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昔々、ある処におじいさんとおばあさんが住んでいました。

1名無しさん:2007/10/27(土) 09:34:43
 おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。


 いえ、正確には「行く素振り」だけみせといて、機をうかがっていたのでした。


 ――そしてついに時は満ちた。

139名無しさん:2008/07/30(水) 18:32:46
爺さんwwwwチートすぐるwww

140名無しさん:2008/07/30(水) 18:55:05
いつのまにか闘いが始まっていたか;しかし爺さん速すぎるwww かっけぇー!

141名無しさん:2008/07/30(水) 20:35:02
じじい…!

142名無しさん:2008/07/31(木) 16:03:05

 城の頂が完全に崩れて沈黙し、粉塵も収まりかけて一段落つこうとした時だった。
 老翁の立つ瓦が一斉に微動を始めた。

「そうこなくてはのう」

 微動は徐々に激しさを増していき、あちらこちらで瓦が割れ――再び崩壊が始まった。
 今般は規模が違った。
 地鳴りのような音と共に建物全体が上下に揺らされ、天守閣そのものが崩壊しそうな勢いであった。
 と思いきやそれが来るのは存外早かった。
 
「おぉう」

 足元の瓦ががらんがらんと抜け落ち、老翁はたちまち一面に拡がった大穴に吸い込まれた。
 すぐに下の階の不安定な足場に着地し、またその階も崩れて落下し、着地しを繰り返していく。 

「城の主柱を全てへし折ったか」

 上から降ってきてぶつかり続ける瓦やら備品やらをものともせず、老翁はなすがままに階下へ移動していった。
 地鳴りは既に轟音と化し、些細な音は押し潰されて何も聞こえない。
 だが気配は感じる。奴はまだ戦闘可能で、下で待っている。

「出向くでなく引っ張り込むとは、つくづく年寄りをいたわらん奴じゃのう」

 崩れ落ちて崩れ落ちて――最下階へ着地。




 出し抜けに鋭い殺気が身を貫く。
 視界は四方、埃芥で遮られている。
 だがそこだけ色が違うかのように、はっきりくっきり敵の居場所は把握できる。

 出し抜けに背後の上方に一太刀が光った。

 振り向きざまに棒の両端を右手左手に広げるように持ち、受け止めるべく上段にかざした。

「ぬぅ!?」

 刹那極めつけに重い衝撃が、棒を伝って老翁の身体を殴りつけた。
 たまらず膝まで地にめりこむ。まるで槌に打たれる釘になった気分である。

 受け止めはしたが――こんなことがあろうか――耐えることあたわず!
 ついぞ受けたことのない重み。全身で支えながら、真横に伸びている棒越しに相手の顔を覗く。

 嵯峨羅はもはや言葉が通じそうになかった。

 皺だらけにみえた顔面は、異常に浮き出た血管の集合体であった。
 目は白目を向いて血走り、歯は狂犬のごとくむきだしており、鼻息は荒い深呼吸を繰り返していた。
 服は乱雑に破かれ半裸状態で、鋼も通らぬような筋肉質がドス黒く脈打っている。
 怒髪天が揺れている。五体から湯気のような物がたっている。

「明王を憑けたか」

 極太の両腕が握る太刀に、力がこめられる。

 みしり。みしり。

「むむむ」

 尚も幾らかずつ沈んで行きながら老翁は「いかんな」と呟いた。
 長年愛用していた棒であったが――その帰結は必至であった。

143名無しさん:2008/07/31(木) 22:06:55
爺様ー!!!!

144名無しさん:2008/07/31(木) 23:17:21
なんか覚醒しとるー 爺様ー!!

145名無しさん:2008/08/01(金) 09:38:38
すげぇww

146名無しさん:2008/08/02(土) 08:16:24
爺さーん

147名無しさん:2008/08/04(月) 23:23:31

 嵯峨羅と老翁の競り合いは一体となり、自らごと大地を震え上がらせていた。

 大木の軋む音が鳴り、老翁が一文字で支えていた棒は弓なりに曲がり始めた。尚曲がっていく。
 しかし老翁にはどうすることもできない。僅かでも力を抜いたなら大上段に真っ二つになるだろう。

 かといってこのまま事が進めば――

「南無三よ」

 老翁が呟いた直後、図太い骨がへし折れる音と共に、棒は鋭角に折れて切り離された。
 すかさず、それまで留められていた力が解き放たれ、嵯峨羅の太刀が稲妻のごとく落ちた。



 
 瞬きする間もなく老翁の頭蓋は砕かれ、そのまま股まで斬り裂かれた。
 老体からは血がおびただしく噴出し、数多の臓物は飛び出て――




 そんな光景は果たして広がったか。
 否!

 太刀はまだ振り下ろされていなかった。
 それどころか、棒が折れてから三寸も動いてはいない。

 その白刃は一対の頑強な掌によって挟まれていた。
 震えは続いたが、今度はまるで刃が進む様子はなかった。

「白刃――取り!」

 刃を挟んだ手首がぐるんとねじれる。
 ひときわ高い音が響き、太刀は嘘のように容易に割れてしまった。
 理性は失えど驚天の情は残っているらしい、嵯峨羅の白眼が大きく見開かれる。

 老翁は棒の切れ端とついぞ得た刃先をよそへ放り投げた。

「得物を持った儂に……『素手』を使わせるとはのう……」

 心底感服した様子で老翁は言った。


 刹那、突き出される老翁の右拳。
 嵯峨羅はとっさに腕を十字に組み、かろうじて腹部への直撃を避ける。
 
 おかげで後方に二十歩ほど、地に足引きずった跡をつくっただけで済んだ。
 城の残骸を押しのけながら、防御体制の格好のまま後方へ吹き飛んだのだった。
 勢いのないただの正拳突きで。

 嵯峨羅の顔が上がり、眼光が老翁を射抜く。

「そろそろ幕引きといこうかの。小細工無用の竹割比べじゃ」

 老翁がゆるやかに拳を引き、半身に構えた。
 完膚なきまでの肉弾戦。それが――老翁本来の無双態勢であった。

148名無しさん:2008/08/05(火) 00:01:58
白刃取りかっこよすぎる
爺さん本気モードきたわ─(゜∀゜)─!!

149名無しさん:2008/08/05(火) 00:53:31
じじいかっけぇなwwwww

150名無しさん:2008/08/05(火) 12:53:20
最初は鍬、次に棒、続いて素手。
本気モード多すぎだろwwwwwつえぇw

151名無しさん:2008/08/08(金) 00:12:32

 嵯峨羅の裸体の上半身が燃え上がるように膨らんだ。
 柄のみを残した太刀が地に落ち、からんとこだました。

「果てるがいい」

 かろうじて人の発音をして、老翁にはそう聞こえた。
 嵯峨羅の図体から溢れんばかりの殺気がほとばしり、敷地内を包み込んだ。

「濃い憎悪じゃ。もはや徳など諭せられるかは」

 老翁の呟きは遺憾とも随喜とも取れた。
 ――拳の骨が鳴る。

 嵯峨羅がふわりと跳んだ。
 仕草は緩慢としていた跳躍は、ひとっ飛びで老翁の眼前まで届いた。
 
 嵯峨羅が人ならぬ雄たけびを上げながら、勢いを乗せた老翁の頭部大の正拳がうなった。

 顔面に迫る黒金を、老翁は右拳ひとつで応じる。
 骨と骨のぶつかる音が轟いた。
 でたらめな衝撃が生じ、真空切りの波紋が周囲を刻んでいく。

 同着であった。
 嵯峨羅のもう片方の拳が、老翁の腹部をとらえていた。
 地を這うような低空軌道であったため、死界からの奇襲であった。
 
「山突きか!」

 両手ぐるみで上下段の正拳を同時に繰り出す、初歩ながらも受けの難しい技。
 流石は久しい難敵、我を失いながらも「闘」の覚はその身に染みついているか。
 



 老翁は「く」の字に折れながら真上に飛ばされた。
 崩れかかった柱の断片を突き破り、闇夜が総べ始めた虚空へと矢の如く飛ばされた。
 いくら老翁とて地の理には逆らえず、受け身の術もない。

 なすがままに吹き飛ばされ、中空で勢いが落ち着き始めたその時、気配が。
 遥か上空にて気配が。
 嵯峨羅であった。ここまで先回りで飛翔したというのか。

「去ね」

 拳を握り合わせて出来た鉄鎚は、薪を割る勢いで背骨を砕き落とした。

 流星のごとく老翁は超落下し――瞬きする間に大激突。
 爆音のような地鳴りと、爆煙のような粉塵が舞い上がった。
 
 大地が老翁を中心に円形に窪んだ。
 一泊置かずして嵯峨羅の豪速落下によるヒザ落ちが入った。
 見てる側にしたら笑いが漏れそうなほどの威力。
 老翁が衝突した際の衝撃が収まっていない大地に、更なる痕(きずあと)が入った。


 いかな頑強な岩石とて鋼鉄とて、原型を保てるはずもない追撃であった。
 嵯峨羅の膝の下は全く、何がどうなってしまったのか判別付かない。
 
 ただ――まるきり沈黙しているあたり――
 もはや息吹を返すものがあるとは到底思えなかった――。

152名無しさん:2008/08/08(金) 00:25:41
ずっと見てましたが爺さんのピンチに応援初カキコ
爺さーん!

153名無しさん:2008/08/08(金) 17:11:19
これは死んだだろwwwww

154名無しさん:2008/08/08(金) 18:49:21
死地より立ち上がる…それこそが…漢!

155名無しさん:2008/08/09(土) 17:44:43


 日落ち、深藍が覆い、暗し。
 提灯がともされ始める刻限であった。


 城は人ならざる二名の激闘の末、陥落した。

 耳をすませば閑けさにつけて夜虫が鳴き、安らぎこの上ない情景を呈している。
 しかし一たび目を見開いたなら修羅地獄。
 
 本瓦で葺かれた山のごとき荘厳さを誇っていた屋根は何処に。
 立ちはだかるように堂と聳えていた漆喰の白壁は何処に。
 打ち込みハギからなる、滑らかながらも十分な堅牢ぶりを感じさせた石垣は何処に。

 崩れ落ちた天守閣の残骸が、くたびれ果てたように広がるばかりであった。




 嵯峨羅は膝を地に埋めた体勢のまま、全てが鎮まるまで微動だにしなかった。
 老翁の息根を確かめたかったためか――
 それとも既に、強敵を屠ったことに余韻を感じているのか――

 嵯峨羅はやがて、一体化したものを引き剥がすかのように膝をどけ、立ち上がった。
 その白眼で、自らが押した明王の印判を観る。



「逝ったか」

 老翁の腹部は具捨愚沙(ぐしゃぐしゃ)に潰れていた。
 嵯峨羅にとってはよく見る圧死体であった。
 腰骨は明らかに屈折しており――
 手足は力なく垂れ落ち――
 両眼には生気が――


「んむ?」

 生気が宿っており――?
 それがにかりと笑って――?



「効いたぞい。次はワシの手番じゃな」


 おもむろに片手を伸ばし、嵯峨羅の片足をむんずと掴んだ。

「まだ息があるのか!」

 尋常ではない握力をもって体重がかけられ、生じた反動を用い一挙に立ち上がる。
 空いた手は拳骨をつくり、勢いを殺さずにして嵯峨羅の顔面を奇襲した。

「ぬがっ」

 頬骨が陥没したと思しき鈍い音。
 不意の一撃に嵯峨羅がぐらりとよろめく。



「おさめどきじゃ」

 老翁はささやくように呟くと、両拳を握り締めた。
 握り締めた上に更に握力を増し続け、やがて爪の先から血がしたたり堕ちた。



 この闘いを締める、老翁の最後の反撃が始まった。

156名無しさん:2008/08/09(土) 23:51:08
じいさん……

157名無しさん:2008/08/10(日) 11:19:36
え、腹部ぐしゃぐしゃで生きてるって……人間じゃNEEEE

158名無しさん:2008/08/14(木) 21:40:13

 あれだけの一撃を叩き込まれたにも関わらず、血はどこの穴からも一滴とて流れていなかった。
 腹部は平平に潰され、見るも悲惨な外観である。
 しかし人外の強靭さをほこる筋肉と脂肪は、「その程度の圧迫」で人体破裂を許すことはなかった。

 臓器も障りない。
 五臓六腑それ自体がすべて頑丈で弾力に富むため、直接刃が入る以外に損傷することはない。
 あらゆる秘術の鍛練を学び、またそれを怠らなかった賜物である。

 人骨だけは弾力もなく一連につながってもない故、折れはせずとも関節部が幾所か離れてしまったが――

 老翁は首や腰、肢体のあらゆる局部の骨を鳴らせた。
 その過程で、凡人ならどう見積もっても全治の見込みなしと思われた屈折・歪曲部はすっかり原型を取り戻した。

 治癒を終えた老翁にいくらかの疲労は窺えても、なりは無傷に等しかった。 



 嵯峨羅に絶望するいとまはない。

「少々長たらしくなるが、爺の満身の制裁――しかと受けよ」

 のけぞった自分の腹部に正拳がめり込んだからである。
 たまらず、今度は故意なく膝つき、せりあがってくる酸い液を咳きこみながら吐き出す。

 拘わらず、容赦なく、問答無用の殴打の雨が始まった。


「弱者の死にたるはやむなしに非ずや! 遡行の果ては、強者の力々(りきりき)其の次第!
 意趣返しこそは愚行かな! 何も得られぬ、果たせど得られぬ!
 失せたものもの還ってはこぬ! 断てども断てよ、血みどろの縁!
 善悪説く気、さらさらなし! されど正せん成徳の限り!
 誠意より懸け、いざ科、懲らせん! 願わくば!!
 生けとし衆生、森羅万象、救世(ぐぜ)の福果に飲まれんことを!! 鉄拳!!
 鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
 鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
 鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳剛拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳手刀鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
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 鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳羅拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳破拳鉄拳鉄拳
 二拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
 重拳鉄拳烈拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳熱拳鉄拳
 極拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
 鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄蹴鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳正拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
 鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳懲拳鉄拳鉄拳鉄拳掌底鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄膝鉄拳鉄拳鉄拳
 鉄拳鉄拳肘鉄鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
 鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳山突鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄頭鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
 鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳!
 爺の鉄拳ッ! とどめの鉄拳ッ! もひとつ鉄拳ッ! 締めの鉄拳ッ! おまけの鉄拳ンッ!!」 


 無限に続くかと思われた猛攻が、ようやく終わった。
 この間、夜虫が鳴き始めていったん鳴きやむまで。
 気がつけば老翁は、自身の背丈二人分ほど地を掘り起こしていた。

 無呼吸打法による間断ない制裁を受け、十打余りのうちに昏倒した嵯峨羅の有り様は――。
 言うまでもなく――。

 ――とてもとても、言うまでもなかった。

「終わったのかの……」

 老翁は額の汗をぬぐった。
 今日、はじめて流した汗であった。
 
 かくして、悪政にて潤っていた城に身を潜め、復讐の機をうかがっていた大鬼と、
 農民にして単身懲悪に乗り込んだ得体の知れぬ老翁との、長きに渡る決闘は幕を閉じたのであった。

159名無しさん:2008/08/14(木) 22:54:33
最強すぎる…爺さん格好いい!

160名無しさん:2008/08/15(金) 00:00:47
うおおおTUEEEE

もうすぐ終わりと思うと寂しいなぁ…

161名無しさん:2008/08/15(金) 00:31:25
ちゃっかりフタエノキワミが混ざってるwwwww

162名無しさん:2008/08/15(金) 09:54:09
wwww

163名無しさん:2008/08/17(日) 15:50:17

 月が上り、沈み、大変事が起きたとて意にも介さず、あっさり夜は明けた。


 様子見に城に戻ってきた少数の奉公人たちは、とにかくたまげた。
 つい昨日まで堂とそびえ立っていた城郭はどこにもみえず、
 代わりにそれと思しき建築材の残骸が音もなく氾濫していたもんだから無理もない。

 奉公人たちが呆気に取られていると、どこからか声が聞こえてきた。
 彼らが声の方へ近づくと、そこにはかつての城主・極魅が門にくくりつけられて泣き叫んでいた。
 一晩中そんな状態であったのか、みるも疲労が甚だしい。

 誰かがすぐさま駆け寄って縄を解こうとしたが、別の男がそれを制した。
 このままお役人様に引き渡そう、と。
 誰もがうなずいた。この暴君の圧政と放蕩ぶりに善悪がつけられないほど愚鈍ではない。
 
 城主は恐喝まがいの科白を喚き散らしたが、もはや城を失った城主など恐るるに足らず。
 平生なれば年貢を徴収する側の者が年貢の納めどきを迎えようとは、いやはや滑稽な話である。

 
 その後、門の内側に、三名の家臣が倒れ伏せているのが見つかった。
 彼らの息は辛うじて続いていたが、奇妙なことにその手足、胴体はごぼうのように細く衰えていた。
 それぞれの手には丸めた文書(もんじょ)が固く握られており、それをほどいて目を通すと、
 「事知り、蔵の物確かに承りて候  某村之長」といった旨の血判が施されていた。 

 その場にいた皆が首をかしげたが、この三名に何が起こったのか誰も知る由はない。


 ――――――。

 
 二日の後、某侯(藩主)より遣わされた役人達が来着した。
 城主極魅は、かつての奉公人による多数の弾劾から、晴れて御用とあいなった。

 やがて城の再建が始まったが、その過程で天守のあった位置の地中に、何者かが発見された。
 引き上げられた姿形の満身創痍ぶりに、はじめは何者か判別できなかったが、
 やがて城主の側近である例の寡黙な大男ではないかという結に至った。
 
 嵯峨羅は気息奄々としていたが、意識を取り戻したのちは冷静に事情を把握し、自ら神妙にお縄についた。
 嵯峨羅の本性、実の力を知る者はいなかったため、人々は彼ならではの賢明な裁断と称賛した。
 ――人々は、その内なる心が大きな変化を遂げていたことに気づく筈もなかった。

164名無しさん:2008/08/17(日) 15:51:09

 役人による聴取が始まった。が、調書を綴る筆は止まったままである。

 「賊が乗り込んできた」「百姓が乗り込んできた」「いや化け物が乗り込んできた」
 「とにかく二匹乗り込んできた」「でたらめに強くて百人がかりでも歯がたたない爺だった」
 「その爺が近づいてきたんで必死に逃げていたら、いつの間にか城が落ちていた」

「わかった、わかった」
 
 役人は両手を使ってその場を収める。

「では聞くが、そのじじばばはどこにいる」

 誰も答えられなかった。
 あの日、城が落ちてから、じじばばの姿を目撃した者はいない。
 事が終わってみれば、霞のように消え失せていたのである。

「きっと、あそこだ」

 誰かが天を差した。
 皆もつられて空を見上げる。抜けるような蒼空であった。

「きっと、天に住まう仙人だったんだ」

 その一言でまたも議論は紛糾する。
 そんな彼らを、陽の光は穏やかに照らしていた。




 同じ空の下――。
 
 一軒の古びた家屋より、鍬をかついだ老翁がおもむろに現れた。

「それじゃあ行ってくるぞい」
「はいぃ行ってらっしゃい」

 老翁は足取り軽く、山野の方へ歩いていく。

 その姿が消えないうちに、老婆も家屋を出てくる。
 腕には桶と洗濯板を抱えて。

 平安が染みわたるような、心地よい陽気であった。

 この日々が乱されるようなことがあれば、人知れず老夫婦は再び向かうだろう。
 しかし当分は、少なくとも今は、何の憂いもなく――

 昔々、ある処に住んでいたおじいさんは山へ芝刈りに、
 おばあさんは川へ洗濯に行きましたとさ。



                                     〜おしまい〜

165名無しさん:2008/08/17(日) 15:52:45
 オリンピックに甲子園、そして現在闘劇'08の真っ最中と、
 ともかく観るものに忙しい時期です。

 さて、これにて謎の爺さん婆さんの勧善懲悪劇(?)は終わりです。
 当初は軽いノリで手短に終わらせるつもりでしたが、
 いざ終えてみれば執筆を始めてから空白期間含め9か月もかかる長編になってしまいました。

 毎回ウィキとヤフー辞書の窓を開いて悩んだのは正直辛いものがありましたが、
 最終的に自分にとって大変なプラスとなりました。我ながらいい経験だったと思います。
 ――今見返すと訂正したい箇所だらけですが。
(ちなみに至極どうでもいいですが登場した固有名詞の元ネタはほとんどるろ剣ネタです)

 当作は何度か投げようとしたこともありましたが、皆様の感想は大変な励みになりました。
 無事にきちんと完結させることができたのは、間違いなく
 読者の方々がたゆまぬ感想を投げかけて下さったお陰です。

 万感の意を込めてお礼申し上げます。これまで本当にありがとうございました。    

             昔々、ある処におじいさんとおばあさんが住んでいました。スレ>>1

166名無しさん:2008/08/17(日) 15:57:56
おおお、嵯峨羅改心したのか!?
ともかくお疲れ様でした
最後まで楽しませて頂きこちらこそ有難うございました!

167名無しさん:2008/08/17(日) 19:15:04
>>1
乙でした。楽しませてもらってありがとう。
気が向いたらまた別のお話でも書いてくれください。オレが喜ぶからw

168名無しさん:2008/08/17(日) 20:43:54
ROMってたけど乙
楽しく読ませてもらったよ、ありがとう!

169まとめ:2008/08/17(日) 21:17:24
>>1>>3-5>>10-11>>13>>16-17>>28>>31>>36>>42>>59>>64>>69
>>76-78>>83>>87>>96>>101>>106-107>>111-112>>115>>120-121
>>126>>131>>134>>138>>142>>147>>151>>155>>158>>163-164

1701:2008/08/18(月) 00:28:56
書き終えたことに対しお礼まで言われるなんて――。
そのレスだけで完結させた甲斐が十二分にありました。身に余る思いです。

>>166
改心しました。
彼は元々お武家側の人間なので、自らの立場はわきまえました。

>>167
次回作にご期待しないでください! 喜ばせてあげたいのは山々ですが……。
(正直書くか書かないかすら迷っています)

>>168
これはまたROM専の方がわざわざレスして下さって有難うございます。
貴方のように陰で読んでいた方の存在が分かると一層嬉しくなります。

>>169
まとめ乙! 超乙!! 心底感謝です。
自分もやったことあるのでその手間ぶりは伺えます。
今まで爺さん婆さんの物語を刻み抜いて下さって有難うございました。

171名無しさん:2008/08/18(月) 01:11:01
遅れたが作者乙
ありがとう

172名無しさん:2008/08/19(火) 01:07:11
今読みました。楽しかったです。

173名無しさん:2008/08/19(火) 10:12:44
お疲れさん
面白かったよ

174名無しさん:2008/08/19(火) 21:20:39
うおお乙ううう
とても面白かったですw

るろ剣>やっぱそうかw 大体分かったw

175名無しさん:2008/08/19(火) 21:32:01
遅れてきたがお疲れ様でした〜!>>650
この爺さん婆さんの最強っぷりとカッコよさは忘れませぬw

176名無しさん:2008/08/19(火) 22:53:36
こんなにも多くの読者の方々がいらっしゃったなんて嬉しくてたまらないんで
ちょっと涙流していいですか

>>171
こちらこそ確かな謝礼を以て言わせてください
最後までお付き合いいただき有難うございました!

>>172
たったその一言のためにレスしてくださったこと、心より謝したいと思います
どうも有難うございました!

>>173
面白かったよ の一言がどれだけ作者にとって嬉しい言葉か
どうも有難うございました!

>>174
「面白かった」というお言葉は何度聞いても嬉しさが飽きません。
どうも有難うございました!

この物語を書き始めたときはニコニコ動画で「フタエノキワミ アーッ」が流行ってたんです
家に全巻あったし、流行に乗っかる形でネーミングを一貫したんですが……
なんとも時が立つのは早いものです

>>175
どうも有難うございました! そう仰って頂いて光栄です
こちらこそ貴方が175番目のレスを送ったことは忘れません!

177名無しさん:2008/09/07(日) 05:30:33
遅ればせながら向こうのうらいたの時から読ませてもらってました。
爺さんも婆さんもただ強いだけでなくキャラも立ってて凄い面白かったです!
連載お疲れ様でした!

1781:2008/09/14(日) 22:46:26
>>177
遅ればせながらありがとうございます!
どうも、細部まで直観して下さったようで光栄です
連載が終了してから幾分か経ち
更新を停止した今さえ感想を頂くとあっては感涙の極みです

何だかモチベ高まってきましたね
構想が固まったら 前からやりたかったゲーセン絡みのSSでも書こうかと思います

179名無しさん:2008/09/21(日) 13:14:23
wktk

1801:2009/05/12(火) 11:03:39
みなさん半年以上ぶりです
まだ残っている方、ご殊勝でしょうか

ゲーセン絡みのSSの件ですが、すでに別のところで書いてしまいました(ごめんなさい)
また別の執筆者によりギル高スレが現行しているので、題材が被ってしまうのに抵抗がありますし

つーわけで近いうちに全く別のSSでも書かせて頂こうかなと思います
その折はどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

181名無しさん:2009/05/12(火) 11:40:33
ほう 期待しちょるよ

182名無しさん:2009/05/12(火) 12:02:44
返信早杉焦ったw お気に入り登録ありがとうございますw
マイぺースで頑張って書いていきますね

183名無しさん:2009/05/12(火) 19:36:39
待ってますぜ

184名無しさん:2009/05/17(日) 14:10:59
あげ

185名無しさん:2009/06/01(月) 01:01:35
久々にみかけたんでage

186松 山 赤○○ 病員 清 掃 商 事:2009/06/01(月) 03:27:19
インフルエンザで仕事は辛い かんじゃサンにうつる
職場のパワハラで再発した鬱が原因で死にたいです
愛姫

187名無しさん:2009/06/25(木) 23:32:57
age

188名無しさん:2014/02/19(水) 09:16:57
恐竜戦車って今見るとかわいいっっ(o**o)


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