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( ^ω^)達はアインクラッドを生きるようです。
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立ったら投下がある。
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第十八話
はじまりの日 〜NerveGear〜
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0.彼と彼女
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その日は、朝から灰色の雲が空を埋め尽くしていた。
朝の情報番組で、可愛いだけかと思いきや、
気象予報士の資格をちゃんと持っているお天気お姉さんが、
降水確率を100パーセントと言っていた。
『あの人局アナじゃないんだよ』
親友が、特に必要じゃない知識を披露してくれたのを、彼は覚えていた。
昼前には雨が降り出して、帰宅する頃には本格的な雨だった。
傘をさしていてもほんのりと濡れてしまう雨。
通っている高校には徒歩でも自転車でも通える距離に住んでいる彼と彼女は、
帰り道の道路をならんで歩いていた。
「ドクオと本城は?」
「ドクオは本屋、ショボンは生徒会だお。
そっちこそ、今日は来島さんは一緒じゃないのかお?」
「久美子も生徒会。書記も大変みたいね。
あんた、今日部活は?」
「体育館も武道館も渡り廊下も使われてて、お休みだお」
「そっか。吹奏楽部が使ってたわね」
「そういうことだお。
ショボン達もその関係だおね。多分」
「まだ部活に入ってない生徒向けの、文化部発表会か。文化部は大変よね」
「運動部系は今から入る一年生はまれだけど、文化部系はそれなりにいるみたいだお。
あれ?茶道部は出ないのかお?発表会」
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「出るわよ。でもうちがやれることなんてたたかが知れているし、
私も久美子の付き合いで入っているだけだから、そこまでね。
だいたい発表会で人を増やせる部活なんて、合唱部とかそこらへんくらいよ。
あ、でもそうそう、あさ美、知ってるわよね」
「大垣さんだおね?」
「そうそう。大垣あさ美。
あの子華道部なんだけど、華道部は派手なパフォーマンス計画してるらしいわよ。
音楽にのせて花を活けるとかなんとか」
「そういえばドクオが音楽の事で話しかけられたって言ってたお」
「え?まさかアニソン使うつもり?」
「なんかロックバンドが主題歌やってたアニメがあるらしくて、
それならロック好きにもアニメ好きにも知られてるから良いんじゃないかとかなんとか」
「ドクオ、ちゃんと喋れてた?」
「……それはノーコメントだお」
「あさ美、見た目はギャルだからねー」
雨音が大きいため、傘を寄せ、肩が触れ合うような距離で会話をする二人。
男と呼ぶにはまだ笑顔が幼い少年は、
隣の少女が濡れないように傘を逆側に傾けている。
女と呼ばれるのを嫌がっている少女は
身長差から傘によって彼の顔が見えなくなってしまうのを嫌がって、
傘を逆側に傾けていた。
お互いがお互いを思っているのは周りから見れば一目瞭然なのだが、
何故か本人達は、気付かないでいた。
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「……あんた、ここ右でしょ」
「青になるまでいるお」
「良いわよ別に」
「雨酷いし、送っていくかお?」
「えっ!?……い、いいわよ。別にそんなことしなくて。
もう家まですぐだし。まだ明るいし」
「でも…」
四つ角の横断歩道の前で立ち止まる二人。
彼女は前に進むため信号が青に変わるのを待ち、
彼は彼女が渡るのを待つ。
「明日は晴れるって言ってたし、風邪ひかない様に早く帰りなさい。
昔から雨の日に外で遊んで風邪ひいてたアホなんだから」
「……高校に入ってからは無いお」
「中三の時に入試の前に熱出してたじゃない」
「そ、それは雨とは関係ないお」
「38度越えたっておばさんに聞いて、みんな心配してたんだから」
「……ごめんなさいだお」
「体力はあるのに、昔から風邪は良くひいてたわよね。
だから、寄り道せずにさっさと帰りなさい」
「……わかったお。あ、青だお」
「やっと変わった。じゃあね。バイバイ」
「また明日だおー」
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「はいはい。また明日」
「…………」
「…………」
「行きなさいよ」
「渡らないのかお?」
「あんたが行ったら渡る」
「ツンが向こうの角を曲がったら帰るお」
「ば、バカなこと言ってないで行きなさい!
後ろを見てるだなんて、あんたストーカーと一緒よ!」
「す、ストーカーって」
「早く行きなさい!」
「はいだお…」
「まったく…」
とぼとぼと歩道を歩き始める少年。
「また明日だお―」
しかしすぐに振り返り、傘からはみ出した手を大きく振った。
「はい。バイバイ。気を付けて帰りなさいよ!」
少年の後ろ姿を見てから、横断歩道を渡り始める少女。
歩行者専用信号は、既に点滅し始めていた。
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少年が後ろを見たのは、ただ彼女の姿を見たかっただけなのかもしれない。
そして彼は、傘と鞄を放り出して駆け出した。
「 朋ちゃん!!!!!! 」
視界の悪い雨の中、左折しようとした普通乗用車が、加速して交差点に進入した。
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1.病院 少女一人
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彼女は目を開いたとき、自分がどこにいるか分からなかった。
自分の部屋、自分のベッドではない。
少し清潔すぎる白と、穏やかなベージュの壁。
そして周囲には柔らかい薄いピンクのカーテン。
頭と、頬が痛み、身じろぎをすると体の至る所にも痛みが生まれた。
ξ■゚⊿゚)ξ「なに…これ…」
眉間に皺を寄せながら上半身を持ち上げる。
そして、唐突に思い出した。
雨の日の横断歩道。
自分の名を呼ぶ少年の声。
抱きかかえられるその力強さ。
耳障りなブレーキの音。
ξ■ ⊿ )ξ「あっあっあっ……」
倒れた車道で、自分を抱きかかえ、血を流しながら笑った彼の顔。
ξ■ )ξ「いやーーーーーー!!!!!!」
顔を覆い、叫んだ。
腕につけられていた点滴の針と、胸と頭に取り付けられていた計器の配線が外れ、
警告を意味する電子音が部屋に響いた。
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ξ■ ⊿ )ξ「ねえ、ブーンは!?ブーンは!?ブーンはどこにいるの!??」
看護師に身体を抑えられつつも、やってきた母親に抱きつく朋美。
(看護師)「落ち着いて、朋ちゃんも怪我してるから」
(朋美母)「朋美、まずは寝なさい。あなたも頭を打ってるから、まずは寝て!」
ξ■ ⊿ )ξ「だって!だって!」
(看護師)「武士君も大丈夫よ」
ξ■ ⊿ )ξ「本当ですか!!あ、おば……さん……」
朋美は看護師の言葉を聞いて、初めて自分の身体を抑えるその顔を見た。
そしてそれが見知った者だということに気付き、少しだけ身体から力が抜ける。
(看護師)「久しぶりね。朋ちゃん。いや、もう朋美さんって呼ばなきゃだめかな」
その瞬間を見逃さず、看護師は彼女をベッドに寝かしつけた。
ξ■ ⊿ )ξ「そんな……、あ、ブーンは!ブーンは!」
(看護師)「武士君も無事よ。ただ朋美ちゃんよりも怪我が激しかったから、まだ治療中なの。
明日になれば面会も出来ると思うけど、二人とも検査をいっぱいしてもらわなきゃいけないから、
落ち着いて会えるのは明後日くらいになっちゃうかも」
ξ■゚⊿゚)ξ「そうですか……よかった……」
(看護師)「二人とももう大人だから部屋も別々になっちゃうしね。
あ、一緒の方が良ければお願いしてあげようか?」
ξ■///⊿///)ξ「ば、バカなこと言わないでください!」
(看護師)「遠慮しなくていいのよー」
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ξ■///⊿///)ξ「おこりますよ!」
(看護師)「もちろん冗談よー。相変わらず朋ちゃんは可愛いわね」
軽口を叩きながらも寝かせた朋美に点滴を繋ぎ、脳波や心電図の配線を取りつけていく看護師。
(看護師)「さて、先生もそろそろ来ると思うから、簡単な診察をさせてね。
この病院の先生は変人ばかりだけど腕は確かな人達だから、安心して。
そしたら、今日はゆっくり眠っちゃいましょう。
先生からOKでたらご飯も食べられるから、お腹すいてたら声かけてね」
ξ■゚⊿゚)ξ「はい」
(医師)「変人はひどいなぁ」
(看護師)「あら先生。遅いですよ。
あと、変人なのは本当の事ですから、ちゃんと自覚してくださいね」
(医師)「徳永さんが担当なら大丈夫だと思ったからね。
来た時の容態も安定していたし。
宇佐木さん、こんばんは。救急の磯貝です。
いくつか質問と、診察をさせてもらいたいけど、気分はどうかな?」
ξ■゚⊿゚)ξ「は、はい。大丈夫です」
(磯貝)「ああ、そのままそのまま。寝たままでいいからね。
じゃあえっと…」
横になっている朋美に質問を始める磯貝医師。
その様子を少しだけ見てから、徳永看護師は朋美の母親を廊下に促した。
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(朋美母)「徳永さん、ありがとうございます」
(徳永)「あの様子なら頭への衝撃は問題がなさそうですね。
もちろん精密検査は行いますが、ひとまずは安心してよいかと。
身体の傷は細かい診察と治療が必要ですが、
今の医療技術なら大丈夫だと思います」
(朋美母)「ありがとうございます、ありがとうございます」
深くお辞儀をする朋美の母親。
クリーム色の床に涙がぼたぼたと落ちた。
(徳永)「宇佐木さん、顔を上げてください。
こちらが恐縮しちゃいますから。
宇佐木さんにはこちらの方がお世話になってますからね。
『ありがとう』は、今日はもう禁止です
それで、今日この後の事なんですが。
点滴の中に安定剤も少し入っていますが気休め程度です。
事故の後ですし、武士君の事もありますから、夜中に目を覚まして不安になることもあるかと。
ですので今日はよろしければ」
(朋美母)「はい、出来れば泊まらせていただきたいです。
(徳永)「よかった。じゃあサブベッドとか準備しますね。
今日は私も詰めますから、何かあったら気軽にナースコールしてください」
(朋美母)「本当に重ね重ねあ…」
(徳永)「友里恵さん?今日はもう『ありがとう』は禁止」
顔を上げていた朋美の母だったが、砕けた口調で名前を呼んだ徳永を見て、
その笑顔につられて笑顔を見せた。
(朋美母)「了解。知佳さん。でも最後に一回だけ言わせて。
ありがと。そして、よろしくね」
(徳永)「かしこまりました」
かしこまった敬礼をして、とぼけた様にこたえる徳永。
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それを見て更に友里恵は笑顔を見せ、
徳永も笑顔を見せた。
(朋美母)「あ、でも夜勤にしちゃって大丈夫なの?俊雄君」
(徳永)「大丈夫大丈夫。
それに、私がいない方がゲームできるって喜んでるんじゃないかな。
ただ、もしかするとそろそろ……あ、やっぱり。噂をすれば影ってやつね」
自分の息子が部屋でゲームをしている姿を想像してため息をついた徳永。
しかしすぐに廊下の先に見知った顔を見付け、手を上げた。
('A`)「!かーちゃん!」
J( 'ー`)し「廊下を走るなバカ息子」
('A`)「そんな事よりブーンとツンが事故ったって?!
無事なのか!無事なんだよな!大丈夫なんだろ!」
J( 'ー`)し「まったく…。朋美ちゃんはもう大丈夫よ。
さっき目が覚めて、意識もしっかりしてたし。
精密検査はこれからだけどね。で、挨拶は?」
('A`)「え?あ、ツンのおばさん。
こ、こんばんは。お久しぶりです」
(朋美母)「こんばんは。俊雄君。
久し振りね。また遊びに来てね」
('A`)「は、はい。ありがとうございます」
J( 'ー`)し「まったくこの子はきれいな人の前だと借りてきた猫になっちゃうんだから」
('A`)「うっさいかーちゃん。
あ、ぶ、ブーンはどうなんだよ」
J( 'ー`)し「武士君はまだ眠ってるわ」
('A`)「ね、眠ってるって?」
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J( 'ー`)し「看護師にも守秘義務ってのがあるんだよ?俊雄」
('A`)「だーーー」
J( 'ー`)し「救急の治療室にいるから、行ってみなさい。
多分そろそろ病状説明も終わった頃だと思うから、
内藤さん達が病室前の廊下か待合室にいらっしゃるはずよ」
('A`)「わ、分かった!」
J( 'ー`)し「廊下は走らない」
走り出そうとした俊雄の頭頂部に拳骨を一発。
('A`)「いってーなー。分かってるよ!」
競歩の様に歩く俊雄。
そして廊下を曲がった瞬間走り出す。
J( 'ー`)し「まったくあの子は」
(朋美母)「武士君と俊雄君は今でも仲が良いんですね」
J( 'ー`)し「ええ。朋美ちゃんと三人でよく遊んでたのが懐かしいわね」
(朋美母)「知佳さんには、よく遊びにつれてってもらってたわ」
J( 'ー`)し「平日は幼稚園や学校の後をお願いしちゃってたから。
休日くらいは俊雄と触れ合おうと思ったんだけど、
二人だけだと俊雄が私に気を使っちゃうのよ。
私が疲れてるんじゃないか?とかね。
でも武士君と朋美ちゃんが一緒だとよく笑ってくれたから、
俊雄の笑顔が見たい私の我儘だったのよ」
(朋美母)「知佳さん」
J( 'ー`)し「今は笑うと悲しくなるけどね。
あの人は男前だったし、私もそれほど悪くは無いと思うんだけど……。
どこの遺伝子が間違ったのかしら」
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(;朋美母)「知佳さん……。母親くらいはその……」
J( 'ー`)し「良いの良いの。家族が真実を伝えなきゃね。
さて、うちの子の事は良いとして、友里恵さんのお泊りの準備はどうする?
すぐに一回戻る?それとも旦那さんが来てからにする?」
(朋美母)「ええ。うちの人が来てから交代にするわ。
朋美のそばに、どちらかはいるようにしたいし。
あと、あの人が来たら改めて内藤さんにご挨拶もしないと」
J( 'ー`)し「それが良いわね。じゃあ病室にいてね。サブベッドとか準備で来たら持っていくから。
もし私が来る前に家に一度戻ることになったら、ナースステーションに一言伝えといて。
内藤さん達も今日は泊まられるだろうから、
武士君の容態が安定したら挨拶出来るわよ」
(朋美母)「ええ、あり……よろしくね」
J( 'ー`)し「それでよろしい」
(朋美母)「ふふ」
J( 'ー`)し「ふふ」
病室に戻る朋美の母。
看護師である徳永は表情を引き締めると、廊下を歩きだした。
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支援
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2.学校 四人の男女
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私立常林学園美ノ付高等学校。
(わたくしりつ じょうりんがくえん みのつきこうとうがっこう)
設立当初は姉妹校である緑葉高等学校に入学するには劣る者が入る学園内の二番手校であり、
県内でも下から数えた方が早い高校であったが、
制服を変えた事やその他諸々のイメージ戦略の成果によって生徒の質が上がり、
いつの間にか県内有数の進学校となっていた。
学校名である『美ノ付』は、
初代学校長であり設立にもかかわった『美野付伴三』の名前から付けられている。
彼は常林学園初代理事長であった来島幸之進の親友であった。
学校のレベルが低い頃から、揶揄されるように生徒は
『美付生(びっぷせい)』などと呼ばれていた。
これは『VIP』とかけた『同じ読みでもお前らは馬鹿ばかり』といった侮蔑的な意味を持っていたが、
最近では学校のレベルが高くなったのと、
卒業生の中に世界的に有名な者が出たことにより、
本来の意味である『VIP』の意味を込めて『ビップ生』と呼ばれることが増えてきた。
そんな、外から見れば進学校の生徒である彼ら彼女らだったが、
ふたを開けてみればただの高校生であり、全員が全員超優秀ということも無く、
会話はそれ相応であった。
今日の朝も、駐輪場で落ち合った男子生徒が二人、
取りとめのない会話をしながら校舎に向かって歩いていた。
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('A`)「まだ七月にもなってないっていうのに…あちぃ…」
(´・ω・`)「今年も異常気象だって言っていたね」
('A`)「うん。安曇野さんが言ってた」
(´・ω・`)「ドクオはお気に入りだよね。あのお天気お姉さん」
('A`)「声とか顔とか似てるんだよなー」
(´・ω・`)「なんだっけ。『カオナシ!』の『北条政子』だっけ」
('A`)「……『オレナイ!』の『南佐古田茉理子』な。
ねぇねぇ、わざとだよね。わざとだよね。
四文字しかあってないし、北と南くらいしか共通点ないよね。
全国模試一位の本城さんともあろう方が間違えたりしないよね。
っていうか昔はおれと一緒に特撮の話とかしてたのに、
今は『アニメなんか見ません』みたいな顔して間違えるとか悲しいんですけど」
(´・ω・`)「変身ヒーローと萌えアニメを一緒にされても…」
('A`)「いっしょですー。
両方とも童心に帰るだけですー。
っていうか『オレナイ!』をそこら辺の萌えアニメと一緒にしないでくださいー。
『オレナイ!』はそこらの萌えアニメとは違うんです―」
(´・ω・`)「あ、萌えアニメだってのは認めるんだ」
('A`)「……まぁ…そりゃ」
半袖だがネクタイを締めた、背筋をピシッと伸ばした眼鏡の少年と、
開襟シャツをズボンからも出して猫背で歩く小柄な少年。
一見友人には見えない二人だが、その話す雰囲気から親しいのがよく分かる。
見るからに真面目そうな眼鏡の少年と違い猫背の少年は不真面目そうに見えるが、
今の時刻が始業開始の一時間近く前であることを考えると、
それなりに真面目ではあるのであろう。
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川 ゚ -゚)「本城、徳永」
下駄箱の入り口前に、黒髪の少女が立っていた。
(´・ω・`)「来島さん。おはよう」
('A`)オ、オハヨウゴザイマス
川 ゚ -゚)「二人ともおはよう。すまないな、こんな時間に来てもらって」
(´・ω・`)「気にしなくていいよ。起きる時間は変わらなかったしね」
('A`)オ、オレモ
川 ゚ -゚)「そう言ってもらえると助かる」
(´・ω・`)「それで、どこで話す?話があるんだよね?」
川 ゚ -゚)「ああ、もう一人いるから生徒会室でお願いしたいが、良いか?」
(´・ω・`)「基本部外者は立ち入り禁止だけど、この時間なら大丈夫じゃないかな」
川 ゚ -゚)「すまない。見つかった時は本城の『副会長権限』ってやつで頼む」
(´・ω・`)「そんなの無いのは来島さんだって知ってるでしょ」
川 ゚ -゚)「おや、無いのか?それは知らなかった」
(´・ω・`)「まったくもう」
('A`)………
楽しそうに話す二人を後目に、徳永と呼ばれた少年は隠れるように自分の下駄箱に向かった。
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生徒会室。
通常の教室の半分程度の大きさのその部屋は、一面が窓である以外は、
三面の壁を本棚とロッカーで埋め尽くされていた。
中央には長机とパイプいすが並べられており、ホワイトボードも置かれている。
三人が部屋に入ると、中には既に一人の少女がいた。
ξ□゚⊿゚)ξ「おはよう、本城、ドクオ」
(´・ω・`)「おはよう。宇佐木さん」
('A`)「おう、おはよ。ツン」
窓辺の壁に寄りかかっていた少女が視線を向け、
少年二人に挨拶をした。
その頬に貼られた、大きなガーゼ。
ξ□゚⊿゚)ξ「ツンって呼ぶなって何度言わせんのよ」
('A`)「おまえだっておれの事ドクオって呼んでるだろうが」
ξ□゚⊿゚)ξ「私は良いのよ」
('A`;)「うわぁ。なんだこの理不尽さ。マジにムカつく
じゃあなにか?おれに『宇佐木さん』とか『朋ちゃん』とか呼ばれたいのか?」
ξ□゚⊿゚)ξ「……マジで気持ち悪い」
('A`)「おまえなぁ」
ξ□゚⊿゚)ξ「しょうがないから『ツン』で良いわよ。許してあげる」
川 ゚ -゚)「二人は仲が良いんだな」
ξ□゚⊿゚)ξ「はぁ!?やめてよこの地球外生命体と仲良いなんて」
('A`)
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(´・ω・`)「ブーンとドクオと宇佐木さんは幼馴染だからね」
川 ゚ -゚)「なるほど。そんなことも軽く言える仲なのだな」
ξ□゚⊿゚)ξ「だーかーらー」
('A`)
ξ□゚⊿゚)ξ「あんたも何か言いなさい!」
('A`)エ?オレ?
ξ□゚⊿゚)ξ「まったく、その人見知りと女の子苦手なのさっさと克服しなさい」
('A`)
(´・ω・`)「まあ、その話はまた今度として、今日はどうしたの?」
ξ□゚⊿゚)ξ「そうね。これと話しても進まないし」
('A`)「じゃあなんで呼んだんだよ」
ξ□゚⊿゚)ξ「……二人にしか頼めないからよ」
(´・ω・`)?
('A`)?
ξ□゚⊿゚)ξ「……明日から、ブーン登校でしょ?」
(´・ω・`)「うん。その予定だね。ギブスもしているし松葉杖か車椅子かは今日決めているはず。
明日は病院から直接学校だから、僕が一緒に来る予定だけど……。
宇佐木さんも、来る?」
黙って首を横に振る宇佐木。
その瞳に涙が滲んだのを、三人とも見逃さなかった。
(´・ω・`)
('A`)?
川 ゚ –゚)
しかし何もなかったように彼女は言葉をつづけた。
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ξ□゚⊿゚)ξ「本当なら、ケガの原因を作った私が率先してそばにいなきゃいけないし、
サポートしたいけど、私じゃだめだから、二人にお願いしたいの」
('A`)「はぁ」
(´・ω・`)「元からサポートはするつもりだけど」
ξ□゚⊿゚)ξ「ありがとう」
(´・ω・`)「何故、『私じゃダメ』なの?
宇佐木さんがそばにいてくれた方がブーンも喜びそうだけど」
('A`)「だなぁ」
ξ□゚⊿゚)ξ「そうね……。言うより、見てもらった方が早いかな」
宇佐木が頬のガーゼを取ると、下には薄い青緑色のジェルシートが現れた。
そしてさらにそれを剥がす。
川;゚ -゚)「!朋美!?」
ξ◆゚⊿゚)ξ「見て、これ」
そこには、赤くただれた肌があった。
(´・ω・`)!
('A`;)「お、おいツン」
ξ◆゚⊿゚)ξ「これが、あの事故で私に残った唯一の跡」
川 ゚ -゚)「朋美…早くこれを」
ξ◆゚⊿゚)ξ「ありがと」
宇佐木のバッグから新しいシートを取り出した来島が、それを手渡した。
そのまま手鏡を宇佐木に向けると、慣れた手つきでシートを貼り、その上からガーゼをのせる。
(´・ω・`)「治療、それで終わりじゃないよね?まだ治るんだよね?」
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ξ□゚⊿゚)ξ「ええ。本城の所の皮膚科の先生達がいろいろ調べてくれてる。
今は再生医療も出来るから、化粧で隠せるくらいには治せるだろうって。
まだ菌が残ってる可能性があるから、一回治ってからそっちの治療に進もうってスケジュール」
('A`)「……跡は、のこっちまうのか?」
ξ□゚⊿゚)ξ「多少はね。
表情筋とか全く動かさずに年単位で治療だけすれば跡形もなくなる可能性もあるみたいだけど、
生活してれば笑って怒って食事して。……そんなの無理よね」
('A`)「そうか……」
ξ□゚⊿゚)ξ「でもね、その程度までには治るし、それだけなのよ」
(´・ω・`)「え?」
('A`)?
ξ□゚⊿゚)ξ「ブーンは骨折して、この夏を棒にした。
私は、ちょっと頬に傷が出来てたんこぶ出来たからちょっと精密検査したくらいなのに、
あいつは足を骨折して、頭も強く打って、切れて、血を流して、一週間も目が覚めなくて。
今だって、まだ入院してて……」
川 ゚ -゚)「朋美……」
ξ□゚⊿゚)ξ「目を覚ましたって聞いて、病室に行った時、
あいつが私に言った言葉、二人とも覚えてる?
私が病室に駆け込んだとき、
笑いながら『無事で良かったお』って言って、その後頬のガーゼに気付いて、
『ごめん』って……。泣きそうな顔で言ったのよ。
こんな傷が何だっていうのよ……。
私を守って怪我して、生死の境さまよって!それでなんで『ごめん』なのよ!
もっと自分のこと考えてよ!注意を怠った私を恨みないよ!怒ればいいのよ!
怒鳴ればいい!罵っていい!!『命の恩人だ!』って偉そうな顔をすればいい!!
何したっていい!!!
夏の大会もダメになって!完治するまでどれだけかかるのか!
来年に間に合うかどうかだって分からないのに!!
あいつは!あいつは!!」
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('A`)「ツン」
川 ゚ -゚)「落ち着け」
俯き、肩を震わせながら叫ぶ宇佐木に寄り添い、そっと肩を抱く来島。
ξ□ )ξ「久美子……。ごめん、ありがと」
渡されたハンカチで顔を抑え、宇佐木が顔を上げる。
ξ□゚⊿゚)ξ「そのあとお見舞いに行っても、
無事でよかったって笑って、私の頬を見て悲しそうな顔をして。
すごく、辛そうな顔をして。
部屋に入った時は今まで通りの普通の笑顔なのに、
だんだんと、辛そうな顔を隠すための笑顔に変わってる」
('A`)「それは…」
ξ□゚⊿゚)ξ「わたしは、もうあんなを顔ブーンにさせたくない。
正直、本当にこの傷が跡形も無くなくなるなら、
二年でも三年でも顔を動かさなくたって良いと思ってる。
どこかに体を固定して、顔を動かさなくして、流動食でも飲んで、顔を動かさなくして。
でも、そんなことを私がするってことをあいつが知ったら、絶対に悲しむ」
('A`)「ああ。そうだな。あいつは、そういうやつだ」
ξ□゚⊿゚)ξ「…今は入院中だから病院に任せてるし、
退院しても家にはおばさんがいらっしゃるから、問題ない。
でも、学校は違う。
本当は、私がそばにいてサポートしたいけど、
きっとあいつは私にはわがままを言わない。
そして、この頬を見たら、きっと辛さを隠すために、私の為に笑顔を見せる。
そんな顔を、ブーンにさせたくない……。
もう、辛い思いなんて、させたくない……。」
苦しそうに話す宇佐木。
それを聞く三人は、ただその言葉に耳を傾けることしかできなくなっていた。
沈黙の後、何度か口を開こうとする宇佐木だったが、口に出そうとするたびに思い悩み止まる。
口を開いたのは、本城だった。
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(´・ω・`)「聞いた話だと、右折してきた車は宇佐木さんを完全に見ていなかった。
コース的にそのままぶつかっていたら、宇佐木さんは今ここにいたとは思えないらしい。
出していたスピードを考えても、良くて入院中。あるいはそのままってことも推測できたって。
運転手は歩道を走ってきたブーンに気付き、そこで宇佐木さんにも気付いた。
慌ててハンドルを切ったら、雨によって滑った車はスピン。
宇佐木さんに走り寄ったブーンが、宇佐木さんを抱きしめたまま歩道に飛び込んだけど、
スピンした車がその足に当たって、その勢いで頭を歩道のヘリに打ち付けたらしい。
宇佐木さんの頬の傷もその時にできたんだろうね。
スピンした車も電柱にぶつかって、開いたエアバックの衝撃で運転手も意識を無くした。
丁度人通りが無くて、おそらく10分程度した後に通りかかった近所の人が通報。
これが、事故のあらましみたいだね。聞いてた?宇佐木さんは」
突然事故について話し出した本城に怪訝な顔をする三人。
それでも宇佐木は慌てて首を振った。
ξ□゚⊿゚)ξ「いや、そこまで詳しくは聞いてないけど…」
川;゚ -゚)「なぜ本城がそこまで詳しく知っているんだ?」
(´・ω・`)「人脈と権力は利用しないと」
川;゚ -゚)
ξ;□゚⊿゚)ξ
('A`)「(……こういうことを言っちゃうってことは、二人には結構気を許してるんだな。ショボン)」
(´・ω・`)「まあそんなことは置いておいて」
ξ;□゚⊿゚)ξ「そ、そうね。何が言いたいの?
悪いのは運転手で、私はそこまで気にする必要はないとでも?」
(´・ω・`)「悪いのは運転手だってのはその通りだけど、
人の気持ちはそんな簡単に割り切れるもんじゃないからね。
君が気にするのは仕方ないし、それは周りが何を言っても変わったりはしないでしょ。
おそらく、ブーンが言っても変わらない。
そして、ブーンも変わらない。
何かの拍子に君が心の底からそう思えるようにならない限り、
自分が悪いって気にするんじゃないのかな」
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ξ□゚⊿゚)ξ「…………」
(´・ω・`)「僕が気になるのは、君が顔を見せないことをブーンが気にするんじゃないかってことと、
本当に君はそれでいいのかなってこと」
ξ□゚⊿゚)ξ「?どういうこと?」
(´・ω・`)「宇佐木さんの性格を、ブーンだってよく知っているはずだよ。
お見舞いは部活が忙しくなったって言って、朝チラッと寄っていくだけにしてたみたいだけど」
ξ;□゚⊿゚)ξ「な、なんであんたが知ってるのよ!」
(´・ω・`)「?看護師の皆さんが楽しそうに教えてくれたけど」
ξ;□゚⊿゚)ξ「はあ?」
('A`)「母さんも言ってた」
ξ;□゚⊿゚)ξ「おばさんも!?ちゃんと口止めしたのに!」
('A`)「母さんにそれは無理だ」
(´・ω・`)「若者のうるおいは楽しい話題だからねー」
('A`)「……『あんたにはああいう相手はいないの?』って言われた……」
川 ゚ -゚)「人の口に戸は建てられないからな」
ξ;□゚⊿゚)ξ「あーもう!で、何が言いたいわけあんたは!」
(´・ω・`)「だから、君が来なければブーンが気にするだろうし、
君だって本当はブーンのそばにいたいでしょ?会えないのはいやでしょ?」
ξ□゚⊿゚)ξ「それはそうだけど…でも……」
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川 ゚ -゚)「『でも』とか言っている場合じゃないんじゃないか。
私も本城の言うとおりだと思う。
朋美の言っていることを尊重していたが、
これから先の事を考えれば、避けるのは得策ではないような気がしてきた」
ξ□゚⊿゚)ξ「……どうすればいいのよ…。
私だって、ブーンのそばにいたい。でも……」
('A`)「二人っきりじゃなきゃいけるんじゃないか?」
ξ□゚⊿゚)ξ「え?」
('A`)「おれ達も一緒に居れば、お前の事だけを気にすることも無いだろうからさ」
(´・ω・`)「そうだね」
('A`)「だろ?」
ξ□゚⊿゚)ξ「で、でも」
川 ゚ -゚)「私は内藤君の性格をよく知らないから何とも言えんが、
周りにいる人が気の置けない仲間ならば、徐々にほぐれたりするのではないか?」
('A`)ウ、ウンオレモソウオモッタンンダ
(´・ω・`)「それに、ドクオは同じクラスだけど僕はクラスが離れているから、
休み時間ごとが厳しい。登下校と昼休みくらいしか力になれない。
宇佐木さんはクラスも隣だし、来やすいでしょ?
合同授業もひとくくりになるわけだし」
('A`)「ブーンとツンの仲はみんな知ってるしな」
ξ*□゚⊿゚)ξ「な、仲って何よ!別に付き合ってるとかじゃないし!
ただ幼馴染ってだけだし!」
('A`)「ああ、うん、そういうのをみんな知ってるってこと」
ξ*□゚⊿゚)ξ「そ、それならそう言いなさいよこのバカドクオ」
.
-
(´・ω・`)「(いい加減付き合っちゃえばいいのに)」
川 ゚ -゚)「(もうちゃんと認めればいいのに?)」
('A`)「(あのブーン相手に告白されるシチュエーションの夢を見ても無駄だと思う)」
三人の白けた視線に気付かずに顔を赤くする宇佐木。
(´・ω・`)「それじゃあ、登下校はドクオと僕。
クラスではドクオと宇佐木さんが。
来島さん、宇佐木さんのこと頼むよ」
川 ゚ -゚)「うむ。頼まれた。ちゃんと連れて行こう」
ξ;□゚⊿゚)ξ「ちょっと、久美子?」
(´・ω・`)「お昼はみんなで食べよっか。
いつもは三人で中庭裏庭屋上なんかで食べたりしてたけど、
ブーンが治るまではここを使えるようにお願いしておくよ。
僕と来島さん二人役員がいれば問題も無いでしょ」
('A`)「あー。それは楽だな。この部屋はどこ行くにも近いし」
ξ□゚⊿゚)ξ「え?ちょ?一緒に食べる?え、何を言っているの?」
('A`)「手作り弁当でも作ってきてやったらどうだ?」
ξ*□゚⊿゚)ξ「ば、ばか何言ってるのよアホドクオ!」
('A`)「バカだのアホだのお前はほんとに」
(´・ω・`)「来島さん」
川 ゚ -゚)「………」
(´・ω・`)「来島さん?」
川 ゚ -゚)「あ?う、うむ。なんだ?」
.
-
(´・ω・`)「どうしたの?いきなり何か考え事?」
川 ゚ -゚)「いや、考え事とかではないんだが……」
(´・ω・`)「?」
川 ゚ -゚)「……うちの学校、一般生徒は屋上立ち入り禁止だよな?
通常は鍵もかかってる」
(´・ω・`)「うん」
('A`)エ?ソウダッタンデスカ?
ξ□゚⊿゚)ξ「へー。そうなんだ」
川 ゚ -゚)「なのに何故昼休みに屋上でお昼を食べられるんだ?」
(´・ω・`)「人脈と権力と人の隠し事は利用しないと」
川;゚ -゚)
ξ;□゚⊿゚)ξ
('A`)「(ツンはブーンとおれの幼馴染だしブーンの好きな相手だからわかるとして、
来島さんの方にもここまで気を許してるのか)」
(´・ω・`)「ブーンが回復したらみんなで屋上ランチもしたいね」
ξ;□゚⊿゚)ξ「そ、そうね」
川;゚ -゚)「あ、ああ。楽しみだ」
('A`)「(一見人畜無害だからな。ま、引くよなー)」
ξ□゚⊿゚)ξ「お月見茶会とかもいいわね」
川 ゚ -゚)「野点のセットなら部室から持ってこれるぞ」
.
-
(´・ω・`)「それもいいね」
('A`;)「(ツンはともかく来島さんもこういう性格なのか!)」
(´・ω・`)「さて、そろそろ朝礼の準備で会長たちも来る時間なんだけど…」
ξ□゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっとまって!ブーンの事は!」
川 ゚ -゚)「随時隣の教室に朋美を連れていく」
('A`)「みんなでワイワイ……ガンバル」
(´・ω・`)「なるべく僕も顔だすよ」
ξ;□゚⊿゚)ξ「あ、あんたたち!」
(´・ω・`)「続きは昼休みにでも話そうよ。
ブーンのためにも連絡は取り合っておきたいし。
来島さんも、色々頼めるかな」
川 ゚ -゚)「うむ。問題ない」
ξ;□゚⊿゚)ξ「あーもう!勝手に話が進んでく!」
('A`)「じゃ、また昼に」
(´・ω・`)「うん、よろしく」
川 ゚ -゚)「朋美、あとで教室で」
ξ□゚⊿゚)ξ「はいはい!分かったわよ!」
生徒会室を出ていく徳永と宇佐木。
残った本城と来島は、朝礼の準備を始めた。
.
-
事故の脳への後遺症がブーンの過負荷時の行動不能に繋がるんかね。
続き期待
-
乙乙
-
アインクラッドきてたー!
続きまってます!
-
しえん、おつ、色々ありがとうございます!
それでは、今日の投下を開始します。
よろしくお願いします。
.
-
3.電話 朋美と久美子
.
-
川 ゚ -゚)「はい。私だ」
ξ□゚⊿゚)ξ「私…朋美」
川 ゚ -゚)「どうした?ノリが悪いな。
普段なら『神々の遊び』まで続けるのに」
ξ□゚⊿゚)ξ「ごめん。懐かしのお笑いネタシリーズをやる気分じゃないの」
川 ゚ -゚)「そうか……。そうだな。すまなかった」
自室の文机で勉強をしていた来島久美子は、
携帯電話の画面に出た親友の名を確認してから通話ボタンを押した。
そして『普段通り』に話しはじめたのだが、
親友はそれを受けることの出来る状況にいなかった。
ξ□゚⊿゚)ξ「ううん。こちらこそごめんね」
途切れる会話。
二人とも矢継ぎ早に喋る性格ではないが、
会話が途切れるということはあまりない。
話題の切れ目ならばともかく、
電話で最初の挨拶が終わって時点で二人とも黙るのは今までなかった。
久美子は正座をしたまま、背筋を伸ばした。
物心ついた時からこの畳の部屋で過ごしていた。
椅子よりも正座。
足腰が弱くなった祖父の為に作った洋間もあるし、
テーブルと椅子で食事をとる場所もある。
来客用のリビングは板張りに絨毯を敷いてありソファーセットもある。
けれど、彼女は畳と正座が好きだった。
最初は顔色を伺っていただけだったが、今ではこの空間が好きだった。
.
-
携帯電話を耳につけたまま、そんなことを考えていると、
親友がやっと本題を話しはじめた。
ξ□゚⊿゚)ξ「明日、ブーンに会って、私ちゃんと笑顔を見せられるかな」
川 ゚ -゚)「大丈夫だろ」
ξ□゚⊿゚)ξ「……なんでそんなことを言えるのよ」
川 ゚ -゚)「私、本城、徳永。
この三人が朋美と内藤をフォローするんだ。
大船に乗ったも同然だろ?」
ξ□゚⊿゚)ξ「久美子……」
川 ゚ -゚)「それに、学校に来れるようになった内藤を見て、
朋美が嬉しさのあまり笑顔でいることなんて誰でも想像がつく」
ξ□゚⊿゚)ξ「ちょ、な、何言ってるのよ!」
川 ゚ -゚)「あ、いや、約一名はそんな風には思わないかもな」
ξ□゚⊿゚)ξ「え?」
川 ゚ -゚)「まったく鈍感にもほどがある。
一番気付かなければならない人間が気付かないんだから。
本城と徳永もそこら辺をちゃんとフォローしてやってほしいものだ」
ξ□゚⊿゚)ξ「え?え?え?
なんのこと?誰のことを言ってるのよ」
川 ゚ -゚)「……鈍感同士の恋愛と言うのは、
見ている方にとっては面白くもあり、イライラもし、
なかなかつらいものだな」
ξ□゚⊿゚)ξ「え?久美子?」
川 ゚ -゚)「なんでもない」
ξ□゚⊿゚)ξ「???」
.
-
川 ゚ -゚)「ま、T.U.N.と書いてツンさんなんだから、
内藤の顔を見れば自然と笑顔になるだろ?」
ξ□゚⊿゚)ξ「ば、ばか!何言ってるのよ!
外で言ったら怒るからね!
あんたの『Qoo』もばらす!」
川 ゚ -゚)「ふふふ。冗談だよ
二人でばらしあって、ツン、クーと呼び合うのを止めたんだからな」
ξ□゚⊿゚)ξ「そうそう。まったく…」
川 ゚ -゚)「しかし、恥かしさ的には朋美の方が」
ξ□゚⊿゚)ξ「怒るわよ」
川 ゚ -゚)「ふふふ」
ξ□゚⊿゚)ξ「まったくもう」
川 ゚ -゚)「それだけ元気が出てきたなら大丈夫だよ」
ξ□゚⊿゚)ξ「……ありがと。明日、よろしくね」
川 ゚ -゚)「ああ、大船に乗った気分でいいぞ」
ξ□゚⊿゚)ξ「そうする」
川 ゚ -゚)「ま、タイタニックも大船だがな」
ξ□゚⊿゚)ξ「くーみーこー」
川 ゚ -゚)「冗談だ」
ξ□゚⊿゚)ξ「まったくあんたって人は」
川 ゚ -゚)「明日、楽しみだな。学校で会えるのが」
ξ□゚⊿゚)ξ「うん」
.
-
川 ゚ -゚)「朝は病院から来るようだから無理としても、
帰りは一緒に帰るんだろ?」
ξ□゚⊿゚)ξ「まあ。家も近いし。
あ、ドクオも一緒よ!本城も!」
川 ゚ -゚)「後ろから付いていって朋美を観察しようかな」
ξ□゚⊿゚)ξ「なによそれ!来るならちゃんと来なさい!」
川 ゚ -゚)「はははは。
皆で下校と言うのも楽しそうだな」
ξ□゚⊿゚)ξ「久美子はあんまり寄り道とかしないしね」
川 ゚ -゚)「ああ」
ξ□゚⊿゚)ξ「あ、もうこんな時間だ。お風呂入らなきゃ。
ありがと久美子。電話付き合ってくれて」
川 ゚ -゚)「友達だからな」
ξ□゚⊿゚)ξ「……ほんとにありがとうね」
川 ゚ -゚)「では、明日」
ξ□゚⊿゚)ξ「うん。明日。おやすみ」
明日の待ち合わせを確認した後、切れる電話。
待ち受け画面には、朋美と二人で撮った写真。
自分が笑顔を見せていることに違和感を覚えてしまうが、
それを超えて嬉しくもあった。
.
-
扉の無いこの部屋と廊下を隔てるのは、襖のみ。
板張りの廊下を足音無く歩くその技量は感嘆に値するが、
その消された気配に気付くようになったのはいつ頃からだろうか。
携帯電話を文机に置くのと、その声はほぼ同時だった。
「久美子さん、よろしいですか」
川 ゚ -゚)「はい。お祖母様」
立ち上がり、襖をあけると凛としたたたずまいの着物の女性がいた。
久美子の部屋着を見て、眉をひそめる。
Tシャツにハーフパンツと言うその服装は、
高校2年生の女子としては特に問題の無い部屋着だと思われるが、
『来島家』を支えたと自負し、孫にその生き様を教え、
自分の後を継いでほしいと願っている彼女としては、
あまり見栄えの良い物ではなかった。
川 ゚ -゚)「(だが、これに関しては説得済みだ)」
そう思いつつも緊張して唇を硬く閉じる久美子。
(祖母)「……稽古をつけてあげましょう。
着替えたら道場に来なさい」
川 ゚ -゚)「はい」
.
-
父と母は仕事で飛び回っており、久美子はこの祖母に育てられたと言っても過言ではない。
しかも一部では『来島の女傑』と称されたこともあるこの祖母に刃向うことなど、
久美子にはずっと出来なかった。
しかし小学校も高学年になった頃に自分が浮いていることに気付いてからは、
自分の興味のあることには意思を見せるようになった。
だがそれでも逆らえないことは幾つかあり、
この『稽古』もそうであった。
川 ゚ -゚)「稽古と道場の組み合わせってことは薙刀か……。
また青痣が出来るな」
そんなことを考えながら、久美子は和箪笥を開けた。
.
-
4.心・技・身体 久美子
.
-
川;゚ -゚)「はぁ…はぁ…はぁ…」
(祖母)「肩で息をしてはいけません。
汗はまだ仕方ないとしても、疲れていることを相手に気取られないように気を付けなさい」
川;゚ -゚)「は、はい…」
久美子は白い胴着と黒い袴に臙脂の襷をかけた姿だが、
祖母は普通の着物に白い襷をかけ、額にも白の鉢巻きをしただけの姿である。
その姿で汗一つかかず、久美子に対して薙刀を振るう。
(祖母)「遅い!」
川;゚ -゚)「はい!」
既に師範の座は後人に渡した祖母ではあるが、
その武芸者としての力は全く衰えていない。
それを知るのは久美子と一部親族だけであり、
更にその『教え』を受けているのは久美子だけだった。
因みに久美子は自分の実力が、
薙刀の腕前が世間的にどれほどなのかを全く知らない。
それは稽古は常に祖母と二人。
対外試合などを全くしたことが無い為である。
(祖母)「!」
川;゚ -゚)「ふっ!」
しかし、範士の称号を持つ祖母から何十本かに一本でも有効打を奪える彼女は、
それなりの『強さ』は持っているのであろう。
例え祖母が『本気』を出していなかったとしても。
(祖母)「よろしい。今日はここまでにしましょう」
.
-
孫の成長に頬を緩めつつ、
けれどそれを知られない様に久美子に背を向ける。
そして神棚の前に立つ時には、普段通りの凛とした立ち姿だった。
そして久美子は祖母の思惑通り、その表情の変化に気付くことなく、
神棚の前、祖母の前に正座をした。
(祖母)「本日の鍛錬を終わります」
川 ゚ -゚)「ありがとうございます」
少し頭を下げた祖母に対し、
深々と腰から頭を下げる久美子。
そして数秒後頭をあげると目の前にはまだ祖母がいた。
普段であれば久美子が頭を下げている数秒の間にその場を去ってしまう祖母がまだいることに、
久美子の顔は不安によって曇った。
川 ゚ -゚)「お祖母様」
(祖母)「明日は和室に参りなさい。
帰宅後準備を終わらせて、7時には入る様に」
川 ゚ -゚)!
ここで言う『和室』とは、日本舞踊の稽古を行う部屋を指す。
『薙刀』と『日本舞踊』
幼い頃より大和撫子として、来島の名に恥じない女性として、
そう言われ続けて祖母より手ほどきを受けてきた。
久美子自身も稽古は辛いが嫌いではない。
だからこそ続けることが出来た。
小学校は毎日どちらかの稽古を。
中学校に上がってからは週に各二回ずつ。
そして高校に上がってからは週に各一回か二回行ってきた。
.
-
だから明日舞踊の稽古が行われることにはそれほど驚いていない。
久し振りの連続稽古ではあるが、それもそこまで驚くことではない。
それでは何に驚いたのかと言うと、明日稽古を行うと予告されたことについてだった。
中学校になってから、稽古は突然だった。
祖母が部屋まで来て、稽古の為に道場か和室のどちらかに来るようにと告げる。
その瞬間から準備を始め、祖母が来る前にその場所に行かなければならない。
つまり祖母が部屋に来た瞬間からが既に稽古になっているのだ。
それが、前日の内に告げられた。
確かに『7時』という時間は授業が終わった瞬間に帰宅の途につき、
更に通学路内で何の問題なく家に辿り着けたとしてもかなりギリギリの時間である。
しかしそれは全ての準備を当日その瞬間に行わなければならない場合であり、
着物への着替え以外の準備を今日中に行ってさえおけば、
そこまで時間的猶予が無くなるスケジュールではない。
勿論寄り道などは出来ないが、信号や踏切に捕まって帰るのが遅れても、
充分間に合う時間である。
そこで、思い当る。
つまり祖母は明日授業が終わり次第すぐ帰って来いと言っているのだ。
久美子の心に、怒りの炎が宿る。
しかしそれを外に出そうとはせず、無表情に口を開いた。
川 ゚ -゚)「申し訳ありません、お祖母様。
明日は少々遅くなる可能性があるため、
稽古は明日の遅い時間か別の日に変えていただけますでしょうか」
立ち去ろうとする祖母の背中に、
大きくは無いがしっかりとした声で告げる。
(祖母)「遅くなる?何故ですか?
生徒会の用事なら私から統括の岡野先生に伝えて別の日に変えてもらいます。
茶道部ならば佐々木さんに伝えておきます」
川 ゚ -゚)「いえ、どちらでもありません」
.
-
生徒会と部活と言う二つの言い訳は潰された。
もとよりその二つはあてにしていないが、これで確信もした。
『祖母は、私と朋美が友人関係にあることを良しとしていない』
それを知っている久美子は、先ほどの電話から明日何かがあることを知り、
学校が終わった後彼女といることが無いようにしているのだと思った。
(祖母)「それでは、どのような用事ですか?」
川 ゚ -゚)「明日、ケガで入院していた友人が、久しぶりに登校をします。
足のケガのためまだ松葉杖、もしくは車椅子での登校の予定です」
(祖母)「あなたの友人にケガで入院をした者がいるとなど聞いておりませんよ」
川 ゚ -゚)「はい。これから友人になる予定の方ですので」
(祖母)「……あなたは自分が何を言っているのかおわかりですか?」
呆れた様に、ため息交じりに話す祖母。
そして久美子に向けていた顔を出口に向ける。
(祖母)「訳のわからないことを言っていないで、明日に備えなさい。
7時です。口答えは許しま」
川 ゚ -゚)「彼は!」
祖母の言葉をすべて聞き終える前に、久美子は口を開いた。
鋭い声で祖母の話を中断させるなど、今までの彼女には考えられないことだったが、
思わず口を開いていた。
(祖母)!?
驚いたように再び久美子の顔を見る祖母。
真剣な瞳が彼女を迎えうった。
.
-
川 ゚ -゚)「彼は、明日入院を終えて登校する内藤君は、本城のご子息の親友です」
久美子の言葉に、祖母の表情が揺れる。
そしてすぐに神棚の前、久美子の前に戻り、腰を下げて正座をした。
(祖母)「お話しなさい」
川 ゚ -゚)「はい」
探る様な祖母の顔。
嘘は言わない。
祖母のこの視線の前で言えるほど、まだ抜け出せてはいない。
けれど少しだけ誇張するくらいならばできる。
そんなことを考えつつ、久美子は口を開く。
川 ゚ -゚)「明日久しぶりに登校する彼の名前は、『内藤 武士』(ないとう たけし)といいます。
去年のインターハイ、陸上短距離で一年生ながら好成績で2位入賞。
全国でも8位に入り、将来が有望されています」
(祖母)「覚えております。
美ノ付の名前を全国に広めてくれた立役者の一人ですね。
しかもスポーツ特進ではなく、一般入試での一般クラスとか。
そうですか。彼が。ということは、今年の夏は…」
川 ゚ -゚)「はい。出場は難しいかと」
(祖母)「……そうですか」
川 ゚ -゚)「そして、彼は先ほども申した通り本城のご子息の親友です」
(祖母)「祥大さんの親友」
.
-
川 ゚ -゚)「はい。
小学校からの友人で、ご子息、内藤君、
そしてもう一人徳永君と共に親友であると、
ご子息が申されておりました」
(祖母)「徳永?」
川 ゚ -゚)「え、あ、はい。同じ年で徳永君と言う」
(祖母)「……名前は?お父上のお名前は知っていますか?
住んでいるのはどちらで?」
川 ゚ -゚)「彼の名前は『俊雄』です。御尊父のお名前までは……。
ただ、内藤君と徳永君は幼馴染とも聞いております。
また小学校は安藤小学校とのことですから、あの近辺かと。
それと、徳永君のお父様はお亡くなりになっているようです」
(祖母)「そうですか、お亡くなりに。
そしてお名前が『俊雄』さんと言うのですね。
おそらくですが、お父上は徳永俊一郎さんです。
この近辺で『徳永』という苗字は珍しい部類に入りますし。
彼の名前にも聞き覚えがあります」
川 ゚ -゚)「お祖母様?」
(祖母)「俊一郎さんは、昔道場に通って剣術を習っていた門下生です」
川 ゚ -゚)「え?」
(祖母)「とても気持ちの良い爽やかな若者で、
当家に年齢のあう女性がいたら是非縁談を進めたかったと思える方でした。
結婚の際にご夫婦でご挨拶に見えられて、ご相手も気立てのよいお嬢さんでした。
警察官で、交番勤務の頃までは頻繁に来られていたのですが、
刑事になられてからは月に一・二回しか来られなくなっていました。
お子さんは男の子が一人。
もう少し自分の手で鍛えたら道場に連れてくると言っていましたが、
その前に亡くなられました。
息子さんが、お葬式で必死に涙をこらえている姿を覚えています。
貴女と同じ年だったのは覚えておりましたから、もしやと思いました。
しかし、祥大さんの親友とは。
世間は狭い物です」
.
-
しみじみと、少し切なげに話す祖母を見て、久美子は驚いていた。
自分の前では常に矍鑠として弱い面など全く見せなかった祖母の一面を、
覗いてしまったような気分であった。
(祖母)「それで、その内藤君のお世話をあなたがするのですか?」
しかしすぐに普段の祖母に戻り、
久美子は気を引き締め直す。
川 ゚ -゚)「い、いえ、違います。
まだそこまでは親しくありませんし、
この年代の親しくも無い男女がそんなことはいたしません。
彼のサポートは本城のご子息と、徳永君がする予定です。
あと内藤君はクラスでも人気が高いので、同じクラスの友人たちがすると思います」
(祖母)「……ではあなたが何かをするわけではないのでしょう」
川 ゚ -゚)「はい。ですが足を怪我したということで、
移動等の不都合や学内のサポートの為に本城のご子息より、
生徒会の備品を使いたいと申請がありました。
ご子息は副会長ですので彼の一存で特に問題は無いのですが、
公明正大であるご子息はそれを良しとせず、
それぞれの使用に関してもう一人生徒会役員の確認をお願いしたいと申し出があったのです」
(祖母)「それに、あなたが指名されたと?」
川 ゚ -゚)「はい。ご子息は校舎が違うため、頻繁にこちらに来るのは難しいとのことです。
そこで、同じ学年で内藤君のクラスに一番近いのが私ですので、
ご子息よりお願いをされました。
もちろん私が内藤君の学校生活の手助けを直接することはありませんが、
生徒会の備品の確認や貸し出し、
通常生徒は使えないエレベーターの使用の際などのサポートは、
私がすることもあると思います。
特に明日は登校一日目と言うことで、
授業終了後に明日以降の施設・備品の使用に関して打ち合わせをすることも考えられます」
(祖母)「そういう事ですか」
.
-
告げることは全て告げた。
隠している事はあるが嘘はついていない。
誇張はしたが、虚ではない。
(祖母)「……あの時本城家からの申し出が無ければ、今の来島家はありません。
今を支えているのはあなたのお父様とお母様の働きによるものですが、
あの日を乗り越えることが出来たのは、本城の御当主と、
その娘でありあなたのお母様の学生時代の先輩である小百合さんのおかげです。
学校の、部活の後輩だったというだけで何も聞かずに手を差し伸べて下さった小百合さん、
そしてその小百合さんの願いを慎重に、けれど迅速に叶えてくださり、私達を救って下さった御当主。
お二人のおかげです。
小百合さんの息子さんであり、御当主の直系のお孫さんである祥大さんが、
今あなたと同じ学校で、さらに生徒会という要職にておそばにいられるのは、何かの縁でしょう。
よろしい。明日の稽古は無くしましょう」
川 ゚ -゚)「ありがとうございます」
頭を下げる久美子。
とりあえず一つのハードルを越えたことに安堵して緩む表情を隠す。
.
-
(祖母)「内藤という選手は、美ノ付の名をあげることの出来る可能性があります」
川 ゚ -゚)「は、はい?」
頭を上げる前に突然親友の思い人の名が出てしまい、
おもわず上ずった声で返事をしながら頭を上げた。
(祖母)「今年は無理でも、まだ来年があります。
美ノ付の、ひいては常林学園の為になる可能性のある生徒ならば、
来島家として助けるのは当然のことです。
学生としての領域を逸脱することは許しませんが、
学内の生活においては手を貸して差し上げなさい。
よって、夏休みが始まるまでの稽古は土日のみとします。
よろしいですね。」
川 ゚ -゚)「は、はい!」
正直土日の夕方以降は全て潰れるのは辛いが、
望んだ以上の好条件な結果に、先ほどとは違う心で声が上ずってしまった。
.
-
そんな久美子を見て祖母は軽くため息をつきながら立ち上がった。
(祖母)「そうそう、機会があれば徳永さんのお子さんを、道場に連れていらっしゃい」
川 ゚ -゚)「え?」
(祖母)「今でも目に焼き付いていています。
幼き身で涙を必死にこらえたその姿を。
そして俊一郎さんの息子さんなら、さぞや爽やかな好青年なことでしょう」
川 ゚ -゚)
(祖母)「俊一郎さんと同時期に稽古をしていた者もまだおりますし、
忘れ形見に会いたい者もおるでしょうしね。
ええ、それが良い。
幼き頃は俊一郎さんが教えていたなら、剣術の基礎は出来ているはず。
彼に興味があれば、通ってもらうのもいいでしょう」
川 ゚ -゚)
(祖母)「最近は若い門下生も少なくなりましたし、
俊一郎さんの息子さんの様な爽やかな青年が入ってくれれば、
道場の雰囲気も更によくなることでしょうしね」
川 ゚ -゚)
(祖母)「久美子。どうしました」
川 ゚ -゚)「あ、い、いえ。私はまだ徳永君とは親しくありませんので。
いくら徳永君の御尊父をお祖母様がご存知だとしても、
親しくも無い私がお亡くなりになっているお父上の事に繋げて何かを話すというのは、
少々気後れをしてしまいますので」
(祖母)「そうですね。
私としたことが、懐かしい名前を聞いて少々先走ってしまったようですね。
それは、久美子さんが正しいです」
祖母は久美子の顔を見て満足げに頷いた。
.
-
(祖母)「内藤さんの手助けをしているうちに、親しくなることもあるでしょう。
その時に、機会があればお話ししてみなさい。
俊一郎さんの事に関しては、私からお話ししても宜しいですし」
川 ゚ -゚)「は、はい」
微笑んだ祖母に対し、ぎこちない笑顔で返す久美子。
その脳裏には、今日初めて少しだけ話した徳永俊雄の姿が浮かんでいた。
(祖母)「さて、少し遅くなりましたね。
道場の片付けは最小限で構いませんから、
汗を流したら早めにお休みなさい」
川 ゚ -゚)「はい」
.
-
再び頭を下げる久美子。
その間に祖母は立ち上がり、道場の出口へと移動した。
そして体の向きはそのままに、ほんの少しだけ顔を動かして視線のみで久美子を見る。
川 ゚ -゚)
頭を上げた久美子。
(祖母)「久美子」
川 ゚ -゚)「は、はい!」
既に外に出たと思っていた祖母の声に、
慌てて返事をする久美子。
そして身体ごと、正座したまま祖母に向かって体の向きを変えた。
(祖母)「私は、あなたとあの女との交友を許したわけではありません。
それは覚えておきなさい。
祥大さん、内藤さん、俊一郎さんの忘れ形見。
素晴らしい方が周りにちゃんといらっしゃるでしょう。
友人は、選びなさい」
祖母は久美子が何かを言うのを許さない様に、それだけ告げると前を向いて歩き始めた。
久美子は、その背中に向かって立ち上がろうと腰を浮かせたが、
結局立ち上がることは出来ず、その背中を黙って見送ってしまった。
川 )「すまん、朋美…。
私はまた、朋美の素晴らしさをお祖母様に伝えることが出来なかった…」
道場の板張りの床に、二粒の水滴が落ちた。
.
-
5.日常 5人
.
-
バスが止まり、一番最後に下りてきた少年。
松葉杖を器用に操り、身のこなし軽く下りきった。
('A`)「お疲れ様」
黒い学生鞄を二つ持った俊雄が声をかける。
(´・ω・`)「どうだった?一人でバスは」
その後ろから、本城が不安そうに声をかける。
ξ□゚⊿゚)ξ「バスくらい一人で乗れるわよね」
口調や台詞とは逆に、心配げに見守る朋美。
川 ゚ -゚)「乗る時は朋美と徳永君がそばにいたんだろ?」
そんな朋美を見て苦笑しながら、下りてきた彼に声をかけた久美子。
( ^ω^)「おっおっお。みんな心配し過ぎだお。
小学生じゃないんだし、バスくらい一人で乗れるお」
内藤武士。
退院した彼が学校に戻ってから、一週間が経っていた。
( ^ω^)「やっぱりこの通い方が一番だと思うお。
皆は普段通り自転車。僕はバス。
停留所で待っててもらうのも本当は悪いお」
ξ□゚⊿゚)ξ「もし転んだ時にクッションが必要でしょ」
('A`)「……なあ、クッションっておれの事か?」
ξ□゚⊿゚)ξ「他に誰がいるっていうのよ」
(´・ω・`)「とりあえず、この路線は必ず低床車両を走らせてもらえるよう、
本社には言っておいたよ」
.
-
うううっひょー来てた!やっと追いついたぜ 支援しえん
ってか バスの車種まで変えれるのかショボンの権力wwww
-
('A`)「あー。それはいいな」
( ^ω^)「ありがとうだお」
ξ□゚⊿゚)ξ「おぼっちゃまめ。よくやった。褒めてやる」
(´・ω・`)「別に宇佐木さんに褒められてもなー。
ま、いまだに低床車以外の車両を使ってるのが悪いんだけどね」
川 ゚ -゚)「(いくらバスも本城近親の系列会社とは言え、ここら辺はまだ流石に慣れん)」
( ^ω^)「じゃあ、これからもこれでお願いしますですお」
('A`)「おれもバスで楽だと思ったのになー」
( ^ω^)「ドクオはもっと運動しなきゃだめだお」
ξ□゚⊿゚)ξ「学校の行き来くらい、ちゃんと動きなさいあんたは」
('A`)「でもさー」
川 ゚ -゚)「近いとはいえ、毎日となると、乗車賃もそれなりにならないか?」
('A`)「そこはほら、そこの大明神様に」
(´・ω・`)「株主切符はブーンの分しかないから、ドクオは自腹だよ」
('A`)「……自転車か歩くとするか」
ξ□゚⊿゚)ξ「まったくもう」
( ^ω^)「おっおっおっ」
バスの停留所からの道を、楽しそうに歩く五人。
道すがら自転車の者や徒歩の者、学校に向かう生徒達に声をかけられる。
.
-
それは八割方内藤に向けての挨拶だったが、
中には宇佐木や本城に向けてされるものもあり、
たった一週間であったがこの五人で固まっていることが、
周囲から普通であることと認識されるようになっていた。
ベクトルは違うが周囲とのコミュニケーションがあまり取れていなかった
俊雄と久美子が声をかけられることも増えていた。
川 ゚ -゚)「不思議なものだな」
('A`)「何が?」
川 ゚ -゚)「いや、五人でいるだけなのに、この一週間で周囲が変わった気がする」
ξ□゚⊿゚)ξ「そう?」
(´・ω・`)「そうだね。
今までだってブーンとドクオと僕の三人で固まっていたけど、
こんな風にはなっていなかった。
この五人で固まりだしてまだ一週間なのに、
何故か昔から一緒にいるように扱われているよ」
('A`)「そういやそうだな」
( ^ω^)「良いことだお。
三人でも楽しかったけど、
五人だともっと楽しいおね。
勉強も教えてもらえるし」
(´・ω・`)「ブーンとドクオは期末テストは大丈夫?」
('A`)
( ^ω^)
(´・ω・`)「ブーンは休み明けだから仕方ないとしても、ドクオ?」
ξ□゚⊿゚)ξ「まったく二人とも」
川 ゚ -゚)「朋美は大丈夫なのか?」
.
-
ξ□゚⊿゚)ξ「……数学以外は」
川 ゚ -゚)「まったく」
('A`)「学年一位と常に十位以内の二人から見たらおれ達なんて…。
いいんだよ。赤点は取ってないし」
ξ□゚⊿゚)ξ「そ、そうそう。取ってないし」
川 ゚ -゚)「そういう問題じゃない」
(´・ω・`)「来島さんの言うとおりだよ。
うん。決めた。ドクオ、期末の順位が前回より下だったら例の件は無しね」
('A`;)「れ、例の件ってまさか!お、おいショボン、前回って中間?
あれって俺の最高順位だったんだぞ!?」
(´・ω・`)「決定ねー」
('A`;)「い、いや、それはなしだろ。
頼むよマジで」
( ^ω^)「おっおっお。
ドクオなら本気出して頑張れば大丈夫だお。
僕もショボンに教えてもらう予定だし、ドクオも一緒に頑張るお」
('A`;)「……それしかないか…」
ξ□゚⊿゚)ξ「久美子、本城、数学宜しく」
川;゚ -゚)「はいはい」
(´・ω・`)「はいはい」
ξ□゚⊿゚)ξ「で、例の件ってなんなのよ。ドクオ、本城」
( ^ω^)「話してないのかお?」
('A`)「そういやそうだな。
まああんまり広めないほうが良い件だし」
.
-
川 ゚ -゚)「なんだ。後ろ暗いことなのか?」
('A`)「ちげーよ!」
( ^ω^)「ドクオが運を使い果たしたんだお」
('A`;)「ブーンお前……。
まあ、おれもそんな気はするけどさ」
ξ□゚⊿゚)ξ?
川 ゚ -゚)?
(´・ω・`)「ゲームの話だよ」
ξ□゚⊿゚)ξ「ゲーム?」
('A`)「ああ。『Sword Art Online』ってゲームの話」
.
-
繋がってきたな 支援
-
(´・ω・`)「二人とも、『ナーブギア』は知ってるよね?」
昼休み。
生徒会室の長机でお昼食を取る五人。
それぞれに手作りのお弁当や学食の料理、パンなどを持ち寄っていた
話の流れは、登校時に途中で終わってしまった『ドクオの例の件』についてだった。
川 ゚ -゚)「名前だけは」
ξ□゚⊿゚)ξ「うちにある」
('A`)「!マジか!」
ξ□゚⊿゚)ξ「うん。父さんが持ってる。
私は使ったことないけど」
('A`)「うわー。おじさんマジか」
ξ□-⊿-)ξ「『技術大国ニッポン!』とか言いながら買ってきて、
母さんに怒られてた。あれ10万くらいするのよね?確か。
父さん新しい物好きだからね」
川 ゚ -゚)「アルベルトさんは古きを愛する系かと思ったが。
神社とかよくまわってるよな」
ξ□゚⊿゚)ξ「うん。好きよ。ご朱印帳とかもってるし。
母さんと出会ったのも富士山登りと京都巡りに来たときみたいだしね。
ただ、その前の来日は夏の秋葉原と池袋と中野と国際展示場を巡ってたって話。
入るなって言われてる書斎の一角がロボットのプラモとフィギュアで埋まってるのは、
本人まだ私に知られてないつもりみたい」
川;゚ -゚)「アルベルトさん…」
('A`)「おじさんそっち系だったのか―!!!」
ξ□゚⊿゚)ξ「隠してるつもりだから、そっとしておいてあげて」
.
-
川;゚ -゚)「ま、まあそれは置いておいて、で、ナーヴギアがどうしたんだ?」
(´・ω・`)「うん。あれって世界初のバーチャルネットワークゲーム機って触れ込みなんだけど、
じつはまだちゃんとしたRPGゲームって出てないんだよ」
川 ゚ -゚)「確か、ヘルメットみたいなやつを被るとゲームの世界に行けるとか」
('A`)「えらく端折ってるけど間違っては無い」
( ^ω^)「さすがにシステムはいまいちよく分からないおね」
ξ□゚⊿゚)ξ「仮想現実の世界に行けるのよね?
気になるけど、なんか怖い気もする」
川 ゚ -゚)「そうだな。脳神経に直接電気信号を送り込むという話だし」
(; ^ω^)「おっおっ。そういう観点で言うと、確かに怖いかも」
('A`)「おじさんは何やってるんだ?」
ξ□゚⊿゚)ξ「よく分からないけど、剣を振り回してるみたい。
なんか一本道で前からやってくる敵に対してタイミングよく剣を振るとかなんとか。
最初の頃は楽しんでたみたいだけど、最近はやって無いみたいだし」
(´・ω・`)「今売られてるソフトは、そんなのばっかりなんだけど、
今年の10月に発売予定の『Sword Art Online』は、
完全にバーチャルワールド、仮想世界の中に行けるって話しなんだ」
ξ□゚⊿゚)ξ「へー」
川 ゚ -゚)「ふーん」
('A`)「感動薄いなぁおい」
ξ□゚⊿゚)ξ「だってよく分かんないしー。
で、その『ソードアートオンライン』ってのが発売されて、なんだっての?
買うってだけでしょ」
.
-
('A`)「ほとんどのゲームでは、
一般発売前にバグとか不具合が無いかテストがされる」
( ^ω^)「実際にプレイしてみないと不具合とかが分からないことがあるんだお」
川 ゚ -゚)「全プレイヤーが製作者の思惑通りに動く訳じゃないだろうしな」
( ^ω^)「だおだお」
('A`)「普通の家庭用ゲームだと、お金で雇ったテストプレイヤーにやらせたりする。
ゲームセンターのなんかは、ロケーションテスト、『ロケテ』なんて呼ばれる方式で、
正式稼働前に幾つかの店舗に先行で置いてみて、一般の人に遊んでもらったりする。
で、今度発売されるRPGゲームは、MMORPG。
そしてヴァーチャルワールドで行われるからVRMMORPG。
『Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game』なんだよ!
つまり、仮想現実の中にそれぞれにちゃんと人格を持ったプレイヤーが生活を出来る、
世界初の超すごいゲームなんだ!」
(; ^ω^)(はいっちゃったお)
ξ□゚⊿゚)ξ(あー。こういうこいつ、久しぶりに見た)
川 ゚ -゚)(爽やか……ではないな。お祖母様に会わせてよいのだろうか)
(´・ω・`)(話が脱線してるなー。この後戻るのかなー)
('A`*)「で、だ。
通常のMMORPGも、正式稼働する前には一般のプレイヤーを公募して、
テストプレイをしてもらうことがほとんどなんだけど、
今回の『Sword Art Online』でもテストプレイヤーの募集がされたんだよ!
そして、なんと、それに!!!」
川 ゚ -゚)「当たったわけだ」
ξ□゚⊿゚)ξ「それでそんなにテンションが高いわけね」
('A`*)「そおゆうことー!!
でへでへでへでへでへでへ」
.
-
ξ□゚⊿゚)ξ「変な笑い方するな」
( ^ω^)「真っ先に病室に来て大騒ぎだお。
あとでおばさんに怒られてたけど」
(´・ω・`)「ほんとだよ。まったく」
('A`*)「でへ。でへ。でへ。だってさー」
川 ゚ -゚)(お祖母様に会わせるのは無しだな)
ξ□゚⊿゚)ξ「何人くらいの?そのテストプレイヤーって」
('A`*)「1000人!」
川 ゚ -゚)「多いのか少ないのかよく分からないが……」
('A`*)「公式発表はされてないけど、多分十万近く応募があったんじゃないかってネットの噂」
ξ□゚⊿゚)ξ「あー。それで運を使い果たしたと」
('A`*)「良いんだ良いんだー。
テストプレイヤーは優先的にゲームを購入できるって言うし、
今までの不運もこれで帳消しなんだー」
ξ□゚⊿゚)ξ「はいはい」
川 ゚ -゚)(会った時のお祖母様の顔を見てみたい気もする)
( ^ω^)「お?みんな買えるんじゃないのかお?」
('A`*)「あれ?ブーン知らなかいのか?
初期ロットは1万本なんだよ。
だから予約も抽選がほとんどだし、
入荷するところで予約を取らない店なんかには、
予約できなかった奴らが数日前から並ぶだろうな」
.
-
川 ゚ -゚)「それだけ注目されているのなら、もっと販売してもよさそうだが」
(´・ω・`)「なんといっても世界初だからね。
バーチャルワールドで何が起こるか分からないから、
システムや運営会社側で充分対応できるであろうギリギリ最大人数ってところじゃないのかな」
川 ゚ -゚)「なるほど。それならばまあ納得できる」
ξ□゚⊿゚)ξ「とりあえずあんたのテンションが高くなったのは分かった」
川 ゚ -゚)「そのゲームでは、こちらでは使えない魔法とかが使えるのか?」
('A`*)「いや、『Sword Art Online』って名前の通り『剣』を中心とした武器での戦闘がメインで、
魔法とか銃とかは無い」
ξ□゚⊿゚)ξ「じゃあ空を飛べるとか」
('A`*)「いや、スキルやレベルを上げれば速く走れたり動けたりは出来るだろうけど、
空は飛べないはず。何と言っても、『Sword Art Online』だからな!」
ξ□゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚)
('A`*)「ん?」
ξ□゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚)
('A`*)「どうした?」
ξ□゚⊿゚)ξ「それ、何が面白いの?」
川 ゚ -゚)「それのどこが楽しいんだ?」
('A`)「え?」
.
-
ドックンェ・・・・・
-
ξ□゚⊿゚)ξ「だって別にこの世界とやれることは一緒なわけよね」
川 ゚ -゚)「ゲームの世界と言うと、空を飛べたり魔法を使えたりといった、
非日常が楽しいと言うところもあると思うんだが」
('A`)「ほ、ほら、怪物を倒したりとか」
ξ□゚⊿゚)ξ「そんなに戦いたいの?」
('A`)「……剣で真剣勝負とか……」
川 ゚ -゚)「刀を振り回したいのか?
居合の道場でも紹介するぞ?」
('A`)「うう……」
(; ^ω^)「と、とりあえず世界初のゲームだお。
ヴァーチャルワールドだお!
す、すごいお!」
('A`)「だ、だよな!そうなんだよ!」
ξ□゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚)
('A`)「……技術大国ニッポンってことなんだよ」
ξ□゚⊿゚)ξ「ま、別に良いんだけどね。
それであんたは、本城と何の約束をしてるわけ」
('A`)「あーーー。
実は、まだおれナーヴギア持ってないんだよ」
ξ□゚⊿゚)ξ「はあ?なにそれ」
('A`)「で、ショボンに貸してもらおうかなって。
いや、バイトはしてるんだぜ。うちの高校別に禁止されてないし。
でもまだ半分くらいしか溜まって無くて……」
.
-
ξ□゚⊿゚)ξ「まったく…」
川 ゚ -゚)「本城も持ってるんだな」
(´・ω・`)「病院に4台」
ξ□゚⊿゚)ξ「は?病院に?」
川 ゚ -゚)「しかも4台も?」
(´・ω・`)「父さんがね。研究の一環として」
ξ□゚⊿゚)ξ「何の研究よ」
(´・ω・`)「もしさ、目の見えない人がバーチャルワールドに行ったらどうなると思う?」
ξ□゚⊿゚)ξ!
川 ゚ -゚)!
(´・ω・`)「ナーブギアは、脳神経に直接信号を送り込む。
脳の働きに問題があって目が見えない人はダメかもしれないけど、
目の働き、網膜や視神経に問題がある人なら、
バーチャルワールドでならその世界を『みる』ことが出来るかも知れない」
川 ゚ -゚)「それは……」
(´・ω・`)「同じように、喋ることが出来ない人、耳が聞こえない人、においが分からない人。
そういった障害のある人が、一般的な『普通』を体験できるかもしれない。
あと、バーチャルワールドではアバター、
つまり仮の自分を作って、その中に自分が入り込む。
ならば、手の無い人、足の無い人がはいったら、どうなるか。
あと、手足はあるけど麻痺してしまっている人。
そんな人がバーチャルワールドでならば……
さらに言うと、原因不明で身体の筋肉を動かすことが出来ない人が、
バーチャルで動かす事が出来るようになれば、
現実世界にも何かしらの影響を与えるかも知れない」
.
-
初遭遇。支援
-
穏やかに話すショボンの言葉に衝撃を隠せない宇佐木と来島。
徳永と内藤は先に聞いていたのか、頷きながら話を聞いていた。
( ^ω^)「ショボンのおじさんは凄いお―」
('A`)「おれなんかはただヴァーチャルワールドすごいって思ってただけだ」
(´・ω・`)「父さんはもともとそちら系の研究をしてたから。
今だって専門は脳神経外科だし。
婿入りする時の条件が『研究を続けること』だったのに、
いつのまにか院長にさせられたって時々ぼやいてる」
ξ□゚⊿゚)ξ「……なんか、色々とびっくり」
川 ゚ -゚)「ただのゲーム機だと思っていたが、少し興味が出た」
ξ□゚⊿゚)ξ「……父さんに貸してもらおうかな」
川 ゚ -゚)「感想を教えてくれ」
ξ□゚⊿゚)ξ「うん」
(´・ω・`)「他にも色々と可能性はあるって言っていたよ。
他の医者とか研究者の方とも連絡を取っているって言っていた」
川 ゚ -゚)「しかし、それだけの可能性があるというのなら、
そのナーヴギアの製造会社とも連絡を取ったほうが良いのではないか?」
ξ□゚⊿゚)ξ「それもそうね。医療機器としての、技術提供とか」
(´・ω・`)「あー。まあねー。
ま、皆には良いかな」
.
-
('A`)?
( ^ω^)「お?」
ξ□゚⊿゚)ξ「なに」
川 ゚ -゚)
(´・ω・`)「実は、僕はナーブギアのテストプレイヤーなんだ」
('A`;)「はあああああああああああああああああ?」
( ^ω^)「おお?」
ξ□゚⊿゚)ξ「え?」
川;゚ -゚)「なんだと?」
(´・ω・`)「父さんがいた研究室とつながりのある研究室に、
ナーブギアの設計者がいたらしくてさ。
で、ナーブギアの製作に際してつながりのある研究者に声がかけられたんだって。
ただお金も人脈も動かせる教授陣は新しい技術にちょっと反目してたらしくてね、
その中である程度のお金も人脈も持っていて、
更に同じような研究をしてたってことで父さんに白羽の矢が立ったみたい。
まぁテストプレイヤーって言っても、
技術はほぼ確立した後のテストタイプとプロトタイプを病院に設置して、
要請があった時に何人かのスタッフと一緒に仮想世界に行ったりしたくらいだけどね」
('A`;)「はあ……」
(; ^ω^)「それだけでも充分すごいお」
(´・ω・`)「守秘義務契約を結んでいたから言えなかったんだ。ごめんね」
川 ゚ -゚)「本城のお父上と言うことは、
地方とは言え運輸、エネルギー、不動産等を手広く抱えた『マシログループ』の一角。
中央政界にもグループの息のかかった大臣や議員も何人かいるわけだし、
コンタクトを取っておいて損は無い」
.
-
ξ;□゚⊿゚)ξ「なにその大人な発言。
っていうか、もうどこに驚いて突っ込めばいいやら」
(; ^ω^)「来島さんも詳しくてびっくりだお」
川 ゚ -゚)「あ、いや、その……」
(´・ω・`)「来島家はお殿様に仕えていた名門家だからね。
領土の商業にも目を光らせていて当然だよ」
川;゚ -゚)「べ、べつにそういうわけでは」
( ^ω^)「なるほどだお」
川;゚ -゚)「な、内藤!?」
(´・ω・`)「あと知っていると思うけど、
来島さんのお祖父さんは常林学園の初代理事長だし、
今の理事長である来宮さんとも血縁にある」
ξ;□゚⊿゚)ξ「知らなかった。
あんた、本物のお嬢様だったのね。
家が大きいのは知ってたけど」
( ^ω^)「来島さんは凛とした雰囲気があって和風お嬢様だおね」
('A`)オジョウサマダッタンデスネ
川;゚ -゚)「い、いや私は別に」
ξ;□゚⊿゚)ξ「お嬢様なのに百円のおにぎりと百十円のかけそばで悩むとか。
は!お嬢様なのに立ち食いそば屋に入るなんて!
しかも常連で顔覚えられてて蕎麦に揚げ玉サービスしてもらうとか。
あ、でも確かに茶道部で着物着た時の立ち振る舞いは流石だった!
草履で階段二段飛ばししても裾乱れなかったし!
中庭に舞った袱紗を取りに走った時も見事な裾捌きだった!」
川;゚ -゚)「ちょ、おま、朋美!?」
.
-
(´・ω・`)「微妙にバカにしてない?」
(; ^ω^)「だおだお」
('A`)デモオジョウサマナノハカワラナイヨネ
ξ;□゚⊿゚)ξ「そして何より男の趣味が悪…うぐぅぐぅううぅうぐ」
川#゚ -゚)「とーもーみー。変なことを言うのはこの口かな?」
音も無く宇佐木の背後に移動した来島が、両手で宇佐木の口を塞いだ。
川#゚ -゚)「ともみさん?」
ξ□;⊿゚)ξ「っ……ぃ、ぃki……」
(; ^ω^)「く、来島さん、それくらいで……」
内藤が立ち上がろうとしたが、来島はその前に手を離した。
川 ゚ -゚)「まったく」
ξ;□゚⊿゚)ξ「ぜぇ…ぜぇ…あんたねぇ…」
川 ゚ -゚)「それで、徳永はゲームをやるために毎回病院に行くのか?」
ξ□゚⊿゚)ξ(強引に話をずらしやがった)
('A`)ウ、ウン。ソノツモリナンダ。
(; ^ω^)(お嬢様と知ってドクオの人見知りが復活してた)
川 ゚ -゚)「しかし、それでは病院に迷惑がかかるのではないか?」
ξ□゚⊿゚)ξ「あと、バイトもするんでしょ?夏休み。
そのテストプレイする期間がどれくらいか知らないけど、
ちゃんと発売したら自分の家でやるんだったらナーヴギア買わないと。
そんなことしててお金溜まるの?」
.
-
('A`)「それはその……」
ちらっと本城を横目で見る徳永。
本城はその視線を受け、黙って頷いた。
('A`)「実は、ゲームの最中はショボンの親父さんの手伝いってことで、
報酬が出ることになってるんだ」
ξ□゚⊿゚)ξ「はあ?」
川;゚ -゚)「それは流石に公私混同と言うか、まずいんじゃないか?」
(´・ω・`)「『Sword Art Online』は世界初のVRMMORPG。
おそらくは、今までとは比べ物にならない人達が、
今までとは比べ物にならないくらい長時間ゲームの世界に入っていると思う。
それが、身体にどんな影響を与えるかっていうのは、まだしっかりとは分からない。
で、ドクオは廃人ゲーマーだからね」
('A`)「おいショボン。おれはまだそこまでじゃないぞ」
(´・ω・`)「だから、父さんもいろいろ知りたいみたいだったからさ。
仲介したんだよ。ドクオの身体の変化を調べてみないかって」
('A`)「スルーするなこら」
ξ□゚⊿゚)ξ「身体の」
川 ゚ -゚)「変化?」
(´・ω・`)「そう。身体の変化。状態。
ゲームの中でしている経験が、身体にどんな影響をもたらしているか。
ゲームの最中は、脳波・心電図は勿論のこと、
筋肉に伝わる電気信号も調べられるように、
身体に無数の配線が繋がれる。
更に中での経験との連動も見る為に、
中で何をしたか時系列でのレポートも提出してもらうし、
ゲーム前後での状態確認の為に採血なんかもしてもらう」
.
-
('A`)「採血はきついよなー」
( ^ω^)「おっおっおっ。採血も点滴も痛くなかったお」
(´・ω・`)「それにドクオのおばさんも看護師でうちにいるからね。
ドクオが入る時にはおばさんにはそっちも見てもらうようにするから、
そこら辺も安心で丸く収まってるんだよ」
ξ□゚⊿゚)ξ「ドクオに危険は無いのね?」
(´・ω・`)「もしゲームプレイ中に危険な兆候が表れたら、即座に電源を切ることになっている」
ξ□゚⊿゚)ξ「そう……。
本人達が了承してるなら外野がとやかくいう事じゃないわね」
川 ゚ -゚)「本当に朋美は素直じゃないな」
ξ□゚⊿゚)ξ「……なによ」
川 ゚ -゚)「徳永の事が心配なら、そう言えばいいのに」
ξ;□゚⊿゚)ξ「な、何を言ってるノよ!」
( ^ω^)「おっおっお。ツンが優しいのは、僕もドクオも知ってるお」
ξ;□゚⊿゚)ξ「ちょ、ブーンまで何言ってるの!
私ガこんな地球外生命体のコトをしんぱいナンテするわけないでしょ!」
('A`)「あーはいはい」
川 ゚ -゚)「照れ屋さんめ」
( ^ω^)「そういうところも良いところだお」
ξ*□゚⊿゚)ξ「ぶ、ぶぶぶ、bu―ンまで、何を!」
('A`)(ツンに対しては天然ジゴロなんだよな)
川 ゚ -゚)(さっさと付き合えば良いのに)
.
-
ξ*□゚⊿゚)ξ「も、もう、ほんとにばかなんだから」
( ^ω^)「おっおっお。ごめんだおー」
ξ□゚⊿゚)ξ「そ、それで、結局バイトってことなのね」
('A`)「あーまあそれがその」
(´・ω・`)「バイトってしちゃうと人体実験みたいになっちゃうから、
基本は協力者って名目で、ボランティア。
ただ、協力ありがとうってことで、テストプレイが終了したら、ナーブギアをプレゼントする予定」
ξ;□゚⊿゚)ξ「本当に悪知恵が働くわね」
川;゚ -゚)「まったくだ」
(´・ω・`)「ギブアンドテイクだよ」
('A`)「そうそう」
( ^ω^)「楽しみだおね。『ソード・アート・オンライン』。
感想聞かせてほしいお」
('A`)「もちろん!
毎日話すぞ!」
ξ;□゚⊿゚)ξ「そんなのの何が良いんやら…」
川 ゚ -゚)「まったくだ」
(´・ω・`)「まあまあ」
まだ見ぬゲームに対して盛り上がる二人とそれを見て呆れる二人。
本城は一人、そんな四人を見て笑顔を見せた。
.
-
6.夏の空 男三人
.
-
前方に見える白い建物。
その後方には突き抜けるような青い空。
そして白い雲。
夏の日差しが、降り注ぐ。
('A`)「あちい……八月ももう終わるっちゅーのに何だこの暑さは」
自転車を引っ張って歩道を歩く徳永。
周囲の芝生には、患者らしき人やそのお見舞いに来たであろう人達が、何人もいた。
('A`)「良い病院なんだろうけど……。
庭がもうちょっと狭いと良い」
ぼたぼたと落ちる汗を気休めに拭うと、後ろから声をかけられた。
( ^ω^)「ドクオー!」
振り返ると、親友の顔。
('A`)「うぃーっす」
( ^ω^)「だおー」
走り出そうとした内藤が、顔をしかめて歩きながら手を振った。
('A`)「まだ痛いのか?」
( ^ω^)「普通に歩くのは問題ないお。
でも走るのはまだちょっと違和感があるんだお」
('A`)「そっか……」
追いついた内藤が促し、病棟に向かう二人。
('A`)「今日も検査か?」
( ^ω^)「だお。ちょっと早く着いちゃったからそこのベンチでドーナツ食べてたら、
ドクオを見付けたんだお」
.
-
('A`)「おまえ、最近太ってないか?」
( ^ω^)「お?そ、そんなことは……」
('A`)「ブーン?」
(; ^ω^)「ちょ、ちょっと」
('A`)「今までは食べた分全部走ってたから良かったけど、
今は走れないんだから、気を付けろよ」
(; ^ω^)「ツンにも言われたけど、難しいんだお」
('A`)「冬に向けて肥えるぞー」
( ^ω^)「大丈夫だお。気を付けるから」
('A`)「ま、俺から見れば太れて羨ましいけどよ」
( ^ω^)「ドクオは食べられないおね」
('A`)「飯は食べるけど、あんまり量がな。
こってりした物はそれほど得意じゃないし」
( ^ω^)「カルビとか美味しいのに」
('A`)「タンが良い」
( ^ω^)「お肉は何でも美味しいおね」
('A`)「結局そこに辿り着くのか」
( ^ω^)「お魚もお野菜も果物も美味しいお」
('A`)「お前なんでも食べるからなー」
( ^ω^)「カレーもシチューも味噌汁もお豆腐も牛乳もチーズも!」
.
-
('A`)「はいはい」
( ^ω^)「白米もパンもナンも……」
('A`)「あ、納豆」
(; ^ω^)「ごめんなさい」
('A`)「おいしいのに」
(´・ω・`)「ブーンはにおいの強い物が苦手だよね」
('A`;)「うを!」
(; ^ω^)「おおっ!」
(´・ω・`)「こんにちは二人とも。
どうしたのそんなに驚いて」
病院の入り口の前までたどり着いた二人。
自動ドアの少し前で後ろから話しかけられ、慌てて振り向いていた。
('A`)「だから急に話しかけるなと何度も言ってるだろうが!」
(; ^ω^)「びっくりしたお」
(´・ω・`)「二人とも気付かないんだもん」
すねたような顔を見せる本城。
('A`)「いつからいやがった?」
(´・ω・`)「ん?『( ^ω^)「カルビとか美味しいのに」』の時くらいかな」
(; ^ω^)「ほどほどに前だお」
(´・ω・`)「さっさ、中に入った中に入った暑い暑い」
('A`)「誰のせいで止まってたと思ってるんだこの野郎」
.
-
本城に促され、病院の中に入った三人。
柔らかな冷気が身体を迎えてくれ、表情を和らげる三人。
( ^ω^)「涼しいおねー」
(´・ω・`)「中で待ってればよかったのに。
飲食可能の待合スペースだってあるんだから」
( ^ω^)「おー。なんとなく外で食べるのもいいかと思ったんだお」
('A`)「最近は、涼しい風が吹くこともあるけど、木陰とはいえまだ暑かっただろー」
( ^ω^)「そうでもなかったお」
(´・ω・`)「なら良いけど」
( ^ω^)「お。そろそろ予約時間だから行くお。
今日は二人ともどうするんだお?」
('A`)「おれはかーちゃんの終わり時間までSAO」
(´・ω・`)「診察が終わる頃に来るよ。
宿題、まだ終わってないでしょ?教えるよ」
( ^ω^)「ありがとうだお!」
(´・ω・`)「ドクオはどうする?」
('A`)「…………理性が勝てたら二時間くらい早く現実に戻る」
(; ^ω^)「が、がんばれ」
(´・ω・`)「まったく」
.
-
内藤が所定の検査室に向かい、本城と徳永は研究室へと向かう。
研究室エリアは通常のエリアと少し隔離されているため、
専用カードキーが無いと入ることは出来ない様になっていた。
('A`)「こんにちはー」
「俊雄君こんにちはー」
(´・ω・`)「こんにちはー。おじゃましまーす」
「あら祥大ぼっちゃん。こんにちは」
何人かいる職員にあいさつをしつつエリアに入る二人。
ほとんど人のいない廊下を、並んで歩いた。
('A`)「ブーンの足、まだ悪いのか?」
(´・ω・`)「外科的には完治してるって。
もちろん筋肉は落ちたけど、骨とか神経には異常は認められないって」
('A`)「でも、違和感があるって言ってたぞ」
(´・ω・`)「そう言ってるね。僕達には」
('A`)「?」
(´・ω・`)「担当医には、痛みがあるって言ってる」
('A`)「マジか」
(´・ω・`)「ぼくらには心配かけたくなくて『違和感』って言っているんだと思うけど、
医者には流石にちゃんと言ってるよ」
('A`)「だけど、異常は見当たらないんだろ?」
(´・ω・`)「うん。もしかすると、身体が痛みを記憶しているんじゃないかって言ってた」
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('A`)「身体が痛みを記憶?」
(´・ω・`)「時々あるらしい。
例えば怪我とか病気で右足を曲げると痛みが走る状態が続いたとするよね」
('A`)「ああ」
(´・ω・`)「それで怪我や病気が完治しても、身体は
『右足を曲げると痛みが走る』という事象と結果だけを覚えていて、
怪我や病気と言う原因が無くなっても、
『右足を曲げる』という事象が起きると、『痛み』という結果が引き起こすことがあるんだって」
('A`)「ブーンもそれだって?」
(´・ω・`)「分からない。
でも原因としては考えられるから、
今月を待っても痛みがひかないようなら麻酔治療も始めるって言ってた」
('A`)「そうか……。
なんか、あんまよく分かってないけど、ちゃんと治ってくれると良いな」
(´・ω・`)「うん。だね」
廊下を進む二人。
('A`)「……聞かないのか?」
(´・ω・`)「聞かない」
('A`)「聞けよ」
(´・ω・`)「懲りたから良い」
('A`*)「ホントに楽しいんだよー。
誰かに話したいんだよー」
(´・ω・`)「だから父さんもレポートだけで良いって言い出したのか」
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('A`*)「いやもうマジで楽しくってさ!!
こっちに戻ってきてもあの世界でのことしか考えられなくって!!」
(´・ω・`)「もーうーあーきーた」
('A`*)「そんなこと言わないで聞いてくれよー。
やっかまれるからゲームの知り合いとかにも話せないしさー」
(´・ω・`)「ちゃんと宿題終わらせなよ」
('A`)「いきなり現実に戻すなよ」
(´・ω・`)「はいはい。着いたよ」
('A`)「ん、じゃあまたな」
(´・ω・`)「あとでねー」
('A`)「……おれの理性が勝つことを祈っていてくれ」
大き目のドアの前で立ち止まる二人。
引きつった笑顔を見せた徳永が、広く横に開く扉を開けて、部屋に入っていった。
そして音も無く閉まるドア。
『ナーブギアのお部屋』
おそらくは自分の父親が書いたであろう、
妙に丸っこい文字で書かれたそれが扉に張り付けられているのを見て、
本城はため息をついた。
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以上、本日の投下は終了します。
乙と支援、ありがとうございます。
明日もこんな感じで投下できれば、
18話の投下は明日で終了できるかと思います。
ではではまた。
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乙した
記憶かーなるほどな
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これ読み始めてからアニメ見たけどこっちの方が断然面白かった 絶対に完結までたのむ
乙でした
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乙乙
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現実パートも面白いけど「朋美」の違和感が半端ない
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それでは、投下を始めます。
今日もよろしくお願いします。
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宜しく御願い致します!
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7.はじまりへの一歩 五人
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(´・ω・`)「結局ここで食べるのが恒例になったよね」
常林学園美ノ付高等学校生徒会室。
夏休みも開け、通常の授業が始まっていた。
内藤は夏休み中に支え無しで歩けるまでに回復していたが、
原因不明の痛みがあり、走ることは出来ないでいた。
そして、今日も五人は生徒会室で昼食をとっていた。
( ^ω^)「ゆっくりできるおねー」
川 ゚ -゚)「うむ。五人で食事するのは楽しいからな」
ξ□゚⊿゚)ξ「あら、久美子からそんな言葉が聞けるなんて」
川 ゚ -゚)「どういう意味だ?ん?」
ξ□゚⊿゚)ξ「友達絡みでそんな素直なことを言うなんて、珍しいなって思っただけよ。
自分でもそう思わない?」
川 ゚ -゚)「……うむ。そういえばそうだな」
( ^ω^)「僕もみんなと食べれて嬉しいお」
('A`)「みんなと?」
(´・ω・`)「みんなと?」
川 ゚ -゚)「みんなと?」
チラチラと内藤と宇佐木の顔を交互に見る三人。
(* ^ω^)「み、みんなとだお」
ξ*□゚⊿゚)ξ「な、なんで私の顔を見るのよ」
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('A`)「そういう事にしておいてやるか」
(´・ω・`)「しょうがないねぇ」
川 ゚ -゚)「まったく世話の焼ける二人だ」
ξ*□゚⊿゚)ξ「な、何を言ってるのよ三人とも!」
(* ^ω^)「おっお」
それぞれに繋がりがあったとはいえ、
五人は各々が各々に対して気の置けない関係になりつつあった。
川 ゚ -゚)「徳永は、まだあのゲームはやってるのか?」
('A`*)「SAOの事か?ああやってるぜ!この前もさぁ!」
川;゚ -゚)「あ、いや、感想は別に良いんだが」
('A`*)「そんなこと言わないで聞けよー。
この前フロアボス戦にも参加したんだけどさ!」
(´・ω・`)「捕まったね」
(; ^ω^)「捕まったおね」
ξ□゚⊿゚)ξ「久美子も迂闊ねー」
('A`*)「ラストアタックボーナスは取られちゃったんだけどさ、良いとこまでいったんだ!」
川;゚ -゚)「う、うむ」
(; ^ω^)「助けなくていいのかお?」
ξ□゚⊿゚)ξ「この前私が捕まった時に15分くらい助けてくれなかったから、15分は放置」
(´・ω・`)「おやおや」
ξ□゚⊿゚)ξ「しかし飽きないわね」
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(´・ω・`)「さすがに学校はじまったから毎日は来てないけど、
平日でも二日に一回は来てるし、土日は朝から晩までいるよ。
夏休みはおばさんとも相談して、夜通しやったりもした」
ξ;□゚⊿゚)ξ「はーーーー。たかがゲームにね」
( ^ω^)「でも、ドクオの話を聞いてると楽しいのは伝わってくるお」
(´・ω・`)「本人が心底楽しんでいるからね」
ξ□゚⊿゚)ξ「それ、発売はいつだっけ」
(´・ω・`)「ソフトの発売は10月の末。
ゲームの正式サービス開始は11月だったはず」
ξ□゚⊿゚)ξ「……いくら?」
(´・ω・`)「ソフト単品で4万円。
ナーブギアと同梱で、13万位だったかな」
ξ;□゚⊿゚)ξ「たかっ!
あいつ買えるの?そんなの」
(´・ω・`)「前のバイトで、ソフトの金額は充分あるって。
ナーブギアはテストプレイが終わり次第、一台プレゼントするから」
ξ□゚⊿゚)ξ「たかがゲームにそんな値段ねぇ……」
('A`*)「でさ、でさ、その街でさ……」
川;゚ -゚)「(たーすーけーてー)」
ξ□゚⊿゚)ξ「そろそろ助けてやるか。ブーン、お願い」
( ^ω^)「ドクオ、次の英語の予習はしてあるのかお?」
('A`*)「え?なに?」
( ^ω^)「次の英語、確か当てられる順番だおね」
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('A`)「え?あ?そうだっけ?」
( ^ω^)「そうだお」
('A`)「……やってない……。ショボンさん、お願いします……」
(´・ω・`)「ちゃんと授業受けて勉強しないと、テストプレイも終了だよ」
('A`)「ちゃんとやるから教えてくれ」
(´・ω・`)「はいはい」
棚から教科書を出した本城。
(´・ω・`)「いまどこ?」
('A`)「確か、キャリーとジョンが痴話げんかしてるところ」
ξ□゚⊿゚)ξ「どんな教科書よ」
(´・ω・`)「ドクオ?」
('A`)「……何ページだっけ」
差し出された教科書をめくる徳永。
呆れた顔でその姿を見る四人の視線を気にすることなく、
前回の授業のページを見付けた。
そして本城に促され、長机の端に二人で移動する。
そんな二人をニコニコ見ていた内藤が、宇佐木と来島に話しかけた。
( ^ω^)「ツンと来島さんはSAOに興味ないのかお?」
ξ□゚⊿゚)ξ「んー。無いと言えば嘘になる。なんか色々凄そうじゃない」
( ^ω^)「お?」
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川 ゚ -゚)「ここにきて普通のニュース番組でも取り上げられ始めたからな。
昨日も見たが、あの映像は確かにすごかった」
( ^ω^)「だおね」
ξ□゚⊿゚)ξ「でも予約の抽選はもうどこも締め切ってるみたいだし、
一般で買おうと思ったら、多分前日の夜とか、
その前から並ばないと駄目そうな雰囲気だし」
川 ゚ -゚)「待ってればすぐ買えて安売りも始めるどっかの電話と違い、
当分は追加販売はしないと告知しているようだからな。
転売をする奴も含めて、熾烈な争いになりそうだ」
ξ□゚⊿゚)ξ「そこまではねー。
それに、私の家には父さんの買ったナーヴギアがあるけど」
川 ゚ -゚)「私は持ってないからな」
( ^ω^)「ネット環境はあるんだおね?」
川 ゚ -゚)「古い日本家屋だが、流石にそこら辺は完備している。
父や母ともそっちで連絡を取っているからな」
( ^ω^)「おっお。そうだおね」
ξ□゚⊿゚)ξ「で、ブーンは買うの?
あんただってナーヴギア持ってないでしょ?」
( ^ω^)「おーそれなんだけど……」
(´・ω・`)「来年の春に、ナーブギアがマイナーチェンジするんだって」
本城が、三人の会話に突然参加する。
英語の教科書を指さしているが、頭半分で会話を聞いていたらしい。
教わっていた徳永は全く何の話をしていたか聞いていなかったようであるが。
川 ゚ -゚)「マイナーチェンジ?」
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