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( ´_ゝ`)キミを殺っちゃうようです
1
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:12:33 ID:Gk/zhA3w0
突発イベント 絵リレー作品
スレタイ引用 ( ´_ゝ`)キミを殺っちゃうようです
7
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:17:54 ID:Gk/zhA3w0
世界はバランスってものを取って成り立ってる。
【物語】にも均衡ってのは大事だ。
そんなことを呟きながら、血の付いた手を洗っていた。
すっかりとチビた石鹸で肘まで擦る。
割と俺も几帳面なところがある。
俺の部屋はスタンダードなアパートの一室で、部屋数も少なく手狭だ。
その、手を伸ばせばなんでも手が届く距離感が俺は好きだった。
レコードを回す。
針が盤面を擦り、スピーカが音を垂れ流し始めた。
ブルーズ。
これがまたいいんだよ。
大体「俺に金があったら」「この街から出たら」って話だから。
たらればで現状を嘆いてる系が好きなんだ。
俺の気持ちを高揚させないダウナーな香りがいい。
( ´_ゝ`)「今日も今日とてハイネケンが美味い」
ビールをすすりながら、ソファに身を任せる。
ああ、悪くねえ。
8
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:18:51 ID:Gk/zhA3w0
携帯電話が鳴った。
( ´_ゝ`)「はい」
『よくやってくれた。報酬は振り込んでおく』
( ´_ゝ`)「へえ」
『じゃあ、また何かあったら頼む』
( ´_ゝ`)ズズズ
( ´_ゝ`)=3
お得意様々だ。
今回の取引先っつか委託元は金払いがいい。
何かしらある度に敏感に反応して俺への依頼が舞い込んでくる。
まあ厳密には弟づてに話が来るわけなんだが。
とにかく、俺の生活を【成立】させるにはなくてはならない存在だ。
助け合いだ。
素晴らしい。
9
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:19:58 ID:Gk/zhA3w0
ほろ酔いで冷蔵庫を開けると、ブルシット、もうハムしか食うもんがないじゃねえか。
缶詰の棚を見ると、辛うじてコンソメの粉末とホールトマトが見つかった。
さて、これでハムをトマトコンソメで煮たもの以外にどう調理したもんか。
そんなことを思っていた時だった。
ドアベル。
ドアベル。
ドアベル。
ドアベル。ドアベル。ドアベル。
( ´_ゝ`)「はいはいはーい」
なんだこの連打。尋常じゃないぞ。
脳裏に浮かぶ、危険の二文字。
慎重にドアスコープを覗く――と
(´<_`メ;)「兄貴……」
言うまでもなく、俺は即時ドアオープンをした。
10
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:20:45 ID:Gk/zhA3w0
(´<_`メ;)「完全に油断した……」
( ´_ゝ`)「一体誰にやられた」
(´<_`メ;)「【俺】だ」
( ´_ゝ`)「……【お前】が?」
(´<_`メ;)「【兄者】も後から出てきやがった……」
( ´_ゝ`)「【俺】が、か」
沈黙。
しん、とした空気に耳が痛かった。
( ´_ゝ`)「……」
俺は口を閉ざしたまま、タオルを水で濡らしに行った。
弟の傷口に当ててやるためだ。
(´<_`メ;)「すまないな」
( ´_ゝ`)「いいよ。座ってろ」
11
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:21:27 ID:Gk/zhA3w0
酔いが完全に醒めてしまった。
( ´_ゝ`)つ□(´<_`メ;)
俺は大判の絆創膏を手渡しながら、考えた。
状況を整理せねばならない。
俺たちは今現在、【俺たち】に狙われている。
そして、弟は既に怪我を負わされている。
弟の話をまとめると、次のことも分かった。
【俺たち】のやり口は俺たちのそれと似ていた。
補佐は弟、実働は俺。
(´<_`□)「一体どの地区の連中が……俺たちはスタンダードを外してないはずだ……」
( ´_ゝ`)「考えたって仕方ねえだろ。分析は後だ」
(´<_`□;)「だが」
( ´_ゝ`)「俺がなんとかする」
仮にもまあ、俺、兄貴だからな。
***
12
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:22:23 ID:Gk/zhA3w0
――ぼちぼちお高いレストラン。
俺はその日珍しく、弟の代わりに仕事の話を受けに行っていた。
( ´_ゝ`)「ラブロマ地区に住んでるのが対象だな」
依頼人はデカいサングラスを押さえながら頷いた。
ふむ、と俺はターゲットの特徴を反芻した。
この世界で生き残るには、特徴を消すことが一番だ。
なのに、一部のはみ出し者は特徴あること、相違点を持つことをよしとすることが多い。
今回の対象は、「周り」よりちょっと男関係が目立った。
それだけ? それだけさ。
充分な理由なんだよ、それだけで。
「出来る限り辱めてから消してちょうだい」
( ´_ゝ`)「俺、あんまりそういうの得意じゃないんだけどな」
「依頼主に口答えするの?」
13
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:23:21 ID:Gk/zhA3w0
結局俺は条件全てにOKして、レストランを後にした。
なんとも、ま、嫌な商売さ。
( ´_ゝ`)「さて……」
俺は○○地区方面に向かう地下鉄に乗った。
そこには見たような顔、見たことないような顔、やっぱり見たことある顔が並んでいた。
電車の中で椅子が空いていたので俺は遠慮なく座った。
で、隣の男のスーツの裾をケツの下敷きにしてしまい、小さく謝った。
電車は目的地に到着した。
さて、ここからが面倒なとこだ。
まずは靴だ。靴をこの地区の「標準」のものにしなければならなかった。
俺は真っ先に「標準センター」に向かった。
「いらっしゃいませ」
( ´_ゝ`)「ラブロマ・スタンダードで」
「かしこまりました」
14
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:24:46 ID:Gk/zhA3w0
スニーカーを履いたら、次はフード付きパーカー。ジーンズ。
身に着けるもの全てを「標準」装備のものにした。
脱いだ衣服は全て鞄の中に入れ、路地裏のデカいゴミ箱の裏へと隠した。
ここ、荷物を置くには穴場なんだよな。
( ´_ゝ`)「それでは、お仕事しますかね」
ターゲットはここらの中心街に居を構えているとの情報だった。
暗記していた住所へと赴き、俺はドアベルを鳴らした。
「どなた?」
( ´_ゝ`)「どうも」
「あら、兄者じゃない」
はあ。
なんだってこう無防備なんだろうね。
俺は悲しいよ。
ドアオープンと同時に俺は悲しくてため息が出てきた。
15
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:25:34 ID:Gk/zhA3w0
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたのよ、急に来るなんて」
( ´_ゝ`)「急に会いたくなってさ」
チョロかった。
めちゃめちゃチョロかった。
俺は二言目を発する前に唇で唇を塞がれた。
ζ( ー *ζ「んっ」
( ´_ゝ`)
鼻をくすぐるパフュームに正直胸焼けを起こしつつ、俺は応じた。
応じつつ、ジーンズの腰に差していたナイフを後ろ手に抜いた。
ああ、これでもう終わりだ。
はあ。
俺は抱きしめる形で、女の背中にナイフを突き立てた。
ζ(゚ー゚;ζ「えっ」
16
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:26:50 ID:Gk/zhA3w0
人を刺す時、特に上半身の時だが、刃は地面に対して水平にした方がいい。
なんでって肋骨ってヤツがあるだろ? アレが邪魔なんだよ。
ζ(゚- ζガボッ
上手く一撃が肺に到達すれば、たちまち呼気に血が混じって出てくるんだ。
でもアバラで刃が阻まれた時、それはそれはめんどくさいことになる。
ζ( - ;ζゲホッ
特に女ってやつは胸に脂肪を蓄えてるから、肉を多く傷つけることになって、
ええと、こんな話に興味があるのか? あったら病院に行けよな。
( ´_ゝ`)「あんまり暴れてくれるなよ」
抱きしめたまま耳元で囁いた。
びくんびくんと女の体が動いた。
ζ(゚- ;ζ「な……んで……」
抱きしめていた体から力が次第に抜けていった。
俺はゆっくりと地面に降ろしてやる形で、腰を屈めた。
( ´_ゝ`)「なんでって……。あー、そうだ、確か彼氏が何人もいるのが問題なんだってさ」
17
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:27:57 ID:Gk/zhA3w0
俺はせめてもの優しさってヤツで、少しだけ微笑んだ。
( ´_ゝ`)「悪いとは思ってないけど、悪いな」
ζ( - ;ζ「あに……じゃ……ゆるし」
◆
兄者の恋人が死んだ。
殺された。
( ;_ゝ;)「うああああああ、デレ! デレ! なんでだああああ!!」
その体はいくつかのパーツ分けられ、
苦痛に歪む顔は、ベランダから晒されていた。
( ;_ゝ;)「なっ、なんでデレが死ななくちゃいけないんだ!!」
兄者は悲しんだ。
そして、弟者も悲しんだ。
( つ_ゝ )「ああああああああ!!!」
( <_ )「兄者……」
彼らは、そして、動き出した。
***
18
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:28:57 ID:Gk/zhA3w0
◆
俺はアパートから少し離れたダイナーで夕食を摂っていた。
冷凍食品のパンケーキが食いたくなったんだ。
しょっぱいソーセージとこれが合うこと合うこと。
コーヒーは薄め、ミルク多め。
要はほとんどカフェラテ。
ああ、悪くねえ塩梅だ。
( ´_ゝ`)「それで」
俺は仕事仲間のギコに先を言うよう促した。
(,,゚Д゚)「お前の言う通り、他の地区でも同様の被害が出ていた。重軽傷多数」
( ´_ゝ`)「それはつまり――」
(,,゚Д゚)「全くのスタンダードでも関係なく、だ」
スタンダード(標準)であることは退屈だが、大事なことだ。
この世界はそういう風にできてる。
一部の、俺たちみたいな例外を除いて、普通であることはとても大切なんだ。
(,,゚Д゚)「全員が全員、同じ質問をかけられている」
19
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:30:18 ID:Gk/zhA3w0
質問の内容を訊いたところで、結局俺はその意図が掴めないのだった。
コーヒーカップを持ち、指先だけを向けて俺は言う。
( ´_ゝ`)「徹底的に【俺たち】を調べてくれ。活動圏内に入ってくるようなら、急ぎで」
(,,゚Д゚)「構わんが……。本気でやる気か?」
本気も本気さ。
俺たちは流石兄弟だぞ。
(,,゚Д゚)「……」
( ´_ゝ`)「お前が代わりにやってくれるのか」
ギコが苦い顔をしたのはコーヒーがまずかったからでは、おそらくない。
( ´_ゝ`)「俺たちの問題を俺たちで解決できないでどうするって話」
ダイナーを後にして、俺は自宅に戻った。
途中ドーナツを買いに行こうとしたが、なんとなくその時はやめておこうという気になった。
結果から言うとそれは虫の報せってやつだった。
20
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:31:15 ID:Gk/zhA3w0
アパートの前に転がり出たスーツ姿の男に、なんとなく見覚えがあるな、と思った。
(´<_`□;)「た、大変だ! 兄者!」
( ´_ゝ`)「おっ、ど、どうした」
急に詰め寄られると流石の流石兄者でも驚くってなもんだ。
(´<_`□;)「部屋に! 爆だ……」
同時にアパートの一室が吹き飛んだ。
冷蔵庫がなんと俺たちの目の前に降ってきた。
中身は、ああ、ハイネケンとハムだ。
( ゚_ゝ゚)
(゚<_゚□)「……んが」
唖然。
21
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:32:03 ID:Gk/zhA3w0
メラメラと燃え始めた部屋の窓を眺めること数秒。
( ´_ゝ`)「【俺たち】か」
(´<_`□)「ああ……」
俺はとにかく色々なことを置いといて、努めて冷静になろうとした。
( ´_ゝ`)「居住地まで掴まれてるってことは、もう……」
(´<_`□)「ここを早く離れた方がいい」
( ´_ゝ`)「……だな」
近隣の住民が消防車を呼んだが、俺たちはそれが到着する頃には別の隠れ家に足を向けていた。
あれだけの爆発だったら、部屋の中にあったもんもどうせ使い物にならんだろ。
ホコリ臭い隠れ家の入口で、俺はドアマットをひっくり返した。
22
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:33:23 ID:Gk/zhA3w0
( ´_ゝ`)「あれ。鍵がないぞ。弟者、知らないか?」
(´<_`□)「仕方ないな……ほれ」
ポケットから取り出された鍵束を受け取ると、俺は開錠して、【弟者】を先に通した。
(´<_`□)「すまないな」
そして、俺は【弟者】の後ろに続く形になったので
奴の太腿にナイフを深々と刺した。
23
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:34:16 ID:Gk/zhA3w0
(゚<_゚□;;)「――ッ!!!!」
( ´_ゝ`)「俺の弟はどこだ」
刺し込んだナイフをぐい、と縦に動かす。
(゚<_゚□;;)「ア、ア、アァァ!!!」
叫びだした弟者の口を塞ぎ、床に組み伏せる。
拳銃が後ろ腰に差し込まれていたので、奪って床を滑らせた。
( ´_ゝ`)「もう一度言うぞ。俺の、弟は、どこだ」
一言ずつを区切って言い聞かせるように、俺は言った。
(゚<_゚□;;)「なんで……わかった!!」
弟者は質問を質問で返してきた。
これは俺の弟ならしないことだ。
( ´_ゝ`)「説明すんのもめんどい。察しろ。で、俺の質問への答えは」
ナイフをさらに少し動かした。
( <_ □;;)「―――――ッッ!!」
24
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:34:56 ID:Gk/zhA3w0
( ´_ゝ`)「ふぅ……」
ぐい。
びちち、とスーツのズボンが裂ける。
(゚<_゚□;;)「知らない、知ら、ない」
( ´_ゝ`)「ウソつくなよ、なあ」
これ以上まどろっこしいことやってると靭帯斬るぞ、おい。
(゚<_゚□;;)「くっ……うううううう」
( ´_ゝ`)「まあ、【俺たち】【流石兄弟】が片割れを売るなんて、なかなかないしな」
そして、もう片方の太腿にもナイフを突き立てて、立ち上がれなくする俺。
(゚<_゚□;;)「あがっ」
もちろんお口は塞いでおく、と。
( ´_ゝ`)「お・し・ず・か・に」
25
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:36:30 ID:Gk/zhA3w0
戦意を喪失したらしい弟者は、俺にひきずられるまま、壁際に押し付けられた。
俺はポットに湯を沸かし、コーヒーの準備をする。
それで、なんとかまあ、喋りやすくなるように、いくつかの道具を取り出した。
ああ、俺の趣味じゃないんだけどな、こういうの。
例えばアイロン。
(゚<_゚□;;)「ッ!!!」
足の裏に、ぐっと、柔らかく、慎重に、よいしょ、暴れるな、
押し付けて、やると、結構、いい感じ。
例えばミシン。
(゚<_゚□;;)「――、――! ――」
指を全て、揃えて、並べて、一度に、強く、綺麗に、
縫い付けて、やったり、すると、効果的っと。
( ´_ゝ`)「喋りたくなったらそう言ってくれよ」
ひと段落付ける度に、俺はコーヒーを飲んだ。
ふう。
なかなか口を割らないな……。
あ、そうか口にタオルを詰めてやってたんだっけ。
26
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:37:24 ID:Gk/zhA3w0
ギコに連絡を入れてみた。
『【弟者】を捕まえたのか!』
( ´_ゝ`)「ああ、でもなかなか口が堅くてな」
『殺した、のか?』
( ´_ゝ`)「あ? いや、そんなことはもちろんしない」
( <_ □;;)「……」
太腿を踏んでみた。
(゚<_゚□;;)「がっ」
( ´_ゝ`)「お聞きの通りだ」
『……』
それから、どうするかの算段を立ててみることにした。
俺は椅子に逆向きに座り、コーヒーの五杯目をすすって考えていた。
さて、俺から動き出すには何が必要だ?
あるいは、【俺】が動き出すとしたらどうやって動き出す?
考えがまとまらない内に三十分ほどが経ち、そして俺の携帯電話が鳴った。
27
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:38:57 ID:Gk/zhA3w0
『【流石兄者】で間違いないな』
( ´_ゝ`)「そっちこそ」
『お前はどの【流石兄者】だ?』
( ´_ゝ`)「そっちこそ」
『〜〜〜〜!!』
スピーカの向こうで何かを蹴飛ばす音がした。
『お前は【デレ】を殺したのか!?』
( ´_ゝ`)「は?」
残念ながら、どちらの【デレ】さんか、分からない。
『ラブロマ地区の、俺の、恋人だった【デレ】を殺した――クソッタレの【流石兄者】かって訊いてるんだ!』
ああ、合点がいった。
( ´_ゝ`)「すまないな、それなら多分――十中八九、俺が犯人だ」
すまない、なんてのはただの言葉だ。
気持ちが伴っていなくても俺の唇はそういう音を出せる。
28
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:40:02 ID:Gk/zhA3w0
( ´_ゝ`)「どうする、俺を殺したいか?」
『……ッ』
あちらさんは俺の態度に呆れたのか、それとも単に驚いたのか、
まあとにかく絶句して、しばらく言葉を探しているようだった。
( ´_ゝ`)「弟を返してくれたら会ってやらなくもない。生きてるよな?」
おそらく俺の愚弟は人質として使われる予定なのだろう。
間抜けなことだ。いや、実際。
『――俺の弟は無事なのか』
( ´_ゝ`)「ほら」
電話口を耳に当ててやると、さっきまでとは打って変わってよく喋ることよく喋ること。
(゚<_゚□;;)「兄者! 兄者、こいつ狂ってる! 関わっちゃダメだ!」
うるさいので鳩尾に蹴りを入れてやる。
他人様の弟君だが、見知らぬと同時に見知った【流石弟者】だ。
俺はそういう場合、余計容赦ができない。
◆
29
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:41:56 ID:Gk/zhA3w0
――寂れた立体駐車場の最上階。
俺は頬に傷のある、それでいてよく見た顔と対面していた。
彼我の距離は20mほど。
ほどよい距離感が、ほどよいピリピリムードを生んでいた。
( ´_ゝ`)「OK。引き渡しは同時にいこうじゃないか」
(≠´_ゝ`)「ああ、そうしよう」
真新しい頬の傷は、恐らく俺の弟が付けたものなのだろうな。
よくやった、弟よ。
(´<_`メ;)「すまない」
( ´_ゝ`)「あとで俺の靴舐めろよ」
(´<_`メ;)「ふざけろ」
間違いなくあれは俺の弟だ。
2秒で確信した。
【流石兄者】は俺に二つの提案をしてきた。
ひとつは、互いの弟の交換を実際に会って行うことだった。
30
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:43:01 ID:Gk/zhA3w0
まあ、至極当然な流れだ。
(≠´_ゝ`)「どうして弟者が俺の弟だと気付いた」
こちらも至極まともな疑問だった。
( ´_ゝ`)「気配」
(≠´_ゝ`)「……」チャキ
俺の弟に向けられる拳銃。冗談が通じないヤツだ。
( ´_ゝ`)「まず、俺は自分の弟に名前で呼ばれるのが嫌いなんだよ」
本音だ。気恥ずかしいとかそういうんじゃない。
マジで嫌いなんだよ。
( ´_ゝ`)「次に、ドアマットなんて間抜けな場所に鍵を隠さない」
(´<_`メ )「……」
( ´_ゝ`)「最後だが、隠れ家に入る時、弟者は絶対に自分から先に入ることはない」
(≠´_ゝ`)「何故?」
( ´_ゝ`)「罠が張ってあった場合、自分が死ににくいように」
(;≠´_ゝ`)「お前ら、本当に兄弟か?」
おおよ、もちろん。
31
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:44:14 ID:Gk/zhA3w0
( ´_ゝ`)「さあ、行け」
優しいことに車椅子に乗せてやった【流石弟者】の背を軽く叩く。
毛布もかけてやって、ううん、俺ってば本当に優しいな。
まあ、実際のところは俺のしたことを隠すためだったんだけどな。
それにほら、流石の【流石兄弟】だからプレゼントにはラッピングしなきゃだろ?
(≠´_ゝ`)「……行け」
対称的に、俺の弟は後ろ手に縛られているだけで済んでいた。
ははあ、分かったぞ、この【兄者】は甘ちゃんだな。
俺には分かった。
ラブロマンスの地区に住むだけあって、こいつは、傷付ける覚悟が弱いんだ。
他人を傷付けるってことは、自分を、自分の身内を傷付けられる覚悟があるってことだ。
考えなしに暴力を振るう人間というのは、その辺りの意識が足りてない。
その点、この【流石兄者】は思慮が深かったんだろうな。
自分が俺の弟を傷付けることがなければ、その逆もないと考えたんだ。
なんて良識の塊みたいなやつなんだ。
(´<_`メ )「……」
( ´_ゝ`)「……」
互いの弟が、俺と【俺】との間を通り過ぎた。
32
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:44:54 ID:Gk/zhA3w0
(´<_`メ )「来るのが遅いぞ」
( ´_ゝ`)「さっき謝ったの早速取り下げか?」
俺たちは再会を喜ぶ様子を見せなかった。
当然抱き合ったりなんかしない。
【あちらさん】は違ったようだけど。
(゚<_゚メメメ)「あ、兄者……」
(;≠´_ゝ`)「弟者、助けるのが遅れて本当にすまない」
ふと、俺は冗談の一つでも飛ばしてやりたくなった。
( ´_ゝ`)「なあ、うちの弟とそっちの、交換しないか」
(#≠´_ゝ`)「ふざけてるのか……? これから俺たちが何をするか、分かって言ってるのか?」
俺は頭をガリガリ掻いて、ため息をひとつ。
( ´_ゝ`)「わかった、わかったよ。早く片付けよう」
【流石兄者】のもうひとつの提案は――言わなくてもなんとなく分かるよな。
33
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:45:34 ID:Gk/zhA3w0
手をひらひらさせて、それから軽く右手で指を差しながら、俺は言う。
顔は、へらっと笑っていたような気がする。
( ´_ゝ`)「ぼちぼち、【俺】(キミ)を殺っちゃうよ」
俺は駆けだした。
その手にいつもの使い慣れたナイフを握りながら。
【俺】は走った。
その手に無骨で手に馴染まない拳銃を握りながら。
34
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:46:28 ID:Gk/zhA3w0
( ´_ゝ`)「ふっ」
銃口からの直線上に身を置かないように、俺は真横に飛び退いた。
遮蔽物として飛び込んだ、俺の用意した車の影で、ボディに穴が空く音がした。チクショウ。
そして――俺の用意した車にまた穴が空く。おい、やめろ。
またまた――おい
(#´_ゝ`)「やめろおい! この車割と高かったんだぞ!」
頭を窓越しに出すと、瞬間、ガラスが割れた。
直撃こそしなかったが、かなり驚いた。
(;;´_ゝ`)=3
身を隠しつつ、ため息をひとつ。
勘弁してくれよな。
(´<_`メ )「兄貴!」
弟は、その場で姿勢を低くしていた。
無事だ、と俺は目配せをしながら、考える。
どうやら【兄者】は俺の弟に傷を付ける勇気が未だに出せないようだった。
(≠゚_ゝ゚)「どうしてお前は簡単にAA(人)を殺せるんだ!!」
それはセリフからも明らかってやつだ。
35
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:47:44 ID:Gk/zhA3w0
( ´_ゝ`)「俺のは仕事だからな。はみ出し者のAAを消すことで『成立している』のさ」
銃声に負けないよう声を張りながら、ヤツの弾丸装填を待った。
奴さんはズブの素人。
再装填のタイミングになったら絶対的な隙ができるはずだ。
(≠゚_ゝ゚)「それがお前たち【流石兄弟】の、シリアス地区のやり方だっていうのか!!」
カシン、と音がして、同時に銃声も止んだ。
今だ。
俺は真っ直ぐにヤツの方へと駆け寄る。
( ´_ゝ`)「その通りだ。ああ。もちろん悪いとは思ってるさ」
何度でも言うが、言葉のあやってヤツ。
もう分かってるよな。
(;≠゚_ゝ゚)「チィッ」
【兄者】は弾切れの拳銃を捨てるか、一瞬迷ったようだった。
きっともう一丁の拳銃を懐に仕舞ってあるんだろう。
でもそんなのは無用の長物。素人に使い切れるわけがない。
36
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:50:30 ID:Gk/zhA3w0
俺が目前に迫ってから、ようやく【兄者】はもう一丁の拳銃を取り出した。
俺たちなら、即座に敵の接近に合わせて得物をナイフに切り替える。
このシリアス地区に住む各種殺人者達にとっては、それが普通(スタンダード)だ。
まあ、ロマンスの世界ではドンパチがもっとスローペースなんだろう。
自慢じゃないが、俺の足も行動もそこそこ速い。
だから、【兄者】が態勢を整える時間は与えなかった。
密着。
腹に向けられた銃身を右手で強く外へと払った。
そうして、やっと放たれる銃弾。遅い。
俺は胸に左腕を押し付けつつ、同時に左脚でヤツの両足を刈る。
簡単に【兄者】はすっころんだ。
受け身らしい受け身も取れずヤツは頭を打ち、暫時悶えることになる。
( ´_ゝ`)「これで終わりにするか? それともまだやるか?」
倒れた【兄者】に馬乗りになり、俺は問う。
(;≠゚_ゝ゚)「くっ……デレ……」
うあ、くっせえ。
ラブロマンスの地区の連中は皆こうなのか?
死ぬ間際に愛したヤツの名前を言うと何かあるのか、救われるのか?
俺に何か精神的ダメージを与えられるとでも?
37
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:51:39 ID:Gk/zhA3w0
( ´_ゝ`)「俺らにAAの殺害依頼をするのは誰か知ってるか?」
ナイフをヤツの眼前に構えたまま、俺は言った。
(;≠゚_ゝ゚)「?」
( ´_ゝ`)「【作者】たちさ」
(;≠゚_ゝ゚)「なん、だと?」
紛れもない真実さ。
( ´_ゝ`)「例えばお前の愛した女AA。あれも、ラブコメ地区に影響のある【作者】に依頼されて殺した」
【兄者】は思考が追い付かない、という顔をしていた。
( ´_ゝ`)「お前は、ラブロマ地区の【デレ】に浮気されていた事実を知っていたか?」
(;≠゚_ゝ゚)「嘘だ! そんなこと……!」
( ´_ゝ`)「嘘じゃない。それが、ある人物の逆鱗に触れたんだ」
38
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:52:28 ID:Gk/zhA3w0
俺たちAAはイメージを伴って生まれてくるよな。
その時、ある程度のスタンダードが与えられる、ここまでは知っているだろう。
シリアス、ラブロマンス、コメディとかとかとか。
その地区にあった性格付けがなされて、俺たちは生きている。
なのに、そのスタンダードを外す連中もいるのさ。
それで困るのは誰だ。
(;≠゚_ゝ゚)「……」
( ´_ゝ`)「【作者】たちさ。理解できるか?」
ふう。
( ´_ゝ`)「邪魔なのさ。他のスタンダードの領域に踏み込んでくる他の【作者】が作ったAAが」
この世界の均衡を保っているのは、誰あろう俺たちだ。
個々が、その標準を守ることが大切だった。
なのに、それを破る連中が何人も出てきたのさ。
( ´_ゝ`)「上位存在の【作者】が奇を衒った【物語】を好むようになったせいでな」
39
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:53:12 ID:Gk/zhA3w0
( ´_ゝ`)「だから俺は、依頼さえあればそのAAを消しに行く。そうやって、均衡を保っている」
ナイフをぴたりとヤツの顔の前で止めながら、俺は言い切った。
そして、一言ずつ区切って、さらに問う。
( ´_ゝ`)「お前は、どうして、俺に食って、掛かってるんだ?」
(;≠゚_ゝ゚)「……」
( ´_ゝ`)「どうした?」
(;≠゚_ゝ゚)「……【デレ】を、愛していたからだ」
俺は絶句した。
こいつ、とんでもない阿呆だ。
( ´_ゝ`)「それは【作者】に作られた、偽物の感情だぞ?」
(;≠゚_ゝ゚)「違う! 断じて……ッ!!」
40
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:54:25 ID:Gk/zhA3w0
( ´_ゝ`)「違うもんか。【俺たち】は与えられた役割の中でしか感情を持たない」
(;≠゚_ゝ゚)「お前……ッ! そんな、そんなことがあるわけ」
( ´_ゝ`)「あるんだよ」
(´<_`メ )「兄貴、何を遊んでるんだよ」
弟が拳銃を拾い上げて、くるくるともてあそびながらつまらなさげに言った。
( ´_ゝ`)「……そうだな。終わらせよう」
(゚<_゚□;;)「あ、兄者ァッ!!」
こいつらは実につまらない連中だった。
仮にも【流石兄弟】だぞ?
手口が俺たちに似ていると言っても、甘ちゃんのやることだ。
爆弾に至っても間抜けとしか言いようがない。
大方、俺が【デレ】を殺した犯人か確証がなかったから、脅しのつもりでやったんだろう。
でもな、そういうぬるい考えのせいで、俺たち兄弟を完全に葬るタイミングを失った。
そのせいで自分たちも死にそうなことになっちまってるんだ。
まったくもって、まったくもって――
◆
41
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:55:26 ID:Gk/zhA3w0
( ´_ゝ`)「……くだらねえ」
(´<_`メ )「……ああ」
映画館でハッピーエンドの映画を見た。
感想は口に出した通りだった。
俺はバターをかけた、弟はキャラメルをかけた、ポップコーンを並んで食った。
主演は【流石兄者】と【デレデレ】。
( ´_ゝ`)むしゃ
(´<_`メ )むしゃ
二人の遺作が見られるのはラブロマンス地区の映画館だけだった。
わざわざ俺たちが観に行ったのが阿呆みたいにいい話だった。
涙がちょちょぎれた。
あくびが原因で。
42
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:56:06 ID:Gk/zhA3w0
スタンダード局からあてがわれた、前のと似たアパートに俺たちは帰った。
手狭感そのままに、家具などが新しくなっていた。ラッキー。
標準的なキッチンで、俺は簡単な食事を作った。
と言っても、レンジで温めたワッフルにメープルシロップをかけただけなんだが。
(´<_`メ )もくもく
俺は弟にそれを出して、自分はコーヒーだけを飲んだ。
あまり、ビールって気分でもなかったんだ。
( ´_ゝ`)「なあ」
ん、と弟が口にワッフルを頬張りながら応えた。
( ´_ゝ`)「俺のことどう思ってる」
(´<_`メ )「気持ち悪い」
( ´_ゝ`)
(´<_`メ )
( ´_ゝ`)「だよな」
全くその通りだ。
43
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:56:47 ID:Gk/zhA3w0
それから、俺たちは夜の街を歩いた。
そして、空を見上げた。
( ´_ゝ`)
どこかから、見られる気配がする。
生まれてこの方、それは途絶えたことがない。
( ´_ゝ`)
俺たちが寝る時間でも、起きる瞬間も、
クソする間や、食べてる時も。
( ´_ゝ`)
44
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:57:30 ID:Gk/zhA3w0
なあ、見ているんだろう、【アンタ】たち。
45
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:59:12 ID:Gk/zhA3w0
◆
「ど、どうして俺を殺そうとするんだ!?」
( ´_ゝ`)「理由は俺に訊くな」
「そんなふざけた話があるかッ!!」
( ´_ゝ`)「仕方ないだろ、俺には理解できない感情なんだから」
なあ、【アンタ】たちよう。
( ´_ゝ`)「理解できる脳みそを持って生まれなかったんだ」
なんで俺はこんな役割なんだ。
( ´_ゝ`)「じゃあな」
誰がこれを望んでるんだ。
( ´_ゝ`)「せめて痛みなく殺してやるよ」
はあ……もう考えるのは、よそう。
さあ、【キミ】(俺)を殺して、殺るよ。
キミを殺っちゃうようです
お し ま い
46
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 20:59:57 ID:Gk/zhA3w0
投下終了でがす
47
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 21:01:10 ID:Gk/zhA3w0
使用スレタイ
( ´_ゝ`)キミを殺っちゃうようです
使用イラスト
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_545.png
(擬人化注意)
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_546.jpg
48
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 21:03:02 ID:DXuOYH5Q0
乙!
49
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 21:06:39 ID:3z2Wqz8k0
乙でした!!!
50
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 21:10:42 ID:yzD8beCQ0
乙乙!
引き込まれる作品だった!
51
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 21:22:51 ID:6Fv5qMQU0
すげー!面白かったよ!
流石だ乙!
52
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 21:27:25 ID:qr883OrA0
おつ
何か身につまされる
53
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 21:29:13 ID:dMXxLVkE0
乙乙!設定が良いな!
こういうどっか狂ってる兄者好きだ
54
:
名も無きAAのようです
:2013/01/05(土) 21:36:27 ID:Gk/zhA3w0
>>40
の弟者の
(゚<_゚□;;) は間違いで
(゚<_゚メメメ) が正しいのでした
補完よろしくお願いします
55
:
名も無きAAのようです
:2013/01/07(月) 09:03:05 ID:K73/cItY0
おつ!
文の感じ好きだ
56
:
名も無きAAのようです
:2016/06/13(月) 16:37:51 ID:SGarlV8M0
これ本当に大好き
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