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FFDQかっこいい男コンテスト 〜ファイナルファンタジー7部門〜

1名無しの勇者:2002/10/18(金) 20:13
FF7の小説専用スレです。
書き手も読み手もマターリと楽しくいきましょう。

*煽り荒らしは完全放置。レスするあなたも厨房です*

2宝条×ヴィンセント【1】:2003/04/21(月) 22:25
 大嫌いな男の顔は、夕日の逆光でよく見えない。でも自分をあのねっとりとする視線で見ていることはわかる。
 目の前に座る男――宝条は非常に優秀な神羅の科学者であるが、研究以外の行動に関しては謎だらけだ。
 ヴィンセントには理解できなかった。何故、ルクレツィアはこの男を選んだのだろう。

「それで…話は以上ですか?」
 ヴィンセントが押し黙ったのを見て、宝条が口を開く。
「ああ…」
 何故か口元に微笑を浮かべている彼が、ヴィンセントは気に食わなかった。
「わざわざただの女科学者のことだけでこんな研究室を訪れるなんて…タークスのリーダーはよほどお暇なんですね」
 宝条の嫌味にもヴィンセントは動じなかった。タークスのリーダーとして、各地にある神羅の施設の調査、ソルジャーのスカウト――裏では暗殺も――と日々の活動は忙しいが、ルクレツィアのこととなると話は別だ。

3宝条×ヴィンセント【2】:2003/04/21(月) 22:25
ああ…ルクレツィア…)
 脳裏に浮かぶのは、銀色の巻き毛を束ねた可愛らしい女性。ルクレツィアはヴィンセントと同期で神羅カンパニーに入社した。配属はそれぞれ研究部、総務部と違っても、しょっちゅう会ってはお互いの仕事や愚痴を語り合っていた。美しくて聡明な彼女に、ヴィンセントが惹かれるのに時間はかからなかった。だが一年前から、ルクレツィアの上司である『宝条博士』について、彼女が憧れめいた口調で語るようになった。彼の研究がどんなに素晴らしく、それに携わる自分がいかに誇らしいか――そして遂には先日、驚くべき事実が彼女の口から語られることになる。

 ルクレツィアとはカンパニーの中にある喫茶店で待ち合わせた。いつもの場所である。
 珍しく彼女が先に来ていた。いつも白衣の彼女が、今の季節に合わせたかのようなうぐいす色のワンピースを着ていたことに、ヴィンセントは違和感を覚えた。
 (ヴィンセント、わたしね…)
 先に口を開いたのはルクレツィアだ。お腹の辺りを守るように置いていた手に、力が篭ったように見えたのは気のせいだろうか。
(妊娠してるの…)
 彼女はぽつりと言った。

4宝条×ヴィンセント【3】:2003/04/21(月) 22:27
 彼女の幸せのためなら、ヴィンセントは喜んで身を引くつもりだった。だが彼女が妊娠した経緯がどうも不自然な気がして、問い詰めるべく今日は宝条の元を訪れたのである。
「ルクレツィアは、お前の『ジェノバ・プロジェクト』のために妊娠したって話していた…そのプロジェクトは――」
「ええ、あなたもご存知の通り、より優れたソルジャーを生み出す計画です。彼女は私の計画に賛同して、自らが被験者になると言ってくれました」
 宝条は立ち上がり、扉の付近に立っているヴィンセントにゆっくりと近づく。彼の目線が自分とほぼ変わらないことに、ヴィンセントは気付いた。
「そんな御託はどうだっていい。お前はルクレツィアの気持ちを利用したんだ!!彼女は純粋にお前を慕っていたのに…っ」
 知らずこぶしに力が入る。人を人とも思わない彼の態度が許せなかった。
「彼女が私に思いを寄せていたことは知っていました。えぇ、チャンスだと思いましたよ」
「何だと!!」
 俯いていた男の目線が上がる。ヴィンセントの嫌いなねっとりとする視線。ヴィンセントは宝条に囚われた気がした。
「私の研究に必要な『素材』が手に入って更に――彼女を貴方から引き離すことができるチャンスだとね」

5宝条×ヴィンセント【4】:2003/04/21(月) 22:28
彼の視線に気圧されたのか、ヴィンセントは伸ばされた腕を押しのけることができなかった。
 宝条の細くて長い指先は、ヴィンセントの整った顎を撫で、そのままうなじを辿っていく。
「…綺麗だ」
 ほぅ、というため息と共に、宝条はうっとりと呟いた。優しく優しく首筋を撫でる動きにヴィンセントは翻弄され、遂には女のような声まで漏らしてしまった。
「…ぁっ…」
「いい声だ…」
 宝条が耳元で囁く。その吐息にさえ、ヴィンセントの耳朶は感じてしまう。
 それに気を良くして、宝条はちろちろと耳を舐め始めた。うなじを撫でるのも忘れない。
 ただそれだけのことなのに、ヴィンセントは立っているのがつらくなり、荒く息を吐きながら背後の扉に身体を凭れさせかけた。

6宝条×ヴィンセント【5】:2003/04/21(月) 22:29
「ひぁ…っ、やめ、ろ…っ、宝、条っ」
「やめていいんですか?…こんなに感じているのに」
 にやにやと意地悪く笑いながら、宝条の空いた手はヴィンセントの中心に軽く触れる。
 そこは既に熱を持ち、緩く勃ちあがっていた。
 こんなにして、つらいでしょう、といたわる声音とは裏腹に、宝条の手はヴィンセントを苦しめるかのように、そこをなで上げる。
「やぁ…ん…っ」
 鋭い快感に喘ぎを堪えられず、ヴィンセントはずるりと床にくずおれた。はぁはぁと息を吐きながら、目の前に立つ男を睨みつける。
 宝条はヴィンセントの視線に少しも動じなかった。彼の顔に浮かんでいるのは、獲物を手に入れたという恍惚感。
「私はずっと、あなたが欲しかったんです」

7名無しの勇者:2004/10/29(金) 00:20
つづきが見たいよ(;´Д`)ハァハァ

8名無しの勇者:2004/10/29(金) 00:54
楽しみに待ってるよ(*´Д`)/lァ/lァ

9鍵 (1):2004/10/30(土) 01:25
続き物中失礼します。今回投下するだけで完結するので許してください。

「マントのバックル上から3番目、シャツのボタン右上から2番目、バックル2番目、
ベルト下外してかけて全部揃ったら解除になるので、外した順にかけなおし、元通りにする。
 その後、シャツ、マンと、ズボンの順に、必ず上から外したまえ」
 ヴィンセントは宝条に言われるままにお仕着せの多すぎるボタンとバックルに挑戦し、
5回仕損じて初めて成功し、服をはだけたままだらしなく横たわった。
「ちなみに着用時は前をかき合わせるだけでいい
 こうやって、と襟元に手を伸ばした宝条をヴィンセントは力なく払いのける。
「止めたら二度と脱げないからこのままにしておいてくれ」
 マントもシャツもズボンも開きっぱなしの半裸のままヴィンセントは涙ぐむが
宝条は許さなかった。たちまち元通りヴィンセントは拘束具のような服に押し込められ
宝条が広い額にべったりにじんだ汗をぬぐう。
「最新の軍事暗号技術の粋を集めた鍵だ、設定外の手順では決して外れない。
勿論破れないし洗っても効果は継続の安心設計、当然防臭抗菌蒸れ防止メンテナンスフリー
事前に設定した秘密の質問に回答すれば開錠手順の再発行も可能で万が一のときも安心だ」
 あさっての方向をにらみながらとうとうと自慢げに語る宝条を、ヴィンセントは
恨めしく眺める。
「しかも君が習慣として無意識に開錠手順を覚えてしまわないよう、ランダムに手順が
切り替わる、自分でも再設定が可能なのでさらに安全度が強化されている」
 止めどなくこぼれる涙
 自分で脱ぐのも苦心する拘束具に押し込められるのも犯した罪への贖罪なのか。
 実験材料にされただけではまだ足りないというのか。
「先に言っておくが断じて君の罪などではなく私の研究成果にして責任だ。
野暮ったいタークスをちょうどいい改造素体として手にいれたまではよかったが、まさか
こんなことになるとはさすがの私も予測できなかった。こればかりはすまないと思っている」
 言葉の上では神妙だが、宝条の息は乱れている。
 寝そべってふてくされているヴィンセントを引き起こそうとしているらしいが、その手は
肩や頬を撫で回すばかりでちっとも力が入っていない。
 近眼で興奮してくると我知らず顔を近づけてくるのは以前から承知の上だが、息が
かかる側まで来ると、これは尋常ではない。
 慌ててヴィンセントは宝条を押しのける。
 改造の副作用だと思う、と、珍しく自信なげに宝条は言った。

10鍵 (2):2004/10/30(土) 01:26
 数週間前いつもと同じように体調チェックで聴診器を使っていた宝条の、事務的な作業が
滞っていた。
 いつもは目を固く閉じて顔を背け、冷たい聴診器が去るのを待つヴィンセントが
異常に気づいて目を開けると、聴診器と宝条の指が診察とは無関係な場所をさまよい、
宝条自身は息を荒げてうつろにヴィンセントを眺めている。
 どうした、宝条、と声をかけると、目を見開いて動きを止め、やがて、ぶるぶる、っと
肩を震わせた。
 しばらく放心して余韻に浸っていた宝条は、やがてヴィンセントの視線に気づき、
年がいもなく耳まで真っ赤になって逃げ出し、数十分戻ってこなかった
 着替えて風呂上がりの石鹸の匂いを漂わせて戻ってきて何も言わずふてくされて目も
合わせない。
「溜まってたのか」
「機械的な刺激と弾みだ、お前には関係ない」
 起き上がるヴィンセントの伸び放題の髪がさらさらと肩にこぼれかかる。
 たじろいだ宝条が、既にズボンを突き破る程に怒張しているのが見て取れた。
 これは違う、違うんだ、と、宝条は全身で否定し、そのまま仕事もヴィンセントも
放り出して、ミッドガルへ帰ってしまった。
 あいつも疲れているんだろうか、溜まっているなら自分も引けを取らない、と、
思ったきりで疑問にも感じなかったのだが。

 そして、忘れた頃に現れた宝条は、凄まじい鍵付き服を無理矢理押しつけたのだった。
「お前がたまたま溜まっていただけだ、私に欲情するわけがない。法廷で証言してもいい」
 ヴィンセントは叫んだが、宝条はゴーグルにマスクと手袋の完全装備、憤然として
ヴィンセントのパジャマを取り上げる。
 不意にぼんやりするが自分の顔をひっぱたいて奮い立たせ、任務を遂行したのだった。

11鍵 (3):2004/10/30(土) 01:27
「当然私はストレートだ、ルクレツィアに誓う。だが、30過ぎて触りもせずにパンツを
汚すには理由があるはずだ。あらゆる検証の結果君に欲情したことを認めざるを得ない。
今まではなんでもなかったのに突然自分の意思に反して欲情したのだ、原因があるとしたら
私の実験の進行が最有力候補最も疑われる」
 宝条の説明は論理的かも知れないが長い
 ヴィンセントはその間にボタンの外し方を練習するが宝条に邪魔される。
「私の前で脱いでみろ、顔めがけてぶっ掛けるぞ」
「男相手にそういう趣味があるとは知らなかった」
「全くもってそんな趣味は持ち合わせていないのだがそういう気分なのだ、私に
襲われたくなかったら完全に鍵をかけておきたまえ」
 宝条はマントの襟元を立てて顔を隠させ、それでも足りないのかバンダナで額を隠す。
「襲いたかったら襲えばいい、どうせこの身はお前の実験材料なのだ」
「冗談じゃない、男相手に欲情するなど生物学的に間違っている」
「こんな服では暑苦しいし動けない」
「嫌ならボタンを全部接着剤で固めて一生脱げないようにするか、リミットブレイクして
いない通常の姿をデスギガスに変更するかだ、どんなに私が譲歩しているのか
わからないのか」
 ヴィンセントはがっくりうなだれる。
「…何か勘違いしてお前が私に欲情しているだけなのだ、お前がもう来なければいい」
「私個人の問題なら何とでもなるのだ、だが、ことは私個人の感情やサンプル愛に
無関係に進んでしまっている。この間帰ってから徹底的に調査している途中、最近の
お前の顔写真を覗き見しただけの若い助手が、急遽立ちくらみ、人前をはばからず
自家発電する羽目にいたった。その後の街頭調査でも、老若男女無差別に抽出した100人に
同じく君の写真を見せたところ男女比ほぼ同率、全体の半数が欲情して平常心を
失ったのだ、これは驚くべき数値なのだよ」
「…どんな写真をばら撒いてくれたのだ…」
「だから、ただの顔写真だ。比較対照に、男性には人気ポルノ女優、女性には人気俳優、
それぞれ一流の写真家が撮ったヌード写真を見せたがどれも3割を超えることはなかった」
 ざわりとヴィンセントの背中に粟が立つ。

12鍵 (4):2004/10/30(土) 01:28
「今でこそこの地下室にいるからいいが、将来外に出ることになってみろ、君を見かけた
女性は自らの乳房を揉みしだいて悶絶し男性は君に指一本でも触れようと襲い掛かるが
肌に触れる前に腎虚で息絶えかねん、あらゆる人間の情欲の視線にさらされ精液と愛液に
まみれてお前に焦がれる余りに力尽きた者の山を踏み越えて生きる自信があるのか、
お前がふらつけばそこには屍山血河が生まれるのだ、これも私の罪などと寝ぼけていられるのか」
 どこまでがはったりなのかどこからが男相手に欲情してしまった照れなのか、
ヴィンセントにはわからなかった。
「さすがにここまで厳重に鍵をかければ初見の者が勘違いもしないだろう。万が一自白剤や
催眠術などで開錠手順を他者に知られたとしても、開錠が成功するまでには手がかかるし
のぼせた頭もいくらか醒めよう。その隙に反撃でも説得でも逃走でもするといい。
お前自身の性生活には関与しないが、相手を殺さない程度に君自身が自重するのだ」
 一気に喋った宝条は肩で息をしている。
 マスクとゴーグルの奥に覗く顔いっぱいに脂汗をかいているのが見えた。
「…せっかく着せたのに効いていないじゃないか」
「これは、さっき、裸を見たから、だ」
 たかが男の胸板で、と、宝条が歯軋りする音が聞こえた。
 ヴィンセントは、ほんの少し、笑う。
 宝条が取り乱して意地を張っているところなど、滅多に見られるものではない。
「自重してやるから、一度襲ってみたらいい」
「冗談じゃない、私はサンプルには実験以外手を出さない主義だ、それに、そっち側に
行くなら先に三途の川を渡ったほうがましだ!」
 宝条はわめき散らしながら出て行き、それからしばらく姿を現さなかった。

 その後、いろいろあってクラウド一行と行動を共にすることになったが、ヴィンセントの
服を誰かが開錠できたのかあるいは我から脱ぎ捨てたのかはここで話すことではない。

 おわり。

13名無しの勇者:2004/10/30(土) 01:55
宝条とヴィンの絡む話が読みたかったのでうれしかったですわ!
あるがとうございます!

14名無しの勇者:2004/10/30(土) 02:16
乙です!
金庫の鍵の次はマントの鍵かw
ヴィンセントは手ごわいな。

15名無しの勇者:2004/10/30(土) 05:21
乙です。挑発的な台詞をさらりと吐くヴィンに萌えました。
素晴らしい作品有難うございました!

16名無しの勇者:2004/10/30(土) 08:48
どうもわざわざ感想ありがとうございました。
某エロカワイイスレで触発されたのですが
エロカワイイと違う方向になってしまいました。

>13
 こちらこそありがとうございます、読んでくれた方がいてほっとしました。
>14
 ありがとうございます、マントの鍵のヒントは屋敷には隠してありません。
>15
 ありがとうございます、麗しく「誘い受け」な雰囲気にしたかったのに、
どうも「やらないか」風味です。

 …あがってるし(汗)

17名無しの勇者:2004/10/30(土) 22:19
ウホッ!!いい男
やらないか風味のヴィンヴィンに萌え〜(;´Д`)ハァハァ

18名無しの勇者:2004/11/01(月) 14:45
イイヨーイイヨー瓶たん萌えだ。
美味しく頂きますた。ありが㌧>16

19名無しの勇者:2004/11/03(水) 05:08
>17
 ありがとうございます、ヴィンセントがベンチで全開してたら何人釣れるやら。
>>18
 ありがとうございます、至高のメニューのメインにヴィンセントを推薦しましょう。

 えーと…全然別の話。全4話か5話の予定です。
 一話分ごとに投下しますのでご勘弁を。

 名もなき村人とヴィンセントです。実も蓋も愛もないです。

20屋敷幽霊(1):2004/11/03(水) 05:13
 観光名所も名産もなく、地味を絵に描いたようなニブルヘイムに、突然大勢人が
押し寄せ、いったい何事だ、ともかく降って沸いた特需に村人が慣れる頃、また突然に
誰もいなくなっていた。
 いや、よく探せば、たった一人、残っていた。

 死人、と、最初は見えたのだ。
 人気の途絶えた部屋で、ちょうどと同じように埃をかぶって横たわっていたから。
 ただ、神羅屋敷から人が撤退してから指折り数えると、こんなに状態のいい死体が
残っているわけもない。
 肌に血の気はなかったが、かすかに息をし、脈も触れる。
 顔と髪に積もった埃を払うと、湿気も油気もなく零れ落ち、そして、村人は
赤い瞳を見た。
 思わず手を引くと、瞳は村人に焦点を合わせる前に、また、まぶたの中に隠れる。
 かすかな、寝息だけを聞きながら、村人は喉からこぼれそうな心臓を静めようと
躍起になっていた。
 神羅屋敷に入り込んだ彼を空き巣と呼ぶのは筋違い。誰もいなくて無用心な空き家を
見回りに来て、ついでに生もの腐りものが放置されていないか、子供が忍び込んで
火遊びなどしないか点検していただけなのだ。
 初めて訪れた地下にまさか、何かいるなどと夢にも思っていなかったのだ。
 村人は、懐中電灯を近づけて、眠っている人の顔を覗き込む。
 男、とは見えるのだが、村人の理解できる範囲の男の中に、こんなのは含まれていない。
 日に焼けて脂ぎって髭の剃り跡がしっかりあるものだ、若ければにきびだらけ。
 磁器のように滑らかな肌と端正な顔立ちの眠る人は、村人の神経を訳もなくざわつかせる。
 懐中電灯の光を浴びたくらいでは、まぶたは再び開かなかった。
 村人の指は閉じたまぶたをなぞり、鼻筋をたどり、唇をなぞる。
 乾いていくらかひび割れた唇をこじ開けると、冷え切った肌からは想像もしなかった
熱い粘膜が指に吸い付き、村人の肌は総毛だった。
 何をやっているのだろう、と、一瞬思い浮かんだが、すぐに忘れた。
 力を入れるまでもなく開いた口を、節くれだった指でかき回すのに飽き足らず、村人は
唇にむしゃぶりついた。
 渇いて貼り付きそうな口の中を嘗め回し、舌を吸い、顔を舐る。
 まぶたは、閉じたまま。
 こじ開けようとして、村人は手を止めた。
 寝たふりをしているのでも寝ているのでも同じではないか。
 寝巻きの襟元を緩める。
 男か女かわからなきゃ困るから、と、一人ごちて。

21屋敷幽霊(2):2004/11/03(水) 05:14
 女だったらひどいことするもんか、オレにはかあちゃんがちゃんといるんだから、と、
誰も聞いていないのに、つぶやきながら、寝巻きをはだけ、下着を下ろす。
 男であるのがわかってもなお、村人の昂ぶりは落ち着かず、むしろ息が弾み、目が眩む。
 滑らかな肌に包まれた無駄のない筋肉。
 贅肉はないが深い眠りの中で弛緩しきった柔らかい体。
 村人は分厚い手のひらで、固くなった指先で、眠っている男の肌をくまなく撫でさすった
 汗一つない肌に、村人の手からにじんだ脂汗が粘りつく。
 かあちゃんなんか、これに比べたら白豚だ。
 ほんの数日前、かあちゃんは柔らかくて温かくて最高の女だと言ってやったのは、
それしかないと勘違いしてたからだ、他を知らなかったからだ。
 首筋を、脇を、乳首を舐る。
 生きた匂いも、味もひどく薄く、村人は味わいたいがためにしつこく吸い、舐る。
 鼓動と息は感じるが、目も開けない、起き上がりもしない。
 起きれば、やめるのに、と、言い訳し、村人は服を脱ぎ捨てた。
 足を絡ませ、こすり付け、所構わず吸い、歯を立てる。
 ぐったり横たわった男は、何をしても応じない。だから、村人は躍起になった。
 起きたら終わりとわかっていても感じて応じるのを見たかった、あの目を開いて
起きたところを見たいのだ。
 自分以外の男根をしごくなど今の今まで思ったこともなかったが、弄り回している内に
血が通い始めたのを知った途端、村人はむしゃぶりついていた。
 気のせいか、かすかだった息が弾んでいるように聞こえたが村人自身が昂ぶりすぎて、
自分の鼻息だかなんだかわからなかった。
 息を確かめようとして唇を貪り、舌を吸う。
 足を抱え上げて股間をまさぐって、自分のをあてがったところで、村人は我に返った。
 男相手にこれ以上どうしたものか。
 いたずらにかあちゃんの尻にねじ込んだときは大喧嘩になったんだ、舐めて慣らして
お邪魔しますなんてまだるっこしいことをしていられるか。
 村人は男を引き起こし、髪を掴んで仰向かせ、散々舐め回した口にねじ込む。
 二、三度、首を揺すらせただけで、村人ははちきれた。
 溢れた精液に、顔も、胸も汚されるさまはさらに村人に力をみなぎらせる。

22屋敷幽霊(3):2004/11/03(水) 05:15
 もっとよく見たい、と、仰向かせると、そこに、真っ赤な瞳があった。
 まっすぐ、村人を見ていた。
 男根からも肌からもさーっと血が引き、村人は男を突き放す。
 と、男は倒れ伏してそのまま動けなかった。
 村人の責めには何も応じなかった体に、べったりと脂汗がにじみ、男は顔をしかめ、
歯を食いしばっていた。
 具合が悪く、動けないのは確かめなくともわかった。
 村人の無体から逃げたり詰ったり怒ったりする気力などなく、発作か苦しみに
耐えるのが精一杯なことも。
 介抱してやるから。
 村人は男にほお擦りするように言った。
 きれいな顔を精液で汚したまま、男はわずかに表情を和らげた。
 あとで、まとめて介抱してやるから。
 足を抱え上げ尻に指をねじ込むと男の体が跳ね上がり、うめき声がもれた。
 意識をなくして弛緩しきっていた体に緊張が戻りきる前に、村人は男根をねじ込んだ。
 どんなに弄っても息すら乱さなかった人形が火照って汗ばみひくひくと震えている。
 仰け反って、身をよじる男を村人は抱きすくめ、あえぎ、うめく唇をしゃぶりつくした。
 腰を抱えて叩きつけ、二度目に搾り出してもまだおさまらず、うつ伏せにして突き立て、
膝に座らせて押し込み、それでも萎えない男根で貫いたまま、男を押さえ込んで、眠った。

 起きてみれば、熱っぽいのも動悸も発作も治まったのか、ただ、意識を失っただけか、
男はぐったりしたまま、もう、目を開かなかった。
 村人は無茶しすぎてきしむ背中と腰をさすりながら、おざなりに自分の飛ばした汚れを
ふき取り、汚した寝具と寝巻きを取り替えた。
 医者を呼んだほうがいいのかと少しは思ったが、埃かぶるまで眠っているような
病人がこの世にあるものか。
 一人、首を振って、村人は地下室から出て行った。
 あれは、なんかのバケモノだ。相手してたら干からびちまう。
 俺は、うちのかあちゃんとするぐらいがちょうどいい。
 背中も腰もぎしぎしきしんで、膝が笑って、まっすぐ歩けなかった。
 外泊した言い訳をなんにしよう、などと思う村人は、夕べのことなど思い出しもしなかった。

 今は。

 特別村人が注意深かったわけでも他の村人が愚鈍なわけでもなかったから、村に公然の秘密が
広まるまでに、一ヶ月もかからなかった。
 神羅屋敷の地下に、好き放題いたずらできる相手がいると。
 多分、最初の一人である、例の村人も、そ知らぬ顔で、誰かと鉢合わせないように、
神羅屋敷の地下に降りては、階段を上る体力もなくして這うように戻ってくるのだった。

 屋敷幽霊 おしまい。

23名無しの勇者:2004/11/03(水) 10:53
>20-23
乙です!村人たちにいたずらされるヴィンたん…
そんなの漏れが許さねぇ!と思いつつも激しくハァハァしてしまいますた。
萌えです(*´∀`)

24名無しの勇者:2004/11/03(水) 20:05
>23
 ありがとうございました、一緒になっていたずらするか、白馬の王子様になって
助けに来てやってください。
 でもも少しいじめます。

 あのぅ、自分は某エロカワイイスレで誘導されてこちらにお邪魔しているのですが、
この続きがこの板やスレッド、もしくは2ちゃんねる専用ブラウザで見られなくなったら
困る方はいらっしゃいますでしょうか。

25何の夢を見ている:2004/11/05(金) 00:25
 話にならないつなぎなのでこそっと。
 これは1レスのみで終了。
 この章うとうと可愛い風味(でもゴカーン)

 うつろな赤い瞳は部屋の中をさまようが、何も見えてはいない。
 意識はまだどこか遠い場所にあって、自分が知らない誰かに組み敷かれていることなど
わかってはいないのだ。
 それでも、目が開いたのに気がついた村人は一息入れる。
 眠りが深く、何をしても応じない時間が好きな者もいるが、村人にとっては彼が
ぼんやりしている今が最高なのだ。
 この時間が回ってくるように、順番を待っているのは大変だ、下手すると完全に
起きてしまう。
 今日も誰かの精に汚された唇を舐る。
 口の中を嘗め回し、舌を吸っていると、やがて、彼の舌が応じる。
 小娘のように臆病で、やがて、懐いた犬より遠慮なく絡みつき、逆に村人の舌に
吸い付いてくる。
 途端に脳天が痺れ、村人はたやすく果ててしまうのだ。
 子供ではないのだから、一度で満足して、次を待っている者に譲ればいいのだが、
いざ起き上がると、所在無くさまよく瞳にほだされて、帰れなくなってしまうのだ。
 十分火照った体は、少し揺れただけで応じ、震え、のどを鳴らす。
 恥じらいも何もまだ眠っているようで、ただ快楽に素直に応じるだけ。
 抱き寄せれば頬を寄せ、長い足が村人の腰に絡みつく。
 動けば応じて、時には声を漏らし、汗だくになって一緒に果てる。
 するほどになじみ、懐いてくるさまに、あと一度、後一度と今日も村人は引き際を
逃してしまうのだ。
 けれど、だんだん彼の瞬きが多くなり、焦点が合ってくる。
 そうなったら、村人の好きな時間はおしまいだ。
 怪我をさせないこと、後始末をすることだけがルール。
 彼が自分を見る前に、村人は逃げるように部屋から出る。
 屋敷の前で所在無げにうろついている同じ目的の連中を見ると、もうやめようと思う。
 けれど、また、今ちょうどよく寝ぼけている、と聞くと、たまらなくなるのだった。

 何の夢を見ている おしまい。

26秘密(1):2004/11/05(金) 01:35
 この章言葉責め意地悪風味(だからゴカーン)

 彼は、絶対に誰の顔も見ない。
 はじめは目を顔をしかめて歯を食いしばっていたのだが、体に加わる緊張が余計に
侵入者を喜ばせるだけと気づいたらしかった。
 何せ、口も聞こうとしないから、誰も彼の胸の内など知る由もない。
 どうせ脱がせるのだからと、誰も寝巻きを着せなくなった。
 火照った体が冷める前、ほぐされた筋肉に緊張が戻る前に誰かの順番が来るのだから、
準備も何もいらない。
 けれど、この時間が好きな者は無造作に用意された場所に入り込んだりはしない。
 わざと反らせた顔の側に潜り込み、体を擦り付ける。
「さっきまでよがって可愛い声で鳴いてたんだよ、知らん振りするなって」
 顔を舐めるまでは許すが、唇は無理だ。
 何人か無理強いして噛み付かれた。
 意識は戻っていて、自分で体を支えることができるから、這わせて後ろから責める事も
できるのだが、それでは赤い瞳が見えなくなってつまらない。
 自分の方がとっくにはちきれそうだが、あえてここは彼自身を手のひらの中で転がす。
 寄ってたかって弄り回すから、目が覚める時間になってもまだ、わかりやすい反応を
することなどめったにないが、嫌がって歪む顔が見えればそれでいい。
「今日は何人がかりで起こしてやったと思う。数えてたか」
 顔だけそむけようとしても、押さえつけて許してやらない。
 寝返りも打てないように腰を足で挟み込む。
「たっぷり注ぎ込んでやらなきゃ一人で起きられもしねえ、いやらしい体だな、そう思うだろ」
 返事をしないときは握りつぶすほどに力を込めてしごいてやればいい、少なくとも苦痛の
うめきは聞ける。
「飯も食わねえ、何もしねえで眠りっぱなしなのに、何で生きてられんだかわかるか、
俺達がせっせと生きのいいところ入れてやってるからだ、なぁ」
 たっぷり飲んで腹いっぱいだろ、と、耳元で言ってやれば端正な顔が歪む。
「嫌そうな顔したってしっかりくわえ込んではなさねえのはあんたなんだよ、エロイ兄さん」
 揺すられて責め立てられて息が弾んでも、ひそめていた眉から力が抜けても、
口を吸われて飲み込めなかったよだれが糸を引いても、まだ、彼は誰も見ない。
 一晩がかりでいじめても、数人がかりで泣かせたって、目をあわせようとはしなかった。
 だんだん、思いつく言葉も減り、村人は腰を使うほうに没頭する。
 仰け反ってさらした白いのどにむしゃぶりつき、村人は深く深くまで精を吐いた。

27秘密(2):2004/11/05(金) 01:36
 胸に顔を擦り付け、ため息をつく。
「今日もよかったなぁ、ヴィンセントさん」
 ざわ、と、鳥肌が立った。
 村人が顔を上げると、血の気の失せた顔で、萌えるような赤い瞳で、彼が睨んでいた。
 いままで、自分で動きもしなかったのに、村人を押しのけ、後ずさる。
「やっぱり、ドンピシャかよ、ヴィンセントさん」
 村人は擦り寄ろうとするが彼は案外力強く払いのける。
「この間神羅に電話したんだわ。屋敷に誰か残ってるけどどうするんだって」
 田舎者が要領を得ない問い合わせをしたものだから、たらいまわしにされ、最後には
不法侵入者らしいので、その内巡回警備に行ってみる、とつれない返事をもらったのみ。
 そのあとすぐ、折り返し連絡が来た。
 生死と、村に問題がないかだけ問いただし、来週行くので構うな、と、言って切れた。
「…誰が、来る、と」
「誰に来て欲しいんだい、ヴィンセントさん」
「誰が、来るんだ」
「その前に返事をしたらどうだよ、ヴィンセントさん」
 彼は大きく首を振る。
 が、村人はあごに触れて鼻先でニヤニヤ笑う。
「昨日はちゃんと返事したのに、どうしてできないんだ?ヴィンセントさん」
「…返事など…」
「あんたがしたの、呼んでないのに返事したの。
 俺達が声をかけたのは、村の、牛飼いのごついヴィンセントって親父で、一度始めると
長くって困るのよ、隅から隅まで嘗め回してべたべたにしやがるのよ。
 で、順番があるからはよ終われってヴィンセント親父を呼んでやったら、寝ぼけたあんたも
一緒になって返事してんの」
 何回呼んでもご機嫌に返事したんだ、覚えてないかと、村人はヴィンセントの顔を舐める。
「ヴィンセントって人が神羅屋敷に残ってるんだけど、って、教えてやったさ。なのに、
ひどいよな、そんな人いませんいませんってたらいまわしよ」
 彼は、ヴィンセントは村人を押しのけるが、手首を掴まれ、また組み敷かれる。
「ヴィンセントさんは、俺達の可愛いペットになって、大事に大事に飼われてます、って
言ったほうがよかったか、それとも、ヴィンセントさんは毎日毎晩男に抱かれて幸せです、って
伝えるか、なぁ」
 感情の昂ぶりか、寒さか、ヴィンセントは目を見開いたまま、震える。

28秘密(3):2004/11/05(金) 01:36
 血の気が引いた体は撫でさすったくらいでは暖まらない。
「冗談だって、いい子にしてりゃせっかくの俺達のお楽しみをぶち壊すようなことしねえよ」
 なでても、体を押し付けても、ヴィンセントの震えは止まらない。
「なんだよいったい。熱でも出したのか?」
 村人がベッドから離れると、ヴィンセントは突っ伏し、枕を抱え込む。
「…あのな、そんないじめるつもりじゃなくてな、あんたが喋らないから、なんか
盛り上がるようなこといってみただけだろ、大げさに怖がるなよ」
 何か、ヴィンセントがつぶやく。
「あぁ?」
「…誰が、来るって」
「科学課とか何とか言ってたけど知らねえ」
 水を汲んで戻った村人の目の前に飛び散ったのが、羽枕の中身と気がつくのは、だいぶ後。
 枕を食い破り、まだ全身を痙攣させながら、赤い瞳が村人をねめつけていた。
 いや、同じ赤い瞳だったが姿はまるで違った獣が、村人を一撃で殺せるポイントを
探して睨みすえているのだ。
 村人はコップを取り落とし、しりもちをつく。
 獣は、まだ痙攣している手足を扱いきれないのか、なかなか飛び掛れずに、苛立って
寝具を掻き破る。
 ぜいぜい響く獣の息を聞きながら、男は、部屋から這い出す。
 螺旋階段を這い上がり、それから、ろくに服も着ないまま、屋敷から逃げ出した。
 その後しばらく、恐ろしくて屋敷になど近寄れなかったのだ。

 秘め事 おしまい

 後は書き終わってから持ってきます。独占スマソ。

29名無しの勇者:2004/11/05(金) 05:57
村人の無遠慮な言葉責め(;´Д`)ハァハァ
次回はいよいよあの人とのご対面ですね?
楽しみにしてます。

30名無しの勇者:2004/11/06(土) 01:40
>29
ありがとうございます、お下品おじちゃん用にもっとボキャブラリーが欲しいです。
あの人は…あの人でいじめるのが王道だとは思ったのですがっ

ともかく次行きます、ていうか、これで完結。
長らくのご愛顧ありがとうございました。

31子守唄(1):2004/11/06(土) 01:40
 添い寝している相手が、世界一憎いはずの宝条と見分けた途端、ヴィンセントの
気力は尽きた。
 やせた胸に顔を埋めたまま、にじむ涙をぬぐう気もおきない。
 見たら殺す、お前の与えた爪と牙の威力を身を持って知れ。
 データ採取出来ずに残念だと悔しがりながら倒れる姿を思って奮い立たせてきた
最後の芯が、折れた。
 こいつにまで体を許したのか、痴態をさらしたか、こいつすら見分けられなかったか。
「起きてるなら早くどけ。圧死させる気か」
 宝条はヴィンセントを押しのけようとし、その前に眼鏡を探す。
「戻ったか。ならいい。私がわかるか?」
 わかりたくもない。圧死してくれるならこのまま止めを刺してやる。
 縊り殺すくらい素手でも出来る。
 手を伸ばした先にボタンをきっちりかけたシャツが触れ、ヴィンセントは首をかしげる。
 まさぐればネクタイ、白衣、コート、マフラー。
「まだ私は靴も脱いでいないんだ、ミッドガルから120時間、船に乗って車を乗り継ぎ
その間一度も靴を脱げないんだよ、この苦痛が毛唐にはわかるまいが」
 のしかかられて動けず、キーキー怒っている宝条がなんだか懐かしく、ヴィンセントは
肩の力を抜き、やっと宝条は這い出してため息をついた。
「言葉、聞き取れるか」
「…ああ」
「5+8は」
「13」
「上出来だ。食欲は」
「…少し」
「上着置いてくるから待ってろ」
 髪もコートもくしゃくしゃの宝条に、毛布で包みこまれて、ヴィンセントは目を閉じる。
 そうだ、ガリアンビーストのままで久しぶりに見た宝条に飛びついて、そのまま延々
遊び相手にしていたのだ。
 遊び飽きて眠くなり、手ごろな宝条を枕にして、寝ているうちに変身が解けたらしい。

32子守唄(2):2004/11/06(土) 01:41
「…わざわざ来てレーションを、出すか」
「ここに来た時点で鍋をかけておけばポトフだろうがタンシチューだろうが作れてたんだが
誰かが遊べ遊べと構ってくるのだ。甘ったれの警戒心のない愛玩犬以下、番犬としての
需要は今後期待するな」
 レトルトでも温かいスープに、ヴィンセントの顔がほころんだ。
「味、わかるか」
「懐かしくまずくて塩気が足りない」
「温度は」
「皿温めないから、もうぬるくなっている」
 宝条は逐一メモを取る。
「三ヶ月も変身が解けなかったのに、一晩で人間の感覚にまで戻るのだから見事なものだ」
「…三ヶ月?」
「プロジェクトがニブルヘイムから撤退してそれだけたっているんだ、変身して
戻れなかったんだろう?」
 ヴィンセントはゆっくり首を振る。
「最初と、びっくりしすぎたのと、試してみたりで、五回くらいは」
「あほう。だから体力を消耗しすぎてふらふらしてるんだ」
 がみがみ叱りながらどんぶり一杯分はサプリメントを積み上げ、ヴィンセントは苦笑いする。
「無理」
「あほうぶりを是正したら、濃縮タイプに変更してやる」
 食器を片付け、採血し、メモを取り、と、宝条は忙しい。
「五回も変身して、あと何してた」
「足腰立たなくて、寝ていた」
「真面目タークスがなんという怠慢だ、意識戻ったらテレパシーでも化けて出ても
所在報告する奴だと疑いもしなかったから、実験失敗して死んだか戻れなくなってるか
野生化したかとあきらめていたじゃないか」
 ヴィンセントは、答えない。
 目が覚めて、足腰立つようになって、一人で動ける時間はいくらでもあった。
 出て行くことも、電話一本かける事もしなかったのは、気力が挫けていたからだ。
「それで、今後の展望と予定と宿題なんだが」
「…もう帰るのか?」
「馬鹿を言うな、サボっている君と違って私は忙しいんだ、資料回収と魔晄炉の点検の
ついでに寄り道しているんだよ、一つも仕事終わってないのに帰れるか」

33子守唄(3):2004/11/06(土) 01:42
 試験管に取った血を光にかざし、宝条は顔をしかめる。
「ミッドガルに持って帰って分析しないと確定ではないから、がっかりするのはまだ早いが、
移植した細胞が消えかかってる。免疫力が戻ってきたら、もう変身できなくなるだろうな」
「え?」
 宝条はクーラーバッグに血液をしまう。
「治療の手段に、異種細胞使っただけだから」
 骨折部分をボルトで止めるみたいに、と、付け加える。
「一生物ならもっと丁寧に計画してこまめに面倒見なけりゃ出来ないよ。
 傷をふさぐ手段として後遺症が少なければ重傷者の治療やスポーツ選手のドーピングに
いろいろ応用が利くと思うんだが、モニターとしてはどう思う」
 ヴィンセントは、宝条の言ったことをかみ締める。
「…治るの、か」
「私としては完璧な変身人間を育てたいのだが、時間かけて変身人間作っても技術を
開発しても、会社は儲からないので企画も予算も通らん」
「…だったら、事前に説明の一つくらい。変身で、驚かせすぎだ」
「デモンストレーションと嫌がらせをかねていたので君のはあれでいいんだ。どうせ
説明するにも、意識なくして間に合わなかったしな。商品化、実用化するなら
もう少し目立たない変身にしてもいいがあの活発な新陳代謝により一撃で負傷を
塞いでしまうのが売りなので、全くカットしてしまうとなると…」
 メモに試案を書き付ける宝条に、ヴィンセントはあきれて声も出ない。
「で、気に入ってるのかもしれないが今後変身はやめとけ、傷はもうふさがっているから
必要ない。体力つけてから薬で一気に移植した細胞を叩いてあとはリハビリだな。
 ま、いい、仕事終わったら一緒に帰るぞ」
「帰る…のか」
「この機会にタークスから足を洗う気ならそれもいいが、顔くらい出しても罰は当たるまい。
宝条に改造されて外回り不可能と完璧な診断書を書いてやる」
 ちなみに労災申請確実の診断書のコツはこれで、いや、これはタークス的には許容範囲外、
よその会社でこんな書類作ってるの知ったら恐喝のねたに使う、おぬしもワルよのぅ、と、
他愛もない事を、ヴィンセントは宝条と一晩中喋っていた。
 ルクレツィアとセフィロスのことも、プロジェクトのことも、ヴィンセントが今まで
受けてきた扱いのことも、何一つ口に出せなかったが、それ以外に話す事はいくらでもあった。

34子守唄(4):2004/11/06(土) 01:42
 朝になって眠い目をこすりながら、宝条は魔晄炉の調査に出かけた。
 ここしばらく時間を決めて起きる習慣をなくしていたヴィンセントも、普段着に着替え、
顔を洗い、久しぶりに鏡を覗いて伸びすぎた髪を撫で付ける。
 少しやせたのでミッドガルにあるスーツが合わないかもしれないが、新調すればいい。
 タークスも嫌いではないのだ、復帰できるならその方がいい。
 ルクレツィアもセフィロスも心配だが、そばで見守り、手助けすることが出来るはずだ。
 と、気配に窓の外を覗く。
「ずっと、あの眼鏡とお楽しみかよ」
 窓の外から、村人の粘りつく声。
 どうせ合鍵を持っているのだ、すぐに入ってくる。
「町の恋人かい」
「お前達には関係ない」
「俺達はあんたと関係があるだろうが、あんなに仲良くしただろう」
 肩に触れようとした手ははねつけていい、自分の望まないことを断っていいと、
毅然として対応できなかったのは、弱っていたからだ。
「ひょろ眼鏡のあれはそんなにいいのかよ」
「…お前は最低だったから、あいつがどんなに下手だったとしてもお前らよりましだ」
「眼鏡に、昨日までお前が何やってたか、全部教えてやってもいいんだぜ」
 ヴィンセントは相手にくいつきそうに、顔を近づける。
「好きにしたらどうだ。どうせ、私は、もうお前たちに会うことはないのだ」
 あの堅物は写真があろうと説明されようと理解しないだろう。
 性交は雌雄でするものであってヴィンセント相手なら成り立たないだろう、そもそも
原初地球の漂うアミノ酸から生まれた生命が…と、全員正座させられて延々と講義を
聞かされる姿さえ思い浮かび、同情してすらやれる。
 会社に言いふらされたところで、何ほどのことがあるか。
「…可愛がってやったじゃねえか、帰るなよ」
 ヴィンセントは黙って首を振る。
「じゃあ、俺達は、どうすりゃいいんだよ、あんたが現れて俺は、男なんかなんとも
思ってなかったのに、これからどうすりゃいいんだよ」
「私に言われても困る」
 後ろから、首に手が回されたのと、前から抱きすくめられたのが同時だった。
「…夕べどんなによかったか知らねえが、俺らはお預け食ってたから、今日は
好きなようにしてやるだけよ」
 首にかけられた手に、力が入る。
「…いい加減に、しろ」
「眼鏡、魔晄炉に行ったんだろ、明日の夕方までは帰って来れねえ」
 ガイドはあんたに興味ない奴だから、混ざれなくても文句言わねえし、と、
村人の一人が下卑た笑いを浮かべる。
 首を絞められ、ふらついたヴィンセントを二人分の腕が羽交い絞めにする。
「いつもと同じだろ、いい子にしてろ」
 振り切ろうとすり抜けた途端、渾身の拳が鳩尾に入った。
「…か、は…」
「殴られねえって安心してたろ?言うこときかねえなら痛い目に合わすしかねえだろ」
 後ろ手を捻り、股間に膝を割りこませ、力を乗せてくる。
「あんたと最後になるならよ、殺しちまったって、かまやしねえ」
 おとなしく、身を任せてやればやがて終わる。
 最後の思い出にと我を忘れて楽しんでやるのが賢いのかもしれなかった。
 だが、殴られた衝撃関係無しに胃の腑から吹き出す嘔吐感はどうにもならない。
「い、や、だ」
 もう一つ、鳩尾に拳が入り、ヴィンセントの目の前が赤く染まった。

35子守唄(5):2004/11/06(土) 01:43
 荒縄で猿轡するとせっかくの顔が歪むので嫌がる者が多かったが、仕方ない。
 キスさせるどころか顔ごと食いちぎりそうに歯をかみ鳴らしているのだから。
 頭と腹を何度か殴って、いったんはおとなしくなるが今日はやけに寝起きがいい。
 後ろ手を縛っても膝を縛っても暴れて振り解くので、殴りつけ、押さえ込んで
無理強いする。
 騒ぎを聞きつけて、三々五々村人は集まり、行列と見物の輪に加わって、手を貸し、
順番待ちの間に自分を奮い立たせ、ニヤニヤ笑う。
「そんなに殴るなって。眼鏡にばれるぞ」
「それが平気なのよ、一度化けさせると傷一つなくなってきれいなもんさ」
「へー、どんな傷もか」
「試してみるか?」
「俺が済んでからなー」
 集団での興奮はあったが順番待ちが長すぎる。
 不思議にきれいな生き物を手に入れて手なずけるような楽しみもなく、都会の
未知の人種を組み敷いてプライドをへし折る征服感もなく、今日はただ、罠にかかった
狼をなぶり殺ししているような気分で胸糞が悪い。
 人前で自分をさらけ出せない者は、代わりにヴィンセントを殴った。
 どうせ簡単に治るのだと聞いて、調子に乗って馬乗りになり、今まで人間相手に
してはいけないくらいの力を込めて、殴りつけた。
 猿轡を半ば噛み切っていたヴィンセントは、何度目かに跳ね上がってぎらぎらと
火の出るような瞳で睨みつけ、ねじ伏せられて、動かなくなった。
 意識のない時にいたずらするのと同じように静かで、そういう時間が好きな者は
最初喜んだが、やがて、気味悪そうに離れる。
「…死んだんじゃねえか?」
「気絶しただけだろ、寝起き悪いんだ」
 顔に触れても、目が動かない。
 猿轡を外すと、どす黒い血が溢れた。
「…おい、もう終わりにするから、ちょっと化けて直しちまえよ」
 強く揺すると、ほんのわずか目が動き、咳き込んで、また動かなくなった。
 誰いうともなく、散らかした部屋を片付ける。
 戒めを解いて、体を拭いて、頬を軽く叩いてみるが、ヴィンセントは動かない。
 村人達が夢中になった不思議にきれいな生き物はどこかへいなくなり、横たわるのは
ぼろ雑巾より汚れた瀕死の怪我人。
 一人、また一人と、顔を背けて屋敷を出て行く。
 誰も誰とも目を合わせようとせず、苦い唾を吐いて、いなくなった。

36子守唄(6):2004/11/06(土) 01:43
 体中がきしんで、目を開けるのもだるい。
 そばに人の気配はあるが、動くのが嫌だ。
「起きたか」
 宝条の声だ、なら、多分また枕を宝条にしているのだろう。
 骨ばっていて枕としては最低に近い。
「…なんでも、実行する前に選択肢があるものだ。最初から道が一つに決まってたら
人類の脳は発達しなかったろう」
 声ははっきり聞こえるのに、何を言っているのかよく聞き取れない。
「けれど、切羽詰ると他の選択肢が見えなくなる。助言を求める相手がいないと特にだ」
 手持ち無沙汰の手が髪を梳き、のどをくすぐる。
 のどより耳の後ろがいい。気がついた宝条の指が痒いところに届く。
「別に代理で報復する趣味はないのだが、うっかり毒性の土壌細菌をこぼしてしまった。
あと十年ほどニブルヘイムは凶作になるかも知れんが、単なる偶然の事故だ。いざと
なったら魔晄炉で労働者としての職場を用意すればいい」
 掻いている手が時々止まる。
「例えば、エリクサーの使い時だ。多分私はエリクサーを使った直後にセーブポイントを
見つけるし、君はあっけなく全滅した後の遺留品に手付かずのエリクサーやアイテムを
溜め込んでいるはずだ。どっちもあほうだ。だが、どっちが正しいかなんか誰にも
決められないだろう?」
 目を開けると宝条が鼻先をくすぐる。
 顔を舐めようとすると苦笑いして押しのけた。
「もう少し寝ていろ。で、早く戻って来い」
 ガリアンビーストは、耳まで裂けるほど大きなあくびをして、また目を閉じた。
 宝条はため息をついて、ガリアンビーストのたてがみをなでていた。

37子守唄(7):2004/11/06(土) 01:44
 結局、ヴィンセントはニブルヘイムに残った。
 もう変身体質は治せない、と宣告されて落ち込まないことはなかったが、それ以上に
しょげている宝条がいた。
「そんなに心配しなくとも、私なら、なんとかなる、多分」
「私は私の実験が失敗したのでダメージを受けているだけで君なんかどうでもいいんだ。
画期的な治療法を確立したと歴史に名を残す研究成果が出るはずだったのに」
「…少しは心配しろ」
 露骨に宝条は嫌な顔をして見せ、苦笑いする。
「この一週間近く寝る間も惜しんで心配してやったから、もう打ち止めだ」
 また来る、と、宝条はヴィンセントを寝かしつけ、それから、屋敷中を見回り、
戸締りを確認し、門扉に鎖をかけて、深くため息をついた。

 おしまい。

38名無しの勇者:2004/11/06(土) 08:20
>>31-37
乙でした。いつのまにか宝条と友情を育んでるヴィンたんがカワエエ(*´∀`*)
あくびして眠るガリアンビーストまで可愛く思えてきた…やっべーw

39名無しの勇者:2004/11/07(日) 00:42
……すんません。暴力表現は一言注意書きが欲しかったです……

_| ̄|○

40名無しの勇者:2004/11/07(日) 01:00
>38
お付き合いありがとうございました、ねた切れで途中でガス欠ぽいです。
ガリアンビーストは四足だったらもっと可愛いのにのぅ

>39
あれ、と思って見直してから青くなりました、すみませんすみません、
このあたり宝条気味、このあたり、流血と注意書きをつけているうちに、
コピー失敗していました。
 それ以前に、私の認識がずれていました、強姦、輪姦が既に「暴力」の
中に含まれてるので、一つの話だからいいだろう、と、注意を怠ってました。
 不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。


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