり丸くなったけど、ベースの性格は同じだ。初めの頃はホウオウを盲信する(今ではちょっとマシになった、ような気がする)壊し屋だったし。
55
:
スゴロク
:2015/05/26(火) 23:50:20
「綾ちゃん? どうしたの?」
「ん……ちょっと考え事。ごめん、しばらく寝かせてくれるか?」
「わかった。それじゃ、私は上にいるね」
ランカがぱたぱたと二階に上がるのを見送って、リビングに転がる。
今までのことを考えたとき、ある一定のラインを超えようとすると物凄い頭痛がして意識を失っていた。
こうして考えてみるとわかる。あれは多分、僕がいわゆる「第四の壁」に接触したのが原因だ。舞台と観客を隔てる、見えない壁。
この世界においては、この「いかせのごれ」の存在する世界と存在しない世界との境目。恐らく僕は、無意識のうちにその壁に近づきすぎたんだと思う。
(考えない方がいいって言うのは確かに。多分それは、僕が知っても衝撃を受けるだけでどうしようもないことなんだろうし)
ただ、何となくのレベルで僕は気づいていた。
多分、このいかせのごれは、元々のいかせのごれから完全に独立した、別の世界になってしまっている。
その証拠に、僕達はホウオウグループやケイイチのことを知ってはいても、実際にケイイチやそのクラスメートと顔を合わせたことがここ1年ばかり全くないし、ホウオウグループにしてもバツとか、そういうウスワイヤの記録にある面々とは会敵していない。それだけじゃない、ウスワイヤにいるはずのチサトやアキヒロさんとも、存在を感じてはいても対面したことがほぼない。
「裏と表が引っくり返ってねじれたトランプ、か」
ただ、それがどうしたという話もある。いずれにせよ、この世界は今も在り続けている。その先に何があるのかは、神ならぬ僕では知りようもない。
いや――――。
「……神にも、わからないんだろうな、きっと」
窓越しに見上げる空は、ちょっと雲が多かった。
朱雀、世界について考える
(神のいない世界を)
(朱雀は今日も、羽ばたいていく)
56
:
スゴロク
:2015/12/17(木) 01:58:46
足跡代わりに一筆。
「……そっか」
いつものように学校に通い、いつものようにみんなと話して、いつものようにトキコとじゃれあって、いつものようにアオイと連れ立って帰って。
そうして部屋で過ごしていた僕こと火波 スザクの前に現れたのは、僕と同じ姿をした女の子だった。
彼女が誰なのか、僕は直感よりももっと深いところで理解していた。
そして、彼女が誰なのか理解した瞬間、僕は唐突に全てを理解していた。
僕が今、どこに行って何をしなければならないのかを。
「もう、時間なんだな?」
こくり、と少女は頷いた。予想していたことだ。「神」のいないこのいかせのごれは、もうこれ以上進みようがない。
昨日と同じ今日、今日と同じ明日が永遠に続いていく、停滞した世界。
なのに、僕は―――僕達という存在をこの世界に配置した一人の「神」だけは、未練があるかのようにこの世界を覗いている。
だけど……。
「それも、もうすぐ終わるのか」
「うん」
天井を仰いだ。見慣れた天井。見慣れた部屋。いつもの日常。
「僕達は、どこに行くんだ?」
「極めて近く、限りなく遠い世界に」
「……みんなは?」
トキコやハヤト、シスイ、アズール、凪に冬也、百物語組、シュロ、シノさん……。
僕がこれまで出会ってきたみんなのことが気になった。
だけど、その子は首を振った。みんなのことは、さすがにわからないみたいだ。
「……そっか」
けど、それで十分だ。いなくなる、とか消えてなくなる、とかじゃなくて良かった。
「僕たちがいなくなったら、この世界はどうなるんだ?」
「どうもならない。いなくなるわけでもない。ただ、あなた達という存在が向こうにも配置されるだけ」
「…………」
「どうするの?」
僕の顔で首を傾げられると、正直似合わないのがよくわかる。我ながら、こうまで女らしさの欠けた性格に良くなったもんだ。
まあ、でなきゃトキコと付き合ってなんていないと思うけどさ。
僕の答えは決まっていた。そうするしかないから。
「行くよ」
「わかった」
差し出された手を、僕は取った。
「………何だろう、今の夢」
はっと目が覚めたら、机に向かったまま寝てた。顔を上げると、トキコが呆れ顔で立っていた。
「鳥さーん……最近居眠り多すぎ。ちゃんと夜寝てる?」
「うーん……ここ最近は夢見が悪くて、何度も何度も起きては寝ての繰り返しなんだよなー」
「大丈夫? 私の家来る? ちょっとは気分変わるかもだよ」
「いや、でも、シギさんの件の時に行ったら物凄い荒れ様だったし……」
「………だ、大丈夫。あれからちょっとは片付いたし」
「本当に大丈夫か!? 結構経った気がするけど、まだちょっとって……しょーがない。今日戻ったら手伝いに行くよ。早めに片付けよう」
「はーい……」
朱雀、巣立ちの時
(近くて遠い世界へ)
(はばたきの音が遠ざかり)
(いかせのごれはこともなし)
では、また。
57
:
スゴロク
:2016/09/13(火) 01:17:07
足跡代わりに。
「……何だと!?」
その日、俺ことクロウは、グループのメンバーであるゼアから受けた想定外の連絡に文字通り目の玉が飛び出るほどの驚きを味わっていた。
左のレンズにエンブレムを入れたメガネがずれ落ちて乾いた音を立てたが、もはやそんなことはどうでもいい。
問題なのは、連絡の中身だ。
「確かなのか、ゼア?」
『ええ。……ホウオウ様を含め、主要メンバーとの連絡が完全に途絶えました。それだけではなく、例の救世主気取りや、アースセイバー上層部も消息を絶っています。いえ、正確にはホウオウ様方も連中も『いる』のはわかるのですが、それだけなのです』
「どういうことだ……」
あの救世主気取りは別にどうでもいいが、総帥との連絡がつかないというのははっきり異常だ。
確かに総帥は俺たちの前に姿を現すことはないが、指令は送ってくる。以前にもトキコに対してそうしたことがあるし、俺自身も未だに機をうかがっているノルンとノアの抹殺任務を直々に命じられた。
だが、ゼアが言うには総帥との間に繋がっていたはずのホットラインが全て途絶し、ジングウやチネンの力を以ってしても復旧が出来ていないという。
『潜入任務中のメンバーにはまだ伝えていませんが、知れるのは時間の問題です。クロウ、潜入メンバーの総指揮をお願いします』
「了解した。ではルーツ、ミーネ、ナハトを連れて行く。お前はどうする?」
『私はこちらで指揮を執ります。ただ、メンバーがかなりあちこちに散らばっていますので、まずはそれを召集するところからですね』
「わかった。いかせのごれ高校の潜入メンバーには俺からあらましを伝えておく。お前はそれ以外を頼む」
『お願いしますよ。それでは』
それを最後に通話を切り、俺は携帯をしまうと小走りにいかせのごれ高校へ向かった。
(何だ……一体何が起きている……)
58
:
スゴロク
:2016/09/13(火) 01:17:41
―――真っ先にその二人と遭遇したのは、果たして運が良かったのか悪かったのか。
手をつないで仲睦まじい様子の、赤い髪の少女二人。
「トキコ……と、火波スザクか。こんなところで、こんなタイミングで出会うとはな……」
「むー……鴉さん、何の用?」
明らかに機嫌を損ねた様子のトキコ。スザクはそんな彼女を見て苦笑しており、俺を警戒した様子はない。
報告では立ち位置がアースセイバーを離れ、現在はやや俺たちよりの中立にいるという。
こいつ自身も何かと個人的な仲間が多いが、UHラボの件がある以上俺たちにはつくまい。どちらかというとトキコ個人の味方というべきだろうが、今問題にするべきはそこではない。
「すれ違っただけならどっか行ってくれ。デートの最中なんだ」
「そーそー、せっかく二人きりなんだから邪魔しないでよ」
仲のいいことだ。だが、そんなことは今は関係ない。
だから、トキコに対しての切り札を切る。
「総帥に関することだ、と言っても聞かんか?」
「え!?」
トキコの顔色が変わる。スザクはどうだ、と見てみると、
「……トキコ、これは聞いた方がいいぞ。何かまずいことになってるかも」
「そ、そだね」
なぜかこいつまで動揺していた。おい、お前は別にグループのメンバーではないだろうが。
トキコと付き合ううちに感化されたのか、あるいはトキコ個人を心配しているのか。
まあ、どうでもいい。
59
:
スゴロク
:2016/09/13(火) 01:18:35
「では簡潔に言う。総帥との一切の連絡が途絶えた。そして、現在各地で潜入任務に当たっているメンバーの指揮は、今日から当面は俺が引き継ぐことになった」
「ホウオウ様と連絡が取れない……? な、何で? 何でいきなりそんなことに!?」
「あの自称絶対者が行方不明とか、まずないと思うんだけど僕」
「俺とて信じられんが、事実だ。ここに来る途中で何度か緊急連絡を入れてみたが、応答がないどころか回線自体が消えている。総帥に限ってやられたとは思えんが、何かが起こっているのは確かだろう」
「うー……」
「とりあえず、学生メンバーについては現状維持だ。ただ、最悪総帥からの命令は二度と来ない可能性もある。それを念頭においておけ」
「……考えたくないよ、そんなの」
ぽつりとトキコがそう呟いた。数いるメンバーの中でもこちら側の連中は、アイやバツ、サイナのように総帥に忠誠を誓っている連中ばかりではないが、トキコはその中にあっても異端に入る。絶対者としてではなく、いち人間のホウオウにある種の好意、憧憬を抱いている。
総帥に言わせればそういう「人らしい」ものは現状邪魔なだけらしいが、これは口が裂けてもトキコには言えんな。
「同感だが、現状を理解し、受け入れねばならん。……っと、ゼアからか。少し失礼するぞ」
言っている間に携帯が鳴り、出てみるとやはりゼアだった。ただ、連絡の内容は好転を告げるものではなかったが。
『まずいですよこれは……チネンや白奈、ユウムとも連絡が取れません。もしかすると、このいかせのごれ自体に何かが起きているのかも知れません』
「……了解した。連絡が取れたメンバーから順次報告を上げさせろ」
通話終了。
「トキコ、今日ユウムには会ったか?」
「へ? 普通に来てたけど」
「……そうなると通信ができていないのか……? よし、とりあえず明日登校したら潜入中のメンバーを集めてくれ。もちろんアッシュもだ」
「うぇ、一角君のニセモノも?」
「当たり前田のクラッカーサンドだ。奴もグループの一員、この状況では一人でも多く連絡をつけておきたい」
そんなことを言いつつ、俺はカザマとの会話のことを思い出していた。
烏天狗のヤツは、物事の流れを見ることが出来る。その時、ヤツはこう言っていた。
『なんだ、これは? ……大きな流れが見える……それも二つ? 片方には龍と虎、鳳凰が見える……もう片方には、多くの歪みが見える。これは、なんだ?』
ルーツには以前話したが、恐らく俺たちがいるこのいかせのごれは『多くの歪みが見える』方だ。つまり、総帥やケイイチ達が活動しているだろう『龍と虎と鳳凰が見える』流れとは屋根を同じくしながら決定的に分かれている。
そして、恐らくそれが、ついに相互に影響を及ぼせないレベルにまで離れてしまったのだろう。
もはや、このいかせのごれがどうなるのかは誰にもわからない。この日常がいつまで続くのかもわからない。
しかし、
「……もしかすると、俺達はこのままではいられんかも知れんし、ずっとこのままかも知れん」
「え……」
「だが、俺達がここにいるという事実は消えん。今までの道もな」
「自分の歩きたい道を行け。それが、今の俺達に出来る最大のことだ」
鴉と朱鷺と朱雀と
(神のいない世界でも)
(日常は、続いていく)
(きっと、これからも)
60
:
スゴロク
:2017/02/01(水) 23:39:33
足跡代わりに一筆。
いかせのごれも、随分と静かになった。
いや、僕はもう、とっくの昔にわかっていたんだ。
ここは、もういかせのごれではなくなっていたことを。
いかせのごれとよく似た、全く別の世界であることを。
何の変化もない、時の停止した世界。
同じ日常が、どこまでも繰り返されるだけの、停滞という名の永遠。
気付かなければ、あのままずっと、停滞した、しかし暖かな日々の中にいられたんだろう。
だけど、僕は気付いてしまったんだ。
だから、僕ももう行かなくちゃならない。
もう、みんな行ってしまった。僕の知らない、どこか遠い世界に。
敵も、味方も、仲間も、友達も、家族も。
アオイ、ランカ、ゲンブ、マナ、アズール、シュロ、母さん。
シスイ、ハヤト、ジミー、ノルン、ノア、店長さん。
百物語組のみんな。
学校に潜入してたホウオウグループ。
UHラボの残党ども。
そして、トキコ。
みんな、いなくなってしまった。残ってるのは、もう僕だけだ。
僕しかいない街。僕しかいない世界。
それでも、ねえ、トキコ。
お前さえいてくれれば、僕はきっと生きていられた。
どんな間柄でもいい。この世界にお前がいてくれれば、僕は大丈夫だった。
だけど、お前はいなくなってしまった。誰よりも真っ先に、僕の傍からいなくなってしまった。
トキコのいない世界。僕だけの世界。
そんなの、僕は耐えられないんだ。だから、さ。
僕も、そっちに行くよ。
もう、ここには誰もいない。別れを告げるべき誰かが、いない。
だから、僕も、そっちに行くよ。
ケイイチ達は、どうしたかな。
ホウオウグループは、どうなるんだろう。
ウスワイヤやアースセイバーは、大丈夫かな。
ああ、でも。
僕にはもう、何も関係ない。
僕は、トキコ、お前に会えるかな。
会えたら、お前は何て言うかな。
わからない。わからないけど。
もし、本当にそっちで逢えたら、その時は。
笑って、迎えてほしいな。
僕の大好きな、君へ
(そして)
(そこには)
(誰も、いなくなった)
61
:
しらにゅい
:2017/09/18(月) 19:49:35
鳥さん、ねぇ、鳥さん。
ずっとこの世界で取り残されてる、私の初恋の人。
私は強い鳥さんが大好きだけど、元気がない事を知ってびっくりしちゃった。
ううん、嫌いになっちゃったってわけじゃないの。ただ、本当に、びっくりしてる。
可笑しいよね、貴方がそんなに私を恋しく思うのならそれは嬉しい事だろうに、なんだか悲しいな。
でもね、鳥さん。鳥さんが好きな想いは、今でも変わらないよ。
もう一度、は無理かもしれない。けどまた貴女に笑って欲しいから、頑張ってみる。
カンキョーとか色々変わっちゃって今まで通りにはいかないけど、どうにかしようと頑張ってみるよ。
だから待ってて、貴女の事を決して忘れないから。また貴女と出会える場所を作るから。
砂浜に文字を綴り、木の枝を差す。こんなラブレターじゃ、彼女に届くか分からない。けれど、こうする事が一番ふさわしいのだと思う。
「待っててね、鳥さん。時間はかかるかもしれないけど、でも、忘れないから。」
嗚呼どうか、彼女に届きますように。
62
:
スゴロク
:2017/10/01(日) 11:52:05
―――やあ、火波スザク。
君にとっては初めまして、ボクにとってはお久しぶり、というべきかな?
おいおい、そんなに驚くなよ、《僕》。
覚えてないのかい? 君をこの世界から連れ出そうとした彼女のことを。
そうさ、ボクは君だ。彼女に連れ出されて別の世界に生まれた、もう一人の君だ。
全く、あまり手をかけさせないでもらいたいね。こっちもヒマじゃないんだ。
ああそうそう、忘れるところだったよ、本命の用事を。
トキコのことを覚えているだろう? ふふ、君が彼女を忘れるわけがないか。
しかしおかしなものだよね。性別どうこうはどうでもいいけど、明確に敵同士だったにもかかわらず、ここまで強いつながりを結ぶとはね。
どうやら、それは彼女の方も同じらしいよ。
……ああ、あったあった。
全く、けなげなものじゃないか。離れ離れになってだいぶ経つのに。
読んでみなよ。君ヘのラブレターを。……そう睨むなよ、《僕》。確かにボクは君と違って、彼女への思い入れはそうないけどね。
で、読んだ感想は……って聞くまでもないか。……思いっきり顔がニヤけてるよ。
さすがに再会の予定はボクにはわからないよ。大体ここに来たのだって、ほとんど偶然に近いからね。
だけど、同じ顔でそうしょげていられると気分も良くないからね。
さて、もう一つの用事だ。
と言っても実に簡単なこと。同じスザクであっても、君とボクは全く異なる存在だ。そのことを、もう一度はっきりさせておこうと思ってね。
君がいつまでもしょげてると、根底で繋がってるボクまで引きずられてダウナーになっちゃうんだよ。
わかっただろう? 君とトキコの繋がりは、まだ切れていない。
いつになるかはわからないけど、再会の時は必ず来る。信じろよ、心の底から愛した人を。
その時、君がしょげてたら、彼女は喜ばないと思うよ。
そう、その意気だ。
さあて、ボクもそろそろ帰らなくちゃならないみたいだな。
迎えが来たよ。忘れるなよ《僕》、ボクの言ったことを。
じゃあな、いかせのごれの火波スザク。
元気出せよ。
《ボク》からの伝言
(ああ、そうだな)
(僕は、待つよ)
(もう一度出会える、その時まで)
63
:
スゴロク
:2019/01/05(土) 19:01:51
おやおや。
いかせのごれも、しばらく来ない間に、すっかり静かになってしまいましたね。
まあもっとも、予想できた結末の一つではありますが。
ワタシもあれこれ好き放題やって来ましたし、敵もそれなりに多く作りましたが……こうして誰もいなくなると、やはり寂しいものですね。
彼らはいったい、どこへ行ってしまったのか。今、何をしているのか。
発展することもなく、さりとて朽ち果てるでもなく、ただ停滞したこの地にいるよりも、その方がよいのかもしれませんがね。
まあ、何ですか。
少なくとも、ワタシの……我々にとっての「神」は、未だにその手で生み出した我々を、そして我々の生きたこの地を、ここにいた全ての者たちを、忘れていないようですよ。
機会さえあればこの世界を覗き、今はワタシを送り込むほどには。
過ぎ去った日々、消え去った者たち……過去を懐かしむのも結構ですがね。
ワタシ個人として言わせていただければ……まあ、向こうからすれば不本意かも知れませんがね。
もう一度出会うことがあれば、と。そう思いますよ。
その時は恐らく、今度こそ忖度抜きの潰し合いになるでしょうが……正直な話、そうなる時を待っているような気もするのですよ。
……フッ、このヴァイス=シュヴァルツともあろう者が感傷に浸るなど。
では、そろそろお暇するとしましょうか。
願わくば、次にここを訪れた時……そこに、誰かがいることを願いますよ。
もっとも、その時遣わされるのは、ワタシではないかもしれませんがね。
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