[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
| |
企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.4
36
:
思兼
:2014/04/20(日) 03:45:02
白い二人とおばけさん〜アリスといっしょ〜 より、続きです。
キャストは前回と同じです。
【人工ファンタズマ】
第15話、心を持った機械の話。
アリスはサイボーグである。
その内臓の大半は人工物に置き換えられ、筋肉はCNT製の人工筋肉で、人間サイズの体躯ながらそのパワーは超大型ダンプカーと力比べをしても圧倒してしまうほどで、極限状態での活動も可能、更には脳に埋め込まれたチップで高度な演算能力と判断力も備える。
ここまで過剰な性能を持つのも、元々アリスは戦闘・決戦用サイボーグとして改造されたことによるらしく、現行技術を遥かに凌駕するオーパーツ・オーバーテクノロジーの塊だった。
誰が何の為に作ったかは不明だが、結局静葉によって起動され現在はシリウス団に所属している。
元々のアリスがどんな人間だったかは不明だが、現在のアリスは感情に乏しい。
改造の影響らしく、徐々に取り戻しつつある今でさえまだぎこちなく不自然な面が多々ある。
だが、アリスは決して無感情なんかではない。
ある意味団の誰よりも静葉のことを思い慕っているのはアリスだし、表現できなくてもアリスにはちゃんと喜怒哀楽がある。
悩むこともあれば怒ることもある、ただ表現できないだけで。
それでも、アリスは感情を現せないことを思いつめている。
小さな2人の子供にそれを言われた時、アリスの心に影ができた。
自分は何なのだと。
本当は機械が人間のフリをして滑稽に人間を演じているだけかもしれない。
そもそも、決戦兵器の自分が感情を語るなど、おかしな話なのかもしれない。
だからアオとコオリの2人の問いかけに、答えることができなかった。
同時にそれは宣告のようにも聞こえた。
『お前は人間じゃない、戦争兵器だ』と。
うれしいや楽しいとは何かアリスには分からないし、そんなことを表現することさえできないのだから。
本来自分はただ機械的に敵を殲滅し、やがては敵に破壊されるか役目が終わった後で朽ちて消え去るだけの存在だったのだろうことを、アリス自身はよくよく理解している。
それがどうしてか、感情を持った、あるいは少しだけ取り戻した。
だからこそ、思い悩んでいる。
「アリス?」
「どうしたの?」
「ううん、アリスがなにかいやなかおしてたから。」
コオリがそういう。
微細なアリスの表情の変化を捉えることができたのはこの2人だったからだろう。
「…大丈夫だ、心配しないで。」
それでもアリスは、隠した。
また宣告されるのが、怖かったから。
「そう?じゃあ、おばけさんさがそう?」
アオがアリスの手を引く…遠くにはトンネルが見えた。
なるほど、確かによくある心霊スポットだ。
「(静葉…僕は、何なんだろう?)」
アリスの心は曇ったままだった。
本当に兵器なら『曇る心』など、無いはず…そんな些細なことに英知の結晶は気づけないまま、歩を進めた。
<To be continued>
37
:
思兼
:2014/04/20(日) 03:49:03
もう一つ投稿、シリウス団がついに本格行動開始。
【改変ミリオンズ】
番外編、大胆不敵な話
「全員揃っているか?」
「勿論だよ静葉!で、今日は何をするんだい?」
「大丈夫だ静葉、初めてくれ。」
私の言葉に反応したのは団のメンバーであり、その中でも最古参の一人でもある亮と影士。
二人だけでは無く『集会場』にはどうやら全てのメンバー(構成員)が揃っているようだった。
「じゃあ確認だ…団長、静葉。」
「副団長、影士だ。」
「はいは〜い!亮でぇ〜す!」
「何でお前はそんなテンション高いんだよ。あ、優人な。」
「御主人様がそんなテンション低すぎるだけかと。皆々様のアイですよ〜」
「あはははははは!シャルルあはははははっ!」
「シャル…挨拶はきちんとな。ああ、重久だ。」
「ふぁ〜あ、眠い…しかもうるさい。ニコラスだ…寝起き頭に響くから静かにしてくれよ。」
「アリスだ、ちゃんといるよ。」
「直子博士降臨!へっへ〜ん、このためだけに授業休講にしちゃった♪」
「ダメ大人発見…成見ね。」
「アルルだ。静葉が呼んでるって聞いてね、どんな要件だい?」
「ダニエルだぜぃ。静葉、この前頼まれてた情報リサーチしといたから。」
どうやら全員漏れなく居るらしい、良かった。
今日話すことはそうそう適当なことではない…いや、かなり重要な案件で俺たちの今後の活動を方向付けるであろう内容だ、その通達と行動開始の宣言の為にも、どうしても団の全員を招集する必要があった。
「いいか、今日話すことはかなり重要なことだ。」
喋っていた皆が静かになる。
私がこうやって前置きして言うことがどれだけ重要なことか、皆は察しがついている。
流石、家族に等しいメンバーたち。同じ目的を持つ結束した団員。
それだからこそ俺は安心してこの決断ができて、この作戦を開始することができる。
「ああ、これよりシリウス団は『アースセイバー長期諜報作戦』を開始する。」
私の言うことに薄々感づいていたのか、影士や亮を筆頭に、皆さして驚いた素振りは見せない。
ただ、少し緊張したように感じる。
緊張するのも、無理もない。
『あのアースセイバー』を相手に諜報作戦を敢行することがどれだけ危険でリスクあることか、それは他でもない俺が一番よく理解している。
だが、これ以上この都市の暗部に触れる為にはこれしか方法は残されていない。
俺たちは俺たちの望みを果たすため、もう立ち止まれないのだから。
「それならメインの諜報部隊は俺と亮か?」
影士が言う通り、影士の『影走り』と亮の『かくれんぼ』は諜報作業に最適だ。
「そうなるな。あと、未来視のできる成見だ。後方支援は博士、ハッキングにはダニエルとアイが中心となってやって貰う。そして…」
そこまで言って俺は一度口を閉じる。これは出来れば言いたくないことだった。
「戦闘部隊はアリスとニコを中心にやって貰う。」
俺たちは超能力者の集団『シリウス団』だ。
奴さんたちにとって『野放しの超能力者』である俺たちは犯罪組織『ホウオウグループ』とさして変わらない存在だろう。
万一俺たちの素性がバレたら、間違いなく摘発隊が来る。
もしそうなった場合、それを拒む俺たちは全力で戦わなければならない。
現行技術を遥かに凌駕するテクノロジーがふんだんに使われた元々戦闘・決戦用サイボーグであるアリス、数百年もの時を生き人智を超えた力を振るう真祖の吸血鬼ニコラスの2人はシリウス団の保有する最大戦力でもある。
だが、公認組織に対してそれで対抗できる筈は無い。
せいぜい秘密を知った隊員を全力で強襲し『口封じ』するのが関の山だ…無論、仮に完全抗争状態となった場合でも俺たち最期まで徹底抗戦を行い、戦い果てることを選ぶだろう。
人として生き、人として死ぬ為にも投降してその保護下に置かれる訳にはいかない。
だからこそ、隠密を貫く必要がある。
「大丈夫だ静葉、あたしたちがみんなで静葉を支えるから。」
ライカンスロープ(のワーパンサー)であるアルルが俺の方に手を置きながら、そう言ってくれた。
皆もアルルと同じ気持ちらしく(シャルルすらも)静かに頷く。
「…そうだな。全ては俺たちの目的の為に。」
暗部に潜り込み、グレーゾーンに足を踏み入れてまで俺たちが目指すもの。
『超能力を捨てて、普通の人間として生きるため。』
全員の声が重なった。
<To be continued>
38
:
えて子
:2014/04/20(日) 14:29:26
佑のお話。
十字メシアさんから「角枚 海猫」、名前のみスゴロクさんから「赤銅 理人」をお借りしました。
とある日の放課後。
佑は、いつものように図書室のカウンターで本を読んでいた。
「………」
頬杖をつき、どこか心ここにあらずといった表情でページをめくる。
当然というべきか、本の内容など少しも頭に入ってこない。
佑の頭の中は、先日のことで一杯だった。
特殊能力のこと、それを巡る組織のこと、自分のこと。
あの日以来、それらを考えなかった日は一日もない。
本を閉じると、深くため息を吐いた。
「…佑、来たよ」
扉を開ける音と共に、そう声がかかる。
佑が顔を上げると、親友の海猫がちょうど車椅子を押して入ってくるところだった。
「ごめんね、急に呼び出して」
「ううん、平気。どうかした?」
「……。話したいことがあってね…ちょっと待ってて」
そう言うとカウンターから立ち上がり、図書室内をぐるりと歩き回る。
図書室内に自分と相手以外誰もいないことを確認すると、扉へ歩み寄り鍵をかけた。
「…佑?どうして鍵なんか…」
「ん…ちょっとね。海猫以外にはあまり聞かれたくないから」
誰か入ってこないように保険、と困ったように笑う。
その様子をみて、海猫は軽く目を丸くした。
「そんなに聞かれたくないことなの?」
「うん、まあ…正直、今も海猫に話していいのかどうか…迷ってる」
珍しい。それが海猫の本音だった。
あまり相談事をしない佑がこうして呼び出すこともそうだが、いつもはっきりと物事をいう彼女がここまで歯切れが悪いのも珍しいことだ。
「それで、話したいことって?」
「うん。…その前に聞いておきたいことがあるんだけど…」
「ん?何?」
「…海猫さ、“特殊能力”って…知ってる?」
「え…?」
「…知ってる?」
ゆっくりと、言葉を確かめるように問いかける。
ぐっと拳を握り、強張った表情で海猫の目を見る。
海猫は最初驚愕の表情で佑を見ていたが、嘘や誤魔化しは通用しないと思ったのだろう、やがて小さく頷いた。
39
:
えて子
:2014/04/20(日) 14:30:34
「………そっか」
海猫が頷いたのを見て、佑は安堵の表情で息を吐く。
「よかった、何それとか言われなくって…海猫、現実的だからこの時点で一蹴されるかと思った」
「さすがにこれを妄想だとは言えないよ。佑がここまで悩んでるってのに」
「ん、うん…悩んでるというか…一度にいろんなことがありすぎてついていけてないというか、何というか…」
「ゆっくりでいいよ。落ち着いて」
「う、うん…ありがとう」
軽く深呼吸をして気を落ち着かせると、言葉を選ぶように続きを話し始める。
「…それで、その特殊能力なんだけどね……どうも、私、持ってるらしいんだ」
「…嘘」
「本当。……私も、聞いただけなんだけどね…どうもあるみたい」
ゆっくりと話す佑の言葉を聞きながら、海猫は驚愕しながらもどこか納得していた。
それもそうだ。以前パニッシャーと戦った時、赤銅という人物は「佑がパニッシャーに襲われていた」と言っていた。
能力者以外は襲わないパニッシャーに目をつけられた時点で、佑が能力者だということは確定されたようなものだ。
それでも、やはり驚きのほうが大きかった。
「……そう、なんだ。…どんな?」
「うん……理人さんが言うには、コピー…なんだって」
「コピー?」
「うん。その…特殊能力を持っている人の血がかかると、その人の持っている能力を使える…とかって聞いた」
「聞いたって…その理人って人に?」
「…うん。らしいとか、そういうのばっかりでごめん。…私もほとんど分からないんだ」
本当にごめん、と頭を下げる佑に、気にしていないという意味を込めて首を振る。
「仕方ないよ。佑も知ったの最近なんでしょ?」
「う、うん…ごめん。あ、あとね…」
「ん?」
「その……勝手に呼び出して一方的にこういうのいろいろ喋って、さらに我侭なお願いなのは分かってるんだけどさ…よかったら、この話は内緒にしてほしいな〜…なんて…」
「…?それは構わないけど、何で?」
「あ、あの、理人さんがね…特殊能力を持っているって知られるといろいろ狙われたりするから、本当に信頼できる人にだけ話して、後は隠して生きろって…」
「……それで、あたしに話したの?」
「うん。……現時点で、身近にいる一番信頼できる人って、海猫ぐらいだから。海猫、人の秘密を周囲に漏らすような人じゃないしさ」
そう言って佑は海猫を見た。
海猫のことを、欠片さえ疑っていない。そんな表情だった。
「………分かった。言わないよ。誰にも、絶対に」
「……ありがとう、海猫。あと…ごめんね、こんなこと急に話しちゃって」
「いいって。あたしで良ければいくらでも聞くよ。親友の頼みだしね」
「…ありがとう。本当に」
ようやっと、佑にいつもの笑顔が戻る。
それを見て、海猫も笑った。
図書委員長の内緒の話
「…あ、佑。佑の能力のことは、誰も知らないの?」
「うん……教えてくれた理人さんと、今話した海猫以外は知らないよ」
「…この話を誰かが聞いちゃってたら、分からないけど」
40
:
スゴロク
:2014/04/29(火) 00:15:22
前回の続きです。詠人関連はひとまずこれでひと段落です。「キリ」「アズール」「シュロ」をお借りしています。
赤い世界が解け崩れ、見慣れた町並みが戻ってくる。
その中で、マナは自らが呼び寄せた存在――――百物語組の一人、キリと向かい合っていた。
「ありがとう、キリさん」
「礼には及ばないでありマス。むしろ、僅かなりともこうして言葉を交わす場を用意してもらった小生こそ、礼を言いたいところでありマス」
軽く会釈してハサミをどこかへしまうキリ。その彼に、狐の姿に戻ってランカの腕に抱かれるアズールが呟く。
「……どないなっとるんや……キリさん、しばらく前にシン・シーに殺されたんと違うんですか」
「それは事実でありマス。小生の消滅により、その部分が空席となっているのも承知でありマス」
ではどういうことか、と問いたげなアズールに、キリは「つまり」と前置きして簡単に説明する。
「小生ども百物語組は、主の能力によって妖怪という形で実体を与えられた魂でありマス。裏を返すと、主の『語り』によって鬼門を潜らぬ限り、百物語組とは看做されないのでありマス」
「つまり……どういうことなんですか?」
ランカの問いには、キリではなく状況を見守っていたブラウが応えた。
「主……秋山春美の持つ、ある種のネットワークにかからなくなっており、かつ能力の影響からも外れている。そういうことか」
「正解でありマス。現在の小生は、マナ殿の力で一時的にかつての姿と力で実体化した、いわば『切り裂き魔のとおりゃんせ』の模倣でありマス。次に小生が百物語組として現れることがあらば、その時はこのままなのか、百一話として新たな姿を得るのか……それはまだ不明でありマス」
「それじゃ、あんまり長くはこっちにいられないのか?」
シュロの問いには、頷くことで肯定する。
「残念でありマスが、小生に残された時間は残り僅かでありマス。今はマナ殿の結界のおかげでこうして話していられるでありマスが、それでももうすぐ鬼門の向こうに戻ることになるでありマス。ゆえに、主やクランケ、ミサキの元に戻る時間もないのでありマス」
語るキリの様子は心底残念そうだったが、どうすることも出来ない。
もとより、今こうして存在していること自体がイレギュラーなのだ。それを成したマナこそが、むしろ恐るべきといえる。
「なので、どなたか伝言を頼まれて欲しいのでありマス」
「僕が聞くよ。内容は?」
伝言を請け負ったスザクに、キリは一つ頷いて言った。
「では、ミサキに伝えて欲しいのでありマス。小生は、決して裏切られていない、と」
「え?」
「もう一つ、これは主と、百物語組の皆にでありマス」
薄く透け始めた体で、キリは言う。
「待っている、と」
「……わかった。確かに伝えるよ」
「かたじけないのでありマス。それと、最後に一つだけ」
消えかけた顔で真剣な表情を作り、「切り裂き魔のとおりゃんせ」は最後にこう言った。
「確証はないのでありマスが、近いうちに大きな戦いがあるような予感がするでありマス。どうか、お気をつけて」
「え……!?」
だが、その意を問う前にキリの姿は完全に消えてしまった。
同時、“リミテッド”の結界がほどけて通常の世界が戻ってくる。
41
:
スゴロク
:2014/04/29(火) 00:16:27
「……まだ、終わらないみたいね」
呟いたのはマナだ。ランカの方を見て、まず口を開く。
「お姉ちゃんとアズールは家にいて。この先何が起こるかわからないわ」
「う、うん。マナちゃんも気をつけてね」
「マスターはうちが守りますよって、ご心配なく」
「お願いね」
次に、シュロの方を向いて言う。
「シュロ、あなたはミレイを探しておいてくれない?」
「ミレイ、って……こないだランカちゃんトコに来た妖怪の子か? あの子がどうかしたのか?」
「自分を捨てた持ち主を探して回ってる『メリーさんの電話』の子なんだけど……方向音痴で、ここ最近戻ってないの。多分どこかで行き倒れてると思うから、見かけたら回収してくれる?」
「回収って……んー、まあ、わかった」
「お願いね。あの子、ほっといたら死ぬまで家に帰れないかもしれないもの」
一度はスザクの家に電話をかけてきたはいいが、道が分からなくなって迷いに迷い、最後には「迎えに来て」と泣きついたという話は記憶に新しい。
「……スザク、あなたは秋山神社に伝言お願い」
「わかってる、そのつもりだ」
「ヴァイスには最大限の注意を払っておいて。今のあいつはどこにいても、どんな形で何に関わっていてもおかしくない。下手をすると今までの事件が全部自分の仕業だって言い出しかねない」
現在のヴァイスは事象の「原因」となるための偏在だ。解決されないまま藪に紛れた事件に「実は」関わっていても不思議はない。
その危険性は理解しているのだろう、スザクも神妙な面持ちで頷く。
「それと……あら?」
次に声をかけようとした相手・ブラウは、結界が解けると同時にいつの間にか姿を消していた。よく見ると千鶴の姿もない。
「……いつの間に」
特に千鶴には、マナとしても色々言いたいことがあった。詠人を阻んだあの攻撃は、特殊能力によるものではなかった。
マナの知識では、アレは土地神の類が使う力にとてもよく似たものだった。
(なぜ人間があの力を?)
聞いてみたかったのだが、いないのでは仕方がない。放置しておくと色々と起こりそうな気がするのだが。
(まあ、仕方がないわ。今はそれよりも、気にすることがあるから)
最後に目を向けたのは、覇気なく佇む詠人。彼にかける言葉は、指示ではなく問いかけ。
「あなたは、これからどうするの?」
「…………」
答えは返らない。復讐の動機も理由も失った今、彼に目的はない。
マナとしては思うところがないわけではなかったが、同情はしなかった。いくら操られていたといっても、それで全てを許せるほど彼女は大人ではない。
「わからないなら、分からなくていいわ」
「!」
「私は夜波 マナ。それだけよ」
自身の存在を告げるそれは、詠人を受け入れるように見えて、はらむ意味はまるで反対。
どんなに言い方を変えても、マナにとってはそれが真実。
「今の私には家族がいる。お兄ちゃん……あなたが操られていたとしても、あなたのしてきたことが許されるわけじゃない」
「……わかってる」
「私には、もう家族がいる。そして、そこにあなたの居場所はないわ」
マナがヴァイスと戦った理由は明らかだ。悪意のままに人をもてあそぶ、ヴァイスが嫌いだから。
それだけだ。そこに、詠人の敵討ちという目的はない。どんな経緯があったにせよ、詠人のして来たことを許すつもりは、マナにはないのだ。
だからこそ、因縁に決着がついた今、二人がすべきことは和解ではない。本当の決別と、それぞれの道を歩むこと。
だから、マナは告げる。もう、あの時には戻れないのだと。
スザクやランカの時とは、違うのだと。
――――二つの道が交わることはあれど、重なることは二度とないのだと。
42
:
スゴロク
:2014/04/29(火) 00:17:27
「……そうか」
「そうよ」
呟きには、容赦ない断言が返る。その意味を飲み込むかのように何拍かの時をおいて、詠人は顔を上げた。
「……なら、それでいい」
「……本当にいいのか? 詠人。お前は、それで……」
当惑したようなスザクの問いに、詠人はどこかすがすがしい表情で応えた。
「未練はある。けど、許してもらおうとは思わない。僕はそれだけのことをして来た」
「なら……本当に、これからどうするんだ」
「さてな。とりあえずはいかせのごれを放浪して見るさ。幸い、ツテはそれなりにあるんでね」
肩をすくめる詠人。そこには、戦う前の狂気や焦燥は欠片もない、ただの少年の姿があった。
そんな彼に、マナはあくまで冷静に言う。
「……なら、わかってるわね」
「ああ。……お別れだ、マナ」
「ええ。今度こそ、本当に」
そうして、
「さよならだ、マナ」
「さようなら、お兄ちゃん」
兄妹の道は、再び分かたれた。
あなたに、さよならを
(別れ際の、最後の瞬間)
(背を向けた兄は寂しげに笑い)
(見送る妹は、少し泣いた)
(あの時も、見えなかった)
43
:
スゴロク
:2014/06/20(金) 10:36:17
スザクの能力についての話。単発です。
「……うーん」
その日、スザクはウスワイヤの訓練施設で一人頭を抱えていた。
周囲には破壊されたターゲットの残骸が散らばっているが、それが床といわず壁といわずそこら中にめり込み、あるいは突き刺さっている辺り、彼女が行っていた戦闘訓練の凄まじさを物語っている。
ここまで出来れば十分に一線級なのだが、彼女が悩んでいるのはそこではない。
「やっぱり、維持が難しいなぁ、朱羽剣」
カチナとの戦いで限りなく死に近づいた結果、元々持っていた特殊能力が変化した「焔天朱鳥」。それに伴い幻龍剣から進化した新たな武器・朱羽剣についてだった。
何を悩んでいるのかというと、この武器、形状の維持が難しい。
初めて使ったときは柄の部分がクチバシに変わっただけだったが、2度目の時は黒い蛇腹剣になっていた。3度目の今回は、なぜか真紅の刀身を伸ばした片手持ちの直剣。
しかも短時間しか持たず、形状の指定も出来ない。
強力ではあるが、なかなかに使いにくい武器だった。とはいえ、これを使いこなせなくては新たな能力を制御するのは難しい。辛うじて翼を構成しての飛行は会得したが、実際にはかなり使いどころを選ぶ能力だった。いまや名ばかりとはいえウスワイヤに属している以上、おおっぴらに能力を使うわけにも行かない。
「本当にコレ、どうやって使うんだ? 出し方としまい方はわかるけど」
軽く手を振ると、剣は赤い光になって消えた。多分ここにヒントがあるのだろう、とは思うが皆目見当がつかない。一度シノに聞いてみたこともあるが、前例がなさ過ぎて推測も困難だといわれた。
とどのつまり、現在スザクがここで訓練をしているのはそこに起因する。つまり、
「お疲れっス、スザク」
「シノさん」
外で訓練の様子を最初から最後まで見届けていたシノに、この力に関する解析をしてもらうためである。
「知識の悪夢」を持つ彼女の力は、いわば完全記憶だ。彼女はこれを使いこなすために、常日頃から「わかる」ための努力を重ねている。現状のアースセイバーでは、彼女以上の知識人はまずいないと言ってよかった。
「それで、どうでしたか?」
「んー、そうっスね……」
スザクの訓練の光景をつぶさに記憶したシノは、早速それを引き出して鍛えに鍛えた理解力と思考回路で分析を試みる。
「……アタシの考えだと、『焔天光』って言ったっスか? アレがキモっスね」
「焔天光が?」
「そうっス。あの剣は、多分あの光で構成された、いわばオプションっスね」
「……翼や盾と同じで、剣も焔天光から構成されたってことですか?」
頷くシノ。
「多分、スザクが本能的にイメージしてる、その時々で必要な剣の形を、そのまんまトレースしてるんスよ。はっきり意識したわけじゃないから、長時間維持することは出来ない」
「僕のイメージを……『偽』の時はそんなことなかったのに」
「大本の『龍義真精・偽』からして、ケイイチ君のアレとは全然違ってたっスからねぇ。ましてやそれが進化したとなると、どこまで行っても仮説の域を出ないっスよ」
デッド・エボリュート。スザク以前にはただ一人、都シスイだけが覚醒している、いわば「特殊能力のナイトメアアナボリズム」。アナボリズムの根源自体未だ不明瞭だというのに、その詳細がわかるはずもない。
「でも、シスイは思いっきり使いこなしてるんですよね……僕はそこが悔しい」
「アタシも一度見せてもらったっスけど、アレはスザクのと違ってスイッチが利く上に、元々の能力をそのまんま強化した力みたいっスからね。ノウハウは同じだし」
「むー……負けてられない」
ぐ、と拳を握り、一人対抗意識を燃やすスザクであった。
その頃、彼女の心の底。
「……よかれと思って構成の手助けしたけど……邪魔だったかしら?」
主人格・綾音は一人、ありもしない冷や汗を流していた。
朱雀、麒麟に対抗する
(片やのんびり、片や緊迫)
(この温度差は、何だろう)
十字メシアさんより「シノ」をお借りしました。
44
:
名無しさん
:2014/07/13(日) 12:06:29
※抱えた爆弾シリーズの佳境になります。
しらにゅいさんとの合作です。画面越しの表現って難しいですね。
<災厄の蛟と対峙する鬼>
ショウゴがボロ雑巾にされ、死線を彷徨ってから1週間後。
道着の帯にモデルガン二丁を挟み、その上からスポーツ用の
ベンチコートを羽織り、ショウゴは川原に立っていた。
川原は増水し、積んであった工事用の資材が風でガタガタと揺れていた。
のちに、とある男はまるで激しい嵐のような戦いだった、と語った。
のちに、とある女はまるで激しいダンスのようだった、と語った。
恐らく監視カメラをハッキングしたのであろう画面には、ショウゴの姿だけが写っていた。
何かをしゃべっているが、生憎音声はついていない。
やがて画面外から女が姿を現した。ミヅチである。
いくつか言葉を重ねているようだったが、聞き取れない。
画面の前にいる者が、チャンネルを変える。
別視点からの映像。先ほどのカメラよりも少し遠く、唇の動きすら読み取れない。
画面の中で動きがあった。先に動いたのはミヅチだ。
出雲寺を襲撃し、ショウゴを嬲ったのと同じ動きだった。
瞬間的な移動によるヒット&ウェイ。真正面に現れ、掌底で顎を打つ。
一瞬ひるむが、掴もうと手を伸ばすショウゴ。恐らく無意識で。
勿論その手がミヅチを掴むことは無く、たやすく瞬間移動で逃げられ後ろに回られ首を絞められた。
極められれば一瞬で意識を刈られると言われる絞め技だが、ショウゴは頭突きしながら押し潰すように後ろに倒れ込み、衝撃で緩んだ拍子に抜け出した。
柔道での経験が役立ったのだろう。あるいは体格差もか。
再び正面で相対し、何かを言い合う。風雨が激しくなってきた。
ブツ、という音と共に画面がブラックアウトする。
再びチャンネルが切り替わり、別視点。
画面が切り替わった途端、ショウゴが抜き撃ちを始めた。
数秒もしないうちに撃ち切ったのか、ピースメーカーを即座に仕舞うとコルトパイソンに切り替える。
が、切り替えた所を肉薄され、防戦一方になる。
鳩尾、鎖骨、こめかみなど急所を狙われた。
そして、信じられない事が起こる。
ショウゴが撃ったわけでもない。
第三者の介入があったわけでもない。
突如、ミヅチの腿から血飛沫が上がった。
驚くミヅチと、ニヤリと笑うショウゴ。
その正体はさらに別視点のカメラに切り替えた途端明らかになった。
縦横無尽に付近を飛び回る弾丸が写る。
それは、ショウゴが先に撃った弾丸だった。
さながら「魔弾」のように飛び回る弾丸。それに驚いたミヅチだったが、さらに衝撃は続く。
付近に落ちていた鉄パイプが爆ぜる。
その鉄パイプの延長線上にいたミヅチの体が吹き飛ぶ。
鉄パイプを銃身とし、空気を圧縮し弾丸として発射したのだ。
ショウゴの能力は射弾の悪夢。鉄パイプは元からの能力で発動できる。しかし、魔弾のように撃った後の弾の調節が出来るのは、その力のおかげでは無い。
2度目の死の間際に訪れるという「デッドエボリュート」。彼の体にも発症したのだ。
瞬間的な移動で翻弄し、接近してショウゴをタコ殴りにするミヅチと、
それを追う魔弾。
やがて動きを捉えられ、足を傷つけられ、ミヅチは膝を折った。
ショウゴの顔は腫れあがり、肩は外れ骨は折れそれでもなお立っていた。
45
:
しらにゅい
:2014/07/21(月) 10:27:22
【蛟という女】
ラーメン屋『大将』は、どこにでもあるようなラーメン店だ。
いかせのごれ駅前から少し歩き、雑居ビルとの間に挟まれている古くて汚い店。
でも、自分の味だけで勝負する頑固な大将が作るラーメンはとても美味しくて、高い評判を得ている。
流行りに乗らず、何があっても揺るがないその姿勢だからこそ出せる味なのだろうと思う。
そんな大将に、どうせなら学生向けにトッピングを全部乗せたラーメンを出してみてはどうですか、と冗談で言った事がある。
おめぇはバカか、と罵られてしまったけども、次の日には『トッピング乗せ放題』と書かれた看板が出てた時は嬉しかった。
もし、美奈子様を坊と救出出来たとしたら、私はずっとここで働き続けたいと思う。
身分を隠している事を知っているのに、ここにおいてくれた大将に個人的に恩返しがしたいのだ。
…あぁ、でも給料は今より増えなさそうだな、多分。
----
右足に、激痛が走った。
「…っ!?」
超音速の世界の中で何かが私に当たるとは有り得ない。だが目の前の坊が、ニヤリと笑っている。
事態が飲み込めないまま、私は痛さに耐えつつ正体不明の何かから逃げる。しかし、逃げ切れる気がしない。
(いったい、なに…が…っ!?)
視界の端に捉えた、銀色の輝き。あれは、坊が撃った弾丸だ。いや、驚くところはそこじゃない。
弾丸は自ら意志を持っているように動き、私を狙っている。壁か何か、障害物にでも当たらない限り、あんな複雑な動きを出来る筈はない。
坊の持つ"悪夢"とやらも、そんな能力でない事は事前の調査で分かり切っている。そもそも今戦っているこの場所は、障害物というものも少ない。
なら、あの魔弾は一体何だ。
「…まさか、がはっ!?」
考えが直結する間もなく、腹部に衝撃が走り、身体が横に飛ぶ。
あまりの強さに、意識が飛びかけた。
----
46
:
しらにゅい
:2014/07/21(月) 10:32:42
「メグミ、客だ。」
「え?」
とある雨の日のことだった。昼過ぎの午後に食器を洗っていると、隣で湯を沸かしていた大将が顎で入り口を指したのだ。
視線を向ければ、和服に身を包んだ黒髪の女の子が傘を畳んでこちらを見ている。
数日前、どこかの屋敷で見た組長さんじゃないか。
「こんにちは。」
にこやかな笑顔で挨拶する彼女…出雲寺愛澄さんから、敵意は感じなかった。
どのような意図で来たのかは気になったが、私もいつも通りに挨拶をしたのだった。
「いらっしゃいませー!お席にどうぞ!」
愛澄さんは頭を軽く下げた後、私の前にあるカウンター席へと座る。今日の悪天候で客は1人もいなかったので、カウンター席も彼女1人だけだ。
注文は、と聞けば、凛とした声で、味噌ラーメンをお願いします、と返される。大将は沸かした湯に早速麺を入れて作り始めている。
私は冷やを作り、彼女の目の前に置くと愛澄さんは1人にも関わらず、こそ、と話しかける。
「今日、アキトに内緒でここに来たんです。」
「あらら、お忍びって事ですか。」
「きっと言ったら止めてましたから…」
「あの方、ちょっと過保護なとこありません?」
二人で笑うような、そんな他愛のない話をしていると大将は無言で味噌ラーメンを愛澄さんの前に置いた。
出来たてほかほか、湯気のたったラーメンから味噌のいい匂いがして思わず唾を飲み込んでしまう。
…と、ラーメンを眺めていたら、大将は営業中にも関わらず頭の布を取り奥へ消えようとしたので、私は慌てて引き止めた。
「ちょ、大将?!どこいくんですか!?」
「今日はもう閉めだ。メグミ、戸締まりしておけよ。」
そうぶっきらぼうに言って、大将はさっさと出て行ってしまった。
大将の突拍子もない行動は今に始まった事ではないけども、込み入った話だろうと、私が言う前に察してくれたのだろうか。
大将の粋な計らいに少しだけ笑い、私は愛澄さんへ向き直った。
「さて、ご用件を伺いましょうか。わざわざ足を運んでくだすったんですから。」
愛澄さんは割り箸を割って、麺を口にしている。ずず、と麺を啜る様子は優雅だが、とても美味しそうに見える。そして、割り箸をどんぶりの上に置くと改めて話を切り出した。
「本日は、貴方の…ミヅチさんのお話を聞きたくて、足を運びました。」
「私?」
「ええ。」
どのような意図があるのだろうか、と思わず腹の中を探ってしまう。
日和組…とはいえ、腐っても組長の器に収まっているのだ。何の目的もなしに足を運ぶわけはないだろう。
言動のひとつひとつを逃さないように、彼女を注視する。
「…これは、あくまで私の憶測ですが、」
彼女の、憶測。
「ミヅチさんは、ショウゴさんを殺すつもりはないと思います。…何か、別の目的があるのではないでしょうか。」
「………」
愛澄さんは確信を持っているのかのように、真っ直ぐ私を見つめている。
予想が外れていたら、私は今頃大笑いしているところだろう。そう出来ないのは、その憶測が当たっているからだ。
「…確かにアタシは、坊を殺すつもりはありません。」
ふ、と微笑んで、アタシは答える。
「その、目的は。」
「妹様…ミナコ様を救出する為です。」
愛澄さんは目を見開く。知らない様子ではなさそうだ。
アタシは、スムーズに話が進みそうだと思いながら、胸の内に秘める目的を愛澄さんへと伝えたのであった。
----
47
:
しらにゅい
:2014/07/21(月) 10:35:54
アタシの義父にあたる九鬼兵二が得体の知れない女を連れてきた。
冷たい目の女だなと思った以外は特に何も感じなかったが、その数日後、義父は突然、鬼英会を襲撃したのだ。
まだ数年燻るかと思っていたが、あの女に押されるように、あっという間に壊滅まで追い込んでしまった。
あの女の、得体の知れない力のせいだ。武器をもっても、女にも化け物にも当たらない。世話になった総長も殺され、ついには妹の美奈子様にも手をかけようとした。
咄嗟にアタシが前へ出て、叫んだ。
『ミナコ様は坊の…ショウゴ様の妹だ!あの方は仁義に厚い、今ここでミナコ様を殺してはアタシらは不利になる!
貴方は人の感情が分からないだろう?この世界にも、血の繋がりで事が有利に進むことがあるんだ…この程度の事で判断を見誤ってしまえば、いずれ貴方は喉元を掻き切られてしまう!』
命乞いにしては随分陳腐な台詞であっただろう、しかし結果として美奈子様は命だけ助かった。
ただし、美奈子様の身柄をあの女に渡す、という条件を突き出された。幸い、美奈子様は五体満足で帰ってきた。ニエンテという名前を与えられ、感情を奪われた以外は何も変わらずに。
もう、アタシの声は美奈子様に届かない。唯一救えるのは、もはや肉親である坊しかいないと悟った。だから、坊にはこの事実を知って貰って、美奈子様を助けなければいけない。
これが、私の全ての目的だった。
「…坊は、やる男だと私は思っています。でも、坊がアタシを倒せなければ…その時は坊を殺し、アタシは死んでも美奈子様を助けに行きます。」
「待ってください、そんな思いを抱えていたのなら、どうして素直に伝えなかったのですか…!?ショウゴさんだって、聞き入れてくれる筈…!」
愛澄さんは戸惑った様子で、アタシに問い掛けた。
どうして素直に伝えられなかったのか。確かに、ありのまま事実を伝えていればもっと安全に事を進める事が出来たかもしれない。
だが、アタシも所詮は、囲われている者に過ぎないのだ。
それを愛澄さんに今、伝える必要はない。
「今の坊では殺されてしまう。強くなって、私を乗り越えて貰わなければミナコ様は救えない。」
それなら、と続ける。
「アタシは坊の敵に、喜んでなってやりますよ。」
----
ぺっ、と口から血を吐けば、落ちた血は赤黒の華となって地面に咲き、浸透して消えた。
どうやら本当に、坊はアタシを越えたようだ。いくら動いても、弾丸はどこまでも追ってくる。
「ふ、ふふ……っあはははは!!!」
何故だろう、追い詰められているのに笑いが止まらない。
昔に戻ったような、不思議な気持ちだ。坊と戦える事が、こんなにも楽しかっただろうか。
限界点まで速くなり、坊の顔目掛け拳を放つ。当たった衝撃で坊は大きくぶれても、銃口だけは真っ直ぐ向けている。
放たれた弾丸が足にいくつも食い込み、痛い。それでも、高揚する気持ちは止まらない。
(この前まで、あんなに小さな子どもだったのに。)
まるで子を思う親のよう。成長を感じて、楽しくて、そして、悲しい気持ちになる。
やがて舞踏は終わりとなり、先にアタシが膝を付いてしまった。
重点的に追い詰められた足は点々と紅くなっていて、もうあの速さに乗ることは出来なかった。
対して、坊の顔は腫れ上がっていて、身体も見るだけで痛々しい。正直、アタシよりボロボロだった。
「……っはは、…」
これが、答えか。…まったくもって、坊らしい答え方だ。
「負け、ました、…完敗です。」
坊は私の言葉が聞こえたのか、糸が切れたかのように後ろへと倒れてしまった。
私は足を引きずって坊の近くまで来ると、大の字で倒れていたが表情は穏やかだ。
「った、く……ミヅチさん、にゃ…敵わねぇな。」
「わざと、トドメを刺さなかった口が…それを、言いますか?」
苦笑いしながら、アタシは携帯電話を抜き取ると番号を押す。無論、掛けたところは出雲寺組だ。
「坊、お互い、怪我を抱えているから、手短に伝えます。」
足から流れ出る血の熱さにクラクラしながらも、アタシは目的を達成する為に坊へ伝えた。
「奇襲があったあの日、組長は、死にました。」
「……だろう、な。」
「ですが、妹の、ミナコ様は、生きています。五体、満足に。」
「!」
坊は目を見開いた後、片腕で目を覆った後、そうか、とだけ呟いた。心なしか、安心しているように見える。
思い上がりでもいい、坊が安心していれば、アタシはそれだけで満足だ。
48
:
しらにゅい
:2014/07/21(月) 10:37:31
「今は、クルデーレ、という…冷たい目をした、桃色頭の女のところに、います。…ニエンテ、という名に、変えられて…おそらく、洗脳されて、います。」
「くそっ…」
「その、女は得体の知れない、能力を持っています。…動物でない、何か、生物を操っていて…銃は効きませんでした…」
思い出すのはあの時の惨状。一方的に嬲られ、肉塊と化していく構成員達を、ただ見ているだけしか出来なかった。
あの女さえ、どうにかすれば美奈子様は元に戻るのだ。
「それで、そいつは今、」
肝心な事を伝えようと口を開いた瞬間、どろり、と何か落ちた。
坊が、驚いた様子でアタシを見ている。
「え…」
視線を下に落とせば、黒い血のようなものがある。それが、蠢いている。
それに気付いた瞬間、唐突に嘔吐感が襲い掛かり、思わず口を押さえる。
坊が動かない身体を起こそうとし、必死になって何か叫んでいる。
くぐもって聞こえないのは、耳からもそれが出ているからだ。
(何か、何かが、アタシの中に、いる。)
抑える指の間からもドロドロと流れ落ちてきて、呼吸もままならない。
こいつらはアタシの腹の中から出てこようとしているのだ。気持ち悪さと痛さに視界が段々歪み、黒ずんでいく。
「ぼ、う、」
すいません、ここで、御役目御免になるなんて。
ドバッ、と口から何か吐き出されたのを最期に、アタシは闇で覆われた。
----
「なん、だよ…!?」
ミヅチが突如、出血多量と思わしき量の血を吐いて倒れた。いや、正確には血ではない。
本来赤い筈の血が墨汁のように黒く、質量を含んでいるようにどろり、としているのだ。
彼女は必死に抵抗していたが、卵のような黒い玉を吐き出した瞬間、そのまま崩れ落ちてしまった。ぴくりとも、動かない。
省吾は身体を引きずりながら、その物体と距離を置いた。正体不明の黒い玉が波打つと、周りの黒い液体が呼ばれているかのようにそれに集まる。
不気味な動きをしながら人の形へと変化すると、中から異様な格好をした少年が現れたのであった。
少年はギョロリとした目を何度かパチパチさせた後、省吾の方へと振り向いた。
「ショ、ウ、ゴ、タガ、リ、ショウゴ。ショウゴ、あなたは、タガリショウゴ。」
少年は対象を覚えようとしているのか、省吾を指差して何度も呟いている。
そして今度は、自分を指差したのであった。
「ぼ、くは、フォリ、ア。これ、の、中に、いたのです。」
フォリアの指先は、これ、と称した倒れているミヅチへと向けられていた。
その動作が省吾を苛立たせ、彼は険しい表情をしながらフォリアへと銃口を向けた。
「テメェ何者だ!クルデーレの配下か!?」
「はい、はい、クルデーレさまがどうかしたんですか?」
素っ頓狂な態度に省吾は痺れを切らし、弾丸を放った。
フォリアは避けることもなく、弾丸を真正面から受けて仰け反った。しかし、すぐに立ち直ると掌に何かを吐き出した。
省吾の放った、弾丸だった。
「クルデーレさま、が、伝言だと、おっしゃっていましたので、伝えに来たのです。」
『おめでとう、妹まであとすこしだ。』
「だ、と。」
そしてフォリアは頭を下げると、それでは、と、あろうことかその場から立ち去ろうとしたのであった。
省吾は立ち上がろうとして、叫んだ。
「…っ待ぁちやがれェェェ!!」
「だ、めです。」
威嚇する省吾を他所に、フォリアは背中からメキメキと音を立てて翼を生やした。
鳥の翼ではない、肉を繋げ、無理矢理形を作った翼であった。
省吾は何度か狙撃を試みたが、身体のダメージと相まって、結局フォリアを見逃してしまったのであった。
後に残ったのは省吾と、死んでしまったミヅチだけ。
「…っくそが!!」
省吾はボロボロにも関わらず、怒りのまま拳を地面に打ち付けた。
光が見えた矢先に起こってしまった悲劇。今やっと立ち上がろうとしていたのを嘲笑うかのように、また奪われてしまった。
しかし、
その瞳には絶望ではなく、
抗うかの意思のままに、強い光を灯していた。
省吾はもう、迷わない。
49
:
しらにゅい
:2014/07/21(月) 10:39:30
>>45-48
お借りしたのは汰狩省吾(サイコロさん)、名前のみ出雲寺愛澄、クルデーレ(十字メシアさん)
こちらからはミヅチ、フォリアになります。
フォリアの詳細はまた後程上げます!
50
:
スゴロク
:2014/07/31(木) 11:59:52
スザクの話。短いです。
――――夢を見ていた。長い、長い夢を。
「鳥さん?」
目を覚ますといつもの教室で、僕は机に突っ伏していた。傍らからかけられた声に振り向くと、トキコがいた。
「よく寝てたねー……って何、その顔」
「え?」
「すっごい難しい顔してる。何の夢見てたの?」
夢、か。
「……そうだな。楽しいような、哀しいような……」
僕の見た夢。
いかせのごれとはまた違う、遠い、遠い……きっと、この世界ですらないどこか。
色んな人がいた。
色んなモノがいた。
いかせのごれほど混沌とはしていないけど……それでも、そこには確かに、人の営みがあった。
例えそれが、覚めれば消える泡沫の幻であったとしても。
「幻……っていうのは違うかな」
多分、あれは過去に、本当にあったこと。
あるいは、これから起こる未来のことなんだろう。
もう、どんな内容だったのか全然覚えてないけれど。
きっとそこには、僕の知らない物語があるんだろう。
「?」
「っ」
気がつくと、トキコが僕の腕を握っていた。なんだか必死な顔をしてる。
「どうしたんだ?」
「何か……鳥さんが遠くに行っちゃいそうな、変な気分がして……気がついたら」
遠く、か。
もしかしたら。
もしかしたら、あそこには。
僕ではない、僕に良く似た誰かがいるのかもしれないな。
「―――大丈夫だよ。僕は、どこにも行かない」
「本当に?」
「ああ。僕は―――火波 スザクは、確かにここにいる。これからも、ここに」
そう。確かに僕は、今、ここにいる。
他の場所でどうであったとしても、僕にとっては、今、ここにいる僕が全てだ。
だから、今は歩いていこう。
「トキコ、次は何時間目だっけ?」
「お昼休み。レーダー君に聞いたけどさ、鳥さん、4時間目の間ずーっと寝てたでしょ」
「あれ?」
「あれ、じゃなくてー!?」
今はまだ見えない、あの夢へと。
明日見る夢
(それは、きっと)
(これからも続いていく、物語)
しらにゅいさんから「トキコ」をお借りしました。
書いてみたら最終回っぽくなってしまいましたが、まだ色々と考えてはいます。
51
:
しらにゅい
:2014/07/31(木) 20:25:51
滾ってしまったので即席でレスポンスです!
ちょっと捏造してるところがあるかも…
四時間目の授業はとっても暇だった。
鴉さんの説教ぐらいにつまらなかった。
周りを見れば、一角くんは相変わらず真面目に黒板見てるし、ハヤトくんは既に夢の中。
鳥さんは、
(あれ、)
珍しい、ハヤト君と同じく寝てる。いや、上手い具合に聞いていそうな姿勢で寝てる。
いつもならちゃんと授業聞いてるのに、疲れてるのかな。
(そっとしておこー)
今は寝顔を見るのが、ちょっと楽しいし。
----
「鳥さん?」
結局レーダー君に聞いたら、鳥さんは授業の終わりまで寝てたようだ。そんな彼女へ、私は近寄って声を掛けた。
突っ伏していた鳥さんがゆっくりと起き上がると、眠そうに眼を擦っている。
「よく寝てたねー…」
ちょっとだけ呆れた感じでぼやいたけど、ふと、鳥さんの顔を見て違和感を感じた。
なんだか疲れてるような、何か考えてるような、そんな難しい顔だ。
思わず声にも出てしまった。
「って、何その顔」
「え?」
「すっごい難しい顔してる。何の夢見てたの?」
悪夢でも見ていたのかな。例えば、昔施設にいた時の事とか…。
鳥さんは私の自慢の強い人、でも、心は繊細なのを私は知っている。
「……そうだな。楽しいような、哀しいような……」
鳥さんは遠くを見て、懐かしむような声色でそう呟く。
なんだか、置き去りにされた子供のように寂しそうだった。
「幻……っていうのは違うかな」
少しだけ苦笑いを浮かべる鳥さん。
なんでだろう、鳥さんはここにいる筈なのに、どこかに行きそう。
或いは煙のように消えてしまいそうな、そんな感じがする。
行っちゃ、やだよ。
ねぇ、鳥さん。
52
:
しらにゅい
:2014/07/31(木) 20:26:22
「?」
「っ」
思わず手を伸ばして、鳥さんの腕を握った。
少しだけ擦り寄ると、ちゃんと鳥さんがここにいる気配を噛み締める。
「どうしたんだ?」
鳥さんは不思議そうに、私に尋ねる。
「何か……鳥さんが遠くに行っちゃいそうな、変な気分がして……気がついたら」
嗚呼、きっとあの時鳥さんはこんな気分だったのかな。
大切な人がどこかに行ってしまう不安。とっても胸が締め付けられて、痛い。
少しだけ間が空いた後、ぽん、と頭の上に手が置かれた。
「―――大丈夫だよ。僕は、どこにも行かない。」
鳥さんは微笑んで、そう言った。
「本当に?」
思わず聞き返してしまったけど、ああ、と彼女は答えてくれた。
「僕は―――火波 スザクは、確かにここにいる。これからも、ここに」
―――よかった。
私は少しだけ泣きかけてた気持ちを隠して、鳥さんに笑って、答えを返した。
鳥さんはここにいる、ずっと、ずっと。
歩き続ける今
(ずっとここにいよう)
(それが私達の『今』だから)
「トキコ、次は何時間目だっけ?」
「お昼休み。レーダー君に聞いたけどさ、鳥さん、4時間目の間ずーっと寝てたでしょ」
「あれ?」
「あれ、じゃなくてー!?」
53
:
(六x・)
:2014/07/31(木) 22:55:55
「ねえ美弦さん」
「何かな、笙子さん」
「私ね、美琴が怒ったり泣いたりしてるところ数えるくらいしか見たことなくてね、天然だからよくわかってないだけだとばかり思ってたけど、本当はずっと我慢してたんじゃないかって、
今回の事件で思ったの。威力は感情に左右されるからある程度はコントロールできるようになれとは言ったけど…暴走するまで抑圧してたなんて…」
「美琴は真面目だからね。僕たちを心配させないようにか、つらいとかしんどいとか、そういうこともあまり言ってなかった気がする。」
「どうして…」
「嫌だからに決まってるじゃないですか」
「美琴?!あなた、具合は…」
「…私はもう、怒るのも泣くのも嫌です。私はみんなに笑っててほしいんです。私が我慢してみんなが楽しいなら、幸せなら、それでいいんです。
そのためなら、我慢くらい簡単なのに…それなのに、無理して笑うな、嫌ならやるな、誰もそこまで望んでないってなんなんですか?だったら私が今までやってきたことってなんですか?!
全部無駄だとでも言うんですか!?どうしたらいいんですか!!!教えてよ!!どうしたら誰も傷つかないで済むのか教えてよ!!」
「美琴…」
今まで見たことのない表情で必死に叫ぶ美琴。それを見て、美弦は呆然とすると同時に、後悔した。
僕はなぜもっと早く向き合わなかったのか。ずっと抱え込んでいることに、どうして気付かなかったのか。
笙子もまた、娘には悩みがないと思いこんで気付いてやれなかったことに泣いていた。
「なんてね、ほんとはわかってるんです。なんでも引受けて、いつも笑ってたのも、嫌われたくない、誰かのために何かしてあげないと存在意義がなくなっちゃうってだけ。
みんなのためとか言っておきながら、結局は自分のため…ひどいよね、こんなの。こんなひどい子、誰ともお友達でいる資格ないよね。」
「そうでもないんじゃないかな。誰かのために何かしてあげよう、喜ぶことをしてあげようっていう気持ちは本物だと思うよ。それは僕たちが一番よく知ってるからね。
ただ、嫌われないようにするってのは良くないね。嫌われないためって知られたら、後で美琴がつらい思いするかもしれない。だからといってすぐにやめる必要もない。
無理しなくていい、それだけだよ。美琴は1人じゃないんだから、大丈夫。」
「お父さん…」
「何かあったらすぐに言うんだよ。疲れているだろう、まだ休んでいなさい。」
「はい…。おやすみなさい」
「ねぇミコト」
「はい」
誰でしょう。お父さんによく似ていますが、目の色が違います。
「あ、あの、あなたは」
「いいから聞いてほしいなー」
「ふえぇ、はい…」
「僕はね、ミコトのしたいようにすればいいと思うんだー。ミコトは良くも悪くも他人のこと気にし過ぎ。
そりゃ人に迷惑かけるのはダメだけどさー、結構自分が思うほど相手は君の事気にしてないんだからもう少し力抜いていいと思うよー。
ちょっと疎まれたからって何さー、そんな奴ら気にしなくていいじゃん。好きなように生きなよ。
今ぐらいしか遊べないんだからさー!あ、家族と友達は大切にねー!」
「えっと、ありがとう、ございます…」
「お礼なんていいよー、妹を助けてあげるのは兄の役目だからね!!じゃあ、がんばって!!」
「えっ・・・?」
気付いたときには、お兄ちゃん…はいなくて、髪飾りとタクトが光っていました。
後でお父さんに聞いたところ、ミコトはパワーアップしたんじゃないかと言われました。よくわかんないですが。
数日後
「いってきまーす」
「いってらっしゃい。」
「学校へ行けるほど元気になってよかったよ。」
「ええ。本当によかった。」
「それにしても、急に元気になったよね。笙子さん、何かした?」
「いえ、美弦さんこそ何か」
「僕も何もしてないよ。となると、父さんかな…」
「解決したようだな」
「おじいちゃんが急に呼んだときは何事かと思ったよー。でも助けられてよかったー。」
「わしの判断は正しかったようじゃな。」
「能力使ったのなんて久しぶりだよー。手伝ってくれた子にもちゃんとお礼しといてね?」
「わかっとるよ。あの子がいなければ今回のことは解決できなかったからな」
「結局本人次第なんだけどねー」
他人と全く関わらず生きてくのは無理だよ。でも、世界は君が思ってるほど酷くはないんだよ。
ちょっと力抜いてみてもいいんじゃないかな?
「何か言ったか?」
「ううん別にー。一時期はゴミ扱いされた僕が役に立ててよかったなってー」
スターライト・ファミリア
54
:
スゴロク
:2015/05/26(火) 23:49:43
久々に来て見ました。足跡代わりに一筆。
「……なぁ、ランカ」
「何、綾ちゃん?」
ある日曜日。母さんがアオイと一緒に秋山神社に出かけてしまって暇になった僕は、ランカの家に遊びに来ていた。
シドウさんはまたもどこかをふらついてるらしくて、入れ違いにアカネさんが凄い顔で飛び出して行ったのを見た。
アズールは今は狐の姿で、ランカの膝の上で寝息を立ててる。マナはというと、最近レストランに入り浸ってる。
というわけで、今日の僕はランカと取りとめもない話をして時間を潰していた。
その中で、ふと思ったことがあった。
「ここ最近は平和だよなー……UHラボの残党も、ホウオウグループも、ヴァイスも、シン・シーも動いてない。ウスワイヤの方でも何か起きたって話は聞かないし」
「そうだね……ちょっと前まで騒動ばっかりだったのが嘘みたい」
言って笑うランカ。この子がこうして自然に笑えるようになったのも、ごく最近のことだ。
ちょっと前まではまあ、色々複雑な事情が絡み合って大変だった大変だった。
ただ、
「嘘みたいだよな、ホントに……」
「え、っ?」
「ここ最近のいかせのごれは静かだよ。本当に何もおきてない……まるで、作者に忘れられた物語みたいだ」
「綾ちゃん……?」
……なんてな。
「冗談だよ。正直なところ、僕自身死にかけたり生き返ったりで現実感マヒしてるからなー」
「だ、だよね。最近『綾音ちゃん』とはどう?」
「ぜーんぜん。僕がいくら話しかけても答えやしない。その癖僕が忘れた頃にふらーっと出て来るんだ。いくら僕の主人格だからって、フリーダム過ぎるだろ」
そう、この「火波 スザク」という人格、つまり僕はこの体においては従人格だ。ただ、メインであるはずの本来の綾音の方が、表に出るのを面倒がって精神の底で眠りこけてる……ありていに言うと、僕に主導権を丸投げしてるのが現状だ。
デッド・エボリュート能力も、僕じゃないと使えないし。
「そもそも僕っていう存在自体が、元をただせば幻みたいなもんだからな」
「……んー、認めたくないけど」
この間、家族や友達に僕自身のことは話した。まあ、能力者だったり、ウスワイヤの関係者に限るけど。
つまり、「スザク」としての人格の方はUHラボでの体験で精神が崩壊し、そこに上書きされる形で構築されたペルソナで、生死の境を何度もさまよう内に、今の「僕=スザク」ともともとの「私=綾音」に分離した、ということだ。
まだ僕の髪が真っ白だった頃、ランカが入院していた頃は、お見舞いに行くたびに「僕」を「私」に切り替えてたけど、今はそれがすっぱり切り離されて独立した形だ。ただ、「私」の方は美容には気を使うけど基本ものぐさな性格らしい。
(誘拐されたのが良いとは絶対思わないけど、普通に過ごしてたら物凄い自堕落な女になってただろうなー)
というか最近は、「火波 綾音」という人格の、男性格が僕なんじゃないかと思ってる、割とマジで。
トキコと付き合い始めてから余計にそう思うようになった。なにせ、一時は好きになった相手を本気で殺そうとする超危険人物だったもん、僕。
(思えば、トキコも最初の頃は割りとそんな感じだったよーな)
今でこそかなーり丸くなったけど、ベースの性格は同じだ。初めの頃はホウオウを盲信する(今ではちょっとマシになった、ような気がする)壊し屋だったし。
55
:
スゴロク
:2015/05/26(火) 23:50:20
「綾ちゃん? どうしたの?」
「ん……ちょっと考え事。ごめん、しばらく寝かせてくれるか?」
「わかった。それじゃ、私は上にいるね」
ランカがぱたぱたと二階に上がるのを見送って、リビングに転がる。
今までのことを考えたとき、ある一定のラインを超えようとすると物凄い頭痛がして意識を失っていた。
こうして考えてみるとわかる。あれは多分、僕がいわゆる「第四の壁」に接触したのが原因だ。舞台と観客を隔てる、見えない壁。
この世界においては、この「いかせのごれ」の存在する世界と存在しない世界との境目。恐らく僕は、無意識のうちにその壁に近づきすぎたんだと思う。
(考えない方がいいって言うのは確かに。多分それは、僕が知っても衝撃を受けるだけでどうしようもないことなんだろうし)
ただ、何となくのレベルで僕は気づいていた。
多分、このいかせのごれは、元々のいかせのごれから完全に独立した、別の世界になってしまっている。
その証拠に、僕達はホウオウグループやケイイチのことを知ってはいても、実際にケイイチやそのクラスメートと顔を合わせたことがここ1年ばかり全くないし、ホウオウグループにしてもバツとか、そういうウスワイヤの記録にある面々とは会敵していない。それだけじゃない、ウスワイヤにいるはずのチサトやアキヒロさんとも、存在を感じてはいても対面したことがほぼない。
「裏と表が引っくり返ってねじれたトランプ、か」
ただ、それがどうしたという話もある。いずれにせよ、この世界は今も在り続けている。その先に何があるのかは、神ならぬ僕では知りようもない。
いや――――。
「……神にも、わからないんだろうな、きっと」
窓越しに見上げる空は、ちょっと雲が多かった。
朱雀、世界について考える
(神のいない世界を)
(朱雀は今日も、羽ばたいていく)
56
:
スゴロク
:2015/12/17(木) 01:58:46
足跡代わりに一筆。
「……そっか」
いつものように学校に通い、いつものようにみんなと話して、いつものようにトキコとじゃれあって、いつものようにアオイと連れ立って帰って。
そうして部屋で過ごしていた僕こと火波 スザクの前に現れたのは、僕と同じ姿をした女の子だった。
彼女が誰なのか、僕は直感よりももっと深いところで理解していた。
そして、彼女が誰なのか理解した瞬間、僕は唐突に全てを理解していた。
僕が今、どこに行って何をしなければならないのかを。
「もう、時間なんだな?」
こくり、と少女は頷いた。予想していたことだ。「神」のいないこのいかせのごれは、もうこれ以上進みようがない。
昨日と同じ今日、今日と同じ明日が永遠に続いていく、停滞した世界。
なのに、僕は―――僕達という存在をこの世界に配置した一人の「神」だけは、未練があるかのようにこの世界を覗いている。
だけど……。
「それも、もうすぐ終わるのか」
「うん」
天井を仰いだ。見慣れた天井。見慣れた部屋。いつもの日常。
「僕達は、どこに行くんだ?」
「極めて近く、限りなく遠い世界に」
「……みんなは?」
トキコやハヤト、シスイ、アズール、凪に冬也、百物語組、シュロ、シノさん……。
僕がこれまで出会ってきたみんなのことが気になった。
だけど、その子は首を振った。みんなのことは、さすがにわからないみたいだ。
「……そっか」
けど、それで十分だ。いなくなる、とか消えてなくなる、とかじゃなくて良かった。
「僕たちがいなくなったら、この世界はどうなるんだ?」
「どうもならない。いなくなるわけでもない。ただ、あなた達という存在が向こうにも配置されるだけ」
「…………」
「どうするの?」
僕の顔で首を傾げられると、正直似合わないのがよくわかる。我ながら、こうまで女らしさの欠けた性格に良くなったもんだ。
まあ、でなきゃトキコと付き合ってなんていないと思うけどさ。
僕の答えは決まっていた。そうするしかないから。
「行くよ」
「わかった」
差し出された手を、僕は取った。
「………何だろう、今の夢」
はっと目が覚めたら、机に向かったまま寝てた。顔を上げると、トキコが呆れ顔で立っていた。
「鳥さーん……最近居眠り多すぎ。ちゃんと夜寝てる?」
「うーん……ここ最近は夢見が悪くて、何度も何度も起きては寝ての繰り返しなんだよなー」
「大丈夫? 私の家来る? ちょっとは気分変わるかもだよ」
「いや、でも、シギさんの件の時に行ったら物凄い荒れ様だったし……」
「………だ、大丈夫。あれからちょっとは片付いたし」
「本当に大丈夫か!? 結構経った気がするけど、まだちょっとって……しょーがない。今日戻ったら手伝いに行くよ。早めに片付けよう」
「はーい……」
朱雀、巣立ちの時
(近くて遠い世界へ)
(はばたきの音が遠ざかり)
(いかせのごれはこともなし)
では、また。
57
:
スゴロク
:2016/09/13(火) 01:17:07
足跡代わりに。
「……何だと!?」
その日、俺ことクロウは、グループのメンバーであるゼアから受けた想定外の連絡に文字通り目の玉が飛び出るほどの驚きを味わっていた。
左のレンズにエンブレムを入れたメガネがずれ落ちて乾いた音を立てたが、もはやそんなことはどうでもいい。
問題なのは、連絡の中身だ。
「確かなのか、ゼア?」
『ええ。……ホウオウ様を含め、主要メンバーとの連絡が完全に途絶えました。それだけではなく、例の救世主気取りや、アースセイバー上層部も消息を絶っています。いえ、正確にはホウオウ様方も連中も『いる』のはわかるのですが、それだけなのです』
「どういうことだ……」
あの救世主気取りは別にどうでもいいが、総帥との連絡がつかないというのははっきり異常だ。
確かに総帥は俺たちの前に姿を現すことはないが、指令は送ってくる。以前にもトキコに対してそうしたことがあるし、俺自身も未だに機をうかがっているノルンとノアの抹殺任務を直々に命じられた。
だが、ゼアが言うには総帥との間に繋がっていたはずのホットラインが全て途絶し、ジングウやチネンの力を以ってしても復旧が出来ていないという。
『潜入任務中のメンバーにはまだ伝えていませんが、知れるのは時間の問題です。クロウ、潜入メンバーの総指揮をお願いします』
「了解した。ではルーツ、ミーネ、ナハトを連れて行く。お前はどうする?」
『私はこちらで指揮を執ります。ただ、メンバーがかなりあちこちに散らばっていますので、まずはそれを召集するところからですね』
「わかった。いかせのごれ高校の潜入メンバーには俺からあらましを伝えておく。お前はそれ以外を頼む」
『お願いしますよ。それでは』
それを最後に通話を切り、俺は携帯をしまうと小走りにいかせのごれ高校へ向かった。
(何だ……一体何が起きている……)
58
:
スゴロク
:2016/09/13(火) 01:17:41
―――真っ先にその二人と遭遇したのは、果たして運が良かったのか悪かったのか。
手をつないで仲睦まじい様子の、赤い髪の少女二人。
「トキコ……と、火波スザクか。こんなところで、こんなタイミングで出会うとはな……」
「むー……鴉さん、何の用?」
明らかに機嫌を損ねた様子のトキコ。スザクはそんな彼女を見て苦笑しており、俺を警戒した様子はない。
報告では立ち位置がアースセイバーを離れ、現在はやや俺たちよりの中立にいるという。
こいつ自身も何かと個人的な仲間が多いが、UHラボの件がある以上俺たちにはつくまい。どちらかというとトキコ個人の味方というべきだろうが、今問題にするべきはそこではない。
「すれ違っただけならどっか行ってくれ。デートの最中なんだ」
「そーそー、せっかく二人きりなんだから邪魔しないでよ」
仲のいいことだ。だが、そんなことは今は関係ない。
だから、トキコに対しての切り札を切る。
「総帥に関することだ、と言っても聞かんか?」
「え!?」
トキコの顔色が変わる。スザクはどうだ、と見てみると、
「……トキコ、これは聞いた方がいいぞ。何かまずいことになってるかも」
「そ、そだね」
なぜかこいつまで動揺していた。おい、お前は別にグループのメンバーではないだろうが。
トキコと付き合ううちに感化されたのか、あるいはトキコ個人を心配しているのか。
まあ、どうでもいい。
59
:
スゴロク
:2016/09/13(火) 01:18:35
「では簡潔に言う。総帥との一切の連絡が途絶えた。そして、現在各地で潜入任務に当たっているメンバーの指揮は、今日から当面は俺が引き継ぐことになった」
「ホウオウ様と連絡が取れない……? な、何で? 何でいきなりそんなことに!?」
「あの自称絶対者が行方不明とか、まずないと思うんだけど僕」
「俺とて信じられんが、事実だ。ここに来る途中で何度か緊急連絡を入れてみたが、応答がないどころか回線自体が消えている。総帥に限ってやられたとは思えんが、何かが起こっているのは確かだろう」
「うー……」
「とりあえず、学生メンバーについては現状維持だ。ただ、最悪総帥からの命令は二度と来ない可能性もある。それを念頭においておけ」
「……考えたくないよ、そんなの」
ぽつりとトキコがそう呟いた。数いるメンバーの中でもこちら側の連中は、アイやバツ、サイナのように総帥に忠誠を誓っている連中ばかりではないが、トキコはその中にあっても異端に入る。絶対者としてではなく、いち人間のホウオウにある種の好意、憧憬を抱いている。
総帥に言わせればそういう「人らしい」ものは現状邪魔なだけらしいが、これは口が裂けてもトキコには言えんな。
「同感だが、現状を理解し、受け入れねばならん。……っと、ゼアからか。少し失礼するぞ」
言っている間に携帯が鳴り、出てみるとやはりゼアだった。ただ、連絡の内容は好転を告げるものではなかったが。
『まずいですよこれは……チネンや白奈、ユウムとも連絡が取れません。もしかすると、このいかせのごれ自体に何かが起きているのかも知れません』
「……了解した。連絡が取れたメンバーから順次報告を上げさせろ」
通話終了。
「トキコ、今日ユウムには会ったか?」
「へ? 普通に来てたけど」
「……そうなると通信ができていないのか……? よし、とりあえず明日登校したら潜入中のメンバーを集めてくれ。もちろんアッシュもだ」
「うぇ、一角君のニセモノも?」
「当たり前田のクラッカーサンドだ。奴もグループの一員、この状況では一人でも多く連絡をつけておきたい」
そんなことを言いつつ、俺はカザマとの会話のことを思い出していた。
烏天狗のヤツは、物事の流れを見ることが出来る。その時、ヤツはこう言っていた。
『なんだ、これは? ……大きな流れが見える……それも二つ? 片方には龍と虎、鳳凰が見える……もう片方には、多くの歪みが見える。これは、なんだ?』
ルーツには以前話したが、恐らく俺たちがいるこのいかせのごれは『多くの歪みが見える』方だ。つまり、総帥やケイイチ達が活動しているだろう『龍と虎と鳳凰が見える』流れとは屋根を同じくしながら決定的に分かれている。
そして、恐らくそれが、ついに相互に影響を及ぼせないレベルにまで離れてしまったのだろう。
もはや、このいかせのごれがどうなるのかは誰にもわからない。この日常がいつまで続くのかもわからない。
しかし、
「……もしかすると、俺達はこのままではいられんかも知れんし、ずっとこのままかも知れん」
「え……」
「だが、俺達がここにいるという事実は消えん。今までの道もな」
「自分の歩きたい道を行け。それが、今の俺達に出来る最大のことだ」
鴉と朱鷺と朱雀と
(神のいない世界でも)
(日常は、続いていく)
(きっと、これからも)
60
:
スゴロク
:2017/02/01(水) 23:39:33
足跡代わりに一筆。
いかせのごれも、随分と静かになった。
いや、僕はもう、とっくの昔にわかっていたんだ。
ここは、もういかせのごれではなくなっていたことを。
いかせのごれとよく似た、全く別の世界であることを。
何の変化もない、時の停止した世界。
同じ日常が、どこまでも繰り返されるだけの、停滞という名の永遠。
気付かなければ、あのままずっと、停滞した、しかし暖かな日々の中にいられたんだろう。
だけど、僕は気付いてしまったんだ。
だから、僕ももう行かなくちゃならない。
もう、みんな行ってしまった。僕の知らない、どこか遠い世界に。
敵も、味方も、仲間も、友達も、家族も。
アオイ、ランカ、ゲンブ、マナ、アズール、シュロ、母さん。
シスイ、ハヤト、ジミー、ノルン、ノア、店長さん。
百物語組のみんな。
学校に潜入してたホウオウグループ。
UHラボの残党ども。
そして、トキコ。
みんな、いなくなってしまった。残ってるのは、もう僕だけだ。
僕しかいない街。僕しかいない世界。
それでも、ねえ、トキコ。
お前さえいてくれれば、僕はきっと生きていられた。
どんな間柄でもいい。この世界にお前がいてくれれば、僕は大丈夫だった。
だけど、お前はいなくなってしまった。誰よりも真っ先に、僕の傍からいなくなってしまった。
トキコのいない世界。僕だけの世界。
そんなの、僕は耐えられないんだ。だから、さ。
僕も、そっちに行くよ。
もう、ここには誰もいない。別れを告げるべき誰かが、いない。
だから、僕も、そっちに行くよ。
ケイイチ達は、どうしたかな。
ホウオウグループは、どうなるんだろう。
ウスワイヤやアースセイバーは、大丈夫かな。
ああ、でも。
僕にはもう、何も関係ない。
僕は、トキコ、お前に会えるかな。
会えたら、お前は何て言うかな。
わからない。わからないけど。
もし、本当にそっちで逢えたら、その時は。
笑って、迎えてほしいな。
僕の大好きな、君へ
(そして)
(そこには)
(誰も、いなくなった)
61
:
しらにゅい
:2017/09/18(月) 19:49:35
鳥さん、ねぇ、鳥さん。
ずっとこの世界で取り残されてる、私の初恋の人。
私は強い鳥さんが大好きだけど、元気がない事を知ってびっくりしちゃった。
ううん、嫌いになっちゃったってわけじゃないの。ただ、本当に、びっくりしてる。
可笑しいよね、貴方がそんなに私を恋しく思うのならそれは嬉しい事だろうに、なんだか悲しいな。
でもね、鳥さん。鳥さんが好きな想いは、今でも変わらないよ。
もう一度、は無理かもしれない。けどまた貴女に笑って欲しいから、頑張ってみる。
カンキョーとか色々変わっちゃって今まで通りにはいかないけど、どうにかしようと頑張ってみるよ。
だから待ってて、貴女の事を決して忘れないから。また貴女と出会える場所を作るから。
砂浜に文字を綴り、木の枝を差す。こんなラブレターじゃ、彼女に届くか分からない。けれど、こうする事が一番ふさわしいのだと思う。
「待っててね、鳥さん。時間はかかるかもしれないけど、でも、忘れないから。」
嗚呼どうか、彼女に届きますように。
62
:
スゴロク
:2017/10/01(日) 11:52:05
―――やあ、火波スザク。
君にとっては初めまして、ボクにとってはお久しぶり、というべきかな?
おいおい、そんなに驚くなよ、《僕》。
覚えてないのかい? 君をこの世界から連れ出そうとした彼女のことを。
そうさ、ボクは君だ。彼女に連れ出されて別の世界に生まれた、もう一人の君だ。
全く、あまり手をかけさせないでもらいたいね。こっちもヒマじゃないんだ。
ああそうそう、忘れるところだったよ、本命の用事を。
トキコのことを覚えているだろう? ふふ、君が彼女を忘れるわけがないか。
しかしおかしなものだよね。性別どうこうはどうでもいいけど、明確に敵同士だったにもかかわらず、ここまで強いつながりを結ぶとはね。
どうやら、それは彼女の方も同じらしいよ。
……ああ、あったあった。
全く、けなげなものじゃないか。離れ離れになってだいぶ経つのに。
読んでみなよ。君ヘのラブレターを。……そう睨むなよ、《僕》。確かにボクは君と違って、彼女への思い入れはそうないけどね。
で、読んだ感想は……って聞くまでもないか。……思いっきり顔がニヤけてるよ。
さすがに再会の予定はボクにはわからないよ。大体ここに来たのだって、ほとんど偶然に近いからね。
だけど、同じ顔でそうしょげていられると気分も良くないからね。
さて、もう一つの用事だ。
と言っても実に簡単なこと。同じスザクであっても、君とボクは全く異なる存在だ。そのことを、もう一度はっきりさせておこうと思ってね。
君がいつまでもしょげてると、根底で繋がってるボクまで引きずられてダウナーになっちゃうんだよ。
わかっただろう? 君とトキコの繋がりは、まだ切れていない。
いつになるかはわからないけど、再会の時は必ず来る。信じろよ、心の底から愛した人を。
その時、君がしょげてたら、彼女は喜ばないと思うよ。
そう、その意気だ。
さあて、ボクもそろそろ帰らなくちゃならないみたいだな。
迎えが来たよ。忘れるなよ《僕》、ボクの言ったことを。
じゃあな、いかせのごれの火波スザク。
元気出せよ。
《ボク》からの伝言
(ああ、そうだな)
(僕は、待つよ)
(もう一度出会える、その時まで)
63
:
スゴロク
:2019/01/05(土) 19:01:51
おやおや。
いかせのごれも、しばらく来ない間に、すっかり静かになってしまいましたね。
まあもっとも、予想できた結末の一つではありますが。
ワタシもあれこれ好き放題やって来ましたし、敵もそれなりに多く作りましたが……こうして誰もいなくなると、やはり寂しいものですね。
彼らはいったい、どこへ行ってしまったのか。今、何をしているのか。
発展することもなく、さりとて朽ち果てるでもなく、ただ停滞したこの地にいるよりも、その方がよいのかもしれませんがね。
まあ、何ですか。
少なくとも、ワタシの……我々にとっての「神」は、未だにその手で生み出した我々を、そして我々の生きたこの地を、ここにいた全ての者たちを、忘れていないようですよ。
機会さえあればこの世界を覗き、今はワタシを送り込むほどには。
過ぎ去った日々、消え去った者たち……過去を懐かしむのも結構ですがね。
ワタシ個人として言わせていただければ……まあ、向こうからすれば不本意かも知れませんがね。
もう一度出会うことがあれば、と。そう思いますよ。
その時は恐らく、今度こそ忖度抜きの潰し合いになるでしょうが……正直な話、そうなる時を待っているような気もするのですよ。
……フッ、このヴァイス=シュヴァルツともあろう者が感傷に浸るなど。
では、そろそろお暇するとしましょうか。
願わくば、次にここを訪れた時……そこに、誰かがいることを願いますよ。
もっとも、その時遣わされるのは、ワタシではないかもしれませんがね。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板