したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

[SS]壊れた大学生の追憶

1ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:00:23 ID:dTDZPd7A00
7作目です。
これまで同様、世界観は前作までと共通です。
かなり長編になると思いますが、どうかお付き合いください。
よろしくお願いします。

206ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:34:25 ID:HUYrE5r.00

リカエ「交渉成立だ」

リカエリスは右手を差し出す。

???「ああ」

フォックスの一人もその手を握ろうと右手を差し出す。

ガシッ!

???「!!」

リカエ「はあっ!!」


ブンッ!!


???「ぐあっ!」

リカエリスはフォックスの腕を掴んで投げ飛ばした。


ドガァッ!!


そのフォックスに巻き込まれて二人のフォックスも吹き飛ばされる。

???「フェイクか!」

フォックスの一人が飛びかかる。

リカエ「さて、どうかな」

???「なっ…!」

リカエリスは瓶を盾にし、フォックスは攻撃を止めた。


ドゴッ!!


???「ぐはっ…!」

その隙に腹に蹴りを叩き込む。

???「あの薬品を取り上げろ!」

リカエ「果たしてお前たち程度に、瓶を割らずに取り上げることなどできるかな?」

???「舐めるな。この人数差、この狭い空間でお前が我々に勝つなど不可能」


ブンッ!!


背後からの攻撃をリカエリスはかわし。


ドゴッ!!


???「かはっ!」

蹴り飛ばす。

リカエ「舐めるなとは、此方の台詞だな。お前たちの動きは先程の奴らよりも鈍い。大方お前たちはこの施設に篭り戦闘訓練をほとんどしていない、研究特化型クローンといったところだろう?」

???「くっ…」


ズドォッ!!

ドゴォ!!

バキィ!!


そしてリカエリスは孤軍奮闘の末、フォックスたちを退けた。

が。

タタタタタ…

リカエ「!」

207ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:35:41 ID:HUYrE5r.00

???「ここまでだ」

通路を塞いで足止めしていたフォックスたちが駆けつけた。

リカエ「少し時間を掛けすぎたか…」


ドガガガッ!!!


最初に駆けつけたフォックスとリカエリスが打ち合い。


ブンッ!!

ドガァ!!


???「ぐっ…」

壁に向かって投げつけるが、すぐに立ち上がる。

リカエ「く…」

そしてリカエリスも肩に一撃食らっていた。

???「…もう諦めろ。我々はまだストックがある。お前の体力も限界が近いだろう」

リカエ「諦めるのはお前たちだ…」

リカエリスは瓶を見せる。

???「くっ…その薬品は爆薬だ…!窒素に反応し爆発する!」

先程倒されたフォックスの一人が這いつくばりながら伝える。

リカエ「そういう事だ」

???「構わん」

リカエ「……何だと…?」

???「先程別働隊から連絡が来た。検体は全て基地の外へ運び終えたとな」

リカエ「何!?」

???「これまでの戦いは全て時間稼ぎという訳だ」

リカエ「馬鹿な…くっ、仕方ない!」


パリィン!!


リカエリスは瓶を床に叩きつけて割った。


ぼわぁっ!!!


???「なっ…!?」

その瞬間研究室内は白い煙に覆われた。

???「煙幕か…!」

???「く…やはり…ブラフだったか…!」

208ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:36:48 ID:HUYrE5r.00


リカエ(あの通路は塞いでいた…つまり他に抜け道がある…!どこだ…!?)

タタタタタ…

リカエリスは室内を走り回り探索する。

すると。


女リンク「助けてェェーーーーッ!!」


リカエ「!!今の声…!あっちか!」

タタタタタ…

声の方へとリカエリスは走る。

リカエ「あった!」

出入り口を発見し、そこを出ると地上への階段があった。

タッタッタッタッ…!

階段を一気に駆け上がっていく。


ドガァン!!


そして最後の扉を蹴り破る。

と。

リカエ「!!」

???「!!」

そこにはアーウィンに乗ろうとするフォックスたちがいた。

女リンク「ンーーー!!」

口を塞がれた女リンクが必死に叫んでいる。
そしてその腕には赤子を抱いていた。

リカエ「待てっ!!」

209ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:40:12 ID:HUYrE5r.00

チュンッ!チュンッ!

リカエ「くっ!」

三人のフォックスがブラスターでリカエリスの足元を狙う。

???「行け。我々が食い止める」

???「ああ」

ゴゴゴゴ…

キィィィィン…!

五機あるうちの四機が飛び去っていく。

女リンク「ンンーーーー!!」

女リンクは最後のアーウィンの後部に詰め込まれる。

リカエ「くそっ!どけ!!」

???「通さん」

ザザッ!

リカエ「くっ!!」

リカエリスの前にはフォックスたちが立ち塞がる。

???「時限式次元分離システム、発動まで十秒…」

リカエ「!!自爆する気か!」

???「九…八…」

リカエ「くそっ!!」


ズドドッ!!

ドガッ!!

ドゴォォ!!


???「ぐはぁっ!」

フォックスの一人を一瞬で倒す。

???「七…六…五…」


ズガガガッ!!!

バゴッ!!!


更にもう一人。

???「…四…三…二…い…」

リカエ「うおおおおっ!!」


ドガァッ!!!!


そして三人目も突破し、発進しようとするアーウィンへ走る。

210ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:41:21 ID:HUYrE5r.00

ゴゴゴゴ…

しかし間に合わない。


チュンッ!


ブラスターから一発の弾を放つ。

リカエ「いけぇぇ!!」


パリィン!


それはコックピットの窓を貫き。


バチッ!


???「なっ…!」

パイロットの指を弾き。


ボンッッ!!


制御装置を破壊した。


キィィィィィン!!!!


そのままアーウィンは真っ直ぐに飛んでいった。

リカエ(あのまま真っ直ぐに行けば海に落ちる…助かってくれ…!)

そしてその瞬間。


ゴォォッ…


基地の奥から球状に拡がる巨大な黒い閃光に、リカエリスは呑まれた。

211ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:42:51 ID:HUYrE5r.00




アーウィン機内にて。

???「くっ…制御装置をやられたか…!通信して救助を…」

ガッ!!!

???「ぐっ!?」

女リンクは拘束を解き、後ろからフォックスの首を絞めた。

女リンク「…私のことは基地に置いてくるべきだったわね」

ミシミシ…

???「く…」

ゴキッ…

首の骨が折れる音が鳴る。

女リンク「…よし…次は…」

ドガッ!!

アーウィンの操縦席の下部を破壊。

そして中の配線を引っ張り出し、引きちぎった。


バチバチバチバチ!!


女リンク「ぐぅぅぁぁぁっ!」

女リンクは感電する。

女リンク「……はぁ…はぁ…はぁ……これで…あのチップは機能しないだろう…」

カチャ…

更にフォックスのホルスターからブラスターを奪う。

チュン!チュン!チュン!

パリィン!!

女リンク「下は…海か……よし…」

ダッ!

コックピットの窓を割り、女リンクは脱出した。

212ハイドンピー (ワッチョイ 13f7-92d0):2021/10/26(火) 18:43:33 ID:HUYrE5r.00




十数分後、とある無人島にて。

???「こちらCR-40。オリジナル、報告がある」

???『どうした』

???「一時間前、第二基地に侵入者が現れた。調べたところリカエリスという名のフォックスだ」

???『それで?』

???「奴を倒すには我々の基地の戦力では足りないと判断した。検体を全て回収し、開発中の次元分離システムを発動した。システムは正常に作動。残ったのはCR-40、42、43、84の四体とアーウィンが四機のみ…だが奴は確実に仕留めた筈だ」

???『そうか。まあ仕方あるまい。今の未完成なクローンでは熟練のフォックスには太刀打ちできぬ事は想定の範囲内だ。モルダー細胞は無事なのか?』

???「ああ、そちらは問題ない。ただ脱出に使った五機のうちの一機が墜とされた。海に墜落した機体を調べたが、パイロットであるCR-89は首を折られ絶命。リンク族の女と赤子は姿を消していた」

???『逃げられたか。女には生体反応チップを埋め込んでいた筈だが』

???「ああ。しかしチップの反応が無い。脱出した際に着地に失敗し絶命したか、何らかの方法で無効化したか。いずれにせよこれではすぐには見つからない。捜索に人員が欲しい」

???『分かった。第三基地のCR-110から119を向かわせる』

???「了解」

213ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:06:26 ID:X201ky2QSd





魔法学校の一室。

小学生「うおお!!やっぱすげーな㌦ポッター!」

おこめ「なかなかやる」

㌦「何、これくらい朝飯前だよ」

㌦ポッターの前の机には、赤みがかった金属の塊が転がっている。

小学生「でもこれ金じゃないよな」

㌦「うん。金の錬金はかなり難しいんだ。僕はまだ銅の錬金しかできない」

小学生「へー。何が違うんだ?」

㌦「金の錬金には銅よりも遥かに繊細な魔力のコントロールが必要なんだよ。先生でもなかなか上手くいかないし、成功しても数分で消えてしまう」

おこめ「そんなにか!」

小学生「俺からすりゃ銅でも十分すげーけどなぁ。やっぱ魔法は奥がふけーな」

㌦「コツさえ掴めばこれくらいは簡単さ。君も二、三年勉強すればできるようになるよ」

小学生「それでも二、三年掛かるのかよ…」

おこめ「魔法の才能ないもんな」

小学生「うっせー!」

214ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:08:13 ID:X201ky2QSd

昼間「おや、まだ居たんですか?もうそろそろ下校の時間ですよ」

小学生「あ、召喚士先生」

㌦「お疲れ様です!」

昼間「おお、これは銅の錬金ですか。かなり高い精度で錬金できていますね。これは㌦くんが?」

㌦「はい!」

昼間「お見事です。その若さでここまでやるとは。私が君たちくらいの歳の頃はまだ魔力の操作もおぼつかない未熟者でしたよ」

小学生「そう言えば、先生はなんで魔法使いになったんですか?」

昼間「私ですか?私はただ魔法使いの家系に生まれて、他の選択肢は無かったというだけですよ。両親が厳しい人でしたから」

おこめ「あらら」

昼間「初めは嫌々でしたけど、召喚魔法の楽しさに気付いてからは充実した学校生活になりました。君たちはすごいですね。初めから確固たる目的意識を持ってここにいるのですから」

㌦「えへへへへ」

おこめ「そんなに褒めるな!むふ」

小学生「……目的意識…か…」

小学生はその言葉で少女のことを思い出す。

その時だった。

215ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:09:10 ID:X201ky2QSd


カッ!!


小学生「うおっ!?」

突如、窓の外が光に包まれた。

㌦「な、何だろう…雷…?」

昼間「いえ…雲も出ていませんし、音もしません。誰かが閃光の魔法でも使ったんでしょう。私が様子を見てきます。君たちはもう帰りなさい」

三人「はーい」

召喚士は教室を後にした。

小学生「閃光の魔法か…でもそんなにデカい光出せたっけ?あの魔法」

㌦「どうだろう。僕たちが習ったのはまだ弱い魔法だったのかも。上級生ならあれくらい出せるんじゃないかな?」

おこめ「でもなんで使った?閃光」

小学生「あれって暗闇を照らしたり、敵の目眩しに使う魔法だよな」

㌦「たしかに…もう暗くはなってるけど街灯もあるし、閃光を使うほどじゃない。だとしたら…」

おこめ「だれか襲われてる?」

小学生「かもしれねーな…!よし!俺たちも行ってみよーぜ!」

おこめ「うん!」

㌦「え!?ちょっと!先生はもう帰れって…」

小学生「前にその先生が言ってたろ?気になることはとことん追求しろ、新たな可能性が見つかるかもしれない、ってな!」

㌦「いやいや!それはルールを守った上での話で!そもそも本当に誰かが襲われてたとしても先生が向かった時点で蹴りはついたも同然…」

おこめ「ふっ、びびりめ」

㌦「ビ、ビビってるわけじゃないよ!分かったよもう!行くよ!」

小学生「そうこなくちゃ!」

そして三人は召喚士を追って外へ出た。

216ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:11:46 ID:X201ky2QSd


小学生「…つっても、どっから光が出てたんだ?」

㌦「窓の外が真っ白になるくらい光ってたからね…中心点なんか分かるわけないよ…」

おこめ「魔力を探る!」

小学生「おお、そういやこないだ習ったな。よし、みんな集中するんだ!」

三人は目を瞑り、感覚を研ぎ澄ます。

そして。

小学生「見つけた!」

おこめ「もう!?」

㌦「早いな!」

小学生「召喚士先生の魔力は他の人よりデカいから分かりやすかったぜ!こっちだ!」

おこめ「あ!待て〜!」

三人は走り出す。


タタタタタ…

㌦「でもすごいな。僕なんて二人の魔力に邪魔されてまだ何も分かってなかったのに」

おこめ「ぼくも」

小学生「まじか」

㌦「ああ。感知能力の才能だけならこの中で一番かもね」

小学生「…へへ、まあ感知なんかできたってそんなに役には立たねーだろ」

㌦「いやいや、魔力を扱う上で一番有用とも言われてるくらい大事な力さ。なぜなら魔力というのは魔法使いだけじゃない、あらゆる生き物に宿ってるものだからね。それを感知する力はとても重要なんだ」

小学生「なるほど…へへ、ありがとな」

㌦「ま、僕だって負ける気はないけどね!感知能力も鍛えれば精度は上がるんだ。胡座かいてるとすぐ追い抜くよ!」

おこめ「ぼくも!」

小学生「俺だって負けねーよ!…お、この辺りだ!」

㌦「ってここ…」

おこめ「魔の森!」

217ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:13:47 ID:X201ky2QSd

小学生「…ってなんだっけ?」

㌦「えぇ!?魔の森だよ!夜になると魔獣が起きてくるから生徒は近づいちゃダメって言われてる!」

小学生「あー、そういや先生がそんなん言ってたような言ってなかったような…」

㌦「確実に言ってたよ!もしかしてこの奥なの!?」

小学生「うん」

㌦「まずいよ…さすがに引き返そう」

おこめ「そうだなー。ここはちょっとやばいかも」

小学生「そんなに?俺たちファイターだぜ?」

㌦「関係ないよ!魔獣がどれだけ強いかも分からないのに!」

小学生「でも先生はたしかにこの奥に…」

㌦「そりゃ先生は強いからね!僕たちの出る幕じゃないよ!」

おこめ「さすがにやめとこ」

小学生「…そうだな」

と、三人が引き返そうとした時。

ガササッ

昼間「ん?君たち、どうしてここに…」

森の中から召喚士が出てきた。

小学生「いや、ちょっと気になって…」

㌦「すみません…」

おこめ「さっきの光なんだった?」

昼間「これですよ」

召喚士は両手に抱えたものを見せた。

218ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:15:29 ID:X201ky2QSd

小学生「…なんだこれ、動物?」

おこめ「サルのこどもかな」

㌦「いや、魔の森から出てきたんだ。きっと魔獣だよ」

昼間「いえ、サルです」

㌦「本当にサル!?」

昼間「ええ。サルの赤ちゃんですね」

おこめ「あたった」

小学生「えっと…そのサルがさっきの光を出したんですか?」

昼間「サルが現れた時に光が発生した、と言ったほうが正確でしょうか。恐らくこのサルは別の空間から来たものです」

小学生「別の空間!?」

おこめ「表の空間からきた?」

昼間「それはまだ分かりません。表の空間なのか、それともまた別の空間なのか」

小学生「別の空間っつーと…天界とか魔界とか?」

昼間「その可能性もありますが、人界にもこの魔法学校のようにいくつかの枝分かれした小さな空間が存在しますからね…その痕跡が無い以上、どこから来たのか知る術はありません」

小学生「じゃあ元の世界に帰してやれねーのか…」

昼間「そうなりますね」

おこめ「かわいそうに」

㌦「そのサルに空間を移動する力が…?」

昼間「それもまだ分かりません。ただこのサル自体は、何の変哲もない普通のサルだとは思います。魔力も平凡、見た目もサルですから」

小学生「まあ、たしかに」

おこめ「そのサルどうする?」

昼間「とりあえずは魔法学校で預かるしかないでしょう。魔法動物科の先生に相談してみます」

小学生「魔法動物科…しょーくんのいるとこか」

㌦「しょーくん?」

219ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:16:40 ID:X201ky2QSd

小学生「ああ、話してなかったっけ。まあ人に話すようなことでもねーか…」

おこめ「だれ?」

昼間「ペットですよ。小学生くんのね」

小学生「え」

昼間「表の空間で飼っていたのですが、魔力減衰症が発症してこちらで預かっているのです」

㌦「なるほど…!君も苦労してるんだね…」

小学生「あ、ああ、そうなんだよ…」

おこめ「なおるといいね」

小学生「おう…」

昼間「さあ、君たちは早く帰りなさい」

三人「はーい…」

そして三人は家路についた。

220ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:17:56 ID:X201ky2QSd



その帰り道。

昼間『さっきは勝手なことを言ってすみません』

小学生「うおっ!?何だ!?」

突然脳内に直接声が聞こえた。

昼間『昼間の召喚士です』

小学生「先生!?」

昼間『シーーー…魔力を使った念話という技術で話し掛けています。頭の中で喋りたいことを念じればこちらにも届きます。周りに人がいなければ普通に喋ってもらってもいいですが』

小学生「あ、はい…もう二人とは別れたので…」

昼間『彼女のことはまだ友達には話していないようですね』

小学生「はい…アイツら巻き込むわけにはいきません。優しいヤツらだし、話せばきっと力貸してくれると思うけど…アイツらにも夢があって…その邪魔はしたくない…」

昼間『そうですね。いい判断だと思います』

小学生「……アイツの手掛かりはまだ見つかりませんか…?」

昼間『ええ、残念ながら』

小学生「そう、ですか…………あ、そう言えば、魔力減衰症って何ですか?」

昼間『魔力が少しずつ失われていく病気です。魔力は生命のエネルギーそのもの。つまりそれが完全に無くなることは、死を意味します』

小学生「こえー…そんなのあるんですね…」

昼間『ちなみに治療法としては、土地の魔力が濃い場所に長期間滞在することです』

小学生「土地の魔力?魔力って生き物にしかないんじゃ…」

昼間『あぁ、そうですね。正確にはその土地の植物や生き物など、人以外の色々なところから発生する魔力のことです』

小学生「なるほど。じゃああの湖の精霊とかもそれから生まれたんだ」

昼間『そういうことです。この裏の空間はかつて魔法使いたちが作り出しただけあって、かなり土地の魔力が濃いのです。魔界はその比ではないらしいですが』

小学生「魔界か…先生は行ったことあるんですか?」

昼間『いえ。魔界はとても危険ですからね。関わらないに越したことはない』

小学生「先生でも?」

昼間『はい。魔の一族と呼ばれる魔界の住人たちは、とてつもない魔力を秘めている。そして極めて凶暴な性格です。私でも正面から戦って勝てる相手ではないでしょう…』

小学生「そんなに…!?想像できねー…」

昼間『それじゃあ、私はもう少し業務があるので、この辺で』

小学生「あ、はい!ありがとうございました」

昼間『はい。失礼します』

プツッ

221ハイドンピー (スプー bfda-41de):2021/10/30(土) 11:18:42 ID:X201ky2QSd

小学生「いやー、やっぱすげーな魔法って。こんなこともできんのか」

男の子「よっ!何一人で喋ってんの?」

小学生「おお、たかし!何って…独り言だよ!」

話しかけてきたのは、魔法学校に通う前のクラスメートだった。

男の子「でけー独り言だな!つーかさ、同じ町に住んでんのに何で転校したの?」

小学生「え?いやあ、親の都合だよ、親の!」

男の子「都合ってなんだよー!マジお前がいねえと学校つまんねーぜ!」

小学生「はは、わりーな。それより時間いいのかよ?お前んち門限厳しかっただろ?」

男の子「うおっ!やべ!んじゃまたなー!」

小学生「おう!今度学校のみんなのことも聞かせてくれよ!」

男の子「おっけー!」

男の子は去っていった。

小学生(あっぶねー…無闇に魔法学校のこと漏らしたら罰則やべーんだよな…さっさと帰ろ)

222ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 19:56:40 ID:arxlBH7.00




翌朝。

小学生「おはようしょーくん!」

衝撃「ガルルル!!」

小学生たちは衝撃が暮らす魔法動物の飼育施設を訪れていた。

㌦「こ、これが衝撃くん…?」

おこめ「顔、こわ!」

小学生「だろ?ぜんっぜん懐かねーんだわ」

㌦「だろって…本当にペットなの…?」

おこめ「お手!」

小学生「あっ!馬鹿!」


バチバチッ!!


おこめ「ぎゃああああ!」

小学生「ダメだよ檻に手ぇ入れちゃ。コイツすぐ電撃撃つから」

おこめ「は…はやく…言ってよ…けほ」

㌦「こんなのどうやって飼ってたの…?」

小学生「え、いやー…えーっと…元々は大人しかったんだけど…」

㌦「なるほど、魔力減衰症によって荒んでしまったのか」

小学生「そ、そーなんだよ!」

おこめ「それにしては、元気だな!」

小学生「ま、まあもう結構こっちにいるし、もう治りかけ?的な?」

㌦「へえ。たしかに、僕たちと比べても魔力量は遜色ないね」

おこめ「そりゃよかった」

㌦「本来なら十年くらいかけてやっと治る病気なのに、すごい回復力だ」

小学生「あ、ああ!だよな!すげーよな!…あとはこの凶暴化をなんとかできりゃいいんだけど…」

衝撃「グルルルルル…」

㌦「これはちょっとやそっとじゃ治りそうもないね…」

小学生「だよな…」

おこめ「うむ」

223ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 19:57:37 ID:arxlBH7.00


???「ウキャーーーッ!!」


小学生「なんだ?」

㌦「あっちの檻からだ」

三人は声の聞こえた方へ。

小学生「あれ、コイツって…」

おこめ「昨日のサル!」

㌦「昨日はなんかぐったりしてたみたいだったけど、元気になったみたいだね」

おこめ「よかったよかった」

小学生「だな。それにしても、どこから来たんだろうな、コイツ」

㌦「召喚士先生でも分からないのに、僕たちに分かるわけないよ」

小学生「まあそうだけど…なんとかして元の世界に帰してやりたいよな」

おこめ「そうだな」

ウィーン

女教師「おや、もう来てたのかい」

優しそうなおばさんの先生が入ってきた。

小学生「あ、魔法動物科の先生、おはようございます!」

㌦「おはようございます!」

おこめ「おはよう!」

女教師「ええ、おはようございます。その子、別の空間から来たんだってね。昼間先生から聞いたわ」

㌦「はい」

おこめ「このサルどっから来たのか、先生もわからない?」

女教師「昼間先生が分からないのに私が分かるわけないわよ、ふふふ。あ、そうだ。あなたたち、この子に名前付けてあげてよ」

小学生「名前?」

女教師「ずっとサル呼びじゃ可哀想じゃない」

おこめ「たしかに」

小学生「名前かー…どうする?」

㌦「うーん…」

女教師「まあ、焦らなくてもいいわ。思い付いたら教えてね」

三人「はーい」

三人は授業へ向かった。

224ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 19:58:49 ID:arxlBH7.00



小学生「どうする?名前」

㌦「ポチとか?」

おこめ「タマ」

小学生「お前らテキトーだな…」

㌦「そんなこと言われたって思い付かないよ…君こそ、何か良い名前思い付いたの?」

小学生「いや、全然」

おこめ「おいおい」

小学生「だって名前なんか付けたことねーしなー…」

㌦「…ん?じゃあ衝撃くんは君が名付けたんじゃないんだ」

小学生「え?あ、ああ。父ちゃんが付けたんだよ、父ちゃんが」

㌦「そっか。それにしても、衝撃っておかしな名前だね。そのセンスを受け継いでるとしたら、君もネーミングセンスは無さそうだね」

小学生「なにぃ!?失礼な!」

おこめ「ぼくはセンスあるよ」

小学生「ほんとかよ」

おこめ「なぜなら将来マイブランドのお米に名付けるために、勉強しているから!」

小学生「…お前に任せると米みたいな名前になりそうだ」

㌦「これじゃ結局僕が決めることになりそうだね…」

小学生「お前だって大したことねーだろ!」

㌦「大事なのは愛さ!愛のこもった名前に勝るものはないよ」

小学生「テキトーなこと言うな」

㌦「本気だよ!」

小学生「つーか別にあのサルに大して愛情なんかねーだろ俺たち。昨日会ったばっかりなのに」

㌦「時間は関係無いさ」

おこめ「じゃあ勝負!」

小学生「勝負?」

おこめ「放課後までに三人で名前考えて、いちばんいいやつが勝ち!」

㌦「一番はどうやって決めるの?」

おこめ「えーっと、魔法動物科のセンセーにきめてもらう!」

小学生「ふーん。ま、いいぜ。俺が負けるわけねーけど」

㌦「望むところだよ」

おこめ「よし!じゃあ勝負開始ーっ!」

225ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 20:00:30 ID:arxlBH7.00



休み時間。

小学生「さて、どうすっかなー。やっぱカッコいいのがいいよな」

同級生「どうしたんだ?」

小学生「お前ペット飼ってたっけ?」

同級生「なんだよ急に。イヌなら飼ってるけど。お前もペット飼うの?」

小学生「まあ、そんなとこだ。なんて名前?」

同級生「ウェルカム・ザ・アンダーワールド」

小学生「なげぇな!」

同級生「カッコいいだろ?」

小学生「カッコいい。どうやって付けたんだ?」

同級生「カッコいいと思う言葉をそのまま付けただけさ。ちょっと長くなっちゃったけど、後悔はないぜ」

小学生「なるほど…心のままに、か。サンキュー!なんか思い付きそうな気がする!」

同級生「おう」

226ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 20:01:48 ID:arxlBH7.00



そして放課後、三人はサルのところへ。

おこめ「名前きまったか?」

小学生「おう!めちゃくちゃいいのを考えてきたぜ!」

㌦「僕も最高の名前を思い付いたよ。はっきり言って負ける気がしない」

おこめ「ふーん。ま、ぼくが勝つけども」

㌦「先生、気を遣わずに公正な判断をお願いしますね」

女教師「はいはい」

おこめ「じゃあ、誰からいく?」

小学生「よし!じゃあ俺からいくぜ!」

㌦「来い!」

小学生「俺の付けた名前は…シャイニングボンバー!!」

おこめ「おお!かっこいい!」

㌦「そ、そう?ちなみになんで?」

小学生「コイツが来た時、すごい光っただろ?だからシャイニングだ」

おこめ「ボンバーは?」

小学生「カッコいい」

おこめ「なるほど…やるな…」

㌦「そうかなぁ…」

小学生「フッ、㌦、怖気付いたか?」

㌦「なんでそうなるんだ。呆れてるのさ、あまりの子供っぽさにね」

小学生「なにぃ!?」

㌦「光ったからシャイニング。ボンバーに至っては特に意味も無いと来たもんだ。全然愛情が感じられないよ。ペットに付ける名前じゃあないな」

小学生「くっ…そこまで言うならお前の考えた名前を聞かせてもらおーじゃねーか!よっぽどすごいのを考えてきたんだろーな!」

㌦「当然さ。僕の考えた名前は…㌦モンキーだ!」

二人「…ダサ…」

㌦「えっ!?」

おこめ「センスない」

小学生「それのどこに愛があんだよ」

㌦「あるでしょ!自分と同じ名を与えるのも愛だし、㌦にはお金に恵まれて幸せに暮らしてほしいという願いが込められてるんだ!」

小学生「ふーん…一応意味はちゃんと考えてるらしいけど…そんなん関係なくとにかくダサい」

㌦「んなっ!?君こそ人のこと言えないだろ!」

小学生「何だとぉ!?」

227ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 20:03:15 ID:arxlBH7.00

おこめ「やれやれ…こりゃあぼくの案できまりか」

小学生「ふん、この分じゃおこめも期待できそうにねーぜ!」

㌦「僕には勝てないだろうけど、聞かせてもらおうか」

おこめ「トム・リドル」

小学生「いや誰だよっ!」

㌦「ん?いや、なんか聞いたことあるかも」

おこめ「図書室でいい名前探してたら見つけた」

女教師「昔この魔法学校にいた魔法使いの名前だね。だけど魔力に取り憑かれて、闇の魔法使いとして葬り去られた」

おこめ「へー」

小学生「縁起悪りーなオイ。そんなん付けちゃダメだろ」

おこめ「む…」

㌦「そうだね。これは㌦モンキーで決まりかな」

おこめ「トム・リドル!」

小学生「それはねーよ!闇の魔法使いだぞ!」

おこめ「かんけーない!名前っぽさで勝ってる!」

㌦「名前っぽさ!?適当に本から見つけただけの名前なんて何の愛情もこもってないじゃないか!」

おこめ「なに!?」

小学生「やっぱ自分の感性の従った俺のシャイニングボンバーが最高ってことさ!」

㌦「それだけは何としてでも回避したいところだね!ダサすぎるよ!」

おこめ「そーだそーだ!ちょっとカッコいいと思ったけど勘違いだった!」

小学生「なんだとー!?」

女教師「まあまあ、落ち着きなさい」

㌦「あ…失礼しました…」

小学生「ごめんなさい…」

おこめ「そうだった。決めるのはセンセーだった」

㌦「…先生、判定は?」

女教師「うーん、そうだねぇ…」

228ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/04(木) 20:04:06 ID:arxlBH7.00

昼間「三つ合わせて、"ドル・ボ・リドル"にしましょう」

三人「召喚士先生!?」

女教師「ドルボリドルか…うん、それがいいね。決定!」

小学生「えぇー!?」

㌦「美味しいとこ持っていかれた…」

おこめ「ブーブー!」

昼間「フフ、私が見つけたサルなのですから、名付ける権利は私にあります。それに、三人の案がちゃんと入ってるのですから良いでしょう?」

㌦「…まあたしかに、㌦が付いてるから僕の込めた想いは受け継がれてると言ってもいいかもしれません」

おこめ「うむ…特に異論なし」

小学生「俺の"ボ"だけじゃん…」

㌦「それじゃあ僕は錬金術の自主練に行ってきます」

おこめ「あ、ぼくもお米魔法の研究しなくちゃ。じゃあね」

小学生「うおい!?無視かよ!」

昼間「さて、それではドルボリドルの元いた空間を探す方法を考えましょうかね」

小学生「うおーい!?先生も!?」


こうして不可解なサルは、ドルボリドルと名付けられた。

これがのちに魔法学校に波乱をもたらすことになるとは、この時は誰も思っていなかった。

229ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:38:03 ID:ic2McTlw00





遠い宇宙。


ドドドドドドッ!!!!


巨大な宇宙船にいくつも取り付けられた砲台から、一斉砲撃が行われている。

その先には二人の男がいた。


キィン!!キィン!!キィンッ!!


ドドォォン…!


放たれた砲弾を、男たちはビームソードでぶった切っていく。

???「この数…流石にFOOSUを全開にするしかないようだ」

そう呟いたのは年老いた緑ヨッシー。

???「そうだな。一気に決めるとしよう」

応えるのは、若き緑ルイージ。

???「ゆくぞ、◎ANAKINSUKAIWOOKAA☆彡」

???「ああ、¶YOODA¶」

二人はビームソードを上に掲げ、集中力を高める。


ゴォォォォォ!!!


すると二人のビームソードは出力を増し、巨大な剣になった。

二人「はあああああっ!!」


ドォォォォン!!!!


そのままビームソードを振り下ろし、宇宙船は木っ端微塵になった。

230ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:39:30 ID:ic2McTlw00

YOODA「ふぅ…なんとかなったようだ」

ANAKIN「強敵だったな…」

YOODA「ところでANAKIN…感じておるか?このFOOSUの鼓動を…」

ANAKIN「ああ…先程からどんどん大きくなっている。随分遠いけど…」

YOODA「恐らく現在の技術では届かない程に遠く離れた宇宙…そのFOOSUがここまで届いているという事実…計り知れない何かが、生まれようとしているようだ」





同じ頃、とある小さな島国の、小さな病院の一室にて。


???「おぎゃぁ♡」


小さなカービィ族の赤子が、可愛らしい産声を上げた。

その瞬間。


ズキュゥゥゥーーーン!!!!


人々「うおおおおお!!」

突然病院中が沸いた。

???「きゃっきゃっ♡」

その歓声を受けて、赤子は笑う。

人々「Fooooooooooooooo!!!!」

更にそれを見た人々は発狂する。

人々「なんて可愛いんだ!?」「奇跡の子よ!!」「この瞬間に立ち会えた僕は幸せ者だ…」「なんというお名前なのですか!?」

親「ちょこにゃです」

人々「ちょこにゃああああああああ!!!」

この日、ちょこにゃの名は瞬く間に広がり、翌日にはこの国で知らない者はいなくなった。

231ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:40:43 ID:ic2McTlw00




ある国では。

???「おかあさん、この声なに?」

ピカチュウ族の親子が歩いていると、子ピカチュウが立ち止まった。

親「声…?そんなの聞こえないけど…」

???「きこえるよぉ!おんなのこの声!」

親「えー、そう?お母さんには分からないわ。もう歳かしら…」

???「なんか言ってるよ…?ちょこにゃ…?ちょこにゃってなに?」

親「さあ…?その子の名前じゃないかしら?」

???「そっか!ちょこにゃちゃんっていうんだ!かわいいなまえだね!」

親「こらこら、道ではしゃいじゃダメよ」

???「アイドルになりたいって!おかあさん、アイドルってなに?」

親「歌って踊って夢を届ける人たちよ」

???「夢をとどける…?」

親「うん。見てる人を元気付けたり応援したり、笑わせたり感動させたりするの」

???「へぇ、すごいなぁ♪」

親「じゃあ今度ライブに連れてってあげるわよ。すごいんだから」

???「ほんと!?やったー!ねえ、ぼくもアイドルなれる?」

親「どうかしらねぇ…成功するのは難しいって聞くし。でもあなたが頑張るなら、お母さんは応援するわよ、バルザード」

232ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:41:26 ID:ic2McTlw00




またある国では。

ピッ

ニュース『昨夜ある島国で奇跡の子が生まれたとして、国中がお祭り騒ぎになっています』

???「奇跡の子…?」

ニュースを観ながら首を傾げているのは、一般的な家庭に住む、男らしい顔付きで体格の良い少女。

ニュース『生まれた赤ちゃんはちょこにゃちゃん、カービィ族という種族のようです。その産声を上げた瞬間、国中がハッピーな気分に包まれた、とのことです』

???「なにそれ…」

ニュース『更に不思議なことにその同時刻、世界中の各地で"何かを感じた"、"突然脳内にちょこにゃという文字が浮かんだ"などといった声が多く上がっており、ちょこにゃちゃんの誕生と関係しているのではないかと専門家の間で話題となっています』

???「ふぅん…ちょこにゃちゃんか…そんなことあるのね。世界中をハッピーにするなんて…まるでアイドルになるために生まれてきたような子だわ」

親「こらドルコリン!何ぼーっとテレビ観てるの!早く朝ごはん食べちゃいなさい!オーディション遅刻するわよ!?」

ドルコ「あっ!はーい♪」

233ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:43:03 ID:ic2McTlw00





そんな奇跡の子が生まれた日、ある星では。

エース「ん?なんだ?」

ちょこにゃの存在感をわずかに感じ取り、黄色カービィの少年、エースが立ち止まった。

エースパパ「どうかしたのか?エース」

エース「…いや、なんでもないよ、パパ」

エースパパ「そうか。さあ、早く行こう」

エース「うん」


それからエース親子は広場にやってきた。

エース「準備いいよ、パパ」

エースパパ「よし!来い!ワープスターーー!!」

エースの父親が叫ぶと。


ピロピロピロピロ…


ワープスターがどこからともなく飛んできた。

エースパパ「今だ!乗れ!」

エース「うん!」

ぴょんっ

飛んできたワープスターに向かってエースが飛び込む。

234ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:44:18 ID:ic2McTlw00


ズドォ!!


エース「ぐはぁっ!?」

ワープスターはエースの顔面にぶつかり、突き飛ばした。

エースパパ「エースぅぅぅ!!」

エース「く、くそぉ…」

エースパパ「大丈夫かエース!ケガはないか!?」

エース「だ、大丈夫だよパパ…僕たちは柔らかいからね」

エースパパ「そうか…よかった」

エース「でもこれじゃダメだ…ぜんぜん上手くいかないや…タイミングが全く合ってなかった…」

エースパパ「なに、焦ることはないさ。ご先祖さまが乗りこなしていたこのワープスターは、その血を継ぐエースにだって必ず乗れる」

エース「だけど…」

エースパパ「お前はまだ子供だ。パパだって乗りこなせるようになったのは二十歳過ぎだよ」

エース「そうなの?」

エースパパ「ああ。だから気にする必要はない。ワープスターはとても速いから扱いが難しい。ゆっくり慣れていけばいいさ」

エース「わかったよパパ」

エースパパ「ワープスター、もう一回出てくるとこから頼む!」

するとちょっと離れたところに止まっていたワープスターは、うなずくような動きをした後、フッと消えた。

エース「…ん?」

エースパパ「どうした?エース」

エース「いや、今ワープスター止まってなかった?」

エースパパ「え?それがどうかしたのか?」

エース「止まってる時に乗ればよくない!?わざわざ飛んでくるタイミングに合わせて飛び乗る意味ある!?」

エースパパ「…なるほど!」

エース「気づいてなかったの!?」

エースパパ「フッ…とんでもない天才がいたもんだ」

エース「いやいやいや!」

235ハイドンピー (ワッチョイ 7bf1-4740):2021/11/08(月) 17:44:59 ID:ic2McTlw00

エースパパ「…なんてな」

エース「え!?」

エースパパ「まあそれに気付けたのは偉い。さすが俺の息子だ」

エース「ど、どういうこと?」

エースパパ「俺たちはワープスターの正統後継者だ。俺たちにはカービィとして、この宇宙の平和を守るという責任があるんだ」

エース「う、うん。知ってるよ」

エースパパ「つまり将来、必然的に戦いの中に身を置くことになる。そんな戦いの最中で、追い込まれた状況だとする。わざわざワープスターを止めて乗る暇があると思うか?」

エース「お、思わない…!そうか…!そのための特訓だったんだ!」

エースパパ「そういうことだ!また一つ成長したなエース!」

エース「うん!」

エースパパ「よし!そうと分かればもう一度だ!準備はいいか!?」

エース「おっけー!」

エースパパ「来い!ワープスターーーっ!!」

ズドォ!!

エース「ぐへぇ!!」

エースパパ「エ、エースぅぅぅ!!」

エース「ぼ…僕もしかしてワープスターに嫌われてる…?」

エースパパ「そんなことはない!カービィ族なら誰でも乗る資格はあるんだ!」

エース「それならいいけど…」

エースパパ「さ、もう一回だ!」

エース「う、うん!」

それからエースは一生顔面にワープスターを受け続けた。

236ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:12:58 ID:4BYAvO4.00




それから数ヶ月後。


ピロピロピロ…


エース「や、やったー!!乗れた!!」

エースパパ「よくやったエース!お前はもう立派な一人前のカービィだ!」

エース「パパー!!やったよー!!」


ズドォォン!!


ワープスターの上でよそ見をしていたエースは壁に激突した。

エースパパ「エースぅぅぅ!!」

エース「いててて…」

エースパパ「だ、大丈夫か!!」

エース「だ、大丈夫だよパパ…」

エースパパ「ふぅ…まったく、これじゃあまだまだ特訓が必要だなエース」

エース「そんなぁ…僕早く宇宙に出たいよ…」

エースパパ「何度も言ってるだろうエース。焦る必要はない。自分のペースで成長すればいいんだ」

エース「でもこうしてる間にもきっと宇宙のどこかでは事件が起きてるんだ…」

エースパパ「あまり気負うなエース。この宇宙にはバウンティハンターや、我々と同じく宇宙を守るフォックス族などもいる。できないところは他の人に任せていいんだ」

エース「だけど、ワープスターのワープ能力があればどんなところにも一瞬で駆け付けられるんでしょ?」

エースパパ「ああ。そうだな。だがそれでも一人で全ては救えないんだ」

エース「どうして?」

エースパパ「二つの事件が同時に起きたら、どちらかを選ばなければいけないだろう」

エース「ひとつを一瞬で片付けてもうひとつのほうに行くよ!ワープスターならできるでしょ?」

エースパパ「その情報はどうする。どこで何が起きているかまでは把握できまい」

エース「う…」

エースパパ「情報を仕入れる者、発信する者、報酬を支払う者、一般人を巻き込まないように避難させる者や、守る者…たくさんの人の力を借りて、やっと我々は動くことができる。それを忘れてはいけない」

エース「うん…」

エースパパ「さあ、そうと分かれば、早速特訓を始めよう!」

エース「うん!」

プルルルルルル…

エースパパ「ん?ちょっと待っててくれエース。電話だ」

ピッ

エースパパ「もしもし?……ああ。……そうか。……分かった、すぐに向かおう。…ああ。ではな」

ピッ

エース「どうしたの?」

エースパパ「すまないエース。特訓の続きは明日だ」

エース「事件?」

エースパパ「ああ。来い、ワープスター!」

ピロピロピロ…

スタッ!

エースの父親はワープスターに飛び乗る。

エース「行ってらっしゃいパパ!気を付けてね!」

エースパパ「ああ、ママにも伝えといてくれ!行ってきます!」

ビューーーン!!

そしてワープスターで宇宙へ飛び立った。

237ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:14:19 ID:4BYAvO4.00




そこからちょっと離れた星。

魔物「グオオオオ…!!」

住民「うわあああ!!」

その都市部で、大量の獣の姿をした魔物が暴れていた。

ピロピロピロ…!

シュタッ!

エースパパ「大丈夫か!早く逃げるんだ!」

住民「こ、腰が抜けて…」

エースパパ「くっ、仕方ないか…じゃあそこでじっとしていてくれ!俺が守る!」

住民「すみません…」

エースパパ「なぁに、気にするな!俺は強いぞ!」

魔物「グォォォ!!」

魔物が飛びかかる。

エースパパ「とうっ!!」


ドゴォ!!


魔物「グァァァ…!」

ジュゥゥ…!

魔物は消滅した。

エースパパ「よしっ!この程度ならすぐに終わりそうだ!さあ、どんどんかかってこい!」

魔物「グオオオオッ!!」

エースパパ「はっ!!」


ドガッ!!

バキッ!!

ドゴッ!!


エースの父は次々と飛びかかってくる魔物たちを一撃で粉砕していった。

住民「す、すごい…!」

魔物「ググゥ…」

魔物たちはその強さに怖気付いたのか、攻めてこなくなった。

エースパパ「どうした?来ないならこっちから行くぞ!」

ダッ!!

エースの父は残った魔物たちに向かって飛びかかる。

238ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:15:45 ID:4BYAvO4.00

魔物「ギャアァァ!!」

魔物たちは様々な反応をした。

エースの父と同じく飛びかかる。

その場で迎撃の構えを取る。

逃げ出す。


ドガガガガッ!!


エースの父はその全てを殺した。

エースパパ「よしっ!任務完了!」

住民「あ…ありがとうございます!!本当にありがとうございます…!!」

エースパパ「どういたしまして!」


???「…なんで…?」


エースパパ「ん?…な、何をやってるんだ!」

振り返ると、消えていく魔物たちの死骸を抱き抱えている者がいた。

蒸発していく魔物の煙によってその姿はよく見えない。

???「どうして…この子たちに戦意はもうなかったのに…」

エースパパ「離れるんだ!危な…くはないか、死んでるし…だが…」

???「答えてよ!!」

エースパパ「!!…そのパワードスーツ…サムス族か!?」

煙が晴れると、そこにいたのは黒サムスだった。

アメリ「そうだよ。私は暗黒のアメリーナ…魔の一族だよ…!!」

エースパパ「魔の一族だと!?この魔物たちの親玉か!?」

アメリ「質問してるのはこっちだよ!!どうして殺したの…!?」

ババッ!!

二人はお互いに敵意を感じて臨戦態勢をとった。

㍍「アメリーナ!!」

二人「!!」

そこへアメリーナと共に宇宙の旅を続けていた㍍アルザークが駆け付けた。

アメリ「アルザークさん…」

エースパパ「アルザーク…お前の連れか?」

㍍「あら、お久しぶりですわね」

アメリ「知り合い…?」

㍍「ミッション中に何度か顔を合わせた程度ですわ。貴方もこのミッションに?」

エースパパ「ああ」

㍍「それで…何を怒っていますの?アメリーナ」

アメリ「何をって……そんなの決まってるでしょ!?」

239ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:17:41 ID:4BYAvO4.00

エースパパ「戦意を失った相手への追撃が良くなかったようだ。確かに言われてみれば、残酷なところを見せてしまったな。すまない」

アメリ「見せてしまったって…なんで私に謝ってるの?謝るなら死んだ魔物たちに…ううん、謝ったってしかたない…あの子たちはもう戻らないんだ…」

㍍「アメリーナ。気持ちは分かりますけれど、逃がせばどこか別の場所で暴れる可能性がありますわ」

アメリ「そしたらその時にまた止めればいいじゃん!」

㍍「それでは犠牲者が増えるばかりですわ。もし私たちの逃したターゲットが誰かの命を奪ったら、どう責任を取るというのですか。宇宙の平和の為には必要なことなのです」

アメリ「だとしても殺す必要ないでしょ!?捕まえればいいじゃん!」

㍍「もちろんミッション内容によっては捕獲する場合もありますわ。しかしどんなミッションでも捕獲できるわけではありません。特にこういった凶暴な魔物や宇宙生物相手では、生半可な檻では破られてしまいます。それなりのものを用意するとなると、当然相応のコストが掛かりますわ」

アメリ「コスト…?結局お金なの?この世界はいっつもお金お金って…!魔界にはそんなの無かったのに…!」

㍍「だから魔界は秩序の無い世界なのでしょう」

アメリ「秩序って何!?こんな酷いことを平気でするのが秩序だっていうなら…そんなのいらないよ!!」

㍍「誰も平気でやっているわけではありませんわ。ですが誰かがやらなければならないのです」

アメリ「そんな…何それ!全然納得できない!!」

㍍「納得などする必要はありませんわ」

アメリ「意味分かんない!!」

ダッ!!

㍍「ア、アメリーナ!」

アメリーナは走り去っていく。

エースパパ「…純粋な子だな。彼女にはこの仕事は向いてないんじゃないか?」

㍍「ええ…しばらく共に旅をして、薄々感じてはいましたわ。いつかこんな日が来るのではないかと…」

エースパパ「一体何者なんだ?」

㍍「…魔界から逃げてきたそうですわ」

エースパパ「逃げてきた…?」

㍍「魔界は一人の王によって支配され、自由などない。自由を求めてこの世界へ来た…と、そう言っていましたわ。…はぁ…怒る筈ですわね…」

エースパパ「…こればかりは仕方がない。彼女の気持ちの問題だ。お前が気に病むことはない。これからどうするかは、彼女自身が決めるだろう」

㍍「そうですわね…」

エースパパ「しかし、魔の一族か…近頃いろんな星に魔族が現れている。警戒を強める必要があるかもな」

㍍「ええ。風の噂で聞いたところによると、幻のギルティースも魔の一族にやられたそうですわ」

エースパパ「何!?彼女が!?」

㍍「数年前、単身魔界に乗り込んで、返り討ちに遭ったそうです」

エースパパ「しばらく名を聞かないと思ったら…そうか…たしかに彼女は一人で突っ走るタイプだったからな…勿論実力があるからこそだが…その彼女ですら勝てない相手となると、相当な実力者でなければ歯が立たんな」

㍍「それに魔の一族は独自のゲートを使い、どこに現れるか分かりませんわ。更に増えれば対応が間に合わなくなるでしょう」

エースパパ「そうか…どうしたもんかね…」

㍍「……」

エースパパ「…ま、取り敢えず連盟に相談してみるよ。会議は俺たちの仕事じゃあない。どっちにしろ俺たちだけじゃ全ては対応できないしな」

㍍「ええ。お願いしますわ」

そして二人は別れた。

240ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:19:26 ID:4BYAvO4.00



それからアルザークは宇宙船に戻ってきた。

㍍「…あら?ロックが開いていますわね」

ガシャッ

アルザークはドアを開けて中へ。

㍍「アメリーナ、戻っていますの?」

アメリ「あ、アルザークさん。おかえりー」

㍍「アメリーナ…先程は…」

アメリ「あー、いいよ!大丈夫!」

㍍「え?」

アメリ「もう、決めたんだ」

㍍「決めたって…?アメリーナ…その荷物、まさか…」

アメリ「うん。私、この船降りるよ」

㍍「…そう…ですか…」

アメリ「フフッ、なんでそんな悲しそうな顔するの?自立しなさいっていつも言ってたのはアルザークさんじゃん」

㍍「ええ…そうですわね…」

アメリ「自分用の宇宙船、実はもう買ってあるんだ。じゃあ、行くね!」

㍍「え…待っ……ア、アメリーナ!」

アメリ「ん?」

㍍「ほ、本当に大丈夫ですの…?」

アメリ「へーきへーき!お金はまだ結構余ってるし、次に行くところも目星つけてるんだ。一人でやってけるよ、アルザークさんのお陰でね!」

アメリーナはいつも通りの純粋な笑顔で言う。

㍍「そうですか…」

アルザークはそれしか言えなかった。

アメリ「それじゃ、行くね!今まで本当にありがとう!アルザークさんっ!」

アメリーナは宇宙船から出ると、深々と頭を下げた。

㍍「ええ…お気を付けて、アメリーナ」

アメリ「フフッ」

顔を上げたアメリーナはやはり笑っていた。

そしてアメリーナはくるりと振り返り、宇宙船から離れていく。

㍍(アメリーナ…先程のことは気にしていないんですの…?まるでいつもと同じ…)

去っていくアメリーナの後ろ姿を、アルザークは不安な顔で見つめる。

アメリ「あ、そうだ」

㍍「…?」

アメリーナは立ち止まり、またアルザークへ振り向く。


アメリ「次会う時は敵同士だよ」


㍍「…!?」

やはりその顔は、笑っていた。

アメリ「バイバーイ!」

そしてアメリーナは楽しそうに、スキップで駆けていった。


㍍(アメリーナ…)

アルザークは旅の途中でアメリーナと話したことを思い出していた。

241ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/17(水) 00:20:28 ID:4BYAvO4.00



アメリ「自由になりたかったんだ」

㍍「ええ、その話は何度も聴きましたわ。王の抑圧に耐えかねたのでしょう?」

アメリ「うん。でもね、もし妖魔がいなくても、たぶん私はこの地上に来てたと思う」

㍍「どうして?」

アメリ「だって自由なんだよ、魔の一族の本質は。地上って存在を知ってたら行きたくなっちゃうし、行きたくなったら行っちゃうんだよ。それが私なんだ」

㍍「フフ…単純明快ですわね」

アメリ「難しいことなんて知らないもん!楽しいことが全てだよ!」

㍍「魔力というのを失っても、それは変わりませんのね」

アメリ「うん!ずっと自由を夢見てきて、地上に出てそれが叶ったんだもん!私は私の道を行く!!」

㍍「今は、楽しいですか?」

アメリ「あははっ、決まってるじゃんっ!見たことない景色、見たことない生き物、見たことない世界!それに、アルザークさんが一緒だしね!」

㍍「嬉しいことを言ってくれますわね」

アメリ「本心だもん!」

㍍「フフフ…ですが、そろそろ自立をかんが…」

アメリ「あー!!ほら見てあれ!!すごい綺麗な星!!」

㍍「アメリーナ…」



回想はそこで終わり。

㍍「そうでした…貴女の本質は自由でしたわね。魔界という不自由から抜け出し、そして私という不自由からも抜け出し…どこまでも自由を求めているのですね…」

アルザークは船内を見渡す。

アメリーナがいなくなって、船内は広く感じられた。

㍍「次会う時は敵同士…ですか…」

呟いた後、アメリーナに倣って笑みを浮かべた。

㍍「フフ…望むところですわ。そう言えばアメリーナとは戦ったことがありませんでしたわね。本気の貴女と戦える日を、楽しみにしていますわ」

243ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:40:01 ID:TB4iDozY00





極道の町では。


バチバチバチバチッ!!


武装組織「ぐああああああっ!!」

ドサァッ…

数十人の屈強な男たちが、電撃によって倒れる。

片割れ「ふぅ…まったく…この町で暴れようなんざ命知らずにも程があるで。ヤクザの方が百倍強いわ」

タタタタタ…

人間「あ!片割れ!てめえまた俺らより先にやりやがったな!」

片割れ「フン、お前らが遅いからや。悔しかったら儂より早く駆けつけるこった」

人間「無茶言うなよ…つうかいい加減ウチに入れよ。結局やる事は変わんねえだろ」

片割れ「いい加減にすんのはお前や。入らん言うとるやろ」

人間「ほんっと頑固だなぁ。ナイフのヤツはもうすっかり組に馴染んでるぜ?まあまだまだリハビリ中で全然動けてねえけど」

片割れ「ハッ、アイツは元々弱かったぞ。病気になる前からな」

人間「え?でもファイターだろ?」

片割れ「ファイターにもピンキリある言うたやろ。ワシが"ピン"ならアイツは"キリ"。はっきり言うて、ファイターかどうかも疑わしいレベルや」

人間「そ、そんなことあんのか?でもさすがに一般人よりは…」

片割れ「残念ながら、たぶん一般人にも勝てん。少なくともそこらのちゃんとしたヤクザ相手じゃ、何の役にも立たんやろな」

人間「…マジかよ…」

244ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:41:47 ID:TB4iDozY00

タタタタタ…


アルバロ「ワーーッハッハ!!我が来たからにはもう好きにはさせんぞ!!」

ドドン「ここは俺たちに任せろっ!!」

ポルス「任せろっ!!」


片割れ「……なんやコイツら」

人間「…さあ?」

アルバロ「む?武装組織はもう片付いておるのか…貴様たちがやったのか?」

片割れ「ああ。ワシがやった」

人間「何なんだ?お前らは」

ドドン「フォックスだ!俺はドドン!」

アルバロ「我はアルバロだ!」

ポルス「我はポルスだ!」

人間「フォックス…!お前らがウワサの…」

片割れ「知っとるんか?」

人間「宇宙の平和を守る種族だと聞いたことがあるぜ」

片割れ「ほぉん、そらご苦労なこって」

アルバロ「ああ。だが今回は我々の出る幕では無かったようだな。誰だか存じぬが協力感謝するぞ、貴様たち!」

片割れ「気にすなや。もうこの町にゃ来んでええぞ。ワシがおる限りここは安全や」

人間「オイオイ」

アルバロ「フン、それは連盟次第だな。我々はその任務に従って動いているに過ぎん。貴様たちでは間に合わぬと判断されたのだろう」

片割れ「ああ?何言うてんねん。連盟だかなんだか知らんが、ワシがおらな攻撃されとったぞ。遅かったんはお前らの方や」

アルバロ「遅い!?遅いだとッ!?」

片割れ「うお、なんや急に」

ポルス「アルバロは速さだけはめっちゃプライド高いんや」

片割れ「そうか。お前はなんでワシと同じ口調やねん」

ポルス「何言うてんねん。ワシは元々こんなんやで」

片割れ「はあ?」

ドドン「ポルスはいつもモノマネばっかしてるんだ」

人間「変わってんな…」

245ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:42:25 ID:TB4iDozY00

アルバロ「とにかく!もしまた任務でこの町に来るような事があれば我は必ず貴様より速く駆けつけるからな!!覚えておけ愚民め!!」

片割れ「あーはいはい…」

アルバロ「なんだその態度はっ!!」

人間「まあまあ、落ち着けって。片割れも煽るような事言うなよ。遠くからわざわざ来てくれたんだからよ」

片割れ「ケッ…」

人間「お前らまだ子供だろ?ウチで休んでいけよ。菓子でもやるぜ」

アルバロ「なっ!貴様、我を子供扱い…」

ドドン「ホントか!行く行く!」

アルバロ「…ドドン…貴様…」

人間「ハハハ、まあいいじゃねえか。よろしく頼むぜ、アルバロ隊長」

アルバロ「た、隊長…!フン!そこまで言うなら行ってやらん事もないぞ!」

人間「よし、決まりだな」

ポルス「……」

人間「ん?どうした?お前」

ポルス「普通すぎてモノマネし甲斐がない…ごめんなさい…」

人間(…なんか謝られた…)

ドドン「二人がすまないな。この三人じゃ一番しっかりしてるのは俺だから、頼ってくれていいぞ」

アルバロ・ポルス「それはない」

246ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:43:45 ID:TB4iDozY00



それからアルバロたちは須磨武羅組の事務所へと案内された。

片割れ「てかいいんか?正義のフォックス様をヤクザの事務所なんぞに連れてきて」

人間「まあいいだろ。正義なんて言う気はねえが、俺らもこの町の平和を守ってんだから、仲間みてえなモンだ」

片割れ「ケッ、都合のいいやっちゃ」

アルバロ「邪魔するぞ」

ドドン・ポルス「お邪魔しまーす!」

迫力「あぁ?フォックス族じゃねえか。珍しいな」

人間「あ、迫力さん、いらしてたんですね」

片割れ「このジジイいっつもおらんか…?」

迫力「ははは!居心地がいいもんでね。どうだ片割れ、ウチに入る気になったか?」

片割れ「もうええてその話は」

人間「ほらお前ら、こっちだ」

応接間のテーブルには菓子が大量に置かれていた。

ドドン「うひょー!!いただきまーす!!」

ポルス「いただきまーす!!」

アルバロ「こら!はしたないぞ貴様ら!我が先だっ!」

人間「ハハ、やっぱり子供だな。こんだけあるんだから仲良く食えよ」

迫力「須磨武羅組の纏め役ともあろうもんがなーに和んでやがる。てめえもすっかり親になっちまったな」

人間「そ、それはしょうがないじゃないですか。元々子供好きなんですよ、俺」

迫力「はっはっは!なら仕方ないな!」

片割れ「…ナイフは?」

人間「今日は若とうちのせがれの世話してもらってるよ。おもちゃ屋にでも行ってるんじゃねえか?」

片割れ「そうか。まあアイツにもそれくらいならできるか…」

人間「せがれはともかく、若は親分や迫力さんに似て結構ヤンチャだからな。結構苦労してるぜきっと…ハハ」

迫力「そりゃどういう意味だ?」

人間「いやぁ…ハハ…」

247ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:44:47 ID:TB4iDozY00

ムシャムシャ…

ドドン「うまいっ!うまいっ!」

ボリボリ…

ポルス「うまいっ!うまいっ!」

アルバロ「…もうちょっと静かに食えんのか貴様らは」

ドドン「うるさいぞアルバロ!そんなこと言うなら俺がお前の分も食ってやる!」

アルバロ「ふざけるな!我はただ貴様らのせいでフォックス全体の品位を疑われるのが我慢ならんだけだっ!」

ポルス「フン!すーぐ頭に血が昇るお前に品位がどうこうなどと言われたくはないわ!」

アルバロ「えぇいやめろ!我の真似をするでない!」

迫力「ははははは!事務所がこんなに賑やかなのはいつぶりだ?」

人間「ここに若とせがれが混ざったらもっと凄い事になりそうだな…早めに帰ってもらうか」

片割れ「お前、自分で呼んどいて…」

ドドン「くんくん……ん?これは…!」

アルバロ「む、どうした?」

ドドン「火薬の匂いがする!」

ドドンはそう言って勢いよく立ち上がる。

迫力「お、分かるのか。鼻がいいな。そりゃたぶんコイツだ」

カチャッ…

迫力は拳銃を取り出した。

人間「ちょ、迫力さん!子供の前でそんなもん…」

迫力「良いんだよ。フォックス族はガキの頃からブラスターを扱ってる、俺らなんかとは違う世界に生きてる奴らさ。この程度で驚きゃしねえよ。だろ?」

アルバロ「まあな」

ドドン「違う」

迫力「何?」

ドドン「この火薬は…拳銃の感じじゃない。俺が一番好きな匂いだ!」

ダッ!!

人間「えっ!?」

ドドンは急に隣の部屋へ入り、その奥の厳重な金庫へと飛び掛かった。

ドドン「この中にあるっ!!爆弾の匂いだ!!」

248ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:46:05 ID:TB4iDozY00

人間「嘘だろ…なんで分かるんだ…」

アルバロ「此奴は以前に巨大な爆発を目撃して以来、爆弾に取り憑かれてしまったのだ」

ポルス「流石にこの嗅覚は我にも真似できん」

ドドン「フッフッフ、まあそれほどでもある!」

ばっ!

ドドンはジャケットの前を大きく開く。

その内側には大量のいろんな爆弾がついていた。

人間「んなっ!?何やってんだてめえ!危ねえぞ!」

ドドン「大丈夫だぞ。安全装置をつけとけば勝手に爆発はしないからな」

人間「いやそりゃそうだが…怖くねえのか…?」

ドドン「むしろ、愛おしい」

ドドンは爆弾を一つ取り出して、頬ずりする。

迫力「はははは!こりゃとんでもねえ奴がいたもんだな!」

片割れ「イカレとるわ…」

ドドン「この爆弾、俺にくれ!」

人間「……コイツはやれねえよ…」

ドドン「なんで!?」

片割れ「なんでって、図々しいやっちゃな…」

人間「危険すぎる。ファイターと呼ばれる種族ですら、コイツの爆発では大きなダメージを負い、最悪死ぬ。一般人なんか灰すら残らねえだろう」

ドドン「…!!」

人間「…オイなんでさっきより目ェ輝かせてんだてめぇ…」

ドドン「そんなのボム兵しかないじゃないか!!幻にして究極の爆弾っ!!」

アルバロ「ああ、そういえばこの前言っておったな。憧れの爆弾だと」

人間「何ぃ!?ダメなもんはダメだ!」

249ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:47:04 ID:TB4iDozY00

迫力「まあいいじゃねえか。渡してやろうぜ人間」

人間「えぇ!?何言ってんですか迫力さん!」

迫力「俺らはこんなもん絶対に使わねえが…宇宙で戦うコイツらなら、その力が必要になることもあるだろうよ」

人間「ですが…」

迫力「ガキには過ぎた力だと言いてえ気持ちも分かるがな。フォックス族はファイターの中でも飛び抜けて正義感の強い奴らだ。少なくとも悪用はしねえ筈さ」

人間「……分かりましたよ」

ドドン「ホントか!!ありがとう!!」

カチッ…カチッ…カチッ…

ガチャン

人間は金庫を開けた。

ドドン「うおおおおっ!!ボム兵!!すごい!!本物だー!!すごすぎる!!」

ボム兵を抱え上げて跳びはねるドドン。

人間「ったく…危険物だぞ?子供がプレゼントもらったみてえにはしゃぎやがって…」

ドドン「ボム兵は本当に貴重なんだぞ!?もう職人がいないから、現存するボム兵はもう世界に数十しかないと言われてるんだ!」

人間「そりゃこっちでもある程度調べたが…」

迫力「お前さん、その服ん中につけてる爆弾は自作か?」

ドドン「え?うん、そうだけど。あ、でも買ったヤツもあるぞ」

迫力「若干見た目が歪だったからな」

ドドン「む…まあな。やっぱりまだプロの作った物には勝てないぞ…」

迫力「いや、その若さでそれだけのもんが作れんなら立派だ。もしかしたら、てめえならなれるかもしれねえな。この世から消えちまった、ボム兵職人に」

ドドン「おう!最初からそのつもりだ!」

人間「ええっ!?こんなもんこれ以上増やしちゃダメでしょ!」

迫力「心配しなくてもコイツぁ量産できるような代物じゃあねえさ。もし作れてもそこら中に出回るってこたあねえ。それにこの目を見てみろよ。とてもじゃあねえが止められねえぜ」

人間「……!」

アルバロ「我から謝ろう。すまぬな。だが案ずるな。悪用だけは絶対に我々がさせん。約束する」

人間「ハァ…分かったよ…」

片割れ「ククッ…苦しそうやな人間」

人間「胃がもたねえよ…まったくファイターってのはどいつもこいつも…」

片割れ「お前も一応ファイターやろ」

人間「…今ならBの言ってたことが分かる気がするよ…"ピン"の方のファイターは、明らかに俺らとは一つ上の次元に生きてる…」

250ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:48:24 ID:TB4iDozY00



それから数分後。

ドドン「んじゃまたなー!」

ポルス「またなー!」

アルバロ「世話になったな」

人間「おう。別に任務とかじゃなくても、普通に遊びに来いよ。歓迎するぜ」

片割れ「ヤクザが子供歓迎しとんちゃうぞ」

アルバロ「ヤクザ!?ヤクザだったのか!?」

片割れ「気付いとらんかったんか…」

ドドン「ヤクザって、反社会組織だろ?それじゃあいつか戦うことになるかもな」

人間「ならねえさ。俺らは町の平和を守ってる、ヤクザん中ではマトモな方だ」

アルバロ「フン、まあ連盟に目を付けられんように気を付ける事だな」

人間「おう」

迫力「そういやぁてめえら、何でここまで来たんだ?アルバロはともかく、ドドンとポルスはまだアーウィンに乗れる歳じゃねえだろう」

ドドン「アルバロのアーウィンの後ろに乗ってきたぞ」

ポルス「ギュウギュウ詰めだぞ」

アルバロ「フン、そうなのだ。我が貴様らに遅れを取ったのは此奴らが乗ってアーウィンの速度が落ちていたからであって、本来ならば…」

ドドン「いや、途中で道に迷ってたからだぞ」

ポルス「めちゃくちゃ迷ってたぞ」

アルバロ「貴様ら〜!!」

ワハハハハ…

そしてアルバロたちは帰っていった。

251ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/22(月) 22:49:42 ID:TB4iDozY00


片割れ「ジジイ」

と、三人を見送った後で片割れが口を開く。

迫力「なんだ?」

片割れ「なんでそんなにフォックスに詳しいんや?」

迫力「俺ぁ大戦を経験した世代だからな。そん時に色んな種族と戦ったのさ。仲間としても敵としてもな」

人間「だから迫力さんは人としてめちゃくちゃデカいんだよ」

誇らしげに人間は胸を張る。

片割れ「お前が偉そうにすな。色んな種族って?」

迫力「ファイターと呼ばれる種族とは軒並み戦ったよ。マリオにルイージ、ドンキー、リンク、ファルコン、サムス…そしてフォックス。えーっと…あと何だったかな。そうそう、ヨッシー、ピカチュウ…カービィとも戦ったな」

片割れ「ほーん…凄いな」

人間「ファイターが戦争に出られねえ今じゃ考えられませんね」

迫力「そん中でもフォックスとは因縁があってな」

片割れ「因縁?」

迫力「四闘士っつうのを聞いたことくらいあるだろう」

片割れ「四闘士…たしか大戦でめっちゃ活躍した四人の戦士やな」

迫力「ああ。普通の人間でありながら特異な能力に目覚めた男、煙草マスター。美しく舞うようにコンボを決めるカービィ、雅。電撃・格闘・アイテム捌きとあらゆる技術が突出したピカチュウ、ポンチコ。そして四闘士最強と謳われた伝説のフォックス、ロハス。俺はこのロハスと一戦交えたんだ」

片割れ「で?負けたんか」

迫力「ああ」

片割れ「一方的な因縁やな…」

迫力「ははは!まあな!だが結構善戦したんだぜ?」

片割れ「負けたら意味ないやろ、戦争なんやから」

迫力「そりゃそうだ。ま、そういう事もあって俺は調べたのさ、フォックスについてな。終戦後にはフォックスたちの村にも行った。勿論戦いはしなかったがな」

片割れ「そうか」

ナイフ「おう!どうしたんだ三人揃って」

そこへ子供二人を連れてナイフが帰ってきた。

人間「おかえりなさい、若。お前も」

若「ただいまー」

子人間「ただいま父ちゃん」

迫力「何、他愛ねえ話さ。そんな事よりお前たち腹減ってんだろ。早く上がんな。メシにしよう」

子供たち「やったー!」

片割れ「ワシはもう帰るで」

ナイフ「食っていかないのかよ」

片割れ「ヤクザと一緒にメシなんか食いたないわボケ」

片割れは去っていった。

ナイフ「ちぇっ、いつまでも意地張りやがって」

人間「いや、アイツさっきめっちゃ菓子食ってたから、普通に腹一杯なんだと思うぞ」

ナイフ「…素直じゃねえなぁ」

252ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:23:13 ID:IfN.ppww00





同日、フォックスたちの村では。


チュンッ!チュンッ!

ズガガッ!!


高速で動き回る三つの的が、一瞬で全て撃ち抜かれる。

ムメイ「おー、やるなぁチビのくせに…」

???「へっ、楽勝だ」

それを撃ったのは、とても幼い白フォックス。

ナザ「これが本物の"天才"ってヤツか…」

ギル「マクラウド家の血筋なだけあるわね…同世代のパターソンはまだ幼稚園で水鉄砲撃ってるわよ」

ムメイ「きっとコイツは九尾になる逸材だ。千年後じゃ見届けらんねえのが残念だがな。ナザ坊、この調子じゃあお前の記録もすぐ抜かれるぜ」

ナザ「そっすね。つーかそのナザ坊ってのやめてくれませんかね。もうそんな歳じゃねえっすよ…」

ムメイ「呼びやしいんだよ。なあ、天才?」

天才「ああ。ナザボー、呼びやしいぜ」

ナザ「うるせえ!」

ギル「フフ、ムメイさん、すっかりママみたいになって」

ムメイはあの事件で片腕を失ってからは、後進の育成をしている。

事件の後、生き残りのフォックスたちは崩壊した村を捨て、避難先のこの隣村へ移り住んだ。

フォックス以外の住民たちの協力もあり、訓練場やアーウィンの格納庫なども建設し終え、既に任務もこなし始めていた。

253ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:25:00 ID:IfN.ppww00

ギル「そう言えばドドンとポルスは?今日は任務ですか?」

ムメイ「ああ。たしかアルバロも一緒に、外国の武装組織の鎮圧だったかな」

ギル「そうですか。あの子たちもすっかり一人前のフォックスになっちゃったわね…」

ナザ「はっ、まだまだだろ。ドドンはなんか知らんが爆弾作りに夢中だし、ポルスは相変わらずモノマネばっかしてるし、アルバロも速さばっかで精細さに欠ける」

ムメイ「ハハハッ!良いじゃねえか、個性があってよ。何の取り柄も面白味もねえフォックスよりずっとマシだぜ」

フトゥ「おい、そりゃ俺のことか?」

ギル「フトゥさん!」

ナザ「お疲れっす。帰ってたんすね」

フトゥ「ああ、ついさっきな。リカエリス大佐は?」

ムメイ「まだ調査から帰ってねえよ」

フトゥ「まだ!?俺の任務より前から出てなかったか?あの人」

ナザ「そういや遅いっすね。調査っつっても宇宙に出たわけじゃねえ筈だし…」

ムメイ「連絡取れねえんだよ。あの人のことだから大丈夫かと思ってほっといたんだが…そう言われるとたしかに気になってきたぜ…おいフトゥ、応援に行くぞ」

フトゥ「はぁ?帰ったばっかなんだが…」

ムメイ「別にいいだろうが。大した任務でもなかったろ」

フトゥ「そこそこキツかったっつーの。つうかお前も行く気か?」

ムメイ「ああ。ナザ坊とギルティースはこれから別任務だ。他のも動けるヤツは出払ってる。人手不足だからな…」

ギル「私は大丈夫ですよ?今回の任務はかなり楽ですし、戦闘もほとんどしなくていいみたいだから」

ナザ「だな。戦わないならむしろ俺がいない方が都合いいだろ。俺がいると目立っちまう。フトゥさんと俺で行きましょう」

フトゥ「しゃあないな。まあ大佐に何かあったら大変だしな。それでいいか?ムメイ」

ムメイ「むぅ…分かったよ。んじゃアタシら三人で行くぞ」

フトゥ「結局ついてくんのかよ!大丈夫なのかその体で」

ムメイ「大丈夫だって。ちょっと見に行くだけだぜ?ナザ坊のアーウィンに乗せてもらうし」

ナザ「えぇ、俺っすか?」

ムメイ「んだよそのイヤそうなカオは。お前の操縦ならもし何かあってもなんとかしてくれるだろ?」

ナザ「そりゃフトゥさんより断然上手いっすけど」

フトゥ「おい」

ムメイ「ずっと村に篭ってたら鈍るじゃねえか。たまには出させろってんだ」

ナザ「私情じゃねえすか。まあいいけど…」

ムメイ「おし、決まりだな。悪いな天才!稽古はまた今度見てやるよ」

とムメイは天才の頭をわしゃわしゃと撫でる。

天才「フン、もういいぜ。俺は一人でできるし、すでにムメイより強いからな」

ムメイ「ケッ、可愛くねえガキだぜ。実際片腕のアタシよりゃ強えかもしんねえがな」

ムメイは言葉では悪態をつきながらも、天才の成長を喜ぶような笑みを浮かべていた。

254ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:26:49 ID:IfN.ppww00




それから三人はリカエリスの向かった山奥へと飛んだ。

ムメイ「な…何だこりゃあ!?」

アーウィンから見下ろすと、そこには球状に抉り取られたかのような巨大な跡だけが残っていた。

ナザ「なんか、爆発でも起きたんすかね」

フトゥ『爆発じゃここまで綺麗な断面にはならない。重機か何かで掘削した跡だろう』

ムメイ「ばっかお前、こんなでけえ重機があるかよ」

ナザ「じゃあ何なんすかね」

ムメイ「知るか!」

ナザ「そもそも大佐って何の調査してたんすか?」

ムメイ「あー、この近くの町に魔の一族?っつうのが出たんで調査してたんだよ」

ナザ「魔の一族!?それってギル姐の姉ちゃんを殺した…」

ムメイ「ああ。でもそいつは大佐が見つけて倒した」

ナザ「え」

ムメイ「問題はその後、町の住人からアーウィンの目撃情報があったらしいんだ」

ナザ「アーウィン?」

フトゥ『俺たちの村のフォックスではないってことか』

ムメイ「ああ。ここしばらく大佐以外この辺には近づいてすらないはずだ。つまり掟を破った奴がいる」

ナザ「アーウィンを任務外で村の外に持ち出すな、とかのアレっすか」

フトゥ『アーウィンは連盟からの任務において、出入国などのあらゆる手続きを完全にスルーすることができる。迅速に任務をこなす為にな』

ムメイ「そんなシロモノを勝手に持ち出したらやべえって話だな。密入国しまくりだ」

ナザ「でも任務は各国にも伝わってるんじゃないんすか?任務外で侵入したら流石に捕まるでしょ」

フトゥ『たまにある緊急事態の出動は各国に伝わっていない事も多い。つまりその場合、完全に無断入国になる訳だが…黙認されてる』

ナザ「はあ?なんでっすか?」

フトゥ『俺たちフォックス族が信頼されてるからだ』

ナザ「信頼って…」

フトゥ『大昔…つっても本当に大昔の何千年前とかだが…ファイターと呼ばれる種族の一部が暴れ出す事件があったそうだ。その時フォックス族だけは誰一人暴れる事なく、暴れ出した奴らの対処に当たった。それがきっかけだ』

ナザ「ふーん…そんな昔話がまだ通用してるんすね」

フトゥ『まああくまできっかけだ。それ以降も正義を貫き続けたからこその結果だろう』

ムメイ「要はその掟破り野郎は、アタシたちの正義を利用してやがるわけだ」

ナザ「なるほど。何企んでるんすかね」

ムメイ「それを大佐が調査してる…はずなんだがな」

こんなはずではないという感じでボリボリと頭をかくムメイ。

255ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:27:54 ID:IfN.ppww00

フトゥ『本当にここで間違いないのか?』

ムメイ「これ見りゃわかんだろ!どう見ても何かあったヤツだろこりゃ!」

フトゥ『…まあ…』

ナザ「とにかく大佐を探しましょう」

ムメイ「ああ!」


三人はしばらくアーウィンでぐるぐると飛び回り、リカエリスの手掛かりを探す。



ドォォォォン!!!!



ナザ「……え?」

突然の爆発。


ヒュゥゥゥゥ…

ドドォォン…!


フトゥの乗っていたアーウィンはそのまま落下し、火を上げた。

ムメイ「フトゥーーっ!!」

ナザ「な、何すか!?攻撃!?」

ムメイ「分からん!!フトゥ!応答しろ!!フトゥーっ!!」

ナザ「…………くっ…ダメだ…」

ムメイ「クソッ!!ふざけやがって!!どっから撃たれた!?とにかく警戒しろナザ坊!!」

ナザ「はい!」


ドォォ!!


ナザ「!?」

ムメイ「クソッ!!やられた!!」

ナザレンコたちのアーウィンも、左翼が撃ち抜かれた。

ナザ「でもこれくらいなら大丈夫っす…!俺の操縦技術がありゃ飛べます」

ナザ(…しかし…この抜かれ方からして真後ろに付かれてるな。見えねえってことはステルス機か…よく見りゃ右翼にも少し掠ってる。弾のばらつきがデケぇ。一人が撃ってもこうはならねえだろう。敵は恐らく複数人…しかもフトゥさんは一撃、こっちも数発で捉えられた。相当な手練れだ…勝ち目あんのかこれ…)

一瞬でナザレンコは思考を巡らせる。

そして。

256ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:28:40 ID:IfN.ppww00


ドドドドドドドドッ!!


ナザレンコは地面を撃ちまくり、土煙を巻き起こした。

ナザ「逃げます!」

ムメイ「ああ!」


キィィィィィン!!


ナザレンコは全速力でその場を離脱する。

ムメイ「チッ!フツーに追ってきてやがるぞ!アーウィンだ!三機!」

ナザ「弾の感じからしてそうだとは思ったが…大佐もアイツらにやられたのか…?」

ムメイ「畜生!どういうつもりだ裏切りもんども…ってかなんで見えるんだ?ステルス機じゃねえのか」

ナザ「さっきの土煙被ったからっす」

ムメイ「あーなるほど!すげえなお前!」

ナザ「つっても見えにくいことに変わりはねえし、飛んでりゃ土も落ちちまう。今のうちになんとかしねえと…」

ムメイ「そうか…なんか作戦はあんのか?」

ナザ「あったらやってますよ」

ムメイ「だよな」

ナザ(向こうは手練れ三人に魔改造アーウィン三機…こっちは隻腕含む二人に隻翼アーウィン一機…俺がそこそこ天才なのを加味しても、キツすぎる戦力差だ…!)

ムメイ「クソ…何か手は……ん!おいナザ坊、あそこ!」

ナザ「なんすか」

ムメイ「洞窟だ!あん中なら一匹ずつ誘い出せるんじゃねえか!?サシならお前に敵うヤツぁそうそういねえ!」

ナザ「なるほど、洞窟ごと壊されて生き埋めっすね…」

ムメイ「そうかぁぁ!!馬鹿かアタシは!」

ナザ「落ち着いてください。大丈夫っすよ。ムメイさんには期待してないんで」

ムメイ「うおい!先輩を敬えや!」

ナザ(…どうする…ガチでまずいぜ…何も打開策が浮かばねえ…ムメイさんは動転してまともに思考が働いてなさそうだし…それこそ仲間が助けに来てくれたりしねえとどうしようも…)

257ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:29:38 ID:IfN.ppww00


ザザッ…


ナザ「!!」

タロウ『あー、あー、聞こえるかナザレンコ。こちらタロウだ』

通信してきたのは、生き残りフォックスの一人、タロウだった。

ムメイ「タロウ!なんでここに!」

ジロウ『ん?その声、ムメイも生きてたか!こちらジロウ!任務から戻ったら、ちょうど出発するギルティースと鉢合わせてな!話を聞いて応援に来たぞ!』

サブロウ『こちらサブロウ!俺らが来たからにゃもう安心だぜ!』

ナザ「ジロウさん!サブロウさん!助かります!」

タロウ『今お前らを追ってるが、この後ろについてるハエを落としゃあいいんだな?』

ムメイ「ああ!頼む!」

ジロウ『楽勝だな!アーウィンの射撃技術なら俺たちタロジロサブロ、村でもトップクラスだぜ!』

サブロウ『いくぞっ!!』


ドドドォォォォォォォォン!!!!


ムメイ「おおっ!!やった………は!?」

後ろを見ると、三機のアーウィンは依然追ってきている。

そしてその後ろで大爆発が起きていた。

ナザ「……墜とされましたね…」

ムメイ「嘘だろ…!?おい!!タロウ!ジロウ!サブロウ!返事しろーーっ!!」

ナザ「…どこから撃たれた…?三人はたしかにアイツらの後ろについてたはずだ…」

ムメイ「ん…!?」

ナザ「どうしました…?」

ムメイ「……タロジロサブロのアーウィンの爆煙で…見えちまった……クソッ…」

ナザ「いや、だから何がっすか、ムメイさ……ん……」

そこでナザレンコも気付く。

258ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:30:52 ID:IfN.ppww00

背後に迫る、更なるステルスアーウィンたちが、爆煙の煤が付いたことで炙り出されていたのだ。

ムメイ「なんだよ…あの数……」

その数は優に五十を超えていた。

ナザ「……!」

次の瞬間。


ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!


アーウィンたちによる一斉射撃。


ドドォォォォン!!!!


避けられる筈もなく、ナザレンコのアーウィンは一瞬にして仕留められた。


ヒュゥゥゥゥ…


アーウィンが落ちていく。

その下は深い崖になっていた。

259ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:31:57 ID:IfN.ppww00



タタタタタ…

???「この辺りに墜ちた筈だ」

???「あれ程の射撃を受けて生きてはいまいが…また面倒な奴らが捜索に現れるかもしれないからな。一切の痕跡を残すな」

崖下を流れる河岸を緑フォックスたちが走る。

???「あったぞ!アーウィンだ」

川の真ん中に、もはや原形を留めていないアーウィンがあった。

そこへフォックスたちが集まる。

一人がアーウィンに入り、中のパイロットを引きずり出した。

???「問題ない。死んでいる」

???「右腕はどうした?」

???「墜ちた時に失ったのかと思ったが…出血していないところを見るに、元々隻腕だったらしい」

カタカタカタカタ…

と、一人がコンピュータを操作する。

???「データがある。ムメイ・ブラッドという女フォックスだ。フォックスの訓練場でオリジナルが行ったクローン肥大化及び魔力解放実験の時に、右腕を失っている」

???「そうか」

ピピピピ…

???「こちらCR-120。どうした」

???『こちらCR-148。先程墜とした三機のパイロット、タロウ・シーゴ、ジロウ・ロックナー、サブロウ・ハックの死亡を確認した』

???「了解。CR-140から160は機体と死体を回収して基地へ戻れ」

???『了解』

???「よし、我々も戻るぞ」

???「ああ。その前に一応、周囲の生体反応を確認しておく」

ピッ、ピッ、ピッ…

一人が端末を操作し、画面を見つめる。

???「…!一つ、我々以外に反応がある!」

???「何!?二人乗っていたのか!捜せ、まだ近くにいる筈だ!」

???「いや…」

ピピピピ…

そこで通信が入る。

???「チッ、何だ。こっちは今…」

???『こちらCR-135。最初に墜としたアーウィンのパイロットの死亡を確認した。フトゥ・ブラッドで間違いないだろう』

???「ブラッド…?ムメイ・ブラッドの血縁関係者か」

???『…いや、一年前に結婚しているようだ』

???「…結婚……まさか、その生体反応は…」

???「ああ…この女の位置と重なっている」

260ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:35:03 ID:IfN.ppww00





ザァーン…

ザザァーーン…


ナザ「ん…」


ナザレンコが波の音で目を覚ます。

ナザ「どこだここ…」

そこは見知らぬ砂浜だった。

ナザ「はっ!そうだ!ムメイさん…!!」

ナザレンコは体を起こし辺りを見回す。


ザッ…

ザッ…

ザッ…


しばらく歩き回り。

ナザ「……クソッ……」

ナザレンコは膝をついた。

ナザ「…いるわけねえか……あの時…川に墜ちて…俺を外に…蹴り出した……ムメイさんは…あのキズじゃもう……」

ザッ、ザッ、ザッ…

???「どうした?そんなボロボロの格好で」

歩いてきた老人が問いかける。

ナザ「……いや…なんでもねえっすよ…」

ナザレンコは俯いたまま、無気力に答える。

???「何でもないということはなかろう。来い」

ナザ「え…」

ザッ、ザッ、ザッ…

老人は手を貸すこともなく、歩いていく。

ナザ「ちょ…ジイさん…!」

ナザレンコは渋々立ち上がり、老人を追った。

261ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:36:29 ID:IfN.ppww00



それから数十分。

ナザ「ど、どこまで行くんだよ!?」

???「此処じゃ」

ナザ「…え?」

辿り着いたのは、険しい山の中腹にある山小屋だった。

ナザ「こんなとこに住んでんのか…」

???「腹を満たせば少しは回復するじゃろう」

小屋の前には、巨大なイノシシの丸焼きが置かれていた。

ナザ「…でっか…!」

???「儂一人では食い切れんのでな。腐らすのも勿体なかろう」

ナザ「…ありがてえよ……けど…悪い……ジイさん……俺…食欲が……」

???「莫迦者が。食わねば戦えん」

ナザ「……戦う…か……」

ナザレンコは自分の震える手を見つめる。

???「怖いか」

ナザ「…そう…なのか…?俺はビビってんのか…?」

???「恐怖する事は恥ではない。戦えぬなら、別の道を選ぶ事も一つの手じゃ」

ナザ「別の道…?でも…もう…大人はいねえ……俺がいねえとアイツらは…」

???「直ぐに決める必要は無い。お前が今すべきは食う事じゃ」

ナザ「なんでだよ…まあいいや…分かったよ……いただきます」

ガブッ!!

ナザレンコは肉にかぶりついた。

悪夢を振り払うかのように豪快に、すごい勢いで食いちぎり、咀嚼し、飲み込む。

262ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:37:09 ID:IfN.ppww00


幼い頃から天才と言われてきた。

何度も仲間を救ってきた。

仲間を失っても気丈に振る舞い、皆を勇気付けた。

頼られる存在だった。

勝ち続けてきた。

だが何も出来なかった。

そして護らなければならないはずの存在に、命を救われた。

ナザ「なぁ…………ジイさん……」

???「……」

ナザ「…なんだよこの味付け………しょっぺえな………ちくしょう……」

顔を脂まみれにしながら肉を食い散らすナザレンコの頬には、ダムが決壊したかのように涙が伝っていた。

263ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:38:27 ID:IfN.ppww00




翌朝。

ナザ「はっ…!」

ナザレンコは飛び起きる。

ナザ「…泣き疲れて眠ってたのか…子供かよ…」

鏡に映る自分の顔の涙の跡を見て、呆れる。

ナザ「うわっ!つうかなんだコレ!顔めっちゃギトギトじゃねえか!気持ちワリイ!」

洗面台へ行き、蛇口をひねる。

ナザ「……あ、そうだった。ここ水道通ってねえんだ。たしか近くに川があるって言ってたな…そういやジイさんどこいった?」

テーブルを見ると、書き置きがあった。

ナザ「なになに…儂は修行場へ向かう。暫くは帰らん。出て行くも居座るも好きにするが良い…か。ったくお節介なジイさんだ…こんな不便なとこじゃ居座ろうにも無理だろうが」

ナザレンコはすぐに身支度を整える。

と言っても着替えも荷物もアーウィンもなく、川で顔や体を洗うくらいだが。

ナザ「ん…?」

体を洗おうとしたところで、ナザレンコは体中の怪我に包帯やガーゼが貼られていることに気付いた。

ナザ「…ホント、お節介なジイさんだな…」

ずっと俯きっぱなしで顔も分からず、名前も聞いていない。

ただ白い服と緑のオーバーオールだけが記憶に残っていた。

ナザ「ありがとよ、ジイさん」

そうして、ナザレンコは山小屋を発ち、村へ帰るため歩き出した。

264ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/26(金) 06:39:00 ID:IfN.ppww00




数日後。

ナザ「ただいま」

ギル「ナザレンコ!!」

村の入り口に、ギルティースが待っていた。

ナザ「おう」

ギル「おう、じゃないわよ!!心配したのよ!全然連絡つかないし!今から私も捜しに行こうかと思ってたとこよ!」

ナザ「悪い」

ギル「…何があったの?ムメイさんたちは?」

ナザ「……死んだよ。生き残ったのは俺だけだ」

ギル「え…」

ナザ「ムメイさんもフトゥさんも…大佐も…タロジロサブロの三人も……誰も…救えなかったんだ…」

ギル「そんな……何が…」

ナザ「……あの時の宇宙生物が、生き残ってたんだ」

ギル「え!?」

ナザ「それで…しかも繁殖してて…なんとか全部討伐したんだが…みんな…食われちまった…」

ギル「………そっか……辛かったわね」

ギュゥ…

ギルティースはナザレンコを抱き締める。

ナザ「よせよ…」

ギル「私たちがいるわ。大丈夫…大丈夫だからね…」

ナザ「……ああ…」


ナザレンコはあのフォックスたちの事は誰にも言わなかった。

この村へ戻る数日間の帰り道で、全てを一人で背負うという覚悟を決めていた。

これ以上犠牲を出さないために。

265ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/28(日) 10:31:10 ID:aaJ2oUP600





数ヶ月後。

魔法学校では。

小学生「おっすおこめ!」

おこめ「おはよう!」

校舎の廊下で、小学生とおこめは元気に挨拶を交わす。

小学生「今日は召喚術の授業だっけか」

おこめ「ぼくはお米の品質アップ魔法の授業!」

小学生「はぁ?そんな授業ないだろ…?」

おこめ「放課後に個人研究してたら、センセーに見つかって、カリキュラムに組み込んでもらえた!」

小学生「何ぃ!?すげーじゃん!」

おこめ「さんきゅ!」

小学生「いつも研究頑張ってたもんな、お前。ホントに米が好きなんだな」

おこめ「うん!とゆーわけで、またあとで!」

おこめは去っていった。

小学生はそれを見送ってから、教室に入った。

小学生(しっかしどーしたもんかな。㌦のヤツはいきなり飛び級で中等部に行っちまうし、おこめも順調に夢に近づいてる…ライバルたちがどんどん前に進んでるっつーのに、俺は…)

昼間「皆さんおはようごさいます」

生徒ら「おはざーす」

昼間「今日は使い魔の召喚魔法陣について学びましょう。魔法書の二十九ページ目を開いてください」

という感じで授業は進んでいく。

266ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/28(日) 10:32:18 ID:aaJ2oUP600


そして授業の中盤。

昼間「それでは、実際にやってみましょう。この魔法陣では最弱の使い魔しか出ないので安心してください」

生徒ら「はーい」

小学生「………」

昼間「どうしました?」

小学生「おわっ!」

昼間「そんなに驚くことないでしょう…何か考え事ですか?」

小学生「先生…俺、こんなことしてていいのかな…」

昼間「どういう意味ですか?」

小学生「あ!いや、召喚魔法を馬鹿にしてるとかそういうんじゃないですよ!?同期の二人がどんどん遠くへ行ってる気がして…このままじゃ…」

昼間「そうですねぇ。あの二人…特に㌦ポッターくんは高い才能の持ち主ですよ。だけど才能以上に、君と二人とでは決定的な違いがある」

小学生「違い…?」

昼間「目標です。自分でも心当たりがあるのではないですか?」

小学生「…」

小学生は俯く。

昼間「㌦くんは錬金術師、おこめくんは米魔法の開発。二人はその具体的な目標に向かって真っ直ぐ突き進んでいる。君はどうですか?」

小学生「俺は…強くなりたい」

昼間「ええ。ただ強くなりたいと、漠然としたものしか見えていません。どう強くなるのか、どうやって目標に近づくのか、そのゴールはどこなのか。自分自身で気付き、明確にしなければ、大きく成長することはできません」

小学生「…ゴール、か…」

昼間「ですが焦ることはありませんよ。まだ学校生活の半分も過ぎていないのですから。高等部の卒業までに何かを見つければいいのです。見つけさえすれば、君はきっとすぐに掴み取れる筈だ」

小学生「でも…俺には時間が無いんです…!」

小学生は焦りと不安を表情に浮かべる。

昼間「…そうですね…分かりました。それじゃあ今日の放課後、私の職務室に来てください。相談に乗りましょう」

小学生「分かりました…」

267ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/28(日) 10:33:37 ID:aaJ2oUP600



そして放課後。

コンコン

ガチャリ

小学生「失礼します」

昼間「どうぞ、そこの椅子に座ってください」

小学生「はい」

昼間「今日の召喚魔法、素晴らしかったですね。文句無しの満点ですよ。やはり君にもちゃんと才能はある」

小学生「ありがとうございます…でもあんな基本的な召喚魔法くらいで喜んでられないですよ。アイツらに比べたら…」

昼間「他の人と比較する必要なんてありませんよ。大事なのは自分の目標です」

小学生「俺の目標…先生だって分かってるでしょ…?俺は…アイツを助けてやらなきゃいけないんです…!アイツは今も苦しんでるかもしれない…!」

昼間「…はい。しかしあれからずっと捜し続けていますが、彼女が見つかる気配はありません」

小学生「…先生が何年も魔法書で捜しても見つからないなんて、そんなことあるんですか…?」

昼間「ええ。いくつかの可能性があります。一つは、感知の及ばない程離れた場所へ移動している可能性。ただ、彼女を追跡できなくなったのは、彼女が逃げてから僅か数時間以内のこと。魔法書による感知は最大で三千キロ程度まで拡げられますから、その短時間で範囲外に出るのは難しいでしょう」

小学生「二つ目は…?」

昼間「魔力の感知を妨害する魔法を使っている可能性。ですが…」

小学生「アイツにそんな技術はないはず…」

昼間「ええ。この可能性も低いでしょう。そして三つ目は、別の空間に移動している可能性です」

小学生「別の空間…?この魔法学校みたいな…?」

昼間「ええ。暴走時の彼女の魔力量なら、空間に無理やり穴をこじ開けることも不可能ではありません。他の空間に入り込まれたら、その空間を見つけ出さない限り絶対に感知できない」

小学生「…そんな…他の空間なんてどうやって見つけるんですか…?」

昼間「空間を移動する際に発生する歪み…これを観測し、空間魔法によってこじ開ければ、理論上はその空間に辿り着けます」

小学生「じゃあその空間の歪みってのを探せば…!」

268ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/28(日) 10:34:37 ID:aaJ2oUP600

昼間「ですが空間の歪みは魔法書では感知できない上、一定の時間が経てば消えてしまう。彼女がその空間に籠ったまま出てこなければ、もう見つけるのは不可能に近い」

小学生「なっ…!!」

昼間「…言いたくはありませんでしたが…はっきり言いましょう。彼女のことはもう諦めた方がいい」

小学生「ふざけんなっ!」

ガタン!

小学生は勢いよく立ち上がり、椅子が倒れる。

昼間「…」

小学生「空間の歪みは魔法書じゃ観測できない…?だったら、俺が旅に出て直接見つけてやる!!」

昼間「無謀ですね。この広い世界のどこに現れるかも分からない、どころか、現れることもないかもしれないんですよ?」

小学生「それでも、ゼロじゃない!!」

昼間「やれやれ…」

コンコン

小学生「!」

昼間「どうぞ」

ガチャリ

おこめ「しつれーします」

小学生「おこめ…」

おこめ「あれ?なんでこんなとこいるんだ」

小学生「お前こそ…」

おこめ「あ、そうそう。センセ、これ、今日の試作品」

コトン

おこめは召喚士の机の上に、一杯のごはんを置いた。

昼間「はい。いただきます」

パキッ

召喚士は割り箸を割ると、ごはんを食べ始めた。

小学生「…え?何これ…」

おこめ「定期的にぼくのお米魔法の成果を見てもらってるんだ。今日がその日だから持ってきた。どう?」

昼間「うん。美味しいです。ただ、前回と大きな違いはないように思います。もう少し与える魔力の量を増やしてもいいかもしれませんね」

おこめ「なるほど!ありがとうでしたセンセー。それじゃあしつれーします」

パタン…

おこめは帰っていった。

昼間「しかし…凄いですね彼のお米への愛は。一分一秒全てをお米に費やしている…これなら本当に、不可能を可能にしてしまうかもしれません」

小学生「不可能を可能に…?」

昼間「魔法とはあくまであらゆる行為に対し、手助けをするものでしかありません。力を高めたり、物を移動させたり、物にエネルギーを加えたり。物質そのものを変質させることは不可能とされています。彼の研究は、その常識を覆そうとしている…」

269ハイドンピー (ワッチョイ 1d41-935b):2021/11/28(日) 10:35:41 ID:aaJ2oUP600

中学生「それだっ!!」

昼間「!」

小学生「さっき先生言いましたよね!他の空間を見つけるのは不可能だって…!だったら作ればいい!それを可能にする、新しい魔法を!!」

昼間「なるほど…いいでしょう」


パチンッ!


召喚士が指を鳴らすと、二人は別の広い部屋に移動していた。

小学生「え?」

昼間「ここは空間魔法の研究室です」

先輩「やあ、話は聞いてるよ。よろしく」

小学生「あ、はい。よろしくお願いします…?」

訳もわからぬまま小学生は部屋にいたローブを着た青年と握手を交わす。

昼間「今日から君もこのチームの一員になってもらいます。詳しいことはリーダーの彼に聞くといい。空間魔法のスペシャリストです」

先輩「はは、ハードル上げないでくださいよ先生」

小学生「な、なんか妙にスムーズに話が進んでるような…」

先輩「ん?先生に言われて空間魔法を始めようと思ったんじゃないの?」

昼間「違いますよ。彼が自分で決めたことです。新しい魔法を開発したいと。ね?」

小学生「はい…って、もしかして俺こうなるように誘導されてたのか!?さっきおこめが来たのも、全部計算ずくか!?」

昼間「まあ、そういうわけです」

小学生「な、なんでそんな回りくどいことを…」

昼間「自分で気づき、自分で決めることが大事なのです。魔道においても、人生においてもね。でなければ新たな魔法の開発などできませんから。私はその手助けをしたまでですよ」

小学生「…たしかに、おこめもめちゃくちゃ自分勝手だもんな…ありがとうございます先生!俺、ここで絶対に見つけてみせる!アイツを救う方法を!」

昼間「ええ。私もできる限り協力しますよ。頑張ってください」


パチンッ!


小学生を研究室に残して、召喚士は職務室に戻った。

昼間「…ふぅ…」

椅子に腰掛け、一息つく。

昼間(最も確率の高い四つ目の可能性については…言わなくてよかったのでしょうか…もし言ったとしても彼はきっと低い可能性に賭けて、同じことをしたでしょうが…)

頭を抱え、そして再び。

昼間「はぁ…」

大きく溜息をつく。

昼間(あの時の状況…彼女の症状…そして数年間、魔力の痕跡すら追えないことを考えると…)


昼間(…彼女は恐らくもう…死んでいる…)

270ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:44:07 ID:rE0fJLeg00





とある国。


ドドドドドォ…!!


ドォォン!!


兵「うおおおお!!」


ドドドドド…!!


ドガァァン!!


兵「ぐああああ…」


激しい銃撃戦により何人もの兵士たちが倒れる。

兵士たちは町を囲む砦を防衛していた。

数百人の鎧を纏った敵軍がそこへ攻め入ろうとしているが、銃撃によりなかなか前線を進められずにいた。


ダダダダダダダダダ…!!


その中に一人、それを物ともせず突っ込んでいく者がいた。

兵「うわっ!?なんだこいつ!?」

兵「くそっ!速え!銃が当たらねえぞ!」


ドゴォ!!


兵「ぐあぁっ!」


バキィ!!


兵「ごはっ…!」

ドサッ…

目にも止まらぬ足技で兵士たちを蹴り飛ばす。

兵「く…くそっ…」

兵「貴様…!これは戦争犯罪だ!ファイターは戦場に出てはならない!」

???「知らぬ!」

水色のヨッシー族は踏ん反り返って、堂々と言う。

兵「ふざけるな!」

兵「何者か知らんがそんな勝手がまかり通ると思っているのか!?」

???「知らぬ!!」

兵「知らぬで済むかァ!!」

???「済むッ!!」


ドゴォッ!!!


兵「ぐはぁっ!」

271ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:45:52 ID:rE0fJLeg00

兵「め、滅茶苦茶だ…!」

兵「こんな事は許されん…!貴様!世界連盟に消されるぞ!」

???「愚かな者どもの決めた掟など関係無い!!本当の空を取り戻す、我等、空色十字軍にはッ!!」

十字軍「ウオオオオオオオオオオオオオ!!」


ドドドドドドドド…!!!!


ヨッシーの後ろに続く兵隊たちもそれに乗じて、雄叫びを上げながら突撃してくる。

兵「くそっ!話が通じない!」

兵「あの恐竜モドキだけではない…奴ら全員狂っている…!」

兵「撃てーっ!!ここを突破されてはならん!!何としてでも止めるのだっ!!」


ドドドドドドドド!!

ドォン!!

ドドォン!!


十字軍に向けて銃や大砲が撃ち込まれる。

空色「無駄だ!!そんなもの我等には効かぬ!!」

十字軍「ウオオオオオ!!」


ドガガッ!!

ズドォ!!


兵「ぐああああ…」

十字軍は怯みすらせず突撃してくる。

兵「何なんだよこいつら!」

空色「この世界に空色の空を!!その為ならば、我等は鬼にもなろう!!」

十字軍「ウオオオオオオオ!!」

兵「畜生っ!ここまでかっ…!」


ドゴォォン!!


十字軍「うああああ…!」

空色「!!どうした!」

後ろからの悲鳴に、ヨッシーは振り返る。

272ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:47:39 ID:rE0fJLeg00

ズドォ!!

十字軍「ぐはっ!」

ドガッ!!

十字軍「ごあ…」

バゴッ!!

十字軍「ぶへっ!」

空色「馬鹿な!我が十字軍が…!何だ彼奴は!」

そこには生身で十字軍を薙ぎ倒していく赤ファルコンがいた。

兵「…くっ…奴を使う事になるとは…」


ダンッ!!


赤ファルコンは高く跳び上がり。


くるくる…


シュタッ!


空色「!!」

ヨッシーの前に着地した。

エーレ「どーもぉ、空色十字軍の皆さん。僕、エーレヒトといいます」

空色「そうかエーレヒト!!死にたいようだな!!」


ズドドドド!!


ヨッシーは一瞬の逡巡もなくエーレヒトに飛び掛かり、連続蹴りを繰り出す。

エーレ「いいですね!実にいい!殺意の篭った蹴りだ!」


シュババババ!!


エーレヒトはそれを全て受け流す。

空色「貴様ッ!!遊びに来たつもりか!!此処は戦場だ!!」

エーレ「わかってますよ。次はこっちの番です」

空色「!!」


バゴッ!!


空色「かはっ…」

エーレヒトはヨッシーの顎に上段蹴りをお見舞いした。

273ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:48:56 ID:rE0fJLeg00

エーレ「手応えが軽い…上手く後ろに飛んで威力を抑えたようですね。いい反応です」

空色「貴様…」

兵長「戻れエーレヒト!!まだそこは貴様の戦える場所ではない!!」

兵士たちのリーダーらしき人物が、砦の上から叫ぶ。

エーレ「えー!?ちょっとくらいいいじゃないですかー!向こうだってファイター使ってんですから!」

兵長「ダメだ!それでは奴らと同じになる!」

エーレ「うるさいなぁ…まいいや。じゃあついてきてください」


ダダダダダダダ!!


エーレヒトは凄い勢いで退いた。

空色「貴様!!逃げる気か!!」

ヨッシーはそれを追う。

兵長「奴を通すな!!撃てーっ!!」


ドドドドドドドド!!!


空色「無駄だ!!」

ドガッ!!

バキッ!!

兵「ぐあああ…!」

ヨッシーは立ちはだかる兵士たちを一瞬で倒すと、エーレヒトを追って町へと侵入していく。

兵長「チッ…やはり無理か…」

兵「い、良いんですか兵長!あの恐竜、領地内に…!」

兵長「仕方あるまい…ファイターを止められるのはファイターだけだ…奴はそのために雇ったのだ…」


ダダダダダダ…


空色「どこまで行く気だ!!」

エーレ「うーん、まあこの辺でいいかな」

ダンッ!!

エーレヒトは跳び上がり。

シュタッ!

町の広場の真ん中に着地。

そこで二人は対峙した。

エーレ「フフッ、あなたとなら最高に楽しい戦いができそうです!」

空色「楽しむだと!?我等を愚弄するかッ!!」

エーレ「愚弄なんてとんでもない!僕は楽しい戦いが大好きなんですから!それを僕に与えてくれるあなたは、神様のようですよ!」

空色「か…神だと…!?貴様ァッ!!」

エーレ「えっ、なんか悪いこと言いました?」

空色「神など要らぬッ!!この空には雲も星も神も要らぬ!!空に在るべきは、空色の空だけだッ!!」

エーレ「何言ってんのかわかんないですけど…まあ本気で戦ってくれるならいっか」

空色「死に晒せ!!餓鬼がッ!!」

274ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:50:32 ID:rE0fJLeg00



ドゴォッ!!


兵「ぐわぁ!」

十字軍「がはっ!!」

兵「な…」

十字軍「何だ此奴は!」

兵「ど、どちらにも攻撃している…!?」

???「くくくっ…美味そうな肉の臭いがするぜ…ジュル…」

兵士たちと十字軍の戦場に、突如として現れたのは、謎の赤ピカチュウだった。

兵「ど、どこの所属だ貴様!名を名乗れ!」

???「名前ェ…?くく…そんなモン忘れちまったなァ!」


バチバチバチバチッ!!


兵「ぎゃあああああ!!」

十字軍「くっ…この強さ…リーダーでなければ歯が立たぬか!」

兵「仕方ない…一時休戦といこう、空色十字軍!まずはこいつを倒すぞ!!」

十字軍「断る!!」

兵「何ィ!?」

???「チッ、目障りだ。失せろ雑魚ども。不味い肉にゃ用はねえんだよ」


ドガガガガッ!!!

バキッ!!

ドゴッ!!


兵・十字軍「ぐあああっ!!」

兵長「くそっ!ファイターがもう一匹だと…!一体どうすれば…!!」

砦の上から見ていた兵長が頭を抱える。

兵「兵長…今こそ"アレ"を使う時です…!」

兵長「なんだと!?だがアレは…一体誰が使えると言うのだ!」

兵「分かりませんが…これだけいるんですからきっと誰か使えますよ!」

兵長「くっ…そうだな…それに賭けるしかないか…」

兵「はい」

275ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:51:08 ID:rE0fJLeg00

兵長「全員、退避ーっ!!砦の地下へ!!」

兵長は戦場に向かって叫んだ。

兵「地下!?まさか、アレを使う気なのか!?」

兵「だが確かにアレがあれば、この状況を打開できるかもしれない!」

兵士たちは砦へと走る。

十字軍「アレとは何だ!?」

十字軍「待てっ!!逃げるな貴様等!!」

???「あぁ…?なんか秘策でもあんのか?まあいい…邪魔な雑魚が退いてくれたんだ。ありがたく肉を漁らせてもらうぜ。ジュルッ…」

ダッ!!

赤ピカチュウは町の方へ走る。

十字軍「我等も征くぞ!!この地を取り戻すのだ!!」

十字軍「ウオオオオオ!!」

十字軍も続いて町へ侵攻する。

276ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:52:11 ID:rE0fJLeg00



兵「だ、大丈夫なんですか兵長!上を開けてきて…!」

兵長「問題ない。民間人の避難は済んでいる。あの傭兵もいる。アレを使うならば今しかない」

そして兵士たちは地下に集まった。

兵長「私の後ろに一列に並べ!順にこれを抜くのだ!」

そこには、台座に刺さった一本の剣があった。

兵「こ、これが…神剣…!!真の勇者にしか使えないという…」

兵長「まずは私からだ…」

ガシッ…

兵長「ふんっ!!」

兵長は剣を引き抜こうとするが、びくとも動かない。

兵長「…はあ…はあ…ダメだ。次っ!!」

兵「はいっ!!」

ガシッ…

兵「ふんっ!!」

しかし動かない。

兵「はあっ…はあ…ダメです…!」

兵長「次っ!!」

兵「はい!!」



そして十数分後。

兵「…くっ…ダメです!」

兵長「次っ!!……あれ?」

兵「今ので最後です兵長!!」

兵長「何だと!?」

兵「ど、どうしましょう兵長」

兵長「と…とにかく上へ戻るぞ!」

兵「は、はい!」

277ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:53:09 ID:rE0fJLeg00


ダダダダダダ…


兵士たちは階段を駆け上る。

そして。

兵「な、なんだこれは!!」

十字軍「うぅ…」

そこには、倒れた十字軍たちがいた。

空色「く…我等が…やられるとは…不覚…ッ」

ガクッ…

十字軍のリーダーたるヨッシーも倒れる。

エーレ「あはははっ!すごい!楽しいです!まさか一日に二度もこんな強い人と戦えるなんて!」

???「くくっ…こりゃあ喰い甲斐がありそうだ。まだ成熟しきってねえのが残念だがな」

町の広場では、エーレヒトと赤ピカチュウが戦っていた。

兵「そうか…あの傭兵がやってくれたのか…!」

兵長「だがあの黄色いハムスターは、そう簡単には勝たせてくれんようだ…」

兵「援護しますか?」

兵長「いや…我々の割って入れるレベルではない…奴が勝つのを祈るしかあるまい…全員、今のうちに倒れている十字軍を捕えろ!」

兵「はい!」

278ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:54:21 ID:rE0fJLeg00



バチバチッ!!


エーレ「おっと!…ふぅっ、危ない危ない」

???「テメエ、ピカチュウと戦い慣れてやがんな」

エーレ「はい!ちょっと前までピカチュウの殺し屋の人と一緒に行動してたんですよ!」

???「殺し屋だァ?」

エーレ「僕にこの世界での生き方を教えてくれたんです!お陰でいろんな強い人と戦えました!」

???「そいつは強えのか?」

エーレ「めちゃくちゃ強いですよ!あなたよりも全然!」

???「ほぉ…そりゃあ喰いてえな…ジュル…」

エーレ「あれっ?怒らないんですね。こう言うと怒ってもっと全力出してくれるかと思ったのに」

???「くくっ、俺より強えピカチュウなんざ美味えに決まってる。むしろ喜びしかねえぜ」

エーレ「はははっ!僕と一緒ですね!やっぱり強い相手との命のやり取りは楽しいですよね!」

???「テメエみてえな戦闘狂と一緒にすんなボケ」

エーレ「またまた〜」

???「…ウゼエな。とっとと絞めて喰うとするか」

エーレ「おっ!やっと本気になりますか!」

???「後悔するぜ」

エーレ「しませんよ!」


ドドドドドドドド!!


二人「!!」

二人の間を分かつように上空から光線弾が襲い、二人はとっさに距離を取る。

???「何だ?」

エーレ「もー!なんで邪魔するんですか!今いいとこなのに!」

279ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:55:25 ID:rE0fJLeg00

兵長「あれはアーウィン…!!」

兵「十字軍のファイター投入が連盟に伝わって助けに来てくれたんですね!」

アルバロ「そこまでだ!戦いをやめろ!」


ドドドドドドドド!!


エーレ「うわっ!」

???「チッ、めんどくせえ…じゃあな。テメエを喰うのはもっと成熟してからにしてやるよ」

タッ!!

エーレ「あ!待ってくださいよ!まだ戦いは…」

兵長「追うなエーレヒト!戦いは終わりだ!」

エーレ「えーっと…終わりってことは…契約終了!ですよね!」

ダッ!!

エーレヒトはピカチュウを追った。

兵長「なっ!?待てと言ってるだろう!…まったく…」

ゴゴゴゴ…

ズシィン…

兵士たちの前にアーウィンが着陸する。

アルバロ「我はアルバロ。十字軍のファイターというのはどれだ?」

兵長「そいつだ」

兵長は倒れたまま拘束されている水色ヨッシーを指差す。

アルバロ「ファイター用の収容所はこの国にあるか?」

兵長「都市部にはあるが、この町にはないな」

アルバロ「分かった。我が身柄を預かり収容所まで連れて行こう。目覚めて暴れ出したら貴様たちでは止められまい」

兵長「ああ、すまない」

アルバロ「さっき戦っていた二人は何なのだ?」

兵長「万が一のために我々が雇っていた傭兵と…よく分からん乱入者だ。突然戦場に現れて、両軍に喧嘩をふっかけてきた」

アルバロ「何?どういうことだ」

兵長「いや、分からん。ただの異常者だろう」

アルバロ「そうか…一応連盟に報告しておく」

兵長「ああ」

キィィィィィン…

そしてアルバロは飛んで行った。

兵長「しかしエーレヒト…報酬、いらんのか…?」

280ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:56:03 ID:rE0fJLeg00



エーレ「待ってくださいよー!」

???「あァ?まだ追ってきてやがるのか。まあいい。あのアーウィンの方は来てねえみてえだしな…」

ザッ!

ピカチュウは立ち止まり、エーレヒトの方に振り向いた。

エーレ「お!やっとやる気になってくれましたか!」

???「そんなに喰われてえなら喰ってやるよ」

エーレ「へへっ、望むところです!」


ドガガガガ!!!


それから二人は壮絶な戦いを始めた。

281ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:57:01 ID:rE0fJLeg00




翌日。

エーレ「はあっ…はあっ…も、もう追ってきてないよね…」

エーレヒトは街中の建物の影に張り付いていた。

エーレ「ホントに死ぬとこだった…ていうか食べられるとこだった……普通にミカさんと同じくらい強かった…あの人…」

ブツブツとぼやきながら自分の体を抱き締める。

エーレ「ふ…震えてる…怯えてるのか…?こんなの初めてだ…」

おじさん「兄ちゃん、どうしたんだそんなとこで」

エーレ「あ、お構いなく…」

おじさん「いやいや、ボロボロじゃねえかよ。ウチの店で休んでいきな」

エーレ「え、いいんですか?」

おじさん「おうよ。客がいなくて暇なんだ」

エーレヒトはおじさんの店に連れて行かれた。


エーレ「へえー、いいお店ですね」

おじさん「ふん、もう潰れる寸前さ」

エーレ「そんな…」

おじさん「んなことより、兄ちゃんなんでそんなボロボロなんだ?」

エーレ「戦ってたんですよ」

おじさん「兵隊さんか?そういや、空色なんたらって奴らが戦争を仕掛けてきたんだったな」

エーレ「まあ、そんなとこです」

おじさん「ほら、食いな」

ゴトッ!

おじさんは皿いっぱいに盛られた料理をエーレヒトの前に出した。

エーレ「ええっ!こんな…いいんですか!?」

おじさん「国のために戦ってくれたんだろ?これくらい安いもんさ」

エーレ「いや、でもお金は払いますよ!申し訳ないし!お店潰れそうなんでしょ!?」

おじさん「ははは、気にするなって。まだ若えんだからよ」

エーレ「そういうわけにはいきませんよ!」

エーレヒトは財布を見る。

エーレ「ってしまったぁぁ!!報酬貰い忘れてたぁぁ!!」

282ハイドンピー (ワッチョイ abcc-29b6):2021/11/29(月) 20:57:52 ID:rE0fJLeg00



その頃赤ピカチュウは。

???「チッ…逃げたか。臭いを辿ればまだ見つかりそうだが…まあいい。アイツは喰うにはまだ早え。またいつか会った時にゃあ、骨の髄までしゃぶり尽くしてやらァ…じゅるっ…」

そう言って街から去って行った。

283ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:43:22 ID:KDCwCrrY00





とある国の、とある都会の、とある路地裏。

エーレヒトと別れ単独行動を再開した味方殺しは、眼鏡の怪しい男と話していた。

ミカ「あ?ヨシオ族の里?」

眼鏡男「ああ。ヨシオ族と言えば最弱の種族と名高い雑魚どもだが、中には強力な力を持って生まれる者もいる」

ミカ「そんなことは知ってる。あれでも一応ファイターの一族だ」

眼鏡男「とはいえだ。その力を持った者たちでも他のファイターに比べれば遥かに弱い」

ミカ「それがどうした」

眼鏡男「ごく稀にそれを覆す者がいるのだ。これを見てくれ」

眼鏡の男は手に持っていたタブレットPCの画面を味方殺しに向ける。

そこに映し出されたのは、一人の小さなヨシオ族を黒服の集団が囲んでいる映像だ。

黒服『やれ!』

黒服たちは次々に襲い掛かる。

ドガッ!!

バキッ!!

赤いリボンをつけたピンクの風船は、簡単にそれを返り討ちにした。

ミカ「ハッ、こんなもん当然の結果だろ。ただの人間とファイターじゃな」

眼鏡男「だがこのヨシオ族はまだ子供だ」

ミカ「俺も人間の大人程度なら三歳で殺せた」

眼鏡男「…問題はこの後だ」

ミカ「何?」

黒服『来い!お前の出番だ!』

すると黒服たちはヨシオ族から離れ、代わりに黄色い帽子のヒゲ男が現れた。

284ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:44:40 ID:KDCwCrrY00

ミカ「こいつは…マリオ族か?」

眼鏡男「ああ。うちの機関で実力ナンバーワンの男だ」

マリオ『ヨシオ族…ウワサ通り小さいな。こんな奴相手に俺を投入するとは、情けねえ仲間たちだ』

???『なんだオッサン。殺すぞ』

マリオ『フッ、強い言葉で威嚇するのは弱者のすることだぜ?』

???『威嚇?違う。警告だ』

マリオ『フハハハハ!面白いことを言う!』

???『もう一度だけ言う。里にこれ以上近付いたら…殺す』

マリオ『!!!』

ババッ!!

マリオ族はその瞬間後ろにジャンプし、ヨシオ族から大きく距離を取った。

黒服『何をしている!?』

マリオ『……なるほど…どうりで誰も里に侵入できない訳だ』

黒服『ど、どういう意味だ?』

マリオ『奴は別格だ。あのとてつもねえ圧…戦えば間違いなく、死ぬ…』

黒服『何!?お前でもか!?』

マリオ『フッ、足元にも及ばねえだろうな』

黒服『チッ…仕方ない。一時退却だ!』

???『一時…?また来るなら今ここで潰す』


ドゴォ!!


黒服『ぐあっ!』

ヨシオ族は黒服の一人を殴り飛ばす。

マリオ『よせ!分かった、もうここには来ない!』

黒服『なっ!?ふざけるな!何を勝手に…!』

???『仲間はそう言ってるが?』

マリオ『…俺が言って聞かせよう』

???『信じられるか』

バキッ!!

黒服『ぐあああ…っ』

再び黒服の一人を蹴り飛ばす。

ガッ!!

そして倒れた黒服の頭を踏みつける。

ミシミシ…

黒服『ひっ…ぎゃああああ!!』

???『死ね』

285ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:46:09 ID:KDCwCrrY00

マリオ『くそっ…はあああっ!!』

ダッ!!

マリオ族が殴りかかり。

???『!!』

ブンッ!!

ヨシオ族は回避。

それによって黒服は解放された。

マリオ『俺が食い止める!もって一分だ!逃げろ!』

そして黒服たちは逃げ去った。

映像はそこで終わった。

眼鏡男「この後コイツは戻って来なかった。恐らく殺されたんだろう」

ミカ「…で?ヨシオ族の里に何しに行ったんだ?」

眼鏡男「奴らの里には何かが隠されている」

ミカ「何か?」

眼鏡男「ああ。今の映像を見ての通り、奴らは執拗に部外者を拒絶する。連盟に特別待遇を受けているフォックス族ですら、里に入ることを許さない。衛星写真を見てもただの小さな里だが…だからこそ怪しい」

ミカ「その隠してる何かを調べろってことか」

眼鏡男「そうだ」

ミカ「俺に依頼するってことは、ヨシオ族の里を滅ぼすことになるぞ?俺の専門は"味方殺し"だ」

眼鏡男「ああ、そのつもりだ。機関に報復に来られては面倒だからな」

ミカ「……報酬は?」

眼鏡男「これくらいでどうだ?」

眼鏡の男はタブレットPCに金額を提示した。

ミカ「…ハッ、駄目だな。安すぎる」

眼鏡男「何?お前たちの相場は調べたが、十分な金額だろう」

ミカ「まずヨシオ族しかいない里に潜入する難易度が高すぎる。それにさっきの赤リボン程じゃないにしろ、他にも戦えるレベルの奴はいるだろう。仮にもファイターの一族だ」

眼鏡男「そうか…なら…これでどうだ」

男はタブレットで計算し、再び金額を提示する。

ミカ「…まだ駄目だな。リスクに見合ってない」

眼鏡男「何!?くっ…なら…これでどうだっ!」

ミカ「桁が一つ…いや、二つ違う。お前、俺が子供だからって舐めてないか?」

眼鏡男「なっ…!舐めてるのはどっちだ!こっちは国防省直属の…」

ミカ「だからだ。これは国の未来にも関わるかも知れない問題だろ」

眼鏡男「そ、そこまで大きな話じゃあない!」

ミカ「ハッ、どうだかな。ヨシオ族の隠している何かとやらが、世界の常識を変えるようなものじゃないとも限らない。だから国がお前らみたいな裏の組織を使ってまで探りをかけてる。違うか?」

眼鏡男「…チッ…分かった。だがこれ以上の金額となると上に相談する必要がある。また連絡する」

ミカ「ああ、そうしろ」

そして眼鏡の男は去って行った。

286ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:47:49 ID:KDCwCrrY00


ミカ「ケッ…ヨシオ族の里に隠された何か…そんなもの本当にあると思ってるのか?くだらないことに税金使ってるな、この国は」


キィィィィィン…


ミカ「!!」

味方殺しの上空を、大きな宇宙船が通過した。

ミカ(あれは確かファルコン族の…だがあれの持ち主はどっかの王国のレーサーじゃなかったか…?なんでこの国に…)

???「気になるかい?」

ミカ「!」

ババッ!!

味方殺しはとっさに跳んで距離を取った。

???「そんなに驚くことないだろう。私のこの顔がそんなに不思議か?失礼な人だ」

そこにいたのは、オレンジの服を着た金髪の少女だった。

ミカ「…なんだお前」

???「塩顔、醤油顔、ソース顔…いずれにも属さない絶妙なバランスのこの顔を見て、人はこう呼ぶよ。コンソメ顔、とね」

ミカ「そんなことはどうでもいい。俺に何の用だって聞いてるんだ、ガキ」

コンソメ「ガキとは失敬な。私はこれでももう幼稚園を卒園した身だよ」

ミカ「大ガキじゃねえか」

コンソメ「フッ、自分より歳下を見て嬉々としてガキガキと喚く姿はまさしく子供だ。まずは鏡の前に立って自分を見つめ直すことをお勧めしよう」

ミカ「嬉々としてねえよ。用がないなら失せろ」

コンソメ「用ならある。私は君を殺しに来たんだ、味方殺し」

ミカ「何?」


バンッ!!


コンソメ顔はいきなり銃を放った。

コンソメ「ほう、かわしたか。流石だね」

ミカ「レイガン…ファイターにも通用する光線銃か」

コンソメ「ああ。これを手に入れるのには苦労したよ」

ミカ「誰の差し金だ」

コンソメ「誰でもないよ」

287ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:48:32 ID:KDCwCrrY00


バンッ!バンッ!


ミカ「誰でもない?お前個人に俺を殺したい理由でもあるのか」

コンソメ「私の母は君の父に殺された」


バンッ!バンッ!バンッ!


ミカ「なるほど。そりゃ俺には関係無いな」

コンソメ「そうかい?味方殺しというのは一族代々継がれている家業なのだろう?その二十代目が君だ。違うかい?」

ミカ「ハッ、よく調べたなその歳で」

コンソメ「これ以上被害を出さないために、ここで終わらせる」

ミカ「そうか。お前の目的は理解した。だがそれなら声など掛けずに隠れて狙い撃つべきだったな」


バチバチッ!!


コンソメ「っ…」

バタッ!

コンソメ顔は一撃で倒れた。

ミカ「さて、今日の宿でも探すか」

そして味方殺しはその場を去ろうとするが。


ガシッ!!


コンソメ「ま…待つんだ…」

その足をコンソメ顔が掴んだ。

ミカ「しつこいな。ガキをいたぶる趣味はない」


バチバチバチバチ!!


コンソメ「ぐあああああっ…!」


ドゴォ!!


ミカ「寝てろ」

首の後ろに尻尾を叩きつけ、完全に気絶させ、味方殺しは去った。

288ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:49:56 ID:KDCwCrrY00




コンソメ「はっ!?」

コンソメ顔が目覚めるとそこは病院だった。

看護師「先生!女の子、目を覚ましましたよ!」

コンソメ「や、奴は…味方殺しは…!?」

看護師「え…?何のこと?」

コンソメ「…そうか…そうだよな…すまないお嬢さん。今のは忘れてくれ」

看護師「お嬢さん!?」

コンソメ「あれから何日経った?」

看護師「え、えっと、君が見つかってから丸一日よ。首のダメージが大きくてね、先生がたまたまうちの病院にいなかったら死んでたかもって。本当に運が良かったわね」

コンソメ「そこまで…!?そうか…こんな子供を殺しかけるとは…味方殺し、なんと非道な奴だ…ところでその先生とは…」

そこへちょうど医者が入ってきた。

医者「どうも」

コンソメ「ドクター、君が私を治療してくれたのかい?ありがとう」

医者「どういたしまして。首に異常はなさそうですね。じゃあ私はこれで」

コンソメ「えっ!?もう行っちゃうのかい!?」

医者「はい」

医者は去って行った。

看護師「とてもお忙しい先生なのよ」

コンソメ「そうなのか。そんな先生に治療してもらえるとは、本当に幸運だったんだね」

???「コンソメちゃんっ!」

病室へ勢いよく入ってきたのは、緑色の服を着た、コンソメ顔と瓜二つの少女。

コンソメ「塩姉さん。一体どうしたんだい?そんなに慌てて」

塩「ど、どうしたって…このばかちん!!」

コンソメ「ばかちん!?」

塩「遊んでたらいきなり、見つけた!とか言って、血相変えて飛び出して行って…さっき連絡が来たと思ったら病院で寝てるって…!!どれだけ心配したと思ってるの!?」

コンソメ「…そうか…すまなかった、塩姉さん。我を忘れて君の気持ちを考えていなかった。心配してくれてありがとう」

塩「まったくもう…それで、何を見つけたの?何があったの?」

コンソメ「味方殺しだよ」

塩「!!」

289ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:51:14 ID:KDCwCrrY00

コンソメ「奴だけは、野放しにしてはおけない…」

塩「そんな奴のこと、もう忘れてって言ってるのに…!コンソメちゃんまでいなくなったら私は…!」

コンソメ「大丈夫さ。私は簡単に負けたり…」

塩「負けてるでしょーが!!現に!!」

コンソメ「う…」

塩「お姉ちゃんを困らせないでよ…!」

コンソメ「…すまない…」

???「なんだなんだ。騒がしいと思ったら姉妹喧嘩か?」

そう言って病室を覗いたのは、紫ファルコンの男。

塩「あ、ごめんなさい」

コンソメ「すまない、もう済んだところさ。ところで君…どこかで見た覚えがあるな」

???「はっはっは!それは恐らくテレビじゃないか?なんせ俺は[世界第1位]の肩書きを持つ男!」

塩「誰?」

コンソメ「はっ…まさかゲンさん!?」

ゲン「ご名答!F-ZERO史上最速の男、[世界第1位]ゲンとは俺のことだ」

塩「だから誰?」

コンソメ「F-ZEROというレース競技の超新星さ。デビューするやいなやぶっちぎりのトップに躍り出たんだ」

ゲン「初出場で初優勝!からの十連覇!人は俺をこう呼ぶ、[世界第1位]ゲンと!はっはっは!」

塩「ふーん」

コンソメ「まあ塩姉さんはあまりテレビ見ないし、知らなくても無理はないよ」

ゲン「はっはっは…」

コンソメ「しかしそうか…じゃあ昨日見かけた宇宙船は…」

ゲン「俺のファルコンフライヤーのことだろうな」

コンソメ「やっぱり。でもどうしてこの国に?F-ZEROをやっている王国とは随分離れてるはずだけど」

ゲン「PEYONJUNという伯爵が俺の大ファンらしくてな。パーティーに招待されたんだ」

コンソメ「へぇ、パーティーか…住む世界が違うな…」

ゲン「はっはっは!今日はそのついでに病院へ慰安訪問に来たのさ。ファンサービスも欠かさないのが真の[世界第1位]だからな!」

コンソメ「流石だね」

290ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:52:23 ID:KDCwCrrY00

ゲン「それで、なぜ喧嘩してたんだ?」

塩「は?あなたには関係ないですけど」

ゲン「随分当たりが強いな…人見知りなのか?」

コンソメ「人見知りというか…私以外には懐かないんだよ。これでも波乱万丈な人生を歩んできたからね」

ゲン「はっはっは!それは仕方ないな!」

コンソメ「私たちの母は、サムス族としての身体能力を活かして格闘道場をやっていた」

ゲン「ん?そうか、君たちはサムス族だったのか」

コンソメ「ああ、パワードスーツを着てないと気付かれにくいけどね。その道場に門下生として、一人のピカチュウが現れた。そして三ヶ月後、奴は母の格闘技術の全てを奪い、殺して、姿を消した。奴は"味方殺し"だったんだ」

ゲン「味方殺し…?」

コンソメ「組織に仲間のフリをして潜入し、技術を奪い、独占するため皆殺しにする、殺し屋の一種だよ。父はそのショックで自暴自棄となり、犯罪を犯して捕まった。それから私たちは施設に預けられ…そこではすぐに父が犯罪者だと広まり、虐めに遭った。そして塩姉さんは、人を信じられなくなった。私はよく大人ぶった口調だなんて言われるけど…二人で生きていくためには、大人にならざるを得なかった」

ゲン「なるほど…それは大変だったな、二人とも!」

コンソメ「ああ。だから私は必ず味方殺しを倒すと誓ったんだ。そしてついに奴を見つけて、戦いを挑み…敗れた。塩姉さんも不安にさせてしまった。面目ない限りだよ…」

ゲン「それが喧嘩の理由か。心意気は立派だが、姉に心配をかけるのはいただけないな!たった一人の肉親だろ?」

コンソメ「分かっているよ。だが…あの時奴の顔を見たら、我を失ってしまった。反省はしているけど…次また奴を見た時、自分を抑え切れる自信は…正直ない」

ゲン「そうか…じゃあ仕方ないな!」

塩「仕方ないって…これだけ話聞いて結論がそれですか…」

ゲン「ああ!抑え切れないんじゃあどうしようもないだろう?」

塩「は?」

コンソメ「まあまあ、塩姉さん。実際その通りだよ…」

塩「でも…」

ゲン「抑え切れないなら、戦うしかない!戦うには、強くなるしかないな!はっはっは!」

コンソメ「強くなる…か。ありがとう。流石ゲンさんだ。勉強になったよ」

291ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:55:14 ID:KDCwCrrY00

ゲン「君もだ、塩少女」

塩「は…?」

ゲン「妹を止めるには強くなるしかない!妹を助けるには強くなるしかない!」

塩「…!」

コンソメ「ま、待ってくれゲンさん!塩姉さんを戦わせたくはないんだ!私はただ、塩姉さんには平穏に暮らしていてほしいんだ!」

ゲン「ほう、平穏に暮らすか。だが塩少女にとっての平穏は、君が側にいて初めて訪れるんじゃないか?」

コンソメ「そ…それは…だから私が強くなれば済む話だろう?そしたらずっと側で塩姉さんを守れる」

ゲン「いいや。君が戦いに向かう、それだけで平穏は崩れる。違うか?塩少女」

塩「…」

コンソメ「心配させないくらい強くなるよ。それじゃダメかい?」

塩「……ダメだよ」

コンソメ「えっ」

塩「その人の言う通りだ。私、いつもコンソメちゃんに守られてた。でもそれじゃダメだったんだ」

コンソメ「塩姉さん…」

塩「私、強くなる。私がコンソメちゃんを守る!」

ゲン「はっはっは!よく言った!そこでだ、一つ提案があるんだが」

コンソメ「提案?」

ゲン「俺はこれから一週間この国に滞在する。ちょうど大会がない期間で、元々観光の予定だったんだが…どうだ、俺と一緒に特訓しないか?」

コンソメ「特訓…!?そんな、いいのかい?貴重な休暇なんじゃあ…」

ゲン「はっはっは!気にするな!俺もレースばかりじゃなく、たまには生身で運動しないとな!」

コンソメ「あ…ありがとう!」

塩「…よろしくお願いします」

ゲン「ああ!」

ゲンは親指を立ててニッカリと笑った。

292ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:56:17 ID:KDCwCrrY00




その頃、次の仕事を待つため、都会から離れた田舎町の小さな宿場に泊まっていた味方殺しは。

テレビ『…の国で行われていた、空色十字軍なる軍勢との戦争が終わった模様です。空色十字軍は全員捕縛され、その頭目と思われるヨッシー族の男は世界連盟における戦時特例法違反によって収容所に…』

ミカ「クク…あの空色十字軍を倒したか、エーレヒト。傭兵として随分活躍してるようだな」

湯呑みの茶をすすりながら、テレビや新聞、インターネットを見て適当に情報を仕入れていた。

ミカ(アイツとは短い付き合いだったが…オレの人生には間違いなく大きな出会いだった。殺し屋の一家に生まれ、あらゆる感情を殺して育った。依頼者か標的か、出会う者全てが虚偽の関係…だがアイツだけは…友と呼ぶに値する存在になった)

ミカ「しかし空色十字軍がやられたとなれば、"アイツら"も動き出すかもしれないな…」


???「アイツらってのは、ボクらのことか?ミカ」


その声は、隣の部屋からだった。

ミカ「チッ…地獄耳だな。ただの独り言に話しかけてくるな、気色悪い」

???「そ、それはちょっと言い過ぎじゃない?」

ミカ「言い過ぎじゃねえよ。隣の部屋に泊まってる奴に壁越しに話しかけられたら誰でもそうなるわ」

???「…確かにそうだな…ごめん。でもキミとボクとの仲じゃないか」

ミカ「何の話だ」

???「つれないことを言うなぁ。かつてはボクらの組織に所属してたのに」

ミカ「もう何年も前の事だろ」

???「いやぁ、懐かしいなぁ。当時まだ小さな子供だったのに、キミは本当に優秀だった。みんな驚いてたよねぇ」

ミカ「フン…」

???「それにしても、喋り方が少し変わったね。なんか柔らかくなったっていうか。何かいい出会いでもあった?」

ミカ「うるせえな。お前には関係ない」

???「ふふ、喋り方は変わっても、他人に踏み込ませない性格はそのままか」

ミカ「何が言いたい」

293ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:57:15 ID:KDCwCrrY00

???「キミが突然組織をやめたのは、依頼がキャンセルになったからでしょ?」

ミカ「!」

???「ボクらの捜査網を甘く見ない方がいいよ、ミカ…いや、殺し屋・味方殺し」

ミカ「…気付いてたのか」

???「うん。キミは味方殺しとしての最初の依頼で、ボクらの組織に入った。だけど依頼は途中でキャンセルされて、そのまま何もせずに組織を抜けた。でも、どうして急にキャンセルされたか、考えたことある?」

ミカ「…!まさかお前らが…」

???「ふふふ…そのまさかだよ」

ミカ「…ハッ、くだらねえ。今更そんなもん聞いたところで、大して驚きもしねえ。ただの昔話をしに来たのか?」

???「いやいや、そんなわけないでしょ」

ミカ「だったら何だ。復讐でもする気か?オレに勝てると思ってるのか?」

???「滅相もない。そもそもキミには何もされてないんだから、復讐なんてするはずないさ」

ミカ「チッ、用があるならさっさと話せ。お前と話すとイライラする」

???「酷いなぁ。ボクはただ勧誘に来たんだよ、味方殺し」

ミカ「断る」

???「早っ!」

ミカ「オレはそんなもんに興味ねえ。帰れ」

???「なんで?全てが闇に包まれた世界では、キミはきっと大スターになれるよ」

ミカ「だからそれに興味ねえっつってんだボケが」

???「はぁ…残念だよ。キミなら分かってくれると思ったのに」

ミカ「ハッ、狂人の考えなんざ理解したくもねえ」

???「狂ってるのはこの世界さ。夜は素晴らしい…美しい闇が広がり、人々は寝静まり…静寂の…ゼロの世界が訪れる…なのに…朝が来れば、その闇は簡単に晴れてしまうんだ…!そんなのおかしいじゃないか!」

ミカ「おかしいのはお前の頭だ」

???「ふざけるな!!ボクらを侮辱するならたとえキミでも許さないよ!!」


ドゴォッ!!!!


声の主は壁を突き破り、味方殺しを攻撃したが。

???「ハァ…ハァ…いない…逃げたか…まあいいさ…目障りな空色十字軍も消えた今…いずれ夜の明けない世界がやってくる…」

その男は、白い帽子のルイージ族だった。


???「ボクら…"パジャマの革命軍"の手によって、世界は眠りに就くのさ」

294ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 01:59:45 ID:KDCwCrrY00





魔界。

その第四階層、"奈落"の暗闇の中で。

ダダダダダダ…!!

走るファルコン族が一人。

???「にゃっはー!!どこまで続いてるんにゃこれ!!」

そして、それを高い岩の上から見る赤リボンのヨシオ族が一人。

???「ほう、この暗闇で走り回るか…随分と夜目が効くようだな」

???「誰にゃっ!?」

???「お前こそ」

???「オイラは犬のような黒猫!!」

???「儂は奈落のヨシオだ」

黒猫「お前、うまいのか!?」

奈落「まずいぞ」

黒猫「そうか…じゃあいいにゃ…」

黒猫はしょんぼりする。

奈落「初めて見る顔だな。どこから来た?」

黒猫「上のほう。でっかいヤツに吹っ飛ばされて、穴に落っこちて、気づいたらここにいたにゃ」

奈落「でっかいヤツ…?キング・オブ・妖魔か?」

黒猫「あー、そう言えばそんなんだったかも」

奈落「そうか…奴に喧嘩を売るとは、命知らずな奴だ」

黒猫「イノチシラズ?って、褒めてるのか?」

奈落「ふん、さあな…ここへ落ちたのはいつだ?」

黒猫「えーっと…わからん!だいぶ前!」

奈落「飯はどうしていた?」

黒猫「フツーに魔物狩って食う。でもここ全然獲物いなくて、もうしばらく食えてないぞ…」

奈落「やはりな。儂の屋敷へ案内しよう。ついて来い」

黒猫「え!!もしかしてごはんくれるのか!?」

奈落「ああ」

黒猫「ありがとう!オマエいいヤツだなー!」

295ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:00:18 ID:KDCwCrrY00



そして二人は奈落の屋敷へ来た。

黒猫「ごっはっん!ごっはっん!」

黒服はバンバンとテーブルを叩く。

奈落「随分なはしゃぎようだな。余程腹が減っていたか」

黒猫「うん!こんにゃに食べにゃかったの初めてだからにゃ!」

奈落「そうか」

カチッ

奈落が何かのスイッチを押すと。


ズボッ!!


黒猫「にゃんだぁぁ!?」

黒猫の座っていた床が抜け落ち。

黒猫「うわあああああああ!!」

そのまま奈落の底へと落ちていった。

奈落「…」

奈落のヨシオはそれを一切の表情も変えずにただ見ていた。

296ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:01:36 ID:KDCwCrrY00




ドシーーーン!!


黒猫「いてー!!」

黒猫は数十メートル落下し、地面に着地した。

そこは上の穴以外には何もない小さな空間になっていた。

???「おぉ…新入りか…」

黒猫「誰にゃっ!?」

話しかけてきたのは、うつ伏せに寝転がっている赤いゴリラだった。

???「腫れたおしりだ…」

黒猫「プッ!!にゃんだそれ!!」

おしり「生まれつきおしりが腫れていてな…」

黒猫「にゃはははは!!へんにゃの!!」

おしり「フン…他人事なら笑えるだろうな…座るだけで痛みが走るこの不便な体も…ってお前その顔…まさかΦデスエンペラーか…?」

黒猫「ん?オイラは犬のような黒猫だ。でもそのデスにゃんとかって、聞いたことあるにゃ…にゃんだったっけ?」

おしり「同じ種族というだけか…Φデスエンペラーは魔界最強の男だ…」

黒猫「思い出した!アイツか!結局ほとんど喋れにゃかったけど。ところでここどこ?」

おしり「どこだと…?見ていたはずだろう…お前は奈落の罠に掛かった…」

黒猫「わにゃ!?」

おしり「ああ…俺たちは…アイツの食糧となったのだ…」

黒猫「く、食われるのか!?」

おしり「奈落には食えるものは少ないからな…アイツはこうして落ちてきた者を騙して捕らえるのだ…俺も元は妖魔の部下だったが…弱すぎて奈落に捨てられ…この有様だ…」

黒猫「ちくしょー!!ゆるせーん!!ブンにゃぐってやる!!」

おしり「無理だ…あの高さでは…ここから出る事はできないだろう…」

黒猫「ふん!オイラのジャンプ力をにゃめるにゃよ!!とうっ!!」


ダンッ!!


天井の穴に向かって黒猫は大ジャンプする。

おしり「な…!す、すごい…コイツならば本当に…!」

297ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:02:23 ID:KDCwCrrY00


ドシーーン!!


黒猫「ぐにゃーーー!!だめだった!!」

おしり「…あぁ…やはりか…」

黒猫「もっかいだ!!とうっ!!」


ダンッ!!


ドシーーン!!


黒猫「くそー!!もっかい!!」


ダンッ!!


ドシーーン!!




数分後。

黒猫「はぁ…はぁ…ちくしょー!」

おしり「もうよせ…無駄だ…」

黒猫「無駄じゃにゃい!食われるにゃんてごめんにゃ!」

おしり「だがもう体力も消耗し…最初よりジャンプも低くなっているぞ…」

黒猫「じゃあちょっと休憩する!」

おしり「ああ…」

ドサッ

黒猫はその場に座り込む。

298ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:03:17 ID:KDCwCrrY00

黒猫「…くっそー…絶対抜け出すぞ!」

おしり「すごいな、お前…なぜそこまで足掻く…?」

黒猫「はあ?食われそうににゃってるのににゃんで足掻かないんだ?」

おしり「…それは…見れば分かるだろう…出られるわけがない…」

黒猫「ふーん。まあたしかにその尻じゃムリか」

おしり「尻は関係ないだろ…」

黒猫「ん?あれ?そういやお前、にゃんで分かったんだ?食われるって」

おしり「何がだ…」

黒猫「だって食ってるとこ見たわけじゃにゃいだろ?ここに閉じ込められてるんだから」

おしり「…何週間か前に俺が捕まった時、先客がいたのだ…ソイツから聞いた…ソイツはある日目が覚めたら消えていた…」

黒猫「消えてた?」

おしり「…ああ…恐らく寝ている間に殺し、上へ運んだのだ…」

黒猫「じゃあやっぱり食われるとこ見たんじゃにゃいんだにゃ!」

おしり「直接見たわけではないが…他に何の意味があるというのだ…こんなところに閉じ込めて…」

黒猫「知らん」

おしり「…フン…希望的観測でしかないな……いや…待てよ…?」

黒猫「どした?」

おしり「アイツが俺たちを食うなら…結局俺たちを上へ引き上げる必要がある…ならば…寝たふりをしてアイツが降りてくるのを待ち…そこを返り討ちにするのだ…!」

黒猫「おー!!にゃるほど!!頭いいにゃお前!!」

おしり「しーっ…!アイツに気付かれたら台無しだ…」

黒猫「あ、そっか…じゃあ小声ではにゃすぞ…」

おしり「よし…これから常に俺たちは交互に睡眠を取る…どちらかは絶対に起きておくのだ…そして起きている間は、寝たふりをする…」

黒猫「うんうん」

おしり「アイツが降りて来たら、大声で叫べ…寝ているほうを起こすのだ…そして二人掛かりでアイツを倒す…!」

黒猫「わかった」

おしり「いける…いけるぞ…!お前のお陰だ…礼を言う…犬のような黒猫…!」

黒猫「にゃはは、こっちこそにゃ。お前がいにゃきゃ俺はそんにゃこと思いつかにゃかった」

おしり「さあ…そうと決まれば寝る順番を決め、早速寝たふり作戦を始めよう…!」

黒猫「おーっ」

299ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:03:57 ID:KDCwCrrY00




一週間後。

黒猫「ふわぁ…よく寝た」

おしり「起きたか…黒猫…では…交代だ…」

黒猫「おっけ〜…それにしても全然降りて来にゃいにゃぁ…早く来てくれないと腹へって動けにゃくにゃっちまうぞ…」

おしり「…それも…アイツのやり口だろう…俺たちを弱らせ…トドメを…刺しやすくしているのだ…」

黒猫「どうするんだ…このままじゃ作戦失敗ににゃっちゃうぞ…」

おしり「もう少しの…辛抱だ…できるだけ動かず…体力を温存しろ…」

黒猫「わかった…」

そして腫れたおしりは寝た。

黒猫「はぁ…ヒマだにゃぁ…」

300ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:04:48 ID:KDCwCrrY00



一時間後。

黒猫「くかー…」

黒猫は寝ていた。

シュルルル…

スタッ

そこへロープを通し、奈落のヨシオが降りて来た。

奈落「よく寝ておるな」

ガシッ…

奈落は腫れたおしりを持ち上げる。

そしてロープを引っ張ると、自動的にロープが巻き上げられ、奈落と腫れたおしりは穴の上へと昇っていく。

ガッ…

奈落「む?デカすぎてどこかに引っ掛かったか」

おしり「い……いってえええええええええ!!!!」

奈落「!?」

壁面に引っ掛かったのは、腫れたおしりの腫れた尻だった。

黒猫「にゃんだ!?」

その悲鳴で黒猫も目を覚ます。

奈落「しまった…!」

黒猫「あーっ!!お前ー!!」

奈落「くっ…」

黒猫「待てっ!!」


ダンッ!!


黒猫は大ジャンプした。

黒猫「あれ…」

が、空腹と疲れと寝起きのためか、高さは伸びず、奈落に届かない。

奈落「…ふぅ…」

奈落は安堵の溜息をこぼす。

301ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:06:06 ID:KDCwCrrY00


ガシッ!!


奈落「なっ…」

黒猫は奈落には届かなかったが、ロープを掴んでいた。

黒猫「逃がさにゃいぞ!!」

ロープをジリジリと登り奈落へ近づいていく。

おしり「ま、待て黒猫…!」

黒猫「え?」

おしり「今暴れれば俺たちはまたこの下に落ちる…!コイツを懲らしめるのは上に上がってからでいい…」

黒猫「あそっか!やっぱ頭いいにゃ!」

奈落「く…」

そして三人はそのまま穴から出た。


ザッ…


黒猫「うおー!やっと出れた!」

おしり「はぁ…はぁ…」

奈落「これを飲め」

黒猫「にゃに?」

奈落は二人に湯呑みに入ったお茶を差し出した。

おしり「き…貴様…そんな手に俺たちが…引っ掛かると思うのか…?罠に決まっている…」

ズズズ…

黒猫「うま」

おしり「……」

奈落「案ずるな。普通の茶だ」

302ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:07:10 ID:KDCwCrrY00

黒猫「ぷはー。ごちそうさまでした。やいお前!あんにゃとこににゃん日も閉じ込めて、どういうつもりだ!」

奈落「すまなかった。儂の野望を叶えるためにはそうするしかなかった」

おしり「野望だと…?」

奈落「究極の魔族を作るという儂の野望だ」

おしり「究極の魔族…!?」

黒猫「にゃんかよくわからにゃいけど、そんにゃ勝手にゃこと許すわけにゃいだろー!!」


ドゴォ!!


奈落「ぐはっ…!」

黒猫渾身の右ストレートが奈落の腹辺りを襲った。

ドガッ!!

奈落は壁に叩きつけられ、跳ね返って、また黒猫の前に倒れた。

黒猫「ファルコン・パンチ!!」


ドゴォッ!!!!


奈落「ぶっ!」


ドガガガガガッ!!


さらに燃えるパンチを受けた奈落はパチンコ玉のように壁や天井で反射しまくり。

ドサッ!

また黒猫の前に倒れた。

黒猫「はースッキリした!あと腹へった!」

奈落「…ぐ……もう…よいのか…?」

黒猫「うん!」

奈落「…お前は…殴らぬのか…?」

おしり「フン…今ので俺もスッキリした…それに…俺たちを食おうとしていた訳じゃなかったんだろう…?」

奈落「ああ…」

おしり「究極の魔族…詳しく聞かせてもらうぞ…」

黒猫「そんにゃことよりごはんくれ!くれにゃいにゃら、お前食うぞ!」

奈落「ああ、分かっている…少し待っていろ」

奈落はふらつきながら家の奥へ入っていった。

303ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:08:37 ID:KDCwCrrY00

おしり「…本当にいいのか…?二回殴った程度で許してしまって…」

黒猫「うん!お茶くれたしにゃ!」

おしり「そもそも飢えたのはアイツのせいだぞ…」

黒猫「にゃはは、オイラバカだから過ぎたことはあんまり気にしにゃいんだ!」

おしり「そうか…まあ、お前がいいならそれでいい…」

すると奈落が戻ってきた。

奈落「魔物の肉だ。好きなだけ食うがよい」

黒猫「うおー!!いただきまーす!!」

ムシャムシャムシャムシャ!!

おしり「俺ももらうぞ」

ムシャムシャムシャムシャ!!

奈落「食いながら聞け。儂はかつて魔界の王だった」

ブッ!!

おしりは思わず口の中のものを噴き出した。

おしり「ま、魔界の王…!?お前が…?」

奈落「八百年以上も前になるがな。魔力の衰えを感じた儂は、腹心の友にその座を譲り、この奈落へ隠居したのだ。当時は儂に恨みを持つ者も多く、幾度となく奇襲を受けたが…全て返り討ちにしておるうちに、やがて忘れ去られた」

おしり「し…信じられんな…お前にそんな魔力は感じない…」

奈落「とうに魔力は尽きた。もはや儂はただの老いぼれに過ぎぬ」

おしり「それで…それが俺たちを捕らえた事とどう繋がる…?」

奈落「キング・オブ・妖魔は、儂が作った」

おしり「…!?」

奈落「儂が忘れられた後も、お前たちのように奈落へと落ちてくる者はおった。儂は気まぐれで其奴らを助け、腐敗へと帰してやっておった。だがある日、とてつもなく凶暴な奴が現れた」

おしり「それが妖魔か…」

奈落「ああ。奴は奈落の魔物を意味もなく次々と殺していった。魔物の絶滅を危惧した儂は、奴を地下へ閉じ込め、弱らせるため三ヶ月の時を待った」

おしり「三ヶ月…あの狭い地下でか…想像もしたくないな…」

奈落「だが奴は一切弱らず、むしろ魔力は増大していたのだ。奴は殺さなければならないと、そう思い、儂は地下へ油を注ぎ、火をつけた。だが妖魔は死ぬどころか更に怒り狂い…ついに爆発した」

おしり「爆発…!?」

奈落「ああ、物理的にな。魔力が急激に高まり、周囲の全てを消し飛ばしたのだ。儂はこの軽い体のお陰で、吹っ飛ばされるだけで済んだがな。そうして奴は脱出し…儂が気付いた時には、既に自力で喧騒へ帰っておった」

おしり「何…?一体どうやって…」

奈落「恐らく奈落の下、"最果て"へ降りたのだろう。最果ての番人ならば、喧騒へのゲートを開く事が出来る」

おしり「番人…そんなのがいるのか…」

304ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:10:40 ID:KDCwCrrY00

奈落「喧騒へ帰った奴はすぐに王を殺し…ジャック・オブ・妖魔という渾名は魔界中に広まった。更に手下を続々と増やした奴は、名をキング・オブ・妖魔と変え、独裁を始める。それからは、お前たちも知っているだろう…儂は奴を倒すため、対抗しうる力を探しておるのだ」

おしり「…それが、究極の魔族という訳か…」

奈落「ああ。妖魔と同じように地下へ閉じ込め、覚醒を促す…それを数百年間続けてきた。だが弱るだけで、妖魔のように魔力が増大する者は現れなかった」

おしり「そもそも…それで覚醒者が現れたとして…どうやって従える気だ…?」

奈落「これでも儂は人を見る目はある方だ。初めから話の通じる奴を選んでおる。現にお前たちもこうして儂の話を聞いてくれておるだろう」

おしり「…伊達に魔界の王をやっていた訳ではないということか…」

奈落「ところでお前、何故さっきから立ちっぱなしなのだ。座って食えばよかろう」

おしり「尻が痛いからだ…」

奈落「そうか…」

おしり「そうだ、俺と共に閉じ込められていた奴はどうなったのだ…?」

奈落「覚醒を見込めない者たちは全員腹を満たしたら腐敗へ帰しておる。お前たちも食い終わったら上へ送ってやる」

おしり「上…か…」

奈落「どうした」

おしり「お前に地下へ落とされる前に…確か話したはずだ…俺は弱過ぎて捨てられたのだ…喧騒へ帰っても…俺の居場所などない…」

奈落「そうか。ならば奈落におればよい」

おしり「いいのか…?」

奈落「勘違いするな。儂の屋敷からは出て行ってもらうぞ」

おしり「…チッ…まあそうだろうな…俺一人では魔物一匹捕らえられん…そもそもあの暗闇の中では何もできん…どうすれば…」

305ハイドンピー (ワッチョイ af96-3bd2):2021/12/01(水) 02:11:33 ID:KDCwCrrY00

黒猫「ぷはーっ!食った食った!」

肉に夢中で無言だった黒猫がようやく口を開いた。

奈落「お前はどうする、犬のような黒猫」

黒猫「ん?にゃにが?」

おしり「何も聞いてなかったのか…」

奈落「腐敗へ帰るか?帰るなら儂が送り届けよう」

黒猫「うーん。おしりがここにいるにゃらここにいるぞ!友達だしにゃ!」

おしり「な…!気は確かか…!?」

黒猫「にゃはは、おしり一人じゃにゃんもできにゃいだろ!」

おしり「そ、それはそうだが…」

奈落「ならば決まりだな。少し待っておれ」

おしり「え…」

黒猫「にゃんだ?」

また奈落は家の奥へ行き、しばらくすると戻ってきた。

ドサッ!

奈落は大きな荷物を二人の前に置いた。

おしり「何だ…?この荷物は…」

奈落「餞別だ」

黒猫「くんくん…肉だ!!」

奈落「言っておくが、これが最後だ。これ以上はやれん。儂も此処で飯を調達するには苦労しておるからな」

ムシャムシャ…

黒猫「うめー!!」

おしり「おい…」

奈落「さあゆけ。東の方ならまだ魔物の巣は幾つか残っておるだろう」

おしり「あ、ああ…すまんな…」

おしりは荷物を背負う。

黒猫「じゃあにゃー!」

そして二人は屋敷を後にした。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板