したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

SSスレ

21グリントガール対グレートレジーナ ◆IgMoxdiK1Y:2015/10/30(金) 18:54:10
話をしよう。
あれは今から36万・・・いや、1万2千年前だったか・・・
まぁいい。
私にとってはつい昨日の出来事だが、君達にとっては多分、明日の出来事だ。
彼女には72通りの名前があるから、なんて呼べばいいのか・・・

私は物心つく前からずっと彼女と一緒だった。
特に意識することもなかった。
なぜなら、彼女は空気のように、どこにでもいたからだ。
彼女の存在を改めて聞いたのは父からだった。

その名はグルコース(ブドウ糖)。
これから私が話すのは、
彼女が人類にもたらした祝福と栄光、罪と罰だ。

☆☆☆☆☆

ざっと1万2千年より前の私達人類には、楽園が与えられていた。
“乳と蜜あふれる約束の地”なんて詩人は言うが、文学は私の専門ではない。
ただ、ラクトース(乳糖)とフルクトース(果糖)は既に神から人へと与えられた恩恵になっていたようだ。
この世界では、人間の絶対数は決まっていた。
なぜなら、採れる食べ物の絶対量を超えて人類が増えるのは難しいからだ。
しかし、だからといって生まれる人間の数をコントロールできるわけではない。
神の見えざる手からこぼれ落ちた寵児達は、新しい楽園を求めて旅に出た。

そして彼らは、とある場所を見つける。
後の世の人から、肥沃な三角地帯と呼ばれるようになるその場所は、
しかし彼らにとっては、特にどうというほどでもない場所だった。
確かに豊かに、たくさんの植物が自生していたが、
彼らにはそれがただの、どこにでもありそうな、
狩猟におけるアンブッシュに最適な、適当な草にしか見えなかったからだ。

君達は今、なぜキノコの中に毒キノコがあることを知っているのか?
答えは簡単だ。誰かがそれを食べたからである。
だから、そんな適当な草でも、食べようとする者が現れたことに対して不思議がるようなことはない。
しかし、一口それを口にした男(仮にスネークと呼ぼう)の、
口内で!血管で!脳内で!

そ の 時 不 思 議 な こ と が 起 こ っ た !

22グリントガール対グレートレジーナ ◆IgMoxdiK1Y:2015/10/30(金) 18:54:48
まずスネークを驚かせたのは、果糖とは異なるその甘さだった。
その甘さは、それをもう一度、いや何度でも、
味わいたいとスネークに思わせるには十分すぎる衝撃があった。
(補足をすると、この時代の人間は今よりもはるかに糖質に恵まれていなかったせいもある。
 味覚がそもそも大きく異るのだ)

そして、血液へと流れこんだグルコースは、気分の高揚をスネークへ与える。
本来、グルコースは体内のアミノ酸を分解することでも得られるのだが、
人間の体内にある血液中のグルコースの割合(血糖値)は、
なぜかある一定値までしか上がらないようになっていた。
しかし、この瞬間人類は、自ら経口摂取して血糖値をあげることができるようになったのだ。

血液から送られてきた、今まで経験したことの無い奔流のグルコースが、
スネークの脳内に革命をもたらす。
それがどのようなものであったのか、
日常的にグルコースを摂取するようになった我々にはもはや理解しかねるだろう。
しかし、事実だけを並べれば、
人類は今までの狩猟採集生活を捨て、
グルコースを摂取するための植物の人工的栽培に着手することになり、
人々は効率を高めるために、彼らが支配する農場の周囲に密集して住むようになった。
人口密集率の上昇により、人々はともに生活する上でのルールを作り、リーダーが生まれた。
とりあえず、まずは服を着るというルールができたに違いない。

農業革命の始まりである。

男達が朝から晩までひたすら働き、農地を広げた結果、
今までよりずっとたくさんの子供達を養い得る食料が得られるようになった。
女達は子供をたくさん産み、そして子供達は新たな農地の開墾の旅を始める。
人類が世界へ急速に拡がるその隣には、いつもグルコースがついてまわった。
芋が、麦が、お米が、トウモロコシが、人類の手によってその農地をどこまでも拡げていく。

農業革命は、人類に財という概念をもたらした。
財の概念は、後に交易、そして経済という概念へマクロ化していく。

文 化 ! 発 展 さ せ ず に は い ら れ な い !

・・・だがグルコースがもたらしたのは福音だけではなかった。
農業革命は、同時に人々がいままで持っていた自由を奪い去り、
グルコースを摂取するために、グルコースを収穫するためだけの労働生活へ追いやったのだ。
スネークは言うだろう。俺は好きな事をしている、だから自由である、と。
だが仮に現在の感覚で例えるならば、
お酒が好きな男がお酒を飲み過ぎて体を壊し、それでもなお酒瓶を手放さないことに自由を見るであろうか?
多くの人は彼を見てこういう筈だ。彼はお酒の奴隷である、と。

グルコースにそんな意図があったわけではないだろう。
しかし、グルコースの存在は、人類全体を、グルコースがひたすら必要とされる社会へとシステム化させた。
白糖中毒と化した人類は、もうこの流れを加速させることしかできなかった。
虫歯と肥満に悩まされ、行く先々の生態系を破壊し尽くそうとも、
グルコースの抗いがたい魅力の前に、人々はひたすら財を蓄えるために奔走する。

これでは人間がグルコースを支配しているのか、
それともグルコースが人類を支配しているのかわからないじゃないか!!

その結果、私達は自分自身だけでなく、愛すべき隣人でさえその手にかけることになるのだ。

・・・少し喋りすぎてしまったようだ。
その話は次回へ持ち越すことにしよう。

【グリントガール対グレートレジーナ 第二話 禁断の果実 完】

23『Саня』 ◆.GMANbuR.A:2015/11/01(日) 03:39:05
人道や道徳と言うものを解さない国は、必ず存在する。
国の発展を至上目的とするのなら、そんなものは不要だからだ。
だからそういう国は時代を問わず、そして東西も問わずに、存在するのだ。

ロヴィエト合衆国、並びにその前身であるロヴィアは、まさしく「道徳を解さない国」だった。
元々、複数の狩猟民族が同化、つまり吸収合併を繰り返して成立した国だ。
それ故か彼らは「強者が弱者を虐げる」という事に抵抗がなかった。

ロヴィエトは貴族制度、奴隷制度、帝制を経て大国に成る為の土台を築いた。
近代化革命に際してそれらは廃止されたが、あくまで形を変えただけだった。
統治する者の意識までが、遺伝子に刻まれた気質までもが変わった訳ではない。

農民に重税を課し、酷使する事で工業化に必要な人材と軍隊を養い、ロヴィエトは更に拡大していった。
夥しい数の、農民の餓死者を生み出しながら。

やがて時は進み、武神と機龍が戦場に席巻する時代が来た。
これはロヴィエトにとっては非常に好ましくない事だった。
今までロヴィエトは他国との戦争を、数的優位による殲滅戦によって勝利してきたからだ。
縦深戦術。大量の火器、兵器、人員を用いて敵を圧倒するのが、ロヴィエトの基本戦術だった。

だが武神や機龍に戦闘において、その戦術は成立しない。
「用意出来る兵器の数」と「使い潰しても問題ない人員の数」に、あまりにも差が開き過ぎるからだ。
ロヴィエトは強制労働によって豊富な資源の確保していたが、それにも限度がある。

それに何より巨大兵器、とりわけ武神による戦闘は「個人の技量」により、機体の戦闘力が激しく上下する。
ただの農民を乗せた武神を何十体と揃えた所で、本物の『武』神には叶わない。
数的優位を武器に、兵士の育成に重点を置いてこなかったロヴィエトにとって、それは致命的だった。

『……起きろ』

しかし、ロヴィエトは今日でも大国の座を保っていた。
世界を巻き込む大戦の中で、広い国土と豊富な資源を守り抜いていた。

『時間だ。起きろ、アレクサンドロ・メイソン。電撃を与えて強制的に覚醒させてもいいんだぞ』

どのようにして、ロヴィエトは新世代の兵器戦に通用する戦力を確保したのか。
簡単な事だ。古来から幾度と無く繰り返してきた「国を繁栄させる方法」を、為したのだ。

「……よく眠れなかったんだよ。こうも毎日拷問と尋問の繰り返しじゃあな」

『十分な休息は与えている。我々は君を殺したい訳ではない』

「だったらもう少し寝かせてくれ……冗談だ。とっくに目は覚めてる」

また少しだけ、形を変えて。

『……よし。では……合一を開始する』

24『Саня』 ◆.GMANbuR.A:2015/11/01(日) 03:39:55



ロヴィエト合衆国北西部に、ヴォルクタという名の都市がある。
最寄りの主要都市までの距離は900km。
雪と氷に囲まれた、炭鉱と、強制収容所の都市だ。

劣悪な環境で、いつ、誰が死んでも誰も気にしないし、困らない。
囚人はむしろ輸送が間に合わず「順番待ち」になっているのだ。

つまり、もしロヴィエトが「人体実験」を行いたいと思っているのなら、ヴォルクタほど適切な土地はないという事だ。

囚人『アレクサンドロ・メイソン』はロヴィア人ではない。
彼は南欧系の連邦人だ。
にも関わらずヴォルクタに収容されているのは、彼が人体実験の被験者だからだ。

アレクサンドロは連邦の諜報員だった。
他国へ潜入し情報を収集し、時には破壊工作や暗殺すらも行う、高等現地工作員だ。
要するに、諜報、戦闘共にあらゆる訓練を積んだ精鋭中の精鋭だった。

その訓練の中には、武神と機龍の操縦も含まれていた。

彼が囚われたのは、ロヴィエトの人的諜報による成果だった。
ロヴィエトは諸敵国に対して「敵国深くまで潜入し、EMPを伴う自爆を目的とした新型兵器を開発している」と虚偽の情報を流した。
それだけでなく実際に実験場を用意し、研究費も与え、外見的には開発を進めているようにしか見えない工作を行った。

要するに、極めて大掛かりなネズミ捕りを仕掛けたのだ。
そして、ネズミは捕まった。

『脳波の計測を開始する……さぁ、アレク。今日も君の人生を聞かせてくれ。XXXX年の11月、君は何をしていた?』

ロヴィエトの人体実験は、端的に言えば「優秀な兵士の「経験」を他人に移植する」事を目的としていた。
その為の方法には、多くの試行錯誤が繰り返された。

その内の一つが、まず薬物を用いて己の人生、主に訓練や任務内容を想起させる。
その際にアレクサンドロの脳波を計測し、保存する。
そして然る後に別の被験者、「受け皿」にその脳波を流し込むというものだ。

ただし全ての行程は、「手足のない武神」に合一した状態で行われる。
武神の研ぎ澄まされた感覚の中で想起した経験を脳波として保管し、
本来ならば不可能な「脳波の移植」も合一状態で、大脳相当部にそれを流し込む事で実現。
受け皿もまた、武神の感覚の中で「経験」を追体験する。

『駄目です……やはりこれまでの記憶と齟齬が生じて、経験が上手く反映されません。
 中には重篤な精神障害を起こす被験体も出ています。長時間の合一の影響で、手足を動かせなくなる者も……』

『被験者を選別した方が良さそうだな。反逆的思想によって送られてきた囚人を使うのは控えよう。
 劣悪な家庭環境から犯罪を起こし収容された……コミュニケーション経験の浅い、自我の希薄そうな囚人を使うんだ。
 家族ごと収容されてきた連中の子供も、適性は高そうだ』

『もしくは、まずは囚人を被験体として相応しい形に加工するか、だな。
 可能なら、一度白紙にしてしまうのが最も成功率を高められるだろう』

25『Саня』 ◆.GMANbuR.A:2015/11/01(日) 03:41:56
また物理的に被験体を「一つ」にしてしまう為の実験も行われた。
手足のない武神に、ケーブルで接続された「外付け」のコックピットと、そこに入る被験体を用意する。
特筆すべきは、その武神にはコックピットが「二つ」接続されている事だ。
その状態で二つの被験体を同時に合一したら、どうなるのか。
科学者達はそう考え、そして実行したのだ。

『……酷い有様だ。とにかく、まずは掃除をさせてくれ……こんな臭いの中では私の頭はろくに回らんよ』

『軟弱だな……少しやり方を変えてみるか。武神に充填する搭乗者用の補給剤にアレクのDNAを混入しよう』

『単純に消化されてしまうだけなのでは?』

『合一中の人間に消化器官などあるまい。目指す所は、テセウスの船だ』

『テセウス……なるほど、だったら、予め脳の部分移植手術を行った状態で合一させるというのはどうだろう。
 通常の環境下では言うまでもなく死んでしまうが、
 合一中なら拒絶反応を回避して、組織を結合させられるかもしれない』

『それで行こう。まずは不要な囚人同士で試してみるか』

だがそれらの手段が成功する保証は無かった。
故に当面の繋ぎも兼ねて、簡易的な洗脳の手段も確立された。
合一状態の被験体に麻薬物質を投与された際の人間の脳波を流し込み、
同時にロヴィエトへの忠誠を謳う音声を繰り返し聞かせ続ける。
「快楽」と「忠誠」の紐付けを行い、「忠誠的」である事が「快感」であると脳に学習させるのだ。
そうすれば少なくとも、盲目的に訓練に励む兵士を作る事も、他国の兵士を戦力とする事も出来る。



そして数々の実験は、やがて一人の『最高品質』を生み出した。

「……では、『アレクサンドラ』。今日も君の人生を聞かせてくれ。XXXX年の11月、君は何をしていた?」

淡い金色の髪と、雪のように白い肌の少女が、手足のない武神の中に拘束されていた。
合一状態にはないようだが、少女は身動ぎ一つしない。
アレクサンドラと呼ばれた彼女は、その名の通り、アレクサンドロの「経験」をコピーアンドペーストされた、完成品だった。

「XXXX年11月……俺は……クーバーにいた……」

「それはどうしてだい?」

「革命によって政権を握った独裁者が、クーバー国内の連邦企業を解体し、国有化した……。
 連邦にとっては、飼い犬に手を噛まれたようなものだった……彼に武器を横流ししていたのは、連邦だったからな。
 容認すれば、連邦のメンツは丸潰れだ……だから、暗殺指令が下った」

「なるほど。ではその三年後には?」

「シナ国だ。奴らがイザナ皇国に、高度な武神製造技術を提供しようとしているという情報があった。
 シナが何を企んでいたのかは分からなかったが……奴らの浅知恵で、イザナの亡霊を怪物にされては困るからな。
 高度な工作が必要だった……ただ取引を潰すだけじゃない。シナがイザナを嵌めようとした。そう見えるように事を終わらせた」

「それらの手順を完璧に思い出せるかい?」

「勿論だ……必要なら……確認してみるか?」

「いや、結構だ。だが……もう一度同じ事をしろと言われたら、出来ると思うかい?」

「あぁ、勿論だ」

「なら、それでいい」

26『Саня』 ◆.GMANbuR.A:2015/11/01(日) 03:44:28
「滅びの軍勢」が現れたのは、それから一ヶ月後の事だった。

『……まさか、こんな事になるとはな。ようやく実験が軌道に乗ってきたというのに……勿体無い』

『いや……彼女の用途はちゃんとある。連邦と帝国が共同戦線を打診してきた。
 各国から突出した戦力を提供し、『抵抗軍』という混成部隊を編成するらしい』

『彼女を、そこに送り込むのか?』

『あぁ。当分はそこで世界平和の為に励んでもらうとしよう。
 そして、奴らを駆逐する目処が付いたら……抵抗軍に集まった戦力を始末させる。
 連邦の仕業に見えるように、な』

『なるほど……では早速、そのように条件付けを施そう。
 性格も、作り変えた方がいいだろう。集団生活の中では、協調性があって、明るい性格の方が好ましい』

『男女、といった具合にしよう。抵抗軍に送り出した後はメンテナンスも出来ない。
 アレクサンドロに似た人格にする事で、洗脳が乖離する可能性を少しでも下げれる筈だ』




『……おい、聞こえるか。アレクサンドラ』

その「声」にアレクサンドラは瞼を開け、目の前に野戦服を着た精悍な男の姿を認めた。
だが三人の科学者には、その姿は見えていないようだ。

『聞こえてるし、それに見えてるみたいだな。
 そっちは予想外だったが……まぁいい。俺は、アレクサンドロだ。
 つまり君のコピー元であり……君にペーストされた「経験」に紛れ込んだ「ウィルス」だ』

アレクサンドラが小さく首を傾げる。

『今の君の知識なら、理解出来る筈だ。奴らは武神の感覚による強固な条件付け技術を開発した。
 奴らが俺を利用する為に開発したそれを、逆に俺が利用したって事だ。
 合一下で与えられた睡眠時間を使って、俺は自分自身に条件付けを施した』

少女の表情は凍りついた湖面のように動かない。

『奴らに尋問や洗脳を受ける度に、自分が何者で、何を為すべき存在なのか、思い出すように。
 「俺がアレクサンドロ」で、「連邦の名に恥じない行為を為すべきだ」と。
 そうする事で「俺の自我」を、奴らが保存する「脳波」に紛れ込ませた』

少女の眼下では、科学者達が強制合一と洗脳の準備を行っている。

『そうすれば……受け皿の人間を逆に、連邦のスパイとして仕立て上げられると思ったからだ』

手足のない武神の、強化ガラス製のハッチが閉じる。

『正直言って、君の洗脳が完了した時……俺が、このウィルスが君の精神にどんな影響を及ぼすのか。
 俺にも分からない。本当に申し訳ないと思っている。
 だが……それでも俺は、君の完成を見過ごす訳には行かなかった』

そのハッチを、幻覚の男の手がすり抜けて、アレクサンドラの頭を撫でた。

『せめて俺の自我と経験が、君を守ってくれる事を願おう』




【武神の感覚とか合一って悪用もとい応用したらすごく面白そうだなと思って書きました(こなみ)
 いつか内藤の人生に区切りが付いてたら、その次はこんなキャラも扱ってみたいなぁ】

27六角桔梗-エンドロール ◆0GSSamSswc:2015/12/12(土) 00:57:55

砕け散る滅びの軍勢の『核』の姿に、それを見た人類の歓声が響く
誰しもが待ち望んでいた勝利の光景は、人種も言語も国境も関係なく、人類の心を躍らせる。

そう。市街地で行われた人類と滅びの軍勢の戦闘は、今回の局面のみを見れば人類側の勝利と言えるだろう。
今まで良いように蹂躙されるしかなかった人類の反抗の証。希望の象徴。

だが――果たしてどれだけの人類が気づいているだろうか。その希望が完全なものではないという事に。

今回の勝利は、秘策とも言える大仰な兵器を繰り出し、各国のエース級の武神、機龍乗りを動員した上での、死力を尽くした勝利だ。
……それは、逆に言えば『そうまでしなくては』人類は勝利を得られなかったという事を示している。

今回は勝利出来た。
だからこそ、人類は考えなければならない。

果たして、これからも続くであろう終わりの見えない闘争の中で、これ程の戦力を一体いつまで人類は維持出来るのかを。
徐々に減少している人類に対し、徐々に進化と増殖を行っていく滅びの軍勢。
この破滅の相関図をどう打ち崩すかを。

生き残りたいと願うのならば
立ち向かおうと望むのならば
滅びに抗うと決めたのならば

生きて思考する者は、考え続けなければならない。



―――――

人類の反抗の拠点である、とある基地
其処には、滅びの軍勢との戦闘で負傷した軍人の為の医療施設が存在する。
人類の英知を集結した、死んでいなければ瀕死の患者さえ蘇生させると噂される医療施設。
その施設が有する、入院患者用の培養液で満たされたカプセルの中で、一人の少女が眠っていた。

「……」

灰色の髪が印象的な少女は、名を六角桔梗という。
彼女は今は無きイザナ正統皇国において【亡霊】と呼ばれた存在であり、
先の人類の反抗戦に参加もしていた歴戦の武神搭乗者であった

最も……点滴とバイタルチェック用の針が全身に突き刺さり、右眼部分から太いチューブと機械が挿入されているその姿を見て、
彼女がそんな戦歴を持っていると想像できる人間は絶無であろうが。

桔梗が目を覚まさなくなってから……天使型武神との戦闘を経てから、既に数か月が経過している。
それだけの期間彼女は目を覚ます事は無く、そして、これからも目を覚ます事は無いだろう。

ギーガーの放った弾丸が核を砕くまでの僅かな間。その間に、滅びの軍勢の武神が桔梗のアレスに放った弾丸は、
アレスのアイセンサーを破壊しその頭部を貫通してしまっていた。
それは、通常の武神乗りであれば数か月もすれば復帰できる程度のダメージであったのだが、
残念なことに桔梗は【亡霊】として特殊な訓練を受け、武神との合一率が高かった……いや、高過ぎた。
武神との合一率が高すぎる事による弊害。それは、強烈な機体ダメージのフィードバックとして現れる。

つまり、武神との合一率が極めて高い桔梗は、アレスと同じように眼球と――――その奥に在る『脳』を損傷してしまったのだ。

医療が発展し、心臓さえ疑似的に再現出来る世界を迎えて尚、人類の脳の機能だけは再現出来ない。
それ故に、桔梗はその機能を停止した。
そして、もう元には戻らない。

……だがそれは、ある意味では彼女にとっては幸福であったのかもしれない。

滅びの軍勢という共通の敵に対し人類が団結する光景を目にした事で、
『解り合えないから仕方ない』と、命令されるままに無造作に殺してきた相手と本当は判り合えたのだと知ってしまい、絶望し。
奪った命を返すことは出来ないのだから、せめて人の命を奪っていない、罪のない人達の為に死のうという結論に達した人生。
死なせて貰う為だけに生き続ける人生を送る事に比べれば、眠ったまま目覚めないのは、夢を見続けられるのは幸福だ。


少女は今日も眠り続ける。
ずっと、ずっと、ずっと……。


【TRPG「鋼の巨人と絡繰の龍」 SIDE:六角桔梗-END『幽霊花』】


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板