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( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )
1名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:40:20 ID:nlKlatLE0



              空の白に意味があるなら。

                それを飛び立つ理由にしよう。


              空の青に意味があるなら。

                それを愛する理由にしよう。


              空の赤に意味があるなら。

                それを戦う理由にしよう。


              空の黒に意味があるなら。

                それを生きる理由にしよう。


.

2名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:41:08 ID:nlKlatLE0



                  ( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )


                          第一話: 竜に乗る


.

3名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:42:27 ID:nlKlatLE0

 空気の痺れる音がした。

 心臓が鼓動を増し、耳が、目が、肌が、脳みそが研ぎ澄まされて行く。
 空気と体の境目が溶けて無くなり自分が風になったような錯覚すら覚えた。

( ;´_ゝ`)「……」

 鼻の高い青年が身を屈め必死で手綱にしがみついた。
 軽減されているはずの空気抵抗は、防壁魔法の容量を越えて彼の身体を嬲る。

(´<_` )「兄者、これ以上の速度は危険だ」

 言葉を素直に解釈すれば弟。
 手綱を握る青年の後ろにそっくりな顔立ちの青年がしがみついている。
 兄の方が旅人のような格好なのに対し、弟の方は仰々しい神官服を身に付けていた。

 兄の名がアニジャ。弟の名がオトジャという。

 二人が居るのは、普段人の生活する地上からはるか上空。
 雲一つ無い青天を真っ二つに切り裂いて翔けてゆく。
 無論、人間がそのまま空を飛んでいるわけでは無い。

4名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:43:21 ID:nlKlatLE0

( ;´_ゝ`)「リュウジャ、もう少し頑張ってくれ」

 アニジャが手綱から手を離し、自分が跨るその首を撫でた。

 飛竜。
 その名のとおりに巨大な翼を持ち天を駆ける空の王者だ。
 重鈍な見てくれに反し、風の如く空を翔る姿に人々は目を奪われる。

 首を撫でられた飛竜、リュウジャは嘶きを一つ、さらに速度を増した。
 青年達は張り付くように背中にしがみ付く。

( ;´_ゝ`)「オトジャ、敵は?」

(´<_` )「ブーン!」

 オトジャが叫びを上げるとリュウジャの下方から、小人のようなものが飛び上がってきた。
 白いモチを練り、雑に人を模ったような頭でっかちな造形。
 背中には虫のような透明の羽を持っており、両手を広げて飛行している。

( ^ω^)「距離およそ200。ステルスのせいで詳しい位置は不明だお。付かず離れず一定で追跡されてるおね」

(´<_` )「だそうだ」

( ;´_ゝ`)「厄介この上ないな……」

5名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:44:54 ID:nlKlatLE0

 比較的余裕のあるオトジャが後ろを振り返る。
 一見したところでは何の姿も見えないが、目を凝らすと僅かに景色の歪むところがあった。
 擬態魔法によって姿を消している敵の飛竜だ。ついてきているのはまず間違いない。

(´<_` )「このまま逃げ続けてもジリ貧だ。反撃に出よう」

( ;´_ゝ`)「奇遇だな。俺も同じこと考えてたよ」

 アニジャは手綱を左に引いた。
 リュウジャは速度をやや緩め、左へと進路を変える。

( ;´_ゝ`)「ドクオ!ここいらにデカイ川があったよな」

(;'A`) 「……データ参照」

 オトジャの神官服の胸元から、これまた小人のようなものが這い出した。
 ブーンとは異なり身体は紫色。
 団子を二つ重ね楊枝を刺して手足にしたような見てくれだが、背中にはやはり羽が生えている。

(;'A`) 「北西約2km。ジューシマツ川」

(´<_` )「どうする気だ?」

( ;´_ゝ`)「まあ俺に任せろ」

6名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:46:17 ID:nlKlatLE0

 アニジャは手綱を捌き、リュウジャを件の川へと向かわせた。

 敵はその間もピッタリと後ろをついてきている。
 恐らくは姿を消して、アニジャ達の消耗を待っているのだ。
 やや卑怯な印象を受けるが、竜の特性を活かした堅実な作戦。
 同じ竜騎手として尊敬すべき狡猾さだ。

 だが。

( ;´_ゝ`)「ああいう手合いをぶちのめすのは、ひどく爽快だ」

(´<_` )「流石だな兄者。全面的に同意する」

 川の上空に達するとリュウジャはさらに方向転換。
 その流れに沿うように飛行する。
 アニジャの予想通り敵も後方をついてきた。

 こちらの目論みが分っていないのか。
 それとも見抜いた上で、あえて乗ってきているのか。

( ;´_ゝ`)「調整頼んだ」

(´<_` )「任せろ」

 リュウジャが急激に高度を落とした。
 オトジャは魔法を使い急激な気圧の変化から自分達の生命機能を守る。

7名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:47:54 ID:nlKlatLE0

 オトジャもブーンも、アニジャの考えは一応理解していた。
 風圧で水を巻き上げ手チャフとし、敵の擬態とステルスを破ろうというのだ。
 しかしこれはとても基本的な方法で、相手も読んでいる可能性が高い。

 敵が相変わらずの距離を保ちながら追尾していることを確認し、グングンと高度を下げていく。

(´<_` )(どうする気だ?)

 オトジャがアニジャの考えを読もうとする間にも、リュウジャの足が川面に触れた。
 高速飛行の抵抗で、水切り石のように跳ねを繰り返しながら高い水しぶきを上げる。
 これで相手が水煙にの範囲に居ればステルスが弱まるのだが。

( ^ω^)「……相手は水の範囲外。距離相変わらず200前後」

( ;´_ゝ`)「この状況……俺がアイツの立場なら……」

 声をかけようとしたその瞬間、兄者が大きく手綱を引いた。
 羽ばたき一つ、空気を破裂させリュウジャの体がほぼ垂直に急上昇。
 オトジャは突然のことに振り落とされそうになりながらも鞍にしがみ付き、同時に保護の魔法を張り替えた。

( ;´_ゝ`)「そこだ!」

 号令と共にリュウジャが口から火球を放った。
 それはやや上方に向かって直進。
 中空で閃光を放つと、爆音と共に熱風を撒き散らす。

8名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:48:30 ID:ZXZhk9uA0
第一話だと……

9名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:49:35 ID:nlKlatLE0

( ^ω^)「……乱れを感知、1時の方向だお!」

( ;´_ゝ`)「よし、行け!」

 ブーンの探知した方向へ、リュウジャは羽ばたいた。
 僅かに見える光の揺らぎは、先ほどまでに無い慌てぶりで回避。
 急転換はそのまま擬態魔法の不安定を招き、はっきりとは行かないまでも位置の把握に成功する。

( ´_ゝ`)「今だ!」

 再びの火球攻撃。
 相変わらず回避されたが、相手の位置は逃していない。

 回避させた一瞬の時間で、両者の差がいくらか縮む。
 近づけば近づくほど擬態は見破りやすい。
 アニジャはそのまま敵への砲撃を命じ、イニシアチブを確保する。

( ^ω^)「距離80!これなら逃がさないお!」

 ついにブーンの探知が敵の具体的な位置を捉えた。
 単純な速度ならば相手方の竜よりもリュウジャが僅かに上。
 そう簡単に逃がすことは無い。

10名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:50:55 ID:vldYtIEw0
wktk支援!!

11名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:51:03 ID:nlKlatLE0

( ;^Д^) 「くっそおおお!せっかく上手く行ってたのによお!」

 相手の騎手の怒り交じりの声が響いた。
 逃げに回っていた相手が、反転しアニジャ達へ向かって火球を放つ。
 これをひらりと回避。攻撃魔法の残滓で位置を特定し、リュウジャは相手に高速で接近した。

( ´_ゝ`)「見つけたそ、プギャー!」

( ;^Д^) 「だー!もう!こうなりゃ自棄だ!」

 敵目前でリュウジャはブレーキ。
 その慣性を利用して体を横に回転し、長い尾を鞭のように叩きつける。

 ここまでの接近を許した相手は擬態を諦め、防御魔法を発動。
 半透明の魔法の盾が尾を受け止める。
 その向こうに見えるのは、今まで姿を隠していたカメレオンのような飛竜。

( ;^Д^) 「やったれぇ!メメメオン」

 敵の騎手、プギャーはやけくそで接近戦に応じた。
 アニジャも完全な座位から鞍を膝で挟んだ半立ちの姿勢へと移行する。

( ;^Д^) 「おおおおお!!」

 擬態の追跡を破った時点で勝敗は決していた。
 この後約二分の交戦の末、アニジャ達は勝利と共に地に降り立つこととなる。
 
 **  **  **

12名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:53:32 ID:nlKlatLE0

( #^Д^) 「杉浦すら苦戦させた俺達の最強戦法がやぶられるとは!!」

 どんっ、とプギャーがテーブルに杯を叩き付けた。
 中身のビールが揺れ、いくらか零れて薄く泡を立てる。

(・∀ ・;) 「そりゃおめえ、あんだけ一辺倒な戦い方してれば対策練られるのは当然だろ。バカか」

 隣の席でそれを宥めているのか罵っているのかよく分らない男は、彼の相方であるまたんき。
 懐から自分のハンカチを取り出し、プギャーの零したビールを拭う。
 竜騎手と助手の関係は夫婦に似ていると言った者が居たらしいが、彼らを見ているとあながち間違ってはいないようだ。

( *´_ゝ`)「んっふっふ、あんなショボイ戦法で俺に勝とうなんざ百年早い」

 プギャーの向かいで機嫌で杯を呷るアニジャ。
 椅子に寄りかかり踏ん反りかえる勢いだ。
 アルコールのせいもあって鼻と頬が赤くなっている。

( #^Д^) 「うるせえ!てめえかなり苦戦してただろうが!」

(´<_` )「確かにプギャーの言うとおりだ。相手の戦法も竜の性能差も分った上であそこまで持ち込まれたら負けたようなもんだぞ」

(・∀ ・) 「まあなあ。同期相手に俺達のパターンがあそこまで通用したの久しぶりだったわ」

( ;´_ゝ`)「な、なんだよみんなして!いいだろ勝ったんだから!」

13名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:54:37 ID:nlKlatLE0

 彼らが酒を酌み交わしているのはネル国の首都、ヴィップの片隅にある小さな飲み屋『高岡屋』。
 酒も料理も種類は少ないが、味が良いため贔屓にしている。
 店を切り盛りする母娘が美人でそれが目当て、という理由も全く無いわけでは無いが。

(´<_` )「大体兄者はな……」

( ;´_ゝ`)「やめて!せっかく勝ったのに説教で濁さないで!」

从'ー'从 「おまたせしました〜季節のミックスピザで〜す」

 始まりかけたオトジャの説教を遮ったのは、この店の看板娘のワタナベだった。
 顔好し、性格好し、ボンとなってキュッとなってボンッと決める素敵なボディライン。さらに過去の男性経験は0。
 間違って飲み屋の娘に生まれてしまっただけの天使である。

 少々ドジなところもあるが、そこがまたいいのだと一部の常連客は語って止まない。

从'ー'从「皆さん、今日は訓練だったんですか〜?」

( *´_ゝ`)「そうそう!それで俺がこのチキン野郎に勝ったの!」

( #^Д^) 「言わせておけば!てめえなんて竜の性能に頼りきってるだけのへっぽこ騎手じゃねえか!」

从'ー'从 「わたしよくわからないけど〜頑張る男の人って、勝ち負け関係なく憧れちゃうな〜〜」

( *´_ゝ`)「そ、そう?」

( ^Д^)+ 「竜騎手候補の俺達がカッコいいのは当然。惚れても無理は無い」

14名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:55:39 ID:t055yX8IO
期待、しえん

15名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:56:23 ID:nlKlatLE0

从'ー'从 「それじゃ〜ごゆっくりどうぞ〜」

( *´_ゝ`)( *^Д^) 「「は〜い」」

(・∀ ・;) 「あーあぁ、ふにゃふにゃだな。怖ろしい女だよ、ほんとに」

(´<_` )「単にこの二人が馬鹿なんだろ」

(・∀ ・;) 「認めたくないもんだねえ。自分の相方が馬鹿だという事実」

(´<_` )「またんきはまだいい。俺なんかこの赤点野郎が相方でさらに兄だぞ。しかも遺伝子がほぼ同じだ」

(・∀ ・;) 「ご愁傷様。双子でどうしてここまで違うかねえ」

 上機嫌でピザを食す兄者とタカラに呆れながら、オトジャはビールを呷った。
 訓練の際に身に付けていた神官服は着替えて鞄にしまっている。
 今はアニジャと同じような庶民の服を身に付けていた。

 傍から見れば、一卵性の双子であるこの兄弟の区別は殆どつかないだろう。

(・∀ ・) 「そういや、お前らどうすんのネ竜祭」

(´<_` )「あー。締め切りそろそろだったな」

16名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:57:47 ID:nlKlatLE0

 オトジャは少々悩むような顔を見せ、杯を傾ける。
 彼は既にビールを6杯程飲んでいるが、少々顔色が変わっただけで酔っている様子は無かった。

(´<_` )「騎手がこれだからな。出てもただの恥さらしになりかねん」

( *´_ゝ`)「出るに決まってるだろ。竜騎手なら当然だ」

 竜騎手とはその名のとおり竜に跨り操る術を持つ者たちのことだ。
 国の認定を受けた一部の者たちだけが名乗ることを許される特別な称号。
 彼ら四人は、養成所に通う竜騎手の見習いである。

(・∀ ・) 「まあ、俺らみたいな不良もんは、ネ竜祭で活躍するしかねえもんな」

 竜騎手になるには現職の正竜騎手の推薦を受けた上で、専門機関の認定が必要。
 認定に必要な条件は明示されていないが、能力が低いものが選ばれた前例は無い
 故に、養成所で成績の良くないものは推薦すらしてもらえないのが現状だ。

(´<_` )「俺は一人で推薦もらってるから、わざわざ出なくてもいいんだがな」

( ;´_ゝ`)「待ってよオトジャ。それじゃ俺がダメじゃん!」

(´<_` )「自業自得だ。落第して反省しろ」

17名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 21:58:37 ID:nlKlatLE0

 そんな赤点常習の候補生達が大勝負を仕掛けるのが、年に一度の祭典。
 国中から人が訪れる国内最大規模の祭り、ネ竜祭だ。
 様々な催しが開かれ、砂漠の街であるヴィップも普段とは違う潤いを見せる。

 中でも最も人気のイベントが竜騎手候補生達による、竜騎武闘。
 養成所での訓練課程を修了する最終年の訓練生達がギャラリーの前で竜に跨り勝負するのだ。
 この竜騎武闘でよい成績を残せば、高い確率で昇格の推薦を得ることが出来る。
 歴代の優勝者達が軒並み正竜騎手になっているため、ここに希望を託すものは多い。

(´<_` )「そっちはどうするんだ?」

(・∀ ・) 「出るよ、お前と違って俺は個人成績もパッとしねえから一人で推薦獲得なんて無理だし」

( *^Д^) 「安心しろまたんき!俺がパパッと優勝して推薦もぎ取ってやんよ!」

( *´_ゝ`)「プッフゥー。無理ですー。優勝は俺達だもんねー!」

(´<_` )「……互いに、苦労するな」

(・∀ ・) 「全くだ。飲もうぜ。今日はこいつらのおごらせよう」

( ;^Д^)( ;´_ゝ`)「「!!??」」

  **  **  **

18名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:00:29 ID:nlKlatLE0
  _
( ゚∀゚) 「……よって、本日は実質訓練として竜を駆ることが出来る最終日になる。
       各々今後について思うこともあるだろうが、気を引き締めてかかるように」

 翌日、二日酔いの頭を抱えながらアニジャ達は養成所に出席した。
 同期の候補生達が枡状に並び、教官のありがたいお言葉を授かっている真っ最中である。
 教官の話はいつもどおり長く退屈で、欠伸と共に朝食に食べたヨーグルトが酸味を増して戻ってきそうだ。

(´<_` )「ほら、兄者。いくぞ」

 しばし心を無にして耐えているとオトジャに腕を引かれた。
 話は終わっていたらしく、周囲は皆飛行前の準備へ向かっている。
 二人もそれに倣い、自分達の竜の居る厩舎へと足を運んだ。

(ヽ´_ゝ`)「元気にしてたか、リュウジャ」

 厩舎に着くなり、アニジャは竜の顎を撫でた。
 竜種らしい厳つさ中にも幼竜の可愛らしさを残した顔で嬉しそうにグルグルと喉を鳴らす。

 アニジャとオトジャの竜、リュウジャ。
 火竜を先祖に持つ小型の飛竜で、赤い鱗が特徴的。
 敏捷性を活かした格闘戦から火炎魔法による中距離援護もこなすことが出来る。
 まだ若いため最高時速も魔法の能力も未熟ではあるが優秀な竜と判断して問題ない。

19名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:02:07 ID:nlKlatLE0

(ヽ´_ゝ`)「さてと……」

 ひとしきりリュウジャのご機嫌を確認し終えると、アニジャは倉庫から騎乗用の用具を運び出した。
 普段から使っているそれを素早くリュウジャの首から背に渡ってくくりつける。
 体調不良とは言え手馴れたものだ。

(´<_` )「アニジャ、終わったらちょっとこっちに来い」

(ヽ´_ゝ`)「ほいほーい」

 一通りの準備を追え、オトジャの下へ。
 オトジャは騎乗時用の神官服に着替えを終えており、こちらも準備は万端。

(´<_` )『リカバー』

 オトジャが掌をアニジャに向け、魔法を唱えた。
 体調不良、主に毒物による内臓の疾患に効果を発揮するタイプのものだ。
 魔法の淡い光がアニジャの身体を包み、頭痛と胃もたれを消し去ってゆく。

( ;´_ゝ`)「えっ何?何かオトジャが妙に優しくて怖い。普段は二日酔いでも問答無用で乗せられるのに」

(´<_` )「……もしかして、教官の話聞いてなかったのか?」

( ´_ゝ`)「うん」

(´<_` )「死ね」

( 。´_ゝ`)

20名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:03:24 ID:nlKlatLE0

( ;´_ゝ`)「酷い!なんだよ、優しいのか辛辣なのかハッキリしてくれよ!」

(´<_` )「……」

 オトジャは額に手を当て重苦しいため息を吐いた。
 眉間の皺を人差し指でぐりぐりと解し、腰に手を当てる。

(´<_` )「今日の模擬戦の相手、杉浦だ」

( ´_ゝ`)「!」

(´<_` )「勝てるかどうかは置いといて、二日酔いで戦っていい相手じゃ無い」

 杉浦ロマネスク。
 候補生という立場ながら研修と称して既に一線の任務をこなしている竜騎手界のホープだ。
 アニジャたちとは同期であるが、その実力は次元が違う。

 数ヶ月前対戦した際は手も足も出せず惨敗。
 竜騎手を諦めようかと思い悩むほど自信を砕かれた。
 さながら今日はそのリベンジのチャンスと言ったところか。

(´<_` )「大丈夫か?」

( ´_ゝ`)「……大丈夫だ。行こう」

21名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:06:36 ID:nlKlatLE0

 教官の号令に従い竜を引いて訓練場へ。
 順番を待ちリュウジャの首に跨り離陸する。

(´<_` )「ブーン、ドクオ。出て来い」

 オトジャの呼びかけに応えるように空中に二つの光の玉が出現。
 それが優しく爆ぜると、中にいた羽の生えた小人が露になる。

(´<_` )「調子はどうだ?」

( ^ω^)「ボチボチだお」

('A`) 「俺はボッチだお」

(´<_` )「OK、いつもどおりだな。今日も頼むぞ」

 彼らは妖精だ。索敵やデータ通信で竜騎手をサポートするのが役目で、アニジャたちにはこの二人が充てられている。
 白色の、にやけた顔をしている方がブーン。
 紫色でなんかへちゃむくれな顔をしているのがドクオである。
  _
( ゚∀゚) 「では第三陣、指定の訓練空域へ散れ」

 リュウジャはは教官の指示を受け、養成所の上空から西へ向かって飛び立った。
 後ろにはもう一頭、黒い鱗を纏った飛竜が騎手を乗せて付いてきている。

22名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:08:40 ID:nlKlatLE0

('A`) 「対戦相手データ受信。『騎手:杉浦ロマネスク』。『騎助手:亜麻井デレ』。『騎竜:ボルトール』」

(´<_` )「最近の戦績は?」

('A`) 「……模擬戦勝数12/12。任務成功率92.3%」

( ´_ゝ`)「ん?その失敗した任務の情報は分るか?」

('A`) 「……ヴィップ発シベリア行き貴重品の配達。何らかのトラブルで一旦引き返し、後日無事に完了」

(´<_` )「特に攻略に役立ちそうな情報は無いな」

( ´_ゝ`)「そんな隙を見せる奴でもないってことだな。そろそろ着くぞ」

 今回の模擬戦空域は、国の外れ、イタツー共和国との国境付近に広がる砂漠地帯。
 近郊に集落の類が無いため範囲設定が最も広くなっている。
 機動力が売りのリュウジャにとっては相性のいい場所だ。

 空域に到着すると旋回を一つ。
 リュウジャに滞空を命じ、後ろをついてきたロマネスクの竜、ボルトールと向かい合う。

( ФωФ)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

 僅かだが、ボルトールの背中に騎手達の顔が見えた。
 アニジャは緊張を押し込めるように唾を飲み下す。

23名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:09:44 ID:nlKlatLE0

,(・)(・), 「あいあーい。ベッキーだよー。間違えたー。シャーミン教官だよー」

 対峙する二竜の間に一匹の妖精が現われた。
 瓢箪の括れを奪い手足を生やしたフォルムをしている。
 ふざけた奴だが、彼は立派な養成所の教官だ。

,(・)(・), 「ルールはいつもどおり。騎手または騎助手が落竜すれば負けだよー」

,(・)(・), 「さらに教官が続行危険と判断した場合も、判定により勝敗を言い渡すよー。おk?」

( ´_ゝ`)「おk」

( ФωФ)「問題無いである」

,(・)(・), 「各々、特殊な状況を想定しての要望があれば、ルールに組み込むけど……無いみたいだねー」

 ボルトールが低い唸り声を上げた。
 闘争心満々。それをロマネスクが手で撫でて宥める。
 一方のリュウジャも火炎交じりの鼻息を噴いて迎え撃つ気満々だ。

,(・)(・), 「では、教官離脱から1分後。合図と共に戦闘開始だよー」

 シャーミンは光の玉に戻り、上空へ飛び立ってゆく。
 それを見送る暇も無く、リュウジャとボルトールは空気を叩いた。
 強烈な破裂音と共に両者の距離が一気に開く。

24名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:11:33 ID:nlKlatLE0

 リュウジャは身を捻り、距離を開けたままボルトールの追跡に入った。
 飛行の速度だけで言えば、リュウジャの方が上だ。
 得意な状況に持ち込むには付かず離れず後ろを取らなければならない。

 ボルトールはパワフルな竜だ。
 黒い体躯は飛竜としては巨大で、それを支える翼も同様。
 長く鋭い一本角に加えて、先が金槌のように膨らんでいる頑強な尾を持つ。

 あれで殴られれば華奢なリュウジャなどひとたまりも無い。
 接近戦はなるべく避け、背後を取りつつ火球攻撃。
 上手く相手を揺さぶり騎手及び騎助手の落竜を狙う。
 それが今回考えられる基本の方針だ。

( ´_ゝ`)「……よし、上手く後ろにつけた」

(´<_` )「あっさりしすぎている。罠には気をつけろ」

( ´_ゝ`)「ああ、いざという時の防御は頼んだ」

 アニジャ達はボルトールの後方、絶好の位置につけた。
 近すぎず、遠すぎず、いざ相手が急旋回して攻撃に転じても対処できる。

 前を行く黒竜は赤い鬣をなびかせ、空中を蛇行。
 振りきられぬようしつこく食い下がる。

,(・)(・), (ほんじゃまー、開始!)

 シャーミンの声が直接脳に届いたその瞬間、ボルトールが動いた。

25名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:13:18 ID:nlKlatLE0

( ;´_ゝ`)「ッ!」

 アニジャの、リュウジャの反応は僅かに遅れた。
 ボルトールはそれまでの滑らかな飛行から一転、力強い羽ばたきによって稲妻のような鋭い方向転換を見せる。

 速い。
 手綱を左右に引き、必死に追いすがる。
 単純な速度であれば巻かれることは無いはずなのに、とアニジャは奥歯をかみ締めた。

(´<_` )「アニジャ落ち着け!あの動きは撹乱だ!」

( ;´_ゝ`)「分ってる!」

 動きを予測し牽制の火球を放つ。
 ボルトールはそれを尾のハンマーで打ち砕いた。
 爆炎が撒き散らされたが、透明の防壁が騎手を包み込み有効打には至らない。

( ФωФ)「ふむう。相変わらずこの程度か?流石兄弟」

ζ(゚ー゚*ζ「防壁安定。慣性コントロール整いました」

( ФωФ)「では、こちらからも仕掛けさせてもらおう」

( ∵) ゴェェ

 背後のリュウジャの位置を妖精のナビで把握。
 ロマネスクはほんの一瞬、手綱を緩めた。

26名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:15:36 ID:nlKlatLE0

( ;´_ゝ`)「!?」

 高速の攻防の最中、突然ボルトールが垂直に降下した。
 下方へ飛んだなどという生易しいものではない。
 それまでの慣性を完全に殺した直角下降。
 翼を畳み、飛行魔法の発動すらも無く錐揉み回転しながら高度を下げてゆく。
 地面はまだ遠いが、墜落してもおかしくないほどの勢いだ。

 アニジャ達はそれを焦って追うが、あまりに急な角度に遅れを取り、やや離された。
 ほんの僅かに伸びた間合い。
 しかし、相手を考えれば十分すぎるほど危険な距離だった。

 ボルトールが落ちながらも頭を上方へ切り返した。
 その深紅の相貌が、リュウジャを真正面から捉える。

 アニジャの背筋から、体温が消えた。

( ФωФ)「逝け」

 爆ぜるように開かれた黒い翼。
 その漆黒の巨躯が、青い光を帯びる。

 痛烈な閃光と轟音を侍らせ、ボルトールが羽ばたいた。
 空気に波紋が走るほどの衝撃がその巨躯を真上に。
 余波を受けた地面の砂が抉れて巻き上がる。
 
 その速さ正に雷光の如く。
 アニジャの脳が発した信号が手に届くよりも早く、ボルトールは目の前に迫る。

27名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:17:13 ID:nlKlatLE0

 空気を切り裂く轟音。
 指示を待たず、自らの判断でリュウジャは間一髪で回避行動を取った。
 完全に無傷とはいかないが、オトジャの張った防壁のお陰で飛行は続行できる。

 アニジャはリュウジャの無事を確認して手綱を引いた。
 落下のまま飛び続け、地面に激突する寸前で転換し砂上の低空飛行に移る。
 ボルトールが巻き上げた分も相まって周囲は砂埃に包まれ敵の姿は確認できない。

( ;´_ゝ`)「ブーン、敵は?」

( ^ω^)「砂埃がノイズになって良く分らんお。ただ、追ってこないで旋回しているっぽいお」

(;'A`) 「左翼部損傷。敏捷性やや低下」

( ;´_ゝ`)「クッソ、あんなことまで出来るのかよ」

(´<_` )「損傷部を治療する。時間を稼げ」

 緩やかな左回りの軌道を描き、リュウジャは砂の煙幕を張り続ける。
 その間にオトジャは魔法で傷の治療を始めた。
 ブーン、ドクオは共にロマネスク方の動きに探りを入れる。

( ^ω^)「!高出力の魔法反応。来るお!」

( ;´_ゝ`)「リュウジャ頼むぞ!」

 砂埃を切り裂き、稲妻が地面を弾いた。
 手綱に従い右へ避けたリュウジャはそのまま上昇を始める。

28名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:18:18 ID:nlKlatLE0

( ФωФ)「出てきたであるか。あのまま地を這っていれば、雷撃で楽に沈めたものを」

( ∵) ゴェ

( ФωФ)「うむ。亜麻井、少々手荒に行くぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「お任せください!」

 大きな螺旋を描きながら高度を上げるリュウジャに向かい、ボルトールは一直線に突撃。
 再び稲妻を纏い、リュウジャを打ち砕かんと速度を増した。
 風鳴りの音が数段高いものに変わる。

 リュウジャもそれに応じて速度を上げた。
 翼を一杯に広げ、飛行魔法を全開に発動し真正面から立ち向かう。
 自棄になったわけではない。いくらかの策があってのことだ。

( ;´_ゝ`)「今だ!」

 火球を二発、ボルトールへ向かって放つ。
 それが目隠しになる間に、オトジャが防壁魔法を限界まで分厚く強化した。

 そして。

( ФωФ)「!」

( ;´_ゝ`)「ッ!」

29名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:19:08 ID:nlKlatLE0

 火球に怯まず突撃した黒い角が、炎ごと何か硬いものを貫いた。
 この手ごたえは障壁だ。
 慣性を味方につけたボルトールにとって、助手程度が作った防壁など紙くず同然。
 いとも簡単に破壊する。

 問題は、その向こうに標的の姿が無かったということ。

( ;´_ゝ`)「貰ったぁ!」

 赤竜は、すぐ後ろに居た。
 火球で目眩ましのあと防壁の塊をそのまま衝突させ、本体は相手の後ろへ。
 回避したことを悟られないために防壁をデコイにしたのだ。

 尾の反撃がギリギリで届かない絶妙な間合い。
 ロマネスクは即座に気を建て直し、手綱を右に。
 機敏な反応でボルトールはそちらへ回避行動を取った。
 至近距離で放たれた火炎は、耳障りな音を立てて翼のすぐ横を過ぎてゆく。

30名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:20:30 ID:nlKlatLE0

 アニジャはボルトールの動きに必死で喰らいついた。
 危険を冒してたどり着いたこの好機をやすやすと逃すわけにはいかない。
 指示を出し、リュウジャは口を開き火球を放つ。

( ФωФ)「ふむ。少しはマシになったと見える。だが」

 ボルトールは放たれてすぐの火球を尻尾で弾いた。
 爆発の余波が、放ったリュウジャ自身に襲い掛かる。

( ;´_ゝ`)「しまっ」

( ФωФ)「格闘による決め手の無いその竜で距離を詰めたのは愚かとしか言えんである」

 一瞬。本当に少し爆発に気を取られたその僅かな時間にボルトールが反転した。
 アニジャが反射的にブレーキをかけてしまったため、半端な間合いが開いてしまっている。

31名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:21:34 ID:nlKlatLE0

( ;´_ゝ`)「クソッ」

(´<_`; )「ダメだアニジャ!真正面じゃ……!」

 滞空し、悠々をこちらを見下すボルトールに、リュウジャが火球を三つ連発する。
 生身の人間程度ならば楽に消し炭にできるそれは、敵の放電によって破壊され一つも本体には届かない。

 今度は自分の番だといわんばかりに、ボルトールが動いた。
 炎の残滓を突きぬけ、前足の爪を振りかぶる。

(´<_`; )「くっ!」

 オトジャは瞬時に防壁を強化したが、金斬り音と共に容易く切り裂かれてしまう。
 この僅かな隙にリュウジャは格闘戦の間合いを離脱。
 距離を取るため太陽の方角へ向かって一目散に逃げた。

( ФωФ)「どうやら、もう手はないようであるな」

ζ(゚ー゚*ζ「やりますか?」

( ФωФ)「うむ」

 豪快な羽音を一つ、ボルトールは高度を上げてゆく。

32名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:22:44 ID:nlKlatLE0

( ;´_ゝ`)「どうする?何ならあの竜に通用する?」

 アニジャは高速で脳みそを回転させる。
 格闘戦ではそもそも勝負にならない。
 火球も直撃してくれれば騎手を鞍から弾き落とすくらいは出来るはずだが、望みは薄い。

 虚しいことに、アニジャたちが勝っているのはスピードと騎助手の魔法能力位のものだ。

( ^ω^)「5時の方向に高い魔力の反応、ヤバイのが来るお!」

(´<_`; )「アニジャ!」

( ;´_ゝ`)「クソ!どうやって勝てって言うんだよ!」

 振り返ると、遠く大空の中心に黒い点が見えた。
 ボルトールだ。
 常識で考えれば、たとえ魔法であっても攻撃が届く距離では無い。が。

(;'A`) 「……!多分距離を取っても無駄」

( ;´_ゝ`)「どういう意味だ?」

(;'A`) 「今ボルトールが使おうとしているのは、理論上、射程が今の間合いの倍以上ある」

( ;´_ゝ`)「?!」(´<_`; )

33名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:23:53 ID:nlKlatLE0

( ∵) ゴェェ

( ФωФ)「うむ。向こうもこちらの狙いが分ったようであるな。中々優秀な妖精をつれているらしい」

ζ(゚ー゚*ζ「やめますか?」

( ФωФ)「構わん。どうせ避けられはせん」

 ボルトールの身体は、遠目には分らないほど僅かに輝きを帯びていた。
 光は波のような線を作り角へ集中していく。
 黒い体の中、角だけが力強い光を湛えていた。

( ФωФ)「ビコーズ。替われ」

( ∵) ゴェ

.::( ∵)::. グググ

.::(( ∴)゙:: グルン

( ∴) ゼァッ

( ФωФ)「ゼアフォー、敵竜の回避先を予測。データをボルトールに送信しろ」

( ∴) ゼァッ

34名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:25:36 ID:nlKlatLE0

(;'A`) 「簡単に言うと、凄いビームを放つつもりだ。サポートの妖精次第じゃ、地平線の向こうからでも精密に狙撃できる」

(´<_`; )「かわせる物なのか?」

(;'A`) 「使い手の能力に左右されるから、こればっかりは撃たれて見ないと分らない」

( ;´_ゝ`)「……突撃しよう」

(´<_`; )「……」

 正気か?と尋ねたい気持をオトジャは精一杯抑えた。
 決しておかしな判断ではない。
 至近距離であればあるほど、遠距離魔法は回避が易くなる。
 何より、強力な魔法を放つ前の隙は、恰好のねらい目だ。

 手綱捌きと、踵の合図でリュウジャはボルトールに向かって直進した。
 限界まで速度を上げ、瞬く間に距離を詰める。

( ФωФ)「ここで恐れず詰めてくるか」

ζ(゚ー゚*ζ「中止しますか?」

( ФωФ)「構わん。間に合わんとしても魔法を発動しながらでも戦える」

 ロマネスクの言葉に賛同するようなボルトールの咆哮。
 魔法の光を角に集めながらも、前傾姿勢を取りリュウジャを迎え撃つ。

35名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:27:07 ID:nlKlatLE0

( ;´_ゝ`)「ドクオ、どこを狙うべきだ?」

(;'A`) 「前面は恐らく、魔法の余波を防ぐため強固な防壁を準備しているはず。その分周囲の防壁は薄いと思われ」

( ;´_ゝ`)「回り込んで、後ろから火球をぶち込むか」

(´<_`; )「同じ手が通用するか?」

( ;´_ゝ`)「やるしか無い。頼むぞリュウジャ!」

 答えるように、ぶるんと尻尾が振るわれた。
 トップスピードのまま二竜は間合いを狭めてゆく。

 ボルトールの魔法は既にいつでも放てる状態になっていた。
 しかし、絶好のタイミングを見計らい、まだ撃たない。
 ロマネスクは、無意識に口の端を持ち上げる。

( ФωФ)「あらゆる攻撃を想定するである、ゼアフォー、ボルトール。一撃たりともまともに食らってはならぬ」

 距離があっという間に縮まり、交差の時。
 リュウジャは一切速度を緩めない。
 それを向かえ撃つべくボルトールは起立の姿勢で前足を振り上げた。

 残響。
 砕かれた魔力の欠片が光を反射して周囲を舞う。

36名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:28:26 ID:nlKlatLE0

 ボルトールの爪は寸前で身をかわしたリュウジャの防壁のみを切り裂いた。
 無傷でやり過ごしたリュウジャは急ブレーキと共に反転。
 やや落ちかけながらも火炎弾をロマネスクに向かって放つ。

 振り向き様の前足で攻撃を弾いたボルトールは、そのまま角をリュウジャに向けた。
 慌てて周囲を旋回するように飛行し、アニジャはその射線を外れる。

( ФωФ)(これ以上粘られると、飛行魔法に回す魔力が心もとなくなるであるな……)

 ロマネスクは決めた。次で倒す。
 余裕が無いわけでは無いが、実戦を想定した場合今回は少々遊びすぎた。
 どうにも、彼らを相手にするとらしくない癖が出てしまう。

( ;´_ゝ`)(ボルトールは燃費のいい竜じゃない。これだけ魔法を使わせたなら、後は逃げれば勝てるんじゃないか?)

( ;´_ゝ`)(いや、ダメだ、そんな考えじゃ背中を向けた瞬間に撃ち抜かれる)

 アニジャは魔法を警戒し、速度に緩急を付け上下左右にブレながらチャンスを窺う。
 リュウジャは多少ダメージこそあれ、きちんと性能を発揮できている。
 魔力の残りも十分。対してボルトールはそれなりに消耗しているはずだ。

 ロマネスクが次で決めにかかって来る可能性は高い。
 これはピンチではあるが、チャンスでもありうる。

37名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:30:01 ID:nlKlatLE0

 膠着した状態から、先に変化を見せたのはアニジャ。
 くるりとリュウジャが身を回転させ、やや蛇行を交えながらボルトールに対峙する。

 これはアニジャなりの誘いだった。
 今ボルトールが構えている魔法は、決め技ゆえに消費も大きい。
 上手くかわせればこちらの勝機はぐんと増える。

 無論ロマネスクもそれぐらいは分っているため絶対に無駄撃ちはしてこない。
 だからこその、誘いだ。
 もし撃たれても回避できるよう、撃たれなくとも攻撃に出れるよう、フラフラと飛びながら敵の動きに集中する。

( ФωФ)「……」

( ;´_ゝ`)「……」

 そして、ついに両者十分の間合い。
 リーチで劣るリュウジャでも、機動力を活かせば先手を取れる。

 互いに手を出さなず沈黙。
 リュウジャの羽音だけが静かに鳴り響く。

( ФωФ)「……ッ!」

( ;´_ゝ`)「!」

 先に仕掛けたのは、ロマネスクとボルトール。

38名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:32:07 ID:nlKlatLE0

 羽ばたきを一つ打ってからの、爪。
 右の前足を斜めに切り下ろす。

 リュウジャは翼で勢いをつけ、身体を反りこれをギリギリでかわす。
 背に乗っているアニジャたちが落ちそうな角度だが、必死でしがみついて堪えた。

 爪をやり過ごして見えたのはボルトールの背中、鞍にしがみつくロマネスクとデレの姿。

( #´_ゝ`)「いっけえええええええ!!」

 全身の体重を乗せて、リュウジャは翼と一体化した前足を振り下ろす。

 しかし、その渾身の一振りは、ロマネスクどころか彼らを覆う薄い障壁にすら届かない。
 爪を叩き付けた勢いで身体を回転させたボルトールがそのまま尻尾を振り回したのだ。
 近い間合いのため先端のハンマーこそ当たらなかったが、腰でのタックルを受けたような形でリュウジャは突き飛ばされる。

 意識が飛びかけた。

 黒竜の角が、何よりまぶしく輝く。
 リュウジャは何とか飛行を再開したが、回避を取れる程の安定は戻っていない。

( ФωФ)「やれ」

 放たれた閃光は、いとも容易くリュウジャを飲み込んでいった。

39名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:33:03 ID:nlKlatLE0

 1話終わり

 ひとまずここまで。
 恐らく予想されている通りラノベ祭りの参加作なのだけれど構成上まだ絵が出ないので本スレへの報告を悩むところ。
 二話は近い内に。

40名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:33:07 ID:OICFMv9o0
支援!

41名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:34:30 ID:OICFMv9o0
あらタイミング悪かったすまん、乙
戦闘シーンどきどきする

42名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:38:24 ID:0sPkjIj.0
「うわっこの描写いいな」ってとこが一話だけで多々あるわ…

とりあえずどの絵なのか分かるし報告してもいいように思うけどな

43名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 22:46:56 ID:pU2GuZKQ0
面白い乙
早く2話読みたいな

44名も無きAAのようです:2012/11/19(月) 23:26:17 ID:0GsJDuoE0
乙乙、2話気になるな…!
兄弟も竜もかっこいいがロマネスクかっけえ…

45名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 18:49:11 ID:frMDxuwM0
乙!
戦闘描写すごいワクワクする

46名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:39:55 ID:fFQDkRWg0
 
 
 
                 年を取る。

                   背が伸びる。

                     それでもまだ。

                       伸ばした手は届かない。


.

47名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:40:40 ID:fFQDkRWg0



                  ( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )


                          第二話: 兄は悩む


.

48名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:41:55 ID:fFQDkRWg0

 古来より、竜騎手は特別な存在であった。
 人を遥かに凌駕する力を持った飛竜を跪かせ、その背に跨り自由に空を飛ぶ。
 時には神の使いと崇められ、時には魔の下僕として迫害された。


 そして現代。
 竜騎手は、ある程度の資質を持つものであれば誰でも手にすることが出来る「資格」となっている。

 「正竜騎手資格」。
 正式な名称を「第一種飛竜騎乗許可免状」という。
 専門機関で四年の訓練を受け、さらに正竜騎手となって三年以上の者から推薦を受けて審査の候補に上がることができる。

 審査は過去の成績、人格の評価を多方面から見定め与えられる。
 しかし実質は、候補に挙がった時点で受かったのも同然といわれ、現に候補に挙がって落選したものは少ない。

49名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:42:51 ID:fFQDkRWg0

 現代の制度、さらに役割として竜騎手は二種類に分けられる。
 まずは正竜騎手。
 手綱を握り、竜に指示を出して操る者たちのことである。
 反射神経や判断力が問われ、舵手というよりは小隊の指揮官と言った方がイメージに近い。

 そしてもう一方。
 正竜騎助手。正式名を「第二種飛竜騎乗許可免状」。
 こちらは正竜騎手の方と異なり、魔法の才能が必要不可欠な資格だ。

 飛竜は翼のみではなく、魔法の力によって空を飛ぶ。
 個体によっては音に並ぶ速度を持つ者もおり、人間がむき出しで彼らに乗ること危険極まりない。

 そこで活躍するのが竜騎助手の扱う補助の魔法。

 飛行時の風から、高低差による気圧の変化から、高速移動時の慣性から竜と騎乗者を守り飛行の手助けをするのだ。
 現代の竜騎手たちが高速飛行や急転回を行うことが出来るのは騎助手がいてこそ。
 実際に指揮権を握る騎手よりも地味な仕事ではあるが、竜を駆る上で彼らの存在は必要不可欠なのである。

50名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:43:32 ID:frMDxuwM0
ktkr!

51名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:43:57 ID:fFQDkRWg0

(・∀ ・) 「……で、負けたわけか」

 未だ日の沈みきらない夕暮れ時。
 場所は先日と同じくVIPの飲み屋『高岡屋』。
 模擬戦を終え、オトジャはいつものように、プギャーとまたんきと共に酒を酌み交わしていた。

 いつもと異なるのは、この場にアニジャがいないということ。
 彼は模擬戦を終えたその足で、行き先も告げずどこかへ去って行った。
 オトジャには何となく見当が着いているが、あえて追うようなことはしない。

(´<_` ) 「強かったよ、ロマネスクとボルトールは。俺もどう戦うべきか何の助言も出来なかった」

( ^Д^) 「あれはバケモンだ。自分らを比べるだけ虚しくなる」

 ボルトールは雷竜と鳥竜を掛け合わせ生まれた飛竜である。
 能力は文句なしに高かったものの、非常に気性が荒く手懐けられる竜騎手は数限られた。
 そんなボルトールがまだ少年だった頃のロマネスに頭を垂れ、背中を差し出したのが彼らの始まり。

 以来、騎助手が変わることこそあれ、一人と一頭は常に一緒に空を翔けてきた。
 故に、養成所に通い始めてから竜に触れた者達とは同期ながらも段違いの経験がある。

 単に竜に触れていた年数で言えばアニジャもオトジャも負けてはいないのだが。

52名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:44:06 ID:fG7VYTq20
早かったな支援

53名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:45:08 ID:fFQDkRWg0

( ^Д^)「唯一隙があるとしたら、騎助手のデレだけどよ」

 亜麻井デレ。ロマネスクの相方としては四人目の騎助手。
 成績はそれなりに優秀なものの、騎手と騎竜の性能に比べれば少々劣る。
 無論役目は十分に果たしているため、隙と言ってもあって無いようなものだ

(´<_` )「亜麻井は優秀だよ。ロマネスクの後ろで二年保ってるのがその証拠だ」

(・∀ ・) 「確かに。杉浦の後ろとか一週間耐えられる自信がねえや」

( ^Д^) 「逆に俺は亜麻井が後ろにいたら落ち着かん。手綱と間違っておっぱい掴むかも」

(・∀ ・) 「……俺には、お前ぐらいの馬鹿で丁度ってことだよなぁ」

( ^Д^) 「冗談に対して本気のトーンで返すの止めろ」

 オトジャは自分達の訓練を反芻するので頭が一杯で気付かなかったが、どうやらプギャー達も何かあったらしい。
 いつも無駄に煩いプギャーが妙に表情を翳らせている。

(´<_` )「そっちはどうだったんだ?相手って確か……」

(・∀ ・) 「ニダーとシナーだよ」

(´<_` )「……姑息VS卑怯か」

(・∀ ・) 「おう。何の反論も出来ねえぜ」

54名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:45:54 ID:fFQDkRWg0

( ^Д^) 「……チッ」

 ニダー&シナーとは、これまたオトジャたちの同期の騎手だ。
 プギャーたちとは別の方向で面倒な戦術を得意としており、周囲からはやや嫌われている。
 逆に言えば、敵対すると非常に厄介だという優秀さの証でもあるわけだが。

( ^Д^) 「この俺が、姑息で遅れを取るとは……」

(´<_` )「確かに、お前らの戦法とは相性悪いかも知れんな」

( ^Д^) 「ああ。本当に最悪だったぜ」

(・∀ ・) 「俺も、自分達の戦術があんなに他人をイライラさせるもんだとは思わなかった」

(´<_` )「それは、ニダー達にGJだな」

 オトジャは隣のテーブルを拭いていたワタナベにビールを三つ注文。
 残っていた分を一気に飲み干す。

 冷静な顔をしてはいるが、今日の負けはオトジャにとってもかなりの屈辱だった。
 酒を飲まずにはいられない。

55名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:46:37 ID:fFQDkRWg0

(・∀ ・) 「ったく、不安になるぜ。こんなんで、正竜騎手になれんのかね」

( ^Д^) 「なるしかねえだろ。ネ竜祭まではまだ時間あるし、特訓だ特訓!」

(・∀ ・) 「俺は時々お前の脳みそが羨ましくなるよ」

 運ばれてきたビールを、三人で器をぶつけ合い呷る。
 丁度いい温さで、香りと炭酸の痺れがたまらない。
 僅かではあるが浮遊感が沸いてきており、少しずつ気分も良くなってきていた。

( ^Д^) 「たーっっく、あのバカも一人でゴチャゴチャ考えてねえで来て飲みゃあいいのによ」

(・∀ ・) 「同じ馬鹿でもアニジャはちっとデリケートだからな。お前は扱いやすくていいよ」

( ^Д^)+ 「褒めるなよ相棒。照れるわ」

(・∀ ・)

(´<_` )「ま、飲もう。今日は奢りだ」

( ^Д^) 「いいのか?」

(´<_` )「兄者が財布忘れていったからな。結構入ってるし平気だろ」

(・∀ ・) (酷い)

( ^Д^) (これの兄にはなりたくない)

  **  **  **

56名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:47:51 ID:fFQDkRWg0

 VIPの外れ、小高い丘の上。
 西の空には熟れた柿のような太陽がぼんやりと浮かんでいる。

 地面には、朱色をぽっかりとくり貫いた黒い影。
 今の心境に似合い、どこか情けなさがにじみ出ていた。

( ´_ゝ`)「……」

 アニジャは地面に座り込んだまま、目の前の十字架を睨んでいた。
 その下には、彼の両親が眠っている、ということになっている。

 竜騎手だった両親は、とある任務に出て突然消息を絶った。
 どんな内容だったのかアニジャ達は知らないが、とても危険な任務だったのだと聞いている。

 同じ任務に就いた他の竜騎手や傭兵達は全て死体で見つかった。
 遺体すら見つからなかったのは父と母のただ二人。
 状況から死亡したという結論が下され、棺だけがこの十字架の下に埋められている。

( ´_ゝ`)「……」

 当時こそ、あの屈強な母とキレ者の父が死ぬはずないと意地を張っていた。
 しかし、生きていたならば何故帰ってこないのか。
 その疑問に悩み続け、数年前になってやっと、彼らがもうこの世にいないと決着を付けた。

57名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:49:01 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「情けない息子だと思うか?」

 どこにもいない母に尋ねる。
 この場に居れば無言の正拳一撃で終わりそうだが、弱い風が頬を撫でるばかり。
 答えを期待していなかったとはいえ、呟いてしまった自分に呆れが出る。

( ´_ゝ`)「リュウジャは、かなり大きくなったよ。つっても、まだまだ大きくなるだろうけど」

 アニジャとオトジャの竜、リュウジャは、父と母の竜の血を継いでいる。
 生まれたのは、アニジャ達が9歳の時だ。
 以来、厩務員である叔父に世話をしてもらいながら共に育ってきた。
 もう一人の兄弟と言っても過言では無い。

( ´_ゝ`)「……」

 日がさらに傾き、空に濃い藍色が混ざり始めた。
 丘の上にあるこの墓地は周囲に明かりになるものが無いため夜になると真っ暗だ。
 月明かりがあれば十分ではあるが、流石に気味が悪い。

( ´_ゝ`)「……?」

 そろそろ帰ろうかと腰を上げたところで、飛竜の羽音が聞えてきた。
 南の空を見やると比較的小柄な竜がが丘の墓地に向かって飛んでくるのが見える。

58名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:49:53 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「……ジョルジュ?」

 西日の中で分りにくいが、教官のジョルジュ長岡とその騎竜エートンである。
 エートンはリュウジャと同じく前足が翼と一体化した飛竜だ。
 腹や足こそ竜らしい鱗に覆われているが、全身が羽毛に包まれ嘴を持つため遠目には巨大な猛禽類に見える。

 ちなみに、リュウジャやエートン達のように前足と翼が一体の飛竜を鳥竜型。
 ボルトールのように四足を持った上で背中に翼を持つ飛竜を獣竜型と呼ぶ。
  _
( ゚∀゚) 「やっぱりここだったか」

 軽やかに着地したエートンの背中からジョルジュが飛び降りた。
 見たところ、助手も妖精も連れずに来たらしい。

( ´_ゝ`)「どうしたんだ?」
  _
( ゚∀゚) 「お前にちょっと話があってな」

 彼はいわば母の弟子のようなもので昔から親交がある。
 養成所でこそキッチリ立場をわきまえているが、感覚としては近所のあんちゃんに近い。
 だから個人的に話すことは珍しくなく共に酒を飲むことも多かった。
  _
( ゚∀゚) 「まあ、乗れ。じき暗くなるし、送りながら話すよ」

 言われるまま、エートンの背中に乗った。
 鞍越しにも羽毛の柔らかさが伝わってくる。

59名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:50:49 ID:fFQDkRWg0
  _
( ゚∀゚) 「しっかり鞍に掴まっておけよ」

 言われたとおり鞍から生えた助手用のハンドルを握る。
 前ではジョルジュが手綱を握り、離陸の準備に入っていた。

 そういえば、誰かの後ろに乗るのは久しぶりだな、とその逞しい背中を眺めながら胸中で呟く。

 エートンの体が、羽ばたきと共にふわりと浮き上がる。
 飛行魔法を併用することによる、安定感のある浮遊。
 そのままやや滑空する形でエートンは進み始めた。

 助手なしのため、風がモロに肌を撫でる。
 少々寒く感じはするが、むしろ、飛んでいる実感があって心地よい。

 夜に染まりかけの空はまるで水の奥底のように不思議な透明感を持っていた。
 風にはためく襟を押さえながら、地平線が空に生み出した夜と夕の境を目でなぞる。
  _
( ゚∀゚) 「シャーミン教官に聞いた。杉浦にこっぴどくやられたらしいな」
  _
( ゚∀゚) 「彼が庇いに入らなかったら、消し炭になるところだったんだって?」

 風に負けないよう、大きな声でジョルジュが言う。
 アニジャは返事を返せず、藍色の天幕に星を探していた。
  _
( ゚∀゚) 「分ってるとは思うが、竜騎手は戦うだけが仕事じゃない」

 ジョルジュの言いたいことは何となく予想がついた。
 彼らしいというか、なんと言うか。
 絶妙にアニジャの悩みを突いてくる。

60名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:51:30 ID:fFQDkRWg0
  _
( ゚∀゚) 「そもそも、リュウジャは戦闘向きの竜じゃない。いくら火竜の血をついでいても、な」

( ´_ゝ`)「……」
  _
( ゚∀゚) 「同じ鳥竜や、特殊性に重きを置いた竜ならまだしも、ボルトールのようなバリバリの戦闘型は無理だ」

 そう。
 魔法によって大型の竜も空を飛ぶこと出来る現状、飛行に特化した鳥竜型は戦闘においては非常に不利だ。
 中には強力な魔法で火力を補っているものもいるが、リュウジャは違う。
 昔から、戦闘には向かないと散々言われてきていた。
  _
( ゚∀゚) 「お前達の研修の報告書を見た。輸送や捜索任務の評価はすこぶる高い」
  _
( ゚∀゚) 「その方面に向かう気があるなら、俺から推薦を出してやれる」

 余程重いものでない限り、リュウジャは運搬などの仕事は軽々とこなす。
 小回りが利くためその方面で働けば確かに重宝されるだろう。
  _
( ゚∀゚) 「お前は十分に優秀な竜騎手だ。それを、みすみす落第させるようなことはしたくない」

( ´_ゝ`)「俺も、落第はしたくないな」
  _
( ゚∀゚) 「……すまん。こんな脅すような言い方しか出来なくて」

( ´_ゝ`)「いいんだ。ありがとう、ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚) 「……」

61名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:52:42 ID:fFQDkRWg0
  _
( ゚∀゚) 「明日、運送の研修が入っていたな。それが終わってからでいい。お前なりの考えを聞かせてくれ」

 宿舎に着きアニジャを降ろすと、それだけ言ってジョルジュは去っていった。

 そうか。竜騎武闘の申し込みは明後日の午前中までだったな、とジョルジュが態々来た理由を理解し、納得する。
 ジョルジュはアニジャたちを竜騎武闘に出させたくないのだ。
 無論、意地悪ではない。
 養成所での成績の芳しくないアニジャが出るのは危険だと、身を案じてくれているのだ。

 部屋に入ることもせず、ぼんやりとしていると、近づいてくる足音に気付いた。
 オトジャだ。顔はまだ見えないが、気配と足音が間違いない。

(´<_` )「兄者?何してるんだ?」

( ´_ゝ`)「オトジャ、話があるんだ」

(´<_` )「……皆まで言わなくていい。何だかんだ言って俺達は双子だからな。言わなくても何となく分る」

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「財布の中身は確かに使ったが、ちゃんと半分は残してある。だからそんなに怒るな」

( ´_ゝ`)「……えっ?」

(´<_` )「えっ?」

  **  **  **

62名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:53:42 ID:fFQDkRWg0

 気持のいい快晴であった。
 空は高く、時折小さな雲が泳いでゆく。
 あそこまで行けたらさぞ爽快だろうな、と小さく息を吐いた。

(´<_` )「兄者、準備はいいぞ」

( ´_ゝ`)「ああ。今行く」

 今日は、実際に任務を受けての研修である。
 正竜騎手である上官の監督の下、迅速に荷物を運搬するのが今回の仕事だ。

 結局、金の話で揉めたせいでアニジャとオトジャの間で相談がなされることは無かった。
 喧嘩自体は一晩寝れば仲直りではあるが、いざタイミングを逃すと非常に切り出しにくい話題でもある。
 実際のところ成績優秀なオトジャは単体で引く手数多であり。その引け目が余計にアニジャの気持を拗らせていた。

( ´_ゝ`)(……俺もいい加減、決めないとな)

 荷物を鞍に括り付けリュウジャの背に乗る。
 首を撫でてやると咽を鳴らして喜んだ。
 戦闘が無いと分っているのか、模擬戦訓練よりもリラックスしている。

( ´_ゝ`)(……リュウジャも、本当は無理に戦いたくなんか無いのかな)

(´<_` )「どうした?」

( ´_ゝ`)「いや、なんでもない」

63名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:54:44 ID:fFQDkRWg0

(゚、゚トソン 「では、サスガ班も向かってください。何か問題があった場合は妖精を通し私に判断を仰ぐこと」

 候補生達の研修が頻繁な時期になると多くの正竜騎手が監督として駆り出される。
 今回アニジャたちを担当する都村トソンもその一人。
 年齢は4歳ほどしか変わらないが、優秀な人物だと聞いていた。

 任務中、監督のトソンが着いてくるわけではない。
 同時に複数の竜騎手たちを担当しているため、拠点となるVIPに待機し問題が起きた場合にのみ駆けつけるのだ。
 運搬系の仕事を中心に働いているトソンの話を聞いてみたかったアニジャとしては、少々残念ではある。

( ´_ゝ`)(ま、早めに終わらせて、時間作るか)

 前日にジョルジュに言われたことを思い出す。
 竜騎手と一口に言ってもその仕事は様々だ。
 戦闘の関わる危険な任務から、そうでない安全な任務まで幅広い。

 故に、本人が希望する業種によって推薦がもらえるか否かは大きく変わる。
 明確な制度として成り立っているわけではないが、竜騎手になるためには大きなポイントなのだ。

( ´_ゝ`)「なあ、オトジャ。俺は空を飛ぶのが好きだ」

(´<_` )「……?態々言わなくても知ってるぞ」

( ´_ゝ`)「いっそ、こういう仕事でやっていくのも、いいのかな」

(´<_` )「……」

64名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:55:34 ID:ZiYhvzEo0
兄者…

65名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:55:35 ID:fFQDkRWg0

 リュウジャは、その機動力を遺憾なく発揮し、テキパキと仕事をこなしていった。
 もともと飛ぶのが好きなこともあり、長距離を渡ることに疲労よりも楽しみを覚えている。
 短い距離での郵送に不満の鳴き声を上げるほどだ。

( ´_ゝ`)「大丈夫かリュウジャ?思ったより早いペースで終われそうだし、少し休憩も出来るぞ」

 アニジャの問いかけにリュウジャは甲高い声で応じる。
 元気はまだまだ一杯でもっと飛びたいとすら思っているようだ。

 念のため一つの仕事が終わったところで昼食を兼ねた休憩を挟む。
 それでも、予定の時間より一時間以上早く最後の荷物の受け渡しを終えた。
 
(´<_` )「何も無くてよかったな」

( ´_ゝ`)「ああ。トソンさんに連絡して、さっさと帰ろう」

 鞍に跨がろうとすると、ドクオの方から顔を出した。
 左目が光っている。他の妖精から通信が着ている合図だ。

('A`) 「都村正竜騎手から、通信」

( ´_ゝ`)「繋いでくれ」

 リュウジャに乗り、安全索をベルトに繋いで、通信を受ける。

66名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:56:34 ID:fFQDkRWg0

('A`) 『こちら、都村です。サスガ(兄)君、聞えますか』

( ´_ゝ`)「サスガです。どうしました?」

('A`) 『緊急で仕事が一つ入ったのですが、そちらの状況はどうでしょう?』

( ´_ゝ`)「最後の荷物を運び終わったところですね。後一つなら大丈夫ですよ」

('A`) 『噂どおり早いですね。早漏ですね。今とても余計なことを言いました。忘れてください』

( ´_ゝ`)

('A`)

('A`) 『…では、もう一つ運搬をお願いします。必要な情報は妖精に送信しておきますのでそちらを参照してください」

( ´_ゝ`)「分りました」

('A`) 『では、お気をつけて』

('A`) 「……通信終了」

( ´_ゝ`)「俺って早漏なのかな」

(´<_` )「知るか。自分で判断しろ」

67名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:57:42 ID:fFQDkRWg0

 ドクオに送られてきた情報を確認する。
 荷物の受け取り先は現在地のラウンジから西へ数キロ飛んだ地点にある小さな村。
 そこから国の外れシベリアへと小包を運ぶ。
 特別何でもない、簡単な仕事だ。

( ´_ゝ`)「どっかの誰かのせいで金欠だから、お仕事が増えるのは助かるなあ」

(´<_` )「まったくだな」

 リュウジャで飛べば数分で目的地に到着。
 簡単な手続きを済ませて荷物を受け取り再び空へ。

( ´_ゝ`)「ドクオ、リュウジャの魔力の残量は?」

('A`) 「72%。今日くらいのペースなら半永久的に飛んでいられる」

( ´_ゝ`)「俺の痔が悪化するから半永久は止めよう」

('A`) 「ボラギノールを注文しますか?」

( ´_ゝ`)「まだ残ってるからいい」

( ^ω^)「中にちゅーっと?」

( ´_ゝ`)「外にさーっとの方だ」

68名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:58:39 ID:fFQDkRWg0

(´<_` )「集中しろ。蹴落とすぞ」

 シベリアは山岳地帯のため天候がコロコロと変わる。
 VIPからの距離もあるため何かあったとしてもトソンが駆けつけるにはかなりの時間がかかるだろう。

 そして、そういう状況でこそ起きてしまうのだ。
 トラブルというものは。

( ^ω^)「……!前方から高速で接近する機影確認!魔力の性質からして、飛竜だお!」

(´<_` )「兄者」

( ´_ゝ`)「分ってる。ブーン、目的が知りたい。感知した情報をドクオに送ってくれ。ドクオはそれを元に検索」

( ^ω^)「おっけーだお」

('A`) 「おk」

 妖精二匹に指示を出すと、アニジャは予定していた経路を大きく外れ、上昇した。
 単なる偶然で向かってきているのか、リュウジャを目的に進んできているのかを判断するためだ。

 厄介なことに相手も軌道を変え上昇。間違いなくこちらに狙いをつけている。

69名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 21:59:31 ID:fFQDkRWg0

('A`) 「検索完了。約98%の確率で、指名手配中の違法竜騎手「フォックス」及び騎竜「犬神行部(イヌガミギョウブ)」。」

( ´_ゝ`)「……崩れの盗賊か」

(´<_` )「目視で確認した。間違いなくそいつだ」

('A`) 「『犬神行部:獣竜型。近距離戦を得意とするタイプ。幻術系魔法に適性アリ』」

(´<_` )「間違いなく接近してくるな。どうする?」

( ´_ゝ`)「ドクオ、トソンさんに通信」

('A`) 「了解」

('A`) 『……こちら都村。どうしました?』

 ドクオ越しに聞えるトソンの声は、どこか焦りを孕んでいた。
 嫌な予感がしたがアニジャはドクオを鷲づかみにし、口元に引き寄せる。

70名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:00:12 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「指名手配中の「フォックス」に絡まれました。指示を」

)'A`) 『……ッ。こちらは今、別の賊との戦闘中ですぐには向かえません』

)'A`) 『援軍の要請はしておきますが……派k……ぅ5ふ…………』

('A`) 「ノイズにより通信断絶。敵騎妖精から妨害を受けている模様」

(´<_` )「どうするんだ?」

( ´_ゝ`)「……」

 手綱を握り締め、アニジャは頭を回転させた。
 違法騎手の多くは能力は高くとも、人間性に問題があったために正竜騎手になることが出来ず道を外れたものが多い。
 今回追跡してきているフォックスもその口だ。

 犯罪者であることを除けば経験も実力も正竜騎手とほぼ同等。
 その上騎竜は戦闘を得意とするタイプだ。
 まともに考えれば、アニジャたちが敵う相手ではない。

 が。

71名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:00:45 ID:frMDxuwM0
ドクオwww

72名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:01:28 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「…………戦おう」

(´<_` )「本気か」

( ´_ゝ`)「本気だ」

(´<_` )「……流石だな。いいぞ、付き合おう」

 アニジャは頭を振って敵影を直接確認。
 目測で300弱ほど。まだ火球の範囲内ではない。

(´<_` )「戦闘用防壁展開完了。耐慣性コントロール安定。抗幻術チャフ準備」

( ´_ゝ`)「高度を下げる。ブーン、距離が150を超えたら合図。同時に反転、こちらから仕掛けるぞ」

( ^ω^)「了解だお」

 リュウジャが興奮気味の嘶きを上げた。
 疲れを感じさせず、力強く翼を広げる。
 指示通りに頭を下げ、やや右へ旋回しながら緩やかに下降を開始。
 敵は距離のみを詰め、高度を下げる気配はない。

 やはり上を取りに来た。
 アニジャは唸りを溜めるリュウジャを踵で撫でて落ち着かせる。
 まだだ。慎重にタイミングを狙わなければならない。

73名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:02:22 ID:fFQDkRWg0

( ^ω^)「……距離150!」

 ブーンの叫びと同時にリュウジャが急ブレーキ。
 飛行魔法の出力を全開にし方向転換。間髪おかず敵竜に向かって高速で羽ばたいた。

 オトジャの張った防壁が風圧で削れるほどの加速。
 敵は反応したが逃げる様子はなく、ただ減速した。
 迎え撃つつもりだ。

( ^ω^)「魔力反応!」

(;'A`) 「パターン解析。幻術!」

( ´_ゝ`)「リュウジャ、撃て!発動させるな」

 滞空する相手に向かって、火球による砲撃。
 狸に翼を生やしたようなその竜は、容易く回避してみせる。

 逆に、緑色の魔力を空中に生み出し、刃を作り出した。
 広い範囲に拡散したそれが、リュウジャへと放たれる。

 アニジャは最初の一撃を軽く回避し、わざと防壁を掠らせた。
 金斬り音を上げ防壁が削られる。
 貫通する威力ではないが連続で受けるのは危険だ。
 出来うる限り食らいたくは無い。

74名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:03:30 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「相殺!」

 リュウジャが咆哮と共に火球を吐き出した。
 複数の刃を飲み込み爆発する。
 熱波がリュウジャにも襲い掛かるが、覚悟の上のため怯まずに直進。
 爆発の衝撃で他の刃の軌道が変わった僅かな隙間を強引に駆け抜ける。

爪'ー`)y‐ 「……!やるねえ!」

 相手の騎手が見えた。
 ニット帽から長い髪を靡かせる男。
 妖精らしい光は見えたが、騎助手の姿は無い。
 恐らく自分自身で魔法を扱うハイブリッドタイプの騎手だ。

( ´_ゝ`)「抜けろ!」

爪'ー`)y‐ 「こいこい」

 攻撃の雨を抜けそのまま敵竜の脇を押し通る。
 予想されていたのか、抜けてすぐに追尾された。

( ;´_ゝ`)「……?!不味い!」

(´<_` )「焦るなアニジャ!」

 一瞬の交差で、幻術に嵌められた感覚があった。
 視界に歪み等は無いが、目の前の風景と理解している脳に不気味なズレを感じる。

75名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:04:32 ID:fFQDkRWg0

 オトジャが発動した抗幻術のチャフにより、脳の明晰がやや戻ってきた。
 しかし、どこまで影響されているのかが定かでないため、不気味さが振り払えない。

( ;´_ゝ`)「クッソ」

 突然目の前に岩山が現われた。
 剣の様に尖ったそれを反射的にかわすが、掠めたはずの防壁には何の影響も無い。
 幻術だ。思いの外強力な術に嵌められている。

( ;´_ゝ`)「ブーン、レーダーは無事か?」

( *^ω^)

( ;´_ゝ`)「ブーン!」

( *^ω^)「ふひひ……僕もツンちゃんが大好きだお……!」

 ブーンは幻術に侵され脳みそにお花を生やしていた。
 答えを貰うまでも無く、探知がまともに機能していないのが分る。
 オトジャが右手を勢い良く伸ばし、ブーンの頭をもぎ取るような動きで捕まえ、そのまま握り締めた。

) ゚ω゚( 「いででででで!死ぬ!妖精死なないけど死ぬ!」

(´<_` )「目が覚めたか?」

(ヽ^ω^)「おかげさまだお。後で死ね」

76名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:05:16 ID:PWZpIGFM0
支援!

77名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:05:22 ID:fFQDkRWg0

( ^ω^)「レーダー自体は機能しているけど、これが正しいかはちょっと分らないお」

(´<_` )「プギャーたちより厄介だな」

( ;´_ゝ`)「ホントにな。カブトムシが目に突き刺さって落竜して欲しい」

 上昇し、岩山を避けた。
 敵本体から距離を取れば幻術自体も破れるはずだ。

 しかし、相手も簡単にはやらせてくれない。

 突然目の前に現われる、ボルトール。
 角が輝き例の魔法を放つ直前だ。

( ;´_ゝ`)「!?」

 偽者であるとわかっていても、つい反応してしまう。
 手綱を引き急ブレーキ。
 すぐにボルトールの姿が揺らぐが、その時既にフォックスと犬神行部が背後まで迫っていた。

( ;´_ゝ`)「チィッ!」

 振り下ろされた前足の一撃を前方へ下降しギリギリでかわす。
 体勢を立て直し向き直るもそこに犬神行部の姿は無い。

78名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:06:48 ID:fFQDkRWg0

爪'ー`)y‐ 「こっちこっち」

 左から声。
 反応し振り向くと、犬神行部が犬のような大口を開き、リュウジャの翼に迫っていた。
 あわてて回避を指示してから気付く。
 これも幻術。

爪'ー`)y‐ 「ひゃっはー!!」

 本体は逆に居た。
 右の前足を悠々と振り上げ、騎乗しているアニジャ達に向かって爪で襲い掛かる。

(´<_`; )「くぅ!」

 回避の間に合うタイミングでは無かった。
 オトジャが咄嗟に防壁を強化したが、大きく抉られ衝撃がリュウジャを襲う。
 よろけて体勢を崩したところへ、さらに逆の爪。

 飛行魔法を解除し落下することで直撃だけは免れたが、防壁は完全に破壊されてしまった。
 すぐさまオトジャが張り直すも、攻撃を防ぐだけの強度には至っていない。

爪'ー`)y‐ 「いっただきィ!」

( ;´_ゝ`)「させるか!」

79名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:07:36 ID:fFQDkRWg0

 一瞬の判断だった。
 犬神行部が攻撃魔法を発動するまでの極僅かの隙にアニジャはリュウジャへ急降下の指示を出す。

 落下よりも早く、岩山に向かって飛翔。
 追う形で迫る魔力の刃を大きく左に逸れてかわした。

 そのまま軌道を修正し、U字を描く形で上昇に移る。
 犬神行部はしつこく追跡。
 幻術によるフェイクの攻撃を乱発し、リュウジャに安定した飛行を許さない。

(´<_` )「アニジャ、相手が悪すぎる。任務の遂行を優先して一旦逃げよう!」

( ;´_ゝ`)「……」

 オトジャの意見は正しい。
 戦ってみて痛感する。
 たとえ無認可の違法な竜騎手であっても、フォックスは強い。

 このまま戦い続けるのは愚策である。
 だが、それを分った上でアニジャは逃走を選ばなかった。

( ;´_ゝ`)「……この幻術にかかった状態じゃ、どっちにしろ逃げ切れない」

 竜騎手と騎竜にとって障害物は最も注意すべきものだ。
 故に、フォックスの隙を突くようなピンポイントでの幻術攻撃に対する反応をどうしても押さえ込めない。
 リュウジャも同様の幻が見えているため、騎手の反射的な間違いが、そのまま行動に繋がってしまう。
 幻術を何とか破らなければ逃げるも勝つもないのだ。

80名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:08:47 ID:fFQDkRWg0

( ;´_ゝ`)「もう少しだけ、俺の意地に付き合ってくれ」

(´<_` )「……昨日の件、帳消しな」

( ;´_ゝ`)「半分で手を打とう!」

 手綱を思いっきり引き右上方へと進路を変える。
 そして目を瞑り、風の音だけに集中した。

( ;´_ゝ`)「リュウジャ、目をつぶれ、俺を信じろ」

 リュウジャは迷うことなく瞼を閉じた。
 少なくとも上空ならば障害物に当たることは無い。
 安心して(実際はとても怖いが)全開速度を出せる。

( ;´_ゝ`)(これでも多分、引き離せない。流石のリュウジャも視覚を閉ざして全開には出来てないしな)

( ;´_ゝ`)(考えろ。どうすれば、アイツに一泡吹かせられる?)

 オトジャは、自分に見える幻術を出来る限り無視し、防壁と飛行の補助にのみ集中した。
 こういった場面ではアニジャの閃きに期待するしかない。
 その間、出来うる限りのサポートをするのが彼の仕事だ。

81名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:09:35 ID:fFQDkRWg0

( ;´_ゝ`)(考えろ考えろ考えろ、俺が向こうの立場だったとして、どう仕留めようとする?)

 犬神行部の放った本物の魔法攻撃が数発防壁を抜けリュウジャの翼と足を掠めた。
 防壁の分威力が軽減されていたため大した傷には至らないが、体が大きく揺れる。

 フォックスはアニジャとリュウジャが目を閉じていることに気付いていた。
 同じ対処方を取るものは過去に多く居たため、その飛び方を見ていれば簡単に分る。
 だから、じわじわと責めるのだ。
 目を閉じていることの恐怖を限界まで高め、性能を減退させるために。

 激しく続く攻撃に、リュウジャの身体には傷が増えてゆく。
 オトジャの粘りもあって致命傷だけは避けているが限界は近い。
 リュウジャの咽からは、言いようの無い恐怖に耐えるうめきが延々と続いていた。

( ;´_ゝ`)(このままじゃ、みんなやられる、まずい、まずい、まずい!)

爪'ー`)y‐ (そろそろ限界か?行部の幻術越しに精神の乱れがビンビン伝わってくるぜ)

 頃合を悟ったフォックスは、犬神行部に大技の指示を与えた。
 行部はその指示に従い、魔力を羽に集中させてゆく。

82名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:11:51 ID:fFQDkRWg0

( ^ω^)「高魔力反応!強いのが来るお!」

(´<_`; )「兄者!」

(;'A`) 「計算完了。オトジャの防壁じゃ、耐えられない」

( ;´_ゝ`)「……ッ!」

 アニジャの中で何かが切れた。
 手綱を大きく右に引き、軌道を変える。
 踵でリュウジャの鱗をさすり、目を閉じろという指示を解除。

(´<_`; )「どうする気だ」

( ;´_ゝ`)「……」

 オトジャの声にアニジャは一切反応しない。
 空ろな目で無心に手綱を捌いている。

爪'ー`)y‐ (……なんだ?立て直したのか?)

 動きの変わったリュウジャを警戒し、フォックスは攻撃を中止させた。
 変わりに幻術によるデコイを目の前に出現させる。
 アニジャは馬鹿正直に反応し舵を切った。
 それを見て、フォックスは「目を閉じる恐怖が幻術への警戒に勝ったのだ」と悟る。

83名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:13:36 ID:fFQDkRWg0

爪'ー`)y‐ 「なら、こっちの必勝パターンで行かせて貰うぜ」

 アニジャのデコイに対する反応は目を閉じる前よりも大きく敏感になっていた。
 視覚を封じていた反動だ。
 何をどうしていいかわからない迷いは、幻術にとって恰好の状態である。

( ;´_ゝ`)「……ッ!」

(´<_`; )(ここで急転?!血迷ったか?!)

 アニジャは突然手綱を引き、リュウジャを反転させた。
 追ってくる犬神行部と向かい合う形である。
 そのまま、突進し、慣性を利用した尻尾のなぎ払いを放つ。

 犬神行部はこれを急上昇で難なく回避。
 同時に幻術を強め死角に回り込む。
 これでもう、リュウジャに騎乗している者たちは犬神行部の居場所は分らない。

 フォックスは行部の右肩の毛を引っ張り、噛みつきを命じる。
 幻術に踊らされるリュウジャは、無防備な腹を隠す余裕も無い。
 犬神行部は悠々と、その腹に向かって顎を開いた。


( ゚_ゝ )「そこだ」

84名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:14:34 ID:fFQDkRWg0

爪;'ー`)y‐ 「!?」

 フォックスは反射的に手綱を引いていた。
 振り返り様、高速で振り払われたリュウジャの翼手が、僅かに犬神行部の鼻先を掠める。

爪;'ー`)y‐ (俺の動きを、読んだだと?)

( ´_ゝ`)

 アニジャの目は真っ直ぐにフォックスを見据えていた。
 先ほどまであった動揺が一切消えているように見える。

 気味が悪い。
 直感的にそう思った。
 今まで落としてきた竜騎手たちとは、違う反応だ。

爪'ー`)y‐ 「小僧が、舐めんじゃねえぞ」

 噛み殺すように呟き、フォックスは幻と共にリュウジャに襲い掛かる。
 一撃目はかわされるのが前提の実体を持ったフェイク。
 決め手は、回避後に視野が狭まるのを利用し姿を隠してからの、必殺の一撃だ。

 しかし。

85名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:15:36 ID:fFQDkRWg0

爪;'ー`)y‐ (また読んだだと?!)

 リュウジャは完全な死角にいた行部に対し、尻尾を振り回しカウンターを放った。
 防壁によって行部の本体にまではたどり着かなかったが、フォックスの額には粘度の高い汗が滲む。
 今回は裏の裏のさらに裏をかいたはず。偶然で合わせられるものでは無いはずだ。

( ´_ゝ`)「早く来いよ」

爪;'ー`)y‐「あん?」

( ´_ゝ`)「アンタは、強い。だからこそ、最善手を計算すれば自ずとどこから仕掛けてくるか簡単に分る」

( ´_ゝ`)「もう、奇襲は食わないよ」

爪;'ー`)y‐「クソガキが……」

 現に二度奇襲に反撃を合わせたアニジャの言葉には信憑性があった。
 偶々で片付けるにはあまりに怖い現実だ。
 Be cool 。意地になるな。落ち着け。
 フォックスは頭に上りかけた血を深呼吸と共に押し下げる。

 奇襲がダメなら正面から仕掛ける。
 安全性は少し欠けるが、鳥竜型の竜とまともに戦って負けるわけが無い。

86名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:16:49 ID:fFQDkRWg0

 念のため幻術は解かず、フォックスはリュウジャに仕掛けた。
 同時にデコイを見せ、リュウジャの意識を散らして隙を作る。
 しかし、振りかぶった前足は虚しく空を裂いた。

( ´_ゝ`)

 距離を取りながらリュウジャの背中から身を乗り出したアニジャは冷ややかな目でフォックスを見る。
 あざけるような冷たい目だ。

爪#'ー`)y‐ 「小僧!調子に乗るんじゃねえぞ!」

 フォックスが激昂した。
 彼にあった竜騎手としてのプライドが著しく傷つけられたのだ。

 犬神行部は先ほど中断した魔法を再び発動。
 緑色の魔力が翼に集まり、一回り大きく見せる。

爪#'ー`)y‐ 「そっちがその気なら、こっちも遠慮せずにやってやるよ!」

 犬神行部が羽ばたいた。
 同時に、翼に集まっていた魔力が煌き、体の前部を覆ってゆく。
 魔力の鎧を盾に、犬神行部は最高の速度でリュウジャに突進した。

 対し、リュウジャも同じく防壁を極限まで強化し、突進で迎え撃つ。

87名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:18:12 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「決めるぞ、リュウジャ」

 アニジャは姿勢を低くし、手綱を強く握る。
 後ろにしがみ付くオトジャは防壁に全神経を集中していた。

 リュウジャは三発の火球を放つ。
 魔力に守られる犬神行部は一切怯まず突き進み火球を打ち砕いた。
 舞い散る爆炎で視界が狭まると同時に、リュウジャの防壁と正面衝突。

爪'ー`)y‐ (決まった)

 行部の必殺技でもあるこの突進は、軽々と防壁を砕く。
 これで、その奥にいる竜もおしまいである。

 しかし。

 絡み付く炎が消えたその視線の先にリュウジャの姿は無い。
 変わりに、大きな影が一瞬犬神行部の背中を撫でる。

 リュウジャは、行部の後ろに回り込んでいた。
 あらゆる防御を行う暇も無くその口から放たれた火球が、犬神行部の背中に撃ち込まれる。

88名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:19:35 ID:fFQDkRWg0

 一発。さらに一発。さらにさらにもう一発。
 拡散する熱波が爆発の連続によって歪んだ波紋を描く。
 連続の使用限度である六発目は撃たずに、リュウジャは犬神行部から距離を取った。

 突進しながら火球を放ち視界を封じてからの回り込み。
 機動力が売りのリュウジャだからこそできる芸当だ。
 ロマネスクとボルトールに破られはしたものの、相手の虚を上手く突けば十分に通用する。

 黒煙を上げる犬神行部をアニジャ達は緊張と共に見下ろした。
 通常であれば二発で済ますところを五発まで打ち込んだのは、行部が翼を畳み騎手を二発目以降の火球から守ったからである。
 せめて騎手が気絶していてくれればいいのだが。

爪#'ー`)y‐ 「くっそ、よくも、やりやがったな」

 そう簡単にはいかないらしい。
 突進の際の魔力が残っていた犬神行部の翼は見事に騎手を守りきっていたのだ。
 変わりに、骨が覗くほどの損傷をし、翼としての機能は既に無くなっている。

 いくら飛行魔法を使って飛べるとは言え、翼は重要な器官。
 有るのと無いのとでは機動力に大きな差が出る。

爪#'ー`)y‐ 「まだだ、まだ俺達には幻術が……!」
  _
(  ∀ ) 「いいや、もう終わりだよ」

89名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:21:18 ID:fFQDkRWg0

( ^ω^)「!?」

 フォックスはもちろんのこと、アニジャもオトジャもドクオも驚いた。
 何より、感知タイプの妖精であるブーンが、最も驚いていたかも知れない。
 一瞬過ぎ去った黒い風が犬神行部の上部を過ぎ去り、その背からフォックスを攫っていったのだ。

( ^ω^)「……そんな、僕が気付かないなんて、ありえないお……」

( ´_ゝ`)「あれは……」

(´<_` )「ああ、ジョルジュと、エートンだ」

 黒い風、エートンはすぐさま旋回し戻ってきた。
 その後ろ足にはフォックスをガッチリと掴んでいる。
 何の守りも無く高速移動したため、フォックスは色んなところから色んなものを垂らしながら気絶していた。

( ゚д゚ ) 「一応、間に合ったようだな。無事か、二人とも」

 エートンの背中、ジョルジュの後ろに跨るのは騎助手のミルナ教官。
 正式ではないが養成所のプログラム上ではジョルジュの相棒を務めている。

( ´_ゝ`)「一応、俺達は無事です」

(´<_` )「というか、ほぼ俺達の勝ちだったんだが」

( ゚д゚ ) 「そう言うな。お前達の手柄なのは、俺達が十分理解している」

90名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:22:30 ID:fFQDkRWg0
  _
( ゚∀゚) 「トソンの応援要請が入ったときに、最も早く着けるのが俺達だったんだ」

( ゚д゚ ) 「詳しい位置が分らかったたから見つけるのが遅くなってしまったが、無事でよかったよ」

 近隣の安全な場所に犬神行部を誘導し降ろしてから、二人の教官は簡潔にそう告げた。
 ジャミングにより通信が途絶えた後、トソンはちゃんと要請を出してくれていたらしい。
  _
( ゚∀゚) 「しかし、よく勝てたもんだ。コイツは中々掴まらなくて俺達も手を焼いてたんだぞ」

(´<_` )「舐められてたからでしょうね。形勢が逆転した時点で逃げなかったのは、安いプライドのせいだと」

( ゚д゚ ) 「確かに、俺達でも候補生に負けるとなったら意地にはなるな」

 過酷な飛行を続けたリュウジャたちを一旦休ませるため、すぐに飛び立つことはせず休憩を取っていた。
 フォックスは縄で縛った上に大きな麻袋にしまってある。
 ダメージの大きな犬神行部は暴れること無く、鎮静剤を打たれ大人しくしていた。
 直に行部を輸送できる大型の飛竜が来るはずだ。
 とりあえずそれまでは休憩である。

(´<_` )「しかし、良く敵の思考が、読めたな。長らく一緒に乗ってるがそんなこと出来るとは知らなかったぞ」

( ´_ゝ`)「ああ、あれ?殆どハッタリ」

(´<_` )「……はぁ?」

91名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:23:29 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「本当に読めてたのは、二発目までだよ。それも半分勘だったし」

(´<_` )「じゃあ」

( ´_ゝ`)「うん。もしあのまま幻術で来られたら負けた。三発目を見定める自信は無かったからな」

 流石のオトジャも開いた口が塞がらなかった。
 「そこだ(ドヤァ」も「早く来いよ(キリッ」も相手を騙すための強がり。
 犬神行部にも負けず劣らずの狸っぷりである。

(´<_` )「本当に、流石だな兄者」

( *´_ゝ`)「だろ?」

 少しして、騎竜を移送するための飛竜が到着した。
 体格はリュウジャの三倍程度。
 腕力と飛行魔法の出力が優れている巨竜である。
  _
( ゚∀゚) 「じゃあ、俺達はこいつらを護送する。そっちは本来の任務、ちゃんと済ませろよ」

(´<_` )「もちろんだ」

( ´_ゝ`)「ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚) 「……勤務中は教官と呼べ。どうした」

92名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:25:50 ID:fFQDkRWg0

( ´_ゝ`)「やっぱ俺、竜騎武闘でるよ。手続きしといて」
  _
( ゚∀゚) 「……いいのか?」

( ´_ゝ`)「うん。やっぱ俺、逃げたくないや」
  _
( ゚∀゚) 「分った。俺も、任務ほっぽって指名手配犯と戦闘する奴を運送部に推薦するのはどうかと悩んでたところだ」

( ´_ゝ`)「あとさ……」

 幾らかの会話を終えジョルジュたちは去っていった。
 アニジャたちもリュウジャに跨り、任務の遂行に移る。
 受けた傷はオトジャが応急処置を済ませており、飛ぶくらいにはほとんど支障が無い。

(´<_` )「……また余計なことでぐちゃぐちゃ悩んでたのか」

( ´_ゝ`)「繊細だからな。ガラスのハート」

(´<_` )「いっそ割れてしまえ」

( ´_ゝ`)「俺のハートの皹が入っているとすれば主にオトジャのせい」

('A`) 「アロンアルファを注文しますか?」

( ´_ゝ`)「いりません」

93名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:27:48 ID:fFQDkRWg0

 リュウジャは、戦闘の疲れをほとんど見せず、悠々と空を昇った。
 羽ばたきは力強く、嘶きは心地よく響く。

( ´_ゝ`)「やっぱさー、俺飛ぶの好きなんだよ。なんかこう、ギリギリのところをさ」

(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)「負けると悔しいし、嫌になるけど」

(´<_` )「何言ってる。そんなもん皆一緒だ」

 空の青に赤が混じり、徐々に黄味を帯び始めている。
 リュウジャはその桃色の翼幕を心地よさそうに風に靡かせ滑空した。

( ´_ゝ`)「勝とうな、ネ竜祭」

(´<_` )「もちろんだ。負けたら蹴り落とすぞ」

( ^ω^)b ('A`)b ←何かよく分らないがサポートは任せろ、という顔。

 リュウジャも嘶きを一つ。
 楽しげに身体を揺さぶりアニジャに答えた。

 太陽が徐々に地平線へ降りてゆく。
 空を行く彼らの姿はその光を浴びて、何よりも赤く、燦然と輝いていた。

94名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:30:37 ID:fFQDkRWg0
 2話終わり。
 次も出来うる限り早く来ます。
 
 ちなみにフォックスの騎竜、犬神行部は大妖怪(神様)から取ってますが正しくは隠神刑部と表記します
 表記が違うのは仕様だったり

95名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:32:48 ID:PWZpIGFM0
乙乙
戦闘描写良いなー

96名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:34:24 ID:ZiYhvzEo0
乙乙!手に汗握る戦いだった
兄者はハッタリが似合うなww
竜も沢山出てきててそっちも楽しいわ

97名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:43:00 ID:dyFbBbEY0
乙ー
戦闘描写読みやすくていいな
これからどうなるのか楽しみだ

98名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 22:55:00 ID:frMDxuwM0
乙!
ブーンとドクオ地味にいい味出してるなww

99名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 23:59:17 ID:fG7VYTq20
乙〜面白かったぜ

100名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 01:58:32 ID:hfehTrvU0
おつおつ!

101名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 02:07:02 ID:rysW8lb20
ドクオの「注文しますか?」ってのいいなwww
乙乙次も楽しみ

102名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 03:23:42 ID:wx2PgZZ6O
面白かった乙!

103名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 08:29:36 ID:cD9TbjvEO
乙!ドクオwww

104名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:20:43 ID:Vnq6d7r.0
 
 
 
                         目を閉じても無駄だった
 
 
                         耳を塞いでも無駄だった
 
 
                         誰よりも嘲っていたのは
 
 
                         自分自身だったのだから
 
 
.

105名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:21:24 ID:Vnq6d7r.0
 
 
 
                  ( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )


                           第三話: 用意する。
 
 
.

106名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:22:06 ID:Vnq6d7r.0

 母と父は、本当に優秀な騎手であった。
 こなした任務は数知れず。
 彼らを師と仰ぐ竜騎手は多く、消息を絶った今でもその名は強い存在感を持っている。

 幼い頃は、そんな父と母が誇らしく大好きだった。

(´<_` ) 「……」

( ゚_ゝ゚)「目標を捉えてキック。目標を捉えてキック」

(´<_` )「アニジャ。リュウジャはキックだと前進の合図だぞ」

( ゚_ゝ゚)「もう何が゚正しいか分らない」

 今も両親を尊敬している。
 むしろ幼い頃よりも、竜騎手の難しさを知った今の方が尊敬は大きい。
 息子である兄弟にとって、重圧になる程度には。

 よく言われた言葉がある。
 「サスガ夫婦の子供なのに」であったり「七光り」であったり「鷹の子供が鳶だった」など一つにはおさまらない嘲り。
 両親の影を重ねられるからこそ吐き出される失望の言霊。

 両親と比べられるのは当然だ。
 息子として優れた両親を持ったこと誇らねばならない。

 しかし、一人の竜騎手としてはその存在は重苦しく、苦しい以外の何者でもなかった。

107名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:22:27 ID:Gg6CF61g0
きがきた!支援ー!

108名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:22:58 ID:Vnq6d7r.0

 単に竜と空の好きな兄と違い、弟は両親を超えるため、努力を重ね続けてきた。
 養成所では誰よりも多く魔法を学び、誰よりも早く、誰よりも的確に魔法を扱えるようになった。
 内外から評価され、研修に出た先での正竜騎手達からの覚えもよい。

 教習課程が最終に差し掛かった頃には複数の竜騎手から推薦を受け竜騎助手としては主席。
 同期全体で見ても杉浦ロマネスクに次いで二番目という好成績を残してきた。
 ここまで来てやっとオトジャの心の中に芽吹き始めた。

 目の前でゆらゆらと揺れている両親の幻影に祖の目はすぐに摘まれてしまうのだけれど。

( ´_ゝ`)「オトジャは何やってるんだ?」

(´<_` )「竜騎武闘に出る騎手たちのデータを借りてきた」

( ´_ゝ`)「え?そんなの借りられるの?」

(´<_` )「俺達のことも載ってるぞ。基本情報くらいしか無いからどれくらい役に立つか分らんが」

 アニジャとオトジャは来るネ竜祭、竜騎武闘への準備を着々と重ねていた。
 先日の戦闘で多少なりとも傷を負ったリュウジャは休憩中のため、今日は竜に乗らずに出来る訓練を行っている。
 午前中は模型に跨っての姿勢取りの基礎教練。
 午後からは膨大な資料を閲覧し、少しでも戦術の幅を広げようと躍起になっていた。

(´<_` )「今から新たな戦法を付け焼刃で覚えるよりも、少しでも対戦相手を想定した対策を練っておくべきだ」

( ´_ゝ`)「うーん、確かにそうかもなぁ」

109名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:24:14 ID:Vnq6d7r.0

( ´_ゝ`)「でもさ、ここ数回の戦闘で思ったんだけど、俺達決め技見たいなのが無いなって思って」

(´<_` )「目晦ましからの回り込みがあるだろう。アレで倒せなかったのは杉浦とジョーンズくらいだぞ」

 ついでに言えば、格上のフォックスにも通用した。
 要は、技そのものの破壊力より、使うまでの積み重ねが重要なのである
 ボルトールに破られたのは技能差はもちろん、焦りによる凡ミスが原因だった。

( ´_ゝ`)「そうだけどさー」

 机に上半身を凭れさせ、鼻と唇でペンを挟むアニジャ。
 視線の先には比較的リュウジャとタイプの近い飛竜たちの訓練記録がある。
 ほとんどが映写物ではなく、文字による表記なので何がどうなっているのかよく分らないという難物だ。
 図解のある物に優先して目を通してはいるが、それでも意味不明なものが多かった。

(´<_` )「ま、いいさ。明日からはジョルジュと戦闘訓練尽くしだからな。何か仕込むならそれまでには決めておけよ」

( ´_ゝ`)「あいあーい」

 据わった目で書類の束に目を通すアニジャを置いて、オトジャは座学教練室を出た。
 殆どの同期は皆研修に出ているため、養成所は静かである。
 時折聞える声は、今期入ってきた後輩達のものだろうか。
 廊下を歩きながら、窓越しに空を見やる。

110名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:25:07 ID:Vnq6d7r.0

ζ(゚ー゚*ζ「あ……」

 目的地である資料室の前で、亜麻井デレに遭遇した。
 丁度、体が隠れるほど大量の資料を抱えお尻で扉を閉めているところだ。
 オトジャがいることに気付き微妙に腰を突き出したままの姿勢で硬直する。
 蛇に睨まれた鼠みたいだな、と口に出さずに呟いた。

ζ(゚、 ゚*ζ´、「こここここここんにちわッ!」

(´<_` )「ああ、こんにちわ」

ζ(゚、 ゚*ζ´、

(´<_` )

ζ(゚、 ゚*ζ´、「あっ、あのっ!」

(´<_` )「ん?」

ζ(゚、 ゚*ζ「わ、私に何か御用ですかっ!」

(´<_` )「いや、資料室に。そこにいられると入れないんだが」

ζ(゚、 ゚;*ζ「ホヴァァァ!?し、失礼しました!!」

(´<_` )(ホヴァァァ?)

111名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:25:57 ID:Vnq6d7r.0

 明らかに動揺している様子のデレは、頭を下げながら左へ動くという器用な避け方をして見せた。
 しかし、元来器用な性分ではないのか捲れた床板に足を引っ掛けバランスを崩した。
 養成所の建物は古く、あちこちの床がめくれたり沈んだりしているので油断すると危険なのだ。

ζ(゚□゚;*ζ「ホヴェェェ!」

 バランスを立て直すことが出来ず、デレはそのまま盛大にすっ転ぶ。
 支えようと咄嗟に伸ばしたオトジャの腕は全く間に合わず宙を掻いた。
 資料を庇って手をつかず、腰から倒れるデレ。
 残念なことに守ったはずの資料はその弾みで盛大にぶちまけられる。

ζ( 、 ;*ζ「ぃっ〜〜……」

(´<_` )「大丈夫か。ここらへんは特に老朽化が酷いんだから、気をつけろ」

ζ(゚、 ;*ζ「ぅぅ……すいません」

(´<_` )「俺に謝られてもな」

 腰を打って動けないデレの代わりに散らばった資料の冊子を集め始めた。
 それを見て、デレも慌てて手を伸ばしたが、余程強打したのか顔を青くして再び引っ込める。
 オトジャとしては純粋な優しさよりも敵手であるデレが何を閲覧しようとしていたのかが気になっただけなのだが。

(´<_` )「大丈夫か?医務室行くか?」

ζ(゚、 ゚*ζ「うぐぐ、ライバルに施しを受けるわけには……」

(´<_` )「ライバル以前に同期の仲間だろうが。ほら、肩かせ」

112名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:26:43 ID:Vnq6d7r.0

(´<_` )「……レモナさん、いないのか」

 屈辱なのか単に恥ずかしいのか、なんかキョッとした顔のデレに肩を貸し医務室にたどり着く。
 清潔感とどこか不快な薬品のにおいが漂うそこに、担当の医師はいない。
 訓練中に怪我人が出て出張しているのだろうか。
 慌てて準備をして出立したような後が、戸棚や机周りに残っている。

(´<_` )「座れるか?横になる方が楽かな」

ζ(゚、 ゚*ζ「あ、あの、ここまでれば自分で何とかするので、もう大丈夫だから」

(´<_` )「湿布。あそこの戸棚だぞ」

ζ(゚、 ゚*ζ´、

 オトジャが指を差したのは、デレを寝かせたベッドとは対の位置にある戸棚。
 通常ならばまだしも、腰を痛めて歩くのが容易でない彼女には辛い距離だ。
 彼女はうつ伏せに寝かされたまま、ぐぬぬと呻きを上げる。

ζ(゚、 ゚*ζ「あ、あの、湿布だけ、取ってもらえませんか?」

(´<_` )「自分で何とかするんじゃなかったのか?」

ζ(゚、 ゚*ζ´、

(´<_` )「冗談だ」

ζ(゚、 ゚;*ζ(やっぱりこの人苦手……)

113名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:27:58 ID:Vnq6d7r.0

 湿布薬の入った引き出しを開ける。
 独特の鼻にツンと来る臭いがオトジャを出迎えた。
 少し眉間に皺を寄せ、素早く湿布を取り出して元通りに推し戻す。

ζ(゚、 ゚*ζ「ありがう、ございます」

(´<_` )「服捲るぞ」

ζ(゚Д゚;*ζ「は、はぃぃぃい?」

 オトジャが服の裾を掴むと、デレは腰の痛みに響かない程度に抵抗した。
 寝ぼけたオットセイが背中の虫を追い払おうと苦戦しているようなその動きをオトジャは怪訝そうな顔で眺める。

ζ(゚、 ゚#ζ「何考えてるんですか?!婦女子の衣服を殿方が捲るなんて」

(´<_` )「湿布を張るだけだろう。貞操を狙ってるわけでもあるまいし」

ζ(゚、 ゚;*ζ「ててててててててていそう?!」

(´<_` )「分ったわかった、出来る限り見ないようにやるから」

 左手でデレの頭を掴みベッドに押さえ込み、右手でさっと上着をまくりスカートを良識の範囲で下げる。
 自身の言葉に従いやや視線を逸らしながら大きな青タンになっている骨盤付近に湿布を貼り付けた。

ζ(   *ζ「ホヴィィィ!」

 湿布の感触に悲鳴を上げるデレを無視して、捲った時の逆順で衣服を元に戻した。

114名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:28:56 ID:Vnq6d7r.0

(´<_` )「念のため骨に異常が無いか診るぞ」

ζ(´、 `。ζ「ううう、何でこんな目に……」

 力尽きた様子のデレを他所に、オトジャは患部に手を翳し腰の診察を始める。
 ざっと見たところでは骨や神経に問題は無いようだ。
 痛み自体も幾分か落ち着いてきているようだし、大事に至りそうには無い。

 一先ずは痛み止めで十分動けるようになるだろう。
 もちろん最終的な判断は医師であるレモナが下さねばならないが。

(´<_` )「鎮痛と、あと軽く損傷した組織の再生もしておくか」

ζ(゚、 ゚*ζ「オトジャさん、回復魔法まで使えるんですか?」

(´<_` )「本家には劣る。覚えておいて損は無いと思ってな」

ζ(゚、 ゚*ζ「……損は無い、で手を出せる範囲ではないと思うんだけど」

 開き直ったのか、何かを悟ったのか大人しくなったデレにオトジャは回復魔法をかける。
 本来は飛竜に使うために覚えたものだが、同じ生き物。
 人間に使っても何の問題も無い、はず。

115名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:30:10 ID:Vnq6d7r.0

(´<_` )「ところで亜麻井」

ζ(゚、 ゚;*ζ「ひゃいっ?!何でしょう?!」

(´<_` )「お前なんで露骨に俺を避けてるんだ」

ζ(゚、 ゚;*ζ´、「そそっそっそそんなことないですよ!デレさんデレさせなかったら大したもんですよ!」

 そんなことあるのが丸分りなのだが、本人が追求を拒みたいのも丸分りなのでそれ以上は何も言わなかった。
 オトジャ自身、もともと人好かれする性格ではないので避けられる事態にはなれている。
 惜しいのは、少しでもロマネスクの隙を探すという目的が、上手く果たせずにいるということ。

ζ(゚、 ゚*ζ「あ、じゃあ、私もついでに聞いていいですか?」

(´<_` )「ん?」

ζ(゚、 ゚*ζ「何で、ここまでしてくれるんです?」

(´<_` )「目の前であれだけすっ転ばれて、ほっとける奴の方が少ないと思うぞ」

ζ(゚、 ゚*ζ「ここに連れてくるだけならまだしも、その後も色々(余計なことも)してくれてるじゃないですか」

(´<_` )「……一つ。あわよくば、杉浦の情報を少しでも引き出したい」

ζ(゚、 ゚;*ζ「そ、そんなの、ぜ、絶対言いませんよ!」

116名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:32:09 ID:Vnq6d7r.0

(´<_` )「二つ。俺達は、ネ竜祭で杉浦に堂々と勝ちたい。そのためには、正式な相方の亜麻井に何かあっちゃ困る」

ζ(゚、 ゚*ζ「竜騎武闘……」

(´<_` )「出るんだろ?毎年、主席や次席の竜騎手はほぼ強制でエントリーされるから、杉浦も例外じゃないはずだ」

ζ(゚、 ゚*ζ「はい、でも……」

 デレが、うつ伏せので顔を横に向けたまま表情を翳らせた。
 出切る限りの魔法を施行し終え、オトジャは傍にあった椅子に腰掛ける。

ζ(゚、 ゚*ζ「私ぐらいいなくなっても、ロマは誰か騎助手を見つけて、それで勝つと思います」

 見つけた。とオトジャは内心で前傾姿勢を取った。
 身体は椅子に凭れ特別の関心が無いように装う。

 言葉尻の気配から察するに、デレとロマネスクの間には何かある。
 高速機動が主の竜騎手同士の戦闘において騎手と騎助手の連携は必要不可欠。

 そこに不備があるなら、ロマネスクを攻略する鍵になるかもしれない。
 あとは適当に煽って、話を聞き出せばいいのだ。

(´<_` )「そんなこと無いだろう。急ごしらえの騎助手じゃ、いくらなんでも無理がある」

ζ(゚、 ゚*ζ「普通は、そうだと思います。でも……」

 消え入った言葉の先は聞かずとも分った。
 杉浦ロマネスクは、その「普通」ではない。

117名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:32:50 ID:Vnq6d7r.0

ζ(゚、 ゚*ζ「ロマとボルトールの信頼関係は、多分正竜騎士を含めてもトップクラスです」

ζ(゚、 ゚*ζ「私単体だと、近づくことすら許してくれないのに、ロマがいるだけで、大人しく乗せてくれるんですよ」

ζ(゚、 ゚*ζ「飛んでいる間だって、私はついていくのが精一杯で、自ずから二人をサポートするなんて出来ないし」

ζ(゚、 ゚*ζ「一緒に居るのに、遠くで見せられているようで、凄くもどかしくて」

 顔の半分を布団に埋めたまま、デレが堰を切ったように話し出す。
 様子からして、相当に溜まっていたのだろう。
 分らなくは無い。絶対的なエースの後ろを何の達成感も無く追い続ける辛さは、何となくではあるが分った。

 この世にはあるのだ。
 その場にいるだけで周囲の人間の自信を、誇りを削り去っていく程の、絶対的な才覚というものが。
 本気で追い縋るからこそ、目の前に広がる超えようのない差にどうしようもなく足を砕かれてしまうことが。

ζ(゚、 ゚*ζ「思いたく無くても思っちゃうんです。私はあくまで、いくらでも代えの利く存在なんじゃないかなって」

(´<_` )「……だろうな」

 黙って聞きに回っていたが、ついつい口を開いた。
 しまった、と思った時には、既に亜麻井の視線がオトジャに向いている。

(´<_` )「竜に選ばれなければ手綱を握らせてもらえない騎手に比べれば、助手はいくらでも替えが利く」

(´<_` )「重要だ、と謂われながらもその実、本当に騎助手を重要視している奴らは少ない」

118名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:34:20 ID:Vnq6d7r.0

ζ(゚、 ゚*ζ「でも、オトジャさんは」

(´<_` )「成績が良いいとか魔法を多く使えるとか、そういうんじゃないよ、俺も」

ζ(゚、 ゚*ζ「……」

(´<_` )「単に、相方が馬鹿だから、助手の俺が目立つだけだ」

 それに、両親が優秀だからな、と付け加えた。
 デレがはっとしたような顔をする。
 彼らの扱いについて、やはり何かしらの噂を聞いてはいるのだろう。

(´<_` )「でも、それでいいんじゃないかね。世の中に、本当にそいつじゃなけりゃいけない人間なんかいない」

(´<_` )「誰もが誰かの代替品だ。だから特別気を揉む必要なんて無いんだよ」

 オトジャは椅子から立ち上がり、ベッドに歩み寄る。
 片目で見上げるデレに屈んで目線を合わせながら、頭にそっと手を置いた。

(´<_` )「全うすればいいんだ。その時の役割を。替えが利こうとなんだろうと、今そこにいるのは誰でもない。自分だ」

ζ(゚、 ゚*ζ´、

(´<_` )「そういう意味で亜麻井は誰より良くやってる。杉浦の後ろに乗るのは並大抵じゃ無いと思うぞ」

119名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:35:30 ID:Vnq6d7r.0

ζ(゚、 ゚*ζ´、「……あの、オトジャさん」

 戸惑うデレの視線を真正面から受け、オトジャは慌てて手を引いた。
 服をまくり上げておいて変な話ではあるが、年頃の娘の頭に迂闊に触れたことを恥じる。

(´<_` )「悪い。妹がいるんで、丁度いいところに頭があると置きたくなる」

ζ(゚、 ゚*ζ「妹……」

 視線ごと丁度いいところに合わせにいったことは真顔でスルーする。
 落ち込んだ子供を見ると頭を撫でたくなる性分が変なところで炸裂してしまった。

(´<_` )「そろそろ痛みも引いただろう」

ζ(゚ー゚*ζ「え?あっ本当だ」

(´<_` )「念のためにレモナさんにはちゃんと診てもらった方がいい

ζ(゚ー゚*ζ「あ、はい!」

(´<_` )「じゃあ、俺は戻る。ぶちまけた資料は、元の場所に戻しておくからな」

120名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:36:30 ID:Vnq6d7r.0

ζ(゚ー゚*ζ「オトジャさん」

 そそくさと医務室を出て行こうと、ドアに手を掛けたところで呼び止められ、振り返る。
 デレは痛みが回復したからか、足を下ろしてベッドに座っていた。
 オトジャと目が合うとその亜麻色の髪を垂らしながら頭を下げる。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます。何だか元気が出ました」

(´<_` )「そうか」

ζ(゚ー゚*ζ「あと、竜騎武闘、負けませんから!」

(´<_` )「それは、こっちの台詞だな」

 笑顔のデレを置いてオトジャは扉を閉めた。
 ぼんやりと、歩いて壁に上半身でもたれかかる。

(´<_`; )(……ふっつーに励ましてどうする、俺!)

 ウィークポイントを見つけるどころか、自らノリノリで削除してしまった。
 どうにも無視しきれない内容の話だったためついつい熱くなったのが全ての原因だ。

(´<_`; )「……俺も、まだまだだな」

(・∀ ・) 「全くだな」

(´<_` )

121名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:37:21 ID:Vnq6d7r.0

 壁に寄りかかるオトジャに肩を組むようにまたんきがのしかかる。
 いつの間に現われたのか、いくらなんでも見逃すような状況ではなかったはずだ

(´<_` )「お前、いつから……」

壁|Д^) ヒョコッ

(´<_` )

壁|Д^)+ 「誰もが誰かの代替品だ(ドヤッ」

(´<_` )

壁|Д^)+ 「丁度いいところに頭があると置きたくなる(キリリッ」

壁|彡 サッ

壁|  「(絶妙に聞える小声で)プークスス……自分から丁度いい目線に合わせたのに……プゥーギャーwww」

(´<_` )「……殺す」 ダッ

壁|´、 ピャーッ

(・∀ ・) 「オトジャー、殺すのだけは止めといてくれー」

  **  **  **

122名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:38:47 ID:Vnq6d7r.0

( ´_ゝ`)「へー、亜麻井がなあ」

 プギャーを捕まえ思いつく限りの拷問を行った後、オトジャはアニジャの元へ戻った。
 遅くなった理由を尋ねられ正直に答えると、アニジャは笑うことも無くそれを聞いて頬杖をつく。

( ´_ゝ`)「風上にいても風上にいても、あいつの傍にいるのは辛いもんだな」

(´<_` )「あのままほっとけば、少しは隙が出来たかも知れないと思うと、余計なことをした」

( ´_ゝ`)「いいんじゃないか?たとえ作戦でも、落ち込んだ女の子そのままにするのは良くない」

 アニジャは、何か具体的な目標が出来たのか、話しながらも資料から目を離さない。
 どうやら、火竜種の扱える魔法を調べているらしかった。
 確かに、パワーの低いリュウジャには、魔法攻撃の方が見合っている。

( ´_ゝ`)「それに、勝つも負けるも杉浦が万全な状態で戦いたいし」

( ´_ゝ`)「結果的に、GJだよオトジャ。流石だな」

(´<_` )「……」

 兄が羨ましいと思うのは、こういったところだ。
 まるで子供のような真っ直ぐな理屈を鼻にかけず素直に言える。
 口では綺麗ごとを言っても内心では卑怯を姑息を燻らせているオトジャには無いものだ。

123名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:39:44 ID:Vnq6d7r.0

(´<_` )「そっちの首尾はどうだ?何か間に合わせられそうか?」

( ´_ゝ`)「ああ、これなんだけど」

 アニジャが見せたのは、リュウジャの扱う火球の上位互換にあたる、爆破魔法の資料だった。
 基本は火球と同じく、熱波を圧縮し放つという手順。
 異なるのはその威力で、防壁も無く直撃すればボルトールのようなタフな竜にも相当なダメージを与えられるだろう。
 しかし。

(´<_` )「それ、前に一度覚えさせようとしてダメだった奴じゃないか」

 養成所に通う間、いくらアニジャの成績が不良だったといっても、何のチャレンジもしてこなかったわけではない。
 リュウジャの覚えられそうな魔法は全て試し、出来うる限りの性能向上を目指す努力はしてきた。
 その末でたどり着いたのが、余計な魔法を使わず長所を活かした現在の戦法だ。

 魔力自体は豊富に持つリュウジャではあるが、火炎系の魔法を扱うのが苦手なのである。
 それを、急に今になって覚えさせようというのも、少々無理のある話だ

( ´_ゝ`)「あの時はリュウジャも戦闘の経験が少なかったし、魔法の威力に打つ前からビビッてたんだ」

( ´_ゝ`)「あの頃よりも身体も大きくなった。フォックスに勝って勢いのある今なら、魔法の威力を畏れず挑戦できると思う」

(´<_` )「……わかった、後で試してみよう」

( ´_ゝ`)「サンキューオトジャ!多分余波の関係上、防壁の調節とか大変だと思うけど」

(´<_` )「問題ないさ。たまにはそれ食らい無茶を言ってくれなければやりがいが無い」

( ´_ゝ`)「にっしっし、流石だな、オトジャ」

124名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:40:24 ID:Vnq6d7r.0

( ´_ゝ`)「それと、これも試してみたいんだ」

 アニジャが付箋を貼り付けていた別の冊子を開く。
 そこに載っているのは、全身に魔法を纏って突進する付加格闘タイプ魔法だ。
 ボルトールや犬神行部、その他多くの竜も扱っている。

 魔法としては非常に扱いやすくスピードやウェイトによって威力を補完できるため適性が幅広い。
 リュウジャも問題なく使えるが、華奢な体躯での突進が危険なことと、視界が狭まることを嫌って使わせないようにしてきた。

(´<_` )「リュウジャじゃ、威力が心元無いぞ」

( ´_ゝ`)「それでも、ただ単に食いかかるよりはマシだろ?」

(´<_` )「確かにそうだが、逆に突進への警戒心を高められるのは厄介じゃないか?」

 リュウジャの決め技である、目くらましからの回りこみは突進と併用してこそ意味がある。
 今まではリュウジャが華奢で舐められることを上手く利用して、迎え撃たせることで成功させてきた。
 それが多少なりとも強化となると警戒されて、奇襲へ繋げにくくなるかもしれない。

( ´_ゝ`)「そこらへんにも考えがあるんだ。あとは、実際に模擬戦でやってみせるよ」

(´<_` )「わかった。とにかく今は兄者を信じよう」

( ´_ゝ`)「多分、リュウジャもやってくれると思う。やっぱ、犬神行部に勝てたのは、大きいな」

(´<_` )「……ああ、そうだな」

125名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:41:09 ID:Vnq6d7r.0

 フォックスと犬神行部に勝って変わったのは、リュウジャだけではない。
 なにやらうじうじと悩みこんで湿気たスルメのような顔をしていたアニジャが、吹っ切れた顔になっている。
 元々柔軟な思考回路が売りのこの男は、アホ面を晒していてこそ真価を発揮できるのだ。

 今まで面倒なことから逃げ回り溜め込んだツケを、ネ竜祭前に払いきれたことは大きい。
 見世物とはいえ竜騎武闘はノリや勢いだけで勝てるものでは無いのだから。
 一体どんな心の動きがあったのか、オトジャには分らなかったが、アニジャが口だけでなく本気になったことは純粋に喜んでいる。

 本気になるのが遅すぎだ、という文句はネ竜祭が終わってからでも遅くない。

( ´_ゝ`)「さて、と、プランはこんなとこかな。ヤバイな。本気を出した途端次々イメージがわいてくる。勝つる」

(´<_` )「……本気になるのが遅すぎだ。馬鹿が」

( ;´_ゝ`)「そ、それを言わないでおく優しさ的なものは……」

(´<_` )「無い」

 言ってしまったがこれは例外である。
 調子に乗る馬鹿が悪い。

126名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:41:59 ID:Vnq6d7r.0

( ´_ゝ`)「まあ、いっか。これからリュウジャと飛ぶけど、来るか?」

(´<_` )「もちろんだ」

 資料を手早く片付け二人は厩舎へ向かう。
 竜医の治療を受け藁の上で眠っていたリュウジャは、足音を聞くなり目を開いた。
 首を擡げアニジャたちの姿を見ると興奮した様子で立ち上がる。

(´<_` )「怪我は殆どいいみたいだな。十分乗れそうだ」

( ´_ゝ`)「グフォッ……よしよし、退屈だったろ。ちょっとだけ飛ぼうな」

 頭突きの勢いで頭をこすり付けられ、アニジャはよろめく。
 何とか耐えリュウジャの顔を抱くように撫でまわすと、猫のようにグルグルと咽を鳴らした。

( ´_ゝ`)「さってと、いくか」

(´<_` )「おう。ドクオ、ブーン頼むぞ」

('A`) 「検索エンジン機動。データ通信、異常なし」

( ^ω^)「レーダー問題なし。いつでも良いお」

( ´_ゝ`)「よし、いくぞ!」

 リュウジャは、翼を広げ、空気を打って空へと飛び立った。

127名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:42:41 ID:Vnq6d7r.0

( ´_ゝ`)「……よーし、まずは軽くいくぞーー」

 ウォーミングアップ代わりに、まずは大きく縦に一回転。
 次は雲を突き抜く勢いの急上昇。
 そこから急停止し、頭を下に切り揉みしながら落下する。

( ´_ゝ`)「オトジャも調子良いか?」

(´<_` )「まあまあ、だな」

 繰り返し簡単な動作を確認していると、養成所から一頭の飛竜が飛び出してきた。
 ドドメ色の鱗に、前脚部と一体化している小ぶりな翼。
 何より目を引くのは、頭に埋もれぎょろぎょろと回る三つの目玉だ。

 プギャー、またんき組みの飛竜、メメメオンである。
 単純な戦闘能力は最弱に近いが、リュウジャに並ぶ飛行能力に加え、唯一無二の擬態ステルス魔法を扱う曲者。
 彼らに苦戦しなかった同期は一人もいないという怖ろしいトリオだ。

(;;#^Д^) 「アニジャ、訓練飛行なら模擬戦やろうぜ」

( ´_ゝ`)「いいけど、どうしたんだその傷?」

(;;#^Д^) 「分らん、気がついたら廊下に倒れていてこんなことになっていた」

(´<_` )

(・∀ ・)

128名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:43:25 ID:Vnq6d7r.0

( ´_ゝ`)「何か大変だな、お前も」

(;;#^Д^) 「おう。俺くらいになると常に命を狙われるからな。苦労する」

 その後、諸々の打ち合わせを経て、二組は模擬戦に移る。
 ルールはシンプルに後ろを取ったもの勝ち。
 監督者がいない状況のため、魔法や直接的な交戦は避けることになった。

 さらに、戦闘の範囲を養成所の上空に限定する。
 竜騎武闘は比較的狭い範囲内で行われるためその予行も含んでいるのだ。

( ^ω^)「周囲に障害物無し。範囲を養成所上空に限定。敵騎情報を同期」

('A`) 「解析。前戦闘時より数cmの成長。機動力、魔力保有量に若干の上昇補正」

(´<_` )「流石伸び盛りだな。数日とは思えない成長だ」

( ´_ゝ`)「それは、リュウジャも同じだ」

( ^Д^) 「じゃあいくぜ!三つ数えたらスタートだ!」

( ´_ゝ`)「3……」

( ^Д^) 「2……」

( ´_ゝ`)「『1!」』 ('A`)

 空気の弾ける音が、心地よく空に響き渡る。

  **  **  **

129名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:44:21 ID:Vnq6d7r.0

 それから数日後。
 参加者となった候補生達が各々の思いを胸に送る日々は瞬く間に過ぎ去った。

 打ち上げられた花火の轟音。
 集まった人々が沸き起こす楽しげなざわめき。
 ヘラを鉄板に打ちつけながら客を呼ぶ男がいればその周囲には香ばしいソースの香りが漂っている。

 ついに、その日が来た。
 国内一の大祭典、ネ竜祭。
 夢が叶うか破れるかはこの時に懸かっている。

( ;´_ゝ`)「あ、いた!オトジャ!」

(´<_` )「遅いぞ兄者」

( ;´_ゝ`)「いやもう、人が凄くて。普段の何十倍だよ。それより、組み合わせはまだか?」

(´<_` )「一応は、まだ見たいだな」

 アニジャとオトジャの兄弟は、VIPの街の中央、オサッン城前の広場に来ていた。
 目の前にあるのは巨大な掲示板。
 普段は国からのお触書などが張り出される役目を果たしているが、祭りの間だけは色を変える。
 まっさらな木の板に、祭りの範囲となる地区を記した地図に、出店の案内が張り出されていた。

 その中央には何も張られていないスペースがある。
 面積で言えば掲示板の半分は占めるそこに、竜騎武闘の組み合わせ表が張り出されるのだ。

130名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:45:35 ID:Vnq6d7r.0

(´<_` )「いきなり杉浦は避けたいものだが」

( ´_ゝ`)「だよな。やっぱ、初戦はなるべく楽に行きたい」

 オトジャは手に持った小さな手帳に目を落とす。
 手元のそれには発表された参加8組の情報がメモされていた。

 この8組は申請された中から審査を抜けて選ばれた、強者ばかり。
 先頭の成績でアニジャたちより下にいるのは、ギリギリでプギャーたちくらいのものである。
 参加が認められたことを伝えに来たジョルジュは「フォックスの件が認められた」と言っていた。
 違法竜騎手さまさまだ。

( ´_ゝ`)「あ、来たぞ!」

 大きな紙を丸めた束を二人の兵士が持ってくる。
 人が避けられ、脚立を使い掲示板の開いているスペースを埋める形で兵士がよじ登った。

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「……」

 張り出された組み合わせ表を見て、二人は押し黙った。

131名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:46:43 ID:Vnq6d7r.0

 3話ここまで。
 ちょっと悩むところだけれど一旦区切り
 次回から竜騎武闘に入る、はず
 もうちょっと続くんじゃ

 ついでに次レスから参加する竜騎手たちのメモを張っていきます。
 尺の都合上描写できない試合の方が多いので脳内で遊ばせてやってください(土下座)

132名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:47:27 ID:Vnq6d7r.0

 登録No.1『ロマネスク・デレ組』

  騎手:( ФωФ)杉浦ロマネスク
  騎助手:ζ(゚ー゚*ζ亜麻井デレ
  騎竜:ボルトール[獣竜型]
  妖精:( ∵) ビコーズ(( ∴)ゼアフォー)

 備考:
  一角を持ち赤い鬣を靡かせる暴竜、ボルトールに騎乗する最強のペア。
  騎竜の性能はもちろんのこと、それを御すロマネスクの技量は正竜騎手達と比べても遜色が無い。
  結成当初から不安視されていた騎助手デレの役者不足感もここに来て薄まり騎・助共に隙の無いコンビとなっている。
  高い探査能力と演算能力を備えた妖精によって、彼らの前に安全圏は存在しない。


 登録No.2『ジョーンズ・オワタ組』

  騎手:(’e’)セント=ジョーンズ
  騎助手:\(^o^)/オワタ=マイライフ
  騎竜:レーヴァンテイル[獣竜型]
  妖精:J( 'ー`)し カーチャン

 備考:
  赤銅の巨躯に、剣状の尾を携える火竜レーヴァンテイルを操るコンビ。
  騎手のジョーンズは通称、不幸な天才。同期にロマネスクがいなければ間違いなく主席になったであろう器だ。
  オワタは騎助手には珍しく攻撃型の魔法を多用するため、非常に派手でアクティブな戦闘が期待される。
  妖精のカーチャンは単体汎用型で最高の能力を持つ。なのに勝つビジョンが見えない?気のせいだ。

133名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:48:08 ID:Vnq6d7r.0

 登録No.3『ニダー・シナー組』

  騎手:<ヽ`∀´>金ニダー
  騎助手:( `ハ´)王シナー
  騎竜:ドーペルゲーガ[獣竜型?]
  妖精:(゚A゚* )のーちゃん

 備考:
  絞められ血抜きされ羽毛を剥がされたチキンのような質感の不気味な桃色竜、ドーペルゲーガに乗るコンビ。
  嫌いな騎手No.1。嫌いな騎助手No.1。嫌いな騎竜No.1。を記録する過去最悪のヒール。
  その戦法に気を取られやすいが地力は非常に高く、同期内でもジョーンズ組に次ぐ優秀な候補生である。
  妖精ののーちゃんは感知・分析に重きを置いた汎用型。彼らの戦闘の要でもある。


 登録No.4『抹消』

  初戦の相手がロマネスクと知り棄権した。
  発表から棄権申請までの早さは過去最高の1分14秒。

134名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:49:46 ID:Vnq6d7r.0

 登録No.5『イトーイ増井組』

  騎手:以`゚益゚以イトーイ増井
  騎助手:無し
  騎竜:牛頭荒王[獣竜型]
  妖精:( ゚∋゚)クックル  ▼・ェ・▼ビーグル  (・(エ)・)クマー 

 備考:
  遠距離攻撃皆無、完全な格闘型の飛竜牛頭荒王を単身で駆る豪快な騎手。
  イトーイはハイブリッドの騎手。単身で魔法を使い手綱を捌く超人である。
  近づいて殴りかかる単純な戦術ではあるが破壊力は群を抜く。
  妖精は動物園状態。人語を操るものはいないが、何故かイトーイには分るらしい。


登録No.6『プギャー・またんき組』

  騎手:( ^Д^)プギャー
  騎助手:(・∀ ・)斉藤またんき
  騎竜:メメメオン[鳥竜型]
  妖精:ξ゚⊿゚)ξツン  川 ゚ -゚)クール

 備考:
  高い擬態能力、三つの目による広い視界が特徴の飛竜メメメオンを駆る異色のコンビ。
  本来偵察や潜入に特化しているが、騎手の気性の荒さが反映され、妙な攻撃性を発揮。
  姿を消し相手をじわじわと追い詰める狩りのような戦術に苦戦しなかったものはいない。
  騎助手のまたんきは、元々騎手であったが騎助手に転向したハイブリッド。最悪プギャーは不要。
  妖精のツン、クールは非常に扱い難い妖精ではあるが、彼らの元では淡々と仕事をこなしている。

135名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:50:30 ID:Vnq6d7r.0

登録No.7『ヒッキー・サダコ組』

  騎手:(-_-)小森ヒッキー
  騎助手:川д川井戸中サダコ
  騎竜:ヒュドラ[鳥竜型]
  妖精:<_プー゚)フ エクスト  / ゚、。 /ダイオード

 備考:
  猛毒の牙と高い自己再生能力を持つ奇竜、ヒュドラに乗る暗いペア。
  養成所での成績はパッとしないがやることはやっているため既に推薦がある。
  教官に勧められるまま竜騎武闘に参加したもののやる気は無い模様。
  妖精のエクストは探知、ダイオードは分析検索を担当しているが共に汎用型のため、能力を合同して出力を上げることができる。


登録No.8『アニジャ・オトジャ組』

  騎手:( ´_ゝ`)サスガ=アニジャ
  騎助手:(´<_` )サスガ=オトジャ
  騎竜:リュウジャ[鳥竜型]
  妖精:( ^ω^)ブーン  ('A`)ドクオ

 備考:
  言わずと知れたサスガ夫妻の子供の双子竜騎手。
  騎手のアニジャは少々抜けているところが目立つが、反面窮地における判断力は異常に高い。
  養成所トップ騎助手のオトジャは堅実で幅広い魔法を扱い、騎手と騎竜に不満を感じさせる暇が無い。
  妖精の二体は比較的優秀なものの、騎手に似たか、若干抜けている。
  下馬評での人気は、今のところ芳しく無いようだ。

136名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:51:13 ID:Vnq6d7r.0
 以上
 次もまた近い内に

137名も無きAAのようです:2012/11/21(水) 23:53:42 ID:LY.4fvhg0
乙乙!
イトーイの所、妖精が動物園状態なのかwwwワロタwww
アニジャとオトジャにはマジでかんばって貰いたいな
続きも期待してるがんばれ!

138名も無きAAのようです:2012/11/22(木) 02:13:21 ID:ero62.Ho0
ほんとにちょっとした表現とかの描写がたまらん
独特の語彙がというか感性があるよな…

プギャーすげえ好きだが妖精がツンクーかよ贅沢な
個人的に一番気になるのはニダー・シナー組だから続きが楽しみだ
乙!!!!!

139名も無きAAのようです:2012/11/22(木) 07:45:33 ID:I/6W9d.60
最悪プギャーは不要ワロタwww
乙!

140名も無きAAのようです:2012/11/22(木) 10:49:11 ID:UhDZp8Dw0
乙!
次も楽しみ!

141名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:46:00 ID:bBMJZxKE0

 竜騎武闘組み合わせ表:

               ┌───────┴───────┐
               │                        │
               │                        │
       ┌───┴───┐              ┌───┴───┐
       │              │              │              │
       │              │              │              │
   ┌─┴─┐      ┌─┴─┐      ┌─┴─┐      ┌─┴─┐
   │      │      │      │      │      │      │      │
   牛     メ       リ       ド     レ      ヒ     ■     ボ
   頭     メ      ュ       l       l      ュ      ■     ル
   荒     メ       ウ      ペ      ヴ       ド     ■      ト
   王     オ     ジ     ル     ァ      ラ     ■     l
         ン     ャ     ゲ     ン                      ル
                       l     テ
                     ガ     イ
                             ル

 竜騎武闘ルール

  ・指定された範囲内でのみ戦闘を行う(違反したら反則負け)

  ・降参、騎竜の戦闘不能、騎手の脱落によって勝敗を決する

  ・原則として騎手の生死による罪は免除される

142名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:46:56 ID:bBMJZxKE0



              卑怯?


              そんなに褒めるなよ。


              照れるじゃねえか。


.

143名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:47:45 ID:bBMJZxKE0

 取り分け高い志を持って養成所に入ったわけでは無い。

 竜に乗って空を飛ぶのがそれほど好きなわけでもなく、超えるべき背中があるわけでもなく。
 誰かに強く憧れたわけでも、ましてや周りから神童と呼ばれる才覚に恵まれているわけでもなく。

 ただ、偶々キノコを採りに行った山の中で、竜に出会っただけ。
 それで妙に懐かれて何となく気に入ってちょっと連れ帰って飼おうと思っただけ。
 飼ったり乗ったりするのに資格がいると役人に怒られて、なら取ってやるよと養成所に入っただけ。

 そう。
 ただ何となく選んだ先に、この腹の立つ化け物が居ただけだ。

( #^Д^) 「こなクソ!」

 プギャーは手綱を大きく引いた。
 慣性が頭の血を下げ、メメメオンの体が上へと捲れ上がる。

 轟音を立てて野太い腕が過ぎ去るのが見えた。
 間一髪。反応が遅れていれば防壁など関係なく粉々にされていただろう。

(・∀ ・;) 「プギャー落ち着け、恐いが焦る程力差のある相手じゃねえんだ!」

( #^Д^) 「分ってるよ、クソ!」

 メメメオンに擬態を発動させ、距離を取る。
 相手はキョロキョロと周囲を見渡していたが、鼻を数度ひくつかせるとすぐさまプギャー達に向き直った。

144名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:49:11 ID:bBMJZxKE0

ξ゚⊿゚)ξ「規定範囲線に掠ってるわ。これ以上出るとアウト判定食らうわよ」

(・∀ ・;) 「予想以上に厄介だな、この範囲制限は!」

( #^Д^) 「格闘馬鹿に有利すぎるんだよこのルール!」

 定められた範囲の外輪をなぞる様に円を描いて高速移動。
 単純な速度で大幅に勝っているはずが、この狭い制限のせいですぐに追いつかれてしまう。
 内側に陣取ってタイミングを見計らうだけなのだから、追う方が断然有利なのだ。

 それにプギャーたちの得意とする擬態によるステルス戦術は、相手と距離が取れなければ効果が薄い。
 特に、対戦相手のイトーイの騎竜、牛頭荒王のような鼻の利くタイプは妖精の探知なしにも居場所を特定してくる。
 昨日組み合わせが発表されてから対策は考えたが、乱発するわけにも行かず苦戦の一途だ。

川 ゚ -゚) 「観客を守るための防壁のせいで、風が入ってこないのも厄介だな。鼻のいい奴なら端と端にいても気付かれそうだ」

( #^Д^) 「クッソ!思う存分イライラさせるつもりだったのによ!」

(・∀ ・;) 「イライラしてるのは終始こっちだけだもんな……」

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、隙を見せるとすぐ来るわよ」

145名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:49:56 ID:bBMJZxKE0

 妖精、ツンの言葉通り、牛頭荒王が太い前足を振り上げ迫る。
 頭にくるほど一辺倒な攻撃で避けるのは容易い。
 しかし、目で見てはっきりと予測してしまうその威力は、確実に精神を削り取ってゆく。

 半ば当てずっぽうのような攻撃を悠々とかわす。
 身を捻り脇をすり抜け反対へと移動。
 途中で観客から「ちゃんと戦え!つまんねーぞ卑怯者!」と野次が飛ぶ。

( #^Д^) 「おいまたんき、何か聞えたんだけど、声援か?」

(・∀ ・;) 「俺達に卑怯者なんて、声援みたいなもんだろ」

( #^Д^) 「よし、後でお礼にメメメオンの糞をくれてやろう」

(・∀ ・;) 「そりゃあいい。ますますファンになってくれるぜ」

 牛頭荒王が迫り、再び攻撃の体勢。
 メメメオンの方は既に行き詰まり、何とか横に逃げるほか無い。

(・∀ ・;) 「向こうも、余裕綽々では無いみたいだな」

川 ゚ -゚) 「敵騎竜の情報にハック成功。魔力残量72%」

(・∀ ・;) 「燃費悪いなおい!まだ始まって6分だぞ!」

川 ゚ -゚) 「あの巨体ですばしっこいメメメオンと鬼ごっこしているんだ。魔力も減るだろう」

146名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:50:44 ID:bBMJZxKE0

 騎手イトーイとその竜、牛頭荒王はその名の通り頭に牛のような大きな二本角を生やしてしている。
 身体も大きく。前足はまるで腕のように発達し背中に翼を生やすその姿は神話に出てくる悪魔のようだ。
 分類上竜ではあるのだろうが、特化配合を行いすぎて訳がわからない生き物になったいい例である。

 鋭い牙をむき出しにして牛頭荒王が吠えた。
 興奮し末端の血管が膨張しているのか、普段は隠れている鱗の線がはっきりと浮き出る。
 うねりを帯びた長い角が音叉のように震え、戦域を囲む防壁までをも痺れさせた。

 襲い来る振動の波によって、メメメオンの擬態が乱れた。
 繊細な光彩のコントロールを必須とするステルスは、空気の乱れなど環境の変化に滅法弱い。

川 ゚ -゚)「効果40%以上低下。丸出しではないがハミ出し位はしているぞ」

(・∀ ・;) 「戦域設定なんか無くても、対策は練ってあるってことね……」

( #^Д^) 「ああ!もうめんどくせえ!真正面から行くぞ!」

(・∀ ・;) 「バカか!それで何回負けてると!」

ξ゚⊿゚)ξ「喧嘩もいいけど、死ぬわよ」

 目の前がにわかに暗くなった。
 ちょっと目を放していた隙に、牛頭荒王がその巨体を引っさげて迫っていたのだ。
 両前足を組み合わせ、上へ振り上げての叩き付け。

 回避するも収縮が間に合わず広げていたままの防壁に蹄が掠った。
 直撃かと勘違いするほどの衝撃がプギャーたちを襲う。

147名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:51:50 ID:bBMJZxKE0

(・∀ ・;) 「これ以上は不味い!、出し惜しみしないで例の技いくぞ!」

( #^Д^) 「チィ、杉浦をぶちのめすその時まで取っときたかったんだがな」

川 ゚ -゚) 「お前の妙な自信が不思議でならない」

ξ゚⊿゚)ξ「呆れを超えて尊敬するわ」

( *^Д^)+ 「妖精が俺に惚れても不幸になるだけだぜ」

(・∀ ・;) 「頼むから余裕ある時にやってくれねえかなそういうの!」

 一度使えば警戒されると、出来うる限りやらずにいた上昇飛行を行う。
 横には厳しい制限のある範囲設定ではあるが、上へ行く分には何の問題も無い。
 牛頭荒王が攻撃後の隙で急転換できないうちに、滑るように螺旋を描いて上昇した。

 途中ある程度ステルスが有効になったところで火球を複数無差別にばら撒く。
 牛頭荒王は全く意に介さず前足で弾いて防御した。
 燃える油のよう動きをする赤い炎は多少なりとも牛頭荒王の身体に張り付くが、ダメージを受けている様子は無い。
 外れたほかの火球は観客を守るための防壁にぶつかり、燃え盛る火を撒き散らす。

 多少の足止めになったところでメメメオンは更に上昇。
 一瞬高速移動で追跡しようとした牛頭荒王だったが、ステルスにより見失い緩やかな上昇に切り替えた。

148名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:52:43 ID:bBMJZxKE0

川 ゚ -゚) 「ステルス有効。敵騎妖精の探知に対するジャミングも良好。外気温低下、長期帯空は危険」

(・∀ ・;) 「体温保護完了。しばらくは耐えられる。例の準備もあと数秒だ」

川 ゚ -゚) 「メメメオンの体温維持を確認。問題なし。次期動作に向け空間光彩を解析と同時にメメメオンに送信する」

( ^Д^) 「ふーっ、下地は整ったな。敵が我慢しきれず接近してきたところで仕掛ける。そのまま待機」

 設定された範囲のギリギリ、そしてメメメオンに可能な限界高度を保ち帯空する。
 一方の牛頭荒王は奇襲を警戒してゆっくりと上昇してきていた。
 鼻をひくつかせ、匂いでメメメオンの居場所を探っている。

(・∀ ・) 「……残念、匂いは対策済みだ」

 先ほどはなった火球は、焼夷弾の火炎魔法を組み込んだ燃焼効果時間が長いタイプのものだ。
 防壁や地面の上で熱を撒き散らすそれは、僅かではあるが上昇気流を作り出す。
 少なくとも、上方ににいるメメメオンの位置を臭いだけで特定するのは不可能だろう。
 ついでに先ほどの咆哮も、空気の薄い上空ならば畏れるほどの効果は無い。

ξ゚⊿゚)ξ「……敵騎、間も無く有効範囲内」

( ^Д^) 「またんき、クール」

(・∀ ・) 「いけるぞ、問題ない」

川 ゚ -゚) 「こちらもだ」

149名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:53:57 ID:bBMJZxKE0

( ^Д^) 「……いくぞ!」

 メメメオンがその場から僅かに動いた。
 同時にステルスが解け、カメレオンのようなその姿が明らかになる。

以`゚益゚以「ミツ……ケタ……」

 牛頭荒王は、一直線にメメメオンへと向かう。
 再びのステルスを警戒して、嗅覚に意識の数割を割り振らせた。

( ^Д^) 「メメメオン!まずは嗅覚を奪え!」

 牛頭荒王が近くに来た瞬間、メメメオンがお尻を向け股間にある分泌孔から特殊な粘液を霧状に噴射した
 獲物を追跡するために使う特殊なマーキング液だ。
 数キロはなれた場所からでも分るように、とても強力な臭いがする。
 手にくっついたら、しばらくはご飯が食べられないほどの。

 牛頭荒王はこれを直接鼻に食らい、身体を仰け反らせてもがき苦しんだ。
 またとないチャンス。
 プギャーは手綱を握り締め、自身に気合を入れる。

( ^Д^) 「またんき魔法発動!クールは敵妖精にデコイのデータを…………あれ?」

150名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:54:50 ID:bBMJZxKE0

 中々見られないプギャーの決め顔が、一瞬で普段の間抜けなそれに戻った。
 指示の途中で開きっぱなしの口から溜め込んだ気合が漏れ出してゆく。

 視線の先にはもがき苦しみ暴れる牛頭荒王。
 そして、その背中に姿の見えない、イトーイ。

以`゚益゚以「ア」

 彼は、暴れる牛頭荒王に振り落とされ、現在落下の真っ最中であった。
 あらゆる連携を素早くできる反面、全てを一人でこなさなければならない一人騎手は急転する事態に弱い。
 大方、攻撃に向かうため魔法を使おうとしている最中に暴れられ、耐えられなかったのだろう。

( ;^Д^) 「イトーイ?!イトォォォォォォイ!!!!!」

(・∀ ・;) 「あちゃー、鼻に直接入っちゃったか?」

( ;^Д^) 「せめて俺達の新必殺を食らってからにしてくれ!!小便(のようなもの)で勝つとか嫌だあああああ!!!」

 取り乱す牛頭荒王がイトーイを追えるわけも無い。
 プギャーの叫び虚しく、イトーイは地上で待機していた救護班に優しく受け止められてしまった。
 ルール上、これは騎手の脱落として処理される。

 地上にいる審判が赤い旗を真っ直ぐに振り上げた。
 騎助手の脱落により、勝負アリ。

 見事(?)プギャーたちの勝利である。

  **  **  **

151名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:55:31 ID:bBMJZxKE0

(*。´_ゝ`)「ぶひゃひゃひゃ!!さいっこうだぞプギャー!」

(´<_` )「さっき係の人間が話してたが、小便で竜騎武闘に勝ったのはお前らが初めてだそうだ」

(*。´_ゝ`)「訓練の時に言っていた新必殺技ってこれだったのか?確か強力だな。プブフー」

( #^Д^) 「小便じゃねえよ!マーキング用の分泌液だ!」

 地上に降りた際、笑っていたのはアニジャたちだけではない。
 観戦していた観客達の殆どが口を開き、あるいは押さえながら笑みを浮かべている。
 勝敗が決した時に、遠視魔法によって審査を行っていた運営本部が勝因を発表したからだ。

 それなりの伝統がある祭りのため、中には眉を顰めるものも居たが、大半は爆笑。
 勝利の余韻も糞も無い。

( "ゞ) 「戦域の整備が終わりました。次の候補生は準備をお願いします」

(´<_` )「俺達だな。行くぞアニジャ」

( ´_ゝ`)「おう。おかげさまで緊張が取れたよ。ありがとうな、プギャー、またんき」

( ^Д^)+ 「礼を言われる程でもねえよ」

(・∀ ・) 「全くだ」

152名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:57:12 ID:bBMJZxKE0

 係りの案内に従い、アニジャとオトジャが準備に向かう。
 プギャーは思い出したようにその背を追った。
 参加者のためにある程度人払いはされているが、防壁の装置や整備士たちが動き回っているため中々追いつかない。

( ^Д^) 「アニジャ!」

( ´_ゝ`)「ん?」

( ^Д^) 「訓練で想定してたのより、若干狭く感じる!変な会場魔法のせいで太陽が使えない、気温も低い!気をつけろ!」

( ´_ゝ`)「……」

 アニジャは黙って右手を上げた。
 顔は相変わらずにやついていたが先ほどまでのそれと違い、高い集中力が見て取れる。

(・∀ ・) 「なんも、そこまでアドバイスしなくてよかったんじゃねえか?一応今は敵なんだぜ」

( ^Д^) 「ふん。杉浦を倒すのはもちろんだが、あいつらも俺の踏み台になるべき存在だからな」

(・∀ ・) 「……ニダーたちが勝ち上がると厄介だからだろ?」

( ^Д^)+ 「流石俺の相棒、素晴らしい洞察力だ」

153名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:58:16 ID:bBMJZxKE0

 次の試合まで時間のあるプギャーたちは参加者の控えスペースを出て、他の観客達に紛れ込む。
 間も無くリュウジャが戦域に飛び立った。
 観客にどよめきが起きる。

( ^Д^) 「なんだ?俺達の時とは違う反応だな」

(・∀ ・) 「まあ、あいつらは「息子」だからな」

 現在の形式の養成所が出来たのが約43年程前。
 外交的緊張が高まる最中、高い武力を持った竜騎手を育成しようと言う考えから生み出されたものである。
 道徳的見地から竜による人間への攻撃は控えられているとは言え、力の象徴として竜は大変に役に立つからだ。

 長いネ竜祭の歴史で竜騎武闘が生まれたのは、養成所の一期生が修了したその年。
 それまでにあった竜騎手の演舞を、新生の竜騎手同士を戦わせる武闘会へと改変したのだ。
 全て、竜の戦闘力を誇示するための政略的な理由である。

 その、全てが未熟で荒々しかった第一回目の竜騎武闘を制したのが流石兄弟の両親。
 流石チチジャと、当時まだ旧姓の渋澤を名乗っていたハハジャである。
 当時を直接知るわけでは無いが、その力は圧倒的だったそうだ。
 来賓として観戦していた諸外国の重鎮方が「竜」ではなく「竜騎手」を恐れる程度には。

 具体的に言うと、当時の規格だった全騎同時総当りのサバイバル戦で、
 結託したほかの十数騎をたった一騎で全撃墜してしまったのだとか。
 それ故に竜騎手自体をよく知らない民間人にも流石夫婦の名前は知れ渡っている。

154名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 18:59:56 ID:bBMJZxKE0

( ^Д^) 「ケッ、くだらねえ。親が何だろうとあいつらはあいつらだろうが」

( ^Д^) 「怖気づかずあいつらと付き合う俺を見習えってんだ」

(・∀ ・;) 「お前は田舎から出てきて単に何も知らなかっただけだろ」

( ^Д^)+ 「無知を誇れ。馬鹿にしか打ち崩せない壁もある」

(・∀ ・;) 「基本的には違うし、お前は壊しちゃいけない壁壊しすぎなんだよ」

 戦域に、もう一頭の竜が現われた。
 アニジャ達の対戦相手、ニダー&シナーの飛竜ドーペルゲーガだ。
 鱗のない体表はつるりとした桃色で、全体的に肉肉しい丸みを帯びている。

 小太りな一般的な飛竜の鱗を剥がしたような姿、というと想像しやすいだろうか。
 瞼のない、眼球がむき出しの目は遠目であればくりくりとして可愛いが、間近で見ると非常にえぐい。
 口は歯が無いただの穴のようで、生き物らしさは皆無だ。

    「気持悪い……」

 観客が、リュウジャの時とは違う意味でざわめいた。
 確かに、見慣れない人間からすれば不気味な見てくれだろう。
 ただしその嫌悪感は竜に乗るニダーとシナーにとっては褒め言葉でしか無い。

 似たタイプのプギャーには分る。
 見てくれも含め、戦法を罵られることは実力を認められていることに他ならないのだから。

155名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:01:21 ID:bBMJZxKE0

(・∀ ・) 「そろそろ始まるぞ」

 二竜が戦域を飛び回る。
 距離を取ったり、逆に詰めたりと開始の前から激しい駆け引きが行われていた。

    「始め!!」

 拡声魔法によって放たれた開始の合図。
 リュウジャは初っ端から上空へと昇り、距離を引き離す。
 追いすがろうとしたドーペルゲーガは一旦追跡をやめ、旋回しながらじわじわと高度を上げ始めた。

( ^Д^) 「どうなると思う?」

(・∀ ・) 「ニダーは駆け引きの上手い騎手だ。あの範囲内じゃ、逃げ続けるのは無理だろうな」

 間も無く、またんきの言葉は真実となる。
 リュウジャが牽制で放った火球をわざと直近でかわしたドーペルゲーガは、その軌道をなぞるように突進した。
 流石の機動力で横へ逃げるリュウジャだが、すぐに範囲制限に引っかかり速度を落とす。

 下方へ軌道を修正しようとしたところへ、ドペルゲーガの火球が襲いかかった。
 すぐに意識を切り替え横に逃れてかわすも、それを読んでいたニダーは既に回り込んでいる。
 かわしたのではない。誘導されたのだ。

(・∀ ・) 「不味いな、範囲に入った」

 またんきの呟きをかき消すようにどよめきが起きる。
 遠方観戦用の魔導モニターで観戦を続ける彼ら視線の先にドーペルゲーガの姿は無く、変わりにリュウジャが二頭になっていた。

  **  **  **

156名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:02:58 ID:bBMJZxKE0

<ヽ`∀´>「ホールホルホルホル!コピー完了ニダ!」

(゚A゚* ) 「模造率調整や。70%でええな?」

( `ハ´) 「モウマンタイ。あんなに速くなってもここじゃ戦いにくいだけアル」

 リュウジャの鞍の上、騎手のニダーは高笑いを上げた。
 彼らの飛竜ドーペルゲーガの最大の特徴はこの模造能力。
 平たく言えば相手の能力、姿、使用魔法などをまるっとコピーしてしまうのである。

 故に単なる真似でなく相手の飛竜の情報ごと模倣し、相手のことが丸分りになるのだ。
 あとは、模造の度合いを上手く調整して、相手の長所だけを拝借すればよい。

(゚A゚* ) 「お〜、この子すごいなあ。半月前の模擬戦の時より使える魔法増えとるで」

<ヽ`∀´>「人目のあるところで使ったことはあるニカ?」

(゚A゚* ) 「多分無いで。最近覚えたばっかりみたいや!」

<ヽ`∀´> 「やったニダ!お披露目頂きニダ!」

 地上付近へ逃げ、体勢を取り直そうとしているリュウジャに向かって高速で接近。
 同時にゲーガへ魔法使用の指示を出す。

(゚A゚* ) 「有効射程に入ったで!今や!」

 リュウジャに化けたその口を開き、夕日の濃縮したような朱い光を蓄える。

157名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:04:03 ID:bBMJZxKE0

( ^ω^)「高出力反応!」

(;'A`) 「パターン解析するまでも無い、爆破魔法だ」

( ;´_ゝ`)「あんにゃろおおお!せっかくの隠し玉を!」

 音速に近い速度で落ちてくる朱色の雫。
 エネルギーをたっぷり溜め込んだそれは、身を捩ったリュウジャの傍を通り過ぎ、地面の防壁に着弾した。
 鳴り響く爆音。防壁にって逃げ場を失ったそれが衝撃波となって上方へ突き抜ける。

( ;´_ゝ`)「くおっ!」

 乱れる飛行。
 軽いリュウジャは衝撃波の影響をモロに受けた。
 体勢を立て直し、上手く気流に乗って上昇する。

 しかし、安心している余裕は無い。

( ^ω^)「敵騎高速接近」

( ;´_ゝ`)「にゃろう!その技まで!」

 偽者のリュウジャが、火炎を纏い滑空して迫る。
 牽制で火球を放ち、重力を利用して下方へ退避。
 炎の燃え盛る音を残響に、ニダーが頭の上を過ぎ去ってゆく。

158名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:05:11 ID:bBMJZxKE0

( `ハ´)「アイヤー、初めての技は中々上手く使えないアルネー」

<ヽ`∀´>「でも使い勝手はばっちり覚えたニダ!次は当てられるニダよ!」

(゚A゚* ) 「待ってーや、ちょっと控えへんと魔力無くなってまうで」

( `ハ´)「そうアル。それに必殺技を連発なんてかっこ悪いアル」

<ヽ`∀´> 「確かにそうニダ。必殺技のごり押しは素人がやることニダ」

(゚A゚* ) 「せやで。玄人はコンボを狙うべきや」

 ゲーガは魔法の発動をやめ翼を打って切り返す。
 逃げ回るリュウジャを追うため、飛行魔法を全開に上昇した。
 速度では劣るものの、狭い空間であれば難なく間合いを詰められる。

(゚A゚* ) 「動作感知や!右下方へ逃げるで」

<ヽ`∀´>「逃がさないニダ!」

 妖精ののーちゃんの感知通り、リュウジャは急速な旋回で右下方へ切り返した。
 ニダーは一瞬早く手綱を引きその進路を狭めてゆく。

159名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:06:16 ID:bBMJZxKE0

( ^ω^)「敵騎接近!」

(´<_` )「……のーちゃんか、厄介だな」

( ;´_ゝ`)「ホント、未来予知かよってんだ!」

 アニジャが手綱を切るのと同時にドーペルゲーガも同じ方向へついてくる。
 反応が早いというレベルではない。動きを読まれているのだ。

( ;´_ゝ`)「オトジャ、例の頼めるか?」

(´<_` )「任せろ」

 祭りの初日、初戦の相手がニダーたちだと知った時点で対策は幾つも考えた。
 オトジャが発動するのはその一つ。

 敵妖精ののーちゃんは高い感知能力と並異常の演算能力を併せ持つ。
 それによって相手の騎手や騎竜のモーションを盗み、未来予知に近い行動予測を行うのだ。
 あらゆる情報をすっぱ抜かれるコピー能力と併せて怖ろしい能力である。

(´<_` )「ドクオ、のーちゃんを逆にハック。一瞬でもいい」

('A`) 「おk」

 アニジャはリュウジャを向きなおし、思い切って正面に切り込む。
 火球を二発放ち、上昇離脱した。

160名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:07:39 ID:bBMJZxKE0

<ヽ`∀´>「おっとっと〜」

 リュウジャの放った火球を右、左と身体を揺すってかわした。
 離脱し頭上を越えて行くリュウジャを、急反転して追いかける。
 特別機動力の高い訳では無い素体のドーペルゲーガに比べると格段に扱いやすい。

 ちょっと手綱を捻るだけですぐに動く。
 パワーの低さは論外だが、なかなかいい飛竜だと口にいやらしい笑みを浮かべた。

(゚A゚*;) 「あや、やばいわ!ドクオのアホにハックされそうや!」

<ヽ`∀´>「これだからチョッパリは。師匠!」

( `ハ´)「アイヤー!秘技、干渉断絶!」

 シナーが目の前に手刀を振り下ろす。
 その瞬間のーちゃんに対して行われていた干渉が切れ、正常を取り戻した。

( `ハ´)「これでモウマンタイ!のーちゃん早く敵の動きを読むアル!」

(゚A゚* )

<ヽ`∀´>「ん?どうしたニダ?」

( ;`ハ´)「アイヤー!?のーちゃんがフリーズしてるアル!」

161名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:08:24 ID:bBMJZxKE0

(´<_` )「上手く行ったか?」

(;'A`) 「恐らく。強制的に回線を切られたから、確信は無いけど」

(´<_` )「シナーの野郎、ふざけた対処しやがって」

 オトジャがのーちゃんに対して行ったのは対妖精のプログラムの強制インストールだ。
 脳からの信号を送る回線をループさせ身体に行き届かないようにする封印プログラム。
 いわば、金縛りである。

(´<_` )「ギリギリ間に合ったか。これで予測はもちろん、あらゆる妖精のサポートを封じた」

( ´_ゝ`)「良し!」

 一旦急上昇し、上空で身体を切り返す。
 視線の先にはこちらを睨みつける、鏡写しのようなドーペルゲーガ。
 更にその周囲にいる、色を幾重にも重ねた油絵のような観衆。

( ´_ゝ`)「この大観衆の中で、ああいう曲者をぶちのめしたら気持がいいだろうな」

(´<_` )「それは、やってみないと分らんぞ」

( ´_ゝ`)「……だな」

162名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:09:26 ID:bBMJZxKE0

 アニジャは踵でリュウジャの首を挟むようにキック。
 リュウジャは水に飛び込むような滑らかな動きで下降を始めた。
 身体を一直線に、翼を広げ最大限空気抵抗の少ない姿勢。
 背に乗る兄弟も手綱を短く握りなおし同じく鞍に伏せる。
 妖精の二人はアニジャのフードの中に潜りこんだ。

( ´_ゝ`)「速度……ッ、最、大!!」

 リュウジャは錐揉み回転を二回、飛行魔法を全開に発動した。
 重力を活かし、そこに魔法の推進力を得たリュウジャの身体は、音に並ぶ。

<ヽ;`∀´>「あ、アイゴー!」

 迎え打つつもりで居たニダーは直感で危険を察知し、手綱を右に引いた。
 辛うじて回避するも、リュウジャの巻き起こしたソニックブームに巻き込まれ外へと弾かれる。

( ;´_ゝ`)「ブレエエエエエエエエエエエエエエエキ!!!!!」

 ニダーの脇を抜けた瞬間、飛行魔法を逆噴射し一気に減速。
 内臓が肉や皮を突き破って抜け落ちそうな程の慣性が兄弟の身体を襲った。
 オトジャは歯を噛み砕くほど食いしばり、魔法を維持する。
 ここでオトジャが保護魔法を手放せばリュウジャも兄弟も確実に意識を失ってしまう。
 止まりきれぬまま迫る硬い地面。
 観客から悲鳴のようなざわめきが起きた。

( ;´_ゝ`)「ギッギッギィィィッ!」

 石畳に立つ風の波紋。リュウジャは地面から一メートルの位置で帯空停止していた。

163名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:10:19 ID:bBMJZxKE0

( ;´_ゝ`)「吐きそう!」

(´<_`; )「後にしろ!」

( ;´_ゝ`)「合点だ!」

 休む暇は無い。
 アニジャはリュウジャの意識を確認。
 問題ないと判断し、手綱を長く持ち直し、急上昇した。

 天へ続く豆の気のように、薄い雲が出来ているのが見える。
 そこから大きく外で旋回するように帯空しているニダーを発見した。
 あわよくば場外に吹き飛ばせないかと考えていたが、どうやらそこまで上手く行かないようだ。

 雲を引き裂き、ニダー組へ直進。
 のーちゃんが不能かつ動揺している今が反撃のチャンスだ

<ヽ;`∀´>「アイゴー!アニジャの癖に生意気ニダ!」

( `ハ´)「もう少しでのーちゃんを回復できるアル!凌ぐアル!」

 ニダーも流石に切り替えの早さを見せ、自らリュウジャへと手綱を捌く。
 高速で接近、交差する二頭の竜。
 ギリギリのチキンレースは互いの障壁を僅かに削り、再び両者は上下で距離を取った。

164名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:12:58 ID:bBMJZxKE0

 観客達が大きく湧く。
 彼らが求めていたのは特殊能力合戦ではなく、駆け引き一つの肉弾戦だ。

 上方のアニジャ。
 こちらは騎竜のパワーの低さを、トリッキーかつ大胆な戦法を得意とする。
 
 下方のニダー。
 飛竜の模倣に意識を奪われがちだが、逆に言えばあらゆる飛竜の特性を引き出し戦えるということ。
 最終的な決着は、常に騎手の腕一つで下してきている。

 タイミングを計るように、両者にらみ合い。
 地面を低空飛行で旋回するニダーに対し、アニジャは同じ地点に帯空しじっと身構える。

(´<_` )「アニジャ、外気温が低すぎる。これ以上待つとパフォーマンス支障をきたすぞ」

( `ハ´)「ニダー不味いあるよ。これ以上変に長引くと明日に響くアル」

( ´_ゝ`)「……行くぞ!」

<ヽ`∀´>「決めるニダ!」

 互いに引き合うように、二竜が接近を始めた。
 速いが、機敏な切り返しも可能な、ギリギリの速度。
 相手の一足一挙動に、互いの騎手は精神を集中する。

165名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:13:42 ID:bBMJZxKE0

 間合いに入った瞬間、両竜が同時に顎を開いた。
 放たれる火球。
 同じ線上を直進し衝突した二つの赤い光は溶け合い胎動するように蠢いて爆発する。

 アニジャはニダーの後ろへ回り込もうと手綱を右へ引いた。
 爆発の閃光と飛散した火の粉で視界は不十分だが、ブーンから直接脳に届くレーダーで位置は把握している。

 魔法の余波を避けることなく突っ切ったニダーの後ろにつく。
 しかし、違和感に気付いた。
 ドーペルゲーガの速度が、微妙に遅――‐

( ^ω^)「ッ高エネルギー反応!」

 反射的に手綱を右へ。
 ほぼ同時に、ドーペルゲーガの体が反り返って反転。
 その口から、火球の上位互換である爆破魔法の光弾が放たれた。

 オトジャが収縮した防壁のスレスレを、魔法弾はよぎってゆく。
 例え防壁であっても、掠れば爆発し、完全にやられていた。

 敵の必殺攻撃をかわしたものの、後ろに着かれてしまう。
 横回転で向き直り火球を放つが、ドーペルゲーガは細やかなロールでそれをかわした。
 懐に入り込みズラリと並んだ牙でリュウジャの防壁を食い破る。

166名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:14:22 ID:bBMJZxKE0

 防壁を破壊した勢いをそのままに、リュウジャの首元に食いかかる。
 リュウジャは仰け反って回避。
 腰を軸に倒れるように半転し、逆さまのまま飛行し距離を取った。

 ドーペルゲーガが追撃の火球を放つ。
 リュウジャは上下を正常に戻すためロール、その慣性で僅かに身体を浮かせ、火球を回避した。

 回避の上昇から更に羽ばたきを一つ打ち上昇。
 仰け反りと同時に身体を捻りリュウジャはドーペルゲーガに向き直った。

 ゲーガは突進の体勢。
 身体には防壁と灼熱の鎧を纏っている。

( ;´_ゝ`)「オトジャ!」

 アニジャの指示よりも早く防壁が強化された。
 構わずドーペルゲーガが突っ込む。
 リュウジャも強化された防壁を盾に前進、同時に火球を三つ放つ。

 火球をその身で打ち砕き、ゲーガはリュウジャの防壁を捉えた。
 硬い音を響き渡らせながら、それも破砕する。

167名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:15:29 ID:bBMJZxKE0

 その向こうにリュウジャはいない。
 前転する様に身体を跳ね上げ、ゲーガの上方で身を捻り、リュウジャは丸出しの背中に向かって火球を吐き出す。

<ヽ#`∀´>「その技は、模擬戦で見た!」

 ドーペルゲーガの体が上下く入れ替わるようクルリとロールした。
 三枚重ねた防壁と、後ろ足で火球の爆発をやり過ごす。
 炎も収まらぬ内に飛行魔法によって強引に身体を跳ね上げ、リュウジャの首に向けて顎を開いた。

( ;´_ゝ`)「かわされることは、」

 リュウジャはドーペルゲーガの噛み付きに、自身も噛みつきを合わせた。
 こすれあう二竜の顔側面。鋭い鰭が鱗を削り肩口へ侵攻する。
 パワーで劣るリュウジャはやや首を反らされてしまう。

(´<_` )「わかっていた!」

 オトジャの小さく硬く圧縮された防壁がドーベルゲーガの口を塞いだ。
 肩口までも伸びたものの、防壁を噛み砕けず、鐙と肩を打つただの追突に終わる。

 自らの足を守るためリュウジャの首元、鞍の上に立ったアニジャはそのままリュウジャの首に飛びつく。
 その勢いを借りて、リュウジャは首を押し戻し、ドーペルゲーガの翼に食らいついた。

<ヽ`∀´>

( ´_ゝ`)

 背中と首、それぞれの騎手の視線が、竜騎戦ではあり得ないほど間近で交差する。

168名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:16:20 ID:bBMJZxKE0

 筋を立てて翼を噛み砕こうとするリュウジャを、ドーペルゲーガが力で振りほどく。
 アニジャの指示に従い、粘らずに口を離したリュウジャは突き飛ばされる形で下へ落ちてゆく。

(´<_` )「防壁を張りなおす」

(;'A`) 「損傷軽微!」

( ^ω^)「敵騎高エネルギー反応!」

 体勢を立て直したリュウジャの首からずり落ちるように下がり、アニジャは鐙に足を戻す。
 直接見上げたドーペルゲーガの口には、爆破魔法の赤い光。
 そして肩口から顔を覗かせる妖精ののーちゃんの姿。

( ´_ゝ`)「もう治ったか」

 のーちゃんの目は一瞬でアニジャたちの動作を見抜く。
 避けるとすればかなりギリギリの勝負になってしまう。

( ´_ゝ`)「リュウジャ、出来うる限り、俺の動きに集中してくれ」

 軽快な嘶き一つ。
 早速、リュウジャは旋回するように上方へ向けて逃走。
 それを追いながらもニダーは急激な接近はせず、ひたすらに狙いを定めている。

169名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:17:19 ID:bBMJZxKE0

(゚A゚* ) 「ゲーガ、ニダー双方に思考をリンク。両者に予測データを送信。ちょっと負担かかるけど我慢してや」

 ニダーの目にもドーペルゲーガの目にも、リュウジャにダブるような形で1秒後の姿がぼんやりと映っていた。
 読める、これならば速度など関係なく、魔法を当てることが出来る。

 覚悟を決め、ニダーはドーペルゲーガの肩をキック。
 既に彼らよりも高い高度まで逃げているリュウジャたちに追いすがった。
 魔法は万全。狙いを定めればすぐに打てる。

 撃ってみて分ったが、この爆破魔法は発動にほんの僅かなラグが生じる。
 放つと決めた瞬間から一秒未満の溜めがあるのだ。
 だが、それも問題ない。そのための時間さえ上手く使って、狙いを定めればいい。

 リュウジャをフィールドの端にじわじわと追い詰め、理想的な射程に捉えた。

<ヽ`∀´>「今ニダ!」

 のーちゃんの予測データでは、この数瞬後にリュウジャは突進を仕掛けてくる
 ニダーは会心の笑みと共に、爆破魔法の発射を指示を出した。
 後は、ラグの一瞬予測に基づいて狙い定めた方向を目指して…………

170名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:18:09 ID:bBMJZxKE0

<ヽ`∀´>「アリ?」

 予測で見えたリュウジャは、口を開き、本来よりも小さな火球を吐いた。
 爆発よりも推進力に重きを置いた、速度の速いタイプ。

<ヽ`∀´>「ア」

 ドーペルゲーガから極僅かに遅れて、リュウジャの口から実際に火球が放たれた。
 ニダーは慌ててドーペルゲーガに逃げるよう指示を出したが、間に合わない。

 ゲーガの放った爆破魔法を、リュウジャの放った火球が打ちぬく。
 その衝撃でリングのように広がった朱色の光は瞬き程の間も無く、更なる閃光を放って爆発した。

 轟音と、それよりも速い衝撃。
 爆炎は空を赤く染め、両者は共に吹き飛ばされる。

<ヽ;`∀´> 「ぐぎいい!」

 余波によってダメージを受けたドーペルゲーガは体勢を立て直し場外に出ないように耐えるのが精一杯。
 羽が痺れ、内臓も軽くやられている。
 後ろではシナーが朝ごはんを観客に向かってリリースしていた。
 のーちゃんとの連携も、竜の模倣も解けてしまっている。

 敵を探し、上空を見た。
 リュウジャの姿は未だ残る爆発の炎で見えない。

 否。向かってくる炎の礫が一つ。
 あれが。

171名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:18:57 ID:bBMJZxKE0

( #´_ゝ`)「うおおおおおおおおお!!」

 最初から爆発させることを狙って火球を撃ったリュウジャは、受身を取っていた。
 オトジャの防壁で軽減した衝撃破を羽と体で上昇気流として受け止めたことでダメージは最小限。
 立て直すだけで時間を食ったニダーに攻撃を仕掛ける余裕は十分にあった。

 リュウジャは嘶きと共に炎を纏いドーベルゲーガへ一直線。
 気流乱れる爆炎のを切り裂きそのままの勢いで突進した。
 炎に紛れたこの攻撃は、ニダーの反応を完全に出遅れさせる。

 勢いそのままリュウジャがくるりと一回転。
 炎に染まる後ろ足蹴りがドーペルゲーガを打ち捉えた。

<ヽ;`∀´>「?!」

( #´_ゝ`)「!?」

 回避不能と判断したドーベルゲーガは自ら身体を盾にし、腹でリュウジャを受け止めていた。
 受身も取らない完全な直撃。
 ギョロギョロとした目が白に染まり、ドーベルゲーガは落ちてゆく。

172名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:19:52 ID:bBMJZxKE0

( ;´_ゝ`)「リュウジャ!」

 身体に残る炎を振り払ってリュウジャはドーベルゲーガを追った。
 地面に落ちる寸前で何とか捕まえ、一緒に落ちながらも優しく地面に降ろすことができた。

( ;´_ゝ`)「あぶねー、やりすぎるところだった……」

 額を拭うアニジャを、大きな歓声が包み込んだ。
 ちょっと驚きながら周囲を見渡す。
 白い旗を揚げた審判と目が合い、自分が竜騎武闘参加していたことを思い出した。

 慣れない感覚に、頭を掻きながら竜を降りる。
 喜んでいいのかなんなのか。

(*;´_ゝ`) 「て、手とか振った方がいいのかな」

(´<_` )「いいから、戻るぞ」

 オトジャに首根っこを掴まれ、控え所に戻った。
 未だ冷め無いざわめきがテント越しでも聞えてくる。

 ここに来てやっと、勝ったのだという喜びが湧いてきた。

173名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:20:52 ID:bBMJZxKE0

( ^Д^) 「よう、見てたぜ。やったじゃねえか」

( ´_ゝ`)「ニダーたちは大丈夫か?」

(・∀ ・) 「お前が挙動不審でうろうろしている間に運ばれてったぞ。気を失っただけみたいだ」

( ´_ゝ`)「そか、良かった。つい模擬戦の勢いで攻撃しちまった」

 テントの中に用意されていた椅子に座る。
 手も足も頭もクタクタだった。
 ニダーたちとの戦績は、7回戦って一度しか勝っていなかったのだ。
 すり減らした精神は並のそれではない。

( ^Д^) 「一戦目からあいつらは辛かったろ。隠し技なんか全部暴かれちまう」

(´<_` )「組み合わせを見た時点で覚悟はしたさ」

( ´_ゝ`)「うん、思いっきり使えてむしろよかったかもな」

( ^Д^)+ 「ま、次は俺らだ。ばっちり対策練らせて貰うぞ」

( ´_ゝ`)「……二戦続けてめんどくさいなあ」

(・∀ ・) 「俺も同情するよ」

( ^Д^) 「お前ら俺をなんだと思ってるんだ」

  **  **  **

174名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:21:44 ID:bBMJZxKE0

 その日の夜。
 宿舎へと戻った兄弟は自室で身体を休めていた。
 明日の二回戦は勝てばもう一度戦わなければならない。
 しかも、より強力な相手と。

 リュウジャも大きな傷こそ無かったが疲労の回復のため、厩舎でゆっくりと眠っている。
 今日のような頑張りを見せることが出来れば、十分に食いつけるはずだ。
 そのためにもしっかり休息を取らなければならない。

( ´_ゝ`)(……ニダーたちと戦っている間の、あの感じ)

 二段ベッドの冗談で、アニジャは両手を天井に翳した。
 カーテンを閉め切った月明かりすらない部屋の中、手綱を握った感覚を思い出す。

( ´_ゝ`)(怖いくらいに、やるべきことが分った。体が勝手に動いて、まるで誰かに操られているみたいな)

 集中の限界を超えた先にある、脳を切り離したような不思議な浮遊感。
 先日の、違法竜騎手との戦闘で初めて味わったものだ。
 あの時も敵の動きや行うべき行動が何となく読めた。

 弟にハッタリと答えたがあれは半分本当で半分は嘘だ。
 確証は無いが、確信があるという感覚をどう説明していいか分らずにそう答えた。

175名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:22:28 ID:bBMJZxKE0

( ´_ゝ`)(リュウジャの動きを、遅いと思ったのは、今日が初めてだ)

 いつもはリュウジャの速さをコントロールするのがやっとだったはずなのに。
 オトジャも妖精たちも問題なくついて来てくれたため、もしかしたら唯の気のせいなのかもしれないが。
 ともかく、今まで積み重ねてきた努力が、実戦をきっかけに芽吹いてくれたことは間違い無さそうだ。

( ´_ゝ`)(今なら、杉浦とも、互角に戦える。そんな気がする)

 歓声を思い出し背筋が震えた。
 今までに無い興奮、受けたことの無い賛辞。
 劣等感に塗れた心が綺麗に拭われていくようだった。

( ´_ゝ`)(……俺は強い!)

 拳を硬く握る。
 今まで虚ろだった自信が、大舞台で強敵を倒したことにより強固なものなった。
 それが嬉しくて興奮して、アニジャは眠れずにいる。

176名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:23:08 ID:bBMJZxKE0

(´<_` )「兄者、起きてるか?」

( ´_ゝ`)「ん?ああ、どうした」

(´<_` )「特別何って訳でも無いんだ。眠れなくてな」

( ´_ゝ`)「珍しいな、オトジャが」

(´<_` )「俺だって、緊張することもあれば、興奮することもある」

( ´_ゝ`)「……少し、話すか?」

(´<_` )「ああ」

( ´_ゝ`)「なんか、こんな風に話すのは久しぶりだな」

(´<_` )「互いにもう仲よし兄弟って歳でもないし、こんなもんじゃないか」

( ´_ゝ`)「大体いつも一緒で話すこと無いしな」

(´<_` )「全くだ」

177名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:24:05 ID:bBMJZxKE0

( ´_ゝ`)「せっかくだから聞きたいんだけどさ」

(´<_` )「ん?」

( ´_ゝ`)「オトジャ、亜麻井のこと好きなの?」

(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)「なあ、どうなの?」

(´<_` )「中学生か」

( ´_ゝ`)「いや、改めて考えると、オトジャが人を励ますって、珍しいと思ってさ」

(´<_` )「別に、何となくだよ」

( ´_ゝ`)「その何となくが世に言う恋と謂ふものでは」

(´<_` )「天井まで蹴り上げるぞ」

( ´_ゝ`)「ごめんなさい」

178名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:24:57 ID:bBMJZxKE0

(´<_` )「……同情したからかもしれん」

( ´_ゝ`)「ん?亜麻井に?」

(´<_` )「そう。目の前に大き過ぎる背中があって、自信を削られていく感覚は、よく分る」

( ´_ゝ`)「……オトジャ、俺のことをそんなに尊敬していたのか」

(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)「ごめんなさい分ってて言いました。本当にごめんなさい」

(´<_` )「まあ、いいけどな」

( ´_ゝ`)「んじゃあ、亜麻井のことは何でもないの?」

(´<_` )「可愛いとは思うが」

( ´_ゝ`)「だよな。じゃなかったら頭に手を置いたりしないもんな」

(´<_` )

( ´_ゝ`)

(´<_` )「兄者、明日のプギャーとの試合、殺す気で行こうな」

( ´_ゝ`)「はい」

179名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:25:42 ID:bBMJZxKE0

( ´_ゝ`)「でも、プギャーに詳しい一部始終聞かなかったら、オトジャがそんなんで悩んでるって知らなかった」

(´<_` )「別に誰かに言うことでもないだろ」

( ´_ゝ`)「弟だぞ?悩んでるなら話聞いてやるぐらいしたいだろ」

(´<_` )「安心しろ。もう、自分なりに決着はつけてるつもりだ」

( ´_ゝ`)「なら、いっか」

(´<_` )「ああ」

( ´_ゝ`)「あ、でも一応言っとくけど」

(´<_` )「ん?」

( ´_ゝ`)「俺はハハジャとチチジャくらい、オトジャのことも尊敬してる」

(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)「俺が今までやってこれたのは、騎助手がオトジャだったからだよ」

(´<_` )「言ってて恥ずかしくないか」

( ´_ゝ`)「暗いからな。明るかったら絶対言わない」

180名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:26:22 ID:bBMJZxKE0

( ´_ゝ`)「でもまあ、感謝を伝えておくべきタイミングかな、とは思ったんだよ。大事に望む前だからこそ」

(´<_` )「人事を尽くす」

( ´_ゝ`)「そうそれ」

(´<_` )「なら、俺も言っておくかな」

( ´_ゝ`)「え、オトジャが俺に感謝とか明日億万のハハジャが降ってきそう」

(´<_` )「兄者がどうしようも無いアホだったから、俺は何とかやってこれた。ありがとな」

( ´_ゝ`)「お……おう?」

(´<_` )「……寝るか」

( ´_ゝ`)「……そうだな」

(´<_` )「おやすみ」

( ´_ゝ`)「おやすみ」

  **  **  **

181名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:27:28 ID:bBMJZxKE0

 竜騎武闘組み合わせ表:前半終了時

               ┌───────┴───────┐
               │                        │
               │                        │
       ┌───┴───┐              ┌───┴───┐
       ┃              ┃              ┃              ┃
       ┃              ┃              ┃              ┃
   ┌─┗━┓      ┏━┛─┐      ┏━┛─┐      ┌─┗━┓
   ×      ○      ○      ×      ○      ×      ×      ○
   牛     メ       リ       ド     レ      ヒ     ■     ボ
   頭     メ      ュ       l       l      ュ      ■     ル
   荒     メ       ウ      ペ      ヴ       ド     ■      ト
   王     オ     ジ     ル     ァ      ラ     ■     l
         ン     ャ     ゲ     ン                      ル
                       l     テ
                     ガ     イ
                             ル

182名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:28:45 ID:bBMJZxKE0

 四話ですた。
 竜を戦わせるのが楽しいです
 永遠に書いていたいです

 次話は今日中に来ます
 予定では後二話で一応の完結です

183名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:50:32 ID:LAV4uSxI0
ドーペルゲーガ戦楽しみだったから燃えたわ
妖精の特性まで相性とか個性あって脳内で戦わせるのが楽しいな

でもやっぱプギャーがいいキャラしてるwwww
乙!次も待ってる!

184名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 19:51:11 ID:mrJ1IDpQ0
億万のハハジャwww
間違いなく世界が滅ぶ

それにしても戦いが熱いな
次も楽しみだ!
乙!

185名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 21:05:16 ID:Tdk0neD.0
乙!
メメメオンって名前なんか好きだわ

186名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:14:53 ID:kKXAM3ss0
乙!次回も期待してるぜ!!

187名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:39:42 ID:bBMJZxKE0



                 負けてもいい


                 死んでもいい


                 忘れられてしまうことだけが


                 どうしようも無く耐え難い

 
 
.

188名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:40:42 ID:bBMJZxKE0



                ( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )


                        第五話: 見失う。


.

189名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:41:25 ID:bBMJZxKE0

 竜騎武闘、二日目。
 早めに街中へと訪れた兄弟は屋台を回り朝飯を済ましていた。
 時間まではまだ一時間ほどあり、余裕だ。

( ´_ゝ`)「ステルス対策は、正直あの狭さならいらない気もするんだよな」

(´<_` )「だが、狭いからこそ一瞬でも見失うことが怖いぞ。メメメオンの火力なら、リュウジャを落とすことは可能だ」

 人の多いメインの通りを避けて、下町の細い道を広場へと向かった。
 表とは違い祭りの間であっても暗くどんよりとした空気が漂っている。

( ´_ゝ`)「大丈夫大丈夫、俺達は完全に格上のニダーにも勝ったんだぜ?」

(´<_` )「確かに、ドーペルゲーガに比べればメメメレオンは御しやすいがな……」

( ´_ゝ`)「それに、勝ち続きでリュウジャも調子がいいんだ。プギャーたちには悪いけど、余裕だよ」

(´<_` )「……」

 串に刺さった豚肉の燻製を笑顔で頬張るアニジャをオトジャは不安気な顔で見つめた。
 完全に調子に乗っている。
 確かに、フォックスと戦って以来リュウジャとアニジャの調子は鰻上りだ。
 それまで余裕を持って助手をこなしてきたオトジャも、最近のアニジャには置いていかれそうになる。

 しかし、これに安心していいのだろうか。

190名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:42:05 ID:bBMJZxKE0

 オトジャにもコツを掴んで爆発的に調子の良かった時期があった。
 今まで出来なかったことが次々と出来るようになり、有り余る自信を自分では押さえ込めなくなってしまったことが。

 無論アニジャの成長は嘘ではないだろう。
 ギリギリとはいえ、格上に勝てるだけの能力を目覚めさせ始めている。

 問題は、調子に乗り過ぎてこれまでしなかった些細なミスを犯す可能性が大きいということ。
 強敵用に引き絞られた緊張は、同格以下に対して良くないだらけを生む。
 ニダーやロマネスクではなく、プギャーだからこそ危険なのだ。

(´<_` )(……どうする。このままじゃ絶対に足を掬われる。だが)

 アニジャたちが杉浦に勝つとすれば、今のこの勢いは絶対に必須だ。
 下手に口を出して、それを失わせてしまったら、僅かに顔を覗かせている勝ちの可能性を失ってしまうのではないか。
 オトジャはそれを畏れて強く注意できずにいるのだ。

 とはいえミスをすれば、プギャーは絶対に見逃してはくれないだろう。

(´<_` )(こんな時、ジョルジュあたりならうまくやるんだろうが)

 元来口の下手なオトジャには、勢いを損なわず油断だけを取り除く方法が分らない。
 そもそも、他人にちょっと口を挟まれた程度で直せるものではないのだ。
 フラフラしているように見えて、根底では頑固なアニジャのような人間は特に。

191名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:42:46 ID:bBMJZxKE0

(´<_` )「……アニジャ、くれぐれもつまらん油断はするなよ

( ´_ゝ`)「オトジャは心配性だな。大丈夫だよ、舐めたことしたらプギャーにぶん殴られる」

(´<_` )(……)

 口ではいくらでも言える。
 恐らく本人はちゃんと分っているつもりなのだ。
 これでオトジャが更に強く言えば、アニジャは絶対に機嫌を損ねる。

(´<_` )(……いや、アニジャを疑いすぎだ。信じよう、これまでだってなんだかんだでやってきたじゃないか)

 オトジャは頭を振って気を取り直した。
 ここ数回の金星に調子を狂わせていたのはオトジャも同じだ。
 負けて当然。アニジャが推薦を取れる程度に活躍できればそれでいいくらいに考えていたのに。
 勝ちが現実味を帯びた途端に最も信頼すべき相棒を疑ってしまっている。

(´<_` )(最悪、俺がしっかり守ればいい。今までと同じだ)

( ´_ゝ`)「どうしたオトジャ、さっきからぼーっとして」

(´<_` )「いや、なんでもない」

( ´_ゝ`)「大丈夫だって。今の俺達なら、プギャー達に負けるようなヘマはしないよ」

192名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:43:58 ID:bBMJZxKE0

 厩舎へ着き、そこから試合までの準備は流れるように進んだ。
 リュウジャにつけた騎乗具を一ずつ確認して行く。
 問題なし。
 一応予備で持ってきていた道具を控えている係員に渡しておいた。

 その後。騎乗衣に着替えるためテントに入る。

( ´_ゝ`)「さて、どうなるかな」

(´<_` )「……しつこいようだが、油断はするなよ」

( ´_ゝ`)「心配性だな、オトジャは」

 この場にプギャーもまたんきもいない。
 メメメオンがいたため既に来てはいるようだが、顔は見ていなかった。
 恐らく既に逆側のテントで控えているのだろう。

 もともと腐れ縁の如く親交を重ねてきただけあって、真剣勝負となると不思議な感覚だ。
 試合前に顔を合わせずに済んだのは、幸なのか不幸なのか。

( ´_ゝ`)「申し訳ねえけど、勝つ」

 独り言のように呟く。
 アニジャの目には、既にロマネスクと、ボルトールと戦うビジョンしか見えていなかった。

193名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:45:04 ID:bBMJZxKE0

 慣れない服にやや戸惑いながらも二人は着替えを終える。

 アニジャはネル国の伝統的な民族衣装。
 色とりどりの布を重ね合わせた服で、ふわりとした質感に反しフィット感があり動きやすい。
 嫌味の無い程度に施された装飾が煌びやかさを演出し、竜騎武闘にふさわしい衣装である。

 一方のオトジャはいつものような神官服。
 ただし、いつものものとは少し違う。
 刺繍は希少な藍染めと金糸を使い、豪華ながらも厳かに。
 生地はシルクを利用しており肌触りが非常に良い。
 これは、今は何処にいるかも分らない父、チチジャが残していったものだ。

( ´_ゝ`)「結構いい感じだな。仕立てが間に合ってよかった」

(´<_` )「全くだ。どこぞの馬鹿がギリギリまで悩んでたからな」

( ;´_ゝ`)「それは言わないで」

 互いの服におかしなところが無いかを確かめ合い準備を終えると同時に、係員から声がかかる。
 拳を軽く合わせ、二人はテントを出て行った。

194名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:46:15 ID:bBMJZxKE0

( ^ω^)「各種レーダー調整完了。対ステルスパルス安定。前よりは、見つけやすくなってるはずだお」

(´<_` )「メメメオンも成長期だ。より強力になっているつもりでかかれ」

( ^ω^)「了解」

(´<_` )「ドクオ、今回はブーンと同期して擬態解析に集中してくれ」

('A`) 「了解。開始までにこれまで解析したデータを解凍しておく。回線はどうする?」

(´<_` )「一応繋いでおけ。相手はクールだ、油断して乗っ取られるなよ」

('A`) 「あたぼうよ」

 オトジャは先にリュウジャに乗りブーンとドクオに指示を与えていた。
 メメメオンのような相手は事前の準備が肝心だ。
 念入りに、やりすぎるくらいの打ち合わせを行う。

 一方で、アニジャは軽いストレッチで身体を解していた。
 時に力で飛竜を従わせなければならない竜騎手はこういった準備運動が重要なのだ。

    「両騎手、竜に乗って」

 審判の指示に従い、アニジャは滑るようにリュウジャの身体を登る。

195名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:46:58 ID:bBMJZxKE0

( ^Д^) 「GO」

 先に飛び立ったのはメメメオン。
 翼と魔法によって巻き起こされた突風が地面の砂埃を巻き上げる。
 審判の支持と同時に、リュウジャもそれを追った。

   「一分間スタンバイ!」

 リュウジャがある程度の高度まで達した時点で審判の号令がかかった。
 攻撃はまだ許されないが、実質の戦いはここから始まっている。

( ´_ゝ`)「……早速か」

 メメメオンが姿を消した。
 既に肉眼ではどこにいるか分らない。

(´<_` )「ブーン、レーダーは?」

( ^ω^)「……不安定。対ステルスパルスに大しても効果があるよう、改良されているお」

(;'A`) 「パターン解析不能。クールの妨害が激しい上に、複数のパターンを入れ替えながら発動してる」

(´<_` )「……成長したのは、こちらだけではないということか」

( ´_ゝ`)「いいよ、要は今までどおりだろ?」

196名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:47:39 ID:bBMJZxKE0

 アニジャは少し間を置いて手綱をひいた。
 左前下方、リュウジャは滑空する形で降りてゆく。

( ^ω^)「反応!見つけたお」

(´<_` )(……レーダーも無しに見破った?)

 メメメオンはすぐさま見つかったことを悟り動き出す。
 これを逃がさず追跡。
 リュウジャは翼を広げ、アニジャの指示に忠実に従いながら飛んでいく。

 しつこく逃げるメメメオンだったが、リュウジャはその姿を捉えて離さない。
 二竜の距離は、擬態の光の歪みが肉眼で確認できるほどの距離まで来ていた。

( ´_ゝ`)(読める。風鳴りの音、フィールドの狭さ、訓練での傾向、これだけあればプギャーがどこへ行こうとするか手に取るように分る)

 審判からの、開始の合図が響いた。
 同時に、アニジャはリュウジャに火球を放つ指示を出す。
 素早く放たれた火球をメメメオンは左へかわした。

 追跡しながら一つ、二つと火球を放つ。
 左右に揺れてかわされるもメメメオンを逃しきることは無い。

197名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:48:27 ID:bBMJZxKE0

( ^Д^) 「……どういうことだ」

川 ゚ -゚) 「擬態は問題なく発動中。パターンも特定されないようにランダムにしている」

(・∀ ・) 「となるとこっちの癖を読んでるのか……」

( ^Д^) 「……」

 再び火球が一つ。
 右へ大きく下降し避ける。
 やはりリュウジャを引き離すことは出来ない。

(・∀ ・) 「ありえねえ話じゃねえか。エントリーのその日からほぼ毎日一緒に訓練してたんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「それに、こんな狭いところなら風鳴りや気流の感触でわかっても変じゃない。どっちにしろ頭おかしいけど」

( ^Д^) 「……行くぞ、メメメオン」

 火球を一つかわしたところで、メメメオンじゃ頭を支点に身体を横に滑らせる。
 振り向いた先に突っ込んでくるリュウジャに対して火球を放った。
 リュウジャは軽く身を捻ってロールし最小限の動きで回避する。

198名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:50:24 ID:bBMJZxKE0

 そのままの勢いで突っ込んでくるリュウジャに、プギャーはあえて立ち向かった。
 遠ざかるのがセオリーの擬態においては非常にイレギュラーな行為だ。

 アニジャも少々驚いた様子で咄嗟に左へリュウジャをそらした。
 かわそうとしたリュウジャにプギャーはあえてメメメオンを食いかからせる。
 口の先が防壁を僅かに削るだけに終わったが、奇襲としては中々の成功だ。

( ´_ゝ`)「おお?!」

 衝撃にアニジャは鞍の上で体勢を崩す。
 完全に予想外であった。
 プギャーは確かに短気な性格で、追い込まれると突っ込んでくるところがあったが、ここまで早い段階で行ってきたことは無い。

( ´_ゝ`)(まだまだ何でも読めるって訳にはいかないか)

(´<_` )「アニジャ、今の雑な攻撃を受けるなんてらしくないぞ」

( ´_ゝ`)「すまん、少し」

 リュウジャが離脱しようとするところを、メメメオンはしっかりと追ってくる。
 こうなると厄介だ。
 この範囲では速度で引き離すのは少々苦しい。

199名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:51:19 ID:mrJ1IDpQ0
もう次の話か!wktk
タイトルといい兄者といい不穏だ……

200名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:51:47 ID:bBMJZxKE0

( ^Д^) 「気にいらねえ」

 メメメオンの背中でプギャーは静かに呟く。
 視線の先には高機動で振り払おうとするリュウジャの姿。
 広い戦域ならばともかく、範囲の限られるここでなら十分についていける。

( ^Д^) 「気にいらねえ!」

 リュウジャの動きがが一瞬鈍った。
 この隙を全く見逃さず、メメメオンは火球を放つ。

(´<_` )「アニジャ!」

( ´_ゝ`)「え、あっ」

 この時、一瞬意識を別のことにそらしていたアニジャの反応は、通常よりもはるかに遅れた。
 火球は防壁をかすめ、衝撃波と紅の炎を撒き散らす。

(´<_` )「ッ!」

 リュウジャの身体は吹き飛ばされ、あわや場外というところで踏み留まった。
 オトジャが咄嗟に張り替えた防壁によってダメージはある程度軽減したものの、背中にいた兄弟も多少のダメージを受ける。

201名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:53:29 ID:bBMJZxKE0

(´<_`; )「兄者、一体何を……」

 言いかけて、オトジャも気付いた。
 遠い空域にではあるが、一頭の竜が飛んでいる。
 色と形状からしてほぼ間違いなくボルトール。
 彼が飛んでいるということは、背中には間違いなくロマネスクが乗っている。

 アニジャはいち早くそれに気付き、意識を奪われたのだ。
 彼を、敵手として意識するあまりに。

(´<_`# )「兄者、い『いい加減にしろ、アニジャ』

 オトジャの声を塗りつぶしたのはドクオ越しに聞えたプギャーの声だった。
 いつの間に接続されたのか、ドクオ自身も戸惑っている。

( ^Д^) 『てめーの相手は誰だ、言ってみろ』

( ;´_ゝ`)「プギャー……」

( ^Д^) 『いつからてめえは、敵の目の前でそんな情けねえ飛び方をするようになった』

( ;´_ゝ`)「……」

202名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:54:37 ID:bBMJZxKE0

( ^Д^) 『今のもそう、俺達の背中を取ってからの攻撃もそう』

( ^Д^) 『てめえは、一度見つけたチャンスには、どんな時でも無謀でも必ず飛び込む奴だったはずだ』

( ;´_ゝ`)「何が言いたい」

( ^Д^) 『お前、いつからチャンスに様子見するような腑抜けになっちまったんだ?なぜあんなやる気のねえ攻撃をしてきた』

( ^Д^) 『それとも、俺は本気を出すに値しない、肩慣らしに扱う雑魚に過ぎなかったか?』

( ;´_ゝ`)「……」

( ^Д^) 『お前になら、負けてもいいと思ってた。全力で戦って、文句も言えず叩きのめされてな。でも、止めだ』

( ^Д^) 『俺がお前を捻り潰す。二度と腑抜けた考えを起こさないよう、徹底的に』

 それだけ残し、通信は一方的に切られた。
 アニジャの視線の先でこちらを睨みつけていたメメメオンの体が空に溶けるように姿を消す。
 レーダーからも完全にロストしていた。

( ;´_ゝ`)「俺は、別にプギャーを雑魚だなんて」

 口では否定しながらも、思い当たるところはある。
 頭の中はいつの間にかプギャーを唯の通過点として考えていたのだ。
 これを、今は敵であり、友であるプギャー自らに見抜かれてしまった。

203名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:55:19 ID:bBMJZxKE0

( ^Д^) 「クール、ツン。例のやるぞ。急ピッチで準備しろ」

川 ゚ -゚)ξ゚⊿゚)ξ「了解」

(・∀ ・) 「少し、きつく言い過ぎたんじゃねえか」

( ^Д^) 「ケケケ。俺は策士だからな。これでアイツが落ち込んでもブチキレても儲けだ」

(・∀ ・) 「……」

 しかし、ぶつけた言葉に一切の誇張も嘘も無い。

 前日のニダー組との戦いを見た時点でプギャーは確信した。
 アニジャは自分とは違うのだと。
 まるで勝つことしか見えていないような迷いの無い飛行。
 その姿を純粋に尊敬し、そして嫉妬した。
 
 それでも良かったのだ。
 アニジャよりも以前に、もっと大きな才覚の差に打ちひしがれたことは山ほどある。
 だから、諦めたり投げ出したりせず、精一杯食らいついて勝負を決めてやろうと意気込んでこの時を迎えた

 それが。
 その先に待っていたのが。

 自分を敵としても認識していないような、友のふざけた姿。
 尊敬したのとも、嫉妬したのとも違う、情けない翼。

204名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:56:34 ID:bBMJZxKE0

川 ゚ -゚) 「全行程安定」

(・∀ ・) 「擬態補助魔法準備完了」

ξ゚⊿゚)ξ「デコイパルス発進準備完了」

( ^Д^) 「さーて、メランコリーな心情描写タイムは終わりだ」

( ^Д^)「高高度へ到達と同時にゴーストシステム起動。同時に、敵騎を強襲する」

 メメメオンが上空へ昇ってゆく。
 リュウジャは先ほどまでと違いメメメオンを完全に見失っているのか、警戒しながら空域を探っていた。
 どうやら罵ったのが効いているようだと、複雑な感情を胸に溜める。

ξ゚⊿゚)ξ「目標高度到達」

( ^Д^) 「……相棒すまねえ。少しでいい、俺の意地に付き合ってくれ」

(・∀ ・) 「死なない限りは付き合ってやるよ、しかたねえ」

 プギャーは手綱を短く持ち直した。
 またんきもそれに倣い、姿勢を低くし鞍のハンドルにしがみ付く。

( ^Д^) 「ゴーストシステム、発動。あのむかつく鼻をへし折るぞ」

205名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:58:18 ID:bBMJZxKE0

 一度見失ったメメメオンを探し出すのは困難であった。
 相手が本気になれば羽音を抑えながら、リュウジャとの距離を取ることは十分に可能なのだから。
 しかし、その膠着状態は、メメメオン本人によって破られた。

( ^ω^)「敵騎感知、上空に、お?!」

(´<_`; )「……これが、昨日牛頭荒王にかまそうとしてた技か」

 ブーンの反応に、上空へ視線を向けた兄弟は額に汗を浮かべる。
 確かにそこにはメメメオンがいた。

 ただし、その数、三。

 見た目も大きさも同じカメレオンのような竜が三頭、こちらを見下ろしていた。

(´<_`; )「恐らく擬態魔法を応用して実体のないゴーストを作り出してるんだ。ドクオ」

(;'A`) 「ダメだ、どれにも実体情報がある。俺とブーンじゃ見抜けない」

( ;´_ゝ`)「ッ来るぞ!」

 三頭がやや距離をとりながらも、固まったまま突っ込んでくる。
 どれかに実体があってどれかには無い。
 空気の歪みまで再現されており、必死で目を凝らし見極めようとするが全くもって分らなかった。

( ;´_ゝ`)「いったん退避する!何とか対策を」

 指示を出す前に、追ってくるメメメオンが三つの軌道に分かれた。
 地面へ向かうアニジャを追うように一頭。
 そして左右に開き範囲ギリギリに下降する二頭。

206名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:59:40 ID:bBMJZxKE0

 アニジャは意を決しリュウジャを反転させた。
 そして真っ直ぐ直進してくるメメメオンに火球を放つ。

( ;´_ゝ`)「かわした!あれだ!」

 真正面から火球を受けたメメメオンは身体を捻って火球をかわした。
 見抜かれたと悟ったのか、軌道を変え上昇に転じる。

( ;´_ゝ`)「逃がすな!」

 リュウジャの口に火球が蓄えられた。
 三発を連続で、逃げるメメメオンに放つ。
 しかし。

( ^Д^) 「はっずれー!」

 真横から、偽者と判断したメメメオンの突進を食らった。
 防壁が破られ、二竜の体がぶつかり合う。

 僅かに残った視線の先、逃げていたメメメオンの身体を火球がすり抜けていくのが見えた。
 騙された、火球をかわすまでがフェイクだったのだ。

 突進を成功させたプギャーはすぐさまメメメオンを離脱させ、通常の擬態で姿を消した。

207名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:01:13 ID:Zjx4ZU4Y0

( ;´_ゝ`)「ブーン!」

( ^ω^)「ダメだお!ステルスが更に強力になってる、せめてもっと近づかないと!」

(´<_` )「またんきが擬態魔法に手を加えてるな……ちょっとやそっとじゃ破れんぞ」

( ;´_ゝ`)「くそっ!」

 アニジャは一先ず地上付近へ向かって逃げた。
 上よりも体力を消耗せずに済み、尚且つ相手が飛び込んでくる方角を限定できる。

 しかし、これも。

( ^Д^) 「癖を知ってるのはそっちだけじゃねえよ」

 そろそろ地上というところで目の前に突然メメメオンが現われた。
 慌てて回転し、一気に頭を上に向け逃げようとするが、そこにもメメメオン。
 咄嗟に咄嗟を重ねたアニジャの手綱による指示はリュウジャを混乱させ、左手への転換がやっとだ。

( ^ω^)「!?違う、本物は……」

 一先ず安定を取り戻したリュウジャの顎が、真上へ跳ね上げられる。
 僅かな光の歪み。
 姿を消したままの本体が、ダミーを二つ使って自分の場所に誘導したのだ。
 慌てさせることで咄嗟の癖を引き出されるため、奇抜な行動で何とかできることではない。

208名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:02:54 ID:Zjx4ZU4Y0

(´<_`; )「正直な感想を言う。今のメメメオンは今まで戦ったどれよりも厄介だ」

 それこそ、犬神行部よりも。
 アニジャたちの得意戦法を知っているというアドバンテージはもちろんのこと、騎手と騎竜の相性が合致しすぎている。
 卑怯、もとい罠を仕掛けるなどの狩猟的な戦術に限れば、プギャーは群を抜いているのだ。

( ;´_ゝ`)「どうすりゃいい、何か手は無いのか!」

 今度は上空へ一気に飛び去り何とか距離を取ろうともがく。
 しかし、リュウジャは先の攻撃でいくらかダメージを負っており、最高の速度は出せない。
 それなりの機動力を持つメメメオンを十分に引き離すことは出来ないだろう。

(´<_`; )「……向こうは恐らく、人も竜も総動員して今の状態を維持している。そう長くは使っていられないはずだ」

( ;´_ゝ`)「時間を稼げば、勝てる?」

(;'A`) 「殆ど予想の値だが、人間であるまたんきの魔力はもう10分も持たない」

(;'A`) 「更に言えば、妖精と直接リンクしてやっているなら更に数分は縮むと、思う」

( ;´_ゝ`)「……分った、こっちから仕掛けよう」

(´<_`; )「兄者?」

209名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:05:25 ID:Zjx4ZU4Y0

( ;´_ゝ`)「大丈夫。自棄になったわけでも、勝負を捨てたわけでもない」

( ;´_ゝ`)「俺は、プギャーにあんなことを言わせちまった。ここで逃げ回って勝つようなことはしたくない」

( ^Д^) 「……そいつは結構だが、そもそも俺が逃げ回るようなことを許すと思うか?」

 メメメオンはすぐ傍に迫っていた。
 口を開き、他の竜に比べれば控えめな牙で噛み付きにかかる。
 リュウジャは体ごと翼を引き上げ、後転しそれをかわすが、直近を過ぎたはずの攻撃には音が無かった。

 姿を消していた本体の、砲弾のようなタックル。
 背に乗るオトジャたちを避け、腰のあたりを狙ったそれはリュウジャに痛烈なダメージを与えた。
 完全に飛行を乱し落ちるリュウジャを、メメメオンは再び三体になって追う。

 何とか意識を取り戻したリュウジャは、落下の勢いのまま地上へ向かって飛行を開始。
 メメメオンを振りほどきにかかる。

( ;´_ゝ`)「これ以上やられて溜まるか、リュウジャ、オトジャ、行くぞ!」

 アニジャが手綱を引き、リュウジャは身体を上へ向ける。
 そして、落下の反動を振り払う様に飛行魔法を全開にし、同時に身体を炎で包み込んだ。

 不死鳥が復活し飛び立つように、巨大な火の鳥が空へ向かって飛び上がる。
 突進魔法の効果を全開、範囲を出来うる限りに広げ、翼を広げたまま、身体を螺旋回転させた。

210名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:06:23 ID:Zjx4ZU4Y0

 流石に戦域の端から端には全く満たないものの、通常の三倍ほどまで広がった翼。
 かわそうとしたメメメオンを巻き込み、弾き飛ばす。
 またんきが擬態魔法に力を裂いていたため、防壁はいとも簡単に削れ、騎手を庇った右の翼手が焼け焦げた
 体から細い煙を上げながらメメメオンは落ちてゆく。

 賭けに近い攻撃ではあったが、功を奏した。

( ;´_ゝ`)「まだだ、畳み掛けろ!逃がすな!」

 ダメージを受けただけあってメメメオンの擬態能力は大幅に下がっている。
 ブーンはレーダーでメメメオンとそれに連結している妖精に二体とまたんきを捕捉。
 ドクオはブーンを媒介に妖精に干渉、この場合はブーンのレーダーを乱しているツンへハッキングを仕掛けた。

 リュウジャは火球を四発射線を散らしながら連続で放つ。
 メメメオンはくるくると回転して切り替え、旋回降下する要領でかわしきった。

 同時にブーン、ドクオの干渉も失敗。
 回線を切られ、再びメメメオンは姿を眩ませる。

 しかし、ここまではまだ予想の範囲内。

( ;´_ゝ`)「いっけぇ!リュウジャ!」

 火球を放った後、間髪おかず魔力を溜めていたリュウジャは、地面へ向かって爆破魔法を放つ。
 オトジャがドクオを通じサポートすることで、リュウジャ単体で放つよりも速度威力ともに向上。

 数秒と待たず地面に到達した火の雫は波紋の代わりとばかりに空間を歪ませる。
 両の耳孔が繋がってしまうかと思うほどの、轟音。
 戦域を囲うように設けられた防壁がそのエネルギーを全て上へと誘導し、痺れる波動がアニジャたちを襲った。

211名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:09:11 ID:Zjx4ZU4Y0

(´<_`; )「おおおおおお!」

 オトジャが全力の防壁魔法で衝撃波を軽減。
 無論押さえきれるわけも無く、リュウジャの身体は木の葉のように空へ巻き上げられた。

( ;´_ゝ`)「……」

 制御の追いつかない激しい回転の最中、アニジャはメメメオンを探す。
 予想が正しければ……。

( ^ω^) 「敵騎反応!上にいるお!」

 プギャーは、リュウジャが爆破魔法を使おうとした時点で、どうするのか気付いたはず。
 そうすれば必然的に上へと逃げる。

 擬態が解け、そのままの姿となっていたメメメオンは、意を決したのか落ちるように仕掛けてきた。
 爆発の余波によって気流の乱れる中を、真っ直ぐにリュウジャを目指す。
 リュウジャはそれを火球二発で迎え撃った。

 しかし。

 二発の火球は、メメメオンをすり抜ける。

212名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:10:27 ID:Zjx4ZU4Y0

( #^Д^) 「ッッッ!」

 最後の最後で、ステルスが通常のものに戻った。
 しかしここまでくれば関係ない。
 構わず、プギャーはリュウジャへとメメメオンを突っ込ませる。
 防壁もないため、強烈な風圧が顔の肉を波打たせた。

 アニジャが、自分が上へ逃げると読むと信じていた。
 だからこそダメージを受ける覚悟で高度を低めに保ち、上空にデコイを出現させ、本体はリュウジャの横腹を狙うことが出来た。

 衝突の寸前、メメメオンとは逆の方向へリュウジャの体が倒れた。

 意識を失った?
 違う。

 奇襲としてのタイミングも、速度も申し分なかった筈だ。
 それなのに。

( ;´_ゝ`)「ッ!」

 リュウジャの背中にいるアニジャの目は、間違いなくプギャーを捉えている。

( #^Д^) 「?!」

 髪の一本、紙の一重すら入らない極僅かな時間の隙間。
 食らいつきにいったメメメオンの顎を、リュウジャの尾の根元が跳ね上げる。

213名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:12:14 ID:Zjx4ZU4Y0

 メメメオンの突っ込んだ慣性をそのまま、二竜は絡まりあって落ちる。
 互いの騎手は手綱を引いて、なんとか竜同士を引き離した。

( #^Д^) 「まだだ、まだ負けてねえ!」

 脳を酷使したまたんきは意識を失いかけ、辛うじて鞍にしがみ付いていた。
 メメメオンもダメージの連続で擬態魔法を安定して使うだけの状態には無い。

川 ゚ -゚) 「プギャー、お前達はよくやった。もう、降参しろ」

( #^Д^) 「嫌だ。俺は、あいつら以外の誰にも負けたくない」

ξ゚⊿゚)ξ「ならいいじゃない、アニジャたちに負けるなら……」

( #^Д^) 「降参なんざ!自分に負けるのと一緒だろうが!」

 それに。

( #^Д^) 「俺は誰よりもあいつらに勝ちてえんだよ!!」

(・∀ ;) 「よく言った、相棒。もう一発かますぞ」

( #^Д^) 「またんき、お前はもう無理だ、休んでろバカ」

(・∀ ;) 「うるせえ。負けてもいいだなんだ、らしくねえ強がりほざきやがってこのバカが。後一発くらい、俺にもやらせろ」

214名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:14:06 ID:Zjx4ZU4Y0

( ^ω^)「敵騎レーダーから喪失。再びステルスに!」

(´<_`; )「兄者!」

( ;´_ゝ`)「分ってる!」

 落ちかけていたメメメオンから離れるため、上空へ。
 完全ステルスは接近したところで簡単に見破れる物ではない。
 ならば、距離を取って、こちらから範囲の広い攻撃をカウンターを合わせる。

 限界高度でキープ。
 下を見下ろすが、やはり姿は見えない。

 だが、分る。

( ;´_ゝ`)「来るぞ!」

 アニジャの叫びと同時、四頭のメメメオンが現われた。
 戦域ほぼ中央に位置取るリュウジャに対し、四方から襲い掛かる。

( ;´_ゝ`)「決めるぞ、リュウジャ!オトジャ!」

 リュウジャの身体を炎が飲み込んだ。
 限界値まで魔力を注ぎ込み、再び巨大な炎の鳥となる。

215名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:15:11 ID:Zjx4ZU4Y0

( ;´_ゝ`)「……そこだ!」

 四頭のメメメオンを無視し、リュウジャは真下へ向かって軌道を取った。
 身体を激しくロール。
 振り回される炎の翼は、四頭のメメメオンには掠りもしない。

 しかしそれでいい。
 本体はステルス状態で真下にいるはずだ。
 より加速をし、回転を早める。

 確かにそこには、メメメオンがいた。

( ;^Д^) 「くそが!!」

 プギャーは、見切られても尚、突進を止めなかった。
 巨大な火の鳥と化したリュウジャに正面から望む。
 回転を見切り、回転に機動を合わせ、すり抜けるように回避した。

 メメメオンの腰を掠める炎。
 吹き飛ばされるも、すぐに身体を切り返しリュウジャを追った。
 出来の悪いゴーストを量産。自身のステルスはまたんきの失神と同時に諦める。

川 ゚ -゚) 「プギャー!これで本当に最後だぞ!」

ξ゚⊿゚)ξ「男でしょ!意地見せるなら貫きなさいよね!」

( #^Д^) 「おらああああああああ!」

216名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:16:20 ID:Zjx4ZU4Y0

 デコイに紛れ、リュウジャへ突進する。
 リュウジャは炎を振りほどき向き直り、上昇。
 正面衝突へと向かう。

( #^Д^) 「おおおおおおおお!」

( ;´_ゝ`)「ッ!!」

 プギャーは防壁も無い状態で顔の肉を靡かせながら特攻。
 反面リュウジャは防壁を強化し、体当たりの強行突破。

 衝突の寸前リュウジャは防壁を捨てメメメオンの背後に回りこんだ。
 しかし、これを読んでいたプギャーはリュウジャの捨てた防壁を足場に真正面に切り返す。

( #^Д^) 「決めろメメメオン!」

 メメメオンが、全力の火球を放った。
 リュウジャとの間合いは近い。
 相手の奇襲に奇襲を合わせた今ならば、確実に当たる。

 はずだったのだ。

217名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:17:14 ID:Zjx4ZU4Y0

( ;´_ゝ`)「おおおおお!」

 リュウジャは防壁を消し、正に紙一重、火球をロールしてやり過ごした。
 それと同時に、リュウジャが頭を振り上げる。

 読んだ先を、更に読まれた。
 プギャーにはもう手が無い。

( ;´_ゝ`)「らあ!」

 放たれたのは、魔法もくそも無い、超原始的な頭突き攻撃。
 かわし切れなかったメメメオンは頭同士のかち合いだけを避け、首元にそれを受けた。

 三つの目が、ぐるりと白目を剥いた。
 完全に意識を失い、戦闘不能。

(  Д )

(  _ゝ )

 プギャーとアニジャの視線がかち合ったのと同時。
 飛行魔法が解けたメメメオンは、ゆっくりと落下を始めた。

218名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:19:10 ID:Zjx4ZU4Y0

( ;´_ゝ`)「リュウジャ!」

 落ちるメメメオンの身体に、リュウジャが必死で掴みかかる。
 リュウジャもまた憔悴しきっており、メメメオンを支えたまま飛行を行うのは不可能だ
 しかし地面はまだ、先ほどの爆破は魔法で燻っており着地は出来ない。
 同じ理由で、係員が魔法で受け止めるというのも苦しいだろう。

( ;´_ゝ`)「くそ、耐えられない!」

 二竜共々落ちそうだ、となったその時、リュウジャの足からメメメオンが離れた。
 突然軽くなった感触にアニジャは背筋を寒くしたが、すぐに安心する。

 目の前に浮かび上がったのは、気を失ったメメメオンを細くも頑強な前足で抱える黒竜。
 剣のような一本角と、血のように赤い鬣を持つボルトールだ。
 背中にはロマネスクとデレの姿も見える。

( ФωФ)「間に合ったようであるな」

( ;´_ゝ`)「す、杉浦」

( ФωФ)「問題かとも思ったが、勝負はついていたようだったのではせ参じたである。要らぬ世話だったか?」

( ;´_ゝ`)「いや、助かった。すまん」

( ФωФ)「構わぬ。こちらが勝手にやったことである」

  **  **  **

219名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:20:50 ID:Zjx4ZU4Y0

 そこからしばらく空中待機が続き、やっと地面の消火が行われてからリュウジャとボルトールは地面へ降り立った。
 メメメオンは失神。プギャーは無事だったが、またんきが鼻と目から出血していた。

 妖精との連結、竜と同期した魔法の使用によって脳のキャパシティを越えてしまったのである。
 プギャー共々すぐさま医療班に運ばれていった。

 アニジャとオトジャも、その後に医療班に連れ去られた。
 軽症ではあるが、怪我をしていたので一応甘える。
 魔法による治療を受ければすぐに治るだろう。

 そしてその、仮設で設けられた診療所のテント。

( ^Д^) 「チッ、バツが悪いな」

(´<_` )「そういうな。この状況で一番居心地が悪いのはウチの馬鹿だ」

( ;´_ゝ`)「ま、またんきはどうなんだ?」

( ^Д^) 「脳が自分を守るために自発的に意識を落としただけなんだそうだ」

( ^Д^) 「尋常じゃない負担がかかったせいでしばらくは眠りっぱなしにはなるらしいが死んだりはしないらしい」

( ;´_ゝ`)「そうか……」

220名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:21:41 ID:Zjx4ZU4Y0

 アニジャは胸を撫で下ろす。
 またんきも三人と同じテントに寝かされていた。
 今は頭に色々な魔法の札を貼られながらも。息浅く眠っている。
 他の全員も治療は終わっているのだが、念のためしばらく待機しろ、と医者に言われたので大人しくしていた。

 うやむやになってしまったが、一応はアニジャたちの勝ちということで決着はついていた。
 よって、次は決勝戦だ。
 係員の話では午後からなのでゆっくりと身体を休めて欲しいとのことだった。

( ^Д^) 「あー、しかし、勝てると思ったんだけどなー」

( ;´_ゝ`)「ぷぎゃーその、なんだ。すまん」

( ^Д^) 「あ?勝ったこと謝ってどうすんだ」

( ;´_ゝ`)「そうじゃなくてな、その、試合中の……」

( ^Д^) 「ああ。あれ?別に気にすんなよ。マイクパフォーマンスみたいなもんだ」

( ;´_ゝ`)「でもさ」

( ^Д^) 「実際俺は、相棒をこんなに追い込んで、全部空っぽになるまで戦っても勝てなかった。それでいいじゃねえか」

( ^Д^)「ま、むかついたのは本当だけどな」

 ハイハイこの話終わり、ハイやめ、とばかりにプギャーがアニジャの目の前に手を出す。
 こういったところもこの男らしいといえば、らしい。

221名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:22:50 ID:Zjx4ZU4Y0

( ´_ゝ`)「でもちょっと、見直した」

( ^Д^) 「……おう。あんまり舐めると怒る系男子だから、扱いには気をつけろよ」

( ´_ゝ`)「うん、すまなかった」

( ^Д^) 「反省してるならチョコバナナ買ってこい。奢りな」

( ´_ゝ`)「それはまた別の話ではないだろうか」

 微妙にあった気まずさが無くなり、和やかな雰囲気になったのとほぼ同時、試合開始の合図が聞えてきた。
 にわかにそわそわし始めたアニジャに、

( ^Д^)「言ってこい」(´<_` )

 と友人と弟は言い切った。
 プギャーはまたんきの傍にいるため、オトジャは魔力を少しでも回復するため、出て行く気は無い。
 アニジャは悩むような振りをしてすぐさまテントを出て行った。

( ^Д^) 「分りやすい奴だ」

(´<_` ) 「全くだな」

222名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:24:08 ID:Zjx4ZU4Y0

(´<_` )「さて、どうなるかね、ジョーンズと杉浦は」

( ^Д^) 「恐らく杉浦が勝つんだろうが、ジョーンズも意地は見せるだろうな」

(´<_` )「レーヴァンテイルか。単なる火力なら相当なんだがな」

( ^Д^) 「それいったらお前、ジョーンズもオワタもカーチャンも、間違いなくエース級の組だぞあそこ」

(´<_` )「不幸な天才とはよく言ったもんだ

( ^Д^)+「凡才であることに勝る幸福は無いな」

(´<_` )「お前はお前で凡才ではないと思うけどな」

( ^Д^)+「流石だなオトジャ。俺の秘めた天才オーラに気付くとは…」

(´<_` )(早く起きろまたんき)

 二人が気だるい雑談に興じていると、アニジャが戻ってきてテントを開いた。
 第一声が、「勝負がついた」。

 二日目第二戦目。杉浦ロマネスクの勝利。
 その時間、大会最速記録の3分24秒という、前代未聞の早さであった。

223名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:24:55 ID:Zjx4ZU4Y0
 竜騎武闘組み合わせ表:決勝前

               ┌───────┴───────┐
               ┃                        ┃
               ┃                        ┃
       ×───┗━━━┓              ×───┗━━━┓
       ┃              ┃              ┃              ┃
       ┃              ┃              ┃              ┃
   ┌─┗━┓      ┏━┛─┐      ┏━┛─┐      ┌─┗━┓
   ×      ○      ○      ×      ○      ×      ×      ○
   牛     メ       リ       ド     レ      ヒ     ■     ボ
   頭     メ      ュ       l       l      ュ      ■     ル
   荒     メ       ウ      ペ      ヴ       ド     ■      ト
   王     オ     ジ     ル     ァ      ラ     ■     l
         ン     ャ     ゲ     ン                      ル
                       l     テ
                     ガ     イ
                             ル

224名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:26:25 ID:Zjx4ZU4Y0

 五話終わり
 プギャーとメメメオンの戦法は考えるのが本当に楽しいですね
 その気になればこいつらが最強だと信じて止みません

 次でラストの予定です
 期間内には書ききりたいので、あと少しお付き合いください。

225名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:27:30 ID:oiHD2qOsO
プギャー△

乙!

226名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:28:28 ID:/ePx..cI0
プギャーがカッコイイ……でもウザイ……
これはまたんきがカッコイイだけなのかもしれない
とにかく乙!
熱い展開ばっかりでwktkが止まらん

227名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:43:46 ID:ynve7Vf.0
乙!
戦闘シーンがかっこよくてたぎる

228名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 00:51:02 ID:ESzJ4SCg0
目が三つでメメメオンて名前が好きすぎる

229名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 01:47:51 ID:YNKDpQO6O
ω・)乙。プギャーに食われてないか?www

230名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 07:30:55 ID:1dlTlrJEO
またんきがかっこよすぎて濡れた。次でラストとか悲しいにもほどがあるよ。こいつらの活躍をもっと読ませてくれ。

231名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 12:25:20 ID:HUnNCqJU0
乙!
酉とか付けないのか?

232名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 12:37:51 ID:QXb7/AYI0
戦闘シーンマジでかっこいいなすげえ…!
乙乙!最後になるのもったいないけど、楽しみにしてる!

233名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 16:27:24 ID:dQC8HDUQ0
次で最後なのか…もうちょっと続いてもいいんじゃないかとか…

またんきクソカッケー!メメメオン組で主役張れるレベルに魅力あるよな
乙!次回も待ってる

234名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 00:33:28 ID:cdPIdN4A0

 どうも、さっきまでアヘ顔でこの話を書いていた人だよ。
 気付いたら日付が月曜だったよとんだポルナレフだね。
 しかもまだ書き切れて居ないんだってさとんだ蛆虫野郎だね。

 というわけで時間をオーバーしました。
 期間内連載及び完結という野望は崩れましたが、絵のURLを貼り付けるまでがラノベ祭りです(涙目)
 本日26の夜に必ず投下しにくるので、ここまでお付き合いいただいた方々は是非是非読みに来てね(土下座)

235名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 00:38:18 ID:1ZToaX06O
>>234
ω・)乙

236名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 01:34:52 ID:V0KwhjCY0
待ってる!

237名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:28:08 ID:6oUIiuFc0
(0°・∀・)wktk

238名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 21:34:11 ID:fGJQYDYk0
もうすぐかなwktktk

239名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:45:48 ID:cdPIdN4A0



          泳ぐ雲を追いかけて


          夕の赤に染められて


          瞬く星に神さまを見つけたりして


          何を見失っても


          見失わなかった物がある


.

240名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:46:30 ID:cdPIdN4A0


                ( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )


                     第六話: 双子の竜騎手。
 
 
.

241名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:47:59 ID:cdPIdN4A0

l从・∀・ノ!リ人 「姉者ー早く早くなのじゃー!」

∬´_ゝ`) 「ハイハイ、慌てなくてもお祭りは逃げないわよ」

l从・∀・ノ!リ人 「逃げなくても終わっちゃうのじゃ〜」

 VIPの広場へ通ずる道を、少女が駆けてゆく。
 年のころ十代の前半。
 幼さの中にも女性らしさが芽生え始めた蕾の頃である。

 それをやや遅れながら追う女性。
 こちらは二十台の中ほど。
 ウェーブのかかった長い髪が歩くたびにふわふわと揺れる。

l从・∀・ノ!リ人 「せっかくの兄者たちの晴れ舞台なのじゃ!ばっちり撮るのじゃ!」

 少女が首から紐で提げ、両手で抱えているのは魔法の写真機。
 この日の溜めに小遣いやら何やらを叩いて買った虎の子である。

 これで、愛して止まない二人の兄の活躍を記録するのだ。

242名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:49:08 ID:cdPIdN4A0

l从・∀・;ノ!リ人 「あーうー、やっぱり殆ど終わってるのじゃ……」

∬´_ゝ`) 「…………嘘、決勝に進出するの?あいつら」

l从・∀・;ノ!リ人 「もー!姉者のせいなのじゃ!せっかくの活躍を見逃したのじゃ!」

∬;´_ゝ`) 「そんなこと言われても、仕事だったんだから仕方ないじゃない」

 二人はサスガ兄弟の姉と妹。
 女性の方が姉のアネジャ、少女の方が妹のイモジャである。
 兄者たちから竜騎武闘に出場するという知らせを聞いて、観戦のために駆けつけたのだ。

 アネジャの仕事が押してしまったため二日目からになってしまったが、
 久しく会っていない弟達の顔を見られればいいかと一応は来てみた。
 するとどうだ、落ちこぼれと風の噂で聞いていた弟達が何だかんだ勝っているではないか。

l从・∀・*ノ!リ人 「でも、決勝戦には間に合いそうなのじゃ!バッシバシ撮るのじゃ!」

 うへうへ、と涎交じりに笑みを浮かべる妹の首根っこを掴み、アネジャは広場へと足を進めた。
 遠くから見える広場の上空には魔法によるビジョンが浮かび、ここまでの試合の映像とトーナメント表が表記されている。
 端に小さく表示されている情報を信じるならば、今から行われるのはアニジャたちの決勝の相手を決める試合らしい。

l从・∀・*ノ!リ人 「どこぞの馬の骨の試合なんか知らんのじゃ!兄者たちに会いに行くのじゃ!」

∬´_ゝ`) 「ダメだって、迷子になるし、控え所には関係者以外は入れないんだから」

243名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:49:57 ID:cdPIdN4A0

l从・∀・*ノ!リ人 「いやじゃ!会いたいのじゃ!」

∬;´_ゝ`) 「ああもう、なんでこう、アニジャたちのことになると子供返りしちゃうのかな」

 イモジャは、両親が失踪する丁度一年前に生まれた子供だ。
 親も無い状況で、叔父の世話になりながらも、姉弟四人で何とかやってきた。

 親がいないながらも、グレずに育ってくれたイモジャであったが、問題が一つだけある。
 兄弟がずっと世話してきたせいか、気付いたときには彼女は無類のブラコンになっていたのだ。

∬´_ゝ`) 「あんまりわがまま言うと、アニジャたちだって困るわよ」

l从・∀・ノ!リ人 「それはダメなのじゃ、イモジャ重くない女でいたいのじゃ……」

∬´_ゝ`) (どこでこんな言葉覚えてくるのかしら……)

 広場につくと人がにわかに増え、モニターがよく見えるところにたどり着くのすら困難。
 手を繋いでいても逸れてしまいそうだったため、イモジャを肩車し人ごみを掻き分ける。
 道中、自分やイモジャの腰元に伸びた手の指を数本外しながら、なんとかモニターの前を陣取った。

l从・∀・ノ!リ人 「うーん、モニター越しだと上手くうつらなそうじゃ」

∬´_ゝ`) 「飛び立つ前と戻ってきたところを撮りなさいな」

l从・∀・ノ!リ人 「そうするのじゃ」

244名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:50:00 ID:u/0L7xn60
来た!
支援

245名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:51:37 ID:cdPIdN4A0

 肩車したまましばらくモニターに流れるダイジェスト映像を眺めていると、それが消え画面が切り替わった。
 上空のそれから地上に視線を戻すと、駄々広い広場の中に二頭の竜が出てきている。

l从・∀・ノ!リ人 「でっかい竜なのじゃ」

 既に騎手を乗せた二頭の内、赤いほうが先にと地面を飛び立った。

 イモジャは飛んできた祭りの配布パンフレットを掴んで目を通した。
 モニターに出ている騎手の情報と照らし合わせるに、赤い竜の名はレーヴァンテイル。

 兜を被ったようにつるりとした頭と、対照的に角ばった大顎。
 剥き出しの牙と爛々と輝く金色の瞳が、彼の闘争心の高さを表わしている。
 そして最も注目すべきは。

∬´_ゝ`) 「何と言っても、あの尻尾の大剣よね……。恐らく、剣竜の血を受け継いでいる……」

∬´_ゝ`) 「ベースを火竜しつつ、地竜である剣竜の要素で、近接戦のパワーと耐久力を実現……」

∬*´_ゝ`) 「なんてうっとりするほどの戦闘特化なのかしら……交配技術ここに極まれりね……」

 イモジャがブラコンならば、アネジャは重度の竜好きだった。
 ずっと竜厩舎で働いているせいもあり竜を見ただけで三代前の種まで見抜くことが出来る。
 竜と結婚できる法律が出来なければ、一生独身ではないかと弟妹共々心配しているほどだ。

246名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:52:30 ID:6oUIiuFc0
よっしゃ!
大音量で女々しくてを聴きながら熟読するぜ!

247名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:53:08 ID:cdPIdN4A0

 次に戦域に飛び上がったのは、黒雷竜ボルトール。
 剣の如き鋭さを持つ一本角と靡く赤い鬣。
 尾の先には無造作に振るっただけで岩を砕けそうな、頑強なハンマーヘッドが備わっている。
 レーヴァンテイルに対し、こちらは落ち着きのある、冷徹な顔をしていた。

∬*´_ゝ`) 「ああ、すっごい、あれが噂のボルトールね」

 イモジャを肩車したままアネジャは身体をくねらせた。
 慣れた様子の妹はその頭を叩いて解説を要求する。

∬*´_ゝ`) 「あの角の形状と赤い鬣は、麒麟とも呼ばれる希少種、一角種が由来ね」

∬*´_ゝ`) 「ベースは、雷竜種。鱗の黒さがその証拠。雷竜は何度も見たけれど、あんなに深い黒の竜は中々いないわ」

∬*´_ゝ`) 「そしてあの尾。石竜種の中でも珍しい尾槌竜の遺伝ね……凄いわ、まるで希少種の見本市みたい」

l从・∀・ノ!リ人 「そんなに凄いのじゃ?」

∬*´_ゝ`) 「どちらの子もね。それぞれの特性がはみ出さず一個の竜としての枠にしっかり収まっている……!」

∬*´_ゝ`) 「ああ、もう!やっぱり無理して来てよかったわ!」

l从・∀・;ノ!リ人(兄者達に会いにきたんじゃ……)

∬*´_ゝ`) 「あとで厩舎見学させてもらお!脱皮の殻とか貰おう!」

l从・∀・;ノ!リ人(アニ兄者、オト兄者元気ですか?妹は今姉に本気で引いています)

248名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:54:11 ID:cdPIdN4A0

 興奮するアネジャを飲み込むように、会場が沸いた。
 試合開始の合図が放たれたのだ。

 二竜は、待機の間も静かに睨み合い全く位置取り合戦をしなかった。
 申し訳程度に翼を揺らしながら飛行魔法によって帯空。

 そして、合図と同時に、がっぷりと組み合った。

 前足で相手の前足をつかみ合い、空中での力比べ。
 純粋な力ではややレーヴァンテイルが有利か。
 ボルトールは少しづつ下に押さえ込まれてゆく。

 ここで黒竜は方針を転換。
 ボルトールは身体をつの字に折り曲げ、後ろの両足でレーヴァンテイルを蹴り飛ばした。
 つかみ合っていた前足は引き離され、両者は弾きあい距離を取る。

 かなり重い音がしたが、レーヴァンテイルに殆どダメージは無さそうだ。

l从・∀・ノ!リ人「アネジャ、どっちの方が強いのじゃ?」

∬´_ゝ`) 「一概には言えないけど、そうね。この限定された空間で戦うと考えると、赤い方が有利かも知れない」

 しかし。

∬;´_ゝ`) (動き始めた瞬間分った。あの黒竜、冷静な顔をしているけど、とんでもない暴虐性を秘めてる)

∬;´_ゝ`) (あれを、乗りこなす人間が、いるの?)

249名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:55:16 ID:cdPIdN4A0

 ボルトールは距離を取ったところから、身体で反動をつけ、上空へと飛び上がる。
 ここで気付いたが、先ほどまで晴れていたはずの雲が急に曇りだしていた。

∬;´_ゝ`) (天候に干渉できるほどの魔法力?ますますもって候補生が乗り回していい竜じゃないわ)

 空に餓えた獣が潜んでいるようだ。
 黒さを増す雲はゴロゴロと腹を鳴らし、その中には既に稲光が見えた。

 そして。

 耳を劈くとは正にこのこと。
 警戒していても首を縮めてしまうほどの音が周囲に鳴り響いた。
 同時に、目の焼けるような激しい閃光。
 辛うじてイモジャが見たのは、雲から伸びた雷光がレーヴァンテイルを捉えたところだった。

∬;´_ゝ`) 「凄い、なんて火力なの?」

 レーヴァンテイルは特殊な防壁で雷を何とか受け流している。
 とは言え、それもいつまで持つか分らない。
 人知を超えた電流は、導体と絶縁体を二重に重ねた障壁をも侵食してゆく。

 だが、レーヴァンテイルは初めから受けに回るつもりは無かった。
 尾の剣が紅蓮に発光し、膨大な熱の塊が圧縮されてゆく。
 周囲が歪んで見えるほどの高温。
 こちらもまた、そこらにいる唯の竜ではない。

250名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:56:26 ID:cdPIdN4A0

 強化拡大した防壁を盾に、レーヴァンテイルは浴びせられる雷撃を弾きながらボルトールに襲い掛かる。
 防御、あるいはカウンターを当てるため、ボルトールは前傾姿勢で構えた。

 レーヴァはボルトールの目の前で前転。
 遠心力とともに大剣をボルトールに振り下ろした。
 
 ボルトールもそれに合わせるよう、落下しながら側転。
 形状の違う、共に頑強な尾がぶつかり合った。
 金属同士が打ち鳴らす残響。

 剣の腹を叩かれたレーヴァは、攻撃を当てることも出来ず体制を大きく崩した。
 少々反動で下がったボルトールはすぐに目標のレーヴァンテイルに突撃する。
 自身の背に雷を落とし、その力を全身にループさせ青く発光、前足でレーヴァを捉えにかかった。
 まともに掴まれば、溜まった全電流の餌食だ。

 対するレーヴァンテイルも全身に濃密な炎を纏い、ボルトールを真正面から受け止める
 ぶつかりあう稲妻と炎。青と赤。
 高エネルギー同士が反発し合い、空間そのものが歪むほどの余波が周囲に撒き散らされた。

 この膠着を破るのは、青を纏うボルトール。
 彼にはいまだ充電を行うかのように次々と雷が降り注いでいた。
 それを受け止める、青い魔方陣。よく見ればそこで圧縮されたエネルギーが、次々と角に集まっている。

251名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:57:32 ID:cdPIdN4A0

 決まる。
 声も無く、息を呑んで見守る観衆の仲、アネジャは直感でそう判断した。

 ボルトールの角に集まった電気が更に圧縮され、全てを侵食する光の帯となって放たれた。
 拮抗する両者の力の境目をいとも容易く貫き、そのままレーヴァンテイルの肩口を大きく抉り抜く。
 
 レーヴァンテイルは、辛うじて耐えようとした。
 しかし、目の前に今尚迫るボルトールの圧力には手負いでは叶わない。
 瞬く間に押し切られ、全身に高圧の電流を注ぎ込まれる。

 落ちるレーヴァンテイル。
 意識はまだ保っているようだが、戦闘は不可能であるように見えた。
 だが、諦めずにその口から、高威力の熱戦を放つ。

( ФωФ)「その活きや、よし」

 ボルトールは音より速いそれをひらりと回避し、高速でレーヴァンテイルを追跡。
 そして、ギリギリで滞空するその胸に、尾のハンマーを思いっきり振り下ろす。

 甲高い音と共に衝撃が波紋を作った。
 レーヴァンテイルの身体を蹂躙しつくした稲妻が、行き場を失いハンマーとの接触点からあふれ出す。
 混ざり合った波動と雷光が戦域を囲む防壁を強く痺れさせた。

 直接それを受け止めたレーヴァンテイルの状態は確認するまでも無い。
 騎竜ボルトールと、騎手ロマネスクの、圧勝であった。

252名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:58:27 ID:cdPIdN4A0

l从・∀・ノ!リ人「ほえー、すんごい強いのじゃ。兄者一筋……兄者二筋のイモジャも浮気しそうなのじゃ!」
l
从・∀・ノ!リ人「でもやっぱりアニジャたちのほうがカッコいいのじゃ。楽勝なのじゃ。ね、アネジャ?」

∬;´_ゝ`)

l从・∀・ノ!リ人 「どうしたのじゃアネジャ?惚れちゃったのじゃ?」

∬;´_ゝ`) 「え?あ、うん、何でもないの」

l从・∀・ノ!リ人「いつもよりちょっと変なアネジャなのじゃ」

 アネジャは、地に降り立ち、目の前の観客で見えなくなったボルトールの姿を反芻していた。
 剛く、疾く、そして容赦ない。
 惚れるよりも先に、自然と畏怖の感情が沸きあがってくる。

 竜騎武闘では騎手の生死を問わないのだという話を聞いたことがある。
 もちろんそれは建前だ。
 実際は出来うる限りのサポートをし、その命を守っている。
 何より、たとえ騎手であろうと竜で人を攻撃することはタブー視されているため、死人が出ることは滅多に無い。

∬;´_ゝ`) (……でも、恐い。アニジャ、オトジャ、あんた達、本当にあれと戦うの?)

  **  **  **

253名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 22:59:09 ID:cdPIdN4A0

( ´_ゝ`)「戦域を変える?」

 ボルトールと戦う決勝まで二時間を切ったところで、アニジャは係員にそう告げられる。
 場所はリュウジャの負ったダメージの確認と、用具の点検のために訪れていた架設の厩舎。
 
( "ゞ) 「とは言え、まだ決定ではないのです。杉浦騎手から申し出があっただけなので」

( ´_ゝ`)「杉浦が?」

( "ゞ) 「はい。両者間で合意がなされれば、こちらとしては全力で準備いたします」

( ´_ゝ`)「つまり、俺が了承すれば、もっと広いところで戦える、と?」

( "ゞ) 「そうですね。いかがなさいますか?」

(´<_` )「いいじゃないか、受けよう」

( ´_ゝ`)「……そうだな。俺達からも、お願いします」

( "ゞ) 「分りました。設定域など決まりましたら連絡いたします。少々、用意が前倒しになるかと思いますが、ご容赦ください」

 恭しく頭を下げて、係りの男は去っていった。
 アニジャはそれを見送って、リュウジャの首に手を触れた。
 リュウジャは今、催眠魔法でゆったりと眠っている。

254名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:00:24 ID:cdPIdN4A0

( ´_ゝ`)「ドクオ、リュウジャのダメージは?」

('A`) 「現時点で7割回復。出立までには間に合うと思われ」

( ´_ゝ`)「速いな。流石国直属の医療班だ」

(´<_` )「ちなみに、魔力は?」

('A`) 「ちゃんと安静にしていれば八割以上は硬い。九割近く回復すると思っていいぞ」

 戦うには十分な値だ。
 少々ダメージを受けすぎていたが、何とかなりそうでほっとする。

( ´_ゝ`)「次は、もっと痛くないよう上手く戦おうな」

 寝ているリュウジャの首を優しく撫でた。
 瞼をひくつかせながらも、熟睡している。

(´<_` )「アニジャ、今の内に打ち合わせを進めよう」

( ´_ゝ`)「うん。ドクオ、ブーンもおいで」

255名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:01:17 ID:cdPIdN4A0

 厩舎の前に椅子を置き向かい合う。
 アニジャの肩に、妖精の二人が止まった。

 打ち合わせ、と言ってもボルトールは素直な性能の竜だ。
 ドーペルゲーガやメメメオンに比べれると、事前の準備で対策を練れられる部分は少ない。
 確認すべきは、容量の限られるドクオのハッキングと、オトジャの魔法をどう振り分けるか。

(´<_` )「耐雷用の防壁は問題なく使える。単なる雷撃はそれほど警戒しなくてもいいかもしれん」

( ´_ゝ`)「そうなんだけど、恐いには恐いよな。ボルトールは雷撃だけじゃないから」

 雷撃は、その性質上通常の防壁では抜けてくることが多々ある。
 そのため防ぎながら受け流す特殊な防壁が必要なのだ。
 しかし、その防壁は通常の打撃攻撃には滅法弱い。

(´<_` )「念のため、気圧、慣性のほかに耐電流用の保護をするが、たぶん気休めだ」

( ´_ゝ`)「と、なると重要なのはそもそも食らわないように防ぐハッキング……」

('A`)

('A`) 「新しい妖精を注文しますか?」

 真顔で知らん振りをされた。

256名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:02:01 ID:u/0L7xn60
どっくんwwww

257名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:02:18 ID:cdPIdN4A0

(;'A`) 「無理無理無理!観測のゼアフォーならまだしも、管制のビコーズになられたら俺なんか適わないよ!」

(´<_` )「今更言っていられるか。単純な地力で負けている以上、騎手の腕と電子戦で何とかするしかない」

( ;´_ゝ`)「うぐ」

 騎手の腕、のところでアニジャがばつの悪い顔をした。
 一応は勝ったものの、彼の自信はプギャーによってへし折られている。
 オトジャと揉めるよりはマシな折れ方ではあるが、自分への不信感のようなものを抱えてしまっていた。

 本当に面倒な兄だと、オトジャは眉間を揉む。

(´<_` )「さっき、運営側にレーヴァンテイルとの戦闘を見せてもらったが。正直パワーで勝てるわけが無い」

 この場の全員が完全に同意した。
 レーヴァンテイルは、速度の一点を除いて、力、耐久力、魔法力の全てがリュウジャよりも上。
 おまけに得意属性は同じ、火だ。

 それを真正面から切り崩したボルトールに対し、力技で倒すビジョンが見えるわけが無い。

(´<_` )「だが、これはあくまで、レーヴァが得意の白兵戦を挑んだからだ。俺達には、ボルトールよりも高い機動力がある」

( ;´_ゝ`)「でも、杉浦はそれも平気で埋めて来るんだよな……」

(´<_` )「それでも俺達は速度にかけるしかないんだ」

258名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:03:24 ID:cdPIdN4A0

(´<_` )「遠距離攻撃は、俺とドクオで何とか対処する」

('A`) 「別の妖精を注文してください」

(´<_` )「だから、戦うのはアニジャに任せたいんだ」

 打ち合わせというよりも、アニジャに覚悟を固めさせる時間になっていた。
 アニジャは煮え切らない様子で、うんうんと唸っている。

(´<_` )「ニダーやプギャー、それに杉浦に負けたセントたちの分だって、俺達は戦わなきゃいけないんだ」

( ;´_ゝ`)「……」

    「それは、違うであるな」

 不意にかけられた声に、兄弟は反射的に振り向く。
 視線の先にいたのは、杉浦ロマネスク。
 そして傍らで挙動不審な動きをしている亜麻井デレだ。

( ФωФ)「戦いとは、常に己のためのもの」

( ФωФ)「そこに他者を付加することは出来ても、他者に摩り替えることは出来ない」

259名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:04:23 ID:cdPIdN4A0

( ФωФ)「サスガ、我輩は、信じていたぞ。貴様が勝ち上がって来ると」

( ´_ゝ`)「……」

( ФωФ)「セントとの戦いは、心が痺れた。貴様も、情けないことをしてくれるな」

( ´_ゝ`)「一つ、聞いていいか?」

( ФωФ)「なんである?」

( ´_ゝ`)「何故俺達を、俺をそんなに買うんだ。俺はそこらへんにいるダメ騎手だぞ」

( ФωФ)「貴様らが、サスガ夫婦の子供だから、であった。最初はな」

( ´_ゝ`)「……」

( ФωФ)「……我らは竜騎手だ。残りは空にて、竜の翼を借りて語ろう」

( ´_ゝ`)「……わかった」

 ロマネスクはすぐに踵を返した。
 アニジャは、その背中をただただ見つめている。

 複雑な心境は、オトジャ。
 自分が説得しようとしても上手く行かなかったアニジャのやる気を、ロマネスクは一言二言話しただけで引き出してしまった。
 プギャーといい、つくづく敵に恵まれた男だと、心の中でやり場の無い悪態を吐く。

260名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:05:03 ID:cdPIdN4A0

 そんなオトジャに、歩み寄るものがいた。
 ロマネスクの騎助手、亜麻井デレだ。

ζ(゚ー゚*ζ「私、オトジャさんにずっと憧れてました」

(´<_` )「……はあ?」

(*^ω^)(*'A`)(*´_ゝ`)

ζ(゚ー゚*ζ「だから、私ずっとオトジャさんに憧れてたんです」

(´<_` )「分った、亜麻井、話はちゃんと聞くから少し待ってくれ」

 オトジャは、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた妖精二人を捕まえ、
 同じくニヤニヤしていたアニジャの口に詰め込み厩舎の中に放り込んだ。
 パンパンと手を叩き、亜麻井の前に戻る。

(´<_` )「頼む、順を追って話してくれ」

ζ(゚、 ゚*ζ「そのままの意味です。一人の騎助手として、オトジャさんにずっと憧れていました」

 改めて聞いた「憧れ」の言葉に重みを感じ取ったオトジャは、あえて黙って続きを聞くことにした。
 亜麻井は相変わらず挙動不審ではあるが、しっかりと意思のある目をしている。

261名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:06:02 ID:cdPIdN4A0

ζ(゚、 ゚*ζ「だから、私、オトジャさんを絶対超えます。自分の役目を、ロマの騎助手を務めるために」

(´<_` )「……そうか」

+ζ(゚ー゚*ζ「これ以上は野暮ですから、私達も、空で、翼を借りて語りましょう!」

(´<_` )(正直語る余地がないほど伝わったことは言わんでいいか)

 頭を一度下げてデレも去っていった。
 テントの影で待っていたらしいロマネスクと共に、自分達の竜のところへ行くようだ。

( ´_ゝ`)「…………ラブコメ」

( ^ω^)「ラブコメだお」

('A`) 「ゼクシィを注文しますか?」

(´<_` )

(´<_` )「さて、打ち合わせの続きに入るぞ」

( (#)_ゝ`)( (#)ω^)(#)A`)「はい」

 適度な緊張を保ちながら、その時は迫る

  **  **  **

262名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:06:49 ID:cdPIdN4A0

( ФωФ)「……」

 幼い頃の思い出だ。
 頼りがいのある相棒、ボルトールと出会う数年前の話。

 まだ幼かったロマネスクは、両親の手伝いで入った山の中、野良の地竜に追われ逃げ回ったことがあった。
 その時に救ってくれたのが、淡い赤を帯びた鱗の飛竜と彼の背に跨る二人の竜騎手。
 手綱を握っていたのは見目麗しい女性。
 その後ろで神官服を纏い魔法の光を迸らせていたのは痩身ながら逞しい男性。
 恐怖に蝕まれ、顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしていたロマネスクにとって彼らは英雄に他ならなかった。

 ボルトールが頭を垂れ背中を許した時に、ためらい無く乗ったのはあの二人への憧れがあったから。

 竜と出会ったその日から毎日、監視する大人たちの下でひたすらに竜騎の技を磨いた。
 あらゆる空を飛びまわり、あらゆる困難の上に竜との信頼を築いた。

 そして、今日。

 今はもう、会うことの無い英雄の、その子供達が目の前にいる。
 過去の戦いは全てねじ伏せた。
 取るに足らぬと嘆息を重ねた。

 しかし、やはり拭い去れない、彼らの翼に宿る、英雄の幻影。
 ここ数日でその色は俄かに濃くなっている。

( ФωФ)「……我輩が最も期待し、最も失望し、そして、最も見直した男達よ」

( ФωФ)「ねじ伏せよう。彼らの子としてではなく、我輩の敵手として」

263名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:07:50 ID:cdPIdN4A0

ζ(゚ー゚*ζ「……」

 天才と持て囃され田舎を出てきたその日、紹介されたのは自信の才能など豆粒にしか見えない程の化け物だった。
 ついていく事すら叶わず、ただずっと唇を噛んで耐えてきた。

    「サスガ弟の方が杉浦と組めば、もっと強くなるのにな」

 不意に聞いてしまった学友の呟き。
 悔しかったのはその言葉ではない。
 抵抗無く受け入れてしまった自分の弱さ。

ζ(゚ー゚*ζ「ロマ、今までありがとう」

 あらゆることが怖かった。
 前を行く彼は、自分ではない別の、もっと優秀な相棒を求めているのではないか。
 横を抜き去ってゆく彼らは、自分ならばもっと優秀に務められると嘲っているのではないか。

( ФωФ)「何を言っている、それは我輩の台詞だ」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん」

( ФωФ)「我輩とボルトールを、頼む」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん!」

264名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:08:49 ID:cdPIdN4A0

( ´_ゝ`)「まさか、ここになるなんてな」

 風の音が鬱陶しかったがアニジャの呟きはしっかりとオトジャの耳にも届いていた。
 準備時間を終え街を飛び立って数分。
 たどり着いた戦域は、以前最期の公式訓練を行った砂漠の戦域であった。

 急な変更に対応できるのがここしかなかったのだという。
 周囲に観客の姿などはまばら。
 同じ竜騎手や、いち早く情報を掴んだ観客などが駆けつけているだけだ。

(´<_` )「ちょうどいいじゃないか。思う存分飛べる」

 砂漠の空は快晴。
 広場のように魔法による保護も無いので、太陽や風などの自然の要因を利用することも出来る。
 実戦的な環境だ。

 周囲には無数の光が飛んでいる。
 リュウジャとボルトールの戦闘を中継放送するための妖精。
 彼ら位ならば邪魔にはならないだろう。

(´<_` )「そろそろ防壁を展開する」

( ´_ゝ`)「ああ、ブーン、ドクオも問題ないか?」

( ^ω^)「問題ないお」

('A`) 「帰りたい」

( ´_ゝ`)「よし、大丈夫だな」

265名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:09:30 ID:cdPIdN4A0

 砂丘の上、青空の真ん中で、二頭の竜が向かい合っていた。
 小柄な赤い鳥竜、リュウジャ。
 対するは漆黒の屈強な体躯を持つ獣竜、ボルトール。

 ルールは飛び立つ前に確認していた。
 基本は同じ。事実上場外が無しになっただけだ。

( ´_ゝ`)「なあ、オトジャ、ここで負けても、俺達騎手になれるかな?」

(´<_` )「……決勝まできた実力は認められる。恐らく、大丈夫だとは思う」

( ´_ゝ`)「でも、正竜騎手になったら、きっと杉浦と真剣勝負する機会は無いよな」

(´<_` )「ああ。俺達か杉浦が謀反でも起こさない限りは、敵でいられるのは今日だけだ」

( ´_ゝ`)「……全力を賭そう。その上で、全部受け止めよう」

(´<_` )「言われるまでもない」

 オトジャが、リュウジャの身体を包み込む、薄黒い防壁を展開した。
 絶縁体とと導体を重ね合わせることで、竜を守りながら雷を受け流す特殊な防壁だ。
 以前は、直前まで敵が分らなかったため満足な強度を生み出せなかったが、今回は大丈夫。

266名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:10:39 ID:cdPIdN4A0

   「それでは、一分間待機」

 下方から、審判の声が響いた。
 二竜の動きは対照的だ。
 高速で距離を取ったリュウジャに対し、ボルトールはその場に帯空したまま。
 背後を取るも糞も無く、リュウジャは絶妙な距離を保ち、旋回を続ける。

 ボルトールは目を怪しく光らせ、上空に分厚い雲を作り出していた。
 青空が直ぐに埋め尽くされ、隙間から稲光が漏れ始める。

( ;´_ゝ`)「いきなりMAXだな」

(;'A`) 「あの中に飛び込んだら、ほぼ確実にお陀仏……」

(´<_` )「高度と太陽は封じられたか」

( ;´_ゝ`)「大丈夫、横があれば十分だ」

 間も無く、一分。
 ボルトールはリュウジャを常に真正面に捉えるだけで、相変わらず動こうとしない。

( ;´_ゝ`)「合図と同時に高速飛行に入る。一気に仕掛けるぞ」

(´<_` )「おう」

267名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:11:33 ID:cdPIdN4A0

 「……始め!!」

 言葉の通り、アニジャはリュウジャの首をキックし、速度を爆発的に上げた。
 一番外側に張られた通常の防壁が空気との摩擦で削られて行く。
 その速度を保ったまま、手綱を引いてボルトールへと直進。

 ボルトールは迎え撃つために上体を起こす。
 前足に雷を宿らせ、自らも前に出た。

 リュウジャは防壁を強化。
 同時に火球を三つ放った。
 ボルトールは体から細い放電を行い、火球を打ち落としす。

 撒き散らされる爆炎が視界を覆い尽くす。
 ロマネスクは極僅かな合間に思考を巡らせ、ボルトールにブレーキを掛けさせた。

 リュウジャは、爆炎を突っ切ってそのまま正面からボルトールに飛び込んだ。
 その身体に炎を纏い首を固め体当たりする。

( ФωФ)「……ッ!」

 ボルトールは、体全体を使って受け止めるが、その身体を炎が飲み込んだ。
 一瞬の隙にリュウジャはボルトールの四肢をすり抜け、後ろに回りこみ、未だ炎が絡みつくその背に火球を放った。
 これは反射的に振り返ったボルトールの前足に打ち砕かれる。

268名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:12:40 ID:cdPIdN4A0

(´<_`; )「本当によくやるよ、あれに真正面から踏み込むとは!」

( ;´_ゝ`)「杉浦も人間だったみたいで安心するだろ?」

 杉浦は、逃げ回り隙を突く戦法を警戒した準備を備えてきているはずだ。
 だからその逆を突く。
 既に見せた技を使うことで自分が有利な駆け引きに持ち込み、より選びたくいない選択肢を選んだ。

 目論見は嵌ったらしく、先制攻撃に成功
 杉浦はレーヴァンテイル戦で見せた格闘用の魔法を使わずに対処してきた。

( ;´_ゝ`)(通用する、勝てない相手ではない!)

 自分に暗示をかけるようにアニジャは胸中で呟きを繰り返した。
 火球を放った後、すぐさま離脱。
 追ってくるボルトールを嘲笑うように距離を引き離す。が。

( ^ω^)「高エネルギー反応!上空に、……三十!」

( ;´_ゝ`)「無理無理無理無理!やっぱ無理!」

 空を割る音と共に稲光が雨のように降り注いだ。
 アニジャはリュウジャは左右に身体を揺さぶらせ出来うる限りの回避を行う。
 しかし、瞬き程の時間に現われて消えるそれを避けようとして避けるのは実質不可能。

 防壁の上を、数多の電流が滑って抜けてゆく。

269名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:13:40 ID:cdPIdN4A0

( ^ω^)「レーダーが乱れる!相手の状態が特定できないお!」

( ;´_ゝ`)「嫌な予感がする」

 リュウジャは速度を落とさず高度を下げた。
 地面のスレスレを飛行し、砂埃を巻き上げ雷撃を避けるチャフ代わりに利用する。

( ^ω^)「……不味いこの反応は!」

 雷撃が、突然ぴたりと止んだ。
 開けた視界。再び上昇を始めたリュウジャたちの目に見えたのは、背中に雷を受けながら、角に光を蓄える黒竜の姿。

 あ、と声を漏らす暇も無く、角が激しく明滅した。
 溢れ出した青白い光が帯となってリュウジャへと放たれる。

 反射的に身体を横に倒したその翼の直ぐ脇を光線が貫く。
 通常、導体、絶縁体の三種の防壁が、何の抵抗にもならず切り裂かれた。
 直撃していたら、と考えると背中に冷たい汗がにじみ出てくる。

(;'A`)「……雷を利用して、自分の魔力を補填してる」

(´<_`; )「それじゃ」

(;'A`) 「無限ではないけれど、魔力切れを狙ったりは出来ない」

( ;´_ゝ`)「元から、そのつもりは無い!」

270名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:15:40 ID:cdPIdN4A0

 高速で低空を滑るリュウジャが急激なブレーキをかける。
 その目の前を、再び光線が打ち抜いた。
 リュウジャの風圧と雷光の衝撃で巻き上げられた砂埃が、一瞬でリュウジャを飲み込んでいく。

( ФωФ)「……やはり、今の奴に当てるのは簡単なことではないか。ビコーズ、ビフォーモード」

( ∵) ゴェ

::( ∵):: グググ

::(( ∴)゙:: グルン

::(( ∵)゙::グルルルン

::(( ∴)゙::グルルルルルン

::(("O)゙:: ィィィィィィン……

 ボルトールの背中、妖精のビコーズの頭が高速で回転を始めた。
 通常の切り替えとは異なり、目口と思しき点が繋がり一つの円のような模様を作り出す。

( ФωФ)「行くぞ」

 受けたダメージが問題ない範囲であることを確認。
 ボルトールが、砂煙湧き立つ地上に向かい、頭を下げる。

271名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:16:56 ID:cdPIdN4A0

 ほんの僅かに砂埃に見える機影。
 土色の煙を突っ切り、リュウジャが飛び出した。
 ボルトールは角から通常の雷撃を放って向かえ打つが、防壁に阻まれる。

( ФωФ)「ぬうん!」

 再び炎を纏い突進してきたリュウジャにボルトールはドリフトの要領で尾の先を薙ぎ放つ。
 リュウジャは上方へ軌道を修正し回避。
 アニジャは振り返っての反撃も考えたが、ボルトールの頭がこちらを向いていると判断しそのまま飛びぬけた。

 ロマネスクは逃げるその後ろを、突発的な加速で追尾。
 デレの張った防壁が再生する傍から削り取られ、風がギリギリと歯軋りを立てた。

 その高速飛行のままで、ボルトール本体と上空の雲の両方から雷撃を放つ。
 受け流すことで耐えるのが目的の耐雷防壁は、行き場を失い蓄積した電流に一気に熔かされた。

( ;´_ゝ`)「ッ!」

 リュウジャが振り返り、後退飛行しながら口に火球を蓄える。
 ほぼ同時に四発、ボルトールに向かって吐き付けた。
 最早この程度の攻撃はボルトールには届かない。
 黒い体から放たれる細い電流の線にいとも容易く破壊され、爆炎を撒き散らす。

 敵の視界をある程度狭められた隙に、飛行魔法を強化。
 逆Vを描く形で下方へ引き返す。

272名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:17:01 ID:fGJQYDYk0
うおおおおきてた!!ラストスパート頑張れ!!

273名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:18:15 ID:cdPIdN4A0

 人の目であれば、あるいはそれで見失っていたかもしれない。

( O)   ェ゙

 観測と管制を同時に遂行する妖精ビフォー。
 人知には無い音を発し、ロマネスクにリュウジャの位置を報告した。
 更には高度な軌道予想でその動きの先を読みそれも伝えてゆく。

 ボルトールも直ぐに下方に頭を下げた。
 上方から降りしきる雷と共に、リュウジャの背を目指す。

 度重なる雷撃によりドロドロに蕩けた防壁は、既に性能を著しく落としている。
 これを完全に引き剥がすため、ボルトールは全身に雷を蓄えた。

( ФωФ)「……てぇ!」

 光線とも雷とも違う、巨大な稲妻の波動。
 音よりも早く、光よりも辛辣にリュウジャの身体を飲みつくした。

( O) ェ゙

ζ(゚、 ゚*ζ「まだ、落ちてない!」

( ФωФ)「……ほう」

 リュウジャが地上付近を砂を巻き上げながら一文字に飛んでゆく。
 その身体に雷の直撃を受けた気配は無かった。

274名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:20:24 ID:cdPIdN4A0

( ;´_ゝ`)「怖い恐い!何で生きてんの?!」

(´<_`; )「だから、雷撃は任せろって言っただろ!」

 ボルトールが巨大な雷のエネルギーを蓄えたその瞬間。
 オトジャは防壁を電導体に変化させ、軌道とは別の方向へ切り離したのだ。
 同時に新たな耐雷防壁を発動。
 結果的に直撃を避け、余波に防壁を解かされる程度に収まった。

( ;´_ゝ`)「本当に流石過ぎてたまんないぞオトジャァ!!」

(´<_`; )「分ってるからさっさと倒せ馬鹿アニジャァ!」

 既にオトジャはかなりの魔力を消耗している。
 ドクオを通じリュウジャの分を少し分けてもらってはいるが、それもやりすぎは良くない。
 ボルトールがこれだけの攻勢に出た時点で、消耗戦が不利なのはむしろアニジャ達の方なのだ。

 リュウジャは直ぐに身体を反らし、上空へ。
 間合いの開いたまま向かい合うボルトールの雷撃を真正面から受け、弾く。

( ;´_ゝ`)「ドクオ、ハックは?」

(;'A゚) 「話、かけん、な」

 ドクオはブーンの感知能力を借りながらの電子線を繰り広げていた。
 彼が敗れればブーンも間をおかずやられる。
 そうなればリュウジャに勝ち目はない。

275名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:22:03 ID:cdPIdN4A0

( O) ……

( ФωФ)「ビフォー、デレ。乗っ取りは?」

ζ(゚、 ゚*ζ「侵食が60%から進みません」

( ФωФ)「……相手も必死だ。乗っ取りが不能でも、諦めず続けろ。妖精を自由にさせるな」

ζ(゚、 ゚*ζ「はい!」

 防御と保護で手一杯のオトジャに対し、デレは比較的余裕を持って魔法を使っていた。
 ビフォーの電子攻撃をサポートし、ドクオの乗っ取りを強行している。
 その残り一手が上手く行かないのは敵騎助手であるオトジャがサポートに手を出しているからだ。

ζ(゚、 ゚*ζ(これだけの作業を同時に、それも、私よりも正確に……!)

(´<_`; )「ッ」

 二竜が直近で交差する。
 防壁がギリギリで掠め、互いの巻き起こす風圧によって飛行が乱れるその刹那。
 騎助手同士の視線が絡み合い意思を覗きあい、距離によって引き離される。

ζ(゚、 ゚*ζ(負けない!負けない!負けない!)

 ボルトールが一瞬で体を切り替え、リュウジャを追跡。
 この間生まれた慣性の負荷をデレは全てキャンセルする。
 同時に妖精への攻撃も手を緩めない。

276名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:23:27 ID:cdPIdN4A0

(´<_`; )「ドクオ、出来たか?!」

(;゙A゙) 「……出来た。ダミーデータ発動、敵騎妖精の電子攻撃をダミーシステムへ誘導する!」

 オトジャが片手間に援護をし電子攻撃を抑える間、ドクオは自身の情報とそっくりの分身データを複数生み出していた。
 これを回線に紛れ込ませ、敵の攻撃を散らす。
 分散させてしまえばドクオ一人でも何とか対処できる。

(´<_`; )「きつくなったら直ぐに言え!援護に回る!」

(;'A`) 「まっか。せろ。こんちくしょ!」

 オトジャは直ぐにドクオとの連携を解除し、防壁の維持に回った。
 ほぼ絶え間なくリュウジャを襲い続ける雷は一撃一撃が必殺級の火力を持っている。
 竜と騎手たちの身体を守る耐電保護は、即死を防ぐ程度の役目を果たせるかすら分らない。

 全てはこの防壁をどこまで維持できるかにかかっている。

( ^ω^)「……雷電によるノイズリセット完了」

 ブーンは自発的に雷による感知機能の乱れを調整し、本来の力を取り戻し始めていた。
 視界を雷で覆われる中、彼の力は必要不可欠だ。

( ^ω^)「騎手と思考をリンク!アニジャ、探知データのあれやこれやを送り込むお!死ね!」

( ;´_ゝ`)「死んでやる!来い!」

277名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:24:50 ID:cdPIdN4A0

 偏頭痛の際に、頭を揺さぶられた時の痛みを三倍くらいにした衝撃、と表わすと想像に容易い。
 アニジャの脳に五感とは更に別の、ブーンの感知能力による情報がなだれ込む。
 過負荷に脳が軋む痛みをアニジャ手綱を握り締めて耐えた。

 リュウジャとボルトールの位置関係が手に取るように分る。
 背後を雷撃と共に追跡してくるボルトールを見ずに把握。

( ;゚_ゝ`)「リュウジャ!オトジャ!」

 安全な距離を取れていることを把握しリュウジャは身体を横に滑らせて振り返った。
 両の眼が黒竜の姿を捉えたその瞬間、爆破魔法を放たせる。
 オトジャのサポートが入った、強化追尾式。
 威力をレーヴァンテイル並に引き上げ、さらに少し程度の回避なら機動を変えて直撃する。。

( ФωФ)「ボルトール!!!!」

 僅かの遅れもなく、ボルトールが角から閃光の帯を放った。
 青白い光線は、濃密な熱の雫を撃ち捉え、二つのエネルギーの邂逅に空間が軋みのような悲鳴をあげて歪む。

 それは音ですらなかった。

 歪みに歪んだ衝撃の渦は、蝋燭を消すような容易さでリュウジャの身体を吹き飛ばす。
 オトジャは一旦全ての意識を慣性コントロールに回したがそれでも間に合わない。
 リュウジャが気流を捕まえ、何とか身体を安定させたその時には、オトジャの目から血の雫が溢れていた。
 多重の魔法管理、妖精、竜とのリンクは尋常ではない負荷を伴う。
 上手くゆとりを作って耐えていた限界のラインを、今の爆発が超過させてしまったのだ。

278名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:25:54 ID:cdPIdN4A0

( ;゚_ゝ`)「オトジャ、休め!」

(´<_`,)「一瞬越えただけだ!いける!」

 未だグツグツと空を煮る爆炎の真っ只中に黒い点が現われた。
 ボルトール。色のせいでダメージがあるのかどうか全く分らない。
 猛然と迫るその巨躯から、リュウジャは背を向けて距離を取る。

(´<_`,)「それに、俺無しで何秒耐えて終わるつもりだ?」

 稲光が目を、耳を劈いて通り過ぎてゆく。
 その通り。竜の回避でどうにもならない雷撃に対処するには、騎助手を休ませている余裕は無い。
 戦う限りは、常に全開で無ければならないのだ。

( ;゚_ゝ`)「こうなったら、意地でも決めるぞ!」

 リュウジャは一瞬の下降。
 すぐさま身をそらせ、ロールを交えて振り返る。

( ;゚_ゝ`)「リュウジャ!」

 リュウジャが、全身を震わせて咆哮。
 呼応するように紅蓮の炎が周囲を包み込む。
 竜のみでは最高の出力を維持し、炎鳥と化したリュウジャはボルトールに突っ込んだ。

279名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:27:22 ID:cdPIdN4A0

 リュウジャの雄たけびに呼応するようにボルトールも歓喜の震えを咽から吐き出した。
 巨大な落雷一つ、身体に受け、青白く発光しながらリュウジャを向かえ撃つ。

 迫る二頭の竜。
 リュウジャは炎の鎧を維持したまま火球を三つボルトールに放った。
 これを意にも介さず角で貫き振り払い防御。
 ビフォーの弾き出した敵騎の位置目掛けて、雷を纏った尾を体ごと薙ぎ振るう。

 炎鳥は、飛び越えるように上昇し尾を回避。
 そのまま前転、捻りを加えボルトールの背中を望む。
 しかし、尾を振るった黒竜とロマネスクの目は、その姿をしっかり捉えていた。

 角が明滅し、これまでで最も広範囲の閃光が放たれる。
 炎の鳥竜は意識するよりも早く光の中に飲み込まれていった。

 しかし。

( O)  ェ゙ !

 確実に撃ち貫いたはずのリュウジャの反応は、ボルトールの真下にあった。
 身体に薄く薄く炎熱のベールを纏い、高速で錐揉み回転している。

( ФωФ)「ッ?!」

 ロマネスク、ボルトール、両者の反応は、僅かに間に合わない。

280名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:28:25 ID:cdPIdN4A0

( ;゚_ゝ`)「らああああああ!」

 灰色の空に、水面の如き波紋が走る。
 爆発させるように飛行魔法を発動したリュウジャは、螺旋回転のままボルトールの腹へ突撃した。
 首を丸め炎熱のバリアを全面に押し出し、削岩するようにボルトールの身体へと食い込んでゆく。

 硬い甲殻が抉れ、受け止めようとした前足が弾かれる。
 さしもの剛竜もこれには顔を歪めさせた。
 駆け抜ける痛みの信号が、あらゆる攻撃をキャンセルさせる。

 二竜は不恰好な結合を果たしたまま、空を斜めに上ってゆく。
 ボルトールは慣性と痛みに耐えるのが精一杯で逃れることが出来ない。

(  _ゝ )「があああああああ!!」

 攻撃手であるリュウジャたちも、決して楽ではない。
 回転の慣性は既にオトジャの制御できる範囲を超え、鞍ごとリュウジャの背中から外れてしまいそうだった。

ζ( 、 *ζ「ロマ、ごめんなさい。最後までお付き合いできないかも」

( ;ФωФ)「デレ?」

ζ(゚、 ゚#ζ「ビフォー!ボルトールの神経信号を私に仲介、ダメージを中和し、竜の精神の平定を保ちます」

( ;ФωФ)「ッ!デレ!止めるである!」

281名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:30:41 ID:cdPIdN4A0

 ロマネスクの制止も聞かず、デレは自身とボルトールの痛覚を混線させた。
 これにより、ボルトールの感じていた痛みは分散。
 苦痛によって乱れていた思考は明晰を取り戻す。

 その代わり。

ζ(  #ζ「ううううううううううううッ!!」

 残りはデレに。
 竜の中でも耐久力の高いボルトールが苦しんだ痛みの、五割超。
 それは十分に人間の精神を破壊しうる。

( #ФωФ)「ボルトーォォォォォル!!!」

 人竜一体の雄たけび。
 ボルトールの体が激しい明滅を起こし、たたけましい音と共に数多の雷光がリュウジャに向けて放出された。

(  _ゝ )「ッ!」

 一点へ集中していたリュウジャの攻撃が、推し戻される。
 再びの咆哮と同時に雷撃は更に過激さを増し、炎熱の鎧ごとリュウジャを飲み込んだ。

 衝撃とダメージで飛行魔法が解け、リュウジャの身体は落下を始める。
 金色に輝いていたその目は、ぐるりと白を向いていた。

282名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:31:33 ID:cdPIdN4A0

(  _ゝ )

 落ちていく。
 手綱を引いてもリュウジャの反応はない。

 負けだ。
 頑張ったけれど、頭をフル回転させたけれど、ダメだった。

 でも、いいじゃないか。
 あのボルトールを、あそこまで追い込んだ。
 きっと、推薦だってもらえる。
 正竜騎手にだってなれる。
 リュウジャと離れなくても済むのだ。

 後はこのまま落ちれば、きっと救護班が受け止めてくれる。
 痛いのも辛いのも終わりだ。
 いいじゃないか。それで。

(  _ゝ`)

 薄く開いた目に映る、ボルトールの姿。
 こちらへ全力で向かってきている。
 なんだよ、助けてくれるのか?
 ああ見えて、杉浦は優しいから。

 いや。違う。あれは。あの目は。

 再び飛ぶことを信じている、戦いの目だ

283名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:32:30 ID:cdPIdN4A0

( # _ゝ)「リュウジャァァァ!!」

 手綱を命一杯引き上げ、首を両の踵で首を叩く。

( # _ゝ)「違うんだよ!竜騎手になりたいとか!そんなんじゃ!」

 引きちぎれるほど引かれた手綱。
 リュウジャは口をだらしなく開いて動かない。

( # _ゝ)「飛んでいたい!俺は、この空を誰よりも」

 青筋を浮かべるアニジャの手に、後ろから力強くもう一つの手が添えられた。
 優しい魔法の光が手綱を通じてリュウジャの頭へ伸びる。

( #゚_ゝ)「だから!!俺に……ッ」

 金の瞳が煌く。
 爆発かと見紛うほどの風が地面を抉った。

 大きくクレーターになった砂地の中心、地面から僅かに浮いたところでリュウジャは空を睨んでいた。

(´<_`,)「とんでもない身の程知らずわがままだ」

(´<_`,)「でも、気に入った。行くぞ、アニジャ」

( #´_ゝ)「……おう」

 兄弟は、再び空へ。

284名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:33:37 ID:cdPIdN4A0

 唸りを上げたボルトール。
 踏ん張ったリュウジャ目掛けて、連続で角から閃光を放った。

 リュウジャは羽のように軽やかにその場を離れると、滑らかな飛行で閃光をやり過ごす。
 狙いがずれているわけではない。
 ビフォーは依然として機能し、その軌道を読んでいる。

 それを、アニジャは超えてきているのだ。

ζ( 、 ゚*ζ「……ロマ、やろう。全力で倒そう」

( ФωФ)「……」

ζ( 、 ゚*ζ「私なら大丈夫。私にも負けたくない理由、あるから」

( ФωФ)「ふん。是非もなし」

 ロマネスクは地上へ向けていた進路を切り替え、一転空を目指した。
 リュウジャは、一気に加速しその背後を追う。

 ダメージもあり動きの重いボルトール。
 その腹には筋膜まで抉られた大きな傷があり、いまだに血を滴らせている。

 一方のリュウジャも、意識を取り戻したとは言え雷撃を食らったダメージは尋常ではない。
 いくら飛行魔法を使おうとしても、最高の速度は出せずにいた。

285名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:34:26 ID:cdPIdN4A0

 元々上空にいたアドバンテージを活かし、ボルトールはより早く上空の曇天の中へ突っ込んだ。
 僅かに遅れたリュウジャは、上昇を止め雷雲から離れて様子を見る。

 俄かに、黒雲が渦を巻き始めた。
 ボルトールが入った一点目掛けて雲が引き込まれていく。

( ^ω^)「……高エネルギー反応を観測」

(;'A`) 「おいおい、一頭の竜が扱えるレベルじゃないぞ」

(´<_` )「……来るぞアニジャ」

 丸く、繭のような形状をとった黒雲。
 それが、羽化する前兆のように蠢き始め。
 くぐもった音と共に、弾けた。

 リングのように広がり地平の彼方まで吹き飛ぶ黒雲。
 一転して青を取り戻した空には、唯一頭、ボルトールの姿だけがあった。

(;'A`) 「うそだろ、なんだよあれ」

 ボルトールの全身に、赤い光の線が走っていた。
 鱗の隙間から漏れ出し網目の模様をしている。
 鬣はより赤く炎のを思わせる動きで揺らめき、同色の粒子を陽炎のように立ち上らせていた。

286名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:35:23 ID:cdPIdN4A0

( ^ω^)「……魔王」

 ブーンが呟いた。
 残りの三人も主に同じ感想を浮かべる。

 赤い光を仄めかせるボルトールが、リュウジャへ向かって飛び込んだ。
 アニジャは素早く手綱を捌き、その突進をかわす。

 頬が痺れる空気の擦過音。
 速い。
 万全のリュウジャに並ぶほどだ。

 過ぎ去り落ちてゆくボルトールを、リュウジャは必死で追いかける。
 珍しい体験だった。
 飛べば飛ぶほど、引き離されてゆく。
 しかも、自分より巨大な竜に。

 連なったまま、二頭は地面をかすめU字に上昇。
 空を上りきる途中で、ボルトールは横へ真っ直ぐ機動を変える。

 リュウジャは、同じ高度に達した時点で、追跡を止めた。
 ロマネスクの意図を読んだのだ。
 両者の距離が開いたことを確信したロマネスクも、高速移動を止めゆったりと止まる。

287名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:36:49 ID:cdPIdN4A0

( ´_ゝ)「オトジャ、後どれくらい無理が利く?」

ζ( 、 ゚*ζ「どれくらいなんてけちなこと言わず、何時間だって無理してあげますよ」

( ФωФ)「ビフォー、ボルトールの魔力残量は?」

(;'A`) 「残り、30%ちょいだ。まだ、何度かいける」

 同様の会話を終えた二竜は、相手が指先よりも小さく見える距離を挟んで睨み合った。
 ほんのひと時の静寂が、間を流れてゆく。

 そして。

( #´_ゝ)「行くぞ!」

( #ФωФ)「これで終わりにしよう!」

 羽ばたき二つ。その距離は瞬く間に狭まってゆく。
 リュウジャは紅蓮の鎧を身に纏い。
 ボルトールは紅雷を走らせながら。

288名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:38:28 ID:cdPIdN4A0

 邂逅の時。
 ボルトールの前足の振り下ろし。
 リュウジャは右へひらめき、回避し直ぐに向き直る。

 ボルトールは側転しながら、尾先の振り上げ。
 これに沿うようにリュウジャは空中を回り、背中に張り付いた。

 背中に狙いを定め放つ火球は、口元でデレの防壁により暴発、怯ませられる。
 この隙に回転を続けたボルトールは、そのまま尾を振り薙ぎ払った。 
 あえて間合いを詰め、リュウジャは尻尾の根元に翼手を使いしがみ付く。

 振りほどかれた勢いを利用し距離を取る。
 ボルトールはその背中に赤い雷撃を放った。
 それは防壁の表面を滑るも、唯の一撃で防壁を溶かしてしまう。

 身体を切り返し、再び向き返るリュウジャ。
 そこへ、ボルトールが広範囲への放電で迎え撃つ。
 オトジャ元々三重一式の防壁を、更に二枚に重ねた。
 目と鼻からどす黒い血が零れだす。

 強引に間合いを詰めたリュウジャは超至近距離で爆破魔法を放つ。
 物理攻撃の間に合わない絶妙な間合い。
 ボルトールは素直に魔法を避けさせられる。

 この隙を逃がさない。
 炎と共に回転して飛び込むリュウジャ。
 しかし、ボルトールは絶妙なロールで回避、逆にリュウジャの背中を取った。

289名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:39:38 ID:cdPIdN4A0

( ^Д^) 「……」

 中継のビジョンの前、広場に集まった人々は悲鳴のような声援を挙げていた。
 最早一般人にはどちらが優位かなどはわかっていないだろう。

 尚も続く攻防。
 時に距離を取り、時に詰め、時に炎を吐き、時に雷光を放ち、時に食らいつき、時に尾を振るう。
 どちらも、一撃たりとも直撃は無い。

 見ているだけで肌がヒリヒリと震えた。
 その場に居るだけで得も言われない高揚感があった。

( ^Д^) 「いいなあ、羨ましいなあ」

 二頭の竜は一切の休み無く飛び続けている。
 にも関わらずその動きは衰えを知らず、ますます加速しているようにすら見えた。

( ^Д^) 「楽しそうに飛びやがって、あの糞野郎ども」

 しかし、いつまでもそれは続かない。
 終わりの時は着実に近づいていた。

290名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:40:28 ID:cdPIdN4A0

( <_゚ )

ζ(  ゚*ζ

 目から鼻から耳から、そして食いしばりすぎた歯茎からも血を漏らす竜騎助手。

(  _ゝ)

( Фω )

 手袋が擦り切れ血を滲ませながらも、魔法の余波で肌を焦がしながらも動くことを止めない騎手。

 観客の多くが想っていただろう。
 何故彼らはこうまでして戦うのだ、と。

 その理由は、竜の背に乗り空を駆けた者しか分らない。

 意地というには無様。
 誇りというには下品。

 共に空を飛んだことのあるプギャーですら、その感覚をどう表わしていいか分らない。

 ただただ最高に気持がいいことだけは、間違い無いのだけれど。

291名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:41:08 ID:cdPIdN4A0

 二竜の距離、およそ300。
 恐らく全ての人間が確信した、最後の瞬間であった。

 一度、勢いをつけるようにロールし、炎を纏うリュウジャ。
 身体を開き、雄たけびを上げ紅雷纏うボルトール。

 両竜が惹かれあうように間合いを縮めてゆく。

 リュウジャが放った三つの火球をボルトールが雷撃で打ち落とす。
 広がった爆炎が両者の視界を飲み込んだ。

 ボルトールは下へ抜ける。
 リュウジャはそれを読んで上へ。
 裏をかかれることを想定したロマネスクは直ぐに雷撃を上へ放つ。

292名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:42:28 ID:cdPIdN4A0

( Фω )「っ!」

 稲妻は、オトジャが残したダミーへ引き込まれる。
 リュウジャが絶叫に近い雄たけびを上げた。 
 身体が回転し、頭が烈火に染まる。

(  ゚_ゝ)「いけえええええええええええ!!!」(<_゚  )

 リュウジャは残りの魔力の全てを、炎と推進力につぎ込んだ。
 交差し盾となったボルトールの腕甲と衝突し、僅かな内に削り取って行く。

 攻撃の手を休めず、オトジャがリュウジャとリンク。
 飛行魔法と火炎の鎧を無理やり強化し、破壊力を強引に引き上げる

 対するボルトールも同じく、デレがリンクし火力を増した雷撃を放つ。
 
 乱れ混ざる熱と雷撃。
 明滅する赤い光は容赦なく両者の身体を破壊してゆく。

293名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:43:34 ID:cdPIdN4A0

( #Фω )「おおおおおおおおお!!」

 ロマネスクの心を満たしたのは、興奮。
 そして、負けるかも知れないことへの恐怖。

 初めて竜に乗った頃ですら、これほど楽しい戦いは無かった
 ここまでボルトールが傷つけられたことも無かった。
 自分の未熟さを発見するのが楽しくて仕方ない。

 アニジャは、予測の先のその先をついてくる。
 計算か偶然かなどどちらでもいい。
 苦戦している。その事実が脳が涎を垂らす程の興奮を生む。

 この攻撃を何とか凌がなければ、否、反撃しねじ伏せるまで行かなければ負け。
 無理に押し返そうとしたら何をされる?
 攻撃魔法で吹き飛ばそうとしたら何をされる?
 このままでいたらどうなってしまう?

 一秒にも満たない逡巡。
 答えの見えない難題。

 その瞬間、杉浦ロマネスクは、確かに笑っていた。

294名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:44:52 ID:cdPIdN4A0

( #゚_ゝ)「あああああああ!」

 ロマネスクがどんな返しをしてきても更に反撃につなげられる自信があった。
 まるでリュウジャと体が一つになっているようだ。
 音も光も臭いも味も痛みも、興奮さえも自分のもののように感じ取れる。

 脳が開いた。
 言葉にするならそんな感じだ。
 いつもは煮詰まって押し込められている思考が、大空のように次々広がってゆく。

 押し返してきたら。
 更なる魔法で来たら。
 このまま行くなら。
 思いつく限りの詰めの手順。

 もしこの外側の答えを出してきたら?
 もっと広い思考を持ってきたら?

 背中に汗が噴出す。
 回転の遠心力で外へ流れてゆく。

 読んでも読んでも勝ちが見えない。
 それでいい。

 勝利は読むものではない。
 実際に掴み取るものだ。

295名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:46:27 ID:cdPIdN4A0

 様々な思惑が、ほんの数瞬の間に飛び交った。
 地面まではあとわずか。
 ここでロマネスクの出した答えは。

( #゚_ゝ)「ッッ?!」

 全部。

 交差していた前足を素早く上下にずらし、防御を解く。
 秒と言うには短すぎる時間の合間に、リュウジャの回転に沿って身体を捻り、自由になった前足リュウジャの首を、轡を掴む。
 弾かれそうなところを、回転に自分が会わせる事で相殺した。
 その一連の動きの全てが、僅かずつアニジャの反応を上回る。

 黒の巨体が、リュウジャと共に回転を始めた。
 重みが加わったせいで、本来の速度が死に、破壊力は断然落ちる。

 剛力で締め付けられ逃げ場を失ったリュウジャは必死で足掻くが逃げられない。
 そこへ前足を通し、直接雷撃がぶち込まれた。

(<_  )「ッッ!?」

 竜の前に、人の魔法などは紙も同然。
 直接流しこまれた電流に防壁は役に立たず。
 ダメージを少しでも軽減しようとした保護の魔法も、苦しみを長続きさせるだけ。

296名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:47:50 ID:cdPIdN4A0

 リュウジャが顎を開いた。
 確実にダメージを受け、辛うじて耐えている状態だ

 しかしボルトールは離さない。
 リュウジャの体表を覆う灼熱の鎧が肉を焼くが、構わない
 後はこのまま、リュウジャを地面に叩きつける。
 それで、終わりだ。

( #Фω )「今である!」

 ロマネスクの出した、ブン投げの指示。
 僅かに聞えたのは、弱弱しいが確実な、もう一つの指示の声。

( O)  ェ゙ !

 妖精が叫んだのと同時。リュウジャの身体を覆っていた熱の膜が、口先に集中した。
 リュウジャの口は、ボルトールの胸元に押し付けられている。

( #Фω )「ッ!」

 咄嗟の判断だった。
 まだ投げの途中、リュウジャを手放す。
 真横に投げ出された赤い体。
 その半開きの口に、何より赤い炎熱の玉。

297名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:49:09 ID:cdPIdN4A0

 それが、消えたと誤解するほどの速度を持ち、ボルトールの肩を貫いた。
 甲高い擦過音に遅れて、貫通した傷口から鮮血が噴出しロマネスクの顔を濡らす。

(  ´_ゝ)

( Фω;;)

 二人の騎手の視線が交差した。
 物理的には、交わるはずの無い位置にいたはずだ。

 それでも二人は、互いの目を確かに見ていた。

 ドンッと、重くも短い音が砂漠に響く。

 熱砂の上、衝撃で砂を吹き飛ばし横たわる二頭の竜。
 両者、呼吸浅く。
 意識なし。

 それぞれの騎手騎助手は投げ出され、砂の上。

 駆け寄った審判は、この戦いを中継する妖精に向かって真っ直ぐに、旗を振り上げた。

  **  **  **

298名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:50:21 ID:u/0L7xn60
引き分け.....か?

299名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:50:52 ID:cdPIdN4A0
 
 
 
  エピローグ
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 
 
.

300名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:52:32 ID:cdPIdN4A0

( ´_ゝ`)「……オトジャ?」

 奇妙な静けさに、アニジャは目を覚ました。
 視線を振り回してまず初めに隣に座る弟の存在に気がつく。

(´<_` )「起きたか?」

( ´_ゝ`)「うん、あれ、俺達……」

 数秒の沈黙、アニジャは跳ねる様に飛び起きる。
 そして身体に走る痛みに身もだえした。

( ФωФ)「無理するな。骨に異常は無いそうではあるが、全身打身だらけである」

( ;´_ゝ`)「す、杉浦?!なんで?!」

( ФωФ)「何でも糞もないである。ここ、戦域近くの診療所であるよ」

( ´_ゝ`)「しん、りょうじょ?」

( ФωФ)「傷や病気を治してもらうところである」

( ;´_ゝ`)「それくらい分る、馬鹿にすんな!」

301名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:53:42 ID:cdPIdN4A0

ζ(゚、 ゚*ζ「あ、あの、アニジャさんは結構強く頭を打ったらしいので、少し休んでいた方が」

( ;´_ゝ`)「亜麻井も、そりゃあ、いるか……」

 アニジャは周囲をゆっくりと見渡す。
 木組みにレンガ造り。
 この国では一般的な建物だ。

 それほど広くない室内に、ベッドが四つ。
 丁度彼ら四人で埋まっている。

( ;´_ゝ`)「それで、あの、勝敗は?」

 おずおずとオトジャを見る。
 暗い顔して中々答えないので首を回しロマネスクを見る。
 相変わらず何考えているか分らない顔なのでその向こうのデレを見る。

ζ(゚、 ゚*ζ「え、えっとですね」

( ´_ゝ`)「うん」

ζ(゚、 ゚*ζ「……私達の、勝ち」

302名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:55:47 ID:cdPIdN4A0

(  _ゝ )「……ッ」

 アニジャががっくりと頭を下げるその寸前、オトジャがものすごい勢いでデレに向かって枕を投げた。
 間にいたロマネスクはあっさりと交わし、ボフッという音と共にデレの頭に直撃する。

(´<_` )「適当なことを言うな、亜麻井」

ζ(゚、 ゚*ζ「だ、だって!あの状況どう見たってロマの技ありじゃ無いですか!」

(´<_` )「馬鹿め。アニジャの咄嗟の指示でボルトールの肩が撃ちぬかれたことを忘れたか。そもそもあの状況に……」

 質問したアニジャを置いてきぼりにして、オトジャとデレが口論を始める。
 何がなんだかよく分らないアニジャは、そっとロマネスクを見た。

( ФωФ)「この状況で何となく察せぬか?」

( ´_ゝ`)「寝起きなのもあってかさっぱり」

( ФωФ)「……竜から降りると存外鈍い男であるな」

 ロマネスクは、長い指でポリポリと、眉間を掻いた。
 デレとオトジャの言い合いはなんだか訳の分らない方向に向かっていたので完全にスルー。

( ФωФ)「引き分け、である」

( ´_ゝ`)「……はい?」

303名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:57:00 ID:cdPIdN4A0

 つまりは、二竜の落下は同時とみなされたのだ。
 この事態は珍しらしく、審判も混乱していたという。
 本来であれば、二竜が同時に落ちた場合、仕切りなおしとしてもう一度戦わせたりもするのだが。

( ФωФ)「我輩たちも、貴様らも気絶していてそれどころではなかったであるからな」

( ´_ゝ`)「引き分け、引き分けかぁ……」

ζ(゚、 ゚*ζ「決勝戦で引き分けは前代未問らしいですよ」

(´<_` )「再戦できないかと聞いてみたんだがな、祭事だから必要以上に時間は延ばせないとさ」

 オトジャの言葉を聴きながらも、アニジャはベッドに倒れた。
 これまでの比ではない疲労感が身体に居座っている。

( ´_ゝ`)「……でも、ま、いっか、楽しかったし」

 そして、恐らくこの場でもっとも楽天的なことを言い放つ。
 オトジャは何か言いたげに片眉を潜め、デレは馬鹿がいるという顔でアニジャを見ていた。
 ロマネスクだけが、同意と言いたげな涼しい笑みを浮かべている。

(´<_` )「よくもまあ、簡単に言ってくれる」

ζ(゚、 ゚*ζ「ついさっきまで、殺し合い同然のことしてたとは思えない能天気さ……」

304名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:57:44 ID:cdPIdN4A0

( ´_ゝ`)「だって、仕方ないだろ。竜騎手同士の私闘は禁じられてるし、今更勝敗が決められるわけじゃない」

( ФωФ)「そうである。良い戦いであった。勝ちたくなかった、といいたいわけでは無い」

( ´_ゝ`)「そうそ」

(´<_` )「……」

 全力を賭して、全部受け止める。その言葉に嘘は無いらしい。
 これまでのアニジャであれば、負けではないとは言え落ち込んでまともに話すことすら出来なかっただろう。
 それだけ、充実した試合だったのは本当かもしれない、とオトジャも息を吐いて納得した。

( ´_ゝ`)「決着はつけたいけどさ。流石に、決着つけたいがために謀反起こすわけにも行かないし」

( ФωФ)「……その手があったか」

ζ(゚、 ゚*ζ「ちょっと、ロマは竜のこと以外お馬鹿なんだから変なことふっこまないでください!」
 
(´<_` )(……今、亜麻井に更なる親近感を覚えた自分がいる)

 デレの言葉を借りれば先ほどまで殺し合い同然のことをしていた四人。
 本当に一歩間違えれば命を落としてもおかしくない場面は山ほどあった。
 しかし、今は和やかに話をしている。
 それも、試合の前よりも親密さをもって。

(´<_` )(……ま、俺達全員馬鹿ってことか)

305名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 23:59:02 ID:cdPIdN4A0

( ´_ゝ`)「あ!そうだ!表彰式とかどうなんの?」

(´<_` )「係の話だと、別のプログラムを前倒ししているらしい。場合によっては後日だそうだ」

( ´_ゝ`)「……ふーん」

 アニジャはゆっくりとベッドから降り、木の窓を開けた。
 目の前に広がる砂漠。
 空は少しずつ薄くなっているが、まだまだしっかりと青を保っている。

( ´_ゝ`)「ちなみにリュウジャとボルトールは?」

(´<_` )「リュウジャは、電撃のダメージが大きかったが、骨格には特に問題ない。今は厩舎で魔法治療されてる」

ζ(゚、 ゚*ζ「ボルトールは傷の修復自体は殆ど済んでます。鱗や甲殻の修復はもう少しかかりますけど」

( ´_ゝ`)「そっかぁ……」

(´<_` )「……何か、良からぬ事企んでるだろ?」

( ´_ゝ`)「どうせなら、競争しようぜ」

( ФωФ)「は?」(´<_` )ζ(゚ー゚*ζ

  **  **  **

306名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:00:40 ID:tq7DxDWw0

l从‐、 ‐ノ!リ人 「アニ兄者……オト兄者……心配なのじゃ……」

∬;´_ゝ`) 「ほら、一応無事だって連絡はあったんだから、そんなに落ち込まないの」

l从・、 ・ノ!リ人 「だって、もう一時間以上たったのに、目を覚ましたって連絡すらないのじゃ……」

∬;´_ゝ`) 「そらそうだけど……」

 最終戦が引き分けという劇的な最後を迎えてから、一時間半ほど立った広場。
 竜騎武闘の為の設置は既に取り払われ、変わりに出てきたステージの上で民族舞踊が披露されている。
 それなりに人は残っているが、やはり竜騎武闘程の賑わいはない。

 イモジャが座り込んでいるのは、広場を少し外れたところにある祭の運営の本拠となっているテントの前だ。
 衛兵が並び、近くには仮設の厩舎や診察所もある、祭りの心臓部である。

∬;´_ゝ`) 「ほらもう、せっかく写真機持って来たんだから、踊ってるお姉さんのお尻見に行こう」

l从・、 ・ノ!リ人 「お尻は魅力的だけどここにいるのじゃ。いち早く兄者達の無事を確認したいのじゃ」

∬;´_ゝ`) 「そんなこと言ったって、本部には関係者以外は入れないんだから……」

 ぐずるイモジャの扱いに困っているアネジャの目の前に、一人の男が通りかかる。
 初めて見るが、どこかで見たような……。

307名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:01:34 ID:tq7DxDWw0

∬;´_ゝ`) 「あ、メメメオンに乗ってた人!」

( ^Д^)+ 「ん?なんだ?俺のファンか?」

 メメメオンの騎手、プギャーだ。
 手には屋台で買ったと思しき食料品の類を抱えて、診療所へ入るところだった。
 声をかけられ振り向いて、アネジャの顔を見て硬直する。

( ^Д^) 「……アニジャが。女になった、だと?」

∬;´_ゝ`) 「久々の反応!その話は後でいいわ。貴方騎手候補生よね?本部に入ったり出来る?」

( ^Д^)+ 「ん?まあ俺クラスになると本部とか顔パスだけど」

 その返事を聞いてイモジャが激しく顔を上げる。
 目には涙を蓄え、プギャーを見つめる。

( ^Д^)+ 「どうしたお嬢ちゃん。俺に惚れても辛い思いするだけだぞ」

l从・∀・。ノ!リ人 「お願いがあるのじゃ!卑怯の人!」

( ^Д^) 「うん。そこまで俺を知ってるならせめて名前で呼ぼうか」

308名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:03:11 ID:n2NwmVLQ0
揺るがないプギャーwwww

309名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:04:06 ID:tq7DxDWw0

( ^Д^) 「なるほど、そういうことか」

 要領を得ないイモジャの代わりにアネジャが事情を説明するとプギャーはあっさりと承諾した。
 屈んでイモジャの目線にあわせ、イモジャの頭を優しく撫でる。

( ^Д^) 「安心しな嬢ちゃん。俺がちゃんと聞いてきてやるよ」

l从・∀・*ノ!リ人 「アリガトウなのじゃプギャーちゃん!」

( ^Д^) 「いいってことよ。いいか、帰ったら友達に「プギャーはイケメン」って言うんだぞ」

l从・∀・*ノ!リ人 「分ったのじゃ!プギャーちゃんはイケメンなのじゃ!」

 それだけイモジャに刷り込むとプギャーはテントへ入って行った。
 顔パス、というより祭りの係員が山ほどいることを利用し、係員の振りをしながら入ったという感じだ。
 少し待っていると「関係者以外は立ち入り禁止」的なことを説教されながらも颯爽と飛び出してきた。

l从・∀・*ノ!リ人 「イケメンちゃんどうだったのじゃ?」

( ^Д^) 「いや、なんか」

∬´_ゝ`) 「やっぱりダメだった?」

( ^Д^) 「違う、もう目を覚まして、こっちに向かってるって」

∬´_ゝ`) 「え?」 l从・∀・ノ!リ人

  **  **  **

310名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:05:09 ID:XtK2FsmY0
何刷りこんでんだよwwww

311名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:05:45 ID:tq7DxDWw0

( ´_ゝ`)「なー、杉浦!こうやって空を飛ぶのも悪くないな!」

( ФωФ)「ふん、貴様に言われんでも知っているわ」

 空を駆けるのは心地がいい。
 日が傾き、熟れかけの柑橘のようなグラデーションの空は透明な匂いがする。

( ´_ゝ`)「いいか?先に着いたほうが勝ちだからな」

( ФωФ)「是非も無し!」

(´<_` )「…ったく、こんなんで決めるのかね」

ζ(´ー`;*ζ「まあ、いいんじゃないですか?もう戦うだけの余裕は無いし、これなら問題もないし」

( ´_ゝ`)「オトジャ!ちゃんと魔法張ってくれ、鞍無いから辛い」

(´<_` )「俺の脳に死ねと」

 落下の際に壊れてしまった騎乗具。
 今四人はそれぞれ裸の竜に跨っていた。
 大きなボルトールはともかく、小柄なリュウジャは鞍と鐙が無いと少々乗りずらい。

 オトジャは翼の根元の胴を足ではさみ、アニジャはリュウジャの首に抱きついて飛んでいた。
 妖精の二匹も羽を広げて自由飛行している。
 ドクオの方は速度について来れず、リュウジャの頭にしがみ付いていたが。

312名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:07:16 ID:n2NwmVLQ0
ここであの絵か....!

313名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:07:41 ID:tq7DxDWw0

( ´_ゝ`)「杉浦!正竜騎手になれたら、もっと勝負しよう」

( ФωФ)「む?」

( ´_ゝ`)「何もガチンコって訳じゃないんだ。ただ、竜騎手としてさ」

( ФωФ)「……良いであろう。我輩も、勝負はつけたいと思っていた」

( ´_ゝ`)「他の竜騎手もさ、みんなで。どいつもこいつも空と竜が好きな馬鹿ばっかだろ?」

( ФωФ)「ふん、貴様に馬鹿といわれたら、溜まらんであるな」

ζ(゚、 ゚*ζ「なんか、いつの間にか仲良くなっちゃって」

(´<_` )「……馬鹿同士気が合ったのかもな」

( ФωФ)「貴様とサスガ弟も、随分仲良くなったようであるな、デレ」

ζ(゚、 ゚;*ζ「フォヴォォォ?!」

( ФωФ)( ´_ゝ`)(フォヴォォォ?)(´<_` )

314名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:09:37 ID:tq7DxDWw0

 四人の目に目的の街、VIPが見えた。
 それまで並んでいた二竜の騎手が、目を合わせる。

( ´_ゝ`)「よーし、ドクオ、ブーン、置いてかれるなよ」

( ^ω^)「おっおー!」

(;'A`) 「ちょ、おれ、飛ぶの苦手」

 リュウジャが羽を広げ、滑空の勢いで加速する。
 ボルトールも続くが、やや出遅れた。

( *´_ゝ`)「いっけえええ!」

 目的地はVIPの広場。
 未だ人が残り催しを見物しているそこへ。

 気付いた人々が驚いた目を向ける。

 群集の中に妹を見つけた。
 まだ幼い、小柄な身体で一生懸命こちらに手を振っている。

 隣にいるのはプギャーだ。
 何か妙にイモジャが懐いているのは気のせいだろうか。

315名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:11:21 ID:tq7DxDWw0

( ´_ゝ`)「よーし、降りるぞ!」

 風は良好。
 日差し柔らか。

( ^ω^)「着地目標地点安全確認」

 試合には勝てなかった。
 でも不思議と満たされる感覚がある。

(;'A`) 「あ、あばばばば!妖精用、騎乗鞍、ください!」

 どこまでも続く青の広さ。
 羽ばたけば羽ばたくほど思い知る高さ。

(´<_`; )「ったく、なんだかしまらないな、俺達」

 いくら手を広げても小さい自分。 
 いくら飛び上がっても届かない掌。

( *´_ゝ`)「ははっ!まあ、流石俺達ってことで!」

 リュウジャが楽しげに、一つ嘶きを上げる。

316名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:12:54 ID:tq7DxDWw0

 それでも、飛ぶことは止めない。

 辛くとも、虚しくとも。

 絶対に飛び続けるだろう。


 空が白いから。

 空が青いから。

 空が赤いから。

 空が黒いから。

 なんかよくわかんないけど、とりあえず空が好きだから。

 そして、何より二人は、竜の友。

 竜騎手なのだから。

 http://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/11.jpg

317名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:15:35 ID:tq7DxDWw0



               ( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )


                          お わ り


.

318名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:16:56 ID:XtK2FsmY0
お疲れ!
いい最終回だった!
熱い展開に燃えっぱなしだったよ!

319名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:17:10 ID:tq7DxDWw0

 おわりだよ

 ラストだけで半日悩んだりとか、かなり苦戦した話だったけど書けてよかった
 絵を使わせて頂いた方には頭が上がりません
 最初は参加するか微妙な感じだったんだけどね、見た瞬間書きたくなったよね。たまんないよね

 広げ切れなかった部分とか、ラノベ祭りの期間が1年あれば50話前後連載するつもりだったこのさらに後の話とか
 書こうかとも思ったけど、とりあえずこれで区切りってことで

 では改めてNo.11を描いた方、読んでくれた人、ありがとう
 おかげさまでとっても楽しかったッス

320名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:19:37 ID:n2NwmVLQ0
乙!!
('A`) 「続編を注文しますか?」

321名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:20:05 ID:3WQ6rPpAO
熱かった おつ

322名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:20:06 ID:f3chWkIg0
乙!
戦闘シーンは本当によかった
プギャーのキャラも好きだ
下手すると流石兄弟やロマネスクよりも好きかもしれんwww
いつでも連載してもいいのよ!

323名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:21:07 ID:2wJ1JO2s0
No11描いた者です、本当におつかれさまでした…!!
戦闘も竜も大好きで、更に流石兄弟とロマネスクが好きなので、始終叫んでました
マジで最後とか!熱くて!!手に汗握りながら読んでましたうおお!

最後まで使用なさった絵が出なくて、支援どうしようと躊躇っていたのですが、
明日にでも是非描かせてやってくださいませ…!
本当におつかれさまでした!おもしろかったー!!!

324名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 00:36:50 ID:CRXE7rvQ0
乙!!最高に楽しかった!
バトル描写で手汗握りまくりだったせいで手が気持ち悪い
>>320
是非注文してくれ

325名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 02:19:44 ID:49i9EkCAO
ω・`)乙。


ω・`)話は短かったけど個人的には今年No.1の戦闘描写。

326名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 08:08:37 ID:x/C1CkvEO
世界観も戦闘描写も何もかもがすっげえ良かった
乙乙!

327名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 09:31:34 ID:zBBz/WTA0
乙!
面白かった!
このプギャー好きだwww

328名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 15:04:00 ID:/FACZcCI0
すごい面白かったわ
竜も騎手たちもすごく魅力的。それぞれ掘り下げた話とか読んでみたくなるくらい。
この後の話あるなら読みたいなーチラッ

329名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 17:00:35 ID:zjK/eIIU0
読んだ!!!!!
めちゃめちゃアツイやばいクソかっこよかった!!
もう言われてるけどキャラがそれぞれ生きててほんとに各人のもっと掘り下げた話も見たいし、省略されたチームの試合も読みたくてたまらん
あとずっと言ってるけどちょっとした表現の描写のセンスがすげーよな語彙っていうのかなんなのか

続いてもいいんじゃないかな!とりあえず乙!!

330名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 18:08:54 ID:uU3rjV6w0
乙!

331名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 19:25:20 ID:tjnLBfO20
俺はこの話をもっと読んでいたい

332名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 20:46:19 ID:LvGPs7EM0
乙!ほんと乙!
戦闘も会話もキャラも大好きだ!

333名も無きAAのようです:2012/11/27(火) 21:51:08 ID:0NeDHXFA0
生まれて初めて文章が面白いと心の底から思った
ブーン系小説読んでて初めて読了後に何も言えなくなった
思考停止してもはや感想すら浮かばない
心の底から本当に乙でした

334名も無きAAのようです:2012/11/28(水) 00:18:10 ID:OIOf2yfMO
竜騎士全員のキャラが立ってた
セントジョーンズが好きだわ
不幸な天才ー

335名も無きAAのようです:2012/11/28(水) 00:47:31 ID:Maf1h2Kw0
面白いぞー
ヒッキー貞子とかも見てみたいなwww

336名も無きAAのようです:2012/11/28(水) 03:06:16 ID:740O01wI0
乙!おつおつ!!

337名も無きAAのようです:2012/11/28(水) 14:56:49 ID:yOIFZ.p60
面白かったぜ
カーチャンの活躍も見たかったけど

338名も無きAAのようです:2012/11/28(水) 22:46:11 ID:rS4DvXjo0
※ネタばれ注意
1Pではありますが、一番最後の、ものすごい好きなシーンを漫画にしてみました。
http://vippic.mine.nu/up/img/vp100046.jpg

ここの、兄者の台詞がもう何よりも好きで好きで…!
改めましてお疲れ様でした、続けても…いいじゃない…!

339名も無きAAのようです:2012/11/28(水) 22:50:22 ID:w6PkeAX60
すんげえ

340名も無きAAのようです:2012/11/28(水) 23:16:24 ID:GJRNBbck0
>>338
かっけえ、かっけえよ…
絵を描いてくれると聞いて密かにワクワクしていましたが、すんげー嬉しいです
かなり悩んで何度も書き直した部分だからなおさら
本当ありがとうございます

341名も無きAAのようです:2012/11/29(木) 14:21:12 ID:/PuuAxsQO
乙!
久々に素晴らしい話を読んだよ
こんなに引き込まれたのは初めてだ…

こういう祭の作品は綺麗な形で完成されてるから普段はおかわりしなくても満足なんだが、初めて連載して欲しいって思った

342名も無きAAのようです:2012/12/17(月) 20:24:01 ID:q.TgcE3c0
続編に期待

343名も無きAAのようです:2012/12/18(火) 01:25:27 ID:ok3VQ5x60
>>338
思いの向こう側の人じゃないかw

ここまで一気に読んだ。本当に面白かった
こんなの作ってくれた主にマジ感謝

344<^ω^;削除>:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>

345名も無きAAのようです:2012/12/28(金) 23:23:39 ID:8uAbjALQ0
全裸待機が辛い季節だほ

346名も無きAAのようです:2012/12/30(日) 21:30:43 ID:Ft7fp6ckO
乙、超乙

347名も無きAAのようです:2013/01/01(火) 23:57:49 ID:ihisGSGA0
乙!
すっげー面白かった!

348<^ω^;削除>:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>

349名も無きAAのようです:2013/01/02(水) 00:06:37 ID:SfiNtVZc0
ごめん誤爆した
続き未だに楽しみにしています!

350名も無きAAのようです:2013/01/17(木) 18:28:20 ID:ByTv1SEc0
今更だけどすごい良かった、
今更ついでに気になったけど四話だけタイトルが無いのは仕様なんだろうか

351名も無きAAのようです:2013/10/11(金) 23:57:05 ID:gy1Pp0FY0
待ってる

352名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 00:07:20 ID:b0KIKjuUO
何を待ってんの?

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