したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

('A`) いつでも風は吹くようです

35名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 00:46:27 ID:5DwzsHQ60

('A`)「ただいま」

 家に帰ると、時計の針はもう16時を回っていた。
 休日は本当に、あっという間に時が過ぎていく。

 高校の資料をじっくり眺めているだけで、もう夕食の時間になった。


( ゚д゚ )「ドクオ、高校に入ったら部活の一つくらいやってみる気はないのか?」

 リビングのテーブル、俺の向かいに座っている父さんが言う。

 話す時に目力を極端に強くする癖は直して欲しい、
 と思いつつ、口の中のカレーを飲み込んで言った。

('A`)「まだ決めてないよ」

( ゚д゚ )「陸上部には入らないのか? ずっと前、あれ買ってやったじゃないか」

36名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 00:48:08 ID:5DwzsHQ60

('A`)「今のところは……」

J( 'ー`)し「本当は迷ってるんじゃないの? 優柔不断なところだけ似てる」

 母さんが、話しながらテーブルに座る。

( ゚д゚ )「ん? 誰にだ?」

J( 'ー`)し「あなたに。『お腹が気になるからジムに通おうか』って言ってから、
      1ヶ月は経ってると思うけど。
      近所のデミタスさんなんて、オリンピック目指してるのに」

( ゚д゚ )「それはだな……」

 言葉に詰まっている父さんを尻目に、俺は黙々とカレーライスを食べる。


('A`)「ごちそうさまでした」

37名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 00:49:25 ID:5DwzsHQ60

 いつもより早く食べ終えて、自分の部屋に戻った。

 外はもう真っ暗。僅かに肌寒さを感じて、赤外線ヒーターの電源を入れる。
 こんなことなら、まだこたつを片づけなくても良かったな。


 寒くても悴む程じゃないから、手は普段通りに動く。

 デミタスさんとの会話を思い出して、部屋の隅にある真っ白な箪笥を開けた。
 ギイ、と軋む音。

 奥の方に見える、黒い布の袋。

 いつもなら、取り出そうと手を伸ばした所で躊躇する。

 心に引っ掛かった不安を拭い切れなくて、
 掴む事が出来ずに、手を引っ込めてしまう。

38名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 00:51:09 ID:5DwzsHQ60

 何度繰り返しただろう、何度「やろう」と思っただろう。


 もう、やめにしよう。


 意を決して黒い袋を掴み、開けて中身を取り出す。

 綺麗な新品のシューズともう一つ、
 クシャクシャに丸まった紙が、袋から出てきた。

 懐かしい痛みが湧き上がるのを堪えながら、紙を広げる。

('A`)「――」

 中学時代の、あの時の入部届け。

 シワだらけでよれよれになってても、なんとか字は読める。

39名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 00:53:04 ID:5DwzsHQ60

 入部届けには、名前・希望する部活・希望する理由を記入する欄が、
 それぞれ設けられていた。

 その中の、希望する理由に書かれている事。


 『走る事が好きだから』。

 一番シンプルで、純粋で、力強い思い。
 あの時にはまだ無かった、強固な心。

 これをしっかりと持っていれば、どんなに笑われたってやっていける。

 転んでも挫けそうになってもまた這い上がれる、
 そんな確信に満ちた直感が、体中に溢れてきた。


('A`)「やってやる」

40名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 00:54:47 ID:5DwzsHQ60

 この日だけは、夜が過ぎるのをいつもより短く感じた。
 すんなりと眠る事ができて、翌日も気持ち良く目覚められた。

 朝食も終え、小休憩。

 お茶を飲んでいると、母さんが洗い物をしながら話しかけてきた。

J( 'ー`)し「そうそう、今日ゴミを出してたらね。
      公園の桜が咲いてたよ。まだ満開じゃないけどね。
      もうすっかり春ねぇ」

('A`)「へぇ、いつもより早いんじゃない? ここら辺じゃ」

 いつもなら四月になってから咲く筈なのに、珍しい事もあるものだ。
 最近、暖かかった所為だろう。

('A`)「じゃ、いってきます」

J( 'ー`)し「いってらっしゃい」

41名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 00:56:32 ID:5DwzsHQ60

 玄関を出て、大きく深呼吸。
 外は昨日のようなぽかぽか陽気で、冬の名残はどこにも感じられない。

 いつもと同じ道を通り、まっすぐに河川敷へ向かう。


('A`)「ん。んん!?」

 河川敷に着いて準備体操――しようとして、足元にある「何か」に気が付いた。

 ネズミの死骸だ。
 小さい、茶色いネズミが、ぴくりとも動かずに横たわっている。

 まさか。まさか、あいつがやったのか。

 辺りを見回す。
 土手の上、小さくなっていくギコの後姿を発見した。

('A`)「ほー」

42名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 00:59:49 ID:5DwzsHQ60

 もう老いていくだけかと思ったのに、年をとっても充分やれるみたいだ。
 6年前の事を思い出して、思わずにやける。

 俺もやってみるよ。自分が出来る所まで、全身全霊を傾けて 。

('A`)「さーて」

 短距離走は久し振りだ。
 入念に準備運動をし、きちんと体をほぐして、しゃがみ込む。


 気持ちを落ち着かせてから前傾姿勢になる。
 すると、生暖かい風が吹いた。

 後ろから前へと、勢いよく吹きぬける風。

 追い風だ。
 それを逃さないように、しっかりと足を踏みしめて、

43名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 01:00:42 ID:5DwzsHQ60

('A`)「!」

 走り出す。迷いも不安もかき消して、全力で前へ飛び出す。


 風の中でのスタートダッシュは、今までで最高に気持ち良かった。





     ('A`) いつでも風は吹くようです おわり

44名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 01:02:25 ID:5DwzsHQ60
うおお

すごく短かったけど、読んでくれた人ありがとう。

感想など頂けたら嬉しいです。次に活かしたいので。

45名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 01:03:21 ID:dpVsaLwY0
面白かったけど消化不良だなぁ
もう少し書いて欲しかった

46名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 01:19:56 ID:62YPiB.60
恋愛ものでは無かったか
しかし面白かった、乙

47名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 01:26:31 ID:U0/9WlFUO
これから先の高校で記録を伸ばしていくとことか 
 
( ^ω^)、(´・ω・`)とかの絡みまでよみたかった 
 
短編じゃ終わらなくなるけど

48名も無きAAのようです:2012/04/01(日) 14:02:16 ID:MbuMJ6TMC
続きが読みたくなるような話だった



49名も無きAAのようです:2012/04/02(月) 11:38:46 ID:fH8RK0pMO

一瞬の風になれ 的なさわやかさ
続きを期待


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板