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∬ _ゝ )にぶんのいちのようです( <_ )
42
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:13:11 ID:Rn6pNEN2O
一時間くらいそうしていただろうか。
きちんと泣き止んだのを確かめて、用意した真っ白いリボンで二人の手首を結んだ。
離れない、約束の証。
聞き手側を差し出したせいで上手く結べなくて四苦八苦してしまう。
(´<_` )「まったく、あんたって本当にぶきっちょだな」
あまりのおたおたぶりにリボンを奪われた。
∬;´_ゝ`)「うぅ…返す言葉が見当たらない…」
(´<_` )「いや、そこは素直に謝れよぶきっちょ」
∬´_ゝ`)「えー…念押され過ぎるとお姉ちゃん反抗したくなるなぁ」
(´<_` ;)「…っ……事実なんだからしょうがないだろ」
∬*´_ゝ`)「だってぇー、器用さは弟者の為にー、母者のお腹に置いてきたもん。だから弟者が悪い!」
(´<_` )「まったく、よくわからん屁理屈を…ほら、出来たよ……」
綺麗に蝶々結びになったそれを、弟者は何故だか悲しそうに見ていた。
さっきまで笑っていたのに、今度は弟者が泣きそうになっていた。
43
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:14:09 ID:Rn6pNEN2O
物理的な安心が欲しいと望んだのは弟者なのに。
希望通りのはずなのに。
∬´_ゝ`)「どうし」
(´<_` )「……………ん」
理由を訪ねようとした台詞は聞き取れなかった声に遮られた。
∬´_ゝ`)「え?何?ごめん、聞こえなかった」
(´<_` )「んー…ん、あー……何でもないよ」
改めて聞き直したものの、やんわりと拒絶された。
誤魔化す時に必ずする、ふにゃりとした笑顔つきで。
この笑顔をされてしまえば最後、もう何を言っても話してくれないと知っていた。
わざとすり抜けていく弟者の飄々とした態度にいつも困りながらも、そんな所も大好きだった。
弟者が形作るもの、弟者を形作るもの、この子を取り巻く全てが大好きだった。
大好き、だったのに。
どうして手放そうなんて思えたんだろうか。
44
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:18:23 ID:Rn6pNEN2O
一瞬、風がぴたりと凪いだ。
波の音だけが穏やかに響いた。
お互い顔を見合わせる。
言葉にしなくてもついに“その時”がきたんだと悟った。
∬´_ゝ`)「いこうか」
(´<_` )「…うん」
リボンの絡んだ手を繋ぐ。
目を瞑ると弟者が優しく触れるだけの口づけをくれた。
唇が。
弟者の最後の体温が。
怖いくらいにひどく温かかった。
45
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:21:21 ID:Rn6pNEN2O
深呼吸を一回。
同時に踏み出す、終わりの一歩。
平地に着地する事のなかった足。重力のままに傾く二人の身体。
空と海が天地をなくして入り交じる。
今までに味わった事のない不思議な浮遊感の数秒後、今までに受けた事のない強い衝撃が襲ってきた。
岩のように固い海水が全身包んで、一緒に飛び込んだ空気がぼこぼこと気泡に変わる。
波に煽られ揉まれ、必死で互いに引き合い抱き締める。
じわじわと重くなる意識、背中に死が這い寄っていた。
でも、側に弟者がいる。
ちっとも恐くない。
ちっとも冷たくない。
大好きな、大好きな、私の弟者。
一緒に天国に逝こうと、指切りした。
ずぅっと、ずぅっと、一緒。
離れるなんて、許されなかった。
( <_ )「……ぃ……き、……て、……、…に……ゃ」
泡沫の中で目の前の弟者がにっこりと笑った気がした。
口がパクパクと意味ありげに動いたけれど、水に遮られこぽこぽ泡になって私に届く前に消えていく。
教えてほしくて、空いている指で動く唇に触れた。
その刹那。
ぶつんっっっ!!!
その理由も意味も問えぬまま、突然真っ暗闇に意識が濁った。
未来永劫わからない言葉。
一生教えてもらえないあの言葉は。
きっと、あれは、私に遺そうとした恨み辛みに違いなかった。
46
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:22:46 ID:Rn6pNEN2O
.
47
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:25:18 ID:Rn6pNEN2O
∬ _ゝ )
∬´_ゝ`)
.
48
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:27:08 ID:Rn6pNEN2O
気をやっていたのはほんのわずかな時間だったらしく、あんなに暗かった思考がふわりと緩く浮いた。
そんなに遠くない位置に光が見える。
ゆらりゆらり、激しかった波は鳴りを潜めていて、ゆったりとした波に任せて漂った。
意外と一思いに死ねないものなんだ、なんて呑気に考えていた。
息を水の壁に塞がれて徐々に息苦しくなってきて、このまま弟者と死ねるんだと嬉しくてまた意識を落とそうとする。
けれど、何かが足りない気がした。
弟者を抱き締めていた腕が緩んでいる。何故か水圧しか掴めない。慌てて目を開ける。
鈍く澱んだ視界の先に、右手からほどけていく白だけが見えた。
隣にいたはずの弟者がどこにもいない。
辺りを見渡せば少し遠くに影が、ゆらゆらと柔らかそうな何かが揺れていた。
色違いで揃えたパーカー。
綺麗な黄緑色の毛並み。
ゆら、ゆら。
ゆぅら、ゆぅら、ゆぅら。
力なく布切れみたいに漂っているのは。
( <_ )
見間違えるはずなんて絶対にない。
あれは紛れもなく弟者だった。
49
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:27:12 ID:XSBfLjtY0
胸が痛え…
50
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:27:58 ID:Rn6pNEN2O
離れてしまった。
理解した途端に例えようもない絶望が広がった。
さっきまで水の冷たさなど微塵も感じなかったのに、急激に体温が下がっていった。
自分の身体が水の中なのに小刻みに震えているのがわかった。
死ぬと決めてから初めて怖い思った。
あの子がどこかへ離れてしまう。
鎖が、絆が、必死に繋いだはずのものがするりするりと腕から零れていってしまう。
だめだ、行かないで、いやだ。
ありったけ水を蹴って手を伸ばしたその瞬間、焦った反動かごぽりと水が私の喉を容赦なく犯した。
想いとは反対に急激に肺が萎んで、吐き出した気泡がぼこぼこ地上へ向かっていった。
徐々に弟者が深海の闇に引きずられ消えていく。
見えなくなっていく。
あの子の手が掴めない。
切れていくなんてだめ、切れちゃいけないのに。
掴めない、怖い、いやだ、やだ。
弟者が側にいない死なんて、いやだ。
そんなの。
怖い。
51
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:29:37 ID:Rn6pNEN2O
怖い
嫌だ
怖い
嫌だ
こわい
いやだ
ひとりで
ひとり
ぼっちで
.
52
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:31:22 ID:Rn6pNEN2O
あ
あ
あ
あ
あ
ご
め
ん
な
さ
い
.
53
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:33:57 ID:Rn6pNEN2O
∬ _ゝ )
今度こそ本当に意識が沈もうとしたその間際、気付いてしまった。
先に絆を手離したのは。
大切な指切りを捨てていたのは。
私。
.
54
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:35:44 ID:Rn6pNEN2O
.
55
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:36:32 ID:Rn6pNEN2O
――――………?
―――………ゃ?
――………じゃ?
―……あねじゃ?
.
56
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:36:46 ID:A58mJtH60
しえん
57
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:38:11 ID:Rn6pNEN2O
誰かの声がする。
誰かが誰かの名前を呼んでいる。
∬−_ゝ-)「………」
―……姉者?
ざわり、身体が戦慄いた。
無性にその声に、答えないといけない気がした。
58
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:39:54 ID:Rn6pNEN2O
∬―_ゝ-)「………ん」
重い意識を力一杯押し上げる。
∬´_ゝ-)
重いまぶたを力一杯押し上げる。
∬;>_ゝ<)「…んっ!」
目映い光が視界を突き抜ける。
起きたばかりの私には頭がくらくらした。
ぱちぱちと何度かまばたきを繰り返して、目を光に慣れさせているとその光を遮るように誰かの姿が視界に入ってきた。
l从・−・ノ!リ人
心配そうに覗き込むこの顔は。
59
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:43:30 ID:Rn6pNEN2O
∬´_ゝ`)「……い、…じゃ?」
小さな妹が、そこに立っていた。
l从・−・ノ!リ人「…っ!?」
∬´_ゝ`)「……っ、…こ、は?」
l从・д;ノ!リ人「あ…あ…」
∬´_ゝ`)「…ん?…も…じゃ?」
l从;д;ノ!リ人「…ぅ…あ、ぁぁ…しゃべ、喋ったのじゃ!あね、姉者が起きて喋ったのじゃぁぁぅぁぁぁぁ!!!」
∬;´_ゝ`)そ
途端、頭が割れそうなほどの大きな悲鳴が耳をつんざいた。
三l从 ;д;ノ!リ人「は、は、ははじゃぁぁぁぁぁあああ!ち、ち、ち、ちちじゃぁぁぁぁああ!!あぅ…あ、あね、あねじゃがぁぁぁあぁぁあ!!!」
∬;´_ゝ`)「…え?あ?…い、も、え……ぁ……」
ばんっとドアが跳ね返るほど乱暴に開け放ち、妹者がどこかへ駆けて行ってしまった。
話をする暇もなく、まったく状況がよく飲み込めない。
もう、二度と会えないはずのない妹者がいた。
嗅ぎ慣れない薬臭い空気。
見慣れない綺麗な白い天井。
いくつも並んだ大掛かりな機械。
鼻や腕から何本もだらりと伸びた管。
開けっぱなしのドアの向こうから聞こえる微かな話し声と足音。
ここには、生きているものの匂いが充満していた。
ああ、そうか。
60
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:46:13 ID:Rn6pNEN2O
大体の状況を悟って心底落胆する。
∬´_ゝ`)「………たす…っち…たのか…」
声が驚くほど嗄れていた。
一体どれぐらいの間、こうしていたんだろう。
話を聞きたくて辺りを見回しても誰もいない。
他にベッドを置くスペースがないところを見ると、どうやら一人部屋にいるらしい。
弟者はどこにいるんだろう。
探しに行きたいけれど、機械に拘束されてまったく起き上がれない。
唯一まともに動かせる視線が捉えるのは、ひたすら見知らぬものばかり。
ざわり、ざわり、喉の奥から不安が迫り上がってくる。
気持ち悪い。嘔吐感をぐっと堪える。
弟者はどこだろう。
きっと違う病室にいるだけだ。
きっと大丈夫だ。
無事でいるに決まってる。
生きていているにちがいない。
心からそう願った。
それからすぐ妹は父と母と、見知らぬ白衣を着た男を連れてきた。
弟者はどこ?
問いかけた瞬間、三人の顔が揃って強張った。
それは、途方もない地獄の始まりだった。
61
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:53:35 ID:Rn6pNEN2O
本日はここまで。
とりあえず序章はこんな感じです。
ところどころAAが小さくなっていたりしていてすみません。
もしもしのスペースが反映されない時があるようで…。
質問や指摘があればできる範囲で答えます。
支援ありがとうございます!
2、3日ぐらいかかりますので眠い方は寝てくださいすみません。
ちんたら投下ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
62
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 00:55:23 ID:XSBfLjtY0
乙!!
続き、楽しみに待ってるよ!
63
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 01:27:21 ID:sEproDj60
乙
めっちゃおもしろかった!
兄者はいない設定なのか
64
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 02:04:59 ID:BW1ipwXw0
おつ!続きが怖すぎるぜ
弟者の死に際の一言が気になるなあ
65
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:18:50 ID:Rn6pNEN2O
1です。
兄者の存在、弟者の言葉は想像にお任せします。
嘘ですすみません。
ということで短いけれど続きを投下します。
66
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:20:03 ID:Rn6pNEN2O
書き忘れました。今回グロ注意です。
67
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:22:52 ID:Rn6pNEN2O
あれから三ヶ月。
身体の傷が癒え退院してから今日で二週間。
毎日毎日、ただぼうっと仏間に座って過ごしていた。
揺れる蝋燭の火を眺め、線香を絶やさず焚き続け、弟者の遺骨のそばに居続けた。
四十九日が過ぎて、本来なら弟者はすでにお墓の下にいるはずだった。
忌明けの法要の日。弟者の葬式でも普通にしていた妹者がいきなり豹変したのだという。
納骨を頑なに拒み、骨壺を抱き抱え泣き叫び、しまいには手がつけられないほど暴れたらしい。
このまま納骨するのは到底無理だと判断した父は、とりあえず法要だけを執り行った。
だから、弟者は今もここにいる。
68
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:24:45 ID:Rn6pNEN2O
祭壇にはいろんな色の花が供えられ、手紙や折り鶴、お菓子に本にノートパソコン。
あの子が好きだったもの、あの子の死を悼むものが所狭しと置かれていた。
弟者がいかに周りから愛され尊敬されていたか、改めて思い知らされた。
遺影には大好きだった笑顔が収まっている。
遊園地で撮った、観覧車の窓越しに青空を背にしている写真。
それは死ぬ計画をした後に撮った写真だった。
―――あんたたちの勝手にカメラ触るのは悪いと思ったんだけどね…。この写真が一番よく笑ってたもんだからどうしても使いたくてねえ…。
退院後初めてこの部屋に入った時、泣きながら母者が私にそう告げた。
いつだって元気でパワフルで、涙とはほとんど無縁の母が泣いているのを見ても、震える声を聞いても泣けなかった。
目の奥は痛くなるのに、喉は歪に引きつるのに、肝心の雫が溢れない。
私はみんなから大切な存在を奪った張本人。
泣いて悲しむ権利なんて私にはない。
69
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:29:26 ID:Rn6pNEN2O
誰も私を責めなかった。
あれは不幸で悲しい事故だと、みんなは疑いもせず私を励まし説き伏せた。
予兆がない。遺書もない。理由もない。誰も知らない。
違うと、そうじゃないと、絶対に言わなかった
慎重を期して秘密裏に進めた大切な計画を安易にバラしたりしたら、それこそ弟者を裏切ってしまうことになる。
秘密など、最初からありはしなかった。
弟者は清廉潔白のまま死んだ。
真っ当な人の道を歩き、まっすぐに生きていたと高らかに謳う。
それが一人生き残り、痴れ者に成り下がった私がたった一つ弟者にしてあげられること。
最低の醜聞に蓋をして、弟者を貶める秘密をひた隠す。
一生誰にも真実を語ることなく、嘘で周囲を欺き、塗り固める。
不慮の事故。弟を亡くした可哀想な子。あなただけでも生きていてよかった。
そう他人に憐れまれる度に弟者の死を、本当の理由を、常に心に突きつけられる。
それがすべて正しいのだ。
正しい、んだ。
.
70
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:33:36 ID:Rn6pNEN2O
なのに。
正しいはずなのに心が痛くて堪らなかった。
弟者がいない。
ひとりぼっち。
それだけで重荷に押し潰されて、ズタズタになっていく。
出来てしまった空洞に弱音がみっしりと埋まっていく。
なんて、なんて、身勝手なんだろう。
苦しめ、もっと苦しむべきだ。
弟者に詫びて、一生、痛みと後悔に苛まれるべきだ。
嫌なら、どうして生きている。
∬ _ゝ )「……あぁぁぁ、うぅ…あ、あああ!ぁぁぁああああああああああああ!!!」
畳を掻き毟る。
ぎちっ、ざり、ざりざりざりっ、ちん、がりっ、ざり、ざざっ、ざざざぎぎぎ、がっ、がりっ。
不協和音がひっきりなしに鳴って、爪痕で幾重にも筋が出来た。
毎日毎日立てている爪はボロボロに欠けて、欠けて。
それでも必死に掻いて、掻いて。
苦しくて、苦しくて、肺が底から酸素を求めた。
おかしい、間違っている。
罰はどうした、重罪人。
汚ならしい分際で、そんなに呼吸したいのか。
弟者はもう息を出来ないのに。
弟者の人生を喰らったくせに。
私だけどうして貪欲に生きようとしている。
ろくでなしの虫けらが助かって、弟者が死んでいいなんてありえない。
一人寂しく地の果てで勝手に死ねばよかったのに。どうしてあの日言葉にしてしまったのか。
誰にでも愛されていた弟者が死んでいいはずがない。
こんな汚い存在が生きていていいはずがない。
ありとあらゆる後悔で窒息してしまえたらよかったのに。
71
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:42:01 ID:Rn6pNEN2O
弟者、弟者、生き残ってごめんなさい。
一緒に死にたいなんて言ってごめんなさい。
見上げた弟者は、ずっと笑っている。
写真の中でしか笑わない弟者。
きらきらと、日向に咲く太陽みたいに優しい笑顔。
弟者。
弟者。
おとじゃ。
おと、じゃ。
無意識に腕が伸びていた。
72
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:44:50 ID:Rn6pNEN2O
指で輪郭をなぞり上げた。
ガラス越しに触れた笑顔は、冷たく無機質なだけ。
触れてしまった。
お前ごときが。
ぎっざざっ。
ぎちっ。
ざ、っぎぎっがっ、がりっ。
.
73
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:47:14 ID:Rn6pNEN2O
∬ _ゝ )「あぁぁぁぁぁああぁぁぁ、あ、あああ!ぁああああああぁぁああああああああああああ!!!」
.
74
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:48:04 ID:Rn6pNEN2O
ぶっつん!!!!
.
75
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:49:15 ID:Rn6pNEN2O
また一つ、罪の重さが増してゆく。
.
76
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:50:37 ID:Rn6pNEN2O
.
77
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:51:53 ID:Rn6pNEN2O
約束だと、笑ってそう言ったのに。
互いの一番短い指先を解けないようにちゃんと絡ませたのに。
それなのに、どうして?
一緒にって、ずっと一緒って約束したのに。
一緒に、いつまでもいるって、あの時指を。
あれ?私の、指が、ない?
右も左も4本しか見当たらないない、どういう事?
小指はどこへ?弟者との約束は、どこ?
どうして、どこにもない?
あれがないと弟者が帰ってこれないのに、なくしたなんてどれだけ愚図なのか。
困る、探さないと。
服がずぶ濡れになるのも構わずに真っ暗な水を掻きむしる。
水なはずなのに酷く固くてじゃりじゃりする。思うように捗らない。
奥へ、深く。
深く、奥へ。
真っ暗闇に沈んでしまった約束を探して這いずり回る。
掘り進めれば水が詰まって爪が割れ、場所を変えれば膝の皮膚が剥がれ、垂れ流された血がぬるぬると辺りを汚した。
肉が削げて痛くとも、骨が露になって悲鳴を上げようとも、弟者が待っていると思って血眼になって探し回る。
見つけなきゃ、見つけなきゃ。
.
78
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:53:55 ID:Rn6pNEN2O
∬ _ゝ )「……ごめん、なさい、おとじゃ、ごめんなさい……」
届かない謝罪がぬかるんだ地面に吸われて消えていく。
そんな事をしたって消えない。より一層罪が重みを増すだけだとわかってる。
許されたいだなんて、思っていない。
ただの自己満足だ。
∬ _ゝ )「…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
無意味だと、何も価値がないとわかっていながらそれでも一心不乱謝り続ける。
だって、私にはそれしか出来ない。
無力は最大の罪だ。
.
79
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 22:55:21 ID:Rn6pNEN2O
「何してんの?」
.
80
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:04:24 ID:XSBfLjtY0
支援支援
81
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:11:41 ID:Rn6pNEN2O
突然声が頭に降ってきた。
ずる、びちゃ、ずり、ずる、ぐちゃん、ずるずるずる。
近くで重いものを引きずる音がした。
そして地を浚う視線の中に、一組の足が入り込んでくる。
壊れたスニーカーを履いて爪先を露にしている右足と、何も身に付けず擦り傷だけで血色のまったくない真っ白の左足。
誰だろうと視線を上向かせる。
.
82
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:12:56 ID:Rn6pNEN2O
(´<_%"。.)
.
83
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:16:25 ID:Rn6pNEN2O
姿を捉えたのと同時、息が止まった。
必死に探していた弟者が、五体不満足でそこに立っていた。
∬;´_ゝ`)「お、弟者……」
本来目があるはずの場所がぽっかりと空洞になっていた。
ぐちゃぐちゃに潰れだらりと飛び出した眼球らしき球体が、視神経なのかぬらぬらした糸で辛うじて空洞と繋がってる。
頬や首、手足のあちらこちらの皮膚が裂けて捲れ上がっていた。
右肘と脇腹からは折れた骨がいくつも飛び出して、傷口から白黄色の脂肪とピンク色の肉が溶け崩れ、どろっとした体液と血が肌の上に幾筋も垂れていた。
あの日着ていた服はぼろ切れ同然にズタズタに裂け、申し訳ない程度にしか弟者の身体をくるんでおらず。
血が抜けているせいなのか、肌が透けてしまいそうなくらい青白くて生気がまったく感じられない。
一緒に過ごしていた頃の、自分が知っている弟者がどこにもいなくなってしまっていた。
84
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:18:25 ID:Rn6pNEN2O
早く治してあげないと。痛々しくて、可哀想で。
弟者に触れようと、血と黒い水で汚れた手を伸ばす。
(´<_%"。.)「寄るな、裏切り者」
伸ばしかけた手がびくりとしなった。
鼓膜に叩きつけられた声は、あの時の水と同じく凍るように冷たかった。
どすんと、胸の最奥まで突き刺さる。
そうだ。
そうだった。
私は、弟者を裏切ったんだ。
どうして触れられるだなんて思えたんだろう。
弟者をこんな姿にしたのは自分なのに、どうして治せるだなんて思えたんだろう。
何も懲りていない。
結局辛酸の上面だけなぞって、何も悔い改めていないじゃないか。
.
85
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:20:53 ID:Rn6pNEN2O
ぴちゃん
ぴちゃっ
ぴちゃん
ぴちゃ
ぴちゃ
ぴちゃん
ぴちゃん
ぴちゃん
ぴちゃん
ぴちゃん
ぴちゃん
.
86
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:23:19 ID:Rn6pNEN2O
(;<_%"。.)「……近寄るな、大嘘つきっ!!」
.
87
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:26:00 ID:Rn6pNEN2O
弟者が泣いていた。
まともな左目からも、なくなった右目からも重く、赤い、大粒の涙が溢れていた。
暗い水面にぽたりぽたりと零れ落ちて、ゆらりゆらりと波紋を作る。
一粒落ちては広くなり、二粒落ちては高さを増して、高波が弟者と私の周りを取り囲む。
( <_%"。.)「…ぁ……ゃなんか…」
大嫌いだ!!!!!!!
弟者の言葉が放たれたのと同時、真っ赤な大波が一瞬でぐにゃりと変形して、巨大な骸と鎌に変わった。
(#゚<_%"。.)「……あんただけが死ねばよかったのにっ!!!!!!」
絶対的な拒絶。
弟者の声に頷いた赤い骸が、にたりと不気味に嗤ってじわじわと近づいてくる。
恐怖とショックで逃げることも叶わず、ただその場所に腰を抜かしてへたり込んだ。
顔まであと数センチというところまで近づかれて、骸に顔を覗き込まれる。
底のない二つの冥暗がしっかりと私を見据えていた。
ふわりと死の匂いが、した。
.
88
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:30:43 ID:Rn6pNEN2O
次の瞬間、研ぎ澄まされた大鎌が獲物目掛けて物凄い勢いで振りかぶられる。
残酷で鋭い切っ先が寸分の違いもなく私の首にずぶりと沈んだ。
力のままに撥ね飛ばされる頭。
残された身体から吹き上げる鮮紅。
私の血で出来た水溜まりにぼちゃんと切り離された頭が転がった。
びちゃびちゃと、血液が大量に落ちる水音がずっと絶え間なく鼓膜に響く。
( <_%"。.)
あぁ、弟者が泣いている。
泣きながら、私の死体を容赦なく踏みつけていた。
ひとつ踏んでは、お前のせいで。
ふたつ踏んでは、どうしてお前ばかりが生きている。
みっつ、ぐじゃり。
よっつ、ぐちゃり。
いつつ、ぐちゃん。
むっつ、ぐじゅ。
ななつ、ぬちゃあっ。
限りなく降り下ろされる足が、遺恨が、私を跡形もなく叩き潰していく。
転がり、どろんと濁った眼球が、じぃっとみていた。
泣いて、泣いて、苦痛に喘ぎ、憎悪に咽ぶ、愛おしい子。
どうすれば、涙を拭える?
どうすれば、笑ってくれる?
なにをしたら、あの日向に、還してあげられる?
そんな資格もないくせに、撒き散らされた脳みそはずっとそればかりを考えていた。
89
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:39:42 ID:Rn6pNEN2O
.
90
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:41:59 ID:Rn6pNEN2O
――――………?
―――………ゃ?
――………じゃ?
―…………じゃ?
.
91
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:44:27 ID:Rn6pNEN2O
まただ、内側からぐらぐらと揺さぶられる声がする。
―…姉者、姉者!あね、あねじゃぁぁっ!!
泣かなくていいよ。
―…あぅ、ああ、いやぁぁぁあ!!あね、あねじゃぁ?あ、ひっ、くっ…いだ、ぁ…。
怖いことは、ほら、全部ないないしようね?
―…ひ、ぅ、うぇぇ、ぐすっ、いゃぁ…やっ…あ、ひ、ね、じゃぁぁぁっ!!
ほら、ここにちゃんといるでしょう?
―…うん、うんっ、あねじゃ。あねじゃ!あは、ひゃふ、あひゃははははははははっ!!!
うん、うん、お利口さんだね。
.
92
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:46:31 ID:Rn6pNEN2O
真っ白い煙が、高く高く風に揺れている。
真っ黒たちがぞろぞろ群れる。
通り過ぎる影。
水を啜る音。
呪文。
写真。
花。
ふわり、抹香の匂い。
.
93
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:50:23 ID:Rn6pNEN2O
わたしは、だれ?。
どれが、わたし?
わたし、だれ?
わたしは、どこ?
なに、いってる?
あんたは。
.
94
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:52:01 ID:Rn6pNEN2O
( <_ )『 あ ね じ ゃ だ ろ う ? 』
.
95
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:55:08 ID:Rn6pNEN2O
∬ ゚_ゝ゚)「……っ!!!!」
何かの衝撃に弾かれたように目を覚ます。
ぐるんっと勢いよく天井が回った。
大きく歪む平衡感覚、せり上がる胃液。
唾を飲み、深く息をついて、首筋をゆっくりなぞる。
ちゃんと繋がっている。
四肢もまともなまま。
肉塊はどこにもない。
死んでいない。
私は、私だ。
∬ _ゝ )「…ぅ、お、ぁ゙…おえ゙…っ!」
私は。
きもち、わるい。
胃の中身をぶちまけようと俯いた。
瞬間。
「う、そ、だ…あ、あぅひっ、い、いあ、あ、あ、あ、嘘だぁぁあぁぁあ!」
部屋中を悲鳴が支配した。
96
:
名も無きAAのようです
:2012/12/26(水) 23:57:38 ID:Rn6pNEN2O
l从;д;ノ!リ人「あ、あね、あ、姉者!あぅ、あ、ぃあああああ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!あねじゃあ、なんともない?だい、じぶなのじゃ?…ぉ、きてなのじゃ!いや、いやだぁぁぃいあああ!!!!!」
仏壇の前で、鼻水と涙にまみれて妹者がぐちゃぐちゃに錯乱していた。
私の名前を呼び狂い、ガタガタと身体が震えて、だらだらと汗が滴っている。
異様な空気に嘔吐感も忘れ、どうしてと考えて、すぐに思い当たった。
噎せ変える線香の匂い。
真新しい祭壇。
この部屋は。
仏間。
ここにいさせてはいけない。
慌てて小さな身体を腕に抱き上げると、部屋から転がるように飛び出した。
97
:
名も無きAAのようです
:2012/12/27(木) 00:00:45 ID:a3pGf0GAO
引き戸を急いで閉め鍵をかけるとその場にずるりと座り込む。
理性をなくした妹者にありったけの力でしがみつかれ、ぎっちりと腕の皮膚ごと服を捕まれる。
鋭い痛みがあったけれど、気にしている余裕はなかった。
背中を優しく叩き、頭を何回も撫でて、癇癪が収まるのじっと待つ。
l从;д;ノ!リ人「かえ、ひぃっ、くっ…きた、あねじゃ、うぅぇくっ!いな、いなくてぇ…やだぁ、あね…や…」
引き戸を出てすぐのところに、ピンク色のランドセルとうさぎ柄の手提げがぽつんと落ちていた。
もうそんな時間だったのか。
最近まともに眠れていなかったから、まさかこのタイミングで深く寝てしまうなんて思ってもみなかった。
最低最悪だ。鍵を忘れていなければ妹者がここに入ってしまうことはなかっただろうに。
いつもはきちんと出来ていたのに、今日に限って内側の鍵をかけ忘れていたなんて。
完全に私の落ち度だ。
今度こそ妹者に何かあったらどうしよう。
私のせいだ。
弟者が死に、妹者までそうなってしまったら。
ああ、本当に。
私は厄災の塊だ。
.
98
:
名も無きAAのようです
:2012/12/27(木) 00:02:32 ID:a3pGf0GAO
∬; _ゝ )「妹者、お姉ちゃんここにいるでしょう?なんともないよ。びっくりさせてごめんね…」
l从;∀;ノ!リ人「いる!いるのじゃ!あねじゃ、いもじゃといるのじやぁ…ふふひっふは、あはははははっ!」
∬; _ゝ )「そう、いるよ。怖いのないないだよ?出来る?」
l从 ∀ ノ!リ人「うん!あひゃひははっ…はははっ、ないなーいできるのじゃあ!あねじゃ、あねじゃ誉めてぇ!ほめ……う…ぁ…」
∬; _ゝ )「いいこねぇ、妹者はとぉってもいいこ。お姉ちゃんの自慢の妹だもんね…」
l从 д ノ!リ人「ぁ…あ…、……う…、あ゙、…ね……」
ぐったりと妹者が全体重をかけて寄りかかってくる。気を失ってしまったのだ。
おてんばで弟者と同じように日向が似合っていた妹者。
けれど、少し前から精神が病弱になってしまった。
ショックの許容範囲を越えてしまうと決まって妹者はこうして発作を起こす。
強くなければいい。
起きた時に何も覚えていなければそれだけで十分だ。
∬ _ゝ )「ないない、しようね」
生まれたての雛鳥に刷り込むように呟く。
きつく、きつく、妹者を胸に包んだ。
大丈夫。きっと起きたらケロッとしていることだろう。
汗と涙で濡れてしまっている顔を袖で拭いてあげる。
目尻いっぱいに涙を溜めて、頬の辺りまで赤く腫れぼったくなっていた。
落ち着いた幼い寝息は普通そのもの。
99
:
名も無きAAのようです
:2012/12/27(木) 00:04:15 ID:a3pGf0GAO
普通、か。
∬ _ゝ )「……ねぇ……どこにもいないよ」
どこから、だったのか。
どこから?
愚問だ。
決まっている。
小さな身体に押しつけるにはあまりに残酷な仕打ち。
元の形には絶対ならない。
きっと、どんなに探していたとしても。
私たちを救ってくれる神様はどこにもいない。
100
:
名も無きAAのようです
:2012/12/27(木) 00:06:32 ID:a3pGf0GAO
本日の投下はここまで。
短くてすみません。
途中支援ありがとうございました!
質問や指摘がありましたら、明かせる範囲でお受けします。
101
:
名も無きAAのようです
:2012/12/27(木) 00:08:46 ID:lA7a1Duo0
乙
ちょっと狂ってる感じがいい
102
:
名も無きAAのようです
:2012/12/27(木) 01:23:50 ID:jqWAWRMY0
乙!今回も意味深だなあ
続きが楽しみ
103
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:29:22 ID:Ha2pCARoO
1です
鬱祭りスレにて説明しましたが、最終話含む全書き溜め消失により細切れ投下になりました
主催様、まとめのトマト様の温情が身に染みています
本当にありがとうございます
消えてしまったことで、いろいろ考えてしまい余計に長い話になってしまいそうですすみません
それでは短いながらも投下いきます
104
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:30:39 ID:Ha2pCARoO
陽は毎日登ってくる。
時間は毎日流れている。
あの日においてけぼりにされていても。
今日とてそれは変わらない。
.
105
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:33:21 ID:Ha2pCARoO
∬´_ゝ`)「妹者、そろそろヘリカルちゃんを迎えにいかないと遅刻するよ」
壁掛け時計が7時23分を指している。
学校まで妹者の足で約20分。
8時まで余裕を持って行くならそれそろ出ないと危ない時間だ。
l从#・−・ノ!リ人「むぅ…わかってるのじゃ!今行こうと思ってたのじゃ!」
茶碗を持ったまま妹者がむくれた。
残っていたごはんと玉子焼きを乱暴に口に放り込むと、食器をテーブルに放置して椅子の背にかけていたダッフルコートを羽織る。
そして、すぐ脇に置いてあったランドセルと手提げをむずりと掴んだ。
パタパタとスリッパを盛大に鳴らし玄関に向かって猛進する。
いつもならここで行儀作法にしこたま厳しい母者の怒声が飛ぶのだが、幸い今日は早番の仕事に出掛けてすでにいない。
私も片付けを後回しにしてあるものを手に取ると、妹者の後をゆっくりとした歩幅で追いかけた。
106
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:35:42 ID:Ha2pCARoO
妹者が靴を履いたところで追いつくと、サンダルを履き一緒に玄関を出る。
サンダルから覗く爪先から全身に冷たさが伝播した。
体温との落差にぞわりと鳥肌が立つ。
∬´_ゝ`)「あ、妹者ちょっと待って」
門のところでぶすくれたまま行こうとする妹者を呼び止める。
乱れてしまっている髪を手櫛で直してあげて、白くてもふもふのイヤーマフを耳にセットした。
最後にそれとお揃いの手袋も手にはめさせる。
どちらも誕生日にプレゼントして以来、ずっと妹者のお気に入りのものだ。
∬´_ゝ`)「今日は格別に冷えるらしいからつけていきなさい」
ね?と顔を覗き込むと、一瞬で膨れていたほっぺが萎んだ。
代わりに可愛らしい照れた笑顔が戻ってくる。
機嫌が直って安心した。
私も笑って、促すように妹者が背負っていたランドセルをぽんっと叩いた。
∬´_ゝ`)「はい、いってらっしゃい」
从O*・∀・*O人「ふふ、あったかいのじゃ!姉者ありがとうなのじゃ!いってきまーすなのじゃぁー!!!」
∬;´_ゝ`)「ああっ、そんなに走らないの!帰りに誰かと遊んでくるならちゃんと電話しなさいねー!」
近所中に響くような声に少しびっくりする。
ご機嫌になり過ぎたみたいだ。
手袋をはめたばかりの手を大きくを振り、白い息をつきながら小走りで門を出ていく。
整えたばかりの髪がふわふわと動きに合わせて揺れていた。
角を曲がって姿が見えなくなるまで見守る。
よくある朝の光景だった。
ただ。
一緒に見送ってくれる弟者がいないだけ。
.
107
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:38:36 ID:Ha2pCARoO
妹者が無事に出ていったのを見届け、家に戻る。
両親は仕事、妹者は学校。家中ががらんと静まり返って物音ひとつしない。
自覚した途端に、対人用に入っていたスイッチがオフに切り替わり始めた。
身体が鉛を詰め込んだみたいに一気に重くなる。
ずるずると鈍い動作でどうにか台所に向かうと、テーブルに残った食器を片付ける。
洗う、拭く、しまう。事務的に作業を淡々とこなす。
最後まで引きずられないよう無心になるよう努めた。
なのに。
ガチャンッ!
∬;´_ゝ`)「…っあ!」
うっかり洗いかけの妹者の茶碗を洗い桶に落としてしまう。
幸い欠けはしなかったが、予想外の出来事だったせいで張り詰めていた感情が少し綻んでしまった。
気持ちを押さえていても、どんなに意識を違うところに飛ばそうとしても、自分が出す音以外聞こえない状況下では限界がある。
段々と一点を残してぼんやりと霞んでいく。
最後の一枚をしまい終える頃にはもうほとんど傾いていた。
.
108
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:40:28 ID:Ha2pCARoO
今度は棚から朱色の丸盆を取り出す。
仏飯器にごはんをよそって、仏茶器にお茶を入れ、お盆の上に置くと歩き出した。
時々振動で漆塗りの表面を滑る仏器を落とさないよう、慎重に歩を進める。
たった数メートル離れた目的地に辿り着くのも、言うことを聞かない身体では一苦労だった。
ぴったりと閉じられた扉。
深呼吸をひとつ、私はそっと仏間の鍵穴に鍵を差し込む。
かちゃり、狭い世界の開く音がした。
重く感じる戸を引いて、足を踏み入れる。
正面に真っ先に見えた笑顔の写真。
【(´<_` )】
おはよう、弟者。
今日は一段と冷えるね。
夜から雪になるかもしれないんだって。
∬´_ゝ`)「…………」
どんなに話しかけたって、所詮独り言だ。
.
109
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:42:54 ID:Ha2pCARoO
部屋にはいるとすぐに内鍵を閉め、目覚まし時計に手をかけた。
アラームを妹者の授業が終わる時間にセットする。
あの一件があっても、私は仏間にずっと入り浸るのをやめなかった。
妹者の発作の理由はわかっている。それならば起こさないよう慎重になればいい。
人として最低な自覚はあっても、中毒を起こした思考は躊躇を軽く凌駕して勝手に身体を動かしてしまう。
ごはんとお茶を供えて、短くなった蝋燭を真新しいのに取り替えて火をつける。
線香を一本、半分に折って長香炉に横たえた。
∬´_ゝ`)
揺蕩う、灯り。
燻る、白煙。
溢れ返る、記憶。
ずくんと、痛む頭。
∬ _ゝ )
今日も愛おしいあの子への。
長い長い懺悔が始まる。
.
110
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:44:17 ID:Ha2pCARoO
近頃は弟者を訪ねてくる人はほとんどいなくなってしまった。
これではいけないと、アルバムをありったけ大量に持ち込み、生まれた時からの思い出をずっと弟者に話しかけていた。
楽しかったことばかりが詰まった写真たち。
直視すると、全身ひどい痛みに襲われた。
でも、懐古すればいつでも弟者に会える。
それ以上に弟者から取り上げた日々を後悔した。
板挟みの想い。
本当の比重はどちらに向いているのか、自分でもわからなくなる時がある。
∬ _ゝ )「これ、退院の時だ…。弟者、未熟児ですごく小さくて…しばらく保育器に入ってたんだよね」
積んであった山から一冊手に取って一番最初のページを開く。
そこには病院の玄関先で母者に抱かれた赤ちゃんの弟者がいた。
私は父者に抱かれ、弟の退院を喜び笑っていた。
.
111
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:45:25 ID:Ha2pCARoO
∬ _ゝ )「ほら、初めて立った時の写真。母者たちにじゃなくて真っ先に私に向かってきたんだって。しかも頭ごっつんしてさ、二人で大泣きしちゃってるよ」
写真の下のコメントにそう書いてあった。
掴まり立ち、そして一歩踏み出した弟者。そこに見切れている私。
次に頭同士がぶつかったせいで目を真ん丸にしているきょとん顔が。
最後に顔中これ以上ないくらい真っ赤にして、大口を開けて泣きべそをかいている二人が一連で貼られている。
.
112
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:49:02 ID:Ha2pCARoO
∬ _ゝ )「母者…あんまりいたずらが過ぎたからって、幼児を柱から紐で繋ぐとかないわぁ…」
∬ _ゝ )「しかも……二人して満面の笑顔とか…もっとないわぁ…抵抗しなさいよ私たち…」
何か二人でやらかしたのだろう。
家で一番太い柱に浴衣の帯らしきもので犬のように繋がれている。
お仕置きをされているくせに、無垢な表情で楽しそうに顔を見合わせていた。
小さい小さい弟者。
小さい小さい私。
いつも一緒に写っていた。
いつも一緒、離れたことなんてない。
∬ _ゝ )「これ年中さん、だったかなぁ…?桃太郎役、モラくんと取り合いになったの覚えてる?大喧嘩しちゃって大変だったなぁ」
∬ _ゝ )「ランドセル、色が私のと違うって6年間密かに根に持ってたの、実はショボくんに聞いて知ってた」
∬ _ゝ )「3年生の最後のリレーのアンカーでブーンを抜いて一位になって…それからだよね、もて始めたの…」
ぎちんっ、ぎちんっ。
ざざざっ、ぎしっ、ぎっぎっ。
ざわざわ、ページを捲るたびに身体中が五月蝿い。
113
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:51:16 ID:Ha2pCARoO
五月蝿い。
五月蝿い。
ああ、うるさいよ。
∬ _ゝ )「………ラブレター、ずぅーっと来るからこっそり捨てるの苦労したなぁ…」
∬ _ゝ )「……あー…ストーカーみたいで気持ち悪いよね?知られてたら絶対嫌われたんだろうなぁ……」
爪に軋む畳は、底に貫通しそうなぐらい抉れている。
赤茶や赤黒い斑点で汚れて、見るに耐えない色をしていた。
私はそれ以上に汚い。
絵の具を全色混ぜたみたいにぐちゃぐちゃで、得体の知れない汚い存在。
きもちわるい。
おぞましい。
.
114
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:52:41 ID:Ha2pCARoO
∬ _ゝ )「………びっぷ、ゆうえんち、だ」
ジェットコースター。
メリーゴーランド。
お化け屋敷。
コーヒーカップ。
ここの乗り物は全部一緒に制覇した。
∬ _ゝ )「……あ……かんらんしゃ」
あの遊園地の観覧車は作りも景色も世界一だと謳われていた。
ゆっくり円を描いて回る木目調の大きな車輪、小さくてカラフルなゴンドラ。
てっぺんにいる時は青空が本当に近くて、少し手を伸ばしただけで触れられるんじゃないかと錯覚するほどだった。
そんな高さなのに、ふざけてちょっと揺らすと怒られた。
さらにふざけてその顔を写真に収めようとカメラを構えてみれば、レンズ越しに弟者が不敵な笑みを作る。
それじゃ意味がないと膨れて見せれば、反対にカメラを奪われみっともない顔がデータに刻まれた。
不細工に写っていても、やっぱりどこか楽しそう。
ずっと、楽しかったね。
ずっと、楽しいことだけでいられたらと願っただけなのにね。
当たり前を欲しがっただけ。
何の罪があったと言うのだろうか。
ああする以外に。
私たちは。
.
115
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:53:28 ID:Ha2pCARoO
【(´<_` )】
.
116
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:55:41 ID:Ha2pCARoO
遺影の弟者はいつでも笑う。
微動だにもせず、じっとじぃーっと笑っている。
顔色を変えず、表情を変えずただただ笑う。
もう、どこにもいないんだ。
私が殺したから当然だ。
あの日、冷たい冷たい水の底に置き去りにした。
あの子が繋いだ白色の約束を、勝手に振りほどいたのは私だ。
泣きたい。
今すぐ声を上げて、心の底から泣いてしまいたい。
そんなの、考えるだけで間違ってる。
泣いていいと弟者が許したか。
一言たりとも届かない謝罪で何を許されたというのだ。
許さない。
∬ _ゝ )「………お、とじゃ?」
許さない。
許さない。
許さない
責め立てる谺は鳴り止まない。
一回二回と繰り返される度、胸がギリギリと締め上げられる。
瀬戸際に追い詰められていく精神。
重圧に押し潰され耳を塞ぎ、目を瞑った。
真っ暗よりもずっと深い闇が一面に広がって。
とぷん、身体があの黒い水に浸かっていく。
.
117
:
名も無きAAのようです
:2013/01/09(水) 23:58:10 ID:Ha2pCARoO
ず、ずっ、…ざががっ…。
ずずっ、ざ…ずざっざがざざ…ずさざっざぁ…っ。
ざざ…ずっ…ぎっ……ずっ、ず…。
肉を引きずる音が部屋中に聞こえる。
(メ゚<_%"。.)
傷だらけの弟者が睨んでいる。
より肉がどろりと溶け、一層骨が剥き出しになり、弟者の身体は日に日に腐敗が進んでいた。
私が手間取っているせいで、弟者が崩壊から解放されないのだ。
ごめんなさい、ごめんなさい。
ひたすら頭を地になすりつけて謝る。
裸足の足が頭を目一杯踏みつけた。
皮膚に砂利が食い込んで、じわじわ裂ける感触がする。
これは序の口だ。
弟者が感じた悲しみや怒りには到底届かない。
118
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:01:01 ID:eym1uNSYO
俺から簡単に逃げる程度にしか愛してなかったんだろう?
こんな言葉、何の足しにもならないじゃないか。
忘れたいんだろう?
あの日の水の冷たさを、苦しさを、全て忘れてしまいたいんだろう。
ぼたり、崩れた死肉が頬に伝う。
低い声で問われて、力一杯かぶりを振った。
違う、そんなはずない。
私はあの日を一生忘れない。
忘れないからここにいる。
弟者だけを愛してるからここにいるんだよ。
ほら、見て?これが証。
約束の小指を慌てて千切って目の前に差し出す。
それを弟者は一瞥しただけで床に投げ捨て足で踏み潰した。
そうだ。忘れるなんて絶対に許すものか。
こんなもので何が証明出来る。
たかが小指一本で俺を騙すつもりか。
再びかけられた冷たい声音。
傷だらけの手にぎらりと構えられる大きな赤い鎌。
わかっている。
何があろうと弟者が、愚かな罪が私の中から消えることはない。
でも、信じてほしい。
愛しているよ。
永遠に弟者が大好きだよ。
首に突きつけられた鎌。
切っ先が食い込み、血が筋になって落ちた。
.
119
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:03:22 ID:eym1uNSYO
忘れない。
愛してる。
一生、いっしよ…に…っ。
無言で睨まれ言葉を噤んだ。
いきなり顎を掴まれ口に鎌が押し込まれる。
許容範囲を優に超えた巨大な刃物を含まされたのだ。
途轍もない痛みと共に、切り取られた肉片とおびただしい量の血が口と鎌の端からボタボタと地面に垂れ落ちた。
必死に首を振り、震えながら刃を握り締め、どうにか取り去ってくれるよう弟者を見上げた。
血とは違う透明な雫がまぶたに降ってくる。
次の瞬間、懇願は聞き入れることなく罪が詰まった身体はバラバラになっていった。
真っ赤に、真っ赤に染まる視界。
∬ _ゝ )「……あ、…あぁあ…ぅえ…ひっ…あ゙ぁ゙ぁ゙…!」
震える腕でアルバムを抱き締めた。
散らばる四肢がじくじく痛い。
巻き散らかされた臓物がぬらぬら血を纏う。
みしり、みしり、私の全部が悲鳴を上げている。
でも誰より一番悲鳴を上げているのは。
誰より一番つらいのは。
何の罪もなく死ななければならなかった。
(メ;<_%"。.)
弟者に決まってる。
.
120
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:04:22 ID:DbDZwofEC
.
121
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:05:49 ID:eym1uNSYO
……ポーン!
∬ _ゝ )「うぁ゙…ぁぁぁ…うぐ…はっ、はっ、ぁぁあああ…あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!」
.
122
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:07:08 ID:eym1uNSYO
…ーンポーン!
∬ _ゝ )「あ、あ、ああああ、うぁ…あ゙ぁぁぁ!」
.
123
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:07:56 ID:eym1uNSYO
ピーンポーン!
∬ _ゝ )「あ……ぁう……っ、あ…ぁ゙ぁ゙あ………あ゙が…?」
.
124
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:10:30 ID:eym1uNSYO
ピーンポーン!
∬ _ゝ )「あ゙ぁ゙…?うぁ、ぁ…ぁぃ…あ゙…」
繰り返し鳴らされる呼び鈴に、深淵を彷徨っていた意識が徐々に戻ってきた。
∬ _ゝ゚)「あ゙…は……だ、…れぇ……?」
幻が次々消えて、残されたのは私と仏間と呼び鈴の機械音。
なんとか視線を上げて時間を確認する。
目覚まし時計は10時41分を差していた。
まだまだ妹者が帰ってくる時間には程遠い。そもそも妹者がチャイムを鳴らすはずがない。
珍しくお客さんがきたのかもしれない。
まだ力の入らない手でどうにかアルバムを山に積み直す。
その時畳の引っ掻き傷が目に留まった。
血がついて気味の悪いそれを見咎められるのが嫌で、近くに置いてあった来客用の座布団で出来るだけ隠す。
おかしいところを何とか取り繕うと、重く鈍った身体を引きずって壁伝いに玄関に向かった。
いつもの何倍もの時間がかかってしまう。
その間に諦めて帰ってくれていればよかったのに。
ピーンポーン!
ピーンポーン!
ピーンポーン!
私が戸を開けるまで、チャイムはしつこくずっと鳴り続けていた。
.
125
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:15:01 ID:eym1uNSYO
ようやく到着して、よろつく動きで引き戸を開けた。
からからと乾いた音と共に、びりびりと刺すような空気が肌を撫でた。
( ・∀・)「やぁ、久しぶり。元気してた?」
そこにはさっき写真で幼い頃を見たばかりの幼馴染みのモラ君、モララーが立っていた。
会うのは何ヵ月ぶりだろうか。
( ・∀・)「元気、じゃあないみたいだねぇ…ひっどい顔してる」
∬;´_ゝ`)「…ぇ……は?」
( ・∀・)「コールタールみたいな顔色といい、パーツの均整が取れてない造形といい、全く見るに耐えないね。整形し損ねたのかい?」
会って早々これだ。
顔は並みのアイドル以上に整っているのに、相変わらず性格が底辺な奴だと思う。
そんな輩と何年も仲違いすることなく付き合ってきた私も、大したことを言えた義理ではないけれど。
∬;´_ゝ`)「……生まれつきこの顔ですが何か?まあ、くそ鬼畜イケメンのモララー様から見たらみーんなじゃがいも顔ですけどねぇ…」
( ・∀・)「なーんだ、嫌みが返せるなら大したことないね。そんなことよりさっさと家に入れてよ。僕を凍死させる気?」
∬;´_ゝ`)「…は?」
奥を指差されて一瞬言葉につまった。
.
126
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:17:32 ID:eym1uNSYO
確かにわざわざ家に来たのだから当然上がっていくのも当然予想出来た、はず。
今までだって普通に訪問を歓迎していた。
けれど今日は何故だか胸の奥が嫌な意味で揺さぶられた。
理由は全くわからない。でもどうしてもモララーを家に入れたくなかった。
∬;´_ゝ`)「…あ、え?何、入っていくの?見ての通り具合悪くて……くそ鬼畜様には即刻立ち去ってもらいたいんですが……」
( ・∀・)「お前ねぇ…こっちはお客様だつーの」
∬;´_ゝ`)「確かにそうなんだけど…ここ何日もまとも部屋片付け出来てないのね。腐海並みに散らかってて足の踏み場もないし…絶対無理なんだって…ごめん…」
( ・∀・)「ふーん……」
会瀬に浸り過ぎて身体に力が入りづらくなっているとはいえ、接客を出来ないほどではない。
部屋が汚いのなんて完全なる嘘だった。
じろじろと粗を探るように見られる。
粗末な嘘に騙されてくれることを祈りながら、モララーの無言の追求に素知らぬ振りを作る。
明らかに浅慮が過ぎた。
なんとかなるかと、聡いモララー相手に少しでも考えた時点で勝算なんて決まっていたのに。
( -∀-)「………ふぅ」
∬;´_ゝ`)「本当に…ごめん…」
瞳を伏せ、これでもかと思うほど重くため息をついた。
諦めてくれたかと思い、謝ったのもつかの間。
.
127
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:18:06 ID:eym1uNSYO
( -∀-)「……………妹者ちゃん」
楽しそうな声音が妹の名を呼んだ。
.
128
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:19:19 ID:eym1uNSYO
それだけで意味がわかった。
最終手段にその名前を口にしたのだと。
( ・∀・)「僕は口が軽いからねぇ…」
再び開いた双眼に射抜かれる。
びくりと背筋に電流が走る。
あからさまな反応にモララーはにたりと嫌な笑顔を浮かべた。
さらに念押しとばかりに、しーっと口元に指を一本立てて秘密なんだろうと煽ってくる。
冷たい汗が浮くのがわかった。
しまったと思っても、もう遅い。
弱味は晒されてしまった。
逆らえない。
抗えば確実に脅かされる。
∬;´_ゝ`)「脅すつもり?」
( ・∀・)「んー…まぁ、君に脅される要素があるならそうなんだろうねぇ」
∬;´_ゝ`)「……………人でなし」
( ・∀・)「どうとでも。ほら、さっさとそこを退いてくれないか。弟者に線香を上げたいし、いろいろ積もる話もあるからねえ…ふふ…」
力のない嫌みが虚しく脅迫の上辺を薄く撫でる。
ぐいぐいと強引に家に押し込まれて、二人の身体が収まったのと同時にピシャリと完全に戸が閉められた。
.
129
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:20:44 ID:eym1uNSYO
何度でも言える。さっさと帰ってくれていればよかった。
話をせず、すぐにでも追い返しておけばよかった。
弱いなりにきちんと二人の間であの戸を隔てられていたら、きっと何も変わらなかった。
後悔は結局後ろからしかついてこないから後悔だ。
どう足掻いたって取り返しがつかない。
あの日壊れ止まった車輪は直らないまま回り出してしまった。
あちらこちらをひたすら傷つけて、出来てしまった亀裂はあとは流れに任せて広がってしまうばかり。
ぽろり、ぽろり、破片をばらまき膿爛れて朽ちていく。
だからといって。
今さら、どうしろというのだ。
三年前から。
もう、何もかも遅過ぎたというのに。
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130
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 00:23:42 ID:eym1uNSYO
本日の投下は終了です
読んでくださりありがとうございます
冒頭にグロ注意入れ忘れましたすみません…
質問指摘等ありましたら出来るだけお答えします
131
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 20:05:32 ID:7aghdqvY0
年末年始の特番を見逃した方は是非「TVまとまるくん」をご覧ください(・∀・)
http://tvmatomaru.blog.fc2.com/
132
:
名も無きAAのようです
:2013/01/10(木) 21:32:22 ID:2Kyo5k2E0
乙!
姉者は本当に弟者が好きなんだなと感じた
思い出思い出してくとことか本当に…
133
:
名も無きAAのようです
:2013/01/16(水) 18:43:05 ID:djkwL9xoO
おつ!
モララーは何しにきたんだろうな
いろんな伏線敷いてるし続きが一番気になる現行だ
ゆっくりでいいから完結待ってるよ
134
:
名も無きAAのようです
:2013/01/17(木) 14:36:30 ID:Pw0OcIqc0
続ききてた!おつ!
読んでて色々推理できてすごく楽しい
135
:
名も無きAAのようです
:2013/02/17(日) 16:53:58 ID:4yiE8Utw0
無理せずがんばって
待ってる
136
:
名も無きAAのようです
:2013/03/19(火) 08:04:55 ID:YOvLNmLg0
待ってる
137
:
名も無きAAのようです
:2013/06/08(土) 17:33:00 ID:v65ZVJ5k0
まつよ
138
:
名も無きAAのようです
:2013/06/17(月) 21:29:32 ID:hqyxzYEA0
まつわよ
139
:
名も無きAAのようです
:2014/05/27(火) 18:49:39 ID:7/e5p3go0
まってる
140
:
名も無きAAのようです
:2014/05/28(水) 22:49:33 ID:rkpLBrRc0
面白いじゃねーの
141
:
名も無きAAのようです
:2015/11/20(金) 02:36:08 ID:Dag0VT4o0
わたし待つわ〜いつまでも待つわ〜
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