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【SS】走れロハス
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タイトル:走れロハス
こちらの掲示板では初めてのSS投稿
太宰治「走れメロス」のオマージュです
原作通り短編です。
以下の事項にご注意ください
・オリジナルのキャラ設定と世界観
・地の文ありマスオさん
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ロハスは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意した。
ロハスは、村の芸人である。
ファイアフラワーを吹かし、甲羅をはね返して遊び、川に向かってアフォックスを繰り返す日々を送っていた。
今日未明ロハスは始発に乗って野を越え山越え、3時間かけていにしえの王国にやってきた。
ロハスの家族構成について言及することはプライバシーの侵害にあたる可能性があるので差し控えておく。
ちなみに近くに[自称]妹は住んでいたが、いかんせん自称なので特に関わりはない。
今朝方ロハスに会った時「ねぇ聞いておにぃさっきサプライズで○○おにぃのおうちに行ったんだけどねそしたらさウフフフフフフ」とか何とか言っていたが、今日のロハスの目的は個人的な買い物なのでこれまた特に関係はない。
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ひと通り買い物を済ませると、羽を伸ばすように町の大通りをぶらぶら歩いた。
ロハスには竹馬の友があった。
悲しみのパターソンである。
虫という虫が嫌いで、サッサと村から出ていってしまい今は此のいにしえの王国の町に住んでいる。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。第8回大会以来久しく逢わなかった(ボイスチャットはしていた)のだから、訪ねていくのが楽しみである。
歩いているうちにロハスは、町の様子を怪しく思った。
ひっそりしている。
のんきなロハスも、仕事モードが発動してしまいだんだん不安になってきた。
路で逢った商人…ではなくサラリーマンを捕まえて、何かあったのか、半年前にここに来た時は、昼夜問わず路上でネタを披露する大道芸人がいて、時々建物の上からアフォった者が落ちてきて、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。
リーマンは、「今忙しいんで」とスマホ片手に断り立ち去った。
しばらく歩いてψ起動戦死☆彡に逢い、今度はもっと語勢を強くして質問した。
ψ起動戦死☆彡は答えなかった。
ロハスはψ起動戦死☆彡を掴み、地の果てまで投げ飛ばすぞと脅した。
固定リアクション芸人であるψ起動戦死☆彡は恐れおののき、辺りをはばかる低声で、わずか答えた。
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戦死「王様は、ボケを殺します。」
ロハス「なぜ殺すんだ。」
戦死「正確に言うとボケの取り締まりです。選手たちに芸人行為の禁止を言い渡し、違反した者には禁固刑を下しております。芸人どもからは選手としてのプライドと、勝利への意欲が感じられない、というのですが、誰もそんな、予防線は張っておりませぬ。ですよね?」
ロハス「……たくさんのボケを殺したのか。」
戦死「(無視かよ)はい、はじめはアルバロ様のRTA研究を。次にナザレンコさんのアレを。それから、ドドンさんの自爆芸を。それから、ポルスさんのモノマネ劇を。それから、ポイゾネサスくんさんのドジを。」
ロハス「おどろいた。最後のに至っては天然モノだというのに。王は乱心か。」
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戦死「いいえ、乱心ではございませぬ。仲間を信ずることができぬ、と言うのです。このごろは、比較的まともなギルティースさんのこともお疑いになり、獄中の面子を巻き込んでは面談という名の説教と個別指導を行い、それ以外にも誰かを捕まえては同族に胃を痛めていることを愚痴り、酒が入ると本人も口にしたくないであろうフォックス族全体の勝率の話を延々と……」
「あきれた王だ。生かしておけぬ。」
聞いて胸と耳が痛くなったロハスは、居心地の悪さに開き直って激怒した。
戦死「いやなんか気の毒ですし…そっとしておいてあげたほうが…」
事は急を要する。
持ち前のスルースキルを発揮しつつ買い物を駅のコインロッカーに預け、のそのそと城へと入って行った。
たちまち彼は警備員に制止されて羽交い締めにされ腹パンを喰らわされた。
調べられて、ロハスの懐からはハリセンが出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。
ロハスは脚を抱えられ、王の前に文字通り引きずり出された。
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ロハス「ヴフッ、ヴフッ……これが役所仕事ってヤツか?まっずい水飲んでる連中はこれだから…」
天才「このハリセンで何をするつもりだったんだ。言えよ」
王……改め、いにしえの王国国王代理を務める第2回大会王者・15人目の天才は、静かに、けれども威厳を持って、そしてひとさじの蔑みを以って問い詰めた。
ロハス「王国をマジレス暴君の手から救うのだ。」
天才「お前がか?」
国王代理は憫笑した。最近笑うといえば憫笑しかしてない。
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天才「仕方のねぇヤツだ。お前にゃ俺の孤独なんてわかりゃしない」
ロハス「言うな!」
とロハスはいきり立って反駁した。
ロハス「人の感情を否定するのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の笑顔さえも奪い去ろうとしている。」
天才「…同じセリフをすでに4回も聞かされてるんだよこっちは。もともとお前たちみたいな芸人は、自己顕示欲の塊さ。ツッコまなければ延々とノリ続け、ツッコんだところで増長しやがる。だから非情に対処してやるのが正当な心構えだと教えてくれたのは、お前たちだろうがよ」
国王代理は疲れたように言い放ち、ハァと溜息をついた。
天才「俺だって、もっと皆と建設的な話がしたいんだが。」
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ロハス「何のための話だ。どうせ我々を吊り上げるだけなのだろう。」
こんどはロハスが嘲笑した。
ロハス「選手として生きるひとつの道を否定して、何が建設的だ。」
天才「黙れアホ2世」
国王代理は顔を挙げて報いた。
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天才「ふざけた事ばかり言いやがる……もう聞き飽きた。ここからは実力行使でいくからな。お前だって今に、処分が下ったところで泣いて詫びたって聞く耳持たねえぞ。」
ロハス「ああ、王は悧巧(りこう)だ。自惚れているがよい。私は芸に生き、芸に死ぬ覚悟が出来ているのに。ただ……」
そう言いかけて、ロハスは足もとに視線を落として瞬時ためらい、
ロハス「私に情けをかけたいつもりなら、処分までに2日間の日限を与えてください。せっかく今日買ったPCパーツを試さずには死ねませぬ。グラボ交換してFPSをやりたいのです。」
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天才「ハ……」
ロハス「あとずっと前から欲しかった『ちょこリン♪戦うアイドルの裏側ドキュメントSP♡〜跳梁跋扈の歌仔戯〜』のBDboxがやっと手に入ったのでそれも観なくてはならぬのです。」
天才「…………」
ロハス「できれば後輩が所属してる『劇団死期』のコント集dvdが5日後に届くのでそれまで猶予が欲しかったのですが、そこは妥協しましょう。」
天才「…………」
ロハス「必ず、帰ってきます。」
天才「…俺が芸人の戯言を信じるとでも?」
長くなるのは嫌なので流す国王代理。
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ロハス「私は約束を守ります。私を2日間だけ許してください。そんなに信じられないならば、よろしい、この市に悲しみのパターソンという者がいます。私の唯一無二の友人だ。あれを人質としてここに置いておこう。私が逃げてしまって、2日目の日暮までにここに帰ってこなかったら、あの友人にしかるべき処分を下してもらいたい。頼む、そうして下さい。」
それを聞いて国王代理はこう思った。
道徳にも行政にも喧嘩売ってんなコイツ。
まあいい、ひとつ良い考えが浮かんだ。
ならばここで飲まなければ、エンターテイナーの名が廃るというもの。
見せしめにして、芸人とはなんと希薄な存在か、危機感のない奴らに教えてやるよ。
使えるものは何だって使ってやろうじゃねぇか。
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天才「……いいぜ。そのパターソンとやらを呼べ。お前が2日後の日没までに帰って来なければ、受刑者はそいつだ。ちょっと遅れて来るがいいさ。そしたら、この町で好きなだけ芸をやらせてやるよ。」
ロハス「なに、何をおっしゃる。」
天才「ははは、これからも芸をしたいなら遅れてこいよ。そして田舎で好きな事して、のんびり過ごせばいいじゃねぇか!」
ロハス「ロハスは口惜しく、地団駄を踏んだ。ものも言いたくなかった。」
天才「言ってんじゃn…(ゴホン)つーかさっきから何だ、その仰々しいしゃべり方は」
ロハス「ノリっす」
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一旦ここまで
続きはぼちぼち
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タイトルで既に笑った
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これは名作の予感
支援のドドン
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タイトル一発ネタかと思ったけど普通に続きが気になって笑う
支援
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竹馬の友、悲しみのパターソンはその夜、旧・謁見の間(多目的室)に召された。
ひとつ置かれた椅子に座する国王代理の面前で、佳(よ)き友と佳き友とは、久しぶりに相逢うた。
ロハスは、友に一切の事情を話した。
パターソン「は?」
ロハス「ん?」
天才(そりゃあな)
パターソン「イヤイヤお前ちょっと待てお前」
ロハス「すまない、私は圧政に屈するより他無かった。」
パターソン「その仰々しい喋り方やめろ!そんで、すまねーで済むか馬鹿野郎!久しぶりに会った友人に革命ごっこの尻拭いさせんなこのカッペ!」
ロハス「やだな、パターソンも元々そのカッペじゃんよ」
パターソン「……呆れてモノが言えない。天才さん、何故このような仕打ちを、お認めになるのですか……?」
天才「そりゃお前には気の毒だけどよ、これはこいつへの教育であり、一応王である俺の方針なんだわ。受け入れろ」
パターソン「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!せっかくの休みがこんな形で潰れるなんて……コイツが芸人行為働いたんじゃないですか。罰を受けるのはコイツでしょう!!とんだ連帯保証人ですよ!引き受けた覚えのない!」
ロハス「罰は俺が受けるんだって。ほんの2日間おとなしくしてくれりゃいいだけ。恨むならこの人を恨んだ方がいいよ」
天才「お手本のような責任転嫁(リフレクター)してんじゃねぇよ」
(着々とあのアホに近づきやがって…)
天才「それより、俺が人質をただ2日間軟禁するだけだと思うか?」
ロハス、パターソン「へ?」
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声を揃えて王のほうに目を向けるふたり。
国王代理は黒い笑みを浮かべ、続けた。
天才「あんな舐めた条件を飲むってか?おいおい、俺にジョークをふっかけるのはまだ早いぜロハス」
ロハス「ふむ…では、王の考えをお聞かせ願おうか。」
パターソン(なんか嫌な予感が)
天才「民衆には、娯楽ってモンが必要だ。お前らもエンターテイナーの端くれなら、わかるだろ?」
ロハス「…芸人を取り締まっておきながら、娯楽とは。」
パターソン「俺は違いますけど」
天才「まぁ聞け…知っての通り、この国は『芸人の聖地』なんて呼ばれてやがる。それに乗じてやりたい放題しやがるお前ら芸人どもに俺は危機感を覚え、無秩序の芸人行為を戒めることにした。言っても聞かねえから牢にブチ込んだがな」
ロハス「……」
パターソン(そういやこの前、市場の方で誰か爆発してたな。あれから音沙汰無いし、どうせドドンだろう)
天才「すると当然、他の娯楽が必要になってくる。俺たちが大会を盛り上げるのもそうだが…限度ってもんがあるし、何より繰り返すだけではオーディエンスは飽きちまう。」
天才「そこでだ」
組んでいた脚を解き、椅子から立ち上がる天才。
天才「ここは『いにしえの王国』。趣向を変えて、王政に相応しい原初的な娯楽を民に提供しようと思う。それは…」
シャフ度。
「公開処刑だ」
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眼を見開くロハス。
さっきから震えが止まらないパターソン。
天才「筋書きはこうだ。舞台はいにしえの王国メインステージ、その中央の吊りリフト…『カオスの天秤』の一方に哀れな生贄を、もう一方に天秤を釣り合わせる為の重しを乗せる」
天才「しかし、その重しは時間とともに位置がズレ、ちょうど約束の日の日没に『奈落』に落っこちる仕掛けだ」
天才「当然天秤のバランスは崩れ、あえなく生贄も奈落に真っ逆さま。もちろん死にゃしねえが…」
ロハス「ハッ、第4回大会の伝説の一戦以降『芸人の墓場』とも呼ばれている、あの『奈落』に落ちるってことは…!」
パターソン「芸人……扱い………」ガクガク
天才「その通り!今まで何とかシロだったお前が、親友の手によって晴れて芸人の仲間入りという訳だ。当然、その場で確保のち禁固刑な」
ロハス「何という独裁ショー…!酷すぎる!何食ったらそんな発想に辿り着くんだ…!」
パターソン「酷…(えっお前が言うの?)」
天才「悪趣味なショーだが…悪くはねぇだろ?ククッ、最高権力者に楯突いたことを後悔させてやろうじゃねぇか」ニヤァ…
ロハス(うわぁ…めちゃくちゃ良い顔してる)
天才「タイムリミットは2日後の日没、18時ちょうどだ。これだけ猶予を与えてやったんだ、1秒たりともまけたりはしねぇぞ」
パターソン「嘘……だ…………」
パターソンは悲しみに暮れ、膝をついた。
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ロハス「まあまあ、心配すんなって!2日間なんてあれば余裕で戻って来られるってば。終わったらまたBD上映会やろうぜ」
パターソン「終わった……ロハスは昔から約束事とかしても時間に余裕あったらダメな奴なんだ……今まで朱に交わらないように頑張ってきたのに!!ああ…俺も結局芸人の烙印を押されてしまう…芸人になってしまう…!!芸人はイヤだ、芸人だけは…!」
ロハス「大丈夫だって!今までも色々あったけど何とかしてきただろ?」
天才「そこまでだ。説明も終わったことだし、これより彼の身柄はこちらで預からせてもらう。オイ、連れて行け」
訓練された警備員たちは彼を軽々持ち上げ、しょっ引いてゆく。
パターソン「うわあぁぁぁぁ嫌だァァァァ!!ウワァァァァァ!ロハスゥゥゥ!マジでちゃんと早めに行動しろよッ!まに合バなかったらいっジョウ(ヒック)一生恨む゛がら゛なア゛ア゛ア゛ア゛!!」
あまりの不条理に体をくねらせ必死にもがくパターソンだが、どこぞの妖精よりも屈強な警備員に、なす術なく別室へ連れて行かれるのであった。
………………………………
天才(あんなに見事に泣かれたらちょっと笑いそうになるな)
ロハス「ハハハ、結構うるさいでしょ?アイツ昔から泣いたらあんな感じなんすよ」
天才「お前……」
ロハス「よく背中に虫入れたりしたんすけど、これがまたいいリアクションで!ワーワー泣き喚いてたらアイツそのまま川に滑り落ちて。楽しかったなぁ」
天才「どっちが邪智暴虐だよ」
あまりの酷さに、国王代理は少しばかりツッコミに屈した。
その後、国王代理から解放されたロハスはすぐに出発…とはいかず、王国最寄りのネカフェで始発までやり過ごすことにした。初夏、満天の星である。
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【翌日17:50 刑執行まで残り24時間】
公開処刑────
そのイベントの名のもと、おなじみの戦いの舞台は悲劇の処刑場へと塗り替えられていた。
すっかり雰囲気が変わったメインステージを見下ろす城のテラス、
ひとしきり指示と準備を終えた国王代理は、柵にもたれてひとり夕日を眺めていた。
天才「残り一日…か」
???「また随分凝ったことしてるのね」
背後から、よく聞き慣れた声が。
天才「ギルティース」
ギル「エンターテイメントも、程々にしときなよ」
天才「…程々じゃつまんねぇだろ、こういうのは」
ギル「そうね。
……随分、気にかけているみたいだけど?」
天才「…ヘッ」
身体の向きを変え夕日に背を向け、再び柵にもたれる天才。
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天才「あいつは自由な奴だ。それでいて、無限のポテンシャルを秘めている」
陽が、遠く見える山々の影にそっと触れる。
天才「だが…いつまでも天然のままだ。少しはやるようになったが、余りにもフラフラと無軌道で無責任がすぎる」
ギル「だからって、あまりパターソンを巻き込まないでほしいのだけれどね。他人とは思えないもの、あのコ」
天才「そりゃアイツが言い出したことだ。俺は…ロハスの信念を試しているだけなのさ」
ギル「いつか、自分を越えてほしいものね」
天才「……バーカ、あくまで俺が一番なんだよ。それより夕日に見惚れて落っこちるんじゃねぇぞ。怪我人が出たら、せっかくのショーが台無しだ」
ギル「そこまでドジじゃないし!」
やがて陽は沈み
…今度は厚みを増した雲が山の奥より顔を覗かせる。
(あー、こりゃデカいのが来そうだな。さぁロハス…お前には見えているか?)
(この暗雲が……)
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【約束の日 刑執行まであと13時間】
ロハス「FPSやめられないんだけどwwwwwwwwww」カシャカシャッダンッダンッ
ヒーロー「裏回るわ。おっ」
ロハスは友と共に夜もすがら電脳遊戯に興じていた。
辺りはすっかり闇に包まれ、そして唸るような風雨が村の家々に降りかかっていた。
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ダンッ!ダンッダンッ! 【Victory】
ロハス「よっしゃナイスヘッショォ!相変わらず上手いなヒーロー!」
ヒーロー「やっぱ持つべきものはコンビ撃ちできる相方だな。大満足だわ」
ロハスも、満面に喜色を湛え、しばらくは、国王代理とのあの約束をさえ忘れていた。
ロハスは、一生このまま戦場“ここ”にいたい、と思った。こんな感じで生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。メロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。
ロハス「いやーwもう何時間やったんだろなー。んしょ、私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに町に出かける。大切な用事があるのだ。」
ヒーロー「(深夜テンションかな)俺も流石にちょっと疲れたから1戦ソロやって終わるわ。またな」
ロハス「りょ」
そう言うとロハスはPCの電源を落とし、サッと就寝の準備を済ませ、ベッドにもぐりこみ、死んだように深く眠った。雨は降り続いている。
【刑執行まで残り7時間】
眼が覚めたのはその日の昼頃である。ロハスは跳ね起き、
ロハス「南無三、寝過したか。いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。きょうは是非とも、あの国王代理に、人の信実の存するところを見せてやろう。急げ急げ」
どうやら昨晩雨が降っていたらしく、外は雨の匂いに包まれていた。身仕度は出来た。さて、ロハスは、ぶるんと両腕を大きく振って、矢の如く走り出ようとした。
刹那。
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「おにぃ、どこへ行くの?」
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本日はここまで
明日終わらせられたらいいなぁと思ってます
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そういや国王って誰なんだろ?
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>>26
その辺ちょっと雑になってしまいました…
天才は「一日署長」みたいなのしかやらなそうという、なんとなくのイメージからでした
代理であるということに特に意味はありません
あと今日終わるとか言いましたが、予定が変わったのでやはりガメー進行にします
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ロハスは恐怖した。
玄関開けたら2Fで妹。FPSにのめり込んで気が付かなかった。え?もしかしてずっと家の前にいたの?
・・・・
気まずい。
否、先を急がねば。沈黙を打ち破らんとロハスが切り込む。
ロハス「お、おはよう妹よ・・・」
妹「おにぃ」
かつて同じデビュー大会で対峙したときと同等かそれ以上の威圧感。
幾筋もの汗がロハスの体毛の隙間を流れる。
妹「帰ってきてからずっと顔も合わせてくれないし」
「私に黙って、今度はどこに行くの?」
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ロハス「…大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには他にも優しいお兄ちゃんがいるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、急いでいる時に引き留められる事だ。おまえも、それは、知っているね。だから兄を困らせてはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、ほんと。お願い」
妹「……ずっと待ってたの。城下町に遊びに行ったんでしょ?お土産話してくれるかなってずっと楽しみに待ってたのに。村に帰ってくるなり家に閉じこもっちゃってさ。おにぃ疲れてたみたいだから明日の朝また会いに行こうって思ってたの。
おにぃの為においしいものたくさん作ったんだよ?サンドイッチ持って行ってインターホン鳴らしても出ないし。誰かとずっと喋ってるから邪魔しちゃいけないと思って時間を空けてまた来ても出てくれないし。
まる1日差し入れとか作っては持って帰り作っては持って帰りしてね。いつ出てきてくれるのかな、いつ出てきてくれるのかなってずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
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ロハス(あわわわわわ)
恨み言を吐き続ける妹。その鋭くもどこか弱弱しい眼と、その手にある冷めきったアップルパイが、独り孤独な夜を物語っていた。やらかした。
ああ、ゼウスよ、Dr.神様よ。しずめたまえ、荒れ狂うこの妹を! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。死にはしないけど。
ロハス(違う違う、祈ってる場合ではない…クソッ!)
ロハス「本ッッッッ当ごめん!!無神経なお兄ちゃんで!!埋め合わせは後で必ずするから!あっそうだ朝飯まだだからそのパイ貰うわ本当にありがとう!美味い!じゃ!!」
妹「あっちょっと!・・もうっ!」
冷めきったパイを口の中にねじ込み、妹の静止を振り切り、痛む胸と脇腹を押さえながら走り出す。
本当ごめん妹。ちゃんとお土産買ってあるから。
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逃げるようにしばらく走ったのち、喉の渇きを覚えたロハスは自動販売機より水を購入。
途中何度かボトルを咥えながら、息を整えるように歩いていると、この村唯一の駅が見えてきた。
ロハス「まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。駅までゆっくり歩こう」
と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。
ぶらぶら歩き、そろそろ村唯一の駅に到達した頃、降って湧わいた災難、ロハスの足は、はたと、とまった。見よ、駅のダイヤグラムを。
『きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々(とうとう)と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた影響で全線運行休止となっております。復旧の目途はまだ立っておりません』
無機質なアナウンスに、ロハスは茫然と、立ちすくんだ。
ロハス「嘘だ…チクショウ、何でこんな事に!時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。死にはしませんが。」
『きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々(とうとう)と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し…』
しかしロハスの叫びをせせら笑う如く、繰り返されるアナウンス。
ああ無常。泣きっ面に蜂(※)とは、このことである。
※注 アントンには出せない
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【刑執行まで 残り6時間 ───】
もはや絶望か、そう思われたその時、
近くの道路からダンディな声が。
「困っているようだな」
ロハス「その声は…!」
愛機・ブルーファルコンを携え、そこに立っていたのはロハスの友人、魔のパンツであった。
その姿は下着一丁であった。
(ヘルメット・ネクタイ・ブーツは着用)
ロハス「パンツ!!なぜここに!」
パンツ「説明は後だ。乗れ!(一度は言ってみたかった)」
ロハス「ああ、助かる!(こういうシーン憧れてた〜w)」
思いもよらぬ助け舟に困惑しながらも、九死に一生を得たロハスであった。
ロハスが飛び乗るや否や、パンツのマシンは轟音を鳴らしながら王国に向けて走り出す。
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──────
────────────
ロハス「…で?口ぶりといいタイミングといい、俺が急いで王国に向かっている事を知っているっぽいけど」
パンツ「その通りだ。…今あちこちで話題になっているからな」
ロハス「そうか…具体的な状況を教えてくれ。テレビもねぇし、ラジオもねぇし、スマホの回線ぐーるぐるなんだ」
パンツ「パターソンが文字通りいにしえで秤にかけられていて、その様子がRTF(※)よろしく全世界生中継されているのだ。」
※RTF…れでぃとぅふぁいとの略。
ロハス「…!始まっているのか!ていうかスゲェ大ごとにされてる!」
パンツ「放送が始まったのがちょうど昼前辺りだったか…それと電車の運行状況を見てお前の村に駆けつけたという訳だ。」
ロハス「そうだったのか…助かったよ。イヤマジで」
パンツ「フッ、佳き友を持ったものだな…お互いに、だが」
ふと横に目を遣ると、いつも電車の窓から眺めていた穏やかな清流がごうごうと荒れ狂っている。そんな変わり果てた姿の川とは対照的に、パンツは穏やかにロハスに語りかける。
普段と変わらぬ落ち着いた様子のパンツに、ロハスは徐々に己の平穏を取り戻しつつあった。
その姿は下着一丁であった。
パンツ「安心しろ。何もなければ、ここからなら城までなら2時間もあれば到着する。日没の18時までには充分間に合うだろうさ」ハッハッハ
パンツの愛用機は川沿いの道を駆ける。自ら裁きを受けるため、友のもとへ急ぐ若き者を乗せて───。
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泣きっ面にはち(アントンには出せない)で草
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ちょこちょこ挟まれた小ネタが良い味出してる
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【13:30 いにしえの王国】
『…さて、前置きはもういいだろう。ようこそお集まりくださいました、お忙しいクセに公開処刑と聞いて飛んできた 悪 趣 味 なヤロー達』
『もう一度忠告するが、俺様の言う事、そして会場のルールに逆らうヤツは後ろの“特等席”にご案内だ。身に覚えがある者は、存分に気を付けたまえ』
ワハハ…
今回の「処刑場」…メインステージを遮るように仮設された舞台の上。
マイク片手に立ち回る『王』がスピーカーを通して『国民』に語りかける。
『これより哀れなる生贄に、束の間の享楽を捧げようじゃねぇか。』
『さぁ踊り回れ罪人達よ、ボケーッと口開けてんなよ愚民ども!』
天才『刮目せよ!王の宴の始まりだァ!!』
ワアアーーーーーーーッ!!
ウオオーーーーーーーーッ!!
響き渡る『王』───15人目の天才のアナウンスに、半楕円状に展開された観客席が湧き上がる。
この日はDCB64はもちろんのこと、様々な一芸持ちの選手たちが集い(“アイマス”からは出演NGが出た)、さらに特例で檻の中の芸人も動員。
天才の鶴の一声で集まったトナメの選手たちによる、余興という名のファン感謝祭の舞台が用意されていた。
そしてこれは、塀の中の芸人たちがクサい飯を食らいながら貯めに貯めた、ネタという名のガス抜きの場でもあった。
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────────────
パターソンは悲しんでいた。
パターソン「はぁ、何でこんな事に…」
陽は、西に傾きかけていた。
『カオスの天秤』の片側に、パターソンは座っている。鎖によって両腕をリフトに繋がれ、湧き立つ観衆にその姿を晒されながら。
本来ならば彼の身体はそのリフトと共に『奈落』へと真っ逆さまであろう。
しかし秤はもう一方のリフトに乗っているガメーによって均衡が保たれていた。
「ガメ-!!」
特徴的な鳴き声を上げながら、虚空に向けて一定のタイミングでハイドロポンプを撃ち続けるガメ-。
パターソン「…ゴーゴーうるせぇな」
「ガメ-」
自らの噴出の反動で下がり続けたその先には、死の奈落がぱっくりと口を広げて待っている。
パターソン「はぁ…ロハスの奴大丈夫かなー…電車止まったって聞いたし…」
「ガメ-」
自ら死にゆくガメー。
パターソンは知る由もないが、その姿は自ら裁かれるために急ぐロハスに似ていた。
だがその存在意義は、ロハスの罪を量る為の分銅でしかない。
パターソン「しかしこんな辱めを受けるとは…ウゥ、今すぐ消えたい。」
「ガメ-」
身勝手に生み出され、あっけなく消えゆく命。
虚しく響く噴出音は、そんなガメーの寂寥感を演出していた。
パターソン(来なかったら、本当に恨むぞロハス…)ヒザカカエ
「そんなに丸まってちゃあ悲しみのタマーキンガメねぇ」
パターソン「あ?何だとコラお前」
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一方そのころロハス達───
パンツ「クッ私とした事が…!
慌てずにルーティン(パンツ)を守っていればこんな事には…!」
とある峠に差し掛かったところで検問に引っかかったロハス達であった。
愛機から降りるよう促され、それに従い警官に補導されるパンツ。
その姿は下着一丁であった。
警官A「えー13時48分、公然わいせつの疑いで現行犯逮捕」
パンツ「わいせつだと?誇り高き私の正装だぞ!?」
警官B「あーなるほどなるほど、署の方でお話聞かせてもらうね(常習の可能性があるな)」
パンツ(迂闊だった…だがロハスだけでも…!)
(何としても、あの日の恩に報いるのだ…!)
────────────
───────
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───────
『どうして…どうしてなんだ…誰も私を…』
『そんなところで布にくるまって、何やってんすかオニーサン』
『何だ君は……私の格好を笑いに来たのか!?』
『…?笑うわけ無いじゃん。何を怯えてんすか?』
『馬鹿な。…誰も彼も私の姿を見ただけで叫び、或る者は罵るというのに。』バサッ
『そうか…でも、それがオニーサンの生き方でしょ?俺はスゲーと思う。』
『!…君は、私を肯定してくれるのか?』
『肯定するも何も。襲われてたお婆ちゃん腰ぬかしそうになって逃げてたけど…強盗を撃退してたんだろ?強えーし、カッコよかったぜ。名前は?』
『わ、私の名は……』
…かつて私はズボンやスカートに隠れた下着のように、外の世界を恐れていた。
独りよがりにもがき続け、孤独に苦しむ日々であった。
だが、それは間違っていた。
尻に食い込んだ下着は、手によってしか直せない。
そうして手を差し伸べてくれた彼のおかげで、私は此処にいる。
そう、彼の自由さが教えてくれたのだ。
下着
『己』をさらけ出す、勇気を・・・!
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警官C「はーい同乗者さんも話聞かせてもらいますねー」
ロハス「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」
警官C「どっこい離しませんよーはい何か身分の証明できるもの見せてくださいねー」
ロハス「さては王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
警官C「そうですねー公務ですし」
どうやら王国の管轄だし、パトカーで送ってもらって…とも考えたが、留置場で日没を過ごすことになっては元も子もない。またしても危機である。
ロハス(まずい、このままでは───ん?)
パンツ「……こうなった以上は、観念しよう。
実は薬物を所持している。車内だ」
警官A「何?本当に言ってんの?」
パンツ「フン、幾度となく『変態』とは呼ばれてきた私だが…生まれてこの方嘘をついたことはない。」
警官A「なるほど…警官B、車内だ。私は応援を呼ぶ。慎重にな」
警官B「了解」
言われるがままに車内を探索する警官B。手錠で両手の自由を奪われたパンツは、警官Bに追従し、声でその在り処を伝える。
警官B(ふむ、随分整っているな…なるほどこのケースの中か)
警官B(む。何だこの派手な布エンッ!!!」
強烈なアンモニア臭により、突然叫び声をあげて気絶する警官B。
パンツ「それは私の……」
警官A「っ!どうした警官B!?」
「・・・“勝負下着”だッ!!」
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ドンッ!!!
警官A「うおおッ!!」
叫び声に気を取られていた警官Aに、ダッシュAを仕掛けるパンツ。
ひるむ警官A、間髪いれず今度は警官Cにのしかかるパンツ!
警官C「なっ!?」ドサッ!!
倒れこむ警官、つかの間の隙が生まれる!!
パンツ「今だロハス!!」
ロハス「あ…ああ!」
警官D「止まれ!」ガシッ
別の場所より応援に駆け付けた警官Dが、ロハスの腕を捕らえる!
ロハス「ク・・・ッ!気の毒だが、正義のためだ!」
強引に、正義の象徴たる警官を振りほどくロハス。
警官D「行かせてなるものかぁぁぁぁ!!!」
ロハス「うおおおおおおおおおッ!!!」
警官Dは誠実で、正義感に厚い男であった。
幼少より刑事ドラマを好み、厳格な両親のもと強く育った。
憧れの存在となるべく日々訓練と勉強を積み重ね、
トナメ選手に負けず劣らずの膂力と戦闘技術を備えた優秀な警察官となった。
だが真面目で、滅多にバラエティ番組を見ない家庭ゆえに、知らなかったのである。
ビリビリィ!!
芸人の服は、すぐに破けるということを!
(個人差があります)
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警官D「何!?ば、バカな…しかも脚速っ!!」
まんまと逃げられてしまった警官D。
その手には、上半身ぶんの布全てが掴まされていた。
芸人…もとい、フォックス族のその恵まれた強靭な脚をフル稼働させ逃走するロハス。
彼らの全力疾走に追いつくことのできる種族は…ほぼ存在しない!
ロハス(……ッ!すまん、パンツ…!)
パンツ(フッ…私のサインに気づいてくれてありがとうロハス)
パンツ(あとは…お前次第だ。)
抵抗することなく、警官Aに組み伏せられるパンツ!
パンツ一丁、前科一般。
だが情の厚さは…天下一品!!
警官A「くそっ、雑木林に逃げられた…!逃がすな!追ってくれ!」
パンツ「…信頼に、そして信念に報いるのだ…!」
「・・・走れ、ロハス!!!」
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熱いタイトル回収でしたね。
次回の投稿でいよいよクライマックスです
果たしてロハスは間に合うのか。パターソン、そしてガメーの運命は・・・
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普通に公務執行妨害で草
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(トリップ間違えてるかもしれませんが本人です)
突然停止しちゃって本当にごめんなさい!
近日中に取り掛かるので、存続でお願いしますm(_ _)m
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