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+】(メ ´_ゞ`) Channelers

1名も無きAAのようです:2014/08/13(水) 22:45:14 ID:aqE7LG6E0
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 【 Channelers (ちゃねらーず) 】


 オリジナル ・ 長編 ・ ブーン系小説
 超能力 ・ 現代厨二もの ・ TS要素あり
 オリジナル分90% (残り一割:AA及び2ちゃんねる、ニュー速VIPネタetc.を含む)

 まとめサイト
 http://boonsoldier.web.fc2.com/channel.htm  ブーン芸VIP様
 http://localboon.web.fc2.com/100/top.html  内藤エスカルゴ様(21話〜)
 http://kurukurucool.blog85.fc2.com/blog-entry-497.html  くるくる川 ゚ -゚)様 (1〜20話)
 http://boonfestival.web.fc2.com/channelers/list.html フェスティバロス様 (1〜10話)

 前スレ
 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1344858830/
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50名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:23:00 ID:D9mWpQHU0
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/ ゚、。 / 「はんせい、はんせい」


 言いながら、スーツのポケットに手を差し入れる。
 まさか、と息を飲んだ直後には、俺たちにとっての絶望がヤツの両手に握られていた。


(;'A`) (も、もう1セット!?)

/ ゚、。 / 「右手に “ 月見酒 ” 左手に “ 花見酒 ” 」


 ダイオードは両手を広げ、その先に2枚ずつ札を示す。
 サイコキネシスのダメージすら感じさせない。


(; ´_ゝ`) 「ぐっ……!」

/ ゚、。 / 「かわせる?」


 手首のスナップと、わずかな肘の動きだけで。
 4枚の紙片は同時にベクトルを与えられた。


(l|l'A`) 「!」
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51名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:25:29 ID:D9mWpQHU0
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 マズい。
 兄者のサイコキネシスはその性質からして、
 四方から飛来する札をいっぺんに叩き落とすのは難しい。


(; ´_ゝ`) 「よけろっ!」


 それぞれに超常現象を携えた、悪夢の長方形。

 先ほどとは挙動が違っていた。
 ゆるい弧を何度も描く不可思議な軌道で、
 しかし確実に俺たちのほうへ迫りくる。


(;'A`) 「ひぃ!?」

(; ´_ゝ`) 「わぁお!」


 着弾。
 点火。
 “ 花見酒 ” ──右手方向の床から、炎の渦が巻き起こった。

 “ 菊に杯 ” と関連付け(リレイト)されたパイロキネシスは、
 広範囲に渦巻く “ 現象 ” と化し、花火のように派手な炎を撒き散らす。

 咄嗟に左へ避ける。
 倒れこみながら、どうにか炎から逃れた。
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52名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:27:30 ID:D9mWpQHU0
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 顔をあげると、壁際のスチールラックに体を預ける兄者の姿があった。
 勢いざま肩から突っ込んだらしく、苦悶の表情を浮かべている。


(;゚A゚) 「!」


 その頭上。
 落葉さながら、舞い降る一枚の札。

 スチールラック上部。
 着弾している。
 赤、白、深緑。  一目でわかるその絵柄。

 月は “ 電撃(エレキネシス) ” 。


(;'A`) 「マズいッ! そこから離れろ!」

(; ´_ゝ`) 「!?」
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53名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:29:40 ID:D9mWpQHU0
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 あっと言う間の出来事だった。
 ラックの支柱を起点として、青い火花が螺旋状に拡散した。
.
 飛び退ろうにも、間に合わず。
 兄者の二の腕を火花がかすめる。


l||(l|l ゚_ゞ゚)||l 「あがっ!?」


 瞬間、青い光の糸が、彼の全身をいびつに編み上げた。


 〜 〜 〜
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54名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:32:29 ID:D9mWpQHU0
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【 目撃者サイド: VIP市郊外 ・ 沿道 】


 すれ違う対向車の前照灯が、光の筋となって流れてゆく。
 暗い窓の外を一瞥し、男は大きなため息をついた。


「Ohニィサン。 私コノ道、タマニシカ通ラナイ。 アナタらっきーネ」


 彼の隣。 カタコトで話すドライバーが、黄色い歯を見せた。
 ドライバーは国籍不詳だった。 彫りが深く、もじゃもじゃのひげと鬢とが繋がっている。
 フルビアードと呼ばれるスタイルだ。 頭には白いターバンを巻いていた。


「ナンダカ疲レタ顔シテルネ。 チョコ、食ウカ?」


 男は返事の代わりに愛想笑いで応え、軽く頭を下げた。
 ああ、ひどい目に遭った。
 さっきまでの出来事を思い返し、もう一度ため息を吐く。


「遠慮イラナイヨ? ホラ、ホラ」


 この日の夕方、彼は婚約者──となるべきだった相手と別れた。
 最高の夜になるはずだった。 なのに。
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55名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:34:57 ID:D9mWpQHU0
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 いたずらで、高校生にエンゲージリングを奪われた。
 そこから全ての歯車が狂ったのだ。

 取り返したエンゲージリングはカラスにさらわれた。
 カラスを追ううちに階段から落ち、恋人に踏まれ、
 通りすがりの柔道部員のランニングに巻き込まれた。

 起き上がる際、Jの壁に悩んでいるような顔の女の胸に飛び込んだことで、
 痴漢の濡れ衣をかけられ、警察に追われ、側溝に足を取られ転倒。

 走るうちに財布を落とし、ぎっくり腰になり、自動販売機の角に足の小指をぶつけ、
 三輪車に跳ねられ、頭上にタライが降り、よろけて蜂の巣を蹴飛ばし、
 全身刺されて半狂乱のまま肥溜めに落ちた。


「特別製ヨ。 元気出ルチョコレートヨ」


 その後、半裸の状態でとぼとぼ歩いていたところ、
 目の前にバンが停まった。

 ダメ元で帰りの方向を告げると、
 運転席の彼が満面の笑みで「OK」のジェスチャーを返してくれたので、
 ホイホイついて……もとい、拾われてきたというわけだ。
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56名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:37:20 ID:D9mWpQHU0
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「オイシイヨ、ホラ、アゲアゲヨ」


 ドライバーはそう言ってニカッと笑う。
 屈託ない、今にもカレーを振る舞ってくれそうな笑顔だ。

 むげに断るのもどうかと思い、
 男はドライバーの手から、菓子をひとかけら受け取る。

 そうして三度目のため息を漏らした直後のことだった。
 銀紙を剥がし、中の固形物をかじろうとした瞬間、
 男はそのポーズのまま固まった。


「オ兄サン男前ネ。 トコロデココ、暑クナイカ?」


 右手から、ころりとチョコが落ちた。
 思わず二度見する。


「脱グカ?」


 時折こちらにちらちら視線を送る、ドライバーの男。
 心なし上気しているようにも見える、眉毛の繋がった、濃い顔。
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57名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:39:37 ID:D9mWpQHU0
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 問題は彼ではなく、その向こう側にあった。
 リアシートのガラスを通して、一台のバイクが並走しているのがわかった。


「ダイジョブ、ダイジョブヨ。 怖クナイヨ」


 警察ではない。
 バイパスへ続く、片側二車線の沿岸道路。
 二つの車線のど真ん中、車の間を縫って走り来るのは、ごく一般的な中型バイクだ。

 だが、理解できない。
 奇妙な光景だった。


「トコロデ兄サン、肌キレイネ」


 バイクを操る、コテコテのライダースーツ ・ レディは、ハーフヘルメットを被っている。
 後ろのシートにいる、女子高生らしき制服姿の女の子が、フルフェイスメット。

 通常は逆じゃないだろうか。
 が、そんなことは瑣末な疑問にすぎない。

 問題はなぜ、フルフェイスの女子高生の背に、
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58名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:41:55 ID:D9mWpQHU0
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        /, .
     _,,,...//〃ー,_/(.      /
  ,,イ';;^;;;;;;;:::::""""'''''''' ::"〃,,__∠_/
/;;::◎'''::; );_____         (
≧_ノ  __ノ))三=    _..、'、"^^^\ヾ
  ~''''ー< ___、-~\(
      \(


 マグロがいるのか、だ。

 ひっく、妙な音が喉から漏れた。 息をするのを忘れていたらしい。
 バイクはとうとう、運転席の真横に迫った。

 後部シートにちょこんと座る少女は、片手を女性ライダーの腰に回し、
 逆側の肩に、巨大なマグロを担いでいる。
 目を丸くする男の視線と、もともと丸いマグロのそれが、重なった。

 『 What!? 』

 ようやく気づいたのだろう、ドライバーが鋭い声をあげた。
 何故英語なのだろう。
 彼らの疑問に答えるかのように、


川 ゚ -゚) 「ばっかもおおぉぉおん、そいつがルパンだぁあぁあ」


 突然、黒髪の女ライダーが叫んだ。
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59名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:44:07 ID:D9mWpQHU0
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(;*゚−゚) 「な、なんですか!?」

川 ゚ -゚) 「言ってみたかったんだ」

(;*゚ー゚) 「そう、ですかっ」


 会話らしき数回のやり取りのあと、バイクは急加速する。
 二人と一匹の姿は、みるみる小さくなっていった。


『 Oh. 』


 あんぐり口を開けたままの男の横で、
 ターバン姿のドライバーが、つぶやいた。


『 イッツ、イッツ、ソウ…… 』



『 ジャパニーズ ・ マグロ ・ ガール 』


 〜 〜 〜
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60名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:46:19 ID:D9mWpQHU0
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【 タムラサイド:  VIP市ネタスレ町 ・ バイパス入り口付近 】


     て
爪l|l 〜) そ 「なんじゃあぁぁあありゃあ!?」
 

 鈴木タムラが、今日のMVPとも呼ぶべき驚愕の叫びを喉から絞り出した。
 その途端、彼の視界から、相手の姿は消えていた。

 ライダースーツに身を包んだ漆黒の美女。
 彼女の後ろに立つ、フルフェイスの女子高生。
 そして、マグロ。

 先ほどまでサイドミラーに映っていた物体……、
 二人と一匹を乗せたバイクは、猛スピードでトラックに接近し、
 タムラのすぐ後方へ迫っていた。


「曲がるぞ!」


 滝沢が大きくハンドルを切り、トラックは無理やり右折する。
 広い幹線道路から、農村地帯を縦断する支線道路へ降りた。
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61名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:48:46 ID:D9mWpQHU0
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爪l|l゚〜゚) 「ダメだ、ついて来てやがる!」


 トラックがふたたび加速するまでのわずかな間で、
 バイクはすでに、タムラの隣へぴったり張り付いていた。

 まずい、どうする。
 タムラの頬を冷や汗が伝った、その直後のことだった。


爪 ゚:::::::) 「  あ  」


 まさか、と息を飲んだ瞬間、それは現実となった。
 左サイドから派手派手しい破砕音。
 フロントドアガラスがぶち破られ、目の前に魚の頭部が出現した。

 ぎゃあ、とタムラは驚き叫ぶ。
 車体が右へ傾いだ。
 同時にマグロも引っ込んだ。
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62名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:50:47 ID:D9mWpQHU0
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 シートから跳ねあがり、左を確認する。

 当のバイクもバランスを欠いていた。 当然だ。
 タンデムフットレストに立つ少女は、
 巨大なる凶器──マグロ型の立体看板を、車上でふたたび抱えなおそうとしている。


     て
川;゚ -゚) そ 「おまっ、何やっ……何持ってんだ!」


 一瞬見えたライダー女の横顔は、
 今の今までマグロの存在に気づいていなかった、そういう表情にも見えた。


「この野郎!」


 滝沢が憤怒の雄叫びをあげた。
 フラつくバイクへ、めいっぱい幅寄せする。
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63名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:53:23 ID:D9mWpQHU0
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 タイヤが鳴く。
 サスペンションがきしみを上げる。
 昂りをクラクションが代弁した。

 女は体勢を整えるも、徐々に道路端へ追いつめられていく。
 怒気をはらんだ視線がタムラへ向く。
 ガードレールまであと数センチ。


川 ゚ -゚) 「……チッ!」


 衝突ギリギリで、女のバイクはたまらず減速した。
 滝沢はすぐさまハンドルを切り返す。
 進行を阻むように、バイクの前方へ躍り出る。

 急ブレーキ。
 タムラは慌ててダッシュボードを掴む。
 そして急加速。

 滝沢はさらにハンドルを捻り、もう片手でギアをシフトアップする。
 エンジンがうなり、トラックはさらに加速した。
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64名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:56:11 ID:D9mWpQHU0
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爪;゚〜゚) 「撒いたか!?」


 ひととおり走行が安定したところで、
 タムラは膝に散ったガラス片を払いのけ、
 窓から顔を出した。

 見えた。
 滝沢による妨害も大した効果はなかったらしい。
 バイクはタムラ達を煽るがごとく、左後方へぴったり張り付いている。

 幌の端からちらちら姿が現れる。
 そのたび、ハイビームがタムラの目を刺した。


「しつこい奴らめ……!」

爪 ゚〜゚) 「右だ、右に寄れ! ヤツらを誘い込む!」 


 声に弾かれたかのように、トラックはぐっと進路を変える。
 わずかに減速を伴った。
 その隙を逃すことなく、バイクが左に滑り込もうとしてくるのがわかった。
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65名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 19:58:18 ID:D9mWpQHU0
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爪#゚〜゚) 「くらえぇぇぇえぁあ!!」


 タムラはここぞとばかり、バスタオルを窓から放り投げた。
 ヘッドライトの眩しさではっきりとは見えなかったが、
 バイクがその上を通過したであろうことは、おおよそ感じ取れた。

 終わりだ。
 タムラは顔を引き、口角を吊り上げる。
 たっぷりと味わいな、俺様の能力を。


爪;゚〜゚) (あれ? 今……!?)


 が、そこで違和感が走る。
 今しがた、トラックの左に出現した、クーのバイク。

 一瞬しか確認できなかったものの、
 後ろのシートに、いるべき人物の影がなかったような。
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66名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:00:51 ID:D9mWpQHU0
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 『 あっひゃ〜っ☆ 』

爪 ゚〜゚)


 その時だった。
 上部から、どん、どんという、天井を踏みしめるような音が聞こえ、


  川
(*。A。)  ヒョコ

爪 ゚〜゚)


 フロントガラスという名のスクリーンに、有り得ない光景が映し出されるのと。


(*。A。)


 『 やっほー 』


 運転席二人の表情がゆがむのは、同時の出来事だった。


 〜 〜 〜
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67名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:03:42 ID:D9mWpQHU0
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【 ドクオサイド: 第三倉庫内 】


 短い悲鳴をともなって、兄者の長身がびくりと跳ね上がった。


::::(l|l _ゝ )::: 「ぐ……おお……っ!」


 本日二度目の感電。

 幸いスタンピースほどの威力はなかったようで、
 兄者は倒れそうになりながらもその場に踏みとどまった。


(; _ゝ ) 「うっは……ビリっと、き、たわ」

(;'A`) 「大丈夫か?」

(; ´_ゝ`) 「なん、の、これしきっ」


 そう言って、おもむろに床を蹴る。
 追撃の札をすれすれで避け、疾駆する。
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68名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:05:44 ID:D9mWpQHU0
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/ ゚、。 / 「どっこい、それは読んでた」


 その前方、ひらり舞う花かるた。

 声を上げる間もなく、閃光が周囲を包む。
 兄者の足が止まった。

 真正面からの“ グリントキネシス ” 発動。
 サディスティックに広がる白い闇。

 兄者は顔を覆う。
 当然、俺もだ。
 徐々に光は薄れゆくが、そのうち異変に気づく。
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69名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:08:28 ID:D9mWpQHU0
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(;'A`) 「なっ」


 まっさらなキャンバスの中央に、黒い影がゆらめいた。
 はじめはぼんやりと。 しかしみるみる大きくなり。
 直後、兄者の頭上から。


(; ´_ゝ`) 「ぐあ!?」


 巨大な物体が降った。


/ ゚、。 / 「鹿は “ テレポート ” 」


 簡易テーブル。 アルミ製の軽いものとはいえ、落下エネルギーは充分。
 延髄あたりをしたたかに打ち、兄者は大きくバランスを崩す。
 が、あいつもタダで起きるようなタマじゃない。


(#´_ゝ`) 「────っらぁ!」


 既にサイコキネシスの射程距離内だった。
 地面に片手をついたまま、兄者は反対の腕を掻き出すように払う。
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70名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:11:18 ID:D9mWpQHU0
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/ ゚、。 / 「!」


 波動のアンダースロー。
 ダイオードはサイドステップしつつ、上体を大きく傾けた。


(; ゚_ゝ゚) 「なっ」


 その時だ。
 想定外の現象に、俺たちは目を見開いた。

 まるで、放たれた念動力でスイッチを押下されたように。
 後方の柱が、ギン、と甲高く鳴いた瞬間、
 常識とは思えないスピードで、ダイオードがこちらに突進してきたのだ。


('A`;)ノノ そ 「うおっ!?」


 大砲の弾のように、俺たちの横を駆け抜け。
 反対側まで吹っ飛び、くるり、器用に体を反転させる。
 そのまま壁を蹴って静止すると、ダイオードは優雅に着地してみせた。
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71名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:14:36 ID:D9mWpQHU0
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(; ´_ゝ`) 「! ───痛っ」


 赤い置きみやげを残して。
 兄者の腕から血の糸が垂れ落ちた。


/ ゚、。 / 「……」


 ダイオードは顔の前に肘を曲げ、
 「あんた、背中が煤けてるぜ」のポーズでこちらを見ている。

 伸ばした指先に一枚の札。
 通過する際、兄者の腕を引っかいていたのだ。


(; ´_ゝ`) 「なんだ、今のは……!?」

/ ゚、。 / 「教えてやるケド」


 解説したがりのエレキネシストは、得意げに鼻先をこすった。


/ ゚、。 / 「スズキの履いてるブーツ、
       実はここにもちょーのーりょくを封じ込めてあるケド」
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72名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:17:08 ID:D9mWpQHU0
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(; ´_ゝ`) 「……花札(オモチャ)だけじゃなかったのか?」 イテテ


 返答代わりの軽い跳躍。


/ ゚、。 / 「 “ リアクトン ”  タムラの、チカラ。
       ── “ 反作用を操る能力 ”」

(;'A`) 「!」


 〜 〜 〜
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73名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:20:04 ID:D9mWpQHU0
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【 クーサイド: 県境方面 広域農道路上 】


 12月初旬の夜空は澄みわたり、さえぎる雲もない、星の大海だった。

 VIP市沿岸に位置するこの支線道路は、路面もきちんと整備されており、
 一般的な農道のイメージとは異なる、アスファルトの幅広い道だ。


「あ」


 ただ両サイドが畑というだけ。
 十数分ほど進めば、国道△△号線、バイパスの降り口付近へ復帰する。


「お」


 星の輝きがよく見える。
 夜が深まり、寒さはいっそう増したように思われた。
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74名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:22:50 ID:D9mWpQHU0
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川 ゚ -゚) 「      え      ? 」


 クーは飛んでいた。


川 ゚ -゚) 「………………はい?」


 比喩ではなく、バイクごと宙を舞っていた。

 トラックから投げ放たれた、一枚のタオル。
 そいつを踏んだ瞬間、その “ 現象 ” は起きた。

 軽い衝撃とともに、
 車体が、勢いよく宙へ跳ね上がったのだ。

 ファンタジー映画のワンシーンのように、空を舞う一台のバイク。

 『 オーノ〜! 』

 ハンドルを握るクーの脳裏に、
 コミカルなキャラが登場する、家庭用レースゲームの一場面が浮かんだ。
 しぃ達若い者は知らないであろう、古めの機種のゲームだ。
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75名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:25:20 ID:D9mWpQHU0
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川 ゚ -゚) 「Oh.....」


 そのゲームでは、ジャンプ台のトラップを踏むと、キャラクターが勢いよく飛び上がる。
 彼女の状況は、まさにそれだった。


川 ゚ -゚) 「の……」


 落ちるとスピンし、アイテムが没収される。


川 ゚ -゚)


    て
川;゚ -゚) そ 「のおおおおおおおおおおおおおぉぉぉう!?」


 が、残念ながらこれはゲームではない。
 紛れもない現実だ。
 地面に叩き落とされた場合、スピンしながら舌を出すだけでは済まされない。
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76名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:37:50 ID:D9mWpQHU0
※vipさるってしまったので小休止

77名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:43:40 ID:D9mWpQHU0
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 浮遊の最高到達点から、ベクトルは下へ。

 クーは無意識のうちに腰からペットボトルを抜いた。
 ファイトで一発しちゃうドリンクCMのように、
 キャップを親指でひねり飛ばす。


川;゚ -゚) 「このっ……!」


 落ちる。 回る。
 クーは無我夢中で腕を振った。
 ボトルから水のロープが射出される。

 ボトル内の水は “ 特別製 ” だ。
 触れずとも制御でき、その強度も高い。

 間一髪、ロープは近くの木の枝に絡みついた。
 ぐい、と引き寄せ、ターザンのような振り子運動を二、三回。
 クーの体は、しなる枝と水のロープの下、ぶらりと垂れ下がった。


川 ゚ -゚) 「……ぐぅ。 あっっぶな……」


 助かった、と胸をなで下ろすクーだったが、
.

78名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:46:00 ID:D9mWpQHU0
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川 ゚ -゚) 「  あ  」


 その目の前、己の分身であるバイクが、


川;゚ -゚)ノ 「や、ちょっ」


 スローモーションで、道路下の畑に落下してゆく姿を、


川;゚ -゚) 「Nooooooooooooooooooooooooo!!!!」


 目撃させられた。
 同時に、聞きたくない轟音が──鮮明に彼女の耳へ届いた。
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79名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:47:55 ID:D9mWpQHU0
.
川 ; -;) 「きゃしぃいぃいぃぃぃぃぃいぃぃぃぃいいぁあぁ!!」


 その後、水の力で引き起こしたマイバイクは、
 傷だらけで、見るも無惨な姿に変わっていた。


 『 頼む、動いてくれっ 』

 『 動けよおぉぉぉおぉお 』


 泥を払い落とし、シートにまたがる。
 素直でもクールでもない雄叫びをあげ、
 必死にキーをひねる。


川 ; -;) 「おおお……お?」


 彼女の祈りが通じたのか、数回のトライで奇跡的にエンジンがかかった。
..

80名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:49:47 ID:D9mWpQHU0
.
 ちょっとだけ泣きそうになっていたクーだったが、
 気を持ち直し、ギアを入れアクセルをひねる。


川;゚ -゚) 「うぉぉおぉぉぉあぁぁあぁ」


 バイクはよたよたと発進した。
 なるべく前を──前だけを見ながら走った。
 凄惨たる相棒の姿を、できる限り目に入れたくなかった。

 幸いなことに、あれだけの衝撃を受けたにも関わらず、バイクは走行できていた。
 ハンドルが湾曲し、多少フラつくためスピードは出せないが、
 タイヤ・クラッチ・その他走行に関わる機構にはさほど問題なかったようだ。
.

81名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 20:52:15 ID:D9mWpQHU0
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川 ゚ -゚) 「あっ」


 ……が。
 走っているうち、左ウィンカーがはがれ、落ちた。


川 ゚ -゚) 「げっ」


 カーブを曲がった瞬間、タイヤのフロントフェンダーが弾けた。


川;゚ -゚) 「ぽよぉ──────ッ!?」


 左ミラーが折れた。
 ビキニカウルが垂れ下がった。
 ガソリンタンクの外装が飛んでいった。
.

82名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:07:45 ID:D9mWpQHU0
.
川 ; -;) 「うごおおおおおおぉぉぉぉぉおぉぉおん」


 都市伝説みたいなボロボロの姿で、クーのバイク(元)は夜道をひた走った。

 『 リタイアしますか? 』

 レトロレーシングゲームのリトライ表示が脳裏によぎる。
 クーは歯噛みしながら駆けた。 ほんのちょっとだけ泣いた。

 選択肢などない。
 ゲームならいつ中断してもいいが、現実は終わらない。 死ぬまで地続きだ。
 纏わりつく妄想を、その都度振り払いながら、あぜ道を駆けた。

 途中から山のほうへ逸れる。 大型車には通行できない近道だ。
 バイク(らしき何か)で暗い坂を登り、駆け下りる。
 林を抜けると、郊外のニュータウンへ続く広い道路へ出た。


川 ゚ -゚) 「!」


 交差点にて制止し、右を向く。
 百メートルも離れているだろうか。
 遠くから、ヘッドライトが揺らめきながらこちらへ向かってくる。
.

83名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:11:42 ID:D9mWpQHU0
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 まさにそれは、さきほどまで彼女が追っていたトラックだ。
 追いついた。

 クーは小さくガッツポーズする。
 ハンドルがブレる。
 慌てて車体を支えなおす。

 普段の彼女であれば、
 自らのライディング ・ テクと経路選択が正解だった事実に
 しばし酔いしれるのであろうが、今はそれどころではない。

 トラックにはしぃが乗り移っている。
 事前に打ち合わせたわけではない。
 あっと言う間の出来事で、止める暇などなかった。


川 ゚ -゚) 「ここで遭ったが……百年目っ!」


 クーはひらりとバイクを降り、スタンドを立てた。
 衝撃でどこかのネジが2、3本落ちた。

 ところどころ傷つき、外装のひしゃげたバイクを見る。
 彼女の視線に応えるように、ジェネレーターカバーがぱかっと開いた。 
 クーは思わず目をそらす。 もうむり。 正視に堪えない。
.

84名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:13:28 ID:D9mWpQHU0
.
川  - ) 「キャサリンの恨み……ここで、晴らす」


 怒りを燃やすクーだったが、すぐに違和を感じ取る。
 迫りくるトラックは、傍目に見ても異常事態であることがわかった。
 きゅりきゅりと、スリップ音を撒き散らしながら、蛇行している。


川 ゚ -゚) 「ん」


 しぃが何か仕掛けたであろうことは明白だった。
 だが、それならなぜ、トラックは止まろうとしないのだ。


川 ゚ -゚) 「!!」


 そして、クーは見た。
 彼女の貸したジャケットをはためかせる、白い制服姿。

 当のしぃが、蛇行するトラックの天井部分にあらわれた。
 四角い、銀色の何かを傍らに携えている。

 目を凝らすまでもなかった。
 あんな巨大な物体を “ 小脇に抱えられる ” のは、彼女しかいない。
.

85名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:14:15 ID:D9mWpQHU0
.
川 ゚ -゚) 「お、おい……!」


 ライトの眩さと夜道の暗さで、正確には確認できない。
 が、少女は運転席へ何かを告げるかのように、体を曲げたあと──。


川 ゚ ゚)


 クーは仰天し、息を飲んだ。


    て
川;゚ -゚) そ 「ま、さ、か!?」


 バイクから、ヘッドライトのカバーがころりと落ちた。
 メーターのバネがびよんと飛び出た。


 ──まさか、の事態は、おおむね現実になる。

 それが物語の鉄則だ。


 〜 〜 〜
.

86名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:15:11 ID:D9mWpQHU0
.
【 タムラサイド: 市道××号線路上 】


 時は少しさかのぼる。
 クーがバイクの空中ダイブを目撃し、悲鳴をあげているころ。

 ここ、どりあん運送所有小型トラックの運転席内でも、
 男たちの野太い絶叫が、不協和音を奏でている最中だった。

     て
爪l|l゚皿゚) そ 「ひいぃっ! お前ッ、嘘!?」


(*。A。)+


 ガラスの上部から、さかさまの少女が現れた。
 タムラ達はシートにのけぞる。

 先ほどまでバイクのタンデムシートにいたはずの、小柄な女子高生。
 猫塚しぃが、トラックの天井から、ガラスにへばり着いていた。

 しぃは、いや、しぃの “ 別人格(アナザー)” だろう。
 既にメットを外した少女は、運転席の二人を交互に眺め、蛇のように舌なめずりする。
.

87名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:15:54 ID:D9mWpQHU0
.
 直後、拳をぐっと握りしめ。


(*。A。) 「あっひゃぁぁあぁ!」


 ためらいなく、フロントガラスへ振り下ろした。


     て
爪;゚〜゚) そ 「なっ、なぁっ!?」

「こいつ、何を……うわっ!?」


 乱打。


(*。A。) 「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
      ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひ
      ゃひゃひゃヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」


 縦読みでも 『 あひゃ 』 になるほどの狂笑。
 第三話のコピペだが、それはまあいい。
 タムラは驚愕におののく。
.

88名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:16:44 ID:D9mWpQHU0
.
 『 あひゃぁッ! ふひっ、ひひぇッ 』

 ポセイドンが封じたかった──もしくは利用したかった──狂気が、目の前にあった。
 逆立つショートカットの奥に、満面の笑顔が張り付いている。

 『 くひっ、ふふ……へへ、あ、ひゃひゃっ 』

 少女は心底楽しそうに、片手で、ときおり両手をハンマーのように組んで、
 めちゃくちゃにガラスを叩き続けている。
 タムラが身を震わせたのは、恐怖のためだけではなかった。

 『 ひゃ───ッひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃぁ───ッ! 』

 こいつはヤベェ。 その気になれば、殺ることのできる人種だ。
 ジキルとハイドなんて皮肉ってはみたが、実際にここまで変わるとは思わなかった。


爪; 〜 ) (こいつ──何か、手に!?)


 拳での打音に混じって、ガシガシと、引っかくような異音。
 金属製の小さな何かを逆手に持っている。
 あれはなんだ、爪切りか。

 フロントガラスは傷がつくばかりで、
 割れはしないものの、視界は確実に狭まってゆく。
.

89名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:17:54 ID:D9mWpQHU0
.
 ボディチェックの際、彼女が何本もの刃物を隠していたことを、タムラは思い出す。
 巷を震わせる連続殺人鬼 “ アリス ・ キラー ” のニュースが、フラッシュバックした。


「う、うぉおおおおおぉ!」


 トラックは減速することなく、車体を揺らしながら前進する。
 振り落としてやろうという滝沢の足掻きが、結果的に功を奏した。

 しぃはバランスを崩し、前のめりにずるりと滑り落ちた。
 辛うじてフロントガラスにへばり着くと、開脚した姿がガラスへ大写しになる。
 ひゅー、セクシー、なんて軽口を叩く余裕はなかった。

 タムラはすでに相手を女子高生だとは思っていない。
 異能をたずさえた、モンスター。
 このトラックは、少女型殺戮マシンに襲撃を受けている。

 そして何より、


爪;゚〜゚) 「おまっ、ちょっ……どけっ!」


 前が見えない。

 ワイパーに足をかけ、アナザー ・ しぃは器用に体勢を戻した。
 それからふたたび、さかさまに上半身を出す。
.

90名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:19:11 ID:D9mWpQHU0
.
 タムラは、猫塚しぃがまたガラスを攻撃するのかと考えたが、
 そうはならなかった。
 少女は舌を出してウィンクすると、コメディ映画のように、ぴょこんと頭を引っ込める。


爪;゚〜゚) 「もういい、車を止めろ! 外でケリをつける!」


 どん、どん。
 怪物の足音が天井を移動する。

 音を追う滝沢の眼が、青く光っている。
  “ 透過式遠隔視(イントロスコピー) ” 。 発動しているのか。
 いったいそれに何の意味がある。
.

91名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:19:53 ID:D9mWpQHU0
.
「あ……嘘、だろ」


 その上、小さくぼそぼそと呟いている。
 いいから前を見て運転しねぇか。
 タムラが告げようとした瞬間のことだった。


「「 !!!!!!! 」」


 リアウインドウをぶち破り。


 l|l 爪l|l 皿゚) l|l



 マグロが、出現した。


 〜 〜 〜
.

92名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:20:53 ID:D9mWpQHU0
.
【 ドクオサイド: 第三倉庫内 】


( ´_ゝ`) 「……概念的な話になると難しいな」

/ ゚、。 / 「操るといっても、方向は制御できないケド。
       あくまで反作用は反作用。 及ぼす力の反対側に発生するチカラ。
       できるのは “ 強化 ” “ 軽減 ” の二種類のみだケド」


   リ  ア  ク  ト  ン
 “ 反作用を操る能力 ” 。
 鈴木タムラ……あいつにそんな超能力があったとは。


/ ゚、。 / 「右足に “ 反作用強化 ”   ───跳躍。
       左足で “ 反作用軽減 ”   ───着地」


 さっきこいつが見せた、
 理屈に合わない猛スピードの正体はそれか。
.

93名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:22:04 ID:D9mWpQHU0
.
/ ゚、。 / 「ま、安心していーケド。
       最初に教えたとおり、スズキのアイテムに封じたちょーのーりょくは、使い捨て。
       ブーツに封じた “ リアクトン ” 、今の高速移動によって品切れだケド」


 安心などできようはずがない。
 視線を移せば、肩で息をする兄者の様子が、嫌でも目に飛び込んでくる。
 形成不利は明らかだった。


/ ゚、。 / 「よかったよかった」

(;'A`) (こいつ……)


 ダイオードはことごとく先手を打ってくる。
 頼みの綱であるヒーロー男は 札を防ぐのに精一杯。
 というより、サイコキネシスの有効範囲に入れてもらえない。

 俺に至っては、無様に逃げ回ることしかできず。
 お荷物以外の何者でもない。


/ ゚、。 / 「ところで」


 翻弄されている。
 それが肌で感じられたからこそ、続く言葉は俺たちの緊張をMAXまで引き上げた。
.

94名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:24:56 ID:D9mWpQHU0
.
/ ゚、。 / 「あんたに “ マグネティクス ” を発動したケド。
       ───これで、あんたは磁力の中心」
  _,
( ´_ゝ`) 「!?」


 ダイオードは指先の札をぴんと弾いた。
 庫内に、赤い “ 蝶 ” が舞う。

 兄者は反射的に腕へ視線を落とし、細い目をさらに細める。
 破れめくれた袖の下、伝うは一筋の赤色。
 先ほどの攻撃──札による一撃は、タダの引っかきじゃない。


(;'A`) (まさか、これ)

/ ゚、。 / 「“ リフレクス ” ─── “ 反射する能力 ”」


 萩に猪。


/ ゚、。 / 「“ テレポート ” ─── “ 瞬間移動 ”」


 紅葉に鹿。
.

95名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:27:59 ID:D9mWpQHU0
.
/ ゚、。 / 「“ マグネティクス ” ─── “ 磁場を操る能力 ”」


 牡丹に蝶   ───これは。


         リ レ イ ト
/ ゚、。 / 「“ 関連付け ”」


 エレキネシストが告げた途端。
 掲げられた三枚の札は、怪しい輝きを帯び。


/ ゚、。 / 「 “ 猪 ・ 鹿 ・ 蝶 ” 」


 順次、飛翔した。


(; ´_ゝ`) 「くぅっ!?」


 戦慄が走った。

 投げる。投げる。投げる。
 その三枚にとどまらない。
 休む間もなく、札は次々に、ダイオードの手元から放たれる。
.

96名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:29:51 ID:D9mWpQHU0
.
 俺は飛び上がりそうになった。
 が、逃げまどう必要はないとすぐに気づかされる。

 回転する札の数々は、ただ一つの標的目指して飛んでいたからだ。


( ´_ゝ`) 「────はッ。 そうかいそうかい」


 ターゲットのサイコキネシストは、迎撃の構えをとった。
 掌の中心、空間が奇妙に歪み、渦を巻く。
 念動能力の予備動作。


( ´_ゝ`) 「むしろっ、好都合だっ……」

(;'A`) 「!」

(# ´_ゝ`) 「っっっらぁっ! っとぉぅ!」


 腕を振るう。
 粗野で原始的なモーションだが、パフォーマンスは確かだ。

 一枚の札が弾け飛び。
 返す手で別の一枚も叩き落とされる。
.

97名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:30:56 ID:D9mWpQHU0
.
(# ´_ゝ`) 「ぃよいしょおおおぉぉっ!」


 薙ぎ払う。 幾度となく。
 一枚の札が勢いを失い、落ち葉のようにひらひら地面へ。
 もう一枚は明後日の方向へ進路を変えた。


( ゚A゚) (す、げ)


 冷静に、投擲される全ての札に対処している。


     て
(l|l;゚_ゝ`)そ 「どっこい……うぐ!?」


 ───ように見えたのは、一時のことだった。
 ふいに兄者は小さく声を漏らし、前屈みによろめいた。

 その肩に一枚の札が突き刺さっていた。
 脳内を違和が駆ける。
 あり得ない方向からの被弾。
.

98名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:33:23 ID:D9mWpQHU0
    て
(;'A`) そ 「横っ!!」


 俺の叫びに反応し、兄者はがむしゃらに腕を振りかざした。
 飛来していた別の札が、くるくる回ってその場に落下する。
 ───ところが。


     て
(l|l; ゚_ゝ゚) そ 「がはっ!?」


 その瞬間。
 兄者の体がくの字に折れた。

           サイコリフレクション
/ ゚、。 / 「……“ 念 動 力 反 射 ” 。
       どう? 自分ののーりょく、味わった感想は」


 目を凝らして、何が起こっているかようやくわかった。
 無秩序に撒かれる札に混ざって。
 実に不可解な “ 現象 ” が、兄者に牙を剥いていたのだ。


/ ゚、。 / 「今のアンタは磁場の中心。
       そいつは勝手に引き寄せられるケド」
.

99名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:38:05 ID:D9mWpQHU0
.
 『 そいつ 』 とは当然、超能力をパッケージングした札のこと。

 “ リフレクス ” “ テレポート ” そして “ マグネティクス ” 。
 名称だけ聞けばとても攻撃用とは思えない、
 そんなPSI3つの “ 関連付け(リレイト) ” 。

 だがしかし、この合成技は、兄者に対して効果覿面だった。
 投擲されるいくつもの札のうち、ふいに数点の札が “ 空中で姿を消す ” 。


(; ´_ゝ`) 「くっ!?」


 その直後、見失った札は周辺の空間からランダムに出現。
 “ マグネティクス ” に関連付け(リレイト)された札は空中にて軌道修正され、
 磁石が引き合うように、彼の肉体めがけて直行する。

     て
(;  _ゝ )そ 「ぐあ!?」


 ホーミング性能に加え、死角からの急襲だ。
 対応が間に合わない。
 掠めれば無邪気に皮膚を裂き。
.

100名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:40:22 ID:D9mWpQHU0
.
(; ´_ゝ`) 「くっそ、この……!」 バチン

      て
(゚く_(# )そ 「うぶ!?」


 サイコキネシスで叩き落とそうにも、
 “ リフレクス ” により、不可視の波動は兄者のほうに返る。
 ひるんだところへ、魔弾は容赦なく食らいつく。

 消える札以外のそれらは、 “ カス札 ” だ。
 特殊効果なし。  だが数が多すぎる。
 当たれば皮膚は裂け、場合によっちゃ肉を抉る。

     て
(l|l;゚_ゝ`) そ 「がっ……はっ……!」

         リフレクション
 五度目の “ 反射現象 ” を腹部に受けたところで。
 兄者はとうとうその場に膝をついた。

                            リ レ イ ト
/ ゚、。 / 「あっけない幕切れだケド。 ──“ 関連付け ”」


 札の輪郭がほの白く輝いた。
 掲げた三枚を青い糸が紡ぐ。
.

101名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:43:41 ID:D9mWpQHU0
.
 ダイオードの動きに、躊躇はない。
 無慈悲に、無表情に抛られる、とどめの “ 猪鹿蝶 ” 。


≡(;'皿`) 「く、くっそぉぉおぉぉ!」


 意を決し、俺はその場を駆け出した。
 兄者の前へ仁王立ちになる。

      て
(l|l; _ゝ ) そ 「……!」

/ ゚、。 / 「お」


(l|l'A`) (やっちまっ……!)


 勢いって恐ろしい。
 体中を抉られるビジョンに、思わず目を閉じる。


(;l|l>A<) (くそッ! なるようになれぇ!)


 大丈夫だ。 チャンスだ、ほら今だ。
 頼む兄者!
 俺が盾になったこの隙に、脇をすり抜けて前へ出ろ。
.

102名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:46:24 ID:D9mWpQHU0
.
 以前暴漢をのした時のように、サイキック全力パンチをお見舞いしてくれ。
 目の前のスーツ野郎に。

 そして俺を救ってくれ。 いや、割とマジで。


『 ………… 』


 あの、だから。
 今のうちに、早く行って、やっちゃって。
 ねえちょっ、ちょ、ちょっと! ほら何やってねえちょっと待っおい早


l|(l|l゚A゚)|l 「やっぱ怖えぇぇえぇええぇ!!」


 結局耐え切れず。
 俺は目を開け、渦巻く感情を絞り出した。


l|(l|l゚皿゚)|l 「あんぎゃぁあぁ!!」


 三枚の凶器が、俺のすぐ眼前にあった。


 〜 〜 〜
.

103名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:48:39 ID:D9mWpQHU0
.
【 タムラサイド: 市道××号線路上 】


 叫喚が車内を揺るがす。


(*゚:::::::)


 破れた幌のシートと、粉々になったリアウインドウの隙間から。
 ショートカットの悪魔が覗いていた。


爪l|l 皿 )


(*゚∀゚) 「おいっす」


 喉が嗄れそうだ。
 少なくとも、悲鳴に使うリソースなど残っていない。
 タムラはそう思った。
.

104名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:51:09 ID:D9mWpQHU0
.
 冷たい無表情から一転、ドヤっと頬をほころばせる怪物チャネラー。
 やはりマグロごとトラックに乗り移ってきていた。

 ウィンドウの隙間から、後方の様子が垣間見えた。
 幌の上部がずたずたに裂かれている。
 ここから天井へ移動したのだろう。 つまり、刃物を持っている。

 狭い車内において、荷台にいる怪物の攻撃を避け続けるのは不可能だ。
 ましてや相手は凶器を所持している。
 タムラはマグロの頭越しに、運転席へ指示する。


爪l|l゚〜゚) 「止めろっつってんだろうが! おい! 何やってやが……」

「聞け」


 が、滝沢の強い口調が先んじた。
.

105名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:52:54 ID:D9mWpQHU0
.
爪;゚〜゚) 「あぁん!?」

「……わ、悪いニュースが二つある」


 何を言い出すのだ、こいつは。
 現在進行形で最悪の事態だ。


(*゚∀゚) 「あっひゃ〜〜ン? にゅーすゥ?
     オレサマ警報発令中ゥ〜〜☆?」

爪;゚〜゚) 「話は後だ! まずは車を……」

「……ひとつ。 俺の意識は、そろそろ、限界だ」


 滝沢はかまわず話し続ける。
 様子がおかしい。
 明後日の方向を見つめ、声を出さない間も、口をぱくぱく動かしている。

 まるで魚ですギョ。
 横のマグロがそう語りかけてくる。
.

106名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:54:47 ID:D9mWpQHU0
.
「普通、こんなことは、起こり得ない。
 ……が、よくあるシチュエーションには、違いない」


 亡霊でも見たような表情で、ぶつぶつ呟く。
 体全体を小刻みに震わせつつ、滝沢は続けた。


爪;゚〜゚) 「何意味わかんねぇコト言ってやがんだ! いったい何が……」

「悪いニュース、残りの、ひとつ」


 顔全体を青く染め、声を上ずらせて。


「ブレーキが、利かない」


 そこまで告げると、青い目玉がぐるりと反転した。
.

107名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:55:47 ID:D9mWpQHU0
.
爪 ゚〜゚) 「えっ」

(*゚∀゚) 「えっ」


 そのままずるずると、ハンドルに沈み込んでいく。
 見れば背中にガラスが突き刺さっている。
 ──黒いスーツに、血の染みが、少しづつ広がっていく。

 滝沢はクラクションに上半身を横たえた。
 ホーンの音が田舎の夜を引き裂く。
 そのうち車体が左右に揺れはじめた。


    て
爪;゚〜゚) そ 「ちょっ、なっ、危ねえええ!!」


 タムラはすぐさま、ハンドルの下から右足を突っ込み、
 滝沢の靴ごとブレーキペダルを踏みつける。


爪 〜 ) 「           」


 だが。
 伝わるのは、スカスカとした感触だけ。
.

108名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 21:59:23 ID:D9mWpQHU0
.
 『 ……嘘、だろ 』


 坂に差し掛かる。
 流れる景色の速度が、早まる。
 街路灯が光の点から、線に変わる。

 何度目だろうか、心臓が大きく跳ね上がる。

 車体のきしむ音、クラクション、
 ブレーキともスリップともつかない、甲高きタイヤの摩擦音。


     て
爪l|l 〜 ) そ 「うぎゃああぁぁぁあぁあ!?」

(;*゚∀゚) 「マ──ジかよ───!?」



 ─── さまざまな音を立てながら。


 ─── 事態は、加速する。



(続く)

.

109名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 22:17:49 ID:UI4P.A/g0
おつおつ

110名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 22:30:54 ID:5zl9h5IA0
おっつおっつ

111名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 22:30:54 ID:5zl9h5IA0
おっつおっつ

112名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 22:31:38 ID:K8oP714s0
連投しちまった!
こんどこそおつ

113名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 22:49:42 ID:.mtOHUZo0
乙だぜ
タムラつえー

114名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 22:50:25 ID:.mtOHUZo0
タムラじゃなくてダイオードだ

115名も無きAAのようです:2014/08/14(木) 23:33:56 ID:TOSCJl5M0
乙乙
ちゃねらーは化け物揃いだな

116名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 01:15:44 ID:1Eh6P8GA0
両方で投下おつ
VIPでの構成の方が好みだ

117名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 04:01:19 ID:yllSeYVEO
乙、滝沢の最後が渋い

118名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 22:47:07 ID:rn8TsSl60
つまらん

119名も無きAAのようです:2014/08/17(日) 20:35:52 ID:7e3Go1Tw0
おつんつん
vip見逃したからありがたい!

120名も無きAAのようです:2014/08/18(月) 07:05:25 ID:I4L5i9Xw0
おつ!
いやー毎回さすがのクオリティ

121名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:08:02 ID:nI5rleiY0
※2〜3日に分けて投下。

122名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:08:45 ID:nI5rleiY0
..
【 しぃサイド: トラック天井部 】


爪;゚〜゚) 「お前、なんで」


 震え声に、猫塚しぃは運転席を覗きこんだ。
 声の主───誘拐犯は、丸い目でこちらを見上げている。
 フロントガラス越しに、さかさまの視線が交差した。


(*゚−゚) 「お願いしますね」


 ふたたびよじ登った、トラック運転席(キャブ)・天井部。
 車体が上下に揺れ動く。
 そのたび、彼女はバランスを崩しそうになる。

 人格(チャネル)は交代済み。
 今現在、小柄な体躯を支配している主人格───、
 しぃには、副人格(つー)ほどの運動能力はない。

 トラックは、タムラのハンドル操作によって、どうにか走行状態を保っている。
 しぃは潰れたカエルのように、全身で天井にへばりついた。
.

123名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:09:34 ID:nI5rleiY0
.
爪;゚〜゚) 「な、何がだよ、お願いって……」

(゚−゚*) 「ハンドル」

爪;゚〜゚) 「いや、おい」


 サイドミラーのパイプにつかまりながら、
 しぃはこわごわと、バンパーへ足をおろしてゆく。

 反対側の肩から、銀色の直方体がぶらんと下がった。
 ごつんと音を立てた後、反動でもう一度、キャブ前部を打つ。


爪l|l゚〜゚) 「何をやろうとしてんだ! なあ!」


 タムラが叫んだ。
 純粋な疑問ではないだろう。
 本当にやるつもりか、というニュアンスが、端々から感じられる。

 わかっているなら聞かないで。
 唇をぎゅっと結び、しぃはその言葉を、
 ためらう気持ちごと喉に押し込んだ。
.

124名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:10:41 ID:nI5rleiY0
.
 暴走トラック、キャブフロント。
 冷気の鋭さは、タンデムに跨っていた時以上だ。

 バンパーに足をかけ、コメツキムシのようにくっついた女子高生は、
 その片手に、巨大な物体を抱えていた。


爪l|l゙゚〜゚) 「おいって!」


 荷台。

 その荷台は荷台にあった荷台だ。
 つまり───トラックの荷台に積んであった、運搬用の手押し荷台。
 泣いたツインテール少女を乗せて走る、例のアレとは異なる。

 車輪が大きく、数も4つではなく2つ。
 持ち手部分の根本から、三角形に曲がった金属製のパイプが生えている。
 車輪を休めるための足部分だろう。

 前後逆のリヤカーと呼ぶべき形状だった。
.

125名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:11:39 ID:nI5rleiY0
.
爪l|l 〜 ) 「無茶だ!」

(-゚*  ) 「できます。 ───きっと」


 運転席の声が煩わしい。
 これ以上の問答は不要だった。

 しぃはすでに腹を決めている。
 決心がどうとかではなく、ぐずぐずしていると本当に振り落とされる。

 しぃはトラックの鼻先に片手を添えた。
 そしてもう片方の手から、荷台を降ろし、離し。


     て
爪l|l゚〜゚) そ 「うわああああああ!!」


 飛び降りた。
 荷台ごと。

 着地した。
 荷台の中心へ。

 接地部がアスファルトに弾かれ、荷台は大きく跳ね上がった。
 しぃはフロントグリルを掴んで堪える。
 それから、全身をつっかえ棒のように伸ばした。
.

126名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:12:43 ID:nI5rleiY0
.
 ボロ布を噛まされた車輪が、激しく悲鳴をあげる。
 直進するトラック。
 その前方、両手でトラックを押し返す、制服の女子学生。

 いつ跳ね飛ばされても、轢き潰されてもおかしくない。
 人力ブレーキ on 荷台。


(;*>ー゚) 「くぅっ……!」


 しぃの矮躯を、体験したことのない負荷が襲う。
 肉薄する鉄の圧が、風が、音が。振動が。
 巨大な黒い塊となって、全身を包み、数多の牙を突き立てる。

 荷台の車軸から火花がほとばしった。
 右、そして左。
 車輪が次々に弾け飛んだ。

 天板が跳ねる。 アスファルトが鳴く。
 足場が落ち窪んだことで、しぃはふたたびバランスを失いそうになる。
 吹き飛ばされる寸前のところで、どうにか踏みとどまる。
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127名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:13:47 ID:nI5rleiY0
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 パイプとボードだけになった、元 ・ 荷台。
 しぃは必死の形相でそこに立ち、
 キャブフロントへ、細い腕を突っ張った。

 止める。
 ぜったいに、止まる。
 止めてみせる。

 しぃは叫び続けた。
 音の嵐と、全身をシェイクする衝撃の中で。
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128名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:14:31 ID:nI5rleiY0
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129名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:16:43 ID:nI5rleiY0
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 〜 〜 〜


【 ドクオサイド: 第三倉庫内 】


 不思議と札が止まって見える。
 目を開けた直後だからだろう。 クロノスタシスってやつか。

 ていうか、この位置はアカン。
 弧を描いた札は、仮にどのような軌道をたどろうとも、
 ただ一点へ収束することがすでにわかっている。

 唯一無二のターゲット、兄者は俺のすぐ真後ろにいる。
 彼と札を繋ぐ直線。
 高さからいって、顔面直撃コース。

 ビンゴ。
 この札、このまま行けば俺の目玉にぶっ刺さる。


 『 ───メぃラコぉ 』


 ダメだ、マズ、助け
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130名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:17:34 ID:nI5rleiY0
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/ ゚、。 / 「!」


(;l|l゚A゚) 「             く、    ひっ」


 いや。
 なにか、おかしい。


 『 ───Boy、ずいぶん思い切ったことをしでかしたものだッ 』


 顔を覆う腕の隙間から、覗く。

 ───動かない。
 今にも俺の額に突き刺さりそうな三枚の凶器は。
 さっき見たときと同じく、依然、宙に静止したままだ。


 『 しかぁ───ッし! 』


 轟くは、どこかで聞いた、誰かの声。
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131名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:18:17 ID:nI5rleiY0
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 『 そのエクセレン覚悟ッ、ワタシは確かに見届けたぞッ 』


 ああ、これは。
 この “ 現象 ” は。


( ゚"_ゞ゚) 「はっ   ハッ    ハァ──────!」


 次の瞬間。
 耳障りな高笑いが木霊する。

 そして。
 ダンボールの影から黒い物体が飛び出した。
 あっと思ったときには、黒い長方形が次々に、空中の札を弾き飛ばした。


/ ゚、。 / 「……!」

   て
(;゚A゚) そ 「うひっ、こ、れっ!?」


 いつもより小さめのPC? タブレット?
 黒塗りに妙な文様とクロスをあしらった “ ミニ棺桶 ” は、
 くるくる回転しながら、俺の耳元をすり抜けてゆく。
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132名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:19:14 ID:nI5rleiY0
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 思わず振り向いた。
 そこには、自称ダークヒーローの無職男性が、腰に手を当てふんぞり返っていた。


   ( ゚"_ゞ゚) 
 【+ と彡 ☆


 彼が手をかざすと、棺桶はぴたりのタイミングで眼前に制止する。
 まるでブーメランを受け止めるかのごとく、ヤツはそれをキャッチし、
 小楯のように構えた。


【+  】ゞ゚) 「案ずるなかれッ! ダミィだよ!
        そちらのエレキネシストくんにビリビリやられちゃぁかなわんからなッ!!」


 この口調、“ 棺桶死(シュナイダー) ” とみて間違いない。
 PCの心配なんて俺は最初からしてないのだが。


(;'A`) 「う、おおおおおおおッ!!」


 俺は鬨の声を上げながら、一直線に───
  “ 棺桶死 ” の後ろへ逃げ込んだ。
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133名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:20:12 ID:nI5rleiY0
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              シフト
/ ゚、。 / 「ふーん。 “ 交代 ” したんだ。
       ……ま、別にいいケド」


 兄者のサイコキネシスは、空間を高速伝播するエネルギーの “ 圧 ”
 ──要は、なんだかよくわからん波動を飛ばしたり、
 発生したエネルギー体を制御する能力だ。

 対して棺桶死のサイコキネシスは “ 遠隔操作タイプ ”。
 対象物をリモート ・ コントロールする超能力である。

 原理はさっぱりわからんが、なるほど、
 これだと “ 反射現象(リフレクション) ” は発生しないらしい。


【+  】ゞ゚) 「チッチッ! すでェにッ!」


 続けざまに出現した “ 猪鹿蝶 ” 三枚が、
 宙で制止したままであることが、その証拠だ。


【+  】ゞ゚) 「このワザは! 見切っているのだよッ!」


 ミニ棺桶PC(仕様のボード)がふわりと舞い、
 浮遊する花札をハエ叩きのようにはたき落としていく。
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134名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:21:56 ID:nI5rleiY0
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【+  】ゞ゚)σ 「ドゥーユーアンダスタン?」


 暑苦しい。 口調が。

 音もなく放たれた二の矢 ・ 三の矢も、ものともしない。
 棺桶シールドを空中で巧みに操って、防ぎ、
 じりじり間合いを詰めていく。


【+  】ゞ゚) 「ハッ ハッ ハァ────!」

/ ゚、。 / 「へぇ。 でもでも」


 間もなく射程圏内 ──ヤツの喉元に、手が届く。
 そう確信した瞬間、それは起きた。


/ ゚、。 / 「甘い」


 棺桶死めがけて飛んでいた花札が、突如、軌道を変え。
 不自然に浮き上がると、
 さらにその表面から、プロパンバーナーのそれを思わせる、細長い炎が噴き出した。


【+  】ゞ゚) 「むっ……!」
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135名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:22:48 ID:nI5rleiY0
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 予測だにしない “ 現象 ” にタイミングを狂わされた棺桶死は、
 大仰に横っ飛びし、回避。


/ ゚、。 / 「で、こっちも」

( ゚"_ゞ゚) 「ワッツ!?」


 が。
 避けた先には、くるくる回転する次のエモノが待ち構えており。

 淡い発光。  直後、札から対地放電が起こった。
 幾筋もの光の糸が、斜め下方に放出される。

 間一髪、棺桶バックラーが電撃を防いだ。
 どうやら本当にイミテーション(変な表現だが)らしい。
 タブレットPCどころか、そもそも金属製ですらないようだ。

 なおもスパークするボードを放り投げ、棺桶死は床を蹴る。
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136名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:23:47 ID:nI5rleiY0
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/ ゚、。 / 「ゴールイン」


 ───そして。
 “ それ ” が放たれる瞬間は。
 俺の位置 ・ 角度からだからこそ確認できたのだ。

 明後日の方向──両サイドへ向けて投げられた、二枚の札は。
 それぞれに跳ね返り、俺の前方へ滑り落ちる。


(;゚A`) 「!」


 描かれしは “ 鹿 ” の図柄。
 ───すなわち “ 磁力操作 ”。


(;'A`) 「───“ マグネティクス ”!
     危ない! 右だ!」


 俺は力の限り叫んだ。
 瞬間的に、起こるであろう “ 現象 ” に思い至ったためだ。
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137名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:24:32 ID:nI5rleiY0
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 ほどなく、右方のスチールラックが床を滑り出した。
 左方で横倒しになっていたもう一つのラックも、ぐらぐら動きはじめる。

 棺桶死は誘導されていたのだ。
 二つのパレット ・ ラックを結ぶ直線上、その中点へと。


( :::"_ゞ::) 「───SHIT!」


 飛び退る。
 間一髪避けた彼の真後ろで、けたたましい金属音が弾ける。
 二つの収納装置が、熱いハグをかわした。

 無理な体勢でジャンプしたため、
 棺桶死は受身を取りそこね、グリーンの床へ投げ出される。


/ ゚、。 / 「んー、惜しい」


 なおも起き上がれずにいる棺桶死に向かって、
 ダイオードはトドメとばかりに札を構え、指を引く。
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138名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:26:10 ID:nI5rleiY0
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(;'A`) 「やめろおおおっ! この……っ!」


 俺の叫びに反応し、ダイオードはわずかにこちらへ向いた。
 棺桶死が戦っている間、俺だってただ手をこまねいていたわけじゃない。
 細心の注意を払いつつ、“ それ ” の近くへ移動していたのだ。

 飛びついた。
 サイコキネシスの直撃によって、ダイオードが床に落とした札の数々。
 超能力のパッケージングされた、カード型ウェポンめがけて。


/ ゚、。 / 「!」

(;>A<) 「くらえッ!!」


 俺はその一枚を掴み上げると、
 手裏剣を飛ばすモーションで、めいっぱい腕を引いた。
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139名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:27:04 ID:nI5rleiY0
.
(メ;´_ゝ`) 「ばか! やめろっ!」


 途端。


( ゛゚A ) (───えっ)


 視界が反転した。

 世界はコーヒーミルクのように、回り、混ざり。
 制止の声が耳に届くと、ようやく、
 自分の体が回転しながら宙を舞っていることを知り、


   て
(l|l A ) そ 「がッ!?」


 右半身への衝撃とともに。
 床に打ち付けられた事実と、それがダイオードの所業であることを、理解した。


/ ゚、。 / 「 ──── “ ツイスター ” 。 回転させる能力」


 声が出ない。
 息が、苦しい。
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140名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:27:45 ID:nI5rleiY0
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(メ;´_ゝ`) 「大丈夫か?」


 口調からして、兄者に戻ったのだろう。
 差し出された肩へ、俺はよろよろと腕を伸ばした。
 首へ絡ませると、傷口に触れたのか、兄者は小さく苦痛の声を漏らす。


(;'A`) 「……くそっ。 なん、で」

(メ;´_ゝ`) 「っ痛ぅ……ありゃ不発弾だ。 利用しようなんて思わないほうがいい」

(;'A`) 「あ……」


 痛がる兄者から腕を解こうとしたが、抱き起こされるほうが早かった。
 ダイオードはすでに俺たちと距離を取っている。
 が、追撃はなく、ただ両手で札を弄ぶのみだ。
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141名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:28:50 ID:nI5rleiY0
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(メ;´_ゝ`) 「……しないのか。 攻撃」

/ ゚、。 / 「しないんじゃない、できないんだケド。
       “ 点火 ” しすぎた。 ちょっち休憩」

(メ ´_ゝ`) 「いーのかよ、そんな弱点っぽいことバラして」

/ ゚、。 / 「んー。 別に。 余裕しゃくしゃくーだから」

(メ;´_ゝ`) 「……あっそ」


 兄者のほうにもその隙を突けるほどの体力はなかった。
 しばしにらみ合いが続く。

 荒い息が、戦況の悪さを物語っていた。
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142名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:29:33 ID:nI5rleiY0
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●第三九話 『 信条と、信念と ── VS. タムラ&ダイオード② 』


 ふいに訪れた小休止。
 痛む体を壁にもたれさせ、俺は悔いる。


(;# A ) (……くそっ)


 パイロキネシスが──そしてエレキネシスによる電撃が。
 宙に浮いた状態の花札から “ 発動 ” したこと。

 これらの “ 現象 ” を目の当たりにしてきたんだ。
 少し考えればわかったはず、なのに。


/ ゚、。 / 「発動タイミングはある程度操作できるケド」


 一片の可能性に賭けた、俺の目論見は失敗に終わった。
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143名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:30:47 ID:nI5rleiY0
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/ ゚、。 / 「“ 着弾 ” しないと発動できないと思った? ざんねん」


 超能力の発動に、“ 札が刺さる ” 過程は必要なかった。
 ヤツはいつでも、
 札に閉じ込めた超能力のスイッチを入れることができたのだ。

 今さらながら、ダイオードの能力は底が深い。
 同じ “ 超能力の発動 ” にも、いくつものバリエーションがあることに気づかされる。

 札そのものに超能力の効力が現れるタイプ。
 着弾した標的物に “ 現象 ” の効果を及ぼすタイプ。


/ ゚、。 / 「どっちにしろ、扱えるのはスズキだけ」


 それらを自在に操作できるのだとしたら、
 同じコピー能力でも、ドクミの扱うそれとは、利便性に雲泥の差がある。


(メ ´_ゝ`) 「……さっきの不可解な動きも、なんらかの能力か?」


 傷だらけの体をもたげ、兄者が聞いた。
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144名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:32:04 ID:nI5rleiY0
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/ ゚、。 / 「ストック少ないからなー。 あんまコレ、使いたくなかったケド」


 エレキネシストは遠回しに肯定した。
 兄者が聞いているのは、さっき投げられた札の挙動についてだろう。

 俺もその点は疑問に感じていた。
 これまで投擲される札は、全てが全て直線軌道ではなかったとはいえ、
 ある程度物理法則に沿ったものだった。

 が、さきほど発動した一枚のパイロキネシスは、実に不可解な挙動を見せた。
 光の屈折のように、宙でかくんと折れ曲がったのだ。
 まるでインベーダーのような動き。


/ ゚、。 / 「“ シンクロノス ” ── “ 同調させる能力 ”。
       パイロキネシスと関連付けたのだ」


 マウスを操作するように、空中で手を動かしてみせる。
 ダイオードもまた、札をリモート ・ コントロールできたわけか。

 札の遠隔操作も、超能力の発動タイミングも思うがまま。
 いよいよ手がつけられない。
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145名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:32:49 ID:nI5rleiY0
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/ ゚、。 / 「言っただろ? スズキの信条は、せーせーどーどー」


 一瞬何だかよくわからなかったが、
  『 能力を明かしても勝てる 』 そう言いたいのだと解釈する。


(メ;´_ゞ`) 「ったく……んじゃ、おれも教えとこっか?」

/ ゚、。 / 「ん?」

(メ ´_ゝ`) 「おれの別人格は……」

/ ゚、。 / 「言わなくていいケド」


 サムライは、ヒーローの言葉を一閃した。


/ ゚、。 / 「もう、だいたいわかった」

(メ;´_ゝ`) 「……はあ?」


 今までの戦いで、兄者の能力を全て見極めたとでもいうのか。


(;'A`) (マジかよ)
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146名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:34:51 ID:nI5rleiY0
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 流石オサムというチャネラーに関して、俺の知る情報はごくわずかなものだ。

 彼が扱うのは、性質の違う二種類のサイコキネシス。
 “ 棺桶死(シュナイダー) ” が、離れた物体に直接働きかけられるのに対し、
 “ 兄者 ” を自称する本人格は、波動を飛ばす能力らしい。

 空間を高速移動する、ゆらぎの “ 圧 ” 。
 透明に近いエネルギー体だが、正確には不可視ではない。
 目を凝らせばわかるが、透過した景色に歪みが生じる。


/ ゚、。 / 「悪いケド」


 もっとも。


/ ゚、。 / 「あんたののーりょく、射程距離はせいぜい、半径3メートル少々」

(メ ´_ゝ`) 「!」


 波動の軌跡を肉眼で捉えるのと、
 その動きに反応できるのとでは、別次元の話だが。
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147名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:36:15 ID:nI5rleiY0
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/ ゚、。 / 「スズキはあんたに近づかない」

(メ ´_ゝ`) 「ふーん。 意気地ねぇんだな」

        サ イ コ キ ネ シ ス ト   フィールド
/ ゚、。 / 「 “ 超念動能力者 ” の射程圏内で戦うほど、
       スズキはくるくるぱーじゃないケド」


 ヤツはコピー能力者だ。
 ある意味超能力のエキスパートとも言える。
 にわかに肌が粟立つ。


(メ ´_ゝ`) 「そう邪険にすんなってー。 僕ちゃんお近づきになりたいなー(棒」

/ ゚、。 / 「近づかないケド。 サムライに二言はないケド」

(メ _ゝ ) 「……はっ。 サムライぃ?」


 ────ニンジャの間違いだろ!
 言い捨てて、兄者は地を蹴る。

 助走たっぷりの跳躍が、第二ラウンドの開始を告げていた。
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148名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:38:01 ID:nI5rleiY0
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/ ゚、。 / 「リレイト。
       ──“ リプロデュース ” “ マグネティクス ” 」


 ダイオードは札を素早くかざす。
 もはや見慣れた感もある、攻撃予備動作。
 紫電を合図に、ふたつの飛び道具はさらに強力な超能力兵器と化す。


/ ゚、。 / 「 “ トッピン ” 」


 札は飛ばなかった。
 代わりに、同心円状の振動波が、ダイオードを中心として放射された。

 抗うすべはない。
 ジャケットがはためく。 ダンボールが転がる。 倒れた椅子が床を擦り動き出す。
 瞬間、衝撃ともいうべき風圧が俺たちを襲った。

 両腕で庇をつくり、足を踏ん張って耐える。
 が、能力の真価はその後の “ 現象 ” にあった。


<(メ;゚_ゝ゚)> 「うおおおぉぉおぉお!?」

<(l|l゚A゚)> 「ぎゃあぁぁあぁああぁ!?」
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149名も無きAAのようです:2014/10/12(日) 04:38:59 ID:nI5rleiY0
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 反射的に耳を押さえる。
 爆音。
 他に表現しようのない、強烈な音圧が嵐となって吹き荒れた。

 暴力的なディストーションが、空間を暴れまわる。
 重厚にして凶悪な、振動の地獄。

 荒れ狂い、ぶち当たり、擦り削る。
 倉庫全体が、揺れている。

 音は段階的に収束した。
 両手を離す。 だが、未だ耳鳴りは収まらない。


/ 、 / 「音と磁力の関連付け(リレイト)
       ──── “ ダイナミック ・ スピーカー ”」


 ダイオードもまた、塞いでいた耳から手を離す。
 ていうか、本人もダメージを受けてないか。

 痺れる身体へ渇を入れるように、兄者は両膝を叩く。
 そうして駆け出そうと構えた瞬間。


『 危ない! 右だ! 』


(メ;´_ゝ`) 「!」
.


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