したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

リョナな長文リレー小説 第2話-2

753名無しさん:2020/05/24(日) 15:29:15 ID:???
◇◇◇◇◇◇

「……ねえねえリザちゃん。王様が言ってた、リザちゃんが知ってる人って誰のことだと思う?」
「別に、誰でもいい……誰が来ようと、私のやることに変わりはない」

……トーメント王は勿体つけていたが、リザにも察しはついていた。
そもそもリザが知っている人物自体そう多くないし、その中で『遊撃部隊』に選ばれるだけの実力者。
更に、王が選んだメンバーとなると……心当たりは一人、あの狂った殺人鬼しかいない。

「ふふふ。王様はそのつもりかもしれないけど……別の可能性も考えられない?
運命って、意外とちょっとした事で変わるものなんだよ。
例えば………」

「っていうか、遅ぇなぁ。ヴァイスはいつになったら来るんだよ、ったく……」
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「あれ?……おいおいエミリアちゃん。なんで君がここに?」
「エミリア!?……傷だらけじゃない。一体何があったの!?」
「ヴァイスは……あの人は、ここには来ません。私が倒しましたから……
…王様、そしてリザちゃん。……代わりに私を、『遊撃部隊』のメンバーに加えてください!」

「……確率で言ったら、10%にも満たないけど……こういう事だって起こりうるの。
私としても、きったないオジサンよりは女の子の方がいいし……」

ヴァイスを倒したというエミリアは、下半身が血まみれ。
そして肩には、大ぶりなナイフが深々と突き刺さっていた。
一体何があったというのか。想像はつくが、想像したくない。

「……あの殺人鬼じゃなくて、エミリアがメンバーに?………?」
「そう……あくまで、これは可能性。だけど今なら、私の能力で、好きな方を選ぶ事ができる。
リザちゃんは……どっちがいいかな?」

「………そんな………エミリア、ボロボロじゃない。この後すぐ戦場に行くのに、こんな状態で、なんて……」
「…平気、だよ。リザちゃんのためなら。…それに、しばらくすれば魔力も回復して、治療できるし……」
「ふふふ。けなげねえ……戦力的には足手まといでも、イザってとき盾くらいには使えそうじゃない?」

「……待って。……やっぱり、ダメだよ。こんなの」
「……リザ…ちゃん……?」
「あら。この可能性は要らない?」

「…こんな状態のエミリアを、戦場に連れていけるわけないでしょ。
それに………もうこれ以上、エミリアを戦いに巻き込みたくない。
ガラドの……エミリアの故郷の人たちも、敵になるかもしれないのに」
「……そんなの、とっくに覚悟してるよ。
私はそれでも、リザちゃんの力になりたい。だから。お願い………!!」

(何より………戦場で、これから私は、たくさん殺す。人も魔物も、手当たり次第に…
そんな姿を……エミリアにだけは、見せたくない)

「リザちゃん!!」
「さあリザちゃん。貴女なら、どっちを選ぶ?
その仲良しの子を戦場に連れていくか。……それとも、汚らしい殺人鬼の方がお好み?
……ふふふふ……」

◆◆◆◆◆◆

754名無しさん:2020/06/08(月) 03:06:37 ID:TcsuKX4Q
「……あの殺人鬼とエミリアなら……エミリアの方が大事に決まってる……」

「あははっ! そうだよね、リザちゃん。だっていまエミリアちゃんを選ばないと、彼女は死んじゃうんだもん」

「……えっ?今なんて……」

「なんでもないよ。じゃあこれで運命を確定させちゃうね!」

リザの感じる柑橘系の香りが強くなる。
その香りに一瞬まどろんだリザが目を開けると、王の前でエミリアが倒れていた。



「はぁ……仕方無いな。ヴァイスがいないんなら代わりにエミリアたんにするか。リザもそれでいいんだよな?」

「……え? あ……」

「? なに惚けてるんだよ。俺様は同じ話をするのは嫌いだぞ。お前可愛いから許すけど、エミリアたんをお前の遊撃部隊に組み込むけどいいよな?」

「……は、はい」

「はいじゃあエミリアたんの治療は適当に済まして後から向かわせるから、お前らさっさと出てけ。もう戦争は始まってるんだ。テキパキ仕事しろよ」

「はい、王様。イータブリックスのために、リザ隊長と戦果を上げてまいります」

「……お前……」

スズの顔を見た王は、一瞬だけ露骨にいやそうな顔をしたが、すぐに元のニタついた顔に戻った。

「……まあいいさ。リザをよろしく頼むな?だが勝手な真似をしすぎるようならお前も俺様の玩具にしてやるからな」

「……? ……なんのことかわかりませんが、肝に銘じておきます」

「ケッ、ほらさっさといけ! お前らみたいな美少女見てると忙しいのにリョナ欲がムラムラして敵わんわ!」

半ば追い出されるように、2人は王の間から出て行った。



「……ねえ、さっきの……エミリアが死んじゃうっていうのは、どういうこと?」

「気にしなくていいよ。エミリアちゃんは今はまだひとまず、死なないことになったからね。リザちゃんが選んだ運命が、そうさせたんだよ」

「……全然答えになってない」

「言ったでしょ? リザちゃん『だけ』は『どんなことがあっても』生き延びられるようにしてあげる。たとえリザちゃんがどんなに過酷な目に遭っても、もう死にたいと思った時でも、私が生きているうちは、リザちゃんを守ってあげるよ」

「……話が通じないんだね。もういいよ」

「フフフ……釣れないなあ。けどそういうところも好きだなぁ……」

言いながらスズはリザの腕を掴み、自分の胸にくっつけて恋人のようなスキンシップをしてきた。

「……ねえ、そういうのやめて……」

「残りのメンバーあと2人、どんな人たちだろうね?楽しみだね」

「…………」

どうやらスズはあまりこちらの話を聞かないタイプらしい。
そう判断して閉口したリザの前に、COMPを纏った人物が1人で現れた。

755名無しさん:2020/06/08(月) 03:09:55 ID:TcsuKX4Q
「失礼。王下十輝星のスピカ様でいらっしゃいますか?」

「……そうだけど」

「では、ご挨拶させていただきます」

低音だが凛とした声の主は、ゆっくりとCOMPを脱ぎ去った。



「トーメント王国正規軍、階級は少佐。カイトと申します。遊撃部隊員の任を受け、十輝星のスピカ様と共に戦うべく馳せ参じました。若輩者ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」

175くらいの身長に聞きやすい低音の声。
整った黒髪に真面目そうな顔立ち。
このトーメント軍の兵士には珍しく、まさに好青年という印象をリザは受けた。

「カイトくんかぁ。年は幾つなの?」

「……17でありますが……貴女は?」

「私はスズ。スズ・ユウヒ。貴方と一緒の遊撃部隊だよ」

「……失礼ですが、所属部隊は?」

「私は表立った部隊には所属してないよ。トーメントの暗部……って言えばわかるかな?」

「……詮索はしないでおきますが、その言葉遣いはなんとかなりませんか? 軍人である以上、上官の前でそのような振る舞いは失礼ですよ」

「上官って、リザちゃんのこと?」

「なっ!? す、スピカ様を名前で、しかもちゃん付け!? 一体なに考えてるんですか!! 立派な軍法会議ものですよ!!」

「…………」



どうやら目の前の青年は、あまり融通がきかないらしい。
魔物軍とは別の正規軍はガチガチの軍人社会であるそうなので仕方無いのかもしれないが、リザとしてはコミュニケーションの弊害となる言葉遣いはどうでもよかった。

「……ねえ。貴方が正規軍でどういう風に扱われてきたか知らないけど……私のことはリザで呼び捨てにしてくれていい。敬語を使うかも任せる」

「ええ!? そんな……! 上官を呼び捨てなんて……」

「カイトくん硬い硬いよー。せっかく一緒の舞台に配属されたんだから、もっと仲良くしよう?」

そう言ってスズがカイトの手を握ろうと接近したその時……

756名無しさん:2020/06/08(月) 03:10:55 ID:TcsuKX4Q
「うわあああああぁ!!! ち、近づかないでくださいっ!!!」

「え、ええっ!?」

「む、無理なんです! お、おんなの人、おんなのひと、僕、無理なんです!!!

「……はぁ?」

「あ、すすすすみません!! 今のは決してスピカ様を侮辱したわけではなく、そ、その……私の体質といいますか……!」

スズが近づいた瞬間に距離を取り、慌てふためくカイト。その動作の俊敏さから只者ではなさそうだが、体質に難があるらしい。



「……女性恐怖症だね。過去に何かあった?」

「……いえ、あの、ここで話すほどのことではないです……ただ、距離を詰められたり、触られたりするのは、ちょっと……」

「……どうでもいいけど、作戦行動に支障を来すなら降りてもらう。この部隊は私とスズともう1人も女だから、半数以上貴方に近づけない」

「もしかしたら最後の1人も、女の子かも知らないよね? そしたらカイトくん、どうするの?」

「そ、そそ、ソーシャルディスタンスで距離を離していただければ……」

「ねえ、この世界にはコ○ナは蔓延ってないよ?」

「う、うううぅ……」



遊撃部隊としての任務は、なにが起こるかわからない。小隊として活動する以上、潜伏する際や戦闘の際は隊員同士触れ合うことも容易に考えられる。
そんな中触っただけで騒がれては、不要な戦闘を招射てしまう可能性は高いだろう。



「……あの、僕……だめでしょうか」

「……無理かな。私たちが男だったらよかったかもしれないけど」

「……じゃあさ。私たちでカイトくんを女の子大丈夫な体にしてあげようよ。それならいいでしょ? リザちゃん」

「……なにそれ」

「だから、スキンシップとかして、カイトくんの女の子嫌いを克服させてあげよう大作戦! 楽しそうでしょ?」

「あ、女性が嫌いなわけではないですよ?むしろ好きなんですけど……その、触られるのとかは……と、特に美人の人は無理で……」

「……楽しくもないし、そんなくだらない作戦してる場合じゃない。もう1人も合流したらすぐに戦闘に入るんだから」

「でも遊撃部隊は、戦闘が激化したら派遣される予定なんだよ。だから指示があるまでは待機なの。その間にやってみようよ」

「……………」

「ね? リザちゃん。私たちならきっとカイトくんを治せるよ。やってみよう?」

「……はぁ……仕方ないな」

「え、あの、なんか勝手に変なことされそうになってる気が……」



カイト
年齢:17

黒髪黒目の青年。10の時に正規軍に入りその卓越した刀捌きで17にして士官に昇り詰めた。
武器は一子相伝の『名刀 調水』
水の力を纏った刀で、斬撃と共に水流を発生させることができる。
戦闘力、判断力、共に軍人としての平均を大きく超えてはいるが、女性が大の苦手で接近されるのはもちろん触られるのはもってのほか。
それには過去のトラウマが関係しているようだ。

758名無しさん:2020/06/15(月) 05:10:50 ID:TYGwGQpQ
「おーおー。みんな楽しそうで何よりだ。年齢層低そうだから、俺の居場所はなさそうだな」

「ん?誰……?」

突然の男の声に一同が視線を送った先にいたのは……
理科室によくある人体模型をそのまま太らせたような、人間の骨だった。

「って、うわわぁ! 骨!? きもちわるっ!!」

「うわあああっ! 女の人の次はスケルトンッ!? スピカ様お下がりくださいっ!」

「……2人とも落ち着いて。ただの魔物兵。敵じゃない」

リザが前に出て2人を制すると、骨男はカラカラと笑った。

「そうそう。金髪ちゃんの言う通り。人を見た目で判断するのはよくないぜ?俺は骨だが心はある。今のオレンジちゃんと真面目くんのリアクションは悲しさが骨身に染みたぜ……ホネだけにな!」



「…………….」

「おいおい、3人して黙っちまって、誰か死んだのか? あ、死んでるのは俺だった。なにしろもう焼かれて骨になっちまってるもんなぁ」

「……どうでもいいお喋りはやめて。ここになにしに来たの」

面食らってしまったスズとカイトの代わりに、リザが話を進める。
どこでCOMPを脱いだのかわからないが、骨男はダボついたコートに手を突っ込みながらニヤリと笑みを浮かべた。



「俺はボーンド。見た目通りのわっかりやすい名前だろ?遊撃部隊とやらに配属されることになったんでこの辺歩いてたら、それっぽい会話が聞こえたんでね」

そういうとボーンドはウインクして見せた。
落ち着いてよく観察すると骨の目の奥には黄色の瞳があり、空洞ではないようだ。

「……あ、じゃあ私たちの仲間なんだね。私はスズ・ユウヒ。よろしくね」

「ぼ、僕はカイトです。あの、あなたの所属は……?」

「俺の所属? 俺はちゃんとした部隊には所属してねえよ。トーメントの暗部……って言えばわかるか?」

「ま、またそれですか……正規軍以外の管理体制はどうなってるんですかね……」

「真面目くん。管理体制なんてどこの企業も団体もガバガバなんだよ。そもそも人間が管理してるもんなんて、すべてガバガバさ……で、誰がスピカだい?」

「……は?」

「金髪ちゃんはどう見ても細すぎだしちっちゃいしなぁ。オレンジちゃんは強そうだがスピカってほどじゃないだろ。真面目くんはモブっぽいし……まさかこの中にはいないのか?」

どうやらこの男は、管理体制どころか自分の上官の姿さえ知らないらしい。
まあ十輝星は正体を明かしていないので、その反応は当たり前ではある。



「……さっき人を見た目で判断するのは良くないって言ったのは、誰だったっけ」

「……え、まさか金髪ちゃん……?ウソだろ……?」

「十輝星であるスピカ様になんと失礼な……! 気軽に金髪ちゃんなどと呼んでいいと思っているのか!」

「まあまあカイトくん。仲間なんだし仲良くしようよ。リザちゃんもそんなに怒らないで。ね?」

「……別に私は怒ってない」

「いやあ、申し訳ねえ。穴があったら入りたい気分だ……俺の場合はそこがそのまま墓穴になっちまうけどな」

「……この人さっきからくだらないことしか言ってないですけど、ほんとに強いんですかね?」

「え? 俺は弱いよ。人員不足でわけわかんないとこにアテンドされただけの窓際族さ。だからわざわざ作戦に参加する価値もないし、俺のことは透明人間として扱ってくれな。これがほんとの透けルトン……なんつって」

「……ぷっ、あはははは! ボーンドさんおもしろい! さっきから笑い堪えてたから……もう……!」

「おっ! オレンジちゃんは話がわかるな! 柑橘系女子の側にいるとみかん食いまくった後の手みたいに俺の骨が黄ばんじまいそうだが、気に入ったぜ!」

「あははっ!わたしのこと柑橘系女子だって……!じゃあリザちゃんは何系女子?」

「金髪ちゃんはツンデレだろ? 古来から金髪美少女はツンデレって相場が決まってるのさ」

「おお! 結構あってるかも! リザちゃんってツンツンしてるけど意外と優しいもんねー」

「……ま、まだ金髪ちゃんだのツンデレだのと呼んでる……!どうなってるんだ、魔物軍の上官への対応は……!」



ボーンドを加えた場は和んだように見せかけて混沌としていた。
スケルトンは魔物兵の中でも下層に位置しており、その見た目から表舞台に出てくることは極めて少ない。
地下で魔物の世話をさせられているか、重要拠点の夜間防衛などが主な任務となっている。
本人の言う通り、ボーンド自身は本当に弱いのかもしれないが、リザはそうは思えなかった。



(この人……侮れない気がする……)



死戦をくぐり抜けてきた者にしか発することのない雰囲気が、彼の周りにはあった。

759名無しさん:2020/06/20(土) 20:30:23 ID:???
「それじゃさっそく街に出て、カイトくんの女の子嫌いを(略)作戦、いってみよー!ボーンドさんも一緒に行こ!!」
「…悪いが、俺はこの後ちょいと野暮用があるんでね。…ま、三人で楽しんでくるといい」

「えー?残念だなぁ。それじゃ、リザちゃん!」
「カイトって言ったっけ……確かに、今のままじゃまともに使えそうにないし…仕方ないか」
「ふっふっふ…そうこなくちゃ!カイトくんの(略)作戦、開始ー!!」
「えっ……ちょっとまさか、本気なんですか!?か、勘弁してくださいよ…!」
「何言ってんの!こ〜んな超絶美少女2人と一度にデートできるチャンスなんて滅多にないんだから、
もっと喜ばなきゃだよー?」

「ボーンドさん、た、助けてくださいよぉ……」
「クックック……そっちのお嬢ちゃんの言うとおりだな。
どうせこれから糞みてえな戦場に送られるんだ。今のうちに骨休めでもしてきな、若造」
「そ、そんなぁ……!」

「……それじゃ、後で連絡する」
「おう……またな」


スズはカイトを引きずるようにして強引に連れていき、その後をリザが追いかけていった。
三人を見送った後、ボーンドが向かったのは………

「あれが俺らの隊長さんねぇ。……ま、どうなることやら、っと……いたいた。」

人気のない廃倉庫。そこには、瀕死の男が一人、倒れていた。

「初めまして……お前さんが、ヴァイスだな」
「う……げ、ほ………誰だ、テメェは………」
「………クックック。そうだなぁ。ま……死神みたいなもん、とでも言っておこうか。
 見た感じそれっぽいだろ?骨だし」

「クッソがぁ……俺は、死ぬのか……畜生……あのエミリアって女……
まさか、あんな方法で手錠から抜け出すなんて……許さねえぇ……
エミリアも、リザも……ブチ犯して殺しまくるまで、俺はぁ……」

「クックック……まさに恨み骨髄、ってやつか。お前さん、思った通りなかなか骨があるねぇ。
そのすさまじい恨みのパワー……この俺が、骨の髄まで使いつくしてやるよ」
「な……何をしやがる……っぐ、うごぁああアアアアアアァァァァア"ア"ア"ア"……!!!」

「ヴァイス・ザ・リッパー。今からお前さんはこの俺の使い魔……『不死の兵団』の一員だ。
骨身を惜しまず働いてくれよ。
なあに…この俺の下にいりゃ、恨みを晴らすチャンスはきっとめぐって来るさ」

760>>751から:2020/06/21(日) 14:51:59 ID:???
敵陣の奥で見聞きしたことを、テンジョウに報告するアゲハ。
傍に控えていたローレンハインとアルフレッドは、それを聞いて確信を抱いた。

「敵軍の大将……糸使いの女性。紫の髪と瞳……アルフレッド殿、これはやはり」
「ええ。間違いありません………ロゼッタお嬢様です」

ロゼッタ……
不倶戴天の敵、トーメント王下十輝星「カペラ」の星位を持つ者。
そして、かつてアルフレッドが仕えていたラウリート家の、最後の生き残りでもある。

「運命の、赤い糸……確かにそう言ったのか。
そのロゼッタってねーちゃんの能力が、言葉通り、相手の運命を操れるんなら」
「ええ……それに対抗できるのは、この世界の運命の外にいる者……すなわち、異世界の戦士のみ」
「…こんなに早く、切り札を切る事になるとはな」
「………行けますか、お嬢様」
ため息を吐くテンジョウ。
アルフレッドは、柱の陰にそっと目配せを送る。それに応えるのは……

「ええ。……遅かれ早かれ、避けて通れない相手ですわ」
戦闘用ドレスを身に纏い、二刀を腰に差した金髪の少女……アリサ・アングレーム。

「うちの兵士たちもがんばっちゃいるが、そもそもドラゴンなんかの魔物どもと
真っ向からやり合うのは専門じゃないからな。長引けばそれだけ消耗も大きくなる。
……作戦はシンプル、かつ忍びらしく。少数で敵陣深くまで潜入して、大将を直接…倒す」

「ええ、心得ていますわ。この白ドレスでは目立ちすぎますから……はっ!!」
アリスは『早着替えの術』により、一瞬にして深紫色のドレスに着替える。
アルフレッドは、その姿を目にした時、……遠い過去の記憶を、ふと思い出した。

「さあ。行きましょう、アルフレッド………どうしたの?」
「……え、……は、はい。…お嬢様の事は、私が命に代えてもお守り致します」
「もう…そういうのは無し、って約束したでしょう?
 守ってくれるのは背中だけで結構ですわ」

「!……申し訳ありません。あの方に、本当に生き写しだったものですから……」
「ふふふ……アルフレッドが、そこまで上の空になるなんて。
わたくしは話に聞いただけですが……本当に、よく似ていたのですね」

「ええ……ヴィオラ様。そして、ロゼッタ様……今度こそ、決着をつける。
トーメント王を打倒し、お二人を残酷な『運命』の輪から解放してやらねば。
……アリサ様。私に、力を貸してください」
「ええ、もちろん。そのために、わたくしはここにいるのですから」

出陣の準備を整えた、アリサとアルフレッド。
淡い慕情、殺意、憎悪、そして和解……紆余曲折の果てに、今二人は共に戦場に肩を並べる事になった。

「ところでアルフレッド………」
「?」
「……もしかしてヴィオラ様は、貴方の初恋の相手……なのかしら?」
「なっ!?……え、ええと……それは、その……」
「ふふふふ……貴方のそんな顔、初めて見ましたわ。
いつか……すべてが終わったら、ゆっくりとお話を聞かせてほしい所ですわね」

二人の長い長い旅の終着点……最後の戦いが今、幕を開けようとしている。

761名無しさん:2020/06/25(木) 23:58:58 ID:???
「いよいよ作戦間近ね……燃えてきたわ!」

ルミナスの首都、ムーンライトにて。
各地を転戦する魔法少女たちに随員し、実戦で各属性の魔法拳を覚えた瑠奈は、来る決戦に向けて意気込んでいた。

(思えば、この世界に来て戸惑ってばかりいた私たちに希望をくれたのは、ルミナスの攻撃作戦だった……今度は私が!)

手を握りしめて気合を入れる瑠奈。

「あの、瑠奈さん……少しお時間よろしいですか?」

そこに、何やら思いつめた様子のフウコが近づいてきた。水鳥やカリン、ルーフェは一緒ではない。

「フウコ?どうしたの?」

「ここじゃちょっと……場所を変えてもいいですか?」

フウコの真剣な表情を見て、どうやら大声で話すようなことではないと察した瑠奈は、コクリと頷く。

「分かったわ、私の部屋に行きましょう」

瑠奈は以前ルミナスに身を寄せていた時に使っていたのと同じ部屋にフウコを通す。
思い返せば、フウコと初めて会ったのもこの部屋だったが……今は唯もカリンもおらず、自分とフウコしかいない。

「それで、話っていうのは一体なにかしら?」

フウコは出されたお茶にも手を付けずに、少し俯きながらポツポツと喋り始める。

「瑠奈さん、私……実は、フウヤと戦う覚悟が、まだできてないんです」

泣きそうになりながら言うフウコ。フウヤと聞いて、瑠奈はヒカリから聞いた情報……デネブのフースーヤの正体は、フウコの弟であるフウヤだった事を思い出す。

「え、っと……まぁそりゃ、弟が敵になってたなんて納得できないわよね……」

瑠奈としても、もしも兄がなんやかんやあってトーメントの手先になっていたとしたら……など、想像すると悪寒がする。

「でも、前にソイツが攻めてきた時に覚悟を決めて戦ったって聞いたけど……」

「実は、フウヤが攻めてきた時の記憶がないんです」

一度死んでから復活したせいで、フウコはルミナス侵攻編の記憶を丸ごと失っていたのだ。後から何があったかは聞いたが……それだけで納得できるわけもない。

「私は、どうしても納得できないんです、フウヤが裏切ったなんて……だから、だから……!」

鏡花を含め、ルミナスにはフウヤの裏切りによって大打撃を受けた者が大勢いる。そんなフウヤをそれでも信じるという話など、部外者の瑠菜にしか話せないだろう。

「それで、その……カリンちゃんたちに言ったら止められると思って、言ってないんですけど……実は今朝、こんなものが届いてたんです」

そう言いながらフウコは、懐から風魔法のかかった矢文を取り出して瑠奈に見せる。

『今宵、あの場所で待つ。親愛なる姉へ、愚弟より』

シンプルながら中二感溢れるその手紙は、フウヤからフウコへの手紙で間違いない。

「あの場所……心当たりがあるのね?」

「はい。だから、その……このことで、行くべきか少し相談したくて」

「なるほど……話は分かったわ」

瑠奈はデネブとはほとんど接点はないが、以前8対5でひたすら甚振られた時にいた人間だというのは分かる。
正直、説得に応じるような相手だとは思えないが……

(こんな時、きっと唯なら、フウコの背中を押す……なら、私も!)

「フウコは行きたいって思ってるんでしょう?なら行くべきよ!こういう時は自分に素直になるべきだわ!」

「瑠奈さん……」

「そんなに不安そうにしなくても大丈夫!私も一緒に行ってあげるわ!」

「え、ええ!?その、確かに一人は不安でしたけど……」

「姉弟水入らずの邪魔はせずに様子を伺ってるから、納得いくまで話し合って来なさい!」

決戦を控えた中で行われる、姉弟とそれを見守る運命の戦士の密会。
罠の可能性を考慮しながらも、血を分けた家族への情がフウコを動かした。

この小さなうねりがやがて、ルミナス方面の戦局を大きく動かすことになる……

762名無しさん:2020/06/28(日) 15:16:04 ID:???
アリサたちがロゼッタとの決着をつけるべく出陣した、ちょうどその頃。
テンジョウらは前線で戦う五人衆たちに本陣から狼煙で合図を送っていた。
その内容は……

「……お、テンちゃんからの合図や。それじゃ、手はず通り……ウチらは派手に暴れるで!
 陽動作戦開始や!!」
「「「ハイヨロコンデー!!」」」

(ズドーーンッ!! ビシュビシュビシュ!!)

「「っぐわーーー!?」」
「なっ、なんだコイツら!いきなり攻撃が激しく……」

「張り倒して差し上げます……椿張扇(ツバキハリセン)!!」
「貴方のお命、ご破算します……榎算盤(エノキソロバン)!!」
「汚物は清掃ですわ…………………柊埃叩(ヒイラギハタキ)!!」

「こっからは遠慮ナシや。ガンガン行くでぇ!…
『風遁・カマイタチ』!『水遁・ミズチ』!!…からのー!『雷遁・タケミカヅチ』!」

(ズドドドドドドドッ!!……バリバリバリバリッ!!)

「「「グワーーーーッ!?」」」

テンジョウの居る本陣から狼煙があがり、前線で戦う『金尽のコトネ』達の部隊が大きく動く。
『巻物などの消耗品は公費で落として良い』という言質(煙質)を得たので、強力なアイテムも解禁。
並みいる魔物兵たちを次々となぎ倒していった。

「よーし、このあたりの敵はあらかた片付いたな!……んん?…あれは……」
「コトネ様、どうしました?」
一息ついたコトネは、敵軍がいた場所に、見慣れない箱が置かれているのに気が付いた。
金属製の頑丈そうなチェストで、人一人すっぽり入れそうなほど大きい。
どちらかというと、こういう物はダンジョンの奥深くやお城の宝物庫などに置かれているのが普通なのだが……

「宝箱やん!!いやー、これもウチの日ごろの行いが良いからやな!」
「……やめときましょうよコトネ様。あからさまに怪しいじゃないですか」
「大体こんなフィールドに宝箱が落ちてるのはおかしいですよ」
「いやいや。フィールドの宝箱落ちてたりモンスターが落としたりするのはJRPGじゃ普通やん?」
「そりゃ、JRPGなら普通ですけど……」


お供のアキナイ三姉妹が止めようとするが、もちろんテンションの上がったコトネは止まらない。
「大丈夫大丈夫!罠探知機が反応してへんから、何も仕掛けられて……」

(ばくん。)
「え?……」

………そう。箱には何も仕掛けられておらず、罠探知機にも反応はなかった。
しかし、箱そのものが、宝箱に擬態した魔物だったのだ。

(ブワワワワワワワッ!!)
「なっ!?なんやこr……むっぐ!!」
「「「コトネ様ぁーーーー!!」」」

コトネが箱の前に立った瞬間、箱の蓋が開き、黒い触手が無数に飛び出して………
コトネを箱の中に閉じ込めてしまった。

763名無しさん:2020/06/28(日) 15:17:52 ID:???
【ダークミミック】
不定形などす黒いタール状の身体を持つ魔物兵。
身体を自在に変化、硬質化させ、宝箱など、あらゆる物体に擬態する事ができる。
硬質化させた時の身体は驚異的な防御力を持ち、武器や魔法による攻撃で破壊することは非常に困難。

(ぐちょ………ぬちゅ………)
「フヒヒヒヒ……まさか、五人衆の一人をこうもあっさり捕らえる事ができるとはなぁ」
宝箱に擬態したミミックに飲み込まれたコトネ。
箱の中は狭く、黒い鎖で手足を絡め捕られ身動きが取れない。

「くっ………甘く見られたもんやな。今のウチは能力使いたい放題なんや。こんな拘束、一瞬で抜け出して………」
(あれ、待てよ?テンちゃんは『消耗品は公費』て言っとったけど、
ウチの能力で使った分のお金って、経費で落ちるんやろか……)
力づくで抜けようとするコトネ。だが、彼女の能力『成金術』は、所持金や宝石などを消費する事で力を発揮する。
フルパワーを使ってしまうと、後で経済的・精神的ダメージが自分自身に跳ね返ってくるのだ。

「クックック……その余裕ヅラ、どのくらい持つかな?……喰らえ!硬質化ドリルアーム!!」
「!!…しゃーない……『金剛体・部分課金モード』!」
(………ギュイィィィィィィンン!! ガリガリガリガリガリ!!)

ドリル型に変化したミミックの触手が、コトネの胸を貫こうとする。
コトネは成金術で胸の部分だけを硬質化させ、攻撃を防いだ。

「うっ………ぐ……!!」
(……ウチの『金剛体』でも、防ぐのがやっとや……こいつ、ザコかと思ったら意外と……!)

「ほほーぉ。さすがは討魔忍五人衆の一人……だがドリルはまだまだあるぜぇ?
つぎは……クリトリスだぁっ!!」

(グオンッ!!……ガキィィンッ!!ギュルルルルルルルッ!!)

コトネは課金を最小限に抑えるため、攻撃される個所をピンポイントで硬質化させて防ぐ。
火花が飛び散り、激しい衝撃が生身の部分にビリビリと伝わってきた。

「んぐ……あ、ぅっ……!!………こん、のド変態が…!!
つーかこーいう奴は、ふつう七華かササメっちの所に行くはずやろ……」

「ヒヒヒ…俺はむしろ、自分だけは安全、自分がヤられる事なんて考えもしてないってタイプの奴を
じっくりねっとりいたぶって、『あれ?これもしかしてウチやばいんと違う?』って
気づいたときにはもう手遅れ、みたいなシチュが大好物なんだ。」

「……ガチのドクズやな……こんなんとダラダラ付き合ってたら時間と金の無駄や。さっさと反撃……」
「オラオラ!今度は全身串刺しだぁぁぁ!!」
「!!……『金剛体・全身モード』!!」
反撃に転じようとした瞬間。
ミミックは周囲の触手を無数のドリルに変え、攻撃してきた。
コトネは反撃を中止し、全身を硬質化させて防御せざるを得ない。

まともに戦えば遅れをとる相手ではないはずなのに、コトネはことごとく後手に回らされている。

敵を無名の格下と侮り、課金を渋ったせいか。
五人衆の座について実戦から遠ざかり、戦いの勘が鈍っていたからか。

何にせよ。
「正体不明の敵に捕らえられ、閉じ込められ、全身を拘束されている」
という圧倒的不利な状況を、コトネは甘く見すぎていた。

「クックック……全身を金属化……そう来ると思ったぜ。だが無駄だぁ!!。高圧電流放出!!」
(バリバリバリバリッッ!!)

(んっぐ、ぁあああああぁぁああああああああぁぁっ!!!)
敵はコトネの能力を見抜き、すぐさま攻め手を変えてきた。
コトネの全身に巻き付いた触手から、強力な電流が流される。
金属化した体に、電撃は効果が抜群だ!
しかも、全身を金属化している間、課金はどんどん累積していく。
金属化を解除しても、今度はドリルで全身を刺し貫かれることになる。

(あ、れ………?これ、もしかして…………ウチ、やばいんと違う………?)

764名無しさん:2020/07/04(土) 17:30:43 ID:???
(バリバリバリバリバリ……!!)
「………………。」
(ひっ!!んうぁっ…!!…っくぁああああああああっっ………!!)

「ヒッヒッヒ………金属化してるから悲鳴も上げられねえか?
だが、俺にはわかる……あれだけ余裕ぶっこいていた貴様は今、追い詰められ、焦っている。
俺のような名無しの雑魚なんざ、軽く蹴散らせると思っていただろ?
そういう愚かなネームドキャラが、自分の思い上がりを知り、苦悶し、泣き叫ぶ……それこそが俺様の生きがいだ。
さあ。五人衆とやらのプライドも……何もかも砕かれ、絶望の底に沈むがいい。クックックック……」

「っぐ……ミツルギ討魔忍衆を……舐めるんやないで……!!」
金属化を解除し、元の姿に戻ったコトネ。
だが電撃によるダメージはかなり深刻で、体中が痺れてうまく動かせない。

「クックック……金属化を解除したか。俺様の電撃が相当こたえたようだな。
では今度こそ、ドリル触手で全身串刺しにしてやるぜぇ…」
「勘違いすな……ウチが『金剛体』を解いたのは、電撃がキツいからやない。反撃するためや!!
……成金術『剛力腕』!」

(…ドカッ!!)

「おごっ!?……テメェ……俺の電撃をあれだけ喰らって、まだ動けるのか……!!」
「はぁっ……はぁっ……あったり前や…五人衆の・・…討魔忍の恐ろしさ、思い知らせたる!」
(く、仕留められんかった……体が痺れて、『剛力腕』の威力が出てへん……!!)

「だったら…お望み通り、串刺しにしてやるぜぇぇ!!」

………………

一方。箱の外側では……

「このっ!!コトネ様を出しなさい!!風遁・練空暴風弾!!」
「召喚!破砕超重鉄球!!」
「忍法・蔓落とし!!」
(ブオオオオンッッ!! ガキンガキンッ!! ガコンッッ!!)

アキナイ三姉妹が、コトネを閉じ込めた黒い箱を一斉に攻撃していた。
だが箱の外殻はとんでもなく頑丈で、三人が全力で叩いてもビクともしない。

「ヒッヒヒヒヒ。無駄無駄……鬼さんコチラ、ここまでおいで〜っと!」
(くっそ。中で五人衆のチビが暴れてるのに、外側からも攻撃されたらさすがにやべぇぜ。いったん退却だ…!!)
(…カサカサカサカサ!!)
しかも、箱からなんだか不気味な脚が生えて、すばしっこく逃げ回る。

「まずいですね……あまり深追いすると、敵陣に誘い込まれるかも」
「このままコトネ様が連れ去られたら、もうこき使われなくなr……じゃなくて、私たち揃って無職ですね。何とかしなきゃ!」
「いや、その理由もどうかと思うけど。…とにかく逃がすわけにはいきませんわ!待てー!!」
三人は和メイド衣装の裾を翻しつつ、黒い六本脚の魔物を必死に追い掛け回す。

「和メイドちゃんカワイイヤッター!!」
「グッヒッヒッヒ……俺たち絶倫三兄弟(陸戦型)と」
「3対3でしっぽりイイコトするでヤンス!!」
「待て待てー!お前ら三兄弟にばっかりイイ事…イイ格好はさせないぜ!」
「俺たち魔物兵軍団は一蓮托生!イく時は一緒だぜ!」
「俺も!」「俺も俺も!」「俺はガンダムでイく!」

だがそこに、馬、サソリ、オットセイ、ニンニク、マムシ……様々な魔物たちが行く手を塞いだ!

「くっ!?…案の定なんかキモい奴らが……!」
「そこをどいてください!早くしないとコトネ様が……」
「……なんて、聞き入れてくれるはずありませんね……速攻で倒しましょう」

「ヒッヒッヒ……そんなつれねー事言うなよ」
「じっくり、ねっとり、時間をかけて楽しませてもらうぜぇ……」
「「「ヒャッハァァァァーーア!!」」」

765名無しさん:2020/07/04(土) 17:32:53 ID:a3kvcF06
前線に突出しすぎたアキナイ三姉妹はあっという間に取り囲まれ、乱戦が始まってしまった。
その間に、ミミックは敵陣へと逃げさってしまう。

「やれやれ。仕方ないのう……行くぞい、お前たち」
(じゅるじゅるじゅる……)

その時。

「クックック……和メイド三つ子ちゃんも地味にけっこうソソルるなぁ。
このチビを本陣に預けたら、戻ってあいつらと集団レイp………ん、あれ?」

(ぐちゃっ ねばっ)
「な、なんだこのネバネバは!!」

逃げるミミックの足が止まった。
周囲がいつの間にかネバネバした大量のスライムで覆われている。

「ひょっひょっひょ……やらせはせぬよ。
ネームドキャラをワンチャンジャイキリしてビッグになろうという心意気はよし、じゃが……」
コトネ様には、ワシも健康食品やら回春サプリやら世話になっとるでな」
「ジジイ……てめえも討魔忍か!!ほとんど本陣近くなのに、どうやってここまで来た!」

現れたのは、上忍「粘導(ねんどう)のウズ」。
使い魔のスライムを自在に操る渦壺忍術の使い手だ。

「いかにも。……しっかし、お主んとこの兵隊どもはわかりやすいのう。
 ワシみたいなジジイがこんな敵陣の奥まで入り込んどるのに総スルーで、
 雪女ちゃんやら巫女ちゃんやらはどこだー!って駆けずり回っとるんじゃから」
「あー…………納得」

「まあ、ワシも男を相手にするのは好かんから人の事言えんが……今回は仕方ないの。行け、スライムたち」
「へっ!!なめるなよジジイ!超硬化した俺様の箱型ボディは、ベヒーモスが踏んでも壊れねえぜ!」

「……確かに、随分頑丈そうな箱じゃ。しかし……開けるのはそう難しくはない」
(……にゅるるるるるっ!!)
「あ?……て、てめっ、そこはっ……ぎゃがはははははは!!!」

ミミックの頑丈なボディに、生半可な攻撃は通用しない。
だがそんなミミックに対して、ウズのスライムはただ一点を狙う。
厳重に閉ざされた宝箱の、唯一の進入路……鍵穴へ入り込んだ。

…………………

「うっぐぉああああ!!入ってきた……俺の中に、スライムがぁああああ!!」

「ひょっひょっひょ……ちなみにお主、噂で聞いたアレじゃろ。
例のスライム工場で作ってたっていう『万能武装スライム』とかいう魔物の……」

「お、おう!!状況に応じていろんな武器とかリョナ道具に姿を変えられる、新開発のスーパースライムだ!
宝箱だけじゃなくて色んな物に化けられるし、電撃やら毒ガスやら、いろんな特殊攻撃もできるんだぜ!
そんな万能武装スライムをベースにして先行量産されたのがこの俺ってわけだ!
あーあ、プラントさえ破壊されてなけりゃ、俺たちをたくさん量産して、連合国の連中を数で圧倒してやれるはずだったのになー!
まあでも先行量産でそこそこの数は作られてるみたいだから、他の書き手の方も俺らの仲間をガシガシ使っていいぜ!
それがどうかしたか!?」

「いやなんとなく裏設定的なのを語ってもらいかっただけじゃ。
ていうかその能力ふつうに便利じゃから、ワシのスライムに吸収させてもらおうかの」
「ウグワーーーーッ!!中でスライムが暴れて……溶かされるぅぅぅぅぅ!!」

「はぁっ………はぁっ………な、なんや……?」

箱を内側から破壊しようと暴れていたコトネ。
謎のスライムが内部に侵入してきて、ミミックを溶かし始めたのを見て、何となく状況を察した。

(………このスライム……ウズの爺さんやな…!)

(どろっ………じゅわっ……ぐちゃぁ)
「はぁっ………はぁっ………く、そ、じじい……。
余計なマネ、しよって。こんな相手、ウチ一人でも……」

全身をドリル触手に貫かれ、ギリギリの状態だったコトネ。
だが……五人衆たるもの、この位で弱音を吐いたりはしない。

「ひょっひょっひょ……相変わらずの跳ねっかえりじゃのう、コトネ様。
せっかく『元師匠』が助けてやったんじゃから、少しは感謝したらどうじゃ」

「…………。」

「ま、ええわい。しかしひどくやられたのう。スライムよ、『コトネ様』を治療してやれ」
「っぐ……おおきに、爺さん。この借りは……」
「ひょひょひょ………んじゃ、肩たたき券でもサービスしてもらおうかの」

766名無しさん:2020/07/23(木) 21:09:22 ID:???
「陽動作戦開始、敵兵をポイントAに誘導……か」
討魔忍五人衆の一人、時見(ときみ)のザギが本陣からの狼煙を見上げる。

敵を攪乱して一か所に誘導した後、術による広域殲滅で一気に片づける作戦であった。

『巫女さん発見!めっちゃ可愛い!!』
『マジか!!場所教えろください!!』
『写真の後ろの杉の木、見覚えあるような…』
『特定した 西側のポイントAだな!』
『あれ、隅っこに写ってんの雪女ちゃんじゃね?』
『桃源郷じゃねーか 全力で行く』

「……カイ=コガのやつも上手くやってるようだな」

後方部隊がSNSなどを通じて偽情報を発信。
一方で、真実の情報はミツルギ伝統の「狼煙」によって伝達される。

もちろん指定のポイントに七華やササメはいない。
あるのは一度入れば容易に脱出できない結界空間、そして大量に仕掛けられたブービートラップである。

だが、『情報戦』の首尾を確認していたザギは、気になる投稿を目にする。

『くっそーー!そっちにも行きてーが、今は和メイド三姉妹ちゃんの方も大詰めだ!
手っ取り早くブチ犯したら、肉盾にして持ってくぜ!』
『追加燃料投入か 期待RT』

「コトネの所の三人か……なんではぐれてんだコイツら?」
写真も投稿されている。魔物兵に取り囲まれた三人……どうやらガチ情報らしい。
幸いにも、というか…場所はここからそう遠くなさそうだ。

「チッ……仕方ねえ」
危機を告げる狼煙が見えた方角に魔物兵の一群が集まっているのを見つけると、
ザギは一陣の風のごとく駆けた。

767名無しさん:2020/07/23(木) 21:12:38 ID:???
「ふんっ!! おりゃっ!! ドラァァァァァ!!」
「「「ッグワァァァーーー!!!」」」

「けっ、雑魚が。こっちは急いでんだ、死にたくなかったら道を……ん?」
「…………。」
(…………シャキン)

魔物の軍勢を蹴散らすザギ。だがその行く手に……浮遊する金属片??のようなものが立ちふさがった。

【リビング・ビキニアーマー】
ビキニアーマーが意思を宿し、魔物となった存在。
軽量なため通常のリビングアーマーよりも素早く、表面積が少ないため攻撃が当てづらい。
魔法防御などの特殊な処理が施されている場合も多く、その戦闘力は決して侮れない。


「…なんだ、コイツ……ビキニアーマーだと?」

……ミツルギ闘技大会エキシビジョンマッチでの、苦い経験が一瞬脳裏をよぎる。
奇しくもあの時と同じ、敵の武装はショートソードとシールドだ。
だがあの時とは決定的に違うのは……

「たっ!! オラっ!! くそっ…!!……攻撃が、当たらねえ!!」
着ている人間が存在しないため、攻撃は鎧の部分に当てなければならない。
その点、通常のリビングアーマーとは段違いにやりづらい。

「…………!!」
(ブォンッ!! シャキンッ!!)
加えて敵の攻撃は鋭く、盾を使っての防御も的確。
早く味方を助けに行かなければ、と焦る中、ザギは一進一退の攻防を余儀なくされる。

リビングアーマーは、死んだ戦士の魂を、鎧に宿させたものだ。
多くの場合、その鎧の元々の持ち主。恐らく『彼女』も、優れた戦士だったのだろう。

「確かに厄介だが、あの『お姫様』に比べりゃ……『怖さ』は全くねえな。 はぁっ!!」
ショートソードが振り下ろされる、その刹那。ザギは思い切り前方に飛ぶ。

「………!?」
必殺の一撃をかわされたリビング・ビキニアーマーは、一瞬敵の姿を見失い困惑した。
そして、次の瞬間………

「オラァッ!!」
(メキッ!)
「………!!!」

攻撃をかわしざまビキニアーマーのお腹の空間を跳び越え、背後を取ったザギ。
相手の動きが止まった隙を逃さず、渾身のサマーソルトキックでビキニアーマーの股間を蹴り上げる。

「……!!…………、…………っ…!!!」

鎧だけの魔物となっても、痛みは感じるのだろうか?
ショートソードとシールドが、音を立てて地面に落ちた。

だが、リビングアーマーはこの程度では倒せない。
ザギはすかさずビキニアーマーのブーツを両脇に抱え込み、鎧の股間部分を踏みつけた。

「これ以上時間を潰されたらかなわねぇ。二度と動きださねえように、徹底的に痛めつけてやるぜぇ!!」

衝撃波と振動の呪符が仕込まれた特殊ブーツが唸りを上げる。
ショートソードがふらふらと浮かび上がる、が……

「うぉらぁああああああああ!!!!往生せいやァァァァァァ!!」
(グオォォォォォォオンッ!!ズドドドドドドド!!!)
「っっっ!!!!」

ザギのブーツが激しく振動し、高速ピストンキックがビキニアーマーの股間を抉る。
ビキニアーマーの胸パーツが反り返りながらビクンビクンと震え。
ショートソードが再び地面に転がり落ち……再び動くことはなかった。

768名無しさん:2020/07/25(土) 05:15:05 ID:???
「ん〜絶頂スプラッシュマウンテン楽しかった〜!次は何に乗ろうかなー?私的には悶絶サンダーマウンテンもっかい乗りたいところだけど、2人はどうー?」

「も、もう勘弁してください……ってうわぁ!スズさん、いきなり触ろうとするのやめてくださいッ!」

「ぴえん……そんな本気で嫌がられると女として自信なくなっちゃうなぁ……カイトくんイケメンだし尚更……」

「ううっ……!す、すいません……スズさんを傷つけるつもりなんて微塵もないのですが……」

「……はぁ……何やってるんだか……」

スズの提案でトーメント王国の人気遊園地、リョナニーランドにやってきた3人。
スズは楽しそうにはしゃいで遊園地を満喫しているが、目的のカイトの治療は全く進んでおらず、リザの口からため息が漏れた。

「もう強硬手段に出ちゃおうかな。カイトくん真ん中でさ、私とリザちゃんを両手に花で手を繋ご!嫌悪感を優越感で塗り替えちゃおう作戦だよ!」

「いや何言ってるんですか、無理に決まってるでしょう!お2人ともその……すごく美人で、魅力的な女性なので……尚更無理なんです……」

「む〜!魅力的で美人なのに手を繋ぐのが無理とはまったく意味が通ってないよ〜!」

「……そもそもなんで無理なの?女が苦手な原因がわからないと、克服のしようがない」

「……確かに、スピカ様の言う通りですね……こんなに時間を使わせてしまっているし、お話しいたします」

「お、リザちゃんもようやく乗り気になってきたね!あ、あっちで電磁棒チュロス売ってるから買ってくるねー!」

なにやら拷問に使われそうな棒形の甘いお菓子を買いに行ったスズ。
ちょうどよく3人座れそうなベンチを見つけたので、リザはちょこんと腰掛けた。



「……座らないの?」

「いや、ちょっと間隔狭いですし……スズさんも座ったらくっついてしまいますので……」

「……そう」

「……スピカ様にもスズさんにも、申し訳ないです。作戦前でピリピリしていてもおかしくないのに、こんな私のために……」

「……気にしなくていい。私にとってはただの暇つぶしだから」

「……でもスピカ様はスズさんと違って、こういう場所は苦手そうですし……」

「……別に、遊園地は……そんなに嫌いじゃない」

「え……そ、そうなんですか……?」

「…………」

リザの脳裏に、家族を殺された日の前日がフラッシュバックする。
遊園地の乗り物をすべて制覇すると意気込んでいた兄。
チュロスという食べ物を食べるのを楽しみにしていた母。
遊園地の後に人気のステーキ店を予約してくれていた父。
自分も姉も、とても楽しみにしていた。
前日の夜は2人でどんな服を着て行こうかで盛り上がって、なかなか寝付けなかったくらいだ。



(……お母さん、お父さん、お兄ちゃん……あとお姉ちゃんも……みんなで来れたら、きっと楽しかったんだろうな……)



「お待たせお待たせー!店員のおじさんがね、可愛い女の子には電圧3倍!とかいってシロップいっぱいつけてくれたー!」

やけに大量のシロップがかかったチュロスを受け取って、リザは母の顔を思い浮かべながらひと齧りした。

「……はむ……もぐもぐ……」

「ひいぃーちっちゃいお口でチュロス食べるリザちゃんかわいぃ……!ねえねえ、どうどう?お味の方は?」

「むぐっ……!ふぁんふぁいは……(3倍は)はまふみっ……!(甘すぎ)」

769名無しさん:2020/07/26(日) 00:14:46 ID:Ur0ouuDw
「ふぅ……なんとか食べれましたけど、あんな砂糖の暴力をよく2本も食べれますね……」

「なに言ってるの?女子ならあれくらい余裕余裕!さあーて、カイトくんのお話を聴かせてもらうぞ〜?」

(……わたしは女子じゃないのか)

電圧10倍かけられてもいけると豪語したスズは、甘すぎて食べられないリザの分もペロリと食べてしまった。



「えっと……昔、好きな人がいたんです。幼なじみの女の子で、家も隣でずっと仲がよかったんです」

目を伏せて語りだすカイトの顔を見たスズの表情が真剣な表情に変わる。
リザはいつもどおりの無表情で話を聞き始めた。

「その子は目立つタイプじゃないけど、女の子らしい白の長髪がすごく綺麗な子でした。性格も明るくて、その娘とだけは何時間一緒にいても、楽しかったんです」

「幼なじみかあ……いいなぁ。私はずっと引きこもりだったからそういうの、憧れちゃうよね」

「え、スズさんは引きこもってた時期があるんですか?」

「あぁ、ごめんごめん。私の話はいいから続けて?」

「…………」

今の明るい性格とは対照的なスズの過去に、リザも少し驚いたが、今はカイトの話を聞いているので掘り下げることはしない。



「それで……僕が14歳の時、思い切ってその子に思いの丈を打ち明けたんです。その……ずっと君の傍にいたい……って」

「わあぁ……!カイトくんみたいなイケメンにそんなこと言われたら溶けちゃうね〜融解しちゃうね〜!」

「……それで、成功したの?」

「はい。相手の少女……シュナも僕を受け入れてくれて、付き合うことになったんです」

「ひゃ〜すご〜……いいなぁ、私もイケメンに告白されたいなあ!リザちゃんは告白されたことあるの?」

「……私に話を振らないで。今はカイトの話を聞いてあげるべき」

「あ、そうだね。ごめんごめん」

「……それで、最初の頃はとても楽しかったんですが……だんだん幼なじみの彼女の裏の顔が見えてきてしまったんです」



「待突然デートのドタキャンとか、お金を貸して欲しいとか、は全然許せたんですが……シュナは他の男とも遊んでいたようで」

「あー……そういう系か……可愛い子にはありがちかもね」

「話をしてもはぐらかすばかりで、その時は信じてあげようと思ったのですが……仕事が早く終わった日に帰ると、僕の部屋からその……いつもより高いシュナの声が……」

「う……」

「…………」

「……裏切られたという感覚よりも、ただただ悲しくなりました。小さい頃仲良しグループのマドンナだったシュナが、そんな人間に変わってしまったことに」

「……てかスルーしたけど、お金貸してとかデートドタキャンとかもかなりまずいけどね」

「……それらしい理由を言っていましたけど……今となってはすべて嘘だったんだろうな……」

「……要するに、浮気をされて女が信用できなくなって、怖くなったのね」

「……そうです、隊長……自分でも情けないと思います。ただの浮気くらいでこんな……全ての女性が怖くなってしまうなんて……」

「……起こった事象をどう受け止めるかは人それぞれでしょ。でもその理由だと……私たちにはどうすることもできないわね」

「うーん……まあそうかもね……幼なじみに裏切られたってのは普通の浮気と違うところかもね……」

「…………」

思い出して辛くなったのか、カイトは俯いてしまった。
リザもスズも、それ以上の言葉が出ない。
生半可な優しさでは、彼を癒すことはできないと理解しているからだ。



3人の間に訪れた沈黙を破ったのは、リザのスマホだった。

ジャジャジャジャーン!ジャジャジャジャーン!
「あ……エミリアから連絡」

「……なんでリザちゃんの着信音、ベートーベンの運命なのぉ……!あ、やばい笑いそ……!」

「……目が覚めたのですか?」

「……そうみたい。出撃の準備もしないと。……息抜きは終わりだね」

「……お2人にお付き合いいただいたのに結局克服はできませんでしたが、必ず戦場では活躍してみせます」

「ねぇねぇカイトくん、私でよかったらなんでも相談してね!恐怖症克服のためなら手繋いだりハグしたりとか、いつでもしてあげるよ♪」

「……け……検討させていただきます……」

770名無しさん:2020/08/02(日) 15:02:27 ID:???
コトネ配下のアキナイ三姉妹は魔物兵の軍団に囲まれ、窮地に陥っていた。

「はぁっ……はぁっ……キリがないですね。
叩いても叩いても、まだこんなに汚れが……きゃあっ!?」

必殺の殴打武器『柊埃叩(ヒイラギハタキ)』を使う、三女ヒイラギ。
三人の中では前衛担当の彼女だが、オーガやゴーレムなど怪力自慢の魔物を立て続けに相手にし、
疲弊した所を大型豚獣人に捕まってしまう。

「ぐっへっへ……やぁっと捕まえたでゴワス。はたしてわしのサバ折りに耐えられるでゴワスかな」

【オーク・スモウレスラー】
脂肪と筋肉に覆われた巨体を持つ、豚型の獣人。
スモウと呼ばれる東洋の武術を使い、女の子に対しては「サバ折り」と呼ばれる技を好んで仕掛ける。

(ぎりぎりぎりぎりっ!!)
「ん…ぐっ………う、ぁああああああああぁっ!!!」

オークの太い腕で腰を強く締め付けられ、ヒイラギの背骨が大きく反り返る。
さらに並のオークの2〜3倍はあろうかという巨体でのしかかられ、ヒイラギはたまらず膝をつく。
これがスモウの取組なら、この時点で勝負ありだが……ここはルール無用の戦場。
地獄の拷問技は、むしろここからが本番である。

(ぎちぎちぎちぎちぎち………ぐぎっ………)
「はっ………はなし、なさ……っう、あっ……!!」
「ひひひ……わしらの仲間をさんざん叩いてくれた礼。たっぷりさせてもらうでゴワスよ」
腰、膝に凄まじい体重がかかり、反撃どころか身動き一つとれないヒイラギ。
オークは獲物を簡単に壊してしまわないよう、締め上げる力をじわじわと強めていく……

………………

「くっ………ヒイラギ、今助け……あう!?」
(じゅるるるるる!!)
「ぐひひひひ……そうはいかないタコ。伝統のタコ触手の餌食にしてやるタコ」

算術により魔法を強化する魔導具『榎算盤(エノキソロバン)』を使う、次女エノキ。
魔法を得意とする彼女だが、次々と押し寄せる大量の魔物を前に、魔力が底をつきつつあった。
呪文詠唱の隙を突いてエノキに襲い掛かったのは、大ダコ型の魔物兵である。

【ドレイン・オクトパス】
獲物を触手でからめ捕って魔力を吸収するオオダコ型の魔物。
ミツルギ近辺にも古くから生息しているが、魔物兵に改造され更に吸引力がアップしている。

(じゅるるるる……ぴたっ くちゅ ちゅぶっ……)
「き、気持ち悪い……やめてくださっ……ひあぅ!?」
必死に振りほどこうとするエノキ。だが触手は素早く服の隙間から入り込み、吸盤で吸い付いて離れない。
魔法で攻撃しようとすると、タコの吸盤が淡く発光して、集中した魔力が霧散してしまう…

「く、うぅ…魔力が吸い取られてる……!?……これは一体……」
「乳首、クリトリス、おへそ、腋……お前の一番弱いところはどこタコ…?
…そこからお前の魔力、根こそぎ吸い取ってやるタコ……ヒッヒッヒ」
「そん、なこと、させなっ……『サンダーブラス……」
(じゅろろろろろろっ!!)
「っあああああっ!!!」
「抵抗は無駄タコ……空になるまで魔力を吸い取ってから、踊り食いにしてやるタコ。ヒッヒッヒ……」

771名無しさん:2020/08/02(日) 15:08:28 ID:???
「エノキ!ヒイラギっ!!…そんなっ……!!」
(私のせいだ…!…私がもっと早く、撤退の決断を下していれば……)
「ゲッヘヘヘ…人間の小娘の割には中々の使い手じゃが、これだけの数の魔物兵には敵うまいて」

風を起こす魔導具『椿張扇(ツバキハリセン)』の使い手、長女ツバキ。
中衛として他の二人をサポートし、司令塔の役割を担う彼女だが、
怒涛のごとく押し寄せる魔物たちにより孤立させられてしまっていた。

「………たかが女三人相手に、よくまあこんなにゾロゾロと……あきれて、物が言えませんね」
「ここは戦場だ!殺し合いをするところだぜ!」
「男も女も関係ねえ…むしろ女の子いっぱい出てきてほしいです!」
「オレらは戦うのが好きじゃねぇんだ…リョナるのが好きなんだよォォッ!!!」

「こんな奴らに、コトネ様やエノキ達を好き勝手させるわけには……そこをどきなさい!!風遁・練空暴風弾!」
「ゲヘヘヘ!!そうはさせんゲェェ!!」
(ドゴッ!!)
「きゃあぁっ!?」

いきなり背後から突進してきた魔物に、ツバキは吹っ飛ばされた。
うつぶせに押し倒され、起き上がる前に背中にまたがられてしまう。
もがくツバキの視界の端に映ったのは、緑色の、大きな亀のような甲羅を持つ魔物だった。

【カッパ】
ミツルギ近辺に生息する魔物。頭に皿があり、体表は緑色で、背中には甲羅を背負っている。
川、沼などに住み、近くを通った人間に襲い掛かる。

「ゲヘヘヘヘヘ……安産型の、なかなかいい尻じゃ。極上の尻子玉が取れそうじゃゲ!」
(じゅぷっ)
「し……尻…?……一体何の、きゃぅ!?」
(ぐっちゅ……にちゅっ……じゅぷっ)
「あ、ひんっ!!なん、です、これ……!?……ふあぁっ、ぁぁああぁぁあぁっ!!」
(う、うそ………お尻に、魔物の手が……こんなの、ありえない……!!)

カッパはツバキの菊門に腕を突っ込み、その中を乱暴にかき混ぜ始めた。
なんと肘の辺りまでがお尻の穴に突き入れられている……もちろん、こんな事が物理的に可能であるはずがない。
魔物の能力によって無理矢理ねじ込まれているのだ。

そして、ツバキの……実際には人体に存在しないはずの『尻子玉』を、
ヌメヌメする粘液で覆われた手でがっちりとつかみ取った。

(ぎゅむっ………ぞわぞわぞわ……むぎゅっ!!)
「ゲヒヒヒヒヒ……柔らかくてスベスベしとるのう。弾力も………極上!」
「えひ!? 、あ、ひょん、な…!
…それ、だめ、ニギ、ら、ないれぇ………あんっ!!」
「思った通り、えぇ尻子玉じゃ。どれ……引っこ抜いて喰う前に、堪能させてもらうとするか」

全身を、魂ごと、文字通り掌握されたかのような恐ろしさ、そしておぞましさ……
ツバキが今までに感じたことのない感覚だった。

(ぬるり………くちゅっ)
「あぅぅ………!!……ひあぁっ……や、めて……それ、らめぇ………」
『尻子玉』を軽くなでられているだけで、身も心も蕩けそうなほどに気持ち良い。
全身が疼き、火照り、甘い声が抑えきれなくなってしまう。

「ゲッヘッヘッヘ……まぁだそんな口答えするか。それなら、こうじゃ」
(ギリっ!!!)
「んぎあぁあああああああ!!?……いやぁああああああ!!!もう、ゆるひて、くださ……っぎぅ!?」
強く握られると、今度は全身を粉々に砕かれているかのような激痛が走る。
反撃の意志も、一瞬にしてへし折られてしまった。
『尻子玉』をカッパに握られたら最後……もはや抵抗する事は不可能なのだ。

「こらーエロガッパー!独り占めすんなー!」
「さっさと俺らにも和メイドちゃんをヤらせろー!!」
「「そうだそうだー!!」」
「ゲヘヘヘ……慌てるでないわ。玉を引っこ抜いて、このお嬢ちゃんをフヌケにしたら交代してやるわい。
その後はお前さんたちヤりたい放題。なんでも言いなり、どんな事でもしてもらえるから、
和メイドちゃんにどんなハードなご奉仕も思いのままじゃぞ」
(ぬ、ヌく…?……そんな……触られただけで、こんなに、ダメになっちゃってるのに…
身体から、抜かれたら……私、死んじゃい……いや……もっともっと、大変なことに……?)

「うぉぉぉおおお!!マジか!?さっさとしろジジイ―!!」
「俺的には多少抵抗してくれた方がそそるんだけどなぁ」
「でもメイドちゃんのご奉仕ってのもいいな……ぐへへへ。俺の鬼チンポもしゃぶってもらえるかなぁ」
「オイオイそれこそ物理的に無理だっつーの」
「「ガハハハハハハハハ!!」」

「ゲッヒッヒッヒ……仕方ない奴らじゃ。では十分熟成できた頃合いじゃし、そろそろいただくとするかの。
カッパの大好物と言えばキュウリじゃが、人間の尻子玉も、これまた美味でなぁ……」
「い、いやぁ……もう、だめ……助けて……コトネ様ぁ……誰か……!」

772名無しさん:2020/08/02(日) 15:13:00 ID:???
カッパに押し倒され、尻子玉を弄り回されて息も絶え絶えのツバキ。
いよいよ最期かと思われた、その時。

「ほぉ、尻子玉ねぇ……そういや、もう一つ。カッパの特徴と言ったら……」
(ガコンッ!!)
「ゲヒッ!?」
「確か、頭の皿を割られると死ぬんだったよな?」
「!……あ、貴方は………」

(バキッ!!!)
「グ、ゲ……なに、もの……ゲ……!」
「それとも甲羅だったか……まあいいや。無事か?」
「…ザギ様……!……は…はい………!」

音もなく現れた『討魔忍五人衆』ザギの鉄拳が、一撃(二撃)の元にカッパを葬り去る。
カッパが息絶えると同時に、カッパの腕はするりとツバキの身体から抜け落ちた。

「うわぁぁぁあああ!!なんか野郎が出てきたぁぁー!!」
「くっそがぁあああ!!なんだよこの胸糞展開!!」
「カッパなんか無視してさっさと全員でやっとくんだったぁぁぁぁあ!!」

(発狂ポイントがわかりみ深いすぎるんだが……まあいいや、どうせ敵だし)

「くっそぉお!!おい!ヘビメタ野郎!!
この人質の命が惜しかったら、大人しく退場しやがれ!!」
「うぐ……あ……ザギ様っ……」
「私達の事より……早く、コトネ様を……!」
魔物たちが、捕らえたヒイラギとエノキを盾に取って迫る。

「ふん。誰がお前ら雑魚の言う事なんざ聞くかよ……討魔忍五人衆を舐めんなっ!!」
ブオンッ!!ドスドスッ!!

「「グゲェェェェッ!?」」
目にも止まらぬ速さで手裏剣を投げ放ち、ヒイラギとエノキを捕らえていた魔物を仕留めるザギ。
ちなみに………

「さ、流石ですザギ様……あの距離で、正確に人質を避けて敵を射抜くなんて」

(……俺、あんま手裏剣投げ得意じゃねーんだよな。こんな所で『能力』使っちまったぜ)

ザギは『忍法タイムエスケープ』という時間を巻き戻す術を使えるので、
うっかり手が滑って手裏剣が人質に直撃してしまった場合でも、やり直すことが可能なのだ!

「コトネのアホは、ザギの爺さんと合流したから安心しろ。
あとは……あの雑魚どもを片付けるだけだな」

「ぐっ……なんて奴だ……」
「これ、数で勝ってるからってイキって戦ったら全滅するパターンじゃねーか…?」
「こうなったら……巫女さんのいるポイントAに全てを託すしかねえ!!」
「そういやそうだな!先に他のやつらも行ってるみたいだし、こうしちゃいられねえ!」
「「「ちくしょーーー!!覚えてろよぉおおお!!」」」

やる気満々のザギに恐れをなし、というか本命の事を思い出し、
魔物たちは一斉に逃げ出していった。

「やれやれ……ま、指定のポイントには誘い込めたみてーだし、追っかける必要もねえか。
俺らは一旦引き上げだ。えーと………(…こいつら三つ子だから、誰が誰だかわかんねーな)」
「エノキとヒイラギです。そちらはツバキ」
「おお、悪ぃな覚えてなくて。立てるか?ツバキ」
「えっと…………その。申し訳ありません。まだ体に力が……」
「ま、カッパに相当やられたみてえだし仕方ねえか。よっこいしょっと」
「…………!…」

ザギに抱きかかえられるツバキ。
尻子玉を抜かれかけた後遺症か、それとも別の要因か……
心臓が早鐘のごとく高鳴り、ザギの顔をまともに見られなかった。

773名無しさん:2020/08/10(月) 11:24:25 ID:???
トーメントとミツルギの戦いの最前線。そこでは作戦通り、五人衆の中でも武闘派のシンとラガールが暴れまわっていた。

「秘奥義、鳳凰美田!」

ラガールがなんかカッコいいポーズを取ったら酒で形成された鳳凰っぽいエフェクトが出てきて、低空飛行していたワイバーンやドラゴンナイトをなぎ倒していく。いぶし銀っぽい技が多かったのに急に鬼滅っぽくなったとか言ってはいけない。

「滅殺斬魔!」

シンは敵陣の中でも一際巨大な多頭龍に肉薄すると、シフトを交えて一瞬でその8つの頭を全て斬り落とす。

「ひいぃいい!!最強のドラゴン軍団がぁああ!!」

「誰だよ圧で押せば勝てるとかポーカー素人みたいなこと言い出したのは!」

「とにかく一旦退け、退けえええ!!」

貴重なドラゴンタイプの魔物を雑草のように刈られた指揮官は、これ以上の損害にビビッて撤退する。
シンとラガールは深追いせずに、刀にべっとりと付いた血を拭いながら休息に入る。

「ふぅ、先方が根負けしてくれて正直助かったぞ……こちらの体力も無尽蔵ではないからな」

「アア」

ラガールは酒を飲み、シンは腕を組んで体力回復に努めているうちに……本陣から合図の狼煙が上がる。

「陽動作戦へ移行か……道理だな、消耗戦はあちらに分がある」

「……ソウダナ」

「ナルビアからの情報や他の忍の目撃では、こちらの方面の指揮官はカペラとのこと。アルフレッド殿やアリサ嬢に任せておけば間違いなかろう」

「十輝星……」

ラガールの言葉を聞いたシンは、顎に手をあてて考え込む。

「ラガール、頼ミガアル」

「ほう?お主の方から頼みとは、珍しいな」

意外そうな顔をするラガールに対し、シンは敵陣の方へスッ、と指を指し示す。

「私単独デ敵陣ヲ掠メルヨウニ突破シ、陽動スル……ソノママ追撃部隊ヲ引キ付ケ、戦線ヲ離脱シタイ」

「一騎駆けとはまた酔狂な……しかも、離脱すると?」

「私ニハ、決着ヲ着ケナケレバナラナイ相手ガイル。ダガ、陛下ヘノ忠義モ果タス。ソノ最善策ダ」

ナルビアからの情報提供で、ある程度十輝星の配置は把握できているが、その中にスピカ……リザの名前は載っていなかった。
リザだけは自分の手で止めたいと思っているシンは、リザを探す為に別の戦場を見に行くことにした。

「……止めるのも無粋、か……あい分かった、陛下には拙者の方から上手く伝えておこう」

「助カル」

そう言って颯爽と馬に飛び乗ったシンは、一刻も惜しいと言わんばかりに、敵陣へ馬で駆けていく。

「なんだぁ!?変な仮面が馬に乗ってやって来るぞ!」

「まるでゴーストオブツシマだ!」

「とにかく迎撃ぃ!」

シンにトーメント兵が魔法や弓矢で攻撃して来る。

「待ッテイロ、リザ……」

周囲から飛んできた魔物兵の攻撃が仮面を掠り、留め具が外れて地面に落ちていく。


「たとえ殺してでも……アンタを止める!」



「仮面の下から美少女が!?」

「まるで2BMODだ!」

「とにかく追撃ぃ!本陣の守りは他の奴に任せとけ!」


どこにいるかも分からない、道を違えた妹。彼女を探すため、シン……ミストもまた、各地を遊撃することになった。

774名無しさん:2020/08/16(日) 06:27:50 ID:73YF2Dn6
「失礼します!ヴェンデッタ第7小隊、ただいま参りました!」

「ああ、来たか。入ってくれたまえ」

シーヴァリア首都、ルネでは来たる進軍に向けて物々しい雰囲気が街を覆っていた。
ヴァーグ湿地帯へとつながる街道は軍の施設が続々と設営されており、一般人の通行も規制されている状態。
大規模作戦の前の大準備も、騎士たちの持ち前の連携力と統率力によってそれほど時間はかからなかった。

その設営の中でもひときわ大きい作戦本部室に現れたのは、唯たちヴェンデッタ第7小隊の面々だった。

「へーここがイグジス部隊長の部屋かー。突貫で作られたからあんまり部隊長っぽい威厳は感じられないねー」

「ルーアさん……この部屋に入ったら口を開くなと言ったはずなのです……」

「あれ、そうだったっけ?忘れちゃってた!てへぺろり☆」

「出た!エルマの屈託のない最&高のハジケル笑顔!新曲のインスピレーションになりそうだぜ!」

「わわわ、み、皆さんちょっと……部隊長の前ですから、お静かに……!」

「ふふふ……みんな仲が良いみたいで何よりだ。ヴェンデッタ小隊のメンバーでここまで明るいのは、君たちくらいかもしれないな」

「えへへ……それほどでもないですよぉニックさあん……」

「唯さん、今のはウチたちへの皮肉だと思うのです……」

この隊に配属される前は暗い性格だったルーアも、段々とツッコミ役が板についてきてしまったのだった。



「さあ、いよいよヴァーグ湿地帯から騎士たちの進軍が始まる。先行している部隊とナルビアの密偵からの情報によると敵はやはり魔物軍。その規模は掴めていないが、逆に言えば掴みきれないということだ。激戦は避けられないだろう。円卓の騎士にも欠員が出ている以上、文字通り総力戦だ」

「確か、ノーチェさんたちは私達と同じヴェンデッタ小隊に配属されているんですよね?」

「ああ。リリス様の勅命によって12小隊の面々は隼翼卿と睥睨卿の救出に向かってもらっている。首尾は上々と伝令もあった。なんでも変な虫に改造されたからセイクリッドのお嬢さんを用意してくれとか……」

「ミライちゃんならなんでも治せちゃいますもんね!」

(……ウチに弟子入りしてきた変な人のことですね)

最近はもはやソウルオブ・レイズデット要因のような扱いのミライだが、彼女もまた余分三姉妹との戦いでは根性を見せた。
その甲斐あってかは不明だが、騎士団の一員として今回の戦いでは前線の後方支援を任されている。



「そして君たちへの司令だが……急ぎ、ゼルタ山地に向かってほしいんだ」

「……え?」

ニックが目をやったホワイトボードに貼られた進軍図には、ゼルタ山地からはナルビアの軍隊と機甲部隊が進軍すると記されている。
唯の視線を確かめたのか、ニックは少し声を潜めた。

「ナルビア……あの国の動きは少し気にかかる。正直なところ、意思を持たない鉄の塊が何台あったところで、トーメントの魔物軍に適うはずがない。シックスデイという幹部たちもいるがその半数は戦闘要員ではない。些か戦力に不安を残しているんだ」

「なるほど……私達がそこに行って、ナルビアの人たちのお手伝いをすればいいんですね!」

「……とまあ、これは表向きの理由だ」

「……え?」

ニックの声がより密やかになる。



「ナルビア……あの国はこの戦争に乗じて何かを企んでいる節がある。君たちには同盟国として戦いに参加しつつ、メサイアと呼ばれる謎の兵器について探りを入れてもらいたい。入手した情報はこのメサイアという通称のみだ。極秘事項のようでそう簡単には聞き出せないだろうが……正規軍ができることでもないからな」

「メサイア……わかりました!ナルビア軍を援護しつつ、情報を集めてみます!」

「……よろしく頼む」



ナルビアの抱える隠し玉兵器メサイア。
その正体がすべてを破壊する最強人造人間であることを知るものは、まだ少ない。

775名無しさん:2020/08/16(日) 06:37:07 ID:73YF2Dn6
所変わってトーメント城、作戦本部室と立て札の置かれた部屋の中では、シアナが戦況情報の対応に追われていた。
机の上には魔法盤が敷かれ、各国の進軍状況と魔物軍の状況が映し出されている。
各戦闘場所に派遣されている伝令役の魔法使いたちが、同じ魔法版に魔力を注いで状況を更新し続けているのだ。

「討魔忍五人衆が全員前線に来て暴れているとは、やはり脳筋集団のようだ。背後からの奇襲にそれだけ対応できるか楽しみだな……」

シアナが魔力を送り、アレイ草原にドラゴンの姿が浮かび上がる。
このように指示を出すことによって、すべての戦況を管理、指示出しをするのが現時点でのシアナの仕事だ。
ミツルギ以外の各国の進軍状況を確認しようとしたとき、部屋のドアがノックされた。

──コンコンコン。

「入れ……って、げっ!」

「…………」

入ってきたのはリザである。彼女の部屋で喧嘩をし恐怖のあまり失禁までしてからというもの、なんだが目が合わせづらい相手であった。
主に男としてのプライド的な面で。

「……な、何の用だよ。お前の部隊への指示は王様から出されるはずで、僕から言うことは何もないぞ」

「王様が、シアナから指示を受けろって。指示内容はシアナに伝えてあるからって言ってた」

「……なんだよ……こんなときにラインなんか見られるわけ無いだろ……」

リザの言う通り、シアナの端末には王からのメッセージが送られている。
これをそっくりそのままリザに送らずシアナから伝えさせるように仕向けるあたり、険悪な状況にあることを知っての確信犯だろう。



「……じゃあお前の携帯に作戦内容を送るから、それで確認しろ。もう行っていいぞ」

「……シアナ」

鈴を転がすようなリザの声に名前を呼ばれ、シアナはゾクッとしてしまう。
その声のトーンが、思っていたより優しいからだ。

「……何だよ」

「この前のことは……私から謝る。シアナの気持ちも知らないで勝手なことを言った私が悪かった……ごめんなさい」

「えっ……!?」

できるだけ見ないようにしていたシアナがリザを見ると、リザは顔が見えなくなるほど深々と頭を下げて謝っていた。

「や、や、やめろよっ!別にもう怒ってもないし、お前の言う通り両成敗で終わったことだろ……何で今更謝ってるんだよ……」

「……私、この戦いで死ぬかもしれないから……少しでも未練はなくしたくて」

「はぁ……なんか前よりメンヘラ度が上がってないか?心配になるからやめてくれないか」

「でも……謝りたい気持ちは本当だから……素直に受け取って欲しい」

「っ……わかったよ……ぼ、僕も悪かった。女の子をリョナるのは好きだけど、仲間のお前に手を出したのは謝る……ごめん」

「……シアナって、根は優しいよね」

「もう、そういうのやめろよ……照れるだろ」

「……ふふっ」

「……ふん……お前もそうやって笑ってるほうが、何倍もマシだ」

自然に笑みが溢れた様子のリザに、アイナの笑顔を重ねるシアナだった。

776名無しさん:2020/08/16(日) 06:39:27 ID:73YF2Dn6
「笑顔見せるなんて、思ったより落ち着いてるみたいだな。何かあったのか?」

「……別に……落ち着いてなんかないよ。最近はもう普通にしてるのが嫌だから、城の地下で魔物と戦ってばかりだし」

「お前どういう属性を目指してるんだよ……」

最近は城の地下に籠り、ひたすら醜い魔物相手に技を磨いていたリザ。その噂はシアナも耳にしている。
なんでも城の地下に行くとリザの悲鳴が響いて漏れ聞こえるとかで、生の悲鳴を聞こうと一部の兵士が連日通い詰めているらしい。
なんとか映像も撮りたいと一部の有志が隠しカメラを仕掛けようとしたらしいが、地下の魔物たちが危険すぎて泣く泣く断念された経緯もあった。

「私……こんな状態でお姉ちゃんと……ちゃんと戦えるのかな」

「さあな……まあ自分語りは女友達にでもやってくれ。お前の遊撃部隊が向かう場所は……ここだよ」

シアナが指を指したのは、机上の魔法盤に大量の機械兵器が浮かび上がっている場所だった。



「……ゼルタ山地……」

「ナルビアはなにか隠し玉を持っているみたいだ。メサイアという謎のキーワードを諜報員が確認している。実態は不明だが、おそらく機械兵器の一種だろう。同盟国にも秘密にしているほどの……な」

「……そんな情報を漏らしてるなんて、ナルビアらしくないような気がする」

「ああ……もしかしたら外部に漏らすことで、外から探りを入れてほしい誰かがいるのかもしれないけどな」

「……ナルビアも一枚岩ではないかもしれないってことか」

「とにかく。このメサイアについて探ってくれ。別に戦う必要もない。どの程度の規模の平気なのか把握しておきたいだけだからな」

「……了解。エミリアも回復したし、準備でき次第トーメントを発つよ」

「ああ……」

指示を把握したリザが部屋を出ようと踵を返すと、それと同時にシアナは席を立った。



「……リザ!」

「……ん?」

「何があっても……死ぬんじゃないぞ。アトラはお前のことが大好きだし、僕だって……ずっと仲良くやってきたお前がいなくなるのは嫌だ。アイナのことだって神器を使って僕がなんとかしてみせる。だから……」

「……やっぱり、シアナは優しいね」

そう言い残し、リザは部屋を後にした。

777名無しさん:2020/08/16(日) 21:04:13 ID:???
「はぁっ……はぁっ……すっかりはぐれてしまいましたね。
…ヤヨイちゃん達は、大丈夫でしょうか」

一方アレイ草原では、ササメが一人、魔物の大群を相手に奮闘を繰り広げていた。

「ヒャッハーー!!見つけたぜ雪女ちゃん!」
「もうすっかり夏になっちまったし、その雪見大福おっぱいで涼しくしてほしいぜ!!」
「むしろ暖めてやるぜ!中からドバっと!!」

「た、確かに近ごろ暑いですが……みすみすあなた方に倒されるほど、私は甘くありません!」

「グワーッ!」「ギャーーー!!」

迫りくる魔物を、忍術と冷気で次々倒していくササメ。
だが、いくら倒しても敵は次々に集まってくる。

それもそのはず。
雪人の城でのササメの活躍(リョナられぶり)、特にリョナの鐘の一部始終は雪人達の手で
動画サイトにも投稿されていたため、トーメント勢の間でも噂になっているのだ。

今やササメは討魔忍の中では七華に次ぐ人気があり、前線に出ようものなら真っ先に狙われるのである。

「くっ……怯むな!雪人がこの暑さで弱ってないはずはねえ!」
「人海戦術おしくらまんじゅう作戦だー!!」
「野郎同士で密なんて嫌だが仕方ねえ!」
「おしくらまんじゅう!押されてなけわめけー!」

無数の魔物が今のご時世など気にするかとばかりに密集し、一斉にササメに襲い掛かった。
みんなで集まって暖め合えば寒さだって怖くない!

「こ、これは……!」
ものすごい数の魔物に迫られ、さすがのササメも一瞬怯んだが……

「お、ササメ先輩いたいたー!大丈夫ですか!?」
「なんか敵が集まってるし、派手に吹っ飛ばしちゃうよー!!『爆裂☆スターマイン』!!
ズドオオオオオンッ!!

「「「グワーーッ!!」」」

「ヤヨイちゃん、ナデシコちゃん!…助かりました!」

……ヤヨイとナデシコが駆け付け、密集した魔物を花火爆弾で一網打尽に片づけた。

「そろそろ、例の魔物一か所に集めて一網打尽作戦が始まる頃でしたね……詳細な情報は狼煙で伝えるそうですが」
「うーん。ここからじゃ、狼煙が見えないですね。ちょっと敵陣深くに入りすぎたかな」
「だねー。じゃ、一回本陣に戻ろうか? 地図によるとー、こっちの方角に突っ切っていけば早いよ!」

「……この『ポイントA』という所を通っていくわけですね。
ちょうど私もかなりの冷気を使いましたし、休憩したかったんです」
「実は私らも、ササメ先輩を探して走り回ってたんで、そろそろ戻ろうかなーって」
「アタシも、でっかい花火爆弾あらかた使い切っちゃったし!丁度よかったね!」

……というわけで。

三人はフラグ的な発言をしていることに気づかないまま、
味方の作戦によって大量の罠が仕掛けられ、敵が集中して集められている「ポイントA」に
足を踏み入れる事になるのだった。

778名無しさん:2020/08/23(日) 13:32:23 ID:???
トーメント王国との決戦を間近に控えた、ナルビア王国。
その中枢部、オメガタワーにある、とある研究室で……

「ねぇ〜……お願い。……いいでしょぉ?」

甘い猫なで声を上げているのは、ナルビア王国軍第1機甲部隊師団長、レイナ・フレグ。
キャミソールの肩紐をずらし、「シックスデイのお色気担当」の自称に恥じない健康的な肢体を極限までさらけ出している。

「……だだだだだ、ダメだ!!……いくらレイナの頼みでも、これ以上は……」

誘惑している相手は、椅子に座った白衣の青年……
オメガタワー研究開発部門総括にして、レイナと同じシックス・デイの一人、マーティン。

レイナに少なからず行為を抱いていて、しかも女性にほとんど免疫を持たない彼だが、
今回ばかりは理性を総動員し、必死に誘惑に耐えていた。

「『ライトニングメタルスーツ』のこれ以上の強化改良は無理だ。
体への負担が大きすぎる……下手すりゃ死ぬぞ!」
「だ〜からぁ。上手くやる、って言ってんじゃん。こんなに頼んでもダメなのぉ?」
レイナはマーティンの腕にしがみつき、胸を押し付けた。
上目遣いで見つめられ、マーティンの気持ちも一瞬ぐらつきかけるが……

「…何べんも言わせるな…!…ダメなもんは、ダメだ……!!」
レイナの身を案じ、首を横に振る。
マーティンのレイナへの想いは、……少なくとも、一瞬の肉欲に流されないだけの強さはあった。
しかし。

「へー………ヒルダちゃんの事は、ふつーに改造したくせに」
「え?あ、あ、いや、ボクチンとしてもそこは、立場上仕方なくだな……」
「……それで、メサイアさえいれば、アタシらはもうお払い箱ってわけね。よーくわかった」
(ドカッ!!)
「いや、べ、べ別にそういうつもりは……うおご!?」
レイナはマーティンから離れると、座っていた椅子ごと思い切り蹴り倒す。

「もういい!アンタには頼まない! 一生一人でセンズリこいてろ、このフニャチン野郎が!!」
「……………ん、ぶっ………あ、っが、……おい、待て……!」
悪態を吐き、部屋を飛び出すレイナ。
鼻血を白衣の袖でぬぐいながら、マーティンはその後姿を見送るしかできなかった。

………………

「ふっふっふっふ……どうやら、フラれちゃったみたいねぇ」
「………。」

研究室を出て、自室へ続く薄暗い廊下を歩くレイナに、声をかけたのは……

ミシェル・モントゥブラン。
ナルビアの研究者エミル・モントゥブランの妹であり、
元はトーメント王国の支援を受けて活動していた、マッドサイエンティスト。

「ま、こうなることは想定内だけど……大丈夫よ。
私が言った通り、例の『ブツ』は仕掛けて来てくれた?」
「ええ………アイツを蹴り倒したついでにね」
「OK。これで、そのナントカ君の研究データを手に入れることができる。
そのホニャララスーツとかいうヤツ、私がいくらでも強化してあげる」

エミルがどさくさに紛れて亡命を手引きしたおかげで、
ミシェルの存在は、ナルビアでは限られた人間しか知られていなかった。
だがミシェルはその立場を逆手に取り、こうして『使えそうな人間』に接触を図っていたのだった。

「アンタみたいな胡散臭い奴に、頼りたくはなかったけど……
マーティン君が使えない以上、アンタにやってもらうしかなさそうね」

研究を危険視され、トーメントを追われたミシェル。
メサイアの出現により、ナルビア国内立場を脅かされつつあるレイナ。

二人が密かに手を組んだ事によって、トーメントとの戦い、そしてナルビアの勢力図は、どのように変わっていくのか……

779名無しさん:2020/08/23(日) 18:38:57 ID:???
「久しぶりね、アリスちゃん、エリスちゃん。
アーメルンで会った時は、色々世話になったわね?
まあココは一つ、お互い様って事で水に流しましょ。フフフフ…」

オメガタワー内、訓練施設にて。
ミシェルは開発中の強化スーツの『装着者候補』を密かに呼び集めていた。
レイナと………そして、アリスとエリス。
レイナと同じシックスデイのメンバーである。
二人は以前、任務中にミシェル達と遭遇し、戦ったこともあった。

「レイナ。一体どういうことだ……こんな胡散臭い奴が作った物を、着て戦えと?」
「そういう事。今のままじゃ、メサイアの下っ端に甘んじたまま……
それどころか、トーメントの連中にもヤられちゃいかねないからね」

「!!私たちが、トーメントごときにだと!?……レイナ!私達をバカにしてるのか!?」
レイナの無遠慮な言い草に、エリスはかっとなった。
……それは、心中で密かに抱いていた不安をずばりと言い当てられたから、かもしれない。

「本当のことを言っただけよ。納得いかないなら、試してみる?
今のエリスちゃんの実力が、どの程度のレベルなのか」
「貴様ぁっ!!」
「いけませんエリス!!落ち着いてください!」
挑発され、一触即発状態のエリスを、アリスが必死に止めに入る。

「まあまあ……いいんじゃない?
私としても、ちゃんと納得してから判断してもらいたいし……
それに。思いっきりぶつかり合わないと、見えてこないものもあるものよ。フフフフ」
(くっくっく………笑っちゃうくらい予想通りの反応。
ほんと、レイナちゃんから聞いてた通りの子ね。……転がしやすそうだわ)

……ここまでは計画通り。わざわざ訓練場に呼び寄せたのもこのためだ。
図星をついてエリスを怒らせ、しかる後に………己の立場を叩き込む。

「レイナ。私がお前の目を覚まさせてやる……アリス。手を出すなよ!!」
「やめてくださいアリス!まさか、本気で戦うつもりですか!?」
「べっつに、二人一緒でも構わないんだけどなぁ……
ま、アリスちゃんもじっくり見ておくといいよ。
あなたたちが今、どれだけインフレに置いてかれてるのかをね。
………『雷装!』」

レイナが金色のブレスレットを掲げて叫ぶと、稲光と共に黒地のインナースーツと金色のプロテクター姿に変身した。

780名無しさん:2020/08/23(日) 18:40:54 ID:???
「出でよ!テンペストカルネージ!!…たあああああっっ!!」
2本の長槍を手に、レイナに飛び掛かるエリス。
嵐をまとった攻撃を、レイナは金色に輝く二本のブーメランで受け止める。

(グオオオオオンッ!! ガキン!!ビシッ!!)

過去の訓練データによれば、二人の総合的な戦力はほぼ互角。
レイナの従来の戦闘スタイルは、機動力を生かして距離を取りながらの遠距離戦タイプ。
近距離での戦闘はエリスに分があった。

だが今は………

「ふーん。やっぱ、こんなもんかぁ……
こうしてみるとエリスちゃんって、案外動きが荒いっていうか……」

(バチィッ!!)
「なっ!?消え……」
レイナのアーマーが煌めくと、一瞬にしてその姿がエリスの眼前から消えて…

「……けっこう隙が多いよね。
ちょっと速く動かれただけで、まるで対応できなくなる」
(ドカッ!!)
「うぐっ!?」
次の瞬間、レイナが背後からのミドルキックをエリスに叩き込んでいた。

「が、は………黙れっ!!
アーマーだか何だか知らないが、そんな奴に頼って強くなろうなんて……」

(ブオンッ!! ガキンッ!! キンッ! ドカッ!!)

力任せに槍を振り回すエリスを、軽くいなしていくレイナ。
傍から見ていても、二人の実力差は歴然だった。パワー、スピード、反応速度……すべてが別次元。
横で見ていたアリスも、レイナのスーツの性能を認めざるを得なかった。

「武器と身体能力に頼りすぎてるのはエリスちゃんの方じゃん?
はい、また隙あり」

(ズドッ!!)
「あ、っぐ……がは!!」
エリスの脇腹に、ボディブローが突き刺さる。
更に………

「エリスちゃんの方こそ、早いとこ目ぇ覚ましなよ……『スパーキングフィスト』!!」
(バリバリバリバリッ!!!)
「っぐおあああああああぁぁぁぁっ!!」
強烈な電撃が、エリスの体内に打ち込まれる。
激しいショックと、少し遅れて内臓を焼かれるかのような痛みが全身を駆け巡り、
日々苦痛に耐える訓練を積んできているはずのエリスの口から絶叫が漏れた。

「エリスっ!! レイナさん、もう止めてください!!」
「く、るな……アリ、ス……私はまだ、たたか、え……」

(ドスッ!!)
……立ち上がろうとするエリスに近寄り、レイナはその背中を踏みつけた。

「まったく、何を意地になってるんだか……
言っとくけどあたしだって、ミシェルちゃんが何か企んでんのは百も承知よ?
それでも、あたし達は……生き残るためなら、なんだって利用しなきゃならない。
それがわからないんなら……別に無理にこっちにこいとは言わない。
蹴落とされるその瞬間まで、シックス・デイの座にボケっと座ってなさい」

「ぐっ……!!……わかった。レイナが、そこまで言うなら……」
「決まりだね。アリスちゃんはどうするの?」
「………私も、やります。
私達は……もっと、強くならなければならない。例えどんな手を使っても」

781名無しさん:2020/08/23(日) 20:29:48 ID:???
その数日後。

レイナ、エリス、アリスの三人は、今度はミシェルの研究室に集まっていた。
ミシェルは、エミルからあてがわれた自室の一角を改造し、密かに実験設備を整えていたのである。

「……というわけで、これがあなた達用に作った
『レッドクリスタル・スーツ』と『ブルークリスタル・スーツ』。
急ごしらえだけど、レイナちゃんのスーツと同程度の性能はあるはずよ」

インナースーツの上に赤と青に輝く特殊金属製のプロテクターを装着する構造。
自分たちが最終決戦時に身にまとう事になる、新たな戦闘服を目にしたエリス達は……

「ぐっ……それは、いい。だが……レイナのスーツを見た時から思っていたが、
デザインはもう少しどうにかならなかったのか!? 特にこのインナー……
これじゃほとんど水着じゃないか!!」
……不満たらたらだった。

「は?……いやいやエリスちゃん。今時の水着なんてこんなもんじゃないわよ?
それに結構カワイイじゃない?我ながらいい出来だと思うんだけどなー」
「……エンジニアのセンスは測りかねますが……まあ、仕方ないでしょう。それより」

「ええ……3人がこのスーツを着たとしても『メサイア』には遠く及ばない。
レイナちゃんのスーツも含めて、ここから更なる強化が必要になる。

問題は、装着者が強化したスーツに耐えられるかどうか……でも、それについては安心して」


「……ミシェル・モントゥブラン。……私の方でも、貴女の事は調べさせてもらいました」
ミシェルのテンションが上がって、だんだん早口になり始めた所で、
アリスが口をはさんだ。

トーメントの支援を受けていた頃の、研究内容。
……そして、なぜトーメントを追われたのかも」

「へえ……だったら話は早いわ。人体強化改造なら、私の得意中の得意分野よ」

「!?……レイナ、どういうことだ!聞いてないぞ!!」
「……言ったよ?『生き残るためには何だって利用しなきゃならない』って。
エリスちゃんこそ言ったはずだよね?『わかった』って。」
「っ……!!」

「今後のスケジュールを説明するわね。
まず、私が開発した『人体自動改造システム』で、
三人が改造強化スーツに耐えられるよう段階的に肉体強化していく。
その間に、私は三人分のスーツの改造。
これは、元々の設計者であるマートン君?が理論上は考えててくれたみたいだから、
そのデータをもとに私がチョイっと手を加えれば……まあ、『本番』までには間に合うと思うわ」

「人体自動改造…?…また、とんでもない物を開発してるな……」
「うっわ〜……やっぱそれって、痛かったりする?」
エリスだけでなく、レイナも流石に少し引いていた。
具体的に何をどう改造するのか、知らずに改造されるのは嫌だが、知るのも怖いような。

「……わかりました。お二人が気が進まないようなら、まず私から」
その時。アリスが横から進み出て、改造手術の生贄…実験体、もとい、対象者として名乗りを上げた。

「あら、アリスちゃんだっけ?この中じゃ一番大人しそうに見えたのに、けっこう大胆ね」
「アリス!?…一体何を考えてるんだ!? コイツに何をされるのか、わかったもんじゃないんだぞ!!」
「……エリスちゃん、さっきからズイブンな事言ってくれるわね」
唐突なアリスの提案に、驚きを隠せないエリス。
マッド扱いは慣れているとは言え、流石にムッと来るミシェル。

「……別に、何も考えていませんよ。ただ……

今のヒルダさんは……人の形を保っているのさえ奇跡的な程で、常に大量に薬を服用していなければ危険な状態。
彼女一人にこの国の命運を背負わせるのは……それを『あの人』だけに支えさせるのは……余りにも酷です。

彼女の……『あの人』たちの負担を少しでも減らすにも、私はもっと強くならなければならない。
そのためなら………どんな事だって、してあげたい。

……ただ、それだけです」

「アリス………お前、そこまで………」
アリスがリンネにされた仕打ちを、エリスも知らないわけではなかった。
それでもなお、献身的にヒルダやリンネの役に立とうとするエリスに、
アリスはそれ以上何も言えなくなってしまった。

(ふ〜〜ん。メサイアのお付きの男にホの字(死後)ってのは調べがついてたけど……
なかなか面白い子ねぇ。 っていうか……いぢめがいがありそう)
「……いい覚悟ね。戦争が始まるまで日がないし、さっそく強化改造を始めましょう。
エリスちゃんとレイナちゃんはその間、スーツを着て実戦訓練でもしてるといいわ」

782名無しさん:2020/08/23(日) 21:44:06 ID:???
エリスとレイナが訓練場に行き、実験室にはミシェルとアリスの二人きりになった。

「じゃ、始めましょうか。まずは服を脱いで。あ、脱いだ物はこの籠にどうぞ」
「……はい………」

薄暗い部屋の中、アリスは言われるがままに、軍服の上下と、ブラウス、
そして飾り気のないブルーの縞模様の下着を脱いでいく。

きめ細かく手入れされた肌、控えめなサイズのバスト、きれいなヴァージンピンクの秘処。
同性相手とは言え、間近で誰かに観られていると思うと、
流石に羞恥心が沸き上がってくるが……なるべく表に出さないようにしながら、
アリスは脱いだ服を綺麗に畳んで籠に入れた。

「…………。」
「じゃ、そっちの台に寝て。『人体自動改造システム』起動!……」
産まれたままの姿で、小さなベッドの上に寝かされたアリス。

(ガシャンッ!! ガシャン!ガシャン!!)
ミシェルが端末を操作すると、アリスの手首、足首に金属製の枷がはめられた。
先端にハケのついた無数の機械腕が、アリスの身体にゆっくりと近づいてくる。

「なっ……!…これは…!?」
「あら、ごめんなさい。手術中に動いたりしないように、そうやって固定する仕組みになってるの。
それと……全身に、薬を塗ってあげるわね。心配しないで、ただの筋弛緩剤よ」

淡々と説明するミシェル。顔はアリスの方に向けないが、
その表情は嗜虐心に満ちたニヤニヤ笑いを隠そうともしていなかった。

(ウィーン………)
(ねとっ………)
(にゅるるるるっ)

「え……は……はい、………ひっ!!…」
薬が必要だとしても、なぜわざわざ筆で、皮膚から塗り込めるのか。
若干の違和感を覚えないではなかったが、アリスは素直にミシェルの言う事を聞き、
無数の機械腕に、己の身を晒す。

(ぬちゅっ……)
(つるっ)
(さわさわさわさわ)
「んっ……あ、ん…!………く、うぅ……ひんっ……!!」
……全身にくまなく、乳首の先端やおへそ、クリトリスなど、敏感なところは特に念入りに。
何十本もの細い筆で体中を弄ばれていくうちに、ミシェルが言っていた通り、
アリスは次第に四肢に力が入らなくなっていくのを感じた。

「はぁっ……はぁっ……」
「ふっふっふ……まだまだ行くわよぉ……」
「ふ、ひ……ちょっと、待ってくだ……ふああああああぁっ!!」
ミシェルは明かさなかったが、筆で塗られた薬は、ただの筋弛緩剤だけではない。

全身の感覚を鋭敏にする成分や、肉体を昂らせる媚薬成分、強力な利尿剤など、
これから始まる手術を盛り上げるため、様々な……
世間一般では『劇薬』『違法薬物』『毒』に分類されるようなものも含めて、多種多様な薬品をアリスの全身に塗りこめていた。

783名無しさん:2020/08/23(日) 21:49:43 ID:???
(ウィーン………)
(ガチャリ………ガチャリ………)
「っ…ぅ……ぁ………」
『準備』だけで息も絶え絶えなアリスに、再び機械腕がまとわりつく。
アリスの全身にコードのついた金属板……電極を取り付けていく。

「さ〜て、大丈夫かしら?アリスちゃん。手術はこれからが本番……
全身の筋力を強化するため、その電極から強力な電流を発生させて、
まずはアリスちゃんの全身の筋肉をズタズタに破壊するわ。
続いて、これまた全身に、栄養剤と治癒促進剤、筋肉と骨組織の強化剤を注射。超回復を促して、筋力を劇的に強化させる。
これを繰り返すことで、最終的にアリスちゃんの筋肉密度は今の20倍くらいにはなるはず……
あ、別に見た目がムッキムキになったりはしないから、そこは安心してね!それじゃ、行くわよぉ〜」

「え……そ、れって……」
……興奮気味に早口でまくし立てるミシェル。
意識朦朧としていたアリスは危うく聞き流してしまう所だったが、
頭から終わりまで、素人にもわかるレベルで尋常じゃない事ばっかり言っている。

「なーに、何か問題でも?……
アリスちゃんさっき言ってたわよね?『どんな事だってする』って。
んじゃ、スイッチオン!!」

(バリバリバリバリィッ!!!)
「…っぐああああああああああーーーーーーぁぁっっ!!!」
電極から一斉に、強烈な電流が放出される。
手足の筋肉を焼き切られていく激痛で、アリスの身体はガクガクと、丈夫な金属製の枷が壊しそうなほど激しく痙攣した。


(……ヒ…ルダ…さんが受けた、苦痛に比べれば………この、くら…い………)
普通ならとっくに気絶、下手すればショック死しているほどの激痛。
だが、機械腕に塗られた数々の薬品のせいで、アリスは無理矢理意識を覚醒させられている。

しばらく後。
筋肉を焼き切られたアリスの全身からは、ブスブスと黒い煙が小さく上がっていた。
そのアリスに、今度は……太く鋭い針のついた、無数の注射器が迫る。

「ぅ……ぁ………い、や………ま、って、くださ………おねが……」

「あ、そうそう。いきなり話は変わるけど……
前にアーメルンで戦った時、アリスちゃんには特に色々とお世話になったわよねぇ。
水に流すって言ったけど、やっぱりここでノシつけて倍返しさせてもらう事にするわ。
ま、優秀な軍人さんなら死んだりはしないと思うけど……もし精神壊れちゃったらごめんなさいね。
ウフフフフフ………」

「っああああぁぁああああ!!……っひぎ、いああああああああっっっ!!!」
心底楽しげな表情と声を向けるミシェル。
だが、苦痛の濁流に吞みこまれたアリスの耳に、その言葉はもはや届いていなかった。

784名無しさん:2020/09/11(金) 23:36:41 ID:???
バチバチバチバチ………ジュウゥゥウウ………
「ひっ……っぐ……ぁ………ううっ……!」
「ごめんなさいね〜、今丁度、麻酔薬を切らしちゃってたの。ふふふふ……」

……狭い実験室内は、肉の焼け焦げる異臭と煙が充満していた。
『人体自動改造システム』に拘束されたアリスは、無数の電磁メスによって切り刻まれ、
様々な薬品をこれでもかとばかりに投与されていく。

「はぁっ……はぁっ……う、っぐぅっ………!!」
「もっと思いっきり出してもいいのよ?…この部屋、ボロっちく見えるけど防音設備はしっかりしてるから」
苦し気に呻くアリスを見下ろしながら、鼻歌交じりに端末を操作するミシェル。
その目的は、実験・研究が5割、個人的な楽しみが4割、本来の趣旨である人体強化はそのついでと言った所だろうか。

「……………。」
「ふふ……我慢は、体に毒よ?」
「……っく、ああああああぁっ!?」
ミシェルは、アリスの股間に指を突き立て、尿道の辺りをそっと撫でる。
薬品によって極限まで感覚を鋭敏にされていたアリスは、異様な感覚に思わず悲鳴を漏らした。
そして……

じょろ………じょぼぼぼぼぼ…………
「っ………!!…」

アリスに投与された大量の薬液、それに含まれていた水分が、尿として排出される。
部屋中に響き渡るような、大音量と共に。
尿道の筋肉も疲労の限界に達しており、一度決壊した流れをせき止めることは出来なかった。

人前ではしたなく放尿してしまった屈辱に、アリスは顔を紅潮させ、身を震わせる。

いや、それだけではない……放尿するときに感じてしまった、全身が電撃に打たれたかのような得も言われぬ快感。
その瞬間、全身が骨抜きになり、自分自身に何が起きたのかわからず、思考が真っ白になっていた。
一体目の前にいる女科学者は、自分の身体をどのように変えてしまったというのか。

一方のミシェルは、排水溝に流れ落ちていくアリスの小水を指先で本の一滴すくい上げ、舌の上に転がす。
「ふむふむ……さすがのアリスちゃんも、だいぶ参ってきたみたいね。今日はこの位にしておきましょうか」
……尿はその者の体調を明確に表すバロメーター。
アリスの体調を一瞬にして読み取り、手術……いや実験の終わりを告げた。

「…く………大、丈夫……私は……まだ……耐えられ、ます……!」
「黙りなさい。貴女の身体の事は、私が一番よく理解っている……貴女自身よりもね」
(つぷっ)
「いぎあっ!?」
「貴方のカラダの中……今、どれだけグチャグチャになってるか。自分じゃわからないでしょ?ふふふふ」
股間に突き立てた指を軽く滑らせ、クリトリス、臍、みぞおち、胸の真ん中までなぞり上げる。
刃物で縦に両断されたかのような激痛に、アリスの喉から甲高い悲鳴が上がった。

「本当は、私の『クラシオン』で治してあげたいけど、今は調子が悪いから……こっちで我慢してね。」
(どろっ………ぐちゅ)
「っ………そ、れは………あぅんっ!?」
(じゅぶぶぶっ………にゅるっ!!)
「はぁっ……はぁっ……そ、そこは、待っ……ひっ!」
……自らの意志で動く、白い粘液……『ヒーリングスライム』が、アリスの身体を覆っていく。
アリスの傷ついた体を、外側だけでなく内側も、隅々まで。

「2、3時間その子たちに身を任せてれば、負傷が癒えて、貴女の身体も前より『多少は』強くなってるはずよ。
治るまで、ここでじっくり見ててあげたいところだけど……こっちもそろそろ『本業』にかからなきゃね」

巨大な白いスライムに呑み込まれていくアリスを尻目に、ミシェルは端末のキーを素早くタイプする。

レイナに仕込ませたバックドアによって入手したマーティンのアクセス権限を使い、
オメガタワーの中枢へとアクセスするミシェル。
アリス達の新スーツ開発用AIプログラムを起動する。
CPUをフル稼働させれば、どんな鉄壁のセキュリティを誇るコンピュータでも、必ず綻びが生じるはずだ。

「ナルビアの切り札、『メサイア』の研究データ。
それを手に入れて、私の意のままに動かせるようになれば……この国の全てを掌握したも同然。
私を切り捨てたクソ王や、私のシュメルツとクラシオンを奪ったレズ女に、目にもの見せてやるわ………」

薄暗い研究室の中で、野望に目を輝かせ鍵を叩く女狂科学者。
その傍らで、白濁した粘液の塊の蠢く音と、弄ばれる少女の押し殺すような声だけがいつまでも鳴り響いていた。

785>>761から:2020/09/21(月) 15:45:28 ID:???
「あ……あの場って……こんな所なの…!?」
「ええ……あの子は、辛いことがあった時、いつも……あの塔の上から、街の景色を眺めていました」

フウコと瑠奈がやってきたのは、ムーンライト城で最も高い尖塔の頂上。
今は夜という事もあり、人気は全くない。

『今宵、あの場所で待つ』
手紙によれば、もうすぐこの場所にフウコの弟、フウヤが……王下十輝星の一人、フースーヤが現れるはずだ。
以前の戦いでも、フウコとフウヤはここで再会し……
やはりフウヤを説得することができず、大きな悲劇が起きてしまった。

「とりあえず、尖塔の中に隠れていてください。
私一人じゃないと、フウヤが警戒するでしょうから……」
「わかったわ。私が知る限りじゃ相当ヤバい相手だし…気を付けてね。」
瑠奈は尖塔の中に隠れ、フウコはホウキで尖塔の上空に浮かんで待つ。

不気味な黒い雲が空を覆い、星も月も見えない闇夜。
湿り気を帯びた温い風が肌の上をゆっくりと流れていく。

(光さんも、みんなも言っていた。もうフウヤを改心させるのは無理だって……
でも私は、その時のことを覚えていない。
危険かもしれないけど、やっぱり自分の目で確かめなきゃ……)

弟と戦うべきなのか、止めるべきなのか。
もし今のまま戦場で相まみえてしまったら、自分は一体どうするべきなのか。
フウコの心の中には、再び迷いが生まれていた。

だが………

「……久しぶりだね、姉さん……また逢えて嬉しいよ」
「……フウヤ……!?」

目を見た瞬間、フウコは本能的に悟った。
あの目は……今までフウコが出会ってきた、トーメントの兵士たちや、瘴気から生まれた邪悪な魔物と同じ。

女性をいたぶり、体を傷つけ、尊厳を穢すことに悦楽を見出す……リョナラーの目だ。

「あの手紙を見て、来てくれたという事は……
今度こそ、永遠に僕の物になってくれる決心がついたのかい?
それとも……まさか、僕と戦って勝てるつもりなのかな」

「そ、そんなっ!?……そんなんじゃない。
私は、フウヤとは戦いたくないだけなの……
貴方は本当は、誰よりも優しい子だったはずよ!
お願い、優しかった昔のあなたに、もどっ……」

あの目を見ているだけで、体が恐怖に竦んでいく。
必死で紡ぎ出す言葉の全てが空回りして、あの瞳に全てを弾き返されていくのを肌で感じた。

「……何を言っているんだい姉さん?その話なら、前にもしただろう。
君はそんな僕を受け入れ、全てを赦し……僕の物になってくれたはずだ。
まさか……何も覚えていないのかい? その尖塔の十字架で、串刺しにされたことも?」

「!?……そ、そんな……」

……『優しかった昔のフウヤ』は、もうどこにも居ない。
いや、そんな物はフウコ自身が作りだした幻想だったのかもしれない。

「クックックック………なるほど。姉さん、君はやっぱり最高だよ。
君の選択は、二つに一つだと思っていた。
前と同じく僕に屈服し、永遠に僕の物になるか。
あくまで僕らトーメントに抗って、この国と運命を共にするか。
……まさか何の勝算も覚悟もなく、ただリョナられるために僕の前に現れるなんて……」

分厚く黒い雲の間から、血のように真っ赤な月が覗く。
邪悪な気配が、フウコとフウヤの周りの空間と、尖塔を飲み込む。

「今日は、事を荒立てるつもりはなかったんだけど……予定変更だ
姉さんがあまりにも愚かしくて可愛すぎるせいだよ。……クックック」

結界術によって、時の流れが外界と切り離され、結界の外の時間は停止する。
術が解かれるか、内側から結界が破壊されるまで、外からの干渉は事実上不可能になった。

「少しの間だけ、遊んであげるよ。
前にも一度クリアしたゲームだけど……面白いゲームは、何度遊んでもいいものだよね」

尖塔の超常で鋭く尖る鉄製の十字架が、さながら獲物を待つ処刑槍のように、赤い月の光を反射してギラリと輝いた。

786名無しさん:2020/09/21(月) 18:08:12 ID:tx7ft7JM
「………やるしか、ないの…!?………変身!!」
淡い緑色の光をまとい、風の妖精をイメージさせる『魔法少女エヴァーウィンド』へと姿を変えるフウコ。

その戦闘服は、胸の下側やお臍が大きく露出したインナースーツ、
風魔法を使うにはちょっと短すぎるスカートなど、
大人しく生真面目なフウコには少し大胆過ぎるデザイン。
魔力によって視界は良好になり、メガネの代わりに敵の能力を分析するバイザー『エメラルド・アイ』を装備している。

「毒風・鎌鼬!」
「くっ……ウィンドブレイド!」
二人の魔法がぶつかり合い、相殺した。

「やめて……もう、やめてよ……!!
ルミナスのみんなが、フウヤにした事も……私が、フウヤを守れなかったことも……
ぜんぶ謝るから……償うためなら、どんな事でもするから…!!」

「やれやれ。何を言い出すかと思えば……
僕がこの国の魔法少女たちから疎まれてきた事実は無くならないし、恨みが消えたわけではない。
けど今はもう、そんなのどうでもいいんだ。
そんな事より僕は、愚かな魔法少女たちをリョナってリョナってリョナりまくって、
一人残らず毒と汚泥の底に沈めて、その絶望の悲鳴で最高のオーケストラを奏でたいのさ」

「フウヤ……わからない……あなたの言っていることは、メチャクチャよ……う、あぐっ!?」

「そして、姉さん……君も、このオーケストラの一員……いや、誰よりも愛しい君こそが、メイン奏者となるに相応しい」

最初の攻防は互角に見えた。
だがフウヤの放つ毒風の刃は、打ち消したとしても不可視の毒の風となって対象を蝕む。

「がはっ……げほ、ごほっ!!……こ、れは……毒………!?」
「おやおや……まさか僕に会うってわかってたのに、なんの毒対策もして来なかったのかい?
どうやら本当に、この間の事は忘れてしまったみたいだね。だったら……」

(……ガキィィンッ!!)
「う、ぐっ…!!」

フウヤはフウコに急接近し、魔導指揮棒『エアロ・メジャー』で斬りかかる。
対するフウコも、魔導バトン『トワリング・エア』で辛うじて受け止めたが、
その鍔迫り合いで発生した新たな毒が、フウコの身体をゆっくりと侵食していった。

「次の毒は……姉さんは初めてだったかな?全身の骨を弱くする、『ペインシック・フロスト』だ」
「うっ………く、うああああぁっ……!」

フウヤに押されまいと体に力を込めると、それだけで全身の骨がミシミシと悲鳴を上げる。
まるで全身がガラス細工になってしまったかのようだった。

「もう少しして毒が全身にいきわたれば、防御力はゼロになる。
 衣装を速攻で切り刻むタイムアタックじゃなく、バフ・デバフを限界まで掛けてから……
最強コンボのオーバーキルで、最大ダメージ狙いと行こう」

フウヤは黒いオーラに包まれた右腕を振り上げ、左胸に叩きつける。
黒いオーラが体内に送り込まれ、毒々しいワインレッドに変色したブレザーコート姿へと変身…再結合(リユニオン)した。


「ま、まずいわ……何とかしてフウコを助けないと……!」
一方。尖塔に隠れていた瑠奈も、フウヤの作った結界の中に入っていた。
結界内にいる瑠奈なら、二人の戦いに介入できる。
だがフウヤ……フースーヤは、その存在も先刻承知だったようだ。

(ぞわっ………)
「なに…この気配……まさ、か………」

既に尖塔の中は、無味無臭の毒で充満していた。
『アンチバグ・ザ・ソロー』
……それは五感に作用し、大量の蟲に体内を這い回られているような感覚を与える、
瑠奈にとっては最も恐ろしい毒であった。

787名無しさん:2020/10/10(土) 18:04:30 ID:???
尖塔の頂上の小部屋に隠れ、フウコたちの様子を窺っていた瑠奈。
フウヤ……フースーヤが何か怪しげな魔法を使いはじめ、戦いが避けられそうにないとわかった時、
瑠奈もホウキに乗ってフウコの援護に向かおうとしたのだが……

がさがさがさ………ギチギチギチギチギチ……… じゅるっ……ぞわぞわぞわ……
(なっ!?……何、これ……)

……全身を、何かがはい回っている。
小さく、無数の、たくさんの脚が生えた、鋭い爪と牙の生えた、毒のトゲを持つ、ぬめぬめの、ざらざらの、何かが。

「おやおや……姉さんのことだ。誰か連れて来るかも、とは思ったけど……まさか運命の戦士とはね」
フースーヤは塔の中に誰かが潜んでいる可能性を考え、結界の発動と同時に、毒ガスが発生するよう仕掛けていたのだ。

五感に作用し、大量の蟲に体内を這い回られているような強烈な不快感を与える『アンチバグ・ザ・ソロー』。
フースーヤの魔力によって、その幻覚作用はさらに強化され、本当に大量の蟲に襲われているかのように錯覚させられてしまう。

「ひっ……や、やだっ……登ってこないでぇ……あ、脚……こんなにいっぱい……い、いやあああぁっ……!!」

……瑠奈は今、太ももに巻き付いた幻覚のムカデを追い払おうと必死だった。
太さは瑠奈の指2本分くらい。部屋の奥の暗がりや物影から何匹も何匹も這い寄ってきて、
尻尾がどこにあるのかわからないくらい長い。

更に、こぶし大の蜘蛛が何匹も頭上から降ってきて、耳元や胸の上にしがみつく。
芋虫やアリ、ハエや蚊など、他にも無数の虫たちが、足元、あるいは空中から、一斉に瑠奈に群がった。

ぎちぎちぎちっ………ぶぅぅぅぅん………うぞうぞうぞうぞ………
「ひぎ、うぁぁぁぁぁっ……やだ、やだっ………やめ、てっ……い、やああああああっ……!!」

…一匹一匹は小さく、力も弱い。振り払うのはそう難しくはないだろう。

だが、ダメだった。
羽音や鳴き声を聞くだけで全身に鳥肌が立ち、手足が震え、小さな体を更にぎゅっと丸めて縮こまるしかできない。

瑠奈は昔から、虫だけは大の苦手だった。
幼いころは、面白がったいじめっ子たちに虫をけしかけられたし、
唯と出会い、兄たちの勧めで格闘技を習い、性格も明るく活発になって多くの友達ができた今でも、
その恐怖心だけは、どうしても克服できなかった。

どんなに心を鍛えても、技を磨いても、
おぞましい感触に触れ、音を聞いたその瞬間。
瑠奈の心は無力で幼かったあの頃に引きずり戻されてしまう。

「に、げなきゃ……あ、あれ…?…」
心、だけではない。

これもまた、幻覚の作用だろうか。
瑠奈の身体が見る見るうちに小さくなっていく。手足は細く、疎ましかったバストも平たく。
更に、髪は長く伸び、服は、いつの間にか白いワンピースに変わっている。
……瑠奈がまだ幼かったころ、よく着ていたものだ。

(どうなってるの……まるで……こどものころに、もどったみたい……)
わけがわからないまま、瑠奈はホウキを手にして窓に近づいた。だがその時。

…バサバサバサバサバサッ!!
「ひきゃあああぁっ!?」
窓全体を覆うほどの巨大な蛾飛んできて、窓の外側に張り付いた。

瑠奈は思わず後ろに飛びのく。
巨大な目の模様がついた蛾の翅に、睨みつけられたような気がした。

788名無しさん:2020/10/10(土) 18:05:30 ID:???
「や、やだっ……だれか、たすけて……」
尻もちをついたまま、じりじりと後ずさる瑠奈。
その背中に、蜘蛛の糸が飛んできてべちゃりと絡みついた。

──────
「ひっひっひ……おい、ルナのなきむし!コドク、ってしってるか?」
「ドクのあるムシをつぼにいっぱいいれて、さいごのいっぴきまでたたかわせるんだ!」
──────
「え………?」

蜘蛛糸は、階下に続く梯子穴から伸びていた。
もがけばもがく程、糸は絡まる。
その先にいる何かに、ずるり、ずるり、と、体を引っ張られていく。

ぞわぞわぞわぞわぞわぞわ………
カサカサカサカサ………
ブオォォォォン……
……キチキチキチキチキチキチキチキチ

──────
「なきむしルナも、コドクにいれてやる!」
「ぎゃっはっはっは!ドクムシどもに、くわれちゃえー!」
──────

「い、いやああああぁぁぁっ!!やめて、ひっぱらないでぇぇえええ!!!」
暴れても、もがいても、どうにもならなかった。
今の瑠奈は、幼いころの…唯と出会う前の、無力だった頃の姿に戻っているのだ。

瑠奈はそのまま為す術なく、梯子穴に引きずり落とされ……
暗闇の中、赤い眼を爛々と輝かせた無数の蟲達が、一斉に襲い掛かった。


ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ!!
ざわざわざわざわっ……
ガサガサガサガサガサガサ!!
グキキキキキ……ギチギチギチギチッ

「ひ、ぎあああああああぁぁぁっっ!! い、いやっ……こないでぇっ!!……やめてぇぇえええ!!」
無数の蟲、無数の脚、無数の毒針が、子供の姿に戻った瑠奈を一瞬にして呑み込んでいく。

まだ空手を習い始める前の細い腕や足、腰まで伸びていた髪、白いワンピースが、
爪と毒牙に蹂躙され、噛み千切られ、毒液に穢されていく。

ピギィィィイィッ!!
「ぐふあっ!?……ん、むぐっ、…!!!」
極太の芋虫が、瑠奈の口の中に強引に潜り込む。
粘つく毒液が大量に吐き出され、苦い味が口いっぱいに広がった。

「う、え…………あ……!!」
じゅぷっ じゅぷっ……じゅぷっ!!
吐き出そうにも吐き出せない。それどころか、芋虫は咥内でぶよぶよの身体をくねらせ、
喉の奥にまで侵入しようとしていた。

ぬるり……べちゃ ぐちゅっ………
更に、胸の上に手のひら大のヒルが這い上り、まだ膨らんでいない乳房の先端に吸い付く。
「えぐっ……ん、ぐっ……!?」
(そ、そんなっ……!!……だ、め…そんなとこ、すったら…)

……じゅるるるるるるっ!!
「………ん、〜〜〜〜っっっ!!!」
両胸に張り付いた2匹のヒルは、瑠奈の二つの蕾から勢いよく血を…あるいは別の何かを、容赦なく吸い上げる!
その異常な感覚に、瑠奈の全身は雷に打たれたようにビクンビクンと震え、
ヒル達を引きはがすどころか、気を失わないようにするだけでも精いっぱいだった。

じゅぷっ……ぐちゅっ……じゅるるるる……じゅぶっ!!
「ぐむっ……ん、げほっ……あ、ぐ…!!」
(お、おねがいっ……もう、やめて……だれか、たすけてぇ……!!)
巨大芋虫に口を塞がれているせいで、悲鳴も上げられない。
瑠奈は今起こっている異常が幻覚であることさえわからないまま、
……ルミナスの地で必死に修行して得た新たな力を、振るう事さえできずに、
無数に群がる蟲達に成すがままに蹂躙され続けた。

かさかさかさかさ……
「っぐ……あ、あれ、は……っ……!!」
そんな瑠奈に、新たな…最大の脅威が、忍び寄る。
群れの中のどの蟲よりも大きい、黒光りする、長い触覚を持った大きな虫が、ワンピースのスカートの中に潜り込んできた。

(ひっ………ま、まさ、か………)
台所などで見かけたりしたら、瑠奈でなくても卒倒することは間違いない、巨大で不気味な黒い蟲。
しかも、瑠奈の脚よりも太い巨大な卵鞘を生やし、下着越しにぐいぐいと押し付けてくる。

(い、いやぁっ……ゆるして……それ、だけは……!!)
瑠奈の無言の懇願を意にも介さず、巨大な黒い蟲は、瑠奈の下着をやすやすと食いちぎる。
物理的に到底入るはずのない巨大卵鞘が、幼い秘唇にぴたりと張り付いた。

……どくん……どくん……どくん……
蟲の卵から、不気味な脈動と生温かさが伝わってくる。
そして、恐怖に震える瑠奈の中に、少しずつ、少しずつ、侵入してくる。

ずぶっ……ぬちゅっ………ずぶり!!
「……………っっ…っぐむぅぅぅううっっっ!!!!」
黒い蟲が腰を大きく突き動かし、瑠奈の胎内に卵鞘を半分ほど突き入れた、その瞬間…
瑠奈は目を大きく見開き、大粒の涙をこぼしながら、声にならない悲鳴を上げた。

789名無しさん:2020/10/10(土) 18:07:38 ID:???
「っひぎああああああああぁぁぁっ!!」
幻覚に苦しみ、のたうち回る瑠奈の姿が、フウコとフウヤの前に映し出される。
両胸から母乳を、口から吐瀉物を吐き出し、絶叫しながら虚空に手を伸ばし、大きく背中をのけぞらせ……
やがてぱたりと倒れ込んだ。

「クックック……無様だねぇ。運命の戦士ともあろう者が」
「そんな……瑠奈さんっ!!……フウヤ……どうしてこんな、酷い事を…」

「人の心配をしている余裕があるのかい?……
苦しみ悶える少女の姿は美しい。そして、僕にとっての一番は………あくまで君だよ。姉さん」

ババババババッ!!
「う、ぐっ……!!」

フウヤの手から黒いイバラが伸び、フウコの身体に絡みついていく。
毒で動けない今のフウコに逃れるすべはない。
強い力で締め付けられ、弱体化した骨が今にもへし折れそうなほど軋むのを感じた。

「そのイバラも、トーメントの技術を参考に、僕が新たに開発したものだよ。
全身に食い込んだトゲから獲物の血を吸い、毒の花を咲かせる。」
ズブッ……ずちゅっ……じゅるるるっ…!!
「ぐうっ……!!……なん、ですって………う、あぁぁんっ……!!」

イバラに生えた無数のトゲが、まるで意志を持っているかのようにフウコの肌に食い込み、血を吸い上げていく。
やがてフウコの顔のすぐ横で、小さな黒いバラの花を咲かせた。
そして……

「げほっ……げほっ!!……っぐっ!?……あ、っぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」
「その黒い花の花粉は、人間の神経に直接作用して純粋な『苦痛』を与える。
……その神経毒は魔力の循環をも狂わせ、やがて変身さえ維持できなくなる。まさに魔法少女殺しの毒さ。
名付けるなら、そう……『シュメルツ・ブルーメ』とでも言った所か」

全身を貫くような激痛で、狂ったような絶叫を上げるフウコ。
この異様な感覚は……初めてではなかった。
かつて、ミシェルと名乗る怪しげな女研究者が使っていた特殊能力を喰らった時の痛みに近い。
だがそれについて深く考える余裕などなく、フウコは自身の風の魔力の暴走によって、全身をずたずたに切り裂かれていく。

「っぐぅ!!ああああぁぁっ!!!……い、っぐああああああ!!!」
黒い花が二つ、三つ、次々と咲いていく。
そのたびにフウコの全身の苦痛は二倍、三倍に跳ね上がり、
悲鳴のトーンがさらに大きくなっていく。

「変身が解けても、この苦痛は終わらない。魔法少女はひとたびこのイバラに囚われたが最後、
絶え間ない苦痛に悶えながら、全身の血を吸いつくされる事になる。
もちろん今度の戦場となるリケット渓谷にも、至る所にこの花の根が張り巡らされている…今から楽しみだよ」

「でも、姉さんにはこんな物じゃなくて、もっと素晴らしいフィナーレが用意してある。
……見えるだろう?あの鋭い尖塔の十字架が。
僕はいつも思っていたんだ。あの鋭い槍のような先端で姉さんの心臓を串刺しにしたらどんなに素敵かって……」

「あっぐっ……そん、な……こと……うぐ、ぁあああああぁっ!!」

「姉さんは覚えてないようだけど……前回のルミナス侵攻の時、その夢は叶った。
……でも、僕は思ったんだ。
十字架に姉さんを真っ逆さまに堕として、脳みそと心臓と子宮をいっぺんに串刺しにしたら。
……きっともっと、美しいんじゃないかって」

「っぐ、……フウ…ヤ……あなたは……どこ、までっ……!!」
「姉さんのことは、後で王様に復活させてもらうよ。
そして今度こそ……姉さんの存在を永遠のものにして、僕の愛[ドク]を注ぎ続けてあげよう」

黒い花がまた一つ咲き、断末魔のような叫びと共にフウコの変身が解けた。
フウコの身体が、フウヤに抱きかかえられたまま自由落下を始める。
その先には、赤い月の光を受けて輝く十字架の先端があった。

790名無しさん:2020/10/10(土) 18:09:25 ID:???
(もう……だ…め………わたし、このまま……むしに、たべられちゃう……)
消えゆく意識の中、瑠奈が思い浮かべたのは……親友の、唯の事。

(だい、じょうぶ……だよ……)
(こわいむしは……わたしが、みんな……)
(……?……この、こえは……)
ふと、懐かしい声が聞こえた気がした。
おそるおそる顔を上げると、オレンジ色の淡い光が、瑠奈の顔を優しく照らしている。
……まるで夕日のようにきれいで、暖かい光だった。
まるで、唯に初めて会った日に見た夕焼けのように……

瑠奈はふらふらと起き上がり、光に手を伸ばす。
いつの間にか、体は元に戻っていた。あれだけ大量にいた蟲も、一匹もいない。
どうやらあれは、すべて幻覚だったらしい。

「これは……さっき、フウコから借りたイヤリング……」
……ここに来る直前で、『もしもの時のため』とフウコから預かったものだ。
強い守りの力を秘めているのだ、という。

そんなすごい物なら、フースーヤと直接対峙するフウコが持っているべきだ、と瑠奈は主張したのだが……

『いいえ……私は、あの子と戦いに来たわけじゃありませんから。
甘いかもしれませんが、私は……私だけは、あの子とちゃんと話して、
今あの子が思っている事を、受け止めて上げなきゃいけないと思うんです。
例え裏切られたとしても……結局は戦うしかないんだとしても。
……だから、これは瑠奈さんが持っていてください。
もし私に、万一のことがあったら、その時は……』

「………私は、結局また……助けられちゃったのね。
唯を、他の誰かを助けてあげられるように、修行したっていうのに……」

「っぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
イヤリングを握りしめ、己のふがいなさを噛み締める瑠奈。
だがその時、塔の外から、今までに聞いたことのないような、凄まじい悲鳴が飛び込んできた。

「フウコっ!?」
ホウキを手に窓を飛び出し、尖塔の屋根に上がる。
頂上の十字架目掛けて、フウコが真っ逆さまに落下してくる。

「やばっ!!……斬鋼・蜥蜴の尻尾切り!!」
ザシュッッッ!!
ドサ!!

瑠奈は、鋼属性の魔力を乗せた手刀で十字架を根元から斬り落とし、
落ちてきたフウコの身体をしっかりと受け止めた。

「はぁ………はぁ………る、な…さん……すみ、ませ……」
「喋らない方が良いわ、フウコ!…にしても何なのよこのイバラ!さっさと解かないと……」
「ふん……無事だったんですか。お邪魔虫の、運命の戦士さん」

フウコに巻き付いたイバラを手刀で切り裂いていく瑠奈。
その目の前に降り立ったフウヤは、苛立ちをあらわにする。

「言ってくれるわね。この私をよりによって『虫』呼ばわりなんて……」

「愛する姉さんとの一時に割って入ってくるなんて『お邪魔虫』以外の何物でもないでしょう。
……僕をあまり怒らせないでください。
どうやらそのオレンジ色のイヤリングで毒を無効化したようですが、そんな物いくらでも対処のしようはある」

「はらわた煮えくりかえってるのはこっちの方よ!よくもフウコに……自分の姉さんに、こんな酷い事をっ!!
って、『愛する』姉さん……??……え、何それ……どういう事……」

「言葉通りの意味ですよ。…僕は前回のルミナス侵攻の時に、自分自身の本当の気持ちに目覚めたんです。
僕は姉さんの事を、世界中の誰よりも愛している。
魔法少女たちに抱いていた憎しみなんて、最早どうでも良いと思えてしまうほどに」

「あ……あなた達って、実の姉弟なのよね!?
いやそれはこの際置いとくとしても、だったらどうしてこんな……!」

「そして、苦痛に歪む姉さんの姿は、誰よりも美しい……
あの時のように、姉さんに不老不滅の屍術を施し、
今度こそ僕の毒で、姉さんの魂に永遠の苦痛……永遠の美しさを与えてあげたい。
それこそが、僕の……姉さんへの、愛なのだから!!」

「なっ…………」

爛々と目を輝かせて語るフースーヤの姿に、瑠奈は眩暈を起こしそうになった。

791名無しさん:2020/10/10(土) 18:12:31 ID:???
「……け……な……」
狂気に吞まれたわけでも、恐れを抱いたのでもない。
むしろその逆……
瑠奈は己の中の怒りを押さえこみながら、気絶したフウコの身体を尖塔の屋根にそっと横たえると。

「ふざっ!!
けんなぁああああああああ!!」

「っ!?速……」
……ドゴォッ!!
「ぐあああああああああっっ!!」

……フウヤに、まっすぐ殴り掛かった。

あまりの速度にフースーヤは反応できず、瑠奈の攻撃…
風の魔力をまとった『鉄拳制裁』をまともに喰らって吹き飛ばされる。

「フウコが、どんな気持ちであんたに会いに来たと思ってんのよ………
何が『本当の気持ちに目覚めた』よ。
相手の気持ちを考えようともしないで、勝手な都合を押し付けるだけ……
そんな物……『愛』なんかじゃない。
アンタはただ自分の欲望を満たしたいだけの異常者だわ!!
私がアンタの姉さんの代わりに……その甘ったれた根性、叩き直してやるっ!!」

「っぐ、がは………さすがは、運命の、戦士。
ですがあなたには……いえ、他の誰にも、姉さんの代わりなんて、務まりません……
残念だけど……今夜はここまでです」

結界が崩れ落ち、月の光が本来の青さを取り戻す。
警備に当たっていた魔法少女たちが異常を察知し、城内に警報が鳴り響いた。

「決着は、明日……リケット渓谷で、付ける事にしましょう。
姉さんに伝えてください。僕の所にたどり着く前に、他の魔物に殺られないよう、くれぐれも気を付けて、と……」

「ま、待ちなさいっ!!このままアンタを逃がすわけには……」
逃げ去るフウヤを追いかけようとする瑠奈。
その時、一匹の蛾がふらふらと飛んできて瑠奈の肩に止まる。

「なによ、また幻覚?そうとわかってればこんな物、怖くもなんとも………」
パタパタと払いのけると、蛾はふらふらと飛び去って行った。
ふと手を観ると、蛾の鱗粉がべったりと付着している……

「あれ?……もしかして今のって………」
瑠奈の顔から、一瞬にして血の気が引く。

「フウコ!瑠奈さん!!」
「一体何があったんですか!!瑠奈さ……ああっ!?」
駆け寄ってくるカリン達の目の前で、瑠奈は再びぱたりと倒れ、そのまま意識を失った。

792名無しさん:2020/10/24(土) 14:16:57 ID:???
「!!……………私、は………」
「フウコ!!」「よかった、気が付いたんだね!」
しばらく後。フウコは医務室のベッドで目を覚ました。
瑠奈、そして同じブルーバード小隊の仲間である水鳥、カリン、ルーフェが安堵の表情を浮かべる。

「…そう、ですか……やっぱり、フウヤは……」
弟フウヤの姿はなかった。彼が改心する事はなく、戦いはもはや避けられない。
自分の考えが甘すぎたことを、フウコは改めて悟った。

「…正直、フウヤに会う前は、迷っていたんです。あの子とは戦えない……戦いたくない。
あの子の心を歪ませたのは、私のせいでもあるのだから。
どうすればいいのか、考えました。
魔法少女と十輝星、互いの立場を捨ててどこか遠い所に逃げる、とか…
またはいっそ、私も……ルミナスを離れて、フウヤの味方になる。
世界中が敵に回ることになっても、家族である私だけは、最後まであの子の味方になってあげる…
そういう選択肢も、ありかもしれないって。」

「え!?…フウコ、それって……」
カリンが動揺し、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
…かつてトーメントがルミナスに侵攻してきたとき、実際に一度フウコはフウヤの軍門に下っているのだ。

「だけど、実際にフウヤに会って……やっぱり、無理だと思いました。
私はあの子の姉であると同時に、一人の魔法少女だから……あの子のやってることを、見過ごすことは出来ない。
だから、私は今度こそ…ちゃんとあの子と向き合って、戦う。
そして……『お姉ちゃんの鉄拳制裁』で、あの子の性根を叩きなおしてあげます!」

フウコは力強くそう言うと、しゅっ!と口で言いながら、拳を突き出す。
その目の光には、揺るぎない強い意志が感じられた。

だが……

…ズキッ!!

「あ……いたたた」
「ちょっ…無茶しちゃダメよフウコ!まだ体の毒も抜けきってないんだから!」
今のフウコは『ペインシック・フロスト』で骨を弱らされた上、
『シュメルツ・ブルーメ』で大量に血を失い、神経もボロボロに傷つけられている。
当分は絶対安静。明日フウヤと戦うなんて、そもそも無茶な話だった。

「貴女の気持ちはよーく分かったわ。
でも今は、ゆっくり休みなさい。あの生意気小僧への『鉄拳制裁』は、私たちに任せといて!」
瑠奈はウィンクしながら、フウコの前に軽く拳を突き出す。

「あ、ありがとうございます。
私が覚悟を決められたのも、あの時の瑠奈さんの言葉のおかげ……って、あれ?
瑠奈さん、その手甲は……?」
「あ……これ?……実は……」
……瑠奈の右拳には、オレンジ色の光を放つ、不思議な手甲が装着されていた。

793名無しさん:2020/10/24(土) 14:18:11 ID:???
「私にもよくわからないんだけど、フウヤに一撃入れる瞬間……
フウコから借りたお守りが光って、手甲に変わったの」

(えええ……カナンさん、どういう事なんですか??)
(一言でいうと『その時、不思議なことが起こった!』って感じかしら。
というか正直、あの時は私も無我夢中だったから……)
オレンジの魔石の中の人…カナン・サンセットに、水鳥はテレパシー的なやつで語り掛ける。
……が、肝心なところはやっぱりよくわからなかった。

(魔石が瑠奈さんの……運命の戦士の、強い気持ちに呼応した。って事でしょうか?)
(とりま、そーいう事でいーんじゃない?変身くらいするでしょ、私は魔法少女なんだし。)

「うーーん。まさかこのイヤリングに変形機能がついてたとは…作った私ですら知らなかったわ」
「ご、ごめん……元はと言えば私が、水鳥ちゃん達に黙って持ち出したせいで」
「え。これカリンが作ったの?ご…ごめんね、こんなんなっちゃって。
なんだったら、この埋まってる石だけでも……」

(きゃ!?痛い痛い痛い!!ちょ、やめてー!!!)
「ちょ、瑠奈さん!無理矢理外さなくていいですから!!」
手甲は瑠奈の右手にしっかりと装着されている。
色々と試行錯誤したが物理的に取り外すことはできず、
魔力切れで元のイヤリングに戻るまでに、しばらく時間を要した。

「と…とりあえずその手甲は、瑠奈さんが持ってるのがいいんじゃないかな…」
「な、なんか……本当にごめんなさい。大事な物なんでしょ?」
「い、いえ。今なら多分、瑠奈さんの方が有効に使えると思いますし……」
こうして瑠奈は、伝説の魔法少女の力を宿した魔法の手甲『サンセット・フィスト』を手に入れた。
なんだか申し訳ない気がしたが。

「その代わり〜〜……
じゃーーん!! こんな事もあろうかと!
というか今更だけどルーフェちゃんの入隊祝いも兼ねて!
ブルーバード小隊のおそろいアクセ作ってきましたーー!!」

「わぁ!ありがとうございますカリンさん!」
「いや『こんな事もあろうかと』は絶対ウソでしょ…」
「あはははは。ルーフェちゃんの分を作った後、どうせだからみんなの分も作ろうかなって思って。
で、どうせなら全部そろってからババーンと発表しようと思ってたんだけど、最近は色々あったから遅くなっちゃって……」
「でも時間かけただけあって、すごくキレイで良い出来だよ!ありがとうカリンちゃん!」
水色、緑色、ピンク色。3色のクリスタルのペンダントが、水鳥、フウコ、ルーフェに手渡された。
それぞれ、鳥の頭、左右の翼を象ったかのようなデザインである。

「ふっふっふ〜。しかも、それだけじゃないんだ。これをこうして、こうすると……」
そしてそれらを、カリンが持つオレンジ色のペンダントと合わせると……

「あっ……すごい!鳥の形に……!」
「カリンのは、尾羽になってるのか。なるほどね〜」
4つのペンダントが、ブルーバード……部隊名の由来である幸運を呼ぶ伝説の青い鳥を形作った。
「ありがとうカリンちゃん!」
「私……大切にするね!」
「私も!」

「ふふふ……私もそっちの方がよかったなあ。……あなた達って本当、いいチームね」
(あの子は立派に独り立ちして、もう私の手助けも必要ない……って事なのかもね)
そんなブルーバード小隊の様子を、瑠奈とカナンは微笑ましく見守る。

トーメント王国…フウヤ達との最終決戦を明日に控え、最後の夜はこうして更けていった。

794名無しさん:2020/10/24(土) 14:19:35 ID:???
「クックック……油断したようじゃのう、小僧」
「くっ………この程度の傷、明日の決戦に支障はありませんよ」

一方その頃……リケット渓谷の奥深くにある、トーメント軍の前線基地にて。
フウヤ……フースーヤは、瑠奈たちとの戦いで受けた傷を治療していた。

瑠奈の拳……オレンジ色の光と共に放たれた一撃は、フースーヤの想定以上に強烈な威力だった。
リユニオンによって強化された戦闘服の防御の上から、肋骨数本をへし折るほどに。
(月瀬瑠奈……この世界に召喚されるまでは、ただの人間だったはずなのに。さすがは運命の戦士、と言った所か……)

「そんなザマでは、明日も足元をすくわれかねんのう。わらわが手を貸してやろうか?んん?」
「『黒衣の魔女』様の手を煩わせるまでもありませんよ。それに……貴女に貸しを作ると高くつきそうですし」

そんなフースーヤにニヤニヤしながら絡んでいるのは、
長い黒髪に、透き通るような色白な肌、真っ黒なナイトローブを羽織った妖艶な美女……
『黒衣の魔女』ことノワールである。

フースーヤと同じくルミナスの魔法少女とは深い因縁を持っている。
ルミナス侵攻で共闘して以来、なぜかノワールはフースーヤを気に入ったらしかった。

「クックック……そう遠慮するな。
……わらわの配下『混沌七邪将』を、何人か貸してやろう。こやつらを使って、本命以外の邪魔な脇役を排除するがよい」

「ヒッヒッヒ……邪海将ダゴン、およびとあらば即参上」
「わが名は邪龍将ファーヴニル。ノワール様の命により、うぬに力を貸そう」
「ワタシハ邪骸将デュラハン コンゴトモヨロシク(筆談)」
「邪剣将ダインスレイフ様がめんどくせーけど来てやったぜぇ」
「でもって、邪艶将(姉)アルケニーと……」
「邪艶将(妹)アルラウネちゃんですよ〜」

闇の中からノワールの配下の魔物達が現れた。
タコのような姿の魔物、龍人、首のない騎士、ひとりでに宙に浮かぶ巨大な剣、
そして少女の上半身に蜘蛛の下半身を持つ魔物、植物の魔物。
いずれも並々ならぬ邪気を放ち、ただの魔物とは一線を画す実力を感じさせる。

「まあ、そういう事なら………って、一人足りなくないですか?」
フースーヤの言う通り、現れた魔物は六体。『七邪将』には一体足りない。

「ふむ。こやつらは、以前魔法少女どもに敗れて死んだ連中を、蘇らせてパワーアップしたもの。
その中の一匹は、どうやら死んでなかったようじゃな」
「いわゆる再生怪人みたいなやつですか。まあ6人でも十分…むしろ多すぎるくらいですし、構いませんが」
「マイコニドの奴、一体どこで道草を食っているのやら……」

ともあれ、手下を何人か借りる位なら問題ないだろう。
自分の配下の魔物達、ノワールの部下の六邪将達、戦場となるリネット渓谷の地形、敵の意外な実力、自分自身のダメージ……
様々な要素を再構築し、フースーヤは明日の作戦を練り直すのだった。

795名無しさん:2020/10/24(土) 20:34:16 ID:???
「ふう……これで術式は完了しました。あとは1時間ほどで、広域攻撃術が発動するはずです」
「お疲れ様です、七華様。」
「お疲れ!あとは俺らでやっとくから、七華はちょっと休んでな!」

ミツルギ軍本陣にて。
皇帝テンジョウ・ミツルギと討魔忍五人衆の一人である神楽木七華をはじめ、術を得意とする忍び達の手によって、
一か所に集めた魔物達をまとめて倒す、広域攻撃術「オロチ」の発動儀式がほぼ完成していた。
あとは予め用意してあった護符から自動的に魔力が注ぎ込まれ、放っておいても術は発動するはずだ。

「いえ、他の五人衆の皆様が戦場に出ているのに、私だけ休むわけには……」
「いいんだって!何せ今回、術の発動だけじゃなくて敵を集めるための偽情報にも大活躍してもら……
…いや、ゲフンゲフン。そ、その……と、とにかく今回は、前線に出なくていいから。
ここを突破したらトーメントでの決戦もあるんだし、休めるときに休んどけ!」

今回の作戦のもう一つの要…それは情報戦。
トーメントの魔物たちからリョナりたい人気になっている七華のニセの出現情報を
SNSなどに意図的に流すことで、敵を一か所に集中させていたのだ。
これによって敵をまとめて殲滅し、さらに同時進行で、攻撃部隊が敵大将を討ち取る手はずである。
だが七華本人には、敵を集めるニセ情報のネタにされていることは知らされていない。
どうせスマホを持っていないし、バレないだろう的思考である。

「は、はあ……そこまで仰るなら」
「………なーんか怪しいのう。小僧、わらわ達に何か隠してないか?」
「ちょ!…クロヒメ様、陛下に向かってそのような言葉遣いは……」
横に控えていたクロヒメが、テンジョウの不自然な様子をみて口をはさむ。
ともあれ戦況は今のところ順調、敵戦力のほとんどを「指定のポイント」に誘導できていた。
だが………ここで一つ、問題が生じる。

「報告します!第三十三小隊……ササメ様以下三名からの定時連絡がありません」
「何?どういう事だ。戦闘にでも巻き込まれたか、もしかして……
ササメ、ヤヨイ、ナデシコの小隊の行方が途絶えた。
最後の連絡以降、彼女たちがいた付近で大規模な戦闘が起きた様子はないにも関わらず、である。
「……最後の連絡があったのは……『例のポイント』の近くだな。まさか………」

指定ポイントには特殊な結界が張ってあり、不用意に侵入しようものなら、
脱出も、外部との連絡も不可能になってしまう。
『例のポイント』についての情報が外部に漏れることがないよう、
ミツルギ伝統の情報伝達法…狼煙で全軍に伝えてあったはずだ。

実はナデシコの煙幕花火でササメ達が一時的にはぐれていたり、狼煙を見逃していたり、
と現場では色々とあったのだが、その事をテンジョウたちが知る由はもちろんない。

テンジョウは最悪の状況を想定し、行方不明になったポイント周辺に援軍を向かわせようとする。
だがその時……

「敵襲!敵襲ーー!!」
「報告します!後方に敵軍勢が出現!!トーメントの魔物兵、およそ200体!!」
敵軍が後方から突然突然現れ、ミツルギ軍本陣がにわかに慌ただしくなった。

「何だと?…数は多くないが……っかしーな。奴らがそう簡単にここまで来れるはずないんだがな……
とりあえず全員静まれ!隊列を固め、防御陣形を展開!!五人衆の状況は!?」

浮足立つ味方を落ち着かせ、敵襲に冷静に対応するテンジョウ。
だが、この本陣にたどり着くまでには鳴子の結界やブービートラップ等が無数に張り巡らされていたはず。
誰にも気付かれずそれらを突破することは不可能なはずだ。

五人衆のうち、ラガールは前線で戦闘中。シンは故あって戦列を離れている。
コトネは本陣に戻っているが、部下のアキナイ三姉妹ともども負傷の治療中。
他にすぐに呼び戻せそうなのはザギくらいか。

「しゃーない。ここは俺が行くしかねーか」
「テンジョウ様、私も出ます!」
本陣を守っていた兵たちと共に、テンジョウ、七華、クロヒメが迎撃に出る事となった。

これに対し、トーメント軍を率いるのは……

796名無しさん:2020/10/24(土) 20:35:26 ID:???
「おっと。…意外と対応が早いな。完全に裏をかいたつもりだったんだけど」

王下十輝星「プロキオン」のシアナ。
以前ミツルギに潜入した際、コトネやアキナイ三姉妹と戦ったり、ササメをリョナったり、
ラガールに追い掛け回されたりした事もあったので、シアナ達についての情報はミツルギ側もある程度掴んでいる。

「十輝星……話に聞いてはいましたが、本当にあんな子供が?」
「ま、14歳のガキンチョが皇帝やってる国もあるしのう」
「そーいうこった。情報によれば、奴の能力は……穴を開けること。」
「穴、ですか…?」
……そう。
生命体以外のあらゆる空間や物質に、自在に穴を開ける能力。空間に開けた穴を抜けて、瞬間移動する事も可能だ。
今回のように、遠く離れた敵陣に魔物の軍勢を送り込む事だってできる。

「確かに怖ろしい能力ですが……ここで退くわけにはいきません。行きますよ、クロヒメ様!!」
「七華、お前は「オロチ」の発動儀式で魔力を使いすぎてる…無理はするなよ!」
「心配するな。七華にはわらわがついておる。総大将は後ろでドンと構えとれ!!」

神罰刀『桜花』を抜き放ち、戦場へと駆ける七華。
その横には、同じく両手の仕込み刀を煌めかせながら走る、クロヒメの姿があった。
元々クロヒメは七華が作り出した傀儡であったが、とあるアイテムにより人間の身体へと変化したことで
七華が操らずとも以心伝心で完璧な連携を繰り出すことが可能となった。

「うぉおおお!!まさかこんな所で七華たんと会えるなんてーー!!」
「じゃああの出現情報ガセだったって事か!?」
「奇襲部隊に回されたときはクソガキ死ねって思ったけど超ラッキーだぜー!!」
「結婚してくださーーい!!」
「「はぁぁぁあぁぁああああっ!!」」
(ザクッ!!ザシュッ!!ズバッ!!ザンッ!!)
「「「「っギャワーーーーーーー!!」」」」
討魔五人衆となっても自らの立場に驕ることなく日々精進を続け、剣の腕も達人級。
欲望で動くだけの魔物兵など、物の数ではない。
七華とクロヒメは並みいる魔物兵をバッサバッサと切り伏せ、敵の隊長であるシアナの元へ辿り着いた。

「はぁっ……はぁっ……ここまでです。貴方たちの奇襲は失敗しました……!!」
「そういう事じゃ。ガキはうちに帰って寝ておれ!」
「神楽木七華……さすがは、討魔五人衆の一人、って所かな。
それにあれだけの可愛い系お姉さん、ときたら魔物兵たちに人気なのも頷ける。
……でも、どうして貴女が今ここに?
確か、もっと前線の方で、目撃情報が多数寄せられてたと思うんですが」

「?……何の話ですか?」

「………なるほどね。いや、わからないなら良いんです。
ウチの部下どもときたら、僕の命令もロクに聞かず、その場所にみんな集まっちゃってるものだから……
それに貴女たち二人を同時に相手するのは大変そうだし」
七華の反応を見て、だいたいの状況を察したシアナ。

つまり七華の目撃情報はガセで、あの場所に敵を集める必要があった、と言う事だろう。
と言う事は、あそこには罠……または、自軍を一網打尽にしてしまうような、
とんでもない仕掛けがしてある可能性が高い。

「そういうわけで……手っ取り早く、分断させてもらいますよ」
「だから、一体何を……」
「!!……七華、下じゃ!!」
「えっ!?」

シアナが手をかざすと、七華の足元にぽっかりと大きな穴が開いた。
クロヒメが助けに入る隙もなく、七華は空間に突然開いた穴に、一瞬にして落とされた。

797名無しさん:2020/10/24(土) 20:38:50 ID:???
「貴様っ!!七華をどこへやったっ!!」
「どこって……SNSに出ていた情報通りの場所、ですよ。
あそこに何を仕掛けていたかは知りませんが……
今あそこには、トーメントの軍勢がひしめいている。
仲間の命が惜しかったら、その仕掛けを解除する事を勧めます」

落とし穴は瞬時に閉じたが、七華の行方はわかった。
あの場所に仕掛けてあるのは無数の罠、脱出不可能の結界。
そして……1時間後に発動する、広域攻撃術「オロチ」。
伝説の邪竜の名を冠するだけあって、広範囲に凄まじい爆炎を巻き起こす、禁呪並みに危険な術だ。
これが発動すれば、いくら討魔五人衆と言えどもひとたまりもないだろう。
だがもし今、あの場所に封じ込められた魔物達を解き放ったら、
ミツルギ軍は数で圧倒的不利となり、戦況を一気にひっくり返されてしまいかねない。

「そ、それは………!!」
「ふん。悪いがそれは出来んな。そしてシアナとか言ったか。
お前も色々厄介そうだからな。タダでここからは帰さん」
「!!小僧……総大将は控えておれと言ったはずじゃ!!こやつは、わらわが………」
逡巡するクロヒメ。その横に現れたのは……ミツルギ軍総大将である、皇帝テンジョウだった。

「オロチの発動まで1時間。……お前はこんな奴の相手してる時間はないだろう?
こいつは俺が相手しといてやるよ」
「!!………すまん」
クロヒメはテンジョウの意図を察すると、シアナの前から離脱し、一目散に七華の元へと向かう。

「さーて。久々の運動だからな……うまく手加減できるかわかんねーぜ!」
「大将首を直接取れるなんて、願ってもない。
それにしてもお前……僕の知ってる奴に雰囲気がそっくりだな」

ミツルギの皇帝と、王下十輝星。果たして両者の対決の行方は。
そして………危険区域に送り込まれた七華と、救出に向かったクロヒメの運命や、如何に。

798名無しさん:2020/10/25(日) 21:46:11 ID:???
「……きゃああああああっ!!」
シアナの空間転送落とし穴に落とされた七華は、見知らぬ場所の空中に放り出され、そのままお尻で着地した。
幸い、日ごろ和菓子作り&試食で鍛えたお尻回りのむっちりした脂肪のおかげで、大したケガはしていない。

「……何か、誰かにすごく失礼な事を言われたような……
それにしても、一体ここは……アレイ草原のどこかでしょうか」

一見普通の草原の風景が広がっているが、周囲に味方の姿はなく、魔物兵の気配が無数にひしめいている。
更に、よくよく見るとそこかしこに、ミツルギ伝統のブービートラップ。強力な結界も張られている。
今回の作戦で敵を一網打尽にすべく用意された、危険領域の中である事はすぐにわかった。

「だとしたら……この一帯はもうすぐ『オロチ』の術が発動するはず。
早く脱出しなければ……自分で仕掛けた術に自分でかかるなんて、冗談にもなりません」
……岩陰に身を潜め、周囲の様子をうかがう。
術の発動までおよそ1時間。その前に、魔物に見つからないよう、
トラップに引っ掛からないようにしながら、結界の外に出なければならないのだが。

「いたぞーーー!!あっちだ!!」
「なに!?巫女さんいたのか!?」
「いや違う!雪女ちゃんとJK忍者ちゃんだ!!」
「ウオオオオオそれでも全然アリだ!!取り囲めぇえええええ!!」

……突然、周囲の魔物達がざわつき始め、七華の潜んでいた岩陰とは別の方向に、一斉に走り出した。

「!?………て、てっきり見つかったのかと思いましたが……
雪女と、じぇーけー……?まさか、ササメさん達もここに……!?」

他の仲間がここに居るのなら、放っておくわけにはいかない。
七華は岩陰から飛び出し、魔物達の後を追おうとするが……

(………シュッ!!)
「!?」
突然、背後から手裏剣が飛んできた。
すんでの所で回避した七華だが、長い黒髪が数本斬り落とされ、はらはらと地面に落ちる。
相手はかなりの手練れらしく、全く殺気を感じなかった。
……もう少し気付くのが遅れていたら、危なかったかもしれない。

「ふふふふふ……初めまして、神楽木七華ちゃん。
アナタとは一度、会って話してみたかったの……アタシと同じ『人形使い』として、ね」

…手裏剣が飛んできた方角の樹上に、人影があった。
ギラついた光を放つ黄金色の目、ぼさぼさの黒髪。
やせた体に真っ白い装束を身にまとった、まるで幽霊か何かを思わせる、異様な風体の女忍び。

「あ……貴女は、何者ですか!?」
……だが、ミツルギ討魔忍衆の中に、あのような者がいるとは聞いたこともない。
思い当たるとすれば……

「まさか……抜け忍…?」
「ふふふ……そういう事。ミツルギじゃ『呪詛のサシガネ』って呼ばれてたけど…
元暗部だから、五人衆のアナタでも、知らないかもねえ」

【呪詛のサシガネ】
元ミツルギ討魔忍衆暗殺部隊所属の女忍び。人形を使った呪殺術を得意とする。
人を呪い、苦しめて殺す事を無上の喜びとしており、ミツルギの組織改編の折に討魔忍衆を抜け、トーメント王国へと身を投じた。

799名無しさん:2020/10/25(日) 21:47:24 ID:???
「呪詛のサシガネ……名前は知りませんでしたが、噂を聞いたことがありました。
……暗殺部隊に、呪術を得意とする、恐ろしい忍びがいると……」

………大戦の前に、皇帝テンジョウはアゲハをはじめ望まぬ意思で暗部に入れられた者達を対魔物部隊へと異動させた。
だが「呪詛」の二つ名が示す通り、彼女の呪術は人を呪い殺す事に特化しており、
また本人もそれを無上の喜びとしていた。
暗殺部隊の存続が危うくなったことを感じ取った彼女が「抜け忍」となり、
トーメント王国へと身を投じたのは、ある意味自然な成り行きと言える。

「アナタがアタシを知らなくても……アタシはアナタに、ずっと興味があったの。
だって、アナタも……『人形使い』なんでしょう?」
「貴女も…そんな事を言うのですね。
……クロヒメ様は、人形などではありません!!」

クロヒメは七華が自身が作った傀儡であるが、七華は自身の手を介して神の意志が込められた御神体であると信じていた。
そのため、クロヒメを『人形』呼ばわりされることを、七華は激しく嫌っていた。
そして……紆余曲折を経た後、クロヒメが人間の身体を手に入れた今は……
まるで実の姉妹のように心を通わせ合っている今は、なおのこと許せるはずがない。

「ふん……ま、いいわ。そのクロヒメちゃんとかいう『人形』も、今はいないようだし。
アナタを呪いで徹底的に苦しめて、アタシが最強の人形使いだってことを証明してあげる」

「呪い……どんな術か知りませんが、使わせなければいいだけの事。
討魔忍五人衆が一人、神通の七華の力…見せて差し上げます!!」
「……使わせなければ、ねぇ。でも七華ちゃん、アナタは既にアタシの術中にハマってるのよぉ……?」

七華は神罰刀・桜花を構えなおし、樹上の敵を見据える。
対するサシガネは、余裕の笑みを浮かべ……七華のすぐ脇の地面へと視線を向けた。

「?……それはどういう意味……って、ええっ!?」
「……もぐ……もぐ……もぐ」
「あ、あなたは……一体いつの間に!?」
そこにいたのは……サシガネと同じ白い装束を着た、小柄な少女。年齢は七華の半分くらいだろうか。
その少女は……先の手裏剣によって斬り落とされた七華の髪を拾い集め、むしゃむしゃと咀嚼していた。

「ごっ………くん」
「そ、それは私の髪……そ、そんなもの食べたらお腹壊しますよ!?」
(全く気配を感じなかった……一体この子は……!!)

「クックック……アタシの人形に、間抜けなご心配どうも。……でも壊れるのは、アナタの方よ?」
「………いたいの……すき、ですか……?」
「え……?……な、何を……」

七華の呼びかけに反応を示さず、虚ろな瞳の少女は、懐から大きな釘を取り出す。
襟元から一瞬覗いた少女の身体は極めて華奢で、あばら骨が浮き出るほどにやせ細っていた。

………ドスッ!!!
「!?……っぐ、っ……!!?」

少女は五寸釘……ちょっとした短刀程の長さの大釘を、そのまま自分のお腹に突き刺す。
すると、七華のお腹、刺されたのと同じ場所に、激痛が走った!

「っく……こ、れは……一体、何が………!?」
「クックック……その子はアタシの可愛い藁人形、ワラビちゃん。
敵の体の一部……髪の毛なんかを体内に取り込むと、自分が受けた痛みを相手に送り込むことができるの」

「………いたい、ですか?」
ずぶっ……ぐりっ!
「い、っぎ……っああぁぁぁぁぁぁあーーーっっっ!!?」
ワラビが、自分の腹に刺した釘を掴み、力を込めて捩じる。七華のお腹にも、更なる激痛が走る。
……鉄串で内臓を滅茶苦茶にかき回されるような異常な痛みに襲われ、七華たまらず膝をついた。

800名無しさん:2020/10/25(日) 21:49:41 ID:???
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「もっと……いたく、します?」
…ザクッ!!
ワラビは新たな釘を取り出し、自分の左足に突き刺す。

「…あうっ!!」
立ち上がろうとしていた七華の太股に鋭い痛みが走り、再び崩れ落ちてしまう。
刀を杖代わりにしながら、それでもよろよろと立ち上がる七華だが……

ドスッ!!
「うっぐ!!」
ワラビは三本目の肩を右肩に突き刺す。
七華は激痛に刀を手放しそうになるが、体ごと刀に縋りつき、辛うじて己の身体を支えた。

「くっくっく……アタシの呪殺術『ウシノコク』の味はいかがかしら?七華ちゃん」
「はぁっ……はぁっ……確かに、恐ろしい術……ですが、これしきの事で、私は……!!」
(まずい……防御も回避もできないなんて………このままじゃ、やられる……!!)

「本当なら、このままどっかに行方をくらませて、安全な場所からジックリタップリ
嬲り殺しにするのがアタシ必勝パターン、なんだけど……」

……そう。ここでサシガネとワラビに逃げに徹されたら、七華にもはや打つ手はない。
にも関わらず、サシガネは樹の上から飛び降り、ワラビと七華の前まで余裕綽々に歩み寄ってきた。

「っ……一体、どういうつもり……?」
「でもその前に…七華ちゃん、さっき言ってたじゃない。
見せてくれるんでしょ?討魔忍五人衆のチカラ、ってやつ」

サシガネは右手に柄の長い木槌、左手に長剣サイズの大きな釘を持ち、薄笑いを浮かべながら七華を見下ろす。

「!………」
「クスクスクス………それでぇ?いつ、どこで見せてくれるの?
ヒィヒィ言いながらお尻突き出しちゃって、立ってるのがやっとのブザマなカッコで、どうやってぇ?
それとも……七華ちゃんは、お気に入りの『お人形さん』がいないと、なんにもできないのかしらぁ?」

「!………馬鹿に、しないで……たとえクロヒメ様がいなくとも、貴女のような方に、負けはしません!」
「くっくっく……そう来なくちゃ♪」
気力を振り絞って剣を構え、サシガネに斬りかかる七華。対するサシガネは……
七華の方を見る事もせず、傍らにいたワラビに向けて木槌を振り下ろし………

「………これも、いたい、ですか……?」
ドゴッ!!ブシュッ!!
「…っぐあっ!?」

右足の甲に、4本目の釘を打ち付ける。
七華の右足が、地面に縫い付けられたかのように動かなくなり、
振るった刀の切っ先は、サシガネに届くことなく空を切った。

「5本目は、空いてる左腕にしようかしらねぇ……それにしても、拍子抜けだわ。
あの最強の忍、討魔忍五人衆を名乗ってる位だから、どれほどのものかと思ったら
こんな子供のお遊び程度の呪術に手も足も出ないようなクソ雑魚だなんて。
……これは、ミツルギを見限って正解だったかしら」

「うっぐ…………ううっ……!」
強力な呪術の前に手も足も出ず、一方的に嬲り者にされる七華。
クロヒメを人形呼ばわりされ、その人形が居なければ何もできないと揶揄され、討魔忍五人衆の名さえ貶められる。
そうまでされても何もできない自分のふがいなさに、自然と涙がこみ上げた。

ガコン!!ドスッ!!
「んっ………ぐ!!」
(ここで、倒れるわけにはいかない……こんな所で……負けたく、ない…!!)
ワラビの左腕に、五寸釘が撃ち込まれていく。
それと同等の、骨まで達する地獄の痛みが、七華の左腕を貫く。

ゴスッ!! ドスッ!!
「……っ………!!」
(この両手では、手裏剣は投げられない…刀で、それも…身体ごとぶつかっていくしかない)

「クスクス……せっかくだから、他の所にもダメ押ししましょ」
「……ぜんぶ、いたくします……」
「……………………!!」
(もう一歩……せめてもう一歩だけでも、踏み込めれば……!)

それでも愛刀を手放さないよう、戦意を、意識を失わないよう、必死に気を張り、
あるかどうかもわからない反撃の糸口を求め、七華はただ必死に思考を巡らせた。

801名無しさん:2020/10/28(水) 23:08:06 ID:???
「ここをこうして、こうやって、っと……じゃ、いくわよワラビちゃん。せーの………」

サシガネは「藁人形」ワラビを木の前に立たせ、あれこれと指示を出す。
ワラビが言われるがままにポーズを取ると、サシガネは木槌を大きく振りかぶって………叩きつけた。

ガンッ!!……ガンッ!!……
「……………………。」
「…っぐ…………うっ………!」

…ガンッ!!…ガンッ!!…ガンッ!!…
「ふぅ、疲れた………でも頑張っただけあって、なかなか上手くできたわねぇ。クスクスクス………」
左足を高く掲げ、それを両腕で抱え込む、いわゆる「I字バランス」を取るワラビ。
その左足と両手を、背後の木に大きな釘で打ち付けて固定している。

そして一方、七華はというと……

「ふぅっ………ふぅっ………」
「クックックック……黒巫女七華ちゃんのくそエロ無防備なI字バランス、一丁上がり〜♪」
藁人形の呪いによって、ワラビと同じ体勢を取らされていた。
しかも、釘で打ち付けられた激痛も、そのまま七華の体に送り込まれてくる。
せめてもの抵抗か、歯を食いしばって羞恥と悲鳴を必死にこらえる七華の姿に、女呪術師サシガネは満足げな笑みを浮かべた。

「クックック……無様な格好ね、な・な・か・ちゃん♥」
「………っ………!」
身動きの取れない七華にサシガネが迫り、吐息がかかるほどの距離にまで密着する。
胸や股間を骨ばった指が無遠慮に撫でまわし、七華の背筋にゾクゾクと悪寒が走った。

「私を……辱めるつもりですか」
両手足は固定されて動かせず、かろうじて指が動かせる程度。
頼みの神罰刀も、あっさり取り上げられ、遠くに投げ捨てられてしまった。

「それも素敵よねえ……こんなに可愛い七華ちゃんを、好き放題に出来るなんて、
トーメントの魔物どもが聞いたらヨダレ物でしょうね。でも、その前に……」

サシガネは手にした木槌を、七華の脇腹めがけて思い切り振りぬく。
ブオンッ!……ドスッ!!
「っあぐ!!」
「藁人形だけじゃなくて、直接この手で……徹底的にいたぶってあげるわ」

ゴスッ!! ドガッ!! ……ズボッ!!
「ぐごっ………っぐ!………っがっ!!」
生けるサンドバッグと化した七華の全身を、サシガネが木槌で乱打する。
呪術で釘を打たれた所もそうでない所も、思い切り、何度も何度も。
そして、トドメとばかりに………

ドゴンッ!!
「…っぐああああぁぁぁぁああああ!!!」
I字に上げていた脚のど真ん中……股間に、思い切り木槌を撃ち込まれ、七華はとうとう抑えていた悲鳴を上げた。

「クックック……大きな声出したら、魔物どもに気づかれちゃうわよ?
ったく、五人衆とかいってチヤホヤされてたクセにだらしないわねぇ……ウチのワラビちゃんを見習ったらどう?」
「………………。」
七華の視線の先には、I字バランスの体勢で、木にくぎを打ち付けられて固定されているワラビの姿がある。

「……一体何者ですか、あの子は……明らかに『藁人形』ではなく……人間ではないですか。
痛みを感じないって、一体どうして……」
そう…最初に彼女を見た時から、ずっと疑問だった。
サシガネから「藁人形」と呼ばれてはいたが、ワラビの身体は藁ではなく、どうみても人間そのもの。
釘を刺された個所からは、血だって出ている。
なのにワラビは、全身に釘を刺されても悲鳴どころか痛がる素振り一つない。
痛みに耐える訓練を積んだとしても、手足を釘で貫かれて何の反応も示さないのは、どう考えても異常だ。

「ああ、あれ?……そう難しい話じゃないわ。
特殊なお薬で脳をジャブジャブ洗ってあげれば、『痛み』なんて認識できなくなるわ。
記憶も人格もぶっ壊れちゃうから、自分じゃゼッタイやりたくないけどね」

「なっ…………あんな幼い子供に、どうしてそんな酷い事を……!」
「酷い事?……あの子は人間といっても、貧民街で拾った奴隷。
何の役にも立たないゴミを、アタシが人形として使って役立たせてあげるのよ?
これってすっごくエコじゃない?」

「……許せません……貴女だけは、絶対に……!!」
「ふふふふ……そんな大股開きでニラんだって、ちっとも怖くないわよ。
まだまだタ〜ップリいたぶってあげるから、せいぜい可愛い鳴き声利かせてちょうだい♥」

奴隷の価値は人間未満、ゴミ同然…ひと昔前のミツルギなら、比較的ありふれた価値観だったのかも知れない。
……だが七華には、到底受け入れられるものではなかった。
瞳の奥に、怒りの炎が静かに灯る。だが、絶体絶命の窮地に立たされた七華に、反撃の機会は巡ってくるか……

802名無しさん:2020/11/08(日) 14:30:31 ID:???
「ふひひひ……巫女さんは見つからないけど、雪女ちゃんにJK忍者ちゃんがいるとはラッキーだぜ!」
「雪女ちゃんのおっぱい、ひんやりして気持ちよさそう……まさにリアル雪見大福だな!」
「討魔忍の装束って、露出度高いか、全身ぴっちり覆ってるけど体のライン出てるか、どっちにしろエロくて最高だよな!」
「フィーヒヒヒヒ…JKの太もも……直接かぶりついて吸血しまくりてぇ…!!」

「あーーーもう!!なんでこんなに敵がいるのよ!!最悪ーー!!」

ヤヨイ、ナデシコ、ササメの三人は、無数の魔物たちに囲まれていた。

ここは『ポイントA』…本来は敵軍をおびき寄せるためのエリアであった。
討魔忍五人衆の中でも最かわと名高い神楽木七華がこのあたりにいる、という偽情報もネット上がばらまかれており、
その上で無数の罠が仕掛けられ、脱出不能の結界が張られている。

何の間違いか運命のいたずらか、三人はそんな敵軍の真っただ中に迷い込んでしまっていた。

「落ち着いて、二人とも!ここは…一気に突破しましょう!」
「はい!」「よーし、ヤヨイ!あれで行くよ!!」
年長のササメがヤヨイ達を先導し、敵の一匹に狙いを定める。
駆けだす三人の行く手には、角を生やした巨人、アカオニの姿があった。

「グヒヒヒヒッ……メスガキどもが。たかが三匹、この俺様がヒィヒィ言わせてやるぜぇ!!」

3m近い巨体に赤銅色の肌の赤鬼が、筋骨隆々の全身をふるわせ、襲い掛かる。
そして、巨大な金砕棒を振り上げた瞬間……

「…はっ!!」
「ぐぬっ!?」
ササメが冷気を放ち、鬼の足元に冷気を凍らせた。
そして鬼がバランスを崩したところへ……

「連携技・打ち上げヤヨイ!」
「からのー!!秘伝忍技・落鳳破!!」
「ぐおおおおおおおっ!!!」

ナデシコがバレーのレシーブの体勢で、ヤヨイの踏み台となる。
ヤヨイはナデシコの力を借りて赤鬼の頭の高さまで跳躍し、そのまま鬼の頭を脚で挟み込み、地面に叩きつけた。
秘伝忍技・落鳳破…ミツルギ流体術の高等技とされる、プロレスでいうフランケンシュタイナーに近い投げ技である。
赤鬼は近くにいた魔物数体を巻き添えに倒れ、後頭部を打って昏倒した。

「今のうちです!!」
「なっ!鬼が倒されただと!?」
「追うぞ、逃がすな!!」

魔物の包囲網に綻びが生まれ、三人は脱兎のごとく走り包囲網を突破する。

「でもってこれは、オマケだよ!!」
追ってくる魔物兵達に、ナデシコが煙玉を投げつける。

「ケッ!!そんな煙に惑わされるか!俺たちから逃げられると……」
煙幕の量はさほど多くなく、魔物達の足元が見えなくなる程度。
しかし……

ぷち カチッ ガコン!
「ん?……」「今何か」「踏んだよう、なっ!?」

ドゴォォオオオオンッ!!
ガラガラガラガラ!!
ドスドスドスドスドス!!
「「「グワーーーーーーッッ!!!」」」

……付近一帯に無数に仕掛けられた、トラップを見えなくさせるには十分だった。
地雷、落石、弓矢などの罠が次々に発動し、追ってくる魔物達を蹴散らしていく。
全滅させるには至らないが、これで時間は十分に稼げるはずだ。

「なんとか逃げられましたね……でも確か、この辺のエリアは出られないように結界が張ってあるんですよね?」
「追手が来る前に、結界から抜け出す方法を考えないと!」
「とりあえず、あそこの林に身を隠しましょう!」
草原を抜け、三人は高い木の茂る林に身を隠す。
三人は、はたして無事に魔の領域から抜け出すことができるのか…

803名無しさん:2020/11/08(日) 14:32:13 ID:???
「はぁ……はぁ……ここなら、少しは安全ですね」
「と、とりあえず……休憩しましょう。朝から戦いっぱなしで、もうクタクタ…」
「アタシも……それにさっきの煙幕で、火薬使いきっちゃった」
「そうですね……私ももう、魔力が……」

林の中に身を隠し、束の間の休憩を取る三人。
だがそこに、音もなく忍び寄る影があった。

「それにしてもトーメントの奴ら、どいつもこいつもスケベ過ぎだわ…
アタシやササメ先輩の胸ばっかガン見してくるし。…その点、ヤヨイっちはうらやましいわ」
「うぐぐ……確かに大きいと色々大変そうだけど、なんか負けた気がする……」
「いやほんとマジで。煽りぬきで」
「ま、まあまあ…ヤヨイちゃんは成長期なんだし、まだまだこれからですよ!
それに、アゲハさんやコトネさんみたいに(身長が)小さくても強い忍びはたくさん……」
(…………?……この気配は………!)

「ササメさん?……どうしたんですか?」
「…………。」
「……!?」「……!!」
ササメは不意に怪しい気配を感じ、唇の前で人差し指を立ててヤヨイとナデシコに沈黙を促す。
二人もすぐに状況を察し、茂みに隠れて周囲の気配を探り始めた。
すると……

ぞわわわわっ…!!
ギュルルルルルルルッ!!

「きゃぁっ!?」
「なっ……何これ、植物が!?」

周囲の草花、そして地中から、無数の蔦が伸びてヤヨイとナデシコの体に巻き付いていく!

「これは…魔物!?……いや、この術は……まさか……!!」
ササメは四方八方から襲い掛かる蔦をかわし、氷刀で切り払う。

「…………。」
「………しゅるるるる…」

そして、林の奥から現れた襲撃者の姿に、ササメは我が目を疑った。

白い髪に赤い瞳、うさぎのような長い耳。
一人はすらりと伸びた長い足の、長身の美女。もう一人は、10代前半くらいの幼い少女。
二人の事を、ササメは知っていた。…見間違うはずもない。

「ゼリカさん、ミゲルちゃん……そんな、一体どうして……!?」

サリカの樹海に住み、魔の山に眠る神器を守護する「ヴィラの一族」。
生まれて間もなく雪人の城から捨てられたササメは、彼女たちの一族に拾われた。
幼少の頃、ササメはヴィラの隠れ里で彼女たちと一緒に、実の姉妹同然に育てられたのだ。

「………じゅるっ……」
「しゅるる……」
「なっ……なんとか、言ってください…!
テンジョウ様から、ヴィラの里がトーメントに滅ぼされたと聞いて、私……」

そう。死んだはずの親友たちとの、感動の再会……であるとは思えない。
現に奇襲を仕掛けてきた二人は、ササメに何の反応も示さない。
そして何より異様なのは……二人の肩に乗っている、オレンジ色のカボチャ。

「クキキキキ……何かと思ったら……」
「俺たちの『ノリモノ』の、『元』知り合い、かぁ?……キキキッ!」

【パンプキン・ビースト+】
人や獣、魔物にカボチャの実に似た植物が帰省した魔物。
宿主自体の能力に加え、イバラのような棘蔓を武器として使う。
実は背中に寄生した植物が本体であり、これを破壊しない限り倒すことは出来ない。
規制する対象は人や獣、魔物と幅広く、死体も操ることができる。
多くの生命に寄生したことで知恵を付け、残忍さや狡猾さがさらに増した。

804名無しさん:2020/11/13(金) 01:43:35 ID:???
「あっ………あなたたちは…!?」

「クキキキ……我々は、偉大な王にたてついたこのメスどもを殺し、ヴィラの里を滅ぼした功績によって」
「我らが王から、更なる知恵と魔力を授かり……そしてこのメスどもを『乗り物』として賜ったのだ」

ゼリカとミゼルの肩の上の不気味なカボチャが、言葉を話し出した。

「しゅる、るるる……」
「うじゅ……るるる……」
ゼリカとミゼルは何も言わず、虚ろな表情のまま……
カボチャ達が言うように、彼女たちは、既に死体になっていた。

「!!……殺して……乗り物、ですって…!?」
「その通り……メスの人間や亜人は、我々にとって様々な使い方がある。
生きていれば食料にも苗床になり、死体もこうして、乗り物や……」

「……武器にもなる」
ゼリカとミゼルの死体を操り、パンプキン・ビーストたちが襲いかかった。

「……許せないっ…!!」
魔物達への怒りに身を震わせ、両手に氷の魔力を込めるササメ。
だがこれまでの戦いで魔力が底をつきかけていて、氷の刀を生成するのが、ほんのわずかに遅れる。

「たああああぁっ!!」
ガキンッ!! ビシッ!! ガキィィンッ!!

刀の強度、切れ味も、普段よりわずかに鈍っている。
何より、冷静さを失っていた事で、剣技が普段より、ほんのわずかに……直線的に、単純になっていた。
いずれも、本人も気が付かないほどの、ほんのわずか。
だが……えてして極限の戦いにおいては、そのほんのわずかの差が勝敗を大きく左右する。

「カボチャさえ壊せば……なっ…!?」
「そして、こうして盾にもなるわけだ……ククククッ」

ミゼルに取りついたパンプキンを叩き切ろうとした瞬間、ゼリカが横から割って入った。
例え死体だとわかっていても、長年姉のように慕ってきたミゼルと目が合った瞬間、ササメの動きは止まってしまい……

(違う……惑わされちゃ駄目……だって二人は、もう…)
メキッ!!
「あぐっ!!」
代わりにゼリカからの一撃、彼女が生前愛用していた『神樹棍』の突きをみぞおちに喰らってしまう。

「ヒヒヒヒヒッ……オタノシミは、これからだ」
(し、まっ……)
体勢を整える間もなく、ゼリカの……パンプキン・ビーストの追撃がササメを襲う。

ビシッ!!バシッ!!
「あ、う……!?」
下段に構えた棍を左右に振るい、ササメの左右の踝の内側を打つ。
脚を開かされ、バランスを崩したササメが、その場に崩れ落ちそうになった所へ……

……ドスッッ!!
「…っんぐあああああっ!!」

……そのまま真上に、ゼリカは棍を振り上げる!!


「クックックック……討魔忍だろうと雪人だろうと、同じことだ。
ここに一発ブち込めば、ノリモノは皆大人しくなる」
「っぐ、あ……が………はっ……!」
必殺の一撃を急所に打ち込まれ、ササメはビクンビクンと全身を痙攣させながら崩れ落ちた。

805名無しさん:2020/11/13(金) 01:44:39 ID:???
…ぐりっ!!
「んあぅっ…!!」

悶絶寸前のササメの股間を、パンプキンビーストは追い打ちとばかりにグリグリと踏みにじる。
みぞおちに喰らった一撃のダメージが深く、手足に力が入らないササメ。
ゼリカの脚を払いのけることができず、回復するまでいいように嬲られ続けてしまう。

「クックック……これほどの上物だ。使う前に傷をつけたくはないが……
まずはノリモノとしての態度を、わからせてやらんとな」

パンプキン・ゴーストの本体から、鋭いイバラのような枝が何本も伸びる。
それらが鞭のようにしなり、ひゅんひゅんと風を切り、そして………

ビュッ!!ビシビシビシッ!!ズバッ!!
「それって…まさか、っきゃああああっ!!」
一斉に振り下ろされた。

「クックック……お察しの通り。
このノリモノも、死体にしてはなかなか気に入ってたが……
そろそろ乗り換え時だからなぁ!!」

ベキッ!!パキィィンッ!!ビシッ!!ザシュッ!!ドガッ!!
「っぐ!うああああっ!!んっぐ、あああああああ!!」
氷の刀は砕かれ、白い忍び装束は引き裂かれ、血の赤で染め上げられていく……

パンプキンが乗り移ったゼリカ達の力は、ササメの予想を遥かに超えていた。
…普通の人間は、全力で運動している時でも、無意識のうちに力をセーブしていると言われている。
そうしなければ、体そのものが、自分自身の力に耐えきれず破壊されてしまうからだ。
だがパンプキン達にとって、人間は単なるノリモノ。死体とあらばなおさらの事
ゼリカ達が壊れようとお構いなしに、乱雑に扱い……結果、常人を遥かに上回る力を発揮していた。

「クックック……これでわかっただろう、我々に逆らっても無駄だと。
さあ、お前を新たなノリモノにしてやろう」

パンプキン・ビーストの蔦がササメに巻き付き、全身を拘束する。
そして、目の前に触手が突きつけられる…その先端には、パンプキン・ビーストの種子が不気味に脈打っていた。

「いいえ……私は、貴方たちの思い通りにはならない…!」

悪魔の子種があわやササメの口にねじ込まれようかという、その時……
ササメの目が見開かれ、右手の指先が素早く動き……何かが飛んだ。

ギュルルルルルッ!!
「馬鹿め。全身を蔦に縛られ、手も足も出ないくせに今更何……っが!?」

それは、分銅のついた鎖鉄球。死角からパンプキン・ビーストの本体に巻き付いて、捉える!

「はぁっ……はぁっ……右手の感覚が回復するまでに、時間がかかりましたが……
私は指一本でも動かせれば、鎖を自在に操る事ができる。油断しきった貴方を捉えるぐらい、造作もない」

「バ、カナ……信じ、られん……そん、な、事が……ッギアアアアアッッッ!!」
ササメが指を軽く弾くと、巻き付いた鎖が万力のような力で締め付けられ……
パンプキン・ビーストの本体は、粉々に砕け散った。

「やったーー!さすが、ササメ先輩!」
「指だけで、鎖をあんな風に操るなんて…すっごいです!」

「いいえ……私の技なんて、まだまだあの人には…七華さんには、遠く及びません」

岩をも砕き、鋼をも撃ちぬく威力を秘めた、ササメの『砕氷星鎖』。
それを指先一つで精密に操る術は……師匠である神楽木七華の下で身につけたものである。

「そ、それよりヤヨイちゃん、ナデシコちゃん。もう一人の敵は……」
「んーっ……!!」
「えっ…んぐむっ!?」

ミゼルと、それに取りついたもう一体のパンプキンビーストはどうなったのか。
状況を確かめる前に、ヤヨイとナデシコが駆け寄ってきて……
有無を言わさず、唇を奪われた。

「んっ。…ちゅぷっ………ふふっ。だけど、こうして……」
「口移しで種を植え付けられたら、どうしようもないよねぇ…‥?」
「ん、むぐ……ぷはっ!!…まさ、か……二人とも…!?」

806名無しさん:2020/11/13(金) 23:11:55 ID:???
前後からナデシコとヤヨイに挟まれ、身動きが取れないササメ。
三人のすぐ脇には、動かなくなったミゼルの死体が転がっていた。
パンプキン・ビーストの姿は、既にそこになく……

「ヒヒヒヒ……久々に、新鮮なノリモノが手に入ったよ」
ヤヨイの肩の上に乗り、トゲだらけの蔦を絡まみつかせている。

「乗り心地も実にイイ……同胞が一体潰されたようだけど
新しいノリモノが三体手に入ったから結果オーライだねぇ……ククク」
そして、もう一体……新たに増殖した、小ぶりなパンプキンビーストがナデシコの胸の上に鎮座していた。

(……そんなっ!!二人とも、体を乗っ取られて……!?)
「ん、ぐむ……う、えっ……!」
ナデシコの口からササメの咥内に、苦くてエグくてカビ臭い、謎の粘液を注ぎ込まれた。。
恐らくこれは、パンプキンビーストの種……
もし呑み込んで、体内で発芽してしまったら、自分まで魔物の支配下に堕ちてしまう。
(そうなる前に、何とかして二人を助けないと……!!)

「う、げ……はぁっ…はぁっ…」
ササメは口に含んでいるだけでも軽い吐き気を催してしまい、思わず白く濁った液体を吐き出した。
唾液混じりの粘液が胸の谷間の窪みに溜まり、小さな三角の池を作る。

「ふふふ……ダメだよ?ちゃんと呑み込まないと。逆らったらこのノリモノがどうなるか…………」
「うっ……っぐ、ササメ、先輩……にげ、て…」
「…私の、か…た……を…っ、ああっ……!!」
(ナデシコちゃん、ヤヨイちゃん……!)

ほんの一瞬、ナデシコとヤヨイの意識が解放され、苦悶の表情を浮かべる。
逃げろ、とササメに訴えかけるが……

「どうすればいいか…わかるよね?…セ・ン・パ・イ♪」
「…っ……………!!」

……二人を見捨てる選択など、出来るはずもない。
一度は吐き出され、胸元に溜まっていた白濁汁を、ササメは舌で舐めとり、意を決して呑み込んだ。

「んっ……く………はぁっ………はぁっ………」
(なんとか、隙を見つけないと……)

「ふふふ……ちゃんと飲んだね、えらいえらい。
じゃあ、僕らの種が芽吹くまで、そのまま大人しくしていてもらおうか。
またあの鎖で反撃されないように、ちゃ〜んと押さえとかないと」

パンプキンビーストに支配された二人が、ササメの手を取り、指の一本一本をしっかりと絡み合わせる。

二人とも年下の後輩とは言え、正面にいるナデシコの体格は、ササメとそう変わらない。
お互いに吐息がかかり、押され合った胸が撓むほどの至近距離。
背後のヤヨイは、空いている方の手をさりげなくササメの胸や太ももに這わせて、微妙な感覚を送り込んでくる。
武器を隠し持っていないか調べるためか、それとも単に、魔物の邪悪な欲望に従っているのか……

操られた二人の表情は、どこか妖艶な雰囲気をまとっていて、
同性ながらもドキドキしてしまいそうな体勢である。……こんな状況でなければ、だが。

こうしてササメはしばらくの間、後輩の少女二人に手を握られながら、
じっくりとじらすように全身を撫で廻され、敏感な場所を舌で転がされたり、甘噛みされたり……

「………ん、っ………!!……」
「……ヒヒヒ……」
「クックック……雪人のノリモノは、今までにも何回か乗り潰した事があるけど、
メスはみんな脆弱で、長持ちしなかったんだよね……」
「…!!………」
「こんな見事な身体と美貌を好き勝手にできるなんて、
これから生まれてくる同胞が羨ましいよ。クックック……」

浴びせられる心無い賛美の言葉に、こみ上げる怒りを抑えながら、ササメはひたすら耐え忍ぶしかなかった。

807名無しさん:2020/11/13(金) 23:13:40 ID:???
「さ〜て……そろそろ、種が完全に根付いた頃合か……気分はどうだい、同胞よ」
「…は……は、い……、……とても、すがすがしい気分です…」

(……大丈夫……まだ、意識を保てている。仲間になったふりをして、チャンスを……)
ササメは「ある方法」で、呑み込んだ種が発芽するのを遅らせていた。

人質を取られ、武器を奪われ、複数の敵に至近距離で監視されている今は、
何としてでも敵を欺き、隙を見つけなければならない。
「魔物に乗っ取られた演技」が当の魔物相手にどこまで通じるかわからないが、とにかくやってみるしかない。

「クックック……それは良かった。
ノリモノの乗り心地はさぞ快適だろうけど……よかったら、『顔』を見せてもらえるかな?」
「……はい、わかりました…。」
(よし……安心してるみたい。あとは、片手だけでも自由になれば……)

ササメは全身をだらりと弛緩させ、虚ろな表情を浮かべた。
敵が乗り移ったナデシコとヤヨイに身を預け、あえて無防備な格好を晒す。
『砕氷星鎖』は敵に奪われていたが、代わりの武器なら、灯台下暗し……
ほんの少し手を伸ばせば、ヤヨイの腰に差した刀に届く。

「………なんて、ね。
なかなかの熱演だったけど、その程度じゃ僕たちを騙すことは出来ないねぇ」
「……っ!!」
「雪人の力で呑み込んだ種を凍らせて、発芽を遅らせていたのか……
いくら演技しようと、胸のあたりの体温がこんなに冷たいんじゃ、丸わかりだよ。クククク」
「く、……!!」
パンプキンビースト達がササメの身体を弄っていたのは、ただの趣味だけではなかったらしい。
ササメは拘束から逃れようと抵抗するが、二人がかりで押さえつけられてしまう。

「ノリモノのくせに小賢しい真似を」
……ドゴッ!!
「っぐほっ!!」
ナデシコの拳が、下腹に突き刺さる。
呑み込んだ種を思わず吐き出してしまうほどの、強烈な一撃。

「おっと、やりすぎたかな……まあいいか。種は後でまた飲ませるとして」
「その前に。このノリモノに新たな同胞を発芽させるには…」
「雪人の力が使えなくなるまで、徹底的に嬲って弱らせるか」
「勿体ないけど、殺した方が手っ取り早くいかもねぇ。
死体になっても、ノリモノとしては使えるんだし……」

「げほっ……が、は………」
(もう、ダメ……ごめんなさい、ヤヨイちゃん、ナデシコちゃん…あなた達を、助けられなくて……)

お腹を抑えてうずくまるササメ。
ヤヨイが腰の刀を抜き、大きく振り上げる。

そして……

「やーれやれ。やっと抜いてくれたわね。一時はどうなるかと思ったけど」
ヤヨイの着ていた忍者装束が、草原の風を思わせる爽やかな緑色に変わっていく。
色だけではなく、その形状も……露出度マシマシ、ミニスカがヒラヒラのフワフワな、妖精風の姿へと。

「なっ!?俺の制御が効かな……貴様、一体何者、っごぁっ!!」
「簡単な話よ。あんたがヤヨイの意識を乗っ取った所に、更に上書きしてアタシが乗っ取った」
その身に纏った風の魔力は刃となり、ヤヨイの肩に乗っていたカボチャの魔物を一瞬にして細切れにした。

「あ、貴女は……あの時の、風の精霊さん」
「お久しぶり、ササメ先輩。
ヤヨイがまたまたお世話になってるみたいね……あとは私に、」

「き、貴様ぁああああっ!!」
「『エアカットアウト』!
 任せといて!!……っていうか、もう終わったけど!」
「ウギ、アアアアアア!!」
ナデシコの胸に乗っていたカボチャも、瞬く間に切り刻まれた。

ヤヨイの持つ精霊刀・ミカズチに宿った「風の精霊」は、
その名の通り疾風のように現れ、絶体絶命の状況を一瞬にして覆したのだった。

808名無しさん:2020/11/21(土) 19:34:48 ID:???
「す、すみませんでしたササメ先輩!!」
「私たちのせいで、大変な目に……!!」
「い、いえ。気にしないで……それより二人とも無事でよかったです」

意識を取り戻したヤヨイとナデシコが、地に頭を擦り付けんばかりに平謝りする。
そんな二人をなだめるササメだったが……

(それにしても、危なかったです……
ナデシコさんなんて、私より4〜5歳は年下のはずなのに、グイグイ来られて危うく流されてしまう所で…
って、いやいやいや!!あれはあくまで、魔物のせいだから!!
二人とも普段はとってもいい子ですし …いやでも、最近の女子高生は進んでるって聞きますが……)
先ほど唇を奪われたナデシコとは、ちょっと二人と目を合わせづらくなっていた。

(さ、ササメ先輩とべろちゅーしてしまった……唇とかおっぱいとかめっちゃ柔らかかった……お、おかわりしてえ……
っていやいやいや!!私何考えてんの!?……っていうか、魔物に乗っ取られてたんだし、これはノーカン!ノーカンで良いよね!?)
ナデシコも割と気にしていた。
二人とも、カボチャの体液の成分が残っているためか、思考がいけない方向に傾いているようだ。

(ヤヨイの身体は、私が乗り移った時に解毒魔法かけといたけど…二人にも掛けといた方が良いかも)
「そうなの?でも、そのためにもう一回変身するのも疲れるし……そうだ。解毒剤、持ってきてたかな?」

「ササメ先輩、さっき腹パンしちゃったところ痛くないですか?本当にごめんなさい…私、肩貸しますね」
「い、いえ一人で歩けますから……あ、痛っ………」
「あ、ほら。気を付けてください……もっと、こっちに来て…」
「ちょっ……そんな、顔、近……」

そんなわけで、ナデシコとササメは危うく流されそうになっていた。

「あのー。お二人さん? ええと……」
(……やっぱまとめて解毒魔法しとく?)

この後二人とも、めちゃめちゃのたうち回った。


「うあああああああ!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「わわわわわ私も申し訳ありませんでしたすいませんすいませんすいません!!」

「いや、二人とも一旦落ち着いて……敵に見つかっちゃうし」
「いやマジで、何やっとるんじゃお主らは。そんな事より七華を見なかったか?」
「うわあビックリした!?…って、あなたは確か……七華さんの、ええと。お付きの人の、クロマメさん?」

いつの間にか、ヤヨイの隣に人が増えていた。
結界内に強制転移された七華を探しに来た、クロヒメである。

「まさか、七華様までこのエリアに飛ばされてたなんて……」
「まずいですよ!もし魔物達に見つかったら、あれだけの数、いくら七華様でも……!!」
「っていうか、さっき私達を追ってきてた奴ら、ぜんぜん近づいてくる気配ないけど……まさか……」

「既に『本命』を見つけた可能性がある、か……。それなら、魔物の群れを探せば、見つかる可能性は高いな。
…よし。お主らは本陣に戻っておれ。『オロチ』の発動まで時間がない。それに、その様子じゃ戦う余力はあるまい。
この護符を持っておれば、結界から出られるはずじゃ」

「え!?……クロヒメさんは、どうするんですか?」
「七華の事は、任せておけ。
わらわが…付喪神・血贄ノ黒姫が、この身に代えても必ず助け出す」

クロヒメは仕込み刀を抜き放つと、魔物の気配の集まっている方角に一目散に駆け出した。

809名無しさん:2020/12/05(土) 17:18:38 ID:???
…ドスッ!!
「うっ、ぐ………!」
ゴキンッ!!
「いぎ、っぅ…!!!」

I字バランスを保ったまま、巨大な木槌で滅多打ちにされる七華。
全身いたるところが赤黒くはれ上がり、骨も何本か折れている。

「くっくっくっく……なかなか頑張るわねぇ。もっとキャンキャン泣きわめくかと思ったのに」
呪術によって、ワラビと同じ体勢を保つことを強いられているため、
どんなに打たれても、折れた片足で立ち続けなければならない。

「ね〜ぇ、七華ちゃん……アタシ、あなたのことが欲しくなっちゃった。
『サシガネ様は私なんかより万倍強くて美しい、ミツルギ最強の人形使いです。
クソ雑魚ダメ巫女の神楽木七華は、今後一生サシガネ様に忠誠を誓います』
って宣言してくれたら〜、アタシの『お人形』にして、可愛がってあげる。どう?」

「はぁっ………はぁっ……げほっ……何を、言い出すかと思えば……くだらない。
貴方のような人に、人形を扱う資格も、討魔忍を名乗る資格もありません。
従うなんて、絶対にありえな」
……ズドッ!!
「ひぎあうっ!?」

無防備な七華の股間に、木槌の一撃を叩きこむサシガネ。
二発目の痛撃に、断末魔にも似た悲鳴を上げる七華。

「……言ってくれてもいーじゃない?本当の事なんだからぁ〜。
ほらほら、りぴーとあふたーみー?
『私はサシガネ様に完全敗北した、おっぱいだけが取り柄のクソ雑魚です』」

「私は………貴方なんかに、絶対負けな」(ごちゅっ!!)
「っぐあぅ!!」

『五人衆どころか、なんで忍びになれたかわからない、ミジンコ以下の虫けらです』

「私は『神通の七華』……今日まで厳しい鍛錬を重ね、皇帝陛下に認められた討魔忍五人衆の一人。
その矜持だけは、絶対に曲げな」(どぼっ!!)
「んああああんっ!!」

「ったく、口だけは一人前ねぇ。アタシの『ウシノコク』呪術で指一本動かせないくせに」

「はぁっ……はぁっ…………あいにくですが、指一本くらいなら、動かせます」

「プっw だから何?
……ていうか七華ちゃんて、もしかしてドM?あそこボコボコに叩かれて、感じちゃうタイプ?
もうめんどくさいから、トドメにまんこに釘ぶっこんで、終わりにしてあげる。
トーメントに帰ったら蘇生して、お薬ジャブジャブ洗脳コース直行よん♪」

鋭い釘が、七華の股間にあてがわれる。
そこをめがけて、サシガネが木槌を思い切り振りかぶった、その時……

「指一本さえ動かせれば……こういう事も、出来るんです」
ドカッ!!
「んがっ!?」

高々と上がった七華の脚が弧を描いて動き、油断していたサシガネを蹴り飛ばした!

「そんなっ!?どうして……!!」
「……!?……サシガネ様………」

サシガネは何が起こったかわからず、周囲を見回し……七華の動きを封じていた『人形』の異変にようやく気づいた。
ワラビの手足を拘束していたはずの釘が、いつの間にか抜き取られている!

「極細の糸で小型の人形を操り、ワラビさんの釘を抜かせて頂きました……
時間はかかりましたが、貴方がまんまと挑発に乗ってくれたおかげで上手くいきました。
そしてワラビさんの、痛みを感じない体質…これは少々賭けでしたが、釘を抜かれた事に気付かなかったようですね」

「なななな、なによそれ!?指一本で、そんな常識はずれな事が……」
「これでも討魔忍五人衆の端くれ。少々私を侮りすぎましたね…
…これで終わりです!!」

五寸釘を拾い上げ、とどめを刺しに行く七華。
予想外の状況に動転し、立ち上がれないサシガネ。
勝負は決したかと思われた、その時………

「………させない」
「……!!……あなたは」
「ワラビ……!」

藁人形の少女ワラビが、二人の間に立ちふさがった。

810名無しさん:2020/12/05(土) 18:31:41 ID:???
「ワラビさん……退いてください。貴女を傷つけるつもりは……」
短刀代わりの釘を構える七華だが、ワラビに立ちふさがれて動けずにいた。

「だめ……サシガネ様、いなくなる……わたし……帰る所、ない」
「な………!!」

ワラビは元々、ミツルギのスラム街で拾われた、何の力もない奴隷の少女。
術を使うサシガネがいなくなれば……たった一人で生きていく術はない。

「っ………ぎゃーーっはっはっはははは!!
そうよねー!七華ちゃんは、ワラビを斬れないわよねえ?
コイツを攻撃したら、同じダメージが七華ちゃんにも返ってくるんだもんねえ!?」
「あ、貴方はっ…!!」

動きを止めた七華を見て、サシガネが狂ったように笑いだす。
そして、たまたま近くに落ちていた、七華の刀を拾い上げ……

「やっぱり…このアタシこそが最強だったって事ね♪」
(ずぶり………)

ワラビを背中から刺し貫いた。

「あ………え……?」
「っぐ……!?」
状況が呑み込めず、戸惑うワラビ。
そして、七華の背中からお腹にも……刃が通り抜ける感触とともに、耐えがたい激痛が走る。

「大体アンタが釘抜かれたときに気づいてれば、アタシが蹴られずに済んだのよ……
こんな役立たず、もういらないわ。……ふんっ!!」

ずぶっ!!
ブシュッ!!
「そん、な……サシガネ、さま……まっ、て……」
「あ、貴方は一体、どこまで……っぐぅ!!」

サシガネが、刀を勢いよく引き抜く。
血しぶきが吹き上がり、ワラビがばったりと倒れた。
痛みを感じないとはいえ、さすがに致命傷は免れないだろう。

「つーか、いい加減コイツにも飽きてきたし、そろそろ捨てるつもりだったのよね。
代わりに、新しい人形……七華ちゃんが手に入るってわけ」
「……ふざけ、ないで……そん、な、こと…させない…!!」

「イキっても無駄無駄。どーせその傷じゃ、助かりっこないわ。
つまり七華ちゃんも死亡確定ってこと。
七華ちゃんだけは、トーメント王に蘇生してもらうけど♪」

「その後はお楽しみの、脳みそジャブジャブ洗脳コース。
でもって壊れるまでアタシの人形になってもらうから……
七華ちゃんが理性保ってられるのも、残りせいぜい1分くらいかしらね。
それに……」

「えっ………」

「次のお客さんが、もうそこまで来てるわ♪」


「おい見ろ!!あんなところに巫女さんが!!」
「やっときたー!!ほんとにいたんだナマナナカ様!!」
「オイオイ既に虫の息でヤられる準備万端じゃねえか!流石のサービス精神だぜー!」
「ふひひひ……横に転がってる幼女も幸薄そうで良い感じだぜ……合間合間につまみてえ……」
「なんかヤバそうな雰囲気のお姉さんもいるけど……」

七華を探していた魔物の軍勢が、ぞくぞくと集まってきていた。

「あらあら、大人気ねぇ。巻き添えにされる前に、アタシはとっとと退散させてもらうわ。
……あ、結界から出る『護符』だけ頂いていくわね」
「ぜぇっ………ぜぇっ………ま、まちなさ……ぐはっ!!」

全身にまとわりつく激痛に抗いながら、サシガネの足に縋りつこうとする七華。
だがワラビがビクリと大きく痙攣すると同時に、七華は大量の血を吐き出しその場に崩れ落ちた。

「最期の自由時間……魔物ちゃんたちに、たっぷり遊んでもらいなさい。じゃあね〜♪」

魔物達の咆哮が、地響きのような足音が、討ち捨てられた巫女と人形の残骸を今まさに呑み込もうとしていた。

811名無しさん:2020/12/19(土) 14:09:46 ID:???
体中から、血が、抜けていく………
頭がぼーっとして、眠くなってきた。
目の前がゆっくり、暗くなっていく……。

サシガネ様に「いらない」って言われた時から……体中が、熱くて、冷たくて、うまく動かせない……
これが、痛い、っていう感覚なのかな……?

「しっかりして……ワラビさん……」「まずい、このままじゃ本当に……」「今、回復魔法を………」
ななか、さん………サシガネ様の、敵……
私も、この人の、敵………の、はずなのに………

どうして、私を助けようとするの…?
私が死んだら、自分も死んじゃうから…?

どうして………
どうしてそんなに、悲しそうな顔を、しているの………?

……。

(どんどん生気が失われていく……私の回復魔法だけじゃとても……でも、どうすれば……!)

ワラビの受けた傷、特に最後の刀傷は内臓にまで達していた。
必死に治療を試みる七華だが、それでも僅かな延命措置にしかならない。
そして……今二人は、それすらもままならない状況に陥っていた。

「ヒャッハハハハハハハァーー!!まずはそっちの死にかけのガキからいただきだぜぇー!!」
「あ……危ないっ!!」

【カマイタチ】
両腕に鋭い刃のような爪を持つ、獣人型の魔物。
その動きは風のように素早く、肉眼で捉える事すら困難。

……ザシュッ!!

「んぐぅ!!」
カマイタチの斬撃からワラビをかばった七華は、背中をざっくりと切り裂かれた。

「おっとー?
せっかく邪魔なゴミを先に片づけてやろうってのによ!オラアッ!!」

ズバッ!! 

「っく!!……いいえ……この子は、ゴミなんかじゃない。
あなた達なんかに、やらせはしません!…たあっ!」

ガキインンッ!!
「グエッ!?」

気合い一閃、手にした刀でカマイタチの胴を両断する七華。
その手は呪術による激痛がいまだ残っていて、本来ならまともに剣を握れる状態ではない。
さらにサシガネに木槌で滅多打ちにされ、物理的にも満身創痍。

「し、心配しないで……貴女の事は、この身に代えても……キュアライト!!」

それでも七華は身を挺してワラビをかばい、回復魔法をかけ続ける…

「……どう、して……?私は、敵……
それに、私のきず、なおしても、じぶんが、きずついたら……」

「敵だとか、私への呪いだとか……そんな事関係ありません。
……放っておけるはずが、ないじゃないですか………
好き放題に利用されて、飽きたらゴミの様に捨てられるなんて。
いくらなんでもあんまりじゃないですか……!!」
「ななか、さん………」

「ゲヒヒヒヒ!いいねソソルね嬲りがいがあるねえぇ!」
「さーっっすが、神に仕える巫女さんは心がお優しいタコ!」
「かわいそうなのはぬけるでゴワス」
「極上の尻子玉が取れそうだケ!」
「「「イックゼェェェ!!!」」」

「………!!……」

そんな二人を魔物の群れが取り囲み、我先にと襲い掛かる!!

……だが。

「………また、厄介なことになっておるの。少し目を離すとすぐこれじゃ」

長い黒髪、神々しくも妖艶な雰囲気をまとった巫女姿の美女が現れ、魔物達の前に立ちふさがった。

812名無しさん:2020/12/19(土) 16:23:49 ID:???
「あ…あなたは……?」
「……クロヒメ様……!!」
「まったく…何があった、七華。普段のお主なら、こんな連中どうとでもなるじゃろうに」

「ああー!?クソがぁ!またこのタイミングで乱入かよぉぉお!!」
「いやまて、今度の乱入は……美人のお姉様でゴワス!!」
「と言う事は、あのお姉さんも倒してワンチャン三人まとめて年越し祭りの可能性タコ!」
「いや絶対そういう流れじゃないと思うケど」

「……まあ時間もないし、詳しい話はあとじゃ。久々に『アレ』で蹴散らすぞ!」
「は、はいっ!……ワラビさん、もう少しだけ、我慢してくださいね……」

「「…『神火の天照』!!」」

「「「グアアアアアアァァアッッッ!!」」」

人形を人間に、人間を人形に変える魔法の『クリスマスリボン』で、クロヒメは本来の人形の姿へと変わった。
さらに最大奥義『神火の天照』で巨大な龍へと変形し、群がる敵を次々と焼き払っていく!


「間もなく『オロチ』とかいう攻撃術も発動する頃じゃ…このまま結界から脱出するぞ!」

火龍の姿に変わったクロヒメが、七華とワラビを背に乗せて結界の外壁目指して飛ぶ。
一旦は敵を振り切った一行だが、ここで更なる問題が発生した。

「…ところで七華。結界を出る護符は持っておるか?
実はかくかくしかじかで、わらわの分はササメ達に渡してしまってな……」

「そ、それなんですが……実はかくかくしかじかで、サシガネと言う女忍びに奪われてしまって」
「なっ!?なんじゃとぉ!?」

……このままでは、結界から出られない。
そして『オロチ』が発動してしまったら…周辺一帯焦土と化すほどの強力な術。
魔物だろうが討魔忍だろうが、助かる術はないだろう。

「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「!……ちょっと待ってください。ワラビさんが…」
「…その娘……もう、長くはもたなそうじゃな」

一方。七華の治療もむなしく、ワラビの生命力も限界を迎えようとしていた。

「この子は……敵に利用されていたんです。そして、用済みと判断されて…」
「なるほど。わらわのような人形ならともかく、人のみではこの傷は致命傷じゃろうな。
かわいそうじゃが、こうなっては最早……
…いや、待てよ。人形なら………もしかしたら」

クロヒメはクリスマスリボンを取り出し、ワラビの体に巻き付ける。

「荒療治になるが、許せよ」
「え………あ、………っ……!!……」

すると……ワラビの身体が淡い光に包まれ、人形の姿へと変わっていく。
細身の体、ガラス玉のような瞳、球体関節。
刀傷を受けた個所には大きな亀裂が入っていたが、修復不可能な傷ではなさそうだ。

「よし……あとは修復してから人間に戻せばよいじゃろう」
「あ……ありがとうございます。
……私一人では、この子を助けられなかった。敵の忍…サシガネにも、いいようにやられてしまって……
やっぱり、私……クロヒメ様がいないと駄目ですね」

「……七華、『不還の入滅』の準備じゃ。異空間に入って、治療しながら『オロチ』をやり過ごす」
「え………は、はい。『厨子』がないので、上手くいくかはわかりませんが……」
七華はワラビを抱きかかえると、『不還の入滅』……異空間に身を潜め、自身と人形のダメージを修復する秘術を発動する。
普段は、クロヒメが収めてある巨大な厨子を術の媒介に使用するが、それがない今は……

「そうじゃな。今の状態では、3人分が収まるだけの空間を作り出すのは難しい。
それに厨子がなければ、外部からの干渉に極めて弱くなる。
魔物が入り込みでもしたら、空間自体が維持できぬじゃろう。従って……」

七華の術で、異空間の入り口が出現する。そしてクロヒメは、その術の調整を行う。

「異空間は、七華とそっちの娘、2人分で良い。
魔物どもから空間を守るため、『外』にも一人は必要じゃ」

「!…待ってください、クロヒメ様。それでは……!!」
発動した術を取り消すことは出来ず、異空間の入り口はあっという間に七華とワラビを呑み込んだ。

バチバチバチバチッ……!!

「クロヒメ様がいないと駄目、か……そんな事は無いぞ。
わらわはお主が居なくとも……いや。わらわは、ずっとお主の中に居る。
だから大丈夫じゃ、七華。お主は討魔忍として立派に戦っていける……」

「ヒャッハーー!!見つけたぜ、エロ黒着物お姉さん!!」
「あれ、巫女さんとロリはどこでゴワス?臭いはするでゴワスがなぁ……」
「いい加減辛抱溜まらんケ!尻子玉引っこ抜いてやるケ!!」
「上と下の口がトッロトロになるまでえちえちしてやるタコ!」


「懲りぬ奴らじゃ………よかろう。
付喪神・血贄ノ黒姫末期の舞。
主ら下衆に振る舞うにはもったいない馳走じゃ……存分に味わえ!!

813>>784から:2020/12/25(金) 00:41:05 ID:???
「まったく、エリスちゃんもレイナちゃんも薄情よね、アリスちゃんがこんなに頑張ってるのに」

ナルビアのオメガ・ネットにて。アリスの改造を続けているミシェルがそう呟いた。
既に目当てのメサイアのデータは獲得済だ。あとは戦争のゴタゴタに紛れてメサイアを操れるようになれば、目的は完済だ。
一区切りついたのもあって、改造に集中していたのだが……エリスとレイナはやはり踏ん切りが付いていないようだ。

「むしろ私の本性を知ってて飛びついた貴女に考えが無さすぎるのかもね?」

「ぁ、うあ……」

アリスの顔に触れながらそう聞くも、流石に数多の改造+ヒーリングスライム姦は堪えたのか、アリスの反応は薄い。

「まぁいいわ、実験体……じゃない、被験者データと、盗んだメサイアのデータがあれば後の改造は比較的すぐ済むし、そっちも緒戦が終わってからで……あら?」

アリスの体のあちこちに繋げられた管に繋がっているコンピューターが、脳波の異常を検知した。
記憶を司る部分に僅かな曇りがある。
放置しても問題ない異常だが、攻撃材料を見つけたミシェルは嬉々としてアリスに語りかける。

「まぁ大変!アリスちゃんの脳に異常があるわ!!これは緊急手術が必要ね」

「ぅ、うぅ……?」

「ねぇ、身に覚えがない?記憶の混濁や喪失があるはずなんだけど」

記憶の喪失と聞いて、アリスの目が見開かれる。そう、あの時……リンネを追って赴いた先の月華庭園での記憶が一部ない。スピカやミイラ男と戦って負傷し、リンネと接触していたリゲルが自分を気絶させた所までは覚えている。その後、一瞬目を覚まして何かを見た覚えはあるのだが、肝心の内容が思い出せない。

「あるみたいね。それじゃあ早速手術開始よ!被検体の異常は取り除いておかないと本番で困るからね!」

嬉々として機械を操作し、頭部に電極を貼り付けるミシェル。

「あ、唯一弄ってない脳もグチャグチャになっちゃうけど、構わないわやね?」

「……ぅ、え?や、やめ……」

聞き捨てならない言葉が聞こえ、反応の鈍くなった頭でも必死に否定の意思を紡ごうとするが……もう遅い。

「脳ミソじゃぶじゃぶ洗うのはアンタらの得意分野だし、大丈夫よね?じゃ、スイッチ・オン!!」

アリスを覆う管の2つが、シュルリと彼女の体を離れ、耳元に近寄っていく。
そして、何の前置きもなしに、拘束され息も絶え絶えの少女の耳孔に潜り込んで行った。


……直後にアリスを襲う、脳を直接犯されているかのような激しい苦痛。

「あ゛ぐああぁああああぁぁぁっっ!! ぎっ、ぎぁぁああぁぁぁあぁぁっっ!!」

今まで声を出さないようにしていたアリスも、脳を掻き回されては悲鳴を抑えることができない。

「あた、ま、わ゛れっ……!ぁあぁああああ!!」

ビクンビクンとストレッチャーの上で激しく跳ね、骨が軋むほど背を反らせるアリス。
脳の異常と記憶の混濁は気になるが、明らかに強化手術とは関係のない痛みに、気丈な心も折れていく。

さらには、アリスの痛みを感知したヒーリングスライムが異常を治そうと体に入ってきた。

「ふきゅうううん!??」

脳を揺さぶられ、体内をスライムに蹂躪され、もはやどこを犯されているのかも分からないアリスは、ただただ声をあげてその波を受け入れるしかなかった。

(こ、れ、も……ヒルダ、さんとリンネさん、の、ため……リン、ネさん……リンネさん……!)

苦しむ想い人の姿を思い浮かべ、必死に正気を失わないように耐えるアリス。この科学者の遊びにさえ耐えれば、強くなれる。リンネを守れる。そう健気に信じるアリス。
だが……不幸にもというべきか、この脳リョナの本来の目的が果たされてしまう。

余りの刺激に、脳が忘れていた光景を思い出してしまう。

(あ……)

それは、リンネがナルビアを見限り……敵の女であるリゲルのサキと、キスしている光景……

「あ、あああ、ああぁあ……!」

痛みではなく絶望に慄く。
リンネはとっくにこの国を見限っていた。自分の痛みは無駄だった。彼が助けを望んだのは自国のアリスではなく、敵国の少女だった。

「あああああああああぁあああ!!!!」

最後の一線が千切れた。軍人としての高潔な魂が溶けていく。残ったのは男を取られた少女としての感情と、最早なんの為に受けているのかも分からない強化手術の痛みだけ。


「リ、ゲ、ルゥウウウウ!!!」


理不尽と分かっていても抑えられない八つ当たり染みた激情……憎しみ。
アリスが憎しみに支配された瞬間……彼女の強化手術は終了し、刹羅が産まれた。

814名無しさん:2020/12/28(月) 00:37:12 ID:???
「嘆くな七華……わらわは本来、現世に生を受けるはずではない身。何の因果か生身の体を手に入れ、お前たちと過ごした日々……短い間だったが、楽しかったぞ」

オロチから七華とワラビを守るため、自らが外に残ったクロヒメ。舞うような美しい動きで魔物兵を蹴散らしつつ、聞こえていないと知りながら七華に語りかける。

「しかし、願わくば……平和な世を手に入れたら、もう一度わらわの依代を作ってくれ。今以上に立派になったお主の姿を、わらわに見せてくれ」

そうして、オロチが発動し……全てを飲み込んでいった。

◇ ◇ ◇

テンジョウとシアナの戦いは膠着していた。シアナは黒い穴を大量に開けてテンジョウの視界を遮って魔眼を避けつつ攻撃し、テンジョウは忍者としての身体能力でシアナの攻撃を避けつつ魔眼に収めようとする。

互いに殺傷力の高い武器、しかも相手が野郎同士だから楽しむ為の手加減がなかった結果、逆に互いが決め手の欠ける状況だった。

そこに、広域攻撃術オロチの激しい閃光が2人の所にも届く。

「おーおー、ようやく発動したな、うちの切り札が」

「ちっ、あんな隠し玉があったのか……!」

前線の魔物兵は壊滅状態。すぐに大将首を取れれば相手にも打撃を与えられるが、それも難しい。
トーメント側本陣にいる大将……ロゼッタへの道が開かれてしまった。
こんな所で一騎打ちしている場合ではない。軍を再編しなければならない。

「仕方ない、ここは退く……だが、前線の雑魚を倒したからって、お前らじゃこっちの軍団長を倒せない」

ロゼッタは十輝星の中でもヨハン、アイベルトと並ぶ強者。メンタル面の不調も逆に容赦のなさに拍車をかけている。討魔忍程度、束になっても敵わないだろう。

「ああ、そうかもな……そもそもうちの『お姉ちゃん』は、倒そうなんて思ってない。救おうとしてるんだ」

「救う?」

その言葉を聞いて、唯の顔が浮かび……何故か一瞬、アイナの笑顔もチラついた。

「ふん、どいつもこいつも……甘いことばかり言う」

「いいじゃねーの、人生甘口で行こうぜ」

「興味ないな。精々ロゼッタに嬲られてろ。軍団を再編したら、すぐにお前らを蹂躪する」

そう言ってシアナは、現れた時と同じように、空間に開けた穴に入ってどこかへ消えていった。

「さて……露払いは済ませた。あとは頼むぜ、アリサお姉ちゃん」

815名無しさん:2021/01/02(土) 01:53:53 ID:???
「やぁサキくん、久しぶりだね」

サキと舞はナルビアへの行軍の途中、スネグアの呼び出しを受けた。呼び方がいつの間にか『リゲル殿』から『サキくん』とより舐め腐ったものになっていることに気づき、サキは眉をひそめる。

「……何の用よ?」

「やれやれ、嫌われたものだ」

ぶっきらぼうに返すサキにわざとらしく肩をすくめるスネグア。

「アンタがユキを言いくるめて、教授に改造させたんでしょ……!」

「君を守りたいという健気なユキちゃんの願いを叶えてやったというのに、その言い草はないんじゃないか?」

「このっ……!」

「サキ様」

激昂しかけたサキを、横から舞が控えめに制する。それで幾分落ち着いたのか、サキはぶっきらぼうにもう一度聞いた。

「で?何の用よ?」

「なに、私は十輝星人しては新米だからね」

わざとはぐらかすような言い回しをしてサキをイライラさせた後、ようやく本題に移るスネグア。

「運命の戦士や異世界人というものに興味があってね。君の副官を貸してくれないかな?」

「っ……!そんなこと、させるわけがないでしょ……!」

舞はナルビアに囚われ、司教アイリスに囚われ、何度も洗脳されてきた。そんな彼女をスネグアのような信用できない人間の元に預けるなど、できるはずがない。
異世界人に興味があるとは言っているが、それも本当か分かったものではない。

「無論タダでとは言わない。君が彼女を貸している間、君にユキちゃんを預けよう」

「なっ!?」

「感動の再会でも脱走の相談でもするといい。戦争のどさくさ紛れに逃げるつもりだったろうが、今のままでそれが不可能なのは分かっているだろう?」

「そ、れは……!」

逡巡するサキ。天秤に掛けるとなるとやはり舞より妹の方が重い。とはいえ、みすみす罠にかかりに行けと言えるほど舞を大事にしていないわけがなかった。

「サキ様、私は構いません」

迷っているサキを見た舞は、自分から進んで前に出た。

「舞っ!ダメよ、そんな……!」

「私はどうなっても構いません。貴女がユキちゃんと逃げることができれば、それでいいんです」

「舞……どうして、そこまで……私に……」

今までは、踏み込む勇気が足りなくて聞けなかった(断じて書き手が考えてなかったわけではない)事を、絞り出すように聞くサキ。
舞は「失礼」と前置いてサキの耳元に口を寄せると、スネグアに聞こえないように囁いた。

「向こうの世界では私も、貴女と同じ母子家庭でした。母と私、2人だけで生きてきました」

異世界人でありながら舞が帰ろうとしない理由。それは恩人であるサキを思ってのことであるが……それだけではない。

「ある日、母が再婚して……義父も悪い人間ではないのですが、どうしても打ち解けられなくて……やがて、家に居場所がなくなりました」

遠くを想いを馳せるような切なげな声。

「私には何もない。母と義父も、私がいない方がいいでしょう。無事の便りくらいはそのうち送りたいですが……」

そこで言葉を区切ると耳元から顔を離して、サキの顔を正面から見つめる。

「私には貴女しかいないんです。貴女を守るためなら何だってできます。だから、やらせてください」

「舞……」

そうしてしばらく見つめ合っていた2人だが、白々しい拍手の音が邪魔をする。

「いやはや、全く素晴らしい主従愛じゃないか、泣かせてくれる」

「スネグア……!」

パチ、パチ、パチと拍手をするスネグアを、射殺すような視線で射抜くサキ。そんな視線を気にした様子もなく、スネグアは続ける。

「悪いが時間がないのでね、話が決まったのなら、サキくんはさっさと出ていってくれないか?」

「サキ様、私は大丈夫です。私はスネグアの好みからは外れているでしょうから」

そう微笑みかける舞。心配は止まないが、ここまで尽くしてくれる彼女の為にも、今は脱走計画を少しでも練らなければならないと、サキも腹を決めた。

「舞……くれぐれも気を付けて」

「はい、もう二度と敵に洗脳され、貴女の足を引っ張ることはしません。私は……貴女だけの騎士です」

昔見た演劇の記憶を頼りに、舞はサキの前に跪くと、その手の甲にキスをした。それは、アイリスに無理矢理されたキスや、彼女に洗脳されてレイナとしたキスと比べて、とても無機質だったが……今までで一番、舞の心を熱くさせた。

816名無しさん:2021/01/02(土) 16:32:08 ID:???
巨大な火柱が天高く立ち上り、東の空が赤く染まる。
その光を背に受けながら、アリサとアルフレッドは早馬を走らせ、敵軍の懐深くにまで至っていた。

「見えてきましたわ。あれがトーメントの築いた国境の砦……」
「ええ。あそこから先はトーメント王国領。
そしてあの中にいるのは、トーメント王国軍の総大将」

「王下十輝星『カペラ』……ロゼッタ、さん。
アルフレッドがかつて仕えていたラウリート家の、最後の生き残り。…ですわね」

トーメント王国に仕える王下十輝星『カペラ』……
その名の元となる星は、2つの恒星から成る連星が2組ある4重連星であった。

二つの血統、アングレーム家とラウリート家。
代々、その両家のうちいずれかの、最も優れた剣士が十輝星の名を冠する伝統がある。
十輝星の剣士が倒れても、すぐさま代わりとなる剣士が両家から選出される。
そのようにして、長きにわたって常にトーメントを守護し続けてきた。

だが………

「アリサ様もご存じの通り…
『試合中の事故』で世継ぎを失ったことでラウリート家は権威を失い、
間もなく「何者か」の手によって皆殺しにされた」
「ええ……その12年後、アングレーム家の者達もまた、「何者か」の手にかかって殺されてしまった」

ラウリート家を断絶させたのは、当時『カペラ』として君臨していた
ソフィア・アングレーム……アリサの義理の母親。
その復讐のため、アングレーム家の者達を殺害したのは、今アリサの横にいるアルフレッドその人であった。

「いよいよ、決着の時……ですわね」
「ええ、アリサ様………何も知らなかった貴女を巻き込む事になってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
それと……ありがとうございます。そのドレスを身に着けてくれて」
「いえ………出来ればロゼッタさんと戦いたくないのは、わたくしも同じですから」

今アリサが着ている服は、いつもの白いドレスではない。ラウリート家に伝わる、深紫のドレス。
白では目立ちすぎるから、という理由ももちろんだが、それ以上に……

深紫のドレスを身にまとったアリサは、ロゼッタの姉ヴィオラ・ラウリートの生前の姿に生き写し。
正気を失ったロゼッタにその姿を見せる事で、
あるいは警戒心を解いて戦いを回避する事ができるかもしれない、と思ってのことである。

そう……ロゼッタもアリサと同じ、何も知らずこの残酷な因縁に巻き込まれてしまった者の一人。
いくら因縁とは言え、アルフレッドとしても、これ以上無駄な血を流すことは避けたい。

……そんな想いにアリサが応えてくれた事に、アルフレッドは素直に感謝の言葉を口にした。

「……それに。これを着てるとアルフレッドの態度もいつもより優しくなりますし。
やっぱり、どうしてもヴィオラさんの事を意識してしまうのかしら?」
「え!そ………そんな、ことは、その………」

確信を突かれ、動揺するアルフレッド。
アリサの指摘は直球であり図星であり火の玉ストレートにして正鵠をがっちりゲットしており、
当時のアルフレッドが彼女に憧れに近い想いを抱いていた事は、否定しようがなかった。

「ふふふ。あの堅物のアルフレッドを、そこまで慌てさせるなんて……
素敵な方だったんでしょうね。出来るなら、一度お会いしてみたかった」

「ええ。ロゼッタ様も、幼いころから難しい方でしたが……あの方には心から懐いておられました。
自然と周りの人たちを明るくさせる、素晴らしい人柄をお持ちでした……そう、まるで太陽のような」

「ふふふ……聞けば聞く程、すごい方でしたのね。
……わたくしでは、とても敵いそうにありませんわ」

いつになく饒舌なアルフレッドは、アリサの小さな呟きに気が付いていないようだった。
心の奥にしまい込んでいたかつての想いが、チクリとかすかな痛みを呼び起こす。

(ロゼッタさんは、そんなヴィオラさんのたった一人の妹……やはり何とかして、戦いは避けなければ)

魔物兵が出払い、閑散とした砦内をひた走る。
その先で二人を待ち受けるものは、果たしていかなる運命か………

817名無しさん:2021/01/02(土) 16:33:52 ID:???
……砦の最奥に、ロゼッタは居た。

「……そこにいるのは……誰……??………」

「では、手はず通り……よろしいですか、アリサ様」
「ええ……アリサ・アングレーム、一世一代の芝居……しかと見届けてください…こほん。」

「ロゼぇぇぇ! そこにいるのは、ロゼなんだねぇ〜!? 
わたしだよ、ヴィオラ姉さまだよぉ、会いたかったよぉおぉぉぉ……!」
「!!……姉さま……!?」

アリサはアルフレッドからの演技指導を忠実に再現し、
『久しぶりにロゼッタと再会した時のヴィオラ』を完璧に演じてみせた。

かつてのアリサなら、こんな己とかけ離れすぎたキャラを演じるなど到底できなかっただろう。
だがこの世界に来てからの様々な経験、戦い、仲間との出会いは、彼女を大きく変えていたのだ!

(全てはロゼッタさんを戦いから解放するため……そのためなら、わたくしは敢えて汚れに徹する事も厭わない!!)
その一方。ロゼッタの姉にして、アルフレッドのかつての憧れの女性で
ついさっき『太陽のよう』と評されていたヴィオラは、なんか汚れ扱いされていた。

「こんな暗い所で一人で寂しかったでしょぉ〜?さささ、お姉ちゃんと一緒に帰ろうねぇ〜。
うーー、もう我慢できないからナデナデしちゃうよもう!ういやつういやつ。ヨイデハナイカ!」

(すごい!…正に『2日ぶりくらいにロゼッタ様と再会した時のヴィオラ様』そのままだ!!
これならロゼッタ様も………!!)

アリサの怪演にアルフレッドも舌を巻き、作戦の成功を確信した。だが………

「………違う。あなたは……姉さまじゃ、ない」
「え?………な、何言ってるの、ロゼ。だって、私、どこからどう見ても……」
「あなたの……運命の糸が、見えない。………異世界人?」
近づき、ロゼッタを抱きしめ、ひとしきり頭をなでくりなでくりした所で、
ロゼッタはアリサの正体を看破してしまう。

ロゼッタの持つ特殊能力……運命を司る糸を見て、それを操る力によって。

「え、え?な、何なに?私に運がないって?いやーおかしいなーどうしてかなー、
そうだ、今日の占いでみずがめ座は運勢最悪って言ってたから、そのせいかなー!?」
(忘れてましたわ……この人には、この能力があった。……運命の糸で、そんな事までわかるなんて!!)

さすがに動揺を隠しきれないアリサ。だがここまで来て後には引けない。
強引に押し通そうと、演技を続けるが………

「それに………私の、本当の姉さまは」
「……え…?」
「そこにいる」

「たっだいまー!!ヴィオラお姉ちゃんが帰ってきましたよ〜〜!!
あーーん、半日もロゼと会えなくて、ロゼ成分枯渇で死にそうだよもぉ〜!!
さっそくちゅっちゅさせて……あ、コタツとテレビとPS5とその他色々、
kononozamaから発送されて今日届くって!
これでこの冬はこの砦でバッチリ快適に過ごせるね!!
って、あれ?」

………突然現れたその少女は、ラウリート家に伝わる紫のドレスを纏い、腰には二本の剣を差していた。
買い出しに行った帰りなのか、食べ物、お菓子、ジュースなどが大量に入った買い物袋を両手に抱えている。

「あ………あなたは、まさか」
「バカな。そんな………そんな、事が……」

「おかえりなさい………
姉さま」

818名無しさん:2021/01/02(土) 16:35:00 ID:???
年の頃は、アリサと同じくらい。……容姿も、着ている服も含めて、アリサと瓜二つだ。
アルフレッドもアリサも、彼女のことを知っている。特にアルフレッドは……忘れようはずなど、絶対にない。

「…あれ?その子は………もしかして王様が言ってた、私のニセモノかな〜?
私のロゼに何勝手に密着してるのかねキミは。随分いい趣味してるじゃないの。
てことは、そっちのイケメンはもしや……アル君!?っかー!!懐かしい!!」

「ヴィオラ様………まさか生きていたなんて。
いや、落ち着いて考えてみれば………それも当然か」

「そういう事。あのトーメント王の事は、アル君も知ってるでしょ?
私ほどの超絶ウルトラ美少女剣士が、一回死んだだけでサヨナラできるはずがないじゃない?
無理矢理生き返らされて、何やかんやあって……改めて、トーメント王に忠誠を誓ったってわけ」

ヴィオラは笑顔のまま、腰の双剣を引き抜く。
アルフレッドは………動けなかった。

「あなた達二人を殺したら、今度こそ私は王下十輝星『カペラ』になれる。
その代わり、ロゼッタを十輝星から解放する……それが王との約束。
私がこの手で、ロゼッタを救いだしてみせる。戦いの運命から解放する……」

ヴィオラは姿かたちこそ昔のままだが、
その瞳からは、狂気を感じさせるほどの静かで不気味な光が宿っている。

「こんなイケメンになったアル君を斬っちゃうのは、もったいないけど、ね」

その目に見据えられながら、アルフレッドは己の迂闊さを呪った。
アリサやロゼッタが王によって生き返らされたことを知っていながら、
なぜヴィオラが同様に蘇生される可能性に、思い至らなかったのか。

『無理矢理生き返らされて、何やかんや』の間に、いかなる地獄を味わってきたのか。
なぜ自分が気付いて、探して、助ける事ができなかったのか……

答えの無い問いが頭の中を何度も巡る中、ヴィオラの刃がゆっくりと振り下ろされる……

ガキィィィンッ!!

すんでの所でアリサが割って入り、ヴィオラの刃を受け止めた。

「アルフレッド………立ちなさい。私たちは誓ったはずです。もう過去を悔やむのは終わりにすると。
今私たちが動かなければ、この人たちを救う事は出来ませんわ!!」

「……アリサ様…!」

「ふふふ。邪魔が入っちゃったねぇ。まずはニセモノちゃんから相手してあげる」
「姉さま………私も、お手伝いする」
「ヴィオラ様、ロゼッタ様……やはり…やるしか、ないか」
「今は……私たちのこの剣だけが、彼女たちと対話する術……ですが、最後には必ず……救って見せますわ!!」

カペラの星の下、数奇な運命に導かれた四人の戦いが、今まさに始まろうとしていた。

819>>815から:2021/01/03(日) 02:21:20 ID:???
「さて、では靴を脱いで上がってきてくれるかな?」

サキが天幕を離れてユキに会いに行き、舞とスネグアが残された場所。スネグアの命令に、舞がピクリと眉をひそめる。

「どうした?まさか上司の天幕に土足で上がり込むつもりか?」

「いえ……脱ぐわ」

舞は屈んでシュルシュルとブーツの靴紐を解き、綺麗に揃えて並べる。
そして天幕の中に入ると、その場でタイツに包まれた美脚を畳むようにして正座し、ピンと背筋を伸ばして毅然とした態度でスネグアを見据える。そんな舞を面白そうに見ながら、スネグアが言う。

「気づいてると思うが、異世界人云々は建前だ。私の目的はユキちゃんとサキくんを引き合わせ、脱走の準備をさせること……ナルビアとは浅からぬ因縁があるようだから、シックス・デイを誘い出す良い囮になってくれるだろう」

囮にする、と言われて顔をしかめる舞。だが、囮だろうと逃げさせてくれるならば好都合、と黙り込む。

「シックス・デイを君たちに向かわせている間に、桜子やイヴをメサイアにぶつけて弱点を探る。加えてスピカ殿の援軍部隊もぶつけて、私は後で安全に戦わせて貰おう」

強かというより卑怯。後方支援型というより卑劣。そんなスネグアに思わず歯軋りしかけるが……『今の舞は別のことで歯を食いしばっていた』。

「敵にもヴェンデッタ小隊という増援がいるようだが、まぁ大した問題にはならないだろうね」

「つまり、サキ様を囮にするのには、命令するよりも自由に動かした方がいいと判断して、私を残したのは……真の目的を一時的にせよ隠すため」

「ご名答。逃げていいと普通に言っても彼女は信用しないだろうからね。君を犠牲にして時間を稼いでと思っているサキくんは今頃珠玉の脱走計画を練っているだろう。後はもう私の目的を知っても、掌で踊るしかない」

「……あまり私たちを、サキ様を舐めないで欲しいわね」

「ククク、『その体』で勇ましいことだ」

敵の牙城でも気丈に振る舞っていた舞。だが、スネグアの意味深な言葉を聞いた瞬間、ゾワリと嫌な予感が走る。
嫌味など無視して早く魔法のブーツを吐こうと腰を浮かせた瞬間……天幕の端に隠れていた影が飛び出して来た。

「──ッ、はぁあんっ♥!?」

謎の影が、煩雑に舞の胸を揉む。普通ならばこそばゆさと嫌悪感を感じるだけのはずのその行為で……舞の体は大きく跳ね、ストッキングに染みが広がっていく。

「ほう、やはりか……」

>>137の拷問以降、舞の体は全身クスリ漬けで、イキ癖がついて、もうまともに足腰も立たない状態になっている。その後はナルビアの機械による調整で手先として無理矢理こき使われていた。そんな所に>>208のアイリスの洗脳だ。恭順の刻印は既に消えているが、邪術的後遺症は今でも体内に色濃く残っている。

ボロボロの体内を時間をかけて治療したわけでもない舞が普通に生活し、あまつさえ戦闘までできるのは……ひとえに魔法のブーツのおかげ。故に今、ブーツを履いていない舞は、全身快楽漬けだ。
そんな状態でも、強靭な精神力で必死に気丈に振る舞っていたが……今胸を揉まれたことで、それも決壊した。

「はひゃぁぁああぁっ!?ひきゅぁぁああぁぁっ!!」

「君を置いて行かせたのにはもう一つ目的があってね。最近使い魔にしたゾンビキメラが、君をご所望なのさ」

「んぐぅっ、ゾンビ、キメラ……?」

少し落ち着いた舞が、ゆっくりと、自分に絡みつく影の正体を見据える。

「シャアァア……久しぶりね、小娘ちゃん」

「お前、は……!?」

ラミア……舞初登場の時に死んだはずの魔物が、舞の体に絡みついていた。いや、違う。あのラミアはもっと大きかったはずだ。こんな天幕に隠れていることなど不可能だし、自分に絡みついたらもっと圧迫感があるはずだ。

「魔物の死体を再利用して作ったのだが……どうやらラミアが一番格が高かったようで、人格は彼女のものとなった」

スネグアの言うとおり、ラミア……ゾンビキメラはほとんどラミアの原型を残していなかった。首以外はインプやジャイアントラットにブラッドバットといった低級魔物を継ぎ接ぎして無理矢理人型を形作っているに過ぎない。

「ウフフフ……この日をどれだけ待ったかしら……」

「殺すなよ。彼女は戦争で使い道がある」

「分かってるわ、スネグア様……ただこうして、抵抗できない状態で徹底的にイキ狂わせでもしないと、私の気が済まないのよ」

ダークシュライクといったレズ魔物も混ざっている故か、人間っぽいプレイができるようになったからか、ゾンビキメラはレズプレイに目覚めていた。

820名無しさん:2021/01/03(日) 02:22:34 ID:???
「さて、舞くん……君がギブアップしたくなったら、すぐにでもギブアップするといい。ただしその瞬間、サキくんとユキちゃんは引き離す」

「な、ぁ……?」

「精々耐えて、感動の再会を邪魔しないようにするんだね」

そう言い残すとスネグアは舞に興味を失ったように、天幕の奥へ引っ込んだ。

「さーて、これで心置きなく、アンタを犯せるわね……」

ゾンビキメラは普通の人型であるインプの左腕で、舞の胸を揉むのを再開する。

「んひぃいいいん!?」

たったそれだけの動作で、舞は再び絶頂してしまう。まるで失禁でもしたかのように、タイツの染みがどんどん広がっていく。

「うっわ、くっさ……犬も入って鼻が良くなったから、雌豚の臭いがプンプンするわね」

「だ、だま、りぇ……!これは、ちが……ふくぅうっ!?」

「アンタみたいな淫乱娘に殺されて、この前まであの世にいたと思うと。本当に腸が煮えくり返るわ……!」

ベトベトで粘着質な、スライム状の腕を舞の股関……既にグショグショになっているタイツに這わせる。
ただ触れられただけで、舞の体は再び狂ったようにビクビクと震えた。

「アンタのせいで、こんな醜いキメラにさせられて、男装女の手下にされて……!」

グチュ、ヌチュ、グッチュグッチュグッチュグッチュチュチュグチュ……!!
怒りのままに、猛スピードでタイツ越しに股間を擦り上げるゾンビキメラ。

「あ"っ♥!? あ、ああ、あっ♥あっ──はぁぁぁァァァああん♥♥!」

プシュッ、プシュッと、タイツで抑えきれない愛液が外に飛び出してくる。

「あっははは!苦しいかしら?あの時殺された私は、もっと苦しかったのよ、もっと喘ぎなさい……!ほら、ほらほらぁ!!」

「あっ、や、あんっ、きゃはああぁっああぁっあぁっ!?」

絶頂。絶頂。絶頂。止まらない。何度も何度もイッて、口からは涎を垂らし、目の焦点も合わず、常にイキっぱなしになる舞。
だが、それでも彼女は、ギブアップしなかった。

「へぇ、頑張るわねぇ……もうとっくに限界でしょうに」

「ス、ネグアは、ミスをしたわ……貴女の、暴挙に耐えれば、サキ様の役に立てると、私に、伝えてしまった……これで私は、いつまででも、耐えられる……!」

「は、イキながら凄んだって滑稽なだけよ」

毅然とした態度で言い返す舞に腹が立ったのか、ゾンビキメラは口を開けて舌を出した。キメラ故に本来なら一つしかない器官も複数ある。
口からラミア本来の蛇舌を、両肩の辺りからジャンピングフロッグの伸縮自在の舌をいくつも出す。

「んうっ!? むぐぅっ、うぅっ、んむっ――ふあぁっ」

舌が歯列を押しのけて口膣内に入ってくる。先ほどサキの手の甲にキスし、神聖な誓いを果たした舌が蹂躙される。その事実に、舞は今までで一番の抵抗をするが……

「んんうぅっ!? みゅひゅぅっ! ちゅむっ……んっ、れろれろっ……んあっ……んひゅうぅ……っ……んむぅっおむぅう!!?」

耳穴を舐める舌、首筋を舐める舌、股間を舐める舌……その全てが、発狂しそうな程の悦感をもたらす。
さらには胸と股間を弄る手の速度もどんどん上がり、舞の抵抗は虚しく無駄に終わる。

「ん、む、〜〜〜〜〜〜っっっ!!!??」





「いやはや、こんな時間まで耐えるとは、恐れ入ったよ」

それから数時間は経っただろうか。スネグアが様子を見に来た時には、舞はピクピクと痙攣しながら、時折プシュッ、プシュッと愛液を吹いている。それでも決して気を失わず、ゾンビキメラの復讐レズレイプを受け続けていた。
スネグアはゾンビキメラを下がらせると舞のブーツを掴み、彼女の足に履かせてやった。次の瞬間、舞が息を吹き返したように咳き込んだ。

「――っぷは!!ごほ、げほごほっ!」

「ほう、もう回復したのか」

「んっ!」

試しにぎゅむぅ、と舞の胸を揉むスネグアだが、舞は先ほどまでのように絶頂はしなかった。

「そんな体を無理に治し、動かすマジックアイテム……ハッキリ言って体への負担は計り知れないぞ」

「そんな、の……分かって、る……それで、も……」

「は、羨ましい忠義者だ」

「ぶっ!」

スネグアは舞の顔を踏みつけて、床に作られた愛液の池に押し付ける。

「それじゃあ君が汚したここを、舌で掃除するんだ。それが済んだら帰してやろう。流石にサキくんも話は終わっているだろう」

「く、うぅう……!」

屈辱に顔を歪ませながらも、サキの為にも言うことに逆らえない舞は……舌を伸ばして、自らの愛液を掃除する。
そのさらに数十分後、舞はサキと合流したが……自分がされたことも、ブーツがなければ快楽漬けの体の事も、ブーツの危険性も、決して話そうとはしなかった。

821>>818から:2021/01/17(日) 14:32:48 ID:???
キンッ!キンッ!!
「「たあぁぁぁぁあああっ!!」」

激しく剣を打ち合うアリサとヴィオラ。

「ヴィオラさん……貴方は間違っています!
あんな王の下で働いては、多くの人々に不幸をもたらすことになる……
貴女の剣をそんな悪事に使わせるわけにはいきませんわ!!」

「ふふふ……まっすぐで、素直な剣。まるで、昔の自分を見てるみたいね……
世の中が、キレイに正義と悪に別れていると思ってる……」

アリサが振るうのは、金と銀に輝く双剣ガルディアーノ。
ラウリート家に伝わる宝刀であり、アングレーム家に伝わる宝剣リコルヌと対をなすと言われている。
二刀での連続攻撃を繰り出すアリサに対し、ヴィオラもまた、二刀を縦横に振るって連撃を受け流していく。

初手から全力で攻勢を仕掛けているアリサに対し、ヴィオラは冷静に受けに徹して手の内を晒そうとしない。
自分よりはるかに上回る技量の持ち主であることが、直接剣を交えているアリサには、はっきり感じ取れた。

「さすがは、ラウリート家歴代最強と言われた天才剣士……
ですが、これなら!!シュヴェールト・ラオフェン!」
「!これは………」

キンッ!………

間合いに大きく踏み込んだアリサの縦斬りを、ヴィオラが刀の峰で受け止めた。
その刹那、アリサの剣は刀の峰の上を滑るように動き、ヴィオラの喉元へと迫る!

直剣を得意とするアングレーム流剣術に、双剣を扱うラウリート流剣技を取り入れた、アリサのオリジナル技である。

だが、次の瞬間。アリサの視界に、二筋の銀色の光が走り……

「ふふふふふ……知らなかったわ」
「え………?」

「……現実を知らないバカな小鳥ちゃんのさえずりが、こんなに聞いててムカつくモノだったなんて」

背後から、ヴィオラの声が聞こえた。

ザンッ……!ズブッ!ブシュッ…!!

アリサの全身を、光が切り裂く。
少し経ってから音もなく赤いしぶきが舞い上がり……

「あっ……!?………っぐ、うあああああっ!?」
さらに数秒遅れで、体中を激痛が駆け抜けた。

「わざわざ『ガルディアーノ』を持ち出してくるぐらいだから、もう少しやるのかと思ったけど……期待外れも良い所ね」
「くっ……まだまだ、これからですわ……!」
派手に血は吹き出たが、見た目に反して傷は浅い。剣を握るのに支障はなさそうだ。

……もちろんそれは、ヴィオラが手加減したからに他ならない。
相手がその気ならアリサは今の攻撃で止めを刺されていただろう。

(これほどの実力を持ちながら、ヴィオラさんも……トーメント王に屈服し、恐怖に縛られて忠誠を誓っている。
……なんとかして、奴らに立ち向かう勇気を取り戻してもらわないと……!)

「そうね。まだまだ、これから……貴女には、苦痛と絶望の泥沼でたっぷりともがき苦しんでもらうわ……ふふふ」
「な……何を、言って……んっく……!?」

双剣ガルディアーノを再び構えなおしたアリサ。
だが突然、全身に痺れが走って動けなくなった。
無理に動かそうとすると全身が震え、それと共に全身の性感帯を一度に愛撫されたかのような刺激が走る。
この感覚……アリサには、覚えがあった。

「こ、れは……まさか、毒……!?」
「そう。ミツルギ原産ブラッディ・ウィドー……獲物を生きたまま捕らえて体液を啜る蜘蛛の毒液。
生かさず殺さず動けなくする、強力な麻痺毒よ。

しかも体中がすっごくビンカンになるから、無理に動かそうとする度に、痛めつけられる度に、
ビリビリ痺れて気持ちよくなっちゃうのよね……
ふふふ。気を付けないとクセになっちゃうわよぉ?」

822名無しさん:2021/01/17(日) 14:35:51 ID:???
「ど、毒、なんて………貴女には、剣士の誇りというものが……んっ、あんっっ!?」

「ああ、その無様な姿。その悲鳴……私もクセになっちゃいそうだわ。
もっと、もっと、魅せて、聴かせて……」

ヴィオラは這いつくばるアリサの後頭部を踏みにじりながら、剣から滴る血を拭い取り、ハンカチを投げ捨てる。
アルフレッドから「太陽のよう」と評された少女の顔に、恍惚とした不気味な笑みが浮かんでいた。

………………

「…やぁやぁヴィオラちゃん。
地獄から舞い戻った気分はどうだい?ヒーーッヒッヒッヒ!!」

「最悪……まだ地獄に居る気分だわ。目の前に悪魔が見える」

トーメント王の力で十年以上の時を経て蘇生されたヴィオラは、
その間に起こった出来事をつぶさに聞かされた。

ソフィア・アングレームがアルフレッドに殺害された事、
アングレーム家もラウリート家も滅亡した事……
そして、妹ロゼッタが王下十輝星『カペラ』になっている事。

復讐すべき相手は、既にいなくなっていた……しかし、最早そんな事はどうでもいい。
ロゼッタがこんな王の下で使われ、戦いに巻き込まれている事だけは我慢ならなかった。

「……あの子が、戦いに向いてるとは思えないわ。十輝星なんて今すぐやめさせて。
……手駒が欲しいのなら、私をいくらでも使えばいい!」

「クックック……戦いに向かない?とんでもない。

アングレーム流剣術、その直剣は『運命を紡ぐ針』。
ラウリート流双剣術、その双刀は『運命を断ち切る鋏』。

両家の剣士たちは、代々伝わる魔剣『リコルヌ』『ガルディアーノ』の力を使って
王に逆らう者たちの運命を刈り取ってきた……

だがロゼッタは違う。『運命の糸』を直接操る、これまでにない能力を持っている……

アングレームとラウリートの血統は、むしろあの能力を産み出すために受け継がれてきたと言っても良い。

事実、その実力は現十輝星の中でも最強クラス。しかもその力は日に日に増して言っている。
そのうちヨハンをも超えるかも知れん……そう簡単に、手放したくはないねえ。」

「私が、それ以上の働きをして見せる!だから……っ……お願い!!」

「ん?今何でもするって言ったよね?……そうかそうか。だったらテストをしてやろう。
君が本当に、俺様の意のままに働いてくれるかどうか……クックック」

こうしてヴィオラは王の部下となる決意を固めた。
だが、そのテストの内容は……

「トーメント王国正規軍、カイト准士官
10歳の時に正規軍に入隊、以来その卓越した刀捌きでめきめきと頭角を現す。
士官に昇り詰めるのもそう遠くはないと噂されている。
戦闘力、判断力、共に軍人としての平均を大きく超えてはいるが、最近恋人ができて浮かれモード……

……普通のイケメンリア充じゃないですか。いいなあ、でも彼女いるのか……この人を、どうしろと?」

「いや何。書いてある通り、最近浮かれて仕事に身が入ってないようなのでなぁ。
その元凶である彼女……シュナちゃんって言って、カイトの幼馴染らしいんだが、これがまたいい子でなぁ。
デートのときなんか、毎回必ず早起きして手作りのお弁当とか持って来てくれるらしくて」

「だから……それがどうしたって言うんですか」

「クックック……イラつかせて済まんなぁ。
つまりだ、そんな出来た彼女がいたんじゃ、幸せ過ぎて気が緩んじゃうのも無理はない。
だが……もしそんな彼女が、付き合い始めた途端、実はどうしようもない悪ビッチだったと発覚したら?
デートのドタキャンはしょっちゅう、恋人に小遣いをせびったり、挙句他の男とも遊んでいたり……」

「だから何が言いた……ま、まさか……!」
「その通り。君が裏で動いて、そういうふうに仕向けるんだよ。具体的なプランはこちらで用意してある。
優秀な軍人が道を踏み外さないよう導くためだ。
シュナちゃんみたいな健気で甲斐甲斐しいタイプの子は、むしろ男をダメにする魔性の女。
悪い奴ってのは、天使の顔をしているもんさ……よくある話だ。君にも経験があるだろう?
これは正義の行いだよ。ヒーッヒッヒッヒ!!」

823名無しさん:2021/01/17(日) 14:41:03 ID:???
……簡単なテストだった。
まずはカイトの恋人、シュナを人気のない裏通りに誘い込み、剣を突き付けて脅す。

「くっ……馬鹿にしないでください!
私だってこれでも剣術道場の娘。あなたの様な強盗に、そう簡単に……」

ザシュッ!!ザクッ!!ズバ!!

「きゃあぁっ!! っぐあ!! っひうんっ…!!」

「ふーん。こんな棒っきれ振り回して遊んでるだけでいいなんて、
道場のお嬢さんってのは人生イージーモードで羨ましいねぇ。
彼氏とデートも結構だけど、今からちょーっとお話させてもらっていいかな?
今後の彼氏の出世にも関わる事だし、さ……」

「どういう事……あ、あなたは何者……んっ、ぐ……!? あ……っふ、ぁ…」

……ブラッディ・ウィドーの毒も、この時初めて使った。
毒に悶え苦しむシュナの姿を見下ろしていると、
私の中にドロドロと煮えたぎっていた正体不明の黒い感情が、少しずつ満たされていく気がした。


「こ……こんな格好で、街を歩けって言うんですか……こんな短いスカート、下着だってこんなスケスケで……」
「ええ、もちろん。街で知らない男に声を掛けられたら、ちゃーんとついて行くのよ?」

……それから私は、穢れを知らない無垢な少女を、自らの手で
薬、男、借金漬け……地獄の泥沼へと引きずり下ろしていった。

逆らったり、誰かに告げ口したら『カレシ』の人生に差しさわりが出る。
そう言い含めるだけで、どんな事でも、シュナはやってのけた。
こっちがドン引きするぐらいの事でも。

「地下闘技場……魔物と…戦うんですか」
「そう。負けたら当然、その場でレイプ。
剣貸してあげるから、全力で抵抗してもいいわよ?その方が盛り上がるし」
「わかりました……その代わり、これで最後にしてください。
魔物達との戦いに勝ち残ったら、もうカイト君には手を出さないって……」

結局シュナが壊れるよりも先に、『カレシ』の心が折れて、離れていった。
自分の部屋でカノジョが別の男…しかも魔物兵の集団とやりまくってたんだから、無理もない。

王の命令?妹を助けるため?そんな事は関係ない。
彼女の『運命』を、ズタズタに引き裂いて、汚して、壊して、ボロクソにしてやったのは紛れもないこの私。

こうして、私はテストに合格した……そう、気づいてしまえば簡単な事だった。
弱者を嬲り、喰らい、踏みにじる快楽。この世のどんな綺麗事よりも美しく、甘美な真実……

………………

「……その後も私は王の下で、何人もの少女を地獄に落とした。
今までも、そしてこれからも」

ヴィオラは血と毒にまみれた剣を投げ捨て、アリサから宝剣ガルディアーノを奪い取る。
金と銀の輝きを放つ双剣は、『真なる主』を得た事で今までにない輝きを放つ……妖しく、脈打つような不気味な光を。

「アリサちゃんって言ったかしら?もちろん貴女も、その一人……
真の絶望は、まだまだこれからよ。ふふふふ……」

824名無しさん:2021/01/31(日) 11:31:10 ID:???
宝剣ガルディアーノがヴィオラの手の中で不気味な光を放ち始めた。
危機に瀕したアリサを助けようと、アルフレッドが割って入る。

「……アリサお嬢様を、やらせはしません!…『ダークゲート・スティング』!!」
ガキインッ!!
「!!」

闇魔法ダークゲートを使って空間に穴を開け、遠距離の相手を剣で攻撃する技。
魔法のコントロールが極めて難しい技だが、アルフレッドは決戦に備えこの技を見事に会得していた。

「へえ……アル君、随分器用なマネするんだね。
でも、私とガルディアーノの前では……笑っちゃうくらい無力」

…だがヴィオラは亜空間からの攻撃に瞬時に反応し、双剣で受け止める。

金銀の刃が輝きを放ち、絡み合うように融合していく。
それはまるで、獣の牙のような波打つ刃の、巨大な鋏。

「運命に定められた者を斬る「運命の螺旋」と、望む運命を引き寄せる「絶対の因果」。
魔剣と恐れられたそれらの力も、実は……封印されていたガルディアーノの、力の一端にすぎない。
ほんのちょっとだけ、見せてあげるよ」

アリサに鋏を向け、じょきん、と刃を閉じて見せた。
「これで、アリサちゃんは斬られた。ヒントは、時間。回数は秒、00は60扱い。
死なない程度の数だといいね。ふふふ……」
「そ……それは、一体どういう……」

何をされたのかわからず、困惑するアリサだったが……

「まずい……アリサ様!!逃げてください!!」
「……無駄よ。アル君ならわかるでしょ?『運命』からは、絶対逃れられない……」


…ギュルルルルッ!!
「っぐ!」
「姉さま……こんな男に構っていても仕方ないわ。こいつには運命を変える力も、資格もない」
「ロゼッタ様っ…!?」

ロゼッタが不可視の糸を操り、アルフレッドを拘束する。
アルフレッドは必死にもがくが、ロゼッタの操る強靭な糸は鋼すら切り裂く。
力づくで外そうとしても、身体に深く食い込むばかりだった。

「でしょうね……貴方はこの場にいる誰も殺したくないと思っている。
昔からアル君って、そういう所が甘いんだよね。
そんな半端な覚悟で、私は止められないよ」

アリサの背中を踏みにじりながら、ヴィオラは冷ややかな笑みを浮かべる。

「うぐっ…!!……ア、アルフレッド…!」
アルフレッドが覚悟を決めてこの戦いに臨んでいる事は、アリサも良く知っている。
だがそれでも、死んだはずの想い人が突然目の前に現れた事が大きなショックを与えているのだろう。

「さーて、この刃が閉じた瞬間、能力は発動する。
果たしてアリサちゃんは何回斬られちゃうのかなー?」

825名無しさん:2021/01/31(日) 12:05:16 ID:???
ザシュッ!!
「ぐっ!?」
…突如、アリサの右脇腹に痛みが走る。

「始まったね……思ったより回数控えめかな?まあ、最初はこんなもんか」

ズバッ!! ザクッ!! ドスッ!!
「っぐ!あっ!?きゃああああっ!!」
続いて、左肩、胸、背中。激痛が次々とアリサを襲い、鮮血があたりに飛び散る。

「い、一体、何が……まさか、その鋏が……!?」
ヴィオラの言葉の通り、アリサは斬られていた。
鋭い刃……というより、鋸の刃で無理矢理斬られ、抉られるような…そんな痛みだった。
例えばそう、ヴィオラが持っている鋏の刃のような。

「あと6回、だね。ふふふ……」
(な、なんだかわかりませんけど……このままじゃ、まずいですわ!)

アリサは毒の残る体でなんとか立ち上がり、リコルヌを抜く。
ヴィオラが動く様子は全くないし、攻撃の気配もまるでしなかった。
なんとか追撃を防ごうと神経を集中させるが……アリサの『斬られた運命』は、既に確定していたのだ。

ザシュッ!! ズブッ! ザンッ!!
……右脚の太もも、ふくらはぎ、左足首。
「い、ぎっ!?ぎゃうっ!!」

立ち上がって早々、アリサは再び膝をついてしまう。
そして、8回目と、9回目の斬撃………

ズバッ!!

「…うああああああっ!!」
「両目……ふふふ。痛そう……」

ドバッ!!
「あらあら……ツいてないね。利き腕を落とされちゃったら、剣士としては致命傷じゃない?」

「アリサ様ァーー!!もうやめろ!!止めてくれっ……!!」
「ふふふ……私も昔は、何回も止めろって思って、叫んだわ。『運命』に。でも無駄だった……」
「……そこで、あの娘が嬲り殺しにされるところを見ていなさい。
所詮、貴方には何もできない。それが運命……」


「…運命………また、その言葉ですか……

思えば、あの時もこうして縛られて………
私はロゼッタ様が弄ばれ、殺されていくのをただ見ているだけだった………」

ロゼッタの糸で縛られ、俯いていたアルフレッドだったが……
不意に、呟いた。

「……………あああああああああ!!!
どいつもこいつも運命運命運命!!

もううんざりなんだよっ!!」

そして、吠えた。

「!?……き、急にキレたって、無駄……」
「今さら足搔いたって、どうせ運命には……」

ロゼッタとヴィオラが困惑する中、
10回目、最後の斬撃がアリサの首を捉える……!

826名無しさん:2021/01/31(日) 12:56:19 ID:???
………ガキィンッ……!!

「え………う、嘘……何よ、それは……」
アリサの首を刈りとろうとした最後の斬撃は、一振りの剣によって受け止められた。
確定したはずの『運命』を変えたのは
……アリサの左手に握られた、一本の「木刀」だった。

「これは……ただの木刀ですわ。……だけど私にとって、大切なもの。
この世界で出来た、大切な親友の一人が、お守りとして持たせてくれたものですわ」

…その木刀の持ち主は、アリサがミツルギに滞在している間に友達になった、一人の少女。
アリサにとって、かわいい妹分であり、修行相手、あるいは油断ならないライバルでもあり……。
特別な力があるわけでもない、一人の少女。

「どういうことなの…?…ただの木刀で、私の刃が……運命が、変えられるわけない」
「わからないかしら?この木刀は……異世界人のわたくしが、この世界に住む、ある人から託され、この場に持ち込まれた品。
つまり。
わたくしが…今までの戦いの中で、運命を変え、あの子との出会いを果たしていなければ…
本来なら、絶対ここにあるはずのない一本。いわば、わたくしが運命を乗り越えた証……!
だから、その鋏の言う「運命」によって折られる事は……決してない!!」

「は!?…えええ!? でも、木刀……いや、ええ!?」

「ヴィオラさん……貴女、よく似ていますわ。昔の私に。……厄介事を一人で抱え込もうとするところとか!」

アリサは、再び立ち上がった。拙いながらも回復魔法を使い、一時的に痛みを抑える。
目は見えないし、リコルヌは右腕もろとも斬り飛ばされたが、問題ない。
この場に置いて運命よりも強い剣が、この手の中にある。

「おおおおおおっっ!!」
「ふざけないで……納得できるか、こんなの!!」

木刀を手に、飛び掛かるアリサ。迎え撃つヴィオラ。そして……

(その傷で、まだ動けるなんて……運命を、乗り越えた…!?
そんなの、認められない。認めたら、今までの私は一体……!!)

心の中に生まれた、僅かな迷いを振り払うヴィオラ。
鋏を振り下ろそうとした刹那……

アリサの右足が、地面の土塊に引っ掛かった。

「!その手には……」
遥か昔、ソフィアと戦った時の記憶がよみがえったヴィオラは、反射的に「目潰し」を警戒して地面から目を反らす。

「っ、と、あぶなっ……ったああああ!!」

だが。
アリサは前につんのめりながら鋏の刃をかわし、木刀を地面に突き立てて……
「今ですわ!アングレーム流剣術奥義!アリサちゃんキィーーーック!!」
「ぐあうっっ!!?」

全身のばねと木刀のしなりを利用して棒高跳びのようにジャンプし、捨て身の飛び蹴りを叩き込んだ!

827名無しさん:2021/01/31(日) 13:53:24 ID:???
「どこのどいつだ………
アリサ様を私に殺させ、ヴィオラ様の笑顔を奪い、
今なおロゼッタ様を縛りつけているのは……」

アルフレッドは双剣を手にし、怒りをあらわにしながらロゼッタに歩み寄る。

「な……なにを、いまさら……アルのくせに……わたしに、ねえさまに……うんめいに……
さからっちゃだめぇっ!!」

鬼気迫るアルフレッドに気おされ、不可視の糸で攻撃するロゼッタ。
無数の斬撃が、全方位からアルフレッドに襲い掛かるが……その全てが、目にも止まらぬ斬撃によって斬り落とされてしまう。

「誰だ……トーメント王か、それとも……あいつ、なのか………」
……アルフレッドの目にも、いつの間にか見えるようになっていた。
ロゼッタが操る、そしてロゼッタを何重にも縛り付けている、不可視の糸が。
この糸一本一本が、「運命」というやつなのだろうか。

「こないで……アルは……どうして、いつも……わたしの、じゃまするの……?」
「こんな……こんな物に………貴女はずっと縛られて、今も苦しめられて」

アルフレッドは、自分に向けて語り掛けている……はずなのだが、
虚ろな目をして、こちらを見ていない。そして会話が通じていない。
剣を持つ手が、わなわなと震えていて……ここに居ない誰かに対して、怒っているような感じだった。

得体のしれない恐怖を感じ、じりじりと後ずさるロゼッタ。
だが……どうやらアルフレッドにも「糸」が見えているらしいことは、理解できた。

子供のころから、ずっと見えていた糸。
手を伸ばしても届かない所にあった、糸。

<姉さま…もう、ロゼと遊んでくれない?>
<え、えーと、その……遊んであげたいのは山々なんだけど>
<……やっぱり、きらい。ソフィア様も、姉さまも>

わたしは、あのとき……姉さまにひどい事を言ってしまった。
悪い子だから、悪いやつにさらわれて、じごくに落とされて……

<グヒヒッ!!……ロゼッタちゃんの中、相変わらずキツキツだなぁ。
蘇生すると処女膜も再生するし、ホント最高だよ…グヒッ!また出るっ…!!>

じごくの魔物に、いっぱいいっぱい、いじめられた。
大きくなって、「糸」に手が届くようになって……魔物を、他の人たちを、殺せるようになった。

でも。

糸は、触れた瞬間から、私を縛り始めた。
殺すたびに、糸はどんどん増えていった。

……解けなくなった。糸が私を、操り始めた……

「……やめ、て………その、糸は………!…」
「はあっ……はあっ……ダメだ……普通の剣じゃ、切れないのか……?」

「そうだ………ガルディアーノ……ラウリートに伝わる双刀………『運命を断ち切る鋏』なら…!」

糸………糸を、切られたら……
わたしまた、じごくに落とされちゃう………?

828名無しさん:2021/02/11(木) 17:05:00 ID:???
「くっ……ただのお嬢さんかと思ってたら、意外と根性あるじゃない」

(左手で剣の特訓、した甲斐がありましたわね……)
「はぁっ……はぁっ……まだ……ここからですわっ!!……「四天連斬」!」

「なっ…!?」

ドガガガガッ!!
……ビシッ!!
「っぐあ!」

アリサの意表を突いた豪快な飛び蹴りで体勢を崩したヴィオラに、更なる追撃。
全身を駒のように回転させながら、木刀を連続で繰り出した。
一撃目は紙一重で交わされ、二撃目はヴィオラの鋏に弾き返されたが、
三撃目で逆に弾き飛ばし、最後の一撃がヴィオラの脇腹を打ち抜いた。

「こ、のっ……何なのよっ!!もうボロボロのくせに、どうしてそこまでして……!」

「言った、でしょ……あなたは昔の私に似てるって。
ロゼッタさんを守るために、他の全てを犠牲に……他人を、自分さえ傷つけてしまう。
でもそれじゃ、駄目なの……ボロボロになってるのは、あなたの方なのよ!!」

「………うるさいっ…!あんたなんかに何がわかるの!?
私には何も残ってない。もう、引き返せない……
ロゼさえ………ロゼッタさえ守れれば、私はどうなっても………!」

お互い素手の取っ組み合いになる二人。
だが負傷度の差はやはり大きく、何度かの攻防の後ヴィオラはアリサに馬乗りになる。

「悪あがきは終わりよ。アンタを殺して、私は……私は、ロゼを守る…守り続ける…!」
「このままずっと……トーメント王の言いなりになるつもり?
他人を傷つけ……自分を偽って。
今の、私を見て……『弱者を踏みにじる快楽』ってやつを、感じる?」
「…………!」

満身創痍になってもアリサは動じることなく、その言葉はヴィオラを鋭く射抜く。
自分とそっくりな顔立ちの少女と目を合わせられず、ヴィオラがアリサの上で動けずにいると……。

「勝負はつきました……もう十分でしょう。ヴィオラ様」

いつの間にか、アルフレッドが二人の側に立っていた。

「……奴らのやり口は、わかっているはずです。
貴女がどれだけあの男の言いなりになろうと、ロゼッタ様を救う事にはならない。
……あれを、ご覧なさい」

アルフレッドの指さす方には、宙に浮かぶロゼッタの姿があった。

「もう、じごくはいや……やっと……姉さまと、あえたのに……
いと…糸……きらないで、糸………」

魔法や能力で浮いている…のとは、少し様子が違う。
ロゼッタは意識が朦朧としているのか、がっくりとうなだれ、何かをうわごとの様につぶやいているようだ。
そしてロゼッタ以外にも、かすかに何者かの気配がする。

「………ロゼッタ…!?……あ、あれは……一体……!?」

……ヴィオラにも一瞬、見えた気がした。
ロゼッタの四肢に絡みついた、無数の糸が。
その無数の糸の先にいる、ロゼッタを傀儡の様に操る、何者かの巨大な手が……


【運命の見えざる手】
具現化した運命そのものか、あるいは何者かの悪意の塊か。
巨大な人の手のような姿をした、正体不明の存在。
その指の先からは不可視の「運命の糸」が無数に伸びている。

普通の人間にはその姿を認識する事も、攻撃する事も不可能……?

829名無しさん:2021/02/11(木) 17:06:29 ID:???
「見えますか………ロゼッタ様を縛り付けている、あの糸が。
……あれこそが、我々の本当の敵」
「何よ、あれ……ロゼは、今までずっと、あんな化物に捕らえられてたっていうの……?」

ガルディアーノを手にし、意識を集中すると、おぼろげだが「見えざる手」が見える。


糸でロゼッタの四肢を雁字搦めにし、分身体らしき通常サイズの手が、ロゼッタの全身に無数に群がっていた。

(ぞわっ……すりすりすり……くちゅくちゅくちゅ)
「ん、っはぁ……っ…!?……か、らだ……うず、く……ま、また、薬切れ……!?」

「……ガルディアーノを貸してください。ロゼッタ様は私が…」
「くっ……ロゼから離れろぉっ!!」
「ヴィオラ様っ!いけません、今の貴女では……!!」

アルフレッドの制止を振り切り、ロゼッタの元へと駆けるヴィオラ。
だが、「運命の手」にガルディアーノを突き立てる寸前。
「運命の手」の先に居る存在…得体のしれない何かと、「目」が合ってしまった。

「許さないっ……よくもロゼをっ!!………っぐ…!?」
そして、気付いた。
自分もまた、運命の糸に縛られていて、既に身動きすら取れなくなっていたことに。

ぎちっ………ぎちぎちぎちっ……
「い、いつの間にこんな……い、いや……もしかして、最初から……ずっと昔から、私は……」
<私に逆らっても無駄な事……大人しく、従っていればよいのです……>

ぎりぎりぎりっ!!
「っいぎああああああぁあぁぁっ!!」

運命の手が、わずかに指先を動かした。
それだけで、ヴィオラの全身が締めつけられ、手足があらぬ方向に捩じり上げられてしまう。
「運命」に弄ばれ続けるロゼッタを目の前にしながら、ヴィオラはどうする事もできなかった。

<……ラウリートの剣姫……所詮貴女は運命の駒にすぎない……>

巨大な手が、ヴィオラの身体を掴む。ゆっくりと、手に力が込められていく。

ぎゅっ………ぎち、ぎち…ぎちっ!
「や、めろっ………っぐ……あああああああっ!!」
<貴女はただ、踊っていればいい……私の掌の上で>

運命の巨大な手の中で好き放題に嬲られるヴィオラ。
一方ロゼッタも、無数の小さな手によって全身を隅々まで弄り回され、性感を無理矢理に昂らされていく…

(むにっ……ぐにぐにっ……ぎゅむっ……)
<それにしてもロゼッタちゃん、ほんとーーに大きくなったねえ。昔はあんなにつるぺったんだったのに>
「んっ……あ………だ、め……くす、り……効か、ない……!…」

(ざわざわざわっ……むちっ……じゅぷん)
<こっちも、こーんなに大きく実ってすっかり食べごろじゃぁ……
これもワシら分身体が長年ねちっこくマッサージしてやったおかげじゃのう…ウヒョヒョヒョ>
「からだ、じゅう………疼きが、とまらなくて……!!」

(くにくにくに……くりっ!)
<うふふふ♪こっちはアタシの指一本でいつでもイけるように調教済みよん♪>
「い、や………たすけっ……ねえ、さま……ん、むぐっ!?」
<はいはーい、ロゼちゃんの大好きなお姉さまがレズレズおしゃぶりフィンガーしてあげますよ〜♪>

「やっ……やめ、ろ……ロゼを、放っ……!!」
ぎりぎりぎりぎりっ!!
「っぐああああああんっ!!」
<貴女は人形……その体は、血の一滴、髪の毛一本まで運命の奴隷>

ぎゅむっ……ぐぎっ………
「うっぐ………が、は……!!」
<トーメントに仕え、トーメントのために振るわれる一振りの剣……>
「そん、な………嫌………私、もう………戦いたく………」

<逆らう事は不可能。運命からは決して逃れられない……>
ぎちぎちぎちぎちっ………ぶち……ぶしゅっ……
「お願い………せめ、て………ロ、ゼ……だけは…」

……文字通り、運命の見えざる手に弄ばれ続けるヴィオラとロゼッタ。
運命の糸は二人の全身にびっしりと絡みついて、もはや自分の意志では指一本動かせなくなっていた。

830名無しさん:2021/02/11(木) 17:09:14 ID:???
<ぐひひひひ……これでわかったかぁ?>
<ロゼッタちゃんは、こうしてワシらに弄ばれ続けて……>
<オイシくいただかれちゃう『運命』って事♪>

「んっ……う、ああっ……!!」

<そして貴女たちは……トーメントの手駒として、
永遠に殺戮と絶望を振りまき続ける『運命』という事を……>

「そ、……そん、な……の………」

ヴィオラとロゼッタは運命に、縛られ、苛まれ、弄ばれ、……屈服しようとしていた。


「……嫌なら、抗い続けるしかないのですわ。」
「そう……このふざけた運命に!」

……そこへ、アリサとアルフレッドが斬り込む。
二人の手にはリコルヌとガルディアーノがそれぞれ握られていた。

ザシュッ!!
<ぐっ!?…貴様らはっ……やは、り…>

二人の剣が運命の手を貫き、糸を次々と切り裂いていく。
不可視にして絶対、攻撃など不可能なはずの運命を。

「……運命に打ち克つには、リコルヌだけでも、ガルディアーノだけでも足りなかった。」
「運命に反する、ありえない存在。
本来互いに対立しあい、交わらないはずの両家の剣……
それらを合わせる事こそが、奴を倒す唯一の手段だったのですわ」

ズバッ!!ドスッ!!ザンッ!!

<ぐわあああああぁぁ!!>
<きゃあああああぁぁ!!>
<ひいいい!!と、年寄りに何を、っぎゃああ!!>

二人を縛っていた糸が半ば以上切り裂かれ、分身体も霧散していく。
ヴィオラとロゼッタも、もう少しで体の自由を取り戻せそうだった。

だが……

「しまっ……」「きゃあああっ!?」

<そこまでです………そう簡単に『運命』を乗り越えられるとでも、お思いですか>
……二人は、運命の巨大な手に捕らえられてしまう。

グリッ………ゴギッ………ギチッ!!
「はぁっ………はぁっ……まずい……アリサ様…!」
「っぐ……この、くらいで………っぐ、う、ああああああぁっっ!!」

運命の手は、万力のごとく二人の身体を締め上げる。
特に、既に重傷を負っていたアリサは、全身の傷から大量の血を絞り出されてしまう。


<思い知りなさい。私に………運命に逆らうなど、無駄な事だと……>
「いい、え……諦め…ません、わ……
腕を落とされようと……光を失おうと………何が、あっても……!」

力を振り絞り、運命の手から逃れようとするアリサ。
だが、アリサの身体はとうに限界を超えていた。
上半身を抜けだしたところで意識が途絶え、あふれ出た血で手が滑り、リコルヌが零れ落ちる。

「!?…し………まっ……」
「アリサ様っ!!」

<……アングレームの剣士が堕ち、リコルヌの使い手は居なくなった。
やはり、『運命』を斬る事など不可能ということです……くっくっく……>

831名無しさん:2021/02/11(木) 19:23:24 ID:???
<さあ……残りの者達も一人ずつ、片づけてあげましょう。
『運命』を受け入れ、ひれ伏すのです……>

不可視の糸と分身体が再び生み出され、残る三人に迫ってくる。
『運命』を倒すには、リコルヌとガルディアーノ、二組の剣が必要。
しかしアリサは戦闘不能へと追い込まれ、勝ち目が完全に潰えてしまった……

その時。

「まだ、とどく………私には、とどく。いいえ…‥届いて。うんめいの、いと……!」
ギュルルルルッ!!

<!……まだ糸を………運命を操る力が……!?>

ロゼッタはわずかに残った力で運命の糸を操り、床に落ちたリコルヌを絡め取る。

「姉さまっ!!」
「……ロゼ……!!」
そして、回収したリコルヌをヴィオラに投げ渡した。

<ふん……無駄な事です。
ラウリートの剣姫である貴女に、リコルヌが……アングレームの剣術が、使えるはずは……>

「だいじょうぶ……姉さまなら………」
「………貴女次第です、ヴィオラ様。運命に従うか、抗うか」
「そういう………事、なのね……」


………ジャキンッ!!
<何、だと………>

ヴィオラは……アングレームの剣術を、知っている。
かつてアングレーム家でも歴代最強と言われた剣士の技を、いつも間近で見て、憧れ、目標にしていた。
……その奥義に至っては、この身で受けて命を奪われた事もある。

「なんか……笑うしかないわね。これが運命の皮肉、ってやつかしら」

幼いころから何度も何度も見て、真似して、体に染みついた技だ。
捨てたい、忘れたい、そう思ったこともあったが……

「………アリサって子の言ってたこと、ちょっとわかったかも。
本当はすごく怖い、けど……ロゼッタのために、そして私自身のために……アイツを倒したい。
アルフレッド………手を貸してくれる?」

「もちろん。私の気持ちは………あの時と、少しも変わっていません。
微力ながら私たちも、ロゼッタお嬢様と共にヴィオラお嬢様をお支え致します。
だから……」
「……うん。きっと……大丈夫、だよね」


「アングレーム流奥義、トラークヴァイテ・ギガンティッシュ・シュトラール!!」
「ラウリート流奥義、グランドゥレ・タルパトゥーラ!」

<やっ……止めろっ……っぐあああああっ……!!>

とても初めて共闘するとは思えない、完璧な連携で舞うように敵を斬る二人。
二つの奥義が、「運命の手」を縦横に切り裂いた………


一方。トーメント城の、とある一室。
ローブをかぶった一人の男が、テーブルの上の水晶玉に何やら一心に念を込めていたが……

「……っぐあああああっ!!」
中空に現れた光の刃が、男に襲い掛かる。
厚手のローブ、目深にかぶったフード、そして両腕を、刃が切り裂いていき……

「やはり………こうなりましたか。
アングレームとラウリートは手を結び、私に立ち向かってくる」

男の素顔が、ランタンに照らされる。
彼の正体は………王下十輝星の一人「アルタイル」のヨハン。

「ラウリート、アングレーム、そして運命の糸を操る力……
……良いでしょう。
果たしてあなた方が、私を………『運命』を越えられるか。
決着をつける時が来たようです」

832名無しさん:2021/02/12(金) 00:00:42 ID:???
「アリサ様!大丈夫ですか!?」
「失血がひどいわね……今まで動けてたのが不思議なくらい」
「止血……しないと」

「運命の手」をなんとか退けたアルフレッドたち三人は、倒れたアリサの元へと駆けよる。
特に右腕が重傷で、すぐにでも治療しなければ危険な状態だ。

「ど……やら……決着がついた、ようですわね………」
アリサがわずかに意識を取り戻した。
深い傷を負ったその目は、見えているのか定かではないが、
アルフレッドとヴィオラたちの雰囲気を感じ、全てが解決したことを察したようだ。

「丸く収まって、何よりですわ。ヴィオラさん、ミツルギの方々に宜しく……
後ほど、トーメントで…合流しましょう………」
「トーメントって、まさか………ちょっと、待ちなさいよっ!?」
「アリサ様っ!?いけません、アリサ様っ……!!」

……そう。もしアリサが絶命すれば、トーメント王の能力によって蘇生される事になる。
復活する場所は当然、王の居るトーメント城。
今の状況で、アリサがトーメント城に送られたら……最悪の事態だ。

「大丈夫よ、アルフレッド……知っているでしょう?
……わたくしなら、たとえ、死んだとしても……」
「くっ……アリサ様、気をしっかり持ってください!今、本陣に応援を……アリサ様!!」
「アリサっ!?ちょっと、さっきまでの根性はどーしたのよっ!?」

……アルフレッドたちの必死の手当ても空しく、
アリサの呼吸はだんだんと弱弱しくなり。そして………息絶えた。

「………………。」
「なんて事だ………アリサ様が、トーメントの手に……!!」
「………ど、どうしよう。アルフレッド………」

アリサの死体が淡い光を放ち、転送される。
更に悪い事に、彼女の愛剣リコルヌはヴィオラが持っていたため置き去りとなった。
身を守る武器もなく、王の喉元トーメント王国に送り込まれる事となったアリサ。
このままではアリサがトーメントに囚われ、どんな目に遭わされるかわからない。
それだけではなく、これから本格的に始まるトーメントとの戦いにも、大きく影響するだろう。

「……我々だけでは、どうしようもありません。
ひとまずミツルギ本陣に戻り、協力を仰がねば。
ですが……」
ロゼッタとヴィオラを見やり、アルフレッドは躊躇する。
言うまでもなく二人は、ミツルギにとって敵であるトーメントの人間。
アリサが居ればともかく、外様のアルフレッドが事情を話したとしても、果たして納得してもらえるか。

「わたしは糸……使えなくなったみたい。つまり……運命に、見放された。
だから、ミツルギがわたしに何かする、場合は……にるなりやくなり」
「いやいやいや……そのテンジョウ皇帝とかいう奴、大丈夫なんだよね?
最悪の場合、私とロゼは別行動するけど…」
「大丈夫です……ヴィオラ様、ロゼッタ様。お二人の事は、決して悪いようには致しません。
それに、アリサ様の事も……このアルフレッド、身命を賭して必ず無事に助け出します」

最終決戦の舞台、トーメントを見据え、想いを新たにする三人であった。


「ウィーー、ヒック。アルフレッド殿、それにアリサ殿ー!どうやら無事なようだな!」
……そこへ、アルフレッドの救援要請を受けて、五人衆の一人、酔剣のラガールが現れる。

「え、アリサ様?……そうか。私をアリサと間違えてるんだ」
「ラガール様!実は大変な事が起きてしまいまして………かくかくしかじか」

「ウィー……いや、カクカクシカジカじゃわかんねーでござるっつーの!
あれ、そっちの人はトーメントのロゼなんとかでござるじゃないか!
つまり、説得して和解したって事でござるな?いや流石アルフレッド殿!これにて一件落着ござるじゃないか!」

今回ラガールは、戦場の至る所を駆け回り、数多くの魔物を蹴散らし、窮地の味方を助け、
戦闘描写こそバッサリカットされたが、まさに獅子奮迅、八面六臂の大活躍。
かつてないほど酔剣を使いに使った結果、今の彼はぐでんぐでんのヘロヘロ状態であった。

「と、とりあえず……テンジョウ様の所に戻りましょう。詳しい事情はその時に……」
「アルフレッド……本当に大丈夫なの?こいつら……」
「………もうどうにでもなーれ」

833名無しさん:2021/02/13(土) 21:32:59 ID:???
「……なん…だとっ……アリサ姉ちゃんが………!?」
「申し訳ありません、テンジョウ様。……全てはこの私の責任です」
ミツルギ軍は、アレイ草原の戦いにおいて見事トーメント軍を打ち破った。
その矢先のアリサの「戦死」報告に、テンジョウたちは衝撃を受ける。

「……陛下…この事が兵たちに知れたら、全軍の士気に影響します。今は我々だけの秘密に留めておくべきかと」
この重大な報告はごく限られた者にのみ伝えられた。
今ミツルギでこの事実を知る者は、皇帝テンジョウ、執事ローレンハイン、
そして当事者であるアルフレッド達のみである。

「ちっ………わかってるよ!
……アルフレッド。今すぐお前をボッコボコに殴ってやりたい所だが……
今はアリサ姉ちゃんを助けるのが先だ。トーメントに着いたら、速攻で城に潜入して救出するぞ!」

かくしてテンジョウ率いるミツルギ軍は、改めてトーメントの首都へ向け進軍を開始するのであった。

………………

「ふん……アレイ草原を突破され、ミツルギに差し向けた魔物兵どももほとんどやられたか。
ロゼッタ達も、「向こう側」に落ちたと考えるべきだろうな。
……まあ、こうしてアリサお嬢様が手に入ったのは良かったが。ヒヒヒヒヒ………」

一方、トーメント城内の中庭にて。
巨大な十字架に磔にされたアリサが目を覚ます。

「……んん、っ………ここ、は……?……」
(!……迂闊でしたわ。アルフレッドとヴィオラが仲直りしたのを見て、気が緩んでしまったのかしら……)
目の前には、ニタニタと笑うトーメント王の姿。
自分が一度死に、蘇生されたのだとすぐにわかった。

「お目覚めのようだな、アリサお嬢様。
ようこそ……いや、おかえりというべきか。ヒッヒッヒ!
運命の戦士の一人である君が、早々に『処刑場』に送られてくるとはね……」

「トーメント王………処刑場、ですって…‥!?」
アリサが周囲を見回すと、広大な庭の中に無数の十字架が立てられているのが見えた。

「開戦後は、女の子たちが戦死したら自動でここに送られてくるようにしておいた。
ここに来た子はスイッチ一つで拷問部屋や地下闘技場に送り込めるし、
もちろんこの場で痛めつけても良し……以後いろんなシチュでリョナり放題というわけだ。
いずれはここに設置されている十字架を全部埋めてやる……
目指せネームドキャラフルコンプ!ってところだな!」

「ネームド…?……またわけのわからないことを……そう上手く事が運ぶと思わない事ですわ。
今にアルフレッド達や、唯達が……必ず、助けに来てくれる…!」
「ヒッヒッヒ!アルフレッドのアホはどうでもいいが、
ミツルギの女の子や唯ちゃん達には、もちろん全員ここに来てもらうとも。
今まで君たちは散々俺様に盾突いてきたが、今度こそ、二度と逆らう気にならないよう徹底的にいたぶってやろう」

「くっ………見損なわないで。
どんな卑劣な事をされようと、わたくし達は貴方たちに決して屈しませんわ!」
身動きが取れないながらも、アリサはトーメント王を毅然と睨み返す。
王は「その言葉が聞きたかった!」と笑みを浮かべ、満足げにうなずいた。

「さてさて……アリサちゃんはこの手で直々に嬲ってやりたいところだが、俺様も色々忙しい身でな。
ひとまず地下闘技場で、魔物どもの相手をしていてもらおうか。
あそこの奴隷闘士たちはスネグアの奴に傭兵として連れて行かれたから、観客も魔物どももみんな血に飢えている……
格ゲーのサバイバルモード回復なし版か、無双できない無双ゲーみたいな事になるだろうな……ヒッヒッヒ!」

「ふん……わたくしだって、大人しくやられる気はありませんわ。
地下闘技場の貴方の手下どもを、一匹残らず切り捨てて差し上げます!」
「ヒッヒッヒ……その木刀で、かね?」
「!?……これは……!」

王に指摘されて、初めて気づいた。
アリサが腰に差していたのは宝剣リコルヌではなく、エリから貰ったお守りの木刀。
トーメントに送り込まれる際、手放してしまったのだ。

「君の戦いは、録画して後でじっくり見させてもらうよ。では健闘を祈る。ヒヒヒヒヒッ……!!」
「くっ……負けるものですか。みんなが来るまで、絶対に持ちこたえてみせる………!」

834名無しさん:2021/02/13(土) 23:05:15 ID:???
「さ〜てと。今回の『戦利品』で、目ぼしいのはもう一人……傀儡人形のクロヒメちゃんか。
たしか主人の身代わりになって爆死したんだっけか?泣かせるねえ」
「………ぜんぜん違う。過去ログを見直してこい、愚か者が」

トーメント王は闘技場に送られたアリサを見送った後、
少し離れた場所で同じく磔にされた、もう一人の戦死者……クロヒメに話しかけた。

「がははははメタい!きみ巫女さんより現世に馴染んでない?!
まあそんな事より……君の処遇については、実はある人物に一任してある。
ミツルギに派遣した軍勢の、数少な〜い生き残りだ。ヒッヒッヒ………」
「生き残りじゃと?………まさか…」

王が合図をすると、黒い人影が風の様に現れる。

「ハーイ♪私は人呼んで『呪詛のサシガネ』よん。初めまして、クロヒメちゃん♪
思った通り、素敵な人形ねぇ。あのクソ巫女には勿体ない逸品だわ。フフフフ………」

……元ミツルギの暗殺部隊所属、今はトーメントに仕える女忍び。
先の戦いでは七華を一方的にいたぶり、クロヒメの死の間接的な原因にもなった。

「ふん。誰だか知らんが……わらわはどうせ一度死んだ身。
何をされようと、今更どうという事もないわ。こんな戒めなど、そのうち抜け出してくれる」
トーメント王は、死者蘇生の力がある……噂には聞いていたが真実だったとは、
しかも人形である自分にも適用されるとは思っていなかった。
だがこうして生き返った以上、なんとか脱出してもう一度七華に……
クロヒメが、そう考えていると。

「あらそう……じゃあ、遠慮なく。
クロヒメちゃんにはこれから、アタシの呪詛人形になってもらうわ。
呪う相手はもちろん、あの忌々しいクソザコ巫女ちゃんよ。
ここに送られてくると思ってたのに、まーだゴキブリみたいにしぶとく生き残ってるなんて……絶対許せないわぁ」

「なっ………なんじゃと!?……そうか、貴様が七華を……!」
「………だからアイツがここに送られて来るまで、呪いで徹底的にいたぶりまくってあげるの。
まずは釘で両目を潰してあげましょうか?それとも独蟲攻めがいいかしら?楽しみねぇ………」

………………

ところ変わって、戦いを終えたミツルギ軍本陣。
危ない所で撤退に成功した七華は、先の戦いでの負傷を癒していたのだが……。

……ズキンッ!!
「っぐ、あぁっ……!?」
巨大な釘で全身を刺し貫かれるような、鋭い痛みに襲われた。

ザクッ………ブシュッ………ドロッ
「これは………まさ、か………奴の、呪術……っきゃあっ!?……」
傷口を覆う包帯から、血が滲みだす。両目にも同様に痛みが走り、目を開けていられなくなった。

「七華様…!?……これ、まさか……サシガネ様が…」
「え、ええ………間違い、ないでしょう……ん、あああんっ!!」

七華は苦しみにのたうち、時折甲高い悲鳴を上げ、全身に玉のような汗が浮かべる。
横に居たワラビ……サシガネの『人形』だった少女が、思わず心配そうに声をかけた。

<安全な場所からジックリタップリ嬲り殺しにするのが本来の必勝パターン……>
サシガネが言っていた通り、これほど理に適った暗殺手段はない。
術者が遠く離れた場所にいる上、呪術に対する知識がない以上……対処は不可能。

「七華様……ミツルギに戻りましょう。そんな身体じゃ、戦うどころじゃ……!」
「……だ、め…です……私は……五人衆の一人。
クロヒメ様がいなくても、私は……戦い抜かなければなりません……!」

「ですが、このままでは……トーメントに……サシガネ様に近づくにつれて、
呪いの力は、もっともっと強くなっていくんですよ…!」
「それに、私に呪術を使っているという事は、サシガネはまた誰かを『人形』にして使っている。
そんな事、許しておけない……だから、ワラビさん。
この事は……絶対誰にも、言わないでください。お願い、します………!」

満身創痍になりながら、最後の戦いへの決意を新たにする七華。
果たして、仇敵サシガネの元へとたどり着き、呪いを打ち破ることは出来るのだろうか……

835名無しさん:2021/02/27(土) 20:32:58 ID:???
深夜。
トーメント軍の小型ステルス機が、ナルビアとの国境、ゼルタ山地付近を飛行していた。

「間もなく目標地点へ到達する。作戦を説明するから、降下準備しながら聞いて」
「はいはーい、全員けいちゅー!リザ隊長のお言葉ですよー」
「……スズ。黙って」
「…………はーい」

乗り込んでいるのは、リザ率いる小隊のメンバー、エミリア、スズ、カイト、ボーンド。
降下用のパラシュートを装着しながら、リザの話に耳を傾ける。

「目的は、ナルビアの最終兵器『メサイア』の破壊、無力化。
この高速ステルス機で目標地点近くまで一気に接近し、この『破壊プログラム』を対象に打ち込む」

リザは懐からダーツ型デバイスを取り出し、メンバーに1本ずつ配った。
これをメサイアに打ち込めば、プログラムが作動してメサイアを無力化する仕組みらしい。

「『破壊プログラム』……そんな物、よくこの短時間で準備できましたね」
「詳しくは聞かされてないけど………情報提供者が居た、みたい」
「ま、知る必要はない、って奴だな。俺らの仕事は、メサイアちゃんに一発ぶち込むだけ、と」
「そういう事……簡単だけど、説明は以上。何か質問ある?」

「うーん……あ、そうだ!私たちのチーム名、まだ決めてなかったよね!
『トーメント小隊』はダサいから、なんかオシャレでかっこいい感じにしたい!」
「……なんでもいいよ。任せる」
スズに適当に受け答えしつつ、リザもパラシュートを付けて降下準備を整えた。

「チーム名、ねえ。…それじゃ………」
ボーンドはどこからか古びた辞書を取り出し、ぱらぱらとめくり始めた。

「…………『トラディメント小隊』、ってのはどうだ」

「その決め方、なんかおしゃれでイイ!さっすがボーンドさん!」
「な、なんかあんまり変わってないような気がしますけど……どういう意味なんですか?」
「ああ。これはだな………」

………ドガーーーンッ!!

その時。激しい衝撃が走り、機体が大きく傾いた。
リザたちの居る降下口も、一瞬にして半壊する。

「これは…敵襲!?」
「レーダーに反応なし!これは……戦闘機じゃない。正体不明の何かが、攻撃を仕掛けてきました!」
「ま、まさかメサイアってやつが向こうから仕掛けてきたの!?」

「いや、これは……魔法針………!」
リザは、足元に金属製の小さな針が転がっているのに気付いた。
これが無数に飛んできて、機体を破壊したのだ。

「正体不明の敵、再接近してきます!」
「この機は持たない!全員、すぐ降下して!私が時間を稼ぐ!」

リザは叫ぶと、ナイフを抜き放って敵に備える。
青い光が、急速に接近してくるのが見えた。あれは………


「第3機動部隊師団長………シックスデイの一人、アリス・オルコット……!」

836名無しさん:2021/02/27(土) 20:36:42 ID:???
…その少し前。


「失礼します!ヴェンデッタ第7小隊、隊長篠原唯以下5名、現着しました!」
唯達ヴェンデッタ小隊のメンバーは、ゼルタ山地の中腹に建てられたナルビア軍の前線基地へ到着した。

「はーい、ごくろうさまです。
第3機動部隊、副師団長臨時補佐代理のエミル・モントゥブランよ。よろしくね♥
これからあなた方は、我々の指揮下の元行動していただきます。
それで、こちらが隊長の………」

「アリス・オルコットです。あなた方が連合軍からの援軍ですね」
唯より少し年下に見える、軍服を着た少女がほんの少しだけ顔を見せ……

「……せいぜい足を引っ張らないように。後の説明は任せます、エミル副団長」
5人を一瞥すると、またどこへともなく歩き去ってしまった。

「……なんだ今の!感じ悪っ!」
「あー……ごめんなさいね。彼女、最近とくにピリピリしてるみたいで……」
(最近ずっとあの調子なもんだから、副団長がコロコロ変えられて、とうとう私にお鉢が回っちゃった……のよね)

「うーん……確かに元々あんな感じだったけど、昔はあそこまでではなかったわよね」
憤慨するオトをなだめるエミル。
そして、エルマもアリスの様子にただならぬ不自然さを感じていた。

「そういやエルマは地元だっけ。知ってんの?今のやつ」
「うーん……まあ知り合いって程じゃないけど、有名人だからね。かくかくしかじかWiki参照で」
「へー。双子の姉妹がいるのか。てことは、片方が毒舌でもう片方が常識人なパターン?」
「残念だったな……さっきのが、比較的常識人な方だ」
「なん………だと………」
「ちょっとエルマちゃんオトちゃん!ストップストップ!」

悪口大会に発展しそうだったので、唯が慌てて止めに入る。

「……ごめんなさいね。ああ見えて本当は、優しくて繊細な子なの。
ああなった原因は……心当たりがあるから、私の方でなんとかしてみる。
とにかく今は、なるべく彼女をフォローしてあげてほしいの」
「りょ、了解であります!」
「ふふふ……貴女が唯ちゃんね。彩芽ちゃんから聞いてた通りの子だわ……アリスちゃんの事、よろしくね」
「!…彩芽ちゃんを知ってるんですか!」
「ええ、そうよー。あの子、一見ぐうたらしてるように見えてなかなかどうして、
ウチに滞在してる間に、研究データを利用してあんな事やこんな事……」

妙なところから思い出話に花が咲き、
ブリーフィングルームは、間もなく戦いが始まるとは思えない和気あいあいな雰囲気に包まれた。


一方………

「アリスちゃん。調子はどう?」
「………問題ありません。何か用ですか?……ミシェル博士」
首都オメガネットからの通信を受けたアリス。

「トーメントの特殊部隊が乗り込んだステルス機が、間もなくそっちにやって来る。
おそらく陸上部隊も、それに合わせて奇襲してくるはずよ」

管制からは何も報告はない。レーダーにかからない高性能ステルス機、だとしたらその出撃をなぜミシェルが知っているのか。

「……それも、『信頼できる情報筋』からですか」
「ふふふ、どうかしらねえ……とにかく。『あれ』の実践初運用の相手には、丁度いいじゃないかしら?」

恐らくミシェルは、トーメントと内通しているのだろう。
アリスはそれを知りつつも、ミシェルを利用している……
というより、そんな事は、何もかも、今のアリスにとってはどうでもよかった。

「いいでしょう……『ブルークリスタル・スーツ』で、出ます」

……目の前に現れる敵を、ただせん滅するのみ。

837名無しさん:2021/02/27(土) 20:41:27 ID:???
「滑走路開けなさい。私が出ます……『蒼填』!!」

アリス・オルコットが<蒼填>に要する時間はわずか1ミリ秒に過ぎない。
ではその原理を説明しよう!
オメガネットのマザーコンピュータによって増幅された未知の物質、
ブルー・エネルギースパークが衛星を通じて転送され、ブルークリスタル・スーツへ変換。
わずか1ミリ秒で<蒼填>を完了するのだ!

アリスがブレスレットを掲げ、コマンドワードを叫ぶと、よくわからない謎の原理によって
一瞬にしてコンバットアーマー……
レオタード型のインナースーツに、青く輝く金属装甲を装着した姿へと変わった。

サラ・クルーエル・アモットの装着していたアーマーに似ているが、
こちらはより機動力を重視……そして防御を捨てて一撃に特化しているのか、装甲は少なく、肌が露出している部分も多い。
そして何より特徴的なのは、背面のバックパックに付いている、巨大な羽とスラスター。

そう……アリスのために特別に作られた「ブルークリスタル・スーツ」は、
エリスやレイナのそれにはない、飛行能力を持っていた。


「え、ステルス機が奇襲!?
アリス隊長が単独で突っ込んでったですって!?
どどど、どうしましょう……!」

遅れて敵の襲来を察知したエミルたちは、隊長不在で混乱に陥ってた。

「わ、私、追いかけます!ホウキで飛べるんで!」
「ええ!?ゆ、唯ちゃん!じゃあ私も……!」
唯とサクラはホウキにまたがってアリスの後を追う。
……とは言え、圧倒的なスピードで飛んで行ったアリスに、追いつくのは難しいだろう。

「あ、うちらはムリ」
「あたしの強化装甲も、飛べる事は飛べるけどさすがに戦闘機レベルの高度は……」
「ここは唯さんたちに任せましょう。それに……」

「えええ!?地上からも敵の魔物兵ですって!?」
エミルが再び叫び声をあげる。
前線基地のあるゼルタ山に、トーメントの軍勢が押し寄せていた。

「やはり……地上からも来ましたね。ウチらは地上の守りを固めましょう」
「そ、そうね。じゃあ、紹介するわ。わが第3機甲師団が誇る、頼もしき究極機兵部隊たち!」

「我ら機兵部隊『地獄の絶壁Ω』!!」
「格闘機兵最終決戦仕様『ルビエラ・リアライジングホッパー』!」
「殺戮機兵最終決戦仕様『アルティメット・エミリー』!」
「砲撃機兵最終決戦仕様『フルアーマー・サフィーネ』!」
「であります!」

「赤がルビ、緑がエミ、青がサフィか!よろしくな!」
「一瞬で略された!?」

もちろん機甲師団というくらいだから他にもいっぱい色々いるのだが、ここでは省略。
残ったルーア達は、ナルビアにおけるセロル枠『地獄の絶壁Ω』と共に戦う事になった。

「みんな頑張ってね!他の機甲師団とも連携して、前線基地を守るのよ!」
「「「おーーー!!!」」」

かくして戦いは、トーメント王国軍の奇襲により慌ただしく幕を開けた。
前線基地の防衛に当たるルーア達。そして、アリスの後を追う唯達の運命やいかに……

838名無しさん:2021/02/28(日) 01:02:19 ID:???
「よし、このまま身を潜めて逃げるわよ。連中が潰し合ってるうちに、リンネと合流できたらいいけど……真っ白幼女の件もあるし難しいかしら」

戦闘のどさくさに紛れて逃げているのは、サキ、ユキ、舞の三人。サキが先導してトーメントにもナルビアにも見つからないルートを探し、ユキを背負った舞が後ろに続いている。

舞がスネグアの天幕で時間を稼いでいる間、サキはユキと再会し、脱出計画を話した。舞から自分たちはシックス・デイを誘い出すデコイにされていると聞かされても、脱出しなければ遅かれ早かれ破滅しかない。作戦を強行するしかなかった。
ユキは機械化はしているが、素直に話を聞いてくれた。そもそも今回はサキを守る為に自分からされた改造であり、サキを傷つける気持ちは全くないと、ユキはサキの胸に顔を埋めながら言った。

ユキは機械化された影響で立って行動することもできるが、エネルギー補給の目途がない今、舞に背負われている。

「んっ!」

「……舞?大丈夫?やっぱりスネグアにやられたのがまだ……」

「い、いえ、大丈夫です。ユキ様は私が背負うので、サキ様は探索にご専念ください」

「……分かったわ。でも辛くなったら、すぐに言ってね」

心配そうな顔をしたサキ。だが、だからこそ早く安全圏まで逃げなければならないと、再び前を向いて先導した。



「んふふ♡お姉ちゃんにバレないで良かったね、舞さん?」

サキが前に行ったタイミングで、ユキは舞の耳元で囁き……その耳穴に、舌を捻じ込んだ。

「んっ……!ふ、わぁ……!」

「ふふ♡頑張るなぁ♡でも、お姉ちゃんがピンチの特に舞さんが助けたらヤだからね?」




時は、前日の夜に巻き戻る。

ゆっくり休息できるのは今日が最後だからと、ユキは三人で寝ることを提案した。不埒な輩がサキを狙わないかと警戒した舞も、スネグアの作戦に自分たちが逃げることも組み込まれている以上、開戦前の今何かしてくることはないと思い直した。

サキの天幕で、三人川の字になって眠っていたが……舞に問題があった。ブーツがなければ体に刻まれた快楽が抑えられないことをサキにも伝えていないが故に、寝る時にブーツを脱がなければならないことだ。

今まではブーツを履いたまま寝るか、一人で喘ぎながら何とか眠りについていた舞。
サキに心配をかけたくない彼女は、自分の体のことを伝える気はない。ブーツがないからと言って喘いではいけない。

キメラに責められてから、ブーツがない時はより一層体が疼くようになった舞。それでもサキにもユキにも心配をかけない為、喘ぎ声を我慢して眠りについたのだが……

それは、突然訪れた。


「うぅん……ユキ様……?」

サキに抱きついて眠っていたはずのユキが、もぞもぞと身じろぎしてこちらに来た。何か伝えることでもあるのだろうかと、寝ぼけまなこを擦ったその時……ユキの唇が、舞の口を塞いでいた。

「んむぅ!?」

「んちゅ、はむぅ……んっ、は、はぁ、はぁんむ……」

熱い吐息を吐きながら、一心不乱に舞の口の中に舌を入れてディープキスを繰り返すユキ。
思わず相手がユキだというのも忘れて力を入れて抵抗しようとしたが……

839名無しさん:2021/02/28(日) 01:03:28 ID:???



「ん……大きい音、出さないで……お姉ちゃんが、起きちゃうよ……?」

一旦キスを止めてそっと耳元に口を近づけたユキに囁かれて、抵抗が止まる。

「やはり、改造の洗脳が……」

「んふ、そんなのどうでもいいじゃない……重要なのは、私がお姉ちゃんを守るのに、貴女が邪魔ってことだけ」

妖艶に微笑んだユキが、スルスルと舞の寝間着の隙間に手を差し込む。

「お世話になったから着いて来るなとは言わないけど、お姉ちゃんを守れないくらいにはなってもらわないと、ね?」

「ユキ様、いけ、ませ……」

「声を出さないで」

ゾッとするほど冷たい声で囁かれた瞬間……ユキは片手で舞の左胸の乳首をギュゥウウ!と摘まみ、片手で陰口に指を突き入れて掻き回す。さらに舌は舞の左耳をじっとりと舐める。


「んっ、〜〜〜〜!?」

キスをされていないのも、声を抑えなければいけない今となってはデメリットでしかない。ただでさえ疼いていた体に、13歳とは思えぬ手管で三点責めされる。

声を押し殺す為に、サキを起こさない為に、守る為に、必死に歯を食いしばる。

「んっ、ふっ、ふぅう……お姉ちゃんは、誰にも渡さない……!んちゅっ、れろ……お姉ちゃんは、ユキだけのもの……!はむっ、むぅ……お姉ちゃんを守れるのは、ユキだけ……!」

熱い吐息を耳に吹き掛け、じっとりと耳穴をねぶりながら、ユキは興奮気味に言う。やはり、前に機械化した時と同じ。洗脳され、それを隠している。サキを守りたいという想い自体は本物なのだからたちが悪い。

「あああンッッ!」

「もう、そんなに大声出したら、お姉ちゃんが起きちゃうよ?どうやって誤魔化すつもり?」

「は、あぁ……んっ!!や、やぁあ……!」

「私、別に逃げるのは止めないよ?舞さんが邪魔なだけで。でも私がこうだって知ったら、お姉ちゃんは逃げるの諦めちゃうかな。そうしたら、スネグアさんに使い潰されて、姉妹揃って玩具になっちゃうかも♡」

「だ、めぇええ……!」

「そーう?私は別にそれでも構わないけど……嫌なら、我慢しなきゃね?」

「やぁん、やはぁぅっ、あん、あんぅぅ!!」

大声を出さないように必死に我慢する舞。限界が来そうになっても、隣で安らかに眠るサキの顔を見て、決意を新たに耐える。だがそれを見てユキが嫉妬し、舞への責めをさらに激しくする。
最早何回イッたか分からない程、舞は下着どころか寝間着までぐしょ濡れにしていた。



結局、舞はそれ以降、一睡もできなかった。そして今も、おぶったユキが隙あらば耳を舐めて来る。
ブーツを履いていても走る電流に、とうとう抑えるのも限界が来たと悟る舞。

サキさえ無事なら、ユキが守ってくれるので問題ないが……もしもユキでも勝てないような相手と当たってしまった時は……その時は、命を捨ててでも盾になる、悲壮な覚悟を決めた。

840名無しさん:2021/03/06(土) 18:41:41 ID:???
リザたちを乗せた輸送機は半壊し、墜落は確実だった。
だが、攻撃を仕掛けてきた青い飛行体………アリスは、なおも輸送機に襲い掛かる。

「あの青いの、まだ追ってくるみたいだな。ここは隊長のお言葉に甘えるとしますか……お先に失礼」
「わわわわわ!待ってボーンドさん!パラシュートのつけ方、これで合ってるかな!?」
「やれやれ……面倒見てやれ、小僧」
「ええ、僕ですか!?……エミリアさん、ちょっと見せて下さい……」

ドガァァァンッ!!

「「わああああっ!?」」

「また来たっ……みんな、急いで降りて!私も後から行く!」
(接近してきたところを、テレポートで……迎え撃つ…!)

炎上する輸送機から、「トラディメント小隊」のメンバーが次々飛び出していく。

「………逃がしません」
飛行能力を持つ特殊スーツを身に着け、高速で迫りくるアリス。その周囲には、小さな光が無数に追随している。

……ズドドドドドッ!!

光の正体は、アリスの得意とする魔法針。
改造手術で魔力が大幅に強化された事で、以前とは比較にならないほどの数を同時に、自由自在に動かす事が可能。
そして超鋭敏になったアリスの感覚は、周囲の空間すべてを支配する。
羽虫一つでさえ見逃さず、戦闘機や巨龍すら撃墜する、恐るべき兵器へと進化を遂げていた。

「はーい、アリスちゃん。こちらミシェルよ。調子はどうかしら?」

「問題ありません……既に交戦状態です。無駄話は止めて、オペレートに専念して下さい」

「ふふふふ……これでも心配してるのよ?
ついさっき『改造手術』を終えたばかりなのに、いきなりの実戦ですもの。
本当はこのシステム、レイナちゃんかエリスちゃんに使ってもらう予定だったのよ?
アリスちゃんたら、元の体力や筋力は三人の中じゃ一番低かったのに、
あんまり可愛くおねだりしてくるもんだから、ついついサービスしすぎちゃったのよね……」

「頼んだ覚えは……ありません……再び接敵します。もう、切りますよ……!」

改造される前後のアリスの記憶は曖昧だ。
この状況を自ら望んだのか、強要されて拒めなかったのか、今のアリスにはもうわからない。

ただ一つ覚えているのは……リンネがナルビアを見限り、敵であるリゲルと愛を交わしていた、あの日の光景。
自分にはもう何も残っていない、という、絶望的な現実。

それを束の間でも忘れるためには、目の前の敵を殺して殺して殺して殺しまくるしか……

「はいは〜い。それじゃ頑張ってね〜♪
あ、最後に一つ忠告(ブツッ!!」

「……アリス・オルコットぉぉぉっ!!!」
「…………スピカ……!!」

ミシェルからの通信が突然途切れ、アリスの思考が中断される。

敵が、目の前に居た。
自分と同じ目をした少女が。

841名無しさん:2021/03/06(土) 18:45:14 ID:???
「たああああぁっっ!!」
「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」
キンッ!!キンッ!!ガキンッ!!

テレポートで一瞬にして斬りかかってきたリザを、
アリスはスーツに内臓された接近戦用の電磁ブレードで迎え撃つ。

((強い………!!))
過酷な修行の経て、戦闘力に更なる磨きをかけたリザ。
強化手術を受け、近接戦闘力も格段に向上したアリス。
両者とも、まるで殺気をむき出しにした獣……否、眼前の敵を殺すだけの、殺人機械のような戦いぶりだった。

(仲間を守るため、時間稼ぎのため……?…違う。私はただ、戦いたかっただけ……一秒でも、一瞬でも早く…)

リザとアリスは、目が合った瞬間、少しだけ互いの事が分かった気がした。
過酷な運命の濁流に飲み込まれ、戦い、抗いながら、ここまで押し流されてきた事を。
……そして、お互い引き返す術は既にない事も。

(アリス……貴女を殺して、私は生き延びる。お姉ちゃんも、篠原唯も、私の敵は……トーメントの敵は、全員……)
(スピカ……貴女も何か……背負いきれないものを背負っている。しかし、今の私には関係ない事)

アリスは高速飛行で間合いを離し、魔法針の弾幕を張る。
対するリザは、針の弾幕をナイフで弾き返しながら、連続テレポートで再び間合いを詰めていく。

(ここで……)
(………決める!!)

激しい空中戦が繰り広げられ、目まぐるしく攻防が入れ替わった後。

リザはナイフから魔剣『シャドウブレード』に持ち替え、アリスもまた魔法針に魔力を込め、必殺の構えを取った。

その時。

「そこまでよ、リザちゃん……みんな無事に降下したわ。」
「スズ…!?」
いつの間にか、スズ・ユウヒが二人の近くに飛んできていた。
背中には個人用の飛行ユニットを背負っている。

「非常用ジェットパック?…ありえない。そんなもので、私たちに追いつけるはずが…」
「ふふふ……リザちゃんと私は、運命の赤い糸で結ばれてるからね♪」
「……誰だか知りませんが、邪魔をするなら、貴女も一緒に始末するまで」

「今のリザちゃんの、深海みたいな碧い眼はとっても素敵だけど……
ここで散るには、まだまだ早すぎる。わかるでしょ?」
「スズ……わかった。先走ってごめん」
「いいのよ、これくらい♪……だってリザちゃんを守るのが、私の生きがいだもの」

ズドンッ!!
……スズは不敵に笑い、ハンドガンを頭上に向けて放った。

「っぎあ!?」

閃光弾。周囲に激しい光と衝撃が走る。
常人より遥かに鋭敏な感覚を持つアリスには、格段に効いた。

「さ、リザちゃん。今のうちに、降下しましょ」
「う、うん。でも………」
リザは飛び出すとき、パラシュートを持って来なかった。
スズの飛行ユニットも、二人で飛べるほどのパワーはないし、何より燃料がもう切れかかっている。

「大丈夫、そこも計算済みよ。……この下は、ちょうど湖があるの」
「え……でも、下が湖だとしても、この高さじゃ……!?」

慌てるリザの身体を、スズはゆっくりと優しく抱きしめる。
リザの中で、かすかな記憶がよぎった。
前にもこうして、誰かに守られた事があった……遠い遠い、昔の事のような気がする。

「大丈夫。きっと……母なる海が守ってくれるわ。湖だけど」
「スズ……!?」

………ザバンッ!!

微笑むスズの顔が一瞬、姉ミストと重なって見えた。
リザが何か言葉を紡ごうとしたその時。大きな水音と共に、視界は暗転した。

842名無しさん:2021/03/06(土) 18:47:58 ID:???
「あらら……通信切れちゃったわ。忠告してあげようと思ったのに。
改造手術したばかりで体がまだ慣れてないだろうから、体力や魔力の使い過ぎには注意しなさい、って……」

リザとアリスの空中戦が始まった頃。
ミシェルはアリスからの通信が一方的に切断されて困惑?していた。

「今のあの子じゃ、全力全開で戦えるのは、せいぜい10分か15分くらい。
困ったわねぇ、あんまり無理せず、早く帰ってきてくれるといいんだけどぉ〜♪」

「おやおや……いけないなぁ。
そんな大事な情報を本人に教えず、あろうことか『敵』に漏らしてしまうなんて」
「あらやだ、すっかり忘れてたわぁ。『昔の友達』との通信、入れっぱなしだったなんて♪」

しかもしかも、敵軍の司令官であるスネグアに、うっかり独り言を聴かれてしまっていたのである。

「フフフフ……ま、君の独り言という事にしておいてあげようか。
しかし、良いのかい?彼女は君の、お気に入りだったのでは?」

「ふふふふ……確かに。いっぱい弄ってデータも沢山とれて、もう十分満足したからね。
最後に、手土産として役に立ってもらうわ……私がトーメントに舞い戻るための、ね。
ああいう子、貴女も好きでしょ?スネグア司令官様」

「なるほど……『古い友人』だけあって、私の好みを心得てるね。
それじゃ、私も遠慮なく君の玩具で遊ばせてもらおうか。
継戦能力に乏しい相手には、飽和攻撃……ひたすら数で押すのが有効そうだ。

それにしても、分断されたウチの特殊部隊のメンバーも心配だなぁ。
ナルビアの軍勢に待ち伏せされて、各個撃破されていなければいいんだが……?」

「そうねえ。あの5人の降下ポイントは大体わかってるし、
私の『切り札』ちゃんに近づかれないうちに、始末しておかないと……」

適度に情報を分け合い、互いに貸し借りなし。
二人はサキとリンネがやっていた「協力者」に近い関係を保っていた。
だが、二人は本心から互いを信頼しているわけではない。
隙あらば相手を葬り去り、最終的に自分だけが利益を得ようと、水面下で互いに爪を研いでいるのである。

(切り札……ナルビア最強の生物兵器『メサイア』か。そいつも近いうちに、私の手中に収めてやる)
(スネグア……気の毒だけど、あんたの天下もそろそろ終わり。一度どん底を味わった私にはわかる。
……そろそろ貴女も、これまでのツケが回ってくる頃よ……フフフフ)


「シックスデイのアリス・オルコットが現れ、特殊部隊の乗った輸送機が撃墜されたとの報告が入った!
空戦部隊、総員出動!グズグズするな!!」

私室から戻ったスネグアは、鞭を振るって飛行型魔物兵の舞台に指令を送る。
その様子を、物陰から見つめる一匹のインプが居た。

(……王下十輝星「フォーマルハウト」、スネグア・『ミストレス』・シモンズ様か……
普段は男装してるけど、俺の目はごまかせねえ……あの尻は、間違いなく極上モノ……)

「………何をしている?貴様も空戦隊所属だろう、グズグズするな!」
「は、はい!かしこまりました!!」

(あー、なんとかしてあの雌犬を調教でもなんでもして、俺のものにしてぇ……
男装しようが所詮は女だってわからせてやりてぇ……
無理かなぁ、俺みてえな底辺魔物じゃ……なんかチャンスはねえかなぁ……)

高みから鞭を振るい、邪悪な魔物達を従えるスネグア。
下賤なモノたちからの視線など、意にも介さない。

ミシェル、ナルビア軍、魔物兵、王下十輝星、運命の戦士……
全ては、自分が成り上がるための単なる道具にすぎない。

そんな連中に自分が足元を掬われるなんて、夢にも考えていなかった。
……この時は、まだ。

843名無しさん:2021/03/06(土) 20:58:52 ID:???
「エミリアさん!足から着地してください!最後に気を抜いた時が一番怪我しやすいんですから!」

「あわわわわわ〜!!!」

四苦八苦しながらパラシュートを付けて飛ぶエミリアと、その近くでアドバイスを続けるカイト。

何とか無事に着地したエミリアは、弾けるような笑顔を続けて着地したカイトに向ける。

「ふぅ……ありがとうカイトくん!助かったよ!」

「ひぇっ、ち、近寄らないでくださいー!まだ業務上以外で近寄られると……」

「あ、そっか、女の子苦手なんだっけ……」

「と、とにかくこうなっては仕方ありません。各々メサイアを急襲し、破壊プログラムを打ち込むとしましょう」

エミリアのパラシュートが絡まったのを声だけのアドバイスで解いたり、無駄に離れて地図を確認したエミリアとカイト。

目的地へと向けて歩き出してしばらくすると……ポツポツと、雨が降り始めた。

「……雨?妙だな、この辺りだけ……」

「よぉ、はじめましてだな」

雨霧の中から声がし、エミリアとカイトは身構える。

「二人か、貧乏クジだな……まぁいい、まだまだインフレに置いてかれちゃいないって事を見せてやるぜ」

「何者だ……!」

「シックス・デイのダイ・ブヤヴェーナ。思う所はあるが、とりあえず今はうちの最終兵器を守ってる」

「シックス・デイか……早速一人釣れるとはありがたい!」

カイトは名刀『調水』を構える。雨水ではない水が剣を包み、戦闘態勢に入る。

「水の剣士か……アクアリウム好き?」

「戯言を……なに?」

だが、カイトの水の力を秘めた魔法剣は、ある程度の時間雨に触れると纏っていた水を霧散させてしまう。

「同僚がデバフの研究ばっかしてて、ちょっと俺も覚えてみたんだよ。アンチ・スキルマジック・レイン……略してASMRってんだ」

決してちょっとエッチな同人音声を聞いてる時に思い出したわけではない。

「ならば純粋な剣技で押し通るまで!」

「勇ましい真面目クンだな、でも隣……というには離れ過ぎてるな……とにかくそこの女の子は辛そうだぜ?」

「なに?」

先ほどから黙っているエミリアの方を見ると……滝のような汗を流しながら自分の体を抱きしめて、苦痛に呻いていた。

「く、っ、んぅ……!は、ぐぅう……!」

「ははん、つい最近回復魔法で無理矢理傷を治したな……俺のASMRで傷が開いたってわけだ」

ヴァイスとの戦いで付けられた傷を、回復魔法で回復させて無理矢理リザに付いてきたエミリア。
その強行軍のツケが、ここに来て巡ってきたのである。

「貝殻イメージの女の子を水責めってのもいいな……舞い踊れ水たち!」

三下なのか実は黒幕なのか分からないあの人みたいな掛け声を出すD。すると、シックス・デイの仲間を模した水の分身たちが現れる。

「初戦闘は無双したいだろ?しばらくソイツらと遊んでてくれ」

「しまっ……!」

離れていたのが仇となり、カイトとエミリアの間に素早く水の分身たちが立ち塞がる。その間にDは、とうとう蹲ってしまったエミリアに歩み寄る。

「楽しまなきゃ戦争なんてやってらんねぇし、悪く思うなよ」

844名無しさん:2021/03/13(土) 11:44:05 ID:???
「ぷるぷる……」」
「じゅるっ……」
「ざばざば……」
「ていっ!! はあっ!! ……くっ……し、しがみつくなっ……!!」

アリス、エリス、レイナ、そしてリンネの姿をした水人形が、カイトに襲い掛かる。
というより、一斉に抱き着いてくる。

「うっ……な、なんか適度にあったかくて、柔らかくて………こ、これは……!……や、止めてくれっ…!!」
必死に刀を振って抵抗するが、水の塊相手では斬っても突いてもまるで効果がない。

水流を操る『名刀 調水』の力を封じられた今のカイトが、
水人形達のぬるま湯おっぱい抱擁地獄から抜け出すことは難しかった。


「あの感じじゃ、真面目君は当分足止めだな。さてと……」

ブシュッ………じわっ……
「っく……う、うぅ……!!」

「雨の中しゃがみ込んで苦しんでる女の子ってのも、また乙なもんだ」
それに、白いワンピースの背中にブラ紐が濡れ透けて見えるのがたまらなく良い。
またロリコン扱いされてしまうから、レイナ達の前でこんな事言えないが……

エミリアの両脚にはヴァイスの凶刃によって刻まれた無数の傷が再び表れ、
その時の痛みと恐怖までもが心に蘇っていた。

「や、ば……立たな、きゃ………っく、あうっ……!」

逃げられないよう、抵抗できないよう、筋肉や腱を念入りに切り刻まれている。
立ち上がろうとしようものなら、激痛と共に大量の血が傷口から噴き出してしまう。
動けずにいるエミリアに、ダイがすぐそばまで迫っていた。

「……回復魔法は、言わば生命力の前借り。
借りる相手が神か悪魔か精霊かによって、細かい所はイロイロ違うが……
基本、借りた分は利子つけて返さなきゃならないもんだ。
だから、治ってすぐの時は、魔力そのものを封じられると、こういう事になっちまう」

エミリアたちの能力はASMRによって封じられているが、
もちろん仕掛けた側であるダイは、水を操る能力を自由に使える。

「しゅるるるる………」
「い、やっ………っ、こ、れはっ……!?」

周囲の水たまりが集まり、巨大な蛇へと姿を変え、エミリアの足に絡みついた!
「そんな身体で戦場にノコノコ出てきた、自分の迂闊さを呪うんだな……そらっ!」
「……ぎちぎちぎちぎちぎち!!」
「っぎ、いやあ"あ"あ"あ"あああぁぁっっ!!!」

845名無しさん:2021/03/13(土) 11:46:24 ID:???
水蛇は、その丸太のように太い身体で、エミリアの脚を力いっぱい締めあげる。
傷口からは新たな鮮血が絞り出され、更なる激痛、骨までも砕かれそうな程の圧力。
だが、水蛇の責めはこれだけでは終わらない。

巨大な鎌首が、エミリアの頭上でその顎を開いた。
そしてエミリアを頭から丸吞みにしようと、鎌首がゆっくりと降りてくる。

「っぐ、うぅ……や、めて……!!」
水蛇の口をおさえ、抵抗するエミリア。だが、腕力だけでは長く持ちこたえられそうにない。
「……こ、のっ………!!」
残った魔力を総動員して、爆炎魔法を発動しようとする。

「霊冥へと導く爆炎の魔神よ。我が声に耳を傾け賜え。浄化の炎、その聖火をいま召喚す…」
エミリアの青色の髪が、燃えるような赤へと変わった。

圧倒的な魔力によって、ASMRによる封印ごと、力づくで吹き飛ばす……
およそ作戦とも呼べない作戦だが、その力づくこそが最善、最適解だった。

ただし………

それもエミリアの魔力や体力が万全の状態だったら、の話である。

………ぽたり。
「ひゃんっ!?」
水蛇の舌先から、粘つく唾液が一滴、エミリアの額に垂れ落ちた。

「無駄だ……」

唾液の正体は、濃縮された高純度のASMR。
触れた途端、エミリアの魔力は霧散し、髪色は再び元の青色に戻ってしまう。

「ん、ぐっ……!!…だ、だったら……もう、一度……」
「『爆炎のスカーレット』……いくらアンタでも、そんなズタボロの状態じゃ、俺のASMRは破れん」

蛇に半分吞まれかけながら、再び魔法を詠唱しようとするが、
ダイが言う通り、今のエミリアにASMRの呪縛を跳ね返す事は不可能だった。

蛇の唾液が再びエミリアの髪を穢すと、
熾火のようだった暗赤色の髪が、凪いだ海のような青色へと戻ってしまい……

……どぷんっ!!
「……っが……ごぼっ…!!」

エミリアの頭は、そのまま水蛇に飲み込まれてしまった。
水蛇の口の中は、すなわち水中。呼吸ができないことに気付き、咄嗟に息を止めたエミリアだが。

「こっちも久しぶりの得物だからな。……ゆっくり、じっくり、溺れさせてやぜ」
ダイが、エミリアの肩を掴む。
そこにあるのは……ヴァイスによってつけられた、深い刃傷。

ギリギリギリッ……!
「……〜〜〜〜っ…!!!………ごぼごぼごぼごぼっ!!……!!」
激しい痛みに襲われ、エミリアはたまらず肺の空気を吐き出されてしまう。

「苦しんで苦しんで、苦しみ抜いて………底の底まで、沈んでいきな。
お友達も、後からそっちに送ってやるぜ」

水蛇に巻き付かれた手脚を、必死にばたつかせるエミリアだが、
抵抗は次第に弱まっていき、やがてその全身が水蛇に吞み込まれていった。

846名無しさん:2021/03/14(日) 20:50:14 ID:???
一方。エルマ、ルーア、オトは、
ナルビア軍の部隊と協力して前線基地の防衛に当たっていた。

「グワーーッ!!く、なんだこいつら、つえええ……!!」
「オラオラー!ルビ!そっちに行ったぞ!」
「おっけーオト!全員ボコボコにしてやんよぉー!!」

先陣を切ったのは、短めなポニーテールに体操服っぽい戦闘服、赤く輝く装甲が印象的な格闘機兵ルビエラ。
そしてヴェンデッタ小隊所属、琵琶を背負った音使いの討魔忍オト・タチバナである。

「地の文にも略された!くっそー、こうなったら……バーニング・エイトビート・キック!!」
「「「グワーーッ八つ当たり!!」」」

オトは琵琶をブンブン振り回し、楽器が壊れるとか全くお構いなしにゴブリン、オークなどの一般魔物兵を蹴散らしていく。
そしてルビエラは、討ち漏らした魔物達を炎をまとった跳び蹴りで次々となぎ倒す。
二人は初共闘とは思えない抜群の連携を見せ、同型の格闘機兵たちと共に敵陣深くへ攻め込んでいく。

「うおーー!待て待てこのやろー!!」
「くっ……おい、一旦引け!こいつらに後を追いかけさせて、他の連中と一緒に待ち伏せるぞ!!」
「ちょっと、オトちゃん!ちょっと奥まで突っ込みすぎじゃね!?
自重せい自重……って、聞こえてないのか、おーーい!!」

……だが、オトは耳が悪かった。過去に耳に大きなダメージを受けているためだ。
このため特に戦場のような喧しい環境では、相手の声を聞き取れないことが多々あった。


「仕方ない……救援に行ってくるわ。
エミリー、一緒に来て。ルーア達は援護射撃をお願い」
「了解」「です」
ヴェンデッタ小隊最年長、装着型人体強化マナ装甲によってどんな局面でも万能に戦う天才少女、エルマ・ミュラー。
そして、ツインテールに緑色の装甲、白スク水っぽい戦闘服が特徴で、
高い機動力とブレード型兵装による一撃離脱を得意とする、殺戮機兵エミリー。
この二人が、オト達の救助に向かった。

「どーせ、オトさんが一人で突っ込んだのでしょう。仕方ないですね……フレイムバースト!!」
「支援砲撃開始ー!です!」
ズドォォォォンッ!!
敵の包囲に魔法と砲弾の雨を降らせるのは、
ヴェンデッタ小隊最年少にして、攻撃・回復とも高レベルな魔法の使い手、ルーア・マリンスノー。
長距離砲を搭載したランドセル、青い装甲、戦闘状況をリアルタイムに映し出すメガネ型デバイス、セーラー服っぽい戦闘服など、
地獄の絶壁でも最も重装備かつ高火力な、砲撃機兵サフィーネ。

前線基地を守る第3機動部隊は、隊長であるシックス・デイのアリス・オルコットは不在ながらも、
この6人を始めとする多数の機兵部隊が協力して、敵の侵攻を食い止めていたが……

847名無しさん:2021/03/14(日) 20:51:46 ID:???
「ヒッヒッヒ……こんな所までノコノコ責めて来るとは馬鹿なやつ……琵琶女にロボ娘なんざ、スクラップにしてやるぜぇ!!」

「んっ?……なーんか、気が付いたら周りに味方がやけに少ないような。
ていうかここ、けっこう敵陣の奥深くなような……」

……オトとルビエラ、そして付いてきた機械兵部隊、総勢10体ほどは、敵陣の中で孤立してしまった。

「だから、さっきからそう言ってただろーが!」
「おいお〜いルビ子ー。気付いてたんならもっと早く言えよ!
おかしいと思ったら、まずは隊長に『ほーれんそう』だろーが!」
「だーれが隊長だ!オトのアホ!!」
「なにー!?アホとは何だアホとはー!」
「ていうかちゃんと聞こえてんじゃねーかボケ!」

周囲は敵魔物兵の大群。どうにか包囲を突破して、自陣に戻りたいところだが……

「グッヒッヒ……イキの良さそうな元気系ロリっ子ロボに」
「アホそうなガサツ女か」
「オレたちの歌で、徹底的にメス堕ちさせてやる…」
「「…ゲロ!!」」

【ワーフロッグ】
カエル型の獣人。高い跳躍力を生み出す強靭な脚、自在にのびる長い舌が特徴。
その鳴き声は強力な催眠&催淫音波で、今回の戦闘にあたりナルビアの機械兵にも効果を発揮するよう調整されている。


「あーー?なんだお前ら!見せもんじゃねーぞ、引っ込んでろ!」
「「「げろ♪げろ♪げろ♪げろ♪」」」

「バーニング・トルネード・キーッk………あ………あ、れ………?」

カエルたちが一斉に鳴きだすと、ルビエラを始め、戦闘機兵たちの動きが鈍くなっていく。


「おいっ!?どうした、ルビ子!」
(戦闘モード、強制終了………た、体内温度、急激に上昇中……い、いったいどうなってんだ……?)

「「「げろ♪げろ♪げろ♪げろ♪」」」
「さあ、ロリ機兵ちゃん達、こっちに来るゲロ……」
「ご主人様に、その幼い身体を使って、ご奉仕するゲロよ……!」

「はあー?何キメー事言ってんだロリコンクソガエルが!
そんなんするわけ……ってルビ子、どこ行くんだ!?」
「はい………ごほうし、します……
娼婦モード用プログラム、ダウンロード開始………」

「おい、ちょっと待てルビ子!どうしちまったんだよ!!」
「邪魔、するな……」
(!?……な、なんなんだ、これ……オト、たすけ………)

「おやぁ?一匹、聞き分けのない子がいるゲロね……」
「悪い子には、お仕置きが必要ゲロ……どうやらこいつ、人間のようゲロね」
「それなら、媚薬唾液入りの舌鞭連打でイチコロゲロ!!」

怪しい声に誘われるまま、ふらふらと歩いていく機兵たち。
果たしてオトは、カエル男達から仲間の危機を救うことは出来るのだろうか…

848名無しさん:2021/03/27(土) 21:35:36 ID:???
ガシャン! ガシャン!!

右腕武装解除……
左腕武装解除……
「ゲロゲロゲロ………そうだ、余計なものは全部脱ぎ去ってしまえ……ゲゲゲ」

背部バックパックパージ……
胸部メイン装甲パージ……
ガシャン! ガシャン!!

脚部装甲パージ……
腰部メイン装甲パージ……
ガシャン! ガシャン!!

全身を覆っていた大量の鉄塊を脱ぎ捨てながら、ルビエラはカエル男たちの方にふらふら歩み寄っていく。
残るは、体操着っぽい見た目のインナースーツと、その下は最低限の防護面積しかないサブ装甲のみとなった。

「ゲロゲロゲロ……その体操着も、さっさと脱いじまうゲロ」
「だ……、め………これ以上、は………!」

胸部インナースーツ、手動パージ……
「なんで、手が、勝手に………や、だぁっ………!!」
涙声になりながら必死に抵抗するルビエラだが、カエル男の声にどうしても逆らえない。

「やだ、やだ、止まってぇっ!!……どう、して……こんな事、したくないのにっ……」
「ゲロロロロッ!!ほれほれ、手伝ってやるゲロォッ!」
バリバリバリッ!!

……カエルの舌が、体操服の上着を、その下のブラ型サブ装甲ごと強引に剥ぎ取る。
「ゲヒヒヒヒ!!これでスッキリしたゲロ……どれさっそく味見を、べろべろべろぉっ……」
「ひ、や、あぁあぁあんっ!!」

「グヒヒヒヒヒ!!ほのかに染み出た冷却水の甘みが、また格別だゲロ!
それじゃ、お次は……下の装甲も頂くゲロよっ!!」
じゅるるる………じゅぽんっ!!
「ひ、待って、そこ、だけは………ふぁぁぁぁぁっ!?」

じゅぷっ!じゅぷっ!じゅぷっ!!
「待って、だめ、いやぁぁぁぁっ!」
じゅるじゅる……ぐちゅっ!!
「もうやめてぇぇぇっ!!」


「ルビ子っ!みんな!!……クソっ、どうなってんだ!」
他の機兵たちもカエル達の声に操られており、
カエルの舌に全身を舐めしゃぶられる者、醜い身体に抱き留められて甘い嬌声を上げさせられものなど、
周囲は惨憺たる有様になっていた。

カエル達は、機兵たちの管理者権限情報を自身の声紋に紛れ込ませていた。
もちろん、管理者情報はナルビア王国の最高機密。
スパイに情報を盗まれていたのか、あるいは内通者が流出させたのか……
いずれにせよこのままでは、機兵たちは皆、トーメント軍の思うままに蹂躙されてしまうだろう!

「ゲロゲロ、お前には効いてないゲロか?……っかしいゲロなぁ……俺らの歌は、人間にも効果あるはずゲロ?」
「くっ……なんだかよくわかんねーけど、よーするにお前らの仕業だな!さっさとルビ子たちを元に戻せ!!」
「まあいいや!残りの一人くらい、俺らでヤっちまおうぜ!!、全員で掛かれーー!!」
「くそっ……こっちの言う事なんて、聞く耳もたねーってか!!」

残ったオトにも、他の魔物達が一斉に襲い掛かった。
無数の攻撃を掻い潜り、なんとか元凶のカエル男に近づこうとするが……

「音の忍びを舐めんな!だりゃああああ!!」
「おーーっと!俺様を攻撃しようったって無駄ゲロ!
こっちには……人質が、いるゲロ!」
「きゃぁっ!!お、オトっ……!!」

(ギュルルルル!!)
「!?……ルビ子っ……しまっ……!!」

素早くルビエラを盾にしたカエル男。
攻撃の手を止めてしまったオトを、長い舌で瞬時に捕える。

「ゲロロ!一丁上がり……お前一人が何をしたところで、所詮は無駄な足搔きゲロ!
機兵どもに『ご主人様刷り込みプログラム』をインストールして、俺らのラブドールにしてやるゲロ!」

849名無しさん:2021/03/27(土) 21:40:50 ID:???
「こんのカエル野郎ぉぉ!ルビ子たちを放せっ!!」
「ゲロゲロ……そこは『ご主人様刷り込みプログラム』って何だ!って聞いてほしかったゲロ。
これをインストールすると、機兵の機能が停止して、再起動する……
そして、再起動後に初めて見たものをご主人様と認識して、永遠の忠誠を誓うんだゲロ!!」

カエル男の舌に捕らえられたオト。
必死に暴れるが、ゴムのように伸縮する舌を引きちぎる事はできず、逆に粘着質の唾液を全身に塗りこめられてしまう。

「てめえ!一体ルビ子たちに何する気だ!ていうかアタシも放せ!」
「な、なんか会話が微妙にかみ合ってないゲロ……まあいいか」
「それよりも、おい。ロボ子ちゃ〜ん?にプログラムを入れてやるから、データスロットの場所を教えるゲロ……!」

「だ、だめ……そんな、プログラムなんか……
 み、耳の後ろの、隠しスロット、に……い、入れられちゃったら、あたいは……」
「ゲロゲロ、なるほど耳の後ろかぁ……それじゃ教授から貰った、このクラゲ型マシンで、っと」

ぷすっ……ちくちくちく! チキチキチキチキチキ………
「や、なにこれ……ひゃうっ?!………んぅ、やぁ、ん………!!」

手のひらサイズの小さなクラゲが、発光する糸のような触手を無数に伸ばし、ルビエラの耳の隠しスロットを探し当てる。
教授が開発した『ご主人様刷り込みプログラム』はデータ量が大きいため、こうして「有線」でインストールを行うのだ!

<データアップロード中……25%>
チキチキチキチキチキ………
「や、ら……あたひ、の中に、………ふぁ♥、あああ♥♥、ぁぁぁぁ♥♥♥」
「なにか、はいって………や、ああんぅっ♥」
「ら、らめっ、うわがき、されて…………ひいぃぃぃんっ♥♥♥♥」

<データアップロード中……60%>
チキチキチキチキチキ………
「やっ♥♥あ♥♥♥♥あああっ♥♥♥」
「ひゃ、ふぅんっ♥♥♥」
「ルビ子ぉっっ!!くそぉ!!なんだかよくわかんねーけど、やめろぉぉ!!」
「グヒヒヒヒ……お仲間の機兵ちゃん達も、俺らの仲間にプログラムをインストールされてるゲロ。」
「インストールが終わったら、一斉再起動して……全員、俺らの下僕にしてやるゲロ!!」

<データアップロード中……99%>
チキチキチ………
「おいこらルビ子ぉ!!そんなクラゲみてーのに負けるんじゃねー!変態ガエルなんかぶっとばしちまえ!!」
「ん、ふぁ……オ…ト…♥♥…も、だ、め……」
「あたま、なか……かきかえられてぇぇ……♥♥♥」
「……ヘンに、なっちゃ……ぁぁぁぁっっ♥♥……」
「「「い、くぁぁぁぁぁあああああんんんっ♥♥♥♥」」」

「ルビ子ぉーーー!!」

<データアップロード完了……再起動を開始します>

「「「………………。」」」
「み、みんな…!?………死んだ……いや、気絶したのか……?」
「グヒヒッヒッヒ……これで、ロボ子ちゃん達が目を覚ましたら」
「俺らの虜ってわけだゲロ!」
がっくりと項垂れ、動かなくなったルビエラ達。
お姫様抱っこやら駅弁やら騎乗位やら、魔物達に好き勝手な体勢で拘束されていく。
中には、装甲剝き出しの股間に、早くもイボだらけの生殖器をねじ込まれている者もいる。
いずれも、目を覚ませば真っ先に魔物達の顔が目に入る体勢だ。


「畜生……お前ら、しっかりしろぉぉぉ!……」
「忍びちゃんもさっさと諦めて、そのおっぱいで俺らに奉仕するゲロ!」
「くっそぉ……こうなったら、アタシの歌で……目を覚まさせてやるぜえええ!!」
「あ、相変わらず話が嚙み合わないケロ!こいつ人の話聞いてないケロか!?」
カエルの舌に拘束され四苦八苦ながらも、オトは背負っていた琵琶をなんとか構え直し……

ジャカジャジャジャジャジャーーーーンッッ!!
「っしゃおらお前らぁあぁあああ!! アタシの歌を聴けぇぇぇえええ!!」
「ッゲロ!?な、なんだこの喧しい声はッッ!?」
周囲一帯に響き渡る大音量で歌い始めた!

850名無しさん:2021/03/27(土) 22:03:55 ID:???
「……!!!♪♪♪……♪♪!!!!!」
「……ましいゲロ!!………黙れゲロ!!」

(あ………)
(あの声、は………?)

再起動したルビエラ達が目を開けるより前に、真っ先に飛び込んできたのは……
激しく情熱的でひたすら喧しい、オトの歌声と琵琶の音だった。

ギュウゥウウイイイイイイン!!ベベベンベベン!!!
「カエルだろうが何だろうが♪♪!アタシの歌はとめられねーぜ!!♪♪
アタシゃミツルギのビワリスト〜!!!兄の形見の琵琶背負い〜!!♪♪仇探して西から東、っとくらぁあ♪♪」

「オト…ちゃん………?」
「そうさアタシはオト・タチバナ!!!ミツルギの音の忍び一族!!!未来の究極スーパーアイドル!!!
スズ・ユウヒなんて目じゃねーぜッ!!………って、おお、ルビ子、それに他のみんなも、目ぇ覚めたか!!」

………あまりの大音量に、魔物達もオトを止めるどころか近づく事さえできず。
いつしか、周囲の魔物達……そして再起動から目覚めた機兵達、全員の視線がオトに向けられていた。

「う………うん。目、覚めた」
「っしゃー!んじゃ、こっから反撃だぜ!みんな、遠慮はいらねえ!魔物どもに一発ブチかましてやれ!」
「げ、ゲロロロッ!?」
「ま、まさか、あの忍び女を見たせいで、制御権が……!!」
「了解……ファイナルバーニングモード発動承認」
「敵を殲滅する」
「殲滅する」
「する」

「「「ゲロロロロロォォォォォ!!!」」」

………こうして、最強モードを発動したルビエラ他十数体の機兵の活躍により
カエル男たちは徹底的にオーバーキルされ、オト達は辛くも敵陣から離脱したのであった。

851名無しさん:2021/03/28(日) 13:27:28 ID:???
……オトとルビエラ他機兵部隊はなんとか敵陣から後退し、救援に来たエルマ&エミリーと合流した。

「……ったくアンタは、余計な手間かけさせんじゃないの。ルーアちゃんも心配してたわよ」
「わりーわりー!なんか、カエルみてーなやつにルビエラ達が操られたみたいでさー!」

元はと言えばオトがルビエラの話を聞かず前線に突っ込み過ぎたせいなのだが、
本人はきれいさっぱり忘れているようだ。

「やっぱり……どうやら、機兵ちゃん達の情報が敵に洩れてるみたいね。
ワクチンプログラムを作ってあるから、ルビエラ達にインストールするわね」
「あー?よくわかんねーけど、ルビ子たちの事が敵にスパイされてたのかもな。
エルマ、メカに詳しいんだろ?どうにかできねーかな?」
「………はいはい。んじゃ機兵ちゃん達、こっち集まってー」

エルマは会話の噛み合わないオトをスルーしつつ、小型のメモリスティックを取り出す。
すると、ルビエラ達がワラワラと集まってきて……

「じゃ、このワクチンプログラムを一人ずつ入れてくから、私の所に並んで……」
「………やだー。オトママ、やってー」
「え?アタシが?」
「あたしもー」「あたしが先―」
「え?なんか幼児化してる?……しかも、オトに懐いちゃってる……?

ルビエラを始め、前線にいた機兵達は、オトの周りに集まってきゃいきゃい騒ぎ始めた。
前線で一体、何があったのか……
とにかく、また敵と遭遇する前に、さっさと機兵たちにワクチンを接種させなければならない。

「って言われてもなー。これ、どこに入れりゃいいんだ?」
「耳のうしろ……隠しスロット」
「え?何?この辺か?どれどれ」
「あんっ……♥♥……そこじゃなくてぇ、もっと、下ぁ……♥♥」

「ルビエラがおかしくなった…」
「……つーか、一体何したのよアンタ……」
オトにぎゅっとしがみ着いて、甘えた声を上げるルビエラ。

普段のルビエラを知るだけに、唖然とするエミリー。
エルマにも何か異常な事態が起きていることは一目瞭然だった。
ワクチンプログラムで、すっきりさっぱり元の状態に戻ればいいのだが。

……

「っしゃ、全員終わったー!」
「はー……見てるだけで疲れたわ。あたしが手伝おうとすると全力で拒否ってくるし……」
「ってことで、さっさと基地に引き上げよーぜ!腹も減ったし!」
「はいはい。もしもしルーアちゃん?これから帰還するわね……もしもし?」

ザザザザザ………ガー……
「エルマさ……早く、帰還……敵襲………剣士と、魔法少女が……きゃあっ!!」
ドガンッ!!ザァァァァァァ………

帰還報告のため、ルーア達の待つ前線基地に連絡するエルマ。
だが何かが爆発したような異音を最後に、通信は途切れてしまった……!

「こ、これ………ヤバいんじゃない!?早く戻らないと……!」

852名無しさん:2021/04/06(火) 00:45:40 ID:???
アリスの後を追う唯とサクラは、戦闘機の離発着所にやって来ていた。
なんでも、アリスはここの滑走路から出撃したらしい。

「兵士さん!アリス隊長は、どちらへ行かれましたか!?」
「えー?なんか、北東の方角からステルス機が奇襲してくるとかなんとか言って、飛んでったぜ?」
「レーダーにゃ何も映ってなかったのになー。なんで知ってたんだ?隊長は」
「え、じゃあ……隊長一人で出撃したんですか?」
「だ、大丈夫なんでしょうか……」

「さーねー。あのへんの空域は、トーメント領だしな。魔物兵がウジャウジャ飛んでるみてーだぜ?」
「……そ、それって……大変じゃないですか!皆さんは救援に行かないんですか!?」

「まー大丈夫なんじゃね?なんたってあの『シックス・デイ』のアリス・オルコット様だし(棒」
「『私一人で十分。足手まといは付いてこないでください』なーんて自信満々に言ってたしな〜」
「ったく、馬鹿にしてるよなー!お嬢ちゃん達も、クソ隊長なんかほっといて、俺らと遊ぼうぜぇ〜?」
「け、けっこうです!(うっ……酒臭い……)」

格納庫内には待機中の戦闘機が何機も並んでいるが、兵士たちの士気はかなり低い。
……そのは、アリスの態度にも原因があるらしかった。

「ヒヒヒ!いいじゃねえかよ。どーせシックスデイなんて、もうオワコンだし」
「いざとなりゃ、メサイアとかいう秘密兵器でトーメントなんてイチコロらしいからな」
「もう俺らが真面目に戦う必要なくね?それより俺らとイイことしようぜぇ〜?」
「そんな……ちょっと、放してください!いい加減に……きゃっ!?」

兵士たちはかなり泥酔しているようで、態度がかなりおかしくっていた。
慣れなれしく唯の肩を抱き、酒焼けした顔を近づけ、空いた方の手は、唯の太ももをいやらしく撫でまわす。
(こ……この人…!)

一応は味方同士。唯が強く反抗できないのをいいことに、兵士の手はスカートの中まで侵入し始め……
「やめて………それ以上やったら、容赦しませんよ…!」
「クックック……篠原唯ちゃんって言ったっけ?噂で聞いたことあるぜぇ。
アンタら『運命の戦士』には、それぞれ『致命的な弱点』があるってな。
唯ちゃんは確か……ここだろ?」

ぞわ、ぞわり………しゅるっ!
「な、何を言って……ひゃぅん!?」
兵士は慣れた手つきでするりと唯のショーツに指を滑りこませ、ピンポイントでクリトリスを探り当てた。

「や、あっ…!……そ……こ、は……っ!…」
いざとなったら兵士を投げ飛ばしてやろうと身構えていた唯だが、
その瞬間、頭の中が真っ白になり、全身の力が抜けてしまう。

くに、くに、くに……むにむにむにっ!
「や、めて……くださっ……あんっ…!!」
「ヒヒヒヒヒ……イイじゃねえかよ、唯ちゃぁ〜ん?」
「おいおい、お前らだけお楽しみってかぁ?」
「俺らも混ぜろや…けっけっけ」

そのまま身を預けるような恰好で兵士に抱きつかれ、さらに他の兵士たちも群がってきた。
乱暴にブラウスを引きちぎられ、胸を無遠慮に揉みしだかれる。
押し当てられた兵士の股間の、熱くて硬い感触が伝わってくる。

(ど……どうして……?クリトリス、弄られてるだけなのに……)
「ほらほら唯ちゃん、アーンしな〜www」
「おいしいおちんぽミルクだよ〜www」
(逆らえない……体が、言う事聞かないっ……!!……私、このままじゃ……!)

数人の兵士が我先にとズボンのチャックを下ろし、いきり立った剛直を眼前に突きつけてきた。
鼻を突くような青臭さに、嫌悪感しかないはずなのに、目を逸らす事が出来ない。
促されるまま、唯の口がゆっくりと開かれていく。黒々と反り返った兵士たちのペニスへと、舌が伸びていく……

だが、その時。

「……?………こ、れは……?」
唯は、足元に大量のつる草が生え、小さな花が無数に咲いているのに気付いた。

(ぼわんっ!)
「な、なんだこr………ふごっ」
「ぐごぉぉ……ぐごぉぉ……」
「ZZZ……ZZZ……」
そこから白い花粉が大量に舞い上がると、兵士たちはバタバタと倒れ、一斉に寝息を立て始める。

「ごめんなさい、助けるのが遅れちゃって。大丈夫、唯ちゃん?」
スリープフラワー……眠りの花の魔法を発動したサクラが、眠りこけた兵士たちをどかして唯を助け起こす。

「う、うん。ありがとうサクラちゃん……」
サクラに魔法で服を直してもらう唯。よく見ると、サクラにもわずかに着衣に乱れがあった。
恐らく同じように兵士たちに襲われたのだろう。

「だめだな、私。隊長なのに……もっとしっかりしなきゃ」
「気にしないで、唯ちゃん。
とにかくアリス隊長が向かった場所はわかったんだし、いそいで追いかけよう!」

思わぬトラブルに見舞われた唯達だったが、
アリスの援護に向かうため、北の空域を目指して飛び立つのだった。

853名無しさん:2021/04/11(日) 17:01:43 ID:???
ズドォォォンッ!!…ドガガガガガッ!!

「グワァァーーーァッ!!」
「ギヒアァァァ!!」
「こんな物ですか……他愛もない」

リザたちの乗っていたステルス機を撃墜したアリスは、
その後間髪入れず襲い掛かってきた飛行型魔物の大群を相手に、単独で交戦を続けていた。

大量の魔法針でインプ、ハーピー、ガーゴイルなど幾千もの魔物を瞬く間に屠りながら、
青い光の翼で風のように大空を舞う。
その姿は、さながら天使……いや。敵対する魔物達からすれば死神のように見えた事だろう。

「グキィッ!!スネグア様ァ!!あの青い奴、とんでもねえ強さです!!どうか撤退を!
このままじゃ、俺たち全滅しちまいますぜェェ!!」

「ふん……問題ないさ。お前達の代わりなどまだまだ無数に居る。
あの子を堕とすまで、退く事は許さん……わかったら、安心して逝くがいい」
(ビシッ!!)
「グキィッ!?そ、そんなぁ……!!」
撤退を進言する手下のガーゴイルを、にべなく一蹴するスネグア。

彼女からすれば、下級の魔物などいくら失おうと痛くも痒くもない。
そして、彼女の支配下にある魔物達は、その命令に背くことは出来ず、死力を尽くしてアリスを襲い続けた。

「たあああぁぁっっ!!」
ドスッ!! ザシュンッ!!
「「「「ギュギィィィイイイッ!!」」」」
アリスは一斉に飛び掛かってきたガーゴイル4〜5匹をかわしざま、電磁ブレードで斬って捨てていく。

「キシャァァァァッッ!!」
「!……こ、のっ……!!」
ズドオオオンッ!!

更に、真上から迫るハーピーの群れに、魔法針が射出された。
アリスの周囲を常に浮遊し、意のままに操り攻撃できる。いわばファンネル的な超兵器だが、その残弾も底を突きかけていた。

「はぁっ……はぁっ……」
(おか、しい……こいつら、倒しても倒しても、ぜんぜん怯まない……それに……)

死を恐れず襲ってくる魔物達。しかも戦っているうちに、アリスは少しずつ、敵陣深くへと誘導されていた。
恐らく偶然ではない。何者かが魔物達を操って、アリスを孤立させているのだ。
これだけの魔物を支配し、戦略的に操る狡知を持つ敵……心当たりが、一人いる。

(魔物を操る……魔獣使い、フォーマルハウト……)
<警告……残エネルギーが20%を下回っています。セーブモードに移行、スーツ出力低下……>

「!?……まずい、想定より早い……すぐに、離脱しないと……」
それだけではない。
当初ミシェルが懸念していた通り、アリスの「ブルークリスタル・スーツ」のエネルギーも残り少なくなっていた。
スーツの能力、特に飛行性能の低下は、そのままアリスの機動力、戦闘力の低下に直結する。

だが、そんなアリスの異変を察したのか、
周囲の魔物の数は、ますます数と勢いを増していき、じわじわとその包囲を狭めていった。

「……グロロオオオオオッ!!」
ドガッ!!
「っうあぁっ!?」

突如、死角から襲ってきたのは、大鷲の首と翼、ライオンの身体を持つ魔獣グリフォン。
巨体から繰り出された突進をまともに喰らい、アリスはゴムまりのごとく吹き飛ばされてしまう。

(し、まっ……今ので、片翼が……!!)
<警告!!……飛行ユニット破損 右メインスラスター出力45%低下……>

改造されて鋭敏になった全身が、衝撃と風圧と、凄まじいGによってかき混ぜられる。
アリスは軍人として鍛え抜いてきた精神力でなんとか意識をつなぎ留めながら、きりもみ回転で吹っ飛ぶ体を必死に制御する。

「ま、だ……私は……誇り高き、ナルビア軍人……この位でっ……!」
「グルァァアアアア!!」
「くっ……!!」
ザシュッ!!
追撃を仕掛けてきたグリフォンの喉笛を、アリスは自身の回転を利用して電磁ブレードで搔き切る。
計算や、軍人としての戦闘勘、ではない。……ほとんど偶然といってよかった。

854名無しさん:2021/04/11(日) 17:04:12 ID:???
「グエァァァァァァ!!!」
「ぜぇっ……ぜぇっ……たお、した……?」
(目が回って………頭、くらくらする……)
(一、体……これ、は………体に……力が、入らない……?)

<危険……残エネルギーが5%を下回っています。直ちに着陸し、エネルギーを……>

「キキキキッ……!」
「なっ……!?」
意識が朦朧とする中、危険を告げるアラームに一瞬気を取られたアリス。
だがその隙を突いて、いつの間にかインプが接近し、アリスの胸にしがみついていた。

「このっ……放し、なさいっ……!」
倒したグリフォンの背中に乗っていたのだろう。
すぐさま引きはがそうとするアリスだが、インプの様子は明らかに異常だった。
見た目からは信じられないような力でアリスの身体にしがみつき、しかしそれ以上は攻撃を仕掛けようとはしてこない。
そして身体の内側から、時計の秒針のような音が聞こえてくる……

カチ、カチ、カチ、カチ………
「まさか、これって………」
「キキッ!!」
ズドォォォンッ!!!
「っきゃああああああーーーっ!?」

………自爆。
スーツの胸部装甲が破壊され、アリスは悲鳴と共にまたも大きく吹き飛ばされた。

(だ……め………わたし、もう………)

今までシックス・デイの一員として戦いの中で生きてきたアリスにとって、
窮地に追い込まれた経験も数限りなくあった。しかし今回は……これまでとは決定的に違っていることがあった。

過酷な状況に追い込まれた時、アリスの心を支えてきたのは、
ナルビア軍人としての誇りと、姉妹であるエリス、そして仲間の存在。

だが、あの時。
自分の目の前で愛を確かめ合う、リンネとサキの姿を思い出してしまってから、アリスの中で何かが壊れてしまっていた。

(たたかえ、ない……何のために、頑張ればいいのか………もう、わからない……)

心の奥底にある、戦う理由、生への執着、大切なものが、ごっそりと抜け落ちて……
何のために、あの狂った女科学者にこの身を改造されたのか。
どうして、こんなに辛く苦しい思いをしてまで、戦い続けなければならないのか。
もうアリスには、わからなくなっていた。

<危険……危険……危険……メインスラスター、機能停止……>
「………。」


「ふふふふ……さあ、捕まえた♥」
「だいぶお疲れみたいねえ、かわいい子ウサギちゃん?」
「!……また、新手………」

スーツからエネルギーが失われ、落下するアリスの身体を受け止めたのは、
ダークシュライヒ……黒い翼を持つハーピーの変異種の群れだった。

「もうあと一押し、って所かしら……♥♥」
「ここからは、私達ダークシュライヒが」
「たぁっぷり、可愛がってあげるわ♥♥♥♥」

「だ、黙りなさいっ………お前たちごときに、シックス・デイの一員であるこの私が、やられるわけには………」

「ふふふふ……無理しちゃって。体が震えてるわよぉ?」
「クスクス……もう、まともに飛ぶ事すらできないんでしょう?」
「ほらほら、どうしたの〜?お姉さん達が、身体を支えてあげましょうか?フフフフ………」

ここは戦場。
戦えなくなった戦士、絶望に染まった少女の運命は……一つしかない。

855名無しさん:2021/04/11(日) 18:51:17 ID:???
「アリスが単独で緊急出撃しただと!?クソッ!」

エリス・オルコットはトーメント軍の遊撃に出ていたが、突然入ってきた連絡に顔を歪める。
エリスは結局、ミシェルの改造手術を受けなかった。決して怖気づいたわけではない。どんどん様子がおかしくなっていく妹を見て、自分だけはまともなまま支えなければならないと思っただけだ。

『……とにかく、アリスが敵ステルス機を破壊し、乗組員は散会した。降下ポイントはこっちで観測したから、エリスはそちらの撃破を頼む』

通信機からは落ち着き払った指示……リンネの声が響いている。直接的な戦闘力を持たないリンネはメサイアの近くに控えながら、観測員として戦場を見渡していた。

「リンネ……」

『急いだ方がいい。くれぐれも指示された以外のルートを通らないでくれよ。変な敵と遭遇されたら予定が崩れる』

妹がその身を犠牲にして尽くしているというのに、全く意に介した様子のないリンネ。彼に思うところはあるが、今は彼の言う通りそれどころではない。
『ほとんどのシックス・デイが遊撃に出ている間に奇襲があった』ことは気になるが……結果として各個撃破の機会ができたのだ。それにリンネや例のミシェルは独自の情報入手ルートがあるようだった。そういうツテは深入りしない方がいい。
違和感を無理矢理拭いながら、エリスはリンネに指定されたルート……『サキと遭遇する可能性の低いルート』を通って、降下した敵部隊の元へ向かっていく。
すると……

「やれやれ、パラシュートはホネが折れるぜ」

骨をカラカラと鳴らして伸びなのかよく分からない行動をしている、ボーンドがいた。

「おっ?もう来たのか、ナルビア人は仕事が早いねぇ」

「貴様がトーメントの特殊部隊か……スピカでないのは残念だが、スケルトン如き手早く片付けてやろう」

相手がいかにも弱そうなスケルトンだったのを見て、にわかに残念そうな顔をするエリス。明らかにシックス・デイが出張るような魔物ではない。

「怖い怖い、ナルビアの神風はスケールがトンでもないねぇ」

「ほう、私の異名を知っているのか」

「ああ、骨身に染みて知ってるよ……俺の知り合いがな」

ボーンドが取り出したのは、骨の棒。棍棒とも言えないような、ただの棒だった。

「ならば今日、貴様自身の身で味わうのだな!!」

勝負は一瞬だった。風を纏って急加速したエリスの槍が、一撃でボーンドを真っ二つにする。

「この程度か……特殊部隊といえど、全員が戦闘員というわけではなかったのか?とにかく、アリスの援護へ……」

「おいおい、連れないこと言うなよ。これっぽちじゃ足りねぇ。もっと骨抜きにしてくれよ」

だがさすがはスケルトンというべきか、上半身だけになったボーンドから下半身が生え、再び立ち上がる。

「ちっ、雑魚のくせにしぶとい……ならば今度は木端微塵にしてやろう」

そう言って再びボーンドに向けて槍を構えた瞬間……後ろから斬撃が飛んできた。

「ぐっ!?」

「あぁ?なんだ、あのクソガキ共じゃねぇじゃねぇか!」

咄嗟に回避して後ろを振り返ったエリスの目には……先ほどボーンドが復活した上半身ではなく、下半身から生えてきた別のボーンド……否、スケルトンがいた。

「分身……いや、別人か?まさか……!」

「そ。骨さえあればいくらでも復活できるけど……復活に使わない骨が勿体無いじゃん?だからそっちには別の人格を宿すってわけ」

それこそがボーンドの『不死の軍勢』。集めた魂さえあれば、自分一人を元手に無限の手下……それも戦闘経験に溢れた手下をスケルトンにして呼び出せる。

「おいボーンドォ!本当にクソリザとエミリアがここにいるんだろうなぁ!?」

「おう、さっきまで一緒にいたから間違いない」

「ケケッ……ならこんなガキさっさとぶっ殺して……俺はあの二人を犯しに行かせてもらうぜ!!」

「……少しばかり、厄介そうだな……!」

856名無しさん:2021/04/18(日) 12:37:48 ID:???
ガキンッ!! ザシュッ!! ギインッ!!

「くっ………きゃうっ!!………っああっ!!」
「ほらほら、どうしたの?もっと反撃していいのよぉ?」
「逃げ回ってばっかりじゃ、面白くないわ♥♥」

ハーピーの変異種『ダークシュライク』の毒爪が、四方八方から襲い掛かる。
既に魔法針は打ち尽くし、近接用の電磁ブレードで必死に応戦するアリスだが、
スーツのエネルギーも既に使い果たし、空中に浮かんでいるだけで精いっぱいだった。

ギンッ!!……ベキンッ!!

「!!ブレードが……‥!」
「フフフ……これで武器もなくなっちゃったわねえ」
「クスクス……そんなオモチャを気にしてる場合かしらぁ?ほら、隙ありぃ♥」
ザシュッ!!
「あうっ!!」
「背中もガラ空きよぉ♥」
ズバッ!!ザクッ!!ドスッ!!
「きゃ、あぐっ!んあああああっ!!」

……空中戦においてもっとも重要な「スピード」を失ったアリスは、もはや敵の的になるしかなかった。
敵の攻撃を辛うじて防御できても、他の敵に死角から襲われ、嵐のような連撃に晒される。
そして反撃に移る前に、はるか遠くへ飛び去ってしまう。
圧倒的なスピードとパワー、数の暴力の前に、
アリスは防戦一方、とすら呼べない程、ただひたすら一方的に弄ばれた。

「うっ………ぐ………あ、ぁっ…………!!」
全身に痛々しく刻まれた無数の爪痕が、どす黒く変色している。
ダークシュライクの爪は猛毒を持っており、普通の裂傷とは比較にならない激痛をもたらす。
しかも今のアリスは改造手術で全身の感覚を強化されており、痛覚も常人以上、必要以上に、敏感になってしまっていた。

「クスクスクス……あんまり虐めちゃ可哀そうよ。アリスちゃんてば、泣いちゃってるじゃない、ほらぁ♥」
べろお……
「ん、ぐっ!?」

黒翼の魔鳥がまた一羽、後ろからアリスにまとわりつき、激痛に思わず零れた涙の雫を長い舌で舐め取る。
ナメクジの這うような不快な感触に、思わずアリスは眉をひそめた。

「だ、め……放しなさっ……んぅ、あっ…!」
「ウェスト細くて羨ましいわぁ。でもちょこっと力入れたら折れちゃいそうねぇ。
バストもヒップも、小ぶりで可愛い……ふふふふ………」

ハーピーの変異種ダークシュライクは、高い知性と冷酷かつ変態淑女な性格を持つ。
獲物を生かさず殺さずしつこく嬲るねちっこさは全魔物中でも上位に属し、
同性のどこを弄ればどう気持ちよくなるか…といった性知識も、淫魔並に熟知している。

「やっ………あ、ん……♡」
「あ、アリスちゃんの弱いとこみーっけ♪ここ、気持ちよくて力抜けちゃうでしょぉ〜♥」
「アタシにも触らせて〜…ふふふ、ココなんて、手触りすべすべ〜♥」
「いっ……痛…あ、ん……♡」
「ほらほら、もっと可愛い鳴き声聞かせてちょうだい♥」

傷だらけの肢体を好き勝手に弄られるアリス。
時に敏感な性感帯を優しく愛撫され、時には傷口を爪で更に抉られ……
痛みと快感がないまぜの不思議な感覚に翻弄されていくうち、いつしか魔物に身を任せてしまっていた。

「も……やめ、て………は、な…して……あ、あぁっ……ま、た……♡」
「クスクスクス……アリスちゃんたら、すっかり大人しくなったわねぇ」
「これだけボロクソにいたぶられた相手に好き放題弄られて、えっちに感じちゃうなんて……」
「アリスちゃんって、ひょっとしなくてもドMなのかしら?フフフ……」

「もう。アンタたちばっかり独り占めなんてズルいわよ?私にもよこしなさい」
「んもう、まだ壊しちゃダメよ?……アリスちゃんはアタシたちみんなのオモチャなんだから」

すっかり脱力したアリスを、別のダークシュライクが無理矢理奪い取る。

「わかってるわ。それにこの後は、『ミストレス』様も……」
「そういう事。アタシ達の役目は、あくまで『味見』……まだまだ、お楽しみはこれからよん♥」
「はぁっ………はぁっ………(や、はり………こいつらの、主は……)」

857名無しさん:2021/04/18(日) 13:21:29 ID:???
「お次は私と、二人っきりで空中デートなんてどう?………こんなふうにっ!!」
「!?………っぐ、うああああああああ!!!」

アリスの脚をがっしりと掴んだまま、ダークシュライクは翼を畳んで一気に急降下した。


……ゴオオオオオオ!!

「っぐ……!!……う、………うああああああっ…………!!」

ダークシュライクに足を掴まれたアリスは、そのまま一緒に急降下させられ、
目の前が急速に暗くなっていく感覚に襲われる。

大きな下向きのGによって脳に血液が回らなくなり、視界が失われる、
いわゆる「ブラックアウト」と呼ばれる症状を起こしていた。

このまま続けば失神してしまう事もある、極めて危険な状態。
だが今のアリスには、反撃する力も、逃げる術も、残されていなかった。

「う……あ………殺……して………お願い、もう……終わらせて……」
「キャハハハハハ!!何言ってんのアリスちゃん♥♥お楽しみは、まだまだこれからよぉ〜?」
「……っ……ひ、いやああああああああああぁぁぁっっ!!!」

身体能力を強化され、常人よりはるかに死ににくくはなったが、
同時に感覚も超鋭敏に強化されたため、痛みや快感に極端に弱くなってしまっている。
そんなアリスは、魔物達にとってこれ以上ない格好の玩具であった。

「いっくわよぉ〜〜、アリスちゃんっ!」
「………ひぐっ!?………っあ………!!」
ダークシュライクは数秒掛けて急降下した後、地表スレスレの超低空飛行で飛ぶ。

ドガッ!!……ザリザリザリザリッ!! ガゴンッ!!
「んぎっ!! も、やめ………っぐぁぁあああああ!!………ひ……んぎゃうっ……!!」

荒れ果てた山肌の上を高速で引きずられていくうち、スーツの装甲や飛行ユニットなどは次々と砕かれ、削ぎ落とされていく。
その下に着ているのは、ハイレグレオタードと薄いタイツで形成されたインナースーツのみ。
それらも角ばった岩や砂利であっという間にボロボロにされ、アリスの全身に切り傷と擦り傷が刻みつけられていった。

ガリガリガリガリガリ…………ザシュッ!!
「っ………んぐあああああぁっ!!」

インナーに覆われていない背中が、尖った岩の先端に斬りつけられる。
白とブルーを基調としたインナースーツは、あっという間にボロボロに引き裂かれて赤い血と黒い泥に汚れていった。


「この辺りの岩山は、瘴気のおかげでイイ感じの岩とか枯れ木が沢山あって最高の眺めなのよね〜♥
………そぉ〜〜、れっっ!!」
「…ぅあ……ぐ……………ろ…し、て………」

そこから更に急上昇に転じ、今度はアリスの身体をはるか高空まで一気に引きずり上げる。
高低差はざっと、2000m以上はあるだろうか。
激痛と失血に加え、急激な気圧変化と激しすぎるGを受け、アリスの脳裏に明確な死のイメージが浮かび始める。

だがそれでも、ダークシュライク達の言うように、お楽しみは……
アリスにとっての地獄は、「まだまだこれから」だった。

858>>855から:2021/04/24(土) 12:01:31 ID:???
「くっ、テンペストカルネージ!」

エリスの一閃が走る度にスケルトンは真っ二つになる。しかしすぐに分裂したかのように復活し、また動くようになる。
ただ復活するだけのスケルトンならばエリスの相手にならないが、スケルトンに宿る魂は皆ボーンドが見繕ったそれなり以上の使い手。最初はボーンド一人だったのが、いつの間にか10人以上のスケルトンに囲まれていた。

「俺まで駆り出されるとは久しぶりだなあ!!」

「しかもガキだがいい女だ!骨じゃなかったらお楽しみもできたんだがなぁ!!」

死を恐れないスケルトンが左右から素早い動きで挟み込む。

「でぇえりゃぁぁ!!」

二本の槍を振るって左右のスケルトンを両断する。直後、斬り飛ばされた上半身に宿った新たな魂が、再生する前に上半身だけでエリスの顔に飛びかかる。

「しまっ……!?ぐぅうう!!」

咄嗟に長物の槍を捨てて手で素早く防御するが、大口を開けるスケルトンが目の前にいるのは気色が悪い。

「隙ありぃ!!」

「ごぼっ!?」

顔面を守っているうちに、他のスケルトンに腹部を思い切り蹴られて吹き飛ばされる。

「か、はっ……!」

衝撃で顔に張り付いていたスケルトンは外れたが、受け身も取れずに地面に転がり、蹲ってしまう。

「あ、おい!せっかく顔をグチャグチャに噛み千切ろうとしてたのに!」

「ばーか、防がれてたくせにナマ言うな」

「ま、この調子だとあと何体か仲間を増やせば倒せるだろ、その後で楽しむとしようぜ」

「さっき槍も捨てちまってたしな。素手じゃあ俺らには勝てんぜ?」

「……ちっ、悔しいが、私もアレに頼るしかないらしい」

武器を失ったエリスはゆっくりと立ち上がると、赤いブレスレットを掲げる。

『紅衣!!』

原理……はいい加減聞き飽きたと思うのでかっ飛ばし、水着のような露出のレオタード風のインナースーツと、アリスと色違いの赤い金属装甲がエリスの身を包む。
エリスのものと違い、背面にスラスターは付いていないが、その代わりに……

「テンペストカルネージ、キャストオン!」

近くに落ちていた二本の槍がひとりでに動き出し、エリスの背中にクロス状に収まったかと思えば、カシャンカシャンと変形して装甲に組み込まれていく。

「これが『レッドクリスタル・スーツ』……矜持を捨てて手に入れた、新たな力だ!」

腕部装甲からブレードを出現させ、迫ってきているスケルトンを切り刻む。これだけなら先ほどまでと同じだが……

「はぁああああああ!!!」

復活するより早く斬る。斬る。斬る。石ころ程度の大きさに分割され、放っておいたら大量のスケルトンが生まれるそれを……

「粉微塵にして、吹き飛ばす!!風雲紊乱!!!」

背面の排熱機構から凄まじい暴風が吹き荒び、復活する前の骨を戦場の遠くへ吹き飛ばした。

「げっ!?」

「多少手間だが、復活するスケルトン程度、こうすれば何の問題もない」

「お、おい、どうすんだよボーンドの大将?」

「まぁ落ち着け、変身時間は3分ってのがお約束だ。実際はそこまで短くないだろうが、長期戦にすりゃ勝てるのには変わらないさ」

「それは……どうかな!」

エネルギー効率は確かにまだ最適化されていないが、アリスのように飛行ユニットにエネルギーを割いていないエリスのスーツは、比較的長期戦にも耐えられる。

次から次に襲い来るスケルトンを粉微塵にし、風で吹き飛ばす。スーツの補助があれば、時間は少しかかるが造作もない。
気づけばあれだけいたスケルトンはボーンドと最初に呼び出したヴァイスだけになっていた。

「あーあー、やってくれちゃって……回収には骨が折れそうだぜ」

「ふん、その心配はない。確かに私ではお前を完全に消滅させるのは難しいが、粉微塵の状態で戦場に放り込めば流れ弾でいつかは死ねるだろう」

「粉微塵、ね……」

ボーンドは含みのある笑みを浮かべる。

「俺らの対策として粉微塵にするってのは正解だよ。でもさ、粉塵って勝手に体に入るよな。地下労働してたら肺がやられるもの粉塵のせいだし……お前みたいなお嬢さんには分からないか」

「……何が言いたい?」

苛立たしげに吐き捨てるエリスに対し、ボーンドは表情のない骨でも分かるくらいに口を広げて笑い……




「お前さ……吸い込んだな?」

直後……エリスの体内で、何かが急激に膨れ上がった。

859名無しさん:2021/04/25(日) 15:57:10 ID:???
「……そろそろ頃合のようだね。ご苦労様、シュライク達」

「ふふふ……ようこそおいで下さいました、ミストレス」
「下ごしらえは、万事整えて御座いますわ。あとは煮るなり焼くなり、存分に……」

「やれやれ……。私の分を残してくれないのかと、こっちはヒヤヒヤしたよ」

その後、ダークシュライク達に何度も何度も「空中散歩」に付き合わされ、息も絶え絶えのアリス。

岩山の頂上に立つ枯れ木に拘束され、隠し持っていた武器も残らず取り上げられていた。
そして、目の前に姿を現したのは………

「………やはり……現れ、ましたか…………スネグア・『ミストレス』・シモンズ……!」

「久しぶりだね、アリス・オルコット……愛らしい私の仔ウサギちゃん。
そんな状態でも、まだ元気に喋れるとは驚いたよ。さすがミシェルが改造しただけの事はある」

ナルビア方面に展開するトーメント軍の総司令にして、魔獣を操る一族ミストレス家の現当主。
性格・趣向はいささか偏り気味で、幼い少女を愛玩用の奴隷として飼うのが趣味と噂されている。
思えば初めて遭遇した時から、スネグアはアリスやエリスを「別の意味で」狙っている気配があった。

「相変わらず、気色の悪い……!
おおかた私が戦闘不能になったと見て、姿を現したのでしょうけど、
甘く見たら、痛い目に遭いますよ……!!」

ニヤニヤと笑うスネグアに、嫌悪感をあらわにするアリス。
武器を失い、戦うどころか自力で立っている事すらままならない状態だが、
それでも弱みだけは見せまいと、スネグアを睨みつけた。

「ふふふ……怖い怖い。では、手っ取り早く要件を済ませるとしようか。
君の身体が、とあるマッドな女科学者に色々と改造されてしまった事は私も聞き及んでいる。
その影響で、君の遺伝子は今、非常に不安定な状態にある事もね。
自分でも、薄々わかっているだろう?」
「…………。」

スネグアの言う通り、アリスの身体はミシェルによって好き放題に弄りまくられた。
結果、たしかに筋力や耐久力は大幅に増大し、飛行ユニットでの高速戦闘も可能になった。
だが、その代償……というより、ミシェルが他にも色々と改造を施したことで、
アリスの身体に様々な「異変」が生じ、戦闘どころか日常生活にも重大な悪影響が及んでいる。

「そこで……この『薬』だ」
……ズブッ!!
「ひぐぁっ!?」

スネグアは笑みを浮かべながら、アリスの左肩に注射器を突き立て、毒々しい色の薬を打ちこむ。
「重大な悪影響」のせいで、今のアリスは痛覚も常人の何倍も敏感。
注射器の小さな針がアリスの肩に刺さった瞬間、鉈で肩の骨ごと叩き割られたかのような激痛が走った。

「その薬は、君の不安定な遺伝子を安定させる作用がある。
きっと今の君にぴったりの姿に変わる事だろう……フフフフ」

「遺伝子改造薬……そんなものまで用意していたなんて……!」

スネグアの言う「とあるルート」が、改造を施した「マッドな女科学者」と同一である事はもはや明らか。

「遺伝子を安定」と言っても、まともな人間に戻るとは思えない。
恐らくこれは、「最後の仕上げ」。
かろうじて戦闘可能だった身体を、完全な愛玩用へと造り変えるための……

「初めから……計画通りだったという事ですか。私を捕らえて、その薬を打ちこむ所まで」
「そういう事さ。君の肉体を改造し、単独で出撃させる所から、ね」

「やはり……あの女科学者と、裏で通じていたんですね……!」
「まあ、そういう事だ。
つまりミシェルの奴は、君の身体を弄るだけ弄った挙句、敵であるこの私に売り渡した……
我が旧友ながら、まったくあれはワルい女だよ……くっくっく」

ミシェルの技術を利用して力を得るつもりでいたアリス。
だが実際は、手のひらで良いように転がされていただけだった事を思い知らされる。

「もっとも、二重スパイや裏切りなんて、良くある話だ。
君の知り合いにも居るんじゃないかな?そういう手合いが……」

………ドクンッ!!
「……許しません……あなた達は、絶対に……っ、ぐあっ!?」

体中が熱い。
全身の細胞が悲鳴を上げながら溶け落ち、全く別の存在に造り変えられていくのを感じた。
傷口が、淡く発光し始め、そして……

アリスの頭の上に、ウサギのような長い耳が生える。
お尻の上には、白くて短いふさふさの尻尾も。

「……君のような純真な子供が、大人の世界の醜い騙し合いに関わってくるのが、そもそも間違いだったのさ。
安心したまえ。これからはこの私が、たっぷりと君を可愛がってあげよう……ククク」

860名無しさん:2021/04/25(日) 16:02:06 ID:???
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「なるほど。戦闘服自体、この変化ありきのデザインだったわけか……
実に最低の発想だ。私の好みを心得ている」

アリスの頭上にウサギのような長い耳、お尻には尻尾が生えた。
身に着けているレオタードスーツと相まって、まるでバニーガールのような姿になっている。

「ふ、ざけないで………んっ、ああっ…!!」

自然界において、ウサギは天敵が多いため、生き残るために常に生殖行為が可能……つまり、一年中が発情期。
故に古来よりウサギは「性」のシンボルとして捉えられてきた。
獣人化した事で、そんなウサギの特徴が、より色濃くアリスの身体に現れる。

全身に受けた傷の痛み、目の前に現れた恐るべき「天敵」。
己の生命に危険が迫るその感覚が、体中の性感を昂らせてしまう。

「気持ちよくてたまらないだろう?
ウサギ型の獣人、特に愛玩用に調整された品種は、激しい苦痛を脳内で快楽に変換する。
もともと『ドM』の素質十分な君には、まさにぴったりだ」

「ふ……ふざけた、事を……私はぜったい、あなたの様な人には屈しません……!」

「フフフ……まだそんな反抗的な口を利けるなんて、さすがは『元』ナルビア王国軍シックスデイ。
まずは、その身体で存分に、ご主人様のムチの味を味わうがいい……!」

体中に湧き上がる疼きを抑え、それでもなおスネグアへの反抗心をむき出しにするアリス。
スネグアは配下の魔物達を下がらせると、愛用の鞭をピシリと地面に打ち付ける。

「はぁっ………はぁっ………」
(ほんの少しだけど、魔力が回復してる……これなら、魔法針一本くらいは……)

改造されたアリスの身体は、耐久力と回復力にだけは特化しているらしかった。
少し休んだおかげで、体力と魔力がわずかに戻っている。
針一本に至るまで奪われたが、こうした事態に備えて、針そのものを魔法で生成する術も扱える。

「たああああああぁっ!!」
瞬時に拘束を解き、スネグアの喉笛を狙い、一直線に飛び掛かるアリス。

「フフフ………そらっ!!」
その動きに合わせて、スネグアの鞭「リベリオンシャッター」が飛ぶ。

(スネグア……こいつは私を捕らえた後、間違いなくエリスも狙う……そうなる前に私が……!!)

一発受ける事は想定の内。例え刺し違えてでも、アリスはスネグアを倒す覚悟だった。
だが……

バシュッ!!ドガンッ!!ズガッ!!
「きゃあぐっ!?っぐあああああああ!!!」

魔獣使いの鞭「リベリオンシャッター」は、その名の通り魔獣の「反抗心をへし折る」。
一撃を受けた瞬間、頭が真っ白に、視界が真っ暗になり……アリスは体勢を崩して顔から地面に叩きつけられた。

「っぐあぅっ…!?………あ、っっぎ…いっ……!!」
まともな言葉を紡げなかった。激痛、というのも生温い。体中が痺れて、吐き気と眩暈すら催して、
自分が今立っているのか倒れているのか、敵がどの方向に居るのか、どちらが上か下かすらわからない。

「いっ……っぎ、あ……!!」
(な、っ……今、何が………!?)
左手の感覚が、全くない。右手で恐る恐る触れてみると、
左肩から背中にかけて、肉を抉られ、焼かれたような壮絶な傷跡が刻まれていた。

「おやおや、たったの一発で終わりかい?
案外だらしないな……もう一鞭くれてやるから、お腹もだしたまえ」
「ひぅ……や、っ……そん、…なっ………」
戦う事も立ち上がる事もできず、無様に地面を転げまわるアリス。
スネグアの声に従うかのように、気づけばお腹を上に向け、脚を無防備に広げた、服従のポーズを取らされてしまう。

「クックック……素直で良い子だ。思った通り、君には…愛玩奴隷の素質があったようだね!」
ビシュッ!!バシッ!!ドシュンッ!!ギュバッ!!

「あぎっ!! っぐあぅっ!! ふぎああああああああぁぁぁっっ!!」
右胸、左胸、お腹………打ち据えられるたびに、アリスの腰がビクンビクンと跳ね上がる。

「ひっ………が………は…………」
「クックック………上々の仕上がりだな。それっ!!」
「ひぎゅううううううんんんっっ!!?」

最後のトドメに、股間へ一撃。
アリスは白目を剝き、口から泡を吹き、そして股間からは薄いレモン色の小水を垂れ流しながら意識を失った。

861名無しさん:2021/05/04(火) 11:48:45 ID:???
「ふふふ……できればこのままずっと楽しんでいたいのだが……私には、まだやることがある」

スネグアはアリスの顎を持ち上げ、耳元でささやいた。
気絶したアリスがその声に反応できるはずもなく、その身はダークシュライクに預けられる。

「続きはトーメントに帰った後、じっくりと楽しむとしよう……
シュライク達、彼女をトーメントに『送って』さしあげなさい」
「かしこまりました、ミストレス……フフフフ」

二羽のシュライクに両脇を抱きかかえられ、アリスの身体は再び宙を舞った。

………………

(ふふふふ……イイのは見つかった?)
(ええ、あの山の頂上……高くてブッとくて、あれならバッチリだわ♥)

「…ぅ……ぁ……?…わた、し……きぜつ、して………」
「ふふふ……お目覚めね、アリスちゃん♥」
「これからアナタを、トーメントに送ってあげる所よん♥」

ダークシュライク達の囁き声で、意識を取り戻したアリス。
2羽のダークシュライクに手足を押さえつけられ、空中で逆さづりの体勢にされている。
眼下にはゼルタ山地の山々が広がっているのが見えた。飛行スーツを破壊された今のアリスでは、落ちたらひとたまりもない。

「トーメント?……このままイータブリックスまで飛んでいく気ですか……?」
「クスクス……そんな面倒なことしないわ」
「アリスちゃんは知ってる?この戦争で死んだ女の子は、王様の能力で蘇生されることになってるの」

王の蘇生能力「ロード・オブ・ロード(おお しんでしまうとはなさけない)」は、この世界全体に効果を及ぼすことが可能らしい。
今行われている世界大戦で命を落とした場合、王が選択した者……要するにかわいい女の子は……
王のいる場所、すなわちトーメント城に送られ、復活する事になる。

「!……それって、まさか……」
「察しがついたみたいね、アリスちゃん。」
「名残惜しいけど、そろそろフィナーレの時間、ってわけ♥…そ〜れっ!!」
「っぐえ!?」

首と手足を掴まれ、再びの急降下。
今度は下を向いたまま落とされているので、前髪が風圧であおられ、まともに目を開けていられない。
遊園地の絶叫マシーンなど、これと比べれば可愛いものだろう。
(くっ……このまま地面に叩きつけて……とどめを刺すつもり……?)

「ふふふ……もう少し右、かしら」
「オーケー。この位?ふふふ……さあアリスちゃん、見えてきたわよぉ♥」
「え…………、あ………あれ、まさか……」

眼下に見えるのは、荒れ果てた岩山。その頂上に立つ、一本の枯れ木。
どす黒く変色したその幹は、瘴気の影響で硬質化し、枝の先端は槍のように鋭く尖っていた。

「ふふふ……ぶっとくて鋭くて、ロケーションも最高ねぇ」
「でしょぉ〜?これならサイコーのオブジェになるわ♥」

ハーピーの変異種である、ダークシュライク。
彼女たちはモズと呼ばれる鳥の性質を持ち、無力化した獲物を木の枝等の鋭い物に突き刺す、『早贄』と呼ばれる行為を行う。

「ひっ……い、いやっ……やめて…それ、だけは……!!」
「だぁ〜め♥あの一番てっぺんの枝にぶっさして……」
「アリスちゃんをサイコーに芸術的な早贄にしてあげる♥」

アリスは半狂乱でじたばたともがくが、二人掛かりでがっちり押さえつけられて逃げられない。

「いやっ……はなして、おねがい、誰か、助けてっ……
エリス……レイナ……り…………い、やあああああああああぁぁっっ!!」

少女のが岩山にこだまする。だがその悲痛な声に、救いの手は間に合わず……

………ザシュッ!!
「ぐぶっ…!!………」

黒く鋭い枝槍がアリスのみぞおちへ突き刺さり、脊椎をかすめて背中まで貫通。
口から血の泡を吐き出し、全身をビクンビクンと痙攣させる。

「ぁ………っが………は………!!」

常人なら間違いなく致命傷だろう。
だが邪悪な改造が施されたアリスの身体は、ここまでされてもなお、彼女の魂に安らぎと解放を与えようとしなかった。

862名無しさん:2021/05/04(火) 12:34:10 ID:???
「げぼっ……が、あぁっ………!!」
鋭い木の枝に串刺しにされ、アリスは小さな体をビクビクと震わせる。

「あはははは!ぴくぴくしちゃって、可愛い〜♥」
「こんなになってもまだ生きてるなんて、アリスちゃんてば本格的に人間やめちゃってるわね♥
でも、周りをごらんなさい……」

「グゲゲゲッ!」「ハヤク、クワセロォォ!!」

「インプやガーゴイルちゃん達も、もう我慢の限界」
「生きながら肉を食いちぎられて、上も下も後ろも犯されて……」
「最高に気持ちよくなりながら、確実に逝けるわね♥」

「そ………んな、の………」

「もちろん、これで終わりじゃないわよ。
なにしろトーメントに帰ったら、ミストレス様に毎日たっぷり可愛がってもらえるんだから……」
「ドMなメスウサギのアリスちゃんには、きっと最高の環境よねぇ……フフフ」

「い………い、や………!」

「さあ、みんないらっしゃい………食事の時間よ!!」
「「グゲェァアアアアアアア!!!」」
絶望に沈む少女の悲鳴は、魔物達の嵐のような咆哮にかき消された。
無数の魔物が爪と牙を剥き、早贄にされたアリスに一斉に群がる………

(ぼふん!!)
「「!?」」

……だが、その時。

アリスが串刺しにされている木に突然、無数の花が咲き、大量の花粉を撒き散らす。
そして、魔物達の只中に、二人の人影が、風のように飛び込んできた。

「っぷ、何これ……!?」
「一体何者っ……!?」

「神速・薙手刀!!たあああぁっ!」
アリスが突き刺さった枝を、唯が手刀の一閃で斬り落とす。
落ちてきたアリスの身体を、サクラが受け止める。

「……あ……なた、たちは……」
「アリスさん、しっかりしてください!!」
「サクラちゃん、全速離脱っ!!」

救援に駆け付けた唯とサクラの二人は、一瞬の早業でアリスを助け出すと、あっという間にその場を離脱した。

「はぁぁ!?……何よあいつら、アリスちゃんを攫ってくなんて…!」
「アリスちゃんを確実に殺さないと、ミストレス様がお怒りになるわ。追うわよ!!」

グォォォォォォォ……

「あ、あの黒いハーピー、追ってくる!?」
「アタシ達の得物を横取りするなんて、生意気な泥棒猫ちゃんね!!」
「こうなったらまとめて片付けて、ミストレス様に献上してあげるわ!!」

ダークシュライクの飛行能力は極めて高く、その速度は通常のハーピーとは比較にならない。
アリスを抱えながらホウキで逃げる唯達が、追いつかれるのは時間の問題……かと思われた。

「……大丈夫だよ、唯ちゃん。」
しかしサクラは慌てることなく、呪文を唱え始める。
すると、サクラのホウキの柄から枝が伸び、唯のホウキと合体していき……

「……私、逃げるのだけは得意中の得意だから」
「!?……サクラちゃん、これは……」

小型の飛空艇へと変わった。

サクラが最も得意とするのは、植物を操る花属性の魔法。
木と藁でできたホウキは、魔法の媒体としても最適であった。

「全力で逃げ切るよっ……フライングボート・ダブルジェット!!」
正しくはツインターボだ!

863>>858から:2021/05/06(木) 01:38:23 ID:???
「げほっ!?……ごほっ!!げほっ!!」

急に喉の奥に不快感を催し、エリスは咳き込む。
口を覆った手に、唾液に混じって黒い粉のような物が付着していた。
(これは………先ほど砕いた、骨の粉か…!?)

「砕いた骨の粉塵は、肺の中にちょっとでも入ったら、あっという間に増殖していく。
若いのに残念だったなあ、お嬢ちゃん……あんたもう終わりだよ」
「げほっ!!……げほっ……なん、だと……!?」

咳き込んでも咳き込んでも、不快感はどんどん増していく。
エリスが吐き出す咳は、黒い煙となってエリスの周りを漂った。

「つってもまあ、体の中でスケルトンになって内側から……なんて事にはならねえ。
骨の形に固まる前に、咳で体外に出されて、風で飛び散っちまうからな。
そ、こ、で………」

ボーンドは荷物の中から黒い小瓶を取り出し、エリスの足元に投げた。
(ガシャン! びちゃっ!!)
小瓶が割れて、黒いヘドロのような粘液が飛び散る。

「そいつは『万能武装スライム』。
使用者の思い通りの武器に変化する便利なモノなんだが、ちょっとしたイワク付きでな。
そいつを作ってた生産プラントが破壊されて、所長やってた男は、責任を問われて処分されちまった」

「っ……一体、何の、話を……げほっ!!げほっ!!げほっ!!」
激しく咳き込むエリス。吐き出した黒い煙がひとりでに動き、足元のヘドロに吸着されていく。

「なに。あんまりかわいそうなんで、俺ん所で引き取ることにした、ってだけだ。
スケルトンは粉微塵じゃあ大したことは出来ねえが、そのスライムに溶かしてやれば……」

「じゅぶっ……じゅぶぶぶぶ……こうして、スライムと融合して自在に動けるようになる、というわけです。
感謝していますよ、ボーンドさん。おかげでまた、いたいけな少女を痛めつけることが出来る……ククククッ!!」
黒いヘドロが寄り集まって、人の形に変わっていく。
骨の粉塵を吸収したことで、万能武装スライムに邪悪な意思が宿ったのだ!

「くっ……新手か!……テンペスト……っぐ、げほげほっ!?………こ、のっ……!」

眼前に現れた敵を、槍で薙ぎ払おうとするエリス。
だが、体内を蝕む骨の粉に、魔槍の力を阻害されてしまった。

ぐちゅっ……じゅぶぶぶっ!!
「クックック……無駄ですよ、そんな攻撃では……」
「なっ…は、放せっ!」
魔力の宿っていない物理攻撃では、スライムの身体を滅することは出来ない。
テンペスト・カルネージの穂先は、黒いスライムにずぶずぶと呑み込まれていくのみ。
槍を引き抜こうと力を込めるが、柄の半分ほどまでスライムが巻き付いてしまっている!

「おいおい……俺も残ってる事、忘れてんじゃねえか?お嬢ちゃんよお……」
ガキンッ!!
「っぐ!?」

……スライムから槍を取り戻そうと手間取っている間に、背後から近づいたヴァイスがエリスの脇腹をナイフで狙った。
だがレッドクリスタルスーツの装甲に阻まれ、逆にヴァイスのナイフが折れてしまう。

「はぁっ………はぁっ………うぐ…!……げほっ…ごほっ……うぐ、おえっ…!!」
なんとか槍を取り戻し、ヴァイスたちから距離を取ったエリス。
だが肺の不快感は更にひどくなり、咳はますます激しくなっていた。
まともに呼吸を整える事も出来ず、疲労が急速に蓄積していく。

「チッ……厄介な鎧だ。まるでカニの甲羅だぜ。引っぺがさねーと中身が食えねーってなぁ!」
「私の武装スライムなら破壊は可能かもしれません。
……しかし私自身は、武器の扱いは素人。骨の粉に肺を蝕まれているとはいえ、彼女に攻撃を当てるのは難しいでしょう。
そこで……」
「クックック……なるほど。どうやらお前と俺は、とことん相性がいいようだな、元所長さんよぉ?」

刻々と悪化していく状況に、焦りを感じるエリス。
その目の前で、ヴァイスのスケルトンと、クェールのスライムが、一つに合わさっていった。


「……さーてと。この場はあの二人に任して、俺は早い所、お仲間と合流するかね……」
エリスとヴァイスたちが戦っている一方、ボーンドは余裕綽々で離脱していた。

「まぁ、仲間っつっても……仮初の、だがな」

ボーンドは懐から辞書を取り出し、用済みとなったそれを投げ捨てる。
風でぱらぱらとページがめくられ、しおり代わりに折り目が付けられたページで止まる。
そこには、仲間達の……小隊の名前の元となった単語が記されていた。
tradimento… 裏切り 叛逆、と。

864名無しさん:2021/05/09(日) 22:12:56 ID:???
スケルトンの骨に黒いスライムの肉体の怪人へと合体したヴァイスとクェールは、
右手を鉈、左手をチェーンソーに変化させて猛然と襲い掛かる。

「クックック……貴女のその赤い鎧、どれほどの強度なのか確かめてあげましょう」
ガキンッ!! ガキン!!

「はぁっ……はぁっ……ゲホッ…ゲホッ……こ、のぉっ……!」

すぐにでも撃退して逃げたボーンドを追いかけたいエリスだが、次第に防戦一方に追い込まれていく。
瘴気を纏った骨の粉がエリスの体内に大量に入り込んで、肺腑を冒され、呼吸を阻害され、体力を削り取られ、
その槍さばきは先ほどまでよりも明らかに鈍っていた。

ヴァイスの戦闘スタイルは攻撃一辺倒、防御をまったく考えない。
しかしそれが無限に再生可能なスケルトンの身体と見事なまでに嚙み合っている。

更にクェールの万能武装スライムによって、装備の差は縮まり、
エリスのアーマーでも攻撃を防ぎきれるか怪しくなってきた。

「クックック……そろそろ限界みてえだなぁ?『ナルビアの神風』ちゃんよぉ…!」
「それに、その鎧も。ナルビアの技術で作られただけあって、さすがに大した強度でしたが……」
ガキッ!!………ベキンッ!!
「し、まっ……!」

エリスの防御を掻い潜り、脇腹に鉈が直撃する。
鉈の刀身はへし折れたが、レッドクリスタルスーツにもわずかな亀裂が走った。

「装甲の弱い部分に集中攻撃すれば、この通りってわけだ……
ま、こっちの武器は折れようがいくらでも再生できるがな!」
「それに、スライムの身体は変幻自在。ほんの僅かな亀裂からでも………自由に中に入り込める」

……じゅるるるっ!!
「っ………!!」
スライムの一部がエリスに飛びついて、アーマーの中に侵入してきた。
スライムが直接肌に触れる不快感に、エリスはバイザーの奥で端正な顔を歪ませる。

「ヒヒッ!今度は肺だけじゃ済まねえぜ……前も後ろも上から下まで、ぐっちょぐちょに犯してやる!!」
「フフフフ……私としては、鎧を剝がして、無防備なお腹をボコボコに変色させてあげたいですねえ」

スケルトンに両腕を掴まれ、両脚はスライムに絡め取られ、動きを完全に封じられてしまった。
絶体絶命の危機に陥ったエリスに、反撃の手段は………

「……あれしか、ないか。……バーストモード、起動っ……!」
……残っている。たった一つだけ。

…………

<残念ねぇ〜、私の改造を受けてくれないなんて。
これじゃ、せっかくのスーツの性能を半分も引き出せないじゃない>

<まぁ今更オミットもできないから、機能だけは残しておくけど……
このモードだけは絶対に、使わないでね>

<……今のあなたが使ったら、命の保証はないわよ?フフフ……>

…………

ゴゴゴゴゴゴッ……

「ぐっ!?なんだ……!?」
「一体これは……アーマーが‥…!?」

スーツが赤く輝き、高熱の炎を発生させる。
二本の長槍テンペストカルネージがアーマーと合体して、炎を纏った一本の巨大な槍へと変形した。

……ジュウウウウウゥウゥゥッ……

「う、っぐ……熱………だがっ……アリスの受けただろう苦しみに比べれば、この程度……!」
激しい熱気が、肺の中の骨粉塵を焼き尽くす。
だがあまりに膨大な熱量は、使い手であるエリス自身をも呑み込みかねない勢いで燃え盛っていた。

「構う…ものかっ………全てを、焼き尽くせっ!!
……『クリムゾン・カルネージ』!!」

「「ぐわあああああぁっ!?」」

超高熱の炎を帯びた竜巻で、スライムとスケルトンが一瞬にして蒸発する。
活動限界を超えたレッドクリスタルスーツが、赤い光の粒子となって消えていく。
後に残ったのは、二本の槍を天高く掲げて立つ、エリスただ一人。

「はぁっ……はぁっ……こんな所で……倒れていられるか…!
早く、逃げたスケルトンを……いや、その前に……アリ、ス……」

一歩踏み出した瞬間、膝から崩れ落ちるエリス。
長槍を杖代わりになんとか立ち上がると、妹の名をうわごとの様に呟きながらその場を立ち去った。

865名無しさん:2021/05/13(木) 01:21:00 ID:???
「ふふっ、ようやく、ようやくアリスくんが我が手中に収まった……、従順になるまで躾けるのにどれだけかかるか……想像するだけでも楽しみだ……。さて次は…」

アリスを捕らえ、スネグアは更なる暗躍の前に一度拠点に戻ってきていた。

拠点は配下の魔物兵の中でも、選りすぐりの強個体数匹に守らせている。
各国の動きはスパイからの情報でほとんどを網羅しているが、万が一想定外の奇襲に遭う可能性も、ゼロではない。
そんな時のため、自分のいる拠点には自分の意のままに操れるキメラ兵や最上級の魔物兵を配備し、自分が逃げる時間を十分に確保するための対策を施していた。

「おかえりなさいませ。スネグア様。……お怪我はございませんでしたか?」
天幕に戻ると、中での世話を任せている魔物兵ーー先日のラミア人格のゾンビキメラが、珍しく話しかけてきた。

「?。ああ、当然だろう?私が行く時には、すでに戦いは終わっているのだからね。もっとも、戦闘が終わっていないところには行かない、というのが正しいわけだが……ククク。」
「そうでしたねぇ。貴方はいつも、配下や立場の弱いものに戦わせて、安全なところにいらっしゃる。自分で戦われることはありませんものね」

「……何が言いたい?」
「いえ、なんでもありませんわ。失礼いたしました」
急に話しかけてきたと思ったら、嫌味のようなことを言ってきた。
少し気を悪くしつつも、羽織っていたコートを脱がせながら自分の天幕の入り口をくぐる。
(何だ?今、背中を触られたような……?)

首筋や肩、太ももの付け根に感じた、かすかな違和感。
これ以上不快な言動をするようなら配置を変えようかなどと考えつつ、椅子に腰かけようとした次の瞬間。
視界がぐらついた。身体のバランスがうまく保てない。

急激に地面が近づいてくる。

「…………は?」

地面にぶつかる衝撃とともに視野が回り、周囲に転がったモノが視界に入ってくる。

……バラバラになった、自分の身体だった。
高貴な装いに包まれた胴と、すらりと細い手足。間違いなくスネグア自身の身体だが、手足と首が根本から分離され、まるで解体されたマネキンのように散乱している。

「は!?何が起きている……!?」

頭、胴、両手、両足。6つのパーツに分離されたようだった。
あまりに不可思議な事態。
血は出ていない。手足や身体を動かそうとするとその部位が動くが、パーツ同士の接続を失っているためその場でバタバタと無意味に跳ねるばかり。

「うふふ、上手くいったようねぇ。」

声がした方を見ると、ラミア人格のゾンビキメラが見下ろしていた。
「!!、貴様の仕業か……!!ふざけるな!!早く元に戻せ!許さんぞ貴様……」

咄嗟に腰にある魔獣殺しの鞭に手を回そうとして…

「…っ!!」
手を回した先には、腰がなかった。

「おお怖い怖い。今、鞭を取ろうとしたわね?これは危ないからもらっておくわ」
手が届かなかった腰から、鞭が抜き取られるのを感じた。
「なっ!?待て!返せ!返せぇっ!!」

自分が強大な魔物兵たちに対して一方的に強く出られる理由。それが全てというわけではなかったが、その理由の大半は今取り上げられてしまった鞭、リベリオンシャッターによる痛みと恐怖による支配であった。

魔物兵に対する絶対的な地位が、揺らぎはじめる。

「くっ……!」
悔しそうに歯をギリリと噛み締めて睨みつけてくるスネグアの頭の様子に、満足気に笑みを浮かべるラミア。

「んふふ、大人しくなっちゃって。これがないと強く出られないのかしら?」
「っ!!……貴様の目的はなんだ?……これは立派な反逆行為だ、タダでは済まされないぞ……!」

「あらあら今度は脅迫?心配いらないわ。この後行く当てはあるし。」
「なに……!?」
「目的はそうね、ちょっとした手土産と、貴女への復讐ってとこかしら。今まで散々コキ使ってくれたじゃない?だからその復讐よ。ただそれだけ。ちょうどいいところに手を貸してくれる人がいたっていうのが大きいけど……、っとまあこれは貴女に話すことではないわね」

「ちぃっ…!!」
(どこの差金だ?こんな情報は入っていない……。ナルビアか?ミシェルが何かしたのか?ミツルギか…あるいは他の勢力…?)

「ちなみに外に助けを求めても無駄よ?今ここに残ってる魔物兵は皆仲間に引き入れてあるし、人間の戦力はみんな出払っているもの。あ、そうだ……もう入ってきていいわよ。」
「ンモォォォ……!待ち侘びたぞォォォォ。早速始めようぜェェェ。」
「グギギギ、あのスネグアが無様に地面に這いつくばってらぁ。これはもうブチ犯すしかねぇぜぇ……」
「いつかこんな日が来るんじゃねえかと思ってたぜぇ……。身体の隅まで堪能してやるぜぇ……ギヒヒヒ……」

ラミアが声をかけると、テントの中に図体の大きなオークと2匹のゴブリンがドカドカ入ってきた。

866名無しさん:2021/05/13(木) 01:22:07 ID:???
自分で選んだ選りすぐりの強個体とはいえ、ゴブリンとオーク。見た目は相変わらず醜悪で、異臭を放っているのも一般のものと変わらない。

「お前たち……いい加減にしろ……!貴様らの好きにはさせん!魔獣昇華……!」

汚らしい魔物3匹無遠慮にテントに侵入されたことにより不快感の限界値を越えたスネグアは、近くにいたモグラを魔獣化して魔物兵に立ち向かう。

ドォ゛ォ゛リュゥ゛ゥ゛ゥ゛……!!!!

両手に巨大なドリルを備え、強大なモンスターとなった大土竜が、4体の魔物兵に襲いかかる。が、

「……うふふ。リベリオンシャッター。」
バヂヂヂィィィィーーンッッ!!!

ドォ゛ォッッ!?!?ビクビクッ……キュゥゥゥゥンッ……

「なぁっ……!?そんなバカ…な……」
強力無比な鞭の一打によって動きが止まり、萎縮して全く攻撃する素振りを見せなくなった。

「じゃあなァァァ……!!!」
ドッゴォォォォン……!!

巨体オークが頭上から振り下ろした棍棒が大土竜の頭に直撃し、戦闘不能となった大土竜の魔獣化は解除された。

「グギギギ、やっぱりお前の鞭は強いなァ…!!おいおい、そんな泣きそうな顔すんなって」

「そんな……私の魔獣が……あ…あぁ……!ま、待て!くるな……!!……やめろ、触るなっ…!離せぇっ!!」

逃げることも戦うこともできず、床に転がされて叫ぶことしかできないみじめな男装の麗人に、薄ら笑いを浮かべた魔物兵たちの魔の手が伸びる。

「まあ、こんなにふるふる震えちゃって可愛い……。んふふ、まずはお洋服を脱ぎ脱ぎしましょうね」
スネグアの胴体の部分を持ち上げ、ぎゅっと抱きしめたラミアは、スネグアが纏うベストのボタンに指をかけていく。

「なぁ、あぁ…!?やめ……!!」

手際よくシャツのボタンもベルトもチャックも外されて、しゅるしゅると剥かれていくスネグア。手足のない身体には引っかかるものもなく、あっという間に下着姿にされてしまう。

「あら、見た目は男性的な服装をしてたけど、中はちゃんと女性らしいもの着てるじゃない。」
「〜〜〜ッ!!////」

ところどころレースがあしらわれた、花柄刺繍入りの濃紺のショーツとブラジャー。
それらがスレンダーなボディを、より引き締めて見せている。

「まだまだ若くて健康的な身体だわ……ラミアの時だったら食べちゃいたいくらい……。じゃ、これも脱ぎましょうね」
背中のラインをなぞられながら、滑らかにブラのホックが外され、それほど主張の大きくない胸があらわになった。ショーツにも手がかけられ、ついに一糸纏わぬ姿にされてしまう。
「っ、ううぅぅぅ……!」
ゴブリンたちの好色な目線に晒され、顔が熱くなるのを感じずにはいられなかった。

手足に残っていたシャツの袖やスラックスも、抵抗虚しくゴブリンとオークによって抜き取られ、生まれたままの姿にされてしまう。

「ギヒヒ、こういうのは初めてって顔してるなぁ?そりゃあお高く止まった貴族様には、こんな経験あるはずないってかぁ?今どんな気分でさぁ?」

カアァァッと赤く染まった顔は、ゴブリンの1人に髪を掴みあげられていた。
顔の前まで持ち上げられ、ゴブリンの吐息が頬を撫でる不快な感触に顔が歪む。

「ぐっ……ッ……黙れッ!!こんなことをして、許さん……断じて許さん!!あとで絶対に殺してやる……!!覚悟しておけよ……!!」

泣きそうに顔を歪ませながらも睨みつけ、精一杯の怒声を浴びせるスネグア。
そんな怒るスネグアに怯む様子もなく、ゴブリンはスネグアの顔を持ち変え、目を見開かせるように指で瞼を押し上げ、露出した眼球を舌でベロベロと舐め上げた。

べろり…ぬちゃぁ……

「ひぃっ!?やっ……!ッッぎゃああああああああぁ゛ぁ゛!!や“め“、や“め“ぇぇッ……!!」

「あぁーうまいなぁスネグアさんの目、ほどよいしょっぱさでニュルっとしてて舐め心地もいいし、ほんのりあったかい……。」

ぶちゅり…じゅるじゅる……

そのままゴブリンは目にディープキスをするように唇を沿わせ、まぶたを唇でどかしながら眼球を隅々まで舐め回す。
目の上をザラザラしたものが這い回る感触に、スネグアは鳥肌が止まらない。

「ひッ!?あ゛ッ!舐めるのっ、や゛ぁぁ……!!」

「これが今まで俺たちを見下してきた目だと思うとまたたまらなくウマい……!はぁ……身体が繋がってたらここまで濃密には舐められないよな……分解マジ最高だぜぇ……!」

ぶじゅるるうううううう……

「〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」

ゴブリンが眼球にしゃぶりついたまま口をすぼませて吸い上げると、スネグアは言葉にならない悲鳴をあげた。

867名無しさん:2021/05/13(木) 01:23:09 ID:???
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、……グギギギ、あいつも早速楽しんでやがるなァ。あ、やべ出る。う゛……!!」

もう1匹のゴブリンはスネグアの足でペニスを扱き、早速射精しながら様子を伺っていた。
もがく両足を膝立ちの形に揃えて自分の両足で抱えこみ、ふくらはぎの部分に腰を下ろして動きを封じ、ふとももに自分のペニスを挟んで腰を前後に揺する。

「ッいい加減、脚に挟むのやめ……!?ッくぅぅ……!!…や、やめろ……!!脚に…か、かけるな……!!」

ドロっとした生温かい精液がふとももにべったりと付着するたび、嫌悪感を示すように脚を大きく動かして抵抗しようとするのがおかしくて、ゴブリンは何度も精液を塗りたくっていった。

「……ふふ。あなた、乳首もクリも感度良好じゃない。これはこのあとが楽しみねえ」

ラミアはずっとスネグアの胴体を抱き抱えたまま、乳首とクリトリスをカリカリといじっている。

「ひぅ……んんっ……んあぁっ!」
「ブモモ……早くしろラミアゾンビィィィ……!」

スネグアの指を上から握りしめて自分の竿を無理やり触らせているオーク兵。
元上司に自分のチンポを素手で握らせるという直接的なセクハラがもたらす背徳感は並大抵のものではなかった。自分の竿のサイズと形を、スネグアに無理やり覚えさせていく。

「んもぅ、急かさないでよ、あとその呼び方やめて。……んん、ここをこういじって、と……これでよし。」

「はぁい、スネグアちゃんお待たせ、とっておきのプレゼントよ。あなた、いつも男装をしてるじゃない?だから、その装いにふさわしいような、立派な男性のシンボルをあげるわ」

「ぐぅぅ……何を言って……ッ!?なぁぁぁっ!?」
不穏なセリフを吐くラミアに陰核をギュッと握られた直後、クリトリスからじんわりと染み込むような違和感が下腹部へ抜けていく。
「これ、はぁッ……!?」
嫌な予感がして視線を向けると、そこにはスネグアの身体には似つかわしくない、たくましい男根がそそり立っていた。
「ふ、ふざけるなぁぁ……!!もどせ!!…もどひぐぐぅぅぅぅッ!?」

ラミアに軽く擦られただけの刺激で、抵抗の言葉を遮られてしまう。

「ふふ、感度抜群ね。クリをもとにして、さらに刺激に敏感になるように作ってあげたから、ちょっと触られただけでもたまらないでしょう?」
しゅりしゅりしゅりしゅり……
「あっ!ああっ!!ああああぁっ!!」
ラミアによって優しくしごかれ、ふたなりペニスがむくむくと大きくなっていく。
ひと擦りされるたびにビリビリとした刺激が襲い、スネグアは悶えることしかできない。

(あぁだめだ刺激が強すぎる……!!何かが込み上げてきているようなっ……!!これはぁぁぁッ……!!)

何かがペニスの奥で蓄積され、ドクドクと脈打っているのを感じる。

低俗な魔物どもに反逆され、あろうことか射精までさせられるなど、スネグアのプライドは絶対に許せなかった。
しゅこしゅこしこしこ……
「ん、ぎぎぎぃ……」
限界まで怒張したペニスを尻目に、なんとか歯を食いしばって堪える。
後ろの穴に何かが触れたのは、そんな時だった。
「はっ……!やめ、何して、い゛ぎい゛い゛っ!?」
「ブモモぉォォ……!これがスネグアのケツ……!!犯すぜェェ!!」
オークのデカマラが、スネグアの尻穴を貫く。カウパーでぬらぬらだった肉棒はすんなりと入り、オークはそのまま重量級の身体をスネグアの胴体に打ちつけるようにして、ストロークを開始した。

ずっちゅん、ずっちゅん、ずっちゅん、ずっちゅん……!!

「ひゃぎいいいぃぃ!!ひゃめ、ケツはひゃめろおおお…!お、奥を刺激するなっ!!……っぎぁぁぁあああああああああああああぁぁぁっ!!」

お尻の穴からの突き込みによってペニスの奥のドクドクしている部分を後ろから刺激され、ところてん射精に追い込まれていく。

「ちなみにねそのペニス、絶頂するたびにスネグアちゃんの人格とかをねぇ、精液にして吐き出しちゃうのよ。」

「は……?」

「つまりスネグアちゃんは、このおちんちんでイクたびに少しずつスネグアちゃんじゃなくなっちゃうの。何回もイっちゃったら、ただのお肉になっちゃう。一回出しちゃった精液はもう2度と元には戻らないから、肉人形になりたくなかったら頑張って我慢するのね」

ビクビク震える限界ペニスをしゅこしゅことしごき続けながら、淡々と重大な事実を告げる。

ごりゅ…!!
「あ゛がっ!?」

ビュルルルーーーーッ!

オークの突きにペニスの弱点を裏から擦りあげられた刺激がトドメとなった。
放出された精液が、放物線を描いて勢いよく飛んでいき、床や壁にこびりつく。
ドクン…!という虚脱感が全身を包む。
自身の不可逆な喪失を感じ、スネグアの顔が青ざめていく。

「あ……あ……嘘だ……私が……消えっ……!!そんなことがあってたまるか……!」

868名無しさん:2021/05/13(木) 01:24:57 ID:???
「ブモモ、元気なペニスだなぁぁぁ。射精するとき、ケツ穴も収縮して気持ちよかったぜぇ。」

オークがスネグアのペニスの裏を丁寧にしごくように自身のブツでスネグアの腸壁をこすりあげ、スネグアの射精を残りカスまで搾り取る。
残渣がどろりとこぼれ出るだけでも、自分の人格がこぼれ落ちていくのを感じてしまい必死に身体を捩るが、手足のない体では逃れられず、結局全部搾り取られてしまった。

「ブモ。収まったようだな、じゃあ再開だモォォォ……!」

射精が収まったのをみるや、再びペースをあげるオーク。
スネグアの身体を後ろから抱えあげて密着度を高め、ひと突きごとにスネグアの腸壁をゴリゴリと削っていく。

「や、ちょッ!?ま、まってくれ……!まだイッたばかりで!……ひぎぎぃぃぃぃッ!!」

これ以上はマズイと踏ん張るスネグアだが、オークに無防備なペニスの裏側を容赦なくしごきあげられ、たちまちフル勃起にさせられてしまう。
「あ゛ッ!あ゛ッ!あ゛ッ!や゛ッ!!あ゛ぁぁぁぁッ!!!」

「ブモ?ここを突くとケツの締め付けが強くなるなぁ。さてはお前、ここ弱いなぁ?」

「あ゛がっ!?やっ……!!そこゴリゴリッ……!やめッ!!そこダメだめらぁーーーーーッ!!!」

腰の当たり方を変えて、スネグアの腸の前側にある、無防備な弱点をピンポイントでえぐりぬく。
ごり、ごり、ごり、ごり……

「やだやだやだやだッ……!!イギたくな゛いッ……いやあああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!」

ドビュルルルルーーーーッ!!
アナル責めだけで、スネグアは再び達してしまった。
ドクン……!!
さっきよりも大きな虚脱感がスネグアを襲う。何がなくなったか認識はできないが、大切なものを失ってしまっているという確信だけは確かにあり、スネグアの心を恐怖で震え上がらせる。

「あらあらスネグアちゃん、もう2回目出しちゃったの?しかも1回目よりもたくさん。このペースだと、たぶん次でもうスネグアちゃん、終わっちゃうわねぇ」

「なぁ゛……!?いやだ!!もういやだぁッ!!あがぁ!?い、1回休ませてくれ……!!そこ……!そこもうやめっ!!腰を一回止めてくれえぇぇぇ!!!」

イったばかりだというのに、オークは今度は動きを止めず、変わらずスネグアの弱いところを責め続ける。股間に勝手に生やされたペニスは絶倫で、またすぐにビキビキと硬くなってしまう。

「ギヒヒヒ……頑張って耐えてるなぁスネグアさんよぉ。次で終わりってんなら、とびっきりみじめな最期がいいよなぁ」

頭を弄んでいたゴブリンが、あと一歩というところで必死に踏ん張っているスネグアの顔をみて二チャリと笑うと、スネグアの頭を胴体の前まで持っていく。
そして怒張したふたなりペニスに、スネグアの唇をぶちゅりと押し当てた。

「ぐぅぅ……!き、きはまぁッ……!!ふ、ふざけうなぁっ……!!」

ペニスを頬張らせようとぐいぐい押してくるゴブリン。
スネグアは懸命に歯を食いしばりながらギュッと目をつぶり、屈辱に耐える。

869名無しさん:2021/05/13(木) 01:26:59 ID:???
そこへ、両足を持ったゴブリンも近づいてきた。

「グギギギ、口に咥えるのが嫌だからって、足まで動かして暴れるなよぉ。危ないだろぉ?」

両足首を持って、暴れる足先を左右からペニスに近づけていく。
目を固く閉じたスネグアは、目の前で起きようとしている悲劇に気づくことができなかった。

「はぎゅぅぅぅぅああああぁっ!?」

気づかずに足をばたつかせ続けたスネグアは、ついに自分の足先で、思い切りペニスを踏み潰してしまった。
自らの身体で自分の性感を刺激され、思わず口を開けて嬌声をあげてしまう。

ずぼぼぉ!

「んぶうううぅぅぅ…!!」

そのの隙に、口の奥深くまでペニスを咥えこまされてしまった。

「グギギギ、自分で自分のを咥えてらぁ。」
「ギヒヒヒ、無様だなぁスネグアさんよぉ。」

息苦しさと臭さを感じるが、それ以上に自分の舌と唇の感触に、腰が砕けそうになる。


「ブモ、今、腰を後ろに逃がそうとしたなぁぁ?楽なんてさせねぇ。逃がさんぞォォォォ」

ゴブリンたちの動向に注目し、一時的に尻穴へのストロークを緩めていたオーク兵。

スネグアの腰の動きの余裕のなさを感知し、すかさず抽挿を再開する。

「んゔぅぅぅ...!ゔっ!ゔゔぅっ!ゔああああぁぁぁ!!」


(このままではマズイのに、ダメなの、に…!舌が表面を這い回る感覚が、気持ち、いいっ…!舌の動きが制御できない…!マズい...!耐えろ、耐えろおぉぉ…お゛ほぉぉぉぉ!)

頭ではダメだと理解しているのに、気持ちよさのあまり自分の舌でふたなりペニスを舐めまわしてしまう。

後ろからはオークの突き上げが、前からは自分自身の口が。もう後がないスネグアをこれでもかと追い詰めていく。

「スネグアちゃん、そんなにビクビクしちゃって。もう我慢できないんでしょう?手伝ってあげるから、気持ちよくなりましょうねぇ」

ラミアがペニスにしゃぶりついたままの頭を前後に動かして、スネグアのペニスを優しく口でしごかせてあげる。

「ん゛ぅ“ぅ“!??う゛っう゛っうぅぅぅーーっ!!」

ビクビクビクビクッ!ビクッ!ビククッ!!

引かれる時は柔らかい唇や舌がペニスに吸い付き、押される時は口の中の凹凸がペニスを擦りつける。
喉奥まで達するほどに深く押し込まれると息ができなくなり、苦しくなった喉がギュムゥとカリ首を締め付け、たまらない刺激をペニスに与えていく。

セルフフェラの刺激が強すぎて、腰の震えが最高潮に達する。
限界が近い。

「こんなのはどうかしら?」

悪戯な笑みを浮かべたラミアが、スネグアの顔をペニスの根本まで押し込む。
気道が完全に詰まり、スネグアは目を見開いて呻く。
喉がスネグアのペニスを、最大限に締め付けていく。

そしてラミアは喉奥まで飲み込ませた状態のまま強く押し付け、ぎゅるりと90度ほど、スネグアの頭をゆっくりと回転させた。レモンを搾る時のように優しく、力強く、ひねる。

喉奥に締め付けられたままのペニスは、不意に与えられた回転運動に成す術もなく、全てを搾り取られた。


「う゛う゛!!ア゛、ヴアアアーーッッ!!!ッ!ッッ!イヤアアア゛ーーーーッ!!!」


ドビュルルルルルルルル!!!


「んふふ、よくできました……!スネグアちゃん、自分の人格の味はどう?」

「ごぼぼ……ごぽッ……ぉ」

スネグアの喉奥に吐き出された精液が、スネグアの首の断面から地面にボトボトと垂れ落ちる。
ペニスを咥えたままの口元からも溢れ、ダラダラとこぼれ落ちていく。

「もしかして。もうただのお肉になっちゃったのかしら。」

90度ほど傾いて己のペニスにしゃぶりつき、自分で自分の人格を根こそぎ搾り取ってしまった、“元”麗人の瞳は裏返り、もはや人としての風格は微塵も残っていなかった。

870名無しさん:2021/05/16(日) 15:27:53 ID:???
前線基地に敵が攻めてきたと知り、急ぎ帰還するオト&エルマ達。そこへ……

「たく、ツイてねーな。ちび子しかいない時に攻め込まれるなんて……早いとこ戻ろうぜ!」
「誰のせいでこうなったと思ってるのよ……
あ、ちょっと待って!?空の向こうから、何か飛んでくる……!?」

唯とサクラが、ホウキを合体変形させた「フライングボート・ダブルジェット」に乗って猛スピードで向かってくるのが見えた。

「くそっ…距離が縮まらない!……まさかアタシ達と互角のスピードなんて!」
「何としても捕まえるのよ!ミストレス様のお怒りに触れたらタダじゃ済まないわ!!」

「うううう、なかなか振り切れない……!!」
「サクラちゃん、前、前みて! 避けないとぶつかr……ってあれ、オトちゃん、エルマちゃん!?」
「うっわあぶね!!」

地面スレスレの低空飛行で突っ込んできた唯達を、慌てて避けるオト達。
そして、それを追ってきた2羽のダークシュライクは……

「……なんか魔物に追っかけられてるみてーだな」
「データベース検索……『ダークシュライク』ハーピー亜種の上級魔物。弱点は光属性……」
「ったく、次から次へと……。まあ要するに」

「……後ろの奴らは、倒しちゃっていいのよね?…ストロボフラッシュ!!」
「「ぐぁっ!?」」
「殺戮する……エメラルドブレード!!」
「「ギャアアアアアアアァッ!!」」

エルマの秘密兵器と、殺戮機兵エミリーのブレードで一刀両断された。


こうして偶然にも合流を果たした唯たちは、重傷のアリスを連れて前線基地へと帰還する。
しかし基地は既に攻撃を受けた後で、周囲は破壊された兵器や機械兵の残骸が散乱していた。

「うわ……荒らされ放題じゃない。ルーアちゃん達、無事かしら…!?」

基地の最奥、司令部へと急ぎ戻る唯達。そこで見たものは……

「うっ……」
「……降参してください。例え機械兵とは言え、できれば破壊したくはありません……」
「………で、できませんっ……私の任務は、この基地と、エミル様を防衛する事…!」
気絶したエミル、中破状態の砲撃機兵サフィーネと、トーメント軍と思われる魔法少女。
そして……

「ゆ……唯、さんっ……!」
敵の猛攻を受け、満身創痍のルーアと……

「何っ……唯……だと…!?」
漆黒の仮面を付け、右腕を魔物のように異形化させた、女剣士の姿だった。

871名無しさん:2021/05/29(土) 21:27:32 ID:???
今から十と五年と、少し前。
その赤ん坊は、トーメントから北方に位置する極寒の町ガラドで、この世に生を受けた。
燃えるような赤い瞳と、赤い髪が特徴的な、可愛らしい女の子だったという。

白い雪と氷に閉ざされたこの地方において、赤い色は暖かさ、幸福の象徴とされている。
エミリアと名付けられたその赤ん坊も、暖かい幸福に包まれ、健やかに育てられる……はずであった。
だが……


ゴォォォォ……パチパチッ!

「火事だぁぁあああああっ!!」
「エミリアが!まだ、中に子供がっ!!」

………エミリアが2歳の時、不幸な事故により母親はこの世を去った。
そして、エミリアが極めて強い、強すぎる魔力をその身に宿していることも明らかになる。

以来。父親は酒に溺れろくに働かなくなり、生き残った娘の事を露骨に避け始める。
ほどなくして、エミリアは近くの山村で暮らしていた祖父に引き取られ、育てられる事になった。

祖父は優しく、時に厳しく、深い愛情をもってエミリアに接した。
エミリアも、祖父の事が大好きだった。

彼はエミリアに、多くの事を教えた。
家事や生活にまつわる様々な事、言葉や文字の読み書き、山や自然にまつわる知識。
そして、強すぎる力の扱い方も。

「エミリア……お前の『力』は、お前の大切な人を守るための物。
だから、決して力を無暗にひけらかしたり、自分のために誰かを傷つけるような事をしてはいけないよ」
「うん、お爺ちゃん。……私、約束する」

「私の大切な人は、お爺ちゃんと、天国のお母さんと……今もガラドにいるはずの、お父さん」
そう嬉しそうに語るエミリアの笑顔を、祖父は優しい眼差しで見つめながらも、少し心を曇らせる。

エミリアの父親、祖父にとっては娘の婿であるその男は、
自分の所にエミリアを預けて以来、娘に顔を見せに来たことは一度も無い。
噂では以前にもまして酒や博打に溺れるようになり、借金まで抱えているという。

祖父もまた、最愛の娘を失った身。気持ちは判らなくもない……
だがこのままではエミリアの為にならないと、男の住居を訪ねては説得した。怒鳴りつけた事も一度や二度ではない。
だが男の態度が改まる事はなく、ついには住居を引き払い、行方をくらませてしまった。

(優しい子じゃの……あんな男でも、エミリアにはかけがえない父親、ということか)

神話や伝説に語られるレベルの超魔力など、平和な村で静かに暮らすには、無用の長物に過ぎない。
エミリアは祖父の言いつけを守り、魔力を制御する術を身に着け、普通の少女として幼少期を過ごした。
生まれつき真っ赤だった髪の色は、いつしか海を思わせる青い色へと変わっていた。

872名無しさん:2021/05/29(土) 21:29:41 ID:???
(お爺ちゃん……あのお姉さんたちは、悪いひとなの?)

……月日が流れ、8歳になったエミリアの家に、ある人物が訪ねてきた。
一人はきっちりとスーツを着こなした大人の女性、もう一人は、ブレザーを着た15〜6歳くらいの少女。

祖父はスーツの女性と大切な話をするから、とエミリアに外で遊んでくるよう言いつけ、
エミリアは、もう一人の少女に遊び相手になってもらった。

小さな村を一回りしたり、まだ夏になる前の川に入って冷たい水を掛け合ったり、
とっておきの場所にある秘密のお花畑に案内したり……
エミリアは初めて会った名前も知らないその少女と、無邪気に笑いあって楽しいひと時を過ごした。

夕方、家路につくと、祖父たちの話も一区切りついたようで、スーツの女性は「また来ます」と言い残し帰って行った。

「お姉ちゃん、またね」
「うん。……またね、エミリアちゃん」

ブレザーを泥だらけにした少女も、スーツの女性と一緒に、ホウキにまたがって飛び去って行った。

……だが家に入り、祖父は暗く沈んだ表情をしているのを見て、楽しかった気持ちは一瞬で吹き飛んでしまう。

「お爺ちゃん……あのお姉さんたちは、悪いひとなの?」
「そんな事はないよ……あの人たちはとても良い人たちだ。何も心配することはない……」

……後になってから、彼女たちは魔法王国ルミナスの魔法少女だった事を知る。
エミリアをスカウトするためにやってきた事も、容易に想像がついた。

(あの子は……とてつもなく強い力を持って生まれてきた。
出来るなら、このままあの子には普通の生活を送らせてあげたかった。

だが強い力は、強い運命…過酷な運命をも呼びよせる。それが避けられない事なのだとしたら……
せめて貴女の言うように、運命に呑まれぬよう、正しい使い方を身に着けるべきなのでしょう。
ですが………せめてもう少しだけ、この老人のわがままを……許していただけませんか)

(お気持ちは、よくわかります……最大限、貴方のお気持ちは尊重しましょう)
(感謝します……私に残された時間は、もう長くない。その時はエミリアの事、くれぐれもお願いします)

「……さあ、そろそろ夕ご飯の時間だ。急いで準備をせんとな……エミリア、手伝ってくれるか」
「うん、お爺ちゃん!」
そう言ってエミリアの頭を撫でた祖父は、いつもの優しい笑顔に戻っていた。

「また来る」と言っていたスーツの女性、一緒に遊んだライトグリーンの髪の少女……
だがエミリアが、後に彼女たちと再会する事はなかった。

873名無しさん:2021/05/29(土) 21:32:13 ID:???
更に2年後。

「お爺ちゃん、死んじゃいやだよ……!!お爺ちゃんがいなくなったら、私……!!」

「エミリアや……よくお聞き。
お前の力は、正しい使い方をすれば、きっとたくさんの人を幸せにすることが出来る。
これからは、たくさんの人と出会って、大切なものをたくさん見つけて、
いざというとき、それらを守れるように……」

「お爺ちゃん……いやああああああぁぁぁ!!」

……エミリアの祖父は、息を引き取った。
村の人たちによってささやかな葬儀が行われた後、エミリアは祖父の家に、一人ぼっちになった。

(最期にお爺ちゃんは言ってた……たくさんの人と出会って、大切な物を見つけて………
でも、どうすれば……)

あまり多くない祖父の遺品の整理を終え、途方に暮れるエミリア。
だがそんな彼女の前に現れたのは、祖父が期待していたのとは異なる人物だった。

「エミリア………ひっひ………大きくなったなぁ」
「!……お父、さん……?」

長い間行方をくらませていた父親。
共に過ごした記憶もほとんどなかった。にも関わらず、エミリアにはすぐにその男が実の父だと確信できた。
父親は、ローブを着た数人の男達と一緒だった。

「どうして……その人たちは、一体……?」
「お前を、迎えに来たんだ……この人たちは……お前の新しい仲間、家族だ」
「その通り。我々は、ガラド解放同盟……歓迎しますよ、同志エミリア」
「どうし……?」

「我々は、ガラドの街をトーメントの支配から解放するため」
「悪の王国トーメントから、我々の大切な故郷を守るために戦っています」
「ガラドの地に生れた貴女も、我々と志を同じくする『同志』」
「貴女の『力』が必要なのです。協力してもらえますね?」

「え………えっと、その………」
「怖がらなくていいんだよ、エミリア……一緒にガラドに帰ろう。これからはお父さんとずっと一緒だ。
それとも……こんな山奥の村で、ずっと一人ぼっちで暮らすつもりかい?……ひひっ」

祖父を失ったばかりの幼いエミリアが、父親と知らない大人に取り囲まれて、毅然とした判断を下せるはずもない。
これからずっと「一人ぼっち」で過ごすことになったら、と想像すると怖くて仕方がなかった。

こうしてエミリアは、言われるがままに「ガラド解放同盟」なる武装組織の戦闘員となる。
トーメント王国を震え上がらせた最凶の魔術師「爆炎のスカーレット」の誕生であった。

だがそれでも、エミリアの孤独は癒される事はなかった。

「ずっと一緒だ」と約束してくれた父親は、ガラド解放同盟から「用済み」と判断され、
その後まもなく「借金の形に娘を売り渡したクズ」に相応しい末路を辿ったという。

874名無しさん:2021/05/29(土) 21:35:53 ID:???
それから更に5年が経ち……

「爆炎のスカーレット」ことエミリアの名はトーメント王国、いや大陸中に轟き、
ガラドの街はエミリアが生まれた頃とは比べ物にならない程、急速な発達を遂げた。

エミリアは「トーメント王国の軍勢を魔法で焼き尽くすだけの簡単なお仕事」に従事し、
大切な生まれ故郷の街を守ることで、日々の生活を賄うには十分すぎるほどの「報酬」を得ていた。

その間、魔法王国ルミナスからの使者が街を訪れ、子供を攫い不当に労働させている事について抗議を申し入れていたが、
ガラドの外交官に冷たくあしらわれ、エミリアに直接会う事さえ叶わずにいた事を、エミリア本人は知らない。

「また『点数』がふえてる……この分だと、今年中には9桁突破しそうだね〜」
敵の軍勢を消し炭に変え、その合間に街の食堂で食事をとり、買い物をして、ついでに振り込まれた報酬の額を確認する。

いつもいつも変わらないルーチンワークの中で数少ない「変化」は、
天井知らずに増え続ける通帳に書かれた数字と……

「このワサビチョコ、なかなか強烈……ハバネロチョコも最高だし、最近のグロルチョコはアタリが多いなぁ」
過激化の一途をたどる、コンビニお菓子の新製品。

(これが……お爺ちゃんが言ってた、大切なものを守る、って事なのかな……)
「……あ、れ?………ワサビで……目が……」

「いったあぁあーーーーい!!!あー!血が出てるうう!アイナの小さく整った美しい手に…汚い血が…醜い血が…!」

その時。
虚空を見つめ、立ち尽くしているエミリアの耳に、甲高い悲鳴が飛び込んできた。

「あ……あれは」
見慣れない二人連れの少女、そのうちの一人が派手にすっ転んで大声で泣き叫んでいた。
転んだ一人は派手なピンク色の髪にピンク色の服の少女、もう一人は金髪と美しい碧眼の、黒い服を着た少女。
年はエミリアと同じか、やや下くらいだろうか………

「たいへん……!」
反射的に、エミリアは二人の元へと駆けだしていた。

「キミ大丈夫!?派手に転んでたけど…うわ!こんなに血が出てる!」

二人組の少女、アイナとリザとの出会いは、エミリアを更なる混沌の運命へと巻き込んでいった。
それと同時に、エミリアは少しずつ、自身の持つ力と過酷な運命に抗い、己の意志で道を選ぶ術を学んでいく事になる。

彼女の祖父が最期に望んだ形とは、やや違っていたのかも知れないが……

875名無しさん:2021/05/31(月) 00:59:21 ID:???
────そして、現在。

「げほっ!! ごぼっ!! がは……!!」
エミリアは水で作られた巨大な蛇に呑み込まれ、重傷を負った傷口から血を絞り出され、半ば意識を失っていた。
いわゆる走馬灯というやつか、幼い日の思い出やガラドでの暮らしなどが唐突に脳裏をよぎる。

(くる、しい……わたし、このまま溺れて……死んじゃう、の……?)
魔法で脱出しようにも、周囲はASMR…魔法や特殊能力を封じる特殊な雨水の塊。
エミリアの超魔力さえも押さえ込まれてしまっている。

「が、はっ……」
(だ、め……まだ、終われ……な……………)
チアノーゼ……長時間呼吸が阻害されたことで血中の二酸化炭素濃度が上昇し、身体が痙攣し始めた。
人が溺れて死に至るまでにはいくつかの段階が存在するが、意識を失う前のこの状態が最も苦しいとされている。

「おっと……まだ楽になるのは早いぜ。もう少し楽しませてくれよ」
そしてDの水責めは、この苦しい状態が最も長く続くよう調整されているのだ。

エミリアが意識を失いかけると、水蛇は体内の獲物を少しだけ呼吸させるため、小さな空気の泡が生み出す。
泡はゆっくりと水中を漂い、エミリアの口元へ向かう。

「…っ……!!」
だが、その時。エミリアの右手がわずかに動き、小さな気泡を指先で捕まえると……

……ズドォォォンッ!!
「うっぐぁっ!?」
凄まじい爆音と共に、水蛇が一瞬にして弾け飛んだ!!

「…………。」
「う、ぐっ……今…一体何が起きた……!?」

ほんの一瞬だけ、エミリアの指先が気泡に触れたことで、水の呪縛から解き放たれた。
その瞬間、無詠唱で攻撃魔法、ファイアボルトを発動。
初歩の火属性魔法だが、エミリアの魔力を以てすれば、触れていた水蛇を水蒸気爆発で一瞬にして吹き飛ばすほどの威力となる。

「これが、『爆炎のスカーレット』……噂通り、飛んでもねえバケモンだぜ。
だが残念だったな……水蛇を吹き飛ばしたところで、俺のASMRは………」

無傷とはいかないが、運良く直撃を避けたD。
再び水蛇を作り出し、エミリアを呑み込もうとする、が。

「そうは行かないっ!!」
「く!……真面目君、思ったより早かったじゃねえか……!」
水人形達を振り切ったカイトが、Dに接近し斬りかかる。
特殊能力抜きでも剣の腕前は確からしく、エミリアの爆発で負傷した今は分が悪い相手だった。

「こりゃそろそろ、潮時みてーだな……あばよ!」
「待てっ!逃げるか!」
「待てと言われて待つ馬鹿いるか、ってね。せいぜいエミリアちゃんと仲良くやんな、真面目君!」
「………くそっ」

Dは水を操って霧を発生させ、一目散に逃げていく。
追いかけたくてもエミリアを置いては行けず、カイトは逃げるDを黙って見送った。

(敵を逃がしたのはまずかったな。増援を呼ばれる前にここを離れないと……)
「エミリアさん……大丈夫ですか、しっかり……!」

あれだけ激しく降っていた雨はあっという間に止んだ。
いつの間にか空は茜色に染まり、夕闇が迫ろうとしている。

「エミリアさん!エミリアさんっ!?………これは……まずいな……」
「…………。」

呼びかけても、エミリアの意識が戻らない。顔色は青白く、呼吸も止まっている……
カイトも軍人のはしくれ、当然こういう時の処置方法は心得ている、のだが……

876名無しさん:2021/05/31(月) 01:06:27 ID:???
……それから、しばらく後。

「……あ、あれ……………わたし……………?」
エミリアは、かろうじて意識を取り戻した。

「エミリアさん。気が付いたんですね。よかった」
「……カイト君……」
体がぽかぽかと暖かい。いつの間にか掛けられていた毛布と、すぐ傍で赤々と燃えている焚火のお陰だろう。

徐々に意識がはっきりしてくると、気を失う前の状況が思い出されてきて、
溺れた自分をカイトが介抱し、敵が来ないよう見張っていてくれていた事を理解する。

「カイト君が、助けてくれたんだね……ありがとう」
「い、い、いいい、いえ、いいんです、この位。むしろ、その……申し訳ない、と言いますか……」
「……え?申し訳ないって?」
感謝の言葉を伝えるエミリアだったが、どういうわけかカイトはしどろもどろになる。

「実は、その……助けるために、ですね。
なんというかその……人工呼吸と、心肺蘇生……
それにあと、体が濡れて体温が下がっていたので………………着替え、を………」

「……ああ、なるほど。……色々ありがとう。
カイト君女の子苦手なのに、ごめんね……嫌じゃなかった?」
「いいいい、いえ!そんな、嫌だなんて!!
僕の方こそ、やむを得ないとはいえ、色々と。その……嫌じゃなかった、ですか?」

「え?…………あ……」
………少し間をおいて、意識がさらにはっきりしてくるにつれて、
カイトが行ってくれた「処置」のアレコレについて改めて意識してしまう。

毛布の中でごそごそと手を動かし、体の状態や、今着ている服を確認するエミリア。
魔法を封じられて開いていた傷口は、どうやらまた塞がったようだ。
服は、生地の感触からすると、自分が持っていた着替えではなく……
おそらく男物の、カイトのシャツ。下着も……

「いや、で、でもほら、気絶してたし……?
 そ、そんな、ぜんぜん……………嫌じゃ、……なかった、…よ…?」
(人工呼吸……って、アレをアレするやつだよね。心肺蘇生って、いわゆる心臓マッサージ?
そういえばなんか、気絶してるときに、そういう感じがしたような、しなかったような……
……ななな、なんか改めて考えると、すっごいドキドキする……!!)

「そ……そう、ですか……なら、ほんと、いいんですけど……」
(めっちゃめちゃ柔らかかった……やばい、思い出してきた……か、顔に出しちゃダメだ!)

「そ、そうだ、あの、まだ無理せず、休んでた方が良いです、僕見張ってるんで!」
「え?あ、そ、そうだね!じゃ、じゃあ、もう少し、寝ようかな!」

意識しだした途端、カイトの顔をまともに見られなくなったエミリア。
絶対寝られるわけない、と思いつつも、ガバっと毛布をかぶった、その数秒後。

ぐぅぅぅぅぅぅ………

………いびき、ではないく、お腹の鳴く音。

落ち着いて考えてみたら、慌ただしく出発したせいで、エミリアは朝から何も食べていなかった。

「あ…………」
「……はは……」
「………先に、食事にしましょうか。簡易レーションと、スープ位ならすぐできますよ」
「うん……ありがとう、カイト君。何から何まで」

二人とも一気に緊張がほぐれたのか、互いに視線をかわしくすりと笑い合う。

「実は私も……お爺ちゃん以外の男の人って、ちょっと苦手だったんだ。
でもカイト君は……本当に、すごく、いい人だなって思う……だから……これから、よろしくね。
私も、もう足手まといにならないように、がんばるよ」

「こちらこそ……今回は僕がエミリアさんの側にいなかったせいでもありますし。
……もう、あんな事にならないよう……僕も頑張ります」
カイトはエミリアの傍に座って、スープの入ったマグカップを手渡す。
スープを口に運びながら、エミリアは穏やかな気持ちで焚火の火を見つめていた。

(たくさんの人と出会って、大切なものを見つける)
(『力』はいざという時、大切な人を守るために……)
(お爺ちゃんが言ってたのは……きっと、こういう事なんだ)
心の奥でずっと凍り付いていた何かが、ゆっくりと溶けていくのを感じながら。

877>>869から:2021/06/06(日) 18:05:32 ID:???
(あぁぁぁぁ……おぢんぽしゃぶるの、すっごいきもちぃぃいい……
あたし、ずっとこれが、ほしかったのおぉぉぉ……これ、さえ、あれば……)

生きたまま体をバラバラにされ、分割したパーツそれぞれを下衆な魔物に好き放題に犯される。

叛逆の首謀者ラミアに無理矢理はやされたペニスをしごきまくられ、
大量の特濃ザーメンと共に、理性や人格を最後の一滴まで搾り取られる。

もはや誇り高き魔獣使いの末裔「スネグア・『ミストレス』・シモンズ」の面影は、微塵も残っていなかった。

(そう……あたひ、おちんちん、ほしかった………おとこのこに、なりたかった……どうして、だったっけ……)

シモンズ家の紋章が刻まれたクラバット・ピンが落ちて地面に転がった。
ラミアとスネグアが無意識にそこへ視線を向ける。
その時、深紅の宝石はまばゆい光を放ち始めた!

「?………あらぁ?スネグアちゃん、これは一体……」

異変を察知したラミア。だが、宝石はそれ以上の変化を見せず、スネグアも問いかけに答えるだけの人格は残っていない。

「もう答えられない、か……でも、問題ないわ。
この大量のザーメンには、スネグアちゃんの記憶や知識が封じられている………つまり」

ラミアはスネグアの吐き出した精液を指で掬って舐め取った。
たちまち、頭の中に、スネグアのかすかな記憶が入り込んでくる……!!

『一体……どうなっている!妻だけでない。妾や使用人やら合わせて、
50人以上もの赤子を孕ませたというのに………こうも女しか産まれないとは!』

『代々男子によってのみ受け継がれてきた家督……遺憾だが、止むをえまい。』

『だが忘れるな!お前は所詮、真の世継ぎが生まれるまでの代理……
シモンズの守護獣『ベヒーモス』も、女のお前を、決して認めはしない………』

「………ふうん。なるほど……
スネグアちゃんは家を継ぐために、ずっと男の子として育てられてきた。
でも本当の男の子じゃないから、『守護獣』とかいうすっごい魔獣は使えなかった……
そして……アタシがおちんぽを生やしてあげた事で、召喚する資格を得た、って事ね……クスクス」

(!………そう……だ……わた、しは………誇り高き、魔獣使いの……)
「はぁっ………はぁっ……守護獣『ベヒーモス』…わが、呼び声に…答え、よ……」

「本当に……クックックック…皮肉な話だわ。
長い間ずっと、欲しくてたまらなかったモノが、ようやく手に入ったって言うのに……!!」

スネグアの瞳に、消えていたはずの意志の光が再び灯る。
ほんのわずかに残っていた意地とプライドを総動員し、理性を必死にかき集め……守護獣に呼びかける。
ブローチはひときわまばゆい輝きを放ち、そして………

878名無しさん:2021/06/06(日) 18:09:29 ID:???
「!?………ど……う……して……」

………それだけだった。
最強の力を持つと伝えられる守護獣が現れる様子はない。

「キャハハハハハハハ!!! あったり前じゃない!!
言ったでしょ?理性や人格を精液として出しちゃったら、もう2度と元には戻らない、って。
今のアナタはもう、魔獣使いの貴族様なんかじゃない、ただのおチンポ生えた肉人形でしかないのよ!」
「ひゃぐぅんっ!?」
ラミアはスネグアのペニスを奪い取ると、トゲだらけの手で力いっぱい握りつぶす。
スネグアの最後の力、最後の理性、最後の希望が、精液となって弾け飛んでいく。

「スネグアちゃん……その宝石が反応してるのは、貴女にじゃないわ。
魔獣使いの遺伝子を取り込み、一族に伝わる魔獣使いの鞭を手に入れ、
貴女より遥かに立派な『オス』のシンボルを持つものが……ここに一人、いる」

様々な魔物の死体をつなぎ合わせたゾンビキメラであるラミアの股間にも、
凶悪なイボイボのついた異形のペニスがそそり立っていた。

「そ、ん………なぁ……う、そ……」
「さあ、いらっしゃい……アタシのカワイイ下僕……ベヒーモスちゃん」

ラミアの足元に、途方もなく巨大な魔方陣が浮かび上がる。
「グロロロロロロォォォォオ………」

「フフフ……長い間出てこられなくて、お腹がすいてるでしょう。
このブツ切り肉人形ちゃんのカラダを召し上がれ♥」

「……グロォォォォッ!!!」
「い……や……やめ、て……たす……」

地の底から鳴り響くような唸り声とともに、魔法陣から巨大な獣の手が現れる。
人格も理性も完全に失われたはずのスネグアさえも、恐怖と絶望に泣き叫ぶ程の威容。

スネグアにはもう、何も残っていなかった。
襲い掛かる魔獣を従える力も、逃げ出すための足も。

(ゴリュッ)(ブチブチブチ)(グチャッ!!)
「…ああああああああぁぁっ!!!」

為す術なく巨大な手に捕まれ、魔法陣の中へ引きずり込まれる。
断末魔の叫び、骨や肉が砕け千切れる音………やがて、静寂。
少し離れた場所で他の魔物達に弄ばれていた手足も、ビクリビクリと痙攣して完全に動かなくなった。

「グギッ?……動かなくなっちまったぞ」
「ケッ!つまらねえ。もっとエサはねえのかよ!!」

「フフフ……そんな物より、もっと新鮮な獲物を探しに行きましょ♥
まずは、スネグアちゃんが連れて来てたおチビちゃんたち。
それから戦場に出れば、いろんな餌がより取り見取りの早い者勝ち♥♥」

「「「ウォォォォォ!!」」」
「さっすがー!!」
「ラミア様は話が分かるっ!!」

「クックック……ここからは魔物の流儀でいかせてもらうわ。さあ、パーティの始まりよぉ……!!」

魔物達の主人となり、最強の守護獣をも手に入れたラミアが、戦場を混沌に染め上げるべく新たな号令を下した。

879名無しさん:2021/06/06(日) 22:19:50 ID:???
唯達のいるナルビア軍の前線基地より更に後方、
旧研究都市アルガスに設置された、ナルビア軍の総司令部にて。

「くそっ……まだ前線基地と連絡は付かんのか!?」
「シックス・デイは一体何をやっている!!」

シックス・デイが出払っている間に、謎の二人組に前線基地が襲撃された……
という報告を受けたものの、その後の動向が全く掴めず、混乱に陥っていた。

「……こちら総司令部。アレイ前線基地。直ちに状況を報告してください」
「アリス、エリス。レイナ。ダイさん……応答願います!!」

観測員であるリンネも、前線基地、そして出動中のシックスデイ達に応答を呼びかけている。

(……ザザザザ……)
「こちら…アリス・オルコット……アレイ前線基地に帰還。基地を襲撃した敵を発見……」
「了解。アレイ前線基地は今回の戦いの要だ。なんとしても死守してくれ」
「わかっています(ザザ……)この身に代えても(ザザザ)」

しばらくして、アリスから連絡が入る。
やや通信に障害があるが、基地に帰還できたなら問題ないだろう。

「おう、やっとつながった……すまん、侵入者の二人組に逃げられちまった。
それに……魔物どもの動きが、急におかしくなったみたいだ。
敵味方の区別なく、女や金目の物狙いで手あたり次第襲ってやがる……おかげで俺はスルーされてるが」

「了解……今は前線基地の防衛を優先してください。既にアリスが戻っているから大丈夫と思いますが」
「オーケー。急いで戻る」

続いて、Dからも報告が入った。
魔物の動きは確かに気になるが……今は防御を固めるのが優先だ。

エリスやレイナとは一向に連絡がつかない。
周囲のお偉方の苛立ちが募っていく中、リンネは一人別な事を考えていた。

(………あの人は……無事に逃げられただろうか)

リンネは最早、ナルビアの事などどうでもよかった。
自分にとって『かつて』最も大切だった存在を失った…否、自らの手で消し去ってしまった。
今はその罪悪感に苛まれながら、こうして無意味に仕事をこなし、
その合間に、大切だった存在の「残骸」の相手をさせられる日々。

いっそ「残骸」すら綺麗さっぱり捨て去って、どことも知れぬ新天地を目指すか。
今の『大切な存在』と、手を取り合って……

リンネも出来る事ならそうしたかったが、いざ実行するとなると、やはりそれは不可能に近かった。
少しでも誤れば、その『大切な』相手を致命的な危険にさらす事になる。
そうなる位なら……
(サキさんは怒るかもしれないけど……やっぱり僕は……)

慌ただしく動く指令室にあって、淡々と、自らの仕事をこなし続けるリンネ。
その様子を、入口の陰から遠巻きに見つめる人影があった。

「………リンネ……」
白い髪、白を基調とした軍服の少女、メサイア……
ナルビアの科学技術を結集して造られた、最終兵器ともいえる存在。
一見普通の少女にしか見えないが、シックス・デイ全員を遥かに凌ぐ力を秘めている。

(……あの人は……何者だろうか。
私に、いつも優しくしてくれる……それなのに、いつも悲しそうな顔をしていて……
今は何か、別の事を考えてるように見える……)

その正体は、かつてリンネと常に一緒にいた少女、ヒルダだった。
遺伝子配合で産まれた試験管ベビー1000号。
だがメサイアとして覚醒した時ヒルダとしての記憶が失われたため、
メサイアにとって、リンネはほとんど面識のない存在。そのはずだった。

(………どうして、私は……あの人物を、こんなに気にしている……?)
リンネと会う機会はそれほど多くはない。
だが彼は自分の事を恐れず、優しく、自分の拙い言語機能での会話をきちんと聞いてくれる。
それなのに、全くと言っていいほど自分の感情をださず、どこかで一線引いて、距離を置いているように思える……

(私が戦って、敵を殲滅したら……少しでも、あの人の負担を減らすことが出来る……?)
いつしかメサイアは、そんなリンネに興味を持ち、出来る事なら手助けしたい、と思うようになっていた。

だがメサイアが戦場に出るには、軍上層部の承認が必要。
他国に対して機密を保つため、今回の戦いで表舞台に出される事はない。

「ふふふふ………お困りのようね」
……そんなメサイアに、怪しい影が忍び寄る。

「もし望むなら、貴女が出撃できるようにしてあげてもいいわよ……私の指揮下で動いてもらうのが条件だけどね」

ミシェル・モントゥブラン……
とある事情でトーメント王国を追放され、とある人物により非公式に匿われている女科学者。

既にアリス達シックス・デイを利用し、掌の上で転がしている彼女が、
『本命』のターゲットであるメサイアにもその魔手を伸ばし始めた。

880>>870から:2021/06/06(日) 22:34:34 ID:???
「……その右腕は……桜子さん!?」
「…………」

……女性らしいプロポーションの体と明らかに不釣り合いな、大剣と一体化した異形の右腕。
あんな腕をしている者は、唯の知る限り一人しかいない。

「まさか、イヴちゃんっ…!?どうしてこんな所に!?」
「え?……知り合いなの、唯、サクラ!?」

一方、剣士と一緒にいた魔法少女の姿を見て、サクラが声を上げる。
同じルミナスの魔法少女だからか、サクラもイヴの事を知っていたようだ。


「イヴ。これ以上の増援が来る前に、メインシステムを破壊するぞ。基地機能を完全に停止させる」
「……わかりました、桜子さん」
「!………ま、待ってください、桜子さんっ!なんでこんな事を!」

「それ以上近づくな……今の私の右腕は、自分の意志では制御しきれない……」
「一体何があったんですか……!それに、スバルちゃんは……まさか……!」

一方の桜子も、唯に気付いて動揺している様子を見せていた。
少なくとも、洗脳などで意思が奪われている様子はない。


「こちら…アリス・オルコット……アレイ前線基地に帰還。基地を襲撃した敵を発見……」
「わかっています……はぁ……はぁ………この身に代えても………っう、ぐ……」

半壊した通信機で、なんとか総司令部に連絡を取るアリス。
桜子の正体に気付き、手を出せずにいる唯を押しのけ、敵の前に一歩進み出る。

「アリスさん!?……下がってください!貴女は戦える状態じゃ…」
「いいえ……この前線基地は、我が第3機動部隊師団が防衛を任された、この戦いの最重要拠点………
絶対に守り抜かなければなりません」

「その通り。いかに秘密主義のナルビア軍といえど、ここを落とされれば……
温存している『切り札』を使わざるをえまい」

「なるほど。やはり、あなた方の狙いは『メサイア』ですか……
ならばなおの事、あなた方の好き勝手にはさせないっ!!」
「っ……来るな……私の右腕が、抑えきれな……うああああああぁあっ!!」

桜子本人に戦う意思が薄くても、本人が言う通り、右腕は近づくものに容赦なく襲い掛かる。
強化スーツも魔法針も使えない、満身創痍のアリスが挑むのは……誰の目から見ても、無謀でしかない。

「あ、危ないっ……!!」
「GRRRRRR……!!!」
ブオンッ!!

桜子の異形の右腕が更に巨大に膨れ上がり、アリスめがけて横薙ぎに振るわれた……。

881>>839から:2021/06/07(月) 01:50:37 ID:???
「……あっぐ!?」

「ユキ!?どうしたの!?」

「あ、た、まが……!緊急帰還、コードが……!」

戦場を逃げるサキ、ユキ、舞の三人。洗脳が溶けていないユキは、サキがピンチになった時に手を出させずに『楽しむ』為に舞の体に密かに手を這わせていたのだが……突然ユキが苦しみだした。
スネグアはサキたちをナルビア勢をおびき寄せるデコイにするためにユキの身柄を明け渡したが、当然可能ならばユキだけでも帰還するように手を打っていた。
それが緊急帰還コードである。スネグアを制圧した魔物兵たちが適当に押したスイッチにより、機械化されたユキの体内を電気信号が駆け巡り、スネグアのいる天幕へ戻らなければならないという強迫観念に囚われる。


「帰ら、なきゃ……帰って……スネグア様に……体を……捧げ……」

教授がガチで改造していたらすぐにでも戻っていただろうが、スネグアが楽しむ用で自分に得がないということで緊急帰還コードの効力がやや弱めだった。
むしろヤンデレロリって最高じゃね?とサキへの執心が滅茶苦茶強くなっていたので、ユキは頭を抱えてブツブツ呟きながらも無理に戻ろうとする様子はない。

「ユキ!」

ユキを背負っていた舞から妹を預かったサキは、ブルブルと震えているユキを抱きしめて落ち着かせる。

つい先ほどまでユキに弄ばれていて体が火照っていた舞の様子には気づいていないようだが、それでいいと舞は安堵の溜息を吐く。

(スネグアの身に何かあったのか、単に玩具として呼び戻しただけか……ユキ様の状態が落ち着いてくれないと、正直危うい)

ユキが舞を責めていたのは舞の戦闘能力を奪ってサキのピンチを楽しんでから自分の手で救う為という迂遠極まりない目的だ。そして舞の体の疼きを強めて戦闘能力を奪うことには成功している。
そこまでは成功した上でユキに異変が訪れたというのがまずい。

戦うつもりだったユキは戦闘不能となると、サキを守る為には自分が疼きを押して戦うしかない。



そう決意した直後……舞の体が今まで以上にドクンと疼き、先日ラミアゾンビにされた凌辱がフラッシュバックする。

『じ、つ、はー、隠してこーんなものも持ってるのよねぇ』

『なっ、それは……ふむぅっ!?うっ、ぐぅぅっ!!』

『これは今はただの精液だけど、私が上手いこと力を手に入れたら体内で暴れだすわぁ……スネグアが様子を見に来る前に、さっさと飲みなさい!』

『ぐぐぅ、ぷぉっ……んむむぅうううううううう!!!!?』

直後、今まで必死に抑えていた疼きが一気に爆発的に頂点に達すると同時に、舞の体は考えるよりも先に動き……ユキを介抱するのに必死なサキを、後ろから抱きしめていた。

882>>880から:2021/06/18(金) 23:20:49 ID:???
「……危ないっ!!」

桜子の異形の右腕が、アリスに襲い掛かった。
だが唯が素早く割って入り、巨大な剣を手甲で受け止める!

バキッ!!……ガキィィンンッ!!
「くっ……きゃああぁっ!!」
「あぐっ!!」

剣と呼ぶにはあまりにも巨大な「まさに鉄塊」の薙ぎ払いを、唯は合気道の技法を駆使してなんとか逸らした。
だが、シーヴァリア滞在中に買った店売り最強の篭手「ガントレット」が破壊され、唯の体は後方に吹き飛ばされる。
唯は後方にいたアリスを巻き込み、覆いかぶさるように倒れた。

「くっ……やめろ……沈まれ、私の右腕っ!!」
「グロロロロォォォッ!!」
「えっ……!?」

かつての仲間を攻撃してしまい、悲痛な声を上げる桜子。
だが異形の右腕は、極上の獲物を前に歓喜の雄たけびをあげた。
大剣の刃が、唯の頭上に高々と振り上げられ……

「あ……や、ば」

ブオンッ!!

「唯ぃいっ!!」」

手甲を破壊された唯に、二撃目を防ぐ術はない。
無情にも死の刃が振り下ろされた。その時……

……ガキンッ!!

「エルマちゃん……!」
「ったく……みんな揃いも揃って、何も考えずに突っ込み過ぎだっての!!」

絶体絶命の窮地に、今度はエルマが割って入る。
強化装甲とブレードで異形の大剣を受け止めるが、圧倒的質量で押さえつけられ身動きが取れなくなってしまった。

「ご、ごめんっ……」
「ん、っっぐ………いいから、さっさと下がって……!!」

「……グルルルルッ!!」
「え……今度は、何……?」
数百キロはあろうかという巨大な鉄塊つきの塊を、支えるだけで精いっぱいのエルマ。
だが異形の腕は不気味な唸り声をあげ、更なる変異を始める。

大剣の長大な刃は鋸のように波打つ形に変わっていき……

………ギュイィィィィィインンンッ!!

チェーンソーのように動き出す!!

「ちょ、まっ……」

バキンッ!!ガキガキガキッ!!

普通の大剣を防ぐだけなら、電磁ブレードの強度と強化装甲のパワーで数分は耐えられる計算だった。
だが、この変形はエルマにとって完全に想定外。
エルマの頭脳とナルビアの技術によって作られた強化装甲といえど、凶悪な回転刃の前ではひとたまりもない。
電磁ブレードが激しい火花を散らしてへし折れ、右肩の装甲がいとも簡単に砕かれ……

ギュオオオオオオン!!ズババババババブシュッ!!

「きゃあああああああぁぁぁ!!」
「エルマちゃん!!」
「エルマーーーッ!!」

883名無しさん:2021/06/18(金) 23:27:02 ID:???
大量の鮮血が辺りに飛び散り、思わず目を向けたくなるような凄惨な光景が繰り広げられる。
突然の事態に、絶叫する唯とオト。悲鳴を上げるエルマだったが……

(っぐ………あ、あれ……?
お、思ったより痛くない……いやもちろん滅茶苦茶痛いけど、思ったよりは……
これは、一体………?)

回転刃は、エルマの肩口から袈裟斬りに、胴体を一刀両断……する事はなかった。
魔物の腕が手加減している様子はない。
にもかかわらず、まるで何かに守られているかのように、
巨大チェーンソーはエルマの右肩に少し食い込んだだけでそれ以上動く事はなかった。

「うっぐ……エル、マ……!」
「オト……!?……あんた一体何を……」
苦痛にあえぎながらもエルマが周囲を見渡すと、同じように右肩を抑えて苦痛に呻くオトの姿が目に入った。

何が起きたか、オトが何をしたのかはわからないし、今は問い詰める余裕もない。

「グルルルルッ……!?」
ギュイイイイイインッ!!

「っぐああああああああ!?ゆ、いっ……あああああああ!!」
「エルマちゃんっ!!」

……何らかの術で軽減されているのだとして、それでも気を抜けばショック死しかねない程の激痛が絶え間なく襲い来る。
エルマはたまらず膝を屈し、巨大チェーンソーの刃はゆっくりと、エルマの身体に食い込んでいく。

「止めなきゃっ……柔来拳、大地の型……このおっ!!」
ガコンッ!!

異形の腕に攻撃を加える唯。
だが、いかに唯が技を駆使しようとも、異形の右腕を素手で破壊する事は難しい。

ガキッ!!ブシュッ!!みしっ!!
「………!!」
魔力を込めているとはいえ、拳を守る小手が破壊された今の唯では、
素手で殴っても逆に自分の拳を痛めるだけだ。
そして異形の腕には、人間用の関節技も通用しない。

……ギュルルルルルルッ!!
ズブブブブブッ!!
「っぐ、ううううっ……あああああ!!」
(早くなんとかしないと、エルマちゃんが……!!)

有効打が与えられないまま、刻一刻と時間が過ぎていく……
時間にして十数秒に過ぎないが、唯にとっては何十分、何時間にも感じられた。
異形の刃が唸りを上げ、エルマの悲鳴が響きわたり、更なる鮮血が飛び散る。
唯の心に焦りが募りだした、その時………

「くっ……サンダーブレードッ!!」
「……グギャァァアアアアアアアアア!!!」
「…………っ!!」

桜子が左手で剣を抜き放ち、雷魔法を纏わせ、己の右腕に突き立てる。
異形の右腕は激しい電撃に悲鳴を上げ、エルマを切り刻む回転刃の動きはようやく止まった。

884名無しさん:2021/06/19(土) 22:22:15 ID:???
「イヴちゃん……どうしてこんな所に……!?」
「あなたは………サクラ、なの……!?」

イヴとサクラはともに魔法王国ルミナスの出身で、魔法少女学校の同級生だった。

だがルミナスがトーメントから侵攻された際、イヴは妹のメルと共に、トーメント軍に連れ去られてしまった。
紆余曲折を経て、今のイヴはスネグアの配下、トーメント軍としてこの戦いに参加している。

……イヴにとっては、最悪のタイミングでの再会だった。

「なぜトーメントの手先に……メルちゃんはどこに……まさか」
「ごめんなさい。メルを守るためには、こうするしかないの……変身!」

まばゆい光とともに、イヴの姿が変わっていく。

白と黒を基調としたゴシックドレス。黒と白が幾重にも折り重なったフリルは、囚人服の縞模様を想起させる。
両手両足には鎖付きの金属製のリングが嵌められ、鎖の先には大きな鉄球が繋がれている。

「たあああああぁっ!!」

イヴは変身と同時に、見た目に反して凄まじい速度で突進。
四肢に繋がれた鎖鉄球をそのまま武器にした、単純にして豪快な近距離パワー型だ。

……ブォオンッ!!ドゴッ!!
「待ってイヴちゃん、こんな事やめ……きゃああっ!」

説得しようとしたサクラだが、飛んできた鉄球に弾き飛ばされてしまう。

(もしかして、メルちゃんが人質に……!?…)
「とにかく止めなきゃ…変身っ…!」

イヴの言葉から、サクラもおおよその事情を推察する。
変身したイヴに対応するため、サクラも同じく変身しようとするが……

「……させないわ。その前に……」
ジャラッ!!……ギュルルルッ!!
「え……!」

「………潰す」
ズドンッ!!
「っぐ!」
鎖がサクラの脚に巻き付いて、地面に叩き落す。

「魔法少女クリミナルドール……それが今の、私の名前。
消えない罪を永遠に刻み続ける、咎人の人形……」
……ドゴドゴドゴドゴッ!!
「あぐっ!!…っがは!!」

間髪入れず、鎖鉄球が連続で降り注ぐ。
激しい衝撃で土煙が上がる中、サクラの身体が淡く発光し、変身が発動した。だが……

「はぁっ………はぁっ………う、っぐ……」

淡い緑と桜色を基調としたワンピースは泥と血にまみれてボロボロになり、
花をあしらった髪飾りは鉄球によって無残に砕かれ、額からは流血が滴っている。
全身、特にお腹の辺りに青黒いあざがいくつも浮かび上がっていた。

「サクラ……できれば、貴女を殺したくはない。
見逃してあげるから、もう私達の邪魔をしないで」

「………。」
「力の及ばない相手から逃げるのは、恥じゃない……貴女が教えてくれた事よ」

「………でき、ないよ。
私は……魔法少女『スプリング・メロディ』。
そんなに強くはないし、怖い事、辛い事から、逃げてばっかりの落ちこぼれだけど……
それでも、ルミナスの魔法少女だから」

サクラは大の字に倒れたまま、近くに転がっていた鉄球の鎖を掴むと……小さく呪文を唱える。

「友達が困ってて、目の前で泣きそうな顔してるのに……逃げ出すなんて、できっこない」
……咲いて、安らぎにいざなう花たち!『スリープフラワー』!!」

「……っ!!」
サクラの手からつる草が伸び、鎖を伝ってイヴの顔の横で小さな花を咲かせる。
至近距離で眠りの花粉を嗅いだイヴは、意識が急速に遠くなり……

かくん、と膝から崩れ落ちた。

885名無しさん:2021/06/20(日) 22:13:16 ID:???
「だ……め……サク……ラ……」
「メルちゃんの事、必ず何とかするから……今は安心して眠って」
スリ-プフラワーの花粉で眠りに落ちるイヴの身体を、抱き寄せるサクラだが……。

「だめ、なの……私には……許されない」
「え?」

<……意識レベルの低下を確認>
<作戦行動中の睡眠は許可されていません>

ジャララララッ!!

「きゃあっ!?」
「っぐあ!!」

無機質な機械音声とともに、鎖鉄球が一斉に動き出した。
身を寄せ合っていたイヴとサクラに鎖が巻き付き、二人は抱き合ったまま縛り上げられてしまう!

ウィィィン………
ギチギチギチギチ……
<制裁します><制裁する>
<制裁を開始><制裁>
「う、ぐっ……痛っ……!」
「や、やめて……それだけは……」

四つの鉄球が浮遊し、サクラとイヴの周りをゆっくり旋回しながら、不気味な電子音声を発する。
鎖の締め付けが徐々にきつくなっていき、苦悶の声を漏らすサクラ。
その腕の中で、ブルブルと震えだすイヴ。その表情には明らかに怯えの色が浮かんでいた。

ウィィィィン………
「許して……お願い、せめてサクラだけでも……」
「な……一体、何……!?」
鉄球の前面が開き、まるで生物の目のような、赤いランプが現れる。
そして……

<<<制裁>>>
バリバリバリバリバリッ!!

「「きゃああああああああぁぁっ!!」」

鉄球の動きが一斉に停止し、冷酷な電子音声の宣告とともに、
鎖から強烈な電撃が放たれた!


「さっ……サクラさん…!」
「高圧電流……二人のバイタルが低下……危険な状態」
「っ……あの鉄球壊さないとヤバそうだな!!」

既にイヴと戦い倒されていた砲撃機兵サフィーネ。そしてけが人を介抱していた
殺戮機兵エミリー、格闘機兵ルビエラが、サクラの窮地に助けに入る。

「ガトリング掃射!!」
「……エメラルドスラッシュ」
「バーニングフィストぉ!!」

<制裁> <制裁> <制裁> <制裁>

ババババババ!!
「!!…かわされた……!」
バチイイッ!!
「!……攻撃、失敗……」
ガゴオンッ!!
「……いっででででで…!!」

だが鉄球たちはガトリングガンの掃射を易々とかわし、強固な鎖はエミリーの斬撃を弾き返す。
そして、ルビエラの拳の直撃にも、鉄球はびくともしなかった。

<外部からの攻撃を認識>
<反撃><排除><破壊>
……バリバリバリバリバリバリ!!
「きゃああああぁっ!!」
ジャララララッ!!……ドカッ!!
「拘束……しまっ、ぅああああっ!!」
ドスッ!!ドゴッ!!
「や、べ……うごっ!! っぐああああ!!」

逆に電撃と鎖鉄球による反撃を受けてしまう。
機械、あるいは何らかの魔道具か。謎の鎖鉄球は、ナルビア最新鋭の戦闘機兵すら寄せ付けない驚異の力を持っていた。


<制裁> <制裁> <制裁> <制裁>

「ひ、ぎあああああああ!!………っああああああああんっ!!」
「っうああああああああ!!………が、はああああああああ!!」

長時間に及ぶ高圧電流で、強い耐久性を持つはずの魔法少女の衣装さえボロボロに焦がされていく。
電流が流れる間にも鎖の締め付けはますます強くなっていき、少女たちの柔肌に血が滲み始める。
サクラとイヴは互いの身体をぎゅっと抱きしめ合いながら、いつ果てるとも知れない「制裁」に耐え続けた。

886>>881から:2021/06/21(月) 01:07:44 ID:???
「だい、じょうぶ……強制権は、薄めにされてるみたい……」

「ユキ、ごめんね、その体のことを考えずに、焦って逃げ……っ?」

スネグアを制圧した魔物たちが起動した帰還プログラムは、体の一部が機械化されているユキをスネグアの元へ戻らせるもの。苦しむ妹を介抱するサキは……突然後ろから舞に抱きしめられた。

「ど、どうしたの!?」

「ぁ……ぅ……」

舞の体はとうに限界を超えていた。ナルビアの改造とアイリスの調教で開発されきった体を無理矢理魔法のブーツで押さえつけ、その上でゾンビラミアから何時間も陵辱された。逃亡途中には舞の戦闘能力を奪おうと洗脳されたままのユキが何度も体を弄ばれた。

そして、ゾンビラミアに飲まされた精液が、魔物使いの遺伝子とベヒーモスの力を手に入れた本体の魔力に呼応して、舞の体内で暴れ出す。

『私たちが望むのは混沌としたパーティなの。戦場の端っこに敵戦力を集めるなんて無粋な真似はさせないわ』

「ま、い……?」

虚ろな瞳でサキに抱きついた舞は、そのままスルスルとサキの腕を自らの腕で絡め取って拘束する。

「舞、さん……ごめん、私が、私がずっと舞さんを……!」

帰還プログラムによって逆に精神は正気になったユキが何かを姉に伝えようと立ち上がったが……直後、その鳩尾に、舞の爪先が食い込んでいた。

「ご、ぼぉっふ!?」

「ユキっ!」

サキの悲鳴も聞こえていない様子で蹲るユキ。皮肉にもユキの異常は、それ以上に様子のおかしい舞によって鎮められた。

「は、ぁあ……!あ、んあ、んああぁあ……!」

その間にも舞は苦しげな艶めかしい喘ぎを漏らしている。
ここに来てサキは、舞が自分のあずかり知らぬ所で大変な目に遭っていたことを察した。そしてそれが自分の為であることも。

「ぎ、ぐぐぐぅ……!サキ、様……私を、置いて行って……ください……」

「舞!?あんた正気に……」

「もう、抑えているのも、限界、です……ユキ様に乱暴を働き……サキ様を汚すなんて……嫌です……」

体の内側から作り変えられているような疼きに、舞は息も絶え絶えに喘ぎながら言う。今はサキの体を抑えるだけで済んでいるが、いつ襲ってしまうか分からない。
ナルビアの時にサキに暴力を振るってしまったことは舞にとって許されざることだ。今またサキの体を穢すようなことになるなど、耐えられない。

だから早く振り払ってユキと共に逃げてほしい。そう涙ながらに告げる舞に……サキはぼそりと呟いた。

「……もっと早くこうするべきだったわ。舞の人生を縛るのが怖くて、ずっと後回しにしてた……それが結局、舞を無駄に苦しめてしまった」

「……え?」

サキは自らを絡める舞の腕を振り解くと、今度は逆に自分から舞に覆い被さった。

「サキ様、なにを……?」

「今みたいな名目だけじゃない。邪術で舞を私の……私だけの奴隷にする。刻印の上書きで、その体も楽になるはずよ」

「え……サキ、さ、ま……?」

困惑する舞に、顔を赤くしたサキは唇を近づけ……そっと、キスをした。

887>>885から:2021/06/27(日) 15:11:06 ID:???
ガシャンッ ガシャン ジャララララッ………

ピーーーーー
<制裁完了>

「あ………ぐ」
「うっ………ん……」

<戦闘モード再起動>
<戦闘再開>
<破壊><破壊><破壊>

無機質な電子音が響き、サクラとイヴを縛り上げ、締め付けていた鎖が離れていった。
鎖鉄球はゆっくりと浮遊し、基地の中枢を担うメインコンピュータに近づいてくる。

「エミル博士……無事な人を連れて、退避してください。
私が何とか時間を稼ぐ、です」
「バカ言わないで……だいたい、この場に無事な人なんていないでしょ」

部屋の一番奥、壁一面に設置された巨大コンピュータの前に、エミルとルーアはいた。
背後に逃げ場はない。そして目の前に迫る鎖鉄球も、簡単に横を通してくれそうにはない。

(考える、です……なんとかこの場を切り抜けて、
サクラさんも、助け出さないと……)

(基地とかコンピュータとかは最悪壊されてもいいけど……
鉄球ミンチからの電撃ハンバーグなんてごめんだわ!
……そういえばあの鉄球、どこかで見たことあるような………)

その時。エミルの頭の隅に引っ掛かっていた記憶がよみがえった。
研究都市アルガス壊滅の責任を取らされ、投獄されていた時の事……

……そう。あの鎖鉄球は、当時エミルも着けさせられていた、囚人拘束用のものとまったく同じ。
元がナルビアの機械であれば、基地内のコンピュータでも操作できるかもしれない。

(あの時は本当、死ぬかと思ったわ。思い出したらムカついてきた……
でもあの子、トーメントの兵士なのよね?
それが、なんでナルビアの拘束具を?……まさか、これって……)

(つまり、何者かがナルビア製の機械をトーメントに持ち込むか送るかして、
それを身に着けた兵士をナルビアにわざわざ送り込んできた……?
でも、どうして??)

(こんな回りくどい事思いつくのは、ミーちゃんくらいだわ。
また何か、ろくでもない事企んでるのね……)

(それでも今は……迷っている時間はない。乗っかるしかないわ!!)

ここまでの思考時間、わずか2秒。
エミルはメインコンピュータの端末に駆け寄り、
ナルビア製囚人拘束・監視システム「インヴィンシブル・スフィア」の
強制停止プログラムを起動させる。

「ルーアちゃん!あの鉄球、止められるかもしれないわ!!
30秒だけ時間稼いで!」

「博士!?……わかりました。
でも出来れば20……25秒で頼みます、です!!」

かなり強制力の強いプログラムで、ひとたび発動すれば、
ナルビア国内で使われている拘束・監視システムの全てが
最低24時間は解除・無効化されることになる。

もちろん通常なら、前線基地のコンピュータで動かせる代物ではない。
首都オメガネットのマザーコンピュータに接続し、何重にも渡るチェックを潜り抜け、
認可を得なければならない……はず、だが。

<認証OK プログラム発動まで あと 00:28.57>
(やっぱり……認証があっさり通った)

ミシェルはこうなる事を見越していた……というより、恐らくすべては計算の内。
エミルにこのプログラムを発動させるために、イヴに鉄球を持たせて送り込ませたのだろう。
その真の狙いとは、一体何なのか。

そして、果たしてエミルは、ルーアは、この窮地を切り抜けることが出来るのだろうか……

888名無しさん:2021/06/27(日) 15:20:05 ID:???
プログラム発動まで あと
【00:28.43】

<破壊><破壊><破壊>
ジャラララ……ブオンッ!!

「それ以上は行かせない……です!」

エミルが作業しているコンピュータに近づかせないよう、
ルーアは前衛に出ると、最初の鎖鉄球をギリギリまでひきつけて回避し……

【00:27.19】
「……ヌルインパクト!」
ガシィィンッ!! ガコンッ!

2つ目の鉄球を、魔法杖で打ち返す。
無属性の魔力を乗せた一撃が鉄球は大きく弾き飛ばし、3つ目の鉄球を撃ち落とした。

(よし。あと……一つ!)
横から4つ目の鉄球が飛んでくる。
ルーアは鉄球に向けて杖をかざし、防御魔法を展開する……

【00:26.47】
……ジャラララッ!!
「プロテクト……ひ、ぐぇっ!?」

だが、その時。最初にかわしたはずの鎖鉄球が死角から飛んできて、ルーアの首に絡みついた。
魔法を妨害され、障壁を展開できず、飛んできた鉄球は……

……ドゴッ!!
「んあっ!!」
ルーアの右肩に直撃した。ごきん、と骨の折れる嫌な音がして、ルーアは激痛で手に持った杖を落としてしまう。

【00:25.01】
カランカラン……
ギリギリギリギリギリ……

「し、シールド………あ、ぐぁ……!!」
鉄球が続けて左側からも飛んでくる。
ルーアは残る左手でシールドを張ろうとするが、
本来両手で発動する魔法を片手で、しかも詠唱もままならない状況では、強度がまったく足りない。

……バキンッ!!ドゴッ!!
「……ぐふぇっ!!」
鎖鉄球は簡単にシールドを粉砕し、全く勢いを減じることなく、ルーアの細い脇腹に突き刺さる。

……まさに、一瞬の油断が命取り。
ルーアの目論見としては、杖と体術で出来る限り時間を稼いで、
あとは防御魔法でひたすら守りに徹することで30秒を耐え抜くつもりだったが……
実際にはこの通り。5秒ともたず鉄球の餌食となってしまうのだった。

【00:18.34】
<破壊>
<破壊>
<破壊>
<破壊>
……ドゴッ!! ドボッ!
「えぐ!! あうっ…… ぐぼぁ!!」

左手一本では、締め付ける鎖を外すことは出来ない。
首を絞められていては防御魔法も使えない。
防御も回避も反撃も封じられ、暴風のような鎖鉄球の乱打を、
ルーアはその小さな身体で受け続けるしかできなかった。

889名無しさん:2021/06/27(日) 15:22:59 ID:???
【00:15.00】
<抹殺>
ジャラララッ!! ……ブオオオオンッ!!

鎖が大きく唸りを上げ、鉄球が既に青紫色に腫れあがったルーアのお腹に向かって飛んでくる。
鉄球たちは早くもルーアにとどめを差すつもりのようだ。

(こんな、はずじゃ……すみません、エミルさん、皆さん……)
「ルーアさんっ!!」
……ガゴンッ!!

すでに意識朦朧としているルーア。打つ手は全くなく、万事休すかと思われた、その時……
砲撃機兵サフィーネが、体を張って鉄球を防いだ。

バチバチバチッ……ドゴンッ!!
「い、ぐぁあっ!!」
「さ……サフィーネさん…!!」
鉄球はサフィーネの装甲を突き破り、胴体に深々と食い込んでいた。
全身から火花がバチバチ飛び散り、サフィーネはその場に崩れ落ちる。

「あ、れ……おかしい、な……わワワ私、機兵の中でも一番いちばん頑丈……
予測、もう少し、耐えられ、rrrrr……」
バチンバチン!バシュンッ!!

「…………。」
……ひときわ大きな火花と煙を吹き出し、サフィーネは沈黙した。

「……サフィ……さん……そん、な……!」

【00:10.00】

<抹殺><抹殺><抹殺>

……ジャラララッ!!
グオオオオッ!! ガコンッ!! バキッ!! ドゴッ!!

「い、や……お願い、もう、やめてください……!!」

鎖鉄球の勢いは止まらず、なおもルーアを攻撃し続ける。

ドゴッ!! バチバチバチッ!!
「気に、しないでddd くだssss……仲間を、そして……」
「エミル博士を、mmmmもるrr
それがggg、あたしたち戦闘機兵のtttt務め」

……だがサフィーネと同じ戦闘機兵、エミリーとルビエラが
身を挺してルーアを守っていた。
鎖鉄球は、ナルビアの兵器であるエミリーたちの装甲をも易々と破壊していく。

ドガンッ!! バチバチバチ!! バシュンッ!バシュンッ!!

サフィーネ同様、二体が完全に沈黙するまで、それほど長い時間はかからなかった……。


【00:00.10】

<破壊><攻撃><殺戮><抹殺>

(私の……私のせいで、機兵の皆さんが……)

まるで人間のように笑い、泣き、束の間ではあるが仲間として共に戦った三体の機兵。
それが破壊され、物言わぬ鉄塊へと変えられていく様を、目の前で見せつけられたルーア。

そして今度こそ確実に止めを刺すべく、鎖鉄球は大蛇の鎌首のごとくうねり、
ルーアの顔面目掛けて飛んだ。

「ひっ…!!」
鎖で拘束されたルーアに避けられるはずもなく、思わず目を瞑る。
まともに喰らえば、顔面どころか頭そのものがザクロのごとく吹っ飛ぶ威力。
だが……

「……ヴァインキャプチャー!!」
……ギュルルルッ!!
「!………サクラさん……!!」

……間一髪。意識を取り戻したサクラが、
つる草で強靭な網を作り出す花属性の魔法、『ヴァインキャプチャー』で鉄球を抑え込んだ。

890名無しさん:2021/06/29(火) 22:29:40 ID:???
【00:00.00】
強制停止プログラム作動……
<停止><停止><停止><停止>
ピーーーーー

「げほっ……げほ…」
「ルーアちゃんっ!大丈夫!?」
甲高い電子音が鳴り響き、4つの鎖鉄球は完全に機能を停止する。
首に巻き付いた鎖から、ルーアはようやく解放された。
ギリギリの所でルーアを助けたサクラが、プログラムの起動を終えたエミルと共にルーアに駆け寄る。
鎖に繋がれていた魔法少女イヴは気絶したままだ。

「すみません……私のせいで、機兵さんたちが……」
「大丈夫よ。メモリデータを別のボディに移し替えれば、この子たちは何度でも蘇れる。
……とにかく、ルーアちゃん達が無事でよかったわ」


一方、部屋の中央付近で行われていた、仮面の剣士=桜子と唯達との戦いも終息していた。

「桜子さん、どうしてこんな事に……
というか、なんとなく予想ついちゃったんですが。
もしかしてスバルちゃんが……」
「………そういう事だ。イヴも、妹のメルが人質に取られている。
スバルとイヴが、あいつの……スネグアの手にある限り、私たちは奴の命令に逆らえない」

「やっぱり……桜子さん、その二人を助けましょう!私達も手伝います!」
「……ありがとう。だが、ヤツは恐ろしく狡猾だ。
こうして私が君たちと接触する事すら、計算のうちかもしれない。慎重に動かないと……」

桜子達が受けた命令は、この前線基地を破壊する事。
そして、基地を陥落させたらナルビア秘密兵器であるメサイアを使わざるを得なくなる。
というのがスネグアの読みらしいが……
ナルビア軍の現状をよく知っているアリスには、そう上手く事が運ぶとは思えなかった。

「春川桜子、と言ったわね……今はひとまず、私達と来てもらうわ。ここを離れた方が良い。

基地機能の中枢であるメインコンピュータの破壊こそ免れたけど、
配備されていた兵器や兵士たちはほとんど無力化され、この基地はほぼ壊滅状態。

だけど……多分それでも、ナルビア本体はメサイアを出動させる可能性は低い。
おそらくナルビア司令部は、この基地が落とされると判断したら、私達ごと……」

……ズドォォォンッ!!

「きゃあっ!? な、なになに!?」
「くっ……もうナルビア本体からの攻撃が……いや、これは……」

アリスが「最悪のケース」を想定した、その時。

基地全体を揺さぶるような、激しい衝撃が起き……
……多数の魔物兵が、なだれ込んできた。

「ヒッヒッヒ……かわいい女の子の血と汗の臭いを辿って来たら、極上のお宝級がザックザクだぜぇ!!」
「ひーふーみー……ケケケケ!ロリっ子から白衣のお姉さんまでよりどりみどりじゃねえか!」
「しかも全員、いい感じにズタボロになってやがる……こりゃヨダレが止まらねえぜ!」
「なーんか味方だったっぽい奴もいるけど、こうなりゃ関係ねーや!!全員やっちまえーー!!」

「くっ……こんな時に、トーメントの増援……!?」

「あ……アリスちゃん!!ヤバいわ!!もんのすっごい数の敵の魔物兵が接近中!!
あんなのとてもじゃないけど防ぎきれないわよ!?」
「ええっ!?ちょ、ちょっとタンマ!!せめて先にみんなの治療を……」

怒涛のごとく押し寄せる魔物の大群がモニターに映し出され、狼狽するエミル。
サクラ、ルーア、エルマの治療でてんてこ舞いだった唯が、更なるパニックに陥る。

「この数……スネグア率いる本隊ですね。しかも、異常なほど狂暴化している……!!」
「……まずいな。あいつら、敵も味方もお構いなしだ。なんとか血路を開いて脱出しないと……」

ここは共闘するしかない……アリスと桜子は無言で視線をかわし、魔物の群れに武器を構える。
だが圧倒的な数と勢いの魔物相手に、どこまで持ちこたえられるか。

「クスクスクス……ムダムダぁ。一人も逃がさないわよぉ……」
……状況は最悪にさらに最悪を重ねがけした、阿鼻叫喚の地獄絵図へと突入しようとしていた。

891名無しさん:2021/07/03(土) 17:10:00 ID:???
「本部、本部!こちらアレイ前線基地、敵部隊の増援です!至急援軍を!」
ナルビア軍総司令部に、アレイ前線基地のエミル副指令から緊急通信が入る。

この基地はトーメントとナルビアの国境線でもあるアレイ山脈の要所。
にも関わらず総司令官であるレオナルド・フォン・ナルビアの反応は冷たい物だった。

「前線に敵主力部隊が集中しているようだな……なら話は早い。X3弾道弾で一掃しろ」
「……しかし、あの基地にはまだ、第3機動部隊の残存兵力や外人部隊が……」

X3弾道弾……核兵器並の破壊力を持つ強力な長距離ミサイルである。
アレイ前線基地に撃ち込めば、基地は付近一帯の山ごと、跡形もなく吹っ飛ぶ事になる。
当然その場にいる者は、ひとたまりもないだろう。
アリスが前線基地に帰還したことを報告してきたのはついさっきの事だ。
オペレーターを務めていたリンネが、僅かに眉根を上げるが……

「彼女らとて軍人。敵を殲滅し、ナルビア王国の人民を守る礎となるのが、その使命だ。
……まさか、今までともに戦ってきた仲間を自ら手に掛けるのは嫌だ、とでも言うつもりか?諜報員999号」
「……い、いえ……了解しました。X3弾道弾、発射準備……」

リンネの立場から、口を挟む事は許されない。その気力もない。
コンソールパネルを操作し、弾道弾の発射ボタンを押した。

「それに……丁度いい機会ではないか。
私に刃を向けた叛逆者の一人、アリス・オルコット師団長。
研究都市アルガス壊滅事件の最重要被疑者、エミル・モントゥブラン博士。
トーメント王国討伐後には、我々の世界統一を阻む敵となるだろう、連合国属ヴェンデッタ部隊……
みんなまとめて掃除できる。実に効率的だ。くっくっく……」

──────

「燃料充填完了。X3弾道弾、発射カウントダウンを開始します」
「10……9……8……」

「フン、現代戦ってのは気楽なもんだ……ボタン一つで簡単に前線に死をデリバリー出来る」
シックス・デイの一人、研究開発部門の総責任者であるマーティンは、
ミサイル発射施設の監視に当たっていた。

彼の本来の役目は、最終兵器である「メサイア」の管理と調整。
そのメサイアも、少なくともトーメントとの決戦までは温存する事が決定しているため、
言わば今の監視役はほとんど暇つぶし同然。…の、はずだった。

「ん?………おい、待て。何だあれは……X3弾道弾じゃないぞ!?」
「3………2………1………0」
ズドドドドドッ………

打ち上げ台から発射されたのは、ミサイルではなかった。
どうやら人口衛星打ち上げ用のロケットのようだ。

「どういう事だ!発射されるまで誰も気づかなかったのか、この……無能どもが!!」
「あ、ありえません!マザーコンピュータの認証も、全く問題ありませんでした!!」
「一体、何がどうなってる……一体、何が発射されたというんだ……?」
打ち上げロケットは、数十トンほどの荷物を運んで衛星軌道上を周回させる事が出来る。

「なぜ認証を通した!!一体何が起きたんだ!!応答しろ、マザーコンピュータ!!」
応答はなかった。マザーコンピュータを積載したロケットは、既に遥か上空、間もなく大気圏を突破しようとしていた。

892名無しさん:2021/07/03(土) 17:11:32 ID:???
……場面は戻って、再びナルビア指令室本部にて。

「………というわけで〜。今からアンタたちの大事な大事なメサイアちゃんを貰ってくんで、
最後のご挨拶に来ました〜♥」

「一体……何を言っている?……エミル・モントゥブラン博士……
貴様はアレイ前線基地にいるのではなかったのか!!」

一人の女研究者がレオナルドとリンネの目の前に現れ、ヘラヘラと笑みを浮かべていた。
赤色の髪、薄い青の瞳に分厚い丸眼鏡をかけ、白衣の下には胸元に黒いリボンのついたブラウス。
提示されたIDは、たった今アレイ前線基地から通信を送ってきた、エミル・モントゥブランの物だ。

そして彼女の後ろに控えているのは、真っ白い髪に白を基調とした軍服の少女。
……ナルビア王国軍の秘密兵器である、メサイア。

「ヒルダ……いや、メサイア……!?……なぜ君までが……」
「メサイアをたぶらかしたと言うわけか、ふざけた真似を……インヴィンシブル・スフィア!そいつを捕らえろ!!」

レオナルドは顔に怒りの色をにじませ、すぐさま捕縛命令を出す。
だが、基地内のあらゆる場所を周回し、不穏分子や犯罪者を15秒以内に捕縛するはずの
完全警備システム「インヴィンシブル・スフィア」が作動する事はなかった。

「なっ!?……どうして作動しない!?」
「例の変な鉄球なら、使えなくしといたわ。
だって、メサイアちゃんがこの施設を出ようとしたら、捕まえて連れ戻すように設定されてたんでしょ?」

「貴様。一体何者だ……エミル・モントゥブランではないな!?」
「や〜っと気づいたの?部下の顔もロクに覚えてないなんて、聞いてた以上に使えないクズ上司ね。
……ま、こんなクソださいメガネつけてたら無理もないか」

エミルを名乗った人物が、メガネを投げ捨てる。
その下から現れた素顔は……顔の作りこそよく似ているが、釣り目がちで勝気そうな印象。
バストサイズは同じくらいだが、年齢はエミルよりやや下……明らかに別人だった。

「初めまして、お間抜けさん達。私はミシェル・モントゥブラン。エミルの妹よ。
アンタたちが気付いてないだけで実はけっこう前から出入りしてたわ」

「なっ……指令室の周りには警備兵もいたはずだぞ!?そんな事があり得るはずが……」
「言っちゃなんだけど、あいつらザルも良い所だったわよ?」

……そう。ナルビアの施設内を移動する際、ミシェルはエミルの変装をして、エミルのIDカードを使っていた。
それを見た人間の警備兵たちはというと……
「エミルさんて見た目とか服装とか地味だけど、そこが地味にいいよな……彼女の魅力は俺だけが知っている!(キリッ」
と、全員が思っていた。
そして、メガネの下の細かい顔の違いなどは見ておらず、基本おっぱいしかみてなかった。

(……ガチレズ魔女に無駄に巨乳にされたのが思わぬ所で役に立ったわ)
「ま、そういうわけで……アンタの天下はもうおしまい、ってわけ」
「貴様、黙って聞いていれば……レオナルド様には指一本……!!」

リンネは席から立ちあがり、忠誠心など微塵も残ってはいないものの、一応はレオナルドを守るべくファントムレイピアを構えた。
だが、一方のレオナルドはというと着席したまま、まるで石膏像のように微動だにしない。

「そうね。私はその、レオなんとかいうおっさんに指一本触れられないわ。
なぜなら……そいつは今、この場にいない。そこに座っているのは、本人によく似たロボットですもの」
「な……なんだって!?」
リンネはレオナルドの席に駆け寄り、近くでまじまじとその顔を見る。
……確かに姿かたちは人間そっくり。だが、よく見ればその顔も、身体も……
ミシェルの言う通り、作り物であることが分かった。

893名無しさん:2021/07/03(土) 17:17:45 ID:???
「そいつだけじゃないわ。
ナルビア王国の実権を握る中央高官達は、この戦いが始まる前から全員、
一族郎党引き連れて地下深くのシェルターにこもってる。
そして本人そっくりのロボットを通して、地上に指示を出してたってわけ。
あんたらシックス・デイのメンバーや、それ以下の平民には内緒でね」

「………そんな、馬鹿な。レオナルド総帥!!本当なのか、彼女の言ってる事は!!」
「無駄よ。地下からの通信を管理してたマザーコンピュータは、私が掌握済み。
おっさん達のアクセスは永久的に遮断したし、地上へ通じる入口の電子ロックも封鎖済。
本物のおっさん達は二度と、地上に出る事は出来ないでしょうね」

「そん、な………」
<ヒルダ……僕らの余計なしがらみとか、全部消えてなくなっちゃうような、嵐が起きればいいのにね……>

遥か遠い昔につぶやいた、妄想じみた夢が、突然に、まったく予想もしない形で、現実になった気がした。
だがいちばん大切な存在、ヒルダがヒルダでなくなってしまった今、そんな物に何の意味があるだろう。

(ふざ、けるな……遅すぎるんだよ……)
「何が………目的だ。マザーコンピュータを掌握したって言うのが本当なら……僕なんかに、もう用はないだろ」
「言ったでしょ?メサイアちゃんを貰っていく、って」
「……例えヒルダを……メサイアを連れ去ったとしても、
彼女の身体を維持するには、特殊な薬が必要だ。それがなければ数日ももたない」

「ええ、知ってるわ。『リヴァイタライズ』の材料には、あるものが必要……
私が今日ここに来たのも、それを採取するのが目的よ」
「採取?………どういうことだ」
「フフフ……やってみればわかるわ。さあ、教えたとおりにやるのよ、メサイアちゃん」
「了解………リンネ。すぐ終わりますから、大人しくしていてください」

「な……!?…………メサイア、何をするつもりだ!!」

ミシェルの言葉の意味を測りかねているリンネに、メサイアがゆっくりと歩み寄っていく。
歩きながら、軍服の上着を脱ぎ棄て、ブラウスのボタンを一つ一つ、外していき……
リンネの目の前に来た時には、メサイアは真っ白い下着姿になっていた。

「よ……止せ!!それ以上は……」
「……ゼロエネルギー、放射」
「うあっ……!………」

メサイアの手から放たれた光線はリンネの体を拘束し、空中に浮かび上がらせて磔の体勢で固定する。
光線の正体は、長年の間、机上の空論とされていた幻の技術、すべての力を無効化するゼロエネルギー。
対象の電気信号を麻痺させる力を持ち、これを浴びた者は体を動かすことはおろか、声を発することもできなくなる。

「これから行う行為に、痛みは伴わないと聞いています。
むしろ快感を伴う行為だと」
「そうそう。まずは軽〜く、手コキから行ってみる?」
「………!!」

たどたどしい手つきで、メサイアはリンネのズボンと下着を脱がしていく。
すると年頃の男子としては平均的なサイズの、早くも半勃起状態のペニスが顔を出すが。

「これに刺激を与えればいいのですね……では行為を開始します」
メサイアはそれを間近に見ても、顔色どころか眉根一つ動かす事はなかった。

894名無しさん:2021/07/04(日) 12:13:52 ID:???
「ふーん、女みたいな顔の割にはそれなりのモン持ってるじゃない」

メサイアにまじまじとペニスを見られ、ミシェルには好き勝手に批評され、リンネの顔にカァッと朱が差す。

「まぁ、アンタがわざわざ途中で男性型人造人間に変更された経緯を考えたら普通か」

(こいつ……さっきから、なにを言って……)

「……んっ!?」

ゼロエネルギーによって声も出せない中でも気丈にミシェルを睨み付けるリンネだが、メサイアのたおやかな白い右手が優しくリンネの陰茎を包んだ瞬間、全身をビリビリと電流のような快感が走り抜ける。

「そうそう、教えた通りにね。気持ちいいとはいえあんまり強くやりすぎると痛いし壊れちゃうわよ」

「はい……壊さないように……優しく、ゆっくり……」

無理矢理だというのに慈愛に満ちた手つきで、たどたどしくも熱心に竿をにぎにぎと触って刺激を送る。

「んっ……あ、ひゃっ……いひゅう……っ!!」

(ダメ、だ……こんなこと、お前がしちゃいけない……メサイ……ヒルダ!!)

必死に止めろと伝えようとするも、動かぬ体は言うことを聞かず、ただただ送り込まれる淫猥な刺激に身も心も剛直も震わせるしかない。

「キュウリで予行演習はしましたが、実物はこうなるのですね……プルプルと震えながら大きくなって……リンネへ抱いている感情と似たものを感じます」

最初は形状を確かめるようにさわさわと握っていたメサイアの右手が、徐々にシコシコと上下へ擦る動きに代わっていく。

「ふんふん、やっぱりセット運用目的だったから体の相性も遺伝子レベルで抜群なのかもね」

「んっ……ふっ、くふぅ……!くひぃっ……あぁ、んおぉぉっ……!!」

気づけばリンネのペニスは最初の半勃起状態から二倍程の大きさになっていた。

「さ、私はビーカー準備して……どう?出そう?」

「先ほどから継続的に震えてはいますが……それ以上の変化は見受けられません」

「ふーん、手コキだけでイキそうと思ってたけど……意外に経験豊富なのか、操を立ててる相手でもいるのか……」

ミシェルがリンネの顔を覗き込むと、顔を真っ赤にしながらも必死に歯を食いしばって耐えていた。それは元は妹のように思っていたヒルダであるメサイアへ精を出すことへの忌避と……サキへの想いによる。

(とにかく、こいつの言う通りになっちゃダメだ……ヒルダの為にも……それに戦場が混乱すればするほど、サキさんが逃げられる可能性が下がる……!)

ミシェルがメサイアを連れて何を企んでいるかは分からないが、それがこの戦場に混沌をもたらすのは明らか。せめて時間を稼ぐくらいはしなければと耐えるリンネだが……

「じゃあ次はお口でやってみましょうか」

「はい……は、む……」

手コキから一瞬解放された直後……リンネのペニス全体を、生暖かい感触が包んだ。

895名無しさん:2021/07/04(日) 12:41:31 ID:???
(ヒルダ、やめろっ……ああっ!)

メサイアはリンネのペニスをゆっくりと奥まで咥え込み、そのまま舌でれるれると扱き始めた。

「ふんふん……ナルビアのクローンは本当に人間と変わらないのね。こんなとこの反応までしっかり人間と同じなんて……」

(く、ああああっ……!)

じっと見つめながらモノを扱き続けるメサイアのことも、距離を詰めてまじまじと自分のモノを見つめてくるミシェルの姿もどちらも直視できず、リンネはぎゅっと目を瞑った。

「ぷはっ……リンネ。これで射精可能ですか?」

(ばっ……!何言ってるんだヒルダ!君にこんなっ……!こんなこと、すぐにやめ……んぅッ!)

「あははっ!メサイアちゃん、リンネくんはいまゼロエネルギーを浴びて喋れないんだから、問いかけても無駄よ無駄」

「そうでした……ではこれはどうでしょうか……」

陰茎の下……玉袋に手を当てたメサイアは、そのまま竿を咥え込み手と口で扱き始めた。



「ん……ちゅぅ……れるれる……ちゅぱっ……」

(あ、あ!ぁ……ああああ……!ううう……!)

「うわぁ〜すごいすごい!一気にガッチガチ♡初めてなのにメサイアちゃんすっごく上手ねぇ。可愛い女の子にこんないやらし〜いことされて、リンネくんは幸せ者ねっ、と!」

(ひゃああぅ!)

ミシェルに竿をフェザータッチされ、リンネは女の子のような甲高い喘ぎ声を(脳内で)上げてしまう。

「クスクス……もうそろそろイっちゃいそうなのかしら?メサイアちゃん、拘束したまま喋れるようにしてあげて」

「じゅるる……りょうふぁい」

ビシュン!
「ぁあああっ!」

ゼロエネルギーの出力量を調整し、口だけを動かせる状態にされたリンネの声からすぐさま甘い声が漏れた。



「あらあら、文字通り女の子みたいな声出しちゃって。メサイアちゃんの玉コキ生フェラがそんなに気持ちいいのね?」

「くっ……あ……!どうして、僕にこんなことを……!」

「そんなの当たり前じゃない。メサイアちゃんを完全に私のものにするにはクローンに必要な薬物の成分を手に入れないと。そしてそれが抽出できるのは他でもない、薬物を摂取したクローンの体液でしょ?」

「ぐっ……!だからって、血液や唾液でいいんじゃないのか……?何もこんな……!ああっ!?」

「はむっ!じゅるるるるるるる……!」

「あひあああああぁ……ひ、ひるだあぁ……!」

メサイアの小さな口に、再度リンネの陰茎がぬっぽりと包み込まれる。
腰が溶けるような初めての感覚に、力の抜けたリンネはだらしない声を上げた。

896名無しさん:2021/07/04(日) 12:44:09 ID:???
「クスクス……男のくせにだらしない声出しちゃって。まあ確かに血液とかからでも抽出はできるけど、ナルビアのクローンがココから出す液体がどんな成分で構成されてるのか……不老不死の研究のためにも興味あるのよねぇ」

「はぶっ……んっ……!んぽっ、んちゅるるるる……んぶっ、んぷぷっ……!」

「くっ……僕たちに、生殖能力はない……!体は人間と変わりないけど、精子だけは取り除かれていて、そこから出るのはただの精子を模しただけのモノッ……ああぅ!」

「れるれる……ちゅぶ!ちゅううううっ!……くちゅくちゅっ……ちゅくるっ!!」

「それはアンタらがそう聞かされてるだけでしょ?どうせ実際に自分の精子を調べたことなんてないくせに。いい機会だからこのあたしが、あんたのおちんちんミルク、全部じっくり調べてあげる……」

「う……!くっ……!」

「ちゅうちゅう、れりゅっ、くちゅるっ!……れちゅう!ちゅくっ、ちゅーっ、れちゅれちゅっ、ちゅっ!」

「ひ、うあああああっ!」

美少女にフェラチオされながら美少女に精子を調べると言われ、段々とリンネもこの状況に耐えられなくなって来ていた。



「そろそろ限界みたいね?メサイアちゃん、ラストスパートよ。教えた通り思いっきりバキュームフェラして、リンネくんから全部搾り取っちゃえ♡」

「りょうふぁい……!ん、ちゅじゅるるるるるうぅぅっ!!!んじゅっ、じゅるるっ!ちゅうっ!」

「あ、あ、あああああああっ!!」

舌を大きく動かし、ペニスを唾液でどろどろに濡らされた状態で、吸い上げられる。
先ほどからのぐちゅぐちゅと音が鳴るフェラチオのおかげで、リンネは限界を迎えようとしていた。

「あはははっ!顔も声も女の子みたいなのに、おちん◯んはおっきすぎ♡メサイアちゃん、苦しいと思うけど、トドメにもっかいバキュームすれば今度こそ射精してくれるはずよ♡」

「ふぁい……ちゅるるるるるるっ、ぶちゅうううぅっ……!れるれるっ、じゅちゅううううううっっ!!」

根元まで飲み込まれ、亀頭を引っ張られて精液が先端まで吸い上げられたリンネは……

「ううっくっ!!も、もうっ……!ヒルダ、ヒルダああぁっ!!」

どぴゅるっ!!びゅるるるるるっ!!どくどくっ!!!ぶびゅるる!!!

メサイアの喉に向かって、大量の精液を放出した。

897名無しさん:2021/07/10(土) 14:12:16 ID:???
「………う、ううっ………」
「んっ……うぇ………体液の放出を、確認しました。採取してください、ドクター」

「はぁい二人ともご苦労様ぁ。ふふふふ……随分いっぱい出たわねぇ。溜まっちゃってたのかしら?」

メサイアの咥内や身体についた精子を、スポイトで採取して容器いっぱいに詰める。
「これだけあれば、当面は問題なさそうね……
残った分は、アナタが舐めちゃっていいわよ。
ソレには安定剤の成分が入ってるし、少しは効き目あるんじゃない?」

「了解しました……んっ……ちゅむっ………じゅる」
「やっ……やめろ、そいつの言う事は……うああああぁっ!!」
メサイアはリンネの股間に吸い付き、残った精液を啜り始める。
射精直後の罪悪感や倦怠感、賢者タイムと呼ばれるやつが根こそぎ吹っ飛び、
リンネの一物は再び力を取り戻した。

「フフフ………マザーコンピュータに残っていた開発記録によれば、
メサイアは素体が脆弱すぎて、いくら強化を試みても細胞が耐えきれず死滅してしまっていた。
一時は研究中止の寸前までいったらしいけど……
あなたの体液を成分に加える事で、細胞が安定化する事が発見されて、『リヴァイタライズ』が完成したそうよ。
素敵な話だと思わない?眠れるお姫様を目覚めさせたのは、王子様のキス……ならぬ、体液ってことね」

「な………じゃあ、僕が……僕自身が、ヒルダを怪物に変えてしまったって事じゃないか……
そん、なの………ん、う、あっ………!!」

「再度体温と脈拍の上昇を確認……ドクター。再び体液射出の兆候が見られます……どうしますか」
「ふふふ……薬に必要な分は確保したし、もういいんだけど……
協力してくれたお礼よ。一滴残らず絞り出して、全身キレイになるまで続けてあげなさい」
「わかりました……行為を続行します」
「や……やめてくれぇっ!!………ん、う……っあああああああ!!!」

こうして、リンネはメサイアの奉仕で徹底的に絞りぬかれた。
ゼロエネルギーから解放されても、疲れ切って足腰が立たない。

「ま……て……いくら薬を作ったって……メサイアの身体は、いずれ……」
「そうなる前に……私が戦いを終わらせます」
「なっ………!!……」

「フフフフ……それじゃあね、リンネくん。後はお好きにどうぞ。
オワコンになったこの国にしがみつくもよし、どこか遠くに逃げ出すもよし……」
「どこか国外の、安全な場所に退避する事を推奨します。
……ナルビア国内全域が、今後しばらく危険な状態になると予測されます」
「まって、くれ………ヒルダ……!」

高笑いと共に去っていくミシェルと、名残惜しそうに去っていくメサイアを、
リンネはただ見送るしかできなかった。

898名無しさん:2021/07/10(土) 14:14:57 ID:c8fdNnkA
……ナルビア司令部を出発し、アレイ前線基地へと向かうミシェル達。
その主な目的は、メサイアのお披露目と、試運転である。
だが、そんな二人を追いかけてくる者があった。

バババババ……
「こここ、こらそこの二人ー!!どこへ行くつもりだ!誰の命令でこんな真似してる!」

メサイア陸軍の最新鋭戦闘ヘリ「ドラゴンフライ」。
通常のヘリコプターとは比較にならない機動性、重武装を持つ。
乗っているのは、ナルビア・シックスデイの一人マーティンである。

「……堕としますか」
「フフフ……あんな蚊トンボ、メサイアちゃんの戦闘記録第一号にはもったいないわ。
下がってなさい」

ミシェルは端末を操作しながら、戦闘ヘリの前に悠々と進み出る。

「ふん……投降するつもりか?だったら、さっさとその端末も捨てるんだ!早くしろ無能が!!」
「ギャーギャーうるっさいわねぇ〜……あ、来た来た」

ヘリからの呼びかけを無視し、ミシェルは空を見上げる。
遥か上空、雲の向こうで、何かがキラリときらめき……

「ん?上空からエネルギー反応……っおがああああああ!?」
ヴィンッ……ズドオオオオオオッ!!

「……周辺敵目標の全消滅を確認。第二射を中断、レーザーシステム休止状態に移行します……」
「……サンキューマザー。こっちの試運転も上々ね」

先ほど発射されたロケットに載せられていた物の正体は、ナルビア国内で密かに研究されていた人工衛星。
そこにマザーコンピュータを搭載して威力と精度を飛躍的に上昇させた
通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のサテライトレーザーシステム『マザーズアイ』によって、
マーティンの乗っていたヘリは文字通り消滅した。

「じゃ、行きましょうかメサイアちゃん。
……アナタの試運転の相手は、もう決めてあるの。王下十輝星、フォーマルハウト……」

<お掛けになった番号は、現在使用されていないか、使用者が惨殺されて
怪物に丸呑みされ電波の届かない所にいるため、繋がりません。
番号をお確かめの上……>
「と、思ったら……ちょっと面白い事になってるみたいね。」

「ま、ノンビリ行きましょうか。私たちの新しい『国名』も考えないと」
「了解しました……ランダム名称生成プログラム作成、起動」

「新・ナルビア王国……いや、律儀に古い国の名前使ってあげる意味もないか。
かといって自分の名前つけるのもダサい気がするし」

……かくしてナルビア王国は、
統治者であるレオナルド・フォン・ド・ナルビア総帥が存在を抹消されたことにより、事実上消滅。

衛星軌道上を周回する巨大サーバーを中心に構築されたクラウドネットワークで形成される、
物理的な領土を一切持たない新国家「マザーズ・ドミネーション」が誕生した。

899名無しさん:2021/07/10(土) 15:28:39 ID:???
「感想スレも新しくなったし、主人公ちゃんを思いっきりボコってやるぜ!」
「ついでに、倒れてるお仲間ちゃんも全員いただいちゃうぜ!!」

「な……何言ってるかよくわからないけど、そんな事させないっ!!」

突如乱入してきた多数の魔物の群れに、唯達はあっという間に取り囲まれてしまった。
仲間のエルマ、ルーア、サクラはここまでの戦いで満身創痍、ほぼ戦闘不能。
残った唯も、武器の手甲が破壊され、体力魔力とも限界に近い。

「こ、のおっ……!!」
びしっ!……ぶおんっ!
……拳の威力も蹴りの速度も、普段の状態とは程遠かった。

「ヒッヒッヒ!!いいねぇ〜。そういう可愛い抵抗は大歓迎だぜ……オラァッ!!」
…メキッ!!
「っぐあ……!!」

初撃の回し蹴りを、辛うじて受け止める唯。だが……受けた腕に、嫌な音が響いた。
少し遅れて、ずきずきと痛みが走る。

敵は、強化型のトカゲ型獣人、「リザードウォリアー」。
武器と体力が万全なら、互角以上には戦える相手だ。
だが……

(………まずい。今ので、骨が……)
「ゲヒヒヒヒヒ!!どんどん行くぜえ?」
ビシュンッ!!……ズババババッ!!ブオン!!
「んっ!!く…………きゃああっ!!」
(速い……体が、ついて、こな……)

連続ジャブで瞬く間にガードを崩され、丸太のように太い尻尾の一撃を、まともに喰らってしまう。

……ドスンッ!!
そして、壁……のような何かに、叩きつけられた。

「う、ぐ………あ……?」
「ケケケ……痛いなぁ〜唯ちゃん。
いきなり飛び込んでくるなんて、最近の若い子ってのは積極的だ、ねっと!!」

飛び込んだ先は、もう一体のリザードウォリアー。
体に力が入らず、ずるずると崩れ落ちそうになった唯の、両手を掴んで無理矢理立たせる。

「い……いや、放して……!!」
「クックック……可愛いおててだねぇ〜。恋人つなぎしちゃっていい?」
唯の両手を捕まえ、押し倒して覆いかぶさる。トカゲ獣人の鱗は鎧のようにゴツゴツして硬く、
鋭い爪の生えた手は、唯の手より二回り以上大きい。
身長も横幅も、唯がすっぽり覆いかぶされてしまう程に大きく、
数百キロはあるだろうその巨体は、押しても退いてもビクともしない。

………ミシッ………メキメキメキッ!!
「だ、だめっ……い、ひ、ぎあああああああぁぁぁああ!!!」
「あんまり可愛いから……握りつぶしたくなっちゃったよ。ゲヒヒヒ!!」

そして、圧倒的な「力」で、武術家の命ともいえる拳を破壊され……完全に心を折られてしまった。

「おいおーい。まだオレが遊んでたんだぜぇ?
そのサンドバッグ、ちゃんと支えててくれよ……」
「おう、わりーわりー。ゲヒヒヒ!!」
「い……い、…やっ……」

一体のリザードが唯の身体を軽々持ち上げ、羽交い絞めにする。
足先が地面につかず、バタバタと振り回しても、相手は痛がる素振りすらない。

「ヒヒヒ……んじゃ、順番待ちの連中もつっかえてる事だし……遊びは終わりだ。
コイツで、思いっきり行くぜぇ」
「はぁっ……はぁっ……ひっ……そんなの、しんじゃ、う……!!」

リザードウォリアーは本来の得物、大型ハンマーを手に取った。
それを唯の目の前で、見せつけるように軽々と振り回して見せるが、
サイズから見ても、人間の筋力ならまともに扱えないような重量なのは間違いないだろう。

「……ッラアアアア!!」
「……っ……!!」

攻撃の瞬間、目を閉じ、全身を強張らせ、腹筋にあらん限りの力を込めた……

だが、無駄だった。

ドボォッ……!!

「……!!……げ、ばぅっ……!!」
血混じりの胃液が飛び出て、瞳は裏返り…唯の身体はだらり、と弛緩した。

900名無しさん:2021/07/16(金) 23:01:35 ID:???
「……が……は、ぁ……。」
「ヘヘヘ……たまんねえなぁ……今の感触だと、内臓2〜3個は潰れたかぁ?」
「痛ってー…つーか俺まで痛かったじゃねえか!ざけんなよ!?」

「おー、ワリィワリィ。
まあ運命のナントカだかなんか知らねえが、所詮は人間のメス。
俺らエリート魔獣にかかりゃぁこんなもんよ!」

「ケッ!ワリィと思ってんなら、次は俺に先ヤらせろよ!
唯ちゃんの潰れかけの子宮、俺がパンパンに膨らませてやるぜェ!!」
「………ぅ……げほ…」
……リザードウォリアーが唯を向かい合わせにして、お尻を持ち上げて両脚を抱える。
裏四十八手櫓立ち……いわゆる駅弁ファックの体勢だ。

「唯ッ!!」
「っく……早く助けないと……!!」
「おっとぉ、行かせねえぜェ?お嬢ちゃん達」
「グヒヒヒ……俺らとも遊んでくれよぉ……!!」
……オトとエルマが助けに入ろうとするが、他の魔物に遮られてしまう。

むにっ!…ぐに、むにむにむに……
「んうっ………ぁ……」
「ふひょぉぉぉおお!!唯ちゃんの尻やわらけぇえええ!!
もう一生揉んでられるわコレ……!!グヒヒヒ……あーもう、我慢できねえ」

リザードウォリアーは気絶した唯のお尻を好き放題に弄り、剛直ペニスをはちきれんばかりに屹立させる。
絶体絶命と思われた、その時……

「………唯ぃいいい!…まだ終わってねえぞ、目え覚ませぇぇ!!!」
オトが周囲一面に鳴り響く大音量で唯に呼びかけた。

(……今の声………オト…ちゃん……?……あ……あれ、私……まだ、死んでない………)
その大声に、朦朧としていた唯の意識が覚醒する。
同時に、つい先ほど強烈な一撃を喰らったお腹や、握りつぶされた拳の痛みが、嘘のように引いていき……

(そう、だ……私は、仲間と……みんなと一緒に戦ってる……だから絶対に、弱音なんて吐いちゃいけない……)
(……まだ、動ける………まだ、戦えるっ……!!)
「篠原流柔術・四天連脚!!」
「……グゲェッ!?」
……ドカドカドカッ!!
次の瞬間。唯は目を見開き、素早く体を跳ね上げ、リザードウォリアーの顔面に連続蹴りを叩き込んだ。

「唯っ……!?……まさか、あのダメージで……」
「っしゃ!やっちまえー!!」

「からの……奥義・天地落としっ!!」
そのままリザードウォリアーの首を太股で挟み込み、フランケンシュタイナーの要領で投げ飛ばそうとする、が……

「グギッ……!!……させるかぁァアッ!!」
……ガブッ!!
「っぎゃうっ!?」
リザードウォリアーも黙ってはいない。
頭を挟まれたままの体勢から、口を大きく開き……その鋭い牙で、唯の股間に思い切りかぶりついた!

「フゴォォォオオオオッ!!」
「痛、っ……!?…は、放して……あ、ああああんっ!!」
股間から臍の上までをがっぷりと咥えられてしまった唯。
鋭い牙が柔肌に深々と食い込み、鮮血があたりに飛び散る。
更にリザードウォリアーは、唯の股間を咥えたまま首を振り回し……

………ズドオオンッ!!
「………っやゃぁぁああっ!!」
勢いをつけて、地面に叩きつけた!

901名無しさん:2021/07/16(金) 23:10:40 ID:???
ぬちょっ……ずぶ、ずぶ、じゅるるるるっ……
「ゲヒヒ……太股の感触も、齧り心地も最高だったぜ……だが、足癖の悪い子にはお仕置きが必要だよなぁ…?」
「……っ………ぐ、あ……」
動かなくなった唯の股間から、ゆっくりと牙を引き抜く。
唾液まみれの長い舌で、唯の下着をぐちょぐちょに嘗め回しながら。

「唯ーーーー!!!」
「クックック……ありゃ、今度こそ死んだなぁ?……なーに、てめえらもすぐに後を追わせてやるさ。
その前にタップリ楽しませてもらうけどなぁ!!」
「あ……アンタたち……絶対、許さない……!!」
再び強烈な一撃を喰らってしまった唯。もはや立ち上がることは不可能だろう。
嘲り笑いをあげる魔物達に、エルマは激しく怒りを燃やす。
……だが。

「へっ……そうは行かねえよ……唯、聞こえるか……まだ、やれるよなぁ……!?」
オトの目が静かな光を放つと、どこからか湧き出した霧のようなオーラが、唯の身体を包み込んでいき……

「はぁっ……!!…はぁっ……!!……大丈夫……行けるよ……!!」
(……動ける……自分でも不思議だけど……噛まれた所も、叩きつけられた頭も、痛みがほとんどない……!!)
「なっ?!て、テメェ、まだ動けるのか!?」
「ゆ、唯……!?……オト……今、何を……?」
(回復魔法?……いや、でも……何か、違和感が……)

唯を再び犯そうとしていたトカゲの目の前で、唯はゆっくりと立ち上がった。
完全にトドメを刺したつもりでいたトカゲは、突然蘇った唯に一瞬怯む。

その瞬間。オトが、行く手を遮る敵の脇を疾風のようにすり抜け……

「っしゃ!……合わせろ唯っ!!」
「うん!いくよオトちゃんっ!」

「鳳凰旋風脚!!」「タチバナ流奏法・壱越粉砕!」
ベキッ!! 
ドゴッ!!
「グギアアアアァァァ!!!」

唯の回し蹴りがリザードウォリアーの顔面を捉える。
同時に、オトの琵琶が後頭部に直撃。トカゲはその場で膝を折り、ズシン!と地響きを立てて倒れた。

メキッ……!!
(うっげ……兄貴の形見なのに………)
……だが。オトの琵琶も本体が割れ、柱の部分が半ばから折れてしまう。

「あ、ありがとうオトちゃん…!!」
「おう、唯……大丈夫か?」
「うん。だけど、その琵琶……」
「………こんなもん、別にいいって。お前を助けられたんだから、これ位安いもんだ」

オトは唯から目を逸らし、照れくさそうにお腹を押さえる。
エルマからは、その表情が……痛みをこらえているかのように見えた。

「テメエらよくも……やりやがったなァァァ!!」
なんとか一体は倒したものの、戦いはまだ終わっていない。
もう一匹のリザードウォリアーが、激昂して二人に襲い掛かる!

「オト!!唯!!」
ザシュッ!!
「…うぐっ………!!」

エルマが素早く割って入り、トカゲの爪を背中で受けた。
強化装甲の一部が切り裂かれ、左肩から背中にかけて、ざっくりと爪痕が刻まれる。

(……つぅ……けど、これくらいなら、まだ………!)
……何とか痛みに耐え、エルマが反撃に移ろうとした、その時。

「っぐああああああ!!!」
「オトちゃん!?どうしたの!?」

庇ったはずのオトが、悲鳴を上げた。

902名無しさん:2021/07/16(金) 23:22:20 ID:???
「やっぱり……あなた、術か何かで、私達の痛みを……!」
「えー?……な、なんか言ったかエルマ……ホラあたし、ちょっと耳悪いからさ」
「とぼけないでよ!私たちの受けてる痛みを、あなたが一人で引き受けてるんだとしたら……このままじゃ命に係わるわ!!」

桜子の腕に切られた肩の傷も、今受けた背中の傷も、予想していた半分も痛みを感じない。
今の戦いで重傷を負ったはずの唯も、痛がっている様子がない。
一方でオトは、見た目はほとんど無傷なのに、肩やお腹を苦しそうに押さえ、全身から異常なほどの脂汗をかいている。

オトの身に異変が起きているのは明白だった。そしてそれをオト自身が隠そうとしている、ということは……
この現象を起こしているのは、オト自身。
何らかの術、あるいは能力で自分たちの痛みを一部…いや大部分、引き受けている、とエルマは結論付けた。
……だが、今はそれをゆっくりと問い詰めていられる状況ではない。

「ケッ!何ゴチャゴチャ言ってやがる!!今度こそブチ殺してやるぜ!!」
「……天葬・心破掌底!!」
「ゴハッ!?」
「うぐっ……!!」

再び襲ってきたリザードウォリアーを、唯が掌底で迎撃。強烈な一撃に、巨体の突進が一瞬止まる。
と同時に、オトが両手を押さえて苦し気に呻いた。
確か唯の両手は、さっき別のトカゲに骨を砕かれていたはず……!

「くっ………このおおおお!!」
エルマは素早くトカゲの身体に飛びつき、喉笛に電磁ブレードを突き立てる。

……ベキンッ!!
既に桜子との戦いで半分に折られていた電磁ブレードが、今度は根元からへし折れた。

「…唯っ…!!」
「柔来拳、雷の型…雷震掌!!」
「……ギアァアアアアアアアアァッ!!」
更に唯が飛び込み、折れたブレードに電撃を叩き込む。
リザードウォリアーは断末魔の叫び声を上げた後、ぶすぶすと黒煙を吐き出し、動かなくなった。

「はぁっ……はぁっ……さす、がに……限界……」
「もう、魔力が………」
「っは……あたし、は……まだまだ、やれる……ぜ…」
「バカ言わないで……あんたが一番無理してるはずよ。今すぐ、私達に掛けた術を解いて」
「さー、て……何の、事だか……」

武器を失い、体力も魔力も使い果たし、体は傷だらけ。三人ともいつ倒れてもおかしくなかった。
だがエルマと唯は、傷の痛みをほとんど感じていない。

「いい加減、隠し事はやめにしてよ!……お願い。私達の事、仲間だと思ってくれてるなら……」
「………………。」

「ヒヒヒ!!そんな死にかけの女の子相手に、なーんでやられちゃうかなぁ?」
「所詮トカゲは、我らの中では最弱……なんつって。ヒヒヒ!!」
「さっさとブチのめして、全員マワしちまおうぜぇ……!」
「グフフフ……やっぱ女は、抵抗できなくなるまでボッコボコに潰してから犯すのが最高だよなぁ」
「オレはやる直前まで抵抗してくれる方が好きだな……ブヒ」

だが新手の魔物達が続々と現れ、エルマ達の周りを取り囲む。
ざっと数えただけでも、二十体以上はいるだろうか。

絶望的な状況の中、オトは一歩、前に進み出て……
足元に転がっている機械兵の残骸から、何かを拾い上げた。

……ナルビアの技術で作られた特殊合金製の手甲。格闘機兵ルビエラの愛用していた武器だ。

「……あたしが突っ込んで、道を作る。お前は唯を連れて、ここを脱出しろ」
「オト!?……ちょっと、待ちなさい!!戦うなら私も……」
「いーからいーから。……ケガ人は無理すんな」

「!?……っぐ……!!」
「う、ごは………!!」

再びオトの瞳が光を放つと、エルマと唯の身体に、「本来の痛み」が戻ってきた。
唯はたちまち気を失い、エルマも腕が上がらず、思わずその場に膝をつく。
(……想像、以上だわ……アイツ今まで、こんな痛みの中で戦ってたって言うの……!?)
これでは戦うどころではない。オトの言う通り、気を失った唯を背負って動くのがやっと、といった所か。

「ありがとな、エルマ……唯のことを頼む。死なせないでくれよ。あたしたちの隊長を、さ……」
「ま……待ちなさ……っぐ……!!」

敵に向かって一人突っ込んでいくオトを、エルマは追いかけることが出来なかった。

「オラオラオラああ!!こっからはアタシの、一世一代のワンマンショーだ!!
全員耳かっぽじって、アタシの歌を聴けぇぇぇ!!」

903名無しさん:2021/07/26(月) 00:36:42 ID:???
「っしゃ、行くぜ!まずは、ファーストナンバー…真紅の★芸者!!」
オトは大声で歌いながら、オーガ、トロル、ミノタウロス、etc……の屈強な魔物達の群れに飛び込んだ。

「♪…急に歌うよーー♪オラオラオラー!!」
……ドガッ!!ベキッ!! ばこんっ!!

「ッグオアアアアッ!!」
「グギッ!?なんだ、コイツ……!」
「クソガぁぁ!!構うこたねえ、相手は一人だ、全員でつぶせぇぇ!!」

自分の倍以上の体格を持つ魔物たち相手に、拳や蹴りだけで互角以上に渡り合うオト。
ひたすらテンションを上げながら魔力のこもった歌を歌うことで、
自らのパワー、身体能力を爆発的に向上させるのだ!

だが当然の事ながら、歌いながら戦う行為は激しく体力を消耗する!
良い子は絶対真似しちゃいけない、無謀な玉砕戦法なのである……!!

「ぁぁあーー♪2番のサビの後ぐらいにあるちょっとメロディ変わるやつーー!
覚えるの面倒だからこの世からなくなって欲しいぜー♪っとくらぁ!!」

………………

「サクラ、唯の治療をお願い!」
「は、はいエルマさん!でも、エルマさんの傷も治さないと!」
「平気よ、唯やオトの痛みに比べれば、この位……!」

オトが魔物の軍勢を相手にしている間に、エルマはなんとかサクラ、ルーア達と合流した。
周りを囲まれないよう壁際に固まっているが、魔物に囲まれているため逃げ場がない。

そこへオトが討ち漏らした魔物、ゴブリンの一団が一斉に襲い掛かる!
「ゲキキキッ!!コイツラ全員ボロボロだぜ!」
「これなら俺達でも勝てるキッ!!」
「オラオラ!全員マワしてやるぜー!!」

(どうする……応戦するにしても、何か武器は……!!…)
足元に転がっていた、機械兵の残骸を拾い上げると……

「借りるわよ、エミリーっ…だああぁっ!」
「「ギァアアァァァ!!」」
電磁ブレードを両足に装着し、飛び掛かってきたゴブリン達を斬り飛ばす!

「サクラ、ルーアちゃん、エミルさん!私がここを食い止めるから、その間に考えて!
……全員で、脱出する方法を!!」

「ギギギッ……あの女、生意気だゲッ!!」
「全員で一気にかかって、やっちまえ!」
「グヒッ……ゴブリンぐれえでヒーヒ―言ってるようなら、楽勝だベ…!!」
オークやガーゴイル、トロルなど、中・大型のモンスターがぞろぞろとやって来る。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……いくらでも、来なさいよ……
唯やサクラたちには、指一本触れさせないから……!!」

疲労と失血、早くも息が上がり始めたエルマ。
肩や背中の傷が今さらになってずきずきと痛み始めた。

(オト……あんたの事も絶対、死なせない……
あたしらが行くまで、倒れるんじゃないわよ……!!)

904名無しさん:2021/07/26(月) 00:39:34 ID:???
一方。指令室の入り口付近では、アリスと桜子、そしてイヴが雪崩れ込んでくる魔物達を必死に食い止めていた。

「くっ……私の右腕……こんな時に限って、動かないなんて……!」
「はあっ……はぁっ………魔力が、もう……!!」
「数が多すぎる……せめて、魔法針があれば……」
元々の戦闘力は高かった3人だが、こちらも武器や体力、魔力が底を突きつつある。

「くそっ……スネグアめ。なぜこんななりふり構わない総攻撃を……
私たちもろとも、この基地を潰すつもりなのか…!?」

そんな窮状に追い打ちをかけるかのように、敵の軍勢を率いる『総大将』が姿を現した。

「ふふふふ……はぁ〜い。お久しぶり、桜子ちゃん♪」
「!?……お前は確か、ゾンビキメラ………なのか……!?」

スネグアの使い魔の一匹、ゾンビキメラ……桜子たイヴも、何度か顔を見た事があった。
全身に様々な魔物の部位をつなぎ合わせたような、醜悪な姿の魔物……だったはずなのだが。

「ふっふーん。正解〜♪よくわかったわねぇ。
色〜んな魔物とかを取り込んで、昔よりビューティ&セクシーになったつもりなんだけどぉ♪」

今の姿は、人間に似た手足と胴体を持ち、角や尻尾、翼などが生えていて、
ベースとなったラミア…蛇女より、どちらかというと魔族に近い。
眼光の鋭さや邪悪そうな表情など、顔に僅かな面影が残るのみであった。

「色んな魔物……他のスネグアの配下の魔物を、か?
そんな勝手な振る舞いを、お前のご主人様が許すとは到底思えないが……」

そして何より異様なのが……ゾンビキメラの服装。
あれは間違いなく、王下十輝星であるスネグア専用の軍服。
更に、スネグアの家系に代々伝わるという魔獣使いの鞭『リベリオンシャッター』を腰に着けている。

「……あぁ〜。桜子ちゃん達はまだ、知らなかったのねぇ〜♪
あたしの『元』ご主人様のスネグアとかいうクソ女なら、
全身バラバラにされて、魔物の餌になって死んだわよぉ?」

「なっ……!?」
桜子もイヴも、衝撃的な事実が告げられて動揺を隠せなかった。
にわかには信じられないが、本当だとしたら、魔物たちが今暴走状態になっているのも納得がいく。
何しろ制御するものが居なくなったのだから、当然とも言えるだろう。

しかし、まだ気になる事がもう一つ……
スネグアが死んだのだとしたら、捕らえられたスバル、そしてイヴの妹メルは、今どうしているのか……

「そういうわけでぇ〜、ワタシが桜子ちゃん達の新しいご主人様になりました♪
いつまでもゾンビキメラ何て名前じゃダサいし、支配者に相応しい新しい名前、考えないとね♪」

「黙って聞いていれば、勝手な事を……そもそもスネグアの下に付く事さえ不本意だったのだ」
「そうです……あなたの手下になんて、なるつもりはありません!」
桜子とイヴは、当然ながらゾンビキメラに反旗を翻す。

「いいのかなぁ〜?そんな事言って……断言してもいいけど、あなた達はアタシにゼッタイ逆らえない。
……嘘だと思うなら、掛かってきてみれば?」
「……いいだろう。その余裕ヅラ……後悔させてやるっ!!」

姿が変わったゾンビキメラ。人型に近い、すなわち上級クラスの魔物を何体も取り込んでいるという事は、
恐らく戦闘能力も格段に上がっているだろう。
だがあの理由は、本当にそれだけだろうか……?
……挑発を仕掛けて来るゾンビキメラに、桜子たちは敢えて乗ることにした。

「……でやああああぁぁぁっ!!」
「行きますっ……ファイアボルト!!」
異形の右腕を大剣へと変え、ゾンビキメラに斬りかかる桜子。そして、炎の魔法を放つイヴ。
だが、攻撃が届く、その寸前……

「ふふふ……斬ってごらんなさい。斬れるものなら、ね」
……ゾンビキメラの両肩が膨れ上がり、人の顔を形作る。

「!?……こ……これ、は……」
「まさか……」
「桜…子……おねえ、ちゃ……」
「イブ……姉……」
それは……見間違えるはずもない、スバルとメルの顔だった。

905名無しさん:2021/07/27(火) 22:01:35 ID:???
「ふふふふ……どうしたの桜子ちゃぁん?余裕ヅラを後悔させてくれるんじゃなかったの〜?」
「………スバルっ……!!……」
「そんな……メル……!?」
ゾンビキメラの両肩が不気味に蠢き、スバルとイヴの頭が現れる。

ゴオォッ!!
「っぐ……!!」
「桜子さんっ…!!」
斬りかかろうとしていた桜子は咄嗟に攻撃を中止し、イヴの火炎魔法を背中で受け止める。

「……貴、様っ………二人に何をしたっ!!」
「ふふふ……見ればわかるでしょ?体ごと取り込んだのよ。この子たちは今、私と一心同体ってわけ」

「しかも、痛覚はぜぇんぶこの子たちに引き受けてもらってるから、少しでも私を傷つけたりしたら……」
ゾンビキメラは、ニヤニヤと笑いながら、鋭い爪を自分の胸に突き刺す。

……ズブッ!
「ひゃっ!?うっぐぁあ!?」「いぎっ!?痛だあああああ!!!」
すると、スバルとイヴの顔が苦痛に泣き叫ぶ。一方、ゾンビキメラ本人は涼しい顔のままだ。

「………この通り。この子たちが痛がることになっちゃうの。
ま、私は全然痛くないし、多少の傷口はすぐ再生するから、気にせず攻撃していいわよ〜?」

「そん、な……なんてこと……!」
「この……外道めっ……!!」
桜子、イヴ、そして横にいたアリスも、ゾンビキメラの所業に憤りを隠せなかった。
だが人質を取られていては手も足も出ず、ゾンビキメラを睨みつけながらじりじりと後退するしかない。

「ふふふふ……いい表情♪……パワーアップのついでにレズい魔物もいっぱい同化したから、そー言う顔みるとゾクゾク来ちゃうわぁ♪
んじゃ、立場の差が理解できたところで……桜子ちゃん達には改めて、あたしの手足として働いて貰おうかしら」

「…………結局、そうなるのか……済まない、スバル……」
「メル……ごめんなさい、私に力がないばっかりに……」
「だ、め……こんなやつの、言う事なんか……」
「……わたしたち、の事は、いいから……!……」
無念そうに顔を伏せる桜子とイヴ。そして、同じく悲痛な表情を浮かべるスバルとメル。
不幸な少女たちの運命は、またもふりだしへ戻るのか。………それとも、更なる絶望の底へと墜ちていくのか。

「う〜〜〜ん………でもでもぉ。
使えそうなパーツは、せいぜい桜子ちゃんの右腕くらいかしらねぇ?」

ゾンビキメラは桜子達を吟味するように眺めた後、ドライバーのような道具を取り出して桜子に軽く触れる。

「何?……それは、どういう………」

次の瞬間。桜子は、首、肩、脚の付け根の関節に、違和感を覚える。
身体を動かそうとしたとき、視界が激しく揺れ、身体のバランスが保てなくなり……衝撃と共に、頭から地面に転げ落ちた。

「意味、だ、っぐあっ!?」
「桜子さんっ!?」
「なっ……一体、これは……!?」
……バラバラバラッ!!

驚愕するイヴとアリス。何が起きたかわからず、手足をばたつかせる桜子。
両手、胴体、両足と、桜子の全身はバラバラに分解し、地面に散乱していた。

「うふふふ………いつ使っても面白いわぁコレ。何が起きたのかわからない、っていう間抜けな表情がサイコー♪」
スネグアを葬り去った時にも使用した、「とある協力者」から借り受けたナルビア製の秘密アイテム。
その名も「デストラクション・ねじ回し」である。

「じゃ、アナタの右腕もらっとくわ……ナリはちょっとダサいけど、そこそこ使えそうな剣ね♪」
「っ………貴、様っ………!」
ゾンビキメラは桜子の右腕を拾い上げる。
禍々しい刃を持つ異形の右腕は、さらに姿を変異して大型の剣へとなり、ゾンビキメラに取り込まれていく。

「ふんふんふ〜ん……それじゃ、早速………試し斬りっと♪」
ゾンビキメラは、山道で拾った枯れ枝でも振り回すように、異形の大剣を軽く横に振るった。

……ブオンッ!!
「っ………!」
動けない桜子の頭上を、巨大な異形の刃が唸りを上げて通過する。

「くっ……!!」
アリスは、ギリギリの所で身を伏せてかわした。

……バシュンッ!!
「!……ぁ…………?」
イヴは、反応できず、吹き飛ばされて……十数メートル先の壁まで叩きつけられた。

906名無しさん:2021/07/27(火) 22:50:47 ID:???
(え……?……わ、た………し……今、どうなったの………?)
ほんの一瞬、気を失っていたようだ。イヴはぼんやりと、周りの状況を確認し始める。
頭を打ったせいか、なんだか視界がぐらつく。
メルや桜子の声が遠くの方で聞こえる。

お腹の下あたりが妙に温かかった。

猛烈に眠くて、このまま眠ってしまいそうだ………

「……ぁ………ぇ……」

「イヴーーーーッ!!!」
「いやあああ!!お姉ちゃぁああああん!!」

泣き叫ぶメルとスバル。絶叫する桜子。

「ん〜……切れ味はイマイチだけど、こんな物かしらねぇ」
ゾンビキメラは邪悪な笑みを浮かべながら、ぶん、と剣を一振りして返り血を払う。

「許せません……スネグアも最低の敵でしたが、あなたはそれ以上に邪悪です……!!」
魔物に取り込まれ、弄ばれ、無残に殺された、姉妹の姿を見せつけられ……
アリスは、自分の中の怒りの感情を抑えきれなかった。

「なーんか、さっきから無駄にウロチョロしてるウサギちゃんがいる、と思ってたけど……
スネグアのお気に入りだった、エリスだか、アリスだか言う子だっけ?
……あなたもなかなか、嬲りがいのありそうな顔してるわねぇ」

アリスの反抗的な視線に、嗜虐心をそそられたゾンビキメラ。
右手に異形の大剣、左手にはスネグアの鞭「リベリオン・シャッター」を持ち、べろりと唇を舐めた。

(……私一人の力じゃ、勝ち目はないかもしれない……だけど……)
「お前のような奴を……許しておくわけにはいきませんっ………!!」

アリスの腕のブレスレットが青い光を放つ。
修復・スタンバイ中だった「ブルークリスタル・スーツ」が使用可能になったサインだ。

そして………

「アリスーーーっ!!……一体、何が起きているっ!どうして、基地にこんなに魔物が……!!」

……アリスの双子の姉妹、エリス。
自陣地に潜入した敵特殊部隊の妙な骸骨に思わぬ苦戦を強いられ、
さらに期間中に魔物兵の大群に遭遇し、ボロボロに疲弊しながらも……たった今、前線基地に帰還した。

「アリスっ………力を貸して下さい……!」
「……エリス………ああ、もちろんだ……!!」

それ以上の言葉は不要だった。
エリスのブレスレットにも、赤い光が灯り……

「……蒼填!!」「……紅衣!!」

蒼と紅のまばゆい光と共に、二人は輝く装甲を身に纏った。

907名無しさん:2021/08/03(火) 21:53:52 ID:???
一方。前線基地に帰還予定だった、他のシックスデイのメンバーは……

「うぉおおおお!いたぞー!!」
「ナルビア兵の……シックスデイのお色気担当の子だーー!!」
「っしゃー!!とっ捕まえて軍服プレイだぜーー!!」

「ったく、しつこいなぁ……あんたらの相手なんて、してられっかっつーの」

レイナ・フレグは、大量の魔物に追われて一目散に逃げていた。
彼女のスピードなら、まず追いつかれる事はない……が、このままの状態、というわけにもいかない。
現在走っているのは、基地とは反対の方角だった。

「およ、あそこにいるのは……Dさん!ちょーどよかった!」
「ん?あれは……レイナじゃねーか。追われてるのか……!?」

同じくシックス・デイのダイ・ブヤヴェーナが、追われるレイナを見つける。
彼は急に魔物が大発生したため、様子を見ながら基地に帰還中だった。

「しゃーねぇなぁ……スリップレイン!」
ツルッ!ズルッ!!ベシャッ!!
「ブモっ!?」「ゲヒッ!?」「「「グワアーーーー!」」」

レイナが追われているのを見て、すぐさま特殊能力を発動する。
滑りやすい性質の水を雨のように降らせて、魔物達を派手に転倒させた。

「やれやれ……こいつらから見りゃ、お前も女扱いって事か。怪我はねえか?」
「さんきゅーDさん!それじゃ……後はよろしくぅ!」

「そういや、さっきエリスにも会ったぜ。
ヒールレインで治療してやったら、礼も言わずに速攻で基地に戻っていきやがった。
俺らもさっさと……って、おいぃ!?」

レイナは雑に礼を言ったと思ったら、速攻で基地とは反対方向に全力で走って行った。

「なんなんだよ、アイツ……どこ行くつもりだ?
本部にもさっきから連絡付かねーし、何がどうなってやがる……!」

「ガルルル……おい、俺らをコケさせたのはテメエだな…」
「おかげで軍服少女ちゃんを逃がしちまったじゃねーか!」
「野郎、ぶっ殺してやる!!」
「っええ!?ちょちょちょ、待て待て!落ち着け……アッーー!!」

今度はDが全力で逃げ回る羽目になった。

そして……レイナは追跡を再開した。目指すは前線基地とは反対方向、戦場の端の端……
海沿いで、近くに小さな漁港があり、逃亡者が隠れるには、うってつけの場所。

「この臭い……感じる。感じるよぉ………そっちにいるんだね……舞ちゃん……」

……レイナが狙っている獲物は、そこに間違いなくいる。
野生の勘。狩猟者、捕食者、殺戮者としての勘が、そう告げていた。

908名無しさん:2021/08/03(火) 21:58:21 ID:???
「んむっ…!…ん……サキ…様……」

サキは舞の唇を奪い、舌を深く差し込み、そこから闇の魔力を流し込んでいく。
刻まれた者の魂を奪い尽くし、術者の思うがままとする「隷属の刻印」を刻むために。

(……!……魔力を介して、サキ様の心が……)
(舞の心が、流れ込んでくる……)

二人の魂が繋がり合い、言葉を交わさずとも互いの想いが通じ合った。
そして……

ずぶっ……ぞわわっ………
(!……)(これは……)

舞の身体から、黒い影のようなものが無数に現れ始める。
これまでに舞が受けてきた呪いや邪念が、可視化したものだ。

全身、特に、誰しもが見とれるすらりとした美脚に、数多くの思念がまとわりついているのが見える。

(どっかのガチレズ司教、ツギハギの化物。通りすがりの雑魚兵士やスケベなおっさんまで……
よくまあこれだけ集まったものね。でも……もう誰にも、渡さない…!)
これらの邪念を取り除く……手段はモノによって様々だが、もっとも単純なのは、物理的な除去。

「んっ……!………ぅ……はぁ……はぁ……」
「………ほら。化け物の精液とか、良くない物も、全部い吐いちゃいなさい」
サキは舞の口の中に指を突っ込んで、ゾンビキメラの精液を無理矢理吐かせる。

「!………げほっ!!……っぐ、ぉぇ……はぁっ……はぁっ……
そんな、サキ様自ら、そんな、こと……!」
「構わないでしょ。……あんたはあたしの物なんだから、何やったって……ね」
「ふいっ!?……ふ、ぁぅん………!!」
舞の体内に残る邪念の元を一つ一つ探り当て、丁寧に除去していった。

「……これで、少しは楽になったでしょ。……少し休んでから、ユキたちの所に戻りましょう」
司教によって刻まれた呪術の刻印は、より強固な印によって上書きする。
右足の太もも、かつて火傷を負った場所に、黒い紋様が浮かび上がっていく……

呪術的な処置は、ひと段落着いた。
調教などを受けて、敏感になった体は徐々に慣らしていくしかないだろう。
ブーツの力で無理矢理押さえ込むこともできるが、それは……舞の寿命を縮める行為に他ならない。
このブーツは、すぐにでも破棄した方が良い。

「近くの漁港に、脱出用の船を手配してある……
それに乗って、こんな糞みたいな国、みんなでおさらばしちゃいましょ。後の事はどうとでもなるわよ。だから……」
「あ……ありがとうございます、サキ様……ですが……」

ジャララララッ!!
「……うっ!?」
「……舞!?」
その時。
金色に輝く鎖が、舞の身体に絡みついた。
……これは本物の鎖ではない。誰かの思念が視覚化した物……

「舞ちゃん、み〜つけた。
こんな所で、他のやつとイチャイチャしてるなんて……マジ許せないわ」
今度こそ、ゼッタイ逃がさないからね……『雷装』!!」

二人の前に現れたのは、シックスデイの一人、レイナ。
以前から舞に並々ならぬ執着を示していた彼女の眼は、飢えた獣のごとくギラギラと光を放つ。
金色のブレスレットを掲げて叫ぶと、稲光と共に黒地のインナースーツと金色のプロテクター姿に変身した。

「舞………!」
「ユキ様と、船で待っていてください……後から追いつきます。必ず」
黒いブーツが、舞の脚に収まり、ふわりと浮かぶように立ち上がる。
全身から何か……取り返しのつかない何かが失われ、羽のように軽くなった。

「……これが私の、最後の舞。
私がサキ様の物になる前に………最後の呪いは自らの手で、断ち切ってあげる……!!」

「ふふふ………しばらく見ないうちに、いい眼するようになったじゃない。
今度こそ、とことん遊べそうだね。あたしの舞ちゃん……♪」

909>>903から:2021/08/09(月) 17:55:40 ID:???
「燃えろバーニン♪心のハートー♪くらえ鉄拳アイアンパンチー♪
 うらうらうらぁぁぁっ!!」
大声で歌い、敵の大群をひきつけながら戦い続けるオト。

「ぐうっ!?……なんつー声だ……!!」
「くっそうるせぇぇ!!誰かそいつを黙らせろぉぉぉ!!」
そのバカでかい歌声は、自身の戦闘力を高めるだけでなく敵をも魅了…
…というか、うっすらヘイトを買ってる感もあった。

……ドゴッ!!ベキッ!!
「このガキがぁ!!さっさと倒れて、俺らにヤられろやぁぁ!!」
「♪熱くヒートだ力の…っぐは!!……っく……パワー…っだぁああ!!」

ごきんっ!!
「っぐべっ!?」
「ぜぇっ……はぁっ……まだ、まだ……次のナンバーいくぜおらああああ!!」

「おいどうなってんだ。こいつ全然倒れねえぞ……」
「どう見てもボロボロで、ワンパンどころかデコピンでも倒せそうなのによぉ!」
「へっ……俺らがトドメ刺してやるぜぇぇ!!」

大型の上級モンスターも含め、既に十体近くの敵を倒していた。
反撃も数多く喰らい、今にも倒れそうな程ボロボロの傷だらけ。
肩で息をしていて、体力も明らかに限界のはずだった。

だがそれでも……

「すーーーー……
止まるんじゃーねぇぞー♪ アタシは止まんねぇからよー♪
っであぁあっしゃ!!」
どかっっ!!べき!!
「っぐお!?……このアマ、ふざけやがって……!!」

オトはひたすら歌い、戦い続ける。
唯やエルマ、ヴェンデッタ小隊のメンバー達を……仲間を守るために。

バキッ!ドガッ!!……ドボッ!!
「あぐっ!!っうあ!!………げほっ!!」
「グヒッ……メスガキの腹ってのはいつ殴ってもサイコーだなぁぁ!!」
「もうフラフラじゃねえか。いい加減ラクになっちまえよ……!」

「っぐ、えほっ……ぜんぜん……効か、ねえな……今度はこっちから行くぜぇ!!
お前が止まらねえ限りー♪…その先にアタシはいんぞー♪っと……おらぁっ!!」

………………

オトの一族に伝わる秘術「イタミワケ」は、他人の受けたダメージを自分が代わりに引き受ける、自己犠牲の術。

オトの兄、シラベ・タチバナもまた、この術の使い手で、また優秀な討魔忍でもあった。
だがある時、彼の部隊は敵の罠に陥り、全員が重傷を負ってしまい……
その傷を一人で引き受けた事で、彼は命を落とす事になった。

………………

……ドゴッ!!
「っぐは……なん、だと……!」
「はぁっ……はぁっ……どう、した……げほっ!!……あたしは、まだまだ……歌えんぞ……!!」

「チィ……この死にぞこないが!……いい加減そのへたくそな歌を止めやがれぇ!」
「あーーー?聞こえねえなぁ……!……もう一曲行くぜ、おらぁっ!!」

バキッ!!……ドカッ!!

910名無しさん:2021/08/09(月) 18:00:42 ID:???
オトは幼い頃から歌が好きな少女で、亡き祖母から習った琵琶を片手に、暇さえあればいつも歌っていた。
将来はアイドル歌手になりたい!と淡い夢を抱いていたのだが……
当時親友だった少女を守るため、「イタミワケ」の術を使い、それが元で耳に深刻なダメージを負ってしまった。

それ以来、アイドル歌手になる夢をあきらめ……たりはせず。
調律も出鱈目な琵琶をかき鳴らし、やたら大きい声でひたすら歌いまくった。
おまけに人の話も聞こえづらいため会話がズレて、いつしか周囲から浮くようになっていった。


そして……今。

「……はぁっ…………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ……」
「ガルルッ!しぶといメスガキだぜ。大人しく犯されてりゃぁ天国見せてやんのによぉ!」
「俺らはまだまだ大勢いるんだ。抵抗したって、その分あとで痛い目見るだけだぜ!」

魔物の大群に囲まれ、今にも倒れそうになりながらも……未だオトの目は、死んでいなかった。

(唯……お前がエルマを助けるために、スライムプールに飛び込んだ時……バカだなって思ったよ。
あたしと同じくらい……あたしより、バカな奴がいたんだ、って……すっげえ嬉しかった)

「がはっ!………へっ……雑魚がピーチク、囀ってんじゃねえ。黙ってアタシの歌を聞きやがれ……!
よ、み、が、え、る よみがえる 甦る―♪」

「チッ!またあの下手糞な歌か!鬱陶しいぜ!」
「あのガキ、何度ボコっても、あの変な歌を歌い出すたびに復活しやがる!」

(エルマ、サクラ、ルーアも……みんな、同じように良い奴ばっかでよかった。
仲間を……誰かを助けるために、自分を犠牲にして突っ込んでいける、そんな奴らで。
兄貴やアタシが、間違ってなかったって……一人じゃないって、そう思えたから……)

バキッ!! ドガッ!!
「ぐはっ!!……うっぐ、ぁ……痛く、ねえ……!!
アイツらのためなら……あたしは、いくらだって歌えるんだっ……!!」
「ゲヒッ!……だったら、これならどうだギィ!!」
「次の曲は……うっ!?……む、ぐっ……!!」

血の塊を吐き出しながら、気炎を上げるオト。
だがその時。背後から一匹のゴブリンが飛び掛かり、オトの口を塞いだ。

「んぐ……むぅぅっ!……」
(ちくしょう、放せっ……!!)
「ゲヒヒヒ!!思った通りだギ!歌が止まったら、力も弱くなったギ!!」

ゴブリンは両脚でオトの胴体にしがみつき、両手で羽交い絞めしながら口を塞ぐ。
……単純ながら、効果覿面だった。
歌を封じられた今のオトには、本来非力な小鬼の拘束すら振りほどけない。

「ゲヘヘ!雑魚のくせにナイスだぜぇ!……オラ、喰らいやがれぇぇ!!」

………ドガァッ!!
「むぐ…!……んう、っぐ…………っぐあああああぁっ!!」
「ギッ!?ちょ、ちょっと待……ぶべらっ!!」

ミノタウロスの豪快なヤクザキックが直撃し、オトの身体はゴブリンもろとも吹っ飛ばされた。

911名無しさん:2021/08/09(月) 18:07:25 ID:???
ガコンッ! ズシャ! ドガガガッ!!
「………っ、あぐ!……っうぎ!…………!!」

オトの身体は硬い石床をバウンドし、何かの塊にぶつかって止まった。

「…はぁっ……はぁっ…………!」
頭が痛い。胸と腹が痛い。背中も腰も、両手両足全身全てが死ぬほど痛い。

………ズキンッ………
「ち……まだ、まだぁっ……っぐ……!?」
もう一度歌おうと、息を吸い込もうとして……激痛で体がビクンと震えた。
どうやら肋骨が折れているらしかった。歌おうにも、これでは大きい声が出せない。

「ゲッヘッヘッヘー! トドメを刺してやんぜぇぇ!!」
「……はぁっ……げほっ……ま、まだだ…………あたしは、まだ……!」
巻き添えでのびているゴブリンを振り払い、何かの塊に捕まって立ち上がるが……

ぐちゃっ………
(……?……何だ、これ……………?)
何かの塊の正体は、さっき倒したリザードウォリアーの死体……ではなく、抜け殻だった。

「ゲッゲッゲ………テメエは琵琶で俺を思いっきり殴ってくれた、クソ女じゃねえか……」
「ヒヒヒ……丁度いいぜ。脱皮したてで腹が減ってたんだ」

抜け殻……そう。
一度倒されたはずのこのトカゲ達は、仮死状態になった後、脱皮して新たに生まれ変わったのだ。
前よりも格段に力を増して。

………ズドンッ!!
「……っがは!」

長大な尻尾が振り下ろされ、オトは一撃で叩き伏せられる。

「ヒヒヒ!あっけねえなぁ……じゃ、さっそく踊り食いと行くか」
「待て待て。さっきの礼に、たっぷり甚振ってからだ」
「おいおいトカゲのダンナよお……そいつは俺らが先に遊んでたんだぜぇ?」

「……ま、だ……あたし、は……」

魔物達が集まり、動けないオトの首を掴んで、ひょいと持ち上げる。
はたして獲物を手に入れるのは誰なのか。はたまた仲良く山分けか………

912名無しさん:2021/08/13(金) 16:41:41 ID:???
「スズ……!スズッ!!」

アリスの強襲によって湖に落ちたリザとスズ。
意識のあったリザがスズを担いで湖畔に移動したが、彼女は目を覚まさなかった。

「……死なせないッ……!もう、死なせたくない……!」

心臓マッサージと人工呼吸を繰り返すが、スズは目を覚まさない。
静かに胸が上下しているので、生きてはいるのだが、意識が戻らない状態であった。



<敵性反応検知>
<敵性反応検知>
<敵性反応検知>

「ナルビアの偵察機……?こんなときに……!」

自分一人ならば戦えるが、動けないスズを庇いながら戦うのは流石に厳しい。
そう判断したリザは、急いでスズの体を草陰に隠した。

<敵発見><敵発見><敵発見>
<<<攻撃を開始します>>>

バチバチバチバチバチッ!!
「くっ……!」

放たれた電撃をシフトで回避する。
リザの目の前に現れたのは、鉄球のような浮遊マシーン。
イヴを捉えていたものと同様の機械だが、この時はまだ稼働が停止していないため、トーメントの兵士であるリザに襲いかかってきた。

<敵反応消失>
<座標変更>
<座標再設定>
<<<攻撃を開始します>>>

「嘘、そんなっ……!きゃああああああぁっ!!」
バチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!

シフトで離れた後にすぐに攻撃される可能性を、リザは考えていなかった。
人間相手ならば一度見失うが、この鉄の塊は熱源探知と音で攻撃対象を瞬時に捕縛し、電撃を放出する。
一度視界から消えたとて、攻撃範囲であればすぐに再攻撃が可能な高性能マシーンの電撃が、リザの身体を貫いた。

(ぐ……甘、かった……湖に、落ちる……)

空中で電撃を喰らったリザは、真っ逆様に湖へと落ちた。



<対象の敵を殲滅>
<警戒モードへ移行>
<警戒モードへ移行>

「ごぼ、がぼっ……!」

地上の敵は追撃を諦めたようだが、体が痺れているリザは泳ぐことができなかった。

(このままじゃ溺れる……!早く戻らないと、スズが……!)

シフトの力は指定座標を強く念じることで発動する。それは水中でも可能だ。



ビュンッ!
「ぷはっ!」

<<<敵性反応検知。攻撃を開始します>>>

「ッ!雷禍斬滅!!」

地上に出た途端に放たれた電撃を、予測した通り斬り払う。
その後はすぐにシフトで急接近し、自身の血液を犠牲に発動する破壊力重視のシャドウブレードを起動させた。

「闇烈斬!!」

バゴン!!
<ビービービー!>
<修復、不可kkkkkkkk>
<キ、ノウ、テイ、シssssss>

鉄球マシーン3体をまとめて斬り払い、リザはぺたんと座り込んだ。



「はぁっ、はぁっ……!」
(血が吸えないと、これだけの技でも……少しふらつく……)

シャドウブレードは火力重視の武装のため、魔物にも効果的だが、使用者の血液を吸い取る。
ただし、斬った人や魔物の血液を吸収すれば、自身の血液ではなくそちらを還元させることができるため、高火力を維持できる。

だが、このような無機物相手では吸い取る血液がないため、技を出そうものならかなり体力を吸い取られてしまうのであった。

913名無しさん:2021/08/13(金) 16:42:57 ID:???
「おお〜!リザちゃんかっこいい!」

「……スズ、起きたんだ。よかった……」

いつのまにか起き上がったスズが、草陰から出てきてリザの下に駆け寄った。

「リザちゃんが献身的に助けてくれたおかげだよ!ありがとう〜!」

「それはいいんだけど……どうして、あのセリフを知っているの?」

「え?なんの話?」

「……湖に落ちる瞬間に言った、母なる海が守ってくれる……って」

「……….」

「あれは、私のお姉ちゃんが私を庇って海に落ちるときに言ったセリフで……私以外、誰も知らないはず」

「……私の異能力は、運命の予知。だからリザちゃんの運命はたくさん見たの。多分その中で印象的だったセリフを、ポロッと言っちゃったんだろうね!てへへ!」

「……他人に知られたくない過去もあるから、無闇に人の運命を見ない方がいいと思う。……少なくとも私は、あまりいい気がしない」

吐き捨てるようにそう言うとリザは立ち上がり、濡れた髪を手櫛で整え始めた。

「……あ、あれ?怒ってる?リザちゃん怒っちゃった?ご、ごめんね!もう見ないから許して!」

「……別に怒ってないよ……エミリアたちとも連絡を取りつつ、メサイアを探そう。動ける?」

「う、うん!この破壊プログラムをメサイアちゃんに打ち込めばいいんだよね!早速探そうー!」

「…………」

スズの掛け声にも返事をせず、リザは地図で道を確認しつつ歩き始めた。

「や、やっぱり怒ってる……?」

「……怒ってない。任務に集中して」

「うう、リザちゃんが怖いよぉ……」

914名無しさん:2021/08/14(土) 23:27:11 ID:???
 前線で戦い続けていたが、ついに捕まってしまったオト。
 激しい戦闘で消耗しきった彼女は、もはや声も出せなくなっていた。

 「ゲヘヘヘヘへ……ようやく捕まえたぜぇ。このご時世にマスクもせず歌って飛沫をばら撒きまくるたぁ、いい度胸だなあ!」
 「ぐ……ぅ……!」
 「こうしてよく見りゃ、かなりの上玉……!歌は下手くそだったが、身体は極上じゃねえか、キヒヒヒヒ!!!」

 ミノタウロスとトカゲの魔物に下卑た視線を浴びせられても、抵抗はおろか声も出せない。
 オトのイタミワケは出血こそしないが、その痛みは確実に術者の体力を奪う異能。
 戦闘中に自分の痛みに加えて他人の痛みまで肩代わりするのは、並大抵のことでは不可能。
それでもオトがここまで戦えたのは、ヴェンデッタ小隊としてではなく、大切な仲間を守るためであった。

 (もう声も、出ない……結局兄貴と同じ末路か……でも、後悔は、してないけどな……)

 「さあ身包み剥がすぜ!戦場の1番の楽しみは、敵国の女を犯すことって相場が決まってらぁ!」
 「キヒヒヒヒ!脱皮したてのツルツルチンポを上と下の穴に突っ込んでやるぜェ!」

 ようやく捕まえた美少女に舌鼓をうつ魔物たち。
 ボロボロの戦闘服を強引に引き剥がすと、オトのむっちりとした柔肌が魔物たちの前に姿を表した。
 
 「ゲヘヘヘ……引き締まった体してるじゃねえか。さすがミツルギのくノ一……だが、どこまで耐えられるかなッ!」
 ミノタウロスはそう言いながら、オトの体を引き倒して仰向けの上にマウントポジションを取った。

 「ぐあっ!」
 「俺たちを散々コケにした罰を受けやがれ!オラッ!オラッ!オラァッ!」
 「ひっ……!あがっ!ごぶっ!ぐええっ!!」
 ミノタウロスの大岩のような拳が、1発、2発、3発とオトの腹に容赦なく突き刺さる。
 肋骨がさらに砕かれた激痛に、オトは目を見開いて絶叫した。
 
 ミノタウロスは教授ガチャの中では中位に存在している。
人間と同じ二足歩行かつ凄まじいパワーと高い知性を持つ彼らは、魔物軍の中でも白兵戦に優れる上級戦闘兵だ。
その拳の威力は、本気を出せば人間の骨など易々と砕くという。

 「とはいえ、いきなり殺しちゃ面白くねえ……嬲って嬲って絶望させて、壊してやるよ」
 「キヒヒヒヒ!それなら俺の舌でこうして、がんじがらめにしてやろう……!」
 「おお!トカゲのダンナ、気がきくじゃねえか!」
 
 「うぐっ……!あッ!」
 トカゲ兵の粘つく長い舌が、オトの腰と足に何十にも巻きつき拘束される。
 彼女が助かる道は、あるのだろうか……

915名無しさん:2021/08/15(日) 18:21:23 ID:???
「よーし、行くわよ!!せーのっ……」
……ドゴォオオオオンッ!!

敵に包囲された基地からの脱出を図るエルマ達。
その方法はいたってシンプルで、砲撃機兵サフィーネの使っていた大砲を使って基地の外壁を破る、というものだった。

「穴が開いた!……魔物が飛んで入ってくるかもしれないわ。急いで脱出よ!!」
「サクラ、あなたのホウキ…ホウキ?は、何人くらい乗れる?」
「ええと、4人……5〜6人くらいなら何とか……!!」

2本のホウキを合体させて作った「フライングボート・ツインターボ」は、
スピード、安定性、居住性、その他において普通のホウキを遥かに凌ぐが……これほどの大人数を乗せた事はない。
加えてサクラの魔力も枯渇寸前。非常に危うい賭けだが、他に助かる道はなかった。

「……ギリギリ全員、行けるかしら……と、とにかく後は、オトを……」

エルマがオトの姿を探そうとした、その時。

………ドガンッ!!……べちゃっ!!

「………!!」
敵のボスと戦っていたイヴ……の上半身が飛んできて、壁に激突した。

「……………。」
「え………ちょ、これ……」
「いっ………イヴ……ちゃん……?………い、やぁぁあああっっ!!」

巨大な剣で横薙ぎに斬られ、吹き飛ばされ……下半身は、離れた所に転がっていた。
即死……いや、かすかにまだ息があるが、時間の問題だろう。
余りの無残な状態に、エルマは絶句。サクラは……耐えきれず、泣き叫んだ。


「落ち着いて、サクラ!……今は、全員で……」
(そうか……さっき私は「全員で脱出する」って言った。
だけど、サクラにとっての「全員」は……)

エルマは泣き崩れるサクラに声を掛けようとして、気づいてしまった。

エルマにとって「全員」は、小隊のメンバー、あとはエミルくらい。
だがサクラはイヴと旧知の仲であり、更に言うなら唯も、桜子達と知り合いだった……


「っうぁああああああぁっ!!放せ、はなせぇええええ!!」
「グヒヒヒッ!!めちゃカワお姉さんのバラバラ死体みーっけ!!いや生きてるからバラバラ生体か?」
「ツーカこれどういう仕組みなんだろな!科学の力ってスゲー!」

「デストラクション・ねじ回し」でバラバラにされた桜子の身体に、ゴブリンやインプたちが群がっている。

じゅぽっ!じゅぷ!! ばちゅん!ばんばんばんばん! むぎゅっ!
「や、やめ…!!…っぐ、むぅうっ!!」
がりっ!ごり!!ブチッ!!
「あっぐ……うぐ、あああぁぁっ!!」

口や前後の穴、胸の谷間にペニスをねじ込む者もいれば、
太股を齧る者、脇腹に噛みついて血を啜る者、
腋の下や臍など敏感な箇所を舐め回す者など。
バラバラ状態ではろくに抵抗もできず、あらゆる場所を多数の魔物に好き放題されていた。

 「俺たちを散々コケにした罰を受けやがれ!オラッ!オラッ!オラァッ!」
 「ひっ……!あがっ!ごぶっ!ぐええっ!!」

巨大なミノタウロスに嬲られる、オトの絶叫が耳に突き刺さる。

「エルマさんっ………オトさんが………!」
「…………。」
(どうする……どうすれば、いいの……時間がない、すぐに決めないと……!)

エルマは思い知らされた。
この場の全員で助かる、というのがそもそも無理な話だったと。
隊長である唯は気絶、そして他のメンバーもまともに動ける状態ではない。
自分が決断しなければならないのだ。誰を切り捨てるのかを……!

916>>913から:2021/08/15(日) 23:06:56 ID:???
「…………。」
「…………………。」

黙々と歩き続けるリザの後に、黙ってついていくスズ。
その表情は、いつになく暗く沈んでいた。
(どうして、いつもこうなっちゃうんだろ……私はただ、リザちゃんを死なせたくないだけなのに……)

これまでのリザの道のりは、常に死と隣り合わせだったと言っても過言ではない。
実はスズはこれまでにも、リザが死の運命から逃れられるよう、運命を選択し続けていた……

「いつから………見てたの」
「………え?」
リザが立ち止まり、ぽつりと呟く。
それは、リザの心の中に渦巻いた、スズへの疑念だった。

「あの日の、私の運命を見ていたって言うなら………あなたは、見殺しにしたって言うの?お姉ちゃんを……!!」
「そ………それは………!!」

「ずっとずっと、黙って見てたって言うの……!?
お父さんや、お母さん、ミストやレオ、ドロシーや、アイナが、みんなみんな死んでいって!!
私だけが生き残って、苦しんでるのを、ただ………!!」

「そ……そうじゃないよ……!!私はリザちゃんを、死なせないために、必死で……」
「そんな事……誰も頼んでないっ!!」
「………!!」

リザは道端の木に拳を叩きつけ、叫ぶ。
そしてビクリと身をすくませるスズに目もくれず、一目散に駆け出した。

「ま………待って、リザちゃん……!!」

リザが己の運命を呪った事は、一度や二度ではなかった。
普段どんなに考えないようにしていても、死んでいった家族や、ドロシーやアイナの事は忘れる事など出来るはずがない。

そして、こうも考える。
彼女たちが死んだのは、自分の呪われた運命のせいではないのか……
自分のせいで、みんな死んでしまったのではないだろうか。私さえいなければ……

「ぜーっ……ぜーっ……ま、まって………リザ、ちゃん……そっちの方向、は……!」
リザの後ろ姿が、あっという間に森の奥へと消えていく。
元引きこもりで人並程度の身体能力しかないスズは、あっという間に置いて行かれた。
そして………


「はぁっ………はぁっ………はぁっ………!」
(最低だ…………私は……)

走りながらリザは、深い自己嫌悪に陥っていた。

自分を取り巻く「運命」そのものに対する、激しい憎悪。
リザの心の中の、最も暗く醜い部分を……あろうことか、仲間であるスズに向けてしまった事で。

だが。
恨んで当然なくらいには、運命から嫌われているのもまた事実。

スズを置いて全力で走り、息を切らしたリザの前に現れたのは………


「やっと会えたわね。探したわ………リザ」
「……お姉……ちゃん……」

リザの姉、ミスト。
トーメントの手先として凶行を続けるリザを止めるため、ミツルギの戦線を離脱して各地を遊撃していた。

ミツルギ討魔忍五人衆でもある彼女にとって、
リザが特殊部隊に配属され、ここナルビアの戦線に投入された、という情報を掴むのは……
そう簡単ではなかったが、執念でやってのけた。

「今度こそ、私があんたを止める。……たとえ殺してでも」
ミストは胸の前で手の平を合わせる。左手を下、右手を上に向ける。
反射的にリザも、同じ挨拶を返す……アウィナイト式の、出会いと、「別れ」の礼である。

「………私、は……」
固い決意と覚悟を胸に、リザの前に現れたミスト。
だがリザは……

<私にお姉ちゃんは……ミストは殺せません>
<……どんな条件を出されても……やっぱり私には……できません>

残影のシン、ミストを殺せ、という王からの命令を、この戦いに赴く前に取り下げてもらったばかりだ。
いざ出会った時にどうするべきか……考える暇もないままに、今こうして再び出会ってしまった。

「こんなのって、ないよ……どうして、いつも……」

………運命はいつだって、考えたり悩んだりする時間を、与えてくれない。
魔剣シャドウブレードが、血に飢えた獣のごとく震え……流れるように鞘から抜き放たれた。

917名無しさん:2021/08/16(月) 02:30:16 ID:???
 「……いくよ、お姉ちゃん」
 (……前に戦った時と目が違う……戦う覚悟はできているみたいね)

 前回の戦いにはなかった闇の魔力を注がれたナイフを見て、ミストは確信した。
 いざとなれば姉を殺すために、リザは新たな武装を準備してきたことを。

 「「「たあああああっ!!」」
 「えっ……!」

 刹那、背後と左右から、3人のリザが襲いかかる。
 ミツルギに伝わる分身の術の類かと思ったが、リザに印を結んだ様子はない。

(これは……私の体得していないシフトの力!)

 リザがマルチシフトと名付けた複数箇所へのテレポートに対し、ミストは長刀を薙ぎ払いつつ、最小限の動きで3人のリザを仕留めた。

(斬った瞬間に消えた……手応えもない。こんな能力を会得していたとはね)
「こっちだよ」
「ッ!?」

 息がかかるほどに背後へ肉薄されたことに気づき、背後を斬り払いながら後退するミスト。
 だがそこにリザの姿はなく、シフトの残滓である僅かな時空の揺れが残されていた。

「…………」

 訪れた静寂に、ミストは全神経を張り巡らせる。
 リザが前回とは比べものにならないほどの実力を身につけていることは、肌で感じられた。

(……気配が全くない。一体どこにいるの……ッ!?)

 現在地の森の奥から一転、なぜかミストの視界が瞬時に切り替わり、足元には断崖絶壁があった。



「こ、ここは……ナルビアの終末の断崖!?」

 先ほどまでいた森の奥からそう遠くない場所にある、終末の断崖と呼ばれる、ゼルタ山地の断崖絶壁。
どういうわけか、ミストは今その断崖絶壁のそばに立っていた。

 シフトチェンジ……自身と対象者の位置を入れ替える異能の力だが、これもミストは習得していないシフトの異能力である。
突然の場所変えに戸惑っていると、反対側の断崖にシフトでリザが現れた。

「薄暗い森の中より、こっちの方が戦いやすい」
「……シフトから派生する力をいくつか使っているようね」
「……無策でお姉ちゃんに勝てるわけないからね」



 崖の下から強い風が吹き、リザとミストの服を揺らす。
 リザは潜入用の黒い戦闘服。漆黒の黒と鮮やかな金髪のコントラストが印象的だ。
ちなみに今回は教授にしっかり希望を出して露出を抑えてある。
 
ミストは前回とは違い、軽装である討魔忍の忍び装束を纏い、ボイスチェンジャーや兜はつけていない。
奇しくもミストは白装束を纏っており、姉妹で黒と白の対比が生まれていた。



 「……この崖に落ちれば、死体の処理は必要ない。戦いの後はすぐに立ち去ることができる」
 「…………」
 
 冷たい声でリザはそう言い放つ。
真っ暗な谷底は、川に繋がっているらしい。そしてその先は、アウィナイトの民が崇める、母なる海である。

 「……リザ。前にも言ったけど、トーメント王に操られているのなら、私が王を殺してみせる。だからもうあの男に従うのはやめて」
 「それこそ前にも言ったでしょ?私は自分の意思でトーメントの暗殺者になったの。お姉ちゃんになんと言われようと、アウィナイトのみんなを守るために十輝星をやめるつもりはない……同じことを言わせないで」
 「そう……操られてるわけでもない、か。それなら、ミツルギの兵士としても姉としても、アンタを斬るしかないわ」

 改めて長刀を抜いたミストに対し、リザも仕込みナイフを構える。
 張り詰めた空気の中、風の音も自分の息遣いすらもリザはうるさく感じた。

 (……この戦いの中で、答えを見つけるしかない。私が、お姉ちゃんを、どうするのかを……!)

918名無しさん:2021/08/22(日) 18:34:31 ID:???
束の間の休息を終え、任務を再開したエミリアとカイト。
メサイアと呼ばれる秘密兵器を探して、ナルビア軍の本部を目指していたが……

「おうおうテメェ!いっちょ前にマブいスケ連れてんじゃねーか!」
「ようようねーちゃん!そんなイケてない野郎より俺らと遊ぼうぜえ!」

……魔物に絡まれていた。

「くっ……またか!?………水流斬!!」
「なんなのさっきから!魔物兵って、一応味方のはずじゃ……ファイアボルト!」
「「ッグアアアアア!!」」

味方のはずのトーメントの魔物兵に、昭和の漫画に出てくる不良みたいなノリで頻繫に襲われる。
どうやら魔物達は、敵味方の区別なく人々(主に女の子)を襲っているようだ。


「それにしても、魔物の量が多すぎますね。それに空の様子も……」
「うん……何か、とんでもないことが起きてるみたい。リザちゃん達、大丈夫かなぁ……」

空は真っ黒な雲に覆われ、ところどころ漏れ出てくる陽の光も血のように真っ赤だ。
邪悪な魔力……いわゆる瘴気のようなものが周囲に漂っているのも感じる。

不安を抱えつつも、二人は魔物達をやり過ごしながら、細い崖道を進んでいく。
すると………
白衣を着た科学者らしき女性と、白い髪、白を基調とした軍服の少女が歩いてくるのが見えた。

「待った、エミリアさん。……誰か来ます。どうやら……女性の二人連れ……」
「あの服装……ナルビアの科学者さんかな?」
「もう一人は軍人ですが……無駄な戦闘は極力避けたいですね」

まずいことに、道の横は岩壁と切り立った崖。身を隠す場所がない。
そこで……

「!!……前方に生体反応……識別コードなし」

「……そこの二人、止まってください。
この先は戦闘区域で、トーメントの魔物が異常発生しています。
至急引き返すか、別の道へ迂回してください」

……仕方ないので、堂々と姿をさらす事にした。
こちらの方が戦力が上である事、かつ戦う意志がない事をアピールしつつ。

「あらあら。ご親切にどうも〜。でもあなた達って、トーメントの軍人さんよね?」
「ええまあ、そうなんですけど……お互い、無駄な争いは避けたいと思いまして。
このあたりは魔物兵が多くて、特に女性だけだと危険です。迂回するか、引き返した方が良いですよ」
(………あれ?あの科学者の人、どこかで見たような……)

「ふーん。トーメントは糞みたいな奴ばっかりだと思ってたけど、案外いい人もいるのねぇ。
でも心配いらないわ。この子、それはもうメチャメチャ強いのよぉ?
聞いたことあるでしょ?ナルビアの秘密兵器、メサイアって……」

「え?………メサイア……って」
「まさか………こんな子供が!?」
科学者の口から出た思わぬ言葉に、カイトとエミリアは絶句した。

「ふふふ……あなた達、メサイアをどうにかするためにここまで来たんじゃないのぉ?
攻撃対象がどういうものかも知らされてなかったなんて、間抜けな話ねえ」
「!!………」

返す言葉もなかった。
『破壊プログラム』が入っているというダーツ型デバイスの形状から、
相手は機械ではなく生体兵器の類か、と予想してはいたのだが……

「まさか、こんな可愛い女の子だったなんて……どうしよう、カイト君」
「………やるしか、なさそうですね。僕が相手の動きを止めます。エミリアさんは援護を」

にわかに両者の間に緊張が走り、エミリアは魔法詠唱の準備に入る。
カイトも長刀を抜き放ち前に出た。

「どうしますか、マスター」
「ふふふ………調水の継承者に、爆炎のスカーレット……予定にはなかったけど、初戦の相手としては悪くないんじゃない?
割と親切な子たちだったし……お礼に少しだけ、遊んであげなさい」

「了解……雷魔剣ブラストブレード、出力25%……」

919名無しさん:2021/08/22(日) 18:39:19 ID:???
「水練一刀流、カイト・オーフィング……参るっ!!」
「行くよカイト君!!『グレーターストレングス』!!」

……ガキィィンッ!!

エミリアの魔法で筋力強化されたカイトの一撃を、雷の魔剣で受け止めるメサイア。
凄まじいパワーのぶつかり合いに、周囲の大気がビリビリと振動する。

「なっ………互角……!?」
「………大したものね。本気じゃないとはいえ、メサイアちゃんの剣を受け止めるなんて」

体格ではカイトが明らかに有利。しかもエミリアの魔力で筋力強化で大幅に強化されていたにも関わらず、
全力の一撃はメサイアに易々と受け止められてしまった。

「雷魔剣ブラストブレード出力調整、30%……40%……50%」
メサイアはバックステップで距離を取ると、更にパワーを上げ、刀身に雷の魔力を発生させる。

「……カタストロフィ・ブロンテ」
………バチバチバチッ!!
少女の華奢な身体からは想像もつかない、豪快な横薙ぎの斬撃。
そこから繰り出される、雷を纏った衝撃波が、カイトとエミリアを襲った。

「あぶないっ!!……プロテクトシールド!!」
ミシッ……ミシッ……バキンッ!!
「!!……まずいっ!」

咄嗟に前に出て、魔力障壁を張るエミリア。
だが、エミリアの防御魔法も見る見るうちにひび割れ、ものの数秒で障壁は破壊されてしまい……

……ズドォォォオンッ!!

「う……!!………」
「………………。」

「あ………あれ、何ともない……?……!!……カイト君っ……!?」
激しい爆炎が収まり、エミリアが目を開けると……
自分に覆いかぶさるようにして倒れている、カイトの姿があった。
背中を大きく切り裂かれ、倒れたまま動かない。

「あらあら……魔法使いちゃんをかばったってわけ?
流石イケメン君はやる事がいちいちカッコいいわねぇ」
「そ……そんな……カイト君、目を開けて、お願いっ……!!」

急いで回復魔法を詠唱するエミリアだが、どうやら傷はかなり深いようだ。
カイトは目を覚ます気配はない……

「目標Aのバイタル低下……戦闘不能を確認」

「ふふふ……ありがとう。ちょうどいい遊び相手だったわ。
もう一人は例のアレで、手っ取り早く片付けちゃいましょう」
「了解……ゼロエネルギー照射」

エミリアに向け、メサイアが手をかざし、指先から光線を放つ。
するとエミリアの回復魔法が、ぴたりと途絶えた。

「……え、あれ?……なんで、魔法が使えないの…………それに……動けないっ……!……」

魔法を封じられ、動揺するエミリア。
その身体がふわふわと浮き上がり、白い魔法陣のようなフィールドに大の字の体勢で磔にされてしまった。

あらゆる力が無効化される「ゼロエネルギー」。
ひとたびこの力で拘束されれば、魔法や特殊能力の類を封じられ、身動き一つできなくなる恐るべき能力であった。

「ふふふ……個々の実力も優秀だし、連携もなかなかイイ線行ってたけど……相手が悪すぎたわねぇ。
じゃ、そろそろ行きましょうか、メサイアちゃん」

「!!………ま、待って……!!」
「………おっと、脚が滑っちゃったわ……よいしょっと♪」
「……っっ!!」
空中で身動きできないエミリアの目の前で、
ミシェルは傷つき動けないカイトを崖の下に蹴り落とす。

「かっ……カイト君っ!!……そん、なっ……どうして……!!」
「ふふふふ……あらあらごめんなさぁい。
アナタ達みたいな素直なイイ子ちゃんを見ると、ついつい虐めたくなっちゃうのよね♪」

エミリアは必死に手足に力を込め、ミシェルを睨みつけるが、ゼロエネルギーの拘束はビクともしなかった。

「そうそう……あなたには、さっきの忠告そのままお返ししてあげる。
このあたりは魔物兵がウジャウジャいるから、女の子ひとり……
しかも魔法も使えなくて身動きできないんじゃ、と〜〜ってもアブナいわよ。
せいぜい気をつけてね♪あはははははは!!」

「い、いやっ……カイト君っ……カイトくーーーんっ!!」
悠然と立ち去っていく二人を、磔にされたまま黙って見送るしかできず。
エミリアは崖下に落ちたカイトの身を案じ、悲痛な叫び声をあげた。

920名無しさん:2021/08/22(日) 18:43:12 ID:???
「おい。しっかりしろ、若造……まだ生きてるかぁ……?」
「!!………ここ、は……って、うわああ!!」

……崖下に落ちたカイトが、目を覚ますと……目の前に、骸骨の顔があった。

「……ボ、ボーンドさん!?……あーびっくりした……って、痛っ!!」
「せっかく骨身を惜しまず助けてやったってのに、随分な言い草だなぁオイ。
……っと、まだ動くなよ。
俺はアンデッドだから回復魔法とかムリなんで、雑に応急手当てしただけだからな。
まあ、ダメージの半分は俺の使い魔に肩代わりさせてるから、死にはしないだろ」

ボーンドの後ろに、もう一体のスケルトンが控えていた。
その背中には、大きなキズがついている……あれがどうやらボーンドの言う「使い魔」らしい。

「肩代わり?……よくわからないですが……おかげで、だいぶ楽になりました。ありがとうございます」
「……ま、あくまで痛みを和らげてるだけで、重傷には違いない。
あの魔法使いの嬢ちゃんにでも、治療してもらうんだな」

「魔法使い……そうだ、エミリアさんが、崖の上に!!」
「なに?……一体何があったんだ?」
「それが……かくかくしかじかで、崖の上でメサイアと戦闘になって……!」
「そいつはマズいな……そんな化け物相手に、嬢ちゃん一人じゃ……」

「……きゃああああああああぁっ!!」
「エミリアさんっ!!早く行かないと……っぐ……!!」
「仕方ねえなぁ……お前さんは大人しくしてろ。俺の使い魔に、助けに行かせる」

………………

一方その頃、崖の上では。

「いっ……いやぁっ……来ないでっ……!!」

メサイアのゼロエネルギーによって動けないエミリアを、
早くも魔物が嗅ぎつけて襲い掛かっていた。

「ヌメヒヒヒヒ……こんな所で、かわい子ちゃん無防備に磔されてるなんて、ラッキーだナメ……!!」

【ワースラッグ】
全身がぬめぬめの粘液に包まれた、ナメクジ型の亜人。
体表を接触させることで獲物の魔力や生気を吸収する。

じゅぶじゅぶにちゃぁ……………にゅるっ!……
「い、や……気持ち悪いっ……触らないで……ひゃうぅんっ!!」

ナメクジの獣人ワースラッグは、ヌメヌメの身体をエミリアの身体に絡みつかせ、
極上の魔力を体全体で吸い上げていく。

ぐちゅっ……じゅるるるるぅっ!!
じゅぼじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼ!!
「フヒョヒヒヒヒ……どこもかしこも肌がスベスベ柔らかくて、最高の感触ナメ……
こいつは吸い付きがいがあるナメ!!」
「ぎゃ……ぁう………んふあああああああぁぁぁっ……!!」
急激に魔力を吸われる事による喪失感、脱力感。
さらには粘液の毒がもたらす、性的に快楽にも似た多幸感。
身動きできないながらも必死に抵抗しようとしていたエミリアの瞳が、徐々に光を失っていく……


「次はいよいよ、ここから吸ってやるナメ……人間のメスは、この柔らかい所から吸う魔力が一番ウマいナメ……!!」
更にナメクジ獣人の手足が、エミリアの服の隙間、下着の中にまでじゅるじゅると潜り込んでいく。
そして、むっちりしたほどよいボリュームの胸、そしてパンツの下の秘所の中にまで潜り込もうとしている。

「や……ぁっ……これいじょう、ひゅわれたら……おかしくなっちゃ……ひゃあああああああんんっっ!?」
じゅぶじゅぶじゅぶっ!……ちゅるるるる!!……じゅぽっ!!
「ヌメヒャハハハッ……美味い旨いウマい……こんなにウマい魔力、初めてだナメェ!
それに、吸っても吸っても魔力の蜜が体中から溢れてくるナメ……こいつは極上の餌だナメッ!!」

意識が朦朧として呂律が回らず、それでも本能的な危機を感じたエミリアの哀願は、あっさりと無視された。

じゅぶぶぶぶ!!じゅるるっ!!
ぬちゅっ!ぬちゅっ!にゅるるるるっ!!
ぎゅぽぎゅぽぎゅぽぎゅぽっ!!
「や、ひぁぁあああぁぁぁんっ……!!……い……やぁ……もう、やめてぇっ………!」
「ヌヒャハハハハ!!最高だナメェッ!!空になるまで吸い尽くしてやるナメェェ!!」

視界がちかちかと明滅し、エミリアの意識が闇の底に堕ちようとしていた、その時……

「ケッ……ザマァねえぜ。俺様を殺しやがった『爆炎のスカーレット』が、こんなザコに良いようにやられてるなんてな……」
「え…………あなたは……」
「な、何者だヌメェっ!?」

黒い骸骨が地面から這い出し、禍々しいナイフを手に呟いた。

921名無しさん:2021/08/22(日) 20:08:50 ID:???
びちびちびちっ!!じゅぶぶうっ!!
「ッギアアアアァッ!? や、やめろ!やめてくれナメェェッ!!」
「ったくよぉ。なーんで俺様が、こんなキメえ奴を解体さなきゃなんねえんだか……」
「っ……ん、くあぁぁっ……!!」

黒い骸骨はブツブツと文句を吐きながらも、ナメクジ獣人にナイフを突き立ててあっさりと仕留める。
ナメクジの死体をエミリアから引きはがすと、固まりかけの糊のような粘液がエミリアの肌の上で糸を引く。
魔力を大量に失って、感覚が鋭敏になったエミリアは、その異様な感触に、こらえ切れず甘い声を漏らした。

「ケッ……暢気なもんだぜ。
俺はボーンドの旦那から、テメェを死なせず連れ帰るよう、命令されてる。
これがどういう事かわかるか……?」

「え………ボーンドさん、の……?」
「テメェ……俺様の、このナイフを見ろ……忘れたとは言わさねえぜ!?」
「きゃっ!?」
スケルトンはナイフを振りかぶり、エミリアの首の横に思い切り突き立てた。
白い魔法陣が砕け散り、拘束を解かれたエミリアはお尻から地面に着地する。

「!!………ま、まさかあなたは……ヴァイス……!?」
「そういう事だ。テメェのせいで、俺様は哀れなアンデッドの身ってわけよ……
こんな身体じゃ、女を犯すのも満足にできねえ。
マスターの命令に逆らえねえから、好き勝手に嬲り殺す事も出来ねえ。まったくムカつくぜ!!」
「そ、そんな勝手な事……!」

「だから、こういう機会は大事にしねえとなぁ?俺に下された命令は、テメェを死なせねえこと……
つまり、殺しさえしなけりゃ何やったっていい、って事だよなぁ!?」
「!?……そ、そんな……やっ………やめてっ……いやあああああぁっ!!」

グサッ!!ザシュッ!!ドスッ!!
「っひぎ!!うあああぁっ!!いやあああああああっっ!!」

ヴァイスはエミリアに馬乗りになり、脇腹や手足、肩口など、エミリアの全身いたる所に黒い刃を突き立てる。
急所を巧みに避け、殺さないよう、生かさないよう、ギリギリの所で苦痛を与え続けるように。

「さぁーて……俺様の繁殖肉ナイフは無くなっちまったし、
代わりに地獄から持ち帰った『真・斬魔朧刀』で、てめえのマンコグチャグチャに切り刻んでやろうかぁ!?」
「っ……ファイアボル……」
「へへっ!やらせるかよぉっ!!」
……ザシュッ!!
「っうあああああっ!?」

魔法少女殺しの刃を手の平に突き立てられ、エミリアの反撃の魔法は打ち消された。
もうエミリアに、抵抗、反撃する気力は残っていない。
かつてヴァイスと戦い、殺されかけた時の恐怖が蘇り、ただ苦痛と凌辱の嵐が立ち去るのを待つしかできなかった………

「………その辺にしておけ、ヴァイス」
「ああん?……なんだ、シラベの野郎か。今良い所なんだから、邪魔すんなっての」
「それ以上やれば、娘は死ぬ……主の命令に背けばどうなるか……わかっているだろう」

しばらく後。エミリアを好き勝手に切り刻むヴァイスの元に、もう一体のスケルトンが現れる。

「ちっ!……しゃーねえなぁ、エミリアちゃん。優しい優しい俺様が、今回だけは特別に命を助けてやる。
いずれお前もリザの奴も、まとめて俺様のナイフで切り刻んでやるよ………ヒヒヒヒ」
(………そん、な………どうしてヴァイスが、ボーンドさんの……)

シラベ、と呼ばれたスケルトンがエミリアの身体に手をかざすと、エミリアの全身の痛みが引いていき、代わりにスケルトンの身体のあちこちが傷つき、ひび割れていく。
まるでスケルトンが傷の痛みを引き受けているかのような不思議な術だが、
当のエミリアにそれを気にする余裕はなく、スケルトンに抱きかかえられたまま意識を手放した。

922名無しさん:2021/08/22(日) 23:43:28 ID:???
「エミリアさんっ!!しっかりしてくださいっ!!」
「………あ、カイト君……無事だったんだね……よかった」

カイトの必死の呼び声で、エミリアは再び目を覚ました。
その後ろにはボーンドと、2体の使い魔……スケルトンが居る。

「ヴァイス……お前やりやがったな?」
「へっへっへ……何のことだ旦那ぁ?俺が行った時にはもう、魔物に滅茶苦茶にヤられてたぜ」
「ふん………まあいい。一応二人とも生きてる事だしな。
……嬢ちゃん、その若造と自分の分、回復魔法で治療できるか?」

「は、はい。ありがとうございました、ボーンドさん……!
じゃあカイト君。ケガを見せて……」
「僕は後でいいです。エミリアさんの方が重傷じゃないですか……くそ、メサイアめ……許せないっ……!!」
「わ、私は大丈夫だよ……見た目ほどは傷が深くないみたいで、あんまり痛くないし……」

お互い遠慮しあっていたが、とにかくカイトの背中に手をかざし、治療を始めるエミリア。
その様子を見たボーンドは……

「しかし……若造。お前、大丈夫なのか?」
「え……ですから、僕の傷は大丈夫です。そちらの使い魔さんにも痛みを和らげて頂きましたし」
「いや、そういう事じゃなくてだな……まあいいか」

パラシュートで降下する前は、女嫌いで触れられるのも嫌だと言っていたはずだが……
あの荒療治が、思った以上に功を奏したのだろうか。

「しかし……これからどうしたもんかねえ。
若造の話じゃ、メサイア達はアレイ前線基地に向かったみたいだが……」
「僕たちだけでは、破壊プログラムを打ち込むのは難しいと思います……まずは、スピカ隊長と合流しましょう」
「そうだね……リザちゃんとスズちゃん、無事だといいけど……」

………………

そして、エミリアとカイトを退けたメサイアと共に、山道を進んでいくミシェルは……

「……これが、破壊プログラムねぇ。
メサイアちゃんが素直に言う事聞いてくれてる分には、必要ない代物だけど……」

カイトが落としたダーツを密かに回収し、その内容を確認していた。
注文通り、このプログラムを打ち込めばメサイアの「人格を」完全に破壊できるだろう。

「………マスター。これで、良かったのでしょうか……先ほどの方たちは、本当に倒すべき『悪』だったのでしょうか」
前を歩いていたメサイアがふと立ち止まり、ぽつりと呟く。
敵対する立場とは言え、彼らは自分たちが魔物に襲われないか心配してくれていた。
……悪人だったとは、どうしても思えない。

「あらあら……メサイアちゃんたら。倒しちゃってから言わなくても良くない?
だいたい、さっきの子たちは向こうから襲ってきたのよぉ?」
「それは確かに、そうですが……」

「メサイアちゃんは、とっても素直でイイ子だけど……悩めるお年頃みたいねぇ。
あなたは何も心配せず、私の命令に従っていればいいの」
「…………。」

不気味な笑みを浮かべるミシェル。その様子を見て、メサイアは不安に駆られた。
(マスターの命令は絶対……リンネの負担を軽減するため。ナルビア王国を守るため……ですが……)

(ふふふ………もうしばらく、私の手の平の上でコロコロ転がっててもらうわよ。世界最強の破壊兵器ちゃん……♪)

923名無しさん:2021/08/25(水) 13:13:11 ID:???
「はあああああああっ!」

沈黙を破り、長刀を構えたミストが勢いよくリザに斬りかかる。
できるだけ引きつけてからシフトで回避したリザは、ミストの上方に移動し素早く体を捻った。

「転移崩襲脚!」
「はっ!」

上空からのリザの踵落としを構え直した刀でガードするミスト。
と同時にリザの姿が消え、元いた場所には闇の魔力が残された。

「これは……ぐっ!!」

リザの残した斥力を発生させる闇魔法、ダークショックで吹き飛ばされるミスト。
すぐさま空中で受け身を取ると、目の前にはリザの白刃が迫っていた。

キィン!!
「ぐ、くぅッ!!」

振るわれたリザのナイフを、辛くもガードするミスト。
一瞬間近で見えた妹の顔は、目を伏せ、思い詰めたような顔だった。
そして、またもその姿は一瞬で消え……

ヒュンッ!
(なっ!?また場所が変わって……!)

リザの攻撃をガードした時よりも、さらに高高度の空中に投げ出されたミスト。

「くっ……ああっ!!」

その上空でまたも先ほどの闇魔法、ダークショックが発動し、ミストの体はさらに吹き飛ばされた。

「これで……とどめっ!!」
「がはあ゛あ゛ぁ゛ッ!!!」

吹き飛ばされた先に先回りしたリザの三回転スピンからの強烈な回し蹴りが、ミストの体に叩きつけられる。
たまらず濁った悲鳴を上げたミストは、悲鳴を上げながら地面に叩きつけられた。



「痛っ!あ゛っ!がはっ!ぐっッ!」
「…………」

地面をバウンドしながら吹き飛ばされた後、地面に倒れ伏すミスト。
一連のリザの猛攻に、ミストは成す術がなかった。
シフトチェンジで空間認識をしている間に来る攻撃を回避することは困難。
そしてリザのシフトの正確性とタイミングの妙技。
転移座標に寸分の狂いもない追撃と、攻撃をガードしても2手3手先を読まれたかの様な追撃が入ってくる。

(これが……リザではなく、スピカの力……!)
「…………」

だが、ミストがよろよろと立ち上がる隙だらけのチャンスにも関わらず、リザは離れた場所で目を伏せていた。

「ぐっ……リザ、あんたこの後に及んでまだ迷ってるっていうの……?」
「……迷うも何もないよ。お姉ちゃんと戦いたくなんかないのに……どうして、こんなこと……ッ!」

イラついているのか、悲しんでいるのか、それともその両方か……
青い目に少しの赤が差された瞳をゆらゆらと揺らしながら、リザはわなわなと両手を振るわせた。

「さっきの連携も、蹴りじゃなくてナイフで刺せば、私は終わっていたかもしれないのに……」
「そんなこと、できるわけない……でもお姉ちゃんが私を殺そうとするなら、私は……ここで死ぬわけにはいかないっ……!」

片手で頭を抱えながらも、毅然と言い放つリザ。
前回のように泣いたり喚いたりはしないながらも、まだ彼女の中には迷いがある。
その迷いが命取りになることを知りながらも。

「いいわ……私も、この技を使いたくはなかったけど、本気を出す」
「えっ……?」

ミストが前に手をかざすと、構えると、魔力が人の姿を形作り始め、もう1人のミストを作り出した。

「お、お姉ちゃんが2人……?」
「幻覚じゃないわよ。どっちも本当の私。ミツルギの分身の術を、私の魔力でより強化した術……シフトコピー」
「シフト、コピー……」

リザのマルチシフトも分身を作り出す技だが、もう1人のミストは作り出された魔力で存在が固定されている。
肉体改造の結果、シフトに魔力を使わなくなったミストだからこそできる離れ業だ。

(持続時間は5分くらい……この技で一気に勝負をかける!)
「リザ、覚悟ッ!!」
鏡合わせのミスト2人がシフトを使い、リザに襲い掛かる!

924>>906から:2021/09/19(日) 15:49:13 ID:???
ガキィィンッ!!
「はああぁぁぁっ!!」
「うおおおおぉっ!!」
「ククク………そぉれっ!!」
エリスの槍、アリスの針とゾンビキメラの大剣が激しくぶつかり合う。

「止められたっ……!?」
「ふふふ……威勢だけはイイけど、その程度の力じゃあたしを倒すことは出来ないわよっ!」
二人の突進はあっさりと止められ、弾き飛ばされてしまう。
様々な魔物を取り込んだゾンビキメラの力は強大。
強化スーツの力を持ってしても、純粋なパワーでは圧倒的に分が悪かった。

「うぐああっ!」
「きゃああああぁっ!!」
「くっ……強化スーツのパワーすら通用しないとは……どうする、アリス……!?」
「攻撃し続けてください、エリス……私に作戦があります」

「作戦、か……わかった。ならば、私が時間を稼ぐ」

アリスと短く言葉をかわすと、再びゾンビキメラに飛び掛かる。

ガキンッ!! ドガッ!! 

強化スーツすら通用しない圧倒的パワー差、体格から来るリーチの差。
それを補うために高速の突進を繰り返す事で、エリス自身の体力も急激に消耗していく。

「きゃははははは!!何度やっても同じよぉ!
『ナルビアの神風』って、もしかして学習能力ゼロの脳筋ちゃんなのかしらぁ!?」

「っぐあっ!……くっ……何とでも言うがいい……!」
(確かに……こんな怪物をどうやって倒せばいいのか、私には見当もつかない。
だが『作戦』がある、とアリスが言うのなら……私はそれを信じるだけだ!!)

長年共に戦ってきたエリスは、どんなに不利な状況でも常に最善手を導き出してきたアリスの『作戦』に、絶対的信頼を寄せていた。

そして、アリスは……

ドスッ! ……ガキンッ!! ゴスッ!

「んっ……ぐ、ああっ!!」
「ふ……アリスちゃんの方はもっと話にならないわねぇ。
あの変態女に全身弄られまくって、普通の人間より弱くなっちゃったんじゃないのぉ?」

「……大きな、お世話です……
もともと私の力など、エリス達に比べればたかが知れたもの……」
(そんな私に、できる戦い方と言ったら……)

エリスの攻撃もあっさり叩き落とされる。
だが、魔力で生成した針がゾンビキメラの足に突き刺さっていた。

(……あの針の毒で、人質の痛覚も遮断されるはず。
あとは、針が体内を通って脳内に達すれば……)

アリスの奥の手の一つ、暗殺用の魔法針である。
通常なら刺した針が体内を通る過程で激痛が走り、必ず相手に気付かれる事になるが、
毒で痛覚を麻痺させれば、気付かれないうちに暗殺できる。

(奴に気付かれて、針を人質の体内に送られでもしたらまずい……攻撃し続けて、奴の注意を引かないと)

二人で絶え間なく攻撃を仕掛けるエリスとアリス……だがここで、計算外の事態が起こる。

「グェッ!? しまった、その女を止めろっ!!」
「はぁっ……スバルっ!!今、助けるっ……!!」

「!?……あれは」
「春川桜子………!」

「デストラクション・ねじ回し」で全身をバラバラにされ、ゴブリンに犯されていた春川桜子だった。

925名無しさん:2021/09/19(日) 15:51:49 ID:???
「グゲゲッ!畜生、俺のチンポに噛みつきやがった!!そいつを捕まえろっ!!」
「ケケケ……おいおい。おっぱいを逃がしちまったのかよ。でもとっ捕まえる前にもう一発」
「ん、ぐうっ!?………こ、この位、でぇっ……!」

頭と上半身、左手だけでゾンビキメラに向かって這っていく。
どうやらゴブリン達から体の一部を元に戻したものの、下半身はまだゴブリン達に捕らわれているようだ。

「あらあら……スネグアちゃんのペットだったゴミムシ…じゃなくて、桜子ちゃん。
だめよぉ?そんな所で這いずり回ってたら………うっかり踏みつぶしちゃうじゃない♪」

巨大な足が、桜子の頭めがけて振り下ろされる。
その瞬間……

「調子に乗るな………今度はお前が、地べたを虫のように這う番だ!!」
ドスッ!!……ガラガラガラッ!!
「なっ!!これはっ……!?」

桜子はゾンビキメラの脚に、デストラクション・ねじ回しを突き刺した!

「おま、えっ……いつの間に、ねじ回しをっ………!!」
手足、胴体、左右の翼……ゾンビキメラの異形の巨体が分解していく。

「桜子お姉ちゃんっ!!」
両肩に取り込まれていた、スバルとメルも自由を取り戻す。

「予想外の事態ですが……好都合ですね」

アリスの打ち込んだ針は、バラバラの身体のどこに行ったのだろうか。
このままではキメラの頭を貫くことは出来ない。が……もはやその必要もなくなった。

「作戦変更です、エリス。バラバラになったパーツを叩いてください!私は、人質を……!」
「了解だ!」
「なっ……やめっ………グアァァァァぁぁぁっ!!」

ゾンビキメラの身体は、様々な魔物をつなぎ合わせたの集合体。
故に、パーツ一つ一つが独立した魔物として活動可能だが……変身したエリスにとって見れば、物の数ではない。
手足、尻尾、翼を、テンペストカルネージで一つ一つ刺し貫いていった。

そして……

「春川桜子……あの状況から復活するとは、大した物ですね。おかげで、手間が省けました……」
スバルとメルを連れ、後方に下がったアリスと桜子。
ついでにゴブリンを蹴散らし、桜子の『下半身』も回収している。

「お、のれっ……こうなったら、アンタ達の身体も取り込んであげるわっ!!」
「!……アリス、危ないっ!!」
首だけになったゾンビキメラが、そんなアリス達に襲い掛かる。
その動きは素早く、離れた位置にいたエリスにもカバーできない。

「……これで直接、奴の『頭』を狙えます」
ドスッ!!
「ッグェアッ!?」
背後から迫るキメラに振り向く事もせず、隠し持っていた針の最後の一本を、ゾンビキメラの眉間に突き立てた。


「……やったな、アリスっ!! ……よし、キメラの身体も、これで最後だ!」

エリスも、バラバラになったパーツの最後の一つ、キメラの右腕に止めを刺そうと、槍を振り下ろした。

だが……

「……クククク。
邪魔な身体が無くなって……無能な頭が潰れて………ようやく身軽になった。
礼を言うぞ、人間よ」

右腕と一体化した、巨大な刃……桜子の右腕から奪い取り込んだ異形の魔剣が、
ビクリと大きく脈打ち、刀身の半ばほどにある不気味な単眼をぎょろりと見開いた。

926名無しさん:2021/09/19(日) 19:27:29 ID:???
「な、なんだこいつはっ……槍が、抜けないっ……!?」

「ククク……あのキメラどもに吸収されたことで、他者を取り込む術を会得したのだよ。
我の場合は、生物でなく、同類である『武具』を吸収し、自分のものとする」

異形の魔剣が、エリスの「テンペスト・カルネージ」を吸収していく。
そして、まるで昆虫のような脚を生やして、大きく跳躍した。

「馬鹿な……テンペスト・カルネージが、奪われた……!?」
「エリスっ!?……これは一体……ゾンビキメラとは、別の魔物……!?」
「そもそもキメラとは、複数の魔物の集合体。融合した者の中で、最も強き魔物がその主人格を司る。
我もそのうち主人格を乗っ取るつもりだったが……お前たちのお陰で『手間が省けた』というわけだ」

異形の魔剣がエリスとアリスの周囲を飛び跳ねる。
その速度は驚異的で、消耗してろくに武器もない今の二人には、とても捉えられるものではない。

「そして、確かこの鞭は……魔物や魔獣を統べる力が備わるのだったな」
「!!それは、リベリオンシャッター……まさか!」

続いて異形の魔剣は、スネグアやゾンビキメラの使っていた、魔獣使いの鞭を吸収する。
魔剣が、この武器の能力までも取り込むことが出来るのだとしたら……

「グオォォォォ………」
「!?……この唸り声は……」
「クックック……お前達にはもう、用はない。シモンズ一族に伝わる、最強の守護魔獣とやらの餌になるがいい」

鞭を取り込んだことによって、魔獣を操り、最強の守護獣を呼びだす能力をも身に着けた。
アリス達の足元に巨大な魔方陣が現れ、怪しい光を放ち始める。

「グギエエエエッ!? な、なんだこれはぁっ!?」
「スバル、メル、逃げろっ……っぐあ!?」

バリバリッ!! ぐちゃ!!
「……ぎゃぁぁああああああぁっっ!!」

ゴブリンやゾンビキメラの破片など、魔法陣の上に居たものは、魔物も人間も関係なく次々に取り込まれていく。
足元からは巨大な何かの唸り声、何かを食いちぎる音、断末魔の悲鳴が止むことなく響き続けた。

そして………

「アリスっ……!!」
「これが………魔獣……!?」

巨大な手、巨大な顔、巨大な身体。基地の壁や天井を軽々と破壊しながら、
シモンズ家に伝わる最強の守護獣「ベヒーモス」が魔法陣の中から姿を現した。

927名無しさん:2021/09/19(日) 19:30:36 ID:???
「ななななな、何あれ!!なんか、ヤバいの出てきちゃったよエルマちゃん!!」
「エミルさん落ち着いてください!とにかく今は、サクラを落ち着かせないと……」

少し離れた所にいたエルマ達は、魔法陣から現れた巨大な魔獣の姿に、ただただ圧倒されていた。
もはや一刻の猶予もない。すぐにでも脱出したいが、魔法のホウキを操れるのはサクラだけ。

そのサクラは、ゾンビキメラに惨殺されたイヴの死体を目の当たりにして、放心状態に陥っている……

「なに、これ……イヴちゃん……どうしてこんな事に……」
とっくに動かなくなったイヴの前でひざを折り、俯くサクラ。

イヴの死体は巨大な剣で上半身だけ斬り飛ばされ、壁に叩きつけられ、無残な有様だった。
下半身は……見つからない。ゴブリンの群れがそれらしき物を抱えていたのを見た、ような気がするが、……もう見つける術はない。

「サクラっ!!……しっかりしなさい!すぐに脱出するわよ!!唯と、ルーアちゃんと一緒に!」
エルマが駆け寄り両肩を掴み、サクラを無理矢理立たせる。

「で………でも………まだ、メルちゃんが……それに、オトさんは」
「時間がないの。2度は言わせないで………とにかく、今は何としてでも生きて脱出しましょう……私たちだけでも」
「!!………エルマ、さん……」

エルマはサクラの頬を張り、肩をゆすり、有無を言わせず立ち直らせる。
ルーアは、気絶した唯をホウキに乗せている。
……そして、その後ろでは。

「あーーーもう!もう待てないわ! わるいけど私、先に行くから!!
そのホウキ、私が乗ったら定員オーバーっぽいし!じゃあね!!」
「えっ……エミルさん、ちょっと待つです。今は……」

エミルはどこから持ってきたのか、個人用のジェットパックを背負っていた。
そしてルーアが止める間もなく、壁の穴から外に飛び出していき……

「グギッ!!親方!基地から女の子(20代・白衣・眼鏡)が!」
「グヒヒヒ……ちょっと地味だが、けっこういい感じじゃねえか……一斉に行くぜお前ら!!」
「「「ヒャッハーーー!!」」」

「え?……あ、あれ!? ちょっと待って、っぎゃあああああああぁぁっっ!!!」
ガーゴイル、ハーピーなど、基地の周りを大量に飛んでいた飛行型魔物の餌食となった。

「えええ!?エルマさん、エミルさんが……助けないと!!」
「ジェットパックはあくまで非常脱出用。あんなのでフラフラ飛び出したら、そりゃああなるでしょ……」

エルマは気付いていた。
エミルが密かに、指令室に一つだけ残っていたジェットパックを隠していたことを。
基地の周りに、飛行型の魔物が大量に飛び交っていた事も。

指令室の壁に穴を開けた事で、魔物が大量に集まって来ていたが、基地内の様子がわからないため、様子見していた。
そんな中に、最低限の飛行能力しかないジェットパックで飛びだそうものなら、どうなるかは火を見るよりも明らか。

「……でもエミルさんが犠牲になっている今のうちなら、私たちは安全に離脱できる」
「エルマさん。まさか、初めからエミルさんを………」
「行きましょう………恨むなら後でいくらでも、私を恨んで」

眉一つ動かさず、あまりにも冷静なエミルの様子に、サクラはそれ以上何も言えなかった。
サクラ、エルマ、ルーア、唯の4人を乗せた改造ホウキ「フライングボート・ダブルジェット」は、
エミルの断末魔を背に受けながら、前線基地を全速力で飛び出した……

928>>923から:2021/10/17(日) 17:35:22 ID:???
「「たぁぁぁぁぁっ!!」」
「っ………やああああぁっ!!」

同時に襲い来る2人のミスト。
確かに1対1では互角以上に戦えていたが、
相手はミツルギ討魔忍衆でも最強と言われる剣士。
戦力差は完全に逆転されたと考えるべきだろう。

(受けに回ったら押し切られる!!一人ずつ仕留めないと……!)
(一人ずつ……仕留める……?)

キンッ!! ガキンッ!! ……ザシュッ!!
「っぐあぁっ!」
「まだまだっ……一気に決めさせてもらうわ!」

一人を相手にしている隙に、もう一人が死角から斬りつけてくる。
同一人物であるがゆえに、二人の連携は完璧だった。
連続シフトで敵の攻勢から逃れようとするリザだが、ミストも同じくシフトの使い手。
背後、足元、頭上など、対応できない角度から次々と斬撃が飛んできて、リザは瞬く間に劣勢に立たされてしまう。

ザクッ!! ズバッ!! ブシュッ……
「っぐぅ……あ、ううっ!!……こ、のおっ!!」

急所や利き腕など、致命的な部位への斬撃を避けるだけで精いっぱいのリザ。
背中や太もも、胸元などに次々と傷跡が刻まれ、鮮血が飛び散っていく。

体勢を立て直そうとしたとき、足元がわずかにふらついた。
度重なる失血で、貧血の症状が出はじめている。
意識が朦朧とする中、リザはいちかばちかの反撃に出るが……

「そう来ると思った……これで終わりよ」
「っ………!!」

リザが斬りかかると同時に、待ち構えていたミストがカウンターの突きを繰り出す。
両者の剣が目にも止まらぬ速さで飛ぶ、その刹那……

リザの刃が動きが、わずかに鈍った。

(だ、め……!!)

シャドウブレードは敵の血を吸い、使い手の生命力とする魔剣。
その刃は常に血を求め、使い手自身の血を少しずつ奪い取る。

(今、斬ったら……)
戦場に降り立つ前、リザはアリスと激しい空中戦を繰り広げたが、仕留めるには至らず。
既にリザの身体は大量の血を失い、剣は血に飢えていた。
斬れば間違いなく……ミストが死に至るまで、血を吸いつくす事になる。


連戦と失血による疲労、そして……いまだ残っている僅かな心の迷い。
それらがほんの少しだけ、リザの剣を鈍らせた。

超常の力を持つ達人同士の、ギリギリの戦いの明暗を分けるのには十分すぎる程の、ほんの少し。

「あ………」

リザよりも一瞬早く、ミストの剣がリザを刺し貫こうとした……だが、その、次の瞬間。

「え………!?」
「………どうして……?……まさか……」
リザの予想していた痛みは訪れず。
代わりに、ミストのもう一人の分身が、リザの前に立ちふさがり刃に貫かれていた。

929名無しさん:2021/10/17(日) 17:37:27 ID:???
「………。」
「まさか、あなたは………」

白い忍び装束が、赤黒い血で染まっていく。
ミストの刃を受けて倒れたのは、リザではなくミストの分身だった。

その姿が、リザとミストの目の前で変わっていく。
ミストよりもやや大柄な、アウィナイトの男性。……二人のよく知る人物だった。
彼はミストと同じ体に宿っていた人格、ミストの弟で、リザの兄……

「レオ……!!……そんな、私のせいで……」
「……お兄……ちゃん……!?……一体、どうして……!!」

「いいんだ……初めから、こうするつもりだった。
お前達のどちらかが、どちらかを斬る事になったら……
小さい頃から、二人がケンカしたときは、間に入って収めるのが俺の……げほっ!……がはっ……」
「レオ、それ以上しゃべったら……!!」

剣を収め、レオの元に駆け寄るリザとミスト。
だが二人の斬撃をまともに浴びたレオの傷は深く、もう長くはもたないだろう事は明らかだった。
レオは大量の吐血にも構わず、二人に語り掛ける……

「リザ。お前は真面目過ぎるから……
自分の手を汚す事も構わず、なるべく多くの物を守ろうとしてきたんだろう。
だけど……いつも肝心の、自分自身を守る事を後回しにしちまう……
おまえが守りたいものの中に、お前自身も入れてやってくれ。
俺もミストも、それが一番…心、配……」

「そんなっ……お兄ちゃんっ……」

「ミスト、姉ちゃんは……リザが、悪事に手を染めていくのに、耐えられなかったんだろ…?
だから強引な手を使ってでも……それこそ殺してでも、止めようとした。
だけど、リザの、根っこの所はまだ変わってないはずだ。
だから……取り返しがつかないからって諦めて、殺し合う前に……
もう一度リザのことを信じ、て……分かり合う道を探してほしい……それができるのは、姉ちゃん…だけ………」

「待ってよ、レオ……!……そんな事……!!」
「今さら言われたって、無理だよ……!!」
「………………。」

リザの両目から大粒の涙がこぼれる。
目の前で大切な人が死んでいくのを観るのは、もう何度目になるだろうか…………

だがリザにとってそれ以上に悲しいのは、レオの最後の想いに応えられそうにない事だった。

「父さんや母さんが死んで、一人ぼっちになって……
私……頑張ったんだよ。必死に戦って、やりたくない事も沢山した。
そのうちなんとか食べ物や寝床には困らなくなって……友達も、できた。
でも……やっとの思いで手に入れた物も……すぐに、なくなっちゃう……だから、必死で……

お兄ちゃんだって、私やミストの事、かばってくれたじゃない……
どうして……私が同じことをしたら、いけないの……?

私は、ただ……私の大事なものを守りたかっただけなのに……
う、ううっ………うぁぁあああああああああぁぁっっ!!」

事切れたレオの亡骸を前に、リザは泣き崩れる。
そして、それを見つめるミストも……
胸中に複雑な思いが渦巻き、これ以上リザと戦う気にはなれなかった。

930名無しさん:2021/10/17(日) 17:48:01 ID:???
「リザちゃぁーーーん!!ぜえ……ぜえ……やっと、追いついた………って、あ………」

スズがリザに追いついたときには、既に戦いは終わり、レオの命もまた尽きていた。
声を上げて泣き叫ぶリザに、スズがなかなか声を掛けられずにいると、
近くにいた、ミツルギの装束を着た剣士……ミストが話しかけてきた。

「リザのお仲間ね。……ああ、身構えなくていいわ。もうお互い、戦う気はないから。
落ち着いたら………これだけ伝えておいて。
あなたたちがこのまま、トーメント王国に従い続けるなら……いずれまた逢う時があるでしょう。
私も、その時までに……どうするべきか、答えを探しておく、と」
ミストはスズに言伝ると、いずこへともなく去って行った。

(もう私たちは、元には戻れない。
あの王の下でリザが戦えば戦う程、多くの人々が不幸になり、リザ自身も傷ついていく。
私も討魔忍衆として、多くの人を傷つけ、殺めてきた……。
だから私の手で、リザの運命を終わらせて、その後は私も……それで、終わりにしようと思っていた。
だけど………レオ。私は……私たちは、どうしたらいい……?)
………………

後に残されたは、レオの死体と、すすり泣くリザ。
スズは無言でリザに寄り添い、ひたすら泣き止むのを待ち続けた。

「…………スズ………あなた、言ってたよね。運命を選んで、変えられる力があるって……」
「え………う、うん。でも………」

………しばらく後。
いつの間にか泣き止んでいたリザが、顔を伏せたまま、ふいにスズに問いかける。

「レオを………死んでしまったこの人を、生き返らせることは出来る?
死ななかった運命を、見つける事は………」

「………それは……」

スズの能力は、運命を予知し、その無数の可能性の中からいずれかを選ぶことができる。
場所や時間を、ある程度超越する事も可能だ。
既にリザが泣き止むのを待つ間に、スズは時間を遡って運命を覗き、この場で起きた事もおおよそは察することが出来ていた。

だが………

「…………出来ないよ。私が着いた時には、その人の運命は、もう………」

ミストとリザが出会えば、戦いは避けられなかった。
リザはミストを殺すまいとしていたが、ミストはリザを殺そうとしていた。
二人が戦えば、ほぼ必ず今回のようにレオが身を挺して犠牲となる。数少ない例外は……

レオがリザをかばいきれず、リザが死ぬ事になった場合、である。

リザはそれでも、レオを助けてほしいと言うに違いない。
スズとしては、絶対にその運命を選ぶわけにはいかない。
だから、出来ないと嘘をついた。

「…………そう。なら、いい……任務に戻りましょう」
「あ、ちょっと待って。傷を………きゃっ!?」
「…………」

ぼそりと一言だけ呟くと、立ち上がろうとするリザ。だが失血でふらついて、スズにもたれかかるようにして倒れる。

「…………あ、れ………」
「ああもう、言わんこっちゃない。早く治療しないと………!」

「リザ隊長ーー!!スズさーん!!ご無事ですかーー!?」
「……って、リザちゃんまたまた大ケガしてるー!!だだだ、大丈夫!?」
「……安心しな嬢ちゃん。どうやら急所には入ってねえ……さっさと治療してやんな」

遅れて他のメンバーも二人の元に駆け付け、特殊部隊のメンバーが再び揃った。

傷が得たら、任務が再開される。
攻撃目標はナルビアの秘密兵器『メサイア』、向かった先はアレイ前線基地。

リザがその歩みを止めない限り、戦いは続く。どこまでも果てしなく……

931>>908から:2021/10/24(日) 18:01:52 ID:???
「サキ様を守るため……そして、私自身の因果を断ち切るため。
レイナ……ここで貴女を倒すっっ!!」

「ふふふふ………この時をずっと待ってたよ……
ぶち壊してあげる、舞ちゃんっ!!」

黒い風と黄金の雷が、正面から激突する………

「連牙百烈蹴……黒翼!!たあああああぁっ!!」
……ドガガガガガッ!!
「うぐっ!?」

すれ違いざまの一瞬、舞が十数発の蹴りを見舞った。
スピードは舞が上手。……だがその差は紙一重。

「ちょっと見ないうちに、すばしっこくなったねぇ……一発貰っちゃったよ」
「………!」

魔物をも蹴り倒す舞の連続蹴りは、そのほとんどがレイナに防御された。
唯一まともに急所を捉えた一撃も、痛がるそぶりすらない。

(だったら……倒れるまで、百発でも千発でも打ち込む!)
二度、三度と交錯する両者。
その度に、舞はレイナの攻撃をギリギリでかわし、可能な限り攻撃を打ち込む。
しかしそれでも、レイナに有効なダメージを与えることは出来なかった。

「っつー……今のはちょっと痛かったかなぁ?お腹エグれちゃってるよ……あ、ちょっと待ってね」
「……傷が塞がっていく……!?」

レイナの反射神経と、身に纏っている黄金のスーツの防御力……だけではない。
レイナ自身の身体が、人間を超えた異常なタフネスと回復力を有しているのだ。

「ふっふっふ……結構やるねぇ舞ちゃん。じゃあアタシもそろそろコレ、解禁しちゃうよんっ♪
ブーメランイーグルっ!!」
「くっ!!」
……ブオォンッ!!

レイナの得意武器のブーメランが、雷光を纏って飛ぶ。
常人なら目で追うのも難しいほどの超高速の刃を、舞は何とか回避するが……

……バチバチッ!!
「あぐっ!!」

電撃の余波で、セーラー服の袖口が弾け飛んだ。
背後にあった大岩が、溶けたバターのように両断される。
……まともに喰らったら一巻の終わりだ。
2本のブーメランが鋭く弧を描いて飛び、今度は背後から舞を狙う。

ブオンッ!!バシュッ!!
(まずいっ……!!)
「はっはー!!隙ありぃっ!!」

更に、レイナ本人の同時攻撃……雷を纏った両脚でのドロップキックが襲い掛かった。

ベキィッ!!
「っぐ!?……」

両腕でガードするが、ほとんど役には立たず。
喰らった瞬間、全身を雷に打たれたかのような衝撃が走って意識が飛び……

……ドゴォッ!!
「……っうああああああっ!!」
そのまま体ごと吹っ飛ばされ、受け身も取れずに岩に叩きつけられた。

「ふっふっふ……ま〜いちゃん、まさかこれで終わりじゃないよねぇ?」
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………当り前でしょ……!」

折れた利き腕を押さえながら立ち上がる舞。
息が上がり、心臓が喰らったように暴れ、膝がガクガクと震えていた。

黒いブーツの力をフルに開放し続けているせいで、急激に体力を消耗しているのだ。
それでも全力で走り続けなければ、たちまちレイナに追いつかれてしまう。

セーラー服の右肩周辺が焼け落ち、黒いブラジャーが半分見えているが、気にしている余裕は当然なかった。

(速さが、足りない………もっと、あいつが追いつけないくらい、速く……!!)

舞の想いに応えるかのように、ブーツから立ち昇る漆黒のオーラがより一層強くなる。
再び走り出そうと、舞が一歩を踏み出した、その瞬間。

ぽつり。
 ぽつり。

それまで晴れ渡って空ににわかに雲が集い、にわかに雨が降り始め………

(!?………これ、は………)
舞の身体から、急速に力が抜けていった。

932名無しさん:2021/11/01(月) 22:22:59 ID:???
(右足が、動かな………!!)
「ほらほら、何ぼーっとしてんのぉ?っうらあっ!!」
ブオンッ!!
「くっ……!!」

突然降りだした雨に触れた瞬間、舞の身体、特に右足から力が抜けていくのを感じた。
その隙を見逃さず急襲してきたレイナを、舞は左足一本で辛うじて迎撃する。

レイナの突きを弾き、連続蹴りを繰り出し、反動を利用して後方に跳ぶ。
だが、レイナもしつこく追いすがり、なかなか振り切れない。

「はい、つっかまえた♪」
……ドボッ……!!
「っう、ぐぁっ………!!」
強烈なボディブローが脇腹に突き刺さり、胃液を吐き出す舞。
特殊金属製の強化アーマーで覆われたレイナの拳は、舞に膝を屈させるのに十分すぎる威力を秘めていた。

「今までオアズケ喰らってた分、きっつーいの入れてあげるね……『ヒステリックスパーク』っ!!」
バリバリバリバリバリ!!
「っぎあああああああああっっっ!!!」

更に、追撃の電撃攻撃。舞の黒いセーラー服が瞬く間に焼け焦げていく。
辛うじて保たれていた両者の均衡が、ここに来て一気に崩れ始めた。

その原因は、降り出した雨によって、舞の魔法のブーツの力が半減した事にある。
レイナの仲間で、特殊な水の使い手……舞にも心当たりがあった。

「はぁっ……はぁっ……ブーツの力が封じられてる………この雨、まさか……」

「はは〜ん……さてはDさんだな?
まったく、余計なお世話だっつーの……
ま、べつにいっか。
考えてみたらアタシ、舞ちゃんと『勝負』したかったわけじゃないもんねぇ」

レイナは倒れた舞の髪を片手で掴み、無理矢理立たせる。
ナルビアの科学力で体を改造し、強化スーツまで身に纏ったレイナに対し、ブーツの力を失った今の舞は生身同然。
ひとたび捕まれば逃れる術はない。

「あの一緒にいた蝶の髪留めの女やガキは、Dさんが始末してくれるだろうし……」
(!!……そう、だ……奴が近くにいるとしたら、サキ様が……!!)

「とっ捕まえて、徹底的にナブってイジめてイタぶって………」
ぶっ壊れるまで、とことん遊んであげる♪」

「………っいぎあああああああぁぁっっ!!」
舞の頭と股間を両手で鷲掴みにし、再び容赦なく電撃を放つレイナ。
大音量で奏でられる舞の悲鳴に聞き入りながら、恍惚とした表情を浮かべた。

933名無しさん:2021/11/06(土) 18:50:50 ID:???
一方、突然襲ってきたレイナを舞に任せ、漁港へと急ぐサキ、ユキ、サユミの3人。

……今はユキとサユミを安全な所に逃がす方が先決だ。
今の自分では、足手まといになるだけ……
何度も自分に言い聞かせるサキだが、胸のざわつきがどうしても収まらない。
それに……

「心配しないで、お姉ちゃん……舞さんなら、きっと大丈夫……ちゃーんと、私たちが逃げ切るまで時間稼ぎしてくれるよ……ふふふふ」
………ユキの様子も、再びおかしくなりはじめていた。

やはり引き返して、舞を助けに行くべきか……
そう思い始めた矢先。……空が急速に曇りだし、ぽつぽつとにわか雨が降り始めた。

「!………雨………」

サキの表情が一層こわばる。
雨には、良い思い出がない……などという生温い表現では到底言い表せない、強烈なトラウマがあった。
無意識に体が竦んでしまうのをこらえ、来た道をふと振り返ると……
人影がこちらに近づいてくるのが見えた。フードをかぶっていて顔は見えないが、背の高さから、おそらく男性のようだ。

「……っかしーな。レイナの奴、この辺りに居るはずなんだが……
………お前なら知ってるんだろう?……いつぞやの、スパイのお嬢ちゃん」
「!?………ま、さか………なんで、こんな所に、アイツが……!」


男が近づくにつれ、雨脚はだんだんと強くなっていく。
男が更に目の前まで近づき、フードの中の顔を覗かせた時………
サキの緊張が頂点に達し、抱いていて不安が確信に変わった。
その男はダイ・ブヤヴェーナ。
ナルビア王国幹部、シックスデイの一人……サキがかつてナルビアに囚われた時、苛烈な水責め拷問を行った張本人だった。

あの時の苦痛、恐怖、絶望が、サキの脳裏に鮮明に蘇り、言葉を失ったまま数歩後ずさる。
(どうしよう……なんとかして逃げないと。でも、母さんやユキを連れたままで、逃げ切れるの……?)

「はぁっ………はぁっ………こっ………来な、いでっ……」
息が荒くなり、声がかすれる。
体中の震えを押さえて、ダイに向けて手をかざしたが、どういうわけか魔力が発動しない。

「……無駄だよ。俺が今降らせている、この雨……アンチ・スキルマジック・レインの範囲内にいる限り、
お前らは魔法も特殊能力も使えない。
効果範囲も見ての通り、この辺一帯はカバー可能だから、逃げても無駄だぜ……
この間みたいに俺の水でたっぷり溺れて、洗いざらい吐いてもらう」

「……そ、んなっ……!!」

……実際の所、雨雲は空一面を覆ってはいるが、ASMRを降らせることが出来る範囲は限られている。
まず自分の身を守るため、周囲数十メートルに降らせ、あとは周辺をランダムに、降ったり止んだりさせているだけだ。
そういう意味でも、レイナの今いる場所を早く突き止める必要がある。

(今日のアイツは明らかに様子がおかしかった……さっさと回収して帰還しねえとな。
基地の方は、先にエリスとアリスが戻ってるはずだから大丈夫だとは思うが………)

年こそやや幼いが、サキは拷問対象として抜群に好みのタイプ。
状況が許せばじっくり時間をかけたい所、だが。

「ふふふふ………そうはさせないよ。お姉ちゃんは、アタシが守るんだから!」
「!………だ、だめっ、ユキ………あなた一人じゃ………!!」

サキの妹ユキが、体に仕込まれた機械兵器を起動させて、ダイに飛びかかった。

「ガトリングいっせーそーしゃ!くらえーーーっ!!」
………ガガガガガガガガッ!!
「!?……このガキ、体をサイボーグ化してるのか!!
だが……」

ユキの仕込んだ武器は機械兵器。ダイのASMRの対象にはならない。
だがダイの水を操る能力も、ASMRだけではない………

「……その程度で、俺に勝てると思うなよ…」
目の前に水の障壁を作り、ユキの弾丸をいとも簡単に受け止めるダイ。
直接戦闘ではエリス達やレイナといった女性陣に注目が集まりがちだが、彼もまたシックスデイの一員。
並の兵士やサイボーグ等とは、比較にならない戦闘力を有していた。
果たしてサキ、ユキ、そしてサユミは、この窮地を切り抜けることが出来るのか……

934名無しさん:2021/12/05(日) 11:00:45 ID:???
「おじさんをブッ倒して、アタシがお姉ちゃんを守るっ!!」
「おじさん呼ばわりひでぇなぁ。こーんな渋くてイケメンなお兄さんに向かって……キツめにオシオキしてやるぜ、お嬢ちゃん」
ユキは右腕をドリルに変形させ、ダイに飛び掛かる。
一方のダイは、再び周囲の水で障壁を作ってドリルを防ぐ。

ギュルルルル……ジュブッ!
「ここら辺は海が近いからな。水の壁は無限に作れる。そんなドリルじゃ貫けねえぜ」
「ふっふーん……まだまだぁっ!!スパイラルヒートぉぉ!!」
水の壁に粘性を持たせて、ドリルの回転を止めようとするダイ。
だがその時、ユキのドリルが赤く発光し始めた。ドリルそのものが発熱しているのだ!

ジュウウウウウウウゥッッ!!
温度は急上昇し、水の壁が瞬く間に蒸発し始め……

「なっ……やべえっ!!」
「もう遅いよっ!くらえぇぇーーーー!!」
……ブシュオォォォッ!!
「きゃああぁっ!?」
突然の高温で水が大量に気化し、大量の水蒸気が発生。小規模な水蒸気爆発が発生した。
ダイは咄嗟に身を伏せ爆発を免れたが、
至近距離にいたユキは直撃を喰らい吹き飛ばされる。

「……ムチャクチャしやがるぜ。そんな方法で水の壁を破ったらどうなるかぐらい、中学生でも……って、まだ学校じゃ教わってねえか」
「ぐっ………う、うるさいっ……このくらい、なんてことないもん……!!」
ユキは大きく後方に吹き飛ばされ、右腕のドリルが半壊していた。
周囲一帯は水蒸気の霧で包まれ、互いの位置は視認できない。

「ど、どこに隠れたのっ……エネミーサーチャー、作動!」
今度はユキの右目が赤く発光し、霧に紛れて身を隠すダイを探し始めた。
「おいおい……全身ほとんど機械なのか?ナルビアの連中でも、そこまでえげつない改造はそうそうやらんぜ」

「アタシ……が……サキお姉ちゃんを守る……ユキなんかじゃない、『アタシ』が………」
「なるほど……ガキの脳ミソで、それだけの種類の兵器なんて扱えるはずねえと思ってたが……
戦闘用AIまで搭載とは恐れ入ったぜ。脳みその中まで機械化済みってわけだ」

「……こ、子供だからって、馬鹿にして……今に、みてな、さい……!!
(音響から位置を解析して……今度こそ、ぶっ潰してやる……!)」
左腕からガトリングガンを出して構え、周囲を油断なく見回す。

「へっ……そっちこそ考えが甘いな。俺がいつまでも反撃もしねーで、お嬢ちゃんに好き勝手させてやると思ったか?」
「え………!?」
ダイの声がする方に、ガトリングガンの狙いをつけようとしたその時。
声は突然、その反対の方向……ユキの真後ろから聞こえてきた。
水の壁を使って、自在に声の反響を変えていた……気付いた時には、細く鋭い水流がユキの死角から飛んできていた。

シュバッ!!
「………っ!?」
水流が一閃し、ガトリングガンの砲身をユキの左腕ごと斬り飛ばす。

「そんなっ………アタシの特殊金属製の腕が、水鉄砲なんかで……!!」
「ウォーターカッターって言ってな。
ダイヤモンドや金属の微粒子を混ぜた水を勢いよく飛ばして、岩だろうが金属だろうがキレイに切断する。
兵器としては、国際条約で対人間への使用は禁じられてるほど危険な代物だが……
お嬢ちゃんみたいな『モノ』に対して使う分には問題ない」

シュバッ………ザンッ!!
「きゃぅう!?」

……別の方向から水流が飛んできて、今度はユキの右脚を斬り落とした。

「さぁて。それじゃそろそろ、オシオキの時間だ……せいぜい泣き喚いてくれよ。
そうすりゃ本命の『サキお姉ちゃん』も、逃げずに向かってきてくれるだろうからな」

「や、やだっ……くるなっ…………!!」
倒れた水たまりの中から、水の蛇が無数に現れ、ユキの身体に絡みついていく。
降りしきる雨の雫が、蜘蛛やミミズのような姿に代わり、ユキの体内に潜り込んでくる。
片足と両腕を破壊され、抵抗する術を失った少女に、容赦なく牙を剥いた。

「ひっ………っぎああああああああああ!!!」

935名無しさん:2021/12/05(日) 13:26:58 ID:???
ベキベキベキベキッ!!バチュンッ!!ガギンッ!!

「っぐああああああ!!いぎあああああぁぁぁぁぁああああぁっっ!!」
(左脚ユニット大破……右肩関節部破損、左肩……右足……腹部装甲版、破損………!!)
「いぎ、やはぁ……アタシ、が、こわされ………」
(メインCPUユニットに浸水……機能停止テイ、s……)

体の外から、中から、邪悪に蠢く水が次々とユキの身体に入り込み、破壊していく。
バチンッ!!バシュッ!!
特に、コンピュータ内部への浸水が深刻で、ユキの頭部に激しい火花がスパークした。

「ユキッ!?………ユキィィィイイイイッッ!!」
霧の中から泣き叫ぶユキの声が聞こえる。
斬り落とされた腕や、メカの破片サキの足元に跳んできて転がる。
中で何が起きているのか、ユキが今どうなっているのか、想像するだけで恐ろしくなり、サキもまた悲痛の叫びをあげた。

(この、ままじゃ……アタシが、きえちゃ、う……アタシじゃ、なきゃ………)
(ミキ……ミキ、しっかりして……私じゃ、お姉ちゃんを……)
『ユキ』じゃなくて、『ミキ』じゃなきゃ、お姉ちゃんを……守れないのに……)

ミキ。……それは、サユミが、三人目の娘が生まれたらつけようと思っていた名。
死産して生れることができなかった、ユキの双子の妹の……

「武器も手足も、何もかもぶっ壊した。戦闘用AIもこうなっちゃ形無しだな」

「いっぎあああああああああ!!!」
バチバチバチッ………ボンッ!!
飛び散る小さな火花と爆煙を残して、ユキの中に眠っていた戦闘用AI……「ミキ」は、永遠に沈黙した。

「ミキ………ミキっ………う、あぐっ………!!」
おなじ体を共有していた、双子の姉ユキ以外に、その存在を認識する者さえ無いままに。

「………残るは、元の人間の人格か。それにしても、肺が片方だけでも残っててよかったぜ。
ほんのわずかでも生身の身体が残ってりゃあ、それを維持するのに呼吸が必要だからな。
これで……………水責めが出来る」
「い、や……待って……ごぼっ!!」

水蒸気の霧が徐々に晴れていく。水蛇と蟲の群れが一か所に集まっていく。
それらは一つな巨大な球体に変化し、ユキの身体をゆっくりと呑み込んでいった。
戦う事も逃げる事も出来ず、ただ座り込んでいるだけのサキに、見せつけるように。

「がぼっ!!ごぼごぼごぼ!!がはっ!!いやあああ!!お姉ちゃん、たすけっ………ごぼ!!」
「ユキ………ユキッ……!!」
サキは、動けなかった。かつて受けた水滴拷問の影響で、心に刻みつけられた、水への強い恐怖心に縛られ続けていた。

「サキ……逃げなさい。貴女だけでも……!」
「母さん……!?」
だがその時。サキの横に居たサユミが、サキの護身用小型拳銃を手に、ダイに向かって走り出す。

「ほう……?……一般人にしちゃ大した度胸だが………状況を正しく理解できているとは、言えねえなぁ」
だが多少なり戦闘訓練を受けたサキと違い、サユミは普通の女性でしかない。
……ナルビアの軍人、しかもシックスデイの一員であるダイに、敵うはずもなかった。

……シュバッ!!
「あ、あれ、引き金が…あ、ぐっ!!」
発砲しようとするが、構えは素人。しかも、セーフティが解除されておらず、引き金が引けない。
戸惑っている隙に水の触手が飛び、サユミは銃を弾き飛ばされてしまう。

「お母さんも妹ちゃんも確保……もうお前を守る手駒は誰もいないぜ、サキお姉ちゃん。
……そもそも、この俺に見つかった時点で詰んでたんだよ。
船に乗って、海に逃げる……俺相手にそんなことが出来ると思うか?」
(ま、見つけたのは全くの偶然だが……)

「いや………い、やぁぁぁ………」
サキは腰が抜けて立ち上がれず、目に涙を浮かべて後ずさる。
いつもの勝気で小生意気な姿も、今や見る影もなかった。

じゅるり……
「ひっ!?……ま、待って……だ、だめっ……!」
水たまりから水の触手が伸び、サキの脚に絡みついて、ダイの元へと引きずり寄せる。

降りしきる雨に打たれてサキの白ブラウスが透け、Dカップのバストを包む紫色のブラジャーや、体のラインがくっきりと浮かび上がっていた…が、それを気にしている余裕なども当然無い。

「さあ、とことん溺れさせてやるぜ。お前らが土左衛門になる頃には……多分レイナの方も、片が付いてるだろ」

どぷんっ!!
「い、や………ごぼごぼっ!!」
サキは悲鳴を上げる暇もなく、ユキが囚われているのと同じ巨大な水の玉に呑み込まれてしまった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板