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('A`)百物語、のようです

1名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:13:40 ID:adaBwzoE0



最初に言い出したのは、誰だっただろうか?


――今となっては、もうはっきりと思い出せない。
でも、確かに誰かがそれを言い出して、俺たちはこうして集まっている。


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2名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:27:16 ID:adaBwzoE0


百物語。


蝋燭を百個用意して灯し、怖い話を一つするごとにその蝋燭を一つずつ消していく。
江戸時代にはもう既にあったとかいう、超定番の怪談スタイル。
――俺たちは、まさに百物語の真っ最中だった。


(    )「おっおー、次はダレが話すお?」

(    )「僕はパスだからな」

(    )「えーと、僕は……もう少し考えてからで」


新月の夜。
ミルナの爺さんの家を借りさせてもらって用意した、三つ続きの和室。
その一番奥の部屋には、百本の蝋燭を並べた馬鹿でっかい火鉢が用意してある。
しかし、俺達のいる手前の部屋。……明かりを落としたここは、同じ部屋にいる相手の顔が見えないほどに暗い。


川   )「じゃあ、私が話でもしようか」


部屋の中に横たわった闇を切り裂くように、凛とした声が響いた。
顔が見えなくても、その声を聞けば誰かすぐわかる。
この声は、クーのものだ。


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3名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:28:24 ID:adaBwzoE0

……ブーンの野郎。人を呼ぶって言ってあちこちに連絡してたのは知っていたが、まさかクーまで呼んでるとは思わなかった。
年頃の男と女がこんなに暗い一室に一緒って、すげぇ問題があるんじゃないか?
しかも、クーは美人。間違いを起こすなという方が難しいぞ、これ。


(;'A`)「クー、お前。ここは野郎どもの巣窟だぞ」

川  - )「大丈夫だ問題ない。
     なぜならば、ここにはツンもいるからな。女は私だけじゃないぞ」

ξ;  )ξ「……あたし達、けっこう前からいたつもりなんだけど気づいてなかったの?!」


知らなったというのも癪なので、俺は手近にあった菓子にかじりつく。
暗くてよく見えなかったが、この硬さはきっとせんべいだ。
バリバリとそのまま噛み砕く。暗い中で食う菓子は、その美味さを半減させているような気がした。


( ゚д゚ )「俺は出迎えたから知っているが、これだけ人の出入りが多いと仕方がないな」

('A`)「ブーンのせいだぞ。一体、何人呼んだんだよ」


暗い闇の向こうから、「おー」という声が上がる。
この個性丸出しの声は、ブーンだな。


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4名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:30:05 ID:adaBwzoE0


(    )ノ「お、おー? えっと、覚えてないお!!」


ブーンはいつも通りの、のんびりとした口調で声を上げた。
普段ならば、誰かしらブーンの声に笑いを上げるのだが、さすがに今日はそうというわけにはいかなかった。


(;    )「え、嘘。本当にわからないの?」

(;   )「おー。だって、たくさん人がいないと、100話なんてムリだと思って」

ξ;  )ξ「本当にアンタらしいというか、何と言うか……」


周囲を見回してみるが、暗い部屋の中では誰がいるのかどころか、何人いるのかさえわからない。
点呼でもとればはっきりするだろうが、実行するのは気が引けた。
せっかくの百物語なのだ。わざわざ、水を差す必要はない。


(;'A`)「……」


――嘘、だ。
本当は、そうじゃない。


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5名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:31:32 ID:adaBwzoE0

もし、この中に得体のしれないナニカが紛れ込んでいたら……と、思うと、怖かったのだ。
百物語で、百の話を終えると、暗闇の中に何か恐ろしいものが現れる。
それは、百物語をしようとする奴なら誰もが知っている、言い伝えだ。

俺はもちろん、そんな言い伝えなんて信じていない。
信じていないのだが、部屋の中に漂う闇と空気は、言い伝えをそのまま信じ込ませてしまうような凄みがある。


(    )「まあまあ、別にいいと思うんだからな!」

(;    )「でも、人の家を借りてるわけだからマズイと思うよ」

(    )「おー…」


今はまだ、蝋燭を立てた火鉢のある部屋から、かすかに明かりが届いている。
その光のお陰で、辛うじて目の前にいるミルナの姿や、人影が見えている。
しかし、その明かりがなくなったら、どうなるのか……。


(;'A`)「……」


背筋を汗が伝っていく。
わけもなく心臓が早く動き出し、口の中が乾く。
指先で近くに置いたペットボトルを探り、口をつける。

……冷やしておいたはずのジュースは生温く、ただ気持ち悪かった。

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6名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:34:19 ID:adaBwzoE0


川   )「盛り上がっている所悪いが、話を始めてもいいかな?」


――俺の思考を、現実に引き戻したのはクーだった。

彼女の声に、ざわざわと騒いでいたブーンやショボンの言葉が止まる。
それから少し時間が経つ頃には、辺りは完全に静かになった。
痛いくらいの沈黙の中で、クーは再び口を開いた。


川  - )「この場所で話すのにふさわしいかどうかはわからないが、せっかくの機会だ」


そう告げるクーの声には、迷いが感じられた。
俺の知っているクーはいつも、はっきりとした口調で理路整然と話す。
だからだろう、彼女の様子を珍しいと思ってしまった。


川  - )「私にはあれが何だったのか、わかっていない。
     単なる偶然だったのか、それとも何かの力が働いたのか……」


でも、自分の中で整理をつけるためにも話させてくれと、クーは告げる。
その言葉に、答えるものは誰もいなかった。
いや、誰も彼女の声を邪魔をしようとしなかった、と言い換えた方がいいか。

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7名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:35:55 ID:adaBwzoE0


これから語られるのは、恐怖や怪しさに満ちた、不思議な話だ。

この場にいる誰もが、クーの話す声に耳をそばだてている。
彼女のやや低いけれど、よく通る美しい声が、どのような怪を語るのか。
ごくり、と息を呑んだのは俺か、それとも他の誰かか。



川 ゚ -゚)「これからするのは、おまじないのはなしだ」



蝋燭の光の具合か、闇が動きクーの姿が一瞬だけ、はっきりと見えた。
長い黒髪を背に垂らした、白いブラウス姿の女。
素直 クール。
俺たちがクーと呼ぶ彼女は、得体の知れないこの闇の中でもキレイだった。




――そして、暗い部屋の中で、クーは話しはじめる。



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8名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:36:51 ID:adaBwzoE0




              ('A`)百物語、のようです


                おまじないのはなし


                      .,、
                     (i,)
                      |_|



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9名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:37:31 ID:adaBwzoE0

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私には、少し年の離れた従姉妹がいる。



o川*゚ー゚)o



名前は、素直 キュート。
薄茶色のまっすぐな髪をした、かわいらしい女の子だ。
いつでもフワフワとしていて、いつか王子様と出会うんだなんて夢みたいなことを本気で信じているような子だった。


川 ゚ -゚)  o(^ー^*川o


キュートは私のことを、「クーお姉ちゃん」と呼んで、懐いていてな。
私はクーお姉ちゃんと呼ばれるたびに、少し恥ずかしくて、それ以上に誇らしい気持ちになった。


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10名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:38:59 ID:adaBwzoE0

そんな彼女が、中学校に進学した。

言い方は悪いが、キュートには人にすぐ甘えたり、頼るところがあってな。
彼女の両親は、あの子が中学校に上がっても大丈夫なのかと、とても心配していた。


o川*゚ワ゚)o 〜♪


――結論から言えば、キュートは中学校でもうまくやっていた様だった。

どうやら中学にも世話焼きな子がいたようで、その子があれやこれやと彼女の世話を焼いてくれたらしい。
持つべきものは、心の友というやつだな。

キュートが、中学に入学して一ヶ月。
彼女の学生生活は充実しているようだった。
友人も出来たし、部活にも入った。勉強は苦手だけれども、英語だけはちょっと得意。
ごわごわとした制服や、履きなれない革靴、鞄の重さにも大分慣れてきたのだそうだ。


o川*゚−゚)o「あのね、どーしよう。
       キューちゃんはどうやら、恋というものをしちゃったらしいのです」


――そんな彼女が私にそう打ち明けたのは、ちょうど五月の頭。
私が連休を使って、キュートの家に泊まりに来ていた時のことだった。

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11名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:40:58 ID:adaBwzoE0

――キュートは恋をした、らしい。
正確には「恋をしちゃったらしい」ではなくて、「恋をした」のだったがな。

           ∧_∧
川 ゚ -゚)つ/⌒ (・ω・  )


川;゚ -゚)「……なん、だと」


猫じゃらしを片手に彼女の家の猫と戯れていた私にとって、それは衝撃的な言葉だった。
驚きのあまり言葉を失った私に向けて、キュートは雑誌に視線を向けながら告げた。


o川*゚−゚)o「キューちゃんは、気になる男の子ができてしまったのです」


何気ない風を装った言葉。
しかし、彼女の顔は真っ赤だったし、開いている雑誌のページも明らかに読んでないとわかる広告だ。
……キュートが緊張しているというのは、私でもすぐにわかったよ。


川 ゚ -゚)「ふむ」


緊張するほど真剣に言われてしまえば、私としても相談に乗らないわけにはいかない。
……それに、私も女だ。
恋話というやつには、それなりに興味がある。


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12名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:41:49 ID:adaBwzoE0


川 ゚ -゚)「……恋とは、あの甘酸っぱかったりする恋のことだろうか」

o川*゚−゚)o「……うん、そう。それ」


念の為に問いかけた言葉に、キュートはそう答えると、近くにいた猫の体を引き寄せた。
さっきまで私と遊んでいた猫は不機嫌そうに暴れるが、キュートは慣れた様子でその体を捕まえる。


o川*゚−゚)o「キューちゃん、おかしくなっちゃったんだ。こうね、ずっと胸がぐるぐるしてるもん。
       ……くんのことを思うだけでね、キューちゃんがキューちゃんじゃなくなっちゃうみたいなの」

川 ゚ -゚)「そう、か」

o川///)o「ねぇ、クーお姉ちゃん。こういうのがきっと、恋なんだよね?」


猫をギュッと抱きしめながら言うキュートの顔は真っ赤でな。
――ああ。いいなぁと思ったのを覚えている。
キュートがこんなにも赤くなって、真剣に話すなんて、相手の男はどんな幸せものなんだろうと思ったよ。


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13名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:43:07 ID:adaBwzoE0


川 ゚ -゚)「胸がぐるぐるか」

o川//./)o「うん、ばくばくのぐるぐる」


私はキュートの言葉を聞きながら、彼女の部屋を見渡す。


川 ゚ ー゚)「……そうか」


部屋の床や本棚には、ピンクやキラキラやハートが乱れ飛ぶ雑誌。
彼女が小学生の頃には、勧めてみてもあまり興味を示さなかったものだ。
ファッションやら恋愛やらを取り上げたその雑誌は、もう何度も読み返したのか線やシールがいっぱい貼ってある。
机の上には小物や、キラキラのペンや、漫画。そして、私の伯父さん――父親が買ったらしい分厚い辞書。
棚には、ぬいぐるみや、大きなゴテゴテしたビーズのおもちゃに混じって、リップクリームや鏡が置かれている。


川 - -)「キュートも、恋をする年か」


――ああ、この子も大きくなったんだなぁと、妙に切ない気持ちになったのを覚えている。

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14名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:44:58 ID:adaBwzoE0


o川*゚ー゚)o「ネーノくんがね、好きなの」


キュートは、しばらく迷ったそぶりをしてから、そう告げた。
私は「ネーノくん」のことを知らなかったから、そうかとだけ答えた。
名前の後ろに「くん」をつけて呼ぶのだから、きっと同級生か年下の誰かなのだろう。
……中学に入ったばかりの彼女がまだ先輩後輩の区分がついていなければ話は別だが、キュートもそこまで失礼ではないだろう。


o川*^ー^)o「ネーノくんはね、いつもニコニコしてるんだけどね。
       猫とか犬とか見ると笑い方がね、こうふにゃーってなるの」


キュートは恋する彼について、語った。
彼女の話は具体性に欠けていて、キュートとの関係や、フルネーム、年といった肝心な話はなかなか出て来なかった。
だけど、彼女の話を聞いているだけで、なんとなく彼の人となりはわかるような気がした。


o川*゚ワ゚)o「すっごくやさしい目でね。
       キューちゃん、ネーノくんのあの目がねすっごく好きなんだー」


ネーノくんが好きな教科、テレビ番組、水泳部に入っていること。
よく語尾に「ねーの」とつける、おかしな口癖があること。
とっても面倒見が良くて、誰かが困ってるとさりげなく助けてくれること。
給食では牛乳を真っ先に飲むだとか、カレーの福神漬は嫌いみたいだとか、キュートは彼のことをとても嬉しそうに話した。


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15名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:46:43 ID:adaBwzoE0


川 ゚ ー゚)「ふむ。ところで、さっきから言っているネーノというのが、彼の名前ということでいいのかな?
     ちなみに苗字は、なんというのかな?」

o川;゚д゚)oて「言ってなかった?!
        ええ、ウソ、どーして、もっと前に教えてくれなかったの、クーお姉ちゃん!」


私が笑い声を上げると、キュートは「しんじらんなーい」と声を上げた。
それがまた、心の底からそう思っているような声と表情で、それがなかなか愉快だったのを覚えている。
キュートはひとしきり騒ぎ立てた後で、彼のことを教えてくれたよ。


o川*゚ o゚)o「根野くんって言うの。
       根野 ネーノくん。ちょっと変わった名前でしょ」

川 ゚ -゚)「ネーノ少年と、キュートは同じクラスなのか?」

o川 ゚ワ゚)o「クーお姉ちゃんすごい! 何で分かったの!?」


キラキラとしたキュートの笑顔に、苦笑いを返す。
私が彼がクラスメイトだとわかったのは、キュートがネーノ少年の給食の時の様子まで話していたからだ。
それだけで、英雄のような扱いを受けてしまうのだから、困ったものだ。


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16名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:48:00 ID:adaBwzoE0


川 ゚ -゚)「……なんとなくだ。
     それよりも、どうしてネーノ少年を好きに?」

o川///)o「それは……」


キュートは言葉を切り――私の顔を見上げた。
目の少し潤んだ、真っ赤な顔。
こんな表情で見つめられて、動揺しない人間はそうはいない。
思春期真っ盛りの青少年などイチコロじゃないかと思うのだが、現実はそういう風にはいかないらしい。


川 ゚ -゚)「……どうした、キュート?」

o川*゚ー゚)o「聞いてくれる? クーお姉ちゃん」

川*゚ -゚)「ああ、もちろんさ」


私の返答に、キュートは嬉しそうに笑った。
中学に入りいろいろと変わった彼女だけれども、その笑顔だけは小さな頃から何一つ変わらない。


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17名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:49:39 ID:adaBwzoE0


o川*゚ー゚)o「あのね、あのね!」

川;゚ -゚)「ちゃんと聞くから、焦るな」

o川 ゚ー゚)o「キューちゃんね、この前ね、びっくりすることにネーノくんと二人っきりになっちゃったの。
       その話すれば、クーお姉ちゃんにもわかると思うから。だから、聞いて」


彼女は真っ赤な顔のまま、興奮した様子で話しはじめた。
そういうのは普通、私のような従姉妹じゃなくて、友人にでも話すものじゃないか?
――とは思ったが、私はおとなしく聞いていたよ。
なんだか、信用されているみたいで、私にはそれが無性にくすぐったかった。


o川*゚ー゚)o「この前のことなんだけどね……」


キュートは一度、瞳を閉じて深呼吸をする。
猫を抱く腕にぎゅっと力を入れると、再び目を開いた。


o川*゚ー゚)o「キューちゃんは……」



キュートが話し始めるのを、私はずっと聞いていた――、

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18名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:50:23 ID:adaBwzoE0
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19名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:51:36 ID:adaBwzoE0


ざあざあと雨が降っていた、そうだ。
どうして傘を持って来なかったんだろう?
その時のキュートの頭をよぎったのは、そんなことばかりだったと言う。

早く止まないか。ここから傘をささずに走ったら、どれだけ濡れるだろうか。


o川;゚ー゚)o「……どうしよ」


友達は帰ってしまった。
誰かに傘に入れてくださいと頼もうにも、昇降口の周りには誰も人がいない。
キュートはため息を付いて、雨宿りをしていた。


(; `ー´)「わ、すげー雨じゃねーの!」

o川;゚ o ゚)o「わ」

( `ー´)「ん、素直?」


偶然というものはあるもので、その時、昇降口に現れたのは彼女の想い人だった。
キュート本人に言わせれば、「ウンメーだと思ったの」とのこと。
彼は少し前のキュートと同じように、空を見上げると小さくため息を付いた。


.

20名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:52:23 ID:adaBwzoE0


( `ー´)「素直は帰らないの?」


ネーノという少年は、気さくな人物なようだ。
普通、中学生となると女の子に話しかけるのはなかなかためらわれるものだが、彼の場合はそうでもなかった。
彼は帰るに帰れなくなったキュートに向けて、話しかけはじめた。


o川;゚−゚)o「……う、う」

( `―´)「ひょっとして、傘持ってない?」


想い人と二人っきりという状況と、彼に話しかけられたという衝撃に、キュートの頭は真っ白になったそうだ。
キュートは、人懐っこくて甘えん坊だ。
だけど、それは親しい人や友人に対してだけで、それ以外の相手には意外なほど恥ずかしがり屋だ。
人見知りの軽いもの、とでもいえばいいのかな。

……とにかくそんな性格だから、ネーノ少年を前にしたキュートはろくに話せなくなってしまった。


o川 ゚−゚)o )) コクリ

( `ワ´)「じゃあ、オレといっしょだ」


しかし、一方のネーノ少年はといえば、キュートの態度に気を悪くした様子は無い様だった。


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21名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:53:32 ID:adaBwzoE0

雨は止む気配を見せない。
キュートとネーノは帰ることも出来ずに、昇降口に立ち尽くしていた。


o川*゚ー゚)o「……」

( `ー´)「……」


キュートは、ネーノの姿を見る。
この天気じゃ帰れないのはわかっているのに、ネーノはキュートの近くから動こうとはしない。

教室とか、どこか別の場所に行かないのかな?
キューちゃんと一緒じゃ、つまらないんじゃないかな?
――キュートはいろいろと考えたそうだが、ネーノはいつもと変わらない表情で外を見上げていた。


( `ー´)「あー、どうしたん?」

o川;゚ー゚)o ビクッ

( `ー´)「こっち見てるからどうしたのかなぁって思ったんじゃねーの」


キュートがネーノの姿を見ていることに気づいたのか、ネーノが声を上げる。
しかし、せっかく話しかけられたというのにキュートは、何も話せないままだった。


.

22名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:54:29 ID:adaBwzoE0


( `ー´)「あ、そんなに緊張しなくてもいいんじゃねーの?
      オレ、別に怒らないから、ゆっくり話しなよ」

o川;*゚ -゚)o「ぅ……キューちゃん、は……」


キュートはなんとか声を出しては見たものの、その言葉は途切れ途切れで要領を得なかった。
それでも、キュートはどうにかネーノと話そうとし……結局は、口を開いては閉じるを繰り返すだけ。
彼女の口から言葉は出なかった。


o川*;−゚)o「……っ、ぅ」


何かを話そうと焦るあまりに、かえって話すことができない――その時のキュートは、そんな状態だった。
キュートの顔は真っ赤になり、瞳に涙が滲む。
それを隠そうとして、キュートは下を向いてしまったものだから、二人の間の空気はかなり気まずくなってしまった。


( `ー´)「言えないなら言えないでもいいから、な?」


そんな状況だというのに、ネーノ少年の口から出たのはそんな言葉だった。
ネーノは雨に濡れる空を、地面を、校庭を眺めながら、ただキュートの言葉を待つようにそこにいた――そうだ。


.

23名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:55:24 ID:adaBwzoE0

どれだけ、二人はそのまま立っていたのだろう。
早くこの場から逃げたいのと、もう少しこのままでいたいという感情に挟まれて、キュートの心はいっぱいだった。


(; `ー´)「ひょっとしてオレってコワイ?」


そして、そのような時間が続いた末、
ネーノはふと、ふざけた調子で声を上げた。


o川;゚ー゚)o「ちが……ちがうっ!!」

(*`ー´)「よかったー。
       素直はさ、なんか妹みたいな感じがするから、嫌われてたらどうしようって思った」


ネーノの言葉に、キュートは慌てて声を上げる。
これまで喋ろうとしても無理だったのが嘘のように、キュートの口からははっきりと言葉が出る。
そして、一方のネーノはキュートの言葉に「すっごく嬉しそう」に笑った――そうだ。


o川;゚ー゚)o「いもうと?」

( `ー´)「素直って末っ子じゃねーの? なんかそんな雰囲気がする」


.

24名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:56:14 ID:adaBwzoE0

o川*゚−゚)o「……キューちゃんは一人っ子、です」

(; `へ´)「むっ、外れたんじゃね―の」


気づけばキュートはいつの間にか、自然と話せるようになっていた。
といっても、ネーノの質問にぽつりぽつりと応えるだけ。
キュートからは、なかなか話しかけることも出来ないし、ましてや自分から質問をするなんてもっての他だった。


( `ワ´)   o川*゚−゚)o


二人が交わしたのは、大したことのないごくありふれた会話。
そのやりとりはぎこちなかったし、会話の途切れている時間のほうが多いくらいだった。


( `〜´)   o川*゚ー゚)o


それでも、キュートにとってその時間は特別で。
キュートの言葉を借りるのならば、――嬉しくって、胸がとっても暖かくって、それでも泣きたいくらいにぐるぐるする。


(*`ー´)"   o川*^ー^)o



――そんな、幸せな時間だったそうだ。


.

25名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:56:55 ID:adaBwzoE0


o川*゚ー゚)o「……あのね、」

( `ー´)「ん?」


だからなのだろう、キュートの口は自然とネーノに話しかけていた。
何を話そうと考えるよりもごく自然に、声は出て。


o川*゚ー゚)o「キューちゃんは、根野くんのこと」

( `ー´) ?



o川*^ー^)o「す」



そう、言いかけて、



.

26名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:58:25 ID:adaBwzoE0



――そして、唐突にキュートは我に返った。



o川;゚д゚)o「――っ!!!」


(; `ー´) ビクッ


困ったことに、我に返ってしまったのだ。
キューちゃん気づいたら、好きって言おうとしてたの――とは、キュート本人の言葉だが。
よりもよって肝心な部分で、キュートは自分が何を言い出そうとしていたのか気づいてしまった。


(; `ー´)「ええ、と? ……素直、大丈夫?」

o川;゚ー゚)o「うん、平気平気。キューちゃんちょーげんき! すごい元気!」

(; `―´)「そ、そうは見えないんじゃねーの」

o川;゚д゚)o「もう平気、へいきだから」


.

27名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 00:59:26 ID:adaBwzoE0


(; `―´)「なら、いいけど……」

o川;゚ー゚)o「うん」


キュートは慌てて会話を止めようとして、……ふと、考えを変えた。
二人っきりのこの状況は、きっと神様がくれたチャンスだ。
――そう思ったキュートは、ネーノに向けてそっと口を開く。


o川*゚−゚)o「……あのね、根野くん」

(; `ー´)「ん?」


キュートは、息を吸い呼吸を整える。
あれほど慌てていた心は、不思議と落ち着いていたそうだ。
キュートは何度か息を吸うと、決意を固める。


o川*゚ー゚)o「入学してすぐの時のことって、おぼえてる?」


――そして、彼女はネーノに向けて問いかけた。


.

28名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:03:43 ID:adaBwzoE0


( ;`ー´)「入学してすぐ?」


ネーノは、キュートの言葉に細い目を見開いたのだという。
しばらく考えた後、彼は小さく首を捻った。


o川*゚ー゚)o「そう。4月の、入学して2日か3日目くらいのことー」

( `ー´)「覚えてはいるけど……」


o川*゚−゚)o「……転んでた女子がいたの」


キュートの言葉に、ネーノはひねっていた首を下へと向ける。
彼は眉をひそめ真剣な表情を浮かべたが、ネーノの口からはなかなか言葉が出なかった。


(; `ー´)「えー、っと」

o川*゚ー゚)o「キューちゃん、革靴になれてないから転んじゃったの。
       でもってね、すっごく恥ずかしくて、足が痛くて、キューちゃん立てなくて」


『それを助けてくれたのが、ネーノくんだったの。』


――と、キュートは言った。



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29名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:04:53 ID:adaBwzoE0

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キュートは、ネーノに助けてもらった時のことを、熱心に話してくれたよ。


o川*- -)o「あの日、ネーノくんは、キューちゃんを起こしてくれて。
       ぽんぽんって砂とかはらってくれて。それから、カバンを拾ってくれたの」

o川*゚ー゚)o「キューちゃん、足をケガしちゃったんだけど。
       ネーノくんが水道に連れてってくれて、ケガしたところをキレイにしてくれたの。
       キューちゃん泣いちゃったんだけど、ネーノくんはキューちゃんの手を引いてね、保健室に連れてってくれたんだー」

o川*゚д゚)o「それでね、最後にね。
       もう大丈夫だからって、キューちゃんの頭を撫でてくれたの。」


――私は頷きながらそれを聞き、最後に大きく頷いた。

どうやらこれが、私の「どうしてネーノ少年を好きに?」と、いう問いの答えなのだろう。
ありがちなのかもしれないが、甘えん坊のキュートらしい実に可愛らしいきっかけだ。


川 ゚ -゚)「いい話じゃないか」


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30名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:06:27 ID:adaBwzoE0


o川*゚ー゚)o「でも、キューちゃんはね、なんなのこいつーって思ったの」


訂正。可愛らしいというのは、私の贔屓目だったらしい。
まぁ、キュートだって普通の女の子だ。そう思うことだってあるだろう。


川 ゚ -゚)「恩人にひどい言い草だな」

o川;゚ー゚)o「だって、キューちゃんの知ってる男の子はそんなことなんてしないんだもん」


キュートは弁解する様に、両手を振った。
私の視線を避けるように、斜め横を見やりながらキュートはぼそぼそと話をする。


o川;゚ぺ)o「だって、男子ってバカだし、うるさいしー。すぐふざけるし。
       宿題やってこなかったり、汗臭くて汚いんだよー」

川 ゚ -゚)「気持ちはわからなくもないが、ネーノ少年だってその条件に該当するのではないか」

o川*゚д゚)o「ちがうもーん。ネーノくんはかっこいいんですぅー」


なんとも、年頃の少女らしいことじゃないか。
恋は盲目とはいうが、ここまで言い切られてしまうとなんとも微笑ましい。
その時の私はつい笑ってしまって、キュートに怒られたのを覚えている。


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31名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:07:16 ID:adaBwzoE0


o川#゚ぺ)o「もー、ネーノくんはかっこいいのにぃ」

川 ゚ -゚)「そうか、ネーノ少年はかっこいいのか」

o川*゚ー゚)o「うんっ!」


えへへと声を上げて、キュートは笑う。赤く染まった頬は、まるでりんごのようだ。


o川;゚ー゚)o「で、でも好きになっちゃだめだよ!
       ネーノくんはキューちゃんのなんだからぁっ!」

川 ゚ -゚)「はいはい。わかったわかった。
     ネーノ少年を取る気はないから安心しろ」


私がそう言うと、眉をひそめ泣きそうになっていたキュートはほっと息を吐いた。
キュートはよく表情が変わる。常々表情が変わらないといわれる私には、まるで正反対だ。


川 ゚ -゚)「それで、肝心の彼の反応はどうだったんだ?」

o川;゚ー゚)o「むーぅ、それなんだけどぉ……」


キュートはしばし、口ごもる。
私が話を促すとしばらく黙った末に、ようやく続きを話し始めた。


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32名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:08:06 ID:adaBwzoE0

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(; `ー´)「それ、オレ?」

o川 ゚ペ)o「むー、覚えてないの?」


キュートには衝撃的だった、ネーノとの出会い。
しかし、ネーノは驚くことにそれをまったく覚えていなかった。


(; `ー´)「転んで……転……うーん、保健室に誰かを連れてったような気は……する。
      でも、あれ素直だった?」

o川;゚ペ)o「そうだよ! もう大丈夫なんじゃねーの、って言った」

(; `〜´)「うわっ、確かにそれオレ言いそうじゃねーの」


ネーノ少年はしばらく口をモゴモゴさせた後に、大きく息を吐いた。
参ったと困ったを半分ずつ混ぜあわせたような表情だったと、キュートは語る。
そして、ネーノ少年はその表情のまま、笑ってみせた。
くしゃっとくずれた、キュートの好きな表情。キュートはその瞬間、息が止まるかと思ったのだという。


(; `ー´)「えーと、怪我はもう平気?」


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33名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:08:59 ID:adaBwzoE0

ネーノの言葉は、かなり今さらだった。
ずっと同じ教室ですごしてきたキュートを相手に、ネーノは真面目くさった様子で問いかける。
その間抜けだけれども真剣な表情に、ドキドキしていたキュートは思わず笑い出してしまう。


o川*^ー^)o「それなら、もう平気だよぉ〜」

(; `ー´)「それなら、よかったんじゃねーの。
      あ、オレ。素直にすごく失礼なこととか言ってなかった?」

o川*^ー^)o「ううん、ダイジョーブ」


ネーノは、ホッとした様子で息をつく。
その口元には笑みが戻ってきていて、それを見たキュートは「ネーノくんのこと好きだなぁ」、って――改めて思ったのだそうだ。
だから、キュートは好きとは言えなかった代わりに告げた。


o川*゚ー゚)o「あの時ね、根野くんが助けてくれてすごくうれしかったの。
       根野くんがいなかったら、キューちゃんは多分ずっとあそこで泣いてたと思うから」

( `ー´)「……」

o川*^ワ^)o「ありがとう」

(*`ー´)「――どういたしまして、じゃねーの」


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34名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:11:00 ID:adaBwzoE0

雨は止む気配を見せない。
雨は弱まるどころか、むしろ強くなるばかりだ。


( `ー´)「よしっ」

o川*゚ー゚)o「……?」


空を見上げていたネーノはやがて、小さく息を呟いた。
出口から背を向けると、教室へと続く廊下に向けて小走りに進みはじめる。


o川*゚−゚)o「……帰っちゃうの?」

(; `ー´)「いや、そうじゃなくて――あ、やば」


慌てたのか、動いた拍子にネーノの袖のボタンが、下駄箱の金具に引っかかった。
ネーノは顔を赤くして、焦りの声を上げながら腕を引っ張るが、なかなか上手くいかない。


(#`ー´)「ちっくしょー、外れないんじゃねーの」


何度も腕を引っ張り、それで何とか引っかかっていた袖は外れる。
しかし、その拍子に制服の袖を飾っていてたボタンが取れてしまった。


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35名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:13:00 ID:adaBwzoE0

――カツンと、音をたててボタンが落ちる。
ネーノはそれに、一瞬だけ「ヤバイ」という顔をしたが拾おうとはせずに、そのまま廊下へ向かって走りだした。


(; `Д´)「素直ーっ、ちょっとそこで待っててー!!!」

o川;゚ー゚)o「え、……うん」


ネーノはそのまま、キュートをおいて走り去っていく。
彼の有無を言わさぬその行動に、キュートはしばらく呆然としていたが、やがて我に返る。
キュートは慌てて落ちたボタンを拾おうとしたが、その時にはもうボタンは見えなくなっていた。


o川;゚ー゚)o「あ、あった」


しばらく探した末、キュートは靴箱の下に入り込んでしまっているボタンを見つけた。
しかし、彼女の手では届きそうにない。試行錯誤してみたけれども、どうしても届かなくてキュートは途方にくれた。
どうやって取ろうと彼女が頭を悩ませていると、大きな足音が聞こえてきた。
……誰だろうと顔を上げると、それはさっき走り去っていったネーノの姿だった。


( `ー´)「これ職員室のやつ。明日、先生に返せばいいから」

o川;゚ー゚)o「え、え?」


戻って来たネーノは、開口一番そう言った。


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36名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:14:51 ID:adaBwzoE0

ネーノの手には透明なビニールのそっけない傘が一本。
それをキュートに向けて差し出すと、ネーノはいたずらっ子のように笑った。


(*`ー´)「傘、これで帰ればいいから」

o川;゚ー゚)o「え、でも。これ一本しかない」

(*`ー´)「いいのいいの!」


いいことをしているというのに、彼に鼻にかけないような態度はない。
むしろ心底嬉しそうに、ネーノは笑っていたそうだ。
その姿は、キュートが転んで泣いていた時とまったく同じ姿だった。


( `ワ´)「じゃあな!」


キュートの返事も聞かないままに傘を押し付けると、ネーノは雨の中に踊り出た。
降りしきる雨が、少年のまだ真新しい制服を濡らしていく。
それを気にする様子もなく、少年は鞄を頭の上にかかげ雨の中を走り去っていく。

最後に一度ふりかえると、ネーノは大きく手を降った。


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37名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:15:55 ID:adaBwzoE0


少年の姿が、遠くへと消えていく。
校門をくぐり、道路へ飛び出し、その先へ――。


o川;゚ー゚)o「……行っちゃった」


そして、ネーノ少年の姿は完全に雨の中に消えた。
どれだけ目を凝らしても、少年の姿はもう、見えない。


o川*゚−゚)o「……かさ、一本しかなかった」


雨は強い。ネーノはちゃんと家に帰れるのだろうか……
キュートはネーノの去った後を、眺め続けていた。
ずっと、見つめ続けていた。



――雨はまだ、ざぁざぁと降り続けている。


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38名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:16:40 ID:adaBwzoE0

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39名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:18:06 ID:adaBwzoE0

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o川///)o「キューちゃんの話ここまで! はずかしいからもうオシマイ!」

川 ゚ -゚)「照れるな照れるな。いい話だったじゃないか」

o川/〜/)o「ぅぅ、汗べたべただよぉぉ」


キュートはひと通り話し終えると、両手でパタパタと風をおこしながら、「うぅ」と声を上げた。
真っ赤な顔のまま辺りを気まずそうに見渡すと、彼女は視線を雑誌へと向ける。


o川*゚〜゚)o「もー、カラマロフじゃまー!
       キューちゃん、これ読んでるんだからどいてー!!!」

川 ゚ -゚).。oO(どうみても、読んでなかっただろう)


嫌がる猫を無理やり捕まえて抱いていたのはキュートなのに、随分と身勝手な話ではある。
まぁ、気づいていたとしても相手は猫だ。キュートのやることは何も変わらなかっただろうがな。


(# ・ω・) フゥゥゥ

o川#゚ー゚)o ムキー


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40名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:19:02 ID:adaBwzoE0


川 ゚ -゚)「まあ、いいじゃないか。
     大佐だって、私やキュートの相手で疲れたのだろう」

o川*゚ー゚)o「タイサって誰?」


川 ゚ -゚)σ(  ・ω・) ニャー


私はキュートがさっきからぞんざいに扱っていた、猫を指さしてやった。
ちょっと太めの猫は、起こっていたのが嘘のように毛づくろいを始めている。


o川*゚ぺ)o「キューちゃんのカラマロフに変な名前つけないでー」

川*゚ -゚)「では間をとって、佐々木カラマロス大佐というのはどうだろう?」

o川;>д<)o「佐々木さんってダレー!!!」

川*゚ -゚)「はっはっはー」


そこから先は、恋愛の話は特にしなかったな。
くだらない話をしあって、私の5月の連休は終わった。


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41名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:20:59 ID:adaBwzoE0
今日の投下ここまで続きは、明日

42名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:26:34 ID:bRbjbQHs0


43名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 01:58:41 ID:Y9/WJ0p20
おつおつ
続き楽しみだ

44名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 22:04:21 ID:adaBwzoE0
今日の文を投下する前に、訂正

>>39>>40に出ている猫の名前はカラマロフではなくて、カラマロスです
正直すまんかった

45名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 22:08:32 ID:adaBwzoE0

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川  - )「――と、まぁ。ここまでがいわゆる前置きというやつだな」


べたりとした蒸し暑い空気が横たわる暗い空間。
その中で、クーの声だけが凛と響き渡る。


('A`)「随分と長い、前置きだったな」

ξ ⊿ )ξ「いいじゃない。甘酸っぱくって、こういうの好きだわ」

(    )「甘ったるくて、僕はあまり好きじゃないからな」


部屋の中の空気が少しだけ緩み、口々に誰かが話し始める。
途中で聞こえた女の声は――、きっとツンだな。


.

46名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 22:09:23 ID:adaBwzoE0


(    )「つらいお〜、リアルが充実してるお〜」

(    )「まあまあ、ブーンも落ち着いて」


微笑ましい恋愛にはろくに縁がなかったらしいブーンが嘆く。
わかる。わかるぞ、ブーン。その言葉には一言一句同意する。
畜生、カップルなんてすべて爆発すればいいんだ。


( ゚д゚ )「……おまじないの話が出てこないようだが」

川  - )「それについては、これから話す」

ξ ⊿ )ξ「なんか、あまり先が聞きたくないような気がするけど……仕方ないわよね。
      続きを聞かせてくれる、クー?」

川  - )「ああ」


少し間が空き、液体を傾ける音が響いた。
おそらく飲み物で口を湿らせているのだろう。
暗闇の中で聞く水の音とかすかな吐息はなんだか妙に淫らな気がして、俺はごくりと息を呑んだ。


川  - )「失礼した。では、続きを話そうか……」


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47名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 22:11:15 ID:adaBwzoE0

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――そんなほほえましいやりも取りもあったそうだが、二人の仲は一向に進まなかった。



私はちょくちょくキュートと連絡を取り合っていたつもりだが、ネーノ少年に関する話はそれから一切聞かなかった。
彼女の恋愛――おそらくは初恋に関する顛末に、私は興味があったから、はっきりと覚えている。
キュートはネーノとの話を、私にしようとはしなかった。
いや違うな。誰にも話そうとはしなかった。


私は何が起こっていたのか、一切知らなかった。



……だから、ここから話すのは全て、後になって聞いた話だ。



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48名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 22:12:30 ID:adaBwzoE0


あの雨の日以来、キュートはろくにネーノに話しかけることが出来なかった……そうだ。
教室で目があうことが合っても、それっきり。


o川*゚ー゚)o「……」

( `ー´)「…?」

o川;゚ー゚)o「……」


彼女自身は何度か話そうとしたのだそうだが、彼の顔を見るのが精一杯で、どうしても上手く行かなかった。
ネーノは男子だったから教室の中では話しかけづらかったし、面倒見のいい彼の周りはいつでも誰かがいた。
それに、彼女は例の人見知りもどきがあったから、たとえネーノが一人だとしてもなかなか話すことが出来なかった。


( `―´)「……」

(#;;;゚∀゚)「よぉーぅ! ネーノちゃんどうした?
      オレ? オレは、ちょー元気ってやつ! すげーだろ!」

(; `ー´)「え、ああ。よかったんじゃねーの」

( ´_ゝ`)「お前はいつも大袈裟なんだよ」


(#;;;゚∀゚)「オオゲサ? ナニソレ、食えんの?」


.

49名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 22:14:27 ID:adaBwzoE0


――結局、ネーノと会話らしい会話を交わしたのは、あの雨の日が最後だった。


o川*゚−゚)o フゥ


ネーノ少年の姿をじっと眺めるだけの日々が、それからしばらく続いたそうだ。

なんだかんだ言いながら、友だちの宿題を手伝いをする姿。
ぼんやりとプールを眺めている姿。
たまたま近くを通りかかったら、ノートに味噌汁、ご飯、サンマの塩焼き、肉じゃがなんてメモがしてあったとか。


(*`ー´)


ネーノの姿を見て、新しい発見をしたり、好きだなぁって思ったり、溜息をついたり。
そんな日々がずっと続いていた。
だけど、眺めているだけなのは寂しくて、またあの雨の日のように話したくて。


――要はキュートは、焦ってしまったのだ。
ネーノ少年との距離が近づいたと思えば、また話せなくなってしまって。
このまま一緒に話したことも忘れ去られてしまったらと思うと、居ても立っても居られなくなってしまった。
しかし、キュートにはネーノと話す勇気がない。


.

50名も無きAAのようです:2013/08/17(土) 22:16:19 ID:adaBwzoE0




だから、なのだろう――。



从 ゚ー゚V「ねぇ、すっごくよく効くおまじないがあるんだって」

人il.゚ ヮ゚ノ人「うそー」

从 ゚ー゚V「ほんとだって、効きすぎてヤバイんだって」

人il.゚ ヮ゚ノ人「みる、みるー」



o川*゚ー゚)o「……おまじない」



――彼女は、恋のおまじないなんてものに頼ることにしたのだ。


.


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