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避難所ロールスレ

1組替え式の名無し:2012/08/22(水) 00:26:22 ID:Cavuxfd2
建てました。本スレが使われてるときなどに

2国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/26(日) 23:48:37 ID:RrPNPIB6
『うーん、やはり抹茶じゃの』
「匂いだけでも楽しめるものなの?」

 最近ではどこでも見かけるHMPカフェ、その座席一つに陣取るのは、背の低い少年と欠けた少女。
 勿論少女はHMPであり、少年はそのマスターだ。
 和装の美女と言った趣の彼女は、しかしどうしてあるべきはずの右腕が欠けている。

『何を言うか主殿よ、茶の湯では匂いも楽しむものじゃ』
「せっかくのパフなんだから、味覚センサー使えばいいのに」

 HMPカフェの味覚パフは、コンビニなんかのそれよりずっといいものだ。
 が、少女は先程からそれを床に置き、蒸気ばかりを楽しんでいる。
 少年は少年で、テーブルに置いた端末を見つつ、時折唸り声を上げていた。

『風情がないのぉ、主殿』
「あぁ、はいはい」

 HMPカフェという場所は、比較的相席になることが多い。
 ファイター同士の交流の場でもあるからだろう。最近の風潮だ。

「……あ、いいこと思いついた」
『何じゃ何じゃ、ようやく解決したのかの、その「てぃー・おー・ぴー」とやら』
「いやそっちじゃないんだけどね。ちょっとしたアイデアだよ」

 他愛もない話をしつつ、二人は息抜き――あるいは暇つぶしに、会話相手が訪れるのを待っていた。

3 ◆ErqAxgccUc:2012/08/27(月) 00:15:38 ID:xSpsDu8Q
>>2

「相席、だいじょーぶ?」

 明らかに初対面なのに、ざっくばらんに声をかけたきたのは少女だった
 HMPからすればそうでもないが、人間の世界に限ればとってもちんまりした姿だ
 栗色のセミロングヘアと少し赤みを帯びた瞳で、小動物的な活発さを印象づけている

『はじめまして、と言っておこう。サキ……マスターはいつも忘れるからねぇ』

 その肩の少し上にぷかりぷかり浮かぶはヒュームボット
 Red_Rose HEAD_11を戴いている現実を信じられなくなりそうな、さっぱりとした口調
 胴はアルクトゥルスの重い鎧にすり替えられ、腕と足に至っては見慣れぬパーツ
 だが凛然たる空気は死んでおらず、高貴な蛮人、ノーブルサヴェッジの女王の雰囲気を醸し出す

「そっちじゃないって言われると、気になるんだよね」

 答えは聞いてない、とはこの事か、返事よりまえに座ろうとする少女は彼らの話も聞いていたらしい。
 空席それもレジに近い席や窓際が他にも転がってるのに、ここを選んだ理由であるか。

/書きの途中で抜け出してトイレで戦ったが、おいら何とか蘇った!
/遅くなってごめんなさいね、では早速始めましょう

4国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/27(月) 00:30:01 ID:RrPNPIB6
>>3
「うん、どうぞ」
『これまためんこいのが来たのぉ』
「サクラ、流石に婆臭いよそれ」

 赤薔薇頭部にしては珍しい印象のAI。美しさと荒々しさを感じさせるそれを見て、彼は小さく瞬きをした。
 普段であれば、あれはどのヘッドのAIだろうか、と少し考えるくらいだったろう。
 彼が気にしているののは頭部ではないのだ。

 しかしそれも一瞬。少々大人びた印象を受ける少女へ、静は答えを口にした。

「ホントにちょっとしたことなんだけどね。味覚パフのアイデアというか」

 アレはあくまで彼らHMPのセンサーを刺激するためのものであって、人間にとっての匂いや味を感じさせる成分を使う必要はない。
 嗅覚センサーのほうは実際の匂いを発するタイプが主流だが、それはさておき。

「今サクラが……この子が持ってるパフは抹茶味なわけだけど、例えばこれ、匂いは抹茶のまま、パフの半分を羊羹にでもしたらどうかって」

 複数のパフを用意するのは、嗅覚センサーを混乱させやすく、あまり推奨されない。それにHMPたちから見ると結構かさばる。
 いろいろな味を一つにまとめられればいいかな、という些細な発想だった。

5 ◆ErqAxgccUc:2012/08/27(月) 00:51:19 ID:xSpsDu8Q
>>4

『なんだ……こそばゆいじゃないか、そういうの。きれいな言葉は手前に取っときな』
「別嬪さんでしょ、あたしのブーディカは。3年前からずっと一緒なんだ」
『ったく、表現を変えれば良いってもんじゃないんだけどね』

 HMPカフェでは話題の中心は勝手に決まる。誰が褒められたのかを察するのは難しくない
 マスターと少年が二人して褒めたので、HMPは頭を掻くような仕草をした
 満更でもないが……というアピールではなく、自然体でやってる気がする

「わふー、確かにちょっと新しいかも」

 その、さっきの他愛ない話の延長かもしれないが、少女は食らいついた
 HMPが喜べるようなことが大好きなのだ。宝石でも嵌めたような瞳で、サクラちゃんに注目を浴びせた

「口内調理って言うんだっけ。日本人は他の人種より得意だっていうよね、面白そっ」
『そうだねぇ。抹茶と羊羹のを作れれば、紅茶とスコーンのも作れるかい?』

 喜ぶだろう当人も、それなりに乗り気に見える。試供品を持っていると言われればそのまま使うかもしれない

6国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/27(月) 21:31:46 ID:RrPNPIB6
>>5
「へぇ、三年」
『私たちの倍とはの』

 サクラを拾ったのが一年半ほど前だと考えると、HMPに関しては彼女のほうが先輩ということになるんだろう。
 まだまだ自分は年季の部分からまだまだだな、と思わされる。

「あー、そういえば自己紹介もまだだったね。ぼくは国重静。よろしく」
『枯桜じゃ、サクラでよいぞ。よろしゅうの』

 彼女の機体も中々見ない作りだが――【魔術師】のためのアセン――サクラはおそらくそれに匹敵するレベルだろう。
 なにせ腕が無いヒュームボットだ。ヒュームボットである意味を半ばから喪失している。

 目を輝かせる彼女に、ちょっと夢を見せちゃったなと頬を書く。

「出来るようになればね。……まぁ、ぼくパフの作り方とか知らないんだけどさ」
『皮算用ですらないのう……ふべっ』

 辛辣な物言いに苦笑いを見せ、べしんとデコピンを食らわせる静。
 何をするのじゃ! と肩を怒らせる彼女も気にせず、静は小さく息を吐いた。

(――聞かれてたとはなぁ。危ない危ない)

 静かに端末を叩き、表示していたそれを隠す。
 うまく誤魔化せたようだ。少し安心する。
 別段黙っているようなことではないのだけれど……。

7 ◆ErqAxgccUc:2012/08/27(月) 22:27:08 ID:xSpsDu8Q
>>6

『なぁに、どっちの時間が軽いとか重いってわけじゃない。今までのね』

 Red_Rose HEAD_11が微笑んだ。つややかな笑みではあったが、歯を見せるような笑い方で
 本来のAIからの変容の自然さは、二人の関係の長さと質量ともにの蓄積を感じさせた
 彼女がその成果を誇ることはないが

「来宮咲って言うの、よろしくっ」
『私はブーディカだよ。呼びやすいよう呼ぶがいいさ』

 隻腕と未知の視線が、くわっとかち合っていく
 携えた杖は短く、絵のない陶器のように簡素だ。だが純白の佇まいには凍てついた神秘性が満ち満ちる
 玄人、精通者ほど、馴染みのなさをぞわぞわと感じる。歴史の闇から人知れず這い出した秘儀祭器みたいで、子供の所有物から逸脱していた

『わっはっは、お互い躾には苦労するわけだ』
「むーっ、どっちがしつけられる方だって言いたいのかな!」

 ブーディカと咲からサクラに向けられる興味もまた、尋常でなく、尽きない
 その奇態を完全に受け入れ、まるで生まれた時からそうであるように振る舞うのは、ブーディカのAIの壊れ方と遠くない


「ふーん、ぬか喜びだなぁ。じゃあ今見てたのは、てぃー・おー・ぴーだかの所だったわけだ」

 咲は大げさに残念がりながら、絵本の中のいたずら好きなキツネみたいに笑って、言う

「ズルイなー、あ、それって女の子に見せると恥ずかしい事カナ?」
『こら!あんたカフェまで来て何を言ってるんだい』

 ――どうも、この二人は母娘とか、年の離れた姉妹のような感じがある。かなり20世紀的な

8国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/27(月) 22:39:50 ID:RrPNPIB6
>>7
「あ、やっぱり?」
『誤魔化せたと思っとったのか……』

 呆れた目でこちらを見てくるサクラにもう一発デコピンを叩きこむ。強めに。
 もんどり打って倒れるサクラを尻目に、小さくため息をついた。

「あ、あはは……誰にも言わないって約束する?」

 お茶目な問いかけには答えを濁すだけに留める。
 困ったように眉根を寄せて、彼は少しだけ声を潜めた。
 腕を振り上げて怒るサクラは、当然のように無視である。

9 ◆ErqAxgccUc:2012/08/27(月) 22:55:27 ID:xSpsDu8Q
>>8

「やっぱり、みんなには言えないような事なんだー?」
『別に断ったって良いんだよ、なんだって言うなら私がどうにか』

「やや、冗談だよ。大丈夫、あたし約束した時はちゃんと守るから。
 でもちょっと待って。勢いで座ったからサンドイッチもブーディカのパフも無くて」
『……私のは別に良いから、好きなのをお買い。話して済むことみたいだしねぇ』

 ブーディカが、椅子の腕かけに設けられたHMP用の座席に降りていく。両方の意志を納得したようだ
 セミホバーの独特な挙動は、一瞬だけ鋭く跳ねてから、ひとひらの羽根のようにだらだらと高度を落とすものだった

『よっこらせ。どうしようも無い子で申し訳ないねぇ、私にはかわいいんだけど』

 杖を膝の上に置いて、どっと息を吐く仕草

10国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/27(月) 23:10:18 ID:RrPNPIB6
>>9
「うん、分かった。その言葉を信じるよ」

 彼女は注文を待つ間に、端末を叩く。
 しばらく思案して、型番だけは隠しておいた。どうせいつか気づかれるのだろうから、隠す意味は薄いのだけれど。
 強いて言うならば――。

(まぁ、試金石……いや願掛けかな)

 あるいは気づくようならば、ばらしてしまうのも吝かではない。
 自分にファイターとしての目線がないことは自覚している。ファイターとして暴れまわるあの姉は信頼できるが、意見を求めるには少々大雑把というか、なんというか。
 信頼出来る幾人かにばらそうかとも思ったが、踏ん切りがつかないでいる。

(これで気づかれるようなら、みんなにも話そう)

 そんな決意の傍ら、ばしんばしんと腕を叩くサクラにようやく意識が向く。

「どうしたの、サクラ」
『ぐぬぬぬ……もう知らん! ふんじゃ!』
「ありゃ」

 拗ねられてしまった。流石にかまってやるべきだったか……。

11 ◆ErqAxgccUc:2012/08/27(月) 23:31:08 ID:xSpsDu8Q
>>10

 軽く音がするぐらいの強さで、ブーディカは杖で壁を叩いた。人間で言う手を打つの代わりだった

『やめな。叩き合いじゃ進展が無いじゃないか。私らは強いようで無力なんだ
 静くんも、2回叩いて一言もなしはちょっと感心しないがさ』

 ぴしゃりと厳しく言い終わると、次に静が瞬いた時には目を閉じた優しい表情になって

『どれ、サクラ、知らんなんて誰も知らんよ。言いたいことを言っておやり』

 説教癖がついてしまうなんて、エレガントなやり方を思い出さないといけないだろうか
 こうしてずけずけと彼らの事情に土足で踏み込むのは、不安が付きまとう
 だが、今の彼らをこのまま見続けるのも胸が痛む、だったらやるのだ

「ただいまー、さて恥ずかしい話をしてもらっちゃうよ」

 その内にトレーにサンドイッチを乗せた咲が帰ってきた。さっきと少しも変わらないお気楽な調子が、目元口元にも出ている
 椅子に座るとほとんど同時に頬張る姿は、欲張りなハムスターみたいにも見えた

12国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/27(月) 23:52:38 ID:RrPNPIB6
>>11
「あ、あはは……その通りです。申し訳ない」
『ふん! 他のおなごに現を抜かすような男じゃとは思わんかったわ!』

 ブーディカの言葉に、静は頭を下げた。サクラは主から顔を背けた。
 背けたまま、彼女はブーディカへと擦り寄った。

『――言っても直らぬ。矛盾するようじゃが……その、直して欲しいとは思わぬしの』

 その感情を言葉にしようとして、彼女のAIはオーバーヒートした。
 あるいは言葉に出来ぬからこそ感情なのだと言うように、彼女の脳はそれを不可能と断じた。
 それを口に出すことは、彼女にとって、超えてはならぬ一線なのかもしれない。
 主の――人間のことを好きなのだと。機械がそれを謳うことは。

「あ、おかえり」

 そんな感情も露知らず、静は朗らかに咲を迎えた。
 端末をくるりと回して、咲の方へと向ける。

「えーと、どこから説明したほうがいいかな……見てもらうのが早いかな」

 表示されているのは、どうやら少女系のHMPようだった。おそらくワンオフ。ディティールはまだ細やかではないが、それでも凛とした印象を受ける。だが装甲は皆無だ。
 両手に市販のロングレンジライフルを持っている。脚部はハーフホバータイプ。そう目立つ機体ではない。
 だが目を引くのはその背部だ。かなり大型の追加パーツが装備されている。背負うというよりは付けているといった表現が正しいほどのサイズだった。
 右肩から伸びた重厚な砲身、ジェネレーターにも似た大型機関。移動を妨げぬための底部ホバーは大型一つに小型二つ。機体安定用のアンカーパイルも二基存在した。全高は本体とさして変わらない。
 赤い色も相まって玉座のようにも見えるそれは、至って普通の機体に独特の威圧感を与えていた。
 どうみても、遠距離射撃型である。

「これ、今ぼくが考えてるHMPなんだ」

 見てくれは少々独特だが、大型の射撃機体であることに変わりはない。
 だが彼が端末を素早く操作すると、そうではないとはっきり分かる。
 変形である。
 大型エネルギーキャノンが動き出し、その形を変えていくのだ。
 ハンガーが腕部から装備を奪い取り、無手になったアームを装甲が包む。その先には大型マニピュレーター。底部のホバーは脚部へ接続される。
 砲身は中央で開き折り畳まれ、エネルギーの刃を形成する。アンカーパイルは装甲と重ねられ、グリップをオープン。完成した剣と盾を大型腕部が掴みとった。
 装甲に覆われて隠れていた大型ブースターが顔を出し、ジェネレーターと接続。
 最後に胸元を装甲が覆い隠して、変形は完了した。

 そこにいるのは、赤い衣をまとった大型の近接高速HMPだった。
 射撃型の面影はどこにもない。

「こんな感じ。『Transformable Optional Parts』、略して『T.O.P.』システムっていうんだけどね」

 ――変形が遅すぎる。静はそうぼやいた。
 コンセプトは単純明快に『遠ければ射撃攻撃、近ければ白兵攻撃』。
 射撃安定と威力を求めた玉座型から、速度と装甲と火力を両立するための戦士型への変形で、遠近両方に対応する機体である。
 だからこそ、近づいてくる敵に対して変形を行うのだが……。

「高速機だと、変形終わる頃にはとっくに懐だからさ。どうにか早めたいんだけど」

 剥き出しの部分が多い本体をやられて、即大破となってしまうのだ。

13国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/27(月) 23:58:57 ID:RrPNPIB6
/コピー漏れ!

 その後彼が表示した機体データに、おそらく咲は見覚えがあるだろう。
 その書式、その調整、その真っ当なようでどこか癖のある機体構成は、ブーディカの――。

14 ◆ErqAxgccUc:2012/08/28(火) 00:32:39 ID:xSpsDu8Q
>>12

『馬鹿ほど可愛いかい、分からないこともないねぇ
 もしかしたら、その方が良いって時もあるから。特に若い内はさ』

『ただし、やりすぎってことはある。しっかり見ておやり、そして、よく見てもらいな』

 ブーディカはサクラを擦り寄るままにさせて、ささやく。ぶしつけに撫でたり、棒でつっついたりはしない
 視点がずれていても、マスターをただの所有者ではなく、家族であると見ている二機だった
 しかし、“身分が違う”ことも否めずに
 小さな慈母は彼女を救うため、遠まわしに過ぎる力しか操ることしかできなかった

 咲も、そんな哀切な祈りを知ることはなく

「もぐもぐ……つまりスピードとパワーを兼ね備えているって魅力が、無くなっちゃうってことね。変形するとき
 それですごい単純な疑問なんだけどさー、少女型にこだわる理由ってある?」

 少女の問いは、遠まわしにモチーフについて詰めていこうとするもの
 ここまで離れ業の連続でやろうとするなら、何か強さではない目的もあるとするのが良かろう

 次に見えるのは根本的な問題、この方法は装甲を全て外部化して、人間型の身体を全て包み込むことを前提としている
 しかも射撃モードで前じゃなくて後ろ側が固められているから、正面衝突するしかないステージでは涙を見そう

「まず事前に、椅子の部分が丸ごとくるっと前の方に周ってこれないかなっ
 ここまで気の利いたデザインで本当の脚もホバーなら何とかできそうだけど」
 
 わくわく、爛々と輝く瞳でデータに目を通していく。ブーディカも反応を示し始めた
 型番や名称についての情報が欠けている。これだけのコンセプトがあってまだ決まっていないというのは信じられないが

「うん、似てる。完全無欠を狙ってるのにバランス型じゃない。あたしそーゆーの知ってる。噂にもなってる
 でも、あれはもっとひどかったよ。データが足りないしあたし専門家じゃないから、再現しても違うのになっちゃうんだ」

 どうだ、と言いそうな得意げな顔で、少女は畳み掛けた

15国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/28(火) 20:39:59 ID:RrPNPIB6
>>14
『言われんでも……分かっておるわ』

 ――止められるはずがあるまいけれど。サクラはそっと身を引いた。
 身勝手で、人の話を聞かなくて、無理も無茶も無自覚のうちに済ませてしまうような人だから。
 そんな人だから、何の技術もない素人のくせに、壊れた私を修理しようなどと思ったのだ。

 サクラは、ない右腕をそっと撫でた。
 空調の風が、炭素繊維の髪をさらりとなびかせ、抜けていく。
 ぽつりと、桜が舞うように、彼女は呟いた。

『……ありがとうの』


 静は小さく舌を巻いた。
 及第点どころか、予想以上だった。

「あー……まずこれ、接続部分はボディ背部なんだよね」

 言っていることは理にかなっている。重装甲の追加パーツを盾にしての銃撃戦。
 単純に背凭れから体を離せない、という事実から、そのアプローチを失念していた。

「でも、うん。そしたらこうすればどうかな」

 接続部位を固定された背凭れという形から少し離して、変形時にも背部に残るエネルギージェネレーターとレーザーキャノン、大型ホバー(ブースター)だけを固定する。
 ここまで露出すると分かることだが、エネルギージェネレーターの接続先を切り替えることで砲は剣に、ホバーはブースターに変化する仕組みだ。
 そうして装甲だけになった椅子の背を前面に回し、盾のように構える。まるで小さな橋頭堡だ。
 エネルギーケーブルやなんかが露出する形だが、肘掛けに当たる部分に上手いこと隠すことで、斜め横方向からもある程度は防御性を得られるだろう。

「女性型である理由はまぁ、色々あるんだ」

 けれどその前に、ネタばらしが先だろう。
 十分、十分だ。まだまだ幼いというのに、【魔術師】を製作出来るだけの技術。そして着眼点。
 ――皆にも言わなきゃね。
 ヴェールを脱ぐには少々早い。ちらりと端を持ち上げるだけ、それでも性急な気はするが。

「薄々気づいてるかもしれないけど」

 片手で端末をいじり、隠していたデータを露出する。
 T.O.P.システム互換化実用機。
 TYPE NAME : Arcanum undecim/The Justice――。

「改めて。『ステイシス』こと国重静です」

 微笑むその瞳は、清々しいほど澄んでいて。
 困ったように首を傾げるその姿は、とてもそうとは思えないだろう。

「大したことないネタばらしだけど、貰いっぱなしじゃ悪いから、ね」

 巷で噂のエンジニアと呼ぶには、彼は少々小さ過ぎたから。

16 ◆ErqAxgccUc:2012/08/28(火) 21:47:21 ID:xSpsDu8Q
>>15

『そうだねぇ……花のいのちはみじかくて、苦しきことのみ多かれど』

 足りない肉体と紡げない言葉で、誰よりも強く求め続ける彼女は、人魚姫
 少し残酷にも思える比喩が真っ先に頭に浮かんだのを、ブーディカは憎らしく思った
 
『風も吹くなり、雲も光るなり』

 子守唄のように聞かせたのは、20世紀の女流作家が度々使った文句。その、あまり知られていないバージョン
 泣いて帰ってきた咲に、生前の母親が決まって歌いかけていた言葉だった


 殆ど同時進行で、咲と静はHMP談話に興じている

「おー。これならこの子の方から突撃決めるときにも使えるよ」

 承知の上である無理を、彼女の思いつく限りのギリギリまでカバーできた。しかし恐るべきは静の順応性
 門外漢の立場から放った言葉を即断で実行し、とりあえず成功させてしまう才覚
 少し、いやかなり敵わないなことが身にしみて、思わず手に力が入る

『なんだって、それは本当かい?』

 今まで望んで蚊帳の外にいたブーディカが、身を乗り出して言った
 装備中の腕と脚部の製作者が目の前に居ると言われれば、それは吃驚するし、疑り深くもなる

「マネッコだったらそれはそれで凄いって。だから絶対本人だと思うよ、ブーディカ
 驚いたぁ……ちょっとずつ情報集めたくて形だけでも頑張ったのに、いきなりってさ」

 形だけと言うが、見れば分かる通り、いきなり破門されてしまう完成度でもない
 レッドローズのAIと咲のスクラッチ技術の限界で、四肢の幻惑的な駆動はスペックノートほどにはならず
 腹から上の再現は放棄、杖の電磁力変換効率も80%ぐらいに落ち着いているが
 彼女らは独自の工夫も織り交ぜて、魔術師の断片に実用HMPとしての確かな体裁を与えているのだった

「改めてよろしく。……じゃあ、次は大したネタばらしをして貰おうかなって言ったら、聞いてくれる?」

 咲はステイシスを尊敬し、その神秘性に子供っぽく憧れていた。今は神秘性が意外性に変わったが
 それは挑戦状。それは犯行予告。少なくないビルダーやファイターが踊らされている
 素直に、とんでもないと思っている

『……』

 だがブーディカは、僅かに沈んだ様子を見せていた
 不発弾のような脅威――“悪魔”を産み落とした父という一面を、そこに見ているのかもしれなくて

17国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/28(火) 22:30:53 ID:RrPNPIB6
>>16
『生きているしあわせは、波間のかもめのごとく』

 舌を濡らすような声で、彼女もまたそれに続けた。
 泡沫に散る桜。

『私もよく、知っている』

 けれど、彼女はニ行を抜いた。
 それを歌うのが彼女だからこそ、なのか。


 驚きを隠さぬブーディカに、静は小さく笑った。
 そこそこ大型のタブレット端末に、機体一覧を表示する。
 ステイシスのアルカナシリーズだ。発表されたもの、試作機、まだデザインもないもの様々だが、中には概ねが完成しつつも未発表のものもある。

「いやいや、フェアリーレイクを採用したところは素直にすごいと思うよ。パーツ自体の容量と性能が噛み合ってる」

 そこは手放しだ。なにせ静は、作った後のことはあまり考えない。
 それをどう組み合わせるかはファイターのセンスだと、そう考えているからである。

 目を輝かせる少女に嫌な顔ひとつしない。
 彼もまた、純粋に嬉しいのだ。自分のパーツが使われているということが。

「んー、じゃあ女性型の理由とか。モチーフがそうだから、ってのがひとつ」

 隠し立てをするつもりはないらしい。最もそれは、彼の友人にも言えることだろうが。
 Justiceの画面を開き、背部パーツを取り外す。
 そして、別の欄へ――The Powerの項目へと移した。

「T.O.P.システムの目的は互換性なんだ。タロットでは、JusticeとPowerは製作者によって入れ替わるから」

 こちら追加パーツはまだデザインだけらしく、獅子を象ったものがあるだけだ。
 それを取り外し、代わりにThe Justiceのそれを取り付ける。
 Justiceの追加パーツだというのに、それはPowerに装着されても完璧に動作していた。

「第六のパーツってところかな。T.O.P.システム搭載機は、全てのT.O.P.との互換性を与える。それを開発の前提条件にしてる」

 本体装甲に制限を受ける代わりに、機体の戦術に多様性を与える。
 それが可能だというのは、彼の姉が既に実証した。だから今度はそれを一般化する。

 彼は気づかない。彼女の相棒の暗い顔にも。彼の相棒の、呆れた視線にも。

『本当に、それ以外がないんじゃからの。質の悪いこと……』

18 ◆ErqAxgccUc:2012/08/28(火) 23:07:13 ID:xSpsDu8Q
>>17

 咲は圧迫痕のついたサンドイッチを放り込むように食らった。それで、改めて心を端末に注いでいく

「そうやって、女の子をその気にして弄ぶんだ。愚者はあんたってことね」

 色気のない言葉は、諧謔を楽しんでいるというより、ぶーたれているようである
 その合間シャッフルのようにめくるめく表示に、咲は戦車を御す女王となったブーディカを夢想した
 傍にうら若い娘を従え、勇猛果敢に腕を振り上げ、万軍を酔わす勝鬨を叫ぶ
 ウェストミンスター宮殿に据えられているらしい“ブーディッカ”の像そのものの姿を

 そして、力の存在が瞳に映された。制作の時にかじった程度しか、タロットの知識は無いのだが、そんな話もあったような気がした
 何版と何版だったか、思い出せなくて、んーと唸りながら

「ルール自体を変えちゃうような機体、だね。
 昔から、高さの規定を変えようとか手持ち武器の入れ替えのせんびきはどうするって言われるけど、これって……」

 4つのパーツしかないように見えるサクラを覗きこむと、これが彼の世界なんだと分かってしまう
 5という数字や細かなお約束に呪われていないのだ
 こんな自由な脳みそが、そこに浮かんでいるなんて、かっこいいけど空恐ろしい気がした

『ったく、頭が痛くなりそうだねぇ。ハッキングにエクストラパーツ、どこに行くつもりなのやら!』

 レッドローズの蒼い眼にも、他の諸々の感情に勝って浮かぶのは心配だった
 咲がいる手前、話しぶりは今時の“ふぁみこん”を見るお母さんのように呆れたものだったが
 一刹那、サクラへ向けられた顔には......さっきの言葉に、念を押すような意味を孕んでいた

19国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/28(火) 23:36:01 ID:RrPNPIB6
>>18
「愚者――愚者、か」

 その言葉を、彼はゆっくりと反芻した。

「ふふ、そうだったらいいね」
『逆位置じゃろ。無節操、無責任。ほれぴったり』

 無言のまま、静の指先から神速のデコピンが放たれる。
 サクラはひょいと身を仰け反らせて避けてみせた。

「ありゃ」
『ふん、そもそも否定できまいて』
「ぬぬ……」

 してやったりと笑顔を浮かべるサクラに、静は唸りながら指を引っ込めた。

 途中で言葉を切った彼女に、静は小さく首を傾げた。
 まるで無邪気に、その様子に一切の邪気はない。

「どうだろう、ぼくは気にしたことないなぁ。……まぁ、今まで思いつかなかった人たちが悪いんだよ」

 ――それを、彼は本気で言っているのだ。
 作った後は好きにしろ。それが彼の、エンジニア『ステイシス』の言い分なのだ。

『どうじゃ咲殿、無責任じゃろ?』

 覗きこまれたサクラは、右肩をつるりと撫でてそう言った。
 心底呆れた口調のくせに、サクラはどこか誇らしげでさえある。

「どこに、か。目標はあるけど――あ、これは秘密ね。……とりあえずは気の向くままに、かな。アルカナナンバーだって技術向上のためだし」

 ブーディカのその言葉に、静はそうぼやいた。
 咲には気づく由もないが、今日の彼はいつもより饒舌である。
 対してサクラは肩をすくめた。

『どこに行こうと着いてくまでじゃよ。主殿が主殿である限りはの』
「あはは、なにそれ。変なサクラ」

20 ◆ErqAxgccUc:2012/08/29(水) 00:10:13 ID:xSpsDu8Q
>>19

『サクラ、発表の順番は彼にある程度考えさせるべきさね?』

 今まで無かったものを作る事こそ、疑いようのない技術者の正義なのであろう
 最初に石を割って刃を作った人間が、それを使って人をもっと効率的に殺せることに気付いていたかは怪しい
 昨日までより、もっと良くなるとしか考えていなかったかもしれない

「受け入れられるかはわかんないけど……確かにそうかもね、チャレンジが大事!
 ジョブズだっけ、しょうがっこーの図書室の伝記に居た人。バカであれって言ってたし」

 咲がそこまで考えていたわけではないが、漠然とした“自分との違い”が分かる
 だからこそ――もっと先に何が有るのか見てみたい、ここで手を引いては女がすたると思ってしまうのだ

「そうだ、連絡先を交換しない?別に発表のスケジュールとかは教えてくれなくて良いよ
 こう言うのはちょっと振り回されるぐらいの方が、逆にアツくなれるかなと思って」

 明るく笑って見せると、DVNOとは別に想像も付かない形の携帯電話を取り出して、赤外線を放つ準備に入った
 ただし断られたら、勢い余った感じになりながら、それをポケットに戻すだろう

『家族が大事。終わりがどこだろうと、それは忘れて欲しくないもんだねぇ……
 それはけっして、甘やかすって意味じゃない。分かるかい?』

 アルカナは、ブーディカたちの手が全部は掴めないところで完成へ走りだす。ごねてどうにかなるものではない
 22の札に占われる運命が明るく開けたものであることを
 もしそうで無かったなら、なるべく早くにサクラ達の手を取ってやれる事を
 マスターの孤独を慰め続け、諌めてきた彼女は願うばかりだった

21国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/29(水) 00:40:07 ID:RrPNPIB6
>>20
『努力はするがのぉ……いつまでもつやら』

 サクラは困った顔ですまなそうにそう答えた。
 彼が自身から道を踏み外すなら、その性根を叩き直すことは出来るだろう。
 だが、彼は真っ当だ。真っ当に狂っている。
 技術者として最も必要なことは、作ることに見返りを求めないことだと誰かが言った。
 彼はそういうレベルではない。呼吸の代わりに機体を作る。呼吸することに善悪はないのだ。
 公開するなと言えば、止まるだろう。だがそれだけだ。【悪魔】のような機体など、これから有り余るほど生み出すだろう。

「Stay Hungry, Stay Foolish……だっけ。そうだね、その通りだ」

 貪欲であることを忘れれば、停滞しかない。
 技術は常に欲から生まれるのだ。静は小さく頷いた。

(ぼくも、そういう風になれなきゃダメかな)

 そして、盛大に勘違い。彼ほど貪欲である人間は居ないというのに、彼は更にそれを求める。
 最悪なことに、手段と目的さえ逆転していた。

「連絡先? 喜んで。こっちからお願いしたいくらい。また意見聞きたいしね」

 彼もにこやかに携帯を取り出し、赤外線通信機能を起動した。
 ぴろん、と軽い電子音とともに、連絡先がやりとりされる。

『あぁブーディカよ。そこのところは大丈夫じゃ、主殿の姉上は最強じゃからの』

 ――姉も大概戦闘狂ではあるのだが、それとこれとは話が別で。
 曲がったことは大嫌い、弟大好き、そんな姉が静を放り出すわけがないのだ。
 むしろ常に引っ掴み振り回し投げ飛ばしてまた捕まえている。

『む、蘭花で思い出したぞ。主殿、いつまでに帰れと言われとったっけの?』
「え? えーと、五時……には……」

 現在時刻は四時五十二分。
 絶望の数字がそこにあった。

22 ◆ErqAxgccUc:2012/08/29(水) 01:00:38 ID:xSpsDu8Q
>>21

『EDENとか、国際警察の人かい。じゃあ、ひとまずは安心だねぇ
 サキ。あんたもどうしようもない事はEDENに任せて、つまんない怪我をするんじゃないよ!』
「ふんだ、そう言う癖して、何もしないと怒るじゃない」
『そりゃあ義によって立つべき時には、私だって物を申すさ』

 家族のない咲を外敵から守る。咲ができる範囲の無茶は尊重する。両方やらなければならないのがブーディカの辛い所だ
 くびきが無ければどこかへ転がってしまうというというのは、どこを見ても同じという事か
 楽して守れるものなどない。ブーディカは杖を撫で、覚悟を新たに研ぎ澄ましていった

「うっそ、もうそんな時間経ってた?
 ……ブーディカっ、一緒に謝りに行こう、そうするべきだってあんたも思うよね!?」

 つられて時計を見て騒ぎ出した喧しい少女にHMPは頷いたが、実際は彼らの意向に従う。顛末が詳細に演じられることもない

23国重 ◆PPSydIiBHo:2012/08/29(水) 01:18:51 ID:RrPNPIB6
>>22
『まぁ確かに「えでん」の人間じゃが……まぁいいか』

 もしあの姉が保育園の先生とかでも、弟をふん縛るくらいはやってのけるだろう。
 自称正義のファイターなだけはある。

「いやいやそんな、悪いよ!」
『くっく……、連れていくべきじゃな。ブーディカもああ言うんじゃし、コネついでに蘭花に会わせるとよかろ』
「それは……そんな生贄みたいな……」
『構わん構わん、どのみちこのままでは縊り殺されるぞ主殿。めんこいおなごのふぁいたーじゃ、蘭花のお眼鏡には叶うじゃろうて』
「う……」

 含み笑いをするサクラに説き伏せられ、静はついてきてくれと二人に頭を下げた。
 この後姉のあらぬ勘違いをサクラが煽り、静は結局窮地に立たされるのだが、それはまた別の話。

24 ◆ErqAxgccUc:2012/08/29(水) 01:29:58 ID:xSpsDu8Q
>>23

『わっはっは!この子に浮ついた話なんて、10年早いよ』
「そうそう、女の子の方が可愛いし」
『……サキ、今なんて言ったんだい?』
 
 そんなこんなで、結局咲が家に戻るのは7時過ぎになってしまった、とか
 一時は死ぬかと思ったが、なかなか楽しめる経験をした。誰もいない家の冷たい空気に、安堵を感じてしまうぐらいに……

25御幸町メイ:2014/01/04(土) 23:22:43 ID:0kA3YAOY
都内某所、とあるHMPショップ。
パーツ福袋やお年玉クジなども新年企画もあって、店内は人でごった返している。
対戦スペースも例外ではなく、ファイト初めとばかりに幾つもの激戦が繰り広げられていた。

空きの対戦台は、見たところ1つしかない。
そして、スペースの真ん中あたり、よくも悪くも「目立つ」位置にあるそれには、すでに一人ファイターがついていた。
前髪を切り揃えたショートボブの金髪に、碧眼・白い肌の少女――いわゆる、「ガイジン」という奴だ。

HMP目当てで日本を訪れる外国人が増えたとはいえ、当然ながらこの辺りで良く見る顔ではない。
だが、怖気づく様子はなく。堂々として、彼女は対戦相手が現れるのを待っているだろう。

・ ・ ・ ・ ・ ・

そんな金髪の少女に向けられる視線の色は、おおむね二種類だった。
ひとつは、彼女の物珍しい容姿に惹かれるもの。まぁ、正しい反応と言えるだろう。
そして、もうひとつは――――

――――イギリスでかなりの実力者として知られるHMPファイターが、何故ここにいるのかという、動揺だった。

26青崎 修:2014/01/05(日) 00:09:55 ID:cuOwElzc
「ん〜…新型の手持ち式ロングソードはどこでしょう…」
バイトの帰り道、新しいパーツを買おうとショップに立ち寄ったはいいが、時期が時期なので凄まじい人混みに揉まれていた。これでは商品1つ探すのにも一苦労だ。
(…仕方ありません、今日は帰りましょう)
一際大きな人混みを抜けて、踵を返そうとしたところで、
「…?」
人を、見つけた。
知人ではない。ただ少し、変なのだ。見た目ではなく、その周囲が。
彼女はHMP対戦台に立っており、対戦相手を待っているようだ。
だが相手が現れる気配はない、周りから視線を浴びているにも関わらずである。その意味するところは…
「強者、か」
自然と、彼女に向かって足が動いていた。

27御幸町メイ:2014/01/05(日) 00:40:08 ID:0kA3YAOY
>>26

「Hey! こっちデスヨ〜ぅ!」

ぼそりと呟きながら歩み寄ってくる彼に、金髪の少女は馴れ馴れしく声をかけてきた。
手の中には、七篠工業製・晴神楽(設定おきば>>23)シリーズのカスタムビルドと思われる、巫女型のHMPがある。
マスターの姿とは対照的な、大和撫子を思わせる容貌の機体だ。

「エヘヘ、待たされちゃいマシタけど、なんとかファイトが出来そうでよかったデス。
 私、メイ・ゴコマチ……御幸町メイって言いマス。
 さぁ、そっちの機体(こ)を出したら、早速始めるデスヨ!」

『あたしはユカリよ。素敵なお茶会になるといいわね』

妙な訛りを伴った日本語でマスターが挨拶するのに、HMPも馴う。
二人してカラテカのような奇矯なお辞儀をすると、メイのさらさらの金髪と、ユカリの原型機より長い黒髪がふわりと揺れた。

頭を上げると、メイはユカリをバトルフィールドの所定位置にセットしようとするだろう。
両名のHMPセットが終わると、サイコロが振られる演出と共にディスプレイにステージが表示される。
さて、今宵の戦場は――。

書き込み秒数が奇数:障害物などがない、正面衝突向けフィールド「プレーンスタジアム」
書き込み秒数が偶数:北にブランコ、西に滑り台とシャングルジム、東に砂場がある団地の中の公園「リトルパーク」
書き込み秒数がゼロ:四方を高熱のダメージ床に囲まれた六角形の危険なフィールド「ヘルヘキサゴン」

28"":2014/01/05(日) 00:42:57 ID:0kA3YAOY
※「リトルパーク」のブランコなどのサイズは、HMPが使用できる(つまり、人間からするとミニチュア)のサイズです

29青崎 修:2014/01/05(日) 01:58:11 ID:cuOwElzc
「ふ…む」
溶岩の上に浮かんだ島のようなステージを見て、少しだけ考え込む。
(ブレイズに飛行能力はありません、もし相手がフライメックだったり、衝撃力のある武器を持っていたら、かなり不利になる)
「ブレイズ、不安はありますか?」
マイナス思考に陥りそうな意識を強引に変えるため、相棒に話しかける。
『ありません』
短く、一切淀みのない返事が返ってきた。

30青崎 修:2014/01/05(日) 02:01:55 ID:cuOwElzc
すみません途中で送ってしまいました

31青崎 修:2014/01/05(日) 02:14:14 ID:G9oUuQeY
『ありません』
短く、一切淀みのない返事が返ってきた。
「………」
それだけで十分だった。陰鬱な考えは吹き飛び、思考が試合のそれに切り替わる。
「そうですか、ではいきましょう。」
歓喜が顔に出そうになるのをこらえ、相棒を見送った。

32御幸町メイ:2014/01/05(日) 02:55:55 ID:0kA3YAOY
>>29-31

『お互い標準的なヒュームボット、条件は互角、ってとこかしら?』

ユカリとブレイズは、共に全高30cm・汎用型のヒュームボット。
少なくとも地形に関して言えば、どちらかが極端な有利を取ってしまうことはないだろう。
とは言え、アドバンテージを積み重ねたとて、一瞬のミスで全てがひっくり返るのも試合なのだが。

両機の投入を対戦台が確認すると同時に、仮想立体闘技場――フィールグラムが展開された。
創りだされるのは平坦な野ざらしの競技場じみた空間だが、見上げた空は地獄のように紅い。
しかもその四隅は陥没しており、覗き込めば焼けた鉄のように赤く、定期的に煙が吹き上げてくる。
そんな中で、ユカリとブレイズは遠距離で向かい合うように配置されていた。

「Hell's Pitって言って、イギリスにも似たステージはありマシタ。
 あそこに落ちたら、みっつ数える頃には溶けてしまうデス!」

――というのは流石に誇張だと思われるが、一度着地してしまえば加熱による機能停止までもって5秒ぐらいだろう。
落とされた時の立ち直りの早さと、そもそも落とされない立ち回りが重要。
かと言って、四隅に開いた地獄の落とし穴にこだわりすぎて、不自由なまま殴り倒されてもつまらない。
シンプルながら手強いステージだと、誰もが語る。

「でもおそれがないというなら、楽しみマショウ!」

開戦と同時に、ユカリは前へ歩み出す。にじり寄るように、距離を詰めてくる。
そして遠距離と中距離の境目と言えるような距離で、髪に指した玉かんざしを抜き、そちらへ向けた。
……玉かんざし?

『ファイア!』

疑問を抱くにしろそうでないにしろ、状況は動く。
左手に握られたかんざしから、一直線に高熱のレーザーが放たれたのだ。
――まず下拵えとばかりに膝の間接を狙って、一条の光が走る!
出力を絞っているのか威力は大きくないが、面食らって回避に手間取りでもすれば、すぐにペースを握られてしまうだろう。

33青崎 修:2014/01/05(日) 03:35:33 ID:FpjlOVz6
「! 左回避!」
ブレイズは言われた通り左へステップし、難なく攻撃をかわす。
『……』
しかし一切の油断もなく、追撃を警戒する。
(今の攻撃…威力も低く、狙った膝も装甲が付いていた…しかしどんな追加効果があるかわからない。注意するに越したことはありませんね)
「ブレイズ、もう一度相手の出方を見ます」
『了解』
(おそらく、ここで焦れて手の内の1つを見せる筈です)

34御幸町メイ:2014/01/05(日) 03:48:37 ID:0kA3YAOY
/ちょっと朝が見えてきたので、続きは明日にお願いできますか?
/明日は一日自由なので隙を見てレスできます

35青崎 修:2014/01/05(日) 06:47:50 ID:odACnFLs
わかりました
ではまたノシ

36御幸町メイ:2014/01/05(日) 17:00:24 ID:0kA3YAOY
>>33

「流石に、この程度は余裕デスネ?」

碧色の瞳が、値踏みするような鋭さを帯びて青年へと向けられる。
この状況で待ちに入るのは悪くない選択肢だ。こちらの機体は、継戦能力では相手に劣る。
早くトドメを刺そうとして、自分が悪手を取る……そんな瞬間を、彼は待っている。

「ところでオニーサン、様子見も良いデスけど」

だから彼女は――敢えて、大いに動いた。

『……そんな余裕があると思ってるのかしら?』

ブレイズが弾幕も張らず純粋にユカリの動きを確かめているその時、彼女の首にかけられた小さな勾玉が光った。
紫苑色の高貴な輝きが広がると同時に、ブレイズの視界は歪み、レーダーに表示されたフィールドの全景が砂嵐に消えゆく。

「ジャマー」の4文字が、きっと脳裏をよぎるだろう。
ヘッドの機能をあの光る勾玉に撹乱されている。極小のオプションパーツだから、ちょっとのダメージで停止させられそうだが、危機は今ここにある。

持ち前の脚力に、脛部に新造したスラスターの瞬発力を加えて、ユカリは急速に接近してくるだろう。
おそらくは、もう少しで近接の間合いか、という所まで。
そして彼女は、最後の一歩を踏み込む――と見せかけて、あざ笑うような宙返りを打ち

「〝ヘツカガミ〟を受けてみるデース!」

右腕の袖に仕込んだ、巨大なヨーヨーを思わせる奇妙な武器を、高速回転させながら縦に振るって頭にぶつけようとする。
内蔵された刃をぎらりと輝かせて飛び来るそれは、たわむ糸による特殊な軌道と、侮れぬ威力を併せ持っていた。

37青崎 修:2014/01/05(日) 20:38:12 ID:ChNb8yrc
ブレイズの視界が砂嵐に満たされる中、修は一瞬だけ思考の海に浸る。
(電子装備、こちらに対抗する装備はなし、『ほぼ』無防備な状態、となると、次に相手が取る行動は…)
「スライディング!」
アイカメラとレーダーを封じられた状態にも関わらず、迷いなく前方へ仰向け気味に滑り込む。その瞬間頭部ダメージ5%の表示が出るが、気にせずに修は次の命令を出す。
「そのまま射撃!」
ブレイズは滑りながら、左手のジェネリックマシンガンを前方に乱射する。しかし…
(手応えがない!?)
特に攻撃が命中したような様子はない。
(カウンターで出鼻を挫こうと思いましたが…仕方ありません)
「タップ回転!」
間髪入れずに命令を出す。ブレイズは流れるような動きで立ち上がり、地面を強く蹴ってフィギュアスケート選手のように回転を始める。
(最初にブレイズの居た位置から考えて、ここがステージ中央のはずです!)
「再度射撃!」
そのままマシンガンを乱射する。今度は360度全方位だ。狙いもくそもない。『数撃ちゃ当たる』を体現した攻撃だ。
(この電子攻撃はあの勾玉によるものなのは間違いありません、そこに一発でも当てられれば!)

38組替え式の名無し:2014/01/05(日) 23:06:49 ID:0kA3YAOY
>>37

頭を掠め、地面に叩き付けられて跳ね返った刃付きヨーヨー〝ヘツカガミ〟の糸を、腕部の機構で巻き上げながら、
体操選手めいた鮮やかな運動で、ユカリはすかさず後方に着地する。
すると今度は、相手のほうがぐるぐると回り始めた――ステージ中央の広い空間ならではの、ダイナミックな勝負だ。

「なるほど、そういうsolutionで来マスカ! 面白いデス」
『とりあえずは及第点ってとこね!』

ユカリは袖の中にヘツカガミを仕舞い直し、左腕に接続されたバックラー状のパーツで胴を覆う。
左手に持っていたかんざしは右手に持ち替えて、その場でじっと、地を踏みしめて。
ガトリングの竜巻に対して、臆することなく応じるだろう。

あえて動きを止め狙い定めるのは、回転する敵の背中。
じりじりと、各部のパーツの装甲を少しずつ削られながらも、

『……ファイヤー!』

先ほどより高出力なレーザーを、雷鳴にも似た音を轟かせて――胴体めがけて、射るだろう!

相手はでたらめな全方位攻撃を続けているが、こっちは一点にしっかりと照射することになる。
命中した場合は早い所元の状態に復帰しなければ、スピンを利用され、胴体をぐるりと焼かれてしまう。
そうなれば、ダメージや発熱もバカにはならない。

だが、青崎の判断が決してムダになるわけではない。
狙い通り、勾玉が誤作動を起こし、ジャミングは晴れる――うまくやれば、距離が詰まったこの状況は反撃のチャンスにもなるだろう。

39青崎 修:2014/01/06(月) 00:12:28 ID:yEkk.z/E
「………」
ブレイズは射撃を続けているが、未だに砂嵐の視界に変化はない。
(まだです…ここで弾を撃ち尽くしてでも、あの勾玉を破壊しなければ…)
当分、この状態が続くと思われたその時、
「!?」
『ぐぅっ!!』
突然、両腕と胴に損傷が発生した。
それぞれの損傷具合を表示するゲージが凄まじい勢いで上昇していく。
(これは…!?………先程のレーザーを高出力にしたものか!)
「ソードで防御! 被弾箇所から敵の位置を逆算し射撃!」
回転を止め、右手の腕甲から剣を伸ばし、盾代わりにする。そして左手の銃を構え直し、敵が居るであろう方向に銃弾の嵐を叩き込む。
(ダミーやフェイクの可能性もありますが…放置するわけにもいきません)

40青崎 修:2014/01/06(月) 12:14:17 ID:plJqmvds
「………」
ブレイズはレーザーを剣で防御しつつ、射撃を続けている。既に弾薬の半分以上を消費していた。
(おかしい……いくらなんでも長すぎます……これ程強力なジャミングを、長時間続けられるものなのか?)
そろそろ相手のバッテリーが悲鳴を上げてもいいはずだ。どうしてかと一秒ほど考えた所で、ある存在を思い出す。
“頭部ダメージ5%”
(……まさかあのときの攻撃でセンサー類に直接ダメージを!?)
(だとすれば……ダメージ量、部位から計算して…自己修復が完了するまで、あと10秒といったところでしょうか)
「ブレイズ、ここが勝負所です」

41青崎 修:2014/01/07(火) 03:25:21 ID:nS.T.Wc2
相棒を激励し、自信も決意を新たにしたところで、
「…え…?」
意識が、途絶えた。





「………?」
何かが、自分にまとわりついている。
何かが、目の前にある。
それは………


「8時!?」
まどろんだ意識を一瞬で覚醒させ、布団を払い、時計を元の位置に戻す。
「ブレイズ! どうして起こしてくれなかったのですか!」
慌てているのか怒っているのかよくわからない口調で棚の上に居る相棒に尋ねる。
『昨日の残業時間とマスターの疲労具合から考えて、限界まで睡眠を取った方が良いと判断しました』
一切淀みのない返事が返ってきた。
「…………まあいいでしょう、ところで、今日は何曜日でしたっけ?」
『火曜日です』
「火曜日ですか、なら、可燃ゴミを出さなければいけませんね」
よいしょ、と立ち上がり、修は台所へ向かう。
「時間がないので朝食は簡単なものにしますか」





『……………』
ブレイズは寝ている時の自分のマスターについて少しだけ考え込んでいた。
(昨日の疲労を考慮しても…妙に深い睡眠だったように思える…さらに夢見もよさそうだった…そのせいか、寝ながら一度笑顔も見せた…一体、どのような夢を見たのだろう)
そうして今度はマスターの見た夢についてしばらく考えていると、開いたドアの向こうから声が聞こえた。
「ブレイズー? 行きますよー?」
『了解』
棚から飛び降り、白き騎士は主人のために駆け出した。

42麻木ナオヒロ:2014/02/19(水) 05:57:35 ID:MaJCSy76
=某ホビーショップのHMPコーナーに併設されたいくつかのフィールグラム、そのうちの一つを、
 大学生くらいの青年がライバルサイドを見据えながらに陣取っている。
 彼の前にはフィールグラム上に座した一体のHMP。
 そして、更に目線を進めるともう1人のファイターが。
 ここはフリー対戦台、ファイターとファイターの社交場。=

「それじゃあ、よろしくお願いします」

『私達の出会いを、このフィールグラムに刻みつけようか』

「いこうか、ルリ」

=青年は会釈とともに挨拶を。
 HMPの方はキザな言葉とともに自身の背から充電コードを引き抜く。
 ルリと呼ばれたHMPは、シックなモノトーン調に、カッパーゴールドとも言うべき鈍い金属色を差し色に。
 女性型にしてはやや低いボイスに先程の台詞めいた発言も相俟って、妖しげな印象を抱かなくもない。=

「ステージはなにか希望のものがあります?それともランダムに?」

43滝沢真一:2014/02/19(水) 23:57:11 ID:YBvME0gk
>>42
「ああ、よろしく頼むぜ」

麻木の対面に立つ、赤いTシャツの上から学ランを羽織った少年――滝沢真一は、
ニッと口元に不適な笑みを浮かべながら、自身のHMPをフィールグラムの上に乗せる。

赤い騎士の姿をした、そのHMPの名前はレッドセイバー。愛称はロラン。
シュバリエハート社が極秘開発していた試作機であるこの機体は、
恐らく麻木にも見覚えの無い代物であろう。

「ステージはランダムでいいさ。
本当は選びたい地形もあるけど、都合の良い条件を引き当てる運も実力の内ってな」

ステージ選択についての問いにはあっさりと返答して、会話を流す。
自分に有利な舞台をセッティングして勝ったところで面白くもないし、
不利な場なら、それはそれに合わせて戦略を練るのもHMPファイトの楽しさだろう。


(しかし……)

そこで滝沢は口元に親指を当てて、やや思案に耽る。

(頭部がマスカドンナ、胴体がエンテラルオルカ、左腕がショックラッシュで……あとは汎用パーツか)

ルリと呼ばれた相手のHMPを観察しながら、機体の特性を分析しようと試みるが、
見れば見るほど各部分のタイプも性能もバラバラで、まるで露店に置いてあるパーツを適当に買って即興で組んだかのようにも見える。
一見するとただの素人のようだが、それにしては妙に場慣れした雰囲気を持った麻木自身のギャップから、
どうにも得体の知れない不気味さを、滝沢は感じ取っていた。

「何をしてくるのか、イマイチ読み取れない相手だ。気を付けろよ、ロラン」

『――了解、注意しよう』

フィールグラム上のロランが滝沢の呼びかけに答え、右手に握り締めた大剣に力を込める。

さぁ、これで両者の準備は全て整った――。
あとは試合開始のゴングが鳴り響くのを、ただ待つのみだ。

44麻木ナオヒロ:2014/02/20(木) 01:25:35 ID:MaJCSy76
>>43
「それじゃ、ランダムで行きましょうか」

あのHMP、ディーラー品かスクラッチかはたまた中小メーカー機か。
今まで見たことのないモデルだ、見た目だけなら近接型だけど、以前その決めつけで痛い目を見たこともある。
……まあ、今のアセンではこちらが距離を詰めていかなければいけないのだけれど。

//『因みに今のアセンは
 頭部 《ヴァルキューレ》よりフェーダ(設定スレ>>52
 胴体 《ヴァルキューレ》よりフリューゲルス
 腕部 《ジャバウォッキー》よりバンダースナッチ&バンカースナッチ(設定スレ>>12
 脚部 《ナインテイル》よりキュービーエフ(設定スレ>>16
 と、なっているぞ。
 パー速過去スレのどこかにこのアセンでのファイトがあるから気になったら見に行くと良い』//

=閑話休題、ナオヒロはヘッドセットを装着し、一度息をつくとフィールグラムを起動した。
 選び出されたステージは……=

//秒数末尾が
 1・9 古城
 2・6 森林
 3・7 地下鉄ホーム
 4・8 境内
 0・5 ハイウェイ

45滝沢真一:2014/02/20(木) 02:28:42 ID:0H6XR152
>>44
ランダムにより決定されたステージは――ハイウェイ。
陸上走行でのパフォーマンスに秀でるロランにとっては、まさに打って付けとも言える地形であろう。

(意図せずして地の利を得たな。まぁ、運の流れはこっちに向いてそうってことで……)

滝沢は一呼吸吐くと同時に、思考から余計な情報をシャットアウトして、
自分の視線を、眼下に立つ敵機へと集中させる。

既に両者の戦いを遮る物は何もない――。
火蓋を切って落とすのは、どちらが先かという話だけだ。

「さぁ、先手必勝だ。一気に行くぜ、ロラン!!」

そして滝沢が号令を掛けると同時に、戦いは始まった。

ロランは背中の大型フレキシブルブースターと、両足の脹脛に備えられた小型ブースターをフル稼動させて、
さらに踵に付いたローラーでスケートを漕ぐようにダッシュし、猛然とルリの元へと迫る。
その速度は、陸上走行という次元においては相当なレベルだと言っていいだろう。

「バルカンで牽制しつつ、右斜めから斬り込め!」

『了解――。オォォォッ……!!』

再度滝沢から指示を受けたロランは、そのまま頭部の小型バルカンで弾幕を張りつつ、
自分から見て右斜め方向へ足を進めて、ルリの正胴を狙う一撃を繰り出す。
振るう武器は右手装備――、ドラゴンバスターの名を与えられた大型ビームソードだ。

46麻木ナオヒロ:2014/02/20(木) 14:59:16 ID:MaJCSy76
【ハイウェイか、この店のハイウェイは首都高なんかをモデルにした入り組んだものではなく、緩くカーブを描いた高々架上の一本道。
 中央分離帯以外障害物らしい障害物はない。
 対戦相手の方が幾分有利に思えるが、空が覆われているわけでもない。フライメック故に落下死もない。
 詰まるところ、別に私にも悪くないステージなのだ。】
 
『初手から熱烈なアタックだな、嫌いではないぞ』

【相手の突撃は成る程、目を見張る速度だ。
 しかし、】

「相手の土俵で戦う義理はないよね」

QBFを用いた跳躍に背面のスラスターを併せての高速飛翔を指示。
速度では劣るかもしれないが、瞬発力ならば。

【牽制のバルカンを両腕の篭手でいなし、十分に接近されるより早くバックステップ気味の跳躍から、空へ。
 勿論、こちらには牽制用のバルカンのような武装もないため、ただぼーっと飛んでいるつもりはない。】

さて、指示はどうしたものか。
相手の右腕武装は巨大な剣。左腕はバンダースナッチにも似た鉤爪を有する巨腕。
それだけならばまだやりようもありそうだけど、別の機能が無いとも言えない……が。
こちらに出来ることは限られているのだ、それをやるしかないだろう。

「ルリ、速度押さえ気味に鈍角で突っ込もう。相手がなにかしら手を打ってきたら全速で後ろへ。
 そのまま攻撃後の硬直狙ってどっちのバンダースナッチをぶち込もう。
 もし、相手がなにもしてこなければ、頭を砕きに行けるように」

ヘッドセットを通しての指示をタブレットで補足しつつ送る。
露骨なカウンター狙いだが、同時に相手の武装を見るためのアクションだ。
ルリが指示を行い始める。さあ、どうなるか。

47滝沢真一:2014/02/21(金) 00:37:42 ID:4q55Cfeo
>>46
「チッ、やっぱりフライメックは厄介だな……」

初手から全速力の突撃で打って出たが、この一撃はあっさりと後方へ飛ぶことで躱された。
飛行能力はフライメックの標準機能だが、これをされるだけでも陸戦タイプにとっては厳しいのだ。
やはり相手が“空を飛べる”というアドバンテージを持っていることは、甘く考えていいものではないだろう。

そして、そのままやや速度を抑えて突っ込んでくるルリを見て――

(飛び込んできた……けど、本気の突撃じゃねーな……ならば、)

ロランへ向かい来るルリの動きは、自ら仕掛けるというには遅すぎる様に感じる。
その遅ささえ感じ取れていれば、相手のモーションの狙いは容易に読むことが可能だ。
恐らくは速度を抑えながらこちらの間合いへ入り、反撃を見るなり先程同様の後方飛翔で回避して、
あとは攻撃後を突いてカウンターを放つなり、再度間合いを離して待ちに入る……といった具合だろうか。

滝沢はルリが飛び込む一瞬の動きで、そこまでを判断することが出来た。
――ならば相手の引き足を狙って、真っ向から叩くのみだ。

「ロラン、小手面だ。二段目で捕まえろ!」

小手面とは剣道における基本的なコンビネーションの一つであり、
その名の通り一段目で軽く小手を打ったあと、すぐさま本命の面打ちへと繋ぐ二段打ちだ。
自らが剣道家である滝沢は、自分の技を戦術に組み込み、HMPのものとして習得させていたのだ。

『シッ……、ハァァァァーッ!!』

滝沢の指示を受けたロランは迷いなく前進し、ビームソードで相手の右手を狙った斬撃を繰り出す。
この攻撃は恐らく簡単に回避されるだろう――が、真の狙いはさらなる追い打ちにある。

ロランは小手を打ったその足で、さらに加速して前へ踏み込み、
今度は頭部を狙った、強烈な縦一閃を振るう。
背後へ逃げる引き足と、正面へ飛び込む追い足では、やはりこちらの速度に分があるだろう。
この距離からならば、バックステップで簡単に逃げ切ることは困難な筈だ。

48麻木ナオヒロ:2014/02/21(金) 01:56:08 ID:MaJCSy76
>>47
【相手HMPが剣を上げた、それを目にした瞬間にウィングスラスターは前方へ向き、体を後方へと飛ばす。
 一撃目を回避、しかし今のは浅い、本命ではない。
 更に、騎士の攻撃が切り替わるのを目が捉える。猛禽を参考にしたこの瞳には見える。
 更なる脚の踏み込み、こちらが後方へ逃げることを読んでの前進か。
 先程の突撃から考えて、この距離は軽く潰される距離だ。
 一太刀浴びることは避けられない。
 ……後ろにしか逃げられないのならば、だが。】

フライメックの利点は、空を飛べることだ。
そしてそれは、自由だということ。
HMPのサイズならば、地をいくよりもあらゆる動作が受ける抵抗は小さい。

ルリの瞳は相手が手首を返し始めるのを捉え、次の一撃は正面、若しくは左からになると予測を立てたようだ。
左のウィングスラスターを後方に向けなおし、右のスラスターを弱める。
それによって体は反時計回りに回転しながらに右前方へ進む。
相手HMPの左腕をギリギリを掠めながら、さながらバスケットボールやサッカーのプレイヤーがやるように相手HMPを抜いていった。

【思っていた形とは違うがカウンターだ、】

『くれてやるっ!』

【騎士の背に向けて、回転の勢いのままに右の抜き手を放つ。
 相手が前進し続け多少の距離が開こうと、ある程度ならば関係ない、バンダースナッチの射出機構でカバーできる。】

49滝沢真一:2014/02/21(金) 21:38:05 ID:uTqOk3bk
>>48
「なっ、躱された……!?」

滝沢にとっても今回の攻撃はそれなりの自信があった――が、やはり難なく回避されてしまった。
相手が後ろへ逃げるという読みは間違いではなく、実際に初動では後方へ逃げていたように見えたが、
そこから急転身してロランの横を抜け、さらにバックアタックを仕掛けるとまで来たものだ。

フライメックとは、そこまで自由に動けるものなのか。
相手の運動性を、甘く考えすぎていたのかもしれない。

『ぐぁっ……!!』

ルリの抜き手はロランの背部に直撃し、DVNOには《胴体部:損傷率40%》の表示が浮かぶ。
ダメージ自体は致命傷になるほどではない。しかし――。

「やべえ、バンダースナッチか……! 背部ブースター強制排除!!」

敵の手には、こちらを錯乱させるウィルスが仕込まれてる。
それがロランの頭部まで回ってしまえば、この一撃だけで勝負が決まりかねない。

滝沢は咄嗟に攻撃を受けたブースターの強制排除を命令し、
それを受けたロランは、マントを模した大型フレキシブルブースターを脱ぎ捨てたあと、
すぐにその場から離脱し、再びルリと間合いを離した位置に身構えた。

『不味いぞ、シンイチ。相手の運動性は、こちらが想定していたよりも大幅に上だ』

「ああ、分かってるさ……。だが相手も格闘武器しか積んでいない以上、攻撃の際には必ずクロスレンジで来る筈だ。
勝機はそこにしかねえ――。今度は絶対に捕るぞ、ロラン!」

『――了解、全力を以て迎え撃とう』

ロランは既に背部ブースターを失い、自らのアドバンテージであった機動力は半減している。
再度自分からアタックを仕掛けて捕まえることは当然出来ないため、今度はこちらが待ちに入り、相手の攻撃を待ち受けるしかない。
バンダースナッチの一撃は、ダメージ率以上に大きな痛手を、ロランに背負わせることになったようだ。

50麻木ナオヒロ:2014/02/22(土) 05:47:50 ID:MaJCSy76
>>49
【攻撃は致命傷とまでは行かなかったが、致命的な損失は与えられたようだ。
 圧倒的なスピードを生み出す厄介なブースターを失わせることが出来たのは僥倖といっていいだろう。
 また距離を取られたが、ブースターを失った今、驚異度は先程までより下がるだろう。
 バッテリーは残り8割を切るかと言うところ、一旦地に脚を下ろし消費を押さえる。】

『……どうする?ナオヒロ』

さっきの攻撃、あの動作は見た覚えがある。
何年前か、体育の授業で見たのだったか……とすれば、剣道だろう。
技の名前は忘れたが、とにかく剣道の技だったと思われる。
その技術を元に戦っているのなら、足下や先程のカウンターのような背後から、また直上からの攻撃には対応し慣れていない筈。
ならば、

【無言のナオヒロから指示がくる。
 成る程、効果的かはともかく意表は突けるかもしれないな】

ルリが天に向けて右腕のバンダースナッチの射出機構を発動させる。
そうしてまるで花火のように真上へ伸びたバンダースナッチのワイヤーを、
右手で手繰るようにして掴むと鎖分銅や投げ縄のように頭上で振り回し始めた

今のワイヤーの長さは先端の篭手部分まで合わせて25cm程。
まだ伸ばすことも出来るが、間合いの利を取るためにも投擲するまで長さは抑えておくべきだろう。

【頭上から風切り音が途切れることなく聞こえてくる。
 この使い方は射出機構を用いるより速度で劣るし、あまり実戦でやることは無かったために少々勘がないが、
 相手に変則攻撃の方が効果的なのだとしたら、こちらの方が有効だろう。】

『さて、舞台を何時までも止めたままにする訳にもいくまい?』

【地面を蹴り、前へ出る。
 相手が下がるのなら、更に前へ跳び、足下を薙ぐようにバンダースナッチを投擲する。
 相手が前に出るのなら、こちらは上へ飛び、頭へ叩きつけるようにバンダースナッチを振り下ろす。
 日本被れの騎士よ、どう出てくる】

51滝沢真一:2014/02/22(土) 12:45:57 ID:b6kPEd6U
>>50
小手面の攻撃を一度見ただけで、それが剣道の技だと見抜いた麻木の目は慧眼だと言えるだろう。
しかし、確かに滝沢は剣道を戦術に取り入れてはいるものの、それしか使えないと思っているのならば大きな誤算だ。
滝沢は剣道家だが、そうである以上に“HMPファイター”なのだ。

「仕掛けて来たな――。行くぞ、ロラン!」

そして前へ出て来たルリに対して滝沢が選んだのは、やはりこちらも前進――。
当然だろう。ただでさえ機動力が落ちているのに、引き下がっていては相手を捕らえられるわけもない。

「バンダースナッチをクローで捕獲!
そのまま相手を引き付けて……ドラゴンバスターを叩き込め!!」

『――オォォォッ!!」

こちらの前進を見て直上へと跳び上がり、バンダースナッチを振り下ろすルリ。
射出攻撃を捨てて、まるで鎖分銅のように投擲するその発想は妙案だが、
手で投げるだけの速度など、射出に比べればたかが知れている。

この程度の速さなら、ロランのカメラアイは充分にそれを補足して、対処することが出来る。
――これならば、恐らくは捕れるだろう。

ロランはクローでバンダースナッチを捕まえるべく、左手を振り上げる。
そしてそれに成功したならば、すぐさまその豪腕で相手の体を引き付け、
ビームソードの斬撃を、ルリの胴体部から左腕辺りを狙い叩き込むだろう。

これらの動きは、無論剣道の技などではない。
しかし機体の性能をフル活用して生み出された、紛れもない滝沢とロランだけの“剣技”だ。

52麻木ナオヒロ:2014/02/22(土) 16:35:00 ID:MaJCSy76
>>51
さすがに、そう簡単には行かなかったか。
タブレットにダメージを知らせるウィンドウが表示されたのを目の端で見る。

【バンダースナッチは捕らえられた。
 騎士はこちらを引き付けようとそれを引っ張り上げる。
 こちらの方がウェイトもパワーも劣る以上、抵抗する意味はないだろう。】

ルリは引っ張られるのに併せてブースターで加速、相手がこちらに叩き込もうとしている大剣のタイミングをずらしにかかる。

【相手が振るう大剣を左腕で止める、あわよくば掴んで止める。
 バンカースナッチのパワーならば、多少は拮抗するだろう。
 そうしたらば互いに腕を封じられた状態になる。
 そこでQBFとウィングスラスターの併用によるスタンプ染みたキックのラッシュをボディか、狙えるようなら頭部へと見舞ってやる。
 一撃は軽いが、その分回転が速く一度嵌まれば抜け出すのは骨の筈。】

53滝沢真一:2014/02/23(日) 00:04:37 ID:LN8X1Ncc
>>52
単純なパワー比べならロランの方が上だろうが、
敢えて加速することでタイミングをずらすという判断が功を奏したようで、
麻木の目論見通り、ビームソードはルリの左手で掴み取られる。

『くっ……!』

そこから繰り出されるキックのラッシュによって、頭部と胴体部のダメージが徐々に蓄積されていき、
DVNOには《頭部:損傷率35%》、《胴体部:損傷率60%》の表示が並ぶ。

だが――。

それでも――、だ。

このくらいのダメージならば、どうということは無いのだ。
これからこちらが撃ち返す“一発”に比べれば、こんなものは軽微の損傷だ。

「――――ようやく、捕まえたぜ」

滝沢は試合開始時に見せたのと同じように、ニッと口元に不敵な笑みを浮かべ、
それに呼応するかの如く、ロランもバンダースナッチを掴んだままの左手を、相手の胴体部へと押し当てる。

レッドセイバーはまだ市場には出回っていない機体であり、その性能を麻木が知らないのも無理はない。
だが、もしも麻木がそれを熟知していたのならば、ここはルリの右腕を切り離してでも距離を取ることを選んだだろう。
情報の有無というアドバンテージが致命的なミスを生み、それが滝沢から見れば千載一遇の好機となった。

この距離は、ルリにとっては完全なるデッドゾーンであり、
ロランにとっては、まさに必殺の間合いなのだ。


「零距離射撃だ……!! ブチ抜けッ――――!!」


『―――――――――――――――――――― プ ロ ミ ネ ン ス !!』


そしてロランの左手の中央部に開いた銃口が、轟音と共に火を吹いた。

これは“プロミネンス”の名を持つ大出力ビーム砲であり、射撃精度が低いため長距離狙撃などには全く使えないものの、
至近距離から頭部パーツなどに直撃させた際には、瞬間的に勝負を決めてしまいかねない程の威力を誇る代物である、

――――その一撃を、零距離から撃ち放ったのだ。

幾ら射撃精度が悪くとも、密着状態から撃てば外さない。外れるわけがない。
恐らくはこのまま掴んだバンダースナッチを貫き、更にはその奥の胴体パーツにまで及ぶ、強烈なダメージを見込めることになるだろう。

54麻木ナオヒロ:2014/02/23(日) 03:55:17 ID:MaJCSy76
>>53
《右腕損傷:損傷率70%》
《EX右腕損傷:損傷率100%……機能停止》
《EX左腕損傷:損傷率42%,43%,44%,45%……上昇中》
《胴体損傷:損傷率38%》

ビームを発する大剣との競り合いに、左のバンダースナッチは爪が殆ど融け失せて既に篭手の様相をなしていない。
それより深刻な右腕はというと。
バンダースナッチは装甲を貫通され内部のギミックごとスクラップより酷い状態に。
バンカースナッチも肘から先の機能は失せた。
ボディは風穴こそ開かなかったものの、バッテリーの一つが安全装置により給電を停止することになった。
まさか、掌にこれだけ高出力の武器を仕込んでいるとは。
接射の影響で向こうも無傷ではないと思うが、不具合などは殆ど期待できないだろう。
一撃で追い込まれたというわけだ。

【────しかし、私にはまだ勝利を諦めてなどいない。】

自身の右腕が吹き飛ぼうと、左腕が灼かれようと、ルリはその脚を止めはしない。

【ナオヒロから送られるデータを元にスラスターを調整、滞りなど作らない。
 痛みはない。恐れはない。
 頭が吹き飛んでいないのなら、攻撃を止める必要はない。】

バッテリーは残り25%、停止したバッテリーが復旧する見込みはない。
現状の損傷率を鑑みても、ここで攻め切る。

55滝沢真一:2014/02/24(月) 02:00:35 ID:5otfaWhQ
>>54
《左腕部:損傷率11%》

零距離からのプロミネンス発射によって、こちらの左腕も幾らかばかりの反動を受けるが、
アームドクローとは、元々こういう使い方をするために作られたパーツなのだ。
対エネルギーコーティングを施されたクロー部分はほとんど無傷であり、
マニピュレーター本体にも充分な耐熱性があるため、その損傷は極めて軽微だと言っていいだろう。

だが――。

「まだ、来るのか……?」

ロランがこの戦いで、ルリにまともな攻撃を決めたのはこれが初めてだ。
しかし、そのダメージは致命的としか言いようがないくらいに甚大なものであり、
機能停止まで追い込まれずとも、麻木が戦意喪失するには充分な説得力を持つ一撃だった筈だ。

――――だが、麻木は一歩たりとも譲らなかった。

穏やかな仮面に騙されていたが、蓋を開けてみれば、中身はとんだ闘争心を持ったファイターではないか。
その覚悟も、判断も、そしてHMPファイターとしての誇りも――、全てが尊敬に値する。

「ははっ、アンタすげーよ……。こういう相手とやり合えるから、HMPファイトは面白いんだ。――――だけど、な!!」

こと接近戦での攻撃力という点においては、レッドセイバーは比類なき性能を持つ機体なのだ。
あくまでも高い運動性やウィルス攻撃を用いた、トリッキーな戦法を主体とするルリが戦う相手としては、この土俵は流石に分が悪すぎる。

しかし――。
いや、だからこそ――と言うべきか。

そんな局面においてでも、真っ向からの勝負を挑んできた麻木とルリに、最大限の敬意を示そう。
――――そして、自らが持つ全身全霊、最高の技を以て叩き潰そう。

《頭部:損傷率70%》
《胴体部:損傷率83%》

止まることのないルリの蹴撃によって、ロランの被ダメージ量はさらに蓄積されていく。
既にこちらもギリギリのラインまでHPを削られているが、やはりロランにとって、それは大きな意味を持たないのだ。
機能停止さえしなければ、全てを覆すことの出来る“一撃”を、この機体は持っている。

「行くぜッ――――!!」

滝沢が号令を掛けるに従って、ロランの握るビームソード一本に、莫大なエネルギーが集約されていく。
抑えきれなくなった電流が剣の周囲を走り、大気を迸る程に――、だ。


『「ド ラ ゴ ン ッ ……――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――― バ ス タ ァ ァ ァ ァ ー ッ !!!!」』


そしてそのエネルギーは、剣の形と成って解き放たれた。

ルリが左手で掴んでいる大剣のビーム刀身が瞬く間に巨大化し、長さはフィールドの端まで届く程――、
幅だけでも30cm、つまりは並のHMPの身長を超える程の、尋常ではないサイズまでへと姿を変える。

人型、獣型、鳥形、昆虫型、車両型――、千差万別の個性を持つHMPの中でも、ここまで巨大な武器を持つ機体はそう無いだろう。
あまりにも異質で、異常で――。それ故に、この剣に与えられた名は“竜殺し(ドラゴンバスター)”。

――――その剣を以て、このままルリを叩き斬ろうというのだ。

先程と同じ零距離からの攻撃だが、規模はプロミネンスのさらに上を行く。
今度は右腕狙いだの、胴体狙いだのと、ケチなことを言いはしない――。竜殺しの大剣が斬り裂く範囲は、ルリの身体“全て”だ。

まさしく必殺と称するに相応しい、ロランの最高の一撃が今、ルリの元へと襲い来る。

56麻木ナオヒロ:2014/02/24(月) 20:33:25 ID:MaJCSy76
>>55
ルリが、光に融ける。
────
────────

「ありがとうございました」

相手HMP──ロランの勝利を告げると、フィールグラム上のホログラムは解けて元の平台に戻る。
その上からルリのパーツを回収し、メディカルポッドに放り込む。

「いやぁ大敗です、二撃でやられるとは」

『一発一発の攻撃が致死級とはな。速さもあるしパワーもある。装甲も悪くない』

DVNOを通してルリが言う。
……素直に強かったと言えないのか。

『そのモデル、どこのものだ?
 それだけの基礎スペックを備えた機体を知らなかったというのは勉強不足を露呈させるようで格好着かないが……。 
 聞くは一時の、聞かぬは一生のというからな』

勉強不足、でこちらへ目を馳せたのは、……うん、ごめん。
しかし俺もそれは気になっていたのだ。
メーカー製ハイエンドモデル級のポテンシャルを秘めているのなら、個人ディーラーの作でもSNSなどを通じて話題になることが多い。
もしやこの少年も凄腕エンジニアと言うことなんだろうか?

57滝沢真一:2014/02/25(火) 03:14:44 ID:0W3FzREs
>>56
《頭部:損傷率91%》
《胴体部:損傷率100%――機能停止》

ドラゴンバスターの一撃がルリを焼き尽くすまで、やはりその蹴撃の雨が止むことはなく、
DVNOにはロランの頭部と胴体部の損傷率が表示される。

レッドセイバーは高い攻撃力に反して、防御面はイマイチなのだ。
幾ら軽量級パーツのキック攻撃といえど、流石にこれだけラッシュされれば総ダメージ量は馬鹿にならない。

「ぷっはぁ、こっちもギリギリだったな……。
サンキュー、ロラン。今回はお前の火力に助けられたよ」

『――――ああ、手強い相手だったな』

滝沢は愛機に対して一言感謝を告げると、フィールグラムの反対側に立つ麻木の元へ向かう。

「俺の方こそ、ありがとうな。いいバトルだったぜ!」

滝沢はニッと笑って、麻木に礼を返す。
そして今度はルリから投げかけられた疑問に対して、右手で頭をかきながら……。

「正直に話すと、こいつが何なのかってのは俺にもよく分からねーんだ。
ただ、2ヶ月くらい前だったかな……。学校帰りに怪しげな露天商のおっさんに声を掛けられて、
この機体を勧められたんだけど、俺も見たことないフォルムに惹かれたもんで、思わずその場の勢いで買っちゃってさ」

滝沢は自分のHMP――レッドセイバーを入手した時の経緯を、ざっくりと語る。
結局相手の問いに対しての解答にはなってないが、滝沢としてもこう答えるしかないのだ。

58麻木ナオヒロ:2014/02/25(火) 15:38:08 ID:pMLcyOaE
>>57
『怪しいおっさんから購入とは……。
 そういうのは見かけ倒しのハリボテか、スゴイスゴイヤツの2パターンになりがちだが、今回は後者か。
 そうだな、どこかに刻印かなにかないのか?
 そのおっさんのスクラッチ品でもなければありそうなものだが』

意外な出自に、なにか仕込まれていたりしそうで少々心配になるものの、好奇心も持ってしまうもので。
タブレットで騎士型HMPを片っ端から検索にかけて、それらしいものを探してみる。

「彼自身も自分の出自とか分からないのかな?

 AIが他の機体からの流用じゃないなら、個人の作品の可能性は下がるよね」

AIの作成は難易度が他のパーツと比べてかなり高い。
個人やサークル単位の作品では、乗り換えを前提としてそもそもAIはのせていないことも多い。

59滝沢真一:2014/02/26(水) 04:49:21 ID:0H6XR152
>>58
「いや、買った時に一通りバラしてはみたんだけど、
どうにもメーカーのロゴみたいなもんは見当たらなかったんだよなぁ」

やはり滝沢自身も、この機体のことを色々と調べはしていたようだが、
それで判明したのは結局これが“正体不明”だということと、
あとは特に怪しげな装置などが仕込まれているようなことは無かった――、というくらいのものである。

「ただ、こいつの機体名称だとか、パーツの性能だとかは、
最初からDVNOのデータベースの中に隠れてたんだよ。
それを登録したのは、多分こいつを作った奴本人ってことなんだろうけど……」

『私自身も思い出したいのは山々だが、シンイチと出会う前の記憶は……――――』

――――そこでふと、ロランの言葉が途絶える。
何の変哲もないただのバッテリー切れだが、こちらもかなりギリギリの機体状態だということをすっかり忘れていた。

「……っと、こっちも限界か。悪いな、今日はそろそろ帰ってこいつを直してやらねーと」

滝沢は麻木達との会話を区切り、機能停止したロランを回収する。

「俺の名前は滝沢真一。……で、こいつはロランだ。
今日は楽しかったよ。またいつかやり合おうぜ、じゃあな!」

そして滝沢は屈託の無い笑みを浮かべながら、麻木に別れを告げると、
足早にホビーショップから去って行った。


//ではでは、ちょっと強引ですがここらで締めさせて貰いますね。
お付き合いありがとうございました!

60麻木ナオヒロ:2014/02/26(水) 17:57:32 ID:MaJCSy76
>>59
「無さそうだねー、記憶」

言葉は途切れてしまったが、それまでの口振りから察せられる。
……今の停止はバッテリー切れのようだった。
ルリのバッテリーはあの砲撃を受けた段階で70%はあったはず。
低容量且つ、飛行による消費があるルリでそれならば、強力なブースター移動を行ったとは言えあちらのバッテリー残量はそれ以上だろう。
しかし、それがどうしたことだ、相手はああして止まっている。
……強力な攻撃力は安くはないということか。
次回の参考に、覚えておこう。

修復されたルリをメディカルポッドから取り出し、DVNOをチェック。
プラパーツ以外の破損を確認し、自宅の在庫状況と見比べる。
…………と、相手からの挨拶が。

「俺は麻木ナオヒロで、」
『私はルリだ。次は勝たせてもらうぞ』

笑み顔の滝沢君にリベンジを誓う言葉を放るルリ。
相変わらずの頼もしさに苦笑を浮かべてしまう。

「……さ、て、俺達も帰るか。
 今日のログから反省点の見直しかなー」

//ちょっと強引なロールがぽつぽつありましたね…すみませんでした。
楽しかったです、ありがとうございました。

61斎獄 隆宗:2014/02/28(金) 02:15:14 ID:Cavuxfd2
入り組んだ道の先、金網で仕切られたフィールドに二人の闘士が向かい合っていた。もちろんフィールグラムを挟んで……
落書きだらけの壁と少しだけ残っているタバコの匂い。ここはとある街のストリート・フィールド
何もファイトが楽しめる場所は模型店やデパートだけではない
街を歩けばこうした野良フィールグラムが置かれている事も少なくはなく、室内でのバトルに慣れきった身体に刺激を与えてくれる
もちろん客層も様々。店を「出入り禁止」になるような迷惑な輩もたまに現れるが……ここでは力が全て。ファイトの結果で黙らせてしまえばいい
向かい合った金のメッシュの男が口を開く。襟に学生証が見える。近場では有名なHMP専門学園の中等部のものだった

「フィールドはランダムだ。さあ、出てこいエフ」

『かしこまりました。私がマスターに完全なる勝利を与えてみせましょう』

フォルテスオーノだ。無表情な顔で淡々と目の前の対戦相手に礼をする。顔を上げた。どこか人間的な無機質さを持つ瞳は片方しか無く、もう片方はセンサーになっており、メイド服には似合わない少し不気味な空気感を出していた。
脚部も蜘蛛のようで気味と趣味の悪さが少し感じられたが、デザイン的と言えばデザイン的でもある
スチームパンク風味にリメイクされたHMPがセンサーのレンズを光らせ、マスターと共にステージの決定を待つ

/
奇数 水上都市
偶数 廃工場
00 濃霧の岡

62斎獄 隆宗:2014/02/28(金) 02:19:53 ID:Cavuxfd2
【廃工場】
どこかの国の兵器工場がベースのステージ
未完成のまま終戦を迎えた戦車たちが、天井の隙間から漏れる月光に照らされている

63青崎 修:2014/02/28(金) 02:52:04 ID:G9oUuQeY
「さて、出番です、ジェイク」
相手がHMPを出したので、こちらもそれに倣う。
『随分と可愛らしいけど、油断はしないよ』
足にタイヤを付けた濃紺の機体が現れる。(設定おきば>>57参照)
(今回は工場のステージですか…障害物が多いですね…走りにくいと考えるか、カバーしやすいと考えるか)
そんなことを思案しながら、相棒を見送る

64青崎 修:2014/02/28(金) 08:17:02 ID:vyr0WabQ
>>63の続き
ジェイクとエフは幾つかの戦車に囲まれた中、2m程距離を空けて向かい合うように配置された。
『修、あのギター、何かあると思うかい?』
「ありますね、確実に。背中のスピーカーにも。」
どちらも楽器の分類なので、音波で攻撃するであろうことは明らかだ。
だが、もうひとつ、なにかとても厄介なものを持っている。
そんな懸念が頭にこびりつく。
(しかし、考えても仕方ありませんね。)
と、無理矢理思考を変えて、ジェイクに指示を出す。
「ロングソードを構えて下さい」
『了解』
背部コンテナ右側外面にマウントされたロングソードを抜き、隻眼の淑女に向かって構える。刀身が鈍く月光を照り返した。

65斎獄 隆宗:2014/02/28(金) 23:13:14 ID:Cavuxfd2
>>64

「エフ、まずは隠れるんだ」

エフは少し頷くと脚部の大きさに対して控えめな駆動音を立て、砲塔が取り払われた戦車の陰へと回り込むように隠れた
少しの沈黙、レーダー越しに敵HMPを見据える。どうやら相手から仕掛けて来る気配はなさそうだ

(でも、それなら好都合)

「エフ、正面突破だ!短期決戦でいくぞ!」

隆宗が声を張り上げエフに指示をする。それと同時に集まったギャラリー達は不思議そうな顔をした
いくら強力なバリアを持っているフォルテスオーノと言えど正面で殴り合える程の耐久力も武装も無いのではないか、と
確かに隆宗のエフは特殊な武装を積んでいる様には見えない
しいて言うなら蓄音機型のスピーカーがひときわ異彩を放っているが、これはどうみても武器ではないだろう
機体自慢の蹴り技も脚をローラータイプにしてしまえば意味がない
だが、それらの疑問は観戦者用に設置された天井のカメラが解決し、金網の外のスクリーンから見守る少数のギャラリーは納得を得た
エフは今、敵の背後へ回り込もうと高速で移動をしている
つまり先程の指示はブラフであり、張り上げた声の指示は全くの嘘であり、実際には指示と逆の行動をとっていたのだ

(ここのファイトにマナーなんて無いぜ。さあ、どう出る新入りさん)

66青崎 修:2014/03/01(土) 00:17:28 ID:Z1QLTDMc
「っ! 迎撃を!」
どうやら相手は一気に決めてくるつもりらしい。退避するのも悪くないだろうが、あの楽器はどうにも不穏だ。何かされる前に先手を打っておきたい。
『わかった!』
ジェイクはいつでも斬りかかれるよう構え直し、踏み込むタイミングを見計らう。しかし…
「………………?」
何も来ない。攻撃どころか、相手の姿さえ出てくる気配はない。
(どういうことだ?……何故何もしてこない……そこまで準備の要る武装でも)

67青崎 修:2014/03/01(土) 00:18:31 ID:Z1QLTDMc
あああああああああああああああ途中で送ってしまったあああああああああ

68青崎 修:2014/03/01(土) 00:43:28 ID:vQupMkfQ
(どういうことだ?…何故何もしてこない……そこまで準備のいる武装でもあるのでしょうか………………!!!!)
そこで、気付いた。なんのことはない。ただのフェイクだ。しかし表の世界で何度か試合をしただけの青崎にとって、これ以上の不意打ちはなかった。
「ジェイク!! 後ろです!!」
『!!』
慌てて叫ぶがもう遅い。既にエフはジェイクの後方へと移動していた。
『くっそおおおおお!!』
両サイドスカートが機械音を立てて90度回転、後ろにダガーナイフを2本共飛ばす。完全な悪あがきだった。

69滝沢真一:2014/03/01(土) 03:53:20 ID:LN8X1Ncc
都内某所、某ホビーショップにて――――。

平時は子供から大人まで、様々な客層で賑わうショップだが、今日は何やら顔ぶれが物騒なようで。
というのも、本日は朝から店内のHMPコーナーでミニイベントを開催しており、
その内容は“一日で最も連勝数の多かった者が優勝”という、極めてシンプルなものである。

そして今、片隅に設置されたフィールグラムの一つでは、周囲を響めかせる些細な事件が起きていた。

「……っしゃあ! 楽勝だぜ!!」

フィールグラム上には、赤い騎士の姿をしたHMPが悠然と立ち、
その傍らでは、赤いTシャツの上から学ランを羽織った少年がガッツポーズを決める。

――――少年の名は、滝沢真一。

彼もまた、今日のミニイベントに参加しているHMPファイターの一人であり、
現在既にかなりの連勝数を稼いでいるらしく、フィールグラムを囲む観客からは、
「あの高校生、もう9連勝だってよ」「見たことのないHMPだな……」などと、動揺の声も聞いて取れる。

さぁ、果たして少年の連勝を止める者は現れるのか。
あるいは、このままさらに彼が勝ち星を稼ぐことになるのか。

フィールグラムの対面に現れる次の対戦相手には、周囲の注目が大いに集められることになった。

70斎獄 隆宗:2014/03/02(日) 01:13:12 ID:Cavuxfd2
>>68

(レーダーには映らなかったようだな。面白いように背後が取れた。ジャミング音波を鳴らしながら突撃したのが効いたのか?)

月明かりを染み込ませた肌が閃光になる。HMPの背後でブレーキを引き、ギュギュギュと音を立て滑りながら初撃を叩き込もうとする
エフが右腕を掲げた。右手には緩い三角形のギター・ピック。パイプやバルブが丸出しな細い腕から蒸気がぷうっと吹き出した。振り下ろした腕にダガーナイフがかすめた
握られたピックは引き金代わりの鉄の弦に迫っていく

(音波ウイルスは壁などを貫通する分、ホログラムでの生存時間が短い。スピーカーから僅か5cm先にあるHMPへ飛び乗るのにも一苦労だ
ヘッドを乗っ取っても自分が発生したスピーカーから出る音を聴き続けないと死んでしまう駄々っ子だ)

この距離なら仮に耳をふさいでいたとしても無意味であろう
しかし、彼が咄嗟の判断で後ろなどへ移動していれば第一の攻撃は失敗となってしまう
鉄の弦と鋭利な三角形はすぐそこまで向かい合っていた

71荒田シン:2014/03/02(日) 02:00:42 ID:qcjLMZE6
>>69
「ううん、こんな連勝している相手とぶつかるなんて、ちょっと運がないなぁ」

 真一の対面に現れたのは、この寒さの中でもTシャツを着こなすという男、荒田シンだ
 自信のなさそうな呟きから察することができるが、真一とは違い今日の勝ち星は少ない

「でも、まぁ、ファイトは楽しんだもの勝ち、だからね。
 よろしくお願いするよ」

 そういって人のよさそうな笑みを浮かべたシンがフィールグラム上に置いたのは、かなり不気味なHMPだった
 見ていると呪われそうな……何かの叫び声が聞こえてきそうなそれは、このあたりのショップではそれなりに有名なHMPである
 エクリプス――蝕の名を冠した彼女は、今日のイベントのためかお色直しをされてそこに立っていた

 アセンを見るに、真一のレッドセイバーと同じく近接型
 腕の試される戦いになりそうだった

72青崎 修:2014/03/02(日) 13:40:37 ID:i8Lyvtb6
>>70
(…!?……あと少しだけ余裕がある!?)
首だけ振り向いたジェイクのカメラに、ギターの弦に手をかけようとするエフの姿が映し出された。どうやら攻撃を開始するまでにあと一手間だけ要るらしい。
だがどうする。バックパックから武器を取り出している暇は無い。銃口を向ける前に潰されるのがオチだ。今手に持っているロングソードもこの至近距離では些か大振りだろう。ダガーナイフもたった今射出したばかりである。ならば…
『これでぇぇぇぇ!!』
ローラーダッシュを片方だけ起動し、ソバットの要領で後方に蹴りを繰り出す。今度は逸れたりはしない。言うまでもなく正しい使い方ではないが、直撃すれば有効打を期待できるだろう。
(もしタイヤにピックを突き立てられればパンクする恐れが出てきますが、それ以上に指が巻き込まれる可能性が高い。そうなれば弦を弾くことが出来なくなる。よってこの攻撃を確実に凌ぐには演奏を中断し、籠手で防御するしかない)
高速回転するタイヤがけたたましく唸りを上げ、エフに迫る!

73滝沢真一:2014/03/02(日) 20:23:27 ID:s1.Iddf2
>>71
「ああ、よろしくな!」

滝沢は軽快に挨拶を返して、口元にニッと不敵な笑みを浮かべる。

HMPファイトを開始する前――、滝沢はいつもこうして笑うのだ。
それは未知の強敵と戦うことへの喜び故なのか、あるいはそんな相手を前に、自らを奮い立たせるためなのか。
理由は自分自身でもよく分からないが、とにかく笑みを浮かべずにはいられないような、
そんな不思議な興奮を、HMPファイトは与えてくれる。

(と、言っても……)

相手のHMPを見て、滝沢が最初に抱いた感想は“不気味”の一言だった。
美しいヴァルキリーシリーズの頭部と、グロテスクな加工を施された胴体パーツのギャップ、
さらにその中から浮かぶ聖句の輝きが、より一層の気味悪さを演出している。

(頭部がヴァルキリー、左腕がミセリコルデ、右腕がムベンガで……脚部はロイヤルローズか。
スクラッチっぽい胴体部に何が隠れてるかは分からねーが、とりあえず言えることは……)

滝沢はエクリプスを観察しながら、その特性を分析する。
正体不明の胴体パーツに、何らかの機能が仕込まれている可能性はあるが、
攻撃のメインとなる両腕装備が刺突用の短剣とショットガンとなれば、まず間違いなく近接戦闘型と見ていいだろう。

「格闘戦になる可能性が高い。初手から気合い入れて行くぞ、ロラン!」

『――――了解した。全力を以て当たろう』

滝沢はDVNO越しに愛機へ指示を飛ばし、
それを受けた騎士型HMP“ロラン”も、大剣を握る右手に力を込め、
左足を前に置いた半身の体勢となり、これから向かい来るであろう敵機の攻撃に備えて身構える。


//
奇数:闘技場
偶数:教会墓地
0:???(スペシャルステージ)

74滝沢真一:2014/03/02(日) 20:29:18 ID:s1.Iddf2
【闘技場】
古代ローマの闘技場(コロッセオ)をモデルにしたステージであり、
楕円形に並び立つ観客席に囲まれた舞台には、障害物などは一切存在しない。

75斎獄 隆宗:2014/03/03(月) 10:07:18 ID:Cavuxfd2
>>72
「休符ッ!バリアを展開しろ!」

予想外の角度から回し蹴りが飛び出してきた。成る程ローラーにはこういった使い方もできるのか
エフの手からバリアが四角い壁を作る。ローラーのサイズに対して少し大きめのサイズにしてしまったたので防御面では不安があるものだ
事実、たったいまバリアにローラーが直撃しているが、勢いをを殺しきれてないためゴリゴリと壁がが削られていた

「そのまま後退しつつもう一度音波ウイルスを聴かせてやれッ」

ホイールが唸り逆回転した。工場の無機質な床から火花が散る

76荒田シン:2014/03/03(月) 10:28:13 ID:qcjLMZE6
>>73,74
「うわぁ、闘技場かぁ」

 遮蔽物の一切存在しない、正面から殺しあうことだけを追求して建築されたその空間では小細工というものが通用しない
 力による真っ向勝負という、男らしい戦場だ

 そんな荒涼とした場に、怨霊じみたエクリプスが降り立っているのは、
 まるで散っていった剣闘士たちの怨霊が集い、具現化したかのようだった
 揺ら揺らと現れては消える聖句が、その悲痛さを謳いあげる

(ま、変に細工できない分、学習には最適かな?)

 経験地が少ない現在、未だ小細工を学習させる必要がない
 であれば、特異が技術の求められない闘技場は最適といえるだろう

「エリ」
『はい!』

 愛しいマスターの呼び声に、不気味なHMPはその外見には不釣合いなほどに快活な声音で答える
 そのアンバランスさからは、言葉では言い表せない不気味な感想が浮かぶに違いない

「ちょっと、がんばってみようか」
『はい!』

 作戦など一切を伝えることなく、シンは戦場へと愛娘を赴かせた
 深読みすれば、そこまでの自信があるとも取れるが、戦績を見れば実際何も考えていないのがバレバレである


『いきますよぉ!』

 初期位置から出征したエクリプスは、ストラトスフィアの超出力によって瞬きのうちに最高速度へと到達する
 軽量機体に類されるその速度は、驚くほどに速い
 だが、どれだけ速かろうと、完全な待ちを取っている武芸者に飛び込むのは、飛んで火にいる夏の虫。愚の骨頂である
 けれど、それだけでないのが、ストラトスフィアの構造だ

「そこだよ」
『挨拶代わり、です!』

 ロランの眼前、騎士がブースターを吹かしてもギリギリ届かない範囲に接地した瞬間、エクリプスがムベンガを放った
 距離からすれば有効射程外もいいところ。集弾による本来の威力などまったく求めていない、ただの牽制弾だ
 それと同時、地に着いたハイヒールによってエクリプスはぐるりとその向きを変える
 折れてしまうのではないかと思うほどにぐぐりと曲がった足によって、速度そのままに直角に方向転換を行う
 ロイヤルローズ本来の機動からすれば遅いほうだが、初見であれば混乱するかもしれない奇怪な動きだった

77滝沢真一:2014/03/03(月) 19:41:52 ID:gc1iFrxw
>>76
この離れた間合いから、一息に飛び込んでくる加速性能と最高速度は、
やはりローズシリーズの高級モデルを、脚部に採用しているだけのことはあると言ったところか。

「チッ、流石に速いな……。クローで防御!!」

そこからエクリプスが撃ち放つショットガン――ムベンガは、
至近距離で食らってしまえば特殊弾による強烈なダメージと、麻痺効果まで付与される危険な武器だが、
まだ踏み込み一つでも剣が届かないこの距離ならば、直撃したところでどうということはない。
ロランが防御のために振り上げた左腕に、バラけてしまった散弾がいくつか命中し、DVNOには《左腕部:損傷率16%》の表示が浮かぶ。

さらに、着地と同時に直角に向きを変え、ステップを踏むエクリプス――。
その変則的な動きは、戦い慣れていない者が見れば、思わず翻弄されてしまいそうなものだが、
滝沢の指示スピードと、ロランの反応速度もそれに負けてはいない。

「敵機と距離を詰めつつ、バルカン掃射! 狙いは頭部パーツだ!!」

『――――了解ッ!!』

本来ならば、このまま一気に斬り込め……と命令したいところだが、
剣で攻撃を仕掛けるには、まだ若干距離が遠い。――ならば、どうするか。

ロランは滝沢に指示された通りに、ブースターを吹かして間合いを詰めつつ、
側頭部に備えられた小型バルカンから砲火を放ち、エクリプスの頭部パーツを狙う。

このままヘッドショットが決まれば完璧だが、仮に腕部などで防御され、そちらにダメージが入ったとしてもそれはそれで良し。
重要なのは“今の中途半端な距離に居れば、ダメージを食らい続ける”と、相手に認識させることなのだ。
それによって、相手は距離を詰めて反撃に出るか、あるいはさらに逃げてこの場から離脱するかの二択を迫られることになり、
どちらを選んだにせよ、敵機側からのアクションを誘うことが出来る。

まさに“牽制”としか言い様のない地味な攻撃だが、そもそも牽制弾とはこうやって使うのだ。
その目的から考えれば、これでも充分すぎる効果を得られるだろう。

78青崎 修:2014/03/04(火) 02:44:31 ID:Z1QLTDMc
>>75
高速回転するローラーと高密度バリアの干渉により、形容し難い摩擦音と、まばゆく輝くエネルギー粒子が撒き散らされていた。

『はあぁ……っ!』

下手をすれば弾き返されるとも思われた咄嗟の攻撃だが、意外にも押し込んでいるらしい。徐々に、徐々にバリアが削れていく。しばらくこの状態が続くと思われたが、エフが脚部のローラーを後ろ向きに回転させた。
「離れて下さい!」
すかさずバリアを蹴りつけ、攻撃した時とは逆方向に体を回すことで、飛び退きつつ転倒を防ぐ。それにより一瞬にして二機の間に大きな距離が開く。

「ジェイク、追げ…いえ、炸裂弾を」
『?…………なるほど、そういうことか!』
「はい、上手くいけば、一気にこちらが有利になります」

ロングソードを元の位置にマウントし、バックパックからグレネードランチャー用の炸裂弾を二つ取り出し、幾つも並んだ戦車の内エフの遥か後方に座する二台目掛けて同時に着弾するよう、角度に差を付けて投擲した。そしてすかさずハンドガンを両手に装備、落下する直前に二つ同時に撃ち抜く。

爆音、衝撃。

二台の戦車は原形の半分近くを失い、辺りには大小様々な部品やら破片やらが撒き散らされ、即席のオフロード地帯が出来上がっていた。
それと同時に、先程射出されてから、重力に従い落下したダガーナイフが爆風で吹き飛ばされ、半ば手裏剣じみた軌道で再びエフに襲い掛かる。

…そして、ジェイクの頭部機能に異常が生じた。

79荒田シン:2014/03/04(火) 02:57:54 ID:qcjLMZE6
>>77
(へぇ、反応してくるか)

 あの機動は試金石だ
 いくらシンがアーキテクトと言っても、知っているHMPには限界がある
 一般流通しているHMPでも最近のものはマイナー作までは網羅できていないし、個人製作ならば尚のことだ

 知識は力だ。間接の稼動範囲までとは言わないが反応速度がわかれば対応の仕方も変わってくる

(速度で振り切れないかなぁ。ファイターのほうも腕が良さそうだし……ま、そんなに考え込むことはないかな)
「エリ」

 頭部を的確に狙ってくるバルカンに対し、ミセリコルデを振り回し、ダメージを軽減を狙う

《頭部:ダメージ10%、ヘルム30%損傷》

 この程度ならば問題ない

「いこう」

 距離を詰めてくるロランに対し、接近を開始する
 ステップの速度をあげ、数フレーム飛んでいるかのような奇怪な機動が徐々に近づいていく
 意地でも目を離さなければ、あまりの往復に目が回りそうだ

80滝沢真一:2014/03/04(火) 19:17:13 ID:CMoKPj5I
>>79
「間合いに入った……ッ! 斬り払え、ロラン!!」

『――――オォォォォッ!!』

さらにステップを踏み続けながら、こちらへと接近するエクリプス。
だがロック距離には劣るものの、格闘戦での処理能力と補足速度ならば随一の性能を誇るロランの目は、その動きを逃さない。

ロランは相手が剣の間合いに入るや否や、迷うことなく右手のビームソードを振るい、
相手の横移動を制するかの如く、それよりも大きな横薙ぎで、エクリプスの胴体部へ斬り掛かる。

――――しかし、この攻撃だけで終わりでは無い。

「続けてもう一度バルカン掃射! 攻撃の隙を埋めろ!!」

滝沢は止まることなく、DVNO越しに指示を飛ばし続け、
それを受けたロランも、再度バルカンを撃ち出し、先程と同じくエクリプスの頭部を狙う。
剣での大振りな攻撃後の隙を、バルカンによる牽制でカバーするコンビネーションだ。

厄介だと思っていたムベンガを初撃で撃ち切ってしまい、
今は左手のミセリコルデしか武器が無いのならば、リーチの面でこちらが上回る。

敵機の性能と、自機の性能を考慮した上で、滝沢はその間合いの差を活かすことを選んだ。
この攻撃に対し、エクリプスはどう動くのか。そして、荒田はどう指示を送るのか――。
今度はこちら側からも、相手の能力を見極めるための絶好機になるだろう。

81斎獄 隆宗:2014/03/05(水) 10:10:15 ID:Cavuxfd2
「左腕損傷28パーセント。こっちの防御は薄いぞっ。大丈夫かっ」
『ええ。大丈夫です』
「なら、このまま弾き続けろ」

元々観賞用HMPであったエフは見た目こそ優雅だが戦闘面、とくに防御面に難がある
シールドを貼る事ができる右腕は無傷だったが、無防備な左腕には一本のダガーナイフと戦車の破片が深く刺さっていた
もう一撃左腕に被弾すればこれらが更に深く食い込み内部の駆動機関を機能停止させてしまうかもしれない
だがそれは当ればの話。隆宗はそんな事を気にも留めずDVNOに映った文字列を見て既に勝利を確信していた

『ダメージ管理システム、侵入完了』

エフのギアーの音色は特殊であり、ウイルスとして敵のダメージ管制をのっとり
「頭部に攻撃を受けている」という誤報をDVNOに流し続ける事でじわじわとダメージを与え、パーツを一切破壊させずに勝利する事ができる
しかしこのウイルスは強力であるが常に近距離でギターの音色を聴かせていないと効果が消えてしまうのだ

「スピーカーを敵機に向けたまま後退。そのまま逃げ切れっ」

82荒田シン:2014/03/05(水) 16:41:04 ID:qcjLMZE6
>>80
 ステップを制するように振るわれたロランの剣を、エクリプスは逆方向へのステップで避けようとする……かに見えた
 それだけの回避行動だったならば、ロランの剣は届いただろう
 彼の剣はそれほど迅かった
 しかし、エクリプスの回避はそれだけでは終わらなかった
 
 ステップの先、急激にゼロへと変わるはずの速度が落ちない
 勢いそのままに、エクリプスの体が傾いでいく

 ――こけた、ようにみえた
 ここに来てのアクシデントか?

 いいや、そうではない
 傾いだ体はそのまま地面に肉薄、下腕でその衝撃を受け止めるやわずかについているヒールと腕の開きを利用して、
 撥ねる床にでも落ちたかのように体を回転させ、体の低さそのままにロランの真正面へ
 さらに宙で遊んでいた足を地面に打ち付けることによって、その反動で飛び上がる
 
 曲芸じみた動作によって宙返りをしたエクリプスは、その中途、
 体勢が元に戻る半ばにて、左手のミセリコルデを投ずる
 遠心力の加わった投擲は、銃弾ほどではないにせよ、それなりの速度でロランへと向かう
 
《頭部:ダメージ30%、ヘルム50%損傷》
《腕部:ダメージ15%》

83滝沢真一:2014/03/06(木) 02:15:07 ID:0PPlNzA2
>>82
『ぐぁっ……!!』

ロランが横薙ぎに振るった剣は、エクリプスの驚異的な動きで回避され、
その代わりに飛来するミセリコルデの刃は、ロランの腹部辺りに突き刺さり、DVNOに《胴体部:損傷率45%》の表示が浮かぶ。

――――だが、こちらもここで止まるつもりはない。

右手のショットガン――ムベンガは、特殊な改造などが施されていなければ、装弾数は1発の筈であり、
既にその弾丸は、最初のアタックで撃ち切ってしまった。
さらに左手のミセリコルデも、このように投擲してしまったとなれば、いよいよ相手の使える武装は尽きたと思われる。

機能の分からない胴体部に、何が隠れているかはまだ分からないが、
この機を逃し、相手にムベンガをリロードでもされてしまったら本末転倒だ。
攻めるタイミングはここしかない。――――滝沢はそう判断し、更なる前進を決意する。

「堪えろ、ロランッ……! このまま飛び込み面でブッた斬れ!!」

『了解ッ……――――! 行くぞッ!!』

ロランは腹部に傷を受けながらも、その踏み込みを一切緩めることはなく、
全身に備えられた4つのブースターをフル稼動させて、猛然とエクリプスの元へと飛び掛かる。

狙いは、宙返りから着地する瞬間――――。
その無防備な脳天を目掛け、エクリプスの胴体までを真っ二つにしてしまうような勢いで、
ビームソードによる、強烈な縦一閃を振るった。

84青崎 修:2014/03/06(木) 02:55:36 ID:ChNb8yrc
>>81
(これは……!?)
『ぐ……うっ…!』
《頭部:損傷率12%》

戦車を爆破することにより、ダメージを与えつつ退路にオフロード地帯を作ることに成功するものの、エフはそんなものお構い無しに後退していく。どうやら彼女の走破性を甘く見ていたようだが、今そんなことはどうでもいい。ジェイクは現在頭部にダメージを受け続けている。否、正確には頭部の損傷率を示す数値が上昇していた。

「どうしたのですか!?」
『わ、わからない……ただ、頭部機能に異常があるとしか……』
《頭部:損傷率17%》

この現象があのギターによって引き起こされているのはわかる。しかしどうやって、どのような原理でジェイクの頭部にピンポイントで傷一つ付けずにダメージを与えているのか、それが全くわからない。

(何かあるとは思っていましたが……まさか、ここまで厄介なものとは……)

敵の能力を見誤ったことに対する一瞬の自戒。そしてすぐさま思考を切り替える。

(演奏を直接止めればいいだけの話なんですが……それはあちらも予測し、対策しているでしょう)
《頭部:損傷率21%》

(それでは少々非効率的です。もっと別の方法を…)

しかし攻撃の原理がわからないのではお手上げだ。どうしたものかと数秒程頭を抱えた後、仕方なく直接攻撃の命令を出そうとした時、あることを思い出す。

(そういえば初手の不意打ちで演奏しようとした時、不必要な程接近していましたね…)

(なぜそこまで近づかなければならなかったのか…)
《頭部:損傷率30%》

答えは単純、対象が近い程効果が大きくなるからである。つまりそれは…

(一定以上の距離を保てば、まともに効果を発揮しない!)

相変わらず“原理”はわからないままだったが、“性質”はわかった。ここまで来たらあとは行動するのみ。

「ジェイク! 動けますか?」
『あ、ああ……動作に支障はない……』
「 では今から思いきり距離をとって、近づかせないで下さい」
『…了解』

ローラーダッシュを後ろ向きに起動、一瞬だけタイヤ独特の摩擦音と砂埃を巻き上げた後、弾かれたように飛び出す。そして両手のハンドガンを乱射。機銃でも使っているのではと思えるほどの連続した銃声とマズルフラッシュが起こり、ブローバックする度に薬莢が前に吹き飛ぶ。牽制目的ではあるが、トゥーハンド故にその火力は馬鹿にはならない。

85組替え式の名無し:2014/03/06(木) 16:40:20 ID:4yJzobAE
各地の学校で卒業式や修了式が終わったこともあり、この頃、真っ昼間からHMPに興じる子供の姿がよく見られる。
進級祝いを手に新しいパーツを漁ったり、ひたすらバトルに明け暮れたりと。
そんなわけで、このショップ内設営フィールグラムの前にも、ひとり子供が陣取っていた。

ちっちゃいなりにぴんと張った背筋が落ち着いた雰囲気を醸し出す――小学生ぐらいの少女だ。
いわゆる看板娘というやつか、着衣はどこかの喫茶店の制服と思われるそれで、胸ポケットにはロゴが貼り付けてある。
空色の髪は二つ結びにされており、幼くも、いかにも生真面目そうだった。

そして彼女のやわらかな手には、遠目にも目立つ黄金の機体が握られていた。
〝ロードモナーク〟――老舗のフィギュアメーカー、ポポロ社が数年前に発売した≪帝王型≫HMPだ。
見る限りほぼ純正で、背中にはあの名前だけは有名な『ディバインライト』が折り畳まれているのがわかるだろう。
左肩の大型ウェポンバインダー兼シールドには、主人のそれと同じロゴが刻まれていて。

彼女たちの前に「あなた」が立ったとき、フィールグラムは自動的にランダムでステージを決定する。
さて、どんな戦場に、どんな客人が訪れるのだろうか……。

/投稿時間が
/偶数:ミニチュアビル街
/奇数:遺跡荒原
/00:天空闘技場

86組替え式の名無し:2014/03/06(木) 16:44:43 ID:4yJzobAE
/「ミニチュアビル街」
/巨大ロボットアニメや怪獣映画風の戦闘を楽しむことができるセッティングのステージ
/HMPの攻撃で容易に壊れるビルや、簡単に踏み潰せるサイズの個人住宅などが並ぶ架空の街
/フィールドの中心には最頂部400m級のタワービルが聳え、その周辺の摩天楼の屋上を足場とすることもできる

87麻木ナオヒロ:2014/03/06(木) 17:59:01 ID:hY3cmN3I
>>85
「よろしくおがいしますね」

相手の子は小学生くらいか、その服装はウェイトレスのそれのよう。
年頃から考えると、家の手伝いを抜けてきたように見える。
……いや、そのHMPに彼女の制服にあるものと同じロゴを見つけ、考えを変えた。 
彼女達は広告塔なのだろう、多分。
ならば実力も、相応のものが予想される。
油断は禁物だな。

『随分と派手なHMPを連れているな。
 ふふん、見掛け倒しで終わってくれるなよ?』

フィールグラムに降り立ったルリが相手を挑発する。
それを小声で諌めながらヘッドセットを装着、各種アプリを起動する。
……相手のHMPは“あの”ロードモナークか。
ほぼ純正のようだが、《大和》と並んで悪名高い巨砲、《ディバインライト》すらそのままなのが不気味だ。
彼女が初心者ならば分からないでもないが、広告塔としてバトルを行うほどならばあれの扱いにくさも分かっているだろうに。
……警戒していこうか。

───────
────────

【フィールグラムが姿を変えた。
 地から生えるビルの群れ……は小さい。
 どうやら特撮などで使われるようなミニチュアの、更にミニチュア版といったところか。
 私の特性としてはあまりいいステージとは言えないが、密室などに比べればマシか。】


『ひとまずは、あちらを目指すか』

【フィールド中心近くには高さのあるタワーもある。
 あのあたりの方が幾分戦いやすいだろう。
 跳躍から飛翔を行い、一直線に中心へ。
 ……接敵はどのタイミングになるか】

88斎獄:2014/03/06(木) 21:18:30 ID:Cavuxfd2
>>84

「大丈夫かっ」
『今度はかなり効きました』
「逃げるつもりだ、追いかけろ。相手の射線には立つなよ」

ローラーを今度は前に回転させ、追撃の体勢に入った
しかしそれと同時に、砂塵を切り裂き無数の弾丸がエフに襲い掛かった。
シールドを傾斜させ、威力を分散し弾丸を滑らそうとするも思った以上に威力が高くスパスパと貫通していく

「シールドを凝縮させろ。そのまま物陰に隠れつつ追いかけるんだ!」

敵のHMPの動きはこちらの攻撃の特性を感付いてのものだろう
だとするとこのまま追いかけるのは危険かもしれない。だが敵は見るからに特殊な武装を積んでいない
このまま障害物に隠れながら追撃し、音波ウイルスを聞かせ続ければきっと勝利は自分の方向へ寄ってくる。隆宗はそう見くびっていた

(それにこっちには隠し玉がある。仮に勝てなくても負ける事はないだろう)

89小日向 愛莉:2014/03/07(金) 04:13:16 ID:4yJzobAE
>>87

「……はい。ご注文、承りました」

舌足らずな声と澄ました無表情をあわせて、彼女は小さく礼を交わす。
お腹の前でぴったりと手を合わせて頭を下げる様子は、まさしく小さな給仕さんと言ったところか。

「派手……あ、ありがとうございますっ」
『うむ、しかし気をつけよ愛莉。力ある姿は、戦いで真に強きことを示して初めて意味を持つ」

芝居がかった相棒の言葉を受け止める。トーナメントプレイヤーではないとはいえ店の看板を背負った身。
おもてなしが本分の店だとは言えども、勝負に強い看板娘がいることは良い宣伝になる。
ビリヤード台やトランプゲームの卓の代わりにフィールグラムを置いた店では、なおさらだ。

「わかってます。オペレーション、任せてください」
『頼むよ。――さてお二方、始めるとしようか』

DVNOを導入した携帯端末をメニューボードのように持って、少女はその言葉に頷いた。

───────
────────

かくして二体のHMPはジオラマの街へと降り立った。
ここでは中央に聳える高層ビルの頂上でさえ、平均的なHMPを10体ちょっと縦に重ねたぐらいの高さしかない。
さながら巨大人型機動兵器。であるからしてこの町並みは、踏破され蹂躙されるために配置されている。

(格闘戦特化型のフライメック、ですか。それが見晴らしの良い所に陣取ると。
 ロードモナークは空中戦もこなせますが、専門家にまっすぐ向かっていくのは愚の骨頂ですね……)

考えることはお互いに同じ――少しでも有利な環境で戦いたい、ということだ。
そして普通フィールドの形は変えられない。だから、必然的にある程度の不利は飲み込んで戦うことになるのだが。

【……せっかくだ、〝こいつ〟をちらつかせてやる。
 『聖なる威光』を前におまえがどう出てくるか、試してくれようじゃないか】

「カラメリゼ、このまま反転。後方F地区へ」
『よかろう』

フィールドの中心へ打って出た対戦相手とは対照的に、ロードモナーク――個体名「カラメリゼ」は街路沿いに後退していく。
そして背丈より少し高いビルを見つけると、その背後に身を潜めて沈黙するだろう。
かなり高度が高ければ見えるかもしれないが、彼が取り始めるのは、腰だめの射撃体勢だった。

あまりにもわかりやすい。しかし無視することはできない誘導。
敵が「山をも崩す武器」を構えて遠方に陣取っている――その事実を、あなたはどう受け止めるだろうか。

90荒田シン:2014/03/07(金) 09:18:03 ID:qcjLMZE6
>>83
 着地に至る僅かな空隙
 そのタイミングでリロードは終了していたのである
 
 理想を言えば地に足をつけて撃つのがよいが、眼前にはロランのトドメが迫っている
 着地を待つ時間は、ないだろう
 ここで完璧に狙えるほど、反動を抑えられるほど、ヒヤシンス腕の性能は高くない
 だが、出せるすべてを出さずして敗れては真剣に相手をしてくれている真一/ロランに申し訳が立たない
 
 シンはそこまでしなくてもよかった、というかもしれない
 だが、エリ――エクリプスはそう思う
 
〔出せるすべてを出す。それが礼儀だと思うのです〕

 だから落ちてくる死を前に、右手を前へ伸ばし、左手を添える

 ―― 一閃が落ちてきた
 ヘルムが融ける。放熱剤たる髪が焼け散る
 ――けれど、まだ、死なない
 ダメージ値が爆発的に増加する。制御系を包み込む頭頂部が融解して、制御系に火が回る
 ――それでも、まだ、諦めない
 制御系が焼ききれるそのギリギリまで必死に狙いを定めて――

 ――撃った
 
 それが命中するにしろ外れるにしろ
 それが有効打であろうとなかろうと

 ――それを最期にエクリプスは、機能を停止した

91麻木ナオヒロ:2014/03/07(金) 18:52:39 ID:pjNpxk5o
>>89
【フィールド中心に至るが未だに敵の姿は見えず、ただ静寂が流れる。
 バッテリー節約のために一旦近場のビルへ脚を下ろす。
 障害物の背はそこまで高いわけではない、隠れるスペースも限られるはずだ。】

敵の動きは見えていないが、あのHMPの持つスペックを考えると望ましいのは接近戦の筈だ。
こちらが格闘型フライメックという点から接近戦を避けているのだとして、
純正《ロードモナーク》が所持する遠距離武装は肩のバインダーシールドに仕込まれた砲と、あのディバインライト。
ディバインライトのチャージタイムを考えれば、このエンゲージ前がもっとも撃つチャンスがあるだろう。
戦闘開始早々にバッテリーをかなり消費してしまうが、わざわざ砲を持っているなら狙ってくる筈だ。
敢えてチャージを完了させ、発射姿勢を取らせることで身動きを封じてしまうことも一応考える。
ひとまずは、

「一旦高く飛んで、敵を探そうか。
 そのまま相手にこちらを発見させられれば相手の攻撃も幾分読みやすくなると思う。
 敵を見つけたら一気に降下して、脚とスラスターの併用でジャンプ移動。
 的を絞らせないようにしながら、迅速に距離を詰めよう。
 ただ、接近できても相手の舞台だ。
 気を引き締めていこう」

指示を受けながらルリが飛ぶ。
相手の武器は驚異だが、去なせば大きなアドバンテージになる。
近付かなければ戦えないのだ、臆することに意味はない。

92青崎 修:2014/03/07(金) 23:05:27 ID:nS.T.Wc2
>>88
鋼鉄のデスレースを、車輪と鉄砲の二重奏が彩る。

「頭部の調子は?」
『ああ、大分マシになった』
《頭部:損傷率32%》

予想通り、あの旋律は近距離で効果を発揮するもののようで、ある程度離れた途端、損傷率の上昇が急激に遅くなった。だがまだ油断はできない。遅くなっただけで、止まったわけではないのだから。

『もう弾が切れる! サブマシンガンを使う!』

本来ハンドガンは取り回しと携行性が売りであり、弾幕を張ることは想定されていない。故に今回のような使い方をすれば、直ぐに弾切れを起こす。

「わかりました。くれぐれも接近されないように」

空になった弾倉を排出、バックパックの後部ハッチが開き、ハンドガンを格納する。そしてサブマシンガンに手を掛けたところで、

『!』

エフが突如方向転換、戦車の向こう側に回り込む。どうやら戦車の列を挟んで演奏を続けるつもりらしい。

『そうきたか…』

視界を戦車が断続的に横切る。これでは弾幕を張れない。

『ならこいつの出番だな』

左ハッチ外面にマウントされたスナイパーライフルを手に取る。そしてスコープは覗かず、腰だめに構える。

『よし、そのままそのまま…………………今だ!!』

エフと足並みを合わせ、“道が開いた”瞬間、引き金を引いた!

93滝沢真一:2014/03/07(金) 23:46:45 ID:i2QIiTCs
>>90
(勝った……ッ!)

ロランの剣がエクリプスの頭部を捕らえた瞬間、滝沢は心の中で勝利を確信する。
執拗にバルカンで攻撃し続けたことも効いて、既にヘルム部分にはかなりのダメージを与えられている筈だ。
この状況ならば、ドラゴンバスターの一撃で確実に頭部を叩き割れる――と思った、その直後だった。

――――滝沢はエクリプスの次なる行動に、自分の目を疑うことになる。

「なっ……――――――――――ムベンガッ!?」

エクリプスは自らの頭を割られながらも、滝沢が弾切れだと思い込んでいたムベンガの銃口を、ロランへと向けて来たのだ。
リロードに時間の掛かるムベンガに弾を込める隙など、ほとんど与えなかった筈だ。
いつリロードしたんだ? いや、あるいは最初から2発以上撃てるように改造していたのか?
様々な疑問が滝沢の脳裏を駆け巡るが、時は既に遅し――だ。

一瞬の油断――――。
僅かばかりの判断ミス――――。

だが、そんな刹那のタイミングで明暗が分かれてしまうのが、戦いというものなのだ。

『………………ッ!!』

「しまった……――――――――――ロランッ!!」

それがエクリプスの射撃テクニック故なのか、あるいは偶然の産物なのか。
恐らくは後者なのだろうが――ともあれ結果としては、ムベンガのバイトショットはロランの頭部へと直撃した。

レッドセイバーの頭部パーツ――ヒートヘルムは、決してそこまで装甲が弱いわけではないが、
ムベンガの直撃をこの距離から食らったとなれば、流石にただでは済まない。
滝沢のDVNOに《頭部:損傷率100%――機能停止》の文字が表示されるのは、エクリプスが機能停止したのとほぼ同時。

――――つまり、相打ちだ。

94斎獄:2014/03/10(月) 00:35:39 ID:Cavuxfd2
>>92
スナイパーライフルの弾丸は確実にエフのヘッドへ直撃した
……しかしエフは倒れない。左眼に埋め込んだセンサーパーツに弾丸がめり込み事なき事を得たのだ

(頭部ダメージ71%。畜生!言ったそばから奥の手を使う事になるとはな)

「スナイパーライフルなら一発打ったらリロードが必要な筈だ。ゲインを上げろ!音波ウイルスから振動攻撃に切り替えだっ」

『はッ』

フォルテスオーノは最大音量でギターを掻き鳴らす事により破壊力抜群の音波攻撃を行う事ができる
地鳴りのように響く轟音はまるで地震のように大地を揺らし、周囲のあらゆる物を粉々にしてしまう威力を持つ
しかしそれを使ったフォルテスオーノ本体にも多大なるダメージを与えてしまう諸刃の剣だ

「このためのスピーカーさ。フルパワーの爆音を直接喰らわないよう、わざわざスピーカーを背負うタイプに変えてね!」

『準備完了です』

「ウインドミルでぶちまけろッ」

エフの腕が風車のように回る。核兵器のスイッチが今、押されようとしていた

(しかし、いくら自傷ダメージが減るよう工夫していても、このダメージでは相当運が無い限り俺の勝ちは無いかもな……)

95青崎 修:2014/03/10(月) 03:20:47 ID:hG4l/CzQ
>>94
「…?」

あれほど必死になって撒き散らしてきた音波攻撃を突然止めた事に対し、怪しみ、いぶかしむ。

『…今度は何だ?』

損傷率の上昇が完全に止まり、一瞬で0に戻る。しかし、青崎の表情は険しくなった。

(何故……何故演奏を止めたんでしょう? ダメージの蓄積? バッテリーの浪費? それとも……)

その時、エフのスピーカーから駆動音が聞こえた。

(!! 違う!! 攻撃を止めたわけじゃない、これは…)
「ジェイク!!」
『わかってる!』

スナイパーライフルを投げ捨て、ロングソードを再び装備する。それと同時にバックパックをパージ。そしてローラーダッシュを起動、先程より高い摩擦音を発した後、凄まじい勢いで駆け出した。

『うおおおおおおおおおおおっ!!!』

バッテリーとモーターの負担を度外視した速度で駆け抜け、ほぼ一瞬にして距離が詰まる。
そしてクロスレンジに入り、ロングソードを突き出した瞬間ーーー











周りの戦車は吹き飛ばされ、地面は大きく陥没、屋根や壁も殆ど崩壊し、二機は半ば野晒しになっていた。

「………」

青崎は静かに目を閉じた。
装甲の大半が消し飛び、ケーブル類が露出。フレームはひしゃげ、辛うじて原形を保っている程度。バイザーも左半分辺りから割れている。
そんな状態でも、ジェイクは立っていた。

だがそれだけだった。

《頭部損傷率:100%》

96組替え式の名無し:2014/03/11(火) 00:09:40 ID:Cavuxfd2
>>95

自分の音波攻撃に耐えるため、フォルテスオーノのボディには特殊な加工が施されている
だが、攻撃があまりにも強過ぎる故にほぼ意味を成しておらず原型を保つので精一杯というのがエフのモデルの現状だ
当然この攻撃も例外ではなく、エフのパーツ全てが多大なる損害を受けていた
やけに凝った装飾は滅茶苦茶になり、一目見ただけでは戦車の残骸と見分けがつかない程に大きくパーツが破壊されている

《頭部ダメージ100% 戦闘不能》

引き分けではなく敗北だった
やはりあのダメージし量での音波攻撃はあまりにも無茶があったのだろう
ジェイクに音の攻撃が届いたその一瞬。既にエフは全壊していたのだ

「畜生ッ!」

隆宗がDVNOをコンクリートに
叩きつける
今までいた筈のギャラリーは、もう既にいなくなっていた
二人しかいない空間に、無機質な負け惜しみだけが響き渡る

97荒田シン:2014/03/11(火) 02:02:31 ID:qcjLMZE6
>>93
 フィールグラムの光が落ちて、あとには残骸が残った
 結果は相打ち。両者の連勝数はこれで振り出しに戻ったことになる

 しかし、結果を見届けたシンは微動だにしない
 あの状況下から相打ちにもっていったのだから喜んでもいいような気もするが、
 その顔はまったく別の何かに驚いているようだった

 やがてじんわりと熱が広がっていくように、その顔が喜色に歪んでいく
 アヘ顔一歩手前の顔を晒した彼は気でもやったかのように笑い出した

「そうか、そうかそうかそうか!」

 そこには爽やかにTシャツを着こなす好中年はいない
 ただの頭のおかしな男がいた

「ああ……いい。実にいい」

 ひとしきり笑ったシンは、喜色満面のまま真一に話しかける

「実にいいファイトだった。いい成果が得られたよ
 お礼と言ってはなんなんだけど、もし何か欲しいパーツがあれば調達してプレゼントするよ!」

 なんだか、ひどく不気味だった

98青崎 修:2014/03/11(火) 20:58:14 ID:hG4l/CzQ
>>96
「…………………」

これは、勝利と言えるのか。
確かに幾つもの銃弾を浴びせ、正体不明の攻撃を凌ぎ、いいところまで追い詰めたのは事実だ。しかし、それでも“戦いに勝った”という実感がわかず、腑に落ちないでいた。

(…でも、それを考える前に、やるべき事がありますね)
「…隆宗さん、でしたか? …………どうか、エフを労ってあげてください。彼女は本当によく戦いました」
『ああ、あの音波攻撃はとても厄介だったよ』

月並みだが、その言葉に一切虚偽はない。
青崎は足元に転がってきたDVNOを拾い、隆宗に近付く。

「それと、もしよろしければ、今度はフィールグラムの外で演奏を聴かせて下さい」

屈託のない笑顔でそう言い、DVNOを差し出した。

99滝沢真一:2014/03/11(火) 23:53:50 ID:YBvME0gk
>>97
「ロランッ……――――!!」

滝沢は機能停止したロランの元へ駆け寄ると、直ぐさま機体を回収し、メディカルポットに入れる。

「すまねえ、ロラン……。最後の一発は、完全に俺の油断だ」

『――――いや、油断していたのはこちらもだ。やはり、実戦とは侮れないものだな……私もまだまだ精進が必要なようだ』

滝沢はDVNO越しに詫びの言葉を入れると、ロランもそれに返答する。
流石にムベンガを撃ち返してくるのは計算外だったとしても、オリジナルの胴体部など、相手が他の武器を隠し持っている可能性ならば充分あった筈だ。
滝沢もその可能性は考慮していたのだが、攻撃の絶好機と見て、思わず勝負を急いでしまった。――――油断としか言えないだろう。

――――と、そこでこちらへ近付いて来る荒田の姿が視界に入り……、

「えっ? あ、ああ……いい勝負だったな」

先程までは爽やかな雰囲気だった彼が、突如として豹変した様子を見て、
普段は強気な滝沢も、珍しく引き気味になってしまう。
愛機のHMPも不気味だったが、ファイターはそれ以上なのか……。

「……いや、気持ちは有難いけど、見ず知らずのアンタからいきなりパーツなんて貰えないって……。
それに、まだまだ今日のイベントの時間も残ってるしな。俺はもう一度最初からやり直すけど、アンタもそうするんだろ?
お互いさっさとファイトに戻ろうぜ、じゃあな!」

滝沢はそう言ってメディカルポットからロランを回収すると、逃げるようにその場を去って行く。

荒田は一体何を見て、あんなに不気味な笑みを浮かべていたのだろうか――――。
その笑みを見て、滝沢は何やら得体の知れない嫌な予感を覚えていたが、
今はまだ、それには気付かないフリをして、今日のファイトへと戻ることにした。


//では、ここら辺で締めさせて貰いますね。
お付き合いありがとうございました。

100斎獄:2014/03/12(水) 01:35:07 ID:Cavuxfd2
>>98

「……ありがとう」

隆宗が俯きながら返事をし、力なく手渡されたDVNOを握る
ファイトで負ける最大の理由はマスターの力不足だ。だからこそマスターは最後まで一緒に戦った仲間を労わなければいけない
しかし今の隆宗はそんな事を出来る余裕はなかった
エフの残骸を鞄に入れるとすぐに逃げるようにして街のもっと深い場所へ消えてしまった

(俺は……ダメだ。きっと、いつまでもダメ……自分で作ったHMPの事を何も知らない……)

101小日向 愛莉:2014/03/12(水) 10:28:11 ID:4yJzobAE
>>91

ビル陰に肩を寄せて、カラメリゼはその高度な熱源探知センサーでルリの立ち回りを追いかける。
バッタのように飛び駆ける敵は、本来であればディバインライトと相性がよくない。
どうせ直撃を受ければ終わりであるのならば、相手の動きが遅いほうがプレッシャーをかけやすいからだ。

このまま接近を待ち続けて頭上にでも抜けられたら勝ちは遠のく。
決断は、一刻も早くなされなければならない。

『愛莉っ、敵の動きは見えているか?』
「はい。ちょこまかと……七面鳥撃ちとはいきません」
『それで当てられるのか』
「むずかしいオーダーですね」
『で、あろうな』
「だけど、だいじょうぶです。タイミングは私にまかせてください」

愛莉の控えめな表情を更に固くするように緊張が募る。それでも、拳を握ってパートナーに応える。
カラメリゼもまた主を信頼して、ディバインライトのコッキングレバーをぐっと引き込み、射角の調整を始めた。
電力が急速に汲み上げられて砲身内に満ちていく。≪マジェスティ≫の遮光バイザーが降りる。もう後戻りはできない。

【そうだ。ディバインライトを世の常のビーム・キャノンと同じに扱ってはならぬ。
 普通ならば避けられて終わりになる状況も、こいつなら……】

「……今です!」
『喰らえぇぇぇーーーーッッ!!』

その瞬間だった。激しい光が銃口で弾け、それが空を割るようにしてビルの間へと伸びていった。
衝撃波で吹き上がる煙が輪を描き、閃光は飛び跳ねるルリを飲み込まんと殺到する。

ルリがただ「射撃を」回避することは、実はそれほど難しくない。
いくらビームが巨大だとはいえ、あくまでも直線の射撃。思い切り身体を切れば範囲から逃れることも容易いだろう。
だが問題となるのは、衝撃――そしてそれによって巻き上げられる、砕けたガラスや瓦礫の破片だ。
きっと、四方八方から刃の雨が襲いかかるように感じることだろう。

102青崎 修:2014/03/12(水) 21:49:17 ID:RkaxnG9c
>>100
「ありゃ」

隆宗の背中を見送った後、後頭部を掻く。


「………………」



「………帰りましょうか」
『……そうだな』

踵を返し、その場を後にした。






「2年前のシュバリエハート社のトラックによる事故は、ブルーローズが起こしたものであるとの見解が強まりーーー」
「そうそう、あそこのコッペリアって喫茶店のコーヒーがまた美味しくてね……」
「対決! 白熱! どこまでも熱いよ〜♪」

帰り道の電気街、テレビなどが並べられた展示スペースの前を歩いていた。

「…はぁ、どうしてあの店は羊羮の入荷を取り止めたのでしょう……懐に忍ばせるにはあのサイズがベストだというのに」
『いつも持ち歩くなら、さっきのチョコレートも悪くないと思うけど』
「あー、チョコは駄目です。人肌に近いと溶けるので」

他愛のない話をしながら、喧騒を掻き分けていく。やたらと待ち時間の長い交差点を越え、夥しい数の広告を無視し、帰路に着く。
あの男と再びフィールグラムを挟むことを信じながら。

//それではこのあたりで終了とさせていただきます。本当にありがとうございました。

103麻木ナオヒロ:2014/03/13(木) 19:56:28 ID:MaJCSy76
>>101
撃ってくる……!
《フェーダ》の貧弱なセンサーでも捉えられる、巨大なエネルギーの膨張。
別のフィールグラムを観戦していたギャラリーも今だけはここへ視線を送っている。
注目を受けているのはあくまで自分ではないが、ちょっと気恥ずかしいというか緊張するというか。

「……ルリ、越えるよ」

【跳躍の頂点を過ぎ、落下に入る瞬間を狙われたが、即座にスラスターを切り返す。
 私が行くべき場所は一つ、上だ。
 回避の自由度は広い方がいい。
 こちらも攻めにくい場所へ行くことになるが、先を見すぎて今を落とすような無様な真似はするまい。
 高く、高く──────!?】

『……圧巻、だな』

【見下ろす光の大河に思わず口を突いて出る。
 想像以上の速度と範囲だった、というのは言い訳か。】

《脚部損傷:損傷率54%》
《左脚部喪失》
DVNO上の表示に、思わず眉間を寄せてしまう。
右足はつま先部分から、左脚は膝よりやや上からが殆ど蒸発したように無くなった。
これで地面に降りることは殆ど不可能になり、尚且つ武器を失ったことになる。
立ち上がりとしては到底いいとは言えない状態だ。

「ごめん、正確な情報を送れなかった俺のミスだ」

『いや、私の判断も甘かった。
 慣性に任せて全力で下に行くべきだった……かもしれないが、過ぎたことは後だ』

一定にまで高度を上げたルリは、間髪入れず一直線に《ロードモナーク》へ向かっていく。
射撃姿勢を取っている今は隙だらけには違いない。
相手が立て直すより早く、攻撃に転じることが出来るかは微妙なラインだ。
もし行けるのならワイヤー射出の射程込みでバンダースナッチをぶち込みたいが……。

104小日向 愛莉:2014/03/13(木) 21:29:45 ID:4yJzobAE
>>103

それはまるで逆向きの稲妻のように空を灼いた。
光が貫通したビルディングは真っ二つにされ、雲間には不自然なドーナツ穴が開いた。
圧力だけで触れても居ない窓ガラスが砕け散り、あまりの爆音に筐体の集音マイクの感度が二段は下がった。
そして二度言うまでもなく、脚部を半ば消し飛ばされたルリ。

しかし、これほどまでの破壊を振りまく者には相応の代償が伴う。

《EN残量:53%》
《ディバインライト、強制冷却モード。使用制限解除まで残り120秒(往復2レス)》

カラメリゼはこの一撃のためだけに、開幕からほとんど半分のENを削り落としたのだ。
未だ飛行能力を保有しているルリを相手取る上で、この差が大きく響く可能性は否めない。

「……すてきです。カラメリゼには申し訳ないけど……。
 これがラストオーダーだと……こちらも張り合いがありませんから」

《ディバインライト》の暴威が与える損傷を脚部の中破にとどめた相手の采配を、愛莉は乏しい表情ながらに賞賛する。
澄んだ瞳にまっすぐな闘志が宿る。もはや家に彼女に並ぶファイターは居ない。「外でやるなら、こうじゃなくちゃ」と。

事実対戦相手はやり手だ。脚部の損傷にも臆することなく、むしろ身体が軽くなったとばかりに切り込んでくる。
果たしてその読みは正しい――今のカラメリゼは、砲撃を終えてコードの抜き取りと銃身の折り畳みを行っている最中だった。
つまり、少なくとも「手」は完全に塞がっているのだが。

『毒手か。なら身体で受けるわけにはな!』

左肩から大きく張り出した武装バインダーが、動く。
貝殻のような形状。その裏側に整列した4門のエネルギーキャノンがそれぞれに光線を吐いて、これ以上の接近と篭手の射出を牽制しようとするだろう。
このまま単純な軌道で突き抜けるなら、何本かは受けることになるかもしれない。

105麻木ナオヒロ:2014/03/14(金) 21:40:11 ID:MaJCSy76
>>104
【迎撃がくる。4の砲門が私を見据える。
 《QBF》が無事なら《バンダースナッチ》で去なしてやれるが、今は無駄な損耗を抑えたい。
 奴の砲は左肩が接続部だ、右から回り込むというのが有効……でもないな。
 まだ距離がある以上、下手に防御的な思考は隙を生むだけだろう。】

相手《ロードモナーク》は一度《ディバインライト》を使用した以上、既に残りENはこちらをかなり下回っているはず。
積載物の多い重武装に、それを高速で動かすためのブースター。
高性能なセンサーを積んだヘッドパーツに独立して稼動するバインダーアーマー。
どれもがENに重く負担を掛けるだろう、相手としては攻め切りたいはずだ。
その旨をルリに伝えながら、作戦を送る。

【……私としてはこのままやり合いたかったが、ナオヒロの指摘ももっともだ。
 敢えてこちらから腹を見せ、食らいついてきたところを逆にガブリと。
 後の先を取るような駆け引きは得意ではないが、私達は勝つために戦っているのだ。
 勝つためならばやってやるさ。】

指示から数秒としないうちにルリはビームの一本を被弾。
バランスを失い急降下、地面と激突する。
いくらかのダメージを伝えるウィンドウがDVNOに表示される。
どうやら上手く墜ちたようだ、ダメージはどのパーツも10%台で抑えられている。

今回ルリに指示したのは、使い物にならなくなった脚部か、装甲の厚い方である篭手でビームを敢えて受けて墜落すること。
────どうやら上手く右脚部で受けることか出来たようだ。
墜落すると、このフィールドの構造物は脆いために派手に崩れる。
故に落下の衝撃は分散しやすく、逆に落下の見栄えは派手になる。
そうして落下すると同時に、左右どちらかの《バンダースナッチ》を錨のように地面に打ち込み、奇襲のための準備とする。
《バンダースナッチ》を打ち込んだのを誤魔化すためにも、派手な落下が必要だったのだ。
後は相手がこちらまで寄ってきてくれるかだが……。
現在のルリはカメラアイを消灯させ、エラーを起こした振りをしているが、相手が釣れなければ……。
また、あまり長時間狸寝入りを続けるわけにも行かない。
狸寝入りだとバレてしまえばそれこそ隙を晒してしまう。

106小日向 愛莉:2014/03/15(土) 04:30:18 ID:4yJzobAE
>>105

土煙を巻き上げ、立ち並ぶ家屋を下敷きにしながらルリは不時着したように見えた。
カメラを信じるなら脚部に着弾している。この分だと、スラスターを使わずに再び立ち上がるのは至難の業だろう。
つまり、頭側を抑えれば簡単にロックをかけられるということ。

しかし悠長に構えてはいられない。《ロードモナーク》の継戦能力の問題がのしかかって来るからだ。
砲撃時55cmに達する巨砲は、待機時でさえバッテリーを貪り食う。しかも今は強制冷却中。
……これがあるから《ディバインライト》は使いづらい。
既にしてEN残量は45%を割り込んだ。せめて、この黄金のボディが跳ね返す光のひとすじでも電力に変換できればよいのだけど。

【一時的な機能停止か? しかし、動力を寝かせている様子はない。それはこのセンサーが教えてくれる。
 それを理解した上で、追うか待つかは……宗教、か。ひとつには決めがたい。
 一撃加えられればほぼ勝ち。だが、相手の刃に塗られた毒は盾では受け流せぬのだ。】

破壊のあとの灰色の世界で、二騎が向き合う。先に静寂を破るのは――

「――いいでしょう、勝負ですっ」

純金の王者――《ロードモナーク》の、カラメリゼだった。
彼はルリの頭側に陣取ると、右肩に二分割状態でマウントしていたハルバードをそれぞれ両手に握った。

本来なら石突きになるはずの部分から光剣が伸び、斧頭がついた方は戦斧として機能する。
それに加えて、身を護るように前へ突き出したバウンダーにもエネルギーソードが内蔵されている。
標準仕様の《ロードモナーク》ではできない三段構えの刃がそこにはあった。

(足さばきができる分、打ち合いではこちらが上です。手数だって。
 死んだふりをして待ち伏せるつもりなのはわかってます。だからなおさら正面から、次の策も無いうちに……!!)

スラスターが唸り、王者のまっすぐな行進が始まった。万が一突撃されても当たり負けしないように全力で。
逆に言えば、うまいこと側面に逃れられたりすると大きな隙を曝すのだが……。
止めることも躱すこともできないなら、カラメリゼは3つの刃を次々とルリに振りかざそうとするだろう。

107麻木ナオヒロ:2014/03/17(月) 07:40:20 ID:MaJCSy76
>>106
……とりあえずは釣れて良かった。
警戒されているものの、射撃よりも格闘を選択してくれたのはありがたい。
しかし格闘戦は向こうの畑でもある。
まだここからだ、気は抜けない。
と、こちらが奇襲を行うのを見越してか、高速の突進が始まる。
速い。が、まだ、遠い。
間合いはこちらの方が大きく劣る、内に入らなければ弾かれるだけだろう。

【うつ伏せで、瓦礫に突っ伏して待つ。
 落下の際に打ち込んだ左の《バンダースナッチ》は今、8時方向の瓦礫に埋まっている。
 敵の金ピカの進行方向からはやや外れるような位置だ。
 布石はどうにかなった、後はナオヒロからの合図を待つばかりか。
 合図を受ければワイヤーを急速に巻き取り、ワイヤーに引きずられるようにしてその方向──左後方へと移動する。
 ……というのはフリだ。
 ワイヤーはかなり伸ばした状態で、多少巻き取った程度では体を運ぶことは到底出来ない。
 ただ音と、ウィングバインダーの吹かしなどによってそれっぽく、距離を離してタイミングをずらす意図を見せようというだけだ。
 実際は全く移動しないままに、右の《バンダースナッチ》を相手に突き立てる手筈だ。
 一瞬騙せれば御の字だが、騙されずとも仕掛ける。
 相手のパーツならばどこでも良い、触れさえすれば侵してやる。
 一撃放った後に、やっとワイヤーが体を牽引するように……回避運動をするつもりだが、どうなる】

「……今!」

ルリがハルバードの圏内に入る数瞬前。
ワイヤー射出込みでももう少し寄せたかったが、これ以上はリスクが大きすぎる。
突撃の速度もある、どうなるか。

108小日向 愛莉:2014/03/19(水) 03:28:26 ID:4yJzobAE
>>107

瓦礫の中に身を埋めたルリの姿が見える。脚を打ち砕かれ、地に縛りつけられたその様が。
愛莉は、相手の姿を世間並みの女の子と同じくらいには「痛ましい」と思ったが、気持ちと勝負は別だ。
EN消費から考えると、ガン逃げをされたら負けかねない。
罠を構えていようとペースを握っているのは依然としてこちら――なら、虎穴に入る時は今なのだ。

あと少しで刃先が触れる、というところで、右の《バンダースナッチ》が牙を剥く。これは予想の範囲内だ。
すかさずハルバードの槍頭を前に向け、金属の刃とフックを相手の爪にかち合わせる。
すると巨腕が一瞬押しとどめられ、触れ合った鋼から火花が散った。

『これが小兵の腕が出す力……ハハ、面白いではないか!』

その均衡が保たれるのはほんの一瞬。
ハルバードはすぐ突き出される腕の力に押し負け、飢えた爪の前にカラメリゼの胴が晒される。
《ロードモナーク》のBODY装甲に見かけほどの防御力はない。
きらめく鎧に穴が通され、繊細な機体にウイルスが流れこむことは避けようも無かった。

――ああ、でも、〝一瞬〟だけは稼いでいる。

瓦礫の中に隠したワイヤーがルリの身体を明確に引っ張る直前、カラメリゼの左肩が動いた。
光熱を束ねた剣は消え去り、代わりに晒されるのは裏面に並んだ4つの孔。

「お客さま、お待ちを。あつあつのがまだありますよ……」

この時を待っていたとばかりに、乾いた大気を裂いて閃光がとぶ。
近距離まで踏み込んだ上での四連装エネルギーキャノンによる追撃が――ルリを、襲う。

《EN残量:35%》
《強制冷却システムにエラー発生、思考プログラム稼働率低下……》

それさえ凌げば、ディバインライトによる消耗とウイルスという二重の重荷を背負った彼が更に攻めてくることはないだろう。
ジリ貧を嫌っての決死の一撃。吉と出るか凶と出るか。
コーヒー占いは、飲み干してみるまでわからない。

109麻木ナオヒロ:2014/03/20(木) 02:00:23 ID:MaJCSy76
>>108
【入った……!
 後は、ここを切り抜けることだ。
 ウィルス注入を行った、武器として左が無事ならばもう右の《バンダースナッチ》は捨てて良い。
 奴の砲を逸らしさえすればいい……────!?】

誤りに気付く。
左後方へ逃げたのでは、相手の射線上から殆ど動くことが出来ないことに。
もっと鈍い角度で撃ち込んでいたら……と思うが、そうなるとハルバードで左手を潰されるリスクが高い。
もし右手側の《バンダースナッチ》を撃ち込んでいれば、アーマーの形状もあって回避は確実なものになっていただろう、……少なくとも今よりは。 
ルリの体が下がる。
それより僅かに遅れて放たれた光弾は、瞬きの間にルリを捕らえた。

────────────

相手の勝利を告げるシステムメッセージが表示され、フィールグラムのホログラムがとけていく。
ルリは最後に回避運動を取ろうとしたが、流石にあの距離からの射撃には反応が間に合わず。
見事に頭を打ち抜かれて機能を停止させた。

「ありがとうございました。
 いやー、流石にお店のロゴ背負ってるだけあるというか。
 完敗です。」

『今回はお前の指示が駄目すぎただけだ、負けはしたが完敗ではない。
 こんなものが私の実力ではないからな!』

相変わらず負けたというのに威勢がいい……。
愛機をメディカルポッドへ放り込みながら、ライバルサイドへ苦笑いを向けてしまう。

110小日向 愛莉:2014/03/23(日) 15:23:46 ID:4yJzobAE
>>109

勝った。その事実が、少女の変化に乏しい表情をわずかに綻ばせる。
やわらかそうな頬がむんにゃりと緩んだけれど、それでもすぐに元の澄まし面に戻った。

「こちらこそありがとうございます。
 あそこで避けられたらもう手も足も肩も出ないので、ギリギリの勝負でした」

こちらも、胸に大穴を穿たれたカラメリゼを抱え上げる。35cmもある準大型機は、ちっちゃな手にはちょっと余る感じだ。
まだウイルスのせいで酔っているのか『塗装が剥げたぁ〜〜』とうるさいので、早々に修復装置の中へダンク。

「尖った組み方だけどちゃんと状況に合わせて動ける。ルリさん、いい子だと思います。
 またいつか、そうですね……次は、私の家(うち)で……」

少女は胸のあたりを指さしてちょっとだけ恥ずかしそうに眼を細める。
改めてポケットのロゴを見ると、そこには《HMP Cafe Coppélia》の文字。

「そんなに大きなお店じゃないけど、フィールグラムを置いてるんです。
 お暇な時にお越しください。コーヒー1杯ならサービスします。
 ……お兄さん、お名前は?」

111麻木ナオヒロ:2014/03/24(月) 17:30:04 ID:MaJCSy76
>>110
「ああいうときに決めきれないのはまだまだアセンとプランの練り込みの甘さがねー…」

罠を張るならもっとアクティブに釣っていくか、《新絡婦》くらいの待ち性能がいるのかな。
なんにせよ銃器ないし牽制できる武器が欲しくなる感じだ。
《バンダースナッチ》は潰されると辛いから軽く使っていけないし。
……と、こういうのは後でいいか。

『いや、まだまだ甘いさ。
 本当に動けるHMPを知っている以上、これではな』

「まだまだ経験値が足りてないね。
 ……ええと、コッペリアでいいのかな?」

流石に女児の胸をジロジロと見ることは出来ないのでさっと見て目はメディカルポッドへ。
あ、後で住所を調べておこう。
タブレットにコッペリアとメモを打つ。

「あ、名前だっけ?
 麻木ナオヒロといいます。
 君の名前も聞いて良いかな?」

112青崎 修:2014/04/09(水) 04:47:27 ID:MGhzKTGE
「ふ〜む…電子妨害キャンセラー、ハイグリップタイヤ、ナックルシールド……どれも欲しいですけどやっぱり値段が張りますね……」

バイトを終わらせ、帰り道にふと立ち寄ったHMPショップで、青崎は財布と相談していた。

「うーん…」

10秒程値札とにらめっこをする。

「………今日はやめときますか。ファイナルハンターGXも買わなきゃいけないですし」

商品を棚に戻し、踵を返す。

「給料日までには、まだ日にちがありますね…」

そして対戦コーナーを抜け、出入り口に差し掛かろうとしたところで、一人の客が入ってきた。

113滝沢真一:2014/04/09(水) 23:11:13 ID:ILGDV4KA
>>112
「ちわーっす」

店員と軽く挨拶を交わしながら、入り口の戸を開く少年が居た。
その様子から察するに、彼は恐らくこのショップの常連客なのであろうか。
服装は赤いTシャツの上から学ランを羽織ったラフなものであり、
黒いウルフカットの隙間に見える眼光からは、性格の強さも窺うことが出来る。

――――彼の名は、滝沢真一。
この辺りでは中々の実力者として名が知れた、HMPファイターだ。

「……ん? アンタ、あんまり見ねー顔だな。もう帰っちゃうのか?」

――――と、そこで店を出ようとする青崎の姿が目に入り、滝沢はそれを呼び止める。

こんな店でHMPのパーツを物色しているとなれば、青崎もまたファイターなのだろうということは簡単に推察出来る。
滝沢はそれを分かっていた上で、わざわざ青崎を呼び止めたのだ。

となれば、滝沢が声を掛けた理由だってそう難しいものではない。
つまるところ、滝沢は「せっかく来たなら帰る前に俺と一勝負しようぜ」と、そのようなことが言いたいのだろう。

114青崎 修:2014/04/10(木) 02:32:18 ID:tv4dTpXI
「え?……ああはい、もうこれ以上用もありま……」

振り向き、彼と目を合わせた時、青崎は全てを悟った。

「……すね。丁度、対戦相手を探していたんです」

思わず口許が緩んだ。




対戦コーナーに移動した二人は、フィールグラムを挟み対峙する。少年は名が知れたファイターなのか、既に小規模のギャラリーが出来ていた。

「では、ステージはランダムにしますね」

青崎がモニターを操作し、画面に街、砂漠、火山といった情景が高速で切り替わりを続ける。

「……さて」

DVNOを起動し、相棒の状態を確認する。

「ブレイズ、調子はどうですか?」
『万全です』

相変わらず短く淀みのない返事だ。
だがそれこそ期待していた反応である。

そしてステージが決定され、一瞬ギャラリーが湧く。

/投稿時間が
/偶数:森林
/奇数:城下町
/00:摩天楼

115青崎 修:2014/04/10(木) 02:42:19 ID:WHPEfAEM
森林

極めて背の高い木々が一定以上の間隔を空け、そこらじゅうに生い茂っている。空を覆う葉から覗く木漏れ日が神秘的だ。

116滝沢真一:2014/04/10(木) 19:41:42 ID:ILGDV4KA
>>114
「ハッ、そうこなくっちゃな! 話が早くて助かるぜ」

微かな笑みを浮かべる青崎に対し、滝沢も思わず口角を上げる。
季節は4月――。青崎の微笑を、春に溶け残った雪のようにと喩えるならば、
差し詰め滝沢のそれは、満開に咲き誇る桜のように、と言うべきか。

笑顔の質は違えど、その内に秘めたる闘志に差異はないだろう。
未知なる強敵との戦いに、心を弾ませずにはいられないのが、HMPファイターという生き物なのだ。

――――――――
――――――――――――

そして舞台は移り変わり、フィールグラムへ。
“ブレイズ”と呼ばれた青崎の愛機を見据え、滝沢はそれを分析する。

アームドボーイ――。継戦能力の高さ以外に特筆すべき性能はない、平凡な汎用機であるが、
特徴がないというのは、裏を返せば何をしてくるか読みにくいということでもあり、
射撃戦から格闘戦まで自在に立ち回られてしまえば、非常に厄介な相手になると言えるだろう。

「……そしてフィールドは森林、か」

滝沢はランダムで決定された舞台を眺めてポツリと呟きながら、
自らの愛機である、真紅の装甲を纏った騎士型HMP――“ロラン”をフィールグラムに置く。

脚部ローラーや大型ブースターを用いた高速戦を得意とするこちらにとっては、とても戦いやすいと言える場ではなく、
メインウェポンである大剣を振り回すにも、並び立つ木々が邪魔になるかもしれない。

滝沢からすれば、不安要素を多く抱えることになった試合だと言えるが――――上等だ。
不利な条件ならば、それに合わせて戦い方を考えるのも、HMPファイトの面白さというもの。

「まずは相手の出方を見るぞ。気を付けろよ、ロラン」

『――――了解、ならばこの場に留まり迎え撃とうか』

滝沢はDVNOを通してロランへと指示を飛ばし、それを受けたロランは迎撃の姿勢を取る。
手札の読めない相手に対して、滝沢が最初に選択したのは“待ち”の構えだ。

――――これで、こちらの準備は全て整った。
青崎の初手はどう動くか――。戦いの火蓋が切って落とされるのは、もう目前まで迫っている。

117青崎 修:2014/04/11(金) 02:56:07 ID:FpjlOVz6
>>116
木々がざわめき、小鳥が囀り、枯れ葉が眠る。そんな自然の楽園で、激闘が始まろうとしていた。

「……? あまり見かけない機種ですね…」

少年が繰り出してきたのは、見慣れぬ赤い騎士だった。マントと大剣を携えたその雄姿に、青崎は一瞬気圧されてしまうが、冷静に分析する。

(マント状のパーツはスラスター? とすると近接高機動型か…いや、それより左腕の武装が気になります…ただのクローではなさそうですね…あれには注意しておきますか)
「ブレイズ!」

呼び掛けに応じて、ヒロイックな頭部が特徴的な機体が現れる。

「あの左腕、どう思いますか?」
『近接戦闘用のクローと思われます。それ以上はデータ不足です』

(やはりブレイズもわかりませんか…)

相手から仕掛けてくる気配はないようだ。

『………』

姿勢を少しだけ低くし、構える。

天に向かい枝分かれした額部アンテナが鈍く輝く。

「ソード!」

意外や意外。青崎が初手に選んだのは、正面からの接近戦である。

ブレイズは右腕の装甲からアイアンソードを展開させると同時にロラン目掛けて飛び出した。

「ラッシュを!」

ソードを振りかぶり、まずは幹竹割りを浴びせようと迫る。

(自分が多数の剣を持ち、相手が銃と剣を一つずつ持っているなら……警戒するのは………銃)

118滝沢真一:2014/04/11(金) 20:47:44 ID:ILGDV4KA
>>117
「いきなり正面から突っ込んで来るかよ……望むところだッ!!」

敵の武装は右腕のアイアンソードと、左腕のジェネリックマシンガン――。
明らかに格闘戦型と言えるロランの装備を見て、当然相手は距離を離したまま攻撃を仕掛けてくるだろうと思っていたが、
真っ先に接近戦を挑んでくるというのは予想外だった。

――――しかし、わざわざこの土俵で戦ってくれるというのならば、こちらとしても逃げる理由は無い。

「カウンターだ、ロラン! 出小手で相手の右腕を叩き落とせ!!」

『――――ハァァァッ!!』

滝沢が指示した“出小手”――とは、剣道におけるカウンターの一つであり、
相手が剣を打ち込むために、腕を振り上げたその瞬間を狙い、小手を合わせる技だ。

自らが剣道家である滝沢は、自身の技をロランにも習得させ、HMPファイトの戦術の中に組み入れており、
それ故に指示を受けたロランの反応も早く、実行に移すまでの動作にも迷いが無い。

ロランは右手に握った大剣――“ドラゴンバスター”を振るって、
ブレイズが剣戟を繰りだすために振り上げた右腕を目掛け、強烈なカウンター攻撃を狙う。

119青崎 修:2014/04/12(土) 19:02:52 ID:bh8Rtf1c
>>118
(! 反応が早い!)
「打ち落として!」
『てぁぁっ!!』

ブレイズはソードを早めに降り下ろすことで、間一髪ロランの攻撃を“叩き落とす”

ガギン!!

金属音とともに土煙が舞い上がる。

(先手を取れると思いましたが……甘く見すぎましたね)

ドラゴンバスターを地面に押さえ付ける。一瞬でも指示が遅れていれば、右腕が使えなくなっていたかもしれない。

「一度後退して、マシンガンを!」

作戦変更。すぐにドラゴンバスターを放し、数回後方宙返りをして距離を離す。

(…よし、上手く逃げられましたね)

追撃が来ないことを確認し、一息つく。
ブレイズはソードの刀身を収納、膝をついて射撃体制に移る。

『…捉えた』

照準を合わせた瞬間、フルオート射撃を見舞う。
赤き鎧を穿たんと、無数の銃弾が飛来する!

120滝沢真一:2014/04/12(土) 21:09:22 ID:ILGDV4KA
>>119
「ジェネリックマシンガン……ッ! 回避だ!!」

『ちぃっ……!!』

素早くこちらから距離を離し、反撃の砲火を放つブレイズ――。
ロランは右方へ身を躱して、その弾丸を回避しようと試みるが、やはり全てを避けきることは困難であるため、
急所に直撃しそうな弾だけを、左腕のクローで防御する。――《左腕部:損傷率38%》

さて、この間合いに留まっていれば、こちらの状況が好転することはなく、
滝沢としては一気に相手の機体に詰め寄って、再度格闘戦に持ち込むよう指示を出したいところだが、生憎フィールドはこの森の中だ。

凹凸の激しい地面の上には、更に枯れ木や落ち葉なども敷き詰められており、
この足場では、レッドセイバーご自慢のローラーダッシュも、充分なパフォーマンスを発揮できるとは言い難い。
――――ならば、どう動くか。

「跳べ、ロラン! 空中戦だ!!」

そこで滝沢が出した指示は“空中へと跳び上がる”ことであった。

それを受けたロランは、自身の背部に備えられた2基の大型ブースターをフル稼働させて、
ブレイズの直上辺りへと向かう、大ジャンプを見せる。
レッドセイバーのブースターは、短時間ならば擬似飛行にも近い程の跳躍が可能となる出力を持っており、
本職のフライメックなどには及ばぬものの、これくらいの空中機動ならば、容易く熟すことが出来るのだ。

『今度は、こちらの剣を――――受けてみろッ!!』

そして上空から狙うのは当然、反攻の一閃である。

木々の隙間から覗く太陽を背にしているというのもあり、この位置ならばブレイズが射撃で撃ち落とすことも難しいであろう。
ロランは相手の脳天を目掛け、落下時の加速も乗せた、重厚な唐竹割りを振り下ろした。

121青崎 修:2014/04/13(日) 17:38:35 ID:wttOe4e.
>>120
『!!』
(しまった、逆光……!!)

隕石のごとき勢いで迫るロラン、しかし今からでは迎撃も回避も間に合わない。

「ブレイズ、受け止めて!」

故に選んだのは、防御。
ソードを再度展開し、右腕を掲げる。

ガォン!!!!

『…ぐっ…!!』

先程より重い金属音。地面が軽く陥没する。
刀身は極めて堅牢にできているため、破損こそしなかったものの衝撃まで防ぎきることはできなかった。 《右腕損傷率:34%》

しかし、それでも膝を崩すことなくその場に踏みとどまり、鍔迫り合いに近い状態になる。

『は、ああ…っ!!』

踏ん張りを利かせ、少しだけドラゴンバスターを押し上げる。近接適性では負けていても、単純なパワーで劣っているわけではないのだ。

『逃がさん』

腕をクロスさせるようにマシンガンを構える。狙うは、先程ダメージを与えた左腕。

(やはりあの左腕は不穏です。潰すなら、今しかない)

122滝沢真一:2014/04/14(月) 02:26:57 ID:ILGDV4KA
>>121
『ぐっ……あぁ……ッ!!』

密着状態から再度火を吹いたジェネリックマシンガンの銃撃を避けられる筈もなく、
ロランの左腕は肘から先が吹き飛び、武器としての機能を完全に失ってしまう。――《左腕部:損傷率85%》

レッドセイバーの左腕パーツであるアームドクローは、
掌の中央部に“プロミネンス”という名の大出力ビーム砲を搭載した、必殺の銃火器としての側面も持っており、
初見でただの格闘武器ではないと勘付き、そこに攻撃を集めた青崎の注意力は大したものだと言えるだろう。

――――だが、しかし。

レッドセイバーが隠し持っている武器は、何もプロミネンスだけではないのだ。
例えば、頭部に備えられた大きな角――。
飾りとしてはやや自己主張が激しすぎるサイズのこれも、伊達で付いているわけじゃない。

赤い騎士の角は、まさに今のような状況での使用を想定して作られた、灼熱の剣――。

「この間合い、貰ったぜ……ッ! ヒートヘルムでブッた斬れ!!」

『――――オオォォォッ……!!』

そして滝沢が命令を与えると同時に、ロランの額の角が紅蓮へと染まった。

これは角を模して作られたブレードであり、刀身に高熱を帯びさせることで、敵機を溶断する代物だ。
リーチには優れないものの、切れ味は通常の実体剣の比にならず、生半可な装甲なら紙のように切り裂いてしまうことも出来る。

ロランは頭突きの要領でその剣を振るい、ブレイズの頭部を狙う――。
こちらは左腕を落としてしまったが、たとえ肉を切られども、骨を断ち返せば戦いに勝る。
HMPの急所――頭部パーツを目掛けて繰り出されたこの一閃の直撃を許せば、ブレイズにとっては致命傷にもなりかねないだろう。

123青崎 修:2014/04/14(月) 20:27:45 ID:MGhzKTGE
>>122
『!!』
「なっ…!?」

完全に装飾かアンテナの類いだと思っていた部分が赤熱したことに驚く青崎。

(まさか…これも!?)
「ブレ…!!」
『くっ!』

青崎が指示を出すよりも早くブレイズは動いた。

ガッ!

腕を完全に交差させ、ロランの顔面にクロスチョップを当てることで食い止める。しかし既にブレード部分は頭部に触れており、装甲がじゅう、と音をたて溶けはじめていた。

『ぬっ……くぅ………!!』
(…まずい、ですね…)
《頭部損傷率:17%》

数値こそ低いが、とても看過できるものではないということは今更説明するまでもない。

(一体、どうすれば…)

考えている間にも、ブレードは少しずつ、少しずつ侵入してくる。ドラゴンバスターを押し上げるときに負荷をかけすぎたため、パワーが若干落ちてしまっていた。

《頭部損傷率:23%》

「……………………」
「一か八か、やってみますか」

しばしの躊躇の後、意を決する。

「ブレイズ、2時方向にある木に向かって射撃!」
『う、おおっ!!』

肘を微妙に動かすことで狙いをつけ、ロランの左斜め後ろあたりにある細身の木にマシンガンを撃ち込む。
ばりばりばり、と表面があっという間に削れていき、瞬く間に中心部近くまで抉りとっていく。そして、ミシミシ、という音のあと、ゆっくりと“こちら”に倒れ込んできた。

124滝沢真一:2014/04/14(月) 23:23:33 ID:ILGDV4KA
>>123
(木を撃った……? なるほど、そういう狙いか……)

眼前にあるロランをスルーし、後方の細木を撃ち始めたブレイズを見て、
滝沢は青崎の考えを概ね察したが、すぐにロランへの指示を出しはしない。
相手側としても、これが破れかぶれの策だというのは承知の上だろう。

――――ならば、その手を逆にこちらが利用してやろうではないか。

(まだだ、ギリギリまで引き付けて……――)

ブレイズの射撃によって、見る間に削り取られていく細木を眺めながら、尚も滝沢は沈黙を保つ。
そして、その木がこちらへと倒れて来た瞬間を見て――――。

「――――今だ、ロラン! 全力で右ブースト!!」

『応――ッ!!』

滝沢が声を張り上げると同時に、ロランは全身のブースターを噴かし、右方へと離脱する。
そしてロランが消えた影から迫るのは、言うまでもなく、ブレイズが自ら撃ち抜いた倒木だ――。

密着状態の両機へと向けて木を倒し、現在の難を逃れるという発想は妙案であったが、幾らなんでもリスキー過ぎた。
青崎も当然こうなる危険は承知の上での指示であっただろうが、皮肉にもそれは、愛機を更なる窮地へ追い込む結果となってしまう。
既に目先まで迫った倒木は、果たしてブレイズに対し、どのような災禍をもたらすことになるのであろうか――。

125青崎 修:2014/04/15(火) 18:42:42 ID:i8Lyvtb6
>>124
「………………」

遠ざかるロラン、迫り来る倒木。
青崎は既に諦めたのかただ黙するだけだ。ブレイズも後ろを向いて動こうとしない。
そして、十分に距離を離され、頭部に木が直撃する瞬間ーーーーーー








(かかった!)
『ハァッ!!』

その場でサマーソルトを繰り出す。空中で逆立ちになると同時に倒木を思いきり蹴りつけ、ロランへと向けて飛ばす。
そう、青崎がわざわざ細身の木を選んだのは素早く倒すためではなく、今のブレイズのパワーで確実に蹴り飛ばすためだったのだ。

(あーよかった。もしあのまま踏ん張られてたら、かなり悲惨なことになってましたね)


ほっと胸を撫で下ろす青崎をよそに、ブレイズはだめ押しとばかりに倒木越しにマシンガンを叩き込む。

126滝沢真一:2014/04/15(火) 20:03:07 ID:ILGDV4KA
>>125
「なっ、蹴り返した……!?」

完全に相手の自滅を誘ったと思っていたが、まさかあの状況から宙返りを打ち、
こちらへ細木を蹴り返してくるとは思わなかった。

ロランは飛来する木を少しでも削り落とさんと、頭部バルカンを乱射するが、
今からではそれも苦し紛れにしかならず、倒木は胴体部辺りに直撃して、機体を後方へと吹き飛ばし、
さらにその裏からこちらを狙うマシンガンの追撃によって、右足パーツも膝から先を破壊されてしまう。

――《胴体部:損傷率58%》
――《脚部:損傷率72%》

『くっ……!!』

体を飛ばされたロランは、そのままブースターを噴射して、
生い茂った草木の中へと着地し、ブレイズの射撃の標的にならないように身を隠す。

「すまねえ、ロラン……俺のミスだ。――まだ、戦えるか?」

『ああ……。厳しい状況だが、武装を全て失ったわけでもあるまい。
――――次の指示を与えてくれ。私はシンイチの判断を信じよう』

相手には未だ決定打と言えるようなダメージを与えられていないのに対し、
こちらは既に左腕と右足を失い、まともに歩くことさえままならないというザマだ。

戦況は、圧倒的な不利――。
しかし、愛機が勝負を捨てていないというのならば、マスターが先に諦めるわけにもいくまい。
滝沢とロラン――――。二人の闘志は、まだ欠片一つだって毀れちゃいないのだ。

「次が最後のチャンスだ。――決めるぜ、相棒ッ!!」

『――――了解、相棒』

そしてロランはその場に身を潜めたまま、恐らくトドメを刺しに来るであろう、敵機の襲来を待ち構える。

来い、白き衣を纏った戦士よ――。
――――紅蓮の騎士が誇りし剣戟の真髄を、貴様に見せてやろう。

127青崎 修:2014/04/16(水) 20:18:33 ID:odACnFLs
>>126
「よし!」

作戦は見事に成功。カウンターと追撃により形勢は一気に逆転した。
だがまだ油断はできない。あれほど追い込まれたにも関わらず、たじろいだ様子は一切見られない。

(…まだ安心はできませんね)

静かに気合いを入れ直す。

「ブレイズ、跳んで!」
『ふっ!』

近くにある比較的間隔の短い二本の木に向かい跳躍、その間で三角跳びを繰り返すことでみるみるうちに高度を上げていく。そして枝に当たりそうな高さまで上がったとき、

「ソードを!」

ロランへ向かって跳躍、アイアンソードを展開し、今一度幹竹割りを繰り出そうと右腕を振り上げる。

『…決める』

この高さからの落下スピードを利用すれば、先程ロランが行った時と同様、直撃すれば致命傷となりうるだろう。

(流石に片足がなければまともな剣舞はできないでしょう。奇策を用いられる前に、ここで決めます)

128滝沢真一:2014/04/16(水) 22:12:13 ID:e4uZDw7w
>>127
「…………」

滝沢は静かに指示の言を唱え、それを受けたロランも、黙したままただ首肯する。
半分の長さになってしまった右足を地に埋め、左膝を立てた姿勢で、最後の攻撃のチャンスを待ち続け、
そしてその視界の中に、こちらへと飛び込むブレイズの姿を捉えた時――――ロランは再び動き出した。

この戦いが始まる前、滝沢はこう思った――。
“フィールドに並び立つ木々が、大剣を振るための邪魔になるかもしれない”――と。

――――冗談を抜かせ。

森林に佇む木々如きが、ロランの剣にとって――“竜殺し”にとって、障害になろう筈もない。
それどころか、上手く転ずれば自らの攻撃力に変換することだって出来ようものだ。

「行くぜッ――――――――!!」

そして滝沢が号令を掛けるに従って、ロランの握る剣一本に莫大なエネルギーが集約されていく。
その規模は、刀身に収め切れなくなった電流が、バチバチとけたたましい音を上げながら大気を迸り、
ロランの周囲で、螺旋模様を描くほど――――だ。



『「ド ラ ゴ ン ッ ……――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――― バ ス タ ァ ァ ァ ァ ァ ー ッ !!!!」』



滝沢とロランの咆哮が共鳴すると同時に、そのエネルギーが、刃の形を成して解き放たれる――。
――――瞬間、剣を纏うビーム刃が肥大化し、フィールグラムの最奥まで届く程の、尋常では無いサイズまでへと変貌した。
ロランはその大剣を、斬り掛かって来るブレイズの居る空間へ向けて――。自分から見れば前方斜め上辺りを目掛けて、逆袈裟の形で振り上げる。

しかしながら、この攻撃はこれで終わりではない――。

弩級を超える大きさに姿を変えたドラゴンバスターの刃は、その剣閃を描く最中、ブレイズへと続く道筋に並び立つ木々を片っ端から薙ぎ倒していき、
倒されたそれらは、次から次へと虚空の中に落ちて行く。

つまり、ブレイズを襲うのはドラゴンバスターによる剣戟と、降り注ぐ無数の倒木――その二つだ。
自らの持つ性能と、フィールド特性の両方を最大限に活かして繰り出された、怒涛なる一撃――。
この領域を制圧するかのような、絶対の暴威が、今――――ブレイズの元へ向かい来る。

129青崎 修:2014/04/17(木) 20:27:21 ID:dLJf2hDE
>>128
「げ!?!?」

トドメを刺そうとした矢先、突然ロランが巨大な光の剣を出したことに驚愕する。

(こ…こんな武装が…)

光の剣がせりあがってくる。あれの直撃を喰らえば一発でアウトだ。だがどうする、スラスターの類いを持たないブレイズは空中で移動することが出来ない。このまま自由落下で光に飲み込まれるのを待つだけだ。

「………く…!」

さらに追い打ちをかけるように、数え切れないほどの倒木が迫ってきていた。特大規模の上下からの挟み撃ち。
もはや、これまでか。

「……」

青崎の中にある考えが浮かぶ。
もう勝負は決まったようなものだ。このまま続けても相棒を無駄に傷つけるだけだ。たまには負けてもいいじゃないか。仕方ない、そうこれは仕方ないんだーーー。



そして、行動に移そうとしたところでふとブレイズの背中が視界に入る。

いつだって自分の命令を忠実に実行してくれた。
全く臆さず、全く怯まず、全く疑わず。
それで失敗したときも、その度に自分の落ち度といわんばかりに謝る。
どこまでも生真面目で不器用な相棒ーーー。








彼の中で何かが、変わった。

「ブレイズ!! 木を!!」

今思い付く最良の手段を実行に移さんと、叫んだ。

『はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

目の前まで迫っていた木を渾身の力で両断、輪切りにする。そしてすかさず切断面に足をつき、跳躍。その場からの離脱を試みる。
しかし、光の奔流から逃れることは出来ず、視界がホワイトアウトする。

『くっ………!!』











「ブレイズ、起きてください、ブレイズ!」
『…………う……』

マスターの呼び掛けに応じて、体を起こす。どうやら十数秒ほど回路が飛んでいたようだ。

「…よかった…」

自分の状態を確認する。《頭部損傷率:71%》《胴体損傷率:48%》《左腕損傷率:100%》《右腕損傷率:34%》《脚部損傷率:50%》

左腕が丸ごと持っていかれた。否、左半身を焼かれた、というべきか。機体の右側にはあまり損傷は見られず、左側だけ焦げ付き、溶けかけていた。とはいえ、左腕以外は動く。まだ戦える。しかし……

『…奴は何処だ?』

ロランの姿が見当たらない。辺りは横たわった倒木ばかりで、何も見えない。レーダーも今の攻撃で壊れてしまったようだ。
あの攻撃は明らかにバッテリーの負担を度外視したものだったが、だからといってゼロになったという保証もない。

130滝沢真一:2014/04/17(木) 22:43:42 ID:ILGDV4KA
>>129
――《EN残量:21%》

ドラゴンバスターを振り抜いた後の、ロランのエネルギー残量がDVNOに表示される。
レッドセイバーは莫大なエネルギー消費を前提とした設計を成り立たせるため、一般的な中型ヒュームボットよりも大分容量が大きいバッテリーを積み込んでいるが、
それでも消費量に見合う電力を確保出来ないため、その継戦能力にはかなりの難を抱えたHMPである。

しかし、今回ばかりは皮肉にも――――と、言うべきか。
戦闘の序盤で相手に左腕を破壊されていたことによって、ドラゴンバスターに次いでエネルギー消費の多い武装――“プロミネンス”を撃てなかったが故に、
僅かながらではあるものの、こうして今でもバッテリーの残りに余裕を持てたのだ。

そして、ようやく起き上がったブレイズの視界の中に、ロランの影は映らない――。
――――ならば一体、どこに姿を隠したというのか?


『――――――――――……惜しかったな』


ロランがそう呟いた場所は――――ブレイズの真後ろ、デュアルアイの死角であった。

あの攻撃を浴びせられながらも、機体を全壊させるまでに至らしめなかった、敵の手腕は見事と言えよう。
だが、そうであっても、ブレイズが意識を失っていた時間は十数秒――――。
それだけの間があれば、片足を失った今のロランでも、ブースターによるジャンプで、ブレイズの背後まで回り込む程度ならば造作も無い。

――――ブレイズが上体を起こした時、ロランは左膝を立てて座しながら、その首筋へと大剣の切先を突き付けていることになるだろう。

131青崎 修:2014/04/18(金) 22:15:07 ID:bdxkOHVc
>>130
「ふぅー……」

ブレイズが機能停止していないのを確認し、安堵する。
マシンガンが無くなってしまったのは痛手だが、あの状況を切り抜けられたのなら、安いものだ。

(それにしても…あんな武装があるとは……)

巨大なビームで対象を焼き尽くす。似たようなコンセプトの武装を知っているが、そちらは消費エネルギーが多すぎて大型機でも運用が難しい上、射撃武器である。

「……ますます怪しいですね、ロランという機体」

……それよりも、今はそのロランがどこにいるかわからないのだが。

「…仕方ないですね、しらみ潰しに探して見ーーー



カチャリーーー



跳んでっ!!」

後ろから金属同士の噛み合う音がした。ブレイズは反射的に大きく後方宙返りする。空中で下を見ると、自分のいた場所にドラゴンバスターを突き出すロランの姿があった。

(うわ、危な〜)

着地するや否や、剣閃を浴びせんと駆け出す。

「頭部のブレードには気を付けて!」

腰だめに構えたあと、水平に斬りつける!

132小日向 愛莉:2014/04/20(日) 23:34:02 ID:4yJzobAE
>>111

「麻木ナオヒロさん、ですね。忘れないよう気をつけます。
 私は愛莉……小日向 愛莉です」

名乗ると共に彼女はポケットの中から名刺を一枚取り出して、ナオヒロに手渡す。
そこには彼が調べるまでもなく、店の住所と電話番号などの情報が記載されていた。

「こんな格好で出歩くのはさすがに春休みの間だけですが、このショップにはまた来ると思います。
 ……あっ、焼きあがりましたかね」

メディカルポッドから排出されるのは、文字通り「ぴかぴか」のカラメリゼ。
彼を大きめのテディ・ベアのように抱くと、愛莉はもう一度ナオヒロの方に向き直る。

『ふぅ〜〜ッ、すぐ治せるとはいえウイルスは堪えるな。しかし、えげつないからこそ面白いというものだ。
 次の勝ち星はどちらに降り注いだものか、楽しみに待っておるぞ』

「……それでは、また。よろしくお願いします」

ぺこりと一礼すると、引き止められなければ二人は筐体の前を去ろうとするだろう。

133 ◆gWjNPtabuU:2014/04/21(月) 20:15:13 ID:MaJCSy76
>>132
「おっとご丁寧にありがとう。愛莉ちゃんか、よろしくね。
 お店には今度お邪魔させて貰おうかな」

=貰った名刺を眺めながら言う。
 地図を見れば、その喫茶店はよく利用している店舗から電車一本の距離だった。
 あちらの方面に行く理由がまた一つ増えたなー、なんて思いながら鞄から財布を取り出し名刺を仕舞う。=

『星は掴みに行くものだ。降ってくるのを待つなどと言っているなら、次は私が勝つだろうな』

毎回のことだが、自分に勝った相手に対する言い方ではないなー。
第一今の言い方だとこっちが何故負けたんだということになるだろ。

「ええと、ま、まあまたよろしく。
 リベンジは果たしたいからね」

『そのときには貴様のメッキすべて剥がしてやろう、覚悟しておけよ』

……こいつはもー。

134 ◆gWjNPtabuU:2014/04/21(月) 20:16:57 ID:MaJCSy76
//一文入れ忘れてました、
=ルリの後頭部にでこぴんかましながら、小さなファイターを見送った。=

135組替え式の名無し:2014/05/19(月) 01:01:28 ID:12Q0UPqk
一応、機体の詳細スペックだけ……

【HMP NAME】ルゥ
【TYPE NAME】ライカンスロープ(初期生産型)カスタム
【EX.PARTS】
二連装バリアフィールドシューター「ハウリングムーン」
 バリアシステムの応用実験から生まれた、出力可変式衝撃波投射砲とでも言うべき代物。
 高いストッピングパワーと静粛性、廃熱の少なさが特徴。
 武装の性質上弾体の認識も困難なため、身を隠しながらの狙撃にはうってつけの武装になるはずだったが、
 実際は距離によるエネルギーの散逸が著しく、有効射程は中距離がやっとで、反動も強い。
 目下の課題は集束機構の性能強化であるとの噂。

 機体背部に増設された可動肢に二門装備。
 システム作動に必要な動力は専用のカートリッジから供給される為、
 当機においては専ら本体出力に干渉しない近接防御火器として用いられる、らしいが……

「WSー03『クレセント』」
 長柄レザブレの定番の一つに数えられる、ウォーサイス・シリーズの三作目。
 癖のない使用感から、初心者から熟練者まで、幅広い層に親しまれる。
 出力は可もなく不可もなく。ブレードの射程は標準より長く、燃費も良好。
 こちらはポールを取り外し、ブレード発振機構のみをテールスタビライザに接続。
 上から薄くパテで固めて偽装し、相手の不意を打つ暗器として利用している。

136組替え式の名無し:2014/05/19(月) 01:01:59 ID:12Q0UPqk
//誤爆です、申し訳ない……

137組替え式の名無し:2023/08/28(月) 07:08:20 ID:49NSZ5f2
自殺しろ


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