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( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

1 ◆x5CUS.ihMk :2016/07/09(土) 22:06:48 ID:Q7uZ6AsA0
 過去話を忘れた人のためにヒロインを中心に振り返るここまでのお話。


 一話:街の暴漢に襲われあわや貞操の危機。
 二話:大五郎の兵士に追い詰められピンチ。
 三話:大五郎に雇われるも早速サロン(田舎)へ飛ばされることが確定。
 四話:サロンへの移動。死にかける。
 五話:キメラ(蛇と狼)と戦う。死にかける。
 六話:キメラの毒牙(直喩)で死にかける。
 七話:ニョロを拾った直後目の前で職場が木端微塵。            ※1
 八話:夜道で襲われ失神。
 九話:拘束され軟禁。しかし颯爽と脱出(ブーンは死にかけ)
 十話:大活躍で勝利。(ブーンは死にかけ)
 十一話:久々の安寧。
 十二話:ロンリードッグ先生と学ぶ楽しい魔法学。
 十三話:キメラ(大犬と鯨)との戦闘にロケット首突っ込み。
 十四話:キメラ相手にマジギレ。
 十五話:決着。死にかける。
 十六話:ヨコホリに襲われる。あぶない。ィシと出会う。
 十七話:安寧の日々(ブーンはアンデッドに襲われる)
 十八話:禁恨党に拉致される。
 十九話:ニダー一派との戦闘。死にかける。息が臭くなる。
 二十話:スカートを履く!!! ヨコホリに弄ばれる。
 二十一話:ロミスと共に檻に閉じ込められる。ロミスを殴り続ける。
 二十二話:ィシたちの戦闘に合流。格上達に喧嘩を売る。
 二十三話:ドクオのショータイム開始のお知らせ。
 二十四話:ドクオのショータイム終了のお知らせ。
 二十五話:死にかける。死ぬ。                            ※2
 二十六話:死にかけたまま。
 二十七話:流石兄弟のターン。
 二十八話:「なー―――〜〜んてね☆」
 二十九話:復活しごはんをたべる。
 三十話:師匠襲来。死んだ(暫定)。


……※1 ここらへんからあらすじをまとめるのに飽きる。
……※2 もう完全に飽きてテラバトルをやり始める。

95 名も無きAAのようです :2016/08/09(火) 11:31:33 ID:66lz/9SE0
おまいらこの作品好きだな。
かく言う私もそうなんだが。
ドクオとブーンは合体してない状態だとどれくらい強いんだろうな、そろそろ分離するんじゃないだろうか?

96 名も無きAAのようです :2016/08/09(火) 18:24:42 ID:jnsq2tUM0
分離したらタイトルの意味がなぁ
合体したまま精霊化しよう

97 名も無きAAのようです :2016/08/09(火) 18:59:31 ID:v70TmMbA0
精霊化した大五郎

98 名も無きAAのようです :2016/08/10(水) 18:51:00 ID:UsbkJbLc0
分離したら大五郎さんが一番強いに決まってんだろ

99 名も無きAAのようです :2016/08/10(水) 19:31:06 ID:jZwdc9FA0
シブサワ歓喜

100 名も無きAAのようです :2016/08/10(水) 20:08:40 ID:dXA/wXE60
分離するのはやっぱり最後かその直前の戦いとかが良さそうだ

101 名も無きAAのようです :2016/08/10(水) 21:48:41 ID:rPiOaUno0
今読み返してるが、ィシ戦のオルトロスさんがかっこ良すぎて濡れる

102 名も無きAAのようです :2016/08/10(水) 22:12:50 ID:2DbVNo9.0
最後まで決まればかっこよさやばかったろうな

103 名も無きAAのようです :2016/08/11(木) 14:48:34 ID:mUTIZ7J.0
最後決まったらオルトロスさんじゃない

104 名も無きAAのようです :2016/08/24(水) 12:36:42 ID:SyoPb6lU0
次の更新はいつごろかなぁ

105 名も無きAAのようです :2016/08/25(木) 17:37:03 ID:BwRyIfQs0
半年以内には来ると信じてる

106 名も無きAAのようです :2016/09/04(日) 02:18:04 ID:LpHQqYy20
アルファみたいに何年かかってもいいから完結してほしい

107 名も無きAAのようです :2016/10/04(火) 23:09:29 ID:x/TTgmxM0
これの更新待ってたら内定出ちまったよ
続き読みたいわ

108 名も無きAAのようです :2016/10/05(水) 04:29:08 ID:q7Ct.O4QO
でっかい男はビッグマン
今日も元気にビッグマン
俺達ゃおとこビッグマン

109 名も無きAAのようです :2016/10/05(水) 05:55:14 ID:noqiMV5Y0
豚の男はピッグマン

110 名も無きAAのようです :2016/10/08(土) 10:14:42 ID:Be0F.tuc0
そろそろかな

111 名も無きAAのようです :2016/10/19(水) 00:48:28 ID:E1mQDrDQ0
久々にきたら更新来てたのかよあーん好き!ありがとう!おつ!
ツンちゃんがつらいです

112 名も無きAAのようです :2016/10/26(水) 09:55:49 ID:.kuTai4c0
杉浦双刀流をもっとみたい
しかし剣が揃わない

113 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 21:52:07 ID:RSFxJfvw0


  予告した通り週末に投下をするんだけれども
  現在前スレの梅に使うつもりで書いていたおまけ的なものがファイルに残っており
  このスレ埋める時に使おうかな〜と考えていたものの
  その頃にはちょと賞味期限が切れてしまう可能性があるので
  今夜投下してしまおうとスレッドにやってきたわけである


        ●●●         ●● ●
        ∩∩∩         ∩∩∩
        | ||| |            | | | |
        \\\\ /⌒ ヽ ////    
          \二二( ФωФ)ニ_/ < シュパピプーン
            \_|     /_/       
              (  ヽノ
                 ノ>ノ   
          三    レミレ


  杉浦双刀流の成り立ち的なお話なんだけれども
  かなりざっくり片手間にまとめたものなので内容はそれなり
  おまけと言うだけあってこれを飛ばしても何の問題もないよ

  一種のネタだと思って気楽によんでみてね


            /二⊃      /ニ⊃              =●      =●
           / 二 ⊃ ⌒ ヽ/二ニニ⊃             =●      =●
         〈ニ二⊃ΦωФ)_二ニ二⊃  < シュパピプーン  =●      =●
           \_|     /_/       
             (  ヽノ
                ノ>ノ   
         三    レミレ

114 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 21:53:55 ID:RSFxJfvw0

  むかしむかしあるところに血気盛んな少年が居た。


   (一ФωФ) 「吾輩世界一の剣豪になるである!」


  彼の名は杉浦ロマネスク。
  何を隠そう後に「初代」と称される杉浦双刀流の開祖である。


  しかし、幼少期の彼はあまり強くは無かった
  むしろ剣術の「け」も知らないようなカッスカスのゴミ剣士で、糞ザコ以外に称するならボウフラかシメジがお似合いだった。
  才能がないわけじゃなかったんだけどね。環境がよろしくなかったのだ。

  
  孤児だった彼は子供ながら傭兵団―――と言う名目で町を荒らす盗賊団に属し、盗みや強奪を生業にしていた。
  誇り高き剣豪とは無縁の、いわば三下ってやつである。
  いかにもかませ悪党なデカくて毛深い親分にこき使われ毎日ひいこらと働いていた。


  それでも、冒頭にあったように彼は世界一の剣豪を目指していた。
  こんな盗賊団に入ったのもすべてはそのため。出来るだけ戦場に近い場所に行ったかったからだ。
  彼自身はとても純粋に剣士を目指していたのである。


  ただ、とんでもなく頭が悪かった。
  ハエが小首をかしげるレベルだった。
  盗賊団の仲間たちには体の良い奴隷として使われていたが剣の修行の為と言われるとすぐ信じてなんでもやっていた。

115 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 21:55:22 ID:RSFxJfvw0

  そんな感じで畜生と同列の人生を歩んでいたロマネスクに転機が訪れた。


   (゚)(゚)ミ 「盗賊おったやんけ! 殺したろ!」


  突然異邦の出で立ちをした剣士が盗賊団のアジトに現れ、あっという間に彼らを切り捨ててしまったのである。
  彼は周囲の村が総出で報酬を出し盗賊征伐に雇った、旅の剣客であった。
  当然いかにもかませ悪党な親分も瞬殺された。すごいしっくりくる光景だった。


  たまたまアジトから離れた川に水汲みに行っていたロマネスク。
  微妙なタイミングで戻ってきてしまった彼は、仲間が惨殺される現場を目撃してしまう。
  そしてこの時彼が取った行動はと言うと。


   (一ФωФ) 「吾輩を弟子にしてほしいである!!」

   (゚)(゚)ミ 「えっ誰??」


  なんと仮にも仲間を殺したこの剣士に弟子入りを志願してしまうのである。

  剣士――ナンカスは最初こそ面倒くさがって嫌がっていたのだが、
  ロマネスクがあまりに彼を褒めたたえ懇願するので


   (^)(^)ミ 「そこまで言うんやったらええで〜〜」


  と弟子入りを認めてしまったのである。
  これがナンカスの命運を大きく変えることになるのだが、
  こいつもこいつで剣の腕以外はしょーもない奴だったのでまあ自業自得ってやつだ。

116 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 21:56:10 ID:RSFxJfvw0


  ロマネスクを弟子入りさせたナンカスはまあ彼を舐め腐っていた。


   (゚)(゚)ミ (報酬巻き上げつつ、それっぽこと言って雑用にしたろ!)

   (^)(^)ミ (めんどくさいこと言い出したら斬ればええやん! 完璧スギィッ!)


  こんな感じでまじめに剣を教える気は皆無だったのである。
  しかし、それがもう誤算中の誤算だった。大誤算ってやつである。


  雑用を与えられたロマネスクはテカテカとした顔で働いた。
  それはもう、その道で働いた方が良いんじゃないかってくらい甲斐甲斐しく完璧にナンカスの世話をしてしまったのだ。


  伊達に長いこと盗賊団の粗野な男所帯を世話していたわけではない。
  ちょっとした炊事洗濯はお手の物。
  野山の知識にも秀でており、彼を弟子にしてからのナンカスの旅路は異様なまでに快適なものとなった。


   (一ФωФ) 「仕事終わったである!師匠!剣を教えてほしいである!」

   (゚)(゚)ミ (うわ〜〜、めんどくさいけどコイツ追い出したら前の生活に逆戻りやんけ……)

   (一ФωФ) 「師匠?」

   (゚)(゚)ミ (ま〜〜ええか、世話賃がわりに相手したろ)


  こんな感じでロマネスクの剣士としての人生がやっと始まったのである。
  あらすじレベルのテキストで三レス目である。年数で言うと、彼が盗賊団に入ってから3年。
  年齢としては17になった年のこと。寄せ集めの兵隊ならともかく、剣客としてはいくらか遅いスタートだった。

117 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 21:57:05 ID:RSFxJfvw0


  ナンカスの誤算は続く。
  それは杉浦ロマネスクの剣の腕前についてである。


  確かにロマネスクは弱かった。
  構えは変。握りも変。実際に模造剣を振らせてみるとどこぞの古代民族の舞のように無駄が多い。
  しかしそれはあくまでロマネスクが正しい剣を知らなかったが故である。


  ナンカスが稽古を始めると、ロマネスクはめきめきと頭角を現し始めた。
  特別ではないがそれなりの才能は認められる。
  何より愚直なまでにまじめな性格は、正しい指導を得て爆発的に技術を向上させた。


  ロマネスクはその後もめきめきと腕を上げた。
  異邦の流派であるナンカスの剣を真似、吸収し、五年も経つころには並び立つほどの腕になっていた。


  これが面白くないのは、師であるナンカスである。
  師である前にまだまだ現役の剣客であった彼にとって、一見して天才のロマネスクは十分に嫉妬の対象足りえた。


  伸び悩む自分に反して、ロマネスクはめきめき腕を上げて行く。
  自身に才があると信じていたナンカスだからこそ焦った。
  無邪気にナンカスを師と仰ぐロマネスクの態度がむしろ、ナンカスの劣等感を煽る。

118 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 21:58:11 ID:RSFxJfvw0
 
  品行方正で真面目な人間であれば、ここで諦めて剣を置くなり、ロマネスクを見直して共に切磋琢磨することも出来ただろう。
  美しい師弟愛と言うやつである。出来た人間の流石な考え方と言うやつだ。


  ところがどっこい残念ながら、初期の発言からも分かる様に、ナンカスは全然そんなキャラじゃなかった。
  邪魔者与太者気に喰わなければ斬って殺すが当たり前と言うクソ野郎だった。


  自身の不調の原因までもロマネスクに押し付け、妄執に駆られたナンカス。
  とある山中での野営の際に、小便を垂れていたロマネスクに背中から襲い掛かった。



   (一;ФωФ) 「ッ師匠?! なにをするのであるか」

   (`)(´)ミ 「うっさいダボハゼェ! 弟子にしてやったんにメキメキ強く成りよって!」

   (一;ФωФ) 「言ってる意味が分からんである!」

   (`)(´)ミ 「ええから死にや!! 痛いのは最初だけやで!!」


  運よく気が付きナンカスの斬撃を逃れたロマネスクだが、お師匠様は変わらずご乱心である。
  言葉による意思疎通が可能でないと判断するとすぐさま野営場所に駆け戻り、自分の剣を手に取った


  こうして師弟の斬り合いが始まったのである。
  流石のロマネスクも死にたかないので懸命に剣を振るった。
  並び立つだの才があっただの言っても、純粋な実力はまだナンカスのほうが上だったのだから必死である。

119 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 21:59:30 ID:RSFxJfvw0

  結果から言うと、まあお察しの通り。


                 ┏━━━━━┓
                 ┃   / \  ┃
                 ┃ /     \┃    デーン
                 ┃ (゚) (゚)ミ  ┃
                 ┃ 丿     ミ ┃
                 ┃ つ   (  ┃
                 ┃   )  (   ┃
                 ┗━━━━━┛


  ロマネスクが勢い余ってナンカスを殺してしまうという終りを迎えたのである
  彼としてはなるべく殺したくはなかったのだが、実力伯仲の間柄。手心加えろってのが無理だった。
  下手なことをすれば死んでたのは自分なのである。まあやむを得ない判断だろう。


  とはいえ、ロマネスクはこの時点でもまだナンカスを師として慕い、尊敬していた。
  実際彼が居なければ今のロマネスクは無いわけで、まあ人格にいくらかあった問題は帳消しにしても良かったのだ。


  ロマネスクが、剣を二本持って戦うようになったのはこの直ぐ後、ナンカスの愛用剣を拝借してからである。
  「二本なら二倍強い」という頭蓋にメロンパンでも入ってんのかってレベルの理由だったが、
  正直なトコ師匠を自分の手で殺した経験が彼の心境になんらかの影響を及ぼしたのだろう。


  とまあ、ろくでもない師匠でもあったが一応まともな剣士として成長したロマネスクは、
  やっとこさ時代の表舞台にちょこちょこ顔を出すようになるのである。

120 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:01:05 ID:RSFxJfvw0


  ナンカスの使っていた剣はいわゆる曲刀に類するものであった。
  彼の祖国で伝統的に作られている「打ち刀」というものだ。
  見た目が美しく、切れ味も良い。適度な反りは人を斬り抜くのに適している。


  丁度、チャンネルにはこの「打ち刀」のささやかなブームが来ていた。
  腰にこの異国の剣を差すことが、一種のステータスになっていたのである。
  実際かなり値が張ったため、それなりの財力がある人間しか持てないものではあった。


  ロマネスクはこの剣を気に入っていた。
  師の流派で用いるものだったため良く馴染むし、これに勝る剣は無いと信じていた。
  だからこそ、ただの飾りのように腰に差されているのが不憫でならなかった。


  ぶっちゃけ細身の割に重いし、直剣に慣れた人間からすると重心の関係で扱いにくいし。
  高価だから折れたり曲がったりしちゃうともったいないし、いざ刃を合わせても切れすぎて骨に引っかかったりするし。
  国内ではあんまり実用性がある武器としては見られていなかったのである。


   (一ФωФ) 「そうである!吾輩が名を上げれば「刀」の強さも知れ渡るである!」


  そんな感じでロマネスクは決起した。
  まあこれだけならよかったんだが、コイツも悪党共の中で育ってきたので、倫理観が昭和のラーメン並に縮れまくっていた。
  

   (一ФωФ) 「ついでに使われてない刀を吾輩がもらって真価を発揮させてやるのである!」


  要は言いかた変えた泥棒である。
  もっとひどい略奪もあった時代なのでそこまで問題行為ではないのだが、彼の行動力がちとやばかった。
  その後マジで刀泥棒を働きまくり、小太刀短刀、完全な美術品まで含めて通算100振り近い刀を盗んだのだ。


  すると突然現れた刀泥棒は戦場で話題になり、非戦地にもゴシップ染みた噂になって広まってしまった。
  なんせ事実なので、この話は国の公式な記録に小さくだが残っている。
  非常に残念なことに、一番最初に歴史に刻まれた杉浦ロマネスクの所業は百人切りとかじゃなく「刀泥棒」だったのである。

121 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:03:27 ID:RSFxJfvw0

  とまあ剣士としてスタートしたと思ったら盗賊にすぐ転身しちゃったりと人生をエンジョイしていたロマネスク。
  しばらくすると流石に飽きたのか、目立ちすぎて一回お縄になったのが効いたのか、真面目に戦うようになる。
  そうなると、彼の実力はすぐに知られるようになった。


  そもそも一応実力は発揮してたのだが、刀泥棒の話題が先行してあんまり目を向けられなかったのである。
  大事なミソがスキャンダルに塗りつぶされるのは何時の時代も同じことだ。
  まあコイツの場合誇張も無くガチだったので自業自得なんだが。


  名誉回復には少し時間がかかったが、剣豪杉浦ロマネスクの名は結構有名になって行った。
  連戦の日々はロマネスクにさらなる成長をもたらし、成長はさらなる戦場を招き込んだ。


  この頃になって初めて、ロマネスクは他人から彼の流派を問われることになった。
  彼は悩んだ。ロマネスクの剣はナンカスが源流ではあるが、我流を多分に含む別物になっている。
  ついでに言うと、彼はナンカスに「破門を喰らった」と考えていたので同じ流派を名乗る気がなかったのだ。


  そんなわけで、苦し紛れに思い付きで生まれたのが「杉浦双刀流」という名前だった。
  名の雰囲気がナンカスの流派に似ていたのだが、それは彼がまだまだナンカスを尊敬していたからなのだろう。


  流派、という枠が出来るとロマネスクの技は途端に体系を持ち始めた。
  それまでは自由気儘に振るっていた剣に「理念」が伴うようになったともいえよう。

122 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:04:58 ID:RSFxJfvw0

  そんな感じで多少頭も使うようになって修練をつづけたロマネスク。
  彼が最終的に目的としたのは、戦場で戦い続けられるということだった。


  二刀を持って戦うが、二刀で無ければ戦えないというわけにはいかない。
  一刀であっても、無刀であっても腕が落とされても戦い続けられなければ意味がない。


  ここで後に伝わる、二刀、一刀、無刀の型分けの原型が生まれたのだ。
  名を与えた技は少ないが、それぞれの型における基本は彼の時代に全て完成されている。


  こうして生涯を剣に奉げたロマネスクが、晩年に差し掛かってぶつかった問題があった。
  諸行無常、盛者必衰、人気連載逃亡、無双の剣豪杉浦ロマネスクも老いていずれ死ぬ。
  要は、後継者の問題である。


  戦場で名を上げると、どこの馬の骨とも知れない彼にも寄ってくる女はあったが、彼は生涯妻をめとることは無かった。
  彼は剣を持たない人間とのコミュニケーションの取り方が分からなかったのである。
  そういう訳で実子はいない。弟子を募集するしかなかった。


  この時代までに、彼に弟子入りを志願した者がいなかったわけではない。
  名うての剣士となれば教えを請いたいというやつはわらわら湧いてくる。
  それをロマネスクは全部断わって来た。


  建前としては自分の修行はまだ終わっていないから。
  本音としては、自身が師匠と上手く行かず、望まぬ死に別れをした、その後悔に由来する不安からである。


  自身の集大成を後世に残したいが、得体の知れない他人を弟子を取るのは気が引ける。
  今更女を娶って子を産ませても、子が剣を握れるようになるまで健在でいられるかは分からない。


  そうしてさんざん悩んだ結果、彼は孤児を二人ほど誘拐した。

123 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:06:40 ID:RSFxJfvw0

  子供相手であれば何とかうまくできるんじゃないかな〜って浅はかな考えだったんだが、まあやっちまったもんは仕方がない。
  老ロマネスクが誘拐もとい引き取った二人の孤児は


       {´┴`}           (^ν^)


  左がニューソ、右がニュックと言う名前だった。
  何とも珍妙な名だが、彼らが管理されていた院の方針らしく、彼らを扱ううえで便利な記号に成っていたらしい。


  二人は意外にも素直にロマネスクに従った。
  他にも孤児が山ほどいる養護院よりも、ロマネスクと共に暮らした方がマシだったってのはあったんだろう。
  そんな感じでロマネスクは二人の弟子を得ることができたのである。


  弟子の二人は、元々同じ環境で育ったにも関わらず、対照的な性格をしていた。
  ニューソは物腰穏やかで、剣の才能はあまりなかったが、堅実な性格でコツコツ稽古に取り組んだ。
  対するニュックは剣の才能は溢れるほどあった。ちょっと指導するだけで瞬く間に成長し、その分あまり稽古に熱心では無かった。


   (^ν^) 「あ? 俺の方が強いんだから俺が二代目になるに決まってんだろクソザコ」

   {´┴`} 「お前みたいな不真面目池沼に師匠の後釜が務まるわけ無いでしょ……」

   (^ν^) 「あ?」

   {´┴`} 「野蛮人はこれだから……」


  こんな感じで両方ともそこそこクズだったので、喧嘩は良くしたが意外と仲良くやっていたらしい。
  結果的に多少の差はあれ、ロマネスクが老いさらばえる頃には、二人とも(腕だけは)立派な杉浦の剣士になっていた。

124 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:08:08 ID:RSFxJfvw0

  こうなるとやっぱり問題なのは後継者をどうするかって話である。
  まだ一代目の流派だったし、別に一子相伝てわけでもないのでそれぞれに継がせてもよかったのだが……


   (^ν^) 「俺に二代目継がせなかったら殺すぞジジイ」

   {´┴`} 「どう考えても俺でしょ……。アイツ選ぶ時点で師匠に正常な判断能力無いとみなせるから……」


  肝心の弟子たちが思いのほか「杉浦ロマネスク」の名前に固執してしまって収まりがつかない。
  ただ流派を残すだけなら二人それぞれに免許皆伝でいいが、同時に二人の「杉浦ロマネスク」を出すってなると話は別だ。


   (一ФωФ) 「ぐぬぬ……」


  杉浦ロマネスク、大いに悩んだ。
  その内どっちか逃げ出すか死ぬだろうと思って二人攫ってきたのに、両方残ったせいで悩むなんて思いもしなかった。
  「お前がロマでお前がネスクじゃダメ?」と聞いてみたが「「殺すぞ」」と言われた。厳しい弟子たちである。


  元々剣以外のことを考えるのが苦手だった杉浦ロマネスク。
  杉浦双刀流の特性を考えて、二刀、一刀、無刀による三本試合を行い、その勝者に二代目を継がせることにした。
  これならまあ弟子たちも文句はあるまいというわけである。

125 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:10:02 ID:RSFxJfvw0

  試合の結果はあっさりと出た。
  勝ったのは、


   (^ν^) 「……」

   {´┴`} 「あらあら、勝てちゃったよ……」


  意外にも、カタログスペックで劣るニューソの方であった。
  後世、ニューソの生き様に敬意を払ってニュックがわざと負けたなんて説や、
  ニューソが毒を盛ったとか、本当はニューソに継がせたかった初代が手心を加えた何て説が出るのだが、真相は不明。


  ぶっちゃけ弱い奴が強い奴にたまたま勝てちゃうなんてのはそんな珍しい話でもないし、
  二人の場合差はそれほど無かったんで、肝心な場面での勝負強さについてはニューソが上手だったってことだろう。


  こうして大分歳だった初代ロマネスクは事実上の引退。
  山に篭って仙人染みた隠居生活を始めて、表舞台からは姿を消す。


  ニュックは最初こそ師についていって改めて修行を続けてたんだが、山の生活に飽きてすぐに降りてきた。
  そのあとはまあ、流れの傭兵崩れとして色んな戦場を闊歩。
  師から継いだ理念を一応尊重しつつ、流派に独自を発展をもたらしたんだが、これはまたちょっと後に語る。


  んで、本筋としてあとを継いだ二代目ロマネスクは、相変わらずちょいクズだったけど怠けずに研鑽をつづけた。
  コイツの偉かったところは剣の道以外での師匠の失敗をちゃーんと活かしたところである。
  いい年になると妻を娶って子作りを始めたのだ。

  初代よりかは倫理観が整っていたので、誘拐とかは考えなかった。
  そこそこ有名な拳法家の三女(当時14歳)と誘拐同然に駆け落ちしたのだが、本人が一応了承してたのでセーフセーフ。

126 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:12:12 ID:RSFxJfvw0

  んでまあ、毎晩せっせこ励んだ二代目だったが、中々子宝には恵まれなかった。
  いや冷静に考えてその年の娘にゃ無理だろって話なんだが、実際は二代目の方に体質的な原因があったらしい。
  結局二代目夫妻にやっとこさ子が出来たのはもう晩年に差し掛かるころだった。


  妻は若かったので出産は比較的低いリスクで出産に成功し、見事に第一子が誕生した。
  のだが。


   川*` ゥ´) オピャ〜ッ オピャ〜ッ

   (二ФωФ) 「おちんちんどこ???」


  生まれた子供は女児だったのである。
  子が出来たのは喜ばしいことだったが、二代目ロマネスクは落ち込んだ。


  一人目が出来るのにも10年を超える歳月がかかったのだ。
  既に老い始まった自分に、次の子をこさえる時間はあるのだろうかと不安になるのは仕方がない。
  んで、結果から言うと二子は出来なかった。いっぱい頑張ったんだけどね、授かりものだからね。


  しかし、落胆から二代目を救ったのは、その原因であった長女ピャーコであった。
  彼女は乳離れをするや否やつかまり立ちをし、その数日後には自立して歩くことが出来るようになった。
  さらに半年も経つと、細い木の枝を振り回し羽虫をたたき落して遊ぶようになった。


  控え目に言って神童とか麒麟児とかいうやつだ。
  彼女が出来るまでにかかった時間や努力がそのまま才能に変換されたような奇跡の子だったのである。

127 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:14:22 ID:RSFxJfvw0


  二代目は男児をこさえるのを諦めて、実際にはピャーコの才能に魅せられて彼女に後を継がせることを決めた。
  この当時、女性が武芸を習うのは結構珍しいことだったが、そんな常識を覆すだけの力が彼女にはあったのである。


  ピャーコが初めて刀を持ったのが3歳の時。
  もちろん刃渡りの極端に短い短刀であったが、ピャーコは見事にこれを扱いこなした。
  重さを上手く流し力に変え振り回すさまは、神童と呼ぶにふさわしい姿であった。


  こうしてピャーコは二代目ロマネスクによる万全の指導のもとメキメキと腕を上げた。
  世代も性別も関係なく並ぶものが居ない程である。
 

  が。


   川*` ゥ´) 「ピャーッピャッピャッピャッ!!」


  才ある者の悲しき性と言うかなんというか。
  挫折知らずのピャーコはご多聞に漏れず滅茶苦茶のけちょんけちょんに調子こいていたのである。
  年が16になるころにはピャーコの鼻は伸びに伸び、天にも突き刺さらん勢いだった。


  となると、バベルの塔しかりイカロスの羽しかり。
  天に至ろうと驕った存在と言うのは焼き払われるのが世の常だったので、ピャーコもまあそれなりに酷い目にあうことになる。


  それはピャーコ17の歳。
  調子に乗って突出しすぎた彼女は敵の罠にかかり、人生初かつ最大の危機に陥ったのだ。


  流石天才児のピャーコちゃんは何とかこの危機を脱することに成功はする。
  問題は、助けに入った二代目の命と引き換えだったってことだろう。

128 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:15:57 ID:RSFxJfvw0

  多少老いていたとはいえ二代目もまだまだ現役。
  無双の剣士であることに変わりは無かったのだが、それでも娘を庇って戦うとなると勝手が違ったらしい。
  複数の兵士を同時に相手取った彼は、初めてのピンチに動転する娘を逃がすための肉の壁とだったのだ。


  数え切れぬほどの傷を負いながらも、二代目は敵を殲滅。
  どうやら足に深い傷を負って逃げられなかったらしいのだが、だからってその場の相手を全員斬り伏せるってのが杉浦らしさだろうか。


  だが、残念なことに敵を斃したからって怪我は治ったりしない。
  二代目はそのまま失血で意識を失い、間もなく死亡した。
  享年55才。才ある娘を庇い、なおかつ戦場で死ねたっていうんだから、まあ、幸せな最後であったんだろう。


  残されたピャーコは、父を死に追いやった自責の念からこれまでとは一転して塞ぎこんでしまった。
  人生初の挫折である。その上それが最愛の父を失う経験と重なってるんってんだから、まあ仕方なかろう。


  と、そんな感じで剣を振るうことを辞めてしまったピャーコ。
  もうこの時点で再び剣士として生きる気力は彼女には無かったのだ。


  そこに現れたのがこの男。


   (^ν^) 「湿気た面してんじゃねえぞ死ね」


  そう、二代目の兄弟弟子。
  のちに三代目代理としてピャーコの師になる、杉浦ニュックであった。

129 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:17:06 ID:RSFxJfvw0

  二代目の襲名以降袂を分っていたニュックが何をしていたかと言うと、大よそ初代と似たような感じである。
  実力では勝るはずのニューソに敗北したことで彼なりに色々感じたらしく、
  師と同じことをして自身に足りないものを探していたのだ。


  師の理念にのっとり忠実に教えを体現した二代目に対し、ニュックはガンガン新しいことを取り入れていった。
  戦場で戦い続けるというのはつまり、その変化に順応することである、と言うのが彼なりの解釈だった。


   (^ν^) 「刀投げれば遠くの相手も殺せんじゃん。天才かよ」


  こんな感じで刀を投げつけて殺す技を編み出し。


   (^ν^) 「刀投げたら二刀技使えねーじゃん死ね」


  こんな感じで一刀流の技を数々編み出した。
  のちに変則一刀流と呼ばれる技のほとんどは彼が編み出したもので、性格の悪さがにじみ出た癖の強い体系となっている。
  彼は鳥を眺めるのが好きだったので、技の名前に鳥の名がつけられているのも特徴だ。


  そんな感じで我道を爆走していた彼だったが、ある日二代目ロマネスクが討ち死にしたという噂を耳にする。
  袂を分かってからも、二代目の噂は気に掛けていた彼なので妻があることも娘があることも知っていた。

  どうやら二代目討ち死にの噂が真実らしいと分かると、ニュックはすぐさま二代目の妻の元へと向かった。
  墓前に鼻くそでも供えてやろうと、それくらいの気持ちであった。

130 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:19:16 ID:RSFxJfvw0

  ま〜〜〜〜何となく察してくれるとありがたいのだが、おセンチガールのピャーコと口悪のニュックは非常に相性が悪かった。
  初対面でいきなり口喧嘩となり、そのまま刀を抜いての刃傷沙汰にまで発展してしまったのだ。
  ニュックがピャーコに発破かけて再び剣を取らせようとした、みたいに美談っぽくも出来るんだが単に性格が悪かっただけってことは明言しておこう。


  この時の子供の喧嘩染みた立ち合いで、二人は互いの実力を知る。
  特に衝撃を受けたのはニュックの方であった。彼もまた、ピャーコの才能にやられちゃったのである。


  弟子を取る気なんてさらさらなく、必要になったら師を真似てどっかから攫ってこようと考えていたニュックだが、
  溢れる才能を持つピャーコに自分の杉浦双刀流を仕込みたくてしかたなくなってしまった。
  そうなると、性格が悪い上に歳を重ねたニュックの老獪さに、ピャーコが勝てるわけが無かった。


   (^ν^) バーカバーカ

   川#`皿´) ムキィ〜〜ィ!!


  ニュックは言葉巧みにピャーコを挑発し、煽り倒し、上手いこと彼女を自分の弟子にしてしまうのである。
  まあこれはニュックがすごいって言うよりはピャーコがあまりにチョロかったのだが、可哀想なので言わんでおこう。


  ともあれまんまと言いくるめられ、渋々剣の修行を再開したピャーコであったが、すぐに様子は変化した。
  ニュックの教える杉浦双刀流は、かつて父が教えた保守的なものとは異なり、革新に満ちていた。
  親父である二代目には不憫なことだが、超感覚派天才肌のピャーコには、常に進化を求めるニュックの剣の方があっていたのである。

131 名も無きAAのようです :2016/10/26(水) 22:20:38 ID:x7RHvSio0
支援

132 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:20:46 ID:RSFxJfvw0

  こうして再び杉浦の後継者として腕を上げ始めたピャーコ。
  ニューソとニュック、二人の師の異なる教えを持ち前の才覚で上手いこと統合し、新たな杉浦双刀流を生み出していく。。
  杉浦双刀流はこの時代、ピャーコの手によって完成したと言って過言じゃないだろう。


  まあ自由気儘に暴れるピャーコの剣を上手く型に遺したニュックの涙ぐましい努力ありきなんだけどね。
  扱う刀の本数に応じて三つある奥義の内二つも、ピャーコが切っ掛けを掴んでニュックが形にしたって感じだった。


  しかしまあ、ただただ一つだけピャーコには問題があった。
  ちょっとばっかし思い込みが強く、執着心がヤバかったのである。


  歳が22にもなると、彼女はとうとう初めての恋をした。
  相手はとある山寺で修行する、一人の若い僧兵であった。
  ニュックとともに腕試しに訪れた山寺で、二人は出会った。


                     爪゚ー゚)


  彼の名はジィ。
  僧兵にとして山寺に入ったばかりの13の少年である。
  まだほとんど鍛錬をしていない体は華奢で、幼さの残る顔は少女のようでもあった。


  これまでクマ、ゴリラ、ゴブリンみたいな男どもに囲まれて生きてきたピャーコにとってジィは初めて出会うタイプの異性だった。
  そりゃもう、一発でやられてしまうってもんだ。ぞっこんである。

133 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:22:32 ID:RSFxJfvw0

  となると一つ問題が出てきた。ジィのいるこの寺及び宗派は、基本的に女人禁制だったのである。
  この時点でピャーコが中に入れたのは、武芸者としての腕を認めたが故の特例。
  稽古や試合の時以外はほとんど隔離されるような環境にあったのだ
  

  当然そんなことでピャーコは諦めなかった。
  恋する乙女は強いのだ。発情期のメスゴリラは恐いとも言う。
  部屋として与えられた物置小屋から抜け出して、仕事中のジィに接触し猛アタックしたのである。


  宗教上禁じられていたとしても、ジィもまた多感な年頃であった。僧としての修験もまだまだ足りてなかった。
  初めは頑なに断っていたのだがあまりに成り振り構わぬピャーコの押しに負け、彼女の好意を受け入れてしまったのだ。
  その日の内に色々と盛り上がって婚約まで交わし、ピャーコ達が去るのに合わせて駆け落ちする算段まで立てちゃうほどに。


  あんまり細かく二人のやりとりを書くと白目をむきそうなので結果に飛んでしまうと、ジィは最後の最後でピャーコを裏切った。
  駆け落ちを約束したした日、待ち合わせの場所に来なかったのである。。
  他の僧兵たちに阻まれたのか、元から適当に話を合わせてただけなのかは分からないが、これにピャーコは深く傷ついた。


   川#`゚益゚) 「私の純情を弄びやがってェ〜ッ!! ハゲ共ォ〜ッ! 頭蓋骨ひっぺがして殺してやるゥ〜ッ!!!」


  そしてこうなった。


  残念なことに彼女も杉浦の系譜。
  倫理観は生まれた時から墓に埋葬されていた。

134 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:23:19 ID:RSFxJfvw0

  すぐさま彼女の異変に気が付いたニュックによって刀を取り上げられたピャーコ。
  しかしやはり諦めない。この女、ニュックに従うふりをして虎視眈々と機会を窺っていた。


  ピャーコはニュックが古巣に立ち寄ったタイミングを見計らって、山寺へと踵を返した。
  この時点で既に三日歩いた距離にいたのだが、そこをたった半日たらずで踏破。
  宵の頃になって山寺に着いたピャーコは、そのまま休まず素手で門を破り強襲した。


  言い忘れていたが、彼女は杉浦双刀流のみでなく、母方の拳法も結構なレベルで体得していた。
  どれくらいかって言うと、「発頸」という体内のオーラ的なものを扱う技を片手間で覚えちゃったくらいである。


  そんなこんなでピャーコは山寺の戦力を壊滅。駆け付けたニュックのソバットを頸椎に喰らうまで、暴れ続けたのである。
  この時に編み出された技の数々が、後の無刀の型――奥義『奪屠葬』及び、無刀技の原型となった
  何となく寺院をぶち壊すような名称が多いのは、こういった由来のせいかもしれない


  大暴れしたピャーコはニュックにこっぴどく叱られたものの、戦利品としてジィを強奪しご満悦であった。
  次世代の為に人を攫うのが風習に成りつつあった。
  とはいえまあ、次の奴は真面だったので安心していただきたい。

135 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:24:42 ID:RSFxJfvw0

  ピャーコは結婚と同時に三代目を襲名。
  腕前よりも性格的な問題で見送られていたので、まあ結婚すりゃあ多少落ち着くだろうというニュックの判断だった。
  実際は結婚したくらいじゃ落ち着かず、ピャーコは無邪気に破壊神を続けてしまったんだけども。


  そんな彼女が途端に落ち着いたのが襲名から三年後。
  ようやっと彼女の腹に子が宿ったのである。
  この時の三代目の転身には皆が驚いた。妊娠の発覚と同時に剣を置き、事実上引退してしまったのだ。


  そんな彼女の母親としての気遣いあってか四代目候補は無事に生まれた。
  大きくも小さくも無い健康的な男児である。夫婦は彼に「杉浦ブレイゾン」と名を与えた。


  このブレイゾンの顔を見て滅茶苦茶驚いたのが一人いた。
  既に老齢となっていた、杉浦ニュックである。
  何故かというと、この新生児杉浦ブレイゾン、



        ( ФωФ) バブーである



  かの初代、杉浦ロマネスクに引く程クリソツだったのだ。

136 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:26:59 ID:RSFxJfvw0

  ブレイゾンは顔が似ているだけでなく、ロマネスクにふさわしい才覚を持っていた。
  純粋な才能や感性と言う点では母に程ではなかったがそれでも十分高い。
  男児であるがゆえに筋力の成長も見込めたので、ピャーコとはまた違った極みの可能性があった。


  その上、二代目を思わせる堅実さ、父であるジィ譲りの品行方正さも兼ね備えていた。
  総合点で言えば断トツである。実際こいつは歴代で一番ヤバい「ロマネスク」になったりする。


  彼はピャーコとニュック、二人の師の元でメキメキと腕を上げた。 
  特にニュックの熱の入れようは異常であった。
  既に老齢だった彼はその残りの魂を全て注ぐかのようにブレイゾンに接した。


  ブレイゾンが最も恵まれていたのは、優れた指導者たるニュックの存在だろう。
  その関係はブレイゾンが十五になるまで、言い換えればニュックが逝去するまで続いた。


  ニュックが大往生を遂げたその年、ブレイゾンは四代目杉浦ロマネスクを襲名。
  親元を発ち、初代や師匠ニュックと同じく戦場を渡り歩く修練の旅に出る。
  指導者としてはイマイチだったピャーコが彼の才能を腐らせたくないが故にとった苦渋の判断だった。



   川*; ゥ;) 「きをつけるんだよ〜、 寂しくなったらいつでも帰っておいでぇ〜」

   (四ФωФ) 「大丈夫であるよ母上。必ず杉浦に恥じぬ剣士になって戻ってくるである」

   川*; ゥ;) 「ピャ〜〜、何か困ったことがあったら、お母さん大陸の端くらいまでならすぐ駆け付けるからねぇ〜」

   (四ФωФ) 「それじゃあ我輩の修行にならんであるよ」



  まあ実際んとこ、ピャーコが四代目を溺愛し過ぎて厳しく指導できなかったってのが一番の理由だったりする。

137 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:29:03 ID:RSFxJfvw0

  こうして世界に飛び出した四代目ロマネスク。
  つまらんことに彼は父ジィのお陰で真っ直ぐ芯の通った倫理観を身につけていたので、いきなり泥棒を始めたりはしなかった。
  誘拐もしないし、無駄に人を斬ったりもしなかった。山賊に襲われた時でさえ殺さず組み伏せるだけで済ましたくらいである。


  やっとこ出来上がったまともな人間なんだが、少々面白味には欠ける奴である。
  コイツがやったことと言えば戦場での百人切りとか、二刀奥義の開眼とかそんな感じだ。
  もっと先代共を見習って犯罪らしい犯罪をしてくれた方が楽しかった。


  はてさて、比較的順風満帆に求道者としての人生を歩んでいた四代目だったが、彼にも一つ不幸な出来事があった。
  彼が独り立ちしてしばらく、これまで休戦を挟みながらも長くだらだらと続いた戦争が終息し始めたのだ。
  結果は祖国チャンネルの勝利。領地は拡大し、少なからず富を得て国は潤ったが、同時に多くの傭兵が失業した。


  食いブチを失ったロマネスクは、しばらくの間は賊の討伐で生計を立てた。
  腕前も十分あり、戦場で知る人ぞ知る杉浦ロマネスクの名は皆に求められた。
  しかし、まあコイツにとってはまったく張り合いの無い日々だった。賊が弱いって言うかロマネスクが強すぎたのだ。


  歴代最も優れていた杉浦ロマネスクは、早々にその武を発揮する場を失ってしまったってのである。

138 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:30:59 ID:RSFxJfvw0

  つーわけで人々が知る杉浦双刀流は大よそここまでである。
  この後彼はふらーっと旅に出るとそのまま行き方知れず。びっくりするほどあっさり世間から姿を消しちゃうのだ。
  そもそも結構有名だったんで、偽物がでてきたり、胡散臭い噂話流れたりはしたのだが、それくらいである。


  この噂話ってのがまた荒唐無稽で、神様と一緒に魔神討伐に出たとか、一晩で100の魔物を斬ったとか、
  仮面をかぶった悪の秘密結社を壊滅したとか、そんなんばっかり。
  それっぽいのだと、背の高い男性と子供二人と共に旅をしていたってのもあったんだが、やっぱり真実かどうかははっきりしていない。


  そんな噂話すらもしばらくすると無くなって、以降は完全に消息不明。
  別の国へ行ったのか、それとものたれ死んだのか、だーれも知らないっでわけだ。

  かの悪名高い「魔女」が暴れ始めた時期が近いってんで、関係があるって説もあったけど、真実は闇の中。
  結局四代目ロマネスクが人々の前に再び登場することは無かったから、何らかの原因で死んだってのが通説になっている。


  まあそんな感じで、杉浦双刀流の名前は、とある青年が現れる約半世紀弱の後まで人々の記憶から忘れ去られてしまうのである。

139 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/26(水) 22:32:16 ID:RSFxJfvw0


  以上でした
  ではまた投下の時に
  なにか事情が発生して遅くなる場合なるべく早めにお知らせするのでよろしくね

140 名も無きAAのようです :2016/10/26(水) 23:02:40 ID:FAmreXWA0
乙 退屈させん文章、流石だわ

141 名も無きAAのようです :2016/10/26(水) 23:03:25 ID:.kuTai4c0
成り立ちわろたおつ
改めてリスト見ると二刀の技一つしかないんですね……

142 名も無きAAのようです :2016/10/27(木) 00:34:06 ID:HvBmHNYo0
投下乙でしたー
やっぱ面白いわー

四代目が旅をしていた相手とかって既に出てきてたっけ?うろ覚えだー

143 名も無きAAのようです :2016/10/27(木) 01:05:09 ID:1Wq7BhkI0

サックリ語られてこれはこれで面白かった

144 名も無きAAのようです :2016/10/27(木) 05:08:31 ID:qezsJ1Wc0
今回のだけ見たけど中々面白いな。最初から読みます

145 名も無きAAのようです :2016/10/27(木) 08:31:40 ID:i7zhAIYE0
おおーおつ
杉浦ロマネスクって一人じゃなかったのね
キュートと一緒にいるのは初代なのか四代目なのか

146 名も無きAAのようです :2016/10/27(木) 12:31:24 ID:dMhctOLY0
ピャーコの作った無刀の奥義、奪屠葬を使えてたし四代目だろうな。

147 名も無きAAのようです :2016/10/28(金) 04:02:29 ID:TeHWuTx.0
あの威圧感出して逃げる奴はどの代が編み出したんだろう

148 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:07:25 ID:eV43cX2A0





       ―





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149 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:09:24 ID:eV43cX2A0

 血の匂いがした。今までに嗅いだことのない、濃厚な臭い。
 薄らぼやけている視界には無数の死体が転がっている。
 どれもこれもついさっきまで生きていた。武器を持ち防具を纏い、猛々しく吠えていた。

 だがもう死んだ。
 突如体を分断され、血しぶきを上げて崩れ倒れた。

 目の前に誰かの手が転がっていた。
 体は何処だろうか? あの血肉溜まりの中だろうか?

 早く見つけて謝罪しなければ。
 気が付かずにゲロを吐きかけてしまった。
 血の臭いに混じって、胃液と食物の混ざった、何とも言えない酸いて甘い臭いが鼻をつく。

 こりゃ汚いや。
 マントで拭えば許してもらえるか?
 ちゃんと洗わないとだめかもな。

 そんなことを思った。謝る意味も相手も無いことに気が付きまた吐いた。
 嘔吐物はほぼ液体で、血の海を押しのけながら、あるいは混ざり合いながら地面に広がってゆく。

 また他人の手に吐いてしまった。
 謝まらなければ。相手が死んでいようと構わない。
 死者に謝罪が出来るのは生者の特権である。

150 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:10:25 ID:eV43cX2A0


     「おや〜〜〜? 意外や意外! ブーン以外にも生きている子がいるのね」


 明るい声がする。
 女の声だ。若い、と言うより幼い。しかしどこか老獪な、歳を重ねた老婆のような空気を感じる。


     「凄いねあなた。どうやって防いだの?」


 目の前に足が現れた。小さな足だ。子供だろうか。
 黒い靴から見えるくるぶしも、足首も白く美しい。
 地面の赤に映えてなおのこと輝いて見えた。
 

     「ねえ、大丈夫? お水飲む?」


 自分が話しかけられていることに気が付いて、顔を上げた。
 それだけで頭がぐらぐらとしたが、視界にとらえたものを見て、さらに意識が揺れた。


o川*゚ー゚)o 「もしかしてこういうのは初めて?」


 そこにいたのは、声の印象から遠からぬ、幼い少女だった。
 小さな顔に黒い髪。血色がよく、ニコニコと上機嫌だ。
 こちらと目があると、髪と同じく黒い服をゆらして立ち上がった。

 やはり少女だ。見間違いではなかった。身長はこちらの肩ほども無いだろう。
 幼く愛らしい顔をしている。そのくせ浮かべている微笑みは淑女と紛う程大人びて見えた。

 脳が。本能が怯えていた。これは違う。違うぞ、と。

151 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:11:49 ID:eV43cX2A0


o川*゚ー゚)o 「あなた、お名前は?」

(;'A ) 「……メランコリーズ=ロンリードッグ」

o川*゚ ,゚)o 「めらこりん……?」

(;'A ) 「いや、メランコリーズ=ロンリードッグ……」

o川*^ー^)o 「……そう、ドッグって言いうのね。私あなたのこと気に入っちゃった」


 少女が手を差し伸べる。
 足と同じく白い手だ。その向こうに少女の笑みがある。
 今度は見目に似合った無邪気なそれだ。


o川*^ー^)o 「私の為にちょっと……」


 少女が何かを言おうとしていた。
 しかし、その言葉が唐突に止まる。
 代わりに彼女の口から生えたのは、血に濡れながらも鈍色に輝く、片刃の切っ先。

152 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:12:55 ID:eV43cX2A0

 少女が「あが」と言うのと同時、刃は勢いよく回転し口内に戻っていく。
 否、何者かが彼女の後頭部から剣を突き刺し、回しながら引き抜いたのだ。
 刃の回転で抉られた少女の頭部組織が、血と共に顔に降りかかる。


(;;;;;;;;ω ) 「――――“連刃二刀”」


 少女の首を横断する煌めきが見えた。
 血の糸のみを胴と繋げて宙に跳ね上がる頭部を、さらなる煌めきが過ぎ通る。
 聞えたのは硬い物を小突いたような、打撃音。そして、鞭を振るったような湿気た擦過音だった。

 少女の頭は空中で目を境にして上下に別れた。
 脳漿が斬撃の軌跡をなぞる。
 血を溢し、何か分からぬ粘液をまき散らしながら、しかし少女の顔は笑ったままだった。


(;;;;;;;;ω ) 「――――“狐払い”」


 既に頭部を失った少女の体は、ぐらりと倒れる前に、横に吹き飛ばされた。
 回転し螺旋を描き、血を帯のように振りまく。
 地面に衝突し、跳ね、転がり、伏せって止まったその背中には、二筋の巨大な刀傷があった。


(;;;;;;ω^) 「……大丈夫かお?」


 少女を追って横に流れた視線をもとの位置にもどすと、そこには男が立っていた。
 背はあまり高くない。顔は柔和だ。しかし、両手に刀を持つその体は、服の上からでも分かるほど力強さに満ちている。
 彼の名は知っていた。事前に噂と共に聞いていたのだ。

 通称「オルトロス」。双刀の魔犬、ブーン=N=ホライゾン。

153 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:13:54 ID:eV43cX2A0

(;'A ) 「え、あ」

(づω^) 「落ち着いて。でもまだ終わってない」

(;'A ) 「何が、なんだか……」


 ブーンに引き起こされ、何とか立ち上がる。
 足に力が入らず、ふらついて彼に縋りついた。
 ブーンは嫌がる様子もなく、刀の刃が当たらぬよう、腕でこちらを支えてくれる。


( ^ω^) 「手短に。アレが僕らの討伐対象―――」

(;'A ) 「え??」

( ^ω^) 「魔女だお」


 その瞬間、体が大きく引っ張られた。
 急激な力に首がねじ切れそうになる。
 ふらつく頭をなんとかして、状況を把握する。

 膝の裏と、背中にブーンの腕がある。
 抱えられて移動しているようだ。
 人一人の重みが増しているにも関わらず、ブーンは素早い。抱えられているこちらの目が回るほどだ。

 なぜこんなことをしているのか? と問おうとしたその時、一瞬前までブーンが居た空間に、巨大な亀裂が走った。
 独特の反応光が端々にちらついている。魔法だ。魔法によって空間を捩じり、切断しようとしているのである。
 一体だれが? その答えもすぐに分かった。


o川*゚ ,゚)o 「もぅ、お話し中だったのにぃ」


 先ほどの少女。ブーンの言葉を信じるならば、現代においてこの上なしと畏れられる最強の魔法使い。
 通称して「魔女」。地震、雷、火事、コイツと、天変地異に唯一並ぶことのできる人間である。

154 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:14:59 ID:eV43cX2A0

(;'A ) 「なんで、いきて?!」

( ^ω^) 「『魔女』だから」


 ブーンは駆ける。
 時折急激に進路を変え切り返す。
 魔女の攻撃は絶えないが、それを見事に回避し続けた。

 彼の肩にしがみ付きながら、必死に頭を働かせる。
 そうだ。古城跡を寝床にしていた魔女の討伐に傭兵として参加し、この大広間になだれ込んだ瞬間に……。

 周囲を見る。
 先ほどまで見ていたのと変わらない光景だ。
 バラバラに切断された討伐隊の体が散らかっている。

 目を向けると、広間の外に残っていた者たちまで死んでいる。
 恐らくは一定範囲内の指定した対象を問答無用で刻み殺す魔法だったのだろう。
 そうなると、範囲によっては外に待機していた残りの兵士たちも無事かどうか。


( ^ω^) 「あんたに頼みがあるお」

(;'A`) 「ひゃ、ひゃい」

( ^ω^) 「一緒に戦ってくれお。アレと相対して生き残れるってだけで、腕前は信用できる」

(;'A`) 「え?ええ?」

o川*^ー^)o 「横恋慕はだぁめよ」

155 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:16:00 ID:eV43cX2A0

 一際大きな魔力の波動がブーンを襲う。
 何とか回避するも、二の腕を掠め、ブーンは膝をついた。
 掠めた、と言っても傷は大きい。彼の纏っていたマントが、衣類と皮膚ごとはぎとられている。
 

( ^ω^) 「どっちにしろ殺されるお」

(;'A`) 「わ、わかった!」


 了承した瞬間に、突き飛ばされた。
 ブーンもその後すぐさま跳躍。
 二人の間の地面を、無色の大斧が叩き割る。


o川*゚ー゚)o 「ちょっと頭開いて脳みそもらうだけだからね?」

(;'A`) 「ひえっぇ!」


 すぐさま魔法式の組み上げに入った。
 生半可な魔法では意味がないことは、もうわかる。
 となれば、手段は一つしかない。噂に聞く魔女であれば、これしかないと初めから決めてきたのだ。

 魔女が魔法式の展開に気付いた。
 目が爛々と輝いている。
 本性を知った今、獲物を見つけた獅子のようと例えても、可愛げが勝ちすぎる。

156 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:17:04 ID:eV43cX2A0

 魔女の意識がこちらをむいた。
 同時に仄かな魔力の気配を感じる。
 常識ではありえない速度で、この場を中心に魔法式が組み上がっていた。

 直接干渉系の魔法。
 盾や防壁等は無意味だ。
 もっと根本から干渉を断たなければ、遮蔽物や回避では逃れられない。

 しかし、防御の魔法を組むまでも無く魔女の視線がすぐにこちらから外れた。
 その愛らしい頭部を、ブーンが横から蹴り抜いたのである。
 いつの間にそんな場所にいたのか、魔女も気が付いていなかったように見える。

 蹴り飛ばされた魔女は、軽やかにふわりと舞い上がって体勢を整えた。


o川*゚ ,゚)o 「もーさっきから斬ったり蹴ったりばっかり。レディの顔をなんだと思ってるの?」

( ^ω^) 「的」


 さらに魔女に斬りかかる最中、ブーンの視線がちらとこちらを向いた。
 援護してくれたのだ。そうとなれば急がなければならない。
 魔女の強襲と圧倒的な魔法能力に焦りはしたが、落ち着けばこちらにも相応の手がある。

157 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:18:44 ID:eV43cX2A0

o川*゚ー゚)o 「でも珍しいわね。ブーンが他の人をあてにするなんて」

( ^ω^) 「……君を止めるには魔法がいる」

o川*゚ー゚)o 「そうね。神様でも足りないくらいの」

( ^ω^) 「……」

o川*゚ー゚)o 「あの子がそれだけの魔法使いに見えた?」

( ^ω^) 「君が気に入った。それで十分だお」

o川*^ー^)o 「信頼してくれてるんだ」

( ^ω^) 「黙れ」


 激しい金属音。
 ブーンが斬りかかり、魔女が魔法で生み出した剣でそれを受けたのだろう。
 あまりに一瞬のことで何が起こったのか追いきれなかったが恐らくそうだ。

 ブーンの斬撃は速く、強い。
 鳴り響く受け太刀の音だけで肌が切り裂かれそうだ。
 それに応じて躱し守る魔女もまた並ではない。

 後悔の念が湧く。場違いな戦場に首を突っ込んでしまった。
 魔女の初撃に耐えた、気に入られたといっても所詮は凡夫の身である。
 初めての魔女に慄いて必要以上に早く上位の防御魔法を発動していたにすぎなかったのだ。

158 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:19:47 ID:eV43cX2A0

 もうすぐ魔法式が完成する、と言うところで魔女の意識が再びこちらを向いた。
 先ほどまでの悪戯な気配では無い。
 値踏みするような鋭さがその視線の中にある。


o川*゚ ,゚)o 「へえ、想像以上」

( ^ω^) 「ッチィ」

o川*゚ ,゚)o 「どこに埋もれてたのかしら。もうちょっと早くみつけたかったな」


 互いの剣を弾き、間合いが開いたところで魔女が指を鳴らす。
 その周囲に軽い破裂を伴って無数の火の玉が現れた。


o川*゚ー゚)σ 「ちょっと大人しくしててね、ブーン」

( ^ω^) 「ッ! 杉浦双刀流――――


 数多の火玉は魔女が指を向けるのと同時にブーンを強襲。
 豪雨が爆ぜるようなけたたましい音。連続する激しい紅蓮の爆発がブーンを呑み込んだ。

 その熱波は距離を取ったここでも頬に感じるほど。
 防御魔法を備えた魔法使いなら辛うじて、所詮剣士でしかないブーンに凌げるものではないだろう。
 直撃を避けたとて、火炎に包まれれば血肉か肺を焼かれて死ぬ。

159 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:21:16 ID:eV43cX2A0


o川*゚ー゚)o 「さて」


 カツ、と音がして、魔女が振り向く。
 先ほどまで平たい子供靴だったはずが、いつの間にか踵の高い婦人用のそれに代わっている。
 足元だけでない。炎の爆発に気を取られている一瞬に、魔女は少女から、成熟した女性の姿になっている。

 その顔かたち、体型に、思わず唾を飲んだ。


(;'A`) 「――― 一つ、聞きたい」

o川*゚ー゚)o 「なぁに?」

(;'A`) 「あんたの、名前は?」

o川*゚ー゚)o 「……あら、そんなこと? なんでも答えあげちゃうよ?」

(;'A`) 「いや、いいよ。名前さえ聞ければ」

o川*^ー^)o 「わたし、キュート。キューちゃんって呼んでね」


 魔法の発動に入る。
 当然魔女がそれを放っては置かない。
 こちらよりはるかに早い速度で、攻撃魔法を組み上げた。

 間に合わない。
 死を覚悟した。

160 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:22:28 ID:eV43cX2A0


o川*゚ ,゚)o 「本当、厄介な技」

 
 ブーンは隙の出来た魔女の懐に滑り込んだ、はずだ。
 何せ速すぎて過程が見えない。
 気付くと肉薄していた、という感覚である。


(,,;;;゙゙ω゚) 「“門通し”!」


 一瞬の溜め。弾けるようにブーンは魔女の細い腹に掌底を叩き込んだ。
 体当たりのように密着した一撃。
 インパクトと同時に魔女の体表が波を打つ。
 連鎖的に骨の砕けるパキパキという音が響き渡り、その口から嗚咽が漏れた。

 しかしブーンは止まらない。


(,,;;;゙゙ω゚) 「“瓦抜き”!」


 体が僅かに浮いた魔女にぴったりと接近したまま、更なる掌底で顎を打ち上げた。
 かち合った歯が折れて飛び、間に挟まれた舌が宙に舞う。


(,,;;;゙゙ω゚)「“鐘砕き”!!」


 宙に浮いていた魔女の足が、地面に着くその瞬間。ブーンの両拳が魔女の胸部を同時に打ちすえた。
 空気が円型に揺れた。爆発と紛う程の音が響き渡り、魔女の体は軽々と吹き飛び壁に叩き付けられる。
 四肢が曲がる。肺が完全につぶれたのか、開いた口から血煙が勢いよく吹き上がった。


(,,;;;゙゙ω゚) 「“金剛喝――――」

161 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:23:35 ID:eV43cX2A0


 間髪置かず突進するブーンの顔面に、無骨な手が叩き付けられた。
 死体の手だ。散らかっていた死体が急に浮き上がりブーンを襲ったのである。
 ブーンの動きが刹那鈍った隙に、その他の死体も次々と、弓に放たれた矢のようにブーンに飛び掛かる。

 手が掴みかかり、頭が喰らいつき、足が絡まり、胴に押しつぶされる。
 ほんのわずかな時間の間にブーンは屍の山に埋もれ、必死に伸ばした手の先だけが隙間から覗いている。


o川*゚ー゚)o 「びっくりしちゃった。本当に会うたびに強くなるのね、あなた」


 もういつ治ったのかも分からない。
 魔女の体は何事も無かったかのように再生している。
 まるで徒労。どれだけ攻撃を叩き込んでもまるで無かったようにされてしまう。

( ;'A`) 「“―――――我、汝を」

o川*゚ ,゚)o 「あ〜らら」


 だが、ブーンのあがきは、けっして無駄では無かった。
 彼が稼いだこの僅かな時間の内に。


( 'A゚) 「――――――祝福す”!!」


 魔法式は完成している。

162 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:24:26 ID:eV43cX2A0


 魔法の発動と同時に、七つの陣が周囲に展開。
 陣の輝きに呼応して体に薄く紋様が浮かび上がり、淡い明滅を起こす。
 向かい合う魔女には恐らく、この瞳に宿る七色の煌めきが見えるはずだ。

 周囲の空気が渦を巻いて上昇する。
 震えていた。大気も、地面も、この世界そのものが、この力に慄いている。

 体の中を熱い感覚が駆け巡る。
 力が満ちている。今なら何でもできる。
 その確信があった。悪名高い魔女であってもこの魔法なら。


o川*゚ー゚)o 「……」

( 'A゚) 「……加減はできねえ」

o川* ー )o 「……」


 ――――師から託されたこの“神格化”の魔法ならば。


( 'A゚) 「行くぜ!」


o川*^∀^)o


.

163 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:25:33 ID:eV43cX2A0


 気が付くと地面が目の前にあった。
 体が冷たい。さっきまで溢れていた力は今やどこにも感じない。
 訳がわからない。然し、どんな結果の中にいるのかは分かった。
 嘘だ。動かない口と喉の代りに、頭で叫んだ。こんなのは嘘だ。

 動かした視界にブーンが倒れている。
 何とか屍の山を脱したようだが、その後もしばし魔女とやり合ったのだろうか。
 おびただしい数の傷を負っている。辛うじて生きているのが不思議なほどだった。


     「私ね、本当に感動してる」


 目の前に踵の高い靴が現れた。
 魔女だ。何とかしなければと思ったが何をすればいいのかが一切思い浮かばない。
 

     「まさか、神格化を使えるほどの実力者が、こんなにぽっと、ノコノコと来てくれるなんて」


 大仰な動作で、踵が床を滑る。
 その時に伸びた赤黒い液体。討伐隊の血?
 違う。これは自分自身の体から流れ出ている。


     「ず〜っと、丁度いい人がいなかったのよね。その点、ドッグは本当にぴったり」


 意識が遠のいてゆく。血を流し過ぎた。
 ブーンが何かを叫んでいるがはっきりと聞き取れない。
 体を、なにか温かい力が包み込んでゆく。

 何かをされる。抵抗しなければ。
 反射的に組んだ魔法式が何なのか、自分でも分からなかった。


    「大丈夫、安心して。殺したりしないわ。あなたたちには時間をあげるだけ。だから……」

164 名も無きAAのようです :2016/10/29(土) 21:25:35 ID:Ql8mERss0
勝てる気のしなさ

165 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:27:12 ID:eV43cX2A0







 目が覚めた。
 視線を左右に動かす。動かしてみたものの、何を見ればいいのか分からない。

 心臓が高鳴っている。
 汗をかいている。
 手足が震え、肩には異様な力が入っている。
 しばらく硬直したのち、ドクオは自分が夢を見ていたのだと理解した。

 長い運動を終えたかのように、深く息を吐き身を起こす。
 いくらか離れた隣のベッドではツンが寝息を立てている。
 起こさずに済んだということは、奇声を上げたりはしなかったということか。


( ^ω^) 『ドッグ』

('A`) (悪い、起こしたか?)

( ^ω^) 『気にすんなお』

('A`) (……お前にも見えてた、よな。今の、夢)

( ^ω^) 『……やっぱり、サスガ兄弟のアレが原因?』

('A`) (どうだろ。……いや、そうだな)

166 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:27:53 ID:eV43cX2A0

 ベッドそばに置いてあった荷物の中から、小さな石を取り出す。
 掌で握りこめるほどの大きさで丸く平たい。
 片面には目を模した紋様、裏には耳を模した紋様が彫ってある。

 これは、ミルナ=スコッチに案内され向かった魔女の居城で見つけた唯一の、そして貴重な手掛かりである。

 三日前、ブーンとドクオは、ミルナの案内で魔女が根城にしているという旧ジュウシマツ砦を尋ねた。
 結果として、そこに魔女はいなかった。どころか、砦そのものがなくなっていたのである。
 見つかったのは大きく抉られた山肌と一部の壁のみで、初めて訪れた人間には、そこに砦があったという話すら嘘に思えた。


( ゚д゚ ) 「幻覚の類で無ければ、間違いなくここにあったのだが……」


 一番面食らっていたのは、ここに直接確認しに来たというミルナ本人だ。
 詳しい話を聞いた限り、彼が嘘を言っているようには思えなかった。
 ブーンとドクオが知る魔女の特徴を示唆する要素が多くあったからである。

 となると、ミルナの言うように幻覚、あるいは魔女が砦ごと移動したかのどちらかである。
 どちらも可能だろう。あの女ならば。


( ^ω^) 「少しだけどキュートと……傍にいたキメラの匂いが残ってる」

( ゚д゚ ) 「拙者の探知にも、其れらしい反応が僅かばかりあるな」


 となると、おそらくは後者。
 魔女の性格からしても幻術で誑かすより、力技で砦を運んだと考えた方が得心がいく。
 問題は痕跡が消されてしまったせいでその後の足取りを予想すらも出来ないということだ。

167 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:29:03 ID:eV43cX2A0


( ゚д゚ )、 「申し訳ない。拙者がもっと早く追いつけていれば……」

( ^ω^) 「いや、連絡もせず行ったり来たりしてた僕らの責任だお。むしろよく知らせに来てくれたお」

( ゚д゚ )+ 「実は拙者もそう思っていたのだ。追加報酬をくれ」


 ミルナをはっ倒したい気持ちを抑えつつ、ブーンとドクオはそれぞれの方法で周囲を探索した。
 ブーンは嗅覚と第六感で魔女の気配を探り、何か手がかりが無いかを探す。
 ドクオは探知魔法を展開して、ごくわずかな魔力でも注目して、この場で魔女が何をしていたのかを調査していた。

 三人がここを訪れて数時間。
 道中の疲れもあり、切り上げて野営にしようという流れになった時にそれは見つかった。


( ^ω^) 「なんだこれ」


 見つけたのはブーンである。
 不自然に割れた岩の罅に何か光る物を発見したのだ。
 傾いた朱い日差しが差し込んで一瞬煌めいたのを見逃さなかった。

 四苦八苦して何とか取り出したのが、この目と耳の紋様が描かれた、タリズマンである。

168 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:29:51 ID:eV43cX2A0

 ドクオが調べたところ、小さな太陽のタリズマンに大地のタリズマンを合わせたものだということがわかった。
 素材としてみれば希少ではあるが魔道具としてはオーソドックスな組み合わせである。
 魔力を生み出す太陽と、魔法式を保存する大地を組み合わせれば、半永久的に魔法を発動させられる。
 当然、太陽のタリズマンの魔力で維持することが可能で、大地のタリズマンに収まり切る魔法であることが条件だが。

 この魔道具の解析は、サロンに戻ってからじっくり行った。
 なぜか全壊していたハインリッヒの家から無事な範囲で必要な薬品を借り、魔法式を抽出する。
 もっと手軽に調べることも出来るのだが、どのような魔法が封じられてれているか予想もつかなかったため慎重になったのだ。

 結果判明したこの魔道具の効果は。


('A`) 「持ち主の視覚と聴覚を保存――つまりは見たこと聞いたことを他人に体験させられる魔道具だ」


 簡単なようで非常に希少な物である。
 情報を独自に保存するというのは、魔法の中でも難度が高く、繊細なのだ。
 もしドクオが不用意にこのタリズマンに干渉していたら、中身は完全に壊れていただろう。

 さらに時間をかけて解析し、傷つけずに内容を確認する方法が判明。
 万が一、洗脳ツールであった場合に備えてハインリッヒに同席してもらい、ドクオとブーンは魔道具に保存された記録を確認した。


  真っ先に映ったのは、森の風景だった。
  目の前には身長の高い男の背中があり、遠くを望んでいる。

 ブーンとドクオにはその背中に見覚えがあった。

169 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:30:46 ID:eV43cX2A0

(  ´_ゝ) 『オトジャ、行くぞ』


  男がちらとこちらを振り返った。

  声をかけられたこちら側の視界が縦にぶれる。
  恐らく首肯したのだろう。
  それを見て男は剣を抜き、さらに魔法を発動する。

  遠方に対して用いたのだろうか。
  この視点からは何が起きたのかを確認することはできない。
  男は、もう一度こちらを振り返ると、魔法を用い飛翔した。

  視点の主もそれに続き、剣を抜いて、森の木々を飛び越えた。


(;'A`) (ブーン、これって……)

( ^ω^) 『うん。アニジャ=サスガ。ってことはたぶん、オトジャ=サスガの記憶だおね』

(;'A`) (……あの山にあったってことは、もしかしてこの記録……)


  ドクオが続きを口にする前に、オトジャの視界は次々と変化する。
  そう、これは、オトジャ=サスガが見た、


 o川*^ー^)o 『あらゆる卑劣、あらゆる姑息、惜しまず使ってかかっておいで―――』

 
  魔女との邂逅の記憶。

170 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:31:51 ID:eV43cX2A0



     『―――これを見聞き出来ているということは、それ相応に知識を持った人間だと前提して話す』



  様々なことが映像として流れ、情報として整理するので精いっぱいだったタイミングで、オトジャのくぐもった声が聞こえた。
  視界でアニジャと魔女が戦っている。
  状況としては、アニジャが先に立ち魔女を引きつけ、オトジャが隙をついて狙撃する、と言ったところか。



     『―――そして、願わくば、魔女を斃さんと勇む英傑であることを』

 

  オトジャは非常に小さな声ではあったが状況に合わせて、自分たちの目的、魔女を斃す上での手段を事細かに解説した。



     『もし俺たちが勝てなかった時に、誰か魔女に挑む者の助けになればと、この記録を――――』

     『―――――俺たちは封印魔法に必要な式攻撃に内包して魔女に撃ちこんでおいて……』

     『……おれたちが使う、切り札の封印術についてだが―――――』



 魔法の知識の無いブーンはチンプンカンプンであったが、ドクオは唖然としていた。
 あまりにあまりにで、開きっぱなしの口から唾液がとくとくと流れ落ちたほどである。

171 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:32:44 ID:eV43cX2A0

  戦闘が激化すると、オトジャも参戦し、解説は無くなった。
  主観的視点のため、状況は把握しにくいが、ここまでの解説で二人が何を仕掛けるつもりかは分かっている。

 ドクオは喘ぎと呻きと悲鳴を上げながら、拳を握ってそれに見入った。
 ブーンは静かに冷静に、状況を目に納めている。

 そして。


( ^ω^) 『……ドッグ、最後のは?』

(;'A`) 「…………見ての通り以上のことはわからん」


 タリズマンに封じられていた記録は、完璧に殺した筈の魔女が再び現れたところで終了している。
 容量の問題だったのか、あるいは、この視点の主が死んだからなのか。

 あの山にはサスガ兄弟の魔力の気配も、これだけ激しい戦闘が行われた痕跡も無かった。
 誰かが荒れ果てた環境を、以前同様に戻し、砦を消し去って立ち退いたのだ。
 それがサスガ兄弟の行いなのか、魔女の行いなのか、確証を持ってどちらと判断はできない。

 しかし、二人は確信していた。
 勝ったのは魔女で、サスガ兄弟は恐らく、殺されたのだと。

172 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:33:24 ID:eV43cX2A0

 それが、この日の朝の話である。
 ドクオにとってはあまりに衝撃的な内容の映像だった。
 ついつい、自分たちが魔女に負けた日のことを夢に見るほどに。


(;'A`) (ずっと考えてたけどよ、全然わかんないんだよ)

( ^ω^) 『キュートがなぜ死ななかったか?』

(;'A`) (おう。そんで、キュートを斃す方法も)


 ドクオには、一度の敗北から学んだ「対魔女戦」用の策があったが、今回の映像を見てそれは悉く却下となった。

 サスガ兄弟の取った方法は、ドクオの立場からすれば見事なものだった。
 強引な部分はあるものの、元々の格差を埋めるにはあれでも少ないくらいだ。
 自分の策がまだまだ甘いことを、ドクオは痛感した。

 しかしそれでも魔女を斃すことはできなかったのだ。
 ドクオの策が通じるわけはない。
 もしかしたら、殺すことは出来るかもしれないが、サスガ兄弟の時と同じく復活される恐れが高い。

 魔女はこちらが認識している外側で既に何かの準備をしていた。
 それが分からない。分からなければ殺す手段も見つからない。
 せめて彼女の体が、他の凡百の人間と同じく、硬い棒で頭を叩けば死ぬ程度であってくれたらと思わずにはいられない。

 超高火力、超高耐久、悉く不死身。
 倒されるために生まれてきた存在でないことを、痛感させられる。

173 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:34:56 ID:eV43cX2A0

(;'A`) (ブーン、お前の目から見て、猶予はどれくらいあると思う)

( ^ω^) 『わからんお。ただ、まだもう少し間はありそう』

(;'A`) (……そうか)

( ^ω^) 『あれは、キュートの目指すそれからははるか程遠い』

(;'A`) (体が完成しても、すぐに決行は無理と考えていいんだよな)

( ^ω^) 『断言はしないお。ただ、そうなると思う』

(;'A`) (……わかった。もう少し考えよう)

( ^ω^) 『すまんお。ドッグには頼りきりだお』

(;'A`) (馬鹿言えよ。俺だって当事者なんだからな)

( ^ω^) 『おっおっお』

(;'A`) (なんにせよ、しばらくはツンの修行だな。キュートは行先も、倒し方もわからねえし)

( ^ω^) 『だおね。良い案浮かんだ?』

(;'A`) (……かねてから「こうすりゃいいのにな〜」くらいに考えてたことは教えるつもりだ。お前は?)

( ^ω^) 『僕も似たような感じ。軽くいろいろ教えたら適当にボコって遊ぶお』

(;'A`) (手加減しなさいよあなた)

174 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:35:40 ID:eV43cX2A0

 ミルナによって魔女の情報がもたらされたため、ブーンとドクオによるツンの稽古は延期となっている。
 タリズマンを回収して戻ってからも、ドクオはタリズマンの解析を最優先し、休憩がてらブーンが体術を仕込む程度だった。

 元々はツンが師の元を離れていたから受けた依頼。
 レモネード=ピルスナーが現れた以上お役御免となってもいいのだが


|゚ノ ^∀^) 「私、実はあまり人にものを教えるというのが得意ではなくて……出来ればお二方にご助力いただきたいのです」


 というわけだ。
 一人の術者、戦士として優秀なレモナだったからこそ、指導しあぐねることが多いのだという。
 ツンができない理由を本質的に理解してやることができず、ゆえに打開するための知識を与えてやることができない。
 その歯がゆい部分を、二人に補ってほしいというのである。

 ヨコホリが自らの意志で襲撃してきた以上、ツンの強化は急務である。
 ツン本人に逃げの選択肢が無いのだからなおさらだ。
 そう言った、なりふり構っていられない事情もレモネードの協力要請にはあるのだろう。

 引き受けたもののどう指導すべきか手探りであった二人には僥倖である。
 メインの指導はレモナに任せ、客観的に見てツンのいたらぬ部分を底上げしてやればよい。
 新しい魔法を考案するにしろ、技を仕込むにしろ、分業が出来るというのは楽である。


('A`) (うまくいくかね)

( ^ω^) 『本人次第でしょ。ほら、頭脳労働担当はさっさと寝て脳みそ休ませるお』

('A`) (……ああ、そうだな)


  *  *  *

175 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:36:46 ID:eV43cX2A0



/ ,' 3 「……ふん」

ハハ ロ -ロ)ハ 「禁恨党の殲滅は成功したわけですカラ、まるっきり失敗と言うわけではないかト」

/ ,' 3 「あれだけの戦力をつぎ込んで、それだけの成果とはな」

 アラマキ=スカルチノフは吐き捨てるようにそう言い、目を通していた書類をデスクの上に置いた。
 かけていた老眼鏡を外し、目頭を指で押さえる。
 いくらかつらそうな表情だ。

 老眼でありながら、ランプの薄暗い光の中で書類に目を通していたからか。
 それとも、読んだ内容に、著しい不満を覚えたからか。
 恐らく両方だろうと、補佐官であるハロー=ケイフォーは判断する。

 彼が目を通していた書類、それは先の大五郎サロン支店襲撃についての報告書である。
 内容は、一言で言えば『失敗』。
 禁酒委が秘密裏に手を引き送り込んだ戦力は、大五郎サロン支店に僅かな傷をつける程度に終わった。

 しかしながら、この結果をそこまで悲観する必要は無いはずだ。
 大五郎を襲撃するという名目は、ある種一つのブラフでしかなかった。
 この作戦の本当の狙いは、過去何度も禁酒委の画策に水を差してきた怨敵、禁恨党及びその首領ィシ=ロックスの殲滅にあったのだから。
 確かに、あわよくば支店を落とす、と言う思惑もあったが、それが成せなかったからと言って特段悪い結果では無い。

176 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:37:53 ID:eV43cX2A0


/ ,' 3 「……支店の新店舗移設を赦した時点でケチは付いていた」

ハハ ロ -ロ)ハ 「……」

/ ,' 3 「セント=ジョーンズ。腐っても奴の右腕と言うわけだ。散々苦い思いをさせてくれる」

 ハローは、自らも報告書を手に取り、改めて目を通す。
 支店襲撃の失敗について、原因のいくつかが細かく記されている。
 主な理由は、アラマキが言った通り、サロン支店の中心部移転を赦してしまったことに起因するだろう。

 禁酒委、及び密かに手を結んでいる種類根絶法の支持団体の目的は、あくまで「酒類」の根絶である。
 そのため、攻撃の対象はあくまで大五郎の関係者のみ。
 もっとも苛烈な時期にはアルコールを摂取した民間人も対象になっていたが、今は幾分大人しくなっている。
 故に、襲撃、侵攻と銘打っても、街そのものに著しい被害を及ぼす事案は避けなければならない。

 問答無用に殲滅するだけならば数に物を言わせて街ごと破壊すればよかった。
 だが、禁酒委の正義に反するため実行は出来ない。
 結果としてこちら側のそう言ったスタンスを逆手に取られ、大五郎側には防衛の利を与えてしまった。

 セント=ジョーンズの指揮の巧みさや、敵特記戦力の奮闘、さらには不確定要素である第三者の介入など、
 細かく上げれば失敗の原因は多くあるが、そのほとんどは敵支店が現在地に無ければ取るに足らない要素だった。

 つくづく、惜しまれる。
 移転の準備がどれほど前から進んでいたのかは不明だが、その早さから郊外店破壊以前から進んでいたと予想できる。
 これに勘づけなかった時点で禁酒委は勢力争いに実質敗北していたのだ。

177 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:38:37 ID:eV43cX2A0

ハハ ロ -ロ)ハ 「―――しかし」

 ずっと抱いていた疑問を、ハローは口にする。

 なぜ、大五郎はそこまで入念に策を弄し、サロン出店を計画したのだろうか。
 サロンがもともと飲酒文化の薄い土地であるというのは、大五郎とて調査していたはずである。
 潜在的なものも含めて、需要がそれほど見込めるとは思えない。

 現に、潜入している軍の密偵によると、やはり売り上げは芳しくないという。
 見積もり算出したサロン出店、及び戦闘による被害の出費を考えると、全くの赤字。
 採算が取れていないどころか、今すぐ撤退しないのが不思議な惨状だ。


/ ,' 3 「それについては、かねてから調べているが、まるで掴めん」

ハハ ロ -ロ)ハ 「モリオカも同様のようです」

/ ,' 3 「奴のことだ、何か狙いがあるとみて間違いないのだがな」

ハハ ロ -ロ)ハ 「密偵を増やしましょうか」

/ ,' 3 「できうる限り優秀なものを回せ。泳がされて不利な情報を掴まされるのは御免だ」

ハハ ロ -ロ)ハ 「了解しました」

/ ,' 3 「それと」

ハハ ロ -ロ)ハ 「はい」

/ ,' 3 「再度、支店排除の準備を急がせろ」

178 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:39:40 ID:eV43cX2A0

ハハ ロ -ロ)ハ 「やや性急では?」

/ ,' 3 「奴らの企みが何かわからんと言え、サロンを捨て置くわけにはいかん」

ハハ ロ -ロ)ハ 「わかりましタ」

/ ,' 3 「サロン支店のしぶとさはわかった。次はシナーを回せ」

ハハ ロ -ロ)ハ 「ムォン老を?」

/ ,' 3 「数で攻めても今回のように街を盾にして防がれるだけだ。あの男ならばうまくやるだろう」

ハハ ロ -ロ)ハ 「しかしそうなるとVIP近郊の戦力が薄くなりますガ」

/ ,' 3 「訓練遠征という名目で我らの兵を出しておけ。牽制にはなるだろう」

ハハ ロ -ロ)ハ 「……了解しました。ではそのように」

 書類に目を落としたアラマキを残し、ハローは部屋を出た。

 ため息を一つ。
 遠征を名目にするとはいえ、VIP近郊に軍を出すとなれば緊張は高まる。
 事実上の内乱である禁酒委と大五郎の抗争を、あまり目立たせるわけにはいかない。

 チャンネルにはいまだに多くの火種がある。
 あまり騒ぎを大きくすれば禁酒委の行動そのものに釘を刺される恐れが出てきてしまう。
 委員長であるアラマキが様々な機関と繋がりを持つため大概のことは黙認されているがその威光もいつまで続くか。

 かつての戦争をきっかけに力をつけた有力者たちが続々と一線を退き、世代の交代が始まっている。
 今はまだ各界の若手が重鎮たるアラマキを尊重する立場を取っているが、逆に言えばそれだけアラマキを疎む者がいてもおかしくは無い。
 いつの時代の人間にとっても、頑固で精力的な老人と言うのは目障りなものだ。

179 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:40:51 ID:eV43cX2A0

ハハ ロ -ロ)ハ 「イヨウ」

..::=゚ω゚)ノ 「はいよう」

 ハローの呼びかけに応じ、軍服に身を包んだ男が壁から浮き上がる様に現れた。
 イヨウ=ダヨウ。ジョルジュ=ナガオカから預けられている隠密だ。
 異邦の出身らしく奇妙な術を使い、優秀なので重宝している。

ハハ ロ -ロ)ハ 「話は聞いていたナ」

(=゚ω゚)ノ 「御大には既に鴉を飛ばしたよう」

ハハ ロ -ロ)ハ 「良し。後は」

(=゚ω゚)ノ 「僕が大五郎の目的を探ってくればいいのかよう」

ハハ ロ -ロ)ハ 「できるカ?」

(=゚ω゚)ゞ 「出来ないと言えないのが辛いところだよう」

ハハ ロ -ロ)ハ 「奴らの企みが碌なものだった試しは無イ。急げ」

(=゚ω:::... 「やれやれ。簡単に言ってくれるよう」

 ぼやきつつも、イヨウは現れた時とは逆に、壁に融けるようにして消え去った。
 彼が消えた壁に触れてみるが、何の変哲もないただの石壁だ。
 隠し扉なんぞあり得ないし、いつ見ても奇妙な術だ。

180 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:41:40 ID:eV43cX2A0

ハハ ロ -ロ)ハ 「……さて」

 イヨウがここに現れたということは、既に頼んでいた仕事を終えてきたということだ。
 今頃、ハローの部屋にはその報告がまとめられた書類が置かれているだろう。
 アラマキの命令に直接関係は無いが、目を通しておかなければならない。

 そのほかにも仕事は山積み。
 モリオカに報告しなけばならないこともあるし、定例会議に提出する資料もまとめなければ。
 あとは、今回のサロン侵攻において裏で手を回してくれた関係各所へも、何らかの礼をしておく必要がある。

ハハ ロ -ロ)ハ 「ヤレヤレ」

 腰に手を当て、再びため息。
 肩は凝り、腰も重い。
 アラマキの下に就いてからは、モリオカの時とは違う負担が増えた。

 モリオカはなんでもかんでも仕事を押し付けてきたが、その分此方の行動にはあまり口を出してこなかった。
 反面アラマキは、本人がよく働く分周囲への要求も多い。
 気付けば次々新しい仕事を見つけてくる分、モリオカの仕事を代行している方がいくらか楽だ。

 現に、今抱えている仕事の大半は、本来ならば存在していないはずのものばかりなのだから。

ハハ ロ -ロ)ハ 「ったく、この街にも大五郎の店があったら、一杯やりたいところだワ」

 自分でも嗤えない冗談がアラマキに聞こえていないことを祈りつつ、ハローはその場を後にした。


  *  *  *

181 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:42:41 ID:eV43cX2A0


ξ#゚⊿゚)ξ 「“マリオット”!!」

 強化の魔法を纏うと同時、ツンは牧草の茂る地面を蹴った。
 力強く、速く。
 上方では無く、前方に向かい、地を這うような跳躍。

( ^ω^)

 目標はブーン=N=ホライゾン。
 相変わらずのにやけ面で、両手に一本ずつ棒切れを構えている。

 ツンの肉薄は、まさに一瞬だ。
 一切の遠慮、躊躇なく、手に持ったナイフを、ブーンの腹部に突き出す。
 ブーンはまだ反応していない。

 当たる。
 そう確信した瞬間に、手首を断裂するような衝撃が走った。
 遅れて、熱を帯びた痛み。

 何が起きたかを理解するよりも先にナイフが手を離れた。
 掴みなおそうとしたが、その手がナイフの柄に届くことは無い。

 痛み。
 腕と同じく鞭で打たれたような痛烈な熱と衝撃が、肩から胴体を斬り下ろす形で、既に走り去っていた。

182 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:43:26 ID:eV43cX2A0

( ^ω^) 「“杉浦双刀流―――阿吽衝”」

 痛みのあまり体が硬直する。
 突進の勢いも相まって体勢を崩し、ツンは足を縺れさせてブーンに突っ込んだ。
 その背中に、更なる痛みの線が走る。

 ブーンは倒れ込むツンを躱しつつ、その背中にさらに一閃叩き込んだのだ。
 彼が持っていたのが木の枝で無く本物の刀であったなら、ツンは間違いなく死んでいる。

 気が付くと、ツンは地面にうつ伏せになっていた。
 目の前には家畜に食まれ短くなった牧草。その向こうにブーツの爪先。


( ^ω^) 「……速さに賭けて、直線勝負に出たのは悪い選択じゃなかった、と思うお」

ξ; ⊿ )ξ、 「ぅ……ッ……」


 なんとか顔を上げると見慣れたブーンの顔があった。
 倒れたままのツンを覗きこんでいる。
 その貌は、いつもの通りのはずなのに、表現しがたい恐ろしさを持っている。


( ^ω^) 「で、まだやる?」

ξ; ⊿゚)ξ 「とう……ぜん」

( ^ω^) 「そう。じゃあ十秒で立って。立たなくても仕掛けるお」

183 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:44:07 ID:eV43cX2A0

 結果として言えば、ツンは十秒で立ち上がることはできなかった。
 何とか上半身を起こし、立ち上がりかけたところを、


( ^ω^) 「遅い」


 ブーンの強靭な足で蹴り払われのだ。
 反射的に行った腕での防御により、頭部を直接撥ねられることは無かったが、衝撃で体が横に流れた。

 耐えきれず転がり、這いつくばるツン。
 起き上がろうとするが、四つん這いの状態から、それ以上力が入らない。
 力んでいるはずなのに、一定のところまで持ち上がると、とたんにどこかへ抜けてしまうのだ。


( ^ω^) 「やると言ったのは君だお」

 ブーンの爪先が、ツンの顎に添えられた。
 くいっと、軽く持ち上げられ、ブーンを見上げたと思った次の瞬間。


( ^ω^) 「“物乞い吊るし”」


 さらに真上に向かって、持ち上げるように柔らかく、されど打撃の速さを持って蹴り上げられた。
 跳ねる頭部と、上半身。
 筋肉も骨も反応が間に合わない。体の至る部分で小さな破裂が連続する。
 眼窩で目がぐるりと上に半周する。気色悪い。意識が飛びそうだった。

184 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:44:58 ID:eV43cX2A0

( ^ω^) 「まだやる?」

ξ; ⊿ )ξ 「……」


 当然、と言おうとした口が動かない。
 全身には、ブーンと稽古を始めてからのダメージが、ほぼ回復しないまま残っている。
 まだ続けるという意志の決定を、骨も、筋肉も、神経も、血液さえもが、拒絶していた。


( ^ω^) 「無理みたいだおね」


 ブーンが再びツンの顔を覗きこむ。
 そこでやっと、自分が仰向けに倒れていることを理解する。


( ^ω^) 「そのままでいいから、聞いて」


 そう言うと、ブーンは自分の体を指さし始めた。
 全三か所。最後の一か所を見た時に、やっとそれが何を意味するかが分かる。

 ブーンと稽古を始めてから一時間強の間に、ツンの攻撃が当たった場所だ。
 脇腹、耳の端、そして肩。全て掠った程度だった。


( ^ω^) 「君が僕を攻撃できたのはこの三か所だけだお。しかも、全てが浅い」

ξ; ⊿ )ξ

( ^ω^) 「聞くけど、病み上がりでことさら万全でない僕相手でこの程度の君が、あの傭兵にどうやって勝つの?」


 ブーンはツンも病み上がりであることを理解した上であえて言っている。
 問題はそこでは無いからだ。それが分かるから、ツンは頭によぎった言い訳の全てを自身で捻りつぶした。

185 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:45:38 ID:eV43cX2A0

 返答が出来ず、ツンがしばらく黙り込んでいると、ブーンは小さくため息をついた。
 同時に、目を向けずとも感じた覇気や殺気と言った気配が一瞬で消える。
 いつもの柔和な笑みだ。稽古中にツンを震わせた鬼神のような圧力は一切なくなっている。


( ^ω^) 「リッヒ、ツンの治療たのむお」

从 ゚∀从 「……ああ」


 二人の稽古を黙って見ていたハインリッヒは、何か言いたげな顔を隠すことなく、されど特に文句も言わずツンの治療を始めた。
 普段から良く世話になる応急処置の魔法だ。
 裂傷や打撲を薄い魔力のベールで覆い痛みと熱を取り去ってゆく。

 ブーンの手加減は完璧で、ツンの負った外傷に大きな傷は無かった。
 すべてがかすり傷や軽い打撲。骨や腱が経たれるほどの傷は一つもない。
 お蔭さまで、応急治療の魔法のみでもツンはいくらか回復し、起き上がることが可能になった。


( ^ω^) 「君に改めて自分の弱さを痛感してもらったところで、僕の方針を教えるお」


 治療が一段落しツンの状態が落ちついたのを見て、ブーンが口を開く。
 ツンは地面に腰をおろしたまま、顔だけをそちらに向けた。
 ハインリッヒはあまり興味がないのか、特に気にする様子なく残っているツンの傷の治療を続けている。

186 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:46:27 ID:eV43cX2A0


( ^ω^) 「ツンの強みは、精神面にあるお」


 ブーンは親指で自身の胸をつつく。
 目はまっすぐツンを見ていたので、ツンもまっすぐに見返す。
 いつもの柔和なにやけ面だが、瞳には誠実な光が見て取れた。


( ^ω^) 「君は火事場のバカ力でいくつもの劣勢をぶち壊してきたお」

( ^ω^) 「それは間違いなく強さだお。君の癇癪には正直僕もひくお。マジで」


 「だけど」とブーンは続ける。


( ^ω^) 「歴戦級の奴は君みたいな癇癪持ちの対処法をちゃんと心得てる」

( ^ω^) 「ヨコホリ=エレキブランはそう言うやつの一人だお。あれは、君が見ている以上に強かだ」

( ^ω^) 「相手が君に狙いを定めてきたって言うなら、まず間違いなく通じないお」


 ブーンは反応を確かめるように一言一言しっかりと話す。
 対するツンは大人しくブーンの言葉を受け入れていた。
 そんなこと今さら、という気持ちこそあったが、楯突いて話を遮るほどの反感は無い。

187 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:47:22 ID:eV43cX2A0


( ^ω^) 「まあそれ自体は十分に君も分かっていると思うけど、態々言ったのには理由があるお」


 ハインリッヒがすべての治療を終えツンから離れた。
 先に戻っている、とジェスチャーで伝えられる。
 了承を伝え、家へ向かって去る白衣の背中をブーンと共に少しの間眺めた。


( ^ω^) 「……君は、感情の爆発によって得られる刹那的な能力向上に依存している」

ξ゚⊿゚)ξ 「そんな……」

( ^ω^) 「ことないと思うかお? 自分よりいくらか強い相手でも、追い込まれて我武者羅になれば何とかできると思ってないかお?」

ξ゚⊿゚)ξ 「……そう、かも」

( ^ω^) 「悪いことではないお。実際に君はそれで何度も窮地を脱してきた」


 思い返せば確かにそうである。
 自身の弱さに自覚がある反面、死に物狂いになれば何とかできる、と言うような無根拠な万能感を持っている。
 それがあるからこそ、ツンは挫けずに足掻くことができた。


( ^ω^) 「だけどヨコホリにはそれが通用しない」

( ^ω^) 「窮鼠の牙をあてにすれば、食い破られるのは君の腸になる」

ξ゚⊿゚)ξ 「じゃあどうすればいいの」

( ^ω^) 「……君に、杉浦双刀流を仕込むお」

ξ゚⊿゚)ξ 「!」

188 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:48:55 ID:eV43cX2A0

( ^ω^) 「勘違いする前に言っておくけど」


 そう言ってブーンはこれからの方針をツンに伝えた。
 
 ブーンがツンに仕込むのは、双刀流の中でも一部、『無刀の型』と呼ばれる、刀を用いない技である。
 ただでさえ腕力で劣るツンが武器を持たぬ型を習得して役に立つのかと思ったが、ブーンの考えは違うらしい。


( ^ω^) 「双刀流の無刀の技の大半を生み出したのは、女性の継承者だったんだお」

ξ゚⊿゚)ξ 「へえ、あんな力技を女の人が……」

( ^ω^) 「意外でしょ?」

ξ゚⊿゚)ξ 「メスのゴリラじゃなくて?」

( ^ω^) 「100%違うとは言い切れないお」


 ツンが意外に思うのも無理はない。 
 ブーンは膂力を駆使した技をばかり使う傾向にあるため、その他の技を見たことが無いのだ。
 実際には投げや締めなど、一口に無刀と言っても多種多様な―――それこそこれだけで一つの流派を名乗れるほどの技がある。 

 ブーンはその中からツンにも扱えそうな技を仕込もうと考えているのだ。


( ^ω^) 「君の格闘はどうしても大味だし、にわかでも仕込めば多少マシになると思う」

ξ゚⊿゚)ξ 「そういうけど、私が殴る蹴るしたところで効くのかしら」

( ^ω^) 「うん。そこがミソ。杉浦の無刀技の多くは「魔力注入」が前提にある」

ξ゚⊿゚)ξ 「!」

189 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:50:07 ID:eV43cX2A0

 魔力注入とはその名の通り魔力を相手に注入する行為のことである。
 忘れた人間もあるかもしれないので再掲するが、魔力を持つ者は基本的に自身と異なる魔力が体内に入ると調子が狂う。
 軽い脱力感のようなものから、一撃で昏倒するほどのものまでと効果は使い手次第だが、ただの打撃よりは威力が上がると考えて良い。

 ブーンは魔力を扱えない分をその超人的な膂力で補ってはいるが、理想から言えば実は不完全な状態なのである。


( ^ω^) 「実際には、他流派拳法の「氣」から学んだものだから、「魔力」とはちょっと違うんだけどね」


 何が言いたいのかと言うと、半分がゴーレムに改造され魔法を由来として生きているヨコホリには、この「魔力注入」が有用なのだ。
 一撃必殺とは言わないまでも、相手が忌避する技には成り得る。
 天叢雲以外の攻撃も警戒させることができれば、その分出来ることも増える、と言うわけだ。

 しかし問題がある。
 ヨコホリは、生半可な魔力攻撃もロクに効かないのである。
 実際過去にツンが魔力をぶち込んだ時も、さほどダメージを与えることはできなかった。


( ^ω^) 「君の魔力注入は我流のもので、お師匠さんに教わったわけじゃないんだおね?」

ξ゚⊿゚)ξ 「うん。師匠は魔力モンスターだから、教わっても参考にできないのよ」

( ^ω^) 「ってことは、僕とドッグがちゃんと教えれば十分伸びるはずだお」

ξ゚⊿゚)ξ 「……わかった」

( ^ω^) 「大丈夫。君みたいな直感野生チンパン児なら魔法覚えるより楽だと思う」

ξ゚⊿゚)ξ 「ぶっ飛ばす」

( ^ω^) 「頑張って強くなろうね」


 *  *  *

190 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:51:07 ID:eV43cX2A0

 その店はサロンの中心部にありながら、裏路地を少し奥へと入った場所にひっそりと建っていた。
 看板は古びており、風雨に摺り切られて文字は読めない。
 もう何度もここには通っていたが、未だになんという名であるのか知らないままだ。

  _,
( ゚∀゚) 「……騒がしいな」


 ジョルジュ・ナガオカは、店の戸を開けようとしていた手を止め、来た道を振り返る。
 やや薄暗い路地の向こう。
 日のよく当たる大通りを、酒を飲んだ風の男が数人、大声を張り上げながら歩いてゆくのが見える。

 顔は良く知れないが、風体はサロンの市民とは異なる。
 恐らくは大五郎の傭兵だろう。
 眉間に深い皺が寄り、奥歯に苦虫をかみつぶす程度の力が入った。

 己が堪忍袋を締め直す為に小さく頭を振って、ジョルジュは店の戸を開ける。
 久々に取れた休息の時間だ。余計なことに気を取られず、せめて好物で腹を満たさなければならない。

  _
( ゚∀゚) 「いつものトーストを頼む」


 不愛想な初老の店主とそれだけの言葉を交わし、ジョルジュは奥の角のテーブルへ。
 構造上人目につきにくく、他の席とも離れているため落ち着けるお気に入りの席だった。
 
 だが。
  _,
( ゚∀゚) 「……なぜ、お前がここにいる」

 目的の席に座ってる先客の顔を睨む。
 その男は不機嫌なジョルジュの顔を見て、顔をゆがめて「グググ」と笑った。

191 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:51:53 ID:eV43cX2A0

(//‰ ゚) 「なんでもクソもあルかよォ。お前さンに用があるからに決まってンだろ」
  _,
( ゚∀゚) 「言伝があれば此方から出向く。そういう取り決めをしていたはずだが」

(//‰ ゚) 「大丈夫だ。周囲に大五郎の関係者はいねえよ」


 男の名は、ヨコホリ・エレキブラン。
 所属を持たない“根絶法支持の賊”である。
 変装はしているが、元が特徴的な男だ。見る者が見ればすぐに分かる。
 関係上、ジョルジュと彼が共にいる姿を見られるのは好ましくない。
 これまでも、彼と仕事の話をする場合はジョルジュの方から人目につかない場所を指定するのが大半であった。

  _
( ゚∀゚) 「用はなんだ」

(//‰ ゚) 「今後のお話を聞きたくてナ」
  _
( ゚∀゚) 「暇を寄越せと言ったのはそちらのはずだ」

(//‰ ゚) 「用は済ンだ。ついでにもう少しゆっくりしようと思ってたンだがな」


 ヨコホリの話を聞きながら、対面の席に腰を下ろす。
 そこで、彼の隣に大きな包みがあるのに気が付いた。
 高さはテーブルから少し覗く程度。幅と奥行きもあり、丁度ヨコホリの上半身と同程度に見える。

 武装の必要ない彼にしては珍しい大荷物。
 いくらかの興味を持って中身を推察していると、ヨコホリの話もそちらに向く。


(//‰ ゚) 「コイツの調整をしてたら、なンだか居てもたってもいられなくてなア」

192 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:52:37 ID:eV43cX2A0

  _
( ゚∀゚) 「それは?」

(//‰ ゚) 「俺の“とっておき”だよ。欠陥も多いンで、滅多に使わねえンだがナ」


 ヨコホリが布をはだけさせる。
 覗いたのは一部だけだが、それだけでおよその見当がついた。
 彼の言う、“とっておき”の意味も含めて。

  _
( ゚∀゚) 「まさか、あの小娘の為に?」

(//‰ ゚) 「まアな」
  _
( ゚∀゚) 「そこまで執着する必要があるのか」

(//‰ ゚) 「グッグッグ。お前には分からねえか?」
  _
( ゚∀゚) 「……」

(//‰ ゚) 「グググ、そう真剣に考え込むな。顔がいい。体がいい。声がいい。そンなところよ」
  _
( ゚∀゚) 「……女の趣味が違うようだ」

(//‰ ゚) 「ググッ、違いねえ。なンにせよ、威勢のいい小娘を組み伏せて好きにするってェのは」
  _
( ゚∀゚)

(//‰ ゚) 「“そそる”だろ?」
  _,
( ゚∀゚) 「……悪趣味め」

193 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:53:21 ID:eV43cX2A0


(//‰ ゚) 「で、次の“お出かけ”はいつだ?」
  _
( ゚∀゚) 「……知っていたのか」

(//‰ ゚) 「予想はつくだろ。あンだけの人数でババアと取り巻きを“コレ”しただけで満足なンてことはねえだろ?」


 掌で首を切る動作するヨコホリ。
 ジョルジュは店主の視線がこちらに向いていないことを確認する。

  _
( ゚∀゚) 「……俺としては、あまり街中で騒ぎたくないのだがな」

(//‰ ゚) 「相変わらずあめエことを言う」
  _
( ゚∀゚) 「性分だ」

(//‰ ゚) 「で?」
  _
( ゚∀゚) 「まだ、詳細は決まっていないが」


 ジョルジュは店主にちらと目を向ける。
 注文したトーストの調理中で、こちらに気を向けている様子は無い。
 念のためジョルジュは喉をぎゅうと縮める。

  _
( ゚∀゚) 「……およそ三週間後、前回とは異なり、少数精鋭による夜間の奇襲を計画している」

(//‰ ゚) 「これまでに比べると随分悠長だな」
  _
( ゚∀゚) 「次は、ムォン老が参加する」

(//‰ ゚) 「……成程なァ。そらあ準備がいるわけダ」

194 ◆x5CUS.ihMk :2016/10/29(土) 21:57:44 ID:eV43cX2A0

 ヨコホリに伝えた通り、次に大五郎が“賊”に襲撃されてしまうのは三週間後だ。
 さる方からのお達しで禁酒党頭領、シナー=ムォンが参加する手はずになっている。

 シナーは、根絶法に纏わる闘争にごく初期から参加していた古株である。
 実力は折り紙付き。単体戦力で彼を超える者はそういまい。
 率いる戦力の面も加味すれば、根絶法支持団体の中でも間違いなく筆頭である。 

 それだけの存在を動かすのだ。
 戦力の調整には時間がかかるし、事前の下調べも入念になる。
 必然的に実質指揮を執るジョルジュにのしかかる責任も大きい。

 こうなってくると一人の兵隊として敵を蹴り砕いている方が楽だ。

  _
( ゚∀゚) 「貴様には俺と共に遊撃に回ってもらう。問題は無いな」

(//‰ ゚)b 「一つ」
  _
( ゚∀゚) 「……なんだ」

(//‰ ゚) 「ツン・ディレートリが絡んで来たら、アレの相手は俺に一任しろ」
  _
( ゚∀゚) 「……あの娘を侮るわけではないが、貴様を専属で当てなければならない程とは……」

(//‰ ゚) 「嘘つけ、分かってるよお前は」
  _
( ゚∀゚) 「……」

(//‰ ゚) 「俺は二人きりで遊びてェ。お前は“やりにくい”奴に場を乱されたくねえ。互いに利はあるだろう」
  _
( ゚∀゚) 「……分かった。あの娘の対処はお前に任せる。だが、執着はしすぎるなよ」

(//‰ ゚) 「わァってるよォ、善処はすらァ」


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