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動作テストスレッド

1名無しの宿泊客:2007/10/27(土) 12:30:09
動作検証用のテストスレッドです。あとで消します。

2テスト:2007/10/27(土) 12:32:50
したらば管理初めてなので動作検証。
まずはsageきいているのか?

3 ◆EyAsQu68i.:2007/10/27(土) 12:34:47
トリップテスト

5<チェックアウト>:<チェックアウト>
<チェックアウト>

6<チェックアウト>:<チェックアウト>
<チェックアウト>

7名無しの宿泊客:2007/10/28(日) 00:58:47
削除したとき、チェックアウトにしたんですが、
・・・・微妙にうざい気がする。

8タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2008/12/28(日) 01:26:40
これを投稿していいものか。
迷ったからここへテスト投稿させてください。

9タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2008/12/28(日) 01:27:25
●究極の力

あれからどのくらいが経ったのか、村を見てそれを実感することは出来ない。
でこぼこな焼け色のブロックで作られた、こじんまりの家にそれらをおうおうと取り囲む緑に濡れる木々。
高台から見下ろす外界は霞もせず透明に感ぜられ、肺に吸い込む新鮮な空気が口や喉と身体をも浄化してくれた。
なのに、目に焼きついているはずのそんな情緒溢れた景色はいまや、石とほこりと土煙に姿を変えてしまったのだ。
久しぶりに訪れ心身を休めたライフコッドは、廃れた家屋と潰れた通りがただ静かな音で在る、まるで経年の変化とは無縁の形相だ。

岩肌に手を沿え霞む下界を見ながら、メルキドを思う。
あの後、いくつかの亡骸を丁寧に埋葬していた。
残念だけれど、ルビスとフーラル以外はよくわからない塊だったから、一つにまとめて。
最後にルビスを抱き上げたとき、ふと、奇妙な感情を憶え、どうしようもなく悲しかった。
ここにまた、目の前に斃れてしまった人がいる。
そっと深く冷たく暗く、掘り下げたその場所へ一緒に身体を降ろし、自らの血液で固まるその髪と頭を、二つ三つ撫で話しかけた。

「俺に何か出来たろうか」

……ルビスの謡う声は、もう聞こえず。
残されたこの身は何をしてこうなったのか。
結局、教えてはもらえなかった。


ライフコッドを降り、再び魔王の城へと続くらしい山の裾野へと辿り着く。
相も変わらず魔物は灰色の牙をむき、そのたびに銅の剣が割り裂かれる。
時々、これら魔物の大将らしい大物が現れ二三の会話を交わした後、決まりきったようにその身を倒した。
そんな毎日を過ごしているうちに、心にやがて負の力を蓄える。
魔王や魔物とは違う、それは空虚にのみ存在を見出せる正に究める力。
正気ではない紛れも無い自分だが、徐々に飲まれ意識を囚われる。
意思とは関係の無い、本能でもなくただ破壊するだけの存在。
守る力だと教えられたそれが、この沈んだ空気と綿密に交わり自身を変えた。
もしかするとこの状態こそが、ルビスの望む現象なのかもしれない。
目に付くうごめく者たちを薙ぎ、それこそが世界を壊して欲しいと願った、ルビスの思惑ではないのかと。

そう。
まさしくいま、この世界を破壊しつくそうと体(てい)を揺り動かす。
俺はついに手に入れた。
全てを壊し、消し去る、究極の守りの力を。
誰も救わず救えず、それならばぜんぶを無くしてしまえばいい。
傷つくものなど、どこにもありはしないのだから。

そのうち心の色が消え、地に落ちたあの場所とは違う別の次元へ落とされる。
僅かな隙間から声が聞こえた。
もうだけど、何も聞こえはしなかったし聞こうとも思えなくなっていた。

10タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2008/12/28(日) 08:43:37
●時空の戦い

浮かぶ、闇の中で星をいくつも顧みた。
いくつもいくつも、まるで宇宙を漂うようにただふわふわと泳ぎ、やがて多大な光に包まれる。
光は言った。

「この流れに身を任せ、お前はこれより見知らぬ土地へと降り立つ。
 そこで恐らくは多くのことを学びその地を破壊しつくすだろう。
 案ずる必要は無い。」

なんのことだかわからなかったが、じんわりとこれはあの世界のことなんだと知る。

「お前の中へいくつかの希望を閉じ込めた。
 世界はつながり、お前はただ時空の流れに委ねるだけで良い。
 これから起こる全ては、我々の意思で決められ、そうなるように流しているに過ぎないのだ」

ルビスの教えてくれなかった、この地へ来た意味だろうか。
このよくわからない光に、ぜんぶは決められこうなってしまったのか。

……どうでもいいが、ここはどこなんだろう。


魔王ゾーマが、そこにいた。
いつからかは解らないが、確かに俺の目の前で何かを言っている。

「よくぞここまで辿り着いた。
 私は、この瞬間をどれほどの永い時に待ったであろう」

まわりは、理解できない創造物で溢れ返っている。
見えている現象は触れてもなお理解が出来ず、これらはとうに俺の理解などを超えた存在なのだ。
だからここが何処などという考えは即座に払拭しなければならなかった。
感じるままに表現するなら、これらは全て時間や空間や、そういったものと感じられる。

「自らの足で進み、辿り着いた先がこの世界を司る時空であることは、必然。
 私はもはや、この場から動けぬ代わりに万有を手にしたのだからな!
 必ずわが目の前に姿を現すものと、これまでいのちの力を身へと注ぎ続けた」

時空。
わからないが、とんでもない場所にいるものだ。

「まあ、よい。
 あの時の恥辱、忘れた事はなかった……
 ルビスの遣いよ! 忌々しい世界の秩序を賭け交えようではないか!」

何も出来ない。
俺の意思では動かないこの無機質な身体が、銅の剣を振るい身を光らせ高揚していく。
ただただ破壊のみを繰り返し、ようやく辿り着いた魔王ゾーマ。
破壊すべき最後の物質と出会えたことが相当に嬉しいようだ。
魔王の言う世界の秩序とやらも、なんのことなのかがわからない。

考えているうちに、身体が信じられない速さで動いていく。
痛みも伴うその動きに加え、脳の髄をも揺り動かすほどの衝撃。
剣を振るうにも、魔王の手を退けるにも、全てが轟音と熱を発し空気やチリといった物が煙を立て煤となり、またそれらはさらさらと消えていく。
そんな事が幾度も繰り返されている。

11タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2008/12/28(日) 08:44:15
俺はまったく関与できずにいた。
この、破壊のみを目的とした男はまったく、それは遠慮もなしに俺を引きずりまわしている。
あっちへ跳びこっちへ跳ね、魔王もまた同じようにせわしく動いた。
地面なのか空中なのか。
そんな事すらわからずにいた。

周りの様子がおかしく感じられたのは、互いの躍動が数時間ほどの時だろうか。
空間にヒビを見つけ、その先にはぽっかりと穴が開いている。
穴の中は見たことの無い黒で、それらは徐々に広がり増えていく。
この二人の争いが、空間を破壊し始めたのだ。
そのうち黒い穴の中には見たような始めてみるような、土地や人や空がめまぐるしく現れては消えていく。
みるみるうちに全てが枯れ果てていくその様子は、まるで時間すらもおかしくなったように思える。

「ふ、ハハハ!
 楽しいではないか! まさかこれほどまでに力を持っていようとは!」

お互いの身体は限界近くにまで疲労していた。
見ただけでもわかるほどに。

「だが!
 貴様は限りあるだろうが、私にはまだいのちの力がある!」

魔王が邪な像を取り出し眼前へと差し出す。
像は怪しい気配を漂わせ、魔王の弱った気力を充実させていく。
きっとこれで、この戦いの決着がつくのだろうと俺は考えた。
これまでしてきたことは、全てが水の泡となる。
そうこうとしているうちに、魔王はすっかり回復し、更に力を宿してゆく。
俺は、嫌だった。
目的も目標もわからず、ただただ破壊しつくそうと、腐りきった心持を心底に嫌った。
これでは何のためにメイやルビスが命を落としたのか。
トルネコやテリーにだって顔向けが出来ない。

「秩序など! この力を手にした私には──」

激痛が、胸の辺りへ湧いて出る。
とてつもない感触は、目の前を真っ赤に染めあげる。
けれどそれ以上に驚いたのは、痛みの元からその先へまばゆく剣が突き出た事だ。
その切先が邪神の像を貫き粉砕している。

「なぁ──?!」

魔王の間抜けな言動と共に、俺の胸から幾束もの光が飛び出し空へ浮かび、人型を作り出した。
それらは八人の人間で、凛々しくそれぞれの武器を魔王へと向けている。

「はっ! 貴様はルビスの遣い…… なぜだ、なぜこの空間へと現れた!」

鎧の、一人の男が答えた。

「俺達は全ての時間から存在を超えた者から召喚された。
 ゾーマ。 お前を再び闇へ封じるために」

12タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2008/12/28(日) 09:07:10
●魔王の終焉

八人が現れてから、正確には像が壊されてからの魔王は、まったく別のものとなった。
苦しみもがき、その容姿はすっかりと老け込んでしまい、溢れんばかりのすさまじい力を感じることも無い。
だけれど、現れた八人の圧倒かと思ったが魔王の力は全て失ったわけではないらしかった。
男達は大変に苦戦し、一人二人と深い傷を負い回復に専念する者が追いつかないほどであった。
それでも懸命に戦いついには、魔王を瀕死のものへとした。

「……世界は、私を受け入れられないというのか。 どうしても、永劫の存在として認めないと……」
「邪悪なものは討ち倒される。 それが我々の世界じゃないか」
「なぜ! そのような無意味な連鎖が繰り返されるというのだ」
「それは…… わからない」

男達に囲まれた死にかけの魔王。
そして、追いやった男達。
それぞれに、その会話の中で思うことがあるようで、静まり返っている。
ルビスが教えてくれたいくつかの世界。
それぞれに邪悪なものがあり、それぞれで倒されるのなら、それはきっと約束なんだろう。
俺をここへ連れてきたのも、男達がそれぞれの世界で何をしたかは知らないがここへきたのも、魔王が死ぬのも。
ルビスの言う"いのちの源"のしわざで、これからも繰り返される。
"いのちの源"にしてみればそうする事が当たり前だから、それを乱そうとした魔王は邪魔でしかない。
この連続は消えないんだろう。

「ふ…… もう、よい。
 わしは疲れた。 どう足掻いても存在できないのなら、このまま潔く消えるとしよう。
 どのみち、これから貴様らを倒すなど出来はしない。
 いのちの力を操る邪神の像が破壊された時から、そう決まっておった」

最初に返事をした鎧の男が魔王の首へ刃を当て、言う。

「悪は許せない。
 だが…… お前のいう事もわからなくは、ない」

魔王の首は撥ねられ大量の霧となった。
鎧の男が言ったその一瞬。
魔王の顔に笑みが燈った気がした。

13タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2008/12/28(日) 11:30:44
●廻る世界

俺は、身体の中から現れた彼等の真ん中にいた。
いたというよりは、横たわっている。
オリハルコンが貫いたせいで、体中の血液が流れ出し目の前が暗くなり始め、意識さえもうろうとしていた。

「君が、ルビス様や神々の選んだ人間なのだね」
「おかげで俺達は無事ゾーマの元へと辿り着き、目的を達成することが出来た」
「君の役目も終わったようだ。 じき、元の世界へと戻るだろう」

まだ、わからない。
俺の役目とはなんだったのか。
果たして、その疑問を素直にぶつけてみる。

「君は、こことはぜんぜん違う世界から…… 言葉は悪いけれどたまたま選ばれたんだ。
 神々を超越した存在によって」
「僕らも詳しいことはわからないけれど、とにかく僕達の世界が無くなりそうなんだと神様から聞いたんだよ」

彼らが言うには──
彼らの意思ではないので定かではないが、神を越えた力によって俺は無作為に選ばれた。
おそらく、それは"いのちの源"なんだろう。
選ばれた俺は、この世界の人間とは違う構造だったから彼らを閉じ込めておくことが出来た。
そして、彼らが飛び出るには俺が与えられた力を自身の意思で操れることが前提となる。
最初に魔王と戦ったとき。その時はまた完全ではなかった。
力を自在にし強い力を持ったとき、俺はなにか良くない意識に飲み込まれていたから、出られなかったそうだ。
それはたぶん、最後にライフコッドを出てからの状態だろうと思う。
そしてついさっき、俺が悔しさを憶えたとき身体の自由が取り戻され、良いタイミングで邪神の像を破壊できたと、いうことらしい。

「君の事はよくわからないけれど…… 僕らの世界を救ってくれたんだ。君のおかげだよ」
「俺達はまたもとの世界へと戻る。ただ、いったんこの世界を崩し再構築してからになるが」
「再構築はもう始まる。 全てが元の通りになり、時間は掛かるが新しい世界も創られる。 私達は先に戻るよ」
「俺達がわかっているのはここまでなんだ。 君の傷も治るだろう。 じゃあ達者で、ありがとう」

14タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2008/12/28(日) 11:36:16
彼らは、やがてぼんやりとした姿になり、消えた。
残ったのはよくわからない創造物とたった一人の俺だけ。
恐ろしいまでの静寂もその場へ置き去りにされた。

俺は、たまたま選ばれここまでやってきた。
たまたまにしては、いろんな事がありすぎた気もするが、今はもうどうでもいい。
きっとこれも"いのちの源"によって決められていたんだろうか。
トルネコのこともテリーのことも、ルビスもそうだ。
そしてメイも……

ぼんやり、自分が何者なのかを忘れかけてきた頃、その場自体が風に晒された砂の塔みたいに崩れ落ちてくる。
俺は傷が深く動けない。痛みさえもうどこかへいってしまった。
きっとこのままでいれば、元の世界へ戻れるんだろう。

ガラガラと崩れる世界の中で、そっと抱えられる感覚と同じくして頭へ語りかけられる。

『世界の記憶は全てが繋がっている。 記憶へ刻まれたお前も、いつかこの世界の旅人となろう。
 それまでは、しばらくの時を』

15タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2008/12/28(日) 11:37:08
●目覚め

ドスン!

「あ、イテテテテ……」

ベッドから落ちて目覚めるなんて、何年ぶりだろう。
まだ眠い目をこすりながら壁掛け時計を見ると、すでに正午過ぎを指していた。

「休みだからって寝すぎだな…」

フローリングの床へ寝そべったまま、ベッド脇の机へ左手を伸ばす。
携帯を手探りで取ろうとしたのだが何かが、右手のひらに握られている感触がある。

「…?」

のそのそと床へあぐらをかき、右手をそっと、開く。

「ビー球、か…?」

七色か八色か、虹の色彩に近い色を放つ半透明のガラス玉。
掌の真ん中にちょこんと、それは収まっていた。

「……」

ぼんやりする頭をはっきりさせるため、大きな伸びと一緒に立ち上がり、ガラス玉を机の上へ置く。
床に散らかした衣服を踏まないよう洗面へ向かい、赤い印の付いた蛇口をひねる。
暖かい湯が湯気をモウモウとさせ、正面にある鏡を曇らせた。

「あれ はは…」

顔を洗い歯を磨きながら笑ってしまう。
いつもしている事だけど、とても久しぶりに感じたからだ。

当たり前のはずなのに、いつも同じ事をしていたはずなのに、なんだかひどく、おかしい。

16タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2008/12/28(日) 11:37:42
●思い足らわす

カーテンを引いた向こう側は、空一色に染まっていた。
開け放たれた窓から、秋隣の心地よい風が流れ込む。

窓際で椅子にすわり空へ向けた、人差し指と親指の間に挟まれるガラス玉を眺めた。
見ているといつか、別世界へと吸い込んでくれる気がする。

パチンッ

拍子に砕け散るガラス玉。
焦ったが、破片は粉となり消え無くなる。
同時に、何かが語りかけてきた。

「なんだろう どこの言葉だろう」

聞いたことがなかった。
けれど、何を伝えようとしているのかはすぐに感じ取れた。

胸がざわざわ騒ぐ。
噴出する、感情は留まらない。

蘇った。
その、記憶たち。

『巡る記憶の、いつかどこかで…』

17タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2008/12/28(日) 11:38:17
●思い息む

窓際で眼が覚めた。
椅子へ座った後の覚えは、まるでなかった。
けれどカサカサする頬だけは、何か知っている気がした。


窓から少しだけ身を乗り出し、晴れた青を見上げプカプカと一つだけ流れていく、小さな雲を目で追った。
追いかけた雲は、そのうちどこかへと消えてしまう。


消えてしまった雲があるはずの、空の隙間。
そこに何があるのかはわからないけれど、どうしても気になっていつまでも見続けた。





おわり。

18タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2008/12/28(日) 11:39:03
こんなんで、住人のみんなは許してくれるだろうか……
再考……

19名無しの宿泊客:2009/01/22(木) 12:07:41
いいじゃない。
せっかくなんだし本スレに投下すればいいのに。

20タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:31:06
●究極の力

あれからどのくらいが経ったのか、村を見てそれを実感することは出来ない。
でこぼこな焼け色のブロックで作られた、こじんまりの家にそれらをおうおうと取り囲む緑に濡れる木々。
高台から見下ろす外界は霞もせず透明に感ぜられ、肺に吸い込む新鮮な空気が口や喉と身体をも浄化してくれた。
なのに、目に焼きついているはずのそんな情緒溢れた景色はいまや、石とほこりと土煙に姿を変えてしまったのだ。
今のライフコッドは、廃れた家屋と潰れた通りがただ静かな音で在る、まるで経年の変化とは無縁の形相だ。
トルネコやネネ、メイにルビスを思い返しまずは気持ちを充実させようと思っていたが、何も思い出すことは出来なかった。

メルキドでの出来事。
ゴールデンゴーレムが立ち去った後、いくつかの亡骸を丁寧に埋葬した。
残念だけれど、ルビスとフーラル以外はよくわからない塊だったから、一つにまとめて。
最後にルビスを抱き上げたとき、ふと、奇妙な感情を憶えどうしようもなく悲しかった。
ここにまた、斃れてしまった人がいる。
そっと深く冷たく暗く、掘り下げたその場所へ身体を降ろし、自らの血液で固まるその髪を二つ三つ撫で話しかけた。

「俺に何か出来たろうか」

……ルビスの謡う声は、もう聞こえず。
残されたこの身は何をしてこうなったのか。
結局、教えてはもらえなかった。

21タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:31:41
何日かを荒れたライフコッドで過ごし、この間はまったく魔物と血を洗う戦いなどもなく、比較的平穏だった。
些細なことで、小さくため息のような言葉を吐けばそれがそのうち大きな思考となる以外は。
自分でして来たたくさんの事が果たして何の意味だったのだろうと、結局はその時点で行き詰まりとなる。
答えなどといったものは、初めから用意されていなかったように感じる。

「もしかすると、こうすることが決まっていたのかもしれない」
「ならば神であるルビスにもわかっていたはずだ」
「ではなぜ今、たった一人なのか。わかっていれば全部回避できたはずなのに」
「つまりは、誰もこうなることなどわかってなんかいなかった」
「俺は、今何の為にこうしているのか」

まるで解らなかった。
とうに理解を超えていたのだから畢竟、なにを導き出すこともない。

ある夜。
いつものように奇跡の剣を振るい石ころを蹴飛ばし地面を蹴り付け、身体を痛めつける。
常に身体を動かしこなれていなければ、持つ力に飲み込まれてしまいそうだからだ。
力に翻弄されてしまえば意思を保つことなど出来ず、気が付けばいつかは魔物に殺されるだろう。
ルビスに言われた"強くなれ"の言葉だけ、頑なに信じて疑わない。
そもそも、強ければ今の孤独など無かったはずなのだから。
強ければ今を打開出来るのではないかと、そう解釈もしている。
現状に失望しているはずなのに死にたくないと思う自分も可笑しい。
強くないのだから居なくても変わらないという思いも在る。
それだけならばただそこらの道へ身体を放り出し、強そうな魔物に出会うまで何もしなければいい。
そうすればいつかはこんな日々も終わるはずだけれど、そうする勇気も無かった。
いつでも心は、この二つの矛盾で苦しくなるから、何も考えない時間が必要だった。
つまり、日々の厳しい自己鍛錬で身体を動かしその間だけは忘れようとしている。

22タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:32:45
そんな風に変わらない気持ちで鍛錬しているつもりだった。
けれどこの日に限ってからっぽの気持ちを抱き、力はすんなりと思う通りとなり、抑える独特の震えに怯えることも無かった。
昨日までは鍛錬をしていても、どうしたって様々なことを考えていたというのに。
どうしても身体はこれまで以上にすいすいと動き、曇りなどなくなったように明るい。
だが、これで魔王に太刀打ちできるかと言えば、はっきり無理だろうと言える。
この幾日か、これ以上は強くなれないのではないかと考えていたが、ついにここが自分の限界なのかと悟ったその時──

「……やっと極めたな。我々はずっとお前を見つけ、起こるその瞬間を待っていた」

意識へと語りかけてきたソレが、どこからという間も無く身体へと流れ込んでくる。
どこにも気配や姿など見えず、卑怯なくらい一方的なソレが容赦なくチクチクと背中のほうへ刺し込む。
激しくもがき抵抗するも、ついにはとうとう、入られてしまった。

「なにものなんだ?!」
「案ずるな。我々はルビス様に仕える最後の精霊。
 お前の中にある"希望"を開放させるため、ここまで様々な地を探しお前を見つけた」
「何を探してどうして俺なんか」
「オリハルコン──
 どうしても必要な物だというのにお前は手放し深い暗闇へと堕ちた。
 まったくそれは鍵となるのだからどうしても手に入れなければ成らなかった。
 そのために仲間の精霊が二人も犠牲となったのだ」
「そのオリハルコンがどうだっていうんだ。手にして戦っていたって魔王には一切が通じやしなかった」
「オリハルコンはお前の中にある"希望"…… ルビス様の言う"真の力"を起こすために必要なのだ」

突如現われた声に、入り込んできた精霊達の言う言葉に、まったく嫌気が差す。
オリハルコンは真の力を発揮するのに必要なんだと、ルビスからはすでに聞いている。
だが真の力を発揮した結果は散々たるもので、結局メイを死なせルビスまでも土へ返してしまったではないか。
今更そんな事を言われてもまったく、聴く耳も持たない。

「お前達の言うことはルビスから何度も聞いているし、結果こうなっているじゃないか」
「あの時点で魔王がお前の元へ現われるなど、我々の予想出来なかった事なのだからそれはどうしようもない。
 お前はなにも、間違ったことなどしていないのだ。
 自分の限界を知った今、ようやくオリハルコンによって真の力を発揮できる本当の準備が出来たと言える」
「信じられないな。ここまで生き残りオリハルコンをどこからか見つけてくるくらいに強いお前達が、世界を救ったらどうなんだ」
「……それは出来ない。我々はすでにオリハルコンとの融合を終えルビス様の息のかかった者としか接触できない。
 実体はすでに無いのだ。剣を扱うことも魔法を使うことも出来ない。
 もし実体を保っていたとしても、真の力を秘めるお前にしかやはり、世界は救えないだろう」
「……お前達が今の俺に入れば真の力が発揮できると、そうなのか」
「そうだ。ただし、オリハルコンは使えない。状況が変わってしまったのだから併せて状態も変えなければならない。
 お前は、魔王の元へと赴き魔王の力を弱める必要がある。それが真の力を開放する条件でありお前のするべき仕事だ」
「じゃあ…… ルビスが強くなれといっていたのは、魔王の力を弱めるためだと。
 そうすれば隠された真の力が発揮できるのだと、そういう事なのか」
「その通りだ。お前がこれまで真の力だと考えていたのは不完全な、お前の感情に反応するオリハルコンの特性から無理に引き出された、中途半端な力だ。
 ルビス様はお前の気を削ぎたくないと、伝えてはいないようだが。
 さあ、我らを連れて進むのだ。お前の今の力で十分、真の力を解放する可能性は残されている」

これが限界で明らかに魔王になど立ち向かえないというのに、それでも真の力が発揮されるという。
これ以上どうしようもないというのに、俺は最早その時になると別の生命体にでもなるというのだろうか。
それでも、俺にはなにも見えていないから、精霊達に従って動くしか先が無い。
だが、進み始める前に確かめておきたいことがあった。

「……わかった。いう通り魔王の元へいく努力をしよう。
 だが解るなら教えて欲しい。どうして俺がここにいるのかを」

23タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:34:33
● 存在

こんな事どうでもいいと思い始めていたが、この精霊達──
きっと知っているだろうと思い、どうしても聞きたくなった。

「ルビス様から何も聞いていないのか」
「聞く前に、ルビスは死んだんだ」
「ふむ…… では教えよう。だが聞いたからといってお前の今後は一つしかないということを忘れないでもらいたい」
「それはわかっている。ただ俺は、何も知らず終わるのが嫌なだけだから」
「わかった。まずお前は、この世界の人間ではない。これは解っていると思うが、お前が聞きたいのはなぜお前だったかという事なのだろう。
 結論から言うと、お前は偶然選ばれたに過ぎない」

今更、この世界に居るという事にショックなど受けはしないが、偶然だと言われるのはいい気がしない。
それを精霊に咎めると"お前であったのは今にして思えば必然だったのだろう"と、一応補足してくれた。

「魔王がいのちの源を自身の力に変えているというのは、知っているか」
「あ、ああ。以前にルビスから聞いた」
「いのちの源は輪になっている。始まりと終わりはそうして繋がり常に循環している。
 魔王は、例えるならば終わりだけを切り離し自らの力へ取り込むことに成功した。
 邪神の像という禍々しい像によってだが二つ目の世界の物であり、魔王がどうやって手に入れたのかは解っていない。
 そこからいのちの源の均等が乱れ、神々が九つ目の世界を創るときお前の世界のいのちの源と一瞬だけ繋がってしまった。
 その影響で受け引きずり込まれたのが、お前だ。
 これはいのちの源が、別の次元のいのちの源へ出した助けだとも考えられる。
 その時点ではまだ神々に魔王の存在も輪の乱れもわかってはいなかった。
 世界はいのちの源を元に創られるから、魔王に邪魔された状態では不安定な九つ目の世界しか創る事が出来なかった。
 それがこの、今居る世界だ。ここは神々の意図する新たな世界ではなく、過去全ての世界が混在した世界になっている。
 本来なら不完全な世界は破壊し、新たに創り直すのだがそれすらも出来ない。
 この事について神々は疑問を抱き調査し、ようやく魔王と乱れを知った時にはすでに手遅れだったのだ」

話を中断させ深呼吸し、混乱した頭の中を整理した。
理解しがたいが、ルビスの遣いである精霊達の言葉だから間違いないのだろう。
今居るここは失敗作で、俺はルビスに連れてこられたと思っていたが実際は違ったのだ。
ルビスではなく神々であり、いのちの源とやらが引きずり込んだ。

「……手遅れだと知り悲観する神々の目に、漂うお前の姿が映った。
 お前は、お前の世界とこの世界との間をおよそ数百年を魂となり漂っていた。
 お前たちの世界では一瞬なのだが、こちらの世界とは時間の流れが違うから気に病むことは無い。
 漂うお前に神々は驚き、その原因を先ほど話したように推測した。
 そして、お前がこの世界の人間とは構造が違うことも発見した。
 基本は同じだが、秘める潜在能力と記憶に違いがある。そこに神々は目をつけ、お前の世界では使われない精神空間へ希望を閉じ込めることに成功した。
 その希望こそが真の力。だからルビス様はお前を守り、お前に真の力を解放できるように強くなれといった」
「……その、閉じ込められた真の力とはいったいなんだ」
「それは我々精霊にはわからない。ただ、魔王の力を弱める── 邪神の像を破壊するくらいにお前は強くならなければいけない。
 そうしなければ魔王はいつまでも永遠に力を弱めることが無いからだ。
 それが神々がお前に与えた肉体の限界でもある」
「なぜ── もっと強い力と身体を俺に与えない。そうすればこんなに面倒なことをすることなく、魔王を倒せるだろう」
「それは、出来なかった。そこまで行くと神々を越える力となってしまうし、それに準ずる力を与えることはいのちの源の意思に反する。
 稀な身体能力も与えてあるが、自らの力で限界まで高めなければ精神力までは身に付かない。
 我々がわかっているのはここまでだ。全ては神々といのちの源がお前に閉じ込めた、真の力の解放にかかっている」

24タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:35:32
なんとも勝手な話だが、俺はここまで結局のところ神々の思うように動かされている。
当初の目論見とは違ったのだろうが、それでも決められた終着点へと近付いている。
ここまでで俺がどうしてこの世界へ入り込んでしまったのかが解った。
解ったところでやっぱり、どうにもならないしこれ以上難しい話を聞いてもたぶん理解など出来ないだろう。
精霊達もここまでしか解らないというのだから、この話は終わらせることにして気にかかっていることを聞くことにした。

「魔王を倒したら、それでどうなるんだ」
「この世界は破壊が始まり、この世界と繋がる別の世界も全てが何もない状態になる。
 いのちの源によって何百何千何万年かかるかはわからないが、徐々に修復され記憶に従い九つ目を創る前まで戻るだろう。
 神も全ての生物も、全てが元の通りになるわけだ。ただし、魔王の存在はあるべき形へと修正される」
「俺は」
「お前については…… どうなるかわからないのだ。
 神々の見解ではおそらく、元の世界へ戻るであろうと聞いているが果たして──」

何の感情も起こらなかった。
意味は何度も、これまで幾度と無く口の中で繰り返した言葉。

「帰れないかもしれない──」

そんな言葉自体が存在しているのかどうかすら、危うく受け止める。
繰り返し反芻し、やがて実感としてこみ上げるまでの間、まったく表情一つ変わっていなかったに違いない。
現実味を帯びないとはまったく、こういう事なんだろう。
これが答えなんだと気付くと今度は笑いがこみ上げてくる。
ずいぶんと久しぶりの、大笑いだった。
笑うしかないとは、よくいったものだ。

「お前が何を笑っているのかはわからないが──」

精霊達の言葉を遮るように、はぁと笑いを止め声高に言った。

「わかってる。わかってるよ。
 やらなきゃならない事はよく、わかってる。
 少し落ち着いたら出発しよう」

無理に落ち着かせているように見えたに違いない。
だが実際、大笑いのおかげで随分と落ち着きを取り戻していた。
ここまで持ってきた不安は、笑いと共に瓦礫にした気になれた。

「これでいいのだろう。こうする事が俺にとってもみんなにとっても、残された手段なのだろう。
 やるだけやって、それから考えればいいんだろう」

精霊達の出現と会話ですっかり落ち込んでいた心を取り持ち、ようやく道が見えてきたように感じる。

「我々はこれよりお前の深い場所へオリハルコンと共に沈み込み、魔王の弱った瞬間をもって真の力を解放することとなる」
「なんだ。お前達はずっと話し相手になってくれるわけじゃないのか」
「真の力の解放は、神々が考える瞬間では無くなってしまった。それに加え魔王の力も日々増大し弱った瞬間とはいえ影響を受けるだろう。
 時を確実にするため我々の残る力を振り絞り開放させなければならない」
「という事はまた俺一人で魔王の城を探さなきゃならんというのか……」
「いいや。お前が居座っていた場所に城は隠されている。そこでマジャスティスを発動させれば良い」
「マジャスティス……! だが、俺に魔法は扱えない……」
「考える必要は無い。対策はルビス様がすでに講じてくださっている。
 とにかくまず、その場所へと向かうのだ」
「行けばいいわけだな、その場所へ。じゃあ早速行くが、お前達はいついなくなるんだ」
「今すぐだ。こうして会話をすること自体が消耗するものだからな。
 いいか。まずは城を暴くのだ。その後なんとしても魔王の元まで行き、邪神の像を破壊しろ」
「しかし俺はその邪心の像とやらを知らないが」
「行けばすぐわかるだろう。お前の目に映る禍々しい像がそれそのものなのだから」
「わかった。とにかく像を破壊すればその先はどうにかなるってことだな」
「では、我々はこれより深に潜む。未来はお前に任せたぞ……──」

精霊達の言葉は聞こえなくなり自分の心の鼓動だけになる。
ここから、あの幾度も戦い続けた魔物の巣食う谷底へ向かうのだ。
魔物などは何も恐ろしくなど無い。
今となっては何が来ようとも負ける気などはしない。

「行って、さっさと終わらせるかな。とにかくやらなきゃ何も終わりやしない」

荷物は奇跡の剣と旅人の服だけ。
身軽さと戦いやすさを追求していくと自然にこうなる。
剣をヒュンと振り、全てを終わらせるためライフコッドの奥を抜け谷底へと向かった。

25タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:36:37
● マジャスティス

一日かけて辿り着いた先には、なんの違和感も無く巨大な崖がそびえている。
それを下から眺めているわけだが、根拠があってこの場所を選んだわけではなかった。
他と比べ魔物が多量に現われるから、鬱憤晴らしの為だけにあの時は居座っていただけだ。
再び来てもやはり変わりは無く、魔物の激しい攻撃に晒されるだけだった。

「ここが本当に城の入り口なのか……!」

ぎゃあぎゃあと襲い来る魔物を斬り払いながら、講じられたというマジャスティスを待つ。
そうやって数十分を跳びまわり、すっかり場所を間違ってしまったかと思う頃、周りの雰囲気が怪しくなる。

「この気配。邪悪ではないがなんともいえない……」

最後の一匹へ剣を突き刺し止めを刺した瞬間、すぐ隣の空間が歪みぼんやりとした青い人形が現われる。
敵か味方かもわからず剣は構えたまま、そのぼんやりがはっきりするまで待った。

「……タ……カハ……」

どうも、そのぼんやりはゆっくり蠢きながら"タカハシ"と名前を呼んでいるようだった。
しかし魔物の罠かも知れず、まだ油断は出来ない。

「タカハシ…… 俺だ…………」

聞き覚えのある声に、姿形がはっきりとしてくる。
まさかと思い、ここにきて身体がブルッと一つ、震えた。

「テリー!」
「ああ。タカハシ、久しぶりだ」

ぼんやりとしているけれどそれは紛れも無くテリー。
こんな世界でどうしているのかと思えば、こうして目の前に現われる。
これまでどこに隠れていたんだと、どうやってここにきたんだと、無事だったのかと、たくさんの思いが溢れそうになる。

「すまん、タカハシ。俺もよくはわからずここにいるんだが、まず話させてくれ。
 俺はルビス様にお前のことを聞いたんだ。そしてお前が眠っている間に静寂の玉をよくわからない場所へ収めてきた。
 そうして今、お前がここにいる…… 俺は成功したんだな」
「そうだったのか…… 俺は無事戻ってそれからいろいろあって…… 今、簡単には話せそうも無いが、再会できて嬉しいよ」
「いろいろは、落ち着いたら話そうじゃないか。しかしどうやら俺はとんでもない場所へ現われたみたいだな。
 なんで俺がここにいるのかタカハシ。お前知っているか」
「ああ。俺はこの崖に掛けるマジャスティスを待っていたんだ。
 そうしたらテリーが現われた。もしかして、マジャスティスを使えるのか」

ぼんやりしたテリーが肯き、巨大な崖に向かって両の手を上げる。
しばらくの間を共に行動し戦ってきた友だけに、必要な事など言葉少なくとも伝わった。
ごうごうと魔物が再び襲い来る中で永い詠唱を始める。

「タカハシ、すまん! マジャスティスは詠唱が長い。魔物を任せたい!」

次々と襲う魔物相手に奇跡の剣を最大限に払い、魔物をドサバサと倒していく。
その間、詠唱の合間にテリーが話しかけた。

「単身修行の最中、カルベローナという寂れた町へ行ったんだ。そうしたらそこの長が、お前たちのことを話すじゃないか」

テリーへ食指を動かす魔物をバサリと切る。
が、魔物が触れたテリーは霧のようにフワフワとするばかりで、ぼんやりのままだった。
それは、この場所に実体が無いことを示していた。

「そこで、お前たちが探しているというこのマジャスティスの事を聞いたんだ。それから俺は、必死で探したよ。
 もしかしたらお前たちが既に見つけているかもしれないのにな。その時は何も考えなかった。
 で、いつかは忘れたがやっとの事で小さな盗賊団を見つけ、聞き込んだら持っていたというわけだ」

ここで魔物が途切れる。
一先ずは終わったようだ。

「もう少しで発動する。お前を探して姉を探して……
 メイという娘は残念だったな…… いまさらだろうが、あまり気に病むんじゃないぞ」
「ありがとう。大丈夫だよ。吹っ切れたんだ、いろいろあって。
 城が見えたら一緒に行こうじゃないか。約束した通り、一緒に魔王を倒そう!」
「ああ…… いくぞ……!」

テリーの身体からが、手の先から、青と白の輝く光が発せられる。
やがて眩しく一点へ集まり少しの間ぎゅうぎゅうとなった後、魔法名を叫ぶ。

「いくぞ…… マジャスティス!!」

26タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:37:46
崖へ放たれた魔法が大きな網となりその一体を覆い隠し、ひゅんひゅんと音を立てながら見えない何かを剥ぎ取っていく。
テリーはその間物も言わずただ両手を挙げ集中している。
やがて青白がざあっと引き離された後に、居を構える探し続けた城が姿を現した。
洋風の複雑な出で立ちは見るものを圧倒しその不気味さはこの世の物とは思えない。
魔王に似つかわしい、邪悪な城だった。

「恐ろしいな……」

思わずこぼれる平凡な意見は、まったく当たり前だった。
正面には巨大な門が待ち構え、簡単には侵入出来そうにも無い。
さすがに少しばかり後ろへ下がりたくなったが、こうして現れた以上は進まなければならない。
終わりはもう、すぐ目の前にあるのだから。

テリーは詠唱を終え、少しばかり疲れていた。
肩を落とし安心しているようにも見える。

「ふぅ。この魔法はこれまで一回しか練習したことが無いんだ。
 うまくいって良かったよ。これで俺の役目は終わりだな」
「何言ってるんだ。これから一緒に入って魔王を倒すんだよ」
「いいや。悪いがそれは出来そうも無いんだ」

そういうテリーの身体は、ぼんやりが更に薄くなり始めている。
ゆっくりと、それでも急速に透明な空気に混ざり込んでいくかのように。

「おい。嘘だろう。せっかく再会できたのに、これから一緒に戦うんだろう!」
「俺もそうしたいさ。だがどうやらこれが、俺の役目だったんだな。肉体がないのもそのためだろう。
 ルビス様に頂いた最後の力ってのは、この事も含んでいたんだな。力も無くなりつつある……」
「待ってくれ! まだ話が!」
「会えて良かったよ…… 時が来ればまたその時に……──」

すぅーっと、青い凛とした色が消えてなくなる。
魔物の気配も音も匂いも無く、地鳴りのような大気の咆哮だけが身体を揺らす。
話したいことは山ほど在った。
聞きたいこともうんと在った。
だがもう、叶わない。
そうするべき相手は、この暗い空気と混ざって消えてしまったのだから。
結局、束の間の喜びはやはり束の間で、目の前を覆う忌々しい城と全ての元凶である魔王を打ち倒す事だけが、残っていた。

27タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:38:48
● 魔王の失敗

マジャスティスによって暴かれた魔王の城は、たった二色で説明できる。
黒と白── その二色でのみ構成されていた。
複雑な外観も巨大な門も全てが白黒で、これが闇夜であったならまず見つけることは不可能だろう。
それというのも全体の黒が、大気中の明るさによってその輪郭のみを白く浮き立たせていたからだ。
崖にみせかけ暴かれてもなお、ひっそりと堂々と目付かないよう注意された建物。
それがこの魔王の城だった。

門へ手を掛けるとぞわぞわとした、大量の魔物の気配が感じられる。
おそらくここを開ければ城周辺にいた魔物全てが集まっていることだろう。
奇跡の剣を握りなおし一つ二つ腹へ力を込める。
大変な力が必要だろうと思っていた門は、あっけなく雲をおすように軽くぎぎぎと口を開ける。
開いた口へ頭をぐいと突っ込むとやはり、大量の魔物が息を殺し待っていた。
門の間がいったいなんなのかわからないくらいにひしめき合い、俺の姿を確認したというのにまだ動かない。
奇跡の剣をさっと構え、お互いの切っ掛けを待っている。

「ゆけ! お前たち!」

大小のびっしりとした黒い塊がどこからか聞こえた声に反応し、叫びとも囁きともとれない音をたてながら一斉に襲ってくる。
数は数十、数百か──
もうとにかく目に付く魔物を間髪いれず、ほぼその場に足止めされた状態で倒し続けた。
ガスガスゴツゴツとした音とともに魔物が、目の前後ろ左右にばったり倒れていく。
倒れたそばから屍を乗り越え新たな魔物が襲い掛かる。
その魔物を倒しているうちに、先に倒れた魔物がきらきらと消えていく。
そうして床が見えたところへ再び、大小の黒い魔物が俺へと跳びかかる。
そんなことを繰り返しわかった事は、床が赤だということだけだった。

やがて、床の赤が目立って見えるようになり、魔物の数も急激に減ってくる。
俺もここまで戦ってきてそれなりに戦い方も解っている。
一振りで一匹を相手にしていたのでは、この場合分が悪い。
一振りに続けてもう一太刀、二太刀と続けるのだ。
そうなると必然的に跳ねる事となり強く踏ん張ることが出来ないから、一撃で仕留められない魔物が出てくる。
辛うじた魔物がやっと立ち上がり、別の方向を向いた俺の身体へ武器を打ち付けてくる。
ほぼ囲まれている状態だから、手が間に合わずどうしても全部は避けられない。
奇跡の剣で回復しながらだというのに、そうしたせいで傷は無くならなかった。
個々の魔物自体はどうという事も無いのだが、こうやってまとめて無秩序にこられるとさすがに狼狽する。

「ベギラゴンがあれば」

メイのとの連携を思い出し悔やむが、悔やんだところでどうしようもない。
ざわざわとする魔物たちを一心不乱になぎ倒す。
中には手ごわいモノもいて魔法を使って攻撃をしたりする。
そういうやつから真っ先に倒していった。
奥に居る場合は前列の魔物を踏み越えていくものだから、踏まれたほうは堪らないだろう。
なにせ一斉に踏んだ本人めがけ大勢の魔物が攻撃してくるのだ。
足元の魔物も巻き添えを食って同士討ちにあう。
そうやって徐々にごわごわする魔物たちを斬り払っていき、ようやく門の向こう側をなんの邪魔者も無く見渡すことが出来た。
そこは箱のような広間で、いくつかの扉しか目立つものが無い。
戦いで必死だったため気付かなかったが、ランタンのようなものが無数に天井や壁に設置され城内は明るい。
ここでもやはり壁は黒く、白の変わりに床が赤になっている。
その赤に目がなれた頃、床の一部がゆっくり持ち上がり床色をした鎧の魔物が姿を現した。

「私の名はサタンジェネラル。ただ一人残った魔王様の側近だ。
 お前たち人間のしぶとさ、とくと見させてもらった」
「残る一人か。まぁ、俺は側近がいくつ居るかなんて知らなかったが」
「お前は強い。城内の魔物は全て今倒されてしまった。おそらく私も一つで殺されてしまうのだろう。
 だが、魔王様の命のため向かわなければならぬ」

28タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:39:43
サタンジェネラルが長い矛を向け、突進してくる。
側近だというからには並みの魔物とは違うのだろうがそれでも、あっさりとした最後を迎える。
先ほどの戦いですっかり身体の温まった俺の動きに、サタンジェネラルはどうしてもついていけない。
がおんと、重たい金属同士のぶつかる音とともに、魔物の胴が大きく欠けた。

「ぐッ…… お前を生かしておいたのは、魔王様の失敗であると…… 今ならはっきり……」

サタンジェネラルの言った意味はわからないが、かまけている時間は無い。
あの扉を進めばきっと魔王がいて何もかもが終わる。
少し疲労はしたが、身体の傷はたいした事の無い掠り傷のようなものだ。
迷いなどはとうに捨て、奥へと続くであろう正面の扉をくぐり足早に階段を駆け上がった。

29タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:40:22
● 対峙

扉の奥にある真っ直ぐで不気味なレリーフの階段を、何段駆け上っただろう。
果たして本当に終わりがあるのかさえわからなくなるほど、長い距離と時間を駆けている。
先が真っ暗で何も見えないせいもあるとは思うが、実際にはたいした間ではなかったのかもしれない。

ついに、ここで答えが出る。
この世界へ来てずっと、この瞬間の為に暮らし戦ってきた。
随分と年も重ねた気がするし、考え方もすっかり変わった。
トルネコと一緒の旅は、とにかく勉強の連続であのまま商人になってしまうのではと本気で考えたし、世界についてたくさん学んだ。
ネネというトルネコ最愛の人にも会い、勇者という重たい重圧の中、その事を表には出さないが時々ふと見せる表情が、今も忘れられない。
暖かく俺を見守ってくれた、この世界での親みたいなものだった。
テリーとは戦い三昧の旅をした。
こうしてここに居られるのは、あの時に教えてもらった実践的な戦いのおかげだ。
年の近い友達と本気の旅は本当に愉快で面白く、ここにきてのマジャスティスにはとにかく驚かされた。
メイとは…… 一番長く旅をした。
女の子と旅をするなんて考えもしなかったけど、とにかく頭が良くて明るくて俺を元気にしてくれた。
魔法の素晴らしさも教えてもらい、ふとした事の楽しさまでも教えられた。
それは恐らく、俺の気持ちのせいなのだけれど、そうした全部は魔王によって──

良くない気持ちは、持たなかった。
魔王を倒せば全ては元の通りになるという、精霊達の言葉があったからだ。
トルネコもテリーもルビスも、メイだって──
俺がうまくやればみんながまた元の、平穏な暮らしに戻ることが出来るのだと考えると、一気に気力が充実してくる。
俺も全く帰れないというわけではないらしいから、とにかくやるしかなかった。

真っ直ぐ伸びる終わりの無い階段だと思ったが、そのうち目の前にぽっかりとした穴があいた、奥の間へと続く入り口を見つけた。

「まるで空気が違う──」

これまでとは明らかに違った気配と、べとつく様なべったりとした圧迫感。
始めて魔王と対峙した時とは別格だった。
あれから魔王は、相当に強大に成ったとも言える。

ここまで来たんだ。
もう何も、考えたって仕方が無い。
出来る全てを魔王にぶつければいい。

入り口をくぐるとこれまでと違う、闇が広がっている。
じわりと、一歩を踏み出したその時──

「我が元へ、よくぞきた。待ち侘びたぞ」

魔王の声とともにボボッと明かりが灯され目の前を真っ直ぐと照らし出す。
その先に、魔王── ゾーマの姿を見た。

「さあ。ここまで来るがよい。
 ここまできて細工など何も無い」

30タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:41:07
魔王に誘われるがまま、一歩、また一歩と真っ直ぐ歩いていく。
心臓は不思議なくらい平時の鼓動を刻み、身体のどこにも余計な力など入りはしない。
驚くほどに冷静でいられる。

「ふむ。ここまで相当に鍛えたようだな。
 貴様の雰囲気は、あの時とはまるで違う。
 あの娘をお前が殺してしまった時とはな……」

挑発しているのか、魔王が口にした言葉。
一瞬、剣を握る手に力を込めるが、それではいけない。
ここで気負いしてしまっては魔王の思う壺だ。

「なるほど。精神力も高めてきているな。
 では早速、望むとおりの決着をつけようではないか。
 もちろん、私の望む決着だがな」

玉座の魔王から一気に禍々しい波動が飛び散り、ざっと目の前へ降り立つ。
その自身に満ちた態度と表情は、俺の自信など簡単に捻じ曲げてみせるといわんばかりだ。

いよいよ、最後の戦いが始まる。
俺にどこまで出来るだろうか。
どちらにせよ、とにかく邪神の像を破壊しなくてはならない。
そうしなければ真の力を発揮できず、到底勝利など出来はしない。
魔王に注意しつつ周りを見渡す。
だが予想に反して、禍々しい気配の像がいくつも並べられている。
いくつもあるとは聞いていないから、恐らくはどれかが本物なのだろう。
ここにきて最悪の状態なのではないかといった思いが頭をよぎる。

「こないのか。では私から力を見せてやろう!」

広げられた魔王の手から強烈な波動が襲い掛かる。
とっさに剣を盾にするが、衝撃は身体を通り抜け確実に内側へとダメージを与えられてしまう。

「くそっ!」

渾身の力で奇跡の剣を振るい、魔王へ斬りかかる。
ざくっとした感触と共に、魔王の身体へ小さな斬り傷が出来た。
魔王は防御などせず、立ち尽くし俺の剣を受けていた。

「ほう。なかなか…… 力を付けた様だ。
 本気を出せ! 粉になるほど無数に刻んでやろう!」

魔王の爪がごうと襲い来る。
どうにかかわし、剣を振るうがもう片方の手で受け止められる。
すぐさま後退し、今度は太刀筋を変え斬る。
手ごたえはあるが、全く魔王に怯む様子が無い。
追う様に発する波動に身体が一瞬動きを止める。
奇跡の剣のおかげで回復できるとはいえ、これを続けざまに喰らってはさすがにもたない。
隙を与えないため剣を衝きたてるがこれもかわされてしまう。
流れるように二の太刀と体を動かし切先を当てる。
と── ほぼ同時に魔王の豪腕に激しくなぎ倒されてしまった。
あまりの衝撃に、身体のあちこちが悲鳴を上げる。

「う…… ここまでとは……」

魔王があざ笑う。

「しょせん、お前たちなどこの程度なのだ。
 ルビスの最大限の力をもってして、この姿。
 今の私に叶うわけも無い。私には世界の力があるのだからな!」

俺は悟った。
まともに戦ったのでは確実に殺される。
そもそも、戦ってはいけなかった。
像を破壊するだけでよかった── はずなのに。
まるでこちらの考えを読んでいるかのようにたくさん並べられた邪心の像。
どれが正解なのかはわからないが、とにかく破壊していくしかない。
だがその隙を全く見せない魔王ゾーマ。
俺にはどうしていいのかがまったくわからず、ただなすすべも無く──

31タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:42:36
● 本物の像

懸命だった。
そうに違いなかったはずだ。
俺は今、全力を注ぎ込んでいるはずだ。

「貴様はよくやっている。
 私の攻撃にもう数時間ほど耐えているではないか。褒めてやろう!」

左手がぐしゃりと嫌な音を立て、自由が利かなくなる。
魔王に握りつぶされたのだ。
なぎ倒されてからこれまでずっと、こうして痛めつけられるだけだった。

「ぐあ……! あ……!」

どうする事も出来なかった。
邪神の像と思われる物は偶然を装い派手に吹っ飛び、既に三つほど破壊している。
だが魔王はまったく焦る事も無く堂々としているし、真の力といったものも発揮されていない。
像はまだ六つもある。
全部を吹き飛ばされる度に破壊していたのでは、到底身が持たない。
疲労も傷も、限界を迎えようとしている。
左手も両の足も、深く傷つきまともには動かせない。
よろよろと立ち上がり、残った右手で剣を構えた。

「そろそろ、私も忙しい身でな。
 これから新たに邪悪な世界を九つ創らねばならない」

魔王の手によって首をつかまれ高々と持ち上げられる。
剣を握る無傷の右手は、魔王の余裕の表れだったのだろう。

もう、終わりだ。
俺の力では、足りなかったんだ。
神々の見込み違いだったという事か……

「フフフ…… あの娘の元へ送ってやろう。我が体内で我が力となるがいい!」

メイの顔が頭をかすめ、腕が条件反射的に動き剣を魔王の腹へ深々と突き刺していた。
魔王の呻きと同時に床へ叩き付けられ、ずるずると引き摺ったのち、壁にぶつかりぐったりとそのままになる。

「ちっ…… もう動けぬ身でやってくれたな。油断したがこの程度の傷、邪神の像を使えば一瞬で治癒できる。
 足掻いても無駄だと、いい加減悟ったほうが安らかに死ねるというものだ」

魔王がゆっくり近付いてくる。
俺はだが、その視線の先に気付いた。
魔王は治癒しようと邪神の像に向かうと言ったのだから、進む先には……
もうろうとする頭でどうにか身を返すと、そこに一体の像があった。
見ただけでは判別できなかったが、間近で感じるこの像の邪悪さは他を圧倒していた。
本物はこれだったのだ。
すぐ目の前にある、俺の破壊すべき目標。
だが剣は叩き付けられた際に手放し、はるか向こうに放り投げられている。
素手ではとても破壊する事など出来ない。

「そうだ。それが貴様の探していた邪神の像だ。気付いていたよ。
 なにしろ貴様は、わざと大袈裟に像へぶつかっていた。
 滑稽だな。私はわかっていて二度三度と貴様を像の近くへ投げたのだからな」
「そう、だったのか。
 じゃあ俺は、完全に遊ばれていたということだ。
 最初から、こうして殺されるために何度も転がされたのか」
「ようやくまともに喋ったか。その通りだ。
 貴様は私の積年の怒りをぶつける対象でしかなかった。
 完全な力で完璧に圧倒されるためだけに、ノコノコ私の前に姿を現した。
 決まっていたのだよ、こうなる事はすでに──」

突然、胸に激痛が走る。
魔王の攻撃かと思ったが一瞬見えたその表情は、何か別なものに驚いていた。
あまりの痛みに気を失いかける間際、すぐ目の前が真っ白な光に包まれ、真っ直ぐな光が像を貫いた。
陶器ではない、別の激しい音をがらがらさせながら崩れる邪心の像。
胸から飛び出した真っ直ぐな光はやがて四方へ散り、何かへ形を変えてゆく。
身体も気力も全てが尽き、ここへきてどういうわけか何かが起こった。
この現象が真の力なのだとしたら、これからどうなるというのだろう。
俺は痛みのなかやがて気を失い、何が起こったのかを考える事も出来なくなった。

32タカハシ ◆2yD2HI9qc.:2009/03/23(月) 13:43:22
● 魔王の最後

誰かに揺られ、はっと目を覚ます。
痛みはだいぶ無くなり、身体の感覚もさっきよりはだいぶ回復している。
だが目が、まるではっきり見えなかった。

「大丈夫かい。ベホマをかけたのだけれど、ここまでしか回復させてあげられなかった」
「だ、だれだ。目が、見えない」
「目が見えないのは僕達が開放される瞬間の激しい痛みの後遺症だと思う。
 それは時間がたてば治るから、君はここにいて」

誰だかわからないが、たくさんの人間の気配を感じる。
剣のぶつかる音や魔法が発生する音に肉を切り裂く音、そういった衝撃音と誰かの会話だけが今得られる情報だった。

「よし! このまま一気に!」
「待つんだ、まだ足りない!」
「ガアアア! 貴様ら、邪魔をするな!!」

視力がようやくはっきりとしてくる。
最初に見えたのは魔王だ。
だが、最後に見た魔王とはまるで違う、すっかり老いてしまいボロボロになっている姿だ。
その周りを囲う、傷付きながらも果敢に攻める八人──
見たことも無い戦い方と剣技を使い、強力であろう魔法を使い、完璧であろう補助と回復魔法を駆使し、確実に魔王を追い詰めている。
これが真の力の正体だったというのか。

「ゾーマ! お前の栄華もここまでだ!」

鎧の男が、オリハルコンの剣を構え怒鳴っていた。
どうやらあの男は魔王を知っているように見える。
ルビスは、三つ目の世界で魔王が思念になったと言っていた。
そうなると鎧の男は三つ目の世界の人間だという事がわかる。
他の人間はどうなのだろうか。
考えているうちに強力な剣技と巨大な雷が魔王を直撃し、ついに魔王が両膝をつき呻く。

「ぐう…… 私は、力を取り込む毎に世界の成り立ちを知った。
 ついに世界の記憶を知ったとき、わが運命も決まったかに思えた。
 闇は光に倒さなければならず、お互いはそれだけの理由で存在する。
 無意味にも思える関係の循環。それをまず、破壊するべきだと考えた。
 絶大な命の力を持つ源を断ち切れば、もしやと……
 だが、叶わなかったようだ」

魔王が鎧の男へ静かに語る。
俺は他の人間同様、ただ聞いているだけしかなかった。

「お前がなぜそういった考えを持つのか、神々からこの使命を与えられた時から疑問に思っていた。
 だが、彼から見えたお前を見るうち、おぼろげながらわかった気がした」
「貴様に同情されるようでは私も堕ちたものだ。
 もう何も言うまい。これから貴様らをどうしても倒すなど、出来はしないのだからな。
 早々に形をつけるがいい。だが忘れるな。私は秩序などといったものに関係せず、また力を蓄え戻ってくるだろう」
「そのときはまた、我々が全力を持ってお前を倒してみせる」
「好きにするがいい。この世界では我々邪悪な存在であろうと決して、存在を消されなどしないのだからな……」

ざっと、オリハルコンによって刎ねられる魔王の首。
あっけなく、求めてきた瞬間が知らない人間の手によって終わってしまう。

「終わったな。みんな済まない。俺の世界がこんなにも全てをダメにしてしまった」
「気にしないでよ。僕も皆も気にしてないんだよ」
「神々も言っていただろう。とにかく我々の仕事も終わった」
「手ごわかったが…… 魔王の知らない技もあったからどうにかなったようだな」
「魔王にしてみたら抵抗も出来ずこっちが逆に、恐ろしく感じたろうなぁ」


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