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第2回東方最萌トーナメント 16本目
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てゐは永遠亭に来る前、人間に飼われていた。もはや名前も覚えてはいないが、その人間は、すごく優しかったように思う。
「てゐ、おいで」
笑顔でこちらに手を差し伸べる少年。しかし、てゐは近寄らない。その少年が飼い主であると言うことを知らなかったわけではない。むしろ、
この少年が自分の飼い主であることを、てゐは嬉しくすら思っていた。
「まったく……てゐはいつまでたっても僕に懐いてくれないなぁ」
少し悲しそうな笑顔。てゐが今、飼い主を思い出すとき、真っ先に出てくるのはこの表情だった。
(ふふ、困ってる困ってる)
てゐは、そんな飼い主の顔に、内心ほくそえむ。人を困らせて楽しむというてゐの悪癖は、生まれてついたものかどうかは知らないが、
どうやらこの時にはすでに形成されていたようだった。
「てゐー」
てゐは知っていた。飼い主は、このご機嫌取りにそっぽを向くと困るということを。でも、決して怒らないということを。
「もう……しょうがないなぁ……」
言って、餌だけ置いて飼い主は帰ってしまおうとする。てゐは慌ててその足元に駆け寄る。
違うんだよ? 嫌いになったわけじゃないんだよ? そんなことは言わなかったが、その足元へのダッシュで飼い主にはすべて通じていたようだ。
駆け寄ったてゐを、飼い主はいつもそっと抱き上げた。しかし、そんなに長くは持てない。
「……ごほっ! ごほぉっ!」
てゐを地面に取り落とし、飼い主は口元を抑えてうずくまる。てゐはそんな飼い主を、じっと見詰めた。
「はぁ……は……げほっ……だ、大丈夫だよ……てゐ」
苦しそうに咳き込みながら、それでも笑顔でこちらを向く飼い主。今回は……今回は幸いにも、吐血はしていないようだった。
てゐの視線に、飼い主は苦笑する。そして、その背中をすっすっと優しく撫でた。
(はふ……ぅ……)
てゐは、気持ちよさに思わず目を細める。てゐは、こんな飼い主との時間が、とても好きだった。
そんな飼い主が流行り病に冒されていることをてゐが知ったのは、飼われ始めてから二年が経過しようかというときだった。
きっかけは、もはや覚えていない。ただ、長いこと病魔に蝕まれているという飼い主の体は、てゐにしてみれば巨躯であったが、
他の人間に比べたら、小さいものだった。
しかし、その事実が分かってからも、てゐは飼い主の誘いは断りつづけたし、飼い主はただ苦笑するばかりだった。
見た目には、何も変わっていなかった。てゐも、先のような急な咳き込みでもない限り、そのことは忘れるようにしていた。
笑っている飼い主は、本当に元気そうで。
そんな飼い主の笑顔が見たくて、そんな飼い主の困り顔が見たくて。
だから、てゐは繰り返した。
終わることを知らなかったんじゃなく、終わることを知ろうとしなかった。
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