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お題を貰ってSSを書くスレ
1
:
名無しさん
:2010/04/09(金) 17:44:03
書き込んで貰ったテーマに沿ってSSを書いてみます。
ただし、エロ及びあまりにもマニアックなテーマとかは勘弁して下さい。
2
:
名無しさん
:2010/04/09(金) 17:54:02
じゃあ武を志す一人の青年の物語をお願いします
3
:
名無しさん
:2010/04/09(金) 19:03:22
早速のリクエストありがとうございます。
早速書いてみますんで、ちょっとお待ちを。
4
:
名無しさん
:2010/04/09(金) 20:20:43
淀んではいるが暖かい内から、澄んではいるが冷たい外へと
冬の寒風の中、電車から吐き出され、出口に向かい流れて行く人波に揉まれていると、落ち込んだ心までが冷えて押し潰されるようた゛った。
吹き抜ける風に乗って、構内の店から歌が聞こえてくる。
「貴方と私の愛の詩は空の彼方へ届くでしょうか?」また、最近流行りのラブソングだ。
………と言うより、ここ数年ラブソング以外の歌が流行った事があったんだろうか?
「私も今は分かったわ…愛こそこの世の全てだと」
ささくれ立った神経を刺激するかのように、一際声を高くした歌が耳に突き刺さる。
愛、愛、愛、世の中みーんな愛だ。
そりゃあ俺だって興味ゼロとは言わないけど、流石にこうも愛が溢れかえっているとげんなりしてくる。
はぁ…と軽くため息をつき、駅の壁に目をやると
今度は『暴力はダメゼッタイ!』と書かれたポスターが視界に入り、ますます気分は深く深く沈み込んだ。
心も重けりゃ家への足取りも重い、帰ったら親父とお袋は俺になんて言うのかは分からない
ただ、今頃悲しんでいるだろうな、とは思う。
ゴメンと素直に謝りたい気持ちもあった。
けど、それは俺がこういう現状に至った経緯を思うと、やっぱり納得できる事ではない。
歴史なんて映画や漫画程度しか知らない俺でも、以前からなんとなく感じていた事ではあった。
ただ今日という日は、それを具体的な現実を通して強烈に実感させられた日だった。
―――要するに、時代はもう『武』を必要としていないんた゛と。
5
:
名無しさん
:2010/04/10(土) 11:18:44
悪くない、リクエストだが
続き(熱いバトル展開のあるような感じで)を頼んでもいいかな
6
:
名無しさん
:2010/04/11(日) 13:33:16
夢で見たものだけど、西洋チックな町から少し離れた場所に住んでる若い科学者ちっくな人が少女型ロボットを作ったけど、とある事情で少女型ロボットの心を完成させる前に死んでしまって、その後の展開とか死んでしまった事情とかは1のセンスに任せるお
7
:
>>4の続き
:2010/04/13(火) 18:00:29
子供の頃の憧れは戦隊物のヒーローだった。
小学校の時は少年漫画の主人公だった。
中学校の時は映画で見た三船敏郎やジョン・ウェインだった。
そして高校生になった今、ふと省みると
“憧れの存在”を即答する事は出来なくなっていた。
案の定、家に帰ると待っていたのは親父の凄まじい叱責だ。
いい加減にしろ、とか
馬鹿かお前は、とか
お前は高校生にもなって何をやってるんだ、とか
お前は社会不適合者だ、とまで言われた。
正直、口喧嘩はからっきしの俺はひたすら縮こまって嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。
お袋のとりなしでようやく解放され、二階の自分の部屋に戻ろうとすると
「あれ?説教終わったの?」
妹がひょっこり部屋の扉から顔を覗かせる。
黙って頷くと妹は呆れかえった様な表情で
「それにしても、お兄ちゃんって昔っからホント要領悪いよね」
とやや刺々しい口調の言葉を突き刺してきた。
事実、この妹は俺とは真逆に本当に要領が良くて賢い
小さい頃から何度
「好美に比べてお前は…」
と説教されてきたのか数えるのも億劫だ。
「まあなぁ…」
顔もロクに見ず、曖昧に返事を返すと
自分の部屋のドアノブを回し
吸い寄せられるようにベッドの上に転がった。
8
:
名無しさん
:2010/04/13(火) 18:02:15
―――北見 将明
校内での暴力行為につき二週間の停学
ついでに所属していた空手部からは強制退部
これが今日、俺に言い渡された内容だ。
俺の入った高校はごく普通の所だった。
ごく普通に不良の真似事をしたがる奴がいて
ごく普通にそいつらにいじめられている奴がいて
クラスのみんなはごく普通に見て見ぬふりをしていた。
今日もそうだった。
教室の中で不良グループはいじめをしていた。
抵抗できない奴を小突いて嘲笑って楽しんでいた。
そしてみんなも俺もそれをただ見ていた。
そして、みんなは一様に気まずい微笑を浮かべていた。
―――まったく、冗談が好きなんだから
とでも言わんばかりの
冗談で済ませよう、と自分を誤魔化した
ぎこちない微笑みでその光景を見守っていた。
―――その時、俺の胸の奥から声が聞こえた気がした。
それでいいのか?
みんな悪いと思ってるんじゃないのか?
悪いと思ってるのに何故立ち上がらない?
お前はこれで満足なのか?
嫌な所から目を背けて
都合の悪い所にはほっかむりして
そんなので、これから胸を張って生きていけるのか?
「…そこらで止めとけよ」
気が付いたらそんなセリフと共に席を立っていた。
不良グループの三人は一瞬驚いたような顔をしていたが
手前にいたリーダー格の宮代はすぐに眉間に力を込めて凄みをきかせた表情になり
「なんだよ、テメー関係ねーだろ!」
と威嚇するように声を荒げた。
「見てて不愉快なんだよ」
熱を持ったような感覚の腹の底から、絞り出すようにそれだけを答えると
机に腰掛けていた斉木がヘラヘラした表情を変えずに
「ナニ?カッコ付けてんの? マジ受けんだけどコイツ」
と言うのに応じて森田が
「オレこーいうの知ってる〜、中二病ってやつっしょ?」
そう言いざま、おどけた調子で続けた。
「ミテテ、フユカイナンダヨ」
わざとらしい作り声の物真似に
ぎゃはは、と三人ほぼ同時の笑いがまき起こる。
「マジ受けるわ〜」
そう言い終わらないうちに右手が宮代の左頬を殴り飛ばした。
相手は尻餅を着きながらも間髪いれずに起き上がり
「テッメエェッ!マジでやる気かよ!」
一瞬で顔を真っ赤に紅潮させた宮代の金切り声が教室中に響いた。
こうして帰宅し、ベッドに転がりながら頭を冷やして想い返すと
あの時、腹が立ったというのは間違いなく事実だけれど
ただ、それだけじゃ無い。
殴った所が悪かったか右の拳が少し痛むし、蹴られた脚も殴られた腹も痛かったが
以前からも喧嘩の度に感じていた緊張感と昂り、痛みを覆うような高揚感、そして爽快感
あの時、俺は滾っていた。
9
:
>>6のリクエスト
:2010/04/13(火) 21:38:01
フランスとドイツの国境周辺、住宅街から離れ、静謐さと清浄さを備えた森林地帯
ここには芸能人の別荘が何件か存在し、世俗に距離を置く芸術家が主に住まう事から『ミューズの森』という別称で呼ばれていた。
その中でも一際異彩を放つ家が有った。
小屋といった方が良い建物がぽつぽつとまばらに建っている中では、やや大きめの建築物に分類される
その館の主であるクリストファー博士は若くして博士号を取得した機械工学のエリートだったものの
自分の研究に集中したいから、と大学を出てこの森に住まいだしたのだ。
彼が住まいだした時、この森に住まう僅かな住人達の間では少し騒ぎになった。
芸術家ならともかく、助手や設備が必要不可欠な科学者がこんな郊外に世捨て人の様に暮らしているだけでも異様なのに
それが若き天才とまで言われる優秀な科学者だと知れると人々はますます訝しがった。
実は軍事関連の危険な実験でも行っているんじゃないのか?
などという疑惑も向けられたが、実際の所それは杞憂に過ぎず、彼がむしろ芸術家に近い研究目標を持っている事はすぐに住人に理解された。
10
:
名無しさん
:2010/04/13(火) 21:44:30
そのクリストファーはもう何千回、いや何万回目にもなる画面表示を眼鏡越しに見つめていた。
―――error
システムにエラーが発見されました
起動出来ません
「ん〜、また失敗かぁ」
背もたれに身体を預けると、まるで計ったようなタイミングで入口の方向からチャイムの音が聞こえ、続いて
「いようドクタークリス、邪魔するぞい」
「お邪魔しま〜す」
玄関から男女の二人組が慣れた所作で上がり込んできた。
男の名はフーダルという
もう六十を越える高齢の小説家で、もはや半ば引退気味に悠々自適の隠居生活を送っている。
女の方はコレット
27、8の若さで、はや注目されつつあるという気鋭の芸術家だ。
二人は資料やコード、部品類が散らばる床を慎重に進みながら、リビングに辿り着いた。
「例のヤツの進み具合はどう?はかどってる?」
このコレットの質問はいわば挨拶のようなものだ。
「たった今、27538回目の起動実験に失敗したところさ」
やれやれ、と博士は肩を竦める。
「お前さんもよくやるね」
さしものフーダル老人も呆れ声で言う。
11
:
6
:2010/04/13(火) 22:10:25
おぉ・・・ありがたい
時間掛かっても全然おkなんで待ってるお
俺の夢の内容がどう解釈されるか期待
12
:
名無しさん
:2010/04/13(火) 22:20:47
『限りなく人に近い、心を持ったアンドロイドの制作』
博士のその目的を聞いた二人は口を揃えて「不可能だ」と言った。
「人の心というのは言ってみりゃ不条理の極みだよ、機械に気軽に真似されちゃあ、ワシら小説家は商売あがったりだ」
「私たちもね、感動をデータで表せるようになったら芸術家の存在価値なんて無いわ」
それにな、と前置きして老人は付け加える。
「よしんば出来たとしても、それはバベルの塔やイカロスの翼と同じような代物だよ、人間には近づいてはいけない領域ってのが有るもんだ」
博士は老小説家の忠告に深く頷きながら、穏やかな声で
「僕は神の領域に挑む気持ちは有りませんよ」
と言った上でこう付け加えた。
「ただ人間の力でどこまで出来るのか、試してみたいだけですよ」
13
:
名無しさん
:2010/04/13(火) 22:22:32
それから一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎ、半年経ったが未だにアンドロイドは完成しなかった。
「それにしても、見た目は本当に人間そっくりよね」
リビングの椅子の上に、眠っているかように眼を閉じながら座っている金髪の少女―――の形をした人形を触りながら、コレットが呟く。
「肌とか髪とか人間から取ってきたみたいじゃな、墓場の死体でも掘り返したんじゃあるまいな」
フーダルが飛ばすジョークに苦笑いしながら、博士は堂々と
「外科手術用の人工皮膚とウイッグに使われてる人工繊維ですよ」
と答えた。
あくまでも全てを人の力で造るからこそ意味が有る。
それがクリストファーの科学者としてのいわば矜持だった。
「…にしても、これどうして動かないの?」
「いや、動かすだけならすぐに出来るよ」
コーヒーを啜りながら、あっけらかんと答えた内容に二人は一様に面食らった様子だ。
「なら、なんで動かさないの?」
「あれには、まだ心が無いからですよ」
心のプログラムが出来ないんです、と彼は静かに述べた。
「そんなものは―――」
不可能だ、と言おうとした芸術家を片手で制する。
「僕は心の込もらない、ただの人形を作る気は有りません」
それは博士にとって、自分の作り出した物に対する愛情からくる、一種の強烈な責任感のようなものだった。
14
:
名無しさん
:2010/04/13(火) 22:34:29
>>11
こちらこそ、応援ありがとうございます。
やっぱり読者の存在は何より励みになりますんで、今後ともよろしくお願いします。
15
:
名無しさん
:2010/04/15(木) 11:11:38
すいません
>>2
>>5
のリクエストは思ったより難しいし
同時に二つの話を進めるのはきついので
>>6
のリクエストを優先させてもらいます。
16
:
>>13の続き
:2010/04/15(木) 11:12:40
しかし彼の挑戦も長くは続かなかった。
と、言うのも当然と言えば当然の話で研究費が不足してきたのだ。
昼には大学の講師や助手をしながら、夜は睡眠時間を削ってコンピューターに向かい研究という日々が続いた。
「お前さん、しばらく見ないうちにやつれたなぁ…」
久しぶりに彼の館を訪れたフーダルの第一声はそれだった。
「はは…そうかな」
事実、彼の顔色は青白く、目元には隈が浮かんでいた。
「まぁ…気持ちは分からんでもないが、健康害してまでやるようなものか?」
それでも彼は眼の光だけは以前と変わらずに老人を見据えながら
「出来る限りの事はしてあげたいんだよ…出来る事を、出来るだけね」
17
:
名無しさん
:2010/04/15(木) 11:13:28
そして、それは風が木々を揺さぶる音さえ聞きとれるような静かな暗い夜だった。
コレットが小屋の中でキャンバスに向かい絵筆を進めていると
コン・コン・コンと規則的に一定のタイミングを刻んだノックの音が木造の小屋に響いた。
訪問者が訪れるには随分と遅い時間だ。
彼女が訝しがりながら扉を開けると、そこに一人の少女が立っていた。
最初に一通り知り合いの顔を思い浮かべても心当たりはなかったが
よく見れば、すぐに博士の家のリビングで眠っていた人形に思い至った。
コレットは、目の前で微動だにせず真っ直ぐに自分に眼差しを向ける少女の人形から白磁の器を連想した。
壊れやすく、人工的で、汚れなく、不自然なのに―――いや、だからこそ美しい
「データ一致を確認、コレット・ラヴランさん」
少女の透き通るような声は、決して大きくはないのに確かな響きを持って陰に響いた。
「は…はい?」
「私の制作者、クリストファー博士が13分44秒前に亡くなりました」
「…!?」
「博士の遺言により、ロゲール・フーダル氏と貴女をお連れします」
淡々とではあるが、機械とは思えないほど自然に歩を進める彼女に連れられて館に赴くと
そこには先に到着していたフーダル老人と、PCのキーボードの上に突っ伏して横たわる博士の遺体があった。
「博士の遺言です」
少女が白い指で指し示した画面を覗くと、真っ先に開かれていたテキストエディタの文章が目に入った。
『結局、僕にはこの子の心を完成させる事は出来なかった。この子は貴方達に預けます。学習型AIを搭載しているので、どうか貴方達の手で人間の心を教え…』
テキストはそこで途切れていた。
二人は顔を見合わせて、ほぼ同時に少女に視線を向けた。
その少女は文字通り感情の込もらない視線で、じっと博士の遺体を見つめていた。
そして首だけ動かして、大きな青いガラスの瞳の中心に二人を捉えると
「法的手続きに基づいて、医師を呼び、クリストファー博士の死亡診断書を書いてもらう事を提案します」
と、小屋を訪れた時と台詞の内容以外は何も変わらない声で言った。
そして再び二人は顔を見合わせ、僅かに嘆息した。
18
:
名無しさん
:2010/04/15(木) 12:33:51
あ、俺のリクエストは面倒だろうからな。
いいぞ〜、頑張れよ。
19
:
6
:2010/04/15(木) 17:11:12
期待せざるを得ない
超wktk
更新あるたびにコピペしてテキストで保存してるお
20
:
名無しさん
:2010/04/16(金) 14:54:22
博士は薄々、自分の命数が長くないことを察知していたのか、館と中に有る家財は二人に譲られるように手続きは済まされていた。
無論、専門家でないばかりか機械類にはやや疎い位の二人ではあったものの、残されたデータと資料から人形の整備位は出来るようになった。
そして、博士から託されたその人形はまず最初に
「私は人間になりたいです、どうか人間的な行動を教えてください」
と言った。
ところが、何故かと尋ねると
「そうプログラムされていますから」
と答えるだけだった。
それを聞いたコレットは反射的に噴き出してしまった。
『プログラムだから』などと、あまりにも非人間的な理由で『人間になりたい』という人形に矛盾した滑稽さを感じたのだ。
21
:
名無しさん
:2010/04/16(金) 14:56:17
少女はフーダルの命名により、クリスティーナと名付けられた。
クリストファーの娘だし、クリスティーナでいいだろとの理由だった。
それに対し彼女は
「分かりました、個体名をクリスティーナ、略称をクリスで登録します」
と淡々と答えるだけだった。
適当な命名の割に、フーダル老人はこの少女を孫でも出来たかのように可愛がったが
彼女に人間の心を教えるというのは二人の当初の予想通りに困難だった。
とりあえずは、そのシステマチックな口調を改めなさい、と言われれば
「分かりましたデフォルトパターン3でよろしいですか?」
と返す。
よく分からんがそれでいい、と言うと
スカートの端を摘んで、仰々しい位の仕種で
「フーダル様、コレット様御機嫌麗しゅう存じ上げます」
と、うやうやしく頭を下げた。
流石にもうちょっと砕けた感じでいい、と言うと
「分かりましたデフォルトパターン7でよろしいですか?」
と言って、たちまち
「フーダル、コレット元気ぃ?」
こんな口利きをするのだった。
22
:
名無しさん
:2010/04/16(金) 15:01:40
ある時、フーダルが彼女を館の外に連れ出した。
森の一角に咲き誇る花を指して
「どうだ、咲き頃だぞ」
と言えば、クリスは
「はい、開花していますね」
とだけ返した。
「いやなぁ、もっとこう…笑って、綺麗ですねとか、美しいわとかそういう感想をだな……」
「分かりました、表情パターン、音声パターン設定完了」
すると、クリスはたちまち花のような微笑みを浮かべた。
しかし、それはどこまでいっても人工の、造花の笑みに過ぎなかった。
事実、フーダルが
「よし、じゃあこれを見てどう思う」
と別の花を指差したら、たちまち無表情に戻って
「なにも思いません」
躊躇も何も無く、そう言いきった。
「さっき言ったばかりだろう」
と強めの口調で言われても
「この植物個体はユリ科のヒヤシンスです、先程の個体はキク科のデイジーでした」
と無表情に答えた。
フーダルは困り顔で
「あー…分かった、言い直そう『ヒヤシンスを』じゃなくて『草花を』見たら、な」
クリスはコクリと首を縦に曲げ
「分かりました」
と答えた。
そして、次に外に出ると
森に立ち並ぶ何の変哲も無い木々や、それに巻き付く蔦や、雑草を見つめては微笑みながら
「まぁ、なんて美しいのでしょう」
と語りかけるのだった。
少女の形をした人形―――クリスティーナは全てにおいてこんな調子だった。
23
:
名無しさん
:2010/04/17(土) 20:01:52
コレットは定期的に近郊の町に赴く、生活用品の買い出しついでに姉夫婦の家に行くためだ。
しかし、今回はフーダルの発案でクリスを連れていく事になった。
「外の世界を見せてやるのも良い経験だろう」
とのこと
しかしコレットとしては正直、あまり乗り気ではなかった。
ようやく静かで理想的な環境を手にしたというのにアンドロイドの存在なんてのがバレて衆目を集めてはたまったもんじゃない、芸術家は繊細なのだ。
ただでさえ最近クリスに構ってて仕事が遅れ気味なのに、これ以上ストレスの種を増やす訳にはいかない。
「あんた、少しは人の気持ちを考えて行動しなさいよね」
道中の車内でつい愚痴じみた話がこぼれる。
「分かりました、対象人物の情緒を行動基準に設定します」
クリスは相変わらずだった。
24
:
名無しさん
:2010/04/17(土) 20:05:10
姉の家に上がると、今日は家族総出で迎えてくれた。
姉夫婦に二人の子供
子供達はまだ小さく、小学校にあがるかあがらないかの歳だ。
彼らはコレットの来訪を歓迎しながら、見慣れない付き人に訝しげな視線を向ける。
「この子は……私の弟子よ、クリスっていうの」
クリスの耳元に口を寄せ、囁く
「余計な事、言わないようにね」
「分かりました、主要言語行動をオフにします」
最近はこの『分かりました』が不安で仕方ない
リビングに移ってからも、どことなくギクシャクした雰囲気が続く中、携帯が鳴った。
ちょっとゴメン、と断って
廊下に行き、携帯を開く、仕事先からだ。
「先生、頼んでたお仕事の件ですが…」
と急なデザインの変更を依頼され、またしても苛立ちが募るのを感じる。
やや口論じみた話し合いの末、コレットは折れた。
「…分かったわよ、後は私に任せて」
ほとんど描き直しに等しい依頼で新しく画材も調達しなければならない
気が重い
居間に戻ると、待ち兼ねたかのように姉が寄ってくる。
「あのクリスちゃんって子、可愛いのになんだか凄い無口なのね」
予想通り、クリスは無言を貫いているようだ。
まぁ不信がられるかも知れないが、余計な事を喋るより余程マシだろう。
「…なんだか人形みたいな子ねぇ」
その言葉を聞いた瞬間、ドキッと緊張が走った。
「やっぱり芸術家なんてやりたがるのは変わった子が多いのかしらね」
などと気楽に微笑む姉の態度までが恨めしく思える。
「…ちょっと、画材買ってくるわ」
コレットはぶっきらぼうに言い捨てると、玄関から外に逃げるように飛び出した。
25
:
名無しさん
:2010/04/17(土) 20:07:54
今読み直してみたら
>>22
の『ヒヤシンスを』は『デイジーを』でした。
訂正させていただきます。
26
:
6
:2010/04/17(土) 21:05:08
1が思った以上に気合入れて書いてくれて嬉しい
27
:
名無しさん
:2010/04/17(土) 22:52:52
このところ、ストレスが溜まりっぱなしだ。
今でこそ気鋭の新人で売り出しているが、この業界ではいつ突然才能が枯れて
見向きもされなくなっても不思議じゃないのだ。
多少無理な依頼でも断る訳にはいかない。
それにクリスティーナの存在もストレスの要因だ。
そもそもクリストファー博士は何を思ってあんなロボットを作ろうと考えたのか
いっそロボット剥き出しの外見で、心や意思なんて欠片も持たないような機械なら、腹も立たないし手伝いに重宝したろうに
なまじ美しい容貌はかえって反発を覚えるし、人間的な行動を教えて欲しいと要求してくるのも正直うっとおしい。
ポリポリと頭を掻きながらキャンバスや絵の具をカゴに放り込んでいると
またしても携帯の着信音が鳴った。
またかと思いながら携帯を開くと、入った着信は姉からのものだった。
「はい、どうしたの姉さん」
携帯を耳に押し当て、そう言い終わらない内に
「大変よ!クリスちゃんが変なの!」
切羽詰まった姉の訴えが耳に飛び込んだ。
28
:
名無しさん
:2010/04/17(土) 22:55:24
なんでも子供が奨めたお茶を飲んだら、突然意識が切れたかのように動きが止まってしまったという。
当たり前だ。
表面には防水加工がしてあるから雨に当たった程度なら大丈夫だけど、口から内部に水が入ったら間違いなく故障するだろう。
医者を呼ぼう、と訴える姉夫婦をなだめて
これはこの子にはよくある事なんです、発作みたいなものです、と強引に車に乗せて連れ帰った。
幸い内部に入ったお茶はほんの少量で、館に帰ってからの軽い整備ですぐに再起動した。
「で?なんだってこんなことをしたんだ?」
駆け付けたフーダルが不安げな面持ちで問い詰める。
いくらなんでも、自分が故障する危険ぐらいは分かりそうなものだ。
「あそこで勧められたお茶を飲まないと、高確率で悪感情を与えるという計算結果が出ました」
『人の気持ちを考えて行動しなさい』
コレットは行きの車内での自分の発言を思い出した。
「…いや、もう少し自分の体との優先順位をだな」
フーダルが渋い顔をして説諭しようとするが
「分かりました、優先順位の指示をお願いします」
悪びれもしないどころか、なんの動揺も、変化も無い、凍りついたような声と表情に
コレットは押さえ込んできた苛立ちが爆発するのを感じた。
「いい加減にしてよ!」
バンッ!と部屋中どころか館中に広がるような大音響を響かせながら机に手を叩き付けた。
「なによ!いっつも、いーーっっつも!
何言われても分かりました、分かりましたって!
それくらい自分で決めなさいよ!人に言われなきゃなんにも出来ないっての!?」
完全に逆上しながら、早口でまくし立てるコレットに
「分かりました、優先順位を任意に判断します」
何も変わらない、凍りついた声
固く、冷たい、氷の声
「質問にお答えします、私は人に言われなきゃ、なんにも出来ません」
そして美しくも儚い、氷花の相貌
「私は機械ですから」
彼女はそう言いきった。
29
:
名無しさん
:2010/04/17(土) 22:59:13
「大人気ないぞ」
フーダルがコレットに向かって、さっきまでにも増して渋い顔を向ける。
「…分かってるわよ、そんなの」
自覚はしているがどうしようもない
これが心だと思った
心とはこういうものなのだ。
抑え難い怒りや苛立ちといった感情の衝動が
所詮あんな人形なんかに分かる訳がないのだ。
30
:
名無しさん
:2010/04/18(日) 16:59:34
それから何度もコレットはクリスを連れて町に出向いたが、クリスはいつも町の一角にあるベンチで待機させられた。
コレットとしては付いて来られると迷惑だし邪魔だと思っていたが、連れていかないとフーダルが煩いのだ。
雨の日も、風の日も、日差しの強い真夏日にも、いつも少女は微動だにせず静かにベンチに座っていた。
中途半端に人間扱いするからイライラするんだ。
どうせあいつは機械なのだし気を使う事もないだろう、とコレットも最近は割り切るようになっていた。
31
:
名無しさん
:2010/04/18(日) 17:07:34
そして、季節が秋に差し掛かった頃だった。
まだ暑さが残る日が続くなか、珍しく涼やかな秋風の吹く日にクリスをベンチに置いて、姉の家に向かおうと歩きだした途端、子供達を連れた姉と鉢合わせした。
「あら、偶然ね」
と立ち話が始まり、姉の子供達は親の長話を退屈がって、二人で玩具をいじっていた。
すると、手からすっぽ抜けた玩具が車道に転がり
下の男の子が玩具を追って飛び出した瞬間
交通量が少ないせいか、かなり早めの速度を出しながら、角を直角に曲がったバスが迫ってきた。
この時、コレットは車道に近い、子供を助けるにはもっとも理想的な位置にいて
実際、助けようという考えが先ず立った。
しかし、それと同時に頭の片隅から間に合わないという考えが浮かんだ。
最初に生まれた決意の白に黒いインクが染み渡るように、どうせ間に合わないという考えは肥大化していった。
甥っ子を可愛いとは思っていたし、助ける気も十分に有ったはずだ。
なのに恐怖で足がすくみ
気がつけば、もう自分には子供が轢かれるのを黙って見ていることしか出来ないかのような、絶対的な絶望感に包まれていた。
その時、少し離れたベンチにいたクリスは一瞬の躊躇もなく走り出していた。
迷いなく疾走し、車道に飛び込み
紙一重のタイミングで子供を歩道に突き飛ばし
グシャッと物体の潰れる音が聞こえ
バスに弾き飛ばされた少女は宙を舞った。
32
:
名無しさん
:2010/04/18(日) 17:10:53
泣きわめく息子に駆け寄る姉を横目にコレットはクリスに駆け寄った。
身体が胴の部分でくの字に折れて、地面に擦れた皮膚からバチバチと火花を散らしたコードや集積回路が露出していた。
「ど…どうして?」
問う方向にヒビの入ったガラスの瞳が向く
「自己防衛との優先順位を任意に判断、デフォルトの設定に戻しました」
「だ、大丈夫なの?」
「動力部に損傷大、あと1分50秒で活動を停止します」
1分50秒後に訪れる運命を、ただ粛々と受け入れようとしている少女を前にし
このまま何もしないのは辛かった。
何かしてあげないといけない、何か言ってあげないといけない
コレットは血の通わない、冷たい手を強く握った。
「何か喋って!」
「何か、とは?」
人間の感想なんて、いい加減なものだ、と自嘲したくなった。
あれほど冷たく聞こえた少女の声が今は心なしか優しい温もりを持って聴こえるのだ。
「何でもいいわ!あなたのやりたい事とか…」
「私は」
少女はまっすぐな視線を逸らさずに答える。
「人間になりたいです」
思えば初めから、それは彼女の唯一の意思だった。
「人間なんて……」
気を抜くと泣きだしてしまいそうな、溢れる感情を抑えながら、言葉を絞り出した。
「…そんなに良いもんじゃないのよ…?」
回答の抽出に迷っているのか、少しだけ間が空いた。
「でも、私は人間が良いです」
そして、クリスは最後に願うかのように呟いた。
「人間に、なりたいです」
その声は今までに聞いた事も無いような哀切を伴いながら秋空に消え
彼女は永遠に動きを止めた。
33
:
名無しさん
:2010/04/18(日) 17:12:29
「本当にこれでよかったのか?」
コレットはフーダルの問いに黙って頷いた。
クリストファー博士はロボットの研究成果をある程度大学に提出していたらしく
今度、某企業から研究結果を活かした家事手伝い用アンドロイドが商品化されるとの事だ。
大学か企業に持ち込めば、クリスの修理は可能かも知れない、と言われたが断った。
彼女は死んだ、死んでしまった。
死んだ人間は二度と生き返ったりはしないのだ。
そして今、二人はクリスティーナの眠る墓の前に立っている。
「さよなら、クリス」
墓前に手向けた花が、別れを惜しんでいるかのように、微かに風に揺れた。
後に商品化されたアンドロイドは
非常に高価ながら革新的な出来だ、と評価され金持ち相手にそれなりに普及した。
しかし、その中のどれ一つとして、きっと博士の心は込もっていないのだ。
34
:
名無しさん
:2010/04/18(日) 17:17:13
これでこの話は終わりです。
>>2
さん、
>>6
さん、並びにこれまで見てくれた皆さん
どうもありがとうございました。
35
:
6
:2010/04/18(日) 17:58:56
1に感謝!
感想というかなんというか
とりあえずクリストファーが亡くなるまでの流れは夢の内容とほぼ一致してて
ビビッたww
でもその後の展開は完全に1のターン
EDも正直びっくりした
普通ならなにかクリスに救いがあるのかなと勘ぐってたけど
まさかのED
1の頭の中はどうなってるww
いや、いい意味だよ?
なんかジャンルは全然別だけど読後感が宮沢賢治の春と修羅を読んだあとと
同じ感触だった
うまく言えんけど納得してしまう感じ
長くなったけど重ねて1に感謝
36
:
名無しさん
:2010/04/18(日) 20:40:57
やばい感動した・・・
みんなにも見てもらいたいんでage
37
:
名無しさん
:2010/04/19(月) 11:39:47
>>6
いえいえ、どういたしまして。
そして原案+感想ありがとうございます!
リクエストが結構具体的だったんで
博士が死んでから後は、未完成の心を完成させようとする物語
にするまではすんなり思い浮かんだんですが
「そもそも、心って学ぼうとして学べるものなの?」
という疑問が浮かんで、そのイメージのままに書いてたら、こういう話になってました。
>>36
ありがとうございます。
ネタ系じゃないSSスレはレスしにくいですしね
実際はもうちょっと見てくれている人がいるんじゃないかと信じてます。
この後は
>>2
>>5
のリクエストを完結させるのが筋なんでしょうけど…
いかんせん自分がこういう作風な所為かバトル物って思っていたより難しく、ストーリーがスンナリ浮かんでこないんです。
よって潔く打ち切りとさせてもらいます、リクエストに応えられず申し訳ないです…。
38
:
名無しさん
:2010/04/28(水) 17:29:49
あげ
39
:
名無しさん
:2010/04/28(水) 20:55:54
>>5
だけど気にせず続けてください
頑張ってね
40
:
名無しさん
:2010/07/19(月) 21:10:28
昔々おじいさんとおばあさんの話書いた人か
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