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( ・∀・)悪魔戦争のようです

34 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/15(火) 23:53:42 ID:WtRCp44I0

ξ゚⊿゚)ξ「あっ」

( "ゞ)「あっ」

 部屋の中にはツン=D=パキッシュがいた。

 彼女は質素な布製の衣服を手に持っている。どうやら、着替えの最中であったらしい。
 片方の腕を袖に通している以外には何も身に纏っていない状態で、硬直している。

( "ゞ)「えっと……」

 後ろ手に扉を締め、デルタは言い訳を必死に探す。

(;"ゞ)「違うよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「何が?」

 デルタの視線を気にも留めないように、ツンは腰の帯紐を結んで着替えを済ませた。

「せめて目を逸らせや!!!」
         ξ#゚⊿゚)ξつ)"ゞ)・:∴「うごっふ!!!」
                 メシャア

35 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/15(火) 23:57:15 ID:WtRCp44I0

 なんとか誤解を解き(裸体を目撃したことは誤解でも何でもないのだが)、ツンを落ち着かせて、
 簡易ベッドに座らせた。デルタ自身は冷たい床に腰を下ろし、コンクリートの壁に体重を預ける。

( "ゞ)「病み上がりの体に君の鉄拳はこたえるよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「あたしだって病み上がりみたいなもんよ」

( "ゞ)「それにしちゃ、素晴らしい動きだったけどね……」

 はあ、と大きく息を吐いた。
 元気そうなツンの姿を見て、少し気が抜けてしまった。

ξ゚⊿゚)ξ「なんでここにいるの? 少将さんは、あたししか保護してないって……」

( "ゞ)「へえ、そんなことを? 僕には、君がいると教えてくれたけどな」

 まあ、まだ目が覚めてないと聞いてたけど――と、デルタは笑う。

ξ゚⊿゚)ξ「嘘だったの? じゃあ、もしかしてモララーもここに!」

( "ゞ)「うーん、可能性はあるけど、たぶん彼はいないんじゃないか?」

ξ゚⊿゚)ξ「どうしてそう思うわけ?」

( "ゞ)「モララー君がいるなら、何かしら騒ぎが起こってるはずだからね」

36 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:00:32 ID:ODWv9E8E0

( "ゞ)「……少将に聞いたよ。ツン、君は『魔人』なんだね」

ξ゚⊿゚)ξ「……そう、聞いちゃったの」

( "ゞ)「どうして今まで言ってくれなかったんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「言えると思う?」

 ツンの双眸が正面からデルタを捉える。
 その瞳は冥く、怯えか恐れか、心情を読みとれない色である。

ξ゚⊿゚)ξ「魔人がどれだけ差別され弾圧されてきたか、知らないわけじゃないでしょ」

( "ゞ)「…………」

ξ゚⊿゚)ξ「幸いなことにあたしの能力は、一目でわかる特徴として現れるものじゃなかったわ。
      それでも、この体質が原因で色々あったし、あからさまではなくとも家族に疎まれたし……。」

ξ゚⊿゚)ξ「『エル・ディアブロ』って言う上級悪魔があたしの体と融合してるんだけどね。
      父親がそれの召喚に失敗して、死んで、悪魔はあたしに取り憑いて魔人になった」

 ツンの言葉は途切れず、淡々と紡がれてゆく。

ξ゚⊿゚)ξ「そりゃ和やかな家族にはなれないよね、父親を殺したのはあたし――のようなもんだし。
      むしろ、殺さないでいてくれただけでも、感謝すべきなんだろうと思ってるわ」

37 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:03:31 ID:ODWv9E8E0

( "ゞ)「僕は。いや、僕とモララー君は、君を恐れたりはしないよ」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね。でも、恐れてくれたほうがいいって場合もあるのよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「あたしに近付かなければ――あたしに傷つけられることもない」

 デルタはロマネスクの話を思い出していた。
 インクレクの少女、しぃは死んだ。ツンの目の前で、ツンの手によって。
 ツンの能力はコントロールを失えば簡単に人を殺しうる。それはおそらく事実だ。

ξ゚⊿゚)ξ「制御できないあたしの力は、いつか友達を傷つけてしまうかもしれない」

( "ゞ)「確かに君はそれだけの能力を持ってるんだろう。でも、それがどうしたんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

( "ゞ)「誰だって人を傷つけることができる。力があるとかないとか、関係ないさ」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

( "ゞ)「恐ろしいのは力じゃなく、それを行使する人格だ――って、誰の言葉だったか。知ってる?」

 デルタが笑うと、ツンも相好を崩した。

ξ゚ー゚)ξ「あんたって、やっぱり、ちょっと変」

( "ゞ)「そう? 今、僕、変なこと言ったかな……」

38名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 00:05:23 ID:YhSlKEpY0
デルタほんと優秀な

39 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:06:38 ID:ODWv9E8E0

ξ゚⊿゚)ξ「で、これからどうするの?」

( "ゞ)「どうしようね。とりあえず君に会うことが目標だったけど、その先を考えてない」

 先ほど盗み聞きした内容を考えれば、デルタとツンの身は今のところ安全である。
 モララーの行方を捜し求めるにしても、まずは何から始めればいいのか。

ξ゚⊿゚)ξ「連合国軍に知り合いもいないし、ウォルクシアに帰るのも難しいわね……」

( "ゞ)「うーん……ん? あ、いるじゃないか、知り合い」

ξ゚⊿゚)ξ「え、うそ、いるの?」

( "ゞ)「ほら、養成所の先生達だよ。今は連合国軍の所属になってるはずだ」

ξ゚⊿゚)ξ「あー! そっか、ダイオード先生達ね」

 ダイオード=メタル。モナー=カノンタ。ビロード=デス。そして、兄者。
 4人の教師は、上級悪魔と共に徴兵されている。

ξ゚⊿゚)ξ「でも、連絡がとれるかしら?」

( "ゞ)「なんとか方法を考えるよ。とにかく、君と僕が既に接触していることは隠して……」

 不意に口をつぐみ、デルタは部屋の扉に目を向ける。

ξ゚⊿゚)ξ「?」

40名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 00:09:26 ID:obJKZbjs0
おっす久しぶりー

41 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:10:29 ID:ODWv9E8E0

 こん、こん、と控えめな音が響いた。扉がノックされている。

ξ;゚⊿゚)ξ「!」

 おろおろと慌てふためくツンを横目に、デルタの行動は素早かった。
 落ち着いて隠れられる場所を探し、床に伏せて簡易ベッドの下に這い潜ったのである。

( "ゞ)「ツン、冷静に。予め知っていなければ僕に気付く可能性は低い」

ξ;゚⊿゚)ξ「う、うん」

 ぎい、と鉄扉が開く音。

( ФωФ)「失礼するである」

( "ゞ)(ロマネスク少将……)

 デルタは顔をしかめる。
 ちょうど話題にしていただけに、ツンが妙な反応をしないか心配になった。

( ФωФ)「すまんな、そんな粗末な服しかなくて」

ξ゚⊿゚)ξ「い、いえ! その、今は別に寒くないので……」

( ФωФ)「『ギフティヒ・ハルト』が効いているのであるな」

 毒属性魔法『ギフティヒ・ハルト』。経口摂取した者の魔力を封印する毒薬である。
 かつてツンがケルベロスに対して使用した魔法が、今はツンの体を縛っている。

42 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:13:00 ID:ODWv9E8E0

( ФωФ)「申し訳ないが、ここにいる間はその魔法を解くわけにはいかないのである」

ξ゚⊿゚)ξ「はい……仕方ない、ですね」

( ФωФ)「まあ、生活に支障が出るわけではないと思うが……ん?」

『失礼します』

 若い兵士が部屋に入り、ロマネスクとツンの顔を交互に見比べる。

『……よろしいでしょうか?』

( ФωФ)「構わん、我輩に何か用であるか?」

『ええ。来客があります、ロマネスク少将』

( ФωФ)「我輩個人にか?」

『ええ、シャキン中将が不在である現在、少将殿が責任者だと伝えたところ、それで構わないと。
 それと……向こうから指名があったので、ショボン氏にも同席していただくことになります』

( ФωФ)「? いったいどんな客であるか」

『用件は聞いていませんが、お名前は承っております』


『ハインリッヒ=ハイヒルズ=クラシカ。ええ、あの「科学者」です』


.

43 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:15:42 ID:ODWv9E8E0

【ケノル駐屯地・総合事務棟・第1応接室】

 応接室の中央には大きな机と、椅子が4つ置かれている。

从 ゚∀从「キッド、その辺の物に触るんじゃねェよ」

 椅子に座り長い脚を組んでいる女は、こめかみに指を当てて苦言を呈した。
 銀髪をかき上げると、長い耳飾りと首の鎖が擦れあってしゃらんと音を立てる。

 『科学者』ハインリッヒ。彼女は気怠げに、しかしどこか楽しそうに男を見ている。

 男。そう、この応接室にはもう一人の人物。

ミπ`−)「別にいいだろーが。俺に指図するなよ」

 ハインリッヒの言葉に噛みついた浅黒い肌の男は、手に持っていた砂時計を棚に戻した。
 男の身なりだけをみれば、薄い衣服に短髪という身軽そうな格好であるが、腰には短剣を三本差している。
 それだけではなく、背には長剣を二振り背負い、脚にも何本かの投擲ナイフが装着されていた。

ミπ`−)「あとな! 何度も言ってるけど、俺のことをキッドと呼ぶのをやめろ」

ミπ`−)「N=キッド=M=ジンラグ=フロア、と、ちゃんと本名で呼べよ」

从 ゚∀从「なげェ。キッド、いいから座れってよォ」

 キッドと呼ばれた男は、舌打ちしつつ椅子に腰を下ろす。がしゃん、と武器が鳴る。

44 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:18:05 ID:ODWv9E8E0

ミπ`−)「あー暇暇暇暇! ヒマすぎんぞ、なんだこの時間? 待たせすぎだろ!」

从 ゚∀从「あのな、頼むから大人しくしててくれ。オレ達は喧嘩しに来たわけじゃないだろ?」

ミπ`ー)「場合によってはそうなるかもしんねえって、ハイン、お前も理解してるくせに」

 キッドは白い歯を剥き出して獰猛な笑みを見せ、ハインリッヒは口元を歪める。

从 ゚∀从「ま、そうなったらよろしく頼むわァ」

ミπ`ー)「任せとけや」

 ハインとキッドは会話を止め、部屋の入り口に目を向けた。
 軍靴の音と共に応接室に入ってきた二人の軍人――ロマネスクとショボン。

( ФωФ)「お待たせしたである」

 ロマネスクが会うのは初めてだった。しかし一目でわかる、ハインリッヒ=ハイヒルズ=クラシカ。
 派手な格好、肉感的な肢体、その容姿からは想像できない激烈な魔力と気性を持つ女。

( ФωФ)「ショボン=フレットレス中将は不在でして。我輩はロマネスク=ガムラン、陸軍少将であります」

(´・ω・`)「僕はショボン=フレットレス、少将権限付き研究者です」

从 ゚∀从「ご丁寧にどうも。ハインリッヒ=ハイヒルズ=クラシカです、こっちは付き人のキッド」

( ФωФ)「付き人?」

45 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:20:13 ID:ODWv9E8E0

ミπ`−)「N=キッド=M=ジンラグ=フロア。俺を呼ぶのならそう呼べ」

( ФωФ)「N=キッド=M……えっと?」

从 ゚∀从「ああ、気にしないでくださいなァ。キッドで構いません、いわば用心棒です」

 用心棒という説明は、多少なりとも納得のいくものであった。
 この男――青年と少年の間くらいの年頃だろうか――帯びている武器の量が尋常ではない。

 形式的に握手を交わし、全員が椅子につく。

( ФωФ)「それで……ハインリッヒ殿の用事は、如何なるものでありますかな」

从 ゚∀从「まず一つ感謝の意を伝えておこうと思いましてねェ」

( ФωФ)「感謝?」

从 ゚∀从「えェ――ありがとうございます、ロマネスク少将」


从 ゚∀从「『守り人』を破壊してくれて」


( ФωФ)「!!」

46名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 00:20:15 ID:fD0nCo9U0
お帰り支援 何気に五年目なのね

47 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:22:15 ID:ODWv9E8E0

从 ゚∀从「結果的にオレのミスがうやむやになって、本当に助かりましたよォ」

( ФωФ)「……貴女の目的も、我輩と同じであったか」

从 ゚∀从「奇遇ですねェ。ウォルクシアと連合国軍が、同じ目的で、同時刻同地点にいるなんて」

( ФωФ)「おそらく、互いの任務が意味することは正反対であろうがな」

 ロマネスクは胸中に苦いものが広がっていくのを感じた。
 ハインリッヒ、そしてその上にあるウォルクシアには筒抜けになっているのだ。
 ズーパルレでの作戦行動、その内容に加えて、実行者がロマネスクであるということまでも。

(´・ω・`)「あれは君が、というか軍がやったことだったのか。ずいぶん騒ぎになっているけど」

( ФωФ)「機密情報である。口外はしないでくれ」

ミπ`−)「安心しろよ! この事を知ってるのはウォルクシアでも数人だ」

 キッドが笑う。他の三人は笑わない。

从 ゚∀从「まあ、ズーパルレや周辺国が知ったら怒るでしょうねェ。そりゃもう烈火のごとく。
      元々『守り人』のおかげで栄えてきた地域と言われてますし、実際既に被害が出ている」

(´・ω・`)「なるほど。そっちにしてみれば目的は達成できたし、連合国軍を脅す材料ができたわけですね」

从 ゚∀从「脅しだなんて。ちょっとしたお願いを聞いていただければ秘密は守りますよ」

48 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:24:12 ID:ODWv9E8E0

( ФωФ)「それは、貴女個人の? それとも、ウォルクシアの意志としてであるか?」

从 ゚∀从「鋭い質問ですねェ。まあ、それはご自由に推察していただいて構いませんが」

( ФωФ)「……まあ良かろう。それで、頼みとは」

从 ゚∀从「とある人物を引き渡して頂きたい。すなわち」


从 ゚∀从「ツン=D=パキッシュ、『魔人』を」


 ロマネスクは確信する。これは取引ではなく、明確な脅迫だ。

( ФωФ)「……いつ、どこで?」

ミπ`−)「寝ボケてんのか? 今日、今すぐに、この場で、俺の目の前でに決まってんだろ」

( ФωФ)(上層部の判断も待てぬというわけか)

(#´・ω・`)「そんなことはできない!」

 顔を紅潮させたショボンが勢いよく立ち上がる。その目には怒りが満ちていた。

(#´・ω・`)「ようやく手に入れたサンプルだぞ! 今後、生きた魔人のデータが手に入る機会などないんだ!」

49 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:26:40 ID:ODWv9E8E0

ミπ`−)「うるせえなあ。お前の都合なんか知るかよ、殺すぞ」

从 ゚∀从「ちょっと黙れ、キッド。それにショボンさんも落ち着いてくださいよォ」

 張りつめた空気の中、涼しい顔でハインリッヒが二人を制止する。

从 ゚∀从「同じ学究の徒として、研究を妨げられる気持ちは痛いほどわかりますよ。
     代わりと言っちゃァなんですが、オレが持ってる『魔人』のデータを提供します」

( ФωФ)「なに?」

从 ゚∀从「正確に言えば、ウォルクシア科学庁に蓄積されている数百年分のデータになりますがねェ」

(´・ω・`)「そ……それは、本当に?」

(´・ω・`)「科学庁の高官でなければ自由に閲覧することができないデータを、くれるというのかい?
     連合国軍に所属している、ウォルクシア人ですらない僕に、科学庁のデータを?」

ミπ`−)「夢のよう、か? その頬っぺたに風穴空けて確かめてやろうか」

从 ゚∀从「黙れって。とにかくまァ、『魔人』以外のデータも欲しいだけ差し上げますよ」

 ショボンが急に黙り込み、損得の算用を始めたのが全員にわかった。
 ロマネスクにとってみれば、この交渉を受け入れることでの弊害は特になく、
 感情的な部分を除けば、むしろ拒否することはありえないと考えている。

50 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:30:33 ID:ODWv9E8E0

 ややあってショボンが首を縦に振り、ロマネスクは胸をなで下ろした。

(´・ω・`)「……仕方ないかあ」

( ФωФ)「うむ。引き渡しは認めよう。しかし、彼女をどうするつもりなのであるか?」

从 ゚∀从「まァ、ウォルクシア王にしてみれば、連合国軍に強すぎる力は不要って考えなんですなァ」

ミπ`−)「どうも最近、お前らは不穏な動きをしてる感じだからな」

(´・ω・`)「それはお互い様じゃないか?」

从 ゚∀从「はは。さて、取引は成立したことだし、ここにツンを連れてきてもらえますか?」

( ФωФ)「手配させよう……そういえば、もう一人保護している少年はどうする?
        どうやらツン=D=パキッシュと共に行動していたようであるが」

ミπ`−)「もう一人?」

( ФωФ)「ああ。デルタとかいう……ハインリッヒ殿はご存知ではないかな」

从 ゚∀从「デルタか。うーん……知り合いではありますよ」

ミπ`−)「おいおい、二人も連れてく余裕あんのかよ?」

从 ゚∀从「ないよなァ。だが、ツンの精神安定には使えそうな気も――」

51名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 00:30:49 ID:FHl9WNnc0
何年ぶりだよおおおおおおおおおおおおお
毎話の最初の言葉大好きなんだよおおおおおおおおおお

52名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 00:31:02 ID:kIp.wNhs0
乙!!

待ってたよ

53 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:34:18 ID:ODWv9E8E0

ミπ`−)「ん?」

 キッドが急に天井を見上げた。その眉間には微かに皺が寄っている。

从 ゚∀从「どうした?」

 ハインリッヒの問いには答えず、キッドは四方の壁に視線を向けていく。

( ФωФ)(なんだこいつ)

 ぐるりと見回した後で、キッドはハインリッヒの顔を見据えた。

ミπ`−)「やべえぞ。ハインリッヒ」

从 ゚∀从「何がだよ」

ミπ`−)「天使だ。天使が来てる。すごい数だ……俺達、囲まれてるぜ」

从; ゚∀从「はァ!?」

(;ФωФ)「なんだと!?」

『ロ、ロマネスク少将!!』

 応接室の扉が勢いよく開け放たれ、数名の若い兵士が中になだれ込んできた。

54 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:36:31 ID:ODWv9E8E0

『第三監視室より報告です、駐屯地北側に下位天使を多数確認!』

『こちら第二監視室より、南側山間部の連絡トンネルが崩落しました! 三本全てです!』

(;ФωФ)「なっ……!」

(;´・ω・`)「北と南を押さえられたか、まずいね。実質的に退路を断たれたってことだ。
      どうしてそんな状況に至るまで気付くことができなかったんだ? 防衛機構は?」

『魔法で結界を張っている最終防衛線までは、まだ突破されていない模様です』

『しかし、それ以外の物理的な防衛機構は全て、一瞬の内に破壊されたようです』

(;´・ω・`)「そんな馬鹿な、五つの兵士詰所と三層の常設塹壕が一瞬で?」

从 ゚∀从「並々ならぬ事態だなァ……」

( ФωФ)「とりあえず現状の把握である。残存兵力と指令系統の確認、応援の要請を急げ」

『はっ!』

 最高指令であるシャキン中将の不在。この基地にとっては非常に大きな隙であると言える。
 ロマネスクは焦燥を抱くと同時に、鼓動が高鳴るのを感じた。
 これは危機である以上に好機だ。昇格直後に戦果を上げられれば、上層部に好印象を与える。

ミπ`−)「しかしよお……わざわざこの基地を包囲して、何がしたいのかわかんねえな」

55名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 00:36:42 ID:y4EhVhIY0
>>44

> ( ФωФ)「ショボン=フレットレス中将は不在でして。我輩はロマネスク=ガムラン、陸軍少将であります」
>
> (´・ω・`)「僕はショボン=フレットレス、少将権限付き研究者です」

前半はシャキン・フレットレス中将の間違い?

56 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:38:18 ID:ODWv9E8E0
>>55
あー! ミスです!
すみません、シャキンが中将です

57 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:40:37 ID:ODWv9E8E0

【ケノル駐屯地・西監視棟】


 西監視棟の最上階は六階であるが、その上部に小さな四角い建屋が付随している。
 全体として細長い監視棟の先端に位置するそれは、さながら蝋燭に灯る炎のようにも見えた。

 今、その小屋の窓がいくつか開け放たれる。

 黒い鳥のような姿をした悪魔――『ヤタガラス』が、窓枠にとまり空を見上げた。
 けぇっ、と一声上げて、数羽の悪魔が羽ばたき、伝言を持って飛び立ってゆく。

 伝令の内容は応援を求める声明。ロマネスクの指令により発された救援要請である。
 最も近い基地でも百キロ以上の距離があるものの、『ヤタガラス』ならば数十分で到達する距離だ。


 『ヤタガラス』たちが、それぞれほぼ同時に、眼下の異常を捉えた。

 それは、地に横たわる黒い蛇。静かに眠る濁流。明瞭な境目のない奈落。

 どれも正確な表現ではない。

 それは、基地を取り囲む、天使たちの軍勢であった。

 途轍もない数の天使――おそらくは下位天使であろう――が、ぐるりと円形に鎮座しているのだ。

58 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:43:21 ID:ODWv9E8E0

 『ヤタガラス』のうちの一羽は目撃した。

 天使の軍勢が少しだけ蠕動し、一画から光が放たれた。

 光を放ったのは何者なのか、そもそも光の正体は何なのか、彼らに認識することはできない。

 一瞬の後、空を数条の光線が駆け抜ける。
 その軌跡には『ヤタガラス』が―― 一羽残らず、捕捉されていた。

 音も立てずに悪魔は蒸発する。痛みも苦しみもなく、消滅した。



 地上。
 巨大な下位天使たちがざわざわと囁きを交わしている。

|  ^o^ | げきつい しました

|  ^o^ | やりました やりました

( ∴)

 異形の群の中、一人だけ、人間の形をした者が佇んでいる。
 その天使は鉄仮面で顔を覆っており、表情を窺い知ることはできない。

59 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:45:25 ID:ODWv9E8E0

【中央棟・司令室】

『少将、放ったヤタガラスは全て潰されたようです』

( ФωФ)「そうであろうな。ここからもあの光が見えた」

 報告を受け、ロマネスクは顔をしかめた。

( ФωФ)「つまり、応援は呼べないということか……」

(´・ω・`)「『ダンタリオン』が予知してれば可能性はあるけど、ま、期待はできないか」

 兵士を下がらせると、司令室には重い空気が満ちた。

(´・ω・`)「……包囲から十五分。攻撃してこないということは、我々の殲滅が目的ではない」

( ФωФ)「おそらくは。かといって、他に何の目的がある?」

(´・ω・`)「わからないよ。そういうのは僕の専門じゃない」

( ФωФ)「『科学者』にでも聞いてみるか?」

(´・ω・`)「それは良い案だけど、彼女ら、どっかに行っちゃったからね。あんまり動かれると困るんだけど」

( ФωФ)「監視をつけてあるとはいえ、その気になれば簡単に無力化されそうである」

60 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:47:16 ID:ODWv9E8E0

(´・ω・`)「しかし、向こうに動きが無いとこちらも対応に困る」

( ФωФ)「うむ。結界の補強と兵士の武装は終了したが、攻め込まれる方向すら不明では配置できん」

(´・ω・`)「どうも天使らしくないっていうか、ねえ」

 ショボンは口元に手を当てて考えている。

(´・ω・`)「まさか正々堂々と戦争しようってわけじゃないだろうし」

( ФωФ)「考えても仕方ないである。とにかく今やれることを……、入ってくれ」

 ノックの音で会話を中断する。若い兵士が姿を見せた。

( ФωФ)「良い知らせであると嬉しいが」

『……なんとも言えません。先ほど、正門横の石柱にこの鉄の板が撃ち込まれました』

 兵士が差し出したのは、手のひらよりもすこし大きな、薄い鉄板。
 そこには小さな字で数行の文言と、人間の顔がはっきりとした輪郭で描かれている。

( ФωФ)「『我が名はゼアフォー=サンダルフォン』『人間たちに一つの機会を与える』
     『この人間を引き渡せ』『十分後にこの人間を渡せば、我々は立ち去ろう』」

   『 川 ゚ -゚)  』

( ФωФ)「誰だ?」

61名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 00:47:18 ID:YhSlKEpY0
共同戦線とはいかないか

62 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:51:03 ID:ODWv9E8E0


【中央棟・三階通路】

从 ゚∀从「なァいいだろ、ちょっと見るだけだって。な!」

『な! じゃない。無理に決まってるだろ。扉に触るな!』

『ショボン氏は少将と同じ権限を持ってるんだ、我々の首が飛んでしまう』

从 ゚∀从「そこをなんとかさァ〜」

 通路の一画、「研究室」と記された扉の前で、ハインリッヒと二人の兵士が言い合いになっている。
 ハインがショボンの研究室に入ってみたいと言い出し、監視役が当然のように却下しているのだった。

 一人、輪に入らないキッドは壁にもたれ、口論の様子を眺めていた。

从 ゚∀从「ちゃんと礼はするよ?」

『礼?』

『バカ野郎、惹かれてんじゃねえ。クビどころか殺されるかもしれんぞ』

『そ、そうだよな。そもそもこの扉は施錠されていて開けようが……』

 兵士がそう言って扉を押す。軋みながらも、扉はゆっくりと内側に開いた。

从 ゚∀从「奇遇や奇遇、鍵かけ忘れたみたいだな?」

63 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:53:14 ID:ODWv9E8E0

『なんで開いてるんだ……』

从 ゚∀从「今こんな状況だろ、もうすぐ大規模な戦闘になるかもしれねェ。いや、きっとそうなる。
      誰かがちょっと入ったってバレやしねェさ。まァ、これはほんの気持ちってことで」

 ハインリッヒは何枚かの紙幣を取り出し、兵士たちの手に強引に握らせた。

『しかしなあ……』

ミπ`−)「あー面倒くせえ、こうしようぜ。俺とハインは両手を後ろに回す。あんたらがそれを掴む。
     これで何か盗んだりできないだろ? それで妥協できないなら、上司よりも先に俺が怒るぞ」

 キッドが両手を腰の剣に添え、兵士たちを睨みつける。

『ま、待て待て、わかった。見るだけだぞ』

『……まあ、開いている扉だ、少しならいいだろう』

从 ゚∀从「さすが話がわかるゥ!」

 そのようなやりとりを経て、ハインリッヒとキッドはショボンの研究室に堂々と踏み入ることができた。
 ……当然ながら、その名を世界に轟かす『科学者』。これは全て計画通りの出来事である。

ミπ`−)(これでいいんだな? ハイン)

从 ゚∀从(あァ、頼むぜキッド。手筈通りに)

64 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:55:36 ID:ODWv9E8E0

【基地内の一室】

 質素な部屋。デルタに与えられた部屋と同じように、ベッドとサイドテーブル以外には何もない。
 ベッドに寝かされているのは一人の女性である。眠っている彼女の顔や首には包帯が巻かれており、
 布団や衣服に隠れている部分にも、恐らくたくさんの傷が残っているのだろうと思われる。

川 - )

 名はクール=フォン=アイリッシュ。連合国軍中尉である。

(´・ω・`)「少し前に壊滅した大隊の唯一の生き残りだよ、クール中尉は」

( ФωФ)「ああ……デミタス大佐の。全滅と聞いていたが」

(´・ω・`)「全滅でも語弊は無いさ。彼女も再起不能だから」

 ショボンは淡々と話しながら、テーブル上のカルテを取る。

(´・ω・`)「軍属の病院じゃ手に負えないから僕のところに運ばれてきたんだけど、大変だったよ。
     生きてるのが不思議なほどの重体でね、骨をくっつけるだけで丸一日かかったんだ」

( ФωФ)「今はどのような状態なのであるか?」

(´・ω・`)「意識不明。回復の見込みたたず。簡単に言えば植物人間だね」

65名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 00:57:02 ID:YhSlKEpY0
番外話では特別目立たなかったけどここで絡んでくるのか

66 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 00:58:10 ID:ODWv9E8E0

( ФωФ)「ふむ」

(´・ω・`)「現代の癒術ではこれが限界だよ。『マクスウェル』ならなんとかなるかもしれないけど」

( ФωФ)「逆巻く悪魔『マクスウェル』か。確かに彼ならば不可能ではないであろうが……。
        それは置いておこう。何故、天使が彼女を差し出すように要求しているのか」

(´・ω・`)「これは予想だけど。彼女は何か、天使側の重要な情報を握っているんじゃないかな」

( ФωФ)「なるほどな。我々の駆逐よりも彼女一人を確実に消したいというわけであるか。
        我々を全滅させるという手段も、彼らは選ぶことができるはずだが……」

(´・ω・`)「自軍に被害を出したくないんだろうかね」

 静かに眠っているクール中尉。
 顔色は悪いが、ただ単に眠っているようにしか見えない。

(´・ω・`)「さて、じゃあ人員を呼んで担架を運ばせよう」

( ФωФ)「え? ……天使側の要求を、呑むのか?」

(´・ω・`)「何か反対する理由でも?」

( ФωФ)「人道に悖る」

(´・ω・`)「……ロマネスク少将、それは冗談で言ってるんだよね?」

67 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:01:04 ID:ODWv9E8E0

(´・ω・`)「この基地にいる千人単位の命を、一人の命で救えるならば、安いものだろう?」

( ФωФ)「命は数の問題ではない。我輩は、認められないである」

(´・ω・`)「いくら君が僕と同等の立場だとしてもだね、ここの兵士は僕の方の命令に従うよ。
     君の部下は、あの竜使いの若者ただ一人だけだ。多勢に無勢にもほどがある」

( ФωФ)「…………」

(´・ω・`)「ふふん。君、プラズマン中将のことがトラウマになっているんだろう? 違うかい?
     自分を守るために誰かが死ぬという事実に耐えられないんだ。馬鹿みたいだね!」

 ロマネスクは黙ってショボンを睨みつける。

( ФωФ)「……口論の暇はないである。どうしても中尉を差し出すというのであれば、我輩が阻止する」

 向けられた敵意に対して、しかしショボンは、軽薄な笑みを返す。

(´・ω・`)「それにしても、君はなかなか良いことを言うね」

( ФωФ)「え?」

(´・ω・`)「命は数の問題ではない、か――確かにそうだ」


(´・ω・`)「一人死んでも、千人死んでも、僕の心は痛まない」

68 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:05:03 ID:ODWv9E8E0

【ケノル駐屯地・正門】

( ∴)

 鉄仮面の天使が力強く立つのは、駐屯地正門前の石畳。
 粘土細工の類人猿に似た下位天使が二体、彼の両脇を固めている。

( ∴)

 鉄仮面とローブに覆われた姿からは、その内に秘められた真実を見抜くことはできない。

 彼の者こそが、ゼアフォー=サンダルフォン。

|  ^o^ |「われわれ 通訳します ぜあふぉー様 お話をしませんので」

|  ^o^ |「多機能言語ソフト内蔵 汎用型ブームFⅡ です 今後ともよろしく」

 担架を押すロマネスクが正門に到着すると、下位天使が揃って口を開いた。
 醜い口から発せられる言葉は、他種の下位天使に比べれば幾分か流暢なものであった。

( ФωФ)「今後ともは、よろしくしたくないものであるな」

|  ^o^ |「ただ一人 交渉の場に赴いて頂き ぜあふぉー様は感謝されています」

|  ^o^ |「上位天使 セブンスフィアが一領域 ゼアフォー=サンダルフォン様 名乗られています」

69 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:07:17 ID:ODWv9E8E0

 セブンスフィア。上位天使。
 これで、ロマネスクが対峙した上位天使は、トソン・ヒート・ギコに続き四人目である。

( ФωФ)(短い人生に四人もの上位天使に遭遇するとは、我輩の悪運も類稀なるかな)

 ロマネスクが押してきた担架は、布がかぶせられているものの、人の形に膨らんでいた。

|  ^o^ |「その担架 要求した人物 ですか?」

|  ^o^ |「引き渡してください」

( ФωФ)「その前に確認させてくれ。彼女を渡せば、貴殿らはこのまま立ち去るのだな?」

( ∴)

|  ^o^ |「疑義を抱くのは 当然ですが さんだるふぉんの名に懸けて 本当です」

|  ^o^ |「なぜ その人物 要求するのか それは言えませんが」

( ФωФ)「うむ」

 ロマネスクは頷く。元より、向こうの意志を疑ってはいない。
 天使軍の力量は圧倒的であり、わざわざ策略を巡らせる必要もないのだから。

( ФωФ)「よかろう。持っていくがいいである」

70 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:09:40 ID:ODWv9E8E0

|  ^o^ |「それでは 交渉成立ということで」

|  ^o^ |「お互いに 有益な取引が できて うれしく思います」

( ФωФ)「是非もない。合理的に考えれば最適解は自明である」

 ニ体のブームが前に進み、担架を抱え込んだ。
 ロマネスクは一歩引き下がる。


( ФωФ)「――だが、人間は時として不合理な選択をする」


|  ^o^ |「え?」

 素早くロマネスクは後退し、大剣を構える。
 切っ先を相手に向ける通常の構えではなく、鎬を向けて盾のように。

 その時、担架に乗せられていた物体が爆ぜた。

|  ^o^ |「な」

 閃光と黒炎が溢れだし、天使たちを呑む。同時に、幾千もの鋭い破片が飛散し、天使の肉体を切り裂いた。

71 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:11:56 ID:ODWv9E8E0

 灼熱に焼かれ、爆風に千切られ、金属片に貫かれ、二体の汎用型ブームFⅡは即死する。

(;ФωФ)「ぐっ!」

 後退していたとはいえ、その爆発はロマネスクの身にも及ぶ。
 大剣を盾にして防御するものの、いくつかの破片が身体に突き刺さり、風圧で吹き飛ばされた。
 何回か地面を転がってから手をついて勢いを殺し、剣を杖代わりに立ち上がる。

 これが人間側の答え、ロマネスクとショボンの策略であった。

( ФωФ)(覚悟していても……やはり痛いな)

 肩と太股から異物を抜き取るロマネスク。苦痛で顔が歪む。

 あちこちから騒々しい音が聞こえてきた。爆発を狼煙として、基地から第一陣の部隊が打って出たのだ。
 ロマネスクの役目は、この場に上位天使を釘付けにして、命令を与えさせないことである。

 砂塵と煙が薄れ、視界が明瞭になっていく。

( ∴)

 その向こう。上位天使ゼアフォーが、ブームの臓物や肉片に囲まれて立っていた。

(;ФωФ)「無傷……」

72 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:14:02 ID:ODWv9E8E0

 その衣服こそ血の色に塗れているが、外傷があるようには見えない。
 無感情で無機質な鉄仮面がロマネスクを見据えている。

( ФωФ)「上等である」

 大剣を振るい、心を奮い立たせる。

( ФωФ)「少しだけ付き合ってもらおう、ゼアフォー=サンダルフォン」

( ∴)

 ゼアフォーが頷く。それは、彼が初めて見せた反応であった。

 衣服がはだけ、ゼアフォーの腕が露出する。細い腕にはびっしりと紋様の刺青。

( ФωФ)「!?」

 言いようのない恐怖にロマネスクの皮膚が粟立った。
 そして――ゼアフォーが、初めて、言葉を発する。


( ∴)「『構築』」


 それは、古の魔法。
 世界の七領域を司る者にのみ許された、法則を書き換える力。

73 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:16:23 ID:ODWv9E8E0

【中央棟・司令室】

(´・ω・`)「……始まった」

 大きな爆発音。開戦の合図は、基地全体に響きわたった。
 今頃は、先陣を切った百人余りの兵士達が、天使軍に向け疾駆しているはずだ。

 司令室にはショボンに加えて数人の将校、そしてハインリッヒとキッドが詰めている。

『第一突撃隊は接敵後反転し、囮となって第二実験場および第三実験場に向かいます』

『第二隊は遊撃が主な役割、多数の悪魔を召喚し突撃隊の機動を補助します』

(´・ω・`)「うん。良い作戦だ。さすがにロマネスク少将は戦いに慣れてるなあ」

从 ゚∀从「実験場て、なんです?」

(´・ω・`)「ウォルクシアにはあまり知られたくないんだけどね……」

 渋々ハインリッヒに説明するショボン。

(´・ω・`)「この基地には兵器開発部の試作品を評価するための実験場がいくつかあるんだ。
     現在、第二と第三には魔導地雷がいくつか埋まっている。それを利用するのさ」

ミπ`−)「地雷ぃ?」

从 ゚∀从「初耳ですね、どんな機構を使ってるんですか?」

74 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:19:34 ID:ODWv9E8E0

(´・ω・`)「基本は貴女が開発した技術だよ、ハインリッヒ嬢。魔法の保存と再生さ」

从 ゚∀从「囮で誘い込む……ということは、敵味方を区別して起爆するんですか?」

(´・ω・`)「いや? そこまでの技術はない。単純に、踏まれたら爆発するだけ」

ミπ`−)「へー、そりゃ楽しそうだな」

从 ゚∀从「特攻隊ってわけですか」

『天使の方が図体が大きく、数も多い。地雷を踏むのはヤツらの方だ』

『無論、癒士班も常に待機させている。負傷兵の搬送は第五隊に任せている』

从 ゚∀从(……あの大軍相手に、負傷者を運び出す余裕なんてあるのかねェ)

 ハインリッヒだけではない。連合国軍の人間も、理解してはいる。
 この戦いは――無傷では勝てない。

 むしろ、大きな犠牲を払わなければ、勝てない。

ミπ`−)「ようし、俺たちも出撃するか。いいよな?」

(´・ω・`)「……まあ、構わないけど。人手は足りてないし」

(´・ω・`)「頼むから死なないでくれよ。責任問題になるから」

75 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:22:32 ID:ODWv9E8E0

 司令室を後にし、ハインリッヒとキッドは通路を歩いている。
 時折、がちゃがちゃと装備を揺らす数人の兵士とすれ違う以外には、静かなものである。
 二人にはもう監視役は付いていない。余分な人員が割けない状況になったのだろう。

从 ゚∀从「ッたく、こうなるなら苦労して盗んでくる必要もなかったなァ」

ミπ`−)「おいおい、そんな大声で喋っていいのかよ?」

从 ゚∀从「皆さんお忙しいから平気だろ、っと、すいませんねェ」

 大きな盾を山のように積載した台車が前方からやってきた。
 二人は壁際に身を寄せて、巨大な台車とすれ違う。

从 ゚∀从「キッド、お前はロマネスク少将のところへ行け。いい機会だし上位天使を見てこい」

ミπ`−)「いいぜ、そう言うのを待ってたんだ。んでもハインはどうする?」

从 ゚∀从「ツンを探す。この騒ぎでうやむやになる前に確保しねェとな……」

ミπ`−)「そういやそれも目的だったな。つーか、俺ら、無事で帰れんのか?
     あれか、いざとなったらハインの瞬間移動で脱出すりゃあいいのか」

 ハインの瞬間移動。その魔法は、先日『ユグドラシル』の下で行使されたものである。
 科学者は、インクレク村からウォルクシアまで二千五百キロ余りを一瞬で移動してみせた。

76 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:24:44 ID:ODWv9E8E0

从 ゚∀从「無理」

ミπ`−)「なんでだよ。石持ってくんの忘れたってんじゃないだろ」

从 ゚∀从「あの魔法は莫大な魔力を要求するんだよ、オレとお前じゃ全然足りねェ」

ミπ`−)「どれくらい移動できる?」

从 ゚∀从「せいぜい百から二百メートルだなァ」

 使えねえ、とキッドは唾を吐き捨てる。しかし、その表情に苛立ちはない。

ミπ`−)「とりあえず俺は――サンダルフォンとかいう天使を殺しに行くか」

 キッドは通路の窓を開け、枠に足をかけて身を外に乗り出す。

从 ゚∀从「おい、もう行くのか?」

ミπ`ー)「兵は神速を尊ぶ、だろ? お前が教えた言葉だぜ、ハイン」

 そのままキッドは枠を乗り越えて五階分の高さを落下した。
 ハインリッヒは窓から外を見下ろすが、既にキッドの姿はそこにない。

从 ゚∀从「お前のは神速っていうか拙速なんだよ、キッド」

 さて、とハインは背伸びをする。

 戦いは始まっている。そして、やるべきことがたくさんある。

77 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:28:57 ID:ODWv9E8E0

≪溶明。二人の会話は途切れず、空白を埋めている≫


l从・∀・ノ!リ人「儂の本当の名を、本当の声を知りたいか?」

( ФωФ)「いや、我輩にとってそれは重要ではない」

l从・∀・ノ!リ人「ああつまらん奴じゃ。後で教えてくれと泣いて請うても知らんぞ」

 赤い、小さな舌をちろりと動かす。

l从・∀・ノ!リ人「それでは、そろそろ始めようかのう。おいロマネスク、我が主よ、よろしいか」

( ФωФ)「是非もあるまい」

l从・∀・ノ!リ人「よかろう――振り落とされるでないぞ、今日の宴は少々荒っぽいからの!」


≪溶暗≫


 第十七話:【( ФωФ)は逃げられないようです】 前編 了

78 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/16(水) 01:33:53 ID:ODWv9E8E0
今回は以上で終わりです、十七話は長いので前後編に分割することにしました。

それと、番外話の「すばらしきこのせかい」ですが、構想では前後編で投下するつもりでしたが、
構成上後編は投下しないことにしました。

毎度長いことお待たせしていますが、これからもお付き合い頂ければ幸いです。
支援ありがとうございます!

79名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 01:39:58 ID:YhSlKEpY0
色々動いてんな、ツンどうなるんだろ
妹者も気になるし後編はいつなんだ、乙

80名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 02:07:26 ID:CpX.PB2k0
おつ!
帰ってきてくれて嬉しいよ!

81名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 03:21:21 ID:9lzwrwzc0


82名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 04:11:02 ID:ql/CPcHs0
まじでかよ愛してる

83名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 04:58:04 ID:9rehQuPQ0
帰ってきてたのかよ。まじで嬉しい

84名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 10:09:04 ID:280dMi1E0
というかいつの間に15・16話投下してたんだ……
てっきりまとめはオムさんだと思ってたから全然知らんかった

85名も無きAAのようです:2014/07/16(水) 18:35:38 ID:OSAXrsaw0

よく帰ってきてくれた
今過去話を読み返してるからこの話を読むのがwktkだ

86名も無きAAのようです:2014/07/17(木) 18:53:55 ID:91wyvKi20

上位天使がいるのに割りと余裕気味だが出落ちにならない事を祈るw
しかしショボンいいキャラしているわ…

87名も無きAAのようです:2014/07/17(木) 19:08:06 ID:GIZxYPLU0
やっべ、全然覚えてねぇよストーリー
なんか蟲召喚して攻撃してるやつが居た話だっけ?

88名も無きAAのようです:2014/07/18(金) 12:46:30 ID:4Kg.rWfE0
そうだよ

89名も無きAAのようです:2014/07/19(土) 11:54:29 ID:aKC58wG.O
ロマが最初出番すぐ終わるキャラかと思ってたらしばらく主人公で困る

90 ◆BR8k8yVhqg:2014/07/20(日) 14:15:34 ID:u/9yu4Gs0
乙ありがとうございます!
後編の投下時期は未定ですが、だいたい固まってはいるので夏から秋にかけてを目指しています。

91名も無きAAのようです:2014/07/20(日) 20:24:38 ID:CQiNTGaQO
うわああああ懐かしいと思ったら結構投下されてたんだな
嬉しい、乙乙

92名も無きAAのようです:2014/07/20(日) 23:43:52 ID:Puscn4iA0
マジで楽しみに待ってます!!

今更だけどしぃは完全に他人の空似だったのかw

93名も無きAAのようです:2014/07/24(木) 05:09:21 ID:ZgdYDlQA0
まとめ昨日今日で読み返した。
まってたぜ。

94名も無きAAのようです:2014/07/25(金) 02:06:36 ID:idqdtggw0
マジでマジでマジで
お前をずっと待ってたんだよ
まさか帰ってくるとは

95名も無きAAのようです:2014/07/25(金) 23:50:14 ID:IEoI5LOA0
おつおつ
復活嬉しいわ

96名も無きAAのようです:2014/07/31(木) 12:20:46 ID:498ls4lk0
……本気でまってたかいがあった!

毎日が楽しみだwktk

97名も無きAAのようです:2014/07/31(木) 15:54:08 ID:dYHjzk6Y0
来てたんか!?
待ってたよ!!wktk

98名も無きAAのようです:2014/08/01(金) 19:36:26 ID:t3wEA8v.0
待ってたよ!本当に!

99名無しさん:2014/08/02(土) 16:02:20 ID:5XmsPz/A0
(-`ω´- )

100名も無きAAのようです:2014/08/30(土) 21:35:35 ID:FaNm.QUA0
懐かしいな
また1から読み直そう

101 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 02:22:42 ID:O1n28dTk0
2月は秋ですよ常識ですよ

というわけで書き上がったので今日か明日には投下します。

102名も無きAAのようです:2015/02/13(金) 03:17:51 ID:/3uKr9wk0
ポギョギョwww

待ってたよー!楽しみ!

103名も無きAAのようです:2015/02/13(金) 08:39:40 ID:Aq/smdhIO
ありがたやありがたや

104名も無きAAのようです:2015/02/13(金) 09:17:51 ID:fkjh9pD20
やったー
バレンタインプレゼントだね

105 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:01:10 ID:O1n28dTk0
お待たせいたしました。
第十七話後編を投下します。

106 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:03:16 ID:O1n28dTk0

「汝ら怠惰なり。我と共に立ち上がり戦え」

 悪魔の宰相にして闇に棲むもの、ルキフゲ・ロフォカレはそう述べた。

 従う者はなく、皆が彼を疎んじた。

「致し方なし」

 ルキフゲ・ロフォカレは、眷属も置いて唯独り、天空へと消えていった。

 彼の者の最期は伝説、寓話で語られるのみ。

 死して屍拾うもの無し。

 合掌。


.

107 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:05:32 ID:O1n28dTk0

 儚き声に、決して振り返ることなく。


( ・∀・)悪魔戦争のようです


第十七話 【( ФωФ)は逃げられないようです】 後編

108 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:09:30 ID:O1n28dTk0

 ロマネスクが気勢を上げる。

( ФωФ)「はっ!」

 しかし、彼の大剣は天使を捉えられず中空を薙いだ。

 ロマネスクの近接戦闘における技術は、連合国軍でも五指に数えられるレベルである。
 良家の生まれであるとはいえ、後ろ盾や権力を持つわけでもない彼が若くして少将にまで上り詰めたのは、
 その並外れた戦闘力に因るところが大きい(とはいえ、休戦中にはその力を発揮できなかったが)。

 そのロマネスクが、ゼアフォー=サンダルフォンに傷一つ与えられない。

(;ФωФ)(やはり上位天使、圧倒的である)

 頬の傷から流れる血を手の甲で拭い、ロマネスクは剣を構え直す。
 かつてヒート・トソンと対峙した経験はあるが、目の前の鉄仮面はそれ以上の存在に思えた。

 真っ直ぐに大剣を突き入れる。ゼアフォーは両手に持つ剣でそれを防ごうとする。
 しかし鉄塊の質量とロマネスクの膂力を受け止めきれず、剣は二本とも砕け折れる。

( ∴)「『構築』」

 ――が、次の瞬間には、ゼアフォーは新たな武器を手にしていた。

( ФωФ)(次は槍と盾であるか……)

 どうやら『構築』という古魔法は、物質を瞬時に錬成する魔法であるらしい。
 ロマネスクの大剣をも超える長槍と楕円形の盾を手に、ゼアフォーはゆらりと動く。

(ФωФ;)「くっ」

 激しい連撃を避けきれず、ロマネスクの体には裂傷が増えていく。

109 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:12:05 ID:O1n28dTk0

 ここまでの戦闘で、ゼアフォーは『構築』以外の魔法を使っていない。
 信念なのか性質なのかはわからないが、この事実はロマネスクにとって嬉しい誤算であった。
 ヒートのように強力な魔法を駆使してこないならば幾分か対策が立てやすい。

 ただし、体術のみに限定してもなおロマネスクの手が届かない、という事実は。
 決して想定外であったわけではないものの、歓迎できない話である。

(;ФωФ)「はぁ、はぁ、ぐっ……」

 みしり。と、大剣に亀裂が走る。
 持ち主であるロマネスクの体にも、もはや数え切れぬほどの傷が刻まれている。
 指はまだ飛んでいない。剣を握り直すが、握力の方が限界に近づいてきていた。

( ∴)

 上位天使はまた新たな武器を創造する。次は、刃渡りが人の頭ほどもある斧である。

 油断していたわけではない。むしろ、考えられる限り最良の戦い方を選んでいる、にも関わらず。
 ロマネスクは、ゼアフォーの体どころか、その衣服にすら触れられずにいる。必然の劣勢。

( ФωФ)(妹者がいてくれれば……)

 そう考えてしまった自分の情けなさに、思わず苦笑した。
 これではまるで、身勝手に捨てた昔の女にすがろうとしている、下らない男ではないか。

 やはり――負けられぬ。
 これしきの苦境で挫けていては妹者に、プラズマン中将に、申し訳が立たぬ。

110 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:15:32 ID:O1n28dTk0

ミπ`ー)「よう、苦戦してんじゃねえか、おっさん」

 ロマネスクの隣に、そう言いながら並び立つ者があった。にやにやと緩い表情の若い男。
 N=キッド=M=ジンラグ=フロア、ウォルクシアの「用心棒」である。
 背負う武器が擦れあい、じゃらりと金属音をたてた。

( ФωФ)「何用であるか」

ミπ`-)「冷たいな。もう無駄口叩く余裕もないってわけ?」

 ゼアフォーは動かず、注意深くキッドを観察している。

ミπ`-)「まあ下がってろよ!」

 キッドも負けじと睨み返す。その眼には、隠すべくもなく闘志が燃えている。

ミπ`-)「俺の前にいたら、ついうっかり殺しちまうかもしれねえからな」

( ФωФ)「…………?」

 ロマネスクが眉根を寄せたのは、キッドの言動に対してのことではない。
 彼の身体――特に、肩から腕の辺りにかけて――の輪郭が、歪んだように見えたからだ。
 体力が消耗しすぎて、自分の目がおかしくなってきたのか? ロマネスクがそう勘違いするのも無理はなかった。

ミπ`-)「行くぜ、天使様よ――――」

 両腕を振りかざし、背負う剣の柄を握る。

ミπ`-)「詠唱ォォ省略ッ! 『アシュラ』! 『オピストゴネアータ』!」

 次に、腰に差す二本の刀を。

 そして、脚に仕込んだ二本のナイフを。

 「新たに生えた」「二対四本」の「腕」が、掴み、抜き放ち、握り締める。
 六腕で六刃を構えるその姿は――もはや、怪物のそれに近いものであった。

111名も無きAAのようです:2015/02/13(金) 21:16:23 ID:vlUjGVDY0
ずっと待ってたんだからな!支援!

112 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:18:08 ID:O1n28dTk0

ミπ`-)「おらァ!!」

( ∴)「!」

 白刃の竜巻。
 キッドの剣技は、誰にも真似できぬその神髄は、単純にして明快であった。

 ただひたすら剣を振るい、刀を放ち、ナイフを投げ、切り裂き叩き折り砕き潰す。
 攻撃は最大の防御――理論とも言えないようなそれこそが、彼が持つ本質。やられたらやり返せ。やられる前にやれ。

( ∴)「ッ……」

 ゼアフォーは早々に大斧を放棄し、盾と短剣を新たに創り出して攻撃を受け止める。
 キッドの圧倒的な手数は、上位天使をもってしても、防御に専念せざるをえないほどの暴風であった。

ミπ`ー)「はははァ! どうしたどうしたっ!」

 欠け、折れ、役目を終えた武器は躊躇なく捨てる。
 その身体に装着された無数の武器から一つ選び、新たな切っ先を再び敵へと向ける。

ミπ`-)「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!!!」

( ∴)「『構築』『構築』『構築』『構築』『構築』『構築』『構築』」

 加速に加速を次ぐキッドとゼアフォーの交剣は瞬く間に千を数え、弾ける火花が空中に輝線を描いた。

 キッドは武器を、ゼアフォーは魔力を、それぞれ急速に消費していく。

113 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:21:31 ID:O1n28dTk0

 一人の人間が身につけられる武器の数では、上位天使の魔力には遠く及ばない。
 しかしキッドの鬼気迫る気力が、防御に微塵も気を回さない覚悟が、一時的にゼアフォーを圧倒した。

( ∴)「!?」

 隙を縫って差し込まれた剣が、ゼアフォーの脇腹を抉る。

ミπ`-)「よう! 上位天使様も、赤い血を流すんだな?」

 油断したキッドの顔面にゼアフォーの蹴りが入り、軽い身体が吹き飛ばされる。
 ごろごろと地面を転がり、ロマネスクの足下で止まった。

( ФωФ)「大丈夫か?」

ミπ`-)「おーいてぇ、軽口叩いてる場合じゃなかったな。鼻血出てねえ?」

 ロマネスクが差し出した手を、キッドは三本の手で掴んだ。

ミπ`-)「しかしちっと疲れたな。どうだおっさん、選手交代と……ん?」

 浮かべていた笑みが消えてしまうほどの、はっきりと形をもつかのような怖気が走った。
 ゼアフォーが発する膨大な魔力と、息苦しい濃厚な空気が漂う。

( ∴)「『魂の構築』」



  _
( ゚∀゚)「おっ、久々に出番ですか」


 ゼアフォーの前に立つ男は、状況にそぐわぬ明るい声で言った。

114 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:25:25 ID:O1n28dTk0

【基地内・中央棟三階通路】

 その邂逅は、お互いにとって想定していない状況であった。

从 ゚∀从「……おっ」

( "ゞ)「ハインリッヒ……さん」

 ツンを探していたハインリッヒと、現状を把握するため歩き回っていたデルタ。
 共に世間話を楽しめるような気分ではなかったが、出逢ってしまっては仕方がない。

从 ゚∀从「意外と驚かねェな。オレがここにいるって知ってたのか?」

( "ゞ)「ええまあ、色々ありましてね」

从 ゚∀从「相変わらず聡いねェ……」

 兵士がロマネスクに来客を告げた際、デルタはベッドの下に隠れていた。
 その後の基地内の混乱はデルタに都合よく働き、咎められることもなく探索できていたのだった。

( "ゞ)「ハインリッヒさんには聞きたいことがいくつかあります」

从 ゚∀从「だろうなァ。だが、すべてに答えてる時間はないんだ」

( "ゞ)「……では一つだけ。あなたは、ツンをどうするつもりですか?」

 ハインは口角を歪めた。デルタは――この少年は本当に賢く面白い奴だ、と思った。

从 ゚∀从「戦えるようにするのさ」

115 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:30:28 ID:O1n28dTk0

 正直に話す必要はなかった。むしろ、ハインリッヒの行為は機密の漏洩にあたる。
 だが――現状の説明を求めるか、ズーパルレでのことを糾弾するための質問も、デルタには選べたはずだ。
 それでいて彼が選んだ質問は、客観的に見ても優先度が低いものであった。

从 ゚∀从「魔人は貴重だ。確保して戦力にしろと、ウォルクシアは望んでいる」

( "ゞ)「どうして今更そんなことに?」

从 ゚∀从「生まれた時から、ツンの能力は監視下にあった。限られた人間だけがそのことを知ってた」

 オレにも知らされていなかった、若いからかねェ――と科学者は言う。

从 ゚∀从「ま、ある人物が反対して、とりあえず兵器利用はしないってことになってたんだがなァ。
      ズーパルレでの事件があって、国王が決めちまった。利用できずとも、魔人は管理下におくと」

( "ゞ)「本人の意向は無視ですか」

从 ゚∀从「怒るなよォ。オレは悪いと思ってるんだぜ? こうなったのはオレのせいだからなァ。
      だからこんなキャグレイとかいうクソ遠いところまで、こうして直々に迎えに来てるんだ」

从 ゚∀从「それにさ、むしろここにいる方が危ないかもだぞ」

( "ゞ)「正直に話してくださってありがとうございます」

 ハインリッヒの言葉を遮り、デルタは溜息を一つ吐いた。

116 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:35:44 ID:O1n28dTk0

( "ゞ)「あなたは権力も実力も持ち合わせていて、根のところでは良い人だと思います。
     でも、ツンの運命を強制することは許せません。彼女自身に選ばせるべきです」

从 ゚∀从「正論だねェ」

( "ゞ)「僕らはモララー君を捜しに行かなくちゃいけないんです。戦争に関わっている暇はありません。
     あなたがツンを連れていくと言うのなら、僕は……それを認めることは絶対にできない」

 デルタは短い呪文を詠唱し、粗末な剣を虚空から取り出した。
 両手で剣を握りしめる。

从 ゚∀从「やめとけ」

 問答無用とばかりにデルタは剣を振り上げ、科学者に切りかかった。

 少年が、それも病み上がりが振るう剣である。
 ハインリッヒは事もなくそれを避け、軽く脚を上げた。

(;"ゞ)「うぐっ」

 赤く堅い靴が鳩尾を鋭く抉る。
 デルタの顔に苦悶の表情が浮かび、剣を取り落とす。

 ハインリッヒはもう一度、今度は顔面を、脳が揺れるように蹴り飛ばした。

从 ゚ー从「若さもそこまでいくと笑えねェ」

 気絶したデルタを見下ろし、独りごちる。

从 ゚∀从「……まァ、オレが悪役になってやっから、好きなだけ頑張ってみろよ」

117 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:42:09 ID:O1n28dTk0

【ケノル駐屯地周辺・戦場】

 闘争は苛烈を極めた。

 あちこちに肉塊や臓物や何かわからないものが転がり、潰れ、弾けている。
 足を踏み出せば血溜まりが跳ね、死者は汚泥に塗れて沈んでゆく。

「軍曹! ギェンが死にました!」

 多数の獣型悪魔を従える男が、喧噪にかき消されないように叫ぶ。

「くそっ……! 限界だ、撤退するぞ! 基地に支援を要請しろ!!」

 軍曹と呼ばれた男が声を張り上げる。
 眼前に迫った下位天使に槍を突き刺し、引き抜き、もう一度突き刺した。

「ダメです、狙撃手は空中戦で手一杯です!」

「そうか」

 天使の巨大な死骸を蹴り飛ばした軍曹は、周囲の部下に指示を飛ばす。

「ノーティ! ナーハ! 『ゴーレム』を先行させて退路を確保しろ。実験場に向かう」

「了解!」

「コッヴは俺と後尾で迎撃だ、残りは先頭二人を守れ、死んでも守り切れよ!」

118 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:45:34 ID:O1n28dTk0

 召喚された二体の『ゴーレム』を先頭に、部隊は撤退を始める。
 無数の下位天使によって緩やかに包囲されている状況であったが、岩の巨人が強引に突破口を開く。

 下位天使は人に比べて大きく、強靱で、恐れを知らぬ優秀な兵士である。
 しかし『ゴーレム』はさらに大きく数倍も頑丈な手足を振るって、下位天使を弾き飛ばしていく。
 地響きを轟かせながら、巨人は敵味方の死骸を踏みしめて一歩ずつ進んでゆく。

 その時、後方より飛来した光弾が『ゴーレム』の背中で炸裂した。

「敵方の砲撃!」

 二体の『ゴーレム』に十を越える光弾が殺到し、次々と爆発の華を咲かせる。
 岩の体にはヒビが入り、砕け、削れてゆく。
 ついに『ゴーレム』は崩れ落ち、悪魔の死骸を乗り越えて天使たちが迫り来る。

「くそ、もう一度召喚を――」

 軍曹が前方に振り向いた時、既に召喚者ノーティとナーハは天使の波に飲み込まれていた。
 首がねじ切られ、胴体に鋭い爪が突き刺さり、これ以上ないほどに死にながら倒れ伏していく部下たちが見えた。

「ああ……」

 軍曹が思考できたのは数秒ほどの短い時間であっただろう。
 故郷の家族、夕暮れ、出来の悪い部下、温かいスープ、悪魔との契約、天使。

 人生のすべてが脳裏を走った。
 数秒の後、現世との別れを迎える寸前に彼が遺した言葉は、自身ですら驚くようなものだった。

「神よ」

 それを聞いた者はいない。 否、いなくなった。

119 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:48:52 ID:O1n28dTk0

ミπ -)

( Фω )


 キッドとロマネスクはおびただしい量の血に塗れ、泥がぬかるむ中倒れ伏していた。
  _
( ゚∀゚)「いやー、こいつら弱すぎんな」

(-@∀@)「それは違う。僕たちが強すぎるんだよ」

 ジョルジュとアサピー、二人の軍人はその台詞を言い放つが早いか、体が肉塊となって崩れ落ちる。
 汚物の山の向こう側に佇むは、鉄仮面の上位天使。

( ∴)

ミπ`-)「好き勝手……言い……やがって……」

 キッドは右頬に冷たい大地を感じつつ、血混じりの痰を吐き出した。
 立ち上がろうと頭では考えるが、指の一本に至るまで言うことを聞こうとしない。

ミπ`-)「……もう五十回はてめえら……殺したっつーの」

120 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:51:28 ID:O1n28dTk0

 かすむ視界がかろうじて捉えているのは、同じように倒れている大男。

ミπ`-)「ようおっさん……あいつら何なんだよ、ゾンビか……?」

( ФωФ)「……わからんが、死者の姿形を利用、しているのは……間違いないであろうな」

 ロマネスクは彼ら二人と面識があった。全滅したデミタス隊に所属していた、有望な兵士だったはずだ。
 別段に親しかったわけではないが、向こうもロマネスクの顔は知っている。

( ФωФ)(姿、能力……性格。生きていた頃とほぼ変わらないが、まさか本当に魂を作っているわけでは……)

 しかし、どうやら生前の記憶はなく、天使に使役される状況に違和感もないらしい。
 倒しても倒しても、ゼアフォーは新たに二人の死者を構築してみせた。

ミπ`-)「はぁ……キツいぜ全く」

 拳で体を支え、なんとか膝をつこうとするキッド。
 その懐から何か小さなものが転び出て、地面を跳ねて落ちた。

ミπ`-)「あ、無理。げっほ」

 血反吐を吐いて呻くキッドよりも、彼が落としたものの方にロマネスクは目を奪われた。
 それは、その紅い石は、血溜まりの中で、笑うように妖しく煌めいていた。

( ФωФ)「『血魂石』……?」

 世界が ぐるりと  回る。

121 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:56:33 ID:O1n28dTk0

 刹那の後、自分が広大な部屋の中央に座っていることに、ロマネスクは気付いた。
 部屋は何もかもが赤く染まっていた。壁も、天井も、床も、二つの椅子も。

 対面の椅子には、この部屋の中で唯一赤くない少女が膝を抱えて座っている。

l从・∀・ノ!リ「久しぶりじゃな、ロマネスク」

 『ヴァンパイア』妹者は、金髪の先を指で弄びながら、退屈そうに話しかけた。

( ФωФ)「……ここは?」

 ふん、全くお主は、と妹者が笑う。白い顔の口元に、小さな牙が覗いた。

l从・∀・ノ!リ「底抜けに愚かじゃのう。これほど血をもらっても飲みきれんわ」

( ФωФ)「貴様――今まで、何をしていた?」

l从・∀・ノ!リ「ふん! 以前にも言ったがな、儂のことを貴様などと呼ぶでない。儂の名前は――」

 紫鬼の舌先から血の雫が垂れ落ちる。

l从・∀・ノ!リ「――妹者、じゃ。他の何者でもない。忘れてくれるなよロマネスク、儂の"元"主よ」

( ФωФ)「…………」

 ここは妹者の精神世界か何かであろうか。
 思えば、ロマネスクの体にあるはずの無数の傷も綺麗さっぱり消えている。

122 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 21:59:39 ID:O1n28dTk0

( ФωФ)「手を貸してくれるのであるか?」

l从・∀・ノ!リ「何故そう思う? "元"主よ。儂が手を貸してやる理由などあろうか?」

 唇を尖らせる妹者。

l从・∀・ノ!リ「せっかくの好意を無碍にされた記憶もあるしのう、薄情者め」

( ФωФ)「……ふっ」

l从・∀・ノ!リ「なんじゃ、何を笑うておる、殺すぞ」

( ФωФ)「いや、失礼。我輩よりよほど年上なのだろうが、まるで子供のようであるな」

l从#・∀・ノ!リ「はああああああああ!?? おぬっ、お主、この儂を子供じゃと!?」

l从#・∀・ノ!リ「生意気で分別もつかず不合理で非常識で泣き喚き反省せず愚図で無能なクソガキじゃと!!?」

( ФωФ)「いやそこまでは……」

l从・∀・ノ!リ「ふっ、ふん。ふっふっふ。よかろう。その安い挑発にのってやろう。後悔するなよ」

( ФωФ)(挑発したつもりはなかったのであるが)

l从・∀・ノ!リ「指をよこせ、ロマネスク」

123 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 22:03:26 ID:O1n28dTk0

 ロマネスクが左手を差し出すと、妹者はその薬指を口に含んだ。
 ぷち、と妹者の牙が皮膚を突き破り、赤い血潮が流れだす。

 小さな舌が薬指の腹を舐める。
 たっぷりと味わったあとに妹者が口を離す。指先と唇に赤い唾液が糸を引いた。

l从・∀・ノ!リ「再契約じゃ」

( ФωФ)「……すまんな。助かるである」

l从・∀・ノ!リ「言っておくが、また勝手に契約を解除しようものならお主の首を引きちぎるからな」

( ФωФ)「構わん。我輩も覚悟を決めた」

( ФωФ)「どちらかが死ぬべき時まで、共に戦おう」

l从・∀・ノ!リ「…………主」

l从・∀・ノ!リ「儂の本当の名を、本当の声を知りたいか?」

( ФωФ)「いや、我輩にとってそれは重要ではない」

l从・∀・ノ!リ「ああつまらん奴じゃ。後で教えてくれと泣いて請うても知らんぞ」

 赤い部屋が徐々に溶け始め、形が保たれなくなってゆく。

l从・∀・ノ!リ「それでは、そろそろ始めようかのう。よろしいか」

( ФωФ)「是非もあるまい」

l从・∀・ノ!リ「今日の宴は少々荒っぽいからの。振り落とされるでないぞ、ロマネスク!」

l从・∀・ノ!リ「さあ――――儂の名を呼べ!」

( ФωФ)「我輩の力となれ、『妹者』!!」

124 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 22:08:26 ID:O1n28dTk0


( ∴)「…………」

 ゼアフォー=サンダルフォンは、今まさにキッドの息の根を止めようとしていた。
 いつの間にか消えているロマネスクの事を気にかけている様子もない。

 人間二人分の質量はあろうかという巨大な斧を、ゆっくりと振りかぶる。

 そして。

l从・∀・ノ!リ「そこまでじゃ」

( ∴)「!」

 衝撃が走り、ゼアフォーは斧を取り落とす。妹者が放った血の刃が、彼の両手の掌を貫いていた。

 鉄仮面が妹者とロマネスクの方を向く。

l从・∀・ノ!リ「暑い。まだ太陽が出ておるではないか」

( ФωФ)「すまんな」

l从・∀・ノ!リ「あそこに転がってる半死人は助けた方がよいかの?」

( ФωФ)「できれば頼む」

l从・∀・ノ!リ「あい任せろ」

125 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 22:11:47 ID:O1n28dTk0

 妹者が地を蹴り駆け出すと、その矮躯からは大量の血液が迸る。
 背中には鷹の翼。両腕に虎の爪。紅い体液が妹者の体を覆ってゆく。

l从・∀・ノ!リ「――――はっ!」

 一羽撃きごとに妹者は加速し、迅雷の速度でゼアフォーに迫る。

( ∴)「『構……ッ!」

 妹者の巨大な掌が天使の身体を掴み、拘束する。
 爪は長い鎖へと変形して絡まりあい、さらに強い力で締めあげてゆく。

l从・∀・ノ!リ「ロマネスク! そいつはお主が運べ、体は動くじゃろう!」

 拘束具から細い腕を引き抜き、妹者は能力『赤の誓約』を全力で展開し始める。

( ФωФ)「お……応」

 妹者の言うとおり、ロマネスクは自身の体をやけに軽く動かすことができた。
 おそらく妹者の血が体内に入って作用しているのだろう、と考えながらキッドのもとへ急ぐ。

ミπ`-)「おっさん、悪いが肩を貸してくれよ」

( ФωФ)「……回復が早いな」

 武器を使い果たしたキッドの小柄な体を、ひょいと担ぎ上げるロマネスク。
 斬られたのか消えたのか、生えている腕も今は二本だけに戻っているようだ。

ミπ`-)「そういう体質だからな。しかしあんたの使い魔、ありゃ強いぜ」

126 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 22:15:33 ID:O1n28dTk0

 ゼアフォーの『構築』は瞬時に物質を創り出す古魔法である。
 鉄塊のような単純な物質ならば、いくつも同時に巨大なものを出現させることができるが、
 「意味」や「効果」などをもつ複雑なものだと、極端にサイズを制限されてしまうことになる。

 「自身が殺害した生物を再現し操作する」という複雑さにもなれば、人間大のものを同時に二つ。
 先に見せた『魂の構築』では、実のところそれが限界なのであった。

( ∴)「『構築』」

 武器を用いての近接戦となれば、膨大な魔力を持つゼアフォーに対抗できる者は少ないだろう。

l从・∀・ノ!リ「えらく無口じゃのう! 前の上位天使はもっと喧しかったがな!」

 だが、この場では、わずかに妹者が優勢に立っていた。

 ロマネスクやキッドとの戦いが、ゼアフォーに疲労を蓄積させていたのかもしれない。
 『魂の構築』による魔力の消費が大きく、余剰魔力を節約せざるをえないのかもしれない。
 あるいは、単純に妹者の気勢と迫力が圧倒的であったのかもしれない。

 いずれにせよ、妹者の『赤の誓約』に対するゼアフォーは、防戦を強いられているように見えた。

l从・∀・ノ!リ「『乱紅蓮』!」

 鷹の翼を前方に振るうと、羽根の一枚一枚が抜け落ちて微細な刃となる。
 妹者が指さす方へ――その刃は、意志に呼応する一陣の疾風。

127 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 22:19:51 ID:O1n28dTk0

 防御態勢のゼアフォーを飲み込んで、赤い暴風が走り抜けた。

( ∴)「ッ……」

 急ぎ構築した盾は、天使の体を覆い隠すのに十分な大きさではなかった。

l从・∀・ノ!リ「痛む時には叫ぶがいい! 『常盤楓』!」

 妹者が指を打ち鳴らすと、ゼアフォーに突き刺さった刃が震動し破裂する。
 全身でいくつも引き起こされた爆発は、皮を剥ぎ、肉を削ぐ。

( ∴)「…………」

 致命傷にはほど遠い。胴や頭には傷一つ与えていない。
 しかしそれでも、妹者の攻撃は、ゼアフォー=サンダルフォンを押し止めていた。

( ФωФ)(これは……もしや、勝てる?)

 そう、妹者は上位天使の一人であるトソン=WB=バラキエルにも負けてはいない。
 あの場にギコ=シャティエルが現れるという事故がなければ、おそらく勝っていた。

 上位天使に単独で対抗できるほどの力をもつということ。
 それは、上級悪魔といえども少数しか存在しない強者の証である。

 ロマネスクの家柄。才能。人脈。体格。それに妹者という悪魔の庇護が加われば。
 軍の最上部に近い地位に登り詰めることも、あるいは不可能ではないのだろう。

128 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 22:24:46 ID:O1n28dTk0

 ゼアフォーは踵を返し、脱兎の如く逃亡を図る。

( ФωФ)「追うな!」

 勝てる可能性はある。しかしここで万が一にも妹者を失うわけにはいかない。
 逃走する敵を追跡しない――というロマネスクの判断の根底には、そのような考えがあったのかもしれない。

l从・∀・ノ!リ「何故じゃ! ここで逃がしてなんとする!」

( ФωФ)「妹者、周囲をよく見るである。我々も離脱すべきだ」

 今まではゼアフォーが遠ざけていたのだろう、下位天使がロマネスク達を包囲している。

l从・∀・ノ!リ「乱戦は望むところじゃ。……しかし、我が貧弱な主は耐えられぬかのう」

 致し方あるまいな、と妹者は呟く。

l从・∀・ノ!リ「儂が道を開こう」

( ФωФ)「すまんな。キッド、歩けるか?」

ミπ`-)「殺す気かよ」

l从・∀・ノ!リ「言っておくが、お主等を担いで飛ぶことはできんぞ。自分の道は自分で歩け」

( ФωФ)「……そういえば、キッド。何故『血魂石』を持っていた?」

ミπ`-)「あー、そのこと、訊かねえでくれ」

( ФωФ)「……まあ、よかろう。結果として助かったのであるから」

129 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 22:28:17 ID:O1n28dTk0

【基地内の一室】

从 ゚∀从「ようやく見つけたぜ、ツン」

 ハインリッヒを出迎えたのは、ツンの無表情であった。

从 ゚∀从「そう怖い顔すんなよ。お姉さん傷ついちゃうなァ」

ξ゚⊿゚)ξ「ハインリッヒさん。何しにここへ?」

从 ゚∀从「迎えに来たんだ。ウォルクシアに帰りたくないか?」

 ツンの表情は困惑に変わった。硬いベッドの上で膝を抱く。

ξ゚⊿゚)ξ「あなたが何を考えているのか、わかりません」

从 ゚∀从「オレの意思じゃねェ。……いや、ズーパルレであんな事があって、信用できないのもわかる」

ξ゚⊿゚)ξ「そりゃそうですよ。私たちを吹き飛ばしておいて……モララーは行方不明だし……」

从 ゚∀从「モララーか」

 ツンは、何としてでも連れて帰らなくてはいけない。それがハインの使命だ。

从 ゚∀从「モララーなら無事だぜ。ウォルクシアにいる」

ξ゚⊿゚)ξ「え!?」

130 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 22:30:39 ID:O1n28dTk0

 もちろんツンに真偽を確認する手段は無い。
 デルタならばこの程度の嘘は見抜いてくるだろうが、この場にはいない。

从 ゚∀从「さっきデルタにも会ったんだがなあァ、あいつも体を治ったら帰るってよ」

ξ゚⊿゚)ξ「デルタが? えっと……本当に?」

从 ゚∀从「あァ。実を言うとな、オレをここに派遣したのはオレの親父なんだ」

从 ゚∀从「キングポップ=O=エンジン。魔術士養成所所長。オレの親父」

ξ゚⊿゚)ξ「エンジン所長が? ……そう言われると、どことなく似てるような」

 この親子関係は歴とした事実である。たくさんの嘘に事実を混ぜると、どれも真実のように見えるものだ。

从 ゚∀从「親父はさ、生徒を保護するのは自分の役目だとか言ってたな」

从 ゚∀从「多少は信じる気になったか? 身分証を見せてやってもいいぜ、親父の名刺も持ってる」

ξ゚⊿゚)ξ「いや……、そうですね……」

 逡巡した後、顔を上げて科学者の目を見据える。

ξ゚⊿゚)ξ「わかりました。ここにいるよりは、ウォルクシアの方が安心できそうだし」

从 ゚∀从「よし。じゃあまァ――後で迎えに来るから、この部屋で待っててくれ」

131 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 22:34:04 ID:O1n28dTk0

【中央棟・司令室】

 誰がどう見ても、戦況は悪いに違いなかった。

(´・ω・`)「まずいなあ」

 そもそも、天使との大規模な白兵戦などそう頻繁に発生することではない。
 休戦期間があったこともあり、この駐屯地に天使との実戦経験のある兵は多くなかった。

(´・ω・`)「この基地は防衛戦なんて想定してないんだよね……」

 司令室に飛び込んでくる報告は概ね危機的なものであった。
 部隊の損傷、半壊、壊滅。あらゆる部署での人手不足。彼我戦力差の拡大。
 それでも報告があるだけまだマシな方であり、報告すら行われないような領域で、
 もっと悪い何かが進行していることは明らかであった。

(´・ω・`)「勝算があってこの戦いを始めたんだと信じてるよ、ロマネスク?」

从 ゚∀从「ちょっと失礼しますよ〜ッと」

 騒然としている司令室の扉が開き、派手な格好の女がずかずかとショボンに迫ってきた。

(´・ω・`)「何か用ですか?」

从 ゚∀从「露骨に嫌そうですねェ」

(´・ω・`)「この忙しいときにあんまりうろちょろされるとね」

从 ゚∀从「まあまあ。どうも戦況が悪いようだし、ここは一つ協力してさしあげようかと思いましてね」

132 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 22:37:37 ID:O1n28dTk0

(´・ω・`)「協力。あなたが前線に出てくれるんですか?」

从 ゚∀从「いやいやオレはそんなに強くないですし?」

 それは韜晦が過ぎるな、とショボンは口を歪めて笑う。

『ロマネスク少将、ご帰還なされました!』

 数名の部下に付き添われ、ロマネスクの長身が司令室に姿を見せた。
 あちこちの傷はもはや隠しようがなく、応急処置で足りるとは思えない状況である。

(´・ω・`)「おや、少将。今にも死にそうだ」

( ФωФ)「実際死にかけたである。今も『ヴァンパイア』の力でなんとか動いている」

(´・ω・`)「『ヴァンパイア』? 再契約できたのか? それはなんとも――
       待てよ、『血魂石』は僕の研究室に保管してあったはずだが……」

从 ゚∀从(やべェ、キッドの大馬鹿野郎め……)

(´・ω・`)

从;゚ 3从〜♪

( ФωФ)「不思議なこともあるものだな。ところで、眼前に見た敵の話をしてもよいか」

(´・ω・`)「……そうだね。時間が惜しい」

从 ゚∀从(助かったァ〜〜)

133 ◆BR8k8yVhqg:2015/02/13(金) 22:41:17 ID:O1n28dTk0

( ФωФ)「――――というわけである」

从 ゚∀从「キッドは医務室ですかァ」

( ФωФ)「うむ。衛生兵には最優先で治療に当たらせている」

(´・ω・`)「『構築』か。能力から察するに、ゼアフォーの序列は下の方だろう」

( ФωФ)「同感である。他の上級天使ほどの圧倒的な力ではない」

(´・ω・`)「ボロボロのロマネスク少将が言うと最高に面白いなあ」

( ФωФ)「…………」

从 ゚∀从ノ

 黙って手を挙げるハインリッヒ。黙ってそれを無視するショボン。

(´・ω・`)「とはいえ、敵軍勢の中に隠れられると厄介ではあるね」

从 ゚∀从「あのちょっと、いいですかねェ」

(´・ω・`)「今無視したのわかりましたよね? ウォルクシアの人は空気が読めないのかな?」

从 ゚∀从「いやすいません。キャグレイの人は足下の小銭しか見えないのかと思いまして」


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