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('A`) 本日も旅日和のようです

1名も無きAAのようです:2015/06/22(月) 00:04:23 ID:1Llz5Phw0
何処かへ行こう。

特には決めてないけれど。

57名も無きAAのようです:2015/06/27(土) 22:05:19 ID:tgg5PVBc0
>>56
もえぎ行くとき車だとものすごいカーブするよね

58名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 03:12:59 ID:DONbDtMM0
こんな時間に見るんじゃなかった
腹がヤバい

5日前に下見がてら六時間かけてフェリーターミナル行った俺にはタイムリーな話だ

59名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 05:40:36 ID:JTDIga4k0
まさかの同郷

60名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 13:54:35 ID:N0VJszLU0
こんなにコメント続くとか涙ちょちょ切れそうです(´;ω;`)

>>55
アクエリアスよりポカリが好きです。

>>56
登山客ばっかでしたね、そういえば。今度行ったら山も試してみますっ。

>>58-59
お、神戸民ですか!
残念ながら私は関西生まれでも育ちでもないのですが、それでもそれなりに住んでましたので愛着あります。
何より素敵な街ですしねー。

さてっ、これから4話目を投稿します!

61名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 13:55:23 ID:N0VJszLU0

思い立ったが吉日。

('A`)「旅をしよう」

大学3年の冬。学業にバイトにサークルに、慌ただしい日々を送っていた私。
今思えば青春を謳歌していたと言えるが、その時の私にはどうも謳歌し足りない様で、突発的衝動だけで旅に出る事に決めた。

そうと決まればそこからは早いものだった。
その辺の文房具屋に飾ってあった安物のリュックサックと、結局道中一度も使わなかったコンパスを買い、A3で出力したグーグルマップを3つに畳み、後は着替えとか歯ブラシとか食料とかを適当に掻き集めて、新品のリュックサックに突っ込み、背負い、自転車に跨がった。

2月中旬。まだまだ寒い風が吹く中、深夜の新宿に我は仁王立つ。

('A`)「手袋、よし。ウィンドブレーカー、よし。天候、良好!行くかっ!」

バイト終わりの深夜2時。
恐れ知らず、疲れ知らずは若気の至りか。

直線距離にして片道約80km、
ここ新宿から、征くは神奈川西南端。

意気は揚々、希望も洋々。
やうやう白くなりゆく山際、まだ春先には遠いけれど、立ち込める霧が都会に照らされるのもまた、いとつきづきし。

さあ、目指すは、小田原城。

62名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 13:56:03 ID:N0VJszLU0

4.新宿⇔小田原 自転車旅行

63名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 13:56:59 ID:N0VJszLU0

(;'A`)「あっつ!」

袖で額を拭う。
わざわざ装備した手袋とウィンドブレーカーは、20分後には既に用済みとなっていた。
寒いと思っていたのは、跨がってからほんの数分。汗をかきながらも、この衝動が夏に来なくて良かったと、ふと思う。

暗い夜道には、もちろん人影などほとんど無く、通る車も、国道や県道を軸として進んでいた事もあるだろうが、長距離を移動するのであろうトラックがほとんどだった。

(;'A`)「つーか怖え!」

都心から離れるにつれ、徐々に街灯の間隔も開いていき、暗さも増してくる。
また、大型トラックが後方から高速でグレイズしてくる時など、生きた心地がしなかった。

64名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 13:57:48 ID:N0VJszLU0

しばらくした後、見えてきたのは長い橋。オレンジ色の街灯に照らされながら、それは静かに架かっていた。

行路など殆ど覚えていない、というか、ルートなどあってないようなものだったので、ここがどこの橋だったのかは分からない。
ただ、国道や県道を主たるルートとしていたことと、遠方に光る街が見えた事、そしてそれなりに長い橋だった事を鑑みるに、多摩川下流付近を通ったはずだ。

【◎】A`)「おぉ、すっげー」

遠くに光る街並みを、慣れない手付きでもってデジカメに収める。
ここまでくれば、交通量もたかが知れているので、気兼ね無く写真が撮れた。

この時点で、だいたい午前4時くらいだっただろうか。

('A`)「先は長いな」

65名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 13:58:51 ID:N0VJszLU0

空が明るんできた頃、マクドナルドで朝御飯を摂る。
高校3年間、往復2時間を自転車で通い通した私の足は、まだまだ疲労を知らない。

朝日を望んだのは、腹が膨れて間もなくの頃。
後方にはがらんどうとした平地、目の前には大きな下り坂。ハンドルを強く握った後、左手前方からそれは顔を出した。

('A`)「走り出して、約4時間ってとこか」

大地と空は、朝焼けによって赤く彩られた。

ここはすでに神奈川県。
昼頃までには、海に着けそうだ。

66名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 13:59:46 ID:N0VJszLU0

('A`)「おっ?桜?」

こんな時期に、と足を止めて桜木によって掛かる。
花は詳しくないが、確かにこれは桜のようだった。
今は2月、随分と早咲きの桜だと思ったものだ。

ここは横浜駅近く。
明けて間もないので、もちろん人通りは少ない。

桜花の舞を背に受けて。
目指すは湘南。潮風に誘われて。

そして、午前7時半すぎ。
目の前の平地は、広大な海へと姿を変えた。

67名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 14:01:21 ID:N0VJszLU0

江ノ島に滞在する中で、モロボシ・ダン役の俳優が経営する店のハヤシライスを食べたり、新江ノ島水族館のイルカショーを楽しんだり、海岸を彷徨ったりと、それなりにいろいろと楽しんだが、文章にすると孤独感が3割増になったので、詳しくは割愛する。

随分と身体も休まったので、さてここから、海沿いに西へと移動する。
ちなみに、江ノ島に着いた段階で、頭の中は“小田急で今すぐ帰りたい”という思いで一杯だったが、イルカに励まされつつ、何とか顔は西を向いた。

('A`)「潮風きっちーな」

砂浜に入っても無いのに、身体には潮と砂が付着していた。
初めは海も新鮮だったが、ここからはひたすら一本道。
しばらくしてからは防砂林に身を隠しつつ進むことにした。

江ノ島からの行路は、ただただ無心。
自分で言うのも何だが、私の健脚も、漕いで8時間とくれば、そりゃあ悲鳴もあげるわけだ。

相模川の橋を越え。
大磯の駅に立寄り。
国府津を横目に見た頃。

ようやく、ようやく。
目的の代物が目前に現れた。

('A`)

('A`)「着いた…」

ヽ('A`*)ノ「着いたぞおおおおおお!!!」

小田原城。
寄り道除けば、片道9時間程。
白い城壁は、夕焼けで赤く染まり始めていた。

68名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 14:02:04 ID:N0VJszLU0

城の公園の猿に挨拶をし、小田原城と自転車をカメラに収めた後。達成感に溢れた溜息を1つ、強くついた所で。

('A`)「さーて、寝床どうすっか」

何もかもが衝動なので、もちろん予約や下調べなどしていない。
思いつくままに、エッサホイサと自転車を回していると、見えてきたのは、灯る2つの小田原提灯。

('A`)「マンバの湯…?」

書かれた文字は、万葉の湯。正しい読みは“マンヨウの湯”。
この旅の、救世主。

69名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 14:02:48 ID:N0VJszLU0

('A`)「かぁー!効く!」

香る檜の良い匂い。
傷んだ身体には染み入る泉。
腰には左手、右手にはコーヒー牛乳。
温まった身体を包むのは、柔らかいリクライニングシート。

('A`)「漫喫だったらこうはいかんかったな」

何よりも、昼夜逆転のおかげで低料金のまま就寝に至れたことが幸いした。
今は午後6時過ぎ。深夜の1時には、また出発しよう。
アラームをセットした携帯を胸ポケットに入れ、テレビ番組を少し眺めてから、私は深い眠りについた。

70名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 14:04:14 ID:N0VJszLU0

ちょっといいですか。
そう呼び止められたのは、小田原を発って1時間くらいしてからだった。
万葉の湯のおかげでダメージはだいぶ和らぎ、ストレッチも充分にした後、帰路についてしばらくの頃。
中年男性のお巡りさんは、帽子を上げながら近付いてきた。

良くある防犯登録の確認だ。
こんな時間に走らせているのだから捕まっても仕方無いな、と思いつつ素直に止まる。

バインダーに挟んだ紙に何かをスラスラと書きながら、トランシーバーで誰かと会話をしている。
そんな中おじさんは、応答を待つ間、どこへ行くのと、私に質問を飛ばす。

新宿と答えた時のおじさんの反応は今でも脳裏に焼き付いている。

('A`)「それでは!」

頑張ってねと手を振るお巡りさん。
見知らぬ人のエールというのは、こうも背中を押してくれるのか。
一期一会に感動しつつ、往路よりやや北寄りの道を縫って、復路へとつく。

71名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 14:04:58 ID:N0VJszLU0

(ヽ'A`)

明朝。
万葉の湯とエールの効果は既に切れていた。
神奈川県中腹辺り。
体力もそうだが、身体はもう限界であった。

右手首、背筋、尻、両腿、その他諸々、様々な筋肉が悲鳴を上げている。
少しでも、ほんの少しでも、それが上り坂であったら、もう自転車では登る事が出来なくなっていた。

(ヽ'A`)「朝マック食べてたら浮浪者に絡まれるし…ちくしょう」

上りの坂道の途中、カラカラと自転車を押す。いやしかし、この自転車も良く頑張ってくれた。

まあ、ここまで読んで頂いた方は、まさかこの自転車が、小型で、折り畳みの自転車であったなど、想像もつかないと思うが。
ママチャリの方がまだ全然マシであると友人に言わしめたこの自転車は、小柄ながらよく私を運んでくれた。
今は私が運んでいるけれど。

72名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 14:05:51 ID:LDoPJKVc0
お、来てるじゃん!

73名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 14:06:43 ID:N0VJszLU0

そんなわけで、復路は往路よりも2時間近くかかってのゴールイン。
総乗車時間はおよそ21時間。走行距離は、だいたい180kmくらいだろうか。
家へ到着した際にはもはや喜びは無く、死んだ様にベッドへと突っ伏した。

( A )「からだいてぇ…」

もう二度としない、そう誓ったこの自転車旅行。
まあでも、自分の足で旅行が出来るというのも、思い出深い事であるし、それだけ苦労があればやはり満足もした。

これから数日間、今度は筋肉痛と闘うことになり、やはり自転車旅行はこれで終わりにしようと思うのだが、好奇心のせいか旅行魂のせいか、後数回は自転車旅行をする未来の自分を、この時の私は知らない。

ちらちら灯りは見えるけど、向こうのお山はまだ遠い。
夢の中では、まだまだこれから、旅は始まったばかり。


4.新宿⇔小田原 自転車旅行 終

74名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 14:09:19 ID:LDoPJKVc0
乙!

75名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 14:13:36 ID:N0VJszLU0
以上、4話でした。

本当はこの自転車旅行、とある掲示板(2ちゃんではない)でやった安価旅行でした。
最初は長野県の上田…だったかな?が安価で当たりましたが、旅行の制限時間の関係で再安価。
2つ目の初島へ行く事に決まりました。

初島へは熱海からフェリーに乗る予定でしたが、時間も体力も辛すぎたので、已む無く小田原で折り返し。
道中掲示板住民が江ノ島に住んでいるってことで、デニーズで昼食して写真撮ったりもしました。
モロボシダンの店も別の住民に教えてもらって行ったわけです。

旅の様子をアップしながら、住民の反応を見ながらする旅は面白かったですが、うまく小説化出来なかったので、その部分を省いた内容となってます。

76名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 16:37:47 ID:lVTWMAv.0
いいなぁ

昔青春18切符で北海道から広島まで旅したの思い出す

77名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 18:15:45 ID:KG6X8nqo0

長距離のチャリ旅だったらお寺とかに泊めてもらうのもオススメ

78名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 18:56:21 ID:ktUYPXz20
テンポ良くて読みやすい

おつ!!

79名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 20:52:25 ID:7CU3t8bA0
俺も安価で千葉から鎌倉までいったなぁ
ママチャリだったけど、折り畳みなら心折れてただろうな

80名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 21:13:48 ID:DONbDtMM0


>>60
俺は京都だよ
今度チャリで高知行くつもりだからその下見に

81名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 22:19:54 ID:sPN/TXYM0
旅に行く時間がない。
主は学生なのかしら。

82名も無きAAのようです:2015/06/28(日) 23:16:11 ID:xOmWJ7HU0
>>76
みなさんも良い旅ライフをお送りのようで。
時間さえ取れれば、私も7日間フリーパスで北海道やら東北やら行きたい!

>>77
て、寺泊…!?想像もしませんでしたが、どんな手続きになるんですかね…?

>>78
ありがとうございます!本当に励みになります(´;ω;`)

>>79-80
ひゃー、どちらも長旅ですね…。
鎌倉はしらす丼が美味しゅうございました。路面電車も楽しかったのでその内その話も書きます!
四国へ続く橋って自転車もOKなんですか?
淡路島への橋は渡れなかったので、フェリー経由で自転車旅行したんですよ。

>>81
学生の時の話も多いですが、今でもなお旅してますよ!昨日も行ってきました!
1日だけでも時間が取れたら早朝から深夜まで外出しちゃう性分でして。
私の場合、移動そのものが旅なので、実は現地で過ごす時間はそれ程長くないんですよ。そのおかげでこれだけ多くの所へ行けたのかなと。

83名も無きAAのようです:2015/06/29(月) 03:31:36 ID:OrWhJo.Y0
>>82
折り畳みなら高速バス使えばいけると思うけど基本は無理なはず

京都からフェリーターミナルまで行ってジャンボフェリー乗って高松行って高知って感じ

84名も無きAAのようです:2015/06/29(月) 12:41:25 ID:qFDCw14s0
自転車旅羨ましいけど、自分がやったら1時間でバテる自信があるわ

85名も無きAAのようです:2015/06/29(月) 13:52:26 ID:5aObqRpY0
>>82
お寺はアポなしでいきなり泊めてくれって言うと泊めてもらえることもあるよ

住職がご飯ご馳走してくれたりその寺の話聞いたりできてなかなか楽しい

86名も無きAAのようです:2015/07/02(木) 01:04:39 ID:SwhDbFiU0
面白かったよん!

87名も無きAAのようです:2015/07/04(土) 19:25:52 ID:rjw50Rb60
一人旅?
旅と言えばヤマノススメ見て登山を考えてるけど、一人ってのもアリなのかね

88名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 09:50:00 ID:0UkPAFHM0
>>83
やっぱダメですか。
ああいう所こそ自転車で駆けてみたいものです。

>>84
やってしまえば後は行くのみなので、意外と続くものですよ!
オススメは変速あるママチャリです。自転車旅は長い事座るので、実は座りやすいママチャリなんかが尻の負担が少なく済みます。
間違っても折り畳みで行かないようにしましょう。

>>85
(;・∀・)ゆ、勇気が足りない…

>>86
ありがとん!

>>87
摩耶山やら再度山、六甲山辺りは登りましたが、夕方頃になるとベテランと思わしきおばちゃんが「イノシシ出るからもうやめときなぁ」「すぐ暗くなるよぉ」と頻りに呼び掛けてましたんで、そういう所に注意する必要はありそうです。
実際イノシシには良く遭遇しましたんで、登山については知る人のアドバイスを受けておいた方がよいですよ!


さて、これより5話目に突入します!

89名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 09:50:59 ID:0UkPAFHM0

この滝の様に駆け落ちる水流は、いや、それはもはや滝そのものであったが、やがて下流の川へと合流し、先の湖へと行き着くのだろう。

小さくも悠然と構える亀山ダムは、梅雨前の今もなお、多くの人々の水を湛えている。

何時に無く燃え盛る夕空は、堅固な衛兵を褒め讃える篝火に見えた。

ここは千葉。
房総半島の奥座敷。
山々に抱えられたるは、県下随一の大きさを誇る亀山湖。

上総亀山に停まる列車は、夕日に赤く照らされていた。

90名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 09:51:57 ID:0UkPAFHM0

5.久留里線

91名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 09:53:05 ID:0UkPAFHM0

('A`)「きさらづぅ〜…キャッツ!」

たった一人の号令は虚しく心に響く。
更には続いて腹にも響く。

('A`)「鳴くは猫より腹の虫…」

木更津に着いた後、乗り換え時間までまだ時間があったので、改札を出て地元のお店などを探すのだけれど、めぼしいお店はさっぱり見付からない。

('A`)「そりゃ、拘り捨てればチェーン店とかは幾つかあるけどさ…」

折角、湾の向こう側まで来たのだから。
ここでしか食べられない物を求めるのが、旅人の性である。

しかし。
東口から西口へと移り、目の前に建つAQUA木更津なるデパートへ入って行っても、待っていたのは閑古鳥の声。
さすがに西海岸まで出られれば、何かしらの収穫はあるのだろうけど、列車は待ってくれない。

枯れ気味の腹から空気が漏れる。

('A`)「行く先に飯処がありゃいいけど…」

92名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 09:53:47 ID:0UkPAFHM0

高楊枝とはお世辞にも言えないが、それでもローカル線の愉しさで、少しは空腹も紛れた。

久留里線。
内房線から千葉県中心部へと延びる非電化路線。
当初は小湊鉄道・いすみ鉄道と並行するように、外房線へと繋がる案もあった様だが、閑散路線の宿命哉、路線は上総亀山で途切れている。

遠くに見える村の屋根、田や畑はあっと言う間に過ぎ行くけれど、その風景が激変する事はなく。

('A`)「のどかよのぉ」

緑の海に浮かぶ列車、ガタンゴトンと波の音、軽快な船旅は、けれども小櫃で一旦停まる。

93名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 09:55:20 ID:0UkPAFHM0

小櫃。読みはおびつ。
久留里線に付いて回る様に延びる川の名前でもある。

車内放送曰く、乗客がホーム上で転倒したため救護活動を行っているとの事だった。

('A`)「…?」

違和感を覚えたのはそれから5分後。
未だ動き出さない久留里線であったが、異音発生とか信号トラブルならまだしも、転倒の救護にここまで時間が掛かるものだろうか。

わざわざホームに移動して見るほどの野次馬根性は無かったが、隣の車両の雰囲気から見るに、そんなに大きな事故でも無さそうだった。

また数分経ち、救急車のサイレンが遠くから聞こえて来た所で、ようやく、なるほどと納得した。

('A`)「ああ、久留里線は無人駅ばっかだったな、そういや」

動けない怪我人を誰もいないホームに放置するわけにも行くまい。
救急車に怪我人を受け渡したのだろう。近くに停まったサイレンの主は、その音をやや捻じ曲げながらまた去って行った。

94名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 09:56:37 ID:0UkPAFHM0

ようやく小櫃駅を発とうとする列車の中で、怪我人の安否を心配していた私であったが、もう一つ懸念事項が増える。

('A`)「…あれ?終電やばくね?」

さて、驚く事なかれ。
この久留里線、実は終点から木更津方面へ向かう便が日に10本しかない(土日・休日)。
最も長い間隔で、朝の8時の電車を逃せば、次は14時まで1本も走らない。

つまり、この10数分の遅延が、後々に響きかねないのだ。

(;'A`)「大丈夫だとは思うが、久留里駅で待ち合わせあるよな…?」

時計を見れば、既に久留里駅で終点に乗り換えるはずの時刻。
この便を乗りそこねてしまうと、それこそ終電で帰らざるを得なくなり、終点での観光の時間など残されなくなってしまう。

…などと焦燥していたが、これだけ間隔の開く路線だ。待ち合わせしないはずはなく。

('A`)「なんにせよ無事に済んで良かったわ」

旅は久留里駅から終点へと近付いて行く。

95名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 09:58:15 ID:0UkPAFHM0

駅に着くやいなや、おばあちゃんは平然と線路を乗り越えていく。
停車先数メートルの線路上では、若者がシャッターをパシャリ。
ああ、何か、田舎に来たのだなぁと、そんな事でふと思う。
踏切以外で線路を跨ぐなど久し振りだ。

上総亀山駅。読みは、かずさかめやま。ワンマン運転の終点駅。
駅に改札と呼べる物はなく、一応駅名が掲げられた小屋はあれど、通らずとも近くの道や家へは通じている。

('A`)「さて、少々足早に回るか」

次の便まで時間はあれど、遅延もあって予定より少し短くなっている。
そして何より。

('A`)「街灯が無いのが恐怖でしかない」

日は傾き、山際に差し掛かる頃。
土地勘の無い夜の田舎道なぞは、夜の山の次に恐ろしい物だ。

96名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 09:59:00 ID:0UkPAFHM0

アスファルト道をてこてこと歩く。地元の方と思しきおじさんに会釈をしつつ、数分歩いた先に見えたのが、ここ上総亀山の名所。

('A`)「亀山湖!」

歪に広がる真っ平らな湖は、周りの木々を美しく映し出している。
川のようにうねりながら形作られている湖は、しかし水の流れの影も見せない。
まるで氷の様に佇んでいた。

その中腹に掛かるは2本の橋。
今立つのは白地の手摺のある桁橋。向こう側には赤いアーチ式の橋が見える。

もちろん両方渡ろうと思い、大きくアルファベットのUを描くように周り込むと、大型車通行禁止の看板。
近づくとわかるが、この橋、名を川俣大橋というらしいが、かなり年季がいっているらしく、赤い柱は所々色褪せていた。

橋には緑の防護ネットが設置されていたが、おいおい、まさかアーチが落ちてくるんじゃあるまいな。

97名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 10:00:47 ID:0UkPAFHM0

('A`)「まあ特に事故もなく辿り着きましたがね」

川俣大橋を渡り、順路と思われる道筋に沿って歩いて行く。
途中亀山ダムを流し目で通り過ぎ(やはり高いのは怖い)、勇気と時間が足りず諦めた、道の外れにぽつんと、本当にぽつんと建つ居酒屋を通り過ぎ、先ほどから気になっていた場所へと足を進める。

それは、駅を出てからずっと、矢印の付いた看板で主張誘導してきた、とある物。

('A`)「こりゃあまた…なんつーか、これも風情と言っていいのか…?」

古びた建物の渡り廊下の下を潜るとそこには行ける。

“足湯入口”

窶れたアスファルトには消えかかった“プール”という赤文字、側には使われてるのかどうかさえわからない物置部屋と、無造作に並べられた木材。
そんな中、足湯の看板だけが異様に新しく飾られていた。

98名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 10:02:34 ID:0UkPAFHM0

さて、中も中であった。

('A`)「本当にここで合ってるんかいな…」

と、不安に思うのもしょうが無いと言える。
野ざらしにひかれた人工芝に、古びた白テーブルと2つのベンチ。
そこに、まるで生簀の様な風貌をしたそれは、見た目からして只の澱んだ池だった。

しかし、近くの壁には亀山温泉の文字。
これが足湯なのだろう。多分。

('A`)「疑って掛かってもしゃーない!入るか!」

靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、あれ、そういやタオルが無いがどうしようと思いつつも、後で考えようと割り切る。

いざ、秘境、亀山の足湯へ!

('A`)「………これは!」

足から伝わる感覚。
それは、私の身を震わせた。
そう。水面に触れただけでわかった。
この温泉は、なるほどどうして。

(゚A゚)「冷てーじゃねーか!」

なんとびっくり冷泉だった。

99名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 10:03:46 ID:0UkPAFHM0

そこからの帰り道は言うまでもない。
腹をすかせながらがっくりと肩を落とす哀れな人間が、ただ目を落として歩くだけであった。

今思えば、きっと稼働時間外だったのだろうと思考も働くが、その時の失念具合と言ったらなかった。

言ってみれば足を水に濡らして帰ってきただけなのだから。

(;A;)「ついてねぇ…コンビニすらないしよぅ…」

だが、上を向いて歩こう、と言う曲もある。
何だか色合いが変わってきたと思って空を見遣ると、そこに映るのは。

(;'A`)「うおっ…!」

夕焼。

それも、素晴らしいほど朱く。
熱が伝わってくる程、燃え盛っていた。

100名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 10:05:09 ID:0UkPAFHM0

列車に戻る頃、すっかり私の胸は満たされていた。
あれだけ克明な夕焼けを、これだけ空の広い場所で見れたのだから。

帰り際、湖に映る絶景を見下ろしてから、また私は久留里線へと揺られる。

…と、いつもならここで終わりへと向かうところだが、今回はもう1つ。

('A`)「胸は満ちたが腹がなぁ」

結局木更津から食わず仕舞いで、もはや空腹は限界だった。

('A`)「帰り1本遅らせて店探すかぁ」

上総亀山発の電車はかなりタイトな本数だが、久留里駅から先は大分それも緩和される。
という事で、ざっとネットを見回して、まだ営業時間内の店がある馬来田(まくた)駅で降りる事にした。

そして、それを後悔したのは、馬来田に着いてから数分経った後だった。

101名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 10:07:37 ID:0UkPAFHM0

あぁ、兄ちゃん、もうここ閉めたってよ。
店内には出来上がったおっちゃん4人がわいわいと話しており、その内の一人が私に気付き、声を掛けてくれた。

わかってた、わかってたさ。
暖簾が店内にあったからそんな予感はしていたんだ。
一縷の希望に賭けて一応店主に聞いてみたが、結果は変わらなかった。

('A`)

ピシャリと戸を閉め立ち荒む。

('A`)「ネットには…9時閉店って書いてあったんだ…」

現在8時を回った頃。
次の電車は1時間以上先。
そんな時間を、虫が集っていた駅前で待つ気など起きないので、店を探す旅に出た。

が。

暗い。人が居ない。ひたすら怖い道のりだった。

街灯にはあと何メートル歩けば付くのやら。
一寸先は闇をリアルに体験する日が来ようとは。
携帯のライトだけが頼りだった。

(;A;)「もうヤダ…ヤダよぅ…」

カエルの鳴き声があるだけまだ助かった。それ以外の音が殆ど聞こえないからだ。

店も見えない。そもそも光がない。既に元気もない。
もはやこれまで。早く駅に戻ろう。そして無事に帰るんだ。

心身共に参ってる時に見えた看板。
書いてある名前は、“キャラバン”。副題の様に付けられていたのは、“心のオアシス”。
まさに、その通りの名前だった。

102名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 10:08:41 ID:0UkPAFHM0

いわゆるスナックの様なお店だろうか。店外にはカラオケの機種のノボリも立ててあった。
こういう所には入った事が無かったので、相当迷った末、入る事にした。

いらっしゃい、カウンターでご飯中のおばちゃんから声を掛けられる。
カウンター内ではもう1人のおばちゃんがせっせとご飯を整えている。

ご一緒よね、そう言われて座敷席に案内されるが、いやいや、独りです、そう応える。
あら1人?ならカウンターね、と促されるままカウンター席へ腰掛ける。

その時の私は相当に挙動不審であっただろう。

何にする?と言われても、酒など飲めてもよくわからない。
何があるのかと聞き返し、取り敢えずそれなりに飲めそうな名前の“鏡月”を頼む。
割る?と言われても、はいお願いします。瓶じゃ無くてグラスでいい?と言われても、はいお願いします。

グラスが用意される頃には既に入った事を後悔していた。完全に余所者であった。
まあ、その通りなのだけれど。

救われたのは、カウンター席のおばちゃんから雑談が飛んできた時だ。

103名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 10:09:46 ID:0UkPAFHM0

J( 'ー`)し「にーさん、こちらの人?」

('A`)「ああ、いえ、余所者です」

J( 'ー`)し「あら、どこから?」

('A`)「今日は池袋から」

J( 'ー`)し「こんなとこまでよぉ来たね(笑)」

('A`)「亀山まで行こうかな〜とふらりと」

J( 'ー`)し「1人で?」

('A`)「可愛い女の子でもいれば良いんですけどね〜」

J( 'ー`)し「アッハッハ!にーさんかっこいいからいるでしょ〜」

('A`)「それがさっぱり(笑)」

川 ゚ -゚)ノ「あいよー、ししゃもと枝豆、そんで焼きそばねー!」

('A`)「ども!いただきます」

J( 'ー`)し「どぉぞ、頂いちゃって」

内心、凄く救われた。
ああ、ようやくと癒える時が訪れたのだなと思った。

104名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 10:11:00 ID:0UkPAFHM0

そこからは、色々な話をして、色々な事をした。

それから少しして外から帰ってきた店のおっちゃんは千葉生まれ、カウンターのおばちゃんは道産子、料理のおばちゃんは横浜出身だったかな。
ここら辺は人も少ないから稼ぎも少ないのよと苦笑いしながら憂んでいたけど、それでも楽しくやってるわと言っていた。

カウンター脇に座る仲の良さそうな老夫婦は常連さん。旦那さんの方はいつも歌を歌うんだけれど、今日はいいそうだ。
奥さんは奥から優しい笑顔で話しかけてきてくれて、とても和まされた。

座敷には2組の家族。私の背向かいに座るのは6人組。
お父さんは気前が良さそうな坊主頭の元気な方、中学生くらいの女の子もいたのを覚えている。

もう1組は5人組。
お母さんはあゆみさんというらしい。今日は誕生日という事で、カラオケに合わせて店にいた皆でハッピーバースデーを歌った。
小学生入るか入らないかくらいの女の子が、頻りにケーキを気にしていた。

105名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 10:14:16 ID:0UkPAFHM0

空腹にはたまらないししゃもと酒のコンビは、それはもう美味しかった。
塩気のある枝豆をついばみながら皆としゃべくり、よく炒められた焼きそばを食べ終わるころには、あっと言う間に1時間が過ぎていた。

去り際には、おばちゃんに歌をせがまれたので、宇宙戦艦ヤマトを一発披露して、場を沸かせた。
ああ、歌が得意でよかった。

後ろ髪引かれつつも、電車の時間になったので、寂しさを覚えながらも靴を履く。
店のおじさんには、今確変中だぞ、もったいないと。
おばちゃん両名には、またこっち来たら寄ってね、と言われた。
老夫婦の旦那さんからは、拍手をいただき、奥さんからは、素敵だったわぁ、と一声。

2組のファミリーに、最後お騒がせしました、と礼をした時には、坊主のお父さんから、にーちゃん、歌上手いねぇ、と。

店を出た時、外の暗さはもはや気にならなかった。

('A`)「こりゃあ、また来ないとな」

巡り合わせとは面白いもので、もし木更津でご飯を食べていたら、もし遅延が無ければ、もし足湯が冷たくなかったら、こんな経験は出来なかったのだろうと思う。

旅は道連れ世は情け。
悲しみはそして取って代わる。
幸せは、月のかげに。幸せは、星のかげに。

行き当たりばったりは、こういう所が面白い。
ほろ酔い気分で列車に乗って、今日も私はくるりと帰る。


5.久留里線 終

106名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 10:19:57 ID:0UkPAFHM0
5話目は以上になります。

地元の方と会話出来たのは本当に楽しかったです。
私は人見知りなので、なかなかこちらから声を掛けられませんが、それでもこの時は一人旅であることを忘れるくらい人と話せましたね。

怖い思いもしましたが、それも良い思い出です。

107名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 11:11:30 ID:.VqPkjZk0
乙!無茶苦茶良かった
楽しい様子がよく伝わった
旅はこういうのがあるからやめられないよな

108名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 11:32:57 ID:fkZQUo2Q0
乙!
いつもワクワクさせてもらってる

109名も無きAAのようです:2015/07/05(日) 12:52:42 ID:LGl7vpBI0
お二方とも、ありがとうです!ヾ(・∀・)ノシ

さてさて、先ほどふと飯テロ準備室スレを覗いてきたのですが、現行スレも番外編ならオーケーとありましたので、不束かながら参加しようと思います!

というのも、ある事情で書く事を断念していた話があったのですが、ご飯のみに焦点を当てることでそれを回避出来そうでしたので、このお祭りを有効活用して書いてみようと思うのです。
内容は…書いてからのお楽しみという事で。

110名も無きAAのようです:2015/07/06(月) 00:06:04 ID:nY6Y/gF20
スナックつーか、なんもない地元のレストラン的位置づけなのかねー

111名も無きAAのようです:2015/07/06(月) 17:45:22 ID:6Mumgjw60

いいねえ
読んで情景を想像するのが楽しい
んで行きたくなってくる

112名も無きAAのようです:2015/07/07(火) 03:36:51 ID:MXCnDGMQ0
締め方が詩的で大変味がある
面白かった

113名も無きAAのようです:2015/07/24(金) 12:57:14 ID:om7z0t0o0
あっこれ実話か

114名も無きAAのようです:2015/07/24(金) 17:29:03 ID:kCMolwBc0
おばちゃんとかやたら褒めてくるよね

後30歳若ければ…

115名も無きAAのようです:2015/11/24(火) 01:33:47 ID:nFp5bhLM0
続き舞ってる

116名も無きAAのようです:2016/04/29(金) 06:23:13 ID:PFBh.YeE0
待ってる


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