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滞在者達は嫌われ者の魔王様に挑むようです

1名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 02:47:29 ID:h7NYlTiUO
 ヴィープ国が栄えたのは、つい最近のことだった。


 人口約50万人程度の小さな島国は、特筆するような歴史も、文化も、郷土品もない小規模な存在。


 強いていえば、その平凡さ故にまだ見ぬ財宝を狙うトレジャーハンターや、終の住処を探す世捨て人達が集まる──それでも、大した人数ではないが──場末の居所。


 そう、世界からは認知されていた。

2名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 02:48:30 ID:h7NYlTiUO
( ^ω^)「ついに、この時がきたお!」


 そんな、赴く用事を考えることすら難しい大陸に、あろうことか大国のラウンジやシベリア等から人々が訪れ、滞在することになろうとは誰も思わなかった。


 穏やかな気候の中で、白い半そでのシャツと、ターコイズ色の八分丈のカーディガンを着流しのように羽織る男、ブーン・ホライゾンは、港についた船から降り、潮風に吹かれながらカモメの鳴き声よりも大きく独り言を発した。白い目は気にしない。


( ^ω^)「のどかで良い所だお……きっと、ご飯もおいしいに違いないお!」

3名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 02:49:15 ID:h7NYlTiUO
 リネンの素材がそよぐ風を心地よく身に沁みさせ、クロップドのベージュパンツをルーズに履く彼は、石畳の道路を闊歩しながら、たくさんの人種、種族が行き交う大通りを進む。


 道中の建物はどれもモダンな造り。時折見える、食べ物を模した看板が設置されたそれらから漂う、空腹を刺激する匂いが彼の胃袋を鳴らした。


 そうしてたどり着いた先は、ヴィープ国の中で最も栄えたこの町、プラスの中で、最も大きな酒場『シタラバー』


 店外からでも、入り口の往来を見るだけでその店が賑わっていることを実感するが、入ってみれば自身の想像を超えるほどの喧騒が、ブーンを待ち受けていた。

4名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 02:50:01 ID:h7NYlTiUO
(; ^ω^)「お、おー……僕の国の王都でもここまで繁盛している店はないお……」


 取ってつけたようなスイングドア──西部劇を髣髴とさせる──を開けて、喜怒哀楽のBGMを受けた彼は、その場で周囲を見渡す。


 木材で出来た内装は、壁から机、椅子に至るまで徹底されていて、老朽化しがちな素材にも関わらず、自然な色合いと規則的ではない模様が、この店の丁寧さを窺わせる。


 高い天井にはシーリングファンが等間隔に設置されており、ざっと数えただけでテーブル席は50を上回るほどの大きなイートインは、主にカウンターで忙しなく動き回る女性の手によって成り立っていた。

5名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 02:50:46 ID:h7NYlTiUO
(#゚;;-゚)「バドワイザー5つ、A1テーブル! モスコミュール2つ、B3テーブル! バカ、モスコはグラスに入れるな! マグカップだ!!」


 青いボーダーはノースリーブ。上に薄いカシュクールのブラウスをラフに羽織ったその人こそ、この酒場の店主、ディーであった。


 顔は傷だらけで、見ているだけで痛みを感じるほどではあるが、当の本人は気にも留めず、荒れた口元を動かしながら指示を飛ばしている。


( ^ω^)「あれが、ディー……この町の、いや国を栄えさせた発端と対峙した唯一の生き残りかお」

6名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 02:51:35 ID:h7NYlTiUO
 未だ、入り口から動くことの出来ないブーンは、視力の良さを武器に、数十メートル先の壁際を見た。


 夜はバーにでもなるのだろう、酒棚にはバーボン、スコッチからリキュールや各国の地酒と思わしき瓶が次々と人の手に渡り、運ばれていく。


 両手はおろか両肩や頭上すら使って料理を運ぶ給士、食べ過ぎ、酔っ払い、殴りあう千差万別のお客様。


 意を決し、それらを器用に避けて──出しゃばりな腹が邪魔をした──足を運んだが、また止まった。カウンター席は満席なのだ。


( ^ω^)(常連ぽいお……さすがに店主の話を聞きたいヤツは多いおね)

7名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 02:52:26 ID:h7NYlTiUO
 先ほどまではどちらかというと観光客に近い存在が彼の両目には映っていた。しかし、カウンター席に座っている十人ほどの男女は違う。明らかな目的を持った者達ということを、肌で感じ取った。


 さらに、前後ではなく、左右を見ても、自身以外がこの席を狙っている様子は見受けられない。このことから、席に座る人物達はいわば常連客。退かすことは困難という結論に至った。


( ^ω^)「あの、すみませんお」


 至ったというのに。


(,,゚Д゚)「なんだ」


( ^ω^)「邪魔だから退いてくれお」

8名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 02:54:40 ID:h7NYlTiUO
 決して大きな声ではなく、言葉以外の行動は何もしていない。なのに、たったそれだけで店のジュークボックスは壊れたかのように、水を打った静けさが店内を包んだ。


(,,゚Д゚)「……なんだと」


( ^ω^)σ「僕はそこの店主と話したいんだお。そこに居ると邪魔なんだお」


 ブーンが声をかけたのは、首から下が漆黒の鎧に覆われ、ともすれば二人分の席になりえるほどの巨体の背中に真っ赤な大剣を携えている剣士。おおよそ、係わり合いになりたくはないであろうその男は、そこにはなにも装備をしていないはずなのに、仰々しい武具よりも威圧される流し目で彼を威嚇する。一触即発。

9名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 02:56:32 ID:h7NYlTiUO
 その空気に一石を投じたのは他ならぬディー。肩幅まで開いた両腕の手のひらをテーブルに乗せ、前傾した状態でブーンに向けて凄んだ。傷ついた頬の傷と、半分までしか開けられていないにも関わらず射抜く目が凄惨な過去を覗かせる。


(#゚;;-゚)「あんた、余所者だろう」


( ^ω^)「そうだお。ラウンジから来たお」


(#゚;;-゚)「そりゃ遠いところからご苦労なことだな。で、私と話がしたいって?」


( ^ω^)「うんお」


(#゚;;-゚)「ここは酒場。あんたの言う通り、席に座ってオーダーしな。話はそれからさ」


( ´ω`)「いやいや、満席じゃないかお……」

10名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 02:57:26 ID:h7NYlTiUO
 それ以上は何も答えようとしなかった。減る気配のない伝票の山に目を通し、彼女が先ほどと同じように注文を捌くための大声を上げることが、いつもの喧騒に戻る合図だったようで、まるで何事もなかったかのように周囲はざわつき始める。


 ブーンが話しかけた客も、とるに足りないとばかりに一瞥して背中を向けた。


( ^ω^)(……ダメだお、こんなところで武器を出しちゃ大惨事だお……)


 握り締めた拳を解く。高まった苛立ちを解消するようにブーンは大きく深呼吸をしてから、数人が座っているテーブル席に腰掛け、給士を呼んだ。

11名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 03:00:01 ID:h7NYlTiUO
(#゚;;-゚)(なんだい、諦めたのか)


 ディーは目まぐるしく変わっていく伝票と、両手のフライパン、片足に乗せたビンを曲芸のように処理しながら、先ほどの男を見やる。座った彼は手を上げて、他の客と変わらず給士に注文をしていた。


 このように、彼女と話をするために訪れる各国の旅行者は多い。港が近く、何よりも人々の交流が盛んなこの施設の主から得られる情報は多いということは自明の理。しかし、その度に対応をしていては他の業務が滞ってしまう。


 シタラバーの店主であるディーとの話を受けるためには、何か特別な、印象に残ることをしなければならない。だが、その恰幅の良さとは裏腹に丸腰で、にやけた顔からは知性の欠片も感じられないその男に、周囲を黙らせるようなパフォーマンスが出来るとも誰にも思えなかった。


 カウンター席の客達も、同様にブーンの言動を見聞きしていたが、存外おかしなところはなく、肩透かしを食らう。

12名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 03:01:13 ID:h7NYlTiUO
(*゚ー゚)「ディ、ディーさん!!」


 唯一、目を見開き、慌てた様子の給士が、伝票を持って店主の前に走ってきた。心なしか、体が震えている。


(#゚;;-゚)「なに?」


(;*゚ー゚)「た、助けてください……」


 ディーはすぐに視線を先ほどの男に移した。じっと、こちらの様子を見続けているその姿に変わりはなく、相も変わらずのにやけ顔。読めない。だとすると普段から荒事に揉まれ、慣れているはずのスタッフが怯えるところから察するに、暴行を受けた可能性が高かった。

13名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 03:02:12 ID:h7NYlTiUO
 合点が行けば行動は早い。常に動き続けていた彼女は調理道具を定位置に戻し、拳を鳴らしながら男へ向かっていこうとする。


(#゚;;-゚)「あの野郎……生きて帰られると思うな──」


(;*゚ー゚)⊃□「違うんです!こ、これ……」


 意気揚々とカウンターから出たディーを止めたのは、給士の泣きそうな声でもなければ、他の客が勇気を持って言った仲裁の言葉でもない。


 手渡された伝票に記される一文は、通常のそれとは違う。品名はおろか、枠線すら無視して書きなぐられたそれが、彼女の足を止めた。

14名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 03:02:49 ID:h7NYlTiUO



| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| この店のメニューを  |
| 全部もってこい    |
| 領収書はラウンジ王国 |
| 但し書きは食事代で  |
|            |
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

15名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 03:04:03 ID:h7NYlTiUO
〜〜〜


(,,゚Д゚)「なんで俺まで……」


(#゚;;-゚)「うるさいよ、ギコ!とっとと洗う!」


 冷水に手を打たれ、皿を洗うのは、先ほど余所者に声をかけられ、他愛もないと判断した男だった。


 ギコと呼ばれた彼は鎧を脱ぎ、下に着ていた真っ黒な長袖のテレコTシャツを捲くり上げ、筋骨隆々なそれを凄まじい勢いで溜まっていく敵に向けている。後悔は先に立たない。

16名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 03:05:30 ID:h7NYlTiUO
(* ^ω^)「ハム、ハフハフ!うまいお!」


 そうして、給士が持っていくには少し距離があることを理由に、空いた目的の席へと移ったブーンは、あまりに激しい食べ方をしているからか、既に両隣はおろか誰も座っていないことに気づかなかった。


 ようやく彼が食事を止めた時には、日も落ち、客足も落ち着いた夜分。店の最低限の蓄えを残すため、ディーがストップをかけたことにより、途中から背後に出来たギャラリー達は解散していった。


 注文通りフードはもちろんのことドリンクも全て平らげた男は爪楊枝を口に咥え、近寄ってきた給士から聞いた代金を、ポケットから取り出した小切手に記す。

17名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 03:06:27 ID:h7NYlTiUO
( ^ω^)人「ごちそうさまだお」


 この町ならば一週間は寝食に困らないであろう、手渡された数字を見ても、決して顔を綻ばせないディーは怪訝な顔をして尋ねた。


(#゚;;-゚)「あんた……何者だい」


 その眼光に射抜かれながらも、素知らぬ風に口元を手のひらで覆いながら彼は答える。


( ^ω^)「ブーン・ホライゾン。元コックだお。色んな人にたくさんのご飯を提供するお仕事をしていたお」


(#゚;;-゚)「ラウンジからこんなところに働き口を探しにきたんじゃないだろう?大方、『滞在者』だとは思うが」


( ^ω^)「滞在者?」

18名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 03:07:42 ID:h7NYlTiUO
 聞きなれていないほどの言葉ではなく、しかしその口調から特別な意味があるのではないかと感じたブーンは、爪楊枝をまだ下げられていない食器に置いて続きを促した。ちょうど良いタイミングで皿が下げられたことを確認した彼女は口を開く。


(#゚;;-゚)「ブーン。あんたみたいに大国からここに来るヤツの目的は一緒。この町に滞在し、願いを叶えるために討つ。それが滞在者さ」


( ^ω^)「なるほど……なら確かに僕は滞在者だお。母国からここに来れば情報が得られると聞いてきたけども、無駄足にならずに済みそうだお」


 小金持ち程度では所持することの出来ないラウンジ国の小切手、それも言い値を書くことのできる存在は大国の中でも限られている。胸ポケットから取り出した小さな青いバッジを見せ、戻した彼は、言葉で補足した。

19名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 03:09:11 ID:h7NYlTiUO
( ^ω^)「改めて名乗るお。ラウンジ国から来た、この国の魔王を倒すための『勇者』それが今の僕だお」


(#゚;;-゚)「勇者……! そうか、ついに勇者が……」


 各国でその身分を自称する者は少なくない。しかし、国が正式に認めた場合に共通として発行するその青いバッジと、風の噂で聞いた食い意地の張る豪傑の存在。二つの理由に、彼女は名乗った。


(#^;;-^)「私はディー、このシタラバーのマスターさ」

20名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 03:10:09 ID:h7NYlTiUO
 先刻の懸念は払拭される。北の大地では猛吹雪を起こす氷龍を倒し、南の火山では噴火する原因の溶岩魔人を封印したという、生きる伝説。見た目では到底判断できないであろう、この滞在者に対し、期待したディーは頬を緩め──


( ^ω^)「オーケー、ディー。それじゃ早速……」


(* ^ω^)「小腹が空いたから何か作ってくれお」


 なによりも、聞きしに勝る彼の胃袋に笑った。



滞在者達は嫌われ者の魔王様に挑むようです


第一話 ゆうしゃ

21名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 06:57:26 ID:ZcygcDCc0
溢れるロマンを感じる…!
支援

22名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 10:22:15 ID:1TOGzoWA0
面白そうだな次も期待

23名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 12:44:58 ID:RpZNEdNY0
経費で飲み食いする勇者、新しい!

24名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 18:00:52 ID:1cLgXU6g0
今日は勇者デーだなおつ

25名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 18:09:51 ID:QMjjkxEA0
島なのか大陸なのか

26名も無きAAのようです:2014/10/14(火) 19:10:16 ID:RBjja.R.0
はらへった

27名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:06:55 ID:Y4hXmXQoO
〜〜〜


 王室は華やかだった。絢爛な装飾も程ほどに、赤い絨毯が入り口から王座に向かって敷かれており、全体を装飾する薄めの金色が、壁に備えられている大きな窓から差し込む日光と、見事に調和している。


 後光を受け、座っていた椅子から立ち上がった人物に対し頭を垂れているのは、決して眩しいからではない。


/ ,' 3「よくぞ参った、ブーン・ホライゾン」


( ‐ω‐)「恐悦至極に存じます、アラマキ・スカルチノフ国王」

28名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:08:08 ID:Y4hXmXQoO
 エンジ色のガウンを優雅に纏い、歳を感じさせない振る舞いで膝をついている男を労う老人。ラウンジ大国を取り仕切る国王、アラマキ・スカルチノフだった。


 王を前に白のシェフコートとサロンを正しながら立ち上がるその様子は、例えるなら昼食についての注文をする雇用主と、それに応える使用人。


 しかし、そういった平時ならば、王の両隣に必ず居るはずの近衛兵士が見えないことから、やはり今回の謁見は違うのだとブーンは確信した。


/ ,' 3「既に話は聞いているな」


( ^ω^)「はい。しかし、本当に私のような一調理人がこのような大役を仰せつかってよろしいのでしょうか」


/ ,' 3「貴公でなければできん。氷龍の持つ氷の翼、溶岩魔人の持つ灼熱の鱗……その二つを手に入れた貴公でなければな」

29名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:11:24 ID:Y4hXmXQoO
 北の大地と呼ばれたシベリアに巣くうは氷龍。触るもの全てを凍らせるという翼は、生半可な熱では溶けない氷の刃。


 一般的にこれ以上、温度が下がることのない絶対零度を髣髴させるそれは、数年に一度、空を泳ぎ、嵐のように飛散する猛吹雪へと姿を変える。


 降り注ぐ美しい銀色は、凄まじい速度と物量を兼ね備え、大地を、街を蹂躙していく。凄惨な情景に民衆は怯え、疲弊し、凍らされた人々を救うべく頭を捻る識者達を困惑させていた。

30名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:13:35 ID:Y4hXmXQoO
 南の大地と呼ばれたミカーオに巣くうは溶岩魔人。


 観光名所だった火山に突如として現れた、マグマを鱗にし、灼熱を操る魔界の住人は、自身の存在を示すかのように唸り、物見遊山に来た何も知らない人々へ、ここは自分の場所──観光名所ではなく危険区域──だと主張する。


 国にとって、大きな財源を奪われたミカーオの王は、調査隊を派遣するも、数刻して噴火と共に天から戻ってきた溶け落ちる亡骸に慄き、誰も立ち入らせないよう、それを放棄した。

31名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:15:00 ID:Y4hXmXQoO
 そんな各国の一大事を救った男が、にやけた表情で食事を振る舞い、また自身も底なしの胃袋を持つ男、ブーン・ホライゾンである。


 二つの脅威を退けたという噂は、寝耳に入った水が手にもかかって粟を掴めるような、ひどく突拍子もないものだった。


 ラウンジ国の王、アラマキは早急にその男を呼び出し、また呼び出された彼は、答える。


( ^ω^)「恐れ多くも、それは新メニューのために……」


/ ,' 3「新メニュー?」

32名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:15:21 ID:EkO5ATSU0
セガールな勇者だなw

33名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:17:27 ID:Y4hXmXQoO
 慇懃な態度を取るブーンは、国王の静かな賞賛に対し謙遜する。その偉業と不釣合いな言葉に、アラマキは興味を持って続きを促した。


( ‐ω‐)「氷の翼は、当店の冷蔵庫では管理しかねる食材を保管するため、灼熱の鱗はそれを解凍するため」


( ^ω^)「必要だから、取りにいっただけですお」


/;,' 3「なんと……!」


 自身の武勇伝を、あくまで彼にとっての事実で淡々と回答する。愕然とする老人。


 それがブーンにとっては本当に評価してほしい内容だったようで、慣れない敬語の語尾にはいつもの調子が出ていた。アラマキは指摘せず、額に手をやる。

34名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:18:41 ID:Y4hXmXQoO
/;, 3「やはり……恐ろしい男だな……」


( ^ω^)「仕事ですから。といっても、しばらくは店を開けることになりますがね」


 頷いた老王はゆったりと、しかし、しっかりとした歩みで荒唐無稽な男の前に立つ。懐から取り出した青いバッジは、この国で最も名誉な勲章であり、資格でもあった。



/ ,' 3「ブーン・ホライゾン。貴公に勇者としてヴィープ国の魔王を討ち取ることを命ずる」

35名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:20:20 ID:Y4hXmXQoO
〜〜〜


 こうして調理人であった男は、昨今で取り沙汰される魔王を討ち取るべく、情報を得るため来航。シタラバーの店主、ディーから話を聞いているのだが──


(* ^ω^)「うまいお!」


(;#゚;;-゚)「どんだけ食うんだい、あんた……」


 給士はもちろんのこと、普段必要以上に表情を崩さない店主ですら、カウンターへと積まれたパスタプレートに驚きを隠せなかった。


 成人男性の何倍、ともすれば何十倍ものカロリーを摂取したにも関わらず、それでいて小太りな男は、平気な様子で賄いのパスタを五皿ほど平らげ、まるで元シェフとは思えない稚拙な感想を述べていた。

36名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:24:50 ID:Y4hXmXQoO
( ^ω^)「いやぁ、さすがはこんだけの店を回しているだけはあるおね!」


 傍らで見ていた給士――ブーンから注文を受けた女性――は、もしかしたら突然、嘔吐でもするのではないかと不毛な考えを抱いた。


 そして、怪訝な面持ちで、洗う必要などないほど綺麗な皿を流し場へと運ぶ彼女に対し、勢いの良い水の音と共に、野太く、気だるい声を漏らす剣士の声は、会話している二人には聞こえない。


(#゚;;-゚)「賄いで悪いね。ま、あんた食いすぎだから勘弁してよ」


( ^ω^)「むしろ賄いが食べられることに感動だお! おいしかったお!」


(#゚;;ー゚)「そんなにうまいかったかい?」


( ^ω^)「そりゃそうだお。賄いは料理人が作る、ある意味最も創意工夫されている料理だお」


(#゚;;ー゚)「褒めすぎだよ」

37名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:26:36 ID:Y4hXmXQoO
 整えたところですぐに乱れるセミロングの髪を遠慮がちに触りながら、ディーは目線をそらす。普段から多数の海千山千を相手にしている彼女からすれば、なんのことはない言葉も、彼が言えば違った。


( ^ω^)「よく言うお。このカルボナーラだって、パンプキンを使ってるお」


 黄色一面に絡み合う平打ち麺は、普通のパスタと比べ、広い面積がソースを十二分に吸収し、羊乳のチーズが濃厚な味わいを楽しませてくれる。


 しかし、通常ならそこに使用することでコクが増す卵と、それが固まることを防ぐため用いることの多い生クリームを入れるのだが、彼女は二つとも使わなかった。


 他のレシピに使うための貴重な材料として、重宝するものを賄いには入れないのだ。

38名も無きAAのようです:2014/10/15(水) 12:28:01 ID:Y4hXmXQoO
 そこで、余っていたかぼちゃをマッシュし、少量だがソースに加えることによって、独特のコクと、ほのかな甘みを代替としたディーの賄いを、ブーンは諸手を挙げて絶賛していた。


( ^ω^)「見る、香る、味わう、そして、言葉にする……五感フル動員する料理は楽しいお!」


 大げさな振る舞いに、少したじろいだディーだったが、苦笑いしながらもその言動に照れながら賛辞を送る。


(#゚;;-゚)「なるほどね、さすがは大国の元料理人ってわけか。たいしたもんだ」


( ^ω^)「褒めすぎだお」


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