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昔々、ある処におじいさんとおばあさんが住んでいました。
1
:
名無しさん
:2007/10/27(土) 09:34:43
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
いえ、正確には「行く素振り」だけみせといて、機をうかがっていたのでした。
――そしてついに時は満ちた。
2
:
1
:2007/10/27(土) 09:35:02
いつまで経ってもあっちの方でアク禁が解除される兆しがないし、
こちらがどことなく小説書こう的ムードなので、これからこちらの方で本格的に続き書きます。
あっちの方でスレを保守してくださった方、ありがとうございました&お疲れ様でした。
感想レス等は基本無視の傾向でいきますが、感想には内容の善し悪しに関わらず心底感謝してます。
尚、SSは改稿を施して一から少しずつうpします。更新ペースは遅いので悪しからず。
3
:
名無しさん
:2007/10/27(土) 09:35:24
「ばあさん。もはやこの村にはもう米は残っておらぬ」
「おじいさん。時が来たんですかえ」
「うむ」
老翁は、無造作に壁に立てかけられていた鍬(くわ)を片手に取り、ずしりと肩に担いだ。
「ばあさんは村に残っているがよい」
「何をおっしゃりますやら、あたしも戦いますよ」
老婆は洗濯板を背負い、ヒモで胴と結びつけた。
「……良いじゃろう。一度付いていくと言ったお前は、もういくら言い聞かせても聞かぬからの」
「ふぇっふぇっ、足手まといにゃあなりませんよ」
かくして昼下がりの日差しを逆光に、二つの年寄りの影が立ち上がった。
目指すは贅沢の限りを尽くし、重税を以って農民たちを虐げる悪徳領主「極魅(キワミ)」の天守閣――。
4
:
名無しさん
:2007/10/27(土) 09:36:14
城から少し離れた物見やぐらの上に、およそ末端と思しき二名の見張り役がいた。
空模様しか変わらぬ風景の観察に永い刻を費やし、はや既に倦怠している。
「あぁ……見張りというお役は、全く暇でござる」
「同じく」
「しかし見張りなくては、敵国の侵入をいち早く知らせられぬ」
「左様」
「我らの責務は世間が思ふよりも重きもの。違わぬか」
「違わぬ。ぁ」
「かくに、なにゆえ斯様な処遇を受けねばならぬのだ。あぁ、暇じゃ」
「……」
「おい、何か小咄をせい。退屈の余り、物の怪に我が身を許してしまいそうじゃ」
「……」
「いかがした?」
見張りが振り返ることはなかった。そうする前に、全くの不意打ちでいきなり一本の鍬が脳天を直撃したからだ。
物見やぐらの上には、鍬を装備した老翁と洗濯板を背に装着した老婆が佇んでいた。
「急所は外したのかえ」
「自信ないのう。御仏の導きあらば、また陽の目を拝めるじゃろ」
昏倒していた見張りの一人を引っつかみ、あちこちまさぐり調べ始める老翁。
「どうやら、こやつ等は下っ端の中の下っ端のようじゃの。なあんも持っておらん」
「腰に脇差しは付けとりますよ」
「笑止な。こんなナマクラ、たわら十俵分集めたとてワシの鍬には適わん」
老翁は見張りをぞんざいに放ると、悠々と梯子を降り始めた。
後に続く老婆。爺さんは降りながら尋ねる。
「ばあさんの方こそ、一本ぐらい頂戴してもよかったじゃろうに」
「なんの、婆には婆に合ったエモノがありますよ」
かくして手始めに見張りを潰した老夫婦たちは、ためらわず城門の方へ真正面から足を運んだのであった。
5
:
名無しさん
:2007/10/27(土) 09:36:40
「止まれぃ」
城門で待ち構えていたのは、金剛力士の如くいかめしい大男。
片手には、その体躯を超える長身の素槍を携えている。
「貢納の時期にては早し。また鍬などは、かの城には無用の長物」
大男はギョロリとした目で爺婆を見下ろした。
「何用ぞ。返答によっては手打ちも止むをえぬ」
しかし老翁老婆は凄みに臆するどころか、むしろそれに余裕の笑みをもって応じた。
「ヌシらの主(あるじ)に物申しに参ったんじゃよ」
「無傷で済まされたくば、黙してそこをどきなされ」
それを聞いて下品に大笑いする大男。
「何、百姓風情が血迷うたか。たわけたことを」
ひとしきり笑い転げた後、涙目で大男は言った。
「よいよい、此事は不問に処す。早々に引き返すが良い」
しかし老翁はにこやかな顔のままそれを無視し、進み出て門の取っ手に手をかけた。
「翁(おきな)、何をしておる!」
先ほどとは打って変わり、男は憤怒の表情をたたえ老翁の手をつかんだ。
「見逃してやると言ったのが耳に入らなかったか!!」
つかんだ手をそのまま力任せに引っ張り、地に叩きつける。
老翁はそのまま二、三転し、砂にもまれながら老婆の足元で止まった。
「次に慈悲はなしぞ。早々に去れ!」
「おやおやおじいさん、大丈夫ですかえ?」
老婆は言いながら、おもむろに老翁を立ち上がらせた。
しかしその口調に真に安否を気遣う節はなく、にやにやした顔は張り付いたままだ。
「はぁ……どっこらせと。ばあさんや、良い事を思いついたんじゃが」
「はぁ、何ですか?」
「隣国に密告すれば、褒賞を給わるかもしれぬぞ」
「はぁ、何と?」
「『此国の城の門番は腑抜けておるゆえ、攻め入るに易し』と」
しゃがれた声で笑い出す老夫婦達。
「聞き捨てならぬ! 手打ちに致す!!」
怒りに顔を紅潮させ、猛然と怒髪天をつく大男。
手にした長槍をグイと構え、老翁に向けて一気に先端を突き出した!
「ぬるいわい」
韋駄天か何かが、出来の悪い太鼓を連打したような音がした。
一瞬であった。
大男の視界は、何が起こったか思考する前に暗転したことだろう。
また、はた目には、ただ大男が老翁に突きを繰り出そうとして勝手に倒れこんだようにしか見えなかったろう。
「ばあさん、何発見えたかの?」
「十に二つぢゃありませんかえ」
「ふむ、衰えてはおらぬようじゃ。ん、いや、衰えたのはワシの方かの」
老翁は鍬を担ぎ上げると、うつ伏せに倒れている大男に目を向けた。
徐々にその後頭部に、タンコブが膨らんでいくのを確認する。
「あぁそうじゃ、ばあさん」
城門の錠を外しながら、老翁は老婆に呼びかけた。
「何ですか」
「先刻の褒賞の話じゃが、やっぱりナシじゃ」
「そうに決まっているぢゃあ、ありませんか」
「おや、さっきはそれで笑っとったんか」
「そうですよぉ。だってこのお城は」
錠が外れる乾いた音が辺りに響く。
「もうすぐ落ちますもの」
6
:
名無しさん
:2007/10/27(土) 10:33:29
おーついにこちらで再開ktkr!
頑張ってください
期待age
7
:
名無しさん
:2007/10/27(土) 10:54:14
お待ちしておりますた。
続きwktk
8
:
名無しさん
:2007/10/27(土) 12:29:41
キタコレw
9
:
名無しさん
:2007/10/28(日) 00:19:57
いいねいいねー
10
:
名無しさん
:2007/10/29(月) 03:41:23
厩(うまや)がズラリと並ぶ三の丸。
世話役がせわしく働き回る中、時々軍馬のいななきがあちこちから聞こえる。
そんな折、砂利道を徒行する幾つかの足音。
城内を散歩中の家臣達であった。
一人が大手を掲げ、うんと伸びをする。
「今日び、のどかじゃのう」
「全くじゃ」
「我らがこうしてゆるりと過ごせるのも、殿のお陰じゃ」
「いかにも。殿が百姓共より多くの米をせしめておられる故、我らにも余裕ができる」
「じゃが、聞けば徴米の量りは、御上の定めた格をたいそう超えとるそうな」
「おう、やはり左様であったか。道理で蔵がようよう富む訳じゃ」
「これ、声が高い。百姓共に聞こえたらば、一揆を起こすやもしれぬぞ」
「ははは、かの烏合の衆に何事ができるか」
「全くじゃ。いざとなれば、我らの日頃の演武の成果、とくと味合わせてやるわ」
「お主はさぼってばかりであろう」
「ばれておったか」
ははは、と笑い声に包まれる一行。
しかし運悪くも家臣達の泰平は、立ち塞がる二つの影を前に終焉するのであった。
「む、何者じゃ!」
一人が鋭く言い放ち、低く構えて腰の物に手をかけた。
それに倣い、残りの家臣も同様に臨戦態勢に入る。
「通りすがりのじじいじゃ」
「同じくばばあですぢゃ」
突然現れた老夫婦を前に動揺を隠せない一行。
「ひゃ、百姓が何故ここにおる!」
「城主に用があって来たのじゃ。さぁ、本丸まで案内せい」
「どっど、どうやって入ってきた!」
「ちゃあんと城門を通ってきましたよ」
「もん、門番はどうした!?」
「門にいるぞい。寝ておるがの」
家臣達は顔を見合わせ、露骨にうろたえた。
なにぶん一行の誰もがこんな機会に鉢合わせたことがなかった。
軍馬の世話役達はいつの間にか離れた場所にいて、不安げにこちらの様子を窺っている。
「く、く、くせむ」
「く、くせっ、くしぇむ痛っ」
「曲者じゃあーっ!!」
一人がようやく大声で言い放ち、危なっかしい仕草で刀を抜き放った。
11
:
名無しさん
:2007/10/29(月) 03:43:24
「かっ、囲め、囲めえい!」
そしてギクシャクした動きで二人を円陣に囲む。
お互いがお互いをまねしあいながら、とりあえず刃先を老翁老婆に向ける。
「え、ええい、次はどうすればよいのじゃ」
「し、知らぬわ」
「だ、誰か指示を出せい!」
「全く、近頃の若い武士はだらしないのう。情けないのう」
老翁は鍬を振り上げると、先端をざくりと砂利に突き刺した。
その動作に驚く家臣達。円陣内の面積が拡大する。
「群雄割拠の世とは何ぞや。――無銭で啓蒙してやるわい。ばあさんは手出し無用じゃ」
「はいはい分かっておりますとも」
鍬を放置したまま、両手を鳴らしながら前に歩み寄る老翁。
「おおう、そ、それ以上近づくと斬るぞ! 斬るぞぉ!!」
老翁の向かい先に白羽の矢が立った一人が喚く。
「生後より稲作にいそしみ続け、いつしか限界までに太くなったこの老骨」
足を止めず、ひとえに迫り来る老翁。
「斬れるものならば斬ってみせい」
「きええい!」
破れかぶれに放たれた上段の一刀。それに向かって突き出された拳。
刹那、聞きなれない金属音が場を支配する。
厩にいた馬の鼻先に、弧を描いた刀身がカツンと刺さる。
馬は驚いてブルルと鳴くと、奥へすっこんでいった。
先が消えた刀を唖然として見つめる家臣。
切り傷一つ付いてない、老翁のゲンコツ。
「兵法指南の一句じゃ。『強者(つわもの)の――』」
ゲンコツがゆっくりと引いて、タメを作る。口をパクパクさせながら青ざめる家臣。
「『兵(つはもの)のみぞ永らへる!』」
直後に放たれたミゾへの一撃は、轟音と共に家臣を猛スピードで五、六、七回転させた。
憐れ家臣は、頑丈そうな二の丸の石垣を破壊音と共に二層三層突き破って退場した。
馬の世話役達の何人か(ついに頃合いをつけて逃げ出していた)を巻き込んだらしく、見えない所で悲鳴がいくつか上がる。
「下の句は目下推敲中じゃ」
老翁は皺だらけの顔を、飴を与えられた童子のように綻ばせた。
12
:
名無しさん
:2007/10/29(月) 08:51:37
じいさんやっぱりかっこいいw
13
:
名無しさん
:2007/11/04(日) 23:10:32
数刻ばかり凍りつく場。
「安心せい。ワシは不殺(ころさず)の道を極めつつある。ワシの手にかかった者は死にゃあせん」
小声で「多分」と付け加えたのが聞こえたのだろうか。老翁が次の標的へ歩み始めた時、その標的が声高に叫んだ。
「き、斬れっ、斬れえぇ!!」
「お、おおう!」
「でやぁあっ!!」
我に返った残りは、我が身に危険が及ばぬうちに一斉に老翁に斬りかかった。
しかし老翁は出鱈目に強かった。
両足を横に開き、少し腰を落として構えを取ると、四方からくる太刀筋を次々に捌(さば)き始めた。
方向に応じて手を正拳、裏拳、掌底へと器用に使い分け、先刻と同じように刀身をへし折っていく。
注意して観察すると、のみならず、へし折った刀の持ち主に対しても追加強打を見舞っていた。
「萃!」「煉!」「巌!」「堯!」
一撃ごとに空気を振動させる老翁の鉄拳は、選択の過ちに気付いた直後の家臣たちを圧倒していった。
ある者は堀まで飛ばされ水飛沫をあげ、ある者は塀の上まで飛ばされ瓦に衝突し、またある者は厩に突っ込み、馬の後ろ足蹴りの追い討ちを喰らった。
「お、お助けけけ」
最後の一人は武器を放り出して逃走を図った。
しかし老翁は容赦せず、その背中目がけてズンと踏み込みをいれ、差別無用問答無用に制裁を放った。
「ぴぎひいっ!!」
憐れ最後の一人の身体は逆向きに「く」の字になり、遠くの壁に腹からめり込んでいった。
こうして老翁に刃を向けた人間は、実に呆気なく掃討された。
老婆がアクビを始めて終えるまでである。老翁は地面に刺さった鍬を「よいしょ」と引っこ抜いた。
「柔(やわ)いのう、準備運動の準備運動にもなりゃせん。これならモヤシの方がまだ歯ごたえがある」
「おじいさん、そのモヤシ以下がどんどん集まってきましたよぉ」
「ふむ?」
老婆の指先をみると、騒ぎを収拾しに武装した武者共が徒党を組んでこちらへ向かっている。
「ははぁ、道草くっとる場合ではないの。全滅させても良いが、その間に城主が逃げると困る」
「えぇ、先に行きましょうかねぇ」
颯爽。かくして老夫婦は本格的に城内に闖入すべく、連れ立って虎口を突破した。
14
:
名無しさん
:2007/11/05(月) 08:26:49
うほ
見つけた 超期待
15
:
名無しさん
:2007/11/09(金) 00:59:54
えぇい、神はまだ来ないのか!
続きをwktkしながら待っているというのに
16
:
名無しさん
:2007/11/09(金) 01:43:33
天守閣内、白書院と呼ばれる小広間――。
金色を基調にした亀の装飾画が描かれた襖(ふすま)。
無駄に凝った鶴の彫刻が細工された仕切欄間(らんま)。
そして、派手な色彩で鶴亀両方が戯れている和絵が施された金屏風。
公家つながりでもない限り、いっぱしの城主が持つには不相応に豪奢な書院であった。
そして今、上座でさかずき片手に遊女の舞いを楽しんでいる城主――和月守不妙極魅(ワツキノモリフタエノキワミ)は、何も大した家柄ではない一介の外様大名であった。
まだ昼下がりだというのに、色とりどりの回り灯籠を置き、豪勢な馳走を乗せた膳を前に、美しい女中たちを侍らせて酒宴を催している。
当人はきらびやかな衣装に身を包み、顔には化粧を塗りたくった状態ですっかり悦楽にひたっている様相。
農民から不当にせしめた重税は、不徳な領主のための無意味な贅沢三昧の糧に使われていたのであった。
「よいぞ、よいぞ」
甲高い声で興をそぐのも甚だに舞妓(まいこ)をたたえる極魅。
さかずきを口にしつつ、空いた手で手近にいた女中のでん部を撫で回している。
女中は決して嫌がらない。極魅がその気になれば、すぐさま自身が路頭をさまよう身の上になりかねないからだ。
極魅の暴虐ぶりは、城内はおろか領土に住まう人々全てに至るまですっかり暗君たらしめていた。
やがて舞いは終演を迎えた。音楽が静まっていくと共に、遊女はゆっくりとひざを折り、会釈をもって演舞を締めた。
「あっぱれ! やはりお三味(さみ)の舞いは美しいのう、まっこと一級品じゃ」
「身に余るお言葉、恐縮にございます」
「どうじゃ、今宵こそは寝床を共に――」
17
:
名無しさん
:2007/11/09(金) 01:44:16
「と、殿! 畏れながら伝令!!」
突然、脇の障子が開け放たれ、息を切らした家臣が躍り出た。
何事かと一同の注目を浴びると、家臣はその場にかしこまり、頭を垂れて高らかに申し出た。
「敵襲にござりまする!」
「な、何と!?」
華やかだった場が一気に変容した。女共は口元に袖をそえて怯え、男の従者たちは片ひざを立てて腰を浮かせた。
「して、その数は!?」
「そ、それが……二人(ににん)ほど」
「二万!?」
「い、いえ、二人のみにございます」
緊張した空気が解けていく。
そんなものは敵襲とは呼べぬ。驚かしおって。この大袈裟者め。
「し、しかし! 敵は相当に腕の立つ者でして、既に門番含め二十余人がやられております!
賊共は刻下この本丸を目指している模様……!!」
だが、その言葉が再び場を乱すことはなかった。
極魅は落ち着き払った物腰で、何時から居たのだろうか、背後の大男にアゴで合図をした。
「はっ」
大男は前に進み出て家臣に命じた。
「当城御抱えの剣客を全て呼びよせ、直ちにその無礼者二名を斬らせよ。
今後妙な気を起こす者が出ないよう、城下にその首を晒せ」
「はっ、ははっ!!」
家臣は土下座もそこそこに慌ただしく走り去っていった。
その場にいた誰もが、これでこの件は解決されたと思い込んだ。
所詮、たかだか数名ばかりの賊の侵入など、些事に過ぎないのである。
「それ、宴の続きをしようぞ」
極魅の一言で、先ほどの酒宴が再開しようとした矢先――
「殿、畏れながら」
お三味と呼ばれた舞妓が静かに申し出た。
「おう、お三味、何じゃ?」
「二人の賊――。米蔵、宝蔵が気になります故、私めも様子を窺いに参りとう存じます」
「おう、構わぬ構わぬ、行って参れ」
「御意」
お三味の紅い口元が横に伸びる。顔つきはすでに舞妓のそれではなかった。
「もし私めが賊の掃討を遂げた暁には、多分の褒賞の思惟(しゆい)を――」
18
:
名無しさん
:2007/11/09(金) 01:46:37
>>15
のタイミングが結構タイムリーで吹いたw
19
:
名無しさん
:2007/11/09(金) 02:32:44
お三味に期待age
20
:
名無しさん
:2007/11/09(金) 08:09:42
フタエノキワミw
21
:
名無しさん
:2007/11/09(金) 12:05:17
わつきww
22
:
名無しさん
:2007/11/10(土) 18:28:36
フタエノキワミ、アッー!
23
:
名無しさん
:2007/11/15(木) 11:17:19
そろそろばぁさんの出番か?
24
:
名無しさん
:2007/11/17(土) 14:10:57
期待age
25
:
1
:2007/11/19(月) 01:45:01
すみません、11月はリアルの都合が本当に忙しいので今月中には更新できないかもです
完結させる気はあるので気長にお待ち下さい……m(_ _)m
26
:
名無しさん
:2007/11/19(月) 13:49:29
お〜あっちのうらいたから移っていたのか〜
自分も期待してるw 1ガンガレ
27
:
名無しさん
:2007/12/04(火) 00:28:54
るーららるーら
28
:
名無しさん
:2007/12/04(火) 04:26:49
遊興目的の造園と、弓術を修めるための的場があわさった広大な大名庭園。
そこでは、平生にしても兵法にしても考えられない光景が広がっていた。
たった二人の賊を円形に取り囲むは、三百を超えようかと思われる数の武装武者。
白で敷き詰められた砂利場はもちろん、本来は城主が庭園鑑賞の散歩を楽しむために設けられた長廊下も、
今は土足の武士らがところ狭しとひしめき合っていた。
主に前衛の者は本差(ほんざし)の刀を抜き放ち、やや高い位置の後衛の者は弓に矢をつがえている。
果たしてどう見積もれば賊、それもまともな獲物も持っていないじじばばに勝ち目があろうか。
否。この状況から導かれる結果は自明。成す術の無い不可避の帰結。将棋の詰み。
「聞くがいい、うつけた賊よ」
大きな庭石にたたずんで一際目立つ、この場の頭目と思しき鎧武者。
「まずは一斉に弓を射掛ける。次に抜刀第一陣が切り込む。
あり得ぬ話ではあるが、それでも仕留めきれなければ第二陣、第三陣と続く。
いかに人並み外れた豪傑だとしても、この弓雨剣林を捌ける者など居はしまい」
老翁老婆といえば、微動だにしないどころか顔に笑みさえ湛えていた。
その様子をみて勘違いする頭目。
「ははは、この局面を前についに気違えたか、無理もない。
よかろう、せめて遺言を吐く暇ぐらいは与えてやるぞ。
年相応に、少しは凝った言い回しでも残していったらどうだ」
どこからかわき起こる、何名かの嗤(わら)い声。
「そうじゃのう」
そこで老翁は初めて口を開いた。
「婆さんは先に米蔵の方を頼むわい」
「――何?」
頭目は老翁の言葉が理解できず首をかしげた。
「ほっ、言われなくともそのつもりでしたよ。
どうせまた手出し無用とか言って、また暇にされるでしょうから」
「おい、二人で何の話をしている?」
突如、鍬(くわ)が砂利に叩きつけられる音が場を圧した。
続いて老翁が声高に叫号する。
「一振り大旋風が一陣、一振り烏合の衆が一陣!」
迫力に気圧された頭目は、
「つ、つまらぬ遺言!」
しかしすぐに持ち直し、片手を挙げて老翁に負けず劣らぬ大声で命じた。
「弓兵、射(て)ぇーっ!」
29
:
名無しさん
:2007/12/04(火) 10:40:08
亀仙人級につええww
30
:
名無しさん
:2007/12/04(火) 16:33:23
乙ww かっけえwww
31
:
名無しさん
:2007/12/06(木) 22:12:12
驟雨のごとく降り注ぐ征矢(そや)は、その多くが正確に標的の立ち位置を定めていた。
空を切る叫びを伴いつつ、獰猛な速度で老翁に迫り来る。
と同時に――砂利を数粒こぼしながら――静かに鍬の先端が持ち上がった。
「お応ぅ!」
柄の端をゲンコツで固めるように握り締めた両腕が、一瞬肥大したように見えたのは幻覚か。
身体全身が、ねじれから解き放たれたように鋭く旋転した。
それにより鍬の先端が、瞬間的に環(わ)の軌跡を描く。
尋常ならざる神速の一回転だった。
老翁が一回りし元の構えに直った刹那、公言通り、大の旋風(つむじかぜ)が巻き起こった。
轟音――老翁の足元から円形の衝撃波が巻き起こり、それがあっという間に波紋のように広がった。
予期せぬ突風に思わず目をつぶり、腕で顔をおおう周囲の武者達。
大旋風は矢の防壁となり、まさに矢継ぎ早に箆(矢の棒の部分)をへし折っていった。
視界はなくとも、耳に入ってくる音で少しは状況が把握できる。
が、それゆえ、その場にいた何名かは、徐々に恐怖がわき上がっていった。
その、ぽきりぽきりと棒の折れる音と、気を抜くと吹き飛ばされそうな程の大烈風の雄たけびは、
さながら凶暴な天狗が人骨を用いて宴を開いているかのような錯覚を想起させたのだ。
否、我らは凶暴な天狗そのものを相手にしているのではないか。
あのみすぼらしい百姓は仮の姿で、本当は天狗が化けて、横行をはたらいている我が城主に
制裁を加えに来たのではないか……?
風が止んだ。
一人、また一人とゆっくりと顔を上げる。
円陣の中央に、天狗はいなかった。
代わりに、含み笑いを禁じえないといった表情の爺さんが一人、いるだけだった。
降りかかる矢羽を払おうともせず、ただただ、面白おかしい様子で傍観しているだけだった。
時が凍っていた。
誰も動かない。誰も口を開かない。
いくつもの矢羽だけが、はらはら、ひらひらと舞い降りているだけだった。
大勢がいるにも関わらず、世の終焉を彷彿させる静けさだった。
「……か」
足場にしていた庭石にしがみついていた頭目が、ようやく自分を取り戻した。
「かーっつ! 喝(か)ーっつ!!」
その喝破でほぼ全員が我に返り、目を覚ます。
「何の、恐るるに足らず! 敵はただの一人ぞっ! 恐るるに足らぁず!!」
頭目は老翁に向けて刀の刃先を振りかざした。
「第一陣、斬り込めぇっ!」
その威勢に後押しされたのか、それとも湧き上がる恐怖を払拭するためか、
その場にいた全ての兵士が鬨の声の上げ、指令通り、最前列にいた武士らは一斉に円形を縮めていった。
その時、老婆の姿が消えていることに疑念を抱いた者は一人もいなかった。
32
:
名無しさん
:2007/12/06(木) 22:21:11
かっけえwwwwwwwwwwwww
33
:
名無しさん
:2007/12/07(金) 09:26:27
じいさんすげぇwww
34
:
名無しさん
:2007/12/07(金) 16:52:57
これはwwwwwwww
35
:
名無しさん
:2007/12/09(日) 19:46:00
じいさんTUEEEwwwwwww
36
:
名無しさん
:2007/12/15(土) 03:52:16
屋根伝いに接近している老婆に全く気が付かない、米蔵の倉庫番たち。
「おい、聞いたか」
「聞いたぞ。何やら賊が闖入しているらしいな」
「なにまことか。数はいか程」
「それが、たった二人らしい」
「なに二人?」
「だがこれがまた出鱈目に強くて、未だに捕まえられずにいるんだと」
「なに、未だに」
「城にいる兵卒はほとんど出払ってるらしいが、その半数が既にやられたとの報告も」
「なんと……」
「我らは番兵で良かった。そんな危なげな荒事は向かぬ」
「まことその通りじゃ。我らは平和に米蔵を見張って――」
「当て身」
全くの突如、一人が白目になり、うつ伏せに倒れた。
「なっ!?」
「当て身」
二人目も成すすべなく、強制的に意識を昏倒させられる。
「何者じゃ!?」
残りの一人がようやくその姿をみとめた。
と思いきや、その影はすぐさま残像となって消えてしまう。
「ばばあですじゃ。当て身」
その言葉だけ耳に、最後の一人の意識も暗転した。
道場が開けそうなほど大きく、堅牢な造りの米蔵であった。
それが全部で三連ばかり続いており、大口の扉にはどれも強固な錠前がおりていた。
背中にまな板を背負った老婆は、気を失っている足元の番兵達を一人一人あさっていた。
鍵を探すためである。
「ふむ」
無い。
割と大変な部位まで子細に物色するが、鍵らしきものは一本も見つからなかった。
「甘かったですかねぇ。貯蓄に貪欲な城主だもの、さすがにこういったことの手の回りは早いさねぇ」
さてどうしましょうか、開錠の手段はいくつかありますけど、どれも気が乗りませんね、
でもこうなっては仕方が無いですねぇ、と老婆が行動を起こそうとした矢先であった。
「お探し物はこれでしょうか?」
背後から鈴の音のような声がかかった。
老婆が振り返ると、そこにはこの場に相応しくない、絢爛な風貌の舞妓(まいこ)が立っていた。
その高く上げられた片手には、鍵の束を繋ぎ合わせた環(わ)が握られている。
「あぁ、それですねぇ恐らくは。どうもご親切に」
老婆はにこやかに応じた。
舞妓もまた、にこやかに微笑み、つかつかと老婆に近寄った。
刹那の一閃は、老婆にかすりもしなかった。
舞妓は奇襲をしくじったと悟るや、すぐに体制を整え一投足に後方へ飛びのいた。
老婆も攻撃を避けた身体を起こし、一切崩れていない笑みと共に言った。
「舞妓がこんな米蔵まで来ますかえ? なにゆえ蔵の鍵を持っていますかえ?
そして何より、地に転がっているこやつらを見て、何も動じないのは何故ですかえ?」
「えぇ」
舞妓は首横にかかった髪を、両手でかきあげた。
「わたくしも、こんな小細工で仕留められるとは思っていませんことよ」
手に握られていたのは、鋭利な刃先を有した苦無(くない)。
「素性を明かせぬ身分ゆえ、細かな名乗りは控えさせていただきますが……」
舞妓は小股に開き、腰を落とし、完全な構えを取る。
「名は、お三味(さみ)とだけ」
老婆の表情は笑みを湛えたまま、石膏のように変化が無い。
ただ先ほどに比べ、かすかに強張った印象を醸し出しているようにみえるのは気のせいか。
しかし結局は、その表情は老婆の余裕の表れだったのには違いなかった。
「ばばあですじゃ。名乗りなんぞ、これで十二分」
37
:
名無しさん
:2007/12/15(土) 10:38:37
脳内で映画のように再生されるんだが
38
:
名無しさん
:2007/12/15(土) 10:50:01
かっけーwwww
39
:
名無しさん
:2007/12/15(土) 22:05:40
かっこよすぎるw
ボキャブラリーの豊富さもすげぇww
40
:
名無しさん
:2007/12/17(月) 12:03:29
良スレage
41
:
名無しさん
:2007/12/18(火) 02:56:49
ばぁさんの名乗りに惚れそうだw
42
:
名無しさん
:2007/12/20(木) 23:21:16
お三味(さみ)と名乗った舞妓(まいこ)は、片手に忍ばせた苦無をぽとと地面に落とした。
「失礼遊ばせ」
お三味は顔に微笑面をつけたまま、おもむろに舞妓特有の「だらり」の帯をほどき始めた。
しゅるりしゅるりと、なまめかしく衣擦れの音を立てながら脱衣するその様は、男なら思わず生唾を飲み込むこと請け合いであろう。
「なんと、お若いですねぇ。婆も真似しましょうか」
老婆も背帯に手を入れる。勿論冗談である。
挑発の表れと取られたのかそうでないのか、お三味は何の反応も示さず着々と着物を脱ぐばかりであった。
やがて派手な色彩の着物は全て脱衣され、お三味の片手にかけられた。
さてお三味の格好はというと――
「動きやすそうなことですねぇ」
老婆が端的な感想を添えた。
黒装束。
闇に溶け込み、諜報や暗殺の任に就くに適した衣装であった。
しかしお三味のそれは全体的に丈が短く、肩や太ももを露出させている。
極めて個性の強い、されど運動性に評価はできそうな格好であった。
お三味は変装の最後に、長い黒髪を一本結いにまとめた。
くのいちの出来上がりである。
「本来、女忍は斯様な服で忍びの任につくことはありません」
お三味の微笑はいつの間にか消えていた。
「力を要する場面では男と対等ではないからです。
ゆえに女忍の真価は、相手にあえて姿を見せ、欺くことにあります。
男忍は逆に、相手に姿を見せず任をこなすことを本領と致します」
「知ってますよ」
老婆はまだ帯に手をやったままだった。
顔に張り付いた笑みは、いつまで経っても消えそうにない。
「何が言いたいのですかぇ」
「男の装束を着て且つ、相手に姿を見せる女忍は、大うつけか――」
いきなりお三味の着物が老婆に向かって放られた。
「自信に見合う力量なのです」
時間差で蹴り上げたのは、さきほど地に転がした苦無。
尋常ならざる脚力で蹴飛ばされたそれの刃先は、正確に老婆の顔面を向いていた。
空中で広がる着物に視界を奪われた老婆には、苦無の姿は見えない。が――。
「ほっ」
帯から引っこ抜かれた手には、何かが握られていた。
着物の陰をぬって現れた凶刃。瞬間確認、一閃。
金属がぶつかりあう音がし、苦無は地面に打ち落とされた。
続いて着物がはさりと苦無の上に被さる。
視界が良好になったとき、すでにお三味の姿は無かった。
「はてさて、面白いことになりましたか」
老婆は両手にそれぞれ握った「鞘つき包丁」を器用に二、三回転させた。
43
:
名無しさん
:2007/12/21(金) 01:22:20
キタキタw
44
:
名無しさん
:2007/12/21(金) 01:23:06
ヤバい、鞘つき包丁がイメージできない…鎖鎌みたいなもんか?
45
:
名無しさん
:2007/12/21(金) 11:50:08
やべぇ相変わらずかっこよすぎる!!
46
:
名無しさん
:2007/12/21(金) 14:18:59
ばばさますげぇwww
47
:
名無しさん
:2007/12/21(金) 18:11:00
>>44
普通の包丁をこんなやつに収めた奴です
つttp://www.toyokuni.net/hou1/saya.htm
>>その他読者様
m( )m …… ( )b
48
:
名無しさん
:2007/12/26(水) 12:28:14
続きまだかなぁ。年末で忙しいのかなぁ。
婆様のかっこいい姿がみたいなぁ。
49
:
名無しさん
:2007/12/30(日) 03:59:26
察しの通りです; 勝手ながら当分休載させて頂きます
皆が忘れた頃にポッと書きageる時までご機嫌よう…
50
:
名無しさん
:2008/01/14(月) 23:18:21
お〜婆さんの戦いが始まっていたのかw テラGJ
ずっとwktkしてまってるから!
51
:
名無しさん
:2008/01/25(金) 20:20:07
そろそろ婆様の活躍を拝見したく候
52
:
名無しさん
:2008/02/04(月) 11:07:05
マーダカ
53
:
名無しさん
:2008/02/10(日) 09:21:13
保守
54
:
名無しさん
:2008/02/11(月) 14:27:38
wktk
55
:
名無しさん
:2008/02/18(月) 01:14:28
ばばさま期待age
56
:
名無しさん
:2008/03/04(火) 17:56:14
そろそろどうかな
57
:
1
:2008/03/11(火) 03:11:52
色々あって長らくお待たせしました
二ヶ月以上放置していた件についての詮索はどうかご容赦下さい;
これからまたちびちびと定期掲載を再開するのでよろしくお願い致します
58
:
名無しさん
:2008/03/11(火) 03:12:31
【ここまでのあらすじ(超簡略)】
悪徳領主を成敗しに城に乗り込んだ名無し農民のじー様ばー様。
城内の兵卒共を鍬(くわ)一本で一掃にかかる爺。
その間、蔵の貯蓄を奪還せんとする婆。
しかしそこで婆が出くわしたのは、城内きっての女忍刺客・お三味(さみ)。
婆と一、二合交えたのち、お三味は蔵の鍵を手に消え去ったのだった――。
59
:
名無しさん
:2008/03/11(火) 03:13:22
そろそろ腰を下ろし始めたお天道様。
気絶した門番三名が守護する倉庫群の前に、老婆の影が一つ。
「ふむ」
目的の米蔵、その鍵を持ち去られたカタチではある。
しかし老婆は、鍵を使わずに錠を外す手段はいくつか心得ていた。
恐らく開錠自体は今すぐ楽に済ませられるだろう。
したがって、先ほど逃走した刺客を焦って追う必要はないが……。
「後々の妨害が面倒になりますかねぇ」
お三味の行動は予測するまでもない。
仮に今これらの財を持ち運べたとしても、必ずそれを阻止にくるだろう。
そのとき返り討ちにしてやっても構わないが、その場合は先刻と状況が異なる。
いくら老婆でも、手練と闘いつつこれだけの蓄財を無傷で通すのは骨なのだ。
「それにおじいさんの苦手そうな手合いですしねぇ」
そうと決まれば、と老婆が跳躍せんと屈伸したその時、ちらりと番兵共の姿が目に入った。
「そうそう、忘れてました。この腰抜けらには、後でみっちり働いてもらいましょうかね」
老婆は三名に歩み寄ったかと思うと、いきなり人差し指でその身体を突き始めた。
頭部、背筋、腹部、腰部――。
突きは細かく、されど重く、点々と連ねられていく。
「これでよし」
三人とも同様に突き終えた老婆は、今度こそ跳躍し、屋根瓦に飛び乗った。
ほのかに残り香を鼻腔に感じる。風向きよし。
老婆は方向を定めると、瞬く間に疾走していった。
60
:
名無しさん
:2008/03/11(火) 04:58:59
やった、来てくれた!待ってた甲斐があったw
どっかのssスレのように放置されて終わっちゃうのかと思ってたw
これからもカッコいいじじさまばばさまに期待してますw
61
:
名無しさん
:2008/03/11(火) 12:53:20
ばーさんは北斗神拳でも伝承してうrのかwww
62
:
名無しさん
:2008/03/11(火) 16:11:12
婆様かっけー!
ビジュアルがちょっとトキっぽいイメージになって困るがww
63
:
名無しさん
:2008/03/12(水) 19:15:23
続きktkr!!!1
婆様かっこよすぎるw 次回にも期待age
64
:
名無しさん
:2008/03/12(水) 20:53:29
「何という……凄絶な……」
お三味は一際高い屋根から、庭園の方を俯瞰していた。
あり得ない光景が広がっているように見えるが……見たままを現実に受け止めるなら……
あの人だかりを次々に蹴散らしている黒粒が、賊の片割れで間違いないだろう。
遠目でもひしひしと伝わる悪鬼修羅の強さ。我が城の兵卒たちが飛ぶわ飛ぶわ。
今、そよ風が頬を撫でた。
気のせいであろうか、黒粒が得物を一振りした時間差での風だと感じるのは。
真っ向からぶつかっていけば一部一厘の勝ち目も無いのは歴然。
「だが勝機あり」
しかし、お三味に限っては違った。
何故なら、ときに並外れた身体能力をもってしても――
人体の内からくる害には抗えない場合がある事を知っているから。
そしてお三味は、恐らくは天下一の即効性を誇る猛毒を扱えるから。
「死角から不意を刺せば、勝機大いにあり」
お三味は懐から苦無(くない)を一本取り出した。
先端に塗ってあるのは、ノブヒロガマの毒液で育てた毒草を用いて生成する猛毒。
名を「瞬天刹」と呼び、裏の薬師が生み出した幻の一品である。
「この『瞬天刹』を使って大過なかった生類や無し」
「それはどうでしょうかえ」
振り向いた先には老婆。
いつの間にお三味の居場所を突き止めたのか、やや離れた地点で屹立していた。
「早かったですね」
お三味はさして驚きもせず、ゆっくり向き直って立ち上がった。
まるであらかじめ老婆が追ってくることを知っていたかのように。
「残念ながらとっくに鍵は捨てましたよ」
「でしょうねぇ」
「にも関わらず、貴方は私を追ってきましたね」
「そうなりますねぇ」
「それで、何の用です」
「何の用か当ててみてはどうですか」
「こういった用でしょう」
お三味は自身の足元に張られた数本の糸を切り払った。
途端に仕掛けが作動し、周辺の木々からいっせいに無数の苦無が飛び出した!
65
:
名無しさん
:2008/03/12(水) 22:11:38
おお、更新きた!!
66
:
名無しさん
:2008/03/16(日) 19:28:53
バトル開始、盛り上がってきたな!!
67
:
名無しさん
:2008/03/18(火) 13:47:10
あげ続けるぜ!!
68
:
名無しさん
:2008/03/19(水) 00:36:46
あああ
69
:
名無しさん
:2008/03/23(日) 21:26:58
「ほ」
老婆はここで初めて腰に回したヒモを解き、背に負った洗濯板を手に取った。
緩まぬ速度でまばらに迫る苦無群。
だが老婆の瞳には、その全ての方向と距離感が把握されていたのだろうか。
僅かに体を後退させ、小ぶりに二、三回洗濯板を振り回すだけで――。
「そりゃりゃっ」
洗濯板が苦無を弾く音。――無傷。自分に向かってくる物のみを全て、捌ききったのだった。
苦無が瓦に落下した金属音が不規則に鳴る。
それが鳴り止まぬうちに、弧を描いて降りかかる別の苦無。手に握られていている。
いつの間にか目前まで接近しているお三味。
老婆は咄嗟に上段に洗濯板をかざし、それを受ける。弾き返す。
時間差で二の矢が下段から迫る。お三味の握っていた苦無は両の手。
左手の洗濯板で防ぐヒマはない、しかし老婆は予め右手に包丁を収めていて。
二つの金属がこすれる音。閃く火花。
まだ終わりではなかった。
一撃目、二撃目の動作に一寸の間もおかず、三撃目――
(吹き針……)
紅を塗ったお三味の口唇がすぼみ、中心部の黒からきらりと針が覗いた。
弾道の先は顔面。正確には顔面で最ももろい局部、眼球。
失明の危険は元より、針に即効性の毒が塗ってあれば脳まで回るのは早い。
こういう場面では一瞬のうちに背筋が凍ったり、痛手を覚悟する戦慄が走るものだが、
老婆に限ってはそのような無意識で無駄な反射は無かった。
それどころか危険性を十分理解しているにも関わらず、老婆は「最低限の動き」で首を反らした。
まるで絶好調の状態で慣れた特訓をこなすかの如く、歯牙にもかけないといった面持ちで。
そこまでやりとりを終えると、双方は飛びのいて一旦間合いを取った。
「勝った」
と漏らすはお三味。
同時に老婆は、沈むように屋根瓦に片膝をついた。
右耳のたぶから、近づかなければ視認出来ない程のごく微かな血が流れる。
「余裕の見せ付けたのが勝負の分かれ目でしたね。かするくらいでは毒は回らないとでも思いましたか」
「……こりゃまた、とんだ猛毒を」
老婆の表情は余裕を崩さなかったが、明らかに苦悶の色が混じっていた。
それを見たお三味の冷酷な笑み。
夕刻に差し掛かったのか、遠くでカラスの鳴き声が一つ二つ響いた。
70
:
名無しさん
:2008/03/23(日) 21:29:48
おお!更新ktkr!お疲れ−!
71
:
名無しさん
:2008/03/23(日) 21:33:42
ついでにまとめとくぜ
>>1
>>3-5
>>10-11
>>13
>>16-17
>>28
>>31
>>36
>>42
>>59
>>64
>>69
72
:
名無しさん
:2008/03/23(日) 22:11:15
ばーちゃんカッケー!!!
更新乙〜
73
:
名無しさん
:2008/03/23(日) 23:12:52
カッケー
74
:
名無しさん
:2008/03/24(月) 18:47:34
>>71
まとめ乙!
75
:
名無しさん
:2008/04/02(水) 21:24:20
乙
76
:
名無しさん
:2008/04/13(日) 03:52:44
気性の荒い鬼の一団が、気の済むまで暴れまわったかのような――。
幹がへし折れて倒木した鑑賞用の松。烈風で吹き飛ばされた枝葉。
弾けとんだ屋根瓦、崩れた石垣、あちこち穴の空いた床板。
無造作に散らばっている折れた刀剣、槍、矢、鎧兜の破片。
無謀を冒した兵卒達の憐れな残骸。打撲に骨折、捻挫に挫傷。そこかしこで上がっている悲痛な呻き。
この惨状を引き起こしたのはたった一人の年老いた百姓。
と、耳にするだけならば、法螺(ほら)話で済むことだろう。
むしろ被害にあった側としては、是非そうであって欲しかった――。
ある地点において八方数間には、環状にえぐれた土砂以外に何もなかった。
からくりで測ったかのように精緻な波紋である。嵐の目と呼ぶには爽快が過ぎた。
その円心に、老翁は佇んでいた。否、老翁の外に円が出来上がったのだ。
まるで万物が畏れを抱き、君主を玉座へ据え置くかのように――。
「しゅ、修羅……」
目端で老翁を捉えた落武者が、喘ぎながら漏らす。
「たわけ。まことの修羅に無礼千万じゃ」
老翁は得物の鍬を肩に担ぎなおすと、円を出て悠々と城内へと足を踏み入れた。
身体的に戦える武者はまだ幾人かいたが、みな死霊のように生気のない様子で見送るばかりであった。
気の毒かな、彼らの戦意が再び宿る日は遠い。あるいは永劫……。
77
:
名無しさん
:2008/04/13(日) 03:53:17
「む、畳」
足元が床板から和室に変わっても、老翁は履いていた物を脱ごうとはしなかった。
屋内に入った時点で土足は犯している。同じことであった。
内部は騒がしい。
老翁以外の足音の振動が畳から伝わり、襖越しに誰かの声が飛び交っている。
老翁は無論城内の構造など知らない。
ゆえに、ただ愚直に本丸の方角を目指し突き進んでいった。
「何奴! 賊か!」
時折、開けた襖の先には、先の凄まじい嵐を露知らぬ家臣が残っていた。
「賊じゃ。じじいじゃ」
「うぬ、斬られい!」
相手にはならない。斬撃を軽くいなし――二、三部屋吹っ飛ぶ程度に殴り飛ばす。
騒々しい音とともに襖障子には穴。
突如、よその部屋から横跳びで転がってきた家臣によって、別の家臣達が喫驚の声を上げる。
城内の騒ぎは火の粉のように拡大した。
しかし沈静化するのも早かった。
瞬く間に老翁の無双の強さは城内に知れ渡り、挑戦的で無謀な輩以外は
出会ったら即座に道を開けて退散するという賢明な行動に出るようになったのだった。
敵前逃亡は武士(もののふ)としてあるまじき所業だが、歴然という言葉すら生ぬるい力差を悟った場合は――
「利口じゃ。些か物足りないのはやむを得ぬか」
呟きながら老翁が十を数える襖を開けたそのとき、行く手に大広間が広がった。
今までの和室とはやや異なった印象であった。
壁に武具がかけられ、掛け軸が並んでいる様は道場の雰囲気に近い。
78
:
名無しさん
:2008/04/13(日) 03:56:09
「来たか」
最奥部の上座。
胡坐をかいて瞑想していた男が、ゆっくりと開眼した。
身には一切の防具はなく、着ているものは白黒の薄い袴のみである。
「野太刀一刀流師範、森志乃(もりしの) 葦男(あしお)と申す」
穏やかな口調であったが、眼には十分な殺気を孕んでいた。
「じじいじゃ。よしなに」
「ふむ、なるほど賊だ。土足かつ名さえ名乗らぬか」
「名はじじいと言っておろう」
「『じじい』というのか」
「そうじゃ」
「ならば『じじい』よ。数多の無礼を命を以って詫びるつもりはあるか」
「切腹は無理じゃ。脱力しても腹筋に刃が通らん」
「そうか。死合にて償うというのだな」
「大層な自信じゃな。そこそこ出来るようじゃが、お主相手ではわしは本気を出さぬ」
「流石にわきまえはある。はっきり言って拙者に勝ち目はないだろう」
「それでもくるか」
「考えがないのなら逃げ出している」
葦男は立ち上がり、掛け軸の手前に鎮座していた一振りを手に取った。
「虎鉄、菊一文字をもしのぐ、刀匠荒井青空最後の作、名刀・虚打」
鞘から抜刀されたそれは素晴らしい業物だった。
反りは鋭いながらも剛気を感じさせ、刃紋は芸術的なまでにあでやかだが人斬りに相応しい
冷徹な印象を受ける。刃は触れただけで斬れそうなほどきめ細かで、加えて切っ先は――。
「関係なし!」
老翁は跳ねつけるように言った。
「得物は人を選ばず。人もまた、得物を選ぶ道理なし」
「大有り。世の戦いは良い得物を掴んだものが勝つ。鉄砲の時代を忘れたか『じじい』」
葦男は老翁が肩に担いでいる鍬を見て一笑に付した。
「なんだそれは。農具が最高峰の打刀に適うか」
「扱う者次第じゃ。最もこの鍬は他の者には扱えぬだろうがな」
「無論だ。武士(もののふ)が士道に反する得物など握れるか」
葦男は試合の間合いまで近づき、上段に構えた。
「戯言もここまで。そろそろ肚を括るときだ」
「いいのかの。折角の名刀が折れるぞい」
「たわけた賊。折れるのは貴様の得物と肉骨よ」
間を置かずして、上段からの一撃が放たれた。
流石に師範を名乗るだけはあり、老翁の防御動作も咄嗟と言わざるを得なかった。
一合。
――葦男の勝ち誇った顔。老翁の軽く驚いた顔。
重い音を立てて畳の上に転がったのは、名刀虚打の刀身でも室内の備品でもなく、
老翁がこれまで共にしていた愛用の鍬、その先端部であった。
79
:
名無しさん
:2008/04/13(日) 08:32:25
初背後!!
更新待ってました!!
80
:
名無しさん
:2008/04/13(日) 09:45:55
うほっ かっけーwwwww
81
:
名無しさん
:2008/04/13(日) 10:43:46
ばあさん〜おじいちゃんピンチ!
盛り上がってまいりました
これは次回にも期待www
82
:
名無しさん
:2008/04/13(日) 13:03:06
熱い戦い!いつもお疲れ様です!
83
:
名無しさん
:2008/04/16(水) 00:25:41
「何……」
お三味は狼狽していた。
確かに自分が敵に与えた毒は、史上最凶を誇る致死・即効性の――。
「『瞬天刹(しゅんてんさつ)』」
老婆は包丁を持ち直すと、何事もなかったようにすっくと立ち上がった。
「毒に毒を重ねて生み出された、地獄の生液。
舌に触れるのは無論、軽い切り傷すら通して即座に身体に浸透する。
あまりの強力さ故に、裏筋の商売でも滅多に出回らない飛び切りの一品」
「解毒法はまだ見つかってないはず!」
「そうですねぇ。普通は毒の生成より、その解毒を編み出す方が手間ですしねぇ」
「手間? 裏に生きる幾多の薬師(くすし)が挑んだ超難題を――手間?」
老婆は毒を受けた際、持参していたまな板に包丁を突き立て、抜いた。
そして包丁の刃に付着した液体を指でつまみ、傷口である耳に塗ったのだった。
「このまな板は、そこいらのお医者様のお邸(やしき)二つ三つよりも価値がありましてね」
得意気に掲げられた白いまな板。
「毒や薬や賑やかに、合わせて百に八。たっぷりと染み込んでましてねぇ。
柾目の二十八段、左二寸が『瞬天刹』の特効薬、『祝治(しゅくち)』の染みどころ」
「そんな馬鹿な」
「『瞬天刹』を生みだしたのは何を隠そう、この婆じゃ。いやはや、若気の至りがこんな所で祟るとは」
「そ、そんな……」
「このまな板は特別製でな。喰えなくなった豆腐を千重万重に固めて出来ておる。
構造、作用共に、液薬の貯蔵に最適。のみならず頑丈さもウリ。そこらの矢、刀は楽に弾きますよぉ。
もっともお爺さんの代物にゃ適いませんけどねぇ」
「馬鹿な……」
お三味は念仏を聞かされる馬になった気分であった。
訳が分からない。論理的にそんなことがあり得ようか。
しかし現に老婆は目の前に立っている。二本足で立っている。
否応にも認めざるを得ない――現(うつつ)に生きる、人に在らざる者の存在を。
お三味の中に何かがじわりと込み上げてきた。
自分は何かとんでもない物を相手取っているのではないか。
まさに今、大変な過ちを犯している中途なのではないか――。
そんな思惑の最中、老婆が切り出した。
「ご託宣は終わり。ではそろそろ、こちらから行きましょうかねぇ」
84
:
名無しさん
:2008/04/16(水) 09:10:01
ばばあすげえwwwww
85
:
名無しさん
:2008/04/16(水) 12:40:14
若気の至りで何作ってんですかwwwww
婆様サイコ―!
86
:
名無しさん
:2008/04/16(水) 20:41:20
ばばさま、カッコよすぎるwww
惚れてしまいそうだwww
87
:
名無しさん
:2008/04/26(土) 14:20:14
畳の上を少しだけ転がり、やがて鍬(くわ)の先端部は命尽きたかのように静止した。
「驚いたか? 思い知ったか様をみたかじじい!」
葦男は得意満面の笑みで叫んだ。
老翁がこれまで無双を誇ってきたことは知っていた。城内外の騒動はこの道場まで伝わる。
しかしその化け物の主力武器は今、呆気なく使い物にならなくなった。
城の誰もが止められなかった賊の侵攻を、今、自分が止めたのだ。面白おかしくてたまらない。
最早楽勝。後の作業は赤子の手をひねるが如しだ。
「ほっ、これは滑稽。落としたのは鬼の首ではないぞ、鍬の首じゃぞい」
老翁は微塵も慌てる様子なく、葦男の笑い声に参加する。
笑声は重なることなく、葦男はすぐに表情を戻す。
「お主は先ほど、拙者の刀が折れるとぬかしたのを忘れたか。現を見よ。お主の希望は費えた」
名刀・虚打が掲げられる。
「すぐにとどめをくれてやる。せいぜいその、児戯にも劣る棒っきれで足掻くがいい」
そのとき下手な鍛冶屋が鉄を叩いたような、間抜けな金属音が一つ。
「は?」
後ろで何かが畳に突き刺さる音。振り返ってみる。刀身だ。
打刀の刀身が反り返って、鈍い光沢を放っている。
あの美しい刀身はどこかで見たことがある。
そして自分の握っているものが急に軽くなったような気がするのは一体。
「はっ」
なんと名刀・虚打が綺麗に根元からぽっきり。
「はっ、ははっは」
突然の出来事に頭が付いていかない葦男。
何だ。何がどうなっている。
「やはり。わしの鍬は手製でな。どうしても先っぽの接合部分が脆くなってしまう」
老翁は棍(こん)を二、三度振り回し地に立てた。
「農具としての鍬は死んだ。しかし得物としてはまだ脈打っておる。むしろ、これからが本領」
葦男は理解が追いつかない。
「名刀が……折られた……棒に……」
「ただの棒ではない。この棒こそ我が生涯なり」
ただの棒にしか見えない葦男。不可解の連続が思考を麻痺させる。
「まず、鍬といえば先端部が最も重いと思われがちじゃが、この鍬に限っては柄の方が先端部の百倍は重い。
金属部など、農具としての真価を除けば飾りも同然。在っても無くとも重量変わらず」
「……」
「何故ならこの柄は、おびただしい数の――藁(わら)で出来ておるからの。
毎日五十、多いときは千。少しずつ付け足し固めていくんじゃ。わしはそれを齢十の頃から続けてきた。
朝昼夜、絞り込み、ねじり、潰し、刷り込む。そうして生まれたこの世に唯一無二の棒が、これじゃ。」
「……」
「今まで様々な武器とかち合ってきたが、未だ負け知らずよ。
もっとも、婆さんの洗濯板だけはついに割ること叶わずじゃったが」
「……」
「……」
「……幻の刀が……拙者の……棒ごときに……」
「聞いてなかったか。ふぅ、時間を無駄にした。先を急ぐかの」
老翁は棍の先端を葦男の頭上にもっていき、そのまま腕の力を抜いた。それで十分な威力。
石灯篭が落ちたかのような鈍い音がし、葦男は衝撃のままに昏倒した。
88
:
名無しさん
:2008/04/26(土) 14:39:35
なんという業物www
89
:
名無しさん
:2008/04/26(土) 16:21:14
ばあさんの洗濯板も相当だなwwww
90
:
名無しさん
:2008/04/30(水) 00:09:01
ばあさんもじいさんも凄すぎる・・・www
91
:
名無しさん
:2008/05/11(日) 13:27:12
これは期待ageしていいでしょうか?
92
:
1
:2008/05/16(金) 02:32:41
更新凍らせてごめんなさい
今リアルがかなり忙しい時期なので、一段落するまで何卒お待ち下さいませm( )m
93
:
名無しさん
:2008/05/28(水) 15:41:11
がんばっ
94
:
名無しさん
:2008/06/01(日) 09:06:54
老人の闘いを(小説で)見たのは初めてだ。言葉づかいカッコええ。
超 期待してます。リアルでも頑張ってください
>>1
95
:
名無しさん
:2008/06/18(水) 12:19:40
さて、一月待ったわけですが、まだお忙しそうですね。
神はまだか…
96
:
名無しさん
:2008/07/03(木) 21:29:07
日暮れの佳境は近い。
夕陽の下にむき出しの屋根瓦は、美しい朱色の光沢を照り返していた。
また勾配の加減で瓦のひとつひとつには影が付いており、意匠のごとく整然と並んでいた。
だがそれら影の一部は、別に伸びている縦長い影によって潰されていた。
長い長い二つの人影によって――
「私の負けです」
お三味はうなだれ、棟にまたがるように座り込んだ。
対峙していた老婆は相手の降参を認めると、自らの武具をしまい込んだ。
武具とはいっても、一対の包丁とまな板一枚である。
そんな丸腰同然の武装をした農民風情に、熟練のくノ一は敗北を宣言した。
お三味にほとんど落ち度はなかった。
ただ相手が自分の常識を凌駕した存在だっただけ。
老婆は穏やかに言う。
「お前さんは、望んで忍道に入ったのではないんでしょう?」
「……えぇ」
お三味は伏した顔のまま、か細い声で語り始めた。
「幼少より親を亡くし、ただひたすら途方に暮れる毎日。
伊賀の忍が私めを拾ってくださらなければとうに烏の餌。
生き永らえた代償は否応問わず仕込まれた、人を欺き殺める術(すべ)――」
お三味はゆるりと座りなおし、棟に腰掛けて足をそろえた。
「乱世は過ぎ泰平は訪れたとはいえども、それは表層の一面。
裏返せば、いまだ窮乏の波は収まっておらず、どの時代を紐解いても貧民は重税と飢餓に千辛万苦」
「分かっているのならば何故、搾りとる側に加担するのですかえ」
「女が独りで世を渡るには、手段は数多あれど、結句はどこかに仕えるしかありませぬ。
此城に仕えたのは、ひとえに事の成り行きに身を任せただけのこと」
「貧しき者に思うところがあるのならば、義賊にでもなればよかろうに。
お前さんほどの腕があれば、狙う城屋敷に困りはしませんよぉ」
「それは……。――そうですね。
これからは貧しき人の為に、この技をふるっても良いかもしれませんね」
お三味はすっくと立ち上がり、老婆と向かい合った。
「ありがとうございました。貴方のお陰で踏ん切りがつきました」
「礼には及びませんよ」
「もはや此城とは無縁の身。ここはひとまず去ろうと思います。
ではお婆さん、お達者で」
「あぁ、ところで――」
老婆が訊くより早く、
そしてお三味が屋根瓦を踏んで跳躍するよりも一瞬早く――
凄まじい破裂が周囲に轟いた。
鼓膜を貫かんばかりの弾けた音、また生じた振動が地を揺るがす。
砕け散る瓦の破片が、ぎりぎりまで絞った弓矢のように四散八散する。
屋根上はたちどころに黒い噴煙にまみれた。
97
:
1
:2008/07/03(木) 21:29:56
長らくお待たせしました。
またポツポツ書いていきますんで気が向いたときお付き合いくださいまし
98
:
名無しさん
:2008/07/03(木) 21:41:51
おおお!待ってた甲斐があったあああああ!乙!
99
:
名無しさん
:2008/07/04(金) 00:40:36
久々の続きktkr!!1 更新乙であります!!
ちょっと前のレスも見てみたが・・・やっぱおもろいな!婆様かっこよすぎwww
100
:
名無しさん
:2008/07/05(土) 12:29:23
お待ちしておりました。
やっと来てくれた。
101
:
1
:2008/07/05(土) 20:35:51
お三味は城の屋根を二、三ほど飛び移って屈みこみ、爆発の起きた方角を様子見した。
今のは完全に不意を突いた。
仕留め損ないはしても、幾分の痛手は負わせたことだろう。
いかに人並みはずれた妖怪婆といえど、あれだけの量の火薬を食らわせれば……
いや、食らわせた上で戦況を立て直せば、なんとか五分以上の戦いは見込めるはず。
お三味が粉塵の中から現れるであろう老婆の影を、待ち構え、始めた時だった。
「ところで、妙に火薬の匂いが香ばしいですねぇ」
終わりを背筋に感じた。
「と言うつもりがちょっと遅かったようですねぇ」
あぁ、世が違った。この老婆を出し抜く?
今まで自分にこなしてきた無理難題の任務など、とんだ児戯だった。
先の爆発の瞬間、自分の持てる全ての力を闘争――否、逃走に注ぐべきだった――。
お三味の背後に回っている老婆は気づいていた。
お三味が身の上話を語りながら何気なく横に座りなおしたその時、
老婆の死角になっている反対側の手で、屋根に仕込んでいた導火線に着火していたことを。
火薬はお三味の奥の手だった。
こういった手合いとやりあうには、己が独壇場で戦った方ががぜん有利なもの。
あらかじめ城の至るところに自分に有利にはたらく罠を仕掛けるなど、忍から言わしめれば常識の範疇。
この屋根上で始めに仕掛けた苦無の雨もその一つだった。
屋根の仕掛けは単純。屋根裏に大量の火薬を仕込み、雷管に繋げた導火線を外に出すだけ。
露出している導火線の先端部はそこらの木っ端にしか見えず、まず気づかない。
また火薬の臭いも外部にもれるはずが無く、犬の嗅覚を借りねば悟られるはずはない。
着火の瞬間にさえ留意すれば、常識的に考えてまず看破されるはずが――。
そう、先に図った反射神経なら、視界の端にもつかませず背後に回れる筈はない。
あれだけの反応をこなすには、前もって爆発のことに確証を持たなければならない。
火薬の臭いなどではない、もっと決定的な何かが――。
「女に関してはぁ、こちらに一日の長がありましてねぇ」
老婆は凍り付いている相手の首筋に、ゆるりと手を触れた。
感触にびくりと身体を震わすお三味の耳元に、そっと口を近づける。
「見抜けなかったことがないのさ、女の嘘は」
老婆の指先がお三味の首回りに食い込む。
頸部の急所を突かれたお三味は物思うもそこそこに、棒立ちのまま失神した――。
102
:
名無しさん
:2008/07/06(日) 16:27:03
おばあさんかっこいいなあww
そして遅くなったが1さんお帰り!
103
:
名無しさん
:2008/07/06(日) 17:58:28
更新乙〜
ちょw いいシーンだと思ってたら不意打ちw
と思ったらしっかり返してる婆さん、かっけぇwww
104
:
名無しさん
:2008/07/06(日) 19:33:01
>>1
>>3-5
>>10-11
>>13
>>16-17
>>28
>>31
>>36
>>42
>>59
>>64
>>69
>>76-78
>>83
>>87
>>96
>>101
強すぎる、そして格好良すぎるww乙!
105
:
名無しさん
:2008/07/09(水) 10:30:23
おもしろかった
次の更新を気長に待ってるよ
106
:
1
:2008/07/09(水) 20:08:18
「と、殿、殿ォ!!」
夕刻になっても続けられていた宴会の場に、先だって乱入した家臣が再び荒々しく入室した。
「何事じゃ」
自らが興した宴席に食傷し、すっかり酔いも回っていた城主は、不機嫌極まりなかった。
間の悪い時にやって来おって気の毒にと、周りの者は同情を禁じえない。
この君主に不興をかってしまっては、もはや延命の余地は――
しかし家臣はそんなことは意にも介していなかった。
なにぶん、城の危急存亡の秋(とき)であった。
「当城武芸所師範、森志乃葦男(モリシノアシオ)が敗れました!」
いかな事変を耳にしても不機嫌から転じないつもりであった極魅(キワミ)は、しかし眉を動かした。
「またくノ一お三味(サミ)も、これまで欠かさなかった定刻伝達が来ないところをみると、恐らく――」
「な、何じゃと」
城を守る二大璧がやられたというのか。
正攻法は葦男。師範の腕や確固、太刀打ち不能の名刀を振るう、一刀両断は飛車。
搦め手はお三味。熟達した忍びの技は標的を違わず仕留める、快刀乱麻は角行。
その守りに備えた飛車角行を失っては、もはや砂上の楼閣ではないか。
「賊両名とも、未だ捕らえたという報告はございませぬ!
一名の姿は見えませぬがもう一名は侵攻が止められず、す、既にこの本丸へ!!」
さらにこの追い討ちの一言で、城主も一気に酔いが吹き飛んでしまった。
城主だけではない、その場にいた者ほぼ全員の顔も面が剥がれたかのように蒼白した。
「お、終わりじゃ! ついに天罰が下ったのじゃぁ!」
誰かが叫び、足腰もままならず息せき切って退場した。不意に、誰かがそれに続く。
それをみて我先にと侍女や家臣が出口に向かい、宴席はたちまち混乱状態に陥った。
107
:
1
:2008/07/09(水) 20:09:19
「こ、こら! ぬしらわしを置いて何処へ行くぅ!!」
極魅はうろたえる。
従えていた者が命じもせずに自分から離れていく珍事など、かつてなかった。
みな、わしの顔を伺い、わしの一声に恐れおののいておった。
それが、あぁ、誰も彼もわしに手を貸そうともせず逃げていく。
信じられぬ、受け入れられぬ光景。
ひっくり返る卓、敗れる障子、畳を縫う幾多の足音の振動が、更なる焦りを醸す。
「ななな何たる狼藉よ! みみみ皆々打ち首じゃ!!」
権力を見限られた君主の一喝に、効力があろう筈もない。
極魅が言い終えた頃には、とうに宴席には誰も残っていなかった。
「おう、おう、わしはどうしたらよいのじゃ……」
一人残された哀れな君主の呟きに――
「極魅様もお逃げになると良いでしょう」
予想だにせぬ返答があった。
君主がはっと振り返り、それをみとめて破顔する。
「おう、おう、お主が残っておったか! ささ、早くわしを助けい!」
「お言葉ですが極魅様」
ぎろりと炯眼が城主を射抜く。極魅は背筋が撫で付けられる錯覚を感じた。
「私めには、賊との決着が残っております故、御身自らお逃げ下さりたく存じますが」
それはもはや進言ではなかった。
剛に満ちた、などでは形容できない、威圧の塊のような命令。
雷鳴が轟く間際、あるいは事後、遠雷のごろつきが在る。
今の声はまさしくそれを思わせた。
「ひ、ひぃぃ!!」
それが極魅の精一杯の意思表示だった。
比ぶるまでもない。耳伝えの賊の方がどれだけましであろうか。
極魅は、らしからぬ速さで何度も躓きながら、死に物狂いで部屋を飛び出していった。
「ふぅぅぅう」
書院にたった一人残された大男は、瞑想を始める。
ひとえに、きたる決戦に備えて――
108
:
1
:2008/07/09(水) 20:10:23
まだるこしさを含んでしまうことがあるので感想へのレス返しは控える主義でしたが、あまりにも嬉しかったので少し。
全くの不定期にも関わらず待ってくださった方や、毎回感想を送ってくださる方、
果てはまとめまでして下さる方までいて、恐縮と欣快の至りです。
レス上は無反応でも、感想はしっかり読ませていただいております。
恐らく、読者の方々が思う以上に力もらっています。本当にありがとうございます。
これからストーリーも終盤に入りますので、(気が向いたら)最後までよろしくお付き合いお願い致します。
109
:
名無しさん
:2008/07/09(水) 22:26:34
おお、更新乙!強敵の予感にwktk
最後まで付いてくぜ、ぼちぼちでも良いから続けてってくれよ!
110
:
名無しさん
:2008/07/10(木) 00:08:47
更新乙〜
うろたえっぷりが上手いw あと強敵との戦いにwktkだわ
勿論最後まで見守るよ〜
111
:
1
:2008/07/11(金) 00:10:54
「熱い……熱いぞ! 心胆から力がみなぎってくるわ!」
「沸いてくるぞ何かが! 見よこの剛力を! 石が土くれのように潰せるぞ!!」
「さながら獣鬼ッ! そうじゃ、我らこそ当城に言い伝られた古伝の三武衆だったのじゃ!!」
「何じゃそれはまことかッ!?」
「知らぬ!!」
米蔵の前。
三名の蔵番が騒々しく猛りをあげていた。
先刻、老婆に一撃で喪心せしめられた輩である。
しかし今の番兵たちは、老婆に出くわした当時の華奢なもやし男ではなかった。
彼らの五体は見るからに異常をきたしていた。
筋は膨れ上がり、骨格は変貌し、血脈は見て危ういほど浮き出、脈打っている。
腕は大黒柱の太さをしのぐ怪腕、脚は馬の足を束にしたような怪脚、また限界まで絞られた胴も、
化け物じみた腹筋と胸筋のおかげで、絞られていない関取の巨体を悠々超える体躯となっていた。
番兵たちが目を覚ましたときには既に「それ」は始まっていた。
「それ」は尚も生い続け、当人たちの意向を全く無視し、止め処なく進行していく。
「ふははははは見ろ! 我らの護る蔵は、これほどに小さかったようだぞ!!」
「おおぉぉ木が! 城の植木がッ! まるで浅く差し込まれた杭のようじゃ!!」
「このたわけ早く戻せ!」
「もう誰にも、いや何にも負ける気はせんぞ! 例えあの婆ァが相手だとしても!!」
「いやはや、まぁ、まともに向かえば骨は折れそうですねぇ」
老婆が屋根上からひらりと参上する。
鮮やかに跳躍。軽やかに着地。
老婆のもともとの目的は刺客撃退ではなく、蔵の中身の奪還であった。
「出たな賊め!」
「早々に縄につけぃ! さもなくば――」
「我らの真の姿を以って地獄に送り飛ばしてくれるわ!」
「や、まぁ聞きなされ」
老婆が片手で制止する。
「まず、おぬしらを斯様な姿に変えたのは、この婆ですよ」
「何じゃとっ」
「ここを去るとき、人体増強の経穴を突いておったのですよ」
老婆は恐れもせず三巨体にゆっくり向かっていく。
「婆独自の学でな。、まず、体内の排出物を活力に変え、半永久循環を興す経穴。
次に肉筋のみ発達するよう促進部位を固定する経穴。
仕上げに代謝をうんと伸ばす経穴を刺激し数刻放置すれば、今のおぬしらの出来上がり」
「……?」
「??」
112
:
1
:2008/07/11(金) 00:11:55
「まぁ、とにかくですね。おぬしらは明日のお天道様が見える頃には、筋が破裂して死ぬ」
「なに」
理解が追い付かない番兵たちだったが、「死ぬ」という語を出されては他人事ではない。
「肉体の成長がねぇ、死ぬまで続くんですよこれが」
三名は口にこそ出さなかったが、内心には不安があった。
成長が止まらない。止まってくれない。そして彼らは止める術を知らない。
「……死……?」
「まぁ安心しなされ。昔と違って慈悲を覚えましてね。無益な殺生はしませんよ」
老婆はいつしたためたのであろう、丸めた文書(もんじょ)を三人に手渡した。
「いいですか。それぞれそこに書かれた蔵の物を持って、そこに書かれた村へ運ぶんです。
おぬしらには、その為だけに肉体増強を施したのですよ」
三人は書面に目を通す。その目はたちまち丸くなる。
蔵の中身、ありったけではないか!
それに村まで片道十里もある。とても三人がかりで運べるものか!
「む、無茶を申せ!!」
「賊の分際で付け上がりおって!」
「こ、こうなれば力づくで――!!」
「おやいいんですか。促進を止める経穴を知っているのは婆だけですよ」
や、婆は別に構いませんがねぇ。激痛を伴う肢体破裂を食らうのは自分ではないんですから」
三人ともぴたりと動きを止める。
しかし肉体だけは相変わらずぼこぼこと膨張していく。
「その文書の結びに、村おさの証筆をもらってきて下さいねぇ。
それを婆に見せれば、三人とも元の身体に戻してあげますよ。
おっと偽物には惑わされませんからねぇ、長生きしたくば下手な気は起こしちゃいけませんよぉ」
三人は事情を理解した。
三人とも命は惜しかった。
三人は何をすべきかを考えた。
三人は同時に、自らが守護していた蔵へ突入した!
「おぉぉぉいそいそ急げぇッ!」
「焦ろ焦ろ焦ろるな!」
「こここの宇尾沼臼井まだ死にたくは!!」
老婆は満足そうにその光景を傍観する。
「これでよし」
そうして、西空へ目を移す。
「後はお爺さんの分が片付くまで一休みですかね」
一半隠れた夕陽が語るは穏の字か、それとも――
113
:
名無しさん
:2008/07/11(金) 20:26:31
婆様の知略恐ろしい!
ここからは爺様のターンか、楽しみすぎる
114
:
名無しさん
:2008/07/12(土) 04:09:42
婆さん二手三手読みすぎワロタ 普通にすげー
115
:
名無しさん
:2008/07/14(月) 21:46:54
本丸。
棒一本をにぎりしめた老翁は進む。
独り、畳に土足を連ね続ける。
襖を勢いよく開ける。
ひらけた和室が広がる。
室内の粉飾した意匠には目もくれず、真中を横切る。
突き当たった襖を、また勢いよく開ける。
繰り返し繰り返し、開けては進み、開けては進み。
本丸内は馬鹿に静まり返っていた。老翁のたてる物音以外、一切の雑音はない。
夕方の薄暗さは既に室内をひたし始め、死んだ空間は一層の不気味を醸し出している。
老翁がこの本丸を侵し始めてまもなく、一度多くの足音が畳越しに感じられた。
九分九厘、城主の側近らが逃走を図った際のものだろう。
その中には当然、城主極魅(キワミ)も混じっているに違いない。
老翁の目的は極魅に制裁を与えることだった。
にも関わらず、老翁はひたすら城郭の中心を目指していた。
事情が変わった。極魅を懲らしめることなどいつでもできる。
奥に棲んでいる、桁違いの巨魁。
まずこれを何とかしなければならない。
城郭に近づいたときから違和感があった。
ただならぬ気配。極めてひそかに、己自らを殺す気配。
進めば進むほどに、気脈が浮き彫りになっていくようだった。
室内中至るところに、限界まで張った琴線が伸びている錯覚。
ぴりぴり、びりびり、耳奥まで染み込む音なき震の動。
構わぬ。
老翁は己が道をただ突き進むのみ。
何事があろうとなかろうと、迷妄も疑懼もあろうものか。
悟った刹那より一切皆苦、覚悟の上也。
老翁は最後の襖を開け放った。
一際乱れた間だった。
ひっくり返った食膳、倒れた屏風、灯篭、折れた欄間、装飾細工――。
ついぞあった無秩序が生々しく目に浮かぶようである。
だが老翁はそんな物には一瞥もくれず、奥の上座に胡坐した大男――
緊張の根源を見た。感じた。そして知った。
「ふうむ。これは……。まぁ……、ざるを得ん、か」
老翁は城に来訪してはじめて――はじめて――自らを阻む敵手を認めたのだった。
116
:
名無しさん
:2008/07/14(月) 23:39:23
うおお燃えてきたあああ!!
つか語彙多すぎてすげぇだろwwww参考にさせてもらいますwww
117
:
1
:2008/07/15(火) 00:02:42
本当は語彙力貧困なんです
告白しますと検索エンジンの辞書(主に類語)やらウィキやら調べながら
適当に言葉をまぶして騙し騙し書いてます なんかすいません
118
:
名無しさん
:2008/07/15(火) 20:35:52
それでも、ここまで書けたのは1のオカゲじゃまいか
それにしても爺さんかっこよすぎwww
119
:
名無しさん
:2008/07/16(水) 14:36:03
熱い展開になってきました
120
:
名無しさん
:2008/07/21(月) 00:47:25
上座に鎮座した男は大柄であった。
あぐらで老翁と面が向かい合うほどから、背丈は優に倍はあるだろう。
肩幅は常人の大股二歩はあり、隆々とした筋骨は衣の上からでも見て取れる。
服装は肩衣と袴からなる上下漆黒の裃(かみしも)姿。
頭は髷(まげ)を結っておらず、不精に伸ばした髪を後頭部で不調法に縛り上げている。
面構えは巌(いわお)そのものだった。雰囲気からして齢四十半ばか。
顎髭をつけた肌黒の石膏を、無数の傷で染めた、まるで彫られた芸工だった。
とまぁ、見かけどおりの巨漢なら老翁の慣れた手合いであったが、この男は「気」が違っていた。
気はいかな凡夫でも少なからず発しているものだが、彼奴は呆れるほど濃い気をまとっている。
そしてそれは邪気であった。
憎悪。怨恨。来るものを圧倒する敵意――。
男が切れ込みのような瞼をゆるりと開く。
炯炯とした血走った双眸。丸いはずの黒眼が鋭利となって視線の先を射抜く。
石膏のような落ち着いた顔は、開眼しただけで鬼のような形相と化した。
男が口を開き、閑かな室内に重々しい言の葉が響く。
「祇園精舎の鐘……娑羅双樹の花……盛者必衰の理……。いつ詠んでも称えずにはいられぬ唄だ」
男が巨岩のような腰を上げる。
「我こそは人界天誅代行、嵯峨羅(サガラ)卯之助(ウノスケ)」
突如、猛烈な風が吹き荒れた。
半ばで放置された食卓が、金銀くらむ屏風が、色彩豊かな回り灯篭が――
嵯峨羅の方より凄まじい速度で一様に飛び交う。
「いい『気あたり』じゃ」
老翁は身じろぎ一つせず、最低限の所作で棍(こん)を二、三振り、
自らめがけて迫った物々を楽々弾いた。
烈風はすぐに止んだ。
雑多な障害物は障子ごと遥か後方へ吹き飛び、残った物は表面がはげた畳ばかりであった。
「やりあう前に一つ二つ良いじゃろうか」
まず老翁が切り出す。
「人界天誅の嵯峨羅といったか。お前さんの目的は?」
「知れたこと」
嵯峨羅は憤怒も露わに苛ただしく答えた。
「決起した百姓共をひねりつぶすことよ」
「ふむ?」
「暗君に仕えていたのは仮初めだ。拙者は永きに渡って機を伺っていたのだ。
百姓共がその領主に刃を向けることを」
「いまいちに解せぬ。おぬしの過去に何があった」
「……語ろう」
121
:
名無しさん
:2008/07/21(月) 00:48:07
嵯峨羅の話は――それは哀しい話であった。
とある地方に悪徳領主が治める土地があり、その地で大規模な暴動が起きた。
武装蜂起が起きなければおかしいほどに、その領主はたいそう残忍な人間であった。
重税は当たり前、自分の気に入らない者があれば集落ごと焼き払う。
村に美しい女があれば拉致も同然に連行し、無理やり自分の妾(めかけ)にする。
大陸の作法を真似したいと言い出し、軽罪人を中国式の刑にかけて愉しむ。
支配下に置かれたその邑(むら)の農民たちは団結し、水面下で力を蓄え――
やがて城内兵力の頃合いを見計らって火蓋が切られた。
内通者の幇助もあり、果たして農民たちの決起は成功した。
反抗勢力は領主への怨恨に比例し、ついには農民集団の手による落城という、未曾有の事変に至った。
元来こういった類の打ちこわしは、民衆側の正当な制裁行為であることを主張するため、また、
「訴え」という目的を純粋なものにすることから、暴動は最小限になされることが鉄則であった。
しかしこの事例に限っては事情が違った。
これまで圧政を元にいいように蹂躙されてきた農民らの怨念は凄まじいものであった。
城の濠は隙間なく埋められ、石垣は一石残らず損壊され、
二の丸から本丸の隅々に至るまで草鞋(わらじ)が踏み歩いたという。
領主は捕えられ、後に市中引き回しを経てさらし首に。
城内にいた家臣、女中たちは、ほぼ全員が領主に与していたとみなされ斬殺。
人斬りを率先した農民の多くが、罪なき肉親を理不尽な理由で失った者たちであった。
そうしてその際――武家の幼子が一人、裁きの刃にかけられようとしていた。
必至にわが子を庇い、助命を懇願する母親。
凶刃は言う。
自分達が同じ目に遭ったとき、果たしてこちらの言い分をきいてくれたかと。
視界を覆っていた十二単が血赤に染まる。
続いて自らも焼きつくような痛みを胴に覚え、絶命の淵へ――。
この世は生き地獄。悪は決して滅びぬ。
悪がある限り、憎しみの連鎖が断たれることはない。
122
:
名無しさん
:2008/07/21(月) 12:10:45
うおおお……
123
:
名無しさん
:2008/07/21(月) 22:07:39
ぐおお…
124
:
名無しさん
:2008/07/22(火) 22:36:45
おぉぉ只者ではない敵現る・・・今後にも期待
125
:
名無しさん
:2008/07/22(火) 22:48:57
ついに互角(?)の敵が…wktkせざるを得ない
126
:
名無しさん
:2008/07/23(水) 22:43:25
「閻王に送り返された拙者は意趣返しを誓った。もはや鍬を持つ者は一人たりとも活かさん」
殺気にまみれた一言隻句は、その場の淀んだ空気にヒビを入れていくかのようだった。
老翁ほどの者でけなければ、この規格外の圧力でとうに潰されていることだろう。
「……愁傷な話じゃ。じゃがな」
復讐を奏する明王に、老翁は説得を試みる。
「お前さんはお門違いじゃ。真に忌むべきものは権を元に剣で脅すその不逞な領主、
またそれをのさばらす『世』に他ならん。無慈悲なまでに悪に肩入れする『世』――。
もしこの『世』に一掬いでも情けがあれば、斯様な顛末は起こらなかったやもしれぬ……」
「無論、万事承知しておる。だが一度煮え滾ったはらわたは、自力で冷めることはないのだ。
もはや冷めるときがあるとすれば、それは死すときのみ」
「よいか、昨今では猫も杓子も益を求め、弱き者はその餌食となる。
お前さんが恨みを晴らそうとしている相手は、虐げられている側の農民たちじゃぞ」
「知ったことではない。強かろうと弱かろうと、拙者が怨みを覚えた相手は百姓だ。
女子供、そして老人であろうとも、一切の容赦はせぬ」
「……己の理が、道理をも曲げたか。仕方ないの」
老翁のため息は諦観を孕んでいた。
それは同時に、取るべき道が唯一であることを示唆していた。
「――死合う気か。尤も、如何に関わらず拙者はお前を屠るつもりであったが」
「死合う? 自惚れおって、分からず屋に徳を諭すだけじゃて」
室内に互いの闘気がもれ始める。
視認できぬ何かが著しく増大してゆき、それは畳や壁に振動をきたし始めた。
その中で嵯峨羅が厳かに懐から抜き出したるは、八尺は超えようという長さの大刀。
異常な丈である。あたかも、素槍の柄の部分と穂の部分の割合を入れ替えた代物であった。
対して老翁が得物とするは、はた目から見れば一本の棒っきれ。
されどその質は、前に老翁自身が述べた通り超重量を誇る大業物である。
嵯峨羅が両手持ちで上中段に構える。
老翁も初めて両の手を使い、正眼に構える。
既に両者の間合いであった。
骨頂まで達した震動が、ついに柱の木目に亀裂を入れる。
史上類をみない一騎打ちの死闘が、いま幕を開けようとしていた――。
127
:
名無しさん
:2008/07/23(水) 22:48:12
熱い
128
:
名無しさん
:2008/07/23(水) 22:57:49
じいさん本気っすね!
129
:
名無しさん
:2008/07/23(水) 23:56:04
こいつ相当キレてやがる・・・爺さんアツイわ〜
130
:
名無しさん
:2008/07/24(木) 19:29:53
死合うんじゃなくて徳を諭すって、爺さん格好良すぎるww
131
:
名無しさん
:2008/07/24(木) 23:44:12
逃げゆくは城の人間ばかりではない。
普段大人しいはずの厩舎の馬達が、けたたましく嘶き柵を倒して次々と脱走していく。
鳥が群れごと城の立木からはばたく。どこに潜んでいたのか鼠の大群が徒党を組んで走り去る。
既に只事の予兆ではなかった。
何泊か遅れて、裏手の後門より肥えた男が一人とび出した。
とび出すというよりは、単に出てきたという表現が近いか。
見ている方がじれったく感じる、のたのたした緩慢な動きであった。
本城をつかさどる領主、極魅であった。
一国城主が、配下の者を誰一人つけず、それも徒歩で何処へ向かおうというのだろうか。
極魅自身が知りたいことであった。
金刺繍の派手な衣装はいまや泥を引きずる枷に過ぎず、顔面に施された化粧は脂汗で崩れ、
もはや君主たる面影は微塵もない。その有様は失敗をおかした影武者……否、旅芸人。
「はっはっ、何故このワシが、ぜっはっ、このような目に、ひっひゅっ」
件の賊もそうだが、なにもかもあの男が悪い。
そう、あの嵯峨羅とかいう大男。
未詳の身の上の分際で、無理に近衛に志願したのを蹴るべきだった、今思えば。
大枚はたいて雇った森志乃やお三味と違って、無償でいいというから拾ってやったものを。
今までは都合よくワシに従事していたはずが……。
今一時の局面でよくも……。
「し、城に戻ったら、みっ、皆殺しじゃ! 死罪じゃ! はっはっ、はははは」
笑い声を風に流し、角を曲がった時であった。
「ぶふぉっ!」
壁にぶつかった。強烈に堅い壁。
その鈍足のおかげで衝突の痛みは軽く済んだが、両足で踏みとどまれない極魅はそのまま横転した。
「何じゃ! 何じゃお前は無礼な!!」
それが壁でなく人であったと知り、極魅は黄色い抗議の声を上げた。
例によって「打ち首じゃ」と無き権をかざそうとした時――
洗濯板らしき物を抱えている当人は含み笑いが我慢できないといった面持ちで答えた。
「ばばあですじゃ」
「何じゃ! 城の者か! 早くワシを助けよ! そして事が済んだら打ち首にしてやるわ!」
「はぁ。わたしは城の者じゃありませんよ」
「つべこべ言わず……ん? じゃあ何だ、賊か?」
「えぇ」
刹那老婆は背後にまわりこみ、無駄に広いその背中を蹴り倒した。
「ふぎゃあ! 何をするぅ!?」
言い終えた頃には、完全に後ろ手を縛り終えている老婆。
「無礼な! 下賤な腐れ婆めが!」
「お前は然るべき場に送り、然るべき罰を受けるのですよ」
「なな何だと! ワシはまだこの城の」
突如、落雷したかのような爆音と地響きが響き渡る。
大地が激しく震え、城のあちこちが軋む。
極魅はひいと頭を抱えようとしたが両手を縛られているので叶わず、
そのまま亀のように頭を着物の中にすっこめた。
「お爺さん……」
城の天守閣を見上げる老婆の顔は、よもやの事態はあり得ぬと分かっていても――
一抹の不安が隠し切れていなかった。
刻時は黄昏の佳境。
本来「黄昏(たそがれ)」は、夕刻時に出会う相手の顔を確認するための「誰そ彼」からきている。
夕焼けの陰に隠れた顔は薄暗く、時にあやかしや化け物のそれと判別が付かない。
真に用心しなければならない刻限は、丑三つ時などではない。
昼が夜へと変わりゆくその間隙、その境界にこそ、異界の口は開く。
そう。人知れず黄昏時よりすでに、人ならざる者の時間は始まっているのだ――。
132
:
名無しさん
:2008/07/25(金) 00:16:52
地味に豆知識ww
おばあさん……これが若ければ萌えたんだが('A`)
133
:
名無しさん
:2008/07/26(土) 19:26:19
然るべきところで裁こう、という婆さんの姿勢に感心w
134
:
名無しさん
:2008/07/29(火) 17:47:14
轟音と共に何かが本丸の外壁を突き抜けた。
あまりの急速に流星と見紛い兼ねないそれは、そのまま邸内の竹林へと衝突した。
痛々しく折れゆく竹のひしめきは甲高く響き、人骨の大損傷を彷彿させた。
続けて城の同じ横穴から巨大な影が現れ、一点目がけて得物を振りかざしつつ飛び降りた。
よもや竹林に落ちた獲物に追撃を加えるつもりであろうか。
その影の着地を待つ前に、先に墜落したと思われる何者かが竹林から飛翔し、豪速をもって迎えうつ。
息つく間もなく二つの影がかち合った時、一瞬、全ての音が消え――激烈な衝撃が周囲の空気を飲みこんだ。
宙を爆心とする狂った爆風はみるみる広がり、たちまち周囲の軟弱な物々を出鱈目に吹き飛ばした。
やがて夕陽を背にした黒影は二手に弾け、互いに滑空していく。
一方は再び竹林へ。他方の長大な影は反動を使い天守閣の屋根瓦の上へ――。
「面白し」
老翁は皺に覆われた目を細め、白髪を生やした口の両端を伸ばす。
衣服は竹のささくれによってずたぼろに破れ、得物は先の一合で燻っている。
「血沸きが止まらぬ」
最後に歯応えのある相手とシノギを削ったのは、まだずっと若かった頃であった。
己と同様、人離れの域まで達した者がいる時代などはとうに過ぎたと思っていたが――。
なんたる僥倖であろうか。
今日だけはあの若き日に回帰できる。
何もかもうち捨てて鍛錬を極め、その結実を敵にぶつけ、闘いを愉しむ。
死闘の果ての勝利の美酒、その味を老翁は忘れもしない。
「ふむ、いかんな」
危うく本末転倒に陥るところ。
此度の敵には、正しき理を啓蒙しなくてはならない。
力あるものが正しき力の使い方をせねば和平の世は永久に訪れぬ。
己の愉しみなど、二の次三の次……。
老翁は口先で戒めつつ、天主閣に向かって跳躍した。
「まぁ、十の次であろうとよしよし」
しかし一旦闘気が若返った老翁は、もはや笑みが収められず、
抑えきれない高揚を存分に体現するのであった。
135
:
名無しさん
:2008/07/29(火) 19:30:02
じいさんカッコイイ、ほれてしまいそうだ///
136
:
名無しさん
:2008/07/29(火) 22:31:57
爺様楽しそうでなによりw
137
:
まとめ
:2008/07/29(火) 22:36:08
>>1
>>3-5
>>10-11
>>13
>>16-17
>>28
>>31
>>36
>>42
>>59
>>64
>>69
>>76-78
>>83
>>87
>>96
>>101
>>106-107
>>111-112
>>115
>>120-121
>>126
>>131
>>134
138
:
名無しさん
:2008/07/30(水) 18:03:39
一帯が薄暗さを呈してきた。
そろそろ天道が役目を終えようとしている。
城の屋根に立った大男、もとい嵯峨羅は、竹林の標的から目を背けない。
城に踏み入った気配でただものではないことは心得ていたが――
まさかこれほどまでに自らと肩を並べうる手練がいようとは。
「早々に消さねばならぬ」
己の仇たる百姓が御してはならぬ力。のさばらせてはならぬ力。
ここで芽を潰して格付けを施さねば――復讐を果たさねば――。
嵯峨羅は大太刀を斜に構えた。
豆粒大の老翁に狙いを定め、柄への握力を高める。
股を前後開き、支えを確かにすべく踏みしめる。
「斬ンっ!」
落雷のような気合を張り、敏速にて空間を一閃する。
繰り出された巨大な斬撃は三日月型の波となり、ツバメが降下するごとく空気を抉り飛んでいった。
初太刀は牽制のつもりであった。
この程度は楽にかわせる爺だろう、おもんぱかるは軒並み裂かれた竹林からどう飛び出すか。
先刻のように宙に舞うなら、定石通りもう一太刀刻む。飛翔中は急な動きはできまい。
別の地表に飛び出せるほどの足を持つならやむを得まい、自ら切り込みにかかるか。
出てこぬようならやはりもう一太刀――
そのとき、自らが放った斬撃波がいまだ目標へ到達せず、宙を描いたままであることに気付いた。
「む」
眉をひそめる間もなく明らかになる。
斬撃が――こちらに向かっている!
「なに」
跳ね返したというのか。
迅速に太刀を下から振り上げ、迫る斬撃を上方へ受け流す。
即席のかまいたちは勢いのまま、屋根瓦を瞬時に砕きつつ天守を貫いていった。
城の頂ががらがらと崩れ始める。
そして予想もできないことに老翁が突然眼前に現れる。
弾いた斬撃を追うように跳んできて。
構え直しが間に合わない嵯峨羅は対応できず、両目を見開く。
「そりゃ!」
老翁の棒切れが残像を写す。
豪速と共に打ち下ろされたそれは、嵯峨羅の右鎖骨を強打した。
いや、威力を目の当たりにした後からすれば強打どころではなかった。
大砲の玉が同じ箇所に十玉ほどぶち込まれたような音と衝撃がした。
嵯峨羅はひしゃげた身体で足元から瓦にめりこみ、地の底を目指さんばかりに奥深くまで沈んでいった。
大岩の様なものが床天井を突き抜ける音が――拍子よく四。ということは最下階まで墜ちたか。
粉塵の中で老翁は軽く棒を振り払った。
139
:
名無しさん
:2008/07/30(水) 18:32:46
爺さんwwwwチートすぐるwww
140
:
名無しさん
:2008/07/30(水) 18:55:05
いつのまにか闘いが始まっていたか;しかし爺さん速すぎるwww かっけぇー!
141
:
名無しさん
:2008/07/30(水) 20:35:02
じじい…!
142
:
名無しさん
:2008/07/31(木) 16:03:05
城の頂が完全に崩れて沈黙し、粉塵も収まりかけて一段落つこうとした時だった。
老翁の立つ瓦が一斉に微動を始めた。
「そうこなくてはのう」
微動は徐々に激しさを増していき、あちらこちらで瓦が割れ――再び崩壊が始まった。
今般は規模が違った。
地鳴りのような音と共に建物全体が上下に揺らされ、天守閣そのものが崩壊しそうな勢いであった。
と思いきやそれが来るのは存外早かった。
「おぉう」
足元の瓦ががらんがらんと抜け落ち、老翁はたちまち一面に拡がった大穴に吸い込まれた。
すぐに下の階の不安定な足場に着地し、またその階も崩れて落下し、着地しを繰り返していく。
「城の主柱を全てへし折ったか」
上から降ってきてぶつかり続ける瓦やら備品やらをものともせず、老翁はなすがままに階下へ移動していった。
地鳴りは既に轟音と化し、些細な音は押し潰されて何も聞こえない。
だが気配は感じる。奴はまだ戦闘可能で、下で待っている。
「出向くでなく引っ張り込むとは、つくづく年寄りをいたわらん奴じゃのう」
崩れ落ちて崩れ落ちて――最下階へ着地。
出し抜けに鋭い殺気が身を貫く。
視界は四方、埃芥で遮られている。
だがそこだけ色が違うかのように、はっきりくっきり敵の居場所は把握できる。
出し抜けに背後の上方に一太刀が光った。
振り向きざまに棒の両端を右手左手に広げるように持ち、受け止めるべく上段にかざした。
「ぬぅ!?」
刹那極めつけに重い衝撃が、棒を伝って老翁の身体を殴りつけた。
たまらず膝まで地にめりこむ。まるで槌に打たれる釘になった気分である。
受け止めはしたが――こんなことがあろうか――耐えることあたわず!
ついぞ受けたことのない重み。全身で支えながら、真横に伸びている棒越しに相手の顔を覗く。
嵯峨羅はもはや言葉が通じそうになかった。
皺だらけにみえた顔面は、異常に浮き出た血管の集合体であった。
目は白目を向いて血走り、歯は狂犬のごとくむきだしており、鼻息は荒い深呼吸を繰り返していた。
服は乱雑に破かれ半裸状態で、鋼も通らぬような筋肉質がドス黒く脈打っている。
怒髪天が揺れている。五体から湯気のような物がたっている。
「明王を憑けたか」
極太の両腕が握る太刀に、力がこめられる。
みしり。みしり。
「むむむ」
尚も幾らかずつ沈んで行きながら老翁は「いかんな」と呟いた。
長年愛用していた棒であったが――その帰結は必至であった。
143
:
名無しさん
:2008/07/31(木) 22:06:55
爺様ー!!!!
144
:
名無しさん
:2008/07/31(木) 23:17:21
なんか覚醒しとるー 爺様ー!!
145
:
名無しさん
:2008/08/01(金) 09:38:38
すげぇww
146
:
名無しさん
:2008/08/02(土) 08:16:24
爺さーん
147
:
名無しさん
:2008/08/04(月) 23:23:31
嵯峨羅と老翁の競り合いは一体となり、自らごと大地を震え上がらせていた。
大木の軋む音が鳴り、老翁が一文字で支えていた棒は弓なりに曲がり始めた。尚曲がっていく。
しかし老翁にはどうすることもできない。僅かでも力を抜いたなら大上段に真っ二つになるだろう。
かといってこのまま事が進めば――
「南無三よ」
老翁が呟いた直後、図太い骨がへし折れる音と共に、棒は鋭角に折れて切り離された。
すかさず、それまで留められていた力が解き放たれ、嵯峨羅の太刀が稲妻のごとく落ちた。
瞬きする間もなく老翁の頭蓋は砕かれ、そのまま股まで斬り裂かれた。
老体からは血がおびただしく噴出し、数多の臓物は飛び出て――
そんな光景は果たして広がったか。
否!
太刀はまだ振り下ろされていなかった。
それどころか、棒が折れてから三寸も動いてはいない。
その白刃は一対の頑強な掌によって挟まれていた。
震えは続いたが、今度はまるで刃が進む様子はなかった。
「白刃――取り!」
刃を挟んだ手首がぐるんとねじれる。
ひときわ高い音が響き、太刀は嘘のように容易に割れてしまった。
理性は失えど驚天の情は残っているらしい、嵯峨羅の白眼が大きく見開かれる。
老翁は棒の切れ端とついぞ得た刃先をよそへ放り投げた。
「得物を持った儂に……『素手』を使わせるとはのう……」
心底感服した様子で老翁は言った。
刹那、突き出される老翁の右拳。
嵯峨羅はとっさに腕を十字に組み、かろうじて腹部への直撃を避ける。
おかげで後方に二十歩ほど、地に足引きずった跡をつくっただけで済んだ。
城の残骸を押しのけながら、防御体制の格好のまま後方へ吹き飛んだのだった。
勢いのないただの正拳突きで。
嵯峨羅の顔が上がり、眼光が老翁を射抜く。
「そろそろ幕引きといこうかの。小細工無用の竹割比べじゃ」
老翁がゆるやかに拳を引き、半身に構えた。
完膚なきまでの肉弾戦。それが――老翁本来の無双態勢であった。
148
:
名無しさん
:2008/08/05(火) 00:01:58
白刃取りかっこよすぎる
爺さん本気モードきたわ─(゜∀゜)─!!
149
:
名無しさん
:2008/08/05(火) 00:53:31
じじいかっけぇなwwwww
150
:
名無しさん
:2008/08/05(火) 12:53:20
最初は鍬、次に棒、続いて素手。
本気モード多すぎだろwwwwwつえぇw
151
:
名無しさん
:2008/08/08(金) 00:12:32
嵯峨羅の裸体の上半身が燃え上がるように膨らんだ。
柄のみを残した太刀が地に落ち、からんとこだました。
「果てるがいい」
かろうじて人の発音をして、老翁にはそう聞こえた。
嵯峨羅の図体から溢れんばかりの殺気がほとばしり、敷地内を包み込んだ。
「濃い憎悪じゃ。もはや徳など諭せられるかは」
老翁の呟きは遺憾とも随喜とも取れた。
――拳の骨が鳴る。
嵯峨羅がふわりと跳んだ。
仕草は緩慢としていた跳躍は、ひとっ飛びで老翁の眼前まで届いた。
嵯峨羅が人ならぬ雄たけびを上げながら、勢いを乗せた老翁の頭部大の正拳がうなった。
顔面に迫る黒金を、老翁は右拳ひとつで応じる。
骨と骨のぶつかる音が轟いた。
でたらめな衝撃が生じ、真空切りの波紋が周囲を刻んでいく。
同着であった。
嵯峨羅のもう片方の拳が、老翁の腹部をとらえていた。
地を這うような低空軌道であったため、死界からの奇襲であった。
「山突きか!」
両手ぐるみで上下段の正拳を同時に繰り出す、初歩ながらも受けの難しい技。
流石は久しい難敵、我を失いながらも「闘」の覚はその身に染みついているか。
老翁は「く」の字に折れながら真上に飛ばされた。
崩れかかった柱の断片を突き破り、闇夜が総べ始めた虚空へと矢の如く飛ばされた。
いくら老翁とて地の理には逆らえず、受け身の術もない。
なすがままに吹き飛ばされ、中空で勢いが落ち着き始めたその時、気配が。
遥か上空にて気配が。
嵯峨羅であった。ここまで先回りで飛翔したというのか。
「去ね」
拳を握り合わせて出来た鉄鎚は、薪を割る勢いで背骨を砕き落とした。
流星のごとく老翁は超落下し――瞬きする間に大激突。
爆音のような地鳴りと、爆煙のような粉塵が舞い上がった。
大地が老翁を中心に円形に窪んだ。
一泊置かずして嵯峨羅の豪速落下によるヒザ落ちが入った。
見てる側にしたら笑いが漏れそうなほどの威力。
老翁が衝突した際の衝撃が収まっていない大地に、更なる痕(きずあと)が入った。
いかな頑強な岩石とて鋼鉄とて、原型を保てるはずもない追撃であった。
嵯峨羅の膝の下は全く、何がどうなってしまったのか判別付かない。
ただ――まるきり沈黙しているあたり――
もはや息吹を返すものがあるとは到底思えなかった――。
152
:
名無しさん
:2008/08/08(金) 00:25:41
ずっと見てましたが爺さんのピンチに応援初カキコ
爺さーん!
153
:
名無しさん
:2008/08/08(金) 17:11:19
これは死んだだろwwwww
154
:
名無しさん
:2008/08/08(金) 18:49:21
死地より立ち上がる…それこそが…漢!
155
:
名無しさん
:2008/08/09(土) 17:44:43
日落ち、深藍が覆い、暗し。
提灯がともされ始める刻限であった。
城は人ならざる二名の激闘の末、陥落した。
耳をすませば閑けさにつけて夜虫が鳴き、安らぎこの上ない情景を呈している。
しかし一たび目を見開いたなら修羅地獄。
本瓦で葺かれた山のごとき荘厳さを誇っていた屋根は何処に。
立ちはだかるように堂と聳えていた漆喰の白壁は何処に。
打ち込みハギからなる、滑らかながらも十分な堅牢ぶりを感じさせた石垣は何処に。
崩れ落ちた天守閣の残骸が、くたびれ果てたように広がるばかりであった。
嵯峨羅は膝を地に埋めた体勢のまま、全てが鎮まるまで微動だにしなかった。
老翁の息根を確かめたかったためか――
それとも既に、強敵を屠ったことに余韻を感じているのか――
嵯峨羅はやがて、一体化したものを引き剥がすかのように膝をどけ、立ち上がった。
その白眼で、自らが押した明王の印判を観る。
「逝ったか」
老翁の腹部は具捨愚沙(ぐしゃぐしゃ)に潰れていた。
嵯峨羅にとってはよく見る圧死体であった。
腰骨は明らかに屈折しており――
手足は力なく垂れ落ち――
両眼には生気が――
「んむ?」
生気が宿っており――?
それがにかりと笑って――?
「効いたぞい。次はワシの手番じゃな」
おもむろに片手を伸ばし、嵯峨羅の片足をむんずと掴んだ。
「まだ息があるのか!」
尋常ではない握力をもって体重がかけられ、生じた反動を用い一挙に立ち上がる。
空いた手は拳骨をつくり、勢いを殺さずにして嵯峨羅の顔面を奇襲した。
「ぬがっ」
頬骨が陥没したと思しき鈍い音。
不意の一撃に嵯峨羅がぐらりとよろめく。
「おさめどきじゃ」
老翁はささやくように呟くと、両拳を握り締めた。
握り締めた上に更に握力を増し続け、やがて爪の先から血がしたたり堕ちた。
この闘いを締める、老翁の最後の反撃が始まった。
156
:
名無しさん
:2008/08/09(土) 23:51:08
じいさん……
157
:
名無しさん
:2008/08/10(日) 11:19:36
え、腹部ぐしゃぐしゃで生きてるって……人間じゃNEEEE
158
:
名無しさん
:2008/08/14(木) 21:40:13
あれだけの一撃を叩き込まれたにも関わらず、血はどこの穴からも一滴とて流れていなかった。
腹部は平平に潰され、見るも悲惨な外観である。
しかし人外の強靭さをほこる筋肉と脂肪は、「その程度の圧迫」で人体破裂を許すことはなかった。
臓器も障りない。
五臓六腑それ自体がすべて頑丈で弾力に富むため、直接刃が入る以外に損傷することはない。
あらゆる秘術の鍛練を学び、またそれを怠らなかった賜物である。
人骨だけは弾力もなく一連につながってもない故、折れはせずとも関節部が幾所か離れてしまったが――
老翁は首や腰、肢体のあらゆる局部の骨を鳴らせた。
その過程で、凡人ならどう見積もっても全治の見込みなしと思われた屈折・歪曲部はすっかり原型を取り戻した。
治癒を終えた老翁にいくらかの疲労は窺えても、なりは無傷に等しかった。
嵯峨羅に絶望するいとまはない。
「少々長たらしくなるが、爺の満身の制裁――しかと受けよ」
のけぞった自分の腹部に正拳がめり込んだからである。
たまらず、今度は故意なく膝つき、せりあがってくる酸い液を咳きこみながら吐き出す。
拘わらず、容赦なく、問答無用の殴打の雨が始まった。
「弱者の死にたるはやむなしに非ずや! 遡行の果ては、強者の力々(りきりき)其の次第!
意趣返しこそは愚行かな! 何も得られぬ、果たせど得られぬ!
失せたものもの還ってはこぬ! 断てども断てよ、血みどろの縁!
善悪説く気、さらさらなし! されど正せん成徳の限り!
誠意より懸け、いざ科、懲らせん! 願わくば!!
生けとし衆生、森羅万象、救世(ぐぜ)の福果に飲まれんことを!! 鉄拳!!
鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳剛拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳手刀鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
鉄拳爆拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳裏拳
鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳羅拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳破拳鉄拳鉄拳
二拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
重拳鉄拳烈拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳熱拳鉄拳
極拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄蹴鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳正拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳懲拳鉄拳鉄拳鉄拳掌底鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄膝鉄拳鉄拳鉄拳
鉄拳鉄拳肘鉄鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳山突鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄頭鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳
鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳鉄拳!
爺の鉄拳ッ! とどめの鉄拳ッ! もひとつ鉄拳ッ! 締めの鉄拳ッ! おまけの鉄拳ンッ!!」
無限に続くかと思われた猛攻が、ようやく終わった。
この間、夜虫が鳴き始めていったん鳴きやむまで。
気がつけば老翁は、自身の背丈二人分ほど地を掘り起こしていた。
無呼吸打法による間断ない制裁を受け、十打余りのうちに昏倒した嵯峨羅の有り様は――。
言うまでもなく――。
――とてもとても、言うまでもなかった。
「終わったのかの……」
老翁は額の汗をぬぐった。
今日、はじめて流した汗であった。
かくして、悪政にて潤っていた城に身を潜め、復讐の機をうかがっていた大鬼と、
農民にして単身懲悪に乗り込んだ得体の知れぬ老翁との、長きに渡る決闘は幕を閉じたのであった。
159
:
名無しさん
:2008/08/14(木) 22:54:33
最強すぎる…爺さん格好いい!
160
:
名無しさん
:2008/08/15(金) 00:00:47
うおおおTUEEEE
もうすぐ終わりと思うと寂しいなぁ…
161
:
名無しさん
:2008/08/15(金) 00:31:25
ちゃっかりフタエノキワミが混ざってるwwwww
162
:
名無しさん
:2008/08/15(金) 09:54:09
wwww
163
:
名無しさん
:2008/08/17(日) 15:50:17
月が上り、沈み、大変事が起きたとて意にも介さず、あっさり夜は明けた。
様子見に城に戻ってきた少数の奉公人たちは、とにかくたまげた。
つい昨日まで堂とそびえ立っていた城郭はどこにもみえず、
代わりにそれと思しき建築材の残骸が音もなく氾濫していたもんだから無理もない。
奉公人たちが呆気に取られていると、どこからか声が聞こえてきた。
彼らが声の方へ近づくと、そこにはかつての城主・極魅が門にくくりつけられて泣き叫んでいた。
一晩中そんな状態であったのか、みるも疲労が甚だしい。
誰かがすぐさま駆け寄って縄を解こうとしたが、別の男がそれを制した。
このままお役人様に引き渡そう、と。
誰もがうなずいた。この暴君の圧政と放蕩ぶりに善悪がつけられないほど愚鈍ではない。
城主は恐喝まがいの科白を喚き散らしたが、もはや城を失った城主など恐るるに足らず。
平生なれば年貢を徴収する側の者が年貢の納めどきを迎えようとは、いやはや滑稽な話である。
その後、門の内側に、三名の家臣が倒れ伏せているのが見つかった。
彼らの息は辛うじて続いていたが、奇妙なことにその手足、胴体はごぼうのように細く衰えていた。
それぞれの手には丸めた文書(もんじょ)が固く握られており、それをほどいて目を通すと、
「事知り、蔵の物確かに承りて候 某村之長」といった旨の血判が施されていた。
その場にいた皆が首をかしげたが、この三名に何が起こったのか誰も知る由はない。
――――――。
二日の後、某侯(藩主)より遣わされた役人達が来着した。
城主極魅は、かつての奉公人による多数の弾劾から、晴れて御用とあいなった。
やがて城の再建が始まったが、その過程で天守のあった位置の地中に、何者かが発見された。
引き上げられた姿形の満身創痍ぶりに、はじめは何者か判別できなかったが、
やがて城主の側近である例の寡黙な大男ではないかという結に至った。
嵯峨羅は気息奄々としていたが、意識を取り戻したのちは冷静に事情を把握し、自ら神妙にお縄についた。
嵯峨羅の本性、実の力を知る者はいなかったため、人々は彼ならではの賢明な裁断と称賛した。
――人々は、その内なる心が大きな変化を遂げていたことに気づく筈もなかった。
164
:
名無しさん
:2008/08/17(日) 15:51:09
役人による聴取が始まった。が、調書を綴る筆は止まったままである。
「賊が乗り込んできた」「百姓が乗り込んできた」「いや化け物が乗り込んできた」
「とにかく二匹乗り込んできた」「でたらめに強くて百人がかりでも歯がたたない爺だった」
「その爺が近づいてきたんで必死に逃げていたら、いつの間にか城が落ちていた」
「わかった、わかった」
役人は両手を使ってその場を収める。
「では聞くが、そのじじばばはどこにいる」
誰も答えられなかった。
あの日、城が落ちてから、じじばばの姿を目撃した者はいない。
事が終わってみれば、霞のように消え失せていたのである。
「きっと、あそこだ」
誰かが天を差した。
皆もつられて空を見上げる。抜けるような蒼空であった。
「きっと、天に住まう仙人だったんだ」
その一言でまたも議論は紛糾する。
そんな彼らを、陽の光は穏やかに照らしていた。
同じ空の下――。
一軒の古びた家屋より、鍬をかついだ老翁がおもむろに現れた。
「それじゃあ行ってくるぞい」
「はいぃ行ってらっしゃい」
老翁は足取り軽く、山野の方へ歩いていく。
その姿が消えないうちに、老婆も家屋を出てくる。
腕には桶と洗濯板を抱えて。
平安が染みわたるような、心地よい陽気であった。
この日々が乱されるようなことがあれば、人知れず老夫婦は再び向かうだろう。
しかし当分は、少なくとも今は、何の憂いもなく――
昔々、ある処に住んでいたおじいさんは山へ芝刈りに、
おばあさんは川へ洗濯に行きましたとさ。
〜おしまい〜
165
:
名無しさん
:2008/08/17(日) 15:52:45
オリンピックに甲子園、そして現在闘劇'08の真っ最中と、
ともかく観るものに忙しい時期です。
さて、これにて謎の爺さん婆さんの勧善懲悪劇(?)は終わりです。
当初は軽いノリで手短に終わらせるつもりでしたが、
いざ終えてみれば執筆を始めてから空白期間含め9か月もかかる長編になってしまいました。
毎回ウィキとヤフー辞書の窓を開いて悩んだのは正直辛いものがありましたが、
最終的に自分にとって大変なプラスとなりました。我ながらいい経験だったと思います。
――今見返すと訂正したい箇所だらけですが。
(ちなみに至極どうでもいいですが登場した固有名詞の元ネタはほとんどるろ剣ネタです)
当作は何度か投げようとしたこともありましたが、皆様の感想は大変な励みになりました。
無事にきちんと完結させることができたのは、間違いなく
読者の方々がたゆまぬ感想を投げかけて下さったお陰です。
万感の意を込めてお礼申し上げます。これまで本当にありがとうございました。
昔々、ある処におじいさんとおばあさんが住んでいました。スレ
>>1
166
:
名無しさん
:2008/08/17(日) 15:57:56
おおお、嵯峨羅改心したのか!?
ともかくお疲れ様でした
最後まで楽しませて頂きこちらこそ有難うございました!
167
:
名無しさん
:2008/08/17(日) 19:15:04
>>1
乙でした。楽しませてもらってありがとう。
気が向いたらまた別のお話でも書いてくれください。オレが喜ぶからw
168
:
名無しさん
:2008/08/17(日) 20:43:54
ROMってたけど乙
楽しく読ませてもらったよ、ありがとう!
169
:
まとめ
:2008/08/17(日) 21:17:24
>>1
>>3-5
>>10-11
>>13
>>16-17
>>28
>>31
>>36
>>42
>>59
>>64
>>69
>>76-78
>>83
>>87
>>96
>>101
>>106-107
>>111-112
>>115
>>120-121
>>126
>>131
>>134
>>138
>>142
>>147
>>151
>>155
>>158
>>163-164
170
:
1
:2008/08/18(月) 00:28:56
書き終えたことに対しお礼まで言われるなんて――。
そのレスだけで完結させた甲斐が十二分にありました。身に余る思いです。
>>166
改心しました。
彼は元々お武家側の人間なので、自らの立場はわきまえました。
>>167
次回作にご期待しないでください! 喜ばせてあげたいのは山々ですが……。
(正直書くか書かないかすら迷っています)
>>168
これはまたROM専の方がわざわざレスして下さって有難うございます。
貴方のように陰で読んでいた方の存在が分かると一層嬉しくなります。
>>169
まとめ乙! 超乙!! 心底感謝です。
自分もやったことあるのでその手間ぶりは伺えます。
今まで爺さん婆さんの物語を刻み抜いて下さって有難うございました。
171
:
名無しさん
:2008/08/18(月) 01:11:01
遅れたが作者乙
ありがとう
172
:
名無しさん
:2008/08/19(火) 01:07:11
今読みました。楽しかったです。
173
:
名無しさん
:2008/08/19(火) 10:12:44
お疲れさん
面白かったよ
174
:
名無しさん
:2008/08/19(火) 21:20:39
うおお乙ううう
とても面白かったですw
るろ剣>やっぱそうかw 大体分かったw
175
:
名無しさん
:2008/08/19(火) 21:32:01
遅れてきたがお疲れ様でした〜!
>>650
この爺さん婆さんの最強っぷりとカッコよさは忘れませぬw
176
:
名無しさん
:2008/08/19(火) 22:53:36
こんなにも多くの読者の方々がいらっしゃったなんて嬉しくてたまらないんで
ちょっと涙流していいですか
>>171
こちらこそ確かな謝礼を以て言わせてください
最後までお付き合いいただき有難うございました!
>>172
たったその一言のためにレスしてくださったこと、心より謝したいと思います
どうも有難うございました!
>>173
面白かったよ の一言がどれだけ作者にとって嬉しい言葉か
どうも有難うございました!
>>174
「面白かった」というお言葉は何度聞いても嬉しさが飽きません。
どうも有難うございました!
この物語を書き始めたときはニコニコ動画で「フタエノキワミ アーッ」が流行ってたんです
家に全巻あったし、流行に乗っかる形でネーミングを一貫したんですが……
なんとも時が立つのは早いものです
>>175
どうも有難うございました! そう仰って頂いて光栄です
こちらこそ貴方が175番目のレスを送ったことは忘れません!
177
:
名無しさん
:2008/09/07(日) 05:30:33
遅ればせながら向こうのうらいたの時から読ませてもらってました。
爺さんも婆さんもただ強いだけでなくキャラも立ってて凄い面白かったです!
連載お疲れ様でした!
178
:
1
:2008/09/14(日) 22:46:26
>>177
遅ればせながらありがとうございます!
どうも、細部まで直観して下さったようで光栄です
連載が終了してから幾分か経ち
更新を停止した今さえ感想を頂くとあっては感涙の極みです
何だかモチベ高まってきましたね
構想が固まったら 前からやりたかったゲーセン絡みのSSでも書こうかと思います
179
:
名無しさん
:2008/09/21(日) 13:14:23
wktk
180
:
1
:2009/05/12(火) 11:03:39
みなさん半年以上ぶりです
まだ残っている方、ご殊勝でしょうか
ゲーセン絡みのSSの件ですが、すでに別のところで書いてしまいました(ごめんなさい)
また別の執筆者によりギル高スレが現行しているので、題材が被ってしまうのに抵抗がありますし
つーわけで近いうちに全く別のSSでも書かせて頂こうかなと思います
その折はどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
181
:
名無しさん
:2009/05/12(火) 11:40:33
ほう 期待しちょるよ
182
:
名無しさん
:2009/05/12(火) 12:02:44
返信早杉焦ったw お気に入り登録ありがとうございますw
マイぺースで頑張って書いていきますね
183
:
名無しさん
:2009/05/12(火) 19:36:39
待ってますぜ
184
:
名無しさん
:2009/05/17(日) 14:10:59
あげ
185
:
名無しさん
:2009/06/01(月) 01:01:35
久々にみかけたんでage
186
:
松 山 赤○○ 病員 清 掃 商 事
:2009/06/01(月) 03:27:19
インフルエンザで仕事は辛い かんじゃサンにうつる
職場のパワハラで再発した鬱が原因で死にたいです
愛姫
187
:
名無しさん
:2009/06/25(木) 23:32:57
age
188
:
名無しさん
:2014/02/19(水) 09:16:57
恐竜戦車って今見るとかわいいっっ(o**o)
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