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[SS] 魔炎師ヤミノツルギ†の叛逆
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今回は前々前作の勇者ヨシオの冒険の過去編で、魔界でのお話です。少し長めになるかなと思います。毎日ちょっとずつ更新していきます。よろしくお願いします。
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あるところに、ポケモントレーナーの少年がいた。
少年は電気ねずみのピカチュウを連れ、旅をしていた。
少年「ピカチュウ!かえんほうしゃ!」
ピカ「チュゥーッ!」
バチバチバチッ!!
少年「ちがーう!!10まんボルトじゃなくてかえんほうしゃ!!」
ピカ「ピカ?」
少年「やっぱりダメか…ピカチュウにほのお技が使えるわけないよな…」
ピカ「ピカァ…?」
ヤミ「!」
赤い帽子を被ったピカチュウ族、ヤミノツルギは目を覚ました。
ヤミ「また、あの夢か…」
恐らくそれは、遥か昔の先祖の記憶である。
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下目「ヤミ、お前また居眠りしてたな」
ヤミ「あ!ごめん!」
そのすぐ隣に座っていたのは、赤いカービィ 族の下目使い。
下目「…まあ気持ちは分かるけどな。なんで僕たちがこんな辺境の調査に来なきゃいけないんだか…妖魔め…」
二人は大きな鳥の魔物の背に乗り、魔界の奥地、"腐敗"へと移動している途中だった。
ヤミ「さあ…妖魔様には逆らえないよねぇ」
下目「クソ…あんな魔力垂れ流してる馬鹿に従うしかないなんて…」
ヤミ「ちょ、聞かれたら殺されるよ!?」
下目「聞かれるわけないだろ。アイツが部下の声に耳を貸すとでも思ってるのか?」
ヤミ「…確かに」
下目「いつか絶対見下してやる…!」
ヤミ「た、楽しみにしてるよ…」
全力で苛立ちを露わにする下目使いに、ヤミノツルギは苦笑する。
下目「あ、そろそろだ」
ヤミ「うん」
バサッ!バサッ!
ズシーン!
葉も幹も真っ黒な不気味な森の中に、魔物は着地した。
下目「……」
ヤミ「どうかした?」
下目「なんだこの魔力…」
ヤミ「え?何か感じる?僕は全然…」
下目「ああ、奥の方に、何か小さいのがいる。この感じは…ピカチュウ族か?」
ヤミ「ピカチュウ!?」
下目「つってもたぶん雑魚だよ。ヤミが魔力を感じないレベルってことはね」
ヤミ「そっか…でも気になるな。魔界で家族以外のピカチュウなんて会ったことないし」
下目「そうだな。行ってみるか」
ヤミ「うん」
二人は魔物の背から降りると、森の奥へと進んでいった。
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そして数分後。
下目「この辺だな…」
ヤミ「ここまで来るとさすがに僕も魔力を感じるよ。確かにこの感じは、ピカチュウっぽい」
下目「だろ?しっかしこんな森の中に一匹で住んでて楽しいのかな」
ヤミ「つまんないだろうねぇ」
ガサガサッ…
???「君たち…誰かナ」
ヤミ「!!」
二人の前に、藪の中からピカチュウが姿を現す。
ヤミ「ホ、ホンモノのピカチュウだ…!」
ヤミノツルギは目を輝かせる。
???「は?キミもピカチュウだよネ…」
ヤミ「あ、うん!僕はヤミノツルギ!君は?」
???「僕はξ黒きBlackJoker」
ヤミ「わー!いい名前だね!闇と黒で雰囲気似てるし、仲良くなれそう!」
BJ「えぇ…なんでそんな距離詰めてくるノ?コワ…」
下目(黒とBlackカブってるけどいいのか…?しかも特に黒くないし…)
下目「まあまあ、許してやってよ。そいつ野生のピカチュウと会うのは初めてなんだ」
BJ「…それは僕も同じだケド」
下目「僕は下目使い。僕たちはキング・オブ・妖魔様の命令でこの森を調査しに来た」
BJ「キング・オブ・妖魔…?さあ…聞いたこともないネ」
下目「…そりゃそうか。こんな辺境で暮らしてたら」
ヤミ「妖魔様は魔界の王様だよ。とんでもなく強いんだ」
BJ「フゥン…で、この森も支配しようってワケ?」
下目「いや、そんなことはないよ。妖魔様は尊大なお方だからね。どこを治めるとかそういうレベルにはいない。自分が魔界の王だと名乗れば、それはもう魔界全て自分のものだと言ってるのとおんなじだ」
ヤミ「これはあくまで調査だよ。もし戦力になりそうな奴を見つけたら連れて来いとは言われてるけど…」
下目「うん。君程度の魔力なら、ほっといてもよさそうだ。安心してよ、森を荒らしたりするつもりはない」
BJ「…そう…それならいいんだ。僕はここで静かに暮らしたいだけだからネ」
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ヤミ「仲間はいないの?」
BJ「うん、僕一人だヨ。この森はいいきのみがよく生るから住み心地がいいんだよネ」
ヤミ「へぇ〜。僕も引っ越そうかな…」
下目「いやいや…同族に会えたってだけでどんだけ心奪われてんのヤミ…」
ヤミ「い、いいじゃん別に!下目使いだってこの前行った"最果て"で雑魚1%と遭った時めちゃくちゃ興奮してたじゃん…ていうか何匹か持ち帰ってたじゃん」
下目「あ、あれは調査のためにだな…」
ヤミ「いーや、あれは完全に私利私欲が出てたね」
下目「ていうかどうだっていいだろ持ち帰る分には。引っ越そうなんて言ってるのが問題なわけで」
ヤミ「ただの冗談でしょ?いちいち噛みつかないでよ」
下目「いや完全にマジトーンだったでしょ。それくらい分かるよ、何年一緒にいると思ってんの?」
ヤミ「うるさいなぁ。たとえ本心だとしても行動に移さなきゃ問題ないでしょ。下目と違って僕は行動力ないんだから!」
下目「威張って言うことかー!?」
BJ「ちょっと二人とも…喧嘩はよくないヨ」
ヤミ「あ!ごめん、見苦しいところ見せちゃったね」
下目「ふん、まあいいや。妖魔に調査結果報告しなきゃ。行くぞヤミ」
ヤミ「偉そうに!僕だって同じ幹部格なんだからね!」
下目「うるさいなぁ」
二人は言い合いながら、乗ってきた魔物のところへと引き返す。
が。
ズドォッ!!!
下目「…何のつもりだ?」
下目使いは背後から放たれた尻尾の一撃をかわした。
BJ「フフ…よくかわしたネ」
ヤミ「BlackJokerくん…?」
-
BJ「この森は僕の狩場サ。勝手に入り込んだ君たちが悪いんだヨ」
ダッ!!
BJは木々の中へと身を隠した。
ザザザザザ…!
そして姿を見せぬまま二人の周囲をグルグルと回り、攻撃の機を伺う。
ヤミ「や、やめてよ!どうしてピカチュウ同士で…!」
ドガガッ!!!
ヤミ「ぐぇっ!」
目で追えないほどの速さで、ヤミノツルギの首元に尻尾が叩きつけられる。
下目「ちっ、話し合いは無用か。蛮族め」
BJ「ピカチュウのほうは大したことなさそうだネ。すぐ片付けてやるヨ」
ヤミ「そんな…!」
バキィッ!!!
下目「…粋がるなよ、ネズミ風情が」
BJ「!!」
目にも止まらぬBJの攻撃を、下目使いは蹴りで相殺した。
下目「お前程度の奴は妖魔の元にいくらでもいる。そこらの魔物相手に無双して思い上がってるんだろうけど…僕たちには通じない」
BJ「ヘェ…やるネ…」
ヒュンッ!!
下目「!」
ズガガガガッ!!
下目「ぐっ…!?」
BJの攻撃は更に速さを増し、反撃の隙を与えない。
BJ「フフ、本気だなんて言った覚えはないヨ。この程度の攻撃を防いだくらいで勝った気にならないでほしいナ」
下目「ちっ…!」
ヤミ「ピカチュゥ!」
バチッ!
BJ「!」
タッ!
BJは横から撃たれた電撃をかわすため距離を取った。
ヤミ「本当は戦いたくないけど…しょうがない」
下目「まったく…覚悟が遅いよヤミ。さっさと二人で片付けるぞ」
ヤミ「うん」
-
BJ「二人掛かりなら勝てるとでも思ってる?甘いネ…」
ガサッ!
BJは再び木々の中へ隠れる。
下目「隠れても無駄だ。魔力で場所は分かる」
ダッ!!
ドゴォン!!!
下目使いはハンマーを取り出し、魔力の感じるほうへと振り抜いたが。
下目「ちっ、はずしたか」
BJ「場所が分かっても当たらなきゃ何の意味もないネ」
バキッ!!
下目「くっ!」
下目使いは反撃を受けてのけぞる。
ヤミ「はあっ!!」
バチバチバチッ!!
BJ「遅い」
ヤミ「!!」
BJはヤミノツルギの電撃もあっさりかわし、次の瞬間にはその背後に移動していた。
バチチチチ!!
ズギャァン!!!
ヤミ「がはっ…!」
電気を纏った体当たりから尻尾の連撃を食らい、ヤミノツルギは弾き飛ばされる。
下目「くそ…魔力の低さに気を取られすぎたな。普通に素で強いぞコイツ」
ヤミ「ぐ…これ、どうする?下目使い…」
下目「そうだな…分からせて連れて帰る」
ヤミ「クク…まあ、そうなるよねぇ」
BJ「何?強がっても君たちに勝ち目はないヨ」
ヒュンッ!!
ガシッ!!
BJ「!?」
BJは再び攻撃を仕掛けたが、下目使いに掴まれる。
下目「ヤミ、やれ」
ヤミ「うん」
バチバチバチッ!!!
BJ「ぐあああっ!!」
下目使いに掴まれたまま動けないBJに、ヤミノツルギの電撃が炸裂する。
ヤミ「やっぱり君にはあんまり攻撃したくないよ。大人しくしてくれないかな」
BJ「チッ!誰が!デガワァ!!」
ドシャァン!!!
BJは雷を落として二人を振り解く。
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BJ(クソ、どうなってるんダ…!?急に強く…)
下目「なんか驚いてるみたいだけどさ」
BJ「!?」
一瞬にして下目使いはBJの背後に移動した。
下目「さっきのお前の言葉をそのまま返すよ。本気だったなんて言った覚えはない」
BJ「ナッ…!」
下目「よっと」
ドガッ!!
BJ「かはっ…!」
下目使いはハンマーでBJを地面に叩きつけ。
下目「どーん!」
ドゴォッ!!!
BJ「ごはっ!!」
更にハンマーでブッ飛ばした。
BJはそのまま木にぶち当たって、沈黙。
下目「ふぅ…さすがにこれくらいじゃ死んでないよね?今のうちにさっさと持って帰ろう」
ヤミ「そうだね。起きられたらめんどくさいし」
ヤミノツルギは倒れたBJを背負い上げる。
そして二人は鳥の魔物に乗って、妖魔の元へと帰った。
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おお、新作だ!
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数時間後。
妖魔「帰ったか、下目使い、ヤミノツルギ。何か収穫は有ったか?」
巨大な青いドンキー族、キング・オブ・妖魔が、巨大な椅子に座り、二人を見下ろす。
下目「はい。ξ黒きBlackJokerというピカチュウ族がいたので連れて来ました」
ドサッ
ヤミノツルギはBJを前に下ろす。
妖魔「ほう。強いのか?」
ヤミ「強いです。少なくとも僕たち幹部二人と同じくらいには」
下目「ですがコイツはまだ魔力の扱いが稚拙でした。つまり伸びしろがあるということ。妖魔様の下で働いていれば、自ずと成長して、僕たちをも超える戦力になるかと」
妖魔「フム…成る程な。良かろう。ならば其奴は貴様達が責任を持って管理しろ。我が配下として相応しい兵士に仕上げるのだ」
下目・ヤミ「はい」
BJ「うぅん……?ここは…?」
そこでBJが目を覚ました。
妖魔「BlackJoker。貴様は今日より我が部下だ。我の為に全てを尽くせ」
BJ「!!」
BJは全身から大量の汗を噴き出した。
妖魔「どうした?返事をしろ、BlackJoker」
BJ「は……はい……っ」
とてつもない圧を感じ、BJは咄嗟に肯定する。
下目「では妖魔様、これから早速コイツを調教してきますね」
妖魔「ああ」
下目「ほら、行くぞBlackJoker」
下目使いはBJの耳を掴んで引っ張りながら、妖魔の前から去り、ヤミもその後ろをついていった。
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BJ「な、何なんだヨ、あのデカイのは…!」
下目「あれがキング・オブ・妖魔様だよ」
ヤミ「すごいでしょ、あの魔力。あれのせいで誰も逆らえないんだ」
BJ「………なるほどネ…」
下目「お前は今日から僕たちの部下だ。ただちゃんと働けばいずれは僕たちと同じ幹部格…もしかしたらそれ以上の地位につけるかもな」
BJ「はあ?別にいらないナ。帰らせてもらうヨ」
ヤミ「いやいや…ダメだよ…僕たち妖魔様に君のこと任されてるんだから」
下目「逃げようとしても無駄だ。お前じゃ僕には勝てないし、この辺りには他にも魔の一族がうろついてる」
BJ「それがどうしタ。僕の速さを甘く見るなヨ…」
下目「無 理 だ っ て ば」
ドゴォッ!!!!
BJ「……!」
下目使いの振り下ろしたハンマーはBJの顔面を掠って、地面を砕いた。
BJは全く反応できず。
ヤミ「ごめんね。本当はこんなことしたくないんだけど…妖魔様の命令だから」
下目「ここでは完全実力主義だ。自由になりたきゃ強くなれよ」
BJ「……フン…分かったヨ…」
下目「じゃあ早速ここでのルールとかいろいろ叩き込んでいくから、ついて来て」
そう言うと下目使いは早足で歩いていく。
ヤミ「大丈夫、難しいことは何もないよ。それにBlackJokerくんならホントすぐに強くなれると思うし」
ヤミノツルギはBJを安心させようと笑いかける。
が。
BJ「…ネェ、どうしてキミはそんなに偉そうにしてんノ?」
ヤミ「え?」
バチバチバチバチ!!!
ヤミ「ッ!?」
-
BJはヤミノツルギに電撃を浴びせた。
BJ「あっちの丸いのは強いケド…やっぱりキミは大したことないナ」
ヤミ「ぐ…」
ドガガガガガ!!!
更なる連続攻撃がヤミノツルギを襲った。
ヤミ「ぐあぁっ!」
BJ「ホラホラ、どうしたノ?反撃してきなヨ」
ヤミ「な、なめるなぁっ!」
バチッ!
BJ「はいハズレ」
ヤミ「そんな…」
反撃もあっさりかわされ。
BJ「デガワァ!!」
ドシャァァン!!!!
BJの落としたかみなりが直撃。
ガクッ…
ヤミノツルギは膝をつきうなだれる。
BJ「ハハハ、弱すぎるヨ。なんでキミみたいなのがアイツと同格みたいな扱いになってるんダ?」
下目「はぁ…何してんのヤミ」
下目使いは振り返ると、ヤミノツルギを冷たく見下した。
ヤミ「うぅ…」
BJ「ネェ、完全実力主義ってことは、コイツを倒せば僕は幹部格ってことでいいんだよネ?簡単ジャン」
下目「幹部となるとさすがに妖魔様からの信頼も必要だから、すぐには無理だろうけど…まあ、力をアピールするっていう点ではアリかもね」
BJ「…らしいヨ。というわけで、じゃあナ」
BJはバチバチと全身に帯電し、ヤミノツルギに近づいていく。
ヤミ「し、下目使い!助け…」
ドガァァァン!!!!
-
首元に重い一撃。
ヤミノツルギは完全にダウンした。
BJ「ハハ、無様だネ」
下目「…遊んでないでさっさと行くぞ、BlackJoker」
BJ「え?コイツどうすんノ?」
下目「ほっとけ」
BJ「いいノ…?」
下目「自分でやっといて何困惑してるんだ。負けたヤミが悪い」
BJ「…なるほどネ。仲間意識なんかいらないってわけか。強いヤツが正義…フフ、シンプルでいいネ。今はまだ勝てないケド、いつかはキミも引き摺り下ろしてやる」
下目「やれるもんならね。しばらくはお前を育てるのが僕の仕事だし、それくらい強くなってくれたらこっちとしても助かるってもんだよ」
BJ「ハハ、せいぜい寝首かかれないように気をつけナ」
下目使いとBJはヤミノツルギを放置したまま、その場を去っていった。
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ヤミ「はっ!?」
ヤミノツルギは目覚める。
道端で倒れていたはずだが、なぜかヤミノツルギはベッドにいた。
ヤミ「な、なんで…いッ!!」
体を起こそうとすると、全身に激痛が走る。
アルベ「寝ておけ。まだ動ける体じゃぁない」
ヤミ「…アルベルト…君が運んでくれたの…?」
そこには黒いドンキー族、アルベルトの姿があった。
アルベ「ああ。たまたま通りかかってな。なぜあんなところで倒れていた?」
ヤミ「かくかくしかじかで…」
アルベ「…なるほど…そんなに強い新入りが入ったのか。私もうかうかしていられないな」
ヤミ「油断もちょっとあったとはいえ…僕が手も足も出なかったんだ。はっきり言って下目クラスじゃなきゃ彼は抑え切れないよ」
アルベ「私はお前より強いが?」
ヤミ「そんなこと…いや、そうかもしれないけど…正直、アルベルトでも厳しいと思う。二大剣士でやっといい勝負ができるかなってくらい。それにまだ成長途上で、ちゃんとした戦い方をマスターしたら…」
アルベ「そこまでか…」
ヤミ「…だけど、僕も諦めるつもりはないよ。僕は幹部なんだ。もっと力をつけて、どっちが上か分らせてやる…」
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アルベ「フッ、さすがだな。お前のその野心にはいつも驚かされる」
ヤミ「え?そう?むしろ地位にこだわらず、他人を助けたりするアルベルトの方が変なんじゃないかな」
アルベ「まあ、そうかもな。よく言われるよ」
ヤミ「どうしてなの?」
アルベ「さあ…私はお前や下目使いのような魔力は持っていないから、そういう自由や勝利への渇望のようなものが薄いのかもしれん。魔の一族の自分勝手な性質は、魔力によるものが大きいのだろう?」
ヤミ「それにしたって珍しいよ。アルベルトより魔力の少ないやつなんていくらでもいるんだし」
アルベ「それもそうか。ならやはりただの性格だな。弱い奴を放っておけないんだよ、私は」
ヤミ「弱い!?」
アルベ「おっと、すまない。負け犬と言った方がよかったか」
バチバチバチ!!
アルベ「ぐおっ!?」
ヤミ「寝たままでも電撃くらいは出せるんだよ…」
アルベ「す、すまない。ちょっと悪ふざけが過ぎたか。冗談だよ」
ヤミ「ふん」
アルベ「しかし、力をつけて反撃すると言ったが、お前はすでに身体能力も高いし、魔力の扱いも魔界随一と言っていいほどだろう。当てはあるのか?」
ヤミ「それは…まだ…」
アルベ「だろうな」
ヤミ「で、でもなんとかするさ。力を付けるのに近道なんてないからね…いろいろ試してみるしかないよ」
ガチャリ
内藤「フン、無様だなヤミノツルギ」
そこに入ってきたのは、茶色いドンキー族、ダーク内藤だった。
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ヤミ「ダーク内藤…そう言えば二人は同棲してるんだっけ」
アルベ「まあな」
内藤「同棲などという言い方をするな気色悪い…ドンキーサイズの家はなかなか無いからな。仕方なく一緒に住んでやっているだけだ」
アルベ「ム…それを同棲と言うんじゃないか」
内藤「やめろ!」
ヤミ「何の用だよ…」
内藤「…フン、話は聞かせてもらったぞ。同じ"闇"の名を冠する者として、この俺が応援してやらんこともない」
ヤミ「え?あ、ありがとう…」
内藤「ヤミノツルギ、貴様前に先祖の記憶の話をしていたな?」
ヤミ「うん。それがどうかしたの?」
内藤「炎の技を扱いたいと言うのなら、武器を使ったらどうだ?炎を放つことができる、ファイアフラワーというアイテムがある」
ヤミ「いや、炎の技って、だからそれは先祖の話で…僕には関係ないよ…」
内藤「確かに炎になど頼らずとも、貴様の電撃は中々に強力だ。しかし、使えるカードが多いに越したことはなかろう」
アルベ「アイテムに頼るのは悪いことではないぞ。下目使いもハンマーを使っているだろう。剣士たちも剣やブーメランを使っている」
ヤミ「…そうだね。分かったよ。いろいろ試すって言ったのは僕だしね」
アルベ「ああ。それでこそだ」
内藤「ならばファイアフラワーの在り処を教えてやる…これを見るがいい!」
バッ!
ダーク内藤はネクタイの裏から一枚の紙を取り出して広げる。
ヤミ「これは…」
内藤「地図だ!」
ヤミ「いやごめん、地図には見えない」
そこにはものすごく稚拙なぐちゃぐちゃの迷路のようなものが描かれていた。
アルベ「ど、どこがどこなのだ、これは…」
内藤「これが現在地だ。そしてここが南の溶岩地帯、こっちが西の岩山だ」
ヤミ「南を下にしてくれない?そして西と東逆だしもう根本的におかしい」
アルベ「まさかお前の手書きか?」
内藤「そうだ。この俺が直々に書いてやったんだ。ありがたく思え」
ヤミ「いや、だからこれじゃ読めないってば…」
内藤「フン、貴様らでは理解できんか。この俺の書き記したパーフェクト・ロードは」
ヤミ「何言ってんの?」
アルベ「貸せ。私が描き直そう」
それからアルベルトは紙を裏返すと、ダーク内藤の話を聞きながら、地図を一から描き直した。
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数分後。
アルベ「ふぅ…というわけで完成だ。大雑把だが今度こそちゃんと地図にはなっているはずだ」
ヤミ「ありがとうアルベルト」
内藤「俺には礼はないのか!?そもそも場所を知っていたのは俺なのだが!?」
ヤミ「あ、うん…ありがとう内藤…ていうかなんでこんなこと知ってるの?」
内藤「仕事で向こうまで行く機会があったのでな」
ヤミ「仕事?」
内藤「魔物の収穫だ」
ヤミ「収穫って…何その言い方」
内藤「魔のパンツ、と言えば分かるか?」
ヤミ「魔のパンツ?」
アルベ「聞いたことがあるな。確かパンツのような姿で、履いた相手の力を吸収する魔物だ」
ヤミ「なるほど…結構使えそうな魔物だね」
内藤「奴らは基本的には大人しく、自分から襲ってくることはない。だが稀にトラップのごとく踏んだ地面の下から現れ、履かれにくるヤツがいる。そいつにだけは注意が必要だ」
ヤミ「そっか。ありがとう内藤。気をつけるよ」
内藤「フン。貴様が下らない死に方をして、同じ闇の名を持つ俺まで評価を下げられては敵わんと思っただけだ」
ダーク内藤は腕を組み、そっぽを向いて言う。
アルベ「フフッ、不器用だが応援しているようだぞ」
ヤミ「分かってるよ。めんどくさいヤツ…」
内藤「何だと!?貴様!この俺のどこが面倒くさいと言うのだ!!」
ヤミ「そういうとこ」
-
その頃下目使いたちは。
下目「ここは魔物の訓練場。雑兵の魔物どもを育ててるとこだよ」
BJ「フゥン…狩っていいノ?」
下目「いいわけないだろ。家畜はまた別のとこで育てられてる。まあ妖魔様の下にいれば食べ物に困ることはないよ」
BJ「なんダ…狩りはできないのか…」
下目「ここではな。したきゃ外でやればいい。ここにいる魔物は僕たちが遠征したり、どっかに侵攻するために使うんだ」
BJ「侵攻…?どこに?魔界は全部妖魔のものだって言ってたよネ…」
下目「それは…」
黒光「ククッ、なんだァ?下目使い、テメエまーた変なののお守り任されてんのかよ」
下目「黒光」
青いリンク族、例の黒光が声を掛けてきた。
BJ「何このウザそうなヤツ…」
下目「例の黒光。この訓練場の管理を任されてる。二大剣士とか言われて調子に乗ってる。実際ウザいヤツだよ」
黒光「オイオイ聞き捨てならねえなァ。言っとくが俺は本気出しゃぁテメエより強えんだぜ?」
下目「弱いだろ。自滅するし」
黒光「だが妖魔の前で実力を測るっつって戦わされた時、完全に俺が優勢だったろ」
下目「いや、だからお前あの時も結局自滅して負けたんだろ」
黒光「自滅しなきゃ勝ってたっつってんだよ」
下目「するから弱いんだよ馬鹿。ていうかお前が自滅するの分かりきってたから僕も本気出してなかったし」
黒光「出た〜!本気出してなかったとかいう奴!ククク、言い訳してんじゃねえよ、ダセェぞ?」
下目「それはお前だろ」
BJ「…確かにウザい」
-
黒光「あん?テメエ新入りだろ?名前は」
BJ「ξ黒きBlackJoker」
黒光「何?黒と黒で被ってんじゃねえか」
下目「あ、うん。それ僕も気になってた。黒きBlackって」
黒光「いやそっちじゃなくて。俺の名前と」
下目「それはどうでもいい」
黒光「テメエさっきから喧嘩売ってんのか?」
下目「ホントにどうでもいいだけなんだけど。ていうか先に絡んできたのお前じゃん。サボってたって妖魔様に報告するぞ」
黒光「チッ。さーせーん」
例の黒光は去っていった。
BJ「あんなヤツでも妖魔の名前出した途端に手のひら返すんだナ…」
下目「それだけヤバいんだよ、妖魔様は」
BJ「…そう言えば二大剣士って、もう一人剣士がいるノ?」
下目「ああ。自称無敵の剣士とかいう馬鹿なヤツだけど、今のお前よりは強い」
BJ「フゥン…」
下目「どうした?」
BJ「いや、ますます分からないナと思ってネ。そんな強いヤツが何人もいるのに、どうしてあんな弱いヤツが、キミと同じ幹部格にいたのか」
下目「ヤミのことか。アイツは魔力の扱いが魔の一族の中でもかなり上手かったからな。まあ僕には劣るけど」
BJ「フゥン…それだけで幹部になれるもんなノ?」
下目「それだけじゃない。妖魔様の信頼を得るために陰で死ぬほど努力して、のし上がってきたんだよ。めちゃくちゃ執念深いんだアイツは。僕ほどじゃないけど」
BJ「意外と認めてるんだネ。あっさり見捨てた割には」
下目「ふん、どうせまた戻ってくるさ。お前も気を抜いてると足を掬われるぞ」
BJ「その点は心配いらないヨ。アイツがどれだけ頑張っても追いつけないペースで成長するからネ。そしてとっとと自由を手に入れるんダ」
下目「あっそ。口の減らないヤツ…少なくとも今のお前じゃ僕には絶対勝てないってことだけは忘れるなよ」
BJ「ハイハイ」
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翌日。
ヤミ「ありがとう二人とも。お陰でもう完璧に治ったよ。それじゃあ早速行ってくる!」
アルベ「いやまだ全然完璧ではないぞ。動ける程度だ。無理はするなよ」
内藤「フン、せいぜい気をつけることだな」
ヤミ「うん!」
ヤミノツルギは手を振って、アルベルトたちの家から旅立った。
ヤミ「えーっと、まずは西の岩山を越えて、雷鳴の谷を下っていくんだな…」
ヤミノツルギは地図を見ながら進んでいく。
ヤミ「岩山…正直あそこには近寄りたくないけど…」
デスエン「なぜだ?」
ヤミ「うわっ!?」
そこに唐突に現れたのは、黒いファルコン族、Φデスエンペラーである。
ヤミ「デスエン…お前な、いつもいつもいきなり出てくんのやめてよね」
デスエン「いや普通に声かけただけなんだが…そんなに影薄いか?俺」
ヤミ「濃すぎるんだよ!魔力が大きすぎて逆に感じ取りづらいの!」
デスエン「はー、なるほど。そうだったのか」
ヤミ「いや何今気づいたみたいなカオしてんの?お前ほどのヤツがそんなこと分からないはずないよね。わざとやってるに決まってる」
デスエン「いやいやマジだって。というかお前何やってるんだ?こんなところで」
ヤミ「お前には関係ない」
デスエン「釣れないなぁ…お、これは何かの地図か?」
ヤミ「え!?」
デスエンはいつの間にかヤミの地図を奪っていた。
デスエン「ほーん、目的地は古代城跡か。何しに行くんだ?」
ヤミ「だからお前には関係ないって言ってるでしょ。ほっといてよ」
デスエン「フッ、そうはいかないな。仮にも魔の一族の幹部ともあろうヤミノツルギ様が、仕事サボって一人旅なんて、許されると思ってるのか?」
ヤミ「だ・か・ら!関係ないでしょ!お前みたいに妖魔の下についてないヤツには!っていうか仮にもってなんだ!正真正銘幹部だよ!」
デスエン「オイオイそんな怒るなって」
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ヤミ「はぁ…だからこのルート通るのは嫌だったんだ…デスエンが住処にしてる岩山なんて通ったら、絶対絡んでくるに決まってる…行く前から絡まれるとは思わなかったけど…」
デスエン「クク、俺の行動はそこらの馬鹿には予測できないさ。何故なら俺は常に面白くなる方向へしか進まないからだ」
ヤミ「あっそ。面白がってるのはお前だけだよ」
デスエン「そりゃあそうだろう。俺が面白ければ他の奴がどう思おうがどうでもいい」
ヤミ「…でもたぶん面白くないと思うよ。ただアイテムを取りに行くだけだし」
デスエン「アイテム?」
ヤミ「ファイアフラワーっていう炎を出すアイテムだよ。それが城跡にあるってダーク内藤から聞いたんだ」
デスエン「ほぉ、なんでまた」
ヤミ「昨日…BlackJokerっていう新人に負けたんだ。僕はもっと強くならなくちゃいけない」
デスエン「なるほど、それでそんなケガしてたのか。確かにお前は下目使いとか他の奴らと比べても、一段…いや、五段ぐらい劣ってるもんな」
ヤミ「うるさい。まあそういうわけだから、じゃあね」
ヤミノツルギはそそくさと立ち去るが。
デスエン「オイオイオイ、待てよ」
とデスエンは後ろをついてきた。
ヤミ「なんなの?もう、しつこいなぁ…」
デスエン「俺も行く。ヒマだからな」
ヤミ「はあ!?」
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魔界視点のスピンオフ?とか最高かよ
-
ところ変わって、人間界。
と言っても、ここは宇宙の彼方の星である。
ゴゴゴゴゴゴ…!!!!
町に巨大なタコの化け物が現れ、暴れ回っていた。
兵A「撃てーッ!!」
バンッ! バンッ! バンッ!
兵B「だ、駄目だ…効いていない…!」
兵A「ひ、怯むなっ!撃てーっ!」
数十人の兵たちが集まり退治しようとするが、歯が立たない。
ドゴォッ!!
兵たち「ぐわーーっ!」
脚で薙ぎ払われ、兵たちは一気に吹っ飛ばされた。
兵A「つ、強い…!ここまでか…!」
キィィィィィン!
???『ったく、しょうがないわね!後は私に任せなさい!』
兵A「誰だっ!?」
突如、上空に一機の戦闘機が出現。
兵B「あ、あれはアーウィン!?ということはフォックス族か!」
-
ドドドドドドドド!!
アーウィンはタコの化け物に向かってレーザー弾を大量に撃ち込む。
兵A「やったか!?」
兵B「いや!やはり効いていない!なんという硬さだ!」
ゴォッ!!
タコはアーウィンを叩き落とそうと脚を振り上げる。
ギュルンッ!!
しかしアーウィンは素早く回転しそれをかわした。
さらに何本もの脚が襲いかかるが、するりするりと間を抜けていく。
兵A「す、すごい…!」
兵B「なんという操縦スキル…!さすがフォックス族だ…!」
キィィィィィン!!
アーウィンはそのまま急降下して、タコの下へ潜り込み。
ドカァァァァン!!!
スマートボムを口の中へと発射し、内側から爆散させた。
兵たち「うおおお!!やったぁぁー!!」
-
その後。
パシュゥ!
アーウィンのコックピットが開き、キツネの顔と尻尾を持つ、フォックス族の女が降りてきた。
兵A「ありがとうございました!本当に助かりました!」
兵たちが駆け寄ってくる。
???「どういたしまして」
兵B「え…?その青と紫の服…もしかしてあなたは幻の…ギルティースさんでは…!?」
???「ん?私のこと、知ってるの?」
兵B「勿論です!フォックス族の中でも最強と言われ、宇宙中から救援依頼や討伐依頼が殺到…その仕事の早さも相まって、滅多にお目にかかれないことから、"幻"と称される…まさに生ける伝説…!!」
ギル「やだもう、照れるじゃない」
兵B「しかしまさか女性だったとは…」
ギル「何よ、悪い?」
兵B「いえ!フォックス族は男性のイメージが強く、少し意外でしたので!」
兵A「でもそんな凄い方が、一体何の用事でこの星へ?」
ギル「この近くの空間に異常が確認されてね。たぶん何かが現れようとしてる。その調査に来たの」
兵A「異空間から…?」
兵B「まさかさっきのタコの化け物も…!?」
ギル「いや、さっきのはただの宇宙生物。異空間から現れるのはあんなのよりももっと危険な奴らよ」
兵B「あ、あんなのって…」
-
ギル「これまでにも何度かあったわ。たしか魔の一族とか名乗ってたかしら」
兵A「ま、魔の一族…!?」
兵B「地獄からの使者的な…?」
ギル「まあそんな感じかな。詳しいことは私も分かんないけど。でも心配しないで。私がすぐに解決してくるから」
兵A「は、はいっ!頼もしいです!」
ギル「じゃあ行ってくるわ」
兵A「え!?…ってもう乗り込んでる!早っ!!」
兵B「さ、さすが幻…」
ゴゴゴゴゴ…
キィィィィィン!
そのままギルティースは物凄い速さで飛び立った。
-
あれ、ドジってない…?まさか偽物か?
-
その頃ヤミノツルギは。
ヤミ「しーつーこい!!どこまでついてくんの!?」
デスエン「ついてきてるんじゃない。たまたま同じ道を通っているだけだ」
ヤミ「何言ってんの?」
二人は岩山を抜けているところだった。
デスエン「しかしこの岩山も随分長いこと住んでるが、なぜか最近魔物がいなくなってきてな」
ヤミ「食べ尽くしたの?」
デスエン「俺はそこまで大食いじゃないぞ」
ヤミ「じゃあ逃げたんじゃないの。お前の魔力にびびって」
デスエン「だったらとっくにいなくなってるだろう。そうじゃないんだ。前までは普通にそこらを魔物が歩いてたはずなんだ」
ヤミ「ふぅん…」
デスエン「何か知らないか?妖魔の命令で丸ごと掻っ攫っていったとか」
ヤミ「ないね。そもそも普通お前の住処になんか手ぇ出せないでしょ」
デスエン「それもそうか。じゃあマジで何が起きたんだろうな…俺自身はここ数ヶ月特に変わったことはないしなぁ」
ヤミ「魔物がいなくなるってことは、土地の魔力が枯渇してきたんじゃないの?北の沼地なんかは昔魔物のオアシスだったのに、魔力が枯渇して誰も寄り付かなくなったって聞いたことあるよ」
デスエン「お!そんなこと言ってる間に雷鳴の谷が見えてきたぞ?」
ヤミ「そんなことって自分で話振ったくせに…」
ゴロゴロゴロ…
その名の通り、巨大な谷の上空には暗雲が立ち込め、絶え間なく雷鳴が鳴り響いている。
-
デスエン「そういえば、あの谷には恐ろしいウワサがあるって知ってるか?」
ヤミ「ウワサって?」
デスエン「えーっと、なんだったか…忘れた。ハッハッハ、まあ気にするな」
ヤミ「いや気になるんだけど」
デスエン「大したことじゃないだろう。俺が忘れるくらいだしな」
ヤミ「お前だから心配なんだよ…」
デスエン「いやでも冷静に考えてみろよ。ダーク内藤から聞いたってことは、アイツもここを通ってるはずだろ?アイツが何事もなく帰って来れるんだから、たぶん恐ろしいモンなんて何も無いんだろう。ウワサは所詮ウワサってことだ」
ヤミ「それはたしかに」
知らないところですごく失礼なことを言われるダーク内藤であった。
十数分後。
ヤミノツルギたちは谷を下り、谷底に着いていた。
ヤミ「ふぅ…ほんとに特に何も起こらなかった」
デスエン「フッ、だから言っただろう。ウワサなんて当てにならないってな」
ヤミ「そもそもウワサがどうとか言い出したのお前でしょ!?しかも肝心の内容忘れてるし!」
デスエン「おー、ツッコミが様になってきたな」
ヤミ「ぐっ…手の上で踊らせてます感醸し出すのほんとムカつく!それも込みで踊らされてるんだろうけどムカつく!」
デスエン「まあまあそんなに怒るなよ。よく言うだろ、怒るとため息が逃げるって」
ヤミ「は?ため息つくと幸せが逃げるでしょ?」
デスエン「ああ。そうとも言う」
ヤミ「脳みそ腐ってんじゃないの?」
デスエン「そこまで言うか」
ヤミ「しねば?」
デスエン「あ、思った以上に怒ってるやつだわこれ。いや別にお前が怒ろうが何も怖くはないんだが」
ヤミ「クソが」
デスエン「どんどん雑になってきたぞ?」
ヤミ「!!」
内容がないような話をしながら進んでいると、その先に何かが見えた。
-
デスエン「何だあれ?ゲートか?」
空間が歪み、その中心には亀裂が入っている。
ヤミ「こんなとこで誰がゲート開くの?ここすぐ雷落ちるから誰も住んでないし、近寄りもしないでしょ」
デスエン「だからじゃないか?」
ヤミ「え?」
デスエン「何か裏で企んでるヤツがいるのかもしれない」
ヤミ「…あ…そうか…!誰にもバレないように…さっきのウワサっていうのも…」
デスエン「ああ。ソイツが流したんだろう。ここに近づけさせないためにな」
ヤミ「でも一体誰が…ゲートを開けるヤツなんて限られてるし…」
デスエン「魔の一族の誰かだな。それもかなり上位のヤツに違いない。クク…こりゃお前についてきて正解だったな。面白くなりそうだ」
ヤミ(うーん…このゲートの感じ…見覚えがあるような、ないような…)
デスエン「どうした?」
ヤミ「いや…アイテム拾ってすぐ帰るつもりだったのに、面倒なことになってきちゃったな」
-
一方、下目使いたちは。
バチバチッ!!
下目「遅いよ。そんなの当たるわけない」
BJ「フン、まだ本気じゃないだけだヨ」
下目「本気でやんなきゃ特訓にならないだろーが馬鹿。僕に見下されたままでいいってんなら別にいいけどね」
BJ「クソ…分かってるヨ。でもコレ、魔力のコントロールの訓練だよネ?普通こういうのって、まずコツとか教えてくれるモンなんじゃないノ?」
下目「ふん、コツなんかないよ。実戦の中で覚えていくしかないのさ」
BJ「ホントにぃ?教えるのが下手なだけじゃないノ?」
ドゴォッ!!
BJ「うわ!」
降ってきたハンマーをBJは間一髪でかわす。
下目「いちいち口答えするな」
BJ「危ないナア!もう!すぐそうやってふいうち仕掛けてくるよネキミ!」
下目「追い込まなきゃ本気になれないだろ?言っとくけど僕は甘くないよ。お前がついて来れないなら、本当に潰す」
BJ「チッ!見下していられるのも今のうちだヨ!」
下目「うん。だから早く強くなれって言ってるだろ」
BJ「その余裕が気に食わないんダ!」
ダッ!!
BJは下目使いに飛びかかる。
が。
BJ「!!」
ブンッ!!!
突如横から飛んできたブーメランを、ギリギリのところでかわした。
???「ほぉ、よくかわしたな」
-
そこには白いリンク族がいた。
BJ「…誰?」
下目「昨日言ってた、二大剣士のもう一人のほうだよ」
パシッ
白リンクは返ってきたブーメランをキャッチする。
???「俺は無敵の剣士…いや、ここは無敵の教育係とでも名乗っておこうか」
下目「は?」
教育係「交代だ下目使い。ここからは俺がやる」
下目「いやいきなり何言ってるんだ」
教育係「妖魔から直々の命令だ。下目使い、お前は確かに強いが他人に教えるには不向きだ。その点俺はこれまでも数々の魔の一族を育ててきている」
下目「…そういや黒光も元々はお前の後輩だったんだっけ。今じゃ完全に負けてるけど」
教育係「何だと!?今でも俺の方が強いわ!」
下目「どうだか。まあ妖魔様の命令ならしょうがないね。BlackJoker、これからはコイツに従え」
BJ「誰でもいいヨ。強くなれるんならネ」
教育係「安心しろ。すぐに下目使いを超える戦士にしてやる」
下目「いやぁ、正直お前が鍛えたところで僕は超えられないと思うけどなぁ。お前自体が僕より弱いんだから」
教育係「あ!?誰がお前より弱いだと!?そもそも戦った事もなかったよなぁお前とは!今ここで白黒はっきりさせてやろうか!?」
シャキンッ!
教育係は背中に差した剣を抜く。
下目「ぷっ…煽り耐性低過ぎるんだよ。そんなんだから黒光のオモチャにされるんだ」
教育係「…フン!」
教育係ははっとした表情をして剣を収める。
下目「でも確かにあそこまで黒光を強くしたのはお前の功績もあるし、師を弟子が超えるなんてよくあることか。コイツのことは任せるよ」
教育係「当たり前だ」
下目「ただコイツもなかなか生意気だから、ブチ切れて殺しちゃわないようにだけ気をつけなよ、フフ…」
教育係「フン、するわけないだろう。妖魔の期待を裏切れば消される。俺もお前もな。魔界の掟に反するほど馬鹿じゃない」
下目「だといいけど」
-
BJ「何、心配しなくてもこんなヤツに殺されたりしないサ」
教育係「こんなヤツだと!?躾がなってないな!力の差を思い知らせてやろう!!」
ズバァッ!!
教育係は一瞬にして踏み込み、強力な斬撃がBJの体に直撃した。
BJ「ゴフッ!」
ズシャァァァ!
BJは十数メートル後ろまで跳ね飛ばされる。
下目「おいおい…死ぬぞ」
教育係「フン!これで死ぬならそれまでだ」
下目「さっきと言ってることが違う…」
むくり
BJ「もう!どいつもこいつもふいうち大好きだナ!」
下目「あれ、普通に起き上がってきた」
教育係「咄嗟に後ろに飛んで威力を流したな。通りで手応えが薄い」
BJ「下目使いに比べたらそんなに速くなかったからネ。キミの教育とやらじゃ、ホントに強くなれるか不安だナ」
教育係「…クククク…今ので俺の底を見せたと思っているならめでたいヤツだ!いいだろう!まずはその自信をズタズタに引き裂くところから始めようか!!」
ドガガガガガ!!
こうして無敵の教育係による"教育"が始まった。
-
下目「さて、それじゃあ僕は仕事に戻りますか。ていうかヤミは何をしてるんだ?昨日から全然戻ってこないけど…」
アルベ「下目使い」
下目「アルベルト!…なんか用?」
アルベ「昨日、倒れているヤミノツルギを拾ってな」
下目「…ああ、あの傷で動けるわけないとは思ってたけど…お前の仕業だったか」
アルベ「ああ。一晩寝させて、少しは回復したよ。今は西の古代城跡へ向かっている」
下目「城跡に?…そうなんだ」
アルベ「…理由は訊かないのか?」
下目「別に興味ないね。なんだよ、そんなこと伝えるためだけに来たのか?」
アルベ「あ、ああ。じゃあな」
アルベルトは去っていく。
下目「ふふ…」
下目使いは少し嬉しそうに笑みを溢した。
-
人間界。
ギル「あれが空間異常の正体ね…今までに見たのより随分歪だけど…」
空間が歪み、その中心部に小さな亀裂が入っている。
それをギルティースはアーウィンから観測した。
ギル「まだ何も出てきた様子はないわね。今のうちに破壊してしまいましょう」
ドドドドドドド!!!
ギルティースは歪んだ空間に大量に撃ち込む。
これまでの経験から、空間に開いた穴は衝撃を与えることで飽和し、消滅することが分かっていた。
だが、今回の場合は。
ドドドドドドド!!!
ヤミ「うわっ!?なんか撃たれてる!?」
デスエン「ゲートの先に何かいるらしいな。だがこんな攻撃をする魔の一族は見たことがない。となると、地上の人間がこのゲートを見つけて攻撃してきてるってことだ」
ヤミ「う、うん…早く閉じないと…!でもこれじゃ近づけないよ…全然攻撃が収まる気配がない…!」
デスエン「お!見ろ、ゲートが更に開いていくぞ!」
ヤミ「!!」
-
ギル「げっ…!ウソでしょ、やば…今まで見たことないくらい穴が大きくなっちゃった…どうしよう…」
不完全だったゲートに衝撃が加えられたことで、ゲートを更に広げてしまう結果となった。
当然魔力など扱えないギルティースは、無論ゲートの閉じ方も知らない。
ギル「これ以上撃っても意味なさそうだし……そうだわ!穴の向こうにこれを開いたヤツがいるかもしれない!ソイツに閉じさせればいいのよ!」
ギルティースはゲートの中へアーウィンを発進させた。
が。
ドスンッ!!!!
ギル「へ?」
魔界へ入った途端、アーウィンは動かなくなった。
デスエン「よっと」
ブンッ!!
ドガァッ!!
デスエンがアーウィンを受け止め、投げ飛ばしたのだ。
ギル「きゃっ!何!?」
メキメキメキッ!!
コックピットが無理矢理こじ開けられ。
デスエン「お前、地上人か?」
ギル「あ、あんた誰よ!?」
ヤミ「こっちのセリフなんだけど…」
ヤミノツルギも寄ってきて、コックピットに顔を出す。
ギル「あらかわいい」
ヤミ「かわいくない!」
-
ギル「…ていうか…あんたたち魔の一族でしょ?」
ヤミ「え?そうだけど」
ギル「アレ!閉じてくれないかしら!いい加減迷惑してるんだけど!」
ギルティースはゲートを指して言う。
デスエン「そう言われても別に俺たちが開いた訳じゃないしなぁ」
ギル「え、そうなの…?」
ヤミ「うん」
ギル「い、いや、でも魔の一族の仕業でしょ!?今までも何度かこういうのがあったのよ!そして魔の一族が攻めてきて、その度に私がなんとかしてきたけど…ほんっと大変だったんだから!」
デスエン「だから?」
ギル「いや、だからアレを閉じてって言ってんの!!」
ヤミ「んー、君の言うことに従う義理はないかな」
ギル「ちょっと何よ!仲間の尻拭いくらいしてくれたって…」
デスエン「ん?誰と誰が仲間だって?」
ヤミ「魔界にそんなルールは無いよ。ここは弱肉強食の世界だ。僕たちを従わせたければ、強さを見せてくれないとね」
デスエン「ハハハ!地上のゴミなんかに魔の一族と対抗する力があるわけないだろう。お前案外意地の悪いヤツだな、ヤミノツルギ」
ギル「…いいわよ」
デスエン「お?」
ギル「言ったでしょ。何度か攻めてきた魔の一族は私が対処したって。この意味が分からない?」
ヤミ「…魔の一族に勝ったって言いたいの?」
ギル「そうよ。元々力尽くでも言うこと聞かせるつもりだったし、あんたたちがその気なら話が早いわ」
そう言ってギルティースはブラスターを構える。
ヤミ「ふぅん…僕たちにも勝てるつもりなんだ…」
ヤミノツルギは蔑むように笑みを浮かべた。
ギル「な、何よ…」
デスエン「ハッハッハ!まあ舞い上がるのも無理はないな。魔の一族に勝ったというのが事実ならば、お前は地上じゃ最強クラスに違いないだろうからな」
ヤミ「でも残念ながら、知らないんだよ。そんなヤツは」
ギル「…?知らないって?どういうこと?」
ヤミ「僕は魔の一族の幹部だ。その僕が知らないってことは、君が戦ったソイツはただの下っ端か、王の下にも属してない野良犬か。どっちにしても、僕たちには遠く及ばない雑魚だってことだよ…クク…」
-
ギル「!! う、嘘でしょ!?かなり強かったわよアイツら!」
デスエン「まあゲート開けるってことは、それなりに戦えるヤツではあるだろうがな。地上と魔界とじゃアベレージが違うんだ。常識は通じないさ」
ヤミ「それでもやるって言うなら掛かって来なよ」
ヤミノツルギは赤い頬袋からバチバチと電気を発し、前脚をついて戦闘態勢をとる。
ギル「…わ、分かったわよ…!やってやろうじゃないの!」
デスエン「おぉ、果敢だな。勇敢だ。よし、やってやれヤミノツルギ!」
ヤミ「うるさい。お前に言われなくても、向かってくるなら消すだけさ」
ギル「いくわよ!」
チュン!チュン!
ヤミ「クク…そんなの僕には効かない」
ギルティースの撃ち出したブラスターは、魔力の防壁により掻き消される。
ギル「別にいいわよ!元々大した威力じゃないもの!」
ダッ!!
ギルティースはブラスターをしまうと今度はヤミノツルギへ直接飛びかかる。
ギル「はあっ!!」
ブンッ!!
ギル「え!?」
しかし渾身の蹴りは空を切る。
ヤミ「クク…遅いよ」
ギル「!!」
ヤミノツルギはギルティースの頭上に跳び上がっていた。
ヤミ「デガワァ!!」
ドシャァァン!!!!
ギル「くっ!」
ギルティースはかみなりをギリギリで回避し、距離を取る。
-
ヤミ「へぇ〜、よく避けたね」
ギル「!!」
次の瞬間には、ヤミノツルギはすでにギルティースの懐に入り。
バキィッ!!
ギル「ぐえっ!」
尻尾で弾き飛ばした。
ズザザザッ
ギル「はあっ!!」
ジュゴゴゴゴ…!!
ヤミ「!?」
ギルティースは態勢を立て直すと同時に、全身に炎を纏う。
ギル「ファイヤーッ!!」
ズドォッ!!
ヤミ「ぐっ!?」
そのまま突進し、ヤミノツルギを僅かに仰け反らせた。
デスエン「今のは…」
ヤミ「…魔力を使ってたね。デスエン、地上人は魔力を使えないんじゃなかったの?」
デスエン「そのハズだ。恐らく素の戦闘力を磨き上げた結果、奥底に眠る魔力を無意識に呼び起こしているんだろう。こんなことがあるとは知らなかったな」
ギル「戦いの最中に何ごちゃごちゃ言ってんのよっ!!」
チュン!チュン!
ヤミ「別に戦いだなんて思ってないし」
またもブラスターは掻き消される。
ギル「もう!何なのよあれ!なんで攻撃が届かないの!?ファイヤーフォックスもほとんど効いてないみたいだし…!」
デスエン「魔力を使ってガードしたのさ。魔の一族には当たり前に備わってる能力だ」
ヤミ「いちいち解説しなくていいよ。どうせもう終わらせる」
デスエン「なんだよ、せっかく面白くなって来たと思ったのに」
タンッ!
ギル「え!?」
突如ギルティースの視界からヤミノツルギが消える。
バチバチバチバチ!!
ギル「ぎゃぁぁっ!!」
背後に移動したヤミノツルギは強力な電撃を放ち。
ヤミ「ピッ!!」
バゴッ!!!
尻尾を勢いよく振り上げ、ギルティースを高く跳ね上げた。
-
ギル「ぐぅ…!強い…!」
ヤミ「これで終わりだよ」
ギル「!!」
ギルティースに向かって自らも跳び上がり。
バチバチィッ!!!
空中で電気を纏った頭突きを直撃させた。
ギル「きゃぁぁぁっ!」
ギルティースは横方向に吹っ飛んでいき、やがて見えなくなった。
デスエン「あーあー、やりすぎだろ」
ヤミ「どこがだよ。お前だったら絶対ワンパンで消し飛ばしてるでしょ」
デスエン「ハッハッハ!そりゃそうだな」
ヤミ「はぁ〜無駄に疲れた…とりあえずファイアフラワー取りに行こ…」
デスエン「このゲートはどうするんだ?」
バツンッ!!
ヤミ「これでいいでしょ」
ヤミノツルギはゲートを閉じた。
デスエン「オイオイ、本当にもう行くのか?調査とかしないのか?この辺に残存する魔力とか調べたり…」
ヤミ「犯人はもう分かったよ。けど、近くにはいないみたいだから、後で理由を訊きに行くよ」
デスエン「え!?どのタイミングで分かったんだ?」
ヤミ「さっき。あの下手くそなゲートの開き方…なんか見覚えがあると思ったら、アイツの開くゲートにそっくりだ」
デスエン「誰だ?」
ヤミ「…アメリーナ」
-
まさかの新人起用!?
-
アメリ「くちゅんっ!」
魔界最深部"最果て"の一歩手前、"奈落"。
その山奥にひっそりと佇む木造の古い屋敷の一室。
奈落「どうした?暗黒のアメリーナ」
赤いリボンのヨシオ族、奈落のヨシオが大きな座椅子に腰を掛けている。
アメリ「ごめんなさい。誰かがウワサしてるのかな?」
そして黒いパワードスーツを纏った黒髪のサムス族、暗黒のアメリーナは、頭部装甲だけを外し、その前に立っていた。
奈落「で、何用だ?客人など百年以上ぶりだ」
アメリ「私、地上に出たいの」
アメリーナは晴れやかに言った。
奈落「何?」
アメリ「もう妖魔の下でこき使われるのはイヤ。下目や黒光のパワハラにもウンザリ。地上には色んな楽しいことがあって、美味しいものもいっぱいあって!私は地上で自由に暮らしたいの!」
奈落「それは無理だ。地上は天界の者どもに常に監視されておる」
アメリ「むぅ…暴れなきゃいいんでしょ?私ちゃんとできるもん。すぐに手が出るアイツらとは違うもん」
口先を尖らせて、拗ねた子供のように言う。
奈落「そうではない。全能神の使う神の光という力は、地上に出た魔の一族の全てを根絶やしにする。お前が地上でどう行動しようと、無差別に降り注ぐ光はお前を焼き尽くすだろう」
アメリ「大人しくしてればそんな力使わないんじゃない?」
奈落「確かにそうだ。そもそも一人や二人なら、地上の人間たちが対処するだろう。これまでにも、何度もそういった事例がある。天界は地上を監視こそするものの、直接手を下すことは稀だ」
アメリ「だったら…」
奈落「だが近いうち、それは崩壊する」
-
アメリ「え…?どういうこと?」
奈落「キング・オブ・妖魔だ。奴はこの魔界の軍勢を率いて、地上、そして天界の全てを我が物としようとしている」
アメリ「!!」
奈落「約四百年前…奴は一度地上を攻めている。まだ奴が若く、ジャック・オブ・妖魔と呼ばれていた頃の話だ。その時は神の光によって部下を殲滅され、唯一妖魔だけが魔界へと逃げおおせた」
アメリ「じゃあまた攻めても同じ結果になるんじゃ…」
奈落「だが当時の部下は数千匹の魔物だけだった。今はその数万倍もの魔物に加え、強い力を持った魔の一族も配下に置いておる。易々と全滅する事はない。全能神とて世界全体に影響を及ぼす神の光を、連発する事はできんだろう。妖魔が再び地上に侵攻するのは時間の問題だ」
アメリ「でも、それだったら今行っても妖魔の下にいても一緒じゃん!どうせ神の光に焼かれる運命なら、私は早く地上に出たい!」
奈落「…行きたければ行くといい。儂はお前の親でも友でも無い。止めはせん」
アメリ「うん。ありがとう!行ってくる!」
奈落「…解せんな。そこまで決意が固まっているならば、何故ここへ来た?」
アメリ「だって誰にも言えないもん!家族も友達も、みーんな妖魔の下に付いてるし。全部打ち明けてチクられたら困るし、黙っててくれる人もいるだろうけど、それがバレてその人が罰を受けるってなったらもっと嫌だし…」
奈落「誰にも言わずに行けばいいだろう」
アメリ「それはなんか悲しいじゃん!こんなところでも、私の生まれ故郷だもん。それで思い出したの。昔ママに教えてもらった奈落さんのこと!」
奈落「…確かに儂は最早誰からも忘れられ、隠居した身。そのお陰で妖魔の支配からも免れておる…フン、思ったより頭が回るようだな、暗黒のアメリーナ」
アメリ「でしょ!でも誰からも忘れられてる訳じゃないよ、私がいるし。私、向こうに行っても奈落さんのこと忘れないから!」
奈落「儂の事など憶える必要は無い。何処へなりとも、行くがいい」
アメリ「ふふっ、じゃあ行くね!」
ガシャンッ
アメリーナは頭部装甲を装着し。
くるりと振り返ると、アームキャノンのついた右腕を前に出す。
-
アメリ「ふっ!!」
ギュォォォッ!!
アームキャノンの先にエネルギーが集積されていき、まばゆい光を放つ。
奈落「…何をしている?儂の家を壊すつもりか?」
アメリ「いやいやそんな訳ないじゃん!まあ見ててよ!」
バッ!
チャージを終えると、今度は両手を前に突き出す。
アメリ「はっ!!」
ジジジジジジ…!
するとその前方の空間が歪み始める…が、ゲートは開かない。
アメリ「あれぇ?こうかな…っ!」
更にアメリーナは突き出した両手に力を込める。
ギギギギギ…!!
歪んだところから軋むような音が鳴り、空間にほんの小さな穴が開いた。
アメリ「今だっ!」
ドウッ!!
その穴に向かって先程のチャージショットを解き放つ。
穴はその衝撃で大きく広がった。
アメリ「やったー!成功っ!」
奈落「…お前…魔力の操作が苦手なのか…」
アメリ「バレた?」
奈落「こんな無理矢理なゲートの開き方、数千年生きてきた中で初めて見たぞ」
アメリ「一応練習してきたんだけどなぁ…まあいいじゃん繋がれば!じゃあ行ってくるよ!もう会えないかもしれないけど、私のこと、忘れないでね!」
奈落「ふん、お前のような奴は、忘れたくても忘れられんさ」
アメリ「あははっ!そりゃ良かった!」
タッ!
そしてアメリーナはゲートの中へと姿を消した。
奈落「…暗黒のアメリーナか…永らく奈落に住む儂には少し…眩し過ぎるな」
-
アメリーナが人間界でどうしてたのか気になる
-
ギル「困ったわね…止まらないわ」
ギルティースはあれから数分間、奇跡的にどこかにぶつかる事なく飛び続けていた。
そしてようやく。
ギル「あ…なんか勢い落ちてきた?そろそろ墜落するかしら…」
と思いきや。
ギル「え…?何この穴ああああああああ!!」
ちょうどその落下点に、直径五十メートル程の巨大な穴が開いていた。
デスエン「…なんか悲鳴みたいなのが聞こえたな」
ヤミ「さっきのキツネ女じゃない?確か向こうに最果ての入り口があったはずだし」
デスエン「あー、そう言えば。ていうかお前、狙ったのか?」
ヤミ「クク…まあね。魔界ツアー、楽しんでもらえるといいけど」
デスエン「いい性格してるなお前…それにしても機嫌が良さそうじゃないか。どうした?」
ヤミ「いや、昨日から散々色んなヤツに見下されてたから…あの女のお陰で自分の強さを再認識できた」
デスエン「フッ、アイツが弱かっただけで別にお前が強くなった訳じゃあないだろう」
ヤミ「うるさいなぁ」
デスエン「ハッハッハ!しかし、人間ゴルフってのは面白そうだな。どれだけ離れたところから人間ブッ飛ばして、最果ての穴に入れられるかを競うゲームだ」
ヤミ「いや別に」
デスエン「冷めてるな…」
ヤミ「お前の考えることはいちいち餓鬼みたいで寒いんだよ。僕の倍以上も生きてるのに、なんでそんなに落ち着きがないの?」
デスエン「フッ…俺はただ自由に生きてるだけだ。自由こそが魔の一族の本懐だろう?お前たちは妖魔に抑圧されて、すっかり落ち着いてしまったようだがな」
ヤミ「…それは確かにあるかもね…幹部としてある程度の自由は利くけど、この世界じゃ真の自由は頂点に立たなきゃ得られない」
-
デスエン「…そういやお前、幹部の仕事はいいのか?」
ヤミ「…今は新人のお守りを任されてるはずだけど…下目使いがやってくれてるよ、たぶん」
デスエン「なんだその曖昧な言い方は。帰ったら妖魔にブッ飛ばされるんじゃないか?」
ヤミ「それはないと思う。自分で言うのもなんだけど、僕は幹部として結構優秀だから。僕がいなくなったら、実力的にナンバーツーの黒光が幹部になるんだろうけど…」
デスエン「フッ、アイツがまともに働けるとは思えんな」
ヤミ「どっちにしろ今のままじゃ妖魔以前に、BlackJokerにまた叩きのめされるだけだ。力を付けなきゃ帰れない」
話しながら進んでいると、谷を抜け。
その先にはボロボロのゴーストタウンがあった。
デスエン「お、城下町跡に着いたな」
ヤミ「えっと…地図によるとこの辺りに魔のパンツが生息してるらしいけど…」
デスエン「魔のパンツか、懐かしいな」
ヤミ「懐かしい?」
デスエン「ああ。昔は魔界全土に結構いたんだよ。一時期、どれだけ履いていられるかの我慢比べが流行った事もある。力を吸われすぎて死亡する事故が相次いで、流行はすぐに終わったがな」
ヤミ「馬鹿なの?」
デスエン「間違いなく馬鹿だ。俺はやってないぞ」
ヤミ「嘘でしょ…真っ先にやりそうじゃん…むしろ流行らせた張本人なんじゃないの…」
デスエン「ギクッ」
ヤミ「ほんとにそうなの!?」
デスエン「そ、そんなわけ……お!?見ろ!いたぞ!魔のパンツだ!」
ヤミ「誤魔化したな…」
するとデスエンは建物の影に隠れていたパンツを拾い上げた。
デスエン「コイツが魔のパンツだ」
ヤミ「え?ただのパンツじゃん…」
デスエン「そうだ。見た目はただのパンツでしかない」
ヤミ「ふぅん、こんなのが…」
デスエン「履いてみれば分かるぞ。どうだ?」
ヤミ「やだよ」
-
デスエン「ったく、釣れないなぁ。まあいいさ。どうせパンツトラップに掛かることになるだろう、ククク…」
ヤミ「パンツトラップ?ああ、ダーク内藤が言ってた、自ら履かれようとする魔のパンツのこと?」
デスエン「何だ、それも聞いてたのか」
ヤミ「うん。足元に注意しとけばいいんでしょ?」
デスエン「チッ、つまらんなぁ」
デスエンは退屈そうに頭の後ろで腕を組んで、歩いていると。
ズボッ!
デスエン「うおっ!?」
足元から突如、パンツが襲い掛かった。
ヤミ「おお、これがパンツトラップ…」
デスエン「おぉぉ…ち、力が抜ける…!懐かしい…この感じ…」
ヤミ「やっぱりやってたんじゃん」
デスエン「ギクッ」
デスエンはパンツを脱いで投げ捨て、その先に見える城跡を指差した。
デスエン「さあ、そんなことよりさっさと城跡に行こうか!ファイアフラワーはもう目の前だぞ!」
ヤミ「そうだね」
冷めた目で素通りしていくヤミノツルギであった。
-
その頃、下目使いは。
下目「妖魔様、お呼びでしょうか。BlackJokerの教育は無敵の剣士に任せてきましたけど」
下目使いは妖魔の前に跪いていた。
妖魔「先刻、腐敗に調査に出ていた内藤から、我が駒となり得る魔族を見つけたと報告が入った。お前も応援に向かえ」
下目(チッ、またか)
下目「…分かりました。すぐに」
妖魔「ヤミノツルギはどうした?」
下目「アイツは…BlackJokerに負けて、どっかに行きました」
妖魔「フン…使えん奴だ」
下目「そうですね。じゃあ行ってきます」
たったったったっ
下目使いは腐敗へと向かった。
-
魔界は五つの階層に分かれている。
妖魔が拠点とし、最も多くの魔族が住み発展している、魔界の大部分を担う最上部"喧騒"。
"腐敗"はその一つ下の階層だが、喧騒の次に広大な土地であり、三百数十年に渡り魔界を支配し続ける妖魔たちも、未だその全貌は明らかにできていない。
故に、こうして度々調査が行われている。
内藤「ハァ…ハァ…クソ、どこに逃げた!?」
部下A「内藤さん!こちらは見当たりません!」
部下B「こちらもダメです!完全に見失いました!」
内藤「チッ、何と言う素早さだ野良犬め…だがそれでこそ捕らえ甲斐があるというものだ!探せ!全神経を集中して魔力を感じ取れ!」
部下たち「はっ!」
地面から槍のように伸びるいくつもの大岩の間を抜けながら、一匹の魔の一族を追うダーク内藤。
内藤「あの強さ…確実に我等にとって強力な戦力になるはずだ。ヤミノツルギを倒したとかいう新人にも引けを取らないだろう」
その左胸の辺りには大きなアザが出来ていた。
部下A「大丈夫ですか?さっきのヤツの攻撃、直撃してましたよね…」
内藤「フン、問題無いわ!俺の心配などする前に自分の仕事をこなせ!」
部下A「す、すいません!」
内藤(しかし…一体何なのだ?あの攻撃は…奴は一見、獣のように見えた…だが紛れもなく、あの一撃は…パンチだった…!)
-
古代城跡。
城の原形は留めていないが、ところどころに煉瓦が積まれていたような痕跡がある。
経年劣化や、魔物たちが荒らした事により、無残にも崩壊したのだ。
デスエン「暑いな…なんで城跡にマグマがあるんだよ」
床の一部にぽっかりと開いた穴の下には、マグマが流れていた。
ヤミ「さあね。でもこの辺にファイアフラワーがあるはず…」
デスエン「ま、確かにファイアっつうぐらいだから、こういうところに生えてるんだろうが…はっきり言って、そんなモンで強くなれるとは思えないな」
ヤミ「勝手にここまでついて来といて文句言うな」
デスエン「文句じゃあない、アドバイスだ。結局のところ、戦いは地力が全てだ。地形やアイテムなんてのはその時々によって利用することはあっても、それありきの戦法になってしまえば容易く崩される」
ヤミ「そんなのは、お前や妖魔様が圧倒的な魔力を持って生まれた天才だから言えるんだ。僕たち凡人は色んな事を試して、道を見つけていくしかない」
デスエン「フッ…そりゃあ面白そうだな。俺も凡人として生まれたかったもんだ」
ヤミ「だったら魔力なんて使わなきゃいいでしょ?お前ほどのコントロールなら、魔力を完全に抑えて戦うのも簡単でしょ」
デスエン「いやーそれは難しいな。何せもう魔力の扱い方を覚えて三百年以上も経つ。染みつきすぎて戦いになると自然に魔力を纏ってしまう。ま、"手加減する才能"という点ではお前の方が優れてるって事だ。ハッハッハ!良かったなヤミノツルギ!」
ヤミ「チッ…」
-
デスエン「しっかしファイアフラワーとやらはどこにあるんだ?内藤が見つけられるくらいだから、俺たちにも簡単に見つけられる筈だろ」
ヤミ「さあ…そこまでは言ってなかったな」
デスエン「お、なんだありゃ。なんかブロックが浮いてるぞ」
そこにはヤミノツルギの体ほどの大きさの、ハテナマークが描かれたブロックが宙に浮いていた。
ヤミ「ハテナマーク…何かの罠かもしれない。近寄らない方が良さそうだね」
デスエン「いやいや、こんなところで誰が罠なんか仕掛けるんだよ」
ヤミ「あ、おい!」
ボゴッ!
デスエンは無警戒にそのブロックをブン殴る。
すると。
ニョキッ
ブロックの上から、赤と黄色の丸い花弁に二つの目が付いた、不思議な花が生えてきた。
ヤミ「ファ、ファイアフラワー!!」
デスエン「お?これがそうなのか?」
ヤミ「たぶん…内藤の言ってた見た目と一致する」
デスエン「ほぉーこんなのが…」
デスエンはファイアフラワーを手に取り、ヤミノツルギに向ける。
ボォォッ!!
ヤミ「うわっ!?」
デスエン「おぉ!火が出た!」
ヤミ「ちょ!分かったからそれ止めて!」
デスエン「おっと、スマンスマン。でもこりゃ確かに使えそうだな!このファイアフラワーは俺が貰う事にしよう」
ヤミ「なっ!?」
-
デスエン「ハッハッハ!悪いな!勿論断じてそんなつもりはゼンゼン全く微塵も無かったのだが、気に入ってしまったのだからしょうがない!」
ヤミ「お、お前…!最初からこれが目的だったのか!」
デスエン「フッ、人聞きの悪いことを言うなよ。俺がそんな性格の悪い奴に見えるか?」
ヤミ「当たり前でしょッ!!」
バチバチバチバチッ!!
ヤミノツルギは電撃を放つが、デスエンは後ろに跳んで簡単にかわす。
デスエン「おっと危ない。何を怒ることがある?そもそも俺があのブロックを叩かなきゃこれは見つけられなかったじゃないか。俺の物になって然るべきだろう」
ヤミ「ぐぬぬ…!でもお前にそんなもの必要ないでしょ!ただただ僕に嫌がらせしたいだけじゃん!」
デスエン「うん。さーて、それじゃあ俺は帰るとするか」
ヤミ「待てっ!」
ビュンッ!!
デスエンはそのままファイアフラワーを持って姿を消した。
ヤミ「デスエン〜!!くそー!やられた!!」
ヤミノツルギは頭を抱えて悔しがる。
…が、そこは魔の一族。立ち直りは早い。
ヤミ「…嘆いててもしょうがない!まだ他にもあるかもしれない。さっきのハテナのブロックを叩けば出てくるってことは分かったんだ。探そう」
ヤミノツルギは立ち上がり、城跡を駆け回った。
すると。
ヤミ「あった!!やった!!」
早速ハテナブロックを見つけ、突撃。
コイーン
ヤミ「あれ?何コレ、コイン…?全部ファイアフラワーが出るってわけじゃないのか…くっ!まだまだ!」
ヤミノツルギはそれから何度もハテナブロックを見つけては突撃し。
-
一時間後。
ヤミ「や…やった…!やっと見つけた…」
ついにハテナブロックから、ファイアフラワーが生えた。
ヤミ「よし…見てろよBlackJoker…下目使い…!絶対にこれを使いこなして、見返してやる…!!」
ヤミノツルギはファイアフラワーへと手を伸ばす。
その時であった。
デスエン「よう」
ヤミ「え?」
デスエン「じゃ!」
ビュンッ!!
突如再登場したデスエンは、一瞬で再退場した。
ヤミ「…え?」
ハテナブロックの上のファイアフラワーは、持ち去られていた。
ヤミ「…デ……デスエェェェェェン!!!!」
-
なんという嫌がらせ・・・こいつ中身エロマスなんじゃ・・・
-
魔界最深部・最果て。
ピンクカービィの姿をした魔物、雑魚1%たちが跳ね回り、その中に緑のルイージ族が一人混ざっている。
スケベ心「ハァ…こうもfree timeがmanyだとoutにgoしたくなるね…」
最果てのスケベ心。
彼はガイドとしてこの最果てに一人暮らしている。
ごくたまに上の階層から落ちてくる者を帰してやったり、調査に来た者を案内してやったりするのが、生まれながらに任命された仕事なのだ。
ここに彼以外の住人はいない。
無数の雑魚1%がいるものの、会話は通じず、むしろ虚しさは増すばかりであった。
スケベ心「せめてあのholeからcuteなladyでもfall inしてくれればgoodなのに…」
スケベ心は天井に開いた巨大な穴を見上げる。
最上部の喧騒へと直通する、唯一の穴である。
そこに。
スケベ心「……What?」
ギル「きゃああああああああああ!!」
ギルティースが落ちてきた。
スケベ心「Really lady!?」
ギル「え!?誰かいる!?そこ危ないわよ!」
スケベ心「 Zako1%たち!ladyをhelpするんだ!」
雑魚「ぽよー!」
ギル「なっ、何!?」
雑魚「ぽよぽよぽよぽよぽよぽよ」
落下点に雑魚1%たちが集まっていく。
そして。
ぽよーん!!
ギル「わっ!」
スタッ!
雑魚1%たちがクッションになり、ギルティースは無事に着地した。
-
スケベ心「Fineかい? lady」
ギル「え、ええ…ありがとう、助かったわ?」
ギルティースは雑魚1%たちの頭を撫でる。
雑魚「ぽよぉ!」
スケベ心「僕のheadもstrokingしてほしいな!」
スケベ心は頭を突き出してくる。
ギル「な、なんなの…?」
ギルティースはちょっと引きつつも、助けてもらった手前、仕方なく撫でる。
スケベ心「ンフフ…僕はSUKEBEheart!この最果てのguideなのさ! lady、何のtaskでここへcomeしたんだい?」
ギル「特に用事は無いわ。落とされたのよ」
スケベ心「Oh…don't mind!僕ならすぐにYouをreturnさせてあげ……ん?」
ギル「…?どうしたの?」
スケベ心「ユ、You…もしかしてdemon clanじゃない…?」
ギル「デ…?えっと、魔の一族じゃないのかって?そうよ」
スケベ心「What's!?」
スケベ心は急に後退り、距離を取った。
ギル「何よ…」
-
スケベ心「Sorry…地上のpeopleにはhelpしてはいけない…guideとしてのruleがあるんだ」
ギル「えぇっ?」
スケベ心「こんなbeautifulなfox ladyをabandonするのはheartがpainだけどね…」
ギル「…そ。仕方ないわね。じゃあ無理やりにでも言うことを聞かせてあげる」
ギルティースはブラスターを構える。
スケベ心「バ、Battleする気なのかい!?」
ギル「そうよ。何?女相手だと気が引ける?」
スケベ心「…FuFuFu…battleなら、Oppaiやhipにtouchしてしまってもしょうがないよね…」
スケベ心はニヤリと笑みを浮かべる。
ギル「なっ…!こ、この変態!」
スケベ心「Wow!そのword、僕にはただのpraiseだよ!FuFuFu!」
ギル「き、気持ち悪い…くっ!すぐに終わらせてやる!」
スケベ心「Come on!Baby!」
ギルティースとスケベ心の戦いが始まった。
-
その頃、腐敗のダーク内藤は。
内藤「まだ見つからないのか!」
部下A「す、すみません!魔力の痕跡は確かにこの近くに感じるのですが…!」
部下B「あまりにもすばしっこくて、本体の居場所は特定できません!」
内藤「チッ!」
下目「内藤、何してんの」
内藤「下目使い。遅いぞ貴様」
下目「別に急げとも言われなかったし、確かにゆっくり来たけどさ。でもまだ捕まえられてないんでしょ。だから言ったんだよ、何してんのって」
内藤「チッ…人には向き不向きというものがある!この障害物の多い場所では、俺のように巨大な体を持つドンキー族は動きづらいのだ」
天に突き立てられた槍のごとく、いくつもそびえ立つ岩を指して、ダーク内藤は言う。
下目「あっそう。それで小さい僕を応援に呼んだってわけね」
内藤「ああ」
下目「はぁ…馬鹿なの?お前」
内藤「何!?」
下目「よいしょ」
下目使いはハンマーを取り出し。
ドゴォン!!!!
岩を粉砕した。
下目「邪魔なら壊せばいいだろ」
内藤「なっ…!!」
-
下目「何のためのパワーだよ。ドンキー族なんかパワー以外に取り柄無いんだからさぁ…そこ生かせないなら存在価値ないよお前」
内藤「何だと!?」
ドゴォン!!!
ドゴォン!!!
ドゴォン!!!
下目使いは次々と岩をなぎ倒していく。
下目「何ボーッとしてんの?お前も働け」
内藤「チッ、指図するな!」
ドゴォン!!!
ドゴォン!!!
ドゴォン!!!
二人は岩を壊しながら、謎の魔の一族を探す。
下目「で?どんな奴なんだ?ソイツは」
内藤「…速すぎて正直姿はよく分からなかったが…あれは犬のように見えた」
下目「犬?そんな種族いたかな…獣型の魔物じゃなくて?」
内藤「いや、あの魔力量は明らかに魔物の持つそれではない。魔の一族で間違い無いだろう」
下目「ふぅん…」
内藤「だが不可解なことに、俺はヤツからパンチを受けたのだ…獣ならば爪や牙で攻撃してくる筈だ。幻影を見せる術を使うのかもしれん」
ドゴォン!!!
下目「それ、アイツのことか?」
内藤「!!」
下目使いが岩を壊したその先に、黒い何かが、二人をじっと見て立っていた。
-
内藤「そうだ!ヤツだ!」
下目「なるほど。犬っぽいね。そこらの魔物よりは確かに魔力もある。僕を呼ぶほどのもんか?とも思うけど」
内藤「魔力だけで判断するな。一瞬とは言え俺が戦った限り、ヤツはパワーもスピードも喧騒の上位クラスと遜色ない」
下目「分かってるよ。昨日の今日だ」
下目使いは少ない魔力でもヤミノツルギを圧倒したBlackJokerのことを思い出す。
ダンッ!!
下目使いはすぐさま飛びかかり攻撃に移る。
ドゴォォン!!!!
ハンマーを振り下ろし、地面が割れる。
下目「ちっ、かわしたか。速いな」
内藤「上だ!」
下目「分かってるようるさいな」
黒い獣は岩の上に飛び乗っていた。
内藤「あの身のこなし…犬というよりは…猫か…?」
下目「犬っぽい黒猫ね…何者か知らないけど…そんなの捕まえた後で訊けばいいだけだ」
ドゴォン!!!
下目使いは黒猫の乗った岩を粉砕する。
黒猫はまた別の岩へと飛び移る。
下目「そう来ると思ったよ」
黒猫「!!」
下目使いはその岩に先回りし、ハンマーを既に構えていた。
ドゴォン!!!!
黒猫「グハッ!」
ドシャァ!!
黒猫は地面に叩き落とされる。
下目「周りの岩はもうほとんど壊してたからね。逃げる方向に残った岩の中で、飛び移れるとしたらここしかない」
-
ガッ!!
内藤「ここまでだ!観念しろ、貴様の負けだ」
ダーク内藤は地に伏した黒猫を押さえつける。
下目「おい内藤、何自分の手柄みたいにしてんの」
内藤「フン、貴様の詰めが甘いからだ。こうしてしっかり押さえておかねばまた逃げるだろう」
下目「まあいいや…それよりお前、何者?」
ダーク内藤の下敷きになっている黒猫に話しかける。
黒猫「にゃっはっは!捕まっちまったか!」
下目「…は?」
内藤「何がおかしい?」
黒猫「いやー!オイラ、人と会うのは久しぶりだからにゃ!おいかけっこ、楽しかったぞ!ありがとにゃ!」
下目「何言ってんの?僕たちはお前を連れ帰るために来たんだ」
黒猫「ん?どゆこと?遊びに来たんじゃにゃいのか?」
内藤「貴様の実力を見込んで、我らがボス、キング・オブ・妖魔様の部下にしてやろうと言っているのだ。拒否権は無いがな」
黒猫「え、えぇー!?もしかしてオイラ今ピンチ!?」
下目「そういうこと。まあ詳しいことは上で話せばいいでしょ。帰るぞ内藤。ソイツ逃がすなよ」
内藤「フン!誰に向かってものを言っている」
ダーク内藤は黒猫を担ぎ上げる。
黒猫「うわっ!は、はなせー!」
内藤「暴れても無駄だ。この俺の掴みからは、あのΦデスエンペラーですら逃れるのは困難。貴様如きが……ん?そう言えば貴様、ヤツに似ているな」
黒猫「ヤツ?」
下目「ああ、確かに。ていうか全然犬でも猫でもないじゃん」
内藤「…だな。あの素早く奔放でしなやかな戦闘スタイルが、そう錯覚させたのかもしれん」
-
黒猫「なあ、ヤツって誰だ?」
内藤「言っただろう、Φデスエンペラーだ」
下目「アイツの種族名、なんて言ったっけ…」
黒猫「もしかして、ファルコン族か!?」
下目「あー、そう、そんなんだった」
黒猫「ほんとか!?俺が最後の一人じゃにゃかったのか!?」
内藤「…どういうことだ?」
黒猫「十年くらい前に死んだ父ちゃんに、ファルコン族の生き残りは、もう魔界にはオイラしかいにゃいって言われてたんだ!」
内藤「…フン、腐敗のこんな奥地では、外部との情報が遮断されていても不思議ではないか」
下目「でも確かにファルコン族ってデスエン以外に見たことないな。カービィやピカチュウと一緒で、実際数は少ないんだろうな」
黒猫「楽しみだにゃぁ!デスエンってヤツと早く会ってみたいぞ!」
内藤「案外乗り気だな…」
黒猫「別にこの場所にこだわりはないしにゃー。ずっと一人で退屈だったし、仲間がいるにゃらそのほうが面白そうだ!」
下目「でもまずは妖魔様に挨拶だ。デスエンに会いたいならその後好きにしたらいい。あんなヤツと会っても楽しくないと思うけど」
内藤「そうだな…」
黒猫「え?にゃんで?」
下目「ウザいからだよ」
黒猫「…?」
内藤「会えば分かる…どうせアイツのことだから、同族が見つかったとなれば、わざわざ会いに行かなくとも自ら絡んでくるだろう」
下目「言えてるね」
黒猫「???」
下目「あ、そう言えばお前、名前は?」
黒猫「犬のような黒猫」
下目「まんまかよ!」
そのまま下目使いたちは黒猫を引き連れ、妖魔の元へ帰った。
-
新人がいっぱい出てきて嬉しい
-
人間界。
アメリーナはゲートを通じて、とある街中に現れていた。
アメリ「ここが地上か〜!すごいな!色がいっぱい!!」
アメリーナはキョロキョロと周りを見回す。
少女「お姉さん、どうしたの?」
そこにはピンク色の服を着た、金髪の少女がいた。
アメリ「私はアメリーナ。お嬢ちゃん、この街の子?」
少女「うん」
アメリ「ちょうどよかった!私、ここに来たばかりなの!案内してくれない?」
少女「え?いいよー」
少女はにっこりと笑って頷く。
アメリ「ほんと!?ありが…」
少年「こらー!!そこで何してる!!」
アメリ「!」
今度は青い服を着た金髪の少年が走ってきた。
少年「誰だおばさん!コイツに手を出すな!」
アメリ「おば!?」
少女「違うよー。この人この街に来たばかりで、これから道案内してあげるところなの」
少年「知らないヤツに話しかけちゃダメって言われてるだろ!!帰るぞ!!」
少女「わっ」
少年は少女を引っ張って連れて行く。
少女「ごめんお姉さん、またねー!」
少女は手を振りながら去っていき、アメリーナも手を振り返した。
アメリ「はは、流石にあんな子供に道案内頼むのはバカだな私。さて、他に誰かいないかなー」
-
???「止まってください、そこの女性」
アメリ「…?私?」
アメリーナが振り返ると、そこには茶色い帽子の若いマリオ族が立っていた。
???「はい。あなたは何者です?」
アメリ「え?」
???「とぼけないでください。あなたから強い魔力を感じると言っているんですよ」
アメリ「!!」
???「…この魔力…魔法使いのものではありませんね。魔界にいるという、魔の一族ですか…?」
アメリ「……そう、魔界から来たの。私は暗黒のアメリーナ」
アメリーナは恐る恐る名を名乗る。
???「私は昼間の召喚士…魔法使いです。まだ新人ですがね。目的は何です?」
アメリ「目的…?えっと…」
昼間「その反応…偵察といったところですか…見つかるとは思わなかったのでしょう」
アメリ「え!?いや、ちが…」
昼間「残念でしたね。ここは魔法学校の近く。ゲートを開く際の魔力振動を感知すれば、すぐに駆けつけられます」
アメリ「ま、待って!目的なんてないよ!何も分かんないの!初めて来たんだもん!!」
昼間「え?」
アメリ「魔界にいるのが嫌で地上に来たの!地上には色んなものがあって、楽しいところだって聞いたから…別に暴れたりするつもりもないよ!」
アメリーナは両手を挙げる。
昼間「信じるとでも…?」
アメリ「じゃ、じゃあこれでどう!?」
バカッ!
バシュッ!
ガシャンッ!
アメリーナの黒いパワードスーツが脱げていく。
-
昼間「な、何のつもりだ!」
アメリ「敵意なんてないってこと!私はただ、この世界で暮らしたいだけ」
昼間「…無駄ですよ。そんなスーツなど無くても、魔力を扱えるあなたたちは戦えるはずでしょう」
アメリ「むぅぅ!この分からずや!!」
昼間「とりあえず私と一緒に来てもらいましょうか。ここでは人目につく」
アメリ「へ?」
昼間の召喚士はアメリーナの手を取ると。
パチンッ
もう片方の手で指を鳴らした。
アメリ「!? こ、ここは…」
昼間「魔法学校です」
昼間の召喚士の空間移動魔法によって、二人は裏の空間に存在する魔法学校に移動していた。
-
アメリ「私をどうする気なの!?」
昼間「それはあなた次第ですよ」
アメリ「だから言ってるじゃん!私は何もする気はないって!何言っても信じてくれないんじゃ、どうしたらいいの!?」
昼間「そうですね…あなたにはこれを着けてもらいます」
召喚士はどこからか黒いリングを取り出し。
パチンッ
空間移動でそのリングはアメリーナの腕にはめられた。
アメリ「何?これ…」
昼間「魔力阻害リング…その名の通り、それを着けた者は魔力の操作を阻害されます」
アメリ「ふーん…いいよ、それで信じてくれるなら」
昼間「それを着けている限り、あなたの居場所は追跡され、外せばすぐにこちらで分かるようになっています。一ヶ月…それを着けたまま生活してください。一ヶ月で判断します」
アメリ「分かった。もういい?」
昼間「ええ。ではまた一ヶ月後に」
パチンッ
召喚士が再び指を鳴らすと。
-
アメリ「あ、戻った」
アメリーナは街に戻ってきた。
アメリ「…これからどうしよう。考えなしに出てきちゃったけど、住むとこもないし、こっちの通貨なんて持ってるわけもない…」
???「あなた、このような道端で立ち尽くして…何かお困りのようですわね」
アメリ「え?」
アメリーナが振り返ると、オレンジのサムス族が優雅な立ち姿で立っていた。
???「その顔、それに周りに落ちてるパワードスーツのパーツ…あなたもサムス族でしょう?」
アメリ「う、うん…あなたは…?」
???「わたくしは㍍アルザーク。同じサムスとして、力を貸しますわよ?」
-
あれから数時間が経ち、下目使いたちは妖魔の元へ帰って来ていた。
下目「妖魔様、コイツが腐敗にいた、犬のような黒猫です」
黒猫「お前が妖魔かー!でけーにゃ!」
ドゴッ!!
黒猫「いてっ!!」
ダーク内藤が黒猫の頭を殴る。
内藤「申し訳ありません。コイツはまだ言葉遣いが分からないようで…これからきっちりと教育しますので」
妖魔「構わん。僻地の住人にはよくある事だ。だが何だ?此奴の魔力は随分と小さいようだが」
下目「はい。コイツもBlackJokerと同じく、素の身体能力が高く、魔力の扱いは未熟みたいです。妖魔様の前で平気なカオしてられるのも、まだ魔力の感知すら覚えてないからですね」
妖魔「フン。では此奴の教育も剣士にやらせておけ。下がれ」
下目・内藤「はい」
内藤「行くぞ黒猫」
黒猫「お、もういいのか?じゃあにゃー!」
ドゴッ!!
黒猫「いでっ!!」
-
そして三人はBlackJokerたちのいる修練場に来た。
下目「やあ。調子はどうだ?」
教育係「ダメダメだな。魔力のセンスがまるでない。ゴミだ」
BJ「はぁ?キミの教え方が下手すぎるんでショ」
教育係「クックッ…安い挑発も最早聞き飽きたな。負け惜しみは俺に一撃でも当ててから言え」
内藤「成る程、コイツがヤミノツルギを倒したという新人か。随分と厄介そうなヤツだな」
下目「うん。お前じゃ勝てないだろうな」
内藤「チッ、余計なお世話だ」
黒猫「ネズミ…うまそうだにゃ…じゅるり」
ゾクッ…
BJは寒気を感じて振り返る。
BJ「な、何ソイツ…」
下目「犬のような黒猫。お前と同じ新人だよ」
内藤「無敵の剣士、コイツの面倒もお前に任せるぞ。妖魔様からの命令だ」
黒猫「よろしくにゃ!」
教育係「何!?こんな奴らを二人も教育しろと言うのか!?」
BJ「こんなヤツと一緒に特訓しろってノ!?ふざけないでヨ!」
下目「んじゃそういうことだから」
内藤「頼んだぞ」
教育係「オイふざけるな!俺の負担が大きすぎるだろう!というか内藤お前暇だろう!手伝え!」
教育係の訴えを無視して、二人は去って行った。
教育係「チッ…妖魔の命令ならやるしかないか…」
-
ドゴォッ!!
BJ「うわぁっ!?何すんノ!」
黒猫は突如BJに襲いかかる。
黒猫「にゃははは!腹へった!さっきおいかけっこしてから、にゃんにも食べてにゃいからにゃ!」
BJ「ぼ、僕を食おうってのカ!?ネェ!ちょっと!コイツ止めてヨ!」
教育係「…ほう」
BJ「ほう、じゃなくて!」
ドガァッ!!
BJ「うわ!?」
黒猫「待てー!」
教育係「その新人、なかなかやるようだな。ちょうどいい。ソイツに極限まで追い込んでもらえ。危機に瀕した時や感情が大きく昂った時に魔力は上昇しやすい」
教育係はニヤリと笑う。
BJ「クソッ!分かったヨ!コイツを倒せばいいんだナ!」
ズザザッ!
BJは逃げる脚を止めると、追ってくる黒猫の方を振り返る。
黒猫「お!食われる気ににゃったか!?」
BJ「誰が!!」
頬に電気が溜まっていく。
黒猫「いただき!!」
ダンッ!!
黒猫が飛びかかる。
-
BJ「ピッカァ!!」
バチバチッ!!!!
黒猫「うぎゃっ!!」
ドガァン!
黒猫は強力な電撃を受け、修練場の端まで弾き飛ばされた。
BJ「…!!今…なんか手応えが…」
教育係「ああ。一瞬だが魔力が増幅したな。俺の目論見通りだ」
BJ「はあ?」
教育係「要はお前は心のどこかに余裕があったんだよ。これは所詮訓練に過ぎない。殺されはしないだろうとな。だがあの黒猫は全力で喰らい付こうとしてくる。その捕食への根源的恐怖が、お前の力を引き出した」
BJ「…フゥン…ホントにちゃんと考えてたんだネ…サボってただけかと思ったヨ…」
教育係「フン。とはいえまだほんの一瞬だ。完全なコントロールには程遠い。しばらくヤツとの鬼ごっこに付き合ってやれ」
BJ「え…」
黒猫「いやーびっくりしたにゃー!」
黒猫は土煙の中から勢いよく立ち上がる。
BJ「嘘でショ!?今の食らってピンピンしてるノ!?」
黒猫「それじゃあオイラも本気で行くぞ!」
バヒュンッ!!
BJ「は…」
ズドォッ!!!!
BJ「ごふっ…!!」
一瞬で距離を詰めてきた黒猫に、BJは高く蹴り上げられる。
-
黒猫「にゃあっ!!」
バキッ!!!!
更にオーバーヘッドキックで追い打ちを浴びせる。
BJ「がっ…!」
教育係「速い…!ここまでのポテンシャルを持っていたのかあの新人…!」
黒猫「にゃんっ!」
ダンッ!!
黒猫は更に大きく跳び上がり、BJの上を取ると。
ドゴォッ!!!!
両足のキックで地面に叩き落とす。
BJ「っ…!!」
黒猫「今度こそいただき…」
ズガァッ!!!!
黒猫「にゃあっ!?」
黒猫は横からの剣撃に突き飛ばされる。
教育係「面白い…!!こんな逸材だとは思っていなかったぞ…!!お前を最強の戦士へと教育してやる!!」
黒猫「ごはんの邪魔するにゃぁぁ!!」
ズガガガガガガッ!!!!
両者の猛攻がぶつかり合う。
BJ「…な、なんか助かったケド……強い…教育係も明らかに僕とやってる時より本気出してるシ……アイツ、訓練なんか必要あるのカ…?」
-
デスエン「よう。お前がBlackJokerか?」
BJ「うわ!!」
BJの背後に、唐突にデスエンが現れる。
デスエン「ヤミノツルギを倒したそうじゃないか。やるな」
BJ「誰だヨ…」
デスエン「俺はΦデスエンペラー。妖魔と同じくらい強いぞ」
BJ「キミが…?ありえないネ…あんな化け物がそう何人もいるハズないヨ」
デスエン「オイオイ、ありえないってことはないだろう。確かに妖魔クラスは俺以外には見たことないが、魔界全土に俺と妖魔の二人くらいなら化け物がいたって不思議じゃないだろ」
BJ「…でもキミからはアイツみたいな威圧感は感じない」
デスエン「出してないからな。別に出そうと思えば出せるが、つまらないだろ?恐怖で支配しようなんてのは」
BJ「さあ…知らないケド…何の用?」
デスエン「そうそう、お前にプレゼントだ」
ボォッ!
デスエンの手のひらの上に黒い炎が現れた。
BJ「何それ…」
ドッ!!!
BJ「がはっ…!!」
デスエンは突如BJの腹に、その炎ごと掌底を叩き込む。
-
BJ「ぐ…!な…何を…!体の奥が…熱イ…!」
ズズズズ…!!
BJは黒いオーラを全身から放ち始めた。
教育係「!!」
黒猫「にゃ、にゃんだあれ!?」
戦いに夢中だった二人も、BJの変化に気付き目を向ける。
BJ「…なんだかよく分からないケド…フフ…いい気分ダ…」
教育係「先程とは比べ物にならない程に魔力が増幅している…!これは…魔の灯火か…!」
黒猫「にゃんだそれ?」
教育係「ごく一部の魔の一族にしか使えないと言われる能力だ…奥底に眠る魔力を強制的に呼び覚ます…こんなことをするのは…」
デスエン「その通り」
教育係「Φデスエンペラー!やはりお前か…」
黒猫「お、お前が下目使いたちが言ってたファルコン族か!ホントに俺とそっくりだにゃ!!」
デスエン「フッ、俺以外にもファルコン族がいたとは、俺も驚いたよ」
教育係「何を企んでいる…?」
デスエン「何、明日には分かるさ。じゃあな」
ビュンッ!!
デスエンは消えた。
-
BJ「さっきはよくもやってくれたネェ…二人とも…」
教育係「!!」
黒猫「え?」
BJはいつの間にか二人の間に移動していた。
ドガガッ!!!!
教育係「ぐっ…!!パワーが増したか!スピードも黒猫を更に上回っている!」
かろうじて二人はBJの尻尾攻撃を防ぐも、威力に押されて弾かれる。
ズガァッ!!!!
黒猫「にゃっ!?」
上から尻尾が振り下ろされ、黒猫は地面に叩きつけられる。
BJ「ピッ!!」
ドォォン!!!!
更にダメ押しの電撃タックルが炸裂。
黒猫は地面にめり込み、気絶した。
教育係「黒猫を瞬殺か…これは…こちらも本気で行かねばならないな」
教育係の目付きが変わり、その全身に魔力のオーラを纏う。
BJ「フフ…良いヨ…キミの全力をへし折ってやる…」
-
その頃、最果てでは。
スケベ心「ス…strongだね…lady…」
ギル「ハァ…ハァ…あんたこそ、意外とやるじゃない…でもこれで、私の勝ちね」
ギルティースは跪いたスケベ心の眉間にブラスターを突き当てていた。
スケベ心は崖に追い込まれ、その下はマグマが煮えたぎる。逃げ場はない。
スケベ心「Yes…you winだよ。promise通り…youを喧騒にreturnさせるよ…」
ギル「ホント?そんな約束した覚えはないけど…帰してくれるなら助かるわ。ありがと」
スケベ心「ンッフフフ…bodyの色んなところをtouchさせてもらったからね…」
バキィ!!
顔面に蹴りが入る。
ギル「突き落とされたいの?」
スケベ心「そ、sorry…」
-
そしてスケベ心はゲートを開き。
スケベ心「このgateにinすれば喧騒だよ」
ギル「ありがと」
スケベ心「また…comeしてくれるかい…?hereはlonelyなんだ…」
ギル「うーん、機会があればね。それじゃ」
ギルティースはゲートをくぐって行った。
スケベ心「…beautifulでstrongなladyだった…またmeetしたいものだね。HAHAHA」
どこか寂しそうな笑みを浮かべるスケベ心。
雑魚「ぽよ?」
その周りに雑魚1%たちが集まってきた。
スケベ心「どうしたんだい?まさか僕をcomfortしてくれてるのかい?HAHA…thank you、Zako1%たち。さて、nextにladyがcomeするのはwhenになることやら」
-
スタッ…
ギル「あ、この穴さっきの…戻ってこれたみたいね」
ゲートを抜けると、ギルティースが落ちた穴の近くに出た。
ギル「全く…あの電気ネズミめぇ…今度こそあのゲートを閉じさせてやるんだから!」
リベンジに燃えるギルティース。
その時。
ドォォォォッ!!!!
ギル「何!?」
轟音が響き、音の方を見ると。
ギル「ふ、噴火…!?」
遠くでマグマが高く打ち上がっていた。
ギル「凄いわね魔界…劣悪な環境の星は私たちの宇宙でもたくさん見てきたけど…こんな滅茶苦茶なのはなかなかないわよ…」
ギュゴゴゴゴ!!!
ギル「へ?」
打ち上がったマグマは宙で渦を巻き、蛇のようにうねり始める。
ギル「な、何!?何が起きてるの!?」
-
そのマグマは、古代城跡の下に溜まっていたマグマであった。
そしてマグマを打ち上げたのは、ヤミノツルギである。
ヤミ「もう限界だ…!!」
ヤミノツルギは全身から黒いオーラを放ち、周囲の地面を抉っていく。
ただでさえ崩壊していた城跡は、既に跡形もなく消し飛んでいる。
この時、ヤミノツルギは生まれて初めて、本当の意味での怒りという感情を理解していた。
-
父・ヨルノカギヅメも、祖父・シッコクノクサリも、曽祖父・クウキョナルチギリも、この喧騒において常に上位に位置するエリートだった。
ヤミノツルギはそういう一族に生まれた。
そして彼らは、一人の例外も無く強いプライドを持ち。
頂点に君臨する、キング・オブ・妖魔という巨大な力に挑み、死んでいった。
父の死を目の前で見ていた、幼少時のヤミノツルギは、その時、自分でも驚く程に冷静だった。
絶対に逆らってはいけない存在があると確信した。
妖魔の下に付いている者たちは、全員、その胸の奥に妖魔への怒りや恨みを孕んでいる。
妖魔が独裁するこの現状を憂いている。
態度には出さずとも、行動には移さずとも、ヤミノツルギの父や祖父や曽祖父と同じように。
だが。
ヤミノツルギは、"受け入れていた"。
現状を変える必要などない。
"この世"はこういうカタチに出来ているのだと。
父の死を見たあの時から、ヤミノツルギの心は死んでいた。
心は死んだまま、体だけを動かして、体が死ぬのを待つ。
ただ運命の糸に動かされる人形となり、役目を終えると消えていく。
ヤミノツルギはそれを受け入れていたのだ。
-
ヤミ「もう…駄目なんだ…!!蘇ってしまったんだ…!!この胸の中の怒りが抑えられない…!!」
その長らく死んでいた心が、Φデスエンペラーによる執拗な嫌がらせによって蘇ったのだ。
ヤミ「僕は…否…」
"この世"に存在する筈のないイレギュラーの手によって。
ヤミ「我は!!全ての支配から脱却する!!平伏すがいい!!愚民共よ!!」
その時ヤミノツルギの脳裏に浮かんでいたのは、妖魔に向かっていった、気高き父の姿。
自然とその口調は父に似た。
そして、ヤミノツルギの叫びに呼応するように、上空で渦巻いていたマグマは広範囲に弾け飛び、周囲を火の海へと変えていく。
ずっと抑えられていた怒りが爆発したことにより、デスエンへの怒りは世界のあらゆる理不尽へと飛び火していた。
-
デスエン「クク…ハハハハハ!面白いな、ヤミノツルギ…少し虐めてやっただけだが、まさかここまで爆発的に成長するとは」
デスエンは少し離れた崖の上に座り、それを眺めて笑っていた。
ヤミ「Φデスエンペラー。手始めに貴様を葬ってやろう」
デスエン「…は?」
ヤミノツルギがデスエンの背後に現れた。
ヤミ「我が炎に呑まれて灰となるがいい!!」
ボォォォォォッ!!!!
デスエン「うおっ!?」
マグマから燃え広がった炎の全てを、ヤミノツルギは意のままに操り、全方位からデスエンを襲わせる。
が。
ヤミ「…?消えた…」
デスエン「ふうっ、驚いたぞ全く」
ヤミ「!!」
デスエンは炎の中から抜け出し、少し離れた岩の上に立っていた。
ヤミ「貴様…完全に包囲し逃げ場はなかった筈…どうやって回避した…?」
デスエン「フッ、そりゃこっちのセリフだ。あんな離れたところから、俺に感知させないほどの速さでここまで、どうやって移動した?」
-
ヤミ「フンッ!見れば分かるだろう!この炎の力だ!」
ズアッ!!
ヤミノツルギは自身の周りに炎を龍のごとく渦巻かせる。
その炎はヤミノツルギから溢れる黒いオーラと混ざり合い、黒い炎となっていた。
デスエン「なんだ?そりゃあ」
ヤミ「魔力と融合させた我が炎…魔炎だ!!」
ボォォォッ!!!!
デスエン「おっと!」
いくつもの方向から襲い来る黒い炎をデスエンはかわしていく。
デスエン「ほう、炎の威力もスピードも上がっているな。なるほど、魔力と完全に融合させることで、自らの手足のように自在に操れるというわけか」
ヤミ「そうだ。この魔炎は我が身体の一部に等しい。つまり!」
ボゥッ!!
ヤミノツルギを魔炎が包み込む。
そしてその魔炎が消えるとヤミノツルギもいなくなっていた。
デスエン「消えた!?」
ヤミ「こうして魔炎と魔炎の間を移動できる」
デスエン「!!」
デスエンが先程かわした魔炎の中から、ヤミノツルギが出現する。
バチバチバヂッ!!!!
デスエン「ぐおっ!」
ズザザザ…
デスエンは至近距離で電撃を受け跳ね飛ばされる。
ヤミ「最早我を止める事は誰にも出来ん!!貴様も妖魔も、我が魔炎の前にはなす術なし!!」
-
デスエン「ハッハッハ!思った以上にやるな!その魔炎から魔炎への瞬間移動は俺と同等の速さと言ってもいい!だが、そりゃあいくらなんでも言い過ぎだろう」
ヤミ「何?」
デスエン「俺や妖魔とお前とじゃ、そもそもの魔力量が全然違うからな。いかに新たな技術を手に入れようとも、純然たる巨大な力には太刀打ちできんさ」
ヤミ「ならばやってみるがいい!!この魔炎の中から生きて帰れるというのならな!!」
ボォオォォッ!!!!
デスエン(とは言ってもこの威力…俺でもまともに喰らえば無傷では済まんな。実際妖魔とぶつけてみるのも面白いか…?)
デスエンは魔炎をかわしながら、次の展開へ、思考を巡らせていた。
ヤミ「どうした!逃げてばかりではないか!フン!まあ仕方なかろう!恥じる事はない!この魔炎をかわしながら我に反撃するなど不可能なのだからな!!」
デスエン「そうだな。確かにそりゃ難しい」
ヤミ「!?」
デスエンはいつの間にかヤミの超至近距離に接近していた。
デスエン「かわしながらは無理だ。だがここまで近づけば攻撃できないだろう。お前自身も炎に巻き込まれる事になるぞ」
ヤミ「貴様!!弱点を見抜いたつもりか!!甘いわ!!デガ…」
ガシッ!
かみなりを落とそうとしたヤミノツルギを、デスエンは首元を掴み上げて阻止する。
デスエン「させんわ。しかしやるな。魔炎の力で調子に乗りつつも、きっちり距離を詰められた時の対策も忘れていない。俺じゃなければ通用したかもな。見直したぞヤミノツルギ」
ヤミ「…ぐっ…」
-
デスエン「まあこれで分かっただろう。俺たちのレベルにゃまだまだ届かない。だが…」
ヤミ「何だ…」
デスエン「今のお前なら、やれるんじゃないか?あのもう一匹のピカチュウ族への逆襲を」
ヤミ「!! …言われなくてもそのつもりだよ…」
デスエン「だろうな。ならばアイツと一騎討ちができるよう、妖魔に話を通しておいてやる。奴も唯一対等に話せる俺からの申し出を、無下にはしまい」
ヤミ「お前…まさかわざと僕を怒らせて……なんでこんなこと……いや、そうか。お前の行動原理なんて分かりきってる」
デスエン「フッ…それとコイツも返しておこう」
ぽいっ
デスエンはファイアフラワーをヤミノツルギの前に投げた。
ヤミ「ファイアフラワー…!いいの…?」
デスエン「お前自分で言っただろう。俺にはこんなもの必要ないからな」
ヤミ「…でも、僕にも今はこの魔炎がある。今更こんなアイテム無くたって…」
デスエン「傲るなヤミノツルギ。その魔炎はあのマグマから燃え移ったものを操っているだけだろう。ここから離れればやがて消える。いつでもどこでも炎を吐き出せるアイテムを、持っておくに越した事はない」
ヤミ「…そうか…そうだね…」
デスエン「クク…ゆっくり帰ってくるといい。魔力は温存しておけよ。楽しみにしているぞ、ヤミノツルギ」
ダンッ!!
デスエンはすごいスピードで跳び去っていった。
ヤミ「…アイツは、ただ面白がってるだけだ。僕たちの潰し合いを…でも、それでいい。利用できるものは利用させてもらうよ。待ってろ、BlackJoker…!!」
-
ギル「…あの変なマグマは収まったようだけど…すごい火の勢いだったわね…何だったのかしら…」
ギルティースはアーウィンのところへ帰っていた。
ギル「はぁ…これもう修理に出さなきゃ乗れないわね…でもこんなとこで壊れちゃったから持って帰れないし…どうしよ…」
デスエンにボコボコにされ煙を吐いているアーウィンを見て、ギルティースは肩を落とす。
ギル「…ていうか…ゲート閉じてるじゃない!!どうすんのよこれ!!確かに閉じろとは言ったけども!!これじゃ帰れないんだけど!?」
???「ナニモノダ、キツネノオンナ」
ギル「!?」
そこに現れたのは、赤ヘルに紫色のレーサー服を着たファルコン族だった。
ギル「あ、あんたこそ誰…?ていうかなんで片言…?」
???「オレハ、マノパンツ」
ギル「パンツ!?」
-
パンツ「アア。コイツラモ、オレトオナジ」
その魔のパンツは両手いっぱいにパンツを抱えていた。
ギル「な、何そのパンツ…」
パンツ「マノパンツダ。コレガホントウノスガタ。ハイタヤツカラチカラヲスイトルト、イマノオレノヨウナスガタニ、ヘンシンデキルノダ」
ギル「そ、そうなの…変わってるわね…」
そう、この魔のパンツはあの時、Φデスエンペラーにパンツトラップを仕掛けた個体である。
すぐに脱がれてしまったが、デスエンが圧倒的に高い魔力を持っていたため、あの一瞬の吸収時間でも変身できる一定量に達していたのだ。
パンツ「オレタチハ、アノマチデクラシテイタ。ダガ、ニゲテキタ。アノネズミ、マチニヒヲツケヤガッタ」
ギル「ネズミ…?もしかしてさっき私をあの地下に落としたアイツのことかしら…」
パンツ「ナニ…?」
ギル「赤い帽子を被った黄色いネズミよ。あんたに似た黒い男も一緒にいたわ」
パンツ「ソイツダ!オレハ、ヤツヲユルサン。ナンヒキカ、タスケラレナカッタ…ナカマノカタキダ…!」
ギル「火を付けたって…じゃあもしかしてさっきのマグマはアイツの仕業ってこと…?」
パンツ「ソウダ。アレニマキコマレタ」
ギル「そう…私も、アイツには借りがあるの。だけど、正直言って私一人じゃ到底勝てる相手じゃない。手を組まない?パンツくん」
パンツ「イイダロウ!キツネ!」
ギル「私はギルティースよ!よろしくね」
二人は握手を交わす。
ギル「…って言っても、アイツら今どこにいるのかしら」
パンツ「マカセロ。ハイタヤツノマリョクハ、ドコニイテモ、ツイセキデキル。ネズミハワカランガ、クロイオトコノイバショハワカル」
ギル「凄いわ!やるわねあんた!」
パンツ「ホメテモナニモデナイゾ。イクゾ、ギルティース!」
ギル「ええ!」
そして二人はデスエンの向かった先、つまり愚かにも、キング・オブ・妖魔の本拠地へと乗り込むことになってしまった。
-
翌朝。
ザッ…
ヤミ「着いた…」
ヤミノツルギは本拠地に帰り着いた。
デスエンに言われた通りゆっくり戻ってきたので、体力はある程度回復している。
そこへ。
下目「遅いぞヤミ」
ヤミ「下目…」
下目「みんな待ってるよ。早く来い」
ヤミ「え?」
下目使いはヤミノツルギの手を引いて歩いていく。
-
そして二人は闘技場にやって来た。
そこには上位の魔の一族たちが集まっていた。
妖魔「ヤミノツルギ。我に無断での単独行動…覚悟は出来ているのだろうな?」
ヤミ「よ、妖魔様…!」
その一番奥で椅子に座ったキング・オブ・妖魔を前に、ヤミノツルギはすぐさま膝をつく。
ヤミ「申し訳ありません。勿論、罰は受けるつもりです。ですが、新たな力を身に付けてきました。この力は必ず妖魔様のお役に…」
妖魔「黙れ。それは我が判断する事だ。貴様がすべき事は一つ」
ザッ…
ヤミ「!!」
ヤミノツルギの前に、ξ黒きBlackJokerが現れた。
妖魔「其奴を倒せ」
ヤミ「はい」
BJ「フフ…あれだけボコボコにしてやったのに、まだ理解してないノ?僕とキミとの力の差を」
ヤミ「…理解してるよ。君は強い。それに魔力を感じる限り、前より更に強くなってるみたいだ。はっきり言って僕なんかに、勝ち目は無かった」
BJ「無かった?今なら勝てるみたいな口ぶりだネ」
ヤミ「そう言っているのだ。愚か者」
ボォォォォッ!!!!
BJ「!!」
ファイアフラワーから吐き出される黒い炎がBJへ襲いかかる。
-
内藤「ほう、ファイアフラワーをちゃんと手に入れてきたか」
観戦するダーク内藤が腕を組んで言う。
アルベ「しかもあの炎、蛇のごとくBlackJokerを追尾している…魔力で操っているのか」
内藤「ああ。一日でここまで仕上げてくるとはな。フン、認めてやらん事もない」
教育係「…お前たちが入れ知恵したのか?」
二人を横目に、全身を包帯でぐるぐる巻きにしている無敵の教育係が口を挟んだ。
内藤「そうだ。この俺のパーフェクトな頭脳を持ってすれば、ヤツが新境地へ辿り着くためのロードを提示してやることなど、造作も無い」
教育係「…下らんな。今のヤツはこの程度では、遊び相手にもならんぞ」
アルベ「何…?」
黒光「ククク…コイツのこの怪我、あの新入りにやられたんだとよ」
内藤「!!」
教育係「チッ…」
アルベ「二大剣士の一人を撃ち倒す程のレベルになっているというのか…!」
-
BJ「遅いヨ」
ヒュンッ!ヒュンッ!
BJは炎を全てかわしていく。
ヤミ(速い…!)
BJ「貰った」
ヤミ「!!」
ドガァッ!!!!
BJは一気に接近し、尻尾を振り下ろす。
が、尻尾は空を切り地面を砕いた。
BJ「!?」
ヤミ「ピカァッ!」
バチバチッ!!!!
背後に現れたヤミノツルギの電撃がBJを襲う。
BJ「くッ!」
が、BJもこれを紙一重でかわした。
BJ「何ダ…?今のは…」
ヤミ「クク、分かるまい。だがこの魔炎の恐ろしさは、こんなものではないぞ!精々足掻くがいい!BlackJoker!」
ボォォォォォッ!!!!
再度襲う魔炎を、BJはかわし続ける。
ヤミ「ピッ!!」
BJ「!!」
ドガァッ!!!
魔炎による瞬間移動によりBJの頭上に現れたヤミノツルギは、尻尾を叩きつけた。
ズザザザザ…!
BJ「まただ…クソ…確かに強くなってるみたいだネ…」
-
デスエン「ハッハッハッハ!どうだ妖魔、なかなか見応えがあるだろう」
デスエンは妖魔の横で観戦していた。
妖魔「フン、我には児戯にしか見えんがな。だが我等が天界を墜とす為の一戦力としては申し分無い」
デスエン「フッ、相変わらずお堅いヤツだ。どっちが勝つと思う?」
妖魔「知った事か」
デスエン「まあそりゃそうか。アイツらの強さを確認してるだけだもんなお前は。楽しめば良いのに。本当に生きててつまらなさそうだ」
妖魔「黙れ。貴様のような軽薄な男に何が分かる」
デスエン「分からないさ。これだけのヤツらを良いように使いっぱしれるってのに、どこまで強欲なら気が済むんだ?」
妖魔「こんなものは戦への備えに過ぎん。此の魔界に真の自由など有りはせんのだ。我等を地の底へ追いやった、神共を消さぬ限りはな」
デスエン「天界への憎しみか」
妖魔「数千年前、我等が祖先は罪を犯し…此の魔界と言う巨大な牢獄に囚われた。だが其れは、子孫には無関係だ。だが神共は、魔の一族が地上に出る事を永劫許さぬ。一体何の権限があって奴等は正義を振り翳す?元は同じ世界の同じ人間…我は…全てを賭してあの愚者共に報いねばならぬのだ」
デスエン「仮に神共を討ったとして、その先に何を求める?」
妖魔「知らぬ。全ては、奴等を滅ぼさねば始まらぬ」
デスエン「フッ…最早それしか頭にない、か。しかし実際のところ、可能なのか?神の光や、天の結界はどうする?」
妖魔「全能神は弱っている。確実にな」
デスエン「ほう?」
-
妖魔「我が以前に地上への侵攻に失敗してから、此の四百年間、数年毎に魔物の軍を地上へ送り込んでいるが…神の光によって、軍は直ぐに鎮圧されていた…五十年前迄は」
デスエン「今は違うと言うのか?」
妖魔「神の光は此の五十年間、一度も使われておらぬ。対抗手段として何匹かの天使を送り込んで来た事は有ったが、あの程度ならば魔物は討伐出来ても、魔の一族には歯が立つまい」
デスエン「成る程な。じゃあ近いうちに戦争が見られるというわけだ」
妖魔「ああ。機を見て地上を侵略する。先ずは何も知らずのうのうと生きている塵共に制裁を加え、世界の支配者は人間でも神でもなく、我々魔の一族であると知らしめるのだ」
デスエン「ハッハッハ、随分な野望だ。よくもまあ、四百年も変わらずそんな志を保ち続けたものだな」
妖魔「フン…我には四百年など刹那に等しいわ。此の魔界に囚われている限り、時が止まっているのと変わらぬ」
デスエン「俺には考えもつかんなぁ。面白ければそれでいいからな。本来魔の一族ってのはそういうモンだろう?お前ほどの魔力なら尚更じゃないのか?それとも、一周回ってそうなってしまったのか…」
妖魔「面白いものなど、此処には存在しない。ただ其れだけだ」
デスエン「そう言うと思ったよ。面白くないなら自分で面白くする。それが俺のやり方だ。フッ、やっぱり俺とお前は相容れないようだな」
妖魔「分かり切った事を」
-
ヤミ「クク…逃げ回ってばかりだなBlackJoker!!それでは我は倒せんぞ!!」
BJ「うるさいナ。キミだってさっきから一撃も当てられてないでショ。それじゃ僕は倒せないヨ」
ヤミ「ああ。確かに貴様は速い。だがそんな速度で走り続けていれば、体力が尽きるのは時間の問題だ!対して我は此処から一歩も動いていない!このまま戦況が動かねば、貴様の敗北は免れんぞ!フハハハハ!!」
教育係「チッ…何をしているBlackJoker…昨日より動きが悪い…」
黒光「バァーカ。魔の灯火で強化されようが制御がちゃんと出来てなきゃ不安定に決まってんだろ」
アルベ「そうだな。確かに新人も魔力は高いが、魔力操作に関してはヤミノツルギの方が数段上手だ」
内藤「フン、やはりこの俺の示した選択は正しかったようだな!」
教育係「クソ…」
下目「…でも魔の灯火で魔力を引き出されたっていうBlackJokerはともかく、ヤミの魔力も上がってるのはどういうことなんだ?」
黒光「さァな。アイツの魔力はとっくに限界値にブチ当たってると思ってたが…」
教育係「フン…どうせあれもΦデスエンペラーの仕業だ…自らの手で潜在能力を引き出した両者を戦わせて愉しんでいる。でなければ、ヤツからすれば低レベルな争いをわざわざ観に来たりしないだろう…」
アルベ「この戦いを格闘技のような見世物として考えているというわけか」
下目「なるほどね…ほんと、よくわかんないヤツ…」
すると下目使いは、急に闘技場の出入口に歩いていく。
-
内藤「どこへ行く?」
下目「近くにネズミがいるみたいだから、潰してくるよ」
アルベ「ネズミ?」
黒光「…あー、確かになんか弱え魔力が近づいてきてんな、二匹。誰だ?」
教育係「知らない魔力だ。というか片方は魔力が小さ過ぎないか?まるで魔力を使えない地上人のような…」
下目「…どうでもいいよ。向かってくるなら消すだけだ」
ボフッ…
下目使いはハンマーを取り出し、肩に担いで、そのまま外へ向かう。
教育係「待て」
下目「何?」
教育係「わざわざお前が行く必要はない。この程度の魔力なら、アイツでも余裕で仕留められるだろう」
-
闘技場の外。
黒猫「にゃーっはっは!!にゃんだお前らは!」
ギル「あれは昨日の…!」
パンツ「イヤ、アイツジャナイ。ベツジンダ」
ヤミノツルギの元へ向かう二人の前に、犬のような黒猫が立ちはだかった。
黒猫「ここから先は誰も通すにゃと言われてるんだ!」
ギル「どきなさい、その中にいるヤツに用があるのよ!」
黒猫「だめだ!ここを通りたかったら俺を倒すんだにゃ!」
ギル「こっちは二人いるのよ?勝てると思ってるの?」
黒猫「にゃはは!余裕だ!さあ来い!」
パンツ「イクゾ」
ギル「ええ!」
ダンッ!!
二人は同時に黒猫へと飛びかかる。
-
ヒュッ!!
ギル「!!」
ズドォッ!!!!
黒猫は迎撃のパンチを繰り出し、ギルティースは咄嗟に両腕でガードした。
黒猫「おお!お前弱そうなのに、よく反応したにゃー!」
ギル「ぐ…っ!?そんな…!右腕が…折れた…!」
黒猫「にゃはは!そりゃそうだ!そんな細腕で俺のパンチを防ぎ切れるわけにゃい!」
パンツ「オレヲワスレルナ!」
ブンッ!!
パンツのパンチは空を切る。
黒猫「にゃへへ!こっちだよー!」
黒猫は離れた岩の上に移動していた。
ギル「え!?う、嘘…!速すぎる…!全く見えなかった…!まさかコイツ…昨日のネズミよりも…強い…!?」
そう、魔炎に目覚めたヤミノツルギはともかく、昨日ギルティースと戦った時点のヤミノツルギはBlackJokerに劣る実力であり。
黒猫はその時のBlackJokerを圧倒した実力を持つ。
ズドォッ!!!!
パンツ「がはっ…!!」
すなわちギルティースたちに勝ち目など無い。
-
シュルルル…
パンツは戦闘形態から元のパンツ形態へ戻っていく。
黒猫「わ!にゃんだこれ!パンツににゃったぞ!?」
ギル「そんな…!」
黒猫「ま、いっか!よし!それじゃ後はお前だけだにゃ!」
黒猫はギルティースの方に目を向ける。
ギル「くっ…!」
ズガガガガッ!!!!
黒猫の猛攻がギルティースを襲う。
ギル「がはっ…!だ…だめ…ガードすら…できない…!実力差が…あり…すぎる…!」
黒猫「とどめだっ!」
ズォォッ!!
黒猫は拳にハヤブサのような炎を纏う。
黒猫「ファルコン・パンチ!!」
-
ドゴォッ!!!!
ギル「がはっ…!」
パンチはギルティースの腹に直撃し。
ヒューン!
ドガァッ!!
そのままものすごい速さで吹っ飛び、岩壁にぶつかった。
黒猫「にゃっはっはっは!!参ったか!!」
ギル「…ま……参った…」
どう足掻いても覆らない力の差を感じ、ギルティースは降伏する。
黒猫「そうか!よし!!それにゃら早く帰れ!!」
ギル「…え?…帰って…いいの…?」
黒猫「通すにゃとは言われたけど殺せとは言われてないしにゃ!」
ギル「…あ……あり…がとう…」
ギルティースはよろけながら、足を引きずりながらも、ゆっくりと立ち上がると、パンツを拾い、去っていった。
-
闘技場では。
ヤミ「フハハハハ!!どうした!動きが鈍くなってきたぞ!」
ボォォォォッ!!!!
ヤミノツルギはBlackJokerに向けて一直線に魔炎を放つ。
BJ「フフ…これを待ってたんダ」
ビュンッ!!
ヤミ「!!」
BJは一瞬でヤミノツルギの目の前に詰め。
バチバチッ!!!!
強力な電撃を放った。
ヤミ「ぐぅっ!!」
アルベ「上手い!体力切れと見せかけて攻撃を誘い、その隙を突いて一気に距離を詰めた!」
BJ「まだだヨ。確実に仕留める」
バチチチチチッ!!!!
更にBJは連続して電撃を浴びせ続け。
ヤミ「ぐああああああっ!」
BJ「ピカアッ!!」
バキィッ!!!!
尻尾で叩き飛ばす。
-
ズザザザザ…
ヤミノツルギは顔面から地面に叩きつけられ数メートル引きずられるが。
ヤミ「がぁっ!!この程度で我を倒せるものかッ!!」
ボォォッ!!!
すぐに起き上がり、ファイアフラワーから魔炎を放つ。
BJ「遅い!」
ビュンッ!!
BJは再び高速で距離を詰める。
ヤミ「無駄だ!」
ズアッ!!!
ヤミノツルギは魔炎を自分の周りに回転させ、防壁を作った。
BJ「くっ…!」
黒光「ククッ、おっかねえなオイ。炎のバリアかよ」
教育係「だがあれではヤミノツルギもまともに攻撃できんぞ」
下目「いや…ヤミは…」
シュボッ!
魔炎のバリアが消えると。
BJ「いない!?」
その内側にいたヤミノツルギも姿を消していた。
ボォォォォォォッ!!!!
BJ「がぁああッ!!」
そして背後から膨大な魔炎がBJを呑み込んだ。
ヤミノツルギは魔炎移動を使って背後に回っていたのだ。
ヤミ「終わりだ」
-
フッ…
ヤミノツルギは魔炎を収める。
ドサッ…
BJは全身を焼かれ、倒れた。
ヤミ「…ふぅ…」
妖魔「…まあ良かろう。ヤミノツルギ、貴様の勝ちだ。此れからも我が手足となり働く事を許してやる」
ヤミ「はっ!ありがとうございます!」
ヤミノツルギは膝をつき頭を下げる。
妖魔「フン」
ザッ…
妖魔は一瞥し、闘技場から去っていった。
デスエン「フッ、良かったなヤミノツルギ。正直お前が勝つとは思わなかったぞ。BlackJokerの魔力は本物だったからな」
ヤミ「だろうね…ていうかデスエン、全部お前が仕組んだんでしょ?一日であんな魔力変化、普通じゃありえない」
デスエン「ああ。魔の灯火を使わせてもらった。お前たちの最大出力同士をぶつけ合わせた時、どちらが勝るのか興味があった」
ヤミ「興味があった?面白がってただけでしょ」
デスエン「ハハハ!その通りだ!」
-
下目「ヤミ、随分強くなったみたいだな」
観戦していた魔の一族たちがヤミノツルギの元へ寄ってきた。
ヤミ「下目…うん。もう下目にだって負けないよ」
下目「それはないと思うけど」
黒光「ククッ、どうだかな」
教育係「この俺に勝ったBlackJokerに勝ったんだ。妖魔を除けば、お前が間違いなく最強だ。そうでなければ困る」
内藤「フン!貴様にヒントを与えてやった俺に感謝する事だ!俺がいなければ貴様は今頃妖魔に処分されていただろうな!」
ヤミ「うん。感謝してるよ。ダーク内藤、ありがとう」
内藤「あ、ああ!当然だ!闇の名を汚されては敵わんからな!フ、フハハハハ!」
素直にお礼を言われ少し戸惑うダーク内藤であった。
アルベ「大丈夫か?新人」
BJ「…だ…誰…?」
アルベ「私はアルベルト。さあ、治療室へ運んでやる」
BJ「チッ…鬱陶しいヨ…自分で行ける…」
アルベ「無理はするな。死ぬぞ」
ガシッ!
アルベルトはBJを持ち上げる。
BJ「くっ、離せ…!」
アルベ「こら!暴れるな!」
-
ヤミ「BlackJoker」
BJ「…?」
ヤミ「君にも礼を言っておくよ。ありがとう」
BJ「…何の…冗談だヨ…」
ヤミ「君が僕をボコボコにしてなければ、ここまで成長できなかったからね。そして多分
、今感じているこの気分を味わうこともなかった」
BJ「…チッ」
ヤミ「クク…また戦ろう。いつでも相手になるよ」
BJ「…」
BlackJokerの返事はなかった。
アルベルトはそのままBlackJokerを担いでいく。
ヤミ「さあ、それじゃあみんな、今日も一日頑張っていこう」
黒光「チッ、急に偉ぶりやがって」
ヤミ「クク…偉いからね。ほら、黒光もさっさと仕事場に戻って」
ヤミノツルギの指示によって魔の一族たちは各々の仕事へと戻っていく。
-
デスエン「フッ、俺もそろそろ帰るとするか」
下目「…そういやデスエン、お前普段何してんの?仕事とかないだろ」
ヤミ「確かに。あの岩山じゃ何もすることないだろうし」
デスエン「いやいや。岩壁に魔界の各所を映し出して、観察しているのさ。面白いことが起きていないかをな」
下目「それでたびたび何か起きそうなとこに現れるのか…迷惑なヤツ…」
デスエン「ハッハッハ!そりゃ褒め言葉として受け取っておこう」
下目「褒めてる要素ないだろ」
ヤミ「…そう言えば…それだけセンサー張り巡らせてんなら、何か見当は付かないの?岩山の魔物がいなくなってるって話」
デスエン「あー、それはマジで分からん。ここ数ヶ月、特に魔力変動は感じなかったからな」
下目「どういうこと?」
デスエン「魔物が倒されたにせよ、連れ去られたにせよ、何らかの理由で大移動したにせよ、ここが魔界である以上は魔力を使った方法が取られる筈だ。だが魔力変動は無い。おかしくないか?」
ヤミ「魔力を使わずに魔物を移動させる…そんなことできるわけないね。ただ見落としてるだけじゃないの?」
デスエン「ま、その可能性もあるが…もしかすると魔力を使わずに干渉している奴がいるのかもしれん」
下目「はぁ?」
デスエン「そう、例えば天使だ。奴らは魔力とは違う、天使の力を使う」
ヤミ「でも天界の連中は下界にはほぼ干渉しないんでしょ?それに魔物なんか攫って何すんのさ」
デスエン「ああ。だから分からんのだ。天使でないとすれば、人間…奴らは弱いが、俺たちより高度な技術を持つからな。昨日会ったキツネも、魔界には無い戦闘機に乗ってきてただろう」
ヤミ「確かに…でも魔力も無しに魔界に来るなんて事できるのかな」
-
下目「…ん?ちょっと待って。キツネって?」
ヤミ「あ!そうだ!忘れてた、あのゲートのこと、アメリーナに訊いとかなきゃ」
下目「アメリーナ?」
ヤミ「かくかくしかじかで…」
下目「ふぅん…魔力操作がド下手なアイツがねぇ。練習でもしてたんじゃないの?それでバレるのが恥ずかしくて秘密にしてたんだろ」
ヤミ「クク、まあそれもあり得るけど。でも一応ちゃんと確かめとかないとね」
下目「そのキツネとやらはちゃんと始末したの?」
ヤミ「うん。ボコボコにして、最果ての穴に落としてやったよ。どの道生きちゃいないし、ゲートを閉じたから仮に生きてても帰れずに野垂れ死ぬさ」
下目「そう、ならいいけど」
デスエン「フッ、まあ岩山のことについては俺が適当に調べておくさ。時間はいくらでもあるからな」
ヤミ「いいねぇ、お前は自由で」
デスエン「だろ?お前たちも妖魔の下からなんかとっとと抜け出して自由になればいいだろうに。ああ、お前たちごときじゃ無理か!ハッハッハ!」
下目「うざ…」
デスエン「じゃあな。また会おう雑魚たち」
ヤミ「二度と会いに来るな」
ビュンッ!
デスエンは消えた。
下目「…さて、僕たちも行こうかヤミ」
ヤミ「うん」
そして下目使いとヤミノツルギも闘技場を後にした。
-
闘技場の外では。
教育係「オイ黒猫!帰って教育の続きだ!」
教育係は黒猫を連れて修練場へ帰ろうとしたのだが。
下目「どうしたの?」
教育係「闘技場の見張りをさせていた黒猫が、消えたんだ」
ヤミ「戦った痕跡があるね。まさか負けたのか…?」
下目「だとしたら負かしたヤツは闘技場に入って来てるはずでしょ。それとも黒猫自体に用があったのか…」
教育係「チッ…あの馬鹿…何をしているんだ…」
-
わずか数分前。
BJとヤミノツルギの戦いを見終えた妖魔が、闘技場から出てきた。
ザッ…
黒猫「待て!」
妖魔の前に黒猫が立ちはだかる。
妖魔「…何だ?」
黒猫「ここは通すにゃと言われてるんだ!」
「闘技場に入れるな」ではなく「通すな」と指示をされていた黒猫は、闘技場から出てきた妖魔にさえも立ち向かってしまったのだ。
昨日無敵の教育係によってきっちりと教育された黒猫は、その犬のような忠誠心を、発揮しなくていいところで発揮していた。
妖魔「邪魔だ」
黒猫「通るってんにゃらぶっ飛ばすぞ!!」
ダンッ!!
黒猫が飛びかかる。
バゴォン!!!!!!
それを妖魔は片手で振り払い。
妖魔「フン」
黒猫は遥か彼方まで飛んで行った。
その後魔の一族たちが黒猫と再会するのは、遥か未来のことである。
-
その頃、ギルティースは。
ギル「はぁ…はぁ…命拾いした…けど…これから…どうしたら…」
どこかの岩陰にへたり込んでいた。
右手に握りしめたパンツを見る。
ギル(履いた人の力を…吸収するんだったわね…)
そしてギルティースはパンツを履いてみる。
ギル「ぅぐぅっ…ち…力が…抜ける…っ」
意識が飛びそうになったところで、パンツを咄嗟に脱いだ。
パンツ「ギルティース…」
ギル「きゃっ!?」
パンツの股間部分が顔に変形していた。
パンツ「コノテイドデハ、コレクライシカ、ヘンシンデキナイガ…ナニカヨウガアルンダロウ」
-
ギル「…ええ…無理かもしれないけど…」
パンツ「イッテミロ。モウオマエハ、ナカマダ」
ギル「ありがと……あのね…私を元の世界に…帰らせてほしいの…向こうには…家族がいる…ここで死ぬわけには…いかない…」
パンツ「カゾク…」
ギル「ええ…まだ小さい妹…それに、一族の仲間も…」
パンツ「…ソウカ。ワカッタ」
ギル「で、できるの…?」
パンツ「アア。クロイオトコノチカラヲ、キュウシュウシタトキ、ジョウホウヲテニイレタ。イマノチカラデハ、ウマクイクカ、ワカラナイガナ…」
そう言うとパンツの顔が手に変化する。
ズズズズ…!
するとその手の前の空間が歪み始め。
バァーン!!!
ギル「ゲートが開いた…!」
パンツ「ハヤクイケ!ナガクハモタンゾ!」
ギル「…!ありがとう…!」
タッ!
ギルティースはゲートをくぐり、人間界へと帰っていった。
バツンッ!!
そしてゲートはすぐに閉じられた。
パンツ「ケッキョク、ヤツヘノフクシュウハ、ナラナカッタカ…ダガ、イイダロウ…ナカマヲ、ブジカエラセルコトガデキタ。ソレデ、ジュウブンダ…」
シュルルル…
力尽きた魔のパンツは、パンツに戻り。
その後、生き残った仲間たちとともに魔界でひっそりと暮らした。
-
魔界第三階層"空白"。
五つの階層の真ん中に位置する階層であるが、"事実上の最深部"と言われる。
喧騒には最果てと直通する穴が存在するため、実は最果てへの移動は容易である。
また、最果ては広くないため、一つ上の奈落へは、道を間違わなければすぐに辿り着ける。
そして最たる理由が、"空白への入口が存在しない"事である。
空白の内部には高濃度の魔力が乱気流のごとく吹き荒れ、ゲートを開こうにも座標が掴めない。
その場所に、二人の男がいた。
その周囲にはいくつもの強固な檻が置かれ、中には大量の魔物が捕われていた。
???「フ…ここならば誰にも見つかるまい。魔力の研究にも持ってこいだ」
赤毛の若いドンキー族が、車椅子に乗った緑の服の老人フォックスに話し掛ける。
???「ああ…悪くない。やはりお前の技術力は本物だな」
???「当然だ。さあ、対価を頂こうか?お客さん」
ドンキー族が手を差し出すと、フォックス族はその上に、赤く光る鉱石のようなものを置いた。
???「私の先祖が活動していたとされる、ライラット系でしか手に入らない鉱石だ。こんなものがお前の研究の何に役立つのか知らんが…今では手に入らない代物だ。粗末にしてくれるなよ」
???「フ…ありがとう。それでは私は帰るとしよう。お客さん、くれぐれも魔族には見つからないように気を付けるんだぞ。君のその体では奴らに対抗できまい」
???「言われるまでもない」
するとドンキー族は右手に持っていた箱のような装置を起動して、ゲートを開き、くぐっていった。
???「…さて…始めるとしよう…我が最強のクローンを造るには、魔力は必要不可欠…魔力研究第一フェーズだ…」
それから老人フォックスは何年もの期間を費やして、数百数千の魔物を解剖し、魔力操作を獲得するのだが、これはまた別の話。
-
五日後。
ギルティースは故郷に帰って来ていた。
バンッ!!
勢いよく扉が開かれる。
少女「姉さん!!」
そして十歳ほどの幼いフォックス族が部屋に入った。
その部屋は大病院の一室であり、ベッドにはギルティースが寝ていた。
ギル「あら…早かったわね…さっき連絡入れたばっかりなのに…さすが私の妹…ね…」
少女「ど、どうしてこんなことに…!」
全身ボロボロのギルティースを見て、妹は泣きそうな顔をする。
ギル「フフ…なんでアンタが泣くのよ…」
少女「だ、だって…!姉さんは私の憧れ…!なのに…!」
ギル「…そうね…ごめんね…みっともないところ見せちゃって…」
ギルティースは側に来た妹を抱きしめる。
その両腕は、無くなっていた。
黒猫により破壊された全身はあらゆる場所が複雑に骨折し、魔のパンツの開いた不安定なゲートは誰もいない星に繋がっていた。
アーウィンも無く、そんな状態で助けすら呼べず。
運良く三日後に仲間のフォックス族が駆けつけ救出され、一命は取り留めたが、腕は既に壊死していた。
-
ギル「残念だけど…これじゃ私はもう引退するしかない…」
少女「そんな…!」
ギル「聞いて…」
少女「!!」
ギルティースの真面目な表情に、妹も表情が強張る。
ギル「私は…あなたに跡を継いでほしい」
少女「え…?」
ギル「あなたが…第二の、幻のギルティースになるのよ…!」
少女「…!!」
コンコン
と、扉が叩かれる。
ギル「どうぞ」
ガチャッ
???「失礼する。具合はどうだ、ギルティース」
入って来たのは、白い服のフォックス族。
ギル「リカエリス…」
少女「だれ…?」
リカエ「君がギルティースの妹か。話は聞いている。私はリカエリスだ」
-
ギル「その子を…頼むわね…」
リカエ「ああ」
少女「ど、どういうこと?」
リカエ「私が君を一人前の…いや、それ以上のフォックスに育てる。ギルティースを超える、ギルティースMk IIに」
ギル「リカエリスは私の同期でね…信頼できるし…腕は私よりも上よ。ちゃんと言う事を聞いて…立派なフォックスになるのよ…」
少女「そんな…勝手に…」
ギル「言ってたじゃない…私みたいなフォックスになりたいって」
少女「でも…」
ギル「でもじゃない!!甘ったれるな!!」
少女「!?」
ギル「ゲホッ、ゴボッ…!」
少女「ね、姉さん!」
ギルティースは血を吐く。
ギル「フフ…あなたならきっと最高のフォックスになれるから。信じてるわよ」
少女「……!」
少女は幼いながらも、なぜギルティースがここまで焦るのか理解した。
姉の命はもう永くないのだと。
少女「分かった…!私なるよ…ギルティースMk IIに…!」
少女は目に浮かんだ涙を拭い、覚悟を決めた表情で言う。
ギル「ええ…頑張って」
少女「でも…これからも会いに来てもいいよね?話を聞かせて?姉さんの、これまでの話を」
ギル「…ええ、もちろんよ」
初代ギルティースはそれから半年後に亡くなるまで、毎日訪れる妹に話をした。
これまでの任務で出会った敵や生物、そして仲間のことを。
-
およそ一ヶ月後。
アメリーナは㍍アルザークと共に宇宙を旅していた。
㍍「…ところでアメリーナ。ずっと気になっていたのですが、その腕輪は?お風呂の時ですら外しませんが…何か大事なものでして?」
アメリ「え?あ…あーっ!!忘れてた!!」
㍍「え!?」
アメリ「これ、一ヶ月着けとけって言われてて…もうそろそろ一ヶ月経ってるはず…」
昼間『こんにちは』
アメリ「わあっ!?念話!?」
昼間『もう分かりました。あなたがちゃんとこの世界で暮らして行こうとしていることは』
アメリ「もー!だから言ったのに!」
パリィン!
するとアメリーナの腕に着けられたリングが粉々に砕け散った。
アメリ「わっ!」
㍍「きゃっ!なんですの!?」
-
昼間『これであなたは完全に自由です。長い間不便をかけてすみません。ですが全ては世界の平穏のため…』
アメリ「いいよ、分かってる。この一ヶ月でアルザークさんにいろいろ教わったから、この世界のこと」
昼間『ちなみにリングの効力によってあなたの魔力は封印されました。要は今のあなたは一般人と変わらないということです』
アメリ「えぇ!?そういうことは先に…」
昼間『あなたがたとえ害悪な存在だったとしても、こうしておけば何もできないという考えでしたが…杞憂でしたね。すみません』
アメリ「いいよ!どうせ私魔力操作ド下手だし!」
昼間『それでは、失礼しました』
プツンッ
念話はそこで切れた。
アメリ「まったくもう……まあ、この一ヶ月魔力使えなくても、特に困ったことなかったしなぁ…それに一般人と同じってことは、もしかして神の光っていうのも受けないのでは…?結果オーライじゃん!」
アメリーナは一人でポジティブな理論を展開して、小さくガッツポーズをした。
㍍「あの…先ほどから一人で何をブツブツと…」
アメリ「あ!そっか、念話は私にしか聞こえてなかったのか」
㍍「ねんわ…?」
アメリ「ううん、なんでもない!さ、旅の続きをしよう!」
㍍「ええ、そうですわね」
二人はこれからもしばらく共に宇宙の旅を続けた。
-
魔界では。
黒光「ったく、どこ行きやがったんだあの馬鹿は」
下目「まだアメリーナ捜してんの?」
内藤「もう奴が消えてから一ヶ月経つ。どこかでヘマをして魔物にでも喰われているんじゃないか?」
黒光「ちげえよ。そっちの馬鹿じゃねえ」
アルベ「というと、無敵の剣士のことか」
下目「あいつならまたBJと遊んでんじゃない?」
BJ「いや、僕ここにいるケド」
ヤミ「ククク…無敵の剣士ならここだ」
ボウッ!!
ヤミノツルギが魔炎の中から現れる。
ドサッ
その傍らには倒れた無敵の剣士がいた。
下目「どうしたの?」
-
ヤミ「フン!愚かにも我に挑戦して来たので返り討ちにしたまでだ!ククク…良い機会だから言っておいてやる!」
黒光「あ?」
ヤミ「我はいつでも貴様たちの挑戦を受ける。この魔炎師ヤミノツルギ†に勝つ自信のある者はかかってくるがいい!フハハハハハハハハ!!」
みんな(うぜぇぇぇ…)
めちゃくちゃ調子に乗ってるヤミノツルギ†であった。
†は墓標を意味した記号である。
魔炎の力が満ちる夜、父の口調が乗り移った状態の時は、そう名乗るようにしたらしい。
ちなみに、魔界でのヤミノツルギの好感度はここ一ヶ月でガタ落ちしているらしい。
完
-
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!
今回はヤミノツルギが魔炎師になるまでと、ギルティースがMk IIになるまでを描いたお話でした。回収してない伏線がありますがまたいずれ別のSSで回収する予定です。いつになるか分かりませんが。
ではまたどこかで。
-
成る程、なんでギル姉が本編で魔界とか知らない感じなのかと思ったらそういう事か…
面白かったです!また別のスピンオフも見たいです!
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