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【SS】私的SSを投下していくスレ
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私的な二次創作SSです。キャラクターの口調、交遊関係等に個人的な解釈が含まれています。
基本的には既に書き終わっているものを一気に投下します。
とりあえず一本だけ投稿したかったので再投稿するかは解らないのですが、SSは個別に新規スレッドを立てる方針のようなのでスレ立てしています。
数レス程度の短編SSではありますが、お付き合いいただければ幸いです。
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れでぃ、とぅ、ふぁいと。
主催者のアナウンスとともに歓声が響くスタジアムを背に、ひかりが走り抜ける。
まるで豆粒のような、あるいは人をも飲み込むような無数の閃光が、秋風に散る降る落葉を撃ち抜き炭に変える。
地面に降り立ち肥やしに変わることも許されぬそれを見送り、彼女はふうっと長い息を落とした。
白く月夜に溶けたであろう吐息はパワードスーツのフルフェイスのなかにだけ広がり、音も残さない。
最も、彼女がそれを解いていたところで観客たちの声に掻き消されていたことだろう。
今日の試合も大盛況だ。一進一退の勝負に手に汗握る観客たちは、贔屓の選手に向けて怒号にも似た歓声を送り続けている。
(届かなかった)
長きに渡って続いた予選の果て、彼女に叩きつけられたのは敗退の二文字だった。
第二回、第三回、第六回と大規模トーナメントの度に駒を進めていた決勝の舞台から、彼女ははじめて叩き出された。
油断していた、とは思いたくなかった。強さに胡座をかいていたことなどただの一度もない。
装甲が隠してくれるのをいいことに、ぎゅっと唇を食む。
(届かなかった。『あいつ』に、初めて届かなかった……!)
踏み締めた地面が、ざり、と砂の音を立てる。
観客たちは彼女を『門番』と持て囃す。主催もその実力を認め、『八王子』の名すら与えた。
けれど、所詮門番は門番である。彼女が頂上に届いたことはない。
いつだって彼女は主役たる『天才』に引導を渡され、その道を譲る『脇役』だったのだ。
しかし、今回は違った。彼女の閉ざす門をこじ開けたのは――。
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(遠い)
所詮脇役は脇役か。
酒にも煙草にも嫌な思い出が増えた。次に怖くなるのは何だろうか。
プレッシャーに押し潰されて表情を強張らせる後輩ではないが、このままでは自分の頬まで凍りつきそうになる。
不意に、一際大きな歓声がわあわあと背中を叩いた。
今日の試合は決したのだろう。
此処からは早く離れた方がいい。出番が終わったとはいえ、彼女は人気の選手のひとりだ。会場を後にする観客たちの目から隠れるに越したことはない。
歩き出そうとして、しかしその足は縫い止められた。
顔を上げたその先に、『彼』が居た。
「……試合を、観なかったのか」
喉を詰まらせながらやっと捻り出したその一言への返事はない。
それどころかポケットに手を突っ込んだまま、つかつかとこちらへ向かってくるばかり。
薄っぺらい自尊心とまだ尽きていない対抗心は後ずさることも許してくれず、近付く彼を睨み付けるのが精一杯だ。
「おい」
呼びかけど足は止まらない。
暗い月夜で、顔色は読めなどしなかった。
最も、凡人の思考とまるで重ならない『天才』様の動向なんてただの一度も読めたことはないが。
彼は思惑を目の色に乗せず、そのまま彼女の横を通り抜けた。
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「これはトーナメントだ。追うな。向かってこい」
その一言だけを、月明かりの下に置き去りにして。
呆然と立ち尽くしたまま、彼女は揺れる尻尾を見送っていた。
やがて熱に浮かされた観客たちが会場から出てくると解っているのに、身動きができない。
(追うな?)
ぞくりと背筋が粟立った。
『彼』の前で膝をつくのに『いつだって』と枕詞がついたのは、それを認めてしまっていたのは果たしていつからなのだろうか。
遠くなる背中がこれ以上小さくなる前に、滲んでいく前に、彼女は空高くに巨大なひかりを打ち上げた。
「お前の優勝に、賭けておいてやる!」
振り絞った声は、遠くなる背に届いたのだろう。
彼は決して振り返らない。ただの一度もこちらを見やしない。
しかし、拳を振り上げてくれた。
はっ、はっ、と吐き出される荒い息が、夜風に冷まされることもなくフルフェイスメットの中で跳ね返る。
彼の背を見送り、彼女は踵を返した。
爆音も閃光も、興奮冷めやらぬままスタジアムから飛び出してきた人々にしっかり届いていたに違いない。
ざわめきが届く前に、彼女は『脇役』らしくその場から消えてみせた。
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「いやあ、だからさ。決勝に行ってから敢えて負ける、そういう笑いもあるもので、だからその、ファイアアアア!!!」
必死に弁解を続けながら爆走する芸人を、かつて彼に蹴落とされたふたりが鬼の形相で追いかけていく。
その手法には覚えがあるな……と燻る記憶を掘り返すも、肝心なところで思考に靄がかかった。何かを忘れているような気がするのだけは確かなのだが。
唸る彼女の横では、はははと乾いた声がし続けている。
「あー……転校生の胃がまた荒れるやつだ……」
追われる友人の姿に何を重ねたのやら。
ブロック一位で勝ち抜けた少年の思考は遥か彼方へ飛んでいるらしい。目は虚空を見つめている。
その横で腕を組んだまま無言を貫いていた男は、やがて耐えきれないとばかりにとんと彼女の肩を叩いてきた。
「お前はあれに混ざらなくていいのか」
「あれ、とは?」
「ナザレンコに蹴落とされたのはお前もだろうが。しょうもない動機であっさり敗退したあいつに何か言うことがあるんじゃないか」
不毛な追いかけっこを止めないのだ、勝ち抜けた二人も微妙な心境なのだろう。
しかし、彼女の気は晴れていた。
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「気付いたんだが、私は存外『熱意』というのに弱いらしい」
「はぁ?」
「例えば悪意。邪悪さに言い換えてもいい」
第三回の記憶は既に遠いが、思い出せるのは強烈な悪意を前にした寒気だった。
『脇役』の名に引きずられたのか、真の巨悪の前に彼女の弾丸はあえなく霧散するばかりだった。
「それから熱意。ただひとりだけの冠を狙うのも、この最悪のブロックで意地でも勝ち上がろうとするのでも」
何を指しているのかを理解した男たちが居心地悪そうに、けれど誇らしげに肩を竦めた。
最古参であるのも手伝って、彼らは表情を覆い隠す強固なヘルメットの下に隠れた彼女の美貌を知っている。美女からの称賛は優勝の栄冠とはまた違うトロフィーだ。
しかし、その気恥ずかしさはすぐにどこかへ霧散する。
「あとは、そうだな……試合を彩るエンターテイメントに命を賭けること」
その称賛が向いたのは、まかり間違っても死の追いかけっこをしている芸人ではないはずだ。
装甲の下で、果たして彼女はどんな顔をしているのだろう。
「……塩を舐めたい。胸焼けでも吐けるのか、一度聞いておくべきだな」
「受動喫煙ってこういうことでいいのかな。こんなの浴び続けたらそりゃあ奇行の一つや二つもするよね」
苦い顔で胸を抑える戦友に、彼女はちいさく首を傾げた。
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以上です。
短文ではありますが、読んでいただきありがとうございました。
脇役が次大会で大活躍してくれるのをほんとうに応援しています。
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一応短編集の扱いとして掲載しておきますね
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ありがとうございます。wiki編集の方法だけは分からなかったので非常に助かりました。
もう一篇投下します。
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少年ははじめ、この光景を興奮が見せた幻想なのかと錯覚した。
自分を見つめる不敵な笑みも、それがそのまま空の底へ向かうのも、高揚が見せたまやかし。
けれど、それは現実のものだった。
「一位通過は……これでÅライムライトÅですね……」
観客も、主催者も、まして当人すらも困惑する中、少年の第八回トーナメント予選は終わりを迎えた。
自身の試合は終われども、予選はまだ続く。
何時からか習慣になっていた昼食後の胃薬を飲み下し、少年は心ここに有らずのまま関係者席でぷらぷらと足を揺らしていた。
今日の試合は、今大会の『同期』同士が争っている。その勝敗如何で贔屓の古参選手の進退が決まることもあり、歓声の熱色は様々だ。
死闘を繰り広げているふたりとは凡そ関係ない灼熱色のタオルをぐるぐると振り回す一角を、少年はぼんやりと見つめていた。
「ねえねえ、試合観ないの?」
「えええっ」
突然肩に感じた他人の体温に、びくりと身を跳ねさせる。
慌ててそちらを見やれば、そこには先日の試合でブロック二位通過を確定させた少女――いや、果たしてほんとうに女で良いのだろうかと一瞬迷って、少年は考えるのを止めた――が立っていた。
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「ふふ、何その悲鳴。ちょっとお兄ちゃんに似てたけど」
ふんふんと気分良さげに鼻を鳴らす彼女――としておこう――に対し、その兄が実在しているのかを聞くほどの野暮ではない。
「び、びっくりしただけだよ。それに、観る気はちゃんとあったんだ。㌦ポッターは同期だし」
「それを言うなら、あたしもあの子も同期じゃない」
「うん、それはそうなんだけど……何でかな、㌦ポッターと、ヤミノツルギは、ちょっと特別な感じがして……」
それが何故なのか、少年は上手く咀嚼できていない。思い出そうとしても記憶にもやがかかるばかりだ。
先輩の笑みと、何故か離せなくなった胃薬。それから謎の黒い光……混濁する幻想の記憶の中で、二人を見掛けたような気がする。
向こうもそれは同じらしく、第八回トーナメントの予選会場ではじめて顔を見合わせた瞬間には思わずぎょっと目を見開いたものだ。
その驚きを、彼女に対して抱いたことはなかった。
「それ、ヤミちゃんも似たようなこと言ってたよ。男の子ってほんとそういうの好きだよね」
呆れ顔で呟いて、彼女は少年の隣に腰を下ろす。
抱えたポップコーンをぺろんとかっ込んでいく横顔に投げる言葉を見つけられないまま、少年は舞台へ目を向ける。
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まさに刹那といっていいその瞬間、勝負は決した。伸びた舌が対戦相手を絡めとり、ハイラルの青空へ勢いよく投げ出す。
「やったー!! これでヨッシー二人抜けだあああっ!!」
「えええええっ」
飛び上がって喜ぶ少女が、呆然としていた少年の手を握ってぶんぶんと勝手に拳を突き上げる。
悲喜こもごもの歓声に包まれる会場との温度差でごりごりと削り取られていく少年の胃壁など、知ったことではないのだろう。
「ねっ、ねっ、凄いね! あたしも二位で、あの二人もトーナメント通過!」
「そ、うだね」
「極道くんもアルベルトくんも潜り込んだし、キミは一位だよ! まさに新時代ってカンジしない?」
「えっ」
ふわふわと地面に浮いたまま降り立てないでいる少年に、ぐさりと言葉の槍が突き刺さる。
(一位? 誰が?)
もやつく幻想の中の記憶で出会った戦友の存在は信じられるのに、自分はまだあの一戦を現実だと受け止められていない。
握り締めた胃薬のビンの冷たさだけが確かだ。
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もやつく幻想の中の記憶で出会った戦友の存在は信じられるのに、自分はまだあの一戦を現実だと受け止められていない。
握り締めた胃薬のビンの冷たさだけが確かだ。
「はー、笑えない女ちゃんも勝ち抜けて欲しいなぁ。本戦にも同期の女の子がいてほしいよぅ……ま、当たっちゃったらあたしが勝つんだけどね。おじいちゃんにリベンジするまで負けてられないもの」
カチカチとスイッチを切り替えるように表情を変える彼女は、最後にこちらを見てにんまりと口許を緩めた。
「キミも同じでしょ? ね、てっぺんであたしと当たるまで負けちゃ嫌だよ。みんなに新しい時代を見せつけてやろう」
ひらひらと手を振って、彼女はどこかへと駆けていく。
(同じ? 誰が? 何と?)
だって、彼女と自分の立場は違う。
あの子は『八王子』の一角たる老師に最後の一太刀が届かなかった。予選も二位で終わった。
自分は違う。負けた試合はあったけれど、結局はブロック一位で勝ち抜けた。
『彼』にだって膝を付けさせて――勝った? 本当に?
(違う、あの人は笑ってた。ほんとうに嬉しそうに!)
ショートケーキのいちごを最後の最後に食べるような、晴れやかで清々しい笑顔。
あれが戦意の喪失であるものか。誰より必死で追いかけて、誰より真剣に向かい合ったからこそ解る。
あの人は喜んでいたはずだ。『新時代』の訪れに。
「負けてられない」
彼女にも、あの『戦士』にも。
ぎゅう、と拳を握り締める。
沸騰するような胃の痛みは、とっくに引いていた。
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以上です。
妹は人間のかたちしててもヨッシーのままでもご想像にお任せします。
ありがとうございました。
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短編集の扱いとしておきましたが、未更新状態が長引いている為当スレは過去ログ送りにし、新作執筆時は新スレ立てをお願いします
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