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【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 四冊目【SS】
1semi★:2007/02/01(木) 00:07:48 ID:???0

書いた赤石サイドストーリーをひたすら揚げていくスレッドです。
技量ではなく、頑張って書いたというふいんき(ry)が何より大事だと思われます。
短編長編はもちろん関係ありませんし、改変やRS内で本当に起こったネタ話などもOKです。
エロ、グロ系はなるべく書き込まないこと。エロ系については別スレがあります。(過去ログ参照)
職人の皆さん、前スレに続き大いに腕を奮ってください。

【重要】
このスレッドは基本的にsage進行です。
下記のことをしっかり頭にいれておきましょう。
※激しくSな鞭叩きは厳禁!
※煽り・荒らしはもの凄い勢いで放置!
※煽り・荒らしを放置できない人は同類!
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。
※どうしてもageなければならないようなときには、時間帯などを考えてageること。
※sageの方法が分からない初心者の方は↓へ。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1117795323/r562

【過去のスレッド】
一冊目 【ノベール】REDSTONE小説うpスレッド【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1117795323/

【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 二冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1127802779/l50

【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 三冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1139745351/

2名無しさん:2007/02/01(木) 00:10:35 ID:penNydHM0
2get!?

3名無しさん:2007/02/01(木) 00:13:49 ID:fA84Z9yw0
ストーリーをまとめて投下してくださる職人さんたちが多いので先に次スレを立てました。
前スレを使い切ってからこちらに投下してくださるようお願いします。

前スレ
【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 三冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1139745351/

なお、前スレ及びテンプレミスのスレッドでの意見から、エロ・グロ用のURLは省かせてもらいました。

4名無しさん:2007/02/01(木) 02:13:19 ID:HQAu5IhY0
テイマー「ここが古都ブルネンシュティングかー。」
やっとたどりついたテイマーは古都の噴水に腰をかけてあたりを見回した。
露店看板をだして座っている人や、ドラゴンツイスターを連射してる厨房などがいてにぎやかだった。

すると1人の戦士が声をかけてきた、
「まだ若葉マークみたいだね。俺がレベルあげ手伝ってやるよ。一緒にアルパス地下監獄いかない?あそこなら檻とかあっていろいろなプレイできるしね。」
なにもしらないテイマーは、俺TUEEEE手伝いをつかまえたと喜び戦士のあとについてアルパスへ向かった。

5名無しさん:2007/02/01(木) 15:29:47 ID:lxbFWgRc0
前スレ1000の話、すげー感動した!
まさに1000にふさわしい話といえよう・・・

仲間に病気移さないように殺されようとしているコボルとにうっ
内心かなり怖がってるのにそれでも耐えようとしてるコボルとにううっ
別れを覚悟して出会いを胸にきざみつけるコボルとにうううっ
バインダーに取って代わられたことを悟ったコボルとにううううっ
別れた後、また殺されるために花畑に立つコボルとにもう・・・
ありがとうって、ありがとうって・・・

もう後半かなり泣かされました
テイマ作ってコボルととずーっと冒険してやろうかなって思ってしまった
花畑がまた儚いつか切なさをさらに引き立ててる感じがグッドす
たった1000字で泣かせる話かけるあなたがすげー、んですげー羨ましいぞ
きっと想像力がすごすぎてどっかで発散させないとダメなくらいの人なんじゃないだろうかと勝手に想像
すげー短時間で話かきあげてるみたいだから、なかなかおいつけねーorz
これからもちょくちょく書けるときには感想かかせてもらうんでよろしく

どーでもいいけど、このスレに投稿している人たちって本業にでも出来そうなくらい話作りうめーよな

6 ◆21RFz91GTE:2007/02/01(木) 16:14:41 ID:t80sBG8k0

■唐突番外短編シリーズ No1


 とても寒い夕暮れ時、突如としてこの世界は姿を現した。
中世ヨーロッパのような街並みとそこで暮らす人々、突如として現れたそれは極普通の生活を送る人々の姿に見えた。
 私はコート一枚でそこに立っている、場所は賑わう商店街のような場所だった。沢山の冒険者と、それ人達にこの世界の物を売る商売人。本当に賑やかな場所だった。ここはちょっとした観光名所なのかもしれない、この地域を基点とした冒険者達の露店が沢山並んでいる。武器、防具、アクセサリー、指輪…数多くのアイテムが売られている。その中でも一際儲かっているのか、やたらと露店に並べている商品を取り替える人々の姿も有る。
 暫くの間、物珍しい街並みを歩いて回り噴水の近くにまでやってきた。とても綺麗な噴水が街の中央に設置されている。その周りには色々な冒険者達が待ち人を待っているようにも見える。多分ここが待ち合わせの場所として都合がいいのだろう。歩き疲れたのか、少々足に重さを感じた私は噴水の近くで腰を下ろさせてもらう事にした。
 懐から一つのタバコを手に取り、口にくわえて火をつける。一呼吸置いて煙を肺に通し、二酸化炭素と一緒に口から煙を吐き出した。寒いこの青空の下ではタバコの煙と吐いた息が同じような色をして煙上に空へと舞った。のどかな物だ、騒がしくも無く、静かでもない。丁度いい具合の会話や鳥の囀りが心地よく聞こえる。そして、私の直ぐ後ろで流れる噴水の音。これがまたなんとも眠気を誘うものだった。
 ふと、空を見上げた。
何処までも青く、澄み渡るこの青く遠い空。今もこの空の下誰かが冒険に出かけているのだろう。誰かが私と同じようにのんびりと同じ時間を過ごしているのだろう。
「あの〜…。」
あまりの気持ちよさに多少ウトウトとしていた私の耳に一つの声が入ってきた、ゆっくりとまぶたを上げその声をする方向を見ると、一人の戦士が立っていた。
「君も、僕達と一緒に出かけないか?」
始めて声をかけて来てくれたその戦士の後ろには、数名の冒険者が笑顔で私の答えを待っている。とても人の良さそうな彼ら、その笑顔には従来のこの世界での生き方を私に教えてくれるかのような笑顔にも見えた。
「えぇ…ご一緒させていただきます。」
何処までも広がるこの青く遠い空の下、こうして誰とも分からない人と一緒に冒険に出る事も多くなるだろう。一期一会の出会いかもしれない巡り合わせと共にこれから始まる冒険の旅に出かけるのも悪くない、そう心の中で呟き彼らと同行した。


赤い宝石が奏でる、幾つも物命の物語


END

7 ◆21RFz91GTE:2007/02/01(木) 16:18:22 ID:t80sBG8k0
どうも、お騒がせ21Rです…。(´・ω・`)

まず、スレがパート4まで行った事について。
スレ住人の皆様おめでとう御座います。
まさかここまで続く物だとは思って無かったので、俺自信もちょっと嬉しいです。

さてさて、前スレの1000をお取りになったドギーマンさん、GJですb
と言うわけで、気分転換に短編物を一つ投稿させていただきます。

因みに実話なのですが、この後リダが落ちるとかで5分で解散したのは内緒です(ぉ

では、四冊目もがんばっていきまっしょい!(ぁ

8名無しさん:2007/02/01(木) 23:43:08 ID:Ju82naOY0
>>前スレ ドギーマンさん
1000字の病気コボなSSも良かったですが、やっぱりガディウスの話が気になります。
短期間で書かれたとは思えないほど伏線が生きていてとても面白いです。

>>21Rさん
知らない者同士がパーティを組んで冒険に出かける。MMOってほんとに良いですよね。
今ではすっかり当たり前になったそんな世界も改めて考えると凄いものなんだなと思います。

9殺人技術:2007/02/01(木) 23:59:45 ID:E9458iSQ0
>>1
スレ立てありがとう。
なんか立て方分からず迷ってたら立ってた(´ω`)

>>前スレ1000 ドギーマンさん
1000レス目で1000文字で書くっていう発想自体が良いですw

ところで、前スレにリンクしたい場合にはどうすればいいんですかね。
こんな事聞くの自分だけでしょうけど……(´・ω・)

10名無しさん:2007/02/02(金) 00:02:54 ID:1W/DC2sE0
例えば3冊目の3に飛ばしたいなら
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1139745351/3 ←レス番

でも過去ログいったら意味無くなりますが。

1110:2007/02/02(金) 00:07:27 ID:1W/DC2sE0
>>9
ごめんなさい、途中で書き込んじゃいました。
過去ログ倉庫に送られた後でリンクするなら、
3冊目の900さんみたいなリンクのやり方でいいと思います。
過去ログ倉庫行きにならないことにはURLわかりませんが。

12第35話 仮説:2007/02/02(金) 01:37:48 ID:BnZCUtXo0
安全安心が売りがモットーのRMT業者。
元々個人売買では詐欺がまかりとおり、被害者が後を絶たないので出来た隙間商売だ。
隙間商売や新興業種はいつだって法律整備の前に出来上がる。
そしていつだって犯罪組織の餌食になるものだ。
・ゲーマーが通貨を余す→仮想通貨を欲するゲーマーに販売
これが図式が変わって、
・売り通貨→RMT業者→買いたい人
となる。
当然、業者は儲けがないと商売としてなりたたないから安く買い、高く売る。
中間マージンで利益を出すわけだ。
年間150億円規模のRMTの取り引きから業者はそのうちの数パーセントを市場から抜くわけだ。
佐々木はここに、RMT業者の存在に犯罪の匂いが感じられた。
何かが引っかかるんだが、どうしても推察できないでいた。
「田村さん。彼らはなぜわざわざ買い取り価格が落ちるRMT業者に売るのでしょう?」
「やつらも安全に取り引きして利益出したいんじゃないのか?w」
「それでは人を殺す連中にしては遠回りしているように思えますが?」
「うーん、考えすぎじゃないかぁ?」
「詐欺が出来ない以上は個人売買で1円でも多く取り引きしたほうがいいと思うんですがね、
そんな手間かけるより手っ取り早く業者なんですかねぇ?」
「銀行口座と同じように考えたほうがいいのかな?」
「たとえばなんですか?」
「キャラの売買は本業だったよな? その途中で口座を見つけたら、危険を冒してでも奪った」
「ですよね。これを通貨に当てはめると・・・口座は組織の金の送金用だったから・・・
組織の何かを守るために業者を利用してる?」
「何か? 利用しているか・・・?」
佐々木は思わず声をあげた!
「あ! そうゆうことか!」
「ん? 続けて」
「業者もグルなんですよ! 端からまっとうな営業なんかじゃないんですよ!
彼らの何を守るって、金を守るためですよ! 彼らの汚れた金を綺麗にするためなんです」
「RMTで利益を上げて税金を納めてちゃ意味ないんじゃないか?」
「業者が金を’吐き出す’ことに目的があるんです。いいですか? 不正に入手した仮想通貨を’買う’んです
そしてそれを売る。ここで若干の利益は出しますが、収支をトントンにしておけば納税する義務がありません」
「それじゃ儲からないだろってーの」
「儲けるのが目的じゃないんですよ。不正に通貨を獲得した時点で儲けなんです。今度はそれをどうやって
綺麗な金にするのかが問題なんですよ。図式はこうです

普通は仮想通貨を仕入れます
    ↓
  現金が必要
    ↓
仕入れたものを商品として買い付け価格より高く売りに出す
    ↓
  売買に成功
    ↓
数%の利益を出すことになる

いいですか?経営上の帳簿バランスは+-0になるはずです。しかし僕の仮定が正しいと
 
不正に入手した仮想通貨を買いつけたことにして売りに出す
    ↓
  売買に成功
    ↓
100%の利益を出す

つまり劉を利用してた奴らはRMT業者を隠れみのにして、実際はボロ儲けだったはずなんです。
仮想通貨には実際の通貨のようにナンバリングしてありませんから、買い付け先も売った相手もわかりません。
つまり経費がまるっきりごまかせるんですよ! これでは税金の支払い義務が生じないでしょうね。
・・・マネーロンダリングの完成です」
「レッドストーンってゲームでそんなに儲けられるのか・・・」
「違うと思いますよ。劉はレッドストーンの担当だっただけじゃないでしょうかね。今頃違う奴が担当になってるでしょう」

13ドギーマン:2007/02/02(金) 07:39:15 ID:LqS319xY0
『オアシス』
1:追放天使 >前スレ973-976
2:力    >前スレ983-985
3:英雄   >前スレ988-996

4:傷

グレイの左腕は砂漠に埋められた。時が経てばどこか分からなくなってしまうだろう。
グレイは穴に放り込まれ、砂をかけられる自身の左腕を見てハンクに言った。
「この傷は私のものであると同時に、お前の心の傷になっただろう。だがな、傷ついてこそ人の心は強くなれる」
「ああ」ハンクは左腕を埋めた跡を見下ろして言った。
ハンクは一言だけ答えると、気持ちを整理するようにしばらくその場から動かなかった。
グレイは離れて見ていたガディウスに近づくと残った右手を彼の肩に乗せた。
「ガディウス君」
「はい」
ガディウスの目を見てグレイは続けた。その眼はいつもの優しい彼の眼だった。
「少しいいかね」
ガディウスは黙って頷いた。
ガディウスとグレイは町のなかを歩きながら話し合った。
「これは、本来は君に頼むべきことではないのだが・・」
そこで止まったグレイの言葉をガディウスは補足した。
「エレナのことですね」
グレイは頷いた。
「今回の件で一番傷ついているのはあの子だ」
「はい」
ガディウスはずっと塞ぎこんだままのエレナの姿を思い返した。
「私は傭兵引退ということになるだろう。
 今のハンクなら、もう前のような事も無いだろうから安心して引退は出来る。
 だが、ずっと家を1人で任せきりだった娘には、私は正直どう接してやればいいのか分からない」
グレイはガディウスの目をじっと見つめた。
「ガディウス君。本当に身勝手な頼みだが、あの子を支えてやってくれ」
「はい」
今回の件は全て自分がこの家に来たことから始まる。ガディウスは責任を感じていた。
「しかし、私はもしかしたら皆さんにとって疫病神なのかもしれません」
グレイは頭を振った。
「君が居なければ、あの時ハンクは死んでいた。私はむしろ君は神の使いなのではないかと思うのだよ」
"神の使い"という言葉に何か不思議な感覚を覚えながら、
ガディウスは微笑むグレイに不安そうな表情を向けていた。
「エレナはな、優しすぎる子だ。人の痛みを自分のことのように感じようとする。
 幼少の頃はそのせいで大変だったよ。いつも泣いて帰ってくるんだからな」
そういってグレイズは苦笑した。
「妻が死んだときも、エレナは今みたいな様子だった。
 あの時は少しずつ自分自身の力で立ち直っていっているように見えていた。
 だが、実際は違ったらしい。あの子は気丈に振舞ってきていたが、きっとまだ傷を埋めることができないでいる。
 ガディウス、君なら出来る。エレナの心の傷を癒してやってくれ」
「分かりました」
ガディウスは頷いた。
「さて、家に帰ろうか。エレナ1人では心配だ」
ガディウスの脳裏に初めて出会ったときのエレナの顔がよぎった。
「そうですね」
2人は家に向かって歩き出した。

14ドギーマン:2007/02/02(金) 07:41:08 ID:LqS319xY0
二日もすると、塞ぎ込んでいたエレナはいつもの気丈さを取り戻していた。
しかし、ガディウスには彼女は人目を避けて哀しそうな表情をしているのを知っていた。
グレイは傭兵を引退し、家で隠居生活を始めた。
家事に参加しようとはするが、まだ左腕の傷も治っていないためにエレナに止められている。
仮に傷が良くなっても、彼女は許さないかもしれない。
いまは退屈そうに家でのんびりしているが、そのうち家出してしまいそうだった。
ハンクはというと、他の同僚と組んで砂漠を見回っている。
境界内に入ったモンスターと戦うことはあるそうだが、必要以上のことはしなくなったらしい。
そしてガディウスは家事を手伝いつつ、たまにやってくる患者たちの治療を行っている。
彼の場合、1度で完治させてしまうせいで何度も通う必要がなく、最近はほとんど患者は来なくなった。
さすがに、働き手が1人減ったせいで収入は減ってしまったが、
町の人はガディウスを慕って食べ物を分けてくれたりしたので食べるのには困らなかった。
その日の家事を一段落させると、エレナがお茶を淹れてきた。
お礼を言ってガディウスとグレイは茶を受け取った。
3人で火のない囲炉裏を囲んで座ると、グレイはガディウスに言った。
「君も、すっかり日に焼けたな」
ガディウスは最初の頃より日焼けでずっと黒くなっていた。
「はい、おかげさまで」
ガディウスは笑ってみせた。
「君がきてからもう3ヶ月か、何か思い出せたことはあるかね?」
ガディウスは器の中で揺れる液体を見ながら答えた。
「いえ、何も」
「そうか」グレイは残念そうに言った。
「ガディウス、焦ることはないわ。ゆっくりと思い出すのを待ちましょ」とエレナが言った。
「ああ、分かってる」
何度か思い出してみようとはしたが、結局何も出てはこなかった。
地図を見て自分の故郷がどこなのか、知っている名前を探したがどこにもなかった。
「もしかしたら、この世界には私の帰る場所なんてないのかもしれない。そんな気がするんです」
その言葉にエレナはすぐに反応した。
「そんなことないわ。どこかにきっとあなたを待ってくれている人が居るはずよ」
ガディウスはじっと自分を見るエレナにすこし驚いたような表情を向けると。
すぐに笑みの形にして「ああ、そうだね」と言った。
「ガディウスさんは居るかい?」
誰かが訪ねて来たようだ。
「今行きます」そう返事をしてガディウスは立ち上がった。
戸口の方へ歩いていくガディウスの背中を見送って、グレイは娘に言った。
「本当に、お前はそれでいいのか?」
エレナは少し俯いた。
「何言ってるのお父さん。あの人にだって本当の家族がきっと居るわ」

15ドギーマン:2007/02/02(金) 07:42:02 ID:LqS319xY0
その日の晩、最後の患者を診終わってガディウスは外で夜風に当たっていた。
昼は猛暑の砂漠でも、夜は信じられないくらい冷え込む。
冷たい風に髪が揺れて頬を撫でた。
「お疲れさま」
ガディウスが振り向くと、エレナが立っていた。
「ああ、お疲れさま」
エレナはかぶりを振った。
「私はいつも後ろで見てるだけだから」
「そんな事はないよ」
「本当にそう思う?」
「ああ」
ガディウスの言葉に、エレナはしばらく黙っていたが口を開いて言った。
「いいえ、この前だって、わたしはずっと立って見ていることしか出来なかったわ。
 お父さんも、お兄ちゃんも、あんなに傷ついて苦しそうにしてたのに」
そう言って俯くエレナの肩にガディウスは触れた。顔をあげたエレナの目をじっと見てガディウスは言った。
「エレナ、ハンクの傷も、グレイさんの傷も、時が経てばいずれ癒えて痛みは消える。
 むしろ傷ついて苦しんでいるのは君のほうだ」
「私?」
ガディウスの顔を見上げてエレナは呆けたような顔で言った。
ガディウスはエレナの両腕を掴んで、彼女の目を見つめて言った。
「身体の傷はいずれは癒える。だが心の傷は治らない。君はずっと今までの傷を抱え込んだままにしている」
エレナは戸惑っているようだった。
「エレナ、1人で苦しまないでくれ」
エレナの二の腕を掴むガディウスの手にぼうっとした光が灯った。
『お父さん・・・お兄ちゃん・・・・』
「グレイさんも、ハンクも、2人とも全て納得の上で戦って傷ついた。それに対して君が傷つくことはない』
「でも・・・」
ガディウスの眼に腕を焼くグレイの顔が見えた。
「グレイさんはハンクの目を覚ますために腕を捨てたんだ。あれ以上ハンクが苦しまないために」
『いや、お母さん。死なないで!』
「君のお母さんだって、決して君にいつまでも悲しんでいて貰いたいとは思わなかったはずだ」
ガディウスの手の光はエレナの中に吸い込まれるように消えていった。
『エレナ、お願いだから泣かないで。お母さんはね、あなたの涙は見たくないの』
「・・・・・」
エレナは黙っていた。
「エレナ、もう君が傷つく必要はないんだ。もし君が傷ついても、私が癒してみせる」
「でも、あなたは・・・」
「私はどこへも行かない。私の家族はここに居る」
向き合って立っている2人をグレイは笑みを浮かべながら眺めていた。
「なあ、メシはまだかぁ?」
家の中で間抜けな声をあげるハンクに「砂でも食ってろ」と吐き捨て、
グレイは砂漠の中で身を寄せ合う2人を見守っていた。

16ドギーマン:2007/02/02(金) 07:43:11 ID:LqS319xY0
5:変化

さらに三ヶ月が経った。
ガディウスとエレナは結婚し、ガディウスは家族を得た。
抵抗はあったが、ガディウスは癒しの力で生計を立てることにした。
自分を必要としてくれる人たちとの生活は、彼の心に安らぎを与えてくれた。
しかし、自分の過去に対する思いを完全に断ち切れたわけではなかった。
どこにも行かないとエレナと約束したが、それでも自分が何者なのか知りたかった。
ガディウスはあの声が忘れられず、たびたび話しかけようとした。あの声の主なら自分のことを知っている気がした。
だが、あの日以来返事は全く返ってこなかった。そんなある日のこと、
"頼む、答えてくれ"
その日も彼は椅子に座って俯き、声を発信していた。
「ねえ、あなた」
顔を上げると、エレナが見下ろしていた。
「最近ぼーっとしてるわよ?」
「あ、ああ」
エレナは呆れたようにため息をついた。
「もぅ、しっかりしてよ」
「すまない」ガディウスは少し疲れたような表情を向けた。
エレナはその表情を見て少しばかり心配そうにしたが、すぐに話を変えるように「そうそう」と言った。
「髪、切らないの?」
ガディウスの髪は来たときからほとんど伸びていないが、それでも顎まである長い髪は鬱陶しそうだった。
「いや、別にこのままでもいいよ。伸びているわけでもないし」
ガディウスは、何故か髪を切るのを拒んだ。
エレナは少し考えると、
「そうね、じゃあ後ろで纏めましょ。いい?」
「ああ、頼む」
エレナはガディウスの後ろに回ると、紐を口に咥えて髪を梳かし始めた。
ガディウスは前を向いたまま、また心の声で交信を試みた。
"返事をくれ"
「あら、白髪?」
エレナはガディウスの黒髪に白い髪の毛が一本混じっているのを見つけた。
"レッドストー・・"
プチッ
ちくっとした痛みと共に突然返ってきた声は途切れた。
「痛っ」
ガディウスは思わず声をあげた。
「あ、ごめんごめん」
エレナは頭を抑えるガディウスに笑いながら謝った。
「ん、どうしたの?」
ガディウスの顔にはなんとも言えない、ショックを受けた顔があった。
「エレナ、さっき声が聞こえなかったか?」
「ん?いいえ、別に何にも聞こえなかったけど」
「そうか・・・・いや、なんでもないんだ」そう言ってガディウスは前に向き直った。
エレナは何か悪いことをしたような気がしたが、髪を梳かし続けた。
オールバックになったガディウスを見て、ハンクは相当ビビっていた。
驚く兄を見て、エレナはくすくすと笑っていた。グレイも「中々渋いじゃないか」と笑っていた。
当の本人も結構気に入ったようで、それからずっとガディウスは髪を自分で束ねることにした。

17ドギーマン:2007/02/02(金) 07:44:03 ID:LqS319xY0
ガディウスは雲の上に立っていた。
ガディウスの背には大きな白い翼があったが、当人は全くそれを気にしていない。
まるで、それが当然のことであるかのように。
ガディウスは自分の頬をかすめて飛んでいった光弾を放った天使を睨みつけた。
"何者だ?"
目の前の天使は笑みを浮かべると、身体をふわりと宙に舞い上がらせた。
"待て"
ガディウスは天使を追って雲の世界の空に身を躍らせた。
霞を突き抜け、雲の隙間を潜り抜け、突然急降下する。2人の天使は追走劇を演じた。
"止まれ。これは警告ではない。命令だ"
しかし、前を飛ぶ天使の背中はガディウスの言葉を無視した。
それどころか身を翻し、新たに手の中に生み出した光弾を飛ばしてきた。
ガディウスは今度はそれを避けずに右手で握りつぶすように受け止めた。
バジュ!と音を立ててガディウスの手の中で光弾が炸裂した。
ガディウスの手から湯気のような煙がたったが、ほとんどダメージは受けていないようだった。
"この魔力は火の力・・・・貴様、天使ではないな"
"天使でなければどうすると言うのだ?兄弟よ"
"兄弟と呼ぶな、悪魔めが!"
ガディウスは大きく広げた翼に力を集め、放った。
翼から数十枚の羽が方々に飛び出して宙に留まると、天使の姿をした悪魔に向かって収束するように飛んでいった。
悪魔は飛んで逃げようとしたが、大量の羽が悪魔の後ろを追尾していった。
悪魔は避けきれぬと悟ると両手を振り上げ、
「フレイムストーム!」と叫んで両手から巨大な炎を放って羽を焼き払った。
炎が悪魔の視界を埋めつくしたとき、火炎の中からガディウスが飛び出してきた。
"死ね"
ガディウスの手の中からで生まれた十字架のような光の剣が悪魔の胸を貫いた。
「ふ・・・ごぉ・・」
炎の中を突っ切ってきたにも関わらず、ガディウスの身体は光の膜に覆われて傷一つなかった。
"どうやって侵入したかは知らぬが、悪魔ごときが天上界で天使に敵うと思うたか"
そう言ってガディウスは傷口を広げるように剣をぐぐっと持ち上げた。
「はがっ・・・ぁぁ」
ガディウスによって胸を刺し貫かれた天使は、身体をガクガクと震わせ次第にその正体を現そうとしていた。
天使の肉体がぱらぱらと乾いたペンキのように落ち、その中から赤い皮膚が覗いた。
"クク・・"
胸を刺し貫かれ、苦悶の表情を浮かべる赤い天使はガディウスに笑みを向けた。
"何が可笑しい"
"確かに、我らごときでは天上界に侵入したところで貴様ら天使には敵うまいよ。しかしだ・・・"
悪魔はクハハハと笑って続けた。
"我ら赤い悪魔は、火を糧とする。この意味が分かるか?"
ガディウスの表情が一変して曇った。
離れようとするガディウスの腕にがしっとしがみ付いて悪魔は言った。
"待て、どこへ行く兄弟。もう少し私に付き合って貰うぞ。クハハハハハハ"
ハハハハハハハハハハハ!!!
不気味な嘲笑にガディウスはガバっと身体を起こした。
頬に汗で濡れた髪が張り付いている。
ガディウスは自分の手に触れる暖かい感触にふと隣に目をやった。
エレナが眠ったまま、無意識に彼の腕を捜していた。
ガディウスは愛しい人の手を握った。
夢の内容はほとんど頭から消えうせていたが、不気味な笑い声だけが彼の脳裏に張り付いていた。

18ドギーマン:2007/02/02(金) 07:44:45 ID:LqS319xY0
翌日、
ガディウスは元同僚の傭兵の怪我を診ていた。
「グレイのおやっさんはどうしてる?」
怪我が治ると傭兵が聞いてきた。やはり見なくなった重鎮の近況は気になるらしい。
「元気なもんだよ。最近は菜園に手を出しててね。私達にもやれってうるさいんだよ」
「ははは、そりゃ災難だな」
エレナは傭兵に聞いた。
「お兄ちゃんは最近どうしてる?」
ハンクは家を出て、傭兵達の宿舎のほうで寝起きしていた。
エレナとガディウスに遠慮したのだろう。
「あ〜、ハンクのやつか」
傭兵は口を押さえて笑いを堪えた。
「どうしたの?」
エレナは怪訝な顔で傭兵に聞いた。
「ほら、道具屋の子、確かアシャっつったけな。最近あの子にご執心らしいぜ」
「まあ」エレナは喜んでその話に耳を傾けた。
「馬鹿みたいに毎日毎日ポーション買いに通ってんだよ。そのくせまだまともに会話も出来てねえ。
 意外と肝っ玉の小さい奴だ。ははは」
「ははは、でもあいつらしいじゃないか」
そうして談笑していると、突然ガディウスの様子が変わった。
"・・・・・・"
「そうだ、レッドストーンって知ってるか?」
「なんだそれ?」
傭兵は興味深そうに聞いた。
そのとき、エレナはガディウスの異変に気づいた。
ガディウスの黒髪が、だんだんと白く染まっていっているのだ。
"レッドストーン、天上界より地上にもたらされた至宝"
「レッドストーン、天上界より地上にもたらされた至宝」
ガディウスの瞳は白く濁り、表情はなかった。
"この世のどこかにある。天上の至宝"
「この世のどこかにある。天上の至宝」
そこでようやく傭兵もガディウスの異変に気づいた。
「お、おい、なんか変だぞお前。大丈夫か?」
"探せ、求めよ、卵が孵る前に"
「探せ、求めよ、卵が孵る前に」
「あなた、しっかりして!」
エレナはガディウスの身体を揺すった。
"赤い悪魔から奪い返すのだ"
「赤い悪魔から奪い返すのだ」
「あなた!」
エレナの声にガディウスは我に返った。
瞳に元の輝きが戻り、髪も黒くなっていった。
「む・・・」ガディウスは頭を抑えて膝をついた。何か、身体が自分の物でないかのように力が入らない。
「お、おい、大丈夫か?」
傭兵とエレナはガディウスの身体を支えた。
「あなた、きっと疲れてるのよ。少し休んで」
「あ、ああ・・・」
ガディウスは2人に支えられて寝室に運ばれた。
「一体どうしたんだ、あいつ」
寝室にガディウスを寝かせてエレナと傭兵は戻ってきた。
エレナは何も答えられなかった。ただ、彼に何かが起こっていることしか分からなかった。
「とにかく、俺はそろそろ行くよ。仕事があるしな」
「ええ」エレナは小さな声で短くそう答えた。
傭兵を見送って、ふと部屋を見ると、ガディウスが座っていた椅子の下に何かが落ちていた。
拾い上げるとそれは眩しいほどに真っ白な一枚の羽だった。
エレナは言い知れない不安と共に、その羽を握りつぶした。
その日から町にレッドストーンに関する噂が流れ始める。
噂の出所はガディウスからだった。

19ドギーマン:2007/02/02(金) 08:05:48 ID:LqS319xY0
あとがき

少々主人公の影が薄くなってしまいそうだったので、
一気に話を元の路線にもどしました。
もうちょっと、時間をかけて二人をくっつけてもよかったんですが・・・・。
話全体を考えると、長さが私には耐え切れないw

>21Rさん
懐かしいですね・・・・拉致とかなかった頃、
街中で突然声かけて組んだりするっていうのありましたね。

>きんがーさん
マネーロンダリング・・・くどいけど、すごい、すごいリアルです。
マネーロンダリング=スイス銀行なんていう構図しか思い浮かばない自分にはない発想です。
こうやって読んでると、確かにマネーロンダリングに利用されてそうな気がしてきますね。

>>5>>7>>9
ありがとうございます。
苦労して1000文字にまとめた甲斐がありましたw

20名無しさん:2007/02/02(金) 23:55:56 ID:Ju82naOY0
>>きんがーさん
経験談か、そういう仕事をされてるのかと思うほどリアルですね。
私も全く今まで考えた事もない世界で話が展開しているのを読んでいて小気味良いです。
ぎゃおすさんたちの復讐が終わっただけで話は終わっていなかったんですね。続きを待っています。

>>ドギーマンさん
核心に迫ってきた感じですね。長くなってしまうのは仕方ないくらいの濃い内容ですよ。
折角幸せを手にしたガディウスをこのまま引き離したくないという気持ちが強いのですが・・
このまま最後まで突き進んで欲しいです(笑)

21ドギーマン:2007/02/03(土) 00:21:17 ID:LqS319xY0
とある狩場にて、数人の男女が狩りに勤しんでいた。
そのパーティーで支援をしていたウィザードは、
近くに倒れているモンスターの傍らに何かが落ちているのを見つけた。
あ、あれは!!→高速テレポ
「ん?」
アチャ子が突然のウィザードの不自然な動きに振り向いた。
「い、いや、なんでもない。なんでもないよ」
そう言ってウィザードはそれをコートの中に隠した。
訝しげに見ているアチャ子に、
「そ、そろそろ時間だから行くわ!じゃあな!」
PTメンバーは突然の言葉に驚いていたが、ウィザードは無視して帰還の巻物を使った。

古都ブルンネンシュティグ
周囲に人が居ないのを何度も用心深く見回して確認すると、
ウィザードはさっき拾ったブツを取り出した。
ワンダーワンド
彼は手の中にある小さな杖をぶるぶると震える手で眺めていた。
「ふ・・・ふふふ・・・ふははははははは」
ウィザードは思わず高笑いしていた。
ユニークアイテムを拾った感動もあるかもしれない、
しかし、そんなことよりも彼にとって重要なのは、
この杖は装備すると、透明になれるということ!!
「これさえあれば・・・・風呂だろうと着替えだろうと・・・」
覗き放題!!
「ククク・・・・よし、早速・・・いざ行かん、桃源郷!!」
そう叫んでウィザードはワンダーワンドを高々と掲げた。

「ふ〜ん、そういうことだったの」
え?
突然の背後からの声に振り向くウィザード。
そこにはアチャ子が立っていた。
「いや・・・あの・・」
「没収します」
ウィザードの顔から汗がどっと沸き、目に涙が滲んだ。
ウィザードは杖を振りかぶり、透明になった!
がしぃっ アチャ子にコートを掴まれた。
「没収」
「・・・・」
ウィザードは身体をぶるぶると震わせた。
「はやく出しなさい」
「うおおおおお!!」
ウィザードは掴まれたコートを脱ぎ捨て、古都の水路へダイブした。
だばぁーんと水しぶきを上げてウィザードは水の中に飛び込んだ。
「まて!女の敵!」
ダダダダダダダダと水の中にアチャ子の矢が飛び込んでくる。
しかしウィザードは水の中でテレポを連射してアチャ子を振り切った。
ククク・・・誰にも俺は止められん!!

アチャ子は何か手がかりが無いかとコートを調べた。   水からあがったウィザードは水浸しの服を脱いで絞った。
「ん・・・これは・・・」               「あ・・・・」
「財布と通帳・・」                  「全財産が・・・・」

22ドギーマン:2007/02/03(土) 00:23:59 ID:LqS319xY0
あとがき
息抜きに書いてみました。
最後のとこ、ちょっとズレちゃいましたが・・・・。
やっぱり、透明になるのは男のロマンってやつですよね。
みなさん、透明になれたら何します?w

23名無しさん:2007/02/03(土) 05:31:53 ID:N1B0JemI0
〜これが漢の浪漫(いきるみち)〜

 時は20XX年。RSワールドは改悪アップデートと、バグ実装の災禍に包まれた。
 弱体化していくスキルに、ドロップ率の低下。
 そして、凶悪なまでの課金戦略により、世は課金廃人達の天下となった。
 だが、漢の誇りはまだ、消え去ってはいなかった。
 これは、今も生きる真の漢達の全記録である。

 世界は拝金主義が跋扈する、正に魔境と化していた。
 悪鬼羅刹が如くPKを繰り返すPK厨に、卑劣極まりない方法で狩場を荒らす俺TUEEEE廃人達。
 そんな中、一等星が如く輝く男達が集うギルドがあった。
 その名もマッスル委員会。
 ギルドマスター、ライル・セパードを始めとして、どのギルドメンバーも己の筋肉に、絶対の自信と誇りを持ち合わせた者達だ。
 そのギルドの信条は、筋肉! 筋肉! 筋肉!
 文字通りの筋肉絶対主義の塊だった。だが、彼らは肉体に頼ることを良しとはしない。
 真に必要なのは心の筋肉。つまり、絶対的な信条だった。
 利己的な権力者がのたまう偽りの正義を怖れず、悪法を背くことを厭わずに、いかなる時も弱者を守りきるその精神力こそが、最も崇高なものだと信じて疑わない。その心こそが、彼らが求めるべき筋肉であると、信じている。
 彼らは、未だに天使よりも眩しく輝いていた。

 ここは古都、ブルンネンシュティグの中央に位置する噴水広場。数多くのボッタクリ露天と、スキル乱発厨が溢れるその真ん中で、筋肉が唸りを上げていた。
「フンッ! マッスルインフレーションッ!」
隆起した筋肉は、複雑な模様を描く。その筋肉の網目を縫うように汗が迸り、辺りに霧散する。
 マッスル委員会ギルドマスター、ライル・セパードは、古傷が無数に走る壮絶な筋肉を躍らせていた。それも、一糸纏わぬ全裸で。
 腰みのさえ取り払った下半身は、上半身への力の移動を見事に、その筋肉の脈動で表現している。大腿筋が膨らみ、腹筋が上下し、大胸筋が振動する。世の彫刻家全てが表現することを羨望する芸術を、ライルはただ一人、誰の手も借りずに余すところ無く表現している。
 だが、いくら芸術的行為とはいえ、ここは公共の場である。当然、広場には女性や、年端も行かない少女が歩いている。
 しかし、誰一人ライルを気に止める者はいない。ライルは透明OPが付いた指輪を装備していたのだ。
 透明になってしまえば、誰にも気兼ねなく肉体美を表現できると考えたのだ。
 彼の目論見どおり、どんな人ゴミで全裸プレイをしても、お咎めは無かった。
 誰にも見られない芸術に意味があるのかと思う者も居るだろう。最もな質問だが、彼にとって観客が居るかどうかは問題ではなかった。
 ただ、自分の信じるがままに肉体美を表現することが全てであり、賞賛や感嘆の吐息等どうでも良かった。
 ある意味、芸術性とナルシスティックの極みともいえるライルの思想に、賛同する物はそう多くは無い。
 大抵の者は、
「キモウザ厨氏ねwwww」
と罵詈雑言を放って、秋風落葉の露と化した。
 だが、ライルに出会い、共感した者は涙を流してギルド参加を申し出たと言う。
 孤高のエクソシスト、マニエル。森羅万象を極めしウィザード、ガルド・オズベル、その他数多くの半裸グラ系剣士に、力極武道家などが彼の元に集った。
 そして、透明装備を所持している全てのギルドメンバーが、ライルの横で列を成して、透明全裸プレイを行っていた。
 祈るたびに、はちきれんばかりに膨らむ大腿筋。杖を振るたびに昂ぶる上腕二頭筋。怒号とともに霧散する汗。
 皆見えないとはいえ、壮絶な光景だった。その近くでゴム跳びをしている少女など、漢達の汗でずぶ濡れだ。
 そんな彼らの元へ、駆け寄る気配が一つ。
「ギルドマスター!」
「その声とオーラはフレデリックか!」
ライルの声音が心なしか弾む。フレデリックは、RS黎明期から一緒に活動していたライルのリアル友達兼、マッスル委員会副マスターだった。だが、RSのバグ実装の酷さに一時、プレイを休止していたのだった。
「俺も、とうとう透明装備を身に付けたぜ!」
フレデリックの声は、コロッサスを一人で仕留めたあの頃の様に、嬉々としていた。
「これで、やっと仲間に戻れたよな!?」
「ふっ、装備など無くとも、その心がある限り仲間さ。だが、その心意気は嬉しい限りだ! さぁ、姿は見えなくとも肉体美を存分に感じさせてやれ!」
「おうよ!」
フレデリックの返答が、小気味良く広場に響き渡る。広場に集る他のギルドメンバーも、そのやり取りを温かく見守っていた。
「ふぅ〜……」
呼吸を整える音が響き、辺りに独特の緊張感が漂う。

24名無しさん:2007/02/03(土) 05:34:13 ID:N1B0JemI0
「マッスルインフレーション!」
サラマンダーの咆哮より凄絶な叫びが、広場のタイルを揺らした。
 フレデリックの肉体は、ブランクがあったとは思えないほど見事だった。どの部位も日差しを浴びてさんさんと輝いている。
 彼は、古都で一番輝いていた。
 突如、周りの女たちが顔色を変え悲鳴を上げる。
と、同時にどよめきが波となり、古都を飲み込んだ。
「いやぁっ! 変質者!」
「なにあれ最低〜」
「あら、いい身体。っぽ」
「きゃあああああ〜〜〜〜、良い男だわぁぁぁぁぁぁっ!」
真っ青になってワールランリングするランサーに、冷やかな視線で見つめるテイマー。そして、頬を染めるトンキンに、金切り声を上げるリトルウィッチ等が、羽虫の群れより纏まり無く蠢く。
 その真ん中で一人、フレデリックは呆然としていた。その手が突然持ち上げられる。
「おい! これって……ブラーOP指輪じゃないか!?」
透明化したライルは、フレデリックの指輪を見て血相を変えた。そう、ブラーOPはスキルを使った時、その効果が切れる。
 だが、フレデリックが仮引退した時には、ブラーが1億以上した時代だった。フレデリックにとって、透明もブラーもその効果は大差ないように思えたのだ。
「とにかく、コレをはめて鎧を着ろ!」
ライルは、余っていた透明指輪をフレデリックに付けさせると、急いで鎧を着始めた。周りのギルメン達も服を着ているらしく、あちこちで金属音がなった。
「やばい、警備兵だ!」
ギルメンの誰かが叫んだ。古都での全裸ボディビルディングプレイは猥褻物陳列、及び軽犯罪法違反の立派な迷惑行為、もとい違法行為だ。 それを犯した者の罪は重い。捕まれば怖いお姉さんが待ち構える牢獄行きで、最悪キャラデリートだ。
 だが、ライルは冷静だった。
「大丈夫だ! みんな落ち着いて街を出る準備をするんだ! 移動する時は一言も喋るな!」
そう指示を出すと、古都脱出のプランを練り始めた。だが、その思考もギルメンの叫びによって中断される。
「ペロペロだぁ〜!」
その声は泣き声だった。
 ペロペロ。それはリンケン村名物の最凶生物兵器だ。LVはゆうに500。戦闘能力は計り知れない。
 だが、ライルはもっと恐ろしい事実を思い出していた。
 古都警備隊のペロペロは、ボスクラスで致命打、決定打、その他全ての状態異常に抵抗を持っている。
 そして、飼育されているペロペロの数は……
「さ、三十匹もいるぅ! もうおしまいだぁ〜〜〜」
そう、三十匹。アウグスタ半島を三時間で制圧できる数だ。
 ライルは覚悟を決めた。
「もう、逃げるのはよそう」
場違いなほど、澄んだ声が辺りに響く。
「俺は剣士だ。だが、仲間を守りきれなかった事は数知れない。逃げ出した事もあった」
ギルドメンバーの悲鳴が止んだ。広場の喧騒も何故か、収まっていた。
「しかしだ! もう、逃げるのはよそう! 無様な死しか道が無いのなら、俺はその死出の道を、汗と漢臭(メンズスメル)で満たしてやる!」
ライルが、突如透明化を止めて姿を現し、手に持った指輪を投げ捨てた。その指輪にブーン厨が群がり必死に拾おうとしている。
『それは他の人の持ち物です、それは他の人の持ち物です、それは他の人の持ち物です……』
 無機質なアナウンスが、嘲笑の気を帯びてブーン厨を包む。
 それにも構わず、ライルはウォークライを轟かせ、上腕筋を躍らせた。
「来い! 貴様らが死と言う運命ならば、俺とこの信条をねじ伏せ、深淵に叩きこんで見ろ!」
そのまま、ペロペロの群れにファイナルチャージングしたライルは、唸り声に飲み込まれた。
 だが、それでは終わらなかった。副マスター、孤高のマニエルが、賢者ガルドが、そしてマッスル委員会ギルドメンバー全員が、上半身を晒してペロペロの群れに突っ込んでいった。無論フレデリックは、ライルが散ったそばから突撃していった。
 その日、また熱い漢達が消え去った。

 だが、それで熱血漢が死に絶えたわけではない。まだ、RSの何処かに、熱い男達はいるのかもしれない。 
〜劇終〜

 後書き-透明指を手に入れたからって、調子に乗るもんじゃあない。

25 ◆21RFz91GTE:2007/02/03(土) 11:29:28 ID:t80sBG8k0
■唐突番外短編シリーズ No2


 山道、険しくも時折見せる絶景の風景を楽しみながら上る人、または自分自身への修行のために上る人。登山愛好家。さまざまな人がこの山を上っている。
一本道、何処までも続く山の勾配を利用した坂道。綺麗に整えられていて時折階段と踊り場を見つける事が出来る。山頂までは成人男性の足で約2時間程度の道のり。決して遠くは無いその山道を登る事1時間半、もう少しで山頂へと到達するであろう場所の踊り場にて辺り一面が急に開けた。
 さえ渡る山鳥の鳴き声と共に姿を現した絶景と言うべき景色、ここまで上ってきた人達に癒しと潤いを与えるかのように設置されたその展望台。まさに登山をするにあたって山頂に到達するまでの余興の一つでもある。
 右手にしっかりと握られている山登りを専用に使う杖を両手で腰の辺りで握る、さわさわと流れる風が火照った体には丁度心地よく感じられる。
 広渡る景色の中には古代に栄えた一つの帝国が目に写る、冒険者の始まりにして帰る場所である古都ブルネンシュティング。それは何時も私たち人に生きる力を与え、時には厳しく現実を見せてくれる母なる街。
そしてここも、またそんな母なる街の一角にある登山道。修行に訪れる人も数多く見受けられるこの場所の山頂にはいくつかの墓地がある。修行中に行き倒れになった者、崖から転落して命を落とす者。一つのかすり傷が後の致命傷になって死ぬ者。
さまざまな人達が眠るその墓地、そこに私の親友も眠っている。
 遠い辺境の街から旅を続けて早2年、彼と出会い彼と冒険した日々を手紙につづりその眠る墓地に手紙を届ける最中の事だった。
 日差しが強く、少し上っただけでも汗が滴るこの季節。緑萌える木々の間をすり抜け一歩一歩ゆっくりとだがかみ締めてその道を登る。これがまた何とも言えない登山の醍醐味。
 ”前略…アレから幾年が過ぎました。皆は元気です、何も変わらない日常と何も変わらない生活の中で君がいない事を抜かせば本当に何も変わらない日々が続いています。僕はと言うと、もう旅に出るのはお終いにしようかと考えています。君の居ないこの世界で、僕は大事な事を失い…そしてそれ以上に大切な物を君から与えられました。もう一度、君と一緒に冒険に出たいって時折考える僕が居ます。いなくなってしまった事にまだ僕は実感がわいていないのかもしれません。二年と言う歳月の中で僕はそんなことを考えては忘れ、また思い出しては忘れ…。何時の日か僕もこんな風に思わせるような事があるのでしょうか?それを考えると時々心が痛くて眠る事が出来ません。
それでも僕は元気です、君は…どんな空の下に居ますか?君の見ている空は何色ですか?”

赤い宝石が奏でる、幾つも物命の物語


END

26 ◆21RFz91GTE:2007/02/03(土) 11:32:33 ID:t80sBG8k0
おはよう御座います、お騒がせ21Rです…。(´・ω・`)
年のせいか…最近朝起きるのが早くなってしょうがないです…。
寒いのも中々辛いですよね、冷え性の俺には軽く地獄です…。(´・ω・`)

と言うわけで、さっさと続編の続き書いてきますね…。(´・ω・`)

PS:拉致が無かった時代…良き時代でしたねぇ〜。
思えばシフ実装から狂い始めましたねRS…orz

と言うわけで、RS始めて2年が経ちました(ぁ
そんな二年間で引退した人達に向けての一本です。

27名無しさん:2007/02/03(土) 12:10:20 ID:a8zYjkNA0
>>どぎーまんさん
透明になれたら・・。
透明状態で出かけていきなり友人の目の前に現れて脅かしたい・・などというちっちゃな夢が(笑)
昔は色々想像してたのになぁ・・。今じゃ夢や想像力が低下したような気がするorz

>>23-24
思わず笑っちゃいました!
筋肉ってイイですよね・・やっぱり語尾に「!」は常識でしょうか?
表現力というか・・ともかく何もかも凄いです(笑)
筋肉ギルドさんは女人禁制みたいですが、女性でも凄い人は凄いですよ(笑)

>>21Rさん
2年ですか・・私はほんの1年前ほどに始めた若輩者です。
ちょうどそのシフ実装直後くらいだったかも。古都西に黒い姿が目立ってた頃でしたね〜。
MMOは色々やってきましたが、知人などで引退した人の事を思うと本当に悲しいですが
本当にその人の事を思うなら、笑って見送ってやらないと・・といつも思います。でもやっぱり悲しいです。

28ドギーマン:2007/02/03(土) 14:01:26 ID:LqS319xY0
『オアシス』
1:追放天使 >前スレ973-976
2:力    >前スレ983-985
3:英雄   >前スレ988-996
4:傷    >>13-15
5:変化   >>16-18

6:声の主

ガディウスは何かの意思によって操られているかのように町に噂を流し続けた。
人が変わったように町を出歩いては人に話しかけている。
そして、1人になったかと思うとブツブツと何か呟いているのだ。
エレナは不安で仕方がなかった。
ガディウスは夜、砂漠に呆けたような表情で立っていた。
その髪は白く輝き、白い瞳は何の光も反射せず夜空を向いていた。
"使命を果たせ"
「使命?」
"レッドストーンを探せ"
「それが使命・・」
"お前は赤い悪魔を見たはずだ"
「赤い・・悪魔?」
"急げ、卵が孵る前に"
「そうか、急がなければいけないのか」
"・・・・・"
「あなた・・」
ガディウスはエレナに気づいて振り向いた。それと同時に髪も瞳も黒に戻った。
「あなた、いま、誰と話してたの?」
「誰とって・・」
"・・・・・"
「・・・・・」
ガディウスの瞳に一瞬光が宿った。
「あなた?」
「話していたとは、何のことだ?」
エレナはガディウスに詰め寄った。
「何も覚えてないの?」
「何のことだ?エレナ、私はただ・・」
そこでガディウスは止まった。そして手で頭を押さえて言った。
「ただ・・・私は、何をしていたんだ?」
「あなた・・」
エレナはガディウスの胸に顔をぶつけると、表情を埋もれさせて泣いた。
「エレナ・・」
自身の胸に額を押し付ける妻をガディウスは抱擁した。
「すまない・・・だが、私は・・・」
「私は何か、やらなければいけない事がある気がするんだ」
エレナは額をガディウスから引き離し、ガディウスに涙があふれ出た目を向けた。
「どこにも行かないって言ったじゃない!」
「エレナ・・」
「お願いよ・・あなたのままでいて、ずっとそばに居て」
ガディウスは黙っていた。
「お願い、答えて。どこにも行かないって。ねえ?」
ガディウスは不安だった。
何も覚えいないにも関わらずいつの間にか過ぎていく時間。
そしてそれを今まで何の疑問もなく過ごしていたこと。
ガディウスにはそれが自分の意思なのかどうかすら怪しくなっていた。
いや、もしかしたらそれが本当の自分の意思なのかもしれない。そう思った。
「ねえ、何で何も答えてくれないの?」
「私は・・」
エレナは震える手でガディウスの頬を撫でた。
「お願い・・」
涙を流す妻を前にしても、ガディウスははっきりと答えられなかった。
嘘でもいいから妻を安心させるために何か言うべきだったのかもしれない。
エレナは力なく腕を落とすと、ガディウスに背を向けて俯いたまま家に歩いていった。
ガディウスは小さくなっていく妻の背中を見つめて立ち尽くした。

29ドギーマン:2007/02/03(土) 14:03:00 ID:LqS319xY0
ガディウスは夜の砂漠の町を見渡した。
明かりが家々の中から灯っている。近寄ればきっと暖かい家族の声が聞こえてくるだろう。
自分の安住の場所、そう思っていた。
しかし何かがおかしい。何かが変わってしまった。
あんなに落ち着けた場所なのに、今は逸る気持ちを引き止める足かせのように感じている。
―何だ、この気持ちは・・・。
ガディウスは自分のなかから沸々と湧き上がるような一つの感情に驚いた。
―苛立っているのか?いや、何かが憎いのか。
ある何かを殺したい。引き裂きたい。そういった破壊的な衝動。
しかし、何を殺したいのかが分からない。
思わず何かに八つ当たりしてしまいそうな怒り。
「何なんだ、これは」
訳が分からずガディウスは頭を抱えた。
「私は何者なんだ」
変化のきっかけはあの声と交信しようとしてからだ。
―私はあの声の主に操られているのか?
ガディウスは自分の中にある怒りの矛先を声の主に向けた。
"おい、答えろ"
返事はない。
"お前は誰だ"
"兄弟、汝と同じだ"
初めてまともな返答をしてきた。
ガディウスは空を睨みつけて声に言った。
"私に干渉するな。私を操ってどうするつもりだ"
"・・・・・"
"答えろ!"
"明日、直接会いに行こう"
"何?"
ガディウスは何度も呼びかけたが、結局何の返事もなかった。
ガディウスが諦めて家に帰ると、グレイが待っていた。
「ガディウス君、何があったんだ?」
グレイは厳しい表情をしていた。
エレナは家に帰るなりベッドに入り、ずっと塞ぎ込んでいるという。
「最近の君の様子はおかしい。教えてくれ、何があった」
ガディウスには答えようが無かった。何も覚えていないのだから。
何も答えないガディウスをグレイは静かに見ていた。
「あの子を、これ以上悲しませないでやってくれ。君に任せたはずだ」
「すみません・・」
ガディウスにはそう答えるしかなかった。

30ドギーマン:2007/02/03(土) 14:35:26 ID:LqS319xY0
>>23-24
まさか、こんな形で返答(?)がくるとは。
題名も漢の浪漫だし・・・w
とても面白かったです。
表現が素晴らしい、特に筋肉の。
嫌でも以前に見たボディービルディングのチャンピオンの映像を思い出しましたよ。
笑顔でポージングしてるシーンが鮮明に。
熱いというか暑苦しい愛すべき馬鹿達に合掌です。

>21Rさん
引退してしまった友達を思い出しました。
私も2年前に始めたんですよ。ただ、間に2度引退を挟んでます。
久しぶりにINしてみると、当時の友達が誰もINしてなくて・・・。
みんな居なくなっちゃったのかと寂しくなりましたよ。
今はサーバーを変えて3キャラ目です。
当時の2キャラは消すに消せず当時のまま健在ですが、動かす気が全く起きないんですよね。
フレンドリストを眺めて懐かしむだけでしたが、もうずっと前にリスト消滅しちゃいました。
別れはいつか来るものだから、今を大切にしたいですね。

>>27
脅かしたいっていうのもいいですよねb
私は犯罪方面のことが真っ先に浮かんじゃいましたよ。
想像力が豊かなのも素晴らしいことですが、いい事ばかりでもありません。
例えば、映画を見ていて先の展開が読めてしまったりとか・・・。
もうね、そうなると折角のドキドキした緊張感が半減ですよorz

31きんがーです^^:2007/02/03(土) 14:57:03 ID:8xrz7S720
>ドギーマン
あなたが映画の展開を読めるのは、読解力があるからですよ〜^^
想像力は小説のほうで豊かなのはすごくわかります^^
映画も小説も伏線が潜んでいるものですよね。
私は伏線が見えない時があるので最後まで楽しめます。
あなたの速筆に憧れます^^

32第36話 三人:2007/02/03(土) 15:44:03 ID:8xrz7S720
キンガーさんから頼まれたものを探しに例のサイトへ飛んでみた私。
見つかったからといって「けりをつける」と言っているあの人に伝えていいんだろうか?
なんか良くないことが起こりそうで気が進まなかった。
相手を傷つけてほしくなかったから・・・それでは奥さんも気の毒だし。
相手と会ってキャラが元々キンガーさんの物だったなら、警察に突きだす事を条件に教えようかしら?
考えすぎかなぁ。

よく考えると所有者はキンガーさんなんだから大きなお世話と思い、該当するURLをメールした。
最後に
「とっちめようなんて思わないで、警察に突き出してね^^」
と付け加える程度にしておいた。

「おい、幸一どっかに行ったのか?」
今日は久しぶりにパパが内に帰って来ている。
普段は仕事でなかなか帰ってこられないでいた。
「また合コンでもしているんじゃないのぉ?」
「まったく、俺の頼んだことしておいてくれたのかなぁ・・」
「なんだかちゃんとやってるみたいよ〜」
「それならいいんだがな。それが条件でPC買ってやったんだから」
「心配しなくていいわよ。ああ見えてきちんとした子よ^^」
「ゲームばっかりされたらかなわんからな!」
ドキ! 私の事を言われたようで焦る。
「い、息抜きは必要よ・・」
パパは久しぶりに帰ってきても、お風呂に入ってご飯を食べたらさっさと寝てしまった。
もう少しくらい話しをしたかったが、疲れているのだろう。
私は少し狩りをしてから寝ることにした。
十字架の良品を探す旅に出てしばらくたつが、いまだに回り逢えない。

狩りの途中でデルモから耳がきた。
fromデルモ こんばんは^^
toデルモ  こん^^
fromデルモ こないだは楽しかったですね^^ また行きましょうよ!

しばらくこんな調子で会話しながら、キンガーさんの例の話をしてみた。

fromデルモ 私も現場にいく! 面白そうだし
toデルモ  いいわね! 頼んでみましょうよ
fromデルモ どんな奴か見いてみたいし、一人より三人のほうが安心よ

33携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:22:16 ID:mC0h9s/I0
前スレ第1話>645-646第2話>692-694第3話>719-721第4話>762-764第5話>823-825

あらすじ
幻の石、レッドストーン――――それを手に入れれば全ての富を得られるという。
実在しないとまで言われていたが、そんな中でその石に辿り着いた5人の冒険者達がいた。
5人は互いに奪い合い、殺し合った。
結果、1人だけが生き残り、石を手にすることができた。しかし、手に触れた刹那、石は5つに砕け謎の大爆発を起こした。
焼け跡からは夥しい血の痕だけを残し、5人の体は消え去っていた。

彼等は生きていた、日本という国で。
しかし肉体は朽ち、幽霊という存在にまで堕ちていた。
彼等を生きる世界まで変えてこの世に繋ぎとめていた物は、赤い石の欠片だった。彼等はその胸に秘めた赤い石の欠片を核とし、協力者を探し彷徨った。

そして、現代で起こる赤い石の争奪戦が始まった。


登場人物(一部のみ)

○矢島 翔太(17)
主人公。本来普通の高校生。オタクのような趣味がある。人見知りが激しく、人と会話することが苦手。
○ニーナ=オルポート(22)
翔太に憑いている霊。弓矢が得意で、戦闘では主に光属性の矢を使う。
○赤川 梨沙(16)
女学院に通うお嬢様。ふとしたことでヘルベルトと出会う。
○ヘルベルト=ディンケラ(25)
蒼髪、蒼眼の剣士。秀麗な容貌。基本は無口。
○吉沢 鉄治(18)
翔太と同じ高校で3年。不良。ある事件で退学となった。
○ラルフ=カース(27)
吉沢と契約した、暗殺者。生前は盗賊ギルドをまとめるリーダー。
○佐藤 洋介(17)
翔太と同じ学校の生徒。軽い性格。ちなみに翔太の席の1つ前。

備考
○リディア(矢島 翔太命名)
翔太のフィギュア。メイド服。第2話でさりげなく登場。

少し間が空いたという理由で、調子に乗ってあらすじと登場人物をお恥ずかしながら書いてみました。まとめるの難しいorz

34携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:24:04 ID:mC0h9s/I0
『孤高の軌跡』

新たなる幕開け


PM11:50
町の中でも十本の指に入る豪邸の一室。
そこで一人の少女が弾力のある寝台の上に腰を掛けていた。

すると扉に小さなノックが二回叩かれた。
「どうぞ」
少女の声に次いで音もなく扉が開かれ、初老の男性が現れた。
「お嬢様、そろそろ御休みにおなりください」
困ったような表情の男性に対し少女が優しく微笑む。
「ええ。貴方ももうお休みになって」
そう言われ、初老の男性は恭しく礼をし、また音もなく扉を閉めた。

無音の中で部屋の片隅に佇む巨大な針時計の時を刻む音だけが響いていた。
“執事とは君もやるな”
何もない空間から声が響き、静寂を破る。
それに対して少女は驚いた風もなく、無表情のまま口を開いた。
「笑ってくれても構わないわ」
少女の声に応えるかのように再び無人の空間から声が返ってくる。
“いや、君を貶した訳ではない。それより今日はどうするのだ?”
「今日も行くわ。でももう少し、町が完全に眠りについてからよ」
“そうか”
声が返ると、突如声の出処の空間が歪み、そこから人影が現れる。
人影は次第に鮮明になり、それが男だと判る。
その男は寝台の中央で静かに鎮座し、眼を閉じ瞑想にふけっていた。
男の服装は薄く汚れた白い布の衣と、この部屋に場違いなほど質素な物だった。
また、その服の下には布地を押し返すような鋼の筋肉が伺え、男の実力を雄弁に語っていた。
しかし、何よりも目を惹く物は秀麗な容姿をさらに際立たせるその蒼い頭髪だった。
少女は、空気と半分同化している男の様子を眺めながら、男と出会ったときのことを思い出していた。

35携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:24:46 ID:mC0h9s/I0
それは三日前、木曜日の夕刻のことだった。

そのとき少女はいつものように学院の帰り道を歩いていた。
当然車での送迎も可能だが、それは彼女自身が嫌がり己の意志により徒歩で通っていた。

夕刻の商店街。辺りにはたくさんの人々が賑わっている。
その中で、一際目立つ容貌をした青年が人混みの中心に立っていた。
そう、ただ立っていた。
(外人……?)
不審に思い、少女は立ち止まり青年を眺めた。
すると青年の背後から二人組の高校生の男女が歩いてきた。
二人は青年に気づく気配もなくぶつかった。
いや、そうなる筈だったのだ。少女はこの光景に目を疑った。
二人はぶつかる瞬間、青年からすり抜けた。いや、青年がすり抜けたのだった。
(あれは――――!)
少女は青年に向かって走り出した。
(何であれほどの者に気付かなかったのよあたしっ!)
少女は青年の目の前まで行くと、腕をひっ掴み物陰へと走り出した。
「む……?」
瞑想中だった青年は突然の事に困惑の声を上げたが少女は無視した。

「はぁ…あんた何者よっ!」
店と店の陰に隠れ、肩を上下させながら少女が怒声を上げた。
「いや、君こそ何者だ。何故私の姿が見える?」
鋼のように重い口調で青年が問う。
「あたしは生まれつき霊感体質なのよ。それよりあんたの方が珍しいわよ」
すると青年は腕を組み瞳を閉じると再び瞑想を始めた。
「聞きなさいよっ」
再び少女の怒声が飛ぶ。青年はゆっくり瞳を開くと心底困った表情を浮かべた。
「それが私にも判らんのだ」
そして重々しく息を吐く。
「……貴方に興味が沸いたわ。ついて来て」
少女は平静を取り戻し、本来の秀麗な容貌に戻っていた。


「――――で、あなたは別世界から来たわけね。……信じられない話だけど大体は理解したわ」
少女は青年を自宅に連れてきていた。
家族に霊感はないらしいので特に問題はなかった。
「なら、あたしが契約者になってあげる」
「む、本当にいいのか? 危険かもしれないのだぞ」
「構わないわ」
青年はしばらく悩む動作を見せ、意を決したように髪と同じ蒼い双眸を見開いた。
「だが、それではこちらがすっきりしない。契約する代わり、一つだけ君の願いを聞き入れよう」
青年は責任感が高いのか、一方的に契約して貰うことを嫌がった。
「別にそんなのいらないのに。……そうね、ならあたしに絶対服従なんかは?」
「む」
青年の端麗な容貌が僅かに歪む。
「あ、そう言っても決断権や判断権を持つってだけだから」
少女は腕を振り急いで付け加える。
「ふむ、よかろう。なら手を前に」
青年の言う通りに手を出すと、青年の分厚い掌が重なった。
「これにて契約は確立し、私は君の剣となり盾になろう」
「ありがとう。あ、そういえば名前聞いてなかったわね。あたしは赤川梨沙よ」
「私はヘルベルト=ディンケラだ」
「じゃ、ヘルね。よろしく、ヘル」
そう言い少女は青年に向かって手を差し出した。
青年はいきなり名前を略されたことにより表情を歪めたが、素直に手を伸ばした。
分厚く男らしい掌と白く華奢な掌が重なった。


「そろそろ時間だ、リサ」
少女の背後から重い声が響いた。
それにより少女は現実に引き戻された。
「ええ、行きましょう、ヘル」

少女は寝台の下からブーツを取りだし履くと、窓を全開させた。
深夜の涼しい風が少女の白い頬を撫でる。
ヘルベルトは少女を抱き上げると窓から飛び出した。

そして二人は闇夜に溶けていった。

36携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:25:30 ID:mC0h9s/I0
暗い深夜の町。そこに一人の若い女性が長い仕事を終え、帰路についていた。
帰ったらまずは風呂に入り、一日の疲労を汚れと共に流し、
溜っている録画したドラマのビデオを片付けてから明日に向けて眠る、いつもと変わらない日常。

――――そう、今日もそんな変哲のない一日が過ぎると思っていた。

女性の仕事はあまり早く終わるものではなかったが、今日は特に遅くなってしまった。
早道をしようと、彼女は近くの公園を通ることにした。

――――それが、大きな過ちだった。

カップルさえいない無人の公園。
彼女はそこに足を踏み入れた。
その瞬間、どこか異質な感覚を覚えた。
つい早足になる。公園の中央付近に来たとき、彼女は闇にうごめく“何か”見た。

――――気づいた時にはもう手遅れだった。

彼女は何かに囲まれていた。助けを呼ぶにも誰もいる訳がない。走り出す。
そのとき、急に足の力が抜け落ち、ガクンと膝から倒れた。
見ると、足に黒い“何か”が纏わり付き、皮膚を、肉を、筋肉を喰っていた。
必死に振り払おうとバックで叩き落とそうとするが、バックを持った腕ごと断ち切られる。
「あぁああぁああああっっ!!!!」
鮮血が噴き出す。彼女は片腕と片足の消失による激痛に悶える。
さらに次々と黒い物体が全身に飛び掛り、彼女の肉を引き千切ってゆく。
「いぎっいぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ――――」
悲痛な絶叫も喉に大穴が空き止んだ。

彼女はその寸前、自分を喰らう異形の生物を見た。

37携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:26:12 ID:mC0h9s/I0
深い眠りについた深夜の住宅街。
住居のほとんどが暗く、灯りは電灯のみで、その電灯の内のいくつかは消えたり付いたりを繰り返していた。

二人の間に特に会話もなく、ただ二つの靴音だけが響いていた。

そんな中、口を開いたのはヘルベルトの方だった。
「他愛無い話だが」
「なに?」
「君が言う学院という場所や屋敷での他人との接し方を見ていて思うのだが、
リサ、君は私と会話しているときと性格が変わってはいないか?」
鋼の戦士の意外な問いに梨沙は少し吹き出した。
それを見ていた戦士は秀麗な表情を少し歪める。
「いや、違うのよ。あまりにも意外だったから」
梨沙が涙を拭き取りながら言った。一呼吸置いて続ける。
「えっと、仮にもあたしはお嬢様な訳だから人前では成績優秀、容姿端麗でおしとやかな赤川梨沙でいないといけない訳。でも人外は例外でしょう?」
「私は半人半霊だ」
梨沙の冗談混じりの発言に対しヘルベルトは眼を閉じながら真面目に返した。

赤川梨沙の両親は町でも有数の資産家で、その名に泥を塗らないよう、彼女は幼少の頃から厳しい躾の下で育てられた。
家柄の為か、彼女に友人は少なかった。
また、同年齢の仲間達のように遊ぶことすら制限された。
故に、今の彼女が本来の赤川梨沙なのだろう。

長い沈黙の後、再び鋼の表情のヘルベルトが口を開く。
「ふむ…それと一つ。リサ、君は何故私と組んだのだ?」
それに対して梨沙は答えることは出来なかった。
しばらく悩む動作を見せる。
「……あたし自身分からないわ。でも、しいと言えば刺激が欲しかったのかな?」
そう言うと再び悩む動作をした。
「不確定な理由だが、そんな君だからこそ私にふさわしい。…リサ、今日はどこへ行くのだ?」
「そうね、今夜はまず、この住宅街を巡回したら街中に行くわ。前みたいにあっちから来るかもしれないし」
「あのシーフか。あれはもう来ないとは思うが。来るとしても奇襲くらいだろうな」
笑っているのか、ヘルベルトは僅かに口元を引き吊らせた。
「ああ、あと今夜は最後に町の公園に行こうと思っているわ」
「そうか」
「そうと決まったらお喋りはここまでにして急ぐわよ!」
ヘルベルトが無言で頷き、梨沙はそれを見もせずに一人張り切る。
少女は鼻歌を奏で弾んだ足取りで歩を進めた。
このほんの少しの時間だけ、彼女は優等生の赤川梨沙から本来の赤川梨沙になれた。
彼女にとってこれほどまでに嬉しいことはなかった。
この無愛想の男と組んだ理由は、実はこの為なのかもしれない。
しかし、この真偽が分かる人物などはいない。

「そういえばヘルって生前は何してたの?」
「悪いなリサ。私はしばし瞑想に入るのだ」

38携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:42:13 ID:mC0h9s/I0
久々に書き込みました、携帯です。
前に言ったような気がしますが題名を付けてみました。ちなみにこれは友人から考えてもらいました・・・w

今回は違う人物を主点に書いてみました。(何だかいきなり暗いスタートの予感)


>>ドギーマンさん
相変わらず執筆速度が早い。結果→過程みたいな話の進め方は割りと好きです。
ドギーマンさんの作品は恋愛シーンも多いですね。自分は苦手です。
因みに透明になれたら、男の欲望は置いておいて、嫌いな人物へ復讐でもしますかね。
もちろん50メートル以上離れて。
・・・・・・冗談です。

>>23-24
何だか熱いものを感じました。面白かったです。
マッスルっ!

>>21Rさん
RSを始めた頃を思い出しました。自分が始めたのは白鯖できてからですかね。
何度か引退復帰を繰り返し今に至ります。現在は引退中ですが。
もし小説スレギルドみたいな物があったら入ってみたいものですが・・・

>>きんがーさん
何できんがーさんなんだろう・・・。
とてもリアルです。よく仕組みを知らないと作れませんよね。
自分は何気に佐々木さんファンです〜w
彼なら何かやってくれそうな気が・・・・・・

39名無しさん:2007/02/04(日) 00:16:41 ID:a8zYjkNA0
>>きんがーさん
まだまだ話が続きそうで楽しみです、個人的に弟の携わってる仕事が怪しくて・・
ぎゃおすさん中心に色々な事が巻き起こっていますよね、彼女も知らないうちに。
現場で果たして何が起こるのか。続きを待っています。

>>携帯物書き屋さん
この話待っていました!キタ━(゚∀゚)━!!な心境です(笑)
新しい剣士が現れてしまいましたが・・ニーナとは協力できる関係なのかそれとも・・。
私の剣士のイメージとドンピシャなのが嬉しいです、シフもカッコ良かったし。
つい残る二人の想像もしてしまいますが、またまた続き待っていますー!

40ドギーマン:2007/02/04(日) 01:48:09 ID:LqS319xY0
1:追放天使 >前スレ973-976
2:力    >前スレ983-985
3:英雄   >前スレ988-996
4:傷    >>13-15
5:変化   >>16-18
6:声の主  >>28-29

7:真実

次の日、
町の民家の陰の暗がりの中、空間が突然歪み。
捩じれてへこんだかと思うと、渦潮のようにへこみは捩じれながら深くなり、
空間に穴を開けた。穴は中で曲がっており先は見えない。
その穴の中を小さな光が潜り抜けてきた。
光は膨らんで人の姿を形作ると、その男を包み込んでいた光は消えた。
空間の穴も逆に捩じれて元に戻っていった。
そして音もなく、まるで水面のように空間は波打って穴は閉じた。
男は辺りを見回して誰にも見られていないことを確認すると、民家の陰から町の広場に出た。
「暑いな。こんなところに居るのか」
しかし気配は確かに感じる。
男は彼の気配を辿り、他の家々と同じような趣の民家の一つへと歩いた。
玄関の扉をノックもなくガチャリと開き、丁度診療している彼を見つけた
「兄弟よ、久しぶりだな」
「お前が・・」
ガディウスは突然の来客に驚いたようだったが、男の顔を睨みつけるように見上げていた。
男は、ガディウスと向き合って座っている状況を飲み込めないでいる老人に手をかざすと、
手から光を放って彼の咳を止めた。
「これが証拠だ。ご老体、お引取り願おうか。今から彼に用があるのでね」
老人は戸惑いながらも、へこへこと頭を下げて家から出て行った。
老人が出て行ったのを目だけで見送ると、男は目を閉じた。
彼の頭上に白い靄のようなものがぱっと広がって消えた。
男は目を開くと、「奥に1人だけか、寝ているようだな。落ち着いて話せば聞こえる心配はあるまい」
と言って老人の座っていた椅子に腰掛けた。
ガディウスは男を睨みつけたままだった。

41ドギーマン:2007/02/04(日) 01:50:39 ID:LqS319xY0
男はガディウスの目を静かに眺めながら、問いを待っているかのように黙っていた。
「お前は何者だ?私を兄弟と呼んだな。なら私の正体をしっているはずだ。教えろ、私は何者なんだ」
男はしばし話せることと話せないことを選別するように顎に手をあてて思案すると、口を開いた。
「私の名はエニール。神の尖兵にしてその意思の代行者の1人」
「神?ではお前は、私は、天使だというのか」
「人では無いと言うことはお前も分かっていたはずだ」
ガディウスは予感はしていたが、改めて現実を突きつけられて衝撃は隠せなかった。
「何故、私は地上に居る?」
「レッドストーンの探索のためだ。私も、他の兄弟たちも皆そのためだけに地上に墜とされた」
「レッドストーンだと?」
「そうだ、天上の火の神獣フェニックスの卵だ。
 汝はそのフェニックスの卵を守護する天使のなかで特に重要な立場に居た。守護天使長という立場にな」
「私が?」
「汝は愚かしくもレッドストーンを奪いに来た悪魔をたった一人で深追いし、陥れられた。
 汝の失態によってフェニックスは殺され、多くの兄弟も悪魔どもに殺された。
 責任を追及された汝は天使としての力を完全に奪われ、永久に地上に追放されるはずだった」
ガディウスは黙ってエニールの口から語られる自分の過去を聞いていた。
「だが汝はそれに抵抗し、あろうことか天使の姿のまま地上に向かおうとした。
 仕方なく、我々は地上に逃げる汝を攻撃し、私は汝から右翼を奪った。
 その結果、汝は地上に墜ちて記憶を失った」
ガディウスはエニールの口から語られる真実を整理する前に、怒りに任せた。
「何故私を操った!?元から追放されるはずだったのなら、記憶のない私をなぜそっとしておいてくれなかった!!」
「操ったのではない、汝の意識に刺激を与えて天使の本能とも呼べる潜在的な意識を呼び覚ました」
「黙れ、なぜ放っておいてくれなかったんだと聞いている!」
「レッドストーン探索には天上界のほぼ全ての兄弟が汝と同じように翼を折られ地上に遣わされた」
「それが何だ」
「兄弟たちは既にほとんどが悪魔に殺されたからだ。
地上において片翼の天使の力は本来の半分以下に制限された」
「つまり、人員不足になったから記憶を無くしていた私まで利用しようとしていたのか?」
「まあ、そういうことだ。汝は天使としての能力は群を抜いていた。
 下手に刺激すれば暴走する恐れがあったからな、他の兄弟たちには汝には接触させず、
 私だけが汝に接触を持つことになった」
「・・・・・・」
ガディウスは男を怒りの目で睨んでいた。
エニールには彼が何故ここまで自分に憎悪の目を向けているのか分からなかった。

42ドギーマン:2007/02/04(日) 01:51:27 ID:LqS319xY0
「とにかくだ、汝は真実を知った。
 汝にはこれから天使としての意識を持って、使命のために我々と共に行動してもらう」
「使命だと・・・?」
「そうだ。神の意思に従い使命を果たすことだけが我々の存在理由だ」
「・・・・・」
「さあ、立て。時は迫っている」
「嫌だ」
「何?」
「私は、この町で大切な人と出会った。彼女に約束したんだ。どこにも行かないと。
 ずっと、そばに居ると・・・」
エニールには一瞬彼が何を言っているのか分からなかった。
そして、奇人を見たかのような目で言った。
「まさか人間と・・」
「分かったら、失せろ」
「それがどういう事か分かっているのか?天の理に反する行為だ!」
「天の理など知らん。私は彼女と共に人間として生きる」
「馬鹿な。我らの命に比べれば人間の脆弱な魂などあっという間に消える。
 汝は愛した人間とやらと同じ時は生きられぬ。老いもせぬ汝に恐怖するに決まっている」
「何・・・?」
「分からないのか?いくら汝が人間のつもりでも、所詮人間とは別の存在なのだよ」
「・・・・・・」
「分かったら立て。汝は神の意思に身を任せておればよい」
「それでも、私は約束したんだ・・・」
「何度言わせる。汝は人間ではない。人間との約束など関係ない」
「私は人間として彼女の側に居続ける!」
ガディウスのしつこい叫びにエニールは怒りを感じていた。何故だ。
このおぞましき者の言葉がエニールの怒りを掻き立てている。
「たとえ人間になれずとも、私は彼女のために人間であり続ける。
 彼女が先に死ぬと言うのなら、彼女の死の瞬間まで共に居続ける。
 私は、彼女を愛しているのだから」
ギッと男は歯軋りした。しかしなんとか冷静を装って言った。
「そうか、残念だ。今日はこれで失礼する。さらばだ、兄弟よ」
男はすっと立ち上がるとさっさと扉をバタンと閉じて出て行った。

43ドギーマン:2007/02/04(日) 01:52:08 ID:LqS319xY0
ガディウスはエレナの寝ている寝室の前に立つと、部屋には入らずに言った。
「エレナ、起きてるか?」
返事はなかった。
それでもガディウスは妻に呼びかけた。
「決着はついたよ」
ガディウスは少し黙って言葉を考えた。
「私はもうどこへも行かない」
暗い部屋の中、エレナは黙って毛布をぎゅっと握り、静かに泣いていた。

砂漠の中、エニールは彷徨った。
天使であった頃のあの男はエニールにとって苛立たしい存在だった。
そして今も、いや以前よりも苛立たしい。
愛しているだと?人間を?くだらん。
エニールは何故こんなにも彼に腹を立てているのか、自分自身にも分からなかった。
エニールは空間に穴を開けると、リンケンの町をじっと睨みつけ、光の弾となって穴に飛び込んだ。

44ドギーマン:2007/02/04(日) 02:01:32 ID:LqS319xY0
もうすぐ、終わります。
オチの知れている話を長々としてごめんよ。

>携帯物書き屋さん
続編来ましたね。またあの興奮する戦闘シーンを期待してます。

>キンガーさん
読解力ですか。なるほど。言われて見れば想像力とは違いますね・・・。
私も毎回毎回先が読める訳ではないですが。
特にキンガーさんの作品は先が読めなくて面白いです。

では、おやすみなさい。

45名無しさん:2007/02/04(日) 17:53:55 ID:MrI79L4k0
>>ドギーマンさん
メインクエもLv低くてクリアできない私はレッドストーン関係の話は全然知りません(笑)
それに結末を知っていてもそれまでの過程を読むのが好きな性格なのでOKですよ。
ゲームとか推理小説とかEDや犯人などネタバレしても普通に楽しめますし(苦笑)
シリアスな雰囲気の話も好きなので、最後まで読ませてください。

46ドギーマン:2007/02/05(月) 00:24:50 ID:LqS319xY0
8:オアシス

エニールがリンケンを訪れてから1週間が経った。
ガディウスは声の束縛から解放され、エレナと再びもとの生活を取り戻していた。
しかし、エレナは町の市場で買い物をしているとき、そこにあの男は現れた。
「失礼」
「はい?」
エレナはいきなり肩を叩かれて振り返った。
「婦人、少々お話が」
「はあ」
「ここでは少し」
男は周囲を見回して言った。
「あの、どなたですか?」
「ご主人についてのことなのですが」
エレナは身を強張らせた。
「・・分かりました」
エレナと男はリンケンを囲む外壁のそばで話した。
遠くに人の姿が見えるから叫べば助けを呼ぶことも出来る。
「で、お話というのは?」
エレナは落ち着いた表情で男に聞いた。
「自己紹介がまだでしたな。私の名はエニールと申します」
「エレナです」
エレナは小さく会釈した。
「それで・・」
「あなたのご主人、名はなんと言いましたかな?」
「ガディウスです」
「なるほど、砂漠と同じ名前ですか」
「それで、話というのは?」
エレナはエニールを急かした。
「落ち着いてください。いいですか?ガディウス氏は人間ではありません」
エニールは落ち着いた顔で言った。しかしその目は少し笑みの形になっているようだった。
エレナは少しも取り乱すことなく、「知っています」と言った。
これには逆にエニールが動揺した。
「いいですか、婦人。彼は・・」
「天使なんでしょう?」
「・・・・・」
「この間、いらっしゃいましたね。ようやく思い出しました。お話は聞こえて居ましたよ」
エレナは耳がよかった。ベッドの中からでもガディウスとエニールの話し声がところどころ聞こえていた。
エニールはエレナの不意打ちに動揺しながらも、なんとか平静を保った。
「そうですか、それなら話は早い」
「今さら、あの人に何の用があるというんです?」
エレナはぎゅっと手を握りこんで男を正面から睨んだ。
エニーリはエレナの眼に臆することなく言った。
「あなたのご主人を人間にしてさしあげよう」
「え?」
「我々としてはもはや彼は用済みだ。むしろ天使としての力を持っている限り危険な存在でしかない。
 だから、彼にはただの人間になってもらう。天使の力を全て失い、寿命も人間のものとなる」
「・・・・・」
突然のことに今度はエレナが動揺する番だった。
「彼をこの町の北にある大きなオアシスに明日の昼に連れて行き、水面に自分の姿を映させるんだ」
「そうすれば、本当に彼は人間に?」
「ええ」と言ってエニールは頷いた。
黙って俯いて立ち尽くすエレナの横を通り過ぎてエニールは言った。
「明日の昼。いいですか、これは人間になるという彼の望みも叶えることだ。
 間違いのないよう、頼みましたよ」
そしてエニールは歩き去っていった。
「待って」
そう言って振り向いたエレナの目の先には、エニールの姿は無かった。
エレナは立ち尽くし、どうすべきかを考えた。
その思考は、すでにエニールの望む方向に傾いていた。

47ドギーマン:2007/02/05(月) 00:25:33 ID:LqS319xY0
翌日、
エレナとガディウスは連れ立って砂漠を歩いた。
突然のエレナの誘いにガディウスは驚いていたが、彼女が立ち直ってくれた証と取ったらしい。
エレナははやる心を抑えながら砂漠を歩いた。
「エレナ、あまり急ぐな。町の近くでもモンスターは出るんだから」
「ええ、でも大丈夫よ。あなたが居るから」
ガディウスはどことなく落ち着かない妻の様子に首をかしげたが、黙ってついていった。
そして、オアシスについた。
他に人は居ない。町の中にあるオアシスで水は事足りるため、ここに来る人はまず居ない。
その大きなオアシスは波一つなく、鏡のように空を映し出していた。
ガディウスとエレナはその美しさに見とれた。
天をゆく雲と同じ景色がオアシスの水面に映っている。
まるでオアシスではなく天に浮く砂漠の中にぽっかりと空いた穴のように。
エレナは呟いた。
「きれい」
「ああ」
ガディウスもその姿に感嘆した。しかし、何か嫌な予感がした。
エレナはオアシスのそばに寄ると、水面を覗き込んだ。
「ほらあなた、早く来て。本当に鏡みたいよ!」
「あ、ああ」
ガディウスは戸惑いながらも、ゆっくりと水面を覗く妻の後へ歩いていった。
「ほら、早く」
妻に急かされてガディウスは水面を覗き込んだ。
そこに映っていたのは。
ガディウス自身の姿ではなく、白銀の髪に折れた翼を背負った天使の姿だった。
その姿を見た瞬間、ガディウスの脳裏に電流が流れるような衝撃が走った。
ガディウスは驚愕の表情を浮かべて動けなくなった。
息が荒くなる。
「あなた・・?」
水面を覗きこんだまま動かない夫にエレナは問いかけた。
「エレナ・・なんで、こんなものを私に見せるんだ」
「えっ」
エレナは身を強張らせて動けなくなった。

48ドギーマン:2007/02/05(月) 00:26:17 ID:LqS319xY0
"ハハハハハハハハハハ!!!"
"離せっ"
"いいや、駄目だね。今頃フェニックスは我が同胞たちの手に落ちている。
 あの火の鳥にさえ到達すれば貴様ら天使どもなど・・・"
天使はしつこくすがり付く悪魔の胸に刺さっている光る十字架をねじり込んだ。
「ぐがああああ!!」
悪魔の叫びに問いかけた。
"何が目的だ!"
悪魔は口いっぱいに牙を並べて笑みを浮かべた。
"知れたこと。フェニックスの成鳥を殺し、卵を奪う・・・。
 生まれた雛を手なずけさえすれば、我らは無限の火の魔力を手に入れたも同然!
 神に復讐することも出来ようというもの"
天使はぐっと歯をくいしばると。悪魔の肩に足を押し付け、剣を思いきり持ち上げた。
「ぐおおおおおおお!!」
悪魔の断末魔が響いた。
絶命し、地に落ちていく悪魔を見送ることもなく天使は来た空を戻っていった。
"どういうことだ。何故奴らは侵入できた。しかもこんな時に"
フェニックスの甲高い鳴き声が響いた。
彼は音よりも早く飛んだ。
巨大なフェニックスに赤い靄がまとわりついている。
それは全てあの赤い悪魔どもだった。
灼熱の鳳の翼に飛び込み、その力を肥大化させては集まってくる兄弟たちを焼き払った。
特に火に対して高い耐性を誇るはずの火の守護天使たちは一瞬で灰となっていった。
すでに事態は手を付けられないところまで悪化していた。
火の神獣は翼に悪魔どもの爪や牙を突きたてられ逃げるに逃げられないでいる。
彼は火の鳥に向かって突っ込んでいった。
しかし、力を得た悪魔達の炎に焼かれて雲の大地に落ちていった。
他の兄弟たちのように一瞬で灰になることは無かったが、それでも酷いダメージを受けていた。
落ちて行く彼を1人の天使が支えて飛んだ。
"む・・"
"しっかりして下さい。天使長殿"
それはエニールだった。
"既に事態は打開不能です。天使長1人が向かって行ってもどうにもなりません"
"しかし、兄弟・・"
"無駄に死ぬことはありません"
彼はもう身体が動かせなかった。
そしてエニールの腕に抱えられながら考えた。何故悪魔たちが侵入できたのか。
地下界から地上に出るだけでも大変なのに、さらに地上から天上界に来るのは
まず無理なことである。監視の目に引っかかることなく侵入するなどということは不可能に思われた。
しかも、彼以外の監視が交代するために最も警備が手薄になるときを狙ってきた。
これはつまり、内通者が居る。
燃やされる火の守護の兄弟達の中、エニールだけが無傷だった。
―まさか・・・。
彼は飛びつづけるエニールの顔を見ていた。
兄弟達が死んでいっているにも関わらず涼しい顔をしていた。

49ドギーマン:2007/02/05(月) 00:26:57 ID:LqS319xY0
火の守護天使はほぼ全滅、フェニックスは死に、レッドストーンは悪魔と共に地上に墜ちた。
フェニックスの死と共に天使全軍が赤い悪魔達に総攻撃を開始し、
悪魔達は掃討された。しかし、1匹の悪魔だけはレッドストーンを持って逃げた。
事件の後彼には審判が下され、地上へ永久追放されるはずだった。
しかし、彼はエニールだけは許せなかった。
エニールを追って天上の牢獄を脱走した。
兄弟達の捜索を振り切り、彼はエニールに到達した。
"待て、裏切り者"
"裏切り者、とは?"
エニールは特に動じた様子もなく言った。
"貴様が悪魔どもに内通し、手引きしたことは分かっている"
"何のことやら。戯言が過ぎますぞ元守護天使長"
彼はエニールに向かって飛んだ。
"しらばっくれるな。貴様だけは許しておけん。死んで兄弟達に詫びろ"
彼はエニールに向かって羽を飛ばした。
エニールは飛び来る羽をテレキネシスで空中に止めた。
羽は力を失って宙をゆっくりと落ちた。
しかし、彼はその間に彼の頭上に巨大な鉄槌を生み出していた。
落ちてくる鉄槌をエニールは叩きつけられた。
「くっ」
エニールは声を漏らした。鉄槌は彼から力を奪った。
彼は宙に光の輪を一度に5個生み出した。
"終わりだ"
"あなたが、ね"
"何?"
次の瞬間、彼の背中に衝撃が走った。
"脱走者を見つけた"
振り向いた彼の視線の先には、彼を追ってきた兄弟達が居た。
"貴様だけは・・"
そう言って彼はエニールのほうに向き直った。
次の瞬間、光を身体に受けて彼はバランスを崩して落ちた
「う・・」
突然のエニールの攻撃に他の兄弟たちは驚いていた。
落ちる彼をエニールは追ってきた。彼が兄弟達に捕まれば自身が危ういからだろう。
"あなただけは許せない!"
エニールは見ている兄弟たちに響くように言った。
"貴様、何を・・"
"黙れ"
そう言ってエニールは光弾を放った。
彼は右手の甲でそれを弾こうとした。
だが、完全には弾ききれずに彼は右翼の先を吹き飛ばされた。
「うお・・」
そこにさらに彼は頭に光弾を受けた。
墜ちていく彼をエニールは見下ろしていた。
彼はそこで、意識を失った。

50ドギーマン:2007/02/05(月) 00:27:45 ID:LqS319xY0
全てを思い出してしまった。
ガディウスだった男は、今は天使の姿をしている。
もう、エニールの声を聞かずとも聞こえる。
自分の中から、"使命を果たせ"と衝動のような声が聞こえる。
神への絶対的服従、それが天使の本能であり、存在意義。
天使の記憶を取り戻したいま、彼はその本能に忠実だった。
しかし、その前にどうしてもやっておかなければならない事があった。
「エレナ・・何故だ・・・」
「そんな」
エレナは天使を前にして愕然としていた。
「私はもう、君と一緒には居られない」
「・・・・・・」
「もう私はガディウスではない。聞いてくれ、私の本当の名を」
「いや・・・聞きたくない」
耳を塞いでうずくまる彼女の頭の中に、直接彼の声が響いた。
「いや・・いや・・」
「私は、もう行かなければならない」
「待って、あなたの子はどうするの?」
天使はエレナに背を向けて言った。
「天の理に背いて生まれた子だ。幸せになどなれまい」
「待って、お願いよ・・・・行かないで・・・」
天使は空間に穴を開けると、消えていった。
オアシスのほとりに座り込んだエレナの涙は、鏡のようなオアシスに波紋を広げた。
そして、オアシスは次第に鏡のような姿を失っていった。

51ドギーマン:2007/02/05(月) 00:27:45 ID:LqS319xY0
全てを思い出してしまった。
ガディウスだった男は、今は天使の姿をしている。
もう、エニールの声を聞かずとも聞こえる。
自分の中から、"使命を果たせ"と衝動のような声が聞こえる。
神への絶対的服従、それが天使の本能であり、存在意義。
天使の記憶を取り戻したいま、彼はその本能に忠実だった。
しかし、その前にどうしてもやっておかなければならない事があった。
「エレナ・・何故だ・・・」
「そんな」
エレナは天使を前にして愕然としていた。
「私はもう、君と一緒には居られない」
「・・・・・・」
「もう私はガディウスではない。聞いてくれ、私の本当の名を」
「いや・・・聞きたくない」
耳を塞いでうずくまる彼女の頭の中に、直接彼の声が響いた。
「いや・・いや・・」
「私は、もう行かなければならない」
「待って、あなたの子はどうするの?」
天使はエレナに背を向けて言った。
「天の理に背いて生まれた子だ。幸せになどなれまい」
「待って、お願いよ・・・・行かないで・・・」
天使は空間に穴を開けると、消えていった。
オアシスのほとりに座り込んだエレナの涙は、鏡のようなオアシスに波紋を広げた。
そして、オアシスは次第に鏡のような姿を失っていった。

52ドギーマン:2007/02/05(月) 00:28:32 ID:LqS319xY0
エニールはオアシスの水面を挟んでエレナを小さく眺めていた。
彼女の腹を見ていた。
自分と同じ存在を。
地上に翼を持って生まれ、受け入れられずに父に連れられて天上界に着いた彼を待っていたのは、
半人天使に対する差別的な目だった。誰も彼を兄弟とは呼ばなかった。
しかし、唯一あの男だけは彼を兄弟と呼んだ。
その男は彼が生まれたときから得ることを諦めざるをえないものを全て持っていた。
やがて順調に守護天使長に昇格した男をエニールは嫉妬していた。
そして、そのくせ惨めな自分をただ1人兄弟と呼ぶ男を尊敬し、同時に憎んでいた。
だから、悪魔に奴を誘い出すことを条件に手を組んで奴を貶めてやった。
他の天使どもがどうなろうと知ったことではない。
半人の自分に天使のような神に対する絶対的忠誠心などない。
男がトドメをさす前に天上界の境界を抜けて地上に落ちたのは大きな誤算だった。
そして今、地上において男は愛を手にしていた。
母親に見捨てられた彼にとって、奴が愛を得るなど許せないことだった。
しかしそんな事も、エニール本人は分かっていなかった。
ただ、奴が羨ましかった。
エニールは踵を返すと、砂漠を去った。

数ヵ月後、
砂漠の墓の前に数人の人が参列していた。
兄は道具屋の娘と共に立ち、俯いていた。
父は沈痛な面持ちで、娘の墓に花を手向けた。
砂漠の悲劇はその真実を砂の大地に埋もれさせ。
後に右腕だけの男の手によって後世に伝えられる。
2人を決別させたあのオアシスは、
"忘れた記憶のオアシス"と呼ばれ今もリンケンの北に静かに広がっている。

53ドギーマン:2007/02/05(月) 00:45:47 ID:LqS319xY0
1:追放天使 >前スレ973-976
2:力    >前スレ983-985
3:英雄   >前スレ988-996
4:傷    >>13-15
5:変化   >>16-18
6:声の主  >>28-29
7:真実   >>40-43
8:オアシス >>46-52

あとがき
終わりました。
>>45
えと、オチが知れているというのは、
前スレ>932にこの話を1レスに纏めたのを書いちゃったからです。
後から長いのを書いてみたくなって、書いたのがオアシスです。
フェニックスとかはメインクエのアイノの報告書を読んで見つけた情報ですが、
この話は私の作り話なので、実際にあるクエとは一切関係ないです。
忘れた記憶のオアシスの由来をあれこれ考えているうちに出来上がった話ですから。
ちなみに、公式設定では火の守護天使長は赤い悪魔に殺されているそうです。

長々と失礼しました。おやすみなさい。

54名無しさん:2007/02/05(月) 02:28:09 ID:MrI79L4k0
>>ドギーマンさん
完結しましたね〜!終わりが近いと思っていて定期的にリロードしてました(笑)

この話の元になっている(?)、前回書かれていた天使のお話も勿論読ませてもらいましたよ。
それを読んでいてもじゅうぶんに楽しめる(楽しい話ではないですが)内容でした。
なんというか、この話がどうやってあの結末に結びつくんだろう・・激しく読んでいました(苦笑)
ハンクとグレイの話などの追加されたちょっとした逸話もとても良かったです。

今度からはそのオアシス付近をゲーム内で通るたびに思い出しそうな話です。
地名ひとつひとつにも隠された物語があると想像するだけで楽しいですよね。

55海風:2007/02/05(月) 07:22:52 ID:HitJUyNY0
「そろそろ時間だな、準備はいいか?」
私は皆に確認する。

ギルド戦。毎日行われるギルド同士の実戦形式の試合。
とはいえ、さまざまな武器を帯びた戦士たちが普段相手にするのは人ならざるモンスター、
その威力を抑えるため、ギルド戦は特別な魔法のかかったフィールドで行われる。
フィールドに魔法をかけるのは「DAMEON」と呼ばれる謎の集団。今週は“特別強化週間”(何が強化かは不明)と発表されており、皆もいつもより張り切っている。

私はこのギルドのマスターで、ビショップの“ライ”。ギルドメンバー20人あまりを率いる。

「始まったみたいね、入ろう」
副マスターのランサー“イブ”が言う。
ギルド戦の行われるフィールドへは、DAMEONが施した魔方陣に入ることによって転送される。

メンバーが全員入ったのを確認し私も魔方陣に入り、少しの間白につつまれフィールド「砂漠の疾走」へと降り立つ。

・・・・・?
少ない。
「これだけか・・?何人だ?」
  「10人ね」
イブが答えた。

56海風:2007/02/05(月) 07:23:35 ID:HitJUyNY0
・・・10人。魔方陣に入ったのは20人。半数しかフィールドに来ていない。
半分の人数とは痛いが、仕方ない。私はPTを編成する。

「よし、支援いいな? 行こう。」
        ギルド戦が、始まる。

−同刻 古都ブルンネンシュティグ
「ったく、どうなってるんだ。」
ライのギルドに所属する剣士は、気がつけばギルド戦の行われる砂漠の疾走ではなく古都に立っていた。
「お、お前らもか。」
同じギルドの仲間を見つけ聞く。
「ああ、10人くらいだな、お前含めて。突然周りが真っ黒になって、どこからともなく15秒接続をお待ち下さいとかわけのわからない声が聞こえてきやがった。で、気がつけばここさ。」
ここにいる奴の大半は同じ目にあったようだ。
「最近は少なかったのにな・・まったく、何が強化週間だ」
  「まったくだ。・・・・・DAMEONめ・・。」

                          続く  の?

57海風:2007/02/05(月) 07:26:51 ID:HitJUyNY0
初めての投稿です。
普通の小説も書いてたんですが、DAMEONと書きたくて書きました。
多分続きます。

これからよろしくお願いしますー

58ドギーマン:2007/02/05(月) 17:31:56 ID:LqS319xY0
『ディスプレイスメント』

ゴドム共和国 古都ブルンネンシュティグ
このフランデル大陸中最も長い歴史を誇る都市はいま、殺人鬼の出現によって恐怖の街と化していた。

アーチャーが酒場でカウンターに座って飲んでいた。
そこにウィザードがやってきた。
「隣、いいかな?」
アーチャーは周りを見回したが、空席はいくらでもある。
アーチャーは椅子の背もたれを持っているウィザードの顔を見上げた。
「う〜ん、ど〜しよっかなぁ」
「おごるよ?」
アーチャーは目を輝かせて椅子を引いた。
「どーぞ!」
顔も悪くない。ウィザードが座ると、
「マスター!」
カウンターの向こうに居る男にアーチャーは声をかけた。

2人ともほろ酔い気分で街を歩いていた。
「あ〜、そろそろ帰らないとなぁ」
「ん、まだまだいけるクチだろう?もう2件くらい回ろう」
「う〜ん、そうしたいのは山々なんだけどねえ」
「何かあるのかい?」
「知らないの?最近この時間帯に出る殺人鬼の話」
「ああ、なんか聞いたことがあるよ」
「それなら、今日はもう帰らせてよ。また飲むの付き合ってあげるからさ」
「しょうがないなあ。じゃあ、またにしようか」
「ごめんね。じゃあ、またね」
そう言ってアーチャーはウィザードと別れて通りを歩き出した。
やがて、人けのない通りにさしかかったとき、
「わっ!」
「きゃあ!」
女が背後から大きな声と共に肩を掴まれ、驚いて声を出した。
慌てて後ろを振り返ると、大きな獣が立っていた。
「きゃあああ!!」
「わっとと、そんなに大声出すなよ。こっちがビックリしたよ」
そこにはウルフマンが居た。
「なによもう、あなたウルフマンだったの?」
「ははは、ビックリした?」
「もう、脅かさないでよね」
女は不機嫌そうな顔で怒った。
「ごめんごめん、まさかそこまで驚くとは思わなかったよ」
「もう、殺人鬼かと思ったじゃない」
「ははは、何を言ってるんだい?殺人鬼は君じゃないか」
「え?」
そう言って見上げたアーチャーの眼とウルフマンの眼が合った。
するとアーチャーは急に固まり、ウルフマンはぐらりと身体を力なくアーチャーにもたれかけた。
倒れこんできた"自分の身体"を支えると、アーチャーはウルフマンを路地の端っこにもたれかけさせた。
「クフフ・・」
アーチャーは低く笑うと、腰に差していた弓を手に持った。
そしてしばらく街を歩くと、今夜の獲物を見つけた。
夜の街を歩く小さな影、女らしい。
アーチャーは笑みを浮かべると弓に矢をつがえると、人影に向かって弓を構えた。
ぞくぞくとした背筋をはしる感覚にアーチャーは笑みを浮かべ、
弓の弦がブンと音を立てた。
今夜も1人、いや、殺人鬼の犠牲者が2人増えた。

59ドギーマン:2007/02/05(月) 17:45:20 ID:LqS319xY0
あとがき
この話は続きません。
ウルフマンの究極のネタスキル、
ディスプレイスメントをネタに書きたかったんです。

>海風さん
初めまして。
Gvを題材にした話は初めて読みます。
続きを期待してますよ。

DAMEONにはいつものことながら本当に辟易させられますね。

60名無しさん:2007/02/05(月) 18:06:53 ID:WzZp9zxg0
>>海風さん
Gv、自分は経験はほとんど無いんですがこの仕打ちは酷い(笑)
Gvの話はギルメンの心がひとつになれるイベントって感じで想像力だけは膨らみます。

>>ドギーマンさん
狼で憑依スキル取っちゃいました(笑)
結構面白いんですよね。みんな支援かけてくれるのはちょっと困りますが(苦笑)
この話みたいにPTメンバーの人にも憑依できる・・とかだったらちょっと面白そうです。

61ドギーマン:2007/02/06(火) 18:16:34 ID:s7gQQorw0
鉱山の街ハノブ
日は既に傾いており、山の先にかじられたような夕日が男の顔を照らしている。
男は帰宅の途であった。
手には古都ブルンネンシュティグで旅の冒険者から買った指輪が握られている。
早く彼女に届けたい。
指輪を眺め、彼女の喜ぶ顔を想像しながら男は義父と愛する人の待つ家へ急いだ。
家まであと少し。
思わず顔を緩ませながら角を曲がると、
「はぁい、お兄さん」
挑発的な黒いボンデージに身を包んだ女に出くわした。
赤い長髪に赤い眼、真紅の唇を引き伸ばして妖しい笑みを浮かべていた。
スラリとした白い身体を黒く鈍い輝きを放つボンデージが強調している。
何よりその妖艶な雰囲気は、男ならば心をくすぐられることだろう。
「な、なんですか」
男が目のやり場に困りながら答えると、
女はいきなり男の首に手を伸ばし、
ぐいっと男の顔を唇が触れ合いそうなほどに自分の顔の前に引き寄せると、
ふっ、と男の顔に向かって息を吹きかけた。
男はその息の官能的な甘い香りに、脳に痺れる様な快感を覚えた。
「は、ああ・・・・」
男の身体から力が抜けていく。
手に握っていた指輪が、地面に落ちて跳ねた。

62ドギーマン:2007/02/06(火) 18:17:42 ID:s7gQQorw0
数年後

名前すら知られない古代遺跡の地下に広がる洞窟、
動きやすい革鎧姿のランサー、ミーシャはついに仇に辿りついた。
遥か昔からこの場所を照らし続ける明かりの下、
憎き悪魔を前にしてミーシャは槍を構えて対峙した。
うおおおぉぉ・・・ぉぉ・・
遠く闇の向こうから聞こえる獣のような雄叫び。
それを耳にしたリムルは、
声がしたほうを眺めながらまるで面白い余興が始まるかのように言った。
「あ〜あ〜、あの男。やっちゃったみたいねえ」
そして、ミーシャのほうに顔を戻して付け加えた。
「あんたの新しいの、死んだわね」
新しいの、という言葉に苛立ちながらミーシャは言い返した。
「別にあたしの男じゃないわよ」
「ふぅん。あっそ」
ミーシャの素っ気無い反応にリムルはつまらなそうに言った。
「で、かかってこないの?」
ミーシャは槍を構え、リムルと一定の距離を取って円を描くように歩いている。
ミーシャが背後に回っても、リムルは腰の鞭に手をかけるでもなくお構いなしに喋り続けた。
「戦うんじゃないのぉ?つまんないわねえ」
ミーシャは冷静だった。
リムルが喋りながらも足元に魔力を集中しているのが分かっていた。
すなわち、近寄った瞬間に何らかの攻撃をしかけてくる。
なかなか近寄ってこないミーシャを唇の端を吊り上げニヤニヤと笑いながら眺めるリムル。
「戦う気がないのなら、ちょっといいことを教えてあげましょうか」
ミーシャは聞く耳持たないという感じで目の前の悪魔の隙を突く方法に考えを巡らせていた。
「あんたの父親ねえ。私が殺したんじゃないのよ」
「何をたわ言を」
「あんたの男が殺したのよ」
ミーシャの動きが止まった。
その目の輝きは動揺に揺れていた。
「あの男、わたしがちょっと誘惑してやったら簡単にかかってさ。
 わたしが殺せって言ったら本気で刺し殺してるのよぉ?」
リムルは吹き出る笑いを堪えながら話し続けた。
「それで、その後がまた面白いの。
 何でもするから連れてってくれってさ。あなた様の奴隷ですってさ!」
「うそよ・・」
ミーシャはさっきまでの冷静さを完全に失っていた。
「鬱陶しいから燃やしてやったんだけどさ。
 あの男、死ぬ間際だってあんたのことなんて頭ん中なかったわよ。
 死ぬ瞬間ですら思い出して貰えないなんて、哀れな女!あはははははは!!」
悪魔的なリムルの笑い声をミーシャの叫びが消した。
「うそよぉ!!」
涙に塗れた瞳に怒りの炎を宿し、ミーシャは槍を構えてリムルに向かって走り出した。
その滲んだ瞳に写るリムルは笑みに歪んだ顔をさらに歪めている。
ミーシャの槍の一突きがリムルの胸に触れようとした瞬間。
魔力によって生み出されたクモの巣のような網がリムルの足元を中心に周囲の地面に広がり
その中に踏み込んでいたミーシャは身動きが取れなくなった。
槍を前に突き出したまま動けないミーシャにリムルはゆっくりと近づき、
ミーシャの頬を右手の人差し指でなぞった。
魔力の明かりによって照らし出された二人の影はまるで、
蜘蛛が網に引っかかった哀れな蝶に噛み付いているかのようであった。
リムルはミーシャの顎を掴み、指を柔らかい頬に食い込ませた。
「嘘だって?」
リムルはミーシャの顔をぐぐっと自分に向けて言った。
「あんたも分かってたんでしょ?あのジジイの腹に刺さってた剣、あんたの古いののだもんね」
そう言って、後ろに下がると腰の鞭を抜いた。
ヒュンッ パシーン!
地面を一度鞭で叩くと、鞭を手元に戻し、指先ですすっとしなる鞭を撫でた。
ミーシャの顔が曇った。
「心配しなくても、すぐには殺さないわ。あんたを殺したら、またしばらく玩具に会えなそうだもの」
怒りで身体が熱いにも関わらず、ミーシャの身体はピクリとも動かなかった。
フヒュン!と風音を立てて鞭がしなり、ミーシャに向かって振り下ろされた。

63ドギーマン:2007/02/06(火) 18:19:17 ID:s7gQQorw0
「ひっ・・ぐ・・ふっ・・・・は・・・はぁ・・」
腹、脚、腕。肢体中に鞭による蚯蚓腫れが走り、ミーシャは痛みに耐えていた。
「なかなか良い声で啼くじゃない」
そう言ってリムルは指をパチンと鳴らして蜘蛛の巣を消した。
ふっと糸が切れた人形のようにミーシャは崩れ落ちて膝をついた。
その様子を眺めてリムルは恍惚とした表情を浮かべた。
「そう、そうよ。跪いてちょうだい。もっと私を憎んでちょうだい。そう、いいわその眼!」
ミーシャは足をぶるぶると震わせて槍を支えになんとか腰を持ち上げ、槍を構えてリムルを睨みつけていた。
リムルは完全に自分に酔っていた。圧倒的優位に立って相手を見下す自分に陶酔していた。
「はぁぁぁぁぁぁ・・」
リムルはミーシャの憎悪の目を見て、深くため息をついた。
「最高の玩具ね」
「誰が・・あんたの玩具よ」
ミーシャはぐぐっと槍を重たそうに持ち上げた。その意思とは裏腹に、槍の穂先は揺れていた。
「別にあなたに限らないわよ?人間はみんなわたしの玩具よ」
ミーシャは目の前の悪魔に虫唾が走った。
「絶対に、殺す」
その言葉にリムルはふふっと笑った。
「好きよ。その言葉」
ミーシャは槍に魔力を込めて走り出した。
「うああああ!」
槍を大きく頭上で回すと、ミーシャは連続で突きを繰り出していった。
それを半身で避け、束ねた鞭で叩いて逸らした。余裕の表情は崩れない。
「殺してくれるんじゃなかったの?動きが鈍いわよ」
後ろに下がって避けるリムルに追いすがるミーシャ、
それに合わせる様にリムルは手を振り上げた。
「ほらっ!」
ミーシャの足元から黒い数本の矛が噴き出すように突き出した。
「くっ」
ミーシャは寸での所で横に跳んで避けた。
ミーシャに距離を取らせると、リムルは再び足元に魔力を集め始めた。
「休んでる暇はないわよ!」
鞭がしなる。せまる鞭をミーシャは槍で打ち落とそうとした。
「はっ!」
その動きをあざ笑うかのようにリムルは手首をひねった。
鞭は生きているヘビのように槍をするりとくぐると、ミーシャの腹を叩いた。
「うぐっ」
ミーシャは顔をしかめた。
しかし、今は怯んでなどいられない。攻めなければいけない。
ミーシャは痛みを堪えて複雑なステップを踏んで鞭を避けながらリムルに迫った。
手足を躍らせるたびに腫れた身体に鈍い痛みが走る。
「い、・・やぁっ!」
払う、とフェイントをかけつつも不意を突くように背面から槍を繰り出す。
リムルフェイントに引っかかったが、元から受けるつもりだったのか、槍を左手の平で受け止めた。
リムルの黒い手を槍が貫通し、手から血が噴出した。
「あっはは、無駄無駄」
リムルは痛がる様子も無くそのまま手を貫く槍をぐっと握ると、
驚いているミーシャの足元に大きな顎を出現させた。

64ドギーマン:2007/02/06(火) 18:20:29 ID:s7gQQorw0
顎は実体無く透けているが幻ではない。その牙に痛みを乗せてミーシャの足に噛み付いた。
「くっ、この」
槍を無理矢理リムルの左手から引き抜き、地面から生えている顎を突き刺した。
槍には手応えはあるが、顎はしぶとく噛み付いたままだ。
リムルは血まみれの左手を振って、顎を壊そうとしているミーシャの身体に血を飛ばした。
「ほら、頑張って。もう少しで壊れるわよ。ふふふ」
「このっ」
身体に付着した血に気をかけるでもなく、ミーシャは槍で顎を壊した。
ミーシャが隙だらけにも関わらず、リムルは攻撃を加えなかった。
ようやくミーシャがリムルに槍を向けたとき、リムルはミーシャを指差して逆十字架をきった。
すると、ミーシャの身体に付けられたリムルの血がミーシャの胸に集まり、赤い逆十字架を形作った。
血の逆十字架が赤い輝きを放って消えると、ミーシャはぐらりと崩れる身体を槍で支えた。
ミーシャは突然の胸の痛みに訳が分からずにリムルを見上げると、
リムルの左手の傷がゆっくりと閉じて消えた。
「あはは、折角私を傷つけられたのに、残念でした!」
リムルはミーシャの表情を楽しんでいた。
しかし、ミーシャの心はまだ折れてはいなかった。
胸を貫くような痛みに息を切らしながらも、それでも槍を構えた。
リムルはその様子を見て言った。
「まだまだ楽しめそうね」
「言ったでしょ、絶対に、殺す!」
「いいわねぇ、そういう諦めの悪いところ。あなたが男だったらペットにしてあげてもよかったのに」
「誰があんたなんかの・・」
「心配しなくっても、女には効かないわ」
そう言ってリムルはミーシャに背を向けて、歩いて離れていった。
無防備な背中に関わらず、ミーシャには手出しできなかった。近づけばやられる。
リムルはミーシャから距離をとって離れた。
「さて、言っておくけれど、もう近づいたらあなたの負けよ」
そういってリムルは足元を親指で指し示した。
既に魔力は整い、近づけば即動きを封じられる。
「あなたの槍じゃあ、わたしに近づくしか無いわよねぇ?」
ミーシャは勝ち誇る悪魔の笑みを肩で息をしつつ睨んでいた。
「さっきから槍に魔力を集めてるようだけど、どんな策があるのかしら?」
ミーシャは答えなかった。
黙って槍を構えると、リムルを中心に円を描いて走り出した。
リムルは一歩踏み出した。すると円も一歩踏み出した分だけ動いた。
一歩下がると、元に戻った。
「ふぅん」
リムルはミーシャの動きを試すように動いていた。
「じゃあ、姿が見えないとどうするつもりなのかしら?」
すると、リムルの周囲に緑色の霞が噴出し、リムルの姿を覆い隠した。
ミーシャはその霞の正体を致死性の毒ガスであると判断すると、
慌てて距離をとり、微妙な空気の流れを読んで風上に向かって走り出した。
すると、同じ方向に向かって毒ガスの中からリムルが飛び出してきた。
「当たり!」
中からも外が見えなかったはずだから、予想が当たったということだろう。

65ドギーマン:2007/02/06(火) 18:22:34 ID:s7gQQorw0
ミーシャは槍を回すとランサー独特の走法で素早く距離を取った。
リムルはミーシャに向かって追いすがるように鞭を振るった。絡めとられて引っ張られれば終わってしまう。
ミーシャは横にステップを踏んでまた鞭を避けると、隙と見て取ったのかリムルに向かって槍を投げようとした。
リムルは待ってましたと言わんばかりに鞭を手元に引き寄せた。
槍を投げる以外に攻撃する手段はないと思っていたリムルは思わず笑みを浮かべていた。
ミーシャの振りかぶった槍は光を発し、槍本体を残して光の槍がリムルに向かって飛んだ。
リムルはまた左手で受け止めるつもりだった。
しかし魔力の塊の光の槍は左手を貫通してリムルの右肩を貫いた。
「あぐっ」
リムルには訳が分からなかった。肩を貫いた光はリムルの背後の闇に消えた。
そして、ミーシャは怯んだリムルに対して槍を振るった。槍が届く距離ではないのに。
次の瞬間、リムルの余裕の表情が崩れた。
槍が伸びてリムルの胸を貫いていた。
槍は穂先に氷、反対側のもう一端に炎を纏って伸び、
三倍ほどの長さに伸びた槍の氷の穂先がリムルを貫いていた。
「え?」
リムルは呆けた表情で自分の体の中心を貫く氷と炎の槍を見下ろしていた。
魔力を帯びた槍は縮んでリムルの胸から抜けると、氷と炎は槍の柄を持つミーシャの手元で散った。
リムルは胸の穴から噴出す血を押さえて膝をついた。
「くぅ・・」
「終わりね」
ミーシャは冷たい眼差しでうずくまるリムルを見た。
「う・・く・・・はっ・・・・・あはは・・終わり?何勝ったつもりでいるのよ!」
リムルはしゃがみ込んだまま鞭をミーシャに向けて振るった。
鞭はミーシャの腕に巻き付いた。
リムルはその細腕からは考えられない力でミーシャを自分のほうに引っ張った。
引っ張られたミーシャが射程に踏み込んだところでリムルはミーシャの影を蜘蛛の巣に絡め取った。
動かないミーシャに左手の平を向けてリムルは高らかに笑った。
「死ぬのは、はぐっ・・・あんたよ・・・毒で即死、させたげるから覚悟なさい」
しかし、ミーシャはまるで人形のように表情がなかった。
リムルがそのことに気づいた頃にもう遅かった。
本物のミーシャの手から投じられた槍がミーシャの幻を突き抜けてリムルのわき腹を貫いた。
リムルのわき腹を突き抜けた槍は地面に刺さった。明かりに照らされた蜘蛛の影は標本のように留められた。
見上げるリムルの前のミーシャはぼうっと薄れて消えた。
その後方から、蜘蛛の巣が消えたのを見て取ってミーシャが歩いてきた。
「なによそれ・・私が・・・・殺される?人間に?」
その顔にあの笑みはない。

66ドギーマン:2007/02/06(火) 18:23:19 ID:s7gQQorw0
ミーシャはリムルのそばに立つと、槍を乱暴に引き抜いた。
「ぐぁ」
リムルは力なく冷たい地面に背を押し付けた。
ミーシャの冷ややかな視線をリムルは可笑しそうに笑った。
「あはは・・・・そう、あんた、もう人間じゃないわね。納得したわ」
その言葉にミーシャはピクリと揺れた。
「その眼、今まで何人・・・・・ふっ、殺してきたの?」
ミーシャは静かに震える声を抑えるように言った。
「私は人間よ」
「いいえ・・・・、人間はそんな眼はしないわ。
 うぐっ・・・ゴホ、その眼は、他者の命を、平気で奪える悪魔の眼よ」
ミーシャは何も答えられなかった。
リムルはミーシャの反応に満足したように笑みを浮かべると、指にはめていた指輪を抜いた。
「ほら」
そう言ってミーシャに向かって指輪を指ではじき飛ばした。
「あげるわ」
受け止めて手の中の指輪を見下ろすミーシャにリムルは言った。
「あんたの男が持ってた指輪よ」
ミーシャの瞳が揺れた。
手の震えに合わせて手の中の指輪も小さく震えた。
指輪の内側には"K to M"と彫られている。
そのミーシャの顔を見てリムルはニヤリと笑みを浮かべた。
「私に捧げられた指輪だけどね」
しかし、指輪をじっと見つめるミーシャの耳にその言葉は届いていなかった。
チッとリムルは舌打ちすると、地面に横たえた頭を持ち上げて首に鞭を巻きつけ始めた。
そこでようやくミーシャはリムルの様子に気づいた。
「何をしてるの」
「火葬の準備よ」
「何?」
「この先、生きてあいつに会ったら・・・・あんたにも分かるわ。
 いい?あいつにもし負けて殺されることになったら、う・・ゲホッ・・
 そのときはどんな方法でもいいから、自分の死体は残さないようになさい。
 永久に地獄を見ることになるわよ。オルカートのように・・・・」
「どういう・・」
しかし、リムルはミーシャの言葉を無視した。意識がそろそろ危なかった。
「最後に・・・・教えて、あげるわ」
リムルははっはっと短く息をついていた。赤く地面に広がっていく血溜りが彼女の残り時間を示す水時計だった。
「あの男の、最後の言葉・・・・」
リムルは黙っていた。
「愛してる・・」
ミーシャはその言葉に彼の笑顔を思い出した。
「リムル様ってね!あはははははははは!!!」
嘲笑を残して悪魔の鞭は炎を纏い、リムルの身体は一瞬にして灼熱の炎に包まれた。
あっという間に人の形を崩していくリムルに向かってミーシャは槍を振り下ろした。

全てを奪われた女は長い戦いの日々の末に、
唯一の心の寄り所だった愛さえ奪われてしまっていたことを知った。
燃え盛る悪魔の死体に憎しみの全てをぶつけ、彼女の眼は人の光を失おうとしていた。

67ドギーマン:2007/02/06(火) 18:31:14 ID:s7gQQorw0
あとがき
元ネタは公式サイトのランサーのあれです。
仇役に悪魔を使ってみました。
ええと、仇を討ててハッピーエンド。なんてことにはなりませんでした。
相手は悪魔ですからね。救いのないラストです。
続く、かも?続いたほうが、いいのかなあ。
あいつとか色々前振り的なこと書いちゃったし・・・。
何も考えてないなんてことは無いんですが。

68名無しさん:2007/02/06(火) 22:26:40 ID:vMR3h0JU0
>>ドギーマンさん
いつもながら書き上げの速さと構想の速さにびっくりです。
そこまで言われると続きが気になりますよ(笑)
あいつとかオルカートとか続きに出てきそうな名前がちらほらと・・
恋人関係の話、もし自分が小説やSSを書くとしても絶対書けない分野なので楽しみです。
是非とも続きお願いしたいです。

69第37話 後3日:2007/02/07(水) 19:04:00 ID:VACg.rqk0
貧しさは犯罪を犯したときのエクスキューズにはならない。
財布の厚みは傲慢に生きる免罪符にはならない。
「人を欺くな」
田村の父親の言葉だ。

電子課に監視を頼んであった8件のうち5件はネット上のみの取引か、不成立で
身柄を押さえられそうにはなかった。残り3件が実際に会って取引に及びそう
だとの報告だった。とにかく何か共通点はないか佐々木に訊いた。

「ありません。総ての取引は[1deal-1mail]です。過去同じメアドが使用された
事は一度もありません。」
「総てレッドストーン関係か?」
「いいえ、他のゲームもあります。張は組織が関係しているものをピックアッ
プしたんでしょう。」
「残り3件を徹底的に監視してくれ。」

田村は一応、課長に状況を伝えておくことにした。
電子課にメールを監視させていることや、張との面会及びやらせていることは
まだ黙っていることにして。

「・・・田村、それじゃ上が納得しないぞ。線が細くて動員できるとは思えな
いぞ。ゲームが発端でその上口座を狙った?全く・・・」
「4件の殺しの共通点が口座だけでしょうが? しかも違法移民が持っていた
それが今回の合同捜査になっていながら、私のは線が細いと?しかもネカフェ
での映像からホシを割り出そうってのより、こっちのほうが確実ですよ!」

方針で課長と口論になっているときに電話が入った。佐々木からだ。

「例の1件が取引まとまりそうです。新宿の東のネカフェで来週日曜に交渉です」
「口座の話は出たのか?」
「そうではないですが、現金でなくとも良いとの内容でした。つまりネット送金
ですから、口座の存在を相手に知られたかとおもいます」
「東側には何件のUSB端子を使えるネカフェがあるんだ?」
「・・・これから調べます」

後3日だった。日曜までに店舗を調べて協力を仰いでおかなければ・・・。

70名無しさん:2007/02/08(木) 04:39:16 ID:bYCWHswk0
>>きんがーさん
今までの話をまとめてひとつの本にしたいくらいです。
(今でも読みながら何度かいままでの話を参照しながら読んでます(苦笑))
結末が全く見えません。

71第38話 二兎:2007/02/08(木) 20:00:42 ID:NwlOS0pk0
「日曜に取引することになったよ」
キンガーさんからの短いメールだった。
私とデルモちゃんが一緒に行きたいと思っていることを伝えると
「うーん、やめておこう。一人で行くよ」
そんな返事だったけど、食い下がり、どうしても一緒に行くと言って約束させた。
しかしながら私とデルモちゃんは遠巻きで見るだけとのこと。
それでも一人にさせておくよりはなんとなく安心だった。
相手が取引しようとするキャラは「キンガー」なのだろうか?
それとも全く別のキャラなんだろうか?どちらにしろ買うことはないだろうなぁ。
ただで取り戻すか、取引不成立なだけ。
もう一度例のサイトを覗いてみた。

----交渉中----

後3日で判ることよね。でもドキドキするわ。

「姉ちゃん、またそんなとこ見てるの?」弟の幸一だ。
「あぁ、これね。今度の日曜に私の知り合いがこれを取引するみたいなの」
「へぇ〜。どこで?」
「多分、新宿」
「ネカフェ?」
「でしょうね。私も付いていってくるつもりなの」
「面白そうだね!俺もいきたいけど、用事あるしなぁwそんな現場滅多に見れないから
なんだか羨ましいよ^^」
「そうよねぇ。滅多にみれないよねw 何着ていこうかなぁ?」
「ばっかじゃないの? お見合いじゃあるまいし。だいたい姉ちゃんは関係ないのにw」
「それもそうだぁww」

そんな話をした後にRSにログイン!
デルモちゃんに事の次第を連絡して日曜にまた会うことを約束した。
何着て行こうなんて思ったのも、女としてデルモちゃんに負けたくないからでもある。
詳しい日程が決まったらキンガーさんに「コール」してもらうことにしたw


調度同じころ田村に佐々木から連絡が入っていた。
「もう1件取引がありそうです。場所は確定していませんが日曜です」

72第39話 願い:2007/02/09(金) 00:32:07 ID:NwlOS0pk0
佐々木が少し疑問に思うことを口にしてきた。
「田村さん、現場で監視するのはいいのですが一体どうゆう容疑で逮捕拘留するんですか?
何も起こっていない状況でワッパかけれないでしょう?でも放っておけば殺しになるかもしれないし」
「そこでだよ。おそらく確実にホシは身分を偽っていると思われるだろう?」
「公文書偽造容疑ですか?」
「それは2番目だ。最初はもちろんオーバーステイか密入国容疑でいく。拘留期間をあらゆる容疑で延ばす作戦だ」
「管轄が違うでしょうが?」
「俺の娘をなんと心得る?入管だぞw ちょいと親孝行してもらうさ。それからガラをこっちにもらう」
「拘留期間を延ばしたところで自白がなけりゃ終わりですよ?」
「お前さん、大事なことを忘れている。俺たちには味方がいるじゃないか?敵と言うべきかもしれんがなw」
「どこにですか?」
「誰かはまだわからん。しかしな、なぜ張が俺たち側に付いたか忘れたか?」
「組織に全部喋った事がバレたからでしょう?でも今回のホシは喋らない」
「喋ったことにしてしまえばいいんだよ」
「でもどうやって奴等にそれが判るんですか?」
「まずは捕まえてからだ。細かいことは後で話す。ホシが囀るようにしなきゃなぁ^^」
「ますます判りませんよ!」
「ホシは日本の警察より組織の幹部が怖いはずさ。張と一緒だよ」
「うーん・・・・・」
「だが、俺たちにも怖いことがある。それを今回は同時につぶすつもりだよ」


その頃、塀の中で張はいやな夢といい夢を見ていた。
一つは、刑期を終えても組織は自分をいつまでも追いかけてくること。
一つは、大きくなっているだろう自分の息子と再会している夢だった。
汗ばんだ額を拭いながら起きた張は明日自分の拠り所をもう一度確認しようと誓った。
それしか希望は湧いてこない。
祖国の務所よりはずっと天国のようなこの場所でも、自由が満喫出来ないのは辛い。
なんで自分はこうなってしまったんだ?どうして奴等の思うがままになって、全てを無くしてしまったんだ?
全て・・・・いや、自分にはあの金があったか。
失ったものの方が多いような気がしてきた。
女房のことよりも子供のほうが気になるとは思ってもみなかった。
田村との約束は守った。奴も守ってくれるといいのだが、いや、日本人は約束を守るさ
そうじゃなきゃ、あんなに詐欺をできなかったさ。皮肉なもんだ。
ここを出たら二度と詐欺をするもんか! 
トイレに行くのにも人に了解を得る生活なんてまっぴらだ!!
張は娑婆に出ても誰にも遠慮せずに、普通にトイレへ行こうと出来るか不安に思いながら
もう一度布団の中に潜り込んだ。
もう一度、息子に逢える事を願いながら。

73携帯物書き屋:2007/02/09(金) 14:26:39 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>34-37

『孤高の軌跡』


冴え冴えと蒼く、弧を描く月下の夜。
冷たく、優しい光が華奢な少女と長躯の男を照らしていた。

「結局、住宅街周辺には何も出なかったわね」
少女がさも残念そうに息を吐く。
それに対し男は終始無言だった。仕方がなく少女が続ける。
「そんな訳で街中に来たのだけど、ヘル、何か感じる?」
無言だった男が重々しく口を開く。
「私に魔力を感じ取れというのは専門外だな。私が感じ取れる物は殺気と気配、そして悪感くらいだ」
「もう少しましな物を感じ取りなさいよ。例えば、お金の気配とか」
「そんな胡散臭い物を感じるのはごめんだな」
「はいはい…。とりあえず予定通り近くの公園に向かうわよ」
そうして少女は歩を早める。

突如、無言で付いていた男の足が止まった。
「どうしたの、ヘル?」
「………血の臭いだ」
一瞬少女の表情が固まる。しかしすぐに平静を取り戻す。
「ヘル、行くわよ」
「ああ、先を急ぐ故しばし捕まっていろ」
そう言うと男は少女を片腕で抱き上げ、跳躍する。
その跳躍力は人体の限界を超え、連なる建造物を飛び越して行く。
無音で一つの電灯に着地し、再び跳躍し闇夜の風を裂く一つの閃光となる。
二人の眼下に夜の街中の景色が広がった。
「そこだ」
男が臭いの源を嗅ぎつけ、高度を下げ手近の電柱の側面を蹴りつけて方向転換する。

心地よい靴音と共に軽やかに着地。
二人が辿り着いた場所――――そこは二人が行く予定だった町の公園だった。
「貴方のソレは心臓に悪いわね…。ところで、ここ公園だけど?」
少女が好奇心と疑問が混じり合ったような表情を向ける。
「……そうみたいだな。しかしここに間違いない」
「なら、行くわよ」
十分に警戒しながら二人は公園に踏み込んだ。
突如、激しい悪感が駆け巡り二人を襲うっ!
明らかにこの場の空気は異常だった。
「ヘルッ!」
少女が叫び声に近い声を上げた。
「判っている――――!」
男が唸り声を上げると同時に少女が駆け出す。男もそれに続く。
ある程度走ると公園の丁度半分辺りに大きな“物”が落ちていた。
その正体に感付いた男が少女を追い越し右手で視界を遮るように行く手を阻んだ。

それは残劇としか言えなかった。
辺りには闇夜の黒より深い黒が海のように広がっている。
その中心、黒い海の中央に位置していた“物”は人の形をした地獄そのものだった。
服は破れ千切れ、露出した肌には肌ではなく骨、僅かに残った肉は所々喰い荒らされ、腹部からは桃色の腸や内臓が溢れ、それすら貪り喰われていた。
さらに片腕が千切れ、必死に抵抗した形跡があった。
顔面からは片方の眼球が飛び出し、その表情からは恐怖や絶望が読み取れた。
血にまみれた肌から僅かに覗かせる白い肌から以前は美しい女性だったのだろう。


「ぁ………ぁ……」
男の背後から声無き叫びが聞こえた。
「う――――!」
「吐くなよ」
この残劇から耐えられなくなり地に手をつき嘔吐しようとした少女を男が止める。
「嘔吐物から私達に繋がっては面倒だ。特に君は令嬢だからな」
「分かって……いるわよ……」
呼吸を整えながら少女が立ち上がる。
「それにしても酷いわね。一体何の為に……」
「さあな」
すると男が女性の方へ歩み寄った。黒い血溜まりに足を踏み入れ、パチャパチャと湿った不快な音を立てた。
男は女性に黙祷を捧げると、恐怖に見開かれた目を静かに閉じさせた。
「切り傷に刺された傷、食い千切られた痕まであるな。……使われた武器は刃物から槍までということか」
少女が僅かに表情を濁らせる。恐らく目の前の女性の苦痛を想像してしまったのだろう。
男が地面に指を付け血を掬う。
「まだあまり時間が経っていない。模索すれば犯人が見つかるかもしれんぞ」
「行くわよっ!」
少女が怒りを噛み殺しながら叫ぶ。深黒の瞳には焦りと怒りが渦巻いていた。
「む――――!」
男が走り出そうとした少女の腕を掴み飛翔した。刹那、二人が居た場所に爆発が起こる!
女性の遺体が僅かに焼け、焦臭い臭いを発する。
着地した男が苦々しげに口を開く。
「リサ、どうやら想定外の人物が現れたようだ」

74携帯物書き屋:2007/02/09(金) 14:27:33 ID:mC0h9s/I0
男――――ヘルベルトが少女の前に立ち塞がる。
爆煙から二つの人影が現れた。煙が薄れ輪郭がはっきりしてくる。
それはどちらも男だった。しかし二人は歳が大きく離れていた。

一人は暗そうな黒髪の若い男。
もう一人は白髪混じりの長髪に同じく胸元まで伸びる顎髭を携え、深緑の外套を纏い、先端に宝玉が付く太く長い杖を持った初老の老翁だった。
その老翁の周りには何とも言えない禍々しい空気が漂っていた。

「貴様は確かスマグの博士……。貴様がこれの犯人か?」
ヘルベルトの左眼が悲惨な最期を遂げた女性へ僅かに向けられる。一方で眼前の老翁を見据えていた。
すると老翁は静かに首を振り否定の意思を見せた。
「知らぬな。愚老は強い魔力を感じた故辿って来たら此処に着いたまで。そなたとは例の洞窟の戦い以来だの。と申しても愚老は金色の魔弓使いに殺られたのだがな」
老翁が深い皺が刻まれた喉を震わせしわがれた声を発し笑った。
すると老翁の周りの異様な空気が膨張した。
対するヘルベルトも射殺すような目線を老翁に向けている。
両者の間に不可視の殺気が空中で絡み合う。

一方で梨沙は、自分が別次元に居るような異様な感覚を感じていた。
(これが闘い……? 駄目だ、耐え切れない)
この空気に耐えられなくなり叫び出しそうになった梨沙の眼前にヘルベルトの分厚い手が現れた。
「心配するな。私は君の盾になると言ったのを忘れたのか?」
囁くような声。しかしそれは梨沙の胸に強く響いた。
「いえ、忘れていないわ」
梨沙が小さく微笑む。

「ではそなたの欠片を頂こう」

「――――!!」
黙り込んでいた老翁が殺気の籠った声を発した。
反応してヘルベルトが梨沙の前に身を乗り出すと同時に老翁の杖先から現れた五条の火球が唸りを上げて二人を襲うっ!
ヘルベルトの前で爆発が起こる。梨沙は爆風だけで飛ばされそうになりながらもゆっくりと瞼を開けた。

初めに映った物は鋼の背中。次にその頂上に位置する蒼い頭髪が目を奪う。
ふと更に前方を覗くと身を覆うような巨大な盾が二人を爆発から阻止していた。もう片方には様々な装飾が飾られている心を奪うような細長の長剣を握っていた。

「大丈夫か」
あまり感情が含まれない声。既にヘルベルトの意識は眼前の老翁に絞られていた。
「犯人の捜索を阻害された事は不快だったがこれも良い。久々の闘いだ。さあ、貴様の限界を私に見せろ!」
言葉と同時に老翁が杖を振るい、十条の火球が飛び出す!
それをヘルベルトが十字を描かれた巨大な盾で防ぐ。
老翁の攻撃は止まない。次にヘルベルトの足元の大地が裂け、そこから火が噴き出す。
ヘルベルトは梨沙を長剣を持った腕で抱き上げ跳躍。炎をかわす。
それでも老翁の攻撃は止まず、杖を振るうだけで異常現象を発生させる。
次いで爆炎が、雷撃が、風刃が、氷塊が二人を襲うっ!
「どうした、貴様の力はその程度か?」
着地したヘルベルトが、悠然とした態度で老翁を煽る。
「よかろう。愚老の最大の術で死にたいなら望み通りに」
そう言うと老翁中心に巨大な魔法陣が幾重にも描かれていく。
老翁の口からは不可解な言葉が紡がれていた。
「む、この呪文は禁忌の術か」
ヘルベルトの口元が不気味に引き吊る。
「――――いいだろう。ならば此方も全力で行くぞ」
すると盾を前方に掲げ、何かを呟き出した。
「――――光の加護を受けし盾よ、その力を完全解放する」
突如、盾の十字が光を発し前方に分厚い光の膜が生成し始めた。
同時に老翁の呪文も完成した。

「メテオシャワーッ!!」
「ディバインフォートレスッ!!」

同時に怒号が上がった。
老翁が紡いだ呪文により宙界から召喚された隕石が轟音を纏い降り注ぐ。
対してヘルベルトが紡いだ呪文は完全に護りの魔法だった。
それによって現れた光の障壁が隕石とぶつかり合うっ!
耳を貫くような轟音。次いで視界が白に変わった。

梨沙が瞼を開けると、ヘルベルトが盾を構えた状態のままで悠然と佇んでいた。
「な、なんと……」
老翁が驚愕の表情を浮かべる。無理もない、自己の最高の術が完全に防がれたのだから。
「禁忌の術まで使うとは予想外だった。それでは私の番だ」
ヘルベルトが一歩踏み出す。
そこで立ち止まると、半分だけ振り向き、梨沙に不器用な笑みを向ける。
「大丈夫だ。リサ、暫し下がっていろ」
再び戦鬼の表情に戻ると、長剣を構え老翁と正面から向き合った。

75携帯物書き屋:2007/02/09(金) 14:28:55 ID:mC0h9s/I0
老翁――――レオン=バックスはスマグで最高の魔術師であり、博士だった。
幼い頃から知力と魔力に恵まれ、周囲は彼を天才だと称えた。
それは彼も誇りに思っていたし、その力を世間に役立てようと必死に勉学にふけった。
青年程にもなると、彼は世界中を回る旅に出た。だがそれが彼のどこかを変えてしまった。

美しいと思っていた世界が、愛で満ち足りていると信じていた世界が、逆転した。
彼が旅で見た世界は汚れ、憎悪で満ち溢れていた。
彼は絶望した。この世界に。人間という生物に。
遂に彼は部屋に閉じ籠るようになる。

数ヵ月後、彼に転機が訪れる。
レッドストーン。幻の石の存在だった。その日を期に彼はレッドストーンの研究を始めた。
存在しないとまで言われた石を必死に探し、探し、探し、情報を手に入れたときには既に老人になっていた。
それでも彼は夢を追い、富んだ知力と魔力を武器にその場所に向かった。
ただひとつの願いを胸に籠めて。

あの石さえあれば、あの石さえあれば世界は生まれ変われる――――!


「馬鹿な」
老翁が言葉を零した。己の誇りでもあった魔術が悉く破壊されてゆく。
「ぬううっ」
三条の雷撃を放つ。だがそれも眼前の男の俊敏な動きでかわされてしまう。
弾かれたように男が飛び出す。
老翁が接近戦を避けようと自己に風の加護を掛け、軽くなった体で後方へ跳ぶ。
「くだらん」
突如ヘルベルトの持つ長剣が煌めいた。光が集結し、黄金に輝く。
振り抜く。すると一条の閃光が剣から放たれた。
老翁は瞬時に防御魔法を紡ぐが、そんな物なかったかのように貫通し、老翁の杖を持つ腕ごと両断っ!
腕と鮮血が宙を舞う。
「ぐおぉ……」
すぐさま残りの腕で治癒魔法を紡ぐが、ヘルベルトが魔風の如く接近し、もう片方の手首を撥ね上げる。
老翁がくぐもった悲鳴を上げる。両腕を失ったのでは魔術どころではない。
「エクスカリバーだ。貴様も聞いたことくらいあるだろう」
ヘルベルトがエクスカリバーと呼んだ剣を老翁の首筋に向ける。
「か……は……それ、その石さえ、あれば…私の夢は………世界は……!」
老人がヘルベルトに寄りすがるように近づく。手首を失った腕でヘルベルトの胸に手を伸ばした。
「…すまんな、老翁。せめて静かに眠れ」
エクスカリバーが一閃される。その軌跡は老翁の頭から股へと垂直に振り下ろされていた。
断面から噴き出す血潮がヘルベルトの全身を汚した。

ヘルベルトは向き変えると、今まで隠れていた老翁の契約者の若い男へと剣先を向けた。
「ひ、ひいいっ」
老翁によって生気を消費し疲労して座り込んだまま男は後ずさった。
「覚悟はできていたのだろう?」
ヘルベルトの無情の剣が男の鼻先に向けられる。
「やめて、ヘルっ!」
赤川梨沙の声で戦鬼の動きが止まる。
「リサ、こいつは…」
「自分で言った事、忘れたの?」
その言葉で戦鬼の表情が濁り、渋々剣を納める。
「あ、ありが、とう…」
男が間の抜けた声で梨沙に目を向けた。
「あんたも男の癖にだらしないわねっ! 見逃して貰ったのだからさっさと失せなさい!」
「ひいいっ」
腰を抜かしながら男が逃げて行く。

「荒れているな」
「荒れてなんかないわっ!」
「そういうことにしておこう。私はこれが手には入れば文句はないのだがな」
ヘルベルトが老翁から出た石を拾い上げた。すると胸に吸い込まれて行く。
「これがレッドストーンね…」
ヘルベルトが顔を向けると梨沙が魅せられたような表情をしていた。ヘルベルトは鼻先で笑った。


梨沙はこのとき決意と確信を同時に感じていた。
(この事件を起こしている犯人はあたしが絶対に捕まえて見せる。そして、今夜の闘いで確信した。ヘルが味方なら誰にも負ける気がしない)

孤高の剣士は、彼女の判断で少し嬉しそうだった。

76携帯物書き屋:2007/02/09(金) 14:49:07 ID:mC0h9s/I0
どうも。自分の執筆速度の遅さに半ば絶望中の携帯です。まあ、携帯なのが原因なんですけど・・・。
やはり自分専用のPCが欲しい・・・でも買っちゃうと大赤字なので手が出せず。

最近他の方々の作品を見て赤石が急にやりたくなって復活しようと思ったのですが、
知り合いもほぼいなくなっていたので断念。しかし無言で引退しても未だにギルドに所属していたのは少し感動でした。
蹴るのが面倒なだけかもしれませんが。

なんだか独り言になってしまいましたね・・・汗
今度は明るいほのぼの話が書きたいなーとか思いながら書きましたがだんだん暗くなってしましました。

>>ドギーマンさん
オアシス完結お疲れ様です。それと今度はまた長編物の予感・・・・・・?
気になる言葉を残して死にましたしね、リムル様。
それと恋愛話が書けるのは恋愛経験が豊富だからなのでしょうか?

>>海風さん
昔のギル戦のワープ時に泣かされたことを思い出しました。
DAMEONとは何なんだろうか・・・。自分赤石の設定やらはほぼ知らないので分からなかったorz
何者なのだ・・・DAMEOM――――! ライ達は果たして勝てるのでしょうか? 続きをお待ちしております。

>>きんがーさん
いいな・・・幸一。PC買ってもらって。
日曜日はどうなるのでしょうか。先が読みづらい展開にワクドキしながら待ってまーす。

77ドギーマン:2007/02/09(金) 15:03:38 ID:s7gQQorw0
ミーシャと分断されたカインは、甲冑の男と対峙していた。
曲刀に小ぶりな丸盾、ショルダーパッドといった動きやすい装備。
青い髪に精悍な顔立ち、隆々とした体躯にはところどころ傷跡が見える。
カインは曲刀を抜き放つと、甲冑の男に剣を構えた。
甲冑の男、全身を黒金色の鎧に身を包み大剣を持って無言で立っている。
「俺の・・・・・名は、オルカート・・」
カインは驚いた。この男が喋るところは初めて見たからだ。
「カインだ」
「カイ、ン・・」
「奴らと一緒に居る割には、礼儀正しいんだな」
「エリプトの戦士は・・・・・一対一の決闘の際には、名を・・・名乗らなければならない」
「エリプトだと?」
カインは遥か昔に滅んだ大国の名が突然出てきたことに不審な顔をした。
「エリプト人の末裔か?」
「・・・・・」
オルカートは何も答えずに大剣を鞘から抜き放つと、鞘を捨てて剣を構えた。
カインとオルカートはしばし無言で向き合っていた。
カインは息をゆっくりと吐き、走り出した。

剣を構えて突っ込んでくるカインにオルカートは大剣を払うように振るった。
唸りを上げて空を斬る剣をカインは頭を下げて避けた。
頭上を剣が通過する。カインは立ち上がりざまに剣を振り上げた。
ガンと音を立てて鎧に剣が弾かれる、かなり分厚い鎧らしい。
剣や矢を弾くほどの鎧は4、50キロの重量があるという。
オルカートは手首反して逆に剣を払ってきた。
左側から迫る剣を盾で受け止めてカインは隙だらけな胸当と腰当の間に剣を滑り込ませた。
鎧の間から血が噴出し、筋肉を切り裂いて内臓を突き抜ける感触がカインの手に伝わった。
手応えあったとカインは思った。しかし、オルカートは全く苦痛の声をあげなかった。
「なに?」
カインは兜に隠れたオルカートの顔を見た。カインの眼とオルカートの兜から覗く眼が合った。
オルカートの眼は、生きている人間のそれではなかった。瞳孔が開き、生きている輝きを感じさせない。
はぁっとオルカートは深く息を吐いた。その息の臭いを嗅いでカインは顔を歪めた。
凄まじい腐敗臭が漂うのだ。あまりの臭さにカインは鼻と口を押さえて顔を逸らした。
そこにオルカートの蹴りが飛んできた。
「ふぐっ」
カインは吹っ飛ばされて地面に倒れこんだ。慌てて身を起こすと、
カインの頭目掛けてオルカートの腹に刺さったままだった剣が飛んできた。
「うおっ」
体を寝かせて剣を避ける。剣はカインの後方の地面に突き立った。
カインは立ち上がると、オルカートを睨んだ。
「なんだよあの臭い・・」
鼻に臭いがまだ残っていて、吐きそうだった。
カインの視線の先でオルカートは腰当に垂れた血に手を濡らし、じっと自分の血を見ていた。
カインは動かないオルカートの様子を見ながら、後ずさりして剣を拾いに行った。
オルカートは自分の血を見て手を振るわせた。自分の血に記憶を重ね合わせていた。
オルカートの脳裏によぎるのは、自分の手の内で倒れる女の姿。
自分の手で殺してしまった女の姿だった。女の血で塗れる手と、自分の血が重なる。
剣を引き抜くカインの前で、オルカートは血に塗れた手をぎゅっと握りこんで雄叫びを上げた。

「 う お お お お お お お お お お お ! ! ! 」

78ドギーマン:2007/02/09(金) 15:05:14 ID:s7gQQorw0
空気がビリビリと震え、カインはひるんだ。
「なんなんだよ一体。致命傷のはずだろ」
カインは剣を引き抜くと再び走り出した。
カインは気づいていなかった、オルカートの腹からの出血はすでに止まっていることに。
「があ!」
オルカートも走り込んできて、
軽く飛んでさっきより遥かに素早く剣を振り上げると、全体重をかけて右肩から斜めに振り下ろした。
ぶぉんと音を立てて剣が風を切り裂く。カインはあと一歩のところで踏みとどまった。
余りの剣の速さに盾が反応出来なかった。もし、あと一歩踏み込んでいたら殺されていた。
ダンと音を立てて爆発するように剣が叩きつけられた地面が弾ける。
体勢を立て直される前に懐に入ろうとするカインよりも早く剣が振り上げられる。
オルカートは頭上に大剣を振り上げ、大きく踏み込んでカインに垂直に振り下ろした。
カインは攻撃を先読みして左前に大きく踏み込んで避けた。そして、そのまま兜の下に剣を滑らせて首を切り裂いた。
オルカートの大剣が地面を割いて刃先を埋めた。
首を斬ったはずなのに曲刀にはこびり付く程度の血だけで、ほとんど首からは出血が見られない。
カインはそれに戦慄を覚えた。相手は人間ではない。
オルカートの剣が引き抜かれ、カインに向かって払い斬りが飛んできた。
カインの手元から盾が飛び、宙に浮いてオルカートの剣を受け止めた。
ガン!と鈍い金属音を立てて剣をぶつけられた盾がへこんだ。
盾を手元に戻して飛び退くカインの目の前でオルカートは唸った。
「グ・・・う・・・ウぅ」
喉を切り裂かれているにも関わらずもう声を出し始めている。
カインは踵を返して走り出した。
「不死身の化け物なんか相手にしてられるかよっ」
オルカートも甲冑をガシャガシャと鳴らしてその後を追いかけてきた。
カインは全速力で走った。軽装なこっちに比べて鎧を着ているオルカートは走るのに向いていないはず。
すぐに振り切れると踏んでいた。
しかし、オルカートのやかましい鎧を揺らす音が途切れたのが気になって後ろを振り返ると、
オルカートの姿がない。何か嫌な予感を感じてカインは目の前の地面に身を投げ出した。
ズン!と音を立てて地面に鉄の塊が落下してきた。オルカートだ。
へこんだ地面の中、ゆっくりと立ち上がり、ごふぅっと息を吐いた。
カインは倒れこんだ身体を仰向けにし、尻を地面につけたまま後ずさりした。
「ちょっと待てよ・・」
オルカートはゆっくりとカインのほうへ歩いてきた、足を引きずっている。
あの重量で10メートル近い跳躍を見せたのだ、足がどうにかなってもおかしくは無い。
しかし、それもじきに治る。
カインは震える足を言うことをきかせるように叩いて立ち上がると、
再び背を向けて走り出した。ガクガクと恐怖に震える足をなんとか前に進める。
「ウゥ」
オルカートは剣に魔力を込めて大きく振りかぶると、地面を突いた。
ドドドドドドドン!と突かれた地面から一直線に地面が吹き上がり、
突然足元から突き上げてきた衝撃にカインは吹っ飛んで倒れこんだ。
カインは悟った。逃げられない。
足が治ったらしいオルカートは、カインに向かって走ってきた。
そして、地面を蹴って跳躍すると剣を振り上げてカインに向かって落ちてきた。
落ちてくるオルカートを見上げて、カインは叫んでいた。

79ドギーマン:2007/02/09(金) 15:05:55 ID:s7gQQorw0
カインが横に身を転がせると、カインがさっきまで倒れていた地面が吹き飛んだ。
カインは息を震わせながらなんとか立ち上がった。
どうすればいい?どうすればいい?
考えるほどに混乱してくる。
無理やりに呼吸を落ち着けようとする。狙うはオルカートの首しかない。
いくら不死身でも。首を落とされたら死ぬ。昔話に聞いたことがあった。
そんな発想を出す時点で、すでに冷静ではなかったのかもしれない。
カインは近づいてくるオルカートの次の攻撃に備えて集中した。
オルカートは大剣を振り上げた。そこに一気にカインは懐に跳び込もうとした。
そのカインの目にオルカートの斧が3本見えた。幻ではない。
垂直に振り上げられた剣と、左に水平に構えられた剣、そして、真っ直ぐにカインに切っ先を向けた剣。
カインはその異様な姿に飛び込むのを躊躇して止まってしまった。
振りぬかれる三本の剣に咄嗟にへこんだ盾を構えると、カインはまた後方に吹き飛ばされた。
身体を起こして膝を突いているカインは目の前で自分を見下ろす鎧を見上げた。
無理だ。あんな攻撃されて懐に飛び込むどころの話じゃない。
オルカートは剣を振り上げた。今度は剣が何本も重なって見える。
やけに景色が遅く見えた。
死の直前にはそう見えるらしい。
カインは絶望していた。
しかし、彼は完全に生き残ることを諦めていたわけではなかった。
オルカートの顔に向かって盾を飛ばした。
盾はオルカートの兜にぶつかり、オルカートの兜は上を向いた。
オルカートの大剣は一瞬動きを止めたが、すぐさま振り下ろされた。
10本ほどの剣が高速で次々と降り注いで行く。
剣が叩きつけられ、地面が弾けていく。
そしてその剣を振り下ろすオルカートの身体の後ろで、オルカートの兜が地面に転がった。
カインは、はぁはぁと呼吸を荒げた。
首のない鎧が膝をついてガシャンと倒れた。
「や、やった」
そう言って倒れる鎧を見下ろすカインの下で、兜がかすかな唸り声を上げた。
「フ・・フ・・・・ォ」
「え?」
カインは兜を見下ろした。
見たくも無い兜の中身が、兜の外に転がり出ていた。
「う・・」
カインは顔を歪めて口元を押さえた。
なんと言おうか、ゾンビよりも新鮮な死体?
とても300年以上活動し続けたアンデッドとは思えない。
ガシャリと鎧が音を立てた。
「え?」
「ウ・・・ォォ」
カインの足元でオルカートの顔が呻く。
ノロノロと立ち上がろうとする首なし鎧。
カインはオルカートの顔を思い切り蹴飛ばした。
遠くに転がっていく首、ガシャガシャと立ち上がって首を追いかけていく鎧。
カインはオルカートを蹴った靴を地面にこすり付けると、
全速力で走り去った。
「一対一の決闘に不死身は反則だろうが」
そう言って広い地下通路を走り抜けた。

80ドギーマン:2007/02/09(金) 15:08:13 ID:s7gQQorw0
あとがき
>>61-66の続きです。

81ドギーマン:2007/02/09(金) 15:11:40 ID:s7gQQorw0
――何かを得るためには、相応の対価を支払わなければならない。
  ならば、己の持つ全てを捧げたとき、人は何を得るのか。


遥か昔に滅んだ大国、エリプト帝国。
かの国にはオルカートという戦士が居た。
オルカートは強かった。帝国のなかで指に数えるほどに。
しかし帝国滅亡の直前、悪魔に恐れをなした彼は妻を連れて逃げ出した。
砂漠を彷徨い、ブルンネンシュティグに落ち延びた彼らはそこで新しい人生を歩むことに決めた。
だが、彼らのあとに帝国から落ち延びてきた移民たちを見て、
オルカートは自責の念に襲われた。
自分は戦士として帝国のために最後まで戦うべきではなかったのかと。
たとえ死んだとしても、帝国の戦士として誇り高く死ぬべきではなかったのかと。
彼の後悔の心は日増しに大きくなり、やがて酒に溺れるようになった。
毎日酒に酔っては暴力沙汰を起こして帰ってくる日々。
それでも妻は彼が立ち直ることを信じていた。

ある日、オルカートの前にジャシュマと名乗る人物が現れた。
鉄仮面に顔を隠した正体の知れない人物。
ジャシュマは自分は悪魔だと言った。
そして、オルカートに交渉を持ちかけてきた。
もう一度、戦士として誇り高く戦える場所を提供する。
代わりに、オルカートが持つ全てを自分に捧げろと。
オルカートは思い悩んだ末に、再び戦士となることを選んだ。
そして自分を信じていた妻を、自らの手で、殺した。

約束を守ったオルカートの前に再びジャシュマは現れた。
オルカートは約束は守った。さあ連れて行けと言った。
しかし、ジャシュマはまだ捧げていないものがあると言った。
それは、彼の命だった。

ジャシュマはオルカートを殺した。
殺されて後、オルカートの死体はむくりと起き上がった。
オルカートはジャシュマに死すらも奪われ、悪魔の尖兵となった。

82ドギーマン:2007/02/09(金) 15:23:42 ID:s7gQQorw0
あとがき
不死身のオルカート君の過去です。

>キンガーさん
幸一と張を除いて全ての人物が日曜日に集結しようとしてますね。
どういう展開になるのか、楽しみです。

>携帯物書き屋さん
犯人との対決になるかと思いきや、予想外の展開でした。
リサを守るヘルがかっこいいです。

83第40話 令状:2007/02/09(金) 19:15:48 ID:NwlOS0pk0
「パパちょっと待って! 令状とらなきゃ動けないわよ!しかも後2日しかないし!」
美香は少し大きな声で話した。当然だろう、日曜に取り締まることなんて滅多にない。
緊急を要する時でもないかぎりほとんどないからだ。
しかも父から連絡があったのが木曜の夜。裁判所に行けるのは金曜の今日だけだからだ。
おまけに容疑者不詳ときている・・・無理な相談だった。
「まったくどうかしてるわよ!一応上司に相談してみるけど期待しないでよ?」

電話を切った田村は頭をかきながら佐々木に振り返った。
「お役所仕事って参るぜ。犯罪に曜日なんか関係ないっつーの!」
「そいつは困りましたねぇ。うちだって踏み込むときは土日はあんまり動きませんからね
月曜の日の出と共にってのが普通ですから」
「今回は容疑者不詳でしかも動く標的ときてる。職質から逮捕までつなげなきゃならん」
「万が一、書類上問題がない人間なら何もできませんしねぇ。」
「必要な居留証明書があったら手をだせないなこりゃ。入管うんぬんではないかもしれん」
「不必要なものも携帯しているかもしれませんよ?」
佐々木が思い出したようににやっとした。
「刃物だなw」
「銃刀法違反ですよ!それだけでも現行犯でいけますよ!」
「容疑じゃなくて刑事被告にできるなw」

ある程度、逮捕に目処がたったときに美香から電話が入った。

「もぅ! パパのせいだからね! あたし初めて裁判官に嘘をついたわよ!
もしこれが空振りだったら承知しないからね!」
「おぃおぃ。嘘をつけといった覚えはないぞ^^; ちなみになんていったんだ?」

「連続殺人の容疑者が不法滞在者で日曜にその動きがあるって言ったわよ。」
「本当の事じゃないか?」
「容疑は何も固まってないのよ?判ってるの?こういわれたのよ私
『それなら令状はいらない。管轄が警察だよ君。入管は出る幕じゃない』
それで、殺人の容疑はなくとも、間違いなく不法滞在者ですって言い返したわ」
「そうか・・・で、結果は?」
「とれたわよ、令状。あぁどうしよ?バレたらただじゃすまないわ;;」
「よし!よくやった!感謝する!」

取引に現れる人物が日本人か、もしくは合法滞在者で
しかも刃物等も所持していなかった場合、田村親子は首が飛ぶ。
しかし田村には確信があった。
奴は絶対に現れる。張の勘を信じようじゃないか。

美香は電話を切ってから少し微笑んだ。
「感謝する!」
か。生まれて初めてパパに言われた・・・って、そんな場合じゃないわよ!
空ぶったらあたしは終わりなのよ。もぅどうなっちゃうの?

田村親子の電話が終わるのを待って、佐々木は状況報告をした。
「例のUSBの件なんですがね、東にあるネカフェではどこも接続できないみたいです」
「なんだと?それじゃネットバンクに不正アクセスする手立てがないじゃないか?」
「もう一度チェックしてみます。ちなみに取引のある2件は両方とも待ち合わせ場所が確定しました」
「そこからツケルしかないのか・・・とりあえず、ネカフェの件を洗いなおしてくれ」
「はい。後、最後の1件なんですが、どうやら不成立に終わったみたいです。1,2度メールでやりとりして
以後、動きがありませんでした」
「了解。あとは当日の職質、身体検査の手順整理だな」

84第41話 予定は未定?:2007/02/09(金) 19:18:19 ID:NwlOS0pk0
キンガーさんから日曜の予定が決まったと連絡が入った。
「相手との待ち合わせ場所が決まったよ。君たちとはその前に先に待ち合わせしよう」
いよいよね。
相手を見つけられなかったらどうするのかしらと思い聞いてみた。
「一応、携帯の番号の交換をしてある」
なるほどね。現地についてから連絡とれるのね。

幸一が気になるのか質問してきた。
「日曜どうなってるのさ?w」
「相手とは午後2時に落ち合うことになったわよ」
「わくわくするな〜」
「あんたどうしても来れないの?」
「だめだよ。レポートだもん;;」
「ふwご愁傷様w」
「あいあいw」

とりあえずデルモちゃんにもメールして日曜の予定を伝えておいた。
彼女の興奮気味らしいw

85ドギーマン:2007/02/09(金) 20:29:36 ID:s7gQQorw0
カムラはいつものブルンネンシュティグの街の中で立っていた。
黒髪の小さな女の子は大事な友達を探してキョロキョロしていた。
往来を行きかうのっぺりとした顔のない人々。
カムラは彼らを気にかけるでもなく、ただ友達を探して辺りを見回していた。
カムラは駆け出した。
小さな身体を大人たちの足元に滑り込ませ、人間の柱を避けて走る。
友達の名前を呼んだ。
すると、カムラの目の前に通りの端っこに座り込むウルフマンが見えた。
カムラはウルフマンに向かって手を振って走り出した。
ウルフマンは尻尾を振ってカムラに笑みを向けると、地面に伏せて背中を示した。
カムラはウルフマンの大きな背中に飛び乗った。
ウルフマンの背中に揺られながらカムラは友達を探した。
小さなカムラよりも小っちゃい友達だから、カムラは何度も首を振って目をこらした。
ウルフマンが急に早く走りだした。
カムラは驚いて、慌ててウルフマンの背中にしがみ付いた。
どうしたのかと思って後ろを振り向くと、
のっぺり人間たちがウルフマンのように四つん這いでカムラ達を追いかけてきていた。
カムラは身を震わせてウルフマンの暖かい毛むくじゃらの背中に顔を押し付けた。
ウルフマンは優しい声でカムラに言った。
「心配しないで。ボクがついてる」
ウルフマンはさらに早く走った。
顔を上げたカムラの目の前に見えたのは、
何故か古都の街に無いはずの水路に切り取られた行き止まりだった。
カムラはウルフマンの背中にぎゅっとしがみ付いた。
ウルフマンは全くの躊躇もなく、水路の上へ飛び出した。
向こう側に届くかと思われたが、カムラ視界の中を向こう側の石畳が上へ通り過ぎた。
深い深い崖のような水路を落ちながら、ウルフマンは言った。
「大丈夫、しっかり掴まって」
水路の冷たそうな水面が目の前に迫ってきた。

ダタタン!!
激しい音を立ててカムラは目を覚まし、身体を起こして床の上で目を擦った。
またベッドから落ちちゃったらしい。
カムラの腕の中、ウルフマンぬいぐるみがおはようと言った気がした。

86ドギーマン:2007/02/09(金) 20:32:45 ID:s7gQQorw0
あとがき
前スレのカムラお散歩で登場させたカムラでまた書いてみました。
夢オチです。

87名無しさん:2007/02/09(金) 21:46:23 ID:mwo5Pd0M0
>>携帯物書き屋さん
来ましたね〜、ヘルの戦闘シーンが目に浮かぶようです。
やっぱり誰かを守るって姿が剣士だと思いますよ。剣よりも盾の存在感が大きくて嬉しいです。
メテオシャワーすら跳ね返すのはまさに戦神ですね。カッコイイ。

>>きんがーさん
> 「お役所仕事って参るぜ。犯罪に曜日なんか関係ないっつーの!」
なんか本当に現場の声、というかリアルさが伺えます(笑)
面白半分のぎゃおすちゃんたちと真剣な田村・佐々木ペアの二つの視点が面白いです。
警察二人、応援したくなるなぁ。

>>ドギーマンさん
オルカートの話、以前書かれていたヘルメルとバルガのお話を連想しました。
アンデッドとして生きるってどんな気分なんだろう・・バイオハ○ードすら怖がる私には想像は無理でした。
カインが生きててくれて何よりです。できれば、ミーシャとまた会えれば良いな・・なんてすぐ考えてしまう。
カムラとウルフマンの話も和みました。悲劇の後には和みというサンドイッチがドギーマンさん凄いですね(笑)

88ドギーマン:2007/02/10(土) 23:07:03 ID:s7gQQorw0
そいつは両手に余るほどの大きさの卵形の赤い石を抱いて立っていた。
背の低い、ダボダボのコートと革ズボンに身を包み、身の丈に合わない大きな手袋と靴。
肌を一切露出させぬ姿だった。子供が大人の格好をして遊んでいるとも取れる。
その顔は奇妙な形状の兜に隠され、格子状の闇間から奇怪な眼光が漏れている。
その小人、ジャシュマの足元でガーゴイルのような赤い悪魔が事切れていた。
ジャシュマにだけ見えていた。石にすがる様に擦り寄る赤い悪魔の魂が。
ジャシュマが「消えろ」とだけ言うと、その魂は吹き消される蝋燭の火のようにかき消された。
ジャシュマはククっと笑って赤い石を撫でていた。
「その石、よこしなさい」
背後からの声にジャシュマは振り向いた。
「やあ、無事だったのかい。と、いうことはリムルは死んだのかな」
「ええ」
「そうかそうか、ならあとで死体を回収しなくてはな」
ジャシュマは男とも女とも分からない声を弾ませた。
「灰になったわ」
「・・そうか、残念だ」
ジャシュマは声だけで残念がって見せた。
ミーシャは槍を構えた。ジャシュマを見るその眼は真っ直ぐで、冷たく鋭かった。
ジャシュマはミーシャに向き直った。その胸に付けた穴の開いた太陽を模ったような飾りは、
その中の闇がまるで逆にミーシャを覗き込んでいるようだった。
「カイン君はいいのかい?彼ではオルカートには勝てないよ」
「どうでもいい」
「つれないんだな」
「もう、黙って死んでくれる」
ミーシャは走り出した。
「悪魔を殺した女か。面白そうだ」
ジャシュマは低く笑った。

「ウゥオォォォ・・」
遠くから聞こえる叫び声、ガシャガシャと喧しい鎧の音。
「くそ、しつこいヤツだ」
どこまでも追いかけてくる不死身の化け物にカインは辟易していた。
おそらく、ジャシュマを殺すしかオルカートを止められる方法は無い。
しかしこのままジャシュマのもとへ向かっても、二人を相手にしなくてはならなくなる。
なんとかオルカートを振り切る方法を考えなくてはならない。

89ドギーマン:2007/02/10(土) 23:07:43 ID:s7gQQorw0
「いやぁ!」
槍を振り上げてジャシュマに突撃するミーシャ。
「その程度で僕を殺せると思っているのかい?」
ジャシュマの言葉は不思議な響きをもってミーシャの鼓膜を振動させた。
すると、ミーシャの身体からガクンと力が抜けていった。
突然のことに驚いて、ミーシャはジャシュマの前で動きが止まってしまった。
ジャシュマの右手が袖の中に引っ込むと、袖の中から剣が伸びてきた。
ミーシャは身体を反らして剣を避けると、よろよろと後退した。剣に斬られて頬を血が伝う。
身体が重い。まるで力だ入らない。疲れているとかそういう類のものではない。
「ふふふ、お疲れのご様子だね」
「くっ、なに?」
「ははは、僕は魂を支配すると前にも言ったろう?言霊を操つることなど造作も無い」
そう言って石を持った左手は袖の中に引っ込み、次に手が出てきたときには石は消えていた。
今度はジャシュマがふらふらのミーシャに向かって走ってきた。
ジャシュマの右袖から伸びてきた剣を槍で防ぐと、ミーシャはたたらを踏んで後退した。
「あまり動かないでくれないか。戦うのは苦手でね。あまり傷をつけずに殺してあげたいんだ」
ミーシャはリムルの言葉を思い出した。
「死体を、どうするつもり?」
ジャシュマはクククと笑った。悪魔という連中はこんなにもよく笑うものなのだろうか。
「死んでからのお楽しみさ」
そう言うと、ジャシュマの足元から黒い霞が湧いた。
そして、黒い霞を剣に纏わり付かせて槍で地を突いて身体を支えているミーシャに向けた。
「もう、この剣にほんの少しでもかすれば君はそうやって立っていることも出来なくなる」
「いつまで持つかな?」
そう言うと、ジャシュマは低く笑ってミーシャに向かって走ってきた。

「グゥゥ・・・・カイ、ン」
カインは再びオルカートと対峙していた。
正直気が進まなかったが、このままこの化け物を連れて走り回っているわけにもいかない。
オルカートが首を拾いに行ったのを見て、カインには思いついたことがあった。
カインはベコベコにへこんだ盾を前に構え、臭いがこびり付いてしまった曲刀をぎゅっと握った。
「お前のせいで装備一式買い替えだ」
カインがそう言ってオルカートを睨んだ。
「ウオオオオオ!!」
オルカートが雄叫びを上げて走ってきた。
「うおおお!!」
カインも叫んで走っていった。

90ドギーマン:2007/02/10(土) 23:08:37 ID:s7gQQorw0
「ほら、ほら!」
振り回される剣を防ぐたびにミーシャはよろけている。
戦うのは苦手と言うだけあって、ジャシュマの動きは隙だらけだった。
しかし、思うように力のこもらない身体では攻撃にも転じられない。
「避けてばかりでなく、少しは攻めてきたらどうだい」
ジャシュマの言葉にミーシャは悔しがった。しかし悔しがっても力が入らなくてはどうにもならない。
『あいつにもし負けて殺されることになったら、
 そのときはどんな方法でもいいから、自分の死体は残さないようになさい』
こんなときにリムルの言葉が思い出された。自分は殺されるというのだろうか。
『永久に地獄を見ることになるわよ』
地獄ならもう見ている。
ミーシャの脳裏に過去の記憶がよぎった。
ズタズタに切り裂かれて剣を突きたてられた父、黒い灰になって床に張り付いたカイン。
そこで何故か、あのカインの顔が出てきた。
殺された恋人のカイン、復讐の手がかりとして現れたカイン。
二人は名前は同じでも全くの別人だった。
しかし、ミーシャはそこに運命を感じていた。
復讐の運命を。
「こんな状況で考え事とは余裕だね」
ミーシャははっとして迫る剣を槍で受け止め、倒れこみそうなのをなんとか堪えた。
「それなら」
「目が見えなければどうかな」
ジャシュマがそう言うと、ミーシャの視界が突然闇に包まれた。

カインはオルカートの激しい斬撃になかなか近づけないでいた。
オルカートは不死身を盾に防御など考えずに全力で剣を振り切ってくる。
もうさっきみたいな不意打ちはもう効かないかもしれない。
カインは腹を括ると、ボロボロにされた盾を宙に浮かせた。
曲刀を水平に構え、両手で柄を握り締めるとオルカートに向かって走り出した。
オルカートは頭の上に剣を振り上げ、剣先が後ろの地面に付きそうなほどに振りかぶった。
「ガァ!」
「うらぁ!」
目が追いつかないほどの速さで振り下ろされたオルカートの剣を宙に浮いた盾が受けた。
盾が鈍い音を立てて剣に二つに割られた。
カインは構わず曲刀をオルカートに向かって振りぬいた。

突然の暗闇にミーシャは戸惑っていた。何も見えない。
瞼が閉じたり開いたりする感覚はある。ただ目が見えなくなっている。
身体は相変わらず重たく、ミーシャは平衡感覚を失って思わずよろけて膝を突いた。
これではもう避けることもままならない。
近づく気配を感じとって反撃に転じるしかない。
ミーシャは槍を握って、見えない目の瞼を閉じ、意識を集中した。
そして、背後に突如現れた気配に振り向いて槍を突き出した。
次の瞬間、すっと左脇腹に鋭い痛みを感じた。
「かっ・・・・は・・」
ミーシャは身体から力が抜け、うつぶせに倒れた。
冷たい土の感触がミーシャの肌にへばり付いた。
脇腹の傷は少し斬られた程度の浅いもの、決して致命傷ではないようだ。
「ははは、自分が何を指したか見てみるかい?」
ジャシュマの声が響くと、ミーシャの視界に光が差し込んだ。
ぐいと乱暴に髪を引っ張られ、ミーシャの顔が持ち上げられた。
ミーシャの目に入ったもの、それは槍に貫かれて立っているリムルの姿だった。

91ドギーマン:2007/02/10(土) 23:09:24 ID:s7gQQorw0
ミーシャは愕然として声も出なかった。いや、声を出す力もなかった。
「驚いたかい?まあ、偽物だけどね」
リムルの姿はふっと消えてガランランと槍が地面に落ちて跳ねた。
ジャシュマはミーシャの顎を持ち上げ、鉄仮面を彼女の顔に近づけた。
ミーシャの視界いっぱいに鉄仮面の格子の中の闇が広がった。
「やはり、先に話しておこうか」
ジャシュマは何も喋れないミーシャに構わず話し始めた。
「君はこれから死ぬ」
そんな事はとっくに覚悟が出来ていた。
ミーシャは全てを失ったあの日から自分は死んだと思っていた。
「ただし、君の魂は死んだ君の肉体に留まることになる」
「君は痛みも感じず、どんな傷を負っても治る。しかし、肉体の腐敗はゆっくりと進んでいく」
リムルはこれを恐れていたのだ。
「君は僕の魔力がある限り永遠にその肉体で生き続けることになるんだ」
それなら、その肉体でお前を殺してやる。ミーシャはそう思った。
すると、まるでミーシャの心を読んだかのようにジャシュマは言った。
「リムルならともかく、君には無理だ。現にこうして無力に倒れている」
「それに、人質も居る」
「君のお父さんだよ」
父はとっくに死んでいる。死んだ人間が人質になるわけが無い。
ジャシュマのくぐもった笑いがミーシャに聞こえた。
「よく耳を澄ませてごらん」
ジャシュマは自分の胸の穴にミーシャの顔を近づけた。
「ミー・・シャ、ミーシャ・・」
かすかにだが、それは紛れもない彼女の父の声だった。
再びジャシュマはミーシャの顔をぐいと持ち上げた。ミーシャの瞳はぶるぶると震えていた。
「今のは少しだけ僕の肉体を貸してあげた。分かったかい?
 君のお父さんの魂は、死んだときからずっと僕の中にある」
「つまり、君のお父さんの魂を生かすも殺すも僕次第なんだよ」
「いや、生かすも殺すもは適切じゃないな。消すか、消さないかだ」
ミーシャの顔をさらにジャシュマは鉄仮面を触れそうなほどに近づけた。
「魂が消えるっていうのを、死ぬのと同じように考えないでくれよ。もっと恐ろしいことだ。
 何も感じなくなるとか、苦痛に苦しむとかそんなことでもない。ただ、完全な消滅だ」
ジャシュマの闇がミーシャの前に広がった。
ミーシャは心が冷えるという感覚を初めて感じていた。
心臓を締め付けられるような、体中が芯から冷えて震えている。
ミーシャの中の奥底に向かってジャシュマの見えない冷たい手が侵入してくる。
「分かったかい?君はもう僕に逆らえないんだよ」
ミーシャの細い息が震えていた。
心の中の、何かとても大切なものに向かってジャシュマの冷たい手が伸びてくる。
身体が、心が、魂が寒さに震えた。ミーシャは普段意識できない自身の魂の存在を感じた。
「さあ、もうすぐ君の魂に手が届く。どうだい?生きながらにして魂に触れられようとする感覚は」
ミーシャは何も答えられなかった。ただ、ひどい孤独感と喪失感を感じていた。
「人間の精神なんて脆弱なものだ。ただ朽ちていく自身の肉体を見つめさせて、
 この先に永遠に続く時間を見せつけてしまえば、君達人間の心とやらは簡単に壊れてしまう」
「オルカートでさえ10数年で壊れてしまったからね。さて、君はいつまで持つかな?」
ミーシャの精神をジャシュマの闇が覆おうとしていた。
「そこまでだ、彼女から離れろ」
ミーシャの心にカインの声が響いた。

92ドギーマン:2007/02/10(土) 23:18:32 ID:s7gQQorw0
あとがき
ジャシュマ登場です。で、続きます。

>>87
鋭い・・・・。
確かに私の中ではバルガ≒オルカートです。

93名無しさん:2007/02/11(日) 01:08:54 ID:uSJzr8SQ0
>>ドギーマンさん
良いところですね、続きがとても気になります。
ヘルメルとバルガの話は気に入っていたので記憶も鮮明でした。
ジャシュマ、味が出ていて良いキャラです、個人的に好きかもしれない(笑)
ネクロはRSではやった事は無いですが、やっぱり戦闘は苦手っぽいですよね。

94第42話 劉、再び:2007/02/12(月) 01:52:36 ID:vX9Amrn60
「田村君、日曜日は他に誰か必要かね?」
美香は入管の上司に言われた。まずいなぁ・・・。
「今回のは警察の要請だよね?必ず身柄を拘束するためにこちらの力を借りたいと」
「はぃ。あくまで補助的になので、現場の頭数は足りています。こちらからは私一人で十分だと思います」
「そうですか。休日出勤ごくろうさまですね。がんばって下さい」
他人事のように上司は言う。
実際、今回は逮捕者が出ないと、この上司も呑気に構えていられなくなるのに。
「手順は、おそらく最初にうちで身柄を預かって、その後警察に引き渡すことになるでしょう」
「劉という学生の時と一緒かね?」
「そうですね。劉はどうなっていますか?」
「何も話さないらしい。おそらく強制国外退去で落着でしょう」
「服役もないんですか?」
「不正アクセスも被害届けがろくに出ていないんだよ。口座のタイムキーも彼が殺人に
関わった証拠にすらならん」
「ただのオーバーステイ扱いだけですか?」
「いや、二度とこの国の地面は踏めない」
「それでも処分が甘いと思います」
「この国はイギリスとは違って、法律が時代にあわせて変化しないんだよ」
「融通がきかないんですね」
「立法が司法に改正を求められているような時代だ。それにね融通のきかなさは、万人に平等とも言える」
「・・・劉はいつごろ釈放されてしまうんですか?」
「判りませんね。早ければ10日以内でしょう。もう容疑もないですから」
「身柄は現在、電子センターの方ですか?」
「そうだ。しかし全ての事で否認している。田村君、こんな状況でも土日に仕事したいかね?」
「え?」
「外国人は多少の犯罪を犯してでも日本で稼ごうとする。何故だか判るかね?」
「リスクが少ないからですか?」
「リスクはあるさ。答えは簡単だよ。祖国の刑務所より楽だからさ。日本の刑務所はアジアでは最高に
素敵な刑務所なんだよ。囚人同士のもめごとも少ない、食事はきっちり当たる。まず、死なないんだよ
おまけに懲役がとんでもなく楽なんだよ。・・・・そして簡単に騙せる国民。まさに黄金の国だよここは」
「一体何が・・・・」
「初犯に優しいのがいけないんだよ。全ての原因はそこだ。ほとんど国外退去で終わる・・・しかも税金でだ
こんな状況でも、土日をつぶして仕事するのかね?」
「緊急ですから!」
「それでいい。緊急のものはそれに合わせ、そうでないものは金曜までに済ませる。そうやって追うものは区切りが
あるほうがいい。追われる者には最初から休日はないのだからね。ちなみに刑務所にも休日があるんだよ。知ってた?」
「知りませんでした^^;」
「ま、いいでしょ。・・・日曜日の拳銃の携帯を許可する!必ず持っていくように!」
「はぃ!」
「しかし・・・君の親父さんも博打打ちだねぇ」
「え?」
「君が裁判所で嘘をつくとは思わなかったよ。こちらから出来る限りの筋はとおしておいたから
良かったけどね。先日、田村刑事の部下の佐々木君とやらが来て、事の次第を全て話していって
くれたんだよ。うちとしてはGOサインだせる程じゃなかったけど、個人としては納得出来たからね」
「まずいですよね・・・」
「おかげで嘘の上塗りをしましたよ。裁判所が信用してくれたでしょう?」
「するとまさか?」
「田村君、君のせいで僕も首の危機ですからねwこれで組織まで辿り着ければいいんですがね^^」
孤立無援ではなかった事が判って、少しほっとした美香だった。

95携帯物書き屋:2007/02/12(月) 10:55:41 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>73-75

『孤高の軌跡』

瞼にカーテン越しの陽光を感じたが、目を開けるのが辛い。
寝返りを打ち陽光から避ける。ちょうど目覚ましが鳴り出した。
…………うざいから殴り飛ばす。
感触からして高く飛んだらしい。あ、何か音がした。
暫しの間の後、頭に激痛が走る。
「〜〜〜〜!」
諦めて重たい目を開くと、視界には宝石の様な瞳があった。
それはメイド服を着ていて、小さくて俺の隣に横たわっていた。
「うおっリディアアァッ!! 誰がこんな酷い悪戯をっ!」
自らの人形に話しかけてみる。いかん、末期だ俺。
その前に何故こんな事になっているか考えてみる。
……………………あ、俺か。
起き上がり落ちてきた人形を元の場所に戻してやる。さて、学校の準備でもしますか。

朝食の食パンをくわえながら着替えていると、ふとある物が目に入った。
――――銀色のエア・ガン。
それは、以前ニーナから謎の力で強化してもらい、威力なら短銃に匹敵するほどの破壊力を誇る立派な銃だ。
恐らくこれがなかったら俺は吉沢にやられていただろう。
これを見ているとついある顔が蘇ってくる。
「思えばあいつが来たのは四日前なんだな」
つい零してしまう。ま、正確には共に過ごした時間は二日間なんだけど。
――――と、思わず感傷に浸ってしまった。
エア・ガンを視界の隅に追いやり、再び準備を始める。
何だか気分が朝からブルーになっているのでこんな時は良い記憶でも思い出して忘れよう。

えーと……………………特にない。
まだだ、最近じゃなくてもっと古い記憶を!
うーん……………………ないな。
何だか急に自殺してきたくなってきた。これでよく生きて来れたな、俺。
小学校三年生の記憶まで遡ってやっと良い記憶に辿り着くとか異常だ。

再び死にたくなっているともう結構な時間になっていた。
急いで学生服に着替えると、今時髪のセットもせずに家から飛び出した。

玄関を開けて広がる景色。それはマンション六階ならではの絶景。
小鳥が群れをなして飛び、仲良し同士の学生達がはしゃぎながら学校へ向かう光景。
俺はこの光景が好きだ。
清々しい空気を吸いながら軽く伸び。それから叫ぼうとしたがご近所さんがうるさそうなのでやめておこう。

暇潰しに小石を蹴りながら歩く。この時間にもなると見渡す限り学生ばかりだ。
吐き気がするほど。
因みに俺が住んでいるマンションはちょうど都市と住宅街の境界線みたいなんだが、向こう側と比べて本当にこっち側は何もない。
俺の行き付けの怪しい店も向こう側にある。因みにリディアの故郷も向こう側。
ここで携帯を取り出し時間を確認してみる。
みるみる血の気が引いて行く。見渡すとさっきまで吐き気がするほどいた学生が全くいないっ!
無言でダッシュ。以前知人に「お前の走り方は女走りだ」と言われた記憶を思い出したが構わずダッシュ。

「セ…セーフ」
過呼吸気味に息を吸いながら靴を履き替える。
これも俺の運動不足と、来るまでに交通事故に一度なりかけ、犬の糞を二回発見し、猫の死害を一匹見てしまうような不幸な俺を生んだ母さんのせいだ!

悪態をつきながら廊下を歩き、やる気無さげに教室の扉を開ける。
黙って鞄を机の脇に掛けて、授業が始まるまで寝てようかと思っていたら嫌な顔が視界に入ってきた。
前の席の佐藤洋介だ。
「ねえねえ矢島ぁ」
人懐っこい笑みを浮かべながら話しかけてくる。
俺はこういう奴が一番嫌いだ。
「何?」
俺の数少ない特技の一つ、“無関心な態度”が発動した。
それを食らっても洋介は意を介した風もなく続けた。
「ねえねえ矢島知ってる?」
悪戯な笑みを向けてくるが俺の“無関心な態度”は止まらない!
「昨夜さ、また通り魔事件が起こったんだって」
「え――――?」

96携帯物書き屋:2007/02/12(月) 10:56:53 ID:mC0h9s/I0
今聞いた言葉に思わず呼吸が止まる。
「あれ? 知らなかったんだ。今朝のニュース見なかったのか? どこもそのニュースでいっぱいだったのに」
いかにも信じられないといった表情で俺の顔を覗き込んでくる。
俺は動揺を隠すように出来るだけ平静を保った。
「そ、それはどんな事件だったんだ?」
「だから通り魔事件だよ。殺人が付くけど」
「詳細を教えてくれ」
「俺も詳しくは知らないけど、とにかく酷い殺し方だって。やり口からして金曜のと同一犯って線が濃いらしいよ。
綺麗に腕を断ち切るなんて余程の者だろうね」
同一犯? そんな訳あるか。現に犯人であるラルフ=カースはニーナに倒されている。
よって通り魔事件はもう起こらない筈だ。
俺の推理は続く。

いや、待てよ。そんな偉業ができる人物はまだいるじゃないか。もっと身近に!
気がつくと洋介が俺の顔をまじまじと見ていた。
「そ、そうか。サンキュー」
それを聞いて満足したのか、洋介は立ち上がると俺から離れ、元の友達の所に歩き出した。
最後に「矢島も気をつけろよ」なんて言葉を残して。

授業が始まったが俺の思考はずっと同じ事を考えている。
やっぱり、人から何かを奪う事をあんなに嫌がっていたニーナがあんな事をする筈がない。
なら別に犯人が?
思考をそれに絞ってみる。思い出せ、ニーナが残した言葉を。思い出せ、思い出せ、思い出せ。
――――――!
ふと、ある言葉が脳裏を過った。
『そうと言っても砕けた欠片よ』
そうだ。忘れていたがニーナは砕けたレッドストーンという物の欠片を探していたんだ。
更に記憶を高速検索する。
『大きさからして5分の1程度ね』
ニーナは欠片を核にして動いていた。あのラルフも同じだ。
…………そうか。
仮定に過ぎないが俺の中に確信めいた物が浮かんだ。
“アレ”はまだニーナを含め“四人残っている!”
だがその仮定では矛盾が生じる事に気づいた。
――――なら何故ニーナは俺の前から姿を消したのか?
それだけが疑問だ。だがとりあえず現場に行ってみよう。


授業が終わり、俺は今昼休みに洋介から聞き出した現場の公園に向かっている。
その公園は都市と住宅街を繋ぐ広い公園だ。
ただ広いだけという謎の公園で、主に利用者は都市から近道に使う人か、若いカップル。

無駄な思考を巡らしていると間もなくその公園に着いた。
中では警察官達が写真やらを撮ったりと黙々と捜査を行っている。
その中心の白い布を被っている物が恐らく犠牲者なのだろう。
入口には『keep out』と書かれたテープが貼られ無関係の人物の侵入を防いでいる。
その外ではマスコミやら野次馬やらがうじゃうじゃしていて気持悪い。

俺はマスコミや野次馬を押し切って最前列まで来てみた。
「――――!!」
突如激しい違和感が俺を襲うっ!
確かに現場からは激しい異臭や黒い血のりが地面に付着しているがそんな物じゃない。もっと暗い物。
急に視界が闇に包まれる。否、あの白い布しか見えなくなっただけ。
違和感はそこからではなかった。もっと先。
気づくと白い布から細長い微光が地面を伝い、ずっと先まで続いていた。
「そうか。そこか」
意識もしていないのに言葉が漏れた。
自然と足が動き、何かに手を引かれるように進む。
テープを跨ぎ、更にその先の犠牲者の前まで進み――――――
「ちょっと。ここは一般人立ち入り禁止だよ」
「――――――」
両肩に何かが触れる感触を感じると、視界が復活し、俺の両肩を押さえた警察官が居た。
みるみる冷静な思考が戻ってくる。
「君、聞いてる?」
「え、あ……すいません」
気づくとその警察官だけでなく、その場の全員が視線を俺に向けていた。

この状況に気づくと、俺の顔は沸騰した。
無言で回れ右をしてテープを飛び越え野次馬達をかきわけて走る。
この速さ世界新じゃね? とか考えていられるから落ち着いてきた証拠だ。

何とか遠くまで来た。
そこで俺は微かな頭痛に気づいた。
気にせず歩いているとさっきと違う違和感が駆け巡った。
それは頭上から。
勢いよく振り向くが、何もない。
気のせいかもしれないが、金色の残光が見えた気がした。

97携帯物書き屋:2007/02/12(月) 10:57:41 ID:mC0h9s/I0
重い足取りで帰宅すると、初めは何ともなかった頭痛が強くなってきていた。
こんなんじゃ料理にもなりそうにないので今日の夕飯は――――空気。

流石にきつくなってきたのでベッドに沈むように倒れこんだ。
無言でひたすら天井を眺めていたら急に瞼が重くなってきた――――……。

「たっだいまぁー!」
謎の奇声で俺は目が覚めた。
時計を見てみると時間は11時を過ぎていた。
程なくして扉が開かれる音。
「たっだいまぁー! 翔太!」
俺の頭の温度は入ってきた人物の表情や態度により急速上昇した。
「今更何だよ、母さん」
眼前の人物は俺の母親だった。だが帰ってきたのは数ヶ月振りだ。
「冷たいわねぇ。お腹減ったから翔太、ご飯」
「それくらい自分で作れよ」
自分でも信じられない程の冷たい声が漏れていた。
それにより母さんは少し表情を歪めた。
「なによぉ、人がせっかく翔太の為に帰ってきてあげたのにぃ」
その一言で俺の頭の温度は急速上昇し遂には沸点を通り越した。
「俺の為に帰って来ただと? ふざけんなっ! どうせまた新しい彼氏に振られただけなんだろうが。
その軽い性格が癇に触るんだよ。判ったらさっきと失せろ」
気がつくと俺は荒い息を上げていた。
母さんも同時に俺を睨み返していた。
「私がこうなったのも――――父さんが死んだのはあんたのせいでしょう?」
それに俺は何も言い返せなかった。
ただうつ向き、噛み締めるように言った。
「いいから消えてくれ……」
母さんは「ふんっ」と鼻を鳴らし部屋を出ていった。

俺はしばらく下を向いたままだったが、やがて睡魔が襲ってきたので静かに眼を閉じた。

98携帯物書き屋:2007/02/12(月) 10:58:25 ID:mC0h9s/I0
同時刻――――赤川梨沙は電子画面が映し出すモニターを睨みつけていた。
“今まで聞かなかったが、リサ、君は何をしているのだ?”
梨沙の背後から姿無き声が聞こえた。
それに対し梨沙は表情を変えずに答える。
「パソコンよ。この世界の便利な機械。今それでこの事件の事をまとめているのよ」
梨沙がキーボードを弾くとモニターはたちまち地図に変わった。
背後から感嘆の声が響く。
「これがこの町の全体図。それでこれが――――」
梨沙はマウスを動かし点を二ヶ所に付ける。
「事件があった場所よ。それで次にこの二点を結ぶわ」
付けられた二点が線で交わり、その中心に更に点が付く。
次いで中心点から他の一点を半径に円が描かれた。
“これは?”
「あたしの仮定でしかないけど、この円の範囲に犯人の住処はあるわ」
“ほう。と言うと?”
「もしこれらが同一犯だとし、住処が同じだとしたらわざわざ遠くまで出向く意味は無いでしょう?
だとしたら犯人の住処はこの二点を結んだ線の中央辺りの可能性が高いわ。
仮にこの中央の点を住処とすると金曜は一点の、住処から北へ。昨夜はもう一点の、住処から南へって考える事も可能よ」
再び背後から感嘆の声が上がる。
“確かに、言われてみればそうだな。わざわざ遠くへ出向く道理はない”
しかし梨沙は重い息を吐き出した。
「でも情報がこれだけじゃ物凄く不確かよ。ここらに行っても気配を感じる可能性すら危ういし」
“それもそうだ”
背後からは納得したような声がした。
「でも、今夜は行かないわ」
“む”
「だって貴方浪費しているでしょう? 昨夜の戦闘で」
背後からは重い声が響く。
「だから明日行くわ。この、円の中に」

99携帯物書き屋:2007/02/12(月) 11:31:56 ID:mC0h9s/I0
こんにちは。

さて、この前久々にINしてGv出てみたのですが・・・・・・久々のせいか楽しかった!w
自分はBISで出たのですが、何とか着いていけました。
やっぱり赤石のGvは楽しいです。

今回はショウタを中心に書きました。(主人公なんですけど)
そのせいか日常生活でかなり赤石とは離れてしまった・・・。

>>ドギーマンさん
ミーシャとカインの2つの戦闘。どっちもどうなるか気になります。

>>きんがーさん
思わず「あなたは警察官ですか!?」と聞きたくなるほど詳しく書かれています。
いやぁーすごい。警察達を応援してます〜

100名無しさん:2007/02/12(月) 12:56:29 ID:39Bhlv/s0
>>携帯物書き屋さん
ショウタ君の普段の生活ぶり(?)が読めて面白いです。
お母さんとの会話もそうですが、彼も何か過去があるみたいですね。
話が進む上で明らかになりそうで楽しみです。

それと、Gvお疲れ様です。私はBISや支援職は苦手ですorz
Gvも未経験ですが、楽しいんでしょうね。機会があったら参加してみたいとは思っていますが(苦笑)

101ドギーマン:2007/02/12(月) 13:31:48 ID:s7gQQorw0
左手にミーシャの髪を掴んだまま、ジャシュマはカインに向き直った。
「生きていたのかい」
「まぁな」
「オルカートはどうしたのかな?」
「こいつのことか?」
カインは脇に抱えていた鎧の右足の膝下を地面にガシャンと落とした。
「ロクでもねえもん作りやがって、臭い上に重たいんだよ!」
カインは足元でガシャガシャと喧しく動いている足を靴の裏で蹴った。
「お前の自慢のゾンビ野郎はずっと向こうでズリズリやってる。あとはお前を殺すだけだ」
そう言ってカインは曲刀を構えた。
盾は捨てたらしく、無くなっていた。
オルカートとの戦いでついたのか、身体のあちこちが砂にまみれ、擦り傷だらけで所々腫れていた。
走ってきたらしく、息を荒くして汗を額に浮かべ、疲労が目に見えていた。
「ふむ・・・」
ジャシュマは動いている鎧の足を見下ろした。
動けないで居るミーシャは力なくジャシュマに髪を引っ張られながらカインを見上げていた。
「折角いいところだったのに、仕方ないな」
そう言ってジャシュマはミーシャの顔を地面に落とした。
ミーシャは小さく呻いて冷たい地面に頬を押し付けた。
「僕はね、邪魔されるのが嫌いなんだ。こういういい所で水を注されるのは特にね」
ジャシュマは鉄仮面の奥の冷たい闇をカインに向けて、抑揚の無い声で言った。
「カイン君、僕の邪魔をしたことを後悔させてあげるよ。こう見えて今僕は怒ってるんだ」
「わかんねえよ」
「・・・・・・君は殺しても、君の魂はすぐには消さない。
 低級なアンデッドにでも憑依させてあげるよ。
 そして、君の目の前で、君の死体をオルカートに踏み潰させてやる」
「ああそうかい。なら俺はこの臭い剣をお前の死体に突っ込んでやるよ。俺も頭にきてるんだからな!」
カインは走り出した。ミーシャは地面に顔を伏せたまま、逃げてと言えなかった。
「人間風情にこの僕が殺されるわけがないだろう」
ジャシュマの発した言葉の魂はカインの鼓膜を震わせて力を奪った。
「う・・く・・・」
ミーシャと同じようにカインは突然の身体の異変によろめいた。
そこに黒煙を立ち昇らせてジャシュマの剣が迫ってきた。
カインはジャシュマの剣を曲刀で受け止めると、よろめきながら後退して剣と膝を地に突いた。
「ほら、終わりだ!」
カインに追いすがって右袖から生える剣を振り上げるジャシュマ、
カインは地面の土を握ってジャシュマの鉄仮面の格子の中へ放り込んだ。
「ぐっ」
格子を押さえてひるむジャシュマからカインはよろよろと立ち上がって離れた。
ふらふらと定まらない足を踏ん張ると、カインはにやりと笑った。
「へっ、ちゃんと眼はあるんだな」
顔を押さえるように鉄仮面に手袋を当ててジャシュマは呻いた。
「くう・・」
そう呻くと、ジャシュマの足元から立ち昇る黒煙がより激しく、濃さを増した。
3人の方に向かってガシャリガシャリと彼方から小さな金属音が近づいている。
ただ一人そのことに気づいていたミーシャは喋る力もないことに無力感を覚えていた。

102ドギーマン:2007/02/12(月) 13:34:12 ID:s7gQQorw0
ジャシュマは鉄仮面を押さえ、首を振って呻いたいた。
「ははは、眼を擦りたかったらそれ外せばいいじゃねえか」
カインはジャシュマの様子を見て笑っていた。
「ぐ・・うぅ・・・。なら、君の眼も見えなくすればいい」
「む・・」
急にカインの眼が暗闇に包まれた。
「ははは、どうだい、これでお相子・・」
「ああそうか、良かったな」
カインの剣がジャシュマの左肩を切り裂いた。
「なっ・・」
カインの視界に光がすぐに戻った。
カインは自分が振った曲刀に振り回されるようによろけると、また膝を突いた。
「なんで・・・」
「くそ、外したか」
カインは疲れたように膝に手をついて腰を上げてジャシュマに向き直ると、なんとか倒れまいと堪えていた。
「馬鹿かお前、ごちゃごちゃ喋ってないでとっとと動けばよかったんだよ」
ジャシュマの切り裂かれたコートの左肩からは中身は見えず、ただ黒い闇が覗いていた。
「やっぱり、お前は戦い慣れてないな。今までオルカートやリムル任せで自分じゃ動かなかったんだろ」
「く・・・」
ジャシュマは図星を突かれて立ち上がると、右袖の剣をカインに向けた。眼は見えてきているようだ。
「ほんの少しでもかすればいいんだ。それだけで君はお終いなんだ。
 戦い慣れてるからってなんだというんだい?
 そんなふらふらで、もう剣を振るう力も残ってないんだろう」
カインの額に汗が滲んだ。重たい身体を支えているだけで体力を使う。
実際剣を持ち上げるのがやっとで、振るう力などもう出ない。
しかしカインは息を荒げながらも強気に言った。
「お前程度なら、これぐらいのハンデでも余裕だ」
「もう君のその不快な減らず口はたくさんだ。黙って死んでくれないか」
ジャシュマはカインに走り寄って袖から剣を突き出した。
カインはそれをなんとか曲刀で受け流す。
続けて繰り出されるジャシュマの剣を受けるたびにカインは顔を歪めてよろめいた。
カインはふらふらと後退してジャシュマから離れると膝をついた。
「終わりだ!」と叫んで剣を振りかざして迫るジャシュマに、カインはまた地面の土を握った。
カインの投げた土をジャシュマは左手袋で受け止めた。
「馬鹿か、何度も同じ手が通用するもんか!」
そう言って膝を突いているカインの頭に向かって剣を振り下ろした。
カインの口元は笑みを浮かべていた。
カインは身体を右に傾けると、振り下ろされたジャシュマの剣を左肩のショルダーパッドで受け止めた。
カインの肩当はただの肩当ではない。バディトラストと呼ばれる盾としても使える優れものだ。
実際のところ盾として使うのはカイン自身これが初めてのことだが、
しっかりと性能を発揮してジャシュマの剣を弾いてみせた。
カインはそのままジャシュマに向かって倒れこむように体を預けると、
全体重をかけて曲刀をジャシュマの腹に突き刺した。
後ろに倒れたジャシュマの上にカインは重なるように倒れこんだ。
「力は入らなくても、体重をかけるくらいは出来るんだよ」
「ぐっ・・あ・・うぅお」
ジャシュマが苦痛に呻く声を漏らすと、カインとミーシャの身体がふっと軽くなった。
「これで、終わりだ」
「ック、クク、君は・・・・、オルカートを、甘く見すぎだ」
「なに?」
ジャシュマは圧し掛かるカインの顔に向けて鉄仮面の中から低い笑い声を漏らした。
動けるようになったミーシャは顔をあげてジャシュマの上に圧し掛かっているカインに叫んだ。
「早く逃げて!」
その声にカインは曲刀を引き抜いてジャシュマから離れようとしたが、ジャシュマの手がカインの腕を掴んだ。
ドドドドドドドドドォッ
カインとジャシュマは下から突き上げる衝撃に吹き飛ばされた。
ミーシャの視線の先には、大剣を杖のように地面に突いて身体を支えている右足のない鎧が立っていた。
「カ・・・イン、・・・・カイ・・・・・ンゥ」
甲冑は兜の中から不気味にくぐもった声でカインの名を呼びながら近づいてきていた。

103ドギーマン:2007/02/12(月) 13:36:50 ID:s7gQQorw0
オルカートは片足だけで高く跳ぶと、一跳びで自分の足のもとに到達した。
そして、右足を掴み上げると乱暴に自分の膝を叩きつけるように押し付けた。
まるで粘土のように、それだけで膝下はひっついた。
跳躍の衝撃で折れた左足を強引に引き伸ばし、不死身の戦士は再び立ち上がった。
「ぐうぅオオ・・・・カインぅ・・」
「くっ・・う、は、ははは・・・・いいぞオルカート、あの男を・・・・・早く殺せ」
吹き飛ばされて地面に仰向けに横たわるジャシュマは、頭を少し起こしてオルカートに命令した。
腹を包む革ズボンはカインの曲刀に穴を開けられていたが血は出てこなかった、
しかしそれでもその穴を押さえてジャシュマは苦しんでいるようだった。
オルカートはジャシュマの言葉に唸り声を上げると、大剣を構えた。
ジャシュマと同じく全身を強く地面に打ちつけてうつ伏せに倒れていたカインは身体をぐぐっと持ち上げた。
ここにきて今の衝撃と蓄積した疲労でなかなか立ち上がれなくなっていた。
目の前に突き立った曲刀に手をかけてなんとか身体を起こす。
「う・・・くそ・・」
「何してるの。早く逃げて!」
ミーシャは立ち上がって槍を拾い上げると、槍に魔力を込めながら動けないカインに向かって走った。
オルカートも倒れているカインに向かって走ってきた。
「グガアアア!!」
オルカートは一声叫ぶと、地を蹴ってカイン目掛けて跳んだ。
「はぁ!」
ミーシャは走りながら槍に魔力を込めると、振りかぶって槍を投げるように振るった。
光り輝く魔法の槍がオルカートに向かって飛び、宙に浮いていた鎧を貫通して胸を貫いた。
「グァ!」
撃ち落されたオルカートは地面に背から落ちて土埃を立てたが、
すぐに何事もなかったかのように身体を起こした。
ミーシャはカインのもとへ走り寄ろうとしたが、ジャシュマの声がこの地下空間に響いた。
「そこまでだよミーシャ、動くな!」
ミーシャはびくっと身体を震わせると、足を止めた。
ジャシュマはいつの間にか腹を押さえながらオルカートの後ろに回っていた。
ジャシュマの胸の穴から「ミーシャ・・」と父の呼ぶ声が聞こえた。
「君は自分の立場を忘れたわけじゃないだろう?」
「くっ」
ミーシャの父の魂はジャシュマに囚われている。
逆らえば、消されてしまう。
彼女の目の前で立ち上がれないでいるカイン、大剣を構えて迫るオルカート。
ミーシャは選択を迫られていた。

104第43話 からくり:2007/02/12(月) 19:08:25 ID:vX9Amrn60
拘置所の中は寒い。
だから拘置所に差し入れと言えば「布団」がほとんどだ。
刑務所とは違い、地獄の沙汰も金次第な場所。
現金さえあれば「ご飯」も出前が取れる。もちろんタバコもだ。
しかし自分には差し入れしてくれる人間はこの国にはいない、そう劉はひしひしと感じていた。
自分は使い捨てだったのだ。替えの利く駒にすぎなかった。
祖国に残してきた両親の事を考えるようになった。自分がしてきたことに恥じているのかもしれない。
病気がちの母親の医療費を稼ぐためにこの国にやってきた。
汚れた金で母親は元気になった・・・とてもその出所を言えなかった。
生きてもう一度母親の顔をみたかった。
選択肢は1つだけ・・・全て話す事。
話せば組織に狙われる。
−−−全て話せば、誤認逮捕で釈放する−−−
これが条件だった。
言われたとおりに全てを話した劉。
−−−釈放されたら組織に戻れ−−−
何事も無かった様に過ごせと言うのだ。
−−−お前は組織内の動きを報告しろ、組織をあげることが出来たら
        本当の意味で釈放だ。母親の元へ帰れるだろうよ−−−
自分は全て話したのに話していないことになっていると言う。
連絡は動きがあった時のみ、その都度メールせよとのこと。
うまくやれるだろうか? 劉は取り調べの事を思い出しながらそう思った。

「お前の役目はなんだったんだ?なぜ銀行のカードを所持していなかったのだ?」
「お、俺は・・・」
「何も知らないじゃ済まされないんだよ。お前が生き残れるのは全て話した時のみだ
黙っていれば殺されないで済むとおもっているんだろう?そうはいかない」
「殺される・・・」
「言うとおりにすれば、何も喋らなかったことにできるぞ? そうすれば故郷に帰れるかもしれない」
この言葉が劉の背中を押したのだった。
「判った、整理したいから1日くれ」
「1時間だ。気が変わっても困るからな」
正確には1時間半後、たどたどしい日本語で説明しはじめた劉。
内容は合同捜査本部の一部にしか教えられなかった。
田村の警察学校の同期、岡崎がこの事件の管理官であって、田村同様管轄内に「おしゃべり」がいると
睨んでいたためである。もちろん同期のよしみで田村の上申を聞き入れたからでもある。

「俺は・・・ネットゲーム上で金持ちを探す役目だった。組織からアカウントを与えられ、それを運用する
役目で、担当は主に「レッドストーン」と言うゲームだった」
「で?」
「アカウントは組織所有で、俺たちにはただそれが割り当てられるだけだった。俺がこうしてここにいても
どこかで俺が扱っていたアカウントは利用されている。ただのオペレーターだったわけだ」
「金持ちを見つけたらどうするんだ?」
「交渉する。そして売りつける。そのなかでネットバンクの口座を持っている奴がいればAランク扱いで
組織に交渉を戻す・・・それがゲームでの役目だった」
「他は?なぜネットバンクのタイムキーを持っていた?」
「あれは自分の関わったものか判らない。しかしそれが郵便で届けられるんだよ。誰のものかも知らされない
とにかくあの口座を使って、送金をさせられる。どこかのATMから入金されたものを送金するわけだ」
「なぜカードは持っていないんだ?」
「送金するのに必要はないし、それで引き落とすやつが他にいるんだろう」
「仕入れたゴールドはどうするんだ?」
「!?・・・そこまで判っているのか?」
「どうするんだ?」
「RMT業者に納品するんだよ。俺は1月だけ集金マシンの担当をしたことがある。
それをゲーム内で渡すんだよ。高額な値段で置いてあるアイテムを買ったようにして
ゴールドを渡すんだよ。取引が済めばアイテムを返す。これでゲーム運営会社にはばれないのさ」
「その業者は?」
「判らない。知らされないんだよ」
「他には?」
「為替がわりに使うこともあった」
「とゆうと?」
「例えば20万ウォンでゴールドを買ったとする、それを3万円で売ったりするのさ」
「・・・おぃおぃ、それじゃ1万程の儲けじゃないか?」
「それを色んな通貨でやって儲けを出すのが仕事だった。ま、「レッドストーン」は
世界各国でやっているわけじゃないから限られた通貨でしか出来なかったが」
「仮想通貨が為替の代わりかぁ・・・違法な両替だな」
「マネーロンダリングの一種だよ。手数料もとられずにしかも儲けも出す。こんなところだ」

細かいところはかなり時間をかけて話した。最初の聴取だけで1週間はかかった。
確認の聴取は同じくらいの時間をかけて矛盾がないか何度も繰り返し聴取された。
後は警察の犬に成り下がり、娑婆に放流されるのを待つだけだった。

劉は自分が本当に出来るのか不安だった。

105名無しさん:2007/02/12(月) 22:44:20 ID:mC0h9s/I0
>>98
「物凄く不確かよ」を「物凄く不確定よ」で訂正お願いします・・・。何かツッコミになってたorz
何せ勢いで朝の3時までやっていたので・・・。

>>ドギーマンさん
選択を迫られたミーシャ、どちらを選ぶのでしょうか。ドキドキしながら待ってます。
自分がミーシャなら3つ目の選択肢「2人を捨てて逃げる」を選択するでしょうね。
ダメ人間の第一歩ですよー!

>>きんがーさん
犯罪者にもいいところがありますね・・・。これだと警察が悪者にも見えます。
でも田村さん達は応援してますー!

>>100
いつも感想ありがとうございます。お陰で何とか書き続けることができますー!

これからももっとSSスレ盛り上がる事を期待してます。

106名無しさん:2007/02/13(火) 00:56:37 ID:39Bhlv/s0
>ドギーマンさん
アンデッド状態のオルカートの書き方がリアルで怖がってます(怖)
こんな状態になっても生き続ける、オルカートがかわいそうで仕方ありません。
ジャシュマは人じゃなかったというのに半ば驚きを隠せません、ちょっと考えればそうなんですが・・
でも悪役は好きだ。(笑)

>きんがーさん
劉さんにも国があって家族がいて、と考えるとやっぱりかわいそうに思えてきますね。
確かにテレビで警察のやり方を見ていると、全て自供したのにまだまだって感じで絞り上げたりありそうです。
別の話で刑務所の事を「臭い飯食べに行く」と呼んでいるのを聞いてびっくりした記憶が・・(苦笑)
そしてやっぱりきんがーさんやぎゃおすちゃんたちも気になります、続き期待しています!

>携帯物書き屋さん
おぉ、コテハンも使ってないのに特定してくれた(笑) ←でバレるか…
ずっと拙い感想ばかり書いてますが、皆さんの小説は楽しみに毎日チェックしてます。
最初は小説を投稿しよう!とこのスレに来たのに、いつの間にか(苦笑)

107名無しさん:2007/02/13(火) 12:37:13 ID:oiyCvrLg0
今までしたらばには来てもこのスレを見たことはなかったのですが、
今日の早朝にふと覗いてみてから
今までずっと過去ログから読みふけってしまいました。
みなさん非常に物を書くのがお上手ですねえ。
私などは文の正確さ・美しさなどには気をつけて
物を書くようにしているのですが、
いかんせん創作においては肝心なイメージの泉が
枯渇している人間なので羨ましいです。

以前のアラステキさんのように感想を書いてくれる方が少なくて、
書いてくださる方々のモチベーションが
上がりづらいといった書き込みがあったので早速書き込んでみました。
素敵な作品がありすぎてそれぞれにはとてもコメントを付けられませんが、
いずれも楽しく拝見させていただきましたよ!
今続いてる作品も新しい作品も首を長くして待ってますので。
よろしければこれからちょくちょくコメントさせていただこうかなと思います。

 追記:前スレ1000のドギーマンさんの病気のコボルトのお話大好きです。
    内容・言葉の選び方・文章の組み立て方、全てが素晴らしかったです。
    あれで1000文字の制約があるんだから脱帽です。

108名無しさん:2007/02/13(火) 17:01:32 ID:AVvrSL020
>>前スレ1000のドギーマンさん
ここ赤石自体から遠ざかっていたのですが、久々にスレを見て物凄い感動しました。
大抵のテイマーにとって、病気のコボルトは最初の相棒となりますからね。
なかなか別れ難くて困ります。例えペットを変えてしまっても、飼育記録にして取っておける、というのはこのゲームの良いところかもしれませんね。
おかげで私のキャラの銀行は飼育記録で埋め尽くされてますが(苦笑

健気なコボがとてもかわいかったです。
量が多いですが、少しずつ本編の方も読ませていただきますね。
それでは、これからも頑張って下さい

追伸 病気のコボルトでも育てればコロすら倒せます。
ソロッサスを成し遂げた時はちょっぴり感動しました〜

109ドギーマン:2007/02/13(火) 21:24:05 ID:VVuASkOI0
彼女は一瞬でも迷うことを許されなかった。
ミーシャは槍を回して走り一気にカインまでの距離を詰めると、
カインの頭上を跳び越えて彼を守るようにオルカートの前に立ちはだかった。
「自分が何をしているのか分かっているのか!?」
ジャシュマの言葉にミーシャは何も答えなかった。
彼女自身も分からなかった。
ただの復讐の手がかりとしか考えていなかったこの男を父を危険に曝してまで何故守るのか。
「ミーシャ・・?」
「早く立って!」
ミーシャはカインに怒鳴った。
大剣を振り上げて走りくるオルカートはミーシャを障害と認識し、彼女の頭上に大剣を振り下ろした。
ミーシャの頭を大剣が二つに割った。
大剣が地面に到達すると、大剣が身体を通過したミーシャの幻影は消え去った。
オルカートの横に彼女は立っていた。オルカートが振り向かないうちに彼女は瞬時に動いた。
ミーシャはカインに切断されたばかりのオルカートの右膝を槍で切りつけてバランスを崩すと、
そのまま反対側の柄の先でオルカートの兜を殴ってオルカートを押し倒した。
そしてジャシュマに向かって走り出した。
オルカートが起き上がる前に、父が消される前に、
あいつを殺せば全て終わる。
「馬鹿な女だ」
ジャシュマはそう言うと胸の穴に手を当て、中から一つの魂の灯火を引き出した。
ジャシュマの手の平の上で揺れる小さな火。
ジャシュマにしかにしか見ることはできないが、その動作からミーシャは父の危機を感じ取った。
「やあああ!!」
ミーシャは槍をジャシュマに向けて突き出すように振るった。
ミーシャの槍は炎と氷を纏ってジャシュマに向かって伸びた。
「――――!!」
魔力によって形成された長槍はジャシュマが何か言う前にその胸の穴を貫いた。
「はっ・・・あぐ・・」
胸を槍に貫かれて足を宙に浮かせたジャシュマは、小さく呻くように言った。
「消え・・ろ・・」
ジャシュマの手の中の小さな魂の火が吹き消された。
ミーシャには見えていなかったが、その言葉の意味することを理解して膝をついた。

110ドギーマン:2007/02/13(火) 21:25:05 ID:VVuASkOI0
彼女の心を反映するかのように、炎の槍は掻き消え、氷の槍は砕けた。
ジャシュマは地面に身体を落として何か呻いている。
ミーシャの手から槍が落ち、彼女はただ座り込んで地下の闇を目を見開いて見上げていた。
あの日に枯れたはずの涙が心の奥底から押し寄せるように帰ってきて、彼女の目から流れ出した。
「あ・・・あ・・・・ぁ・・・・・・」
ただ小さな嗚咽を喉の奥から漏らして、口を開けて呆然と彼女は座り込んでいた。
「あ・・が・・・・はっ・・・まだだ、まだ・・・・僕は生きている」
倒れていたジャシュマが起き上がった。あの膨らんでいた身体が少し萎んでいて、
袖、裾、仮面、コートに空いた穴、至る所から黒い霞が漏れていた。
その鉄仮面の中を隠していた闇が薄れ、その中にミイラのように頬のこけた悪魔の顔が覗いた。
「本当に・・・・、馬鹿な女だ。父親を、消滅・・・・・させるとは、な。
 ああ、なんてことだ。折角集めた魂が逃げていく」
聞こえているのかいないのか、ミーシャはただ呆然とかすかな嗚咽を漏らすだけだった。
「君のせいだ。君のせいで消えたんだ」
ジャシュマのその言葉に、ミーシャは突然の叫びがこだました。
うずくまっているミーシャの後方でオルカートは立ち上がった。
「ぐぅおおお・・」
オルカートの呻きにミーシャは顔を上げて振り向いた。
彼女の目の前で、カインも危機を迎えようとしていた。
オルカートのミーシャに斬りつけられた脚がグチグチと音を立てて再生するのがカインの耳に届いた。
なんとか立ち上がっていたカインは呆然とミーシャの様子を見ていたが、オルカートの唸り声を聞いて我に返った。
カインは重たい身体を動かしてオルカートの脇を通り抜けてミーシャのほうへ行こうとした。
しかし思うように足が動かず、よろめいて膝をついた。
オルカートは低く唸って大剣をゆっくりと振り上げた。
「彼も、君のせいで死ぬんだ」
ジャシュマの途切れ途切れの笑い声をミーシャは聞いた。
「グアア!」
オルカートの叫びに、咄嗟にミーシャは槍を拾い上げてカインに向かって投げた。
槍は瞬時にカインのもとに飛び、彼の頭上で静止すると、オルカートの大剣を受け止めた。
鋼鉄の柄がオルカートの剣の衝撃で折れ曲がった。
ミーシャには分からなかった。何故彼をここまで守るのか。まだ生きているから?
「ふっ・・う・・・ミーシャ」
カインは立ち上がってよろよろとまた進み始めた。
行った所でいまのミーシャを救えるはずもないのに、カインはそれでも足を進めた。
続けて振り下ろされるオルカートの斬撃を、ミーシャの折れた槍は防ぎ続けた。
ジャシュマが弱っていることに反応してか、どことなくオルカートの動きも鈍かった。
カインはミーシャの横まで来ると、ジャシュマの胸の穴を見下ろした。
オルカートの剣を受け止め続けた槍はぐしゃぐしゃに折れ曲がって使い物にならなくなってしまっていた。
薄くなった闇の中から、微かに漏れる赤い輝きを見ていた。
「ミーシャ、すまない」
それだけ言うと、カインはミーシャの横を通り過ぎてジャシュマに向かって歩き出した。
曲刀を手に迫る男にジャシュマは後ずさりしてうろたえた。
「く、くるな・・・・何をしているオルカート、早く殺せ!」
しかし、そこでオルカートは動かなかった。
ただ立ち止まって剣を地に捨て、誰かを見ていた。
オルカートが見ていたのはカインでも、ミーシャでも、ジャシュマでもなかった。

111ドギーマン:2007/02/13(火) 21:25:47 ID:VVuASkOI0
カインはジャシュマの前に立つと、目の前の小人を見下ろした。
膨れていた服は萎んでいて、仮面の格子の中にはアンデッドのような悪魔の正体が覗いた。
「ジャシュマ、今度こそ終わりだ」
そう言ってジャシュマに詰め寄って胸の穴に手を突っ込んだ。
「やめ、ろ・・・何をしているオルカート!早く殺せ!」
オルカートは動かなかった。
「・・アイ・・・シャ」
女の名前を呟いて立ち尽くしていた。
ジャシュマにも見えた。自分の身体から出て行った魂の一つが、オルカートのほうへふらふらと漂って行くのを。
「すまない、私が愚かだった」
「馬鹿な、とっくに・・・・壊れたはずだ」
カインはジャシュマの胸のなかの赤い輝きを掴んだ。
ジャシュマのコートのなかは酷く冷たく、手を突っ込んだだけで体中に寒気が走った。
「やめろ、それは僕のだ・・」
ジャシュマの言葉を無視してカインは赤い石をジャシュマの中から引き抜くと、
代わりにその穴に曲刀を突っ込んだ。
「ぐ・・・・う・・ああ・・・ガガ」
ジャシュマは身体から黒い煙をぼふんと噴出すと、あとには黒い粉の入ったコートと鉄仮面が残った。
カインとミーシャの背後で、甲冑もガシャンと崩れ落ちた。
300年の時を取り戻すように不死身の男は一気に風化して鎧を残して砂となった。
遺跡の下の深い地下のなか、魔力の明かりに照らし出されて、
カインは赤い石を手に握っていた

112ドギーマン:2007/02/13(火) 21:27:03 ID:VVuASkOI0
街に生還したミーシャは、カインと別れてハノブに帰った。
父と恋人の墓石に花を手向けてミーシャはしゃがみ込んでいた。
全ての始まりは父がレッドアイの元幹部だったことに始まる。
父が死んで後、追い求めた父の過去は彼女の知っている優しい父のものとは思えなかった。
冷酷で残虐な男。しかし、母との出会いが彼を変えたらしい。
二人の間に何があったのか、娘のミーシャにも分からない。ただ、父は母と共に逃げた。
そして、レッドストーンを追い求める悪魔達は父に目をつけた。
わずかな手がかりもないレッドストーン探索。父は悪魔の目にも怪しく思えたことだろう。
しかし、父は何もレッドストーンの確かな情報など持って居なかった。
それでも、殺された。カインも巻き込まれて死んだ。
復讐のためだけに始まった旅は、死んだ恋人と同名の男が手がかりとして現われ、遂に仇にたどり着いた。
カインはレッドストーンをどうするつもりなのだろう。
あの男にとって、自分はレッドストーンを手に入れるために協力させたに過ぎないはず。
自分もあの男を復讐のための手がかりとしか考えていなかったはず。
それなのに何故私はあの男を助けたんだろう。父の魂を犠牲にしてまで。
ミーシャは握りこんだ手を開いた。その中には指輪があった。
そこでリムルの笑う顔が脳裏をよぎった。
恋人の墓石を見る。
「嘘、よね?」
嘘だと思いたかった。死んでいるのだから、嘘だと思いたかった。
長い旅を支えてくれた彼への思いを悪魔の手によって打ち崩されたことを。
しばらく黙り込むと、ミーシャはカインの墓石の前に指輪を置いた。
そして、立ち上がって父の墓石に目をやった。
消え去った魂に、墓石など、手向ける花など、意味があるのだろうか。
ミーシャは愛する二人の墓に背を向けて歩いていった。
日差しは残酷なほどに暖かくて、墓場に咲いた花は風に揺れて美しくて、明るい町は平穏そのものだった。

113ドギーマン:2007/02/13(火) 21:28:58 ID:VVuASkOI0
数日後、ミーシャの前にカインが現れた。
ミーシャの眼は復讐に燃えていたころとは打って変わって、ひどく曇ってしまっていた。
父が死んでからしばらく支えてくれていた叔父のもとに戻って生活をしていた。
ミーシャの前に突然現れたカインに、彼女は何も言わずただ黙って立っていた。
「久しぶり、だな」
「・・・・・」
たった数日ですっかり変わったミーシャの様子にカインは戸惑った。
思えば、今の彼女は生きる理由を全て失っていた。
言葉に詰まるカインにミーシャは静かに言った。
「何の用?」
その言葉を受けてカインはようやく口を開いた。
「君に、会わせたい人が居るんだ」
ミーシャの光のない眼はカインをじっと見据えていた。
「もう、私の復讐は終わったわ。あなたと関わる理由も、もうない」
「確かにそうだが・・・・。頼む、ついてきてくれ」
「・・・・・どこに行くの?」
「ビガプールだ」
結局ミーシャは叔父に挨拶をして、カインについてビガプールに向かった。

114ドギーマン:2007/02/13(火) 21:29:53 ID:VVuASkOI0
ビガプールでミーシャはカインに連れられて小さな協会の近く、
小さな子供達に囲まれている男に面会した。
男はカインとミーシャを見て取ると、子供達から離れてこちらに歩いてきた。
男は天使だった。折れた右の翼、彼も何らかの戦いを経験していたらしく、
身体のあちこちに傷跡を残しながらも優しい眼差しを浮かべていた。
「アルケオルさん、彼女がミーシャです」
「よく来て下さいました。アルケオルと申します」
カインの紹介に、アルケオルは丁寧に会釈した。
「ミーシャです」
アルケオルはミーシャの眼を見て言った。
「随分と、辛い道を進んできたようですね」
「・・・・・」
「カインさんから聞きました」
ミーシャは黙っていた。
「実は、是非あなたにやって頂きたい仕事があるんです」
そう言って後ろの方で走り回っている子供達に目をやった。
「あの子達は皆、孤児なんです」
ミーシャは黙って子供達に目を向けた。
「カインさんとあなたのおかげでレッドストーンも見つかり、私もようやく天上界に帰ることが出来ます。
 ただあの子達だけが気がかりでして、あなたにあの子達を任せたいんです」
「あの子達もまだ幼いうちに、あなたと同じく大事な人を亡くしてしまいました。
 今でこそ笑っていますが、心の支えを求めています。彼らを支えてやって欲しいんです」
アルケオルの頼みにミーシャはうつむいて答えた。
「無理です」
「何故?」
「私は、大事な人の魂を消してしまいましたから・・・」
カインはその言葉に動揺していた。自分を守るために彼女は父親を犠牲にしたのだから。
「大丈夫です。あなたのお父上の魂は消えてなどいません」
「え?」
顔を上げたミーシャの眼にアルケオルは優しく言った。
「魂は一人の者の意思によってそうそう簡単に消されたりするものではありません。
 きっとあなたの聞いたお父上の声は悪魔の作り出した幻聴でしょう。
 カインさん、あなたにはミーシャのお父さんの声は聞こえましたか?」
「え?いや、聞こえませんでした」
突然話を振られてカインはしどろもどろと答えた。
「ミーシャさん、あなたのお父さんの魂は今もあなたの心の奥深く、魂のそばに居ます。
 私には見えていますから。あなたの愛した男の人も、あなたのそばに居ます」
「そう、ですか・・・」
「話はそれだけです。ゆっくりと考えてください」
ミーシャはうつむいて黙りこくった。
カインは子供達に向かって呼びかけた。
「おいお前ら!ちょっとこっち来い!」
「カインさん、"お前ら"は・・」
「あ、すいません」
子供達が駆け寄ってきた。
「ほらみんな、こちらのお姉さんに挨拶してください。この前教えたでしょう?」
子供達は一斉に大きな声でバラバラにミーシャに向かって挨拶した。
「おいおい、順番に言えよ」
カインは頭を抱えて息をついた。
「ねーねー、それよりお姉ちゃんも遊ぼう?」
「え、でも・・」
戸惑うミーシャの手を掴んで、子供達は彼女を引っ張っていった。
「カインとアルもぉ〜!」
「ああ、ちょっと待ってろ。アルケオルさんともうちょっと話したらな」
カインとアルケオルに助けを求めるように顔を向けるミーシャに軽く手を振って、カインはアルケオルに言った。
「アルケオルさん、さっきの話本当なんですか?」
「本当じゃないと、いけませんか?」
「いや、そんなことは無いですけど。でも、さすがに気づいてるんじゃないですか?」
「たとえ気付いていても、彼女は自分のなかで何らかの言い訳を作るしかないんです。
 それ程に彼女は傷つき過ぎていますから。それで彼女が立ち直れればいいじゃないですか。
 あとはあの子達が彼女を助けてくれます。カインさん、あなたもそうだったでしょう?」
「そうです、ね」
カインは過去の自分を思い返した。
「カイーン、アルー!」
二人を呼ぶ大きな声が響く。
「いま行きます。ほら、カインさん」
カインははぁっと大きくため息をついた。
「また、日が暮れるまでつき合わされるのか」
カインとアルケオルも子供達のほうに向かって歩いていった。

115ドギーマン:2007/02/13(火) 21:30:48 ID:VVuASkOI0
ミーシャはアルケオルに説得され、しばらく協会に居候することになった。
どうせ、叔父のもとに帰っても何もすることがないから。そう思っていた。
そうして1週間が過ぎ、毎日戸惑いながらも子供達の世話をしていた。
毎日子供達を起こし、修道女や年長の子達と共に家事をし、勉強を教え、遊びに付き合った。
子供達の明るい笑顔の前でも、ミーシャは笑うことはなかった。
笑顔でいていいのか分からなかった。
復讐を誓ったあの日から、彼女は笑ったことなど無かった。
何故、この子達は笑顔で居られるんだろう。辛くないのだろうか?
ある日の晩、ミーシャはアルケオルに頼まれて子供達の様子を見に行った。
燈台を片手に暗い廊下を歩き、廊下から部屋をちらっと見ては子供達が寝静まっているかを確認するだけだった。
ミーシャが廊下を歩いていると、子供達の部屋から小さな泣き声が聞こえた。
部屋を覗くと、部屋に並ぶ小さな子供達の寝台の一つの上で、
女の子が膝を抱いて、毛布を握って泣いていた。
「どうしたの?」
明かりを片手に歩いてくるミーシャを女の子は涙目で見上げていた。
アミルという子だった。
「お母さんがね、お母さんがね・・・」
「夢に見たの?」
「うん・・」
そう言ってまたぐずりだした。
ミーシャは黙って燈台を置いてアミルの寝台に座ると、アミルを抱き寄せた。
ミーシャは知った。ここに居る子供達は、決して辛くないから笑っていたわけじゃない。
辛いのをなんとか忘れて、明るく精一杯に生きているだけなんだと。
ミーシャの腕の中で、小さな女の子は毛布を顔に押し付けて泣いていた。
「アミルのお母さんの魂は、あなたの心の奥深く、あなたの魂のそばに居るわ。だから心配しないで」
「ほんと?」
見上げるアミルの小さな顔に、ミーシャは優しく言った。
「ええ」
その顔を見上げて、アミルは小さく「あ」と言った。
「どうしたの?」
「いま、ミーシャ笑ってたよ」
ミーシャは気付かないうちに、アミルに優しい笑顔を向けていた。
笑顔の仕方を忘れていた女は、ようやく思い出した。ただ、気持ちに素直になればいい。
「ありがとう」
「何が?」
すっかり涙のやんだアミルは、きょとんとした顔でミーシャを見上げていた。
廊下の壁にもたれ掛かっていたカインは、壁から背を離すとアルケオルの部屋へ向かった。
翌日、ミーシャはアルケオルにあの頼みを受けることを告げた。

116ドギーマン:2007/02/13(火) 21:32:22 ID:VVuASkOI0
アルケオルの天上界に帰る日が来た。
フォーリンロードの中間、目立たない荒野の真ん中で見送りをすることになった。
空は白い雲に覆われていた。
アルケオルは子供達には理由は言わずに行くらしい。
見送りはミーシャとカインと、あと数人の協会の関係者だけだった。
「アルケオルさん、ありがとうございました」
ミーシャはアルケオルに言った。
アルケオルはミーシャに優しい笑顔を向けると、いいんですよと言った。
「レッドストーンは?」
「ああ、カインさんが持ち帰ってきてくれた日にすでに天上界に送りました。
 他の兄弟達も既に帰っているらしいので、私が最後ですね」
「子供達のためですか」
「いえ」
アルケオルの言葉にミーシャは怪訝な表情を向けた。
「実は、とっくに天上界に帰るように天命は下っていたんですが、少し我侭をしてしまいました」
そう言ってアルケオルは笑った。
「カインさんから、レッドストーン探索に協力して下さったあなたの話を聞きまして」
「じゃあ・・」
「子供達のこと、頼みましたよ」
そう言うと、天を覆う雲の切れ目からアルケオルにだけ光が差した。
神々しい光に包まれて、アルケオルの右翼が光り輝いてかつての完全な天使の姿を取り戻した。
アルケオルの身体が宙に浮き、光の差す雲の切れ目に向かって小さくなっていった。
空に消えたアルケオルを見送ると、カインはミーシャに言った。
「帰るか、みんなが待ってる」
「ええ」
ミーシャとカインは、家族が待つ教会へと帰っていった。
帰り道の途中、空を覆う雲から差し込んだ光が遠くに見える二人が帰る街を照らした。
その美しい景色にミーシャは自然と笑顔が浮かべた。

117ドギーマン:2007/02/13(火) 21:46:23 ID:VVuASkOI0
あとがき
終わりました。
戦闘シーンの連続に頭を痛めてました。

>>107>>108
ありがとうございます。
やっぱり1行だけでも感想貰えるとモチベーションがわいてきます。

118名無しさん:2007/02/14(水) 05:05:56 ID:F4qgBAtA0
>ドギーマンさん
執筆お疲れ様でした。
自分のワガママも聞いて書いてもらって本当にありがとうございました。

ところで、"カイン"が死んだ恋人と同名の別の男というのに気が付くのが遅かった・・orz
てっきり同一人物かと思っていたら死んだ事になっていたし、あれれ?と(笑)
でも、ハッピーエンドで良かったです。オルカートもある意味では助かったし・・。

確かに読み返してみればほとんどのシーンが戦闘中ですね。
さり気なくF&IやMMMが戦闘中に織り交ぜられていて読み応えありました。
レッドストーンが発見されてから追放されていた天使たちはどうなるのかとか想像すると面白いです。
ドギーマンさんのまたの作品お待ちしています。

119名無しさん:2007/02/14(水) 10:51:59 ID:oiyCvrLg0
>ドギーマンさん
楽しく読ませていただきました。
以前戦闘シーンが苦手といったようなことを
おっしゃっていたと記憶しておりますが、
なかなかどうして迫力あるものに仕上がっていたと思いますよ。
そしてドギーマンさんの真骨頂とも言える
それぞれの登場人物のキャラクターと心情の細やかな描写が
今回も大変素晴らしかったと思います。
ジャシュマですら愛すべき生き生きとしたキャラクターを
持っているのがさすがだと感服しました。

また次の作品も楽しみにしています。

120ドギーマン:2007/02/14(水) 18:44:10 ID:VVuASkOI0
『ケルビン・カルボ手記』
ブルン暦4930年 ●月●●日
古都ブルンネンシュティグ
ゴドム共和国の中心都市にして、フランデル大陸で最も長い歴史を持つ都市。
冒険者の街としても有名である。
この街で私は大変珍しい物を見つけた。
冒険者が露店に並べていたものだが、"シュトラディバリの悲劇"と呼ばれるホール。
かつて、ブルン王国最後の王アラドンが用いたとされる武器である。
武芸に長けたこの王はこのホールで邪魔な政敵を葬り去ったという・・・・。
こういった、逸話のある武具防具の類の多くは本物を真似た模造品でしかない。
このホールも多少は魔法の力が付加されているようだが、本物ではあるまい。
しかし、私が興味を持ったのはこのホール自体ではない。その名の由来である。
何故、このホールは"シュトラディバリの悲劇"と呼ばれるのか。
この冒険者も勘違いしていたようだが、シュトラディバリとはアラドンを差す名ではない。
アラドンの家の名はこの街と同じブルンネンシュティグである。
シュトラディバリとは、ブルンネンシュティグ王家と血縁関係にあった名家の名である。
シュトラディバリ家といえば、ブルン王国を崩壊させたあのバルヘリ・シュトラディバリが有名である。

4805年、当時のブルン国王アラドン・ブルンネンシュティグと王室直轄機関レッドアイの会長アイノ・ガスピルが
突如相次いで謎の失踪を遂げた。
王国崩壊と共に当時の記録のほとんどは失われてしまったが、王の謎の失踪による当時の王宮の混乱振りは想像に難くない。
その後2年間、王宮は王不在のままだったらしい。
王の捜索が続けられる中、早急に新たな王を立てるべきか否か、王族たちの間で相当な覇権争いがあったようだ。
当然、その王族の中にはシュトラディバリ家も含まれている。
そして4807年、バルヘリ・シュトラディバリは大勢の貴族たちを率いて反乱を起こし、王宮を攻め落とした。
この反乱によって王国は崩壊し、現在古都の北に見られるように王宮は瓦礫の山と化している。
その後バルヘリは共和国主義を唱え、それにより貴族達と軋轢を生じさせるのだが、それはまた別の話。

さて、ここからは私の憶測に過ぎないのだが、
当時、アラドンが本物の"シュトラディバリの悲劇"で葬り去った政敵とは、
シュトラディバリ家の者ではないだろうか。
シュトラディバリ家に何らかの悲劇をもたらしたことが、あのホールの名の由来になっている。
そしておそらくバルヘリは復讐のためにアラドンを暗殺し、
そして貴族達を扇動して王国を崩壊させた。
アイノの失踪との関連は不明だが、
古都の北に広がる崩れた王宮の跡に私はバルヘリの王室に対する憎悪を見た気がする。

121ドギーマン:2007/02/14(水) 18:45:02 ID:VVuASkOI0
●月▲日
鉱山町ハノブ
木造の民家が並ぶ町。
鉱山の麓にあるこの小さな町は、鉱物の採掘によって成り立っている。
つるはしを担いだ鉱員達が行き交っている。
丁度昼飯時であったため、スイカを食べている者も居た。
私も近くで果物を売っていた老婆からスイカを買って食べてみた。
小玉のこのスイカは、老婆が自分で育てたものだという。
甘く、シャリシャリとしていてとても美味しかった。

さて、この町は良質な鉄鉱石が取れることで有名であるが、
その鉄鉱石の他にも有名なものがある。
天才武具職人のハギン氏である。
私は早速そのハギン氏に会いに行ったのだが、残念なことに現在病気により療養中とのこと。
仕事は休んでいるそうだ。
そこで代わりに私は一つだけハギン氏に質問させて貰った。
最高の防具とはどんなものかと。
氏は私の質問に笑うと、しばらく真剣に悩んで答えた。
"戦わないことこそ、身を守る最高の防具だ。
防具とは身に着けている者の命を守るためのものだからな。
最高の防具が職人には作り得ないとは皮肉なことだ"
そう言うハギン氏の目は、どこか哀しそうに見えた。

この町で私はもう一つ、鉱員から興味深い話を聞いた。
その鉱員の知り合いの息子がウィザードをしているらしいのだが、
彼がスマグに魔法の修行に行った際、ウルフマンの変身について研究したところ追放されたというのである。
一体何故なのだろうか?
私は鉱員にそのウィザードを紹介して貰い、
魔法都市スマグへ向かうことに決めた。

122ドギーマン:2007/02/14(水) 19:08:14 ID:VVuASkOI0
あとがき
今回はケルビン・カルボという人物に全都市回らせてみようかなと、
そういう思いつきで書き出してみました。
全部、書ききれるかなあ。
載せてから不安になってます・・・。

参考資料に前スレ>139の年表をまた使わせて頂きました。
ハギンはハノブの鍛冶屋です。
あと、ウルフマンの変身について〜のところに関しては、
ハノブの鉄鉱山入り口の鉱員NPCの発言からです。
どうやらウルフマンの変身について調べるのはスマグではタブーのようですね。


>>118-119
ああ、やっぱり混乱を招いちゃいましたか。すいません。
ミーシャの恋人に関しては名前どうしよっかなあって考えてて、
一緒にしちゃえばいいか。"運命"って単語使えるし。
と、短絡的な理由で同名にしちゃいました。
戦闘シーンは今まででものすごく短かったので、
一番力を入れて書いてみました。
読んでくださってありがとうございました。

123携帯物書き屋:2007/02/14(水) 23:11:40 ID:mC0h9s/I0
『孤高の軌跡』〜side story〜

「悲劇のバレンタインデー」


狭い上に薄汚い部屋。
それよりも薄汚い寝台の上に俺は寝そべっていた。
目線を棚へと泳がせる。
そこにはずらりと様々な俺の趣味の産物が並んでいる。
中でもメイド服の格好のリディアは、俺の中でも金の次に大切な人形だ。
リディアに笑顔を向けてからさらに目線を棚から箪笥へと平行移動させる。
その上には無秩序と非常識を足して二で割らないような幽霊が腰を掛けていた。
そいつは金色の髪と燃えるような緋色の瞳が特徴の美人だ。
ただし人間限定で。
そいつは俺の視線に気づいたのかその真紅の瞳を俺に向けてきた。
「ねえショウタ、暇」
「そうだな。目を閉じて耳を塞いで息をする事をやめてみろ。楽しいぞ」
無気力気味に答える。箪笥の上の女、ニーナは俺が言った事を忠実に再現していた。
「苦しい」
「だろうな」
「暇」
「俺もだ」
「遊んで」
「疲れる」
「遊ぼ」
「気が向いたらいいよ」
「それはいつ頃?」
「お前が遊びたくないとき」
そんな不毛な会話がしばらく続き、やがて沈黙。

俺が天井にできた染みの数を数えるという不毛な作業を続けていると、ニーナが再び目を向けてきた。
「そうだ。ショウタの昔の話聞かせてよ」
ニーナは目線だけでなく体ごとこっちに向けると、悪戯な笑みを俺に向けてきた。
「やだよ。俺の過去話って言っても楽しい事なんて全然ないし」
「それでもいいよ。面白そうだし」
俺はしばらく考えた後、天井の染み数えを止め体を起こした。
「そうだな……。まずこの世界では二月の十四日にバレンタインというイベントがあるんだ」
「ばれんたいん?」
「そう。要旨は女の子が好きな男にチョコをプレゼントするというものだ。
どうだ、ロマンがあるだろう?」
そこで言葉を切りニーナの様子を伺ってみると、ニーナは目を煌めかせながら聞き入っていた。
恐らくこっちの文化を聞いて興味を示しているのだろう。
ニーナの反応に満足した俺はさらに続ける。
「そこでこれから話す事は今から三年前――――俺が中学校二年のバレンタインデーの日のことだ」
俺は目を細めながらあの日の記憶を紡いで行く。
決して忘れる事のない一日を。

124携帯物書き屋:2007/02/14(水) 23:12:22 ID:mC0h9s/I0
俺はその日、落ち着かない足取りで中学校に着いた。
何故なら今日は男にも女にも大イベントであるバレンタインデーだからだ!

玄関に着き、まずは下駄箱をチェック。
――――よし、ないな。
まああっても困るのだけれど。

軽い足取りで教室の扉を開けると、クラス全員の視線が俺に向けられた。
分かっていたがあまり気持よい事ではない。
女子はすぐに元のお喋りを始めたが、男子は俺の目線と烈しく交錯し火花を散らしてから視線をそらした。
まあその視線を翻訳すると『何でお前生きてるんだよ』だろう。
俺はそんな死の視線を涼しい顔で受け流し、優雅に席に着く。
もちろん椅子に設置された画鋲を払ってから。

告げよう。ここは戦場だ!

思うがこんな日に休むなんて輩は狂っている。俺なら重病で俺がいるだけでクラスの全員にまで
病気を移してしまう、という病気でも来るだろう。

もう一度言おう。ここは戦場だ!

席に着き、他の男子達と目線で牽制し合っていると、教室の扉の開く音が聞こえた。
思わず目を向けてしまう圧倒的な存在感。
だからと言って巨体な訳ではなく、背丈なら俺の首元辺りだろう。
その人は純白の外套を纏い、それと真逆の流れるような長い黒髪をなびかせ、
誰にも目を向けずに、そのしなやかな細足で歩きながら席に着いた。
ただ教室に入って席に着いただけなのに、その人がするとドラマのワンシーンにも見えてしまう。

そう思ったのは俺だけではないらしく、ふと周りを見渡すと男子達からは甘い吐息が漏れていて気持悪い。
女子も同様か、厳しい目線で睨みつけているかのニ択だった。

再びその人に目線を戻すと、本を開き黙々と読書をしていた。
その人は容貌だけでなく、成績も優秀だった。
だからこそ、彼女が学年全ての男子の憧れの的である理由と言ってもよい。
それもその筈、彼女は何と言っても正真正銘のお嬢様で、その名も、り……あれ、り……?
何故か俺の全細胞が反抗し思い出せない。じゃあ“り”ってことで。

間もなく始業のベルが鳴り、授業の始まりを告げる。
程なくして先生が入ってきて授業が始まるが、誰一人真面目に聞いている者はいないだろう。
あ、“り”を除いて。
クラスの奴らの思考は今バレンタインの事しか考えていない。俺を含めて。

常識的にバレンタインは俺みたいな男には無関係なイベントだが、そんな俺が楽しみに待つのにも理由がある。
その理由とは、まずうちの学校には変わった風習がある。
それはこうだ。『必ず女子はチョコを一つだけ持参し、クラスの男子に渡す。また、既に貰った男子には渡す事は出来ない』
変わったどころではないと思う。
だが、そのお陰で不幸な俺にも福が回ってくるのも事実。異常な風習を作った人達に感謝!

考え方を変えればこうも考えられる。「あの“り”から貰える可能性がある!」
その可能性が教室の張り詰めた空気と俺のわくわくの源であった。

午前で最後の授業となりぴりぴり感は増していく。
何故なら昼休みで大半の女子は渡してしまうからだ。
いつも仲良しのあの二人。ずっと友達だと誓っていたあの二人。
全てが睨み合っている。
どんな友情も崩壊させてしまう大イベント、それがバレンタインデーだ!

何度でも言おう。ここは戦場だ!

125携帯物書き屋:2007/02/14(水) 23:13:09 ID:mC0h9s/I0
授業の終わりを告げるベルが鳴り、昼休みが始まる。
皆一斉に立ち上がり、憧れの男、お喋り友達のあの男子へ我先と渡して行く。
よし、俺にくれる子は――――!


いなかった。ちょうど席が窓側なんでつい飛び降りたい衝動に駆られる。
待て。早まるな、俺。仕組み上貰えない男は存在しない。
何故ならこのクラスは男子15人女子15人だからだ。
見渡してみると俺以外にも貰えていない男子もいるみたいだ。
嗚呼、モテない男は辛いよ。なあ、みんな。

肝心のあの“り”はというと、まだ渡していないみたいだ。
――――よし、俺にも福が。モテない俺を作ってくれた神様ありがとう!


遂に放課後がやって来る。
これまでにもちょくちょくと貰えない男子は減っていき残りは俺を含めて二人。
“り”もまだ渡していない。だんだんと希望が湧いてくる。
教室からもどんどん人が減り、俺と“り”、そしてもう一人の男子が残る。
その男子の名前は確か丸山だ。通称“おに君”
由来は肉が好きな事と切れたら止められないだかららしい。

俺はおに君へ近づきそっと声を掛ける。
「残念だったな。あの子の本命は何を隠そうこの俺だ」
対するおに君も丸い頬を震わせ返してくる。
「え、君みたいなのがあの子から貰うというのかい? 駄目だよ。あの子に君の不幸が移る」
「お前に渡してデブが移るよりはましだろ?」
その声で短気なおに君が俺の胸ぐらを掴もうとしたが背後の言葉でそれは止まった。
それはまだ渡していないもう一人の女子だった。
頬のそばかすが特徴の小柄な女の子。
その子は頬を染めながらチョコをおに君に突きつけた。
「こ、これ…」
それだけ言うとその子は走り去っていった。
おに君は嬉しいのか悲しいのか判らない表情で立っていた。
やったなおに君。やったな俺!
「おめでとう」
俺はおに君の肩に手を置き、優しく囁いた。
おに君も優しく微笑みながら出ていった。
グッバイ、おに君。

さて。あとは“り”から貰うだけだ。
しかし、いつになっても“り”は座ったままだ。
もしかして照れているのだろうか? この俺に。
こいつ、こいつぅとか一人で呟いていると“り”が急に立ち上がり、俺と正反対の扉の方へ駆け出した。
緊張すると方向感覚も失うのかな? とか思っていたら誰かが教室に入ってきた。
それは俺達の担任だった。
“り”は、うつ向きながらその男教師にな、なんと。チョコを渡しやがった!
そして“り”は走り出し、教室を去った。

思考と呼吸が止まっている俺にその教師は言う。
「あれ、矢島まだ居たのか? 早く帰れよ。じゃ」
そうして教室には俺一人だけになった。
わーお。これって史上初? 貰えないの俺だけ? 俺って何? 虫以下? ゴミ以下? 屑以下?
ほろりと俺の頬に温かいものが流れ落ちた。

「神様ああああああぁぁぁぁぁっっ!!」
俺の悲痛な雄叫びと同時に下校のベルが悲しく鳴り二つの音は不協和音となり教室に木霊した。


「………次の日俺が休んだ事は言うまでもない…っと。ま、こんなところだ」
俺は話を止めニーナを見た。
ニーナは複雑な表情をしていた。
「ショウタって可哀想なんだね」
その言葉でちょっと泣きそうになったが、堪える。
ふと窓を見てみれば結構な時間だった。
「さて。夕飯としますか」
ニーナの緋色の瞳が輝いた。

――――あ、食材切れてた。

今日も夜は長そうだ。

126携帯物書き屋:2007/02/14(水) 23:17:12 ID:mC0h9s/I0
まず謝ります。すいませんでしたorz

なんとなくバレンタインデーということで書いてみました。
もう時間も迫っていたので勢いだけで書きました。無計画この上ないです。書き込んだあとに後悔・・・。

>>ドギーマンさん
完結お疲れ様です。最後にミーシャも笑えるようになって良かったです。
書いたその日にまた新しいのとはその執筆速度に感服です。

127第44話 それぞれの決戦:2007/02/15(木) 00:38:41 ID:vX9Amrn60
「あら?あんた日曜だってのに早いのねぇ?」
幸一は朝食を一人でとっている時だった。一番上の姉は人の事を言えない。
日曜に仕事だからだ。
「姉さんは仕事なんだろ?休日出勤かよ」
「大人は辛いのよ。あんたもそのうち解かるわよ。みっこはまだ寝てるの?」
そう、私のは名前は実希子。家族や友達からはみっこと呼ばれている。
「ねえちゃんは10時位にならないと日曜は起きないよ。ま、今日はなんだか用事があるみたいだけど」
「珍しいわねぇ。デートかしら?」
「いや、違うよ。新宿で友達とネカフェに行くんだよ」
「ネットならうちでいいじゃないの?」
「ま、姉さんには解からない事さ」
「はぃはぃ。じゃ、あたしは行くわよ」
「いってらっしゃい〜!」

私は幸一の予想通りに10時少し前に起きた。
「いってらっしゃい〜!」と幸一が言うのを布団の中で聞いてから2度寝したのだった。
ぼさぼさの髪の毛をそのままに茶の間のソファーに腰掛けながらテレビのリモコンを探した。
「何時に出かけるのさ?」幸一はレポートを書く手を休めて聞いてきた。
「11時半位かなぁ・・」
「約束は2時なんでしょ?」
「その前に3人でお昼食べようかと思ってるの」
「そっか。後で詳しく教えてよ?」
「はぃはぃ」

田村と佐々木は署内で打ち合わせをしていた。
田村の娘の美香は一度、入管に立ち寄ってから父親のいる署に向かっていた。
もちろん拳銃を取りに行ったのである。

「確認するぞ、いいか?」
「はい」
「今日の重要なところは、容疑者がナイフ等の刃物の所持、及びUSBフラッシュメモリーもしくは、
携帯型のHDDの所持のチェックだ。身分証の不携帯や偽造身分証のチェックも当然行う」
「どの時点で職質、身体検査にいきますか?」
「待ち合わせ場所からつけていき、ネカフェに同伴を確認後、我々も入店、USB端子が使用出来る店なら
全て監視した後に職質になる。USB端子が無い場合も同様だが現金の移動の確認が出来れば確保してくれ」
「USB端子については、全店チェックしておきました。端子を使えないところにいくでしょうか?」
「判らない、だが監視は必要だ」
「了解です」
「パスポート等の不携帯の場合、美香につまり、入管に引き渡す。いいな?」
「身柄の移送は?」
「本部の岡崎に頼んである。車は岡崎が新宿駅で待機してくれる」
「手柄を渡すんですか?」
「捜査手順をすっとばすんだ、それで済むならいいじゃないか。不満か?」
「岡崎さんを守るためでもあるんですね?」
「・・・そんなところだ。失敗は俺だけがかぶる」
「でも・・・」
「気にするな。これは始まりでしかない。容疑者逮捕をなんとしても達成するぞ」
「はい!」

待ち合わせ場所から1時間位離れた場所にそいつらは居た。
少し寂びれたビルの3階に事務所を構えて数年・・・所有者は日本在住30年の華僑らしい。
「你去那里? 」
「是的,我会.」
「 好运.」
短い言葉が交わされた後、黒いジーンズと黒い革ジャンに身を包んだ細身の男はそのビルを後にした。

128名無しさん:2007/02/15(木) 07:45:17 ID:yZqWB8n60
>ドギーマンさん
全都市ですか、壮大な計画ですね。日記形式なのが本当に旅行記みたいです。
これはやっぱりドギーマンさん自身RS歴が長いからこそできるお話でしょうか。
田舎町のバリアートが好きなので登場してくれる事を願っています(笑) 都市じゃないけど…
カインの話は大丈夫です、最後にちゃんと明らかにしてくれてますし。むしろ読解力が足りなくて申し訳ないorz

>携帯物書き屋さん
バレンタイン逸話、良かったです。いや笑っちゃいけないんだけど…。
ショウタ君の悲しい過去のひとつという感じで、それでも笑い話のように納まっていて面白かったです。
とんでもないラストでしたね(苦笑) "り"は、やっぱりリサちゃんなんだろうか…
逆に言えば女性の教師からショウタ君はチョコをもらえた可能性があったかもしれないですね(笑)

>きんがーさん
いよいよ当日になりましたね。
誰がどうやって繋がっているのか予想もできない展開で面白いです。
いつも読んでいて思いますが、一人っ子の私にはみっこたちの姉妹が羨ましいです(笑)

129第45話 待機:2007/02/15(木) 16:20:21 ID:vX9Amrn60
12時にまず3人だけで待ち合わせをした。
デルモちゃん推薦のお店に直行し、しばらくご飯を食べながら談笑した。

「そういえば、私たちが女でびっくりしたでしょ?」と私。
「実はそうでもない。デルモはびっくりしたけどねw」
「なんで?ぎゃおすは女だって気づいてたの?」
「私はぎゃおすは男だと思ってたわ」とデルモ
「いや、ぎゃおすが心配してメールくれたじゃんか?あの時に判ったよ^^」
「え?ど、どうして?」
「メアドがmikkoriだったでしょ?つまり【みっこ】って呼ばれてるわけでしょ」
「あちゃー!そうゆうことかぁ^^;」
「ちなみにデルモは1987年12/15生まれ・・・当たってる?」
「www携帯のメアドでバレタかwww」
「そうゆうこと。女の子って判り易いよね」
「気をつけなきゃ、あっとゆうまに個人情報抜かれちゃう時代ですね」
「あたしもメアドから誕生日抜こうかなぁ」
「変えたら教えてね^^」
「もちろん!^^」
しばらくそんな話をした後に本題に入る。
「そういえばこれからどうなるの?」
「まず新宿駅にいく。そこで時間になったら電話するのさ」
「それでお互いを確認ですね?私たちはキンガーさんの後ろから離れて付いて行けばいいと」
「そうみたい。それからネカフェに行って、アカウントをチェック。んで、交渉だね」
「自分のキンガーアカウントだったらどうするんですか?」
「警察に突き出すさ。そして取り返す」
「違うIDだったら?」
「取引不成立で解散w」
「うまくいくといいですね^^」
「そうだな^^ やっぱり愛着あるんだよね、あんなに時間掛けたからさ」
「その気持ち判ります!」とデルモ。
約束の時間に遅れないようにお会計を済ませ、私たち3人は店を出ることにした。


田村親子と佐々木は新宿駅で約束の時間の1時間前から張り込みをしていた。
「該当しそうな人物はいるか?どうぞ」と無線でやりとりをする。
「見当たりません。後15分ありますからそろそろでしょうが。どうぞ」
「こちらも見当たらないわ。どうぞ」
約束の時間が来たときだった。
「該当者発見!黒い上着の男と黒いキャップを逆さに付けた男2人だ。佐々木の方に向かっている。どうぞ」
「了解。やりすごして後につきます」
「すぐに追いつきます!」と美香。
「二人が合流したらカップルのつもりでついていってくれ。俺はその後ろにつく」
「了解」と二人。
どうやら東方面に向かうらしい。
「佐々木!入店しそうな店が判明したらUSBが使えるか連絡してくれ」
「了解」
例の男2人がついに目的地と思われるネカフェに到着、少し話をしてからお互いの了解を得たのか
入店していった。
「入店・・・USBが使用できない店舗です」
「二人で続いて入ってくれ。店員に身分を明かしていいぞ。容疑者の使用するPCを教えてもらえ!」
「了解。田村さんを待ちますか?」
「待たなくていい。そちらが確保出来るまで店外で待機する。以上」

130ドギーマン:2007/02/15(木) 18:11:38 ID:VVuASkOI0
●月■日
魔法都市スマグ
魔法都市というだけあって、ウィザードが多い。
しかし、都市という割には規模も小さく、まるで村のようだった。
この街はゴドム共和国の勢力下にあるが、実際のところウィザードギルドが統治している。
あの鉱員に聞いたウィザードに直接尋ねてみたところによると、
ウルフマンに変身する能力を持つのはスマグ生まれのウィザードだけで、
他の地域で生まれたウィザードは決して変身することは出来ないという。
スマグの北に広がるアラク湖と、スウェブタワーの一帯に発生している魔力場の影響が彼らの体質に変化をもたらしたらしい。
アラク湖の水には微弱ながら魔力があり、この水がスマグの街やスウェブタワーの魔法機器を稼動させている。
また、この水を飲んで生活することで、体内に魔力が長い年月をかけて次第に蓄積していく。
それが、スマグの強力なウィザード達を生み出す要因だそうだ。
スマグのウィザード達がどのようにして生み出されたかは分かった。
では、ウルフマンは?
ウルフマンという存在は昔から居たわけではない、ここ50年間の間にウィザード達が変身する能力を持ったらしい。
もしアラク湖の水が原因だとするならば、もっと昔からウルフマンが存在してもいいはずだ。
全ての謎の鍵はスウェブタワーにある。
あのウィザードはウルフマンがどのように生み出されたのかを知るため、
スウェブタワーを調べていたところ、突然退去命令が出たという。
私はその理由を知るべく、スウェブタワーについて調査を開始した。

スウェブタワー、アラク湖北西に位置する大陸中最大の高層建築物である。
地上20階、地下13階という巨大なウィザード達の研究施設。
スウェブタワーが建設されたのは約100年前、当時のウィザードギルドマスターの指示により建設された。
当時スマグが持ちえた魔法技術の粋を集めて建築され、
あの塔にはアラク湖の水から魔力を抽出し、貯蓄するという機能が備わっているらしい。
もしそれが本当ならば、あの塔には現在膨大な量の魔力が貯まっているはずである。
私がスマグの資料施設"ウィザードの研究室"で調べ得たのは、ここまでだった。

●月×日
魔法都市スマグ
ウィザードの研究室にはあれ以上これといった資料は見つからなかった。
スマグのウィザード達に対して表立って聞いて回るわけにもいかない。
私はスマグのグローティング酒場で街の住民や傭兵たちに聞き込みを始めた。
そこで、私は住民から気になる情報を得た。
どうやら、この街はかつてかなりの規模を誇っていたらしい。
その勢力は凄まじく、ブルン王国領にありながらブルンネンシュティグを凌ぐ勢いだったそうだ。
しかし、120年前にシュトラディバリ家の反乱において王国に味方した多くの優秀なウィザードが戦死し、
それに伴いスマグの勢いも衰えてしまった。
現在では、都市とは名ばかりで東端の小さな村の一つとなってしまったそうだ。
シュトラディバリ家の反乱後、多くの王族がこのスマグに逃げ込んだ。
今ではスマグの街はおろかウィザードギルド内部にまで王族の末裔と彼らの支持者が大勢居るらしい。
私にその話をしてくれた住人もブルン王族の支持者らしく、
現在の共和国制をいつか打ち倒して王国を取り戻すと酔った勢いに任せて息巻いていた。
彼の話によると、スウェブタワーを建設したウィザードギルドマスターから、
現在のギルドマスターのゲンマ長老までの全てのマスターが王族支持者だという。
どうやらスウェブタワーとウルフマン誕生には、
彼ら王族支持者にとって人に知られては都合の悪い裏があるようだ。

131ドギーマン:2007/02/15(木) 18:39:17 ID:VVuASkOI0
あとがき
さて、どうしよう。
あとの展開ほとんど考えてません。
まあ、なるようになるでしょう・・・・。
ちなみに、現在スマグではレッドアイにスウェブタワーと地下道を占拠されていますが、
この話の舞台はそうなる前という設定です。

>>128
バリアートですか。もちろん行かせますよ。
もう少し先のことになると思いますが。
別にRS暦が長いから、というわけではなく公式サイトを覗いて公式設定の情報を見たり、
あとは街を回ってNPCの話を読んだりして情報を集めてます。

>キンガーさん
ついに来ましたね。続きが気になります。

>携帯物書き屋さん
ショウタには悪いですが、少し笑ってしまいましたw
こういう話を読むと、ニーナには早く帰ってきてほしいなと思います。

132名無しさん:2007/02/15(木) 19:41:37 ID:yZqWB8n60
>ドギーマンさん
なるほど、そうでしたか。失礼しました(汗)
メインクエでスウェブタワーに死ぬ気で突撃してNPCを見つけるたびに話を聞いてました(笑)
「ウィザードこそ地上最強!」のような事を言っているNPCが居て面白かったです。
ウルフマンについて何か分かってくるのでしょうか。続きを楽しみにしています。

133ドギーマン:2007/02/16(金) 00:00:10 ID:VVuASkOI0
●月○日
魔法都市スマグ
思ったより長居することになってしまった。
調査のほうも行き詰ってきている。
これは、直接スウェブタワーに行ってみるしかないのだろうか。
しかし、スウェブタワーへの通路の途中にはカスターとかいう盗賊たちが居座っているという。
これでは、到着する前に殺されてしまうかもしれない。
ウィザードたちはどうやってスウェブタワーに行っているのだろうか。
何か、別のルートがあるのだろうか。

今日も酒場で聞き込みをしていた。
すると、酔っ払ったウィザードが何か喚いていた。
もうたくさんだ。いつまでも王国の影にしがみついて・・・・・、シルバを忘れたのか。
その老齢のウィザードの一言に酒場の雰囲気が一変したのが分かった。
私はテーブルに突っ伏していた彼のそばに行くと、バーテンダーに彼の酒代を払って彼を強引に外に連れ出した。
彼の左手の平は小指から中指にかけて何かに食いちぎられたように半分しかなかった。
酔っ払った老人の体を私は支え、彼を家に送ることにした。
老人はふらふらとした足取りで私に家を教えてきた。

老人は小さな家に着くと、すぐに寝てしまった。
家の中は掃除などずっとされていなかったのだろう。かなり散らかっていた。
しかし、テーブルの上だけは他のものに混ざらないように、
大事そうに小さな白い紙だけが置かれていた。
それは手紙のようだった。差出人の名はシルバと記されている。
私はそれを読もうかと思ったが、やめた。
翌日また老人を訪ねることにする。
何か話が聞けそうだ。

134ドギーマン:2007/02/16(金) 00:01:20 ID:VVuASkOI0
●月△日
魔法都市スマグ
老人は私のことを覚えていてくれた。
二日酔いが残っているそうだが、訪ねてきた私を快く家に招きいれてくれた。
相変わらず散らかった部屋で、お茶を出してくれた老人に私は聞いた。
シルバとは誰なのかと。
何故そんなことを聞くのかと言う老人に、私は全てを話した。
老人はしばし悩んでいたが、やがて決心すると私に話してくれた。

シルバとは老人の死んでしまった息子の名で、
シルバもまたウィザードギルドで研究するウィザードの一人だった。
男手一つで育てあげた自慢の息子だったという。
2代前のウィザードギルドマスターのケインスルのもと、シルバは助手としてその研究に携わっていた。
ケインスルが行っていた研究、それはウィザードの肉体強化だった。
魔力の扱いに長けるウィザードに肉体的な強さが備われば、完全無欠となる。
共和国の転覆を考えていたケインスルにシルバは同調し、その研究に没頭した。
そしてスウェブタワーの地下には捕らえられた実験用のモンスターが集められた。
それらはモルモットとしてだけではなく、モンスターの強靭な体力を研究するためだった。
そして、研究は最終段階を迎えた。
人体実験である。
シルバは、彼の反対を押し切って自ら進んで被験体となることを志願した。
シルバは実験の成功を信じていた。
この実験はきっとスマグに新たなる発展を呼び、
そして共和国を打ち倒し、スマグにかつての繁栄を甦らせる礎となる。そう信じていた。
しかし、彼の目の前でそれは起こった。
彼はシルバの父親であり、また高位のウィザードであったということで、
内容は事前に知らされなかったが特別に実験への立会いが許されていた。
老人は震える声で見たんだと何度も言っていた。
ひどく取り乱し、私には老人が何と言っているのか分からなかった。
ただなんとか聞き取れた部分を総合すると、シルバは父の目の前で怪物となった。
ケインスルはその怪物に古代語で"狼"を指すバリンをかけて"シルバリン"と名付けた。
怪物は最初はバリンの意識を保っていたが突然暴走し、ケインスルを始めとするウィザード達を襲い始めたという。
取り乱す老人は、顔を手で覆いながら何度も
バリンは、バリンはと呟いていた。

老人が落ち着いてから、私は聞いた。
テーブルの上のバリンからの手紙のことを。
老人は泣きながら再び話し始めた。
シルバリン、いや、バリンは彼の左手を喰らってから自我を取り戻した。
そして父と、返り血に染まった自身の体を見て逃げ出した。
実験場で生き残ったのは彼とケインスルだけだったという。
彼が家に帰るとバリンの姿は無く、代わりに手紙が残されていた。
私は老人に許可を得て、その手紙を読ませてもらった。
ここにその内容を記すことは出来ない。
ただシルバは謝りながらも、この実験はきっと将来スマグ発展をもたらすと頑なに信じているようだった。

その後、ケインスルは彼の反対を押し切って研究を強行した。
彼はシルバをウィザードギルドで捜索してくれと何度も主張したが、周囲の反応は冷淡だった。
街を出て行ってくれた怪物をわざわざ探す必要はない。
危険を冒してまで怪物を捜索することは出来ない。
そして、一番の理由はケインスルが言い放った一言だった。
実験体シルバリンは非常に不安定な失敗作であり、おそらく肉体を1週間と維持できずに死亡するだろう。
その言葉を発する老人は怒りに顔を歪ませていた。
シルバリンではない、シルバだ。失敗作だと、貴様を信じていた息子に対する仕打ちがこれか。
そう泣き叫んだ。

私はそのシルバに聞き覚えがあった。
その昔オロイン森に現れ、人々に恐怖を振りまいた怪物の名だ。
怪物はすぐに消えたが、その正体が最初のウルフマンだったとは。

135ドギーマン:2007/02/16(金) 00:02:23 ID:VVuASkOI0
●月□日
魔法都市スマグ
私が泊まっている旅館の一室にウィザードたちがやってきた。
そして、ウィザードギルドの令状を私に見せ付けて退去命令を下した。
即刻出て行けと彼らは言った。
抵抗することは出来なかった。

去り際にあの老人が私を黙って見送っていた。
もしかしたら、彼が私をウィザードギルドに通報したのかもしれない。
彼の目を見て私はそう思った。
退去命令だけで済んだということは、老人は私に話したことを黙っていたのだろう。

結局私はもう二度とスマグに入ることは出来なくなった。
現在居るウルフマンに変身可能なウィザードたちは果たして大丈夫なのだろうか。
王族の末裔やその支持者たちは時が来たら彼らをシルバのようにしてしまうのではないか。
振り返った私の目に、スウェブタワーの頂から発せられる怪しい魔力の輝きが見えた。

136ドギーマン:2007/02/16(金) 00:07:11 ID:VVuASkOI0
あとがき
スマグ編終わりました。
結局またシルバリンをネタにすることになりました。

スマグの住民がゴドムの共和国制に反感を持っていて、
王国の復興を望んでいるのは本当なようです。
ただ、そこにこういった話があるかはまた別ですが。

137ドギーマン:2007/02/16(金) 00:14:51 ID:VVuASkOI0
>>134
ああ、ミス発見。
途中でシルバの名前がバリンに変わっちゃってる・・・・。
思いついたままに急いで書いたからかな。
脳内変換をお願いします。

138名無しさん:2007/02/16(金) 07:53:50 ID:yZqWB8n60
>ドギーマンさん
ウルフマンはそう考えるとかなり異質な存在なんですね。
サブでウルフをやっているのでなんだか他人事じゃないように思えます。
そしてやっぱり、犬ではなくて「ウルフ」なんだと…声を大にして言いたい(笑)
ドギーマンさんは以前のいくつかの話もそうですが、政治的な裏話などもお得意ですね。

名前の部分は了解しました。
私も自作の小説では登場人物によく本名と愛称を設定するのですが、本名を完璧に忘れます(苦笑)
それにしても思いついたままに急で書いてこれだけの内容ですか。つくづく脱帽です。

139ドギーマン:2007/02/16(金) 22:18:10 ID:VVuASkOI0
▲月●日
神聖都市アウグスタ
やはり、この街に来たからには大聖堂に寄らねばなるまい。
開け放たれた大扉に近づくと、中から聖歌が聞こえてきた。
どうやら、たまたまミサの最中だったらしい。
中に入って見渡すと、広い大聖堂に街中の人間が集まっているのか長椅子に空席はなく、立っている人が多かった。
皆目を閉じて聖歌隊の少年少女達の歌声に耳を傾けている。
信者でもない私は、その雰囲気に何故か気まずさを覚えた。
逃げるように外に出ると、出口のところに立っていた神父が話しかけてきた。
神父なのにミサの最中に外に出ていていいのだろうか。
取り留めのない挨拶を交わすと、私は神父にそのことを聞いた。
神父は笑いながら大丈夫だと言った。
ミサに出席するのは大事なことだが、
それよりも一人でも多く迷える仔羊を救うことのほうが尊いと考えているのだそうだ。
どうやら、彼には私は"迷える仔羊"に見えたようだ。
私は彼に自分はグリーク教信者ではないし、神を信じている訳でもない。教えを受ける資格はないと言った。
それに対して神父はそんなことは関係ないと言う。
私は彼に興味を覚え、しばらく彼の話を聞くことにした。

彼が言うには、
皆人に迷惑をかけずに、互いに助け合いながら素直に生きれば、別に信じなくても神は見えてくるのだそうだ。
彼の信じる神とは決して天の上から見守るだけの存在ではないようだ。
そんな彼はどうやら周囲から見ても異質なようで、無神論者だとさえ言う者も居た。
私にはそうは思えない。
むしろ、彼ほど神の教えを伝えるに相応しい人は居ないとさえ思えた。
しかしそれでも私は宗教というものが苦手だ。
グリーク教の歴史を見ればそう思えてしまう。

グリーク教の起こりは定かではない。
遥か昔、地上に遣わされた一人の天使が伝えたとされる教えがその元となっていると言われている。
アウグスタのあちこちに立つローブをまとった大きな天使の像がそれだという。
宗教は国をまとめる上で大いに役に立つ。
ブルン王国はグリーク教を取り込み、グリーク教はブルン王国の力を借りて極東の全域に広がった。
しかし、グリーク教は王国に広まると同時にその力を増大させ、国政に対しての発言力を持ち始めた。
ブルン国王はそれに対して圧政で対抗し、グリーク教は弾圧された。
こうして、王国の弾圧に抵抗するグリーク教急進派の戦いが始まる。
彼らは弾圧を逃れるように各地に散らばって潜伏し、
彼らを支持する貴族達の支援を受けて王国打倒の機会を狙っていた。
その彼らの影響を強く受けたのが現在の神聖王国ナクリエマである。
彼らは自分達を"キングダム・クルセーダー"と呼んだ。
シュトラディバリの反乱においても、ストラウスの反乱においても、
彼らグリーク教急進派の影はあった。
神の教えを伝えるという宗教がその実戦争と大きく関わっているのだ。

それだけではない、グリーク教は他の宗教に対しても否定的で弾圧的だった。
排他的な宗教と言っていい。
森の中で素朴に暮らす先住民達にすら、異教徒だと言って改宗させようとするのだから。
私はそういった宗教の側面を知っているがために、信者にはなれない。
しかしこの話をこの神父にしたとしても、きっと彼は否定も肯定もすまい。
彼にとっての神は歴史の中にも、天上にも居ない。
彼自身の心の中に居るのだから。

140ドギーマン:2007/02/16(金) 22:26:04 ID:VVuASkOI0
あとがき
アウグスタも終わりました。

今回の話に登場する神父は、
アウグスタの121.32に居る神父NPCがモデルになっています。
なおグリーク教の歴史に関しては、
セットアイテムの急進派兵器庫のアイテム情報等から推測しました。
あの天使像が最初に教えを伝えた天使だというのはNPCから得た情報です。

他にも、アウグスタの葡萄畑やワイン工場は教会が運営しているようです。
ミサの際にはワインを持っていくのが慣例になっているようで・・・・・。
終わったら酒盛りでもするのかな?w

141名無しさん:2007/02/17(土) 00:36:39 ID:yZqWB8n60
>ドギーマンさん
何か、歴史の本を読んでいるような重量感があります。
アウグスタのワイン畑もそうですが、確かにRSって町ごとにちゃんと特色がありますよね。
今まで通過点にしかしてなかったアウグスタも次回行ったらちゃんと探検してみよう(苦笑)

ところで、ドギーマンさん自身も実際都市を回られてるんですよね。取材お疲れ様です。
次はどこの町に行くのかな〜…楽しみです。

142名無しさん:2007/02/17(土) 02:42:43 ID:wEUlJYbY0
>>ドギーマン氏
 面白い視点での話ですね。
 グリーク教の聖職者の中には、ワインを愛好する者が多そうですね。
 あるクエストNPCも、昼間っから飲んでるようです。
 ちなみに、某キリスト教では、ワインをキリストの血に見たてるそうです。
 聖餐・エウカリストという儀式の中で、それを使うとか。
 そう考えるとグリーク教は、そのものずばりキリスト教的な、血生臭い性格の宗教としてデザインされているのかもしれませんね。
 クルセイド然り、異端者・異教徒然り。でも、街中には異端者を断罪する処刑台や、ギロチン台がない。

 公式サイトには、’辺境’アウグスタ半島出身の剣士達は、両手持ちの大剣を愛用するとあります。
 つまり、これは戦士に関する記述です。彼らの得物の中に、ある大剣があります。
 エクゼキューショナーズソード。日本語訳で、「処刑人の剣」。
 しかし、アウグスタの街中には、大剣を持った戦士達は見えず、ギロチン台が無い。あるのは、聖堂の前などにあるベンチの様な白い台ばかり……。
 思うに、戦士達の技は、異端者を公開処刑する為に発達したモノだったのではないでしょうか。
 そう考えると、ディレイクラッシングの性能や、二段打ち下ろしのスキル難度、街中にある白い台も説明がつきます。
 それが異端者審問が落ち着いて、段々処刑人達が傭兵となって戦士と呼ばれたり、戦士を目指す者達によって実戦向きに実用化されたのではないか、と考えています。
 だから、戦士スキルは実戦たる『ギルド戦争』ではあまり使えず、狩りや、プレーヤー誰もが知らない『他の分野』で活躍しているのかもしれませんね……。

 PS.妄想爆発なので、真に受けないでくださいm(_ _)m

143名無しさん:2007/02/17(土) 10:00:44 ID:yZqWB8n60
>>142
でも、辻褄が合っていますね。
処刑人=戦士と短絡的に結べなくてもそう言われてみると納得できます。
そうなるとスキルアップ装備の名称の「勇者」というのも何か皮肉めいたものを感じてしまう…。

144名無しさん:2007/02/17(土) 15:55:29 ID:QAoLKcsw0
たかがゲームでもしっかりとした設定があるんですね・・・
見てて面白いです。

145ドギーマン:2007/02/17(土) 19:19:48 ID:VVuASkOI0
▲月▲日
港街ブリッジヘッド
アウグスタ半島最南端に位置する港街。
大陸一の治安の悪さで有名な犯罪の街。
かつては小さな漁村にすぎなかったこの街も、やがて海運の中心地となり、
今やそこにT・H連合ギルド、世間で言うシーフギルドが結びついている。
今でも昔ながらの漁業を営む者もいるが、街の殆どの男がシーフギルドの関係者となっているらしい。
海で海難に遭って死ぬ者よりも、陸でギルド間の抗争に巻き込まれて死ぬ者のほうが多いそうだ。
しかし、それでもシーフギルドがこの街を支えているのも事実だ。
シーフギルドの麻薬を始めとする禁制品の密輸がこの街を支えている。
それに拍車をかけるように、街を守る衛兵の数も他の都市に比べて極端に少ない。
この街で唯一警備が厳重な場所と言えば、銀行くらいなものだ。
それでも街の人間はブリッジヘッドの銀行は利用しない。
わざわざアウグスタの銀行まで出向いて預金する。
それだけこの街では信用というものが危険なのだ。

もちろん街の住人もそれで黙っているわけではない。
ナクリエマ士官学校に要請して研修生を派遣させているようだが、
その研修生達もこの街の雰囲気に当てられてしまい、生活態度が乱れているそうだ。
中には麻薬を買う者すら居て、教官まで派遣される始末だ。
あのやる気のない衛兵達と一緒に居ては、それも仕方のない気もする。
その一方で金のある者は傭兵を雇って身を守っている。
この街で出会った女傭兵の話によれば、この街は仕事こそ少ないが収入はいいそうだ。
その仕事にかかる危険と天秤にかけても見合う報酬なのかは分からないが。

そんな危険な場所であるからこそ、私の好奇心をそそるものがある。
私は街が夜になるのを待って酒場に足を伸ばした。
暗い顔のバーテンダーが運んできたビガプール産のウイスキーを飲みながら客の様子を眺める。
その多くは船員であり、グループを作って酒を飲み交わしながら談笑していた。
どうやら彼らの間ではシーフギルドは"組合"と呼ばれていて、
その所属する組合によってグループが分けられているようだった。
酒場の中央に位置するカウンターで一人私は彼らの話に耳を傾けていた。
そこに、船員の一人が仲間から外れて私の隣に座って話しかけてきた。
心中で身構える私に、その船員は意外なことを聞いてきた。
私が旅をしている人間と察したのか、農業をやるにはどこの土地がいいかと聞いてきたのだ。
私は彼にバリアートがいいと思うと言ってやり、そして何故そんなことを聞くのかと尋ねた。
どうやら彼は船員の荒々しい生活に嫌気がさしてきたらしい。
見れば他の船員ほど若くは無い。
契約の関係でまだしばらくは船員を続けなければならないが、
契約が終われば船員を辞めてのんびりと田舎で農業をしたいのだそうだ。
彼の二の腕には刃物によるものだろうか、大きな傷が見えた。
彼はこれまで何を見てきたのだろうか。
私が彼にさらに話を聞こうとすると、突然背後が騒がしくなった。
彼はすぐさま席を立って私の腕を引っ張ると、
強引に酒場の出口まで私を引っ張って、もう戻るなと言って私を外に押し出した。
どうやら、喧嘩が始まったらしい。外にまで中の叫び声やガラスの割れる音が聞こえる。
彼は騒ぎが大きくなる前に私を外に逃がしてくれたのだろう。
私は彼の気遣いを無駄にしないためにすぐに走り出して酒場から離れた。
途中、振り返ると酒場の明かりに数人の走る人影が酒場に吸い込まれていった。
衛兵には見えないから、おそらくシーフギルドの者だろう。
衛兵よりもシーフ達が騒ぎの沈静化に動くとは――――。
もし、彼が居なければあのシーフ達に目をつけられていたかも知れない。
私は夜の港町を宿に向かって歩きながら、明日早朝に発つことに決めた。

そう、私は酒代を払っていないのだから。

1461:2007/02/17(土) 19:41:04 ID:EGmOaby.0
世界は甘くないという言葉を、今まさに思い出していた。
ヤッ!と何とも勇ましい声をあげて剣を振るい、盾でガードして戦うのは、エルフである。
これが味方ならば、どんなにか此度のクエストも楽だったろう。
初心者クエストなんていうのは名前だけ、実際の”初心者”、つまり若葉では、太刀打ちできないようなモンスターを相手にするのだ。
否、モンスターではないのかもしれない。彼は、ギルバートは、本当はヒトだった。
今回のクエストは、初心者にうってつけだと知り合いのランサーに薦められ、受注したクエストだった。
内容はごく簡単、ドレスを注文して引き取ってくるだけだ。だが、どこで何を間違ったのか、洞窟の奥深くのギルバートを倒す破目になった。
本当は彼を助けてあげたいのだが、こういう場合、往々にして救われない。
中では何度も死にかけたが、何とかギルバートに止めをさして洞窟を出てきたら、突然これだ。目の前にエルフが一匹いたのだ。
攻撃命令を下す暇もなく、私はエルフから逃げるのに必死だった。
ご主人様の危険を察知して、攻撃命令を下さずとも反撃するペットと召喚獣。
がるるる、と低くケルビーが唸った。盾で跳ね返されて、痛かったのだろう。
可哀想に、怪我して血を流しているのはコボルトだ。病気で弱っていたところをテイムし、少ない知識で看病して、今こうやってペットとして連れている。
例の先輩ランサーから聞いた、MPKという言葉が脳裏を過ぎった。
MPKという言葉の派生元は知らない。ただ、その意味は知っている。
出入り口にモンスターを連れてきておいて、何の準備もできていない冒険者を殺す。そんなことをして楽しむお馬鹿もいるのだ。
MPKじゃなくても、とても私に太刀打ちできる相手じゃなかった。
何しろこの地方のモンスターは、まだ若葉を卒業したばかりの私には強すぎる。
可哀想にも死なせてしまったウィンディを召喚解除し、今度はスウェルファーを召喚する。
こういった、動きの早い相手には、魔法攻撃が良いとランサーに聞いたからだ。
けれど彼らもそこまで強いわけではない。案の定回復が追いつかずに、召喚獣は二匹とも尽き果てようとしていた。
コボルトはもはや戦えるような状態ではない。

1472:2007/02/17(土) 19:41:55 ID:EGmOaby.0
私自身、もう体力が随分削られていて、持ってきた赤ポットはギルバート戦で使い果たし、召喚獣どころか私の命さえ危うい状況だった。
もう死んでしまうのかもしれない。そんな諦めさえ浮かんでいた。
死ぬのならば、ペットといっしょがいい。一人で死ぬのは怖いし、嫌だ。
もしかしたら、さっき倒したギルバートだって、殺してくれなんて言いながらも本当はこんな気持ちだったのだろうか。
「コボルト、ゴー!」
笛を使ってエルフを指す。よろよろとなりながら、勇敢にもコボルトはエルフに立ち向かって行った。
私はもう、笛でエルフを殴ったりはしない。無駄な抵抗はしないことにした。
いつのまにかエルフは召喚獣への攻撃をやめ、私に切りかかってきていた。これで死んでしまうのだろう、短い人生だった。
そうして目をとじた。できたら、楽に死なせてくれたら嬉しいのだけれど。
鈍い音が数発聞こえて、断末魔の叫びが辺りに響いた。最初はコボルトが死んだのかとも思ったが、コボルトの声ではなかった。
恐る恐る目をあけると、黒い服をまとった男が立っていた。彼の足元には、先ほどまであれほど私を脅かしていたエルフが転がっている。
「大丈夫?」
彼はまっすぐに私を見つめ、問うた。
「怪我してるな。あまり無理はするな、死にたいのか?」
呆れたような口調で言いながら、彼は私の腕をとった。痛みに眉根を寄せる。
気がつかなかったが、いつの間にか切り傷ができていた。血がだらだらと流れている。見ていて、あまりいい気はしない。
「これはあくまで応急処置だから、ビショップかウィザードに手当てしてもらえ」
そう言いながらも彼は、私とコボルト、そして召喚獣に応急処置を施してくれた。
「見たところ、まだそんなに強くはないみたいだが……どうしてここに?」
先ほどのエルフの断末魔の叫びにつられ、寄って来たもう一匹のエルフを軽々と片付けながら、彼は訊いた。
どうやら彼は武道家のようだ。シーフと武道家の見分けは、正直に言うとつきにくい。しかし戦い方を見れば一目瞭然だ。
彼は体を使い、簡単に敵を倒していく。武道家である何よりの証拠だ。
ちなみに、ビーストテイマーは、そう簡単にサマナーとの違いを見分けられない。
サマナーでもペットを連れている人はいるし、テイマーでも私のように召喚獣を出している人もいるからだ。
私は初心者クエストのことを話した。すると武道家は驚いたように言う。
「いくらテイマーとは言えど、まだこのクエストは辛いだろうに。手伝おうか?」
「いいえ、もう終ったので大丈夫です」
「そうか、よかった。気をつけて帰るんだぞ」
最初は少し怖い雰囲気の人だと思ったが、彼はにっこり笑って去っていった。
彼の後姿を見つめながら、さっきエルフと戦ったときとは違う感覚で心臓が高鳴っているのに、私は気がついていた。

後日。
「一人で行ったの!?」
クエストの結果をランサーに告げると、彼女は驚いていた。
「誰かいっしょに行ってくれる人がいるとばかり思ってたのに……。なんならあたし呼んでくれてかまわなかったのよ?」
「そんなの、早く言ってよ」
唇を尖らせながらあたしは不満を述べた。
彼女はいつだってそうだ、どこかしら抜けている。腕は確かなのに、これでは勿体無い。
「で、その時武道家の人が通りかかって、私を助けてくれたんだ」
「へぇ、優しい人も居たモンね。あたしなら、横取りするなって言われそうで、助けてなんてあげないけど。
 最近のテイマーは、マナーのなってない子が多いしねー」
私は本当に、この女の友達でいていいのだろうかと思う。
テイマーの私を目の前に、よくもそんなことを言ってくれる。
「ま、あんたはなかなかしっかりしてると思うよ」
ばしん!と勢い良く背中を叩かれた。コボルトよ、どうして彼女を攻撃しないの?お前のご主人様は今、背中に10のダメージを負ったよ。
「また会えたらいいよね、その武道家」
彼女の言葉に、私は小さく頷いた。

1483と言うかあとがき:2007/02/17(土) 19:45:35 ID:EGmOaby.0
始めてこのスレに書き込みます。
いつもみなさんの小説を読んで、楽しませてもらっています。
一回目のレスでsageそこねてしまってすみませんorz

この話は、例の初心者クエのラストをテーマに書いてみました。
私自身「初心者」という言葉に騙されて、30くらいで行って、何度も死んだ思い出があります。
みなさんのように感動する話も笑える話も書けませんが、
読んで少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

149ドギーマン:2007/02/17(土) 19:46:14 ID:VVuASkOI0
あとがき
ブリッジヘッド終わりました。
今回の話に登場する船員はブリッジの143.92の船員がモデルです。
あと、一行だけですがバーテンダーは88.188の住民です。

気になる情報ですが、まだ未実装エリアと思われるジェイブ島への連絡船がブリッジから出ているそうです。
世界地図を見ると、ブリッジヘッドの面した海に小さな点々がありますね。
あれはクリペの墓という暗礁地帯だそうです。
メインクエのストーリーが進めば関わってきそうですね。
なんでも幽霊船が出るそうですから。
あと、シュトラセラトから南の地図外へ向かって伸びる線。
あれは大陸を南に迂回してのエリプトへの直通航路のようです。

>>141-144
普段何気なく見過ごしているNPCからでも、何かしら情報は見つかるものですね。
断片的なものばかりなので自分で色々想像してみると面白いかもしれません。
>>143
なるほど、面白いです。
戦士の起こりは意外とそういうところにあるのかもしれませんね。

実は、アウグスタのNPCの発言で街の北にはスラム街があるというのがありました。
おそらく麻薬巣窟のことを指しているのだと思いますが、
街の中と街の北の納骨堂、アウグスタには二つの墓場があります。
街の中にあるのは教会のために死んだ人の墓場、どれも立派な作りです。
しかし一方では街から離れた小さな納骨堂に他の死者と一緒に埋葬される人も居る。
神聖都市の裏側を見ているようです。

150ドギーマン:2007/02/17(土) 19:59:03 ID:VVuASkOI0
>>148
初心者クエは確かに初心者には厳しいですよね。
スマグまで行かせたりとか移動距離も長いですし。
ギルバートのところに行くまでに何度オーガに殺されかけることか・・・。
次を期待しています。

151第46話 確保:2007/02/17(土) 21:22:05 ID:vX9Amrn60
まだなのか・・・佐々木から無線がこない。
入り口で待機する田村、通りを歩く人たちに注意深く視線を投げながら、万が一逃亡されることがないようにする。
頼む、確保してくれ。今は佐々木と美香だけが頼りだった。
事前の打ち合わせでは、佐々木の助言を受け入れた。

「田村さん、おそらくアカウントを確認するのにもゲームクライアントがPCに入っていないとどうもなりませんよ」
「どうゆうことだ?クライアント?」
「ネカフェのPCに目的のゲーム本体が入っていないと確認しようがないということです」
「それじゃネカフェを利用する意味がないじゃないか」
「ネカフェですからね、当然ネットからダウンロードします。5〜10分くらいでしょうねぇ、かかる時間は」
「それじゃ、そのクライアントが入ってない場合はダウンロードを待つのか?」
「でしょうね。しかし容疑者か取引の相手がHDD等にクライアントを入れて持ってきた場合はインストールするだけで済むでしょうね」
「では入店しても目的の動きがあるまではしばらくタイムラグが生じるのか・・」
「つぶさに監視しなければいけないでしょう」

この店はUSBが使えない・・・つまりクライアントのダウンロードが先なのか?
中の状況が判らないのはもどかしかった。

「クライアントをインストールし、アカウントの確認が行われ取引の動きがあれば身柄確保でいいですね?」
「そういうことになるか・・・判断は佐々木にまかせる!いいな?」
「任せてください!」
「取引不成立はどうしますか?」
「不成立時でも二人とも確保して職質してくれ。当りかもしれんからな」
「判りました」

入店してから15分経過していた。動きはないのか? 
イヤホンからザザッというノイズの後佐々木から無線が入った。

「えー現在インストール中、目標は視認できています。店側の協力で全部屋ドアを開けてもらっています」ザザッとノイズ。
「店の出入り口を美香に確認させてくれ。佐々木、お前はそのまま監視続行だ」ザザッ
「了解」

永遠とも思えるほどの時間の後、再度無線が入る。

「裏口が一つありましたが、こちらの前を通らないと抜けられないようです」
「判った。このまま入り口で待機続行する」

5分後音割れしたような無線が入る。

「確保!確保!押さえました!応援ねがいます!」
「了解!!」
逸る気持ちを抑えなるべく他の客たちに迷惑にならないよう入店する田村。
小さく店員にささやき身分を明かし、同僚の元へ案内させる。
佐々木と目が合い美香も小さくうなずく。
目標の二人はキョトンしたまま、何が起きたのか判らないようだった。
田村は警察手帳をさりげなく提示してこういった。

「判るな?警察だ。身分証の提示をお願いしする」

152名無しさん:2007/02/18(日) 00:40:41 ID:yZqWB8n60
>ドギーマンさん
ブリッジヘッドってアリアンに次いで露店が多いんですよね。
初めて来た時(露店クエストを受けに来た時)にびっくりしたのを覚えています。
シーフギルドAに迷い込んで瞬殺されたのも懐かしい話です(笑)

>>148
初心者クエのギルバートの話が好きな人を前にもこのスレで見かけました。
私も一度だけ(しかもテイマで)やりましたが、PCの前で泣きたくなりました(笑)
しかし、武道カッコイイ…メインなんですがあんまり日の目を浴びる事が少なくて色々感動してます。
こんな風に颯爽と登場してみたいよ…。

>きんがーさん
な、なんという場面で…現在考案中か執筆中でしょうか?
続き激しく待っています!

153名無しさん:2007/02/18(日) 06:10:45 ID:wEUlJYbY0
-LUNATIC Life-

 酒の匂いに混じって、独特の臭いが鼻を突き刺す。中年の男が発する加齢臭に、汗やら何やらが混じったあの臭いだ。
 一般的に男臭いと表現されているが、男の俺でさえ辟易しているこの悪臭に、よくウェイトレス達は耐えているのものだ。
 カウンターにたむろする女たちを見ながら、素直にそう思う。昼間であるにもかかわらず薄暗い酒場にいるのは、私と目の前の中年男と、数人のえたいの知れぬ連中。どれも、路地裏ではお会いしたくない手合いだ。
 改めて、目の前の男を観察する。
 テーブルを挟んで踏ん反り返る、いや、だらしなく椅子に身を任せる男は、中年太りまっさかり。
 剥げた頭に両端の髪の毛を這わせめかし込んでいるつもりだろうが、それが余計に貧しい頭を強調している。
 表情と服装はだらしなく緩み、ウィスキーをボトルごと煽る姿は、なんとも情けない。見ているこっちが痛々しいほどだ。
「あん! いい加減止めてよ」
 そして、時折そばを通りかかるウェイトレスの尻を撫でては、下卑た笑いを女に向けている。
 どうみても落伍者。飲んだくれのスケベオヤジといった風体の男に、今ほど尻を撫でられた三十路程のウェイトレスが詰めよる。
「全く、バルドさんと来たら、お店じゅうのお尻を撫でないと済まないのね」
「ひぇ、ひぇ、へ。俺が触りたいんじゃないさ。この手が触っちまうんだよ。悪いなぁ〜、この手は俺のバカ息子についで聞かん房でな」
 『バカ息子』と言いながら、自分の股間を指差す男の仕草に、私は頭を抱えた。
 年頃の娘なら憤慨するか、泣いて逃げるのだろうが、三十路の女は微笑んだ。
「そんなに聞かん房なら、お二階でお仕置きしまちょうか? 足腰立たないくらいお相手してあげまちょうかね?」
 さすが、伊達に歳は食っていないようだ。三十路の女は幼児語混じりに、客取りを始めた。
 この酒場は売春宿も兼ねている。一階は酒場で、二階では濡れ雫というわけだ。
 私は軽く咳払いをした。
 何かに気付いたように目の前の中年男――バルドと年増女はこっちを見てから、女は仕事に戻り、バルドはだらしない笑みを私に向けた。
「わるいわるい。あの女と来たら、すっかり俺にメロメロでよぉ〜、俺を誘惑しねぇと気がすまねぇんだ。それはそうと、何の話だったか、え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜と?」
「バルドさん、貴方の話をお聞きしたい。」
「ああ〜、そうだったそうだった。いやぁ〜、人間歳を取りたくねぇな〜」
悪びれた様子も無く、バルドはそう言うと、本題に入り始めた。
「それじゃ何から話そうか〜。おっかぁから出てきた話から始めても仕方ねぇから、俺が剣闘士やってた頃から始めるかい?」
「ぜひともお願いします」
私は筆記具を用意し、バルドの言葉に耳を傾けた。
「剣闘士か。懐かしい響きだ。沸き起こる歓声に、降り注ぐ拍手。そして、ヒリツクような風が、俺をビンビン斬り刻む。いいもんだぜぇ〜? 剣で相手の肉を裂くたびに、観客が絶叫するんだ。殺せ! 殺せ! もっと派手に! もっと残酷に! 豚よりも無残に、山羊よりも惨く屠るんだ! ってな。そして、相手の恐怖にゆがんだツラを打ち砕くたびに、更なるスタンディングオベーション!」
昂奮して語る彼の口調は、熱い。表情はまるでコロセウムの観客の様だ。
 剣闘士。それは、死合を見世物にする闘士達。死合とは、デスマッチ、決闘といえばピンと来るだろうか。互いに剣を持ち、どちらかが死ぬまで闘う。だが、そこには大儀も誇りも無い。ただ、観客を楽しませるだけの命のやり取り。非人道的な娯楽だった。
 ある者は奴隷として明日の為に、ある者は名声を得るために、殺しあった。観客はただ、暇潰しの為に、それを見て悦んだ。
 バルドは、勝つ事でしか生きる事が出来ない奴隷だった。
「最初こそ、おっかなかったがな。回数を重ねるたびに、そんなもんは吹き飛ぶんだ。代わりに何が入ってくると思う? 殺人欲と恍惚感だよ。早く殺したい。そして、殺した暁に降りかかる拍手喝采! たまんねぇぜ。イカレテルと思うかい? 思うだろ? いや、遠慮すんな。ツラにそう書いてあるし、俺だってイカレテルと思うよ。だがな」
 そこで、言葉を切るとウィスキーを煽ってから、私を見つめる。

154名無しさん:2007/02/18(日) 06:13:22 ID:wEUlJYbY0
「イカレなきゃ、やっていけないのよ。生き延びたいとか、仕方が無いとか、小難しい、女々しいことをぬかした奴は墓ん中へ直行さ。嘘じゃない。俺が知ってる奴で、そういう奴はみ〜〜〜〜んな墓の下さ」
 私は知っている。極限状態に置かれた人間がどうなるかを。私の場合は戦場だったが、彼はもっと過酷な剣闘奴隷だったのだ。その時の彼に、逃げ場も安全も、上官も仲間も無い。自分の正気を保つ為の休息すら無かっただろう。
「ま、テツガク的なことはおいて置いてよ。俺も試合数を重ねて何回かぶち殺しているうちに、いつしか人気者になっちまったのさ。あの場所じゃ人を殺すってのは、善行なのさ。観客は天上人で、観客が喜ぶ事は何よりも尊い。そして喜ぶ事と言えばよりエキサイティングなぶち殺しって訳だ。そうしたら、どうなったと思う?」
バルドは上半身を可能な限り乗り出した。
「晴れて自由民になっちまったのさ。そん時はわかんなかったがな。何でもチャンピオンになって、観客からも気に居られると、衣食住と自由が保障されるんだとよ。それで、自由になったが、ここが問題。なんにもする事がねぇの。産まれてこの方、殺し合いしかしてこなかったから、シャバに馴染めねぇ、趣味もねぇ。最初は戸惑ったぜ。なんせ、人を殺しちゃいけなかったんだからな。そんな訳で、酒を飲んでみたり、女とよろしくやったりしたさ。あん時は観客席にいた女とだぜ? 他人は夢みてぇだろとか言ったさ。だが、俺はどうとも思わなかったね」
 奴隷身分の剣闘士でも、試合を重ね、群集の寵児となれば自由になれる。しかし、試合を重ねるとは、全ての死合いに勝つ事を意味する。つまり、あらゆる猛者を相手に全戦全勝。バルドは軽く言ったが、多くの奴隷が夢に見た偉業を成し遂げたのだ。彼の影でどれだけの人間が自由を渇望しながら、死んでいったのだろう。
 だが、自由はバルドを救いはしなかった。
「それから、また闘技場でぶち殺したりしたが、なんともねぇ。もう、観客は俺が勝って当然と思ってやがるからよぉ。俺が生きてちゃ面白くねぇのよ。試しに、ワザとヤバい振りしたら、観客総立ちで喜んでやんの。バルドが死ぬぞ! あのチャンピオンを倒す猛者が現れた! ってな。冗談じゃねえ。その猛者とやらを、観客席の阿呆供の期待と共にぶっ潰してやったら、もう闘技に出る事はなかったな」
「それで、お終いではないでしょう?」
「おうよ。グリーク教知ってるだろ。悪名高いグリーク教。そのグリーク教の異端者狩り真っ最中の時に、お呼びがかかったのよ。異端者の首を跳ねてくれってな。俺としては、縛られた人間の首なんざ跳ねても詰まんなそうだったから、最初は断ったがな。そうするとやっこさん、顔を真っ赤にして、『神聖なる仕事を拒否するとは、異端者か悪魔か!?』とか言うのよ。異端者って知ってるだろ。火あぶりにされたり、轢き殺されたりするアレ。俺は、無抵抗に殺されるより殺すほうが良かったから、そう言われたら引き受けるしか無かったのさ」
 また言葉を切り、ウィスキーを煽るバルド。不思議と店内は静まり返っている。ウェイトレスも、えたいの知れぬ連中も、じっと耳を傾けているようだ。話の最中に店内に入ってきた客はいても、出て行く客はいなかった。
「それで、処刑人を引き受けたのさ。布の袋をかぶって、エズゼ? エクゼクーソン……まぁ、処刑剣携えて会場に行った時には、異端者はもう台に乗せられていたね。アウグスタに白い台があるだろ。腰かけるのに丁度いいアレ。あの台に異端者は寝かせられていたのさ。アウグスタにある台の幾つかは、そういう事に使われてたらしいぜ。なんせ、街中全部が処刑会場。異端者と処刑人と台が揃えば、いつでも始められたからな。今度アウグスタに行った時、台を調べてみな。剣を打ちつけた傷のあるヤツが幾つかあるぜ、きっと」
 またウィスキーを煽る。ぞんざいな口調とは対称的に、呂律は回っているバルドを見るにつけ、私は不思議に思う。バルドが飲んでいるのはウィスキーなのだろうか。それとも別な何かだろうか。
「人間てのはつくづくイカレテル。俺はイカレテルが、連中はもっとイカレテル。俺が首を跳ねると拍手喝采の狂喜乱舞。闘技の比じゃなかったね。何か知らんが、俺をよいしょよいしょと持ち上げるのさ。人殺しのロクで無しなのにな。そして今は飲んだくれのスケベジジイ……っと、これは関係ねぇな、ひぇひぇ、へ」
 異端者を処刑すると言うのは当時、一種のお祭りだった。日頃の鬱積を晴らすために、異端者を罵倒し、祭り上げて残虐な方法で殺されるのを、喜んで見たのだ。

155名無しさん:2007/02/18(日) 06:14:35 ID:wEUlJYbY0
 私はブルン生まれで、両親が無益な殺生を好まなかった為に、目の当りにすることは無かった。だが、そんな私でも、その情景を容易に想像できるほど、バルドの説明は克明で、残虐で、容赦が無かった。
 気が遠くなるほどの、何か汚泥混じりの腐肉の塊をしゃぶる様な状況を説明されている途中、私は用を足すと言って席を立った。そして、裏の川で胃に収まった昼飯を全部、吐き出した。
 戦場を知っている者は、こと残虐な描写に対しては想像力豊かだ。自分は剣士であった事を恨めしく思いながら戻ると、私の席にコップ一杯の水が用意されていた。バルドから促され、それに口を付ける。
「ひぇひぇ、へ。ちと悪かったなぁ。まぁ、かいつまんで話すと、俺が異端者の首を跳ねる、観てる奴らは喜ぶ。そしてお祭り騒ぎが始まる。そうまとめといてくれや。お祭り騒ぎの内容は、今考えても正気の沙汰じゃねぇし、お子様やお上品なオ方々には刺激が強すぎるだろ」
 私は、ひどく納得してからペンを進めた。人々は、公開処刑に闘技とは違った娯楽性を求めていたらしい。彼らは腕のいい処刑人をいたく尊重し、時に英雄視した。そして、異端者への残虐な行いを何よりも喜んだ。
 バルドはもっとも尊重された処刑人の一人だったらしい。彼の放つディレイクラッシングは、どんなに骨太の首でもたちまち切断した。
 一瞬で首を跳ねる事がもっとも美しい処刑法なのは、疎い私でも知っていたが、バルドが持てはやされた理由はそれだけではない。
 その様は勇壮にして、流麗。綺麗に重なる分身達は、居合わせる全ての者達を魅了したらしい。事実、私も初めてバルドのそれを見た時は、感動の身震いが止まらなかった。
「全くイカレテル。俺のディレイクラッシングで首を跳ねられるのが、一番楽で、人道的な処置の仕方だってんだからな」
ウィスキーを深々と煽るバルド。話が進むにつれ、飲む量が増えているような気がする。床には、さっき手に持っていたボトルが空となり、転がっていた。
「ま、それも長く続かねぇ。異端者狩りが一段落、というより廃れ始めたら、俺の仕事も無くなったのさ。そしたら、例の話が俺の所に舞い込んだ」
「レッドストーンと赤い悪魔」
「そう、それだ」
心なしか、バルドの眼に輝きが戻った気がする。表情も生き生きとし始めた。
「それから、戦士と名乗って傭兵やったり、いろんな場所に行ったりしたもんだが。後は、お前さんとの旅したり、戦場を駆けずり回った話になるから、もういいだろ」
「いえ、ぜひともバルドさんから見た話をお聞かせ願いたい」
私はブルン出身の誉れ高き剣士だ。以前、私とバルドと、何人かの仲間たちとで旅をしたのだ。
 最初、バルドを見た時は、なんともだらしの無い男だと思った。いつも酒瓶を離さず、仲間の尻を撫でまわしていたのだ。俺も撫で回されたので、よく尻の穴を引き締めたものだ。
 戦いにおいても、積極的に動くわけでもない。私の様に身を挺して仲間を守るわけでもない。その大剣はお飾りかと詰め寄ったことも、何度かあった。それでも、だらしの無い笑みを浮かべてはぐらかされたのだ。
 当時の私はよく憤慨していた。私自身、何度か戦場を経験していたので、パーティの中で最も場数を踏んだリーダーのつもりだったのだ。

156名無しさん:2007/02/18(日) 06:15:29 ID:wEUlJYbY0
「何から聞きたい?」
「そうですね。まず私や、当時の仲間たちをどう見ていたのか」
「お前さんのケツはいいケツだった。どこの女よりもいいケツだった。パーティの女達なんかオードブルに過ぎなかった」
「ははは、それはどうも。だが、私が聞きたいのはそれではない」
「ふっ。若造、それがお前の第一印象ってヤツだ。おとぎ話の英雄譚を真に受けてた、血気盛んな葱坊主だ」
「それはどうも」
「剣士ってのは華がある。戦場では勇ましく振るまい、女からは持てはやされ、仲間達からの信頼を一身に背負う。だが、あの時のお前さんは気張りすぎだった。俺みたいに適当にやっておけばいいのによ」
 当時の私は、仲間への攻撃を一手に引き受けていた。デュエリングで敵の注意を私に向け、その攻撃を全て受けていたのだ。
 当然、仲間達から信頼されていた。バルドとは違って。私はその事に優越感を抱いていた。だが、それは青二才特有の驕りだった。
「適当と言いながら、貴方は人一倍働いていた」
「よせやい。ただ、お前さん方が危なっかしくて見てらんなかっただけだ。間合いの取り方もしらねぇ、戦略性もねぇ。知ってるか? 闘技ってのは一対一とは限らねぇんだぜ」
 そう、一対多の時も有れば、多対多の時もある。バルドはその当時、誰よりも場数を踏んでいた。どんな不利な状況でも、闘技で経験済みだったのだ。
 だから、いつでも悠々としていた。不遜なほどの余裕は、彼の経験と直感に裏打ちされたものだったのだ。
 彼は目立った動きをしなかった。目立つ必要が無かったのだ。だから、私を含めたメンバーは彼が動いている事に気付かなかったのだ。
 目立つと言うことは、それだけ動きに無駄があると言うことだ。私は、それに気付くのに何年か掛かった。
 半ば戦いに昂奮した仲間達を尻目に、一人冷静に状況判断をし、もっとも危険な因子を排除し続ける。そして、真の意味で仲間を護りきる。それがどれだけ難しいかは、今の私なら判る気がする。
「覚えているか? お前がエルフを七・八人も同時に相手しちまったこと」
「ええ、さすがにダメだと思いました。しかしその時、貴方が居たから私もここに居る。本当にありがとう」
「へ、気にすんな。人から感謝されるのは性にあわねぇ」
 バルドは笑っていた。何故かウィスキーは煽らなかった。
 代わりに、床のボトルを拾おうとしたウェイトレスの尻を撫でた。
「もう、何するのよ」
「ひぇひぇ、悪い悪い。あんまり君が可愛くてなぁ。スケベオヤジには毒なくらい魅力的だ」
 打って変わったバルドは、先ほどの話が、まるで作り話か何かと思えるほどだらしが無い。だが、彼が歴戦の勇士であり、それを行動で示し続けた事は、私が知っている。
「なぁ、お前もかみさんばっかとよろしくしてねぇで、もっと若い娘と遊んだらどうだ? 女ってのはいいぞぉ〜、酒よりも熱く、剣よりも柔らかい」
 なにそれ、と女に聞かれても笑うばかりのバルドは、尻を撫でた女と、もう一人の歳若い娘を連れて二階へ行ってしまった。私も誘われたが、丁重にお断りした。いくら剣士の私でも、妻の悪態を受け切る自信は無い。下手をすれば……、いや、考えるのは良そう。

 剣よりも柔らかい。そういえば、バルドが寝る時は、いつも大剣を抱いていた。それは危険に対する備えなのか、それとも別な何かなのか。その事も含めて後日、また話を聞こうと思いながら、酒場を後にした。
 だが、その機会が訪れる事は無かった。
 その数日後、彼は天に召されたのだ。酒が祟ったのか、女遊びが祟ったのか、歴戦の猛者としては余りにもあっけない最後だった。

 彼の墓の前で一人、私は物思いに耽る。彼はお世辞にも善人とはいい難いだろう。血塗られた人生を送ったと言っていい。
 だが、私を含め、英雄を目指す者や、英雄と呼ばれた者達はどうなのだろう。
 戦場で何かを護ると言うことは、誰かを殺すと言うことだ。それは、自分を護る為に、誰かを殺すのとどう違う?
 そして、それを持てはやす群集。
 一体、誰がこの墓で眠る男を、非難できようか。
 やめよう。例え誰から非難されても、きっとバルドは気にも止めない。あの笑みを返してはぐらかすだけだろう。
 それは、熾烈な人生から産まれた、確固たる自信があるからだ。

「戦士ってのはダイヤモンドの弾丸だ。だから、守りを固める必要など無い。砕けようが、用さえ成せばそれでいいのだからな」
 砕けること無き苛烈なる勇者よ。無窮にきらめきつづけよ。

157名無しさん:2007/02/18(日) 06:32:10 ID:wEUlJYbY0
あとがき。
以上、思い付きで、設定をでっち上げで書いて見ました。
妄想大爆発で、公式設定の検証をしていないので、笑ってやってください。
真面目に受け取らないで下さい、お願いしますorz
マスターキートンの『臆病者の島』に出てくる、ダメっぽい親父をイメージして書きたかったんですが、中々難しいです。
少年漫画的な主人公もいいですが、こう一筋縄で無いいぶし銀なキャラも魅力的で、好きなのです。

158名無しさん:2007/02/18(日) 10:58:17 ID:yZqWB8n60
>>157
>>142での話を小説にしてくれたのでしょうか?
想像ながらちゃんとまとまっていて、ここまで昇華させられれば凄いですよ。
バルド、良いキャラですね。そしてジワジワとカッコイイ。
浦沢直樹の漫画は「Monster」しか読んだ事は無いのですが、こういうキャラが出てきてもおかしくないです。
戦士も狩り等中々目立たないですが、実は秘められた輝く物を持っている。そんな気にさせてくれますね。

159第47話 内ポケット:2007/02/18(日) 12:07:36 ID:vX9Amrn60
「なんですか?一体・・・」黒いキャップを被った男が言った。
「もう一度言う。すまないが身分証の提示をお願いする!」田村は語気を強めた。
その瞬間、黒い上着の男が胸の内ポケットに手を入れた。
「動くな!」
ピタッと動きを止めた男。
「ゆっくりとポケットの中のものを出してくれ。そうだゆっくりだ」
黒い上着の男が出してきたものは都内の高校の学生証だった。
「そちらの方もお願いします」と佐々木。キャップを被った男に促す。
出てきたものは免許証だった。署に照合を頼むと神奈川の大学生だった。
「すみませんが身体検査をさせていただきます。断ることも出来ますが署に着て頂く事になりますので
ご了承ください」と佐々木。
この時点でほぼシロだとみんな気づいていた・・・1件目は空振りだ。
所持品にも大したものがなく、安全であり目標の人物ではないことが判った。
田村は佐々木だけを先に出店させ次の待ち合わせ場所にいかせた。2件目の待ち合わせまで時間は10分程しかないからだ。
田村は美香と残り、学生たちに事情を説明し「ご協力」ありがとうと伝えた。

「ご、誤認逮捕だ! 訴えますよ?」
おかしなことに交渉が成立していたんだろう、片方が現金を手に持ったままだった。
「貴方達の安全を守るためだったのですよ。お邪魔したのは申し訳ない」と美香。
「いやこんなの絶対に赦さない!訴えてやる!」ともう一人の男。
妙に意気投合してしまったのか、危機に対して一時共同体になってしまったのか・・・。
田村は斜め上にずれた権利ばかりを主張する輩が大嫌いだった。だいたい逮捕の意味もわかってないじゃないか。
ここで時間を浪費するわけにもいかず、誤解されるのもいやで、お灸をすえていくことにした。
「いまここで取引されたアカウント情報を記録したよ。規約では売買は認められてないらしいな?」
「うっ!」と二人。
「君たちはアルバイトしてるのかね?してるならその現金の移動も税務署に確定申告してもらわなきゃなぁ?」
「いやっこれは・・・」
「我々も時間がない。逮捕したつもりもない。いいね?」
「・・・はぃ。」と意気消沈の二人。
「では、ごゆっくり。市民のご協力に感謝してます。失礼します」とその場を田村親子は後にした。
言い過ぎたかなぁと考えつつ、店長にお邪魔したことを丁寧に詫び、佐々木が先行している現場に向かった。

不安そうな顔で美香が並走しながら言った。
「次よね?次が容疑者よね・・・」
「あぁ、そうだ!必ず”奴”だ。用心しろよ」

次の待ち合わせ時間まで後2分と迫っていた。

160153-157:2007/02/18(日) 23:51:45 ID:wEUlJYbY0
>>145 ドギーマン氏
牧歌的な雰囲気のRSも、闇の部分はありますよね。
それにしても、スマグといい、危ない目会ってばかりですねw

>>146->>148
あそこのエルフは硬いですよね。
逃げ回ってた頃を思い出しました。

>>158
ご感想ありがとう御座います。
とりあえず、『剣闘士>戦士>勇者を辿る戦士はどんな感じだろう?』と言う事で、バルドを142の話に当てはめて見ました。
ただ、RS本編に剣闘士に関する情報が無いのが残念です。ギルド戦会場はあっても、闘技の巡業者、コロセウムは無いんですよね。
せめて本編に、キャラ個人でPvPできる施設があれば、でっち上げで済まないのですが^^;
後、『戦士>勇者』に至る過程も書ききれなかったのが、心残りです。

>>159
さて、いよいよお待ちかねの……

161ドギーマン:2007/02/19(月) 01:15:15 ID:VVuASkOI0
『Zef』

ブルン暦4855年 ビガプール
第三代国王バルンロプトによる貴族の大粛清により多くの貴族が弾圧され、
逆らうものは皆処刑された。
その家族も同罪とされ、老若男女問わず大勢の貴族が殺された。
ただ彼の母は連行される直前にそれを察知し、まだ幼かった彼を協会に連れて行った。
協会の神父は彼の母の懇願を快く引き受け、彼を引き取った。
その後彼の母は屋敷に戻り、その日のうちに連行された。
そして、その2週間後に父と共に公開処刑された。
協会に引き取られて後、教会は彼の里親となる人物を探した。
神聖王国と名乗るだけあり、教会の国に対する影響力は強かった。
しかし時の王バルンロプトはかなり強硬な人物であり、
たとえ教会であろうとも彼を無理矢理に連行する可能性があった。
そんなところに運よく、いや運悪くとも言おうか。
ベルゼフという人物が現れ、彼を引き取ると申し出た。
ベルゼフはシュトラセラトに住む漁師を名乗り、
妻との間に子供が出来なかったためにどうしても引き取りたいと言った。
教会の神父はその申し出を受け、彼をベルゼフに引き渡した。
ベルゼフに連れられて彼はビガプールの街を後にした。
シュトラセラトに着くと、彼は何故かブリッジヘッド行きの船に乗せられた。
彼の他にも沢山の子供が狭い船室にぎゅうぎゅうに乗せられており、
彼は何も知らぬまま密航船で運ばれていった。
夜のブリッジヘッドの港で子供達はバラバラになり、
彼を含めて二十数人がベルゼフに連れられた。
ベルゼフはシーフギルド倉庫の中の小さな部屋で彼らにボソボソのパンを出した。
腹を空かした彼らはパンに食いついた。
ベルゼフはパンを貪る彼らに言った。
「いいか、今日から俺がお前達の親だ」

162ドギーマン:2007/02/19(月) 01:16:09 ID:VVuASkOI0
彼らはベルゼフに親から貰った名前を奪われ、新しい名前を与えられた。
彼が貰った名前はゼフだった。
名前を付けていくうちにベルゼフは名前に悩みだし、一番最後の彼に自分の名前の半分を与えたのだ。
ゼフ達はシーフギルドに拾われ、シーフとして育てられた。
厳しい環境のなかで雑用をさせられ、ベルゼフからシーフとしての技術を叩き込まれた。
ベルゼフは冷酷な男、子供相手でも決して容赦はしなかったが、教官としては一流だったかもしれない。
ゼフ達に読み書きや計算を教え、罠の仕掛け方、短刀や手裏剣の投げ方、あらゆる鍵の開錠の仕方、
隠された危険を察知する能力を磨き上げられ、格闘術まで全て叩き込まれた。
一番辛かったのは、毒を体で覚えさせられたことだった。
毒を飲まされ、しばらく苦しみ続けたあとようやく解毒剤を与えられる。
そんな過酷な訓練を毎日のように繰り返し、ゼフ達は少しずつ一流のシーフとして教育されていった。
ゼフが物心が付いてきた頃、年長の子が訓練の最中に急に泣き出した。
その子はゼフよりもずっと大きかった。皆と同じく黒髪を短く刈り込まれた子だった
「もういやだ・・・・お母さぁん・・」
ベルゼフはずかずかと歩み寄ると、その子の胸倉を掴み顔に平手打ちをくわえて怒鳴った。
「黙れ!死んだ人間にすがるな!」
そして、ベルゼフはその子の胸倉を掴んだままゼフや他の子供達を見回して言い放った。
「いいか、お前達の親は俺が殺した!」
その子が泣き止んだ。
ゼフの隣に居たその年長の子は、目から涙を流し、鼻水を垂らし、ベルゼフを見上げていた。
ベルゼフはその子に目を戻し、大きな声でその見開いた丸い目に怒鳴りつけた。
「どうだ、俺が憎いか!?」
何も答えないその子をガクガクと揺らしてベルゼフは続けた。
「俺が憎いなら強くなれ、強くなって俺に復讐してみろ」
「それまで俺に口答えすることも、訓練を拒むことも許さん」
そう言ってその子の体を床に叩きつけた。
その子は小さく呻きながら床に手をついてまた泣きだした。
「立て!」
ベルゼフはその子を引っ張って無理矢理に立たせた。
「早くダートを握れ、的に向かって投げろ」
"的"とは、ゼフ達の前に並べて縛り付けられた野良犬だった。
ゼフ達が投げたダートを体のあちこちに立てて、体を赤く染めて鳴いていた。
「お前が止めを刺せ」
そう言ってその子にダートを握らせた。
ゼフを含め、全員が手を止めてその子を見ていた。
その子は震える手で握ったダートを見下ろしていた。
「どこを見ている。的を見ろ」
そう言ってベルゼフはその子の髪を引っ張って顔を上げさせた。
目の前の"的"は足をぴんと伸ばして痙攣を始めていた。
その子は涙目でダートをゆっくりと振り上げた。
そして、そこで急に振り返って後ろで腕を組んでいたベルゼフに向かってダートを投げた。
ベルゼフはそれを予測していたのか、事も無げに投じられたダートを掴み取った。
「言ったはずだ。強くなってからだと」
そう言ってベルゼフはそのダートを握り直してその子に詰め寄ると、全員に響くように大きな声で言った。
「いいか、俺を殺せなければこうなるんだ!」
そう言ってその子の頬にダートの刃を滑らせた。
その子はゼフの前でうずくまり、頬を押さえる手をあふれ出る血が濡らしていた。
ベルゼフは立ち上がってゼフを見下ろして言った。
「応急処置の方法は教えたな。ここで実践してみろ」
ゼフはベルゼフをちらっと見上げた。
「早くやれ」
ベルゼフの冷たく鋭い声にゼフは黙って動き出し、頬を押さえてうずくまっているその子の応急処置を始めた。

163ドギーマン:2007/02/19(月) 01:17:02 ID:VVuASkOI0
その晩、ゼフは寝台の中で考え込んでいた。
広く暗い部屋の中、沢山の二段寝台が並んでいる。
他の子たちが早朝の訓練のために早く寝静まっているなか、ゼフだけが起きていた。
おかあさんってなに?
あの子が言った言葉だ。その言葉に感じた、何か懐かしくて暖かい感覚。
そしてベルゼフの言った言葉。
"お前達の親は俺が殺した!"
おやって、ころしたって?
ゼフはそれが何なのか、どういう事なのか分からなかった。
殺すという言葉の意味は、ナイフで相手を動かなくすることだと学んでいた。
でも、親とはベルゼフのことだ。
ベルゼフがベルゼフを殺したとはどういう事なのか。
ゼフは暗い二段寝台で、上の寝台の真っ暗な底を眺めていた。
「なあ」
ゼフは突然呼びかけられて声のした方を見上げた。
上の寝台の端から真っ黒い逆さまの人影がゼフを見下ろしていた。
ゼフはその人影を黙って見上げていた。
「おい、寝たのか?」
「おきてる」
ゼフはぼそりと返事をした。
声の主は上の寝台から降りてくると、ゼフの寝台に勝手に入り込んできた。
暖かい人の感触にゼフは思わず寝台の端に離れた。
それまで自分が暖めて居た場所から、そいつが入ってきたせいで布団の温まっていない場所に追いやられた。
「なに?」
ゼフは黒い人影に聞いた。
「ありがとな」
「え?」
「ほら、手当てしてくれたろ」
ゼフは思い出した。ベルゼフに頬を切られたあの子だ。
「うん、それで?」
ゼフの言葉にその子は言葉に詰まった。
「いや、お礼を言いたかったんだけど・・」
「おれい?」
ベルゼフから一通りの言葉を学んでいたが、そんな言葉は無かった。
「人に何かいい事をして貰ったら、"ありがとう"って言わなくちゃいけないんだよ。それがお礼」
「いいこと・・?」
「ほら、傷を手当してくれた」
ゼフはそんなことで何故ありがとうと言うのかよく分からなかったが、そういう物なんだなと思った。
「ものしりだね」
「お前より年上だからな」
ゼフはその言葉を気にせず、聞かなかったかのようにその子に聞いた。
「ねえ、"おかあさん"ってなに?」
「ん・・お母さんも知らないのか?」
「ねえ、なんなの?」
その子はしばらく悩んでから、ゼフに言った。
「すごく、暖かくて、優しくて・・・・・俺達を生んでくれた人だよ」
「おれも?」
「ああ、お前も、お前のお母さんから生まれたんだよ」
ゼフはそれを聞いて少し考え込むと、その子に聞いた。
「ねえ、おれのおかあさんはどこにいるのかな」
ゼフの言葉に、その子は黙りこんだ。
「どうしたの?」
その子は急に布団の中でゼフに腕を伸ばすと、ゼフの小さな体を引き寄せて抱きしめた。
その子の肩に口を押し付けて、ゼフには何が何だか分からなかった。
その子は泣いているようだった。体の震えを押さえ込むようにゼフを抱きしめて小さくゼフの耳元に囁いた。
「あいつが、ベルゼフが殺したんだ。俺のお母さんも、お父さんも、お前のお母さんやお父さんも・・」
ゼフにはよく分からなかった。
泣いて小さくしゃくり上げるその子に抱きしめられたまま、ゼフは暗い部屋の中を眺めていた。
やがて、その子は離れてゼフに聞いた。
「お前、名前は?」
「ゼフ」
「違う、お母さんやお父さんに付けて貰った名前だよ」
「しらない、ゼフでいいよ」
「そっか・・」
「きみは、あるの?」
「俺はメリル」
「メリル?」
「ああ、ここではお前だけだよ、俺の名前を教えたのは。言っとくが他の奴の前ではバルって呼べよ」
「わかった」
「そろそろ戻るよ、おやすみ」
「うん」
「おやすみって言われたら、おやすみって返すもんだ」
「・・おやすみ」
そしてその子は上の寝台に戻っていった。
ゼフはようやくその子が陣取っていた布団の中央に戻れた。
枕が少し湿っていたけど、布団はとても暖かくなっていた。

164ドギーマン:2007/02/19(月) 01:17:42 ID:VVuASkOI0
翌日、ゼフは朝の訓練を終えて食堂で朝食を盛られたトレイを持ってメリルと顔を合わせた。
メリルの右の頬にはベルゼフに付けられ、ゼフが処置した切傷が痛々しく残っていた。
メリルはどこかゼフと違っていた。
他人だからとか、そういう意味じゃない。
メリルはゼフの顔を見下ろすと、何故か顔を赤くしていた。
「どうしたの、バル」
「なんでもない」
メリルは席について食事を始めた。
ゼフも大きなメリルの横に座って食事を始めた。
ゼフはちらっとメリルを見て気づいた。
ゼフの目はメリルの小さな胸の膨らみに注がれていた。
そこが違っていた。
「ん?」
メリルが自分を見ているゼフに気づいて彼を見下ろした。
ゼフは無言で目線を前に戻して静かに食事を再開した。

それからメリルは時々他の子が寝静まってからゼフの寝台に入り込んでくるようになった。
ゼフはメリルからたくさんのことを学んだ。
ベルゼフが絶対に教えてくれないことだった。
どうやらメリルは何か辛くなるとゼフの寝台にやってくるようだった。
ゼフを抱きしめてはメリルはいつも泣いていた。
ゼフには何でメリルが泣くのか分からなかった。
ただゼフにはメリルは温かくて、柔らかくて、とても懐かしい感じがした。
そしてメリルの震える声を聞くたびに、震える手で抱きしめられるたびに、ゼフも何故か辛くなった。
なんでだろう。
ゼフはメリルの涙に胸の奥を締め付けられる感覚を感じていた。
なんだろう、この・・・なに?いったい・・・・・・。
ゼフはそれに戸惑っていた。ただ、メリルのために何かしてやりたいと思った。
ゼフから離れて自分の寝台に戻っていくメリルにゼフは言った。
「メリル」
「なに?」
「メリルって、あったかいね」
「・・お前もな」
メリルは暗闇の中で梯子を登っていった。
ゼフはメリルの温もりが残る布団を顎までかぶって目をつむった。

165ドギーマン:2007/02/19(月) 01:18:24 ID:VVuASkOI0
ゼフはある日、自分の周囲の変化に気づいた。
ゼフとメリルを除く他の子供達の目が、光を失って曇っていたのだ。
ただ、機械的に黙々と動く。
ギルドから与えられた作業を黙々とこなし、
訓練では生きた的を顔色一つ変えずに動かなくする。
ゼフも皆と同じようにその的にナイフを突き立てたが、心の中に何かを感じていた。
自分を見つめる的の目に、思わずナイフを握る手に力がこもった。
そのゼフの横で、メリルは少し呼吸を乱していた。
投げたナイフが中々的に当たらない。
いつもそうだった。だから的の止めはいつもゼフが刺していた。
ベルゼフが何かに気づいて歩み寄ってきた。
「おい」
ベルゼフはメリルの肩を引っ張った。
メリルは驚いてベルゼフを見上げた。
ゼフも釣られるようにベルゼフの顔を見た。
ベルゼフはゼフを睨んだ。
ゼフは慌てて目を目の前の動かない的に戻した。
他の子供達は皆、そんな事など起こっていないかの様に目の前の動かなくなった的の急所にナイフを投じ続けていた。
ベルゼフは的に向かってナイフを投じるゼフをしばらく眺めたあと、メリルに目を戻した。
そしてメリルの短い髪を掴んで上に引っ張ると、ベルゼフは腰を曲げてメリルの顔を覗き込んだ。
メリルは「あうぅ」と呻いた。
「お前・・・・わざと外しているな?」
ゼフの投じたナイフが的を逸れて床に突き立った。
幸い、ベルゼフはそれに気づいていなかった。
メリルは髪を引っ張られて痛みに顔を歪め、恐怖の目でベルゼフを見ていた。
息を震わせているメリルの眼をしばらく睨むと、ベルゼフは顔を上げた。
「やめ!」
ベルゼフの声にゼフを含め全員がナイフを投げるのを止めた。
そして、指示を待つように機械的にベルゼフに向き直った。
ベルゼフはメリルの髪を掴んだまま、後ろに立つ見張りのシーフに言った。
「おい、新しい的を持って来い。ここにだ」
シーフは小さく頷くと走り出し、しばらくして鎖につないだ小さな仔犬をつれてきた。
そしてベルゼフは引っ張られた頭を抑えるメリルから手を離し、メリルの手を乱暴に掴んでナイフを握らせた。
そして、メリルの眼を睨んで言った。
「殺せ」
そう言ってメリルの背中をどんと押して仔犬の前に立たせた。
メリルはナイフを握ったまま、目の前の仔犬を見下ろしていた。
仔犬は母犬を的にされたことなど気づいていないように、愛らしい姿をメリルに見せていた。
メリルは息を荒くして、仔犬に近づいてしゃがんだ。
そして、仔犬の首根っこを掴んで押さえつけるとナイフを持つ指にぎゅっと力を入れた。
他の子供達は微動だにせずその様子を眺めていた。
ただ、ゼフだけはぎゅっと手を握りこんでいた。手の中は汗が滲んでいた。
メリルはナイフを握る手を震わせて、止まってしまった。
「どうした、早くやれ」
ベルゼフの冷たい声が響いた。
それでもメリルは動けなかった。
やがて仔犬はメリルの手に抵抗し、押さえ込んでいる左手の親指に噛み付いた。
親指から血が滲み、メリルはナイフを床に落とした。
そして仔犬を抱き上げて呟いた。
「ごめんね・・」
そして大声で泣き出した。
ベルゼフは無言でメリルの背後に歩み寄ると、ナイフを拾い上げてメリルの髪を掴んで立たせた。
仔犬はメリルの手から離れて床に降り立った。
ゼフはメリルの泣く顔を見て、握りこんだ手に力が入った。
うごかなきゃいけない。なんとかしなきゃいけない。メリルがないている。
そう思ったが、動けなかった。どうすればいいのか分からなかった。
ベルゼフはナイフを仔犬の顔に向かって投げた。
メリルの悲鳴が響いた。
その悲鳴にゼフは胸を締め付けられていた。
ベルゼフはメリルの顔を自分に向けさせて言った。
「お前は、"処分"だな」
そう言って仔犬を連れてきたシーフにメリルを突き出した。
「連れて行け」
シーフは仔犬の死骸を無造作に拾い上げ、泣き叫ぶメリルの髪を掴んで部屋の外へ引っ張っていった。
「全く、変に知恵付いたガキはこれだからな。次からはもっと小さいのを選ぶか。だがそれだと頭数がな・・」
そうぶつぶつと一人で呟き続けた。
そして、ベルゼフは気づいたように声をあげた。
「次だ!走れ!」
その号令とともに、ゼフ達は次の訓練のために走った。

166ドギーマン:2007/02/19(月) 01:19:51 ID:VVuASkOI0
その晩、ゼフは寝る前に上の寝台をちらっと見た。
誰も居なかった。
布団に潜り込み、待っていたが誰も上の寝台に来る人は居ない。
見回りにきたシーフが部屋を覗いて消灯する。
真っ暗な闇に飲み込まれて、ゼフは何故かひどく寒かった。
身体がではない、心が。
上には誰も居ない。その事実だけで心が寒かった。
メリルはどうなったんだろう。
"処分"とは一体何なのか。
ゼフは身体を抱いて、寒さに耐えた。
なんでだろう。
何故か眼から涙があふれて来る。
ただメリルが居なくなっただけで、とても大事なものを無くした気がする。
とても寂しくて、辛い。
ゼフは分かった。
何でメリルが自分のところに来たのか。
何でメリルは自分を抱き締めていたのか。
寒くて、辛くて、苦しい。
ゼフは腰を曲げて、肘をぎゅっと握り、歯を食いしばっていた。
気が付けばメリルのようにしゃくり上げていた。
ゼフは、メリルの温もりが欲しかった。

それから毎日、ゼフの隣にメリルの姿は無かった。
ゼフはベルゼフの前では平静に、他の子と同じように、
歯車の一部になりすまして機械的に動いていた。
でも、寝る前には必ず上の寝台を見ていた。
そして、誰かが梯子を登らないかと、降りてこないかと待っていた。
誰も居ない。誰も来ない。
ゼフはようやく理解した。
もうメリルには会えないと。
ゼフは幼くして"死"を理解した。
と同時に、酷い後悔が心の中に押し寄せてきた。
なんで、あのときうごけなかった。
自分はメリルのために何もしてやれていない。
心の中から関を破って涙が眼に溢れてくる。
自分が無くしたものがようやく分かった。
メリルはずっとくれていたんだ。
"いいこと"をしてくれていたんだ。
「・・メリル・・・・ありが、とう」
震える声で、ゼフは初めてお礼を言った。
メリルはもう居ない。
なんで、いきているうちにいってやれなかったんだろう。
ゼフは眼から溢れる涙を搾るように眼をぎゅっとつむった。
そして、ベルゼフに対する憎悪を心の中にたぎらせた。

167ドギーマン:2007/02/19(月) 01:20:54 ID:VVuASkOI0
その日も、いつものように生きた的の前に立たされていた。
ゼフはダートを持って、目の前の的を見た。
そしてダートを振りかぶって、止まった。
メリルの気持ちが分かった。
メリルはここに居る誰よりも物知りだった。
無抵抗で、無力で、ただ目の前で吼えているだけの的。
それを殺すことは、とても"わるいこと"だ。
ベルゼフが教えてくれず、メリルが教えてくれた事だ。
ベルゼフが動かないゼフに気づいて歩み寄ってきた。
「どうした」
ゼフはダートを握ったまま動かなかった。
「おい」
背後から呼びかけてくる声に、ゼフは目の前に並べられているダートを素早く拾い上げて振り向いた。
「うあああ!!!」
叫びながらゼフはダートを素早い手つきで7本同時に投げた。
「むっ」
ベルゼフは仰け反りって避けた。
しかし避け切れなかったのか、ダートの一本がベルゼフの右目の上の眉を切った。
血が噴出してきて眼の端から中に入った。
ゼフは視界を奪った右に回って、残った一本のダートを握って跳んだ。
狙いはベルゼフの首筋の頚動脈だった。
ベルゼフ自身から教え込まれた暗殺術。
しかし、振るわれたダートはベルゼフの手に止められた。
「殺気を出しすぎているな。狙いが簡単に分かる」
そう言ってゼフの頭を掴んで床に叩きつけた。
「ぶぐっ」
ゼフは顔を床に打ち付けた。
鼻血が噴出してくるのにも構わずに立ち上がろうとすると、その背中をベルゼフは踏みつけた。
「ふん、まだまだだな」
見張りのシーフが走り寄ってきてゼフに手を伸ばした。
「待て、"処分"はしない」
「は?」
シーフはベルゼフを見上げた。
ベルゼフは手の平で右目を拭いた。
そして手の平に付いた血を見下ろしてにやりと笑った。
「この小僧、もしかしたら"逸材"かも知れんぞ」
「では・・」
「"再教育"後、特別訓練だ。まさか実戦前に見つけられるとはな」
そう言ってゼフから足を離すと、立ち上がるゼフをシーフに押さえ込ませて彼の頭を掴んだ。
自分の頚動脈を狙ったダートを握ると、ゼフの右頬に滑らせた。
そして痛みに唸るゼフに当身を食らわせて意識を奪った。
力なくシーフの腕の中に倒れこむゼフを見下ろして、ベルゼフは言った。
「連れて行け」

半年後
ゼフは他の子供達と共に特別訓練を受けていた。
子供達は実戦のせいか、ゼフを含めて10人ほどに減っていた。
皆暗く曇った目で、ベルゼフの言うままに苛烈な訓練を受けていた。
そこに、一人の髭面の男がやって来た。
「どうだ?」
男に聞かれ、ベルゼフは子供達を眺めたまま言った。
「商品化もまもなくだ」
「そうか」
そう言って男は笑みを浮かべた。
「で、報酬は本当にいいのか?」
「ああ、俺は俺の持つ全てを伝えられれば、それで構わん」
男はベルゼフの言葉を興味なさそうに聞き流すと、子供達を眺めていた。
今では的は生きた人間になっていた。
そして、顔色一つ変えることなく子供達は一つの作業をこなすように命を奪っていた。

168ドギーマン:2007/02/19(月) 01:21:45 ID:VVuASkOI0
そして、その日は来た。
子供達は皆ベルゼフから配られた服を着ていた。
闇に溶け込む黒い帽子、黒い奇妙な形状のマント、腰には投擲武器を収納するホルスター。
ベルゼフは子供達を並べて言った。
「今日で全ての訓練は終了だ。明日からはお前達にはそれぞれ仕事が与えられる」
「明日から、お前達の親はこの方だ」
そう言ってベルゼフはにやにやと笑みを浮かべる髭面の男を示した。
「シーフギルドが家族であり、親はこのマスターだ。
 子供は親の言うことには忠実に従わなければならない。
 親が死ねと言えば死に、親が殺せと言えば殺す。わかったな」
ゼフを含め、子供達は皆新しい親を見上げた。
ベルゼフは自身の最高の傑作、ゼフをじっと見下ろした。
「では、今日は以上だ。各自明日に備えて休め!」
全員敬礼し、寝室に向かって行った。

ゼフは消灯後、寝台のなかでしばらく眼を閉じていた。
そして、全員の寝息を感じ取ると眼を開いて身体をゆっくりと起こした。

翌日、
男はベルゼフに怒鳴っていた。
「どういうことだ、全員死んだだと?ふざけるな!」
ベルゼフは誰も居ない訓練場で椅子に足を組んで座って、男に言った。
「全員ではない。一人を除いて、だ」
「そんなことを聞いているのではない!」
ベルゼフは腕を組んで男に言った。
「俺の自慢の息子が他のそこそこ使えるだけの商品を潰し、
 見張りの役立たずどもを殺した。それだけだ」
ベルゼフはにやにやと笑うと、全てが終わった跡を思い返した。
「見事なものだった。
 役立たず共はともかく商品のほうは気配を察知することはそこらへんの者よりは優れていたのにな」
「全員首をかき切られて声を上げる暇も無く死んでいたよ。ははははは」
そう言って笑いながらベルゼフは右頬に付けられたばかりの傷を撫でた。
「黙れ!」
男は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「これにどれだけの金をつぎ込んだと思ってるんだ!
 貴様のせいだぞ、この責任は必ず取ってもらうからな。
 もちろんそのゼフとか言う小僧もだ。覚悟しておけよ!」
「ふん」
ベルゼフは鼻で笑った。
「別に放っておけば向こうから来る。俺を殺しにな」
「黙れと言ったはずだ!とにかく、覚悟だけはしておけよ」
そう言って男は取り巻きを連れて帰ろうとした。
「待て、忘れ物だ」
「何?」
男が振り返ると、男と取り巻き達に向かって5本ずつ手斧が飛んだ。
ズタズタになって赤い絨毯に倒れこむ男達の死体を眺め、ベルゼフは笑っていた。
「ククク、ゼフ。待っているぞ。俺を超えたことを、俺を殺して証明してみせろ」
ベルゼフは笑いながら死体を踏み越えてシーフギルド倉庫を後にした。

ゼフは街道の中、振り向いて遠くブリッジヘッドの街を眺めた。
"再教育"でベルゼフの言った言葉を思い出した。
『お前にだけは俺の全てを伝えてやる。他のクズ共を全て殺し、俺を殺しに来い』
ゼフにはベルゼフの言った言葉の意味が分からなかった。
"再教育"ではベルゼフに殺しの技術を叩き込まれただけだった。
ゼフの中のベルゼフに対する憎悪は決して消されることはなかった。
いつか必ず、殺してやる。
ベルゼフだけは殺し損ねてしまった。
『まだまだだな。もっと強くなってこい』
そう言ってベルゼフはゼフをまた当身で気絶させた。
気が付けば街の外で寝ていた。懐には札束が詰め込まれていた。
殺せたはずなのに、何故奴は命を狙う自分を生かしたのか。
ゼフには分からなかった。
ただ、まだ奴を殺すことは出来ない。それだけが分かった。
広い世界を歩きながら、ゼフは温かい日差しを見上げた。
「メリル・・」
ゼフは日差しの温かさに、メリルをだぶらせた。

169ドギーマン:2007/02/19(月) 01:35:07 ID:VVuASkOI0
あとがき
シーフギルドで思いついた話です。
シーフの生い立ちみたいな感じで考えてたんですけど、
年代的に言うと80年ほど前の話なんですよね。
続きません。

>>153-156
いいですね、こういうキャラ。私も好きですよ。
どこか憎めないといった感じがいいです。
あと、公式設定は気にしなくていいです。
あまり忠実だと、やりにくいですから。
私も妄想で書いてますしね。
『手記』のほうも出来るだけ設定に忠実にやろうとしてみてるだけで、
妄想で補っている部分が多いです。

>キンガーさん
ついに来ましたね。
てっきりあっけなく犯人捕まっちゃったのかと思いました。
続きが楽しみです

170名無しさん:2007/02/19(月) 12:33:33 ID:yZqWB8n60
>>160
「戦いで人を殺した時は勇者でも、その後はただの犯罪者だ」という言葉が頭をよぎります。
コロセウムはあるという事にしてしまいましょう!(笑) あっても全然おかしくないですし。
むしろそういう史実があるから潰されてしまった、と勝手に作ってもいいと思いますよ。

>きんがーさん
実はこの二人が本当は・・とか裏を読んでしまいそうになる(笑)
犯人は誰なんだろう。頑張れ警察陣!

>ドギーマンさん
"シーフになる"というのは他の職よりも簡単ではなさそうですよね。
シーフギルドのシーフもほとんど普通に敵ですし(苦笑)
名前も分からないまま成長して初めて殺すと本気で思った相手が名付け親だったとは…
ゼフがその後明るい太陽の下で元気でいてくれてる事を願ってます。

171名無しさん:2007/02/19(月) 16:14:56 ID:f0SX/jL60
戦いの描写をふいに書いてみたくなったので書いてみました。中身はありませんが・・。


やわらかい風が心地よい、春の夜だった。こんな日はほろ酔いで家路に帰るのが
ユアンの一つの幸せである。愛刀フランベルジュを腰に履き、微かに顔を赤らめて
ユアンは馴染みの酒場を後にした。

「ダンナ、気をつけて帰りなよ。最近物騒だからねぇ。」
「はっは、通り魔如きに俺を襲う度胸があるかってんだよぉ。」
「あんただから危ないってんだよ。女子供を歩かせるよりよっぽど心配だよ」

だみ声でがなりたてるオカミから逃げるように店をあとにする。通り魔か・・・。

今月に入ってからというもの、アリアンは通り魔の話で持ちきりだった。
名だたる冒険家や騎士などの強者が立て続けに殺害されると言うものだった。
通り魔は絶対に一般人は襲わず、必ず「その筋で名の知れた」実力者ばかりを
狙っているようなのだ。そしてユアンは、そういう見方をするならば、十分通り魔の
嗜好に合った名うての戦士である。

しかし・・やつに殺された奴らの中にはレッドストーンの探索任務を公式に受けるほどの
実力者も居た。それほどの奴が、何の目的で無差別に強者を狙う?

ぼんやりと考えながら、夜風を受けてふらりと歩くユアン。酔い加減を計り間違えたか、
思ったよりも足がふらつく。自分自身の草鞋を踏んで、思わず前のめりになる。


その刹那、開幕の一撃は音も無く、闇夜の静寂の中から突然繰り出された。
咄嗟に上体を捻る。空間を切り裂いて放たれた一撃は頚動脈の脇をかすめ空を穿った。

抜刀し、捻った勢いで横に一閃薙ぎ払う。こちらの一撃も
空を切ったが、牽制はできたようだ。
抜き放たれたフランベルジュから放たれる赤い光が辺りを照らし、
朧げに相手の姿を照らし出す。

目の前には黒装束の男が居た。短刀を逆手に構え、微動だにせずユアンを
見ている。顔は覆面に覆われ表情を見て取ることはできない。


「てめぇ、流行の通り魔だろ」・・返事はない。


ゆったりと息を吐き、愛刀を正眼に構える。


「目的は、何だ?」・・・・やはり返事はない。

そのままジリジリと間合いを詰める。未だ男は動かぬままだ。


「ダンナ、財布忘れてるよ!」
背後から酒場のオカミのダミ声が響いた。刃を振るう最後の一間は唐突に
訪れる。その刹那、ユアンの体がユラリと揺れ、男の頭上に容赦無い
刃の雨が一瞬のうちに降り注いだ。神速の斬撃は確実に相手の脳天を
捉えたかに見えたが、次の瞬間、男の姿は霞の如く掻き消えていた。分身・・!

背後から男の必殺の一撃が繰り出される。体を落としそれをかわすと、
腕を振り切り無防備となった胸目掛けて剣を突き出したが、男はそれをヒラリと
かわすと、まるで曲芸のように剣の切っ先からユアンの懐まで一気に滑り込んできた。
たまらず、力任せに剣を振るって通り魔を振り落とし、すんでのところで間合いを取り直す。


「アワワワワ・・・」必死の体でもと来た道を走り出すオカミ。

172名無しさん:2007/02/19(月) 16:15:58 ID:f0SX/jL60
再び正眼の構えを取り、息を深く吐く。やはり通り魔はぴくりともせず、携えた
短刀を逆手に構えている。


「おめぇさん、何でわざわざ正面から襲ってきた。確実に殺るなら背後からって
のがセオリーだろ。」


やはり何も答えず、その代わり、手に持った短刀を投げつけてくる。
短刀を剣で跳ね上げ、間合いに踏み込んでくる男に3方向からの斬撃を見舞うが、
男のほうが一瞬間だけ速く剣の「死に間」に踏み込んだ。十分に勢いを得ることの
できない斬撃はその切れ味を失い、刀身は衝撃とともに男の腕に吸収される。

くそっ、巧ぇじゃねえか!

素早く体を「にぎり」に絡みつかせると、そのままの反動でユアンの顔を目掛けた
踵落としが放たれる。頭部への直撃を避けるため、首をよじり肩当てで踵を受けると、
そのままむんずと掴んで放り投げたが、勢いを殺され懐深くに踏み込まれてしまった。

まずぃ、来る・・!

男の体が一瞬沈んだかと思うと、その深みからユアンの丹田目掛けて
勢いよく拳が跳ね上がる。ユアンは、避けきれないと、咄嗟に体を密着させ勢いを殺す。

そして、互いに押し引きならない膠着の時が続いた。


「はっ、急所ばかり狙ってくるから分かりやすいんだよ」
「・・・・このほうがスリルがある」
「あぁ?」
「・・・・背後から襲うなど、面白みがない」



次の瞬間、何かが男の掌で弾け、ユアンの腹部には大槌で打ち抜かれたかの
ような衝撃が走った。
ユアンの屈強な体躯は勢いよく弾き飛ばされ、背後の壁に叩きつけれた。

「かはっ・・!?」

あまりの衝撃に声も出ず、ズルズルと壁の元に崩れ落ちるユアン。

「そ、その・・・技・・・・一体・・」
「これを俺に見せた男は、烈風撃と呼んでいた」

男の右掌には大気の塊が集まり、僅かにその周りは歪んで見えた。
アバラを何本か持って行かれたらしく、苦痛に顔が歪む。ゆっくりと
近づく通り魔。最期を覚悟したその時、

「いたぞ!あそこだ!」

警備兵の一群が奔ってくるのが視界に映った。オカミが呼びに行ったのであろう。
具足のぶつかる音が近づくなか、男はユアンを見下ろすと、

「中々楽しめた。続きはまたの機会に取っておこう。」

と言い残すと、闇夜に消えていった。ユアンは、己の剣が届かなかったことを
ただ歯噛みするしかなかった。

173名無しさん:2007/02/19(月) 16:18:02 ID:f0SX/jL60
だめだ、難しいなorz

投稿続けてる皆さんは凄いと改めて思った。がんばって下さい。

174名無しさん:2007/02/19(月) 19:30:38 ID:yZqWB8n60
>>172
武道(ハイブリかっ(笑))が登場しただけで私は大満足です!(こら)
戦闘シーンって本当に難しそうですよね。簡単に体験できませんし。
例えば剣と剣の戦闘ならばまだ分かりますが、魔法などが出てくると本当に想像力のみです・・

読んでいる方もその情景を目の前に思い描きながら読んでいます(笑)
自分で想像しているくせに、ユアン君の動きと相手の男の動きが目に追えない・・orz

175姫々:2007/02/19(月) 20:43:59 ID:5flRjIeE0
初投稿、姫物語。書く速度はあんまり速くないですけど、
アイデアが浮かび次第書いていこうと思うのでどうかよろしくお願いします。

・・・

・・・

・・・

(ぽかぽかぁ〜・・・、あったかぁい・・・)
暑くもなく寒くも無い、暖かい陽気。こんな日は昼寝に限る。
が・・・、その眠りを妨げる鬱陶しい存在があった・・・。
「ひーめーさーまーぁ、どこですかー?」
と、侍女が叫んでいる・・・。私を探しているのだ。
(見つかってたまるか・・・)
そう身を潜ませるが、私の行動パターンはバレバレらしい、
突如洗濯物かごをひっくり返される。と、私はその中に隠れていたわけなので
ひっくり返されるという事は必然的に床に落ちるという事になるわけで・・・。
「まったく・・・、兎に変身して洗濯物に埋もれてお昼寝するのは、やめていただけませんか?」
「いったぁ・・・、いいじゃないのよぉ・・・」
落ちた時に、頭を打ってしまったらしい。頭をさすりたいのだが、兎のままじゃ
腕が頭にとどかない。
「よくありません・・・、まぁこの話はここまでにして・・・。女王様がお呼びです。」
女王様?私のお母様な訳だけど、はっきり言ってあまり行きたくは無い。
「えー、やだよー。どうせいつもの小言なんだもんー」
「それは姫様が毎日毎日誰かを困らせるからですよ。」
そうはいわれても困らせているつもりは微塵もないんだからそれは冤罪というものじゃ
ないだろうか・・・?

・・・・・・と、この姫、名をルゥと言うのだが、このルゥは毎日のように洗濯物に埋もれ、
勉強をサボり、都合が悪くなると、また兎になって逃げ出しては兵士の武器に変身して
まんまと逃げ切るという・・・、それ以外にも多々いたずらをしているのだが、
書き始めるともはや書き切れないので割愛する事にする。・・・・・・何にせよ「自覚が無い」
訳だから何かと問題である。

「とーもーかく。女王様の所に行って下さらないと困ります。」
「むー・・・、やだー・・・」
「膨れてもダメです。私が連れて行って差し上げましょうか?その姿のままなら
 連れて行って差し上げる事も容易ですが。」
と、そこまで言われて、まだ自分が兎の姿のままだったということに気づき。
変身をとく。
普段なら兎の姿のまま走れば逃げれるだろうが、寝起きの今じゃ、
この行動パターン読みまくりの、侍女からは逃げれる気がしない。
「分かった、行けばいーんでしょ?行けば」
「はい、女王様の部屋までお付き添いしますね」
「えー、いいってばー」
「ダメです。そう言って何度逃げられたと思っているんですか・・・・・・」
ちっ・・・、逃げ道をふさがれた・・・。いや、武器変身という手段があるにはある、
が、あれには媒体になる人がいないと変身できないという難点がある。そして残念ながら
身の回りにはこの侍女しかいない。
「はーい・・・、分かりましたー・・・」
私は観念して、お母様、もとい女王様の元へと半連行される事となった。

・・・

176姫々:2007/02/19(月) 20:46:08 ID:5flRjIeE0
「なんでしょうか、女王様・・・」
「ルゥ姫、前置きは無しで本題から参りましょう・・・」
う・・・・、はっきり言ってこの雰囲気は苦手だ・・・、この話の切り出し方で、
私が疲れなかったことはただ一度としてない。
「・・・ルゥ姫、貴女には隣の星まで修行に行ってもらいます。」
「・・・・・・・・・・・・は?」
いや、隣の星にも人間がいる、というのは勉強したので知っている、
けどなんで私が行かなければならないのだろう・・・。
「は?ではありません、貴女の悪行には、皆ほとほと呆れています、
 自身の教養をつける―、という意味でも修行のつもりで行ってらっしゃい」
「嫌ですよ、なんで私が行かないとダメなんですか?」
「既に旅支度は済んでいます。頑張ってくださいね」
ニコリと言うが、この女王様も話を聞かないという面ではルゥと同じでは無いだろうか・・・。
「で・・・でも行く方法が分からないんですが・・・」
「それはウィザード達が魔方陣でポータルを開いてくれるので安心して下さい」
いよいよ逃げ道が無くなって来た・・・、とは思ったが、ふと考え直してみると、
これは逃げる必要はあるのだろうか?いや、無い。何故なら、もう私は
小言を言われずにすむし、毎日勉強しなくていい、それに小うるさいあの侍女
から逃げ回る必要も無い。そう考えると割と悪くもない気がしてきた。
「分かりました。わたくしルゥは修行のため、隣の星に行ってまいります。」
「ふふ、気をつけてね。これは私からの餞別です。『――アストラルスピリット』」
そう呟くと、何かが私の周りを回りだした。
『あー、ルゥちゃんだー。お久し振りー、元気にしてたー?』
って何か喋りだした!!?
「その子は星の精ですよ。名はスピカと言います。」
そういわれて見ると昔見たことはある。けど実際に見たのは何年ぶりだろう・・・。
それに名前は今知った。
「で、この星の精は何をしてくれる訳でしょうか・・・?」
「それはもう、付近の探査から危険の察知という察知能力だけなら誰にも負けません」
だけ・・・、って事は雑用をやらせるのは無理と言う事だろうか・・・。
「あとは・・・リリィ、いらっしゃい。」
と、呼ばれた。
「お母様、リリィって誰ですか?」
「貴女を今ここにつれて来た侍女でしょうが・・・」
と、振り向いた先にはさっきの侍女がおどおどしながら私の横に立っている。
(あ、この人か・・・・・・・・・。ってこの人そんな名前だったのか・・・)
「姫様・・・、私は悲しいです・・・」
そういい、侍女・・・じゃなくてリリィは女王様の方を向き、一礼する。
「リリィ、貴女には引き続き教育係兼、ルゥの護衛という任務についてもらいます」
『・・・はい?』
私とリリィが同じ感想を漏らした。そりゃそうだ。私は一人で行くと思っていたし、
リリィは別の人がその任をまかされると思っていたのだから。
「女王様っ、教育係と言うのは置いといて、この侍女に私の護衛が勤まるのですか!?」
勤まるはずが無い、そう思った・・・が・・・。
「何を言っているのです、リリィは優秀なウィザードですよ?そもそも無能な者に
 あなたの教育係を任せるはず無いじゃないですか」
・・・む、言われて見ればそうだ・・・。弱い無能な人に面倒は見られたくない・・・。
「・・・分かりました、このリリィ。全力で姫様を見守る事とさせていただきます」
「任せましたよ」
ニコリとお母様・・・もとい女王様が笑う。
「では、地下実験場へ。ポータルもそろそろ開く頃でしょう。」
そう促される。が・・・
「地下実験場・・・ってどこ・・・?」
そんな施設、私は聞いたことは無い。
「リリィとスピカが知っています。二人について行って下さい。」
「はーい・・・」
私は一礼してから振り返り、部屋を出ようとする。
「まって、ルゥ」
と、女王様に止められた。
「なんでしょう?」
「頑張ってね。貴女のが立派になって帰ってくるのをずっと待っていますから。」
それは女王様ではなく、母としての私への言葉だったんだろう。
だから私も姫としてではなく、娘として答える。
「うん、頑張ってくるねっ!」
と・・・。
『ルゥちゃん、急いで急いでーっ!ポータルもそう長くは持たないんだからっ!』
と、星の精、スピカに急かされ、私は長い廊下を走る事となった。

177姫々:2007/02/19(月) 20:48:23 ID:5flRjIeE0
「リリィ、着替えは!!?」
まさかこのかっこのまま行くわけじゃないだろう。・・・と思った私が甘かった。
「いえ、時間がありません。このまま行きますっ!」
「えーっ!?」
流石にプリンセスドレスで行く事になるとはだれが予想しただろうか。
いや、間違いなく私以外の全員はそうなると予想していただろう。
「仕方ないのです。ポータルは一度閉じれば再び開くのに1〜2ヶ月は掛かります、
 そんなに待つことは出来ませんっ!」
「そんなぁー!」
私は引っ張れ、地下実験場に到着、走っている間に聞いた話では、ここは
リリィ達ウィザード達のための実験施設らしい。
そこには10人位のウィザード達がいて、魔方陣を囲んで呪文のような物を
唱えていた。
「行きますよ、ゆっくり歩いて魔法陣の中に入ってください。」
「・・・うん」
リリィに言われ、私は魔方陣の前に立ち、1回大きく深呼吸をして、
気持ちを落ち着かせてから、魔方陣によって輝いている床へと歩き、入って行った。


・・・

・・・

・・・

・・・


「――――――――――!!!!」
何かが叫んでいる。私はどうなったんだろう・・・。
分からない、わからない、わからない・・・。
「―ゥ――き―く――い!!!!」
なんだろう、なんと言っているのだろうか・・・。私は必死に聞き取ろうとする・・・。
「―ゥ様―起き―くだ―い!!!!」
ん・・・、何なんだろう・・・。聞き覚えのある声、誰だったっけ・・・。
それになんて言ってるのか、少しずつ判ってきた気がする。
そうだ・・・・、私は魔法陣に入ってそれから・・・・・・。
「ルゥ様っ!!!!、起きてくださいっ!!!!!!!!」
「ってうわぁ!!」
「ひゃぁ!!ビックリするじゃないですかっ・・・!」
たたき起こされた身にもなってほしい・・・。ってここはどこだろう・・・。
「もう・・・、大変だったんですよ?ただでさえルゥ様のかっこは目立つんですから・・・」
「えーっと・・・?ここどこ・・・?」
はっきり言って気絶したのは私の本意じゃないんだから私は悪くない。
それに目立つと言われてもそれは私の不備じゃないだろう。
「もう隣の星についていますよ、ここはその星の街「ブルンネンシュティグ」。
 旅人達の集う街、と呼ばれています。」
「へー・・・」
窓の外を見ると、さすがさすが。剣と鎧でその身を覆う剣士、槍を背に担いだランサー、
ローブを着込んだウィザード、ホールを持つビショップ、ダートを持ち、
黒衣に身を包むシーフ等などと、他にもさまざまな武器を持つ人たちが、
さまざまな姿で何かの祭りのようにその街の中を歩いていた。
「すごーい・・・すごいよリリィっ!!うわぁ、面白そーっ!」
と、言っていると、リリィが呆れ顔で言ってくる。
「あのですね・・・ルゥ様・・・。私達は観光に来たのではないのですよ・・・?」
「分かってるよー。で、私達は今からどうするの?」
「んー・・・、そうですねー・・・。街に出てみましょうか。少しお買い物が残っていますので。」
そうリリィが提案する。
「賛成賛成っ!いこいこっ!!」
ルゥはリリィが調達してきたのであろう服に着替え、そう言っている。
「まったく、お姫様と来たら・・・、まぁ折角ですし行きましょうか」
仕方ない、と言うが、リリィもルゥの笑顔を見るのは嫌いではなかった。
いや、むしろ好きだったと言っていいだろう。なんせこの無垢な笑顔を見るため、
毎日を過ごしているようなものだったのだから。
「って姫様ぁ!置いてかないでください!!」
そのおかげで、こんな困り者の姫様の召使が勤まっていたわけだ。

178姫々:2007/02/19(月) 20:49:30 ID:5flRjIeE0
「って、あれ?」
私が叫ぶとルゥがぴたりと足を止めた。いや、止めて当然と言えば当然なのだが、
普段のルゥなら止めるはずがなかったから疑問に思ったのだ。
(どうしたんだろう?)
と、追いついて顔を覗き込むと、目を輝かせてドアの外を見ている。
その方向を見てみると・・・、あぁなるほど。輝かせるのもわからなくは無い。
その方向には一匹・・・いや、一人のウルフマンの姿があった。
「わー、すごーい、なにあれー!!?」
と、思いっきり指をさして叫んでいる。一応はプリンセスなんだからその辺りの
礼儀はわきまえて欲しい・・・・・・。などといっている場合ではない。
「あ?何だ、ガキ」
「うわー、フワフワだー」
明らかに相手のウルフマンは不機嫌だ。それを無視して姫はウルフマンの体を触っている。
そういえば未熟なウィザードがウルフマンに変身すると、
自我が歪んで性格が凶暴になることがある・・・とか、そんな事を聞いたことがある。
「鬱陶しいっ!邪魔だ、どけっ!!」
ウルフマンが爪を立て、大きく腕を振って、ルゥを振り払う。
と・・・、リリィは目を疑った。
いや、目の前で起こったことを信じたくなかった・・・、というのが正解だろう。
「ぇ・・・・・・・・?」
「ルゥ様っ!!!!?」
ルゥの服は大きく裂かれ、鮮血が飛び散っている。リリィはルゥに駆け寄って叫ぶ。
「姫様っ!!しっかりっ!!!」
リリィが呼びかけるものの、ピクリとも動かない。
『リリィっ!!落ち着いて、まずはアースヒールをっ!!』
スピカが叫び、我に返ったリリィが懐から小さい杖を取り出し、アースヒールに
よる治療を施す。
「よし・・・」
パッと見、出血はしていないようだし、息もある。もう命は大丈夫だろう。
が、やはり許せない。いくらこちらが悪かったとはいえ、あんなにする必要は
あったのだろうか・・・?いや、無いだろう。
「あなた・・・、私の姫に・・・っ!!!」
「ひ、姫・・・!!?ってちょっと待てよ、俺は服を裂いただけだぞっ!!!
 あんなに血が出るはずねぇじゃねえかっ!!!」
とんでもなく鋭い眼光に睨まれ、呆然と見ていたウルフマンは後ずさりをしながら、
弁解を始める。
「だから・・・、どうしたと言うのですかっ・・・!!」
そう言うと同時、リリィが杖を高々と天に向け、詠唱を始める。
「・・・Мετεο――・・・」
メテオシャワー・・・、ウィザードの最強呪文・・・。文字通り隕石を宇宙から
召喚して、地上に落とすスキルなのだが、こんな街中でそんな事をすると
被害はどうなるか分かった物じゃない。が、そんな事、今は重要じゃない。
ルゥに無詠唱で防御のスキルを掛け、後のことはどうなってもいいと思っていた。
「やめてくれぇえええっ!!」
しかし、とんでもない速さで相手のウルフマンが逃げた事により、その呪文が
発動される事はなかったわけだが。
「く・・・、ヘイストかっ・・・」
自分もヘイストをかけて、追いかけたいのは山々だが、いくら何でも
ルゥをほったらかしにする訳には行かない。
いや、そんな事より今はルゥ様だ・・・そう思い、ふり向くと、目に涙を浮かべつつ、
フルフルと震えているルゥがいた。
「姫様っ、ご無事ですか・・・っ!」
と、妙に思う。いくらアースヒールでも、それは気付けじゃないんだから気絶してる
人間がそんなに早く目が覚め、こんなに元気になっているはずが無い。
「姫様・・・、まさか・・・?」
「ぐすっ・・・、ごめんなさい・・・」
お得意の悪戯だった・・・という訳か・・・。確かによく見てみると、
服に染み付いた赤い液体は血液じゃない。臭いをかいだ感じ、ただのポーションだろう。
多分いつものように私を困らせようとしたのだ。
袋にポーションの中身を詰めて、着替える時に服の中に仕込んだのだ。
「姫様・・・、どれほど心配したと思っているのですかっ・・・!!」
「ごめんなさいっ・・・。本当にごめんなさいっ・・・・・・!」
私がかがんで姫を抱き寄せると、ルゥも私の背中に手を回してきた。
「お願いです、私はどれだけ貴女に困らせられても私は貴女の元を離れません、
 けど・・・、あまり心配はさせないでください・・・」
「ごめんなさいっ・・・!!!ほんとうに・・・ごめんなさい・・・」
この時、初めてルゥは思った、こんなに自分を心配してくれる人が、
母以外にいたのか・・・と。

179姫々:2007/02/19(月) 20:50:48 ID:5flRjIeE0




「さて・・・、まずは服ですね。まぁお金は女王様にたくさん預かってますし、
 とびっきりの服を買いましょうか。」
「え!?ほんとっ!!?」
あれからシュンとしていたルゥだったがそう聞くと、パッと元気になった。
「ふふ、げんきんですねぇ。まぁ行きましょうか。」
とりあえずさっきの服は破れてしまったので、宿屋にあった布の服を代理として使い、
服屋へと向かう。と、服屋へと向かう途中、冒険者が話していた。
「なぁなぁ、レッドストーンって本当にあると思うか?」
「どうなんだろうなぁ・・・、あれがあれば世界が手に入るって噂もあるが・・・」
などと話していた。と、リリィはハッとした。こんな面白そうな話し、
ルゥに聞かせたらどうなるか・・・。そう思い、ルゥを強引にでも引っ張っていこうと
目をルゥのほうに移すと、以外にも「興味が無い」、という顔をしている。
「あれ・・・?興味ないんですか・・・?」
などと、ついつい聞いてしまった。
「え、何に?」
意外だ・・・。意外すぎる・・・この元気の塊のような姫様が興味無しとは・・・。
「いや、レッドストーンにですよ。さっきの冒険者が話していたでしょう?」
「あぁ。うーん・・・けど世界ってもう手に入ってるじゃん。2個もいらないよ」
・・・なるほど・・・、そういえば私達の星の未来の女王様なんだから、言う事は
ごもっともだ。
「では。女王様になるために明日からはお勉強しましょうね。」
「・・・え?」
「え?ではありません。頑張りましょうねっ!」
輝くような笑顔でリリィがルゥにそういった。が・・・、その言葉にルゥは一瞬
考え、ハッとした様に顔を上げて言った。
「決めたっ!!私、レッドストーンを探すっ!!」
「・・・はい?」
今度はリリィがさっきのルゥと同じ反応をする。
「実践は何よりも経験になるんだよっ!リリィっ」
「い・・・、いや、確かにそうですが・・・」
「そうだっ!そのためにお母様はスピカとリリィを私につけたんだと思うよっ!」
そう言えばそんな気がしなくも無い・・・。あの女王様、ああ見えて宝石類には
目がなかったな・・・。などと考えていた。
「ダメです、危険ですっ!!」
「だからー、護ってねっ!!リリィ!!」
完全無垢な、普通の少女のような笑顔。こうなるとリリィとしてはルゥに逆らえない。
「・・・、わかりました・・・。では早速準備を・・・。2週間でレッドストーンについて
 調べ上げて参ります。」
リリィの目は真面目だ。いや、むしろ面白がっていたのかもしれない。
姫様との外の世界の冒険をすぐ近い将来に見て・・・。

180ドギーマン:2007/02/19(月) 22:01:53 ID:VVuASkOI0
▲月▲●日
大きな町バリアート
帝国、共和国、王国、どこからも遠く離れた地理に、
肥沃な土地と東海の豊かな海洋資源を持ち、酪農も盛んである。
全ての権力から独立した独自の文化を持つ自由都市と呼ばれるバリアート。
しかし実際は町の半数以上の住民がメディッチ家の小作人に占められており、
"自由"とは名ばかりのものだとも言われている。
それでもメディッチ家は随分と昔からこの土地を支配していたようだし、
街の住民のメディッチ家に対する評価はそれほど悪くない。
いや、むしろ他の国家の支配者層に比べればずっとマシである。
何故なのだろうか。
どうやらその秘訣はメディッチ家に代々続く治め方にあるようだ。
まず、メディッチ家が雇っている小作人達には解放される可能性があるということ。
通常小作人といえば、雇っている小作農家から土地、籾種、農具を賃借りて農耕を行い、
出来た作物を小作農家に納めて賃金を得る。
しかしその次の年も食べるにはまた小作農家からそれらを賃借りしなければならず、
豊かな生活を送れないのは勿論のこと、まずその生活から脱出できることはない。
一度小作人に堕ちれば、一生小作人のままである。
特に、不作に遭えば死を覚悟しなければならない。
しかし、メディッチ家では違う。
小作人といえどもしっかりとした契約に基づいて仕事が与えられ、頑張ればその分だけ給料も増えるという。
町の小作使用人に契約書を見せて貰ったが、決して難しい言葉では書かれていなかった。
堅苦しい内容でもなく、実に単純な内容。農民にも分かるようにという配慮だろう。
給与等の内容は伏せるが、どうやら契約を結べば土地、籾種、農具は無料で配分されるらしい。
たとえ不作に陥っても最低限度の給与は支払われるという。
地道に働いて金を貯めれば、小作人を脱出することも可能だというわけだ。
小作人から解放された農民は、望めばメディッチ家から土地を買って小作農家となって小作人を雇うことが出来る。
だが、それではいずれ立ち行かなくなるのではないか?
そう思ったが、どうやらそうはならないらしい。
町にある唯一の麦の風車製粉所はメディッチ家の所有であり、
いくら農民が独立しようとそこに作った麦を通さないことには売ることはできない。
つまり、契約している小作人以外はそこに料金が発生するのである。
メディッチ家は放っておいても勝手に農家から収入を得られるのである。
同じように町の各商店、酒場から宿に至るまで全てをメディッチ家が所有している。
バリアートで生活する限り、メディッチ家には必ず何らかの形で金を払わなければならないのだ。
そんなメディッチ家だから、さぞかし華やかな生活を送っているのだろうと思ったが、
メディッチ家の屋敷を見て私は驚いた。
確かに他の民家よりは豪奢な作りではあったが、一つの町の支配者の屋敷とは思えぬほど小ぢんまりとしていた。
ゴドムやナクリエマの貴族の華やかな屋敷に比べれば、少し裕福な住民の家に見える程度である。
家の使用人に尋ねてみても、生活のほうも質素なものだという。
なんでも、一代で町を作り上げた初代の言葉を忠実に守っているのだとか。
メディッチ家が今のままである限りは、バリアートは安泰かもしれない。
現在のどかなバリアートの雰囲気に憧れて移住して来る人や、
そのまま定住してしまう旅人も増えているそうだ。
私もこの町を魅力的だとは思ったが、まだ一所に落ち着くつもりはない。

余談だがバリアートの酒場は非常にユニークだった。
当店ではたくさんの座席を用意しております。
壁際の席を除いてお好きな座席にお座りください。
主人がにやにや笑いながらそう言うのだ。
椅子は確かにたくさんある。
普段は座れそうにないような豪華な椅子が、壁際にたくさん並べられているのだ。
そして、肝心のテーブルの周囲には椅子はほとんどない。
何故このような事をこの酒場ではしているのだろうか。

後に聞いた話では、あの主人が現メディッチ家当主だそうだ。
どうやら、かなりお茶目な人物らしい。

181第48話 お気楽3人:2007/02/19(月) 22:23:42 ID:vX9Amrn60
キンガーさん、デルモちゃんと3人で駅に向かって歩いていた。

あれ?なんだろう?見たことある後ろ姿だなぁ・・・・お昼ご飯かな?
まさかね。
駅から遠ざかっていく後姿に見覚えがあったけど、私はその考えを振り払った。
それよりもこれから起こるであろうことに興奮気味だったからw
まだ待ち合わせまで時間がある・・・少しは慣れたけど、まだ会話が止まりがちで何を話せばいいんだろう?

「ねぇ、キンガーさん?」
「なんだい、ぎゃおすw」
「その名前で呼ぶときは小声で・・・w」
「^^;」
「あのですね、相手が連連とは限らないですよね?」
「違うかもね。てゆーか、アカウント窃盗グループの一人だとは思う」
「なるほど・・・。でもなぁ・・・」
「どしたの?」とデルモ。
「いやさー、目的のアカウントだとして、どうやって取り押さえるの?」
「うーん・・・考えてなかったなぁ^^;警察くるまでに逃げられたらどうしようかw」
「ですよねー」
「ねね、アカウントが当りだったら、私たちになんかサイン送ってください!私たちが警察に連絡しますから!」
「いいねぇ!そうしよ! その警察がくるまでなんとか時間稼ぎすればいいんだな?」
「うわぁ〜わくわくするwww」
3人で噴き出してしまった。

182ドギーマン:2007/02/19(月) 22:42:07 ID:VVuASkOI0
あとがき
バリアートも終わり、かな。
書き足りない気もする。
まあ、続けようと思えば続けられるのが一話完結のいいところですし。
さて、次はあそこかあ・・・。
どうしよう。

>>171-172
戦闘シーンは難しいですよね。
細かい動作や魔法ももちろんですが、
こうこう、こうしたから勝てたっていう"決め手"を考えるのが難しい・・・。

>姫々さん
途中、ウルフマンが出てきたのがちょっと嬉しかったですw
ちょい役でも出てくると、かっこよくても情けなくても注目してしまいます。
頼りになるリリィがかっこいいです。
3人のこれからの旅に期待してます

183ドギーマン:2007/02/19(月) 22:44:45 ID:VVuASkOI0
>キンガーさん
待たなくても傍に警察が張っているとも知らずにw
こうやって3人の視点から見ると、どんな反応するか楽しみになってきますね。

184第49話 焦燥する3人:2007/02/19(月) 22:56:13 ID:vX9Amrn60
こんなにキョロキョロしていてはただの挙動不審な人物じゃないか?
佐々木はそう自嘲しながら田村に無線を入れた。
「こちら動きは見られません・・・とゆうか、一人では監視しきれません」
悲痛な連絡が入ったときには田村親子はすでに駅に到着していた。
「ぎりぎり駅に着いたぞ。それらしいのは居たか?」
「いえ、前後10分以内に二人の人間が合流した様子はありません。僕はこのまま北を向いて監視しますか?」
「頼む。俺は西から南を監視する。美香は東方面の人物を見てくれ」
「了解」
メールで約束された時間から3分経過していた。
田村と佐々木はさすがに少し焦っていた。
「どうだ?動きはないか?」
「こちらはないです。どうぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「美香!そっちはどうなんだ?」
美香から返事が来ない。

そのころ美香は容疑者を追って駅から遠ざかっていた。
なんで無線から返事が返って来ないのかしら?
まさか無線が壊れてる?
確認すると無線がイヤホンから先が消えていた・・・走ってた時に落とした?

美香は目標を見失わないようにしながらポケットの中のまさぐり、携帯を探した。

185携帯物書き屋:2007/02/19(月) 23:24:25 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>95-98 ネタ話>>123-125

『孤高の軌跡』

まだ外気が冷たく、吐息が白く染まる時間。
ゴミ収集車が早朝の街を走り、ゴミ捨て場の前に停止する。
同時に作業服姿の2人が飛び降りる。

作業員たちがゴミを漁さる鴉たちを追い返し、慣れた手つきでビニール袋を収集車の後部口へと放り投げていく。
追い返された鴉たちが電線の上で恨めしそうにそれを眺めていた。

作業員の1人が、大量のゴミ袋の海の中に、袋で包まれもしない長いゴミが埋もれている事に気づいた。
「まったく。曜日くらい守れよな」
作業員の男が舌打ちをしながらその上のゴミ袋を退かしていった。
すると、そのゴミが背広姿の男性だという事実に気づいた。
視線を這わせていくと、その男性はゴミ袋を掛け布団にして寝転がっていた。
「ちっ、酔っ払いのおっさんか? 困るんだよね、こんな所で寝てもらっちゃ」
苦い顔をしながら作業員の男はその男性を揺さぶった。
「こんな所で寝てちゃ風邪引きますよ。起きてください」
しかし男性の返答は沈黙だった。
作業員の男は2度目の舌打ちをした後、乱暴に男性に乗っているゴミ袋をはぎとった。
上半身部分の袋を取り払うと、自分の掌に紅い液体がこびりついている事に気づいた。
そのまま視線を落とすと、その男性には人間が持つべき物を持ち合わせていなかった。
よく見ればその必要な物はすぐ上に転がっていた。苦痛に歪めた男の顔が。
人間の首を、文字通り真っ二つに切られた死体だという事実に、作業員の男が悲鳴を上げる。

その悲鳴に反応してゴミ収集車の所にいたもう1人の男が駆け寄り、その惨状に気づき呆然と立ち尽くす。

そして寒空の朝に、続いた絶叫が響いた。

186携帯物書き屋:2007/02/19(月) 23:25:05 ID:mC0h9s/I0
「はぁ、はぁ、はぁ」
俺は広い草原の中を疾走していた。
「はぁ、はぁ、は――――」
息を切らしながらも走る。後ろを振り返りもしない。
―――止まったら、殺られるっ!

だが、草原も遂には終点に着いてしまった。
先は断崖絶壁。見下ろせば、その遥か下方では波の激流が岩をも削り取らんと荒れ狂っている。
俺は完全に追い込まれてしまった。

後方の草を踏む音に、全身の毛を逆立てながらも振り返る。
そいつは、ナイフを俺に向けながらゆっくりと近づいてくる。
「く、来るな!」
全力で威嚇するがそいつは足を止めようともしない。
「許さないわ、翔太…」
俺にじわじわと近づいてくる人間は女だ。
「何でこんな事をするんだよ…」
「何でですって? それは私の台詞よ。何で…何であの女を選んだのよ!」
眼前の女は長い黒髪を振り乱し、大きめな瞳に大粒の涙を溜め泣きわめいた。
「誤解なんだよ…」
「誤解なんかじゃないわ! あいつが来てから翔太はあいつの事しか考えなくなった。
あいつが居なくなっても翔太の頭の中にはあいつの事ばかり……」
女はうつ向いていたが、やがて決心したようにさらなる一歩を踏み込んだ。
「お、落ち着けって!」
「私は落ち着いているわ。理由を聞かせて、私よりもあの金髪女を選んだ理由を」
即座に「胸」と答えそうになったが、押し黙る。
そんな俺を見かねたのか、女はさらに踏み込んでくる。
「何よ…答えられないって事? 分かったわ。翔太を殺して私も死ぬ! やあ
あぁぁっ!」
凄まじい絶叫を上げながら女が向かってきた。いかん、このままじゃ死ぬ。
「やめろ、リディア!」
俺の決死の叫びも届かず、女は間合いに入りナイフを振りかざしてくる。
強烈な袈裟切りを、ぎりぎりでかわし、大きく後方へ跳躍!
だがそこで俺は大事な事に気づいた。
後方は断崖絶壁だった!
「ぎゃあああぁぁす!」
今時漫画でも発しないような悲鳴を上げながら、俺は荒れ狂う波の海へ堕ちていった。


「がふ」
全身の強烈な痛みと共に目を覚ます。
気づけば俺は寝台から落ちていた。
気だるく体を起こすと、全身に冷や汗を掻いている事に気が付いた。
……どうやら嫌な夢でも見ていたらしい。
額の汗を拭き取りながら少しばかり早い朝を向かえる。
カーテンを全開させると、眩しい陽光が部屋に侵入し、部屋が一気に明るくなる。
そのまま恒例の、棚の上の妖精(人形)リディアに朝の挨拶をしようとしたところ、ピタリと体が固まった。
何だか、リディアが恐い。というか怖い。
何でかなと首を傾げながらリディアと向き合った。
うむ、いつもと変わらない可愛らしい笑顔だ。

いかん、本当に末期だな俺……。

部屋を出ると、全く人の気配が感じられなかった。
どうやら母さんはもう出ていったらしい。
まあ、いつもの事だ。フラれては、また新しい男を探す。
母さんには男など遊び相手程度に過ぎないのだろう。
だから昨夜もあんな態度で振る舞えたのだ。
頭の中が急速に熱くなっている事に気づき、一気に冷却させる。
俺は家族に関する事に対して少しばかり熱くなりやすいらしい。
気を取り直して朝食の準備を始めることにした。
「えーと、昨晩のメニューは……窒素に酸素に二酸化炭素に…まあ、空気だったらしいな」
思い出せば、昨晩は疲労の為調理を放棄したのだった。
今日は少し重めの朝食を食べてから学校へ向かう事にしよう。


起きた時間が早かったせいか、教室の中の人数も疎らだった。
席に着くと、当たり前のように1人の男が近寄って来た。
言うまでもなく前の席の佐藤洋介だ。
「よう、矢島」
日に日にこいつは馴れ馴れしいぞ度が上昇してきている。
「何」
判るように無感情な声で返す。
しかし洋介は気にした風もなく、悪戯な笑みを返してくる。女子に言わせると、この笑みは愛嬌があって良いらしい。
因みに洋介は中々モテる。時々数人の女子を連れて下校しているところを見るくらいだ。
「今朝さ、また殺人が起きたらしいぜ。それも2件」
「また…? だが何故それを知っているんだ?」
「ああ、それは友人から聞いたんだよ。俺は顔が広いからね」
「でも何故俺に教えるんだ?」
「矢島は何か興味があったみたいだからね。ま、気を付けろよ」
そう言って洋介は颯爽と教室を出て行った。

187携帯物書き屋:2007/02/19(月) 23:25:53 ID:mC0h9s/I0
放課後。

俺は昼休みに洋介から聞き出した情報から、2件の内近い方の、ゴミ捨て場へ行くことにした。
「えっと…ここら辺かな」
その場所はすぐに判った。付近に野次馬やマスコミが溢れているからだ。

正直、何故ここに来たのか俺にも判らない。
だが、俺の意思とは別に足が勝手に惹かれるように動いてしまうのだ。

「――――っ!」
近寄ると、昨日と同じ違和感に襲われた。
しかし今度の違和感は遥か後方からだった。

――――追って、みるか。

意識をさらに集中すると、違和感は何か違う感覚に変わった。
その感覚は次第に鮮明となり、直線となって感じられた。

感覚という名の道を進むと、ある豪邸に着いた。
その場所から強い違和感が感じられる。

この街には豪邸が2軒ある。1つは赤川邸。そしてもう1軒がここだ。
誰の家かまでは覚えていないが…。

無用心にも門が開いていたので、好奇心に任せて俺は吸い込まれるように入った。
インターホンを押すと、男の声が返り、ほどなくして扉が開かれた。
「あれ、矢島?」
「洋介…? 何でお前がここにいるんだ」
「何でって…俺の家だからに決まってるだろ」
「なっ――――!」
さ……サプライズだっ!
洋介がこんな豪邸に住んでいるなんて。くそっ、失敗した。これならもっと仲良くしておけば良かった。
「入るか?」
硬直したままの俺を見つめながら洋介が入るよう促した。
「いいの? 不幸入っていいの?」
「いいよ。ほら」
手招きされ、俺は佐藤邸に足を踏み入れた。
中の造りは洋式で、俺のボロマンションと敢えて比べるならば、
野球で喩えると150対0の4回コールドでノーヒットノーラン負けだ。
そんな思いをよそに、違和感が段々強くなってきているのも事実だった。

間もなく洋介の部屋に着いた。
部屋だけで俺の部屋の3倍はある広さだった。
ガチャリという音を背中で聞く。
振り向けば、洋介が部屋の鍵を閉めていた。
「何しているんだ?」
そう、言おうとした。しかし、言葉が紡がれる事はなかった。
代わりに――――
「がっ!」
その声が自分の物だと気づいたのは、俺が倒れていると気づいた後だった。

「お前が1人でここに来るとは予想外だったが、まあいいや。お前にも大事な用事があるからね」
俺は最後に、洋介の冷たい笑みと、異形の生物を見た。

188携帯物書き屋:2007/02/19(月) 23:49:01 ID:mC0h9s/I0
こんばんは。ええと、まず流してしまってすいませんでした・・・。
そして今回、レッドストーンとの関係0%です。すいません・・・。

>>128
あんな痛々しい話でも笑ってくれてありがとうございます。正直、叩かれることを覚悟で投稿しました。
何故だか自分のギャグセンスはどうも痛々しくなってしまいます。もっとさっぱりしたギャグも書いてみたいものです。

>>ドギーマンさん
それぞれの町の話、イイです。こう見ていると、赤石の設定ってなかなか面白いのですね。
ゼフの話も素敵でした。続かないのが残念なくらいです。あと、あんな話で少しでも笑ってくれてありがとう。

>>146-147
初心者クエですかぁ〜。自分はどこで受けるかも分からない次第ですorz
武道家さんがカッコイイ。低レベ時は自分より高レベルの人に憧れる物ですよね。

>>153-156
文章も纏まっていて、それで尚物語も面白かったです。
戦士さんが良いキャラ出していました。戦士だって強いですよね。
自分の友達で、戦士でも剣士に勝てることを証明してやる! と張り切っている人がいました。(過去形)

>>171-173
戦闘描写ですか〜。自分も毎度苦しめられます。
苦しんで気づくと「うがぁ〜!」とか言っています。
スピード感があってよかったです。

>>姫々さん
時間がなくてまだ読んでいませんが、時間があるときにじわじわと読ませてもらいます。
そりゃあじわじわと。もしかして続くのかな? 長編でしたら続き激しく待っています!

>>きんがーさん
ぎゃおすさん3人の軽さと、警察たちの緊迫感がいいです。
でもなぜか佐々木さんが好き。頑張れ、佐々木。

ところでみなさんはバレンタインの日チョコ貰えましたか?(過ぎましたけど)
自分はもちろん、0個です。

189名無しさん:2007/02/20(火) 01:02:11 ID:yZqWB8n60
>姫々さん
女性WIZという妄想に頭が膨らんでます(笑) リトルウィッチではなくてWIZというのが良いですね。
どうしてもルゥがおてんば姫を連想してしまいます…古。可愛いキャラですなぁ。
公式設定だとプリンセスも他の惑星から来たみたいな感じで書かれていますし、ピッタリ来ると思います。
今後どのような旅を展開するのか楽しみです。

>ドギーマンさん
おぉ、バリアートだ!
しかし続けようも無くバリアートって何も無いところですよね・・orz
アリアンからバリアートまで徒歩で行こう!と一人でチマチマやっていた事があったのを思い出します。
次はあそことは…期待させてくれますね、楽しみです(笑)

>きんがーさん
こっちも修羅場ですね、犯人を逮捕できるんでしょうか…。
逆にきんがーさんたちが犯人だと思われてたりするんだろうか…ワクワク。
ところでもう50話なんですね。かなりの大作になってますよ、完結まで楽しみに読ませてもらいます!

>携帯物書き屋さん
携帯さんは風景の描写と、ところどころに挟まれているユーモアがお得意ですね。
緊張した場面でも笑ってしまいそうになったりほのぼのしたりさせてもらってます。
しかし、早くニーナに会わせてあげたい…ヤバそうですし。
チョコですかー…ageる側なのですが、特に誰にもあげませんでした(笑) むしろ自分で食べ…

190名無しさん:2007/02/20(火) 04:00:02 ID:wEUlJYbY0
戦闘描写でちょっと思い付きました。
魔法といっても、用法は現代・近代戦における兵器と変わらない物が多いのではないかと。
例えば、
ファイヤーボルト等の単発魔法…ライフル
マシンアロー……軽機関銃
ファイヤーストーム……火炎放射器
メテオシャワー等の範囲……砲撃や航空支援(爆撃)
モータルクラウド…BC兵器(毒ガスや細菌兵器)
ドレイクに乗ったマシンアチャ……戦闘ヘリみたいな航空機

と、言う事で、近代戦術とかも調べて見ると意外とイケるかも。
ただ、戦争ものになってしまう点と、それが果たして剣と魔法のファンタジーと呼べるのかどうかが問題ですが。

 後、決め手に困ったら、実際の格闘(格闘技等もあわせて)を参考にすれば良いと思います。
 Youtebeなんかで見られると思います。
 動画を繰り返し見て、両者が何を狙っているのかを考えながら見れば、執筆の助けになりますよ。

191名無しさん:2007/02/20(火) 04:30:06 ID:wEUlJYbY0
ちと探して見ました。合気道だそうです。
(変なリンクバナーとかはクリックしない様に)
ttp://www.youtube.com/watch?v=eDC2MS5wozI

私見ですが、こんな所に注目するといいかも。
・急所と人間の特徴を熟知している。
・相手と真正面に立たない。
・タイミング取る事と、足から全身を使って力を出す。

これは、酒場とかでおどけたシーフが、ひょいひょいと相手をさばくシーンとかに使えますね。
後は、しゃがんで避けたり、足を踏んづけたりというのがうまくいった場合、相手に致命的な隙が出来ます。
なので、戦闘の決め手になると思いますよ。

>>171->>172
本格的な描写に脱帽です。
剣の「死に魔」などの玄妙なやり取りは、勉強になります。

192名無しさん:2007/02/20(火) 13:28:38 ID:yZqWB8n60
>>190-191
実際のアクションや戦争ドラマ、映画などは見てるだけで役に立ちますよね。
合気道や剣道、柔道など実際やって来られた人なら飲み込みも早そうですね…
そう考えると回復・支援魔法以外は相当現実のものに置き換えられるんだなぁ。

193ドギーマン:2007/02/20(火) 18:16:39 ID:15.0WHzI0
▲月■日
オロイン森
私はバリアートで老人に昔オロイン森に現れた怪物の話を聞いた。
シルバのことである。
彼はオロイン森で油虫から油を集めて生計を立てているらしい。
犠牲になった4人もそうだったという。
老人は昔を思い出しながら私に話してくれた。
あれは夕暮れ時のこと、
油を集め終えてそろそろ帰ろうかという時のことだった。
そう老人は語り始めた。
途中友人と合流し、帰ったら酒場で一杯やっていこうと話していたのだという。
そこに怪物は現れた。
身の丈は森の木々に迫ろうか、
全身を黒い毛に覆われた、狼のような。
当時、ウルフマンはまだ居なかった。
その怪物は突然降ってきて、友人に圧し掛かると、
友人の頭を一噛みで食いちぎったのだという。
老人は思い出すのもおぞましいといった感じで、
私が奢った酒を口に流し込んでからまた話し始めた。
あまりの恐ろしさに腰を抜かして怪物を見上げ、
友人がそばで食いちぎられるさまをただ眺めていたのだという。
そこで、信じられないことが起こった。
怪物が動きを止め、友人の押しつぶされた亡骸から離れて頭を抑えて呻きだした。
そして老人に向かって、言った。
逃げろと。
怪物が喋ったんだ。確かに聞いたんだ。
老人は興奮気味に言った。
早く逃げろ。
そう言われて老人はわき目も振らずに逃げたのだそうだ。
途中何度も振り返ったが怪物は追ってこなかった。
老人は話し終えると、酒のお代わりを注文した。
友人と、他の犠牲者の亡骸は森の中に葬られたそうだ。
彼は私にその場所を教えてくれた。
そこで、思い出したように続けた。
もう一つ、誰が立てたのか分からないが墓があるという。
犠牲者の者かとも思ったが、町で犠牲になった者はその4人だけで、
その墓が誰の者かは知らないそうだ。
私はその場所も教えてもらい、そして今その墓の前に立っている。

ボロボロの墓石に、辛うじて読める字が彫られている。
"シルバ"
誰が作ったのだろうか。
あのシルバの父だろうか、それとも・・・・。
森の奥深く、ひっそりと隠れるように立っている。
近くの海からだろうか、波の音が聞こえる。
私は全てを知った者として、何故かその墓に花を手向けずには居られなかった。

194ドギーマン:2007/02/20(火) 18:27:12 ID:15.0WHzI0
あとがき
犠牲者のものと思われる墓はオロイン森73.119にあります。
4つまとまって立ってます。
探さないと見つかりませんが、238.398にも1つだけひっそりと立っている墓があります。
シルバリンのじゃないかなあっと、思うんです。

>携帯物書き屋さん
「やめろ、リディア!」で吹きましたw
危なそうな雰囲気で続きますね〜。
続き待ってます。

>>190-192
確かに、そういう風に現代の兵器のイメージに置き換えられるかもしれませんね。
回復魔法なんかは、やっぱり生々しく傷口がゆっくり閉じていくみたいな・・・・。
ちょっと怖いかもしれない。

>>189
懐かしいですね。手紙クエですか。
わたしも若葉時代に走りまわった記憶が・・・w

195名無しさん:2007/02/20(火) 21:45:26 ID:WCQCuaeM0
>>194
確かに、オロイン森にありますね。
昔、鎧クエでオロイン森に立ち入った時に見つけて
「誰の墓なんだろ?」と思っていましたが、これで納得です!

196名無しさん:2007/02/20(火) 21:45:38 ID:ndV96f8.0
>ドギーマンさん
今まで執筆されたウルフマンが登場したいくつかの小説からも分かりますが、
ドギーマンさんはやっぱりウルフマンや狼が好きなんですね(笑)
ウルフマンは確かに悲劇の産物というか、一番過去が悲しいジョブだと思います。アチャ/ランサや天使も悲しいですが…
ドギーマンさんの手で少しずつ謎が解き明かされていくようです。

手紙クエストというのはご明察です。
でも、無課金な私はその後もバリアートやスマグなど徒歩主体で行っています(笑)
天使のエバキュエイションが欲しいと思ってしまうこのごろです。

197姫々:2007/02/21(水) 02:49:23 ID:5flRjIeE0
>>175-179 から続きます。
(ここ・・・、どこ・・・?)
少女の視界は霞んでいる。それに焦点も合っていない。
(もう・・・ダメ・・・です・・・・・・)
私をここまで連れてきてくれた召喚獣も、かなり傷ついている。
私が治療すればいいのだが、もうそんな体力は残されておらず、召喚獣は
透明に透けていく。このままでは10分と持たず、元の霊体に戻るだろう。
(情けないなぁ・・・・・・・・・、レッドストーンを探しだすーって言い張って村を出てきたのにな・・・)
少女の頭には、走馬灯のように村の人々の顔が思い浮かんでいた。
(みんな・・・、ごめんね・・・)
そこで少女の意識は途絶え、召喚獣も幻のように消えた。

・・・

・・・

・・・

あれから1週間、リリィは昼はどこかへ出かけてしまっていた。
そして一週間経った時、私に「この街での情報収集は終わりです」
と言ってきたのだった。
2週間と言っていた物を1週間で調べつくしたわけだから、流石だろう。
「とりあえずこの街で集まると思われる情報はあらかた集めました、
 しかしどれもレッドストーンと繋がりそうにはないですね。」
「えー・・・、残念・・・。じゃあこれからどうするのー?」
姫―、ルゥが尋ねる。
「唯一まともであった情報ですが・・・、「ラピ・ド・セイジ」という方に会いに行きます。
 ここからは姫もご同行お願いできますか?」
リリィが不安そうに尋ねてくるが、返事は決まっていた。
「もちろん行くに決まってるよっ!」
そう返事をすると、リリィは満足そうに頷き、言う。
「では、決まりですね。目的地は明日言います。今日はもう休みましょう」
そう言い、私達は横になる。明日かー、楽しみだなぁー・・・。
そう考えると、眠れない。が、時間をかければ興奮は収まってくる、
今は眠ろう・・・、明日のために・・・。と、ルゥは目を閉じ、意識を自分の奥底に沈めていく・・・。

<<タ ス ケ テ・ ・ ・ ・ ・ ・>>
なんだろう・・・、何かが私を呼んでいる・・・?これは何なんだろう・・・夢・・・かな・・・。
ここはどこ・・・?森・・・?けど近くに道があるように見えるし、
冒険者の数もかなり多い所をみると、この街の近くだろう。
<<オ ネ ガ イ ・ ・ ・ ・ ・>>
夢だ、夢だ・・・。これは夢なんだ・・・。
<<ワ タ シ ノ・ ・ ・ マ ス―――>>

198姫々:2007/02/21(水) 02:54:11 ID:5flRjIeE0
「はっ・・・!!」
目が覚める・・・、何となくとんでもない夢を見ていたような・・・。
あぁ・・・そうだ・・・思い出した・・・。あの声はなんだったんだろう、夢にしては
実感がありすぎた。とはいえ、眠っている間に聞いたことなんだからやはり
それは夢なのでは無いだろうか・・・。それより気になる・・・、私の・・・マス・・・って何?
「おはようございます、少しばかりうなされていたようでしたが、気分は悪くないですか?」
リリィが心配してくる。気分は悪いというより不思議な感じだ。
「ねぇねぇ、リリィ、「私のマス―」に続く言葉って何と思う?」
何となくリリィに聞いてみる。すると「そうですねー・・・」と考えた後
「私のマスター・・・とかではないですか?」
と、私に言ってきた。なるほど、確かにそれなら文脈的にも合っている気がする。
が、それなら私に助けを求めるはずはない。リリィに求める方がよっぽど確実だろう。
「ところで、それがどうしたのですか?」
リリィが不思議そうな顔で言ってくる。とりあえずあまり心配させるべきではないだろう。
ルゥはあのウルフマンとの一件以来、リリィには信頼を寄せるようになっていた。そんな人を
あんまり心配させるべきではないと。それだけでもかなり大きな進歩だが、
けど、やはり「自覚が無い」いたずらは減らないのが困った所だ。
「ううん、別になんでもないよっ!夢の話夢の話っ!」
「はぁ・・・、そうですか・・・?」
と、それから少しの間をおき、リリィが話を切り出す。
「では、昨日も言ったとおり、少しお出かけをしようと思います。」
「そうそう、どこに行くのっ!?」
ルゥが眼を輝かせて言う。
「今日はそれほど遠くないです。ここから西にある旧レッドアイ研究所という所ですよ。」
「研究所??」
「えぇ、大昔はレッドストーンについて調べていたようですが・・・、まぁ今は廃墟ですね」
「そんなところに人がいるの・・・?」
と、そういうとリリィが難しい顔で言う。
「悪党の巣窟となっているようですね・・・、まぁ問題はありません。セイジさん
 は老いたウィザードらしいですので。」
優しい人ならいいなーなどと思いつつ頷いておく。
「では、善は急げです。早速出発しましょう。」
と、リリィがポーションなどの入った荷物を持った時、ルゥが話しかける。
「ねぇねぇ、リリィ?」
「なんでしょう?」
「ケーキ食べたいなー・・・」
ルゥがお店に並んでいるケーキを指差し言う。
「太りますよ。デザートは晩御飯の後だけです」
「むー・・・、じゃあ武器はー?私もリリィみたいになりたいー」
「姫にはまだ早いですよ・・・」
「やだよー、私だって自分の身くらい出来るだけ護りたいんだもん・・・」
と、今度は引かない。仕方ない・・・、この姫様でも使えそうな軽くて
それなりに武器っぽいもの・・・といえば・・・。
(さて・・・、なんだろう・・・)
思い浮かばない・・・と、ふと顔を左に向けると、子供達が遊んでいた、
ペイントボールだろうか?広場では衝撃を与えると割れて絵の具が飛び出す
卵大の玉を使い、遊んでいる子供達の姿があった。
そしてリリィはあれだっ!と思う。
子供達が持っていたのは手持ちの投石器「スリング」だった。あれならこの姫でも
扱えるだろう。幸い、スリングを売っているお店はすぐに見つけることが出来、
一番軽くて力がなくても使えるものを姫に与える。
「これでしばらくお願いします」
「むー・・・、杖とかでリリィみたいに魔法でバーンってやっちゃいたいのにー・・・」
不満そうだが、私達の使う魔法は元から体内にある魔力を杖の力で
外側に誘導して増幅しているに過ぎない。そのため、殆どが素質に左右されるのである。
残念ながら、ルゥにも魔力は宿っているものの、それは自身を変身させるための
魔力であり、外に流してしまってはいけないものであった。
「だめですよ、杖は危ないのですから。何人もの未熟なウィザードが自分に合わない
 杖を持って爆死したものです。」
と、嘘を言っておく。いや、自分に合わないものを使うと、魔法の制御が効かなくなり、
非常に危険なのは確かなので、あながち間違ってはいないだろう。一人くらい爆死した未熟者
もいたかもしれないし。
「・・・それは危ないね・・・」
「でしょう?だから姫様はこれで我慢してください。」
そう言い、スリングを渡す。
信じてくれて助かった。こういう「危険」ということに対しては、素直な分助かる。

199姫々:2007/02/21(水) 02:57:49 ID:5flRjIeE0
「あ、じゃあ100ゴールドちょうだいっ!」
「え・・・?はぁ・・・、まぁその位なら・・・。」
ケーキどころかキャンディーすら買えない。その位なら別に問題はないだろう。
と、100ゴールドを手渡す。
と、タッタッタとさっきスリングを買った店に走って行ったかと思うと、6,7センチ
位の小さなボトルに入った、赤みがかった液体を、50本ほど買ってきた。
「ルゥ様・・・、それはなんでしょう・・・?」
「え?スリング用の弾だよ?」
さぞ当たり前のように言うが、聞きたいのはその液体が何か・・・という事だ。
「んー・・・なんなんだろうねー・・・、「投げてみたら分かるよ」。としか聞いてない」
・・・嫌な予感がする・・・、が買ってしまったものは仕方ないだろう。
「まぁ、行きましょうか」
何かとバタバタしたが、やっとの事で古都を出発し、旧レッドアイ研究所へと向かった。



「そういえばスピカはー?なんか今日は静かだけど」
そう私が言うと。リリィもさぁ・・・と首を傾げる。と、その時
『ここにいるよー』
と、私の服の中から出てきた。
「うわぁっ!ビックリしたー・・・、そんな所で何してるのー・・・」
リリィはこの時(姫様も昨日兎になって私のかばんの中に隠れてた訳ですが・・・)
等と考えていたわけだが。
『ん・・・、ちょっと考え事をね・・・。なんか昨日の夜から変な感じが私の
 意識に介入してくるの・・・』
変な感じ・・・?昨日の夜・・・?そう言われ、忘れていた今日見た夢を思い出す。
が、思い出したころには、もうかなり歩いてしまっていて、
冒険者の数もまばらとなり、夢で見た景色とは大きく違っている。
「うーん・・・、魔力供給のラインが混線しているのでしょうか・・・、かなり
 女王様と離れてしまっていますし・・・」
リリィがうーん・・・と考えているが、私は何となくだけど違う気がした。
夢で見た景色の場所を、後で調べてみよう・・・そう思ったのだ。
『何も無いなら私はまた戻っておくねー、私の感じられる範囲には罠とかは無いし、
 探査とかが必要そうならまた呼んでねー』
そう言い、私の服の中に引っ込んでしまった。
「ルゥ様、あそこが研究所です」
そう言い、指をさす先は・・・、なるほど。廃墟に相応しいなと思った。
入り口は崩れ掛かり、ツタに侵食されている。まさに「自然に帰る過程」という表現が
ぴったりだろう。
「ファイアボルト」
そう一言呟くと、リリィが杖の先に火がともり、入り口を覆うツタを焼き払う。
周りに燃えるものがツタ以外何もないので、火事になる心配は無いだろう。
中に入るとそこは薄暗く、杖先に灯った火を明かりにして進んでいく。
途中野良犬や、そこに居つく悪党などがでてきたが、リリィの敵ではない。
杖を振って、先に灯った火を悪党に向かって飛ばすだけで、逃げ去っていく。
そして奥深く、髭を生やしたウィザードが一人、何をするでもなく、
眼を閉じて立っていた。

200姫々:2007/02/21(水) 03:02:22 ID:5flRjIeE0
「あなたが、セイジ様でしょうか?」
「珍しいの・・・、こんな廃墟に客とは・・・、確かに私がセイジだが―なんだろうか・・・?」
リリィが話しかけると、老人が眼を閉じつつ言う。
「レッドストーンについて、知っている事を教えていただきたいのです。」
「ふむ・・・、かまわんが質問は3つまでにしてもらいたい・・・、この老体では
 会話もなかなか体に負担が掛かるでの・・・」
「分かりました、では早速・・・。レッドストーンは本当に存在するのでしょうか?」
「ふむ・・・、わしにははっきり「ある」とは言えない・・・、しかしあの数の天使と
 悪魔が地上に来ている時点である可能性はかなり高いだろうの・・・」
「次に・・・、レッドストーンとはそもそも何なのでしょう?」
「それはわしには分からん・・・、不思議な力があるという噂もあれば、ただの巨大なルビー
 という説までさまざまじゃよ」
「では最後に。これ以上のレッドストーンの情報を得るにはどこに行けばいいでしょう?」
「・・・・・・、港町、ブリッジヘッドのシーフギルドが一番手っ取り早いじゃろうな・・・」
・・・?一瞬訝しげな顔をしたのは気のせいだろうか?
「分かりました、ありがとうございました。では私達はこれで・・」
そう言い、立ち去ろうとする。と、
「待たれい・・・、その服装であそこに行くのは控えなさい・・・、あそこはシーフという名の
 暗殺者の温床じゃ・・・。見た所かなり高貴な貴族であろう・・・、気をつけられよ・・・」
「ご忠告、感謝します。」
リリィがそうお礼を言い残し、今度こそ私達は研究所を後にした。


・・・

・・・

「さーて、ルゥ様、これからどうしましょう?」
研究所を出た私達は、これからの事を話していた。
「私つかれちゃったよぉー・・・」
もう足はガタガタだ。近いといっていたがとてもそうは思えない。
「ふふ、では今日は帰って休みましょうか。そういえばスピカ?」
リリィがスピカに呼びかける。と、私の服の中からスピカがひょこりと顔を出す。
『んー?なーに?』
「来る時、なにか変な感じがするといっていましたが、どうなりましたか?」
『えーっとねー、だんだん介入の頻度も質も小さくなっていってる』
「うーん・・・、やはり魔力の混線だったようですね」
本当にそうなのだろうか・・・?なにか胸騒ぎがする・・・。
急がないといけない、もう時間が無い・・・。何かにそう訴えかけられている、
そんな感じ。
「リリィ、ちょっと気になる事があるから、私歩いて帰っていいかな?」
帰還の巻物を広げているリリィにそう言ってみる。
「え・・・?いや私は別に構わないのですが、姫様がお疲れなのでは・・・?」
「私はいいのっ!!けどちょっと急ぐねっ!」
「はぁ・・・、そうですか。」
このとき、リリィは「どうせいつもの悪戯だろう・・・」としか思っていなかった。
「急いでっ!」
しかし、兎に変身してまで、焦ったように走り出すルゥをみて、何かあると
感じた。だから自身にもヘイストを掛け、追いかけることにした。

・・・

201姫々:2007/02/21(水) 03:06:07 ID:5flRjIeE0
「この辺・・・と思うんだけど・・・」
夢で見た気がするのはこの辺りだろう。冒険者の数、周りに生えている木から、
そう予想する。
「姫・・・さま・・・、お速いですね・・・」
後ろから追いついたリリィが言う。この際だから言っておくと、
ルゥは変身技術の天才であった。ルゥの故郷では2分間兎状態を
維持できれば優秀といわれていた。そんな中、数時間、もしかすると
丸1日兎変身状態を維持する事ができるこのルゥは、紛れもなく天才というに
相応しい力の持ち主だった。
リリィ達、ウィザードの見解によると、体内に秘めた魔力量が並外れている
のだろう―という事だったが。
「うーん・・・。おっかしいなぁ・・・」
「どうしたのですか?探しものなら手伝いますが・・・」
探し物・・・なんだろうか・・・。そもそも何で来たんだろう・・・。
『また変な感じが・・・。なんだろう・・・。』
けどスピカにも違和感があるらしい。この辺に間違いはないと思うんだけど・・・。
「スピカっ、この辺の森の中、調べてくれない?お願いっ!」
『うんっ、任せてよー。ちょっとだけ待っててねー』
「姫様・・・?何があるのですか・・・?」
リリィに聞かれるが、なんだろう・・・、私にだって分からない・・・。
そして数分経ったころだろうか、
『ル、ルゥちゃんー・・・、こっちっ!早く早くー・・・」
と、そこにスピカがふらふらと飛んでくる。その見た目は明らかに尋常じゃない。
「リリィっ!」
「はいっ!!」
スピカが飛んできた方向に走る。と、そこには人が倒れていた。
それは・・・ルゥより4つか5つほど年上の―。顔立ちは整っているが幼さが残っていて、
美人というよりはかわいいといった感じの少女だった。
『し・・・、死んじゃってる・・・?』
「滅多な事をいうものじゃありません。まだ生きてますよ」
と、リリィが少女の傍らにかがみ、この前私にしたようにアースヒールを施す。
「そうとう衰弱していますね・・・。全身の怪我は治しましたが、このまま目を
 覚まさないとなると少しばかり危険です。」
「そんなっ・・・、どうすればいいの?」
「そこのカバンからチャージポーションを取ってください。青いほうです。」
「これだよね・・・?」
「そうです。」
私はリリィにチャージポーションを渡して尋ねる。
「あと・・・、そのボトルもとってください。」
と、茶色のボトルも渡す。これは・・・お酒?
「これを1対2の割合で混ぜまして・・・と・・・。」
「何それぇ・・・、凄い匂い・・・」
「気付け薬ですよ。体力の回復作用はありませんが・・・。まぁ『良薬は口に苦し』です。」
そう言いつつ、それを少女に飲ませる。
「ん〜・・・」と、かなり辛そうな表情を浮かべていたが、その直後うっすらと眼を明ける。
「気が付いた、もう大丈夫ですよ」
ニコリと笑ってリリィが言う。
「・・・れ・・・?」
何か言いたげだが、呂律が回らないのだろう。言葉になっていない。
「今は眠っていた方がいいでしょう・・・、起きているのは辛いでしょう?」
「・・・・・・。」
コクリと頷き、少女は何かが抜けたように眠りに付いた。
「ルゥ様、荷物をお願いします。私はこの方を宿に連れて行きますので」
「う、うん。分かった」
私はリリィに言われたとおり荷物を持ち、さっきの少女を背負うリリィの後を続いた。
宿は古都に入ってすぐ所、その宿屋にはいると、宿屋の主人が驚いた顔で、
3人用の部屋を提供してくれた。その主人に感謝しつつ、少女をベッドに寝かすと、
リリィが呟くように言った。
「うーん・・・、ロマの方ですか。なかなか珍しいですね」
「ロマ?」
「えぇ、精霊から魔物まで、大半の種族と会話を交わすことが出来る民族ですよ。
 大抵は集団で移動するので、こんな所に倒れているはず無いのですが・・・」
「うーん・・・、まあ今日は休みましょうか・・・。明日、眼を覚ましたら事情を聞きましょう」
明日はどうなるんだろう、少しの不安と少しの期待を胸に、私は眠りに付いた。

202姫々:2007/02/21(水) 03:09:38 ID:5flRjIeE0

「―〜〜――♪―――――〜♪――♪♪」
「・・・ん?」
朝、と言っても太陽もまだ遠くの山に隠れているとき、私は何かの演奏によって眼をさます。
なんだろう・・・、不思議な感じがする。
私はその音色に誘われるように、宿屋の外にでた。
「〜〜―〜――〜♪〜〜―♪―――♪」
音色は宿屋の裏手から聞こえる。この裏はたしか小さな広場になっていたはずだ。
私は宿屋の裏手に回る。そして、そこに広がる光景に言葉を失った。
そこには、倒れていた少女がいた。
笛を吹きつつ、周りを囲む不思議な生き物達と戯れる姿は、まるで踊っているように見えた。
と、私の接近に気づいたのだろう。深紅の犬が私に向かって一直線に走ってきた。
「ひゃぁ!!」
私は驚いて、しりもちをついてしまう。
「あいたたた・・・、ひゃっ・・・!」
顔を舐められ、さらに驚いてしまう。そんな姿を見ていた少女が驚いた顔で言う。
「あ・・・、ごめんなさい。・・・こらぁ、ケルビー、だめでしょー?」
ちょっと舌足らずな喋り方でそう言い、私とケルビーと呼ばれた犬を引き離す。
「えーっと・・・、元気になったなの?」
「はぃ、あなたたちのおかげです、ありがとうございました」
そう言われ、深々と頭を下げてきた。さっきまで少女のそばを周っていた
不思議な生き物達も、私の周りを周っている。
「えっと・・・、この生き物達って何・・・?」
私は周囲の生き物達を指差しつつ言う。
「そうですねぇー・・・簡単に言うと精霊さんですねー。とーってもいい子なんですよー、
 でもその子達になつかれるあなたも、とってもいい人です。」
それは・・・、誉められているんだろうか・・・?
『うーん・・・どうしたのー?ルゥちゃん・・・、って何これ、なんでこんな所に精霊が!?』
珍しくスピカが驚いている。
「ふふ、あなただって精霊さんじゃないですかー。」
そう目の前にいる少女が笑いながら言っている。
『うそ・・・、私の事見えるんだ・・・、ルゥちゃんとリリィ以外には見えないようにしてた
 つもりなのに・・・。』
そうスピカが言っている。なるほど、確か街中を普通に飛び回っても誰も何も言わないわけだ。
そういうことだったなら納得がいく。
「では、わたしはそろそろ行きますねー。探さないといけないものがありますのでー」
「ぁ・・・」
待ってっ!!と、そう言おうとした時、言う前に少女の足が止め。
ふわふわとした笑顔のまま言う。
「あはは・・・、ここ・・・どこですかー・・・?」
この子・・・、物凄い方向音痴か、物凄くドジなんだ・・・。だからあんな入る必要の無い
森の中で倒れていたんだ・・・。と、私は確信を持ってそう思う。
「また倒れちゃうよ?今夜は泊まっていってよ。ね?」
そう言うと、少女はうーん、と考えた後。
「じゃあ、おことばに甘えさせてもらっちゃいます」
そう、笑いながら私に言ってきた。

そして夜が明けたころ、私とリリィが少女に尋ねる。
「昨日は助けていただいてありがとうございましたぁ。私はセラ、この街に向かう途中、
 倒れちゃってたところを、あなた方に助けてもらったと言うわけです」
リリィが言うには、彼女の連れている精霊が同じく精霊であるスピカに
助けを求めてきたのだろう、とのことだった。
「それはそれは・・・、ところであなたはどこから来たのでしょうか?」
リリィが尋ねる。

203姫々:2007/02/21(水) 03:16:12 ID:5flRjIeE0
「私の故郷はビスルっていう小さな村なんですよー。自然に囲まれたいい所ですー」
「え、村?ロマって旅をしてるんじゃないの?」
今度は私が聞く。昨日、ロマは旅をするものとリリィに聞いてたからだ。
「うーん、そぅですねー・・・、私達が特別なんでしょうねー。きっと」
はぁ・・・と、私とリリィが聞いている。この子と話していると、少し疲れるのは何故だろう・・・。
「ビスルとは何処にあるのでしょうか?」
それでもリリィがこの子に尋ねる。
「えーっと、港町、ブリッジヘッドのずーっと東ですねー。山を越えないといけません」
「ん・・・?ブリッジヘッドってここの南東ですよね・・・?」
と、リリィがそう言うと、私も「ん?」と思う。
「どうして古都の西側で倒れていたのですか・・・?」
そうだ・・・、南東から来た・・・と言うことは倒れているとしても東側か南側、
間違っても西側で倒れるはずが無い。
「うーん、わたしってちょっと方向音痴なんですよねぇ・・・。素直にテレポーターに
 運んでもらえばよかったですねー」
えへへ、と笑って言う。それを聞いて何となくガクッと疲れた気がする。
これはちょっとどころじゃない・・・、なんで街が見えてるのに入れず倒れるんだろう・・・。
「では、わたしはそろそろ行きますねー、探し物がありますので。助けていただき、
 ありがとうございました。」
そう言い、深々と頭を下げた後、宿屋を出て行こうとする。
「まってっ!何処に行くの?」
何処に行こうが私には関係が無いのだが、何故か私はそう訊いてしまった。
「・・・どこなんでしょうねー・・・?」
・・・、そう聞いて、またまたがくりと疲れた気がする。
「ていうかセラってさ、何探してるの・・・?」
そう私が聞くと、うーんと考えた後、信じられない単語を口にした。
「レッドストーンっていう宝石を捜してるのですよー」
と。
「え!?ちょっと待って、私たちもそれを探してるの!!?」
そういうと、あら・・・という驚いた表情をして言う。
「奇遇ですねー。私もなんですよー」
と、笑いながら言うが、そんな事に構わず私は話を続ける。
「何処に行くの!?情報があるなら教えてくれないかなっ!!?」
「・・・・うーん・・・・・・・・・。」
そういうと、上を向いて、口に手を当てて考えつついう。
「ごめんねー・・・、私何も分からないんだー・・・」
と・・・。まぁ何となく予想は出来ていたけれど・・・。
「って、じゃあ何処に行く気?」
「んー、何とかなるんじゃないですか?お金もありま・・・」
と、ポケットに手を入れて、そこで言葉を止める。
「あははー・・・、お金、何処かの街の近くで盗賊に取られちゃったんでしたー・・・」
と、そういえばこの子、倒れていた時傷だらけだったな・・・、盗賊に襲われた
と言うことだったのか・・・、そう言えばあの廃墟の研究所に言ったとき、近くに
いったときに盗賊っぽい人がいたような・・・。リリィを見た途端逃げてったけど。
と、他に突っ込みどころがあった気がするが、ルゥは考えないようにしていた。
と、その会話を聞いていたリリィが「はぁ・・・」とため息をつき言う。
「ならセラ、私たちと一緒に来ませんか?」
と。
「え・・・?そんなぁ・・・、悪いですよー・・・」
「いえ、私たちは港町に行くのです。街の案内役をしていただけませんか?
 目的はレッドストーンの情報です。あなたにも情報は役に立つと思います、
 任されてくれませんか?」
「えーっと・・・。うーん・・・」
「お願い、私もっとセラとお話したいの。一緒に来てくれないかな?」
私からもセラに言う。正直な話、私もちょっと疲れるけどこの子は嫌いじゃない。
リリィとお母様以外に殆ど人と話したことが無いということもあったけど、
それだけじゃなくて、この子とは友達になれる、という漠然とした自信があったのだった。
「うーん、じゃあ・・・、これから少しの間、おねがいしますー」
と、笑いながらセラが言った。
「ほんとっ!?来てくれるの!!?ありがとーっ!私はルゥ。よろしくっ!セラ。」
「お礼を言うのはこっちですよー、よろしくね、ルゥちゃん」
と、リリィに止められるまで、手を取って跳ね回っていた。

「ルゥ様、着替えは終わりましたか?」
「うん、終わったよーっ」
セイジさんの忠告を守り、私たちは目立たないように旅人用の服に着替えていた。
セラも会った時着ていた服がボロボロになってしまっていたので、同じ服を、
買って貰って着ていた。
「では、二人とも、行きましょうか。」
「「はーいっ!!」」
リリィの言葉に私とセラは同じ同じタイミングで返事をして、二人顔を見合わせて笑った後、
港町『ブリッジヘッド』へと向かうべく、宿を出た。

204姫々:2007/02/21(水) 03:25:40 ID:5flRjIeE0
早速ネタに詰まって新キャラ出しちゃった愚か者です。こんばんは。
皆さんに見てもらえると言うのはやはり励みになります。
今日から2週間ほど、あまり時間が無いので皆さんの作品を読むことも、
お礼の言葉を書くことも続きを書くことも出来そうにありませんが、
また時間が出来た時ゆっくりと読ませていただきます。

一応物語の成り行きとしてはメインクエストですね。
新キャラはサマナーって設定で召喚獣だけでペットをつれていない理由は
また今度の機会にでも書くことにします。
何となくRPGなら4人PTというイメージがあるのでもう一人くらい新キャラ
でてくるかなと言う感じです。剣士/戦士、ランサー/アーチャー、
或いは意表をついてネクロマンサー/悪魔というのが予定ですが・・・。
では、また次回、ネタが浮かぶことを祈り、
私の後付けはここで終わりとさせていただきます。

205名無しさん:2007/02/21(水) 05:23:45 ID:PHhw..Kc0
過去の作品:
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1117795323.html#960
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html#139
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html#389

今作品
1: ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html#960
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html#961
2:3冊目>>556
3:3冊目>>900-902
4:3冊目>>957-960


 もう何分経ったのかしら?
 もしかしてまだほんの数秒? それとも数時間?
 悪魔はさっきから硬直して全然動かない。私はいつまでも宙吊りのまま。
 さっきから大きく目を見開いている。時折歯がガチガチと鳴り、体をブルブルと震わせて"ここには存在しない何か"を見ている。
 正確には"見ている"と言うよりは"見ているような気がする"だけなのだが…。
 本当は見たくない。悲しいから。見るのも辛いものだから。あまりに恐ろしいものが目の前に広がっているから。それなのに目を離すことが出来ない。目には涙が浮かんでいる。
 泣いてるの?まるで子供ね…。
「あっ、そっかそっか、アレに似てるわ。」
 そう、そうだ、やっとわかった。子供の瞳だ。何か悪いことをして、叱られている子供。
 叱られているのが嫌なのか、自分がしてしまった事への罪の意識からなのか、そこから走り去ることも出来ずにじっと震えている様子。
 今のこの赤いヤツにピッタリじゃないかしら?
 そう思うと急に勇気が湧いてきた。今、この赤いヤツの腕を振りほどくことが出来れば私は逃げることが出来る。
 いや、殺してしまうことだってできるんじゃないかしら。でも殺してしまうのはやり過ぎかしら? ん〜。
 こいつには散々酷い目に遭わされたんだし、大事な髪の毛も少し燃やされた。まぁ、どうせ"すぐ元に戻る"からいいやもうどーでも。
 我ながら随分と甘い考え方だなって思う。結果的に殺されずに生きているからかしら?
 この洞窟に来る前の私なら間違いなく殺してた。こんなに大きな隙を見逃す事なんてしなかった。自分に危害を加えようとするなら尚更だ。
「あ〜もう、アレさえ見ていなければねぇ…」 
 そう、あの光景さえ見ていなければ。
 私はあの光景を見ちゃったから。見えてしまったから。
 今は殺せない。だってまだ聞こえるんだもの。『殺したかったんじゃないんだ、ただ外に出たかっただけなんだ』って。
 この赤いヤツは何処かに閉じこめられていたのかしら? コイツを閉じこめていたのは白い翼をもった人間なの? だから殺してしまったの?
 ここでコイツを殺してしまえばもうこの頭の中に直接飛び込んでくるような言葉は聞こえなくなるのに。
 だけどできない、やっと外に出られたのなら、そんなに辛い想いをしてまで見たかった"外の世界"なら、私にはそれを奪うことはできない。
 私だってそうだったもの。自分の知らない新しい世界、それが見たくてこの星にやって来た。
 きっともうすぐこの赤いヤツは正気に戻る、さっきみたいに私を襲ってくるかもしれない。
 私はどうしたら良いんだろう、もし襲ってくるなら戦わなきゃいけない、今度こそ殺されるかもしれない。
 でもその前に、ちゃんと伝えたい。私は天界からの追跡者じゃないってこと。今聞こえている謎の声が聞こえなくなるようにしてくれるなら危害は加えないってこと。
 話せばわかってくれるかもしれない、だってちゃんと罪の意識をもっているんだから。自暴自棄になっていなければ大丈夫。
 腕に力を入れて赤いヤツの手を私の首から離す。
 支えを失った体は地面へと一直線。
 ズデン!
「っつぅ〜〜」
 お尻をさすりながら立ち上がる。着地はあまりにも優雅に、そして軽やかに失敗した。
「イテテ…」
 少し視点を上に向ける。
 別に『着地失敗してたのを見られてたら恥ずかしいな』なんて考えて赤いヤツを見上げた訳じゃない。いや、本当に。
「誰に言い訳してんのよ…、それにしても」
 赤いヤツはまだ動かない。私がその手の中からいなくなっていることに気付いている様子はない。 
「いつまでも何を見てるのよ…」
 何が見えているのかは大体わかるけどさ、文句の一つも言いたいじゃない。
 聞こえてくる声は少しずつではあるが小さくなってきている。もう少し待ってみよう。

206名無しさん:2007/02/21(水) 05:24:44 ID:PHhw..Kc0

 待っている間に色々と考える。
 私は寝不足でとても怒っていたはずで、この赤いヤツに文句を言いに来たはず。
 姿を見たら怖くなって、逃げようとして…それなのに今私はここで逃げずに待っている。
 何もかもが思い通りにいかない。考えていたことも行動も全部裏目にでる。
 そもそも嫌いなカエルに化けてまで逃げようとしたのに…カエルなんて食べようとしないでよ…
「本当にコイツ最悪だわ…」
 本当に…本当に最悪、ブン殴ってやりたかった。さっきまでは。
 首を絞められたときに見えてきた光景。この赤いヤツが白い翼を持った人間の命を奪う光景。
 この赤いヤツは憎んでいた、あの翼人を。そして悲しんでいた、自分が誰かの命を奪ってしまうということを。
 口では強がっていた、相手を挑発していた。
 弱音を吐くまいと必死に笑い、自分が閉じこめられていた空間を破壊したあと
 そうでもしないと吹っ切れなかったのね、コイツは。
 哀れみを込めた目で赤いヤツを見つめる、いまだ夢の中といったところか、体を震わせ涙を流している。
「あれ? 何でかしら」
 気付けば私も泣いていた。変ね、別に悲しいのは私じゃないのに。
 涙が頬を伝う感触。冷たいような、とても熱いような、なんだかよくわからない。涙が止まらない。
「ヒッ、なん、で私が、ヒック、泣かなきゃダメなのよ、グスッ」
 汚いとは思いつつ鼻をすする。誰もいないところで本当に良かった。こんなところ誰にも見せられない。
 誰にも見せられないくらい私は顔をくしゃくしゃにして泣いている。
 コイツの近くにいるとなんだか悲しくなる。涙を止めようとすると余計に涙が溢れる。
 とても悲しい、でも目の前にいるコイツはその何倍も悲しいみたい。なぜだかそれがわかる。
 大きな大きな悲しみが私に少しずつ流れ込んでくる。
 ズザッ!
「っ!」
 音に驚き前を向く。
 赤いヤツが膝をついているのがわかった。表情は視界が滲んでよくわからない。
 もしかしたら正気に戻ってるかもしれない。すぐに距離をとらないといけないのかもしれない。
 それでも私はコイツに近づいた。
「こんなの私の性に合わないんだけど…」
 今私が感じている悲しみがコイツから伝わってきたモノなら、慰めてあげたかった、少しでも安心させてあげたかった。
「辛かったわね、悲しかったわね。」
 赤いヤツの頭を抱きよせる。
 涙で服が濡れる。いつもなら服が汚れるからこんな事はしない。
 でも今だけ、今だけはそんなこと気にしなくても良いかなと思えた。
 私の体格では少々抱きしめにくかったがそれはしょうがない。
 コイツは何もわかっていないんだろうなぁ、いつの間にか自分が涙を流しているなんて。
「大丈夫よ、大丈夫。何も怖くないわ。アンタの涙が止まるまでこうしててあげるわ」
 何を言っているんだろうか私は、私自身が泣いているのに、ほんの少し悲しみが伝わってきただけで涙が止まらなくなっているのに。
 
 十数分くらいしてやっと涙が止まった。
 気付けばあの悲しい声は聞こえなくなっていた。赤いヤツの震えも止まっていた。
 頭に回していた腕をほどき、赤いヤツから離れる。
「ん…う〜ん」
 夢から目覚めたように赤いヤツがこちらを見る。
 話し合うにせよ、戦うにせよ、ここで決着つけとかなくちゃ。そろそろ覚悟を決めましょっかね。
 さぁ、やってやろうかしら。
「やっとお目覚めかしら? 泣き虫さん。随分と待たせてくれたわね。」
 出来れば戦いたくは無いなぁ。と考えながら私はスリングを手に持ち、赤いヤツに近づいていった。

207名無しさん:2007/02/21(水) 12:00:57 ID:ndV96f8.0
>姫々さん
リリィがお姉様的なWIZならセラは天然少女って感じで個性がちゃんと出ていると思います(笑)
冒険小説は大好きです。シフ/武道は敵側として出てくるのだろうか…。続きを楽しみにしています。

>>205-206
心の内面を描写するのが凄く上手いと思います。
この赤い悪魔と姫さんの間には何が隠されているのだろうか…。続きお待ちしています。

208elery_dought:2007/02/21(水) 18:02:52 ID:Y4wtUzM60
シン「くそ…ちとやべぇなぁ…。ギル、今どこにいる?」
ギル「茂みに隠れてるよ。今テイマー2人とシーフがそっちに行った。探知されんなよ? んであと2分くらいだからテイマーは避けて一番柔らかそうなシーフを狙えば多分勝てる。」
「わかった。返り討ちだぜ。」
-終了まであと1分です。-

(きた…。)
シン「おらぁ!」
掛け声とともに木の陰から飛び出し、作戦通りシーフにパラをかました。
シーフ「くそぉ…ばた」
-ギルド「0×△」との対戦で…
シン「じゃ、帰るかぁ。」


シン「ふぅ…危なかったな」
ギル「ああ、もう2人だけはごめんだぜ」
と、ここは俺の入っているギルドの寮。
主なメンバーは俺と武道家のギルと、ランサーのミーネ。
あとWIZさん、シフさんそして不気味なネクロだ。
シン「みんなGvサボって何やってんだか…」
ギル「WIZさんとシフさんは図書館行くとか…。」
シン「ぜってぇーミーネとネクロサボりだぜぇ?」
今日のGvは俺とギルしか出なかったのでとても不機嫌だ。
シン「まぁいいや…ちょっと出かけてくるね。」
ギル「わかった。9時から会議間に合うようにな」
シン「わかってるって」
と言って扉をしめた。

ミーネ「ごめん!買い物行ってた!」
ギル「ああ、おかえり。」
ネクロ「お菓子買ってもらったんだ!ギル兄ちゃん一緒に食べよ!」
ギル「一緒に行ってたのか。いいよ、食べよう」
テーブルでお菓子を食べ出す二人。ミーネはすぐ夕飯の支度をはじめた。
ミーネ「今日やっぱりシンとギルだけだったの?」
ギル「そうだよ。」
ミーネ「怒ってる?」
ギル「…いや…別に。」
ミーネ「ごめんね;今日特売だったから;」
ギル「いいって、2人でやったのもなかなか面白かったし」
ネクロ「おまけもらっていい?」
ギル「いらないから;」
ネクロ「やったー!」
ギル「そういえば、あの2人はまだなの?」
ミーネ「ああ…朝早く出て行ったのにねぇ。」
ギル「まぁ9時にはくるか…」
ミーネ「なんか用でもあるの?」
ギル「いや、ちょっと気になっただけだよ」
ミーネ「そっか…」
しばらくの沈黙。なべの煮える音が響く。

ミーネ「あ、そうそう。」
ギル「……」
ミーネ「聞いてる?」
ギル「ぇ?あ、寝てた…」
ミーネ「寝るならベットで寝てよね。それで明後日の個人戦のトーナメント申し込んどいたから」
ギル「うん、わかった。」
ミーネ「明日時間ある?」
ギル「うん、あるよ。」
ミーネ「買い換えたい装備あるから付き合ってほしいんだけど…。」
ギル「ちょうど俺も買いに行こうと思ってた。いいよ。」
ミーネ「じゃあ、よろしくね」
ギル「ぁ…おう…」
少し照れながらまた睡魔に襲われた。
なべの煮える音が響く。

初投稿です。
文章滅茶苦茶ですが頑張ります^^;

209名無しさん:2007/02/21(水) 19:27:00 ID:kohE0f8U0

「ギル戦で使われたらやばそうな技」スレの>>736氏のネタから書かせていただきました。
許可はとってありません。勝手に使って申し訳ございません。


ウィザードは紙と呼ばれ、体力が少ないと思われがちである。
体力に自信のあるウィザードというのは少ないだろうし、実際に私もお目にかかったことがなかった。
かく言う私も、ギルドやパーティーのメンバーからは紙と馬鹿にされ、何かを倒しに行くこともできず、味方の補助をしていることが多かった。
「ウィザードさん、蘇生するのが大変ですから、敵に狙われないよう注意してくださいね」
ギルド戦争が始まる前、同じギルドのビショップがそう言ってきた。
確かに私は、よくターゲットにされることがあった。簡単に死にやすいからだ。
「わかっている」
私は頷きながら、ロングコートの中に隠し持っている薄いノートを確かめていた。
メンバーにファイヤーエンチャントとヘイストをかけ終わったのを確認して、私はフィールドの真ん中へと走り出した。
ビショップの制止する声が聞こえたような気がしたが、私には考えがあった。
いつもならば、敵から身を守りながら味方支した後は敵に注意しながら、味方の状態に気を配っていた。
しかし、今の私にはこのノートがある。先日古都の隅の方で拾った黒く薄いノートだ。
普段ならば見向きもしないが、何故かその日は、その落ちていたノートに興味を抱いた。
町のなかにアイテムが落ちているなんて珍しい。アイテムはモンスターが落とすものなので、モンスターのいない町ではドロップなどできないのだ。
アーチャーの矢を避け、私はフィールドの中央に氷柱を立てる。
その上に飛び乗ると見晴らしはよく、その柱を壊さない限り私に攻撃がくることはなかった。
「氷柱だと、卑怯だぞ!」
敵方の戦士が足元で叫ぶ。
卑怯だと? 笑わせるな。小さく呟いた言葉は、彼に届きはしなかった。
いつも、通りすがりの私を捕まえては「エンヘイおね」だとか、マナーも何もない頼みをしてくるくせに、氷柱を出して何が悪い。
私はコートから、例の黒いノート取り出して、冷たい地面に広げた。
「まずはお前からだ!」
先ほどの戦士が、眉根を寄せるのがよく見えた。今までより格段に視力があがっているのだ。
頭の上には、戦士の名前が見えている。その名前をノートに走り書きした。
「何が俺からなんだ、紙のくせに!早く降りて来い、俺にもポイントを稼がせろ!!」
地上で吼える勇者は急に顔を歪めた。そして崩れ落ちる。
「どうしたの!?」
慌てて敵方のアーチャーが駆け寄ってきた。
小さな鞄からフェニックスの羽を取り出し、それを用いて戦士の蘇生を試みる。だがそれよりも早く、私は彼女の名前をノートに書き写していた。
彼女も戦士と同じように、急に苦しみだして、地面に崩れ落ちた。
いつもはポイントプレゼンターでしかない、”紙”の私が、体力や防御力に自信のある相手を素早く倒すことができる。
このノートは、そんなノートなのだ。
「削除、削除、削除、削除、削除……」
常人では見えないような遠くの敵の名前までも、よく見えていた。私は一心不乱に、ノートに名前を書き込み続けた。
まだ私のギルドでは誰も殺されていない。死人ゼロで圧勝という素晴らしい業績を、私は作るのだ。
初めてギルドに貢献できる。私は、それが嬉しくてならなかった。
やがて、フィールド上に死体しか見えなくなったころ、私はあること気がついた。
「……誰もいない」
そう、生き残っているのは私だけで、見えた名前を手当たり次第に書き込んでいた私は、味方までも殺してしまっていたのだ。
「嘘だ!」
氷柱から飛び降り、慌てて味方を探す。
先ほど注意してくれたビショップも、たまに喋るシーフも、誰も生きてはいなかった。
残念ながらウィザードは、味方を蘇生する能力は持たない。ビショップ一人でも生きていればと思ったが、みんな死んでしまっていた。
生憎フェニックスの羽も灰も、銀行の中である。
私はただ呆然とし、死体で溢れかえるフィールドの中央に立ち尽くしていた。
暫くするとギルド戦争終了を告げるアナウンスが流れ、私たちは強制的にそのフィールドからはじき出された。

その日、一人のウィザードが行方不明になった。
友達登録をしていた人が確認したところ、”監獄”にいるらしいということだけがわかった。
監獄がどこにあるのか、監獄がどんな場所なのか、誰も知らない。彼は未だに監獄から出てこない。
一つわかるのが、「24時間監獄から出られません」ということだけだ。

210209の後書き:2007/02/21(水) 19:28:18 ID:kohE0f8U0
先日、初心者クエの話を書いた者です。
感想や励ましを有難う御座いました。嬉しかったので、もう一度投下させていただきました。
最初に述べたように、ギル戦で〜のスレ内のネタを使わせていただきました。元ネタが好きなので、書いていて楽しかったですww
Gvも出たことがないので、Gvがどんなものか分からないので、想像で書きました。
最後の監獄は私は行ったことはありませんが、実際にあるフィールドで、通報されると転送されるそうですね。垢BANギリギリのラインだとか?

ギャグにしたかったのですが、あまりギャグになっていないような……。
ネタは素晴らしかったので、あとは脳内補完で肉付けしてください。
読んでくださってありがとうございました。

211名無しさん:2007/02/21(水) 23:15:33 ID:yQlXMAfA0
これは・・・もしや・・・デスノートなのか?
たしかに使われたらヤバスw

212171:2007/02/22(木) 15:31:29 ID:f0SX/jL60
なんか単発投稿なのにコメントいただいてしまって恐縮っす。

>>190

魔法=兵器というのは面白いですね。たとえば魔法に付き物の「詠唱時間」
(RSには存在しない概念ですが)にその考え方が応用できるような気がしてきました。

せっかくなので自分も「戦闘描写」に特化して時々参加してみます。
皆さんみたいに物語掘り下げる力ないんでorz

213名無しさん:2007/02/22(木) 15:33:11 ID:ndV96f8.0
>>208
Gvだけの小説かと思いきや、ギルメンさんたち同士の情景が細かく書かれていますね。
こんな風にそのまま"家族"みたいなギルメンって憧れます。
同じ寮に住んでいる・・というのもイイナァ(*´д`)
続くのでしょうか?お待ちしています。

>>210
ギル戦で〜スレは行った事ないですが、思わず笑ってしまいました(笑)
デスノート…確かにあったらやばそうですね。名前確認もすぐできますし。
最後味方まで殺してしまったというのが笑っちゃいけないような現実味がひしひしと(怖)

214名無しさん:2007/02/22(木) 15:35:34 ID:ndV96f8.0
>>212
「戦闘描写」に特化するだけでも普通の小説と同量かそれ以上のボリュームになると思いますよ!
(実際>>171で執筆された小説がそうだと思いますし)
是非、また書いてください。楽しみにしています。

215ドギーマン:2007/02/22(木) 17:47:32 ID:15.0WHzI0
▲月○日
ロマ村ビスル
ロマの村はこの大陸中のあちこちにあって、常に移動しているらしい。
それこそ、一家族のテント程度のものから村という集団まで。
しかし、ビスルは違うらしい。このソゴム山脈の山々に囲まれた谷の中で定着して生活している。
豊かな牧草地の広がるこの場所なら、家畜を飼うのにも苦労はすまい。
しかし、この村に行くには炎の神獣たちが大勢居る赤山を越えなければならない。
そこでブリッジヘッドで旅の冒険者に護衛を依頼しようと思ったのだが、
彼が言うにはその必要はないのだそうだ。
赤山の炎の神獣たちは大人しく、こちらから手を出さない限りは大丈夫だという。
半信半疑ながらも来てみれば、確かに大人しかった。
近くで平気で昼寝していたり、小さな子供の神獣がじゃれあっていたり。
なかなか見られない光景であった。
しかし、さすがにあの燃え立つ身体に触れてみようという気にはなれなかった。
かくして、私はビスルに何の問題もなく到着できた。
恐ろしい魔物が守っているという話はデマだったらしい。

さて、私はこの村でロマ達の独特な文化を目の当たりにした。
ビーストテイマーやサマナーたちは笛の音色を介してであらゆる動物や精霊と意志の疎通が可能らしい。
しかし、ビーストテイマーやサマナーとなれるのはロマの中でも女性のみ。
どうやら彼女達には我々には聞こえない獣達の"声"が聞こえるらしい。
その声が聞こえない限りは、獣達の気持ちを理解することも、笛でそれを表現することも出来ないのだそうだ。
彼らの生活ぶりはとても質素なもので、
山を越えて川の水を汲みに行き、家畜の世話をし、皮をなめし、大蜘蛛の糸を紡ぎ、機を織り、
肉を干し、時には他の都市へ生活必需品や海産物を買い付けに行く。
ずっと昔からその生活を続けているそうだ。
他の村のロマ達は、街を獣や家畜を連れて巡ってはそれぞれに興行をして次の街へ移っていく。
親戚に会うのにさえ予め連絡を取れなければいつまで経っても会えないのだという。

私が彼らの生活ぶりを眺めていると、一人のロマの女の子が泣いていた。
どうしたのかと聞いてみると、今日飼っていた豚を食べるために殺したのだという。
家畜を殺すのは男衆の仕事で、女は決して傍に居てはならない。
しかし、彼女はずっと育ててきた豚が気になって仕方がなくてテントの中を覗いた。
豚は、ずっと彼女を呼び続けていたそうだ。
動物は彼女達にとって本当に人間と変わらない家族らしい。

216ドギーマン:2007/02/22(木) 17:48:31 ID:15.0WHzI0
▲月○△日
ロマ村ビスル
私はあの女の子の家族に一晩泊めて貰う事が出来た。もちろんタダではなかったが。
昨日の晩は豚料理だった。
私は美味しく頂いたのだが、あの子はテントの奥に引っ込んだままついに出てこなかった。
家族はじきに慣れると言っていたが、少し心配である。

さて、その家族に色々と質問をさせてもらった。
なぜロマは定住しないのか。なぜビスルのロマだけは定住しているのか。
それはロマの伝承に関係があるらしい。
遥か昔、
谷に一人の女の子が生まれた。
その子は生まれつき人に非ざる者の声を聞き、
獣を従え、姿無き獣に形を与えた。
悪魔ですら彼女の前に屈服した。
当時谷にやってくる悪魔どもは多く。
女の子は谷を守るために多くの火の神獣を連れてきて谷を守らせた。
谷の人々は彼女を称えたが、
同時に人々は彼女を恐れた。
やがて女の子は大人になり、
旅に出るとだけ言い残して谷を出た。

その数百年後、ある一族が谷にやってきた。
その一族はロマと名乗り、村を出て行った女の子孫だという。
その一族はしばらく谷に居座って後、
一族の男達だけが谷に残って、女達はまた旅に出た。
女は旅を続けよ。あの女は死の間際に一族にそう言い残したそうだ。
谷の男の何人かは一族の女達について行き。
一族の男達は谷の女と子をなした。
一族の男の子供達は、女にだけあの力が備わっていた。
しかし谷に生まれた女達は谷に留まった。
旅する女達は今も世界を巡っている。

さて、何故ロマが移動を続けるかは分かった。
だがもう一つ気になることがある。
ロマの若々しさである。
ロマは年齢ほど見た目が変化しにくい。歳をなかなか取らないし、老けにくい。
ビスルの人々を見ても、老人はほとんど居ない。
ブリッジヘッドで防具を売っているロマに聞いたところ、
"ロマの秘伝"なるもののおかげらしい。
私はそれもその家族に尋ねたが、教えてはくれなかった。
一体、ロマの秘伝とは何なのだろうか。謎である。

217ドギーマン:2007/02/22(木) 18:02:29 ID:15.0WHzI0
あとがき
ロマ村ビスルも終わり。
ようやくアウグスタ半島のほうは全部終わりました。
ビスルはNPC少なくて情報も少ない・・・。
赤山のイフリィトとかは襲ってきますが、
あれは正気を失っているからだそうです。(メインクエ関連)
この話は、その前っていう設定です。

随分とこのスレも賑やかになりましたね。
嬉しいです。
随分とレスが進んでるので今からゆっくり読ませてもらいます。
>>212
戦闘描写に特化した作品ですか。いいですね。
次回作を期待してます。

218elery_dought:2007/02/23(金) 13:20:47 ID:Y4wtUzM60
「夕飯できたよー」
誰かが俺の体を揺すっている…。
ギル「うう…」
目を開けるとリビングに座っていた。
やっぱり寝てしまったらしい。
メンバーもみんな揃っている。
ミーネ「ベットで寝てって言ったのに、もう」
ギル「ごめん」
シン「寝顔可愛かったぜ?」
嘲笑するシン。みんなもつられて笑っている。
ギル「ぇっ、うるさい!」
顔が熱くなっていくのがわかる。
ネクロ「とにかくはやく食べようよ!」
シン「そうだな、カレーは好物だし!」
ネクロ「いただきまーす!」
みんな一斉に食べ始めた。
他愛もない会話が飛び交う。
シフ「ミーネさん、明日のGvは出られそうです。」
ミーネ「そう、明日はTOP250で人数多いから気合入れてね!」
シフ「はい」
シン「明日は手応えありそうだな!」
ネクロ「俺も出るー!」
シン「毒舌ぶちかましてやれ!」
初対面の時からシンとネクロは仲が良くて、ちょっとうらやましい。
シフ「ん、なんか虫飛んでますね。」
ギル「ほんとだ、まぁほっとけばいいよ」
シフ「……」
ギル「お…おい…」
シフの目は強く開き、素早い虫を追っている。
そして右手がダートのケースに伸びる。
ギル「何する気だ!」
やがてシフは目を細め、瞬く間に一本の細い針のようなモノをなげた。
「シュッ」
虫は貫かれ、針と共に壁に突き刺さった。
突然の行動にみんなシフを見た。
シン「何にやってんの!」
シフ「すみません、ああいうの気になってしまうので」
ミーネ「まぁ、怪我なくて良かったけど…」
ネクロ「ごちそうさま!」
WIZ「ごちそうさま」
ギル「あ、おれも…」
ミーネ「もう食べ終わったの。早いね」
ネクロ「シン、こっちでゲームやろうよ!」
シン「ちょっと待って今行くから!」
と、言ってシンは皿を持ち上げ、チャカチャカカレーを口に頬張って
シン「んんんんんん!」
と、リビングを出て行った。
ギル「なんて言ったんだ?」
ミーネ「ごちそうさまかしら…?」
WIZ「じゃあ私はもう寝ますね。」
シフ「ぁ、僕も」
ギル「俺も寝よっと」
ミーネ「はいはい、おやすみなさい」

俺は部屋に戻り、すぐベットに倒れこんだ。
ギル「明日は出掛けるんだっけか……」
そのまま眠りに就いた。

リクがあったので続きを書きました。
感想をくれた方ありがとうございました!

219名無しさん:2007/02/23(金) 15:15:46 ID:ndV96f8.0
>ドギーマンさん
ビスルは私もかつて興味本位で行こうとして、バリアート←MAPの蟲に集られてだめでした。
そして炎の神獣ことイフリートにも無謀に挑戦し…空を見上げる結果となりました(笑)
でも、この話を見ていると倒そうとする事自体が悪い事のように思えてしまいますね。
遠くまで取材お疲れ様です。

>>218
ギルメンの皆さんの特徴がとても良く分かります。
こうした和気藹々とした夕食風景はとても和みますね。
Gvがまた予定されているようですし、また続きを楽しみにしています。

220姫々:2007/02/24(土) 01:10:57 ID:5flRjIeE0
多少時間が出来たので導入部分だけ書いてみます。
それに一度に載せてしまうと結構な長さになってしまうような気がしたので。
最初に言っておくとリリィ視点です。そのうちルゥに視点は戻りますけど。
では前置きはこの辺で。
>>175-179 >>197-204 から続きます。


私達はテレポーターにブリッジヘッドへと送ってもらうため、
テレポーターを探していた。
「えっと・・・、オベリスクの近くと言われたのでこの辺りだと思うのですが・・・」
地図と辺りを交互に見回している。すると、紫色のローブを着込んだウィザードの姿を見つけた。
「あ、きっとあの方ですね」
そう後ろを付いてきている二人に言い、そのウィザードの所へと歩いていく。
「あの、すみません。テレポーターの方でしょうか?」
私はテレポーターのウィザードに私が話しかける。と、それに気づいたように、
フードで顔の上半分を隠したウィザードがこちらを向く。そして―
「はい、そうですが―ってリリィ!!?」
何故かテレポーターに私の名前を呼ばれた・・・。
「はい・・・・・・?何故私の名前を・・・?」
「やだなー。私よ私っ!」
と、そのウィザードがフードを外して言う。
「あら・・・、あなた、もしかしてスィラバンダさん・・・?」
「あったりーっ!久し振りねー。っていうか何であなたこっちに来てるのー?」
「それはこっちの台詞です。いつの間にかお城からいなくなったと思ったら
 何でこんな所に・・・?」
スィラバンダというのは私の先輩の宮廷魔道師なのだが・・・、ある日突然
お城からいなくなってしまったのだった。それが何故こんな所でテレポーターなど・・・。
「あはははは、女王様の宝石を魔力の増幅補助のためにちょいと借りたら転送魔術が
 暴発して借りてた宝石全部どっかに転送されちゃったんだよねー」
笑いながら言うが、笑って言う事じゃないだろう。
「で・・・、追放されたと?」
「まっさかー、まだばれてないよ。ただ宝石が何個か無くなってる事には気づかれちゃった
 から、ちょっと・・・ね?」
はぁ・・・、この先輩は転送系統の呪文は物凄く上手いんだけど、性格がこれだから困る・・・。
「っていうかさ、もしかして隣のその方って・・・」
私の隣にいるルゥ様を見て言う。
「ルゥ様ですよ。ルゥ様はおそらく初めてお会いになる方ですね。」
「うん。初めましてスィラバンダ。ルゥです、以後お見知りおきを。」
スカートの両端を軽く持ち上げ、小さく礼をする。
家臣にする挨拶でもない気はしたが、私としては久し振りに
ルゥ様が姫らしい事をしている事に少し感動してしまった。
「うわー、やっぱルゥ様ですかっ!ご無礼をお許しください。」
絶対無礼と思っていない口調で言うが、余りかしこまられると、
目立って仕方ないので今は別にいいとしておこう。
「ねねっ、ルゥ様って今何歳?」
私に耳打ちしてくるが、どう考えても回り全員に聞こえている。
「今10歳ですよ。」
まぁ隠すことではないので言ってもかまわないだろう。
「わぁー、じゃあリリィ、あなたは25歳?って事はもう3年もあってないんだー」
「まだ24です。「じゃあ」と言いつつ間違えないでくださいっ!」
あぁ・・・、何故かこの人を相手にすると私のペースを乱される・・・。
「リリィー、別に1歳くらいいいじゃないー」
「っ・・・そっ、そうよー?そんな細かいこと気にしてたらすぐ老けちゃうんだからー」
ルゥとあからさまに笑いをこらえているスィラバンダが言う。
そして私は姫にもそのうち1歳の重さを分かる時が来るんだから今は我慢我慢・・・。
と自分を押さえ込む。
「はぁ・・・、もう何でもかまいません・・・。スィラバンダさん。私達をブリッジヘッドへ
 と送って欲しいのですが」
私はもう反論することを諦め、スィラバンダさんに言う。
「いいわよー、本当は1万ゴールド貰うことになってるんだけど貴女達からはお金は
 取れないわ。ところでその子も知り合い?私知らないんだけど。」
後ろで今の会話を聞いていたセラを指差し言う。
「え、わたしですかー・・・?そうですねー・・・」
セラは遠慮して、「はい」と即答できないらしい。別に気にしなくていい事なのに・・・。
「そうですよ。だから私たち3人を送って欲しいのです。」
だから私がセラの代わりにそう言う。
「オッケー、じゃあ眼を閉じてー。3,2,1・・・で転送をはじめるから
 終わるまで目を開けないでねー」
そう言われ、私たちは目を閉じた。

221姫々:2007/02/24(土) 01:21:03 ID:5flRjIeE0
「じゃ、行くわよー、3―・・・、2―・・・、1―・・・・・・・・・・・・」
最後にパチンと指を鳴らしたかと思うと、世界が反転したような錯覚に陥る。
が、それは一瞬だけで、その感覚がなくなったとき、眼を開けると、
そこは灯台が立ち、船着場が存在する大きな港町だった。
「ってセラ!?どうしたの!!?」
ルゥが叫んでいる。どうしたのだろう、と眼を下に向けると、
セラが倒れていた。これは・・・、まぁどうなっているのか予想が付く。
「テレポート前に眼を開けてしまったのでしょうね・・・。あれは私も一度
 やってしまったことがありますがとても意識を保っていられません・・・」
テレポート中は世界がとんでもない勢いで回転しているように見えるのだ、
よって眼を開けていると、眼を回して倒れてしまう事が多々あるのであった。
「とは言っても・・・・・・。仕方ないですね・・・、この気付け薬を・・・」
そう言い、カバンから昨日の余りの気付け薬を取り出したとき、
「ひゃーっ!ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ!!!」
「わっ・・・びっくりしたー・・・。、元気じゃんセラー、心配させないでよー・・・。」
バッと勢いよく眼を覚まし、突然凄い勢いで謝ってくる。もはや「気付け薬」
という単語がトラウマになってしまっているらしい。
(この気付け薬・・・、そんなに酷い味がするのでしょうか・・・。
魔道書どうりに作っているし、分量を間違うはず無いのですが・・・。)
そう思い、少しだけ指につけて舐めてみる。
「うぐ・・・・・・・・・」
なんでだろう・・・、ほんの少しだけのはずなのに全身に電撃が走ったような感じがして、
舌がぴりぴりとする。確かに効きそうだが、私でもこれはトラウマになるかもしれない。
この辺りの改善も今後の研究事項に加えておこう・・・。
「さて・・・、とりあえずシーフギルドですが・・・。あの人に聞いて見ましょうか」
と、倉庫の前でテキパキと指示を出し、荷物の搬入を行っている中年の男性に
尋ねてみることにする。
「お?なんだ、シーフギルド?俺になんか用かよ?」
「俺?と言う事は・・・ここがシーフギルドなのでしょうか?」
「そうだよ。何だあ?お前らみたいなのがシーフギルドに用か。はっはっは、
 度胸のある女もいるもんだ。で、何のようだ?言ってみろよ。」
そう豪快に笑っていって来た。シーフというともっと違うものを想像してしまっていた。
「レッドストーンについて、情報を提供していただきたいのです。」
と、それを言った途端に男の表情と雰囲気が変わった。
「・・・本当に度胸のある女が来たな・・・。当たり前だがただで情報は教える事はできねえぞ?」
「はい、分かっています。しかしどうすればいいでしょう?」
「簡単だ、俺の担当の地域でレッドストーンの資料を探してもらう。そこで見つけた
 資料はここで解読してから教えてやる。まぁアルバイトと思ってくれ。」
「なるほど・・・分かりました。しかしどこに行けばいいのでしょうか?」
「そうだな。オート地下監獄と言う所に行ってもらおうか。古都の東側にある監獄の
 跡地だよ。まぁ色々魔物もいるがな、そいつらがたまーに資料持ってるんだわ。」
なるほど・・・、しかしそれは危険そうだ。いや、私ではなく姫が・・・、と言うことである。
「ルゥ様、そういうわけですが・・・」
「大丈夫だってー、リリィは心配性だなぁ」
それはもう星にとっても私自身にとっても大切な人なんだから心配はするだろう。
「セラ・・・あなたは・・・・・・大丈夫そうですね」
「はいー。多分大丈夫ですよー」
セラはすでに4体の召喚獣を召喚している。これだけいればある程度は自力で自分の身を
守ることは出来るだろう。
(あれ・・・?)
何となく引っかかることはあったものの、何に対して疑問に思ったのか、自分でもよく
分からなかったため、宿に戻ってから考えようと思い直す。
「っと、では行きましょうか。またテレポーターを利用する必要がありそうですね。」
と、行こうとするとその男に呼び止められる。

222姫々:2007/02/24(土) 01:24:38 ID:5flRjIeE0
「おっと、言い忘れてた。あんまり俺が資料を持ってくるように頼んだとか言わないほうがいいぞ。
 レッドストーン関係の資料は売れるところでは結構な高値で売れるんでな。
 特にNo.1〜9と名乗ってるシーフには言うな。・・・まぁ奴らは自力で嗅ぎ付けるかもしれないが・・・
 まぁなんにしても出切るだけバレないようにな。バレて暗殺されても責任は持てねぇぞ」
と、物騒なことを言っている。暗殺か・・・、そういえばここは暗殺者の温床って聞いたな・・・。
「分かりました、ケブティスさん。貴方の忠告はありがたく受け取っておきますね」
「ん・・・?俺の名前・・・あぁ、そうか。はっはっは、いい眼をしてやがる。
 あんたらなら必要なかったかもな」
そう言い、私たち3人は今度こそ歩き出した。
「ねぇねぇ、リリィ、なんであの人の名前分かったの?」
「簡単ですよ、襟に小さく書いてあったのを見つけただけです。」
「うわーっ・・・、よく見てるねー・・・。私全然気づかなかったのに・・・」
姫は感心しているがある意味見るようになったのはこの姫様のおかげである。
「ふふ、誰かさんのおかげで細かい所まで注意が行くようになってしまったのですよ」
つまりは・・・、まぁ悪戯好きな姫様の悪戯に引っかからないようにしていたら
注意深くなっていたと言うことなわけだが。
そんな事を話しながら私たちはブリッジヘッドのテレポーターの元へと向かった。
・・・
・・・
・・・



と、今はここまでです。読み返してみると台詞外でリリィがルゥを呼び捨てに
しちゃってるみたいになってる所がある気がしますけど、ナレーション的な
物と思って多めに見てください。あと誤字脱字は自力で適当につなげて頂けると
幸いです。

223名無しさん:2007/02/24(土) 02:22:28 ID:ndV96f8.0
>姫々さん
スィラバンダ、男性だと思ってました(苦笑) それにスィラ「パ」ンダだと…(●(エ)●)
あんな風にほがらかに対応してくれたら楽しいのに…ついでに値下げして欲しい。
メインクエのそのあたりは色々なところに行きますよね。このトリオがどんな旅をするのか楽しみです。
続きの方、無理なさらずゆっくりでOKですよ。お待ちしています^^

224ドギーマン:2007/02/24(土) 03:08:57 ID:15.0WHzI0
赤い空の日よりも昔、
大陸の東端、ハンヒ山脈の向こうにゴルンドという小国があった。
ゴルンドは当時エリプト帝国に対抗するために勢力を広げていたブルン王国に攻められ。
いまついに最終防衛戦線、スバイン要塞で最終決戦を迎えようとしていた。

深い谷の中に存在する難攻不落のスバイン要塞。
高い木造の柵の上にいくつも設けられた見張り台の上で弓兵が立っている。
弓兵の一人の女が背後を振り返った。
要塞の中の街が広がっている。民家や商店の建物が軒を連ねている
民家の中から人々が兵士に誘導されて中央兵舎の地下に避難のために誘導されていく。
彼女の家族はもう避難しただろうか。
「おい」
横に立っていた男の弓兵が女に呼びかけた。
「ごめん・・」
女は短く謝った。男もそれ以上何も言わなかった。
女は赤い瞳を遥かに見える小さな明かりの群れに向け、弓をぎゅっと握り締めた。

中央兵舎の二階、作戦会議室で将軍は報告を待っていた。
そこにけたたましい音を立てて斥候が駆け込んできた。
「どうだ?」司令は斥候に顔を向けて聞いた。
斥候は曇った表情で報告した。
「敵の数は四万から五万の大軍です」
「やはりか。で、応援のほうは?」
「ダメです。どうしても連絡が取れません」
「わかった、下がれ」
斥候は部屋を出て行った。
「クソッ、どういうことだ」
司令は机をダンッと叩いた。
「もしかしたら・・・」
指揮官の一人が口を開いた。
「馬鹿な、今回の作戦を持ちかけてきたのは彼らだぞ?」
「その作戦自体が罠だとしたら・・」
「・・・・・」
「将軍!」
「もうこの要塞より後はない。戦うより他に道はないんだ!」
誰も、何も言えなかった。

鎧に身を包んだ兵士達が並んでいる。剣に、槍に、メイス、思い思いの武器を持って立っていた。
彼らの前で指揮官が叫んでいた。
「お前達!思い浮かべろ!」
「家族を、友人を、愛する人を!」
指揮官は兵士達を1度見渡してから握り拳を振るってまた口を開いた。
「守るんだ!俺達の手で!ブルンの下衆どもに指一本触れさせるな!」
ウオーー!!と雄叫びがあがった。
要塞のあちこちからも雄叫びがあがり、要塞の空気を振るわせた。
準備は整った。あとは迎え撃つのみ。

ボォォーーー、ブボオォォーー・・・
遠くから角笛の音が響いた。金属音と、雄叫びの入り混じった音が聞こえる。
見張り台の上でアーチャーの一人が「構え!」と言った。
全員が弓を天に向かって構えた。
要塞の入り口は切り立った崖に挟まれており、いくら大軍で攻めようとも一度には通れない。
彼らと、この地形があるからこそこの要塞は難攻不落と言われていた。
「まだだ、まだ引き付けろ」
弓を構えたままリーダーのアーチャーは言った。
そして、まもなく射程に入ろうと言う所でブルン王家の紋章の旗印が急に異常な速さで接近してきた。
「なっ!?うてぇぇ!!」
その掛け声に弓の弦が次々と弾んだ。
天に打ち上げられた矢は大量の火矢の雨となって敵に降り注いだ。
盾を頭上に掲げて火矢を防ぎながら敵兵が迫ってくる。
それでも大量に降り注ぐ火矢に辺りは火の海となりブルン兵達を焼いていった。
だが、生き残ったブルン兵たちは火を振り切って風の如き足の速さで要塞の門の前まで迫ってきていた。
「門に近づけるな!」
門に迫るブルン兵をアーチャーはランドマーカーで次々と仕留めていった。
そしてアーチャーが次の指示を出そうとした次の瞬間、
ヒィィーーーン・・・ズドドドドォォ!!
巨大な炎の塊がアーチャーの居た見張り台を直撃した。
爆発が起きて炎を纏った木片が弾けて散った。
「隊長ぉ!」
隣の見張り台で女弓兵が叫んだ。
「メテオシャワー!!」
その声と共に女の視界は宙に投げ出され、炎に包まれた身体が地に落ちた。

次々と見張り台が隕石のような巨大な炎の塊に破壊されていった。
「スマグの老いぼれどめも・・・・裏切ったか!!」
将軍は門のほうで立ち上がる炎を見て叫んだ。
「将軍、いかがなさいますか?」
隣で腹心が聞いてきた。答えはとっくに出ている。
「戦うしかないと言っただろう。最後の一人まで!」
そう言って将軍は腰の剣を抜き放って、兵士達に見えるように歩み出ると者どもに向かって叫んだ。
「命を惜しむな!ゴルンドの魂を見せつけてやれ!」
将軍の言葉に、兵士達は要塞を揺るがす雄叫びで答えた。
門が爆発し、ブルン兵の甲冑がなだれ込んできた。
「ゆけえええ!!」
剣を抜き放って走る将軍の声は、雄叫びの中に混じって掻き消えた。

225ドギーマン:2007/02/24(土) 03:22:36 ID:15.0WHzI0
あとがき
前に書いてあった魔法を兵器に見立てるって話で、
何か書けないかなあと思いつきで書いてみました。
中途半端だけど、続きは無理かな。
イメージが沸かないんです。なにか、参考になるものがあればいいんだけどね・・・。

みなさんはワールドマップを注意深く見てみたことあります?
実はワールドマップの右上の端っこに、
GODOME(ゴドム共和国)やNACRIEMA(ナクリエマ王国)と同じような赤い大文字で、
GORUNDって書いてあるんですよ。
で、それをネタに書いてみたんですけど・・・・。
スバイン要塞の上にありますからね〜、何か関係あるのかな。

>姫々さん
視点なら大丈夫ですよ。
スィラバンダが面白くていいキャラですね。
3人の旅のこれからの展開に期待してます。

226elery_dought:2007/02/24(土) 11:14:27 ID:Y4wtUzM60
「へくしゅ!」
昨日は布団の上から寝てしまって、起きて早々寒気がする。
ギル「風引いちゃったかな…」
クラクラする頭を右手でおさえながら、1階に下りる。
ミーネ「おはよう!」
ギル「ああ、おはよう…」
ミーネ「今日は朝ごはん食べたら、すぐ出掛けちゃいましょ」
ギル「うん」
ミーネ「顔色悪いよ?大丈夫?」
ギル「全然大丈夫だよ!」
ミーネ「ホント?ちょっと熱測ってみて!」
と言って体温計を棚から取って、差し出す。
ミーネ「ずるしないでね!」
ギル「うう…」
脇に体温計を挟み、昨日と同じ椅子に座る。
しばらくすると、反対側の扉からネクロとシンがきた。
シン「ギル、ミーネおはよう!」
ミーネ「おはよう!」
ネクロ「昨日シン、ゲームでずるしやがったんだぜー!」
シン「何言ってんだ!俺の腕が良かったんだよ!」
ネクロ「裏技使ってたくせに!」
ミーネ「今ギル体調悪いから騒がないで!」
シン「え、そうなの!」
ネクロ「大丈夫?」
ギル「いや!大丈夫だって!」
直後体温計がピピッと鳴る。
シンとネクロが駆けつけてきた。
シン「いくつなんだよ!?」
ギル「えっと…38…」
ネクロ「ほらやっぱりぃー!」
ミーネ「だから言ったじゃない。今日はこれ飲んで、寝てなよ。」
目の前にコーンスープが出される。
ギル「うん…ありがとう。あち!」
シン「いいなー俺も飲みてー」
ミーネ「もうないわよ、シンたちはちゃんと食べなきゃ。」
シンとネクロには目玉焼きとパン、サラダが出された。
ネクロ「パン焼くやつは!?」
ミーネ「壊れちゃったからそのまま食べて;」
ネクロ「ェェー」
WIZ「ちょっと貸してください。」
シン「うわ!いたのかよ!おはよう;」
ネクロ「どうすんのさ…」
疑いの眼差しでパンを渡すネクロ。
WIZはパンを手にすると何やら呪文を唱え始めた。
WIZ「えい!」
一瞬ボッと炎が上がり、パンはこんがり焼けていた。
ネクロ「すげェー!」
シン「俺もやって!」
WIZはまた呪文を唱え始めた。
コーンスープもちょうど冷めてきたので一気に飲み干した。
ギル「じゃあ…部屋戻ってるね」
ミーネ「うん、気をつけてね」
クラクラする頭をおさえながら階段を上る。
部屋に入ると、布団に潜り込む。
ギル「はぁ…」
体がだるい、寝付けない。
 ミーネはスタイルも良くて顔も悪ないし、実は一緒に出掛けるのを楽しみにしていた。
(ちくしょう…)


「調子はどう?」
どこからかミーネの声が聞こえる。
ギル「んん…」
寝ていたらしい。目の前にはミーネがいた。
ミーネ「もうお昼だよ。これ食べて、体温も測って!」
ギル「ぁ、うん」
看病してもらってどこか恥ずかしいが、嬉しい…。
上半身を持ち上げる。
ミーネ「はい、あーん…」
オカユをスプーンぬすくって口に近づける。
ギル「自分で食べれるって!;」
顔が真っ赤になってる。
(これはこれでいいかも…)
また体温計がピピッと鳴る。
ミーネがすぐそれを取って
ミーネ「37かぁ…まだ出掛けられそうにないねぇ」
ギル「あ、ああ…ごめんな」
ミーネ「いいよ!いつでも時間あるし」
ギル「うん;」
口にオカユを運びつつ。
ミーネ「食べ終わったらすぐ寝なよ」
ギル「うん、わかった」
ミーネは部屋を出て行った。
俺はそのあとすぐ食べ終わってしまった。
ギル「Gv出れるかなぁ…」
クラクラする頭に誘われ枕に倒れこむ。

すみません、Gvは次回になってしましそうです。
戦闘描写にはあまり自信が無いのであしからずです^^;
感想ありがとうございました!

227携帯物書き屋:2007/02/24(土) 17:54:10 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>185-187 ネタ話>>123-125

『孤高の軌跡』

最初に見たものは窓越しの闇。
次いで闇と対照的な白の壁が視界に飛込む。

俺は見たこともない部屋の中心に佇んでいた。
何故ここに居るのか考えるも、思い出せない。
「――――っ」
じくりと後頭部が痛んだ。
確か俺は放課後洋介の話を聞いて殺人現場へ行き、それから違和感を感じ、それを辿って――――

――――そ、そうか。俺は、あの後……

「よう矢島。目を覚ましたみたいだな」
「――――!」
気が付くと洋介が俺の脇に立っていた。そうだ、あの後俺はこいつに――――!
「洋介っ!」
怒りが沸騰し、後先考えず洋介に飛び掛る。
――――が。
「ぐっ!」
手足が全く動かず、気付けば俺は床に伏していた。
「馬鹿じゃないの? 何も考えずに飛び掛ってくるなんてさ。
まあ仕方ないか。人間というものは理性より感情の方が先に働いてしまうからね」
見上げると口元に薄ら笑いを浮かべながら洋介が見下ろしていた。
動こうとするも、俺は両手両足を椅子に座ったまま縛られた状態で動けなかった。
「忠告しておくけど、矢島、余り抵抗するなよ」
そう言いながら洋介は俺の後方へ指を差した。
振り向くと、そこには“異形の生物”がいた。
それはフードを被り鋭利な槍を持つ犬のような生物に、緑色の頭髪に長い耳を持った生物だった。
「なん、だこれは……」
思わず声が漏れた。俺の反応に洋介はさぞ満足そうに口元を歪めた。
「異界の魔物だよ。“一連の事件の犯人”と言った方が判りやすいかな?」
「なん、だと……?」
止まりそうになった息を大きく吸い、言葉と共に吐き出した。
「洋介、お前――――!」
「そうさ。俺は契約者だ。……まあ面倒な話をせずに済んだ。矢島、お前のを出せ。
そうすればお前を解放してやらないこともないぞ?」
その言葉に俺は硬直した。
眼前の生物が一連の事件の犯人だという事実。
洋介が俺と同じような異界の人と契約した人間だという事実。
そして洋介が俺とニーナの事を知っているという事実。
「なん、で、お前知って……?」
既に言葉はまともに出てこなかった。
「簡単だよ。俺には霊感がある」
「なら、初めから…」
「ああ。どうやってお前に近づくか苦しんだもんだよ」
あはは、と洋介はさぞ愉快そうに笑う。
俺はそんな様子をただ眺めるしかなかった。
笑い飽きたのか、洋介が再び俺に目を落とした。
「だから、さっさと呼べよ。その暁には解放してやるからさ」
「知らない。ニーナはもう俺と離れた」
洋介の笑い顔が硬まった。
「とぼけるなよ」
そう言った洋介の瞳には冷酷さが含まれていた。
だが、俺は“知らない”としか答えようがない。
「……まあいいや。人質として使えるから生かしておいてやるよ」
そう言うと、洋介は異形の生物を引き連れ俺を残したまま部屋の出口へ歩き出した。
扉の前で止まると振り返りもせずに俺に最後の言葉を投げた。
「矢島、明日だ。明日出さなかったら、殺す」
それは、俺にとって死刑宣告も同然だった。
それから洋介は扉の向こう側の闇に向かって呟いた。
「エミリー、見張っていろ」
そう言うと洋介は今度こそ闇に消えた。

しばらくすると、硬直している俺の前に1人の少女が現れた。
こいつが――――洋介の契約した人間。
だがその少女はその割りには迫力がなかった。
ラルフのような威圧感も、ニーナのような優美さも持ち合わせていない。
あるのは、可憐さ。
少女は椅子に座っている俺と余り身長が変わりなかった。目測から140前後だろう。
茶色のフードを被り、その奥に覗かせる幼い顔はまるで彫刻の様。
雪より白い頬と翠色の瞳。そして流れるような長い銀髪がそれぞれの美しさを引き立たせていた。
「あっ――――」
思わず声が漏れた。気を抜けば心を吸い取られそうだ。
しかし、幼い体つきから美しいというより可憐という言葉の方が似合っているだろう。
その妖精の様な少女は俺に少し近づくと、腰から笛を取り出した。
そして静かに瞳を閉じ、笛に唇を付けると、部屋中に静かな音色が鳴り響いた。
「――――っ」
ほどなくして急激に瞼が重くなった。
それがこの音色によるものだと気づくことにそう時間はかからなかった。
だが、両腕を動かせず、耳を塞ぐこともできなかった。
そして俺は静かに深い眠りに陥った。

228携帯物書き屋:2007/02/24(土) 17:55:14 ID:mC0h9s/I0
漆黒の闇夜の中、闇の黒を塗り潰す一陣の黄金の風が吹いた。
その風は地を蹴り、柱を蹴り、縦横無尽に吹き荒ぶ。

その風の正体は黄金の髪と深紅の瞳を持ち、優美な顔立ちの女性だった。

その女性の先には、逃げ惑う黒い影があった。
更に速度が上がり、疾風となり黄金の風は黒い影を追う。
その速さは、一般人の肉眼では捉えることさえ不可能だろう。

距離が縮む。
黒い影は異形の形をした奇妙な生き物だった。
片手に槍、もう片方には人間の生首を握っていた。
「キキィッ!」
槍を振り上げ威嚇する。一般人ならそれだけで硬直してしまうだろう。
しかしその女性は臆ともせず、異形の生物の遥か上空に舞い上がった。
女性は手を掲げる。
するとその手には小さめだが、精巧な造りの弓が握られた。
弓を構える。瞬間、煌めいたかと思えば、放たれた矢は異形の生物の胸を貫いていた。
断末魔の叫びさえ許されず、異形の生物は己の胸を不思議そうに眺めたまま息絶えた。

暫しの間のあと、女性が軽やかに着地する。
そして己が殺した生物の元へ歩み寄った。
「これは……インプ?」
女性はそれに手を当て探った。
「間違いない。……となるとこれが通り魔の正体か…。人間の血の臭いが染み込んでいる」
突然異形の生物の肉体が腐敗し始めた。やがて灰となり、風と共に消えた。
残った物はその生物が持っていた槍と、人間の頭部だけだった。
「残り滓に近いけどまだ匂いが残っている。――追ってみるか」

女性は再び黄金の風となり、連なる家々を飛び越していく。
風が止む。
その辿り着いた場所は洋館の豪邸だった。
彼女はそのまま踏み入ろうとしたが、急に足が止まった。
(――――この感じ……ショウタ?)
彼女は眼を閉じ、意識を集中させた。
(間違いない。でも何故ショウタがこの中に)
その女性――ニーナは前々からここの家主を怪しんでいた。
そう、初めて見たあの日から。
その人物の気配がここから感じ取れた。その意味が成す事実は容易く推測できた。
(ショウタが危ない)
しかし、安易に踏み込む訳にもいかなかった。
中には未知の敵。踏み込めば十中八九戦闘となるだろう。
そうとなれば翔太の命の保障はない。
逆に翔太を救出するにしても、そう簡単にはいくまい。
彼女に残された魔力は丁度戦闘1回分。
補給元である翔太と契約を切った今、彼女が生き残るには確実に1回で勝ちきり、
魔石の欠片を手に入れるしかなかった。つまり、戦闘を制し翔太をも救出する魔力は残っていない。
彼女は己の誇りと赤い石を選ぶか、翔太を選ぶかの選択に迫られていた。
だが、答えなど初めから判っていた。
(ごめんショウタ――――少し待ってて)
彼女は彼の命を選んだ。

彼女は身を翻し、闇に溶けていった。

229携帯物書き屋:2007/02/24(土) 17:55:56 ID:mC0h9s/I0
同時刻、等身大の針時計の音だけが響いている。
「むうぅ……」
“リサ、何度睨もうがその硝子の絵は変わらないぞ”
「判ってるわよ!!」
“私に当たるな。だがそれも事実だ。真摯に受け止めろ”

赤川梨沙は、この数時間パソコンの液晶画面を睨み続けていた。
その画面にはこの街の地図が映し出されている。
「よりにもよって同時刻に、しかも全く違う2箇所で殺人が起こるなんて……これじゃあ推理もやり直しだわ」
梨沙は大きく息を吐いた。
こんな姿を執事にでも見られたら3時間は説教されそうだ。
“心当たりなら、多少はあるが”
「へ?」
間の抜けた表情と声で梨沙が反応した。
“我等の世界ではビーストテイマーという魔物使いが居る。その者たちは己の魔物を使役し、闘う”
「それよっ! 何で黙ってたのよ、ヘル」
“君がそれを睨むことに熱心で大変そうだったからだ”
「う……。でも、敵の正体が判ったからには攻めるべし、よ。時間になったら行くわよ」
“構わんが、何処へ?”
「決まってるじゃない。……しまった。肝心の居場所が判らないんじゃまた手詰まりだわ」
“2体同時に使役し、それぞれ違う方面へ放ったことから自分から出てくるタイプではなかろう。
ビーストテイマーはそういう職業だ。言っておくが魔力感知は騎士の仕事ではないぞ”
それとも私が霊体となり一軒一軒探すか? など皮肉を付け足してヘルベルトが皮肉気味に笑う。
しかしその先の梨沙の表情は真面目そのものだった。
“む…リサ、まさか”
「そのまさかよ」
そう言って梨沙は場違いな満面の笑みを繰り出した。
“わ、私はやらんぞ。騎士の誇りにかけて”
「そんな誇り捨てなさい! あなた絶対服従でしょう!」
“待て。そこまで言った記憶はない”
「同じよ。いいから滑稽でも探しに行きなさい! って何出てきてるのよヘル」
気が付けばヘルベルトは霊の状態から肉体を持つ実体となって、梨沙に背を向けていた。
更に剣、盾、鎧と次々に装備されていく。
ヘルベルトは窓の奥を見つめていた。
「下がっていろ、リサ」
そう言い剣を構えた。
梨沙は驚きながらも下がりつつヘルベルトの視線の先を見た。

その先。窓の奥には1人の女性が宙に浮いていた。
「わざわざ討たれに来たか、アーチャー」
低く威圧感のある声をヘルベルトが放つ。
浮遊している者は、霊の状態のニーナであった。
しかし、ニーナは両手を上げ危害がないことを示した。
「何の真似だ」
ヘルベルトが睨み付け、聖剣に魔力を流し込んでいく。
そこでようやくニーナは口を開いた。
「戦闘の意志はない。貴方たちに交渉を申し込みに来たわ」

230携帯物書き屋:2007/02/24(土) 18:16:00 ID:mC0h9s/I0
こんばんは。えっと・・・妄想が爆発しました。むしろ大爆発。

>>190-191
なるほど・・・本格的ですねえ。
やはり「闘い」を知っているほど濃厚な描写ができるのでしょうか。

>>205-206
このままプリと悪魔は戦闘になっちゃうのでしょうか・・・。
続き待ってます。

>>姫々
見させてもらいました〜wルゥのお転婆(死語)がいいですねえ。
もう1人はいるのか・・・男キャラポツリと入ったらウハウハですね・・・w

>>209
これは・・・・・・w元ネタ知ってるとつい笑ってしまいますね。
こんなのあったら本当に「やばそう」ですね。

>>ドギーマンさん
戦争物ですか〜。実際リアルに戦ってみたらWIZめちゃ強そうですよね。
それにしてもドギーマンさんはよく隅々まで見ていますね。素晴らしいです。

>>elery_doughtさん
ミーネがいい子ですね。ギルとミーネの関係が幼馴染みたいな感じで微笑ましい。
次はGvですか。今度こそ全員出れるとよいですね。続き待ってます。

231ドギーマン:2007/02/24(土) 19:05:31 ID:15.0WHzI0
『Devil』

闇に包まれたエルムの素顔を見た者は居ない。
彼女はその外見のために常に周囲から奇異の目で見られていた。
しかし、それでも彼女は素顔を晒す事を拒み続けた。
何故なのか、その理由を知る者は居ない。
ある日彼女は久しぶりに食料の買い付けに古都を歩いていた。
石畳の上を全身を覆うぶかぶかの青いコートを着て歩く小さな姿。
その後ろをさらに小さな子供のような骸骨がついて歩いている。
頭には鉄製の重く丈夫な兜をかぶっており、その中は外からは窺い知れない。
兜の中には彼女の姿を隠す魔法が施されており、
この姿である限りいくら光を当てようと服や兜の中は真っ暗で彼女の素顔を見ることはできないのだ。
頭の上には、その魔法を維持するために青白い炎が灯っている。
周囲から見れば実に奇妙な姿である。
もう慣れているつもりでも、気にしないようにしていても、やはり彼女には辛かった。
彼女の歩く先には誰も居ないし、誰もが彼女と眼を合わせようとしない。
街の誰もが彼女を避けていた。
人々の会話が急に途切れ、そしてひそひそと聞こえる話し声、その視線が彼女に向かって降り注ぐ。
小さな子供達が目を丸くしている。親が慌てて抱き上げた。
気になってちらっと目を向けただけでも子供がびくっとしてお化けを見たような表情を向ける。
街を歩くのは彼女にとってとても辛く、疲れることだった。
それでも食料のために連れのアンデッドに荷物を持たせ、露店を巡っていた。
やがて周囲のことも気にならなくなってきてキョロキョロと余所見をしながら歩き始めた。
鉄仮面のせいで視界が狭く、首を思い切り左右に振らなければいけない。
そうしていると、突然何かにドンとぶつかった。
尻餅をついて見上げると、黒いマントを羽織った男が彼女を見下ろしていた。
「おい、どこ見て歩いてんだ」
人と殆ど話したことのないエルムは固まってしまった。
怖くてどうしたらいいか分からず。ただ怖い顔で見下ろしている男を見上げていることしか出来なかった。
黒い鍔の先が尖った帽子、黒いツバメの尾のようなマント。
武道着に身を包んで、腰には鉄製の手に装着する鉤爪が下がっている。風貌から言って武道家だろう。
「なんとか言えよ。それとも謝り方も知らねえのか。ああ?」
武道家は黒ズボンのポケットに手を突っ込んだままエルムに言った。
ただちょっとぶつかっただけなのに何故こんなにも怒るのだろうか。
「ギャアア!!」
エルムの骸骨が叫んで彼女の前に出た。名前はフェロー。
コボルトの洞窟で出会ってからずっと彼女について来た、彼女の唯一の友達だ。
「うるせぇ!」
武道家のサッカーボールキックが小さなフェローを吹っ飛ばした。
フェローは彼女の身体にバラバラになってぶつかり、その後ろの古都の石畳に骨片をばら撒きながら頭蓋骨が跳ねていった。
彼女は自分のお腹の上に散らばるフェローの身体の一部を何も言えずに眺めていた。
「おい、こっち向け」
「ひっ・・・」
エルムは睨みつける武道家を再び見上げた。
表情は定かではないが、泣いているのかもしれない。
「おら、なんか喋れよ。それとも口が無いのか?」
武道家は靴のつま先で彼女の仮面をトントンと蹴った。
周囲の人間達は彼女に目を向けてはいたが、決して武道家を止めようとはしなかった。
関わるのを避けるように遠巻きから様子を眺めているだけであった。
エルムの後方では骨片がゆっくりと動き、フェローの頭蓋骨が「キ・・・キ」と鳴きながらカクカクと動いていた。
今の彼女にはそんなことには全く気が回らない、ただ今すぐにでも消えてしまいたかった。
「もしも〜し、き・こ・え・て・ま・す・かぁ?」
武道家はしゃがみ込んで何も喋れないエルムの鉄仮面をコンコンコンと小突いた。
武道家の顔は赤くなっており、昼間なのに酒臭い息の臭いが漂った。
そして、彼女の仮面の鉄格子の中の闇を覗きこんでにやりと笑った。
「おい、これ取れよ」
「え?」
「お、聞こえてるんだなちゃんと」
エルムの反応を武道家は面白そうに笑った。
武道家は彼女の鉄仮面をがしっと両手で掴むと、無理矢理持ち上げようとした。
彼女は手袋で覆われた手で頭を押さえて必死に抵抗した。
自身の忌むべき素顔を絶対に人には見せたくなかった。
もし素顔を人前にさらせば、きっと彼女はその羞恥と恐怖に耐えられない。
しかし武道家の力は強く、彼女の兜はゆっくりと持ち上がっていった。
嫌だ、やめて・・・・。
闇の中で恐怖から眼に涙が滲み出てくる。
「暴れんな!」
彼女の涙で歪んだ視線の先で、格子状に切りとられた武道家の顔が残酷に笑っていた。

232ドギーマン:2007/02/24(土) 19:08:08 ID:15.0WHzI0
「やめろ」
誰かがそう言った。
「ああ?」
武道家に頭を押さえられて動かせない彼女の視界のなかで、武道家は横を向いた。
「やめろって言ってるんだ。お前こそ耳がついてるのか?」
誰?
その声は闇の中に埋もれた彼女の心に深く入っていった。
武道家はエルムから手を離して立ち上がると、拳を振るった。
武道家の手から自由になった彼女は仮面を深くかぶり直して慌ててあの声の主に目をやった。
上半身を露出した半裸の男が路上に倒れこんでうずくまっていた。
「おい、偉そうなこと言っておいてなんだよ。クソ弱えじゃねえか」
武道家は男の腹をドスドスと蹴りながら言った。
「や・・・やめて」
彼女は心を震わせて言った。
その言葉は不思議な響きを持って武道家の鼓膜を振動させた。
「う・・おぉ?」
武道家の身体から力が抜けていき、武道家はよろけて膝をついた。
彼女が嫌われる理由はその外見だけではない。
彼女の発する言葉は独特な響きを持って周囲の者から力を奪うのである。
「この・・」
うずくまっていた男は、倒れたまま膝をつく武道家の顔を蹴飛ばした。
「う・・くそ」
顔を抑えて立ち上がろうとする武道家。しかし力が思うように入らない。
その間に男は背負っていた大きな剣を腰に下ろし、柄を握って武道家を見下ろしていた。
「まだやるか?」
「・・・・・・」
武道家は黙ってよろよろと立ち上がって男を睨むと、酔っ払いの千鳥足で歩き去っていった。
彼女は尻もちをついたまま一部始終を眺めていた。
男はエルムの前に歩いてくると、手を差し出した。
「大丈夫か?」
エルムは武道家に殴られて早くも頬が腫れてきていた男の顔をただ見上げていた。
剣で戦う者の多くが好むショルダーパッドを肩につけ、肩から大剣の柄が覗いている。
口の中を少し切ったのか、唇の端から血が滲んできていた。
青い髪に青い眼の戦士だった。
「ほら」
戦士は座り込んだまま動かない彼女の手を掴むと、引っ張って立ち上がらせた。
「あ・・」
そこで彼女はようやく大事なことを思い出した。
「フェロー!」
彼女は地面に落ちた骨片を拾うと、振り向いて路上に散らばった骨片も拾い集め始めた。
たとえバラバラになっても、骨とフェローの魂さえ揃えば元通りに出来る。
「キィ・・」
エルムの大きな手袋の中で小さな頭蓋骨が鳴いた。ちゃんと魂は留まっていてくれたらしい。
急いで骨を拾い集める彼女のそばで、戦士も拾っていた。
「ほら、これで全部か?」
見回して辺りにもう落ちていないのを確認すると戦士は彼女の手袋に集めた骨を手渡した。
彼女はそれらを丁寧に確認しつつ袋に入れると、戦士に言った。
「あの・・、ありがと・・う」
彼女の精一杯の言葉だった。
「いいよ」
戦士がそう言ってエルムに落ちていた彼女の荷物を手渡すと、遠くから女の声がした。
「マイス!あんたなにやってんの!」
「悪い、俺もう行かなきゃいけないから。じゃあな」
そうエルムに言い残してマイスは女の方へ走って行った。
女に謝りながら歩き去っていく彼の背中を眺めながら、彼女は立ち尽くした。
そして、気が付いたように渡された自分の荷物を抱きしめてゆっくりと帰途についた。

233ドギーマン:2007/02/24(土) 19:08:53 ID:15.0WHzI0
古都の地下に広がる地下水路。
そこにエルムの生活があった。
闇に隠れた扉を開け、蝋燭に頼りなげな明かりを灯して彼女だけの隠し部屋に入る。
街の部屋など借りられないのだ。この暗い部屋だけが、彼女の唯一落ち着ける安息の場所。
彼女は鉄仮面を外して、ふうっと息をつくと、袋の中のフェローを机の上に並べた。
「フェロー、狭かったでしょ?ごめんね」
そう言うと手袋を外し、コートを脱いで椅子に座ると、細い指先でフェローを組み立て始めた。
折れた骨を魔力を込めて丁寧に引っ付けて一つ一つ接合していく地道な作業。
「ごめんね、ごめんね。私なんかのために」
ひたすら震える声で謝り続けながら彼女は骨をつなげていった。
「ギィィ」
彼女を慰めるようにフェローは鳴いた。
「うん、ありがとう」
彼女達にしか分からないやり取り。
揺れる明かりの中でエルムはようやくフェローを元通りに組み上げた。
フェローは身体の調子を確かめるように飛び跳ねた。
「どう?どこかおかしいところはない?」
「キィ!」
「そう、よかった」
そう言って彼女はフェローを人形を抱くように抱き上げた。
そして、マイスのことを思い出した。
あの人と・・・・ううん、無理よね。私なんかじゃ。
エルムはフェローをぎゅっと抱き締めた。
「ガギャギャ!」
「あ、ごめん・・」
エルムは慌ててフェローを降ろした。強く抱き締め過ぎたようだ。
それからエルムは思い出したように食事の仕度を始めた。
しかし、何をしていてもすぐに彼のことが頭をよぎっていた。

あれから二日が過ぎた。
エルムのマイスに対する思いは募っていくばかりだった。
気分転換にフェローと一緒に街の外に出かけていても、彼のことで頭がいっぱいだった。
エルムは薄暗い部屋に帰るとフェローに言った。
「フェロー、私・・・・あの人にまた会いたい」
「キィキィ」
「無理よ・・私なんかじゃ、きっと相手になんてされないよ」
「ギィ・・」
でも、会いたい・・・・・。
生まれ変われたらいいのに・・。
そんなエルムの脳裏に、ある物がよぎった。
そうだ、もしかしたら。
彼女は小さな部屋を占拠する綺麗に整理された本棚を次々に見ていった。
そのどれもが死霊術や交霊、降神に関する書物で、中にはウィザードの魔法に関するものもあった。
ない、ない。どこにもない・・・。
そこで彼女はいつも本の整理をフェローに手伝わせていたことを思い出した。
「フェロー、悪魔書を出して」
「ギァゲェ!?」
「お願い」
「・・・・」
「フェロー、お願いよ」
フェローはしばらくの間彼女に空洞の目を向けると、のろのろと動き出して隠していた一冊の本を持ってきた。
エルムはその本を手に取ると、しばらく躊躇するかのように本の表紙を眺めていた。
使うことは無いだろうとは思っていたが、一応持っていた本。怖くていままで一度も開くことの無かった表紙。
真っ黒な表紙には金に光る文字で悪魔書と書かれている。
しばらく立ち尽くしたあと、彼女は迷いを振り切るように机の上に本を広げ、読み始めた。
ぶつぶつと呟きながら、何かにとり憑かれたかのように読み続けた。
フェローはそんな彼女をただただ黙って見上げていた。

234ドギーマン:2007/02/24(土) 19:10:23 ID:15.0WHzI0
やがて数時間が過ぎた。食事も、寝ることも忘れて読み続けた本を閉じると、彼女はそこで再び迷った。
エルムは悪魔になれば今の自分を捨てて、生まれ変われると思った。
ここで言う悪魔というのは便宜上そう呼ばれる者であり、決して地下界の住人を指すものではない。
悪魔書によれば"それ"は彼女の中に潜む悪魔の本性を曝け出す。
"それ"は自身の欲望を体現すると書かれているが、詳細は分からない。
精神も全て別の人間になること、それは死に限りなく近いことなのかもしれない。
先人の記録にも、「全くの別人になってしまったようだ」という記述しかない。
それ以外の適切な表現がなかったのだろう。
その悪魔が自分なのか、そうでないのか、それはやってみなければ分からない。
エルムはしばらく黙り込んでいた。
フェローは彼女が思いとどまるのをただただ期待するばかりだった。
俯いていた彼女は顔をあげて、覚悟を決めてしまった。
「フェロー、ベッドの下に隠れてて」
「ギギャギャ!!」
エルムの言葉にフェローは大声で鳴いて抗議した。
彼女は素顔をフェローに向けて言った。誰にも見せられない、フェローだけが知っている彼女の素顔。
「お願い・・・・、今のままじゃ、私・・」
「・・・・キィ」
フェローは小さく鳴くと、小さな身体をベッドの下に潜り込ませた。
「ありがとう、きっと大丈夫。終わったらフェローって呼ぶからね」
エルムは両手を胸の前に構えて目をつぶると意識を集中した。
フェローは彼女の様子をベッドの下から心配そうにじっと見上げていた。
やがてエルムはボソりと何か呟いて両手を冷たい地下の天井に向かって掲げた。
すると、フェローの視線の先で次第に彼女の身体は真っ黒な闇に飲み込まれていった。
足元から少しずつ彼女の身体を闇が登っていく。
「ギャァァ!!」
フェローは彼女に向かって叫んだ。
エルムはそこで何か冷たい感覚に襲われてようやく自分の身体に眼をやった。
身体が黒く染まっていく。それはエルムの手を、足を、次第に包み隠していった。
心を、魂すらも覆うような。光を一切反射せず、全てを飲み込む真っ黒な闇。
「い・・いや・・・」
身体が動かせない。エルムは首を曲げてフェローに助けを求めるかのように目に涙を貯めてベッドの下の彼を見た。
次の瞬間、彼女の恐怖の表情を闇は覆い、飲み込んでいった。
彼女の形をした闇は一度形を崩すと、ビクンと一度震え、音もなく高く、上のほうへ伸びた。
そして人の姿を形作ると、闇はそれの身体のうちに吸い込まれていった。
真っ赤な長髪に赤い眼、真紅の唇。頭の上で髪が二本の角のように立っていた。
スラリとした身体を挑発的な黒いボンデージに包み、首には黒光りする逆十字架のロザリオが下がっている。
女は妖しい笑みを浮かべて立っていた。
そして身体の調子を確かめるように手を握っては開き、首を動かし、背筋を伸ばしたりしていた。
フェローは黙って変わり果てた彼女を見上げていた。
もし彼に眼があったなら、このとき彼は涙を流せたかもしれない。
女はすでにやる事が決まっているかのように真っ直ぐに部屋を出ようとした。
「キイィ!!」
フェローはベッドの下から飛び出して、出て行こうとする女に叫んだ。
「ん?」
女はフェローをじろっと見下ろした。赤い瞳はフェローを冷たく睨んでいた。
「キィキィキィ」
「・・・・・・」
「ギャギャ!」
「・・・・・・」
女は不機嫌そうな表情をフェローに向けると、
「うるさい」
そう言って腕を振るった。握り込んだ手の中から炎が鞭のようにしなった。
炎の鞭でフェローの首を刎ね飛ばすと、女は部屋を後にした。
ガシャリとフェローの骨の身体が崩れ落ちた。
「キ・・・」
首だけのフェローは床に転がったまま動かなくなった。

235ドギーマン:2007/02/24(土) 19:20:48 ID:15.0WHzI0
あとがき
続きます。
この前書いたジャシュマと違って、今回のネクロは女の子です。

>携帯物書き屋さん
最後の一人はビーストテイマーでしたか。
てっきりウルフマンかと思ってましたw
ニーナの決意にヘルベルトはどう応えるのでしょうか。
続き待ってます。

>elery_doughtさん
団欒がほほえましくていいです。
Gv、どうなるんでしょうか。また二人きりだったりして・・・。

236名無しさん:2007/02/25(日) 00:33:18 ID:ndV96f8.0
>ドギーマンさん
小さく書いてあるのは気が付いていましたが、まさかそれをちゃんと出して小説化してくれるとは…凄いです。
戦争風景を思い浮かべてつい読み入ってしまいました。
スバイン要塞は最近狩りに行ってきたので思い入れもありました。今は完全に廃墟になってしまっていますよね。
ワールドマップを見ていると山や島など今後何か新しいMAPが追加されそうで楽しみですが、どうなんだろう…。
もう一個の方も読ませてもらいました、ってか書くのが早い!
武道が登場してて嬉しいです、悪役でも(・∀・)イイ!!
女の子版ネクロのお話、楽しみにしてます。マイスとの絡み?も楽しみです。

>elery_doughtさん
いいなぁ…家族っていいなぁ…(謎)
たくさんの登場人物がいながらちゃんと個性が出ていて読んでいて楽しいです。
主人公を決められないくらいそれぞれが生きてますね。Gv編楽しみにしています。

>携帯物書き屋さん
ニーナ登場ですね!ショウタ君を助けに来るのか、それとも…
ヘルとニーナが協力すれば天下無敵みたいな感じですがそう簡単にはいかなそうですね。
テイマはこちらに来ても強い…これは激戦が予想されますね。楽しみです。

237姫々:2007/02/25(日) 03:11:38 ID:5flRjIeE0
時間が出来たおかげでついつい書いてしまいました。
本当はザックリとシーフギルド編終了まで書いたのですけど、
結構な長さになってしまったので2回に分けようと思います。
>>220-222 から続きます。

と、今度はテレポーターに代金を払い、古都へと向かった。
今度はだれも倒れることなく古都に到着、東側から外に出てオート監獄へと向かう。
「う・・・」
と、リリィが足を止める。
「リリィ、どうしたのー?」
私が聞いてみる。すると、「いえ・・・」と呟き言う。
「少し蜘蛛は苦手なだけです・・・、行きましょう・・・。」
確かによく見ると周囲には巨大な蜘蛛が、まばらながらたくさんいる。
「へー、リリィって蜘蛛苦手なんだー」
私がからかう気で言ってみると
「えぇ、昔からどうもあの形状は好きになれません・・・」
と言う返事が返ってきた。これは・・・、もう少し小さいのを捕まえてカバンにでも入れてみたら
どうなるだろう・・・、面白い反応を見れるかもしれない・・・。などと考えてしまうわけだった。
「ルゥ様・・・、本当にやめてくださいね」
と、まさに心を読んだように私に言ってくる。
「あれ?私何かするって言った?」
そう言ってみると
「ルゥ様はすぐお顔に出るんですよ・・・」
とリリィに呆れ顔で言われた。うーん・・・何か面白くない・・・。
そう考えつつ、丘の上にあったオート監獄の中へと入る。
その中は、もはや空気がよどんでいると言ってもいい。あの廃墟となった研究所も酷かったが
ここはもうあれの比じゃない。
「わー、ここ来ましたよー。古都に行く途中にー、ここなら案内できるかもしれないですー」
と、セラが言い出す。私は「突っ込まない突っ込まない突っ込まない・・・」と、自分の心の中で
3回呪文のように同じ言葉を呟き、言葉を飲み込む。
「では案内をお願いします。」
リリィがそう対応する。流石、リリィはもうセラの言葉に動じることは無いようだ。
私は「何で古都に来る途中にこんな所に・・・」と言葉に出しかけてしまったが。
「えーっとですねー。まず魔物の情報ですがサソリは毒はもってませんし、兵士さんも
 もう体はとっくの昔に死んじゃってるようなので気を使う必要はないと思いますー。」
そう私たちに教えてくれる。ロマって魔物の情報にも詳しいんだろうなー。なんたって
会話することができちゃうんだよねー・・・。などと考えていると、すぐ横に何かの気配を感じた。
《フッ・・・フー》
と、なぞの生物が出現して突然鳴きだした。というか見た目がなかなかかわいい。
「わぁー、何この子ーっ!かわいーっ!!」
そう抱き上げようと手を伸ばすと、バッと後ろに飛んで避けようとする。
そしてチョコチョコと走り出した。私はそれを追いかける。
「あーっ、逃げないでよーっ!!」
そう追いかけていると、それに気づいたセラが言う。
「ルゥちゃん、それ、ダメーっ!」
「え・・・?」
と、その声が聞こえた時にはもう遅い、そいつは口に火を溜め、今にも私に向かってはき出そう
としている。
《フッー!》
「ひゃぁっ!!」
私は驚いて後ろに倒れたおかげで、何とか炎を避けることが出来た。
「行って!皆っ!」
セラが召喚獣を私のところに向かわせてくれるが、あの速さじゃ間に合わない。
リリィは手をこまねいている、理由は私がいるからだろう。リリィの魔法は強すぎて
私まで巻き込まれてしまうのだった。防御のスキルは、私が離れすぎて掛けれないのだろう。
「えいっ!!」
私は手に持っていたスリングに昨日買ったボトルをセットして、思いっきり振りぬく。
「パリィン」と気持ちがいい音がして、ボトルが割れて中身の液体が
そいつに掛かる。と、ボゥと勢いよく燃え出した。投げてみれば分かるといわれた
瓶は火炎瓶だったのだったのだろう。
「って炎を食べてるっ!!?」
食べてると言うか吸い取ってると言う感じだろうか。ただ炎は意味が無いどころか
その魔物を元気にしてしまったらしい。

238姫々:2007/02/25(日) 03:17:35 ID:5flRjIeE0
と、その次の瞬間、また炎を吐こうと私のほうを向く。今度こそダメだ、ボトルなんか
投げずに逃げればよかった・・・。そう思ったとき、後ろから何かが飛んできて、
私の脇を抜け、その火を吹く小悪魔に突き刺さる。そして逃げようとしたとき
「動くなっ!!!!!!!」
「ひっ・・・!」
大きな声で叫ばれ、私は体が萎縮してしまった。その直後、再び何かがその魔物に何かが
突き刺さる。
《フー・・・フーっ・・・》
そう鳴きつつ、その魔物は背中を向けて逃げようとするが今度は私の目の前を
黒い何かがとんでもない速さですり抜けたかと思うと、その火を吹く魔物を
思いっきり蹴り飛ばしていた。
「わぁ・・・・・・・・・」
私が言葉を失っていると、リリィとセラが駆け寄ってくる。
「ルゥ様っ!お怪我はありませんかっ!?」
「ごめんねー、もっと早くあれの事も言わないとダメだった・・・」
「大丈夫、怪我は無いよ。それに今のセラのせいじゃないよ・・・」
っと、そうだ。お礼言わないと・・・。
「ありがとうございます、助かりましたっ!」
「あぁ、よかったな」
と、その人は笑ってそう言った。顔の下半分がスカーフで隠れてしまっていて、顔は
よく分からないが歳はセラより少し年上位じゃないだろうか・・・?
セラが14,5だとすると16,7と言った感じだろう。
「つーかなんで女3人でこんな所来てんだよ。あぶねえだろ?」
「むー、ブリッジヘッドでここにレッドストーンの情報あるって聞いたから
 探しに着たんだよーっ!」
「ルゥ様っ!!」
「ぁ・・・。」
言ってから「しまった・・・」と思う。さっきリリィとあの人が話してたことをつい忘れていた。
「ブリッジヘッドって・・・、ケブティスさんだなぁ?まったく・・・、あの人も物好きな・・・」
とその人はため息をついて言う。
「はぁ・・・、No.一桁の奴にそれ言ったらお前ら死んでたぞ・・・」
と。そういえばシーフギルドでも同じようなことを聞いたような・・・。
「まさか・・・・、貴方もシーフなのでしょうか?」
「ん?あぁ、まいったな・・・。聞かれちまったか。そうだよ、俺もシーフだ。シーフギルドのな。
 まぁ俺のことを呼ぶならNo.23とでも呼んでくれ。貴方とか呼ばれるのは慣れてないんだ。
 ちなみに俺らが本名を名乗るのは、ケブティスさんとか一部以外禁則事項だからその辺はよろしく。」
それを聞いて私たちは身構える。その様子を見ていたそのシーフがさらに言う。
「あぁ・・・、何聞いたかはしらないが人殺しをするのは№1〜9の連中だけだよ、他のやつらは
 一介のトレジャーハンターだ。」
お喋りなシーフだなー・・・。そんなに内情喋りまくっていいものなんだろうか・・・。
などと、№23と名乗ったこのシーフさんの心配をしてしまう。
「そうなのですか・・・?」
と、さっきのシーフさんの発言にリリィが尋ね返す。
「あぁ、心配なら後でケブティスさんにでも聞けばいい。」
「いえ、信じましょう。貴方・・・いえNo.23さんは嘘は言っていないのでしょう?」
「ほー。信じてくれるのはありがたいが、俺があんた達を騙してるのかもしれないぜ?」
「ふふ。これでも人を見る眼は養っているつもりですが?」
そういって二人、不敵な笑みで見つめ合っている。・・・というか睨み合っている?
「ははは、分かった。あんたは騙せねぇよ。俺の負けってことにしておいてくれ」
そう先にNo.23が折れ、そう言う。けどNo.23って長いし呼びにくい・・・。
うーん・・・、そうだっ!23なんだからー・・・
「でもありがとっ!にーさんっ!!」
「・・・は・・・?」
「え?23だからにーさん。ダメかな?」
「い・・・や・・・・・・・別に何でもいい・・・。」
そう言い、背中を背けてしまう。と、それを見ていたセラが、笑いながら私に言ってくる。
「ルゥちゃん、あのねー、ああいう人には「おにーちゃんっ」って言ってあげると喜ぶんだよー」
「え?そうなの?」
私はシーフさんの背中を引っ張ってみる。と、バッと振り返って言う。
「ダメだっ!!それは禁止っ!!」
「えー、何でー?」
「何でって・・・何でもだっ!!」
と、そんな事をしていると、リリィがコホンと咳払いをしていう。
「あんまりまんざらでもない顔をするのはやめてください。あとルゥ様も命の恩人を
 からかわない様に。セラもあまり妙な事を吹き込まないでください・・・。」
「はーい・・・」
「すみませんー」
と二人、リリィに返事をする。
「ぐ・・・、俺は悪くねぇぞ・・・」
と、そのシーフさんは独り言を言ってた。私は確信する、この人は面白い人だ・・・と。
「でだ、資料を探してたんだよな?」
と、突然真面目な顔に戻って言う。

239姫々:2007/02/25(日) 03:24:37 ID:5flRjIeE0
「はい、そうですが・・・。」
「ならこれでも持ってかえれ。俺にはさっぱり読めんからいらん。」
と、巻物とボロボロの文章ファイルを渡される。
「え・・・?いいんですか?」
「あぁ、別に――」
とそう言い、つかつかとリリィの隣の通路の前に立ち、
「かまわねぇよっ!!」
と言い正拳を繰り出し、音もなく接近してきていた巨大なサソリの甲羅を一撃の下、破壊する。
「そんなもん、こいつらがいくらでも持ってやがる」
と、サソリの体内に手を突っ込んで、引き抜いたかと思うと、その手には
巻物が握られていた。
「そういうわけだ。それだけあればまぁいいだろう?」
「・・・はい、ありがとうございます。しかし何でここまでしてくれるのですか・・・?」
リリィがシーフさんに尋ねている。
「・・・・・・・・・・・・・・・からだよ・・・・」
何か小声で言った気がするが、ほとんど聞き取ることが出来なかった。
「はい?」
「いや、別に。ただ危なっかしくて見てられなかっただけだ。だからとっとと帰れ。」
ぶっきらぼうにそう言い、背中を向けてしまう。だから私は最後にこういっておいた。
「うん、ありがとっ!おにーちゃんっ」
「うぎゃぁあああああああああああああ!!」
「あははははっ」
「はいはい、行きますよっ、ルゥ様っ!!No.23さん、ありがとうございました。」
私が笑っていると、リリィがそう言い、帰還の巻物を広げすらすらと中身を読んだかと思うと、
次の瞬間私たちは古都の中に立っていた。

・・・・・
・・・・・
・・・・・

「ったく・・・俺も焼きが回ったもんだな・・・」
三人が去った跡をぼんやり眺めていると、足音もなく、誰かが近づいてくる。
しかし気配探知は心得ているので半径5mに入る頃にはどれだけ相手が気配を
消そうとしてようが、そいつが生きてさえいれば接近は分かる。
「何しに来たんだ?」
「叫び声が聞こえたが、何かあったのか?」
そうは言うが心配して来たわけではない。俺が死んでいた場合、俺が手に入れていた
資料を回収するためにここに来たのだ。
「いや、こっちは特に問題ない。そっちは何か見つかったのか?」
「うむ、まぁ色々とな。そちらは何が見つかった?」
「速達電報の巻物が1本。ハズレだよ」
「なんだ、それだけか。まさかサボっていたのではないだろうな?」
本当は上げちまったんだが・・・、口が裂けてもそんなことは言えない。
・・・いや、逆だな、言ったらこの人に口を裂かれる。そして口以外にも色々と。
「まさか。真面目に探してたさ」
「それならそれでいい。まぁここでの探索はここまでだ、次に行こう。」
「あぁ・・・そうだな。」
「後始末をしてくる。先に出ていろ」
そう言うと、その人は俺に背を向けもと来た通路を歩いていく。
・・・が、立ち止まり背を向けたまま、俺にこう言って来た。
「・・・あと、ボーっとしていたがまさか過去でも思い出していたのか?」
「・・・そんな物忘れたよ、№6・・・。とっとと後始末を終わらせて来てくれ。」
「うむ。」
そう言い残しNo.6は今度こそ通路を歩いていった。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「ほー、早かったな。なかなか見所があるじゃないか。でもまぁこれはハズレだな。」
ハッハッハと笑いながら言う。
「ハズレ・・・とは?」
「オート地下監獄の敵からは碌なもんはみつからねえんだわ。今も部下が後付で探してるが・・・
 まぁ期待は出来ないな」
「ならどうして私たちをそんなところに・・・?」
リリィが明らかに不機嫌そうな口調で言う。
「ああ、悪い悪い。テストだテスト。俺のところに来るやつは結構いるんだが、
 資料が見つかる所だけ聞いて逃げちまう奴も結構いてね。だから最初はあんまり
 期待できない所を言っておいて、ちゃんと帰ってくるかテストしてるんだよ。」
「はぁ・・・、なるほど・・・。」
「まぁあんたらは見込みあるよ。じゃ、次は地下監獄のさらに東、路上盗賊団のアジト
 へ行ってもらおうか。おっと、盗賊団って言ってもシーフギルドとは何の関係も無い
 からな、好きなようにすればいい。資料はまたそこの魔物たちが持っているはずだ。」
「こちらは何か見つかるのでしょうか?」
とリリィが尋ねるとケブティスさんはふむ・・・、と考え
「まぁ奴らも落ちぶれてるとは言えシーフだからなあ、そこそこの物は持ってるんじゃないか?」
「またいい加減な・・・。」
「はっはっは、まぁ無駄足させちまったしなあ。テレポート代全額とまでは行かないが―、ほれ。」
そう言い、リリィにお金を渡している。

240姫々:2007/02/25(日) 03:27:40 ID:5flRjIeE0
「欲しいのはお金ではないのですけれどね・・・」
そう呟いていたが、貰ったお金を懐にしまい私の手を取ると、
「行きましょうか。次の目的地は路上盗賊団のアジトです」
と笑いかけてきた。
「路上盗賊団・・・、ですかー・・・」
珍しくセラが何か真面目な顔で考え事をしている。
「それ、どこなんですか?」
「ん?あぁ、ここだよ。譲ちゃん」
・・・?セラがケブティスさんに場所を尋ねてる。どうしたんだろう。
「覚えた?ウィンディ」
《・・−・ −・−・。・・−・− ・−−・ −・−− −・−−・。》
「・・・うん。任せたよ。」
私には今どんな示しあわせをしたのかまったく分からない・・・。
そう言うと今度はセラが両目を閉じ、ウィンディと呼んだ精霊に向けて手をかざす。
「………φη」
何か一言呟いたかと思うと、ウィンディと呼ばれた精霊が巨大な鳥に姿を変える。
その途端、どこかに飛び去ってしまった。
「うわぁ・・・」
セラにはどうもほわーっとしたイメージしかなかったため、私は今起こったことに
圧倒されてしまっていた。
「あ・・・、ごめんなさい、待たせちゃいましたかー・・・?」
セラが不安そうに聞いてくる。
「え?いえ・・・、セラは本当にサマナーだったのですね・・・」
「そうなんですよー、みんなとってもいい子ですよー」
リリィの言葉に、いつか聞いたような気がする台詞を笑顔で返す。
「って言うか今何してたのっ?」
私は聞いてみる。すると、ニコリと笑ってセラが言う
「ちょっと先に下見に行ってもらったの」
「下見・・・?」
「うん、レッドストーン以外に探し物があるんだー。」
さっきの真面目な顔から一転、またいつものほわほわとした笑顔で言う。
「大切なものなの?」
「大切だよー?私の中で4番目くらいに。」
4番目・・・、なんか微妙っていうか現実的な数字だなぁ・・・、と思ってしまう。
「じゃあ1〜3番目って何?」
そう尋ねると、また表情が変わる。いや、笑顔は笑顔なのだが眼が笑っていない。
真っ直ぐに私のほうを見て言う。
「一番目は自分の命・・・、2番目と3番目はねー・・・今は内緒、探し物を見つけたとき、一緒に言うね。」
そう言うと、ニコリと笑って視線を元に戻した。
私は今のセラの表情を見て、始めてセラは私より年上なんだな・・・と実感する。
さっきの視線の先は本当に私を見ていたのだろうか・・・、何となく私の内面を
見られていた気がした。
いつもはふわふわしているけど、一人旅をしていた位だ。
私なんかよりずっと芯は強いんだろう、その事に私は今になって気づいたのだった。
「そろそろ行きましょう。地図で見た感じ、古都から少し距離があります。
 今から行っても今日中に帰れるか微妙です。」
「ああ、その事だが別にどれだけ時間かかってもいいぞ。でもあそこで手に入るもんは
 少しばかり解読が難しくてなあ、ここ以外だと2,3ヶ月は解読に時間掛かっちまうだろうよ」
はっはっはと笑いながらいっている。後で聞いた話だが、ここでは半日から1日程度で
解読が完了するらしい。リリィ曰く「魔法の類でも使っているんでしょう」
との事だった。
「どうしましょうルゥ様、今日は宿に戻って明日出発にするのもよいと思いますが・・・。」
「うーん・・・、けど今日行こうよ。セラの探し物もあるし」
「ふふ、分かりました。それでは早速行きましょうか」
微笑みながら手を向けてくる。
「うん」
その手に私も手を伸ばしリリィと手を繋ぐ形となった。
「リリィ・・・。」
「はい?」
「私も早く大人になりたい・・・」
そう言うとリリィは少し驚いたような顔をしたが、すぐさっきの表情に戻り言う。
「私が全力で応援させていただきますよ、ルゥ様。」
と。
それからはテレポーターに再び古都に転送されるまで、3人は無言だった。

・・・
・・・
・・・

241姫々:2007/02/25(日) 03:29:57 ID:5flRjIeE0
「古都っー!!」
「はは・・・・・・、姫様・・・」
「なーにー?」
「・・・いえ、何でもありません」
この姫様が大人になるのはずっと先だろうな・・・、と将来に少し不安を持ってしまう。
いや、立ち直りが早い・・・と言えばそれも長所にもなるのだろうか・・・。
「まあ、早く行こうよっ!私、野宿は嫌だからねー!」
「はいはい、行きましょうか」
しかしまぁ・・・、姫はこうでないと私も調子が出ないですね、などと思いつつ、
私たちは古都を東に出て、路上強盗団のアジトへと向かう。
さっきも言ったとおり、アジトは古都を東に出てずっと東に真っ直ぐ。
古都を出たときは、何の問題もなかった。
が、1時間ほど道のりをあるいて、アジトまであと半分くらいの所まで行った時、異変が起こった。
「どうしたのっ、セラっ!?」
私は一番前を歩いていたので、ルゥ様のその声で気づいた。
振り返ると、膝と肘を突き、苦しそうに肩で息をしているセラの姿がある。
その姿は明らかに普通じゃない。
アースヒールを施してみても体調はよくならないらしい。依然として肩で息をしている。
「とりあえずそこの木の陰に・・・」
とりあえず運ぶため、セラを仰向けに寝かせる。と、右手で私の手を掴んで、
セラが話しかけてくる。
「い・・・え・・・、へいき・・・で・・・す・・・・・・」
と、今にも消えそうな細々とした声で。
「どこがっ!!全然平気そうに見えないよおっ!!」
ルゥ様の言うとおり、何度か倒れていたがその時とどう見てもまったく様子が違う。
半分開いている目は視点も焦点も合っておらず、息も荒い。脈をとってみても弱くて早い。
「このままで・・・すぐ・・・、よくなり・・・ます・・・。」
確かに呼吸は落ち着いてきているように見えるが・・・。大丈夫なんだろうか。
とりあえずは、2,3分待ってみよう・・・、それでこれ以上よくならないようなら
強引にでも運ぼう。そう思っていたが、幸いなことにその2,3分で少しずつ
ながら呼吸も落ち着き、視点もあってきている。脈は計るまでも無いだろう。
「セラ、喋れますか?」
「はい・・・、ありがとうございました・・・」
「今度は何があったのですか・・・?」
「すみません・・・、あの子と同調しすぎたようです・・・意識まで同調したのはしっぱいですねー・・・」
あの子・・・?セラが「子」と付けるのは召喚獣だけだし、3体はここにいるから、
同調していたのは残りの一体、ウィンディと呼ばれた召喚獣言うことになるのだが・・・。
「あの召喚獣に何かあったのですか?」
「落とされちゃったみたいですねー・・・。」
落とされた・・・?あの召喚獣が?やはりアジトのシーフにだろうか。
「大丈夫?セラ・・・」
「うん・・・、大丈夫。行こう、ルゥちゃん・・・。いいですか?リリィさん・・・」
「私はかまいません。立てますか?」
私はセラの手をとり、軽く引っ張る。と、一応は立ったがふらついている。
大丈夫だろうか・・・、やはりもっと休んだ方が・・・などと思っていると、セラが小さな声で、
「ケルビー・・・、おいで」
と手招きする。ケルビーとはあの犬型の召喚獣のことだろう。
走ってくる召喚獣に、セラがよいしょ・・・と腰をかける。
「すみません、この子に乗っていってかまわないですかー・・・?」
また不安そうに聞いてくる。
「ダメな理由なんかありません。どうぞ、自分の身体を大切にしてください」
とセラに言う。
「ありがとうございますー」
と、にこにこと笑いながらこたえが返ってきた。
「いえいえ、しかしこのままでは日が暮れてしまいます、急ぎましょう。ケルビーとはどの位の速度で
 移動できるのですか?」
私は尋ねる。
「うーん・・・。多分ここから真っ直ぐ古都に行くなら10分くらいで着きますー・・・
 って言って分かるでしょうか・・・?」
1時間の道のりを10分・・・、なら時速20〜25km位か・・・、なかなか早い・・・。
それなら余裕で日暮れに間に合うだろう。
「分かりました。ルゥ様、急ぎましょう。兎になってカバンの中に入っていただけますか?」
「え?うん、分かった。」
そう言うと、ポンッと音を立てて変身したかと思うと、私のカバンの中に飛んで入る。
「セラはついてこれそうですか?」
「はい、頑張ってねー、ケルビー」
私はその返事を聞いてから、自身にヘイストをかけて、路上強盗団のアジトへ向かって走った。
・・・
・・・
・・・

242姫々:2007/02/25(日) 03:35:15 ID:5flRjIeE0
私たちは10分程度でアジトに到着する。が・・・
「あぅ・・・酔ったぁ・・・」
リリィがカバンを持って走っていたため、その中にいた私はカバンに揺られて酔ってしまった
のだった・・・。
「すみませんルゥ様・・・、歩けますか・・・?」
「うー・・・、歩けるよー・・・歩けるけどねー・・・」
頭がボーっとして多少吐き気がする。今になって思えば私は
兎になって自分で走ればよかったんじゃないだろか・・・。船酔いとかならまだしも
鞄酔いは情けなさ過ぎる・・・。
「まあ・・・、行こうよ・・・・・・」
とりあえず吐き気を堪え、歩いているうちに体調もよくなってくるだろうという
希望を持ち、リリィ達に言う。
「本当に大丈夫ですか?足取りが頼りないですよ・・・?」
「うん、大丈夫大丈夫・・・」
「ルゥちゃん、あんまり大丈夫そうに見えないよー・・・?」
さっき私が言った台詞を、今度はさっきまで苦しがっていたのが嘘のように回復した
セラに言われる。
「心配しないで、もうましになって来たから・・・」
こんなやり取りをしてる間に、吐き気も収まってきたし頭もはっきりとしてきた。
「うん、大丈夫っ」
殆ど空元気だが、頑張って言って見る。
「はぁ・・・、まぁ・・・、大丈夫そうですね。」
と、リリィは信じてくれたらしい。セラも「よかったー」と言っていた。
「まあ行きましょうか。とりあえず地下2階に行ってみましょう、そこが一番資料がある可能性が
 高い、との事でしたので。」
私たちは階段を下へと降りていく。盗賊団のアジト、と言う割りには盗賊はいなくて、
ゾンビや堕落した魔法使いなどがうようよいただけだった。
その魔物たちも、リリィの魔法とセラの召喚獣によって倒されていく。
ここでは私も、スリング+ファイアーボトルでの援護も多少は出来たかな・・・?と思う。
しかし思うことは魔物がいる割には、廃墟にはなっていない。やはり盗賊がいるのは確か
なのだろう。しかし、地下2階に下りると雰囲気は一変する。そこは埃っぽい、石造りの
壁に覆われた通路だった。
「うわっ・・・、埃っぽい・・・。さっさと見つけて出ちゃおー?」
私はリリィにいう。すると、リリィは難しい顔をしていた。
「おかしい・・・」
「何がぁ?」
私が訊いてみると、リリィは視線を上げたまま、言葉を続ける。
「セラが連れているのは召喚されて力が落ちているとはいえ、精霊です・・・。
 あの程度の者達に落とされるはずが無い・・・」
さっきのことを思い出しているのだろう、言われて見ると確かに引っかかる。
「もっと強い魔物がいるって事・・・?」
「ええ・・・――っ・・・そこっ!!!」
リリィが叫び、バッと振り向き杖を向けたかと思うと、物凄い勢いで杖の先に
赤い光が集まってくる。しかし
「あら・・・?」
とリリィが呟いたかと思うと、杖の先の光はパシュンと言う音と共に消える。
「ったく・・・、何でまた会っちまうんだよ・・・」
と、呆れ顔であーあ・・・と呟くシーフの姿があった。
「にーさんっ!?」
「あーそうだよっ、つーかその呼び方も考えてみたら誤解生むぞっ!」
それはオート地下監獄でであったNo.23と名乗ったあのシーフさんだった。
「今度はこれでも持って帰れっ!!今ちょっと・・・いや、かなりやべえんだ」
と、1冊の濡れた本を私に押し付けてくる。
「えっ!?いいの?」
「あぁ、だから急いでここを出ろ、帰還の巻物位もってんだろ?」
と、私がリリィの方を見上げると
「あー・・・、補充を忘れてしまっていたようです・・・」
と、バツの悪そうな顔で言った。
「マジかよ・・・、何にしてもとっととここを出るんだ」
と、最初に会った時にはまったく見せなかった焦りようで言う。
「ルゥ様、何か分かりませんが急ぎましょう。」
「え・・・、うん。ありがとっにーさん」
「・・・・・・。あぁ・・・、じゃあな」
と既に背中を向けていた私たちに言ってきた。
・・・
・・・
・・・

243姫々:2007/02/25(日) 04:07:36 ID:5flRjIeE0
・・・
・・・
・・・
俺は階段を上っていく3人の姿を見送ろうと思ったが、目の前の気配から集中を
途切れさせる事は出来なかった。
「見てたか・・・?」
「ああ。」
俺の前にいる男が言う。
「何ですぐ出てこなかった・・・」
「殺しを知らない奴が2度も死に出くわすのは流石に精神の崩壊に繋がるだろう?お
 前は有能だからな、まだ俺のそばに置いておきたいだけだ」
「ちっ・・・、あの子は関係ねえだろ・・・。」
「お前、資料を渡していただろう?それが問題なんだ」
しまった・・・、早く遠ざけようとしてあの本を渡したのが裏目に出たらしい・・・。
「あの子を・・・、殺すって言うのか・・・」
「もちろんだ。」
気持ちいいくらいの即答・・・。こっちとしては気分が悪い。
「・・・・・・・・・・」
「忠告しておく、邪魔はするな。」
No.6が背中で言ってくる
「・・・・・・・・・あぁ・・・」
俺は、目の前の気配にそう応えるしかなかった・・・。
・・・
・・・
・・・




と、今はここまでです。本当はもっとルゥにオート監獄で絡んでもらおうとか
思ってたんですけど、すでに自己満入りまくってるので泣く泣く却下しました。
ちなみに余談ですが、ウィンディの台詞はモールス信号で「ウン。ミツケル。」
だったはずです・・・、私もあんまり覚えてませんけど・・・。

>ドギーマンさん
戦争って感じ、出てると思いますっ!今後の参考にさせていただきますね。
あと悪魔が悪って感じでてますねー。そういうのも好きです。
今後も期待してますー。

>elery_doughtさん
団欒って感じでいいですねー。それに読みやすくて私的には
好きですー。

>携帯物書き屋さん
そんな感じの設定私も好きですよ!今後も楽しみに読ませて
いただきます。

244携帯物書き屋:2007/02/25(日) 15:01:24 ID:mC0h9s/I0
こんにちは。最近飼い猫(♂)が嫁が欲しいと必死で大変です。
違う猫がメス猫とじゃれ合ってる姿を見ようモンならもう・・・。
ウチ猫なので、子どもができないようにしてあるのでそう思うとちょっとかわいそう。

珍しくPCを触れる時間ができたので感想を。

>>236
毎回感想をご苦労様&ありがとうございます。
そのお陰で書き続けられることに繋がってるのは確かです。

>>ドギーマンさん
何だか自分好みの予感・・・・・・!
ハッピーエンドには簡単にさせてくれそうもない雰囲気ですね。
何だかフェローに和みましたw時代は骸骨の時代だ!

>>姫々さん
ちょっと時間が空いただけでこんな量書けるのはすごい・・・。自分が遅すぎなのかなぁ。
女の子3人ですがちゃんとそれぞれ個性が出てますね。
23さんもいいキャラですねぇ。でも23でこんなに強いのに6って・・・。
自分は姉しかいないので「おにーちゃんっ」なんて言われるともうグッときそうですw

それでは〜

245第50話 走れ!:2007/02/25(日) 15:35:16 ID:HsZUAnj20
美香は慌てて父親に携帯で連絡をつけようとしたが、電波が届かない。
電源が入ってないのか?
目標の人物二人はどんどん歩いていく。
とりあえず、美香は距離を空けない様に尾行することにした。
・・・どうしたらいいの?私一人で逮捕できないわ!

そのころ田村は佐々木と無線で矢継ぎ早に連絡をしていた。
「美香と連絡が取れない! お前からつながるか?」
「いいえ!こちらからも応答がありません!どうします?」
「該当しそうなやつはいるか?」
「こちらもみつけられません!」
「まいったなあ」
「携帯はつながりますか?」
「それだ!」
ポケットから携帯を出す田村。
美香に発信をした。
一度だけのコールで美香はすぐに出た。

尾行を続けながら携帯を握り締めていた美香は左手がブルッとしたのがわかった。
「もしもし?」
「俺だ!どこにいる?」
「今西口からさらに西に向かってるわ!」
・・・・・・・え? 切れてる? 折り返しかけるが、繋がらない;;

田村は携帯を見つめていた・・・電池切れだ。
最後に何を言っていたかうまく聞き取れなかった。
「今西口・・・」で切れたからだ。
とりあえず佐々木に連絡をした。
「すまん!携帯の電池が切れた!」
「どうなってるんですか?」
「西口に向かえ!そこにいなければ最寄のネカフェ向かうんだ!」
「了解!」
佐々木は走り始めた。途中、うまく人を避けることができずぶつかってしまったが
走って走って走りまくった。

246名無しさん:2007/02/25(日) 19:41:03 ID:ndV96f8.0
>姫々さん
もうにーさんファンになりますよ!23→にーさんってネーミングも良い(笑)
ルゥ、リリィ、にーさんの三視点からのお話になってきましたね。
鞄酔い笑っちゃいました。でもヘイストして駆け抜けていくWIZさんを見ると羨ましさのあまりストーカーしたくなりますね。
セラも好きです。同調し過ぎてやばい事に…って凄く健気ですね。可愛いやい。
今後のにーさんたちシーフの絡みも含めて楽しみにしてます。

>携帯物書き屋さん
小説を読んで感想を書くのはもはや日課みたいなものになってます(笑)
こっちもとても楽しませて(時に悲しませて)もらってますし、皆さんの小説で勉強させてもらってます。
しかして今だUPできるほどの自作小説が書けないのは申し訳ないです(汗)

>きんがーさん
警察陣のパニックぶりが伝わってきます。
監視ネカフェでの犯人接触至らずですか…。運が悪い事に携帯まで不通とは。
なんとか犯人逮捕までこぎつけて欲しいですね。きんがーさんたちの方も気になりますが…。
続きお待ちしてます。

247ドギーマン:2007/02/25(日) 23:54:47 ID:15.0WHzI0
▲月□日
港町シュトラセラト
ブリッジヘッドから船に揺られること・・・・
分からない。
かなり酔ってしまって船室でずっと横になっていた。

ブリッジヘッドとの交易によってナクリエマ王国の商業的中心となっている都市。
かなり入り組んだ町並みで、発展とともに次々と建物が乱雑に立ち並び、
今では通りはかなり狭くなってまるで迷路のようになっている。
この街を支えているのは、意外にも貴族達である。
ただし、この街の貴族はブルンネンシュティグやビガプールなどといった都市の貴族とは性質が違う。
この街の貴族達は最初から貴族だったのではなく、元々は商人たちだった。
彼らは莫大な資産を持った財産家であり、それと同時に強い志を持った人たちであった。
ナクリエマが独立を果たした際も彼らによって大量の資金が投入された。
だが、第一代国王のトラウザーは貴族の傀儡と化してしまっていた。
その時の彼らの王国に対する失望はいかほどのものだったろう。
だが、第二代国王バルンロプトの代で王国に転機が訪れる。
バルンロプト王はそれまで王政に介入してきていた貴族を全て弾圧し、強力な王権を確立した。
そしてそれまで貴族によって操作されていた悪政を改善するためにシュトラセラトの財産家達の資金を必要とした。
そのために彼らを貴族にし、爵位を与えて重税を課した。
彼らは国の発展のために抵抗することなく、王に賛同し進んで多額の資産を投入していった。
シュトラセラトの港は組織的に整備され、街の周辺のモンスター討伐のための警備隊も組織された。
現在のナクリエマの発展は、彼らの力なくしてあり得なかったと言っても過言ではない。
そんな彼らをビガプールの貴族達には"金で爵位を買った"と罵る者も居るが、
元々地位になど興味を持たなかった彼らとの衝突は現在も見られていない。
だが、時代の進行と共に人々にも変化は訪れる。
かつての貴族達の家督は引き継がれ、現在の貴族達の中にはシーフギルドと繋がりを持ち始めた者もいるようだ。
一つの国を支える彼らの財力がシーフギルドと結びつけば、
国家を裏から支配することも十分に考えられる。
今はさすがにそこまではいかないだろうが、どうかこの街の平穏が続くことを祈るばかりだ。

さて、噂に名高いブルームビストロの料理を食べようと思ったのだが、
なかなかその店名が見当たらない。
今日は諦めて明日また探すことにする。

248ドギーマン:2007/02/26(月) 00:01:33 ID:15.0WHzI0
あとがき
シュトラセラトです。
なかなか見所の多い街ですね〜。

>姫々さん
NO.6に狙われることになってしまった3人、どうなっちゃうんでしょうね。
にーさんはどうするのか、続き待ってます。

>きんがーさん
いきなりやばいですね。
緊迫のシーンだけに本当にどきどきしてきました。

249姫々:2007/02/26(月) 05:15:42 ID:5flRjIeE0
おはようございますー。何度か見直しましたが軽く誤字脱字
はあるかもしれません。でも一応はこれでシーフギルド編は
完結します。長さ的に3回じゃなくて5回くらいに分けても
よかったかもしれませんね。では、>>237-243から続きます
・・・
・・・
・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
私たちは走る、今度は兎になって私の足で走っているが、
やはり二人についていけないことも無い。そこに、古都の入り口が見えた。
「古都・・・、ついた・・・」
ここまで来たら安心だ・・・、何から逃げていたのかは分からないが・・・。
とにかく私たちは宿へと向かった。
「ふー・・・、今日は疲れたねー」
「そうですね・・・、とりあえず今日はもう遅いです。ブリッジヘッドへは明日戻りましょう。」
「うん、そうだね」
私たちは宿に入り、歯を磨いて、着替えてからベッドへと向かう。
今日は本当に疲れた・・・、考えてみたら古都と港町を2往復したのだから疲れるのは
当たり前だろう・・・。とそんな事を考えていたら、まぶたがだんだん落ちてくる、
明日も頑張ろう・・・・、とそこで私の意識は闇に落ちる。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・。
『ギィイイインッ!』
「ぇ・・・?」
突然のことだった、金属がぶつかる音が私の顔の真上で響いた。何があったのかわからない。
ただ―
「逃げろっ!!!!急げっ!!!!」
と、男の人に怒鳴られた。えっと・・・、なんで男の人が二人もいるの・・・?
これは・・・、夢・・・?
「ルゥ様、失礼します!!!セラも早くっ!!」
「え・・・っ?なにっ!?」
私は何がなんだか分からないまま、リリィに抱きかかえられ、宿から出ることになった。
ここで私の意識は覚醒し始めて、夢じゃないということを実感する。
「リリィ、どうしたのっ!?」
「襲撃ですっ!!おそらくケブティスさんが忠告していたNo.1〜9の誰かに気づかれたのですっ!」
「えぇっ!!?」
「そして助けてくれたのはNo.23さん、彼が時間を稼いでくれるそうですっ!」
そうか・・・、それで男の人が二人も・・・・・・・。
「とにかく、今からブリッジヘッドへと急ぎます。セラの召喚獣に伝書を頼んだので、
 ケブティスさんが待ってくれているはずですっ!!」
「って、ケブティスさんも信用していいの!?あの人もシーフなんでしょっ!?」
「初め忠告してくれたのは彼なのですから、信用できるはずですっ!それに万一の事があれば
 メテオシャワーを使ってでも脱出しますっ!!」
私はリリィにつれられ、古都のテレポーターの元へと急ぐ。
「あら・・・?リリィ、あなた朝早いのねー」
そこにいたのはスィラバンダだった。何故か少しほっとしてしまう。
「スィラバンダさんっ!急いで私たちをブリッジヘッドへ送ってくださいっ!!」
「急ぎのようね・・・、分かったわ。早速いくわよ。3人とも、目を閉じて―。3―,2―,1・・・」
初めて会った時と同じように、スィラバンダはパチンと指を鳴らし、私たちを港街へと
送ってくれた。

250姫々:2007/02/26(月) 05:19:03 ID:5flRjIeE0
・・・
・・・
・・・
「ふん、来たいと言うからつれて来てやったらこれだ。邪魔はするなと言っただろう?」
No.6が眼前で言う、いつものように淡々と、ゆっくりと。
ただいつもと違うのは殺気の濃さだろう。俺とこいつは俺がシーフギルドに入った時からの
付き合いだからそのくらいは分かる。
「悪いな、手が動いちまった。」
「まだあの時のことを引きずっているのか」
俺を睨みつつ、同じ調子で言う。
「・・・あぁ・・・・・・、もう否定はしねえよ・・・」
あの時のこと・・・、2年前ブリッジヘッドに住んでいた俺の家族が俺以外誰かに全員殺された。
俺はその頃からシーフをしていて、家にいなかったため助かったが、他の皆は全滅だった。
気が狂いそうだった。・・・けど、ケブティスさんは俺を気遣ってくれた。
それが救いになったから、俺は今でもシーフをやっているわけだった。
「家族など必要ないだろう。仕事に差支えが出るだけだ。」
「そうかも知れねえが、俺にとっては大切だったんだ」
確かに差し支えることは多い。事実俺も、シーフなどやめろと親と顔を合わせるたびに
言われていた。けど、俺が帰る場所は結局はあそこだったのだ。
「まったく・・・、お前が自分で縁を切らないから俺が手を下してやったというのに。」
その時、俺は背筋が凍った。待て、今こいつ何て言いやがった・・・?
「もう一回言ってくれ・・・、ちょっと聞き取れなかった・・・」
まさか・・・、まさか・・・、そう思ってもう一度、訊いて見る。と、数度後ろに跳び、
間合いを開け、俺に言う。
「ああ、こう言ったんだ。お前の家族を殺したのは―」
No.6が懐から小型の斧を取り出し言葉を続ける。
「俺だ、と」
それと同時、両手の斧を同時に投擲してくる。
「くっ・・・!」
俺は横に跳び、斧を避ける。と、回転して勢いを増した斧は壁に刺さるどころか
突き破って外へ出て行ってしまった。
「お前は有能だから残してやったんだが・・・、見込み違いだったようだ。」
「キ・・・サマ・・・っ!!!」
俺の家族を殺してた奴と2年も手を組んでたって言うのか・・・?そう考えると俺自身
が許せない。が、やはり一番許せないのは目の前の男だった。
俺は構える、シーフ用の手投げ武器ではなく、両手の拳を・・・である。
「お前は格闘が得意だったな、俺とは真逆のタイプだ」
「だからどうした・・・」
「特に意味は無い。」
そう言い、再び小型の斧を投げつけてくる。
「ラァッ!!」
俺は、右に跳び攻撃を避け、着地してからとび蹴りで一気に接近する。No.6はタンッと左に跳び、
俺の攻撃を避けてから、斧で俺を切りつけてくる。
「当たらねえよっ!」
それをしゃがんだり、斜め前に踏み込んだりして避ける。後ろに跳ぶと、また投擲を
される恐れがあるので、俺としては出切るだけ接近状態を保たなければならないのだ。
(よし・・・・、接近戦ならこっちに分がある・・・)
俺は確信する、確かに離れてしまうとこちらが圧倒的に不利だが、接近している限りは
五分五分かそれ以上に戦えるだろう。
「ぐっ・・・・・・!!」
相手の斧を左腕を使いつつ流し、右手の拳を的確に顎に叩き込んでいく。顔の下半分を
隠すスカーフも防御用の素材を使っているので、大したダメージにはなっていないようだが、
全く効果が無いことも無いだろう。
「ふんっ!!」
No.6が俺に間合いを開けさせるためか、大きく斧を持つ左手を振りぬいてくる。
が、それは俺にとっては大チャンスでもあった。
「むっ・・・」
俺は仰け反ってそれを避け、上半身をひねり、驚くNo.6の右の側頭部に回し蹴りを
喰らわせる。
「が・・・ぁ・・・・・・」
ふらふらと後ろによろめきながら後ろに下がるが、見逃すわけには行かない。
「まだまだっ!!!」
俺は追撃せんと再び、とび蹴りを仕掛ける。
「俺とお前は真逆といっただろう・・・?」
「なっ!!?」
ふらふらとしていたNo.6が突然顔を上げて俺を睨みつけてきた。
今のは演技・・・?いや、そんなはずは無い、確実に捉えた、手ごたえもあった。
当たり所をずらされたのだろうか、再び俺のとび蹴りを避け言う。
「死ね・・・」
その手には、どこから出したのか分からないが、右手に4本、左手に3本の手投げ用の斧。
(まずい・・・。)
あの本数をこの距離で投げられると流石に回避は難しい。
が、しかし、そいつは躊躇なく投げてきやがった。

251姫々:2007/02/26(月) 05:21:00 ID:5flRjIeE0
「ぐ・・・」
6本回避して、残りの1本が左肩を切り裂く。被害は最小限にとどめたといった感じだが、
左腕を動かすたびに激痛が走り、さっきのように動かすのにはかなり辛い。
「ふん・・・、避けたか、だがまだ行くぞ」
再び、7本の斧を手に持ち言う。本当にどこから取り出しているんだろうか、そう思い、
俺の隣に転がっている1本を見てみると、刃の全体に呪文が刻み込んである、何か魔法
の類であることは明白だった。
それに壁を貫通する威力だ、家具を盾にしてもおそらく意味が無い。
「くそ・・・」
右側に跳んで避けるが、今度は3本の手投げ斧が左脚を切り裂き、俺は倒れこむ。
この部屋の広さでは、避けるのも限界だったのだ。
「終わりにしよう。」
そう言い、再び7本の斧をどこからか取り出していう。
(わりぃ、俺ここまでっぽいわ・・・、生き延びてくれよ・・・)
ああ・・・、そう言えば名前聞き忘れたな・・・、まぁいいや別に・・・と思いつつ、俺は
生きていることを諦めかけた。・・・その時だった。
《――――――――ッ!!》
「なっ!!!」
俺も驚くが、眼前で斧を構えて勝利を確信してた奴はもっと驚いたことだろう。
深紅の大型の犬が突然ベッドの下から飛び出したかと思うと、No.6の右腕に
噛み付いたのだった。
「邪魔だっ、離れろっ!」
そう言い、右腕を大きく振りまわして、その大型の犬を引き離し、その犬に向かって7本の
手投げ斧を投げつける。そして7本全てが着弾したその犬は、アジトの外でこいつが落とした
巨大な鳥と同じように、煙となって消えていく。
何だったんだろうとは思ったが、今はそんな事を気にしてはいられない。俺にとってこれは
最後のチャンスなのだから。
「ラァアアアアアアッ!!」
右足で思いっきり跳躍し、一気に接近する。着地の時、左足の痛みで倒れそうになるが
歯を食いしばって耐える。
「しま・・・っ!!」
膝裏に一発、胴に一発、側頭部に一発ずつ右足を叩き込む。
「つぅ・・・」
俺は痛みを我慢できず倒れてしまうが、向こうもふらついている。俺は倒れてた状態で、
払い蹴りで脚を払い、No.6を床に倒す。
「がは・・・っ」
仰向けに倒れているNo.6に這い上がってまたがり、両腕を膝で押さえつけ、
「終わりにしよう・・・」
と、さっきとは逆に言ってやる。
「やっ・・・やめろっ・・・!!」
その言葉を無視して、俺は右手の拳を思いっきりNo.6の顔面に叩き込んだ。
・・・
・・・
・・・

252姫々:2007/02/26(月) 05:22:44 ID:5flRjIeE0
「・・・っ!」
港町の中を3人で走っている途中セラが、一瞬顔をゆがめる。
「どうしたの!?セラ」
「ううん、何でもないよー、今回は殆ど同調して無いからー・・・」
昨日の事もあるし、その言葉から、召喚獣に何かあったのか予想はつく。よく見るといつも4体
つれているはずの召喚獣が2体しかいない。いないのは鳥型の召喚獣、ウィンディと
犬型の召喚獣、ケルビー・・・だったっけ?名前はまだ覚えてないがその2体だ。
「伝書は通ってるはずなので大丈夫ですよ。ウィンディから返事があったので確実ですー」
という事は何かあったのはケルビーのほうだと思うのだが、今はそれどころじゃない。
「セラ、走れる!?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとうね」
私たち3人は、リリィにヘイストを受けて、全力で走っていた。
「いたっ!ケブティスさんっ!!」
目の前にケブティスさんとウィンディの姿があった。私たちの姿を見ると、ケブティスさんは
右手を上げて迎えてくれる。
「おう、お前ら。ほんとに来やがったか。まさかと思って出て来てよかったぜ。」
「この本を・・・。」
私は持っていた本をケブティスさんに渡す。
「これは・・・。ほおー、珍しな、これはどうしたんだよ?」
「アジトの地下で、に・・・No.23さんがくれたんですっ!」
「No.23?って事は多分No.6だなあ?お前らを襲ったのは。よく生きてたもんだ。」
「それで・・・、この本は・・・!?」
私はつい大声で尋ねてしまう。
「まぁ待て、これはアイノの報告書って言うんだ。よくもまあこんな珍しいもんをNo.23も
 ・・・・・・って待て、譲ちゃん、顔をよく見せてくれ。」
話していたのが殆どリリィだったため、私の顔は殆ど見ていなかったらしい。
私に目線を合わせるように屈んで言う。
「似てるなあ・・・、あの子に・・・」
と―。そしてまたリリィに言う。
「おい、お前らが襲われた時。襲って来た奴以外に誰か来なかったか?」
「え・・・、ええ、No.23さんに助けていただきました。そうでなければこの方はおそらく・・・」
と、リリィが私を見て言う。私は死んでいただろう。おそらく、ではなく確実に・・・。
「だろうなあ・・・。まあ宿の部屋はぶっ潰れちまってるかも知れねえが、弁償は俺のほうでして
 おこう、お前らはアリアンへ行け。アリアンはクロマティガードって奴らが治安を守っている、
 そいつらのボスにアイノの報告書について聞いてみろ。」
「はい、ありがとうございます。きましょう、ルゥ様、セラ」
そう言い、リリィが私たちの手を引く。
「おい、譲ちゃん。」
そこでケブティスさんに呼び止められた。
「お前は死んだNo.23の妹にそっくりなんだ、少なくとも顔はな。たまに兄貴にくっついて
 遊びにきてただけだから俺も顔以外は知らないが・・・。まぁ、だからって訳でもねえけど、
 お前は死ぬんじゃねえぞ。」
「・・・はいっ」
「あとNo.23はこっちに任せな、救護班を向かわせてある。生きてたら強引にでもここに
 つれて来るように言っておいた。」
「ありがとうございますっ!」
「姫・・・、そろそろ・・・。」
リリィに手を引かれ、私たちはまた走り出した。
そうだったのか・・・、だからあの時、あの監獄であんな反応をしたのだろうか・・・。
そして私たちは、太陽も隠れている早朝、テレポーターによってアリアンへ到着したのだった。

253姫々:2007/02/26(月) 05:45:42 ID:5flRjIeE0
「・・・っ!」
港町の中を3人で走っている途中セラが、一瞬顔をゆがめる。
「どうしたの!?セラ」
「ううん、何でもないよー、今回は殆ど同調して無いからー・・・」
昨日の事もあるし、その言葉から、召喚獣に何かあったのか予想はつく。よく見るといつも4体
つれているはずの召喚獣が2体しかいない。いないのは鳥型の召喚獣、ウィンディと
犬型の召喚獣、ケルビー・・・だったっけ?名前はまだ覚えてないがその2体だ。
「伝書は通ってるはずなので大丈夫ですよ。ウィンディから返事があったので確実ですー」
という事は何かあったのはケルビーのほうだと思うのだが、今はそれどころじゃない。
「セラ、走れる!?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとうね」
私たち3人は、リリィにヘイストを受けて、全力で走っていた。
「いたっ!ケブティスさんっ!!」
目の前にケブティスさんとウィンディの姿があった。私たちの姿を見ると、ケブティスさんは
右手を上げて迎えてくれる。
「おう、お前ら。ほんとに来やがったか。まさかと思って出て来てよかったぜ。」
「この本を・・・。」
私は持っていた本をケブティスさんに渡す。
「これは・・・。ほおー、珍しな、これはどうしたんだよ?」
「アジトの地下で、に・・・No.23さんがくれたんですっ!」
「No.23?って事は多分No.6だなあ?お前らを襲ったのは。よく生きてたもんだ。」
「それで・・・、この本は・・・!?」
私はつい大声で尋ねてしまう。
「まぁ待て、これはアイノの報告書って言うんだ。よくもまあこんな珍しいもんをNo.23も
 ・・・・・・って待て、譲ちゃん、顔をよく見せてくれ。」
話していたのが殆どリリィだったため、私の顔は殆ど見ていなかったらしい。
私に目線を合わせるように屈んで言う。
「似てるなあ・・・、あの子に・・・」
と―。そしてまたリリィに言う。
「おい、お前らが襲われた時。襲って来た奴以外に誰か来なかったか?」
「え・・・、ええ、No.23さんに助けていただきました。そうでなければこの方はおそらく・・・」
と、リリィが私を見て言う。私は死んでいただろう。おそらく、ではなく確実に・・・。
「だろうなあ・・・。まあ宿の部屋はぶっ潰れちまってるかも知れねえが、弁償は俺のほうでして
 おこう、お前らはアリアンへ行け。アリアンはクロマティガードって奴らが治安を守っている、
 そいつらのボスにアイノの報告書について聞いてみろ。」
「はい、ありがとうございます。きましょう、ルゥ様、セラ」
そう言い、リリィが私たちの手を引く。
「おい、譲ちゃん。」
そこでケブティスさんに呼び止められた。
「お前は死んだNo.23の妹にそっくりなんだ、少なくとも顔はな。たまに兄貴にくっついて
 遊びにきてただけだから俺も顔以外は知らないが・・・。まぁ、だからって訳でもねえけど、
 お前は死ぬんじゃねえぞ。」
「・・・はいっ」
「あとNo.23はこっちに任せな、救護班を向かわせてある。生きてたら強引にでもここに
 つれて来るように言っておいた。」
「ありがとうございますっ!」
「姫・・・、そろそろ・・・。」
リリィに手を引かれ、私たちはまた走り出した。
そうだったのか・・・、だからあの時、あの監獄であんな反応をしたのだろうか・・・。
そして私たちは、太陽も隠れている早朝、テレポーターによってアリアンへ到着したのだった。

254姫々:2007/02/26(月) 06:04:22 ID:5flRjIeE0
254,253が2重になっちゃってます・・・ごめんなさい。
それに長さ的に3回じゃなくて5,6回に分けたほうがよかったかもしれません。
とりあえずブリッジヘッド編はこれで終わりです。
オチがありきたりとか、シーフ殆ど出てきて無いじゃんとか、No.23は
シーフとかいいつつやってる事9割以上武道家じゃんとか突っ込みどころ
満載ですけれども。
あと仲間はやっぱり4人って言うより3+1人って感じにしようと思います。
4人にしちゃうと間違いなく誰か一人喋れない人が出てきそうなので・・・。
(ていうかスピカが既に喋ってませんしね・・・。アリアンでは喋らせます、
ええ・・・、喋らせますとも・・・)
戦闘も書いてみたはいいんですが投稿してから読み返してみると表現に
若干の不安が残る箇所がちらほらと・・・。この辺りも改善のため、
勉強していきます。

さて、アリアンで出てくる職はやっぱ私の中ではあれしかないんですが
問題はキャラですよね、性別とか性格とか武器とか主要スキルとか。
その辺りも考えつつ、後書きも終わらせていただきます。
長々とありがとうございました。
以下感想↓
>きんがーさん
刑事物は私も昔書いてみようとして悲惨な結果になった事があったりしたり・・・。
まだ殆ど読めていないので、今度最初から読ませていただきますっ!

>ドギーマンさん
シュトラセラトは書く所多そうですよねー。
頑張ってくださいね。次も待ってます。

その他感想をくれた方々へ。
私の小説は皆様の感想により成り立っておりますっ!
お褒めの言葉、ありがとうございますー。

255名無しさん:2007/02/26(月) 06:17:42 ID:ndV96f8.0
>ドギーマンさん
シュトラは色々な意味で良く行きました(笑) 初心者クエもここが主体で行きますよね。
いつもながら歴史の話が興味深いです。この辺もNPCが話してくれるのでしょうか?
ところで、どうして古都からエバキュエイションできないのだろう…。何か理由があったりして。

>姫々
武道イイ。殴りシーフイイ。(狂喜)
武道×サマナが好きなのでもう勝手に妄想が膨らんでます。
公式設定でも"シーフは身体面の強化を図る過程で肉体を鍛えた"みたいな記述がありますし、無問題だと思いますよ。
たくさん登場人物が出てくると書き分けが大変ですよね。とても分かります。
私は適当に理由をこじ付けまくってお茶を濁す事が多いです。スピカは地球(?)の空気が肌に合わないから調子が悪いとか…(笑)

256名無しさん:2007/02/26(月) 06:21:38 ID:ndV96f8.0
>>255 申し訳ないです、姫々「さん」をつけるのを忘れてましたorz

257第51話 人込み:2007/02/27(火) 01:21:22 ID:HsZUAnj20
駅に着いた私達3人は、およそ10メートル程離れた。
勿論、デルモちゃんと私が遠くから観察することに。
しばらく経って、約束の時間からちょっと過ぎた頃、キンガーさんがなにやら携帯を構えた。
おそらく相手に電話を入れるのだろう。
すると、私達二人の真横の男も電話で話し始めた。
男は電話をかけながらキンガーさんの方へ近づいていった。
なんとその男がキンガーさんの取引相手だったのだ。
デルモちゃんは私にこう囁きかけた
「ねね、変なイントネーションだったね?」
「さぁ?私には普通に聞こえていたよ?」
「そうかなぁ? なんかこう・・・聞きなれない方言だったような」
「・・・ぁ。行っちゃうよ!ついて行かなきゃ」
私達は人込を縫うように後をついていった。
後姿で判断するには、キンガーさんよりは15センチ程背が低い男だった。
それにしても日曜の新宿は込んでいるなぁなんて思いながら付かず離れずの距離を保った。
「痛っ!」
後ろから私を抜き去っていく人が肩にぶつかって行ってしまった。
「大丈夫?」とデルモ。
(少しくらい謝れってんだ!)と小心者の私は思った;;
「うん?平気よ^^;」


田村は駅に待機している岡崎の車へ向かった。
携帯を借りるつもりで走った。
この件が片付いたらタバコをやめるぞ!と感じるほどに息を切らせて走った。
幸い、美香の電話番号は手帳につけてある・・・刑事の癖とでも言おうか。
なんで公衆電話を減らしたんだ?
便利になればなるほど必要な時に壊れやがる!


その頃、張は独房で一人考え事をしていた。
田村に教えたメールアドレスの中に必ず該当しているものがあるはずだ。
それにしてもRMTか・・・。
たかがアカウントやゴールドをどうしてみんな買うんだ?
そんなに欲しい物なのか?
ゲーム内で稼げばいいじゃないか?
だいたいRMT業者なんてほとんどがゲーム会社が陰で操っているじゃないか。
二重に金を払ってるようなもんじゃないか。
・・・俺に学があれば、ゲーム会社を作るんだけどなぁ。

258171:2007/02/27(火) 13:34:35 ID:f0SX/jL60
どうもこんちゃ。書いていたら意外と長くなってしまったので、とりあえず途中まで
投下しようかと。


AM5:30

男は焚き火に薪をくべながらぼんやりと周りを空を見上げていた。徐々に空が明るくなって
行く。視界の両脇にそびえる崖が空を、ちょうどT字を逆さにしたような形で切り取っている。
朝の静けさの中、パチパチと薪の弾ける音だけが聞こえた。

「やっと我が家に帰れるのか・・」

空を見上げ、誰にともなくつぶやいた。男は、宝石商協会の運営する鉱脈開拓のためのキャラバンの
参加者だった。北方での鉱脈調査は難航を極めたが、半年に渡る粘り強い調査の末、ついに豊かな鉱脈を一つ
探り当てることに成功した。成果を持って凱旋できるのだ。これほどうれしいことはない。
今キャラバンは、凱旋の帰途、旅人の利用する休憩所で寝静まっている。
本当なら今日のうちに凱旋できるはずだったのだが、先日の大雨のせいか河にかけられた
橋が流されてしまっていたため、仕方なく休憩所で野営をすることになったのだ。日が昇ったら早速
橋をかける作業をしなくてはならないが、それでも2、3日中には成果の報告を終え、各々の生活に戻ることができるだろう。
帰ったらゆっくりと風呂に入って一杯やって、凝り固まった半年分の疲れを溶かすんだ、そんなことを思いつつ焚き火の炎に視線を落とす。






視界に、嫌な影が、映りこんだ。
はっとして影を・・・見やる。






心臓が早鐘のように打ち始めた。全身から冷たい汗が一気に噴出す。
男は声にならない声を上げるとと飛び上がり、最も大きな小屋に駆け込んだ。
「オーガが!オーガの群れが!」







戦慄の一日が幕を開けた。




AM6:15

ヴァリアーは躊躇した。流行のパーマをかけたばかりの栗色の髪を弄りながら、ため息を漏らす。
任務後、もう家に帰って布団にもぐりこむつもりでいた、疲れきった状態で、救難信号を見つけてしまったからだ。

はっきりいって無視してしまいたい。が、救難信号を打ち上げるということは並々ならぬ事態であることを
意味している。そのような必死のサインを無視することを彼の、そして彼のギルド精神が許すはずもなかった。
襟元の紋章に魔力を送る。即座にギルドの専用チャットチャンネルがリンクし、管制官の眠そうな声が聞こえてきた。

「は、ぁ〜い、こちら管制部」
「こちらヴァリアー。お休みのところ悪いね。」
「ば、バカ、誰も居眠りなんぞ・・・]

言いかけて咳払いをする。苦笑いをかみ殺すヴァリアー。整った顔立ちから笑みが微かに笑みがこぼれる。

「で、どうした?任務終了の報告ならもうこちらで処理済みだが?」
「救難信号を見つけた。」

緩みきった声が一気に引き締まった。

「場所は?」
「バヘル大河、東バヘル川中流域N地帯。救援に向かう。」
「了解した。状況を把握次第連絡をくれ。こちらでも増援の手配をしておく。」
「助かるよ。では通信を終了する。」
「了解した。Good Luck」

通信を切り、手早くマッチを擦ると、腰から愛用の魔法杖を抜きマッチの火を近づけた。
杖が帯びた魔力に火が燃え移り、杖の倍ほどもある炎の刃が杖の先から伸びる。

残り火を腰にぶら下げた小さなランタンに放り込むと、ヴァリアーは全速力で信号の方へ走り出した。

259171:2007/02/27(火) 13:40:18 ID:f0SX/jL60
改行がおかしいことになってますねorz


AM 10:15


バヘル大河、東バヘル川中流域。エルフやリザードマン、オーガなどの所謂
「亜人種」が多く住処を設けている地帯であり、この地域はこれら亜人種の
紛争地域でもある。一見危険なこの地域だが、紛争と言っても各部族の「血
の気の多い奴」が小競り合いを繰り返す程度である。
オーガは穴倉の中で生活しているものがほとんどなので、こちらから仕掛けない限りは
何をされることもない。また、エルフやリザードマンについては意外にも商才があり、
それ相応の通行料を払うことで比較的安全な北方への抜け道を提供しているくらいだ。
通常であれば大きく迂回せねばならぬ道程をおよそ1週間分ほど短縮できるので、
実は利用者が多い「裏道」なのである。


その地域に高速で迫る3人のウィザードがいた。スマグの職人によって編まれた
良質の魔法の絨毯を駆り、砂ほこりを巻き上げ疾風の如く飛んでいく。


それを目にしたリザードマンの男が慌てて追いすがりながら、しわがれ声で叫んだ。

「待て!まダお代ヲ貰ッてないゾ!」

その声に対して、3人の先頭を行く女が、懐から布袋を掴んで投げつけた。

「それだけあれば十分だろう!」

袋をモロに顔面でレシーブした亜人は怒鳴りつけようとしたが、袋の重さに気づいて
それを抑えた。袋の中には、両手の指で数えられないくらいの金貨がギッシリと詰まっている。

体格のいい男が、遠くで袋を抱えて小躍りする亜人を振り返りながら、先頭の女に話しかけた。

「おいセシル、いくらくれてやったんだ?」
「交渉する手間が惜しかったんでな、相場の10倍は包んでやった」
セシルが、銀色の長髪をかき上げながら、険しい表情で答える。

「おいおいおい奮発しすぎだろ、なあエリー」
驚きを共有したいとでも思ったのか、最後尾を飛ぶ短髪の女に話題をふる。

「ええ、まあ・・でも私達はその分、たくさん戴いてますから。」
穏やかな笑顔で言葉を返す。

「え、あ、そ、そう?ふーん」
「ダン、酒と煙草を止めればコレくらいのユトリは生まれるはずだぞ?」
痛いところを突かれて、屈強そうな体を何となく縮こめるダン。

「で、そろそろか?」
少々のバツの悪さを抱えつつ、「本題」へと話を移す。
「ああ、もうすぐN地帯に入る。・・・何事もなければいいが。」
セシルの美しい表情がいっそう険しくなる。



救難信号を発見したヴァリアーからの連絡が途絶えた。

セシル達のパーティに急報が届いたのは今から2時間前。最後の連絡から
2時間が経過しても報告が一切入らず、不審に思った管制官が通信しようと
したところ、ヴァリアーの魔力をリンクできず、連絡が途絶えていたことが判明した。

「すまない、ヴァリアーに限ってこんな事になるとは思っていなかった。判断が
甘かった。」

暗い表情の管制官。確かにヴァリアーはギルドでもトップクラスの実力者であり、
ギルドメンバーはもとより運営部からの信頼も厚い。セシル達も、ヴァリアーの力を
よく知っていた。だからこそ。

「救難信号」「連絡が途絶える」・・・・嫌な予感がどうしても拭えない。



「隊長?」
エリーの呼びかけでハッと我に返る。
「ああ、すまない。どうした?」
「N地点に入ります。定点連絡を行います。」
「ああ、頼む。」

エリーが管制官と通信を開始する姿が視界の端に映る。・・・ヴァリアー、何があった?

「心配すんなセシル」
ダンが後ろから声をかけた。
「あいつのことは、俺らが・・つか、お前が一番よく分かってるだろ。」
「・・ダン・・」

「以上、通信を終わります。」
「了解した。気をつけてくれ。Good Luck」

通信を終えたエリーが、「アレ」に気づいた。

「隊長!あれは!?」

エリーの指した方向、はるか遠くにうっすらと立ち上る赤色の煙。

「・・・救難信号・・!」3人の表情に緊張が走る。
「ビンゴだな。急ごうぜ!」


続く。

260171:2007/02/27(火) 13:57:30 ID:f0SX/jL60
戦闘シーンだけ先に書き上げてからと思ったんですが、思ったようにいかずorz
とりあえず、エンチャを近接格闘武器に見立ててみました。他のは続きでやって
みたいと思ってます。


>ドギーマンさん

遅レスですが、戦争らしい描写だと思います。やはり兵器と、それによって破壊される様の
描写が難しいですよね。

>きんがーさん

やっとさかのぼって読んで追いつきましたorz
いざというときに使えない携帯、すげぇよく分かりますorz
展開が一気に転がりはじめましたね。

>姫々さん

武道家・・・!自分もこれだけでグッと来ちゃう人なんですなんかすみませんw

261名無しさん:2007/02/27(火) 20:14:04 ID:j2X4P.9o0
>きんがーさん
伏線があるようで無いようであれもこれもが疑わしくなってます(苦笑)
> だいたいRMT業者なんてほとんどがゲーム会社が陰で操っているじゃないか。
裏の事実といいますか、真実味がありすぎます。
ところで、確かに公衆電話って減りましたよね…携帯の簡易充電器すら買えない時は本当に困ります。

>171さん
戦闘シーンだけではなく状況の描写も上手いと思います。
こういう緊張感が高くなりつつの状態で続くとは…!続きを大いに楽しみにしてます。
ところでギルドチャットやパーティチャットなどの機能をリアルに表現するのは難しいですよね。
紋章同士で会話する、という発想は面白いと思います。

262ドギーマン:2007/03/01(木) 02:17:31 ID:189sm5pY0
■月●●日
港町シュトラセラト
ブルームビストロをようやく見つけた。
なんてことはない、長い行列が並んでいるあの店がそうだったのだ。
だが店の看板にはシルバーホエールバーと書かれている。
なぜ皆ブルームビストロと呼ぶのか。
その理由はブルームビストロというのはこの店の昔の店名で、
現在は名前を変えているが常連客の間では昔のままの名前で通っているらしい。
いくら看板を探しても見つからないわけだ。
並んでいる間人に聞いた話によると、
昔白銀色の鯨が捕まり、その肉をこの店に持ち込んで調理してもらったところ実に素晴らしい味の料理が出来たそうだ。
とても大きな鯨だったらしく、何日も何日も料理して周辺の人々に配ったらしい。
その料理の噂は周辺の小都市のみならずビガプールの王室にまで響き、
料理を取り寄せるよう勅令が下ったほどだという。
そうしてこの店の名はナクリエマ国内に広まっていった。
それを記念して、以来この店はシルバーホエールという名前になったらしい。
さて、長い時間行列に並んでようやく料理にありつけた。
店の名物というフィッシュエッグが実にうまかった。
それを肴にビガプール産の麦酒を飲みながら歌姫の美しい歌声に耳を傾ければ、
えもいわれぬ気分に浸ることができる。
ついつい酒が進みすぎて店を出るころには酔いすぎてしまった。
そういえばあの歌姫の歌は聴いたことの無い言語だった気がする。
異国の歌だろうか。

街を漂う潮の香りの中に立つ大きな建物、ブルームビストロと並んで有名な高級ホテルオクトパスだ。
その名の通りタコの足のような奇妙な形状をした建物だが、部屋もサービスも素晴らしいのだそうだ。
残念ながら放浪の身の私には1泊するだけの金もない。
今日はスラムの安宿に泊まって明日経つことにする。
もう一度ブルームビストロの料理を食べていきたいが、
それではいつまでも出立出来ない気がする。

263名無しさん:2007/03/01(木) 08:56:39 ID:j2X4P.9o0
>ドギーマンさん
ブルームビストロ、はて?と思っていたら昔の名称だったのですか。
もしかしてちょっと前のRSではそういう名前だったという事でしょうか?私もRSを始めて日が浅いものです…。
あの行列は気になってしまいちょっと並んでみた事がありました(笑)
ホテルもありましたね。中に入れないのが残念。

264171:2007/03/01(木) 14:35:37 ID:f0SX/jL60
前回>>258 >>259

切り立った崖の合間細々と立ち上る救難信号に向けて疾走する。接近するにつれ、赤い筋を
護るかのように逆巻き上がる竜巻の姿が見えてきた。


「おい、あれ!」ダンが野太い声を張り上げた。
「障壁魔法です!ヴァリアーさんですよきっと!」
エリーがセシルに、弾んだ声を投げかける。

セシルに、チラリと安堵の表情が戻る。・・ヴァリアー・・・!

しかし、ダンは一人疑問を抱えていた。障壁?
ヴァリアーほどの男が、一体何に対して護りを固める必要があると言うのか。

セシルの安堵もつかの間、ダンの予感は的中する。

崖の上から煙の元に視線を落とすと、悲惨な光景が目に映った。
本来あったはずの小屋は全て瓦礫となり、さらにそれらを埋め尽くさんほどの、おびただしい量の
オーガの死骸と、それに混ざり、人の形を既に留めることすらできなかった、人体の断片が見て取れた。

その断片にむさぼりつくオーガが目に入り、思わず顔をそむけるエリー。

「・・・これは・・・・っ」

「何てことだ・・」
セシルも流石に顔を歪めずにはいられなかった。
さらに3人を驚愕させたのは、死骸の量を軽く凌駕するほどのオーガの軍勢が周囲を取り囲んで
いたことである。その軍勢を押し留めるように、魔法の竜巻が風を巻き上げ、近寄るものを
切り裂いていた。竜巻の中の様子は見て取れないが、生存者はきっと、あの中にいるのだろう。
ヴァリアーと共に。

セシルは、すばやくヴァリアーの魔力を探った。リンクはやはり途切れたままだ。苛立ちが募る。

「この数は尋常じゃないぞ。どうするセシル」
ダンは、しかめ面で煙草に火を付けた。渡来物独特の甘い香りが、煙と共に辺りに広がる。


セシルは少し思案すると、言い放った。
「どうするも何もない。この状況で生存者を確実に助けるためには、危険を全て排除するしかないだろう。」
「だな。それしかねぇな。」
「ヴァリアーの魔法がいつまでもつかも分からない。要請を上げて、最寄のギルドから応援を回してもらってくれ。」
「了解しました。」

通信を開始するエリー。・・・だが。

「・・・隊長・・・管制部とリンクできません・・・!」
「何!?」

慌てて管制部とのリンクを試行する。が、まるで何かに妨害されているかのようにリンクが成立しない。
くっ、こんなときに何故!思わず歯噛みするセシル。・・・かくなる上は。

265171:2007/03/01(木) 14:36:39 ID:f0SX/jL60

「・・選択の余地は、ないな。」
「ああ・・トンダ博打だな。」
煙草の火を、使い古された鋼鉄製の長杖に押し当てる。燃え移った炎は灼熱の刃を模した。
杖を振り回し、ずいと前に進み出るダンの頭上から、柔らかい大気の衣が舞い降りる。
体が、まるで羽のように軽く感じた。

「ないよりはマシでしょう?」
立て続けに風を編み、大気の衣をセシルに羽織らせるエリー。
「いや、こいつは上等なプレゼントだぜ、エリー」
「長くは持たないと思います。無理は避けてくださいね。」

「よし、前衛手はダン!エリーは隙を見て障壁に潜入、生存者の確認と負傷者の救護を!」
「了解!!」
自慢の魔法杖を地面に突き立て、魔力を練り上げる。
「私は最大火力のスタンバイに入る。・・・・残らず駆逐するぞ!」
セシルの両掌が圧縮された魔力で歪む。空気中の水分が掌の上で凝固を始めた。


「作戦、開始!」

「Good Luck!!!」

AM10:30、増援の望みも分からぬまま、危険な賭けがスタートした。



「さーて、行きますかぁ!」
自分を鼓舞するように声を張り上げると、一気に崖を踏み切り、ダンはオーガの群れ中央目掛けて飛び降りた。

落下の勢いを利用して、真下にいたオーガの脳天に得物を突き立てる。勢いと、そして
魔法の力を得た杖はさながら槍の如く、敵の鉄兜を貫通し腸まで到達した。
ぐしゃりという臓物の破れる音と共に、嫌な感触が手に残る。

オーガ達は、空からの来襲者を見るや否や、猛然と襲い掛かった。黒色の波が四方八方から
ダン目掛けて押し寄せる。

ダンは、得物を屍から力任せに引き抜くと、魔物の密度が最も薄い点目掛けて鋭く飛び込んだ。

・・エリー、相変わらずいい仕事だ。体が軽いぜ!・・

目の前で図太い棍棒を振り上げるオーガを袈裟懸けに打ち据え、一投足にて魔物の集団をかいくぐると、
得物を地面に突き刺し、立ち上る"火種"に両手を突っ込む。引き抜いた両手指にはコインほどの大きさの
火球が燈っていた。全ての指に炎が燈り、ちょうど燭台のようにも見える。

「火傷程度じゃ済まねぇぞ!」

迫り来る魔物目掛けて火球を勢いよく投げつける。高速で飛び出す炎のつぶてが、オーガの分厚い胸板を
撃ちぬいた。手当たり次第につぶてを投げつけ、迫るオーガを撃ち抜いていく。が、オーガは一向に
怯む気配も見せず、猛然と襲い掛かってくる。

「くそっ、指10本じゃたりねぇっての」

手足の運びも軽やかに群れの間をスルリとすり抜け、洞窟から離れるように移動する。
頭上はるか高くから打ち下ろされる致命的な一撃の嵐を見事な体裁きで流すと、逆袈裟に眼前の魔物の
股間を強打する。悶絶して倒れこむオーガを一瞥し、大きく息を吸い込むと、一気に息を
噴出した。呼吸に乗せた魔力に煙草の火が引火し、火吹き竜さながらの炎の帯が放射される。
炎の帯は辺り一帯を焼き尽くすが、倒れた巨体はまだほんの一握り、
見渡す限り、暗褐色の肌と生臭い吐息が広がっている。再び襲い掛かる凶悪な暴力を
いなしながら、ダンはチラリと崖上を見やった。

移動を開始したエリー、そして、セシルの両掌の上で、今にも破裂せんばかりとなっている巨大な水の塊が目に入る。

「仕込みは上々だな・・!」

266171:2007/03/01(木) 14:37:46 ID:f0SX/jL60
「こちらもいけるぞ、ダン・・!」

チラリと横目で、エリーが走っていく姿を目で追うと、掌でしぶきを上げる巨大な水の塊を
二つに分け、一つを杖にかざした。杖のオーブが塊を一瞬で吸収し、激しく輝き出す。オーブの
放つ波動で、あたりがかすかに震えだした。

「SET」


来る!

股間を押さえつつ起き上がろうとする哀れなオーガの首を炎の刃で焼ききると、その巨躯を踏み台に
飛び上がり、魔力を一気に開放した。超重力のフィールドを展開され、一所に密集しすぎた
オーガの群れが、ダンにひれ伏すように、地面に押し込められ、折り重なる。

「READY!」


その様子を確認し、光り輝くオーブにそっと手を当てると、セシルは一気に魔力の波動を流し込んだ。

「F. I. R. E.」

鈍く、恐ろしく大きく響く轟音と共に、オーブから巨大な水球が勢いよく発射される。発射時のあまりの衝撃に後ろによろめくセシル。
巨大な水の塊はしぶきを上げながらオーガの群れに着弾し、強烈な衝撃波とともに爆散した。
寸前でフィールドを解き、自らの周囲に大気の障壁を形成するダン。衝撃波の勢いを得た水の塊は鋭利な刃物のように、
飛び散り、周囲の魔物を細切れに切り裂いた。押しつぶされ、弾き飛ばされ、切り裂かれたオーガの屍と、恐怖と怨嗟に色変わり
した咆哮が辺りを埋め尽くした。事なきを得た群れの残党が浮き足立つ。

必勝の一撃は開幕直後よりも、動きの流れが出来始めた中盤以降、突如叩き込んだほうがより効果的だ。
危険は伴うが、相手へ与えられるダメージはより大きくなる。

エリーが障壁に近づくのを横目で確認し、完全に色を失い混乱する群れに次の一撃を打ち込むべく、"砲撃"の準備に移る。

・・いけるか・・・!

駆逐は順調、このまま火力で押し切れると、微かに作戦の成功を思うセシル。だが。





まだ3人は、影に蠢く邪悪な何かに、気づかない。


続く。

267姫々:2007/03/01(木) 14:38:02 ID:Cc.1o8yw0
またちょっとだけ時間が出来たので導入部だけ書いたのを載せてみようと
思います。ちょっとづつ忙しさもましになってきたので来週くらいからは、
ちょっとづつ書けるかな?という感じです。では、時間もそれほど無いので
早速。>>249-252から続きます。

「さて・・・、なんとか旅館が開いていて助かったわけなのですが・・・。」
「だねー」
太陽がやっと顔を出しはじめた早朝、私たちは旅館の中にいた。
ここはオアシス都市アリアン、広大なオアシスを中心にレンガ造りの建物が立ち並んでいる。
オアシスがあり交易路の途中にある都市と言う事もあり、商業が盛んで古都の次に
冒険者が集まる都市でもあった。
「では、忘れないうちにこれを渡しておきますね。」
そう言い、何かを渡してくる。その手には一枚の布。
「これって・・・何?」
「チャドルと言うものですよ、砂漠で外に出るときは着てください。
 日焼けはお肌の大敵ですので」
「うーん・・・、でもこれ物凄く暑そうじゃない・・・?」
「わがままはダメですよ」
ピシッと言われる。最近主従関係が逆になりつつあるのは私だけだろうか・・・。
「はいはい・・・、リリィも偉くなったんだねー・・・」
渋々ながら受け取るが、こうなたら皮肉の一つも言ってやりたくなる。
「ふふ、教育係のあるべき姿ですよ」
と、私の皮肉は笑顔で流された。私としては思い出したくなかったが、リリィの本業は
ウィザードとかではなく、こっちの方だったのだった。
「さて、問題は二着しかないわけですが・・・、仕方ありません、今から調達してきますので、
 こちらはセラに渡しておきますね」
そう言い、リリィがセラにチャドルを手渡そうとする。
「あ、私は必要ないですよー」
が、セラはやんわりと断っていた。
「え?いやしかし・・・。」
「ふふふー、遊牧民族を甘く見ちゃダメですよー」
いつものようにふわふわと笑って言う。というかいつの間にか服装が変わっている。
いや、ただ単にいつもの服装の上に、フード付きのマントみたいな服を着ているだけだが。
「これで前のボタンを留めて、フードを被れば完璧ですー」
そうボタンを留めつつ言っている。
「なるほど・・・、流石はロマと言ったところですか。」
リリィは感心しているが、ここで着る必要はあったのだろうか・・・。
私としてはつい口に出してしまいそうになるが、ぐっと言葉を飲み込む。
(いい加減慣れよう。うん、そうしよう)
と、第一目標をそれに定める事にした。そして私がそんな葛藤をしている間も、
リリィとセラは二人、ロマの服装について話していた。

268姫々:2007/03/01(木) 14:39:43 ID:Cc.1o8yw0
「場所を選ばないので便利なんですけどねー、やっぱり暑いんでよー・・・。」
「でしょうね。その服は通気性はあまりよくなさそうです。」
「でもー、そんな時はスウェルファーにー・・・あれ?」
と、セラが周りをきょろきょろし始める。何か探し物のようだが、私には何か分からない。
「セラ、どうしたのー?」
私が訪ねてみても、「おかしーなー・・・」と、周りをきょろきょろし続けている。
そして、一通り部屋の中を見回したかと思うと、私の方を見てこう言うのだった。
「うーん・・・、スウェルファーがいなくなっちゃったんです。この街に来た時は
 いたんですけど・・・」
「スウェルファー?」
始めて聞く名前だ。まぁ召喚獣ということは分かるけれど。
「ほらー。私の周りを飛んでるお魚さんですよー」
あの丸くてフワフワとセラの周りを浮かんでた魚か・・・と私は頭に思い描く。
「まあ・・・そのうち戻ってくると思いますよー」
笑って言う。あれ・・・?精霊と言えば・・・
「ねえねえ、そういえばスピカは?この2,3日見てないけど・・・」
「あら・・・、そういえばそうですね・・・。」
ブリッジヘッドへ行く日から、私たちは星の精スピカの姿を見ていない。
その星の精霊の事を今思い出した
『はいは〜い・・・、私はここですよー・・・』
と、元気の無い声がリリィの鞄の中から響き、ヒョコリとスピカが顔を出す。
「もー、心配してたんだよー?今まで何してたのー?」
『今思い出したくせに・・・。いやねー・・・、私って女王様から魔力供給のラインで
 繋がってるって話したっけ?』
「うん、この前リリィが言ってた」
セラに会う前、リリィが魔力供給のラインがどうとか言っていたのを私は思い出す。
『でもラインを伸ばしすぎてるせいで、女王様の魔力は私をこの星に存続させる分しか
 届かないの。だから私が活動するためには自力でこの星の魔力を集めるしかないわけ。
 ここまでは分かる?』
「うん、その位なら分かるよー」
つまりはスピカは今は存在するためと、活動するための2本の魔力供給のラインを
持ってるわけだ。
『で、問題はそこから。この星って空気中の魔力がそんなに濃く無いからラインを
 繋げれる場所ってのは制限されるわけなの。で、最初は何処かの塔にラインを繋げて
 その塔から魔力を貰ってたんだけどねー・・・。』
「「ねー・・・。」って言われても・・・。何かあったの?」
私が尋ねてみると、はぁ・・・、とため息をついて言う。
『いやー・・・、その塔でなんかあったっぽくてさ、魔力の供給が止まっちゃったんだよねー・・・、
 だからリリィの鞄の中で使えそうなラインが無いかずっと捜してたってわけ。』
「ラインってそんな簡単に見つかるもんなの?」
『うーん、まあ割りとね。あの塔が一番よかったんだけどねー・・・、今はその近くに結構な
 魔力を持ってる町を見つけたからそこに繋いでるんだよね。』
成り行きは分かった。けどもそうなると、私としては言っておきたい事があるわけで。
「へー・・・。で?」
『反応悪いなー。「で?」って何よー』
この精霊は分かっていないらしい、昨日港町と古都であった事を話してやろう・・・。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・

269姫々:2007/03/01(木) 14:40:29 ID:Cc.1o8yw0
「―――って、わけ。どれだけ大変だったと思ってんのよーっ!」
何か話してる間に腹が立ってきた・・・。危険に対する探知能力だけなら誰にも負けないとか
お母様は言ってたけど肝心な時にいないんじゃ意味が無い。
『あー・・・。あはは・・・、ごめんねー、ルゥちゃん。私もライン探してる間は眠ってるような
 もんなんだよねー、まあ街なら簡単にどうにかなる物でもないしさ。今後はこんな事無いよ。
 ・・・・多分』
「不安だなぁ・・・」
つい声に出してしまう。まあ事実今後が心配なのだけれども。
『ごめんねー。今度何かあげるから』
「はいはい・・・。」
このノリの軽い精霊に期待するだけ無駄な気がして、私は適当に返事を返してしまう。
『むっ、信用して無いなー?みてなさいよーっ?』
リリィは苦笑いを浮かべつつ、こちらの様子を見ている。セラはと言うと、他の召喚獣と
戯れていた。そしてそんなやり取りが終わったところを見計らって、リリィが口を開く。
「ではまだ外も暗いですし、お疲れでしょうから二人は少し休んでおいてください。」
「リリィはー?」
鞄を持って、チャドルを纏っている辺り、何処かへ出かけるというのは分かるけど、
一応訊いてみる。
「私は少し街の様子を把握してきます。あ、そうだセラ、お願いがあるのですが・・・」
「はい?私にですか?」
召喚獣と戯れていたセラがリリィのほうを向いて言う。
「ええ、召喚獣を1匹貸していただきたいのです。緊急時には召喚獣を通して私に
 知らせていただきたいので。」
そうリリィが言うと、セラは「なるほどー」と頷いている。
「そう言うことなら喜んでー。じゃあー・・・、ケルビー行ってきてくれないかな?」
《−−− −・−》
と、また私には分からない言葉でのやり取りの後、リリィとケルビーは宿を出ていった。
「じゃ、私はもう一回寝るねー・・・。セラはどうするの?」
「わたしも一休みさせてもらいますー。」
私がベッドに寝ころんでから尋ねると、セラもそう言いベッドに横になる。
「うーん・・・あの子に枕になってもらうと気持ちいいんですけどねー・・・」
と、セラはまた何か言っていたが私は聞かなかった事にしておいた。

270171:2007/03/01(木) 14:48:04 ID:f0SX/jL60
途中、洞窟とか出てますが、障壁の間違いっす・・

下書き部分が残ったままだったorz

今回は、

・ファイアボール=ショットガン
・フレイムストーム=火炎放射器
・ウォーターキャノン=主砲級の火力

というイメージにしてます。


>ドギーマンさん


歌姫の歌・・・リトルウィッチですかね、レストランで歌手とは何とロマンティックな。
ところで、フィッシュエッグって、どんな料理なんでしょう?キニナル

271姫々:2007/03/01(木) 15:17:05 ID:Cc.1o8yw0
うーん・・・、必要部分での主語の欠落・・・、誤字脱字・・・、やっぱり
私は最低3回くらいは見直さないとダメっぽいですね。
さて、砂漠編開始です。今回はスピカが久し振りにいっぱい喋ってます。
でも今回は正直それだけな気がします。
個人的な課題はここで出す職のキャラとあのクロマティガードの
やたらと長い台詞をどうまとめるかかなあとか。まあ頑張ってみます。

>>ドギーマンさん
ブルームビストロの料理は食べてみたいなーとか思うことが多々あります。
シュトラセラトの次はどこに行くのか楽しみにしてますね。


>>171さん
特に台詞外の表現がほんとに上手と思います。私も頑張ってその辺り
の表現が上手になれるように努力していきます。
あと戦闘描写も私もどこかで書く事があれば参考にさせていただきます。
次回も期待してますね。

272名無しさん:2007/03/01(木) 21:01:10 ID:j2X4P.9o0
>171さん
何か凄くドキドキします。緊張の連続というのがまさに当てはまる。
戦闘についてを熟知してないと書けない内容ですね。
何気なく使っている魔法やスキルも一般人の目から見ればとてつもない事のように思えます。
ヴァリアーさんたちは無事なのか、邪悪な何かとは何なのか。続き待ってます!

>姫々さん
チャドルって最近セスナの道を探検した時に売っていて、その時に初めて見ました。
装備者が女性限定となりつつネクロだけ除外されてて何でだろう、と思った記憶が…。
スピカの事が上手くまとめられていつつ今後行く予定のスウェブタワー(じゃなかったら申し訳ないですが)の伏線にまでしていて凄いです。
ところで私もメインクエのクロマティガードあたりの話は完璧に忘れてる…orz

273ドギーマン:2007/03/02(金) 08:53:28 ID:Df0BVMic0
『Devil』
>>231-234

マイスはその日の狩りの成果を換金し終え、道を急いでいた。
古都を照らす日は西の果てにその身を沈め始めて朱色に染まり、人々の影を石畳の上に引き伸ばした。
騒がしい子供の姿は消え、賑やかな仕事帰りの大人たちが街をうろつき始める。
露店は店を閉じ始め、馬車も通れないほど窮屈だった路地は広く歩きやすくなった。
少し急がなければならなかった。自然と歩幅が広がり歩みも速くなる。
マイスは角を曲がって早くも酒場へと吸い込まれていく人々を尻目に歩いていた。
人を避けて歩いていると、そこに突然横から声をかけられた。
「マイスさん」
マイスは通り過ぎてしまってから声のしたほうに慌てて振り向くと、
後ろから黒いボンテージ姿の女が歩いて追いついてきた。
夕日はほとんど沈み、勝手に灯った街燈の輝きが二人を照らしていた。
黒光りするボンテージは女の肌にぴったりと張り付いてその肌の白さを際立たせ、
その柔らかな感触を想像させるように少し食い込んでいる。
端整な顔立ちの女はマイスの前で立ち止まって紅い唇を少し引き伸ばして妖しい笑みを浮かべると、
二の腕まである黒い手袋に覆われた腕を組んで胸を強調するように持ち上げた。
道行く男達が女の姿ににやけ面を浮かべて通り過ぎていく。通り過ぎた後も振り向いてにやにやして眺めている。
その目はこう語りかけている「にーちゃん、やったな」
女の姿に驚いてマイスは何も言えなかった。そして目のやり場に困って視線をさ迷わせた。
女はその様子をさも面白そうに眺めて、唇を動かした。
「こんばんは、三日振りね」
マイスはその言葉を聞いてようやく目の焦点が女の顔に合った。
女の切れ長の眼と目線が合うと、女はマイスを待つようにただ妖艶な雰囲気を漂わせて立っていた。
全く覚えが無い。三日前といえばつい最近のことだが、どう考えても初対面にしか思えない。
だが、さっき確かに自分の名前を呼んだ。
「えっと・・・・」
困惑するマイスがようやく口を開くと、女は足を踏み出して身体をマイスに近づけた。
女の胸の上で暗黒を象徴する装飾が小さくあしらわれた黒い逆十字架のロザリオが揺れた。
「ねえ、そこの酒場にいかない?やっと会えたんだからあの時のお礼をさせて。もちろん奢るわ」
女は早口にそう言ってマイスの左腕に抱きついて引っ張った。柔らかな胸の感触が腕に張り付く。
赤い女の髪からいい匂いが漂ってきて鼻腔の奥をくすぐった。
マイスは心が揺らいで足が浮きかけたが、なんとか踏みとどまった。
「ちょっと、待ってくれ!」
マイスは女を制止した。女はマイスの手を掴んだまま離さないが、振り払うわけにもいかなかった。
振り向いた女は驚いた表情をマイスに向けた。まるで予想外だとでもいうような。
目の前の女には何か男の理性を惑わす不思議な力があるように思えた。
単に肉体的に魅力的なだけでなく、何か別の力が引き寄せようとしているかのようだった。
だがマイスはその力に耐えて冷静に女に向かって言った。
「お礼だって?悪いんだが俺は君と以前に会った覚えはない。人違いじゃないか?」
女は少し悲しそうな顔を小さく左右に振った。
「いいえ、あなたのことを間違えたりなんて絶対にないわ。
 あなたは覚えてないかもしれないけれど、あなたは私を助けてくれた」
そう言われてマイスは頭が混乱してきた。
「助けた、だって?」
本当に身に覚えが無い。こんな派手な格好の美女を助けたなら、絶対に覚えているはずだ。
「ねえ、もう立ち話はいいでしょ?」
そう言って女の黒い手が引っ張るが、マイスは動こうとしなかった。
マイスの脳裏には目の前の女とは別に金髪の女のいつもの怒る表情がよぎっていた。
「悪いんだが、また今度にしてくれないか。待たせている人が居るんだ」
女は残念そうな表情で顔を少し下に向けると、手を離した。
「そう・・」
「すまない」
謝るマイスにエムルはいいのよと言った。
「私の名前はエムル。また会いましょう」
そう言ってエムルは一人で酒場のほうへ歩いていった。
見送るマイスに見せ付けるように尻を隠す腰布を左右に揺らして、エムルは酒場の小さな扉を左右に開いた。
「にぃちゃん、惜しいことしたなぁ」
マイスが振り向くと年老いた乞食が路上に座ってマイスの顔にひゃひゃひゃと下卑た笑いをおくった。
マイスは目が合った乞食に目線で頷くと、小銭を乞食の前に置かれた汚ない皿に放り込んだ。
「ありがとよ!」という乞食の言葉を背中に浴びてマイスは微笑んだ。
そして辺りがすっかり暗くなったていることに今更気づいて走り出した。

274ドギーマン:2007/03/02(金) 08:55:00 ID:Df0BVMic0
マイスが宿に帰ると一階の小さな食堂の奥を女が一人で占拠していた。
約束の人物は待ち合わせの場所には居なかった。
きっとさっさと帰ってしまったのだろうと思いマイスはこの宿に戻ってきたのだ。
一番奥の壁際のテーブルで壁を背に一人腕を組み、足を組んで椅子に座ってその人物は彼を待っていた。
俯いたままの表情は食堂の入り口からは定かではないが、店内の雰囲気は異様だった。
飯時を少し過ぎたとはいえいつもならまだ世間話に花が咲いている時間。
だが店内の常連客は皆静かで酒も入っておらず、その女から離れるように遠くの席に集まっている。
マイスはまずカウンターの向こうの宿の主人と、女から離れてカウンターの席に座っている男に小さく頭を下げた。
宿の主人は軽く手をあげ、カウンターの男も小さく頭を下げて返した。
二人とも同情するような目線をマイスの背中にを送った。
「悪い、遅れた」
そう言ってマイスは背中の大剣を下ろしてテーブルに立てかけると女の前の席に座った。
女は少し俯き加減のまま前に座ったマイスの顔を見上げるように睨んだ。
普段着のように来ている鎧を着替えて白い布の服に身を包んだ女、リズはかなり立腹の様子だった。
顎まである金髪のセミショート、目の上に少しかかった長めの前髪をどけるように首を横に振って顔を上げると、
ルビーのような赤い瞳にマイスの不安そうな顔が赤く映っていた。
リズがバンッと思いきりテーブルを叩くと、それに合わせるように彼女の髪が揺れた。
「話があるって言っておいて、待たせるとはいい度胸じゃない」
「違うんだリズ」
マイスは慌てて弁解しようとした。だがリズは外にまで響きそうな声で怒鳴った。
「何が違うのよ。知ってるでしょ?私はね、待たされるのが嫌いなのよ!」
いきり立つリズをマイスはなだめるように言った。
「聞いてくれ。実は行く途中で人に会って・・」
「・・それで?」
リズは少し声を落ち着けてマイスの言い訳に耳を貸した。
「向こうは俺を覚えてるみたいなんだけど、どうしても思い出せなくて」
「あーあー、あるわねそういうの」
マイスの話が終わらないうちにリズの声が割り込んできた。
「それで話してて遅れたっていうの?どうせ他の女の尻でも眺めてたんじゃないの?」
マイスはエムルの尻を思い出して思わずドキリとした。
そのマイスの分かりやすい反応にリズはむっとした。
「なによそれ、ほんっと呆れたわ!」
「違うんだ、誤解だ」
必死に弁解しようとするマイスの反応は火に油を注いだようだった。
リズは無言で席を立った。
マイスが聞いてくれと言ってリズの顔を見上げると、リズの赤い目の輝きがマイスを石化させた。
「テーブルに聞いてもらったら?」
そう言い残してマイスの脇を通り過ぎると、
リズはカウンターの横にある階段を怒りを表すように一段一段大きな音を立てて二階へあがっていった。
そしてバタン!と二階からドアを激しく叩きつけるように閉じる音が聞こえてきた。
マイスはテーブルに両肘をついて頭を抱えると、はぁぁっと深いため息をついた。

275ドギーマン:2007/03/02(金) 08:57:57 ID:Df0BVMic0
遠巻きに眺めていた常連客たちがマイスにようやく近寄ってきて、口々に声をかけていった。
「まあ、そう落ち込むなよ」
「明日にはリズも機嫌直すさ。うちのカミさんだって・・」
「元気出せって、落ち込んでもしょうがないさ」
「なあ、とりあえず飲めって。まだメシ食ってないんだろ?」
だが、そこで誰かが言った。
「なあ、ところで何の用事でリズを待たせてたんだ?」
この一言で皆の興味はそっちに移っていった。
「ああ、そうだ。なんか言ってたな。何だったんだ?」
「教えろよ。なあ」
肩を揺すられているマイスは何も答えずにテーブルに頭を預けていた。
カウンターに座っていたあの男が見るに見かねてマイスを囲む常連客を彼から引き離していった。
「みんな、それぐらいにしてやってくれ」
「イスツールさん・・」
マイスは顔を上げてイスツールと呼んだその男を見上げた。
常連客達は気になって仕方がないようだったが、それでもイスツールの言葉に大人しく従って席に戻っていった。
イスツールはリズがさっきまで座っていた席に座るとマイスの顔を見た。
リズと同じく鎧を脱いでいて、代わりにローブを着込んでいた。
長い黒髪を後ろで束ね、浅黒い肌に厳格そうな顔つきの男。
首元には細いチェーンが輝いている。ローブの中に入っていて見えないが、その先には白銀色のロザリオが輝いている。
ローブ姿でも分かるほどに隆々とした体躯で、マイスよりも戦士向きに見えるがこれでもれっきとした聖職者なのだ。
「マイス」
そこまで言ってイスツールはマイスの背後のほうに居る人々に目をやった。
皆、気になって仕方がない様子でちらちらとこちらを盗み見て、聞き耳を立てているのが分かる。
注意しても仕方ないだろう。ふうっとため息をついてイスツールは続けることにした。
「リズが怒るのはいつもの事だからあまり気にするな。
 明日また話せばいいじゃないか。なんだったら、私が代わりに話してもいい」
マイスはテーブルの上を見つめて答えた。
「いえ、俺の口から言おうと思います・・」
「そうか」
イスツールは短くそう答えた。
いつも頼りにしているイスツールだが、今回ばかりはマイスは彼を頼るわけにはいかなかった。
「俺の口から言わなきゃいけないんです。それにきっと、どの道リズは怒ったと思います」
「・・・・・・」
イスツールは何も言わずに黙っていた。
しばらく二人の間で重苦しい沈黙が続いた。
イスツールはマイスをじっと見つめてその視線は動かない。そして、ようやくマイスは口を開いた。
「実は」
店内の耳はマイスの次の言葉に集中した。

276ドギーマン:2007/03/02(金) 08:58:37 ID:Df0BVMic0
「冒険、やめようと思うんです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
店内を重たく静かな空気が包んだ。
イスツールの表情はまったく変わらなかった。
長年冒険を続けてきたベテランには、彼の内面の変化がなんとなく掴めていたのかもしれない。
「怖くなったか」
「はい」
マイスは俯いたまま小さく答えた。
マイスは一度だけ戦闘中に瀕死の重傷を負って死に掛けたことがあった。
背中の心臓のあたりの位置に何かが突き刺さったような傷跡が小さく残っていた。
イスツールの助けによって一命は取り留めたものの、以来そのときの死の恐怖が彼に付きまとった。
生への執着心が強まり傷つくことを恐れ、殺すことを躊躇するようになった。
だが、それでは冒険者としてはやっていけない。相手は人ばかりではないのだ。
なんとかトラウマを克服しようと頑張ってはみたが、どうしても止めのところで踏みとどまってしまう。
そのためにリズやイスツールに迷惑をかけてしまった事もあった。
もう自分は足手まといでしかないと悟ったマイスは、冒険者を引退することを決めたのだった。
だが、
「確かに、リズが怒るだろうな」
イスツールはテーブルに肘を立てて頬杖を付くと、マイスから視線を逸らしてそう言った。
「ええ、あいつを冒険者に誘ったのは俺ですからね。引っ張り込んでおいて勝手に自分だけ引退じゃあ身勝手過ぎますよね」
リズを冒険者にしたのはマイスだった。
グリムトというナクリエマの小さな農村に住む少女の弓の腕に惚れ込んで、マイスがスカウトしたのだった。
マイスの目に狂いはなく、リズはめきめきと腕を上げて今ではかなりの実力になっていた。
だがマイスの方はというと、一流と言われた剣の腕も今では見る影も無い。
いつしかリズとの立場は逆転してしまっていた。
「怒るだけじゃないだろう」
イスツールの言葉にマイスは答えられなかった。
「君が引退するとなれば、彼女はどう思うかな」
「だから、俺の口から言わなきゃいけないんです」
今度はイスツールが黙る番だった。マイスの決意は固かった。
二人の重い雰囲気に聞き耳を立てていた店の常連客達も黙っていた。
賑やかなはずの時間は静かに、ゆっくりと過ぎていった。

277ドギーマン:2007/03/02(金) 08:59:30 ID:Df0BVMic0
マイスと別れてからエムルは酒場の中で汚い男たちの視線を浴びていた。
露出しているのとほとんど変わらないほどに身体にぴったりと張り付いた黒い薄布に男達の視線が集中する。
挑発するように尻を振って男達の視線の中を通り抜けてカウンターの空いている席に腰掛けると、
長い脚を組んで黒いブーツから伸びるタイツの端と花びらのような形状の黒いスカートから太ももをちらりと覗かせた。
胸をちらちら見ている若いバーテンダーに酒を注文する。
やがて目の前に出されたグラスを取り、その中できらめく琥珀色の液体を揺らす。
エムルはその液体を少し口に含み、その香りを口の中で揺らしながら考えていた。
どうしたらあの人を手に入れられるか。
相変わらず自分をちらちらと見ているバーテンダーに笑みを送ってやる。
バーテンダーは慌てて目を逸らしてグラス磨こうとして、グラスを落として割ってしまった。
カウンターの向こうで狼狽しながら湾曲した硝子片を拾い集める男にエムルは思わず笑いがこみ上げてきた。
クックと閉じた口の奥から堪えきれない笑いがこぼれて来る。
やはり、あの人はこうは簡単にはいかない。
エムルはグラスを持ち上げて、店を薄暗く照らす明かりにかざした。
琥珀色の液体を通して緋色の火の輝きが揺らめいている。
しばらくその美しさを眺めた後、一気に口の中に流し込んだ。
身体の奥に液体が流れていく感覚が走る。奥から焼くように熱い感覚が返ってくる。
自分の肉体の奥の感覚を味わいながら、同時にエムルは自分の中に閉じ込めたもう一つの存在を感じた。
真っ黒な闇の牢獄に閉じ込めたもう一つの自分。
正直それが自分と同一の存在だったとは認めたくない。
だがそれが今の自分を生み出した母であり、いまの彼女の望みは母の望みと同じなのだ。
いや同じではない、それより遥かに強い望みだった。
絶対にマイスを手に入れる。永遠に自分から離れられないようにする。ただそれだけが今の彼女の全てだった。
そのために、今の自分に使える力を試しておきたかった。
エムルが首を後ろに向けると、テーブルのほうから男達がエムルを眺めていた。
彼らの手には小さな紙片が握られており、誰が声をかけるかをカードで決めているようだ。
エムルはバーテンダーにおかわりを注文すると、背後の男達のほうを向いて軽く唇を内にすぼめて開いた。
手を使わない投げキッスに男達のゲームも白熱していった。
カウンターに向き直ったエルムはあまりの可笑しさに笑い声が漏れてしまいそうだった。
本当に馬鹿な人たち。生贄になるためにゲームに勝とうと必死になってる。
だが、ゲームに参加していない人間も居た。
少数ではあったが野次馬に混じるでもなく店内の端のほうで興味なさげに酒を飲んでいる。
どうやら彼女の魔力の影響が及ばない、抵抗を持った人間も居るようだ。
マイスもどうやらそういった実力者の一人だったのだろう。
店内を見渡してそういった連中を一人一人観察してみる。
杖を傍らに置いた裾の長いコートを着ている長髪のなかなかハンサムな男。
剣を腰に差したマイスと同じようなショルダーパッド姿の無精髭を生やした剣士風の男。
槍を抱いたまま酒を飲む女。女も誘惑できるのかは分からないが。
そうして次々と視線を走らせていくとある人物で目がとまった。
あの時の武道家だった。何かに不満があるのか、かなり酔っ払っているようだった。
酒瓶を4本横にして尚も手のグラスに酒を注いでいる。
エムルはじっとその武道家を見ていたが、向こうは酒を飲むことに夢中でこちらに気づいていないようだった。
「よっしゃ、イフリィトとビビッドブラックのダブルだ!」
ゲームのほうで騒がしくなった。どうやら勝負が決まったらしい。
エムルは振り向いて歩み寄ってくる男に顔を向けた。
いかつい体で頭にバンダナを巻いた男だった。シャツからこぼれる筋肉は威圧感がある。
「なあ」
声をかけてきた男にエムルはふっと笑みを浮かべると、
バーテンダーに「彼のおごりね」と言ってグラスに残っていた酒を流し込んだ。
「いいわ、いきましょ」
そう言ってエムルは椅子から立つと男の太い腕に自分の細い腕を回して歩き出した。
男は鼻息を荒くしてカードの対戦相手達に「どうだ!」と空いた腕でガッツポーズを送った。
エムルはそんな事は気にせずにただ前を向いて笑っていた。
その血の色の瞳は狂気の光を宿していた。

それっきりその男を見た者はいない。

278ドギーマン:2007/03/02(金) 09:29:46 ID:Df0BVMic0
あとがき
続きです。
エラーだらけで細かく切っちゃう羽目になりました。
悪魔というキャラクターに私個人が抱いているイメージで書いているので、
前に書いた話に登場させたリムルというキャラと名前だけでなくキャラも結構かぶってくるかも。

ブローチや十字架の模様をカードゲームのネタに使ってみましたが、
ルールとかそんな細かい設定は一切考えておりません。
でも、あっても良さそうですよね。ギャンブル的なカードゲーム。

>>263
昔そうだったという設定に基づいて書いているだけで、
決して昔のRSではそうだったという訳ではありません。
シュトラセラトが実装されたときからブルームビストロの看板はシルバーホエールでした。

>>171さん
キャラクターたちの息の合ったチームプレイが想像できていいですね。
戦闘シーンでの連携っていうのは自分には無かったので面白いです。
フィッシュエッグはですね・・・・NPCからの情報なので想像でしかなありませんが。
数の子とか、イクラとか、キャビア的な何かかな?
歌姫は店内で歌を歌っているNPCをモデルにしましたが、もしかしたらリトルかもしれません。
何度も話してると歌詞が変わるんですよ。

>姫々さん
出番がなかなか無かったスピカが久しぶりの登場ですね。
スピカの今後の活躍にも期待しています。

279名無しさん:2007/03/02(金) 11:55:24 ID:j2X4P.9o0
>ドギーマンさん
おぉ、この話の続きもお待ちしてました。
悪魔というのは私も嫉妬深いけど好きな人には怖いほど一途…みたいなイメージです。
RSは中世が舞台だと漠然ながら個人的にも思っているのでカードゲームはピッタリですよ。
単純にエムルとマイスの話というだけではなく広がってきましたね。

> 昔そうだったという設定に基づいて書いているだけで・・・
これはまたまた失礼しました。リアルな話だったのでつい勘違いを(苦笑)

280171:2007/03/02(金) 12:28:55 ID:f0SX/jL60
>姫々さん

スウェルファーが「丸くてフワフワ」と言われてハッとしました。触ッテミタクナル
リリィが夜の街でどんないけないことをするのか楽シミゲフンゲフン

>ドギーマンさん

あのチビッコが突然ナイスバディに化けたら、そら気づかないという話で、てか
ナイスバディな人を助けたらそら記憶に残るわなと思ってニヤニヤしてしまいました。

orz

悪魔っ娘は果たして幸せになれるのでしょうか・・


あ、あと、何だかいろいろコメントもらって相変わらず恐縮デス

281名無しさん:2007/03/03(土) 09:08:02 ID:0OX18WuUo
>>[DEVIL]
ちみっこエムルに幸せになってほしいな(´・ω・`)

282ドギーマン:2007/03/04(日) 04:11:46 ID:Df0BVMic0
■月●■日
新興王国ビガプール
ついにナクリエマ王国の首都に到着した。
ブルンネンシュティグと双璧を成す大都市である。
さて、私はここで古い友人と出会うことが出来た。
リエンモリとハウマンである。
世界を渡り歩いている私と違って二人は専らナクリエマの、
それもストラウス王家の歴史研究に従事していた。
もう一人友人が居るのだが、現在はビッグアイの士官学校のほうに赴任しているらしい。
久しぶりの再会を祝いつつ、私たちは懐かしい昔話に花を咲かせた。
彼らとはかつて世界正史を纏めようとしていたときに出会った。
そのときは最初は快く参加してくれていたのだが、国の違いからか衝突してしまった。
だが今は違う。彼らとは打ち解け、互いに国家の枠組みに拘らずに歴史の真実を求めて語り合っている。

さて、ビガプールの歴史の話になるが、実はゴドムとナクリエマでは歴史の記録に多少の差異がある。
どちらにしても事実にはさほど影響を与えないのだが、やはり国家の名誉に関わってくる問題のために一筋縄ではいかない。
それはゴドム共和国初代大統領バヘルリ=フォン=シュトラディバリに関するもの。
ゴドム共和国での歴史では、トラウザー=フォン=ストラウスの反乱においてバヘルリが勝利し、
敗れたトラウザーは貴族達と共にビガプールへ逃亡。
神聖王国ナクリエマを建立したとされている。

では、ナクリエマ王国のほうではどうなのか。
バヘルリはシュトラディバリ家の反乱でブルン王国を崩壊させた後、
新たなる国を建立しようとするがトラウザーの反乱によって失敗。
追放された後にブルンネンシュティグに戻ってゴドム共和国を建立する。

お分かりだろうか。
ゴドムではトラウザーの反乱にバヘルリが勝ったとされており、ナクリエマではバヘルリが負けたとされている。
どちらにしても二つの国が出来た事実には変わりがないのだが、どちらが正しいのかは不明だ。
どちらの国も互いの考える歴史を主張し押し付けあっていて一向に纏まる気配がない。
だが私個人の考えとしてはナクリエマ側の歴史を推したい。
その理由としてはナクリエマの太祖トラウザー王の人間性が挙げられる。
一部推測を交えながら説明する。

トラウザーは余り利口な人物では無かったらしい。
彼の生涯は貴族に利用され続けていた。
貴族に不利な国を作ろうとするバヘルリに対抗し、トラウザーがナクリエマ王国を作り上げたと言われているが、
実際は彼が王になる前に国家としての枠組みはバヘルリの手によってほぼ完成されていたのだ。
ただ、バヘルリが立国の宣言をする前に支配者がトラウザーに変わってしまったために、
トラウザーがナクリエマ王国を立てたとされている。
恐らく、バヘルリの反乱からトラウザーの反乱までの間に21年間もの間がある理由はそこにある。
貴族達はバヘルリに大人しく従う振りをして国の基盤を築かせ、
そして国としての基礎が固まったところでトラウザーを祭り上げて反乱を起こした。
バヘルリにしてみれば20年の歳月を懸けて築き上げたものを全て横から奪われた形だ。
トラウザーは貴族達に担がれるままに王になり、そして貴族達の傀儡と化してその生涯を終えた。
トラウザーには元々王国を築き上げるような力も、求心力も無かったのだ。
ただ貴族達が彼に求めたのは王族という血筋と無能さである。
その一方でバヘルリはというとブルンネンシュティグに戻ってゴドム共和国を築きあげた。
20年間の歳月の努力が水泡に帰したときの彼の悔しさは如何ほどのものだったろう。
彼にしてみれば遷都のつもりで豊かな土地を持つビガプールを新たなる国の地に選んだのだと思うが、
それが失敗したために街としての強い基盤が出来ていたブルンネンシュティグを選ぶほかなかったのだろう。
その時には彼に残された時間は僅かしかなかったのだから。
以上が私の考える歴史の真実だ。
これが正しいとは絶対には言い切れないが、トラウザー王が貴族の傀儡となっていたのは事実のようで、
貴族に操られるような人物が国家を築きあげることが出来たとは到底考えられない。

私は再会を祈りながら愛すべき友人であり、共に真実を求める仲間でもある二人と別れた。

283ドギーマン:2007/03/04(日) 04:19:50 ID:Df0BVMic0
あとがき
またまた前スレの>139を参考資料に利用させてもらいました。
リエンモリとハウマンはビガプールの歴史クエのNPCです。
>139の年表を書いた人も一部憶測を交えているのではないかと思われるので、
そのままそれが正しい歴史設定だと信じきることはできませんが、
敢えてゲーム内で得た情報との矛盾点をネタにさせて貰いました。
もちろん私が書いているこの話も憶測を交えているため、
あまり信用しないでください。

284名無しさん:2007/03/04(日) 17:22:31 ID:dNgvWosA0
>ドギーマンさん
推測に乗っ取ってのお話と言うことですが、それを含めてもうひとつの史実が存在するかのようです。
以前に執筆された「Ring」などの内容を踏まえた、ドギーマンさんなりのRS史実といいますか…。
例えRSでは曖昧にされていて真実はどのNPCも語っていないとしても
もうドギーマンさんの想像や推測を含めた歴史として完成されたものがあるように思います。

うーん、上手く言えないですみません。
でも、読み物としてだけで読んでもRSを知る上でも大変面白いと思います。
前スレ>>139の資料とも上手く符合していますし。

285名無しさん:2007/03/05(月) 10:31:24 ID:f0SX/jL60
>ドギーマンさん

史実の裏側を読んでいるようですごく面白いっす。
異なる思想・国家間で歴史の解釈が異なるのは事実どこにでもありますからね。

286ryou:2007/03/05(月) 23:09:45 ID:CMdLinhg0
某氏の小説を久々に読んで思わず自分も書きたくなってしまいました。
初めてなんでつまらないかもしれませんが……。

『とあるギルドの話』

ここはフランデル大陸の中央に位置するナクリエマ共和国。
国土のほとんどが砂漠に覆われているが、豊富な鉱産資源に恵まれ、
なんといっても東西を結ぶ貿易路が貫通していることもあって人の多い賑やかな国である。
その中でも隣国ゴドム共和国に近く、最も活気のある都市アリアンに二人はいた。
様々な肌色の商人が行き交う中、ひときわ目立つ格好をした男女……冒険者のダヴィとレナである。
楽しそうに喋る二人、一見すると仲のいい父娘のように見えるがそうではない。
実は冒険者集団であるギルドのマスターとサブマスターなのである。
背丈は普通だが屈強な体つきのダヴィ、彼は重厚で大きな斧を背負った戦士である。
そして本来は騎馬兵が使う背丈より長い槍をかかえたレナはランサーだ。
しかし彼女はあまりにひ弱で、病人かと思うほど。
あんな長い槍を使いこなせるとは到底思えない。
しかし実はこの彼女がそのギルドのマスターなのだ。
二人はとある小さな酒場に立ち寄り、並んで腰掛けた。
「実はうちにとびきりすごい依頼が来たのよ。」
「マスターとサブマスターだけでの話ってことはよっぽど大事な依頼なんだろうな。
それにしても皆遅いな。まだ来ねぇのか?」
「集合時間はまだでしょ。あなたが早く教えろって急かすからこうして……」
「分かってる分かってる。とにかくその依頼を話してくれ。」
レナは頬を膨らませたが、渋々話し出した。
「実はね、ついに私たちのギルドも紋章を作ることができそうなの。」
「本当かそりゃ?紋章を練成するには相当な金と貴重な素材が必要だろ?」
「ええ。そのための資金と材料はメンバーが少しずつ分け合ってだいぶ集まってきたわ。
そしてもう一つ必要なものがあるの。紋章を具現化させる呪術が記された数百年前の貴重な古文書よ。
今回の依頼はある敵を倒すこと、そしてその敵を倒せばその古文書も手に入るのよ!」
「まさかそんな昔の古文書なんて普通転がってないだろう。一体どんな奴を倒すんだ?
スマグの大ウィザードか?それとも共和国の貴族か?」
ダヴィは呆れて笑ったが、レナの顔は真剣そのもの。それにいつにも増して顔色も悪い。
「いいえ、これから倒しに行くのはネクロマンサーよ。」
カランカラン……鈴の音とともにドアが開く。
酒場に新たに二人の男と一人の少女が入ってきて、ダヴィとレナの元へ寄ってきた。

287ryou:2007/03/05(月) 23:14:27 ID:CMdLinhg0
彼らはギルドのサブマスター達である。
容姿は端麗だが全く手入れの行き届いていないぼさぼさの長髪、
そして曲がりくねった杖を手にした男、ウィザードのシドである。
修道服をはおった大柄な男はザック、主に回復魔法を操るビショップだ。
そしてまだ成人の儀はまだなのだろう、顔にあどけなさを残す少女はソフィ。
その姿に似合わず、恐ろしい魔物たちを操るビーストテイマーである。
「ネクロマンサー?あの可愛い女の子達をどうするつもりですか?」
笑いをこらえながら尋ねるシドにソフィが横目で睨みつける。
一般的にはネクロマンサーとは、怪しげな装束に身を包み、
魂を降ろしたり呪術を駆使する幼い少女たちのことを言う。だが今回は違った。
「いいえ、私が言っているのは辺境の塔を支配する亡者の王のことよ。」
皆の表情が固まる。
ネクロマンサーの少女は、はるか昔に人間とともに暮らし始めた
悪魔の血を受け継いでいるといわれている。
しかし今回のターゲットは純血の、しかも最上級クラスの魔物である。
「塔のネクロマンサーを倒すだって!?本気で言ってるのかお前!」
ダヴィが怒鳴ってテーブルを叩いた。グラスが踊り酒がこぼれる。
「もちろん本気よ。目的の古文書は奴が隠し持っている。
そして奴を倒せばこの地域一帯に広がる魔力も薄れて街は安全になるわ。
自治府が私達のギルドの力を見込んで依頼してくれたのよ。
こんなチャンスもう二度とないわ。」
「そうは言ってもあそこは危険すぎます。命の保障なんてありませんよ。」
怪訝そうな表情を浮かべるシド。
「そうでしょうか?きっと大丈夫ですよ、そんな時のために私がいるんじゃないですか。
しかもネクロマンサーは風と炎の気を操ります。対魔法は私の得意分野なんですよ。」
ザックはにっこりとレナに微笑みかけた。
「そうよ、ザックがいれば絶対安全よ。せっかく沢山のお金や素材を集めたわけだし、
行かない手はないわよ!今まで磨いてきた自慢のスキルを思いっきり使いましょう!」
ソフィはすでに乗り気である。
「そうですね、今まで紋章生成のために苦心してくれたマスターのためにも行くしかないでしょう。
私もいち魔術師として風と火炎魔法のプロである奴と一度戦ってみたかった。
ダヴィも勿論行きますよね?」
黙り込んでいたダヴィもゆっくりと頷いた。
「みんなありがとう!これで決まりね。じゃあ作戦開始は一週間後の午前10時、
集合場所はアリアン南部辺境地帯の名の無い塔入り口よ。全員心して準備してきてね。」
「了解!!!!」

288ryou:2007/03/05(月) 23:16:18 ID:CMdLinhg0
一週間後、五人は名の無い塔の入り口に集まった。
皆普段は使うことのないとびきりの装備を身に着けている。
ソフィは普段のような軽装にいつもと同じ魔物……下等な悪魔の眷属であるゴブリンを連れている。
しかし実は対魔法のための呪術が施された鎧、魔力を高めるための指輪や腕輪、
肩からは魔力を制御する刺青が覗いている。
ザックは戦闘用にオーダーメイドした鎧のような修道服を身に纏い、
武器を持つことを禁じられているはずなのに痛そうなトゲだらけの鈍器を手にしている。
シドはというと身だしなみのいい加減さは相変わらずだが、
足元まで延びる長いコートには魔法を召喚するための経文がびっしりと記され、
また随所に魔力を高める装備を身につけている。
そしてレナは美しくシルエットを描く細い体に密着したプレートアーマー。
そしていつもかかえている鋭く長い槍。スピードと攻撃力を最大まで高めるためだろう。
何よりも独特な格好をしているのがダヴィだった。
いつもの磨き上げられてギラギラと光る斧とは違い、
今日手にしているのは赤黒く血の染み込んだ斧……コスウェールという伝説の逸品だ。
普通は持ち上げることすら不可能なこの斧を彼は軽々と担いでいる。
そして鎧。通常、戦士は肩を守る程度の軽装や全身を覆うプレートアーマーを愛用する。
だが彼が着ているのは強い獣臭さを放つ黒く薄汚れた怪しげな鎧。
「ねぇ、あなたのその鎧、一体何なの?少し臭うんだけど。」
「これはある上級クラスの魔物の鋼皮を使った鎧なんだ。
こいつの魔力を借りないとこの斧は振るうこともできないんでね。」
苦笑いするダヴィ。
「仕方ないわね、とにかく早く最上階まで行きましょう。ザック、探知お願い。」
「わかりました。」
そういいつつザックはしゃがみ込んで祈りを唱え、そして体力増強の加護魔法、
盾のように身を守る加護魔法を慣れた手つきで全員に施した。
「おっと長い移動なら私の魔法も。」
シドは魔力を高める呪文を詠唱する。コートに記された経文がボウッと光りだした。
そして炎の気を武器に纏わせる攻撃補助魔法、風の気を足元に纏わせる移動魔法を全員にかけた。
「これで準備万端ね。」
「じゃあ行きましょうか。ここには魔力を吸って大型化した獣が沢山いるわ。みんな気をつけてね。」
作戦が始まった。
塔の最上階までの道のりは長く、若い冒険者ではたどり着くことは不可能だ。
だが彼等はほとんど獣や魔物と戦うこともなく最上階へと辿り着こうとしていた。
それもそのはず、ザックが最も安全な道を探して案内しているからだ。
驚いたことに彼の背中には一本だけ翼が生えている。
高位のビショップは、まれに神からその力の一部を授かり、不完全ながら天使の姿になれるのだ。
そして彼等は魔力を探知していとも簡単に魔物を見つけ、避けることができる。
「つきました。この扉を開ければ最上階、ネクロマンサーの王室です。」
「ついにここまで来たか。みんな、絶対死ぬんじゃねぇぞ!」
皆の緊張が高まる。そして扉は開かれた。

289ryou:2007/03/06(火) 01:48:33 ID:CMdLinhg0
ゴウッ!!!
轟音とともに炎が襲い来る。ネクロマンサーの近臣達だ。
奴らもネクロマンサーの一族、風の気に炎の気を織り込んでメンバーを焼き尽くそうとする。
しかし対魔法に長けたザックがいるだけあってそう易々とはいかない。
魔法攻撃を軽減する加護魔法が掛けられると同時にメンバー達は一斉に飛び出した。
レナがまず近臣たちをおびき寄せ、分身術を巧みに使って華麗に舞う。
重く長い槍がまるで翼になっているようで、普段のひ弱な彼女とは似ても似つかぬ様相である。
そこへシドがネクロマンサーの苦手な氷結魔法を召喚し、凍りつかせる。
最後はダヴィの分身術による高速の斬撃、ソフィの操る怒り狂ったゴブリン二体の攻撃。
本来魔物の中でも最上級レベルのネクロマンサー一族と
下等な悪魔の眷属であるゴブリンでは格が違いすぎるが、
長い戦いの中で鍛え上げられてきた彼女のゴブリンは近臣達に全く引けをとらない。
「みんな威勢がいいですね。あんまりはしゃぎ過ぎないでくださいよ。」
猛烈な勢いで近臣達を倒す四人にザックが忠告する。
「分かってますよ。でももう近臣どもは始末できましたから大丈夫です。」
流石少数精鋭として名高い彼らだけのことはある。
並の冒険者なら束になってかかっても歯が立たないであろう近臣達をいとも簡単に片付けてしまった。
「さて、きっともうすぐ王が現れるわよ。」
やがて周囲の魔力が急激に濃くなり始めた。王室の中央から煙が湧き出し、床が自然発火を起こす。
「やれやれ……誰だね私の臣下を殺したのは。」
重く響く声とともに現れる塔の主。大きい。桁外れの大きさだ。
強力な魔力の振動でビリビリと皮膚が痺れる。
加護魔法が無ければこの周囲の魔力だけで体を焼かれていたかもしれない。
「ほう、これは驚いた。こいつ喋れるのか。
人間並みの知能を持っているなら、バカな獣しかいねぇここじゃぁさぞ寂しかっただろう。」
ネクロマンサーがダヴィを睨みつける、と同時に炎が巻き起こって彼を包まんとする。
が即座に飛びのきかわすダヴィ。
「冗談のつもりだったが気に障ったかね。図星ってことなら案外寂しがり屋の王様なんだな。」
笑いをこらえるメンバー達。
ネクロマンサーはチッと舌打ちしたかと思うと、強烈な熱風を彼らに撃ちつけた。
ザックが前に出て加護魔法を大きく張り出し、熱風を受け止める。
「奴も乗り気のようです。ここはさっさと片付けてしまいましょう。」
「ええ、勿論よ。回復魔法を頼んだわ!」
一斉に飛び出しネクロマンサーを囲む。
シドが巨大な火球、上級のウィザードが操る究極魔法を召喚し、ネクロマンサーに落下させる。
爆風が吹き荒れ、轟音とともに床が大きくへこんだ。
しかしネクロマンサーは燃え尽きるどころかその衣服さえ焦げていない。
間髪あけずにダヴィが水龍を召喚する。
水龍はとぐろを巻いてネクロマンサーを締め上げ、首元に鋭い牙を突き立てる。
だがネクロマンサーの発した強大な魔力によって引きちぎられ、消えてしまった。
「私に魔法攻撃は効かないのだよ。」
薄っすらと笑みを浮かべるネクロマンサー。
ならばとレナは分身術を使って四方八方から槍をざっくりと深く突き刺す。
ソフィは怒り狂って顔を真っ赤にさせたゴブリン達を差し向ける。
……手応えはあった。
しかしネクロマンサーは気にも留めずに猛烈な炎を幾度となく吹き掛ける。
あまりの高熱に、ソフィの身に着けている衣服が焼け落ち、白い柔肌がむき出しになる。
泣き崩れる彼女をとっさにかばうザック。
「うぅ、ごめんなさい、ありがとう。」
「いいから早く後ろへ下がって。攻撃はゴブリンたちに任せましょう。」
「なんて勢い……どこからこんな魔力が沸いてくるんでしょうか。」
シドも氷結魔法を使って自分の身を守ることで精一杯だ。
「知りたいかね、なら教えてやる。ここら一帯は元々魔力の強い地域だ。
そしてこの塔はその魔力を精製・濃縮し、この最上階まで運んでくれるのさ。
私を倒せばここらの魔力が薄まると思っていただろうがそれは違うのだよ。
勿論すでに亡き者である私が死ぬこともないがな。」
「まさか……死なないですって!?ならあの依頼はなぜ……くっ!」
レナがあまりの熱さに顔をゆがめる。
「金属製の鎧は私の炎をよく通す。このままでは大事な肌が焼けただれてしまうぞ?」
だがレナは攻撃をやめようとしない。
回復魔法によって必死に炎に耐えながら、龍の心臓を握り潰し、
精神力を最大まで高めるその血をあおり、何度も何度も槍を突き刺した。

290名無しさん:2007/03/06(火) 07:12:04 ID:kN5pct/k0
>ryouさん
古文書は私も欲しくてどの敵が落とすのか調べているうちに嫌になりましたorz
こうしたギルドメンバー同士での戦闘、Gv非Gv問わずは読んでいてワクワクします。
装備品の描写や魔法・スキルについてもちゃんと書かれていて分かりやすいです。
「金属製の鎧は私の炎をよく通す。」などは小説でなければ気が付かない点ですよね。
続きを期待してます。

291名無しさん:2007/03/06(火) 10:47:17 ID:f0SX/jL60
>ryouさん

「金属製の鎧は私の炎をよく通す。」・・・たしかに!!これは早速オマージュ(ry

ビショップが元天使ではなく、不完全ながら天使の力を授かれるというのは素敵な発想ですね。
面白い発想が随所に出ていて、続きが楽しみです。

292ryou:2007/03/06(火) 16:20:17 ID:CMdLinhg0
>>290
>>291
お褒め頂きどうもありがとうございます<(_ _)>
情景描写などはくどくならないか不安になりつつ書きました。
ファミ→ゴブリン、リッチ→ネクロなど一部名前を変えていますが
ご了承くださいませ。

293ryou:2007/03/06(火) 16:22:47 ID:CMdLinhg0
「今から最大出力で氷結魔法を奴に召喚します、長くは持ちません。
ダヴィ、その隙にもう一度水龍を召喚してください、
龍の心臓を使って出来る限り沢山の数を!さぁ早く!!」
シドは詠唱によって最大限の魔力を手元で濃縮させる。
辺りに立ち込める熱気がさっと吹き飛び、空中の水蒸気が凍りついてキラキラと光る。
しかし、ダヴィはなぜか動かない。その拳はかすかに震えている。
「駄目なんだよ……そんなことじゃぁ……」
「どういうことですか!?急いでください、もうマスターも、ソフィのゴブリンも限界です!」
「奴の負の魔力は無尽蔵に湧き上がるんだ。この程度の正の魔力じゃ打ち勝てない。
奴を倒すには……いや、俺にはできねぇ!!」
「あなたなら出来るわ。あの時みたいに。」
「レナ、お前まだ憶えていたのか!?」
はっと振り返るダヴィ。
「勿論よ。あんなこと忘れられるはずがないわ。あの日からあなたはマスターを辞めた。
ギルド模擬戦争にも出なくなった。愛剣を替えたのもその頃だったかしら。」
「もう犠牲は出したくない。」
「一体何の話ですか、私がここに入る前のことでしょうか?」
皆の視線がダヴィに集まる。
ダヴィはかつて起こった出来事を話し始めた。
「俺はかつてこのギルドのマスターを務めていた。
ある日ギルド紋章練成の話が持ち上がった。
情報を集めるうち、この塔のネクロマンサーを倒せば紋章練成への重要な手がかりを掴めると聞いた。
そして俺とレナを含む当時の主力メンバーでネクロマンサー討伐へ向かったんだ。
だが作戦は難航した。強力な近臣どもにも手を焼き、
ネクロマンサーが出現した瞬間に俺達は返り討ちに遭った。
物陰に逃げ込んで退避のための策を練っていたとき、俺の愛剣が突然震えだしたんだ。
当時使っていた武器、それはガイスターストック。
かつて百年以上罪人を処刑してきた怨念の結晶のような大剣だ。
それがこの塔の魔力に同調して強力な魔力を発し始めたんだ。
俺は閃いた。これなら奴らを根こそぎ倒せるんじゃないかと。
強力な負の魔力を発するこの剣なら、亡き者である奴らでもぶった斬れると。
俺は皆の制止を振り切って一人で奴らに立ち向かった。
思ったとおり、普通の魔法や物理攻撃じゃ死ななかった奴らを、
いとも簡単に斬り捨てることができた。
だがネクロマンサーと対峙したとき、ガイスターが暴れだした。
俺の制御を無視して繰り出される強力な斬撃は、ネクロマンサーに致命傷を与えられた。
しかし周りの柱、床、全てをズタズタに引き裂き……一人の大切な仲間をも失ってしまったんだ。
結局ネクロマンサーを倒すことなく、残った俺達は命からがら逃げ帰った。
この後、レナ以外の仲間達は皆他へと移ってしまった。
俺はマスターをレナに譲り、ガイスターも封印した。」
メンバー達は炎の届かない物陰へと一度退避し、ダヴィの話に聞き入った。
「まさか昔そんなことがあったとは。だからあの時あなたは反対したんですね。」
皆に治癒魔法を施しながらザックが呟く。
「近臣どもに手をこまねいてそのまま逃げ帰ることになると思って了承したんだ。
それが結局王様まで出てくることになるとはな……」
「みんなの力を舐めちゃ駄目よ。それにあなただってこんなとびきりの装備まで着ているじゃない。」
「いや……これはちょっと違うんだよ。」
王座からネクロマンサーが叫ぶ。
「用が済んだならとっとと逃げ帰るがいい。私は貴様らのような雑魚には飽き飽きしてるんでね。」
「ちっ、お喋りな王様ね。いくら寂しがり屋さんでもあんな高慢な奴は嫌よ。」
「ダヴィ、あなたにどんな秘密があるか知りませんが、私達を舐めてもらっちゃぁ困りますね。
これでもこのギルドの精鋭同士でしょう?そう簡単には倒れませんよ。
出来ることなら私達にもあなたの本気の力を見せていただきたいですね。
そのもう一本の剣を使って。」
ダヴィの大きな袋の中から引っ張り出されたもう一本の大剣、
だがそれは呪文の記された布と強固な鎖でがっちりと固められている。
「封印はしたものの、結局手離せなくてな。今日も持ってきちまった。」
照れくさそうに笑うダヴィ。だがすぐに真剣な顔つきに戻る。
「よし決めたぜ、今からあの時のリベンジをしてやる。
みんな、手助けはいらねぇ、とにかく自分の身を守ってくれ。」
「了解!!!!」

294ドギーマン:2007/03/06(火) 17:56:07 ID:yvbhphlM0
食事を終えて二階へ上がっていくマイスを見送ったイスツールは、カウンターで店主と向き合って座った。
静まり返った店内には人の姿は彼ら二人だけで表には"閉店"の表札が返されており、常連客は皆帰ってしまった。
店主はイスツールのためにアウグスタ産の赤いワインを陶製のコップになみなみと注いで出した。
聖職者である彼に唯一飲むことが許された酒だ。
酒とはいっても酔うことなど出来ない。ほとんどジュースに近い代物。
少し口を付けて喉を潤すとイスツールは口を開いた。
「すまないな」
「いいさ、俺たちの仲だろう」
渋い髭面の店主は食器を拭きながら答えた。
「いや、店の雰囲気をうちの若いのが壊してしまったことだ」
その日は何一つ盛り上がる事無くずっと静かに時間だけが過ぎていた。
「気にするな。いつもうるさ過ぎるくらいだからな。こういう日があったっていいさ」
イスツールは「違いない」と笑って陶器の中で黒くなっている赤い液体の芳醇な香りを楽しんだ。
静かに過ぎていく時間の中で、カシャカシャと食器を動かす音だけが響いた。
店主は何か思うところがあったのか、カシャンと皿を積むと手を止めた。
「引退か・・」
店主が呟くように言った言葉にイスツールはちらりと店主の顔を見上げた。
「仕方あるまい。一度心に負った恐怖はそう簡単には取り去ることは出来ないからな」
イスツールはコップに眼を戻した。その中の液体は表面に反射した白い光を張り付かせて揺れている。
「いや・・」
店主は小さな声で否定すると、イスツールの眼をじっと見た。
「お前の話だ」
その言葉にイスツールの身体はぴくりと揺れて固まった。
調理台のうえに手をついて店主は続けていった。
「お前ももういい歳だ。いい加減引退を考えたらどうだ?」
「老体をいたわってくれてるのか。坊主」
店主はふっと笑うと食器を再び拭き始めた。
「まだまだ現役か」
「当たり前だ。あと20年はいける」
「20年前も同じことを聞いたな」
そう言って20年前から全く姿の変わらない友人に笑みを浮かべると、
店主は店内の壁に飾りのように掛けてある剣を懐かしそうに眺めた。
捲り上げた店主の左袖からは刀傷痕が手首まで伸びていた。
「マイスは、あいつは自信ばかりで自分の力量にすら気づけなかった愚かな私とは違う。
 素晴らしい剣の腕があるし、それにまだまだ若い。なんとかなるだろう」
そう言って左腕の傷跡を撫でた。自身の力量をわきまえずパーリングダガーを装備したために負った傷だ。
左腕に装着する補助的な役割をするその短剣を扱うには敵の攻撃を受け流す特殊な技術が必要で、
通常の盾に慣れきった者が装備するとこうなってしまう。
リハビリで軽い物なら持ち上げられるようになったが、もう戦うことは出来ない。
「お前とマイスとでは状況がまるで違う」
イスツールは店主に言い聞かせるように言った。
長い間色んな冒険者と時間を共にしてきた彼にはマイスはもう立ち直れない部類に入っていた。
「そうだが・・・だが、リズがかわいそうだとは思わないのか。だってあいつは彼女のために・・」
「リズも、とっくに気づいているはずだ」
そう言ってコップを空にしてカウンターの上に置いた。
「マイスをずっと避けているようだが、どうせ時間の問題だろう」
「本当に、もう無理なのか」
イスツールはカウンターに目を向けたまま何も答えなかった。
店主はイスツールの前の陶製のコップを取り上げると、答えを待つようにゆっくりと洗い始めた。
そして最後の食器を拭き終えると、食器棚に積んだ食器を入れ始めた。
結局イスツールの口はそれ以上何も語らなかった。

295ドギーマン:2007/03/06(火) 17:56:59 ID:yvbhphlM0
リズは小さな自室の寝台の上にうつぶせに横になって本を読んでいた。
彼女の部屋の中には沢山の本が散乱しており、そのどれもがボロボロになるまで読み古されていた。
いまリズが手にしている本はその硬い表紙が何度も開いたためか角は崩れて丸くなっている。
小さな子供のためのおとぎ話の絵本だが、字が読めなかった彼女の勉強のためにマイスが最初に買ってくれた本だった。
リズは指垢に少し汚れたページをめくりながら、マイスが読み聞かせてくれていたときのことを思い出していた。
彼は子供に読み聞かせるのと同じように隣に座って本を膝の上に開き、字を指で追って読んでいた。
それを隣から覗き込むように身を乗り出して夢中になってマイスの指の先に目を走らせていた。
いつも彼女の傍に居て、一番多くのことを教えてくれたのはマイスだった。
イスツールも勉強を教えてくれてはいたが、堅い内容ばかりで彼女にとっては難解でつまらなかった。
リズは仰向けに寝返ると読んでいた本を枕元に置いた。そしてマイスと会ったときのことを思い出した。
ナクリエマが統治する小都市の一つグリムトで彼女は生まれ育った。
都市とは言っても農村と言っていいほど小さな町で、彼女はそこでトランの森の獣を狩って生計を立てていた。
父を幼いうちに事故で亡くし、母は病に倒れて彼女は弓の腕一つでなんとか生活を支えていた。
やがて母も亡くなり、身寄りを全て亡くした彼女の前に偶然現れたのがマイスだった。
マイスは彼女の弓術の腕に惚れ込んで、一緒に来ないかと誘った。
それが彼女が冒険者となったきっかけだった。
幼い内から病弱な母のために全てを懸けてきた彼女には字の読み書きなど全く出来なかった。
小さな頃から学校に行けて、遊んでいられる他の子供達が羨ましかった。
そんな彼女のために、マイスは色んなことを教えてくれた。
それほど歳の離れていないのに学の無い彼女を決して侮蔑することなく、彼は丁寧に教えてくれた。
字の読み書きだけではない。簡単な計算や、都会で生活するための基礎知識。
冒険を通して世界がいかに広いかを、いかに美しいかを教えてくれた。
きっと、あの頃のグリムトの子供達で同じように世界を見れた人は居ないだろう。
リズにとってマイスはいつしか勉強を教えてくれる先生というだけでは無くなっていた。
それはマイスにとっても同じことのはずだった。
仰向けに寝転がってぼうっと天井を眺めていると、コンコンとドアが鳴ってリズはびくりとした。
ドアをじっと見つめると、しばらくしてまた誰かがノックした。きっとマイスだろう。
リズは寝た振りを決め込むことにして何も答えずに静かにしていた。
ドアには鍵がかけてあるので開けられる心配はない。
諦めたのかドアの前の気配は足音を立てて廊下の奥へ去っていった。
彼は私がまだ怒っていると思っているだろうか。
今は怒ったように見せておけばしばらくは口を利かずに済む。そういった打算が彼女にはあった。
もしいま彼を部屋に入れてしまえばきっと引退話を持ち出すであろうことは分かっていた。
ずっと傍にいた彼女にはマイスが弱気になっていることは容易に知れていたのだ。
盾を持たない彼にとって、痛みを恐れて敵に対して踏み込めないということは致命的だった。
マイスをそうしてしまったのは自分だと思い責任を感じていたリズは、
なんとか彼に奮起して貰おうと敢えて彼に対して冷たく当たって居た。
ずっと自分を支えてきてくれた人が小さく見えることに苛立ちを感じていたのもあったが、
それでも彼が立ち直ってくれることはなかった。
今ではリズは何とか口実を見つけてはマイスから逃げるようになっている。
だがリズは諦めた訳ではなかった。数日前にマイスが本気で戦おうとしているように見えたときがあった。
人ごみでよく見えなかったが、マイスが誰かに対して街中で剣を抜こうとしていた。
もしかしたら単なる脅しのつもりだったのかも知れない。
だが彼女には直感的にそれが本気で剣を抜こうとしているように見えていた。
邪魔な人垣を退けてマイスに声をかけたときには、誰か子供のような相手と話していた。
そこで何故かリズは大きな声で怒鳴っていた。相手は男か女かも分からなかったのに何故か。
彼女は読むでもなく枕元に散らばった本の一つに手をつけると、適当なページを開いてみた。
ページには細かく単語の意味が書きこまれていて、ただ眺めるようにページの上に視線を滑らせた。
そして小さな書き込みの中の一語に目が止まった。
"勇気"

296ドギーマン:2007/03/06(火) 17:58:34 ID:yvbhphlM0
割と小奇麗に片付けられた部屋の中でマイスは目を覚ました。
彼は寝台の上で裸体を起き上がらせると、背筋をのばし腕を大きく開いて身体の眠気を覚ました。
そして反射的に身体にかけていたシーツを払いのける。
すると昨日寝る前に読んでいた本が寝台の上からバタンと大きな音を立てて床に落ちた。
数年前に偶然手に入れた、誰が書いたのかも分からない旅行記を拾い上げて枕の上に放る。
マイスは床に足をついて立ち上がるともう一度大きく伸びをした。
服を着るかと思ったとき、椅子の腰掛の上に置かれたショルダーパッドが目に付いた。
マイスはそれから目を逸らしてクローゼットから適当に服を引っ張り出して着込むと、
昨日いつもの習慣で研いでいたテーブルの上の大剣から逃げるように部屋を後にした。
廊下を開け放たれた木窓から差し込んでくる朝の陽気が明るく照らし出していた。
窓の外から覗く街の景観はとても落ち着いていて、千年間変わらないと言われている古い町並みが視界の果てまで広がっている。
いつも通り早起き出来たようだ。廊下の途中でリズの部屋の扉をちらっと眺めた。
リズは朝に強いわけではない。きっとまだ寝ているだろう。
ギッギと鳴る床板を踏みしめて廊下を通り抜け、突き当たりの階段を下りていく。
「おはよう」
1階に着くといつもの様にカウンターの向こうから店主が朝の挨拶をしてきた。
「おはようございます」
マイスは店主に丁寧に返すとカウンターの席に座った。
静かな朝の食堂は明るい外の光に照らされて、二人しか居ないその空間はどこか寂しく冷たい雰囲気があった。
朝食を出す準備をしている店長の前に座ったマイスは、両肘をついて握った両手の上に顎を乗せて待っていた。
「リズならかなり早くに出て行ったよ」
店主の言葉にマイスは視線を上げた。
しわが目立つ主人の顔は下を向いていて、その腕はせわしなく動いている。
マイスは目線を下げると「嫌われちゃいましたかね」と言った。
「だろうな」
カツンと卵の殻を割って油をひいたフライパンの上に透明な卵白がぷるんと揺れた。
「いつまでも下を向いているお前に愛想をつかしたのかもな」
そう言って厚めのベーコンも焼き始めた。
マイスは何も言い返せなかった。
店主はフライ返しで目玉焼きとベーコンをひっくり返すと、そこに塩と胡椒を振った。
「今日は冒険をするには持って来いのいい天気だろう」
そう言って店主はマイスの格好をちらっと見た。
「でも、俺は・・」
「マイス」
店主はそう言って取り出した四角いパンの上にレタスをのせ、焼きあがったベーコンと目玉焼きを積み重ねると、
その上にパンを載せてぎゅっと上から押さえた。
「俺の宿は冒険者だけを泊めている」
作ったサンドイッチを皿に載せて包丁で斜めに二つに割った。
引き抜いた包丁にはとろりと黄色い黄身がこびりついていた。
「俺の作るメシも、冒険者にだけ出している」
そう言うと店主はその皿をマイスの前に置いた。
「お前にはまだその資格がある。だからそれ食ったらさっさと着替えて来い」
マイスは目の前に置かれた朝食を見ると、分かりましたと言って一先ず店主を安心させた。

297ドギーマン:2007/03/06(火) 18:00:29 ID:yvbhphlM0
半ば店主に追い出されるように宿を出て、マイスは大剣を担いで外に出た。
通りは朝から人で溢れ返っていて、マイスは雑踏に埋もれるように街の中を当ても無く歩いた。
街の住人、露店を開いている商人、そして荷物を担いでどこかへ向かう冒険者。
どの人も目的を持って歩いているようで、マイスは今の自分がひどく惨めに思えた。
そこそこの狩場でならなんとかなるが、やはり収入は乏しい。
まだ貯えは残ってはいるものの、それもいずれ尽きる。リズやイスツールを頼るわけにもいかない。
食っていくためにはもっと上の狩場に行く必要があった。だがそれは今の彼には無理に思われた。
他の冒険者と組んでも迷惑をかけるだけなのも目に見えている。
マイスはうろうろと街の通りを彷徨うと、やがて目に付いた水路のふちに座り込んだ。
見下ろした水路の中で浅い水の流れが日差しを反射してきらめいていた。
ぼんやりと暗い様子でいるマイスの背後から誰かが歩み寄ってきた。
「おはよう、マイスさん」
マイスはその艶っぽい声に振り向くべきかどうかしばし迷った。
しかし、返事をしないわけにもいかなかった。
「おはよう、エムルさん」
そう言って振り向いたマイスの視線の先には、予想通り恐ろしく場違いな格好の女が立っていた。
温かい日差しの中の女は一見上半身を完全に露出しているかのように見えた。
だが実際は、炎をかたどった様な飾りが谷間を露にした乳房を隠しており、
そのくびれた腰から下は下腹部まで露出していて昨日よりも長めの腰布が尻を覆い隠してはいたが、
前のほうはかなり短く頼りなげな小さな薄布が隠すのみだった。
その余りにも昼間の街にそぐわない姿には、周囲の人間も呆然と彼女を眺めていた。
彼らと同じような表情でマイスは笑顔を輝かせているエムルを見上げていた。
「名前、覚えていてくれたのね!」
「え、あ・・・ああ」
マイスはぽかんと開けた口の喉の奥からなんとか肯定の言葉を吐き出した。
エムルは彼の様子を気に止めるでもなく、近寄ってきて隣に座り込んだ。
間隔など開けず太ももと肩が密着し、角のように逆立った赤い髪から男を惑わす香りが漂ってくる。
周囲の視線はエムルからマイスのほうに移っていった。
マイスは心なしか身体を少し反対側に傾けて密着した身体を少し離した。
するとまるで逃がすまいとするようにエムルのしなやかな指が小さな白蛇のようにマイスの腕に絡みついた。
「ねえ、暗い顔してたけど何かあったの?」
「いや、大したことじゃないんだ」
ほぼ半裸の身体を密着させてくるエムルの質問にマイスはたどたどしく答えた。
昨日会ったばかりの人物に話すような事ではないと思ったのだ。
エムルの体温が彼女の手を通して腕に伝わってくる。柔らかな手は触れているだけで愛撫してきているかのようだった。
彼女はマイスの言葉の様子に何かを感じ取ったのか詰め寄ってきた。
「お願い話して。言ったでしょ、私はあなたにあの時のお返しがしたいのよ。
 何か悩み事があるのなら相談に乗らせて頂戴」
助けた覚えなど全く無かったが、ぎゅっと腕を掴んで見つめる女にマイスは押し倒されそうなほど傾けた身体を支えながら
「わかったよ。とりあえず場所を変えよう」と慌てて言った。
周囲の好奇の視線が気になって仕方がなかった。

298ドギーマン:2007/03/06(火) 18:01:43 ID:yvbhphlM0
それからしばらく歩いて、わざわざ離れたところにある小さな飲食店に入った。
あの宿の近くでエムルと一緒に居るところを知り合いに見られでもしたら、リズとの関係が余計拗れる恐れがあったからだ。
目立たないところにあった寂れた感じのその店は案の定客など一人も見当たらず、
朝から退屈そうにしていたやる気の無さそうな店主がマイスとエムルを見て慌てて準備を始めた。
二人はその狭い店内の奥の小さなテーブルに向き合って席に着いた。
マイスはお茶だけを注文し、エムルも同じものを頼んだ。
店主は二人の注文に少々顔をしかめていたが、エムルの姿を見ると顔を緩めた。
お茶を淹れながらにやにやとだらしない笑みを浮かべてエムルの胸を凝視し続けていた。
やがて運ばれてきたティーカップに注がれたあまり美味しくも無いお茶を一口飲んで、
マイスはおもむろにエムルにそれまでの経緯を話し始めた。
最初は興味深げに耳を傾けていたエムルだが、リズの名前が出てくるようになると顔をしかめ、
話が終わる頃には水路のふちに座っていたときのマイスのような表情になっていた。
だがマイスは自分のことを話すことに集中していてエムルの様子の変化に気がついていなかった。
やがて話が終わると、エムルは紅い唇を上下に開いた。
「それで」
エムルは目を細めてマイスの顔を睨んだ。
「それで、あなたはそのリズって子のことが好きなのね」
マイスはようやく顔を上げてエムルの目を見た。じっと見つめる彼女の眼は彼には真剣に相談に乗ってくれているように映った。
「ああ、出来れば彼女を傷つけずに引退したい。だけど、無理だろうな」
「そう・・」
エムルはそう言うと手元のティーカップの取っ手をぎゅっと摘まんだ。
そして口元に運んで少し飲み込むと、カチャンと皿の上にカップを戻した。
「引退する必要はないわ」
「え?」
鋭い目のエムルの言葉にマイスは耳を疑った。
エムルはテーブルの上に身を乗り出した。ほとんど露になった胸がテーブルの上に乗った。
「要は痛いのが怖くなったのよね?」
「あ・・ああ、でもどうしても克服できなかったんだ」
彼女の挑発するようなその動作にマイスは少し目を逸らした。
エムルは何か思いついたのか、さっきまでの表情は消えていつもの妖しい笑みを浮かべた。
「いい方法があるわ」
「いい方法?」
マイスに向かってエムルは満面の笑みを浮かべて言った。
「私と契約を交わすのよ」

299ドギーマン:2007/03/06(火) 18:17:19 ID:yvbhphlM0
『Devil』
>>231-234
>>273-277
↑最初に書くの忘れてました。

あとがき
グリムトは未実装エリアで、シュトラセラトの↑のあたりにある街です。
農耕が盛んな場所のようですが、村なのかは不明です。
昔はハノブから道が続いていたそうですが、ナクリエマ独立と同時に道は破壊されたそうです。

鎧じゃないのでってことでエムルのコスチュームも変えてみました。
今回のは何も装備していない初期状態のときの格好です。

>ryouさん
細かで面白い設定が効いていますね。
続きをお待ちしています。

300名無しさん:2007/03/06(火) 18:31:29 ID:3e/NR.12o
>devil
マイス逃げてー!ちみっこエムルが泣いちゃう(ノД`。)
リズもかわいい。不器用なとこがマイスとそっくり、きっと指先は繊細なのに。
あとマスター、こっちにも半熟目玉焼きのサンドイッチ下さい。冒険者専用ですか、そうですか(´・ω・`)

>ryou
>辺りに立ち込める熱気がさっと吹き飛び、空中の水蒸気が凍りついてキラキラと光る。
これで不敵?なシドのファンになりました。
私がネクロならこの大胆な魔道師を真っ先に、、むむ、でも粘着する槍子も邪魔だな、テイマ本隊も打たれ弱そうだし、
訂正、私がネクロなら誰を狙うか迷いました。
前回の鎧といい、熱風や冷気の風を感じさせる表現が活き活きして素敵です。
ガイスターストックの描写が楽しみです。

301A:2007/03/06(火) 18:39:14 ID:FE3apLKw0
皆さんの素敵な小説を見てたら書きたくてどうしようもなくなりました。
ですが、書き方が全く違うのでどうなんだろうな・・と心配しております。
あまり背景描写などはしていないので、酷く分かりにくいと思いますがお付き合い頂けると嬉しいです。

------------------------------------------------------------------

 あぁ、貴方。
 何でそんな事までするの。


 ◆pair


 囲まれた。
 ギラギラと血走った目で、ヤツ等は自分達を睨んでいた。

 昔はこうではなかった。
 木の精霊である、トランクマン達がそう漏らしていたのを思い出す。
 何故このような事になったのか、理由を聞いても彼等はただただ首を横に振るだけであった。


「どうしようかネクロちゃん」
 メテオの言葉にハッと我に返る。
 記憶を漁ってる場合ではない。
 どんな場面でも緊張感の足りない自分に、少し嫌気がさす。

「・・突破できる場所は無いよね」
 今、自分達は大量のエルフとトランクマン達に囲まれていた。
 お互い死角を補う為に、背中を向けた状態で構えている状況である。
 少しでも動けば、連中が襲い掛かってくるのは用意に想像できた。

「残念だけど、逃げられそうにないね」
 本当にどうしようか。
 焦り色を顔に浮かべながら、メテオはそう呟いた。

 ティンバーマンだけならば、対処は簡単だった。
 だが、エルフがいるとそうは行かないのだ。
 ヤツ等は低下抵抗が高い。
 いちいち一人一人の抵抗を打ち消すなんぞ、わざわざミンチにして下さいと言っている様なものだ。

「タゲが来たら一瞬でお陀仏だよな」
 彼の言葉に嫌な汗が浮いた。
 ここでコイツと一緒に切り刻まれろと?
 馬鹿な。遠慮願いたいものだ。

「仕方ない・・ボクが囮になるよ」
「え?何言ってるんだいネクロちゃん!いくら君だってこの量じゃ危険――・・」
 とっさに動こうとしたメテオを、シッ、と合図して止まらせる。
 全く、まだたった数週間しかペアを組んでないというのに、彼の反応は早かった。
 何でこっちの示す事がそう分かるんだか。

「大丈夫。トランクマンの攻撃なら怖くないし、エルフの攻撃も上手く避けてやるさ」
 だからアンタは先に逃げるんだ。
 ハッ。
 メテオが笑った。

「馬鹿かい君は」
 寂しそうな声だった。

「一緒に切り抜けるからこそペア組んでるんだろ?」
「・・・・・」
 アンタがここを耐えられるわけがないのに。
 自分1人なら、辛うじて逃げれる自信はあった。
 どれ程のダメージを受けるかは想像すらつかなかったが。


 沈黙。
 風の音すらしない。
 するのは、耳を突く無音だった。


「・・・低下をかけたらすぐに打ち込んでやれ」
「・・了解。喉からさないでね」
 笑うな阿呆。
 アンタは自分の心配をしてればいいんだ。


 ザッ

 足を動かす。
 連中がすぐに反応したが、ヤツ等の方が一瞬遅かった。

「何が森の守護者だ。笑わせるなよ」
 さぁ、ここからが本戦だ。
 アンタ、自分がここまでやってやるんだ。
 死んだら許さないぞ。



 ◆End

302A:2007/03/06(火) 18:45:33 ID:FE3apLKw0
改めて読み返したら、誤字を発見しました・・。
打ち込んで→撃ち込んでに脳内変換お願いしますorz

303ryou:2007/03/06(火) 20:35:20 ID:CMdLinhg0
>>ドギーマンさん
ありがとうございます。
今ドギーマンさんの作品を過去ログ遡りつつ読んでいます(´∀`*)
>>300
ありがとうございます。
シドはちょい役でいいかなーと思ってましたがなんだか強くなりましたw
>>Aさん
ネクロさんカッコヨス!
話の切り方がこれまたなんとも・・・w

304ryou:2007/03/06(火) 20:43:42 ID:CMdLinhg0
>>286-289
>>293の続き

ダヴィはガイスターストックに巻かれていた鎖を断ち切り、布を引き裂いた。
リイィィィィィン!!
ガイスターが周囲の魔力に反応して鳴きだした。
ザックは体力増強、対魔法の加護魔法を、
シドは風の移動魔法、炎の攻撃補助魔法を全員に施す。
「行くぞ。」
ダヴィは今まで着ていた魔物の鋼皮の鎧を脱ぎ捨てた。
「えっ!?」
「実はこいつで今まで魔力を抑え込んでいたんだよ。今は全力を出し切る!」
部屋が一瞬にして彼の放つ濃厚な魔力に満たされる。そしてそれは紛れもない負の魔力。
ゆっくりと息を吐くと、トッと地を軽く蹴り、ひらりと飛び上がった。
すでにベテラン戦士の彼だが、年齢を感じさせない身のこなしである。
そして即座に空中から斬撃を放つ。マントを翻し斬撃をかわそうとするネクロマンサーだが、
鋭い斬撃はマントを切り裂き、その下の体に深く傷を負わせた。
そして空中から一気に間合いを詰め、間髪いれずに二撃目を撃ち込む、
が、強固な鋼皮をまとう大きな腕に阻まれる。
ボウッとガイスターの姿がぼやけ、幾重にも重なるように震える。
と思うと魔力の振動を放った状態で分身術を繰り出し、
十連発の斬撃をネクロマンサーの腕に向かって浴びせかける。
粉々に飛び散る鋼皮。崩れ落ちる大きな腕。
最後に最上段に構え脳天を狙って剣を振り下ろそうとした……
しかしその瞬間、ダヴィの首元から激しく血が噴き出る。
鎧も着ずにネクロマンサーの放つ高速の火球をかわすのは不可能だった。
「大丈夫か!?」
「問題ない!そのまま回復魔法を切らさないでくれ!」
「今に蜂の巣にしてやる!!」
ネクロマンサーが頭上におびただしい数の火球を召喚する。
しかし突如地面から現れた何本もの氷柱、それがネクロマンサーを取り囲んで動きを封じる。
「柱が崩される前にやってしまってください!」
シドが叫ぶ。
「悪いな。」
ダヴィは一度に数個の龍の心臓を握り潰し、その血をあおった。そして数匹もの大きな水龍を召喚する。
水龍は部屋に充満する魔力を取り込みながらネクロマンサーを何重にも締め上げた。
負の魔力から生み出された魔法なので、ネクロマンサーの負の魔法によって相殺することは出来ない。
「貴様アァァァァァァァッ!!!」
ガイスターの魔力をネクロマンサーの魔力に同調させてゆく。
リイィィィィィィィィィィィィンッ!!!
よりいっそう高く鳴り響くガイスター。
そこへ塔から湧き上がる魔力、自らの魔力を限界まで注ぎ込んだ。
その圧力に耐えかね、刀身がビキビキと音を立てる。
今にも暴れださんとする剣を支える腕も限界に近い。
皮膚が焦げ付き、ところどころ血管が破れ出血し、骨が軋み、筋肉がはちきれそうになる。
ネクロマンサーに同調し、磁石の如く強力に引き付かんとするガイスター。
「グググ……貴様、そんなことをしたらどうなるか……ヌアァァァァッ!!」
ネクロマンサーは渾身の魔力を振り絞って風と火炎の魔法を召喚し、
あたりを炎の嵐に巻き込もうとする。
だが氷柱と水龍にはばまれ、炎は逃げ場を失って天井を虚しく焦がすのみ。
ダヴィがおもむろに地を蹴った。剣が引き付く力を利用し神速で突進する。
肉体の限界を超えるパワー・速度で剣を振るった。
……と、その瞬間刀身が砕け散った。
そして限界点を越した腕の骨も折れ、肉が裂け、血が噴き出す……終わりだ。
だが砕けたガイスターの幾千の破片が音速を超え、
衝撃波とともにネクロマンサーの体を引き裂いた。何度も何度も。
そして空間中に広がる衝撃波。
ザックは最大出力で何重もの防御魔法を召喚し、仲間達を囲む聖域を形成した。
力を使い果たした彼の翼の羽根が舞い散る。
ネクロマンサーを形を残さないほど木っ端微塵に引き裂いたガイスターの破片とその魔力は、
しかし未だ衰えず臨界状態のままになっている。
そして自然ともう一つの魔力源……ダヴィに向かって襲い掛かった。
「ダヴィ!!!!!」
魔力を使い果たし、加護魔法を召喚できないザックが無力に叫ぶ。
仲間達は思わず目をそむけた。

305ryou:2007/03/06(火) 20:47:28 ID:CMdLinhg0
ガキイィィィィン!!!!!
金属と金属がぶつかる鋭い衝撃音。
ガイスターの破片を受け止める身幅の広い重厚な斧……そうそれは彼のコスウェール。
ガイスターと同じく幾多の人々を切り捨ててきたこの斧が、自らを振るってきた主を護ったのか。
ガイスターの魔力をコスウェールがゆっくりと吸収する。
力を失い、単なる金属片となってパラパラと落ちるガイスター。
そしてよりいっそう赤黒く輝きを増したコスウェール……。
「……ようやくコイツは自由になれたみたいだ。」
ぐったりと床に伏したまま、散らばった金属片を拾い上げるダヴィ。
安堵の空気が辺りを包む。おもわず皆の顔に笑顔がほころぶ。
「あっこの破けた本……」
ソフィの拾い上げた本、そう古文書だ。
「ついに紋章を練成できるのね!」



ギルドの本部に戻った彼等は、休養の後に紋章練成にとりかかった。
集めた素材を元に、専門家の監修を受けつつ全て手作りで加工する。
そして強力な魔力を封じた筆、塗料、紙を作り上げた。
そして古文書に記されている呪術を使い、マスターの手によって一気に描き上げる。
「いくわよ。」
呪文を唱えると、ポウッと道具が光りだす。
美しく光り輝く紋章をついに描き上げた……がその瞬間、
バタァァン!!
強力な魔力に耐えかねてレナがブラックアウトしてしまった。
「マスター!大丈夫ですか!?」
とたんに光を失う道具、そして魔力が抜け去り、全て灰となって風に舞い散ってゆく……。
「アーッ!道具が!紋章があああぁぁぁぁっ!!!!!123」
「ちょwwwwwwwだからあれほどちゃんと休んでおけって言ったのにwwwwwwwwwww」
「うはwww数ヶ月かかったのがまたやりなおしwwwwwww
おkwwwwwwwwwwwマゾいの大好きwwwwwwwwwwwwww」
「( ゚д゚)ポカーン……


( ;゚д゚)ハッ!


( ゚д゚ )こっち見(ry」



- 完 -

306携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:12:22 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 
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『孤高の軌跡』

「ん………」
うっすらと眼を開くと、空はもう朱に染められていた。

おかしな朝だなあと立ち上がろうとすると、身動きが取れなかった。
あれれー、と周りを見渡すと、目の前には犬のような生き物を枕にして寝ている白い少女がいた。
目の前には何気に露出度が高い変わった服装をした美少女。
そして俺は縛られている……と。
何だか良からぬ妄想が次々と膨らんできたぞー。
いや、待て。ない。“俺に限って”そんなことする筈ないじゃないか。

ふと少女を覗き見ると、腰に木製の縦笛が刺さっていた。
――――思い出した。
俺はこの笛の音色で……。
とりあえずここから出ないと話にならない。
この隙ありすぎな警備はチャンスだ。この内に俺の脱出作戦を決行する!

もがく。頑張ってもがく。もうこれしかない。
「こんのぉぉおおっ!」
「ん………」
少女が薄らと眼を開き、動きを止める。
その目線は確実に俺を捉えていた。
俺と少女の間に非常に気まずい空気が流れた。
「に……ニーハオ…」
「…………」
少女は静かに俺を見つめたままだった。
「いや、これはね、逃げようとしたわけじゃないんだよ。つまり、ほら、あの、俺の性癖だ」
「セイヘキ?」
何とも素直に返してくる少女に俺は続ける。
「そう。俺はね、一定時間にもがかないといけない体質なんだ。だから、これも、仕方がない」
「そうなんだ」
「だから、もう少しもがいていていいかな?」
「無理」
呆気なく断られた。仕方がないので諦める。
そこで時計を見ると針はちょうど4時を指していた。
……夕方?
俺は無謀にもこの少女に話しかけてみることにした。
「あのさ、洋介は?」
「……学校」
迷ったのか暫しの沈黙の後に返ってくる。
「じゃあ君は?」
「見張り」
「何で俺を捕えるんだ? 洋介は何故殺人をする」
「ヒトジチって言ってた。他は知らない」
聞いてみると案外返ってくるもんだ。
俺はもう1度確認をする。
「じゃあ君は、洋介のパートナー?」
「うん」
「もう1つ。あの生き物は? 洋介が命令してたみたいだけど」
「あたしの友達。ヨウスケには少し貸しただけ」
俺は若さという素直さに感動する。
それのお陰でだいたい話は掴めた。後はどう逃げるかだが……。
「ねえ、あたしが怖くないの?」
――――と、俺が考えていると少女が不思議な疑問をぶつけてきた。
「いや、別に」
そう言うと、大人しいとばかり思っていた少女の表情が明るくなり、俺にずいと近づいてきた。
「ねえ、お話ししよ」
「お話し……?」
「うん。……もしかして、イヤ?」
不安そうな顔を少女は俺にぐいと近づける。
男として女の子の願いを聞き入れない訳にはいかない……のだが。
「嫌じゃないんだけど、何話せばいいか全く」
それが問題だった。どこから来たのかも判らない人間にこちらの常識が通用するのだろうか?
それに普通こんな状況で呑気にお話しなんてできるわけない。
「あなたの好きなお話しでいいよ」
少女はそんな俺の気も知らずに期待したような顔を向けてくる。
「じゃあ……こっちの世界の話でいいかい? 俺、そっちの事情知らないから」
「うんっ」

307携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:13:05 ID:mC0h9s/I0
とりあえずこの世界について話すことにした。
俺の話すことに、少女は時に大笑いしたり、時に困った表情を見せた。

俺が“世界と社会の裏の裏”という題の話をしようとしたとき、突如俺の腹が鳴った。
考えてみればずっと何も食べていない。
「お腹減ったの?」
「そうみたいだね。俺は大丈夫なんだけど、俺の腹が限界みたいだ」
そんな俺のくだらない冗談にも少女は笑い、何か取ってくると言い部屋を出て行ってしまった。
いや、参った。まさかあの子があそこまで陽気な子とは思ってもいなかった。

暫くして少女が戻ってきた。
「はい。これ」
少女はパンを取ってきたらしく、それを俺に手渡そうとする。
だが、俺は手を縛られているので受け取ることはできなかった。
「その、縄をほどいてくれると嬉しいな」
無理を覚悟で言ってみると、少女はあっさりと手の縄をほどいてくれた。
そして俺は少女から渡された久々の食糧を口にした。
少女もまた自分用のパンを持ってきたのか、俺の隣で頬張っていた。
すると静かだった生き物たちが寄って来ては、少女から千切ったパンを分け与えられていた。

食べ終り腹も膨れたところで再び口を開く。
「そういえば、自己紹介がまだだったな」
「ジコショカイ?」
「えっと……お互いのことを教え合うことだよ」
「へぇ」
また1つ、この世に不思議が生まれた。といった感じの顔の少女をよそに、俺は自己紹介を始める。
「俺の名前は矢島 翔太。ショウタでいいよ。君は?」
「あたしは、エミリー」
「じゃあ、よろしく、エミリー」
俺が右手を差し出すと、エミリーはいかにもはてな? といった顔をした。
「ああ、握手っていうんだ。仲良くなった2人がやるんだよ」
今度は、ぱあっと明るい表情になり、エミリーは俺の右手を掴むと、ぶんぶんと上下した。

再び会話を始め、俺はニーナたちに共通して言える疑問をエミリーに聞いてみることにした。
「なあエミリー、君たちってあの石を手に入れたら何をするんだ?
生き返って元の世界に帰るってのは判るんだけど、他にもやりたいことがあるんだろ? やっぱり、世界征服とかなのか?」
「違うよ、少なくともあたしは」
考えてみればこんな子が世界征服なんて物騒なこと望まないか。
では、この子は何を望むのだろうか。
「じゃあ、エミリーは何がしたいんだ?」
気軽に聞いたつもりだったが、エミリーはどこか悲しく、遠くを見つめるような眼を見せた。
「家族……欲しい」
「え?」
「家族……あたしにはいないから」
「――――」
気軽に聞いたつもりなのに、少女は己の暗い過去を話し始めた。
「あたしの種族はね、ロマっていうんだけど、ロマは動物とイシソツウができるの。でもね、あたしは会話もできてイタンだから捨てられたの。
だから、あたしは悪魔の子なんだって。でも、寂しくなんてないよ? あたしにはこの子たちがいたから」
そう言いエミリーは近くの犬を抱き寄せた。

俺はこの眼を知っている。これは、孤独の人間がそれを紛らす為に見せる眼だ。
――――そう、これは数年前の俺の眼そのものだ。
子どもは、自分は愛されているものだと思っている。それが当たり前なんだと。
そして、それは違うのだと、現実を知りながら成長していく。
この少女は、初めからその現実を知ったんだ。

愛という物を知らない。
――――それは、どんなに辛いことなのだろう。

愛を必死に求めるが、与えてくれる者がいない。
――――それは、どんなに苦しいことなのだろう。

俺には想像もできない。
俺のように愛を知り、それを失う苦しみと、彼女のように初めから知らない苦しみ、一体どちらの方が苦しいのだろうか……。
これなら俺に懐くのも不思議ではない。
そして、判ることはもう1つ。こんなことは間違っているということだ。
「なあエミリー、あの……俺なんかでも良かったら、家族になってやるよ。
父親は無理があるけど、兄なら大丈夫だろう。まあ、キモかったら別にいいんだけどさ…」
照れ混じりに言うと、エミリーは俺に抱きついてきた。というより飛込んできた。
「ありがと、お兄ちゃんっ!」
エミリーの温もりは、柔らかく、そして温かかった。
俺はそんなエミリーの頭を優しく撫でた。

308携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:13:57 ID:mC0h9s/I0
暫く時間が経ち、日も暮れた。

俺とエミリーが他愛もない話をしていると、突如背後から扉が開く音がした。
それは、言うまでもなく洋介だった。
「ずいぶん遅い帰りじゃないか。洋介君」
「皮肉はいいよ。で、お前のパートナーはどうした?」
「言っただろ、知らないって」
「ふん。まあ12時までは待ってやるよ。死にたくなければさっさと呼べよ」
言われて思い出した。
俺は今日中にニーナを呼ばないと他の犠牲者と同じ運命を辿ることになるのだった。
時計を見てみると、既に11時を回っていた。
そこで、俺はふと疑問を感じる。
「洋介。お前の家族はどうした。こんな広い屋敷に2人だけって訳じゃないだろう」
すると洋介は笑いを堪えるような顔をして、こんな事を口にした。

「ああ、そんな物は殺した」

それは信じられない一言だった。
こいつは確かに、己の肉親を殺したと言ったのだ。
「な……」
「だってウザイじゃん。それにしてもあれは楽しかったなあ……」
それは、人間が他人に恋するように。
「洋介、お前正気かっ!」
「ああ、正気だよ」
「なら、通り魔の理由も……」
「そうさ。あれは単なる俺の暇潰しに過ぎない。
なあ、お前も素晴らしいと思うだろ? 俺が殺した奴の犯人を、俺を! 警察が必死に探すんだぜ?
そして殺人はどんどんエスカレートしていく。そしてこの街は俺の玩具だ」
今の洋介は将来の夢を語る子どもに酷似していた。
1つ違うことは、その夢は狂っていることだ。
「狂ってる…」
俺は禁句を口にしてしまっていた。
洋介は冷たい目線で俺を捉えると、静かに口を開いた。
「気が変わった」
そう言って洋介は手近の犬のような生物から強引に槍を奪い取ると、そのまま振り上げた。
「死ね、屑」
「――――洋介。結界内――屋敷に侵入者が」
槍が止まる。俺はエミリーのお陰でなんとか生き延びられたのだ。
「へえ……」
洋介の表情が狂喜で歪む。
「喜べ矢島。愚かな侵入者のお陰で数分延命できたぞ」
やはり。こいつは初めから俺を生かす気なぞなかった。
「さて。これはただの獲物かな? それとも上等な獲物かな……」

答えは早く出た。
間もなく、下の階から大きな爆発音が聞こえた。

309携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:14:55 ID:mC0h9s/I0
「ほら来た……エモノがさ!」
何がそんなに楽しいのか、洋介が声を上げて笑う。
「おい、エミリー」
洋介にそう促され、エミリーは手を前に突き出すと、その手に1冊の赤い本が握られた。
そして、エミリーは本を開き何か呟いた。
すると、エミリーが何か言う毎に彼女の周りに1匹、また1匹と様々な生物が現れた。

18匹目が現れると、エミリーは本を閉じ、人差し指を突き立てそれを音がした方へ向けた。
そうすると、それらは部屋から飛び出して行った。
間もなく、2度目の爆発音がした。恐らく先程エミリーが出した生物と戦闘になっているのだろう。

暫くして音が止む。不気味な程の虚無感。
「さて。それでは愚かな侵入者の面を見物しに行きますか」
上機嫌な洋介が部屋の出口に向かおうとする。
すると――――

――突如、部屋の扉が吹き飛んだ。
「な、何だっ!」
驚きのあまり洋介が悲鳴を上げる。
同時に、小柄な少女と大柄な男が部屋に飛込んで来た。
「何なんだお前たちはっ!」
半狂乱気味の洋介が2人に向かって叫ぶ。
しかしその2人は沈黙を守っていた。

暫しの後、少女の方が口を開いた。
「貴方が、矢島 翔太君ね」
「え……? ああ、そうだけど。だ、誰?」
その少女はあろうことか俺に問掛けてきた。
「貴方を助けに来たわ」
「へ――――?」
何者かも知れない少女は当たり前のように信じられない事を口にした。
それにより俺の口からは間抜けな声が発せられる。

「させるかよ!」

茅の外だった洋介が我に帰り、予め持っていた槍を俺の喉元へ突きつけた。
「ははっ、そう簡単にいくかよ! こいつに死なれたくなかったらさっさと武器を捨て――――」
洋介がそう言いかけた刹那、突然脇の窓ガラスが弾けた。
驚くより先に、俺は自分が宙に浮かぶ感覚を覚えた。
「あだっ!」
勢い余って俺は壁に頭をぶつけた。失神しそうになるのを抑え、見上げるとそこには
俺がずっと求めていた人物の姿があった。
「ニー……ナ?」
「説明は後。今は貴方を救出するのが先よ」
言いながら俺を縛っていた縄を切る。
間違いない。この声は、この匂いはニーナの物だ。でも何故? 次々と起こる出来事に俺の頭は混乱寸前だった。

「――――では、後は私の番だ」

突然、終始無言だった大男が口を開いた。
予め持っていた長剣を構えると、その剣を中心に眩しい光の渦が巻き始める。
男は、光の衣を纏った剣を前方に突き出した。
その剣先には、エミリーが居た。
「やめろ――――!」
「ちょっと、ショウタ!」
気付くと、俺はニーナを振り切りエミリーの所へ走り出していた。
前に洋介が言った。人間は理性より感情が早く働く生き物だと。
正にそう。俺は男の前に立ちはだかっていた。
「お兄……ちゃん?」
すぐ背後からエミリーの声がした。その声には疑問が含まれている。
「馬鹿な。敵を庇うなど」
男が信じられないといった面持ちで呟いた。
「ちょっと貴方、正気?」
半ば怒りを含みながら男の傍らの少女も言う。
今、全ての人間が俺を見つめていた。
「どけ、小僧」
「どかねえ!」
男の威圧に押し潰されそうになりながらも、俺は必死に叫んだ。
「仕方がない。ならば共に死ぬがいい」
残酷な一言。続いて剣が一閃される。
剣先から、纏っていた光の奔流が一条の閃光となり俺とエミリーを襲う!

しかし痛みは無く、俺は耳元で轟音を聴いた。
気付くと、俺はニーナに手を引かれぎりぎりで光をかわしていた。
「エミリーッ!」
しかし光に巻き込まれたエミリーは無事の筈はない。
光の閃光で起こった爆発から小さな輪郭が現れた。
エミリーは生きていた。いや、傷さえ受けていなかった。
「む……それは魔石の類か。ならば直接斬るまでだ」
男は驚きながらも剣を構え、低い姿勢をとった。
「やめ――」
再びエミリーに走り寄ろうとするが、ニーナに引き戻された。その勢いのままニーナは俺を抱きかかえた。
「ここは危険よ。退くわ」
言うと、ニーナは飛込んで来た窓に駆け、跳び、屋敷から脱出する。

最後に振り向くと、一瞬エミリーと目が合った。
その深緑の瞳は、激しい失望感に溢れていた。つい俺の胸が痛んだ。

そして屋敷を背に俺は爆音を聴いた。

310携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:15:46 ID:mC0h9s/I0
ニーナに抱えられ、間もなく俺たちは家に着いた。
そんなに時間は経っていない筈なのに酷く懐かしく思えた。

無言のまま歩き、部屋の電気を点ける。
そのまま寝台に腰を落とし、大きく息を吐く。そして俺は改めてニーナと向き合った。
俺にはどうしてもニーナに聞いておかないといけないことがある。
「ニーナ、どうして……」
「実はね、あの2人に協力を頼んだの。居場所を教える代わりに相手の注意を引くようにって。
男の方は拒否したんだけど、女の人が了承してくれたのよ」
「そうじゃない。俺が聞きたいのは。ニーナ、何故急にいなくなったんだ?
言っておくが、これでも俺は怒っているぞ」
「それは……」
ニーナの言葉が詰まる。
「言わないと、許さないからな」
こうなったら、我慢勝負だ。
「それは……ただ、ショウタにこれ以上負担をかけたくなかったから……」
ニーナがバツが悪そうな表情をする。それ以上に、俺は意外な答えにどんな表情をしていいか困った。
嫌われたと思っていたので、ついニヤけてしまいそうになるが、堪える。
「何言っているんだよ。そんなもの、出会った日からだろ?
だから……もう何処にも行くな。判ったか」
照れ隠しで目を背ける。すると、ニーナが「ショウタ」と声をかけてきた。
目を向けると、そこには満面の笑みがあった。
「ショウタ、ただいま」
「――――ああ。おかえり、ニーナ」

311携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:35:53 ID:mC0h9s/I0
こんばんわ。
言い訳ですが、リアルの事情と、好き勝手に進めたせいでプロットが波紋して・・・・・・orz
進んでないみたいだからこっそり投稿しようかと思っていたらなんだか賑やかになってますね。

>>171さん
濃厚な戦闘描写ごちそうさまでした。
言っていたように魔法が銃弾や火器みたいです。「Good Luck!!」って台詞がいいですね。
さて、ダンたちに何が近づいているのでしょうか?

>>姫々さん
アリアン編ですね〜。スピカの出番もあって良かったです。
自分の偏見かもしれませんが、キャラの性格はルゥ→お転婆(死語)リリィ→1番まともだけど変わった人。セラ→天然。
なのかなぁ・・・違ったらすいません。

>>ドギーマンさん
2作品を同時進行させるとはさすが。自分はそんな器用な真似できません・・・。
町の話は本物みたいですごいですよ。参考にさせてもらってます。
悪魔の話も楽しんで読ませてもらっています。続きを待っています。

>>Aさん
ネクロイイw実に続きを・・・・・・と思っていたらENDなのですね。
次回作に期待しています。

>>ryouさん
お疲れ様でした。ギルメンの連携がすごいものですね。
オチが・・・・・・w Mが混ざってますね?

312名無しさん:2007/03/07(水) 05:41:50 ID:N7WG.OoQ0
>ryouさん
完結お疲れ様です。同じくオチに悶絶しそうです(笑)
戦士って強いですよね。知識戦士さんが身近に居ないので感動しています。
ドラツイは聞いたところによればかなりCPを使う大変なスキルだそうですね…orz
無骨な知識タイプというのも新鮮でした。また別の作品もお待ちしています。

>ドギーマンさん
この、なんとも言えないエムルの誘惑vs幼馴染的なリズがマイスの心の中で葛藤してそうですね。
エムルもエムルでマイスを助けるフリをして何かを企んでいそうで怖い…。しかしエムルさんかなり扇情的ですね!ドキドキ
色んな意味でマイス頑張れ〜…(笑)

>Aさん
自分独自の書き方ってとても羨ましいです。
短いながらも状況の逼迫さ、ペアの二人の性格が分かりますし、終わり方のタイミングがとても良いです。
やっぱり二人は恋人同士だったりするんでしょうか…後で色々読み側が妄想できる小説ですね。

>携帯物書き屋さん
このお話、お待ちしてました。ついにニーナと合流できましたね!
ショウタ君も色んな経験を積んでだんだん強くなっている感じがします。
しかしエミリーかわいい(*´д`) 洋介君の魔王的な性格と見事に対照的ですね。
思えばマスターと冒険者各人の関係って読み返してみると結構面白いですね。
ショウタ君とニーナ、リサとヘルは見ていて安心感があるペアですが、エミリーと洋介やテツジとラルフあたりは今にも壊れそうな関係で…。
続き待っています。

313姫々:2007/03/07(水) 16:00:35 ID:Cc.1o8yw0
さて、一応は用事も終わり、特にすることが無くなった訳ですので、
また書いてみました。まあ今回は張れるだけ伏線を張った・・・、という
感じです。多分いくつか使わないものがある気はしますが・・・まあ今から
考えても仕方ないでしょう。では、>>267-269より続きます。
追記、ごめんなさい、皆さんの感想はちゃんと読んでから書かせていただきますorz
では今度こそ。
・・・
・・・
・・・
・・・
「さて、見るべきものは見ました。ケルビー、そろそろ行きましょうか」
《−−− −・−》
なんと言ったかは分からないが、同意の言葉だと言う事は雰囲気で分かった。
この街の商店、地形、大体の広さ、そしてクロマティガードの詰め所、主要そうな施設は全て頭に
入っている。後は帰るだけで、私もそうするつもりだった。が、私は宿に向かう途中、
ふと視界にオアシスに、何の気まぐれかそこに足を運ぶ事にしたのだった。

・・・

「(その選択が間違いだったのでしょうね・・・)」
オアシスに着いて2分後、私はここに足を運んだ事に大いに後悔していた。
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何でもありません・・・」
「それならいいんだけどさ、今夜俺とどう?」
「(やはりそう来ますか・・・)」
いわゆるナンパという物で、私は軽鎧を纏った男に絡まれているのだった。
「んー?乗り気じゃねえなぁ。俺じゃ不満か?」
はっきり言うとそんな今思いついたような言葉で誘ってくるような男では不満なのだが、
言葉に出して言うと間違いなく気を悪くするだろうから、一応の配慮はしようと別の言葉を探す。
「いえ、少し事情がありまして。あまり夜は外に出たくないのです、なのでお断りさせてください」
嘘は言っていない、もちろん本音はただ単にナンパに乗る気がなかっただけだが。
「ん?言っとくけどここ、そんなに治安悪くねーぞ?それに終わったらあんたが泊まってる所まで
 送っていくよ、その位はするさ。」
しかし男は的外れな返答を返してくる。
「いえ、そういう事ではないのですが・・・、というか私がこの街の人間ではないとは何故分かりました?」
この男、私達が「泊まっている」と言った、つまりこの男は何故か私達がこの街の人間ではないと知っている。
「簡単だ、この街の女はもっとノリがいい。あとそれ以外にも・・・そうだな、色で表すとここの
 女は赤とかピンクって感じだが、あんたは青とか白って感じだな。」
はっはっは、と笑っていっているが、とても失礼な事を言われた気がする。
「それは私に対する侮辱と受け取って構わないのでしょうか?」
「誉めてんだよ。この街の女は俺の肌に合わねぇ、1時間と持たずに飽きて逆に鬱陶しくなってくる。」
私から視線を逸らして、顔をしかめつつ言う。
「あれを誉め言葉と言うなら、言語を一から勉強し直す事をお勧めします。」
「それそれ、あんまり棘があるのはどうかと思うが、その位の棘は持ってる方が俺好みだ。」
私の言葉に対して、私を指差しそう言ってくる。それはつまり・・・。
「あなた、マゾシストですか?」
「あ?流石に切れるぞ。」
頬を引きつらせつつ男が言う。
どうも違うらしい。つまりはかなりサディスト傾向ということだろう。と、そこで無駄な事を考えている
自分に気づく。それにしても、どう断ろうか。本音を言って一方的に別れてしまえばそれで一応は終わるが、
それでは私まで無礼者では無いだろうか・・・、私としてはそれでは気分が悪い。
と、その時私の頭の上に「正当防衛」「実力行使」という二つの四文字熟語が浮かんだのだった。

314姫々:2007/03/07(水) 16:02:00 ID:Cc.1o8yw0
(流石にそれは・・・。まあもう一度断ってみて、それで諦めてくれなければそれも已む無しでしょうか・・・。)
私は、ため息をつき、一拍間を置いて言葉を切り出す。
「どうあろうと、私は貴方のお誘いに対して首を縦には振れないのです。それでも私を連れて行くと言うなら、
 力ずくで私を引っ張っていってください。」
そこまで言ってから、「しまった・・・」と思う。何で私はこの男を挑発するようなことを・・・。
しかもそれでは遠まわしに私がこの男に対して「もっと誘ってくれ」と言っているようなものだった。
けれど、その後の男の行動は私の予想に反したものだった。
「んー・・・、まあいいや、別にそこまでする気ねえし・・・。じゃあなー、気が向いたらまた来てくれ、
 朝はいつもここにいるし。」
と、あくびをしつつ背中を向け、左手を振りながら何処かへ歩いていってしまったのだった。
何だったんだろう・・・、と思って何となく男を見ていると、左手の指がキラリと光った。
(あれは・・・、呆れた、既婚者ではないですか・・・)
つまりこれはナンパではなく浮気だったと言う事だろうか。まあ断った以上、私には関係ない事だ。
今度こそ宿に戻ろうと、来た方へと戻るのだった。
・・・
・・・
・・・
「不思議ですねー・・・、何でなのでしょうねー・・・」
私が目を覚ますと、リリィはまだ帰ってきていなくて、セラはモグラの姿をした召喚獣を抱きかかえつつ、
珍しく真面目な顔で何か考え事をしていたのだった。
「んー・・・?何がよー?」
私は尋ねてみる。後で考えてみると「尋ねてしまった」と言う表現が正しい気がする。
まあ何にしても、私の問いに対してセラは真面目な顔をしてこう言うのだった。
「「地」っていう文字があるじゃないですかー。あれの読み方は「ち」でしょー?」
「・・・・・・は?」
「でも「地面」と書くとその「地」は「ぢ」じゃなくて「じ」なんですよー、何でなんだろうねー・・・?」
そう独り言のように言った後もセラは「うーん・・・」と考えている。
(ど・・・、どうでもいい・・・・・・)
ダメだ、私にはセラの奇行に慣れれそうに無い・・・。というかそんな事で時間を潰せたらどれだけ幸せなんだろう。
とかそんな事を考えてたら頭が痛くなってきた、リリィが帰ってくるまでもう一度寝ておこう・・・、
そう思い、再びベッドに身体を預けた時だった。カチャリとドアが開き、リリィが姿を現す。
「ただ今戻りました。セラ、ケルビーをお返ししますね」
「はいー、お帰りなさいケルビー」
セラはモグラの召喚獣を床において、駆け寄ってきたケルビーの頭を撫でていた。
「お帰り・・・、いいタイミングで帰ってくるね・・・」
「?・・・、と言うより疲れているように見えますが・・・、お休みになれませんでしたか?」
「いや、休めたよー、休めたんだけどねー・・・」
休んで回復した分、さっきのやり取りで疲れただけだ・・・。
「なら、もう少しお休みになられますか?時間に制約はそれほど無いのでゆっくりされても構いませんが・・・」
「いや、大丈夫。行こうよ」
「・・・分かりました。まずはクロマティガードの詰め所に行きましょう。まずはそこで情報を集めるのが
 確実です。」
「うん、分かったっ!」
そう言い、部屋を出ようとすると、リリィに肩を掴まれた。
「待った、チャドルは着ていただきますよ?」
あれは着たくない物だ・・・。ならば私のとるべき手段は一つ。

315姫々:2007/03/07(水) 16:04:36 ID:Cc.1o8yw0
「はーい・・・、・・・・・・・・・・・・・隙ありっ!」
「む・・・っ、逃がしませんっ!」
私は隙を付いて兎変身、何とか逃げ・・・ようと思ったのだが、兎になった時は、いつも着いている
マントを掴まれてしまう。
「あっ!!それダメっ!!離してっ!!」
「暴れないでください、外れてしまいま・・・って言ってるそばから外れてしまいましたが・・・、これは
 そんなに大切なものなんですか?」
「あーっ、ダメなんだってーっ!!」
マントが外れた事により、リリィの手から解放された私は走ってベッドの中にもぐりこみ、
布団に包まった後、変身を解く。まぁこの時の私の状況は今からの会話で察して欲しい。
「ほー・・・、変身中、服はどうなっているのかと考えた事はありましたが・・・よもやこういう仕掛けとは・・・」
「だから離してって言ったのにー・・・っ!!返してよぉ・・・」
私は泣きながらリリィに言う。・・・もちろん嘘泣きだけれども。
「嘘泣きされて言われても・・・。しかし、これはどういう原理なのですか?」
速攻で嘘泣き看破・・・、仕方が無いので私は布団から顔だけ出して、リリィに言う。
「服に私自身の魔力を通して一緒に形を変えてたのっ!だから返してよぉ・・・」
まあ要するに今、布団にくるまっている私は、リリィに極小のマントの形に変えていた服を取られて
しまったため「何も服を着ていない」と、言う事なのだった。
『あはははははっ、ルゥちゃんかわいーっ!っていうかおもしろーいっ!』
スピカはお腹を抱えて笑ってる。なんて精霊だ・・・。
「スピカーっ!助けてよーっ!」
『べっ・・・別に恥ずかしがらなくてもいいじゃん、ここ女の子ばっかりなんだからさっ』
少なくともリリィは「子」とつける歳でもないと思う。
「そんなことじゃなくてーっ、嫌なものは嫌なのっ!」
そう言うと、「ふーん」と変な笑みを浮かべたまま私を見た後、スピカが私に言ってくる。
『じゃあ、借りを返してあげよっか?この前助けてあげれなかった分の。』
「もう何でもいいから服返してよーっ!」
『はい来たっ、それじゃあ行くよっ』
そう言った途端スピカを光が包み、その一瞬後には何事もなかったかのようにフッと光は消えていた。
その光が消えた直後には、私は今までリリィが持っていた服をいつの間にか再び着ていたのだった。
「あら不思議・・・。スピカ、何をしたのですか?」
『ふふふー、この部屋の中の時間をちょいと逆行させただけよー』
「時の逆行って・・・、あなたはどれだけ高等な魔法を無詠唱で使っているのですか・・・」
呆れているのか驚いているのかよく分からない表情でリリィがスピカに言う。
『えーっ?何言ってんのよーリリィ、私は星の精霊だよ?最高位精霊だよ?神様の次に偉いんだよ?
 それだけの事をする魔力さえあればこれ位の事は出来るんだからー。あ、けど安心してね、女王様
 からは魔力取って無いし。ちゃんとここの星から貰ってるよ。』
私はスピカの言う事を信じられずにいた、というか本当だったとしたら私は神様の性格とかを
考え直さなくてはいけない気がする。
『まぁこれだけの事をそうポンポンとしてたら街1個分くらいの魔力はすぐ無くなっちゃうから
 ホントは頼まれてもしちゃいけないんだけどねー、けど今回は特別、借りがあったしね。それに
 貰った魔力もこれ位の規模なら1日もあれば回復するだろうし。』
何にしても助かった・・・、私はベッドから出てスピカに言う。
「ありがとう。スピカって凄いんだねー・・・、ていうか他にも何ができるの?」
私はスピカに聞いてみる。これまでが何もしていないに等しかったので、私としては興味がある。
『んー、私は時間軸の操作だけかなー。ほら、星が外的要因・・・例えば隕石とかで星が
 大被害を受けたとき、時間を逆行させてある程度、復旧可能な状態まで元に戻したりね。
 そういう「滅亡の危機に対する守護」って言うの?まあそれが私達、最高位精霊の役目なんだー。』
「へー・・・」
なんだか規模が大きすぎて、私には実感が沸かない。

316姫々:2007/03/07(水) 16:05:49 ID:Cc.1o8yw0
『そうだ、ルゥちゃん、今度大人になってみない?結構面白いかもよー?』
また変な笑みを浮かべて言う。というより時間操作は頼まれてもしないんじゃなかったのだろうか・・・。
『あ、大丈夫大丈夫、一時的な物としての操作だから魔力は殆ど使わないんだー、だから安心してね』
私の考えている事を読んだかのように、スピカが笑って言った。
「・・・、また今度ね・・・」
少し興味はあったものの、不安がとんでもなく大きかったので今は断っておいた。
と、言っている間に退屈のせいか寝てしまっていたセラを起こし、今度こそ部屋を出ようとする。
「待ってください。」
「う・・・」
そして再びリリィに肩を掴まれた。
「チャドルは着ていただきますよ。そもそも何故嫌がるのですか・・・」
「だって暑そうなんだもんー・・・」
「はあ・・・、砂漠で暑いのは仕方ない事なのですが・・・」
と、顔を手で覆い、ため息をついている。
「隙あり!!」
と、私は再び兎変身、今度は完全に油断しきっているため、捕まえられないだろう・・・と思った私が甘かった。
「Γοсκ・・・」
リリィが一言何か呟いたかと思うと、私の周りを一瞬にして石が囲む。言葉で表現すると・・・、
多分井戸に落ちたらこんな感じなんだろうなと思ったりする。
「姫・・・、そのマントを私に取られたままお留守番か、チャドルを着るか・・・、どちらか好きな方を選んで
 いただきましょうか・・・」
うわ・・・、リリィが怒った・・・、こうなるとリリィは本気だろう。というか怒ったリリィは本当に怖い。
私がお城にいた時、リリィを避けていた理由の大半がこれであった。
「分かったよぉ・・・着るから怒らないで・・・」
私は降参して、変身を解く。こっちの星に来てからリリィが私に対して怒った事は一度も無かったので、
私は完全にリリィに対する耐性を無くしてしまっていたのだった。
そして、半分泣きながらリリィに渡されたチャドルを着るのだった。
「うわ・・・、やっぱり暑い・・・」
「まあそれは否定しませんが・・・、では、この杖を持っておいてください、氷の魔法を施してあります。」
と、私に杖を渡してきた。その杖はひんやりと冷たくて、持っていると気持ちいい。
「わー、リリィありがとー、けどやっぱ服取った事は許さないからね?」
「ふふ、ではその償いはその内、という事でいかがでしょうか?姫様」
「うむっ、構わんぞっ!なんてねー、いいよ別にー。」
「ありがたきお言葉。このリリィ、感謝のあまり言葉も出ません。」
そんなやり取りの後、私達はお互い顔を見て笑う。
『やっぱりさ、相性いいと思わない?』
「ですねー、うらやましいです」
そんな私達を見て、スピカとセラがそう話していた。そして私達は、今度こそ宿を出るのだった。

317姫々:2007/03/07(水) 16:13:55 ID:Cc.1o8yw0
さて、なんかリリィが当初の予定を越えるサゾっ気を見せつつある上に、
それを遥かに凌ぐ勢いでスピカがとんでもない事になってる気がします。
まあ大勢には影響無いと思うのであんまり気にしないでください。
さーて、なんかそれっぽい男の人を出してみたわけですけど職はあれ
ですよ、ええあれです。剣士戦士じゃありません、期待した方本当に
ごめんなさい。

てなわけで今から皆さんのを読んできます。次回にはちゃんと感想を
用意してきますので今日は許してくださいっorz

318名無しさん:2007/03/07(水) 16:21:05 ID:kohE0f8U0
このスレのまとめwiki作ろうと思ったんだけど、wikiの弄り方が分からなかったorz
長編の職人さんが多いので、まとめサイトがあったほうがいいと思うんですが、いかがでしょう?

319名無しさん:2007/03/08(木) 00:48:46 ID:hfEu8LLQ0
>姫々さん
神の次に偉い、ってスピカって実は凄い存在なのですね(笑)
「時間逆行が得意」、そう考えればプリンセスがリトルウィッチに変身できるのも頷けます。
あれはプリンセスが成長した状態と考えても面白いですよね。
それと、変身中は裸に…というのも面白かったです。ウサギになるとバンダナだけになるのが可愛いですよね。
女性四人旅は何かとナンパさんなど危険も付きまといそうですが、楽しそうな事この上ありません。

>>318
まとめサイトは大いに賛成です(執筆側ではないのですが)。
逐一保存するのも手なのですが、まとめサイトがあった方が楽というのは確かですよね。
wikiをどうのこうのする知識は自分も無いですが、手伝える事があれば手伝います。

320ryou:2007/03/08(木) 02:06:10 ID:CMdLinhg0
>>携帯物書き屋さん
>>312さん
読んでいただき&感想どうもありがとうございます。
私は戦士がメインなためついつい戦士主役で書いてしまいました。
あとオチは……反省していますwでも後悔は(ry

それでは私はまたROMに戻り、
皆さんの素晴らしい作品を楽しませていただきます。
もし次回作が出来ればまた投稿させていただきますね。

321ドギーマン:2007/03/08(木) 07:46:21 ID:yvbhphlM0
『Devil』
>>231-234
>>273-277
>>294-297

「契約?」
マイスはエムルの目にオウム返しに問いかけた。
「そう、契約するの」
エムルは胸の前で両手の指を絡み合わせ、妖しい笑みを浮かべていた。
「それは何の契約なんだい?」
「何も痛みを感じなくなる。そして、どんな傷を負ってもすぐ治る。そういう契約よ」
エムルの真紅の唇はマイスを誘惑するように言葉を吐いた。
「どんな傷も?」
「ええ、私との契約が続く限りね」
マイスにはエムルの言う話が俄かには信じられなかった。
不審そうに見るマイスにエムルは続けた。
「私の手を握って、ただ一言"契約する"と言えばいいのよ。ただそれだけで契約は成立するわ」
そう言ってエムルは黒い手袋に覆われた手をマイスの前に差し出した。
その腕に胸が隠れて、カウンターの向こうから二人の様子を覗いていた店主がチッと舌打ちした。
マイスはその手をじっと見て、ふと思った疑問を聞いた。
「即死の場合はどうなるんだ?」
「即死の場合は、ちょっと分からないわね。たぶん大丈夫じゃないかしら?」
彼女自身もよく分からないという感じで答えた。
マイスはそのエムルの答えにあてにならないなと思った。
そして、自分に向かって右手を差し出したままの彼女に向かってもう一つ質問した。
「それで、君の要求は?」
「何もないわ」
「え?」
契約なのに、何も要求するものがないとはどういう事なのか。
「言ったでしょ。私はただあなたにお礼がしたいの。あなたの為なら何だってするわ」
じっとマイスの目を見るエムルの顔からは妖艶な雰囲気は薄れ、真剣さが伺えた。
だがマイスはエムルから目を逸らすと手元のお茶を一気に飲み干した。
まだ熱く湯気が立っているお湯を一気に喉に流しこんでマイスは席から立ち上がった。
エムルは立ち上がったマイスを表情を変えずに見上げた。
「悪いが君を助けた覚えはないんだ。だから君に助けられる義理もない。それに」
「分かるわ。疑ってるんでしょ」
マイスは黙った。それが肯定の意思表示だった。
「残念だわ」
マイスはそう言うエムルの前でテーブルに立てかけた大剣を持ち上げて担いだ。
「すまない」
「いいのよ」
エムルの表情はさほど残念そうには見えなかった。
カウンターのほうに歩いていくマイスにエムルは言った。
「でも、あなたはきっと私と契約するわ」
マイスは背中でその言葉を聞いて、店主に自分の分の代金を支払って店を後にした。

彼の背中を見送ったエムルはお茶を一口すすってふふっと笑った。
あの人の心が今はリズとかいう女に向いていても構わない。
絶対に手に入れてみせる。どんな手を使っても。
濡れた唇が笑みを形作っていた。
そのための方法はすでに頭の中で出来上がっていた。
エムルはいやらしい目つきでずっと自分を眺めていた飲食店の店主に代金を払って店を出ると、
すぐに計画のための次の行動に移ることにした。
それはある人物を探すこと。
その人物の名前は分からないが、その風貌とかなりの酒好きであることは分かっていた。
エムルは昼間の古都の歓楽街を歩き回ってその人物の情報を求めた。
すると拍子抜けするほど呆気なく情報は得られた。
どうやらなかなかに有名な人物らしい。
エムルは酒屋の主人に近づけていた身体を離すと、ありがとねと言って店を出た。
「お、おい!」
と腹の出た主人が大きな声をあげた。
一体何を期待していたのか。豚に許していい身体ではない。
エムルは歩きながら通り中から自身に集まる視線をまるで日光浴でも楽しんでいるかのように身体いっぱいに受け止めた。
だがそれら全ての視線は彼女にとっていささかの価値もない。
たった一人の視線を除いては。
せいぜい全ての視線はそのたった一つの、あの人の視線を自分に向けるための道具にすぎない。
そして今そのたった一つ視線を物にしているリズも、道具として利用することにした。
エムルは昼間から大勢の人々が行きかう賑やかな歓楽街の通りを逸れて裏路地に入った。
古都ブルンネンシュティグの裏の顔が垣間見えそうな場所。
薄暗く狭い、湿気の溜まった建物の隙間を歩いていく。
エムルは細長い蛇のように蛇行した路地を通り抜けて、小さな安酒場の裏口の扉の前で止まった。
こちら側は昼間から開いているらしい。
エムルは扉の前で立ち止まると、少し緊張した面持ちになった。
今回の相手には話を持ちかけるだけ。誘惑は効かないことは分かっていた。
エムルは扉を開くと、黒い内幕をのけて店内に入っていった。

322ドギーマン:2007/03/08(木) 07:49:44 ID:yvbhphlM0
ゲンズブールはその日も朝から酒に溺れていた。
後悔と絶望と苛立ちを消す方法は酒を飲むこと以外に彼には無かった。
黒い鍔の尖った帽子。黒いツバメの尾のような形状のボロボロのマント。
ぼさぼさの銀髪にはフケが大量についていて、首を少し動かしただけでも辺りに散らばりそうだ。
そのどんよりと曇った鉛のような眼は怒りと憎しみと、ほんの少しの哀しみを湛えていた。
ぼろぼろの武道着は洗って居ないのだろうか、少しキツい臭いを放つ。
だがそれも彼の身体から滲み出る酒臭さと近寄りがたい雰囲気に比べればまだマシかもしれない。
不潔な彼でも腰に下げている鋼鉄の鉤爪だけは鋭く光り輝いていた。
彼は魔力を全く持たずに生まれた。
たとえウィザードで無くともこの世界の人間は個人差による多寡はあれど全ての人間が魔力を持っている。
現在では魔力を扱うことは当然のように日常生活で行われている。
火を起こし、明かりを灯し、彼がいま飲んでいる酒を冷やすのにも魔力は使われている。
全てはスマグでの魔法技術の向上により、魔力によって稼動する機器が一般に普及したことによる。
彼のように魔力を全く持たずに生まれてくる人間は極稀であった。
それは一種の障害と言ってもいい。今の世の中では魔力が無いというのはそれほどのネックとなっている。
幼い頃からそのために両親は弟だけを可愛がり、友達など出来ずいじめの対象とされてきた。
そしてそのたびに殴り合いの喧嘩をしていた。
魔力が使えない。魔法の授業に参加できない。
それを馬鹿にしていた奴がぶん殴れば鼻血を垂らしてうずくまっている。
幼少のゲンズブールは思った。魔力なんて無くても殴れば解決する。
やがて身体が大きくなってくると彼は家を飛び出し、
ある武道家のもとに通いつめて魔力に頼らない肉体の強さを求めることにした。
彼の腰の鉤爪には皆伝を表す刻印が刻まれていた。
だが、彼は決して皆伝を認められたわけではない。
それがあること自体が皆伝を認める証拠ではあったものの、彼の師である武道家はそれを彼に直接渡す前に死亡した。
それも、魔力を扱う者の象徴とも言えるウィザードの手によって。
決して超えられない壁とさえ思えた人物が、魔法に負けて死んだというのだ。
結局は魔力を使える者が勝つのか?それがない自分の今までの努力は?
ゲンズブールは武道家が彼に残したと思われる鉤爪を持ったものの、今では喧嘩屋を稼業に酒に溺れている。
そしてその日も昼間から旨くもない安酒を飲んでいた。
止めると暴れるため、周囲の者は皆諦めて放置してしまっていた。
どうせ血生臭いことで手に入れたであろう金でも、ちゃんと払ってくれるので店主も黙っていた。
いずれは身体を壊して行き倒れる未来が見えているそんな男に、久しぶりに声をかける人物が現れた。

323ドギーマン:2007/03/08(木) 07:50:35 ID:yvbhphlM0
「こんにちは」
そう言って女は勝手にゲンズブールの隣の椅子に座った。
やたらと露出度の高い姿の女に酒場の少ない客の眼が集まった。
しかし、隣にいるのがゲンズブールだと分かると全員顔を背けた。
だがやはり気になるようで、ちらちらと視線を女に向けていた。
ゲンズブールは挨拶を返すでもなく、おもむろに女の膝に手を伸ばした。
女はゲンズブールの手を叩き落すと、「そんなつもりで話しかけたんじゃあないのよ」と言った。
ゲンズブールはつまらなそうに女をよどんだ眼で見ると、酒瓶に口をつけた。
他の男達のそれと違って、決して彼のは彼女の魅力の虜になっての行動ではない。
「あなた、この間男に蹴られて逃げてたでしょ」
そう言って女はクスクスと笑い出した。
ゲンズブールは手を止めて女に顔を向けた。その顔には怒りが滲んできていた。
「あんな大勢の野次馬の前で恥かいて、ねえ"凶犬"さん?」
「なんだてめぇは・・」
ゲンズブールは女の顔に向かって投げつけようと酒瓶を振りかぶった。
目の前の女が何者なのか。そんなことを考えるよりも行動が先に出た。
「仕返ししたくない?」
酒瓶が止まった。ゲンズブールは女の笑みをじっと睨んでいた。
「別に仕返しなんざ趣味じゃねえ」
「恥かいたままでいいの?言っておくけど、あなた仕返しがとっても大好きそうに見えるわよ」
そう言って女はまた口元を押さえてクスクスと笑った。
「俺を馬鹿にしてんのか!?」
「そう聞こえなかった?趣味じゃないなんて言って格好つけてるつもり?今のあなた、すごく惨めよ」
ゲンズブールは口元から酒を涎のように垂らして悔しそうに歯を食いしばっていた。
「誇りを無くしかけてるのね、あなた」
女は彼の眼を見て言った。そして腰の爪を見た。
「でも、完全に無くしたわけではないようね」
ゲンズブールは何も答えずに顔を背けると酒を一口呷った。
「誇りを完全に失いたくなければ、復讐することね。格好つけたって今のあなたじゃ滑稽なだけよ」
女はそう言ってゲンズブールの返事を待つようにじっと彼を眺めていた。
「どこに居るんだ、あいつは」
女は妖しく笑みを浮かべると、「その前に」と言った。
「私の名前はエムルよ」
「・・ゲンズブール」
「そう、よろしくね」
そう言ったものの、エムルは握手など求める素振りも無い。
不潔な彼の風貌に触れるのを拒んだのか。それとも必要ないと判断したのか。
「その男に復讐する前に、あなたにはその男の女を叩いて欲しいの」
「女に手をかけるのは」
「別にそんなこと言っても格好よくないわよ」
エムルはゲンズブールに釘を刺した。
「ただ殺しても面白くないでしょ。自分がやったことをとことん後悔させないと」
「・・・・」
「相手も素人じゃないわ。本気でやらないと、あなたもタダでは済まないわ」
「わかった。で、どこに居るんだ」
「まず酔いを醒ますことね」
そう言ってエムルは席から立った。
「今夜、広場の噴水で会いましょ。あと、身体洗いなさい」
そう言い残してエムルは店内の男達の視線を振り切るようにさっさと店を出て行った。
ゲンズブールは手元の酒瓶を一度だけぐいっと呷ると、飲みかけの酒瓶を置いて席から立ち上がった。

324ドギーマン:2007/03/08(木) 07:52:37 ID:yvbhphlM0
マイスはエムルと別れたあと、逃げるように店から足早に離れた。
重い大剣を背負って街の人の海に混ざっていく。
"契約"とは何なのか気になってはいたが、
あれ以上彼女と関わっていてはいずれ要らぬ誤解を招くことになるかもしれない。
今はリズのことだけが彼にとって大事だった。
帰ってきたら今夜こそ話を切り出そう。
歩きながらそう思って狩りのためにオベリスクの方へ歩いた。
しかし、その晩リズは無事には帰れなかった。

狩りから帰ったリズはテレポーターによって古都の中心に転送された。
そこから宿のほうへ歩いていく。広くなった通り、賑やかに歩く仕事帰りの人々。
日はすでに沈んでいたが、それはマイスとエムルが出会ったあの日とほぼ同じ状況だった。
もちろん全く同じではない。
酒場の前の角を曲がったのはリズだし、そこで彼女に声をかけたのはゲンズブールだった。
いきなり肩を掴んで「お前がリズか?」と言う鋭い目つきの男。
「そうですけど・・」
いきなり肩を掴まれて振り向いたリズはそう言って男の姿を不審そうにじろじろと眺めた。
「やっと当たりか・・」
当たりかとはどういう事なのだろう。まさかずっとここでこうやって人に声をかけていたのだろうか。
男はリズの眼をじろっと睨むと、ドスの効いた言葉で言った。
「今からお前と戦いたい」
「あなた、誰」
リズは街燈の明かりの下で緊張した面持ちで身構えた。
「お前の男を殺したがっている者だ」
リズはその言葉に目を見開いた。そして男を睨んで言い放った。
「そんなこと、させない」

エムルは通りの反対側の建物の影から二人のやりとりを眺めていた。
やがてゲンズブールは歩き出し、その後にリズはついていった。
さすがに街中でやりあう事はないだろう。
エムルは笑みを浮かべながら通りを歩いていく二人の後を追っていった。
その顔にはまるでこれから始まる余興を楽しみにしているかのような笑みが張り付いていた。

325ドギーマン:2007/03/08(木) 08:18:48 ID:yvbhphlM0
あとがき
おはようございます。
武道家再び登場です。一通りのキャラクターはやってみた経験がありますが、
シーフ/武道家は魔法が全くないんですよね。
知識スキルは一応罠がありますけど、魔法とは違う気がしますね。
分身とか、魔法と言えなくもないですが。

>>318
wikiですか。
私はサイト管理とか経験ないので・・・。
ただ、まとめがあれば便利そうですね。
他の方はどうなのでしょうか。

>姫々さん
スピカがすごいことになってますね。
しかし、後のリトルウィッチ変身を予感させるいい複線だと思います。
続きを期待しています。

>携帯物書き屋さん
ニーナがようやく帰ってきましたね。
でも、果たしてショウタはエミリーと戦えるのでしょうか。
気になります。

>ryouさん
オチがちょっと予想外でした。
好きなキャラクターを主人公に持ってくるのはいいと思いますよ。
私もウルフマン好きなので、ウルフマンの登場頻度が高いです。
やっぱり好きなキャラを書くときは楽しいですよね。

>Aさん
ネクロマンサーとウィザード。
体力的に脆そうな二人ですが、互いに相手のことを思いながらも
信頼しあえる関係はいいですね。
次回作を期待しています。


ウルフマンの次に悪魔が好きだったりもします。
でも、この二人を話の中でカップリングするのはかなり危険ですね。
悪魔のU鞭「調教鞭」と、U首「ピエンドルガン」(見た目が…)の出番になってしまいます。

326318:2007/03/08(木) 11:58:33 ID:kohE0f8U0
http://www27.atwiki.jp/rsnovel/
http://rsnovel.tyabo.com/

>>319、ドギーマンさん
一応予定地を2つ作ってみました。
HTMLの知識であれば少しならあるので、私一人で管理できればHTMLで作ってもかまわないのですが……。
何分ログが膨大な量ありますので、一人での管理は難しいかと思います。
wikiを弄れる方にお手伝い願えれば幸いです。

327名無しさん:2007/03/08(木) 17:54:16 ID:aXn8yiYI0
>ドギーマンさん
「魔法を全く使えず荒んだが、自らの力で這い上がった」というのは個人的にサガフロ2を思い出します(笑)
武道にも一応(ほんとに一応)烈風撃なんてスキルがあったりなかったり…。
以前知識武道さんとPTを組んだ事がありますが、烈風連打という凄まじい狩り方でした(笑)
リズとの対決もエムルが仕組んだと思うとやっぱり怖いです。続きお待ちしています。

>>318さん
素早いお仕事ありがとうございます。
wikiは本家(?)の方ならば少しだけ記事投稿した事もあるのですが
あそこと同じように書いてしまっていいものでしょうか…?
どうやらヘルプもあるようなので少し勉強してみます。
やはり、作者ごとにまとめた方がいいのでしょうね。

328携帯物書き屋:2007/03/08(木) 23:09:15 ID:mC0h9s/I0
>>318さん
自分も大いに賛成ですが、知識も時間もないので(携帯で執筆してるくらいなので)製作に協力はできそうにないですorz
力になれなくて申し訳ありません・・・。
言われている通り作者ごとにまとめた方が見やすそうですね。
ただ、コテ使ってなかったり話が途中で切れてたりしている人の作品をまとめるのは難しいのかな・・・・・・?

329名無しさん:2007/03/09(金) 07:24:48 ID:Y4A7YiRIO
>>327
武道家の烈風は力依存の物理攻撃ですよ

330名無しさん:2007/03/09(金) 09:24:44 ID:aXn8yiYI0
>>329
おぉ、そうだったのか…orz
以前知識依存だと入れ知恵されてからそう思ってました(苦笑)
ご指摘ありがとうございます。ドギーマンさん、申し訳ないです。

331171:2007/03/09(金) 13:22:22 ID:f0SX/jL60
ちょっと遅筆に。ああ、なぜか長くなる。


前々回>>258 >>259
前回>>264>>265>>266

エリーは崖を一気に踏み切り、着地すると脇目も振らず障壁へ駆け寄った。綺麗に整えられた短めの金髪がふわりと弾む。
彼女に追いすがろうとするオーガもいたが、ほとんどのオーガは先ほどの"砲撃"で完全に混乱し、エリーのことなど眼に
入っていないかのようだった。難なく障壁に近づくと、瞼を閉じ、障壁の魔力に同調、嵐の中に飛び込む。
迎撃も兼ねた障壁魔法、風の刃が成す壁に、怖れ・敵意は格好の餌である。無心で寄り添えばスルリと道は開けるのだ。
無心で逆巻く風の中、歩を進める。10歩も進んだ頃だろうか、身を取り巻く激しい嵐が途絶え、空気が変わった。


目を開けると、そこには疲れきった様子でお互いに寄り添い、震えるキャラバンの人々が居た。
生存者だ・・・!気が緩みそうになる自分を戒め、ありったけの声で叫ぶ。

「救護班です!負傷者は居ますか!」

予想外の来訪者に、どよめきが走る。・・救護班?・・俺達助かるのか?・・神よ・・!
安堵の声に混じり、大声で泣き出すものもいた。

「こっちだ!頼む!」
緊迫した声がエリーの耳に入った。人を押しのけ、声のほうへ急ぐ。
声の主はキャラバンに同行した司祭だった。
「重傷者ですか!?」
「重症も重症だ!タチの悪いものに当たった、手を貸してくれ!」
力みがかった低い声が響く。熟練の司教が行使する蘇生術から漏れ出す白い光が、
彼と、彼の横で同様に処置に当たる若い司祭の、汗だくの険しい表情を照らし出していた。
そして、エリーは、「負傷者」の元にたどり着く。



「・・・・ヴァリアーさん・・・・!」



そこには、左足をもがれ、気を失い、死んだように横たわっているヴァリアーの姿があった。
傷口からは絶えず血が滲み出し、肌は土気色で生気がなく、端整な顔立ちはやつれ果てている。
尊敬する先輩の惨状を目の当たりにして、エリーはこみ上げて来る涙と嗚咽を無理やり
押し込めた。

「知り合いか。」
司教が横目で問いかけてくる。
「はい・・ギルドの先輩です。」
「そうか・・大した御仁だ。気を失ってなお魔法の行使を続けられるとは。」
ヴァリアーの腕に握られた杖は休むことなく魔力を放出し、嵐の障壁を巻き起こしていた。

「何でこんな・・足は・・?」
「・・オーガの・・腹の中に・・」
若い司祭が、苦々しい表情を覗かせる。足の蘇生は無理なのか。エリーの表情が歪んだ。

傷だらけの体に寄ると、体中から立ち上る冷たい邪気が、まるで取り付いた者をくびり殺そうとする
蛇のように律動し、ヴァリアーの体中を締め上げていた。

「これは・・呪い・・・!」
「飛びきり強烈な呪いだ。2人掛かりの蘇生が意味を成さん。」

傷口に注がれた癒しの光が細胞の再生を促し、血漿が生まれる。が、邪気の帯がうねるたびに傷口の血漿が
破れ、血が噴き出す。聖職者2人が行使する蘇生術を持ってしても、邪悪な意思によって生み出された
強烈な負の力を押し切ることはできずにいた。

332171:2007/03/09(金) 13:23:28 ID:f0SX/jL60
「呪いを浄化したいが手が足りん。お嬢さん、蘇生術の心得は?」
「任せてください、私の専門分野です。」
即座に地脈に呼びかけ、大地の気をヴァリアーの体に廻らせる。健やかな気の力が
ヴァリアーの体を包み込んだ。3人分の治癒の力が、僅かに呪いの力を上回り、傷の蘇生が早まる。

「お嬢さん・・・いい仕事だ。」
「よく言われます。」
作り笑顔で返す。見事な施術と気丈な態度に、老司教は思わず感嘆した。

「よし、呪いの洗浄に注力する。2人とも、私が施術する間、頑張ってくれ。」

「了解しました。」深く、ゆっくりと呼吸し、魔力を強く練り上げる。
「はい。・・・主よ、我が脆弱なる魂をお導き下さい。」若き聖職者が十字を切ると、
高位の蘇生術が処法される。
「先生・・・、長くは持ちそうにありません・・・っ」司祭の体中から血管が浮き出し始める。
皆、とうに限界は超えているのだ。
「分かっている。」


老司教の蘇生術が解かれた。力の拮抗が崩れたことで邪気のうねりが激しさを増し、傷口から
血が溢れ出す。

エリーは歯を食いしばり、練った魔力を思い切り送り出した。大地が育んだ暖かな正の気流が湧き上がり、
呪いのうねりを押さえ込む。状況は再び拮抗した状態に持ち込まれた。それを確認すると、司教は祝福の言葉を口にした。
辺りに柔らかな光が溢れ、ヴァリアーの体を照らし出す。呪いの洗浄を始まったのだ。


しかし、高度な知能を持たぬオーガと戦っていたはずのヴァリアーが、なぜこれほどに強力な呪いを受けて
いるのか。蘇生の魔法を行使しながら、エリーは目を覚まさないヴァリアーに問いかけた。

・・・貴方は一体、何と戦っていたのですか・・・・?


続く。

333171:2007/03/09(金) 13:37:38 ID:f0SX/jL60
野戦病院の風味で書いてみたけどヨウワカリマシェン

呪い・・闇属性攻撃とか、まあそんな風味
蘇生術・・ヒーリング
大地の気脈(なんじゃそら)・・アースヒール

あと1回で収まれば・・いいなあ。

>携帯物書き屋さん

ああ、エミリー・・助からないのかしら・・
パートナーが翔太だったらと思ってしまいます。

>姫々さん

スカーフをはがしてみたくなりうあなにをするやm

>ドギーマンさん

自分もサガフロ2を思い出しました。できない人が蔑まされるのは世の常。
武道・・ つД`)

>Aさん

簡潔に纏められた文章と行間が素敵っす。詩を読んでるようでした。

334318:2007/03/09(金) 15:00:58 ID:kohE0f8U0
作者ごとにまとめ、コテハンでない方はレス番+タイトルでどうでしょうか。
タイトルがない場合は、簡単な説明で。
あと、もしかしてwikiはパスワード等がないと弄れないのでしょうか…?

335171:2007/03/09(金) 15:28:55 ID:f0SX/jL60
>>334

wikiサイトの設計次第だと思いますが、2つのうち前者については、ファイルの作成・編集・公開は
できるようですね。ファイルの削除のみが出来ない状態なので、不特定多数の編集にも対応可能かと。

基本方針はそれでいいのではないかと思います。

336ドギーマン:2007/03/09(金) 16:03:51 ID:yvbhphlM0
『Devil』
>>231-234
>>273-277
>>294-297
>>321-324

古都の郊外にひっそりと存在する廃墟。
廃墟とは言っても実質はかつての姿の10分の1も残さず崩れた瓦礫の山でしかない。
旧王宮跡、そこは120年前に崩壊したブルン王宮よりずっと前の王宮があった場所。
崩れかけた壁面を月明かりの下にさらし、そこにいま居るのは二人の人間と亡霊たちのみ。
ゲンズブールは立ち止まると、リズにゆらりと向き直った。
細い鎖を編んだだけの鎖帷子のようなライトアーマーを着込んだ女。
膝を保護する腰当は革で出来ており、身軽さを重視したのか靴は布製のようだった。
背には矢筒を背負い、その腰には狩猟用の弓を差している。
鼻にかかる金髪を夜風が揺らし、赤い瞳が闇夜に狼の眼のように輝いていた。
ゲンズブールは身体を軽く上下にゆらした。水と指を使って酒を抜いた身体はかなり久しぶりで、妙に軽い気がした。
だが、その指先は細かく震えていた。長きに渡って蓄積した酒が彼を蝕んでいたのは当然のこと。
「はっ・・・ははぁ・・ヒヒヒィ」
何故か突然ゲンズブールは笑い出した。リズが不審そうな目で見ている。
この女、なんでまだ獲物を構えていないんだ?俺がまだ爪に手をかけていないからか?
・・・それとも、俺が酒にやられちまってるからか?
「ヒははははっ」
ゲンンズブールは駆け出すとリズに向かって飛び蹴りを放った。
リズは咄嗟に両腕を交差させてゲンズブールの鉄板が埋め込まれた靴の踵を受け止めた。
細い腕を覆う皮手袋に踵がめり込む。リズの表情が歪んだ。
たまらず後退するリズに追いすがって拳を握り固める。
ゲンズブールの振りぬいた拳がリズの頬を弾き飛ばした。
吹き飛ばされたリズの身体が水平な地面を滑った。
「うっ・・く・・」
リズはすぐさま身体を起こして腰の弓に手を回した。口の端からは血が滲んでいた。
ゲンズブールの表情は本人の意識から外れて残酷な笑みを浮かべていた。
エムルに利用されているようで最初は気に食わなかったが、今の彼は自身の行為に酒を味わっているかのように酔っていた。
もうどうでも良かった。
この女には恨みはないが、今の自分を忘れさせてくれるなら、もっと酔わせてくれるなら。
彼の指先の震えはピタリと止まっていた。
ゲンズブールは腰の爪を手の甲に装着し、感覚を確かめるようにぎゅっぎゅと二度握りこんだ。
リズはというと、なんとか弓に矢をつがえていた。
激しい衝撃を受けた手が細かく震えて力が入らないようだった。その顔に余裕は見えない。
ゲンズブールは容赦なくリズに向かって動き出した。
リズはゲンズブールに反応して弓を引くが、腕に走る激痛に顔をしかめて矢を地面に落とした。
ゲンズブールは右手の爪をリズに向かって振り下ろした。
リズは弓でゲンズブールの腕を叩いて爪を弾いたが、そこに続けてふくらはぎに下蹴りが放たれた。
堪らずリズは腰を落とした。ゲンズブールはリズの金色の頭を見据えて爪を振り上げた。
しかし次の瞬間、ゲンズブールは仰け反るとそのまま後方に向かってバック転して離れた。
酔っているどころか危険な笑みさえ浮かべているゲンズブールの前で膝をついたリズの手には先ほど取り落とした矢があった。
ゲンズブールの首を狙った矢尻は当たらなかったものの、彼を警戒させるには十分だったようだ。
ゲンズブールは腰を落とすと、足を肩幅よりも開き、腕をだらしなく下げた。
鋼鉄の鉤爪の先が地面を傷つけている。その姿はさながら小柄なウルフマンを思わせる。
ゲンズブールは手負いの獲物の精神をすり減らそうとするかのように、じっとリズの様子を伺った。
リズの赤い瞳は彼に対する怒りを増大させたかのように爛々と輝くと、その背中の矢筒から矢が数本、勝手に動き出した。
矢はリズの周囲で宙に留まると、ゲンズブールの方にその矢尻の先を向けた。
ゲンズブールは気に入らないという様子で一度舌打ちした。
「魔法か」

337ドギーマン:2007/03/09(金) 16:05:06 ID:yvbhphlM0
リズは宙に浮かべた矢のそれぞれに行き渡らせた魔力を意識した。
まるで自身の身体の一部であるかのようにそれぞれの矢から感覚が返ってくる。
じっとこちらを見据えている男を睨むと、リズは手の中にある矢を弓に再びつがえた。
弦を引く指に力を入れるたびに右手首が痛んだ。踵を受け止めた衝撃が腕の筋肉を押し潰していた。
手袋を外せば内出血で赤黒くなっていることだろう。
油断していた。細かく震える男の手を見て、まともに戦えるわけがないと高を括ってしまっていた。
顔を歪めながらもリズは弦を握る親指に力をこめた。
目の前の黒い男は相変わらずこちらを眺めているだけだ。
ただ眺めているだけだが、男が発する鋭い殺気は油断を許さず神経に見えない鉤爪を突き立てる。
リズは集中力を高めていった。かつて、トランの森で獣を狩っていたときの感覚を身体で思い出した。
赤い目を見開き、夜の闇の中に浮かぶ標的、黒い男の姿をくっきりと浮き上がらせる。
呼吸を押さえ込み、心拍を安定させ、身体の必要の無い箇所から力を抜いていく。
呼吸をゆっくりと吸い込み、鼻から出す。眼は獲物を狙う鷹の如く鋭さを増し、男の呼吸すらも読み取る。
リズは男の殺気に対抗するように神経を鋭く、硬く、刀剣の切っ先のように研ぎ澄ませていった。
リズは吸い込んだ息を飲み込むと、動き出した。
一気に弓の弦を引いて弾く。つがえた矢は男に向かって飛んでいった。
と同時に宙に浮いていた矢が同じ標的目掛けて収束するように飛んだ。
男は矢の群れを爪で横になぎ払うと、リズに向かって距離を詰めようと走り出した。
リズは接近してくる男と等間隔に距離を保とうと後方に足を進めながら上空に向かって矢を放ち始めた。
矢筒から次々と矢が飛び出し、自動的に弓につがえられていく。
リズはただひたすら弦を引いてそれらを上空に放っていく。
矢筒の中には矢は一本しかなく、その矢はリズの魔力に反応して次々と分身を作り出していった。
先ほど男がなぎ払った矢は折れて地面に落ちた途端に実体を失って消えていた。
リズは男の胸の中心に意識を集中し、渾身の力を込めて弦を引いた。
男は胸へ一直線に飛んだ矢を追尾するように手元に来ていた矢は弓につがえるまでも無く次々と飛び出していく。
と、同時に上空に打ち上げていた矢は男に向かって落ちていった。
男は矢を爪で弾き、半身になり、しゃがみ、跳び、捻り、潜る。
巧みなステップを刻んで複雑に上方と前方から飛び来る矢をことごとく交していく。
完全に避けきれるわけはないはずだが、それでも矢は男の服を刻むことしか出来なかった。
距離を狭めようとする男に対してリズは燃え立つ矢を地面に横一直線に放って男の接近をけん制した。
地面に刺さった火矢は爆発し、燃え上がった地面に男は足を止めた。
闇の中、廃墟の崩れた壁に囲まれて二人の姿が浮かび上がった。
互いに互いの姿が火の向こうでゆらゆらとすこし揺れて見える。
接近を許せば殺傷能力は男の鉤爪が圧倒的に上回る。
絶対に男を寄せ付けず、常に距離を取って戦い、そして…
確実にこの男を殺さなければならない。
「女の割には、やるじゃねえか」
男が炎の向こうで唇の端を吊り上げて言った。
「女にだって、命を賭けて守るものはあるのよ」
リズはそう言い返すと、再び上空に矢を放った。

338ドギーマン:2007/03/09(金) 16:06:30 ID:yvbhphlM0
夜の闇のなか、黒い影が金色の影を追い続けていた。地を蹴り、矢が空を切り、爪が夜風を切り裂いた。
リズの矢はゲンズブールにことごとく避けられ、未だに傷一つ付けられていない。
蓄積していく疲労と持続する緊張は彼女の集中力を削ぎ落としていく。
リズの表情には焦燥の色が浮かんでいた。当然だろう。攻撃が全く当たらないのだから。
黒い男の眼は冷徹にリズの眼をじっと見据え続けている。
完全に攻撃を読まれている。リズは思った。
闇の彼方から亡者たちの呻き声が聞こえてくる。
死闘の気配を感じ取って、仲間が増えることを祝っているのだろうか。
腕の痛みが激しい。集中力で押さえつけても、蓋の端から外へ飛び出してくる。
もはや腕を動かさずともずきずきと痛みが走る。
もうどれほどの時間が過ぎたのだろう。マイスは心配してくれているだろうか。
早く帰らないと。
リズはぐっと歯を食いしばった。殴られた頬から鈍い痛みが走る。
火矢を一直線に飛ばして地面を燃え上がらせる。男の動きを制限してそこに矢を連続で乱れ撃っていく。
しかし男は仰け反って大きく跳ぶと、火の壁を跳び越えてみせた。
驚きながらもリズは男に向かって矢を放ち続けたが、男は次々と飛び来る矢を素早く爪で弾き飛ばして突き進んできた。
そしてリズに接近してヒヒっと笑って裏返った声で言った。
「もう終わりだ」
鋼鉄の爪が月明かりを反射して白く、冷たく輝いた。
「くっ」
リズは弓を男の顔に向かって振るった。
しかし男は顔に向かってきた弓をするりと避けて爪を振り上げた。
リズの顎から右頬にかけてを赤い三本の線が走った。
「つあっ!」
顔に走る鋭い痛みに声を上げて後ろに下がろうとするリズの腹を男の足が追い打ちをかけた。
弾き飛ばされたリズの身体は廃墟の壁に激突した。
「ふっ・・・・う・・」
頭を壁に打ち付けたリズはずきずきと痛む頭を押さえた。
切り裂かれた頬のめくれ上がった皮膚の間から真っ赤な血が首を伝っている。
「ヒ・・ヒ」
黒い男は気持ち悪い笑い声を洩らしてリズが放った火の壁を背に真っ黒な影を彼女の視界に映し出した。
帰らなきゃ、いけにのに。
瓦礫に手をかけて立ち上がろうとする彼女を男は立って待っていた。
動けなくなるまでなぶるつもりなのだろうか。
リズは身体を起こして弓を拾い上げると、よろよろと立ち上がった。
そして数本の矢を浮かせて手元に持ってくる。
はぁはぁと息を荒くし、リズは男の顔に張り付いた笑みを睨んだ。
そして大きく息を吐くと、思った。
私は、何て馬鹿なんだろう。さっき自分で言ったことを忘れるなんて。
命を賭けて守るって、言ったじゃない。
リズはぎゅっと弓を握り締めると、矢を弓につがえた。
それを合図に黒い男の影が跳ねた。
走り寄って来る男にもうリズは矢を撃たなかった。
次に接近を許せば命は無いかもしれない。それは分かっていた。
しかしリズも男に向かって走り出していた。
男はリズがやけくそになったと取ったのだろうか、怪しむことなく彼女に対して爪を振り上げた。
リズはその手の届く間合いで最後の攻撃をしかけた。
男の鉤爪のほうが早く彼女の身体に到達した。肩口から侵入してライトアーマーの鎖を断ち、その下の胸を撫でるように切り裂く。
自身の身体から吹き上がる血を前にしても彼女は止まらなかった。
弓の弦を高速で引いては弾いていく。数十本の矢が瞬時に打ち出された。
男は驚いた表情で腕を交差させて防御したが、その腕、腹、足に矢の先端が次々と埋まっていく。
この距離では決して避けきることのできないであろう数の矢の嵐。
男の身体は宙を舞って吹き飛んでいった。
リズは弓を手から落とし、胸の傷を押さえて膝をついた。
はっはと息を短く吐き出す。
そして倒れている男を見据えてかすかに笑った。
鎧に守られたお陰で幸い傷は浅く致命傷には至らなかったようだ。
リズはふらふらと立ち上がるとマイス達が待っているであろう古都に向かって歩き出した。
早く、帰らなきゃ。

339ドギーマン:2007/03/09(金) 16:07:52 ID:yvbhphlM0
ゲンズブールは夜の空を見上げていた。
なんだ?なにがあった?何で俺が上を向いている?
腕にも、膝にも、腹にも矢を受けていた。
そしてそれらの矢はリズが去っていったと同時に霧散して消えた。
ゲンズブールはかつて彼の師が生きていたときのことを思い出していた。
陽気で強引で、生来から陰気な性格の彼にとってはやり難い人物だった。
ただ武道を教えてくれさえすればいいと思っていた彼にとって、師の性格は不快なものだった。
「う、く・・」
疲れ切って立てないでいる彼を見下ろして師は笑っていた。
「おいおい、まだ動けるだろう。さっさと立て」
立てねえよ馬鹿が。
「動けねえ時はな、とにかく声を出せ!何でもいい、うわー!でも、ぎゃー!でも。
 とにかく声を張り上げて気合を入れろ。動けなくても気合次第で人間の身体は動かせるもんだ」
無茶苦茶な言葉だった。
しかし、ゲンズブールはそれを思い出してペッと喉の奥から込み上げる血を吐き出した。
そして大きく息を吸った。
「 う お お お お お あ あ あ ! ! ! 」
矢が突き刺さっていた腕がぶるぶると動き、彼の身体が起き上がった。
「ふぐ・・おお」
喉の奥から唸り声を上げる。不思議と血があまり噴出してこない。
彼は自分の身体を見下ろした、穴が大量に空き、自身の血でびしゃびしゃに濡れていた。
これでまだ生きている自分が信じられない。
師のガハハという不快な笑い声が聞こえてきた気がした。
「くそっ」
一人毒づいてゲンズブールはリズが去っていった方向に眼をやった。
帽子は脱げてどこかに行ってしまっていたが、彼にはそれよりも優先すべきことがあった。
左手の鉤爪を捨ててふらふらと立ち上がると、右手の爪を重たそうに持ち上げた。
「ぶっ・・・・ころしてやる。クソアマ」
足を引きずりながらリズの消えたほうへ進んでいく。
だが、ヒュルルと音を立てて彼の腕に何かが絡まった。
それはぐいっと彼の腕を後ろに引っ張ると、彼を後方に転倒させた。
全身の激しい痛みにゲンズブールは呻き声を上げた。
顔を上げるとそこには彼の帽子を持ったエムルが立っていた。
その手からは炎の鞭が伸びており、すぐに彼女の手の中に吸い込まれるように消えた。
「邪魔、すんじゃねえよ・・」
ゲンズブールの言葉にエムルはふふっと笑った。
「なかなか面白いショーだったわ」
「ふざけるな、あの女と戦えと言ったのはお前だろうが」
エムルは腕に下げていた皮袋の中から大きな瓶を取り出すと、彼の頭にそのなかの液体をバシャバシャとかけ始めた。
「別に私は叩けと言っただけで、殺せなんて一言も言ってないわ。どうせ後で殺すけど、今は都合が悪いのよ」
瓶の中からドポドポと音を立てて流れ出るその赤く透き通った液体をゲンズブールにかけながらエムルは言った。
「ふっ・・エホッゲホッ、誰が、お前の指図を」
口に入った液体に咳き込みながらゲンズブールは文句を吐いた。
エムルは空になった瓶を捨てると、またもう一本取り出して彼の頭にかけ始めた。
薬臭い。それは代謝機能を促進して傷口の再生を促すヒールポーションだった。
「やめろっ」
ゲンズブールの銀髪が顔に張り付いて、水分を吸った髪がてらてらと光っている。
エムルはあはははっと笑って言った。
「頭冷やすついでには丁度良いでしょ」
「ふっ、ざ、けるなと言ってんだろが!」
ゲンズブールは鉤爪を持ち上げるとエムルに向かって振り上げた。
しかし、突如目の前に現れた赤く輝く格子に阻まれて爪は弾かれた。
いや、光り輝く檻が瞬時に現れて彼を閉じ込めていた。
エムルは檻の中に入れられた彼を見てクスクスと口元を押さえて笑った。
「ケダモノにはお似合いね」
ゲンズブールがギリギリと歯軋りしてエムルを睨んでいた。
「あの女も、あなたも、別にどちらが死んでもそれはそれで構わなかったのだけど。
 どちらも生かしておけるのならそれが一番理想的なのよね」
ゲンズブールは格子をぎゅっと握ってエムルに怒鳴った。
「俺を何だと」
「ただの道具よ」
彼が言い終わらないうちにエムルは冷めた口調で言い放った。
「じゃ、これここに置いとくわね」
そう言ってゲンズブールの帽子を赤い液体でグチャグチャになった地面に捨てると、
エムルは檻の中の彼を放置して歩き去っていった。
やがて檻が消えると、ゲンズブールはバシャっと地面に手を突いてエムルの去った方向をただただ悔しそうに睨んでいた。

340ドギーマン:2007/03/09(金) 16:17:18 ID:yvbhphlM0
あとがき
あれだけ苦手だった戦闘シーンを書くのが、
最近ちょっと楽しくなってきたかもしれません。
ほんの3、4行で終わってしまった時もあったので
長く書けるようになったなあとしみじみ思っています。
まあ、長くなっただけで肝心の中身が抜けてるなんて指摘されることにならなければいいのですが・・・。

一応、スキルや無限矢を自分の解釈で色々と書いてます。
ランダンドマーカーを前にじゃなくて横一直線に撃って壁作れたら便利だなとか思ったりして。
絶対命中のインターやテイルが避けられているのも、私の勝手な解釈ってやつです。
だって、絶対に当たったら勝負がすぐに・・・w

ロマサガ2、ギュスターヴのことでしょうか。
私はあれは体験版をちょっとやっただけで、別に意識したわけではないのですが。
でも、ちょっと意識した部分はあったかもしれません。
ただあの主人公と違ってこちらの武道家はもっとダークな感じです。

烈風撃は私も最初知識スキルだと思ってたので気にしないでください。

341ドギーマン:2007/03/09(金) 17:01:28 ID:yvbhphlM0
>318さん
覗いてみて試しに一度編集をクリックしてみたのですが、
よく分からない部分が多くて…w
確か、前々スレのほうでまとめがしてあった気がします。
まずはそちらからまとめていくと良いかもしれませんね。
とりあえず一度説明をよく読んでみます。

>171
野戦治療という感じは出ていると思います。
呪いに対抗して治療を行うというのは面白い発想ですね。
今後の展開に期待しています。

342第52話 予想外:2007/03/09(金) 17:17:15 ID:SEJl89Sk0
私達はキンガーさん達の後を追って付いていった。
しばらくすると、このネカフェでいいのかどうか相談しているのだろう、立ち止まり二人で話しているのが見えた。
私とデルモちゃんも一旦、立ち止まり、事の成り行きを見守った。
先頭の二人は納得したのだろう、その店に入って行った。

「いよいよね。私達も入りましょう」とデルモ。
「そうね・・・」と言いかけて私は驚いた。
キンガーさん達に続いて入っていったのがさっき見かけた人物だったからである。
「え?なんで?」
「どうしたの?ぎゃおすちゃん?」
「まさかね。なんでもないわ。行きましょ」
1,2分後に入店した私達。すでにキンガーさんたちは手続きを済ませ、PCコーナーに行ったみたいだ。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「二人です。パソコン使えますか?」
「あいてますよ〜^^ では、こちらに記名をお願いします」

少し慌てつつも、手続きを済ませ、飲み物コーナーに急いだ。
そこでキンガーさんと一旦合流し、どこに座っているか教えてもらう手筈だったからである。
カウンターから5,6歩歩いた時だった。

「お姉ちゃん!? え? 今日は仕事じゃなかったの?」
「みっこ?! え?あ? 仕事よ。」
「仕事って・・・法務省勤務でしょう?」
「法務省だけど、私は入国管理局の人間なの。今は張り込み中」と小声で話すみっこの姉。
「お姉さんなの?」とデルモ。
「そう。一番上の美香姉ちゃんよ」

343名無しさん:2007/03/09(金) 22:16:26 ID:tOXoJltE0
>171さん
野戦病院ですか、確かにそんなイメージですね。
呪いっていうのもまたリアルにはなかなか遭遇しにくい状況ですよね。
でも「手を尽くしても怪我が治らない」というのは単純なように見えて深刻な事態だと思います。
足が?がれた、血が吹き出す、などの描写がリアルで怖いくらいです。次回でラストなのでしょうか、お待ちしています。

>wikiについて
ちょっと試しに1スレ目の最初の方にあった小説をひとつUPしたのは私です(汗)
もし方針と異なるようでしたら削除して書き直しますのでなんなりと…orz

>ドギーマンさん
苦手な戦闘シーンを書いてるうちに楽しくなってきたというのは何よりですね。
本当に武道って攻撃が当たらないですよね…。自分も武道やっててそう思います(笑)
スキルなどの自分解釈は全然OKだと思いますよ。気合の使い方は思わず感動しましたよ!
「何事も気合で何とかなる」。もしかしたら、本当にそうなのかも…(笑)
ロマサガ2はご名答、ギュスターヴです。あのゲームは個人的に結構好きだったのでつい連想してしまっただけです(苦笑)

>きんがーさん
お久しぶりです。やっと続きが…!
と思ったら遂にお姉さんたち警察側と鉢合わせしてしまいましたね。
どうなってしまうんだろう、続きを待ってます。

344:2007/03/09(金) 22:18:19 ID:tOXoJltE0
× ロマサガ2
○ サガフロ2
すみませんでした…orz

345ドギーマン:2007/03/10(土) 01:24:18 ID:yvbhphlM0
『Devil』
>>231-234>>273-277>>294-297>>321-324>>336-339

リズは小さな墓の前でしゃがみ込んでいた。
葬儀などして貰えるわけもなく、ただ隣人達の手によって埋められた母の墓の前で。
簡素に土が盛り上がっているだけの墓。そこに母が埋まっているというのが信じられない。
リズはそこに花を置いた。なんでそうするのかは彼女には分からなかったが、そういうものだと聞いていた。
もちろん金の無い彼女にはちゃんとした死者に贈るための花など買う金などない。
森の中を探し回って摘んできた名も知れない花をかき集めてきたのだ。
土だらけの指で、強く握ったために茎がぐしゃぐしゃに折れ曲がってしまった花の束。
それがこんもりと盛り上げられた土のこぶの周囲に際限なく沢山に散りばめられていた。
十日間ずっと、毎日毎日花をひたすら供え続けていた。
まるでそうする事で居なくなった母へ思いを伝えようとしているかのようだった。
「おかーさん・・」
リズはただ眼を擦ってしゃくり上げていた。頬に泥が擦りついて花束のようにぐしゃぐしゃの顔を汚していった。
ボロボロの土色の布服に身をつつんだ彼女は、まるで子供のように泣きじゃくっていた。
「リズ」
背後からマイスが声をかけた。だが彼女は振り向かず泣いているばかりだった。
聞こえていないようにも見えたが、声は構わず彼女に訴え続けた。
「リズ、行こう」
「いや」
リズは駄々をこねる子供のように彼の言葉を突っぱねた。
「立つんだ」
「いや、ここにいる」
マイスはリズに詰め寄ると、その腕をぐいと引っ張った。
リズは腕を掴むマイスを晴れ上がった濡れた赤い眼で睨んだ。
「立つんだ。いつまでここに居るつもりなんだ」
「ずっといる」
「約束したろう」
「しらない」
リズはマイスから眼を逸らし備えられた花の群れに埋もれた墓に眼をやった。
「リズこっちを見るんだ」
マイスはリズの泥だらけの顔を掴んで強引に自分のほうに向き直らせた。
「いつまでもここに居ても仕方がないだろう。君のお母さんはもう居ないんだ」
「いや!」
リズはマイスの手を振り払った。だがマイスはすぐに彼女の腕を掴むと、暴れる腕を押さえ込んだ。
「リズ、俺を見るんだ」
リズは自分を見つめるマイスの青い目を少し怯えた表情でじっと見ていた。
「強くなるんだ。頼むから俺を信じてついて来てくれ」

346ドギーマン:2007/03/10(土) 01:26:05 ID:yvbhphlM0
リズははっと眼を覚ました。身体を起こすと彼女は自室の寝台に横にされていた。
そこにガチャリとドアを開けてローブ姿のイスツールが入ってきた。
「む、起きたか」
イスツールは相変わらずの仏頂面で言った。
「イスツール・・」
そう言ってイスツールの顔を見上げると、リズは自分の状態に気づいてばっとシーツを被った。
服を脱がされていて、裸体を露にしていたのだ。リズは顔を真っ赤にした。
「気にするな。別に私はそんなものを見てもどうとも思いはしない」
"そんなもの"と言われてリズは余計に顔を紅潮させてイスツールを睨んだ。
「仕方ないだろう。脱がさずに傷の治療はできん」
イスツールはリズの様子を勘違いしながらも、表情を変えずに返した。
そこでリズは部屋にもう一人いる男の姿にようやく気づいた。
椅子に座って腕を組み、首をうな垂れて眠っているマイスだった。
イスツールはリズの視線を追ってマイスを一瞥すると言った。
「ああ、鎧を脱がすのを手伝って貰った。血を拭き取るのもな。自分の部屋で寝ろと言ったんだが聞かなくてな」
リズはシーツの端を握る手に震えを感じた。枕をイスツールの顔に投げつけてやろうかと思った。
イスツールはまたリズに仕方ないだろうと言った。
「私一人で鎧を全部脱がすのは無理だ。それにこの宿には他に男しか居ないんだからな。
 それとも店の常連連中に脱がして欲しかったのか?」
リズはそう言われて押し黙ったが、外から女の人呼んで来るとか出来なかったのかと気の利かないイスツールに内心毒づいた。
ぶつぶつと何か言っている彼女を気にしていない様子でイスツールは続けた。
「傷は完全に塞いでおいた。多少痛みやぎこちなさはあるかも知れんが、しばらくすれば消えるだろう」
「そう」
リズは短く返事をしてイスツールをじっと見上げた。
「なんだ?」
「服を着たいから出て行って欲しいんだけど」
ああと言ってようやく思いついたようにイスツールはマイスを起こした。
「マイス、起きるんだ」
「え、あ」
身体を揺すられて顔を上げたマイスは少し寝ぼけた様子で部屋を見回した。
そしてベッドの中からじっと見ているリズに気づいて立ち上がった。
「リズ、大丈おぶっ」
咄嗟に近寄ろうとするマイスの顔にリズは枕を投げつけた。
「マイス、出るぞ」
「え?」
よく分かっていないマイスにようやくイスツールは状況を説明した。
「着替えだ」
「さっさと出てってよ!」
リズは大きな声で二人に怒鳴りつけていた。
バタンとドアが閉じるとリズはふうっと息をついてベッドから降りた。
身体を動かすと胸が少し痛んだ。ちらっと見下ろすと左肩口から胸の上を三本の線が走っていた。
皮膚の引きつりが生んだその線を見下ろして、リズは部屋の隅に置いてある鏡台の鏡を動かした。
顔の右側、顎から頬に向かって振り上げられた三本の線がくっきりと残っていた。
リズは黙って顔に残された傷跡を撫で、寂しそうにそれを見ていた。

347ドギーマン:2007/03/10(土) 01:27:02 ID:yvbhphlM0
マイスは廊下で少しそわそわとしていて落ち着きがなかった。
「落ち着け」
壁に持たれて不動で居るイスツールはマイスに言った。
「あ、はい」
マイスは体の動きは止まったが、視線はきょろきょろと廊下の中を彷徨った。
ふんっとイスツールはため息のように鼻息を吐いた。
やがてコンコンと部屋の中からノックされると、マイスはすぐさまドアを開いて部屋に入った。
イスツールはマイスの背中を見送ると、ドアを閉じて廊下を歩いて一階へ降りていった。
リズは布服に身を包んだ背中を向けていて、ベッドに歩いていくとその上に座った。
しかしマイスのほうを見ずに顔を背けて横を向いていた。
マイスは部屋に入るとさっき自分が寝ていた椅子を持ってきてリズの前に置いて座った。
「具合はどうだ?」
「大丈夫、大したことないわ」
「そうか」
マイスは自分のほうを見ようとしないリズが気になってはいたが、ほっとした様子で言った。
「何があったんだ?」
「・・・・・・」
リズは何も答えなかった。顔を背けたままで、不機嫌そうに見えた。
「教えてくれ、誰にやられたんだ?」
「やられてなんていないわ。気にしないで」
突き放すように言うリズにマイスは問い詰めた。
「気にするなと言われたって無理だよ。頼むから俺を見るんだ」
リズはマイスの言葉を無視して眼を逸らしたままだった。
「大丈夫よ、生きてるんだから。だからもう気にしないで」
「リズ」
マイスは椅子から立ち上がるとリズの顔を掴んで強引に自分の方に向き直らせた。
リズは驚いて咄嗟に手で自分の頬を隠した。
「離して!」
そう言うとリズはマイスの手を払って立ち上がると彼の胸に手の平をぶつけて突き離した。
後ろに突き飛ばされたマイスの足が椅子にぶつかり、ガタンと椅子が倒れた。
そして彼に背を向けて大きな声で言った。
「出てって!」
「リズ・・」
驚いた様子でマイスは背を向けて俯く彼女を見ていた。
「早く出てってよ!」
リズの大きな声が部屋の中に響いた。
マイスは仕方なく黙ってリズの部屋を出ると、ドアをバタンと閉じた。
部屋の中、一人残されたリズはベッドの脇にへたり込んだ。
そしてシーツをぎゅっと握ると顔をベッドに押し付けた。
部屋の隅の鏡台の鏡は返されていて、部屋にはしゃくりあげる彼女の呻きが響いていた。

348ドギーマン:2007/03/10(土) 01:35:06 ID:yvbhphlM0
あとがき
当初の予定を超えてかなり話が長くなりつつあります。
もちろん『手記』のほうも進めるつもりですが、
どうにもネタが・・・w
なんとか頑張ってみます。

>>344
ごめんなさい、俺がロマサガ2って書いちゃったおかげで・・・w

>キンガーさん
続きお待ちしておりました。
警察側との接触、同じ人物を見ているとなると・・・。
相手は二人の予想外に危険な人物ですからね。
果たしてキンガーさんは無事に犯人を捕まえられるのでしょうか。
捕まえるのは一緒に張り込んでいる警察ですが。

349名無しさん:2007/03/10(土) 17:56:37 ID:kUDUqKYk0
>ドギーマンさん
恋愛的なお話が入るとどうしても長くなってしまうのは仕方ないと思いますよ。
私はこの三角関係(?)を読むのが面白いですから気になりませんよ。
ところで最初(ネクロの頃)のエムルも好きなのですが登場してくれるだろうか…(笑)
手記は実際に取材されてるんだろうなぁ…町中のNPCの話を聞くだけでも大変そうです。
ロマサガにつてはお気になさらず(笑)

350ドギーマン:2007/03/11(日) 07:51:51 ID:yvbhphlM0
■月●○日
小都市ビッグアイ
ビガプールに隣接する小都市とは名ばかりの廃墟の町。
ナクリエマ仕官学校があることで有名なこの場所には、現在多くのテントが建っている。
私はここでビガプールで会えなかったもう一人の友、ウォルドに会うことができた。
彼はテントの群れの中で兵士達と共に生活していた
どうやら現在は兵士や仕官候補生よりも傭兵達のほうが多いらしい。
たくさん立っていたテントは傭兵達の住居らしく、何かに対する防衛のために彼らは雇われたらしい。
聞いてみたところ彼ら自身何故雇われたのかは分かってはいないそうだ。
現国王タートクラフト=カイザー=ストラウスの命令で彼らは雇われているらしいが…。
ウォルドに聞いたところによるとどうやら重大な国家機密に関わることらしいが、話してくれた。
かつて、ビッグアイが小都市であったときのこと。
正体不明の怪物が突如街に襲来し、激しい戦闘が起こった。
町並みは跡形も無く破壊され、多くの兵や住民が死亡した。路石の黒ずみはそのときの血だという。
結局その怪物は消えうせ、倒したともまだ生きているとも言われていた。
だが、その後街の復旧作業中に唯一破壊されずに残った監視タワーの地下から大きな獣の呻き声が聞こえてきたのだという。
住民達は不安がり、ついに現国王が直接視察に訪れた。
そして監視タワーの地下、火酒倉庫にあの怪物が潜んでいることが分かったのだ。
しかも怪物はそこで多くの魔物を次々と生み出し、そこは既にモンスターの巣窟と化していた。
王は復旧作業の中止を命令し、そして厳戒態勢が敷かれた。
兵力をビッグアイに集め、そして多くの傭兵達を雇い入れて警備に当たらせた。
街は、さながら巨大な前線基地と化した。
獅子身中の虫、いや虫どころでは済まないかもしれない怪物が国の中心のすぐそばに居ると知れれば、
国民は混乱し、ゴドム共和国に付け入れられる恐れがあった。
いくら関係は緩和されていても他国であることには変わりはないのだ。
街一つを壊滅させるほどの怪物。並みの兵力では太刀打ちできないだろう。
繁栄を見せるナクリエマに、大きな陰りが見えた。

351ドギーマン:2007/03/11(日) 07:54:22 ID:yvbhphlM0
あとがき
ビッグアイです。
狭いためNPCからの情報が少ないです。
メインクエと絡めてなんとか形にはなりましたが。
う〜ん・・・

352ドギーマン:2007/03/11(日) 07:58:57 ID:yvbhphlM0
マイスは少し寝不足な様子で、腫れぼったい眼で少し眠たげに一階の食堂に降りてきた。
イスツールが主人の出してくれたワインに口を付けていた。
イスツールは一階に下りてきたきり黙ったままのマイスの隣の席に座ると、「何かあったのか?」と問いかけた。
だがマイスは何も答えなかった。
建物の外は真っ暗で、まだ深夜だった。
実際のところリズが傷だらけでこの宿に帰って来てからそれほど時間は経っていないようだ。
マイスは椅子で眠っていたせいか首が少し痛かった。
背に手を回してうなじの辺りを押さえて、う〜んと唸って伸びをして目をしょぼしょぼと瞬きした。
睡眠時間はかなり短かったし、もう忘れ始めているがリズを旅に連れ出したあの日の夢を見た気がした。
とっくに食器をしまい終えている主人はカウンターの向こうでイスツールが飲み終えるのを待っている。
「自分の部屋で寝てきたらどうだ。朝にはまだ早いぞ」
「はい」
そう返事をしたもののマイスはカウンターに座ったまま動かなかった。
マイスはリズに何があったのだろうと考えていた。
顔の傷のことならリズが戻ってきたときに既に見ているし、
治療のときにも傍にいたから傷跡が残ってしまっている事なら知っていた。
マイスはそんな事など気にしていなかったのだが冒険者としてはまだ日の浅いリズにしてみれば、
それは初めてついた大きな傷跡であり、しかも顔に残ったとなれば。
女性である彼女にとってはショックだったのだろう。
マイスはふぅっとため息をついて配慮の至らなさを恥じた。
ずっと子供に物を教えるように接してきたせいか、彼女が一人の大人の女性だという認識に欠けていたのかもしれない。
あとで謝ろう。
それにしても、何故リズは誰に襲われたのかを話してくれないのだろう。
彼女の方から仕掛けたからだろうか。だがそれは無いように思われた。
いくら気性の激しいリズでも自分から進んで他人に攻撃を仕掛けようとはしない。
それぐらいの分別はあった。彼女の教育係でもあったマイスにはその確信があった。
では一体何故。
マイスはリズの身体に付けられた傷跡から誰にやられたのかを推理した。
複数の等間隔に並んだ鋭利な刃物による刀傷。鉤爪だろうか。
爪を扱う者はそう多くはない。モンスターを除けばウルフマンや武道家だけだ。
だがウルフマンの爪ならあそこまで綺麗な等間隔に傷は付かない。それにもっと傷口が荒れる。
武道家。素手を好む者が多い中、中には鉤爪を扱う者も居る。
そしてマイスにはようやく思い当たる人物が居た。
あの時の酔っ払いか。
そしてリズが話そうとしない理由に納得した。
突然席を立ったマイスは宿の主人に怪訝な表情を向けられながら二階へ上がっていった。
そしてしばらくして大剣を担いで戻ってくると、
「すいません、思い出したことがあるので行ってきます」と言い残してさっさと外へ出て行こうとした。

353ドギーマン:2007/03/11(日) 07:59:48 ID:yvbhphlM0
「待て」とイスツールはマイスの背中に呼びかけた。
「何か思うところがあるのかも知れないが、やめておけ」
イスツールは陶製のコップに注がれたワインを楽しみながら言った。
マイスは足を止めた。
確かに、あいつが何処に居るかも分からない。
もしかしたらリズが倒してしまったのかも。
それにもしまだ生きていたとしても、
「今のお前に何が出来る?」
イスツールは歯に衣着せず言い放った。
「おいおい」と完全に外野扱いにされていた主人が今の言葉の意味は察したのか横槍を入れてきた。
「イスツール、言いすぎだ」
気にした様子もなく飲んでいるイスツールにそう言って主人はマイスに顔を向けた。
「マイス気にするな。俺は信じてる。お前はやるときゃやれる男だ」
だがそんな主人の慰めも今のマイスには憐れみとしかとれなかった。
「そいつに何を言っても無駄だ」そう言い放ってイスツールは知らん顔でコップを煽った。
「おい!」主人は怒鳴ってイスツールを睨みつけた。
「やめて下さい」
カウンターから走り出て座っているイスツールに食って掛かる主人をマイスは言った。
イスツールが座っていた椅子が倒れて床で背もたれが跳ねた。
マイスは主人を取り押さえようとしたが、イスツールは動くなとマイスに言った。
ローブの胸倉を掴まれたイスツールは表情を変えずに主人に言った。
「そのろくに力も込められない左手で俺を殴るのか?そんなもの私には効かない」
主人はチッと舌打ちすると、イスツールの顔を左拳で殴った。
イスツールは頬を殴られて顔を少し逸らしたが、本当に効いていないようだった。
「前々から気に入らなかったがな、お前のその人の気持ちを考えない言いようはなんだ!
 何百年も生きていて、人の気持ち一つ理解できないのか!」
イスツールは胸倉を掴む主人の手首をぎゅっと握り、強引に引き剥がした。
手首を強く握られて痛みに顔を歪める主人にイスツールは言った。
「本当の事を言って何が悪い?私はお前達人間とは違う。
 ただ神と、志半ばに死んでいった同胞のために使命を全うするだけだ。そのためだけに私は生きている」
主人は握られた腕を引き戻し、手形が残る手首を押さえながら言った。
「へっ、ならさっさとマイスと別れちまえばいいじゃねえか。その使命とやらのために俺を見限って捨てた時のようによ。
 誰よりもこいつが立ち直るのを期待してるのはお前なんじゃねえのかよ!なんで素直にならないんだ」
イスツールはその言葉に何も答えなかった。
黙って椅子を立ち上がらせてカウンターの下に突っ込むと、主人の脇を通り抜けた。
そして「馳走になった」とだけ言って二階へ上がっていった。
マイスはただただ立ち尽くしてイスツールを見送っていた。
主人はイスツールが残していった陶製のコップを掴み上げると、カウンターの向こうに戻って洗い始めた。
「全く、図星だとだんまりを決め込むんだからな。いつもそうだ、自分勝手な奴でよ。
 本当の事ばかり言うくせに、本当の気持ちはちっとも言わないんだ。タチが悪いぜ」
マイスは黙って主人の顔を見た。主人は少し笑っているようだった。
「おい、さっさと寝ろ。お前達のせいで寝る暇がほとんど無くなっちまった。迷惑な客だよ全く」
「・・はい」
そう言い残してマイスは二階へ続く階段をあがって行った。
洗い終えたコップを拭きながら、主人は壁に掛けた剣を眺めた。

354ドギーマン:2007/03/11(日) 08:00:33 ID:yvbhphlM0
前後上下左右の感覚が全くない、真っ暗な闇の空間の中にエムルは居た。
そしてその闇の空間の中心、周囲との判別もおぼろげながら、一層濃い闇色の玉が彼女の前にあった。
エムルは意識のなかで作り上げた自身の身体を抱いて、
遠く闇を眺めながらまるで辟易したという様子でその玉に言い放った。
「毎晩毎晩、呼び出さないでくれる?」
「お願い、もうやめて」
エムルを生み出した母、肉体の前の宿主、エルムの声が真っ暗な空間に響いた。
悲痛な叫び声を聞きながらも、エムルは顔色一つ変えなかった。聞く耳持たないという様子で玉から眼を逸らしていた。
「今更遅いわ。もう誰にも私を止められない」
「体を返して」
エムルは玉を冷たい表情でじろと睨みつけた。
「あなたがくれたんでしょ。今更返せと言われて、はいそーですかといくもんですか」
「こんなこと・・」
エムルは前髪を掻き揚げると、はっ!と嘲るように言った。
「こんな事ですって?これは全てあなたが望んだことよ」
「違う」
エムルは顔を突き出して黒い玉に顔を近づけた。
「いいえっ、違わないわ。あなたが望んだから私は生まれた。
 あの人が欲しい。あの人を支配したい。あの人を独占したい。その欲望が私を生んだのよ」
「違う!私はただ・・」
エムルはふんっと言って顔を離すと、玉を汚ない物を見るかのような目つきで見た。
「煩いわね。あなたは黙ってここから見ていればいいのよ」
「もう、やめて・・」
エムルは苛立ちを隠せない様子で玉を睨みつけていた。
そして黒い玉に対して笑みを浮かべて蔑んだ。
「あなた以前の自分の姿忘れたの?あの酷い、醜い姿。
 仮面を被ったほうがマシだなんて。あんななりでよく生きてこれたわね」
「・・・・」
「あなたなんかじゃあ、あれっきり二度と彼と目を合わすことも出来なかったでしょうよ」
「・・・・」
「暗い地下の部屋でおぞましい骸骨と一生慰めあって生きるなんて、考えただけでゾッとするわ」
「フェローを悪く言わないで。私の大切な、友達なのよ」
はっ!とエムルは大きく吹き出すと、堪えられないという様子で腹を抱えて笑い出した。
あははははははとエムルの大きな笑い声が響いた。
その笑い声をただ聞くことしか出来ないでいる黒い玉は、打ち震えているようだった。
あー、と言って笑い終えたエムルは唇の端を吊り上げて玉に言った。
「あの紛い物の命が友達ですって?どうせ人形みたいにあなたが操ってたんでしょ。
 人形に話しかけて、人形から返事して貰った気になって、本当に寂しい人ねあなた」
「操ってなんかない。フェローの意思に干渉したことなんて一度もないわ。彼は本当に、本当に私の友達だったのよ・・」
確かに彼女達の魂が分離し、入れ替わった後もフェローは変わらず活動し続けていた。
「あ、そう」
エムルはつまらなそうに素っ気無くそう答えた。
「とにかく、あなたなんかが身体を持ってもどうせ何も出来ないでしょ。彼だって、あなたなんか気にもかけないわ」
「もういい、それでもいいの。こんなこと間違ってる」
「もう遅いって言ったでしょ。私のおかげで彼をここから見ていられるんだから。せいぜい幸せに思いなさい」
エルムは泣いているのだろうか、泣き声交じりの叫び声を上げた。
「お願い、もうやめてぇ!こんなこと望んでない」
「しつこいわね。何を言ったって無駄って分からないの。じゃあ、私はもう行くわ」
そう言うとエムルは踵を返して玉から離れていった。
「待って!」
闇の彼方に消えていこうとするエムルに牢獄に閉じ込められた魂は叫んだ。
暗い、真っ暗な闇の空間の中に彼女の声は響きもせずかき消された。
やがて闇にすっと横一線に切れ目が走り光が差し込んだ。
エムルは目を開いた。

355ドギーマン:2007/03/11(日) 08:01:42 ID:yvbhphlM0
エムルは宿の前でマイスが出てくるのを待っていた。
昨日の晩、負傷したリズの後を追ってこの宿を知った。
そしてマイスもそこに居ることも知った。
エムルは昨晩、宿の戸を開けた傷だらけのリズを抱いて中に運んでいくマイスの姿を見ていた。
マイスの腕の中に抱かれたリズの姿を目の当たりにしたとき、彼女は嫉妬の感情に支配されかけた。
だが、なんとか感情を抑えていた。
エムルはマイスに声をかけたあの日と同じ黒いボンデージに身を包み、道行く人間達の注目を一身に集めていた。
しかしいつもと様子は違うようで、その表情にはいつもの妖しい笑みはなく、何かに苛立っているようだった。
だがすぐにその表情も晴れた。
待ちに待った人物がようやく姿を現したのだ。
だが人物はすぐ道の反対側に居る自分と眼が合ったにも関わらず、すっと視線を逸らしてさっさと道を歩き出した。
エムルは彼のつれなさにショックを受けたが、すぐにその後を追って足を進めた。
「ねえ」
そう声をかけたエムルをマイスは無視して歩き続けた。
「ねえ、待ってってば」
「悪いが用事があるんだ」
マイスはエムルには目もくれず歩き続けた。
長い髪を揺らしながら彼の後ろに追いすがるエムルは、仕方なく止まらない彼に言った。
「闇雲に探したってあいつは見つからないわよ」
その言葉にマイスは驚いてようやく立ち止まった。
「知っているのか?」
エムルはそう言って振り向いたマイスの顔に笑みを向けた。
当たり前よ。私が仕組んだんだから。
内心でそう呟いた。
「ついて来て」
そう言っていま歩いていた道を反対に進みだした。
今度はマイスがエムルの後を追いかける番だった。

356ドギーマン:2007/03/11(日) 08:03:45 ID:yvbhphlM0
小さな洒落た喫茶店の中、不釣合いな姿のエムルはじろじろと眺めるウェイトレスにモーニングセットを注文した。
朝食はまだなのだそうだ。
エムルに続いて興味深げに見られるマイス、絶対に誤解されているだろう。
マイスはウェイトレスにお茶だけを注文してさっさと引っ込んで貰う事にした。
そして周囲の視線を何とか意識の外に追いやろうと努め、エムルを見た。
エムルはというとテーブルに両肘をつき、両の指を絡め合わせていた。
黒い手袋に覆われた人差し指の先が紅い唇に触れている。まるでマイスにそこを意識させるかのように。
その紅い瞳はじっとマイスだけを見つめていて、見惚れているかのように目元が緩んでいた。
マイスは何も話を切り出そうとしないエムルについに我慢できなくなり、口を開いた。
「君は、何を知っているんだ?」
そう言われてエムルは思い出したように話し始めた。
「全てよ」
「全て?まさか・・」
マイスは目を見張った。思わず腰が椅子から浮いた。
エムルはマイスをなだめる様に両手の平を彼の方に向けた。
「勘違いしないで。私も命を狙われてるんだから」
「・・どういう事なんだ?」
マイスは腰を再び椅子に落ち着けた。
エムルは喫茶店の開け放たれた窓の外に目を向けた。
朝から賑やかな都会の往来が見える。
「ここに来るまでに通った商店街の道、覚えてる?」
エムルの横顔が発した言葉に、マイスは表情で疑問符を浮かべた。
「ねえ、覚えてる?」
エムルはマイスに目を戻してもう一度聞いてきた。
マイスにはそれとさっきの言葉におよそ繋がりがあるとは思えなかった。
しかし、思い当たるところがあったので彼女の質問に答えた。
「あの酔っ払いに殴られた場所だ」
「それだけじゃないわ」
エムルは顔を小さく左右に振ってそういった。
「私達が初めて出会った場所よ」
「何を言ってるんだ?」
あの時、エムルと思われる人物はあの場には居なかった。
野次馬の中にも、たぶん見かけなかったはずだ。
マイスの表情にエムルは悲しそうに眉を寄せた。
「言ったでしょ。私はあなたに助けられたって」
そう言われて、マイスは目を見開いて驚愕した。
「まさか・・」
「そう、あのとき、あの酔っ払いにからまれてたのが私よ」
「いや、でも・・」
余りにも違いすぎる。顔こそ見えなかったが体型が、身長が余りにも違いすぎる。
「信じられないのも無理もないわ。でも私は姿を変えて生まれ変わったのよ。
 そして、あなたと同じく今もあの男に命を狙われているわ」
マイスは呆然として何も言えなかった。そして信じられないという表情でエムルの姿をじっと見ていた。
エムルは顔を両手で覆って突然泣き出した。
「あなたが拾い集めてくれたあの骨、友達だったの、本当に・・大切な・・・・フェローって名前で・・・、
 だけど、だけど、あの男に・・・・・私を守ろうとして・・・」
マイスは慌てて彼女を慰めた。
「すまない、そういう事情だったとは知らずに、俺は・・・。君の事を疑っていた。本当にすまない」
エムルは目を擦りながら顔をあげた。
「いいのよ、ごめんなさい。取り乱してしまって」
エムルは落ち着きを取り戻すと、これまでの経緯を再び話し始めた。
あの日マイスに助けられたあと、ずっとあの男に付け狙われていたらしい。
執拗に追い詰められ、フェローは彼女の身代わりになってあの男に殺されてしまった。
怖くなったエムルは姿を変えて男の目を振り切った。
だが何とかフェローの仇を討ちたくて、それとなくマイスに接触を図った。
他に頼れる人が思い当たらなかったのだそうだ。
だがその時には既に男の照準はエムルからマイスに移されていた。
あの男はマイスには特に強く恨みを持っているらしく、マイス本人を狙う前に彼の周囲の人間を狙い始めた。
そしてその犠牲となったのが・・・、
「リズか・・」
「ええ」
「あの男はここ最近あなたに接触を持った人間を無差別に襲うつもりよ。だから、私もいずれ・・・」
そう言ってエムルは俯くと身体を震わせた。
マイスはテーブルの上のエムルの手をぎゅっと握った。
「大丈夫だ。俺が、君を守ってみせる」
その言葉にエムルは喜びの表情を見せたが、すぐに表情を曇らせた。
「でも、あなたはいま戦えないんでしょ・・」
マイスはそう言われて押し黙ってしまった。
エムルはマイスの手を自分の手から外すと、逆に彼の手を上から握り返した。
「でも、手が無いわけじゃないわ」
「え?」
顔を上げたマイスに向かってエムルは妖しい笑みを浮かべて言った。
「私と契約を交わすのよ」

357ドギーマン:2007/03/11(日) 08:14:41 ID:yvbhphlM0
あとがき
実は最初のほう読んで頂けると分かりますが、
ネクロマンサーの名前はエルム、悪魔の名前がエムルなんです。
同一名は紛らわしいかなあと思って別にしたんですが、
エルムのほうの登場があまりにも少ないために
読み手の方からはエムルで統一されてしまったようですね。
同一にしとけば良かったなあと今反省しつつ、
もう書き込んでしまったので分けることにしました。

>>349
登場しましたよネクロのちみっこエルムが。
言われたからではなく、そろそろエルムとエムルに会話させようと思って書いてましたからね。
ちょっとドキっとしました。

358名無しさん:2007/03/11(日) 11:02:32 ID:xjutXW.c0
>ドギーマンさん
ビッグアイ、ダメルと同じくらい寂れているような気がするのはそんな理由が…。
「大きな目」という名前も「見張り」という意味のように聞こえますね。
メインクエ、私は火酒倉庫から先に進めずはや一ヶ月。ここさえクリアしちゃえば楽そう…でもないのか(苦笑)

おぉ、偶然にも登場してくれましたね、ちびっこエルム!
ところでイスツールも結構好きになってきました。厳しい性格の天使さんっていうのも何となく新鮮です。
エルム、エムルの名前は失礼しました…orz どうしてもセクシー悪魔なエムルさんの方が印象強くて(笑)
契約というのは何だろう…悪魔の契約系スキルなどはまったく知識が無いのでどうなるのか楽しみです。

359名無しさん:2007/03/11(日) 12:07:30 ID:2BEKkPTQ0
テスト

360318:2007/03/11(日) 13:40:36 ID:kohE0f8U0
>>343さん
レス遅くなってしまってすみません……orz
携帯から書き込もうと思ったのですが、規制されてるみたいでした。
確認させていただきました! あんな感じで良いと思います。
私も更新の仕方など調べて、まとめたいと思いますので、どうか手伝っていただけると嬉しいです。

361ageパン:2007/03/12(月) 02:13:40 ID:S5RP8Cs.0
   2本目のタバコ

 天気の良い暖かい穏やかな日だった。私は噴水のふちに座りタバコを吸っているとふと
視線の先に見えたブルネンシュティグ魔法高等学校の屋上で、タバコをふかしている生徒
の姿が目に入った。この時間は授業の時間だが、こんな天気を授業のためにフイにしてし
まうにはもったえないと思ったのだろう。彼の気持ちは理解できる。私が生徒ならそうし
たであろうから。そういえば私が初めてタバコを吸ったのもあの場所だったきがする。私
はそのとき、ふと一人の男のことを思い出した。

 昔、神童と呼ばれた男がいた。古都の工業区を古くから取り仕切る一家に三男として生ま
れた彼は、初・中・高と魔法学校をトップの成績で卒業という快挙を成し遂げ、そしてさ
らにその上の大学を特別推薦で入学、将来を有望視されていた。だが彼は大学入学半年後、
暴力事件を起こし退学となり古都を去っていった。有名な話だが彼の人付き合いは決して
まともとは言えず、中等学校卒業の頃には裏社会でも顔のきく不良達の親分になっていた。
そんな彼と私が知り合ったのは、私が高等学校三年ころのことだった
ある日、私が授業をサボって校舎屋上のベンチで本を読んでいたときのことだった。彼は
どこからともなくやってきて私の隣に座り胸のポケットからタバコを取り出して言った。
「吸っていいか?」
「ああ。」
 高級なタバコであることは見た目と香りでわかった。
「あんたも吸うか?」
「いや、私はたばこはやらない。」
 それから私たちは会話を交わさなかった。校内でのうわさで私は彼のことを知っていたが、
多少の落ち着きをもったその雰囲気があの噂にどうつながるのかがわからなかった。無論、
タバコを平然とベンチで吸うあたりの感覚とその派手な身なりはまともであるとは言えな
かったが。彼はタバコを吸い終えるとベンチの金具にタバコをこすり付けて火を消し、内
ポケットからケースを取り出すとタバコの吸殻をそれに捨てた。彼はスッと立ち上がると
遠くを眺めて、それから去っていった。
 その日の午後、高校での授業を終え古都の井戸付近を自宅へ向けて歩いていると、道の反
対側を歩いていた数人の不良たちに肩をぶつけた運の悪い女がいた。女は懸命に謝罪して
いたが男たちはニヤニヤしながら建物と建物の間にある細い裏道へと女を引っ張っていっ
た。その数人の不良の中にはあの彼の姿もあった。あたりに人通りはなく、目撃したのは
私くらいのものだった。私は彼らの後を追った。

362ageパン:2007/03/12(月) 02:15:07 ID:S5RP8Cs.0
 細く暗い路地の奥で女はしゃがみこんですすり泣き、不良たちはそれを囲んでいやらしい
笑いを浮かべていた。彼はあの時と同じタバコを吸いながら不良たちのしていることを眺
めていた。私は不良たち後方の物陰に隠れ様子をうかがった。
「いてえなぁお譲さん。」
「彼、腕が折れてしまったかもしれないねぇ。」
「そんな…肩があたっただけで腕が折れるとは思えません。でもぶつかってしまったこと
はあやまります。」
 女は必死にあやまっていたが彼らはそれすら楽しんでいるようにみえた。あの男は相変わ
らずつまらなそうにタバコをふかしていた。
「詫びをもらおうか…」
 不良のうちの一人が懐からナイフを取り出し女が着ている服の胸元を滑らせると、服が裂
かれ肌が露出し女は手でそれを隠した。不良たちは口笛を吹いて目を細めた。私は腰にか
けていた杖を手に持ちかえた。あの男を含め全部で4人。不意をつけば一瞬だ。私は杖を
かざししゃがみこんでいる女にミスティッグフォッグをかけると同時に不良たちに向かっ
て走り出した。突然起きた変化に驚いた彼らはやみくもにナイフを構えたが無駄だった。
私にとって一番手前にいた男の左わき腹をクリティカルヒットでたたきつけると、驚愕の
表情をみせていた二人目の男の腹部を蹴り上げ、下がった顎めがけ左下から右上に杖を振
り上げた。三人目の男はナイフで私に切りかかったが、それをよけると同時に足をかけて
転ばせ、うつぶせに倒れたところに無防備の延髄を杖の柄で叩き気絶させた。私はしゃが
みこんでいる女を一瞥すると、あの男へ視線をうつした。彼はすこし驚いた表情をみせ私
をじっと眺めている。ウィザードというにはあまりにもがっちりとした体格、背は180
センチ以上だろうか。髪は短髪で金髪のオールバック、両側頭部が黒く染めてある。黒の
タートルネックに金のネックチェーン、黒のズボンに金のバックルのブランド物のベルト、
鈍く輝く茶色の革靴。そして袖を通さずに羽織っている白い毛皮のロングコート。見るか
らにいかつい男だった。そして彼が少し動くたびに見える腰にかけられた銀色の杖…鋼の
杖。彼はコートの内側のポケットからケースを取り出すと、レンガの壁に押し付けて火を
消したタバコをそれに捨てた。

363ageパン:2007/03/12(月) 02:16:31 ID:S5RP8Cs.0
「なんだお前ら、そのくらいで伸びちまいやがって…。なさけねえ。」
 彼はそういいながら腰にかけていた鋼の杖を手に取り、普通のウィザードが持つよりも少
し長めに持ち、私をにらみつけた。
「何のようだ。まさか道を聞きに来たわけじゃねえだろうな。」
 彼は低く響く鋭い声でそう問いかけたが私は返事をしなかった。だが彼は私の反応とは関
係なしに私の顔をしげしげと眺め何かを思い出したようにいった。
「あぁ、あんた昼間屋上のベンチで本読んでた兄ちゃんじゃないか。邪魔しねえでくれよ、
せっかく人が楽しんでたところなのに。」
「ぜんぜん楽しんでいるようには見えなかったが。」
 私がそういうと彼は軽く笑った。
「ははっ、…やっぱりわかるか。そう、面白くねえんだこれが。まったくもって何にも面
白くねえ。行く先々でトラブル起こしてはみるものの全然面白くねえんだ。でもよ、今か
らはそうでもなさそうだ。おい、女。」
 彼がそういうと、私の後ろでしゃがみこんでいた女は突然の指名におどろいてかん高い声
でそれに「はいっ。」と答えた。
「この兄ちゃんが俺の相手してくれるっていうからよ、あんたはもう消えてもいいぜ。」
 女は私の顔をみあげて私の返事を待っていた。私はいった。
「いいよ、行ってくれ。私がなんとかしておく。」
 女は立ち上がると深々と私に頭を下げると男をキッとにらみつけて走り去っていった。そ
んな視線などおかまいなしに男は二本目のタバコに火をつけた。
「あんな女助けてなんになるってんだ。正義のヒーローでも気取りたかったのか?」
「不意打ちで三人なぎ倒してお前を追っ払ったところで、あの女をいただいちまおうと思
ったのさ。最近女を抱いてないものだからね。」
「はは…ははははは!そうか、助けた女を抱いちまおうとしてたのか!そりゃいいや!し
かしあんた分からねえ男だ。授業をサボって屋上なんかにいると思えばおとなしく本なん
か読んでやがるし、女を襲ってる暴漢をとめに入ったかと思えばその女をいただいちまお
うとたくらんでやがる。俺はシャラク。シャラク・マーロウってんだ。あんたは?」
「私はアレキサンダー・ヒューネン。」
「ふーん、でアレックスよ、止めに入ったはいいがこの収拾をどうつけるつもりだ?この
伸びちまったやつらはいいとして、俺はまだぴんぴんしてるんだぜ?まさかこのまま帰る
とはいわねえよな?俺は退屈してるんだぜ。」
「できれば君とはことをかまえたくない。」
「おいおい、いきなり三人のしといて言う台詞じゃねえな。女を逃がしちまったのはかま
わねえが、部下がやられた以上俺も黙っておくわけにもいかねえんだ。ケジメだけはとっ
てもらおうか。」

364ageパン:2007/03/12(月) 02:21:07 ID:S5RP8Cs.0
 その瞬間、彼は吸っていたタバコを私の顔めがけて投げつけた。それをよけた私の顔面に
鋼の杖が振り下ろされが、私は上体をそらし攻撃を避けバックステップで距離をとると杖
を回し気を集中させ魔力を溜めた。それを見たシャラクは嬉しそうに笑みを浮かべると私
に答えるように杖を回し始め魔力を溜め、杖を振りかざした。一瞬シャラクの体を光の翼
が覆った。ヘイストだった。私はおどろいた。教科書やかなり高度な技術をもったウィザ
ードくらいからしか見たことのない魔法を、彼は齢17,8にして扱うことができていた
のだ。神童の呼び名は伊達では無かった。シャラクはすさまじい勢いで私の懐まで飛び込
むと杖を水平になぎ払い、それをしゃがんでよけた私のみぞおちに続けざまに前蹴りを食
らわした。壁に叩きつけられた私を彼は休ませてはくれなかった。自分の背中につきそう
なほど振り上げた鋼の杖をすさまじい勢いで振り下ろしてきた。私の振り上げた山登り杖
と鋼の杖とがぶつかり合いシャラクと私の視線が交錯した。鍔迫り合いになったが彼は左
手で私の胸ぐらをつかみ引っ張ると足をかけて私を転ばせた。私がそのいきおいにまかせ
前転し態勢をもちなおし立ち上がろうとしたところにシャラクはすばやく距離をつめなぎ
払いを一撃放ったが、私の唱えたトルネードシールドがその攻撃を阻み彼を吹き飛ばし壁
に叩きつけた。今度は私の番だった。私は4つのファイヤーボールを浮かばせると壁によ
りかかっている彼めがけありったけの力をこめて放った。彼はそれに反応し鋼の杖をかま
えると打ち落とす体勢をとったが、続けざまに唱えたロックバウンディングが不意を付か
れた彼の身動きを取れなくさせ、瞬時のテレポーテーションで彼の背後を取った私は隙だ
らけの背中にチリングタッチを放った。普通ならこれで終わるはずだった。だが彼は違っ
た。私の放ったファイヤーボールをウォーターキャノンでかき消すと、完全に決まりきる
前のロックバウンディングをレビテイトでかわし、振り向きざまのクリティカルヒットで
私のチリングタッチを受け止めた。あまりのすさまじさに冷気が裂かれ杖のきしむ音が聞
こえた。あまりにも完璧な対応だった。私は彼との鍔迫り合いを強引に押し払って距離を
とると、苦し紛れに放ったクリティカルヒットが思いのほか彼の側頭部をとらえた。彼の
頭が勢いよくはじかれ上体がのけぞり、鮮血がほとばしった。が、彼は自分の鋼の杖をみ
つめたままその場を動かなかった。
 私が彼との距離を一定に保ちながらその様子をうかがっていると、彼はレンガの壁のほう
に体を向け自分の杖をレンガの壁に叩きつけた。鋼の杖は音を立てて砕けた。
「こんな硬ぇ鋼でも、冷気にさらされりゃあこんなもんか…。杖がなけりゃウィザードな
んて商売あがったりだ。俺の負けだな。…好きにしな。」
「なんでウォーターキャノンが撃てるのに私のチリングタッチをクリティカルヒットで受
け止めたんだ。チリングタッチで受け止めていればそうはならなかったはずだ。」
「俺には俺のやり方があるんだ、戦い方まで口出しされる覚えはねえ。」
「怒らないでくれ。素手の君とやりあっても勝てるとは思ってない。」
「なんだそりゃ、トドメをささねえのか。あまいよアンタ。」
「私には私のやり方がある。口出しされる覚えはない。」
「………」
「それに」
 私は杖を腰にかけなおすとあたりを眺めてからいった。
「こんなごたごたに首を突っ込むものじゃないな。儲からないし疲れるし、女の名前を
聞くのも忘れてた。」
「気づくのが遅ぇよ。」
 彼は笑っていった。

365ageパン:2007/03/12(月) 02:24:51 ID:S5RP8Cs.0
 それ以来、私が校舎の屋上で本を読んでいたり昼食をとっていると時々彼がやってきて話
をするようになった。彼とは気が合った。物事の考え方や価値観が似ていたこともあるだ
ろうが、なにより私の興味を引いたのは時折彼が口にする世界観が一般的な人間のそれと
はかけ離れているときがあったこともある。だがそれは大金持ちの家で育った彼らしく、
私が一般的な感覚で物事を述べると私が驚いたように彼も驚いていた。
「それにしてもよ、お前はなんでいつもこんなところに一人でいるんだ?」
「友達がいないからだ。」
「友達を作りに学校に来てるわけではないだろう。」
「それもそうだけどね。だけど特に気が合いもしないやつらと一緒にいるのは、それだけ
で気が疲れるものだ。疲れるのはいやだ。勉強なんてここでもできるしな。」
「したことないくせに何いってやがるんだ。」
 思わず私たちは笑った。
「君はいつも大勢の人間と行動をともにしてるが、ずいぶんと人望があるみたいだね。」
「皮肉はよせよ。あいつらはただ俺が怖いからついてきてるだけだ。邪魔でたまらねえ。
向こうは俺のことを利用しようと思ってるだけで、それは力を持ってる人間なら俺じゃな
くて誰でもいいんだ。人間ってのは自分にとって利益のある人間としかつながりを持たな
い生き物だが、それだけが目的でしかもそれが見え見えの付き合いほど吐き気をもよおす
物もねえよ。だがそれももうどうでもいい。以前はいつかはそれが役立つかもしれないと
思っていたが、最近になって考え方が変わったよ。一人のほうが楽でいい。ゴミなんて持
っててもいつまでもゴミのままだった。」
 シャラクはマッチをすってタバコに火をつけた。その先端から立ち上る煙が彼の額のすぐ
真上の髪を軽くなで風に揺られて消えた。彼はベンチから立ち上がると手すりのところま
で歩いていき手すりにもたれながら校舎の下を見下ろした。校庭では野外の授業を行って
いるグループがいくつかあった。
 私は彼の隣に行くと手を差し出した。
「なんだ。」
「私も一本もらおう。」
「吸い方知ってるのかよ。」
 彼はそういいながら笑い、ケースを軽く振り一本だすと私に差し出した。私はタバコを口
にくわえると彼がマッチの火をくれた。
「火を先端につけたら息を吸うんだ。」
 私が息を思い切り吸い込むのを彼はにやにやしながら眺めていた。私はそれを不思議に思
っていたが次の瞬間それを理解した。私は思い切りむせタバコを足元に落とした。
「ははは!」
 私がなんども咳き込み、目に浮かんだ涙をぬぐっているとなりで彼はまだ笑っていた。
「おいおい、このタバコ高いんだぜ?落とすなよ。」
「まさかこんな味のするものだとは思わなかった。どうやったらそんなにうまそうに吸え
るんだ。」
「悪党ってのはタバコをうまそうに吸うものなんだ。俺はこの町一番の悪党だからな。だ
からうまそうにタバコを吸えるのさ。」
「君が悪党だって?それは違うよ。君は正義を語るには身なりが悪すぎるが偽善を語るに
は正直すぎる、でも悪を語るにはやさしすぎるよ。」
「そうか…それじゃあお前と一緒だな。」
 彼はそういうとタバコのケースを軽く振り、私に2本目のタバコを差し出した。


            -fin-

  他の作品 三冊目 >545〜546

366名無しさん:2007/03/12(月) 16:00:34 ID:4rEwZdOw0
>ageパンさん
WIZ同士の戦闘シーンも読み応えがあって凄まじいですが
なんか良い親友…というよりは戦友みたいな二人が最高です。
二人のその後なんか妄想してしまいます。良いコンビになってるんだろうなぁ。
次回作もお待ちしています。

367ドギーマン:2007/03/12(月) 18:18:09 ID:yvbhphlM0
『Devil』
>>231-234>>273-277>>294-297>>321-324>>336-339>>352-356

「契約・・」
マイスは昨日の朝エムルから聞いたことを思い出した。
痛みを感じなくなり、傷を負ってもすぐに治る。
確かにそうなれば痛みに対する恐怖から逃れられるかもしれない。
昔のように戦えるようになれるかも知れない。
そうすれば、引退せずに済む。リズと共にまた冒険の旅に出られる。
「あなたの大事な人が守れるのよ?」
エムルはマイスの手を握ってじっと彼の目を見て言った。
迷うべき事ではない。だが、それでもマイスには迷いがあった。
いま一つはエムルが本当にあの時助けた人物と同一人物とはとても信じられないということ。
マイスはまだエムルに対する疑心が晴れたわけではなかった。
もう一つは痛みを感じなくなるという事に僅かながら恐怖を感じていた。
痛みを感じず、傷を負ってもすぐに治る。果たしてそれは人間と呼べるのだろうか。
エムルは黙ったままのマイスに焦れているようだった。
そこにウェイトレスがモーニングセットとお茶を運んできた。
エムルの手がマイスの手から離れた。
ウェイトレスは見るからに夜の女のエムルに手を握られていたマイスを見てクスっと笑った。
「どうぞ、ごゆっくり」
そう言って若いウェイトレスはにやにやしながら引っ込んでいった。
「誤解されちゃったようね」とエムルは嬉しそうに言った。
誤解されているのは始めからだ。
エムルは小さな器の中に盛られたサラダにフォークを突き刺してドレッシングがかけられた野菜を口に含んだ。
唇の間にフォークの先を挟んだままもぐもぐと口を動かして、小さく喉を動かした。
フォークを口から離すと、水を少し飲んでからマイスに言った。
「いい?これは私とあなただけの問題じゃないのよ」
マイスはティーカップの摘みを握ってエムルを見た。
「相手はゲンズブールっていう、界隈では有名な喧嘩屋。とても危険な相手よ。
 酒に狂って、頭のいかれた狂人よ。異常者よ。衆人の前で恥をかかされたのをとても恨んでるわ。
 狙われているのは私とあなただけじゃない。リズさんが生きているとなれば彼女はまた襲われるかも知れない。
 彼女だけじゃないわ。他のあなたのお友達だって」
マイスはリズやイスツール、宿の主人に食堂の常連客たちを思い返した。
みんな冒険者だが、とっくに引退した宿の主人はとても戦えないし、
身体にも心にも傷を負わされたばかりのリズが今また襲われればただでは済まないかも知れない。
しかも、事の発端は自分にある。
これ以上誰も傷つけたくない。そして、ケリは自分の手で付けたかった。
「・・わかった。契約しよう」
マイスは決心した。そしてエムルに手を差し出した。

368ドギーマン:2007/03/12(月) 18:19:38 ID:yvbhphlM0
エムルは唇の両端を引き伸ばし、これまでに見たことのないような妖艶な雰囲気の笑みを見せた。
彼女はサラダの器を脇にのけてマイスの手をすぐさま両手で握ると、目を閉じた。
「さあ言って。あの言葉を」
マイスは目を閉じたエムルの顔を見ながら、言った。
「契約する」
マイスはそう言った瞬間、何かが身体の奥に侵入してくる感覚を覚え、身震いした。
それは快感だった。体中を撫で回すような感覚と身体を内側からくすぐるような感覚。
何故かリズの顔が見えた。そして次々に人の顔が現れた。
さっき思い返した彼にとっての大事な人々が次々と溢れてくる。
まるで死の淵を彷徨ったときの走馬灯をまた見ているかのようだった。
そして、ようやく身体を震わせて喫茶店のテーブルに彼の意識は帰って来た。
それはとても長かったような気がするし、とても短かったような気もする。
曖昧な時間感覚に夢を見ていたかのように頭がクラクラした。
マイスは机の上に投げ出した右手にさきほどの快感に似た感触を覚えた。
顔を上げると、エムルが彼の手を握ったままその手の甲を愛おしげに撫でていた。
マイスは背筋にぞっとするものを感じて手を慌てて引っ込めた。
エムルは一瞬玩具を取り上げられた子供のような表情を見せたが、すぐにマイスに笑みを浮かべた。
「どう?」
そう聞かれてマイスはようやく自分の身体に異常がないかを調べ始めた。
特に何も変わったところは見られない。
いや、目に見えての変化はあった。ただそれは彼からは見えなかった。
マイスの背中にある、あの日に付けられた傷跡。
リズを守り、彼の命を死の淵に追いやり、そして彼に死の恐怖を植え付けた傷。
それが徐々に小さくなり、消え失せた。
「いや、何か変わったという感じは・・」
マイスは戸惑いながらもそう答えた。
「そう、でもすぐに分かるわ」
そう言ってエムルは食事を再開した。
手袋を脱いで細い白い指先を露にすると、パンを千切って食べ始めた。
「君はこれからどうするんだ?」
エムルは口元を押さえて隠しながら答えた。
「約束どおり、あなたに守ってもらうわ。たぶん次の標的は私だもの」
「何で分かるんだ?」
平然とそう言ってのけたエムルにマイスが怪訝な表情でそう聞くと、
「実はあの男には私はあの時ぶつかったのと同一人物だってことはバラしてあるの。
 だから奴は当初の順番通り私を優先してくると思うわ」
「なんでそんなことを」
「事の発端は私だもの。それに、フェローの仇も討ちたかったから」
そう言ってエムルは俯いた。
「分かった。宿の方には他に仲間も居るしリズは大丈夫だろう。俺は君を守ろう」
「デートね!」
俯いていたエムルは顔を上げて嬉しそうに言った。
何故そうなるのだろうか。
マイスは表情をすぐに変えるエムルに唖然としてしまった。

369ドギーマン:2007/03/12(月) 18:21:29 ID:yvbhphlM0
エムルとマイスは喫茶店から出ると、マイスはとりあえず宿に戻りたいと言った。
イスツールはリズを看ていてくれているだろうが、一応彼女を守ってやってくれと言っておきたかった。
今朝から姿を見せなかったリズの姿も気になっていた。
顔の傷のことを謝ろうとしても、部屋の中に入れてくれない。
エムルは何故か嫌がったが渋々ついてきた。
商店街の通りを二人並んで歩く。
「少し離れて歩かないか?」
マイスは腕に身体全体を密着させてくるエムルに動悸を抑えて言った。
きゅっとした感触のボンデージと柔らかい彼女の肢体が腕に押し付けられる。
彼女の熱い体温と緊張が連動して手の平に汗が滲んできた。
だが、エムルはマイスの言葉を全く無視して顔を肩に押し付けてきた。
足を蹴ってしまいそうなほどの密着。さわさわと赤い髪が肩を撫でる。
「あいつがどこから狙ってくるかと思うと怖くって」
そう言ってエムルは全く怖がっている様子も無くマイスの腕に絡ませた指先を食い込ませた。
「昼間の人目がある間は大丈夫だ」
そう言ってもエムルは離れなかった。
周囲の眼が集まる。マイスの意思に反して中には敵対心を滲ませた視線もあった。
それでもエムルは一向に構わないようだった。
マイスは仕方なくエムルの肩を掴んで強引に引き離した。
「離れてくれないと、いざという時に動けないだろう」
とマイスは彼女と自分自身に言い聞かせた。
エムルは渋々と彼から離れ、隣を歩き出した。
マイスはほっと安堵をついて宿に向かって歩いていった。

370ドギーマン:2007/03/12(月) 18:23:31 ID:yvbhphlM0
マイスはエムルを宿の前で待たせて中に入っていった。
中までついて行くと言われたらどうしよう思ったが、それは無かった。
エムルは「彼女をいたわってあげてね」と言って意味深そうな笑みを浮かべていた。
宿に入るとテーブルを拭いていた主人が「早い帰りだな」と声をかけてきた。
「リズが心配で」
それだけ言ってマイスはさっさと二階へあがっていった。
リズの部屋の前で立ち止まり、二回ノックする。
相変わらず返事は無かった。
「リズ、開けてくれ」
「リズ!」
もう一度ノックした。
「そんなに叩かなくっても、開いてる」
中から小さく声がした。
マイスは部屋の中に入った。
木窓は全て締め切られていて部屋は暗かった。
テーブルの上に宿の主人が運んだのだろうか、食事が手を付けられた様子も無いまま置かれていた。
おそらくその時からドアの鍵は開いたままなのだろう。
リズは部屋の寝台の上でマイスに背を向けてシーツを顔まで被っていた。
マイスは部屋に入ると、まず窓の方に歩いていった。
「窓は開けないで」
リズは細い声で言った。
「おねがい」
マイスは窓の前で立ち止まって、寝台の上の彼女を見下ろした。
まるでマイスの視線を避けるように彼女は寝返りをうち、シーツを顔に引っ張りあげた。
「すまない、リズ」
マイスの言葉にリズは身体を曲げて小さく震えていた。
「なんで、あなたが謝るの」
「俺は、君の気持ちを考えて居なかったのかもしれない」
「私の気持ちなんて関係ないわ」
「いや、俺にはそれが一番大事なんだ」
マイスは自分を見ようとしないリズに言った。
「リズ、俺を見るんだ」
マイスは立ったまま、今度は無理矢理振り向かせようとはしなかった。
「頼む」
リズはのろのろと目をマイスのほうに向けた。
顔の下半分はシーツで隠したままだった。
「顔をよく見せてくれ」
「いや・・」
リズは首を振った。目は涙ぐんでいて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
マイスは窓を開けた。真っ白な眩しい光が暗い部屋に差し込んだ。
「いやぁ!」
リズはまた顔を背けてシーツを頭から被った。
「リズ、あの日のことを覚えているか?」
「・・・・」
「あの日、背中に受けた傷跡は俺にとっては誇りなんだ」
「そんなこと・・。だって・・・・、そのせいであなたは・・」
マイスは差し込む光に包まれていた。
「お前を守りたくて受けた傷だ。そのためにあの時死んでいたとしても、命に代えてお前を守れたことに満足したはずだ」
リズは黙っていた。胸に受けた傷跡が疼いていた。
リズはシーツをのけて身体を起こした。寝巻き代わりの白い布の服に身を包んだ彼女の頬の傷は照らし出された。
「リズ・・」
「私も、あなたの事を守りたかった」
リズは顔をあげた。髪は乱れきっていて、眼は赤く腫れていた。
そして頬の傷に指先で触れながら言った。
「あなたに見られたくないなんて思ってた。あなたの傷も、見たくなかった。
 馬鹿よね。気持ちが見えてなかったのは、私のほうだった」
マイスは寝台のそばに歩いていった。
リズはマイスの身体に顔を埋めた。
マイスは顔を押し付けるリズの頭を抱いていた。
あの日からだったろうか、こうして触れ合うことすら無くなったのは。
リズは怖かったのだろう。マイスの背中の傷跡が。
だが、その傷跡は今は消えていることに二人は気づいていない。

371ドギーマン:2007/03/12(月) 18:25:00 ID:yvbhphlM0
「う・・・」
リズは小さく呻いた。
泣いているのかとマイスは思ったが、どうやら違うようだった。
急に頭を抱えて苦しみだした。
「う・・あ・・・あああ!!」
「リズ?おい、大丈夫か!?」
マイスは手を伸ばしてリズの肩に触れた。
するとその瞬間ビクンとリズの身体が跳ねた。マイスは驚いて手を引っ込めた。
リズの声を聞きつけたのかドアが開いてイスツールが入ってきた。
「どうした。何かあったのか?」とマイスに聞いた。
「リズの様子が変なんです!」
マイスはうろたえながら大きな声でイスツールに言った。
イスツールはリズの傍に駆け寄ると、彼女の手を強引に頭から引き剥がして顔をじっと見た。
「出て行け」
イスツールはマイスにそう言った。
「え?」
「早く出て行くんだ!」
「どういう事なんだ。リズはどうしたんだ?」
イスツールはマイスのほうを向いて口を開いた。顔には焦燥の色が伺えた。
「闇の魔力に侵されている。原因は今から調べる。だから出て行け」
そう言ってマイスに詰め寄ると彼を強引に部屋の外へ押し出そうとした。
押されてマイスがよろけたとき、急にイスツールが床に膝を突いた。
「む・・・」
「イスツールさん?」
マイスは急にうずくまったイスツールを心配そうに見下ろした。
イスツールは頭を抑えてマイスの顔を見上げた。
苦悶の表情を浮かべて痛みを堪えているかのようだった。額には汗が滲んでいた。
「マイ、ス・・・・お前・・」
マイスは身体を強張らせた。そして慌てて部屋を出た。
まさか、あの契約は・・・。
廊下を走り抜けてすぐに階段を駆け下りた。
宿の主人が不審そうにマイスを見た。
「おいマイス、どうしたってんだ慌てて」
「近寄るなぁ!!」
マイスは主人に大きな声で叫んだ。
「マイス?」
主人はマイスの声に驚いてひるんだ。
マイスは声を何とか落ち着けて言った。
「リズと、イスツールさんが上で倒れています。すぐに行って下さい」
そう言い残してマイスは宿から出ていった。
「お、おい!」
宿の主人の声を振り切って、マイスは通りの雑踏に姿を眩ました。

372ドギーマン:2007/03/12(月) 18:38:27 ID:yvbhphlM0
あとがき
悪魔の契約スキル、「魔の約定」が元ネタです。
他の全ての契約スキルを使うためにまずかけなきゃいけない基本とも言えるものです。
相手のHPを徐々に回復させる代わりに、相手の周囲の味方に闇ダメージを与えます。
実際の仕様ではHP回復量は結構ありますが、闇ダメージはとても小さいです。

>ageパンさん
最後まで読んでまた最初の回想に入るシーンを読み返すと、
その後二人の間で何かがあったのを想像させるようですね。
戦闘シーンのウィザード同士の戦いも迫力がありました。

373名無しさん:2007/03/12(月) 20:13:09 ID:C3RWAfjA0
とりあえずローカルに反してないみたいなのでちょっと短編書いてみますよ。


石畳。古ぼけた町並みに、活気のある声。
道端を子供が数人横切り、その隣で、何か食べモノの類を持った男が、奇妙な秤の上にそれを乗せていた。
俺はその中ただ一人、重そうなカバンを背負って歩いていた。

「・・・・ふう・・残りはこれだけか。」
街の中央で、奇妙な光がしきりに現れている。そして大金を持った女や、ギラギラと光る斧を抱えた同業者・・尤も、俺の職業は冒険家だが。・・が絶えることなく辺りに散っていく。
心なしか、何か切ないものを感じた。・・・自分の持っている斧が、どんなに研ぎ澄ましても光を発さないポンコツだからではない。
どうも最近、センチメンタルになっていけないな・・。

「あいよ。全部で45万だ。・・・兄ちゃん毎度だが、良くこんなに集めて来るな。俺も助かるよ。」
武器屋の親父は、相変わらず俺と同じ雰囲気がした。
何か大切なものがあって、だがそれを忘れてしまった。いや、自ら捨てたとでも言おうか・・・そんな匂いがした。
「これが今の俺の食扶持だからな。チョキーの旦那。」
そういうと親父さんは、ただ何も言わずにふっ、と笑って金の勘定を始めている。
・・・・だがその動作には、何処と無く虚っぽいものがあった。

俺はそこで何も言わず、後ろを振り返って、歩き始める。
「また・・狩りか。」
心なしか、最近独り言が増えた。
背中に背負った斧が、今日はもうくたびれた。と言わんばかりに鎖を鳴らす。

「ねぇ、そこの貴方?」
ふと、間の抜けた様な声が後ろからした。同時に肩をポンと叩かれる。
俺は静かに後ろを振り返った。・・・銀色の、すらっとした槍を構えた、長身の女性。
「・・・何か用か?お譲さん。」
俺は肩から斧を下ろし、地面に置いた。・・・・自分の足元にまで、その重みが響いてくる。
「突然で申し訳ないんだけど・・一緒に狩りに行かない?」
「・・俺にデートする程縁のある女はいない筈だが?」
俺はさらっとそう言ってのけた。・・・最近の女ってのはどうもいけない。
この前も確か、テレポーターで飛んだ先の港町で、女に良い品を狙われ、しつこく付き纏われた。
目の前の彼女は、静かに此方に近寄って、無垢な笑みを見せた。
「・・・よっぽど腕に自信があるのね?貴方。」
「・・何故、そう思う?」
俺は女の姿を改めて見てみた。・・・・ライトアーマーの類か、チョッキの様な形の鎧に、女性用の下半身鎧。
・・新品の所を見ると、買い換えたか、新米か・・・
だが俺は、それと同時に左肩のショルダー・パッドを見ていた。
斧槍兵の一撃や、エルフ達の剣の跡が、生々しく残っていた。
女はそれもじろじろと眺めながら、俺の周囲を回る。
俺はまた、ふー、と、長いため息を付いた。
だがその横で、彼女の声が聞こえてくる。
「ねね、アルパス地下監獄って・・知ってる?」
「ああ、あの拷問施設か・・・廃棄になったと聞いたが?」
彼女は俺の斧をじっと見つめると、やがて顔を上げ、なぜか首を縦に振った。
「決まり!私と一緒に行こう?」
「何だって?」・・俺は少々困惑したような表情で、彼女を見つめ返した。
・・・冒険者の間柄と言うのは、もう少し殺伐としていた筈なのだが。
「良いでしょう?どーせ暇そうなの知ってるんだから。」
「・・・あんた、後を付けていたのか?」
無垢な子供の様に、俺の周りをぐるぐると回る彼女。・・・丸でバカにされている気分だが。
「そんな怖い顔しないでよ。さ、薬買って行くよ?」
彼女は突然、俺のショルダーパッドをつかみ、強引に引っ張った。
「ま、待て、まだ俺は行くとは・・」
「私はロゼリー・シュアロット。よろしくね。」
俺は困惑した表情で周りを見た。
・・・その奥で、チョキーが此方を見つめながら、手をゆっくりと振る。
まるで、行って来い兄ちゃんとでも言わんが如く。
「・・ちっ、仕方ないな。」
俺はしぶしぶと、ピクニックに行くようにぴょんぴょん飛び跳ねる彼女を横目で見ながら、ゆっくりと歩いていった。



なんかこれ続きそうです。

374姫々:2007/03/12(月) 20:20:58 ID:Cc.1o8yw0
さてこんばんは、何故か久し振りな気がします。
とりあえず前置きは無しにして、早速行って見ましょう、>>313-316より続きます。

「あれ・・・?」
暑くない・・・、いや暑いといえばそりゃ暑いけど、想像していたよりはかなりましだ。
「どうしました?」
私の疑問符に、すぐさまリリィが反応してくる。
「いや・・・、思ったより暑くないなって」
「それはまあ・・・、オアシスのおかげでしょうね」
「なんだー・・・、それなら言ってよー」
私としては裸にされたうえ、あれだけ怒られてこの結果な訳だから納得いかない。
「ふむ・・・、言ってませんでしたか・・・、これは失礼。」
「むー・・・、リリィー。嫌いになっちゃうよ?」
ほっぺたを膨らませて言うとリリィはクスリと笑い、私の頭をチャドル越しに撫でてきた。
「ふふ、それは困ります、今後は気をつけさせていただきますね」
とかそんな事を話していると、セラが宿の前で、周りをきょろきょろと見まわしている。
「どうしたの?セラ」
そう私が尋ねると、うーん・・・と一度オアシスの方を見つめた後、私のほうを向いて口を開く。
「いえー・・・、スウェルファーがまだ帰ってきていないだけですー」
「あの魚の?後で探そっか?」
私がそう言うがセラは首を横に振り、笑いながら言う。
「いいですよー、多分水が恋しくなっちゃったんでしょうねー」
そう言い、セラは「ふふふ」と再びオアシスを見ながら笑う。まぁここはオアシスがあるし、
泳いでいても不思議ではない。むしろ魚が空気を泳いでる方が不思議だ。けど・・・、
「やっぱりあの魚・・・スウェルファーだっけ。水の中泳ぐのに水無くて大丈夫なんだね、
 普段浮かんでるし」
私が冗談のつもりで笑ってそう言うと、セラがまたふふっと笑って言う。その顔は、港町での
時と同じ、セラが真面目な話をするときの「いつもと違う笑顔」だった。
「そんな事は無いんですよ、あの子だって水の精霊です。あの子が生きていけるだけの水が
 この星の何処にも無ければ、あの子は生きていけないんです。水だけじゃありません、大地、
 木々、空気―、この星の全ての自然そのものが、この子達そのものなんです。だから自然を
 守っている限りはこの子達も私達人間の召喚に応じ、そして守ってくれるんですよ。」
そうケルビーを撫でつつ、優しく・・・私以外にも、この星全ての人達にも語りかけるように、
そう話してくれた。
ロマだからこそ自然に対する共感を忘れず、自然に触れ合えるのだろうか。そして私達が
精霊を召喚できないのは自然に対する気持ちが薄れているからだろうか・・・。そんな気がする。

375姫々:2007/03/12(月) 20:22:31 ID:Cc.1o8yw0
と、精霊といえば、例の星の精霊もそうなのだろうか。
「スピカも精霊なんだよね?スピカもやっぱり召喚されてるの?」
『私?まっさかー。大昔にお城の近くで遊んでた時に先代の女王様に会ってさー、成り行きのまま
 契約したって感じ?いやー、だって女王様って神さまなんかよりずーっと優しいんだもん。
 私感動しちゃったよー。いつかその時のこと話してあげるねっ!』
・・・、まぁこのノリの軽い精霊はこんなもんだろう・・・、予想は出来ていたけれど・・・。
「って、神様ってホントにいるのっ!?」
『え?信仰上の偶像って思ってた?ちゃんといるよー、多分イメージとは全然違うけど。
 ルゥちゃんもこの世に生まれたことは神様に感謝すべきだねっ』
ケラケラと笑いつつ、スピカが言う。こうみてるとスピカって本当に凄いのか疑問に思えてくる。
・・・と、話がだいぶ逸れてるな。ここは一気に話を戻してみよう。
「でさ、後でスウェルファー探す?」
まぁ、実の所オアシスに行ってみたいと言うのが一番の理由だけど。なんたってオアシス都市と
言われているくらいなんだから、それなりに大きくて綺麗に違いない。
「え・・・、悪いですよー・・・・。それに一回召喚を解除して再召喚すれば私の傍にまた帰ってきますし・・・」
「それじゃ、泳いでる途中に突然連れ戻されたスウェルファーがかわいそうだってっ!」
と、その言葉に口元に手を当てつつ、何か考えた後、手を離し私のほうを向いて言う。
「じゃあ、同調したら場所は分かるので、後でお願いしますー」
・・・同調できるなら帰ってくるように言える気がする、けどそうせずにそう言ったのは
何となく私が探すと言った理由が分かったから・・・?まさかね、なんたってあのセラだし。
「それよりさ、詰め所って何処なの?」
私がリリィにそう訊いてみると、あちらですよ、と指をさす。
「って、もしかしてあれ・・・?」
「ええ、あれです。」
詰め所は宿の目の前にあった・・・。
「チャドル着る必要ないじゃんよー」
私はリリィにそう抗議する。こんな着にくくて暑いものホントは着たくなかったのだから。
「いえ・・・、なんとなく砂漠を歩き回る羽目になりそうな気がするのです・・・」
「・・・?」
私の頭上には「?マーク」が浮かんでいたに違いない。まぁそのリリィの予感は、完全に的中する事に
なるのだが。
・・・
・・・
・・・
「すみません、ここの団長さんはいらっしゃいますか?」
私達がクロマティガードの詰め所に入るとすぐ、リリィが事務の若い女の人に話しかけている。
「ええ、いらっしゃいますよ。少々お待ちください。―グレイツさん、お客様がお見えになっています。」
クロマティガードのリーダーさんはグレイツというらしい。しばらく待っていると、
全身を高そうな防具で包み、大剣を携えていると言う「いかにも」と言う感じの男の人が歩いて来た。

376姫々:2007/03/12(月) 20:25:03 ID:Cc.1o8yw0
「やあ、ようこそ。今ここを任されている者だ。歓迎しよう、君達は今からここの新たな隊員だっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。言葉を失うとはこのことだろうか。一瞬何が言いたいのかわからなかった。
「・・・。いえ、私達はそんな事のために――」
「遠慮しなくていいぞっ!何せ今は人手不足でなっ!猫の手でも借りたいところだったのだっ!!」
リリィの言葉に耳すら傾けない。多分この人は相当な度胸の持ち主か、魔力感知能力が皆無なのか、
ただ単に空気が読めないかのどれかなんだろうと予想を立てる。
「・・・、いえ、だから私達は――」
「はっはっはっ!!!では君達に最初の任務を与えようっ!!」
「私達の話を―・・・」
と、言っていると事務の人が私に耳打ちしてくる。
(気をつけてね、ああやって強引に傭兵団に引き込もうとするのがあの人のやり方だから・・・)
と。つまりはこの人もそうやって入れられたんだろうか?そう考えると、イヤリングをして、
スカートを穿いている女の人が、傭兵団にいてもおかしくは無いけれど。
その会話をリリィが横目で見ている。この万能なウィザードなら、唇の動きで何を話しているかを
理解できそうな気がするが、事実今回もリリィのその万能振りを見せ付けられる結果となった。
「ふむ・・・「正当防衛」「実力行使」ですか・・・、今朝はせずに済みましたが、まあ今回は
 仕方ないでしょう。」
と、唐突にそう言い、リリィが右手の人差し指を天上に向けると、そこに直径40センチ位の炎の球が発現し、
フワフワと浮遊している。
「この魔法の特性上、二つ以上作り出すには詠唱が必要なのですが・・・、まぁ一つで大丈夫でしょう。
 さて、「私達に任務」・・・でしたっけ?」
あぁ・・・、今一瞬、「悪魔の微笑み」っていう物を見た気がする・・・。
それに対して流石にこのグレイツって人も生命の危機を悟ったのであろう。
「ふむ・・・、性別、年齢も問わないが・・・、流石に子供に傭兵になってすぐ任務に行けと言うのは外道か・・・」
そう言うと、私のほうをちらりと見た。
「これは失礼。とりあえずはその禍々しい炎弾はしまってくれないか?」
それと同時、リリィの指先から50センチほど上を浮遊していた球体は、ポンと音を立てて消滅した。
「私達の話を聞いていただけるのでしょうか?」
「まあな。ここは何でも屋ではないから聞けない願いもあるが、とりあえず言って見てくれ」
今度はさっきまでのテンションの高さは何処に行ったのやら、淡々と話す。
「アイノの報告書と言う物の情報を探しているのです。ここで聞けると訊きました」
と、「アイノの報告書」という言葉を聞いた途端、ピクリと眉毛が動いた。
「どこで誰がそんなこと言ったんだ。ここで情報を聞けるとなど」
目つきが厳しくなっている。そんなに知られたくない事だったのだろうか。
「ブリッジヘッド、シーフギルドのケブティスさんと言えば分かるでしょうか?」
「・・・・・・。あの外道集団か・・・。あの集団に聞いたと言うならただでは情報はやれん。」
それは聞き捨てならない。少なくともケブティスさんや、にーさんは外道なんかじゃないと断言できる。
それに人間的に気に入らないと言うなら私はこの人の方が気に入らない。
「・・・ではどうすれば教えていただけるのでしょうか?」
そう言うリリィの口調も、僅かながらに棘が見られる。付き合いが長い私にしか分からないだろうけど、
間違いなく私と考えている事は同じなんだろう。
「一つ、任務を請け負ってもらおう。なに、大した事は無い。最近デマが横行していてな、どこぞの悪魔
 の仕業とは思うのだが、それによって傭兵達の士気が大きく落ちている。」

377姫々:2007/03/12(月) 20:25:44 ID:Cc.1o8yw0
「デマと言うのはどのような物ですか?」
そう尋ね返すリリィの口調はさっきのまま。
「焦るな、今から言ってやる。任務で警備傭兵の墓付近まで行った隊員がそのまま消えてしまう
 と言う噂が広がっていてな。いや、本当のところは調べてみるとデマなのだが。しかし、デマと
 知らない隊員がいてな、そいつらに知らせて欲しい。」
「はい、その位ならお安い御用ですが、それだけでしょうか?」
あれだけ私達を毛嫌いしていたのに、これだけの事ではいどうぞと情報をくれるはずは無い。
私だってその位は予想はつく。
「察しがいいな、まだあるぞ。つまりだ、火の無い場所に煙は立たない。君達には警備傭兵墓に行き、
 デマを流している輩がいれば、そいつにデマを流すのはやめるように言ってきてくれ。以上だ」
「・・・、子供に任務は外道・・・では無かったでしょうか?」
「ふん、等価交換だ。情報を知りたければ行ってくるんだな。」
リリィの言葉を完全に突っぱね、グレイツはあくまでも高慢な態度を取り続ける。
「・・・分かりました。行きますよ、ルゥ様、セラも起きてください。」
こんな話の中でも、立ったまま寝ていたセラをリリィが起こし、私達は詰め所を後にした。
・・・。  
「・・・そういう事ですか・・・。まあ予想は出来ていましたが・・・」
詰め所を出る直前、リリィが呟く。表情は平静を装っているが、おそらく心の中は穏やかでは無い。
「どういうこと?」
私には何のことか分からない。と、スピカが服の中から顔を出す。
『聞かないほうがいいわよ、ルゥちゃん。にしても気に入らないわね・・・、あの男・・・』
「ええ、何とか一泡吹かせてやりたいものですが・・・、どうしたものでしょうか・・・」
スピカも聞いていたらしい。
・・・後でリリィに聞いた話だが、グレイツは私達に向かって、
《お前達は墓の魔物に殺されればいい》
そう呟いていたらしい。

378姫々:2007/03/12(月) 20:49:15 ID:Cc.1o8yw0
こんばんはー、お久し振りです。なっかなかグレイツさんのキャラが決まらず
やっとしっくりしたかな?って時には物凄く嫌なキャラになってました'`,、('∀`)
ここからの展開は決まってるのでそれなりに早く書けると思います。
ちなみに私の中ではアリアン編はあと3話で完結する予定です。
てことはあの面倒な報告書集めの話の内容もそろそろ考えないとダメですか。
まぁあれはとことんカット出来るので楽そうといえば楽そうですが。
あそこで出てくる職はあれでしょうねー。ちなみにスウェブ行くからWIZとか言う
軽い真似はしません。WIZはリリィ一人で十分です。予定では二職出すのでこうご期待です。

では、長々と書きましたが以下感想です。
>ドギーマンさん
手記は調べるの大変そうですねー。けど私もメインクエ関係の小説なので
私の話と食い違い出たりしてもその時は許してくださいorz
あとエルム&マイス話も面白いですね。葡萄葡萄っ!アチャ子アチャ子っ!
剣士戦士っ!!・・・はい、意味わかりません・・・、ごめんなさい。
けどやっぱ表現とか見習う所は多いです。参考にして私もいいものを書けるように
頑張っていきます。

>ageパンさん
男WIZっ!・・・いや、それが普通なんですよね・・・・リリィが特別なんですよね。
学生WIZ的なのもいいですね。WIZ=紳士だった私のイメージをいい意味で粉砕してくれました。
今後の登場人物の性格にバリエーションが増えそうです。
戦闘シーンもよかったと思います。

>373さん
ロゼリー可愛いなあ・・・、槍子か・・・、うん、私も頑張ります。

379姫々:2007/03/12(月) 20:55:17 ID:Cc.1o8yw0
・・・やっぱ自分でも意味わからない事書いてちゃ感想って呼びませんか・・・。
そんなわけで感想修正。
>ドギーマンさん
やっぱ悪魔って感じのキャラしてますよねー。武道家も悪方面っ!って感じで
すが、利用されてる悲しい人なんですよね。私としては大好きです。
リズはどうなるんでしょうね。今後に期待しつつ、今回はこれで〆させていただきます。

で、この場を借りて。再び感想かけてない方、ごめんなさい・・・

380名無しさん:2007/03/12(月) 22:57:50 ID:4rEwZdOw0
>ドギーマンさん
なるほど、悪魔の契約スキルはそういうものでしたか。勉強不足でした…orz
しかし対象を人にしたらこのマイスのようになってしまうと思うとゾッとします。
全てを手駒にしてでもマイスを手に入れようとするエムル、その描写が細かいです。
最後はどうなってしまうんだろう…続きを待っています。

>373さん
以前はRSもこんな風に道端でいきなりPTを組んだりしたんですよね(笑)
今でも無言PT要請、とあんまり良くない意味で言われてますが、個人的にはそんなPTでも嬉しかったり。
偶然にもアルパスで私も初心者さんと知り合った事があって、一緒に狩りしました。
アルパスはそういう意味では思い入れが深い場所です。続き、待ってますよ(笑)

>姫々さん
この三人娘の旅、お待ちしてました(笑)
グレイツってこういうキャラにしても楽しいですね!メインクエのこの辺ももう記憶の彼方です…。
なによりセラが良い味出してます。天然ボケに見えて意外と色々考えてたりしそう。
時に見せる「違う微笑み」にヤラれましたよ。ロマっていいなぁ!(謎)

381名無しさん:2007/03/13(火) 13:54:24 ID:mbprtLNA0
>ドギーマンさん
いつも楽しく読ませてもらってます。
普段は携帯での観覧なので感想書き込めませんでしたが・・・
前スレから様々な作品を読ませて頂いてますが今回の作品には
激しく期待してます。これからも頑張ってください^^

P.S
殺人技術者さんのチョキーファイルはまだ続いてますよね?

382第53話 サーバー&お知らせ:2007/03/13(火) 15:15:19 ID:j4.cmSxE0
「みっこ、あんた達はここで何してんの?」とちょっとイラつきながら美香は訊いた。
「実はね・・・」
と事の次第を手短に話した。
「え? 私達が追っている事件もRMTなのよ? そのお友達はどこ?」
「うっそー!? もう中にいるよ〜! てゆーか、同じ人なの?」
「メールでやりとりしてた?」
「うーん最初はね。途中からチャットで取り決めとか話してたみたいだけど・・・」
「チャットかぁ・・・違う人かもね・・・」
「あそこでどこに座っているか教えてもらう手筈なのよ」
と、みっこは飲み物のサーバーを指差した。3台並んでいるサーバーには数人が列をなしていた。

その頃田村は、自分の娘姉妹がネカフェで偶然出会っていることも知らず、岡崎の車に到着していた。
「なんだ?空振りか?」
「違う!まだわからん! 携帯を貸してくれ! 入管の方と無線がつながらん!」
「お前のを使えよ〜」
「電池切れだ」
「可哀想な娘だな、こんな親父を持って。ほらよ、使いな」
ポイッと携帯を投げてよこした岡崎だった。経費で100%落ちればなぁとかぼやきながらバックミラーを眺めていた。


佐々木は西口に美香がいないのを確認したのち、また走り始めた。
最寄のネカフェから全て当たっていくつもりだった。
最初の1軒目は該当人物はいなかった・・といっても美香が来たかどうかだけだった。
取引をする人物の容姿はまったくもって判らないからだ。

「じゃ、私行ってくるね。あそこにほら、もう並んでいるからさぁ」
みっこはジュースサーバーに向かっていった。
美香も目標の人物が見て取れた。同じ人間なんじゃないかしら?
みっこが話しかける人物を見定めようとした時、携帯が鳴動しはじめた。
・・・知らない番号だ。こんな時にどうして・・・・?
あれ? これって・・この番号は警察に割り当てされている番号じゃない?


「早く出てくれよ〜! まったくぅ!」と田村。
「あらら?知らない番号でも父親と判ったんじゃないか?」と岡崎。
「だったらどうだってんだよ!?」
「お前さ〜年頃の娘だよ? 父親の電話が一番うざいじゃないか。居留守されてる時なんか結構あるはずだよw」
「あほか!今は勤務中だぞ!・・・なんでお前はいつもそんなに呑気なんだよ!」
「だから出世したんじゃないかwww」
「おっ、もしもし?俺だ!」 ようやく美香が電話に出たらしい。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
最近、ちょっと仕事が忙しいです^^;
連載のくせに遅筆でごめんなさい。
ではまた^^

383携帯物書き屋:2007/03/13(火) 15:19:59 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>306-310  ネタ話>>123-125

『孤高の軌跡』

「ふぁぁ……」
目覚まし時計を恨めしそうに睨みながら俺は起き上がる。
寝た時間も時間なので流石に寝不足気味だったりする。
「ショウタ、おはよー」
言われて顔だけ向けると、ニーナが箪笥の上に腰を掛けていた。

俺たちはあれから、再契約とやらを行った。
相変わらず、した瞬間はわからなかったが。
それからニーナはみるみる内に元気になっていった訳である。


少し早い登校。起きた時間が早かったせいもあるが、理由は別にある。
俺たちは今豪邸の前に立っている。
そう、ここは洋介の屋敷である。
外から見ている分には特に大きな損傷はないが、中は酷いのであろう。
ニーナが言うには、この屋敷には結界が張られてあり、範囲内の気配を察知する他、物音も外から遮断するのだという。
「…………」
ここにいると、どうもある少女の顔が頭をよぎる。
耐えかね、俺は屋敷を後にした。

学校の教室に着く。
教室内はいつも通り正常に異常。何が楽しいのか、まるで祭りのように賑やかである。
1日来ないだけで何故か懐かしく感じた。

何も変わらず、どこも変化もなく授業は始まる。
1つだけ変わったことを挙げるとしたら、それは前の席の洋介がいないことだった。
恐らく、洋介が再び学校に来る日はないだろう。
もし来るときが訪れるとしたら、それは俺の死を表しているのである。


夜。窓の向こうには綺麗な弧を描いた蒼白い月が覗いている。
夕飯をコンビニの弁当で済ませ、やることもないのでニーナと軽く雑談することにした。
しかし、当のニーナは何故か俺から少し距離を置いていた。それも朝から。
その疑問をぶつけてみることにする。
「おい、何でずっと微妙に俺から遠ざけているんだ?」
そう言うと、ニーナは無言で俺の頭上へ指を差した。
見上げてみると、天井を這っているクモの姿があった。
「クモか?」
「違うよ。もしかしてショウタ見えてないの?」
相変わらず意味不明発言のニーナさん。
「おかしいなあ……ショウタなら見えてると思ったのに」
「えっと……判りやすく説明してくれ」
そう言うとニーナは急に真面目な顔になり、正面から俺と対峙した。
「ショウタの頭上に若い女性と中年の男性が浮かんでいるわ。ショウタ、一体どこから連れてきたの?
ショウタくらいなら、意識すればしっかりと見えるはずなんだけど」
「な、何を馬鹿なことを……」
ニーナの強い眼差しについ気圧されてしまう。
逃げるように再び目を上に向けるが、やはり見えるのは汚い天井。
「嘘じゃないわ。ほら、今だってそこに。あ、ショウタにのしかかった」
「と、取れ! 早く、早く!」
ニーナのリアルな説明に思わず背筋がゾッとする。
俺の泣きそうな叫びにニーナは面倒臭そうに立ち上がると、俺に向けて手を前方にかざした。
すると、ニーナの手が光り、瞬く間に俺を光が包んだ。

“ありがとう”

(え――――?)
思わず見上げると、そこには笑顔を浮かべた若い女性と中年の男性がいた。
俺は呆気に取られる。
2人はゆっくりと浮いていき、天に近づくにつれてその姿も希薄になっていく。
やがて、光の粒となって消えた。

2人が消えると同時に周りの光も消失する。
「は、はは、本当に……いたんだな」
俺はしばらく外を眺めた。
いつの間にか雲は晴れ、全身を露にした月は誇るようにただ輝いていた。

384携帯物書き屋:2007/03/13(火) 15:21:24 ID:mC0h9s/I0
次の日もやはり洋介は来なかった。
まあ、来たら来たで大変なのだが。


今日は帰りにスーパーに寄って行くことにした。流石にコンビニ弁当も飽きてきたからである。
後方ではしゃぐニーナを尻目に俺は小声で囁く。
「ニーナは何が食べたい?」
後ろで悩む動作をする透明な浮遊物。
ニーナにはできるだけ公共の場では消えてもらうようにしている。何故なら視線が痛いからだ。
俺とニーナではお世辞にもお似合いのカップルとは言い難いだろう。
「えっと、前に食べた細くてにょろっとしたやつ」
一般人には理解不能だろうが、俺は即座にラーメンのことだと理解する。
野菜を買い、スーパー袋を片手にスーパーを後にした。

家に帰るとすぐに夕食の支度を始める。
衛生上かなり問題アリな台所のまな板に買ってきた野菜を広げ、似合わないエプロンを装着!
「よし、調理を開始しますか」


数十分後、ラーメンが完成する。
テーブルに2つ並べ、ニーナが我先と椅子に着く。
「どうだ、俺の(チャーシューないのはご愛嬌! 代わりに野菜たっぷり)ラーメンは」
「んん、美味しい!」
何も知らない人間がはしゃいで食う。
「でも、前食べたのとちょっと違うね」
「えっとだな、それは個性の問題だ。気にするな」
苦しくなってきたので、俺は話題を変えることにした。
ふと思い付き、以前エミリーに聞いたことをニーナにも聞いてみることにする。
「あのさ、ニーナって生前はどうだったんだ? いや、何と言うかレッドストーンを手に入れたら何がしたいんだ?」
今まで猛烈の勢いで動いていた箸がピタリと止まる。
「それは……」
言葉を濁し、考え込むように下を見つめる。
「ただの、くだらない夢よ」
そう言い、ニーナは自嘲するような笑みを浮かべた。
「そういえば、ショウタの両親って見たことないけどどうしているの?」
ニーナが無理矢理に話題を変える。しかし、それにより俺は黙り込む。
俺は言うべきか悩んだが、言わないのも変なので言ってしまうことにした。
「両親はいるよ。いや、居たって言う方が適切か」
「どういうこと?」
ニーナが怪訝な表現を向ける。
俺は箸を弄びながら過去を語る。
「父さんは8年前に事故で死んだ。母さんは今でも時々帰ってくるけど俺のことなんか見ちゃいない。でもまあ……」
「ご、ごめんね、ショウタ!」
俺が言い終わる前にニーナが挟む。
そんなニーナの様子に俺は思わず苦笑した。
「気にするな、昔の話だ。今は気にしてないよ」
そう言って俺はニーナに微笑む。
――――と。俺は自分が笑っていることに気が付いた。
この話題で、例え作り笑いだとしても笑える自分がいることに自分で驚く。
(俺も強くなったもんだな……)
「どうしたの?」
俺が内心で苦笑していると、ニーナが怪訝な表情で除き込んできた。
そこで俺は我に返り、ニーナにラーメンを促した。
「ラーメンっていうもんはなあ、時間が経つと伸びちまうんだぞ。つまりは生きているんだ。判ったらさっさと食え」
いつか父さんが言っていた。
今を楽しめ、と。大雑把な言葉かもしれないが、俺もそうだと思う。
今は、今のこの時間を大切にして。

385携帯物書き屋:2007/03/13(火) 15:40:44 ID:mC0h9s/I0
こんにちは。
ここがRSの小説の掲示板ってこと忘れている気がしてきましたorz
前回との差が約70レス差もあるのはちょっと遅すぎますね、すいません・・・・・・。
ちなみに>>383の2人というのは>>36>>185に出てきた人です。

>>ドギーマンさん
エムルとエルムって名前違ったのですねorz似ていたので気がつきませんでした。
ハラハラする展開ですね、続き待ってます。

>>姫々さん
何だか読んでいたらスピカってすごい人(?)だったのですね。
時間止められるって最強・・・・・・w
続き待ってます。

>>373さん
RSの味が出ているというか・・・昔を思い出すような小説ですね。
続きに期待しています。

>>きんがーさん
む・・・もう53話かぁ。
遂にぎゃおすさんと美香さんが会ってしまいましたね。
この先を期待しております。
あと、お仕事お疲れ様です。執筆速度の方は大丈夫だと自分は思いますよ。自分もっと遅いですし・・・^^;

386名無しさん:2007/03/13(火) 16:39:00 ID:Zx1A1ayg0
>381さん
同じく殺人技術者さんを待っているのですが…このスレになってから一度も続きが無いようです(悲)

>きんがーさん
警察側ときんがーさんたちの追う人物は同一人物では…という想像はしていましたが、さてどうなるんだろう…。
無理なさらずゆっくりでも大丈夫です。続きを待っていますよ。
いつも良いところで終わってしまうし(笑)

>携帯物書き屋さん
なるほど、ニーナは幽霊のような存在も見る事ができるんですね。これはちょっと面白いです。怖いけど…orz
私も時折金縛りなどに遭う体質のようで、そんな最中に頭に謎の声が響くなんて事もあるので実に親近感が沸きます(苦笑)
こうしたショウタ君とニーナの日常的な風景も読んでいて和みます。ショウタ君の過去も分かりましたし(笑)

書くのが遅いというのは気にしなくても良いと思いますよ。
まとめサイトの方でまとめればいつでも全部読めますし(笑) そういえば、少しUPしてみました。

387姫々:2007/03/14(水) 17:27:33 ID:Cc.1o8yw0
前置きを書こうとしましたが何も書くことがありません。
てな訳でさっさと行っちゃいましょう、アリアン編第4話、>>374-377より続きます。

私達は宿を出て、任務に向かう。あんな男の言うことは聞きたくないが、レッドストーンの
ためだ、背に腹はかえられない。
「さて、傭兵さん方にデマと伝えなければならないのですが・・・、何処から回りましょうか」
私にはまず行こうと思っていたところがあった。
「オアシス行かない?スウェルファーも探せるしさ」
「あぁ、なるほど。セラは構いませんか?」
と、振り向くとセラは何か呟いていた。その目は虚ろ、周りの音さえも聞こえているか疑問である。
「セラ・・・?大丈夫・・・?」
顔を近づけて話しかけるとピクリと反応し、目に光が戻ってくる。
「あ、うん。大丈夫ですよー」
「今度は何してたの?」
セラはえへへー、と笑いつつ言うが、たまにセラは何をしているのか分からない事がある。
「精神とかをスウェルファーに全部くっつけてたのー。うわー、冷たくてきもちいー」
って言うことは今セラはオアシスの中を泳いでいるのと同じなのか・・・なんて便利なんだ・・・。
「まあ行きましょう。それとセラ、多分注意しておいた方がいいですよ、口元とかに。」
「「?」」
私達二人は、リリィの最後の言葉に揃って疑問符を浮かべた。

オアシスは歩いてもすぐいける距離だった。そりゃそうだ、オアシスのすぐ隣が宿なのだから。
「さて、クロマティガードの方は鎧姿でしょうからその方々に噂の事を―――」
そう話している時だった。
「うっしゃぁあああ!!!晩飯フィイイッシュ!!!!!」
「いひゃぁあああああああああああああああっ!!!!!」
っと言う叫び声が同時に聞こえたのは。
そして叫び声を上げた張本人のセラを見ると、口元を押さえ、うずくまっている。
それを見たリリィがやれやれと言う。
「言ったではないですか・・・、スウェルファーが釣り上げられないように注意しなさいと・・・」
「しょほまへいっひぇまひぇんよー・・・・」
セラが涙目でリリィを見つつ言うが、正直な話なんと言っているか分からない。
っていうかやっぱリリィも暑かったのか・・・。
「って魚じゃなくてこれ召喚獣じゃねえか・・・。ちくしょう・・・、誰だよ全く・・・」
と、スウェルファーを釣り上げた鎧姿の男がブツブツと悪態をついている。っていうか鎧姿?
「ひょのほ、わひゃひのれしゅー」
未だに口元を押さえて、今にも泣きそうな顔をしているセラが立ち上がってトテトテと走っていく
「あ?これ譲ちゃんのかよ。ほれ、返すぞ。」
驚いた。何よりあの言葉が通じたことに。そして、返してもらうとすぐに、
スウェルファーに手をかざして何かをしている。多分治療の類だろう。

388姫々:2007/03/14(水) 17:29:09 ID:Cc.1o8yw0
「って、あなたはっ!!!」
「んあ・・・?おう、今朝の姉ちゃんじゃねーか。何?この子達妹さん?あー、なるほど、
 夜外に出れないってこう言う事だったのか。そりゃ出れないわなー」
あっはっは、と笑いながらそんな事を言っている。どうやらこの人とセラは面識があるらしい。
「妹ではないのですが・・・、それよりあなた、仕事中に釣りとは・・・」
「んー・・・、いいんじゃね?俺の仕事この辺の見張りだし、釣りしながら見張ってるって」
どう見ても釣りに熱中してたように見えたんだけど・・・。
「あなた・・・、軽いですね・・・。」
「はっはっは、あんたは俺の誘いに乗らない辺り軽くないなっ!」
大笑いしながら、見当違いな返答をしている。
「ところで、あなたもやはりクロマティガードの一員なのでしょうか?」
「ん?まあなー。いつでも抜けれるんだけど今はそういう事になってるなー。」
何故か意味深な言葉があった気がしたのは私だけじゃないと思う。
「では、噂話のことはご存知でしょうか?」
一応任務だ。この男の人はどう見ても士気が落ちているとは言いがたいけども、
知らないなら教えてあげないといけない。
「あぁ、あの話か、警備傭兵の墓に行った奴が死んで数日後に首だけ木に吊るされるって奴だろ?
 この前あるにはあったがあれはアリアンの人間じゃなかったな。」
私は寒気がした、何で?デマじゃなかったの・・・?
「デマ・・・と聞いたのですが・・・」
リリィが動揺を押し殺して聞いている。
「ん?あぁ、噂はデマだぞ。あったのは二回だけだし、それに何より警備傭兵墓なんかで死んだら
 首どころか骨すら残らねーよ。あんなもん、俺の管轄じゃないから興味は無いが。」
そう言いつつ、小魚を釣り上げては「これじゃ腹は膨れねえなあ・・・」とぼやいている。
「というより・・・、毎日釣りをしてるんですか?」
「ああ、節制だ節制」
何か違う気がする・・・
「まさか・・・、晩御飯は毎日・・・?」
「ああ、魚だな。そして釣れなきゃ晩飯抜き、干からびちまうぜ全く」
あっはっはっはっはと大笑いしているが、笑い事ではない。
「私はあなたの奥様がかわいそうでなりません・・・」
流石に呆れ顔をしているリリィを横目に、再び小魚を釣り上げつつ、男が呟く。
「奥さん・・・か・・・。」
?・・・なんだか今一瞬表情に影が見えたような・・・、それもとんでもなく濃い、世界の終わりみたいな・・・。
「あぁ・・・、あんたみたいなのが俺の嫁ならなぁ・・・」
あろう事かリリィにそんな事を口走ってる。
「いえ、私はそんな気はさらさら無いのでご安心を。」
「ちっ・・・、けどやっぱあんた位が好みなんだよなあ・・・」
「気持ち悪いこと言わないでください・・・。とにかく、私達は任務があるのでこれで失礼します」
「なにぃぃいい?ってちょい待て、任務って何だ任務って。本職の俺は見張りだぞ?任務なんか
 ここ3ヶ月来たこと無いんだぞ?」
どう考えてもそれは釣りばっかりしてサボってるからではなかろうか。
「たはー・・・、もうやってらんねぇなあ・・・、転職しようかなぁ・・・ボディガード辺りなら・・・」
と、何やらぶつぶつ言っているが、ボディガードになって釣りなどしてたら一発でクビだ。
「で、任務って何だよ。まさかさっきのあの噂聞かせるのが任務ってか?」
「え?そうですが何か」
「あぁ・・・?あんなもんグレイツしか信じてねえよ、少なくとも俺の仲間は全員デマと思ってる。
 俺も含めてな。」
「ふむ・・・、それなら私達は今から警備傭兵の墓へと行くことにします。」
「警備傭兵・・・・・?何でだよ」
顔はオアシスの方を向けたまま、目線だけをこちらに向けてきいてくる。

389姫々:2007/03/14(水) 17:30:20 ID:Cc.1o8yw0
「デマの大元がそこらしいのです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
その言葉には傭兵は反応せず、オアシスの方を向きなおって、釣り糸を垂らしている。
何なんだろう・・・、雰囲気が変わった・・・というか暗くなった?
「それよりも・・・、奥様がいるならあなたも自分の仕事を責任持って―」
「死んだ」
小声で、しかしはっきりと、男の人はそう言った。その背中は、それ以上踏み込むな、
と語っているかのようだった。
「・・・すみません・・・・・・」
男に説教していたリリィの勢いが途端に無くなる。
「はっ・・・、謝りどころは間違わねえんだな。」
「いえ・・・、立ち入った事でした、気がすまないなら何度でも謝りましょう」
「いらねーよ。そういや姉ちゃん、あんた名前何て言うんだ?」
さっきより多少調子を戻したような声で、男は言う
「呼ぶときはリリィと呼んで下さい。」
「じゃあ俺は、そうだな・・・。ロイって呼んでくれ、あいつにもそう呼ばれてた。」
「はい。なら次ぎあった時にでも。では、私達はそろそろ行きます。」
「待て、あんな噂信じてるのはさっきも言ったとおりグレイツだけだ。別に知らせなくて
 いいんじゃねえか?」
ロイが振り返って言う。・・・もちろん手に持つ釣竿は離さずに。
「警備傭兵の墓なあ・・・。そうか、あそこか・・・。」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。けどあそこも何にも無いと思うんだよなあ・・・」
それは私達に言ったのだろうか・・・?何となく違った気がするのは何でだろう。
「何も無ければ無い方が好都合です。私達は行きますね」
「あぁ、またな」
そう言い、再びロイは釣りに戻る。
「・・・、また会うことがあれば。」
その言葉にもロイは背中を向けたまま、魚を吊り上げていた。
・・・
・・・
そして、私達は砂漠を移動するための水を補給し、警備傭兵の墓へと向かった。
アリアンから東に真っ直ぐ、道なりに進めば1,2時間という所に、それは存在していた。
私達は、墓へと続く階段を下りていく。暗く、死臭が漂う墓の中へと。

390名無しさん:2007/03/14(水) 17:40:16 ID:kFNpLHbQ0
>姫々さん
単なるNPCに命が吹き込まれたようで、読んでいて本当に楽しいです。
グレイツにしろロイにしろ、ルゥやリリィたちとの絡みが丁々発止としていて小気味良いというか。
その上でメインクエとして話も進んでいますね。この三人が本気で狩りをしたらある意味強そうですが(笑)
さて、この次にどんな職が出てくるのだろうか…楽しみにしています。

391みやび:2007/03/14(水) 17:52:08 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [1/6P]

 じめじめとカビ臭い“客室”には明り取りの窓さえなく、通路に据えられたかがり火のゆら
めきだけが手がかりだった。
 もっとも“客室”はうさぎ小屋のように狭く、どこにいても手を伸ばせば壁に振れることがで
きた。通路側は頑丈な格子と錠で守られていて、かれらに許された行動といえば、舌打ち
をしながら億劫に寝返りをうつことくらいだった。
 “客室”はかれらにあてがわれた粗末な牢屋だ。そこは軍部所有の定期船の中で、その
船底に放り込まれてから何日が過ぎたのか、もはやかれらに日付の観念はなかった。船
内にせわしく立ち働く人の気配がないことで、かろうじて今が夜だとわかる程度だ。それさ
えかれらにとっては何の慰めにもならなかったが。

 静まり返った夜半、船体にあたる波の音だけが微かに響いていた。
 その囁きにまじり、ふいに声がした。
「もし……もし……」
 声をかけられた男はため息をついて寝返りをうった。
「どうしたブラザー(神父さん)? 悪いが懺悔をする気はないぜ。ほかをあたってくれ」
「はは……そうではありません。それに――」と、神父は暗がりで宙をあおぎ「ここに居る時
点で、私はすでに聖職者ではないのですから……」
 男は鼻を鳴らした。
「ふん……。あんた――何をやらかした?」
 神父は答えなかった。
 しばらく沈黙が続いたのち、男が小さく声をあげた。
「そうか……! あんたホドラーだな!? ひと月前にビスル村を灰にしたろう」
「私は――」神父は言いよどみ、嗚咽のようにもらした。「主の御声に導かれたのです……」
 男はくっくと笑った。
「そりゃあまた大義だが――かなり辛そうだぜ? どうやらあんたの神様は人間が嫌いらし
いな。いっそ宗旨変えでもしたらどうだ? 天国に行けるかもしれないぜ」
「おそらく……言っても信じてはもらえないでしょう」
「あんたが人殺しだってのは信じるぜ」
 神父は黙り込み、それからまた静寂が続いた。
 先に口を開いたのは男のほうだった。
「俺が誰だか知ってるか?」
「ええ……。看守から聞きました。同じ房だからと脅かされましたよ……ミスタ・イザン」やや
間を置き「通り名はたしか“片目のイザン”……でしたか?」
「だったら俺が“殺人鬼”だって事も知ってるよな。ブラザー(兄弟)……?」
 神父はええ、と無言でうなずいたが、暗闇のなかでその動作は見えなかった。
「ついでにもうひとつ覚えておくことだ。……いいか、俺の左側には立つなよ。絶対にな」
 そう言って男は失笑すると、神父に背を向けた。
「わかったらもう寝てくれ。おしゃべりはおしまいだ」
 だがしばらくすると、神父は再び男に呼びかけた。
「ねえ、ミスタ・イザン?」
 イザンは答えなかった。そうして半分は絶望しながらも、どこかではまだ逃げ出す方法を
考えていた。

392みやび:2007/03/14(水) 17:53:04 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [2/6P]

 軍の連中は魔法を無力化できると信じ、牢屋の周囲に特別な魔方陣を描いていたが、そ
んなものはイザンの魔法には何の効果もなかった。彼がその気になれば、一瞬で船を消滅
させることだって可能だ。問題はそこが“海の上”だということだ。いかにイザンの魔法であっ
ても空を飛ぶことだけはできない相談だった。
 それにもうひとつ、多勢に無勢、というやつだ。彼が捕まったのも、数百という兵隊に隠れ
家を包囲されたためだった。
 と、神父が再び同じ台詞を口にした。
 イザンはやれやれ、と思いつつ神父に相槌をうった。
「予知を――信じますか?」
「……。千里眼か?」
「いえ……もっと具体的な未来視眼ですよ」
「それがどうした」
「見えるんです……。私には――」
 イザンは仰向けになると、真っ暗な天井を見つめた。
「見えるって、何が」
 神父は息を止め、静かに言った。
「この船が……沈む光景です――」
 イザンは無言だった。
 しばらく待っても答えが返ってこないので、神父はかぶりをふった。
「……いや失礼。とんだお邪魔を――」
 神父が横になると、イザンは天井を見つめたまま言った。
「なぜそれを話した……。本当だとして、どうにかなるもんでもなかろう? 俺たちは囚人な
んだぜ。どのみち移送後はあの世だ」
 イエス。と神父。
 じゃあなぜそんなことを? そう問われ、神父は答えた。
「実は――もうひとつ見えるものがあるんです。私とあなたが……どこかの島にたたずんで
いる光景です。そう……どこか小さな島です。あれは……」神父は予知で見たその光景を
思いだし、心のなかに描いてみた。「とても天国には見えませんでしたが……」
 イザンは沈黙したあと、大きく息を吸った。
「地獄かもしれんぜ」ため息とともに吐き出す。
 神父は自嘲ぎみに笑った。
「それでも、ここより幾分か空気は良さそうでしたよ」
 ふたりは長いこと波の音を聞き、それからイザンが言った。
「……おい、坊さん」
「はい」
「あんた、泳ぎは出来るんだろうな」
「え……?」
「泳げるならそれでいい。それだけだ。……俺は寝るぜ」
 イザンは沈黙に戻り、数分後には言ったことを実行した。
 神父は隣に横たわる殺人鬼の寝息を子守唄に、ゆっくりと眠りについた。

     主よ――これは運命なのですか?

     あなたはいずこにおいでか――

     どうか、主よ……

393みやび:2007/03/14(水) 17:53:58 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [3/6P]

   *

 執務室に入ってきた参謀は神官に敬礼すると、話しを切り出した。
「神官殿。例の『エンデバー号』捜索の件ですが……いかがいたしましょう?」
 参謀の曇った表情を見て神官は肩をすくめた。
「その顔だと進展はないようだな」
「はい。まだ残骸さえ……」
「船が沈没してからどれくらい経ったかな?」
「はっ――少なくとも捜索を開始してから……」几帳面な参謀は懐中時計に目を落とし「今
でちょうど八日と……それから五時間と七分です」顔をあげて答えた。
 そうか……。と神官。
 目を閉じてなにやら考えた末、神官はひとりごとのようにもらした。
「あの魔法使いの殺人鬼はいいとして……共に移送していた神父だが――」
 参謀は神官が何を言わんとしているのか察した。「例の噂……ですか?」
「噂で済めば問題はないのだがな……いにしえの“堕天使”だなどと……」
 おそれながら……と参謀。
「尾ひれのついたゴシップについては心配無用です……。しかしごく少数ですが、信頼に
足る人物の証言に関しては……わたくしもどう対処してよいのやら……」
 神官は唸った。「神父の背中に琥珀の翼が生えていた――というやつか」
「真相はともかく、すでに古都の評議会がその噂に興味を持ち始めております……」
「わかっておる。見聞の名目でうちに居座っている議員の手下どもであろう? まったく見え
透いた言い訳を使いおって……シュトラディヴァディの亡霊どもが」神官は吐き捨てるように
呟いた。「やつらがレッド・ストーンなる石に国費を割きたいと思うならさせておけば良い。こ
ちらとしても都合がいい……」
 参謀は同意して頭をたれた。
「面白くないのは、そのことで我がアウグスタの信徒が浮き足立つことだ。それだけはなんと
してでも避けたい――」
 神官は部屋を横切り、窓から中庭を見つめた。
 そして参謀に背を向けたまま言った。
「捜索については明後日をもって打ち切る――移送中の囚人は“死体で回収された”と公表
しろ。報告書にもだ……わかったな」
「はっ――」

394みやび:2007/03/14(水) 17:54:48 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [4/6P]

   *

「……なあフロル。やばいって――そりゃあまあ……ここらで手柄のひとつも立てたいのは
俺も同じだぜ? このままじゃあ俺たち、今月の査定では間違いなく降格だからな……。で
もさ、軍を追い出される訳じゃないんだし……。これから先も挽回のチャンスはあると思うん
だ……。それより、もし何の手がかりも得られなかったら……どうする気だ? こんな単独行
動しちまって……降格どろこじゃ済まないぜ、きっと? いや――下手すりゃ懲戒処分かも
しれない。ああ、そうなりゃ年金も全部ふいだ……! おいフロル……聞いてるか?」

 男の前を歩いていた女は立ち止まった。
「ああ、もう……! さっきから黙ってれば――あんた男でしょ? 腹を決めなさいよ!」
 女の剣幕に男はたじたじだった。「そんなこと言ったって……」
「だからいつまでもうだつが上がらないのよ。あたしはもうウンザリなの。『階級』と『軍歴』だ
けの序列世界なんて、数十年前の体系だわ」
 男はしどろもどろになり、いや、だから……地道に昇進試験受けてだなあ……と消え入り
そうな声で抗議した。
「なにが試験よ。教官が合格点を与えるのは“自分達に都合のいい無能な連中”じゃない」
 それが事実であることを知っているだけに、男は言葉を失った。

 ああ。たしかにお前の言う通りだよ。でもな……。出る杭を打つのが連中の本質なら、そ
れこそこんな行為は連中にとって格好のカモなんだ。たとえどんな手土産を持参したところ
で、手柄を横取りされたあげく、代わりに俺たちが受け取るものといえば処分通告書くらい
なもんだぜ?
 男は女の丸い背中に、心のなかでそう問いかけた。

 前を歩く女性はフロル・テレス。その背中を見つめている男はランス・テレスといった。
 ふたりは戸籍上の姉弟だったが、血はつながっていなかった。
 フロルはハノブという鉱山町の町長の娘で、その町に行き倒れ同然に流れつき、命を落
とした冒険者の息子がランスだ。フロルが十二、ランスが九歳のときだった。
 正式に町長のもとに引き取られたランスは愛情と教育を受け、それまで外の世界を知ら
ずにいたフロルのほうはと言えば、短い人生経験ながらあまたの冒険談を語るランスに感
化され、いつしか町いちばんの跳ねっ返りに成長してしまった。
 そして彼らが二十歳を過ぎた頃、ソゴム山の深部にあるビスルの村が一夜にして消滅す
る惨事が起きた。
 ビスル村はロマという一族の村で、ロマの民は昔から“神獣使い”の末裔として畏怖の対
象とされていた。そんな村でも一夜にして消滅するという出来事は、近隣の集落にとっては
自治を脅かすに充分な事件だった。
 その犯人が聖職者であり、しかも伝説で語られている“堕天使”だという噂が広まるにい
たっては、軍事力を誇示したい連中が手をこまねいていられるはずもない。
 事実上、このフランデル大陸の極東を支配しているのはゴドム共和国という大国であり、
その中枢を担うのが古都ブルンネンシュティグだ。
 しかしかつて五十年の長きにわたり戦乱に荒れ、勝利を収めた国もないままに盟約と密
約で仮初めの平定が訪れたに過ぎなかった。
 つまりゴドム共和国という姿は諸外国に対する外交的な外殻でしかなく、ゴドム内の主要
都市の多くは自治権を許され、それぞれに極東全土を掌握する画策を腹に秘めているのが
現状だ。

395みやび:2007/03/14(水) 17:55:35 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [5/6P]

 形式的とはいえ国土の頂点に君臨する古都が、怪しげな研究機関を使ってまで探し求め
ている伝説の一端を手中に収めるということは、それを材料に古都に対する政治的なテコ
入れが可能だということだ。
 多くの都市がビスル村壊滅のニュースと、そして“堕天使”の噂に色めき立ったが、いち
早く犯人探しに乗り出したのは神聖都市アウグスタだった。
 アウグスタは古くからソゴム山脈一帯の所有権を主張していて、かつて戦乱の一時期に
は実際に領地としていた過去もあった。さらに容疑者が神父であったことも手伝い、聖職者
の聖地であるアウグスタが名誉をかけて乗り出したとなれば、古都としてもその行動を黙認
せざるを得なかった。
 アウグスタは直属の精鋭部隊を調査に派遣する一方で、この事件を口実に広く兵隊を募っ
た。
 日頃から町を飛び出す機会をうかがっていたフロルにとって、願ってもないチャンスだった。
 そしてついに町を飛び出し、ランスとともにアウグスタ軍へと身を投じたのだった。

   *

 ふたりは地図にも記載されていない小さな島にいた。
 小さいといっても、ふたりだけで探索するにはあきれるほどの広さだ。
 フロルたちは正規の軍から離れると、独自の調査――その大半はフロル持ち前の“女の
勘”というやつだったが――によって船の沈没地域を特定し、そこからいちばん近いこの島
に目をつけたのだった。
 ランスにしてみれば、はなから彼女の勘が当るとは思っていなかったし、むしろ空振りに
終ってくれたほうが良かったのだが、最悪なことに島に上陸して間もなく、アウグスタ軍船
の備品と思われる漂着物を見つけてしまっていた。
 意気揚々と歩き続けるフロルのあとを追いながら、ランスはどうやって彼女に諦めさせよう
かと思案に暮れていた。
「なあ……フロル。たとえその――天使だか何だか知らんが……そいつを見つけたとしても
昇進は無理だと思うぜ?」
「ふん。誰が昇進したいなんて言った?」
 彼女の言葉にランスは面食らった。
「どういうことだ……?」
 少し休憩しましょう。そう言うとフロルは立ち止まり、椰子の葉を器用に敷き詰めてその上
にあぐらをかいた。
「いいこと? この件を究明して――ううん、究明までは無理よね。犯人がここに流れついて
いるとしても、すでに死んでいると思うし。……でも、せめて死体だけも持ち帰れば、評議会
へのいい土産になると思うの」
 ランスはすっとんきょうな声をあげた。「おい、評議会ってまさか――古都の!?」
「そうよ」フロルは涼しい顔で、さらに言った。「それともレッド・アイ研究所のほうがいいかし
ら?」
 おい、君ってやつは何を考えているんだ!? ランスは狼狽した。
「なんて顔してるのよ。大丈夫。あたしたちには天使の死体以外にも、アウグスタ軍の内部
情報っていう手土産まであるのよ? 古都にしてみれば、あたしたちの頭のなかに埋もれ
ている情報は是が非でも欲しいはずだわ……。どんなことをしてでも身の安全は確保してく
れるわよ」
 笑顔でそう語る彼女とは反対に、ランスは表情を強張らせ、背中にじっとりと汗をかいて
いた。

396みやび:2007/03/14(水) 17:57:30 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [6/6P]

 幼い頃から父に連れられ各地を放浪し、それなりに修羅場をくぐりぬけ、剣の腕前もそこ
いらの似非剣士には遅れをとらない自信はあったが、今こうして自分が政治的な流れに巻
き込まれようとしているとは――いや、すでに巻き込まれているのかもしれない――なんて、
考えただけでも背筋が凍る思いだった。
 このじゃじゃ馬のお姫様が軍に入ると言い出したときには、せいぜい剣豪の真似事で終
るとばかり思っていたのだ。そこが戦場であれば彼女を守ることなど容易いことだ。たとえ
自分の命を犠牲にしてでも、フロルを死なせない覚悟が彼にはあったから。
 だが事が政治がらみとなると話しは別だ。それこそ政治というやつは、ひとりの人間の手
に負える代物ではない。たしかにどんな歴史書を開いてみても、その時代の分岐に大きく
関わった人物は存在するが、彼や彼女のそうした行動でさえ、目に見えない大きな力によっ
て必然として起こされたものなのだ。
 ランスはそのことを旅で巡った国々を見て学び、父の教えによって補足し、そして自身の
直感によって確信していた。
 深刻な表情のランスに気付き、フロルは眉をひそめた。
「ねえ、どうしたの?」
 どこか底無しの穴に落ちてゆく感覚にとらわれながら、ランスは言葉もなくフロルを見つ
めていた――。

     ◆
     ◆
     ◆
     ◆

 ――あとがき――
 最近までこんなちゃんとした小説スレがあることに気付きませんでした(←馬鹿です)。
 で、覗いてみたら力作がいっぱい!
 そんな訳で小一時間ほど小躍りしてしまって……はい。ごめんなさい。ほぼ勢いで書き
なぐってしまいました(汗)
 骨組みは頭のなかにあるのですが、上で言った通り“勢い”で手をつけてしまったので、
続きを書くためにはおそらくつじつまが――あーごにょごにょこ……。
 面白くなかったらスルーしておいてください。続きは自主規制しますです。
 ――と言う前に地味過ぎたかも(汗)

 ※推敲が甘いので誤字・脱字は脳内変換で……(恥)

397姫々:2007/03/14(水) 18:26:25 ID:Cc.1o8yw0
さてさて、複線は張りつくした感じかな?あとは次に1個なんか回想話挟んで
その次にアリアン編完結と言った感じでしょうか。戦闘シーン入れたいんですけど
何処に入れるか決まってないのが悲しい所です。
・・・そして読み返してみると何故か3行ほど会話が飛んでたり・・・、
何となく話は繋がってるし大勢に影響はそれほど無い気はするのでこのままに
しますけれども・・・。うーん・・・、誤字脱字に続いてこんな罠が…。

では、以下感想、って事で。


>きんがーさん
ちょっとずつ今20位まで読ませていただきましたけど面白いですねー。
追いついたらちゃんとした感想を書こうと思うので執筆もお仕事も頑張ってくださいっ!!

>携帯物書き屋さん
父親が単身赴任な私にとっては多少共感できる部分が・・・orz
とりあえず今後も期待してますね。

>みやびさん
ビスルが灰に…(´;ω;`)
そして気になる所で切れちゃってるのでぜひ続きを書いていただきたいものです。

そして感想に時間掛けすぎな私乙orz

398ドギーマン:2007/03/14(水) 19:26:17 ID:WMFiyZTk0
『Devil』
>>231-234>>273-277>>294-297>>321-324>>336-339>>352-356>>367-371

エムルは人通りを割って進んでいた。
すれ違う人々は皆彼女に振り返り、その姿をじっといつまでも見ている。
エムルは歩きながら笑っていた。その笑みは見る者には魅力的とも取れるが同時に恐怖感を与えた。
「ふ・・ふふ・・あはは、アハハハハハハハハハ」
ついに堪えきれずエムルは大きな声をあげて笑い出した。
この世に生まれてほんの数日しか経っていないが、人生で一番愉快な気分だった。
これでもうあの人は私だけのもの。もう誰にも触らせない。
あの人に触れていいのは私だけ、あの人が触れていいのも私だけ。
だけどそれだけではまだ足りない。
邪魔者を近づけないために、より強い魔力を込めて契約を更新するべきだろう。
そのためにはもっと多くの魔力が欲しかった。
一応そのための下準備はしてある。
彼女の行う契約は人に対し一方的に結ぶ事も可能である。
ただ、マイスに対してだけはより強く効果を得るために彼の意思による承諾を得る必要があった。
せっかく結んだ契約をビショップどもによって消されたくなかった。
エムルは次の生贄、ゲンズブールのことを思い返した。
あの男、きっと傷が早く治ったのを私がヒールポーションをかけたからだと思っていることだろう。
実は最初に会ったときから契約は結ばれていた。
まだ生まれたばかりの彼女の弱い魔力では、一方的な契約では周囲に対してほとんど影響を与えない。
せいぜい気分が悪くなる程度。しかもあの男に近寄ろうとする者はまず居ない。
でなければあの女との戦いで死んでいたはずだ。即死さえしなければまず死ぬ事はない。
その事は最初に酒場で自分から生贄になりにきた男で実験済みだった。
いまその男は地下水路の排水の底で寝ているが、契約を通してその魔力だけは頂いてある。
一人分の魔力でここまでの事が出来るのだから、ゲンズブールの魔力も手に入れればより幅が広がる事だろう。
エムルはずっとついて来て人ごみの中からこちらの様子をじっと伺っているゲンズブールに目をやった。
エムルには彼の頭上に契約の証である赤い輪が輝いて見えていた。あれで気づかれていないつもりだろうか。
そして、もう一つそれが見えた。マイスだった。
マイスは「待て!」と叫ぶとゲンズブールの脇を通り過ぎて自分に向かって走りだした。
役者が揃った事にエムルは笑みを浮かべると表通りを外れて小走りに裏通りに入っていった。
二人ともあとを追いかけてくる。エムルはさらに角を曲がった。
細い道を通り抜けて人気のない路地裏に入る。
散乱しているゴミや、建物の壁には不潔なシミが目立つ。
少し離れたところに持たざるものが倒れこんでいるが生きているのかは定かではない。
石畳が敷き詰められた表通りとは裏腹に剥き出しの土面がその場所の暗さを一層引き立てていた。
そこでエムルは立ち止まると、マイスが追いついてきた。

399ドギーマン:2007/03/14(水) 19:28:18 ID:WMFiyZTk0
「俺を、騙したのか?」
怒気をはらんだマイスの声をエムルは一笑にふした。
「別に騙してないわ。ただちょっと説明不足だっただけよ」
まるでマイスの怒る顔を楽しんでいるかのように笑みを浮かべた。
「契約は破棄する。早く解除しろ」
そう言われてエムルはあははと声をあげて笑い出した。
「あなたに契約をどうこうする権利はないのよ。結んだ以上、私の意思が全てなのよ」
「ふざけるな、早く解除するんだ!」
そう言ってマイスはエムルに詰め寄った。
エムルはふぅっとため息をついてやれやれという風に首を振った。
「出来ない事じゃないわ。でも、その前にやる事があるでしょう?」
「何?」
「私を守りきらないと、そんなこと出来ないわよ」
そう言ってマイスの背後の人物に目をやった。
マイスはエムルに注意を払うように彼女の顔をちらっと見てからゆっくりと振り向いた。
そこには全身を長めのコートで隠すようにして立っている男がいた。
男は羽織っていたコートを脱ぎ捨てると、腰に提げた鉤爪を両手に装着した。
そしてエムルの前に立っているマイスに対して「どけ」とでも言うかのようにぎらりと殺気をみなぎらせた眼差しを向けた。
エムルはマイスの背中に言った。
「契約の力を試すにはうってつけの相手だわ。さあ、私を守るためにあいつを殺すのよ。
 それに、あなたにもあの男を許しておけない理由があるでしょう」
マイスに選択肢はない。エムルに契約を解除する意思があろうがなかろうが、
彼女を殺されてしまえばもう二度とみんなの元に帰る事が出来なくなるかもしれないのだ。
彼女が死ねば解除できるという保障もどこにもない。
マイスは背中に背負った大剣を腰に下ろしてスラリと引き抜くと、鞘を捨てた。
「下がっててくれ」
マイスがそう言うとエムルは彼から離れて歩き出した。
大剣を構えてゲンズブールに戦いを挑む彼を尻目に、エムルは唇の端を吊り上げていた。
いくら二人とも契約を交わしていても、より強い契約の力に守られているマイスにゲンズブールが勝つことは出来ないだろう。
マイスに戦いに対する恐怖心を克服して貰い、同時に死んだゲンズブールの魂から魔力を頂く。
かなり強いようだから大きな魔力を期待できる。
マイスは自分の手で、あの女をさらに自分から遠ざけることになるのだ。
エムルは楽しげにどこから二人を眺めるかを悩み始めた。

400ドギーマン:2007/03/14(水) 19:29:29 ID:WMFiyZTk0
イスツールは部屋に入ってきた宿の主人に「大丈夫か!?」と身体を支えられた。
「大丈夫だ、一人で立てる」
そう言いながらも少し辛そうな表情は晴れなかった。
マイスが去ってから闇の魔力の発生はなくなったが、痛みの余韻がまだ残っていた。
イスツールは立ち上がるとリズのそばに行った。
リズも先ほどのイスツールと同じくまだ少し辛そうにしていたが大丈夫そうだった。
「彼は、どこ?」
リズは顔を上げてイスツールに聞いた。
「出て行った。もう戻らないだろう」
「なんで?」
冷静な面持ちのイスツールの顔を見上げてリズは訳が分からないという様子だった。
「マイスはいま、呪いを受けている」
「呪いだって?」
主人が話に割って入ってきた。
「話に聞いたことがある。契約と呼ばれる呪いだ」
「契約?」
主人は問いかけ、リズはただ呆然と顔を向けるばかりだ。
イスツール自身も詳しい事は分かっていなかった。
「悪魔と呼ばれる者達が扱う特殊な種類の呪いだ」
「悪魔だと?」
宿の主人は恐らくイスツールの敵を想像したのだろう。表情が曇った。
「悪魔とは言っても地下界の住人ではない、そう呼ばれているだけであってれっきとした人間だ。
 魂を操つる力を持った者達が自身の魂を操作して変身した姿らしいが、詳しいことは私にも分からん」
「それで、その契約ってえのはどんなもんなんだ?」
「さあな。契約者が親しい者と接触を持ったときに周囲に闇の魔力をばら撒く。恐らくそんなところだろう。
 だが、マイスの呪いを見た限りはさほど強い呪いには見えなかった」
イスツールがそう言うと、リズはすぐにベッドから降りて立ち上がった。
「じゃあ、解呪は出来るのね?」
その問いにイスツールは首を振った。
「いや、呪い自体の力はそれほど強くないが、どういう訳かマイスの内面に強く結びついていた。
 恐らくマイスが自分の意思で呪いを受け入れたのだろう」
イスツールは表情を変えずにリズをじっと見て続けた。
「解呪は不可能だ」
「そんな・・」
リズは信じられないという表情をしていた。
なぜマイスはそんな呪いを受け入れたのだろうか。
主人が大きな声で息巻いた。
「何か手はないのかよ!」
「呪いをかけた悪魔を見つけ出して、解除させるしかないだろうな。誰かそれらしい人物に見覚えはないか?」
そう言ってイスツールは二人に交互に目を向けた。
二人とも首を横に振った。
イスツールもマイスとはここ最近ほとんど行動を共にしていない。
「なら、マイスを探すしかないな。まだそれほど遠くには行っていないはずだ。
 恐らく悪魔と行動を共にしているか、でなくとも張っていればそのうち接触をもつはずだ。だが、あまり時間はないかもしれない」
「どういうこと?」
リズは不安そうに聞いた。
「より強い魔力でもって呪いが強化されれば、もう我々はマイスに近づくことすら出来なくなる恐れがある。
 さっきは触れられただけで意識を奪われかけたのだ。いずれは近づいただけで命が危険に曝される」
リズは目を見開いた。
ようやく分かり合えかけたのに、もう二度と近づく事さえ出来なくなるということが信じられなかった。
イスツールは突然主人の腕を掴んで部屋の外へ引っ張っていった。
「お、おい何だよ」
「着替えだ」
イスツールのその言葉にはっとしてようやくリズは動き出した。
二人が部屋を出てドアが閉まってから服を脱いでいった。
するとすぐにドアがノックされた。
「まだよ」
「いや、このまま話を聞いてくれ」
ドアの向こうからイスツールの声が聞こえた。
「もし、マイスの呪いが解除されない場合。私はマイスを殺さなければならない」
その言葉にリズの着替えの手が止まった。
「どういうこと?」
「呪いが解けなければマイスはただ生きているだけで私の使命にとって大きな障害となる。
 近づいただけで攻撃を受けるのではな。だからそうなる前に殺さなければならない」
ドアの向こうから、全く微動だにしないイスツールの声が響いた。
主人がなにか怒鳴っているが、それ以上は今のリズの耳には入らなかった。

401ドギーマン:2007/03/14(水) 19:40:36 ID:WMFiyZTk0
あとがき
さて、次は戦闘シーンに入ります。
またゲンズブール視点も交えたいなあと思ってます。
さて、どういう風に戦わせようかな。

結構レスが進んでいるので、いまからゆっくりと読ませていただきます。
みやびさん、初めまして。

402名無しさん:2007/03/14(水) 23:03:29 ID:C3RWAfjA0
>>373の続きです。


アルパス地下監獄。
嘗て、罪人を拘束し、拷問や処刑すらしていた場所。
それは時に敵の捕虜だったり、若しくは捕らえたモンスターだったりもしていたらしい。
・・・・それも、だいぶ前に閉鎖されたようだが。
「・・・ここがそうなのか。」
俺は静かに斧を持ち上げた。・・・外観は、その施設の重苦しさと残忍さはしっかりと残しておきながら、やはり廃墟の匂いがした。
・・・だが、中からは何かの叫び声や、人外の者のうめき声が響いている様だ。
「・・もしかして、ここは初めてなの?」
傍にいる彼女・・ロゼリーが、槍を地面に立てて呟いた。
「・・・死んだ奴をまた殺す趣味は無いんだがな。」
俺はそう言いながら、ゆっくりと中へと入っていく。
開け放たれた金属製の鉄格子の様な扉の奥に、崩れた柱と、その破片が散らばったままの階段が見えた。

壁の蝋燭の炎は、依然と点ったままだ。恐らく魔力か何かの炎であろうか。
だが俺は、それとは別の点で驚いていた。
「・・・ここには誰も人がいないのか?」
そうだ。今までは何処へ足を向けても、そこには必ず誰か別の冒険家がいた気がする。
だがここだけ、なぜか本当に何かから呪われたかの様に、人が一人もいない。
「ええ。今はなぜか冒険家すら寄り付かないのよ。」
「・・・良くそんな場所に行く気になったな。」
暗闇の奥の方から、ガチャガチャと不可解な音や、腐った様な鳴き声が響いてくる。
と、ロゼリーが勢い良く駆け出した。
「おい待て、何があるか分からんぞ?」
俺も斧の刃を前に構え、一緒に走る。
「大丈夫。道は分かるわ。」
そう言いかけた途端、柱の傍から奇妙な影が現れた。
此方の姿を見たその途端に、真っ赤に燃え上がる炎が飛び出し、ロゼリーの腕を直撃した。
「ひゃあっ!熱っ!」
俺は静かに舌打ちしながら、斧を地面に向けて一気に振り下ろした。
同時に斧の先端の空間が歪み、ゴウッと言う音を響かせながら、何かが柱に向かって飛んでいく。
そしてすぐさま柱の壁が抉れ、そのままその奥にいた影に当たった。
「ガァァッ!」
人ではない声と、バラバラとした音が響く。ロゼリーが腕を労わる様に押さえながら、柱の奥へと槍を向けた。
「・・デイムジェスターね。油断したわ。」
柱の傍に骨の様なものが転がっている。先ずは仕留めたらしい。その中で落ちた金貨を拾い、かばんの中に入れる。
「どうやら人がいない内に魔物が敏感になっている様だな。」
俺はロゼリーの前に立ち、ゆっくりと目を凝らし、周囲を見渡した。
誰もいない鉄格子たちの中とは裏腹に、廊下には骸骨と化した剣士や、ゾンビとなった魔術師が我が物顔で歩き回っている。
その数は多く、ざっと見えるだけで7〜8匹はいるであろう。
ロゼリーは早速、先ほど購入した薬を腕に塗りつけて、包帯を巻いていた。
「・・おかしいわね。この辺りは前まで魔物が寄り付かない筈なのに・・」
「向こうはやる気満々なんだ。・・油断しているとやられる。」
ロゼリーは槍を持ち直し、ゆっくりと歩き始めた。
俺も周囲の敵が気づくか気づかないか、目を凝らしながら足音を忍ばせる。
暫く行くと、ロゼリーが足を止めた。
「どうした?」
「何?あれ・・・」
ロゼリーはそっと身をかがめ、柱の崩れた所から、そっと向こうのほうを覗き込んだ。
俺も同じ様にし、斧を置き、ゆっくりと目を凝らしてみる。

403名無しさん:2007/03/14(水) 23:04:29 ID:C3RWAfjA0
「・・・おい、都へ攻めに行く話だが、どうなったんだ?」
「・・・ああ、近いうちにやりに行くらしい。」
「今の内に武器やなにやらを調えたほうが良いですな」
「コロッサスの部族にも伝令を届けなければならん。」
「奴ら、今頃酒でも飲んで俺たちの事は忘れているに違いない。」

真っ赤な炎を取り囲んで、人ではないが分かる様な言葉を話す奴らが座り込んでいた。
「・・・ジャイアントね。」
「巨人族か?」
その様子をじっと見つめながら、俺とロゼリーは呟きあう。
「・・そう言えば北部開拓や廃坑の開拓で、大量のジャイアントが拘束されたと聞いたな。」
「・・・多分そいつらよ。最近討伐隊も来ないから、こっちに攻めてくるつもりなのね。」
そう言いながらロゼリーは、紙に何かを書き込んでいた。
「何をしているんだ?」
俺はじっとそれを覗き込もうとするが、彼女は俺の目の前からそれをどけてしまった。
「ただの報告書よ。私は外の情報収集の仕事もしてるからね。」

「誰だ?其処にいるのは。」

突然近くで声がした。見ると、ジャイアントが一匹、此方の様子を伺っている。
「こっちにも居たのか。」
俺が斧を振り上げようとするが、ロゼリーが止めた。
「待って。迂闊に武器を振らない方が良いわ。・・彼等は目が悪いから、逃げたほうが良いわよ。」
ゆっくりとジャイアントが近づいてくる。俺は斧を音を立てないように持ち上げながら、すぐさまロゼリーが「こっちよ。」と言いながら走っていく後を追った。

「ふぅ。危なく集団とやりあうところだったわ。」
ロゼリーが足を止めた場所は、また何かの入り口らしき場所の壁だった。
耳を澄ましても、確かに魔物の声は小さくなっている。
「ここの奴らはそんなに手ごわいのか?」
俺は先程やっつけた奴の事を思い出していた。そんなに強くなかった様な気がするんだが・・
ロゼリーは静かに頷き、俺に一枚の紙を渡した。
それは、この監獄の中の大雑把な地図・・恐らく、このぽっかりと空いた奥への入り口の中なのであろう・・だった。
「この先は手ごわいわ。見た目以上に頑丈な敵も多いの。・・でもその先に、結構な宝物があるって噂なのよね。」
宝物か・・。俺はそう呟いて、火元に照らしつつその地図を眺めた。
迷路の様な中。その奥にまた階段がある。
「その階段の奥深くに、宝物があるらしいの。気合入れていくわよ。」
「其処まで分かってるのなら、一人で行けば良かったんじゃないのか?」
斧を背中に背負い、俺はロゼリーに言ってみた。すると彼女はむっとした顔をしながら、
「何よ今更。意地悪な人ね。・・・女の子をこんな所に一人で行かせる精神の持ち主なの?あなたは。」
「・・そうでは無いが・・あんな奴らも倒せない様じゃな。」
ロゼリーは槍を担ぎ、腰から小ぶりの弓を取り出した。彼女のボディラインの様にスラリと伸びた、精巧そうなものだ。
「言ったでしょ。宝物を取って帰れさえすればそれで良いのよ。」
「だが、この奥の魔物達はここより手ごわいんだろう?」
俺は肩をすくめ、相手を見た。・・ロゼリーはまた、俺を誘った時の様に無垢な笑いを浮かべる。
「そのために貴方がいるんだから、頑張ってよね。」
なるほど・・そう言う事か。俺は「わかった。」と一言呟くと、一人先にその奥へと足を踏み入れた。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ。」



なんか前回に比べてgdgd感が否めませんが・・その内また続きを書きます。

404名無しさん:2007/03/15(木) 06:47:20 ID:ML7Qxj860
>みやびさん
入りの部分の謎めいた事件だけでなく、単独捜索をするフロルとランスも緊張感がありますね。
政治的なものが背後にあるというのがまた興味を引きます。
この、未来予知というのがそもそもの発端だとして、それが解明されていくのが楽しみです。
私もしたらばにこんなスレがあったと気が付いたのが前スレも終わりくらいの頃でした(笑)
いつも楽しみに皆さんの小説を読ませてもらっています。

>ドギーマンさん
ゲンズブールは魔力を持っていない、という事をエムルは知らないんでしたね。これは計略失敗になるのでしょうか、それとも…?
「頭の上に輪」とは、まさに"手駒"ですね。最初の目的だったマイスすらも利用しようとしているように思えてきます。
リズとこのまま触れる事もできないままだと思うとやっぱり悲しいです。続きお待ちしています。

>402-403さん
「冒険者が寄り付いていない」という話と、今のアルパスが過疎化しているという事実とが一致していて面白いです。
巨人さんが物騒な話をしていますが、ロゼリーの行動も気になります。何か秘密がありそうですね。
最深部には何があるのだろうか…。単純な宝探しでは無さそうな予感がひしひしと。

405海風:2007/03/15(木) 17:21:36 ID:lUdZh.hM0
−重厚な鎧を観に纏った騎士 左に巨大な盾を帯び 剣にはいまだに手を伸ばさず
−ショルダーパッドに守りを任せ 軽快に動く剣士 操る曲刀が 騎士を捕らえる

急所に向けてすばやく突き出された曲刀は、現れた巨大な盾によってはじかれる。
すぐに間合いを空け、再び攻撃を繰り出す剣士

盾に防がれることを意識しながらも、目にも止まらぬ速さでさまざまな角度から曲刀を振る
‘スウィングインフィニティ’
その全てを盾によって防ぎながらも、徐々に後退する騎士
剣士は手ごたえを感じながら、攻撃を続ける。

瞬間、騎士の盾が左に‘逸らされた’ 剣士はすばやく、空いた右へと曲刀を繰り出す。

ギィンッ

それは、刹那の出来事。
         ‘ソードブロッカー’
騎士の右腕につけられた、小さな悪魔。 騎士に痛恨の一撃を与えるはずであった曲刀は その悪魔に捕らえられ 濁った、苦痛の声を上げながら 折られた。

折られた先が 地面に落ちた時には、騎士の解き放った水晶剣が 剣士の心臓へと向けられていた


「マスター、よく守ってくれた。15秒も経っていないな、さすがだ」
周りから歓声が上がり、勝負の終わりを告げる。

攻城戦。
互いのマスターが剣を帯びたもの同士であったゆえ、一騎打ちとなった今回の戦い。
騎士は、仲間たちの結束の象徴であるギルドの紋章を守るために。
剣士は、名誉とギルドホール獲得のために。

騎士は、地面へ装備していた巨大な盾を置く
そして、その上に手を当てる。
周りの仲間も集まり、手を重ねてゆく。
そして、勝利を祝い、戦った相手を称える。

その巨大な盾には、ギルドの紋章が 描かれていた。

406海風:2007/03/15(木) 17:23:20 ID:lUdZh.hM0
攻城戦実装楽しみですね

ってことで短編を書いてみました。
え?自分? 最近もっぱら戦はBIS、天使ですよ。やること変わるのかなあ

407名無しさん:2007/03/15(木) 17:45:05 ID:K5WXc.Wk0
今スレが建ったあたりから色々あって全然読めなかったんですが、
久しぶりに来てみて二日かけて今スレやっと全部読み終わりました・・(笑

>ドギーマンさん
相変わらず執筆が早く、多数の作品を楽しませてもらいました。
ドギーマンさんの作品は恋愛&別れがあって、毎回泣いてしまいます・・・。
「HERMEL」や「Zef」がお気に入りで、男女の別れ系がツボみたいです。
今回の「Devil」もどうなるか凄い楽しみです。

>携帯書き物屋さん
毎回凄い楽しんで読ませて頂いてます。
所々笑えるとこがあったりと、とても読みやすくて面白いです。
ヘルとニーナが組んだ辺りが凄いワクワクドキドキでした(笑
エミリーは死んでしまったのかな・・やっぱりそういう所で泣けます・・。

>姫々さん
キャラの個性が凄い出てて、面白いです。
リリィとルゥの会話が微笑ましくて好きです(笑
にーさんは無事救護され、また会えるんでしょうか・・。
続き楽しみにしてます。

>elery_doughtさん
ほのぼの家族みたいなギルド憧れます、いいですね〜。
GMの何気ない会話のやり取りなど、見てて凄い面白いです(笑
次回はGvですよね・・続き楽しみにしてます。

>みやびさん
○/6Pとあってもう少しで終わっちゃう・・と思いつつ読んでて、最終的に続く事にホッ(笑
天使+イザンとフロル+ランスが島で出会うんでしょうか・・続きが楽しみです!

>373さん
確かにアルカンは過疎ってて、現状と同じですね。
そういえば小説スレでコロを見かけたの初のような気がします。
廃坑B9から来るとなると大変ですが・・(笑
ロゼリーも何か企んでそう・・今後の展開楽しみにしてます。

>171さん
水大砲、凄いかっこよくて良いです(笑
スキルを色々武器に仕立てて発想が面白いです。
オーガだけじゃなくて他にも潜んでるみたいですね。
続き楽しみにしてます。

408みやび:2007/03/15(木) 19:50:13 ID:blNlRQMM0
 ダメ出し食らってたらどうしよう、と思って来てみたのですが、ホッとしました。(←小心者)

>姫々さん
 む。もしかしてテイマーさんでしょうか。
 実は私もテイマーです。なのでビスルを灰にするのはちょっと抵抗あったんですが、どうし
ても消えてくれないと困るので(作者の都合ってやつですね)心を鬼にしました……。シクシク
 続き頑張ります!

>ドギーマンさん
 初めまして。
 ところでここを覗いて最初に目に映ったのがドギーマンさんでした(笑)
 作品のほう、これから読ませていただきますね。

>404さん
 きっとここはいつもsageられているので気付かなかったんですね。私もそう。
 私がしたらばを知ったのはスキル情報収集のためでしたが、住人の多いスレって大抵は
定期的にageられて(笑)いるので今まで「スレ一覧」を見ることはなかったんですよね。
 たまたま普段覗いているスレが沈んでいたので、一覧クリックでここを発見しました(笑)
 っと、続き、ちゃんと書きます。その前に他の方の作品を読みたいのでしばしお待ちを(汗)

>407さん
 ありがとうございます!
 基本的にショート・ショート書きなので、続き物ってなんだか慣れなくて……。(最初から
読みきりで書けばよかった……と今気付きました(汗))
 でも切り所が難しいですね。次はもっとスムーズに書けるといいなあ。

409名無しさん:2007/03/15(木) 21:54:53 ID:FtEewTTE0
>海風さん
剣士ってカッコイイですよね…自分が操作した事はほとんど無いのですが
このような小説を読むと惚れ直すというか、やっぱりカッコイイ。
攻城戦も楽しみと言いたいですが、当方Gv未体験者でしてorz
でも友人や知り合いが良く話しているので楽しく夢を聞かせてもらっています(笑)

>みやびさん
そうですね、基本sage進行のようです(実は最近テンプレ見直して気が付いたorz)。
一時期は過疎ってしまっていたようですが、最近は書き手さんが増えてくれて読み手としては嬉しい限り。
皆さんのレベルの高い小説、最初からまた読み直したいという心境に駆られます。
どんどんまとめサイトを手伝っていかないと…(汗)

410ドギーマン:2007/03/16(金) 08:00:00 ID:WMFiyZTk0
『手記』
>>120-121>>130>>133-135>>139>>145>>180>>193>>215-216>>247>>262>>282>>350

■月●△日
砂漠村リンケン
ブルン王国の最西端の国境付近に位置する小さな村。
かつてエリプト帝国が砂漠を支配していた時代。
この村はそれ自体がブルン王国の前線基地としての役割を担っていた。
この村と、当時エリプト帝国の支配下にあったアリアンとの間で起きた戦闘は数知れない。
砂漠には未だに戦争で死んだ者たちの屍が埋もれている。
だが、この戦争における主な戦死者は決してブルン、エリプトの両国の国民ではない。
それは砂漠に生きる傭兵たちであった。
彼らは砂漠における戦闘のプロであり、
衝突を繰り返していたリンケンとアリアンは彼らにとって格好の稼ぎ場であった。
だが戦争が激化していくにつれ、
傭兵である彼らは時には血を分けた肉親同士ですら戦わなければならなかったそうだ。
両国にとっても、自国民を犠牲にするよりは彼らを積極的に利用した。
私が昔見た非公開の文書の中で傭兵達を高額な契約金で確保し、
死地に置いて契約金の支払いを削減せよといった内容を見たことがあった。
酷いものではたとえ死ななくとも、支払いを先延ばしにして再び激戦区に派遣せよといったものもあった。
まるで傭兵達を殺すために戦争をしていたかのようである。
当時の軍の指揮官達の狂気ぶりが伺えた。
リンケンの北の砂漠にある傭兵達を埋葬した地下墓地郡には、
当時の傭兵達の無念が生み出した強力な死霊達が今も呻き声をあげているという。

411ドギーマン:2007/03/16(金) 08:01:09 ID:WMFiyZTk0
■月●□日
グレートフォレスト
フランデル大陸中部の砂漠と東部の平原の間に存在する広大な森林。
街道を逸れて森の暗がりに足を踏み込めば、もはや引き返す事は叶わないと言われている森である。
かつて、この森もエルフ達の領域であったことを知る者は少ない。
今では木々は切り開かれてこの通り街道が通り、僅かばかりの獣達が住んでいるのみである。
この森のどこかに今もエルフ達の王宮があり、
エルフの王の元で復讐の機会を伺っているという噂もあるが真偽のほどは定かではない。
さて、私はこの場所で地図を広げてただ無駄に時を過ごしていた。
材木町ブレンティルに向かいたかったのだが、かの街までは街道が整備されておらず、
どのように向かったら良いのかが分からなかったのである。
考えられる進路は二つ。
このまま最短で一直線にグレートフォレストを北東に向かって進む進路と、
一度グレートフォレストを出て迂回し、クェレスプリング湖の脇を進む進路の二つである。
どちらにしろブレンティルの手前で北バヘル大河の上流とぶつかるのだが、橋でも架かっているのだろうか。
悩んだ末に、私は前者を選択した。
一度ブルンネンシュティグに寄っていっても良かったのだが、
迷いの森の真偽を確かめてみたかった。
果たして、本当に二度とは戻れないと言われるほどのものなのかと。
かつてこの森がエルフ達の領域であった頃、
彼らは侵入者を排除するため、また王宮に近づけぬためにこの森に結界を張ったという。
これまで何度もこの好奇心のために命の危機を感じたことはあったが、
今回ばかりはさすがに後悔してしまった。
気づいた頃には私は完全に方向を見失ってしまっていたのだ。
いくら歩けど森を抜ける気配はなく、やっと抜けたと思えば砂漠に戻されていたり、
目印に木に傷をつけてもみたが何度も同じ目印の木の元に戻され、
ふと気づいたときには目の前の木々すべてに全く同じ傷が付けられていたのを見たときには、
気が狂ってしまいそうだった。
もう駄目かと思ったとき、一人の男が私を見て笑っていた。
彼の名はアベルといい、冒険家をやっているらしい。
彼が言うには闇雲に進むだけでは駄目なのだという。
特に目印を付けるというのは最もやってはならない行為で、幻に惑わされてしまうそうだ。
彼の眼には私が同じ場所をずっと行ったり来たりしているように見えたそうだ。
では、どうすればブレンティルへ行けるのか。
一度砂漠に出て、そこから森の脇を進み、再び森に入るのだという。
つまり、砂漠が見えた時点で引き返していた私には一生辿り着くことは出来なかったということだ。
私はその日彼の親切に甘えて、森の中に作られた彼の住居に泊めて貰う事にした。
明日にはブレンティルまで送ってくれるという。

広大な迷いの森に一人で生活し、森を知り尽くした男。
私はそんな彼に興味を持ち、色々と尋ねさせて貰った。
まず、何故こんなところに居るのか。
彼が言うには、幻と言われるエルフの王宮を探しているのだという。
そしてそのために娘を街に残してきたのだという。
娘としては心配なことだろう。
だが、往々にして冒険をする者はこのような人物である。
我侭であり、自由であり、そして迷うことを捨てている。
かく言う私も、そういった人種の一人だ。



訂正しよう。
迷うことを捨てたのではない。
捨てたいと今も足掻いているのだ。

412ドギーマン:2007/03/16(金) 08:11:11 ID:WMFiyZTk0
あとがき
アンカーまとめてみました。
リンケン、歴史的なネタが全くないんです。
昔アリアンと仲が悪かったみたいですが、詳しいことは何にも・・・。
ってことで、今回は参考にするものはほとんど無いわけですね。
どうやら砂漠の方ではグリーク教はあまり浸透していないようです。
で、何か別の宗教があるようなのですがそれに関しても情報なし。
おかげでしばらく放置してしまいましたが、何とか先に進めたいと思います。
あと、クエストで有名なアベルを登場させてみました。
グレートフォレストが昔エルフ達の領域だったかは、知りません。
でも、街道周辺を除けばグレートフォレストが関わるほとんどのエリアにエルフが居るんですよね。
なのにそれらの中央に位置するこのエリアには居ないんですよね。
さて、次は遠いですがブレンティル行ってきます。

413みやび:2007/03/16(金) 09:09:55 ID:fGZPE8s20
 おはようございます。
 昨夜少しだけ皆さんの作品を読み進めてみました。(睡魔に負けて感想も書かずに寝て
しまいましたが……)
 と、感想を載せようと思ってやって来たら早速ドギーマンさんのUPが。むー、早い。

>ドギーマンさん
 ほかのシリアスな作品も良かったのですが、なぜかエロガッパWIZの小話が気に入って
しまいました(恥) はやり透明は男の人にとって浪漫なんですね(笑)
 私なら透明になれたら……うーん。やっぱり男風呂に! ……入りたくないです(笑)
 まそれは置いておきまして。天使のお話も好きですが、『ディスプレイスメント』も面白かっ
たです。そうかこういう手もあったのか。と感心したところで、私はあまりスキルには詳しく
ないので、スキルを元に書くのは思いつかなかったですね(汗)
 それにしてもドギーマンさんはモチーフが豊富。しかも早い!(←重要) 遅筆へっぽこな
私としては羨ましいかぎりです。
 『ケルビン・カルボ手記』については正直やられた! です。私もNPCの台詞収集に凝っ
ていた時期がありまして、いつかまとまったら文章に起こしてみようと目論んでいたので
すが……(苦笑)。ともかく、それもあって興味深く読むことができます。
 グレートフォレストにエルフが多い理由を考えてみるのも面白いかもしれませんね。
 個人的に、最後の御話はカルボ本人の逸話で〆てほしいです。(身勝手な好み(汗))
 ブレンティル楽しみにしてます。

>姫々さん
 ルゥの天然ぶりも好きですが、やっぱりリリィ可愛いです。でもリリィって、しっかりしてそ
うで実は根っこの部分で天然ですよね(笑) まあそこがいいってのもありますが。
 ブリッジのあとがきでシーフ=武道云々の愚痴がありますが、大丈夫です。(なにが)
 私なんてシーフと武道のスキルをほとんど知りませんから(笑) DFと3連? 程度しか知
らないので、オリジナルを土台にしたらシフ/武道の書き分けは私には無理……。
 戦闘シーン楽しみです。

 さて。今日はバイトもないのでゆっくりと自分の続きを――。……できれば書きたいです。
 でもRSしちゃいそうな気もするな……。まだ目を通していない他の方の作品もいっぱい。
 一日はなぜ二四時間しかないんだろう。

414名無しさん:2007/03/16(金) 15:28:16 ID:/21BLwCko
>ドギーマンさま
グレートフォレストもエルフの居住地(だった)かもしれないというのは目からうろこです。
そうえいば、砂漠に隣接してグレートフォレストがあり、それを超えると肥沃な大地が広がる。
もしかしたら、森を砂漠から守っているのもまたエルフ達なのかもしれませんね。

>みやびさま
書式がしっかりしていてとても読みやすいです。
ただ、……と――の違いがわかりません。
教会のうさんくささがリアルでいや…いいです。

415姫々:2007/03/16(金) 18:00:38 ID:Cc.1o8yw0
さて、やっと新職感はありますが、予想してた人が一人くらいはいてくれた
事を祈ります。アリアン編第5話、ルゥたちと離れ、某人の回想となります。
>>387-389より続きます。
・・・
・・・
・・・
「奥様…ねぇ…」
左手の薬指にはめられている、かざりっ気の無い白銀の指輪が太陽の光に反射して光っている。
あいつに会ったのは2年前の事、俺が22歳の時だった。


その日、俺はアリアン傭兵ギルド「クロマティガード」の入隊試験を受けていた。
(ったく……傭兵ギルドごときの入隊試験なんかちょろいもんだぜまったく…)
ルールは簡単、試験生相手に1対1の模擬戦を5戦して4勝すればその時点で合格というものだ。
まぁ俺は全試合10秒以内で圧勝して入隊を決めたわけだが、その時からこんな噂が流れていた。
≪とんでもなく強い槍使いがいる。全試合開始と同時に勝ちを決めたそうだ≫
と。それだけなら別にどうという事は無い、ただそいつは女だというのだ。
とは言っても、別にそこまで大きな興味は無かった。
それはそもそも俺に、女が弱いなんて観念は持ち合わせていなかった為だろう。
ただ、「美人ならいいな」とかは思っていたかもしれない。

入隊の日、その女はいた。合格者30名の中でも、紅一点という事でそいつはかなり目立っていた。
見た感じ年下だろうか、しかし整った顔立ち、凛とした表情―、結構な美人には間違いは無い。
なら俺がする事は一つ。
「なあ、今夜俺とどう?」
と、入隊式が終わり次第、声を掛けていた。しかし周りの男達はそんな俺を見て一歩引いている、
何故だ?…そうかっ、羨ましいんだな?などと考えていた俺が馬鹿だった。
気づいた時には俺は首元に短剣を突きつけられていた。
「失礼と思いませんか?」
顔は無表情のまま、しかし口調に棘をむき出している。途端に周囲がざわめきだした。
短剣を持つ手を俺は「まあまあ」と、左手でどける。
「悪かった、確かに名前は名乗らないとな。俺はロイ、あんたは?」
「フェリシアといいます。あなたの方が年上の様ですしフェルで結構です。…じゃなかった…」
さっきとは打って変わり、またやってしまったという表情で、短剣を懐にしまいつつ、
右手を額につけている。
「ん?どうしたよフェル。」
俺は聞いたばかりの名前を呼んでみる。うん、何となくしっくり来るいい名だ。
「いえ…、名乗られれば名乗ってしまう癖があるんですよ」
「それはいい癖だな。ていうかどう?マジで今夜。」
忘れている気がするので、もう一回言ってみる。
「ええ、いいですよ。」
なんとあっさり。自慢じゃないがこの口説き文句で成功した試しは無かったんだが
変えなくてよかったっ!!!そしてざわめく周囲の男共、もっとその羨ましそうな目で
見てやがれ、この俺をなっ!!

416姫々:2007/03/16(金) 18:02:55 ID:Cc.1o8yw0
「ただし、一度私と本気で勝負してくれないですか?あなたも相当強いと噂されてますので」
「ん?ああ、かまわないぞ?」
強いと噂されてるのか、そりゃ嬉しい。と、その条件を安受けあいしてしまう
「ホントですかっ!?嬉しいー、ここ最近本気で勝負する機会が無くて困ってた所なんです」
「ん?そうかっ!!はっはっは、それは俺も嬉しいぞ、じゃあ20分後、アリアンの門の外な」
「はいっ!また後で会いましょう」
手を振って、今までの無表情が嘘のような、とんでもなく綺麗な笑顔で走って行った。
それを俺も手を振って見送るわけだが、周囲の声が何故かざわめきからどよめきに変わっている。
そして、俺と同期の一人が、肩にポンと手を乗せて静かに言った。
「死ぬなよ…」
と…。
「はい…?」
俺はとんでもなく嫌な予感がしたのだが、約束してしまったものは仕方ない…、まあ
そこまで悪いようにはしないだろう。という希望を持って、約束の時間に門の外に出るのだった。


……
(甘かった…、この女本気だわ…)
目の前の槍使い、フェルが手に持っている得物は、本人の身長を遥かに越える長槍、
どうみてもそれは騎乗用の物で、持ち歩くには不便で仕方なさそうなのだが、
それを片手で軽々と持ってやがる。
で、俺はというと…
(こんなんじゃ無理そうだわなぁ…)
という感じの、向こうが持ってるのに比べたら細くて短い投げ槍。いや、一応はそれなりの
投げ槍なのだけれど。
「あなたねー…、ランサーじゃないでしょ?本気お願いします。」
呆れ顔で言われる。まぁ背中にこんなでかい弓背負ってれば当たり前か…。
事実俺はランサーでは無くアーチャーだ、槍はあくまでも自己防衛に過ぎない。
「本気…か…。OK、始めようか」
周りはギャラリーで埋め尽くされている、いよいよ俺は逃げられなくなったわけだ。
槍に魔力を込め、手を離す。
「ミラーメラーミスト…、魔法使えるのね」
「まあな、アーチャーとしては自己防衛の手段だ。」
今、手を離した槍は、霧を纏いつつ俺の周りを旋回している。俺に対する攻撃に
自動的に反応し、攻撃を遮断してくれるという優れものだ。これのおかげで俺は
攻めに専念できる。
「じゃ、私から行きますね」
「おう」
そう返事をした瞬間、ヒュンと残像を残して消える。そして背中で「カァン」という金属音。
「なぁっ!?」
振り向くがそこには誰もいない。
槍の盾が無ければ一瞬で勝負が決まっていただろう。さっきまで僅かに残っていた希望を
蹴り飛ばし、俺は目を凝らす。
(見ようと思えば見れなくも無いか…)
見ようと思えば見れるが、早すぎてどうも標準が合いそうに無い。が、こう突っ立ってばかりも
いられない。俺は矢を番える。

417姫々:2007/03/16(金) 18:06:02 ID:Cc.1o8yw0
(行けっ!!)
心の中で叫ぶと同時、魔力を込めた矢を放つ。それは「標的に当たるまで追いつづける矢」
これならまず外す事は無い。が…、「チッ」っという金属が擦れる音だけ残し、
まるで手ごたえが無い。確かに当たるには当たったが、掠っただけだったようだ。
続けざまに同じように三射するが、どれも結果は同じ。掠るだけで決定打にはならない。
「参ったな…」
確実に当たるなんて技術はこれ以外に持ち合わせていない。
「終わりなら、次は私の番―」
その声が聞こえた時、俺は「8人の」フェルに囲まれていた。しかも、そいつらは全員
俺に向かって槍を構えている。
「なっ…!!くそっ!!」
分身の類だろうが、何にせよこの手の攻撃法の打開策は一つしかない。
「ゥオオオオオオオオオオオ!!!」
出来る限り腹に力をいれて叫びつつ、8人の中の一人を弓でなぎ払う。
そいつは「ドカッ」という鈍い打撃音と共に吹き飛び消滅する。
俺はその開いたスペースに飛び込んで槍の檻からの脱出に成功するのだった。
(手ごたえあり?で、本体が無傷って事は分身に実像を持ってたって事か?)
それなら相当厄介だ、さっき高をくくって槍の防壁に任せていたら、俺の身体は
穴だらけになっていたかもしれない。
「やるわねー、結構本気なんだけど…」
「はっはっは、男を舐めるな」
強がりだ、俺だって全力なのだから。が、フェルの足が止まった、多少の疲労はあるという事か。
(ならまぁ…、試してみる価値はあるわな…)
俺は矢束から8本の矢を掴み取り、その内の一本に魔力を込める。
そして魔力を込めた矢を番える、そのときも残り7本は握ったままだ。
こんな無茶な事しても、魔力を込めているおかげで、ちゃんと真っ直ぐ飛んでくれる。
「ちゃんと飛んでくれよ…」
「………」
相手方、フェルの足は止まったまま。俺を真っ直ぐ見つつ、前方に槍を構えている。
「ビット―」
精神を前方に集中する。目標までの距離は僅か10m、放てば1秒と掛からず着弾する。
依然槍兵は微動だにせず、真っ直ぐ俺を見ている。「来い」と挑発するような目で。
しかしそれ以外は何もしていない。槍を前方に構えているだけ。ならば俺から仕掛けるのみ、
「グライダーッ!!!」
叫び、矢を放つと、8本の矢が拡散する。そのうち真っ直ぐ飛ぶのは魔力を込めた1本のみ、
だがそれでいい、その1本をアンカーにして、拡散した7本は魔力に引き寄せられ、収束する。
つまり、敵には8本全てがさまざまな角度から命中する事になる、それら全てを捌くのは至難、
さらには10mという距離から打ち出される矢を、放たれてから避けるのは不可能。
なら俺の勝ちだ、そう確信していた。
『カァン―』
響いた金属音は一度だけ―。その一度で…
「8本の矢を全部…弾いたのか…」
フェルはクルリと槍を一回転させ、腰元に構え直している。

418姫々:2007/03/16(金) 18:08:41 ID:Cc.1o8yw0
これを防がれるのなら、俺に勝ち目は無い。無い…のだが、フェルがはぁ…とため息をつき、言う。
「私の槍はあなたに届かない。あなたの矢も私には届かない。それに私には奥の手って物は無い、
 手は出し尽くした。」
?…何が言いたい。
「あなたには奥の手ってある?あるなら見せて、それを看破できれば私の勝ち、
 出来なければ負けってことじゃ駄目かな?」
奥の手か…、あるにはあるな…。
「ある、俺には一つだけ。」
「見せて、私はここから動かない。」
「あぁ、」
俺は自身の周りを旋回する槍を手に持ち、それを弓に番える。
放つ矢はボア・クラン。手から離すと確実に相手を貫き、確実に致命傷となる魔槍―
勝負は一度、これで決まる。
「最後だ―。」
俺は限界まで弓を引き絞り、手を離した。
これで駄目ならもはや俺に攻撃手段は無い。しかし、その矢に宿る魔法は呪いの類にまで
昇華している。避ける事など不可能。
(ってちょっと待てっ!!)
戦いに夢中になってしまっていたが、あれじゃ本当に死んでしまう。
しかも弾くならまだしも、槍を構えずに上体を起こしている辺り、回避に徹する気だろう。
しかしそれはまったくの無駄だ、弾いて地に落とさない限り槍は対象を貫くまで追いかける。
「弾けっ!!!!!!」
俺は叫ぶ。しかしフェルは着弾の寸前、残像を残して真横にテップしてかわす、
しかしもちろん槍はそんな物お構い無しにフェルの左胸を貫いた。

…勝負は決まった。
「俺の、負けだな…」
「ええ、私の勝ち。」
どういう魔法か、フェルは残像に実像を持たせたのだ。つまりフェルはその時だけ二人いた、
両方本物なのだから、槍はわざわざ方向を変えずに真っ直ぐダミーの方を
貫いたのだった。
「ったく…、美人にゃとことん縁がねえなぁ…」
目標を外し、地面に転がっている槍を拾い上げつつ言う。
「縁?まあいいけど、今夜は楽しみにしてるね」
「え?」
「え?って、あなたから誘ったんだよ?責任持ってくれないかな?」
身長170あるかないか位の女に怪訝な顔で見上げられる。
「勝負、俺の負けだぞ?」
「あ、じゃあおごってくれるの、うれしーなー」
何故棒読み。「はあ?」って顔をしていると、再び怪訝な顔で俺に言う
「冗談よ、っていうか私に勝たないと一緒に行ってあげないとか言ってないよ?」
「あら…?負けたら来てくれないんだと思って俺は全力で戦ったんだが…。」
「え?もちろんよ。「全力で戦う事」を条件に夜に付き合うって言ったの。
 勝ち負けは関係ないわよ?」
つまりは断る気はさらさら無く、全力で戦えばなんでもよかったらしい。
「けど嬉しいわよ。あなたは強い、私が戦ったどんな男よりも。」
笑顔で右手を俺に向けてきた。
「ああ、そうか。そりゃ光栄だ」
俺も右手を出し、フェルと握手する。
まあフェルは強すぎだ、俺にとっても俺が戦ったどんな相手よりも強かった。

419姫々:2007/03/16(金) 18:10:04 ID:Cc.1o8yw0
「じゃ、夜は楽しみにしてるわよ。日没に宿の前集合、遅れたら刺すからね?」
あっさりと物騒な事を言い残し。いつの間にか俺に対するしゃべり方が敬語からタメ口に変わっている
女は走り去っていった。

その日の夜、酒場で色々な事を話した。フェルはエリプト出身の槍兵で、
人並み以上に魔力を持っていた。だからこそ残像に実体を持たせたりできるらしい。
傭兵になった理由を聞くと「家族を魔物に殺された」と、一言だけポツリと言った。
あまりに空気が重く暗かったので、
「じゃあ俺と家族にならないか?」
と、暗い雰囲気を跳ね飛ばす為の冗談としていったのだが、
「それもいいかもね…」
と、酒に酔っているのか、はたまた別の理由か…顔を赤くしつつ、またポツリと言った。
・・・
・・・
・・・
で、あれが複線になったのか…、あれから1年と少し付き合った結果、
俺とフェルは結婚に至ったのだった。まぁお互いに傭兵業という役柄から、
二人だけの本当に小さな結婚式だったが。
「子供とか欲しいか?」
そう笑って尋ねてみると
「将来的にはね」
と笑い返していた。それから僅か3ヵ月後だった、リンケンがアリアンの貿易隊を襲い、
その事から抗争が始まってしまった。フェルは前線に送られ、弓兵の俺はアリアンの最終防衛線に
配備されて、離れ離れになってしまった。
抗争は数的に圧倒的に勝っているアリアンが勝利、さらに捕虜にされていた貿易隊を開放するという
条件で、抗争は終結するのだった。どうもリンケン側が何の知らせもせずに大集団で入ってきた
アリアンの行商隊を盗賊の類と勘違いした所からこの抗争は始まったらしい。呆れた話だ。

しかし、抗争が終わってから、フェルがアリアンに帰ってくることは無かった。
俺も砂漠を探したが、死体どころか遺留品も見つかることも無く、月日が過ぎて行った。
・・・
・・・
・・・
(そうか…墓か…)
はっと昔を思い出していた俺は我に帰る。あの3人娘が言っていた事がふと頭に引っかかった。
確かに何処を探しても死体は見つからなかったが、警備傭兵墓のある方へは行っていない、
あっち方面に配備されていたなら、もしかしたらフェルの槍くらいは見つかるかもしれない。
(どうせ見張ってても何も起こらねーしな…)
俺は釣竿を立てかけ、おれ自身の得物を担ぎ警備傭兵墓へと向かう事にした。

420姫々:2007/03/16(金) 18:16:13 ID:Cc.1o8yw0
回想終わりっ!!!
イメージはランサー/アーチャーです。
男アーチャーがいてもいいじゃない、って事で書いてみました。
そして次回アリアン編最終回っ!

>みやびさん
私は名前どおり姫だったり(以下略
けれどもロマ=セラの故郷イメージが強かったりします'`,、('∀`)

そして他の方の作品読まずに先走って投稿して感想もって無い私乙orz
また感想に1時間もかけるのも嫌なのでまた今度でお願いします。

421名無しさん:2007/03/16(金) 18:37:44 ID:ZSL4idM60
>ドギーマンさん
初めてグレートフォレストに行ってみた時の頃を思い出しながら読ませてもらいました。
道端にある箱を目指して走り回っていたら、絶対に抜け出せなくなってしまって…最後は死に戻りました(笑)
そういえば、エルフは全くいませんよね。何か謎がありそうです。
ブレンティル楽しみです。アチャの故郷のように扱われる事も多いですが、武道のマスタクエができる場所なんですよね(笑)

>姫々さん
飄々としているロイにこんな過去があったとは…輪をかけてこのキャラが好きになってしまいました。
軽いノリを貫いていると思えば時に真剣になったり、そんなロイだからこそフェルもついてきたんだろうなぁ(*´д`)
それと、リリィやロイのようにゲーム内の職性別が違うというのも面白いです。女WIZに男アチャ、今後登場するキャラも楽しみです。
ロイがフェルの忘れ形見に出会える事を祈って続きをお待ちしています。

422姫々:2007/03/16(金) 18:52:01 ID:Cc.1o8yw0
よし、読んできました。ちなみに420の一番したの行の3,4文字目は後書き
って変換してくれるように脳内に頼んでくださいorz

>ドギーマンさん
悪魔はまるっきり分からなかったんですけどちょっとづつ分かってきました。
私もいつかは出さないと駄目な気がするので勉強させてもらいます。
で、手記ですが、リンケンは私も傭兵以外におもいつきません。
そして何かのクエのときアベルに会いに行こうとして迷いまくったのを
思い出しました。

>402,403さん
アルパ懐かしいな…そういえばアーチャーかランサーのマスタクエの
称号って偵察学とかそんな感じでしたね。
そしてジャイアントは1stキャラで行った時は強かったorz

>海風さん
攻城戦実装楽しみですが姫な私もやる事変わるのか疑問です'`,、('∀`)
お互い頑張りましょうorz

423みやび:2007/03/17(土) 12:05:19 ID:Hb0bzE3U0
 こんにちは。仕事はないのにリアルで来客のため、今日は筆はお休みです(泣)
 取り急ぎちょいとレスだけ。

>414さん
 本当は中身で勝負したいとろなのですが……自信がないのでせめて書式だけは、とい
つも気を配るようにしています。私の環境ではこの掲示板と同じ改行を再現できないのが
残念。
 そういえばここ、タグ使えたのかな? <PRE>で固定ピッチフォント入れて強引に……
なんて一瞬考えてしまった。(あるいはタグ使えても実際の使用はタブーとか?)
 いや。基本的に掲示板でタグを使うのはどうも好みではないので、やりませんが。
 そんなこと言うと「傍点使いたい!」という欲求が……。

 「……」と「――」のちがい。
 昔教わったような気もしますが……今は日に数百万の脳細胞が死滅していて忘れてし
まいました(羞) ←正確には教わったかどうかを思い出せない(汗)
 ただ、自分ではずっと「……」は沈黙の意に多用(まあこれについてはお馴染みですね)。
 「――」に関しては、装飾の一部として使われるほか、本文では「説明的な文面」の場合
は()や「」といったカッコの代用に使われ、「口語的な文面」の場合には「会話の遮断、中
断(言葉を詰まらせたり、またそれまでの会話の打ちきり→別な内容に受け渡し。といった
場面ですね)」に用いられることが多い。と解釈しております。ので、自分でもそのような使
い方をしております。はい。
 ただ私、国語の成績は最悪でした……。
 なので「学問としての国語」の正解はわかりません(羞)

>姫々さん
 今回UP分、客追い出したら読みますね(笑)
 あー姫さんでしたか。失礼(汗) 姫……いちどはやってみたい(ある程度は完成させてみ
たい)職。でもヘタレなくせにソロしかしない私には敷居が高いわ(泣)

 明日は一日フリーなので『神の機械』の(二)を進めたいと思います。
 でも無理そうなら読み切りでも書きます。(下書きだけで放置しているのがあるので……)

424みやび:2007/03/18(日) 18:57:19 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[1/13P]


 閉じ忘れたカーテンの隙間をぬって、午後の淡い陽光が室内にさし込んでいた。
 その優しい光りに頬を撫でられ、エレノア・スミスは目を覚ました。
 ベッドで上体を起こし、部屋の装飾がいつもとちがうことに戸惑い、すぐにその理由を思
い出した。

 ああ、そうか。もうわたしは傭兵ではないのだ――と。

 彼女は昨日、十年のあいだ籍を置いていたアリアン傭兵ギルドを満期退職した。
 そうして三十路前の女性としては身分違いな額の退職金と、年金の保証とを受け取り、
荘厳な隊列とラッパと称賛の雨のなか、ビロードの絨毯を行進し、退屈なお偉方の祝辞
を聞かされ、数々の勲章、そのた諸々を授与されたのち、仲間と新兵の喝采に見送られ
て式典をあとにすると、兵舎を引き払って手近な宿に飛び込み、元同僚たちと段取りをつ
け、夜がふけるまで飲み明かし、語らい、ほろ酔い気分で寝床についたのだった。
 彼女は昨夜のことを反芻した。
 いちばん付き合いの長いオーロは終始泣いてばかりだったが、笑い上戸なシリカが湿っ
ぽい空気を忘れさせてくれたし、古老のジャンはその笑顔で皆に安堵感を与えてくれた…
…。覚えている。はっきりと。つい昨夜のことだ。
 たが、その記憶には違和感があった。どうにも現実味がないのだ。
 まるでいっきに十も歳をとってしまったような、そんな奇妙な感覚に襲われた。
 このぬるま湯に浸かっているような違和感は何だろう?
 目を閉じれば――あるいは目覚めたとき、思い返せばいつだって自分の足元には生と
死が横たわっていたはずだ。
 それが今となってはガラス越しのドレスのように、いくら手を伸ばしても触れることがか
なわない。あの壮絶な日々――命を賭けて戦場に身を投じた日々は、遥か彼方の蜃気
楼のように儚げだった。あまたの武勇も、仲間の死も、槍使いとしての名声も――なにも
かもが、今では手の届かない遠い過去のように思えてならなかった。
 この日、《槍使いのエレノア》はただの女に戻った。

 階下にゆくと、宿の女主人が目を輝かせた。
「まあまあ、これはこれは傭兵さん! よく眠れたかい?」
 その脂ぎった女の顔には、あぶく銭を掴んだ成金からお金をせしめてやろうという魂胆が
貼りついていた。
 もちろんエレノアは気にしなかった。
「ええ、充分に休んだわ」
「それで、ねえ兵隊さん」手揉みをする女主人。
「わたしはもう兵隊ではないわ」
「ああ、そりゃあまあ、ね。……ところで、ここにはいつまで――」
 その言葉を遮り、エレノアは「今から発つわ」と言ってやった。
 女主人はなんとか取り入ろうとしたが、エレノアはそれを無視して一泊分の宿代をカウン
ターに置くと、その足で宿屋をあとにした。

 通りへ出ると、アリアンの市街にはせわしなく行き交う人、人、そして喧騒。
 エレノアは軽い眩暈を覚えた。
 先を急ぐ冒険者も、露店を広げる行商人も、布教に忙しい神父や、走り回る子供たちや
噂話に余念がない婦人たちも――すべてがいつになくよそよそしく、排他的で、現実感の
ない夢の中の光景のように感じた。

425みやび:2007/03/18(日) 18:58:32 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[2/13P]


 わたしたち兵隊は彼らのために戦った。たしかにそうだ。
 傭兵になって最初の三年で五人の仲間を失った。次の二年間で二四人。残りの五年で
は一三六の同僚が命を落とした。わたしの知らない、他の隊の連中も含めると数百――い
や千にものぼる死者だったろう……。彼女は思った。

 それでも普通に暮らしている人々には預かり知らない出来事だ。たとえそれが自分たち
の財産と命を守るためだとしても、実際にその火の粉が頭のうえから降り注ぎでもしない
限り、戦争というのは庶民にとって常に非現実的なものだ。むしろ日常で出くわす殺人者
や、強盗といった連中から身を守ってくれるクロマティガードのほうが、市民にとってはより
現実的な守護者なのだ。
 エレノアが槍使いの傭兵であっても、あるいはそうでなくても、彼らにはいっさいの不都合
もなければ感慨もない。
 そのことに不満があるのではない。それが兵隊というものだし、彼女は自ら傭兵という職
を選んだのだから。
 ただこうして、傭兵だった自分がある日を境に平和な日常へと放り出されてみると、まる
で異世界に迷い込んでしまったような、そんな錯覚を感じずにはいられなかった。自分の
居場所がないのだ――この平和な世界の住人にとって戦争が非現実的だというのなら、
戦争に身を置いて生きてきた彼女にとってもまた、平和という世界は非現実的なのだ。
 優秀な兵士には二種類の人間が存在する。ひとつは良い意味での利己的な職業軍人
で、そうした連中は退役後の人生設計を見据えているものだ。もうひとつのタイプはどちら
かと言えば“生き方が下手”な人種で、戦場にいるとき以外には役立たずな場合が多い。
 エレノアは後者のほうだった。傭兵だったときには辞めることなんて考えたこともなく、退
役したあとになって生甲斐を失ったことに気付くのだ。

 これからどこへ?

 彼女は途方にくれた。
 男を作って逃げ出した母親のことは顔も覚えていない。
 飲んだくれて自分に手を上げることしかしなかった父親は、彼女が九つのときに川にはまっ
てくたばった。
 エレノアは酒臭い男の死に心のなかで舌を出し、その日のうちに町を飛び出して以来、産
まれ故郷に戻ったこともなければ、ついぞ思い出すことさえなかった。
 今の彼女に帰るべき場所はもうない。ないも同然なのだ。

 と。どこからともなく罵声が聞こえた。
 騒ぎのほうに目をやると、冒険者らしい大男が老人に向かって怒鳴っているのだった。
 大きな街ではよくあることだ。弱い者をみつけては何かと言いがかりをつけてうさ晴らしを
する――あるいは小銭でも巻き上げようというのだろう。
「おい、クソ爺! 俺様の大切な斧を――いったいどうしてくれるんだ!? ええ!」
 大男は拳を振り上げようとしたが、その試みは失敗した。
 エレノアが背後から男の手首を掴んだのだ。
「このっ――なにしやがる、手前ぇ!」
 エレノアが手を離すと、大男は彼女に向き直り、背中にかついでいた斧を抜いた。
 周りで見ていた野次馬の中からいくつかの悲鳴があがる。
「やめなさい。今なら見逃してあげるわ」
 自分の半分ほどの身の丈もない華奢な女にそう言われ、男は顔を赤らめて吠えた。

426みやび:2007/03/18(日) 18:59:21 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[3/13P]


「貴様……どうやら死にたいらしいな」
 男が斧を持ち上げた瞬間だった――
「え……」
 男は自分に何が起こったのかわからなかった。ただ、振り上げていたはずの斧の重量が
ふっ、と消えた。そしてゆっくりと頭上に視線をやり、その光景に絶句した。
 男の両手は手首から先がなくなっていた。
 エレノアの槍の切っ先が、常人にはとらえることのできない速度で孤を描き、男の手首を
切断したのだった。
 両手付きの斧が男の足元にドサリと落ちた。
「あ、う――」
 とたんに男の膝が笑い、次いで全身がガクガクと震えた。振り上げられた両の手首から
勢いよく吹き出す鮮血が、男の頭に降り注いだ。
「お、お――おまおごがごあっ……!!」語尾へいくにつれ男の叫びは人の言葉ではなく
なり、やがて調律の狂った楽器の音になった。
 真っ赤に染まった巨体をカラクリ人形のように震わせながら、それでも死ねずに見開いた
目で女を凝視し続けた。
「馬鹿ね……だから忠告したのに」そう言うとエレノアは槍をひと振りした。槍の先端に残っ
ていた血のりが地面にパッと飛んだ。
 そこへ人ごみを掻き分け、数人のクロマティガードが駆けつけた。おそらく野次馬の誰か
が通報したのだろう。
「なんだこれは――!?」
 血に染まって痙攣している男を見て、ガードたちは腰を抜かした。
「貴様がやったのか? おい、そこの女!」槍を手にしているエレノアに向かって短剣を突
きつけた。
「だったらどうなの?」
 振り向いたエレノアの顔を見て、ガードたちは直立した。
「スミス殿!?」
 とくに顔見知りのガードではなかったが、彼らのほうはエレノアのことをよく知っていた。
 位の高い傭兵ともなると、その顔や名前、功績といった情報が傭兵ギルドを通じてガード
たちにも公示されるからだ。大陸でも五人といない《ファースト・ランサー》の称号を持つエレ
ノアにいたっては、その名声はすべての都市にまで届いていた。
「どうしたのですか!? すでにアリアンを発ったとばかり――」
 当然、彼女が傭兵を退職したこともすでに知れ渡っていた。
「それはこっちの台詞よ。こんな物騒な男が大手を振ってうろついているなんて……」
 エレノアが事情を説明すると、ガードたちは恐縮して何度も頭を下げた。もちろん、そのあ
いだも壊れた大男は放置され、地面をのたうち回っていた。規律が厳しいこの都市では罪
人――あるいはそうでなくても罪人と同等の頭しか持ち合わせていない連中――には、ま
ともな人権は与えられないのだった。その馬鹿な大男は正規の治療も受けられず、おそら
く死ぬだろう。運良く命をとりとめたところで、両手から全身に壊疽がまわり、獄中で死を迎
えるはずだ。
 ガードたちが男を引きずりながら立ち去ると、やがて野次馬の輪も消え、辺りはいつもの
喧騒に戻った。
 エレノアは老人のところへ行くと、声をかけた。
 べつに礼を期待していたわけではないが、老人の態度は予想外のものだった。
 老人は何も言わず、ただこぶしを握りしめ、肩を小さく震わせていた。
 その目には釈然としない怒りが満ちていた。

427みやび:2007/03/18(日) 19:00:25 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[4/13P]


 この老人は死にたがっている――。

 エレノアは直感した。
 それと同時に、彼の姿に今の自分を重ねた。
 おそらく八十に近いであろう老人は、歳相応に背が縮み、腰も少しばかり曲がってしまっ
たとはいえ、その“かくしゃく”とした風貌――ピンと張られた胸や、そして深い奥行きをもっ
た眼差しと引き締まった表情から、己の信念にしたがって生きて来た人物であることがう
かがえた。
 彼女はひとめ見て、老人の背後に横たわる濃密な人生を感じ取った。

 なぜだ――なぜわしを逝かせてくれんのだ?

 物言わぬ老人の瞳は彼女にそう語りかけているようだった。
 エレノアは老人に情を感じた。ある種の愛に近いシンパシーだったのかもしれない。少な
くともそれは同情ではなかった。
「そんなに死にたいの……?」
 老人は初めて目の前の女に気付いた、とでもいうように驚いた。
「なんだと――!?」
 エレノアはもういちど言った。なぜ死に急ぐのか。と。
 老人は口を開こうとしたが、ふと何かを感じたように目を見開き、言葉を飲み込んだ。
 それから肩の力を抜いてうなだれた。
「そうか……お前さんにはわかるんだな」顔をあげ、再び彼女に向けられた目には達観した
優しさがあった。「頼むから放っておいてくれ……わしはもうこの世に未練など――」
 そうなのかもしれない。と彼女は思う。
 たとえばある朝目覚め、ふと妻の名を思い出せないことに愕然とし、枕元の銃に弾をこめ
たい衝動にかられる老人は多いのだろう。あるいは就寝前、食べたはずの夕食を娘に催
促している自分に気付いて、この先の生を悲劇で彩ってしまう老婆がいるのかもしれない。
 今の彼女にはそれが理解できた。糧や希望を失った人間は脆いものだ――余命わずか
と知れる年寄りであればなおだ。
 たとえここで老人の命が救われたとしても、彼は明日の朝いちばんに、朝食をとる代わり
に自分の喉にナイフを突き立てるにちがいない。
「じゃあ、死に場所を探しましょう」
 エレノアの口から、自然とそんな台詞が出ていた。
 老人はきょとんとした。
「すまんが……もういちど言ってくれんかね?」
 エレノアは微笑し、言った。これからふたりで、あなたの最後に相応しい場所を探しに行く
のだと。人はそれぞれ相応しい場所で死ぬべきだ。わたしは腕のたつ傭兵だから、このわ
たしを雇ってくれさえすればいい。お代はあなたと共にする冒険で結構。それともあなたは、
長い人生を苦労してきたあげく、その最後を道端のゴミと一緒に終えたいのか。とも言い、
あなたにはもっと相応しい最後があるはずだ。と、そんなふうに。
 無言で一点を見つめていた老人は、エレノアの話しを聞き終えると豪快に笑った。
「あんたはいい女だ。もっと早くに出会いたかったよ。そうすればわしの人生も――」そこま
で言ってから、老人は失言だと気付いて舌打ちし、肩をすくめておどけてみせた。
「そうそう。わしの名はミゲル――ミゲル・ランダだ」老人は歩き始めた。
「どうしたね? さあ、ゆこうじゃないか。あんたはもうわしの傭兵なんだろう?」

428みやび:2007/03/18(日) 19:01:19 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[5/13P]

   *

 老人の希望により行き先はシュトラセラトに決まった。なにやら理由はありそうだったが、
エレノアはあえて尋ねなかった。
 傍目には祖父と孫のように映るふたりは露店を冷やかしながら、テレポーターのところへ
と向かった。
 《テレポーター》というのは魔法師たちが総べるスマグという魔法都市で開発された技術
だ。もともとウィザードが使っていた瞬間移動の魔法を改良し、跳躍先の座標を固定するこ
とで、詠唱の簡略化と長距離の移動を可能にしたものだ。もちろん有料で、一回の動作で
人ひとりを運ぶのがやっとだが、物騒な道中を避けたい場合、冒険者にとって不可欠なシ
ステムとして大陸中に普及していた。
 エレノアがテレポーター管理者に行き先を告げると、老人がそれを訂正した。
「ああ、すまんな。その……わしは船で行きたいんだよ。歩きでも魔法でもない。船だ。かま
わんかね?」
 エレノアは承諾した。
 シュトラセラトまで船を出しているのはブリッジヘッドしかない。そこから船で、時化にさえ
遭わなければ三日の渡航だったはずだ。
「では行き先の変更を――ブリッジヘッドまで飛ばしてちょうだい」
 代金を受け取ると、テレポーター管理者は呪文を唱えた――。

   *

 ブリッジヘッドで船に乗りこみ、ふたりはシュトラセラトを目指した。
 航海は順調で、予定通り三日で目的地まで行けそうだった。
 そしてシュトラ港到着前日の夜――。

「レッド・ストーン……というのを知っているかね?」
 船内にあるバーの片隅で、老人はアルコールを胃袋に流しながら切り出した。
 もちろん、傭兵をやっていてその名を知らない者はいない。
 エレノアは知っている、と答え、真実かどうかもわからない噂だけだ、とも付け足した。
「ふむ。まあ当然だろうな……。そもそもあの石は、多くの連中が思っているような代物じゃ
あないんだから――根本から求めるべき対象を見誤っているのさ。……なにか探し物をし
たいと思ったときに、それがあるべき場所を探さないことには、一生を費やしたって見つか
りっこないのと同じだよ――」老人はバーテンにボトルを追加注文すると、「その前に、まず
はわしのことを話さなくてはならんな……」手元のグラスに残った酒を飲み干した。
 エレノアは万一のことを考えてジュースを注文していた。それを飲みながら、暖炉の火に
煽られて浮き上がった老人の顔を眺めた。
 たとえば彼の顔を想像のなかで若返らせ、多少は手心を加えたとしても、その顔はお世
辞にも美男子とは言えないものだった。ずんぐりとした大きな鼻、がっちりとした顎、それと
は不釣合いなつぶらな瞳――。
 それでも彼が蓄えてきた人生は確実に彼の魅力としてその皺に刻まれ、彼という男に容
姿では推し量れない充分な味を持たせていた。
 エレノアは彼を、実の祖父のように感じた。恋人でもいい。そう思った。
 やがて老人の顔に深く刻まれた皺がゆっくりと形を変えた。
「わしは昔、船乗りをしていたんだよ。船に乗りたいと言ったのも、だからさ。はは……我な
がら感傷的だな。まあいいさ。お前さんには全てを話すと決めたんだから……。さて、では
話そうか――」

429みやび:2007/03/18(日) 19:02:05 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[6/13P]

   *

 当時、わしはまだ鼻っ柱の強い若造だったが、船乗りとしての腕前と自負はもっていた。
 わしの専門は漁師で、それも特種なやつだ――まあ、あんたと似たようなもんだよ。街の
貴族たちに雇われて、一般の船に悪さをする怪魚やら、ときには海賊みたいなやつらを相
手にしていたってわけさ。
 シュトラには行ったことが? ――ああ、じゃあ知っとるかな? あそこにある《白鯨》とい
う食堂だが……元々の名はブルースビストロというんだ。わしがしとめた鯨があまりに巨大
でなあ……店の主人に頼まれて譲ってやったんだが……その鯨の料理だけで数ヵ月は街
の連中と旅行者の胃袋を満たしたもんだ。それからさ、あの店が鯨の名で呼ばれるように
なったのはな……。
 おっと、どこまで話したかな――ああ、そうそう。それでわしは、くる日もくる日も、海の怪
物や海賊たちと追いかけっこをしていたんだが……その頃わしには娘がいた――いいや、
わしは結婚なんぞしたことはない。もちろん恋人もいなかったさ。
 その子は孤児だったんだ。晴れた日の海よりも真っ青できれいな瞳をしていて、長い黒髪
がよく似合っていた。ほんとうに利口でかわいい子でな……。男やもめで粗野なひねくれ者
が、身も心も捧げてしまうほどだった……。
 ――ああ、すまん、ついな……。いや、心配はいらん、もう昔の話しだ。
 わしが馬鹿だったのさ……。あの子が九つのとき、留守中のわしの家に盗賊が入ってな
……連中は家に火を放って逃げたんだ。普段はあの子も航海につれて行くんだが、あいに
くとそのときあの子は“はしか”にかかっていてな……近所の世帯者に看病を頼んで、仕事
に出掛けたのさ……。
 わしは絶望した。世の中すべてを呪ったよ。なんども死にたいと思い、そのうちの半分は
実行に移した――それでも神様は意地悪でな……そのたびにわしをこの世に送り返すん
だ。そのうちにわしは近所の連中や、部下たちに監視されるようになって、うかつに死ぬこ
とさえできなくなっちまった……。
 まあ、しばらく時間が経っちまうと、いつの間にかわしの自殺癖もなくなったが、相変わら
ず自暴自棄だった。
 そんなある日――仕事に復帰したわしは、海賊船を深追いしちまったんだ。わしが普通の
精神状態だったら、そんなことは絶対にしなかっただろう。わしだって海のプロだが、海賊な
んぞやっている連中は、それ以上にプロだからだ。
 やつらは一帯の海流はもちろん、季節ごとの風の変わり目や、星がなくても方向を見定め
る術を持っているんだ。こっちは潮の流れを読んで風をつかむので精一杯さ。霧がたちこめ、
コンパスが狂って星まで見えなくなっちまったときには、もうお手上げだったね……。
 そんなときさ――わしの船は操舵不能の状態で、ひとつの島にたどりついた。おそらくあ
れはジェイブ島だろう――その島のことは知っているかな? ――ふむ。さすがは傭兵といっ
たところか。……だがジェイブ島には“幻の島”という噂以外に“忘却の島”という名がつけら
れているんだ。つまりその島の正確な位置を特定できる人間がいないのさ。たとえ最初は
偶然たどりついたとしても、二度目はない、というわけさ。わしが出くわしたのはジェイブ島
だよ。まあ勘だがな……。
 それでどうしたかって? もちろん上陸したさ。ほかにやることもなかったんでな。
 だが事件はすぐに起きた。今でもあの光景は忘れることができん……。
 部下のひとりと食料を探しているときだった――。

430みやび:2007/03/18(日) 19:02:55 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[7/13P]


 ジャングルが開けた直後さ。
 そこに“あの子”がいたんだ――!
 わしが見間違えるはずもなかった。あの子だったんだよ! わしが愛したマリアだった!
 わしが拾い、この手でおむつを替え、ミルクを与え、愛情をそそぎ、育て……天使のように
微笑み返してくれたマリアだ……!
 だがな……“そう思ったのはわしだけではなかった”んだ。
 一緒にいた部下のジョルジェも、自分にとって“いちばん大切な人”の姿を見ていたのさ。
「ヘンリエッタ――!? お前なのか!」
 ジョルジェは“わしのマリア”にそう叫んだ。
 そのとたん、マリアの姿は見ず知らずの女に変った――!
 わしは面識はなかったが、ジョルジェのやつは女房を病で亡くしていてな……その奥方の
名がヘンリエッタさ。たぶん、マリアが姿を変えた女性は、そのヘンリエッタだったんだろう…
…。
 しかしそのときのわしは半狂乱だった。
 許せなかったんだ。そんなことはあるはずがない――あってたまるものか……! それし
か頭になかった……。
「よせ……やめろ。ちがうっ――お前はマリアなんだろう? いや、マリアだ! お前は俺の
マリアなんだっ……!!」
 わしが叫ぶと、ヘンリエッタは表情を歪め、またマリアの姿に戻った。
 わしらは馬鹿だったんだ。わしもジョルジェのやつも、自分のことしか考えていなかった。
 だがそのときのわしらに――失ったはずの愛する者をみつけてしまったわしらに、それ以
外になにができたっていうんだ?
 マリアは泣いているようだった。それでもわしは呼んだ。叫んだ。
 ジョルジェのやつも同じだった。大の男がひとりの女性を取り合い、泣き、叫び、狂ったよ
うに愛する者の名を呼び続けた。
 そのたびにマリアはヘンリエッタに――ヘンリエッタはマリアに姿を変えなくてはならなかっ
た……。それが“そいつ”にとっては負担だったのさ。当然だ。心も体もひとつきりなのに、
目の前には自分を求める男がふたりいるんだからな……。そのうちに“そいつ”は、自分が
いったいどっちの心をもち、どちらの姿でいればいいのか、わからなくなっちまったんだ。
 すでにマリアでもヘンリエッタでもない、単に人のかたちをした“そいつ”は言った。
「……いや……やめて……わたし、を……離して……」
 苦しんでいた。泣いていた。もがき、体を明滅させ、なんどもそう繰り返した。
「いやだ! 離すもんか! お前は俺のものだっ――ヘンリエッタ!!」
 ジョルジェが飛び出したとき――わしの手が無意識に動いていた。
 少しの間を置き、ジョルジェが地面に崩れ落ちた。
 わしの投げナイフが、ジョルジェの背中に突き刺さっていた。
「ヘンリエッタ……一緒に……」
 ジョルジェはそう言うと、それきり喋らなくなった――。

431みやび:2007/03/18(日) 19:03:38 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[8/13P]


 わしは我に返った。
 自分の両手を見つめ、ジョルジェを見つめた。
「ああ、迎えに来てくれたのね!」
 それはマリアの声だった。
 顔をあげると、そこにはもうヘンリエッタに変ることのない、本当にわしだけのマリアがい
た。
 だがマリアの声は背後からも聞こえた。
「あたしはここよ。パピー」
 すると今度は別なほうから――
「パピー。ディア……!」
 そしてまた別の場所から――
「来て、来て! ここよ!」
 わしは血走った目で右を見、左を見、うしろを振り返り、前を見据えた。
 そのすべてにマリアはいた。
 気付くとわしの周囲には八人のマリアが存在していた。
 そのときになって、わしはようやく事態を把握し始めた。
 これは罠だ――! 人の心にとりつく底無し穴だ――!
 見ると、彼女たちの足元には赤いガラス玉が転がっていた。
 ああ。それさ。そいつがレッド・ストーンだったんだ……。
 なぜかって? 本人がそう言ったのさ――
「この……このっ――この! 恥知らずの悪魔めッ!!」
 わしは腰の短剣を抜き、ひとりのマリアに突き立てた。
 実体のないマリアは悲鳴をあげて煙みたいに消えた。同時に足元のガラス玉が音を立て
て砕け散った。
 わしは錯乱していた。だが意識は保っていた。しかし姿だけはマリアなんだ……。胸が張
り裂ける思いだったよ。それでもわしは突いた。切りつけ、振り回し、切断した――。

   “なぜ……酷い――愛していたのに――やっと会えたのに―
   ―愛してくれないの――なぜ――なぜ――どうして――”

 イミテーションのマリアは口々に言った。
 わしは泣きながら剣をふるった。
 そうして最後のひとりになった。
 相変わらず“そいつ”はマリアのなりをしていたが、口調も声もちがっていた。
「どうして……?」その声は女性でもあり男性でもあった。「あなたは心のなかであの子を求
めていた――いいえ、今も求めている」
「あいにくと俺は本物嗜好なんだ……模造品に用はない! それに――それにマリアはも
う死んだんだ! 眠っているあの子を呼び起こすのはやめろっ!」
「それは嘘だ――あなたはあの子を欲している」
「ちがう……」
「いいやちがわない。それでも我々は存在するのだから――」
「いったいお前たちは……」

432みやび:2007/03/18(日) 19:04:20 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[9/13P]


 そいつは語った。
 自分たちがある種の精神体であるということ。相手の記憶を瞬時に読み取り、その人間
がもっとも欲している者に姿を変え、その性格や声までも、記憶を元に完璧に再現する。そ
うすることで、連中はその人間からわずかな精神エネルギーを吸収し、糧にして生きていた。
 連中がこの星にいつ誕生したのか――それはやつら自身にもわからなかった。気がつい
たときには人々のかたわらにいて、夢見がちな人間に見せかけの希望を灯し続けたんだ。
 あるときは妃に先立たれた王への貢物として――またあるときは戦利品として――石は
人々の歴史とともにあった。
 やがて人々は連中を“レッド・ストーン”と呼ぶようになったのさ。
 今日伝わっている伝説は、あまりに長いこと真実に辿りつく人間がいなかったせいで、歪
曲されたり付け足された話しが広まったものだ。
 そして今、連中は死にかけていた。実際には仮死に近い状態だが、それは生命としての
本来にそぐわない姿だ。だから彼らは人間を欲していた。生きてゆくために。
「だから……ディア。お願い――」
 そいつはいつの間にかマリアの声に戻っていた。
「パピーがこんなにしてしまったのよ……もう残ったのはあたしだけ」
「よせ、やめろ……」
「ねえ、愛しているんでしょう?」
「来るな――!!」
 わしは一目散に駆け出した。
 背後からいつまでもマリアの声が聞こえた。
 かまわずに走った。
 日が沈み、また昇っても駆けていた。
 そしてどこをどう走ってきたのか、わしは自分の船に生還した。

   *

 暖炉の薪がパチンと弾けた。
 老人は煙草をくゆらせ、目を閉じた。
 その瞳に光るものがあったが、エレノアは見なかったことにした。
「そこに……行きたいのね」
 老人はうなずいた。
「もういちどだけ……わしには確かめたいことがあるんだ」
「命を引き換えにしてでも――でしょ?」
「できれば……あんたには見届けてほしい。だが危険な渡航だ……あんたには断る権利
がある――なあに。ここまで世話をしてくれただけで充分だ」
 エレノアは立ちあがると、彼の頬にキスした。
「もう寝るわ。明日は港に着いたら、真っ先に船を調達しなくてはならないもの」
 老人は目をぱちくりさせた。
 そして微笑し、目を閉じた。
「ああ――お休み。わしはこいつを飲み干してから寝るよ……」
 立ち去ろうとするエレノアの背後から「ありがとう」と老人が言った。
 彼女は振り返らずにバーを出た。

433みやび:2007/03/18(日) 19:05:17 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[10/13P]

   *

 
 翌日、日が昇るのと同時にシュトラセラト港に到着した。
 エレノアは倉庫街を駆けずり回り、老人の希望にかなう船を捜した。
 一方彼のほうも、更新された最新の海図やら、高性能なコンパス、そしてジェイブ島に関
する情報を集めてまわった。
 夕方になると、ふたりは示し合わせていた《白鯨》で落ち合った。
「まあ。いったいどうしたの?」
 遅れてきた老人があまりにしょぼくれていたので、彼女は言った。
「ああ……その――あんたから預かった金だがな。必要なものを買っても、まだかなり残っ
ていたんだが……」
 その表情をみて、エレノアはピンときた。
「もしかして……ジェイドのこと?」
 老人は唇を噛み、うつむいた。
「わしにはこんなことしかしてやれん……せめてあいつの墓を建て替えたいと思ってな」
 エレノアは最上の笑みで、老人の手をとった。
「さ。座って。料理が冷めちゃうわ」
「……すまん」
 しばらくは消沈していた老人だったが、エレノアが最高の船を手に入れたと告げると、そ
の顔がパッと咲き乱れた。
「なに――そうか。最新式の蒸気か……」
 船乗りとしての血が騒いだのか、老人はにわかに血色がよくなり、気概に満ちた表情で
料理を口に運んだ。
 それは彼女も同じだ。エレノアは思った。彼は死に場所を求め、わたしはその手助けをし
ているというのに――わたしたちはこんなにも生き生きとしているなんて。

   *

 翌日。
 エレノアは老人を連れて予定の船着場に向かった。
 必要な物資は昨夜のうちに手配済みで、船への積みこみは終っているはずだ。

「おい、こりゃあ――」船を前にして、老人は目を丸くした。
 エレノアは最新式の蒸気機関を積んだ船を手に入れたと言ったが、魔法汽船だとまでは
言わなかった。それはひと目で“普通の船ではない”とわかる外観だった。
 マストはあるが、あくまで非常用の帆であり、とてもコンパクトに設計されていた。船体そ
のものも半球状をしていて、横腹から羽根のようなものがスラリと伸びていた。
 その材質は金属なのかガラスなのか、陽光を照り返してキラキラと光っていた。
 魔法汽船の存在はスマグによって広められたが、実際にそれを所有しているのは一部
の富豪だけだった。そのなかにはシーフも含まれている。富豪という意味ではたしかに彼
らも巨万の富を持っているのだ。
 この街の倉庫エリアにシーフたちの隠れ家があるという情報は以前から知っていた。
 彼女はそれをみつけだし、首領に掛け合ってこの船を手に入れたのだ。傭兵のときに手
に入れた称号と名声をフルに使って――どだい肩書などというものは、そんなとき以外に
は鼻紙よりも役には立たないのだ。

434みやび:2007/03/18(日) 19:06:25 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[11/13P]


「こんなものをどうやって……」
「わたしは腕利きの傭兵だと言ったでしょう。さあ、あなたが船長よ」
 老人は子供みたいに嬉々とし、船体を撫で、さすり、あちこち叩いてまわっては満足そう
にうなずいた。
「おい、まてよ……こいつには舵がないぞ!」
「ほら。そこに丸い水晶みたいなものがあるでしょう? それに手を添えるだけでいいの」
 老人は彼女の言う通りにした。
「あなたは考えるだけでいいの。それを船が読み取り、動力や舵に伝える仕組みよ」
 老人は目を閉じた。
 やがて船はぶるぶると身震いすると、物凄い勢いで海の上を滑った。
「こいつはいい。すごいぞ!」
 老人は思いつくままに操舵し、船は乗り手の思考を読みとって忠実に動いた。
「ねえ――もうちょっと静かにやってちょうだい! 危ないわ!」
 波しぶきの騒音に対抗してエレノアは大声で言った。
「なあに。わしの手にかかればちょろいもんさ――どんなモノでも船にはちがいない!」
 エレノアは頬を膨らませて小言を言ったが、内心はそんな彼の姿を見て嬉しかった。

   *

 それから彼らは一週間ほど大海をさ迷った。
 とくに不安はない。海中に潜む化け物たちは、船から放出される特種な音を怖れて近付
いては来なかったから。
 何度か海賊には遭遇したが、船はどんな大砲にもびくともしなかったし、接近しての白兵
戦でも、エレノアの槍に敵などいなかった。
 ふたりが心配するのは島の位置だけだ。
 そしてちょうど一週間目を過ぎたときだった。
「ねえ、あれ!」
 視界の彼方にうっすらと島影が見えた。
「やっと着いたな……まちがいない。ジェイブ島だ」
 老人は慎重に操舵し、船を島に寄せた。

   *

「ここからはひとりで行く……」
 島に降り立つと、老人は言った。
「馬鹿なこと言わないで! わたしの役目は見届けることでしょう?」
「わしも最初はそのつもりだったが……だが、もしわしの考えている通りなら、そこで待って
いてくれたほうがいい」
 老人の決意は固かった。
 エレノアは彼のしたいようにさせた。
「ありがとう……」
 老人はぽつりと言うと、いちども振り返らずに島の奥へと消えた。
 エレノアはそれをいつまでも見送った。
 それが、彼女が彼を見た最後だった。

435みやび:2007/03/18(日) 19:07:09 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[12/13P]

   *

 あれから五年近くが過ぎ去った。
 今、わたしには娘がいる。
「ねえ、ママ、マミー!」
 娘は表から帰るなり、汚れた足で駆けてきた。
「まあ、なんですか“マリア”!」
 わたしがたしなめると、マリアは台所から雑巾を持ちだし、しぶしぶ床を拭き始めた。
 拭きながら、「ねえ、マミー、聞いて! さっきね、街道で王様に合ったのよ!」その顔は
上気していた。
「王様? それで、どうしたの……?」
「うん……王様がね、『この近くに槍使いの名手はいるか?』って、そうあたしに聞くの」
 わたしは口元を強張らせたが、「ほら、まだそこ――汚れが残っているわ」娘には悟られ
ないように装った。
「それで、お前は何と答えたの?」
「う……ん。だってマミー、傭兵のお話をするといつも恐い顔するんだもん……だから」
「知らない――って答えたのね?」
「うん」
「そう……そうなの」
「でもマミー。なぜなの? だってマミーは槍の名人だったんでしょう? うんと強くて、それ
でたくさんの人の役に立ったんでしょう? それはとってもいいことだと思うわ」
「そうね……でもわたしは今のままで幸せなの。昔の名声を誰かに自慢したいと思ったこと
はないわ」
「ちがうの! そいうのじゃなくて――その……」
 わたしは微笑み、娘を見つめた。
「さあ。もういいわ……おいで」
 マリアはそそくさと駆け寄り、わたしの胸に飛び込んだ。
 わたしは娘の頭を撫でながら、そっと、つむじを掻き分けた。
 先月までうっすらと見えていた“赤い宝石”の姿は、今ではほとんど消えかかっていた。
「いい子ね……あなたがもう少し大人になって、今よりずっと心が強くなっていたら……すべ
てを話してあげる」
「すべて……?」
「そう。すべて――なにもかも」

436みやび:2007/03/18(日) 19:07:54 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[13/13P]


 老人と島へ渡ったあの日。
 わたしの元に戻ってきたのは、老人ではなく小さな女の子だった。
 それが老人の言っていた“マリア”だということは、直感でわかった。
 マリアには一切の記憶がなかった。
 わたしは彼女を連れ返り、自分の子として育ててきた。

 果たして老人が確かめたかったことが何であったのか――それを知ることはできない。
 自分の命と引き換えに、精神体であるはずのマリアに実体を与えたのか。それとも連中
が生きるために老人の命を吸い取り、それが本物のマリアになったのか……。
 ただ、はっきりとしていることは、彼の望みが叶ったということだ。
 ここにいる、マリアの存在がその証拠だ。
 かつて彼が愛した少女が、ここにいた。彼が愛したままの心と、愛くるしい顔をして。
 わたしにできるのは、彼の分までこの子に愛情を捧げることだ。
「ああ、愛しているわ……ほんとうに、マリア――」
「変なマミー……?」
「それでも。愛しているのよ」
「うん、あたしもよ。マミー……」







―――――――――――――――――――――――――― Fin ―――――――-

437みやび:2007/03/18(日) 19:08:42 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』 

 ――あとがき――
 例によって誤字・脱字は脳内変換をお願いいたします(汗)

 さてさて。本当は二、三日くらいは寝かせてから再度推敲をしたほうが良いのですが、前
レスで「書きます」なんて自分を追い込んでしまったので、発酵させずに掲載します。
 結局、自分を追い込んだ“だけ”になってしまいました……。
 しかし地味ですね……。もっとエレノアの槍使いっぷりを描いてもよかったかなあ? とい
う気がします。途中、筆が走ってしまったのはご愛嬌。(ちょっと息切れしちゃいました)

 元々この話はシュトラの「ブルースビストロ」をモチーフに、エイハブ船長ネタとか、あるい
は『老人と海』みたいな感じに仕上げる予定で下書きを進めていましたが、今回手をつけて
みると話が曲がる曲がる(汗) もうどうにも手に負えなくなってしまい、最終的にこのような
お話になってしまいました……。
 あと作中に「ブルースビストロ」の歌姫“エルレイド”の歌の歌詞も挿入予定でしたが、作
者の都合によりカットになりました。

 ふう……。ちょっと疲れたので、感想はのちほど(汗)

438みやび:2007/03/18(日) 20:06:18 ID:XTPBa2Mk0
 連投してしまいます。
 なぜって……最悪。
 読み返していたらとんでもないミスを発見。

>>433
「もしかして……ジェイドのこと?」

 正解は 「もしかして……ジョルジェのこと?」 です。
 老人の部下であったジョルジェのことですね。

 最終的に単語を検索→ミスっていたら修正。を繰り返してチェックしたので、そのときに間
違えて修正してしまったと思われます。
 しかしジェイブ島とかぶって「ジェイブ」になっているならわかるんですが、なぜジェイド!?
 謎。というか大ショック!!
 あ。別の誤字も発見……。う。泣きたい……。

439名無しさん:2007/03/18(日) 20:24:28 ID:QNo35LhM0
>みやびさん
執筆お疲れ様です。連作を一度に書き上げてしまうのはなかなか大変ですね。でも、一気に読んでしまいました。
腕を切り落とした…などのシーンから、少し怖い印象をエレノアに持ってしまったのですが
最後にはとても愛情深い一人の母親の姿になっていてちょっとホッとしたというか(笑)
決してハッピーエンドとは言い切れないのでしょうが、ミゲル老人が別の意味で救われたのだと思うと良かったような気もします。
エレノアの娘という形でマリアがまだ"生きて"いるんですね。

ところで魔法汽船、何かのゲームで実在してもおかしくないほどの船ですね。
実際のRSに無いような物を登場させるのは世界が広がる感じで読んでいて面白いです。
もしかして、こんなのあるのかな?という気持ちにさせてくれます。
本当に実在していたら申し訳ないです…RS内の全世界、全MAPを回った事がないのでorz

440名無しさん:2007/03/18(日) 20:26:25 ID:QNo35LhM0
>>438
ええ、そこはちょっと不思議に思ってしまったのですが脳内補完して読みました(笑)
文章の流れから「ジョルジェにしてやれる事はこれしかない」という文章なんだろうなと(笑)
大丈夫ですよ〜。

441ドギーマン:2007/03/18(日) 20:47:16 ID:WMFiyZTk0
捨てたコートが暗い裏路地を吹き抜ける風に乗って地面を泳ぐように流れていった。
そんな事など気にもかけずゲンズブールはマイスの後方に佇む女を睨んでいた。
穴だらけで血まみれになった道着は着替えたらしいが、それでも汚いのは同じだった。
溢した酒が胸の辺りで染みになっていて、白いはずの道着全体も少し黄ばんでいた。
こちらに向き直ったマイスが背の大剣を抜いて構えた。邪魔するつもりらしい。
正直この男にはほとんど興味などなかった。どの道引導は渡してやるつもりだったが、それは後でいい。
ゲンズブールは踵を返して歩き去っていくエムルを追って駆け出した。
剣を構えているマイスが眼中に入っていなかった訳ではなかったが、
最初にあった日にこの男が自分よりもずっと弱いということは分かっていたために殆ど気にかけていなかった。
あの女、体中ズタズタに引っ掻いて二目と見れないようにしてやる。
ゲンズブールの身体が怒りに熱くなって爪を握る手に力がこもった。
そして彼の脳裏に血生臭い残虐な景色を作り上げた。
ゲンズブールは剣を右に下げて構えているマイスに気を配りながらも、その横を通り過ぎようとしていた。
マイスの大剣が動き出した。ゲンズブールはそれを余裕で交わしてエムルの背中に鉤爪を突き立てるつもりでいた。
だが、横一文字に払うように振るわれた剣は周囲の空気を巻き込むようにまとい、振りぬかれた剣から放たれた空気の塊は爆ぜた。
マイスから放たれた強烈な風が剣を避けきっていたはずのゲンズブールを弾き飛ばした。
吹き飛ばされたゲンズブールは路地の壁に身体を擦り付けて地面に落ちた。
なんとか受身を取ったものの、意表を突かれたことに対する驚きは大きかった。
立ち上がったゲンズブールはマイスを改めて鉛のような瞳でじっと睨んだ。
ショルダーパッドに腰布だけという軽装に重い獲物を扱うためか、鋼鉄で覆われた重そうな靴を履いている。
その手にあるのは真っ直ぐな刀身に飾り気のない柄、シンプルな作りのエリートソードだった。
その刀身の周囲の景色は歪んでいて、高い密度の空気を渦巻くように纏って揺れているようだった。
ゲンズブールはあのウルフマンのような構えを取ると、マイスの眼をじっと見つめた。
戦う気があるのか無いのか、よく分からない不安げな様子が見て取れた。
それを見たゲンズブールはマイスに対しても怒りを感じていた。
臆病者は消えろ。俺の邪魔をするな。そんな意思を持って殺意を向けた。
エムルの姿は既に見えず、マイスごときに邪魔された事に対する憤りはゲンズブールの顔に鬼の形相を張り付かせていた。
ゲンズブールは再び駆け出した。今度はエムルに向かってではない。
マイスの首を引き裂いて噴きあがる血飛沫を脳裏に思い描いて。
マイスが大剣を振りかぶって素早く振り下ろすと、剣を包む風の魔力は一振りの刃となってゲンズブールに迫った。
その透明の刃は正面からはほんの僅かな空気の歪みにしか見えず、ましてや高速で飛ぶ。
目で見て避けることなどまず無理なことだった。だがゲンズブールは攻撃を読むことにかけては天才であった。
マイスの目線と動作、そして先ほどの風の魔力から瞬時にその攻撃の性質と方向、大よその威力まで読みきって避けて見せた。
リズのときと同じだった。次々と繰り出される風の刃を見せ付けるように全て避けて心を折る。
仰け反り、転がり、跳ね、捻り、そして風の刃を爪で引き裂いて掻き消す。
何をしても無駄だということを思い知らせるように。
やがてマイスの顔に焦燥の色が見え始めるとゲンズブールは仕上げに入ろうと間合いを詰めた。
マイスの大剣に周囲の空気がさらに渦巻いて収束していく。
ゲンズブールはその瞬間マイスの眼にぎらりと鈍い殺意を持った眼の輝きを向けた。
マイスの大剣がぴたりと動きを止めた。
人を殺す覚悟がまだないマイスは、その眼の輝きに怯んでしまったのだ。
ようやく身体が反応して動き出した頃にはもう遅かった。
ほんの刹那の間のことだったが、既にゲンズブールの爪はマイスの大剣を持つ腕に爪を突き立ててその動きを制し、
もう片方の爪でマイスの首を横に切り裂いていた。

442ドギーマン:2007/03/18(日) 20:48:10 ID:WMFiyZTk0
マイスはやられたと思っていた。だがゲンズブールは大きく目を見開いて退いていた。
不審に思ったマイスは切り裂かれたはずの首に手をやった。
喉仏の感触をまず手の平に感じた。
なんともない。外したのだろうか。
ゲンズブールはチッと舌打ちすると吐き捨てるように言った。
「化け物か・・」
その言葉にマイスはどきりとした。
マイスは大剣を包む風の魔力を切ると、ただの剣と化したその刀身に恐る恐る手の平を押し付けた。
手の平を刃が滑り、皮膚を、肉を切り開いていく。
身体の中に硬い物が入り込んでくる異物感を鮮明に感じながらも、痛みを全く感じなかった。
手は止まらず、そのまま手の平のさらに奥へ剣を導いていく。
やがて刃は骨に達して、骨を削る感触と振動が伝わってくる。
痛々しい光景であるはずなのに、血が出てこないためにまるで緊張感が無い。
手を刀身から離すと、裂けた手の平からは鮮やかなピンク色の肉が覗いていた。
そして傷口はまるで一つの生き物であるかのように蠢くとすぐに閉じて消えた。
これは、人間ではない。
マイスが自分の手の平を見つめて愕然としていると、ゲンズブールの爪が胸に侵入してきていた。
「大人しく死んどけ!」
ぐぐっと力を込められて爪が胸の中に押し込まれてくる。
肋骨の隙間を的確に狙って差し込まれた刃はマイスの心臓にまで達していた。
だが、マイスは身体に爪を突き立てられた瞬間にほとんど気づかなかった。
穴を開けられた心臓は変わらない鼓動を刻み続けていた。
身体の中に感じる冷たい異物感。それだけを感じてようやくマイスは自身に起きた事態に気づいた。
マイスはゲンズブールの腕を掴むと、力を込めて胸からゆっくりと爪を引き抜いていった。
「化け物・・・・がっ!」
ゲンズブールは眉間にしわを寄せて同じ事をまた言っていた。
爪が完全に引き抜かれるとほぼ同時に傷は消えうせた。
痛みを全く感じなくなり、どんな傷を負ってもすぐに治る。
最初から分かっていたことだった。
そして、その契約はいま自分の前にいるこの男を殺すために結ばれた。
「そうだ、お前を殺すために化け物になったんだ」
マイスはそう言うとゲンズブールの腕をぐいっと引き寄せてその顔に頭突きを食らわせた。

443ドギーマン:2007/03/18(日) 20:49:05 ID:WMFiyZTk0

エムルは二人からそれほど離れていない、賃貸の一室から二人の戦いを眺めていた。
裏路地に面した建物の薄汚れた部屋、この辺りでは一番高い所にある部屋で見通しが良かった。
都市開発の一環で建てられたのだろうが、今ではすっかりスラムの一部になっているようだった。
窓に身体をもたれ掛けているエムルの背後で部屋の住人の女が少し怯えた様子でエムルを見ていた。
女は見たところ娼婦といった感じで、先ほどまで寝ていたらしく髪は寝癖で乱れていた。
何人もの男の相手をしてきたであろうベッドの上に女は膝を抱いて座っていた。
手首にはエムルの炎の鞭によってつけられた火傷が見える。
端金で簡単に部屋に入れてくれた女には目もくれずエムルはマイスの動きをじっと眺めた。
戦うところは初めて見るが、どうやら大剣を使って風を操るらしい。
大剣という力強さの象徴のような武器を扱う割には意外なことだった。
マイスはゲンズブールに向かって攻め始めている。
だがすぐに畳み掛けないところを見て取って「まだ時間がかかりそうね」と呟いた。
ふと街の景色に目を走らせると、表通りに面したマイスの宿が小さく見えた。
そこからあの女が出てきて遠くへ走って行った。
マイスたちの方向へは反対方向だが、いずれ辿り着かれるかもしれない。
その女に続いて出てきた浅黒い肌の黒髪の男。
初めて見る顔だが、あの女のすぐあとに出てきたところを見るとマイスの仲間だろうか。
胸当てに描かれた大きな十字架が目立つ。ビショップらしい風貌の男。
様子を見ていると男は急に顔を上げてこちらをじっと見た。
エムルは目が合ったことに慌てて窓から下がって部屋の中に身を隠した。
あの距離でこちらに気づけるはずが無い。エムルはそう自分に言い聞かせていたが嫌な予感を感じていた。
エムルは振り向いて部屋の女をじろっと睨んだ。
女はびくっと身体を震わせた。目には涙が浮かんでいた。
エムルはその女の怯えた様子を見てふっと唇だけの笑みを浮かべると、「もういいわ」と言って部屋を出た。
"口止め"は必要ないようだった。
軋む廊下を歩きながらエムルは少し焦りを感じていた。
あのビショップの眼を見たからだろうか、あの真っ直ぐにこちらを見る眼に生まれて初めての恐怖を感じていた。
気のせいだとは思うが、念のため少し急いだほうがいいだろう。
マイスがゲンズブールを殺しきれなかったとしても、そのときはまた別に生贄を用意してやればいい。
ゲンズブールには代わりに別の役割を与えてやろう。
ともかく今は彼の死が絶対条件なのだから。

444ドギーマン:2007/03/18(日) 21:15:30 ID:WMFiyZTk0
あとがき
うーん、特に大した考えも無く主人公を戦士にして、
特に考えも無く風ダメスキルというマイナースキルを使わせちゃいました。
ディレイとか、物理スキル使わせたほうが強そうなんですけどね。
でも、風使い(今思いついたフレーズ)ってなんか繊細な感じがしますよねえ。
それだけの理由なんですけどね。
それにしても、戦闘シーンなんだけどただの解説みたいな内容に…。
まだ終わったわけじゃないので次で頑張ってみようと思います。

>みやびさん
哀愁漂う始まりから、最後の感動に持っていくまでの複線が素晴らしいですね。
生きる目的を見つけたエレノアの幸せなその後を想像させるようです。

誤字脱字は私もいっぱいありますから気にしないでください。
と、言っても気になるのが書き手ですね。
読み返してチェックしても、いざ書き込んだのを読んでみると見つかる見つかる…。

>名無しさん
まとめサイトのほう、お疲れ様です。
そしてありがとうございます。

445みやび:2007/03/19(月) 01:29:52 ID:5vjJh76g0
 自分のあまりの間抜けさにギャフンとなり、ふて寝してしまって今頃目が覚めてしまいま
した(汗)←(就寝時間幼児だよそりゃ……)
 そんな訳で感想とレス行っちゃいます。

>姫々さん
 アチャとランサーの対決というのは、バリエーションが豊富で良いですね。
 あとロイみたいなキャラは好きです。普段はとぼけているんだけれど、いざというときには
火事場の馬鹿力――でもやっぱり本質は三枚目? みたいな部分が母性をくすぐる気が。
 やはり現実でも小説でも恋はギャップが命!?(笑)

>439さん
 エレノアは実は戦場だともっと非情だったりします(汗) でも人物設定としては愛に満ちた
女性ですのでご安心ください(笑)
 どちらかというと私の小説は「感傷的」プラス「グロ」プラスアルファ「エロ」が本分だと自己
分析しているのですが、エログロはさすがにテンプレで釘を刺されていますので、逆に意識
してしまって戦闘、ラブシーンの描写には頭をかかえてしまいます(汗) 戦場である以上は
流血は前提ですし、日常生活を描けば性描写もかかせない要素ですし。問題はどういうス
タンスどこまで描写するか――にかかっている訳ですが、それらは主観的な要素があまりに
も強過ぎますからね……。できるだけ万人向けにソフトにソフトに――と書こうとすると、これ
はこれで難しいです(汗)

 魔法汽船は公式設定にはないものです。こういった小道具を考えるは楽しいので、登場
させるとついつい描写にスペースをさいてしまうのが難点(ページが嵩む(笑))。今回のは
あえて最小の表現で済ませております。本当はもっと細かく描写したかったです(笑)
 ジョルジェの表記ミスについては脳内補完してくださって感謝!!(汗)

>ドギーマンさん
 風スキルいいですね。再現を楽しみながら書いているのが伝わってきます。もっとも本人
的には苦しんでいたのかもそれませんが。そこは作者と読者のちがいということで(笑)
 風使い(このネーミング好きです)イコール繊細――というのはまったくですね。
 次が楽しみです!

 誤植に関しては……やっぱりへこみますよねえ(泣)
 実は小説書きって、作品の評価よりも書いたあとで誤字・脱字・表記ミスを発見すること
による精神的なダメージのほうが強いんじゃないかしら。と思うことがあります(笑)
 いや実際笑えないんですが……(汗)
 お互いに頑張りましょう!おー!(ちょっと空しい叫び)

   *

 どうしよう……。たっぷり四時間も寝ちゃったから眠れないぞ。うーん……。
 これは『書け』ってこと!?(ひー)

446名無しさん:2007/03/19(月) 03:25:14 ID:QNo35LhM0
>ドギーマンさん
ほんとに武道って避ける事にかけては天才的だなぁ…と別の感動をしてます(笑)
戦士は実はやった事がないのですが、剣閃を飛ばして攻撃するというのはカッコイイですよね。
剣士スキルにも竜巻みたいなのがあったと思うし、剣士戦士って風使いなのか…!?
エムルの天敵はイスツールでしたか。両者が出会ったらまたひと騒動ありそうです。

>みやびさん
エログロは私個人としては全く気にせずに読んでみたいと思っていますが
このしたらば自体が年齢制限がない場所ですからね…完全フリーというわけにいかないのが辛いところですね。
いっそ個人サイトを作って隠しか何かにして書いて欲しい…とか無理な注文してしまいそうです(ニヤニヤ)
エレノアについては「戦争がある=血がある」というので納得しました。どうやら私の頭の中まで平和ボケしているようです(苦笑)
またの小説お待ちしています。今度はどんな想像小道具が出てくるのかな(笑)

447ドギーマン:2007/03/20(火) 00:49:11 ID:WMFiyZTk0
『Devil』
>>231-234>>273-277>>294-297>>321-324>>336-339>>352-356>>367-371>>398-400>>441-443

漆喰が剥がれて積み上げられた煉瓦の覗く建物、それらに挟まれた狭い路地の中を突風が吹きぬける。
痛みが無いことに最初は戸惑っていたものの、今のマイスに躊躇は無くなろうとしていた。
より強い力を求めて彼の大剣は周囲の空気を集め、風は彼の意思に従って吹き荒れた。
死ぬ事を恐れなかった頃の感覚が帰って来ようとしていた。
それは懐かしくもあり、喜ばしくもあり、そしてまた恐ろしくもあった。
何者も近づくことを許さぬ風にゲンズブールの帽子は遠く彼方へ消え去り、
彼は今吹き飛ばされぬように、はためく黒いマントに引っ張られているかのように足を踏ん張って耐えていた。
マイスは小さく助走をつけて踏み切ると、風に乗って高く跳躍した。
まるで翼でも生えているかのように高く高く。見上げているゲンズブールに自身の影を落とす。
ゲンズブールは横に飛んでマイスの飛び降りざまの斬撃を交わすと、
続けて払うように繰り出された大剣を爪で弾こうとした。
だが刀身を防いでも風は容赦なく彼を襲い、弾き飛ばす。
風に身体の自由を奪われ、ゲンズブールは避けることも間々ならなくなっていた。
ゲンズブールはざざっと地面に足の裏を擦り付けて着地した。
その後もマイスは大剣を振り回して風を作り出し、ゲンズブールに見えない斬撃を繰り出していった。

魔法も使えず、接近するしか攻撃の手段がない彼にとってマイスは相性の悪い相手であった。
ましてや建物に挟まれた狭い路地の中ではその風はより強さを増していた。
道着はあちこちに切れ目が走り、小さくところどころに血が滲んでいた。
マイスは大剣を再び構えると、ゲンズブールに向かって突進していった。
ゲンズブールは右手の爪だけを捨てるとぐっと右拳を握り固めた。
爪が手の平に痛いほどに食い込んでくる。
あのリズとの戦いでの、彼女の最後の反撃のときの表情が思い出された。
そしてそれを師の最後の時の表情にダブらせた。
ゲンズブールは気に入らないと思った。こんなに酔えない、つまらない戦いはない。
意識しないうちに強く噛み合わされた歯がキリッと不快な音を立てた。
走りこんできたマイスは大剣を持ち上げて突きの構えを取った。
ゲンズブールは左爪を前に出して、握りこんだ右拳を脇腹の横に構えた。
捻り込むように放たれたマイスの突きに向かってゲンズブールは左爪を差し出した。
爪が剣に触れた瞬間、剣から放たれた小さな風の刃が彼の左手を撫でた。
左手を赤い線が次々と走り、刻まれた指の皮が捲れ上がった。
道着の袖は風に捻じれてズタズタに引き裂かれていく。
それでもゲンズブールの爪はマイスの剣を横に押しやり、そのまま滑るように相手の懐に潜り込んでいった。
そして「ふっ!」と息を吐くと同時に繰り出された彼の右拳は、マイスの顎を捻り込むように捉えて弾き飛ばした。

448ドギーマン:2007/03/20(火) 00:51:18 ID:WMFiyZTk0
マイスは顎を首に対して横に、ほぼ直角にまで弾き上げられて吹っ飛ばされた。
首の筋肉が鈍い音を立てて断裂し、左右に脳が大きく揺さぶられた。
だが痛みが無いために全く苦しげな声を上げることはなかった。
仰向けに倒れこんだマイスは首を真っ直ぐにすると、すぐに起き上がった。
しかし、激しく頭を揺さぶられた彼の視界は歪んでいて、すぐには立ち上がれなかった。
そこにゲンズブールの鉄板を仕込んだ靴のつま先が再び顎を捉えてマイスの視界を空へ向けた。
「化け物になったからって調子こいてんじゃねえぞ。カスが!」
ゲンズブールの掠れた声が響いた。
彼の左腕はマイスの風にズタズタに引き裂かれて血にまみれていた。
だらんとぶら下げて、ボロボロの道着の袖と捲れ上がった皮膚が絡み合っていた。
血に塗れた手に握られた鉤爪は刃先が少し曲がっていて、マイスの風の強烈さを物語った。
倒れたままのマイスの顔をゲンズブールは何度も踏みつけていた。
リズの腕を一撃で破壊したゲンズブールの踵が何度も顔に打ち付けられる。
だが、マイスは全く痛みを感じていなかった。
頬骨や鼻骨は何度も折れては再生を繰り返す。
踏まれながらマイスは眼を閉じてぼんやりと考えた。
これが、俺が望んだものなのか?
こんな事のために、俺は・・・。
マイスはリズやイスツール、宿の主人・・・彼が守りたいと思った大切な人たちの事を考えた。
俺は彼らを守るためにエムルと契約を結んだ。
でも、それは本当に彼らのためだったのだろうか。
宿の主人は言っていた「俺はお前を信じてる。お前はやるときゃやれる男だ」
マイスに背を向けて階段を上がっていくあの時のイスツールの背中。
寝台の上でマイスを見上げていたリズ。
「私も、あなたの事を守りたかった」
そうか。俺はエムルの言葉に踊らされてしまっていたんだな。
リズは襲われたのではなく。自分の意思で、俺を守るために戦ったんだ。
マイスは背中に傷を受けた日のことを思い出そうとした。
決まってそういう時には傷が痺れるように疼くのだが、今はそれが無かった。
なんてことだ・・・・・。
マイスは酷い喪失感を感じていた。
痛みを捨てるということは、同時に絶対に守らなければならなかった何かも捨てるということだった。
今思えば、皆マイスが自分の勇気と決断でもってトラウマを克服することを望んでいたはずだ。
なのに、俺は・・・・。
どうしようもない馬鹿だった。
マイスは墜ちてしまったと思った。
失ってようやく気づいた。痛みや苦しみ、そして恐怖は消し去るものではない。
怯えながらも、それでも乗り越えて行くべきものだと。

449ドギーマン:2007/03/20(火) 00:52:42 ID:WMFiyZTk0
ゲンズブールはマイスの顔面を踏みつけながら、それでも込み上げる怒りは枯渇することはなかった、。
いくら踏みつけても、マイスの顔は汚れることはあっても決して傷つかない。
「くそが!」
そう言って怒りに任せながら目をつむっているマイスの顔を踏みつけた。
まるで踏まれている事にすら気づいていない、眠っているかのような表情。
それはゲンズブールのプライドを酷く傷つけていた。
だがゲンズブールははたと足を止めた。
マイスの閉じた目に涙が滲んでいるのが見えた。
ゲンズブールはチッと大きく舌打ちしてマイスから離れた。
何なんだこの男は。
俺を殺すために化け物になっただとかほざいておいて、泣いてやがる。
マイスの何もかもが気に食わなかった。
出来ることならば殺したかった。
「くそっ、苛々してきやがる」
そう言ったところで、ゲンズブールはある事に気づいた。
あれほど激しくマイスによって切り刻まれた左腕の出血が完全に止まってしまっていた。
それどころか、身体のあちこちに付いていた細かい切傷、左腕の傷も早くもほとんど治りかけていた。
ヒールポーションを使った覚えは全く無い。
ゲンズブールの誇りをさらに傷つける事態だった。
奴だけじゃない。俺も化け物にされちまってたのか。
ゲンズブールは師の幻影に吐き捨てた。
どうやら、あんた言っていた気合とやらは関係なかったらしい。
少しでも信じていられたほうがどれ程マシだったか。
怒りが収まらず、手が震えてきた。
そうしていると、エムルの声が響いた。
「あら、もう戦わないの?」
そう言って彼女はマイスの後方に立って首にかけた黒い逆十字架のロザリオを指先で玩んでいた。
マイスはその声に起き上がって振り返り、
ゲンズブールは怒りをぶつける捌け口を見つけたことに笑みを浮かべた。
「エムル、契約を・・」
マイスがそこまで言ったところでゲンズブールの黒い姿がマイスの横を一瞬で通り過ぎた。
ゲンズブールはどろどろと身体の中で淀んでいる怒りをぶちまける宛てを見つけて狂喜に顔を歪ませた。
「ひ・・ヒ!」
怒りなのか喜びなのか分からない。リズを苦しめていたときに近い感情。
ゲンズブールの左手に握り締めた歪んだ爪はエムルの余裕の笑みを浮かべる顔を目指した。
だが、その爪が彼女の顔に届くことはなかった。
ドクンと彼の心臓が大きく跳ねて、どす黒い何かが身体の中に弾けるように撒き散らされた。
ゲンズブールの視界のなかに浮かぶエムルの笑みは上に消え、気づけば彼は冷たい地面を見ていた。
身体を地面に叩きつける衝撃。路地裏の舗装されていない地面はひんやりとしていて、彼はその冷たさに顔を埋めた。
酷い吐き気が込み上げてくる。急に気分が悪くなった。
込み上げて来たものが喉を焼く、耐え切れなくなった彼は咳き込んで血を吐いた。
何があったのか全く分からなかった。
手足の感覚が無くなっていく。視界が何故か酷く揺れていた。
誰が俺を揺すってるんだ。
彼は痙攣を始めている自分に気づいていなかった。
ゲンズブールは雄叫びをあげようとした。既に意識は朦朧としていたが、それで助かる気がした。
「・・・・ふっ・・・・ぉ・・・・」
かすかに喉の奥から漏れたそれは、すでに怒号などではなくなっていた。

450ドギーマン:2007/03/20(火) 01:13:12 ID:WMFiyZTk0
あとがき
エムル登場。そして倒れるゲンズブール。
イスツールやリズは蚊帳の外で話は進行していきます。
さてこれからどうしよう。

451名無しさん:2007/03/20(火) 05:11:56 ID:QNo35LhM0
>ドギーマンさん
連続する戦闘シーンにハラハラしてます(ドキドキ)
戦士と武道家、この両職が決闘する展開を想像した事が今まで無かったので楽しんで読ませてもらいました。
ついにエムルの計画が実行されたのでしょうか…ゲンズブール、好きなキャラでした…。
ってまだ死んだりしてないのに(苦笑) でもピンチには変わりないですね。
リズとイスツールも実は動いているのでしょうか。ともかく続きが気になります。お待ちしてますよ!

452みやび:2007/03/20(火) 12:28:32 ID:Lyw03.360
 こんにちは。昨夜は寝てしまって感想書けなかったみやびです(汗)

>ドギーマンさん
 マイス、ゲンズブールの不死身という力に対するとらえ方の相違が面白いですね。
 しかしその虚無感を悟ったマイスが、果てして私(読者)の予想通りの行動を起こすのか、
それとも読者を裏切って――もちろんこれは作家につきものの“読者を裏切りたがる性質”
という肯定的な意味の裏切りですが――くれるのか。次回が楽しみです。

>446さん
 個人サイト……。自堕落なため管理が続かないです……はい(泣)
 その分こちらへの投稿に励みたいと思います。

 ― 記 ―
 前スレの>139氏による年表。
 私のキャラはもれなくメインクエを終えてしまっているため、今となっては確認できない部
分もあるのですが、同年表に漏れやミスがないのであれば、次スレからテンプレに載せる
というのはいかがでしょう? 漏れ等は発見した人が申告して、そのつど修正すれば良い
事ですし、公式の設定に忠実に書きたい、という方もいらっしゃると思いますので。

453名無しさん:2007/03/20(火) 14:18:06 ID:B3kEUPL20
ゴドム共和国中等学校歴史教科書より抜粋、『旧ブルン暦、フランデル大陸興亡史』。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4423年 「赤き空の日」 RED STONE降臨
4556年 追放天使の流した、RED STONEの噂。
       その真相調査を開始したエリプト帝国が悪魔の襲撃により崩壊。
4658年 帝国崩壊後、エリプト帝国の元傭兵等を集め、
       ブルン王室が王室直轄機関『レッドアイ』を設立。
4805年 『レッドアイ』会長失踪。ロムストグバイルの書記にて詳細判明。※資料1
       同年、ブルン国王アラドン失踪。
4807年 『レッドアイ』RED STONEを遂に発見。
       しかし同年、バヘルリ・シュトラディバリ主導による『シュトラディバリ家の反乱』
       が勃発。ブルン王国は崩壊。
4828年 共和国主義を唱えるバルヘリに対し、自らの地位を危惧した貴族らがバルヘリの母方
       ストラウス家のトラウザー主導による再反乱を起こす。
       しかし戦況の不味により貴族らはビガプールに亡命、トラウザーを王に立て王国
       ナクリエマを設立。混乱のまま戦争は終結。
       バヘルリは古都ブルンネンシュティグに残り、ゴドム共和国を設立する。
      バヘルリを初代大統領に議会政治開始。
4850年 ナクリエマ王権を息子バルンロプトへ移しトラウザー隠居、後年死亡。
4854年 バルンロプトは貴族の政治介入を疎んじ、貴族に対し『絶対的弾圧』を行う。
4856年 貴族は絶対的弾圧に対しバルンロプトの王権解除を望み、バルンロプトの息子が王にな
       る様企む。
       しかしバルンロプトを恐れた一部の貴族がそれを暴露し、企んだ貴族は反乱罪で処刑、
       当の息子は王にならないよう、バルンロプトにより幽閉される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4931年 現代。レッドアイ狂信者によるスマグ襲撃事件発生。狂信者はスマグ地下道を占拠。
       現ナクリエマ国王タートクラフト・カイザー・ストラウスがビックアイに傭兵を送り込み、
       謎の警戒態勢に入る。


※資料1 レッドアイ会長の失踪直前に記された、『補佐官スロムトグバイルの手記』 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「汝らの求めるREDSTONEは、汝らが思うような至高の宝ではない。
天空から複数略奪された、盗品の1つに過ぎぬのだ。
だからもしや、汝はあの宝をその手に入れ、富と名誉をも掴む事になるやも知れぬ。
だが忘るな!あれは至高の宝ではないのだ。それを忘れ暴走すれば、必ず汝を破滅に引導するだろう。
―――あの、ブルン終末の王と、●●●●●●●。」

 ブルン暦4805年12月8日 王室直轄機関『レッドアイ』会長 アイノ・ガスピル

 口頭筆記 会長補佐官スロムトグバイル
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●部分は黒で塗りつぶされている。



※追記
 
年代の一部はNPCの発言より創作
そのほか、『補佐官スロムトグバイルの手記』は公式より推敲

454ドギーマン:2007/03/20(火) 14:39:48 ID:B3kEUPL20
一部、人物名の修正 バルヘリ→バヘルリ・シュトラディバリ
ゲーム内、公式HPなどからこちらの名前が多く使われているようなので。
シュトラディバリの悲劇というUもありますしね。

バルンロプトにバヘルリが王権を譲るという点を修正
→トラウザーよりバルンロプトへ

いま読み返すと、バヘルリに出来てないところが・・・・
バヘルリ・フォン・シュトラディバリらしいです。

不明点・矛盾点
ビガプール歴史クエストでは、
バヘルリがブルン王国崩壊後に新国家の建設を開始。
しかしトラウザーの反乱によって追放され、古都に帰ってゴドム共和国を建てる。
とされておりますが、どっちが正しいのかは・・・。
そのクエの内容では、
ナクリエマを独立させたのはバヘルリで、
初代国王の座についたのはトラウザーらしいです。
でも、分からない部分が多すぎるのでその部分には手を加えておりません。

テンプレにするというのは賛成です。私も何度も利用させて貰いましたから。

455名無しさん:2007/03/20(火) 20:33:24 ID:WDt8ANrA0
>年表
テンプレ案に私も一票。
公式にもなかなかこの手の資料の詳細は掲載されてませんしね。
メインクエストなどを自分で進めて調べるというのも、手持ちキャラのLvによっては辛い部分もあると思いますし(実際私がそうです)。
でもどうしても曖昧な部分や二人のNPCが別々の事を語る矛盾点などはあると思います。
その辺も勝手に想像して書いてしまうか、あえて触れないで書いてしまうかは書き手さんの自由という感じで。
RSの歴史的小説を書きたい、あるいは小説の中で政治的部分を挿入したい場合には必須の年表だと思います。

456第54話 ヒント:2007/03/21(水) 11:00:02 ID:MtBfXOKk0
「もしもしパパ? 途中で切れるんだもん! 今どこなの? 私は西の○▲っていうネカフェよ!」
「やっぱり尾行してたのか。俺は今、駅の東、岡崎の車からだ。この番号は岡崎の電話だ。大丈夫か?」
「う、うん。それより今みっこも一緒なの」
「はぁ?なんで?」
「実は・・・」
美香は事の次第を田村に伝えた。
「お前の追ってた奴と同一人物なのか?」
「確認しようとしたら、パパから電話きたんだもん!」
「・・・みっこの友達が危険だなぁ・・・佐々木はいるか?」
「え?パパと一緒じゃないの?」
「くそっ! こっちで連絡する。多分、俺より先に応援にいけるだろう」
「応援って、そっちのヤマでしょうが!」
プツッとノイズとともに電話は切れていた。用件をだけ伝えたらさっさと切ってしまうタイプの田村だった。


佐々木は1軒目のネカフェを出てから、これでは埒があかないと携帯を手にとった。
「○○署の佐々木です。至急、張を電話に出してください!」


張は緊急の電話だと刑務官に言われ、駆け足で電話代に向かわされた。
一体なんだってんだ?電話に出ると相手は一言「佐々木です、質問に答えて」と。
「どうしたんだ?」
「5番を見失った。ヒントはないか?」
予め、8件のメールアドレスには番号を割り当てていた。
最後まで残った2件が3番と5番だった。
「ヒント?5番は判らないよ。それより何故5番なんだ?」
「実際の取引までいったのは3番と5番で、3番は空振りだった。だから残る5番てわけだが?」
「いや、8番はどうしたんだ?あれが一番怪しいと言っただろう!」
「数回メールのやり取りをしてそれで流れたみたいだ」
「馬鹿!8番は俺も監視してたが、チャットでやり取りしてただろうが!しかも今日が取り決めの日程だぞ!!」
「なんだって?電子課からそんな連絡なかったぞ!」
「Gmailはお互いログインしていれば、メールクライアント上でチャットできるんだよ! それを見逃したんだ!」
「ヒントをくれ!」
「チャットログ上では2軒名前が出ていた・・・確か、■×店と○▲店だ」
「ありがとう!」と佐々木は電話を切った。
張は退屈な日曜に刺激を与えてくれた事に感謝しながら警察の間の抜けぶりに微笑んだ。
例のGmailは、売主はログを保存しない設定をしていたが、買主がそれを設定していなかったのが幸いだった。


佐々木は○▲店に向かった。USBを使えるのはその店だけだったからだ。
そこに田村から無線が入った。
「佐々木!○▲に向かえ!」


田村は佐々木の返事に驚いた。
「もう向かっています!」
「何故判った?」
「8番がいるんです!」
「あん? 追っているのは5番だぞ?」


その頃、ネカフェではみっこが戻ってきた。ジュースサーバーでキンガーからどこに座っているか教えてもらったのだ。
美香はちょっと疑問に思っていることをみっこに訊いた。
「そういえば、そのお友達はアカウントを購入するつもりなの?」
「どっちにしろ買わないw」
「どうゆうこと?」
「取引成立なら姉ちゃんたちに引き渡す。不成立ならうちらは関係ないの。そっちで好きにしてw」
「ちょっと!きちんと説明しなさいよ!」
何故、自分達がこんな取引現場にいるのかをみっこはキンガーさんが座っているほうを眺めながら説明した。

457復讐の女神:2007/03/21(水) 17:07:41 ID:D684MnD20
フェリルが空を飛んで数分。
ボイルは、普段と違い無口であった。
ジェシの前で、今までただの一度とてこのようなことはなかった。
その表情は真剣そのものであり、ジェシはなんとなく居心地の悪い思いをしていた。
「ん? ジェシ、どうかしたのかい?」
「…なんでもないわ」
じっと見ていたのに気づいたのだろう、ボイルは笑顔でジェシを見つめる。
「あぁ…はは、私の真剣な顔を見るのはもしかして、初めてだったかな。惚れ直したかい?」
「最初から無いものを、どうやって直すのよ」
やはり、気のせいだろう。
この男は、何も変わってはいない。
ジェシは、ため息をつき、空を眺めた。蒼い空に、白い雲が幾筋か、流れている。
こんなに良い天気は、久しぶりでは無いだろうか?
そう思った時だった。
視界が急にぼやけ、ぶれ始めた。平衡感覚が怪しくなり、嘔吐感が沸き起こる。目に見えるのは、白と黒の世界。
(こい!)
頭の中に響くその声を聞き、一瞬のブラックアウトを体感する。
次の瞬間。
ボイルとジェシの姿は、その場から掻き消えていたのだった。

空間を跳躍し、ジェシはその場にひざまづきそうになった。
視界は元に戻っているが、体に痺れが残っている。
「この空間跳躍も、なかなか慣れられませんねぇ」
「ふむ、しかしこれが一番早くて確実だからな…」
「…ジェシ、大丈夫かい? 私がささえ」
「大丈夫」
槍を杖代わりに、体勢を立て直す。
空を見上げて数瞬、ジェシの体のバランスは整った。
改めて周囲を確認すると、そこは村への入り口だった。
簡素な村ではあるが、家の数を見る限り、それなりの人口がいるらしい。
村の奥に田畑が見えるところから、農村といったところだろうか。
ただ、ありがちなことではあるのだが…山に囲まれているのが、厄介といえば厄介だろうか。
視線を仲間に戻すと、ボイルが地面に膝を付いていた。
「あら、ボイルどうしたの? もしかして、まだ気持ち悪いとか?」
「は、はは…いやなに、大丈夫さ」
ボイルは力ない笑みを残し、立ち上がる。
その様子を、フェリルは呆れながら見守っていた。
「さて、そろそろ村長殿に挨拶に行かねばな」
すでに羽の消失させたフェリルは、村の中へと入っていく。
「あ、ちょっと…!?」
ジェシは慌ててフェリル後を追う。
その姿を、ボイルは優しい瞳で見守っていた。
「君は、私のことを…」
そのつぶやきは、果たして紡がれることなく、風に消えた。
「ボイル、早く来なさい!」
ジェシにせかされ、ボイルはゆっくりと歩き出した。

458復讐の女神:2007/03/21(水) 17:08:27 ID:D684MnD20
村に入ると、子供たちがこちらを見ていることに気づいた。
ジェシは、視線だけでその動向を観察する。
子供たちは、ただこちらを眺めているだけだ。
警戒しているところをみると、モンスターに相当怯えているようだ。
もしかしたら、自分たちが一連の事件の黒幕とすら思われているかもしれない。
「考えすぎだ、ジェシ」
横を歩いているフェリルが、そっとつぶやいた。
視線は前を向いたままだ。
「あの子供たちだって、さすがにそれくらいの事はわかる」
「そうそう。心配要らないよ、私のジェシ。どんなことがあろうと、絶対に守って見せるから」
「……何のこと?」
後ろから聞こえてくるボイルの声を、ジェシはあっさりと切り捨てる。
ジェシは、それなりの実力を持っている。
ボイルに助けられずとも、生き残る自信はあるのだ。
子供以外にも、こちらを見る視線を感じる。
家の中などから、隠れるようにこちらを注目している。
(これほど怯えているなんて…)
この世界では、モンスターの存在など普通すぎるくらいだ。
少しばかりの数では、放って置くことすらある。
「かなりの数…もしくは、それくらいの知恵があるようね」
「そのようだね、村全体が怯えているのがわかるよ」
ボイルの相槌は、かすかに震えている。
助けに勇んできた人間が、震えていてどうするのだろうか。
ジェシが何か言おうかと口を開きかけたとき。
「おぉ、フェリル殿!」
老人と分かる、かすれた男の声が響いた。
声が聞こえた方向を見ると、そこには肌を日に焼けさせた老人がいた。
いや、老人といっていいものだろうか?
健康的で無駄の無いからだをしているのは、畑仕事のおかげだろう。
杖は突いておらず、腰も堂々としている。
鋭い眼光は、辺境での長い暮らしによるものだろうか。
「間に合いましたな、お久しぶりです村長」
フェリルと、村長と呼ばれた男が手を取り合って握手をする。
なるほど、二人は知り合いらしい。
2・3の言葉を返しあうと、私たちを呼んで紹介を始めた。
「こちらはジェシ、槍と弓の名手で、ブルネンシュティングでも、なかなかに有名な方です。もう一人は
ボイル、魔術師です。知識も豊富で、頼りになります」
「はじめまして、ジェシです」
「よろしく頼むよ」
おとなしく頭を下げるジェシに対して、ボイルは尊大にうなずいた。
このあたりの違いは、生まれや生活の差だろうか。
村長がジェシとボイルに向かって頭を下げる。
「さあ、こちらに来てください。現在の状況をお教えします」

459復讐の女神:2007/03/21(水) 17:09:21 ID:D684MnD20
案内された村長宅には、包帯を所々に巻いた男が2人待っていた。
腕に巻かれた包帯に血がにじんでいるのが、痛々しい。
「話の前に、傷を癒しましょう。見せてください」
フェリルは他のことなど目に入らないかのように、二人に近づき包帯をさっさと取り払ってしまう。
血がすでに流れ出していないところを見ると、少なくとも今日受けた傷ではなさそうだ。
「神よ、奇跡の欠片の行使をお許しください」
フェリルが呪文を唱えると、その手から湧き出した水蒸気が二人を包み込みだす。
回転しながら二人の周りを回る水蒸気は、小さな竜巻を連想させる。
「抵抗しないで下さい、効果が最大限まで発揮されません」
体を緊張させていた二人の男は、フェリルの言葉に従い体から力を抜く。
すると、二人の周りを回っていた水蒸気が吸い込まれるように二人に吸収されていく。
そして、水蒸気がなくなると…二人の傷口もふさがっていた。
「これで大丈夫でしょう。怪我をしてすぐであったなら、傷跡も残らないのですが…」
先ほどまで穴の開いていた腕をさすりながら、男たちは苦笑する。
「いいえ、ありがとうございます。おかげで、助かりました」
「それに、体も幾分か軽くなったような気がします」
なるほど、二人の血色が先ほどよりもずいぶんと良くなっている。
腕を上下させ、痛みが無いことを確認した男達は、嬉しそうに礼を言う。
「どうやら、毒にも犯されていたようだね。フェリル司祭の周囲は特殊なフィールドになっているから、毒などを浄化して
くれたのだろう」
ボイルは当然とばかりに頷く。
なるほど、二人が受けた傷から毒が入り込んでいたのか。
「傷跡からみて、蜘蛛にやられたようですね。あなた方が見たのは、蜘蛛のモンスターだけですか?」
「エルフの印があったので調べていたら、急に頭上からやられたんだ…巨大な蜘蛛で、少なくとも2匹はいたはずだ」
彼らの話によると、兆候は1ヶ月前からあったらしい。
蜘蛛たちの攻撃の届かない場所から弓で狙い、一匹ずつ倒してきていた。
蜘蛛を倒したら巣に火を放ち、蜘蛛の卵を巣ごと燃やすのが、セオリーなのである。
そもそも、蜘蛛は単独行動をする生き物だ。一度に何匹も相手にすることの無い、比較的倒しやすい生き物なのである。
だが、最近になって、倒しても倒しても、一向に減る様子がなく、寧ろどんどん増えていっているという。
「もちろん、俺達は巣を発見しだいつぶしていってる。でも、そんなんじゃ対処しきれなくなってきたんだ」
「このままじゃ、いずれ蜘蛛はこの村にまでやってきて、俺達を食料としだす。頼みます、村を救ってください」
いつの間にやってきていたのか、ジェシたちの後ろには幾人かの村人がやってきていた。
全員が頭を下げ、自分達に全てを託そうとしているのを、ひしひしと感じ取ることが出来る。
「安心してください、皆さん。我々は、この依頼を受けるためにこの村に来たのです」
フェリルの一声で、全員から歓声が上がった。

460名無しさん:2007/03/21(水) 20:22:45 ID:WDt8ANrA0
>きんがーさん
RS、と言うよりもネトゲをプレイしている人々全てを対象とできそうな小説ですよね。
3番、5番、8番という三人の容疑者が浮き上がってきましたが…。
やっぱりこの手の犯罪者と言うのはネットやPCに詳しい人物が多いのでしょうね。警察陣、頑張れ!

>復讐の女神さん (小説のタイトルでしたら申し訳ない)
一瞬、続編なのかと思ってログを検索してしまいました(笑)
コーリングや回復魔法に関して独自の描写をされているのが良いです。特にコーリング。
空間跳躍…確かにそういう魔法(?)ですよね。そして気分が悪くなるというのも面白い。"飛ぶ"というのはエバキュエイションでしょうか?
普段何気なく使うスキルだと見落とす部分も多いですよね。BIS/天使スキルは実は私も良く知らないのですがorz
冒険物語になるのか、はたまた別の物語になるのか。どちらにしろ楽しみに続きを待っています。

461携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:10:57 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>383-384  ネタ話>>123-125

『孤高の軌跡』

『くはははは、世界は我の物だ!』
『そんなことはさせない! 行くぞっ、みんな!』
『おう!』
「ねえショウタ」
『く……強い』
「ショウタってば」
『こうなったらアレでいくぞ!』
「ショウタッ!」
「なに?」
声のした方向へ振り向くと、不満と好奇心が入り混ざった表情のニーナが居た。
「それ、何?」
ニーナはそう言って前方に指を差した。
その先にはテレビと、テレビの手前にある機械を指していた。
俺は面倒だったが仕方なく教えてやる。
「ああ、これね。これはテレビゲームって言うんだよ」
「テレビゲーム?」
ポカンとした表情のニーナに俺は更に教えてやる。
「要は遊びだよ。テレビにこの機械を組み合わせることによって様々な遊びができる」
説明不十分だがニーナには十分だろう。ピコピコ
「それで動かすの?」
いつの間にか傍らに寄って来ていたニーナがコントローラーに指を差す。
俺は目も向けずに口を開く。ピコピコ
「そう。これはコントローラーって言って操作する道具だ」
言って俺は画面に集中することにした。ピコピコ
すると傍らのニーナが更に近づいてきた。ピコピコピコピコ
「ねね、それ貸し……」
「無理」
光速の速さで即答する。何故なら今はいいところだからだ。
するとニーナは不満を隠そうともせずに睨んできた。
「ケチ」
「あのなあ、今は世界を手に入れようとしている魔王を主人公たちが捨て身の攻撃と勇気でなんとか解決!
って勢いで魔王を倒し世界に平和が訪れ主人公とヒロインが結ばれるって王道的なラストの場面なんだぞ!」
早口口調で熱く語る俺。それによりニーナは当然呆気にとられる。
実はというと、これから第2、第3形態に魔王が変化したりするのだ。ニーナにそんなことは知る由もない。
「でも、何で6人も仲間がいるのに4人しか戦ってないの? 大事な戦いなんでしょ?」
うわ、ニーナが鋭い突っ込みを放ってきた。
俺は咳で動揺を隠しながら何も知らない素人に優しく説明して差し上げる。
「ニーナ。それは言っちゃいけない。つまりタブーなんだ。
他にも主人公が何故か剣を使い、ヒロインが何故か治癒魔法を使うとか、主人公は何故か10代後半だったりだとか、
主人公の町の周りの魔物は何故か雑魚ばっかりだとか、主人公たちは斬られても撃たれても何故か平気だとか、
正義の主人公が知らない人の家に当たり前のように入り、その上その家の物を盗むのも、ぜーんぶタブーだ。絶対に突っ込んじゃいけないんだ!」
「そ、そうなんだ……」
それから長く気まずい時間が流れる。
再び咳で誤魔化して俺はゲームに専念することにした。


魔王が滅び、世界に平和が訪れ、主人公とヒロインが結ばれた頃。
画面を珍しそうに眺めていたニーナが口を開いた。
「ねえ、ショウタ。天気も良いし外行かない?」
「そうだな……今日は休日だしそうするか」


そんな訳で今俺たちはビルが連なる町中に来ている。
実体化しているニーナは、俺の服を着ているにしろ、やはり注目を集めてしまう。俺は全力で他人のふりをする。
特に目的も無くふらついていると、あまり遭いたくない人物に遭遇してしまった。
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
『あ』の4重奏。俺たちの前には蒼髪の大男と、小柄の少女が立っていた。

462携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:11:50 ID:mC0h9s/I0
「ああっ、お前たちはあの時の!」
2人を交互に指を差しながら俺は叫ぶ。
「そっちこそ。こんな場所で何してるのよ」
平静を保っている黒髪の少女が口を開く。
その少女は高価そうな春物の服や、鞄や装飾品で身を飾っていた。
「気分転換だ。悪いか。そっちこそ何やってんだ」
「これがデートに見える? ただのショッピングよ」
「リサ。余りその男と話すな。間抜けが移るぞ」
リサと呼ばれた少女の背後から出てきた蒼髪の男。
黒いスーツに蒼髪が良く映えていた。
「お前は……」
この男は、忘れる筈もない。俺とエミリーに剣を向けてきた男だった。
俺の敵意に気づいたのか、男が軽蔑の目で俺に目を向けてきた。
「どうした。まだあんな些細な事に固執していたのか?」
どうも俺はあの男が好きになれないらしい。あの話し方は俺の癇に触る。
「俺に剣を向けたことはもういい。それよりあの後はどうした」
俺が遠回しに問うと、男は口を不気味に吊り上げた。
「あの小娘のことか。殺した。……と言いたい所だが、逃げられた。魔石を使い何処かへ移動したのだろう」
「そうか」
そう言いながら俺は心の中で胸を撫で下ろす。
とにかく、エミリーが生きていて本当に良かった。あの子は幸せになるべき人間なのだ。

互いに言うこともなくなり、無言が続く。
耐えかねたのか、黒髪の少女が口火を切った。
「そうだ、貴方たち。良かったら一緒に付き合わない? あの店にでも」
そう言い俺たちの後方へ指を差す。そこは特徴もないデパートだった。
ニーナと目を交し、互いの意思を確認。ニーナの目が輝いていたので、俺も仕方なく付き合うことにする。
「ああ、別に構わないよ」
「よし。じゃ、行きましょう」
嫌がる男の手を引き、ずんずん突き進んでいく少女。
俺たちも後に続いた。

「で、どうするんだ?」
「そうね……あ、そうだ。もう何着か服が欲しいわね。貴方も来る?」
その言葉は俺の傍らのニーナに向けられた。
「え、私?」
「そうよ。貴方素材は抜群だし、そんな服じゃ可哀想だし。って事でヘル、後はよろしく」
「待て。リサ」
言うが遅し。少女はニーナの手を引っ張りブランド店に入っていった。

呆気にとられた俺と、不機嫌丸出しの男だけが残された。さ、最悪だ……。
男は俺を見ようともしない。ただ不機嫌そうに腕を組んでいるだけだった。
「おい」
「何だ」
男の無機質の声が返ってきた。そこに感情は無い。
「どうするんだよ、これから」
「知らん」
本当にいちいち癇に触る男だ。
こいつの傍にいると俺の清潔な脳細胞が次々と死滅していくので、とりあえず離れよう。
「おい。何処へ行く」
「さあな。というかついて来んな!」
「気にするな」
「…………」
疲れるのでこれ以上言うことはやめた。

仕方がないので俺も気分転換にゲームセンターに行くことにした。
邪魔物がいなければ満喫できたのだが……。
「おい、俺の範囲内に入るな」
「私も同じ言葉を返そう」
「あ、そういえば蒼髪って今頃アニメでしか流行らないぞ。もしかしてお前宇宙から来たのか?」
「この世界の言語はレッドストーンの魔力で此方の言語に変換されている筈なのだが、貴様の言葉は解析不能だ。
貴様が話している言葉はこの世の物なのか?」
俺の皮肉に男も負けじと返してくる。
ふっ、望むところだ。
「あ、判った。お前の髪の毛の原因はお前が宇宙人と宇宙人のハーフだからなんだ。そうに違いない!」
「貴様の低脳は最早人類では修正不可能だ。死ぬことをお薦めする」
「お前こそ宇宙的に死ぬことをお勧めするよ。それとさっきから眼を閉じてるようだが眠いのか? それとも病気か?
確かそんなときは首を吊ると治るらしいぞ」
「よくそこまで減らず口を叩けるな。舌が反乱でも起こしているのか?」

そんな皮肉を言い合っているとゲームセンターに着いた。
後でこいつを何とか撒いて迷子のアナウンスでこいつを呼び出そうと考えていたら、こいつが話し掛けてきやがった。
「おい、あれは何だ」
男が指差す方向には、モグラが穴から顔を出し両端にハンマーが刺さっている機械。
つまりモグラ叩きがあった。

463携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:12:45 ID:mC0h9s/I0
「え。もしかしてお前あれやりたいのか……?」
俺が必死で笑いを堪えながら何とか言葉にすると、男は重々しく頷いた。

「1回だけだぞ」
何だか面白そうなので、俺の奢りという形でゲームは始まった。
金を入れて、鈴の音の様な電子音が鳴る。
「ルールは判るのか?」
「安心しろ。1度リサの屋敷でテレビという物で見たことならある」
言いながら男はハンマーを手に取る。
同時に1匹目のモグラが飛び出してきた。
瞬間、男の腕は水平に振られ、モグラの側頭部に見事に命中。モグラはプラスチック製の体をブチ撒けながら場外へ吹き飛ぶっ!
続いて第2のモグラが顔を出す。男は腕を振るった勢いを利用し回し蹴りを放つ。
見事に顎を貫き、本来なら『いてっ!』と可愛らしい声を出す筈のモグラは、『びべぇっ!』と悲痛な断末魔と共に完全沈黙した。
男の猛攻は更に続く。
一発目の攻撃でハンマーが折れた為、ハンマーを投げ捨て、片方の手でモグラの頭を握り潰し、
もう片方でまだ出てきていないモグラの穴に手を突き入れ、無理矢理にモグラを引き抜いた。

やっと我に返り、俺は目の前の男を止めんとする。
「おい、頼むからこれ以上はやめろ!」
「闘いの最中に話し掛けるな。それに闘いは始まったばかりだぞ」
真剣そのものの男の声が返ってくる。
遂に最後のモグラまで破壊され、ここのモグラ叩き機は完全に使い物にならなくなった。
「こんな実力で私に挑むとは……程度を知れ」
何に話し掛けているのか判らない男に近づき、腕を掴むと一気に走り去る。
そろそろ通報されそうなので急がなくては。
「む。何故勝利者の私が逃げなくてはならぬ」
宇宙人の言葉は無視し、階段を駆け上がる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」
俺たちは今屋上へ逃げ延び、身を隠している。
若干1名理解できていない輩が居るが無視。
呼吸を整え、俺は言いたいことを隣の不機嫌面にぶつける。
「お前、テレビを見ておいてどうしたらあんな結果に繋がるんだ?」
「む。あれはモグラをいたぶりストレスを発散するという遊びではなかったのか?」
男の素直な返答に俺は思わず頭を抱える。
「ストレス発散は合ってるかもしれないけど……あれは遊びじゃないだろが!」
「覚えておく」
反論する気も失せ、俺はコンクリの地面に腰を着いた。
いつしか風は冷たく、俺たちの頬を撫でていた。

暫く無言の時間が続く。
しかしあまり気まずくはなく、逆に清々しい気分にも感じた。
口火を切ったのはなんと男の方からだった。
「小僧。あの女に生前の事を問うたことがあるか?」
「え? まあ、あるにはあるが……誤魔化されたかな。お前はどうなんだ?」
問い返すと、男は俺に向き直り、俺は見上げる形になった。
「私も以前リサにそれを問われた」
「何て答えたんだ?」
すると男の目は鋭い物となり、俺は一種の恐怖を感じた。
「ただの国の駒。私は騎士に過ぎない。だが、誇りなら在る。
何せ、私はその誇りの為にこの戦いをしていると言っても過言ではないのだからな」
「じゃあ、お前が勝ったら、赤い石を手に入れたらどうするつもりなんだ……?」
「そんな物は王にでもくれてやろう」
俺は愕然とした。エミリーの場合も、真っ直ぐに愛を求めるというもので驚いたが、
こいつの場合は夢など無いのだ。こいつはただ、己の誇りの為に戦うというのだ。
人は、ここまで強くなれるものなのだろうか?
俺が言葉失っていると、追い討ちをかけるように男が問掛けてきた。
「小僧。あの女の事が知りたいか?」
「ニーナの事? お前はニーナの生前を知っているのか?」
「少しばかりはな。どうなのだ、貴様にはあの女の真実を知る責任が持てるのか訊いている」
それはちっぽけな俺には重たい言葉だった。
もし、ここで知りたいと答えれば、もう引き返すことは出来ないと思った。
でも、それでもここで逃げる訳にはいかない。ここで逃げては過去の繰り返しだ。
「知りたい。ニーナの事を。頼む、教えてくれ」
その時の男の顔は笑っているのかよく判らなかった。
「いいだろう。ならば教えてやろう、あの女の真実を」

464携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:13:31 ID:mC0h9s/I0
「まずは我々の世界について知る必要があるな」
無人の屋上に男の重く低い声が響く。
「我等の世界の大陸には様々な国があるが、その中で政治に長けた7国――――ハノブ、アウグスタ、
ブリッジヘッド、アリアン、シュトラセラト、ビガプール。
そしてその中でも最も有力な国がブルンネンシュティグだ。これらは7国同盟と呼ばれ、テレポーターによって行き来が可能になっている。
他にも独立しているスマグなどがあるがここでは触れないことにしておこう。……ここまでは判ったか?」
「ああ、何とか……」
俺の足りない想像力を総動員させ、何とか話についていく。
男が満足気に頷き、更に続けられる。
「ここで注目すべきは、ビガプールだ。あの女がビガプール人ということは知っていたか?」
「聞いたような気がするようなしないような……」
聞いたことがあるような単語だが、いつ聞いたかは思い出せない。
「まあいい。ここからが本題だ」
俺は息を飲む。これを聞いたらもう引き返すことはできない。
「あの女はその国の王だ」
「え?」
思わず口が疑問符を紡いでいた。
だが、驚くと同時に納得する自分も居た。
ニーナには、何か血にまみれた冒険者とは思えない気品さが感じられるからだ。
「王と言っても、形だけだ。当時は王女だったからな」
「どういうことだ?」
「先程政治に長けた国と言ったが、ビガプールは形だけで現在は崩れかけた貧困の国だ。あの女が冒険者になった理由もそこにある」
長い間を置き、男が続ける。
どうやらご丁寧にも俺の整理する時間を与えてくれているのだろう。
「ビガプールは激しい財政困難により、民衆から税を巻き上げる他なかった。
しかし、それが原因で国は民衆から激しい反発を買った。国を建て直す為に税を上げるが、民衆からは反発を買う。悪循環の完成だ」
「もしかして、ニーナが冒険者になった理由って……!」
鈍い俺でも何となくだが予想できた。それは恐らく……。
「そう。当時王女だった女は持ち前の弓の腕と、生まれつきの強力な魔力を武器に国を離れ、噂に聞くレッドストーンを探す旅に出た。
くだらなくて吐き気さえ感じるが、それしか方法は思い付かなかったのだろう。
それからは、国を奪おうとする他の同盟国と戦争になり、その過程で当時の王は死に、後継者も居ない為にあの女が形だけの王となった。
これが、ニーナ=オルポートの全てだ」
俺は、言葉が出なかった。
だが、男の言葉は追い込むように紡がれる。
「お前は、あの女の全てを受け止めるだけの責任を持てるか?」
俺は答えられなかった。
しかし、男は構わずに続ける。
「持てないのなら、そんな物辞めてしまえ」
男の言葉は俺の胸に深く突き刺さった。
俺は、勇気を出して聞いたことに後悔した。
それから、俺も、男も言葉を発することは無かった。
風は相変わらず冷たく、無情にも俺の体をすり抜けていった。


暫くすると、2人の影が俺たちの前に現れた。
「何してんのあんたたち。こんな所で」
「やっと見つけた〜! 探したんだからね、ショウタ」
それはリサという少女とニーナだった。
少女は両手に大量の袋を装備していた。
ニーナも服装が変わり、可愛らしい白いワンピースになっていた。
ニーナは嬉しさを表すように、くるくると回って見せ、俺に感想を求めるように目を向けてきた。
俺は作り笑いを浮かべるだけだった。
「ほら。あんたの分も買ったんだからこれ、持ちなさいよね」
向こうでは、少女と男がやりとりをしていた。
「どうしたのショウタ?」
そんな俺の様子を不審に思ったのか、ニーナが覗き込んでくる。
「いや、何でもないよ」
「そっか」
そう言ってニーナは笑顔を浮かべる。
しかし今の俺にはニーナの笑顔は無理矢理作っているように見えてしまい、笑顔を浮かべる度に俺の胸を締め付けた。

465携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:14:37 ID:mC0h9s/I0
あれから俺たちは少女たちと別れ、2人でいろいろな場所へ行った。
しかしどうも俺は楽しむことができなかった。

頭の中には男の言葉が繰り返され、他に何も考えることができなくなっていた。
俺はそのことをニーナに言うべきか迷ったが、迷った挙げ句逃げた。
とても今言える程俺には勇気が無かった。

ニーナの正体が、異国と言えど女王だと知り、僅かながらもニーナと会話することにも抵抗が生じた。
考えている内に、俺がこのままニーナと関わっていていいのか疑問を感じた。
果たして、何もかもが中途半端なこの俺に、彼女と関わり続けることができるのだろうか?
いや、今は大丈夫でもいつか耐えきれなくなる日が来るだろう。
何せ、俺は全ての責任から避けるため、様々な事から逃げて生きてきたのだから。
彼女の、我が身を犠牲にしてまで国に懸けるその果てしなく高い孤高とも呼べる理想に、俺は分かち合うことはできないだろう。


日が暮れて、町はすっかり夜になる。
店という店を回り切ったので、俺たちは帰宅することにした。
町から少し離れただけで灯りは頼りなくなり、電灯を頼りに歩く。
コンクリでできた急斜面。その頂上にそびえ立つ2つの影があった。
「待っていたぞ、小僧」
俺は素早く反応し、上を見上げ身構える。
そこには数時間前まで一緒にいた2人が居た。
「何故……?」
「敵は少ない方が良い。わざわざ見逃す程我々はお人好しではないのでな」
気づいたときには既に男は飛び出していた。
剣を抜き放ち、敵を斬らんと魔風の如く距離を詰める!
金属音。
男とほぼ同時に飛び出していたニーナが男の剣撃を槍で受け止めていた。
「ショウタ、引くわよ!」
「させん!」
槍を押し返した刃が、銀光を放ち夜の大気と共にニーナの左肩から右脇腹まで駆け抜けた。
「ニーナァァッ!!」

466携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:28:26 ID:mC0h9s/I0
こんばんわ。プロットを書いたノートを失くしてしまった携帯です。
公式の設定に忠実に逸れていますです。ハイ。

もしかしたら>>461は必要なかったかもしれません・・・。自分でもイタタで冴えないギャグなのは分かっています。
でも冴えるギャグを書く才能は自分には・・・・・・orz

他にも頭にあることを文章にすることにかなり悩まされました。
自分が考えていることを文章化するのはやはり難しいですね。
最近進みも早くみさなんの作品を読みきれていないので感想はそのときにしておきます。

>>407
感想ありがとうございます。
こういった感想を貰えるだけでかなりモチベーションが上がります。
モチベーションが下がったときに使わせてもらいます。

それと、まとめサイトの方もお疲れ様です。

467名無しさん:2007/03/22(木) 01:28:50 ID:Y4A7YiRIO
>>460
復讐の女神さんはの小説は前スレからの続きですよ
>>復讐の女神さん
前スレからずっと続きを待ちわびていました
これからも楽しく読ませていただきます

468名無しさん:2007/03/22(木) 02:27:36 ID:rG5eCNr20
1:ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html#960
2:ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1139745351.html#556
3:ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1139745351.html#900
4:ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1139745351.html#957
5:>>205-206


 こういう時って、できるだけ相手を刺激しないようにした方が良いのかしら?
 どうやって話しかけたら私の事を敵じゃないとわかってくれるだろう。
 どんな顔をしたら私への警戒を解いてくれるんだろう。
 困惑したような表情を浮かべている赤いヤツを見つめながら考える。
 少し考える。しばし考える。小一時間…考えている時間は無いわね。
 ダメね、やっぱり育ちが良くないせいかしら、何も思いつかないや。
 とりあえず何でも良いから話しかけておけば何とかなるかもしれない、という安易な考えを実行してみる。
「まぁまぁ、そんなに睨まないでよ。アンタが混乱してるのはよくわかってるから、とりあえず落ち着いて。
落ち着いて私の話を聞いて。私はね、別にアンタを捕まえに来たとかそういうのじゃなくって、えーっと、
なんでかわからないけどアンタの声が聞こえてきたと言うか、なんかそんなので寝不足でアンタを黙らせにここに来たというか、
あれ、いや、黙らせるじゃないわね、えっとただ眠れないから静かにして欲しくてその、む〜。」
 とても酷い状況だということは私自身よくわかっていますよ、はい。
 何を話すかちゃんと纏めていなかったせいだ、子供がその場を誤魔化すために必死に嘘を考えて喋っているような感じになってしまった。
 うわっ、恥ずかしっ! だんだん自分でも恥ずかしくなってきた…、頬が熱いし顔も赤くなってるかも…。
 いや、待った待った、そんな事考えてる場合じゃなかった。
 前をチラッと見ると赤いヤツがさっきよりも険しい表情で私を見てる。やばいやばい、どうしよう。
「いや、そのね、つまり私がアンタに言いたいのは、私は天界? とかいうところから来たんじゃないって事なのよ。
でね、あっとそのだから私とアンタが争う必要はっ、ってわわわわわ!」
 突然飛んできた火球をギリギリのところで避ける。大丈夫今回はどこも焦げてない、ってそうじゃない!
「ちょっと、何すんのよ! 危ないじゃない!」
 あまりに驚いたせいで違うところに意識が飛んでいきそうだったのを無理矢理引き戻し叫ぶ。
 本当に何考えてるんだろ、コイツは。人が喋ってるのにいきなり火の玉飛ばしてくるなんて。当たったらケガするじゃない。
「アンタね、人がせっかく誤解を解こうとしてるのにそういうことしないで、ってわひゃ!?」
 またも火球が飛んでくる。今回も私はギリギリのところで避ける。というかギリギリでしか避けられなかった。
 コノヤロウ…二回も火の玉撃ってくるなんて、しかも今回はかなり間抜けな声も出しちゃって恥ずかしいじゃないの…。
「あーはいはい、わかったわかったわよもう。そんなに私と話したくないならもういいわよ。」
 スリングを持つ手に力を込めてゆっくりと構える。
 私はついさっき考えていた事など、もうどうでも良くなってしまっていた。
 結局のところ私の怒りっぽい性格じゃ話し合いなんて出来るはずなかったんだ。
「もうアンタは話さなくていいわよ、私の話を聞いてるだけでいいわ。聞きたくないなんて言わないでよね、アンタは話し合いを拒否したんだもの。
私もいちいち火の玉避けながら話したくないからさ、だからアンタが私の話を聞くしかないような状態になってもらうからね。
少し痛い目みてもらうわよ、途中で気が変わったって遅いんだからね。アンタが悪いのよ!」
 持っていたスリングを大きく振り回し少し後ろに飛ぶ。
 赤いヤツとの距離は4〜5m位かしら、これだけ距離があれば大丈夫ね。
「アンタって本当にバカね、手加減はできないから頭に当たって死なないように気をつけなさい!」
 スリングから数発の鉄の弾丸が放たれる。私自身も何発くらい飛んでいったかよくわからない。飛んでいく方向もバラバラだ。
 ただ一つわかることは、飛んでいった弾丸は最終的に赤いヤツに当たるってことだけ。
 絶対に外れない、昔あんなに練習したんだもの。
「何処を狙っている、そんなの当たるわけないだろ…なっ!? ぐっ!」
 勢いよく赤いヤツが横に飛んで壁にぶつかる。
「ちぇっ、避けたか」

469名無しさん:2007/03/22(木) 02:28:29 ID:rG5eCNr20

 狭い洞窟の壁にぶつかって跳ね回る弾丸の軌道に気付くなんてビックリね。あっという間に終わると思ってたのに。
 でも一発避けたところで何の意味も無い。さっき避けた弾丸はまた壁に当たって跳ねながらアイツに向かって飛んでいくし、まだまだ沢山の弾丸が跳ね回っている。
 必死に逃げ回っているのを見ていると何か変な気分だ。私はこんなヤツに殺されかけていたのか。
「逃げるだけで精一杯なんて無様ね、さっきみたいに炎で私を攻撃してみたらどう? まぁ、今のアンタじゃたいした力出せないだろうけど」
 それを聞いて赤いヤツの足が止まる。
「お前、なんでそれを知って…ぐあっ!」
 3発(くらい?)の弾丸が赤いヤツに当たった。
 この状況で足を止めるなんて、何考えてるのかしら。バカね。
「お前何で俺が強い力を出せないと知っているんだ!」
 次は必死に弾丸を避けながら聞いてくる。
「お前お前ってうるさいわね、私はお前なんて名前じゃないわよ。私は…あ、やっぱりアンタみたいなヤツには教えてあげな〜い」
 スリングを振り回し弾丸を放ち続ける。よくこれを避けていられるもんねぇ。もしかして腕が鈍ったかしら?
「いいから答えろ! なんでそんなことをお前が知っているんだ!」
 ちょっと動揺しすぎなんじゃないの? その態度が私が言ったことが事実だって証明してるだけなのに。
「そんなの今までのアンタの行動見てたらわかるわよ。それに私はアンタが翼が生えた人間を殺したときのあの力を見たもの。」
 赤いヤツがやっぱり知っていたのかというような顔をする。
「お前…俺が天使を殺したところを見ていたのか?」
 やっぱりそうなるわよね。というか天使ってなんだろう? まぁ、いいや。後からゆっくり聞こう。
「別にその場にいて目撃したわけじゃないわよ、何度も言うけど私は天界とかいうところの人間じゃないんだから知ってるわけ無いでしょそんなの。
勝手に見えてきたの。勝・手・に!」
「勝手に見えてきた? そんなことあるわけが…」
「私にだってわからないわよそんなの! だいたい変な声といいさっきの映像といいアンタが意図的に私に見せてるんじゃないの? いい加減にしてよ迷惑だから!」
 迷惑だからやめて欲しい。ついに私は声を大にして言ってやったわ! 少しスッキリした。気分が良い。
「まぁ、いいわ話を戻しましょう。何で私が"アンタが力を出せないか"を知っているかだったっけ? あくまで予想でしかなかったんだけどね。
さっきのアンタの態度見てて間違いじゃなかったのかなって思ってるところよ。とりあえず必死に跳弾を避けながら私の考えでも聞いてなさい、話してあげるから」
 さっきから結構弾丸が当たってるはずなのになぁ、意外とタフね。まぁ、そのうち倒れるでしょ。
「アンタに首絞められた時にさ、アンタが天使?だっけ、その天使を殺すところが見えたわ。とても巨大な炎が天使に襲いかかって、そのまま天使は灰になってた。
アンタにはそれだけ強大な力があるのはわかったんだけどさ、でもアンタそんな力があるのに私にはそんな力使ってこなかった。
私を捕まえたときにあの力を使っちゃえば私を殺せたかもしれないのに。私がカエルだったときもそう。
自分で炎を出せるんだから肉を焼くくらいすぐ出来るはずじゃない? それなのにアンタはわざわざ焚き火をおこしたわ。
おかしいわよね、焚き火なんて。そんなのアンタに必要無いんじゃない?」
 私が考えていたことを話す。最初からこういう状況にしとけばゆっくり話せたのかな?
「そ、それはただそんなことに力を使う必要が無いと…」

470名無しさん:2007/03/22(木) 02:29:33 ID:rG5eCNr20

 赤いヤツが言い訳しているみたいだ。なんとなくそう言うとは思っていたけど。
「本当にそう思ってたのかしら? アンタさ、今あの天使を殺したときのような炎出せる? 無理でしょ? だって体がその力に耐えられないもんね」
 赤いヤツがギクッという音が聞こえてきそうな顔をした。なんてわかりやすいヤツ。
「この洞窟に来たときにね、私見ちゃったのよ、体から炎が吹きだして苦しんでいるアンタを。見た感じ誰かに襲われてたって様子じゃ無かったし。
あれはアンタ自身の炎よね? 自分の炎で苦しむなんて変だわ。これってその力に体が耐えられて無いってことよね、やっぱり。」
 結論に至るまでかなりショートカットしたような気もする。でも間違いない、私の考えは的中している。
 弾丸を必死に避けている赤いヤツの手のひらを見れば一目瞭然。
「アンタさっき私に向かって火の玉2回飛ばしてきたわよね、あの時左手で火の玉作って飛ばしたでしょ? 手のひら焦げてるわよ、気付いてた?」
 とっさに赤いヤツが開いていた手をグーにする。今さら隠しても遅いのに。
「あの火の玉あんまり大きくなかったわね。あの程度の炎を出しただけなのにもう体は耐えられなくなってるじゃない。
それにね、あの時はビックリしたしケガしたくなかったから避けたけど、あんな炎じゃ私は倒せないわよ。当たってもすぐ治るわねあの程度じゃ」
 あの娘が私を護ってくれるから大丈夫。あの時からずっと私を護ってくれている。
 この洞窟に来てから火傷したし髪も焦げた。でも全部元通り、傷は完治している。大丈夫、私は彼女を信じてる。
「私ね、今のアンタには全然負ける気がしないわ。だからさっさと倒れて楽になっちゃいなさいよ」
 流石に言い方が良くなかったかしら。赤いヤツが今までになく不機嫌そうな顔をしている。
「フンッ! 残念ながら全部外れだ。俺の体はそんなにヤワじゃない。全部お前の思いこみなんだよ。お前怖いんだろ? 俺に本気を出されるのが」
 まだそんな強がり言うかコイツは。
 こんな事言われたらいつもの私なら怒っているところだろうけど今回は…やっぱり腹が立ったわ。
「あーそう、そんなに言うならアンタの本気ってヤツを見せて見なさいよ!」
「言われなくてもそうしてやるさ!」
 赤いヤツは叫びその場に立ち止まった。当然飛び跳ねる弾丸が赤いヤツに襲いかかる。
 バシッ! ドゴッ! ベキッ!
 結構やばそうな音が何回も聞こえてくる。赤いヤツはそれでも耐えてその場に踏みとどまってる。
 なるほど、そうやって自分が全快の状況だってアピールしたいわけですかそうですか。
 でもどう見ても大丈夫そうじゃないんだけどねぇ。
 バゴッ! という音と共に最後の一発が命中する。あ、もしかして全弾命中? やっぱり私って凄い!
 関係ないところで喜んでいる私を睨みつけながら赤いヤツが口を開く。
「ハァ、ハァ…ど、どうだ、お前の攻撃なんて俺には通じないんだよ!」
 おーおー足にきてる足にきてる。そんなに息を切らして言われてもなぁって感じね。
「なに? アンタの本気って耐えるだけなの?」
 少しバカにしたような口調で言ってみる。
「ハッ、すぐにそんな減らず口叩けないようにしてやるさ!」
 その言葉の直後だった。
 目の前に巨大な炎。狭い洞窟の中じゃ避けられないくらいの大きさ。
「え!? ちょっと待っ! きゃっ!」
 ゴオオォォォォ! と炎が私に襲いかかる。
 とっさに腕を前でクロスさせてガードのポーズをとる。
 炎が洞窟内を凄いスピードで駆け抜ける。炎が通り過ぎた跡には何も残ってはいなかった。
 いや、残っていないはずだった。少なくとも赤いヤツは何も残らないと思っていたのねこの顔は。
 目の前には赤いヤツが信じられないという表情を浮かべている。
「私が灰になってなかったのがそんなに残念? でもね、そんな炎じゃ私は死なないわよ」
 体が若干焦げ臭いのが気になるけど、とりあえず大丈夫だった。やっぱり護られてる、熱かったけどさ。

471名無しさん:2007/03/22(木) 02:30:32 ID:rG5eCNr20

「そ、そんな…ただの人間相手に俺の炎が効かないなんて…」
 私がピンピンしてる事が余程ショックだったのか、赤いヤツは自分の手のひらを見てなんかブツブツ言ってる。
「今のがアンタの限界? ふふふ、残念ね本当に」
 反応がない。私の声が聞こえてないのかしら。
「う、嘘だろ…、このままじゃ天界に連れ戻される…また閉じこめられる! い、やだ…嫌だ嫌だ! ここで、ここで捕まるくらいならいっそ…」
 なんか嫌な予感がする。なんか赤いヤツが絶対にしちゃいけない覚悟をしたような気が…。
 怖いくらい真剣な目をしてこっちを見てるし、そういえばこの星に来てから嫌な予感は凄まじい的中率だったような。
「ハハハ、悪かったな。人間だと思ってナメてたよ。お前の望み通りにしてやるよ、ここからが俺の全力だ!」
 まさか…。いや、そんなはずは…だってそんなことしたら!
「ちょっと! アンタ本気なの!? そんなことしたらアンタの体も燃えて無くなるわよ!」
「うるさい! ここで捕まるくらいなら…あんな所に戻るくらいならこの方がマシだ! お前もあの天使みたいに死にたいんだろ? だったらそうしてやるよ!」
 どうしよう、追い詰めすぎた。まさかこんなことに…。
 全然予想してなかったわけじゃない。でも普通ならこんな行動に出ないと思ってた。普通じゃない、コイツは普通じゃなさすぎた。
「死ねぇ!」
 声を張り上げ、赤いヤツがさっきよりもさらに強大な、とても真っ赤な炎を放つ。
 やばいやばいやばい! さっきのは耐えられた。当たる前から大丈夫だと思ってた。
 でもこれはわからない。今までこんな炎に出くわした事なんて無かった。
 私が一番怖いと思っている状況になってしまった。
 初めて見る生物は怖くてしょうがなかった。だって凶暴なのかどうかわからないもの。
 初めて見る攻撃が怖かった。もし彼女の力でも手に負えないケガをしてしまうかもしれないから。そうなったら私は死んでしまう。
 彼女の力は私の傷を癒してくれる。でも防いではくれない。
 いけるかしら? 今からでも逃げるべき? どこに逃げるの? どこにも逃げる場所が無かった。ここは狭い洞窟だったんだ。
 結局最後はこうなるのね…、信じるしかないのね彼女を。
「あーもう! 信じてるからね! ちゃんと護ってよ!」
 炎にのまれる。さっきとは比べものにならないほどの灼熱。
 皮膚の焦げる臭い。嫌な臭いね。
 あ、もしかして服も燃えるんじゃないのこれ? でもさっきは大丈夫だったし…でもでも…、あー熱い熱い! 頑張れ私! 服も頑張れ!
 遠くから赤いヤツのうおおおぉぉぉぉ! って声が聞こえる。本当になんてバカなことしてくれてるのよ。
 熱い。本当にこのまま灰になっちゃうんじゃないかと不安になる。
「ぐわああぁぁぁぁああぁぁ!!」  
 その悲鳴と共に私の不安は払拭される。
 炎が徐々に弱くなっていく。ここが限界みたいね。とうとう赤いヤツの体が耐えられなくなったんだわ。
 炎の勢いが弱くなって、そして消えた。
「けほっ、けほっ」
 煙で前がよく見えない。息も苦しい、肺が灼けるように痛い。
 赤いヤツがどこにいるのかわからないじゃない、もしかして倒れてるとか?
 徐々に煙も薄くなり、前が見えてくる。そこには誰もいなかった。
「うそ…、もしかして灰になっちゃった? こうなるのだけは避けたかったのにぃ!」
「ああ、俺も灰にならなくて良かったよ本当に」
 後ろから声。間違いなく赤いヤツの声。
 いつの間にか後ろをとられていた。額から嫌な汗が流れる。
「うっそ…で…しょ? アンタいつの間に…」
 振り向くことが出来ない。逃げることも出来ない。体がまだ回復しきっていないから。
「お前の言うように俺はもう全力は出せないらしい。得意じゃないがここからは肉弾戦しかないみたいだ。とりあえず先手はとらせてもらう!」
 〒※●§☆!!???
 なんか凄い音がしたような気がする。周りの景色が流れる。私は宙に浮いていた。
 頭がグワングワンしてる、これって脳が揺れるってヤツよね。ひどく懐かしい感覚だわ。
 凄い勢いで壁に向かって飛んでいるはずなのに周りの景色はゆっくりと流れていく。そうだ気になっていたことがあったんだ。
 チラッっと確認する。
 ドッガァーン! ガラガラガラ!
 予想通り壁に頭から突っこんだ。痛い。崩れた岩も落ちてくる。痛い。
 痛かったけど私は安心していた。本当に良かった。
 服は無事だった。

472名無しさん:2007/03/22(木) 05:21:49 ID:WDt8ANrA0
>467さん、復讐の女神さん
> 前スレからの続き
それは大変失礼しましたorz
自分がここに来たのも前スレ最後あたりからだったもので、それより以前の話はチェック不足でした。
烈風撃の事と言い、ご指摘ありがとうございます。失言ばかり申し訳ないです。

>携帯物書き屋さん
RPGを語るショウタに突っ込むニーナという展開、面白いですよ(笑)
言われてみれば王道と言われるRPGはだいたい話の展開の相場が決まってますよね。六人居るのに四人しか出てないって事はD○かな?(笑)
もぐら叩きに熱中しつつ逃げる理由も分かっていないヘルが良いです。思わず笑ってしまった…w
楽しいショッピングの後にいきなりニーナが負傷してしまいましたね。続きお待ちしています。

>468さん
この姫さんの危険な場面に居つつの冷静さにほとほと脱帽です(笑)
こんな状況で相手の出方を伺い、言葉巧みに動揺させてしまうとは…。でもピンチには変わりないですね。
姫さん、助かってくれると良いのですが…続きお待ちしています。

473ドギーマン:2007/03/22(木) 14:15:57 ID:B3kEUPL20
『Devil』
>>231-234>>273-277>>294-297>>321-324>>336-339>>352-356>>367-371>>398-400>>441-443>>447-449

マイスはエムルの前で突然倒れたゲンズブールの姿を呆然と眺めていた。
何が起きたのか分からなかった。ただ、突然ゲンズブールが倒れたように見えた。
しかし痙攣しているその姿から、彼が危険な状態にあることは見て取れた。
そして彼をそうしたであろう張本人のエムルは突っ伏しているゲンズブールを冷たい眼差しで見下ろしていて、
痙攣し続けている彼の頭をブーツで踏みつけてその顔を横に向けた。
その姿は彼女の容姿にしっくりとくるのだが。それでも許されるべき行為ではなかった。
マイスは「やめろっ」と言った。
しかしエムルはマイスの言葉を聞き流して握りこんだ手の中から炎の鞭を伸ばした。
炎の鞭は蛇のようにしなり、意思を持っているかのようにゲンズブールの首に巻きついた。
そしてぐいっと一気にエムルが鞭を引き上げると同時に鞭は激しく燃え上がって彼の首から離れた。
一瞬で喉を焼き潰された彼の体が完全に意思を失うまでそう時間は掛からなかった。
エムルはゲンズブールの頭を踏んだまましばらくヒールの先で横向きの彼の顔を上下に揺らしていた。
その光景を見たマイスは、背中に走る悪寒に身を震わせた。
人の命を奪っておきながらエムルのその表情には笑みが浮かんでいた。
自身がした行為を全く悪びれる様子も無い残忍な笑み。それでいて、妖艶な美しさは保たれていた。
いやそれどころか、彼女の場合はその美しさがより引き立ったとも言えた。
そしてそんな場面を目の当たりにしながらマイスは全く動けなかった。
エムルのその美しい微笑に言い知れぬ恐怖を覚えていたから。
だが彼女のその笑みは直ぐに曇った。
「なにこれ、おかしいじゃない。死んでるのに何で魔力がこないのよ?」
マイスには彼女の言っていることが理解出来なかった。
エムルは紅い唇の隙間からぐっとかみ締めた白い歯を覗かせ、細い眉を吊り上げて怒りの表情を見せると
ブーツの裏をゲンズブールの頬に擦り付けるようにして踏みにじった。
熱を失っていく彼の顔は無様に歪んで、エムルのブーツの裏にこびり付いていた地面の泥に汚されていった。
そうしてようやくエムルはゲンズブールから足を離し、
髪を掻き揚げて頭を抑えたまま苛立ったような表情でマイスに向かって歩いてきた。
ぶつぶつと不満げに何かを呟いている。
その彼女の背後で、ゲンズブールは泥に塗れた横顔をマイスに見せながら、
だらしなく口を半開きのまま虚ろな瞳をスラムの冷たい壁に投げかけていた。

474ドギーマン:2007/03/22(木) 14:16:52 ID:B3kEUPL20
エムルは気がついたようにマイスの顔を見ると、先ほどまでの事は何も無かったかのように小走りに寄ってきた。
「大丈夫?顔が汚れてるわ」
そう言って地に膝を突いたままのマイスのそばにしゃがみ込んで彼の頬に手を添えると、
その薄いボンデージのどこから取り出したのか分からないハンカチでゲンズブールに踏まれて泥だらけの彼の顔を拭き始めた。
マイスはエムルに対して心の奥底から湧き上がる恐怖に必死に抵抗しようとしていた。
彼の顔を覗き込む彼女の瞳は先ほどの残忍さを微塵も感じさせず、まるで小さな小動物を愛でるような、そんな女の顔だった。
実際、いまのマイスは恐怖に怯える小動物のような眼をしていた。
恐怖を乗り越えると覚悟したばかりだと言うのに、足が、腕が、まるで何かに縛られているかのように動かない。
彼の眼にはいまエムルの赤い瞳だけが大きく見えていて、そこに自身の固まった顔が見えていた。
そしてようやくそれが感覚や幻で大きく見えていた訳ではないことに気づく。
エムルの顔はだんだんと近づいてきていて、彼の小さく震える吐息に甘い香りを混ぜていた。
頬を撫でる彼女の手は親指がマイスの唇に触れ、指先でゆっくりとそこを撫でた後に顎の下にまわった。
そこでようやくマイスははっとして「やめろ、近づくな」と言って立ち上がり、エムルから離れた。
「どうしたの?」
しゃがんだままのエムルは一瞬残念そうな表情を見せながらも、そんなマイスの様子を可笑しそうに笑っていた。
マイスは心臓が気味悪く大きく高鳴っているのにようやく気づいた。
先ほどから自身の体に対する感覚が怪しくなっていた。痛みが消えたからだけとは思えない。
「一体、君は何者なんだ・・・」
「何者って?言ったでしょ、あなたに助けられ」
「そんな事じゃない!」
エムルの口を大声で遮ったマイスの顔には嫌な汗が滲み出てきていた。
「人を殺したんだぞ?なんで、笑っていられるんだ・・」
マイスも素人ではない。命を奪いながら笑みを浮かべる人間は多くはないが見たことはある。
だが、それでも彼女の笑みはそれらとは全く異質なものだった。
大抵の者は、ゲンズブールのように戦いに快感を見出した異常者。もしくは死の光景に興奮を覚える変質者。
だがエムルのは異常者や変質者のような壊れた人間のそれではない。
小さな子供が無邪気に昆虫の足をもぎ取るように、全くそれが残酷なこととは理解していない笑顔に近い。
そしてマイスはいまのエムルと同じ笑みを見せた者に出会ったことがある。
かつてマイスを死の淵に追いやったその者は、人が現れる以前からこの世に在った。
太古の昔から生きてきた彼らの寿命に比べれば、人のそれは丁度人にとっての蚊の寿命と同じなのだという。
蚊を叩き殺すのに、躊躇する者などこの世に居るだろうか。
そう、マイスは覚えていた。そして何故これ程までに彼女に恐怖を覚えるのかを理解した。
エムルの笑み、それはまるで・・・
「・・悪魔」
マイスは微笑みを向けるエムルに呟くようにそう言った。

475ドギーマン:2007/03/22(木) 14:17:53 ID:B3kEUPL20
「そう呼ばれることもあるわ」
エムルの答えにマイスは身を強張らせた。
「人間じゃあ、なかったのか」
マイスのその言葉にエムルは驚いて慌てて否定した。
「待って。そう呼ばれることもあるってだけで、私はれっきとした人間よ」
マイスが言った悪魔とは当然、地下界の住人たちのことである。
とは言え、ゴブリンやリザードマンのような地上界にも居ついているほぼ獣と同等の低級な連中のことではない。
闇の眷族にして貴族。神に背き背徳を美とする者たち。
いくらエムルが自分は人間だと弁解したところでマイスにはやはり奴らと同じ存在に思えた。
マイスは手の中の大剣の柄をぐっと握って、その信頼できる確かな金属の感触に僅かな安心を求めた。
そんなマイスの様子に気づいていないのか、それとも気にしていないだけなのか、エムルは全く表情を変えなかった。
「もう、なにをそんな怖い顔してるの?」
「あ、もしかしてあいつを殺したのを怒ってるの?」
そう言いながらエムルは半身になって背後のゲンズブールを指差した。
「どの道あなただってあいつを殺すつもりだったんでしょう?それならいいじゃない」
マイスは小さく首を横に振った。
そんな事ではない。そんな事ではないんだ。
なんで、君は人間でありながら奴と同じ笑みを浮かべられるんだ?
「ねえ、それより契約の感想を聞かせて」
警戒を強めているマイスの表情に半ば呆れたように、エムルは話を変えた。
「・・おかげでまた戦えそうだよ」
「そう!」
エムルはマイスの言葉に満足げに胸の前で手を合わせて満面の笑みを見せた。
「だが、今すぐに契約を解除しろ」
「何でよ。今のあなたは無敵なのよ?誰にも負けない力を捨てるの?」
「そんなものはもう要らない。もっと大切なものに気づいたからね。それに俺には、リズや他の仲間達が必要なんだ」
エムルの表情が歪んだ。信じられないというように。
「分かったら、契約を解除するんだ」
「無理よ。そんな事したらあなたが死んじゃうもの」

476ドギーマン:2007/03/22(木) 15:38:37 ID:B3kEUPL20
あとがき
今度は悪魔スキルの魂の契約と契約破棄が元ネタです。
契約破棄は悪魔の闇ダメスキルの中では最大のダメージ量のスキルで、
魔の約定の効果を打ち消して大ダメージを与えます。
でも、魔の約定以外の契約スキルの効果は消えません。
魂の契約は魔の約定をかけた相手にだけ使えるスキルで、
相手の死後の魂に関する権利を譲り受けるという悪魔の契約っぽいスキルです。
かけた相手のFAをとった人がCP回復します。

契約破棄なんか、小説で書いたらこんな感じでしょうか・・・。
契約結んでおいて、解いたら殺されるとかかなり反則な気もしますが、
悪魔の契約なんだからこんな不条理、不合理は当たり前かなと。

477みやび:2007/03/22(木) 16:08:31 ID:y5ik7mpA0
 ◆関連作 『赤い絆』……>>424>>436
   [註釈]本作には上記に登場した人物が出てきますが、人物説明の
   記述を端折っていますので、まだの方は前作からどうぞ。
●――――――――――――――――――――――――――――――――――――
      『赤い絆(二)』  [1/7P]

 その年――グレートフォレスト一帯に久方ぶりの短い冬が訪れた。
 マリアはこの季節がいちばん好きだった。
 野蛮なエルフたちはすっかり姿を消し、物騒な生き物の多くが“なり”を潜めるから。
 いっさいの気配が消えた地上には雪のささやきだけが舞い降り、すべてを白一色に染め
あげる。
 その白銀の絨毯に道を刻むのが好きだった――女に産まれたというだけで月に支配され、
男たちにも虐げられる“さが”を背負った者が、征服し、しるしを刻むことが許された数少な
い聖域だ。もっとも“力”のある彼女がそうした侮蔑にさらされたことはないのだが、ほかの
多くの女性がそうでないことはたびたび目にしていたし、時代そのものが封建的なのは確
かだ。
 そのことがないにしても、ひとが何かに対して心を奪われるのに、ただ“美しい”という以
上のことが必要だとは思えなかった。
 つい嬉しくて遠回りしたい気持ちを押え、マリアは足を進めた。
 一時間ほど歩いたのち足をとめ、周囲を見渡す。
 情報が正しければ、おそらくこの辺りのはずだ。
 彼女は“巣”を張ることに決めた。
 ひとつの大樹に目をつけ、痕跡を残さないよう慎重によじ登り、山栗鼠みたいに器用な動
作で巣をこしらえると、そこに腰を落ちつけた。
 それから今しがた歩いて来た道筋を見つめた。
 やがて自分の足跡が雪で覆われてしまうと、ようやく安堵して息をつく。
 ポーチから永久ランプを取り出すと、真鍮製のフードを取り去り、むき出しになった発光体
を懐へと忍ばせた。
 やさしい熱が、胸元からほんのりと体に広がるのを感じながら、そのときを待った。

 マリアはアリアン傭兵ギルドきっての弓使いで、専門は狙撃手だった。
 彼女は今、本部の指令を受けてひとりの男を待っている。その男がターゲットだ。
 男がこの道を通ることはわかっているが、それがいつかは特定できていない。そして彼女
が男について知っているのは、年恰好と顔だけだ。
 狙撃手にとってそれ以上の情報は必要なく、また彼女が標的のことについてあれこれと
想像することもなかった。標的を待つこの時間をいかにやり過ごすか――それにより、真に
優秀なスナイパーとそうでない者が分かれるのだ。
 良い狙撃手の条件は動揺しないことだが、未熟な者はまずそこで脱落する。
 狙撃という任務のほとんどは待つことだ。標的が目の前に現れるまで、じっと耐え、ただ
ひたすらに、ときには何日も、何週間でも、息を殺して身を潜めていなくてはならない。
 そんなとき、心の脆い連中は余計なことを考える。想像力は人間だけに与えられた素晴
らしい能力だが、それが平常心を求められる状況においてはマイナスに作用する。
 本当に標的はやってくるのか――そいつはどんな人間なのか――陽気な性格か――私
生活では優れた人格者か――家族はいるのか――愛する者はいるのか、また愛されてい
るのか――。そんなことを考え始めたときには手遅れだ。いざ標的が姿を現しても、おそら
くは相手を射抜くことができないだろう。想像の中のターゲットに感情移入し過ぎたのだ。
 そして矢を射るタイミングを逸するか、相手に気取られて返り討ちに遭うかのどちらかだ。
 その点、マリアはこれまでにいちどたりとも、これから自分が殺す相手について考えたこ
とはない。だからこそ彼女は二十二の若さで最高の狙撃手と称えられるまでになったのだ。
 彼女はそのことを、母親に教わった。

478みやび:2007/03/22(木) 16:09:15 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [2/7P]

   “もしあなたが、本当に自分の身を守り、仲間の命を救いたいと
   思うなら、戦場にいるときだけは情を捨てなさい。それができな
   いなら、最初から武器なんて手にしないことよ……。
    もちろんあなたには、そんな世界に首を突っ込んでほしくはな
   いのだけれど……”

 そう言い、彼女の母親はよく泣いたものだ。
 かつては大陸中に名を馳せた傭兵あがりの母が、そんな話しをするときだけは人前で涙
を流すのだった。
 母の愛情はわかり過ぎるほど理解していたが、おてんばだった彼女にとって、傭兵か冒
険者になること以外、自分が自分らしい姿でいられる場所を思いつかなかった。
 結局、マリアは母親の反対を押しきるかたちで傭兵の世界に飛び込んだ。
 傭兵になってわずか二年――マリアはすでに弓使いの頂点にいた。
 今の自分を母がみたら、きっと悲しむにちがいない。マリアは思った。
 休暇のたびに同僚たちが帰省するなか、彼女がいちども家に戻らなかったのはそのこと
があったからだ。
 彼女は母のことを想った。
 ひっそりとした家で、今頃はきっとひとり分の昼食を作っているのだろう……。それともあ
たしのことを想ってくれているのだろうか。あるいは――こんな親不孝な娘は、とうに死んだ
ものと思っているのだろうか……。

   *

 自分のためだけに作った味気ないスープをかき混ぜながら、エレノアはぼんやりと窓の外
を見つめていた。
 とくに何を見ているというわけもなく、ただとりとめもなく、娘のことを考えていた。
 それが彼女の日課になっていた。風に運ばれた小石や木屑が戸口にあたるたびに、息を
飲んで振り返る毎日。もしかしたら今日こそは、あの子の訃報を知らせる便りが届くのでは
ないか――そんな不安に脅える日々。
 ふと、スープが煮立っているのに気付いてあわてて火をとめる。
 ため息をつき、ひとり分の小皿をテーブルに運び、黙って自分の席についた。
 スプーンで皿の中をこね回し、口にするでもなく娘の席に目をやる。
 そしてまたため息……。
「どうしたね。お前さんらしくもないな」
 視線をやると、そこに老人が座っていた。
 しばし沈黙したが、エレノアは当たり前のようにつぶやいた。
「まあ、どうしましょう……わたしはとうとう気がふれてしまったのかしら」
 老人は笑った。
「あんたが狂ったりするものかね。絶対だ。賭けてもいいな」
「でも、あなたはもう――」
「ふむ……。たしかにわしはこの世のものじゃないが、それがどうしたというんだね? べつ
にあんたを迎えにきたわけじゃないさ」
 今度はエレノアが微笑んだ。
「そうね……」

479みやび:2007/03/22(木) 16:09:59 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [3/7P]

 ところで――と老人。
「なんて顔をしているんだ? あんたにそんな顔は似合わんよ」
 エレノアはうつむき、寂しげに目をふせた。
「ふん。あの子のことだな。そうなんだろう?」
「わたしは――」母は言葉を詰まらせた。
 老人は優しく言った。
「あの子を血生臭い世界に送り込んだのは自分だ。あんたはそう思っている。ちがうか?」
「マリアを引きとめることができなかったんだもの……。同じことだわ」
 老人はやれやれ、とかぶりを振った。
「いったいどうしてしまったんだ? あんたほどの女が――いいかい、あの子には素養があっ
たのさ。それだけのことだ――もしかしたらあの子の本当の親は冒険者か、軍人だったの
かもしれんな……。だがそれだけさ。おしめを替えてミルクを与えたのはわしだし、そのあと
を引き継いであの子を育ててきたのはあんただ。なあに、育て親の愛情は血よりも濃いん
だ。後天的な人格を指す場合はね……。あの子が“冒険好き”なのは持って産まれた資質
だが、それ以外はすべて後天的な環境に依存するんだ。お前さん、あの子に『草花を理由
もなく踏み潰すこと』なんて教育したのかね?」
 母親は首を振った。
「じゃあ、『汝、隣人を憎め』とでも?」
 いいえ、とエレノア。
「あるいは『困った人を助けるのは割に合わない』は?」
 母は否定した。
「ふん。だったら不備はないさ」老人は鼻を鳴らした。
「でも――わたしはあの子に、普通の女の子になってほしかった。それなのに……戦場で
の生き方を教えてしまったわ」
 老人は目を丸くして両手を広げた。
「当然だ! でなきゃあの子はとっくに“こっち側”に来てるはずさ。どんなに望まなくてもそ
れが不可避であるなら、いったいどこの世界に、自分の子に『戦場で敵に出遭ったら真っ先
に武器を捨てること』なんて教え込む親がいるんだね!? それこそ神への冒涜だ」
「けれど……わたしはとめられなかった」
「しっかりしてくれよ。お前さんはまだ若いんだ」
「そんなことはないわ……もう四十過ぎのおばあちゃんよ……」
 老人は椅子から立ちあがった。
「このわしをからかうつもりかね? それともこの家には鏡ってものがないのかい? あんた
は充分に若いし、それに魅力的だよ――わしがあと十年若くて、こんな体でなけりゃ、あん
たにあの子の弟か、それとも妹でも産ませてるところさ」
「まあ、からかってるのはどっちかしら?」
 母親は少女のように笑った。
「そうそう。その顔だ。あんたにはまだ元気でいてもらわんとな……。あの子にはまだ母親
の愛情が必要なんだ。それにいざってときには、あの子を守ってやれるのはあんたしかお
らんのだからな」
「そうね……もしあの子が、ここへ戻ってくるようなことがあればね」
 エレノアは肩を落とし、うなだれた。
「今にわかるさ……」
「どういうこと? あの子が帰ってくるというの?」
 顔をあげると、老人の姿はどこにもなかった。
 エレノアは席を立ち、いちどだけ老人の名を呼ぶと、首を振り、微笑して腰を降ろした。
 それからゆっくりと、スープを口に運んだ。

480みやび:2007/03/22(木) 16:10:39 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [4/7P]

   *

 雪がやむ気配はなかった。
 だが視界の妨げになるほどではなく、むしろマリアにとっては心を癒してくれる束の間の
ショーだった。
 それでも時間がたつにつれ、指先の熱が少しずつ奪われてゆくのを感じた。
 彼女は片方の手袋を外し、ポケットからニレイの根を取り出してひと口噛んだ。
 しばらく待つと、胃の中で分解されたニレイの成分が作用し、体全体が火照り始めた。
 それから手袋を嵌め、愛用の弓を手にした。
 その弓はマリアが自分のためにあつらえた特別なものだった。
 一般的な弓の長さは最大でも二メートル強といったところだが、彼女の弓は三メートル近
くもある大弓だった。そのため彼女は弓を斜めに構えるスタイルをとっていた。
 もちろん、弓は長いほうが張力も増すが、二メートルを越す長身の男でも、おそらくそれだ
けの大弓を使いこなすのは難しいだろう。だがマリアは平均的な女性の身長と腕力で、そ
の大弓を難なく扱うことができた。あまりに巨大な弓と彼女との対比には、見る者を圧倒す
るものがあった。
 そして彼女が大弓を使うのは、威力だけが理由ではない。弓の長さに比例して矢の軌道
が安定するからだ。
 普通、弓兵の第一射は静的な構えから矢を放つことが多く、そのあとの連射においても
大抵は前衛に守られ、後方からの射撃が主なスタイルだ。
 しかし狙撃手ともなれば、身を隠す場所、現場の地形、そして標的とどんな状況で遭遇す
るか――それによって瞬時に体勢を変え、あらるゆ構えから矢を放たなくてはならないのだ。
 隠れる場所によっては取りまわしが楽な小型の弓を使う狙撃手もいるが、標的を外す確
率は増し、最悪の場合は命中しても致命傷を与えられないことがある。
 だが彼女の大弓であれば、標的が射程内にいる限り、たとえ相手がミスリルの鎧を身に
まとっていたとしても、確実に心の蔵を射抜くことが可能だった。
 マリアは弓をしならせ、弦の張りを確かめた。
 弓と彼女の体がほぐれてきた頃、遠くに黒い点が現れた。
 ひとだ――!
 マリアはゆっくりと矢を番え、点が近付くのを待った。
 点はやがてひとのかたちを作り、歩いている様が見えるまでになる。
 まだ弓は引かない。相手の顔が確認できるまで待つ。
 今の彼女に聞こえるのは自分の鼓動だけだ。神経を集中させ、息を乱さず、視線だけが
標的の顔をとらえるためにフル稼動した。
 そうして、男の顔がぼんやりと浮びあがる。
 まちがいない――標的だ。
 マリアは音もなく、まるで真綿を撫でるような軽い動作で、長い弓を引いた。
 彼女の体のあらゆる部位が、訓練と実戦とで染みついた的確な動作を独立して行い、標
的の胸を確実にとらえる。気温による弓と弦の張力変化――矢の重量――風向き。その全
てが瞬時に計算され、さらに自分とターゲットの距離が変化するたびに、彼女に備わった天
性の勘がそれらすべてを補正する。
 静寂のなか、男が最適な距離に入った瞬間、矢が放たれた。
 だが――
 男の体に触れる直前、矢は勢い良く弾かれた。

 《思念球》だ――!!

 マリアは自分のミスに気付いた。

481みやび:2007/03/22(木) 16:11:28 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [5/7P]

 《思念球》というのは、スマグの魔法師たちが生み出したある種の護符だった。とくべつな
鉱石に簡単な呪文が折り込まれていて、魔法を使うことの出来ない者たちが、武器や道具
の代用として身に着けていることがある。
 それと気付いた瞬間には、マリアは木から飛び降りていた。
 音もなく、静かに、次の矢を番え、標的に向かって疾走した。
「えっ……!?」
 男は何が起こったのかさえわかっていなかった。するどい音とともに自分の胸元で閃光が
弾けた。それが《思念球》の働きによるものだなどと、想像さえできなかった。
 そして彼が気配を察知したときには、目の前に女が立っていたのだ。巨大な弓を自分に向
けて――。

「ま――待てッ!!」
 男はその場に尻をついて転んだ。
「やめろ! 誰に頼まれた!」
 マリアに答えてやるつもりはなかった。そんなことをしていては、彼女はこれまで生き延び
ていなかっただろう。
 が、男の懐から転がり出たものを見て、彼女の思考がとまった――。
 小さな玩具だった。奇しくもそれは、マリアに見覚えのあるものだった。


「わあ、ありがとう。マミー……!」
 それは今までに見た事もないくらい、色鮮やかに着色された笛だった。しかも笛には鳥の
飾りがついていた。
 その見事なまでの可愛らしさに、あたしは目を奪われた。
「ロマのひとたちが作っているのよ」
「ロマ……?」
「そう。わたしたち普通の人間が失ってしまった、動物や精霊と心を交わす能力を今でも持
ち続けている、不思議な種族よ」
「ふうん……」
「さあ。吹いてごらん」
 あたしは力まかせに吹いたが、笛から飛び出したのは空気の漏れる音だけだった。
「……ん、音……出ないよ?」
「貸してごらん」
 母が息を吹き込むと、笛はとても不思議な――けれどもとても優しい音色を奏でるのだっ
た。
 それと同時に、ただの飾りだと思っていた鳥が、音の変化に合わせて羽ばたいた。
「ずるい、ずるい! あたしのよマミー! あたしが吹くの!」
 あたしはべそをかき、足踏みをして手を伸ばした。
「はいはい……」
 笛を手渡しながらそう言うと、母は目を細めてあたしを見つめた――。


「そうか――わかったぞ! あんた、傭兵だな。傭兵ギルドの差し金なんだな!」
 不覚にも、マリアは思い出に心をとられ、番えていた手をゆるめてしまった。
「私は――死んでも手を引くつもりはないぞ! 悪魔に魂を売り渡すつもりはない……!」
 その言葉に、マリアはようやく正気を取り戻した。
「……どういう意味?」

482みやび:2007/03/22(木) 16:12:13 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [6/7P]

 もちろん、彼女が標的と口をきくのは初めてのことだった。
「ふん。今更どぼけるのか……。あんたら傭兵が古都の襲撃を計画しているのは判ってる、
証拠もあるんだ! それを古都の評議会に報告しようとしているのを知って、この私の命を
奪いにきたんだろう――」

 なんですって!?

「人間の皮を被った獣め! よりにもよってシーフどもと手を組むなんて……それもレッド・ス
トーンとかいう、存在すら疑わしいもののために――あんたたちは何の罪もない市民を――
女や子供たちを皆殺しにしようというのか!」

 この男はいったい、何を言っているの……?

 マリアは混乱した。
 と――雪に半分埋もれた玩具の笛に気付くと、男は急いでそれを手に取り、大事そうに
胸に抱えた。
「た、頼む――私はどうなってもいい。娘だけは……あの子だけは見逃してくれっ!!」

 嘘だ。逃げるための口実だ。騙されるな――!

 マリアは自分に言い聞かせ、再び弓に矢を構えた。
 男はなんども繰り返し、懇願した。玩具の笛をわが子のように抱きしめながら。

 この――黙れ。黙れ……!

 マリアは矢を放った。
「うわ――!」男は叫び、長いことその場で固まったあと、ゆっくりと目を開いた。
「なんだ……これは――」
 マリアが放った矢は男の顔を避け、地面に突き刺さっていた。
「おい、あんた……」
 男は上体を起こすと、尻をついたままあとずさった。
「もしかして……見逃してくれるのか――!?」
 マリアは答えない。
 そして男が恐る恐る立ちあがるあいだも、弓を構えることはなかった。
「本当にいいんだな? 見逃して……くれるんだな……?」
 男はそう言いつつも、なんども後ろを振りかえり、振りかえり、雪景色のなかに消えて行っ
た。

483みやび:2007/03/22(木) 16:13:08 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [7/7P]

 傭兵として初めて獲物を取り逃がした弓使いは、白い世界に取り残された。
 あの男の話しが真実かどうかはわからない。ただ、傭兵ギルドがマリアを見逃さないこと
だけはたしかだ。
 連中は地の果てまでも彼女を追うだろう。決してあわてず、急がず、彼女を仕留めるまで。
 自分の居場所を自ら捨ててしまったことを、マリアは悟った。
 そうしてうなだれ、空虚な心を連れ立ち、ゆっくりと歩き始めた。
 やがておもむろに足をとめた。
 彼女はまだ自分に、帰る場所が残されていることを思い出したのだ。
 天を見上げると、雪がやんだ。

 そうだ。帰ったらママにうんと甘えよう……。

 マリアは白銀の世界を歩いた。
 真っ白い絨毯のうえに、彼女の足跡がいつまでも残った。






●――――――――――――――――――――――――― Fin ――――――――

484みやび:2007/03/22(木) 16:13:55 ID:y5ik7mpA0
●――――――――――――――――――――――――――――――――――――
      『赤い絆(二)』

 ――あとがき――
 ※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。

 えーと。紛らわしくてごめんなさい……。
 前作の『赤い絆』は、もちろん読切のつもりで書上げたのですが。今回、同じ登場人物を
出すにあたり、紙面の都合で(嘘です)人物の紹介を端折ってしまったので、急きょ、連作
の形式に変更してタイトル末尾に(二)をつけての掲載と相成りました。
 ま。それはいいとして。(開き直ってますが)
 なにを隠そう前回を書いたとき、実は登場人物たちに『もっと出番を増やせ』と脅迫されて
しまいまして……。(いや、ぶっちゃけここだけの話し、いわゆる『キャラに愛着が沸いた』と
いう小説書きの“仕様”です。べつに気が狂ったわけではないですよ、ええ)
 そんな訳で、今後も本作の人物は登場すると思われます。
 しかしまあ……やはりというべきか、地味です(汗)
 予定としては、こんな感じで地味なエピソードを紹介しつつ、背後で微妙にRSストーリー
が進みます。どちらかと言えば地味なエピソードのほうがメインな気も……。うは。

 ほかの方の作品はのちほど読みにうかがいますね。

485名無しさん:2007/03/22(木) 21:59:59 ID:XQDUDiP60
>ドギーマンさん
エムル怖いなぁ…いわゆる「悪魔」なんだからこその行動なんだろうけど、とても無慈悲ですね。
悪魔スキルの説明までありがとうございます(笑) 私もRSwikiも見てスキルについて多少分かったような気がします。
マイスもこのまま契約解除したら契約破棄の効果でただならぬ事になってしまいそうですね。
契約を解除する方法が他にあるのでしょうか。何とか助かって欲しいですが…。続きお待ちしてます。

>みやびさん
前回のエレノアの話を読ませてもらった者としては嬉しい登場人物たちの内容でしたよ(笑)
マリアとエレノアのその後という感じで続編としてスムーズに読めました。
特にミゲル老が幽霊(?)の姿になってまでエレノアを励ましに来てくれたというのが良かったです。前回、死に別れてしまいましたしね。
また永久ランプとか思念球とか面白いアイテムが登場してますね(笑) 実際のRSにもこういうの欲しい…。

486名無しさん:2007/03/23(金) 10:00:28 ID:lWtbAJi.0
まとめのWiki作成者さんへ

21R氏のまとめサイト投下しますので参考にしてみてください
ttp://bokunatu.fc2web.com/trianglelife/sotn/main.html

487姫々:2007/03/23(金) 16:58:14 ID:Cc.1o8yw0
一週間ぶりくらいですね。アリアン編完結を目指したら締めに苦労して
大分時間がたっちゃいました。それにリアルのほうで色々あって忙しく…
まあそんな前置きは置いといて、アリアン編最終章です。>>415-419より続きます。

「く・・・、やはり死霊共の巣窟と化していますね・・・」
警備傭兵の墓に降りてすぐ、私達は、動き剣を持つ骸骨達に囲まれてしまった。
その数は目視できるだけで50体は軽く越えている。
「ゴーレムの類でしょうか。1匹1匹は大した事無いでしょうが、あまりに多すぎますね…
 無傷で突破するのは難しそうです。」
「リリィ、どうするの?」
「そうですね…、一匹ずつ倒していくしかないでしょう。アースヒールがあれば
 即死で無い限り大抵の傷は治せますし。」
この狭い空間では、メテオシャワーで一掃…という訳には行かない。3人全員を巻き込む
恐れがあるし、なにより地下に出来ているこの墓の天井が崩れる可能性があるのだ。
「それでいいですか?セ…ラ…?」
リリィが言葉に詰まる。その声で私も振り向くと、ウィンディに手をかざすセラの姿があった。
「―――――φη」
セラの呪文により、ウィンディが巨大な鳥に姿を変える、しかしまだセラはウィンディに手を
かざし、何かを呟き続けている。
「―――――――дφη…」
そこでセラが詠唱を止める、その瞬間鳥型の召喚獣、ウィンディはさらに姿を変え、
鳥とはまったく別物の、人型に近いものへと姿を変えるのであった。
「セラ…、これは…?」
リリィが警戒しつつ、尋ねる。と、セラが背中を向けたまま言う。
『先へ進め人間―。ここはワタシが引き受けよう。』
「な…、セラ…?」
と、声はセラのまま、口調は明らかに別人となっているセラが答える。そしてセラの後ろには
人型に姿を変えたウィンディが腕を組みつつ浮遊している。
『そうか、君達とちゃんと話のは初めてか…。ゆっくり話したいのは山々だが今は先へ行ってくれ。
 この子の魔力にも限りがある、いくらそれが膨大でも私達がこの姿になると長くは持たないのだ』
セラなんだけどセラじゃない…。そしてこの発言から考えるといま喋ってるのは…
「ウィンディ…なんですね?」
『そうだ、一時的に「この子」と完全に同調する事でこの世界に発現する魔力を確保しているのだ。
 ワタシが道を開けよう、そこを走りぬけるんだ。』
そういった直後、セラの後ろにいるウィンディが手をかざすと、ウィンディを中心に、
風が渦を巻き始める、そして、その「風」は目視できるようにまでなっていく。
それは巨大な魔力の収束―、私達はウィンディの加護により、なんとも無いが、
「風」に触れた骸骨は切り刻まれ、ばらばらになっていく。抗う者も当然いるが、抗うのが精一杯
のようで、私達に向かってくるものは唯一体として存在しない。
「ここはセラに任せて行きましょう、ルゥ様」
「うん、分かった…、頑張ってねセラ、ウィンディ。」
私達はこの場をセラ達に任せ、骸骨の合間を走り抜けるのだった。
・・・
・・・
・・・

488姫々:2007/03/23(金) 16:59:27 ID:Cc.1o8yw0
『予想より残ったな……、残念だ。ここまで多いとこの姿で無いと骨が折れる。』
本当はこの少女も一緒に行かせてやりたかったが、離れると魔力の供給ラインが
細くなってしまう。そしてこの姿を保つのは、この距離が限界なのだった。
『お前達も何故二度も死ぬ必要がある…、やはり人間界というのは無粋な所だな…』
それは目の前に未だ大量に存在する、骨人像達への言葉―。
『分かっているよ、あれは人じゃない。魔力を注がれている操り人形に過ぎん、ただの
 ゴーレムさ』
それは、自分に身体を預けてくれている少女への言葉―。
そして、カラカラと骨を鳴らしながら、近づいてくる1体の骸骨を風の魔力を帯びた
拳で、粉砕する。
『言葉が通じる連中でもないか、ならば早々に終わらせよう。』
その言葉を言い終わえと、ウィンディの右腕に膨大な魔力が収束を始める。

―この時、感情を持たないはずの骸骨達は僅かな危機感を抱いていた、
何故だ、こいつも今までの奴らと同じのはず、ならば一斉に掛かれば一瞬で殺せるはず、
現にそうして仲間を増やしてきた…、なのに―
【逆にこっちが殺される】
と、そんな直感じみたもの。無理も無い、自分達が元人間だろうが何だろうが、相手は
台風なのだ。自分達が何万、何十万…はたまた何億といようが、抗いようの無い自然の驚異。
しかし、結局は感情が無いのだから、直感で何を感じようが取る行動パターンは一つしか
ない。目の前の標的に一斉に切りかかるのみなのだ。
しかし、直感とはやはり素晴らしいもので、一斉に切りかかりに掛かる相手はウィンディではなく
セラ。魔力を集中しているウィンディは、対処しきれない。そして数十の刃がセラを襲った。

「………………???」
しかし、確実に切ったはずなのに、手ごたえは全く無く、刃はその少女の身をすり抜けてしまった。
『無駄だ、この子の身体はワタシの加護の下、今は精霊界にある。ワタシがいる限り、かすり傷一つ
 負わないさ』
その言葉を聞いても、何も感情の無い骸骨達は、絶対に切れない幻影を切り続ける。
『何も聞こえないだろうが、最後だ。聞け、怨霊共』
臨界点まで達した魔力を、押し留めつつ言う。
『再び地に落ちるような事はあってはならぬぞ―』
その言葉と同時、巨大な魔力と共に圧縮した空気を、目の前の哀れな骨人達に叩き込むのであった。
・・・
・・・
・・・
「今の音は?」
「さあ…なんだろ…」
さっき来た道で、何か轟音が響いた。
気になったが、今私達は目の前の物体のせいで足を動かす事ができない。
≪君達は魂か、はたまた肉体か…。このような所まで何をしにきたのだ?≫
喋りかけてきたそれは異形…、3メートルはあろうかという巨大な浮遊する骸骨のような物なのだ…。
しかし、デマを流している存在がいるとしたらこれしかないだろう。
「あなたがアリアンでデマを流しているのですか?」
リリィが尋ねると、異形は真っ直ぐこちらに目を向けたまま、静かに答える。
≪デマ?ここに来た者が首だけ木に吊るされるという噂話の事かい?≫
「知ってるという事は…、やはりあなたが…」
≪まて、私はこの通りしがないダークリッチにすぎない。それに私とて魂の集合体なのだ、
 ここに寄り集まってくる死者の魂からその程度のことは聞き出せるさ。≫
見た目は怖いが案外礼儀正しいこの存在は、どうも自分が犯人ではないと言うらしい。
「なら、誰がそのような噂を?」
≪・・・・・・≫
なんだろう…、この間は…、
≪ここからは私の独り言だ。いいかい?≫
それにウィンディもあの姿を保つのに魔力をかなり消費ような事を言っていた。

489姫々:2007/03/23(金) 17:02:34 ID:Cc.1o8yw0
「ええ、私達はたまたまここにいるだけで、たまたま独り言を聞いた人達です。」
・・・?なんだろう、このやり取りは…。そんなに人に話してはいけないことなのだろうか。
≪半年前、リンケンとアリアンで紛争が起こった、私はリンケン側のウィザードだったのだが、
 あえなく戦死してしまったのだ≫
そこで言葉を切り、再び言葉を紡ぐ。
≪しかし、戦いが終わった直後、懐かしさに負けてアリアンの近くまで行ったのさ。そこで
 見た物は首だけとなっていたが、共に戦った私の仲間だった。≫
「な…………、そんな…。」
??リリィが言葉に詰まっているが、私には話がよく分からない。そんな事は無視して、
目の前のダークリッチは話を続ける。
≪あれは誤解から起きた紛争、もちろん戦死した兵士の中にも、家庭を持っていた者
 もいたわけだ…。もちろんその家庭には、今後の生活費などを保障しなければならない。
 家族を奪った方の街がだ。しかし、人ではなく魔物に殺されたとなれば―≫
そこで再び話を切る。まるで私たちの反応を見るかのように。
≪デマの大本か…、今の話で分かるだろう。誰が流したかは私からは言わないが。
 私の話は短いがここまでさ。そして、そこに隠れている者、出てきなさい。≫
その言葉で、私たちは後ろを振り返る。
「チッ…ばれてたか…。俺の偵察術も落ちたもんだな…」
≪いや、私が気づいたんじゃないよ。ここにいる魂が教えてくれたのさ≫
そこいたのは傭兵、ロイだった。そしてその背中に負ぶさっているのは…
「セラッ!?」
「ん?ああ、入り口で寝てたからな、つれて来た。あんなとこで寝てちゃ危ないだろ?」
そう言い、私たちにセラの身を預けてくる。見た感じ怪我は無い。それどころか気持ちよさそうに
スウスウと寝息を立てている。
「魔力切れでしょうか…、召喚獣も皆消滅していますし…。」
あの数を一人で引き受けてくれたんだ、そりゃ身体への負担も少なくは無いだろう。
それにウィンディもあの姿を保つのに魔力をかなり消費ような事を言っていた。
「で、本題だ。今の話は本当か?」
≪嘘を言ってどうするのだね?あんな噂など流しても、私には何の得も無いのだよ?≫
ダークリッチがそう答える。確かにこのダークリッチは嘘はついていないだろう。
それは雰囲気で分かる。
「そこじゃねえよ。砂漠の霊魂がここに集まるって話さ。」
あれ?何を聞き出すんだろうか…?私もてっきり噂話の方を聞きだすのかと思っていた
んだけど…。
≪ん?ああ、間違いない。大抵の霊魂はここを通り過ぎていくよ。特にアリアンや
 リンケンの傭兵達のはね。≫
ふむ?と何かを考えるようなそぶりをしつつ、ダークリッチが伝える
「そいつらの死んだ場所とかはわからねえか?」
≪分かるぞ。その位ならばな≫
「なら教えてくれ、お前が死んだ抗争で、アリアンの傭兵の女がひとり死んでると思う、
 何処で死んだか教えてくれ」
女…?と、そこでふと左手の指にはめられた指輪に気づく。そういえば、この人の
奥さんって亡くなったって聞いたんだっけ…。死んだ場所を聞くってことは…、
まぁここから先は考えないようにしよう。
≪ふむ…女…。覚えが無いな…。アリアン側といえば最前線以外死者は出ていないだろう…?
 最前線に出る女は珍しいからそんな霊魂、見れば忘れるはずが無いんだが…≫
「な…に…?つまり…?」
その表情は驚愕?狂喜?よく分からないが間違いなく暗い表情ではなかった。
≪生きてるな。しかしその様子だと行方不明なのだろう?≫
「ああ、まあな。」
ダークリッチの言葉で現実に引き戻されたのだろう、ロイの表情は再び元に戻る。
≪なら赤い悪魔に魅入られたのかもしれないな。当ては無いか?≫
「・・・・・・・・・」
ロイは眉間にしわを寄せ、何かを考えている。
「無いな…、残念ながら…。」
≪ならば私に少し心当たりがある、頭に入れてやるから少し近寄りなさい。≫
ロイを手招きしつつ言う。そしてロイが近づいていくと、ロイの額に人差し指をあてて、
何かの詠唱を始める。
「ここは…ビッグアイか…?」
≪知っているのか。そこに悪魔が巣食っているという噂を少し前に聞いたのでな。≫
「ああ、俺も聞いた事がある、そうか…あそこか…。」
≪うむ、まあいるかは分からないが、当てが無いなら言ってみなさい」
「ああ、分かった。つーかお前見かけによらずいい奴だな」
≪ふむ…、大抵の人間はこの姿をみると逃げていく。そう言われるのは初めてだ≫
そして二人、ハッハッハと笑いあう。…気があってる?不思議な人だ。

490姫々:2007/03/23(金) 17:04:14 ID:Cc.1o8yw0
「でだ、後の話も本当か?」
今度は険しい顔つき、鋭い目つきで尋ねる。
≪…本当だ。この言葉に偽りは無い。≫
そのダークリッチの口調さっき以上に真面目だった。
「ちっ…グレイツの野郎…」
その表情にはさらに怒りの表情を帯びていく。それをリリィが制止した。
「怒りは分かりますが今は押さえてください、今はまず帰りましょう。」
≪ならば私が送ってやろう。その位の魔力はある≫
そうダークリッチが言うと、再び魔法の詠唱を始める。
「ありがとう、感謝します。」
リリィが言うのとほぼ同時、私たちの足元に魔方陣が現れ、まばたきして目を開けると
そこはアリアンの街の中だった。
最後、ダークリッチは私達にこう言った…≪真実に驚くべきと感じたら、それをありの
ままに伝えるのだ≫と。
「詰め所に行きましょう。私たちは真実を知っています」
「うん、リリィ」
そして背中にセラを背負うロイと共に、私たちは傭兵ギルドの詰め所へと向かうのだった。

・・・

「グレイツさん、任務。ただ今終わりました」
来る途中、気絶しているセラは宿屋に寝かせておいた。
「帰ってきたのか…。ふむ、ご苦労だった。それでちゃんと全員に伝えたのだろうな?」
怪訝な顔でそう言われる。やはり相当嫌われているらしい。
「ええ、そこで言われたとおり警備兵墓にも行きましたがそこで気になる事を言う人が
 いましてね。」
「な…っ!!奴に会ったのか!!」
「ええ、とても紳士的な方でしたよ。あなた方も一度行ったようですがあの姿を見て逃げ帰った
 そうですね?」
そうリリィの頬は一筋の汗が伝っている、かなり緊迫しているようだ。
「奴はそこまで言ったのか…」
「いえ、しかし彼は≪この姿を見た人間は大抵逃げ帰る≫といっていました。あんな所に行く
 理由があるのはあなた方しかいませんもの」
言われて見ると確かにそうだ、あんな所に行く必要があるのは、真実を知ってるものを消すため。
そう考えると、行くのはこの人達しかいない。
「あなたが戦死者をあのような葬っていたのですね。木に首だけ吊るすという、死者を二度も
 殺すような方法で。」
「…ちっ、予算問題で仕方なかったんだ。リンケンへ保障金を出す予算など抗争のせいでこちら
 には無かったからな。」
簡単にグレイツは認める、その言葉は淡々としていて、悪びれている様子もない。
「その言葉、嘘は無いんですね?そしてその噂を流したのもあなたなのでしょう?」
「ああ、もちろんさ。だから―」
言葉の途中、グレイツは腰に携える大剣に手をかけ、私達に切りかかろうとしてきた。
「――ッ!!…く…」
しかし、大剣を振り上げるより一瞬早く、リリィが杖をグレイツに突きつけいてた。さらに
ロイもグレイツに向かってリリィの背後で弓を引いている。まさに指1本でも動かせば命は
無いと言わんばかりに。
「く…、貴様もクロマティガードだろうっ!!バレたら俺達はタダじゃすまないんだぞっ!!!」
そう言うと、「ああ…」と小さく呟き、ロイが言う。
「悪い、んなもん今抜けた。」
そう、あっさり言い放ったのだった。
「そんな勝手がっ―」
「いやさあ、別に契約書とか書いた記憶ねえし。それに入隊式で抜けたいなら抜けろって
 言われたし。だからさ、抜けるわ。」
怒鳴るグレイツの言葉を押し潰し、ロイが淡々と話している。そのやり取りを聞いていた
リリィが、グレイツに杖を突きつけつつ言う。
「今の話を街の人全員に伝えたらどうなるでしょう?」
「ふん、無駄だ。そんな事、誰も信じんよ」
と、その言葉を聞くと、フッと小さく笑い、呟く―「それはどうでしょうね…」と。

491姫々:2007/03/23(金) 17:04:54 ID:Cc.1o8yw0
「だ、そうです。聞きましたか?スピカ」
『ええ、バッチリよー。じゃ、逆行スタートっ!』
そう言い、スピカを光が包んだかと思うと、光はパッと消える。すると、何処からともなく
こんな声が聞こえてくるのだった。
【「あなたが戦死者をあのような葬っていたのですね。木に首だけ吊るすという、死者を二度も
 殺すような方法で。」「…ちっ、予算問題で仕方なかったんだ。―】
と、さっきのリリィとグレイツのやり取りが一字一句、声も全く違わず、聞こえてきたのだった。
「な・・・に・・・?」
グレイツの表情は凍っている。無理も無い、聞こえるはずの無い自分の声が聞こえてきたのだから
「空気の時間を戻させていただきました。声は空気の振動ですから話していた時間まで戻れば
 ばっちり聴こえます。」
『これ、拡声器だよね?この大きさなら街全体に響きそうだね。スイッチ入れていいかな?』
「ええ、どうぞスピカ。この街の全ての人に今のやり取りを聴かせて差し上げましょう」
笑顔を浮かべたまま、帯電する杖をグレイツ突きつけ続けつつリリィが言う。
「やめろっ!!!やめてくれっ!!!!」
そこで、我に返ったグレイツが叫んだ。
「ほー、ではあなたはどうします?まさか私達がやめてそれで終わりではないでしょう?」
チッと舌打ちしつつ、グレイツが言う。
「レッドストーンの情報をやるっ!!ハノブにいるクリスティラっていう奴に会ってみろ、
 そいつが今アイノの報告書について調べてるはずだっ!!」
「ええ分かりました、それで?」
口から笑みは消え、真っ直ぐにグレイツを見つつ言う。
「まだいるのかよ…、ここにはお前らの知りたがってる事は何も無いぞっ!」
「いえ、あなたが処分した戦死者の方々は、これからどうするつもりですか?」
ゆっくりとリリィが尋ねる。杖の先にはさっき以上の魔力の収束が感じられる。おそらく一般人
でも可視できるほどになった魔力の塊が杖の先にあった。
「…墓を作ろう。そして、きちんと葬ろうと思う。」
その言葉を聞くと、魔力を留めたまま、リリィは杖をおろした。
「約束ですよ。」
その言葉を残した後、私達はリリィと共に、詰め所を去るのだった。



「追ってきませんでしたね…。てっきり傭兵団を率いてくると思っていたのですが…」
ここは、寝たおかげで魔力を回復したのであろうセラと共にアリアンのテレポーターの
すぐ近くだ。私達はハノブのクリスティラに会うため、早々にアリアンを発とうとしていた。
「まああれだけの魔力を眼の前で見せ付けられたらな…、っていうかあんた街を灰にしかねねえ…」
「失礼な…そんな危険人物ではありません…」
嘘だ…、この前ブルンネンシュティグのど真ん中でメテオシャワーを放とうとしたのは
何処の誰だったのだろうか…。
「では、ハノブへ行きましょう。ロイさんは?行く所があるならご一緒に…」
そうリリィは言うが、いやいやと手を振りつつロイは笑って言う。
「いや、俺は準備とかあるしな。準備が終わってからゆっくり行くさ。」
「そうですか。では、また縁があれば。」
「ああ。またな」
そして私達はテレポートのため、目を閉じるのだった。

492姫々:2007/03/23(金) 17:08:52 ID:Cc.1o8yw0
書ききって速攻でここに持ってきたので一応読み返しましたが誤字は多い気がします
特に488、【本文が長すぎます】って言われて戻ったときに一番下の行消し忘れた
ようで変に残ってますorz

とりあえず今からまたハノブのアイノの報告書集めを「カットしまくりで」
書いてくるので、感想もその時に書く事にします。

493みやび:2007/03/23(金) 21:21:57 ID:jXr8QT5o0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>携帯物書き屋さん
 感想を書くつもりでしたが、レスを遡ってみると、すでにかなりお話が進んでいるようで…
…こりゃ腰を落ちつけて読まなくちゃ。ということで、感想のほうは完読してから寄せたい
と思います。ごめんなさい、読むの遅いんです(汗)
 プロット紛失。心中お察しします。これは悲しいですね……。私の場合はPC内だけに保
存していて、PCが死んだときにデータの復活ができなくて……それがまたシャレにならな
い量でしたので、しばらく立ち直れなかったことがあります。失恋よりショックでした(汗)
 文章の難しさ。そうですよねー。頭の中では映画のように完璧な世界が出来あがってい
るもんだから、つい『なぜそれが文章にできないの!? きーっ!』とかアホなことを本気
で思ったりしています。ギャグはとくに難しいですよね。

>ドギーマンさん
 むー。悪魔の不条理……。ギャグは別として、本気で腰の低い悪魔がいたら返って不気
味かもしれません。気が弱くて卑屈で妙にへりくだっている博愛主義の悪魔とか(笑)
 冗談はともかく、私はどちらかというと非情なエムルが好きですね。主義主張や感情で
動く人物より、存在自体が彼や彼女の言動を決定付ける、ある種システムの一部みたい
な人物に、なぜか心を惹かれます。いや、もちろん虚構中の登場人物の話しです(笑)
 エムルの行く末を見守りたいと思います。

>485さん
 そういっていただけると救われます。ミゲルは私自身も好きなじーちゃん(笑)なので、こ
の先も登場させますよ。
 思念球は前回のテレポーター(文中に詳細記述はありません。裏設定です(笑))にも使
われている技術です。今回の簡易的な護符をより複雑にしたものがテレポの思念球です。
 ほんと、これはRS内の消耗品として私も欲しい(笑) 制作クエにして、クエの成績に応
じて球に封入する魔法の選択幅が広がるとか……。うわー便利すぎ(笑)

>姫々さん
 お疲れ様です。
 骸骨五十匹はちょっと嫌かも(笑) でもメテオ……実際ならどう考えても長距離用の魔法
ですよね。でなきゃ呪術者も仲間も見境なく黒焦げに(汗)
 しかしウィンディ頼もしいわ……。私はマイナー・ペットがお供なので、いつも土竜とお魚を
連れていますが、たまにはウィンディも召還してあげようかな。なんて気持ちになりました。
 と。やっぱりロイの相方は生きてるのかしら。次が楽しみです。

 ふー。とりあえず読むのが遅いので、他感想は読み終えたのち順次超亀レスしたいと思
います(汗)。
 では、待たせている馬車が南瓜に変わりそうなので、おいとまいたします(意味不明)。

RED STONE NOVEL−Responce――――――――――――――――――――――◇

494名無しさん:2007/03/23(金) 23:45:01 ID:Xk9EL35w0
>姫々さん
グレイツと傭兵団の真相が垣間見えてしまいましたね…ダークリッチ良い人だ(*´д`)
メインクエのNPCの会話やストーリーは一度しかやってないせいもありほとんど覚えていないのですが
それよりも波乱万丈なストーリーに仕上がっていますね、登場人物も個性的だし。
「〜〜の墓」があの辺に多いのは昔死んだ者たちが骸骨化した、というだけではなくて
その後に死んだ者もあえてあそこに放り込まれていた…と考えると恐ろしいです。
ところでメテオって難しいですよね。やっぱり室内では使えないor使いづらい魔法なのでしょうか。
ゲーム内ではWIZさんがガンガン使いまくってるのは大変な事なんだなぁ(笑)

>みやびさん
妄想スレなどに色々考えたアイテムやシステムをたまーに書いてみたりしてるのですが
こういうのをみやびさんのように小説にして書いてしまえば使った気になれそうでお得ですね(笑)
これからも新アイテムを開発していってください!
>>493の下と上の仕切り(?)もカッコイイです(笑)

495みやび:2007/03/24(土) 16:29:15 ID:wBZMCMK.0
◇――――――――――――――――――――――Red stone novel−Props[№001]
 これまでに登場させた小道具の設定を整理してみました。
 今後も私の小説では共通の設定として使うつもりなので、根回しということで(汗)

【テレポーター】――――――――――――――――――――――――――――――
 スマグの《魔法院》※が活動費捻出のために開発したもの。ウィザードのテレポート魔法
を元に造られた座標固定式の長距離移動技術。
 今日では公的サービスとしてあまねく普及しているが、設置都市とスマグの間に契約関
係はない。これは軍事利用が現実的でない(一回につき一名+荷物の移動が限界)ことと、
移動手段の常備が治安維持に貢献しているため。
 そうした意味合いでは共生的な依存関係にある。
 運用に大掛かりな装置は不要で、操作者は《思念球》※と呼ばれる水晶に似た球体に、
設定された“キー”となる短い呪文を囁くだけで良い。
 このとき呪術者が頭の中にイメージしている利用者および行き先を《思念球》が読み取り、
人ごみの中でも対象者だけを安全に目的地まで飛ばしてくれる。
 操作者は一般に「テレポーター管理者」と呼ばれ、《思念球》の扱いは彼らに一任されて
いて、無造作に足元に置かれていることもあれば、宙に浮いている場合もある。
 《思念球》自体は設定されている“キー”と声紋以外には反応しないため、盗難などの対
策はとられていない。

 ※註釈[魔法院]
 本来はスマグの行政と立法を受け持つ機関。今日では政治的な色合いは皆無。
 魔法使い種の安寧と各種魔法の研究が主な活動。

 ※註釈[思念球]
 特種な鉱石に魔法を施して安定させた球体。自然界の鉱石にみられる電波や音波への
反応と異なり、取り込んだ音を蓄積させて外部作用により吐き出す特質を持つのが思念石
であり、一種の録音・再生機器として利用されたのが始まり。
 これを発展させ、声紋と簡単なキーワードの組み合わせを使い、あらかじめ織り込んでお
いた魔法を出力できるようにしたものが《思念球》。単に呪文を吐き出すのではなく、呪文の
圧縮と加速、また複数の呪文を同時に使ったり、出力させた呪文でさらに別の呪文を呼び
出すなど、高度な使い方が可能。また触れることでその人間の思考を読み取るものもある。
 より簡単な魔法の場合、声紋やキーワードが不要な場合もあり、様々な魔法が封印され
た簡易的な《思念球》が闇市に出回っている。指輪の石に加工されたタイプが多く、それら
は魔法が使えない者にとって武器や道具の代用になっているが、一定の時間を経て壊れ
てしまう。
Red stone novel−Props[№001]――――――――――――――――――――――◇

496みやび:2007/03/24(土) 16:30:01 ID:wBZMCMK.0
◇――――――――――――――――――――――Red stone novel−Props[№002]

【魔法汽船】――――――――――――――――――――――――――――――――
 スマグの《魔法院》が開発した蒸気船。通常スチーム機関の燃料は薪や石炭だが、魔法
汽船は太陽光を利用。このため半恒久的な動力を有し、無限の航続距離を誇る。
 一国の王でも購入には触手が鈍るほど高価で、物量を常とする軍隊には不向きなために
軍事利用はされていない。メンテナンスにも《魔法技術者》※の知識と技が必要。維持費だ
けでもそれ相応の覚悟がいる。
 船体のほとんどが希少金属“ケルチ鋼”※で造られ、既存の砲や魔法攻撃をまったく受け
つけない。船の形状は半球体で、球状部を海中に沈めている。普段は半開させているドー
ム型の天涯(太陽光を収束するパネルも兼ねる)を閉じると完全な球体になる。この状態で
防御の死角がなくなり、数時間程度の潜水も可能。
 また船体の両サイドから翼のようなものが生えているが、これは機関部の熱を逃がすため
の放熱フィンで、同船に飛行能力はない。タイプによっては非常用のマストを持つ。
 コントロールはすべて《思念球》を介して行われるため、人員が不要。最悪ひとりでも長期
航海が可能。現在ごく少数の物好きな王族と、シーフが所有していることが知られている。

 ※註釈[魔法技術者]
 基本的には“魔法師”のことで、ウィザード等に代表される魔法使い種を総称して魔法師と
呼ぶ。このうち魔法の技術を研究したり、またそれを使った装置の開発、管理、維持、修理
できる能力を持った者を技術者と呼んでいる。

 ※註釈[ケルチ鋼]
 その鉱脈の場所も製法もスマグしか知らない。
 とても希少で製鉄には時間と技術を要し、盾をひとつ造るだけでも小さな集落がそっくり買
えるほど。ミスリルに匹敵する軽量さをもつが、剛性はその比ではない。既存の爆薬、砲弾
はもちろん、物理魔法攻撃を一切受けつけない。そのコストゆえに軍事利用は非現実的だ
が、ケルチ鋼で作られた武具は市場に流通している。そのことはしばしば争いの元にもなり、
欲に駆られた武将が小都市を滅ぼしたという例もある。
Red stone novel−Props[№002]――――――――――――――――――――――◇

497みやび:2007/03/24(土) 16:30:42 ID:wBZMCMK.0
◇――――――――――――――――――――――Red stone novel−Props[№003]

【永久ランプ】―――――――――――――――――――――――――――――――
 世界各地の古代遺跡から発掘されている品。鉱石だと言われているが実際には不明。
 形は棒状でサイズは手の平に収まるものから棍棒程度まで。手に取ると体温で発光す
ること、出土する場所、そして量の多さから「手持ち式のランプ説」が有力。一部にはそれ
を裏付ける形状の金属、革製の装飾が施されたものが発掘されている。
 ただし現存する文献にはなぜかその姿は描かれていない。
 学者たちは遺物の不当な扱いに抗議の声をあげているが、出土する量があまりに多く、
市場への流出があとを絶たないのが現状。
 割れても欠片が発光能力を失うことはなく、恒久的な光源として普及している。手の平
サイズのものだと明るさは一般的な手持ち松明と同程度。流通する製品は真鍮、銀製の
グリップやフードを付けたものが多い。また発光には多少の熱をともなうため、砕いたもの
を袋に詰めて防寒用としたり、非常の際にはランプを直接肌に当てて暖を取る場合もある。
Red stone novel−Props[№003]――――――――――――――――――――――◇

498みやび:2007/03/24(土) 16:31:41 ID:wBZMCMK.0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce
 というわけでお目汚し設定を持って来てしまいました。

>494さん
 妄想は楽しいですよね(笑)
 そういった意味では、設定が曖昧で、しかも2Dという所なんか、RSは妄想のし甲斐があ
るってもんですね! 私はどうも想像力を挟む余地のない3Dゲームは苦手……(汗)
 仕切り――。なんだか味気ないので装飾してみました。他にも記号とかで作ってみたんで
すけど、改行コードのせいかしら。貼りつけると表示がズレるんですよ(汗) 実際に送信すれ
ば直るのかもしれないけど……恐いので無難な所で良しとしました。

   *

 さて。日曜までに作品出せるかなあ……。

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

499名無しさん:2007/03/24(土) 17:30:44 ID:4mIra/620
>みやびさん
うーん、ここまで妄想が発展するともはや妄想と言うよりは一個のオリジナルストーリーができそうですね。
最近ちょっと興味があって関連書籍やサイトを見ていたのですが、いわゆるTRPGにありそうな設定だと思います。
まだまだ他にも創作アイテムがありそうですね。今後の小説で登場するのをお待ちしてます(笑)

私もRSで曖昧になっているというか、個人的な疑問として翼系武器の使用法や装備法が気になる…。
U翼のエア・ウェイダーの説明もちょっと面白かったし(急用の多いアークエンジェルたちの間では人気…らしい)。
こういう部分も自分で妄想してみると楽しいんだろうなぁ(笑)

500ドギーマン:2007/03/24(土) 22:19:08 ID:B3kEUPL20
500字SS『トレントの手紙』

いと小さき人よ、我のために涙を流してくれた唯一の人間よ。
汝は覚えているか、我らの邂逅の時を。
汝の故郷ブレンティルの北東、汝ら人間が我らの木を伐採していた場所。
森を守るために立ち上がった兄弟達は傭兵を名乗る人間共に次々に討ち取られてしまった。
だが汝は危険を顧みず間に割って入り、戦いに一応の決着をつけた。
汝のおかげで確かに木の伐採量は減った。
だがそれも昨年までだ。
我は再び兄弟達と共に立ち上がることにした。
森は我らの母なのだ。
母の命を救うために戦うのは汝ら人間も同じだろう。
恐らくこの戦に我らは敗れる。
だがそれでも戦わなければならないのだ。
母の命がある限り、弟達はいくらでもまた生まれてくる。
そのためにこの命を捧げられるならば、私は喜んで差し出そう。
しかしただこの命を捧げても母は助かるまい。
どうか町の人間達に気づかせてくれ。
このままでは母は死に、汝らもいつかきっと後悔することになるだろうと。
こんなことを頼れるのは汝しかいない。
出来ることなら成長した汝に再び会えればとは思ったが、この手紙が届く頃には我はもう生きてはいまい。
冒険者に託したこの手紙が無事に汝のもとに届くことを願っている。
さらばだ友よ。

501ドギーマン:2007/03/24(土) 22:42:15 ID:B3kEUPL20
あとがき
なんかいい感じで500レス目が開いてたので、
前スレの1000文字SSに続いて500字SSを書かせて貰いました。

>姫々さん
ダークリッチのあの姿は本当に怖いですよね。
でもいい人な彼がいい味でてました。
最後のグレイツを追い詰めるところも小気味よくていいです。

>みやびさん
面白いアイテムに細かい設定まで。
これから次に登場してくるアイテムが楽しみです。
私はレイメントオブザードが気になりますね。
古代の魔法王国ザードってところがスマグとの繋がりを想像させるようで、
何故滅んだのかっていうのと現在のスマグの発展に繋がりを持たせる妄想をしてみたり・・・。

502みやび:2007/03/25(日) 01:41:18 ID:CvPpOHm.0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce
>499さん
 エアの説明は確かに面白いですよねー。説明だけ読むと翼をランドセルみたいに背負
う天使の姿を想像してしまいます(笑)
 でも翼の場合、まだ「体に外付けされている」というイメージも可能なので、リアルな設
定を作る場合、なんとかこじつけできそうな気もします。
 しかし閉口してしまうのが牙……。翼と比較すると「据え付けタイプ」の器官。というイメー
ジが拭えません。装備交換にリアルで説得力を持たせるとすれば……やっぱり「入れ歯」
なんでしょうか(汗) 確かに入れ歯なら現実的ではありますが……絵にならない(笑)

>ドギーマンさん
 内容プラス手紙という部分で、切なさが活かされていてよかったです。
 あ。あと500おめでとうございます(笑)
 もうキリ番小説はドギーマンさんで決まりですね! 余裕があれば次もお願いします(笑)

 木系といえば、昔は苗木クエっていつ行っても人が居ましたよね。記憶して狩りの合間
に覗きに行って……エイティングが空くのを一ヵ月近く待ったのを思い出します。
 しかもやっと「人がいなくなった!」と思えば沸き時間がアレですし……(汗)

 ザード――「滅び」という言葉は魔力ですよね。想像は無限に広がりますから。む。これ
でひとつ小説書けそうですね(笑)
 私は『地上の権勢』の説明――地上の権能や貪欲が凝縮された冠――というのを見て
呪われそうだなあ……と思ってしまいました。
 笑ったのは“パパ手”を初めて見たとき。
 「幼い頃のお父さんの大きな手を覚えているか? その手が優しかったか、怖かったか
は別として」
 ――って、装備の説明になってません(笑)

   *

 今日は徹夜モードで頑張ろうと思ったのですが。なかなか筆が進みません……(汗)

RED STONE NOVEL−Responce――――――――――――――――――――――◇

503名無しさん:2007/03/25(日) 04:15:50 ID:4mIra/620
>ドギーマンさん
おぉ、500文字小説流石です。
トレントはあのシュトラ西の方にいる木の人たちでしたっけ…何か会話できるのがいましたね。
なんとなく指輪物語のトレントたちと被るのは仕方ないでしょうか(笑)
前回の1000文字小説もそうですが、キリ番の文字数で書くのはほんとに大変そう…。
私がやったらもみくちゃにした挙句尻切れトンボで終了しそうです(笑)
みやびさんと同じく次回キリ番もまた書いてくれると嬉しいです。

>みやびさん
牙…たしかに入れ歯とする以外だと取り外しが想像できませんね。姫の武器変身も大変だ(笑)
U装備品の説明ひとつだけで小説が一本書けそうな気がするのは同じくです。ただ私は構想を練るだけで精一杯ですが(苦笑)
U鞭「イクストラクター」の"脂を搾り取る…"という説明に恐れおののいてます(笑)
パパ手の説明も装備の説明にはなっていないものの、何か意味深ですよね。

504みやび:2007/03/25(日) 09:56:18 ID:raciaAIc0
◇――『それゆけメリルちゃん!』―――――――――――――Red stone novel[1/4P]

 いつもは自堕落なあたしでも、今日ばかりは目覚ましが鳴る前に飛び起きた。
 なぜって、今日は久しぶりのデートなのだ!
 あ――念のために言っておくけど、あたしの目的はあくまでお金――美味しいもの食べ
て、ショッピングして、あとはハイ、サヨウナラ! これ常識ね。

 鼻歌まじりでシャワーを浴び、化粧が終る頃にはほどよい時間になっていた。
 約束の時間まであと五分――か。
 あたしは携帯を取り出し、少し考え――短縮ボタンを押した。
「――メリルちゃん!? マジで!?」ラインが繋がるなり相手は言った。はーはーと息が
荒いのがわかる。
 こいつは天使の――えーと、名前なんだっけ? ……。まいっか。とにかく、あたしの携
帯に入ってる“その他大勢”のなかのひとりね。
「ねえねえ。今から迎えに来て欲しいの」
 あたしは“しな”を作って言ったが、気分的に携帯は顔から遠ざけていた。
「もちろんだよ!」
 え――声が近い!? と思ったら、天使は“私の隣”に座っていた。
「ギャーッ!」
 悲鳴をあげたのはもちろん天使。
 あたしのケルビーが天使の尻に噛みついたのだ。
「ちょっと! 飛んで来るなら来るで、先に言ってよね! っていうか電話してる意味ないじゃ
ない。まったく……ケルビーを召還しておいて正解だったわ!」
「ご、ごめんなさい……」
「はっ! それより時間がないわ! 早く送ってちょうだい、古都よ古都!」
「あの――いや、その前に……」
「なによ。他の天使を雇ってもいいのよ」
 あたしが言ったのと同時に、どこからともなく拡声機の声が響いてきた。

『格安で街タクしますよ〜。どこでも行きまっせ〜』

「さ。メリルちゃん、忘れ物はないかい!」
 街タクの声を聞くなり天使はCPを溜め始めた。


 ――古都ブルンネンシュティグ

「ふん。やればできるじゃないの」
 天使にコールしてもらい、時計を見ると約束の三分前だった。
「じゃあね。ありがと♪」
 立ち去ろうとするあたしの袖を天使が掴んだ。
「あの、メリルちゃん……」
「タクに使ってあげただけでも感謝しなさい。まさかあたしとデートできるだなんて思ってない
わよね? 十年早いわ」
「いや……そうじゃなくてコレ……」
『グルルル……』
 天使のお尻にはケルビーが噛みついたままだった。

505みやび:2007/03/25(日) 09:57:23 ID:raciaAIc0
◇――『それゆけメリルちゃん!』―――――――――――――Red stone novel[2/4P]

 足代りの天使と別れたあと、あたしは時間ぴったりに待ち合わせ場所に立った。
 だがいくら見回しても、あいつの姿はなかった。
「むう……遅いわ!」
 時計に目をやると約束の時間を十秒も過ぎている。
 いい度胸じゃないの。これはそれなりに埋め合わせしてもらわなきゃ!
 あたしがぶつぶつ言っていると、見るからに軽薄そうなウィザードが杖をグリングリン回し
ながら近付いてきた。
「やあ、お嬢さん。ステキなロマの衣装ですな!」
 そう言うとケルビーとあたしにお得意のヘイストをかけた。
 うーん。この感じだと……せいぜいスキル・レベル30ってところね。
「どうです。これから僕とペアハンにでも行きませんか?」
 思った通り、そのウィザードはナンパしてきた。
「不合格」
 あたしは言ってやった。
「はい?」
「ヘイ・マスなら少しくらい付き合ってあげてもよかったんだけど……もうちょっとレベル上げ
て出直してきてね」
 ウィザードは顔を真っ赤にした。
「こ、このっ――」
 彼は言葉を失っていたが、杖のグリングリン度は非常に激しかった。今にも手首がちぎれ
そうだ。CPの溜め量からすると、メテオでも撃つ気かしら?(てかNチャージっぽいけど)
 あたしはバッグから飼育記録書を取り出し、ページを選ぶとペットを具現化した。
『ウキャキャキャ!』
 ウィザードとあたしのあいだに原始人の“一号”と“二号”が立ちはだかった。
「ひっ」男はあわてて杖の速度を上げたが、あたしが一号、二号に命令を出すほうが早かっ
た。
『ウキャキャキャ……!!』
 一号と二号が笑いながら交互にウィザードを殴る。
「ちょ、おま――」
 たちまちウィザードのCPがマイナスになった。
 そして体中アザだらけになりながら、やっとのことでわずかなCPを確保するとテレポで逃
げだした。
「覚えてろよー!」
 その姿がほぼ点になるほど遠くからウィザードは叫んだ。
「誰が覚えてあげるもんですか」あたしは舌を出した。

506みやび:2007/03/25(日) 09:58:12 ID:raciaAIc0
◇――『それゆけメリルちゃん!』―――――――――――――Red stone novel[3/4P]

 ペットを仕舞うと、あたしは再び時計を見た。
 すでに時間は十五分もオーバーしていた。
 なんてやつなの! このあたしを五分以上も待たせた男は初めてだわ……!
 あたしは携帯を取り出し、そいつの番号を消去した。やっぱりクラブで逆ナンした金持ち
のボンボンはダメね。今度はもうちょっとマシなのにしよう。
「行きましょケルビー」
 ケルビーに跨ると、あたしはその場をあとにした。
「でもまいったなあ。今日は一日予定を空けているから、暇になっちゃったわ……」
 このまま部屋に帰るのも悔しいので、あたしはケルビーの上でマツケンサンバを歌った
りショート・コントをやったり肩を「チラッ」と出したりしたが、どういう訳がその日に限っては
ひとりのイケメンも食いついてこなかった。
 うーむ。今日は不調ねあたし……っていうかマツケンサンバはちょっとブーム過ぎちゃっ
てたわね。これはレパートリーから外すか。
 すると携帯の着信音。
 表示を見ると、相手は幼馴染みのリッキーだった。
 と言っても彼はウィザード。
 子供の頃、ちょっとした乙女心でイフリートの巣に爆竹を投げ込んだことが原因でロマの
村を追い出され――ちなみにそれ以来、村の周辺にはイフリートとサラマンダーが徘徊す
るようになった――流れついたスマグで隣に住んでいたのがリッキーだった。
「久しぶりねえリッキー。どうしたの?」
「やあメリル――今なにしてるの? 暇かい?」
 あら珍しい。彼がそんなこと言うなんて。
「実はタワー洞窟の地下道にいるんだけどさ……」
「ふーん。あんたも暇ねえ……。あ、でも狩りなら間に合ってるわ。今ちょっと気分じゃない
のよね」
「いやちがうんだ――お金持ちの年寄りと少年に出遭ったんだけどね。奪われた家宝を取
り戻して欲しいって頼まれ――」
「すぐ加勢に行くから待ってて!」
 あたしはそう言うと、通話を切ってリダイヤルを押した。
「――あれ。メリルちゃん、どうしたの!?」先ほどの天使が出た。
「早く来て、あなたの力が必要なの!」

 そして、あたしは“一歩も動くことなく”無事にタワー洞窟の入口まで着いた。
「はあ、はあ……で――これから何処へ?」天使は全速力で走ったらしく、まだ肩で息をし
ていた。
「こっちよ」
 洞窟に入ると、あたしは透明魔法が付加された指輪を嵌めて奥へと進んだ。背後でシー
フの笑い声と天使の悲鳴が聞こえたけれど……まあでも、天使にはロープを括りつけてケ
ルビーにつないでいるから、問題ないだろう。
 地下道の中央まで進むと、シーフたちと格闘しているリッキーの姿が目に止まった。
「ハーイ、リッキー♪」
 あたしは声をかけた。
「お。やけに早いんだね」
「まあね。優秀な天使がいるから」
 振り向くと、全身切り傷だらけでボロボロになった天使がいた。
 天使はさっきより息があがっていた。
「はぁ、はっ――あの……これはいったい?」
「あんたビショップのスキルもあるんでしょ? これから三人でひと仕事よ!」

507みやび:2007/03/25(日) 09:58:57 ID:raciaAIc0
◇――『それゆけメリルちゃん!』―――――――――――――Red stone novel[4/4P]

 天使は口をあんぐりと開いた。
「えーっと……その、ちょっと急用を思い出して――」
「ケルビー!」
「やりますやりますッ――なんでもしますからぁッ!」
 天使はビショップに変身すると、なぜか泣きながら支援の仕事を開始した。

   *

 あたしたちは結局、カスターとかいう盗賊の親玉から奪われた家宝を取り戻し、依頼者か
ら百万ゴールドの報酬を得た。
 リッキーはそもそもお金とか、そういうのには興味ないタイプだし、天使はあたしの下僕だ
から……もちろん取り分は全額あたし。
「うふふ。今日はツキに見放されたと思ってたけど、なんとかなるものね〜♪」
 あたしはベッドでお金を数えながら、やがて心地好い眠りについた……。

   *

 ――その頃、天使の家では。

 天使はベッドの上でうんうん唸っていた。
「ああ……眠れない……」
『ガルルル……』
 天使のお尻にはケルビーが食らいついたままだった。




◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

508みやび:2007/03/25(日) 10:00:09 ID:raciaAIc0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『それゆけメリルちゃん!』

 ――あとがき――

 書こうとしてた『赤い絆』のほうはどうしても筆が乗らず。思いつきでギャグにしました(汗)
 しかもちょっと淡白すぎましたね……。
 眠いので今回は推敲なし! ふらふらです。ではおやすみなさい。

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

509名無しさん:2007/03/25(日) 17:36:45 ID:zK/QR0gM0
>みやびさん
面白かったです!
メリルちゃんとテイマのイメージがぴったりと嵌ってしまった…いや、もちろん良い意味で(笑)
天使は完全に運転係ですね、これもぴったりだ(笑) ケルビーもヵヮ。゚+.(・∀・)゚+.゚ィィ!!
WIZのチャージってヘイスト状態だと本当に腕が千切れるばかりに振り回しますよね…。
前に杖を外して素手状態でチャージすると単に応援してるみたいだとか遊んでた記憶が(笑)
「赤い絆」の方もまた落ち着いてからゆっくりでも構いません、お待ちしています〜。

510ドギーマン:2007/03/25(日) 20:12:59 ID:AepyIIHk0
『ザ・ストライダー』

彼は高台に登って街の遥かを見渡していた。
無限に広がりを見せるようにどこまでも、視界の外まで広がる壮大なる古の都。
街灯や窓から漏れる光は空の星と見紛うようで、彼は闇の中に浮かびあがる光の群れにしばし心奪われた。
昇った満月は暗雲を振り切ってようやく空の頂きに到達し、街を高慢に見下ろしている。
街灯に照らされ浮かび上がった通りを歩く人々の姿を彼は嘲るように笑みを浮かべた。
男も女も、誰もが常に何か新しい刺激を求めて飽きもせず夜の街を練り歩いている。
全くもってくだらない。どれだけそんな事を繰り返しても、結局誰かと同じでしかない。
彼はいつも背負っていた大事な相棒、彼と共に何年も歩んできた大斧を部屋に残してきていた。
長年命を預けてきたそれとしばしの別れを告げ、彼は自分だけが新たに手に入れた刺激に身を委ねることにした。
「いくか」そう呟いて彼は街の光の群れ背を向けて少し離れると、再び振り返って光のほうに歩み始めた。
黄金に輝く金属板に覆われた靴がカチャカチャと音を立てる。
さあ、また俺を楽しませてくれ。
段々と歩幅を広げていきそして走り出す。高台の端が迫ってきた。
すると靴に付けられた小さな羽飾りが立ち上がり、小さく震えた。
彼の足は高台の端を踏み出し、彼はそこから街の光の群れに向かって身を投げ出した。
瞬時にして後方へ過ぎていく景色。彼は高台からたった一歩で先ほどまで眺めていた光の群れの中に飛び込んだ。
遥かから疾んで来たというのに通りの石畳に突いた足はとても軽やか。
突然目の前に現れた彼の姿に目を丸くする人々。
彼はにやりと笑みを見せ付けてすぐに姿を消す。
街の景色は光の線となって彼に通常では見ることを許されない景色を見せる。
風よりも早く、誰も彼に追いつけない。
誰の眼に止まることもなく街を走り抜けていく。
そして石畳を蹴り、壁を踏み、夜空へ飛び上がって街を夜空から見下ろした。
街を見下ろす彼は夜空の支配者となった気分だった。
「ヒィィィィィヤッッッハァァァァァァ――――!!!」
彼はその快感に歓喜の叫びを上げた。
街の人々が見上げるがそこに彼の姿は無い。
民家の屋根に足を突いた彼は既に遠く夜の街を駆けていた。

部屋に帰った彼は壁に立てかけられた大斧に目を向ける事も無く寝台に向かい。
そして靴を大事そうに撫でて寝台の下に入れて、そのまま眠ってしまった。
かつての相棒はすねたように刃に小さな錆を浮かべていた。

511ドギーマン:2007/03/25(日) 20:24:55 ID:AepyIIHk0
あとがき
一度SSを書くとまた書きたくなってきました。
少々同じものを書き続けるのに飽きが出てきまして・・・。
すいません。
勿論書き上げるつもりはあるのですが、
少々文章が雑になってきた部分もあるので他の話に浮気します。
本当はDevilはあんなに長いはずじゃなかったのに、どこでどう間違えたのやら。
あれ終わったら一旦以前みたいに一話完結に戻ろうと思います。

走り回るというのでイメージ的にシーフを主役にしてもよかったのですが。
ジャンプがあるので戦士にしました。

>みやびさん
面白かったですよ。
天使が最後までかわいそうでw

5121/3:2007/03/25(日) 21:08:43 ID:b8WsiwNoo
レスに代えて。

ペインシーカー秘話

ちょっと待て!ダークリッチはいい奴なんかじゃねぇ!
魔道士を名乗っちゃいるがありゃその魔道士の魂と記憶を喰っただけだ。
墓に流れ着いた魔道士の、いんや魔道士だけじゃねぇ傭兵全部の魂に喰らいついて放さねぇ。
そうやって永遠の知識と魔力を得ていく化けもんだ。
第一、おかしいと思わねぇか。
あんななんもないとこで骸骨が生きた人間を何度も何度もいつまでも襲うんだ。
ありゃダークリッチのやつが手引きしてんだ。
なんにも知らねぇで死んじまった魂を言いくるめて墓の尖兵としてこきつかってやがるのさ!
とんでもねぇ奴だ。

まぁ聞け。
やつがあそこで何をやってるかなんて想像つくだろう。
ひとーつ、砂漠で死んだ亡霊どもを掻き集めて天上へ上るのを邪魔してる。
ふたーつ、砂漠で死んだ英霊たちの体を利用して自分の手足になる兵団をつくる。
みーっつ、魂を喰らって自分の魔力と知識を無限に増やし続ける。
おかげで砂漠で死んだら神様んとこに昇ることもできずに永遠に穴倉の中に閉じ込められるのさ。
あんたも気をつけな。
やつの悪行はそれだけじゃねえぜ。
まだ生きてた頃の話だが――。ハ?誰がってダークリッチの奴に決まってるだろう?
なに、あれは元人間だぞ?当たり前じゃねぇか。
天界人なら魂を昇天させて導こうとするし、地下人なら連れ去って使役にでもつかうさ!
なんだそんなことも知らねぇで聞いてたのか、しょうがねぇ順を追って話してやろう。

さて、どこから話してやろうか。
あぁそいつの名前?そこまでは知らねぇな。
ただ、記録に書かれるときは最初の屍術士とかネクロマンサー呼ばれてるがな。
やつは生れ付き死者の声が聞こえたんだ。そのせいで親に捨てられたんだろうなぁ。
ん?あぁ育ての親はアリアンの長老だ。長老って行っても酋長のことじゃねえぞ。
一番の長生きのじいさんのことだ。錬金術士だったらしいがいまは関係ねぇな。
隠し事を死者に探らせて言い当てたり、取り憑かせて体の自由を奪っちまうのさ。
やつが一言しゃべるだけでそうなっちまう。
長老がやつを町外れの墓守に追いやったときは街中から安堵のため息が聞こえたもんだ。
だがそれがいけなかった。死者の声が聞こえる奴を死者の一番集まる場所に留めた。
折りしもアリアンの砂漠が戦場になっていたときだ。墓に来るのも力のある英霊ばかり。
街の人間が墓守のことなんて忘れて十数年も経った日のことだ。
長老が街の人間に一言だけ告げた。やつが死んだとな。
それすら忘れられて数年経ったときにはもう墓はダークリッチの住処になってたのさ。

うぅちょっと失礼。酒が回ると便所が近くなっていけねぇな!

5132/3:2007/03/25(日) 21:09:28 ID:b8WsiwNoo
おう、ただいま。さてなにを話してたか。
あぁあいつの話かい。あいつはなぁ赤ん坊の頃に捨てられたんだ。
長老が捨て子だって連れてきたんだから間違いねぇ。
長老ってのは酋長じゃねぇぞ。村長でもねぇ。一番の年寄りのじいさんだ。
錬金術士だったがいまは関係ねぇな。いま思えば”砂漠の人”の子どもだったんじゃねぇかなぁ。
あぁ、砂漠の人ってのはなぁ―

―砂漠に忘却された民族あり。
彼らは自然の声を聞き、道なき砂漠で星を見ず方角を知り、指標なく乾いた大地に水を得。
精霊の導きに従い枯れた大地に命を吹き込まんとその生涯を捧ぐ。起源をロマに等しくす―

―どこで聞いたか忘れたがそんなもんだ。
無口な子供でなぁ。いつも空ばかり見上げてた。たまに口を開くと変なことをいう。
死人しか知らない失くし物を言い当てたり、砂漠から誰のかしらねぇ形見を拾ってきたり。
訳のわからんやつでなぁ、誰も近づかなかった。
あぁ?いじめなんてとんでもねぇ!長老のじいさんとこの子供だぜ。街に居られなくなる。
周りのガキどころか大人だっておっかながってたさ。
たまにお礼にいく遺族ってぇのか、それも居たが無愛想に突き返してありがとうも言わせねぇ。
頼まれただけだって言いだすから怪しまれて調べられたこともあったな。

そうだ、一遍だけ怒ったのを見たことがある。
山陵に盗掘が入ったときさ。あぁ山陵ってのは墓場のことだ。お偉いさんのな。
長老が街の自警団に盗掘が入ったって教えに来てな。
自警団が墓場についたときにはもう片は付いてた。あいつが一人でやったんだ。
何があったのかわからないが生き残りの盗掘屋はすっかり振るえあがっちまって、
助けてくれ、死にたくねぇ、仲間が消えただのガチガチなる顎で訳がわからねぇことを言う。
その後だな。
あいつが墓守に志願して長老が送り出したのは、まだ二十歳にゃなってなかったはずだ。

5143/3:2007/03/25(日) 21:10:22 ID:b8WsiwNoo
折りしもアリアンとリンケンの戦争の最中。
死人の声が聞こえるあいつにとってみたら無念の声がそこら中に響く世界だ。
しかも、リンケンの後ろ盾のなんとか教会は砂漠のやりかたを異端と呼んで認めねぇ。
砂漠には砂漠の霊への礼節があるってんだ!
あいつは砂漠で死んだやつらにもちゃんと安息の地を与えたかったんじゃねぇかな。
人里から離れた墓場の奥で一人、大勢の死人と向き合う暮らしを始めた。
あいつは優しすぎたしかなりのおせっかいだったんだな。
無念に死んじまった”口無し”どもの言葉をいちいち残そうと考えた。
生者が夢見る時間に比べれば死者の眠る時間はあまりに長い。
命にしばられた人間の姿じゃ死者の無念を綴り続けるには時間も記憶も足りなすぎた。
やつは屍術に手を出した。師匠は墓場に彷徨う英霊達。知識だけはいくらでもあった。
完成した屍術で、いやありゃ屍術なんてもんじゃないただの呪いだ。
あいつは自分自身の魂を触媒に墓と砂漠のすべての魂のために捧げたんだ。
死者に与えられた永遠の時間を安らかに眠りの中に沈め、語るべき記憶は自分の中に取り込む。
彼らの無念を代わって果たす役目を自分が引き受けることで彷徨わずにすむようにしたんだ。

あいつがあそこで何をやってるか想像がつくか!
っひとつ、異端と服従を強要する教会から亡者の誇りを守ってるのはやつだ!
っふたつ、英霊を指揮して無粋な盗掘者から死者の形見を守ってるのもやつだ!
っみっつ、無念の声を残した口無しどもの言葉を永遠につむぎ続けてるのがやつだ!
砂漠の亡霊たちに穏やかな穴倉を与え、無念の叫びを残す彼らに語る声を与えた。
永劫の時間に安らかな眠りを与え、磨き上げた戦士の肉体に最後の戦場を与えた。
あんたにわかるかい。
あいつの名残はそれだけじゃねぇぜ。
あいつが死んでからの話だが赤き空の日のあと、奴の能力を真似したやつが次々と出てきた。
中身は地下の悪魔だって話だが、性格はあいつとは似ても似つかねぇ。
言葉に乗せて他人に憑依させるくらい朝飯前だったろうが、見たのは墓荒し退治の一度きりだ。
いまになってあいつの本当の力を知るたぁ、いまさら恐ろしくて震えがくる。
教会の奉る頑固な神様にゃあいつも悪魔も一緒にされちまったが砂漠の誇りにかけて言おう。
あいつは本物の英雄で砂漠の墓守だ。

わかったか!ダークリッチはいい奴なんかじゃねぇ!超いい奴だ!!
闇の眷属(ダークリッチ)を名乗っちゃいるがありゃ自分の魂と記憶に呪いをかけただけだ。
墓に流れ着いた戦士だけじゃねぇ旅人の魂一つ一つを導いて喰らいついてでも話しぬく。
そうやって永遠の時間ってぇ業の中で大義に動く化けもんだ。
第一、おかしいと思わねぇか。
あんななんもないとこで死者の声がなんの縁もない生者に真実を語るんだぜ。
ありゃダークリッチのやつが手助けしてんだ。
なんにも知らねぇで死んじまった魂に最後の寝床を与えて自分は眠らず守ってるのさ!
とんでもねぇ奴だ…。

5154?/3:2007/03/25(日) 21:12:56 ID:b8WsiwNoo
あーすっかり酔っちまった。なんか余計なことまで話したか?

とにかくだ!墓には怖いネクロマンサーが居るから近づいちゃいけねぇ。
んー?わしはたたの砂漠の年寄りだ。くどい話につき合わせて悪かったなぁ。
またな、若造。

516ペインシーカー秘話:2007/03/25(日) 21:30:00 ID:b8WsiwNoo
姫姫さんのダークリッチことペインシーカーに感化され、
私自身の思う傭兵の墓一帯のありようを語らせてみました。

酔っ払いのたわごとなので2度読んでもらえると、語る年寄りの真意をご理解いただけるかと思います。

まめなレスはつけられませんが、職人の皆様いつもありがとうございます。

517名無しさん:2007/03/25(日) 21:44:09 ID:C3RWAfjA0
>>402-403の続きです。

「ねぇ、ちょっと待ってよぉ。」
ロゼリーが俺の後を追ってくる。
「いや、待てない。」
俺は静かにそう言った。
「え?」
ロゼリーの足が一瞬止まった。そして、「なんで?」と言う。
「・・見ろ。その地図は多分違うものだぞ。」
ロゼリーは静かに、俺に見せた地図を見返した。
「・・何を言っているの?これはアルパス地下監獄のものよ?」
俺は静かに、壁をこんこんと叩く。
「・・さっきからおかしいと思っていた。モンスターのおとなしさ、ジャイアントが何故地上付近にいたか。」
ロゼリーは静かに、俺の話を聞いている。
「・・・匂わないか?あんたのその地図、一体何処から手に入れた?」
ロゼリーは再び、此方に地図を突きつけた。
「うちの情報網だけど・・組織名は赤いコブリン。」
俺は、ふむ。と口元に指を当て、暗闇の奥を見据えた。
「あんた、もし俺が断ったらどうしていた?」
ロゼリーはなぜか、ここで黙ってしまった。ゆっくりとうつむき、上目遣いで俺の事を見ている。そして静かに、
「・・・組織に言われたわ。貴方なら断ることは無いって。」
そうか。と俺は呟いた。・・・俺の中で何かがつながるのを感じる。
俺は静かに肩を竦め、狭い通路・・それも、端には蝋燭が据えた油のにおいを漂わせているだけの、暗い通路を少し往復した。
「・・俺の名前はカレイド・・カレイド=ラビンスだ。」
ロゼリーははっと顔を上げ、俺の顔を見つめた。そしておびえた様に後ろへ一歩後ずさる。
「いや、怖がる事は無い。俺は情報組織の問題物の殺しだけが任務じゃない。」
「・・全部、知っているのね?」
ロゼリーは恐る恐る、と言った感じで、俺の方を見つめた。
「ああ。・・今日、黒い伝書鳩から手紙が届いてね。一人女の始末を頼むと来た。名前は・・」
「アリス・シュヴァンツァ。私の本名よ。」
ロゼリー、基そう名乗った女は、ふぅ、とため息を付き、その辺の壁へともたれかかった。
「で、殺るの?私の事・・・」
「そう急ぐ事は無いんじゃないか?」
俺は静かに相手に近づく。・・・相手は怯えているとも、怖がっているとも言えない表情を見せてきた。
「・・ど、どうとでもしなさいよ。・・もう、分かりきってる事なんだから。」
震えた声でアリスは呟く。俺はふっ、と鼻で笑い、
「・・・よく言った。アリス。」
「え?」俺はアリスの身体をおもむろに退かした。アリスは驚いて地面へと倒れる。
そして俺は斧を振り上げ、静かにアリスのもたれていた場所へと振り下ろした。
「キャッ!」
途端に、レンガの壁が崩れ、目の前に奇妙な空間が映し出される。
「・・・アリス、あんたはこれから俺と一緒にちょいと仕事をして貰う。」
俺は静かに言った。
「え?」
アリスは槍を杖代わりにして、よろよろと立ち上がった。
「どうなっても良いんだろ?・・それとも、今此処で本当に死にたいのか?」
アリスは静かに首を横に振る。
「それよりこれは何?」
ぽっかりと空いた壁。その奥に見える奇妙な空間。・・・周囲とは打って変わり、地面には謎の紋章が描かれ、その前には巨大な鉄製の様に冷たく輝く扉があった。
「・・・あんたの探しているその宝ってのを持ち帰れば、向こうは許してくれるんだろ?」
アリスはこくりと頷く。・・俺は静かに笑った。
「それじゃ決まりだ。この奥に多分その宝ってのがあると思うぜ。」


はい。何かガラリと変えてしまって申し訳ないです。
ただなんかオリジナリティーを出してみたかったと思っていたらこんなのが出来てしまいました。

518名無しさん:2007/03/26(月) 02:06:22 ID:zK/QR0gM0
>516さん
確かに死んでしまった者が骸骨などになっている姿はよくあるアンデッドモンスターと括られていますが、
良く考えると(考えるまでも無いですが)悲しい存在としか思えません。死んでもなお生きているという不条理といいますか。
ダークリッチの前身だった屍術使いの彼が死後もまだ霊たちを慰めていると思うと…より一層ダークリッチが良い奴、いや超良い奴に見えます(笑)
語り口調の小説の書き方も良いですね。また機会があれば是非お書きください。

>517さん
最初はロゼリーの方が男をリードしていたのに、いまや既に立場が逆転。二人を繋ぐ組織やその宝物というのも気になります。
扉の先は本来のアルパスとはまた違う場所なのでしょうか。まだ何かありそうですね。
どんどん真相が分かっていく感じで、全く先が読めません。
オリジナリティーはガンガン出しちゃっていいと思いますよ(笑) それを踏まえての続きをお待ちしています。

519名無しさん:2007/03/26(月) 02:16:28 ID:zK/QR0gM0
途中で送信してしまったorz

>ドギーマンさん
戦士、カッコイイです。
ジャンプ攻撃と言うのも戦士の特権といいますかあれだけ大きな武器を持って叩き潰す…
やっぱり傍目で見ているととっても楽しそう。スパイダーマンみたいだ…。
個人的にはウルフマンの突撃系スキルもなかなか楽しそうだと思いますよ、特にスマートボールみたいな動きのスキル(笑)

520みやび:2007/03/26(月) 03:56:57 ID:yxWLPC3c0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>503さん
 構想だけと言わず、ぜひ書いてください!
 姫が牙に……はう。これだけは再現する勇気ありません(汗) どなたかに譲ります(笑)

>509さん
 メリルの設定は『傲慢でわがままで他力本願で自己中でお金大好きで面食い。あまつ
さえナルシスト』という究極なものなんですが(笑) 最初は絵的に、それが似合うのはリト
ル(お嬢様っぽいし、あくまで見た目)だろうと思いました。でもいかんせん姫リトルはプレ
イの実体験がないので、やはり文章にも説得力が出ないだろう――ってことでテイマにし
ました。
 いえ、決して自分が“無課金赤貧完ソロテイマ”だから小説上で欲求を満たそうと思った
訳では……(笑)
 これからもメリルは好き放題暴れると思うので、暖かく見守ってください。

>ドギーマンさん
 なるほど。ネタスキル(たぶん)を地でやるとこういう具合になるんですね。
 ある種ネタですが、滑稽であり狂気であり皮肉であり快楽でもある。なんだか不思議な
雰囲気でした。
 あ。天使は自分でも「ちょっと可哀相だな」と思いつつ最後まで苛めてしまいました(笑)

>516さん
 面白いですね。二重の代弁者といったところでしょうか。
 シラフで語らせるには老人はナイーブ過ぎた訳ですね――というよりは作者自身がそう
であるために、老人にはどうしても酔ってもらう必要があったのですね。なるほど。
 ――と勝手に言ってますが、聞き流してください(笑)

>517さん
 にわかに状況が動き出した感じですね。緊迫感という意味では状況の暗転、急展開は
有効だと思いますよ。気にせずにガンガン突っ走ってくださいね。
 果たして監獄の奥がどうなっているのか――その後の展開(二人の関係についても)が
気になるところですね。続き待ってます。

   *

 という訳でおはようございます。(はや!)
 いや、これからまた寝ますけど(笑) どうも金・土で生活が乱れると日・月まで引きずっ
てしまいますね(汗) で、生活サイクルを少しずつ戻すわけですが、いちどには戻らない
ので火曜、水曜……と費やしていると、またすぐに金曜が巡ってきます(ループかい:汗)
 では、おやすみなさいませ(汗)
RED STONE NOVEL−Responce――――――――――――――――――――――◇

521名無しさん:2007/03/26(月) 14:42:49 ID:xkNyOfX.0
>みやびさん
すみません、>>503>>509は同一人物です、つまりどっちも私ですorz
今までこのスレでは感想しか書いてないのですが、いい加減コテハンにした方がいいのだろうか…。
回線環境のせいでIDが変わりまくりんぐなのです(汗)
かといって皆様のような良いコテハンも考え付かない…ウーンorz

522ドギーマン:2007/03/26(月) 15:33:34 ID:AepyIIHk0
『ケルビン・カルボ手記』
>>120-121>>130>>133-135>>139>>145>>180>>193>>215-216>>247>>262>>282>>350>>410-411

■月▲日
伐木町ブレンティル
古都ブルンネンシュティグの遥か北、ネイブ滝のすぐそばにある小さな町。
この町の周囲では良質の材木が採れることで有名で、弾性に富み、柔らかく加工しやすいのだという。
私達が普段使っている物の一つには必ずこの町で取れた木材が使われているそうだ。
この町に入ってまず目に付いたのが大きな柵である。
入り口に高くそびえる見張り台も設けられたこの柵はカルデン氏が私財を投げ打って建築中の壕なのだそうだ。
彼が言うには近年町の北東の伐木場に木人達が出没し、木の伐採が出来なくなったのだそうだ。
そのために町の女子供は皆古都に非難し、現在彼は町の安全を確保するために要塞を作ろうと思い至ったそうだ。
言われてみればこの町には男ばかりで女も子供も姿が見えず、異様な雰囲気であった。
しかしいくら木人達が伐木場に現れたとしても、それだけでここまでする必要はあるのだろうか。
カルデン氏にその点について尋ねたところ、彼は今は廃墟となったスバイン要塞での戦いの生還者なのだという。
モンスターの大群に攻め込まれて全滅したというあの場所で、彼は何を見たのだろうか。
言われてみれば、町の様子はどことなくかの地に似ているようだった。
彼が言うには、モンスター達は必ず攻めて来る。だから急がなければならないという。
何か彼にしか分からない気配があるのだろうか。
何にせよ町を守りたいという彼の情熱は確かに感じられた。
しかし、そんな彼の思いも決して全ての町の人々に歓迎されているわけではないようだ。
酒場の主人などは店の前のいい景色に突然デカい壁を建てられて迷惑していると怒鳴っていた。
確かに、窓に目を向けても壁しか見えないのでは酒も美味くないだろう。
要塞の完成を静かに見守っている他の町の人も、
モンスターが団結して攻めて来るというカルデン氏の主張を決して信じているわけではないようだった。
カルデン氏の予想が外れてくれればよいのだが、
彼のあまりの熱意に私は心のどこかでそれが真実であって欲しいとも思っていた。

523ドギーマン:2007/03/26(月) 15:42:40 ID:AepyIIHk0
あとがき
ブレンティルのカルデンの話によると、
彼が若い頃にスバイン要塞で戦いがあったようです。
それしか分かりませんでしたが。
スバイン要塞の存在はミステリアスですよね。
Gvの対戦場所にも使われてますし、あのモンスターの叫びも何か関係あるのかもしれません。

524名無しさん:2007/03/27(火) 02:12:47 ID:xkNyOfX.0
>ドギーマンさん
ブレンティルとスバイン要塞にはこんな関係があったのですね。
一度クエストで行った事がありますが、確かに「伐木場」と言いつつトレントばかりだったような。
Gvは知らないもののMAPだけを見てみました。なるほどスバイン要塞は"Ruined Sbain Fortress"というMAPとそっくりですね。
叫びというのも気になる…それを聞くためだけにGvギルドに入ってみ…やめておきますか(笑)

525復讐の女神:2007/03/27(火) 04:18:34 ID:RFjVOdzo0
村長の家の中の一室に、ジェシたち3人は集まっていた。
「さて、そういうことになった。良いな、ジェシ、ボイル」
「ええ、問題ないわ」
「当然ですよ、フェリルさん。私の雄姿をジェシに見せる、絶好の機会なのですから」
肩に触れてきたボイルの手を、ジェシは払い捨てる。
この男は、ここまできてこの調子なのか…。
ジェシはあきれ果てると、ボイルから一歩遠のいた。
「それで、この周辺の地図なのだが…ジェシ、こちらを見ないか。ボイル君も、ジェシをからかってないで集中したまえ」
フェリルは怒気をはらませた声をあげ、二人の注意を自分に向けさせた。
ジェシ、は自分がいつになく集中できていないことに、戸惑った。
今、自分は戦場にいるのだ。なぜ、これほど集中できていないのだ。
戦場での迷いは、死を呼ぶ。いったん考えることを中断し、ジェシはフェリルの説明に耳を傾けた。
「まず、蜘蛛の分布は村の左右両側に広がっている」
先ほど、ほぼ全ての人間から目出してもらった目撃情報を、写し取った村の地図に書き込んでおいた。
フェリルの説明道理、蜘蛛は不自然に村を両端から挟み込んでいる。
「ひどいわね…」
ジェシは経験上、蜘蛛の怖さを十分に理解していた。
蜘蛛は、繁殖能力が非常に高く、吐き出される糸はどんな生き物だろうと絡め取ってしまうのだ。
「まったくだ。蜘蛛の集団など、見るに耐えん」
嫌悪感を隠そうともせず、ボイルは吐き捨てる。
たしかに、蜘蛛の集団に襲われるなどぞっとしない。
「うむ。そして、ここがゴブリンの痕跡が発見された場所であり……ここが、エルフの印を発見した場所だ」
フェリルが地図に、新たに印を書き加えた。
ゴブリンの痕跡は蜘蛛のいる領域に重なっており、エルフの印は、村の入り口から見て裏側、蜘蛛の領域を左右する場所にある。
「なるほど、エルフは非常に強力な魔物だ。さすがの蜘蛛やゴブリンも、避けていると見える」
ボイルの言うとおり、エルフは非常に強力な魔物だ。独自の剣や弓矢を用い、戦闘能力も高い。
エルフの印と言えば、その先へ行くものは生きて帰れないとすら言われ、戦場に行くことの代名詞として使われるくらいなのだ。
「本当に、それだけかしら?」
ボイルの言うことにも一理あると思いながらも、ジェシは納得できないものを、地図に感じていた。
「まったくその通りだ」
ジェシの一言に、ボイルはあっさりと自分の意見を取り下げた。腕を組み何度も頷く姿は、ジェシにはふざけているようにしか見えない。
フェリルもボイルと同じようにジェシの意見に頷いていなければ、ジェシはまた怒り出していただろう。
「ん? あぁ、別にふざけている訳ではないぞ。冒険の経験が一番豊富であるジェシの意見なのだ、尊重するのは当然だろう。それに、
私の出した意見も、単に思いついたことを言ったまで。いわば、あてずっぽうさ」
「いちゃつくのはそれくらいにして、まず何をするかを決めよう。ジェシ、君の意見を聞かせてくれ」

ジェシの出した意見は、現状の確認と、蜘蛛とゴブリンを出来るだけ駆除すること。
ちょうどよく分布が重なっているため、平行して行えるだろう。
問題はエルフなのだが、元々エルフの集落が近くにあったわけではないという事から、こちらに来ている数はかなり少ないと思われる。
それに、エルフの印にもいくつか種類があり、一時的なものから長期にいたる縄張りと、種類が分かれる。これも確認しなくてはならない。
長期の場合は、エルフの数によっては撃退する必要もあるだろう。
一時的なものの場合は、どれくらいの期間いつづける可能性があるか調査して、その間近づかないよう警告すればよい。

「まだ、私達は何も分かっていないわ。私としては、これくらいしか作戦が思いつかない」
少々投げやりにも聞こえるが、冒険者として長年やってきたジェシの、これがいつものスタイルだった。
臆病になってはいけない、しかし大胆になりすぎてもいけない。リラックスできるくらいが、ちょうど良い加減だと、彼女は思っている。
「ジェシの意見に、賛成だ。何をするにしても、まずは自分達の目で情報を確認しなくては、まともな作戦など作れまい」
フェリルはニヤリと笑うと、地図を畳んだ。
「さあ、明日は日が昇ると同時に行動開始だ。忙しくなるぞ」

526復讐の女神:2007/03/27(火) 04:19:15 ID:RFjVOdzo0
鎧の留め金をはずし、ベットのそばにそっと立てかける。鎧油を用いて鎧を磨きあげながら、強度やほころびを確認する。弓の弦をはず
すと、矢筒を取り出して鏃の点検をすませる。槍の刃を研ぎ、切れ味が鈍っていないか確認する。指輪を一つずつはずしては、ひび割れ
ていないか、他の指輪にするべきかを思考しながらしまう。
鎧下のまま行う作業は、見慣れぬものにとって多少変に映るかもしれないが、冒険者にとっては日常なのである。
これらの点検を、ジェシは毎晩かかさずに行ってきた。故に、いまの命があることを承知している。
すっかり装備をはずし終わり、ジェシは身軽になった体をベットに横たえた。
ここ最近、ずっと一人で旅をしてきたため、誰かと一緒に行動した今日は妙に疲れていたのだ。
知らず知らずのうちに出る嘆息は、ランプの光に照らされる部屋の中にすぐに溶け込んでいく。
村長の家と言えども、部屋の数は限られている。
ジェシは気にしないと言ったのだが、ボイルが頑なに一緒の部屋であることを拒み、都合、彼らはこの部屋より小さな部屋の中に2人で
寝る羽目になった。
「私がジェシと一緒の部屋で寝てしまうと、ボイル君が安心できまい」
いたずら顔でフェリルは言い放っていたが、これも気遣いだとジェシはもちろん気づいている。
戦いの場に赴くたびに、私は女性であるからというだけで特別な待遇を受けてきた。
戦場に立たせてもらえないこともあったし、夜に私を犯そうとしてきた輩もいた。
それが嫌で一人旅をしていたのだが、おかしなことになったものだと、ジェシは笑みを浮かべる。
胸元を飾るペンダントを手に取り、そっと中を確認すると、ぼんやりと男の名前が彫ってあるのが確認できる。
「………」
唇が意味のある動きをするが、声は出てこない。
昔の思い出であり、まだ鮮明に思い出せる後姿。
ペンダントを閉じてぎゅっと握り締めると、体を丸めて小さくなるようにジェシは眠った。

予定道理朝日が出る前に、ジェシたちは行動を開始した。
まず村の左側から確認することにし、あまり足音を大きくしないよう注意しながら進む。
「おじ様の探知能力が、頼りだものね」
見ると、フェリルの姿は既に天使のそれになっており、背中からは雄雄しくも痛々しい羽が広がっていた。
フェリルによると、羽自体には痛覚は無く、折れて欠けているという事が重要なのだと言う。
「昔は、この能力は対ジェシ専用だったのだがね」
フェリルの頭の上からは、数秒間隔で白いもやのようなものが出ては広がって消えていく。
ジェシも最近になって知ったことなのだが、このもやが間隔のバイパスとなり、たとえ姿を消していようとも気配を察知するのだ。
たとえ姿を消していようとも、この超感覚からは逃れられない。
ただし、欠点として、気配のみで察知しているため、それが何なのか、誰なのかまではわからないそうだ。
「どうですかな、フェリル司祭」
一人、宙に浮いているボイルは、あくびをかみ殺していた。
宙に浮くなんて、足場が不安定になり行動しづらいだけだと思うのだが、ボイルいわく。
「このほうが、集中できるのだよ。それに、別に足場も不安定と言うわけではないのさ」

527復讐の女神:2007/03/27(火) 04:20:20 ID:RFjVOdzo0
地面から自分の存在する座標軸を云々と、魔術師らしい薀蓄をたれていたが、あいにく私には理解できそうも無かった。
実際、宙に浮いているにもかかわらず、ボイルの足取りはしっかりしており、まさに宙を歩いている。
「蜘蛛の分布は、意外と広くは無いようだな。離れた集団も見当たらないところをみると、コボルトは群れで来たわけではなさそうだ」
「そう、それは朗報ね」
コボルトは、頭が弱く攻撃能力もそれほど高くは無いのだが、武器を使うモンスターであり、集団で行動するので十分に脅威なのだ。
「離れた集団がいない…か。フェリル司祭、あなたの探知能力の広さはどれくらいですかな?」
難しそうな顔をして森の中を睨みながら、ボイルはフェリルに質問をした。
フェリル本人には分かっても、他人にはわからない情報なため、できるだけ多くのことを事前に知っておかなければいけない。
「そうだな…ふむ、ここは村の端だが、村の中央くらいまでの半径はあると思ってくれ」
ジェシたちは今、村と山を分ける境目として使っている畑の端にいるため、正確な表現ではないのだが、村の中心からここまで、歩いた感覚では100m前後であった。
なるほど、かなり広範囲であるとみえる。
「それだけあれば、この山の向こう側までは範囲内ですな。なるほど、便利な能力ですな」
フェリルの感覚を頼りに、モンスターに遭遇しないように山の中に入っていくが、奥の山にはモンスターの気配はないということだった。
反対側の山も調べに入ったが、結果は先ほどと不自然なくらいに同じであった。
そもそも、山には熊やリーチなどの動物も存在するのが普通で、そういった動物も探知してしまうフェリルの超感覚なのだが、その反応すらないということは、どういうことだろうか。
「エルフが来たことで、逃げたのではないかしら?」
動物は、危機感知能力とでもいうべき感覚をもっているので、ここは危険だと直感的に悟ると逃げてしまうことが多い。
「いや、それにしては異常だ。本当に、一匹も引っかからん」
確かに、それでも全ての動物がいなくなるということは、ありえない。動物の中には、攻撃的なものもいるのだ。
「結論を出すには、早すぎるよジェシ。フェリル司祭、問題のエルフについて調べてみましょう」
日はとっくに上がっており、ジェシやボイルでも視線で不自然な点を調べることが出来るようになっている。
万が一などないだろうが、エルフには姿を消す能力を持つものもいるため、油断はできない。
「そうだな…む、待ちたまえ。何か、移動する生き物が現れた。エルフかもしれん」
緊張が顔に表れるフェリルの睨みつける方向にむけ、ジェシは弓を構えた。
エルフの印のあった方向だ、可能性は高いと見える。
「すぐにこちらに向かってくる様子ではないな。ふむ、効率よく生き物を見て周っているようだ」
フェリルの感覚には、エルフと思われる気配が、蜘蛛と思われる気配を順に見て周っているように感じられた。
「どういう、こと? ううん、あまりぐずぐずしている暇はなさそうね。どのみち、こちらに近づいてきているのでしょう?」
「同感だ、この場から一刻も早く逃げよう」
3人同時に、腰に下げておいた巻物を手に取り、紐を解いた。
次の瞬間には、その場から3人の姿は消えていた。

528名無しさん:2007/03/27(火) 13:25:07 ID:xkNyOfX.0
>復讐の女神さん
村人たちに依頼されてモンスター退治というストーリーが好きです。
しかし、何か正体不明のモンスターがいて様子を伺っている、そんな恐ろしい感じがします。ホラー小説みたいな…。
RSはそういえば、エルフが普通のモンスターとして扱われていますよね。他の話では比較的人間派(?)な立場なのに。
このへんにも理由があるように思えて仕方ありません。
天使のディティクはシーフの足音探知よりも広い範囲を探知できるそうですね。
スキルが上手く小説の内容に乗せられているのが面白い。続きお待ちしていますね。

529みやび:2007/03/27(火) 18:09:10 ID:yvRP3PPY0
 ●『赤い絆(一)』>>424>>436 ●『赤い絆(二)』>>477>>483
_____________________________________
◇――『赤い絆 (三)』―――――――――――――――――Red stone novel[1/4P]

 見渡す限り、干乾びた大地がどこまでも続いているだけだった。
 なにひとつ目標物はなく、方向を定めることもできないままに、ふたりはひたすら地平線
の彼方を目指した。

 男が言った。
「なあ……さっきの話しだが――本当なんだろうな?」
 隣を歩いている女は答えなかった。
「ふん。だんまりかよ。まあいい……嘘だったらお前の喉を切り裂いてやるからな」
 ふたりは一メートルほどの距離を保ったまま歩き続けた。
「本当よ……」女はぼそりとつぶやいた。「槍兵になる前は商船の護衛をしていたの。その
とき船員に、星を見て方角を確かめる方法を教わったのよ……」
「やめてくれ――船だなんて!」男は大地を蹴った。「くそっ。海水でもいいから桶いっぱい
飲みたいぜ」
「海水よ……死にたいの?」
「もう我慢ならん。喉が焼けそうなんだ……この乾きが消えるなら死んだっていい」
 そう言われると、女も確かにそう思うのだった。
「……そうね」
 それからまたふたりは黙り込み、長いこと歩いた。
 やがて女が言った。
「ねえ、あたしたち――なぜ戦っていたのかしら……」
「なんだ。暑さで頭でもやられたか?」
「茶化さないでよ……」
「わかりきってるだろ、そんなこと……。俺たちは傭兵なんだぜ? 互いに敵対する勢力に
雇われた――それだけさ」
 女は男の返答に苛立ちを覚えたが、疲れきっていて感情を表に出すことはできなかった。
「そうじゃなくて……いったい何の意味があったのかってことよ」
「仕事分の報酬を貰う意味はあったさ」
「そのあげくにこの仕打ち?」
「ああ。そうだな……ひでえ話しだ」
 ふたりが歩き始めてどのくらい経っただろうか――だが頭上のギラついた太陽はいやらし
く腰を据え、いつまでも位置を変えようとしなかった。
 彼らがいる場所はガディウス砂漠のどこかだ。方角さえわかれば、街か集落に辿りつく
のはそう難しいことではなかった。しかしそれは砂漠に住み付く者か、あるいは地図やコン
パスを持つ者だけに与えられた特権だ。
「くそう、もうだめだ――」
 そう言うと男は座り込んだ。
 女はそれを無視して歩いたが、少し進んだところで立ち止まると、男を振り返った。
 男は大地に仰向けになり、ピクリとも動かなかった。
 女は腰に手を当ててうつむき、肩をすくめると、男の元に引き返した。
「なぜ戻ってきた」男は目を閉じていたが、女の気配を感じて言った。
「だって……」
 女は男のかたわらに座り込んだ。
「ねえ、やっぱりあたしたち……もう助からないのかしら……」
「あそこで皆と一緒に死んでたほうがマシだったかもな」
 彼らがいた部隊――そして部隊を雇っていたふたつの勢力は共倒れに終った。生き残っ
たのは彼らふたりきりだった。

530みやび:2007/03/27(火) 18:09:59 ID:yvRP3PPY0
◇――『赤い絆 (三)』―――――――――――――――――Red stone novel[2/4P]

 女は天を見上げた。
 照りつける太陽が容赦なく熱を放出していた。
 もう汗さえ出ない――出るには出るのだが、空気に触れた瞬間には蒸発してしまう。
 あと数時間もすれば、彼らのどちらかは脱水症状で歩けなくなるだろう。ふたり一緒かも
しれない。だがどちらにしても、助かる見込みはわずかだ――もし夜まで生き延びることが
できたとして、夜空に星が見えなければ、だ。
「星は……見えるかな」
 男はつぶやいたが、女は答えを躊躇した。
 その代わりに切り出した。
「……この砂漠にはね、悪魔がいるのよ」
 男は緩慢な動作で寝返りをうち、女の方に体を向けた。
「突然どうしたんだよ……それとも“おとぎばなし”でもしてくれるのか?」
 女はかまわずに続けた。
「前にね……いちどだけ評議会の文献を目にする機会があったの」
「へっ、すげえや。よく潜り込めたな……」
「ううん。たまたまなのよ。偶然ある男と知り合ってね……その男は評議会に席を置く貴族
のひとりだった――スタイナーという男よ」
 聞いたことないな、と彼。
「そう……とにかく、そいつの屋敷で文献を見つけたの」
「それで……何が書いてあった?」
 女はもういちど太陽を見上げ、それから男の隣に体を横たえた。
「まるで読めなかったわ――古代の文字なんて習ってないもの」
 ふたりは力なく笑った。
 笑いがおさまると、女は続けた。
「でも――あるページだけは読めたの。あとから付け足されたように見えたわ……おそらく
文献中の、重要な部分だけを抜き出して翻訳したものね」
 男はまるで恋人にするように、女を促した。
「レッド・ストーンのことはもちろん知っているわよね。その文献によると、悪魔は石の誕生
とともにこの世に姿を現したの」
「ああ――そういえば聞いたことがあるな……。なんでもネクロマンサーとかいう化け物が、
悪魔の仮の姿だって話しだ。たしか……ハノブにある廃棄された望楼の地下に、そんな名
の怪物がいるって噂もあったな――行ったことは?」
 女は首を振った。
「でも文献にはそのことも書かれていたわ……。記述では、ネクロマンサーというのは悪魔
から派生した亜種らしいの――いいえ、悪魔から枝別れしたのは確かだけれど、種として
の成功を勝ち得なかった不具の生命体ね」
 男は嘲笑した。
「出来損ないって訳か……まるで俺みたいだな」
「自然界では普通のことよ……。絶滅してしまった多くの種は、枝葉をたどれば別な生き物
から派生してきた亜種だもの。そうやって生き物は、種を残すために可能性を探るのよ」
 男は舌打ちした。
「俺は神様なんて信じないが――目に見えない運命ってやつはたしかに存在すると思って
いる。聖書や伝説を綴った本のなかには、そうした事実の一部が記録されている――とね」

531みやび:2007/03/27(火) 18:10:54 ID:yvRP3PPY0
◇――『赤い絆 (三)』―――――――――――――――――Red stone novel[3/4P]

 男は両手を顔の上にかざして陽光を遮った。
「だがどの書物でも、神様ってやつは戒律を犯した勝者を救いはするが、欲に目が眩んだ
負け犬にメシヤはお遣わしにならないぜ? もちろん“そいつ”が本当に神様だとは思っちゃ
いないが――少なくとも、運命のレールをせっせと敷いている鼻持ちならない連中の存在
は感じるね。……たとえそいつらにお茶に招待されることがあっても、俺はネクロマンサー
の家の戸をノックするだろうな」
「それは、あたしもそうだと思うわ……。でもあたしが言っているのは悪魔のほうよ。あなた、
悪魔については?」
「さっき言った通りさ。それ以上のことはあまり知らんな。その文献になにか書いてあったん
だろう?」
 女は沈黙し、唇を噛んだ。
 そして意を決したように、口を開いた。
「悪魔っていうのはね……どうやら“死人使い”らしいの」
「“しびとつかい”……?」
「ええ。だからあたし、驚いたのよ。彼ら悪魔は人間にとって最悪の存在として伝わってい
るけれど、本当はそうじゃなかったの」
「どういうことだ?」
「やつらが糧にするのは、文字通り屍だけよ。墓を暴いて、そこに眠っている遺骨に血と肉
を与え、生前とそっくりの記憶を――あるいは別な記憶を与え、復活させるの。もちろん蘇っ
た人間は、自分がいちど死んだことには気付かないの……その部分の記憶については抜
き取られているから――。彼ら悪魔は、そうやって墓々をまわり、死者を復活させてひとつ
の集落を形成するの」

 “亡者の街”――

 そんなフレーズを思い浮かべ、男はぞっとした。
 女はさらに言った。
「――そして彼ら悪魔たちは、その集落で暮らす人々から僅かな精神エネルギーを吸って
糧にしているの。つまりは人間の家畜化ね――たとえ元は屍だとしても……」
 しばらく沈黙が続き、最初に男が言った。
「だがわからんな……。その話しが本当なら、悪魔ってのは俺たち人間よりも弱く、ときに
は悲しい存在にも思えるぜ。まるで人間やほかの生き物たちを狩る力がないばかりに、屍
を――要するに俺たち人間の“おこぼれ”をすすって生きているみたいじゃないか」
 女は目を閉じた。
「あたしね。ブレンティルの田舎で育ったの……」
「うん? また別の話しか?」
「でもね……どうしても思い出せないのよ。そんなに大昔のことでもないのに……隣に住ん
でいた人……仲の良かった友達……好きだったあの子……そして、それから……父や母
の顔さえ――」
 男が女の口を塞いだ。女の顔に覆い被さり、自分の唇を女の乾いた唇に重ねた。
 ふたりは長いことそうしていた。
 男は女から離れると、また大の字になって空を仰いだ。
「なにか感じたか? 俺は感じたぜ――俺たちはこうして生きているし、傷を負えば痛みも
感じる。馬鹿な考えは捨てるんだな。こっちまでおかしくなりそうだ」
 だが、女は泣いていた。汗はすぐにでも大気中に消えてしまうのに、不思議と涙だけは
彼女の頬に足跡を残して流れた。
「その文献にはね……こうも書かれていたの」

532みやび:2007/03/27(火) 18:11:43 ID:yvRP3PPY0
◇――『赤い絆 (三)』―――――――――――――――――Red stone novel[4/4P]

 男はやめろと言ったが、女は続けた。
「人間の屍には生前の記憶が残るの。一本の髪の毛に……一片の血肉に――でも、時間
とともにそれらは崩れ、そこに宿っている記憶も薄れるのよ。亡者を復活させた悪魔たちは、
蘇った者たちが疑念を抱かないように記憶の穴を埋め、つじつまを合わせ、とりつくろう。…
…でもそれだって完璧ではないの。なかには記憶の矛盾や喪失に気付き、自分の存在に
疑問を抱く者も出てくるのよ。ねえ、あなた……あなたは覚えている? なにもかも……?」
 返事がないので女は男のほうを見た。
 男はそこにじっとしていたが、その足は先から砂のように崩れ始めていた――。
「ちくしょう……思い出したよ――自分の記憶があやふななことを……」
 女は男にとりすがった。
「ああっ――ごめんなさい! 嘘よ……なにもかもあたしの作り話なの! だから……お願
いだから行かないで……!!」
 女は男に口づけした。
 重なり合った男と女は、砂浜に作られた砂の城のように、風に運ばれて消え去った。

 やがて彼らが横たわっていた場所に、少女が現れた。なにもない空間から、ひょっこりと
生まれ落ちたみたいに。
「やっぱり古い素材はだめね。記憶も定着しないし……」少女はこぼした。
 それから大きく息をして、「まあ、少しはお腹の足しになったけれど」と、辺りを見回した。
「それにしても、本当に何もないところね……」
 十ほどに見える少女は真っ白い肌をしていた。一枚の薄い絹で出来た衣装を通して、そ
のみずみずしさがはっきりとわかる。職人の手が創りだす彫刻みたいに端正な顔には、澄
んだ灰色の目と小さな桜色の唇――そして無垢な微笑みが貼りついていた。その背中に
翼でも生えていれば、天使に見紛うばかりの美しさをたたえていた。
「さてと……長いこと眠っていたから、お腹がぺこぺこだわ」
 小さな白い悪魔は歩き始めた。
 疲れることも、死をも知らない足取りで。

 彼女が目指す方角の遥か彼方には古都がそびえていた。






◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

533みやび:2007/03/27(火) 18:12:36 ID:yvRP3PPY0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『赤い絆 (三)』

 ――あとがき――

 今回は新しい登場人物です。悪魔なんですが、公式とはかなり異なる味付けにしていま
す。ネクロに関しては、悪魔の影として同じ幹から派生したものの、最終的には進化に失
敗した“かたわ”の存在として設定し、それを高台望楼のネクロとしました。
 と――今回はほかの面子が登場していませんが、エレノア、マリア、ミゲル老人はもちろ
んレギュラー枠ですので、今後もちゃんと出てきます(笑)

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

534みやび:2007/03/27(火) 18:13:23 ID:yvRP3PPY0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce

>521さん
 そうでしたか。こちらこそ気を使わせてしまいました(汗)
 『必殺感想人』なんてハンドルはだめですか?(ごめんなさい嘘です)
 いっそ作品を書いてしまいましょう。うんうん。それがいちばん!
 うふふ。楽しみだな〜♪ とメリルみたいな口調で言っておきます(笑)

>ドギーマンさん
 スバインとの絡みは面白いですね。
 そういえばあそこには監獄という名のMAPもありまたが――ちがったかな? いずれにし
ても「牢屋」ではあったはず。MAPの造りと、要塞に居座っているモンス(鷲とアーチャー、
あと爺でしたっけ?)も含め、なにかしらつながりを含む意味があるのかも……。
 ろころでリアルRSの話しで言えば、適正の頃はスバインに篭ってました。あの雰囲気が
とても好きで、なぜか落ちつくの(笑) 普段はBGMを切っているんですが、あそこに篭って
いるときは人も来ないし、大して重くならないからBGMはONにして狩ってました。

>復讐の女神さん
 まだ読めてません(汗) 他の方の長編のほうを読書中です。
 どんくさいなあ自分……。
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

535名無しさん:2007/03/28(水) 01:14:17 ID:xkNyOfX.0
>みやびさん
なるほど、この"白い少女たち"というのがミゲル老が出会った少女たちでありマリアなのですね。
こうして外伝のような違う話同士が頭で繋がると嬉しいです(笑) 単体で読んでも問題無い内容ですしね。
職業としてのネクロマンサーとモンスターとしてのネクロマンサー、確かに完璧に別種とは言い切れないのでしょうね。
そしてその根幹には"悪魔"という存在が繋がっている。なかなか考えさせられました。

感想文で既に拙い文章なので小説を書き出したらどうなる事やら(汗)
それでなくても皆さんの小説レベルは高いというのに…orz
何か良いものが書けるように精進します(笑)

536318:2007/03/28(水) 13:25:11 ID:kohE0f8U0
>>486
教えてくださってありがとうございます。
21R氏は作品が多く、探すのが大変だと思っていたので助かりました。
21R氏のまとめサイトがあるのであれば、まとめずともwikiからリンク
すればいいかも…?

時期が時期でRSもなかなかできなくて寂しいです。
皆様の小説を楽しみにしていますので、創作頑張ってください。

537名無しさん:2007/03/28(水) 14:15:08 ID:wce37qy60
こんな末期ゲーやってないで完美やろうぜ
http://perfect-w.jp/?rk=01001rgk001lr2
http://kanbisekai.wikiwiki.jp/
http://jbbs.livedoor.jp/game/34383/

538みやび:2007/03/28(水) 18:05:03 ID:OXKobASg0
 ●『それゆけメリルちゃん! (一)』>>504>>507
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『それゆけメリルちゃん! (二)』――――――――――Red stone novel[1/4P]

 窓からさしこむ心地良い日の光に照らされ、メリルはキッチンのテーブルでオート・ミール
を頬張っていた――いや、正確にはスプーンを口に運んだ瞬間、睡魔に襲われてそのま
まの格好で寝てしまったのだ。
「むにゃ……おかね……」
 などと寝ごとを言っていると、いきなり玄関の戸が開いた。
「おーい、今帰ったぞー」
「かえったぞー」
「たぞー」
 最初に言ったのは巨大な剣をかついだ剣士だった。
 次に言ったのは玩具の剣をかついだ子供剣士。
 次のはその弟だった。
 もっとも子供剣士は全部で一ダースほどもいて、口々に父親の台詞を真似たが、書くの
が面倒なので割愛する。
「お。なんだ母さん、寝てるのか」
 剣士はメリルの背中をバンバンと叩いた。
「うえ!? ななな、なになに!? 火事!? 地震!?」
 叩き起こされたメリルは辺りをきょろきょろ見回した。そして目の前の剣士と、家の中を引っ
掻き回している子供サイズの剣士を見た。
「えっ――」
 彼女は言葉を失った。
「おい、大丈夫か? それよりメシだメシ!」
 そう言いながら剣士はがははは、と豪快に笑った。
 子供剣士も口々に「かーちゃんめしー」とハミングした。
「え――と。あーはいはい、ご飯ね」(……そういやあたし、結婚したんだっけ……)
 なにか腑に落ちないものを感じつつも、メリルは亭主と子供たちの昼食を作るためにキッ
チンに向か――おうとしたのだが、行く手に山積みになった(もちろん泥だらけの)子供たち
の衣装が目に止まった。
 振り向くと一ダースのガキンチョは全裸で走り回っていた。
「こらあーっ! もうあんたたちは!」
「おおーい母さん、メシは?」と剣士。
「今それどころじゃありません! 少しくらい待ってなさい!」
 亭主にそう言うと、メリルは逃げ回る子供たちを捕獲して歩いた。
「わあー妖怪鬼婆だぁ」「にげろー食われるぞー」などと言いつつキャイキャイはしゃぐ子供
たち。
「誰が鬼婆だ誰がっ!」メリルは子供達を両脇に抱えると、そのまま風呂場に持って行って
湯船に放りこんだ。
「ちょ、オレ泳げないよー」「うぎゃーオレもー」
「ちょうどいいじゃない。水泳の練習でもしなさい!」そう言い放ち、メリルは風呂場の戸を
ピシャリと閉めた。
「はぁ〜……」どっと疲れが出た。まだ二十歳にもなっていないというのに、まるでいっきに
中年にでもなった気分だ。
 しかし主婦としての仕事を怠るわけにもゆかず、子供たちが放り出した玩具の剣を拾い集
め、それを仕舞うとキッチンに向かった。
 巨大な鍋で大量の食事を作っていると、またしてもけたたましい音をたてて玄関の戸が開
いた。

539みやび:2007/03/28(水) 18:05:56 ID:OXKobASg0
◇――『それゆけメリルちゃん! (二)』――――――――――Red stone novel[2/4P]

「おい、メリル! メシはまだか? すまんが急ぎなんだ!」
「急ぎなんだ」
「なんだ」
 入ってきたのはシーフだった。
 もちろん剣士のときと同様、そのあとには子供サイズのシーフが一ダース……。
「よ。お前か。追われてるのか? 今度はなにやらかしたんだ?」
 テーブルで食事を待ちながら缶ビールを飲んでいた剣士が言った。
「ああ。ちょいとリンケンの宝石店を襲ったんだが……傭兵ギルドがしつこくてな」
 シーフがテーブルに着くと、剣士はコップを出してきてビールを注ぎ、それをシーフに振る
舞った。
「ふむ。手伝いが必要か?」
 シーフはぐい、とビールをあおった。
「いや。相手は一個師団程度だ、なんとかなるだろう」
「そうか。やばくなったらいつでも言ってくれよ」
「ありがとよ――ところでメシはまだか?」
「ああ、今俺たちのハニーが作ってるところだ」
「そうか――」シーフはキッチンに視線をやった。「メリル、すまんが急いでくれ。もたもたし
てると敵の団体さんがやってきちまう」
「子供たちはどうするんだ? 後学のために連れて行くか?」
 剣士がそうシーフに聞くと、メリルはキッチンから怒鳴った。
「なに馬鹿なこと言ってるの! 子供たちはだめよ! 怪我したらどうする――」と、そこま
で言ったところで部屋の隅に山積みにされた子供シーフたちの衣装が目に止まった。
 一ダースの子供シーフたちは裸できゃっきゃと走り回っていた。
「わーなんだようかーちゃん」「やめれー」と泣き叫ぶガキンチョシーフを両脇に抱え、メリル
はそれらを湯船にたたきこんだ。
「わ! おい満員だって!」「このっ……誰の足……うぶっ」
 二ダースの子供たちを飲みこんだ湯船はパニック状態だった。

(まったく……なんだってあたし、結婚なんてしたんだろう)

 そう思いつつも、なぜか使命感に燃えながらキッチンに直行した。
 ちなみにメリルには他にも天使とウィーザードの亭主がおり、それぞれにやはり一ダース
ずつの子天使と子ウィザードをもうけていた。
(やばい。急がなきゃ……この状態であとふたりの旦那が帰ってきたら手が回らないわ!)
 メリルは電光石火の早業で昼食の支度を続けた。
 と――。

『あーあー。テステス……おい、これちゃんと電源入ってるのか?』
『入ってますよ隊長。あなたが難聴なだけです』
『そうか……うむ』

 などと、家の外から拡声機の音声が聞こえてきた。
「ちっ……追いつかれたか」シーフはそう言って窓に駆け寄った。

『おーい。きみたちは完全に包囲されている……おとなしく武器を捨てて投降したまえ。き
みたちの母親は泣いているぞー』

540みやび:2007/03/28(水) 18:07:17 ID:OXKobASg0
◇――『それゆけメリルちゃん! (二)』――――――――――Red stone novel[3/4P]

「はん。あいにくだがオレのお袋は先月笑い過ぎで死んだぜ!」
 窓から顔を出し、シーフが叫んだ。
 その瞬間、数百もの矢がシーフ目掛けて飛んできた。
「のわッ!?」
 間一髪シーフは矢をかわしたが、代わりに室内の壁や床がそれらを受けとめた。

(いやーん! 先週リフォームしたばかりなのに!!)

 ボロボロになった室内を見てメリルは腰を抜かした。
「このっ――投降勧めといて撃ってんじゃねーよ!」
 シーフが外に向かって叫ぶ。

『あー、いやすまん。手違いだ。……あれ? ……おーい、聞こえてるかあー? 本当に手
違いなんだー。もしもーし……』

「やっぱり手伝おうか?」
 テーブルで二本目のビールを飲みながら剣士は言った。
「むう……」シーフは唸った。

 すると今度は外のほうが騒がしくなった。

『なっ、隊長――本気ですか!? あいつらはまだテスト段階で、制御できませんよ!?』
『いいじゃないか……このところ地味な仕事しかしてないんだ……少しくらい目立つことした
いもん!』
『いい歳したハゲオヤジが「もん!」なんてやめてくださいよ! てかちょ――まじで使うん
ですか!?』

「なんだ……?」
 そのやり取りを聞き、シーフはそっと窓から顔を出した。
 家を取り囲む傭兵の一団の後方に、巨大な檻に入れられた大量のモンスターがいた。
 ざっと見ただけでもパブル鉱山やスウェブタワー、モリネルに巣くっている高レベルのモン
スたちが確認できた。
 シーフは叫んだ。
「おい、こりゃまずいぞ! あいつらMPKする気だ!」
「なに!? マナーの悪い連中だな!」剣士は憤慨した。
 メリルは砕けた腰で床を這っていた。
「ちょっと――どどっどうするの!? まだ死にたくないよー。ね、逃げよう!」
「ふん。騎士道精神にはな、敵に背中を向けるなんて言葉はないんだぜ」剣士はビールを
飲み干すと立ちあがった。
「ま。盗賊にもそれなりに気概ってもんがあるしな……」シーフも剣士の隣に立った。

(ああ……だめだこりゃ――)

541みやび:2007/03/28(水) 18:08:43 ID:OXKobASg0
◇――『それゆけメリルちゃん! (二)』――――――――――Red stone novel[4/4P]

 メリルはせめて子供たちだけでもと、風呂場に向かった。
 そのときだった――
 家外に目も眩む閃光が走ったかと思うと、一帯は大地震のような揺れに包まれた。
 そして聞くもおぞましいモンスターたちの呻き声――。

「ちっ――もう来やがったか!」
「いくか、相棒!」
「ちょっと、あんたたち――!」
 メリルの制止を無視し、剣士とシーフは外に飛び出した。


   *


「う〜ん……う〜ん……」
 テーブルに突っ伏して、メリルは夢にうなされていた。

『プクプクプク……』
 ああ。いったいどんな恐ろしい夢を見ているんだろう……。
 そう思い、おろおろするスウェルファーなのだった。





◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

542みやび:2007/03/28(水) 18:09:48 ID:OXKobASg0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『それゆけメリルちゃん! (二)』

 ――あとがき――

 息抜きシリーズその二です。
 前回に増して筆が走っているのはご愛嬌ということで……(笑)

 『全職と結婚してそれぞれ一ダースの子をもうけたメリル』というのが浮んだとき、すべての
亭主を登場させる気満々だったのですが……テンポが崩れそうだったので端折りました。
 夢オチなので、あまり引っ張るのもくどいだけですし(汗)

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

543みやび:2007/03/28(水) 18:10:43 ID:OXKobASg0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce

>535さん
 そういうふうに言ってもらえると、書き手としては冥利につきます。
 元々は短編執筆がメインだったというのもありますが、単体で読めるように――というのは
いつも目指してます。ただ「連作」という意識が邪魔をして、完全な読み切りに比べると個々
の話しは中途半端になりがちですが……(汗)
 書いてくれるのですか。楽しみにしてます!

>536さん
 そういえばご挨拶が遅くなりましたね(汗) Wikiのまとめ発見しました。(今頃……)
 作業、お疲れ様です。
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

544名無しさん:2007/03/28(水) 18:11:35 ID:ySeS01zM0
,.イ´| ̄`ヽr<´ ̄  ̄`ヾ´ ̄ `ヽx''´ ̄「`丶、
       / _|ノ   ├〈,.-―     ;. _  ,ゞ--'、:\___lヽ.
       ,':∨::\  /´ ̄  ̄`ヽ ヽ/´  `ヽ、-.、 \::::::::::',
 見 違  |、_;/ /  /´   ,.     、  、  \. \ \―|   同
 .え. う  ’、  /  /  ,.  / / ,ハ ',.  ヽヽヽヽ  \ヾ/   じ
 .る 板   \_/:/:/:./ , / .,' / // | l | , l: | ', ',. ! l  :',!|     板
 不 に      |/:/::/:/:/:! l | { /|:!  l l } !ノ|::,!l | :| |::|:::::::|ノ     に
 思. コ      |:/l/:/:::,|::|:{イ⌒lヾゝ ノノイ⌒lヽ|:::!::}:;!::l::::::/      コ
 議. ピ     |::/|/l::/l';:{ヾlー''!     lー''!/リノノ/::/:l::/     ピ
 な. ペ       || |:/リ、|::l;ゞ ̄´´  ,.  ` ̄" ハ:lリノノノ'        ペ
 キ す       リ |' __,⊥!、 " " r===、 " " /ノノ  ||         す
 チ る     '/´\:: : \   ヽーノ  /`ーァ-、 ヾ、.      る
 ガ と    _ /     li : . ',.`ヽ、 _ ,.イ´ /.ノ::l|  ヽ \____.  と
 イ .お /'/       |l   ヽ `Y´ / './ . :l|   |、 /  /. そ
 子. っ \l      |l,   \\_!_/ ‐ ´   、!|   | |\ ̄´   の
 コ ぱ   |      /; ´     ` ‐  ,     ヽヾ   ! \|     ま
 ピ い    |    /       ヽ::/      `ヽ |        ま
 ペ が.   |     ,'        `         ', !      だ
  ゜ .ポ.   |   |::: *             *  .:| .|       け
    ロ    |   '、:::.:.. .     ―       . .:.:::,' !       ど
    リ    ',.     \_:::.: : :_二二二:_: : : : .:.:.:.:::/ ,'        `
    と    ':、   ト、 ̄ ´.:.:.::::::::::.:.:.:.` ―┬ '′ /
          \  |l ヽ            l|  /
.             `/,'  ヽ \         ',/
            ∧ヽ   \ \:.:.:..    ∧

545名無しさん:2007/03/28(水) 18:39:59 ID:xkNyOfX.0
>みやびさん
またまた面白かったです!
登場しているだけでも4人の旦那にそれぞれ1ダースの子供。総勢52人+1人の超大家族ですね(笑)
これはメリルちゃんでも一人では流石に大変だ…ましてやシーフが旦那じゃ毎日が逃げ隠れ生活でしょうね(笑)
メリルちゃん、子作りもほどほどに…あ、夢でしたか…w

小説は…善処しますorz

546みやび:2007/03/29(木) 21:15:54 ID:rWQQIeuk0
>携帯物書き屋さん
 やっと最新分まで完読しました。(それにしても遅い……)
 とても面白かったです。
 あとがきでは再三、内容がRSに関係ない――というのを気になさっていますが、必要に
して充分なRS小説だと思いますよ。サイドストーリーのチョコ話しも、ちゃんと伏線が張られ
ていましたし。(ちなみにバレンタインは女の子にとっても「戦場」ですよ(笑))
 あるSF作家の言葉を借りると、小説が物語として成立する定義というのは『彼、または彼
女――あるいは“それ”――が、直面している問題をいかにして解決するか』というその過
程が描かれていることだそうです。
 もっともその作家にしてみれば、しかるに主人公が人間である必要さえないSFやFTといっ
たジャンルこそが、純文学やほかのあらゆる形態の小説には決して真似のできない、真の
物語を構築できる優れたジャンルである――と、文壇からバッシングを受けた際に武器とし
て投げかけた台詞なのですが。
 話しが逸れてしまいました。『孤高の軌跡』はしっかりと人物が描かれていますし、展開
も手馴れていて、読者としては続きを読むのが楽しみになりますね。
 個人的にはやはり、ニーナや翔太をさしおいてエミリーの行く末が心配な私です(笑)
 ちょっぴりリディアの活躍も期待……。(どうやって活躍するかは謎ですが、妄想の中で
はすでに翔太・ニーナと三角関係だし(笑))
 この続きも待ち遠しいです。ぜひお願いします。

>545さん
 うーん。ほら、あれですよ。ロマの民は基本的に迫害されているので、子孫繁栄に子作り
は道理なんですよ。RSの文明レベルだと娯楽も少ないだろうし……ってここマジレス部分
じゃなかった!?(笑)
 でもまあ、子剣士とか子シーフとか一ダースいたら、可愛いかもしれません。ちょっと欲し
いです(笑)
 小説頑張ってくださいね!(わくわく)

RED STONE NOVEL−Responce――――――――――――――――――――――◇

547殺人技術:2007/03/29(木) 21:52:21 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル

だいぶ時がたってしまいました、久しぶりだけど書きます。
忙しいので執筆速度遅いけどね……。
まだ覚えてくれている人いるのかなぁ……知らない人は興味あったら3冊目漁ってね。

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

548殺人技術:2007/03/29(木) 21:53:39 ID:E9458iSQ0
ごめんなさい、間違えて上げてしまいました……許してください。

チョキー・ファイル(32)

 「……終わった……か?」
 会場を埋め尽くすひんやりとした霧に乗って、カルスは呟いた
 ぴきぴきと空気が凍結する音と共に、白い帳が会場を包み、周りを確認する事すら困難だった。
 赤マントの少女も切羽詰まった顔で笛を握り締め、幾筋もの氷の槍が集束する中空を睨みつける。
 力無き身の貴族たちやアレクシス議長、商人のチョキーは物言わず、少女の顔に不安がよぎった。
 ファミリアの声が聞こえない、まさか、悪魔にやられたのか? しかし、その悪魔も見えては来ない。
 「終わっただと?」
 会場の空気が、強烈な毒気を孕んで振動し、その場の全員の肌が鳥肌を立てる。
 悪魔の声が、地下界から這い出てきたおぞましき物が、彼らの希望を粉々に打ち砕き、焼き払う。
 濃霧を吹き払いながら2つの何かが、異常な速度で床に落ちると、絨毯を貫通し、人の背2つ分ほど陥没して姿を晒す。
 磨かれた大理石を爆砕した場所には、少女の使役していたファミリアが力なく横たわり、緑の毛をその血液で赤く染めている。
 その体の上に、ぱらぱらと氷の粒が降りかかる。
 白い靄の中、ただ一点だけが、睨むように赤い光りを湛え、熱気が下々の物達を打ち据えた。
 「自分を、焼いたのか……!」
 カルスが口惜しげに唸った刹那、晴れてきた霧から飛来する火球がカルスに突撃し、カルスはすんでの所で防いだが、勢いで床に強かに叩き付けられ、気絶する。
 「ピエンドは獄炎より生まれし悪魔、成人の儀には器に注いだ炎で身体を清めるのだ」

549殺人技術:2007/03/29(木) 21:54:05 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(33)

 霧が水滴となって絨毯を濡らし、床に無様に倒れるカルスを見て、白い身体を熾らせながら、楽しそうな笑みを浮かべた。
 「ウィンディ! スウェルファー!」
 少女が暫し狼狽し、不意に頭を振って気丈に声を張らせると、右手側と左手側から光りと共に、表面を鱗で覆う巨人と、青い滑らかな布を纏う白金の甲冑が現れた。
 「ほう、サマナーか」
 燃える悪魔がそう呟くと、少女が笛で差した方向――ピエンドの心臓めがけて、2つの自然の力は重力を無視した動きで、突進した。
 まばらに残る霧をウィンディが吹き払い、立ち込める熱気をスウェルファーが冷却する。
 ピエンドは自らを包む炎を服でも脱ぎ捨てるかのように消すと、右手と左手を、それぞれ向かってくる召還獣達に合わせた
 左手には不気味に黒光りする液体が現れて、短剣の形を作り、右手には強烈な光を出して轟く稲妻が生まれ、細長い槍を形作る。
 召還獣達もそれを黙って待つ訳もなく、スウェルファーは両手に水を圧縮した鋭い剣を持ち、ウィンディはプラチナの鋭い爪をむき出しに、つむじ風と一体化して音速で悪魔の心臓を鷲掴みにするべく襲いかかる。
 「まず1匹」
 音速で間合いを詰めたウィンディの戦いは、それをさらに上回る速度――光速で終了した。
 白金を雷の槍が貫き、強烈な電撃は召還獣を一撃で葬るのに十分すぎるエネルギーを有していた。
 「いくら風の速さで動こうと、光の速さには勝てない」
 ウィンディの体が中空で分解されて、光の粒になって消えると、スウェルファーがピエンドの背後に回り込み、水の剣をマントの無いむき出しの背中に薙ぎ払う。
 だが、達人レベルの速度で背中に水の剣が食い込むよりも、悪魔が余裕を持って振り返り、左手の短剣で太刀筋を受け流す事のが速いなどと、誰が想像できただろう。
 右手の剣が流され、悪魔に対して両手を広げる格好となったスウェルファーに、左手の剣を振りかぶるより速く動く短剣を避けるなど、出来る筈もない。
 悪魔は瞬時の内に、右手でスウェルファーの頭を下に押し込み、宙返りしながら無防備な首筋を掠め切る。
 「鈍い」
 切り口から清らかな水が噴き出し、スゥエルファーが怯むことなく、回転しながら二つの剣を背後の存在に叩き付ける、しかし今度は受け流される所か、触れられもしなかった。
 今度は下方から、軽快に海を泳ぐ海豚の様に回転しながら、背中を下から上へと一直線に切り裂いた。
 今度は色とりどりの泡があらゆる角度から飛来したが、それらは全て、ピエンドの操る炎の蛇によって、全てむなしく弾けさせられてしまう。
 スウェルファーは奮闘するが、いくら攻撃してもその剣はピエンドをとらえられず、やがてスウェルファーの体が切り傷で一杯になると、ピエンドは不思議なことに、スウェルファーから間合いをとって、左手の短剣を宙に浮かべた。
 最初はピエンドの拳4つ分はあった短剣は、いつのまにかまともに持てないくらいに小さくなり、ピエンドはそれを見て笑い、スウェルファーは訳が分からないとばかりに首を傾げた。
 だが、宙に浮いた短剣が突如、火を上げて燃えた瞬間、その理由は火を見る様に明らかとなった。
 スウェルファーの傷口から、水の満ちる体内でも消える事なき炎が上がり、スウェルファーの血管を縦横無尽に暴れ、焼き尽くす。
 黒光りする、原油の短剣は黒煙を出してピエンドの手の平で消え、スウェルファーも同じ様に黒煙を上げて、最後には灰の雨となって燃え尽きた。
 少女がその一部始終を目に焼き付け、悔しげに喉を鳴らし、もう打つ手が無いと言う様にへたり込んでしまった。

550殺人技術:2007/03/29(木) 21:54:36 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(34)

 ……会場は死んだ様に静かになり、事実、そこに居る人々の目は、もう生きては居ない。
 「さて、晩餐とさせてもらおう」
 悪魔はそう言うと、下方で円を作って倒れている屍の群に両手を向け、そっと瞼を閉じると、その両手がまた、禍々しく赤く、輝き始める。
 瞬間、警備員達の亡骸に青い炎が灯り、その抜け殻を焼き尽くすと、美しい七色に輝く光球へと変貌し、それらが悪魔の両手へと吸い込まれる様に浮き上がる。
 収束した光球は悪魔の両手で一つの結晶に変わり、煌然とした光を放つ、悪魔はそれを大口を開けて頬張り、牙でかみ砕いて嚥下した。
 悪魔にとって、それはとても美味で、高尚な食べ物なのだろう、暫し悪魔は体を震わせてそれを味わい、大きく息をついた。
 後には屍は愚か、血液すら残っておらず、まるでそこで人が死んだなど嘘の様だ、しかし死んだ人は戻らず、悪魔の腹で吸収された魂は、二度と救われる事はない、いずれこの悪魔が死んだ時、新たな悪魔として生を授かるのみだ。
 「では、残りの食材も調理するとするか」
 その言葉が人々の耳に入ったその時、人々は死んだ、頼みの綱の傭兵達は戦えず、自らには力がない、外には悪魔のマントが大口を開いて待っており、目の前には空飛ぶ悪魔が、牙をむき出しに笑っている。
 だが――
 「ファウンテンバリア!」
 テーブルの下からその声が会場に響き渡った瞬間、悪魔の体を透き通った水の膜が覆い包んだ
 「――これは」
 悪魔は初めて狼狽し、テーブルクロスから一人の中年が、小さな緑色の杖を片手に飛び出した。
 悪魔を閉じこめる水の膜が強く流動し、悪魔の声がフィルターに遮断された様に、ぼんぼんと人々の耳に伝わる。
 「ふん、こんなもの……」
 悪魔は右手を自分の心臓の位置に押し当て、全身から猛烈な火炎を放出した。
 中年は負けじと、何度も何度も同じ呪文を繰り返し、その度に水の膜が厚く、強く、悪魔を押しつぶしていく。
 さざ波が光を屈折させ、霊妙なまだら模様を床に移し、その水球の中で、永遠の炎が渦を巻いている、だが、やがて水球は小さくなり、悪魔のうめき声が響く。
 「ば、馬鹿な……そんな、人間ごときに、悪魔の力が……!」
 やがて、水球は元の悪魔よりも小さくなり、完全な粒となって、消滅した。
 嘘のような静寂がそこを包み、怯えきった貴族の一人が、割れた壁から外をのぞき見る。
 宵闇が見える、マントで覆われていた夜空が解放されて、暁闇が悪魔を追いやる天使のように、緑色の神々しい光を伸ばしている。
 助かった――貴族達やアレクシス議長、護衛達は、皆一様にそれを思った。
 そして、彼らを助けた人間は、彼らにとって明らかだった。
 傭兵などより、護衛などより、警備隊などよりも、最も頼れ、最も偉業を成し遂げた、一人の商人と。

551殺人技術:2007/03/29(木) 21:55:02 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(35)

 東雲の刻、人気が無くなり、ただ置き去りにされて朝焼けに佇む崩壊したパーティー会場で、ぽつんと、瓦礫に腰を降ろす人影があった。
 貴族達はこぞってその人間、チョキーに謝礼を述べ、アレクシス議長は、チョキーと手を取り合った。
 悪魔の居場所から隔離された傭兵達も帰り、朱色の光がその残骸を照らす。
 "全く、少しは手加減しろよな、また体に戻ったとき痛いだろ"
 ファイルがチョキーの頭の中で問いかけ、チョキーは軽く謝罪する。
 昨夜、襲撃してきた悪魔の正体は、ファイルだ、ファイルはチョキーに憑依した時、抜け殻となった肉体を安全な所に隠していた、それが何処かは定かではないが、少なくとも開拓された地などではない事は確かだった。
 つまり、あの会場の襲撃で、ファイルが考えた事は全てチョキーに伝わり、チョキーが考えた事は全てファイルに通じていた。
 「だが、これでアレクシス議長と再び合う目処がついた」
 チョキーは呟き、ファイルはチョキーをよくやった、と褒めた。
 「事態が収集した後、彼は私を偉業を成し遂げたとして表彰するだろう、その一声で国会議員を集結させて、な」
 "さすがだな"
 ファイルは感心し、チョキーは一息つくと、何者かがそこへ現れた。
 「来たか、カリオ」
 チョキーは腰を上げ、汚れた絨毯の上に立つカリオの元へと近づいた。
 「言う通りの事はしたぜ」
 カリオは子供っぽい笑みを浮かべてそう言い、チョキーは同じように笑みを返した、その手に金の詰まった袋を持って、それをカリオに投げ渡す。
 「すまないな、こんな事させて」
 チョキーはすまなさそうに言うと、カリオはぶんぶんと首を振った。
 「いや、俺はチョキーさんと親父以外の人間は、どうなっても良いって思ってるからな」
 カリオはそう言い、チョキーは心の中で毒づいた。
 なんて危険思想を持ってるんだ、この馬鹿は。
 「親父、ちょっと金に困ってるらしいからな、この金は親父と山分けだぜ」
 「良かったな」
 チョキーはそう言い、カリオは振り返りながら目配せをして、チョキーに背を向けて歩き出した。

552殺人技術:2007/03/29(木) 21:55:23 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(36)

 「ちょっと待て、そのお金、やっぱり独り占めしろよ」
 チョキーが突然、カリオの背中に言葉を投げ、カリオは何事かと振り返る。
 「珍しいなぁ、チョキーさんがそんな事言うなんて、でも俺は金いらないからな」
 カリオは苦笑いし、チョキーは笑う。
 「それじゃ、俺はもう帰らせてもらうよ」
 カリオはチョキーに手を振り、チョキーもカリオに手を振るのを見て、顔を前方に戻した。
 「!?」
 カリオが目の前に佇む人影に驚いた瞬間、カリオは猛スピードで地面を蹴り、チョキーを目の前の驚異から守るべく、飛び退こうとした。
 が、足が動かない――足が、体が重い、床に吸い付いて離れない!
 「グラビティアンプリファー……」
 チョキーはカリオの背中に左手を向けながら、低い声でそう唱えた、昨夜、ファイルがやられそうになった時、チョキーが唱えた、ファミリアを地に陥没するまで突き落とし、気絶させた術を。
 カリオは首だけを後ろに捻って、そのチョキーの姿を信じられないような顔で、目撃した。
 「ククククク……やはり、悪魔だな」
 体のすぐ前に佇むピエンドがそう言葉を紡ぎ、それにはっと気付いたカリオは、目にも止まらぬスピードで右腕を動かして、鉤爪状のダートを至近距離で投げつけた。
 超至近距離での投擲は、通常の人間はおろか、熟達した暗殺者でも見切る事は至難、だが目の前の悪魔は、それをいとも容易く、片手の指2本だけで、軽く挟むようにそれを受け止めた。
 「S・Pか、こいつは知らんな」
 悪魔はカリオにとって意味不明の事を喋ると、その奇妙な形の短剣をごみでも持ったかように投げ捨てた
 「……チョキーさん! これは一体!?」
 カリオはパニックに陥って体を無茶苦茶に動かそうとしたが、動きを封じる重力は強固な物となり、既に首以外の全ての箇所が動かなくなってしまった、周囲に浮かぶ埃さえも、時が止まったかのように静止する。
 そして、そのカリオのパニックは、チョキーの次の言葉で、全て停止した。
 「その金は山分けなんか出来ない、ケブティスは私が殺したからな」
 カリオの世界が、止まる。
 カリオは首をチョキーに向けたまま、呆然とした表情でチョキーを見据え、怒る訳でも、悲しむ訳でもなく、ただ見据えていた。
 「やれ、ファイル」
 チョキーがそれと同時に指を鳴らし、カリオに掛けられた魔法が解けた、カリオはまともに受け身も取らず倒れ込み、静かにただ呼吸をするだけだった。
 ファイルがカリオの襟首を片手で掴んで、軽々とカリオの顔を自分の顔の当たりまで持ち上げる、カリオの顔の映像がファイルを通してチョキーに流れ込んだ。
 カリオは、涙も流さず、怒りも浮かべず、皺を一本も作らず、人形の様な顔をしていた、まるで、玩具の最も大事な部品を、丸々抜き取った様な顔をしていた。
 「お前は強いからな、殺すのは勿体ないんだとよ、恨むならチョキーを恨め」
 そして、もう一方の手を、カリオの背中に抱き留めるように回し、鋭く尖った爪を背筋に突き立てた。
 途端、カリオの体がびくんと跳ね、ファイルの爪から赤い線の様な何かが、カリオの体内へと侵入していく。
 カリオの体内に潜り込んだのは、ファイルの血液だった。
 ファイルの血液が、カリオの体内を尋常でない速度で巡り、それはやがて、体全体を、脳さえも、支配する。
 停止したカリオの世界が、再び動き出す。
 歯車が逆方向に回転し、目の前に広がる世界が、額縁に飾られた一枚の絵のように感じられた。
 「さあ、我が僕となるのだ、カリオ」

553名無しさん:2007/03/29(木) 22:21:34 ID:f6E.6YCQ0
殺人技術さんキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!

554名無しさん:2007/03/30(金) 03:35:32 ID:wce37qy60
こんな末期ゲーやってないで完美やろうぜ
http://perfect-w.jp/?rk=01001rgk001lr2
http://kanbisekai.wikiwiki.jp/
http://jbbs.livedoor.jp/game/34383/

555名無しさん:2007/03/30(金) 04:00:52 ID:xkNyOfX.0
>殺人技術さん
いやもうほんとに殺人技術さんキタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!
復活おめでとうございます!チョキー・ファイル、お待ちしていましたよ〜。
相変わらず、いや前にも増して戦闘シーンの描写が物凄いリアルです。
ファウンテンバリアにしろグラビティアンプリファーにしろ、ゲーム内ではさほど驚異的魔法では無いのですが
こうして文章にしてその攻撃的効果だけを見ると恐ろしい魔法に思えてきます。
重力を制すれば相手の動きを如何様にも抑え込めるし、水球で圧殺させる事も可能なんだなぁ…。
チョキー、いやファイルがついに行動開始ですね。

ゆっくりでも構いません、続きをお待ちしています!

556携帯物書き屋:2007/03/30(金) 11:11:05 ID:mC0h9s/I0
プロローグ 前スレ>645
1日目>646>692 2日目>693-694>719-721 
3日目>762-764>823-825>874-878 4日目>>34-37>>73-75
5日目>>95-98 6日目>>185-187>>227-229 
7日目>>306-310 8日目>>383 9日目>>384
10日目>>461-465
ネタ話>>123-125

あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>461-465

『孤高の軌跡』

「ニーナァァッ!!」
ニーナを切り裂いた、銀光を放つ剣が振り抜かれる。
剣を握る男は俺へと更なる一歩を踏み込んだ。
だが、男の足はそこで止まった。
そして、大きく飛び退く。
――――瞬間。数条の光が男の居た地面に降り注いだ。
何が起きたか判らないでいると、何かに襟首を掴まれた。
その力の余りに俺は倒れそうになる。半ば倒れかけながらも振り向くと、そこには――――
「ニ、ニーナ!」
何故か、斬られた筈のニーナが居た。
「引くわよ」
そう言うニーナの表情には柄にもなく焦燥が含まれていた。
「眼を閉じて」
ニーナはそう囁くと片手を男の方へ向けた。
次の瞬間、掌に光が溢れたかと思うと、その光が膨張、破裂し、激しい閃光を放ち見た者の眼を灼くっ!

同時に、体が宙に浮く感覚。

気づくと、俺はニーナに抱えられ夜の町の空を飛んでいた。
「ショウタ、閉じろって言ったのに眼を閉じなかったわね?」
ニーナの鋭い声が俺に突き刺さる。
「すまん。でもこれすごいな。まだ視界に靄がかかってるよ」
「あの男にこんな子ども騙しが効くとは思えないけど。でも、数秒の足止めにはなる筈よ。
少し卑怯だけどこれを利用して距離を稼がせてもらうわ」
「狙いはあの女の子の方か。確かにまともな人間なら効くな。例えば、俺とか」
そんな俺のくだらない冗談も無視し、ニーナは更に加速する。
恐らく、俺たちを眼で捉えられた人間がいるとしたら、それは残像程度にしか映っていないだろう。
そこで俺はふと気づく。
「おい、ニーナ。こっちは俺の家の反対側だぞ。向きを変えろ。もしかしてお前極度の方向音痴か?」
「違うわよ。もしかしてあの男から逃げ切る気でいたの? それなら気持ちを切り換えなさい」
どうやらニーナはあの男と戦う気だ。だったら俺はなんとしてでも止めなければならない。
「あの男と戦う気か? お前、さっきあいつに斬られたのを忘れたの…――――いや、待て。何で斬られたのに平気なんだ?」
考えてみれば、あれ程までに豪快に斬られたにも関わらず、今のニーナには傷1つ付いていなかった。
「斬られたのは私の分身体よ。本体は素早く避けたわ。それに、勝算だってある」
そこでニーナはビルの壁面を強く蹴り上げ、大きく飛翔した。
更に蹴り上げ、高層ビルの屋上に着地する。
ここで俺はニーナから降り、ニーナは弓を構えた。
「だって――――ここ一帯、私の射程圏内なんだから」

557携帯物書き屋:2007/03/30(金) 11:11:49 ID:mC0h9s/I0
「う……うーん」
「情けないぞリサ。あの程度の光に眼をやられるとは」
ヘルベルトと梨沙はあれから動けずにいた。
「あの程度って貴方、どうやったら防げるって言うのよ!」
「鍛えればどうということはない。それよりリサ、追うぞ。このままでは撒かれる」
「貴方みたいな化け物と一緒にしないでくれる? それに眼は鍛えられないわ」
「無駄口を叩く時間があるのなら早く眼を治せ。眼球に気を送れば治るだろう。……急ぐ故暫し掴まっていろ」
そう言うとヘルベルトは様々な装飾で飾られた鞘を取り出し、その手に握る聖剣を納刀した。
続いて体が光に包まれ、そこから銀色の鎧が現れた。
そして梨沙の所まで歩み寄ると、梨沙を片腕で抱き上げた。
「あの女たちは町の方へ逃げた。今向かえばまだ間に合う」
「ええ。でも、何も戦うのは今日じゃなくても……」
「言っただろう。叩ける内に叩くと。それに、いずれ戦う敵だ」
「そうね……」
そしてヘルベルトが一歩を踏み込もうとする刹那、天空から1条の光が大気を切り裂き2人に降り注いだ。
ヘルベルトは瞬時に反応、梨沙を抱え回転運動で回避。光の矢は梨沙が持っていた買い物袋を貫通し地面に突き刺さった。
更に追い打ちを掛けるかの如く光の矢は雨となり2人に降り注ぐ!
「くっ――――!」
ヘルベルトは全身を覆う程の大きさの盾を召喚し、それを防ぐ。
外れた矢はその外貌とは似つかない轟音の残響を奏で、地面を穿ち湯気を上げていた。
ヘルベルトは梨沙を抱え近くの物陰に飛込んだ。

「……あの女、弓の特性を生かす戦法を取って来たか」
「これからどうする気? ヘル」
「ここに居ても仕方がない。私は矢が飛んで来た方へ向かう。リサ、君はここで待っていろ」
「いえ、あたしも行くわ」
ヘルベルトは悩むように腕を組み、梨沙を見つめた。
「リサ、しかし……」
「大丈夫よ。ヘルが付いているもの」
それによりヘルベルトは悩んだような表情から困った表情に変わり、それから溜め息をついた。
「仕方がない。だがこれは危険――――!」
突如、上空から数条の矢が2人に向かって降ってきた。
瞬時にヘルベルトは梨沙を抱き転がって避ける。
物陰の外まで転がると、それを待っていたかのように数条の矢が2人を襲うっ!
瞬間、ヘルベルトの剣が煌めいた。
ヘルベルトは聖剣エクスカリバーを高速抜刀し、光の閃光を放った。
1条の閃光と数条の光の矢が衝突し、相殺し爆散する!
土煙から現れた男の顔には、笑みが浮かんでいた。
「行くぞリサ」
「ええ」
そしてヘルベルトは夜の町へ駆け出した。

558携帯物書き屋:2007/03/30(金) 11:12:30 ID:mC0h9s/I0
夜の町のビルの屋上。
冷たくも心地良い風が全身を撫でる。

ニーナはビルの端に寄り、矢を射ち続けている。
しかし、それも今止まった。
「どうしたんだ?」
俺が駆け寄ると、ニーナはこちらに体ごと振り向いた。
あの少女に買ってもらったらしい白のワンピースが、風に乗り悪戯にはためいていた。
「見失ったわ。一般人を盾にされたわね」
ニーナは落胆の溜め息をついた。
「2キロ先のこの場所からなら確実に倒せると思ったんだけど……そんなに甘い相手じゃなかったわ」
「2キロってお前、どんな眼をしてるんだよ」
俺はその事実に驚愕する。2キロ先の、しかも特定の人物を矢で狙い射ちなんて人間業ではない。
「大したことないわ。千里を見通す千里眼は、上級弓師の必要条件なんだから。
それよりショウタ、気を付けなさい。あの2人は確実にこちらに向かって来ているわ」
「ああ、そうだな……」
ニーナの言う通り、見失ってしまった以上、分はあちらにある。
姿が見えない敵が着実に近づいてくる事実は、俺を恐怖で締め付けた。
「ねえショウタ。以前言ってた、違和感を感じ取るってやつ、今できない?」
思い付いたようにニーナが問掛けてくる。
確かこれは再契約した時に話したのだった。
「いいけど、あんまり使いたくないんだよな。使った後気分悪いし」
言いながら意識を集中する。
原因は判らないが、俺は意識を集中することで違和感を感じ取ることができるのだった。
だが、できたのは2回のみで、1回目なんかは事件現場の死体に近づいたら勝手に感じられただけだ。
「――――」
瞑目し、出来る限り意識を集中する。

どれくらい経ったか、闇の世界に慣れてくると、次第に白い靄ができた。
やがてはっきりとしてきて、それは1本の線となる。
そしてそれが指す先は――――
「ニーナ、下だっ!」
叫ぶと同時にニーナが俺の襟首を掴み強引に引っ張った。
瞬間、さっきまで俺が居た地面に亀裂が入ったかと思うと、そこから光が地面を突き破り、男と少女が現れた。
「やっと、追い付いた」

559携帯物書き屋:2007/03/30(金) 11:13:23 ID:mC0h9s/I0
「このっ――――!」
有無を言わさずニーナが高速で矢を放つ。
高速で放たれた矢は魔風となり男の胸を目掛けて疾駆する!
しかし矢は巨大な金属によって阻まれた。男が盾で防いでいたのだった。
「くっ……」
ニーナがゆっくりと後退さる。俺を握る手も力が込められていた。
なんとかニーナの方へ顔を向けると、ニーナは唇を引き締め、鋭い目付きで男を睨んでいた。

「何故、届かない……」

俺にしか聞こえない囁きだった。
ニーナの表情に恐怖は無かった。在る物は悔しさだけ。
「っ――――!」
ニーナの表情にあらゆる感情の渦が流れ、再び悔しみの表情に戻り、ニーナは俺を抱き上げると背を向けて逃げ出した。
隣のビルに飛び移り、止まることなく更に飛ぶ。

仮にも1国の王であるニーナにとって、これは敗走と同じだった。
男の話が本当ならば、誰もが諦めた夢を只1人決して諦めず、その理想を追い求めたこのニーナが、敵に背を向け逃げたのだ。
この悔しさは計り知れない物だろう。

後方を覗くと、既に男たちが追って来ていた。
広いビルの森をくぐり抜け、ニーナは更に疾走する。
横には男たちが並んだ。
ニーナは俺から片手を離すと、その手に1本の槍が握られた。
そして、ビルの側面を蹴りつけた。その勢いで空中を滑空する。
男も同様にし、2色の光が空中で交差した。
行き着いた先のビルの壁面を蹴りつけ、滑空。再び男と交差する。
交差する度にニーナの連続刺突が、男の高速抜刀が、互いに炸裂し、削り合い、青白い火花を散らす。
何度目かの交差で、ニーナと男の距離が開いた。
互いに睨み合いながら平行移動をしていると、2人の間に高層ビルが阻み、互いの視界から消える。

1秒にも満たないほんの一瞬。

俺たちの行く先の高層ビルの影から、男が姿を現した。
「「なっ――――!」」
剣が一閃される。
ニーナが槍で受け止めるが、力を吸収しきれず俺たちは奈落の地面へ落とされるっ!

「ぐぁっ!」
背中に激しい衝撃が走る。
揺れる頭を起こし周りを見渡すと、俺たちは車の上に居た。
気づくと、ニーナは俺の下敷きとなり、身を挺して俺を守っていた。
見上げると、公衆の場にも関わらず男が追い討ちを掛けようとしていた。
すると下からニーナの腕が突き出、その手に光が収束し始めた。
俺が気づき目を閉じると同時に光が炸裂した。
決死の力で起き上がり、ニーナは俺を抱えたまま公衆にバレる前に人気の無い場所へ飛込んだ。

辺りのざわめきを背に人気の無い空き地に着地し、勢いを殺す為に転がる。
素早く立ち上がると、既に男たちが待ち構えていた。

560携帯物書き屋:2007/03/30(金) 11:35:00 ID:mC0h9s/I0
こんにちは。
最近執筆するときに音楽を聴いたり登場人物をアニメなどのキャラに置き換えてモチベーションを保っているキモイ人です。
今日を逃したらしばらく投稿する機会がないので急いで(?)書き上げました。
なので中途半端で終わってます。

この前自分の書いた物を読み直していたら、いままでのレスまでの表示を抜かしている所を発見したので、修正ついでに変えてみました。
まだミスがあるかもしれません。

>みやびさん
初めまして。読んでくれてありがとうございます。
自分1人にこんな長いレス付くとちょっとした感動物です。
自分のは設定上どうしても登場キャラが少なくなってしまうので、何とか1人1人に個性を持たせようとしている・・・・・・つもりです(汗
読んでいる限りみやびさんは小説が大変お好きなようですね。
自分も好きですが、純文学やSF系は正直あまり読んだことがなかったり・・・・・・。
短編メインですかぁ〜、自分は短編考えるとどうしても長編になってしまうので羨ましいです。
メリルちゃん、読ませてもらいました。
面白かったです。我が道を行くって感じがどうもw
2つ目の寝オチの方も良かったです。あんなに子を産むなんてメリルちゃん大変ですね。
頑張れギネス。
赤い絆のほうはまだなので読んだらそのときに感想を。

>殺人技術さん
お帰りなさい。待っていましたよ〜。
空いた時間に読ませてもらいますね〜。

>>521
コテハンですか。話し方でだいぶ分かるんですけどねぇ。
ID変わるのは仕方がないですね。
敢えて付けるとしたら、21RさんのようにIDを貼り付けるのはどうでしょう。ID変わりまくりらしいのでキリがいいIDのやつを。
あと、自分のキャラ名なんかを。ちょっとした有名人になれるかも・・・・・・ですw

561◇68hJrjtY:2007/03/30(金) 12:23:17 ID:xkNyOfX.0
>携帯物書き屋さん
携帯さんもお待ちしてました!やっとニーナとヘルの戦闘が読める(笑)
ショッピングといい和気藹々シーンだったのでこのまま仲間に…なんて考えちゃいましたが
やっぱり赤い石を狙うという意味では敵対せざるを得ない関係なのですよね。
ショウタ君の新能力にも驚いてます(笑) ニーナ一人の戦いだけじゃなくなりましたね。

コテハンは前スレで自分の一番最初に書いた感想のレスIDをサルベージしてきました(笑)
トリップというわけではないので◆は◇にしてあります(何の意味があるのか)。

562殺人技術:2007/03/31(土) 19:40:54 ID:E9458iSQ0
>>553
え、あ、うん、はい(謎
>>555
読んでくれてありがとうございます。
魔法もだけど、個人的には戦闘シーンはアグレッシブで、スピーディーな接近戦のが好きだったり(ぁ
好きは好きでも、書けなきゃ意味ないんですがね……頑張ったけど接近戦書くのは色々と難しい。
厳密には復活した訳じゃないので、また突然書かなくなるかもw

それにしても、最近ちょっとチョキー・ファイルがグロに走ってきちゃったんですよね……
小説としてのクオリティを維持するために(維持できてるかしらないけど)グロっていうスパイスは外せないんですが、投稿していいのかなぁ……。

563名無しさん:2007/03/31(土) 22:20:43 ID:ToQfNwBM0
>>517の続きです。

先程とは打って変わった様子のアリス。
それはまるで、悪い事が見つかって怒られている少女の様でもあった。
だが彼女には、そう言えば心に引っかかる事が一つ、あった。
「ねぇ。」
不安気な声が俺の後ろでした。
「・・何だ?」
俺は、恐らくここにあるであろう地下への扉をまさぐる手を止め、彼女の方を振り返った。
「貴方、いいえ、カレイド・・カレイドは何でこの場所を知ってたの?」
ふっ、と俺は笑い、同時に指先に冷たい金属の感触を覚えた。
「俺は見掛けは単なる冒険者だが、国の不正規戦闘を主として活動しているんでね。・・ここは先月辺りまである窃盗団が使っていた基地だ。」
アリスは静かにふぅ、と、ため息を付いた。
「・・何か、貴方に騙された感じ。」
「俺も女には何度も苦労した。」
俺はそう言いながら、ゆっくりと、その金属の取っ手を持ち上げる。・・・何かに詰まっている様な感覚、だが、それはズルっと、瞬間的に力を入れる度に持ち上がっていく。
「・・・だがあんたは運が良い。俺が別の奴ならとっくに殺されていた。」
ガポッと開いたのは、まるで下水道への蓋の様な白い石製の丸いものだった。
「・・・なんで私を助けてくれるの?」
俺はそれをその辺に転がすと、その蓋はゴロゴロと音を立てて、丸で落盤でも起きたかのような音を立て、倒れた。
「・・・さぁ。あんたが可愛いからじゃないか?」
そう言いつつ、斧の刃先を穴の中へと入れる・・・・が、中で詰まってしまった。
仕方なく俺は、斧を穴の横へ置き、腰の刀を取り出した。
「・・・それって口説いてるつもり?」
アリスはその様子を眺めつつそう言うと、はっとしたように自分も槍を取った。
「・・ここじゃデカい武器は使えないみたいだな。あんた弓が使えるんだろ?」
ポッカリと空いた穴は本当に下水道への穴の様に、簡単な梯子が掛けられているだけで、奥の方は火を持ってきても全く見通しがつかなかった。
「任せて。・・・でも、こんな狭いところで弓が役に立つのかしら。」
俺はその辺の蝋燭を一まとめにし、それに油を注いだ。ブワッと勢い良く火が広がり、火皿の淵にまで燃え移る。
「退いてろ。」
俺はぽっかりと空いた穴めがけてそれを投げた。光が一瞬消え、奥の方へと進んでいくのが見え始める。
そして、暫く落ちた後、ガシャンという音を立てて、奥の奥・・底の方で、仄かな灯りが見えた。
「底は深いらしいな。・・流石軍隊も入ろうとしないだけはあるって事か。」
「ねぇ、二人だけで大丈夫なの?」
アリスは穴の底をじっと見つめながら、そうつぶやくように言った。
「・・・行くぞ。」
俺はそう言うと、梯子をつかみ、するすると滑り降りる様に下りていった。
「ま、待ってよっ。」
アリスがそれに続き、槍の刃先を上に向けて、トントンと階段を下りてくる。
「本当に大丈夫なんでしょうね?」
暗闇の中、梯子を降りる音と共に、俺は上の方でアリスの声を聞いた。
「怖かったら帰っても良いぞ?」
「そんなぁ。意地悪。」

はいもう最初とは打って変わってgdgdです。
何か台詞→描写→台詞 っていう単調な流れが退屈かも知れません。ごめんなさい。
私は小説を書いても戦闘シーンになかなか入れない・・って言う短所があるようです。

564◇68hJrjtY:2007/03/31(土) 23:55:53 ID:xkNyOfX.0
>殺人技術さん
グロ表現ですか…個人的には全然オッケーな部類なのですが
どこまでがこのスレとしてはOKなのかの境界線が微妙なところなんですよね。エロ表現もそうでしょうけども。
今回の殺人技術さんのお話にもちょっと怖い部分はありましたが、小説のコンセプト的には必須の描写のようでしたしね。
逆にその部分を削除して書き直すというのも書き手さんにとってはストレスというか、心理的に辛いでしょうし。
やはり、「万人向けな小説を」というのが時には枷になってしまうんだろうなぁ…。

>563さん
なんかパッと見デート?みたいな感じで。二人ともどこか馬が合ってるなぁ(笑)
描写の中にセリフがあり、その中にまた描写があるという流れはとても読みやすいですよ。
何より、キャラクターの動きが分かりやすい。二人が暗い空間で穴をあけようとしているシーンなど。
漫画などで表現したりしても面白そうな話だと思いますよ。続きお待ちしています。

565みやび:2007/04/01(日) 01:56:00 ID:Lpq8JGQA0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>携帯物書き屋さん
 最初から通して読んだので、感想もその分いっきに書いてしまいました(笑)
 人物たちはみな個性的で、甲乙つけがたいですね。でもやっぱりリディアが(省略
 ごほん。えーと、前回はニーナが斬られたところで終っていたので、「ニーナやられちゃっ
たよう(泣)」と半泣きでしたが、無事だったので一安心です(笑)
 でもまだ窮地は変らないんですよね……。どうなるのかしら。どきどきです。
 しばらくは書けないみたいですが、読者が待ってますので、また続きをお願いします。

>◇68hJrjtYさん
 お名前ついてよかったです(笑)
 今後ともよろしくお願いします。(なにをだ……)

>563さん
 次第に潜ってきましたね。二人の行く手に何が待ちうけるのか、続きが楽しみです。
 あと、会話ばかりの構成も私は好きですよ。作者がどうしても「これが書きたい!」と思っ
て書いたシーンというのは、何であれ作者の感受性がにじみ出るものですから、それを読
むのは楽しいことです。今回のも退屈なんてしなかったし、もっと読みたかったです。

>エログロの表現
 こればかりは線引きのできない部分ですから、難しいところですね……。
 私の考えでは、公開する場が“○歳以下対象”と指定されていない限りは(あるいは指定
されていなくても、広く低年齢層向けと認識されていない場では)、『グロを描くことが目的の
グロ表現』をグロとし、それ以外は作者が必要と判断した表現の一部――とみる他はない
ように思えます。
 『低年齢向け』という場と『低年齢者が閲覧する可能性を否定できない』場は同列ではあ
りませんから、後者の場合、確かに作者個々の倫理は存在しても、表現の許容範囲その
ものが封印される訳ではありませんからね。

 根底に戦争というテーマがあれば残酷なシーン(細かく描写するか否かは別にして)をカッ
トしてしまっては、戦争の姿を描くことはできませんし、恋愛にしてもしかり。
 そもそも物語は“人間を描く”ことが命題とも言えますから、作者がある程度は突き詰め
た作品を書きたいと思った場合に、まっさらで無垢な面しか見せない人物ばかりを登場さ
せる訳にもゆかなくなってきますし、それでは(特種な実験小説を除き)物語として成立しま
せんからね。
 もちろんそれだけでは作者自身も体が持ちませんから(笑) 深く考えずにただ「面白い」
ものを書いたり、馬鹿馬鹿しいネタを書いたりして、バランスが保たれるわけです。

 なんて、偉そうなことを言っても、やはり難しい問題ですけれど(汗)
 そこに悪意がこめられていない限りは、それが『エロを描くことが目的で書かれた壮大な
物語』なのか、それとも『エロで表現された大河ドラマ』なのかは、本当の意味では作者に
しか判別できませんからね……。

 実は今、読み切りを書いている最中なのですが、ちょっとばかりラブ・シーンがあります。
 どこまで表現しようかしら……。と、削っては書き、削っては書き……お馬鹿な脳味噌を
絞ってのたうりまわっております(汗)

 ほか、まだまだ読めていない作品もあります。遅くてごめんなさい(汗)
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

566みやび:2007/04/01(日) 06:27:01 ID:1EW0XVR.0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>復習の女神さん
 感想が遅くなりました(汗) たった今完読いたしました。(本当に遅いわ……)

 最初のほうに書かれている短編の二連作、感傷的で私好みでした――と思ったら、そ
のまま長編になったのですね。
 ところで不躾ですが、最終的にタイトルは『優しき瞳』を引き継いでいるという認識で良い
のでしょうか? 作品だけをピックアップしていたので、途中のレスで話題にあがっていた
のなら、見過ごしているのですが……(汗) だとしたらごめんなさい(泣)

 それはさて置きまして、面白かったです。
 街の日常や道具が丁寧に描かれていて、感心しました。これは登場するモンスターにつ
いても同じ。自分の作中ではそれらの扱いがいかに粗忽か、思い知りました(汗)
 あとはなにかにつけ、知覚に頼った描写がさりげなく出てくるあたりも、文体に奥行きが
出ていますね。ここでもまた自分の無機質な文章に気付いてしまったりして……。
 うわあ、感想じゃなくて愚痴になりそう(汗) やばいやばい。
 続きが楽しみです。散りばめられた伏線――別名『時限爆弾』ともいいますが、それがい
つ起爆するのか、あるいは自分の予想通りなのか……妄想しつつ次回を待ちたいと思い
ます。

   *

 またしても週末パターン……徹夜してしまった……(汗)
 そろそろ書きかけのやつに手をつけねば。この勢いで書くか!


 すいません勢いで言ってみただけです(汗) たぶん睡魔に負けます……。(敗北宣言)
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

567殺人技術:2007/04/01(日) 12:47:59 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル

>>564-565
 うーん……その通りです、グロといっても少年マンガに出る程度のグロならいいのか、でも小説だと想像しちゃうからそうでもないのか、分からないんですよね。
 でも、エロ表現入れるつもりはないし、とりあえずグロも……HU○TER○H○NTERと同じくらいなので(それって結構まずくないか?
 勇気を出して投稿します、苦情あったら止めますが。

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

32-36>>548-552

ちなみに今回はなぜかすらっと書けたので短いです。

568殺人技術:2007/04/01(日) 12:48:28 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(37)

 まだ建設されて間もないこのビガプール王宮は、大理石が鏡の様にそこに佇む人々を写し、金糸で縁取られた赤い絨毯は、どこまでも高貴な輝きを保ち続けている。
 王宮では帝王を初めとしてその王族、家臣達、名だたる軍師や召使い等、数え切れない程の人間が闊歩している。
 そこに下賤な人々や、卑しい商人達が入る余地はなく、王宮のあらゆる出入り口は頑健な警備兵達が四六時中見守っている。
 だが、ある一人の男性――それも若々しい青年が、意図も容易くその目をくぐり抜け、侵入して見せた。
 一直線に伸びる回廊に一陣の風が吹き抜け、何もない所から聞き分ける事も難しい足音が小さく響く。
 魔術兵はその気配を察知して警戒するが、声を上げる間もなくその口を封じられ、気絶させられていった。
 その一人の知られざる侵入者が目的の人物を捜し当てると、絨毯に踵を沈め、完全に空気と同化してその人物の背後に回り、首筋にかぎ爪状のダートをあてがう。
 「動くな、喋るな、殺す」
 何者かに突然羽交い締めにされたその男性は、簡潔な言葉を耳元に囁かれ、体から血の気がさっと引いていくのを感じた。
 男の体が絨毯の上でも音を立てる程に震え、それを脅迫する青年――カリオは、透明になっていた黒ずくめ姿を蜃気楼の様に晒し、手に持ったダートを一瞬だけ振動させた。
 男の首筋に赤い筋が刻まれ、そこから一滴の血が垂れ下がる。
 「俺の質問に単純に答えろ、ひとつ、お前はこの王宮が完成する前、宝物庫の清掃員として働いていた人間で間違いないな?」
 カリオの口から毒気と共に言葉が発せられ、男は目に薄く涙を浮かべた。
 彼はカリオの言うとおり、宝物庫の清掃員をした事があり、今では家臣として一つの座を得る程まで出世していた。
 「あ、あぁ、確かに俺が宝物庫の掃除を――」
 「御託は述べるな、殺すぞ」
 男が震える口で紡ぎかけた言葉をカリオが両断し、男は首筋にあたるダートが冷たくなったのを感じ取った。
 「そうか、ではふたつ、お前が見つけたレッドアイの契約書、あれは当時の大臣に見せた後、どうした?」
 男はレッドアイ、という言葉を聞いて、背後の男が何を聞き出そうとしてるのかを察知した。
 「はは、そうか、レッドアイか、知らねぇよ」
 男は焦燥の余り"言ってはいけないこと"を言ってしまい、それに気付いた時には、もう遅かった。
 「……!!!」
 「言え、今度は肩を落とす」
 肉が裂け、骨が抜き出される低い音が響き、男の口から絶叫が迸るが、それはカリオの左手で強固に遮られ、苦痛に顔を引き絞ると共に、額から脂汗が溢れ出す。
 カリオの右手が一瞬だけ首から離れ、かぎ爪状のダートが男の右手を手首から切り落としたのだ。
 男は一瞬気絶しそうになるも、カリオがそれを許さず、何らかの治癒魔法でも掛けられているのだろうか、意識はより鮮明となり、痛覚が直に体を打ち付ける。
 「……ア、アアア、ア、アレクシス議長だよ、そいつが……変な格好したジジイ達と来て、もも、持っていったんだ」
 男は全力を振り絞ってそう言い、カリオは暫し押し黙ると、一呼吸置いてまた口を開いた。
 絨毯の上で切り取られた手首が血を吐き出し、赤い絨毯をさらに赤く染め上げる。
 「分かった、では最後の質問だ、これに答えられれば解放してやる」
 男はそれを聞いて苦悶の表情に微かな安堵を浮かべ、全身の筋肉が弛緩して倒れそうになるが、カリオに捕まっているおかげで倒れなかった。
 「お前、俺が解放してやった後、どうする?」
 カリオはそう言い、男の中でその言葉が渦を巻いた。
 解放されたら? そりゃあ――
 「…………!!……」
 「そうか、ありがとうな」
 男は息を荒立てながら後ろの人物に引きつった笑みを送り、カリオもそれに答えるように影が掛かった顔に笑みを浮かべた。
 男の笑顔が断末魔と共に吹き飛び、鈍い音を立てて絨毯にそれが落ち、二転三転と転がって、冷たくなった笑みの残骸をカリオに向けた。
 カリオは無表情でダートについた血潮をマントで拭き取り、幻影のように姿を消して、元来た道を帰っていった。

569殺人技術:2007/04/01(日) 12:49:16 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(38)

 「よくやった、カリオ」
 カリオがビガプールの一角に佇む宿屋、その一室に入ると、中で待っていたチョキーがそれを迎え入れた。
 中は豪華絢爛、という訳ではないが、なかなかにしっかりした作りで、入って少し進むと艶やかな机と幾つかの椅子が置かれていた、机の上には花瓶と色とりどりの花が置かれ、カーテンの隙間から昼の日差しが差し込んでいる、ベッドは他の個室に置かれているらしい。
 「もう拍子抜けだよ、王宮の癖に警備が全然なってない」
 カリオはチョキーに家臣の男から聞いた事を一字一句間違えず告げ、チョキーはそれを腰掛けて静かに聞く。
 傍らにはチョキーの中のファイルが作り出したファイルの幻影が佇み、それはチョキーとカリオ、または同族の悪魔か、天使にしか見えないらしい。
 「アレクシス議長か……そのジジイ達というのは恐らく古参のレッドアイ幹部達だな、現レッドアイ長老も居るかもしれん」
 チョキーは考えを張り巡らし、カリオは溜め息を吐きながら椅子に座る、その立ち振る舞いや挙動には以前の無邪気さや子供っぽさがそっくりそのまま残っているが、どこか雰囲気が違う、分かる人にしか分からない、という程度だ。
 ”そういえば、あの鍛冶屋の男に、なんか紙貰っただろ、あれはどうなんだ?"
 ファイルが木製の壁に凭れかかる形で言い、腕を組んで机の上の例の紙を見た。
 「既に目を通した、何故か必要以上に頑張ってくれたが、鑑定結果は下の筆跡が、当時のレッドアイ長老の物、上の筆跡は――」
 チョキーはもったいぶって言い、ファイルとカリオが顔を乗り出す。
 「当時のブルン王朝の、国王」
 チョキーがそう言うと、ファイルとカリオは、そんな事わかってる、という様に溜め息をついた。
 「――に極限まで似せた、全く別の人間の物だ」
 だが、チョキーがそう言うと、ファイルとカリオはほほう、と息を巻き、チョキーは続けた。
 「これが誰の物かは後で言うが、現時点で判明した事実はある」
 「ブルン王朝は、誰かにハメられて滅亡したって訳か――でもそれがなんで今残ってるかってのは、結局分からないな」
 カリオはそう言い、しかしチョキーはかぶりを振った。
 「いや、分からない訳でもない、これがブルン王朝、ひいてはそれの後を継ぐ全ての勢力を失墜させる為の物なら、これを今日まで保管していた人物、そいつがこの紙を作った事になる」
 チョキーは言い終わると、カリオは話についていけないというように唸り、ファイルは再び溜め息をついた。
 "それってつまり、簡単に言えば、その紙の上にある本当の筆跡の持ち主が、全ての黒幕って事だろ? 誰なんだ、そいつ"
 ファイルはチョキーをせかすように言い、チョキーは机の上の荷物を纏め、椅子を立った。
 「あぁ、そいつにはアルバートを送っておいた、恐らくもうすぐ来るんじゃないか?」
 "アルバートって……ていうかそれって何百年も前の紙じゃ……"
 ファイルが聞き慣れない人物の名前を聞くと、宿の扉が外側から、恭しく叩かれ、宿員の男性の声が響いた。
 どうやら、来客が来たらしい、だが宿員の声はどこか強張っており、来た人間が少々独特な人物である事を匂わせた。
 「入れていいぞ」
 チョキーが声高に言い、宿員は扉を開けて"二人の"客人を招き入れた。
 それを見てカリオは怪訝な顔をし、ファイルは慌てて幻影を消す、見つかるかと思ったからだ。
 「こんにちは、新年会ぶりですね、チョキーさん」
 「……こんにちは」
 淡い緑色の法衣を着た大柄な体躯の男は礼儀正しく挨拶し、その後ろで筋肉質な足にしがみつく人形の様な、奇妙な面を付けた少女は、それにならって挨拶をした。
 「その節はどうも、アドナイメレク」
 チョキーは笑顔で挨拶した。

570みやび:2007/04/01(日) 18:28:26 ID:FDYPs5QQ0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>殺人技術さん
 こんにちは。
 完読してから感想を寄せるつもりでしたが、グロ表現についてのレスということで、ひとま
ず今回の分だけ読みました。
 といっても、私はおそらく感覚が麻痺してしまっている部分があるかと思います。
 つまり、自分の中ではグロ判定センサーが確かに作動しているはずで、たとえば戦場カ
メラマンが撮影した写真を見て「酷い」という感想を抱いても、それを真実として受け入れて
しまうので、その場から逃げ出したり、あるいは目を背けたり――ということがないのですね。
 たぶん素で人体解剖を見学できそうです……(汗)
 あくまでそういう意味での“麻痺”であって、グロいものを見て“気持ちよく”なったりとか、
精神が“高揚”したりとか……そういう“麻痺”ではありませんので(汗)

 それを踏まえたうえで感想を言うと、おそらくレッド・ゾーンには入っていないかな。という
のが率直なところです。
 もう少し踏み込んでも大丈夫なようにも思えます。

 しかし最終的には、それがどの程度のグロであるかは、受けとめる読者の感受性と想像
力に依存していますから、単に「首を切り落した」と書いたものと、その様を詳しく分解して
解説するような描写を書いたものでも、たとえば感受性の鋭い人が読めば前者で目を背け
てしまう場合もあります。(しごく極端な例えですが)

 なんだか答えになっていませんね(汗)
 少なくとも私は許容範囲です。(だらしない感受性の持ち主ですが……)
 あとはもう、『グロ描写が目的ではない』という、自身の良心と倫理観をまっとうするしか
ないのでしょうね。私もそうするつもりです。
 それと気休めかもしれませんが、単純に文章中のグロ描写が占める割合で評価する、と
いった方法もひとつの手なのかな? とも。自分の中で全体の3割りまでなら許容範囲と
決めておく――とか。
 建設的なレスにならなくてごめんなさい(汗)
 チョキー・ファイル、これから通しで読みたいと思います。感想はのちほど。

   *

 付け加えてひとこと。
 最近の子供は心が脆い、のではないかと心配になります。
 精神的に最も成長できる多感な幼年期を、親の過保護と怠惰という名のもとに作られた
温室の中に引き篭り(または囚われ)、悲しくも無駄に過ごしているのではないかしら。と。
 良いことも悪いことも、美しいものも醜いものも――光りと影をつぶさに目撃することでしか、
人は自身の感受性のヒダを増やせないというのに……。この先どうなってしまうのでしょう。
 そう考えると、小説も好きなことが書けなくなってきたなあ、と感じます。
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

571◇68hJrjtY:2007/04/01(日) 18:42:10 ID:vdSRPw4w0
>殺人技術さん
チョキー・ファイル、どんどんと国家の裏側の事実を暴いて行く話になっていますね。
最初はファイルの命令で動いていた感じのチョキーが、チョキー自身の行動のようなものも多くなってるみたいですし。
カリオも好きだったのでメインキャラ的になっているのが嬉しいです(笑)
アドナイメレク、優しいBISおじさんが実は…ですか。となると、カイツールも何かあるのかなぁ…?
続き楽しみにしています。

グロ表現のイメージはハン○ーハ○ターですか(笑) 富○さんの作品は私も確かに好きだなぁ…。
個人的には肉体的グロと言うと寄○獣を思い出すのですが、あれも古い漫画ですしね(苦笑)

572みやび:2007/04/01(日) 21:02:42 ID:MrwYesO.0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>殺人技術さん
 チョキー・ファイル完読しました。
 いやあ楽しませてもらいました。あらためて全体を見てみると、やはり私の感想としては
ほどよいグロだと思いました。
 しかし舞踏会に出現した悪魔の姿は圧巻でしたね。SFXを駆使して映像にしたら面白い
だろうなあ、なんて、どきどきしながら読みました。立ち回りそのものが映画的でしたね。
 チョキーとファイルが同化してゆく様も、とても興味深かったです。
 ただカリオは少し――彼自身の言葉が証明している生い立ちからして悲哀なのですが―
―可哀相だったかも。と思ってはたとして、よく考えるといちばん悲惨なのはチョキー(とファ
イル)だったのねと気付き、なんとも複雑です(笑)
 もちろん、これらは肯定的な意味の感想。
 しかしこのままゆくと、とんでもないスケールの展開になりそうで、すごく楽しみです。
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

573意気地も名も無し:2007/04/02(月) 22:32:26 ID:Bo.D9pLc0

こんなスレがあったとは。
と言うわけで、
自分のブログで連載している小説を載せてみます。


3月28日
以前冒険を共にした、追放天使のゲールさんから便りが来た。
久々のダメルへの道のり。
ダメルのオールドパブの秘密通路。
以前よりちょっとたくましくなった、彼が迎えてくれた。

「危険なのは分かっているが、レッドアイに入団して、REDSTONを探してくれないか」
彼は私の顔色を疑うように言ったが、
元々暇人な私に断る理由もない。

自己紹介が遅れた。
私はスマグのウィザードギルド出身の・・仮にKとしておこう。

3月29日
グローティング酒場で入団を試みる。
大丈夫だ、私はどこからどう見てもウィザードにしか見えない。
と言うかウィザードなんだ。ウィザードに見られなかったら泣くよ。
それに、ゲールさんから貰ったレッドアイの指輪もある。
これさえ在れば、団員との接触も楽な筈だ。
「あの・・レッドアイに加入したいのですが・・これを持ってます」
キラリと光る指輪をちらつかせる。
「そ・・それはダイヤ!?会長に賄賂を送ろうというのか・・・
正々堂々と生きなきゃいかんよ?」
駄目だ 話にならない・・・


「レッドアイに・・入団?」
六人目にしてようやくまともな返答が返ってきた。
あれこれ話したが、どうやらスウェブタワー最上階にいるアイノ・ガスピル会長に
会う必要があるらしい。
以前立ち寄ったが、あの威厳たっぷりな老人か。
あまり接触はしたくないが、やはり会長に接触しなければ入団はあり得ない。

今日は、酒場で夜を明かすとしよう。

3月30日
今日はスウェブタワーへ。
以前も来たが、相変わらずの威厳と魔力を外界に放っている。
この最上階に会長がいるのだが、何しろここのモンスターは強い。
まだレッドアイの団員でない私は、途中にいる魔法師に焼かれて死ぬ可能性もある。
通路を通れば基本出くわすことはないが、たまに通路にいる迷惑なヤツがいる。
自らに空気抵抗を無くす魔法をかけ、モンスターを避けて最上階へ走った。


・・・着いたはいいが、アイノ会長の姿がない。
まさかあの子供・・?そんな馬鹿な・・フッ。家にでもいるのだろう。
とりあえず危険だからあの子を非難させるかな?どうやって来たんだ・・
どっかのウィザードにイタズラされたのか?可哀想に・・
「ねぇ、君・・危ないから、おうちへ帰ろうか?」
「・・・君、ずいぶん強そうだけど、入団希望者?」
・・・何ですと?
「レッドアイのこと・・知ってるの?」
いや、まさかだよな。こんな子供が・・ハッ!(笑
「知ってるも何も・・ボクが会長だ。」

装備を全て脱ぎ捨て、素っ裸でトラン森中部に向かったが、
途中で冒険家に止められた。




少々元のメインクエストと違うところがありますが、
その辺はアレンジなのでよろしくお願いしますorz

574意気地も名も無し:2007/04/02(月) 22:34:37 ID:Bo.D9pLc0
誤字・・orz
REDSTONってなんですか・・
REDSTONEに脳内変換お願いしますorz
連投すみませんでした

575みやび:2007/04/03(火) 00:08:02 ID:nvbHub9s0
 ――本編紹介――
 ●『赤い絆(一)』>>424>>436 ●『赤い絆(二)』>>477>>483
 ●『赤い絆(三)』>>529>>532
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――赤い絆番外編 『愛のしじまに』―――――――――――Red stone novel[1/9P]

 広大なガディウス砂漠の一画に、ひっそりと咲く砂草のような集落があった。
 通称《砂漠村》と呼ばれるリンケン村だ。
 これといった産業もなく、また美しい村でもなかったが、北西の都市アリアンと南東地域を
つなぐルート上にあり、特別な理由を除いては旅人が必ず通過する集落だった。

 ある日の夕刻、居酒屋も兼ねる村の宿屋には男の語気があった。
 身持ちの悪そうな流れ者が、酒に酔って踊り子にくだを巻いているのだった。
「もうおよしよ、あんた!」宿のおかみは男に言うと、踊り子のほうを見た。「あんたもいいか
ら……さあ、おゆきよ」
 立ち去ろうとする踊り子の手を男が掴んだ。
「けッ、なにが踊り子だ。ただの商売女じゃねえか!」
 男の言ったことは当っていたが、彼女は好きで娼婦をやっていた。もとより性格の悪い酔っ
ぱらいを相手にする気などなかった。
「ちょっと……痛いってば! いい加減にしてよ!」女は男の手を振り払い、その酔っぱらい
を見据えた。
 男は太った腹をさすりながら、下品な声を立てて笑った。
 そこへひとりの旅人が現れた――。
 砂漠の乾いた夜気を連れ、まるで悠久の旅路に出た者が我が家に生還したようだった。
 旅人は初老のようにも見えたが、がっちりした体を支える足取りは確かで、腰には使い込
まれた剣があった。
 多少なりとも眼力のある人間なら、ひと目で彼がただ者でないとわかるだろう――その顔
に刻まれた皺は老いの兆しではなく、むしろ彼に経験という深みを与える漆なのだ。と、そ
んな風に。
 剣士は戸口に立ち、目の前の光景を一瞥すると、無言で近くのテーブルに座った。
 それから踊り子を見て、しゃがれた声で言った。
「あんた……踊り子だね。どうだい、ひとつ酌を頼めるかな? 代金は弾むよ――それとお
かみ、酒を頼む」
 おかみは口を空けて放心していたが、踊り子はニヤリと笑い、目の前の酔っぱらいを見た。
「そうね。あの剣士さんになら、タダで抱かれてもいいかな……でもあんたはお断りよ。死ん
でもね!」
 踊り子は酔っぱらいに背を向けた。
「調子に乗るなよ……このアバズレがっ!」
 酔っぱらいが叫ぶのと同時に、踊り子の背後でメリメリと何かが避けた。
 男が巨大な斧をカウンターに振り下ろしたのだった。
「ちょいと――!」台無しになったカウンターを見て宿のおかみが叫ぶ。
 反射的に振り返った踊り子は我が身を抱いて立ち尽くした。
「ぐへへっ……」
 男は涎をたらしながら、ふらつく足でカウンターに突き刺さった斧を引き抜いた。
「ねえ……なにする気? 落ちつきなよ……」
 踊り子の顔は青ざめていた。
「冒険者に奉仕するのが仕事だろうが……だったら俺の部屋に来い」
 斧のにぎりを確かめると、男は足を踏み出した。

576みやび:2007/04/03(火) 00:08:56 ID:nvbHub9s0
◇――赤い絆番外編 『愛のしじまに』―――――――――――Red stone novel[2/9P]

 その直後――。
 踊り子の脇を黒い風が駆け抜けた――テーブルに座っていたはずの剣士だった。
 音もなく、まるでヨークみたいな身軽さと速度で酔っぱらいの間合いに飛び込むと、持って
いた剣の“つか”で太った腹を一撃した。
 酔っぱらいは呻き声をあげる間もなく気絶し、糸が切れた人形のように崩れた。
 その場に凍りつく女たちをよそに、剣士は何事もなかったかのように静かに言った。
「おかみ……」
「えっ――ああ、はい」
「修理代はこの男の持ち物からでも失敬するんだな……。なに、この様子じゃ叩けば埃が
出るだろう……明日の朝一番でアリアンの傭兵にでも引き渡せばいい。この村に男手はあ
るか?」
 おかみは首を縦に振った。
「じゃあ今すぐ呼んで、こいつを蔵にでも放り込め。それと酒だ……」
 おかみは何度も首を振り、慌てて人手を呼びに行った。
 剣士は無言でテーブルに戻った。
 ややあって、我に返った踊り子は剣士のもとに駆け寄った。
「ありがとう、剣士さん! 強いんだねえ、あんた」
 女がそう言って自分の向かいに腰を降ろすと、剣士は怪訝な顔をした。なぜ彼女が自分
のテーブルに座るのか、理解できないといった様子で。
 女はきょとんとし、それから吹き出した。
「やだ、あたしに酌を頼んでおいて!」
「ああ――いや……きみを助けるためにああ言ったつもりなんだが……」
 剣士は少しばかり照れているようにも見えた。そこがまた女の感受性をくすぐった。
「何にしても同じさ。あたしは助けてもらったんだから、お礼はしなきゃね」
 そうして剣士にウィンクした。

 おかみが戻ってきて酔っぱらいが運ばれると、剣士と踊り子は酒を酌み交わした。
「私の名はホルス。見ての通りただの老いぼれさ……」
「あら、とてもすてきよ……あなた」
 ホルスは困惑した。女性を前にして頬を染めるほど“うぶ”ではなかったが、ひとり旅が長
かったせいか、他人との接し方を思い出せずにいたのだ。だから答える代わりに酒をあおっ
た。
 女は微笑し、頬杖をついてそれを眺めた。
「でも聞いたことないな……変ね、あなたほどの腕なのに」
「変じゃないさ。称号が強さの証明書であるのは事実だが、それを持たないことが弱さを表
すというわけじゃない。称号を持たない猛者は大勢いるし、そのなかには私より優れた剣士
が五万といるよ」
「ふうん……。それでもみんな称号を欲しがるのね」
「武器を手にする人種は馬鹿なのさ。人間的にはね」
「それでもあなたは好きよ――あたしはフェアレディ」
 男は納得したように唸った。
「レディ“淑女”か……なるほど美しい」
「優しいのね……でも男たちの前ではたしかにレディ“姫君”よ」
 フェアレディはグラスを空にすると、微笑んだ。その笑みは本当にお姫様のようだった。
 おそらくは二十代半ばだろうが、彼はあえて女の歳を想像しなかった。彼女が十五の小
娘であれ、中年の女であれ、手入れを怠らない肌とそれに宿る感受性は間違いなく淑女で
あり、称賛に値する明朗さをたたえていたからだ。そして実際に彼女は美しかった。

577みやび:2007/04/03(火) 00:09:40 ID:nvbHub9s0
◇――赤い絆番外編 『愛のしじまに』―――――――――――Red stone novel[3/9P]

「ねえ、ホルス……まだ部屋はとっていなのでしょう?」
 女はホルスの手を握った。
 彼女の台詞が意味するものはひとつしかない。それくらいは粗野な男にもわかった。
「すまん……その――きみほどの女性だ、いくらお金を出しても惜しいとは思わないが」ホ
ルスは女の手を優しく握り返した。「あいにくとそういうのは何年もご無沙汰でね……きみ
をがっかりさせたくない」
 女はくすくすと笑った。
「勘違いしないで。あたしは好きで娼婦をしているのよ。寝たいと思った男は必ずものにす
るし、お金なら踊りで稼げるわ……。それに女を満足させるのは、なにもテクニックだけとは
限らないのよ。ときには愛情だけで絶頂できるのが女だもの……あなたみたいに優しいひ
とが相手の場合はとくにね」
 娼婦は優しく微笑み、まるで母親のようにささやいた。
「だから、ね……恐がらないで――」


 星に見守られた砂漠の静寂に、飢えたヨークの遠吠えだけが響いていた。
 娼婦は窓辺に立ち、月明かりで青く染まった横顔を剣士に向け、微かに聞こえて来る遠
吠えに聞き入った。
「昼間の彼らはあんなにも獰猛で恐ろしいのに……なぜ夜の遠吠えは悲しげに聞こえるの
かしら」
「連中は犬とちがって群れを作らないからな。どんなに誇り高くても、夜になると孤独が寂し
くて鳴くのさ……」
 産まれたままの姿で立つ娼婦の体を鑑賞しながら、剣士はベッドのなかで答えた。
「あなたもそうなの……?」
 フェアレディはランプに火を入れると、ベッドにもぐり込んだ。
「私も前はそうだったよ……今では孤独の意味さえ忘れてしまったがね」
「嘘つきね……」
「本当さ」
「そっちじゃなくて――あなたはちっとも“弱く”なんてないわ」
 男の胸板に顔を寄せると、女はうっとりしたように目を閉じ、その逞しい筋肉に頬擦りした。
「私に花を持たせてくれてるのかな? 言っておくが、私はきみの父親でも通る歳だぞ」
「あたしは満足してるの……それだけよ」
 ホルスは黙って女の頭を撫でながら、窓の向こうに見える月を見つめた。
 その脳裏に、遠い昔の記憶が蘇る。
「ねえ……なにを考えているの?」あるいは夜をともにするという行為が、人になんらかの
読心術を芽生えさせるのだろうか。娼婦はたしかに男のなかの奥深くを駆け抜ける、記憶
の残滓を感じ取った。それは不安と予感を連れた冬の風に似ていた。
 男は黙っていた。
 女は男に馬乗りになると、その腹に顔を寄せ、胸にキスし――首に、くっきりとした形の
顎に、そして意思のこもった唇に、やわらかな自身の唇を這わせた。
「あたしに話してごらんなさい……いい子だから」
 男は女を抱きしめた。

   *

 あれは……そう、あれは私がまだ、駆けだしの冒険者だった頃だ。

578みやび:2007/04/03(火) 00:10:22 ID:nvbHub9s0
◇――赤い絆番外編 『愛のしじまに』―――――――――――Red stone novel[4/9P]

 当時の私には相棒がいてね――カリーナという女性で、腕のたつ槍使いだった。
 彼女になら安心して命を預けることができた。
 私たちは互いに信頼し、愛し合ってもいたが、書類上の夫婦ではなかった。ふたりとも冒
険者の生活が身に染みていたからね……いつ片方が命を落とすか知れない。だから正式
に結婚はせず、子供も作らなかったんだ。
 とくに不安はなかったよ。ひとりでは半人前でも、ふたり一緒ならどんな仕事でもこなすこ
とができた。それに私たちは信頼という糸でつながっていたからね。どんなに恐ろしい魔物
も、いかに屈強な暗殺者も、私たちを殺すことはできなかった。
 称号こそ手にしなかったが、あらゆる依頼をこなし、数々の武勇を残した私たちは、その
世界じゃそれなりに名を売ったよ。
 いつしか私たちは、互いにどちらかが命を落とすなんてことは、あり得っこないものだと過
信するようになっていたんだ。
 だが、死はどんな人間にも訪れる。そいつに死ぬ準備が出来ていても、いなくてもね。
 そしてそれはやってきた。何の挨拶もなしに、ぬけぬけと、いまいましい悪魔の顔をして、
突然にだ――。

 私たちはそのとき賊を追っていた――ある依頼を受けたからだが、それは問題じゃない。
 失敗だったのは、私たちが賊を深追いしすぎたことだ。
 連中が逃げ込んだのは、呪われた傭兵墓群だったんだ――。

「おい、ここは……」
 それまでの金と称賛に彩られた冒険のなかで、私はそのとき初めて死を考えた。
「怖気づいたの? 大丈夫よ」
 カリーナはまるで動じることなく、墓のひとつへと潜っていった……。
 だが彼女自身、それが間違いだったと気付いたときにはすべてが遅すぎた。
 地下へと潜った私たちが目にしたのは、無残に引き裂かれた賊の死骸だった。まだ出来
たてだったところをみると、おそらく私たちが追っていた賊だ。
 私が死体を見て恐怖したのは、初めて屍を見たとき以来、それが二度目だった。なにしろ
その死体は、元は人間のかたちをしていたなんて、想像さえできないほどに凄惨だったか
らね……。衣服の一部と、そして床や壁にぶち撒けられた血の海のおかげで、おそらくは
人間の死体だろうとわかる程度さ……。
 だがそれ以上に恐ろしいのは、武器を手にした盗賊の集団を、紙切れのように切り刻む
力を持った“敵”の姿を想像することだった。
「もう仕事は終りだ。引き返そう、カリーナ!」
 私が口を開いたときだった――
 私の背中に劇痛が走るのと、それに気付いた彼女が声をあげるのが同時だった。
 あまりの苦痛に、私はうめくことさえできなかった。まるで火をつけられたみたいに背筋が
熱かった。
 振り向いた私の目に映ったのは、剣を手にした骸骨だった。
 もちろん人間のむくろではない。ひとの形に似てはいるが、明らかに人間とは異質な生き
物だ。そいつらの正体が何であれ、そのときの私たちにはどうでもいいことだった。重要な
のは、人間がまともに渡り合って勝てる相手じゃないってことだ。
 殺される――そう覚悟した。
「ホルスッ!!」
 カリーナが私と骸骨のあいだに飛び込んできた。

579みやび:2007/04/03(火) 00:11:09 ID:nvbHub9s0
◇――赤い絆番外編 『愛のしじまに』―――――――――――Red stone novel[5/9P]

 よせ……にげろ……!
 私は床に転がりながら、彼女に向かって言ったつもりだったが、声にはならなかった。
 背中に負った深い傷のせいで、体中の筋肉が痙攣し、息をすることさえままならなかった
んだ。
 カリーナの槍が化け物の頭に向かって走った。
 だが化け物の硬い殻は、鍛え上げられた槍の刃をものともせず、頭蓋が音をたててのけ
反るだけだった。
 カリーナはなおも攻撃した。連続して槍の突きを繰り出した。
 化け物が動くたびに、そしてカリーナの槍先が当るたびに、そいつの体中で骨がきしみ、
カタカタと鳴り、はまるでせせら笑っているようだった。
 実際、カリーナの突きはどれも直撃していたが、化け物は蚊に刺されたほどの痛みさえ
感じていないようだった。鈍い音だけが空しく響き、カリーナの槍はことごとく相手の体表に
弾かれた。
「なによっ……こいつッ!!」
 さすがの彼女でも、連続して突きを繰り出すにはスタミナが持たない。だが攻撃の手を緩
めれば、敵は容赦なく牙を剥いてくる――その威力は私の傷を見れば明らかだ。
 彼女は懸命に攻撃を続けた。
 私はなんとかして、その場を乗りきる方法を考えた。身動きでのきない役立たずの私にで
きることといったら、それだけだったからね……。
 私はあせった。すでにカリーナの息があがり始めている。なんとかしなくては――。
 だが、私の頭に浮んだことといったら、希望ではなく絶望だった。
 なぜなら、私たちが追っていた賊は全部で二十名ほどもいたからだ。いかに化け物であ
ろうと、それだけの数の盗賊を相手にできるとは思えない――いや、少なくとも時間はとら
れるはずだ。私たちが追いつくよりも早く、すべての盗賊を仕留めることはできないだろうと
思った。
 化け物は一匹だけじゃない――そう確信したときだった。
「ホルス! 隙を作るから……逃げるわよ!」
 カリーナが化け物を突き飛ばし、私を抱きかかえようとした直後。
「ああッ!!」悲鳴とともにカリーナの体が宙を舞った。
 背後から忍び寄っていた別の骸骨が、彼女をすくいあげるように斧を振ったのだ。
 間一髪、彼女は体に染みついた回避能力を発揮し、致命傷こそ免れたものの、着地した
ときには右のわき腹から肩甲骨にかけて裂傷が走り、そこから大量に出血していた。
 もちろん彼女は鎧を身につけていたが、それも骸骨のひと振りでその有様だ――まともに
食らえば人間の体など一撃で真っ二つだろう。
 最初の骸骨が体勢を立て直し、カラカラと滑稽な音をたてながら私たちに迫ってきた。
「このっ……化け物ッ!」
 カリーナは傷ついた半身を庇いながらも、槍を円状に回して二体の骸骨を追い払った。
 傷こそ追わなかったが、化け物たちは槍の回転に弾かれて後方に倒れた。
 だが彼女の体力は限界だ。息は完全にあがり、肩を上下させるたびに背中から出血して
いた。
「もういい……まだほかにも……いるはず……俺を……捨てて行け」
 私は言葉を振り絞った。
「馬鹿なこと言わないで! 一緒に生きて帰るのよ!」
 彼女は言ったが、私は今度こそ死を覚悟した。
 いつの間にか私たちは、十体以上の骸骨たちに囲まれていたんだ……。
 しかも敵は次々に増える。あとからあとから、奇妙な音を引き連れ、暗闇の中から私
たちを目指してやってくるんだ……。

580みやび:2007/04/03(火) 00:11:51 ID:nvbHub9s0
◇――赤い絆番外編 『愛のしじまに』―――――――――――Red stone novel[6/9P]

 やつらは円を作って私たちを取り囲み、その輪を次第に狭めていった。
 覚悟を決めたカリーナは、だが槍を構えることはなかった。
 彼女は私を庇うように、私の体に覆い被さった。
「ごめん……ごめんね、ホルス……」
 彼女の目には涙が浮んでいた。
「ばか、何……考えてる……きみだけなら、まだ……逃げられる」
 そうでないことはわかっていたが、このまま彼女を自分の盾にすることはできなかった。
 それに運が良ければ、彼女だけならまだ逃げ出すチャンスはあるかもしれない。
 だがカリーナは私のそばを離れなかった。
 泣きながら、何度もごめんね、と言い、私を抱きしめた。
 彼女の温もりを感じながら、私の視界に骸骨たちの姿が映った。
 そして一体の骸骨が身構えたのを合図に、輪の先端にいたやつらが一斉に飛びかかっ
てきた――。
 私は思わず目を閉じた。
 ところがまったく痛みを感じない。
 骸骨たちの骨がきしむ音は相変わらず聞こえて来るのに。
 私はゆっくりと目を開けた。
 そして見たんだよ。
 私たちの周囲に、何人ものカリーナの姿があった。

 それは“ダミー”と呼ばれる槍使いの魔法だった。噂に聞いたことはあったが、この目で見
るのは初めてだった。
 魔法とはいっても、それはある種、ひとの防御本能みたいなものだ――自分の意思で使
うことができないのさ。身の危険を察知した本能が、その人間の潜在魔力に引火した瞬間
にのみ発動される、護身のための魔法だ。
 当のカリーナ本人が、その光景に圧倒されていたくらいだよ。
 “ダミー”はいわば本体の幻影であり、身代わりだ。敵は“ダミー”から発せられる魔力に
惹かれ、その木偶を本体だと錯覚して攻撃するんだ。
 輪の前列にいたすべての骸骨が、数体のダミーを相手に無駄な攻撃を続けた。
 後方に控えていた骸骨たちも、その影響を受けて戸惑っているようだった。
 これならイケると思った。今ならカリーナを逃がすことができる、と。
「いまだ……にげろ!」私は言った。
 我に返ったカリーナは、槍を手にして構えた。 
「ええ。あなたがね……ホルス」
 彼女の台詞に愕然とした。
「なにを……なにをする気だ!」
 私の静止を無視して、彼女は敵の輪の中に踊り出た。
 そのとたん、最初に発動したダミーが煙のように掻き消えた。
 正気を取り戻した骸骨たちが、本体を見つけて一斉に襲いかかる。
 と――。またしてもカリーナのダミーが出現した。
 それも十体近くものダミーだった。
 混乱した敵は一目散に偽のカリーナを斬りつけ始めた。
 だが今度は後方に控えていた骸骨の何体かが、惑わされることなく本体を目指した。
 そしてまた発動――。
 敵は泡を食ったように、その狙いを本体からカリーナの幻影へと移す。
 そうやってカリーナは、敵の群れを私から遠ざけようとしたのだ。
「まっ――まて……! やめろ……!」
 そして何度目かの襲撃を受けたとき――彼女のダミーは発動しなかった。

581みやび:2007/04/03(火) 00:12:32 ID:nvbHub9s0
◇――赤い絆番外編 『愛のしじまに』―――――――――――Red stone novel[7/9P]

「カリーナッ――!!」
 骸骨の放った一撃が、彼女の肩口から突き刺さった。
 肉の避ける音――そして骨が断たれる鈍い音とともに、ドッと赤い飛沫が吹き出した。
 カリーナの美しい顔がたちまち真っ赤に染まった。
「失敗……しちゃった……ね」
 カリーナは最後に私を見、血の涙を流しながら、その場に崩れた。
 それとともに、出現していたすべてのダミーがゆらゆらと消失した。
 すでに事切れて動かなくなった彼女に、無数の骸骨が群がった。
 それはもう私の愛したカリーナではなくなっていた。
 剥ぎ取られた衣服の下から美しい肌が露出し、それもすぐに裂傷と血で染まった。
 腕が飛び、足がもがれ、残った胴から腸が引きずり出された。
 そして無残に投げ出された四肢と、四散した臓器さえ切り刻まれ、あとには赤い絨毯と
細切れの残骸だけが残った。
 私は言葉を失った。
 嘘だ。これは嘘だ――! 心のなかで叫んだ。全てを罵り、そして呪ったよ……。
 私は怒りに任せて立ちあがった。足元に血の筋が落ちたが、痛みは感じなかった。
 ただ憎かったんだ。カリーナを奪ったやつらが。
 そうして私は剣を抜いた。死ぬつもりだった。
 だがせめて、化け物にひと太刀でも浴びせてやりたかった。
 骸骨のひとつが、私に気付いて向かってきた。
 私は最後の力を振り絞って剣を振りかざした。
「この……恥知らずの化け物めッ――!」
 次の瞬間、私は目を疑ったよ。
 私の剣は敵をとらえることに失敗したが、化け物の斧もまた、私に鉄槌をくだすことがで
きなかった。
 私と骸骨とのあいだに、カリーナが立ちはだかっていたんだ。
 いや、最初は彼女だと思った。
 だがその体は、幽霊みたいに透けていた。
 そしてさらに数体のカリーナが出現した。
 彼女のダミーだった――。
「そんな……馬鹿な……」
 ダミー・カリーナは黙って私を見つめた。
 そして私に背を向け、ゆっくりと歩き始めた。
 私は何も言えなかった。ただ涙が止まらなかった。死してなお、私を守ろうとしている彼
女に、いったいどんな言葉をかけるべきなんだ?
 ただ、悲しみだけが私を支配していた。
 ダミー・カリーナは全ての骸骨を惹きつけていた。
 そして最後にいちどだけ、私を振りかえると、墓の深部へと消えた。群がる化け物たちと
ともに――。
 それが、最後の記憶だ……。

582みやび:2007/04/03(火) 00:13:13 ID:nvbHub9s0
◇――赤い絆番外編 『愛のしじまに』―――――――――――Red stone novel[8/9P]

 私が目を覚ましたとき、そこにはあの骸骨たちの姿はなく、そしてダミーもいなかった。
 少し離れた場所に、本物のカリーナが残骸となって散乱しているだけだった。
「あなたは運がいい……ここは人の立ち入る場所ではありませんよ」
 私を見つけたのは若いウィザードだった。
「さあ、長居は無用です。私はまだ修行中の身……範囲魔法は使えますが、あの骸骨ど
もの群れを一掃することはできません」
 私はカリーナの体の一部とともに、彼の手でアリアンまで運ばれた。

 傷が癒えたあと、私は半年ほど気が狂い、のちの半年を廃人として過ごした。
 ようやくまともな精神を取り戻したあとも、心は空虚だったよ……。
 カリーナの墓にも足を運ばなかった。彼女の死を受け入れることができなかったんだ。
 そして旅に出た。目的のない、ながいながい旅だ。
 あるいは死に場所を探す旅だったのかもしれん。

 それから何年が過ぎたのか――旅のなかで、私は不思議な老人に出遭った。
 老人はミゲルと名乗った。
「そうか……ふむ。まあ、そういうことも稀にはあると聞く」
 ひと晩の焚き火と食事を提供した私に、老人は話しをしてくれた。
「本当に稀なことだよ……。だがあり得ないわけじゃない。お前さんが見たそのダミーは、
いわば彼女の生霊みたいなものさ……」
「ご老人……それは本当ですか!?」
「あわてなさんな――そいつはもう生前の彼女ではないよ。霊というくらいだからな……」
「ではいったいどのような――」
「それは誰にもわからんよ……。ダミーという護身術そのものが、鍛錬することのできない
未体系の魔法だからな。まさに死を察知した本能だけがなせる悪戯だよ……。その人間
の魔力が強いほどダミーの性能も高いが、同時に強過ぎる念というのは副作用が多いも
のなんだ……。そして強力なダミーは稀に、本体を引きずり込むことがある」
 老人は火の通った肉を焚き火から抜いた。
「あちちっ、しかしうまい肉だな……ほれ、お前さんも食え。あんたの肉だ――まあ……い
ずれにしてもだ。ダミーと同化するのは本体の内面のごく一部だ。心がないのかもしれんし、
記憶が抜け落ちているのかもしれん。そういうことさ……。生きていたときとそっくり同じ姿
をしているが、霊体は霊体だ。どこか大切な一部か――あるいは大部分が欠落しているは
ずだよ。それに……」
「それに……なんです?」
「お前さんのその話し、いったいどのくらい前のことなのかね? 人間に寿命があるように、
それに似せて作られたダミーにも寿命がる。それがどのくらいかはわからんがね……」
 私は長いこと黙っていた。
 老人は眠りにつく前に言った。
「どうせお前さんはやめやせんだろうから、言っておく。仮に運良くそのダミーを見つけ出せ
たとしても、お前さんの心の隙間は埋まらんよ……。そいつがどんな姿をしているかは問題
ではないんだ。いいかね? ヒトは魂のこもった人形を愛することはできるが、人形になって
しまった者を溺愛することはできんのだ。そこにあるのは狂気だけさ。……それだけは忘れ
ないことだ」

 翌日になると、老人の姿は消えていた――。
 私はまた長い旅を続け、ダミーを実体化させる術を求めたが、これといった成果は得られ
なかった。
 そして今ここにいる。

583みやび:2007/04/03(火) 00:13:54 ID:nvbHub9s0
◇――赤い絆番外編 『愛のしじまに』―――――――――――Red stone novel[9/9P]

   *

 娼婦は黙って男の話しを聞いていた。
「私を愚か者だと思うかい?」
 女はそっと男に口づけした。
「あなたに行くなとは言えないわ……それとも、あたしが泣いて頼んだら、あなたはここに
留まってくれるのかしら?」
 男は答えなかった。
「あたしの上を、いろんな男たちが通りすぎていった。もちろん彼らを愛しているけれど、引
きとめたことはいちどもないわ……あなたもね」
 フェアレディは体を起こすと、両手を広げた。
「さあ。もういちどしてちょうだい。あたしを愛して……」

  *

 次の日、あたしが目を覚ますと、隣に彼の姿はなかった。
 宿のおかみさんに聞くと、日が昇るのと同時に出て行ったらしい。
 その日の夕刻、村に着いた冒険者が彼らしい人物を目撃していた。
 目撃者によると、彼は傭兵墓群に向かっていたということだ。
 まるで何かを追いかけているように見えたという――。

 そして半年が過ぎ、今、あたしのお腹には新しい命が宿っている。
 もちろん彼の子だ。
 あのあと彼がどんな最後を迎えたのか、それとも迎えなかったのか――あたしには想像
することができない。
 それでも彼がこの子を残してくれたのは事実だし、あたしはこの子を産み、愛するだろう
と思う。
 満月に青く照らされたリンケンの頭上に、どこからともなく悲しげなヨークの遠吠えが響い
ていた。
 その声を聞きながら、あたしは少し膨らんだお腹を撫でた。
 この子を育てるのに最良の土地を探そう――そう思った。





◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

584みやび:2007/04/03(火) 00:14:51 ID:nvbHub9s0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『愛のしじまに』

 ――あとがき――

 はい。ちょっぴりのラブ・シーンと流血挿入でお届けしました今回の番外編、いかがだった
でしょうか(汗)
 私としてはこのくらいでも大丈夫かなあ、と思っているのですが……だめかしら(汗)
 ちなみに作中に登場させた『ヨーク』という生き物。なんとなく想像できるように書いたつも
りですが、念のために補足しますと、狼みたいなもんです。(早っ)

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

585みやび:2007/04/03(火) 00:15:38 ID:nvbHub9s0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>意気地も名も無しさん
 最後の一文で笑いました。
 でも冒険家に止められたのはいいけど、彼はその後逮捕されなかったのかしら? とい
うかどうやって家に帰ったのかが気になります(笑)
 あと、こんどはぜひその会長を掘り下げてください(笑)

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

586意気地も名も無し:2007/04/03(火) 09:14:55 ID:Bo.D9pLc0
※このマンガは微妙にネタバレ要素を含みます

3月31日
クロマティガードの取り調べが終わった。わいせつ物とは失礼な・・
私の友達には「ぶつ」という名前が最早わいせつ物なヤツがいるというのに。
ん?白鯖?何のことか分からないな・・
再びスウェブタワーを登り切ったが、昨日のレッドアイ会長様は
昨日と同じ位置で座り込んでマンガを読んでいらっしゃる。
いや。昨日のは何かの聞き間違いに違いない。
「・・あ、また来たね」
「えーと、確認したいんだけど・・君がレッドアイの会長?」
レッドアイ会長様(笑)が顔をしかめる。
「そうだよ」

( ゚Д゚)

(゚Д゚)

この座ってマンガ読んでるちびっこがレッドアイ会長とは・・
しかし。相手は子供、軽く入団するチャンスだ。
「私はとっても勇敢な冒険家なんだけど、入団したい!」
所詮子供だ。適当に入団を許可するに違いない。
「え?敬語も使えないの?そんな男は入団することはできないよ」

・・甘かった・・
「と言ってもこれ、おじいちゃんの受け売りだけど」
は?
おじいちゃん?

と 言うことは、この子はアイノ三代目・・?
前回は副官スログトムバイルと抗争があったと聞くが・・
その時に親も巻き込まれて死んでしまったのか・・?

そう思うと、可哀想になってきたな。
・・この無駄にムカツク明るさも、それを紛らわすために・・

レッドアイ会長はこっちをちらちら見ながらマンガを読んでいる。
なんて健気な子なんだ・・・
「か・・会長様・・この度はレッドアイに入団したく・・」
「声が小さーい」

このクソガキ・・
勝手な解釈をしたをいいが、ムカツクもんはムカツクのだ。
しかし・・ここでくじけてはゲールさんに会わす顔がない。
「会長様!ワタクシは、レッドアイに入団しとうございます!」
大きな声で言ったつもりだ!
「あ、いいんじゃないの?・・ヒヒッw」

・・・・・
(´・ω・`)ぶちころすぞ

おや、あちらから来るのは新たな入団者かな?
フム、あの子はロマ出身だな・・ファミリアを連れている。
「あなたが会長さん?」
「そう、ボクが会長。入団者?」
「うん!やーwwかーわーいーいーwwテイムしたーいw」
「ヒヒッwじゃ、これレッドアイの指輪と証明書だから、持っててね」

・・・・・

「あ、君?団員になるには宝石鑑定士称号が必要だからね?」
そう言うと会長は、マンガの山からマンガを取り出し、
また読み始めた。

・・・・・
テイマーの事をツッコミかけたが、
面倒な事になりそうなのでやめた。

587意気地も名も無し:2007/04/03(火) 09:18:22 ID:Bo.D9pLc0
おっと アイノ様に影響されて最初のところマンガにしちゃいました。
直接ストーリーとは関係ないので、華麗に脳内変換オネガイシマスです・・

588◇68hJrjtY:2007/04/03(火) 11:28:41 ID:fRQKYdtA0
>意気地も名も無しさん
一見真面目な日記かと思いきや、ギャグ要素が実は満載ですね。面白いです。
素っ裸でトランですか!良く言い回される行動ですが、一度やってみたいですね(笑)
子供でもさすが会長、可愛い子には弱いんですね…。さて、K君の波乱万丈ストーリーの幕開けでしょうか(笑)
私も小説スレの事を知ったのはしたらばを見ていてかなり経過してからでした。
このスレってあんまり知られてないのでしょうね…でもスレはすぐ立つし屈指の良スレだと思いますよ。
ところで、ブログで小説を書かれていたのですか。なるほど、そういう手もあったなぁ(笑)
続きお待ちしています。

>みやびさん
これまた大人な小説、読ませてもらいました。
ホルスの回想でのミゲル老、当時死に場所を探している旅の途中での出逢いでしょうね。
「人形は溺愛できない」など、前作を知っていればこその重みのある言葉ですね。
ホルスにしろミゲル老にしろ壮年の人物が主人公な作品はみやびさんの得意とするところでしょうか。
「死を察知した人間こそが出せる悪戯」など、パッシブスキルについての説明も良いと思います。
次回作も期待していますよ。

589意気地も名も無し:2007/04/03(火) 13:01:39 ID:Bo.D9pLc0
メンテ中にコメントしようと思ったのですが
課題が終わらずコメントが・・
>◇68hJrjtY様
く・・屈指の良スレ・・
知らなかった自分が恥ずかしいです・・
今回のアップデートでNPCの人間味が強調されるようになったので、
すごく書きやすいです。コメントありでしたー

>みやび様
逮捕されました(笑
ちなみにコレ、自分の実話も混ざってます(´ー`)
RSをSS化するとなると、スキルの説明が大変なんですけども、
それをすっとやってのけるあなたに感動しました・・

さて 小説進めるためにメインクエスト進めてきます

590殺人技術:2007/04/03(火) 13:18:05 ID:E9458iSQ0
>>意気地も名も無しさん
 WIZの顔文字にワラタ
 会長、どこかヘルシャウト入ってるなw
>>みやびさん
 子供には見せらんないね!(お前が言うな
 まさかダミーステップ1つであそこまで話を作れるとは、ちょっと尊敬。
 まぁ、本当にマズイ部分は適度にぼかしてあるから、大丈夫なんじゃないですか? 多分。

591殺人技術:2007/04/03(火) 13:30:05 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル

そろそろ展開考えるのが難しくなってきたよ……!
(実は結構苦しい状況なチョキー・ファイル)

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

32-36>>548-552
37-38>>568-569

592殺人技術:2007/04/03(火) 13:30:29 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(39)

 「カイツールも、こんにちは」
 チョキーは紳士然とした振る舞いでカイツールに握手を求め、カイツールは手を高く伸ばして握手する。
 「あの、チョキーさん……」
 カリオは椅子の上でぎしぎしと体を揺らしながら、冷や汗を浮かべてチョキーに問いかけた。
 チョキーはそれを分かっている、という様に答え、ファイルも視線をチョキーとアドナイメレクの間を行き来させて、戸惑う。
 「アドナイメレク、なんで呼ばれたか、君に思い当たる節はあるかな?」
 チョキーはアドナイメレクの正面に立ち、軽く語気を強めて言うと、その部屋の空気がみしりと重くなる。
 見れば、カイツールがアドナイメレクの元を離れて、てくてくと歩き出し、ファイルのすぐ隣――カイツールには見えていない筈だが――の椅子に腰掛けた。
 「いえ、アルバートが首にかけてきた文書には、簡潔に"来てくれ"という旨しか無かったので……」
 アドナイメレクは細目の顔を傾げて、分からない、という様に両手を広げた。
 「そうか、なら仕方ないな」
 チョキーが言った刹那――
 アドナイメレクの目が突然はっきりと開き、硬質的な物が強烈にぶつかる擦過音と、涼しく小気味良い破砕音が響き、カリオがそれを見て息を飲む、ファイルとカイツールは何事も無かったかのように眺めるだけだった。
 「――どういう事です?」
 アドナイメレクが目を自分の腹の当たりに向け、そこにある円錐状の氷柱――何もない虚空からアドナイメレクの腹に向かって伸びているそれと、それを受け止めている白色の小さな十字架を眺めた。
 氷柱が完全に砕けると、小さな十字架も幻の如く消え、カリオとファイルはそれを見て軽く驚いた。
 「君は人間じゃない、そういう事だ」
 チョキーは言い、アドナイメレクは何か失敗でも犯したかのように、ぽりぽりと頭を掻いた。
 「――どうして、ばれたんでしょうかねぇ……」
 アドナイメレクが独りごちると、その体が次第に白い光を帯びていき、アドナイメレクは両目を閉じて全身の力を抜く様に、両手をだらりとぶら下げた。
 それは、チョキーやファイルから見ても、神秘的な光景だった。
 アドナイメレクの体が虹色がかった美しい白妙に輝き、涼しく心地よい風が室内に巡る、その風すらも美しく発行し、風の通り道が肉眼でも確認できた。
 そして、アドナイメレクがその風のベールをまとって床から僅か、本当に僅かに浮かび上がり、その背中から待ち侘びたシンボル――白銀に煌めく翼が、飛び立つ鳥の様に広がった。
 だが、その広がる翼は左翼だけで、右側から伸びる翼はかなり短い所で千切れ、そこからは僅かに赤い、固まった血が伺える、しかしそこは天使、固まった血は空気と反応して黒く変色はしておらず、むしろその鮮やかな赤さがより神秘性を際だたせている。
 やがて微風が止み、アドナイメレクが着地すると、そこには聖職者などではなく、精悍な体つきをした、紛れもない天使が立っていた。
 天使が閉じていた諸目を開くと、そこには血煙を凝固させたような赤い双眸が宿っている。
 「追放天使――!」
 カリオが口を開けて呆然としながら呟き、アドナイメレクはそれに穏やかな笑みで答えた。
 だが、その天使のカリオを見る赤眼には僅かに憐れみのような模様が浮かび、それを見てカリオは怪訝そうに思う。
 アドナイメレクが、恐らく羽の補強材だろう――葉っぱの生えた左翼をコンパクトに畳んでチョキーに歩み寄ろうとすると、チョキーは素早く緑色の杖を取り出して、それをアドナイメレクのむき出しの胸に押し当てる、アドナイメレクは自分の心臓に突きつけられる杖を石ころでも見るように眺め、室内に緊迫した空気が漂う。
 「悪いが、俺の言う事に忠実に、文句を一切言わず従うと誓ってくれ、不可能ならここで死んで貰いたい」
 チョキーはアドナイメレクを強烈な鬼気を持って睨み付け、アドナイメレクはいつもの日和見的な表情とはとても結びつけられない険しい表情で、チョキーと視線をぶつけ合う。
 カリオとファイルは動こうとするが、チョキーの左手がそれを抑え付ける、暫し二人は膠着状態に入り、アドナイメレクが無言を貫くのに一つの答えを感じ取ったのか、チョキーが杖に魔力を収束させて、胸に強く押し込んでいく。
 やはり、戦う事になるか――3人がかりとはいえ、この天使に勝てるのか? そんな考えがチョキーの頭をよぎる。
 が――

593殺人技術:2007/04/03(火) 13:32:37 ID:E9458iSQ0

チョキー・ファイル(40)

 「今すぐ、その杖を離しなさい」
 チョキーが首もとに突然熱を感じ、突然掛けられた、どこか凄みのある美声を聞いて冷や汗を垂らす。
 ファイルとカリオがはっとしてその声の主に目をやり、カリオが慌てて両手に鉤爪状のダートを構える。
 アドナイメレクを脅迫するチョキーの首に、ぐるぐると持ちやすく巻かれたままの鞭が近づけられ、背後からチョキーを脅迫している。
 だが、単純な鞭では、巻かれたままの状態で、しかも近づけられるだけで脅迫の役目は果たせないだろう。
 その鞭が、地獄の業火を思わせる姿をしていなければ。
 鞭からゆらゆらと炎が上がり、それは少しずつチョキーの首筋から汗を滴らせる、だが炎独特の臭いは一切広がらず、鞭も燃え尽きる様子はなく、煙も出ていない、まるで鞭そのものが炎で出来ているかのようだ。
 チョキーは首筋に熱を感じながらもアドナイメレクから注意を逸らさず、カリオがそれを見て、一瞬で床を蹴って移動した。
 「その燃える鞭を離せ!」
 カリオが悪魔の首と腹にダートを密接させ、半ば動揺しながらも脅しにかかる――だがそのカリオが今度は息を飲んだ、カリオの首周りに、首輪のような聖なる輪が音もなく現れ、それが少しずつ小さく収束していき、カリオの首を少しずつ締め付ける。
 ただ一人、ファイルがその光景をじっと眺めていた。
 チョキーが天使を脅し、そのチョキーを謎の女性が脅し、さらにその女性をカリオが脅し、カリオが謎の白い輪――恐らく天使の術――によって脅されている。
 4人の人物が室内で一直線に並び、互いが互いを牽制し合っているその姿は、さぞ滑稽な事だろう――だがファイルは何故かずっと押し黙り、魂が抜けたように、突然現れた謎の女性を見て立ち尽くしている。
 …………
 室内の時が暫く停止し、その沈黙をアドナイメレクが破った。
 「――鞭を戻せ、大丈夫だ」
 アドナイメレクはチョキーを挟んだ位置の赤髪の女性に話し掛け、女性は暫く躊躇した後、ふっと息を吹きかけて魔法の様に鞭を消した。
 チョキーがそれを確認して、恐る恐る杖をアドナイメレクから引くと、カリオの首を絞めていた白い輪が空気と同調する様に消え、カリオは大きく息を吸い込むと女性からダートを離した。
 アドナイメレクの胸には杖を強く押し込まれた跡が残り、チョキーの首には軽い火傷の跡が、女性の首と腹には浅い切り傷が血の雫を垂らし、カリオの首には絞殺されかけた跡が生々しく残った。
 「条件に従ってくれるんだな?」
 チョキーは確認するようにアドナイメレクに問い、アドナイメレクは重々しく頷いた。
 「じゃあ、座ってくれ」
 チョキーはそう言って再び椅子に腰掛けると、机を挟んで反対側の椅子を2つ、指し示した。
 アドナイメレクはその意図をくみ取って腰掛け、突如現れた女性――黒地に赤い縁取りが施された露出度の高い服に身を包み、赤く長い長髪の一部が悪魔の角の様に立っている――どこかファイルに似た雰囲気を持つ、艶めかしい雰囲気を漂わせる女性を座らせた。
 見れば、その肌を出した背中と項の辺りまでに醜い大きな火傷の跡があり、美しい肢体と相まって強烈な異彩を放っている。
 チョキーは先程からファイルが妙に大人しいのを訝しんだが、とりあえずは無視して天使の姿のアドナイメレクと話を進めた。
 「まず最初に聞く――その女性はカイツールか? だとしたら一体何なんだ?」
 チョキーはそう言い、女性は終始無言で、カリオが用意した紅茶も口に付けず、ただその赤い水面をじっと見つめていた。
 チョキーはは彼女の正体が何となく分かっていたが、念の為か、確認口調で詰問した。
 アドナイメレクはそれを見越したのか、大した事でもないように軽く告げる。
 「はい、カイツールです――彼女は、私が天上界から追放されて暫くした時――といっても今から数百年以上昔ですが、地上界でカイツールの姿で出会ったのです、正体は――分かりますよね、貴方なら」
 アドナイメレクは彼女の横顔に判別できるかできないかくらいの笑みを送りながら言い、チョキーに質問の答えを振る。
 「悪魔か――本来、天使である貴方の敵である筈なのに、何故こんな近くに?」
 チョキーは至極当然な疑問を口にすると、アドナイメレクは今度はよく分かる笑みを浮かべて、言った。
 「私は追放天使であって、もはや天使ではないのですよ――聖職者として地上界に潜んではいますがね」
 アドナイメレクはそう言って、目の前のティーカップを手に取り、湯気の立つ熱い紅茶を、一気に流し込んだ――普通そのような飲み方をしては喉が焼けてしまうが、天使には人間の温度感覚など通用しないのだろうか。
 「――本題に移ろう、アドナイメレク」

594殺人技術:2007/04/03(火) 13:34:38 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(41)

 チョキーはアドナイメレクの言葉にどこか悔恨の念を感じ取りながら、話を進めた。
 「私は10日後、アレクシス議長に新年会パーティーの件で表彰される事になっている、これはもう決定事項だ」
 チョキーがそれを言うと、カリオは思わずチョキーに首を向け、チョキーは気にすることなく毅然と言い放つ。
 「そして、その時集まる全ての国会議員、及びその関係者を、この後ろに居る悪魔――ファイルに殺戮させる」
 アドナイメレクは思わず口を開きかけたが、その口から声は出ず、代わりにカリオが口を開いた。
 「チョキーさん、こいつに来て貰ったのって、あの紙について知る為じゃなかったのか?」
 「いや、もはや日時が決定した以上、そんなのはどうでもいい、彼を呼んだのは別の理由だ――ブルン王朝を滅亡させようとした理由も、恐らく聞くまでもない」
 チョキーはカリオの言葉を一蹴し、カリオは再び口を閉じて、アドナイメレクはチョキーの最後の言葉に軽く目を見開く。
 「史実が正しければ、追放天使は伝説上の物質、"RED STONE”を探す為に地上界に降りたと言われている、それが正しければ――お前は当時絶大な力を持っていたブルン王朝を何とか失墜させ、人間との"RED STONE"争奪戦を有利に運ばせようとした、そうだろう」
 アドナイメレクは押し黙り、チョキーは一息ついて、休むことなく言葉を発し続ける。
 「"そんな事はどうでもいい"――話を戻すが、10日後の表彰式にはお前も、聖職者の姿で参加する事になっているらしい、だからその時、天使としてファイルの邪魔をされたら困る、そういう事だ」
 チョキーは言い切ると、アドナイメレクは暫し沈黙し、その沈黙を自ら断ち切る、その容貌にはどこか自嘲的な表情が浮かんでいた。
 「私は役目を果たせなかった追放天使、もはや天上界からも完全に見放され、同胞達は皆天使の記憶を失い、残る私も、私の存在を証明する物はもう一つしかない、死んでもいいとさえ思っている」
 アドナイメレクはチョキーに笑いかけ、チョキーはアドナイメレクに笑顔を返した。
 「それに――」
 アドナイメレクは、今度は顔に憂いを乗せて、チョキーの瞳をのぞき込んだ。
 その瞳は死沼の様に淀みきって、奥に眠る本来の姿は影も形もない、ただしかし、色だけは元の澄み切った泉の色を保ち続けていた。
 「私は、人間の瞳を覗くだけで、その人の全てを知る事が出来ます、"悪魔に憑依された人間でもそう"、しかし貴方だけは、どんなに瞳を見てもその真の姿が見えてこない、こんな事は初めてです、私の力が衰えたのか、貴方が特別なのか――どうせ無くなるこの命、貴方達の行方見届けさせて貰いましょう」
 アドナイメレクはそう言うと椅子から立ち上がり、最後にずっと黙っていたファイルの姿を一瞥して、今まで一度も見せていなかった表情を見せる、それを見たチョキーとカリオは一瞬、畏怖の様な物が背筋を駆け抜けるのすら感じ、ファイルはその表情と面と向かって、ただ沈黙するだけだった。
 アドナイメレクが最後にみせた表情は、たかが数十年しか生きられない人間には絶対に直視出来ず、絶対に真似出来ないであろう、狂おしいまでに強烈な、まるで数百年間休まず練り続けた様な嚇怒の表情だった。
 カイツールも追うように立ち上がり、カイツールはファイルと目を合わせた時、アドナイメレクとは対照的な表情を浮かべた、その表情は真冬の湖の様に静かで、波紋一つなく、あらゆる感情の詰まった、複雑な表情をファイルに当てた。
 強いて言うなら――恐ろしさと、暖かさと、懐かしさ、その3つが特に多かったかもしれない、だが、残りの感情は余りにも複雑で、人間にはそれを理解する事など出来ないだろう。
 カイツールがアドナイメレクの隣に立つと、アドナイメレクの羽とそれにかかる植物が光り輝き、何もない空間に風の音と共に、青い渦の様な物を発生させた。
 「では、10日後に――」
 そう言うと、アドナイメレクとカイツールが渦に向かって歩きだし、音もなくその姿と光の渦が、陽炎に揺れるように消えていった。

595殺人技術:2007/04/03(火) 13:35:08 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(42)

 「……どうやら、後は時を待つだけみたいだな」
 消えた二人の背中を目で追うように眺め、一息つくとチョキーが言った。
 カリオはまだ事態の展開について行けない所があるようだが、チョキーやファイルに聞くことはせず、静かに黙り込む。
 「カリオには、当日の表彰式に、私とファイルを警備兵や傭兵達から守って欲しい、私が死んだらファイルも死ぬからな、後は好きにしてていい」
 カリオはこくりと頷くと、結局一口も飲まれなかった女性の残した紅茶を一口含み、立ち上がってふらりと部屋を出て行った。―夜になれば帰るだろう。
 「――そういえばファイル、いつになくさっきは静かだったな、何かあったか?」
 チョキーはファイルと二人きり――厳密には一人きり――になったのを確認して、ファイルの幻影に話し掛けた。
 ファイルはそれを聞いて電流でも走ったかのように顔を上げると、やや躊躇しがちに口を開いた。
 "……あのアドナイメレクとか言う天使、私が初めて会った時に、カイツールの事について言ってたよな"
 チョキーは思いがけない名前が出てくるのに憮然として、ファイルの言う、初めて合わせた時の事を回想した。
 アウグスタの大聖堂で、アドナイメレクに清掃員の調査を頼んだ時の事である。
 「あぁ、言っていた、確か、酷い火傷が――」
 チョキーはそこまで言って、ふと言葉を止めた。
 そして、チョキーの言おうとした言葉を、ファイルが読み取る。
 "あぁ、その火傷は――私の仕業だ、あの悪魔の女の事もよく覚えている、地位的には上級悪魔の私を超える、魔王の血族だ"
 魔王の血族――チョキーはそれを聞いて、あの女性の姿を回想し、どこか釈然としない表情を浮かべた。
 あの女が魔王の血縁者? それにしては、お淑やかすぎる気がしないでもないが……
 「ちょっと待て、という事は、お前身分を顧みず魔王の血族を攻撃して、あまつさえ地下界から追放したのか? よく生きていられたな」
 チョキーはやや驚いた表情でファイルを見据え、ファイルはその視線を見て目を逸らす。
 "そうだな、私は長年逃げ続けたが、結局捕まってな、極刑を待たずして取り調べで死んだ、いくら私ほどの悪魔でも300余年に及ぶ拷問には堪えたぞ、途中さっさと極刑にしてくれたほうがと、何度思ったことか"
 「取り調べで300年って……」
 ファイルは、チョキーが初めて見るような表情――感情の籠もった言い回しをして、チョキーを驚かせた、だがチョキーが驚いたのは、その語気の所為だけではない。
 「――? ――死刑だと? 何を言ってるんだ、現にお前はここに居るだろう」
 チョキーは顔を顰め、ファイルに疑う様な顔で問い詰めた。
 それを見たファイルは、大きく溜め息をついて、口を開く。
 "そうだな、そろそろ話してやっても遜色あるまい、私が何故ブルンネンシュティグの国会議員を殺戮するのか――人間として悪魔の身の上話が聞ける事、光栄に思うが良い"

596殺人技術:2007/04/03(火) 13:37:01 ID:E9458iSQ0
うぇ歯切れ悪っ(´・ω・)
もっと一度にレスできる文字数多くして欲しいな……無理か。

597意気地も名も無し:2007/04/03(火) 16:07:37 ID:Bo.D9pLc0
>殺人技術様
ヘルシャウト様入ってますかね(*´ー`)
ちょっと意識したんで嬉しいw

※この小説は微妙にネタバレ要素を含みます

4月1日
今日は俗にエイプリルフールというヤツか。
昨日会長に「団員になるには宝石鑑定士称号が必要だからね?」
などと言われて「一日はえーよwww」と口にしかけてしまった。

宝石鑑定士の称号を取った。
鑑定士ティレンは少しアレな人だったな・・
リプリートマーキの方がマシだ。

ふと、結晶状の物体の中で蠢くリプリートマーキの魂を思い出し、
前言を撤回すると共に、古都の方角に土下座した。

_| ̄|○<すんませんでしたァァァァ!!


今度は仕事か。

「レッドアイには、強さと忍耐力と体力!これは必要である!」
会長、マンガ読みながら言わないでください。
何かマンガの台詞みたいなんですけど。
「と言うわけで、まずは強さのテスト!」
・・ふむ・・
「おじいちゃんのやり方」とやらで、とても厳しいテストが待っているのだろうか。
「ソゴムの赤山で、蚊を60匹ほど狩ってきて」

・・・・ふっ
「・・蚊でいいんですかい?」
「あっ、蚊を甘く見たね?甘く見ると痛い目にあうよ。ヒヒッw」
甘いな 蚊なんぞ私のメテオにかかれば・・・


「うわ・・」
袋いっぱいに詰まった蚊の死骸を見て、会長は声を漏らした。
「どうです?強さは合格でしょう」
「あ・・うん・・別に蚊は袋に入れなくてよかったんだけど・・
 ちゃんと狩ってるかはフィートに見て貰ってたから・・」
・・・あ そうですか・・

「と・・とにかく、次は忍耐と体力ですかね?」
蚊の袋は最上階の窓から落として、会長に向き直る。
会長はニヤッと笑って、俺の顔を見つめた。
「できるかなぁ〜♪」
さらにニヤニヤしている。
む・・先ほどの蚊も数的にアレだったな。
もしやこの会長、S?
「アリアンからスマグまで、自分の力だけで走ってきて?」

し・・しかもドSだ!!

「あーれれー?無理なの?あ、無理なんだーwヒヒッw」
こ・・このガキ・・
今度ゲールさんに会ったら
「ゲールさん、このガキウザいんで殺っちゃいましょう」
「All light!ウリィィィヤァァァア!」
くらいの展開を期待したい。え?ゲールさんがカオス?
知らないから。もうゲールさんがラスボスでおk。

「いいでしょう やってやろうじゃないですか」
「言ったね?wじゃあ、頑張って!」

会長が指を鳴らすと同時に、見慣れたオアシス都市の露店街が目の前に現れた。

・・え?
あのガキ、魔法使えんの・・・?

598◇68hJrjtY:2007/04/03(火) 17:34:41 ID:fRQKYdtA0
>殺人技術さん
展開に苦しんでるんですか…しかし、読み手にはまったくそれを感じさせないのは流石。
そういえばカイツールの姿は登場した時もどことなくネクロのような雰囲気でしたね。悪魔だったとは…!
カリオ、アドナイメレク、そしてカイツールもかな? ともかく協力者というか味方というかが揃い踏みしましたね。
ファイルの語る身の上話も楽しみですが、新年会当日の殺人技術さんの描写もまた楽しみです。

>意気地も名も無しさん
なるほど、この日付の通りにブログで書かれていたんでしょうか。やってみた過ぎる(笑)
蚊…蚊…あの蚊はRSでも最悪の方に位置するムカつくMOBですね。低レベル物理職には泣けます。何が蟲の群れだ。バーヤバーヤ
長距離移動って無課金には辛いっス…しかもクエのほとんどがそれ系なんですものね(泣)
ノリの良い小説、次も期待してます(笑)

599みやび:2007/04/03(火) 20:27:13 ID:3sNz/Ua20
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

 ああ……読み返してみたらやっぱりありました。誤字脱字(泣)
 スルーしようかとも思いましたが、ネタがないので(え、ネタ!?)――もとい、これも精進
のうちだと思って公開します。時代は今、情報公開ですからね!(ちょっと違います)

>>575 下から十行目 >〜メリメリと何かが避けた。
 [避けた]× [裂けた]○ 
 一ページ目からさっそくミスですか(汗) テーブルが避けてどうするの!
 ていうかあたし馬鹿すぎ……(泣)

>>577 最初の行 >まだ部屋はとっていなのでしょう?
 [いなのでしょう]× [いないのでしょう]○
 いなのでしょ――って何語だ(怒)

>>578 下から七行目 >剣を手にした骸骨だった
 [剣]× [斧]○ もしくは[武器]○
 舞台設定は言わずと知れた警備兵墓なのですが、骸骨戦士の武器が剣か斧か、記憶
が曖昧なので下書きの段階では「剣」と「斧」の表記が混在していて、あとからINして墓ま
でひとっ走りして確認。なんだあ「斧」かあ(ホッ)。と思いログアウトして清書。その際に見
落としてしまいましたわ(汗) ちっ――まるで(ホッ)じゃなかったぜ。

>>578 下から五行目 >そいつらの正体が何であれ
 [そいつらの]× [そいつの]○
 はにゃ〜(汗) 自分の頭のなかには全体が見えているものだから、最初の一匹目の目
撃にも関わらず、気付かずに複数形で表現しちゃってます。まあもともとホルスの回想だか
ら全体が見えているという意味ではある意味リアルな描写とも言えますが、読み物として
は読み手には優しくない記述ですね(泣)

>>579 (余白行と装飾行含まず)上から十八行目 >身動きでのきない
 [でのきない]× [のできない]○
 なぜ!? どうしてこんなミス!?(泣)
 「ひっひっひ。それはね……小説スレ七不思議のひとつだよ」(←誰だあんた!)

 ふう――今日はこのくらいで勘弁しといたろ。by池乃めだか(偽)
 (いや、本当はこれ以上探すともっと出てきそうなので……(汗))

 やっぱり数日くらい寝かせたほうがいいんですけど(泣)
 どうしても書上げると「我慢できない病」が出ちゃうんですよね……。
 特効薬ってないのかしら……。

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

600みやび:2007/04/03(火) 20:28:05 ID:3sNz/Ua20
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

 >意気地も名も無しさん
 やはり捕まってましたか(笑)
 主人公は文句言ってますが、さすがに全裸は猥褻物陳列ですよ(笑)
 会長もカマトトぶり全開でナイスです。子供なのに色気づいてるあたりもグッ。
 あとリプリートと比較される鑑定士のほどが気になります! ラスボスのゲールも見てみ
たいですが(笑)
 これってまだまだ続いているみたいですね。次待ってます♪

 スキルの説明――そうですね。他の作家さんは緻密な描写を用いていますが、私はゲー
ム内では基本的にヘタレなので、正確に文章に起こせるほどスキルを使いこなせてないの
です(泣) キャラによってはデータ上のスキル性能しか知識ないし……。
 そんな訳で、必然的に今のような書き方に(汗)
 あとクエ頑張ってください!

 >◇68hJrjtYさん
 毎度ありです。感想をいただけるだけでもありがたいです。次への活力につながります!
 む。そういえばオヤジの登場率が高いですね私の……。
 おじさま好きなのでつい……お金持ってたら尚グッド!(なんか主旨がズレてるような)

 >殺人技術さん
 そうですね、子供にはちょっと……な感じですね(苦笑)
 大人向けとして書く場合には、もっと○○なんですが……。(なにそれ(汗))

 チョキー・ファイル――
 カイツールがいつ悪魔になるのか、実は楽しみにしていました。
 しかしここでいっきに天使と悪魔が正体をさらけ出すというのは、緊迫してきましたね。
 ファイルの過去についてもとうとう“振り”が出てしまいましたし、苦労しているようですが
続きを待ってます(笑)
 でもまだまだカイツールとアドナイメレクの秘密も残っていますし、殺人技術さんなら腕に
よりをかけて料理してくれるはず。楽しみにしてます!

 そういえば最大文字数、確かに私ももうちょっと欲しいです(汗)
 でも最大で何文字まで設定できるのでしょうね?(スレ立てしたことないのです)

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

601意気地も名も無し:2007/04/04(水) 09:33:48 ID:Bo.D9pLc0
今回は少しシリアス路線の様です。
※この小説はネタバレ要素を含みます。

4月2日
あぁ・・・・
ぶっちゃけ、頭が痛い。
一応ポーションは使用許可が出たので、
買い集めて出たのだが、そのおかげで昼間に出る羽目になってしまった。

昼間の砂漠は暑い。
非常に暑い。

この熱砂に腰を下ろして一休みなど考えてはならない。
さっき同じ事をした冒険家がケツを押さえて走り回っていた。

グレートフォレストに着けば、腰を下ろして休めるんだ・・
リンケン?もう過ぎちまったよ。


・・・グレートフォレストに着いたはいいが、すっかり暗い。
道を間違えて傭兵達の墓付近まで行ってしまった。クソが。
とりあえず野宿できそうなところはないか・・・

・・・っ
今、木陰から明かりが見えた?
「ファントムの焔かもしれん・・」
独り言を呟きつつ、木の陰に隠れて様子をうかがう。
・・・あれは・・・ファントムなどではないな・・
だいぶ前に、見たことがある。聞いたことがある。

「インシナ・・レイト?」


巨大な火の神獣は変わらず火を吹き続ける。
「ごめんね、ケルビー・・つらい?」
ケルビーは首を横に振る。彼女はそっと微笑んだ。
「私ね、友達が欲しくてさ・・外ではずっと明るくしてるのに・・」
言いながら少女はファミリア達を抱き寄せる。
「一昨日、スウェブで会ったウィザードさんに物凄い視線を送られるし・・」

涙が伝った頬を、ファミリアが舐める。
彼女はファミリアをそっと撫でて、
「私、やっぱり嫌われてるのか・・横も・・狩り場主張も・・
みんなの気を引きたいだけなのに・・」


・・・・あれは、スウェブで会ったロマの子か。
どうやら、根は優しいヤツらしい。
物凄い視線はゴメン、正直言って殺気送ってたわ。
・・しっかし、横と狩り場主張は方向が間違ってるだろう・・常識的に考えて・・
ふと前に向き直ると、筋肉隆々の水牛?らしきモノが私をにらんでいた。
「・・・・・」
私は苦笑いして、その場をコッソリ立ち去ろうとするが、
その水牛は、俺の襟首を掴んでにっこり笑い返した。

地面から大量の水が噴き出して、私をはじき飛ばした。
「ぎゃぁぁぁぁー・・」

少女の声が聞こえたが、もう気にする必要はないだろう。
ああ、アリアンのパナパレ、君のことが好きでした。
さようなら・・・

602◇68hJrjtY:2007/04/04(水) 14:57:48 ID:fRQKYdtA0
>意気地も名も無しさん
シリアスなのに…やっぱり笑っちゃいました(笑)
インシナレイトって暖房みたいで見てるだけであったかくなって好きです。
ファミリアもまさに犬みたいでかわええ(*´д`*) 怖いけど…。
K君はどこまで吹っ飛ばされたんだろう…。マラソン頑張れ(笑)

603みやび:2007/04/05(木) 19:22:30 ID:uUll/zuo0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

 >意気地も名も無しさん
 絶好調ですね。笑いました(笑)
 横と狩場主張はある意味「構って欲しい」で正解なんですけど、捻じ曲がってるあたりが
ウケますね(笑)
 ファミリアにペロペロ……。ううん(汗) ちょっと恐いかも。よく覚えてませんが、ファミリアっ
て腰が低いだけで、よく見ると人間の体形ですよね? それに丈の短いパンツを履いてい
たような……。 
 いちばんウケたのはパナパレが好きだったことですが(笑)
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

604意気地も名も無し:2007/04/06(金) 23:36:33 ID:Bo.D9pLc0
A・Kの記録
>>573 >>586 >>597 >>601
※この小説はネタバレを含みます。

4月3日
私は、柔らかい朝の陽光で目を覚ました。
起きあがった私の身体から毛布が落ちる。
これは・・
何やら記憶がぼやけている。
寝る前に何を考えた?そうだ、パナパレの事を考えていたんだ。うん。
で、あんなことやこんなことの妄想で気絶したんだ。
そうに違いない。

毛布を畳んで後ろを向くと、筋肉隆々の水牛?らしきモノが私を見ていた。

・・・そうだ 思い出したぞコノヤロウ。

「・・あ!目が覚めた?w」
背後から声がする。昨日のテイマーが食料をカゴに詰めていた。
「む・・私は・・」
「スウェルファーのアクアバンブーではじき飛ばしちゃってwごめんw」
ああ、わざわざそんな恥ずかしい事を言わなくていい。
「すまない、手当てまでしてもらっていた様だな」
腕に巻いてある包帯。ちょっと痛いが、走るのに支障は無さそうだ。
「お堅いなーw柔らかくいこーよw」
少女はへらへらと笑う。
・・段々と羨ましくなってきた。
コイツは、昨日の物凄くネガティブなテイマーだ。
なのに人前では思い切り愛想を振りまく。

・・私と逆なのだ。
この記録を見る限り分かると思う。
私は内に秘めた思いを外には出せない。
代わりに社交的な言葉ばかりが外に出て、私は「良識のある人間」として理解された。

隠しているから気付かれない心の奥。
愛しのパナパレにだって、告白と言うより挨拶の様な言葉しか出ない。

出来ることなら、逆にしたい。
「君・・明るさとは何だと思う?」
ふと、質問を投げかける。
少女は笑って、
「えへへw私みたいな人かな?ww」
「そうだ・・。だけど、君のは『本当の明るさ』ではないだろう?」
少女の笑いが止まる。
明るいのは構わない。
むしろ羨ましいくらいだ。くれ。
「それで・・だ、私が本当の明るさを教えてやろうw
ヘイ、ガール!君の名前を友達として記録してもいいかい?」
・・勇気を出して、真の自分を出してみた。
内に秘めた思いを、思う存分さらけ出せる人間が一人くらいいてもいいではないか。
また、少女は笑った。先ほどの様な笑いではなく、純粋な笑い。
「あ・・はい!私、ティムって言います!」
・・ティム・・ティムっと・・
む・・友達リストが多くなってきた・・適当に削除しておこう。
アッー・・間違ってほとんど消しちゃった・・・

・・ワイリーッ!!=≡(ノ=゚ω゚)ノ

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今回も多少シリアス
次回あたり、初の戦闘シーン!(*´ー`)

605意気地も名も無し:2007/04/06(金) 23:42:51 ID:Bo.D9pLc0
>◇68hJrjtY様
吹っ飛ばされたというよりすぐ側でしたΣ(*ノ∀`)ペチョン
インシナはかなりの便利スキルですね。
RSのSSで多用してます。

>みやび様
アッー
ファミリアってそんなでしたね(;・∀・)
んー・・
お絵かき掲示板みたいなディフォルメファミに脳内変換をw

パナパレは私も好きなキャラです。
自分の分身的な主人公ですよ(*´ー`)

606◇68hJrjtY:2007/04/07(土) 02:34:11 ID:cQ/kmDCg0
皆さんIDそのままをレス名にしていただいて恐縮です…。大文字小文字の書き分けまで(汗)
適当に省略して貰って結構ですよ。21Rさんの真似ではないですが、68hとか(笑)

>意気地も名もなしさん
いやいや、K君がそんなに遠くまで飛ばされてなくて良かったです(笑)
それにティムちゃんという新しいキャラが出てきてくれましたしね。
速攻削除してるのもまた…。実は似たような事をゲーム内でやった事がorz
戦闘シーンですか。これはまた楽しみです。お待ちしてますよ!

607みやび:2007/04/07(土) 05:19:32 ID:raciaAIc0
 ――本編――
 ●『赤い絆(一)』>>424>>436 ●『赤い絆(二)』>>477>>483
 ●『赤い絆(三)』>>529>>532

 ――関連作:番外編――
 ●『愛のしじまに』>>575>>583
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『赤い絆 (四)』―――――――――――――――――Red stone novel[1/6P]

 マーガレットは不機嫌だった。
 ふいに食事の手が止まってしまったからだ。
 つい先ほどまで、彼女の口元には食事が運ばれていた。運んでいたのは給仕を担当す
る女中の手だ――少女の名はヘレンといったが、マーガレットはその名を発音できない。
 それでも彼女はヘレンを呼ぶ。空腹だから。食事が欲しい。
 マーガレットはおーおーと鳴く。
 それは普通のひとには理解のできない音で、彼女だけの秘密の言葉だ。それで充分だっ
た。周りの人間にとっては“彼女が意思表示をしている”とわかるだけで良かった。はなか
らそれ以上のことは望めないのだから。
 彼女は鳴く。おーおーと、ときにゴロゴロと喉を鳴らし、空腹を訴える。
 だが彼女に手を差し伸べる者はいない。ヘレンは食事を運んでくれない。
 しばらく待ち、それからマーガレットは身をよじる。
 もしかしたら自分が満腹になったと思っているのだろうか?
 未熟な思考でそう感じたマーガレットは、女中の気を引こうと不快な声をあげてみた。
 間――そして、やはり女中は食事を与えてくれないのだった。

 そこはまるで、盗賊でも押し入ったような部屋だった。
 散乱する家具、玩具、食器――それらはすべてマーガレットが蹴散らしたものだ。
 それらにまじり、部屋の隅には女中も蹴散らされていた。
 女中は自分の背中を見つめ、ひっそりと動かなかった。マーガレットが無意識に払った四
肢の直撃を受けてしまったのだ。女中は瞬時に壁まで吹っ飛び、その拍子に体中の骨が
砕けて転がった――もっともマーガレットに弾かれたとき、すでに首を折っていたのだが。
 マーガレットはそうやって、たまに周囲の人間を殺してしまうことがある。もちろん彼女に
その意識はない。まだ善悪の区別もつかない幼児なのだから……。ただ彼女の場合、普
通の子供とはちがっていので、周囲の者が気を使う必要があった。
 彼女の世話をする女中は高額な報酬で雇われ、マーガレットに対する接し方の教育も受
けているが、こうして注意を怠り、命を落とす者はあとを絶たなかった。
 豪華な装飾に彩られた美術品のような室内とは対称的に、マーガレットの体は醜く歪ん
でいた。
 奇形の海獣みたいなずんぐりした胴をだらしなく横たえ、その胴から手足の区別さえつか
ない不恰好な触手を何本も生やし、口らしい穴にはノコギリ状の歯がずらりと並んでいた。
 彼女の視力はほとんどない。光りを感じることしかできないのだ。それはある意味、救い
であったのかもしれない。彼女が鏡を見て、自分の醜さを知ることはなかったから。
 そして目玉が退化しているマーガレットには、ぐにゃりと投げ出された女中の姿が見えな
かった……。
 食事を与えてくれる手も、自分を慰めてくれる者の気配も消えてしまった部屋で、彼女は
孤独を感じ、恐怖を思った。
 やがてその感情は怒りへと変わり、彼女はついにかんしゃくを起こして大声で泣いた。

608みやび:2007/04/07(土) 05:20:26 ID:raciaAIc0
◇――『赤い絆 (四)』―――――――――――――――――Red stone novel[2/6P]

 彼女が本気で泣くと、人間の可聴域をはるかに超えた高周波が発生する。その声は室
内に微振動を起こし、共振に耐えられない物から順番に砕け散る。
 部屋全体が震えた。家具の薄いガラス戸が飛び散り、窓ガラスが次々と割れ、陶器の食
器や調度品が砕けた。
 しばらくすると、その音に気付いた執事が飛んで来て、部屋の外から声をかける。
「おい、ヘレン――どうした!? お嬢様が泣いているのか!? 返事をしなさい!」
 それからそっと、扉を少しだけ開けると、部屋を覗きこむ。
 床に転がっている女中の姿を確認すると、執事は扉を閉め、代わりの女中を呼ぶために
立ち去った。

   *

 マーガレットが産声をあげたのは三年前。
 父親は評議会の末席を務めるトーマス・スタイナーで、王の遠縁にあたる貴族の家系だ。
 母親はリンダといって、トーマスの従兄妹だった。
 その時代、近親婚による奇形出産の可能性は医学的に知られていたが、閉鎖的な貴族
や集落における血の交わりは珍しいことではなかった。
 原因はともかくとして、マーガレットは不遇の子としてこの世に産み落とされた。
 母親は自分の股ぐらから芋虫みたいに這い出してきた娘を見て娼婦のように笑った。今
は屋敷の北の塔で壁を見つめる日々を送っている。
 トーマスはなんとか正気を保っていたが、事態の収拾をはかることでは常軌を逸した。
 彼は娘の出産に関わった医師を屋敷の空き地に埋めると、念のためにならず者を雇い、
医師たちの家にも火を放ち、そのならず者たちは番犬のエサにしてしまった。
 こうしてスタイナー家に子供が産まれた事実は“なかったもの”とされたが、父親はどうし
ても事の元凶を葬り去ることだけはできなかった。
 自らの愚行に対する罪悪感か、それとも父性というものに初めて目覚めたのか――いざ
娘を目の前にすると、その醜い姿に恐怖や嫌悪といったものはいっさいなく、ただただ悲し
みと情愛を感じずにはいられないのだった。
 トーマスは我が身の呪われた血を羞じ、せめてこれ以上は犠牲者を出さず、どこか辺境
の地へと逃れ、自分の手で人知れず娘を育てようとも思った。
 だが執事は言った。
「それは無理でございます、旦那様――」
「なぜだ――!? 私はもう限界だ。どうかしていたんだよ……! この手で何人の命を奪っ
たと思う!? だがこれ以上は無理だ……私にはもう……娘のことで誰かを犠牲にするこ
とには耐えられん……!」
「それでも無理です」
 執事はきっぱりと答えた。
「遠縁とはいえ王の血をいただく当スタイナー家は、ほかの貴族や領主とはわけがちがうの
です。責任もあれば果たすべき役目もございます……。いまここで当家が消滅すれば、古
都の議会に対して多少の波風が立ちましょう。あおりを食らう貴族も出るはずです。……そ
してなにより、庇護と象徴を失った多くの民が、明日の糧を失うことになりましょう……」
「じゃあせめて……あの子の世話は私が――」
「いいえ、いけません」
「どうしてだッ!! これまでにいったい何人の召使いが犠牲になった!? それも将来の
ある、まだ若い少女ばかりだ……!」
「彼女たちの未来はこの家です」執事はおごそかに手をかざし、豪華な装飾に満たされた
室内を見渡した。

609みやび:2007/04/07(土) 05:21:16 ID:raciaAIc0
◇――『赤い絆 (四)』―――――――――――――――――Red stone novel[3/6P]

「よいですか旦那様……。彼女たちは放っておけば、いずれどこかの娼婦宿に身を売るか、
のたれ死ぬしか選択肢のない連中なのです。当家に仕えることで、彼女たちの家族には
未来が約束されます――」
「だが……やはりちがう。……なにかが狂ってる」
「その通りです」執事は言い、主人は絶句した。
 年老いた男は続けた。
「すべてが丸く収まる方法など、どこにもないのですよ……。無理を通せばその末端のどこ
かでは必ず道理が潰れるのです。わたくしたちはそうした理屈のうえで生きている――い
え、生かされているのです……。大きな流れの一部を担っているからには、犠牲の大小を
天秤にかけることでしか、我々には最善を得る道がないのです」
 どうかご辛抱を――と、執事は深く頭をたれた。

   *

 それから八年が過ぎたある日――。
「旦那様……どうなさいました! そのお姿は――!?」
 主人を出迎えた執事は思わず声をあげた。それから召使いたちに着替えとブランデーを
取りに走らせると、青ざめ、疲労しきった主人に手を添えた。
 主人の衣服は泥だらけで、濡れ鼠のように汚れていた。
 執事の肩を借りながら、トーマスは広間のソファーに身を沈めた。
 天井をあおぎ、両手を顔にあて、長いことそうしたあとで、手を下ろすと天井に描かれた
絵画を見つめながら言った。
「命を狙われたよ……いつも通る森だった」
「なんと!? それで――」冷静な執事もさすがに取り乱した。
「ああ、大丈夫だろう……たぶん」トーマスは顔を起こし、今度は身を屈めて目の前で両手
を握った。そして握られた手の指が、綾取りでもするように動いた。なにか考え事をするとき
の彼の癖だった。
「相手は何も言わなかったが、おそらくはアリアンの傭兵だろうと思う……」
 そこへふたりの召使いがやってきて、ひとりは主人のかたわらにふかふかのガウンをそっ
と置き、もうひとりはブランデーとグラスを載せたトレイを抱え、言葉を待った。
 トーマスはご苦労、と言い、トレイからブランデーのボトルだけをひったくると、手振りで下
がってよい、と告げた。召使いたちは鼠みたいにスルスルと立ち去った。
 ブランデーをひと口だけ喉に流し込むと、彼は続けた。
「美しい女だった。まだ若い女だ――だが素人の私にもわかる。彼女は熟練者だったよ…
…冷酷な暗殺者の目をしていた」
 トーマスはそのときの恐怖を思い出して身震いし、またひと口、熱いものを喉に流した。
「まさか……旦那様の報告書のことで……!?」
 執事の言葉に、主人はうなずいた。
「間違いないだろう……。私が連中の企みを掴んだと知り――評議会に報告される前に始
末しようと考えたんだろうな……。最初は何が起こったのかわからなかったよ――道を歩い
ていると、目の前で光りが弾けた。そのときは気付かなかったんだが、その光りは私の指
輪が放ったものだった。指輪の石にこめられた護身の魔法が作動したんだ……それで敵の
矢を寸でのところで受けとめてくれたのさ――街でよく見かけないか? たしか……チョキー
とかいう商人だ。冷やかしのつもりで買った指輪だが、まさか本当に効果があるとはな」
 トーマスは自分の指に視線を落とし、そのとき初めて、指輪の石が粉々に砕けているの
に気付いた。そして顔をあげ、静かに笑った。
「だがそのおかげでこうして生きていられる……」

610みやび:2007/04/07(土) 05:22:01 ID:raciaAIc0
◇――『赤い絆 (四)』―――――――――――――――――Red stone novel[4/6P]

「ですがそれにしても――」老人はやや考え、「さきほど旦那様は大丈夫だとおっしゃいま
したが……」
 トーマスは肩をすくめた。
「見逃してくれたのさ、私を……。その女傭兵がね」
 老人は驚き、困惑したが、黙って主人の言葉を待った。
 トーマスは続けた。
「彼女が何を考えていたのかはわからん……。だが私が傭兵ギルドとシーフの繋がりを口
にすると、彼女は驚いていたよ。最初はしらを切っているのだと思ったが、考えてみれば彼
女の目的は私を殺すことだ――たしかに暗殺者が、獲物の問いかけにわざわざ答えてや
る理由も、必要性もないわけだが、同時に否定する意味もない。それなのに、私の口から
傭兵たちの古都襲撃計画の話しが出ると、彼女は驚きを隠さなかった……。まるで初めて
耳にした――とでもいった風にね……。そして、彼女は私を見逃してくれた」
 少し落ちつきを取り戻していたトーマスは、感慨深げな表情でブランデーに口をつけた。
「おそらくは私の言葉を聞き、その場で彼女が決断したのだろうと思う……。もしかすると彼
女は、私が誰で、どういった理由で始末しなくてはならないのか――知らされていなかった
んじゃないだろうか? だとすれば、ここに追っ手が来るにはまだ間があるはずだ……。少
なくとも彼女が任務を放棄した事実をギルドが知り、そのうえで次の暗殺者を私のところへ
差し向けるまでのあいだはね……」
 それから大きく息をついた。
「――仮に私の想像が的外れなら、すでにこの屋敷にも連中の手が回っているはずだ」
 ソファーに体を預け、再び天井の絵画を眺める。
 著名な絵描きに任せたそれは、皮肉にも善悪が対峙する叙事詩を描いたものだった。事
の起こりから終焉までの全体を俯瞰で眺めた構図は壮大で、見る者の心を圧倒するが、今
のトーマスにとっては、物語の中盤に描かれている《受難の人々》の姿を自身に重ね、現実
の滑稽さと人間の愚かさに恐怖せすにはいられなかった。
 トーマスの視線を追った年老いた僕は、そこに主人が感じたものと同じ恐怖を見た。
「旦那様……ともかく手は打たねばなりません」
「ああ、わかっている――」

   *

 地下に埋められた部屋には窓があるはずもなく、薄暗い空間を心もとないランプの炎が照
らしていた。
 もっともその明かりは魔法が糧だ。今はゲンマが冥想にふけっているので、ランプの生気
がないのだった。
 闇の奥から気配を感じ、ゲンマは億劫そうに瞼をあげた。
「……シーラか?」
 老人が気配の源に視線を送ると、そこにゆらゆらと人影が現れ、やがて部屋の暗闇から
分離して実体をともなった。
「はい――」
 統制のとれた声で答えると、ことのはの主は音もなく老人の前まで歩み出た。
 同時に冥想から舞い戻ったゲンマの魔法に色気づき、部屋中のランプが頬を染めた。
 ぱっと華やいだ室内に、ゲンマと若い女の姿があらわになった。
 いにしえの王があつらえたような大仰な椅子に身を預ける老いたゲンマと、彼にかしずく
うら若いシーラの姿は、彼らの足元に広がる赤い絨毯に描かれた、金糸銀糸で綴られた魔
法師の歴史のひとこまに似ていた。

611みやび:2007/04/07(土) 05:22:47 ID:raciaAIc0
◇――『赤い絆 (四)』―――――――――――――――――Red stone novel[5/6P]

 ゲンマはウィザードの老師が着るコートに身を包み、シーラもまた若い魔法師が好む長い
コートを着ていたが、女性のウィザードがそれを着る姿は、その美しい容姿も相まって彼女
に独特な存在感と威圧感を与えていた。
 ゲンマは静かに言った。
「首尾はどうだ……?」
 シーラは顔をあげた。
 その容姿は稀に見る美形だったが、右の黒目に比べ、髪に隠された左の瞳は金色に輝
いていた――そうやって長い髪で金の目を隠す行為は、今でこそ周囲の人間に違和感を
与えないための気遣いだったが、子供の頃は蔑視と迫害から我が身を守る知恵だった。
「やはり、今回の火種はアウグスタです」
 そうか。とだけ、ゲンマはつぶやいた。
 シーラは報告を続けた。
「アウグスタはかねてより準備を進めていたようです。アリアンの傭兵ギルド内に密かに内
通者を囲い、古都の議員のひとりに偽の情報を掴ませたのです。傭兵ギルドとシーフ連合
が手を組み、古都を襲撃する計画があるという――偽りの情報を……」
「その情報――古都に渡ったのか?」
 女魔法師は否定した。
「傭兵ギルドのなかにアウグスタの企みに気付いた者がおります。その者が命を出し、偽
情報を掴んだ議員に暗殺者が差し向けられました――」
 老人は感嘆した。
「ですがその暗殺者は獲物を見逃したのです。それも自らの意思で……。わたしには経験
を積んだ弓使いに見えましたが、なぜ弓を緩めたのかはわかりません。……そこで議員の
ほうは妹に任せました――もし動きがあれば、議員が所持している偽情報の証拠を奪うよ
う指示してあります……。わたしはその弓使いのあとを追い、ねぐらを突き止めてまいりま
した……」
 ゲンマは黙って顔を歪め、長い襟に年老いた顔を埋めた。
 シーラは言葉を飲み込み、気持ちを落ちつけてから続けた。
「それにもうひとつ――我々から《思念球》を持ち去ったのも彼らです。連中はどうやら《思
念球》に記憶されたものを具現化する気でいるようです……。残念ながらそれ以上のことは
探れなかったのですが――まさか本当にそんなことが可能とは思えません。……あれは単
なる文献です。記憶したものをただ人々に見せるだけの物でしかなく、そもそもあれを駆使
できるのは魔法師のみ――その我々にしても、紙に描かれた絵を実体化させるような真似
はできないのですから」
 老人は襟のなかに仕舞った皺だらけの顔を再び出した。
「ふむ……。よいかね、シーラ。それが実現できるか否かを左右するのは、決して臆測や可
能性ではないのだよ」
 老人はふくよかに笑った。
「人間のこのちっぽけな頭で考えつくことなど、たかが知れているということだ……。たとえ
不可能と思えることでも、時間をかけさえすれば、それらを現実にするのはそう難しいことで
はないのさ。そうやって人間はここまで来たのだからね……。それに、やつらは実際に動き
出しているのだ。戦乱の世も過ぎたこの時代にわざわざ火種をつくり、傭兵ギルドとシーフ、
そして古都の三者を共倒れに終わらせようと企てるほどだからね――」
 シーラの金目がわずかに光り、ゲンマはそれを感じた。
「怖れているのだね……もちろん私もだよ。連中の思惑通り、傭兵とシーフと古都――この
三大勢力が共倒れに終るようなことにでもなれば、もはやこの大陸を押さえ込む力を持つ
のはアウグスタただひとつ。そのうえやつらは《思念球》に綴じられているアレを復活させよ
うとしておる……。あとには何が起こるのか――想像することは容易い……」

612みやび:2007/04/07(土) 05:23:34 ID:raciaAIc0
◇――『赤い絆 (四)』―――――――――――――――――Red stone novel[6/6P]

 若い教え子は師に問うた。
「ですがゲンマ様……わたしにはとても理解できません。連中はいったい何を考えているの
です? 大陸の支配権が欲しいなら、他の勢力を潰すだけで事足ります。しかし《思念球》
の利用が可能だとして――もしアレを具現化させてしまえば、当の彼ら自身、それによって
滅ぼされてしまうのは目に見えているはずです。連中はそれほど愚かではないと思ってい
ましたが……」
 ゲンマはそれには答えず、しばらく押し黙ったのちに言った。
「お前の妹は、まだ古都にいるのだな?」
「はい……偽の情報を掴まされた男――スタイナーという貴族ですが、その者の屋敷を見
張っているはずです。妹からの知らせがないところをみると、おそらくその議員はまだ動い
ていないのでしょう……」
 ゲンマは目を閉じ、なにかに思いを馳せた。
「あの子に文書の強奪だけを指示したのは懸命だったな……。だがこの先はそうもいかな
い。このまま行けば、いずれお前たちは人を殺めることになるだろう。お前は気丈な子だが、
ジーナはお前に比べて脆い。あの子に耐えられるかどうか……」
 シーラは意思のこもった瞳を老人に向けた。
「もとより覚悟のうえです。わたしも、もちろんあの子も……。スマグ総院が魔法院に取って
代わられた今日も、だからこそわたしたちはゲンマ様にお仕えしてきたのです。どうか……
なんなりと」
 ゲンマは不幸な姉妹を不憫に思い、そんな彼女たちに酷な仕打ちをする自身を罵りもした
が、ひとたび動き始めた時代という名の歯車を止める術は、誰にもないことを知っていた。
 だが同時に、その歯車に抗う気でいる自分が滑稽でたまらなかった。
「ふん。いくら知恵や知識を蓄えたところで、所詮ひとは愚かな生き物だな……」
「ゲンマ様……?」
「いいや、なんでもないよ……。済まないがシーラ。お前の妹が例の議員を殺すようなハメ
にならないうちに、その弓使いを引っ張ってきておくれ。もちろん穏便にだ……できれば我々
の戦力にしたい」
「かしこまりました――」
 そう言うと、シーラは来たときと同じように音もなく、闇のなかへと同化し、その場から消え
た。








◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

613みやび:2007/04/07(土) 05:24:20 ID:raciaAIc0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『赤い絆 (四)』

 ――あとがき――

 できれば毎回、読み切りとしてもそれなりに読めるようにしたかったのですが、今回は息
切れしました(汗)

 固有名詞補足――【スマグ総院】
 今日のスマグにおける「魔法院」は政治的な活動を失った組織ですが、「スマグ総院」は
その全身で、「立法院」と「行政院」から成る組織です。
 ゲンマはそこで力を振るっていた人物なのですが、今はそれ以上はナイショ(笑)

 あーあと。今回もおそらく誤字脱字のオンパレードだと思いますが、訂正はやめておきま
す……。(前回は自分の訂正を読み返して逆にヘコんだりして(泣))

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

614みやび:2007/04/07(土) 05:25:13 ID:raciaAIc0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce

>意気地も名も無しさん
 いやはや。まさか「墜落した衝撃」ではなく、パナパレとの「あんなことやこんなこと」の妄
想で気絶したとは……(笑)
 しかしあれです。テイマーと主人公の正反対な性格の違いは面白いのですが、果たして
内弁慶と外弁慶、どちらがいいのかしら……。いや彼らの場合はどっちもどっちな気がしま
すけど(笑) とりあえずふたりに幸アレ!

 脳内変換したら……でもファミに舐められる夢見そうですね……(汗)
 私は鷲狂戦士が好きです。なぜかZinは何の躊躇いもなく捨てたのにExは捨てられず、
未だに呼び出してはあの叫び声を楽しんでます。
 他にも捨てられないペットがいっぱい(汗) 銀行(7)の容量ですが、半分以上は飼育記
録書で埋まっている私。(良品なんて拾わないから困ることはありませんが……)

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

615◇68hJrjtY:2007/04/07(土) 14:52:46 ID:cQ/kmDCg0
>みやびさん
今までの「赤い絆」の登場人物がどんどん主人公として登場していますね。
トーマスさんがまさに…「赤い絆2」の時はただの一般市民と思っていたら王の家系ですか(汗)
これは今回登場のゲンマやシーラも…というより、物語自体がどこまで広がるのか楽しみです。
このまま短編ごとでも進行していくと何か壮大な物語が完成されて行きそうですね。

冒頭のマーガレット、最初の行を読んでいた時一瞬猫かと思ってしまった(笑)
こうやって最初は姿を明確にせず、突然実態を描写するという手法はなんか良いなぁ。
(バンプの歌の「ダンデライオン」が好きなだけです(笑))
飼育記録はそこまで埋まってしまうんですか…テイマさんは大変ですね(苦笑)
私も良品や水色品はまったくアレなんで銀行は(4)止まりで全然苦労してませんorz

616殺人技術:2007/04/07(土) 23:49:27 ID:E9458iSQ0
>>意気地も名も無しさん
 テイマはインシナで放置狩りですかねw
 日記方式の進み方が最終的に何を意味するのか、パナバレは名前だけはかなり印象的で覚えてます(ぁ
>>みやびさん
 貴族モノ、いいなぁ。
 貴族モノってお洒落な雰囲気と残酷な雰囲気が両隣になってて、一度は書いてみたいジャンルですね、でも自分にはそこらへんの知識は全くありません(涙
 みやびさんの話は全体的に耽美な感じが漂います。

チョキー・ファイル

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

32-36>>548-552
37-38>>568-569
39-42>>592-595

うん、やっぱり世界が変わると難易度も一変するね。
文面がメチャクチャだー……。

617殺人技術:2007/04/07(土) 23:50:04 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(43)

 "そうだな、口で説明するのも面倒だ、直接映像を見せるとしよう"
 ファイルはそう言って、幻影を消すと、チョキーの頭の中で何事かを唱え、チョキーは頭の中が熱くなるのを感じた。
 少し我慢しろ、じきに眠くなる――ファイルの言葉通り、チョキーの意識が眠る様に遠ざかり、熱い、だがしかし心地よい炎の海を泳ぐような浮遊感を感じ、チョキーの世界が暗転した。

 「この度即位される女王様の凱旋パレードの護衛だが、護衛指揮官が決まっておらん、誰かふさわしい者は居るか」
 地下界で最も広い領土を持つ一つの帝国、その王宮の一室である会議室の円卓に、物々しい空気を漂わせながら、十数人程の男性が言葉を交わしていた。
 円卓を照らすステンドグラスの外には青々とした空が広がり、その模様が円卓を縦横無尽に切り裂いている。
 議題は、その帝国の新しき統治者のパレード、代々女王が君臨するこの国にとって、最も重大な大イベント――当然即位する女王の警備は最善を尽くさねばならないが、その警護指揮官がパレードを目前に決まっていない為、誰を警護指揮官に推すか、という物だった。
 円卓はたちまち沈黙に包まれ、使用人達がそれぞれの席に置かれた器に飲料を注ぎ直す、何人かの名前は挙がったが、結局決まる事はなかった。
 それもそのはずである、代々行われるこの凱旋の警護指揮官と言うのは、ある意味名誉な仕事ではあるが、逆に言えば、もしも何かあれば、あっと言う間に全責任を負わされ、築き上げてきた地位を一瞬で無にされる可能性があるからだ。
 その上、その"何か"というのは別に女王の命が狙われるという重大事件でなくとも、ほんの些細な事を捏造されれば、後は流れでいくらでも裁判に持ち込む事が出来る、つまり、警護指揮官になれば、自らを邪魔がる誰かにその地位から突き落とされる可能性が極めて高いのだ。
 ステンドグラスから注ぐ光が朱の斜陽に変わり、街の雰囲気もどことなく静かになる、未だ円卓の上の会議は止まっているが、ある人物の言葉で、会議は大きく進んだ。
 「私が立候補しましょう、警護指揮官に」
 円卓を囲む男達の一人、珍しい白い姿をしたピエンドがそれを言って、会議は早々に終了した。
 立候補した一人の男、F・Fが警護指揮官を務めるという結論で。
 円卓から人の影が消え、宵闇に包まれた議場に一人残されたF・Fは、近日中に行われるパレードの護衛陣形の組み立てに着手していた。
 そこへ一人の男性――漆黒の羽毛を生やした中級悪魔の鷲人間が現れると、F・Fの書類に向かって格闘する姿を見て、揶揄する様に言った。
 「おいおい、まさかお前、警護指揮官になったんじゃないだろうな?」
 男はF・Fの隣に歩み寄り、その紙面をのぞき込んで、予想が的中した事に溜め息を吐いた。
 「お前、正気か?」
 男はそう言うと、F・Fが苛立ちを火炎に乗せて背中のマントを燃え上がらせたのに驚き、羽に燃え移ったその炎をジタバタして掻き消した。
 「別に、私は地位なんかどうでも良いと思ってるからな、嫌われてはいるが、奴らにとって私はそんな分かりやすい陰謀を立てられる相手でもあるまい、なぁW・C?」
 W・Cと呼ばれた黒い鷲人間は、それを聞いて憮然としながら口を開く。
 「確かにそうだが……、でもお前、会議がここまで続いてようやく立候補したんだろ、やっぱり本心ではやりたくないんじゃないのか?」
 「くどい、――寝てただけだ」
 F・FはW・Cの言葉を一蹴すると、その体に強烈な拳をお見舞いし、その体を吹っ飛ばした。
 宙を飛ぶ程に吹っ飛ばされたW・Cはステンドグラスを突き破る直前で踏ん張り、両翼を羽ばたかせて難なく着地した。
 「――お前、ストレス溜まってるだろ、たまには休暇とれよ」
 W・Cはその場に居るのが嫌になったのか、殴られた箇所を軽く払うと、黒い光と共に、一枚の黒羽根だけを残して忽然と姿を消した。
 F・Fはその姿を見送ると溜め息を吐き、再び黙々とした作業に取りかかった。

618殺人技術:2007/04/07(土) 23:52:06 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(44)

 王宮の周りに広がる城下町の大通りを信じられないくらいのパレードの列が練り歩き、連なるパレードカーの上では玄人同士の剣による決闘や美しい舞踊が繰り広げられ、煌びやかな装飾、そのパレードカーの間を練り歩く、色とりどりのコボルト族の踊り、様々な楽器を持って演奏する楽隊、騎士団の行進――
 そして、パレードの列のの丁度中心、最もパレードを挟む警備隊が多く、守りの強固なパレードカーの上に、8つの足を持つ新たな女帝が、2人の従者と黒い人形の様な騎士と共に、群れる国民に挨拶を贈っている。
 ――そして、本来最悪の事態が起こらぬ様に女帝の隣で目を光らせる筈の立場のF・Fは、パレードの音楽も遠耳にしか聞こえない城下町の外れで、何を考えているのか、何も考えていないのか、倒れている丸太に腰掛けてぼーっとしている。
 恐らく、もしもの事態が起こらぬ様に何かしら魔法は使っているのだろう、だがしかし、その姿は従来の警護指揮官のイメージとは括り付けられない物だった。
 「何やってんだ、お前」
 そこに、一枚の黒羽根がどこからともなく舞い落ちてきたかと思うと、突如黒い光を出したその羽根から、W・Cが姿を現した。
 W・Cの突然の出現に驚くふうもなく、F・Fは言葉を紡いだ。
 「あの女帝の隣には居たくない、どうせマントが十分すぎる働きをしてくれるからな」
 W・Cはそれを聞いてF・Fの背中――普段はあるはずの黒いぼろ切れの消えた姿を見ると、どこか同調の雰囲気を出して言った。
 「まぁな、あの女帝、正直不細工だしな、でも王族ってのは顔じゃないんだぞ?」
 W・Cはそう言い、F・Fの隣に腰掛けた。
 「そうだな……、個人的には、こうやって人気の無い場所でぼーっとしてたら、どこからともなく抜け出して来た美しいお姫様が――」
 「抜け出す訳ないだろう、常識的に考えて」
 W・Cの戯言にF・Fが受け答えすると、突然、付近の茂みが音を立て、二人が目をやると、そこに女性が現れて倒れるのが確認できた。
 「……どうやら、半分叶ったみたいだぞ? W・C」
 そう言った瞬間、倒れた女性が再び起き上がって、茂みとは逆方向に走ろうとすると、茂みから素早く手が伸びて、その細い足を鷲掴みにする。
 「山賊か」
 F・Fはそう言い、茂みから現れた数人の男達を見ると、片手を男達に向けて、指を鳴らす。
 W・Cは腰に掛けていた反り身の片手剣を抜刀しかけたが、不要だった様だ――男達の体が、軽快な皮を弾く音と同時に燃え上がり、絶叫を上げて女性を掴む手を離すと、肌を炭化させながら力なく倒れ伏した。
 女性は慌ててそこから逃げだし、今度は力が抜けて倒れそうになるのを、W・Cがその黒い片翼の上に抱き留めた。
 「ふん、ピエンドか――王国付近での山賊行為、国民に対する暴力、さらに凱旋パレード当日の犯罪は王族への侮蔑行為にあたる、死刑は確実だな」
 F・Fは甲殻や服の色が違う自分の同族を見下すと、山賊のピエンドは顔を仰向けにしてF・Fを睨め付け、W・Cは危惧を感じ取って声を上げた。
 「おいF・F、これまずくないか? 誰かに知られたら……」
 F・Fは暫し山賊の姿を見て思案すると、解決策を思いついたのか、無言で頷いて、両手を伸ばした。
 「じゃあ、証拠も残らないくらい焼けばいい」
 F・Fがそう言うと山賊達の表情にたちまち恐怖が浮かび、W・Cは憐憫の念を抱きながら、呆れかえった様に溜め息を付いた。
 「――せめて、すぱっと逝かせてやれよ」
 W・Cは念の為言ったが、F・Fは無表情で答える。
 「それは無理だな、ピエンドは炎じゃなかなか死なないんだ、まぁ最大火力で焼き払ってやるさ……ククク」

619殺人技術:2007/04/07(土) 23:52:37 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(45)

 W・Cは抱き留めていた女性が気を失っているのに気がつくと、F・Fが両手から超高熱の白炎を出すのに合わせて、目を反らせた。
 一帯に山賊達の叫喚が響き、F・FとW・Cの耳を劈く、だがその悲鳴はW・Cが小さく言葉を紡ぐと、町外れのその区画から外の人々には一切聞こえない様に遮断される――W・Cが得意とする空気の魔法だ。
 「だったら、他の魔法で逝かせてから焼き払えばいいだろうに……鬼畜め」
 「鬼畜で結構」
 山賊の体を白い炎が舐め回し、やがて響く絶叫も途絶え、明るい陽炎の合間から、水晶を鈍器で砕いた様な煌めきが広がり、風に吹かれて空高く舞い散って行った。
 ――十数分ほど経っただろうか、F・Fが両手から火炎を吐き出すのを止め、だいぶ疲労したのだろう、額に汗を滴らせながら大きく息を吐き、その場で仰向けに大の字になって倒れ込んだ。芝がF・Fの体を受け止めると、触れたそばから乾燥して縮れていく。
 「おい起きろ――無理か、外傷もなさそうだし、凱旋が終わるまでここで休ませるぞ」
 W・Cはそう言って翼から羽根を一本むしり取ると、それを投げ捨てる。
 W・Cの鉤爪の間に羽根が落ちると、羽根は黒く発光して巨大化し、W・Cはその羽根のベッドの上に女性を横たわらせた。
 F・Fが呼吸を整えて上半身を起こすと、死んだ様に眠る女性を眺めて、W・Cは同じく草地の上に座り、女性を見て唸る様に首を擡げている。
 「――そうだ、こいつ何処かで見たことがあると思ったら、第四位王位継承者だ、うん」
 W・Cは一人納得したように手を叩くと、F・Fは、何者だ? と問いかける。
 「……つまり、魔王の血を引いてはいるが、暗殺でも起こらない限り女帝となる事はないって事だ――っていうか、常識だぞ……」
 「今覚えた」
 W・Cは盛大な溜め息をついて、F・Fはそれを尻目に、立ち上がる。
 「何をするつもりだ?」
 W・Cは怪訝そうに伺い、F・Fは横たわる女性の傍らで膝を付く。
 「凱旋が終わるまでここに居させたらそれこそマズイだろう、警備がパレードに集中してる間に帰す」
 そう言って女性を持ち上げようと手を伸ばそうとしたが、F・Fは時間が止まったかのように手を止めた。
 女性が目を開き、F・Fと女性とが視線を交差させる。
 女性はF・Fの顔を無表情で見つめ、F・Fは少々困った様に体を引いた。
 「名乗りなさい」
 女性は横になりながらもはっきりとした口調で言い、F・Fは気圧されながらも手を引いて答える。
 「凱旋パレードの警護指揮官のF・Fだ、お前を屋敷に送り帰す」

620殺人技術:2007/04/07(土) 23:53:09 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(46)

 ――再び世界が暗転し、次第にチョキーが本来の意識を取り戻すと、目の前にはファイルの世界の議場で見たような斜陽で照らされた机と、静かな部屋が広がっている。
 白いティーカップ、茶色い漆塗りの机、チョキーの頭の影が橙の中に浮き彫りになり、机を両断する、その影の刃のむこう、真っ正面の白壁に、金の額縁に囲まれた家族が食事を摂っている、その部屋に窓はなく、朝見れば朝食の絵、昼見れば昼食の絵、夜見れば夜食の絵となる仕組みだ、今は夕方だから、間食か、だがその献立は闇に紛れて伺い知る事は出来ない。
 ここは地下界か? 地上界か? それとも死後の世界か? ――天上界では、ないだろう、そんな茫洋とした感覚がチョキーの頭を包み込み、一枚絵の様に動かぬ眼前の風景も、ただ存在しない幻の様な静寂も、チョキーを覚醒させる事はない、たった一秒の間だが世界は紛れもなく止まり、その詰まった歯車を突き動かしたのは、窓の外、玄冬の黒いカラスの鳴き声だった。
 「なんだ、もう終わりか?」
 チョキーは中途半端な所で元の世界に戻されるのに訝しみながら、ファイルに問いかけた。
 ファイルはチョキーの頭の中で一息つくと、それに静かに答える。
 "そうではない、全て見せたのでは時間がかかりすぎるからな、要点を絞り込んで映像を見せるだけだ、だが次に見せるのは今見せた映像の数十年後だから、一旦間をおかないと見せられないのだ"
 ファイルはそう言って深呼吸すると、チョキーは目の前においてあった飲み残しの紅茶を飲んで、ファイルに問いかける。
 「今出てきた女は、カイツールだな、見たところお前が彼女を攻撃する理由は思い浮かばないが……」
 チョキーはそう言うと、ファイルが仕方ない、という様に言葉を発し始める。
 "あの後、パレードは無事終了したが、私は後にもその女性には何度も会ったのだ、仮にも命の恩人とあって、賓客として扱ってくれたな"
 「……そうか」
 チョキーはそれを聞いてどこか釈然としなかったが、あえて追求するのはやめておいた。
 「それにしても、ある程度予測はしていたが、地下界のイメージとはやはり違うな」
 ファイルはそれを耳に入れて暫しその意味を考えると、チョキーの中に残る人間を嘲笑する様にほくそ笑んだ。
 "地下界だからって常に火山の噴煙が空を満たし、血の川が流れている訳ではない、3つの世界の境界は、地上界の人間の殆どが考えている様な三次元的な物ではないのだ、3つの世界の境界は常に偏在する物であり、その点の研究に関しては地下界が最も進んでいるらしい"
 チョキーはそれを商人――人間としてではなく、あくまで自分としての好奇心を持って熱心に聞き、ファイルはそれに気付くとやや困ったふうに眉間に皺を寄せた。
 "そうだな、混乱するから今の内にこれだけ言っておこう、地下界では悪魔は死ぬと地上界に追放される、言うなれば追放悪魔だな、再び地下界に戻るには必要な儀式があるのだ、しかしその儀式も出来ないまま地上界で死ぬと、その命は永久に失われて、稀にユニークアイテムとして力だけを残す、という訳だ"
 「……という事は、お前もあのカイツールも、地下界で死んだって事か、それと――こいつも」
 ファイルの言葉を聞き終え、チョキーは懐にあるワンダーワンドを軽く叩き、ファイルは頷いた。
 「――もう良いな、続きを見せるぞ」
 ファイルはチョキーの中で大きく息を吸い、想起するように目を瞑ると、再びチョキーの世界、静かな一室が暗転し、再び地下界の情景が広がっていった。

621復讐の女神:2007/04/08(日) 02:23:28 ID:.P0yJNK.0
「無理だな」
3人は現在、村長の家で地図を広げ、自分達で確認してきた情報を元に作戦を練っていた。
だが、さあこれから作戦をというところで、ボイルは言い切ってしまった。
「……なんのつもり? まだ、なにも決まっていないわ」
ジェシにしても、今この村がどれほど絶望的な状況にあるのかは、分かっていた。
村に逃げ帰った後、3人は予定道理エルフの印を確認し、気配を探ってきていた。
結果として、そこには確実にエルフがいるだろうということが、分かった。
「ジェシ、あまり感情的になるな。ボイル君、結論を出すには早急過ぎないかね?」
だが、フェリルもまた、ある種の諦めを覚悟した表情だ。
フェリルの探知能力でエルフと思われる気配は確認したのだが、数は4匹。
その数を確認し、3人はすぐに暗い表情になってしまっていたのだ。
エルフは人間よりすばやく、人間より体力が優れている。
たとえ1匹を倒せたとしてもそこまでだろうし、最悪、周りの蜘蛛たちを追いたて村を攻めるかもしれない。
では蜘蛛を先に倒せばと考えると、これもまた厳しい。
蜘蛛を定期的に監視している様子だったエルフの行動からして、片方を殲滅している間にもう片方の蜘蛛を村に攻め込ませる。
総出で蜘蛛を倒しに行くと、エルフ達は自ら強襲して村の女子供を惨殺するだろう。
つまり、手詰まりなのだ。
「それでも、私達は何とかしなくちゃならない。違うかしら、ボイル?」
「………ふっ、もちろんその通りだよ」
ジェシの挑戦的な視線を真正面から受け止め、ボイルは誇らしげに肯定する。
「さすが、私のフィアンセだ」
「あ、それは無い」
誇らしげに言い切ったボイルの一言は、ジェシにあっさり否定された。
「あなた、いい加減諦めたら? こんなときに言うのもなんだけど…私、あなたと付き合うつもりなんて、欠片もないわよ」
くっくっと笑い声を出すのは、フェリルだった。
「まったく、君達は見ていて飽きないな。さ、話を戻そう。たとえ0に限りなく近くとも、可能性はあるのだ。探さねばならん」
これから、限りなく0に近い勝利の文字を探し出す作業をするのだ、3人は気合も新たに地図の上に頭を寄せ合った。

622復讐の女神:2007/04/08(日) 02:24:58 ID:.P0yJNK.0
結局、出た結論は簡単なことだった。
まず、動ける村の者を出来るだけ集め、武器を持たせる。実際に戦うのは
ジェシたち3人と普段から武器を使い慣れている村の男手数人で、他の人
間は相手が攻めてきた場合で逃げられない場合に、戦う手段としてだ。
ジェシたち3人の考えでは、村の両脇に配置された蜘蛛やゴブリンは、エル
フ達がこの村を中心として新たな集落を作るための布石だ。ジェシは以前、
巨大なエルフの集落の近くまで行った事がある。そこは、蜘蛛の巣で覆われ
ていたと言っても過言ではなかった。
ということは、蜘蛛は巣を作り広げるのが目的であり、戦闘要員ではないだ
ろう。戦闘要員でないのなら、倒す相手ではない、無視しても大丈夫なはず
だ。ならば、エルフ達だけを敵と見据え、倒したほうが良いだろう。しかし、エ
ルフは生まれながらにして戦士だ、少しばかり戦えるだけの人間にいられる
と、ジェシ達は集中して戦えない。そこで、エルフ達を襲撃するのはジェシ達
3人で、残りの人間には村の両脇にいる蜘蛛達の動きに注意してもらい、妙
な動きがあった場合は逃げるか戦うかの判断を下すことにする。
エルフの動きは、昨日一日で大体の予測がついており、周期的に蜘蛛の監
視をしている。ジェシたちは、エルフがちょうど全員合流したところを襲撃する
ことにしていた。時刻にして、およそ正午。
この計画をフェリルが村長に報告し、村の全員に指示がいきわたり、武器な
どの準備をするのに1日を費やした。
勝負は明日。後は、時がくるのを待つばかり。
緊張に震えるこの村を、月は静かに見下ろしていた。

623◇68hJrjtY:2007/04/08(日) 04:10:17 ID:cQ/kmDCg0
>殺人技術さん
かなり悪魔たちの世界の事は考え練られていますね。私などは想像するだけで手一杯です(汗)
このスレの小説の中でも天上界の事は時折小説の端に出てきたりしますが、地下界については描写が少ないですよね。
ところでちょっと考えたのは追放悪魔が死んだ場合はUアイテムになるとして、天使の場合はどうなのかなとか(笑)
まだまだ色々殺人技術さんなりの設定がありそうですし、楽しみにしています。もちろん、ストーリーの流れも同様にお待ちしていますよ。

>復讐の女神さん
なるほど、蜘蛛とエルフの関係のくだりはまさに「妖精達の蜘蛛の糸」というMAP名がそれですね。
決戦前夜的な緊張感が漂ってますね。ある意味、村の存亡をかけた戦いでもありますしね(汗)
エルフは私も何度も何度も寝転がらされたのでLv上げてから個人的な恨み100%で狩りしてます。完全に俺TUEEEです。
特にスバインやドレミラに行く手前のタトバ山のエルフにはもう…普通のダッシュでは間に合いませんでした(泣)

624みやび:2007/04/08(日) 13:13:19 ID:fGZPE8s20
 ――本編――
 ●『赤い絆(一)』>>424>>436 ●『赤い絆(二)』>>477>>483
 ●『赤い絆(三)』>>529>>532 ●『赤い絆(四)』>>607>>612

 ――設定(全作共通)――
 ●小道具、固有名詞など>>495>>497

 ――関連作:番外編――
 ●『愛のしじまに』>>575>>583
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『赤い絆 (五)』―――――――――――――――――Red stone novel[1/7P]

 ひっきりなしに行き交う人、人――。
 ときには遠くのほうから喧嘩の声も聞こえて来る。
 あるいはどこからともなく「泥棒ーッ!」という叫び声。
 ともすると自分の背後から、手癖の悪いスリが慣れた動作で触手を伸ばしてくるのだから、
都会というのは油断のならない場所だ。
「うあッ!!」悲鳴を上げたのはスリだった。
 エレノアは自分の財布を握っているスリの手首を掴み、それを相手の背後に回してその
まま真上へとねじり上げた。一連の動作はほんの一瞬だった。
「お、おい待った――わかったから離してッ……!」
 たちまちエレノアの周囲から蜘蛛の仔を散らすように人が引き、そこだけ通行人の流れが
とまった。
 人々は遠巻きに輪をつくり、ふたりのなりゆきを見守る。なかには口笛を吹いたり、声援を
とばしたりする者もいた。野次馬たちにとって、こうしたショウはいっときの気晴らしなのだ。
 エレノアはスリの手から自分の財布を取り返すと、それを再び腰のポーチに収めた。
「手馴れたものじゃない。その手つきで『初めてでした』なんて言い訳はできないわね」
 まだ十七、八の少年――といったところか。スリの顔にはあどけなさが残っていった。
 その年代の若者と比べれば、エレノアは彼の母親でもおかしくない歳だ。にも関わらず、
いくら少年がもがこうとも、エレノアの戒めから逃れることはできなかった。
 エレノアは赤ん坊の手首でも捻るように、片手で軽々と少年の腕をねじった。
 少年はたまらず悲鳴をあげた。
「さて。好きなほうを選びなさい――腕の骨で終りにするか……それとも腕は勘弁してあげ
るから、代わりに牢屋に入るか」
 エレノアは笑顔で言った。そのあいだも少しずつ、少年の腕に力を加え続ける。
 周囲の野次馬のなかから「やっちまえ!」と声があがった。
「――そんな、嘘だろ!? たのむ……なんでも言うこと聞くからっ!」
「まあ、わたしの耳がもうろくしたのかしら……それともあなたの耳が遠いの? 答えになっ
ていないわよ」
「どけどけ――おい、何事だっ!!」
 人山を掻き分けて街の警備が駆けつけた。
 警備兵は少年を見るなり、彼の顔を覗き込んで吐き捨てた。
「ちっ、またお前か!」
 どうやら取り締まる側にとっては“お馴染み”らしい。
「前に言ったことは忘れていないだろうな? ええ! 今度こそお前も縛り首だ!」
 少年は腕の痛みに加え、兵士の言葉でさらに顔を青くした。

625みやび:2007/04/08(日) 13:14:10 ID:fGZPE8s20
◇――『赤い絆 (五)』―――――――――――――――――Red stone novel[2/7P]

「おっと、これは失礼した――」
 兵士はエレノアに向かって兵式のお辞儀をした。
「みたところ冒険者のようだが、お手柄だ。少ないが報酬も出ることになっている」
 そう言うとスリの体に手を伸ばした。
「待って」
 エレノアは兵士の手を制した。
「もしわたしが、被害を受けていないと言ったら……この子は放免してくださるのかしら?」
 兵士と少年、そして野次馬のすべてが息を飲んだ。
「馬鹿な!? 気は確かですか! 現にあなたは――」
 エレノアは少年の手首を自由にしてやった。
 少年は腕を抱え、小さくうめいてその場に崩れた。
「罪人といっても人の命を奪う強盗ではないのだし……このまま彼が死んでしまっては、わ
たしも街に着いたばかりで夢見が悪いわ……。ねえ兵隊さん、今回はわたしに免じて、彼
を見逃してくださらない? もしこのあと、もういちどこの子が同じような真似をしたら、今度
こそ縄をかけて吊るすといいわ」
 そうして兵士に体を寄せ、エレノアは耳元でささやいた。
「ね、兵隊さん……?」
 周囲の人々に見えないように、そっと兵士の胸元に紙幣を滑り込ませた。
 兵士は顔をしかめてうなったが、歳を感じさせないエレノアの美貌と、そしてお金の魔力
にとうとう折れた。
「おい、命拾いしたな――この方によくお礼を言っておけっ!!」
 兵士は少年の頭を軽く小突き、その場を立ち去った。
 数人の野次馬が文句を言ったが、大半はエレノアの寛大さに納得し、通りは普段の人
波に戻った。
 少年は泣きそうな顔で、その場を動けずにいた。
「もう行きなさい……。だけどこの次はないわよ。お説教をするつもりはないけれど、あなた
はの命は財布ひとつに見合うような、そんなちっぽけなものなのかしら? それをよく考え
ることね……」
 うずくまる少年に言うと、エレノアは目的地を目指し、古都の喧騒を歩き始めた。

 この街に来るのは何年ぶりだろうか。以前となにひとつ変わっていない。街の風情も、そ
して今しがたのスリとのひと幕も――なにもかもだ。
 その全てが懐かしく、また心地好くもあった。
 彼女は古都の中心を渡り、評議会の議事堂をかすめ、ギルドの建物に入った。

「こいつは驚きだっ! エリスじゃないか!」
 彼女を出迎えたのはブルンギルドの代表――ガルプレン・ナーガだ。
 その昔、この太っちょとは幾度も冒険を共にしたことがある。もちろんその当時の彼はま
だ若く、今ほど太ってなどいなかったが。
 ふたりは抱き合い、キスを交わした。
「そうか、やっとうちのギルドに入る決心がついたのか!」
 エレノアは笑った。
「馬鹿を言わないで、もうこんなおばあちゃんよ」
 ガルプレンはエレノアに負けじと声をあげて笑った。
「冗談はどっちだ? そんなに美しい姿をしていて! 謙遜するのはいいがほどほどにしな
いと、若い女の子に嫌味だと思われるぞ?」
 ふたりは笑った。

626みやび:2007/04/08(日) 13:14:57 ID:fGZPE8s20
◇――『赤い絆 (五)』―――――――――――――――――Red stone novel[3/7P]

 このガルプレンという男、ギルドの代表になってからは合う度にエレノアを勧誘した。彼女
が傭兵ギルドに在籍していようと、退役していようとお構いなしにだ。
「本当に……昔のままね、あなたは」
「まあ、そう言いたいところだが……お腹はこんなになってしまったよ。今じゃコイツが邪魔
で、剣を振るのもひと苦労さ――もっともここ何年かはデスク・ワークだがな!」
 そう言って豪快に笑った。
 男は部下に業務を任せ、プライベートな個室にエレノアを案内すると、大切にとっておいた
外国産のお茶を振る舞った。
 そうして昔話を一通り終えた頃、エレノアは切り出した。
「わたしね、しばらく旅に出るつもりなの……」
 それまで頬を緩めていたガルプレンの顔が、急に引き締まった。
 苦楽を共にしたかつての仲間の表情を見るだけで、男には彼女の“決意”がわかった。
「……長くなりそうなんだな?」
 エレノアはうなずいた。
 今度ばかりはこれまでとはちがう。冒険を求める旅ではなく、生を求める冒険なのだ。そ
れも自分のだけではない、最愛の我が子の命が左右される旅だ――マリアがふらりと帰っ
てきたときに、母娘の進む道は決まったのだ。それ相応の覚悟と同時に、苛酷な長旅に耐
えられるだけの最低限の装備が必要だった。それに事実上、マリアが傭兵ギルドを脱走し
てしまった手前、アリアンに出入りすることはできなかった。だからエレノアはここまで足を
運んだのだ。まとまった物資を短期間で準備できるのは、彼をおいてほかにはいない。
「そうか……それほどの相手か」
「ええ……。わたしだけじゃないわ。あの子の命もかかっているの」
「ああ、マリア! あの跳ねっ返りか!」やや間を置き、「だがあの子の任期は――」険しい
顔をした。「そうか……あんたらはの“敵”は傭兵ギルドなんだな――」
 そこまで言って、ガルプレンは口が滑ったことに気付いた。
「いや、忘れてくれ。俺みたいなのが下手に事情を知っても良いことはないからな。かえっ
てあんたとあの子に迷惑がかかる……。俺もいま口にしたことは忘れたよ」
「ごめんなさい……恩に着るわ」
「なあに。水臭いことを言うな。あんたが俺の命を何度救ってくれたか――どれほどあんた
に尽くしたってまだ足りないよ……。それで何が必要だ? 最新の武器か、馬車か? 何
だって用意してみせるぞ!」
 エレノアは黙り込むと、前よりも肉がたるみ、皺の増えた懐かしい友の顔を見つめた。
 それからふいに立ちあがると、テーブル越しに男にキスをした。
 挨拶代わりの軽い口づけではなく、恋人にするような接吻だった。
 長い口づけが終ると、彼女はこみ上げる涙を隠し、微笑んだ。
「あなたは最高の友人よ。本当に、感謝しているわ……」
 ガルプレンはそのとたん、もう二度と彼女とは会えないような予感に襲われた。
「――いや、まてよ! なんなら人手はどうだ!? そうだ、ちょうど今、活きの良いのがふ
たりばかり入ったところなんだ……ああ、腕も立つし、口だって硬い。義理を重んじる、正真
正銘の剣士だ! 俺が言えば――」
 堰を切ったようにまくしたてる男を、エレノアはとめた。
「ありがとう……でもこれは、誰かを巻き込んではいけない種類のことだと思うの。その気
持ちだけで充分よ」
 今度はガルプレンの目に熱いものがこみ上げていた。
「そうか。ああ、わかった……わかったよ、エリス。もう何も言わん……」
 そして男はついに、押しとどめることのできなかったものを流した。
「だが約束してくれ……いつかまた――俺を訪ねて来い。必ずだ……」
 男は放心したようにうなだれた。

627みやび:2007/04/08(日) 13:15:40 ID:fGZPE8s20
◇――『赤い絆 (五)』―――――――――――――――――Red stone novel[4/7P]

 エレノアはめっきりと老けこんでしまった男をなだめ、お尻をたたくと、旅に必要な品物の
リストを彼に握らせ、もういちどキスをして個室を出た。
 ギルドのロビーを歩き始めたときには、すでにいつものエレノアに戻っていた。
 これから長い旅が始まるのだ――そしておそらくは、かつてないほどの危険をともなう逃
避行だ。こんなところで、落ちこんだり悲しんだりしている暇はない。彼女はこれから、どん
なことがあっても娘を守らなくてはならないのだから。
 出口へ向けて柱の角を折れたとき、彼女は男性とぶつかりそうになった。
 だが実際にはぶつからなかったし、転んだのは男性だけだ。エレノアは反射的に男の体
を避けたが、相手はそうではかなった。ぶつかると思いこみ、その反動で自分から不自然
に身をよじり、勝手にひとりで転んだのだった。
「まあ、ごめんなさい!」
 エレノアはとっさに手を差し伸べた。
「ああ、いえ。こちらこそうっかりしていて……」
 答えながら、差し出された手をとった男性はトーマス・スタイナーだった。
 その直後――エレノアはトーマスの背後にうごめく“気配”を察知した。

(え――!?)
 ジーナの意識は冷水を浴びたように硬直した。
 彼女の姿は“普通の人間”には見えないはずなのだ。
 それはウィザードが最も得意とする魔法のひとつ――自身を瞬時に離れた場所に移動さ
せる転移の魔法だった。それも幼いときから大魔法師ゲンマに仕込まれ、常人離れした域
に達していた彼女の術は、その魔法に関する限り、すでに姉や師のレベルを軽く超えるも
のになっていたのだ。
 ジーナはその魔法を連続して使うことで、姿を消すことができた。
 もちろんそれは擬似的なもので、本当に透明になれるわけではない。また精神的な負担
が大きく実戦向きではなかったし、長時間の使用にも無理がある。熟練した魔法師なら―
―ある種のテレパシーに似た共感をもつ双子の姉は別にして、師であるゲンマのレベルに
相当する魔法師ならば、だ――気配を感じる程度はできるだろう。だが少なくとも、それ以
外でジーナの動きを捕捉できる人間など、存在しないはずだった。事実、ゲンマに肩を並べ
る魔法師は大陸でも数えるほどしかいないのだから。
 目の前の女は、それを容易く見破ったというのだろうか? 馬鹿な、あり得ない!
 凝縮された一瞬に同化することで、相対的に引き伸ばされ、緩慢になった時間のなかに
存在するジーナは思った。
 そしてジーナの疑問は確信に近い恐怖に変った。
 女が“トーマスの体を起こしながら”自分に向けて突進してきたのだ――!
 ジーナの目にも、その動きが虚像なのか実体なのか、判断できなかった。
 女はトーマスを支えたままの格好で立っていた――その姿を残したまま、一方では“もう
ひとりの彼女”が、ジーナにめがけて突っ込んできたのだ。
(この女――!)
 ジーナはすべての精神をかき集めて跳躍した――。

「大丈夫ですか? 本当にごめんなさい……」
 エレノアが申し訳なさそうに言うと、トーマスはなんども首を振った。
「とんでもない。お嬢さんに非はありませんよ。私がほんやりしていたのです」
「あら、お嬢さんだなんて……!」
「え、あの……」
 トーマスはなぜ彼女がそんな台詞を返してきたのかわからず、困惑した。彼はエレノアの
ことを二十代の後半くらいに思っていたのだ。

628みやび:2007/04/08(日) 13:16:21 ID:fGZPE8s20
◇――『赤い絆 (五)』―――――――――――――――――Red stone novel[5/7P]

 それから他愛のない世間話を交わすと、ふたりは会釈して別れた。
(辺ね。たしかに気配を感じたのに……わたしも歳かな)
 少しばかり落胆し、軽いため息をもらすと、エレノアはギルドの建物をあとにした。

 すべてが一瞬のことだった。
 トーマスも、もちろんその場にいた周囲の人々も、女とジーナの動きに気付いた者は誰ひ
とりとしていなかった。
 女が建物から出てゆくのを見送ると、ジーナは周囲に気付かれないよう注意深く、そっと
魔法を解いた――。
 なにもない大気のなかから女が産まれた。
 その顔は姉のシーラにうりふたつだ。だが姉とはちがい、ジーナの瞳は左右ともに漆黒の
水晶だった。
 彼女はウィザードが着る黒いコートに身を包み、その中に腰まである真っ直ぐな黒髪を仕
舞い込んでいた。
 両手を襟足に忍ばせ、そのまま勢いよくかきあげて長い髪をコートから開放した。
 白鳥が巨大な翼を広げるみたいに、彼女のつややかな黒髪がパッと花開いた――普段
なら、彼女はこの瞬間が好きだった。髪全体に酸素が行き渡るのを楽しみ、自分のなかに
ある女の部分を確認できる行為のひとつだ。
 だが今の彼女にその余裕はなかった。
 体の力を抜き、ドッと柱にもたれかかる。
 いっきに緊張が消え、自分が息をとめていることに気付き、あわてて口を開く――。
 初めて息の仕方を覚えた仔羊みたいに、太古の魚が灰呼吸に目覚めた瞬間のように―
―彼女は口をぱくぱくさせ、なにかを思い出すように空気を求めた。二、三度咳こみ、咽び
ながら、胸を押えて呼吸することだけに意識を集中した。
 はまるで一日中でもゲンマにしごかれたあげく、その足で戦場を駆け抜けたように疲労
し、精神力の大半を使い果たしていた。並みのウィザードなら、その場で失神していたこと
だろう。
 呼吸が落ちつき、動悸が治まると、ジーナはようやく本当の意味でひと息ついた。
 そして安堵した反動で身震いした。
 背中にはじっとりと嫌な汗をかいていた。
(そんな……ありえない――あんな動き……!)
 チラリとしか見えなかったが、あのとき自分に向かって突進してきた女の手には、光るも
のが握られていたのだ――。
 もしもあのとき身を引いていなければ、今頃はどうなっていたかわからない。
 あの女は本当に人間なのだろうか? ジーナは初めて、心底から恐怖した。
(女の顔は覚えたわ……とにかく今は、仕事に集中しなくちゃ)
 彼女はなんとか気持ちを落ちつけると、トーマスの監視に意識を戻した。
 だが消耗が激しすぎて、もうこれ以上は魔法を紡ぐことができそうになかった。
 ジーナは仕方なく、トーマスに面が割れていないことに感謝しつつ、姿をさらして行動する
ことにした。

629みやび:2007/04/08(日) 13:17:08 ID:fGZPE8s20
◇――『赤い絆 (五)』―――――――――――――――――Red stone novel[6/7P]

「きみ。この書類をたのむ――不可侵文書扱いだ」
 ギルドの奥まった一角に進むと、トーマスはひとりの女ウィザードに書簡を渡した。
 この街に知り合いのウィザードが出向していなくて幸いだった。その女ウィザードとも、ジー
ナは面識がなかった。
 そこはギルドのなかに設けられた私書箱だった。トーマスは議会に報告するまで、手元に
文書を置いておくのは危険だと判断し、そこへ保管することにしたのだった。
 もちろん評議会に行けば、議員が無料で利用できる保管場所はあるのだが、こういうもの
を預けるときにはギルドのほうが信頼できた。あらゆる人間の出入りが前提であるために、
保管や秘密保持といった面ではギルド以上に気を使っているところはないのだ。
 少し離れた場所で、ジーナは冒険者向けの依頼やら仕事の斡旋が記載された冊子を眺
めるふりをして、ふたりの動きを盗み見ていた。
「お元気そうですね、スタイナー様――保険はどうなさいますか?」
 書簡を受け取り、手元の依頼書に何かを書き込みながら女は確認した。
 トーマスにとっては、その書簡が人手に渡ること自体、全てが無駄になることを意味して
いた。だから本当は保険のことなどどうでもよかったのだが、重要書類に保険をかけないと
いうのも不自然なことだった。
 トーマスは頭を掻きながら少し悩んだ末、無難なランクの保険を申請した。
 ジーナは不審に思われないように、定期的に冊子のページをめくり、たまに冊子を取り替
えたりした。
 周囲には冒険者や商人、それに一般の人間も少しは行き交っていた。なにもわざわざ好
き好んで、とは思うが、たまに子連れの主婦たちが噂話に花を咲かせていることだってある。
 ギルドとはそんな場所だ。その中で彼らは仕事と情報を得、交換し、あるいは出会い、生
きるための糧と明日の保証を手に入れ、そして未来への希望を掴むのだ。
 ふと、ジーナの背後から中年の女たちの会話が聞こえてきた。
「ねえ奥さん、聞きました? ターナさんのこと……」
「ええ! なんでも半年前に死んだはずの娘さんを、夜道で見かけたんですって!」
「この一年、そんな話しがあとを絶たちませんわね……ああ、恐ろしい!」
「あの公示のゴシップは、もしかすると本当なのかもしれないわね」
「《古都の亡霊》というあれ?」
「そうそう! 亡霊になったレッド・アイの残党たちが、仲間を集めるのに死者を復活させて
いるっていう話しよ……!」
 大きな街というのは、そんな噂話が絶えない。
 そうした与太話のほとんどは、寝ぼけた子供が何かを見間違えるか、酔っぱらいの錯覚
が震源地である場合が多い。だがそんな馬鹿げたゴシップもないようでは、都市としての
活気だって望めないのだ。
(ふうん……亡霊ねえ)
 それからハッとして、注意の矛先をトーマスに戻した。

630みやび:2007/04/08(日) 13:17:49 ID:fGZPE8s20
◇――『赤い絆 (五)』―――――――――――――――――Red stone novel[7/7P]

 依頼書に必要事項を記入しながら、女は最後に書簡の引き出し予定日を反復した。
「お引き出しは一週間後ですね」
 トーマスがそうだ、と答えると、同時にジーナも心のなかでうなずいた。
 一週間後――おそらくはそのときに評議会へ報告するつもりなのだろう。
 そうでなくとも、彼が文書を手放した時点で、ジーナの仕事は半分がとこ終ったも同然だ。
 姉からは男に動きがあったときに文書を奪うよう言い渡されていたが、物が男の手を離れ
てしまえばその命令も無効だ。仮に文書が消えたことに彼が気付いたとしても、盗まれた
経緯が不明となれば、下手に動くことは彼にとっても自身の立場を危くしかねない。それは
「私の大切な物を盗んだのは誰だ」などと道行く人に手当たり次第に聞いて回るような行為
だ――彼はどうすることもできずに、ただ口をつぐんでおとなしく毛布を被っているしかない
のだ。
「では……手数料はいつものように銀行から徴収いたします」
「ああ、そうしてくれ」
 トーマスがそう言ったときには、ジーナの姿は消えていた。
 もう彼を監視する必要がなくなったのだ。あとは一週間のうちに、ゆっくりとあの文書を盗
めばいいだけなのだから。

 通りに出たジーナは、開放感でいっぱいだった。
 そしてふと、あの女のあとでも追ってみようかと思ったが、先ほどの恐怖がわき上がるの
を感じ、あわててその考えを引っ込めた。
 それからしばらくはのんびりと川面を眺めたり、露店を見たりして街を散策したが、思い立っ
てトーマスの屋敷に戻ってみることにした。
 すでに用のない場所だったが、個人的に気になることがひとつ残っていた。
 ジーナは単純な詠唱を試した。
 彼女の足元に散らばっていた枯れ葉が音もなく浮き上がると、踊るように渦を巻いた。
 小さくうなずき、彼女は跳躍した――。

 赤茶けた煉瓦の街路に、彼女の残り香と枯れ葉の舞いだけが残された。








◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

631みやび:2007/04/08(日) 13:18:34 ID:fGZPE8s20
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『赤い絆 (五)』

 ――あとがき――

 エレノアの出だし……初登場のときと同じパターンですね(汗)
 まあ冒険者につきもののシーンということで、ご容赦ください……。
 あと、せっかくレスを消費して出した設定にアンカーを付けていなかったことに気付き、今
回からそれも追加しました(汗)

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

632みやび:2007/04/08(日) 13:19:17 ID:fGZPE8s20
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce

>殺人技術さん
 三界の仕組みと、悪魔が死後に向かう地上界、というのはとても面白いですね。
 まるで全てが輪廻流転しているような刹那がステキ。
 W・Cも男らしくていい感じ。ちょっとドジっぽい雰囲気が漂ってる気もしますが(笑) でもカッ
コいいです。地下界のイメージは、私もおどろおどろしい、じめーっとした暗いやつを想像して
いました。想像力が貧困な証ですね(汗)
 なぜファイルがカイツールに手をかけたのか、次あたりで明かされるのかしら。楽しみです。

 貴族は好きですね。とくに退廃的な感じが(笑)
 どちらかというと華やかな表より、陰惨な裏の顔が好きなのかなあ。煌びやかでキレイな
だけの姿は宝塚で充分ですしね(笑)
 殺人技術さんのお話しは、技巧的ですよね。ギミックがいいです。

>復讐の女神さん
 こういったフリーフィングの場面は、小説としての面白さもさることながら、実際わくわく感
が募りますね。果たして作戦通りにいくのか、心配であり楽しみです。
 ところで最初、主人公視点なので当然と言えば当然なのですが、嫌味なボイルがあまり
好きではありませんでした(笑) でもなぜか、なんとなく憎めないというか、あれ、もしかして
ちょっといいかも? なんて思うようになりました(笑)

>68hさん
 さっそく略してみました(笑)
 トーマスを最初に登場させたとき、古都襲撃計画を掴んだという絡みもあるので、素性を
出すべきかどうかけっこう悩みました。
 ゲンマ、シーラ、ジーナもけっこう気に入っているので、小出しにしないで本当はいっきに
全部を曝け出したいくらいなんですが(笑) まあそういうわけにもいきませんからね(汗)
 マーガレットを猫と思っていただけたなら、本望です(笑) 作者の意図が通じたわ(笑)
 ダンデライオンは私も好きですよ♪
 
 テイマーは大変……というのもひとによるんでしょうけれど。私は完ソロなのでペット遊び
は必須です(笑)
 人気のペットはやっぱり飽きてしまうので、レギュラーのお供も弱々のマイナーペット(汗)
 そうそう、タトバ山のエルフ、適正の頃は私もお世話になりました。違う意味で(汗)
 なので今ではそのときの恨みとばかりに、わざわざ普段使わないファミを出してチクチク
刺していたぶるのが好きです(笑)
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

633◇68hJrjtY:2007/04/08(日) 23:24:41 ID:cQ/kmDCg0
>みやびさん
なるほど、「赤い絆1」の出だしと同じというのは逆に考えれば
この「5」がエレノアとマリアにとっての新しいスタートラインという意味もありそうですね。
このエレノアの話が軸としてゲンマたちとトーマスが絡んでくる…伏線が凄いなぁ(汗)

しかし、女性ウィザードというのも考えてみれば悪魔とまでは行かずともセクシーなイメージもありますね。
テレポートを連続使用して透明になったように見せかける…想像もできない使い方でした(汗)
確かにテレポを連発して移動してると消えてるように見えますよね(笑)

634携帯物書き屋:2007/04/08(日) 23:53:12 ID:mC0h9s/I0
プロローグ 前スレ>645
1日目>646>692 2日目>693-694>719-721 
3日目>762-764>823-825>874-878 4日目>>34-37>>73-75
5日目>>95-98 6日目>>185-187>>227-229 
7日目>>306-310 8日目>>383 9日目>>384
10日目>>461-465 >>556-559
ネタ話>>123-125

あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>556-559

『孤高の軌跡』

「やるしかないみたいね……」
そう言いながらニーナは前進する。
純白のワンピースの上から光が包み、金色の鎧が姿を現す。
その手には自身よりも大きい長槍が握られていた。
「待て、ニーナ。そいつとは……」
俺が近づこうとすると、眼前に白い掌が現れた。
「下がって、ショウタ。ここから先は私の戦いよ」
「ニー……ナ」
何か言おうとしたが、強い決意の前に俺はその人の名を呼ぶしかなかった。

ニーナが立ち止まる。
その視線の先には、ニーナとは真逆の銀色の鎧に身を包む剣士がいた。
互いに無言。
この広い空き地は、いつしか別次元の空間に変わっていた。
風切り音と共にニーナが長槍を構える。
同時に男も鞘から剣を抜刀し、凛とした鈴のような音色を奏でた。
静。互いに相手の出方を伺うように平行に歩く。
突如2人の足が止まる。そしてそれが合図となり、2人は同時に飛び出した。
数十メートルあった距離は一瞬にして縮まり接触する。互いの力と技がぶつかり合い、火花を散らす。
そして再び距離を置く。
「む……貴様、以前闘った時より魔力が上がっている。もしや既に1人倒しているな?」
「貴方こそ。あの魔獣使いの少女が残っているとすると、あの老魔道師はもう居ないのね」
「そういうことだ。……ならば手加減は不要だな」
「そんなもの、初めから要らないわよっ!」
猪突猛進。ニーナは怒号と共に疾走した。
槍のリーチを生かした横払い。迎え撃つ男は盾を構える。
ニーナの払いを男が盾で受け止める。剣の反撃を受けるより速く、ニーナが続けざまに突きを放つ。
しかしそれは大気を穿つだけ。さらなる突きを男は受け、流し、弾き、躱す。そして1歩また1歩と確実にニーナに近付いて行く。
――――人知を遥かに凌駕した闘いが、目の前にあった。
定石なぞ不要。小手先など無意味。俺なんかじゃ決して届かない闘いが数十メートル先に繰り広げられていた。
「っ――――!」
苦しくなったニーナが後退する。

本来、槍のような長柄の武器はその大きな間合いで戦い、敵が近付くことを許さず戦いを制するものだが、
この敵にはそんな定石など通用しなかった。

後退したニーナを追撃する銀色の男が駆ける。
「っ、く――――」
体勢もままならないまま、ニーナが苦し紛れの横薙ぎを振るう。
だがそれも空を切り裂くだけだった。
男は瞬間移動したかと錯覚する程の速さで跳んでいた。
「パラレル――――」
落下する男の口から言葉が紡がれる。だがそれは一種の呪文のようにも聞こえた。
「――――スティングッ!!」
瞬間、我が目を疑うような現象が起こった。
なんと、男の両脇には男と全く同じ姿形をした何人もの男たちが揃って剣を構えていたのだった。
左右4人ずつ。合計9人の男が同時に突きを放つ!
気づいた頃には既にニーナは回避行動を開始していた。
しかし躱し切れる筈もなく、無惨にも脇腹を切り裂かれる。
――――いや、それだけで済んだと言った方がいい。
後退するニーナは切り裂かれた脇腹を押さえながらも片手で槍を構え、戦闘の意思を見せる。
腹を押さえた手には光が灯り、治癒が開始されていた。

今のは本当に危なかった。
男が放った突きは、どちらかと言うと爆撃に近かった。
現に、男の一撃を受けた大地には9つの大穴が穿たれている。

土煙の中から男が現れる。
そして唾を吐くように舌打ちをした。
2人は睨み合う。最早言葉は交さない。いや、闘いに於いて言葉なぞ不要だとその目が告げていた。

635携帯物書き屋:2007/04/08(日) 23:53:54 ID:mC0h9s/I0
覚悟を決めたようにニーナが1歩を踏み出す。
今までみたく単純に斬り掛っても絶対に勝てない。ならば、弓兵らしく遠距離から攻めた方が効果的だ。
だというのに。
ニーナは男に向かって疾駆していた。
「なっ――――!」
1番驚いていたのは男の方だった。
苛立ちを含んだような表情に変わり、稲妻を思わせる切りっ先で迎撃する。
だが、男の剣はニーナを捉えなかった。
ニーナは寸前で飛翔し、男の真上へ跳んでいた。
「ちぃ、私の真似事か……!」
男の言葉通り、ニーナは先程の男の如く9人に分身した。
だがそれは似て非なる物だった。
2人の違う物。それは分身の仕方にあった。
男の分身は並ぶように平行に分身したが、ニーナのは輪を囲むように分身したのだ。
空中で一斉にニーナたちが槍を振り上げる。
そして――――それを弾丸の如く投擲した。
「むっ――――!」
放たれた9本の槍は瀑布となり男に降り注いだ。
男は剣と盾でそれを防いだが、捌き切れなかった槍は手足の鎧を穿ち、その奥の肉までも削り鮮血を噴かせた。
そんなことも気にせず男は剣を振りかざす。その刀身に光が収束していく。
対するニーナは既に弓へ持ち変えていた。
露出した右腕からは太陽を象る刺青が浮かび、微光を放っている。
一瞬の間。
その間に2人はそれぞれの得物へ極限まで魔力を込めていく。
そしてそれも遂に臨界へ達する――――!
「ライトベロシティィッ!!」
ニーナの渾身の一撃が放たれる。
その超高密度の光の矢は、途中で屈折し標的に向かって直進して行く!
しかし光の矢は別の光によって進行を阻まれた。
それは男の光だった。
刀身から放たれた光の奔流は、1条の閃光となり矢を凌ぐ。
激しい魔力のぶつかり合いで2つの閃光は空中で爆散した。
その爆風だけで脆弱な俺は吹き飛ばされそうになる。
その先でニーナが重力を感じさせずに着地した。

「……どうやら私は君を侮っていたらしい。謝罪しよう」
「…………」
男の言葉に対してニーナは無言。気にせず男は続ける。
「ならば、こちらも相応の覚悟で行かせてもらう」
そう言うと、男は手に持っていた盾を手離した。
しかし、盾が大地に落ちることはなかった。逆に盾は重力に逆らい、離された高さのまま浮かんでいた。
「……シマーリングか」
ニーナが呟く。
浮かんでいる盾は、次第に動き出し男の周りを回り始めた。
男を惑星と喩えると、回っている盾は衛星といったところだろう。
突如、男の空いた左手に空間の歪みが生じた。その歪みは次第に剣を象っていく。
歪みは遂に実体と化し、男の手には合計2振りの剣が握られた。
「さあ、続けようか」

636携帯物書き屋:2007/04/08(日) 23:54:41 ID:mC0h9s/I0
「ちょっと待って。もしかしてそれは魔剣……!」
「如何にも。これは魔剣アンドゥーリルだ」
「有り得ないわっ! 魔剣と聖剣を同時に握るなんて……」
ニーナの声が強張る。果たしてそれがどれだけ凄いことなのか俺には判る筈もない。
「確かに。聖と魔は反発する物だ。だが、私にとってそれは関係ない。
言いたいことはそれだけか。ならば、此方から行くぞ」
男が駆ける。盾という重りが無くなった分速さは増している。
ニーナも弓で迎撃するが、盾が自動的に防ぎ、足止めにすらならない。
「ちぃっ!」
舌打ちをし止むを得ず槍に持ち換える。
キンという金属同士がぶつかり合う音。それは一種の音楽のようでもあった。
そのリズムは際限なく早くなっていく。
ニーナは防御に専念して、辛うじて防いでいた。だがそれも時間の問題だ。
槍兵としてのニーナは剣士の男には敵わない。それは先程の戦闘で証明されている。
それに、今の男は剣をもう1つ握り更に攻撃力が上がっている。
「あぁっ――――!」
刈り取るような斬撃でニーナは吹き飛ばされる。
「あぅっ!」
そして受け身も取れずに地面に叩き落とされた。
それでも男が足を止めることはなかった。

「が、はっ――――!」
これで何度目か。何度吹き飛ばされようともニーナは立ち上がる。
「…………」
聖剣が一閃される。それをニーナは槍を立てて受ける。
その隙にもう一方の魔剣が振るわれる。受け切れず、ニーナは体に傷を刻みながら吹き飛ばされる。いつもこのパターンだ。
「っ、あ――――」
されどニーナは立ち上がった。
「……しつこい。悪いがこれで決めさせてもらうぞ」
男は魔剣を突き出すように構える。
突如魔剣の刀身に赤黒い光が灯り、炎を纏った。
そして一閃。魔剣の炎は燃え猛る火炎放射の如くニーナに襲い掛った。
「――――!」
刹那反応が速かったニーナが横っ跳びで躱す。
速さも無く且つ直線的な炎はニーナにとって必殺にはなり得ない――――!
「掛ったな、女」
男が言うと同時に直線的な炎は旋回するように向きを変えニーナを囲む。
遂にニーナの周りには炎の壁だけになった。
「や、やばい」
俺はやっと気づいた。男の狙いを。
火炎放射のような炎はその熱量だけでも脅威だが、真の恐怖は別にある。
そう、それは超高熱の燃焼ガス。
燃焼ガスは人間の皮膚呼吸を奪う。そして1度吸ってしまえば肺を焼き尽し、人は確実に死に至る!
ボンと言う音と共にニーナが炎の壁から飛び出してきた。
喉を押さえ、苦痛に身をよじっていた。
そこへ男の追い討ちが放たれる。
もう一方の、聖剣の閃光がニーナを撃ち落とす。
どさりと。重たい音を立ててニーナが冷たい大地へ落下する。
――――死んだと思った。
あれ程まで傷ついて生きている筈はないと思った。
それなのに。
「む……まだ立つか」
目の前の彼女は何度でも立ち上がった。
「はあ、はっ、――――持つ、者の……」
息も絶え絶えにニーナが何かの言葉を発する。
「――――持つ者の魔力を高めると言われる魔剣アンドゥーリル。持つ者の防御力を高め、治癒能力まで持つと言われる聖剣エクスカリバー。
そして光の加護を与える盾ディバインフォートレス。その鎧もただの鎧じゃなさそうね……。
それに貴方自身の剣術と体力。加えて飛び道具もあるなんて、まさに最強、ね……。
……でも。私は貴方を超えなければならない」
ニーナはそう言うと槍を地面に突き立てた。
瞬間、槍に魔力の猛りが生じた。
それは次第に激しくなりバチバチと音を立てた。
「――――充電、完了」
槍を抜き取る。槍に纏う蒼白い光がニーナの頬を照らす。
俺にでも判る。今、あの槍から巨大な魔力が放出されんとしている!
「むっ!」
自身の危険を察知し、男が後退する。
「――――ディバインフォートレスッ!!」
突如、視界が白に染められた。
その巨大な盾から現れた光は、壁となり最強の盾となす。
だが――――それはより強い光によって塗り潰された。
白を塗り潰したのは蒼。その中心。ニーナの槍からは烈しい蒼が放たれた。
「ガーディアン――――ポストォォッ!!」
槍の先端から数十条の雷撃が放たれる。
雷撃は各所に散らばった後、絡み合い、集結し1本の閃光となすっ!
猛猛しい轟音を纏い、大気をも灼かんとする蒼の雷撃は遂に光の障壁へ到達する。
耳が麻痺しそうな程の轟音の後、2つは爆発して飛び散った。

637携帯物書き屋:2007/04/08(日) 23:55:47 ID:mC0h9s/I0
巨大な爆発で2人は吹き飛ばされる。
爆発位置が近かった分、男の方がダメージが大きいか。
どすんとニーナは俺の目の前に落下した。
ニーナの体は、傷が無いところが無い程傷だらけだった。
「おい……」
何と声を掛ければいいか判らなかった。
「ぐ……」
奥で男が立ち上がった。それに反応するようにニーナも立ち上がる。
「一拍子早く障壁を展開しておいて正解だったな。まさかこれ程の破壊力とは」
そんな男の言葉も今のニーナには届かない。
ニーナは俺を見もせず、槍を杖のようにして体を支え、全身に鞭打って前進する。
何故か、ニーナの後ろ姿が遠く感じた。
手を伸ばせば届きそうな距離なのに、何故か程遠い存在に思えた。

「え?」
ニーナが疑問符を漏らす。気づくとニーナの膝が、多大な疲労とダメージの蓄積により折れていた。
ぴくりとも動かない。
今度こそ終わり。こんな大きな隙、男が見逃してくれる筈もない。
「終わりだ」
男が聖剣を振り上げる。刀身に光が集まって行く。
これを振り下ろしたら終わる。ニーナは死ぬ。
何もかも終わる。俺は何も出来ず、見ているだけで終わる。
……ダメだ。そんなことは許されない。俺はニーナのパートナーとして、まだ出来ることがある筈だ。
1歩を踏み出す。だが、脳裏にある言葉が浮かび俺の足は止まった。

“――――持てないのなら、そんなもの辞めてしまえ”

今日の昼、あの男に言われた一言。ふと、この一言が俺の脳裏をよぎった。
男の剣先はどんどん光で満たされて行く。
「ニ……ナ」
気づくと、俺の足は勝手に前に向かって動いていた。
何やってんだよ俺。俺が行ってどうなる訳でもない。止まれよ俺の足!
それでも足の動きは次第に速まっていく。
止まれ! 止まれ! 止まれ! 男の言う通り、こんなの辞めてしまえば俺は元の平和な生活に戻れるんだ。
そうだ、そうしよう。たった数秒。たった数秒目を閉じているだけで、俺は元の生活に戻れる。
そうすればニーナとも――――――――
「――――っ、馬鹿か俺は!」
駆け出す。
何を迷う必要がある。再契約のときから決めていた筈だ。俺は逃げないと!
……だって、仕方ないだろう。好きになってしまったんだから!
「立て、ニーナァァッ!!」
「――――!」
男の手が一瞬止まる。それを見逃さず、ニーナが槍の反動を利用し、俺を抱え横に跳んだ。
その刹那の瞬間の後、横に閃光が疾った。
着地が出来ず、転がって衝撃を吸収する。反射で起き上がり、戦闘姿勢を作る。
震える足腰で何とかニーナが立つ。
「私は……負ける訳には……」
ニーナは何かを呟きながら槍を体を支えることに使い、弓を取り出し構えた。
ニーナの右手の、矢を握る空間が歪む。
少しずつ歪んだ空間から矢がその姿を垣間見せる。
それはいつもの光の矢とは違い、何か違和感を感じた。
弦を引く。すると矢から烈しい火花が散った。
「そこまでだ」
「「――――!」」
男が今にも矢を放たんとしているニーナを止める。
「まだ我々以外にも残っている。ここで力を使って1番喜ぶ者はあの小娘たちであろう。
それに、その矢を射れば貴様もただでは済むまい。それとそろそろ一般人共に気付かれよう。ここで止めにするのが好ましいのだが……」
そこで言葉を切り、俺たちに意見を求める。
ニーナを見てみるが、ニーナは答えられる状態ではなかった。則ち俺が判断することになる。
答えは決まっている。
「判った。ならその物騒な武器をしまってくれ」
俺が促すと男は無言で応じ2振りの剣を鞘に納めた。
それから背を向けると、少女の方へ歩み寄った。
「行くぞ、リサ」
そして、男たちは俺たちの前から消えた。
急に気が抜けたのか、ニーナは前のめりに倒れた。
武装が全て消え、彼女を包む物は白いワンピースのみだった。

638携帯物書き屋:2007/04/08(日) 23:56:40 ID:mC0h9s/I0
一般人が来る前にここから去ることにした。
あれ程派手に戦闘すれば隠し切ることは不可能だろう。
ニーナのところまで駆け寄りおぶる。
ニーナは傷さえ消えたが、それは治癒の力で外面修復をした程度で完全には治っていないだろう。
「よいしょっと」
人目を避ける為、人通りが少ない場所からの帰路。
ニーナをおぶるのは2度目だが、やはり女の子をおぶるのは慣れない。
こんなところで異性を感じてしまうのもどうかと思うが。

しばらく歩いていると、ニーナの呼吸も緩やかになってきた。これなら心配いらないだろう。
「あれ……ショウタ」
意識が戻ったのか、ニーナが声を掛けてきた。
「お、起きたか」
「運んで来てくれたのね。ありがとう、もう大丈夫だから……」
「大丈夫じゃないだろう。あれだけ傷だらけだったんだ。病人はおとなしくしていろよな」
「なっ、大丈夫よ、ほら。ショウタに負担はかけさせられないわ!」
俺におぶられるのが恥ずかしいのか、ニーナは背中で暴れる。
だが、今のニーナは俺でも判る程弱っていた。

落ち着いたのか、諦めたのか、ニーナは急に静かになった。
「なあニーナ」
話し掛ける。ニーナが反応するより早く俺は続けた。
「今日、聞いたよ。お前の過去。王……なんだってな」
「……そう」
「だから俺、それ聞いて迷った。お前と一緒にいるべきか」
「…………」
そこで会話が途切れた。
肌寒い風が全貌を撫でる。そして俺は言葉を続けた。
「――――でも、俺ニーナの力になりたい。足手まといかもしれないけど……ダメか?」
背中越しに問う。このとき、ニーナはどんな表情をしていたのだろうか。
「ダメな訳ないじゃない、ショウタ」
それで俺の気持ちは決まった。もう迷うことはない。
「ああ、これからもよろしくな、ニーナ」
いつしか雲が晴れ、覗く月が俺たちを優しく照らしていた。

639携帯物書き屋:2007/04/09(月) 00:01:02 ID:mC0h9s/I0
こんばんわ。
何とかこの作品が終わる前に名言を1つくらい残したいな、と思っていたのですが、
思いつきませんorz というか、名言って作者が決めることじゃありませんね。

今回は戦闘シーンの連続で、筆が進みませんでした。というかすごく疲れました・・・。
もう眠いので他の方の感想はまたの機会にさせてもらいます。すいません。

640名無しさん:2007/04/09(月) 20:33:01 ID:7F3I8sOc0
妄想が形になってきたので書き込んでみます。



秋の霧の朝の夢は消えた。
そうか、もう彼女はいない。

森の中の一点の更地。そこに呆然と膝を抱えてしゃがみ込んでいる者が一人あった。
一切の動きを止め、その目は黒く赤く濁り、翼は死んでいた。

あの出来事を、私は『黎明の夢』と呼ぶ…。



気がつけば短い夏も終わり、実に半年以上も続く冬への準備期間、秋も既に終盤となった。

フランテル大陸北端の地、氷の国、ノーム。
神無月から翌年の皐月までという長い期間を、厳格な冬が襲う土地。夏も気温が二桁いけば記録物で、少し空が曇るだけですぐ0℃を下回る。
大陸最低気温の氷点下87℃を記録したのもこの国だ。

例年よりも少し早い初雪は、もう十日以上前に済んでしまっていた。
既に初雪が降ったなどとは考えられない陽気が数日続き、全てを包み込む陽光は慌て者の初雪を綺麗サッパリ溶かし尽くしてしまった。
こんなことは今まで一度もなかった。内容がどうあれ、何か起こる前触れに違いない。
訪れるのは幸か不幸か。そんな根拠のない期待が、私の気分を高揚させる。

私はまたこの『隠れ家』にやって来ていた。しかし『隠れ家』と言っても建物などではない。
教会からも村からも遠く離れた壮大に広がる山岳地帯の森にぽっかりと空いた更地のようなこの土地が、私にとっての最高の『隠れ家』なのだ。
木が一本もないその場所は風通しもよく、また村から遠く離れているので人間と出くわす心配もないため、天気の良い日はよくここに癒しを求めて訪れた。
今日もまた聖書は持ってきていたが、目的はいつもと変わらない。

いつもと同じように特に草の柔らかい場所を探して腰を下ろしながら足元を見ると、ここでは見たことがない珍しいモノが目に入った。
今日という日に何かが起こることを決定付ける、素晴らしい贈り物だ。私はそれを聖書の一ページに挟み込んだ。
のんびりと仰向けに寝転がって全身で陽光を感じると、今まで溜め込んでいた疲労や不安が温かいものに包まれて消えていくような気がした。

しばらくすると、普段のような元気がない九月の北風が足音を潜めてやってくる。
何故だろうと考えてみるとすぐに、今日のこの日で九月が往ってしまうことを思い出した。
彼が私にしばしの別れを告げると、一人残された私は聖書で顔を覆ったまま、ついついウトウトとしてしまう。
この歳になっても睡魔にだけは勝つことができない。困ったものだ…。

641名無しさん:2007/04/09(月) 20:33:40 ID:7F3I8sOc0
と、すぐに十月のツンとした風がやってきて、唐突に「一年前と変わらないね」などと話しかけてくる。
彼は九月の風と同じように、私にいろいろな話を聞かせてくれる。
はるか東に位置する遠き国ブルンネンシュティグでの舞踏会、魔法都市スマグで起こった魔法用品発明改革、裏政府と呼ばれる者たちの冒険者への詐欺疑惑、冒険者の新鮮な愚痴、今月のドロシー嬢、などなど話題は豊富である。むしろ多すぎる。
普段は冷たい態度をとるくせに、九月の風とは比べ物にならないほど騒ぎ立てる。私も賑やかなのは嬉しいが、少々耳に障る。
そこで私も「君は十月よりも五月が似合ってる。五月の蝿と書いてなんと読むか知っているかい?」などと返したりしてみる。
当然無視されたが、言う前から分かっていたことだ。

しばらくすると、喧しい十月の風は行ってしまった。これはまた気分が良い。

…と。
一瞬で空気の流れが濁る。
森が動揺している。木々が色めき立つ。

何かが、近づいてくる…。

…ル……
……ズズ………ズ…

逆立ちしながら耳に入れても快く感じることは出来ないような雑音。
ここからそう遠くはない。
そして、鼻を打つこの異臭…。

血だ。それも人間のそれではない。
公に自慢できることではないが、私は他の人間よりも些か五感に自信がある。
といっても、多少の便利とは裏腹に不便な面が大きすぎるのが問題である。
そしてある理由からも、私は極力自分が特別であることを知られるのを避けたかった。

熊狩り…。熊狩りしかないな。
私は安易にそう考える。
最近は食物を求めて山から下りる熊が一気に増え、村人たちも頭を抱えていると聞いていたからだ。

しかし、こんなにつまらないことだろうか…?
何かもっと大きな事件が起こっている気がする。

睡魔はもういない。大丈夫だ。
私は顔から聖書を退け、スッと上体を起こした。

一滴の汗が顔を伝った。
エメラルドが、私を睨んでいる…?

「だれっ!?……」
「!………」

642名無しさん:2007/04/09(月) 20:35:11 ID:7F3I8sOc0

いつの間にか戻ってきた風が本の紙をパラパラと捲り遊んでいた。
心地よい日差しは先ほどから不機嫌からか雲に隠れ、暗雲は意気揚々と成長し続けていく。
春の陽和を連想させる暖かい声が不似合いに鋭く響いたが、それを発したこの生き物が熊であるはずがない。
初めてお目にかかる。

エルフ…これが?

ほぼ全身に薄汚れたボロの布を着け、所々覗かせる肌は肌色に近い。
背は私と同じくらいの高さ、隠れていない左半分の顔は青ざめ、月光を想わせる透明な髪は命を奪われてだらりと下がり、背中から血の汗が流れ続けている。
私は瞬時に彼女の傷の具合を読み取った。不思議だ、出血は激しいが――傷自体は浅く数も少ない。
だが私の注意を惹いた点はそれではなかった。目の前にエルフが現れたことはもちろんだが、そのエルフが人語を話したことに驚きを隠せなかった。
人語を学ぶ権利はエルフの中でも最上位の身分の者にしかなく、しかも発声の仕組みが人間とは異なるので、人語を話すエルフは非常に稀である。
…いや、今では珍しくはないのかもしれない。人間がエルフに人間の言葉を使わせている可能性は十分にある…。
と、意識の外から儚い声が響いた。刺すような鋭さは鈍り、恐怖に喰われ、またわずかに哀願するような色を見て取った。
「匿って……!なんでも…します……!」

「………!」
そうか。
彼女は何者かに追われている。
しかも、まだ遠いが死の香りがする――生き物の死が迫る。

「人間が、来るんですか!?」
エルフは震えながら、コクリと頷いた。
直感とは超能力の一種であるという説は本当かもしれない。
走るような風が私を巻き込んで通り過ぎ、南に広がる森の木々が不吉にざわざわと揺れた。
最悪の結末が待ち構えている…!
「ここにいては危険です。今すぐ――――」
「助け……助けて…こ……」
その金糸雀色の声は先ほどの微かな鋭さもなく、一点の濁りもない純粋な恐怖に支配されている。
艶かしい鮮血を滴らせた布がゆらりと踊った。

ドサッ…

目の前のエルフが崩れるようにして倒れる。
それと同時に、エルフの背から何か不自然な布の塊がずり落ちた。
そのとき私は、この場にもう一人エルフがいたことを知った。人間の気配がまだ遠いことを確認し、二人のエルフに駆け寄った。
年老いたオスのエルフで、顔には多くの深い皺が刻まれていた。意識は既になく、体に纏った布は真紅に染まって血の道を作っていた。
そして、彼女の布の血はこのエルフから流れたものだったらしい。彼の体の布をゆっくりと剥がし始めると、自分の顔から血の気が失せていくのを感じた。
かなりの重症で、背中と首に深い切り傷を負っており、これは治癒に時間がかかる。
両足の膝には数箇所矢の痕があり、普段エルフたちが攻撃を防ぐ為にも使う剣を持つ左腕は肩口からバッサリと切り落とされていた。
若いエルフはともかく、この老エルフは今ここで治療、最低でも応急処置を施す他に手がない。一刻を争うことになるだろう。
しかし、人間たちがエルフの血を辿って来ることは間違いない。
そいつらがここに到着するまでにどのくらいの時間があるか……。
「ふぅー…っ」
迷っている時間はない。私の命、この者たちに分け与えよう。

643名無しさん:2007/04/09(月) 20:35:40 ID:7F3I8sOc0

――…詠唱とは、ごく普通の文書には「詩歌に節をつけて歌うこと」とある。
だがそれは今ここで説明する『詠唱』と一致するようで一致しない。
詠唱。それは神の御言葉を借り、その力の一部を扱う権利を獲得するために必要なもの。
自分の魔力で十分行使できる魔法に限り、正確に詠唱を行えば、使用する魔法は新たに神の力を付与され、より強大なモノとなり召喚される。
それを行わない――乱暴な言い方をすれば、詠唱無視、ということだが――となると当然、自分自身の魔力のみを使用することになる。
そして自分の持つ魔力を上回る魔法は、詠唱を行う・行わないに関わらず使用できない。
もちろん、魔力の境界線が引かれる位置は個人の魔力によって異なる。
最上級の魔法の詠唱が不要なほどの魔力を持つものは、この世に存在しないとさえ言われている。

…長々と下手な説明を並べて何が言いたいのかと文句をいわれるかも知れない。
私が伝えようと思わんことは。

今は詠唱している時間も惜しいということ。
南無三、あと一分でも早ければ…!!
「神よ…、」
そう呟いて私は祈りを捧げる。
気楽に、しかし真剣にやるんだ…。
そう自分に言い聞かせる僅かな時間、それに対する更に僅かな懺悔の時間でもあった。

「フルヒーリング…、フルヒーリング…、フルヒーリング…」
虚しい言葉を早口で唱え続ける。
老エルフの周りに連続して光の粒が柱を描きながら漂っていくが、癒しの効果は粒の光と同じように薄かった。
(治癒力がない。魔力が足りない…)
私が感じたとおり、幾度となくヒールを繰り返しても出血は止まらない。明らかに力が無いのだ。
私の魔力は、この程度だったのか……。
悔しいが、この状況下でそんなことを考えても仕方があるまい。
やはり詠唱を行った方が効果があるのでは――――
「ウウウ………」
私はギクリとして手を止めた。老エルフが静かに、しかし苦しそうに呻いたのだ。
そして老エルフの呼吸が突然、止まった。

最悪だ。
頭の中が真っ白になり、体中から冷や汗が流れ出た。
私は蘇生術を学んだことがない。高度な技術を持ったビショップならば復活魔法を習得できるが、私にはそれもない。
どうすれば…助けたい…。どうすれば…?

「……………」

まさか、絶対に成功するとは限らない…

「……………」

…そう、そうだ。使うんだ、まだ届く!それしか無い――


「…liberty,(解放)」

644名無しさん:2007/04/09(月) 20:36:20 ID:7F3I8sOc0

『liberty』とは。
未だ天使の容を保っていた頃の母に教えてもらった、唯一の技術。
これを私は実際に成功させた経験もある。だが、人間型の生物に使うのは初めてだった…。

しかし、私にはそれを成功させる自信があった。
今日の運を信じて、考える前に唱えた。
「Resurrection probability(復活確率)―…」
言うが早いか、私の腕ほどの太さの一筋の光の柱が出現し、私たち三人の体を貫いた…!!


二人が助かったことが感じ取れた。
しかし私は素直に喜ぶことができなかった。何故か、彼らが助かることは既に決まっていたように感じたからだ。

そして、またあいつが来る…

(――また、来たか…――)
あいつが言った。私は言い返そうとしたが、口から飛び出した言葉は「ああ。久しぶりだな」だった。
(――いいのか?引き返さなくて。次に訪れるモノが何か、お前は知っているはずだが――)
何のことだろう。全く理解できなかったが、私の口は独りで答えを導き出した。
「最後まで見たい」
(――まだ時間がある。無理には止めん――)
あいつはそういうと、いなくなった。少なくともそう感じた。

それから私が考えることは一つだった。
あいつが言っていた、次に訪れるモノとは何なのか――

絶望だった。

「ぐう……ッ」
神は、私の、翼、を…
「あ゙ぁぁぁぁ――――――――――…ッ!!!」
死ぬことが出来るならば、どれほど楽だろうか。
白目を剥き、地に伏して悶え苦しむ私の背には、翼がある。
ただ、それは

白では、なかった…。

『赤い空の日』の事件によって追放された天使は、右の翼の半分を折られている。
しかし、私のそれは。なめらかな肌に生えているそれは。

右の翼は既に半分以上が存在しない。あるのは汚れた脆い骨格と、羽根の在った部分に居座り続ける空虚ばかりだ。
そして『解放』を行った今も、石化して灰色に成った翼の『侵食』が進み、風化を続けていた。
一方左の翼は焼け爛れ骨が醜く露出し、浮き出た黒い血管が安定しない脈を打ち続けている。
羽根の至る所で出血し、僅かばかり残っている羽根を不鮮明な青紫に染めていた。

なんだ、これは…?これは…!?

「わた…しは、人間…だ…」

645名無しさん:2007/04/09(月) 20:36:55 ID:7F3I8sOc0

雲が空一面を覆い、まるで上等な羊毛を敷き詰めたかのようだ。
まるで何かの童話の一場面のような空の下、エメラルドグリーンに輝くような原っぱの上。
そこにはそれに相応しくない影が二つ動いていた。
森はその侵入者たちを吐き出すと嬉しそうにざわめき、逆にこの更地はぐったりとして元気がなくなったように見える。

「いた、あれじゃないスか?」
「まさかこんな山奥にまで逃げる体力があったとは。…ああ、少し休まないか?腰が…」
「そうっスね、少しくらい仕事サボっても…」
「!…なんだ、何かいるぞ……」

聞き慣れた鳥たちの高い声を目覚ましに、私は薄く目を開いた。
痛みが幾分和らいでいることは理解できた。ホッとした私は、僅かばかり安堵に包まれた気がした。
と同時に、気付いてしまう。
(何か…いる…)

意識がぼんやりとしている。指先までが凍りついたように動かない。
こんなときに…!動いてくれ!
スルスルと、二つの影が歩み寄ってくる。
敵。おそらく、直感に狂いはない。
間違っていて欲しい…!
やめてくれ!本当に……来るな!……来るな…

「おい、こ、コイツ……『灰色』の天使じゃねぇか……?」
禿げ上がった、年配方の人間が言った。髭面も私に視線を落とした。
「どうやら…そうらしいっスね」
二人が二人とも、まるで大勢の人間を食い殺した醜い化け物を見るような目で私の顔を覗き込んでいる。
「ど、どうする?こいつは」
「いや。…ほっとくのがいいんじゃないスか。エルフ二匹が手に入れば、あとは……」
二人がぼそぼそと不吉な会話を交わす間、私はまだ気を失っているふりをしていた。まだ、この方が好都合だ。
しかしこの事態に、冷静を取り戻すのは容易いことではない…

畜生、何ということだ…予感は的中した!
ここまで成功したというのに…ここで…人間が…。

何の為に助けた。
結局彼女らは連れ戻され、死ぬまで強制労働に喘ぎ苦しむのか。
それなら見殺しにした方がマシだった。なんて馬鹿だ、最低だ、死んでしまえ…!

…!
違う。ここで私がやらなければ、誰がやるというのだ。
解放は成功した。迷うな、敗北を考えるな。
彼らの為に戦うんだ。
立ち向かえ、放棄するな。
見せてやろう、俗にいう『灰色の天使』である私、ユリウス=トワイライトの力を!

646名無しさん:2007/04/09(月) 20:37:26 ID:7F3I8sOc0
「罪深き人間達よ…」
決意の前に腕、そして脚が立ち、無意識の中で口が動き出す。
出し抜けに目の前の者が話し始めたからか、それともその者が『灰色』だからか。二人の人間のこちらに近づく四本の足が止まった。
流石に警戒して武器を構えている。そんな物はあってもなくても同じだというのに。
「母の背中には、翼はなかった」
激しい吐き気の中、左手を自分の羽織るローブに隠し、ベルトを探る。
…あった。間違いない、この生暖かい感触は間違えようが無い…。
これは何を意味するのか?
…勝利だ。

「………!動くな!」
私の企みに気付いた年配の人間が斧を構え、怒鳴った。
しかし、そんなことは関係なかった。この勝利の味を噛み締め、満足感に震えていた。
「そして、私の背中を見ると」
勝った…勝った!
ただ立っているだけで限界を超えている私に何故歓喜の表情が浮かんでいるのか疑問だろう、人間よ。
教えてやろう。手を真っ直ぐ空中に差し出す。
「龍の心臓…!?」顔面蒼白な年配の方の人間が息を呑んだ。
その通りだ、龍の心臓。
この世の総てのものを超越する、力強くも美しい、呪いを受けた一族。ドラゴン族の魔力の芯でもある心臓部分。
その効力は、食すれば僅かな時間、龍の魔力を体内に無限に宿すことが可能となる。
「り、龍の…?それはどういう…」
髭面の人間が困惑した表情で年配の人間に問いかけていたが、それも気にはならない。
もはや呼吸をするのも惜しい。早く、早く早く…
「いつも悲しそうな顔をしていたんだッ」
手の中のそれを有りっ丈の力で食いちぎる。感情が、爆発する。
「――そうだ、私は『灰色』だ!!」

顔中を激しい赤で染めた私の叫びは、その口から溢れた鮮血を地の草に降り撒いた。
生暖かい龍の血液に刺激されたのか。私の翼が、披く。
それは世界で一番醜いもの…『罪』のカタチを表す結晶。
「うっ…!!あぁ…は、『灰色』だぁあぁあぁあぁ――…!!」
年配の方が目をむき出してカンカン声で叫ぶが、それを遮る様に掻き消し、私は詠う。
「民は謳う。我、救世せば、聖域、我護らん!」

「サンクチュアリ」
詠唱完了と同時に、目の前にドーム状・透明無色の壁が造りだされ、二匹のエルフを包み込む。
「――範囲拡張…25…50…100―完了…」
エルフ二匹が完全に聖域に取り込まれたのを確認し、残っている心臓を一のみにする。
刹那、生前の龍の記憶らしき映像が眼前にちらつく。まるで一枚の絵画のような、悲しい、子龍が非道な人間に殺される場面。血の涙。
しかし、今はそれに見惚れる時ではない。
もう一つ。まだ仕事が残っている。
「汝達が在るべき処、人の愛、幸あり。故に汝達、帰郷せん!」

647名無しさん:2007/04/09(月) 20:37:59 ID:7F3I8sOc0
「タウンポータル」
空間の捩れ。そこに在るのは色の無い円形の不気味な物体のみ。
「このポータルは貴方達が住む町へと繋がっています。それが消滅する前に帰りなさい」私はゆっくりと言った。
「断る――と言えばどうなる?」
気力を失った年配の男が縮こまっている中、髭面が唸るように言った。
髭面は未だ青白い顔をしていたが、少しだけ血の気が戻っていた。
私はなるべく意地悪く見えるよう笑み、僅かに目を細めて、「知る必要があり、且つ知りたいと思いますか?」と囁いた。
年配が「行こう」という音を出し、恐る恐るポータルの中へと足を踏み入れ、帰っていった。
こちらを睨みつけていた髭面もそれに従ったが、ポータルの前で足を止めた。
「いいか、『灰色』。そいつら二匹は俺の工場が仕入れたモンだ。明日にでも、俺の仲間がそいつらを向かいに来るだろう」
「下手なことは考えるなよ。次にお前に会ったその日が、お前の人生最後の日付だ。遠くまで逃げな。こいつは忠告だ」
それだけ一気に言い、それが終わると髭面の人間はポータルに吸い込まれ、ポータルそのものとほとんど同時に姿を消した。

ふぅーっと、私は長いため息をつく。
そして聖書をパラパラと捲り、あるページで目を止めると、それににっこりと微笑んだ。
そのページには、一つの四葉のクローバーが挟まれていた。


(――時間だ――)
あいつが言った。
私はそれに従うしかないことに気付かされた。
そして私は次の一瞬で、そこにいないことが分かった…――



「……寒っ……」
瞼を開くと、青藍の夜、星は満点。
その主は残り数日で、球形のグラスに光という名のワインを満たすことができるだろう。
私は布団代わりにしていたローブをもう一度、身体が外気に触れないよう寝袋のように形作った。
今の私は砂漠のど真ん中で夏の夜を過ごしていたのだ。
ここしばらく見なかったからか、妙に鮮明だった記憶。忘却の彼方から舞い戻ってきた、長い長い、昔々の……。

あれから早くも2年が過ぎていったが、今でも睡魔には滅多に勝つことができない。
しかし、既に目は覚めた。今日二回目の睡魔の襲撃は失敗に終わったようだ。
そうして私は久しぶりの勝利を手に、十日目の砂漠で歩みを始めるのだった。


私は幾度となく、あのときの夢を見た。
あのとき決めた物語の名。あの出来事を、私は『黎明の夢』と呼ぶ。

648名無しさん:2007/04/09(月) 20:41:35 ID:Sb9h2RRo0
>>携帯書き物屋

全部読ませていただきました。
戦闘場面の描写がお上手ですね。
これからもがんばってください。

余談ですが、某運命に出会う物語を少し思い出しました^^;

649名無しさん:2007/04/09(月) 20:43:17 ID:7F3I8sOc0
長いですが、以上です。
続き物で、今はこれより少し先までの展開を書いているところです。

色々考えた結果、戦いの要素を勝手に追加してみました。
中身は解放やら詠唱やらベタなネタが多いですが…。

話がそれますが、自分実は実際に天使をやったことがありません。
BISを作っても天使スキルを覚える前に削除してしまったりと触れる機会がないので、想像も含めて書いています。
本職(天使)の方、間違ってしまったらごめんなさい…(汗
(既にサンクチュアリは違った形で出していますが…)

最近スレが盛り上がっていて、嬉しい限りです。
以前の職人さんの復活、そして今の職人さんと、新しい職人さんの執筆を祈って。
これからよろしくお願いします。

追伸
最近になって気付いたのですが、「フランデル大陸」ではなく、「フランテル大陸」なんですね。公式の設定を見ていて初めて気付きました。
今までずっと「フランデル大陸」だと思っていました。皆さんもお気をつけ下さい(汗

650名無しさん:2007/04/09(月) 20:50:43 ID:7F3I8sOc0
連投申し訳ありません。
何か勘違いしていたようで、「フランデル大陸」で正解でした。

651◇68hJrjtY:2007/04/09(月) 21:00:29 ID:cQ/kmDCg0
>携帯物書き屋さん
本当にお疲れ様です!
ニーナとヘルベルト。何かヘルは剣士というより武士といったイメージが浮かびます。私だけかもしれませんが…(汗)
この戦いもただ敵だから戦うというわけではなく、何かライバル的な一騎打ちみたいで良かった。
…いや、もちろんヘルの神装備や戦闘技術は怖いしニーナもヤバヤバみたいですが(汗)

私も剣士職や弓・槍職はやり込んだ経験は無いのですが、パラもオーサムもGPも強いですよね。
Gvでも良く使われているスキルですが、なるほどこうして読むと空恐ろしいです。
ライトベロシティというスキルは名前は知ってても効果は良く知りませんでした。勉強しなければ(汗)

皆さんも良く口にされていますが、戦闘シーンは書き手さんにかなりの精神的疲労が掛かるみたいですね(汗)
その結果の戦闘描写をじっくりと堪能させてもらってるいち読み手としては感謝の至り。
これからも楽しみにしています!

652◇68hJrjtY:2007/04/09(月) 21:24:59 ID:cQ/kmDCg0
>649さん
風ひとつ取っても擬人化されているのはとても面白かったです。
そしてエルフもこうして読むとやっぱりRSでのモンスターという位置づけは可哀想ですね(苦笑)
でもエルフにしろトランクマンにしろ、それぞれが国家や都市を持っていると思うと妄想が膨らむ一方です。
この『灰色』という異名が何を意味するのか、そして"あいつ"とは。続きがとっても気になります。

何か天使は他の職と比べると「儚い」というイメージが強いです。
それぞれの職のルーツが公式で書かれた中ではかなり悲劇色が濃いキャラクターですよね。
私は天使を作ろうとした事も無いのですが(汗)、メインとして育成されている方にはとても天使が気に入ってると良く聞きます。

それと、私も連投すみませんでしたorz

653みやび:2007/04/10(火) 00:14:00 ID:5ft21wOY0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

 >携帯物書き屋さん
 不器用このうえない翔太の想いが吐かれるたびに、いつもウルウルきてしまいます。
 こういう男の子に想ってもらえるとは、ニーナがちょっぴり羨ましいですね(笑)
 まあ彼がリディアと二股をかけているのは(二重の意味で)別な問題ですが……(笑)
 とまれお疲れ様です。
 まいど携帯さんの戦闘シーンは楽しみです。英気を養って、またお願いします。
 それぞれに理由と意思があるだけに、今後の展開が楽しみです。
 名言ですか……。うーん。
 そういえば今は超有名になってしまったある漫画家が、過去に描いた短編の中で、円卓
の騎士が怒りに任せて剣を抜き、「エクスカリバカヤロー!」と叫んだシーンを思い出しま
した。
 ちがいますね……すいません(汗)

>649(7F3I8sOc0)さん
 情緒的な文体がいいですね。
 エルフの位置付けがとても興味深いです。人間系のモンスは他とちがって、どうしても
その生態や社会性が気になってしまいますものね。そのあたりも含めて、これからも人間
世界との関わりや相違をお披露目してくださることを願っています。
 でも最初は読みきりかと思いきや、続くのですね! 嬉しい限りです。
 これからもぜひ独特の文体を見せてください。楽しみにしています。

 私も全ての職は育てたことがないので、効能が不明のスキルはいっぱいです。でも気に
せず妄想しまくってますよ(笑)←この辺性格です。
 公式での固有名詞等は、それこそ気にしなくていいと思いますよ。なにしろそれ以前に、
公式のストーリーや各種説明は日本語にさえなっていませんからね(汗) 翻訳ソフトに本
家の文章をペーストして「変換」を押しただけでしょあんたたち! と思うほど。いやひどい
ものです(汗)

   *

 スペースに余裕があるのでちょっと寄り道。
>68hさん
 ついつい横レス。
 私も以前、GP弓子をせっせと育てていました。
 将来のために知識比装備も清水の舞台から飛び降りる覚悟で購入。ようやくGPを覚え
て内心「はぁはぁ」してたのに、その矢先、GPグラフィックがあんなことに……。
 とくに固定沸きの狩場では、グラフィックも派手で強力なGPを放つのはある種の優越感
でもあったのですが、修正後はミミズがのたくったような電撃グラに激しく萎え、ソロでも
GPの楽しみがなくなり、とうとう「だめおんのばかあ!」と叫びながら夕陽に向かって駆
け出し――ではなく、泣きながら弓子を消してしまいました……。
 いやそれが言いたかっただけなのですが(汗)

 >>632
 ――女神さんに対する感想ですが、フリーフィングって何でしょう(汗)
 正しくはブリーフィングです。訂正してお詫び致します(泣)
 自分の小説も以前に増して誤植が目立ちますね……いと悲し(泣)
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

654みやび:2007/04/10(火) 01:19:28 ID:5ft21wOY0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

 もう寝ようと思ったのですが、ふと思い立って私も連投……。

 私がここを知ったのは当スレからなのですが、過去スレを拝見するにつけ、普通に小説
スレとして定着してきた流れがあるのは、とても嬉しいことです。
 それと同時に、以前の職人さんたちの復帰と、新規の書き手参入を願ってやみません。

 もっとも、たくさんの人にここを知ってほしい! とは思っていても、やはりageるのは恐い
ですよね(汗) 業者さんがちょっとコピペして行く程度は、まあ犬猫のスプレイみたいなも
ので、『広告が入った』くらいに思えばいいんですけど、荒しが居座ってしまうのは困ります
からね……(汗)
 なんとももどかしい……。

 RSを、時間がない等のリアルな事情で引退してしまった場合は別ですが、たとえばそれ
以外の理由でINしなくなってしまったRS好きな人たちなんかが、ここで妄想を広げてくれた
らなあ……なんて、よく思います。
 でもそういったひとたちは、きっとほかのMMOを見つけて乗り換え――なんでしょうね(汗)


 そんな訳で、偶然ここを見つけてしまったあなた!

 もし、少しでも自分の妄想を文章に書くことはやぶさかでないとお思いでしたら、ぜひ投稿
してくださいませ。←ここ特大のハート付き!(うぇ)

 まあそんなこんなで――どんなだか不明ですが――文章を書くにあたっては確かにハート
です。技術なんて気にせず、ぜひぜひ投稿してみてください。

 当スレが良スレとして定着している今、さらなる活性化と飛躍を願いつつ。かしこ。

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

655復讐の女神:2007/04/11(水) 20:32:54 ID:Z96yqTBg0
ジェシたちが出発する姿を、村人達は希望と絶望の入り混じった視線で送り出した。
希望は、これでモンスターの脅威から開放されるというもの。絶望は、彼らが負けた
場合、エルフ達が攻めてくるというもの。
もちろん、ジェシたちは失敗するつもりはないし、ここで死ぬつもりも無い。
「こういった依頼を受けるのは初めてなのだが…凱旋気分とは、もうちょっと気分の良
いものだと思っていたのだがね」
ボイルの声は小さく、さすがに周りの村人に聞こえないよう配慮したようだ。この男も、
そこまで無神経ではない。
「仕方ないわよ、自分達の命がかかっているんだもの」
3人が歩くたび、ジャラジャラと鎧が金属音を奏でる。あからさまな鎧を着ているのは
ジェシとフェリルであり、ボイルは見た目上は本当に鎧を着ているのかどうか怪しいもの
である。そして、ジェシとして驚いているのは、フェリルの全身鎧であった。昨日までこんな
大きな鎧など、見当たらなかったため、今朝フェリルと会ったときなど、ジェシは誰か分
からなかったくらいだ。
「先ほど調べたところだと、偵察に出ていたエルフがちょうど戻ってきているころだろう。
行く前に、準備をしておかねばな」
村を出て数分、エルフの印がある場所の手前で、フェリルは膝を折り祈り始めた。フェリ
ルを中心として十字架の光があふれ出し、それと同時に3人を清らかな光が包み込む。
体が軽くなり、ためしに槍を振ってみると技にいつも以上のキレが出ている。祈りが終わる
と、フェリルはジェシ、ボイル、自分へと不思議な力を2つ宿らせ、同時にいつも以上に
体力が増えている感覚が湧き出てくる。
「よし、これで普段以上のダメージを受けても、大丈夫だろう。気絶などもしにくくなったはずだ」
神の奇跡を行うさい、神へ一定以上の祈りをささげる必要がある。なるほど、この不思議
な感覚もまた、神の奇跡のいったんなのだろう。
「では、私はジェシにこれを」
ボイルがジェシに向かって杖を振ると、ジェシに炎の魔法が浮かび上がった。不思議と熱くな
いこの炎は、ジェシも良く知っている、ウィザードが使う支援魔法、エンチャントファイアだ。この
炎が上がっている間、使用する武器全てに炎魔法の付加がかせられる。
「さらに、ほい」
今度は全員に、体にまとわり付く霧を生み出した。これもまた、ウィザードが良く使うミステ
ィックフォッグであり、この霧が相手の攻撃を命中させにくくさせてくれるのだ。
普段一人で行動するジェシとしては、こういった支援はこそばゆい感があるのだが、そ
れ以上に頼もしく助かる。
なにしろ、このパーティーで前線を張るのは、自分しかいないのだ。
ジェシは構えていた槍に魔力を付加し、そっと手を離す。槍は重力に逆らうようにジェシ
の周りを回転し始め、その間にジェシは弓を手にする。エルフが油断している最初は遠く
から弓で射撃し、近づかれたら槍を手に取り応戦するつもりだ。
「行きましょ、時間が惜しいわ」

656復讐の女神:2007/04/11(水) 20:34:13 ID:Z96yqTBg0
ぐずぐずしていたら、またエルフの巡回時間になってしまう。
ボイルはいつの間にかまた宙に浮いているし、フェリルは兜を背にやって背中か
ら羽を生やしていた。
全員の準備が整ったのを確認し、ジェシ達は静かに歩を進める。全員が、緊張して
はいたが、同時にリラックスもしていた。必要以上の緊張は、体を硬直させ戦闘
の動きを阻害する。それを経験として、知っている者のみができる動きだ。
「ここから見えるだろう」
フェリルに言われて指差す方向を見ると、ジェシにもエルフ達の姿が確認できた。数
は4匹、間違いない。
弦の張りを確認し、ジェシは弓に矢を番え構える。あちらは油断しているのだ、ぎり
ぎりまで狙いをつけ、思いきり矢を放つ。
「ヒュッ」
矢が空を切りさき、獲物へと獰猛に飛んでいく。
「ギヒィ!?」
ジェシの狙いは違わず、その矢は一番近くにいたエルフの急所に深々と突き刺さっていた。
矢に移りこんだ炎の魔法が、ダメージをさらに大きくしてくれているのが実感できる。
1発撃つと、あとはもう連射あるのみ。休むまもなく、ジェシは矢を手にとっては獲物へ
と駆り立てる。秒間にして8本の矢が、雨のように降り注ぐが、さすがはエルフというとこ
ろだろうか、すぐさま体制を建て直し、剣でジェシの矢を何本も弾き落としてくる。
だが、いくら剣技に優れようと、数には勝てない。結局、最初の1匹目はジェシの矢
で串刺しにされ、動かなくなった。
だが、他のエルフは黙ってみていたわけではない。矢の飛んでくる方向を確認し、回り
込むようにこちらに向かってくる。
「縛!」
フェリルの気合のこもった声は、1匹のエルフの動きを完全に止めていた。不思議な黄色
い縄が、エルフに絡みつき動けなくさせてい
るのだ。
「こちらは大丈夫だ、残り2匹がそちらへ向かったぞボイル君!」
ボイルはその言葉を聴いていないのか、一心に呪文を唱えている。その頭上には高熱の炎が浮
いており、一つ、また一つと追加されて
いく。
「分かっていますよ」
余裕の笑みを浮かべたボイルは、その炎玉を全てエルフに向かって解き放った。狙いは狂
うことなく、エルフに命中する。
「…あぁ、やはりあの程度では倒れてくれないか」
炎をけしかけられたエルフが、剣を手にボイルに急接近する。それを確認して、ボイルはジ
ェシの隣へとテレポートする。
「頼むよ、ジェシ。私は、どうも肉体労働は苦手でね」

657復讐の女神:2007/04/11(水) 20:35:31 ID:Z96yqTBg0
ちょうど1匹目を倒し終わったばかりで、ジェシはすぐさまエルフに反応できな
かった。遠くから飛んできた矢が、ジェシに飛んできていたのだ。
「カキッ」
だが、矢はジェシに当たることなく、ジェシの周りを浮遊していた槍によって阻
まれた。槍の動きは、ジェシに対する殺気に反応してい
るのだろうか。
「近すぎる」
とっさに判断したジェシは、弓に魔力をこめて宙に放り投げ、旋回する槍を手に取
る。弓はそのまま頭上に位置を取り、ジェシを守る鷹のごとく敵意を鏃にこめる。
だが、ジェシの反応よりも数瞬の差で、エルフのほうが早かった。エルフ独特の居合
いだろうか、軌跡の見えない剣がジェシを捕らえる。
エルフはもちろん、ジェシからさらに数メートルを離れて呪文の詠唱をしていたボイル
にもはっきりと、ジェシがエルフの剣に切り裂かれた姿を見た。
「危ないじゃないのよっ……!」
エルフはとっさに剣で槍を防ぎ、勢いに任せてその場を離れる。
そこには、たった今エルフの剣で切り裂かれたはずのジェシが槍を構えていた。体
のどこにも切りつけられた痕などなく、その顔に
は余裕の笑みと殺気が込められている。
「美しい……」
ボイルは今、女神を見たと思った。その存在だけで己の血が騒ぎ出し、身震いしてしまう。
しかしエルフにはそのような感情はなく、ただ敵が生きていたという事実だけがあっ
た。故に、油断なく剣を構え走る。だが、途中でエルフの足が止まった。ジェシとエル
フの間に光が生まれたのだ。二人の手は残像を残すほど高速に動いており、その武
器がぶつかり合うことで生まれた光だ。光はいく筋も生まれ、すぐに別の場所でまた光を
放つ。その光が徐々に、エルフの近くで光るようになって
きた。
「ギギ」
エルフの恨めしそうな視線が、ジェシの頭上に向けられる。
そこに存在する弓は、次々と矢をエルフに向かって解き放ってくるのだ。たとえ剣技が同等
であろうとも、その弓の分ジェシに利があるわけである。
「余所見している暇、あるのかしら…っ!」
そこに、ほんの数瞬の隙が生まれていた。そして、その瞬間をジェシは見逃さなかった。
3発だった。速度のみを追求した槍は、その瞬間だけで3発の突きをエルフに放っていた。
「まだまだ!」
体制を立て直そうと後ろに下がろうとして剣を前に、牽制してきたエルフの剣を狙って
槍を旋回させて弾き、そこにジェシは体ごと突きを押し込む。

658復讐の女神:2007/04/11(水) 20:38:38 ID:Z96yqTBg0
エルフは、剣を戻す間も惜しくそのままさらに後ろに下がろうとしたが、ジェシはそ
れすらも見切っていたのか、瞬間の動きで追いつき、両手に構えられた槍はエ
ルフを貫いていた。
「ゲ……ガゥヴ…」
己が槍に貫かれているのが信じられないのか、エルフは剣を振り下ろすことも忘れ、離
れていくジェシの姿と槍を見比べた。そして、最後にエルフが見たのは、己の顔に迫る
鏃の先端であった。
倒れたエルフの体から槍を抜き、ジェシは最後の一匹を見据えようとする。
「…いない」
気配が感じ取れず、姿が視認できない。
「おじ様!!」
ジェシは迷わずフェリルを呼んだ。
今この状況で、エルフの動向を知ることが出来るのは、フェリル唯一人だからだ。
「っ……!? すまぬ、集中が途切れていた。こちらは頼む」
超感覚を広げ始めると、呪が消える。フェリルの呪縛から開放されたエルフは、今がチャ
ンスと逃げようとする。
「逃がさないよ」
テレポーテーションで近づいたボイルが、エルフに向かって呪文を唱えると、地面が不規則
に隆起しエルフの足を捕らえる。もがき逃げようとしても、その上にさらに土がかぶさ
るのでエルフは逃げ出すどころか思うように行動できていない。
もちろんジェシは、この状態で自分がすべきことは心得ている。フェリルが射線に
入らないよう注意しつつ、槍を手放して弓に手をかけた。
体に残る炎の力を弓に移し、矢を連射する。
自分が逃げられないと悟ったエルフは、身に着けていた笛を強く吹いた。
「ピューーーーー!!!」
その意味は分からないが、予想は付く。
途中でプツッと切れた笛の音は、ボイルとジェシの顔を青くさせるだけの意味があったに違いない。
「おじ様、早く!」
最初の1匹は別にしても、残りの2匹はまるで最後の1匹を守るように、生き残らせ
ることを優先して動いていた節がある。これが、どれほどの意味を持つのか、最後の笛
の音が何をもたらすのか、分からないはずが無い。
「くっ…あのエルフは、村に直接向かっておる。ぬ、これは…蜘蛛達が、村にいるだと!?」
ジェシは、背後を振り返る。
山の谷を間に挟んでいるため、直接村を見ることはかなうことはない。だが、その
様子が、ジェシたちには分かってしまった。
赤い。
村の空が、燃えていた。
赤き雲が、炎で構成された雲が村の上空に出現し、炎の雨を降らせている。
「どういうこと…この近くにいるモンスターに、アレだけの炎を出すことが出来るも
のがいたというの…!?」
全てを燃やし尽くす炎の雲は、より濃度を上げて村に火の雨を降らし続ける。
とっさに巻物に手を出したジェシを、ボイルが止める。
「何をしている」
「決まっているわ、助けに行くのよ!」
ボイルの手を振り払うも、今度はフェリルによって阻まれた。
「放して!」
「無駄だ、もう間に合わない。今からでは、誰も助けられずに君も死ぬだけだ」
炎の雲の間から、黒煙が昇り始める。
ジェシはその煙を、ただ見ている事しかできなかった。

659みやび:2007/04/12(木) 00:06:15 ID:XTPBa2Mk0
 ――本編――
 ●『赤い絆(一)』>>424>>436 ●『赤い絆(二)』>>477>>483
 ●『赤い絆(三)』>>529>>532 ●『赤い絆(四)』>>607>>612
 ●『赤い絆(五)』>>624>>630

 ――設定(全作共通)――
 ●小道具、固有名詞など>>495>>497

 ――関連作:番外編――
 ●『愛のしじまに』>>575>>583
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『赤い絆 (六)』―――――――――――――――――Red stone novel[1/8P]




 アウグスタの象徴たるアウグスタ大聖堂――。

 ミサや説法の行われていないこの時間、ゴシックの内陣には静寂だけがあった。
 いや、今はふたりの人物が会話を交わしている。
 ひとりは聖堂を総べる立場であり、かつアウグスタそのものを率いる大僧正で、名をコー
ネリアス・タペリウスといった。
 よわい八十とも二百を越えるとも噂されているが、彼の実際の歳を知る者も、本当の素
性を知っている人間も皆無だった。
 少なくとも見た目には七十ほどの老人で、公の記録にはブレンティルで産まれたのち古
都で徳を積み、若くしてアウグスタの大聖堂付き武僧になったあと、順当に位を上げて今
日の地位に至ったと記されている。
 いっぽう僧に対して頭を垂れ、鏡のような大理石の床に己の姿を映しているのは、見る
からにみすぼらしい乞食だった。
 彼は晴天とはいえ木枯らしのこの季節、粗末な布きれ一枚の姿で、人々の好奇の目や
蔑みの視線、そしてあからさまな嘲笑をものともせずに歩き通し――もっともアウグスタ領
に入るまでは魔法技術に頼っていたが――ここ、大聖堂へとやってきたのだった。
 聖職者の聖地と謳われるアウグスタは、常に貧しい者に開かれた都市でなくてはならな
い。彼のような乞食が聖堂に出入りすることも、さしたる不思議ではなかった。 
 だが、コーネリアスの命により人払いが徹底された陣内で、ふたりの交わす会話は聖職
者と乞食のものではなかった――。

「なんだとッ――! 我々の苦労が無駄になったというか!」
 大僧正は声を荒げた。
 乞食は身を縮めたが、なんとかうろたえることなく言葉をついだ。
「心配は無用です……派遣された弓使い――その女傭兵が帰還していないことは、すなわ
ち議員の暗殺に失敗したことを意味しています。なにせその女、傭兵ギルド随一の弓使い
なのですから……。優秀な暗殺者が帰還しない理由はふたつだけです。任務をしくじって逃
亡するか、あるいは返り討ちに遭って命を落とすかです……」
「ええい、理屈はよい――欲しいのは事実だけだ!」

660みやび:2007/04/12(木) 00:07:09 ID:XTPBa2Mk0
◇――『赤い絆 (六)』―――――――――――――――――Red stone novel[2/8P]

 乞食は恐縮して答えた。
「古都には部下を差し向けており、間もなく報告が届くはずです……。例の男――弓使いに
暗殺を指示した男ですが、名をオーロ・バスクェス。傭兵ギルドの特種部隊長を務める男で
す。そやつにしても、議員に偽の情報を握らせたキムの行動を知り、大事を止めるために
弓使いを動かしただけのこと……。キムの報告では、男は背後に我々がいることはおろか、
勢力の関与さえ臆測の範囲――男は現在、キムの機転で任務を私的に利用した“犯罪者”
として、ギルドに追われる身となっております。傭兵の世界では反逆者に弁明の機会は与え
られません。今頃は元同僚たちにモンスターのように狩られているでしょう……。あとは例の
議員が評議会に報告するのを待つのみ――残る問題はそれだけに御座います」
 目を閉じて乞食の言葉を聞いていた大僧正は腕を組み、うなった。
「だが過信は禁物。上手の手から水が漏れるようなことだけは避けねばならん。……わかっ
ておるな? そのオーロとかいう男の生死、必ず確認して報告するのだ。弓使いの女につい
ても同様だ――」
 大僧正は椅子から立ちあがった。

「これは主の導きである――その意思を妨げる者には“鉄槌”を……!」

 まるで見えない観衆に呼びかけるように高らかに、そして誇らしげに告げた。
 乞食は床に頭をこすり付け、平伏した。

   *

 陽炎を連れ立ち、ひとりの男が広大な砂漠を歩いていた。
 どこをどう逃げてきたのやら、さすがの男もコンパスや地図を持たずして、ガディウス大
砂漠を抜けるのは容易なことではなかった――むしろ不可能に近いことだ。
 その砂漠が難所と言われるゆえんは、その地域だけに発生する特種な雲の構造にあっ
た。まるで海原のような砂地一色の大地に反射された陽光は、低空の雲で幾重にも弾か
れ、砂漠一帯に異なる方向から光を投げかけるのだ。そのことにより、ガディウス砂漠で
は常に複数の方角に影が伸び、しかも気紛れにその向きと影の数が変化する――。
 つまりは遭難者にとって最も原始的で実用的な日時計が役に立たないのだ。当然だが、
それを利用して方角を知ることもできない。
 自由に砂漠を闊歩できるのは、代々その地域で暮らす連中と、コンパスや地図――これ
には砂漠に固定された岩の形や特徴のある断層などが詳細に記されており、酷似したそ
れらの形状を経験から記憶するのは不可能だ――を持つ熟練者だけだった。
 それら以外で方角を見定めるには、夜を待って星を観測するよりほかないのだが、特種
な雲は夜でも晴れることが少なく、また運良く晴れたとしても、砂漠には盗賊団や、肉食の
ヨークといった連中が巣くっているのだ。

661みやび:2007/04/12(木) 00:08:01 ID:XTPBa2Mk0
◇――『赤い絆 (六)』―――――――――――――――――Red stone novel[3/8P]

 オーロ・バスクェスは最後の飲み水を口にすると、空になった水筒を放り投げようとして、
思いとどまった――振り上げた手に握られた、羊の胃袋でできた入れ物を睨みつけ、いつ
出遭えるとも知れない涌き水のことを想像し、苦々しい思いで腰のポーチに収めた。
 追いすがる追跡者を一時的に視界から遠ざけたものの、軽装で砂漠に逃げ込んだ彼の
疲労は大きかった――いかに鍛え上げられた肉体をもってしても、四十を過ぎた年齢は彼
から若いときのような持久力を確実に奪っていた。
「くそったれ。キムのやつめ、よくも俺の退職金と年金をふいにしてくれたな……!」
 吐き捨てるようにつぶやくと、オーロは乾いた砂を蹴った。
 砂漠ではひとりごとが多くなる。どれほど経験を積んだ冒険者でも、また寡黙な者であっ
ても、自分は死ぬまでここから抜け出せないのではないか――それを知ったとき、正気を
保つためには嫌でも饒舌にならざるを得ない。もっともその言葉が、自身を落ちつかせる
ために自然と口をついて出るものなのか、あるいは狂気の果てに吐かれたものなのかは、
当の本人には自覚できないのだが……。
 彼はマリアの直属の上司であると同時に、マリアの母――エレノア・スミスのかつての同
僚でもあった。
 マリアに議員の暗殺を命じたのは、純粋にマリアの技量をあてにしてのことだったが、こ
の状況に及んでは自分の判断を呪うよりほかなかった。
 あのマリアが返り討ちに遭う可能性はまずないだろう。特定の条件下であれば、彼です
らマリアには勝てないのだ。だとすれば、彼女はそれ以外の理由で任務を放棄したことに
なる。キムの思惑が何であれ、ここまでやるからには、マリアがまだ生きていれば彼女の
命を狙うだろうし、目的が口封じである以上、その性質からいってマリアの母親をも標的に
するはずだ。
 相手はただの議員だ。なにもギルドでいちばんの使い手であるマリアに命じる必要はな
かった。だが完璧主義者でもあったオーロは、確実さを優先してマリアに暗殺を命じた。
 その結果がこれだ。
 心から信頼し、尊敬し、命を捧げても惜しくはないと思っていたかつての仲間と、彼女の
娘の命を無駄に危険にさらしてしまったのだ――そのことに彼は後悔し、自身を責めた。

 ともかく、ここを生き延び、なんとしてでもエレノアの元に辿りつかなくてはならない。

 その決意だけを糧に、オーロは砂漠を歩いた。
 着実に背後に迫る、目に見えない追っ手の気配を感じながら。

   *

 古都の街は喧騒で溢れていた。
 それらの雑音と人ごみを持ち前の転移魔法でスルリとかわし、音もなく舞うように、また
はそよ風みたいに人々の脇をかすめ、ジーナは誰の目にも触れることなくスタイナー邸を
目指した。

 スタイナー邸は古都のはずれにあり、ほかの屋敷に比べても極端に広い敷地ではない。
 全ての面積を合わせても、およそ一般的な小麦畑の三区画分に満たない広さだ。大人
の足で十五分ほども歩けば外壁をひとまわりできる。
 敷地は全体が芝生で覆われ、正門と裏門とをつなぐ直線上を煉瓦の石畳が貫き、線の
中心にはまるで美術品のような噴水が造られていた。
 噴水の周りには見事な中庭が敷き詰められ、その花園を環状の母屋が囲っていた。
 母屋を北に出てしばらくゆくと、そこに小屋がある。
 施錠された小屋の中はガランとしていて、床にぽっかりと穴が空いているだけだった。

662みやび:2007/04/12(木) 00:08:49 ID:XTPBa2Mk0
◇――『赤い絆 (六)』―――――――――――――――――Red stone novel[4/8P]

 穴は地下へと潜る入口で、そこから家屋の一階分ほどを階段で降りると、曲がりくねった
石造りの通路が延々と続いていた。
 迷路みたいな通路の突き当りはちょうど敷地の北端、塔の真下だった。
 塔といってもとくべつ高くはなく、三階建ての母屋より少しばかり低い。長らく放置されてい
たやぐらだが、十一年ほど前、執事の言いつけで改装されたものだった。

 塔の足元へと続く湿気の多い地下通路を、ふたりの男が歩いていた。
 壁には等間隔にランプが配置されていたが、それでも地下道という不気味な認識が周囲
を暗く感じさせていた。
「いいか、よく聞けよ。いちどしか言わないからな……。もし俺の言ったことを忘れちまって、
コンラッドさんの怒りを買うことになっても、俺は庇ってやれんからな。わかったか?」
 先頭を歩きながら小太りの男は言った。
 そのあとに続く青年はごくりと喉を鳴らし、短く返事をした。
「まず、ここの出入りを許されているのは俺と――ああ、今日からはお前もだな、この二名
だけだ。もちろん執事のコンラッドさんと、旦那様は別だ。もし俺がお暇をいただいて、その
あいだお前がひとりで担当することになっても、いいか、今言った以外の人間は、誰であっ
てもここに入れちゃあなんねえ。見つけ次第――」
 男は立ち止まり、持っていた剣を相棒に押しつけた。
「そら、こいつを使うんだ。使ったことくらいあるよな?」
 剣を渡された青年は、試しに鞘から引き出してみた刃があまりに鋭利だったので、あわ
ててその刃を鞘に戻すと、自分の腰に吊るした。
「確かに剣は持ったことがあるけど……でも畑に悪さをする獣とか、そういうのしか……」
 経験者は酒臭い息を吐きながら笑った。
「だから言ったろ? ここは入っちゃならねえ場所なんだ――そこに飛び込んで来たからに
は、そいつはもう人間じゃねえのさ――“獣”だ! 躊躇う必要もないし、斬ったからってお
咎めがあるわけでもない――それどころか『よくやった』ってな……たんまりと褒美まで貰
えるって寸法よ。そりゃあお前、そんなのに出くわした日には幸運ってもんだ」
 青年は前をゆく男の腰にぶら下がっている剣の鞘を見て、そこに赤黒い染みがついてい
るのに気付くと、ぶるっと肩を震わせた。
 やがて塔の真下に到着すると、突き当たりには少しばかり小さめの扉がひとつあった。
 突き当たりのすぐ手前の壁には同じようなサイズの扉があり、大柄な男では身を屈めな
ければ出入りできなくらいの高さだった。
 小太りの男は壁のほうの扉に無理やり膨らんだお腹を押し込め、中から青年に向かって
入って来るように促した。
「ここが俺たちのねぐらだ――」
 青年が見渡すと、そこはじめじめした薄気味悪い通路の様子から一変して、温かく、そし
て清潔な明るい部屋だった。いや、そこいらの安宿より立派なくらいだ。
 部屋の一画には壁に面して二段ベッドがあり、中央のテーブルを挟んで反対の壁には、
食器棚がひとつと、戸が閉まって中は見えないがおそらくは私物を仕舞うための棚がふた
つあった。
 さらには別の壁にトイレらしき扉と、小さな暖炉――それを利用した調理台があり、その
隣には流しが据えつけられていた。
 男は棚のひとつを叩いた。
「こいつはお前のだ。好きに使え――おっと、隣は俺のだ。勝手に開けるなよ」
 それから男は流しへ行ってポットに水を入れると、それを暖炉の上の鉄板に乗せた。
 男がテーブルの席に腰を降ろすと、青年もその向かい側に座った。
「ああ、ベッドは……」チラと痩せた青年を見、そして自分の醜い腹に目を落とし、舌打ちす
ると若者を睨んだ。「――お前が上だな」

663みやび:2007/04/12(木) 00:09:33 ID:XTPBa2Mk0
◇――『赤い絆 (六)』―――――――――――――――――Red stone novel[5/8P]

 落ちつかない様子の相棒を無視し、男は煙草に火をつけた。
 それから煙をくゆらせ、顔を突き出した。
「まあ仕事といっても、なんてことはないんだ。ほれ、そこに小さな鉄の扉があるだろう?」
 男が指差した壁に、たしかに鉄の板が嵌まっていたが、すぐ脇に、天井から紐が垂れ下
がっているほかは、これといってノブらしいものは見当たらなかった。
「日に三度、あそこから食事が降りてくる。扉をいじる必要はない。荷物が降りてくれば勝
手に開く仕組みだ――まあここだけの話し、俺は《エサ》って呼んでるがな。……ともかく
だ、俺たちは居眠りしないで、《エサ》の時間にはちゃあんと起きていなくちゃならん」
「それで……その食事――ああ、《エサ》を運ぶのが、僕らの仕事なんだね?」
 青年が言った。
「わかってるじゃないか。見所があるぞ」
 男は笑った。
「で、その《エサ》と一緒に俺たちの食事もくる。そいつはとりあえずこのテーブルに乗せて
おき、《エサ》のほうを持って行くってわけだ。頃合いをみて空になった食器を回収したら、
開いたままの扉ん中にそいつを放り込んで、そこに見える紐を引けば、あとは上のほうで
やってくれる――」
「それを一日に三回、毎日やるんだね?」
 男はそうだと言った。
 だが青年は、それにしたって報酬が良過ぎると思った。
 彼は正式な剣士でもなければ見習いでもなかったが、遠い親戚に剣士の家系があるお
かげで、コネを頼りに道場にも通わせてもらい、それなりに武術のいろはを会得した。
 もっとも素人に毛が生えた程度の腕前だが、一般の人間がギルドの仕事にありつくには
大いに役立ってくれた。
 普通、実入りのある仕事は危険度も高いが、安全な仕事というのは極端に報酬が少なく、
冒険者は見向きもしないものだ。そうした“残り物”の在庫はギルドとしても早くに処理した
かったし、彼のような人間には簡単に小銭を稼ぐ手段になっていた。
 そうして暇さえあれば、彼はギルドに足を運んでいたのだ。
 そんなとき、日頃から彼の様子を目にしていたという老人に声をかけられた――それがこ
の屋敷の執事だった。
 しかし、『ある御方のお世話をする』仕事であるということ以外、なにも教えてはもらえなかっ
た。それがこんな場所で――しかも仕事の内容といったら、いかにも“なにかある”としか思
えない。
 青年は気後れしつつも、その疑問を正直にぶつけてみた。
 男は驚いた鳩みたいな顔をして、それから青年の肩を叩きながら笑った。
「当然だ。こうやってお日様の光も浴びず、地下にもぐってひたすら《エサ》を運ぶだけの毎
日なんだ、高給でなきゃ成り手はいねえさ。それにごく稀に“獣”も始末しなきゃならん」
 なるほどそう言われてみると、たしかにそうかもしれない――青年は思ったが、それでも
どこか腑に落ちない。何かが胸につかえているのだった。
 と、そこへどこからともなくベルの音が鳴った。
 びっくりして青年が辺りを見回すと、ベルは部屋の天井の角にあった。
「もうそんな時間か……。どうやら本番だぜ。よく見ておきな」
 男は立ちあがって壁の扉に向かう。
 やがて扉がスライドし、中には湯気をたてる食事があった。
 それを取り出すと、男はテーブルへと運んだ。
 トレイには、青年がこれまでに見た事もないような豪華な食事があった。
「この陶器のが俺たちの分だ。そら、手伝え」
 男が陶の食器だけをテーブルに置くのを見て、青年もそれを真似た。

664みやび:2007/04/12(木) 00:10:18 ID:XTPBa2Mk0
◇――『赤い絆 (六)』―――――――――――――――――Red stone novel[6/8P]

「よし。俺たちの食事はこれを運んでからだ――」
 そう言うと、男は銀製の器が残されたトレイを抱え、部屋を出た。
 先ほど目にした通路の突き当たり――そこにある扉のカンヌキを外すと、男は扉を開け
て奥へと進んだ。そのあとに青年も続いた。
 内部は螺旋状の階段と壁だけの世界だった。
「こいつをな、鼠みたいにぐるぐると、いちばん上まで行くのさ」
 そう言う男の巨大な尻を見上げ、青年は階段を昇った。
 しばらくすると階段が無くなり、最上階に着いたことがわかった。
 ふたりの眼前には立派な装飾が施された扉がある。
 だが男はその扉を横切り、少し離れた場所にある小窓の中に、持って来たトレイを差し
入れた。
「その扉を開けて中に入っていいのはな、空の器がこの場所に戻っていないときだけだ―
―まあそういう決まりなんだが、戻っていることはまずない……」
 扉の前で立ち尽くしている青年に向かってそう言うと、男はニヤリと笑って続けた。
「今日はお前の初仕事だ。特別に今から開けてやるぜ」
 男は腰に下げている鍵束を手に、扉の前に立った。
 鍵を開け、扉に耳を押しつけて中の様子を探る。
「む。どうやら大丈夫そうだな……」
 そして男は扉を開いた――。

「何者です――!!」
 白を基調とした簡素な――しかし気品に満ちた室内に踏み入った男たちに声が飛んだ。
 青年は声の主に驚いた。
 そこにいたのは、おそらく二十代後半に見える、若い女性だった。
 決して美人とは言えなかったが、それでも不細工ではなかった。少なくとも彼女に言い寄
られて悪い気がする男はいないはずだ。そんな容姿をしていた。
 それに持って産まれた育ちの良さが、彼女を実際より美しく見せていた。
 飾り気はないが高価な素材とデザインで作られた衣装を身に纏い、ベッドに腰を降ろして
いた女性は立ちあがった。
「わかったわ! わたしのマーガレットを盗みに来たのね……!」
 女性は青ざめた顔で、何度もマーガレットの名を呼びながら、部屋の中を駆けまわった。
 それを見つめながら、男は青年に耳打ちした。
「……まあ待ってな。面白いものが見れるぜ」
 しばらくすると、部屋の奥に消えていた女性が何かを抱えて現れた。
「マーガレット……大丈夫よ。わたしが守ってあげますからね」
 そう話しかけ、女性が撫でているのは一匹の仔犬だった。
「元々は女の慰めにって連れて来られた犬なんだがよ……。あの女、いつの間にかそれを
手前ぇの子供だと思いこんじまったのさ……」
 すでに侵入者たちのことは頭にないのだろう。女性はまたベッドに座り、大事そうに抱え
ている“マーガレット”をそっと撫で、子守唄を歌い始めた。
 その姿は哀れとしか言いようがなかった。
 彼女にいったい何があったのか、あるいはこの屋敷に何が起こったのか、それは青年に
とって想像の限界を超えた世界の話しだった。
 だが目の前にいる女性が心に深い傷を追い、その悪夢から逃れるために、今の哀れな
姿に身を落としてしまったことだけは、青年にも理解できた。そしてなぜこの仕事が成り手
を選び、報酬が桁外れなのかということも――。
「ああ、もう充分にわかったから……行こう。なんだか気分が悪いんだ」
 青年は女性の姿を直視できなかった。

665みやび:2007/04/12(木) 00:10:57 ID:XTPBa2Mk0
◇――『赤い絆 (六)』―――――――――――――――――Red stone novel[7/8P]

 個室に戻った男たちは食事をとったが、実際に手をつけたのは太った男だけだった。
「なんだお前、食べないのか? こんな食事、外じゃあ高級な店でしか拝めないぜ」
 青年は今しがたの光景にショックを受け、食欲どころではなかった。
「うん、まあちょっとね……欲しければあげるよ」
 そうかそうか、と、男は相棒の食事に手を伸ばした。
 目の前の男の無神経さを思うと、青年はさらに胃が縮んだ。報酬に釣られてここへ来た
のはまちがいかもしれない。そう思い始めていた。
 落ちこんでいる様子の相棒に気付いて、男は口を開いた。
「そうガッカリすることもないさ。へへへ……こいつあ内緒なんだがな、まあお前も今日から
ここで働くんだ、特別に教えてやるぜ“兄弟”――」
 自分たち以外には誰もいない個室で、男はわざとらしく身を乗り出し、相棒のほうに顔を
近付けた。
「あの女は完全におしゃかだ。さっきも俺たちを見たときにはあんなだったが、すぐ静かに
なったろう? 犬を探してるあいだに、俺たちのことなんざきれいに忘れちまったのさ。まあ、
つまりあの女はそんな風なんだ――」
 青年は男の言っていることがわからなかった。
 男は続けた。
「あの女、狂ってるわりにはずいぶん身なりがきれいだったろ? ひとりじゃ風呂にも入れ
ねえのによ。その世話はもちろん俺たちじゃねえ。三日おきにここへ女中が来る。そいつが
女を風呂に入れて、体を洗ってやるのさ――もっとも……あんな気味の悪い女の相手なん
ざ、普通は嫌がるもんだ。そこでだ――あの女の世話をしなくて済むうえに、小遣いまで稼
げるとなりゃ、どうだ?」
 男の顔は上気し、その口元にはいやらしい笑みがあった。
「待ってくれよ……まさか――」
 青年の驚きを、男はあっさりと肯定した。
「その女中にな、ほんの少し小遣いを握らせてやるんだ。なあに、こちとらたんまりと報酬を
貰ってるし、その金を使う暇さえありゃあしねえんだからな、安いもんさ。へへへ……あとは
わかるよな? もちろん最初は騒ぎ立てるが……なに、無視してあの犬っころをあてがって
やれば、自分が騒いでいたことさえ忘れっちまうよ――」
 青年は驚愕した。男が冗談を言って、自分をからかっているのだと思った。
 だが男は息を弾ませ、涎を垂らしながら続けた。
「――ある意味ここは天国だぜ? あんなのでも充分に若いし、顔だって悪くはない……そ
れによ、あの女が相手なら、下手に娼婦宿に行って病気をうつされる心配もない。まったく
お笑いだぜ。俺の顔をいっときだって覚えていられる脳味噌はないってのに、あのときだけ
はひいひい言ってよがるんだからな……とんだ好きものだぜ、ありゃあよ」
 青年は眩暈に襲われた――。

 気が狂ってしまった哀れな女は、自分が犯されていることも自覚できないうちに、その身
に宿る女の業を突かれ、そして支配され、やがて薄汚い男の求めに応じて身をくねらせる
のだ……。

 そんな悪夢に似た光景が青年の脳裏に浮びあがり、女の悲しげな喘ぎ声がこだました。
 これほどまでに歪んだ狂気が、無情な仕打ちがあるだろうか?
 あまりの光景に、彼の心は悲鳴をあげた。
 必死に悪夢を追い払ったが、背中にはじっとりと汗をかき、心臓は早鐘を打った。
 向かいに座っている男の笑みが、ギラついた目が、まるで悪魔のように思えた。

666みやび:2007/04/12(木) 00:11:43 ID:XTPBa2Mk0
◇――『赤い絆 (六)』―――――――――――――――――Red stone novel[8/8P]

 どうかしてる――狂っているのはこいつのほうだ! そう思った。

 つい昨日まで平凡な世界で生きてきた青年にとって、この地下道は別世界であり、塔に
住む哀れな女性は悪夢であり、そして目の前の男は狂気の産物だった。
 これまで感じたことのない怒りにうち震え、青年は無意識に腰の剣に手をかけていた。
 だが寸でのところで我に返る。
 ここでもし男を殺しても、解決にはならないことに気付く。
 それに解決するといっても、いったい何を解決すればいいのか、また救うべきなのは何で
あるのか――青年にはなにひとつわからなかった。
 あるいは下手なことをすれば、自分の身が危ない。それだけは直感した。
 青年は震える手を剣から離した。
 たしかにあの女性は哀れだし、できることならあの場所から、そしてこの卑しい男から救
いたいとも思ったが、冒険者としての経験も、騎士としての心構えや気概の一片さえ持ち
合わせていない青年にとっては、自分の命以上に救いたいものなどないのだった。
 胸のうちに産まれた怒りはいつしか恐怖へと姿を変え、その恐怖から逃れるために、青
年は凡人なりの冷静さを取り戻した。
「ああ、うん……まったくだ。それは楽しみだな」
 そう言って男に愛想を見せると、この仕事を辞める口実を考え始めた――。









◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

667みやび:2007/04/12(木) 00:14:35 ID:XTPBa2Mk0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『赤い絆 (六)』

 ――あとがき――

 うーん……。どうにも中途半端な区切りですね(汗)
 本当はもう少し続けたかったのですが、あまりダラダラと読ませてしまうのも、読むほうは
疲れてしまうだろうなあ……という気がして(汗)
 もっともこれは、私の力不足ではありますが……。

 あとアレな表現については、ちょっと際どいかなあ(汗) と思いつつ、ギリギリのところだ
ろうと判断しました。
 封建的で象徴としての貴族が乱舞している時代、その端的な歪んだ一面を表現しようと
思うと、これでもまったく触れていない、と言ってもいいくらいでありまして……なんとも困っ
たものです(汗)
 その産まれと環境と過去の経緯により、これらの展開は必然であるのですが、そうした
土台を与えてしまったという部分では、私の設計ミスでもあるので、その点は弁解できな
かったりするわけですけど……。
 ああ、苦しい(汗)

 ともかく自分のスタンスで行くしかないですね(汗)
 蚤の心臓ですが、これからもなんとか頑張ります。ブーイングが出なければ……。

 どうでもいいですが最後のレスが666……。

 ダミア〜ン! って叫んでいいですか?

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

668みやび:2007/04/12(木) 00:15:30 ID:XTPBa2Mk0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce

>復讐の女神さん
 ああ、村が燃えてしまった(泣)
 このあとの展開を想像すると切なくもありますが、でもきっと……なんて思うようになると
重傷ですね(なにがよ)
 しかし魔法って面白いですね。書くのも楽しいですが、やっぱり楽だから読むほうがもっと
楽しい(笑) 書き手の立場としては、やはりどんなネタスキルでも活躍させられる! とい
う部分が魅力でもあるわけですが、そういう意味でもボイルの足止めがステキ(笑)
 あ。もしかして私はボイルの術中――正確には女神さんの、ですね――にハマっている
のかしら?
 まそれも読み手の醍醐味ということで、続きをお待ちしております。

 でもエルフ強いですねー。まあいくら小説とはいえ、虚弱体質のエルフというのも絵にな
りませんが(笑)

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

669◇68hJrjtY:2007/04/12(木) 00:38:38 ID:8pbYsO8s0
>みやびさん
新規書き手さんの参加、そして以前の職人さんの復活は私も願っています。
自分が書き手になりたいと思いながらも結局忙殺されていたりして叶ってませんしね(汗)
実を言えば少しは書いてみたりもしたんですが、元々飽きっぽい性格が災いして書いては消しての繰り返し…。
色々な視点から書いてみたり、100のお題じゃないですが個人的なRSお題を作って書いてみたりして遊んでいます(笑)
納得の行くものに仕上がったらUPしようとは思っていますが…いつも"思ってます"ばかりですねorz
そんな大したもんでもないだろうに一人前のようなセリフ、申し訳ない(汗)


>復讐の女神さん
急展開を迎えてしまいましたね…エルフと蜘蛛だけが敵じゃなかったのですね。
ところでこの三人、やっぱり良いなァ…トリオ狩りは私も大好きです。多すぎず少なすぎず。
特に回復職さんが居ない時はなんかいつもよりテンションが上がっちゃって大変です。
三人それぞれの個性も良く出てると思いますしね。フェリルおじ様好きです(笑)

サブキャラでオガ秘密をしながらスレを読んでしまった…PTMの皆さん真面目にやってなくてごめんなさい(笑)
続きが気になって仕方なかったんです…orz

670◇68hJrjtY:2007/04/12(木) 01:11:44 ID:8pbYsO8s0
連投すみません…リロードしろ、自分orz

>みやびさん
黒幕のアウグスタ大僧正と、スタイナー家の内情が浮き彫りになってきましたね。
この人の良さそうな青年もいずれは口止めで殺されてしまうのかと思うと…ガクガク。悲劇的に考えちゃいけませんね!
一瞬登場したジーナも実はまた姿を消したままこの屋敷に入り込んでいるのでしょうか。
それとエレノアとマリア二人の方も気になります。続きお待ちしています。

ギルドから仕事を請け負って報酬を貰う…オフラインゲームでは良くありそうですが、RSでもクエスト以外にこういうのが欲しい気もします(笑)
そういうタイプのネトゲはあるのかな…私もネトゲはあまり経験無いので良く知らないのですが(汗)
性的描写は全然軽いと思いますよ。RSを中世的な話として見れば当然ある話だと思いますし。
(多分全年齢向けの)中世の頃の本などを読むと、同性愛などもかなり頻繁に(割とリアルに)登場していますし(笑)
むしろ、こういった表現のお陰でみやびさんの小説は大人向けで優美な雰囲気も出てると思います。

671みやび:2007/04/12(木) 10:38:35 ID:NYnyKPjo0
 ――本編――
 ●『赤い絆(一)』>>424>>436 ●『赤い絆(二)』>>477>>483
 ●『赤い絆(三)』>>529>>532 ●『赤い絆(四)』>>607>>612
 ●『赤い絆(五)』>>624>>630 ●『赤い絆(六)』>>659>>666

 ――設定(全作共通)――
 ●小道具、固有名詞など>>495>>497

 ――関連作:番外編――
 ●『愛のしじまに』>>575>>583
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『赤い絆 (七)』―――――――――――――――――Red stone novel[1/10P]

 洞窟はいつだって安心できた。
 温かく、ほどよい湿気と静寂がわたしを包む。
 空腹は満たされ、体の傷もほとんど癒えた。
 穴の外では巻き上げる獲物がいないと風がいい、怒り、悲しげに泣きもしたが、そんな声
もわたしのところに届く頃には心地好い子守唄に変っていた。
 わたしはうとうとする。
 ときおりはっとして目を開けるが、しっとりした穴ぐらの空気が瞼を優しく撫でる。

〈安心おし、見ていてあげる……守ってあげるよ〉

 巣穴は温かい母の子宮だ。慰め、ささやき、そっと抱きしめてはわたしの心をくすぐった。
 安堵と睡魔にうながされ、わたしは黒曜石の瞳を瞼の奥に仕舞った――。

   *

 乱暴に戸を叩くのは悪夢の吐息。
 わたしは白昼夢を見ていたのだろうか……?
 それともこれは夢の続き?
 だがそれにしても、このちっぽけな連中の声はあまりに耳障りだ。
 連中は口々になにかいい、しきりに手にするものを投げている。
 しばらくのち、各部から発せられた信号がわたしの脳へと届く。

 敵だ――!

 その頃になってようやくこれが現実だと気付く。
 起きあがろうとしたが、わたしは連中の罠に落ちていた。
 驚き、這いあがろうとしてもがく。
 そのたびに体中の傷が涙のように血を流す。
 わたしは叫んだ。
 仲間を呼んだ。助けを。大好きな母を――。
 そうして思い出す。
 仲間はいない。死んでしまったのだ……みんな。
 あるときやってきた凍てつく意地悪な北の風が、呪いの言葉を吐きながら大地をじゅうり
んし、その白い魔法に命を吸い取られ、仲間も、母も、そのほかも……次々と倒れた。
 残されたわたしは最後のひとり。
 ちっぽけなやつらにとっては最後の食料……。

672みやび:2007/04/12(木) 10:39:22 ID:NYnyKPjo0
◇――『赤い絆 (七)』―――――――――――――――――Red stone novel[2/10P]

 ああ、わたしは彼らに食われるために生きていたのか。
 彼らの種を救う救世主の役目を担って――。

〈否――!〉

 どこからともなくあらわれた本能が、わたしの心をゆさぶった。

〈生きろ――!〉

 心の声がわたしに言う。

〈殺せ! 蹴散らせ! 踏み潰せ――!〉

 胸の闘志がわたしを突き動かした。

   *

 けたたましい咆哮とともに、落とし穴に嵌まって死にかけていた竜が、突然むくりと首をも
たげた。
 猿たちは覚えたての言葉で敵を威嚇し、罵った。
 次々に矢を放ち、槍を放った。
 降り注ぐそれらは竜の足に、体に、首に、鈍い音をたてて突き刺さる。
 その傷のすべてから血が流れる。
 だが竜は耐えた。
 目の前の生き物をぐるりと見渡す。


    おまえたちにわたしが殺せるものか。
    身のほどをわきまえるがいい。
    我ら一族がいかに深淵なときを生きてきたか、おまえたちは知るまい。
    あまたの仲間の死と、敵の死を――世界の死を見てきた。
    おまえたちには見えるのか……? 自分の死が――。


 竜は喉笛を鳴らした。
 そして咆哮――。
 竜は生存本能と己の誇りにかけて力を振り絞り、長い首で周囲を払った。
 口々に断末魔を吐きながら、ちっぽけな猿たちが宙を舞った。
 それらが雨のように地上に落ち、熟した果実みたいに潰れると、竜の周りは一瞬で赤く染
まった。
 その光景を見て、ほかの猿たちは一斉に竜から離れる。
 なかには呪いの言葉を吐き、槍を投げている者もいたが、竜が雷みたいな咆哮をひとつ
あげると、その猿たちも飛びあがって逃げ出した。

 竜は勝利をおさめたが、罠から這いあがることはできなかった。
 穴に落ちたときに挫いた足は、すでに自分の意思で動かせなくなっていた。
 猿どもに受けた攻撃も、決して軽いものとは言えない。

673みやび:2007/04/12(木) 10:40:11 ID:NYnyKPjo0
◇――『赤い絆 (七)』―――――――――――――――――Red stone novel[3/10P]

 それでも竜は満足だった。
 狩られて死ぬのではなく、勝利して死ぬのだから。それが彼ら一族の誇りだ。
 疲れきった首を地面に横たえ、そっと目を閉じる瞬間、もういちどあの、暖かい日差しと
緑の丘の景色を見たい――そう思った。

〈さあ、おいで。こわがらないで……〉

 これは夢だろうか? 死にゆく自分に本能が見せた。

〈おいで。守ってあげるから……〉

   *

 ながい夢を見ていたような気がする。
 それがどんな夢だったのか、あたしは思い出すことができなかった。
 とても恐ろしく、悲しく、寂しい夢――けれども少しだけ、懐かしいような、優しいなにかに
包まれているみたいな……そう――まるでお母さんに抱かれているような夢……。

「さあ……おいで――」

 それは姉の声だ。
 そっと目を開けると、そこにはたしかに姉がいた。
 ああ、シーラ……!
 あたしは姉に飛びつくと、きつく抱きしめた。
「ごめんね……もう大丈夫だから。わたしが守ってあげるから」
 姉はあたしの頭を撫でながら、あたしが泣きやむまでそうしてくれた。

   *

 ジーナは我に返った。

 こんなときに白昼夢……?
 いいやそれより、なぜ今、あのときの夢をみるのだろう?

 彼女はスタイナー邸の中にいた。
 そこはマーガレットの部屋の前だった。
 ジーナが気になっていたのは、この部屋に閉じ込められている少女のことだった。
 初めて少女を見たとき、ジーナは衝撃を受けた。
 もちろん最初、それは少女が背負っている目も当てられない“業”に対してだったが、それ
よりも彼女の心に共鳴している自分に驚いた。
 その感覚はすぐに彼女への情に変った。
 少女は盲だったが、自分が醜いことには気付いていた。周りの人間が自分を化け物扱い
していることを知っていた。
 それがどんなにつらいことか、また恐ろしいことなのか、ジーナは知っていたから。
 彼女たち姉妹がそうだからだ。
 ジーナのなかに、遠い記憶が蘇った。

674みやび:2007/04/12(木) 10:41:01 ID:NYnyKPjo0
◇――『赤い絆 (七)』―――――――――――――――――Red stone novel[4/10P]

   *

 秘密の隠れ家で、シーラとジーナは小さな《思念球》を見つめていた。
 それはある種の“受信機”だった。遠く離れた場所にある片割れの《思念球》が音を拾い、
それを“受信機”まで送ってくれるのだ。
 片割れの球が置いてある部屋では、今、ゲンマと町の人々が話しをしていた。
 彼女たち姉妹についての話し合いだった。
 さすがのゲンマや、そのほかの魔法に長けた大人たちでも、はなから疑ってかからなけ
れば、隠された小さな球を見つけ出すことはできなかった。
 姉妹は隠れ家で、安心して大人たちの会話に耳をそばだてることができた。
「ねえ、聞こえないよ? もう少し音を大きくしてよ」
「しっ、黙ってなさい」
 大人びた姉の口調に妹はムッとした。
 ジーナはまだほんの九つだったが、それは姉のシーラにしても同じだ。
 わずか数分差で先に産まれただけの、同い年の姉にたしなめられてジーナはむくれた。
 だが精神的にはたしかに姉のほうが大人だったので、ジーナは心の底では姉を母のよう
にも感じ、そうした反抗は次の瞬間には自分でも忘れてしまうのだった。
 姉妹は仲良くお皿に盛られた川魚みたいに、ベッドの上に並んで横たわり、目の前に置
かれた球に集中した。
『いいか、この町は――いや、これから産まれてくるすべてのウィザードの未来は、あの子
たちの犠牲のうえに成り立っているんだぞ? それを忘れ、なんという罰当たりなことを…
…そんな恐ろしいことをよくも口にできたものだ!』
 いつも優しいゲンマが、すごい剣幕で怒鳴っていた。
『もちろんそれには感謝もしている。ここにいる皆がそうだとも……。あんたの研究のおか
げで、スウェブタワーやアラク湖の魔力は消えたし、そのおかげでスマグ周辺の力場は一
掃されたと言ってもいい……。もう我々の中から“人狼”が産まれることはなくなったのだか
ら……』

 “人狼”というのは、スマグに住むウィザードに特有の奇形だった。
 原因については、長い研究を経てスマグ近隣のスウェブタワー、そしてアラク湖水から発
せられる強力な魔法の力場が作用していることがわかっていた。
 その力場の影響を最も強く受けているのがスマグ一帯だった。長年にわたり、スマグで
産まれる子供の実に三割強が、力場の影響で奇形を発症していたのだ。
 その名の通り、人狼はいわゆる“狼人間”だ。そして多くの物語で悲哀として語られる通
りに、人狼もまた本人の意思とは無関係に発現する。
 ひとたび狼の姿に変化してしまうと、その人間の本来の意思や記憶、そして感情の一切
が失われてしまうのだ。
 もちろん元の姿に戻る術はない。狼さながらの本能のままに、空腹を満たし――しかしそ
の対象が人間以外とは限らない。かれらはあくまで“肉食”なのだ――目の前の敵に立ち
向かうだけだ。運良く元の姿に戻る場合もあるが、稀なケースだ。それにいつまた発症す
るか知れない。
 いずれにしても人狼は、危険な猛獣と同じ扱いを受け、狩られる運命にある。
 少なからず人は土地に根付く生き物だ。彼ら魔法師たちもまた、スマグを離れては生き
て行けなかった。
 彼らは長いあいだそうやって奇形と共存し、そして哀れな仲間を殺してきたのだ。
 力場を取り除くゲンマの研究がようやく実を結んだのは、シーラたちが四歳のころ、とき
にしてブルン暦四九二六年のことだった――。

675みやび:2007/04/12(木) 10:41:49 ID:NYnyKPjo0
◇――『赤い絆 (七)』―――――――――――――――――Red stone novel[5/10P]

 その年以降、スマグに人狼の奇形がみられることはなくなった。
 種の未来のためとはいえ研究のモルモットにされた結果、人狼以外の新たな奇形をその
身に宿したシーラとジーナ――彼女たち姉妹がスマグで最後の奇形となった。

 球から別の男の叫びが聞こえた。
『だがそれでもあいつらは“化け物”だ!!』
 その言葉を聞いて、姉妹は同時にビクン、と身を縮めた。
『そうだ……! うちの子を……あんたの責任だ、ゲンマ!』
 言ったのはマシルの父親だった。
 シーラが妹の手を握った。
 妹が隣を見ると、姉は小刻みに震えていた。
 その理由を妹は知っている。
 マシルをあんなふうにしたのは姉のシーラだったから。
 その切っ掛けを与えたのはほかでもない妹だ。
 マシルは決して悪い少年ではなかったが、大人たちの心ない言葉を間に受け、ジーナを
化け物呼ばわりした。
 そして彼女の背中に鱗が生えていないか、見てやろうとしたのだ。
 少年は人の寄りつかない山中にジーナを引きずり込むと、泣き叫ぶ彼女に馬乗りになり、
彼女の服をむしりとった。
 そこへ姉が駆けつけたのだ。
 ひどい仕打ちを受けている妹を見た瞬間、姉は我を忘れた。
 シーラの周囲につむじ風が起こり、地面の石がつむじに運ばれ宙に浮くと、それらは彼
女を中心に円を描いて回転した。
 そしてシーラの長い黒髪が生き物みたいに踊り出す。
 普段は髪で隠されている、彼女の左目があらわになった。その瞳は黄金色の宝石だ。
 ほんの一瞬だった。
 シーラの金目が光りを放ったかと思うと、マシルが悲鳴を上げてジーナから離れた。
「熱い! やめて……やめてよ!!」
 マシルは叫び、体中を掻きむしった。
 それでもシーラはやめなかった。
 彼女がその瞳に意思をこめるだけで、相手の体にまとわりつく汗が……内部の血液が…
…そして臓器や細胞自身に宿るすべての水分が、火にかけられた水のように発熱した。
 スマグの人々は彼女の瞳を“悪魔の目”と呼んで蔑視したが、ゲンマは目を細めて“女神
の目”と言った。その瞳に宿る力こそ、スマグを奇形の力場から救う代償としてシーラが授
かった体質だった。
 シーラはそこに水分さえあれば、それが鉱石だろうと木材だろうと、そして生き物であろう
と――それらが内包する水分の温度を自在に操ることができた。
 マシルは煮えたぎる体内の熱から逃れようと、さらに体を掻きむしった。
 衣服をビリビリと破り、爪が皮膚に食い込んだ。
 もはや言葉にならない悲鳴をあげながら、少年は自らの手で胸やお腹の皮を引き裂き、
肉を削ぎ、無数の血の筋がその体に出来あがっていった。
 妹は何が起こっているのかわからなかった。
 ただ恐かった。
 うずくまり、目を閉じ、心の中で姉の名を呼んでいた。

 こわいよ……助けて――たすけて!!

676みやび:2007/04/12(木) 10:42:33 ID:NYnyKPjo0
◇――『赤い絆 (七)』―――――――――――――――――Red stone novel[6/10P]

「シーラ! もういい――冷気だ!」
 ただならぬ気配を察知して飛び込んできたゲンマが叫ぶ。
 シーラはその声に正気を取り戻し、あわてて瞳のコントロールを逆転させた。
 すでに地面に倒れて痙攣している少年の体液が、急激に温度を下げ始めた。
 シーラは震えている妹に駆け寄った。
「ごめんねジーナ……。もう恐くないから……わたしが守ってあげるから」
 ガタガタと震える雛鳥みたいな妹を、姉は母親のように撫で、いつまでも抱いていた。

 ゲンマの到着があと少しでも遅れていたら、シーラは少年を殺していただろう。
 だが一命はとりとめたものの、その後遺症からマシルはベッドで一生を送ることになった。

 そのときの記憶が、束の間ふたりの心をよぎった……。
 妹は姉の手を握り返した。
『あんたは黙っていてくれないか――話しがややこしくなる』
『なんだと!? うちの息子はあの魔女に殺されかけたんだぞ!!』
 魔女――その言葉に姉妹はショックを受けた。
 彼らウィザードは魔法師とも呼ばれ、たしかに女性の場合は魔女でもあるのだが、スマ
グで口にされるその呼び名は忌み言葉だった。
『だが元はと言えば、あんたの息子があの子にちょっかいを出したんじゃないか?』
『うちの息子は寝たきりの体にされたんだぞッ……!』
『ええい、お前らうるさいぞっ』
『そんなことよりあの子たちの処分だ。これでは話しにならん!』
『だから始末しろと言っているんだ!』
 大人たちの汚い言葉と怒号――。
 幼い姉妹には理解できなかった。
 自分たちは何もしていない。マシルのことも、姉は妹を助けただけだ。それが度を越して
いたとしても、そもそもジーナがひどい仕打ちを受ける理由はない。
 だが皆が自分たちを憎んでいることだけは理解できた。
 魔女……始末……処分。そして“化け物”――。
 それが彼女たちに向けられる、スマグ全体の意思だった。
『もういい――』
 ひとりが言った。
『ゲンマ……あんたの努力と、あの子たちが支払った代償はわかる。わかるが……このま
まではいけない。せめてあの子たちが自分の力を理解し、それをコントロールできるように
なるまでは――ここには置いておけない』
 しばらく沈黙が続き、ゲンマが口を開いた。
『あの子たちは地下に幽閉しよう――』
 一同のどよめきが聞こえてきた。
『だが――正気か? レッド・アイの狂信者どもがやってきてからというもの、地下は得体の
知れないモンスターの巣窟になっているんだぞ!?』
『なんだ……あの子たちを始末したいんじゃなかったのか?』
 その場の空気が凍りつく気配が感じられた。
 間を置いてゲンマは言った。
『狂信者の大半は始末されたと聞く――そうでなくても、あの子たちにはこの私がついてい
るのだ。あの子たちが十六になるまで――おそらくはそれで充分だろう。私も彼女たちとと
もに地下に潜ろうと思う……』
『まってくれ――それは困る! あんたはこのスマグに必要な人間だ……!』

677みやび:2007/04/12(木) 10:43:25 ID:NYnyKPjo0
◇――『赤い絆 (七)』―――――――――――――――――Red stone novel[7/10P]

『それこそ身勝手だな。私を取りたいならあの子たちも一緒だ。それに《総院》が無くなって
何年になるね? もう私の力なぞ必要ではないよ……』
 姉は念を送って球の動作をとめた。
「なぜとめるの? シーラ……?」
 シーラは妹の手を離すと、ベッドから起き上がった。
「ぐずぐずしていられないわ、支度をするのよ。たぶん、あまりたくさんはダメだと思うから…
…なにを持って行くかよく考えなくちゃ……」
 妹は姉の顔からその決意を読み取ると、黙ってうなずいた。

 その週末――彼女たち姉妹はゲンマとともにスマグの地下へと引き篭った。
 再び彼らが日の光を浴びたのは、それから七年後のことだった――。

   *

 ジーナは現実に戻ると、記憶の亡霊を追い払った。
 そうして気持ちを落ちつけると、マーガレットの部屋の中へと進んだ。

《誰なの……!?》
 それは人間の発する言葉ではなかった。
 普通の者にとってはただおーおーと、熊のうめきのようにしか聞こえない音だった。
 ところがジーナは、不思議なことに少女の言葉がわかった。彼女が少女に興味を抱いた
のもそのためだ。ジーナにはとくべつ心を読むといった能力がなかったのだから。
(こわがらないで……なにもしないから)
 ジーナの問いかけに、少女は驚きと恐怖、そしてある種の喜びを感じた。
 戸惑い、ぶくぶくに肥えた肉のかたまりを――自分の体をくねらせてその感情を表現した。
《お姉ちゃん……? あたしの言うことがわかるの……!?》
(わかるわよ……あなた、マーガレットね? あたしはジーナっていうの)
 ジーナはゆっくりと少女に歩み寄った。
 おそらくは少女がやったのだろう、食器や家具の欠片が散乱する部屋の中心で、少女
はドス黒い太った体をよじり、あとずさった。
(こわがらないで……。お姉ちゃんね……あなたとお友だちになりたいの)
 友だち――という言葉に反応し、少女は身じろぐのをやめた。
《おともだち……》
(そう。お友だちよ――)
 気がつくと、ジーナと少女は互いに触れられる距離にいた。
《ほんとう? ほんとうに……なってくれるの――?》
 その心の奥底で、少女が顔を染めるのが感じられた。
(嘘じゃないわ……本当よ……だめかしら?)
 少女は突然あらわれた、まるで天女みたいな目の前の女性に飛びつきたい衝動にから
れ、そして同時に恐怖を感じた。
《だめ――だめよっ!》
 少女は黒い体を強張らせた。
(なぜ? あたしじゃだめかしら?)
 少女はいやいやをする動作を女性の心に送った。
《だって……だってあたしはこんなだもの!》
 少女は泣いた。
 膝をすりむき、両手を目にあてて泣きじゃくる少女の姿が、ジーナの心に浮んだ。

678みやび:2007/04/12(木) 10:44:10 ID:NYnyKPjo0
◇――『赤い絆 (七)』―――――――――――――――――Red stone novel[8/10P]

《うんと気をつけてるつもりでも……まわりのひとを傷つけてしまうの……だから――おとも
だちになってほしいけど……でも、そうしたらお姉ちゃんのこともきっと――》
 ジーナはくすっと笑った。
(魔法使いって、知ってる?)
 突然の質問にびっくりしたが、それでも少女は記憶をかきまわした。
《うん……知ってる。小さいとき、ヘレンがお話ししてくれた。もちろんあたしの言うことはほ
かのひとには伝わらないけれど……あたしが聞くことはできるから――》
 そのとき、少女ははっとした。
 ジーナは少女が思い出した記憶の残像を見た――それは少女が無意識のうちに女中を
蹴り殺すシーンだった。
 ジーナはあわてて少女の心に“愛情”のサインを送った。
 その優しい光りに心の目を塞がれ、少女は記憶の亡霊を見失った。
(ほかのことは思い出さなくていいのよ――お姉ちゃんはね、その魔法使いなの)
 少女は過去の悲劇を忘れ、目の前の女性に気をとられた。
《ほんと! ほんとの魔法使い!?》
(本当よ。だから、あなたがもしふいに体を動かしても、あたしはそれを見事にかわすこと
だってできるの――だから、なにも心配しなくていいのよ)
 泣いていた少女のイメージは消え、代わりに満面の笑みをたたえた顔が見えた。
《じゃあ……それじゃあ、ほんとうなのね! ほんとうにおともだちになってくれる!?》
 ジーナは笑顔でうなずいた。
 少女は嬉しさのあまり、重たい体をくねらせ、四肢を床に打ちつけた。
 まずい、とジーナは思った。ここで騒がれてしまっては家人に気付かれてしまう。 
(ねえ、でも落ちついて……いい?)
 少女は息を弾ませて四肢を動かしていたが、ジーナの問いかけに反応した。
(あたしはあなたをたまたま見かけて、そしてここに来たの。つまりはこの家の人たちにとっ
ては“侵入者”ね……わかるかしら? だから、あたしがあなたとお友だちであることは、ふ
たりだけの秘密よ。ほかの誰にも知られてはいけないことなの。もし知られてしまったら、お
姉ちゃんはもう、ここには来られなくなってしまうのよ)
 その台詞を聞いて、少女は急におとなしくなった。
《うん……誰にもいわない。それにどうせ……誰もあたしのいうことなんてわかってくれない
もの……》
(いい子ね。さ……今日はもうおしまい)
《もう行っちゃうの?》
(あなたも、こんなに誰かとお話しをするなんて、初めてでしょう? いちどに話しをすると、
疲れてしまうわ。あたしはまた明日も来るから、ね?)
 少女は落胆したが、素直にジーナの言葉にしたがった。

 そしてジーナが部屋の窓から飛び去るときも、見えない瞳をこらし、じっとその魔法使い
に熱い眼差しを送っていた。

   *

 古都の街にはすでに夕焼けがかかっていた。
 スタイナー邸をあとにしたジーナは、街の西をはずれ、さらにその先の墓地まで行くと、
そこで転移魔法を解いて姿をあらわした。
 ここならば誰も近寄らないだろうと思ったからだ。
 ろくに手入れもされていない、ぼろぼろの墓石や管理小屋を見渡すと、彼女はそれら陰
湿な風景に心が和んだ。

679みやび:2007/04/12(木) 10:44:58 ID:NYnyKPjo0
◇――『赤い絆 (七)』―――――――――――――――――Red stone novel[9/10P]

 多感な時期の七年という時間を、危険な生き物が徘徊するスマグの地下で過ごしてきた
彼女にとって、墓地の陰鬱で寂しげな風情は、まるで我が家に帰ってきたような安堵感が
あった。
 崩れかけた墓石のひとつに腰掛けると、ジーナは思案にくれた。
 彼女はマーガレットをあそこから連れ出す気でいた。
 それが少女をとりまく事情を無視した行為だということは承知していたが、あの場所にい
つまでいても、少女が幸せになれないことだけは明らかだ。
 自ら不幸を背負ってきたジーナは、不遇に甘んじている人間――とくに幼い子供を見る
と、手を差し伸べずにはいられないのだった。
 それは彼女の良さでもあるが、場合によっては弱さでもあった。
 姉のシーラはどちらかと言えば冷酷だった。唯一、妹に対してだけは盲目的な愛情を注
いだが、妹を幸福にするためには、あらゆることを犠牲にするのも躊躇わない一面がある。
 それに対しジーナのほうは、後先も考えずに目の前の不幸に手を差し出してしまう傾向が
あった――たとえ自分を犠牲にしてでもだ。

 ない知恵を絞ってうんうんうなっているうちに、いつの間にか辺りは暗くなっていた。
 だがジーナはそんなことにはおかまいなしだった。
 あと一週間ある。ギルドの建物の構造は調べがついているし、あそこの保管庫から例の
書類を盗み出すことなど、五分もあれば可能だ。
 それまでは少女のことに専念できる。いや、それとも先に書類を盗み出しておいて、あと
でゆっくりとこの問題に手をつけようかしら?
 ――そのとき、ジーナは背筋が凍るような視線を感じた。
 思ったが早いか、彼女は無意識のうちに転移魔法で姿を消していた。
 なにひとつ動くもののない墓地に、くすくすとわらい声が響いた。
(子供の声……女の子……?)
 ジーナは少しだけ緊張をゆるめたが、警戒は続けた。
 やがて笑い声の主が言った。
「ふうん……面白い芸を持っているのね」
 ジーナの脳裏を昼間のギルドでの出来事がよぎり、そのときの恐怖と驚きを思い出した。
(なんだっていうのよ――あの女といい……どうなってるの!?)
 ジーナは舌打ちした。
 相手は自分のことに気付いている――昼間の女に続き、これまでの人生で自分の動き
を見破られたのはこれで二度目だ。
「いいから出てらっしゃいよ……」
 そう言うと、闇の中から白い子供が現れた。
 だが衣服が白いわけではない。その少女自体が白いのだ。
 その証拠に少女は裸だった。
 白い、という表現も単なる比喩ではなく、肌そのものが漂白されたように真っ白だった。
 いくら世界が広いといっても、この世に純白の肌を持つ人間などいるはずがなかった。
 ジーナはふと、ギルドで女たちが話していた《古都の亡霊》という言葉を思い浮かべた。
(こいつが? まさかね……)
 だが相手が“何”であれ、ジーナは驚かないだろう。彼女自身、化け物と言われて育った
のだから。むしろ彼女にとっては、動きを見切られていることのほうがショックだった。
 動きを悟られている以上、姿を消していても意味がない。ジーナは観念して転移魔法を
解いた。

680みやび:2007/04/12(木) 10:45:45 ID:NYnyKPjo0
◇――『赤い絆 (七)』――――――――――――――――Red stone novel[10/10P]

 ジーナの姿を見て少女は息をもらした。
「魔女だったのね。髪の長い魔法使いは多いから、てっきり男だと思ってたわ――」
 少女はあどけない顔で首をかしげると、「傷ついた?」そう言って笑った。
 その言葉は脅かしか――それとも挑発なのか。
 ジーナの背筋を汗が伝った。
 少女の言葉が決して強がりや、あるいは無知がもたらす誇示とは思えなかった。あるい
は死の恐怖を味わったことのない余裕から生まれる口調なのか……。
 ジーナがそんな考えに気をとられているうちに、少女は足を踏み出していた。
(しまった――!)
 ジーナはとっさに数メートルほど後方に跳躍した。
 だが着地したときすでに、目の前には少女の白い顔があった。
「つれないのね……」
 真っ白な少女の顔がジーナに迫る。
(くるな……!)
 ジーナはありったけの精神力をかき集めてジャンプした――。

「すごいじゃない……こんな距離を転移できるのね!」
(そんな――!?)
 振り返ると、ジーナの背後には少女が立っていた。
 ふたりが立っているのは古都にある議事堂の上だった。
 そこからは古都の夜景が一望できた。眼下には議事堂のわきを通り過ぎる人々の足早
な姿がある。誰ひとりとして議事堂の屋根に人影があることには気付かない。
 ジーナは肩で息をしていた。
 おそらくはいちどにそれほどの距離を跳躍できる魔法師はほかにいないだろう。
 ところが今度もまた、少女はその動きに追随したのだ。しかも息が荒いジーナに比べ、
相手は涼しい顔だ。おそらく少女にとって、この程度の距離は片手間で飛べるのだ。
(だめだ――相手のほうが早い……!)
 むろん相手の正体は不明だし、目的さえわからない。それでも敵でないことがはっきりと
するまでは、そいつが自分に関わろうとする限り脅威なのだ。
 万事休すかと思ったとき、少女は意識をほかに移した。
 そうしてしばらく目を閉じていたが、突然目を開け、ゆっくりと視線をジーナに戻した。
「この体も飽きてきちゃったし……本当はあなたのを貰うつもりだったけど――」
 ジーナは少女の言葉の意味が理解できなかった。
 少女はくすっと笑った。
「でも、それはあとでいいわ……いいものみつけちゃった」
 その笑みには含みが感じられた。
 まちがいない。こいつは何かを企んでいる!
 時間稼ぎをするか……だがどうやって?
 ジーナが考えをめぐらせていると、少女が言った。
「じゃあ、あとでね……ちょっと遊んでくる!」
 少女の体が宙に浮き、ゆらゆらと揺れた。
「まっ――」
 ジーナが叫ぼうとしたときには、少女の姿はその場から掻き消えていた。
 もちろん飛行している少女の姿が見えるはずもなく、ジーナは急いで“気配”を探した。
 そして気配が向かった方角に目を見張った。
 少女が消えた先にはスタイナー邸が横たわっていた。

◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

681みやび:2007/04/12(木) 10:46:57 ID:NYnyKPjo0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『赤い絆 (七)』

 ――あとがき――

 少しだけ書いていた続き部分を編集しようと思い、手をつけ始めたら止まらなくなってしま
いました。結局そのまま徹夜をするはめに……。
 というわけで今回もまた、熟成なしの一番搾りです!(汗)

 リアル事情よりこっちを優先してしまった……。
 せっかくだしINしようかしら、と思ったら今日はメンテ!?(間が悪いというか……)
 いいや。寝よう……(汗)

>68hさん(レスをケチってここで(汗))
 エレノアたちはまだですが、先にジーナのほうをお届けしました(笑)
 “アレ”な内容ですが、そういっていただけて少しほっとしました。
 男色家ネタは多いですからね、貴族さんの世界(笑) 私はどうもモーホー系は書けなく
て、(いや百合ネタも)守備範囲外ですが(汗)

 クエ以外のお使いとかRSに欲しいですね。例えばお使いNPCに話しかけると、INして
いるキャラ名をランダムに検索して、『○○さんにこれを渡してください』とか楽しそう。もち
ろんその○○さんが放置の場合もあるので、渡せなかったら再度NPCに話しかけると再
検索して別の相手を探してくれるとか……。まあMMOなんだし、この際「相手が問題アリ
な人だったら……」というのは置いて。お使いだけじゃなくてその人と特定の問題を解決
するとか……システムとしてはいいと思うんだけどなあ(自我自賛)
 技術的に無理かしら?(汗)

 ところで色々と書いているのですね。むふふ。むしろこの場で実戦を通して『納得の行く
ものに仕上げる』という手もありますよ。  ぐへへへっ(コワイヨママン...)

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

682◇68hJrjtY:2007/04/13(金) 01:20:47 ID:5GAtP0h.0
>みやびさん
シーラとジーナの過去はまた悲しいですね(涙)
二人が特異体質を持って生まれてしまったのがどのようにスマグに影響したのか…
ゲンマ老がここまで二人を庇っているというのはとても大きな理由がありそうですね。
ジーナがマーガレットと心を通じ合わせる事ができて良かったと思いきや、また白い少女が…。
これは戦いの予感…でしょうか。いやでも戦っちゃったらなぁ…でも、いやまてよ…うーん。
同じ時間軸と物語であらゆる場所で色んな人が登場して色々な計画や問題、事故が発生してる感じですね。
次は誰が主人公になるんだろう(笑) お待ちしています!

ウルフマンについては、今でも掲載はされてると思うのですが公式で募集してたイラストでウルフマンのものがあって
お月見に来た時に偶然月を見てしまって変身しちゃったという面白い設定のイラストを見たのを思い出しました(笑)
とはいえやっぱりウルフマンとは悲劇の産物ですよね…RS内では何か見てるだけで微笑ましいですけど(笑)

そのお使いクエストは面白そうです。というか、RSはそういったユーザー同士のイベントが少ない気がする。
バレンタインデーとかホワイトデーとかに交換したりしたいですよね。
手始めに私の所属するギルドの人に誕生日を聞き出してゴミプレゼントを押し付けようと計画してます(笑)
ゴミ漁りしなければ…キャンディーSP250個とか…初心者用両手持ち剣をカバン一杯とか…。グヘヘ。

そうですよね、バリバリな性関係をテーマとした小説はある意味とても難しい…。
やおいという言葉が"「や」まなし「お」ちなし「い」みなし"でしたっけ、そんな意味があるという事からも分かります(汗)
まあ、私はノーマルな小説にしてもまだまだアレです…ともかく、良いものができるよう精進しますorz
ここずっとマトモに書けてないんですよね…(´・ω・`)



しばらく書かれてないといえば、ドギーマンさんもご無沙汰してるような…
エムルとマイスの話、お待ちしていますよ〜。

683みやび:2007/04/14(土) 09:56:06 ID:8YoChWmQ0
 ――本編――
 ●『赤い絆(01)』>>424>>436 ●『赤い絆(02)』>>477>>483
 ●『赤い絆(03)』>>529>>532 ●『赤い絆(04)』>>607>>612
 ●『赤い絆(05)』>>624>>630 ●『赤い絆(06)』>>659>>666
 ●『赤い絆(07)』>>671>>680

 ――設定(全作共通)――
 ●小道具、固有名詞など>>495>>497

 ――関連作:番外編――
 ●『愛のしじまに』>>575>>583

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『赤い絆 (08)』―――――――――――――――――Red stone novel[1/6P]

 その夜――。

 エレノアはこじんまりとした食堂でお茶を楽しんでいた。
 彼女はガルプレンと別れたあと、安宿を見つけてそのままベッドに潜り込み、日が沈むま
で睡眠をとった。
 そして宿を出たあと、ガルプレンに頼んだ品物を受け取るまで少し間があったので、暇を
潰すために思いつきでその店を訪れたのだった。
 そこは以前、古都へ立ち寄ったときに偶然見つけた小さな店だった。
 店員は無口だが、それは“空気のようなサービス”を提供する店主のこだわりで、実際に
その店の給仕は質が高かったし、料理の腕前も良かった。
 だが街の中心に連なる派手な宿屋や食堂に客を取られ、大して流行ってはいないように
見えた。
 数年ぶりに古都を訪れ、この店がまだ同じ場所に存在していたことに、エレノアは小さな
安堵感を覚えた。

 彼女が座る席からは、大きめの窓の向こうに通りを行き交う人々の姿が見えた。
 今年のグレートフォレスト周辺は例年にない寒気だった。砂漠を除いた一部の森林では
珍しく雪が降ったところもあるらしい。だが基本的には安定した気候をもっていて、冬のこ
の時期でも街にいる限りは手がかじかむほどもない。今も、通りを歩いている人々は極端
な重ね着などしていなかったし、エレノア自身も一般的な旅用の衣装に、簡単な胸当てを
着けている格好だ。
 それでもこうして暖かく、また日が落ちた時間に煌々と照明に染められた室内から外を眺
めていると、自然に切なさがこみあげてくるのだから、季節というのは実に不思議で、そし
て面白いものだ。
「ほう……こいつは驚いたな!」
 懐かしい声に視線をやると、エレノアの向かいにはミゲルの姿があった。
 エレノアは息を飲んだが、すぐに微笑し、頬杖をついて目を細めた。
「なにがそんなに驚きなの?」
「お前さんがそうやって、ひとりで窓の外を眺めたりしているからさ――るで悲恋に悩む小
娘か……それとも孤独な詩人みたいだと思ってね」
「あら。女はいくつになっても乙女でいられるし、ときに母親は詩人になるものよ……」
「ふうむ……乙女については頷けるな。知らないやつがあんたの歳を知ったら、まちがいな
く腰を抜かすだろう。だが詩人については怪しいもんだ――」
 エレノアは笑い、老人は満足げにそれを見つめた。

684みやび:2007/04/14(土) 09:56:54 ID:8YoChWmQ0
◇――『赤い絆 (08)』―――――――――――――――――Red stone novel[2/6P]

 と、ほんの一瞬だけ、エレノアの表情に不安な影がよぎるのを老人は見逃さなかった。
「……どうしたね?」
 エレノアは躊躇い、だが諦めたようにため息とともに言った。
「だって、そうでしょう? 誰だって自分が正気じゃないなんて――そんなことを認めるのは
勇気がいることだわ……」
 老人は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
「そうか、前にもそんなことを言っていたな……。だがつまらん心配だ。本当に正気を無くし
ている人間というのは、自覚がないからこそまともじゃないんだ……。あんたはそうじゃない
だろう?」
「でも……だってあなたはもう――」
「はん――わしだって、自分の身に起こっている現象についての専門家じゃない。“神のみ
ぞ知る”さ。世の中にはそういうことだってある。それだけだよ……。大切なのは死んだ者
よりも生きている人間だ――そしてお前さんもあの子も、まだ死んじゃあいない」
 エレノアは笑みを浮かべて老人を見つめたが、その目には別のものも浮かんでいた。
「まった! ――そんな卑怯な武器を持ち出すなら、わしは消えちまうぞ!」
「……それじゃあ、わたしの目の前にいる懐かしいその顔が、わたしの幻覚ではないと言う
なら――どうして今まで姿を見せてくれなかったの?」
 ミゲルはまるで先生に叱られている生徒みたいに苦い顔をすると、身を縮めた。
「あなたは本当に船乗りね――まったくあなたってひとは……。あの日、何の前触れもなく
突然わたしの前に現れて……そして勝手に消えて――あれ以来、わたしはずっとあなたを
待っていたのに……。あの子がふらりと家に戻ってきてからも――もちろんそのことは嬉し
かったけれど……それが何を意味するのかはすぐにわかったわ。わたしがどれほど不安
だったか……」
 老人は鼻で笑った。
「あんたは《ファースト・ランサー》とまで呼ばれた女だ。……たしかに人生経験ではわしの
ほうが先輩だが、戦となると話しは別だ。これが『いかに人生を楽しむ方法』や『その他の
道徳』といった類なら、少しは教えてやれることがあるかもしれん……。だが戦い方につい
てはあんたのほうがプロなんだ。わしにできる助言なんてありはせんよ――」
「そうじゃないの……」
 エレノアは濡れた瞳からひとつぶ真珠を落とし、言った。
「あなたに会いたかったの――」
 ミゲルは蛇に睨まれた蛙のように表情を強張らせた。
「ううむ……待ってくれ――わしにはお前さんの言わんとしていることがよくわからんよ。そ
れともこれはなにかのテストか、でなきゃ謎かけかね?」
「はぐらかさないで――わかってるはずよ」
 泣きながら、それでも凛とした彼女の口調に、老人は目だけを泳がせ、返す言葉を探し
あぐねた。
「あなたはあの子の父親よ……経緯はどうであれね。……そしてわたしはその意思をつい
だの――それがどういう意味か……そこに女としてのどんな決意があるのか。わかるでしょ
う?」
 老人はしゃっくりみたいに跳ねた。
「ちょっと待てよ。もしもわしの想像が当っているとして――いいや、一般的な礼儀からいっ
て、それを男のわしから口にすることはできんな……。だがほかに思い当たるふしはない
し……たぶんわしの想像は当っているだろうが――しかしわからんよ。なぜだ!? まった
く理解できん!」

685みやび:2007/04/14(土) 09:57:39 ID:8YoChWmQ0
◇――『赤い絆 (08)』―――――――――――――――――Red stone novel[3/6P]

 なぜ? と、女は反対に問いかけた。
「もちろん、そんなことはわかりきったことだ! わしはこの通り老いぼれだし――いや、こ
れは取り消してもいいな……。こういった問題に歳の差を持ち出すのはナンセンスだから
な。――だがそれをなしにしてもだ、いいかね? わしらが共有した時間は一週間にも満た
ないんだぞ? そのあいだに、いったいわしらにどんなドラマがあったのか――ああ、たし
かにわしはお前さんに感謝しとるし、ある意味では惹かれていたのも事実だ……。だがそ
れは男という生き物が持つ悪しき行いのひとつに過ぎんのだ――おいおい、頼むから顎を
震わせるのはやめてくれないか! これじゃあまるで、わしが不貞をなじられているみたい
だ」
「そうじゃないと言える?」
 エレノアは不実を訴える少女のような瞳で、老人を責めた。
「共有する時間や快楽が愛を証明することにはならないわ……。どれだけ深く相手を感じ
るか――それが誰かを愛するということよ。その密度と感受性を抜きにして愛を語るなん
て……それこそナンセスよ」
 老人は苦悶の表情を浮かべてうなった。
「ふん。どうやらたしかにあんたは詩人らしい……。だがその論拠には見落としがある。大
方では正解だが、快楽も愛を築く材料の一部ということだ。それを実証するにはわしはあま
りに老いていたし、真にプラトニックな愛は神聖ではあっても健全とは言えんよ……。まさか
あの小旅行のあいだに、お前さんはこんな老いぼれとお医者さんゴッコをしたいだなんて、
冗談でもそんなことを考えたと言うのかね!?」
 女は当然のように言った。
「冗談でなくてもよ。あなたが誘ってくれていたら、わたしに断る理由なんてなかったわ」
 老人はいよいよ打つ手を無くして押し黙った。
 目の前の美しい女性を見、そしてかぶりを振った。
「やはりお前さんはどうかしているよ……。いや――ありがとう、と言うべきかな……。わし
にその資格があるかどうかは別にして、あんたの気持ちは光栄だし、飛びあがりたいほど
嬉しいね……。できることなら今すぐにでもあんたを襲いたいくらいだ――だがこればかり
はどうにもならん……。それこそわしにとっては酷い仕打ちだ」
 老人はうなだれ、言った。
「なあエレノア……わしの望みはあの子の未来と、お前さんの幸せだ。それ以外にはなに
もない。いつまでもひとり身でいるのがいけないのさ――そうだ、ガルプレンなんてのはど
うだ? 彼はあんたと娘のためなら、ギルドを捨てることなんぞ屁とも思わんだろう」
 エレノアは目を伏せ、首を振った。
「そうだ! じゃあオーロはどうだ? あの男なら打ってつけだと思うぞ」
「どうやらあなたは、“向こう”へ行ってから千里眼の魔法でも手に入れたみたいね……で
もそれならわかるはずよ。オーロもガルプレンも……ふたりともすてきな男性だし、優しい
わ。もしわたしがそれを望めば、彼らはマリアの良い父親にだってなれるでしょうね――で
もだめなの。だからこそ彼らを犠牲にはできないわ」
 老人は両手を上げた。
「かなりの重傷だな……こいつはわしのせいなのかもしれん。それについては後悔してい
るよ……。だがそれにしてもだ――いったいどこに、あんたが不幸を背負い込んでもいいっ
て理屈があるのかね? 親にとって子供はある種の“かせ”であり、ときとして重荷にもな
り得る――しかしそれ以上に、子を持つ親はそれだけで他人の何倍も幸せになれるものな
んだ。……なあ、お前さんは幸せにならなきゃいかんのだ。わしに義理立てすることも、貞
節を示す必要もないんだよ……それは馬鹿げた考えだ」

686みやび:2007/04/14(土) 09:58:23 ID:8YoChWmQ0
◇――『赤い絆 (08)』―――――――――――――――――Red stone novel[4/6P]

 だがエレノアは言った。
「あなたも言ったでしょう? 貞節は愛の一部ではあっても、本質ではないわ……。わたし
は自分やあの子の命を守るためなら、一晩中だって男たちに犯されても平気よ。そのこと
で自分を責めたりもしないでしょうね……。でもわたしのこの気持は、神様だろうと悪魔だろ
うと、誰にも変えられやしないわ。この愛がどれほど重荷でも、あなたはそれだけのことをし
たんだもの――それを背負うべきね」
 老人はしばらく沈黙し、やれやれといった顔で苦笑した。
「これほどまでのエゴイストは初めて見たよ。まったく呆れてものが言えんね……」
「究極のエゴが愛だもの」
 ミゲルは手を上げ、首を振った。
「さて、わしはそろそろ消えるよ。もたもたしてると、このままお前さんに教会まで引っ張って
行かれそうだからな! それにお前さんも急いだほうがいいだろう。ただし気を抜くな。オー
ロがお前さんの隠れ家に向かっている……」
 エレノアの表情が傭兵のものに変わった。
「いまなの? どういうこと!?」
「わしも全能ではないんだ……わかるのはそれだけだな。彼は追われている……」
 エレノアは唇を噛み、考えた。
「ともかく急げ。そして注意しろ――」
 老人がそう言うのと同時に、ウェイターが現れた。
「お客様……ほかにご注文は?」
「ああ――ごめんなさい、考え事をしていて……。もう行くわ。会計をお願い」
 そう言って前を見たときには、そこに老人の姿はなかった。
 だがエレノアは動揺しなかった。むしろどこか清々しい気持ちでいられた。

 店をあとにしたエレノアは、ガルプレンに頼んだ品を受け取るために、目的の場所を目指
した。
 古都の中心を過ぎ、議事堂のわきをかすめて街のはずれに向かう。
 と――。
 ふいに異質な空気を感じて頭上を見上げる。
 夜空に浮かんだ丸い月の中を、白い人影が駆け抜けたような気がした。
 そしてその影とは別の気配が、議事堂の上にあった。
(これは……昼間ギルドで感じた気配……?)
 その気配の正体が気にはなったものの、エレノアの頭には老人の言葉が響いていた。
 すぐさま気持ちを切り替え、先を急いだ――。

 そこは古都の南東にある製鉄所の一画だった。
 別れ際、ガルプレンがこの場所を受け取りに指定したのだ。
 製鉄所には昼夜を問わず火が入っている。広い敷地の端にいても、炉に流し込まれる溶
岩みたいな真っ赤な鉄の輝きが、エレノアの足元に淡い影を作っていた。
 しばらくすると、太陽みたいな炉を背にかけ、人影が歩いて来るのが見えた。
 目の前まで来ると、ようやくそれが陰気な顔の男だとわかった。
「あんた……名前は?」
「エレノア・スミスよ――あなたが?」
 男は黙ってうなずいた。
「まあ、ガルプレンさんの使い走りってところだ。荷物はすべて揃ってるぜ。こっちだ」
 男のあとにつき、エレノアはさらに敷地の外へと向かった。
 製鉄所の炉の光りがほとんど届かなくなる場所に、馬車がひとつ停めてあった。
 馬車の大きさはごく普通の四頭立てのもので、立派な幌で覆われていた。

687みやび:2007/04/14(土) 09:59:07 ID:8YoChWmQ0
◇――『赤い絆 (08)』―――――――――――――――――Red stone novel[5/6P]

「こいつだ――」
 男は馬車の車輪に手を添えた。
「ほかの物は全部この中だ。大量の保存食に……各種薬品、酒、火薬、水――そのた諸
々、旅にはかかせない道具だの、あれやこれやだ。これだけあれば、五、六人で半年は旅
ができるぜ。それにこの馬車だ! 古都の騎士団でも、これだけの馬車は装備していない
んだ。新しい技術でな……なんでも車軸に、地面から伝わる衝撃を和らげる仕組みがある
らしい――ま、オレも技術屋じゃないから詳しくは知らないが、長旅でも車輪の破損がないっ
て話しだ」
「そう。さすがはガルプレンね」
 男はニッコリと微笑んだ。
「それと――こっちのサービスなんだが、行き先は?」
 そう言いながら、男は持っていた鞄から水晶のようなものを取り出した。どこの街でも見
かけるテレポーターたちが使う《思念球》と同じ物だった。
 彼のような人間は《飛ばし屋》と呼ばれ、正規のルートで移動できない者を高額な報酬で
各地へ飛ばしてくれる、いわば裏稼業を生業とする人間だった。
 彼女は古都へ来るときにも、隠れ家の近くからそうした裏の業者に頼んで《思念球》の世
話になっていたのだ。
 エレノアは馬車に乗り込むと、手綱を握って行き先を告げた。
「ブレンティルには飛ばせるかしら?」
 男はシー、と答えた。
「ガルプレンさんには相場の倍は貰ってるからな……着地点も選べるぜ。と言っても、町の
西側と……あとはお勧めできないが、さらに西に行った“ネイティブ滝”の辺りだ――」
 エレノアは後者を選んだ。
 男は肩をすくめた。
「――ま、あんたは強そうだしな。好きにするさ。目を閉じてなよ……でなきゃ一発で酔うか
らな」
 エレノアは言われたままに目を閉じた。
「いいわ。やってちょうだい――」
 男が簡単な呪文を紡ぐと、発光した球からその光りが飛び出し、蛇のように馬車全体を
絡めとり、やがて馬車を光りの中に閉じ込めた――。
「アディオス、セニョリータ。良い旅を――!」
 男の言葉を合図に、巨大な光りの玉はその場から消えた。
 その瞬間、エレノアは背後に気配を察知したが、もうどうすることもできなかった――。

   *

 ブレンティルの西のはずれ――ネイティブ滝。

 そこはエルフやモンスターが徘徊する黄昏た森で、素人が丸腰では歩けないような場所
だった。
 だからこそ、彼女は人に見られる心配のないその場所を着地点に選んだのだった。
 遠く滝の音が響くだけの、真っ暗な森の空き地に、馬車は天から降臨したかのごとく突然
その姿を現した。
 強烈な雷でも落ちたように一帯が発光し、ほんの瞬きのあいだだけ森の姿を浮き彫りに
すると、次にはさらなる闇が訪れた。

688みやび:2007/04/14(土) 09:59:44 ID:8YoChWmQ0
◇――『赤い絆 (08)』―――――――――――――――――Red stone novel[6/6P]

 跳躍が終るや、エレノアは背中のラッチから槍を抜き取り、幌の中の気配に向けて突きつ
けた――。
「うわ……なんだよこれ――気持ち悪い……」
 おそらくジャンプしているあいだ中、目を開けていたのだろう。幌に忍び込んだそいつは
したたか酔い、目が眩み、今にも吐きそうな様子だ。
「あなた、昼間の――!?」
 その密航者は昼間、エレノアの財布を盗もうとしたスリの少年だった。
「待ってよ! 話しを聞いてッ――!」
 視力が戻らない少年は、自分の首筋に冷たい槍先が押し当てられるのを感じ、うろたえ
た。
「ちがうんだ――あんたに礼がしたくて!」
「お礼ですって?」
「そうさ……。あんたは俺の命の恩人だし……だから、あんたの下で働くよ!」
 さすがのエレノアも、とんでもない展開に思考力が鈍った。
「今は時間が惜しいわ――あなたのことは落ちついてから考えることにしましょう。飛ばす
からしっかり掴まってなさい」
 エレノアは槍を仕舞うと、間髪を入れずに馬車を走らせた。
「うわ! まだ目がよく見えないんだ――!」
 ふたりを乗せた馬車は、エレノアの隠れ家へ向けて疾走した――。










◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

689みやび:2007/04/14(土) 10:01:09 ID:8YoChWmQ0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『赤い絆 (08)』

 ――あとがき――

 はい。私が馬鹿でした(汗)
 ヘッダーに添付している回紹介のアンカー表記……。漢数字は横書きに弱いのを承知で、
でも漢字が好きなので『赤い絆(一)』のようにしていたのですが、(一)の部分が回を重ね
て二桁になると、どうしても上下の段で位置がズレてきちゃいます。
 実は私、そういうので位置ズレするのも嫌! という性格だったりして……。

  『赤い絆(一)』
  『赤い絆(十一)』

 こんな感じですね。

 ああもう揃ってないので落ちつかない! 植字に特化した環境ならスペースで上下の単
語の両端を均等幅に割りつけたりとか、簡単なんですけどね(泣)

 ここだとスペースを駆使しても微妙にズレてしまうので、やっぱり気持ち悪いのです(汗)
 じゃあ最初から英数字にしろよバカチンがぁー! と自分でも今思ってます……。
 そんな訳で、泣く泣く今回から英数字に改訂致します(泣)

 さて。今回はちょっとまったりし過ぎ? な感じです。退屈かもしれませんね……。
 この倍――いや三倍はスペース欲しいです。でも二十頁とか……ちょっと多いですよね
さすがに(汗)
Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

690みやび:2007/04/14(土) 10:04:19 ID:8YoChWmQ0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>68hさん
 ゲンマに関しては、まだナイショ……(笑)
 多元展開は、あまりやり過ぎると物語の進展が亀になる欠点もあるんですが……(汗)
 やってしまったからにはなんとか乗りきります!(たぶん……)

 狼男とか吸血鬼とか――まあ物語によって扱いは様々ですが、存在自体が悲しいところ
では世界共通でしょうか。そういう悲しさが好きですね。子供の頃は「大きくなったら吸血鬼
になりたい!」と本気で思ってましたよ。
 RSのわんこは(これって人によっては差別発言なのかな(汗))確かに可愛いですね。
 でも最近、あまり見かけないような……。

 う〜む。ドギーマンさん、忙しいのかしら? あと姫々さんもご無沙汰?
 その他の方も……多忙なのでしょうか(汗) あとモチベーションとかスランプってのもあり
ますし……ここは耐えて待つしかないですね(泣)

 皆さん、時間がとれたらぜひお願いしますね〜!

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

691◇68hJrjtY:2007/04/14(土) 11:07:13 ID:M60bcg/E0
>みやびさん
おぉっ、意外な展開…でもないのかな、ミゲル老とエレノアのカップル。
確かにお互いを理解し合っている存在という点ではお似合いだと思います(笑)
ミゲル老があのような体質なのが本当に残念(笑) 映画の『ゴースト』を連想しちゃいました。
スリの少年君が再登場ですね、一体いつの間に…何やらサブキャラとして定着してくれそうで楽しみです。

漢数字と英数字の悩み、分かりますよ…。
英数字タイトルで色々メモなど保存とかしているとフォルダ内の自動並べ替えで「11」の次に「01」が来たりして(泣)
PCは二進数でしょうから仕方ないんだろうけど…まとめてる方は困り者ですorz

692殺人技術:2007/04/14(土) 15:18:51 ID:E9458iSQ0
 皆凄いなぁ、私の2倍か3倍以上のスピードだ(汗
>>みやびさん
 今気付いたけど、みやびさん48ページ(番外含めればもっと多く)も書いていらっしゃるのですね、ちょっと脱帽。
 みやびさんの描写やセリフって結構奥が深いですよね、特にセリフは自分、尻切れトンボなセリフしか喋らせられないので、羨ましい。
 ただ、684-685と688は、ちょっと「――」や「……」の使いすぎかな、と思いました。
 読んでて違和感はないのですが、ページを全体的に見たときに目立つかな、と。
 後は文句の付け所がないです。
 漢数字と英数字の悩みは分かります……(´ω`)

チョキー・ファイル

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

32-36>>548-552
37-38>>568-569
39-42>>592-595
43-46>>617-620

過去話がダラダラと長く続く。
典型的なダメパターンが、今、始まる……。

693殺人技術:2007/04/14(土) 15:19:24 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(47)

 「申し訳ありません、ただいまお嬢様は不在でして……」
 城下町のとある一角、広々とした庭園を持つ白亜の邸宅のそれだけで豪華な玄関口で、F・Fは一人の男性を前に憮然とした表情で佇んでいた。
 男はこの豪邸の主に雇われた使用人の様で、その姿はF・FやW・Cとは違い、地上界を統治する種族、人間に限りなく近い、というより殆ど同じの外見をしている、種族としては上級悪魔に位置し、地下界に偏在する多くの悪魔達の中では数も多い部類に入る。
 「不在? 数日前は居たのに、何処かに出かけたのか?」
 F・Fは男に問いかけ、男は申し訳ないという表情で頭を下げた。
 「それは、賓客といえどもお答えする事は出来ません、申し訳ありませんがお引き取り下さ――」
 使用人の男は言いかけた言葉を突然止め、F・Fは訝しむ様にその姿を見て眉根を寄せる、使用人の口が止まった――というのか、体全体の動きが時が止まったかのように停止し、その目は開きっぱなしで、瞬きも行われない。
 ――使用人の時を止めたのか? だが、そのような魔法はF・Fも"わかりやすい魔術入門"のコラムで読んだだけで、実際に使っている悪魔を見たことなどなかった。
 「来たのね、上がっていいわ」
 F・Fは唖然としていると、何処かから女性の、どこか苛立ち様な語気を含んだ言葉が投げかけられる。
 使用人の後方にある小綺麗な扉が開き、中から黒の露出度の高い服に身を包んだ女性が現れた。
 使用人と同じ種族の悪魔である、この上級悪魔の特徴として、服は自分の体と同じ――というより、その精神構造によって定められている、その為彼等の着る服は絶対に汚れないし、脱ぐ事は出来るが、他の服に着替える事は出来ない。
 まぁ、服を必要としないのは大部分の悪魔、その内のF・Fも同じ事だが。
 F・Fが暫し呆けていると、女性は手招きして、扉の奥に姿を消した、F・Fの意識も元の世界に戻され、精度の良い蝋人形の様になってしまった使用人を尻目に、邸宅に上がり込んだ。
 扉の閉まる音が響いて暫くすると蝋人形は動きだし、目の前に居た悪魔が言葉の途中で姿を消したことに静かに憤然とした。
 「悪いわね、この家の人達は上級悪魔としてのプライドが強いから――」
 「いや、いいんだ、王宮でもソレは慣れている」
 女性は申し訳なさそうに言ったが、F・Fは言葉半ばでそれを断る。
 彼女達王族、そして王宮業務に就く者や貴族などは、殆どが中級か上級悪魔で構成されている、W・Cの様な中級悪魔がそれらに混ざる事すら珍しいのに、変異種とはいえ下級悪魔のF・Fが、他の上級悪魔に好かれる筈もなかった。先程の使用人も、自分より種族として卑しい血を持つ種族に、我が者顔でこの屋敷を出入りされる事が耐えられなかったのだろう。
 彼女が出てこなければ、確かに大人しく帰ってしまう所だった。
 女性はF・Fに椅子を一つ指し示したが、「それには及ばない」と拒否され、訝しげな視線をF・Fに向ける。

694殺人技術:2007/04/14(土) 15:19:57 ID:E9458iSQ0
 チョキー・ファイル(48)

 「今日はいつもの用事じゃない」
 F・Fは自分の額に人差し指と中指を押し当て、瞼を降ろして呪文を唱えると、額から指を離し、それを女性の額へと移していく。
 瞬間、F・Fの肩、肘、指を媒体にF・Fの精神と女性の精神が繋がり、女性が不思議な感覚が頭を貫くのに小さく喘いだ。
 女性の精神の形が視覚的な情報として伝わり、動揺する女性の精神が落ち着きを取り戻すのを見計らって、F・Fは頭の中で言葉を紡ぎ、腕を通して伝えていく。
 "――これから言う事は誰にも話すな、私の「F・Fとしての能力」が、何かとても大きな波乱が起きているのを感じ取った、地下界全体、引いては地上界と天上界も何もかもを巻き込むほどの巨大な異変だ。そして恐らく、そう遠くない未来、地下界は混沌に陥り、破滅に進むだろう"
 F・Fはそう言って一泊置くと、女性がその言葉を頭の中で反響させながら、同じように頭の中で問いかける。
 "貴方には未来が分かるの? ――仮にあなたの言うことが正しくて、地下界が破滅に向かっているとして、何が言いたいの"
 F・Fはそれを聞いて、心の動揺と躊躇いを押さえ込みつつ、続けた。
 "このまま地下界にいたら、必ず君も巻き込まれる、そうなったら逃げられない、だから一緒に地上界へ行くんだ"
 「!?」
 F・Fが言い終わった瞬間、女性は咄嗟に身を引いて額から指を離し、F・Fは精神と体が無理に離れたせいか、その場に糸が切れた人形の様に倒れ込んだ。
 女性は自分の足下に倒れたF・Fを強張った表情で見つめ、その体が再び動き出すのを見て安堵の息を吐いた。
 「――正気なの?」
 F・Fはふらつきながらも体を起こし、思い切り床にぶつけた額を指で揉みほぐした。
 「至って正気だ、私の能力は虫の報せだとか直感とか、ましてや予知でもない、何の根拠もない、ただの真実なんだ」
 F・Fは女性の両肩を掴み、ピエンド特有の獣的な仮面の顔に真摯な表情を浮かべ、女性と目を合わせて力説する。F・Fの黒マントがその心情に同調する様に風もなく揺れ、女性の瞳には不信が映る。
 「一緒に地上界に、そして何百年、何千年と待ってから地下界に戻るんだ、いや戻らなくてもいい、とにかく地下界は終わりだ」
 F・Fがそう言い切った瞬間、綺麗な床から鈍い音を伴って"生えた"一本の黒い矛が、再び鈍い音を立ててF・Fの胸を刺し貫く。
 掠れた呻き声と共にF・Fの体が刺された箇所を中心に折れ曲がり、その口から黒く生臭い血塊を吐き落とす。
 「い、いい加減にして」
 女性はその顔に焦燥と嫌悪感を浮かべて無様な格好のF・Fを見つめ、F・Fは懸命に首を引っ張ってそれを受け止める。
 「――っ、貴様、いつの間に!」
 この黒い矛の音を聞いてやってきたのか、扉を力強く開ける音と共に先程の使用人の声が響き、その手袋をはめた手がF・Fの黒い垂れ下がったマントに向けられ、男が魔法を唱える瞬間にF・Fは懐から黒い羽根を一本取り出し、握りしめた。
 青い稲妻と漆黒の光がほぼ同時にそこに発生し、女性が二つの光に目を覆ってその手をどかした時には、一本の矛が粉の様に分解されて消え行く光景と、床を染める赤黒い血潮、そして一本の黒い羽根が血を吸って丸まっているだけだった。

695殺人技術:2007/04/14(土) 15:20:24 ID:E9458iSQ0
 チョキー・ファイル(49)

 女性の邸宅で一頻りの騒動が会ったほぼ同時刻、王宮の人通りの少ない庭園の隅で、噴水の縁に座って何かを待っていたW・Cの眼前に、黒い閃光が迸る。
 それと共に芝生に何か重い物と軽い羽根が一枚落ち、W・Cは慌てて大きい方の物の側で屈み込んだ。
 「な、何があったんだお前、ちょっと話しに行っただけだろ?」
 W・Cはそこに倒れるF・Fの、一目でただ事ではないと分かる風貌に驚きながら、そのF・Fに触れた瞬間伝わった電流にさらに心臓を跳ねさせた。
 「ちょっと失敗した、必死になりすぎたらしい……」
 F・Fは明滅する視界に瞬きし、所々奇妙に切った言葉を言いながら、全身に絡み付く何匹もの雷の蛇を両手で掴んで、むしり取った。投げ捨てられた雷の蛇は、噴水に投げ込まれた者は水面をゆらゆらと泳ぎ、芝に着地した者は芝を焦がしながら逃げまどい、W・Cに当たった者はその羽毛に噛み付いた。
 周りは既に暗くなっており、空には星々が不知火の如く瞬いている。
 「――お前、大丈夫か?」
 W・Cは飛んできた蛇を痺れる体で払い落としながら、F・Fの胸――血で塞がれた醜い穴を険しい眼差しで見つめる。
 「俺は平気だ」
 F・Fはようやく雷の蛇を全て追っ払うと、片手を傷跡にそっと当て、全身の緊張が切れた様に長い吐息を吐く。
 翳した手が緑色の炎を上げて炎上し、それが傷跡に付くと血は蒸発し、紅い霧を伴って硬質的な肌が再生していく。
 「……無茶苦茶じゃないか」
 傷を一瞬で癒す強力な力の事か、こんな怪我を負って戻ってくる事か、それともF・Fの戯言の事か、W・Cの目はいい加減にしてくれと語っている。
 「申し訳ない……だが事実だ」
 「君の力を疑うつもりはない、だがまだ時期尚早ではないのか?」
 F・Fはふらつく体を上半身だけ起こすと、W・Cは言葉混じりに立ち上がる。
 やはり、私の力を信じられるのは私だけなのか、F・Fは言いかけた言葉を飲み込んで頷いた。
 「いくらその大きな波乱が起きてようと、彼女に身の危険が迫れば分かって貰えるだろう、とにかく当分は静かにしているんだ」
 違う、違うんだ、しかしF・Fはそれを言葉にする事は出来なかった。
 波乱は既に地下界を包んでいる、そしてそれが降りかかるのは、彼女だけではない。
 「正気か、W・C」

696殺人技術:2007/04/14(土) 15:21:50 ID:E9458iSQ0
 チョキー・ファイル(50)

 F・FはW・Cを殺気の籠もった双眼で睨め付け、W・Cは負けじと冷酷な瞳をそれにぶつける。
 「君こそ正気か、百歩譲ってこの地下界に波乱が迫っているとしよう、だがその正体には君にも分からない、正体の分からない波乱の噂を流して、それが取り越し苦労にしかならなかったらどうする気だ?」
 W・Cの体、漆黒の羽毛から肌を刺す冷気の棘が広がり、周りの芝は霜を纏い、噴水は凍て付いてゆく。
 「確かに正体は分からない、だがそれがこの地下界に及ぼす危険度は察知できる、取り越し苦労にしかならなかったら? そうなる事を望んでいるよ、俺は全ての責任を取り、裁かれる覚悟がある」
 その霜風と対峙するように、同じく漆黒のマントから熱が放たれ、空気を焼いていく、霜の更新は枯れた芝のダムによってせき止められ、陽炎がF・Fを包む、冷気と熱気がぶつかり合い、石畳の城壁が蜃気楼となって二人の間に立ち塞がる。
 「君がいくら言葉を弄しようと、その真意を汲み取る事は誰にも出来ないんだ。覚悟が出来ている? 巫山戯るな! 私は君の為を思って」
 「黙れ! 真意を汲み取れない? ならばお前が口を挟む権利はない!」
 中庭に二人の怒号が飛び交い、蒼穹を描く鳶はそれに畏れをなして逃げだし、先程の雷の蛇が緑の生垣の中から二人の様子を覗き見る、やがて二人の周りは強烈な温度差によって完全に蜃気楼に包まれ、その偽りの城壁の中を伺い知ることはできなかった。
 「お前は! お前はただ"今まで通り"私の言葉に従っていればいいんだ!」
 「――調子に乗るな、この下級悪魔が!!」
 城壁が、掻き消される。
 強烈な冷気と熱気がぶつかり合い、台風の様な天狗風が噴水を、生垣を、芝を、土を、蛇達を吹き飛ばし、巻き上げ、二人の姿も上空に吹き飛ばされる。
 その強力な魔力に当てられたのか、雷の蛇は星空に消え、噴水は砕け、飛び散る水は空中で蒸発し、あるものは凍り付く。
 上空、二人は相反する気運を纏い、王城の尖塔が貫く、雲一つ無い空で静止した。二人の声がよく透き通り、それを遮る雑音はない。
 眼下には月明かりを受けて神秘的な暗黒を湛える城が佇み、二人は最も高い尖塔の頂点付近の空で対峙する、上空からは黄金の一つ目がまじまじと二人を見つめている。

697殺人技術:2007/04/14(土) 15:22:15 ID:E9458iSQ0
 チョキー・ファイル(51)

 二人は言葉を発しなかった、冬の烏が空気を凍てつかせながら肉迫し、炎の化身がそれを迎え撃つ。
 闇に紛れる漆黒の体が絶対零度に包まれ、マントを広げる悪魔の体が炎威を纏う。
 二人の体が尋常でない速度でぶつかり合う、だが実際に肌を触れるより早く、その反発を嫌う様に、混ざり合った冷気と熱気が強風を起こして二人を弾く。
 二人の間には深い雲が行く手を遮る、だが二人はそれに気にせず飛び込んだ。
 何も見えない雲の中で、F・Fの手には燃え盛る片手剣が、W・Cの抜刀する同じ片手剣には鋭い氷がまとわりついてさらに鋭く強固な刃を形作る。
 二人はお互いの姿を捜し、動き回る、だがなかなか見つけることは出来ず、W・Cは一息吐いて体を止めた。
 そこに振り下ろされる、横殴りの斬撃。密雲の隙間から刃だけが現れ、W・Cは危うい所でそれを短剣で受け流す、しかし無傷では済まず、脇腹に灼熱感が走り、幾本かの羽根と血潮が舞い散る。
 見つけた! 雲の中でお互いの姿がうっすらと確認でき、攻防は過激化する。
 F・Fが斬りつけた剣を切り返し薙ぎ払う、W・Cは今度は難なくそれを躱し、刀を突き伸ばす。
 F・Fの伸びきった左腕、隙だらけだった、しかしW・Cは狼狽する。F・Fは伸びきった右腕を畳み、W・Cの刀を腋で挟み込んだ、鋭い冷気が腋と肩を凍らせる。
 右手から左手へと手首のスナップで飛び移る炎の剣、W・Cは咄嗟に言葉を紡いで、空いている左手を右に伸ばした。
 中空に咲く氷の花が炎の剣を受け止め、強烈な膂力でそれを右後方に投げ捨てる。F・Fは剣を奪われまいと握る手に力を込め、腋に挟んだ剣を解放しつつ、剣もろとも投げ飛ばされた。
 右肩を包む氷は体の熱であっと言う間に解け、F・Fは雲の外まで吹き飛ばされたが、また果敢にも雲の中に飛び込んでゆく。
 雲の隙間から見つめるW・Cの顔、それが含みのある表情に歪んだ瞬間、F・Fの体が止まった。
 雲の中に隠れていた幾つもの氷柱が、一斉にF・Fの体に突き刺さり、体の中に流れる炎の血を凍らせてゆく。重くなったF・Fの体は猛スピードで落下し、土壌をむき出しにした中庭に吸い込まれていった。
 体がその地面に叩き付けられ、内臓が衝撃につぶされて、即死する――しかし、堅い地面の代わりに黒い柔らかな羽根がそれを受け止めた。
 F・Fは一気に体温が下がっていく体を忌々しげに睨んだが、どうしようもない。仰向けになって雲の空を見上げると、そこから雨と烏が舞い降りてきた。
 烏はF・Fのすぐ隣に着地し、雨はF・Fの体を貫く氷柱を溶かしていく。
 「少し、頭を冷やすことだ」
 烏は言い、F・Fの視界は闇に包まれていった。

698◇68hJrjtY:2007/04/14(土) 20:16:22 ID:M60bcg/E0
>殺人技術さん
F・FとW・C、まさに炎と氷の決戦ですね。
二人とも力量は互角…と思っていましたが、W・Cに分があったようですね。ともかく、戦闘シーンの描写が相変わらず凄い…(笑)
なんかW・Cが気に入ってきました…。悪魔たちをUアイテムに変換して考えるのも楽しいです(笑)
彼の場合は槍Uの「ウィンタークロウ」でしょうか?冬の鴉…カッコイイ(*´д`)
三界に襲い掛かる事件というと。それが今のF・Fにどう影響しているのか。
続きお待ちしていますね!

699みやび:2007/04/15(日) 07:40:01 ID:lMSdsYsw0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>殺人技術さん
 やったー。お待ちしていました!
 カイツールとの経緯の片鱗がようやく見え始めて、なるほど、と満足。
 となれば、あとはファイルに対する彼女の感情の推移というのが、やはり読者としては気
になっちゃうところ。続きが楽しみです。
 しかし殺人さん独特ともいえる、地下の世界観は面白い。その見かけだけでも、絵にすれ
ばさぞ壮観でしょうね。誰か絵師さんが描いてくれないかなあ(笑)
 細かい設定なんかもいいですね。雷蛇はちょっと可愛いかも。こういうの好きです(笑)
 でもお召し物は……いや小説としては想像力をかきたててくれてすごくいいのですが、つ
いリアルに考えてしまうと便利なのかそうでないのか(笑) やはり私たちの感覚でとらえると、
何も着ていないような――外観ではなくて――ものでしょうか。(うきゃ)

 その派手さでは一瞬、カイツールとファイルの関係に目が行くのですが、どうにもファイルと
W・Cとの関係が気になる。(いや関係って、変な意味じゃないですよ(汗) ほら友情とか、もっ
とほかのなにかとか(汗))

 文章量は……どうなんでしょう? 徹夜で書いてそのまま仕事――ということも確かに多
いのですが(汗)
 台詞は殺人さんの端的であったり、淡々としているところがとても好きです。
 私のはむしろ「うざったい」のではないかというコンプレックスが……(汗)

 文中の罫線と三点リーダー。
 うーむ。多いかしら(汗) 巨匠と言われる方はもちろん、若手でも文章的に文壇の評価を
得ている方たちと比較しても――あくまで三点リーダー等の頻度の比較です(汗)――決し
て多いほうではないと自覚していたのですが……むむ。ちょっと気をつけねば。
 しかし読む分には気にならない……とのことなので、書式による目の錯覚、でしょうか。
 あくまで文庫本との比較ですが、私の場合、平均的な文庫本(改行と空白だらけのティー
ン向け文庫は小説とみなしていないので除きます)の二頁から三頁弱に相当する分量を、
ここでは一回のレスに詰め込んでいます。それに加えてここの環境では行間が詰まってい
る点も、錯覚(行間と字間をゼロに近付けるほど同じ文字、同じ記号だけが浮き出て見え
るという、人間の視覚が持つ特性)を生みやすいのかもしれません(汗)

 う。言い訳がましいですね……。これから注意したいと思います(汗)
 とはいえ長台詞を喋らせるのが好きなので、描写を入れずに間を取るために句読点、罫
線、三点リーダーのほかに、自分の術を持っていないのが難点なのですが……(泣)
 文章って難しいですね(泣)

 いちど実験的に、一行毎に空行を挿入してみようかしら。でも編集の段階で管理するの
が大変かも(汗)
 気が向いたら次回は空行入れてみます。どんなふうに見えるかな……。
 でも単純に、それだと通常の倍の頁数になってしまうので、その辺はお許しください(汗)

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

700みやび:2007/04/16(月) 05:30:41 ID:Z88i4Ing0
 ――本編――
 ●『赤い絆(01)』>>424>>436 ●『赤い絆(02)』>>477>>483
 ●『赤い絆(03)』>>529>>532 ●『赤い絆(04)』>>607>>612
 ●『赤い絆(05)』>>624>>630 ●『赤い絆(06)』>>659>>666
 ●『赤い絆(07)』>>671>>680 ●『赤い絆(08)』>>683>>688

 ――設定(全作共通)――
 ●小道具、固有名詞など>>495>>497

 ――関連作:番外編――
 ●『愛のしじまに』>>575>>583

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『赤い絆 (09)』――――――――――――――――Red stone novel[1/11P]



 オーロ・バスクェスは昔から無神論者だったが、今なら少しくらいは神に感謝してもいいと

思った――いや、もし神とやらが目の前に現れたら、その顔にキスしたい気分だった。

 これまで幾度となく砂漠を踏破し、いまだかつてお目にかかったことのない星空が、彼の

頭上に輝いていたのだ。


 しばらくその光景に見惚れたのち、彼は自分の置かれている状況を思い出した。

 慌てて星座を結び、方角を割り出すと、天の明滅に感謝の目配せをして歩き始めた。

 だが彼が目指す方角はエレノアの隠れ家ではなかった――。

 エレノアたちの安否に関わらず、今の彼には隠れ家へ向かうしか選択肢が残されていな

いのだが、だからといってぞろぞろと追っ手を引き連れ、そいつらを隠れ家まで案内してや

るわけにもいかない。

 だから彼はなんとかして追ってを振りきるか、もしくは撃退しなくてはならないのだが、そ

の手段についてはまったくの手詰まりだった。

 そこへ降ってわいた天のおぼしめしだ――。

 彼は迷うことなく墓所を横切ることにした。

701みやび:2007/04/16(月) 05:31:31 ID:Z88i4Ing0
◇――『赤い絆 (09)』――――――――――――――――Red stone novel[2/11P]

 墓所とはつまり、傭兵墓郡だ。

 呼び名こそ傭兵の名を冠してはいるが、傭兵墓郡については謎が多い。

 一部の墓はもっともらしい解明がなされ、その構造も人の知るところとなっていたが、そ

うした墓のことにしても一から十までを鵜呑みにするような人間がいるなら、そいつはどん

な馬鹿げたゴシップでも信じるにちがいない。実際のところ、それらの墓所が出来あがった

経緯については諸説混沌としていて、想像の域を出ないのだ。

 墓は全て地下にあり、知られているだけでも六つの墓の入口が存在し、そのほかに少な

くとも三つないしは五つの墓があるといわれていた。

 墓へ潜ればそれこそ命の保証はないが、地上はそれなりにましだった。

 だがこの“まし”というのが曲者で、旅人や遭難者を狙う盗賊団や、砂漠に住むといわれ

るグール、あるいは血肉に飢えたヨークといった肉食獣に付け狙われるのはいいほうで、

稀に見られる晴天の夜に墓所を通過する者は、墓から這い出してきた化け物たち――も

ちろん日頃から砂漠に巣くっている連中とは比較にならないほど危険なやつらだ――に狩

られることになるのだ。

 ある説によれば、墓所と月には因果関係があり、晴れた満月の夜にはその魔力を求め、

墓の中から化け物たちが上がってくるのだという。


 そうしたいわくはともかく、満月の夜に墓所を訪れることがどれほど危険か――それは過

去に墓の秘密を暴こうとした古都と傭兵ギルドの合同部隊が、一夜にして壊滅した事でも

証明されている。

 だからこそ彼は墓所の横断を決意したのだ。追跡者たちがそのことに気付けば、オーロ

は死んだものとみなされ、そこで追跡任務は終了となる。

 もちろん連中は死体を探すだろうが、それは夜が明けてからのことだ。

702みやび:2007/04/16(月) 05:32:12 ID:Z88i4Ing0
◇――『赤い絆 (09)』――――――――――――――――Red stone novel[3/11P]

 しばらく歩き、オーロは墓所に辿りついた。

 むろん彼とて馬鹿ではない。かつてエレノアたちとチームを組み、百戦錬磨の実績をあげ

たのち特種部隊を指揮するまでになった男だ。生き残ることを前提にすれば、勝算がまっ

たくない賭けには手を出さない。

 行く手に広がる墓所の異様な空気を前に、彼は左手に嵌めている指輪を見つめた。

 それはいつだったか、アリアンにやって来たスマグの老師から買い取った指輪で、使用

者の気配を消してくれる魔法が織り込まれているのだそうだ。つまり、それを使えばモンス

ターの目の前を素通りすることができるのだ。

 老師はその指輪を“ブラー”と呼んでいたが、効果のほどは定かではない。一回しか使用

できない使い捨てだったからだ。それでも老師の人格は確かだったので、オーロは非常用

にと、大枚をはたいてその指輪を買い受けたのだった。

 しかし今になって後悔し始めていた――いや、本当はそれを買った翌日には後悔してい

たのだ。その証拠に、あれからもう十年は経っていて、そのあいだに多くの危険な任務に

赴き、そのうちの何度かは命を落としかけたが、今もこうして未使用の指輪が彼の指に収

まっているのだから……。

 背中にかいている汗が砂漠の余熱のせいではないのを感じながら、彼は指輪の台座を

回した。

 しばらくその場に立ち尽くしたが、とくに何の変化もみられない。

 だが、これでいいはずだ。たぶん……。

 彼はゆっくりと足を踏み出し、そして歩き始めた。

 もしもあの老師が詐欺師だったら、どうやって化けて出てやろうかと考えながら――。

703みやび:2007/04/16(月) 05:32:55 ID:Z88i4Ing0
◇――『赤い絆 (09)』――――――――――――――――Red stone novel[4/11P]


   *


「わたしはエレノア・スミスよ……あなた、名前は?」

 手綱を操りながら、エレノアは隣の少年に言った。

「リッツっていうんだ――ああ、でも俺は孤児だから。育ててくれた親はいるけど……まあそ

の家も飛び出しちまったからな。だからただのリッツさ」

 そう言って、少年は笑顔で手を差し出した。

「まだ雇うとは決めてないわよ」

「ちぇ。そりゃあないよ……こう見えても、けっこう役に立つんだぜ?」

 エレノアはため息をついた。

「どうかしらね……あなた、さっきみたいな業者のテレポーターを使ったことはあるの?」

「ないけど……だってアレ、馬鹿高いだろ? それがどうかしたの?」

 エレノアは首を振った。

「そんなことだろうと思ったわ……。ああいう業者が使う魔法はね、転送対象を指定できな

いの。つまり――普通のテレポーターは転送対象を任意に指定できるから、それ以外の人

間や物体が近くに存在していても、対象だけを安全に目的地まで飛ばせるの。でも裏業者

の魔法はそれとはちがうわ。一定の範囲にあるものを無差別に飛ばしてしまうのよ」

 少年は首をかしげた。

「それがどうしたのさ。なにかまずいのかい?」

「まずいもなにも――じゃあ、あなたがもし、あと一歩でも馬車に飛びこむのが遅かったら、

いったいどうなっていたの思うの?」

 少年はさらに首をひねり、腕まで組んで考えたが、ついには降参した。

 エレノアは軽く眩暈を感じ、少年に事実を告げた。

「もしもその場合には、今ここにいるのはあなたの“上半身だけ”ってことになるわね……」

704みやび:2007/04/16(月) 05:33:39 ID:Z88i4Ing0
◇――『赤い絆 (09)』――――――――――――――――Red stone novel[5/11P]

 だが少年の返事がないので隣を見ると、彼は白目を剥いて馬車から落ちそうになってい

た。

「こら。勝手に落ちないの!」

 エレノアは気絶した少年の服を片手で掴み、残りの手で馬車を制御しながら、妙なものを

拾ってしまったな、と思った。


   *


 オーロはどうにか墓所を抜けきった。

 背中にはじっとりと汗をかき、何キロも走り通したように心臓が脈打っていた。

 途中、今までに見たこともないような異様な姿の化け物を何匹も見たような気がするが、

オーロはあえて思い出さないようにした――いや、実は歩いている最中、見ているようで彼

はなにひとつ見ていなかった。化け物たちのあまりの姿に、彼の心が見ることを拒絶したの

だ。それほど墓所の化け物たちは、想像を超えた姿と異様さを放っていたのだ。

 ともかく助かった。彼にとってはそれだけで充分だ。

 彼は夜空を見上げてもういちど方角を確かめると、今度こそ隠れ家を目指した――。


 公にされているエレノアの住居はリンケンにある。

 隠れ家というのは字義通り、有事の際に集うための秘密の家であり、場所はネイブ滝の

近くにあった。

 その場所を知るのはエレノアとマリアを除いては、かつてエレノアとチームを組んでいた

仲間――オーロ、シリカ、そしてジャンの三人だけだった。


 周囲の景色が荒野から雑木林へと変り、やがて森になった。

 一帯には民家や人工物がないため、夜ともなれば一寸先も見えない暗闇に包まれてい

るが、今は満月のおかげでなんとか木々にぶつからずに済む。

705みやび:2007/04/16(月) 05:34:20 ID:Z88i4Ing0
◇――『赤い絆 (09)』――――――――――――――――Red stone novel[6/11P]

 ここまで来れば、隠れ家まではすぐだ。

 オーロは自然と足が軽くなるのを感じた。

 だが次の瞬間――オーロの鼻先を風が切った。

 彼は驚いて足をとめた。

 見ると、風の主が近くの木に突き刺さっていた。

 それは傭兵が好んで使う種類の矢だった。

 反射的に身構えたが、周囲を見渡す必要はなかった。

 敵の気配がすぐ近くに感じられたからだ。それもひとりやふたりではない。

 するとオーロの背後から、聞き覚えのある男の声がした。

「驚きだな。まさかあの墓所を無事に通過するとはね……」

 振り返ると、そこにはキム・リーがいた。

「キム……! 貴様が追跡を指揮していたのか……」

 憎らしげな視線を自分に向け、地面に唾を吐くオーロを見て、キムは腺病質の顔を奇妙

に歪めて笑った。

 キムは傭兵ギルドの軍曹で、オーロとは違う部隊に所属している男だ。任務の都合で何

度か顔を合わせることはあったが、仕事以外では上官と部下の挨拶を交わす程度の関係

だ。

 その姑息な本質をひと目で見抜いていたオーロは彼を嫌っていたし、オーロの権限を乱

用すれば男をギルドから追い出すこともできた。それでもキムが仕事をこなし、仲間の命を

危険にさらすような真似さえしなければそれで良いと思っていた。

 ところがある日、オーロは自分の甘さを思い知った。

 それが、この騒動の発端となったキムの反逆行為――議員に対する偽情報の漏洩だ。

706みやび:2007/04/16(月) 05:35:03 ID:Z88i4Ing0
◇――『赤い絆 (09)』――――――――――――――――Red stone novel[7/11P]

 普通ならば、じっくりと網の目を広げてキムの正体を暴いてやるのだが、事が事だけに早

急な対処を要求された。そこで男に対する調査はあとまわしにして、オーロは議員の暗殺

にマリアを差し向けたのだった。

 だがその行動を知ったキムが議員への暗殺指令を逆手に取り、オーロが部隊を私物化

しているなどと、上層に告発したのだ。

 おかげでオーロは得体の知れない陰謀にエレノアたち母娘を巻き込み、ついでに自分は

二期も勤めあげた――傭兵の任期は十年がひと区切りだ。五年も生きていれば長いと言

われるほど危険な傭兵の世界を生き延び、かつ彼のように二期にわたって任務をまっとう

する者は稀だ――退職金と年金、そして傭兵としての称号や名誉さえ失った。

 今すぐにでも目の前の男の首を絞めてやりたい衝動に駆られたが、取り巻きの一個小隊

に牽制されていて身動きひとつできなかった。

「そいつらも見た顔だな……。ふん。金で釣ったか」

「お金は必要ですよ、大尉」

 キムのいやらしい笑いに同調し、彼の部下たちも白い歯を覗かせた。

 実に腹立たしい思いだったが、今は状況を打破することが先だ。オーロはとりあえず時間

稼ぎに出た。

「だがわからん。どうやった? 墓所でお前たちを巻けたと思ったんだがな……」

 キムは臆病なくせに顕示欲の強い男だ。この手の人間は言葉の魔力に弱い。

 案の定、男はオーロの問いかけに反応した。

「あなたもすでにロートルって訳ですよ。少しは勉強したほうがいい……」

 得意げにそう言った。

「答えになっていないな。それとも神の啓示でも受けたか?」

 オーロは嫌味のつもりで言ったが、相手はその言葉を肯定するように笑った。

「ほう、まさに勘だけは動物並みですね」

707みやび:2007/04/16(月) 05:35:45 ID:Z88i4Ing0
◇――『赤い絆 (09)』――――――――――――――――Red stone novel[8/11P]

 そう言うと、キムは自分の背後に向けて片手をあげた。

 キムがうながす先を見て、オーロは理解した。

 彼らの背後には、四肢と首を鎖で繋がれたひとりの天使が立っていた。

「追放天使――」

 オーロはつぶやいた。

 噂や伝説なら腐るほど知っているが、オーロも実際に目の当たりにしたのは初めてだ。

 彼ら天使は空間を自在に操り、千里眼にも似た視野を持つと聞いた。その神の目を使え

ば、どこへ逃げようとも居場所は筒抜けというわけだ。

「だったらすぐにでも俺を殺せば良かったろう? 楽しんでいたのか?」

「いやなに。例の弓使いの家に部下をやったら、すでにもぬけの殻だったものでね……も

しかすると、あなたが彼女のところに案内してくれるんじゃないかと、そうね――」

 くそっ――小者とはいっても無能ではなかったか……。

 そう心の中でごち、オーロは自分の老いを感じた。

 だが諦めるわけにはいかない。

 オーロは言葉をついだ。

「天使にそんな鎖が通用するのか? なぜそいつはお前の言いなりなんだ?」

「ずいぶんと饒舌ですね。時間稼ぎ……ですかな?」

 ニヤリと笑う男の表情に、オーロは冷や汗をかいた。

「まあいいでしょう……退屈しのぎだ。その時間稼ぎに付き合ってあげますよ」

 キムは白い歯を剥き出して引きつった笑みをこぼした。

「おいお前――」キムは天使を睨みつけた。

「大尉は我々がどうやってお前を従わせているのか、知りたがっておられる。お前の口から

教えて差し上げろ……」

 その高慢で粘着質な態度を見て、オーロはいよいよ男を絞め殺してやりたくなった。

708みやび:2007/04/16(月) 05:36:32 ID:Z88i4Ing0
◇――『赤い絆 (09)』――――――――――――――――Red stone novel[9/11P]

 やや間を置き、天使はぼそりと言った。

「妹には手を出すな……そのときはお前らを殺す」

 キムは声を上げて笑い、ひーひー言って足を踏み鳴らした。

「やめてくれ、まったく腹がよじれる! 大尉といいこの出来損ないの天使といい、どうして

お前たちはそう身のほどをわきまえないんだ? まさか“正義は勝つ”と念じてさえいれば

奇跡が起こるとでも思っているのかな?」

 キムは腹をかかえて笑った。

 オーロはほぞを噛んだ。こんな男はすぐにでも殺しておくべきだったのだ。たとえキムの

背後にどれほどの謀略が潜んでいようと、少なくともマリアとエレノアを巻きこまずに済んだ

はずだ。あるいはこの天使も――そしておそらくは彼の妹とやらも――こんな目には遭わ

なかったのかもしれない……。

 それを思うと、オーロは悔やまずにはいられなかった。武器さえ手にしていれば、今すぐ

にでも男を八つ裂きにしているところだ。

 笑いが収まると、キムはまた元の陰湿な表情に戻った。

「さあ、もう満足でしょう? 余興は終りだ」

 ついにこれといった考えも浮かばないまま、オーロは観念して身構えた。

「なんだ、もう幕を引くのか?」

 取り巻き連中の半分は弓を番えているが、自分が死ぬまでには目の前のニヤついた男

だけは道連れにできるだろうと思った。また実際にそうするつもりだった。

「そうですね……それも味気ない」

 そう言うと、キムは何かを思いついたように細い目を見開いた。

「ところで大尉……どうやってあの墓所を抜けたんです? ぜひ見せてもらいたいな」

709みやび:2007/04/16(月) 05:37:16 ID:Z88i4Ing0
◇――『赤い絆 (09)』――――――――――――――――Red stone novel[10/11P]

 キムは天使を睨んだ。

「おい、そこの出来損ない。大尉は運動がしたいとおっしゃっている。ひとつあの墓所にい

る化け物を持って来てくれ――」

 オーロは耳を疑った。

 まさか、天使はそんなことまで出来るのか!?

 だが天使は沈黙していた。

 キムは苛立ちを顔に出し、天使に歩み寄るとその頬にナイフをあて、引いた。

 天使は短くうめき、身を屈めた。

「聞こえなかったか? その耳を切り落として欲しいのか?」

 天使は肩を震わせ、赤い筋の走る顔を上げると、憎らしげにキムを睨みつけた。今にも

キムに飛びかかりそうな様子だ。

「いいのか? お前がそんな風だと、妹がどうなるか……」

 とたんに天使の顔から殺気が消え、代わりに恐怖が浮かんだ。

「そうだな……天使と人間のハーフを見てみるのも面白いな。お前も見たいか?」

 天使の顔が蒼白になった。

「今、お前の妹は下賎な男たちの巣の中だ。種馬はいくらでもいるって訳だ! 私が定期

的にそいつらに指示を出さなかった場合、やつらには女を好きにしていいと言ってある。そ

うして欲しいか?」

 キムは懐から小さな《思念球》を取り出すと、それに向かって言った。

「私だ――女の様子はどうだ?」

 ややあって、球から返事が返ってきた。

『あきらめて今は大人しくしてますぜ。それよりボス……もう我慢できねえ。この女、俺たち

にくれよ!』

「慌てるな。眺めるだけで辛抱しておけ――」

710みやび:2007/04/16(月) 05:37:55 ID:Z88i4Ing0
◇――『赤い絆 (09)』――――――――――――――――Red stone novel[11/11P]

 それから天使に向かって小声でささやいた。

「――それとも連中に、触るだけで満足しろとでも言ってやろうか?」

 天使は口をぱくぱくさせ、キムの衣服を掴むと青い顔で首を振った。

「その汚い手を離せ!」

 天使を蹴飛ばすと、キムは球に向かって言った。

「また一時間後に連絡する。大事な切り札だ、自重しろよ――」

 球を仕舞うと、キムは震えている天使に吐き捨てた。

「わかったか? わかったらさっさと言うことをきけ! でなきゃお前の哀れな妹は、二十人

の男たちの玩具になるんだぞ! ――おっと、だが私たちの退避を忘れるなよ」

 天使は怒りに肩を震わせたが、それを飲み込み、静かに立ちあがった。

 そして目を閉じ、しばらく集中したあと、天使は両手を広げた――。

 オーロの眼前からキムたちの姿が消えたかと思うと、その一団が十メートルほど離れた

場所に出現した。

 オーロは舌打ちし、周囲を警戒した。

 次いで天使が同じような動きをするのが見えた。

 その直後、オーロの背後に光の玉が出現した。

 素早くあとずさり、オーロは身構えた。

「くそっ――本当にやる気か……!」

 やがて光の玉が消えると、そこには巨大な化け物が立っていた。







◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

711みやび:2007/04/16(月) 05:38:50 ID:Z88i4Ing0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『赤い絆 (09)』

 ――あとがき――

 てか前回の“ネイティブ滝”って何処ですか隊長!?

 うう……なんか私ヘンテコな誤植が多いな(泣)
 いったい何処をどう間違えたら「ネイブ」が「ネイティブ」になるんだろう? しかも前回のは、
ちゃんと確認のために「ネイブ滝付近」のスクショを見ながら書いていたのに……。
 本気で自分の脳味噌が不安です……。
 今回はちゃんと“ネイブ滝”にしております、はい(泣)

 さて愚痴はともかく。今回も徹夜です。あまつさえ仕事もサボリです。
 嘘ですごめんなさい(汗) できればエスケープしたいという願望です……。
 えーっと、そうではなくて、今回は予告通り、一行毎に空行を挟んでみました。
 果たしてこれで見やすくなったのか、それとも無駄にレスを消費するだけに終っているの
か……。読み返すのが恐いです(汗)
 今回はちょっと、気持ち的に空行実験のほうに意識が向いてしまっているので、推敲は
やっていません(汗)
 なので文章自体もおそらく荒いです。プラス、とんでもない誤植などあるかもしれません
が、見逃してください……。

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

712意気地も名も無し:2007/04/16(月) 06:56:19 ID:Bo.D9pLc0
A・Kの記録
>>573 >>586 >>597 >>601

※この小説は多少ネタバレを含みます。

4月4日
「それでですね!」
「あぁ・・ぬうごおおお」

うぐぉぉお・・・
「アレ?聞いてますか?」
「ちょ・・ごめ・・ぬぅぅぅ・・・」

私の様子がおかしいぃぃ?
あああぁぁ、そのとおぉぉりぃぃ
別に邪気眼的なものの類じゃなくてだなぁぁああ
アレだぁぁぁ
「あっ!ごめんなさい!ケルビー!ストップ!」
ケルビーが急ブレーキをかける。
私は前方に投げ出されるが、痛みはあまり感じない。
「すみません・・いつものクセでスピード出しすぎて・・」
うなずくことしかできん。
アレか?この子はアレ平気なのか?普段あのスピードなのか?
剣士が起こす竜巻くらいは平気かもしれん・・
「ちょっとスピード落とすんで、ケルビーにヘイストください(笑」
「面白がってるだろ」


・・うむ
「このくらいのスピードなら、私も快適なんだがな」
「ヘイスト使って走るより遅いですけど・・」
「何、走ると疲れてな」
さて 改めて状況を説明しようか。
私は今、ロマの少女ハイj・・ゴホン!ティムが召還した火の神獣に乗って
グレートフォレストの直線道を走っている。
何やら溶岩を思わせるボディーに乗っかるのは抵抗があったが、
肩に乗ってみると以外に熱くないのだ。頭の部分は正直言ってヤケドものだ。
・・む?あちらから走ってくるのは・・
「お・・おいあんた達・・ぁぁぁー」

・・・
「オイティム、何か轢いたぞ」
「あっ!」
「まったく、ティムはドジだなあ☆」
「ぇっへー☆でも轢いたんじゃなくて撥ねたんですよぉ♪」
まぁ普通のギャグならここを素通りだが、
そうはいかないのでケルビーから降りる。
「すみません、大丈夫ですか?」
「あ・・あぁ・・」
「酷い傷・・こっちの火傷は誰に!?真新しいですけど!」
お前だろ
「動かないで下さい、地脈治療を施します」
音がキショいからあまり使いたくはないが・・
「完了しました・・」
「音キモイね^^;」
「黙れよ」

あたりが暗くなってきた・・今夜も野宿か。

木々から不穏な音が聞こえる。

俺のパナパレ妄想が今いいとこだから気にしないことにした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
久々の投稿・・
PCの調子が悪くてどーも・・

今は全体的にシリアスな流れですが、
どーもギャグの領域を抜け出せないKとティムだったのでした。

713意気地も名も無し:2007/04/16(月) 06:59:41 ID:Bo.D9pLc0
追記。
過去アンカー付け忘れ。
次回でつけます。

追記2
K君の自称が一部「俺」に!
なぜだろう!探してみよう!

ただのミスですけどねorz

修正多くてごめんなさい

714◇68hJrjtY:2007/04/16(月) 12:14:33 ID:06Syqdv60
>みやびさん
早くオーロとエレノアたちを引き合わせてあげたいと願ってますが、流石にそう簡単には無理そうですね。
書き手さんにとっては失礼極まりないと分かっているのですが、どうしても今後の展開を勝手に妄想してしまいます。
オーロ、エレノア、マリア、リッツの四人が揃ったらどういうストーリーになっていくのだろう。とっても楽しみです。
その話にスマグ、アウグスタ、議員やトーマスたちの話も絡み合って来て最終的にひとつの物語ができるんだろうなぁ。ワクワク。

改行仕様については、読むほうにとってはとっても読みやすいですよ。
反面、書き手さんにとっては神経使っておられるんだなと心配してます。
毎回思いますがもっと投稿可能行数を増やして欲しいですよね。少なくともこのスレだけは…(無理)
ネイブ滝は私もネイティブで何の疑問も持ってませんでした(笑) というか、そのMAPって一度も行った事無いやorz

>意気地も名も無しさん
お久しぶりです!
いやあ、この漫才コンビの二人を見ていると和みます(笑)
ケルビーに関わらず絨毯とかドレイクも二人乗りや三人乗りができたらいいのにと思う毎日です。
アスヒは音がキモい…言われてみればそんなような…でも土っぽくはありますよね(笑)

715みやび:2007/04/16(月) 21:49:50 ID:Lpq8JGQA0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>意気地も名も無しさん
 しばらくストップしていたので、まさかパナパレの妄想が原因で!? とか意味不明なこ
と考えてましたよ。あはは。(うそですから気にしないでくださいね)
 あいかわらず「ぷ」と笑える微笑ましさがいいですね。
 口語感がとてもナイスです。
 そして今回もやっぱりパナパレ妄想でシメ、と(笑)
 なんかこれがないと、もう終れない感じ。ビールの枝豆みたいなもんですね。(またわけ
わかんないことを……)

 アスヒのSEってけっこう好きです。キモイところがすごくすてき。
 関係ないけど、効果音で好きといったら私のお勧めは高台望楼の巨人骸骨(いや騎士?
ちょっと正式名称忘れたけど、あの武者鎧着てるグラのモンスです)のSE。なんかキモさ
加減がアスヒに近いですよね?
 個人的にはテイマの治療もアスヒみたいな音なら良かったのになー。
 「ぴろぴろ」じゃあなんだか回復してる気がしなくて……。もっと「ぐりぐりどろどろ」な音が
良かったです……ちぇ。

>68hさん
 うう……そうですね。
 展開は自分でも、もう少し早くしたい! という気持ちはあるのですが……。それを急いて
しまうと今度は描写がおざなりになって文章がスカスカなことに。(結局腕ですが(汗))
 バランスが大切ですよね。しかもそれがムズカシイ!
 なんとか読み手の欲求を満たせるようにがんばりばす……。
 空行書式は今後も続けてみる予定です!

 ネイブ滝は私も二回くらいしか行ってないです。
 骸骨とアーチャー、あとエルフもいたかな? 洞窟(地下通路?)には蚊系がいましたね。
 人なんて当然いないので、適正の頃に通うべきだったな。と後悔。(もっとも無課金でマラ
ソンするのはきついですけど)

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

716携帯物書き屋:2007/04/18(水) 00:12:03 ID:mC0h9s/I0
プロローグ 前スレ>645
1日目>646>692 2日目>693-694>719-721 
3日目>762-764>823-825>874-878 4日目>>34-37>>73-75
5日目>>95-98 6日目>>185-187>>227-229 
7日目>>306-310 8日目>>383 9日目>>384
10日目>>461-465 >>556-559 >>634-638
ネタ話>>123-125

あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>634-638

『孤高の軌跡』

射し込む光で目が覚める。
軽く腕を伸ばした後、重たい体を起こした。
「ああ、寝不足だなこりゃ」
と言っても、二度寝などしていたらそれこそ次に起きるときがいつになるか判らない。
観念し、喝を入れて起き上がった。
起き上がって気付いたが、今日は日曜日だ。再び寝たい衝動に駆られるが、振り切って部屋から出た。

2人分のトーストと目玉焼きを用意し、テーブルに並べる。
そして未だ俺の部屋に浮かんでいる寝坊野郎を呼び起こすこととする。
「おーいニーナ、餌だぞー」
愛情の欠片もない声で呼ぶ。
すると、部屋からゆらゆらと飛んでくる生物1匹。
「ふぁ……おはよ、ショウタ」
「ん。おはよ」
手を合わせてからトーストをかじる。

昨夜、ニーナは家に着くと、体力と魔力回復の為に睡眠をとると言ったきり寝てしまった。
何やら昨夜の戦闘でほとんどの魔力を消費してしまったんだとか。

「そうだ。体の方はもう大丈夫なのか?」
「ええ、昨日は良く眠れたから。8割程度ってところかしら」
「それならよかった」
そんなことを言いながらニーナを盗み見る。
ニーナは何やら複雑な表情を浮かべながらトーストをかじっていた。
「いつ見ても不思議ね、この世界の物って。パンはこっち側にもあったけどこんな便利な加工法があったなんて……」
とか、不思議なことを呟いていたりする。
「その中でもあの箱は選りすぐりね。いつ見ても不思議でならないわ。
ショウタ、あれどうなってるの?」
言われて指された方向に目を向ける。
「ああ、テレビのことか。言っても判らないだろうから、こっちの世界の魔法ってことで」
適当に流しながらテレビを見てみると、テレビはいつも通り変哲のない退屈なニュースを流していた。
「それとニーナ。後で話があるんだが付き合ってくれないか?」
「いいけど……どんな話?」
「まあどんな話かっていうとだな。それは――――ん?」
ふと耳に入ってきた報道で言葉が止まる。

殺人事件――――普段の俺なら軽く聞き流していただろうが、つい気になった理由は……。
「殺人事件ねえ、ショウタの世界も物騒なのね」
トーストをかじりながらニーナが呟く。
「まあな。でもここら辺で殺人が起きるなんて珍しい」
以前は洋介が起こしていたが、今はさすがに目立つ行動はできないだろう。
もう1組は昨夜戦った赤川梨沙と名乗る俺と同じくらいの少女と、ヘルベルトと名乗る男だが、
あの2人は手段を選ばないとは言っても筋は通すタイプだろう。
ならば、気にすることはないのだが――――どうして、こうも気にかかるのだろうか。
「ま、どうにせよ俺たちには関係ないだろ」
言葉にすることで自分に言い聞かせる。
「そうね。それにこれは素人よ。一流の殺人鬼なら、もっと上手くやるわ」
そんな物騒なことをケロっと言いなさるニーナさんは、既に3枚目のトーストをかじりなさっていた。
「ニーナ。さっきの話に戻るが、食ったらちょっと付き合ってくれ」
そう言うとニーナは人間とは思えない速度でトーストを平らげ、椅子から立ち上がった。
「こっち」
そう促し俺の部屋に連れて行く。
手近な寝台に腰をかけ、ニーナと向き合った。
「その、話なんだがな……」

717携帯物書き屋:2007/04/18(水) 00:12:51 ID:mC0h9s/I0
「……ようするに、貴方を私が鍛えろと?」
「ああ。俺は昨夜も言ったがニーナの力になりたいんだ。だから、頼む」
手を合わせてお願いをする。
ニーナはしばらく悩み込みんだ後、小さく1つため息をついた。
「そうね、私からしてもショウタが強くなることには都合がいい」
「え……ということは」
「ええ。付き合ってあげるわ」
「ほ、ほんとか!」
「でも、その前に言っておくけど、私が教えるのはあくまで身を守る力。
間違っても私たちの戦いに割り込もうなんて思わないでね。ショウタは自分の身を案じていればいいんだから」
「ああ、判ったよ」
というか、あの戦いを間近で見て割り込もうなんて思う人間は気合いの入った自殺志願者としか思えない。
「じゃあ、何から始めるんだ?」
「そうね。じゃあこれから私の言う通りに行動して」
俺の修行、スタート。


「はあ、はあ、は――――ちょ、ちょっと休憩」
「まだまだねえ。でも、結論は出たからいいわ」
結論? 気になるが今は呼吸を整えることに専念する。
「結論。ショウタは戦いに向いてないわ」
俺が聞く前に簡潔に結論を述べてくれるニーナさん。
しかも笑顔で。
「……はい?」
「だから、ショウタは戦いに向いてないわ。剣も才能全くだし、弓だって眼が良くないから向いていない。
魔法については問題外。だから残る手段は前に渡したあの銃って物しかない」
当たり前のように言うが、それってかなり失礼なことじゃあ……。
まあ、俺が運動神経がないことは自分自身が1番知っているのだが。
「ちょっと待て。それでどうやって鍛えろと言うんだ?」
「そうなのよね……。命中率を上げろとしか言いようがないわ」
はあ、とニーナはため息をつく。
木霊するように俺も同時にため息をついた。
「それと、基礎トレーニングも大切にね。修行っていうものはね、容量――つまりキャパシティを上げることと同意なの。
例えどんなに凄い魔法を覚えようともそれの軸となる容器が容量を満たしていないんじゃ意味がないでしょ?
だから基礎をおろそかにしていては強くなれないのよ」
何だか得意気に指を立てながら話すニーナ。だが、
「それと俺と何の関係があるんだ?」
「むぅ。だ、だから基礎を固めとけってことよ。これは毎晩300回はした方がいいわ。いざって時に体が動かないと意味がないでしょ」
「なるほど。なら銃の腕を上げるにはどうすればいい?」
「そうね」
ニーナの顔が急に真剣な表情に戻る。
それから立ち上がり、
「これを使うわ」
と言って何かを掴むと、遠くに置いた。
「あれを狙って。弾は通常の弾でね。うん、やっぱり人型の方が雰囲気が――――」
「ちょっと待てニーナ! その的、リディアじゃないか。お前俺にリディアを殺せと言うのか。鬼か!」
「リディア?」
いかにも何それといった面持ちで聞き返すニーナ。
まあそれも無理がないだろう。
「えっと、その子は俺の大事な物なんだ。だから的は別なものにしてくれ」
「……判ったわ」
的になるものはないかとニーナは部屋をあさる。
「じゃあ、これ。真ん中の穴を狙って――――」
「待て、それは俺の大事なゲームのディスクだ。別の!」


そうしてようやく的が決まり、練習が始まった。
ただ的を狙うだけなので体力は全く消耗しなかったが、その代わり精神力が消耗した。
「うんうん。この程度の距離なら当てられるようになったわね。問題は敵は動くってことなんだけど」
なんだかニーナは上機嫌だ。
やはり俺がやる気になったからだろうか。
「ショウタ。私がさっき言ったこと、忘れないでね。
基本は心を透明にすることよ。心を無にして、自然と一体化する。難しいけど、これができればショウタは1級のスナイパーよ」
心を無にし、自然に溶ける。
これができるのはだいぶ先だろう。
俺はこれからもしばらく練習を続けることにした。

718携帯物書き屋:2007/04/18(水) 00:13:35 ID:mC0h9s/I0
月下の夜。
都会と逆に位置するこの町は例の殺人事件の効果もあり夜となると外出する者はほぼ居なかった。
そんな中、闇に紛れるように歩く2つの人影があった。
大と小の影は何をするわけでもなく、ただ、歩いていた。
大きい方の影は足もともおぼつかず、ふらふらと歩き、もう一方の小さい影はそれに付いていくように歩いていた。
ふと、大きい方の影が体勢を崩し倒れかけた。
その一歩手前で小さい方の影が腕を掴みそれを支えた。
「ヨ、ヨウスケ……。やっぱり、お外に出るのは……」
語尾を濁し小さな影はそれきり黙り込んだ。
「っ、うるさいなあっ! もとはと言えばこの俺がまともに外出も出来なくなった理由は、エミリー、お前のせいだろう!」
「……ごめん…なさい」

大きい方の影――佐藤洋介は、4日前の晩、ヘルベルトと赤川梨沙との戦闘に敗走してから1度も外出していなかった。
だがそれも今日まで。
我慢に耐えられず、洋介はパートナーのエミリーの止めも無視し隠れ家から出てきたのだった。

「俺は負けていない、俺は負けていない。あの時は状況が悪かっただけだ……」
誰に言う訳でもなくぶつぶつと洋介は呟く。
それをエミリーはひどく不安に思えた。
洋介がこうなってしまったのは、他でもない自分なのではないのかと。
そう。洋介は初めからこうではなかった。あの時までは……。


出会いは唐突だった。
エミリーはどうしたらいいのか判らず混乱していると、ふと背後から声を掛けられた。
驚いて振り向くと、そこには見知らぬ顔の青年がいた。
「君、人じゃないね」
それが佐藤洋介の最初の一言だった。

それから洋介はエミリーを連れ帰ると、様々なことをエミリーに聞き、また様々なことをエミリーに話した。
それがエミリーには堪らなく嬉しかった。
更に協力してくれると言ってくれたときなど、嬉しさの余りに飛び跳ねたものだった。
「今日からエミリーは俺の妹な」
唐突に洋介が放った一言。
そのときエミリーは嬉しさの連続で声が出なかった。

――――人とはこんなにも暖かいものなんだ。

今まで人の冷たさしか見たことがなかったエミリーにとってこれは幸福の他なかった。
そのときエミリーは密かに誓った。
この男を、どんなことがあろうと愛そうと。小さな体格だろうが大きな愛を抱こうと。
しかしそんな幸福も長くは続かなかった。
時間が経つに連れ、洋介は人が変わったように狂っていった。
ある日突然手に余る程の大きな力を手に入れた人間の最期だ。
傲慢さが増えていく一方、優しさは損なわれていった。
それでもエミリーは愛することをやめようとは思わなかった。それが人間の本当の姿だと知っているから。


「エミリー、付いてこい」
言われてエミリーは我に返った。
「はい……」
向かった先は学校の校庭だった。
夜の無人の学校はまるで外と引き離されたように異様な威圧感があった。
洋介は運動場の方まで歩くと手近な椅子に腰掛けた。
「エミリー」
「はい」
「次の負けは許さないよ。特にこの俺に屈辱を与えたあの剣士だけは。
その為に俺は殺人をやめたんだからね。殺したときの喜びを数倍に増やす為に」
「……はい」
「ところでエミリー、もう使わないとは思うけど空間転移の魔石の残り回数は何回だ?」
「1回です。……ごめんなさい」
エミリーは懐から紫色に輝く石を取り出して見せた。
その石には模様が描かれ、残り回数が判るのだった。
この石には5つの内、残り1回分の魔力が残っているのだと絵で知らされていた。

互いに無言のままひたすら虚無感だけが流れた。
飽きたのか洋介が立ち上がろうとしたとき、2人の遥か前方に新たな2つの人影が現れた。
その正体。2つの人影は習慣となった夜の徘徊をしている梨沙とヘルベルトだった。
「は、はは……こんなにも早くに復讐できるなんて思わなかった」
洋介は構え、2人を睨み付けた。
ヘルベルトたちも気が付いたのか、既に戦闘体勢をとっていた。
両者の間に不吉を思わす冷たい風が吹いた。

719携帯物書き屋:2007/04/18(水) 00:14:31 ID:mC0h9s/I0
梨沙を抱えたヘルベルトが家や塀を飛び越え洋介たちの20メートル程前方に着地する。
口火を切ったのは洋介だった。
「はっ! こんなにも早くお目にかかれるとは思わなかったよ。わざわざ殺られに来たのかい?」
「ふむ。誰かと思えば敵前にして背を向け逃げ出した腰抜けか」
「な、に――――!」
「おっと。それは禁句だったか?」
熱くなる洋介に対しヘルベルトは冷ややかに対処する。
何気無く流しながらも、既に剣をその手に握っていた。
「もういい、エミリー殺れ!」
それを合図に両者が同時に動いた。
一陣の旋風。目にも留めぬ速度でヘルベルトがエミリーに急接近する。
それよりも尚疾く。振り抜かれた長剣が大気を駆ける。
だが――――
「む」
それは何かによってそれ以上の進行を阻まれた。
危険を悟ったのか、ヘルベルトは地を蹴りそのまま元居た場所まで後退した。
「チ。魔物か」
言う通り、ヘルベルトの剣戟を止めた物は魔物の剣だった。
その体躯は鷲そのもの。だが、決定的に違う物は地に足をつき、両手に剣と盾を握っているところだった。
その他にもエミリーの赤い魔本によって召喚された魔物たちが主人の周りを囲んでいた。
「ぐるうぅぅるるああ!!」
猛々しい咆哮をあげながら鷲戦士が猛突進を仕掛ける。
大剣が振り上げられ、重々しい一撃が放たれた。
キンという耳を貫くような金属音が鳴り響く。
「ふっ――――!」
鷲戦士の重い一撃を受け切ったヘルベルトが返し刃を放つ。
剣は鷲戦士の左肩から右脇にかけて駆け抜け、一刀の元に両断する!
鷲戦士は緑色の血を噴きながら崩れた。
だが、それは時間稼ぎに過ぎなかった。
2人が打ち合っている間に、エミリーは既に数十の魔物を召喚していた。
「なるほど。数だけは達者だな」
多数の魔物を前にしようともヘルベルトは皮肉口を叩く。
「はは、前は窮屈な部屋の中だったからね。ここならお前より俺たちの方が強いよ」
「それはどうかな。リサ、下がっていろ。その剣で身を守るんだ」
ヘルベルトは梨沙に1振りの小さな短剣を手渡した。加えてシマーリングを梨沙に掛け、空いた手に魔剣アンドゥリルを握る。
「――――さて。また大量の鮮血を浴びることになりそうだ」
「言ったな。ならこれを切り抜けてみろよ。口だけ男!」
再び旋風が駆ける。
対する魔物たちも命令の元迎撃を開始した。
ヘルベルトは止まることなく魔物を斬り伏しながら突き進む。
エルフの矢を聖剣で弾き、残りの魔剣で炎を放射し前方の敵を薙ぎ払う。
続いて飛び出してきた敵を剣ごと粉砕し、脇から入ってきたインプに鋭利な蹴りを見舞う。
更に取り囲もうとする敵を蹴散らし進む。
「む――――?」
ヘルベルトが疑問符を漏らす。
魔物たちはエミリーの命令により体勢を立て直す為に引いていた。
「――――足りんな」
「なに?」
洋介が反応して聞き返した。
「全く。私も舐められたものだ。私を本気で狩りたいのなら、あと百体は連れてこい!」
そして戦士は魔物の大群の中1騎で駆け出した。

720携帯物書き屋:2007/04/18(水) 00:27:38 ID:mC0h9s/I0
こんばんわ。遅筆ですいません。
さて。今回遅かった理由は書き始めるのが遅かったからのようです。(すいません)

>>650さん
感想ありがとうございます。
続きが気になりますね。気長に続きをお待ちしております。
それと、運命に出会う物語を思い出したとのことですが、それはやはり設定なのでしょうか?
それとも文体でしょうか?(それはないだろうけど)

>みやびさん
少し読ませてもらいました。(すいません、読むのも遅いんです)
初めの冒頭も中々イイ感じでした。短編ということで、主人公も変わったりしているみたいですが
それもまた良いと思います。

余談ですが、この前友達が自分の作品を読んでくれてそれから作中の人物の絵を描いてくれました。
やはり自分の書いた物が他の人から絵にしてもらえるのは作者としては嬉しい限りですね。

それでは

721みやび:2007/04/18(水) 07:56:32 ID:095VYQco0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>携帯物書き屋さん
 お待ちしておりました。

 気になっていたエミリーが再登場して、わーいな自分です。
 しかしエミリー、あんたなんて健気なの……。リアルでは近所に、馬鹿な親から人として
ろくな事を教わっていないようなガキんちょしかいないので、エミリーみたいのがいたら「お
菓子あげるからおいで」と持ち帰りますよええ。(え、これ犯罪!?)
 まあそれはともかく、彼女に幸あれと願うばかりです(汗)
 翔太とニーナのホームドラマもいいですね。うーん。ふたりの進展が気になる(笑)
 もっとも彼らに限らず、梨沙たちにしても帰るべき世界が違うという根底のうえに成り立つ
情なので、その行く末に想いを馳せるとなんともやるせなく切ないですね。もちろんそれが
この物語の良さなのですが。
 果たしてどういう終焉なのか……。いやうがった見方はよくないですね(汗)
 素直に当面の展開を楽しみたいと思います。なにやら新たな種も撒かれたようですし…
…わくわく。

 絵描きさん。いいですね。羨ましい。誰か私のも描いてくれないかしら……。
 しかしUPして自慢する場所(自サイト)がない! こ、これは問題だ(汗)
 絵描きを騙して――もとい拉致して――じゃなくて、あれとかこれで言う事きかせる前に、
サイトを作らなきゃいけないのか……。むむ。(なんかちがう気もするけど)

 PS――
 もしかしてリディアの登場を喜んでいるのは私だけ?(汗) リディア頑張れ!(謎)
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

722名無しさん:2007/04/18(水) 09:56:14 ID:mF4lmstM0
>携帯物書き屋さん
ショウタ君の修行風景が微笑ましいです。ディスクを的に…確かに合いそうな気はしますが(笑)
みやびさん同様に思いますが、リディアは今までも何度か伏線のようなものが書かれていて気になります。
いつか1/1サイズになって登場!…なんて事がありそうな(笑)
いつかショウタ&ニーナ+リサ&ヘルのコンビが組まれる事を夢見ています(こら

絵ですか…。そういえば携帯さんの小説にタイトルをつけてくれたと話されていたのも友人さんでしたね。
そういう友人が身近に居るというのは自慢してもいいと思いますよ。
私の場合は小説を書くのが本当にのんびりしているので、友人自体離れていくという寂しさです。
絵描きに転職しますか!(無理)


>みやびさん
自小説UPサイトは実際ここに連作されている書き手さんには作って欲しいと思ってますよ(笑)
ただ管理するとなるとやっぱり忙しさとかあるでしょうし、無理強いみたいなのはできませんけど…。
それにまとめサイトの方もあるみたいですしね。
でもやっぱり、お時間があればサイトなど作られれば絵描きさんが現れる…かもしれない(笑)

723◇68hJrjtY:2007/04/18(水) 09:57:26 ID:mF4lmstM0
>>722訂正
すいません、コテハン忘れました…Janeをバージョンアップしたせいですねorz

724みやび:2007/04/18(水) 15:58:07 ID:kdAwyVYo0
 ――本編――
 ●『赤い絆(01)』>>424-436 ●『赤い絆(02)』>>477-483
 ●『赤い絆(03)』>>529-532 ●『赤い絆(04)』>>607-612
 ●『赤い絆(05)』>>624-630 ●『赤い絆(06)』>>659-666
 ●『赤い絆(07)』>>671-680 ●『赤い絆(08)』>>683-688
 ●『赤い絆(09)』>>700-710

 ――設定(全作共通)――
 ●小道具、固有名詞など>>495-497

 ――関連作:番外編――
 ●『愛のしじまに』>>575-583

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『赤い絆 (10)』―――――――――――――――――Red stone novel[1/11P]




 オーロは自分が墓所に飛ばされたのではないかと錯覚した。

 まさかと思いつつも周囲を見回し、満月に照らされている森の景色を確かめずにはいられ

なかった。

 そして化け物もまた戸惑っていた。初めて見る景色にうろたえ、なぜ自分がこんな場所に

いるのか理解できず、二メートルはあろうかという巨体を不安げに揺らし、ゴロゴロと不気味

な喉笛を鳴らしていた――。


 そいつは節くれだった出来損ないの枝みたいなやつで、人に似た二足歩行の体を持って

いた。身の丈に似合わず小ぶりな顔は昆虫のようにも山羊のようにも見え、頭部には螺旋

に巻かれた一対の角を生やしていた。

 そして最も目を見張るのは、深緑色の両腕からスラリと延びた、首斬り役人の獲物みた

いな鎌状の刃だった――それも決して低くはないオーロの身長に届くほどの長さだ。

 そんな刃をまともに食らえば、人間の体など紙のように切断されるだろう。

 さらにオーロは、馬か飛び蟲を連想させるそいつの足の形を見て、高い運動能力が備わっ

ている可能性を想像して凍りついた。

725みやび:2007/04/18(水) 15:59:01 ID:kdAwyVYo0
◇――『赤い絆 (10)』―――――――――――――――――Red stone novel[2/11P]

 怪物を前に、オーロは全身の産毛を逆立で、息を殺すしかなかった。

 こんなやつを相手に、しかも丸腰で、いったいどんな戦い方をするべきなのか――さすが

の傭兵もまるで思い浮かばなかった。


 落ちつきなく喉を鳴らしていた化け物は、やがて目の前の存在に気付く。

 そいつの小さな瞳の中に、射すくめられたオーロの姿が映り込んでいた。

 状況を飲みこめない不安さと苛立ちが、化け物の心に恐怖を呼び、それは自己防衛の

本能に直結した。

 化け物はやおら両手をもたげ、森の静寂を打ち破るような、地の底からわきあがる地鳴

りみたいな声で吠えた。

 化け物の咆哮は辺りを振動させ、オーロの髪をなびかせ、森の梢をざわめかせた。

 その迫力に圧倒され、オーロがあとずさった瞬間――化け物は彼の動きに応答して恐ろ

しいスピードで鎌を振るった。

 長い刃が目にも止まらぬ速度でオーロの前髪を切り、そのまま彼の足元の大地にめり込

んだ。

 オーロは身動きできなかった。

 今のが本当に狙いすました一撃なら、彼は完全に真っ二つにされていたはずだ。

 疲労している彼にはどうあがいても勝ち目はない。逃げ出せるかさえ怪しい。

 だが……もう本当に打つ手はないのか? オーロは必死で考えをめぐらせた。

 その様子を見て、遠くからキムはせせら笑った。

「どうしました、大尉? 退屈だな……早いところショウを始めてくださいよ」

 オーロは唇を噛みしめた。その端からわずかに血がにじむ。

 あきらかに勝てない相手に討たれるのはまだいい。だがその最後を看取るのが、あの男

であるのが許せなかった。

726みやび:2007/04/18(水) 15:59:43 ID:kdAwyVYo0
◇――『赤い絆 (10)』―――――――――――――――――Red stone novel[3/11P]

 地面から湾曲した鎌を抜くと、化け物はオーロを真っ直ぐに見据えた。

 そして――化け物が腕を振り上げようとしたときだった。

 化け物の右目にひとふりの鏃が突き刺さった。

 怒号のような化け物の悲鳴――。

「そいつの足を狙って!」

 突然の声に無意識に反応したオーロは、化け物の片足に体当たりをかませた。

 そのタイミングに合わせ、さらなる矢が化け物の頭部に撃ちこまれた。

 バランスを取るために脳が発した信号は、矢の攻撃を受けて四肢に伝わる前に混乱し、

断絶され、化け物はたまらずその場に倒れた。

 オーロは反射的に声が聞こえた方へ走った。

「マリア――!?」

 彼の視界に映ったのは、自分に向かって駆けて来る部下の姿だった。

 マリアは二本の矢を番えながら疾走し、走りながら化け物に向かってそれを放った。

 放たれた矢は寸分の狂いもなくオーロの顔をまたいで両側を通過し、立ちあがろうとして

いた化け物のわき腹に命中した。

 オーロの背後で化け物の悲鳴があがった。

 化け物は頭部と腹から血を流し、辺りかまわずに鎌を振り回した。

「マリア! 無事だったか!」

 合流したふたりは笑顔をかわす間もなく、化け物のほうを見た。

 鎌を振り回す化け物を見据え、マリアは持っていた槍を無言でオーロに渡した。

「この貸しは大きいわよ――といっても、あたしは任務を放棄した身だけれど」そして間を

置き、「でも、あたしを始末しに来たようには見えないわね……隊長?」

 オーロは黙って首を振るだけだったが、その表情が以前と変らず部下を愛する上官のも

のであるのを読み取ると、今のマリアにはそれ以上の説明は不要だった。

727みやび:2007/04/18(水) 16:00:24 ID:kdAwyVYo0
◇――『赤い絆 (10)』―――――――――――――――――Red stone novel[4/11P]

「これはこれは……! マリア少尉ではありませんか。おかげでその男にあなたの居所を

聞き出す手間が省けました……礼を言いますよ!」

 安全な場所からキムは叫んだ。

 マリアはキムの顔を睨みつけた――と、そいつが以前、自分の体を金で買おうとしたこ

とを思い出した。

「ねえ、隊長。あのいけ好かない男、あたしにやらせて」

「断る。そんな美味しい仕事、誰が譲るものか」

「けち」

 束の間の会話を楽しんだふたりだが、自分たちに狙いを定めている化け物を見て、現実

に引き戻された。

 化け物は複数の矢をまとい、血こそ流していたが、見た目ほどダメージを受けていないよ

うだった。

「どう思う? やはりお前でも無理か?」

「不可能ではないと思うけど……手持ちの矢では足りないわね。長丁場になるわよ」

 オーロはうなった。武器を手に入れたものの、砂漠を歩いて体力を消耗している彼には

持久戦は無理だ。

「だいたいあんなの、どこで引っ掛けてきたのよ? まったく、ろくなのに好かれないわね…

…。あいつきっと、メスよ」

「なんだって! 冗談はよしてくれ」

 そうは返したが、言われてみると前方の化け物の顔が、たちの悪い女に見えてきた。

 馬鹿な想像を振り払うと、オーロは言った。

「ここは逃げるか――いや、だめだな……連中には天使がついているんだ」

「天使って……本物の!? じゃあどうするの!」

 そうこうしているあいだにも、化け物はふたりに向かって足を進めていた。

728みやび:2007/04/18(水) 16:01:03 ID:kdAwyVYo0
◇――『赤い絆 (10)』―――――――――――――――――Red stone novel[5/11P]

 ところがふたりの眼前で、その彼らをニヤついた顔で眺めていたキムたちの目前で、信

じられないことが起こった。


 突然、化け物の体が炎を吹き出して燃えあがったのだ――!


「おい、マリア!?」

「あたしじゃないわよ!」

 同時にキムもうろたえていた。

「なんだ!? どうしたというんだ!」

 化け物は大きな屋敷が倒壊するような悲鳴をあげた。

 そして化け物を包む炎がいよいよそのかさを増したところで、今度は一瞬にしてその火が

消えた。

 いや、消えたというよりは凍ったのだ。

 化け物の悲鳴はやみ、氷が弾けるようなキンキンいう音だけがこだまし、やがて急速に冷

却されたその体が、重力に逆らえず崩壊し、砕け散った。

 その現象に皆が沈黙しているなか、氷の欠片となって散乱する化け物の残骸の上に、忽

然とひとりの人物が現れた。

 漆黒の長いコートに身を包むその人影が、ウィザードであることは誰の目にもわかった。

 ただ一同が予想していなかったことに、その魔法師は女だった。

「ねえ隊長……こんどこそ女よ!」

「馬鹿、俺は知らんぞ。初めて見る顔だ」

 マリアたちが女の正体を詮索するより早く、魔女は殺気をともなって動いた。

 彼女が向かった先はキムたちのほうだった。

729みやび:2007/04/18(水) 16:01:39 ID:kdAwyVYo0
◇――『赤い絆 (10)』―――――――――――――――――Red stone novel[6/11P]

「いかん……よせ! その天使は殺すな!」

 なにを考える間もなく、オーロはとっさにそう叫んでいた。


 女の魔法は凄まじいものだった。

 というより、オーロたちは彼女が使うような魔法を初めて見た。

 それは一見して魔法師がよく使うメテオという炎の魔法と、チリングと呼ばれる冷気を媒

介にする攻撃魔法に思えたが、その動きはあきらかに通常のそれとは異なっていた。

 メテオにしろチリングにしろ、普通それらを使う場合、魔法使いはいったん空中に媒介と

なる炎や冷気を創りあげ、そのかたまりを独自の魔法力で実体化させたのち、敵に向かっ

て放つことになる。

 だがその女魔法師の術は、宙に一切の媒介を創ることなく、直に相手を攻撃していたの

だ――いや正確には、彼女がひと睨みするだけで、まるで敵の体内から炎や冷気が産ま

れるように、その体を灰にし、氷のかたまりに変えてしまうのだ。

 連中の放つ矢も、槍も、高速で移動することを得意とする魔法師には当らなかった。


 オーロとマリアは呆気に取られた。

 十八名におよぶ小隊が壊滅するのに、およそ五分とはかからなかった。

 いたるところに散らばる元は傭兵であった連中の燃えかすや氷の残骸――それらを背

景に、長い黒髪を腰まで垂らした、美しい顔立ちの女魔法師は静かに立っていた。

 そして魔法使いの目の前には天使がいた。

「私を……見逃してくれるのか?」

 生き残った天使は魔法使いに言った。

「あなたが敵なら戦うし、そうでないのなら干渉はしないわ」

 天使は落ちついて答えた。

「それは私も同じだ。ならばたとえ成り行きでも助けてくれたことに感謝しよう……」

730みやび:2007/04/18(水) 16:02:23 ID:kdAwyVYo0
◇――『赤い絆 (10)』―――――――――――――――――Red stone novel[7/11P]

「こ自由に……」

 魔法使いは冷たい目で言った。

 天使はオーロに視線をやった。

「君もだ、ありがとう――もう会うこともないだろうが……私の名はシーガルだ!」

 オーロは遠くから手をあげて天使に答えた。

 なによ、天使って敵じゃなかったの? と訝るマリアが上官のわき腹を小突いた。

 天使がその場で大地を蹴ると、彼の体が風のように軽々と宙に浮き、背中からは純白の

翼が広がった。

 翼は片方が途中で折れていたが、飛行には支障がないようだった。

「あなた方に神のご加護を……!」

 そう言い残すと、天使は宙にぽっかりと空いた光の穴に消え、あとにはその穴も失せた。


 辺りは静寂に戻り、残されたのはオーロとマリア、そして女魔法師――。

 両者は離れた場所で対峙し、その距離を沈黙が埋めていた。

 オーロとマリアは小声で話した。

「それで……あの魔女は敵なの?」

「わからんよ。わかるものか」

 とその時、魔法使いが動いた。

「もうっ――結局こうなるのね!」

「俺に言うな!」

 傭兵ペアはそれぞれに武器を構え、魔法使いの動きを追った。

 だが女の動きはあまりに速かった。

731みやび:2007/04/18(水) 16:03:05 ID:kdAwyVYo0
◇――『赤い絆 (10)』―――――――――――――――――Red stone novel[8/11P]

「ええい、俺が出る! マリア、あれをやってくれ!」

「わかったわ!」



 渾身の力をこめ、オーロは槍兵の技を使い常人離れしたスピードで大地を蹴った――。

 マリアはオーロと女の動きを予測し、天に向けて複数の矢を放った――。

 魔法使いはオーロに向かって風のように馳せた――。



 全ての挙動が同時に起こり、反応し、惰性した。

 そしてマリアが、魔法使いの狙いがどこからともなく現れた森のモンスターだと気付いた

ときには、あらゆる慣性が止められない法則のうえに嵌まっていた。

「隊長……! だめッ!」

 マリアは叫んだが、それさえも同時進行する歯車のひとつに過ぎなかった。



 ときの刹那――

 モンスターはオーロの背後から牙を剥き、オーロの槍先は魔法使いの進路をとらえ、魔

法使いの軌跡はモンスターに向けられ、その魔女に対して天に放たれた矢が凄まじい速

度で下降していた――。

 避けられない果ての予感におののき、マリアが目を閉じようとした直後、彼女の背後から

馬のいななきが聞こえた。

 マリアが振り返った瞬間――その一瞬で、予定されていた最悪の結果に新たな要素が

加わり、そして終っていた。



 それぞれの意思では変えられない慣性の矛先のすべてに、エレノアの姿が“同時に”あっ

た――。

732みやび:2007/04/18(水) 16:03:49 ID:kdAwyVYo0
◇――『赤い絆 (10)』―――――――――――――――――Red stone novel[9/11P]

 その場に駆けつけたエレノアが馬車から飛び出し、彼らの中心に着地した瞬間、べつの

彼女が天から降り注ぐ矢に――疾走する魔女の元に――オーロの背後から迫るモンスター

のところに――そしてオーロの眼前に同時に存在していた。


 だが実際には、誰ひとりとしてそれを目撃できる者はいなかった。

 マリアは異質な空気に気付いてオーロたちを見やった。

 オーロはわけがわからず地面に倒れていた。

 魔女はなんらかの衝撃によってその動きをとめられ立ち尽くしていた。

 そして皆がオーロの背後で朽ちているモンスターの死骸を目にし、その視線を戻したそれ

ぞれの中心にはエレノアが立っていた――直後、エレノアが最初に着地したときの衝撃が、

今になって彼女の足元から波紋を広げ、皆の体を突き抜けて森のなかへと走り去った。


 エレノアの右手にはオーロが持っていた槍が、左手にはマリアが天に放ったはずの矢の

束が握られていた――。


 握っていた矢を地面に落とすと、エレノアは魔女の前に歩み出た。

「わたしはエレノア・スミス。この者たちの守護です。名乗りなさい」

 エレノアは息ひとつ乱さず――そして空恐ろしいまでの殺気を放ちながら、それとは相克

する無心に似た落ちつきで、オーロから奪った槍を片手に持ち、それを魔女に向けて静か

に言った。

 魔女は足が竦んだ。

 動きを見切れなかったという次元ではない。魔女にはエレノアが何をしたのかさえ見えな

かった。気付いたときには自分の動きを封殺され、それと知ったときにはすべてが終り、目

の前に彼女が立っていたのだ。

 産まれながら動体視力に恵まれ、その点で種としての成り立ちから他者を圧倒し、優位

性を与えられた魔法師の彼女が、これほどまでに自分の無力さを感じたことはなかった。

733みやび:2007/04/18(水) 16:04:26 ID:kdAwyVYo0
◇――『赤い絆 (10)』――――――――――――――――Red stone novel[10/11P]

 エレノアは続けた。

「口がきけないの? それとも――」

「私は……」魔女はやっとのことで言葉を発した。全身に嫌な汗をかき、膝まで笑っていた。

 その動揺をなんとか悟られまいと、魔法使いは必死で心を覆い隠した。

「私の名はシーラ。スマグの魔法使いです……あなた方の敵ではありません」魔法師の格

式にならったお辞儀をした。「ある意図をもって参りました……どうか武器をお収めください」

 エレノアが槍を下ろすと、それを合図にマリアが走った。

「お母さん!」

 娘は駆けつけるなり母に抱きついた。

「まあ、お客様の前で! とっくに“おしめ”はとれたと思っていたのに……」

 そうしながらも、エレノアが自分に対していつでも動ける体勢でいることをシーラは感じた。

 もっともそれはマリアにしても同じだった。彼女の肩には逆さ向きにナイフのシースがあり、

母親の首に回した手の片方が、その柄のすぐ近くにあった。

 そこにオーロもやって来る。

「マリア、少しは気をきかせろ。お前はいつでも顔を合わせているだろうが。俺とエリスは久

しぶりの再会なんだぞ。もっと年長者をたてろ」

 この男にしても、マリアの腰に手を添えながら、実は彼女の腰のタガーをまさぐっている。

「あたしだって、ついこのあいだ再会したばかりよ。二年も離れていたんだから」それからわ

ざと考える仕草をして、意地悪な笑みを浮かべた。

「ねえ隊長……もしかして、まだお母さんを諦めていないの?」

 オーロはエレノアと目が合い、あたふたして言葉を詰まらせた。

「わかりやすいのね。まるで恋をする少年みたい」

 マリアがくすくす笑う。

734みやび:2007/04/18(水) 16:05:01 ID:kdAwyVYo0
◇――『赤い絆 (10)』――――――――――――――――Red stone novel[11/11P]

 オーロはあえてそれには触れず、「エリス、あの馬車はきみのか?」そう言って馬車のほ

うへと歩き出した。照れてるの? という部下の台詞に背を向けたまま片手を振った。

 そのうしろ姿を見送り、また母娘たちに視線を戻し、シーラは彼らの大らかさを感じ、何よ

りその活力としたたかさを知った。

 たしかに彼らのような生命力にあふれた者でなければ、得体の知れない大きな流れには

抗えないのかもしれない――もっとも母親のほうは化け物じみているが……。

 自然とそんなことを考えている自分に気付き、シーラははっとした。

 ゲンマ様は弓使いを連れて来いと言ったが、もしかすると何もかも見えていたのではない

か――そんな気がしてくるのだった。

 エレノアは娘を引き離して言った。

「そうそう少年と言えば、途中で面白い子を拾ったの」

 馬車のほうから「これは何だ、死体か?」とオーロの声。

「まあ、似たようなものね。捨てないでよ」エレノアはオーロに言うと、娘に向き直る。

「とにかく行きましょう。隠れ家にもあまり長居はできないと思うから……」

 娘はうなずき、ふたりは歩き始めた。

 しばらく行ったところで立ち止まり、エレノアが振り返った。

「どうしたの? あなたも来るのでしょう……?」

 エレノアにうながされ、シーラは彼らのあとを追った。







◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

735みやび:2007/04/18(水) 16:05:48 ID:kdAwyVYo0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『赤い絆 (10)』

 ――あとがき――

 どうもアクションが入るとテンポが崩れます……というかアクション苦手(泣) ただでさえ
苦手なのに、みんな普通の動きしないんだもん(汗) とまあ、泣き言ばかりもいってられな
いので、慣れるしかないですね……。
 あと回紹介のアンカー、記号をミスしてました……。ごめんなさい(汗)
 今回からハイフンに訂正。気付くの遅いぞ自分(汗)

>レス消費してるのでここで……68hさん
 サイトは……難しいかも(汗) 今は書いてここにUPしてるだけでキャパぎりぎり(汗) 

 ここにもリディアファンが!(なぬ)
 実は私も68hさんと同じ事を考えてました。ここはひとつ嘆願書でも……(笑)

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

736◇68hJrjtY:2007/04/18(水) 17:38:38 ID:t6njJVe60
>みやびさん
ついに4人が勢ぞろい…と思いきや、予想外の展開でシーラまで!これは益々今後が楽しみです。
いやー、エレノア登場シーンは驚いたというか、待ってましたという気分で読ませてもらいました。
これはもう戦闘シーンという単純な言葉で言い表せない超常現象みたいな感じですね。
つくづくエレノアの人間離れした身体能力にただ脱帽です(汗)
やっぱりお母さんしていても傭兵であってファースト・ランサーなんだなぁ。カッコいい…。

作中のモンスターはゴートマン系でしょうか?
私はバフォを叩いたことはないし見たことも無いのですが、
街行くテイマさんがたまに連れている全身緑色のゴートマン(?)がなんかやたら強そうなイメージがあります(笑)

あ、リディア1/1化に署名させてください(笑)

737姫々:2007/04/19(木) 01:10:39 ID:Cc.1o8yw0
物凄く忙しかった上にネタが浮かばず四苦八苦'`,、('∀`;
書きやすいと思って書いてみると想像以上に短くなってしまってどうしようかと
迷った所、「あの辺」の「あの敵」絡みのイベントを作ってみたらどうだろう。
とか思いつつ書いてみました。>>487-491から続きます。今更ながら1ヶ月近く
空いてたのか…。まぁハノブ編です。行ってみます。
・・・
・・・
・・・
「なるほど。ハノブは鉱山街というわけですね?」
「ああそうさ、ここは鉄鉱の街ハノブ、さらにミスリル鉱が採れる唯一の街でもある、
 まあこの通り、残念ながら観光施設はないけどね」
私達は笑顔を見せて話す中年の人のよさそうなおじさんと話していた。
「さて、本題ですがあなたがクリスティラさんと言うのは間違いないのですね?」
「はい、さっきも言ったとおり、私がクリスティラです。それで、僕に何か用ですか?」
ふむ、と腕を組んで首を傾げつつ言う。私はクリスティラと言う名前から、女の人を
想像していたのだが、予想に反してクリスティラさんは男の人だった。まあグレイツと
違っていい人そうだし私としては大いにオッケーなんだけれど。
「それが、アイノの報告書についての話を聞きたいのです」
「アイノ…。なるほど、あなた達もレッドストーンを探す冒険者という訳ですか。」
雰囲気が変わった、なるほど。アイノの報告書について調べているのは本当らしい。
「どのような物なのですか?あるなら出来れば見せていただきたいのですが…」
「う〜ん…、まあかまわないけど…、実はまだ完成していないのだよ…」
「完成?あなた、仕事は何をしているのですか?」
「僕の仕事かい?写本家さ、けどまあ依頼次第で古文書の解読や復元も行ってるのさ」
眼鏡をくいっと指で上げつつ、そう笑って答える。
「まあさっきも言ったとおり報告書は完成していないんだよ。しかも数年間探している
 のだけど残りの3ページ、纏めの項が手に入らなくてね、完成しないんだよ」
今度は「はぁ…」とため息。なかなか表情豊かな人だ。
「そうだなー。その報告書が完成した暁には、君に差し上げようじゃないか。」
そう笑顔で言ってくれる。
「いいのですか?」
「もちろんさ、…まぁ写本だしね、1冊あれば何冊でも作れるのさ」
はっはっはと笑って言う。
「しかし…、ありそうな場所に検討はついているのですか?」
数年探して見つからなかったと言う事は、そんな簡単に見つからないのでは
ないのだろうか?しかし、予想外の言葉が口から出る。
「いや、見当は付いてるよ。1年近く前に情報は手に入れたさ。けどね…」
はあ…とため息をつき次の言葉を言う。
「何か問題でも?」
「う〜ん…、場所はここの北西。スウェブタワーに保存されている。問題はそこにたどり
 着くまでのタワー洞窟と呼ばれている洞窟なんだよ」
「そこに何か強力な魔物でもいるのですか?」
リリィそう尋ねると、いや…と首を振って言う
「いるのは盗賊さ。1年前までは大した事なかったんだけど1年前から急に統率が
 取れるようになっちゃってね、厄介な事に通ろうとするたびに襲われるんだよ、
 まあ運がいい事にそこまで残虐な連中ではなくてお金以外は何も取られないんだけどね」

738姫々:2007/04/19(木) 01:11:10 ID:Cc.1o8yw0
「他に道は無いのですか?」
リリィが尋ねると、ため息混じりに首を振り、「残念ながら…」と言うのだった
「あの塔の周りは高い山と、流れが急な大きな川に囲まれていてね…、地下洞窟を
 通るしか道は無いんだよ…」
なるほど…、つまり必ず盗賊に襲われる…というわけだ。
「どうする?リリィ…」
と私がリリィの方を見上げて言うと、リリィは「ふむ…」と左手を右腕の肘辺りに当て、
右手を口元に当てて考えた後に手を下ろし、フッと笑い言う。
「ルゥ様のご意志のままに。どうなされますか?」
リリィは私に答えを求めている。なら、私の答えは一つ。
「行くよっ、私は。リリィも来てくれるよね?」
そう答えると、満足そうに笑みを浮かべて言う。
「ええ、姫のご意志のまま、このリリィ。何があっても貴女を守りましょう。」
いつか前にも聞いた気がする。だから私もこう返すのだった。
「うん。その言葉、前も聞いたよ。だから私は行くって言ったの。リリィ、信用してる
 からね!」
その台詞にリリィは一瞬キョトンとしたような表情をして、数秒後にハッと我に帰って言う。
「姫…、それは勿体無い御言葉です…」
そう言って、俯くリリィ。
「あれ?別にそんな気は無いよ?って泣いてる?」
からかう気で言うと、案の定リリィは再びフッと笑い顔を上げる。
「私を泣かすなど、姫には10年は早いですよ」
『へー…、リリィの扱いちょっとは分かってきたねー、ルゥちゃん。リリィも油断して
 たら10年も経たずにルゥちゃんに泣かされちゃうかもよー?』
クスクスとスピカが私の服の中から出てきて笑いつつ、私達に言ってくる。
「ふふっ…、心配しなくとも。このように泣かされるとするのならそれは私の希望です」
『へー、リリィも言うようになったねー。11年前に私のところに面接に来たあの女の子が
 ここまで立派になるとは…。流石の私も想定外。』
11年前…ってリリィ13歳?そう言えば私の教育係って世話係も兼任してるから私が生まれる
前からお城にいることになるのか。
「ねね、スピカ、リリィってその頃どんな女の子だったの?」
私はスピカに尋ねてみる。そうか、リリィがセラ位の歳の時から私の事見てくれてるんだ。
そう考えると興味が沸いて来たのだった。
『えー、そりゃもう不安の塊だったよ?なんたって喜怒哀楽が無い上に突然突拍子も無い事言うし。
 育てられるルゥちゃんの将来が不安になったものよ。あの時は真面目に年齢制限付けとくんだった
 って後悔したものよ、まったく。』
「む…、スピカ、言いすぎです。そもそも私は姫にお使えす事になる事自体想定外だったのですよ?」
『あははは、そういやそんな事ずっと前に言ってたねーっ。』
「ええ、城にお使えし始めてすぐにスピカには話しましたね。あの頃はよくスピカに相談を
 聞いてもらっていましたし。」
と、二人は笑って話をしている。はっきり言って私は話についていけない。
「ねねっ、スピカ。私にももっと詳しく話してよ」
そう言うと、クスクスとスピカは笑いつつ話し始める。
『じゃ、話すね。えーっとねー……』
と、そこまで言って「コホン…」と咳払いが聴こえた。…忘れていた、そういえば
私達はクリスティラさんと話をしていたのだった。そしてスピカはと言うと、
『(また今度はなしてあげるね)』と私に耳打ちして、私の服の中にもぐりこんで行った。
「僕は話していいのかな?」
「すみません…、どうぞ。」
リリィが頭を下げている。それを見て私とセラも頭を下げる。
「では本題です。雰囲気でだけれど僕より君達の方が圧倒的に強い、今話していた相手は妖精か
 何かですか?」
「あれ?あなたにも見えたのですか?」
リリィが尋ねている。そういえばスピカって私達とロマにしか見えないんだっけ。
「いや、あれだけ大声で何も無い方向に向かって話していたら誰でも分かるさ。とりあえず
 行ってくれるのかい?」
そう言われると、今度はリリィは「はい」と即答する。
「では。頼んだよ、スウェブタワーへ繋がっているタワー洞窟はここから北東へ行けばいい」
そう言い、手を振って私達を見送ってくれるのだった。

739姫々:2007/04/19(木) 01:12:39 ID:Cc.1o8yw0


タワー洞窟へはハノブを南に出てそこから北東に真っ直ぐ行けばいい。
それに、盗賊団がいる洞窟はすぐに分かった。洞窟の入り口に、「宝物を取られた」と泣いている
貴族の男の子がいたからだ。しかし、宝物を紛失すると予感していた執事さんが、宝物は模造品
に摩り替えていたらしいのだが、それを男の子は本物と勘違いしていて、摩り替えた事を話しても
それは嘘だと信じないのだと言う。
「――と言う事なのです…。お願いできませんか?」
「はい、私達もこの洞窟を通りますし襲われたら取り返しましょう」
「ありがとうございます。盗まれた場所は洞窟の中腹辺りです。少し道幅が広くなる所に盗賊は
 出ますのでお気をつけください。盗賊の頭の名前は『カスター』と言います。」
そう深々とお辞儀をされ、私達は洞窟の中へと進んでいくのだった。

「ねー…リリィー、あの子ホントに助けるのー?」
「不満そうですね」
「だってさー。あの男の子泣いてばっかりなんだもん、情けないったらありゃしないよ…」
私はリリィにそう言う。
「まぁその気持ちは分からなくも無いですが…、どうせ私達の前にも盗賊は立ちふさがるでしょう、
 取り戻すのはついでですよ。――セラっ、後ろは異常ないですか?」
リリィが後ろに尋ねると、「はいー、大丈夫ですよー。」と、セラの声が返ってくる。
「なら合流してください。スピカが言うにはこの先に広場があったそうです。」
「はーい、了解ですー」
ちなみにスピカとリリィはこっちの星に来た時から連絡用の魔力のラインを繋げているそうだ。
それで私のピンチをすぐリリィに知らせることが出来るようにスピカは常に私の服の中にもぐり
こんでいるらしい。
「さて、多分そろそろ――…」
その台詞を途中で切り、リリィがバッとローブを翻し振り返る。
それと同時、『ギィイン』という金属のぶつかる音が鈍く響いた。
「いつもと別の杖を装備していたのは正解でしたね…」
呟くリリィの右手には鋼で出来た、1メートルくらいはありそうな杖。
「くっ…ウィザードか…運が無いなあ…、まあいいや。金を出しな、命が惜しけりゃね」
リリィと向かい合うのは、盗賊というには派手な服装で身を包んだ――、
「子供?」
リリィの前にいるのは、私とそれほど身長も変わらない女の子。多分歳も大差ないだろう。
長剣を構えてはいるが、どうも背丈に合っていない。使っているというより使われている感じがする。
「あーっ、子供って言ったなーっ!!!!!これでも盗賊の頭なんだぞっ!!!」
「なっ…、あなたがカスターとでも言うのですか…?」
リリィはと言うと困惑を隠しきれていない。そして私は、ふと後ろを見ると、なにやら
微妙な表情を送るカスター(?)の部下達が数名いる。
「本当なのですか?」
そうリリィが言うと、後ろに控えているカスター(?)の部下達は一斉に首を縦に振った。
「最初に言っただろーっ!!…もういい、金出せっ!」
そう叫び、カスターはリリィに右手の長剣の切っ先を向ける。
「はぁ…。」
とリリィはため息をつき。杖をいつもの小さい杖に交換している。
「まぁ…、私達もあなたには少し用がありまして…、不本意ですが相手をしましょう」
「ふんっ…、ウィザードの癖にー…。あんた達は手を出さなくてもいいよっ!!」
そう後ろに控えている子分っぽい男の人たちに叫びかけると、ブンッと言う音が聞こえて来そうな
勢いで首を縦に振っていた。
そしてそれと同時、タンッと地面を蹴ってカスターが長剣を右手に構えてリリィに突進してくる。
「――。速いですね…、これなら一般人からお金を奪う事くらいは簡単そうです…」
そう呟きつつも、カスターの攻撃を軽々と左に避ける。
「でもまぁ…、相手が悪かったですね。」
そう言いつつリリィはすれ違いざま、避けると同時に足を出してカスターの右足を引っ掛けていた。
「あっ―…」
ドシャっと言う音と同時に派手に転ぶカスター。うわ…顔から転んだ…。痛そう…。
転んでいるカスターはピクリとも動かない。そこにリリィが傍にしゃがみ込みつつ尋ねる。
ちなみに杖は再び鋼の杖に交換していた。
「あら大変、痛かったですか…?」
「痛い・・・・・・・」
グスリと呟くカスター。なんだか哀れ……。

740姫々:2007/04/19(木) 01:14:02 ID:Cc.1o8yw0
「痛いならアースヒールをっ…―――っ!!!」
リリィは後ろにバックステップ。その直後、リリィがいた空間を剣が横に凪ぐ。
「うわぁああああああああああああああっ!!!!!!!!」
カスターは叫びながら闇雲に剣を振り回す。そして、リリィはと言うと一歩、また一歩と後退させられている。
「くっ…、あまりケガはさせたくは無いのですよね…。」
リリィはそう呟き、さらに大きくバックステップして間合いを外す。そして手を天井に向かってかざすと
ヒュンと言う音と共に、リリィの姿が一瞬視界から消え、カスターの背後に現れた。
そして、杖を地面に突き立て、カスターを羽交い絞めにする。
「なぁっ!!!離せーっ!お前達っ、手ぇ貸せっ!!!!」
「えぇっ!!姉御の剣を避けるような奴ですぜっ!!?」
「今はこいつも動けないだろっ!!お前達にもいけるよっ!!」
「へ、へいっ!!」
その言葉に押され、下っ端っぽい男の人たちが一歩目を踏み出したとき、リリィが顔だけ振り向いて言う。
「来るのは自由ですが、その時は頭上に注意してください。」
と。声の調子はいつもと変わらない、しかし、男の人たちの足が止まった。リリィの横に突き立て
られた杖が、「これ以上近づくな」と言わんばかりに発光しつつ、バチバチと帯電していたからだ。
「姉御…、やっぱ無理そうっす…」
そう言い、踏み出した足を再び引いた。
「あーっ、もうっ!!っ…、痛いいたいイタイッ!!放せーっていうか放してー…」
羽交い絞めにされ、喚くカスターも元気が無くなって来た。というかもはや羽交い絞めでは無く
完全に捻り上げられている。ちなみにさっきも言ったようにリリィのすぐ横には物凄く高圧そうな
電流を纏う杖が一本。確かリリィの指示一つで範囲内の敵全てに雷を見舞わせる優れものとか聞いた
気がする。そして杖を手から離しても魔法を使えるようになるのに苦労したとか何とか聞いた覚えがある。
「まったく…、少々おいたが過ぎましたね………」
「はーなーしーてーっ!!!!」
リリィも呆れ顔で未だ喚き続けるカスターの関節を極め続けてる。ていうかリリィってこの辺の護身術
的なのも出来たのね。…あんまり必要なさそうだけど………。
と、その時、私の背後に気配。まぁ誰かはすぐに分かったけど。
「はぁ…うぅ……」
セラが疲れた顔でトボトボと私の横に並んだ。
「うわ…、どうしたの?セラ…」
「いえ…予想以上に離れてたんですね〜…走って疲れちゃいました〜…」
…離れてるって言っても私達が洞窟入って10分も歩いていない気がするんだけど……。と、考えていると
ケルビー&へッジャーと眼が合い―――そして目線をそらされた…。
(思い出した…、セラって物凄い方向音痴………)
思い出したのはセラと初めてあったときの事…。もはや何も言うまい…。この子はこういう子なんだ…。
「って、そんな事言ってる場合じゃないよセラっ!!カスターが出てきたのっ!!」
と、私が言うとセラがふら付きつつ、周りを見回して言う。
「はい〜…?分かりましたー…。盗賊のカスターさんってどなたですか〜…?」
「カスターはあそこでリリィに組み伏せられてる女の子」
まぁ一目見てあれを盗賊の頭と認識するのは普通は不可能だろう。が、セラはさらに首を捻る。
「くそぉおおお!!!!!!ウィザードなんかにぃいい!!!」
「なぁっ!!ぐ……、暴れないでください…、あまり痛い思いはさせたくないのですからっ!」
リリィはと言うと暴れるカスターと依然格闘中(と言っても圧倒的にリリィ優勢)。
「あのー…」
そこにセラが近寄って行く。
「セラ…、すみません…、立て込んでいるので少々待っていただけませんかっ……つぅ…」
「あたたたたっ!痛い痛いっ!!!」
「すみません…、通していただければこれ以上は何もしません。通していただけますか?」
「っ…!!!お前らのせいでぇえっ!!!」
と、そんな攻防が繰り広げられ…いや、どっちかと言うと攻と防とはっきり分かれているけれど。
そしてそんな中、セラがさらに話しかけ続ける。

741姫々:2007/04/19(木) 01:14:31 ID:Cc.1o8yw0
「久し振りだねー…」
と。
カスターはその言葉に「えっ…?」と反応し、急に静かになってしまった。
「お知り合いなのですか…?」
「はい、なんたってこの子は――」
「『私の妹ですから』とでも?お久し振りですね。」
静かになっていたカスターが急に口を開いた。いや、今はそんな事より、その言葉が聞き違いじゃ
なければカスターは…。
「うん…、久し振り。タスカちゃん。」
「………」
「………」
(タスカ…?あぁ…、逆から呼んで伸ばしたらカスターか。安直だなぁ…)
洞窟内に沈黙が流れる。セラの顔からは笑顔が消え、真っ直ぐにカスター…いや、自身の妹、タスカ
を見つめている。タスカはというと、目線を逸らしてセラを見ないようにしている。
そしてリリィはタスカを開放して私の隣に戻ってくるのだった。まぁ…、感動の再開と言うには程遠い。
「なんでこんな所に「神すらも召喚できる存在」とまで言われたあなたが?」
「それは……偶然だよ、タスカちゃん…。」
「そう…、なら私にもう関わらないでください…。襲ったのは謝ります。どうぞ、通ってください」
そう言いカスター…もといタスカは私達の横をすり抜け、走り去っていってしまった。
「セラ…」
私はセラに歩み寄る。
「あはは…。嫌われちゃってますねー…」
そう言い、顔を伏せるセラ。私は言葉を選ぼうとするけど、気が聞いた言葉なんか浮かんでこない。
「セラ…」
私は名前を呼ぶことしか出来なかった。
「ごめんなさい…、少しだけ時間をください…」
そう言うセラの声は震えている。泣いてる…?いつも笑顔を絶やすことの無かったセラが…?
「‥‥‥」
私はセラの名前を呼ぶことすら出来なかった。何がどうなってるのか分からなくて、口が動かなかった。
「ルゥ様、少しの間セラに付いていてあげてください。」
その言葉で私は我に帰り、背を向けていたリリィに問いかける。
「リリィ、何処に行くの?」
私は尋ねてみると振り向き言う
「カスター…、いやタスカを追います。彼女は孤独を選ぼうとしています、私も友達などいません
 でしたし教育係の知識も乏しく、姫をお城に縛り付ける事になってしまいました。」
「私も出来る限り姫の悪戯にはつき合わせていただきましたが、その程度の事でどうにかなる物でもなかったでしょ  う…。今でもそれが心残りなのです。」
それって私の悪戯にわざと引っかかってくれてたってことだろうか…、何となくありえる気がする。
っていうかリリィの言う事なんだから事実なんだろう。それにこの旅も何だかんだ言って手伝ってくれてる、
お城を出る時は鬱陶しいと思ってたけど、今では感謝してもしきれない位リリィには感謝してる。
「ケルビー、ウィンディ、スウェルファー、へッジャー、二人を頼みますね。」
リリィはそう言い残し、タスカの走り去って行った道を辿るのだった。
・・・
・・・
・・・

742姫々:2007/04/19(木) 01:18:52 ID:Cc.1o8yw0
とりあえずパート1は終わりってことでお願いします。
なんかスレ物凄い進んじゃってますけど時間も無いので
感想はまた今度の機会でお願いします…。

設定に若干無理があるきがしなくも無いですし前までの話忘れられてる
かもしれませんけどキャラ設定だけ覚えていてくれたら読めなくは無いと
思いかなー…とか思いつつ(いや設定すらも忘れられてたら責任持てません)。

一応流れは出来たと思うので頑張ってできるだけパパッと書いていきます。
では今回はこの辺で。

743◇68hJrjtY:2007/04/19(木) 09:49:16 ID:t6njJVe60
>姫々さん
いえいえ、お待ちしていましたよ!お久しぶりです。
ルゥとリリィとセラの3人は忘れようにも忘れられませんよ(笑)
アイノの報告書、支援職でソロでメインクエを進めていてついに詰まったところです(早)
狩り系は支援職にとっては辛いの一言…というか、メインクエ自体ソロだと飽きる飽きる。
ルゥたちみたいに楽しく進めたいものですね。

カスターが女の子っていうのも意外でありつつ面白い設定ですね!
あの洞窟はブラーやタゲ回避装備が無い頃は抜ける事すらできなかった…orz
無課金にとってはメインクエで行き来する場所なんだから、もっと安全な道を作って欲しいです(泣)

無理はなさらずにゆっくりでも構いません、続きお待ちしています。

744みやび:2007/04/21(土) 08:47:22 ID:6eqFSRBo0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>68hさん
 墓所から持って来たモンスはご推察の通りゴートマン系です。(鎌の描写は変えてます)
 たぶんUPデート前まではそこそこ使えたはず。でも今は特技がAI依存に……。
 私もファミ使いではないので、今回の修正でペットは役立たずになりました(笑) もう連
れて歩くだけの本当のペットです。あははは。(笑うしかない……)
 バフォは……う。あれを登場させるのはある意味チャレンジャーですね。いやデザインが…
…(汗) ギャグなら出したいけど(笑)
 署名ありがとうございます。うひひ。あっ……携帯さんぶたないで(汗)

 エレノアは……。実はその強さにも秘密があるのですが――ってあまり言うとネタばらし
になるのでコレ以上は自粛(笑)
 しかし私の小説っておじ様だけでなく、おばさんまでメインキャラだな(汗)
 ちなみにミゲルは四八五三年生まれで享年七八。エレノアは四九〇三年生まれの現在
四一(見た目には二十代後半から三十前半ですけど(笑))。
 む……。一応ストーリーの年表に沿って人物の年表もあるのですが、ちゃんと出したほう
がよかったのかな(汗)

>姫々さん
 お疲れ様です。
 まさかカスターの正体がそんなだとは予想ガイ(笑)
 しかしセラたち姉妹の確執はもちろん気になるところですが、なにげにリリィの過去の話
が気になる……。また今度、って、スピカはちゃんと話してくれるのかしら(笑) 楽しみに
してます。

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

745意気地も名も無し:2007/04/21(土) 12:07:48 ID:Bo.D9pLc0
A・Kの記録
>>573 >>586 >>597 >>601 >>712

※この小説はネタバレを含みます。

4月5日

「・・・!」
「・・・!□○#%$!!!」

・・・

「っるさいですねぇ・・もうちょっと静かにしてくださいよ・・」
先ほどから男がうるさい。怪我人相応の振る舞いをしようや。
「ええい!寝ている場合じゃない!」
男が怒鳴り散らす。
「いいか!?よく落ち着いて聞けよ!?落ち・・」
お前が落ち着け。
「エルフ王宮のエルフ達が、今このあたりに・・いる!」

・・・・
はっ(笑

「おい!寝袋に入るな!たき火を消すな!寝るなーっ!」
「冗談も程々にしないと、凍らせますよ」
多少ドスを効かせて喋る。
こっちは眠いんだ。くだらん嘘で「エイプリルフール!」と言うつもりだろうが、
私は騙されないしエイプリルフールはとっくに過ぎた。

「えっ・・えぇー!?今の話、ホントですか!?」
・・いたよ、ド天然・・
「ああ、お嬢ちゃんは信じてくれるようだな!この男は置いてとっとと逃げよう!」
こんの野郎・・貴様を治療したのは誰だと思ってる・・
一度根性を叩き直す必要があるようだな・・

男を氷漬けにすべく寝袋から這い出る。
・・
寝袋の布が擦れる音に混じって、一つ異様な音。
・・・弓を引いて・・
後ろ側で何かが崩れる。
振り向くと、焼けた岩の塊があった。
・・あの炎は、見覚えがある。
「ケル・・ビ・・?」
私の隣で、ティムが絞ったような声を出した。

チロチロと燃えている小さな火が踏みつぶされる。
装飾された弓、短剣。
特徴的な鋭い目と長い耳。
「ほ・・ほら見ろ!来ちまった!」
男の悲鳴が聞こえる。
ティムの泣き声も聞こえる。

会長・・もしかしてコレもアンタの・・?
夕闇の空は赤黒く不気味に光っていた。



「へっくし!」
「どうしましたか、会長?」
「あ・・ああ、ゴメン。なーんか噂でもされてるのかなー」
「きっとこの前秘密隠蔽のために消した組織の残党でしょう!」
「そうかなー あっはははは」

無関係そうだ。


続く

746◇68hJrjtY:2007/04/21(土) 13:39:01 ID:QpyyJUzc0
>みやびさん
おぉ、キャラの生年表まで完備ですか!流石です。
私もそうなのですが、友人に小説などを書く時は登場人物の設定を細かくすると良いと聞きました。
生年月日ももちろん血液型や何が好き・嫌いなど色々書いておくと後々便利だとか(笑)
思いついたストーリーを先行させてしまう私にはとても真似のできない芸当です。

できれば年表も見せてもらいたいなぁ、なんて。もちろんできればで結構ですよ。
…あ、携帯さんには私が先にぶたれました(笑)


>意気地も名も無しさん
エルフはほんとに逃げても逃げても追いかけてくる嫌な奴です(泣)
しかしケルビーが一撃ですか。これはピンチですね。
「秘密隠蔽のために消した組織」とは…これはこれで怖いです(汗)
さあK君、ティムに良いところを見せるんだっ!

全然関係ないですが、召喚獣ってどうしてもポケ○ンを連想してしまいます(笑)

747意気地も名も無し:2007/04/21(土) 20:00:53 ID:Bo.D9pLc0
A・Kの記録
>>573 >>586 >>597 >>601 >>712 >>745

※この小説はネタバレを含みます。

4月6日

・・あんのガキ・・
とんでもない試練をよこしやがったな・・
スケールでかくね?エルフ王宮だよ王宮。
ひょっとしてあのガキ、かなり強いんじゃないの?
「ケルビー!」
そんなことを葛藤している間に、ティムが焦げた瓦礫の山に駆け寄る。
「おいっ!危ないぞ!」
瓦礫の上に立っていたエルフがティムを睨んだ。
「そこを・・どいてッ!」
ティムが笛をエルフに向ける。
同時に、その両脇を猛スピードでファミリアが駆けていく。
ちょっ・・ファミ顔が赤いぞ!そもそも全身が赤い!
ケルビーと言う仲間をやられた怒りってか!
少年漫画っぽくなってきたな・・(注※唐辛子です。

そう思っている間に、ファミリア二匹はエルフの懐に潜り込む。
「そこをどいてっ!どいてったら!」
ティムの叫びと共にファミリアがエルフを突くが、
エルフは涼しい顔で避ける。避けて避けてさけまくる。
「どいてっ!どいてよっ・・!」
・・!
泣いているのか・・
・・可愛いじゃないか。
お兄さん好きだよ、そういうの。泣き顔っての?

「あ・・あんた!何やってるんだ!?早く助けてやれよ!」
男がわめく。
私は黙って杖を持ち替える。
持久性と軽さを重視した山登り杖から、
魔法専用の強力な魔法杖・・
名前はなんだっけな?曰く付きの品だと言って、ゲンマの痴呆老に渡されたヤツ。
カースド・・ブ・・ブラ・・?まあいいわ。ブラジャーじゃないだろうしな。
「おい・・『エルフ達』ってことは、まだいるんだよな?」
エルフは必ず集団で行動する。
あのティムが戦っている、青がかった服を着るのは区画のリーダー的役割の・・『巡視』!

・・・仕方ないよな。
コレを・・

カバンから赤いドロドロしたものを見つけ、つかみ出す。
「・・使いたくなかったんだけどなぁ・・・レアだし・・キモいし・・」

私は決心したように頷くと、『それ』を飲み込んだ。

「どいてよ!どい・・えっ・・」
その場の全員が、超高水圧の壁に包まれた。
「30秒だ!伏せてろ!」
とっさに伏せたティムや男を確認する。

グレートフォレストに、超巨大な隕石が降り注ぐ。
エルフが潜んでいそうな木陰、岩陰、洞窟、廃墟、全て焼き尽くす。
水壁が蒸発し始めた。
・・あと5秒!
パナパレ・・私を導いてくれ!

そのころの会長
「会長ゥー!会長ゥー!」
「はーい、マンガ買ってきてくれたぁ?」
「はい!最新巻ですよ!どうぞー!」
「うわー、楽しみぃ♪」
「・・ところで、グレートフォレストが焼けているとの情報が・・」
「ああ、そう!?あそこのエルフ達、いつか消そうと思ってたからなぁ。
丁度いいや、誰かは知らないけど感謝感謝、ヒヒッ。」

天然だった。


感想をくれる方々、ありがとうございます。
稚拙な文章ですが、これからも暖かい視線でみてやって下さい。

748◇68hJrjtY:2007/04/21(土) 23:12:57 ID:QpyyJUzc0
>意気地も名も無しさん
おっと、執筆中に感想レスしてしまった…ごめんなさい。
K君カッコいいよ!パナパレも一発で惚れてくれるよ!
…しかし、火災が物凄いことになってるみたいですが(笑)

ところで私も「ブラー装備」というのを初めて聞いた時ブラジャーなのかな?と驚いた記憶がorz
でも装備したら…。うわぁああぁあ!

749マッパ丸:2007/04/22(日) 18:44:51 ID:gDTYAOaQ0
http://m-pe.tv/u/m/bbs/read.php?uid=098765432109876&id=2&tid=55

セフレ募集
テクには自身あります^^

750みやび:2007/04/22(日) 20:43:25 ID:YR6xplWU0
 ――本編――
 ●『赤い絆(01)』>>424-436 ●『赤い絆(02)』>>477-483
 ●『赤い絆(03)』>>529-532 ●『赤い絆(04)』>>607-612
 ●『赤い絆(05)』>>624-630 ●『赤い絆(06)』>>659-666
 ●『赤い絆(07)』>>671-680 ●『赤い絆(08)』>>683-688
 ●『赤い絆(09)』>>700-710 ●『赤い絆(10)』>>724-734

 ――設定(全作共通)――
 ●小道具、固有名詞など>>495>>497

 ――関連作:番外編――
 ●『愛のしじまに』>>575>>583

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『赤い絆 (11)』―――――――――――――――――Red stone novel[1/7P]


    第三七記録保管所《スマグ》 公開記録

      記録ナンバー 〇五三五九〇−R
      区分 ラセン ※旧区分――レッド・ストーン
      内容 ラセンに関わった人々の個人記録


 ――編者まえがき――

 人というのは主観で物事をとらえる生き物だ。

 言い方を変えれば、ごく一部の天才たちの脳内で繰り広げられる空想や夢想といったも

のを除き、人間は主観という絶対座標を無視しては、時間や空間を理解することはもちろ

ん、感情や愛さえも認識できない、無知で盲目で無力な生き物になり果ててしまうだろう。

 つまりそうした個々の観点では、人は誰しもが自身と他者とのつながりをその血と、関わ

りをもてる範囲での愛する者とそうでない者とに分けることでしか認識できないのだ。これ

はある意味では真理であり、知性をもった生き物を幸福にする解決策であるのと同時に、

人類として進化するうえでの限界と制約を定めた戒律でもある。

 もし仮に、その視点を“ふかん”にまで高め、命の営み全体を眺めることができれば、彼

や彼女は人類という存在を、すべてがつながったものとして連鎖する鎖だと理解することが

できるはずだ。

751みやび:2007/04/22(日) 20:44:33 ID:YR6xplWU0
◇――『赤い絆 (11)』―――――――――――――――――Red stone novel[2/7P]

 それら普通の人々が――もちろんそのなかには私やあなたも含まれるわけだが――そ

れと認識することなく偶然や必然といった名のもとに繰り返している連鎖と関わりの連続に、

ラセンがいかに介入し、また有効であったかについてはここでは言及しない。

 本書の存在意味は単なる記録であり、その役目を果たしたうえで、記録の利用者がどう

感じるかは個々の感受性に委ねられている。

 少なくとも私自身は、哲学的な思考を抜きにしても、ラセンに関わった彼ら――なかでも

その中心にいた彼らに関する記録を手にするとき、仕組まれた意思というものを感じずに

はいられない。

 それがいわゆる“神”と称するものの御手による壮大な計画――ミス・プルート・ミツに言

わせれば“企み”だそうだが――かどうかは別にして、時代の流れの分岐点となるところに

は必ず彼らのような人々の存在があり、その記録を追うことで、彼らをとりまく人々の関わ

りが、そうした鎖のそれぞれを構成するピースであることを垣間見ることができる。


 それを知るうえで、ラセンに関わった彼らの記録、あるいはそれに附随する物語を読ん

だ者にとって、このひとりの少年に関する短い記録は興味深いものになり得るだろう。


    編者 記録保管所司書室・補佐 ハイハイ・ベルリ十一世

752みやび:2007/04/22(日) 20:45:36 ID:YR6xplWU0
◇――『赤い絆 (11)』―――――――――――――――――Red stone novel[3/7P]

 ――ある少年の身のうえ話し――

    *編者註釈
     もっとも彼――リッツの実年齢はすでに二十一であり、一般的に少
     年と形容する歳ではなかったが、エレノアが初対面で彼を少年だと
     感じたように、その容姿は青年というには童顔過ぎ、また精神的に
     にもいささか未熟であったことは確かだ。

     また実際にエレノアその他、彼と関わった人々が“青年”という語を
     彼に向けて言った事実は確認されておらず、したがって当記録所で
     保管している彼に関する記録では、一貫してリッツ青年を“少年”と
     記述する。本文では口語による記録だが、彼に関する他の記録に
     ついても、それらが公正な記録であることを付け加えておきたい。
     なお、本文の口語的記述に関しては、ラセンより抽出した記憶を元
     にしており、あきらかにまちがいであると思われる単語の修正を除
     いてはほぼ当時の彼の言葉そのままである。



 ああ。育て親のことは覚えてる……本当は忘れちまったって、そう言いたいところだけど

ね。腹立たしいけど、思い出すことはできるよ……。

 俺を引き取ったのはハノブで雑貨店をやっていたアランと、それからマーサっていう欲張

りの夫婦だった。なにしろひどい親でさ。まるで人間の嫌な部分をすべて持ってるようなや

つらだったよ。

 本当の親のことは記憶がはっきりしないんだ。一緒にいられたのは俺が三つになるまで

の短いあいだだったから……。顔はぼやけちまって、輪郭しかわからない。でも、いつもそ

ばにいてくれる、温かいひとの存在はなんとなく覚えてる。もちろん俺が大きくなってから

は、人づてにおふくろがどんなに美しくて、すばらしい女性だったかを知ることはできた。

 俺のおふくろはフェアレディといって、砂漠で冒険者を相手にする娼婦だった。父親はわ

からない――きっと客のうちのひとりさ……。でもそのことを恨むつもりはないよ。おふくろ

は俺を愛してくれたはずだし、俺は産まれてきたことに感謝してる。

 それにさ。これは俺が少し大きくなって知ったんだけれど、おふくろは本当に娼婦が好き

だったんだな。数少ないおふくろの遺品のなかから、俺宛ての手紙を見つけたんだ。

753みやび:2007/04/22(日) 20:46:27 ID:YR6xplWU0
◇――『赤い絆 (11)』―――――――――――――――――Red stone novel[4/7P]

 内容からすると、それはおふくろの日記みたいにも見えるし、大人になった俺に宛てて書

かれたようにも思えた。

 とにかくさ、それによると、彼女はお金のために娼婦をやってたわけじゃないんだ。それ

は淫乱っていうのとは違うものだ。べつに自分の親だから庇うわけじゃないぜ? ――うま

く言えないけどさ……なんていうか、人間が好きだったのかな? まあ今の俺にも、おふく

ろが本当に伝えたかったことのすべてが理解できてるとは思えないけどね……。

 いや、この話しはよそう。流れがとっちらかっちまう。

 でさ、とにかくおふくろは、リンケンで俺の父親と出会ったらしい。名前はわからないけど、

そう匂わせることが手紙に書いてあった……。そのあと、俺を身ごもったおふくろはひとり

で各地を渡り歩いて、俺を育てる場所としてハノブを選んだんだ。

 彼女はハノブに腰を落ちつけて俺を産み、炭坑夫たちや旅行者を相手に娼婦を続けたみ

たいだな……。おふくろにとってはよほど幸せな時期だったみたいだ。手紙にはそのときの

想い出でいっぱいだったからね。俺も、そのままの生活が続いてくれていたらなって、今で

もたまに思うよ。そうすりゃ、もうちっとましな人生を歩いて、もっとましな人間にだってなれた

のかもしれない……。

 でもそんな幸せな暮らしも、俺が三つのときに終った――。

 ハノブに“竜”が現れたんだ――え? ああ、そうか、あんたたちは傭兵なんだっけ。それ

じゃあ知ってるわけだ……。

754みやび:2007/04/22(日) 20:47:13 ID:YR6xplWU0
◇――『赤い絆 (11)』―――――――――――――――――Red stone novel[5/7P]

    *編者註釈
     このとき、リッツはエレノアに同行してマリア、オーロ、そしてシーラと
     いう魔女――この名称については当保管所の記録から一般の「W」
     の項目を参照されたい――たちと、初めて顔を合わせ、エレノアの隠
     れ家で彼女の手料理を味わいながら、自分の身のうえを皆に語って
     いたところである。

     当文のように純粋な記録としての形をとるものについては、脚色とと
     られる危険性を回避するため、説明が必要な場合には註釈を外装す
     ることが望ましい。だが、物語好きな当司書はなぜか本文中の註釈
     を私に命じた。おそらくは彼女なりのこだわりがあるのだろうが、私に
     は理解できないことだ。ともかく、この註釈にはそうした経緯があるこ
     とを理解していただきたい。
     私としては、この編集が本記録の正確さに影を落とさないことを切望
     するばかりである。


 俺もこの歳にしてはけっこうたくさんの土地を目にしてきたし――あとで話すけど、シーフ

の仕事をしてたころには、冒険者並みに各地を飛び回ったもんさ。それでも竜の話しなん

て、年寄りや頭のおかしな連中のたわごとか、でなきゃ本の中でしかお目にかかったことは

なかった。

 俺はまだ三つだったし、この目でみたわけじゃないけどさ、当時の生き残りに話しを聞くた

びに、そのときに赤ん坊でよかったって思うよ……。俺が本当に恐いと思うのは、そいつの

狂暴さじゃない。いまどき山奥に入ればいつだってモンスターに出遭えるし、見た事もない

化け物に襲われる危険もあるからね……。だけどそいつは竜なんだ――骨だけなら今でも

見つかる。すでに絶滅してしまった大昔の生き物なんだよ。そんなのが今でもどこかで生き

ていて、人里を襲うってことが恐ろしいのさ。

 ハノブを襲ったその竜は、まさに化石でみつかる姿のままだったらしい。

 大きな屋敷くらいの巨大な体に、短くて太い足……そして長い首をしたやつだ。その首と

同じくらいに長い尻尾で、町の建物を紙屑みたいに粉々にしたって話しだ。とにかく悲惨だっ

たみたいだな……。

 そのときに、俺のおふくろも死んだんだ……。

755みやび:2007/04/22(日) 20:47:53 ID:YR6xplWU0
◇――『赤い絆 (11)』―――――――――――――――――Red stone novel[6/7P]

 ――うん。いや大丈夫さ。そりゃあおふくろを思い出すたびに寂しい気分にはなるけど…

…もう泣いたりする歳は過ぎちまったよ。

 それで、竜は好きなだけ暴れ回って、ハノブを壊してどこかへ消えちまった。結局は誰に

もその竜の正体はわからずじまいさ……。おふくろを含め、住人の半分以上が犠牲になっ

て、町を放棄する話しまで出たらしい。

 ま、あそこは鉱脈に恵まれてるから、最終的には復興したんだけど……当時は移住する

やつらも多かったらしいよ。

 そのとき、孤児になった俺を引きとって移住組みに入ったのがアランとマーサだった。

 やつらが俺を働き手として引き取ったんだって、すぐに気付いたよ――ちくしょう……思い

出すだけで腸が煮えくりかえるよ。

 とにかく俺は、その憎たらしい養父母に連れられてバリアートに移住した。

 あの夫婦は俺を牛か馬みたいにこき使い、なにかあるたびに俺をなじった。俺だけならま

だいいさ。でもあいつらはすぐにおふくろを引き合いに出し、侮辱した。

 やれ娼婦の子供だからお前は不出来なんだとか……お前の母親は淫売で、お前の父親

候補は腐るほどいるんだとか……まあそんなところさ。

 さすがの俺も、堪忍袋の緒が切れそうになって、十三のときにそいつらのところを逃げ出

した。もちろん前々から計画はしてたさ。けど、俺は待ったんだ。なんとかひとりでも生きて

行ける歳になるまでね……。

 そうして十三の誕生日がきたその日の夜に、逃げ出してやった――本当はあいつらを殺

してやりたかったけどね……でも、そうしたらきっとおふくろが悲しむと思ってやめた。

 それでまあ、子供がひとりで生きるためにはね……色々と悪いこともやらなきゃいけない

わけさ。そうこうするうちに、ブリッジヘッドに流れついた俺は、いつのまにかシーフの下働

きみたいなことをするようになってた……。

 書類を盗み出したり、ときには大きな仕事で連絡役をしたり、あとはスリだな……。

756みやび:2007/04/22(日) 20:48:30 ID:YR6xplWU0
◇――『赤い絆 (11)』―――――――――――――――――Red stone novel[7/7P]

 シーフの仕事はわりと楽しかった。たしかに犯罪だけど、なにも人の命を奪うわけじゃな

いからな。それなりにやり甲斐もあったし、毎日が充実してたよ。

 ところがさ――あるとき、俺の働きを認めてきれたギルドの幹部が、俺に名を上げるチャ

ンスをくれた。

 最初は喜んだけど……話しを聞いてぶるっちまった。仕事の内容が暗殺だったからさ。

 一人前として認めてもらって、少しでもうえに上がれるなら、どんなことでもやる覚悟はあっ

たんだけどさ……さすがに人殺しだけはできそうになかった。

 しょせん俺にはそういうのは向いてなかったのさ。それができるくらいならバリアートを飛

び出すときに、あのくそいまいましいアランとマーサを殺していただろうからな……。

 そして俺はブリッジヘッドからも逃げ出した――。

 しばらくは追っ手のことが恐くてさ、夜も眠れない日々が続いたよ。けど、いくら経っても俺

の前にシーフの手下が現れることはなかった。連中は俺をその程度の使い走りとしか見て

いなかったんだな。まったくお笑いだよ……。

 命の危険は去ったわけだけど、俺はべつの意味で生死の分かれ道に立ってた。俺には

これといった能力もないし、普通のひとみたいに働いて生きて行く自信もなかったからね。

 それで結局、俺はシーフの技術で生きて行くしかなかったんだ。

 方々を流れ歩いて古都に落ち着いて――で、スリをして生計をたてるようになったのさ。

 あとはまあ……知っての通りだよ。



    *編者あとがき
     冒頭でも述べたが、この短い彼の言葉が意味をもつのは、彼らに
     関する記録、伝記、物語その他を読んだ者にとってのみである。
     このときの状況をひも解く手助けとしては、当保管所にある彼らの
     正式な記録とは別に、当保管所司書であるミツ・S・プルート十四
     世の著書を読むことが適当であるだろう。

    編者 記録保管所司書室・補佐 ハイハイ・ベルリ十一世
    編集責任者 記録保管所司書 ミツ・S・プルート十四世
◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

757みやび:2007/04/22(日) 20:49:05 ID:YR6xplWU0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『赤い絆 (11)』

 ――あとがき――

 本当は人物年表を巻末につけたかったのですが、時間がないので今回は見送ります。
 本編の誤字脱字とちがい、モノが年表ということで、見落としがあるとネタバレになってし
まうので、まとまった時間がとれたときにチェックしてから出します(汗)

 そしてまた例によって、あとがきでレスを……(汗)

>意気地も名も無しさん
 やはりというか……いつでも心の支えはパナパレなのですね(笑)
 会長も存在自体が意味不明という点では最強っぽいですが……実は主人公、パナパレ
という名さえ唱えればどんな状況でも打破できるような気がしてきました(笑)
 もしかして土壇場では心臓さえ不要なのでは……(笑)
 むむ……。愛――じゃなくて妄想パワー恐るべし。
 これからも暴走する妄想を増長させてください。

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

758◇68hJrjtY:2007/04/22(日) 23:29:25 ID:FriXMgtk0
>みやびさん
リッツの過去がここで出てくるとは思いもしませんでしたよ!
「愛のしじまに」で語られていたホルスとフェアレディの息子という繋がりですね!?
無粋な言い方ながら、パズルのピースがはまっていくような気分でニヤニヤして読ませてもらいました(笑)
しかしリッツ君21歳だったんですか(汗) 15歳くらいを予想していたので事実が判明して嬉しいです。

今後人物年表を読ませてもらったらまた驚きの新事実がありそうですね。楽しみにしています。
もちろん、頃合いを見計らってみやびさん自身の判断で公開タイミングを決定なさってください。
ネタバレなどの配慮はありがたいです。

ところで今回はとても哲学的なお話が前後に挿入されていますね。
みやびさん自身の本業がそういった関係なのかと勘繰ってしまったくらいでした!
こういう文章が書けるようになってみたいです(苦笑)

759殺人技術:2007/04/23(月) 21:25:56 ID:E9458iSQ0
>>意気地も名も無しさん
パナバレまだ引っ張るのかwww
あと会長凄ぇ
>>みやびさん
――と……の量がバランス良くなってる気がします(個人的にだけど)
ちなみに、一行ずつ開けて書くと「改行が多すぎます」で弾かれやすくなるので注意w

チョキー・ファイル

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記までは全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

32-36>>548-552
37-38>>568-569
39-42>>592-595
43-46>>617-620
47-51>>693-697

またグロエリア(?)に入ってしまいました……。
地下界パート予想より長くなっちゃったなぁ、やっぱり予定通りに行く訳はない、と。

760殺人技術:2007/04/23(月) 21:26:18 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(52)

 F・Fは堅い寝台の上で目を覚まし、灰色の天井をその目に納めた。
 体を起こすと、周りは全てが全て灰色で、一つだけ、茶色にさび付いた格子から外を眺める。」
 両手には手錠が掛けられており、金属製の手錠は窮屈で、結構痛い。
 「起きたか」
 檻の向こうに突然、黒い光が瞬き、F・Fは溜め息を吐いた。
 「牢獄か、なんでこんな所に居るんだ?」
 F・Fは落ち着いた口調でW・Cに檻越しに話し掛けると、W・Cは険しい表情でF・Fを見た。
 「罪状は暴行と、不法侵入――不法侵入はお前が会ってきた所の使用人が訴えてきたんだ、暴行は昨夜の件で私が告発した、仮にも地位のあるお前だから三日で出られる、頭を冷やすんだ」
 ――三日、F・Fはその言葉を口の中で反芻する。
 視界の奥でW・Cが立ち去るのを尻目に、F・Fの頭の中に世界の情報が入り込んでくる。
 地下界全土で、王国内だけをとっても突然発生した隷属階級達の失踪。
 失踪に関する情報の王国による、意味の薄い箝口令。
 相次ぐ謎の失踪に悲しむ失踪者の近親者、友人、恋人。
 そのお陰で新女王は即位して間もなく立場が危うくなり、それを囃し立てる家臣達、似非の情報を煽る王位継承者達。
 失踪事件の数日前からあった突然の気温低下、王宮内の宮廷魔術師や研究者、軍人達の間だけに生まれる歓談。
 天上界と地上界の情報を覗き見る宮廷魔術師、落ち尽きなく興奮する研究者、消えても騒ぐ人の少ない隷属階級を突然王宮に上がらせ、一箇所に集めて講演を開く軍人。
 そして大量に虐殺され、地上界へ送られる"使者"達。
 ――機は熟した、今こそ火の卵を強奪し、地下界に更なる"知識"と"知恵"、そして繁栄を勝ち取るのだ――
 下らない軍人の講演内容が五月蠅く耳に届いてくる。
 そして、それらの痴愚な頭の中も、狂乱に塗れた出世欲も。
 彼等は火の卵の結果がどうなろうと、王室を滅ぼして帝国としての体型を崩し、新しい王国に作り変えようとしている、第四位王位継承者も只では済むまい。
 三つの世界に共通するヘルメス学において、火の精霊サラマンダーは無尽蔵の"知識"と"知恵"を司り、最初の生命に"火をともす"という"知恵"を授けたと言われている。
 F・Fは周りに誰も――強いて言えば獄中に繋がれている者以外が居ないのを格子に半眼を寄せて確認すると、魔力を両手の手錠に収束した。
 「ッ……」
 しかし、集めた魔力を放とうとした瞬間、手錠から迸った電流が両手を痺れさせ、魔力を飛散させる。
 私が魔法で脱獄する事くらいは見越していたか、あの烏め――F・Fは舌打ちを鳴らし、格子の前まで歩み寄った。
 しかし、所詮私が居なければツメが甘い、そう嘲笑しながら、F・Fは両手を後方に引き、膂力を極限まで使って格子に腕を叩き付けた。
 響き渡り、反射する金属音と擦過音、小さく自分の耳を付く鈍い音、手錠と格子が砕け、両手首から先の骨が粉々に砕け、硬質的な皮膚からこれまた硬質的な骨が皮膚を突き破って外気に触れる。
 熱い。炎に生まれたF・Fですら耐え難い燃えるような痛みが全身を駆け巡り、額に脂汗を浮かべて、短くなった両腕をだらりと降ろす。
 両手が緑色の炎に包まれ、少しずつ体組織が修復して行く。全て回復するには丸一日以上必要だろう、だが魔法を使う分にはどうでも良い。
 F・Fは便乗して助けを乞う囚人達の羨望の目を無視して、緑色の光を湛えながら湿っぽい牢獄を後にした。

761殺人技術:2007/04/23(月) 21:26:49 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(53)

 王宮の地下深く、F・Fの閉じこめられていた牢獄の更に深い所に、その部屋はあった。
 半時計回りに回転する階段を下り続けると、途中で階段は真っ直ぐ続き、暗闇をゆらゆらと照らす松明が両脇に連ねられた石の橋が、橙色に妖しく光るのが、階段を降りるF・Fから確認できた。
 十数メートル続く幅広く作られた石橋の下では、冷たい地下水のせせらぎが松明の明かりを反射し、天上から落ちる水滴が時折、さあさあという水音にアクセントを加える。
 炎の明かりに導かれた橋の奥には無骨な、頑健そうな両開きの大門が顎門を閉じている。およそ意味を成さない程大きい輪型のノブの脇には、槍を持った二人の衛兵が立ちふさがっている。
 これで守っているつもりか? それとも変に強固に守って怪しまれない為か、F・Fの力を使えばそれはすぐ分かる事だが、F・Fには使う気は起きなかった。
 F・Fは階段を降りて石橋の前まで行き、二人の衛兵は松明に照らされた不審者を発見し、扉を守るように槍を罰天の形に組んだ。
 「おい、アイツ――」
 衛兵の一人が小さく呟き、もう一方が頷く。どうやらF・Fが拘束中なのは末端にも知れ渡っているらしい。
 「今すぐ立ち去れ、"ここは有事以外立ち入り禁止区域だ"」
 衛兵の一人が十数メートル離れたF・Fにそう言葉を掛け、F・Fは少し面食らった様な顔をすると、ほくそ笑んだ
 力を使うまでもない
 「貴様、何がおかしい!」
 衛兵がそう言うとF・Fの微笑は哄笑へと変化し、笑みは地下水路の奥の方まで反射して不気味なコーラス効果を生む、衛兵の二人が組んだ槍をF・Fへと向けた。
 「お前達、私が脱獄した事については何も言わないんだな?」
 その言葉に、衛兵達の顔に訝しがる表情が浮かび、F・Fは笑いを噛み殺して説明する。
 「私の脱獄よりも、その部屋に入る事の方を警戒してる証拠だ」
 そして、F・Fは歩みを再開する。
 松明の陽炎の上に堅い足音が響き、衛兵達が完全に戦闘態勢に入る。
 だが、迷い無く突きつけられた矛先は、次第に力なく俯いて行った。
 F・Fが一歩を踏み出す。松明の紅炎が、F・Fの歩幅に合わせて一列ずつ、青い炎へと変わる。
 もう片方の足を踏み出す。青い炎が猛り、松明から伸びてF・Fの黒いマントへと吸い込まれる。
 また足を踏み出す。青い炎は次々と増え、それらが全てマントへと吸い込まれていき、マントは鬼火の如く燃え盛る。
 松明の炎がF・Fの前にひれ伏し、吸い込まれる。
 闇が広がる。
 衛兵達は見た。
 闇の中にただ一つ、鬼火のマントを背景に浮き彫りになる、下級悪魔ピエンドの姿を。
 衛兵達は暗闇の中で顔を見合わせ、F・Fの両脇を駆け抜けて行った。
 「賢明だな」
 F・Fは鼻で小さく笑うと、鬼火のマントを両手に掴み、翻した。

762殺人技術:2007/04/23(月) 21:27:25 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(54)

 大扉が爆風で吹き飛ばされ、扉の奥が松明で明るく照らされているのに気付いたF・Fは、的中したという風に口許に笑みを浮かべた。
 扉の木製部分は炭化し、金具は歪に歪んでいる、吹き飛んだ蝶番の下敷きになっている者も中には居た。
 そこは一つの部屋とは思えないくらい広く、横幅も奥行きも並の豪邸の及ぶところではない、王宮の敷地の半分くらいの広さはあるだろう。
 高い天井には通気口と思われる穴が空いており、それでもやはり空気は綺麗とは言い難い。ここは元々有事の際の塹壕として作られた為、王宮の人々だけでなく一般市民もある程度は匿う事が出来る。
 だが、本来人々を匿う為の塹壕に、こんなものが必要だろうか?
 鮮血を垂らす処刑台が、数十台も。
 「貴様、何者だ!」
 中には死刑執行人と上級悪魔の魔術師、そしてこれから処刑されるであろう無数の人々が数珠繋ぎにされて列を作っている。
 F・Fは息を呑んだ。
 処刑されようとしている内の殆どは立場上見たことがある、ここの牢獄に収容されていた、生きてる内に釈放される見込みのない凶悪犯達だ、いずれは私に脱獄を乞う上の人々もこの列に加わる事だろう。
 だが、見たことない人々も居た。
 罪人の顔は全て知っている――私が罪人の顔を知らない筈がないし、忘れる筈もない。
 何という事だ――
 彼等は王宮に仕える物としての誇りも失ってしまったのか。
 「何者だと聞いている!」
 魔術師は杖を構え、死刑執行人は処刑台の縄を持つ手を再び動かす。
 作業を続ける。
 救いようのない腐敗と狂気の寓意図が五感を通して流れ込んでくる。
 視覚からは、篝火を反射するギロチンの付着物。その下に転がる幾つかのモノ。
 嗅覚からは、むせ返る様な鉄の臭い、様々な体液が混ざった謎の臭い。
 聴覚からは、猿ぐつわでくぐもった悲鳴、肉を切る音と骨を千切る音。
 触覚からは、皮膚にべたつく室内の湿気、たまに飛んでくる汗とも血ともつかない液。
 味覚からは、体の奥深くから込み上げかけた吐瀉物の酸味、一緒に込み上げた怒り。
 「………………下級悪魔の、ピエンドだ」

763殺人技術:2007/04/23(月) 21:27:56 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(55)

 力の入らない筈の手首が自然に持ち上がり、死んだように項垂れた手首の甲が、目の前で構える魔術師に向く。
 くだらない――
 折れた手首から先が純白の炎に包まれた瞬間、魔術師は突如杖を取り落とし、石畳に転がり落ちる、同時に魔術師の体も膝から落ちる。
 「……ア……く……く……」
 魔術師は呂律が回らないのか、謎の単語を呟きながら膝立ちになり、両手で心臓の位置を押さえる。周りの人々もその異様な光景に後ずさりし、暗闇で分からないが顔は青ざめる。
 「くる……くる、ぐるし、ぐ、る、じ」
 苦しい。そう言おうとしている様だ。F・Fはその脂汗にまみれた顔を人形の様な表情で見つめ、ただただ右手の白い炎を滾らせているだけだった。
 「る、し……あ、あああ、ぬける、ぬげ、え、げえ、ええ"え"え"え"え"」
 魔術師の眼窩から、鼻から、口から、耳から、汚い血がだくだくと溢れ出し、心臓を押さえる手も力なく項垂れた。
 そして、消える。
 低音のファの音と共に"何か"がF・Fの手へと引き寄せられ、白い炎に焼き尽くされる。魔術師の体は俯せに倒れた。
 F・Fの足下に数滴の血液が滴り落ちる、勿論彼自身の物ではない。
 命の原点である心臓が失われれば、死んでも地上界に行くことは無い――常識知らずのF・Fでも、幼少の頃輪廻の授業で習った言葉だ。
 数秒の沈黙。
 執行人の手も再び止まり、魔術師は表情に戦慄を浮かべ、数珠繋ぎにされた者達は置物のようだ。
 F・Fのもう片方の手も白く燃え上がり、それを邪魔者でも払うかのようにゆっくり振りかぶる。
 脱出しようとした魔術師の心臓が跳ねる。怯えた魔術師の心臓も跳ねる。松明の火が血に消される。
 ――私が彼等と同じ、王宮に仕える者だというのか。
 ドレミファソラシド、ドシラソファミレド。子供の弾く幼稚なピアノの低音階を奏でる、F・Fの白い両手は指揮棒だ。
 ――認められない。
 右腕がくるりと翻り、ギロチンの刃が砕け、なぜか全てが全て死刑執行人の体に突き刺さり、当然の如く心臓が跳ねる。数十個の心臓が飛び回る。
 ――彼等は死んで然るべきだ。
 両腕が左右対称の弧を描いて高々と上がる、飛び回る心臓の交狂曲に、血煙の舞踊と悲鳴と断末魔のコーラスが合わさる。心臓が抜き出される音が伴奏を奏でる。
 ――そう、彼等こそが、私の力に反応した地下界の危機を加速させている!
 そして、全ての赤が白い火炎に包み込まれた。
 赤は白と混ざって蒸発し、濃い臭いだけをそこに残した。

764殺人技術:2007/04/23(月) 21:28:22 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(56)

 悪夢のオーケストラは終わった、F・Fは白い炎を吹き消して両腕をだらりと下げると、唯一F・Fの力から逃れた、数珠つなぎの者達に歩みよった。
 彼等はF・Fの足が一歩動く事に反応し、じゃらじゃらと鎖の音を鳴らして逃げようとするが逃げられず、穴という穴から体液を流し、失禁する者も居た。
 F・Fは彼等――既に転がる頭の数のが数倍多いが、まだ百人近く居るだろう――に対して、暗闇で見えない謎の表情を向けて、言葉を一つ紡いだ。
 瞬間、無数の黒金の手錠が鍵も無く開き、繋がれた者達は茫然自失の体で座り尽くし、F・Fは凶悪犯の一人と顔を合わせたが、顔を少し顰めるだけで踵を返してしまった。
 F・Fは室内の死の饗宴が嘘のように思える、潺々とした石橋の上で、砕けた拳を握りしめた。ごきごきと音が鳴り、鈍痛が全身に伝わる。
 変化、と言う物を舐めていた。
 本当に恐ろしい変化は、本当に気付かない所で進行する。絶対と信じていた私の力でさえその変化の全てを知る事は出来なかった。
 "彼等"は火の卵を奪ってくる為に処刑され、地上界に送られたのだ――無罪放免と引き替えに、足りない分は王宮から調達して、どうせ奪う事が出来ても、戻れば口封じに殺される事は明白なのに。
 王宮の研究者達も、"知識"と"知恵"を授かり、地下界に更なる繁栄をもたらす為に――新しく即位した女王は、単なる隠れ蓑でしか無かったと?
 そして軍人達は、世襲制の王国を滅ぼし、民主主義の国家を作るために、同じく"知識"と"知恵"を得るために、そして王族を滅亡させれば、国家の頂点に"芽"を植える事が出来る。
 魔術師達は、更なる魔術を開発し、磨く為に、これまた同じく"知識"と"知恵"を――目的は同じ、という訳か。
 F・Fは握りしめた拳の痛みがなくなるのを感じた。
 これが革命か、地下界に新しい風を吹き込むものか。
 瞼を閉じ、その裏側のスクリーンに何かを投影して再び瞼を開ける。
 その目に焼き付いたのは諦観。
 地下界の行く末は見えた。

765殺人技術:2007/04/23(月) 21:39:13 ID:E9458iSQ0
>>760
ちょっと 」 が変な所に付いてる……。
ちゃんと見直しした筈なのにorz

766◇68hJrjtY:2007/04/23(月) 22:38:37 ID:mLn/Buwo0
>殺人技術さん
グロシーンも全てひっくるめて本当に映画にしたいくらいですね。
地下界の語りが長い…と仰られていますが、この辺は殺人さんのオリジナル世界観の説明部分もありますし
なによりピエンドことF・Fが地下界で行動した全てが後の展開への伏線でもあるのでしょうから読み手にとっては続けて欲しいくらいです(笑)
人(厳密には人ではないですが)が死ぬ、とか焼かれる、という表現も想像を絶するものがありますね。
今更ながら"殺人技術"というコテハンになんだか納得してしまいました(笑)

そういえば、最初の頃のチョキー・ファイルも改行されていましたよね。
やっぱり文字数エラーは辛いですかorz

767みやび:2007/04/25(水) 13:01:44 ID:wjc00Bks0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>殺人技術さん

 いよいよ回想のクライマックスに迫りつつあるのでしょうか。先が気になります。
 しかし不謹慎な話しですが“革命”という言葉には人を魅了する魔力がありますよね。と
いうよりも時代が変ろうとする過渡期そのものがドラマティックですからね。その変化が地
下世界であればなおさら心が踊ります――もとい。手に汗握ります。

 誤植は本当にヘコみますよね(汗)
 掲示板の主旨からするとやむを得ない仕様なのでしょうが、修正機能がないのは痛いで
すよね。心中お察しします。

 改行数。
 実は初投稿のときに『改行が多いってんだよ手前ぇ糞おととい来やがれってんだべらぼ
うめ』と言われてしまいました……(汗)

 この掲示板には江戸っ子のお爺さんが裏側にいて、ちゃぶ台でお茶を飲んでいるんです
ね。そして文字数オーバーや改行数オーバーなど、間違った投稿をする若者がいると、顔
を真っ赤にして怒るのです。もっとも米粒サイズのお爺さんなのでさほど恐くはありません
が、年長者の苦言には素直に耳を傾けることにしております。(ここだけの話し、パソコンの
裏にもお爺さんがいるんですよ。ボソ)

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

768みやび:2007/04/25(水) 13:14:33 ID:wjc00Bks0
◇――『赤い絆:付録 人物年表』―――――――――――――Red stone novel[1/3P]
_____________________________________
 ※本編で語られていない設定はネタバレの配慮から当年表には記載しないものとし、そ
  れ以外については物語の補足を目的に記述。
  尚、当年表は本編の進展に平行して更新されるものとする。ただし年表文末の『現在』
  は進行形であるため、基本的に対象外。
  [註]人物名末尾の( )内数字は該当人物の年齢。
  [註]●の記述はその他史実。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
4828……[ゲンマ(?)]ゴドム共和国建国にともない、元来から政治に無頓着であった魔
      法師たちに政治外交は無用のものとなり、彼らは《スマグ総院》を解体。それを
      母体にして魔法研究機関《魔法院》を設立。《スマグ総院》で辣腕をふるっていた
      ゲンマは新たな組織に残らず、それまで片手間だった自らの研究に没頭。

      ●スタイナー家は建国の混乱に乗じて公の記録から王の血筋であることを抹消。
      その他あらゆる手段をこうじて貴族討伐の時代を生き残る。

4830……●ガディウス砂漠にある墓所の解明のため、ブルンギルドと傭兵ギルドの合同
      調査団が派遣されるも一夜にして壊滅。

4853……[ミゲル]ブリッジにて生誕。土地の船乗りとして経験を積んだのち、成人後はシュ
      トラセラトで海上のよろず請負業を営む。

4875……[ホルス]古都近郊にて生誕。

4878……[ミゲル(25)]乳児を拾いマリアと名づける。(マリア推定1歳)

      [カリーナ]ビガプール南部にて生誕。

4883……[ジャン]生誕。※本編では名前のみ登場。

4886……[ミゲル(33)]航海中、家に残したマリアが盗賊の放火で他界(享年9歳)

4887……[ミゲル(34)]マリアの死を乗り越え仕事に復帰。
      偶然漂着したジェイブ島で自らをレッド・ストーンと名乗る精神体に遭遇。マリア
      の姿をした精神体を前に錯乱、部下のジョルジェ(28)を殺してしまう。
      帰還後、船乗りを廃業して放浪の身となる。

4898……[ガルプレン]古都にて生誕。由緒ある家柄ではないが、フリーの冒険者あがり
      で正式な騎士になった人物。

      [ホルス(23)]ブルンギルドにてカリーナ(20)と出遭う。

4900……[オーロ]ブレンティルにて生誕。

      ●ガディウス砂漠で敵対する勢力の大規模な戦闘が行われたが、双方ともに壊
      滅。両者に雇われていた傭兵を含め相当数の死者。

4902……[ゲンマ(?)]過去の忌まわしい記憶を宿した《思念球》を発掘。

769みやび:2007/04/25(水) 13:15:16 ID:wjc00Bks0
◇――『赤い絆:付録 人物年表』―――――――――――――Red stone novel[2/3P]

4903……[エレノア]生誕※生地等詳細は不明。

      [コーネリアス(?)]スマグで発見された《思念球》の情報を得、策略をめぐらせ
      る。

4906……[ホルス(31)]墓所でカリーナ(28)を亡くした失望から死に場所を求めて放浪。

4908……[トーマス]生誕。議員であった父のあとを継ぐべく教育を受ける。

4911……[エレノア(08)]酒乱で暴力の絶えなかった父親が川で溺死。母はすでに男を作っ
      て蒸発しており、この年エレノアは単身故郷を飛び出す。

4917……[リンダ]ビガプールにて生誕。親の思惑でトーマスの許婚になる。

4920……[オーロ(20)]傭兵ギルド入隊。

4921……[エレノア(18)]傭兵ギルド入隊。

      [ミゲル(68)]砂漠でホルス(46)と出遭う。

4922……[エレノア(19)]《ファースト・ランサー》称号を得る。

      [フェアレディ(26)]ホルス(47)と出会うも、翌日ホルスは失踪。

      [シーラ&ジーナ]生誕。(一卵性)実質の養父はゲンマ。

4923……[シリカ(17)]傭兵ギルド入隊。※本編では名前のみ登場。

      [フェアレディ(27)]ハノブに流れ着き、リッツを出産。

4926……[エレノア(23)]オーロ(26)、シリカ(20)、ジャン(43)らとチームを結成。

      [シーラ&ジーナ(04)]彼女たちをモルモットにした研究が実を結び、スマグをと
      りまく力場が消失。スマグから人狼の奇形が消える。
      だが皮肉にも、姉妹は力場研究の副作用から暴走する恐れのある“力”を宿し
      てしまう。

      [リッツ(3)]ハノブに竜が出現。住人多数が死亡。フェアレディ(30)も他界。
      ハノブの存続さえ危ぶまれ、生存者の多くが町を捨てる。移住組みにはリッツの
      養父母も含まれ、彼らはバリアートに身を移した。※のちにハノブは復興。

4928……[ガルプレン(30)]古都ブルンギルドの代表に就任。

770みやび:2007/04/25(水) 13:15:51 ID:wjc00Bks0
◇――『赤い絆:付録 人物年表』―――――――――――――Red stone novel[3/3P]

4931……[エレノア(28)]傭兵ギルドを満期退役。その直後にミゲル(78)と出遭いジェイ
      ブ島へ行くも、ミゲルは生還せず。代わりに現れた少女を“マリア”だと直感した
      エレノアは、少女を連れ帰り自分の子として育てる。(マリア推定9歳)

      [シーラ&ジーナ(09)]周囲から危険視されていた彼女たちは、少年に対する暴
      行事件をきっかけに身の置き場を失い、ゲンマと共にスマグ地下へ潜る。

4933……[マーガレット]生誕。父親は王の血が流れる貴族で、古都の評議会に籍を置く
      トーマス・スタイナー(25)。母はトーマスの従姉妹にあたるリンダ(16)。
      しかしマーガレットが不具であったため、リンダは発狂。屋敷の塔に幽閉される。

4936……[オーロ(36)]特種部隊長に就任。

4938……[シーラ&ジーナ(16)]自身の奇形をコントロールする術を身につけた姉妹はゲ
      ンマと共に地上へ戻る。

4940……●砂漠で悪魔が永い眠りから覚める。

4942……[マリア(20)]エレノアの反対を押し切り傭兵ギルドに入隊。

4943……[コーネリアス(?)]配下にスマグの《思念球》強奪を指示。奪取する。

      [シーラ&ジーナ(21)]ゲンマの命を受け、奪われた《思念球》の捜索を開始。

4944……[現在]

◇――人物年表―――――――――――――――――――Red stone novel[−End−]

771みやび:2007/04/25(水) 13:16:55 ID:wjc00Bks0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce

 私は(おそらく)皆様よりひと足早いGWです。
 しかしリアルの予定で普段よりも筆が滞りそうです……(泣)

 それはともかく。人物年表です。設定好きな方はご覧になってください。

 しまったレスを見落とすところでした(汗)
>68hさん
 リッツの十五歳説はある意味で正解です(笑) 精神延齢はその辺りを想定しています。
 哲学は……たぶん私の頭では、脳味噌がうだってしまいます(汗)

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

772名無しさん:2007/04/25(水) 15:33:54 ID:mCVgd1hs0
無料でウェブマネ手に入れる方法ってあるんですね。

http://40992569.at.webry.info/

このブログでやり方紹介されてましたが、試してみると意外と簡単で驚きでした。
興味ある方は見てみたら良いかも?

773名無しさん:2007/04/25(水) 22:58:54 ID:AUyJT8tA0
>>563の続きです。


穴の奥は、その狭苦しい入り口からは打って変わってとてつもなく広く感じた。彼らの足元に落とした明かりでも、その奥までは見ることはできない。
「・・誰もいないみたいね。」
アリスが静かにつぶやいた。
「油断するな。」
カレイドが剣を持ち直し、伏せる様に頭を下げ、ゆっくりとあたりを見回した。
「アリス、あれが見えるな?」
カレイドが静かに闇の中を指差した。
「何かあるの?」
アリスもカレイドに姿勢を合わせ、覗き込む様に暗闇の奥を見る。
「あっ。」
それと同時に、彼女は声を上げた。
明かりに僅かながら照らされている一本の線。視点を変えると、その表面の艶が移動する。
「こいつはトラップだな・・。まだ誰かが残っていると踏んでよさそうだ。アリス。あれを射られるか。」
その糸の下にはさび付いたトラバサミ状のものがあった。
「・・やってみるわ。」
アリスは立ち上がり、腰の弓を手に取った。そしてすばやく矢をつがい、キリキリと弦を引く。
「やっ!」
小さい声と共に、ヒュンと風を切る音がした。その直後、ガチャンと勢いのある音と共に、彼女の放った矢はトラバサミに真っ二つにされてしまった。
更に、ワイヤーが反応し、その周辺にも隠れていた同様の罠が、けたたましい音を立てて次々と跳ねるように閉じていく。
「刃バサミか・・随分とご丁寧なお出迎えってわけだ。」
カレイドが鼻で静かに笑った。
「鉄の矢が真っ二つになってる・・。」
狂ったように地面をのた打ち回るワイヤー。最後にシュルリと音を立て、地面へと落ちていった。

「何事ですか?」
「?」
と、突然奥の方から人の声が聞こえてきた。カレイドがその方を見る。
その後ろで、矢を再び手に取って、暗闇の奥をアリスが覗き込んでいた。

「・・どうも最近は、騒々しい方がいらっしゃるようですね。」
掠れたような金属音と共に、男の声が聞こえてきた。
「物騒なモノよりはマシだと思うがな。」
「ちょっと、カレイド!」
カレイドは挑発するかの様におどけた口調でつぶやいた。

暗闇の奥から出てきたのは、何やら白っぽい装束に身を包んだ初老の男だった。
「おや・・これはこれはカレイド=ラビンス殿とは。」
その片手には、キラリと光る長い刀が握られていた。
「どうやら俺をご存知の様で。」
不安そうにカレイドの後ろからその男を見ているアリスとは裏腹に、カレイドは落ち着き払っている・・いや、何やら面倒そうな顔つきだった。
「不正戦場に身をおく者として知らないものはおりますまい。」
初老の男は、微笑を浮かべながら言った。
「その装束・・アウグスタの追放組か。」
カレイドが嘲笑う様に言うと、初老の男は突然怒った様に声を荒げた。
「あんなゴミどもと私を一緒にしないでくれたまえ。」
そして剣で空を斬り、言葉を続ける。
「あのゴミどもは他人に慈悲と言って金を渡し、その見返りで奉仕と銘打ち、奴隷にしてしまう守銭奴なのだ!
ああ・・・神は何故あのような愚か者どもを住まわせ、我ら誠に信ずる者に試練を与えるのか・・」
「・・随分と信心深いご様子で。・・・で、あんたはなんでこんなところにいるんだ?」
カレイドは肩をすくめながら言った。初老の男は剣を地面に立て、悩んだ様な言葉を続けた。
「君も分かっている通りだろう。カレイド=ラビンス。我々はこうして、人の目につかぬ所でひっそりと、神を崇拝する事しか出来ないのだよ。
・・・そう、こんな薄汚れたゾンビどもや、食べる事しか頭に無い太っちょのジャイアントどもと一緒に。
全く奴等は食う事襲う事、金モノ権力しか頭に無いのだ。これじゃあのゴミどもと一緒だろう!・・」
「な、何なの・・この人。」
いきなり罵りを繰り返す老人を見て、アリスが後ろで静かにつぶやいた。微かに手が震えている。
「・・そいつはご愁傷様だ。さて、悪いんだが俺達はちょいとこの奥に様があるんだ。」
カレイドは剣を肩に掛け、なだめる様に言った。と、男は突然剣を大きく振り上げ、その身体からは考えられない大きさの声で叫んだ。
「おお神よ、何故また神は我々を追い立てるのですか!!」
「・・!」



最近帰りが遅い・行きが早いの毎日で小説に頭が回らなくて申し訳ないです・・orz
すごく間が空いてしまった・・

774みやび:2007/04/26(木) 03:35:52 ID:ZtSzrS2c0
 ――『それゆけメリルちゃん!』 本編――
 ■No.01>>504-507 ■No.02>>538-541

 ――『赤い絆』 本編――
 ■No.01>>424-436 ■No.02>>477-483 ■No.03>>529-532 ■No.04>>607-612
 ■No.05>>624-630 ■No.06>>659-666 ■No.07>>671-680 ■No.08>>683-688
 ■No.09>>700-710 ■No.10>>724-734 ■No.11>>750-756
 ――『赤い絆』 設定――
 ■小道具、固有名詞 解説>>495-497
 ――『赤い絆』 番外――
 ■『愛のしじまに』>>575-583
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『それゆけメリルちゃん! (03)』――――――――――Red stone novel[1/10P]

 そのとき、悪魔一号が「わははは」と笑った。棒読みだった。

 だがそれより恐ろしいのは、その手に《赤いストーン》が握られていることだった!

「しまった、いつの間に!?」

 可憐な幼女メリル三世は召還獣に突撃命令を下……そうとしたが、万一怪我でもしたら

可哀相なので、代わりにパーティ・メンバーに突撃命令をかけた! ――というより召還獣

は出し忘れていた。

「おまっ――俺たちは召還獣かよ!」剣士が不平を言った。

「そうよそうよ。ちょっと可愛いからって、調子に乗りすぎよ、あなた! てかペットも召還獣

も呑気に仕舞ってんじゃないわよっ」姫も抗議の声をあげた。


「さあ、こい! 悪魔め!」天使だけが悪魔一号の前に飛び出していた。


『お前はペットか!!』剣士と姫が同時に言った。


 だが彼らのツッコミも空しく、天使は「あれえええ〜……」と奇声を発しながら天高く飛び

去った。

 悪魔一号は松井のサイン入りバットを高らかにかかげ、「場外かな……?」天使が消えた

方角を見つめた。

775みやび:2007/04/26(木) 03:36:44 ID:ZtSzrS2c0
◇――『それゆけメリルちゃん! (03)』――――――――――Red stone novel[2/10P]

 可憐な幼女メリル三世は舌打ちした。

「役立たずの天使ね……こんなことならパンツ見せてあげるんじゃなかったわ」

「なっ――聞いてないぞ!」剣士が顔を真っ赤にして叫んだ。「次は俺が行く!」そう言うと

はーはー息を荒げた。

 だが剣士はいっこうにその場を動かない。

 はーはー息をしながら何かを待っている様子の剣士を見て、可憐な幼女メリル三世は肩

をすくめた。

「あんた馬鹿? 今そんな暇あるわけないでしょ。見せるのはいいけど、悪魔を倒してくれ

たらね」

「むむ……後払いか」剣士は悔しそうにつぶやいた。

「当たり前でしょ。早いとこやっつけちゃって」

「じゃ、じゃあ! ヤツを倒すからサービスしろよ!」剣士も食い下がる。

「しょうがないわねえ……」可憐な幼女メリル三世は腕を組み、しばし考えたのち、「わかっ

たわ。それじゃ、パンチラと○○でどう?」

「まじですかッ!!!!」剣士は顔から火を吹いた。

(あ〜あ……このエロ剣士が)姫はため息をついた。


 そして姫の予想通り、五秒後には剣士が空を飛んだ。


「あらああああ〜〜〜っ――パンツと○○忘れるなよぉぉぉぉ……」剣士の断末魔が雲間

に消えた。


「……馬鹿ね。失敗したんだから報酬なんてあるわけないでしょ」可憐な幼女メリル三世は

吐き捨てた。

776みやび:2007/04/26(木) 03:37:35 ID:ZtSzrS2c0
◇――『それゆけメリルちゃん! (03)』――――――――――Red stone novel[3/10P]

 そして姫に向き直ると、

「よし、次はお前よ! がんば!」

 ガッツポーズで姫を励ました。

「頑張れるかいっ!!」姫は頭から湯気をたてた。

「っていうか私は姫なのよ! なんで家来のあんたが命令してんのよ!?」

「ちっ……気付きやがったか」可憐な幼女メリル三世はつぶやいた。


    説明しよう!
    姫と言っても彼女、リトル・ウィッチに変身する変態体質の、いわゆ
    る“プリンセス”のことではない。
    何の取り柄もなく決して頭が良いわけでもないのに、ただ単に王様
    とお妃様がナニして産まれた王位継承者であるというだけで、周囲
    の人間から内心『ちっ。この脳たりんの馬鹿娘が』と思われているこ
    とにも気付かず、チヤホヤされ、おだてられ、袖の下を握らされ、お
    べっかに有頂天になり――あー……なんか説明するのも面倒になっ
    てきたので、とにかく法律的には正真正銘のお姫様なのである。

    そしてある日、可憐な幼女メリル三世は王様から直々のラブレター
    を貰った。そこには王様からの熱いメッセージが……!
    そこには次のように書かれていた――

    ――中略――
    『吉原にガス抜きに出かけたおり、通りを歩いているそなたの後ろ
    姿をチラッと一度見かけただけだが、我が愛しの可憐な幼女メリル
    三世よ、聞いてくれ……。この国は今、《赤いストーン》を手に入れ
    た悪魔一号とかいう魔物の度重なるいやがらせを受け、滅亡の危
    機に瀕しておるのだ……。強力な魔力を授かったヤツから、この国
    を救えるのはそなたしかおらぬ!
    そこで、我がひとり娘である姫をそなたに預けるから、ひとつ娘と力
    を合わせ、見事ヤツを撃破し、ついでに出来の悪い娘もそれとなく
    始末してくれると助かる……』
    ――中略――

    という訳で、可憐な幼女メリル三世は“次期王女の座”という王様の
    確約に釣られ、わざわざ馬鹿なお姫様の従者を引き受けたのであっ
    た……!


「え? なになに、誰に向かって喋ってるの?」姫はわざとらしく可憐な幼女メリル三世の周

囲をキョロキョロと見回した。

777みやび:2007/04/26(木) 03:38:14 ID:ZtSzrS2c0
◇――『それゆけメリルちゃん! (03)』――――――――――Red stone novel[4/10P]

「いいのよ、そんなこと気にしなくて……」可憐な幼女メリル三世は半目で姫を睨みつけ、そ

そくさと今読み上げていた“カンペ”を丸めて仕舞った。

「そんなことより仕事よ! ゆけ、姫!」

 可憐な幼女メリル三世が笛を勢い良く振りかざして命令すると、姫ははぁはぁしながら戦

闘態勢に入った。

「て――何やらせるのよ!!」

 思わずノッてしまった自分に赤面し、姫は地団太を踏んだ。


「ふはははっ! 内輪もめしている場合か愚か者ッ!」

 ふたりをめがけ、悪魔一号のカメ○メ波が飛んできた!


「あぶないッ――!!」

 可憐な幼女メリル三世はとっさに姫を突き飛ばした。

「ぎゃあああーっ」姫はカ○ハメ波の直撃を受けた!

 可憐な幼女メリル三世は目測を誤り、なんとカメハ○波の進路上に姫を押し出してしまっ

たのだ!

「あ……ごめん、ミス♪」可憐な幼女メリル三世は自分の頭を可愛く叩いた。

「……あんた……わざと……でしょ」

 こんがりと丸焼けになった姫はそう言い、可憐な幼女メリル三世を呪いながら息絶えた。


 ついに、生き残ったのは可憐な幼女メリル三世ただひとりになってしまった!


 ちなみに先ほどの天使と剣士はここに来る道中、姫を使ってナンパしただけのオマケで

ある。要するに捨て駒というやつだ。


「くっ……まさか版権モノの技を繰り出すとは……さすが《赤いストーン》の魔力……!」

 可憐な幼女メリル三世は死を予感した。

778みやび:2007/04/26(木) 03:39:02 ID:ZtSzrS2c0
◇――『それゆけメリルちゃん! (03)』――――――――――Red stone novel[5/10P]

「いや、まだ《赤いストーン》は使ってないんだが……」悪魔一号はぼそりと言った。

「ふん。いまさらそんな脅し! このあたしには通用しないわよっ」

 可憐な幼女メリル三世はついに召還獣とペットを――


 ――呼び出すためのコマンドを入力した直後、いきなり目の前が真っ黒になり、メリルは

びびった。

 正確には真っ黒になったのは目の前のモニターだった。

「うそ!? いやーん、まだセーブしてないのにいー!!」

 実は今、メリルは万引きしてきた人気ゲーム《赤いストーン》をプレイ中だった。

 しかもスタートしてから一度もセーブを行わず、ひと晩かけてようやくラスボスまで辿りつ

いたところだ――そうすることで次回プレイ時に“裏モード”で開始できるのだ。

 ただし、ラスボスを倒したあと、エンディングの最後でセーブをしなくてはならない……。


 一昼夜の血のにじむ努力が徒労に潰えたことを知り、メリルは泣きそうな顔で放心した。

 するとモニターの前に、ぬうっ、と男がたちはだかった。

「メリルさん……なにやってんですか……」

「きゃああああッ!」メリルは男の顔面に聖水撒き(ダメージ・オプション+500%付き)を

お見舞いした。

 男の顔は完熟トマトのように「ぐちゃ!」と潰れた。

 が、実はその顔は精工に造られたニセモノで、潰れた顔の下から本物の顔が「にょき」と

飛び出した。

「痛いじゃないですかッ!」

 それは天使の――天使の……えーと……

779みやび:2007/04/26(木) 03:39:41 ID:ZtSzrS2c0
◇――『それゆけメリルちゃん! (03)』――――――――――Red stone novel[6/10P]

「ガルビスです! 忘れないでくださいよっ!」

「え? カルピス?」メリルはわざとらしく耳に手をあて、何度もカルピス? と聞き返した。

「かかか、カルピスとはなんですか!」

 なぜか顔を真っ赤にして怒っているカルピス――もといガルビスにメリルはあかんべーを

した。

「冗談よ……それよりなあに? また勝手にひとの部屋に入ってきて……」


 そうそうこの天使。第一話でメリルにこき使われていた彼である。


「まず返してください……私の聖水撒きですそれ」

「あら、あんた天使でしょ? 強い鈍器なんて必要ないじゃないの」

「私だってたまには“殴り”をしたいんですよ!」

 ガルビスは赤い顔で聖水撒きを奪い取った。

 だが、手の中の鈍器とメリルを交互に見て、目を点にして冷や汗をかいた。

「なによ。取り返したんだからもういいでしょ……まだ何か文句が?」

 メリルが言うと、ガルビスはぼそりとつぶやいた。

「これ、要求レベル九〇〇なんです……それなのにメリルさん、あんなに軽がると――って

いうかなぜビショップでもないのに装備できるんですか……」

「なんだそんなこと。何事も気合いと根性よ」

「根性でキャラの仕様変えないでくださいよっ!」

 天使は発狂しそうな顔で吠えた。

 メリルはそれを無視し、あっ、という顔をした。

「要求レベル九〇〇って……あんたそれ、装備できるの?」

「うっ……」

 天使はお腹を押え、まるで腹痛の仮病を装う登校拒否児みたいな顔になった。

780みやび:2007/04/26(木) 03:40:21 ID:ZtSzrS2c0
◇――『それゆけメリルちゃん! (03)』――――――――――Red stone novel[7/10P]

「なあに。あきれた! 装備できもしないのに持ち歩いてるの!?」

「そ、それはその……地道に狩りしてたらきっとそのうちに……」とかなんとかブツブツつぶ

やき、語尾のほうはほとんど聞こえなくなった。

 あまり苛めるのも可哀相なので、メリルはやれやれ、と肩をすくめ、話題を変えた。

「それより本題。あんたなにしてんの?」

 天使ははっとして、装備できない聖水撒きを仕舞うと言った。

「ひどい言いぐさですね……私はメリルさんに頼まれ――」

「はっ! もしかして下着ドロ!?」

「誰がですかッ!!」天使は憤慨したが、実は思い当たるふしがないわけでもなかった。

 彼はメリルの部屋に跳躍してきた際ベランダに着地したのだが、ふと物干し竿にヒラヒラ

とはためいている下着の群れを発見し、つい魔がさしてブラジャーをひとつ失敬してしまっ

ていたのだ。

「そういえば最近、ベランダに干した下着の数が減るのよねえ……」

 いかん。このままでは自分が下着ドロにされてしまう! いや盗んだのは事実だがこれは

初犯だ!

 そう思ったガルビスはあははは、と笑った。

「わ、私は曲りなりにも聖職者ですよ。そんなご婦人の肌着を盗むなど……」

 メリルは天使の額ににじんでいる冷や汗を見て、微笑みを浮かべた。

 あはは……ははっ……は。

 と、天使の空笑いが尽きるのと同時に、メリルは深呼吸して叫んだ。

「ケルビー!」

「だから違うってばうぎゃあーっ!」

781みやび:2007/04/26(木) 03:41:06 ID:ZtSzrS2c0
◇――『それゆけメリルちゃん! (03)』――――――――――Red stone novel[8/10P]

 結局、彼の荷物をすべてひっくり返してみたが、メリルの下着は発見されなかった。


「……だから誤解だって言ったでしょう」

 ぶつくさ言いながら、床に散乱する自分の荷物を仕舞う天使。

「うーん、おかしいわね」

 納得のいかないメリルだったが、証拠もなしに彼を責めるわけにもいかなかった。

「まっ、いいわ」

 天使は彼女のひと言で心から安堵した。


 そして内心、(ああ……身に着けていてよかった)と思った。


「じゃあ話しを戻すけど。あんたなにしに来たの? 返答によっては……下着ドロの疑いは

晴れたけど、住居侵入ってことで、死なない程度に殺すわよ」

 メリルが笑顔でそう言ったので、天使は(この人ならやりかねないな……)と恐怖した。

「や、やだなあメリルさん……だからメリルさんが私を呼び出したんじゃないですか」

「え? え? あたし?」

 メリルは予想だにしなかった答えにすっとんきょうな声をあげた。

「そうですよ。なんでもこのあいだのウィザードさん……ええと、リッキーさん? 彼のピンチ

だとか何とか――」

 メリルはそれを聞いて「ポン」と手を叩いた。

「あっ。そういえばそんなこと言ったわね。えへ♪」

 悪びれた様子もなく、可愛らしい笑顔で舌を出した。

 ガルビスは頭のどこかで「プチッ」と何か音が聞こえた気もしたが、そこは惚れた弱みで

ある。

「もうメリルさんってば、おちゃめなんだから。あははっ」と脱力した笑いをこぼし、「じ、じゃ

あ……事実が判明したところで、コレなんですが……」と言い、メリルに背を向けた。

782みやび:2007/04/26(木) 03:41:53 ID:ZtSzrS2c0
◇――『それゆけメリルちゃん! (03)』――――――――――Red stone novel[9/10P]

『グルルル……』

 天使のお尻には、やはりケルビーが噛み付いたままだった――。


   *


 要約するとこうだ――。

 メリルの幼馴染みであるウィザードのリッキー。その彼がスターヒール盗賊団に捕まった

のである。


「……。またずいぶんと簡素な説明ですね」

 あきれながら天使が言った。

「だからこそ“要約”なんでしょ」

 メリルは天使の羽根をむしった。

 きゃ、と短い悲鳴をあげ、天使がバランスを崩す。

 天使の背中に乗っていたメリルは空中に投げ出されそうになった。

「やだちょっと、危ないじゃないの。落ちたらどうするの!」

 今度はお尻を叩かれ、慌てて体勢を戻すガルビス。

「あの……メリルさん。やはり私がメリルさんを抱えたほうが――背中に乗られると飛行が

難しいんですよ」

 いくら体の小さな女の子とはいっても人間である。抱えるならまだしも、それを背負っての

飛行となるとバランスを取るのが大変なのだ。

「なに言ってるのよ。そんなことしたら、あんたに体を触られちゃうじゃないの!」

 さらに両手で羽根をむしる。

「痛い痛い! わかりましたから羽根をむしらないで……!」

 たしかに彼女の体に合法的にタッチできるチャンスだとは思ったが、あまり言うと砂漠に

着く前に翼がハゲになりそうだったので、天使は口をつぐんで飛行に集中した。

783みやび:2007/04/26(木) 03:42:40 ID:ZtSzrS2c0
◇――『それゆけメリルちゃん! (03)』―――――――――Red stone novel[10/10P]

 やがて背中の上でメリルがあくびをした。

「ねえ、まだあ?」

「そんな――飛び始めてまだ五分も経っていませんよ……」

「鈍行ねえ……。シートベルトもないから眠れやしないし」

 (寝る気かい!)と天使は思ったが口には出さなかった。

「とにかく……あたしたちの手でリッキーを救い出し、ついでに盗賊団のお宝もちょうだいす

るのよ! ハイヤー、カルピス!」

 メリルは片手を前方へかかげ、カウボーイよろしく天使の背中でポーズを決めた。

「だからガルビスですってば……ていうかわざと言ってるでしょ……」


 というよりむしろ、リッキー救出のほうが“ついで”なんじゃないだろうか……?

 そう思うガルビスだった。






 ――まて次回!

◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

784みやび:2007/04/26(木) 03:43:17 ID:ZtSzrS2c0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『それゆけメリルちゃん! (03)』

 ――あとがき――

 久しぶりに息抜きシリーズです。
 明日は(というか時間的に今日か……)予定があるのに、ついつい書いてしまった(汗)
 ああ、今から眠れるかな……。 

 そうそう。一応今回から、ヘッダーには全部の作品載せることにしました。
 (一部載っていないのもありますが……あれはなんかもう、気分が乗らなくて(汗))

 眠いので感想は次回ということで(汗)

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

785◇68hJrjtY:2007/04/26(木) 08:05:42 ID:4OD4OlbE0
>773
やっぱりアリスとカレイドは最初の関係とは裏腹に息の合ったコンビですね!
この老人は敵か、それとも味方か。何やらカレイドの過去がまた判明してきそうで楽しみです。
それだけでなく「スマグの追放組」という新しい単語が…続きをお待ちしています。
他の書き手さんにも言えることですが、お時間のある時にゆっくりでも小説を進めてください。
私も感想レスばかりながら日があいてしまったりもする事もありますし(汗)


>みやびさん
まずは「赤い絆」の年表、ありがとうございます&まとめおつかれさまです。
ぜひともこれは抽出してメモ帳保存しておきます(笑) 今後の展開への一助になりそうですしね。
やっぱりこれくらい構想を練っているんですね…「赤い絆」シリーズ、今後も楽しみに読ませてもらいます!

そしてメリルちゃんお久しぶり(笑)
このカルピスじゃなくてガルビスとリッキーの二人は恋人というか召使というか…ともかく良い味出してます(笑)
"可憐な少女メリル三世は死を予感した"などと緊迫した場面でもつい笑いが…。
リッキー君がいったいどういう状態なのかという続きも気になるところですが
個人的には冒頭のメリル三世とその他大勢の活劇も気になる(笑)

786◇68hJrjtY:2007/04/26(木) 08:11:31 ID:4OD4OlbE0
>>785
>773
すみません、スマグの追放組じゃなくて「アウグスタの追放組」ですね。
寝ぼけて書いてしまったので色々おかしいところあってすみませんorz

787みやび:2007/04/26(木) 15:24:17 ID:1BiaGRvc0
 ――『それゆけメリルちゃん!』 本編――
 ■No.01>>504-507 ■No.02>>538-541 ■No.03>>774-783

 ――『赤い絆』 本編――
 ■No.01>>424-436 ■No.02>>477-483 ■No.03>>529-532 ■No.04>>607-612
 ■No.05>>624-630 ■No.06>>659-666 ■No.07>>671-680 ■No.08>>683-688
 ■No.09>>700-710 ■No.10>>724-734 ■No.11>>750-756
 ――『赤い絆』 設定――
 ■小道具、固有名詞 解説>>495-497 ■人物年表最新>>768-770
 ――『赤い絆』 番外――
 ■『愛のしじまに』>>575-583
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『それゆけメリルちゃん! (04)』――――――――――Red stone novel[1/7P]


 周囲にはよどんだ大気と水分を含んだ重たい酸素……そこに新種のカビやら解析不能

な細菌やらを足し、それらを発情したオーガの吐息で割ったような、いかにも健康に悪そう

な空気で満たされていた……。


 そこは彼らの根城――面積だけは広大だが、予算と技術力の都合から地下五メートル

というごく浅い場所に位置する、スターヒール盗賊団のアジトだった。


 アジト内の部屋のひとつが、盗賊たちの野次であふれていた。

 十数人の野次馬の中心にはテーブルがあり、男と女が向かい合って座っていた。

「むおっ!? そ、そんな……ええい、もういちど!!」

 女は下着だけのあられもない姿を野次馬の目にさらし、それでも悔しくてさらに勝負を申

し出た。



    実は彼女、スターヒール盗賊団をまとめている女首領だった。
    もっとも『二泊三日大砂漠の旅! 三千ゴールド ポッキリ!!』とい
    う広告の安さに釣られ、実際には自転車操業状態の旅行代理店にツ
    アーを申し込んだおかげで、ろくに引継ぎなんてしていない、見るから
    に頭の悪そうなコンダクターが『安全な高台から墓所を眺める』という
    予定を大幅に間違え、乗客を盗賊団のアジト前広場まで誘導してしま
    い、彼女も含め、もれなく盗賊に捕まってしまったのが最初だ。
    だが彼女は持ち前の美貌とガッツと欲望で、前任者であった巨漢の首
    領を誘惑し、その妻の座を勝ち取ると、首領に毒を盛って自分がその
    地位に納まったのである。

788みやび:2007/04/26(木) 15:25:08 ID:1BiaGRvc0
◇――『それゆけメリルちゃん! (04)』――――――――――Red stone novel[2/7P]

    そうはいっても、彼女の長所はその美貌とプロポーションだけで、性
    格のほうは陰湿にして淫乱かつ貪欲で混浴で日光浴だった――まあ
    最後のほうはいまいち意味不明だが、とにかく顔と体しか取り柄のな
    い大馬鹿者ということだ。


 だが女の豊満な肉体と絹のような白い肌に涎をたらしている野次馬たちとはちがい、彼

女の向かいに腰を下ろしている青年は涼しい顔で言った。

「しかし、いいんですか? 次に負けると裸になっちゃいますよ?」

 言ったのはリッキーその人であった。


    なんと彼は、盗賊団に捕まったものの、その明晰な頭脳と“何も考え
    ていない”度胸とで悪党たちの心を掌握し、アジト内を自由に闊歩で
    きる状況を作り出すと、次には極度の面食いである女首領――リッ
    キーはかなりのイケメンだ――のハートを鷲づかみ、いつの間にか
    盗賊団に迎えられている賓客みたいな立場にまで上り詰めていたの
    だった。
    そして今、リッキーは女首領と“婆ぬき”でサシの勝負をしていた。
    しかし所詮は脳味噌が十グラムしかない女首領である。知能指数が
    軽く二千を越えるとも越えないとも言われるリッキーに、カード・ゲーム
    で太刀打ちできるはずがなかった。
    ついに所持金をすべて巻き上げられた彼女は次々と衣服まで剥ぎ取
    られ、下着ひとつという深夜番組並みの露出度でほぞを噛んでいると
    ころだった。


「くうっ……このあたしがいちども勝てないなんて!」

 女首領は目にうっすらと涙を浮かべて悔しがったが、もちろん実際に彼女が強いなんて

ことはあり得ない。間違ってゲームで彼女を負かしたりしようものなら、翌日そいつは湿ら

せた皮紐を首に巻かれ、両手両足を縛られて炎天下の砂漠に放り出されるはめになるの

だ。だから手下たちの誰もが、ゲームや他のどんな余興をするときにでも、彼女にわざと

花を持たせているのだった。


    ※水で濡らした皮というのは水分が蒸発するたびに少しずつ縮む性
    質を持ち、それを首に巻いて太陽の下に放置するという刑は、砂漠
    地域では昔から見られる典型的な拷問式死刑執行法である。

789みやび:2007/04/26(木) 15:25:57 ID:1BiaGRvc0
◇――『それゆけメリルちゃん! (04)』――――――――――Red stone novel[3/7P]

 いいぞリッキー! やれやれ!

 と、野次馬たちが下心丸だしの声援を送った。

「ええい、お前たちうるさいよ! 見てな、次こそはあたしの勝利だ!」

 女はそう手下たちにいきまくと、リッキーに向かって震える手を突き出し、人差し指を立て

て頭をさげた。

「たのむ! もう一回だッ!」

 リッキーはため息をついた。

 すでに一生遊んで暮らせるだけのお金は手に入れたし、女性の裸を見ることに何の興味

もない彼にとっては、そろそろゲームが飽きてきたところだ。

 彼の名誉のために付け加えておくと、彼は男色家というわけではないし、きれいな女性を

見れば客観的に“美しい”と感じることができる。ただ彼は、性欲がないという特種な体質な

のだ。それが証拠に、彼は十代という多感な少年期が終りを向かえる頃まで、メリルとひと

つ屋根の下で生活し、一緒にお風呂に入ったり、また同じベッドで寝ていたりもしたが、ただ

のいちども心が動いたことはなかった。

「しょうがないですね……それじゃあ、今度こそラストですよ。というより、その下着を脱いだ

らもうあなたには賭ける物がないんですから……」

 そう言い、リッキーは魔法使いらしく見事な手さばきでカードをシャッフルした。

 うっとりするような彼の長い指先の動きを見つめ、女首領は密かに(ふっ、甘いな。まだあ

たしにはこのナイス・バディというお宝が残っているのさ……。たとえ次で負けても、この豊

満な肉体を賭けて再チャレンジできるんだよ!)などと勝ち誇ったように考えていた。やは

り天然の馬鹿である。

790みやび:2007/04/26(木) 15:26:37 ID:1BiaGRvc0
◇――『それゆけメリルちゃん! (04)』――――――――――Red stone novel[4/7P]

   *

 その頃、砂漠のとある場所では――。

「ほら、なにやってるのよ! 早く殺して!」

 メリルは天使の背中を押した。

「のわあああ! あぶない!」押されてつんのめった天使は寸でのどころで砂漠の毒サソ

リの針に刺されるところだった。

 もっとも相手が毒のないただの平凡なサソリだったとしても、その体はゆうに全長三メー

トル――そんなやつの尾っぽから「シャキーン!」と生えている巨大な針である。それに突

かれればまちがいなく即死だろう。


 ふたりは今、砂漠のど真ん中で毒サソリの群れと戯れていた。

 メリルが眠気覚ましに天使の羽根をむしり過ぎたので、ハゲ山状態になった翼が浮力を

失い、とうとう不時着したのだった。

 サソリは全部で二十匹はいるだろうか。

 メリルと天使を囲み、ガラガラヘビのように尾っぽを鳴らしながら襲うタイミングを計って

いた。

「あんた、なにかスキルあるでしょう!? 天使でもビショップでもいいから、早く!」

「そんなこと言っても……」天使は口ごもった。「人を乗せて飛ぶなんてよほど重量を軽くし

ないと無理だから……だからCP装備も高速装備も、ついでに青ポも置いてきちゃいました

よ」それから顔を赤らめて「聖水撒きはまだ装備できないし」と漏らしたが、なぜか「じゃあ

メリルさんが聖水撒きを装備して」とは思いつかなかった。

「あんた馬鹿!? そんなの祈りなさいよ!」

「だって……回想レベルまだ二〇だし……数匹は相手に出来ても、そのあと祈ってるあい

だに他のヤツに襲われてしまいますよ――っていうか、メリルさんペットは? 召還獣だっ

て第三段階にできたはずでしょう!?」

791みやび:2007/04/26(木) 15:27:24 ID:1BiaGRvc0
◇――『それゆけメリルちゃん! (04)』――――――――――Red stone novel[5/7P]

「なにを寝ぼけてるのよ。可愛いペットや召還獣にそんな危険なこと、させられるわけがな

いでしょ」

「何のためのペットですかッ!?」天使は笑いながら怒った。

 するとメリルは真面目な顔で「愛玩」ときっぱり言い放った。

 天使はその場で「ちゅどーん!」と自爆した。

「あ……あの、メリルさん?」バラバラになった体をかき集めながら、天使はわなわなと震

える声でメリルを責めた。

 天使が体を再生させた頃、メリルはどこからか取り出した扇子で「ペチン」と自分の頭を

叩いた。

「そうだわ! この手があった!」

「え、なにか名案ですか!?」

 天使が見守るなか、メリルは小熊のリュックサック――それはヘムクロス平原でぬっ殺し

た小熊の体をくりぬいて造った特注の品で、蓋の部分には「にへら」と笑う可愛らしい小熊

の顔がそのままくっついていて、メリルのお気に入りの逸品だ――から画用紙とクレヨンを

取り出し、なにか書き込むと、木の枝を拾ってそれに画用紙を貼りつけ、出来あがったもの

を「さくっ」と砂漠の大地に突き立てた。



 その画用紙には――

    “只今準備中なの。しばらく待ってね♪ byメリル”

 ――とミミズが這ったような稚拙な字で殴り書きされていた。

792みやび:2007/04/26(木) 15:28:55 ID:1BiaGRvc0
◇――『それゆけメリルちゃん! (04)』――――――――――Red stone novel[6/7P]

「よし。とりあえずサソリをこれで足止めしておいて……」

 真顔でそう言うメリルに天使は思わずツッコミを入れた。

「そんなのが通用すれば苦労しませんよっ!! てかあいつら字が読めるんですかっ!?」

 そう言って天使が自分の指差したサソリたちのほうを見ると、彼らはメリルが造った看板

の前で大人しく正座――どういう格好かは不明だが――していた。

 またしても天使は「ちゅどどーん!」と自爆した。

「あんたも忙しい男ね……」

「誰のせいですかッ!?」今度は瞬時に再生して天使は叫んだ。

「それよりコレよ、コレ」

 メリルは声をひそめると、次に熊さんリュックから小さな箱を取り出した。

 箱は手の平サイズのサイコロみたいなやつで、すべての面に小さく「ロト」と刻印されてい

た。

「メリルさんそれって、ロト・ボックスじゃ……?」

 メリルは得意げに片方の眉をつりあげた。

「そうよ。さ、あんたも手伝って! これで天使かビショップ用の装備を出すのよ!」

「おお! それは名案ですね!」

 釣られてそう答えたものの、天使は(ん? なんかちがうような……)と思った。

「なにぼけーっと突っ立ってるのよ。はやく開封して!」

 メリルは熊さんリュックから次々にロト・ボックスを取り出した。

「はっ――ああ、はいはい!」天使は慌てて開封にかかった。


 ふたりは一時間かけてボックスを開封したが、それでも天使やビショップの攻撃をサポー

トしてくれる装備は出てこなかった。

 それでも尽きることなくリュックから出てくる大量のロト・ボックスを見て、天使は(どうりで

メリルさんひとりを乗せてるにしては重いと思った……)とため息をついた。

793みやび:2007/04/26(木) 15:29:38 ID:1BiaGRvc0
◇――『それゆけメリルちゃん! (04)』――――――――――Red stone novel[7/7P]

 いつしか周囲はとっぷりと日が暮れ、その闇のなか、メリルと天使はロト・ボックスを開封

し続けていた。

 彼女たちの周りにはゴミのようなアイテムが山積みにされていたが、目的のブツに当る

気配はまるでない。

「はあ……なかなか出ないわねえ」

 ため息をつくメリルに天使が尋ねた。

「ねえメリルさん……運キャラでしたっけ?」ロトに運が影響するとは思わなかったが、ここ

までくるとそう聞かずにはいられなかった。

「アホなこと聞かないでよ。知恵極に決まってるでしょ」

 天使は沈黙した。

「それよりもう寝よ。お腹も空いたし、疲れちゃった……」メリルはボックスを放り投げた。

「ダメですよ! そんなことしたらサソリのいい餌食です!」

 メリルは「ぷー」とほっぺを膨らませたが、眠い目をこすりながら開封作業に戻った。


 夜の闇と静寂が支配する砂漠で、箱を開封する音と、それらに混じってふたりの「ちっ」と

いう舌打ちだけが響いた。


 ちなみにサソリたちは待ちくたびれて巣穴に戻ってしまっていたのだが、ふたりがそれに

気づくことはなかった……。




 ――またしてもまて、次回!
◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

794みやび:2007/04/26(木) 15:31:03 ID:1BiaGRvc0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『それゆけメリルちゃん! (04)』

 ――あとがき――

 予定を明日に回したので、続き書きました。赤い絆のほうは気持ち的に余裕がなかった
ので、メリルのほうを……(汗)

>773さん
 あまり無理をなさらず、余裕があるとにき書いてくださいね。いつでもお待ちしてますよ。

 しかしひとくせありそうな老人の登場ですね。
 こういう展開って好きです。
 老人のヤバそうな(?)雰囲気もすてき(笑)
 狂信者(とあえて言いますが)というのは物語を扱う側にとっても面白いですし、読者とし
てもどきどきする存在ですよね。果たして老人の真意は何なのでしょうか……続きが気に
なります。

>68hさん
 リッキーの状態はいかがだったでしょうか……(汗)
 なんだか下ネタ色に傾いてきちゃってますね(汗) まあ基本ギャグですし、大丈夫だとは
思いますが(笑)

 ということで、本日以降、GW中はおそらく感想のみになっちゃうと思います。
 が、ちゃんとここはチェックしに来ますので、お休みで投稿が増えると嬉しいな〜。

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

795◇68hJrjtY:2007/04/26(木) 17:40:00 ID:4OD4OlbE0
>みやびさん
盗賊の首領を手玉に取るとはリッキー君、さすがです!(笑)
しかしリッキー君にそんな体質があったとは。才色兼備なのに勿体無い…。
ガルビス君の方はまたも災難に次ぐ災難ですね。自爆もほどほどに…(笑)
シモネタとは全然感じませんでしたよ。それよりも笑いどころが多くて。
時折の解説が戦隊アニメ系の解説シーンみたいでこれも面白いです(笑)

思えばGW間近になってきましたね。
新規参加者さんの登場、私も願わせてもらいます。(自分は書かんのかw

796名無しさん:2007/04/27(金) 21:03:48 ID:AUyJT8tA0
>>773の続きです。
今日は珍しく早く終わったっす。うへへへへ。


「おお、神よっ!私にっ!まだ試練をっ!与えるのですかっ!!」
老人は、そのほっそりとした外観からは予想も付かない速さで剣を振り回しながら襲い掛かってきた。
「アリス、下がりな。」
言われるがままにさっと後ろの方へと下がるアリス。カレイドは背中から盾を取り出し、前方へと走り出す。
老人はカレイドに向けて、思い切り剣を振り下ろした。
途端響き渡る様な金属の音と共に、散った火花で辺りが映し出された。
同時にズザザッと、カレイドの両足が後ろへと下がる。そして老人が思い切り後ろへ仰け反り、その剣の先を地面へと突き刺してしまった。
盾には大きく傷がつけられていた。
「なんて力だ・・イカれてやがる。」
カレイドが身体を立て直すと、老人は何かぶつぶつとつぶやきながら、剣を必死にガクガクと動かしていた。
その様子は先とは全く違い、まるで危険を感じた猛獣の様だった。
「・・はっ!」
突然、そういう声と同時に、カレイドの後ろからヒュンと一筋、光る矢が飛んできた。
その矢は老人の胸に突き刺さり、一瞬老人のうめき声と同時に動きが止まる。
「やったか?」
カレイドが盾を再び前に持ってくる。と、再び老人が剣を動かし始めた。
しかも今度はなにやら様子が変だ。目の色が変わり、しまいにはわけの分からない事を叫び、剣の先をへし折り、それを構えて突進してくる。
「チッ!」
「ああ!神の慈悲が我が手にぃ!!」
「カレイド!」
先程よりも一段とすばやい振りがカレイドを襲う。
カレイドは転がる様にして、それを避ける。
だが、まるで農業の鍬の様に、ガンガンと剣は此方へと向かってくる。
カレイドはゴロゴロと、それを避け続ける。地面に次々と、マシンガンで空けられた様な穴が空いて行った。
「死ねぇ!!死ねっ!!」
「やっ!」
アリスの弓から矢が再び放たれる。それは吸い込まれる様に、老人の頭を貫いた。

797名無しさん:2007/04/27(金) 21:04:30 ID:AUyJT8tA0

「ガァッ・・・!」
仕留められた猛獣の様に、老人は吠える様な声を上げながら倒れる。
それを見て取ったカレイドはすぐさま立ち上がり、剣を構えた。
「なんて元気な爺さんなんだ・・・。」
老人は両手で脳天を貫いた矢を握り締め、のたうちまわっている。
普通の人間なら、既に息絶えている所だというのに。
「神よ・・・グァァ・・!チ・・カ・・」
カレイドは、静かに老人の持っていた刃物を部屋の奥の方へと蹴り飛ばした。
「こいつ・・まだ生きてるわ!カレイド!」
老人はばたばたと足を動かし、矢を上下させている。

と、暫くすると、その動きが突然止まってしまった。
先程までの騒々しい部屋の中が、一瞬、静まり返る。
「・・死んだのか?」
カレイドはそう呟き、老人にとどめをさすべく、剣を両手に持った。

「・・まだよ!」
アリスがそう叫び、矢をヒュッ、と放つ。と同時に老人の身体がビクッと跳ね、その直後、矢が老人の腕へと突き刺さった。
「こいつは爺さんじゃなくて化け物の様だな!」
老人は頭の矢にも構わず立ち上がり、身体をビクビクと震わせた。
「・・・アハ!アッハッハッハハハハ!!ウハハハハハァァア!!」
そして、突然奇怪な笑い声を上げ、震えの止まらない身体でカレイドへと殴りかかる。
「―やぁっ!」
カレイドはその拳を受け止め、くるりと後ろを振り返った。そして腰を落とす・・と同時に、老人の身体は空中へと浮かび、次の瞬間、壁へとたたきつけられた。
だが老人は痛みすら感じないのか、かん高い笑い声を上げながらなお、此方へと走ってくる。
「しつこいわね!」
アリスの矢が再び飛んで行く。腕や腹に突き刺さり、その度に老人がよろけたが、なぜか笑いながら走って来る。
「アーッハハハハハ!!神の力の前では無駄だぁぁぁ!!!っはっははははは!!」

・・と、老人の動きが突然止まった。
「・・・?」
カレイドが盾の奥からそれを見つめる。
「・・・あ・・・ハハ・・・は・・・」
老人の笑い声が、次第に鈍くなってくる。と、同時にカレイドが叫んだ。
「アリス!伏せろっ!!」
「えっ!?」
アリスは条件反射的に、身体を大きく下げた。と、同時に辺りにけたたましいほどの音が鳴り響く。
「・・こ、今度はなんなの!?」

・・見ると、老人の足から何からが無残に切り刻まれていた。
その傍らには、ワイヤーに引っかかり、血の滴ったトラバサミ状のものが大量に転がっている。

「・・自分の罠に引っかかったのか・・。」
「うっ・・」
「見ないほうが良い。」
気分が悪そうにうつむいたアリスの顔を盾で覆い、カレイドは静かに呟いた。
「・・・これじゃ、救いも何もあったもんじゃないな。」
「・・なんだったの?この人・・。」
アリスを前に立たせ、カレイドは無残な後ろを振り返りながら歩き始める。
静かにカラン、と言う金属の音が、部屋の中に響いた。
「・・恐らくアウグスタの過激派だろう。不正規戦の大半はやつらが起こしているらしい。
あの爺さんもその一人だな。その内ブルンネンシュティグのビショップ達とも戦争になるだろう。」
アリスは出来るだけ後ろを振り返らないようにし、彼の言葉を聞いた。
「・・そう言えば、さっきのジャイアント達も・・。」
カレイドは、もう動く気配すらなくなった残骸から目を離し、静かにアリスの背中に盾を当てた。
「・・多分奴等の戦力補充だろうな・・。制圧が出来たら安息地を与えるとでも言ったのだろう。
ジャイアントやコロッサス、ハイランダーの部族は一般的に安息地を求める傾向にあるからな。上手いやり方だ。」



なんか戦闘シーンの描写が苦手です・・。

798elery_dought:2007/04/27(金) 21:27:33 ID:s7nePO6Q0
ミーネ「じゃあ私たちはもう行くから、ちゃんと寝ててね」
ギル「わかった…」
結局熱は下がらないままGv20分前。
ミーネが部屋を出て行ったあと、壁に立てかけたまがまがしい愛用のクローをみる。
ギル「ちくしょう…」
今までGv無欠席だったのでどうしてもでたい。
もう夜遅く、丸い窓からは綺麗な月が見える。
ギル「よし…」
ギルはすぐ着替え、ベルトやらヘルメットやらいろいろ装備して、家を出た。

ギル「みんなもう会場かな」
バレたらまずいので、周りを気にしながら歩く。
会場に入るとすぐにアナウンスが流れた。
あと少しで始まるそうだ。
ギルメンのバッチを受付に見せ、ワープするところへ。
壁に、床に、張り付くようにコソコソと移動する。
なんとかワープできた。

ミーネ「あー!!!!!」
シン「うわ!ギルのユウレイだ!」
同じ場所にワープさせられるのですぐにばれた。
ギル「いや…俺だってでたいんだよぉ!」
ミーネ「熱あるんだから…」
シン「まぁせっかく来たんだし、それなりにポイント稼げよぉ!?」
ギル「任せろっ!」
-ギルド戦が始まりました-
ミーネ「みんなトランシーバーONにして」
昨日も使ったトランシーバー。
ギルドメンバー同士で会話ができて、ギルドステータスもみれる優れものだ。
シン「いくぞ!」
走っているとすぐ目の前に敵の集団が現れた。

ギル「思ったよりすくねーな」
シン「ああ…なんだあいつら…」
3人くらいしかいなかったがどれも、異様なオーラがただよう。
シフ「シフと剣士とランサーですね」
シン「よくわかったなぁ、すげぇ」
とまばたきをした瞬間、3人ともいなくなった。
シン「なに!」
シフ「後ろです!」
シフは後ろに身構え大量の短剣を投げつけた。
'ブラー’をうまく見切り、シーフがあらわれた。
メオ「へへ、もらったぁ!」
短剣をかわしたシーフは木にジャンプで登りながら、ダートを投げてきた。
それをかわすと
ミーネ「私がやる!」
ネクロ「俺もいくぜ!」
シン「わかった任せたぞ!」
ネクロとミーネは木の下からシーフ(以下メオ)を追っていった。

シフ「残りの2人は…まだ探知できません;」
マーク「ここにいるさ」
シン「!!」
かなり長身で、ごつい鎧を着た剣士が真後ろに立っていた。
ギル「おらぁ!」
ギルはマークに飛び掛り三連回し蹴りをかます。
マーク「きかんな…」
マークはびくともせず、立ち直っているギルを蹴っ飛ばす。
ギル「うっ」
ギルはふっ飛び、何とか体勢をなおす。
ギル「おい、もう一人は?」
シフ「ぁ、ぇっと・・!」
と、ランサーがシフの真横に現れ、スッと槍がシフの胸を貫通する。
シン「おい!」
シフ「ぁぁぁ…」
シフはしばらくしそのまま倒れた。

シン「このやろぉ!!!!!!」
ランサーに飛び掛り、盾で殴って異常なまでにふっ飛ばした。
シン「俺はあいつをやる!」
と言ってランサーのところに走っていった。

マークはびくともせず、立ち直っているギルを蹴っ飛ばす。
ギル「うっ」
ギルはふっ飛び、何とか体勢をなおす。
ギル「おい、もう一人は?」
シフ「ぁ、ぇっと・・!」
と、ランサーがシフの真横に現れ、スッと槍がシフの胸を貫通する。
シン「おい!」
シフ「ぁぁぁ…」
シフはしばらくしそのまま倒れた。

シン「このやろぉ!!!!!!」
ランサーに飛び掛り、盾で殴って異常なまでにふっ飛ばした。
シン「俺はあいつをやる!」
と言ってランサーのところに走っていった。

799elery_dought:2007/04/27(金) 21:29:09 ID:s7nePO6Q0
マーク「いくぞ!」

マークはいきなり刀を振りおろしてきた。
間一髪、回避でかわす。
刀は地面にめりこんでいる。

ギル「もらったぁ!」
マークの腹めがけて思いっきりせいけんづきをかます…。
メキメキと鎧がへこんだ。
マーク「刀を使うまでもなさそうだな…」
直後、ギルの顔にマークの左の拳がとんだ。
ギル「うっ…!」
ギルは軽くふっとばされた。
立ち上がりつつマークを確認する。


いない。


マーク「後ろだ。」
右肩に激痛がはしる。
鉄の固まりが深くくいこんでいる。
ギル「うわぁぁ!」
ギルはそのまま意識を失った。

800elery_dought:2007/04/27(金) 21:57:26 ID:s7nePO6Q0
-対メオ戦-

ネクロ「どこいきやがった!?」
ミーネ「気を付けて、なにかくる…」
足音は後ろから聞こえる。
ふりかえるとシーフが一人。
クリフ「やぁ…」
ミーネが走ってエントラ
ミーネ「分身ね」
と言いつつ、ネクロをみるとネクロは倒れていた。
すぐよこに、血まみれの短剣をもったクリフ。
ミーネ「!」
クリフ「前衛職かい…」
短剣をぽいと投げならら言う。
ミーネ「それがどうかした?」
クリフ「やってりゃわかるさ。」
クリフは無数の短剣を投げてきた。
ミーネ「近づけないとでも思ってるのかしら?」

ミーネはすべてかわすと、メオに向かって走り出した。
クリフ「へへへ」
クリフは続けて短剣を投げてくる。カンカンと槍ではじく音

メオにだいぶ近づくとミーネは槍を突き出した。
ミーネ「くぅ!」
豪快にこけるミーネ。
マウストラップが仕掛けてあった。足から鮮血が流れだす。

メオは後ろ跳びで距離をおいた。
メオ「いっとくけど、おれ、剣士さんたちの攻撃受けたこと無いんだよぉー」

ミーネ「……信念」
ミーネの周りに赤いオーラがみえる。再びミーネは走り出す
メオ「無駄だってのにぃ」

ミーネ「やあ!」
素早くメオの背後にまわる。
メオ「読めてるぜぇ!」
ミーネ「!…体が…」
メオ「ケケケ…死ね」

無数の短剣が飛んでくる。
ミーネ「くぅ…!」
なんとか首だけ動かしし、かわしたが1本が右目をかすった。ブービートラップの効果もきれ、今度はミーネの方から距離をおく。

ミーネ「…瞑想」
手を胸にあて、目をつむる。オーラはさらに増した。
ミーネ「…覚醒!」
目を開けると瞳はルビーのように輝いていた。

メオ「うわ、やばそうだな…」
メオは 黒く光るルインドライバーを取り出した。
メオ「…シャドウスキーニング」
メオの瞳は漆黒のようになっていた。やがて全身が真っ黒になり、影のごとく消えた。

ミーネ「隠れたって無駄よ」
真後ろに槍を突き出すと、何も無いところから赤い血が噴きだした。
メオ「ちっ」
ミーネは後ろを向き続けて攻撃しようとするがあっけなく防がれた。
殺意に満ちた漆黒の眼で。
メオ「調子に乗るなよ、嬢ちゃん」

左のこぶしで殴られ真上に吹き飛ばされる。

メオ「ダーティーフィーバー」

さっきの5倍近い量のルインドライバーがミーネに襲い掛かった。

801elery_dought:2007/04/27(金) 22:10:16 ID:s7nePO6Q0
-対ランサ戦-

シン「…」
ランサー(以下レイ)「あら、やっと2人きりになれたのに、うかない顔ね」
シン「…黙れ、殺すぞ」
レイ「シフさんやられちゃったのがそんなに悲しいの?」
シン「!!」
レイ「まぁ、あんな雑魚いなくたって変わらないわよ。」
シン「………ギリギリギリギリ」
歯ぎしりの音、口から血が出ている


シン「ビーストベルセルク」


レイ「!?」
シン「うぉぉぉぉ!!!」
シンは雄叫びをあげた。
シン「死ね!ブタがぁぁぁぁぁ!」

レイ「自分えを見失っているよう…」
ブシュ…ボト
袈裟斬りでレイの右腕と首が地面におちた。
シン「がるるるるる……!!!」
シンは何かを感じたかのように、四つ足でミーネの方へ走っていった。

802elery_dought:2007/04/27(金) 22:28:49 ID:s7nePO6Q0
メオとミーネのところにはマークもいた。マークは血だらけのギルを抱えていた。

メオ「調子はどうだい?」
マーク「お前、その眼は…」
メオ「ちょっと苦戦しちまってよぉ;;」
マーク「二度と使うんじゃないぞ」
メオ「ぅぅ…;_;」

シン「ぎりぎりぎり、がるるるるる」
メオ「!?」
マーク「さっきと様子が違うな」
マークは巨大な刀を抜いて身構える。

シン「…!」
シンは向こうで倒れているミーネやネクロを確認する。
シン「ギル、マデ」
シュッとメオとマークに飛び掛る。2人とも軽快にかわし、メオは消えた。
シンはマークを標的にし、したすら刀を振り回す。
マーク「なんて力だ…」
メオ「ダーティーフィーバー!」
シン背中に大量のルインが飛ぶ。ブシュブシュ…。
背中に刺さったにもかかわらず、シンはマークに襲い掛かる。
そしてマークの刀を横にかわし、刀身にパンチをかますと、ボロボロとひび割れ半分ほどの大きさになってしまった。
マークは刀を捨て大きくジャンプし、メオの隣に着く。

シン「うぉぉぉぉ!」
背中に刺さったルインドライバーが弾け飛んだ。
シン「うぉぉぉぉ・・・お…?」
シンはあっけにとられた、全身が返り血にまみれている。
マーク「正気にもどったか…?」
シン「いてぇぇぇ!」
背中の激痛に耐えられず、シンはそのまま倒れた。

-ギルド○×△との対戦で敗北しました-

803elery_dought:2007/04/27(金) 22:31:59 ID:s7nePO6Q0
多少ぐろてすくな表現がありました。
苦手っだった方、本当にすみません。

804◇68hJrjtY:2007/04/28(土) 05:49:57 ID:amWDu0Ws0
>796-797
やっぱりご老人は既に…なんてゾンビチックな言い方ですが狂気ぶりが凄い(怖)
カレイドは流石に世の中について詳しいですね。アウグスタとの戦争とはまたただならぬ事態ですが…。
普通の冒険小説からだんだんと世界観が広がっていく感じで読んでいてどんどん面白くなってきました。
戦闘シーンは書き手の皆さんも苦労されているようです、頑張ってください!

>elery_doughtさん
うわぁ、シンが、シンが!(泣)
しかし、私はGv未経験なのにGv戦闘の緊迫感みたいなのが良く伝わります。
最初にシフ君が探知をしようとした瞬間にレイにやられてしまったシーンとか、ミーネとメオの一騎打ちとか
攻撃を受けているのに構わずギルを捕らえているマークだけを狙うシンとか…これも映画化希望したいくらいです。
シンもそうですがギルも大丈夫なんだろうか…続きお待ちしています。
しかしどのキャラも良いなあ…個人的に敬語で低姿勢(?)なシーフって新鮮だったのでシフ君ファンです(笑)

805殺人技術:2007/04/29(日) 23:40:03 ID:E9458iSQ0
>名無しさん
 老人のテンションに嫉妬。
>>老人はカレイドに向けて、思い切り剣を振り下ろした。
>>途端響き渡る様な金属の音と共に、散った火花で辺りが映し出された。
 連続するシーンの場合、最後が「た」で終わるのは連続させない方が良いですよ。

 ……ビショップ同士の戦争か……見てみたい(ぁ
>elery_doughtさん
 まず思ったんですが、半角が多すぎて読みづらいというのが率直な感想です。
 全角でも問題ないと思いますよ。
 あと、!や?も余り沢山はつけない方がいいです。
 描写もちょっと投げやりな感がしますが、頑張って下さい。
 GVを題材にしたってのは結構良かったです。



 ……偉そうに指摘してごめん;

チョキー・ファイル

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

32-36>>548-552
37-38>>568-569
39-42>>592-595
43-46>>617-620
47-51>>693-697
52-56>>760-764

地下界編(単なる回想)終了。
キツかった。

806殺人技術:2007/04/29(日) 23:40:34 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(57)

 噂とは恐ろしい物だ。連続失踪事件の対象、失踪者が皆身寄りのない者だったり、周囲から敬遠されていたり、スラム街の人物に限られている等という事実は、人々の衆道的な行動を煽るには十分だった。
 最初は単なる謎の事件とされていたが、王宮が箝口令を敷いた事で状況は一変し、今や失踪事件の話題は現女帝の立場を突き崩す不安要素として確立してしまった。
 数日前のパレード、その輝かしさも何処へやら。
 そしてF・Fは、脱獄の事実が露見した瞬間、周りの大臣達や円卓を共にする将軍達に猛烈な糾弾を受け、F・Fを指示していた一部の者達も指示を変えざるを得ず、結局F・Fは王宮追放の憂き目に合った。
 どのみち関係なくなる事なのだが。
 「申し訳ありません、お嬢様は今、貴殿には会いたくないと仰っておられます」
 F・Fは再びあの豪邸の玄関口で引き留められると、執事の言い分が以前と違う事に眉根を寄せた。
 会いたくない――言い訳にしては、執事が付くには勝手すぎる。
 F・Fはその意味を暫し吟味すると、仕方なく引き下がって、使い古した様な傷一つ無い扉から外へ出た。執事はそれを確認するとゆっくりと扉を閉める。
 F・Fは芝生の海の上で、太陽の光を反射する眩しいまでの石畳から、同じく光り輝くような豪邸の姿を仰ぎ見た。
 今思えば、全て私の思いこみだったのかもしれない――F・Fは頭の中でそう考えた。
 地下界に生きる悪魔は生まれたその瞬間から、それぞれ固有の能力を有している。その能力は遺伝する訳でもなく、後天的に変更出来る者でもない。
 その能力が強力な者もいれば矮小な者もおり、単に魔力や肉体が優れていたり、視力が抜群に良かったり、中には性別を自在に変えられる者も居る。
 W・Cの場合は冷気魔法の素養に加え、その漆黒の羽根に瞬間移動や巨大化等の魔法が宿っている、これは強力な例だ。
 F・Fの能力はどうなのだろうか、その能力の正体は本人にも分からず、かといって他人はもっと知らない。
 F・Fは世界の情報――というより、その世界に生きる生物達の瞬間的な目的、意図、行動、そして含蓄、企み……それらを全て、漠然とだが知ることが出来る。
 あくまで漠然と。あまりに情報が多すぎる為、「無用」と脳が判断した殆どの情報は認識する前に切り捨てられてしまう。
 F・Fは見上げた首を見えない地平線に戻すと、豪邸を後にした。
 最後の一線を前にして、自分の能力を信用しきれなかった……。

807殺人技術:2007/04/29(日) 23:41:06 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(58)

 私は何をしているのだろうか、
 F・Fは焼け付く城下町の街並みを歩き、ひっそり閑とした通りの真ん中で足を止めると、不意に呼び止められた様に上天を仰ぎ見る。
 血の様な空。山吹色に輝く雲と、その紫色の影が海面を漂う蛇の様に空を装飾している。どこからともなく真っ黒の烏が、天に黒点を穿つ様に飛び回る。
 そう、あれは……。
 "腕の具合は良くなったのかな"
 一陣の風が吹き、F・Fの耳に囁きかける。
 空をくるくると飛ぶ烏がその動きを弱めながら、その回転の幅を小さくしていく。こちらに飛んできてるのだ。
 F・Fの目の前の地面に烏は獲物を捕らえる鷹の如く急降下し、漆黒の光と共に本来の姿を晒す。
 黒の羽毛が夕日の逆光を受けて更に黒味を強くして、F・Fの視界を真ん中で分断する。
 「俺を捕まえに来たのか? 脱獄者の確保は"高得点"だからな」
 「……」
 W・Cは押し黙り、その表情を厳しくした。が、逆光が強くてF・Fにその表情は読み取れなかった。
 「今ここでお前を捕まえて、王宮に差し出しても良い、同期などという甘ったるい絆は私には甘すぎたからな」
 W・Cの背景に夕日が重なり、鷲人間のシルエットが浮かび上がる。
 「お前の行動を見ていた、先程屋敷に侵入しようとして失敗した所もな」
 夕日が次第に地平線に足を付き、少しずつ闇へと潜ろうとしている。空は段々といつもの闇に包まれていく。
 「侵入とは人聞きが悪い――そういえば、君は俺がいなくなってもやっていけるのかな?」
 この期に及んでまた毒を吐くつもりだろうか、この口は。F・Fは頭の中で自分に毒突いた。
 今度はF・Fにも分かるくらいW・Cの顔が歪んだ。
 「いつまでも昔の私だと思わないで頂きたい、自分に有利となる情報くらい、自分で探すさ」
 F・Fは鼻息混じりに顔に小さく笑みを浮かべる、顔の筋肉が弛緩しただけなので、目も同時に閉じる。一瞬だが寝顔の様にも見えただろう。
 笑顔の理由は自分にも分からない。他人なら――この笑顔という情報を知った者ならば、分かるかもしれない。
 「侵入する必要などない」
 W・Cはそう言うと、F・Fの訝しがる顔を見て、躊躇いの後に言った。
 「第四位王位継承者は死んだ、死因は刺殺、心臓を一突きで、即死だ」

808殺人技術:2007/04/29(日) 23:41:42 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(59)

 「え……」
 ………………何か言ったか。
 コイツは何を言った。
 私は膝から落ちて、石畳の上で両手を付いた。
 第四位王位継承者は死んだ、死因は刺殺、心臓を一突きで、即死だ
 死んだ。
 心臓を一突き
 心臓を
 心臓
 「……心臓を」
 「あぁ、恐らく地上界へ行かせない為だ」
 ………………
 ………………
 なんてことだ
 なんてことだなんてことだなんてことだ
 「……遅すぎた」
 声に出てしまった……
 「何が遅すぎたのだ?」
 何故聞く
 何故聞く
 何故聞くんだ、この悪魔が
 悪魔が
 悪魔が
 「!……」
 「落ち着け、話を聞け」
 ……冷たい、これは……W・Cの魔法か。
 「無関係な怒りを振りまくな」
 「……」
 ………………
 ………………
 何十分たっただろうか
 私は冷気の中で凍った様に口を閉じていると、次第に景色が、周りの光景が、次第に見えるようになってくる。

809殺人技術:2007/04/29(日) 23:42:10 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(60)

 「――お前らしくない」
 W・Cは小さくそう呟くと、F・Fは顔を上げてW・Cを見た。既に逆光は弱まっている。
 「彼女はお前があの屋敷に行く数時間前に死亡した、執事の様子がおかしかっただろう」
 F・Fは無言で頷き、その目には虚脱感が渦を巻いて淀んでいる。足下の石畳はなぜか醜く融解していた。
 「――悪魔の力というのは、その悪魔の"思い"の強さによってその力も強くなるが――私のは少し特別で、他人が使う場合は他人の"思い"が原動力となる」
 「……」
 「お前は目的の為には手段を選ばない、ならばお前が帰ったのは目的がないからだ――"手段”になり得る物はお前にやる、"目的"は自分で考えろ」
 W・CはF・Fの言葉を遮り、言い終わると漆黒と共にその場を後にした。
 「……」
 F・Fは手に残った一枚の黒い羽根を親指と人差し指で弄んでいると、頭の中にW・Cの最後の言葉だけが、しつこいまでにリピートを繰り返して反響する。
 "目的"は自分で考えろ。
 "手段"になり得る物はお前にやる
 "手段"になり得る物――ならない可能性があるという事か?
 "目的"は考える――その"目的"が正しいかどうかを考える?
 そして"思い"の力で強くなる力――この黒い羽根のテレポート能力も、私の"思い"次第で強くなる?
 ………………
 ………………
 「………………」
 そういう事か。
 既に黄金の輝きは消え失せている。ただ紫紺と静寂が広がるのみ。
 F・Fは手に持った羽根に魔力を集中させ、目を閉じて静かに念じた、目を閉じる直前、一瞬羽根の黒味が増した様な気がした。
 あの部屋へ。
 彼女の目の前へ。
 彼女を助けられる唯一の瞬間へ。
 飛んでくれ!

810殺人技術:2007/04/29(日) 23:42:34 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(61)

 全身に痺れが走る、目が覚める様な電流に視界が明滅し、その身体に食いつく数匹の蛇を見ると、F・Fはその蛇を痺れる手で剥がし始めた。
 「……何だ、今の光は、蛇の数が……」
 背後で男の狼狽する声が聞こえる、あの執事だ。
 F・Fは全ての蛇を剥がし、身体の痺れが弱まると倒れそうになる身体を何とか支える。
 「……チッ、今度こそ……」
 執事が何か呪文を唱え始めると、その両手に凶悪な気を放つ雷球を発生させた。
 だが、それが放たれるより早く、振り返ったF・Fの手から伸びた灼熱の火炎が執事を包み、火達磨と化した執事はその場に崩れ落ちた。
 「……貴方、胸の傷が……」
 背後から聞き覚えのある声がする、その声を聞いた瞬間、F・Fは自らの身に起きた事を完全に把握した。
 振り返る、目の前に、第四位王位継承者が生きている。
 「あ…………」
 女性はか弱い声を上げて、すぐ黙り込んだ。
 首が無くなった女性の肢体が、死体が、F・Fの膝に抱きつく様に倒れる。
 女性の首がころころと絨毯の上を転がり、血飛沫が床を、机を、ティーセットを、本棚を、壁紙を、F・Fを、全てを紅く染めて、そして静寂が戻る。
 F・Fは力のなくなったその姿を見下ろし、小さく「すまない」と呟いた。
 これでいい。
 これでいいんだ……。
 そして、私も彼女を後を追って、地上界へ――
 瞬間、全ての音が聞こえなくなり、身体が謎の衝撃を受けて倒れ込む、床の上で何故か身体が釣り上げられた魚の様に跳ね、視界に電流が流れる。
 仰向けに倒れた私は訳も分からず目を動かし、その理由を知った。
 上下逆さの執事の顰笑が、薄らぐ視界のなかでいつまでも焼き付く。
 あの執事……まだ生きていたか……。

811殺人技術:2007/04/29(日) 23:43:11 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(62)

 目が覚めると、まず最初に感じたのは腕の窮屈さと肩の痛みだった。
 両腕が後ろ手に締め付けられており、手錠はサイズが合っていないのか、それとも意図的にそうしているのか、既に手首からは血が滴り始めている。肘も椅子の背もたれが当たって痛い。
 マントも醜く破かれており、背中に当たる背もたれが冷たく感じる、両足も座っている椅子の脚に縛られている様だ。
 全身にも細く鋭い鎖が幾重にも巻き付けられており、刃状になっている鎖が肌に食い込んで、血で固まっている。
 魔力を身体の色んな所に集めてみたが、全く魔法が使えない。この鎖や手錠のせいだろう。
 ――ここは、拷問部屋か――特に話す事も無いのだが。
 暫しそう考え込んでいると、暗闇の中に光がすっと差し込んで、一人の人間が――まるで死刑執行人の様な服を着た男が入ってくる。
 違うのは、その黒いローブに紅くプリントされている文字だ。
 ――"生刑執行人"
 まさか。
 「起きたか」
 男が重々しく口を開くと、F・Fは目を足下に降ろした。
 椅子の周りに、青く光る魔法陣が描かれている。
 生命の魔法――
 「お前が寝てる内に量刑が終わった、罪状は殺人及び殺人未遂と不法侵入、さらに相手が王族なのと、お前が王宮に仕える家臣という事を考慮して"極刑"が決定した」
 「……!」
 "極刑"――地下界には死刑というものは存在しない。
 厳密には存在するのだが、それは心臓を無くさないやり方の為、死んでも地上界で生きられることから"追放刑"と言われ、2番目に重い刑とされている。
 しかし、心臓を傷つけるのは人道に悖る行いとされている為、"極刑"は死刑ではなく、別の方法が採用されていた。
 すなわち、拷問。
 生命の魔法により、そう簡単に死ぬ事は許されない――おまけに一部のタフな悪魔は、拷問で死ぬ方が難しい。
 「裁判によりお前に定められた生存時間は、400年だ」
 「……400……年」
 F・Fは頭の中で、あの女性の姿を想起した。
 400年
 400年も……待てというのか。
 「では、これより生刑を執行する、執行人は生刑執行人30名」
 ………………
 ………………
 ………………
 ………………
 ………………
 ………………
 「………………畜生………………」

812携帯物書き屋:2007/04/30(月) 00:24:21 ID:mC0h9s/I0
プロローグ 前スレ>645
1日目>646>692 2日目>693-694>719-721 
3日目>762-764>823-825>874-878 4日目>>34-37>>73-75
5日目>>95-98 6日目>>185-187>>227-229 
7日目>>306-310 8日目>>383 9日目>>384
10日目>>461-465 >>556-559 >>634-638
11日目>>716-719
ネタ話>>123-125

あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>716-719

『孤高の軌跡』

夢を見ている。

細い白線だらけの夢。
周りは黒く暗く。
故に、この眼が捉えるものはこの白線だらけの世界しかない。

これはどのような意味を為すのか。
ただ、無数の白線は声無き声で“イケ”とだけ命じてくる。
1度目は事件現場に踏み入れたとき。2度目も同じで、俺を洋介の家に導いた。
3度目はヘルベルトという男が襲って来る方向を知らせた。
なら、これらは何を導こうというのか。

これは何なのだと疑問に思うのと同時に、懐かしんでいる自分がいることに気が付いた。
そうだ、これは“あの時”にも――――――――


「――――」
夢を、見ていたらしい。
夢から覚めた頭は空っぽだった。
いや、どちらかというと“夢から覚めた”のではなく“夢から覚めさせた”と言った方が近い。
振り返り時計を見てみると時刻はまだ深夜零時を過ぎたばかりだった。
妙に落ち着かない気分を落ち着かせようとカーテンを捲って夜景を覗く。
その時。あらゆる驚愕が俺を襲った。
「なん、で――――?」
つい言葉が零れ落ちる。
無理はない。
何故なら、俺から――いや、正確には外から俺に向かって無数の白線が伸びていた。
そんな、筈はない……。
素早くカーテンを閉めるが、この忌まわしい白線は消えてくれない。
「クソ、このっ――――!」
叩いてもすり抜ける。
避けることも振り払うことも出来ない。
無数の線は一直線に俺を差している。
「クソ、なんで――」
見えるのか。この線は眼を閉じて更に集中しなければ見えない筈なのに。
しかし、今は眼を開けているのにも関わらずはっきりと見えている。
そもそも、何故こんなモノが俺みたいな一般人に見えるんだ。
悪態をつきながらじりじりと後退をする。
とりあえず今は何か武器を持たなければ。
「そうだ、あの銃なら」
ニーナに強化してもらった銃は確か机の中だ。
飽くまで目を逸らさずに後退をし――――手を伸ばしたところで何かに腕を掴まれた。
「――――っ!」
「どうしたのショウタ。恐い顔しちゃって」
「なんだ、ニーナか」
ほっと胸を撫で下ろす。
俺の腕を掴んだのは、俺の異変に気付いて駆け付けたニーナだった。
「それより何かあったの?」
「あ――――ああ」
恐る恐る振り返ってみると、無数の白線は未だに俺を差していた。
「……前に話した白い線がまた見えたんだ」
「む、それ本当?」
ニーナがその真紅の瞳で覗き込んでくる。
そして俺だって男な訳だから当然後退る。
「だから本当だって。ほら、今でもそこから」
伸びてきてるぞ、と指を差す。ニーナは俺が指した方向へ目を細めて見た後、俺へと向き直った。
「ふむ。私が見たところ、その方角にも貴方の眼にも異常はなかったけど。
でも、ショウタが見えるって言うのなら何かあるのかもしれないわね……」
「行こう、ニーナ」
あ、ニーナが面白い顔してる。
「ん、どうしたんだ?」
「いや……最近ショウタは積極的だなって。鍛練と言い、これと言い……私としては嬉しいんだけど」
俺のことを心配しているのだろう、ニーナはそこで言葉を切る。
確かにニーナの為に頑張ろうという気持ちはある。
だが、それ以上に今はこの線の果て――線の意味を知りたいという気持ちが俺を突き動かしていた。
「大丈夫だよニーナ。無茶はしない」
「ええ、判ったわ。行きましょう」
寝間着のままの服を学生服に着替え、強化された玩具の銃を握り、景気付けに1度構えてみせる。
「――――よし!」
そして静かに家を発った。


深夜の町は、再びの殺人事件のこともあり更に静かだ。
カツカツと2人分の靴音だけが響く。
俺たちは俺の線と、ニーナの視力を頼りに歩いている。
仮に敵が潜んでいるとしても、ニーナの視力ならば事前に対処できる。
「ん?」
「どうしたのショウタ?」
「いや、線が太くなってる気がして。気のせいかな?」
「敵が近いのかもしれない。気を引き締めて行きましょ」

歩くこと数十分。俺たちはそこへ辿り着いた。
学校の校庭。それはいい。
問題はその奥。
そこに、無敵の騎士が居た。
その騎士はたくさんの敵に立ち向かい、斬り進んでいた。

813携帯物書き屋:2007/04/30(月) 00:25:18 ID:mC0h9s/I0
騎士は多勢の敵に対し単騎で挑み、それで尚打ち勝っていた。
両手には聖剣と魔剣。
その対極した2つを止めどなく振るい、蹴散らしながら前進していた。
対する多勢の敵は幾度となく、突き進む騎士に飛び掛り、幾度となく粉砕されていく。
されど多勢の敵は騎士の行く手を阻もうと壁となりそれを防ぐ。まるで誰かを守るように。

――誰かを、守るように?

はっとして壁の向こう側を覗く。
その更に奥。そこには洋介と、間違いなく、あの白い少女が居た。
右手に握る笛をぎゅっと握り締め、迫り来る敵と、その敵に悉く殺されていく己の魔物を前にぐっと堪えていた。
遂にその笛が振り上げられる。
号令一下。大量の魔物は円を描くように騎士を取り囲む。
それをさせんと騎士は加速し、薄くなった壁に疾駆し少女に肉薄せんと猛進する。
さすがの騎士とてあの数に囲まれたら負けしかない。
それくらいヤツだって知っているだろう。それでも挑むとすると狙いは1つ、そうされる前に少女に辿り着くことだろう。
初めからそういう戦いだったのだ。
魔物が囲むのが先か、騎士が辿り着くのが先か。
だが、もう勝負は見えている。
ほんの僅かだが騎士が早い。
いかに少女が魔力を遮断する魔石を所持していようと、直接斬られてしまえばそれで終わる。
少女は死ぬ。
俺の目の前で。真紅の鮮血を撒き散らしながら死ぬだろう。
嫌だ。嫌だ、目の前で女の子が斬られるのを見るなんて嫌だ。
仮にも妹になったあの子を、俺の目の前で死なせるなんて絶対に嫌だ―――!

「止めやがれっ――――!!」

「む……」
「え、お兄、ちゃん……?」
「な、何してんのよショウタ!」
騎士の動きがピタリと止まる。
それを機に魔物たちは少女へと戻り守りを固める。
「お兄ちゃん……何でここに―――あ」
俺を外敵と見なしたのか、少女の魔物の内の1匹が俺に飛び掛ってきた。
その魔物は俺へと刃を向け――――光の矢によって撃ち抜かれていた。
「ふう。まったく無茶するんだから。これで完全に見付かっちゃったじゃない。
でもまあ、どうせこうなっていただろうから……いっか」
「ニーナ……」
ニーナが俺の前へと躍り出る。
弓を構えると、ニーナの雰囲気は一変し殺気で満ちていた。
「――――チ。ただ傍観していれば1人減っていたものを。それくらいも待てんのか、小僧」
ぎらりとした眼光で男が俺を睨む。
まるで初めから俺たちが居たことを知っていたように。
「うるさい。エミリーは俺の妹だ。それを斬ろうとしたお前は許さない」
「へえー、矢島とこいつ、そんな仲だったんだ。でも残念。エミリーはお前の敵だよ。
でも、お前はエミリーの手で殺してやるよ。妹の手で死ぬなんて本望だろう?」
今まで黙っていた洋介が汚い笑い声を鳴らす。
「ほう。敵に妹か。馬鹿にも程がある。ならば妹共々この手で殺してやろう。
それに、情けとしてそこの女も一緒に殺してやろう。その顔もいい加減見飽きたからな」
そう言い男はニーナに目を向けた。
その眼中に、洋介など初めから入っていない。
「お前、また俺を無視しやがって……!」
「まだ居たか。ならば貴様から死ぬか?」
「ひっ――!?」
洋介は一瞥されただけで短い悲鳴を上げ、黙り込んだ。

「――――見飽きたと言ったわね。同感。それじゃあ貴方がその運命になろうと、文句は言わないでよ?」

ニーナの弦を握る手に光が灯った。
「出来るのならな」
男も双剣を構え直す。
「…………」
エミリーも陣形を立て直し、戦闘体制を作っていた。
迸る3つの殺気は、これから始まる死闘の凄まじさを告げているようだった。

814携帯物書き屋:2007/04/30(月) 00:52:28 ID:mC0h9s/I0
こんばんわ。また遅くなってしまいました。
本当はあと2レス分程つけようかと思っていたのですが、そこまで書いているとまた遅くなるので一旦ここで載せます。

さて。最近(良い意味で)鳥肌が立つような戦闘描写が書きたくて本を読むも、やはり難しい・・・。
戦闘より、戦闘までの過程が大事なのかなと思ったり。
それでもやっぱり戦闘描写は難しいなあ・・・。

と、また勝手に独り言を語っていました。すいません。

>>みやびさん
むむ、キャラ年表ですか。
これはとても練られている。固有名詞でもそうですが細かい設定がすごいです。
自分は・・・・・・orz
それと、自分に寄せてくれたレスを読んでいると、なんだかある超脇役に意外な人気が・・・w
頑張れ主人公・・・・・・。

>>796さん
初めまして。
いきなりすいませんがまだ読めてません; 1度読むのが遅れたらどんどん溜まって今の状態だったりします。
GWを利用して読ませてもらおうと思います。
他の方々のレスによると老人がなかなかにパワフルみたいですね。
読むときはそこに注目して読みたいと思います。

>>elery_doughtさん
久々の投稿ですね、お帰りなさい。
熱いGvが書かれていますね。
自分も久々にGvがしたくなりました。BISですけど。

>>殺人技術さん
まず、載せてすぐに埋めてしまってすいません;

そういった指摘はアリだと思います。
叩くのではなく、指摘ならぜんぜん違うものですしその人の為にもなるので逆に歓迎かと。
ここではそういった指摘してくれる人も必要打と思いますよ。というか自分にもして頂きたいくらいです。
作品の方も地下界編完結お疲れ様です。
生刑というのもまた新しい発想でいいですね。


あと、自分の読んで「何で一般人が変な能力持ってるんだよ」と思う方がいましたら、
「んなモン、ファンタジーで良いじゃん」でお願いします。
それでは。

815◇68hJrjtY:2007/04/30(月) 22:39:41 ID:amWDu0Ws0
>殺人技術さん
ついに、地上界へF・Fが追放された時まで話が繋がりましたね。
このF・Fの回想話でまたひとつ話が掘り進めた感じがします。
W・Cや地下界の悪魔たちもいずれ本編の方でも登場するのだろうか…ちょっと楽しみです。
拷問や地下界の様子など、映像的なものはどうしてもベルセ○クを連想してしまいます(笑)
指摘なども流石、鋭いですね。
本来私のような感想屋もそういった指摘など書かなければいけないんだろうけど(苦笑)


>携帯物書き屋さん
ショウタ君の進化というか成長ぶりに驚いて喜んでます。こんばんは。
ショウタ君の見える白い線、というのは単に敵の居場所を知らせてくれたりするだけ…ではないようですね。気になります。
ニーナやヘルなどのRS界の人物同士の赤石をかけた争いというだけにとどまらず
ショウタ君やリサなどの現実世界側でもまた別の話が展開しているような感じですね。うーん上手く言えませんが(苦)
戦闘描写は携帯さんほどに書かれる方でもでもまだまだ難しいのですか。
次回はまさに戦闘シーンのにおいがプンプンですね。楽しみにしています!

ところで携帯で小説を書くというのを真似してみようとしましたが、お馬鹿携帯なので変換がろくにできませんorz
そしてすぐに充電が切れる…携帯、買い換えたいです(泣)

816みやび:2007/05/01(火) 00:20:45 ID:ZC1Fb7wE0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>796さん
 いやん、おかしなおじいちゃん! と思っていたらはやりイッちゃってましたか(笑)
 でもこういう、いかれた人って好きなんですよね(えー)
 いやまあ、異常者というのは正攻法が通用しなかったりしますから、主人公たちも応戦の
し甲斐があるってもんです。(そうなのかな……)
 さてさて。今度はどんな敵が登場するのでしょう。楽しみです。
 戦闘シーンは私も苦手……(汗) 難しいですよねえ(泣)

>elery_doughtさん
 ト書きというのはやはりGV主体ということで意識されたのでしょうか?
 と。それはそうと、過去分は見過ごしておりましたのであらためて通しで拝読しました。
 ネクロが可愛いなあ、と思ったのですが、名前がないのですね(泣)

 しかし寮生活が楽しそうで、ほのぼのしました。
 GVは熱いですね。実況的なリアルさがあるのはやはりト書き効果かしら?
 今後も楽しみです。戦闘も良いですが、やはり寮生活が気になります(笑)
 ギルとミーネの恋の行方!? も楽しみです(わくわく)

>殺人技術さん
 お疲れ様です。
 ここに至って、その能力ゆえのファイルの苦悩が鮮明に色付いてきましたね。
 いやはや切ない限りです。
 そこにチョキーの人格も加わるのですから、まさに多重苦の切なさですね。ますます今後
の展開が楽しみです。
 そのうちにカイツール視点の回想なんて挿入されるのかしら。と密かに期待(笑)

>携帯物書き屋さん
 むむ……ついにエミリーと対面してしまいましたね、翔太(汗)
 エミリーとニーナの行動が気になるううう。
 翔太頑張れ! な気分です。

 あ。超脇役さんについては(笑) もちろん主人公ファイト! には変りないです(笑)
 ただどうしても、超脇役さんが気になって気になって……(汗)

 年表とか設定って楽しいんですよね。
 ただ問題がありまして……あまりに精神的な消耗が激しくて、年表やら設定やら世界を
構築し終えて、やっと「ようやくこれで書き始められるぞ!」という段には、すでに気力が残っ
ていないこともしばしば……(汗) こういう意味での“潔癖症”というのも考え物です(泣)

>68hさん
 気長ぁ〜にお待ちしておりますので♪(もちろん投稿っすよ)

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

817携帯物書き屋:2007/05/02(水) 00:18:53 ID:mC0h9s/I0
『孤高の軌跡』

3つの殺気がぶつかり合う。
しかし誰も動く気配がない。
いや、動かないのではなく動けないのか。
三つ巴戦では基本初めに動いた人物が狙われてしまう。
何故なら片方に攻撃を仕掛ける際、その背中は無防備になっているからだ。
故に、この戦いは動くタイミングが勝負の鍵となる。

だが、この戦いは少し違う。
全員飛び道具を持っているのだ。
騎士の男なら聖剣と魔剣の能力で2人同時に攻撃することができるだろう。
だが、その攻撃じゃあの2人を必殺することは難しい。
また、それでは魔力の燃費が悪いのだろう、男もその証拠に様子見を続けている。

エミリーの場合、魔物を分散させれば2人を攻撃できる。
しかし、全てを騎士1人に向けても勝てなかったのだ。
なら分散などしたら更に勝機は薄い。
それに己の守りを薄くしても不味いのだろう。

ならばニーナはどうか。
ニーナが得意とする武器は弓。
弓と言えば遠距離攻撃だ。
1番有利に見えるが、エミリーには魔力を遮断する石があり、騎士とてそう当たってくれるタマじゃないだろう。
するとこの勝負は長くなりそう――――と、言ってる傍から1人が飛び出した。
それは騎士の男だった。
我慢がならなかったのか、それとも何か策があるのか騎士は一直線に疾走を始めた。
その向かう先はニーナ。
エミリーよりニーナの方が倒しやすいと思ったのか、はたまた脅威と感じ取ったのか騎士はニーナへ疾走する。
――――その時。突如騎士は進行方向をエミリーへ変えた。
「きゃっ―――!」
思いもしない騎士の行動にエミリーは短い悲鳴をあげ、自らの魔物たちに命令を下す。
騎士はそのまま魔物の大群に突っ込むと思いきや、更に方向を変えた。
その行動に反応できず、魔物たちはそのままニーナの方へ突っ込む。
「っ――――!」
ニーナは素早く槍へ持ち変える。
いくら弓の腕が高かろうと、これでは流石に弓は不利だろう。
苦い表情の2人に対し、ただ1人、騎士だけが口元を吊り上げ笑っていた。

戦いは一瞬にして開始された。

そう、恐らくこれが男の狙いなのだ。
自分の不利なこの状況を、有利な“乱戦”へ引き込むことで己の勝率を上げること。
それがこの男の本当の狙いだ。

「――――」
ただ傍観することしかできない、己の無力さが悔しくて、堪らず銃を握り締める。
「ん?」
するとそこへ、戦闘から外れてしまったのか、1匹の魔物が俺の前へ躍り出た。
「キエェックッ!」
その魔物は俺を外敵とみなし、その手に持つ槍で威嚇をしてくる。

――ちょっと、待て。

視線を左右に向けるが、当然守ってくれるような人間はいない。
「や、ば」
無意識に後退りをする。
その砂利を踏む音で刺激してしまったのか、魔物は俺へと走り出した。
「は、――――あ」
身を守ろうとする本能が働き、照準も定まらないまま銃を撃つ。
反動で手が痺れる。
放った弾はあらぬ方向へ飛んで行ってしまった。
焦りは思考を鈍らせる。
くそ、リロードは間に合わないかっ―――!
遂に槍が振り上げられる。
その一撃は確実に俺の心臓を奪いに来るであろう。
「―――――っっ!!!!」
その時俺の時間は停止した。
槍の先端から、あの白い線が俺の心臓へ伸びていたのだ。
白線はやはり直接脳へ“イケ”と命じてくる。
ならば、俺は全力でそれを拒否するだけだっ――――!!
ビュンと、風切り音が耳をかする。
気付くと、槍は地面に突き刺さり、俺はそれを躱していた。
「あ」
思考を戻し急いで次の弾を込める。
撃つより速く、次の槍が振るわれた。
槍が届くより速く、再びそこから白線が伸び俺の頭を貫く。
白線を躱すように屈むと、予想通り槍は頭上へ振るわれた。
魔物に大きな隙ができた。
見逃さず、魔物へ飛び掛る。
「あぁぁあああっっ!!」
決して眼を背けず、思い切りトリガーを引いた。
轟く銃声。手に感じる痺れが俺の勝利を告げていた。
「はぁ、はぁ、は――――」
勝った。いや、殺した。
俺はコレを殺した。

「ふう」
深呼吸して落ち着かせる。
それにしてもあの白線はなんだったのだろうか。
「いや、今は」
悩むときではない。
今はニーナの戦いを見届けよう。
「え、――――?」
脳へ直接衝撃が走る。振り返って見た映像。
それはエミリーが持つ赤い本からだった。
そこから、大量の白線が渦を巻いていた。

818携帯物書き屋:2007/05/02(水) 00:20:02 ID:mC0h9s/I0
「なっ……!」
その光景の前につい言葉を失った。
赤い本に取り巻く白い渦は次第に激しさを増して行く。
そうと言ってもこれは俺にしか見えないモノだ。
だが断言できる。これは危険だ……!
「クソ、ニーナは――――」
見回しニーナを探す。
今は1秒でも早くニーナに伝えなければ。

居た。
夥しい数の魔物の中、1粒の金を見た。
ニーナもそうだが、騎士の男も当然戦闘に夢中だ。
そこに他のことに気を回す余裕など皆無。
それは直接死に繋がるだろう。
「クソ、ならどうすれば……」

この3人の中で1番冷静な人物はエミリーだった。
それもその筈。乱戦の中1度魔物を放ってしまえば、エミリー自身は事実戦闘を眺めていればいいだけなのだ。
だから、冷静にじっとこの時を待っていた。2人が己から目を離すこの瞬間を。
「――――」
エミリーは目を閉じ、何かを呟きながら赤い本を宙空へ掲げる。
「――――――」
刹那、本は赤白い閃光を煌めかせ、辺り全体を照らす。
エミリーの詠唱は尚続く。
「え?」
「む?」
ニーナたちもエミリーの異変に気付いた。
だが、とき既に遅し。
エミリーの詠唱も終わりに差し掛かっている。
「ダメだエミリーッ! 止め――――」

「――――――――“Summon”」

瞬間、光は全てを飲み込んだ。
エミリーが紡いだ一言。それはどれ程の魔力が籠められていたのか。
その一言は鍵となり、赤い魔本は門となり“呼んではイケナイモノ”を呼び出した。

エミリーの前にソレは聳え立つ。
その存在感は、他を圧倒的に凌駕していた。
身の丈はどれ程の物か。
少なくとも常人の5倍はあるだろう。
それ1体を維持するだけでも辛いのか、他の魔物たちは既に消え失せていた。
しかしニーナたちは動く気配すら見せない。いや、動けないのだ。
その存在感は誰であろうと全身を縛り付ける。
現に、かの騎士でさえ圧力に屈し圧倒されていた。
「っ…………!」
「く…………!」
2人から苦しげな吐息が漏れる。
それを前にして、異形の巨人は片手を上げ――――あろうことか、エミリーの前に差し出した。
「え?」
俺の口から疑問符が漏れる。
なんと、エミリーは差し出されたその手を体全体で受け止め、両腕でそれを抱き締めていた。
「――――」
なにかその光景は、子どもが母親や父親に甘えているように見えない気もしなかった。
抱擁が終わる。
エミリーは巨人から1歩2歩下がり、白く細い指を一直線にニーナたちへ向けた。
「行け、バフォメット」

819携帯物書き屋:2007/05/02(水) 00:40:59 ID:mC0h9s/I0
プロローグ 前スレ>645
1日目>646>692 2日目>693-694>719-721 
3日目>762-764>823-825>874-878 4日目>>34-37>>73-75
5日目>>95-98 6日目>>185-187>>227-229 
7日目>>306-310 8日目>>383 9日目>>384
10日目>>461-465 >>556-559 >>634-638
11日目>>716-719 >>812-813
ネタ話>>123-125

レス番号忘れてました。
今までで一番間が短いかな? こんばんわ、携帯です。

前にも書きましたが、前回載せようとしていたもののもう半分です。
急いで書いたので拙い文章で申し訳ない・・・;
なんだか自分、一気に載せるより少しずつ載せていった方がいい気がしてきました・・・w
でも、早いペースで書いてもこのスレで完結は難しいかな。

>みやびさん
いつもながら感想・応援メッセージありがとうございます。
自分もいつだか年表みたいに細かくはないのですが、舞台となる町の地図を書こうと思い、(何せ舞台が現代なので)
少し書いてみたらすぐに玉砕しましたw
なのでこんなに詳しく書けるのはすごいな・・・。

>◇68hJrjtYさん
同じく感想・応援メッセージありがとうございます。
自分も待ってますよ、小説w
携帯でですか・・・。自分自身そうやって書いているのですが、あまりオススメはできませんね。
長所はいつでもどこでもってところだけで、他はPCに全て劣っていると思われます。
PCと比べると、どうしても拙い文章になりがちですし、執筆スピードも遅いです。
自分はあまりPCに触れられる時間がないのでそうしています。

ちなみに昔は携帯からでもPCのサイトから投稿できましたが、今はできないようなので
携帯から自分のPCアドレスにメールを送信→それを貼って文章を少し弄って投稿となります。
自分の携帯も変換があまり得意じゃありませんね; でも一文字でだったら意外と変換できたりします。
「かわす」を「た」で変換とか。
それでは執筆頑張ってくださ〜い。

820◇68hJrjtY:2007/05/02(水) 06:24:10 ID:ZIOWS63Q0
>携帯物書き屋さん
三人の中で一番苦戦必至かと思ったエミリーが文字通りの切り札召喚ですね!
バフォ様、RSでもまだ合間見えた事は無いのですが強さは重々承知しています(汗)
これで戦況がまた分からなくなってきましたね。この続きがとっても楽しみです。

携帯でここに書き込みできないのですか…それは初めて知りましたorz
でも携帯さんの小説は全然携帯で書いたっぽさが無いですよね。やっぱり凄いなぁ…。
執筆ですか、前向きに善処します(苦笑) 毎回ここを覗きに来ると読むほうが楽しくて(笑)

821名無しさん:2007/05/02(水) 23:46:43 ID:AUyJT8tA0
>>796-797の続きです。

ガン。と、カレイドが錆び付いた鉄格子の様な扉を蹴破った。
その奥は、まるで迷宮の様に数多くの壁や円柱が張り巡らされ、古ぼけて動かずじまいの針の生えた壁や、空きっぱなしの落とし穴があった。
「・・どうやら、さっき俺に見せた地図の場所がここらしいな。」
アリスはカレイドの後ろで、古ぼけた紙と今いる位置を比べている。
「・・・ここから右で、そのまま真っ直ぐね。」
彼女は開きっぱなしの落とし穴の先を指差した。
「分かった。・・にしても、どうも下が騒がしいな。」
カレイドの言うとおり、この部屋に入ってきてまず耳に、大量の人々の話し声の様なものが聞こえてくるのだ。
それもちょうど、恐らくこのフロアの下から。
カレイドはそっと、折り良く近くにあった開きっぱなしの穴の奥を覗き込んだ。

「・・これは・・。」
あばらになった仕掛けの奥を見て、カレイドは静かに呟く。
先に倒した老人の様な格好をした老若の男達。手には剣・槍・何処から持ち込んだのか大槌までめいめいの武装をした男達。
そして、まるで戦を始めんが如く、集団の中に点々と立っている大きく丸い銀色の器、その中にある並々と注がれたぶどう酒・・・ここまでその匂いが漂ってくる・・・を、飲み交わしていた。
「どうにもきな臭いわね・・。そう思わない?」
アリスが周囲を見渡しながら言った。
「どうやら時期が近かったらしいな・・。俺があんたが始末できなくても、こいつらが何れ片付けにかかるって事か。」
下でワイワイと、酒を飲み交わす僧兵達。よく見ると、先には二つのハンマーが交差し、中央に炎のマークをつけた様な旗が掲げられていた。
「間違いない。アウグスタの炎の虎だ。・・こんな所に居たとはな。」
カレイドが唇を噛み締めるのを見て、アリスが「何それ?」と首を傾げた。
「炎の虎、元々はアウグスタの都市防衛軍・・いや、時代はもっと遡ってアウグスタ設立の際、あの土地を攻略した主部隊の跡継ぎだ。
元々アウグスタには「防衛」「攻撃」そして、「僧侶」と言う通常都市で言えば「政府」「軍」「民間」の様な枠組みがあった。
尤も今のアウグスタを見れば分かるとおり、今は僅かながらの「防衛」そして僧侶、或いは追放天使がいるだけだ。
その前に彼等が追放されたきっかけがある。」

―5年前の、第一次宗教戦争は覚えているだろ?
カレイドは、手元に剣を置き、静かにしゃべり始めた。
「ええ。アウグスタの宗派別の内乱でしょ?」
「そうだ。表向きはな。・・・実際は、アウグスタ内の政権分離による、政党同士の争いだ。
あの「炎の虎」は、恐らく武装派の政党だ。アウグスタに何故内乱が起こったか。それは他国へ侵略するか安住するかの議論だった。
勿論、ここからは知られている通り、ブルンやその他の国が連合軍を指導して場を収めたわけだ。」

カレイドはわいわいと騒いでいる集団を見つめ、言葉を続けた。
「しかし、まだ奴等にこれだけの兵力が残っていたとは。何処をどう生き延びたのか。」
下のフロアは、元々はここの死者を祭る為の式場だったのだろう。古ぼけた壇上の上に、大槌が二つ掲げられ、その真ん中で炎がまばゆいばかりに燃え上がっている。・・まるで炎の虎の旗そのものの様に。
そしてその周囲を、規則正しく無数の兵隊達が覆っていた。大槌と重鎧で身を固めた男達。長剣と盾を携えた騎士の様な兵士達。そして青白く光る杖を持ち、何やら魔方陣の中で念じている魔法使い達。
その数はざっと1000人を超えていただろうか。落とし穴の狭い視界では、とても人々の端を見ることは出来なかった。
「・・戦争になるの?」
アリスが彼の隣で、そっと言った。
「・・・だろうな。」

822名無しさん:2007/05/02(水) 23:47:05 ID:AUyJT8tA0

「ここに集まった勇敢なる正義の戦士達よ!!」
と、祭壇の中央に上るなり叫んだ男がいた。その途端、今まであれほど騒がしかった人ごみの喧騒が、一瞬にして止まった。
「後三日を以ってして、我等の名誉を取り返す時が来る。」
中央の男は、先ほど倒した初老の男と歳は同じようであれど、豪傑で、しかも無法な周囲だろうと従わせる威厳すら感じさせた。
「見よ、我々の名誉を踏みにじった者は誰か!!」
男が叫ぶと、再びワァッと言う歓声のような声が上がった。
「ブルン!!」
中央の男は、持っていた剣をさっと振り下ろして再び叫んだ。
「この世に名を知らしめる使命を持つ、名誉は誰か!」
周囲の男達は、再び歓声を上げた。
「聖徒達(炎の虎のこと)!」
男はそれを見ると、剣を中央の壇上に突き刺して、静かに言った。
「我々は、今こそ過去の汚名を晴らすべく、哀しき戦争に立ち会わなければならない。」
周囲はまるで、先の無秩序が嘘のように、男の話に聞き入っている。
「だがそれは紛れもなく、正しい教えを広め、世界をひとつにし、ゆくゆくは世界から争いと言う人間の醜い所業を根絶やしにする道筋なのである。」
男は周りを眺めた。その瞳は真っ青で、その表情は真剣そのものだった。
「教えを乞う物には救いを与えよ!」
そういうと、周囲は同じ言葉を繰り返した。
「持たぬ者には慈悲を与えよ!」
同じように、周囲は言葉を繰り返す。
「その二つを、どうか忘れないで貰いたい。
・・・信じぬ者はすべて追い出さなければならない。彼等は再び醜い争いを生む。
権利を貪る。金銀に溺れる。他人を踏みにじる。」
規律ある軍隊の様に、周囲は一斉に背筋を張り、彼の事を見つめている。
「君達は彼等からいち早く脱出できた救いのある人だ。同時に救う力を持っている。
人を教え、そして救い、世の中を一日、いや、一時でも早く平和に出来るよう、君達若い力に世界の運命はかかっているのだ。」
男はそういうと、静かに「ああわれらが父、試練の次に、安息あれ!」と祭壇の上へと跪き、言う。
すると周囲は「ああわれらが父、我らが明日に光あれ!」と一斉に言った後、跪き、頭を下げた。

823名無しさん:2007/05/02(水) 23:51:11 ID:AUyJT8tA0
>>805
見返してはじめて気づく文法の罠・・・
私の場合は推敲はその場でちょいちょいとしかしないので、文法のおかしな点がもしかしたら大量にあるかも知れませんです・・orz
ご指摘ありがとうございました。

私が他の方の小説にコメントしない理由?コメントするだけの文章力なんて自分には無いからです(聞いてない

それにしても最初は短編って書いたのにどんどん長編になってしまっています。ごめんなさい。
そして途中でgdgdになって投げ出す様に期待して下さいね。

824殺人技術:2007/05/03(木) 01:27:58 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

32-36>>548-552
37-38>>568-569
39-42>>592-595
43-46>>617-620
47-51>>693-697
52-56>>760-764
57-62>>806-811

間違い発見
チョキー・ファイル(57)の「数日前のパレード、その輝かしさも何処へやら」
数日前じゃなくて、数ヶ月前でした……。
ここらへんの時間軸は重要なのに……。

>>携帯物書き屋さん
 Σバフォ召還ですか、あれには苦戦したw
 剣士の乱戦に持ち込む作戦が、うまく書かれてて切迫してますー。
 
>>名無しさん
 ビショップの戦争っつっても、ビショップだけじゃないみたいですねぇ(そりゃそうだ)
 狂気の演説の迫力が良いです、聞こえてきそうですw
 ですが、演説を聴く人側を表す「周囲」の連用には、少し迫力を削がれてしまったような気がします。
 自分も気抜いて良くやるんですが、人物を現す言葉を使う場合は、一人でも複数人でも、所々代名詞や比喩を使ったりして言い換えないと、どことなく単調になってしまうので注意です。
 「周囲」なら、彼等、とか、男共、とか、狂気の軍団
 語り手が熱気に押されたり、祭壇に立つ人間を揶揄したりする場合は「勇敢なる正義の戦士達」でもいいかもね。

まぁ自分間違えた身だからこんな言える立場じゃないんですが(


もうすぐ終わりが近いかも……。

825殺人技術:2007/05/03(木) 01:28:37 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(63)

 宵闇の中で蝋燭の炬火だけがゆらゆらと妖しくはためき、蝋が一滴たらりと汗を流す。
 額縁の家族らは明かりから離れたところで隠れる様に晩餐を摂っており、背中のカーテンは凪いでいる。
 漆の机の上のティーカップの中で紅茶はさざ波一つ立てず、ただ燭台の三叉槍の様な輝きを受けて紅い宝石の様に輝いている。
 先程は一枚絵だった風景が揺らめき、時の流れる証は炎のゆらぎと紅茶の輝きだけだが、チョキーにはそれがとても不思議な物の様に思えた。
 たったの数時間しか経っていないのか。この燭台は帰ってきたカリオが灯したのだろう、窓の奥には暗黒が広がっている。
 「大方、私の覚えている通りの事が見えた筈だ」
 ファイルの幻影がチョキーの背後からぬっと現れて燭台の付近に近づき、その炎を人差し指に灯す、灯した指をもう一台の使われてない燭台に移し、輝きを持たせて行く。
 「なるほど」
 チョキーは椅子に座ったまま唐突に言い、ファイルは机を挟んで無言で耳を傾ける。
 「それで、"あの"生刑を終えて地上界に渡ったという訳か――だが一つ疑問だな、お前は取り調べの段階で死んだと言った、だが実際には極刑で死んだ事になっているが?」
 ファイルはくるりと踵を返し、その黒いマントに二台の灯火を写す。
 「……ふむ?」
 ファイルは右手を顎に添え、記憶と食い違う結果がチョキーの口から出た事に思案した。
 「……いや、確かに私は取り調べの段階で、300余年に及ぶ拷問の末に死んだ筈だ、あれは覚えている、"生刑"など記憶にない」
 ファイルは少なからず困惑を覚えている様だ、精神を共有していなくても、マントで隠された背中からそれは窺い取れる。
 「しかし、お前が見た映像が間違っている筈はもっとない、となると拷問の所為でその辺りの記憶が曖昧になっているのか……いや、ちょっと待て」
 ファイルはいつになく言葉を濁し、獣の様な仮面に皺を刻み込んで考える、チョキーはティーカップを手に取り、一口、天然のアイスティーを口に含む。
 こんな姿のファイルが見れるとは珍しい――チョキーは見物気分でファイルの揺れ動くマントを眺めた。
 「なぜだ? 記憶が重複しているように感じられる……私は彼女の首をこの手で焼き切り、あの執事にやられて……その後が思い出せない――」
 湾曲した角の生えた頭を両手で抱え込み苦悩するファイルの幻影、精神が繋がっている所為か、チョキーの頭も鈍痛を訴え始める。
 「もうやめろ、拷問で記憶がおかしくなっているんだ、過度のショックや恐怖で記憶がねじ曲げられる事例はよく聞く、悪魔もそれは同じだろう」
 チョキーの声を聞くとファイルは小さく呻き声の様な物を押し殺し、ぴんと張り詰めた静寂が流れると、大きく息を吸い込み、小さく吐きながら立ち上がった。
 「……すまない」
 ファイルが額を揉みほぐすように手をあてながら振り返り、チョキーはそれを見て歯噛みする。悪魔の癖に情けない。

826殺人技術:2007/05/03(木) 01:29:05 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(64)

 「ただいま、チョキーさん」
 何の警戒も無く暗がりの扉が開け放たれ、ファイルの幻影が足下から姿を消し、扉の中からはカリオが現れる。それを見てチョキーは訝しんだ。
 ただいま、だと?
 ………………
 「――あぁ、おかえり、カリオ――今帰ったのか?」
 チョキーが問いかけると、カリオはその手にふくらんだ皮の鞄を引っ提げ、それを床に降ろす、散歩ついでに買い物に行ってきたらしい、それとも、窃盗か?
 「あぁ」
 カリオは当然の如く肯定した。
 「今帰った」と、言ったのだ。
 "どうした? チョキー"
 頭の中で幾分落ち着きを取り戻したファイルが囁きかけ、チョキーは顔を険しくする。
 カリオがこの部屋を出たのは、まだ明るい時だ。
 そして、ファイルの記憶を見ている間、誰か人が入ってくれば声を掛ける筈だ。途中で戻ってきた夕方の時にも、カリオが帰ってきた気配はなかった。
 だが、先程全てを見終わった時、この燭台には片方の台だけだが、火が灯っていた、蝋の垂れ方からして、火が付けられたのは夕方――私とファイルが再び記憶を見始めた直後だろう。
 しかし、カリオはこの部屋に戻ったのは"今"だと言う。
 一体、誰が? この燭台に火を?
 「そろそろ飯にしようぜ、色々安く売ってたから買ってきた」
 チョキーの思慮をよそに、カリオがあくび混じりに言って皮の鞄を開き、中から新鮮な野菜や乳製品、肉類などの食材が顔を覗く。
 窃盗ではなかったか。
 「しかし、私は料理は……」
 出来ない。チョキーはカリオと目を合わせるが、カリオは首を振る。
 ……どうしろと言うんだ? ただただ蝋燭の光を受けて野菜がてかてかと光っている。
 「調理は私が行おう」
 チョキーとカリオが食材と睨めっこしていると、突然ファイルの幻影が現れ、食材の入った鞄を拾い上げる。
 「――出来るのか?」
 二人が奇異の視線で、台所へと向かうファイルのマントを見つめる。心なしかマントの動きは軽い。
 「これでも、宮廷料理人の資格を持っているのでな」
 ファイルは扉を開けて振り返ると、先程まで見せた苦悩が嘘の様に、口許ににやりと笑みを浮かべた。整えられた厨房に鞄を置き、右手の中で包丁が回っている。
 ……少し前のファイルには、考えられない。
 「肉は全てウェルダンになるが」
 ファイルがそう言うと、厨房をのぞき込むカリオがひゅうを口笛を鳴らし、チョキーは鼻で笑った。
 「――悪くない」
 「ウェルダンは好きだぜ」
 ファイルはそれを聞くと扉を閉め、中から調理の音を響かせる。
 10日か――それまでは、この様な気の抜けた生活が続くらしい。
 ――まぁ良いだろう、と、ファイルは考えた。

827殺人技術:2007/05/03(木) 01:32:00 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(65)

 地下界。この一連の事件での最初の被害者、第四位王位継承者が何者かに殺害されたのが、およそ400年前。
 それから400年間、女王も含め王位継承者が連続して謎の死を遂げ、第八十九位王位継承者の死亡が確認されたのが丁度1年前の事だ、現在その座は空座、王宮は新たな女王継承者を捜すのに追われている。
 しかし、信じられない事に、第四十二位王位継承者が殺された事で、曲がりなりにも"公女"と呼べる身分の者――女王の正当継承者は完全に根絶やしにされてしまい、しかも最初の被害者である第四位王位継承者以外は全て、心臓を破壊するという禁忌に乗っ取って殺されている為、魔術師を集めて地上界から呼び戻す事も不可能ときている。
 第四位王位継承者を呼び戻すという案もあったが、王位継承権は"継承器"を100年以上手元に置いておかないと自然消滅するという大原則があるので、実行される事のない死案となってしまっている。
 こんな事は、過去数十万年の歴史上一度もなかった、それほどの大事件が起こる理由――今では、公になっている。
 ――"知識"と"知恵"を司る火の精霊サラマンダーの卵が、天上界から地上界へ落下するという、未曾有の大事件――
 大事件は大事件を生む、という事か、もはやこれは大事件などではない、史上最悪の革命だ。
 その上、今では女王不在による国民のフラストレーションは限界まで溜まっており、もはや後へ引く事はもとより、妥協すら許されない。。
 ――私が、発言するしか無い、私は円卓を叩き、椅子を引いて立ち上がった。円卓に座る全ての者が、私を見る。
 「……私から、提案があります」
 言葉を振り絞ると、その言葉は以外にもすんなりと出た。信じられないくらい滑らかに。
 「どうぞ、W・C騎士団長」
 議長がそう言い、私は固唾を飲み込む。
 私の、他人を糧にしてきた、汚い人生もここで幕か。
 「……スラムから、身寄りのない子供を捜し出して、先代女王の隠し子とするのです、本物が居る可能性もあります、しかし本物は探してはなりません……」

 ……
 …………
 ………………
 「W・C騎士団長、あなたにはこの書類にサインした後、死んでもらう必要があります、この王国の繁栄の為――できますね」
 「はい」
 「……随分と潔いのですね、何かありましたか?」
 「いいえ、私には、死んで――地上界で、やらなければいけない事があるのです……」

828◇68hJrjtY:2007/05/03(木) 17:42:51 ID:ZIOWS63Q0
>823さん
宗教戦争といいますか、まるでこちらの世界での史実でもありえそうなお話ですね。
なかなかに難しいテーマだと個人的には思います。これは是非とも最後まで書いてもらわないと(笑)
書いているうちにどんどん妄想が膨らんで、最初の予定よりも大幅に文章量が増える事は良くありそうです。
思いついた事を取り入れながらでも良いと思いますよ、これからの話の膨らみに期待してます。

>殺人技術さん
ファイルの料理人という微笑ましい(?)側面が見れて嬉しいです(笑)
燭台の火というのが何か気になりますね。些細な事でありながら重大な事件に繋がっているような。
そしてW・Cが地上界に来る事で新たな争い…というよりか、こちらも何かが起こりそうです。
終わりが近いという事ですが、まだまだある色んな謎が解き明かされていくのを楽しみにしています。

829青烏:2007/05/05(土) 18:51:02 ID:aEv6phoY0

恋愛ものはオッケーなのかどうなのかびくびくしながら投下


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


わき腹に灼熱を感じながら、大きく息を吐きだした。
柱を挟んだ向こう側には、青い炎を纏った化け物がいる。

ここで死ぬのか。

そう思ったとき不思議と恐怖はなかった。
村を滅ぼされ、復讐を誓い、憎い敵を討つため、強くなるためここまで来たけれど

「もう、行ってもいいよね?」

目を閉じると、楽しくて平和だった景色が蘇る。
毎日が穏やかで幸せだったあの頃はもう戻ってこない。

覚悟も決まった。
ゆっくりと瞼を上げ、最後に残った短剣を握り締めて立ち上がると、察知したのか魔物も動く。
柱の陰から滑り出るのと同時に腕を振り上げ最期の武器を投げつけたけれど、敵は倒れなかった。
もう立っていることもできなくなって、膝をつく。
それを待っていたかのように、あるいは無力さを嘲笑うかのようにゆっくりと魔物の中に光が凝縮していく。
時間であらわせば一瞬であろう、妙に長い時を感じながら目を閉じ最期を待った。

しかし絶鳴を上げたのは、魔物の方だった。
空を切り裂く刃音と耳をつんざく奇声、そして魔物は目の前で霧散した。
「え…?」
何が起こったのか解らない。
呆然と視線だけを動かすと、前方に自分と同じような服装をした人物が立っている。
「なんだ、人がいたのか。」
こちらに気付いた、武器からしておそらくシーフであろう彼が無防備に歩みを進めてくる。
そのとき彼から死角になっている壁の陰で魔物が動くのが見えた。
1匹ではない、今度は4匹いっぺんに。
「あぶな…」
危ない、と言おうとした言葉は形にならなかった。
一斉に飛び掛った魔物を、彼は一瞬で倒してしまったのだ。
「…っつ…。」
あまりの強さに、自分とかけ離れた強さに大きく喘ぐしかできない。
吸い込んだ新鮮な空気が、助かった命と深い傷を思い出せた。
目の前が回る。
「おい、あんた。こんなところで何を…、って、おい!?」
シーフが目の前で足を止め話しかけてきたところで、視界が完全にブラックアウトした。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

続く…?

830◇68hJrjtY:2007/05/06(日) 06:46:23 ID:7Pae2azo0
>青い鳥さん
初めまして!
ピンチを救ってくれる英雄。良い展開ですね、もう恋愛フラグ立ちまくりですね!(こら
そして主人公は女性シフでしょうか?こちらも性別違いで良い感じです。
かっこいいなぁシーフって…もう両方にメロメロですよ!
この後の展開の妄想が私の中で激しくなる前に続きを期待します(笑)

恋愛モノでもなんでもOKだと思いますよ。エログロ系はなにやら規制があるようですが…>>1
私にとってみればむしろ恋愛モノを書ける方が羨ましいです(笑)

831携帯物書き屋:2007/05/06(日) 10:29:06 ID:mC0h9s/I0
プロローグ 前スレ>645
1日目>646>692 2日目>693-694>719-721 
3日目>762-764>823-825>874-878 4日目>>34-37>>73-75
5日目>>95-98 6日目>>185-187>>227-229 
7日目>>306-310 8日目>>383 9日目>>384
10日目>>461-465 >>556-559 >>634-638
11日目>>716-719 >>812-813 >>817-818
ネタ話>>123-125

あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>817-818

『孤高の軌跡』

エミリーの号令の元、異形の巨人が野に放たれる。
「「っ――――!!」」
ニーナと騎士の男が咄嗟に反応し、動かない筈の体に鞭を打ち後退する。
瞬間。2人が立っていた地面は空間ごと消失した。
それは巨人の1振りだった。
その手に持つ鎌は、触れただけで全身を刈り取られそうな程に壮大。
故に、巨人は全てに於いて巨大だった。
体躯も、力も、その存在感も。
「チィ、魔物使いが繋げられる魔物は2体が限度の筈。それを数十体駆使するだけでも異端だと言うのに、
“人間以上”の存在を使役するとはな。だがそれでは貴様の体が持たない筈だ。馬鹿者が、自滅する気か貴様……!」
騎士の男が舌を鳴らす。
だが、そんな物は聞く耳持たんとばかりに巨人は2人に襲い掛る。
その度に2人は後退を余儀なくされるのだった。

じりと。騎士は覚悟を決めたように1歩踏み出し、対照してニーナは後ろへ数歩下がった。
「フン。余り気が乗らないがこうするしかないようだな」
「……そうみたいね」
そして2人はそれぞれの武器を構える。
ニーナは弓を、騎士は双剣を。
2人は互いに敵だというのに攻撃する気配がない。
詰まるところ、これは共同戦線なのだろうか……?
はっとして騎士の男のパートナーである少女を見るが、彼女も俺と同じく呆けたように2人を傍観していた。
そういうことは、これは2人の独断だ。
それ程までに、この眼前の魔物は強大だということだろう。
その時、騎士が動いた。
その速さは疾風の如く。一息に巨人との距離を詰め、勢いを残したまま巨人へと斬り掛る―――!
だが、魔物の1振りは尚疾かった。
騎士の強撃をその大鎌で受け止めたばかりか、騎士を体ごと吹き飛ばす。
「ぐっ――――!!」
苦痛を漏らし、騎士は斬り掛った時以上の速さで叩き落とされた。
巨人が更なる一撃を与えようと大鎌を振り上げる。

そこへ――――無数の弾丸の様な攻撃が巨人へと殺到した。

「グルウゥゥ―――!?」
巨人が疑念のような声を発する。
それはニーナの放った矢だった。
それらの無数の矢は1本たりとも逸らさずに、全弾巨人へと命中した。だが。
「う、そ……?」
異形の巨人は動きを止めただけで、全くの無傷だった。
「チ。化け物が……!」
騎士は既に射程外へと下がっていた。
その口元には先程の衝撃のせいだろう、僅かに吐血が流れている。
再び男が駆ける。男の剣は既に光を帯びていた。
「こ、のぉ――――!」
その背後からはニーナの矢が駆ける。
巨人は大鎌で弾き返すが、その大半を全身で浴びた。
だが無傷。鉄格子すら易々と貫くニーナの矢を、巨人は傷1つ付けることなく受け切っていた。

「ふっ――――!」

ニーナの矢に気を取られたのか、巨人は騎士の接近に気付くことに寸分遅れていた。
だがその一瞬が命取りだ。男は、聖剣に籠められた光をほぼゼロ距離で放った。
その一撃は巨人の腹部に直撃し、巨人は僅かによろめいた。
「はっ……!」
攻撃は止まない。
ここぞとばかりに、騎士はもう片方の魔剣に籠められた魔力を解放する。
剣先から放たれた灼熱の業火が、巨人の顔面を焼き尽す!
ダメ押しとばかりにニーナの矢も殺到する。
「バフォォッ!」
エミリーの泣き声にも似た叫び声がただひたすら響いた……。

「…………」
焼け焦げる巨人の顔面を見ながら、騎士は剣を下げる。その時――――――
「ぬっ――――!」
騎士の表情に焦燥の色が広がる。
だがそれも一瞬。間髪入れずに騎士は地を蹴り後方へ跳躍した。
だが。
「ぬ、ぐ……!」
叩き付ける様な一撃で、鎧ごと胸を切り裂かれた。
「グオオオオッ――――!」
大気を揺るがす程の咆吼。
巨人は、あれだけ受けても尚健在だった。
最強の魔物は、止めを刺すように、鎌首をもたげるように大鎌を振り上げた。
「馬鹿者! 攻撃の手を止める者がおるかっ!」
男の叱咤によりニーナが我に返ったように矢を番える。
だが遅い。巨人の暴風のような一撃が男目掛けて振るわれた。

832携帯物書き屋:2007/05/06(日) 10:29:46 ID:mC0h9s/I0
撃鉄のような音が辺りに残響する。
なんと、男は巨人の一撃を防いでいた。
剣と剣を交差し、大鎌を挟むようにして辛うじて防いでいたのだ。
「ぐ……っ」
だが、足は膝元まで地面にめり込み、裂傷などによる傷で口から下は朱で染まっていた。
巨人が更に力を込め騎士を押す。
それを男は渾身の力で押し返し、2つの力は拮抗する。
「させない……!」
ニーナの矢が放たれる。射られた矢はただの1本。
しかし、それはニーナが得意とするライトベロシティ――――!
その一撃は名前の通り光の如く速さで射られ、回避することを許さない。
「――――!」
超高密度の矢が巨人の無防備な顔面に直撃し、光が炸裂し爆発を起こす。
「なっ……!」
それは男の驚愕からだった。
爆破を顔面に受けようと巨人の力は緩まない。
男がいかに怪力だろうと巨人の剛力には敵わなかった。
「がっ――――!」
男は軽々と吹き飛ばされる。
男はそれこそ弾丸のように、数十メートル離れたニーナの手前まで飛ばされた。
魔物の無敵さはここに来て異常だった。
俺は思わず我が眼を疑う。

魔物の頭部は傷だらけだった。
いや、そうでなくてはいけない筈だった。
なのに。巨人の顔は再生し既にそのほとんどが回復していた。
化け物……か。
見れば今まで受けた傷は無くなっている。
なんと言う超回復。
果たしてこの魔物に死など存在するのだろうか?
「は、ははは……あははははは!! いいぞいいぞ、凄いじゃないかエミリー!
あいつ、もう死んじゃってんじゃないの? あれだけ偉そうなこと言ってた癖にさ」
さも愉快そうに洋介が笑う。
それに対しエミリーの表情には余裕が感じられなかった。それでも必死に耐え、魔物に最後の命令を下す。
その命令に従い、巨人はニーナの方へと1歩を踏み出す。
その時、騎士が立ち上がった。
「ヘル、もうやめてっ! それじゃ貴方の体が……」
俺と少し離れた、男のパートナーの少女が泣き叫ぶ。
それを見て、男は

「諦めるだと? 馬鹿な、ここで1度に全ての石が手に入ると言うのだ。これを逃す手は無い」

そう言い、臆することなく巨人に向けて剣を構えた。
「ヘル……」
「そういうことだ。……一撃で倒す。女、貴様の最大魔術を頼む。それまでの足止めは引き受けよう」
返事も待たずに男は疾走する。
迎え撃つ一陣の疾風。
それを騎士はすんでのところで躱し、巨人の懐に踏み込む。
「鈍間……!」
剣が一閃され、男は巨人に一太刀を浴びせる。
更に2、3と男は斬り刻んでいく。
「――――ガァァッ」
振り払うように大鎌が振るわれる。
それをも躱し、男は後方へ跳ぶ。
「女! あとどの位だ!」
「……もう少し。あと15秒耐えて」
ニーナは槍を地面に突き立て、正に男との戦闘で使った技を放とうとしていた。
「……長いな」
悪態をつきながらも、男は巨人の前に立ちはだかる。
2本の剣に光が灯る。
「行くぞ化け物」
再度男が疾走する。その瞬間。
「パラレル――――」
男の両脇の空間に歪みが生じ、そこから左右4体、合計8体の分身が現れた。
本体合わせ9人全員の男が一斉に巨人に襲い掛る。
巨人の大鎌が迎え撃つが、それは2体を霧散させるだけ。
残り7人の騎士は暴風の中を掻い潜り、遂に巨人の懐へ到達する!
「――――スティングッ!」
溜め込まれた力が一気に爆発する。
男の剣はニーナの矢をも弾く巨人の甲殻を易々と貫き、奥の肉を晒しだす。
魔力で強化された剣の威力は、もはや通常の比ではない。
「――――――」
巨人が初めて苦痛らしきものを漏らす。
効いている。男の攻撃は確実に届いていた。
しかし、傷を負うのと同時に傷は塞がっていく。
「くっ……」
多大な魔力と体力の浪費により男の攻撃が一瞬止まる。
それを見逃さず、男に一陣の疾風が襲う。
躱し切れず、鎌は男の肩口を走り抜けた。
「がっ――――!」
鮮血が舞う。
だが、男は足止めをすると言った以上逃げることは許されない。
剣を構え直し立ち向かうが既に限界。次の一撃で巨人の勝利は決まるだろう。
その時。

「――――充電完了。いいわ、下がって!」

ニーナの魔術が視界を蒼に変えた。
男が横へ跳ぶと間髪入れずに雷撃が放たれる。
槍から繰り出た数十の雷は絡み合い1つの閃光となる。
放たれた雷撃は、遂に巨人へ到達した。

833携帯物書き屋:2007/05/06(日) 10:39:43 ID:mC0h9s/I0
先を書いてるとまた遅くなりそうなのでここで。
なんだか途中で力尽きた感がありますが許してください。

>殺人技術さん
もうすぐ終わりが近いですか。そうなると寂しいですね。
でもまた何か起こりそうな気配が・・・。
ドキドキしながら待ってます。

>>821-822さん
読ましてもらいました〜。
いや、良かったですよ。最初もただのペアハンかと思いきや隠された場所へ・・・。
この先何が2人を待っているのでしょうか? 続き待ってます。

>青鳥さん
初めまして。
恋愛物ですか。自分はぜんぜんよいと思いますよ。
主人公のシーフが女の子なのかな? だとするとシーフのカップルになりそうですね。
初めのほうでもなにやら伏線らしきものが・・・・・・続きをお待ちしております。

834◇68hJrjtY:2007/05/06(日) 11:47:54 ID:7Pae2azo0
>携帯物書き屋さん
個人的に待ち望んでいたニーナ&ヘルの共闘ですね!
やっぱりこの二人、協力し合ったら強い。でもやっぱりヘルは孤高が似合う気もするし…(笑)
しかし、バフォやばいですね。エミリー自身も何かやばそうですが…
携帯さんの戦闘シーン描写力でこの後の展開がどれだけのものになるのか楽しみにしています。

しかしヘルかっこいいなぁ。
いつか「また、つまらぬものを斬ってしまった」って言わせたいです(笑)

835みやび:2007/05/06(日) 17:09:20 ID:4QLRxKcs0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>携帯物書き屋さん
 バフォまで出しちゃったのね。もしかしてピーンチ!?(シェーのポーズで完璧)
 とアホなこと言ってる場合じゃないですね。
 でもどうなるのかな……ちょっと心配。主人公組みは当然のこととして好きだしいー……
でもやっぱエミリーも捨てがたい……むむ。最近ヘルベルトもちょっといいのよねえ。
 なんて甘っちょろいことをついつい考えてしまう自分が妙に可愛かったりします。
 とか思ってたらニーナたち協力してるし!? こうなると今度はエミリーが心配……バフォ
頑張れええ! ――ってあれ? なんかちがう?(汗)
 は……いえ。たとえどんな結果になろうとも……受けとめますよ、ええ。それが読者の使
命です! うう……(うるうる)
 なんだか最後のほうは脅迫っぽい気がしないでもありませんがそれは誤解です。それほ
どこの待っているどきどき感というのが楽しい――ということなのです。今後の展開から目
が離せません。
 街の地図。そうですね、あったほうが文章にするのは楽ですからね。
 でも読者としても、見たいです。やはり読んでいる作品の世界がどんなものなのか、それ
を知りたいという欲求は尽きません。

>821さん
 今度はどんな敵が! と思っていたらこの展開。こういうのは嬉しい肩すかしですね(笑)
 しかしなにやら戦争の気配が……これはスケールが大きくなりそうな予感? いよいよ
今後の展開が気になりますね。

>殺人技術さん
 今度はW・Cが地上に! これはファイルが料理人でもあるという事実より驚きです(笑)
 しかしどんな姿で登場するのでしょうか……楽しみです。
 私としては燭台を灯したのは○○ではないかと睨んでいますが……はっ、いやこれは伏
せておきます。(なんやそれ) 
 でもなにやらひと波乱起きそうですね。どきどき。

>青鳥さん
 初めまして。恋愛、いいと思いますよ! むしろお願いします。
 最近は自分でも書いてないし、ちょっと飢えてたところです(笑)
 楽しみにしつつ次回を待ちたいと思います。

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

836elery_dought:2007/05/07(月) 21:44:55 ID:k5gUPRYA0
-ギルドホールにて反省会-(ぁ、ギル目線でおねがいします;;)

いつも通りミーネの演説なんやらが…眠い。

シン「結局負けちまったかぁ…」
ギル「気にすんなよ、相手レベル詐称だったし」
シン「うそー!?」
ギル「お前何のために反省会出てんだよ、今言ってたのに…」
ミーネ「こら!ギルしゃべるな!」
ギル「ぇっ俺のせいかよ!」
シン「ケケケ」
ミーネ「……というわけで、6人じゃ少ないしもっとギルメン増やそうと思うんだけど、みんなはどう思う?」
シン「そうだな!アチャとか悪魔とk…!」
ドカ!
シフ「僕は歓迎ですよ!」
ミーネ「えっ?」
シフ「あ!いや!シンさんの意見じゃなくて;;」
ギル「でも寮にもそんなに空きがないぞ」
ミーネ「足りなくなったら各自で泊まるとこ用意してもらうから」
WIZ(以下レット)「副マスも決めたほうが楽ですね」
ネクロ「初期のメンバーはギルとシンでしょ?」
ミーネ「じゃあギルにしましょう」
シン「即決かよ!」
ギル「ぇ、まじかよ!」(ミーネと2人か…)
ネクロ「顔ニヤけてるよぉー」
ギル「やめろっなんでもない!」
ネクロ&シン「ケケケ^^」
ギル「…;;;;;」
ミーネ「あと1人枠あるけど…やりたい人とかいる?」
ギル「まだ枠あるんだ…」
ネクロ&シン「ケケケ^^」
ギル「……;;;;;;;;」
ネクロ「シンがやんねーならいいやー」
シフ「やります…!」
ミーネ「わかった、じゃあ後は募集ね!」

その後 掲示板とかで宣伝して1週間くらい経った。

コンコン

寮に突然ノックの音が響いた。
ミーネ「はいー」
ミーネがすぐドアに駆け寄る。
ガチャ
ビショップ「あの、掲示板に書いてあったんで来たんですけど…」
ミーネ「ああ!はいはい!どうぞどうぞ!」
ビショップ「あ、連れがいるんですけど、いいですか?」
ミーネ「もちろんです!」

リビングでいつもの所に座っていると3人…ビショップ、アーチャー、プリンセス
ミーネ「じゃあ、そこに座って!」
俺の隣にプリンセスが座ってきた。
プリンセス「よろしくお願いしますぅ!」
ギル「ぁ、ああ…」
ミーネ「こら!もっと愛想よくしろ!」
ギル「よ、よろしく…な!」
ミーネ「それで、寮には空きがないから…」
ミーネがいろいろ説明をした。



ミーネ「じゃあ、これがトランシーバーね!」
プリンセス「おおー!」
ビショップ(ドルギ)「では改めまして、よろしくお願いします!」
プリンセス(リンセス)「よろしくです!」
アーチャー(ラレコ)「よろしくお願いします…」


コメント本当にありがとうございます。
寮生活の書き方前と変わってしまいました;
ミーネとギルは次回発展させます。
そして皆さんの作品を読もうとしたら前スレから等ありまして(@_@;)
最近、ちょくちょく来れるようになったので
せめてこのスレのものだけでもじっくり読ませていただきます。

837殺人技術:2007/05/07(月) 23:17:08 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

32-36>>548-552
37-38>>568-569
39-42>>592-595
43-46>>617-620
47-51>>693-697
52-56>>760-764
57-62>>806-811
63-65>>825-827

>>elery_dought
ギルド反省会とギルメン募集の切実さには覚えがあるので読んでて親近感が……(ぁ

838殺人技術:2007/05/07(月) 23:17:38 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(66)

 私は何の為にこんな事をしているのだ? ……チョキーの頭の中で一筋の疑問が浮かび、それがぐるぐると渦を巻く。
 何の為か――少なくとも、金や名声などというくだらぬ装飾品の為ではない。
 では誰の為に?
 ファイルか。私か。
 それとも、他に誰かが――居るというのか、誰だ? 誰が、私の心の中に巣食っているというのだ――と。
 ――ビガプール王宮に据え付けられた新しいこの議事堂は七階層に渡って吹き抜けを作り、今チョキーが座っているのは一階の隅、来賓席である。そこからは半球状の天井に描画された匠の技が、少し顎を上げるだけで一望できた。
 まさに技巧、という所だろうか、それとも精巧な魔法が掛かっているのか。半球状のキャンバスに絵を描けば、普通に書いてしまうと角度によっては奇妙な絵になってしまう、だがその絵はチョキーの座っているような、中心とはほど離れた場所からでも、半球という事には言われなければ気付かない。この議事堂の照明になる魔法も掛けられているようで、明るく光っている。
 微妙に潰れた楕円状のキャンバス。その周りには七階層に渡って繋がる柱が額縁を形作り、控えめに施された金のメッキと彫刻が美しく光る、隅に覗く人間達が邪魔だ。
 だが、その絵の内容は、そんな事を気にさせない程、チョキーにとって感慨深い含蓄が含まれているように思えた。
 描かれているのは、天使と悪魔、そして人間が、ちょうど三角形になる様に位置取りされている。
 上手く奪い取ったのか、その手に持った、白い羽根には不釣り合いな黒い矛を、悪魔の胸に突きつける天使。
 武器を取られて慌てたのか、たまたま下方に居た人間を人質に取ろうとその肩に手を伸ばす悪魔。
 そして、哀れな事に悪魔に支配されてしまったのか、その胸からもう一人の悪魔、肩に手を乗せた悪魔と同じ容貌の悪魔が、天使の不意をついてその爪で襲いかかる。
 天使の持つ悪魔の矛、悪魔が伸ばした手、人の胸から飛び出した悪魔の体、それらを結ぶと、なるほど緩やかな三角形になっていた。
 結局、それらの絵が意味する所は分からないが。チョキーは目を瞬いて視線を移す。
 それぞれの階層の手摺りの隙間からは、多くの議員や大臣、地方の町長、さらには現国王の姿までもが確認できる。
 その地位は陣取る階層の高さと、開けられたスペースの広さ、護衛の数が目印となって、レストランに星の格付けをするかのように容易に見て取れた。
 まさか、ここまで集まるのは予想外だったが……まぁ、良いだろう。チョキーは心の中でほくそ笑んだ。
 ――そうだ、この思考がおかしいのだ、この思考こそが一体、誰の為にある? 私か、ファイルか、他の誰かか。

839殺人技術:2007/05/07(月) 23:18:02 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(67)

 ……特に考えず天井の絵を見てみると、何となくその絵が意味する所が分かった気がする。
 ここは議事堂、政治の場だ、あの絵も国政に関係する意味が含められているのだろう。
 恐らくは――悪魔が"加害者"、人間は"被害者"、そして天使は"国家権力"にあたるのだろう。
 悪を相手にして、時には手段を厭わない"国家権力"、自らの身体を最優先に、罪のない人間を人質に取る"加害者"、そして自らの意図ではないにしても、その存在が正義に迷惑を与える"被害者"――そんな所だろうか。
 下らない。先程まで高尚な物に見えていた天井画も、その正体を知ってしまえば底の知れた物だ。
 「――それでは、次は特別表彰に移りたいと思います」
 風の魔法だろうか、明朗に響き渡り、それでいて穏やかな声がそこに居る人々の声を突くと、チョキーは椅子から腰を上げた。
 議事堂を包み込む拍手がチョキーの全身に降り注ぎ、チョキーはそれを聞く耳を呪いながら、中央の少し高くなっている場所へ足を進めた。
 議事堂は高さもだが、広さそのものもかなりの物で、中央まで移動するのに走る訳にもいかず、途中で拍手に元気が無くなっていくのが確認できた。
 チョキーは中央の小さい階段を登ると、演説台の前に出たアレクシス議長が、傍らの小さな机に置いてある紙を一枚、両手に持つ。
 アレクシス議長がその紙を長々と読み、チョキーは当然の事ながらそんな事は聞いておらず、その身体の感覚を集中させていた。
 ――居る。今、この議事堂の何処かに、姿を消して潜んでいる――私も戦う事になるかもしれないな。
 アレクシス議長が言葉を読み終わると、その紙を持ち替えて私に突き出す。これを受け取った瞬間、アレクシス議長は死ぬ。
 まぁ、予定通りだ。
 チョキーは手を伸ばし、再び盛大な拍手が送られるのを感じた。
 そして拍手の中、チョキーの目の前の顔が、歪む。
 苦痛で、だろうか。それとも体が死に行く微妙な感触というものがあるのだろうか。その表情から考えを読み取る事は難しかった。
 チョキーの手から、表彰状を通してアレクシス議長の手に魔法が宿っていく、皮膚が消えて行く。
 爪は石英となり、皮膚と筋肉は灰色の礫岩とも泥岩ともつかない、表面の擦れた陶器の様になって行く。
 拍手が止み、一部から悲鳴がこだました。アレクシス議長の体を見て、ではない。"おぞましい物"を見たのだ。

840殺人技術:2007/05/07(月) 23:18:36 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(68)

 最初は女性の甲高かったそれは、次第に野太い声も混ざって狂乱のコーラスとなり、異様な姿になったアレクシス議長を見てそれはさらに反響した。
 要人や国王の護衛は一瞬でその体を"おぞましい物"から覆い隠し、守るべき対象を出口へと案内する。しかし開いていた全ての扉は突然、強い風でも吹いたかのように閉まり、鍵が勝手に閉まり、鋼鉄の如く強固な壁となる。
 そして、ただ悲鳴を聞いて困惑する一階の者達は見た。
 その顎を軽く上げて。
 天井の絵画、人間に手を伸ばす悪魔の部分から、そこに書かれた物とは違う別の悪魔が、強烈な鬼気を纏いながら、虹色の炎を纏いながら、周りの光を吸収しながら現れる、議事堂の中心へとゆっくり下降して行く。
 悪魔が宙を浮いて、ゆっくりアレクシス議長の石像へと下降していくと、次第に天井の魔法が解けたのか、議事堂を照らす天井画の光は消え、議事堂は闇に包まれた。皮肉にも闇の象徴である悪魔が纏う虹色の炎だけが、その闇を艶めかしく照らしている。
 やがて悪魔は石像の隣――チョキーのすぐ側に着地し、虹色の炎の輝きを強めていく。
 さあ、逃げまどえ! そんな幻聴が人々の耳を囃し立て、人々は暗闇の中、あちらこちらに走り回り、お互いにぶつかり合い、揉みくちゃになり、地位の高い老婆のドレスを踏みつけて、老人を突き飛ばして、ただ勘と記憶、手探りを頼りに開かずの扉へと殺到する。
 開かずの扉――彼等は気付いただろうか、先程まで闇を照らしていた七色の光が、消えていた事。
 そして、それに気付くことになる――一階層ごとに一つずつしかない扉が、美しい炎を上げて燃え上がり、そこに集まっていた人々の体に、容赦なく燃え移っていく。
 七階層の議事堂が七つの色に染まり、一階は紫、七階は赤の光を放ち、暗くなった天井画を見上げれば虹のリングが美しい。
 七色の炎はそれぞれが人々の体を蹂躙して命を奪った瞬間、その役目を終えたかのように燃え尽き、扉もまるで燃えた形跡を見せず、ただ炎をしまって暗闇に佇むだけだ。炎独特の臭いもせず、ただ後には焼死体と血の臭いが残るだけだ。
 だが、チョキーはそこで半分以上の人間が生き残った事に舌打ちをした。
 誰の助けも無ければ、いまので一人残らず死ぬ筈だった――ファイルがその程度のミスをするとは思えない。
 「やはり、貴様だったのか――あの新年会の黒幕も」
 暗闇の中、乱れた椅子に、隅で、焼死体の隣で震える議員達、ただ静謐とした微弱な光を湛え、物言わずそこに立ち尽くす柱。
 柱の裏側から聞こえた声は、その声の主の姿を現す。
 「しぶといな、お前は」
 チョキーは溜め息混じりに胸元からワンダーワンドを取り出した。表面に潰れた霜を白けさせた大理石の床が、小さく氷の山を作っている。

841殺人技術:2007/05/07(月) 23:19:00 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(69)

 「扉に近づかないで! 柱の近くで集まってなさい、怪我してる人は座ってじっとしてて!」
 凛とした声が何の魔法も使わずに広大な議事堂内に響き、その声に宿る使命的な何かに打たれたのか、人々は次第に悲鳴を沈め、議事堂内は薄闇と静寂に包まれる。
 女性――青白い槍を持ったランサーは、人々が落ち着いたのを確認すると、七階の議事堂内を見下ろせる手摺りから、階下の二人の男性を眺め、その視線を鋭くして、再び空に浮いた中空の悪魔へと移動させた。
 七色の炎はいつのまにか消え失せ、その悪魔は白い硬質的な皮膚と微妙な光沢を持つ角、漆黒のマントを風に靡かせる事もなく、ただ床に立ちつくしているかのように、議事堂の中心で浮いている。
 「悪魔……!」
 ランサーは歯をぎりりと鳴らすと、手摺りに飛び乗って悪魔を睨め付ける、三つ程下の層から、若い男性の声が響く。
 「加勢する!」
 浅黄色の髪は薄闇の中で灰色に染まり、その背中に男の身長程はあろう巨大な斧を背負っている。男の戦士が叫んだ次の瞬間には、柱に掘られた彫刻を足がかりに、驚くべき速度でよじ登り始めている。
 ランサーがそれを一瞥すると、手摺りを蹴って悪魔に躍りかかり、戦士はその一つ下の層から強烈なジャンプ力で飛び上がる。
 悪魔は両手に炎の剣を作り、二刀流で突き出された槍を受け止める、下方から斧が悪魔の足に届こうとしていたが、悪魔はそれを見もしなかった。
 届かないから。
 「!?」
 斧が悪魔の足にもう少しという所で空振りし、自らの足に感じた異変に顔を顰めた。
 誰かが足を掴んでいる。
 「うわああぁぁっ!?」
 それを確認したのは本人だけだった。
 中空――戦士の右足首が何者かの腕に強い力で掴まれ、眼下に広がる白銀の渦の中に引き込もうとしている。
 そして、すっぽりとその穴に全身が引き込まれると、白銀に光る渦は幻の様に消え、そこにはランサーと悪魔が戦う乱れた音だけが響いていた。
 ………………
 ………………
 「――て、天使……?」
 先程とは全く違う空間――恐らく議事堂へと繋がる渡り廊下の一つだろう、石造りの渡り廊下は月明かりの下で氷の様に冷え、床に俯せになる戦士の肌に刺激を与える。手摺りもない窓からはビガプールの街並みが一望できた。
 そして顔を後ろに向ければ、足首を掴む筋骨隆々とした――月夜の天使の姿が、不完全な石像の様に佇んでいる。
 ……いや、不完全ではなく、破壊されてしまっているのか。

842殺人技術:2007/05/07(月) 23:19:24 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(70)

 ランサーが口の中で言葉を紡いだ瞬間、その動きに鋭さが宿る。
 薄闇の中、薄い霧がランサーの足下に収束し、その足が力強く空を蹴り、小さく水滴が散る――霧の魔法で、空に立っているのだ。
 風を切る音が響く度に白銀の煌めきが弧を描き、その軌跡に刺すような冷気を残す――その動きは悪魔の二刀流と互角に渡り合い、僅かながらその体に傷を残す、傷口が凍結し、悪魔が歯を食いしばる。
 ランサーの目は暗闇の中で爛と輝いて見える、彼女にはそれとは対照的な、悪魔の静謐な瞳に気付く事は出来ない。
 氷の魔法が掛かった槍――ウィンター・クロウ
 いつの間に地上界へ――そして、私より先に死んでしまったか、ファイルの思考が、チョキーへとリンクする。
 目の前で長い杖を握りしめるウィザードの男を前にして、チョキーは突如怪訝な顔をして、ウィザード――カルスだったか――を困惑させる。
 ウィンター・クロウ――W・C
 私が見た映像の中では、彼はファイル――F・Fを凌ぐ実力を持っていた筈だ。
 そんな男が、地下界で死に、そして地上界でも死んだ――こんな女性の手にかかって?
 「何を考えてるか知らんが、お前は裁きを受けるべきだ」
 カルスがチョキーに語りかけ、チョキーは思考を振り払って杖を構える。
 こいつに魔法で渡り合えるか――チョキーは冷や汗を背中に浮かべ、目の前の男と睨み合う。
 だが、そこに闖入者が――チョキーにとって確実に強力な武器となり、カルスがこの場で最も望まない人物が、乱入する。
 カルスは自らの心臓に突きつけられる死への切符と、喉仏に当てられた背後の男の手に宿った殺気を感じて、息を呑んだ。
 「チョキーさんが考える事は、君みたいな人間には分からないよ」
 誰も意識できない間にカルスの背後を取って、彼はいつになく優しく囁いた。

843姫々:2007/05/08(火) 03:34:28 ID:Cc.1o8yw0
考えなしに半オリジナルに走った私がバカだったようです(´-ω-`)
なんというか進みません、いやー構想って大切ですね'`,、
そして時間が圧倒的に足りない、誰か時間ください。てなわけで今回は
伏線だけって感じになってます、では。>>737-741より続きます。

・・・
・・・
・・・
私は少女に追いつこうと走る。しかし速い…、自身にヘイストを掛けているのになかなか距離がつまらない。
(しかし、スピカの言うとおり、私もあの頃に比べてずいぶん変わってしまいましたね…)
あの時―、11年前の私なら気づく事はなかった。隣を通り抜けた少女の表情に…、もし気づいたとしても、
追いかける事は間違いなく無かっただろう。
(何があったかは知りませんが、望まない孤独にすがるなど、私は認めません)
お節介でかまわない。だけど、本当に孤独を望んでいたのなら…
(何故、涙など流すのですか……)
脇を通り抜ける時、一瞬タスカの顔が見えた。涙を流しながら、歯を食いしばって、精一杯嗚咽が漏れないように
耐えて…、何故そこまでセラを避けるのか、私には分からない。けど、今の私には放っておく事は出来なかった。
タッタッタと二人の足音が洞窟をこだまする、いくら相手が速くても大人と子供なのだから体力的にも歩幅にも
大きな差がある。少しずつだが、タスカの背中が近づいてくる。そして―
「…っ、追いつきましたよ。」
洞窟を出て少し行った所、そこでようやくタスカを摑まえた。
「………」
私が肩を掴むと、抵抗することなく少女は足を止める。
「何でセラを避け――」
私が話しかけようと言葉を発した、まさにそれとほぼ同時、タスカが叫ぶ。
「何で!!何で姉さんを連れてきたっ!!!」
その少女の瞳に宿るものは何なのか…。憎悪、狂気、嫌悪、はたまた殺意……。
(いや、違いますね、そんな物では無いのでしょう‥‥‥?)
「セラの言った通り、たまたまですよ。目的が同じなので行動を共にしているだけです」
嘘ではない、本当の事だ。
「じゃあ何でウィザードが私を追いかけて来るんだよ、どっかいけよ……」
眼を擦り、声を震わしながら、そう言う少女。何故ウィザードをそこまで嫌うのだろう…?
いや、今はそんな事は置いて置こう。
「セラに、会いたかったのでしょう?」
「っ‥‥‥」
カランとタスカの右手に持っていた長剣が地に落ちる。頭上には満月、長剣は月光を反射させ、白銀に輝いている、
会った時には分かっていたが、この子は言動ほどひねくれてはいない。
ただ‥‥‥、自らが学ぶべき事の多さに気づいていないのだ。
「子供の間は好きなだけ泣きなさい、そして泣いた分の何倍も笑いなさい…。」
立ったまま泣いている少女に歩み寄り、抱き寄せる。
「っ‥‥‥」
一瞬身体を強張らせたが、その後は私を受け入れてくれたらしく、フッと肩の力が抜ける。
(小さい…)
なぜこんな子があそこまで毅然としていられる、何故あそこまで自分の意思を押し殺す…。
「落ち着いたら、セラを避けている理由を教えていただけませんか?」
「‥‥‥‥」
少女は私のローブに顔を押し付け、泣き続ける。身動きをとろうにも取れないが、それで
落ち着くというなら落ち着くまで待ち続けよう。
(とは言っても…、弱りましたね…)
向こうはセラの召喚獣がいるので危険は無いだろうが「すぐ帰る」と言って来たからにはすぐ帰らない
といけないだろう。とは言ってもこの状況で動けない。
(仕方ありません…。「スピカ、聴こえますか?」)
(『んー、リリィ?聴こえるよー。どうしたの?このライン使うのって久し振りだねー。』)
10年位前に私が姫に仕えるようになって、すぐに繋げた通信用の魔力ラインなのだが、取り除かずに置いておいた
のは正解だったのだろう。
(「そちらは大丈夫ですか?」)
(『んー…、まあ相変わらずセラは泣いてるけどねぇ…。まぁ召喚獣は全員周囲警戒してるし、大丈夫じゃないかな
、盗賊も今のところは襲ってきてないよ。』)
(そうですか。なら少し遅くなると伝えて置いてください。)
(『む…、ごめん。それ無理。』)
(「はい?何故ですか?」)
(『だって…』)

844姫々:2007/05/08(火) 03:36:07 ID:Cc.1o8yw0
だって?なんなんだろうか…。と、その時私の首筋に何か冷たいものが触れた。
『あなたの後ろにいるんだもん。‥‥‥って、あんた最近こういう事にホントに動じなくなったわねぇ…。
 ちょっと前なら可愛く驚いてくれたのに。』
その位の気配は読み取れるようになったと言うわけだ。今更触れられただけで驚きはしない。
(「と、言うより私が姫に仕えるようになった時に、散々遊ばれましたから…、主にあなたに。」)
あまり思い出したくない過去だが・・・。私はタスカに聞かれないようにラインを使って会話する。
『あーあ…、あの頃のかわいいリリィは帰ってこないのねー……。そうだ、私が戻しちゃえば
 いいわけだね?』
(「やめてください、あなたが言うと冗談に聞こえません。」)
この軽いノリと「時を操る能力」を持った精霊ならその位の事はやりかねない。
(「というよりあの頃の私の事を「不安だった」とか「年齢制限かけときゃよかった」とかついさっき
 言ってたのは何処の誰ですか」)
『それはそれ、これはこれよ』
「な…」
「…?、なに?」
タスカが顔を上げて訊いて来る。
「い、いえ…、なんでもありません。」
しまった…、つい呆れて声に出てしまった…。とりあえず私は適当にごまかしておく事にした。
『ねね、あんたなんでセラの事嫌ってんのよ。実姉なんでしょ?』
「・・・・・・・・・」
タスカは何も応えない。…しかし、何となく違和感が…。
『ちょっとー、なんか応えなさいよ』
「・・・・・・・・・」
さらに無言。いや…、これは間違いない…。
『もー……、あーのーねーっ―』
(待ちなさいスピカ)
私はスピカを制止する。
『んー?なんなのよー、リリィ』
明らかにおかしい、さっき感じたこの違和感はやはり…
(「間違いありません。タスカにはあなたの事が見えていません」)
タスカは話しかけると何かしら反応する、けれどスピカが話しかけたときだけは、
何も反応しないのだ。
私が話しかけると反応はする、けれどスピカが話しかけても何の反応も無いのだ。
『はー?何言ってんのよリリィ、タスカはロマなんだか…ら………?』
(スピカ…?どうしたのですかっ!?)
(『ご…めん……。なんか……変な感じが………』)
突如フラリとスピカが地面に落ちた。意識はあるし身体を世界に維持しているので魔力切れなどで
はないと言う事はわかる。ただそれ以上の理由は一目では分からない。
『ごめん、ちょっと……休まして…』
そう言ってフラフラと舞い上がり、私の鞄の中に入っていってしまうのだった。
「今話してたのは妖精…?」
私にしがみついたままタスカがそう言う、また気づかれていたようだ。
「…、似たようなものですが、本当に見えていないのですか?」
そう尋ねると、タスカはコクリと頷くのだった。
それにしても何故スピカは突然眩暈など…?精霊がこのような症状を引き起こすのは大きく分けて二つ、ただ単に
「魔力が切れた時」と「直接他人の魔力の干渉を受けた時」だ。しかし前者の場合、魔力切れな訳だからこの
世界に留まる事など出来ない。
なら外界からの干渉を受けたのだろうが、これでもスピカは最高位精霊、人間などが干渉出来るはずが無い。
とは言っても干渉は生き物しか出来ない。ならこの場にいる私以外の生物は‥‥‥。

845姫々:2007/05/08(火) 03:37:29 ID:Cc.1o8yw0
(まさか…)
そんなはずは無い…と、思いたいが可能性があるのは一人だけ。
タスカ――。
まさかとは思うが、その可能性否定しきれない。何せ可能性はこの少女以外にはありえないのだから。
「落ち着いたなら聞かせていただけませんか?あなたが村を出た理由を」
聞きたい、この子がこんな所で盗賊などやっている理由を、この子が持つ能力の事を…。
スピカがああなった事と何か関係があるのだろうか、そう思ったのだ。
「………」タスカは言葉に詰まる、そりゃ言いにくいだろう、こんな初対面のウィザードに。ただでさえ
スピカはウィザードを嫌っているのだから。
(はぁ‥‥‥)
この星に来て何度目のため息だろうか…、どうも最近こんな事に首を突っ込んでばかりな気がする、
やはり自分にはカウンセラー的な仕事は向かないのだろう…、などと考えていた時だった。
「一個だけ訊いていい?」
タスカが私を見上げて訊いてくる。
「どうぞ、何でも訊いてください」
私はそう返す、今更何を聞かれても言えない事など何も無い。すると、私の眼を見たままタスカが
言う。
「あんた、もしかしてウィザードギルドのウィザードじゃないの・・・?」
と。ウィザードギルド…?どういう物かは分からない、けれど違うものは違う。と言うよりそんな物
今知った。
「ええ、違いま――」
「私の目を見て言って。」
私の言葉に被せてタスカが言う。何だというのだろうか?とりあえず私はタスカの眼を見て言いなおす。
「違いますよ。私はウィザードギルドのウィザードなどではありません。」
「……………」
流れる静寂、動き続ける時間。タスカは私を見上げ続け、私はタスカの眼を見続ける。
何がしたいのか‥‥‥、それを尋ねようとした時、タスカが目線を逸らし、ポツリとこう言うのだった。
「ごめん…、ホントだった……」
と。
「はぁ…、まぁいいのですが…、何をしたかったのですか?」
そう尋ねると「いや…」と首を横に振り
「気にしないで…」
と気まずそうに応えるだけだった。
「じゃあ、話すけどその前に…」
まだ何かあるのだろうか‥‥‥?
「私、口下手だからさ…、あんまり話すのとか得意じゃないんだ…。」
あぁ、なるほど…。いや、何となく話すのが苦手そうな感じはしていた。というより非社交的と言った方が
正しいだろうか。
『私が代弁くらいならしてあげるよ?』
と、突如スピカが鞄から飛び出してきた。この精霊はいつも唐突過ぎるから困る。いや、それがスピカの
いい所なのだけれど。
「‥‥‥、嘘つき、精霊じゃない…」
今度はタスカがスピカを見てそう言った。
「見えるのですか?何故突然…」
『だって私、今は隠れようとしてないもん、今の私は誰にでも見えるよ』
あぁ…そういう事か…。そう言えば私達以外に見えない様に普段は魔力を被って隠れてるんだった…。
「で、代弁とは?」
『私がこの子の記憶に干渉して、それをラインを通じてリリィに流すだけ。記憶ってのは時間の塊だしね、
 その位は簡単よ。』
なるほど…、それなら正確に伝わるだろう。が、問題もある。もし「これだけは隠したい」と言う事があった
としても、それを隠す事ができないと言う点だ。
『それでいい?』
スピカがタスカに尋ねるすると、タスカは無言のまま、コクリと頷くのだった。
「所でスピカ。一つ聞いていいですか?」
私はさっきから気になっていた事をスピカに尋ねる。

846姫々:2007/05/08(火) 03:38:23 ID:Cc.1o8yw0
『…まぁ、何が訊きたいかは大体分かるけど、一応言ってみてよ』
「何故、目を開けないのですか…?」
実を言うと、スピカは私の鞄から出てきた時から眼を瞑り続けていた、まるで何かを見ないようにしているかの
ように。
「私のせいだ‥‥‥」
タスカが俯いて言う、やはりこの子には何かがある・・・、それも最高位精霊を打ち負かすほどの何かが・・・。
『まぁ…、とりあえず行くよ、二人とも眼を閉じて。干渉中は出切るだけ目を開けないようにね。』
流石のスピカも気の聞いた言葉は出てこなかったのだろう。話を変え、さっさと本題に入って行った。
『タスカはイメージね。別に何考えててもいいけど、私としては出切るだけ思い出そうとしてくれたほうが
 記憶を引っ張るのに、時間も魔力も掛からないからありがたいかな。』
「分かった。」
そして今度は、私の額に手を振れて言う。
『で、リリィはちょい魔力抑えてくれる?リリィの魔力、強すぎるからそのままだと外からの干渉を勝手にブロック
 しちゃいそう。けどやっぱ魔力のコントロールとかって難しいかな?』
「いえ、大丈夫ですよ、分かりました。」
私は自らの魔力を押し込める。と言っても全魔力を右手の人差し指の先の一点に集めただけだが。
『へー、魔力の移動も朝飯前かー。すっかり一人前ねぇ』
眼を閉じている私に笑いながら言ってくる。
「まだまだ私の師匠やスィラバンダさんには及びませんよ。では始めてください」
『オッケー、始めるよ。』
と、前方から「コキコキ」と骨を鳴らす音が聞こえる、そして私のすぐ前方では、何故か街一つくらいは
消し飛ばせそうなほどに、濃密で巨大な魔力の収束を感じた。
「って、ちょっとっ!!何を始める―――っ……」
私は咄嗟に目を開ける。それが間違いだった。きっと…いや、多分。
『ぁ゛‥‥‥。』
――多分感電したらこんな感じなのだろう…。突如網膜が白く焼ける間隔に陥り、次の瞬間私の視界はブラック
アウトしたのだった…。
・・・
・・・
・・・
(いたた…、本当に何をしたのですかスピカは…。)
頭が重い‥‥‥、というか痛い‥‥‥。今、私の視界には天井が映っている、けどこの天井は…。
(テントですか…?)
いまいち体の方も調子が悪い…。起き上がろうとしているのだが体が言うことを聞かない。
「朝ですよー、早く起きてー。」
そんな私の耳に入ってきたのはセラの声、つまり私はやはり意識を失っていたらしい。
原因は分からないが情けないことこの上ない‥‥‥。私は体を起こそうとする――と、私の体が
「自動的に」起きた。
(は‥‥‥?)
いや、起きようとした訳だから起きて当たり前なのだが‥‥‥、今何かとてつもなく大きな違和感を
感じたのだった。
「うん、今行くー‥‥‥。」
(なっ…)
その声に私愕然とした、何故なら「何処から発せられたものなのか分からなかった」からだ、‥‥‥いや、正確
に言うと分かっていたのだろう、ただ信じられなかっただけである。つまり、それは「私の口から発せられた」
のだから‥‥‥。
さらに、視界に入った自分の身体を見て意識が覚醒した、それはどう見ても10代前半の身体なのだ。
つまりは、これはタスカ本人の記憶なのだろう。私はタスカの記憶の中に投げ込まれてしまったのだ。
(ここまでするとは聞いてませんよ…、スピカ……っ)
いや、あれは予想の遥か上空を平気で行く物だ、これ位は予想しなければならなかった…、と自らを嘆く。
(とは言っても、嘆いてばかりはいられませんね‥‥‥)
何にせよ、この身体の所有権は私には無いのだ、ならばする事は唯一つ。
(見せてもらいますよ、あなたの過去を、タスカ‥‥‥。)
私は傍観を決め込んだ、そして私は自らの自我を沈め、それをタスカの意識に溶け込ませるのだった。
・・・
・・・
・・・

847◇68hJrjtY:2007/05/08(火) 10:18:34 ID:B6HAQfXs0
>elery_doughtさん
ギルメンが増えるって良いですよね。
というか羨ましい…うちのギルドもこんな風にたくさん入って欲しい(笑)
Gvがまた楽しみです。リンセスちゃんが伏兵気味に何かしそうな予感が。
キャラ紹介とかちょっと期待したり…(こら

>殺人技術さん
今回も息を呑むシーンばかりで恐ろしくもまた面白く読ませてもらいました。
殺人技術さんの書く戦闘シーンは怖くは無くどこか美しいというか、そんなようなイメージがあります。
だからこそグロシーンがあってもさほど気にならないのかも。当人たちは必死だろうけど(汗)
土壇場で登場したのはきっと彼ですね!嘱台の時の人物はまだ分からないですがこれは分かりました!(笑)
この戦いの果てを楽しみにしています。

>姫々さん
スピカとリリィのちょっとした過去話ももう少し聞きたかったですが(笑)、タスカの実力も気になりますね。
そしてさりげなくもスピカってかなりの高等精霊なんですよね…スピカ、ごめんなさい(苦笑)
リリィのセリフで「子供の間は好きなだけ泣きなさい〜…」というのにちょっと感動です。
こういう他人を癒すセリフって小説上だけでなくて大事ですよね。
タスカとセラの過去など、続きお待ちしています。

848名無しさん:2007/05/11(金) 21:56:44 ID:uFV2cUnA0
◆お得な情報!絶対見て^^成功者多数!◆
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=49761125&s=5264

849名無しさん:2007/05/12(土) 17:04:26 ID:wWPM1BRY0
  ∧_∧    ■
 ( ´∀`)   ■■
 ( つ  つ  ■■■
 と_)_)  ■■■■

850名無しさん:2007/05/12(土) 17:50:45 ID:6WP1vkKk0
ガシャン

851意気地も名も無し:2007/05/13(日) 00:51:50 ID:P6qXXY9w0
A・Kの記録
>>573 >>586 >>597 >>601 >>712 >>745 >>747

※この小説はネタバレを含みます。


・・・ああ、ちょっと余計に撃ってしまったか・・
荒れ果てた焼け野原。
「う・・?」
すっかり薄くなった水膜が、水音を立てて崩れた。
「すっ・・・ごーい!!!」
ティムが叫ぶ。
うるさいな、余分に撃ったせいでCPが-なんだ・・簡便してくれ。
それと心臓の感触が気色悪い。
あのナマコを丸呑みするような感覚・・・二度と使いたくないな。
まあ、これからあのクソガキが私を試す上で、
使用せざるを得ない状況も多々ある筈だ・・・・
私は痛む頭を何とか抑えて、カバンから箱を取り出す。
「そ・・それはっ――!!!
中にはあらゆる種類のアイテムがランダムで詰められ、
開けないままのほうが幸せになり得るという伝説のアイテム・・(500YEN)!」
おっさんが何かわめいている・・皆、聞くんじゃないぞ!
私は無視して中身をまるごと崩れたケルビーにぶちまけた。

光が崩れた体に広がり、カチャリカチャリと音を立ててその体が治っていく。
「フェニックスの羽だ・・塩洞窟の最下層にいたヤツらを
【ピ―】て【ピ―】した後に【ピ―】して奪ったものだ・・」
「何したの!?」
ティムのツッコミが入る。
やはり、彼女は笑っているに限る。
「ティム、ファミリアを指揮するお前は格好良かったぞ!」
「え・・?」
ティムが少し顔を赤くする。
「エルフに対して言った『ならば、貴様を殺してその存在を永遠に私の心に』
はかなり格好良かった!うん」
「私そんなこと言ったっけ!?」
ああ、やはり私はこの仲間が好きなのだな。
しかし会長、帰ったら文句を言いまくってやんよ。
パナパレに代わっておしおきYO☆


「んー・・・」
「会長、どうかしましたか?」
「やっぱりさ!この漫画はこのシーンが一番だと思うんだ!」
「えっと・・『悲しき男よ・・誰よりも愛深き故に・・』?
何の漫画ですか?今度は」
「かっこいいよー?主人公が超強力な拳法を駆使してさー。
ああんもう!REDSTONEさえあればこんな拳法も実現できるのにぃ!」
「ふーむ?会長、あとでその漫画貸してくださいよー」
「今度ねー」


あとがき
パナパレまた引っ張ります。
最後はパナパレ→会長とフィートのほのぼの会話
って感じで統一しようかなと努力してます。
でも、核心に入っていくと同時に消えうせてしまいそうです。

いやはや、皆さんの作品を全部読むので手一杯でございまする(´ー`A
ちゃんと生きてます、小説書きます。
どうぞこれからもよろしくどうぞ。

852◇68hJrjtY:2007/05/13(日) 13:01:50 ID:0bHwbXag0
>意気地も名も無しさん
そういえば、心臓とか血ってあのまま丸呑みなんですかね…そう思うとウェ…。
牙とか花もどうも使用方法が分からないですよね。
伝説の\500箱は開けないままのほうが幸せになる…確かに同意です(笑)
ラストがちょろっと判明してしまいましたが、パナパレが実際登場するまで楽しみにしていますよ(笑)

853名無しさん:2007/05/14(月) 03:00:19 ID:wEUlJYbY0
>>851
『敵はすべて下郎!!』と言わんばかりの心臓メテオの後に、【ピ―】して【ピ―】とは何処まで非道なWIZなんでしょう。
そんなWIZに痺れるあこが……消毒される前に黙っておきます。
「ひ・・・・退かぬ!! 媚びぬ 省みぬ!!」は、好きな台詞です。

854名無しさん:2007/05/16(水) 02:04:27 ID:IwFxtZmA0
いつも皆さんの小説を楽しみにしております。
なんか寝れないので小説って言うほどの量じゃないすけど…投下。

『カップル』
episode1 剣士×アチャ
キーワード:気づいてよ、君

アチャ「…シマー、ありがと。」
剣「気にすんなよw弱いものは誰であろうと守る!それが俺の父さんの教えさ!」
アチャ「…そうなんだw…なーんだ、あたし限定じゃないんだw」
剣「何か言ったか?」 アチャ「何も!!」

episode2 シフ×ランサ
キーワード:さりげなさが、好き

シフ「なんかお互い、苦労するよな…w」
ランサ「私は別に…そんな事、ないかな?」
シフ「…俺の前ぐらいは気使わなくていいってw」
ランサ「…それも、そうねw…いつも、ありがとう…」
シフ「しんみりすんなってw俺の身でよけりゃいくらでも捧げますともw」
ランサ「…はあ(ため息)この軽薄さがなければ、もっといい人なのにね…w」


episode3 WIZ×リトル
キーワード:ツンデレWIZ

リトル「んっと、アストラルってのは星界の力を具現化したものでぇー…
なんだろ、とりあえずドーンってやっちゃえばキラキラーってなる、みたいな?」
WIZ「…抽象的すぎて理解できるものか…!
お前はつまり、理論の構築の基礎からなってないんだよ!
赤子からやり直せ!」
リトル「ひどーい!!ボクだって一生懸命にさぁ…グスッ…」
WIZ「!な、泣くなっ!!ほら…えっと、悪かったよ…言い過ぎた…」

episode4 戦士×テマ
キーワード:ツン空回り

テマ「私はね、この世は金と力が絶対だと思うの…」
戦「…また言ってんのか?くだらねぇな、そんなおもしろみのねぇ人生なんざ。」
テマ「戦闘バカの貴方よりはマシよw
…でもね、最近…そんな事もないかなって…思えるようになったかなw」
戦「そうか、そりゃよかったな。」
テマ「…貴方の…お陰なんだけどねw」
戦士「あ?」
テマ「なんでもないわよ!力馬鹿!…あっ!それ私の獲物でしょ!」
戦「…どっちがだよ…効率バカのくせに…」

episode5 BIS×プリ
キーワード:疑惑

BIS「わ、私はロリコンなどというものでは……ハッ!断じて違います!」
リトル「ん、何だ?何かあったのか?」

episode6 追放天使×悪魔
キーワード:なんか一番自然

天「まさか貴様と組む事になろうとはな…」
悪「それはアタシのセリフ。…でも、頼りにしてるわよ?」
天「…こちらもだ。…フ、妙だが、悪い気がせんな。」
悪「…奇遇ねwさ、いくわよ!魂の欠片も残さないであげるわ…!」

episode7 武道家×サマナ
キーワード:サマナ萌え

慣れないタゲ取りでミスって武道にとばっちり

サマ「ご、ごめんなさい…大丈夫、ですか…?」
武「!このぐらい!!どってことなああああい!!!」
サマ「…ふふ(笑)…無理しないで下さいね…ありがとうございます(最高の笑顔)」
武「…」
サマ「??(小首を傾げる)」
武「…いい…(鼻血)」バタリ
サマ「ちょ、ちょっと!大丈夫なんですか本当に!?」

episode8 ネクロ×シフ
キーワード:

ネクロ「…………必要ない」
シフ「…あのな、もうちょい喋れよ?一応見てくれてる人だっていんだし…」
ネクロ「…………無意味」
シフ「…ったくw負の感情が必要とはいえ、思いつめすぎんなよ?」

シフが去り一人になってからぽつりと
ネクロ「…………ありがとう…」

episode9 ウルフ×プリ
キーワード:黒ワンコ

プリ「こっちに来るのだ!タマ!」
ワンコ「わおーん!」
プリ「私もまるでサマナーのようだな!これぞ皇女の秘めたる才能の賜物なのだ!」
ワンコ「…わふ?」(へいへいwwwwww)

another episode unknown
キーワード:
「ワシの課金キャンペーンは108式まであるぞ」

ジョブのイメージを独断と(略 スレの内容とややかぶりですが、ご勘弁を。

855◇68hJrjtY:2007/05/16(水) 02:56:41 ID:UE6sEGhc0
>>854さん
こういうお題みたいなのを先に考えて書くとまた違った楽しさがありますよね。
短編集と言うかカップリング小話というか…笑いながら読ませてもらいました。武道×サマナって最高ですよね!
偏見スレは確かにこちらと同じ空気が漂ってると思ってます。
結構小説化してもいいくらいなネタが時折投下されてたりして、要チェックなんですよね(笑)

856947:2007/05/20(日) 19:21:06 ID:RAn6BvyM0
偏見スレからお邪魔しにきました。
ここ来るの初めてだ・・(ワクワク
どんな作品があるんだろう・・・

・・・すごい・・・おもしろい作品がずらりと・・・
自分なんてとても適わない(汗
偏見スレにて発表した。赤石火事編の話なんですが、
小説化してみようかな・・・と思いちょっとお邪魔した次第です・・・
・・めげそうです・・・みなさんを満足させられるだけのものを書く自信がないです・・
しかも自分書くの遅くて・・・(涙
こんな私でも書いていいでしょうか・・?

857◇68hJrjtY:2007/05/20(日) 22:42:00 ID:HugV.FWQ0
>>856さん
いえいえ、遠慮などせずにどんどん書いてください!
過度なエログロはダメとか色々あるようですが、基本的に自由な場所です。
最近書き手の皆さんも執筆中かはたまた多忙中か、なかなかお姿を拝見してませんし(涙)

って赤石火事編ですか、実は序盤の頃の方は偏見スレにて読ませてもらってましたよ!
是非ともあのリアルでいてラストを飾るダメオンのダメ出しを小説で読んでみたいです(笑)
もちろんお時間のある時、気分の乗る時で結構です、お待ちしていますよ。

858姫々:2007/05/22(火) 04:21:29 ID:Cc.1o8yw0
長さがもはや回想ってレベルじゃない、とか思いつつ。
とりあえず回想編は今週中か来週中には書きあがる予定です。
それにしてもカップリングですかー、私の中では姫×シフとか
テイマ×サマナ(百うわやめろなにをする)とか、そんなイメージが構成されてたりします。

さて、前置きはこの辺にして。タスカ回想編です、とりあえず成り行きとキャラ設定が分からないと
ついて来れない予感がしますが行ってみましょう。>>843-846から続きます

・・・
・・・
・・・
A.M08:00 〜An opening of a thing〜

ロマの朝は早い‥‥‥なんて事もなく結構ゆったりしている。まあ、それは他のロマ達と違い、私達は定住している
ためかも知れないけれど。
「呼ばれた」という事は朝ごはんの時間だろうか、窓から太陽が見えている辺り、多分そうなのだろう。
「お姉ちゃ――……」
起きて、朝ごはんを食べるために、隣の炊事用のテントに移動したのだが、そこで言葉が詰まった。
「ひゃわぁあああっ!!火事っ!!火事ーっ!!みずーっ!!」
何をしてるんだろう、この人は……。
「スウェルファー呼べばいいのに……」
私はそう呟く。
「あーっ!!もっと早く言ってよーっ!!」
「私、今来たところ‥‥‥。」
そんな私の声は聞こえていないのだろう、何処からともなく持ってきた桶の水に右手を浸し、召喚の呪文を唱える。
「………」
私には何を言っているのか聞き取れない。私じゃ近寄れない所にいってしまっている。召喚の時だけは、この人は
姉妹じゃなくて、他人のように思えてしまうのだった。
「スウェルファーっ!!お願い、火を消してーっ!!」
お姉ちゃんがそう叫ぶと同時、スウェルファーは一瞬で大量の水を召喚し、火を消してしまうのだった。
「はぁ…、ありがとー…」
とりあえず私も家が無事だったことを、スウェルファーに感謝しておくことにした。
そしてスウェルファーは召喚を解除され、再び精神体に戻っていくのだった。
「‥‥‥、何してたの・・・?」
家は私が小さい時に母親は旅に出てしまったらしい。そんな訳で、家事はとある理由で毎日が忙しい
お姉ちゃんを除いた、私とお父さんとで交代してやっているのだが、今日は何故かお姉ちゃんが朝ごはんを
作っていた(正確に言うと作ろうとしていた)。
(今日ってお父さんの番なのにな‥‥‥。)
父さんは何処に行ってしまったのだろうか、見回す限り何処にもいない。
「朝ごはんの準備ー、お父さん今度のお祭りの準備なんだってさー。」
そう言うことは前日に言っておいて欲しいと言ってるのに‥‥‥。
「‥‥‥。準備、私がやるから。お姉ちゃんは手伝うだけにして‥‥‥。」
私はドジな姉からフライパンを受け取り、それにこべり付いている謎の黒い塊を水で洗い流してから
そこに卵を二つ割る。
「ごめんねー…、タスカちゃん……」
料理ができないなら、もっと早く起こせばいいのに。そう思ったけど、姉なりの努力なのだろう、やっぱり
家族にご飯を作ってもらうのは嬉しい。
とは言っても、それで家を火事にするのは、いかがなものかとは思うが‥‥‥。
「いいよ、お姉ちゃんは今夜のお祭り、頑張ってね。」
精霊を呼ぶ巫女として――、私と違ってお姉ちゃんにはそういう能力があった、「全ての精霊と通じることが出来る」能力、その力は元素精霊だけでは留まらず、統括精霊、最高位精霊といった高位精霊等とも会話できるというものだ
った、この能力はロマでもかなり稀有な物な上、祭事にこれ以上に適した能力はなかった為、姉は「神の使い」とまで言われ、信仰の対象にまでされていたのだった。
「タスカちゃん、見に来てくれない?」
「‥‥‥、行かない」
崇められている姉を、見たいと思ったことはなかった。ただの元素精霊を召喚するだけで他人に思えてしまうのに、
他の人に崇められているお姉ちゃんを見た日には多分、数日は立ち直れないだろう。

859姫々:2007/05/22(火) 04:22:27 ID:Cc.1o8yw0
「うん、ごめんね‥‥‥。」
その事を分かっていてくれているのだろう、再び私に尋ねることはなく、背中を向けている私に一言謝るだけだった。
「いいの、私は召喚も何も出来ないから‥‥‥、謝るのはこっちの方。お姉ちゃんばっかりが、忙しいのも私のせい」
「そっ、そんな事無いっよ!!タスカちゃんはよくやってくれてるよ、家事とかいろいろ。」
「ありがと。」
そんな姉の言葉を聞きながら、フライパンの上の卵を二人分に分けて、お皿の上に乗せる。
「後は‥‥‥。」
いくら朝食とはいえ、食べ物が目玉焼きだけというのはあんまりだ、とりあえずパンがあったからこれを付けてと、
後は何か無いかな、と食料の保存庫を開けてみると、ソーセージが入ってたからこれも焼いて出そうとフライパン
に乗せて火にかける。バリアートが1日で往復できる距離にあると、食べ物の種類が増えていい、移動しているロマ
達は、どんな食生活をしているのだろうと、たまに思う事がある。
「でもタスカちゃんって料理できるんだねー‥‥‥。」
背中からしょんぼりとした声が聞こえる。まぁ二日に料理をしていれば流石に慣れる。
「ただ焼いてるだけ、この位は2,3回練習すれば誰でもできるようになるよ」
と、言ったものの、この手の事にはトコトン不器用だからやっぱり10回くらいは練習は必要かも‥‥‥と思い直し
たりもする。とか言ってる間にソーセージは焼けていたので、火事になる前に竈の火を消そうと中を覗き込む――と。
「ケルビー‥‥‥。」
そうだよね、竈なんか組めるはず無いよね‥‥‥、最初に気づくべきだったよね‥‥‥、ごめんねケルビー‥‥‥。
と、心の中で一応謝っておいてから、姉に言う。
「お姉ちゃん‥‥‥、召喚獣を竈代わりにするのは流石に‥‥‥。」
「まずいよねぇ‥‥‥。」
「分かってるなら、次からは止めてね‥‥‥。」
「うん‥‥‥、そうする‥‥‥。」
濁流の様に押し寄せてきた疲労感を、溜息で押し流してから、作ったばかりの朝食を食卓に並べた。
大変なこともあるし、たまに突拍子も無いことをする姉だったけど、この生活が好きだった。それに、お姉ちゃんが
好きだった。

860姫々:2007/05/22(火) 04:22:50 ID:Cc.1o8yw0
A.M10:30   〜Mischief of fate〜

「邪魔をする。」
朝食を終え、洗い物を終えて一人ボーっとしていると、男の人が家に入って来た。
「あ、ティエルドさん、おはようございます」
この人は天界であった、とある事件のせいで地上に追放されてしまった追放天使のティエルドさん。
今は村長であるクーンさんの補佐をしつつ、地上の情報を送っていると聞いた事がある。
もっとも、今は羽を隠して人間として暮らしているが。
「ふむ、妹殿か。今日はセラ殿に用があって参った、今夜の祭事の連絡と打ち合わせのためにだ。」
「あ、はい。分かりました。呼んできますね」
どうもあの人の威厳には勝てる気がしない‥‥‥というよりそれ以外でも勝てる気はしないが。
(知恵比べなら勝てないかな‥‥‥?)
などと、後で考えると自分でも変と思える対抗意識を微妙に燃やしつつ、姉を呼びに外に出る。
(来る時に会ってないって言うことは…)
いるとしたら家の裏手だろうか、私が裏手に回ると――、案の定、いた。けど、何をしているのだろうか?
木陰で正座をして、目を閉じている。
「お姉ちゃん、ティエルドさんが来てるよ‥‥‥?」
近づいて話しかけても返事が無い。まさか…?と思い近づくが、どうも寝ているというわけでも無いらしい。
「おねーちゃん、ティエルドさんが来てる………」
鼻先約10センチ、超近距離で話しかけても返事が無い。
―――と、思っていると、不意にゆっくりと目か開き‥‥‥
「わわっ!!タスカちゃんっ!?」
思いっきり驚かれた。そして思いっきり立ち上がった時に、背後の木に頭を思いっきりゴンッとぶつけて頭を
抱えてうずくまってしまう。
「いたた‥‥‥。来てたなら声掛けてよー‥‥‥。」
「声掛けた。何してたの‥‥‥?」
と、尋ねると「あれ?」という表情で言う。
「いつも通り瞑想してたんだけど、知らなかったっけ?」
聞いたことも無い。というより昨日は普通に1日中家にいた気がする。
「あ、ごめんごめん、いつもって言うのは、お祭りの日の昼って事ね。」
そう言えばお祭りの日は、いつも朝ごはんを食べるなり、いなくなってしまうと思ってたら、こんな事してたのか。
「言ってくれたらお昼ごはん持って行ってたのに‥‥‥」
「あはは、いいのいいの。いつもお祭りが始まる直前まで瞑想してるから」
笑いながら言うが、つまり7時間近く瞑想し続けているという事なのだろうか‥‥‥、いつものお姉ちゃんからは
想像ができない集中力‥‥‥。
「ところで、私に何か用かな?」
「うん、そうそう。ティエルドさんがお姉ちゃんに用だってさ。」
私は用件だけを言う。
「あ、今日の打ち合わせかな。お父さんいないんだっけ。忘れてた、ごめんねー」
「別にいいよ。だから早く行ってあげて」
私がそう言うと、「分かったー」と、頭を押さえながらフラフラと走っていくのだった。
(お昼ご飯どうしようかな‥‥‥)
フラフラしてる姉は多少不安だが、別にどうという事も無いだろうと思い直し、私も歩いて家へと戻って行った。
「さて、と。」
お昼ごはんは二人の邪魔にならないように、昨日の残りに軽く手を加えるだけにしておこう、
と思いつつ、姉の後を追い、家へと戻るのであった。

861姫々:2007/05/22(火) 04:23:28 ID:Cc.1o8yw0
P.M.13:00   〜Solitude of eternity〜
 
とりあえず適当に昨日の残りで料理を作ってみたわけだけれど、まだ話し合いは続いているらしい、
さっき部屋を覗いて見たけれど、真剣な表情のティエルドさんと、頭上に「?」マークが浮かんでいる
お姉ちゃんが机を挟んで何かを話していた。
(って、あれはダメな気がする‥‥‥。)
まぁ気にしないでおこう、いつもの事いつもの事。
「さて‥‥‥。」
とりあえず台所を片付け、久し振りの独りの食事を楽しむ事にしよう。
「はぁ‥‥‥。」
何溜息なんかついてるんだろう‥‥‥、幸せが逃げちゃう‥‥‥。
「幸せかー‥‥‥。」
独りでいると、私にとっての幸せって何なんだろうな、とか考えてしまう。そりゃお姉ちゃんといる時は
幸せだなー、と思うけど、お祭りの時はそれも何となく違う。何が違うかは分からないけれど、本当に
何となく違うのだ。
「私にもお姉ちゃんみたいな力があったらな‥‥‥」
こんな気持ちになることは無いのかな‥‥‥。そう思いつつ、自分で用意した食事を、口へと運ぶのだった。


P.M.16:30   〜Just before that〜

「ふわー‥‥‥、終わったー‥‥‥」
部屋からトコトコとお姉ちゃんが出てきた。
「まったく、まさかこんなに打ち合わせに時間を掛ける事になるとは。セラ殿はもう少し他の祭事の
 打ち合わせに、同席していただきたいものだ、余りに要領が悪すぎる‥‥‥。」
「ごめんなさい‥‥‥。」
そんなに背が高くないお姉ちゃんが物凄く小さく見える‥‥‥。
「まあ準備等で忙しいのも分かっているのでこれ以上は言わないが‥‥‥。」
と、そこでティエルドさんと目があった。
「ふむ‥‥‥。父君がいない時は妹殿にも同席していただこうか‥‥‥」
いい迷惑だ‥‥‥。声に出しては言わないけれど。そもそも私はお祭りには行かないと言う事は村中の人が
知ってるはずなのに‥‥‥。
「あからさまに嫌そうな顔をするな、冗談だ。」
そう言いきられた。
「さて、ではセラ殿、この祭事はあなたが主役なのだ、準備が残っているなら時間が許す限りお願いしたい。」
「は〜い‥‥‥」
既に疲弊しきっているお姉ちゃんを見て、ティエルドさんは、口いっぱいの苦虫を噛み潰したような顔をして
「では。」と家を出て行った。
「大丈夫‥‥‥?」
「うん‥‥‥、多分‥‥‥。」
まぁこの状態で大丈夫って言い切られるよりはいいが不安は不安だ。
「こんな状態でお勤め、果たせるの?」
私は尋ねてみると、小さく頷き「それは大丈夫。」と、胸の辺りで左手を天井に向ける。
「‥‥‥。大丈夫そうだね。」
左手には魔力の収束、精霊術師が使う、特殊な魔力。ウィザードの使うものと違って、
可視できる魔力が、お姉ちゃんの左手に集まっていたのだった。
「お祭り、いつからだっけ。」
「5時‥‥‥、そろそろ行かないと。」
窓の外を眺め、ポツリと言う。巨大な火が昇る広間には、既に人が集まり始めている、この村でこれほどの人、
―と言っても200人位だけれど、一箇所に集まる事は滅多に無い。
「頑張ってね。」
私がそういうと、「うん」と笑って頷いてくれるのだった。
「じゃ、行ってきます」
そう言い、家を出ようとする所に私が声をかけた。
「あ―――‥‥‥」
「?、どうしたの?」
いや、何も言う事は無いはずだ、だけど突然物凄く心配になったのだ。
「お祭りが始まるまで、一緒にいてていい‥‥‥?」
杞憂かも知れないけれど、いつもは感じない心配だったから、一緒にいたくなったのだ。けれどそんな私の
気持ちは分からないようで、
「うんっ!」
と、さっきよりも笑って、さっきよりも大きく、頷いてくれるのだった。

862姫々:2007/05/22(火) 04:24:31 ID:Cc.1o8yw0
P.M.16:55   〜border line〜

私達が広間に着くと、辺りは何故か騒然としていた。
「?、クーンさん、何があったんですか?」
村長のクーンさんは、男の人たちに囲まれていたが、お姉ちゃんが見えると、皆道を開けてくれたのだった。
「ふむ、セラと‥‥タスカがいるのは珍しいなか‥‥‥。まぁ、少々困った事が起こったようでな、今ティエルドが
 裏づけを取っておる。」
困った事?何だろうか。広間の動揺具合からして、明らかに「少々」で済む事ではなさそうだが‥‥‥。
そこに、「報告です。」と、天使の姿をしているティエルドさんがクーンさんの背後に降り立つ。
「どうじゃった?」
と、クーンさんが私達のほうを向いたまま尋ねると、「いい報告ではありません」と、話を切り出す。
「敵勢力はカルディアと言う名の悪魔が率いる悪魔と、アンデットの複合軍、総数は1000〜1300と見られます。」
「勝てる見込みはあるかの?」
半ば諦めの表情を見せつつ、クーンさんが尋ねる。
「ビーストテイマーとサマナーのペットと召喚獣、ソゴム赤山のスルタン率いるイフリィト達が交戦中、
 私も各地からエンジェルナイトを招集していますが、現状では時間稼ぎが精一杯でしょう。」
「ふむ‥‥‥‥。」
「クーンさん、そもそもなんで悪魔たちがこの村に攻め込んできたのですか?」
私が尋ねると、クーンさんは顎鬚を擦りつつ、空を見上げる。
「この村が天界と繋がっているからじゃろうの‥‥‥。」
「なら、今までなんで攻めてこなかったんですか?」
この村が天界と繋がっている事は私だって知っていた、けれどそれなら何故今まで攻めてこなかったのか、
それが分からない。
「結界で道を隠していてからのお‥‥‥。」
クーンさんはそう言うだけだった。
「何故気づかれたかは今は考えないようにしましょう。そして、防衛策はあるのですか?」
背後に構えているティエルドさんが言う。
「戦っている者達の状況は分かるか?」
私はそこで気づく、お父さんがこの場にいないことに、多分前線で戦っているのだろう‥‥‥。
「はい、今サマナーの一人がウィンディを通じて状況を調べています。おそらくそろそろ連絡が―――。」
その時、一人の男の人が走ってきた。
「クーンさんっ!!マズいです、ペットも召喚獣もほぼ壊滅、ティエルド様のエンジェルナイトさん達もかなり
 やられちまってる、スルタン達が粘ってるけどそっちも時間の問題だっ!!」
「早すぎるのぉ‥‥‥。テイマーとサマナーに戦線を村の入り口ぎりぎりまで下げろと伝えなさい、あとは
 時間を稼ぐのじゃ、策は‥‥‥、無くは無い。」
空を見上げていたクーンさんは、空から視線を外す。その視線の先は、お姉ちゃんの方向を向いていた。
「セラ頼みがある。」
「なんでしょうか?」
多分、何を頼まれるかは予想はつく。けれど、お姉ちゃんが断ることは無いだろう。
「難しいかもしれないが、最高位精霊の召喚を頼まれてくれないか‥‥‥」
と、真っ直ぐお姉ちゃんの目を見て言うのだった‥‥‥。

863姫々:2007/05/22(火) 04:29:26 ID:Cc.1o8yw0
一応回想(前編)ってことにして置いてください。
誤字は一応確認しましたけど読点抜けてたりしてますね。そこは許してください。
とりあえず来週には後編も書きあがるかなとか思いつつ。

カップリング小説とか書いてみたいですけど私が書くと1話完結で纏まらない
ような気がしてならない‥‥‥。
(そして他の方の小説を読む時間が無い毎日‥‥‥。)

864落第生:2007/05/22(火) 13:49:06 ID:hfUQyDik0
文字通り落第生です。
いや〜暇ですね、ということで小説でも書いてみようかな、と思う次第です。
勉強しろっていわれそうだけど、おいといて。
当のRS自体は削除はしていないけどほぼ引退してるんですが……。

小説とか読むのは短編が好きなので
書くのも短編になると思います。

ではだれの了解も得ずに勝手に駄文を投下します。

865落第生:2007/05/22(火) 14:03:01 ID:hfUQyDik0
『死神』 1/3

「……鍵は要りませんか?」
最西でブルネに続いて大きな都市、
また活気という点からいえばもっとも勢いのあるアリアンでは
考えられないような消え入るような声。
体格のいいビショップが気づき、目をくれると
声の主はためらいがちに手を伸ばそうとして、
隣の個人商店を開いているサマナーの女性が
ブラー付の指輪を活気よく売っているのに気をとられたのだと気づくと
その細く小さな手を引き戻した。

鍵の需要はシーフの登場でなくなったといってもいい。
いや、シーフの登場ではなく、罠の登場、といってもいい。
また、罠自体も時間さえかければ誰でも壊せる、ということもあるだろう

鍵売りの少年はロマの出身だった。
彼は特殊能力の持ち主だった。
死期が見える、という異能だ。
そういう人の周りには黒い霧が取り巻く。
だんだんそれは濃く広がっていき、
最後にはその人が見えなくなるほど覆い尽くす。
そしたら死ぬ。
彼はその能力のために死神といわれた。
彼の両親はすでにない
親自体もそんな彼を嫌っていた。
当然のように彼も両親を憎んだ。

彼が十六のある朝、彼は両親に死の霧を見た。
数日後、両親はモンスターに襲われて死んだ。
親がいなくなり、彼は住む場所を追われた。
彼はロマの特産品である金、銀、銅に輝く鍵を奪ってロマを出た。
鍵を盗む際、少年は警備兵とあってしまった。
警備員は「止まれ」といって少年を捕まえようとした。
少年は恐れて眼を閉じてしまった。
つかまる、と思っても体が動かなかった。
だが永遠に警備員の手は少年を拘束することはなかった。
不思議に思い少年が眼を開けると警備員の体には黒い霧が包み込んでいた。
そして警備員は地に伏せ、低いうなり声を上げていた。
そのとき少年は黒い霧は見るだけではなく自らの力で使えるということに気付いた。
少年は「死神」になった。

そして彼はアリアンに向かった。
途中モンスターに襲われるようなことがあっても死の霧が彼を守った。
アリアンにむかった理由は砂漠という一点からだった。
毎日のように燃え上がるような日で照らされる砂漠の大地なら
暗い自分に変化があるのでは、と思ったからだった。
アリアンでは鍵を売って生活した。
個人商店を開くにはブリッジヘッドにいって試験を受ける必要があった。
彼にはそこまでいく金も気持ちもなかった。
故に看板は出さず、話しかけてくる人にのみ売った。
ために買う人は少なかったが、噂として広がり少なくとも日々の生活
に困ることはなかった。

アリアンに来てからも、黒い霧を持った人はたくさん見た。
しかしロマにいたころとは違い皆生き生きしていた。
ロマでは黒い霧を得た人は皆暗い表情をしてうつむき加減で
死ぬ、とは思わなくても誰でもなにかあったな、ぐらいはわかっていた。
しかしアリアンでは違った。
明らかに病気で死期が迫っている人でも明るい。
それは「葬儀とは宴会である」という言葉に代表されるように
アリアン人は不幸の時ほど幸福そうにする、という風潮があったからだ。
それは生きる者を拒絶する砂漠の大地に生きる術であった。

始めかれはそれを不気味に思ったが、慣れると力強く感じた。
そして自らもそうなりたい、と思った。
笑って接客はできなかったが、微笑むぐらいもことはできた。
ロマにいるときは表情を変えることすらしなかったのだから。

彼の生活は一向にあがらなかったが、下がりもしなかった。
それで彼は満足していた。
少なくとも鍵の需要はある、それはつまり彼が人の役に立っているということだ。
小さくともそうやって社会の隅にでも入れればよい、と思ったからだ。

あるときから彼の眼に黒い霧は見えなくなり、その存在すら忘れていた。

866落第生:2007/05/22(火) 14:04:33 ID:hfUQyDik0
『死神』 2/3
彼は途中で商品である鍵がなくなっていくのに気づいた。
もともと盗んできたもので数限りあるものだ。当然のことであった。
それで彼は自ら鍵を作った。
失敗した。
彼は正直なところ鍵を長く扱っていたためにまるで鍵のことをすべて知っているような気がしていた。
簡単に作れる、と思っていた。
不可能だった。作成法だけではない、原材料は?道具は?
なにもなかった。なにもわからなかった。

彼は鍵士を探した。
しかしいなかった。
もともと鍵は彼の専売特許だったのだ。
だからこそ細々ながらも、露天も出さずに売れていたのだ。
作り方を学ぶにはロマにいくしかなかった。
しかし彼はロマの地はもはや踏まないと決めていた。
彼は絶望した。

が、すでに売れ行きは滞っていた。
鍵を作る必要などないのだ、もう売れないのだから。
「不幸時こそ幸福なれ」
彼はアリアンの風習を思い出した。
今日は店を休み、町で楽しむことにした。
わずかながらも毎日少しずつためていた金をもって。

「こんな砂漠で花屋なんかやってんじゃねーよ」
正午、相変わらず燃え上がるような灼熱の太陽の下。
昼間から酒を飲んでいた、と思われたその大柄な金髪男は
片手に両手剣を振り回し闊歩していた。
あのような人間にはかかわるまいと皆避けていたのだが、
大柄金髪男は勝手にその花屋の店先においてあった植木に躓いて転んだのだ。
男は気分を害し、花屋を荒らし始めた、という次第である。

この世界では基本的にギルドが政治的権力をも併せ持つ。
それは高い城壁に囲まれた町の中は安全とはいえ一歩外に出れば
常時モンスターの襲撃にさらされているからだ。
モンスターの駆逐、または町の防衛を担当するギルドが権力を持つのは当然のことだろう。
ギルドが力を持つ、ということはそれに属している、いないにかかわらずハンターの地位も高い。
彼らはモンスターの脅威を取り払ってくれる存在として褒め称えられる一方で
ヒーロー気取りで問題を起こすものも少なくなく、嫌煙されていることも多い。

大柄金髪男はなにやら喚きつつ植木を蹴り飛ばし始めた。
道行く人は横目に見つつ無視していく人。
とばっちりを受けないように遠くで見ている人、に二分された。
鍵売りの少年は周りに溶け込んで見ていた。

「早くギルドの人が来てくれればいいのにねえ」
「これだからハンターは……」
「かわいそうねえ」
皆、同情はしても助けはしない。
アリアンは新興都市であることや気候が厳しいことなどから
結束力が高い、といわれているが所詮人は人だ。
どこへいっても本質が変わるわけではない。
少年もまた同様であった。

店は男の暴挙で破壊されつつあった。
売り子の少女はただただ奥でそれを見ているだけだ。
少年はその彼女に目線を移す。
その恐れ小さく震える少女の名は「花娘」
特別かわいらしくはないが、小さく整った顔立ちをしている。
その大きな目は淡い、透けるような緑、
白いバンダナから覗かせる肩まで伸びる長髪は太陽の加護を受けたかのように
日光をやさしく反射する金。
小さな唇は薄い桃色をしており頬はほんの少しふくらみを帯びている。
肌は日光の強い砂漠で生まれたとは思えない薄い肌色。
胸はかすかに膨らんでいるぐらいだが彼女の雰囲気にあってむしろ微笑ましい。
体は小柄だが手足を見ると細くはない。
年は十四、五辺りだろうか、いや童顔だからもう少し上だろう。
白を基調にしたその服装は彼女の気風にあっていた。
豪快や陽気、活発といった性格の人間が多い中、その心地よい異質を漂わせていた。

867落第生:2007/05/22(火) 14:05:57 ID:hfUQyDik0
 『死神』 3/3
つまるところ少年は恋をした。
こんな状況でと思いながらも、彼の目から暴漢はすでに消え彼女しか見えなくなった。

助けよう、と思いながらも自らなんの力もない自分自身に彼は憤慨した。

「お前ら、見せもんじゃねーぞ」
大柄金髪男はそういって見物人の方に向きかえった。
巨体に大剣を担ぎ、いかにも機嫌が悪そうに顔を歪ませていた。
その迫力に条件反射のように人々は彼の視界から遠ざかる。

少年は少女に見とれていたため反応が遅れた。
大柄金髪男はにやり、とまるで悪ふざけを考え付いたガキ大将のように
少年の首をつかみ持ち上げた。
大柄金髪男の手は巨人の如く大きく、黒く、またがさがさしていた。
少年はひるみ、「ひっ」とのどを鳴らした。
そんな少年をよそに大柄金髪男は
「こいつの命がほしけりゃ、身代金をもってこい、と正義感溢れるアリアンギルド様に伝えな」
少年はただただ眼をつぶり死にたくない、と願った、
また大柄金髪男に死んでしまえ、と。
するといつかどこかにおいてきたはずのあの感覚が少年を襲った。
眼を開けてみると大柄金髪男の周りに黒い霧が取り付きつつあった。
なにやら大柄金髪男が叫び少年を放した、
そして地面に這いつくと胸を押さえ必死に悶えていた。
そしてその茶色だった両眼は充血し、いまにも吹き出さんとしている。
大柄金髪男は小さなうなり声しかあげなかった、いやあげなれなかったが
その赤く燃え上がった目はこう呟いた。
化け物め、と。
次の瞬間男の両眼はまるで全ての力を使い果たしたのかのように
破裂し、赤い雫は縦横無人に弾けとんだ。

少年は意識を失った。


それからどうなったのかわからない。
気付くと少年はベットの上にいた。
小さな、というより汚い部屋だった。
とくに何か散乱しているわけではない、ただずっと誰も使っていなかったような
そんな汚さだ。
部屋にはどこか欠けたり、また折れているものもあったが、数十本もの槍が丁寧に並べられていた。
手入れもされておらず、どれもほこりまみれだ。

少年は四肢が動くことを確認して部屋を出た。
そこには細い老人が一人、また彼と同じように細く、所々黒ずんだ茶色の椅子に、座っていた。
「目覚めたかい」
老人はいうと鏡を取り出し、少年に渡した。
「顔を見てみなさい」
いわれるままに少年は自らの顔を見た。

「黒髪黒眼、知っているだろう、災厄の印だ」
少年の元の髪は茶色だった。眼は黒だったが。
黒髪だけならよい、黒眼だけならよい、しかし黒髪黒眼は
災厄の印、というのが古くからの伝説だった。
「見物人によると突然変わっていったようだよ」
老人は独り言のようにいって立ち上がる、そして玄関に向かった。
少年は何度も何度も自らの顔を見た、老人が扉を開けた。
光が溢れた。
今まで暗かったからかわからなかったが老人も黒髪黒眼だった。
「ようこそ、悪魔に魅入られし町、ダメルへ」

『死神』 完

868殺人技術:2007/05/23(水) 00:16:04 ID:E9458iSQ0
下がりまくってるので深夜帯にage
>>落第生さん
はじめまして。
死神、読ませて頂きました。
眠いので上手く良い表せませんが、喪失感溢れる話ですね……。
微妙にゲームネタもシリアスに混ぜてあって、面白かったです。

チョキー・ファイル

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

32-36>>548-552
37-38>>568-569
39-42>>592-595
43-46>>617-620
47-51>>693-697
52-56>>760-764
57-62>>806-811
63-65>>825-827
66-70>>838-842

DF(みたいなの)炸裂。
今回は疲れた……。しかも出来が微妙だ……(ぁ

869殺人技術:2007/05/23(水) 00:16:42 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(71)

 カルスの喉元に添えられた指が喉仏に移り、その手首に頬を伝って冷や汗が垂れ落ちる。
 胸に押し当てられた刃はそのままの意味、普通はそれだけで十分な牽制になる、加えて咽喉に添えられた手は――。
 「………………」
 「良くやった、カリオ、そのまま押さえていろ」
 カリオは闇の中、闇色の風貌をとけ込ませながら、ただその手に持つダートを煌めかせて応えた。
 チョキーがコートから取り出したワンダーワンドに魔力を込め、その先端にまばゆい光が集まり、議場の中心から、崩れた椅子や机の残骸を照らす。
 「ライトニング……」
 チョキーが唱え、カリオが微かに口許で笑う、だがその笑みは一瞬で驚愕へと変わり、そして。
 「…………!?」
 チョキーの詠唱が途中で別の物へと変わり、カリオが俊敏に大理石を蹴る。後には小さな白い世界が――カルスを中心に数平方メートルに広がった雪原が、急ごしらえの冷気を孕んで横たわっていた。
 「嘘だろ……詠唱もなしに……」
 カリオは凍結しかけた右手を抑えながらひらりと着地し、その目に驚嘆と感心、そして畏怖がないまぜになった色を浮かべる。
 おそらく、カリオは詠唱もなしに魔法を使う人間を見たことが無かったのだろう、実際その通りで、熟達したベテランの魔術師が、魔法学校で最初に習う基礎中の基礎の魔法――例えば火の欠片を飛ばすファイヤーボルトを使うにしても、必ず詠唱は必要なものだ。確かに熟練の魔術師になれば、詠唱を極度に省略したり、口の中で呟く程度の詠唱で済む事は済むが――実際は、一言でも、どんな小声でも何かを喋らない限り、魔法は絶対に使えない。
 ――それが、人間の限界だ。だがチョキーは、詠唱をせずに強力な魔法を使う者達を何人も"見て"きた。
 10日前にビガプールの宿でも。そしてあの新年会パーティーの惨劇でも。
 「これ以上、好き勝手にさせると思うな」
 カルスが声を沈ませて凄むと、カリオの限界まで撓んだ筋肉が僅かながら萎縮し、その襲撃を数テンポ遅らせる、その間にカルスは杖を握りしめると、またも無言で風を巻き起こし、チョキーへと肉迫する。
 チョキーはすんでの所で空に飛び上がると、カルスは柱にぶつかる寸前でチョキーを追い、二人は風を切りながら七つの階層を縦断していく。カルスの深緑のコートとチョキーの黒い上着がばたばたと暴れる。
 「貴様、人間ではないな」
 チョキーは片手で複数の拳大の火球を生み出して、感嘆の色を込めて言った。
 「俺は人間だ!」
 カルスはその言葉に勘に触る何かがあったのか、チョキーを上空の絵画へと追い立てながら恫喝し、逆方向へ尖る幾つもの氷柱を発生させた。
 そこで、彼――カルスは何を見たのか。暗い闇の中、空気を受けて振動する視界の中、およそ人間とは思えない――禍々しい悪魔の血眼の奥に。
 「クックックッ……なぜ人間に拘る?」

870殺人技術:2007/05/23(水) 00:17:11 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(72)

 炎の刃が弧を描いて切り上げられ、冷気の槍がそれを柄で受け止める。
 ランサーの持つ槍が回転し、ファイルの二刀流も素直に回転する。ぶつかり合う度に水滴を迸らせながら舞う二人の脇を、風を切り裂いて飛び回る二人の魔術師が上昇していった。
 二人はそれに目も暮れず、魔術師達が半球状のドームで折り返して再び下降していく時の風を受けてしなやかな髪と悪魔のマントがはためいた。
 チョキーがカルスに床へ追い詰められる姿勢になり、二人はろくに音も聞こえない轟音の中、絶え間なく魔法を唱えている。
 ――いや、実際は二人とも唱えてはいなかった。蠢く水流と揺らめく火炎が二人の僅かな間に紙一重の隔たりを作り、外側に散った水滴と火の粉が風に吹き飛ばされる。
 二人は備品が散乱した床へ猛スピードで落下し、チョキーは視界の隅で円を描く額縁の数でそれを悟ると、負傷を覚悟で床すれすれを折れ曲がり、残されたカルスが堅い大理石へ叩き付けられた。
 チョキーは浮いたまま柱の側まで逃げたが流石に無事とはいかず、左足の脛を水流で強く打ち付けた痛みに、涌き出る声を押し殺した。
 「チョキーさん!」
 唐突に掛けられた声に、チョキーはふと顔を上げると、そこには今の衝撃で飛び散った備品を掻き分けながら近寄ってくるカリオがいた。
 「カリオ」
 「ごめんなさい、僕が……ついていながら……」
 カリオはチョキーの目の前まで来ると俯き気味に言葉を紡ぎ、その声に悔恨と憤怒を滲ませる。チョキーはカリオの肩の向こうで、破砕した大理石と砂埃を見つめて怪訝とする。
 大理石を砕いたのはあいつの魔法か? それにしては砂埃が乾いているし、破壊力が大きすぎる気がするが……。
 「………………カリオ、あのウィザードはお前に任せる」
 チョキーは浮遊の魔法を解いて無事な方の足だけ着地してそれを言うと、カリオは口許に柔らかい笑みを浮かべた。
 チョキーは見た。その命令を下した瞬間、微笑みの向こう――瞳の奥で瞬いた悪魔の魂を。
 「……"仰せのままに"」
 カリオは何処で覚えたのか、胸に手を当てて頷き、黒い衣服を翻す。次第に晴れてきた砂埃の中から、孤立した青い光の様に現れた魔術師がカリオを視界に入れて杖を構える。
 カリオとカルスがお互いに対峙したのを確認すると、チョキーは再び魔力を集中して上空へと舞い上がった。
 ファイルの動きを封じているあの女を殺す、それで何もかも終わりだ。
 ――何もかも。

871殺人技術:2007/05/23(水) 00:17:34 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(73)

 チョキーが眼前の男の後ろでふわりと飛び上がったのを見たカルスは、その意図する所――チョキーの行く先で戦うランサーに気付いて、慌てて後を追おうとするが、不意を突いたカリオの突進がそれを許さなかった。
 カルスの身体が反対側の柱へと強かに叩き付けられ、背を強打したカルスは痛みに呻きながらも、懸命に視界を泳がせて男を捜し出す。柱の反対側で隠れていた男が化け物の戦いでも見るかのように怯えている。
 だが、カルスの危惧していた通り、男の黒ずくめの容姿は完全に闇に溶け込み、その姿はとても確認する事は出来ない。もしかしたら姿を消す透過魔法さえ使っているかもしれないのだ。
 カルスは音と気配だけを頼りに立ち上がり、隠れている人々を巻き込まぬ様議場の中心へテレポートして、両目を瞑った。
 上級のウィザードともなれば、魔力を周囲の空気と同調させて広範囲の索敵が可能になる。だがカルスには男の位置を確認した所で、その超人的な速度について行く自信は無かった。
 闇の中、聞き取れるか聞き取れないかぐらいの、というより上空の戦いの音に掻き消されそうな音だけを立てて、黒ずくめの男は餌を狩る鷹の様に、上空で動き回りながら隙を伺っている。
 さあ来い!
 カルスがそう念じたのが伝わったのか、それとも単なる偶然か、男の兇刃が獲物の命を刈り取ろうと、カルスの首筋へと襲いかかる。
 瞬間、小気味良い音を立てて電撃が迸り、襲撃者を弾き落とす、カルスは目を開いてその姿を視覚に納めた。
 ……だが、カルスも流石にこの程度の罠に引っかかるわけはないと半ば諦めていた。そこに転がるのは鉤爪状のダート一本で、電流を受けて柄の部分が黒く炭化している。
 「残念だね、そんなに馬鹿に見えるかな、俺?」
 上空から朗々とした声が響き、カルスはすぐさま声の主を仰ぎ見てすぐに行動しようとしたが――ただ呆然と、目を見開くだけだった。
 ――黒ずくめの男が闇の中で中空に立ち、その周りで数え切れない程のダートが、禍々しい紅い光を湛えてカルスを威圧する。
 最初はレビテイトの魔法と考えた、だがレビテイトは空に浮かぶ魔法であって、立つ魔法ではない。上空のランサーの様に独自の魔法を使っている気配もしない。
 「――"悪魔の力で死に赴ける事、光栄に思うが良い"」
 口調が変わった、だがそんな事はカルスの脳裡では完全に無視されてしまった。
 視界一杯を埋め尽くす、数百、数千の紅く鋭い輝き――カルスが思い浮かんだのは悪魔の魔法――この男も人間ではないと言うのか。
 永遠に思えた一瞬の沈黙、そして、その夥しい程のダートが一斉に、カルスただ一人の命を食い尽くそうと、羽虫の様に飛び交い、お互いの刃と刃をけたたましくぶつけ合い、その死の鉤爪から垂涎でもしているかのように、我先にと群がる。
 カルスは飛来したダートが身体を食い破る寸前でテレポーテーションの魔法を使い、大量のダートの飛来方向とは逆――カリオの頭上へと瞬間移動し、その頭蓋を破壊しようと杖に魔力を込める。
 しかし、込めた魔力が魔法としての形を形成するより早く、真っ赤な鉤爪は向きを変え、再びカルスへと襲いかかる。
 カルスは再び瞬間移動の魔法を繰り返した、だが紅い死の爪はそれすらも上回る速度でカルスの全身へと群がった。

872殺人技術:2007/05/23(水) 00:18:00 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(74)

 カルスの身体が力を失って重力に引き寄せられるまま落下し、鈍い音と共に少量の土煙が舞い上がる。
 仰向けに大の字となって倒れたカルスの身体には幾つものダートが突き刺さり、服を鉄臭い液体が固めている。
 周囲の柱の付近から覗く人々の顔に絶望が浮かび、カリオがふわりと床に着地してカルスの傍らに歩み寄った。
 「まだ息があるか……まぁ、もう死にそうだが」
 カリオがそれを覗き込んで呟き、カルスは薄目を開けてそれを見る。
 それだけを見れば、無邪気な少年が、路傍に落ちている何かを好奇の視線で覗き見ている様にも思える、だが目の前の男は――強烈な、だが不安定な"悪意"を孕んでいる。
 それをぶつける目標も目的も空虚で、それに伴う感情の機微も空虚――ただ空虚がたえず流動しているだけだ。
 微かに目の利いていた闇が次第に深みを増していき、やがて目前の男の足下さえも見えなくなっていく。カルスは今更になって喉の奥から込み上げる嘔吐感と窒息感を感じた。
 ――空虚、か――
 あの商人もこの男も――人間じゃない奴なんていくらでも居るんだな――
 ――いや、もしかしたら――この世界にも――
 ――この世界に人間は居ない。
 あるのはただ空虚と入れ物。
 空虚、空虚、空虚
 空虚が空虚に何をしようと、ただ空虚が残るだけだ。
 カルスは死んだ。
 「え……」
 深かった闇が満月の光を一杯に受けたかのように追いやられ、何者かの濁った一声が発せられた数瞬後、一本の鉤爪状のダートが大理石の床の上でからからと冷たい音を立てる。そしてその声の主が小さな水音を立てて崩れ落ちる。
 暫しの沈黙、水たまりから水音に混じって何かを吸う音が聞こえたと思った瞬間、その場の大理石の床が、既に破損した部位も無事な部位も含めて陥没し、鋭い巨大な石の破片が開花した花の様に隆起している。
 爆心地から射出された何かはその爆発音が止むより早く、空を上昇するチョキーの胸ぐらを掴み、そのまま目にも止まらぬスピードで、チョキーを偶然まだ無事な箇所――アレクシス議長の石像の傍らに叩き付けた。
 石像が衝撃によって壊れ、割れた首の断面からは石化しなかった生前の血が、勢い無くどくどくと垂れ流されている。

873殺人技術:2007/05/23(水) 00:18:25 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(75)

 「…………!? チョキー!」
 一瞬の出来事だった。お互いに睨み合って一進一退の攻防を続けていた二人には、殆ど知覚すら出来なかっただろう。
 眼前で炎の剣を握る悪魔の身体が突然びくんと跳ねたと思ったら、下方の暗がりへ大声で何者かの名前を叫んだ事にランサーは唖然とし、だがすぐに覚醒すると、その槍を翻らせて悪魔の頭上から強打した。
 悪魔は隙を突いた強烈な攻撃に対して全く防御できなかったのか、盛大に七階層分を急降下して、強打された勢いのまま瓦礫へと墜落した。
 ランサーはそれを見て一息吐き、ふと、七階の扉の奥から伝わってくる気配を感知すると、手摺りに着地して用心深く扉へと歩み寄った。
 「………………」
 扉に近づいて耳を澄ませると、厚い扉の奥から微かに声が聞こえる――開けろ、と言っているらしい。
 ランサーは本当に扉を開けて良い物か考えあぐねていると、扉の外から突然湾曲した刃が侵入し、ランサーは素早く後退した。
 先程の戦士の武器――何でそんな所に居るんだ?
 だが、ランサーは悪魔の炎の罠が発動しないのに気が付くと、何気なく手摺りから下を覗き見た。どのみち暗くて見えないと言うのに。
 ――階下からは何も聞こえてこない、戦いが起きていない。
 どうやら、ランサーの最後の攻撃は、悪魔に致命打を与えるに相応しい物だったようだ。
 気付けば、側の扉は蝶番を断ち切られて歪に開き、外からは決して明るいとは言えない、しかしこの議場よりは随分と明るい光がランサーや王族達の目に染みた。
 「外には魔物は居ない、みんな一人ずつ脱出するんだ」
 戦士の男が巨大な斧を杖代わりにして左足を引きずりながら言うと、しばらくは全くの無反応だったが、次第に人々がそれぞれ違う表情を引っ提げて、ただ一つの出口から冷たい渡り廊下へと、ぞろぞろと続いていった。
 下の階層の人々からも何かしらの声が聞こえ、ランサーのその内の一人に、手摺りから無表情で淡々と答えると、歓喜の声や歔欷の声が響き始める。
 「……あなた、色々と聞きたい事はあるけれど、その傷は?」
 ランサーは扉を破壊した戦士の、妙に傷だらけな身体を見て真っ先に浮かんだ疑問を口にした。
 戦士はそれを聞かれると、何か痛い所でも突かれたかの様に顔を逸らし、妙に似合わない、無表情に近い微妙な表情を薄い逆光に浮かべて、言った。
 「……天使が悪魔を追い立てて、悪魔は人間の弱い部分を利用して天使を排除する、天使は人間を解放する為に悪魔を追い立てる、そしてまた悪魔は人間を利用する――」
 「……?」
 突然、戦士があまりにその体格に似合わない話をするのにランサーは怪訝とし、戦士はそれを見もせずただ続けた。
 「それが普通だとずっと思ってたけど――それって矛盾してるよな――何が悪いのか、何が正しいのか、分からなくなったよ……」

874殺人技術:2007/05/23(水) 00:18:47 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(76)

 背中のマントが衝撃で擦れ、瓦礫の凹凸で身体の所々から、零れてなお毒気を出し続ける血液が滴り落ちる。
 痛みを堪えながら上半身を起こし、身体をごろりと頃がして、瓦礫の間を這う様に、チョキーが墜落した付近へと近づく。
 聴覚がどこかから獣の唸り声を拾い、だがそれを気にもせず、ファイルは痺れる足を引き摺ってチョキーの身体を覗き見た。
 広範囲に渡って血が飛び散り、仰向けになった身体には一見、外傷が無いように見える。しかしファイルがその身体に手を添えると、粉々に粉砕された全身の骨と、無惨な程に破裂し、突き破られ、潰れた内臓や神経が、掌を通してファイルの頭へ情報として伝わっていく。
 呼吸や鼓動を確かめるまでもない。
 チョキーは死んだ。
 ファイルは暫し呆然としてそこに座っていると、再び獣の唸り声を聞いて俯いた顔を持ち上げた。
 目の前に、どこから侵入したのか一匹の魔物――何処かで見たことのある衣服を下半身だけ身につけた、野生の狼を直立させて太らせた様な、巨大な狼男――ウルフマンが、爛々と黄金色に輝く瞳をファイルに向けて、余りにも純粋な、強烈な敵意をファイルへと向けている。
 ――いや、ファイルだけではない。狼男の敵意は、すべてのあらゆる物に対して、向けられている。
 その証拠に、見るも無惨な――ある物は噛み千切られ、ある物は引き裂かれ、ある物は血を吸われ、ある物は粉々に潰れ、ある物は黒こげに焼かれ、ある物は――
 狼男の顎からは混ざり合った不純な血が涎のように垂れ、それを目の合った新たな獲物へと向けると、唐突な小爆発と共に、恐るべき速度で、この上ない鬼気と狂気を纏った身体が、ファイルへと飛びかかる。
 「……ギャウン……!?」
 しかし、狼男がファイルはおろか挟んだ位置にいるチョキーへ届くよりも早く、狼男が狼らしい奇声を上げて、どさりと瓦礫と血だまりの間に倒れ伏した。
 「……馬鹿犬は引っ込んでろ」
 ファイルは狼男の体内に集中させた魔力を解くと、再び手元のチョキーの死体へと目を戻した。
 まさか、こいつが死ぬ事になるとは……これでは、精神を同じくした私の精神も……?
 ファイルは目を見開いた。
 肉体と精神は一つ。
 チョキーの精神が死ねば、同化している私の精神も死ぬ。そして肉体も同じく――
 ――なぜだ? なぜ、私は生きている?

875殺人技術:2007/05/23(水) 00:19:14 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(77)

 開け放たれた扉。既に七階の人々の誘導には成功し、このまま行けば順序よく人々を逃がすことが出来る――筈だった。
 「こいつは私が足止めする! あなたは下の人達を逃がすのよ、急いで!」
 アーチャーが紅色の金属弓を引き絞りながら、凛とした、だがしかし混乱を含んだ声を放って、戦士は斧を背中に担ぐと踵を返した。
 「分かった、だが気を付けろ、そいつはさっきの悪魔とは感じが違う!」
 戦士が目を瞠る程のスピードで渡り廊下へと飛び出し、アーチャーはそれを確認すると狙いを定めた矢を眼前の悪魔――議場のちょうど真ん中で、何をするでもなくただ中空で立ちつくす――へと解き放った。
 解放された矢は針に糸を通す正確さで悪魔の頭部へと直進し、その頭蓋を射貫く――かに思えたが、矢は中空で突然凍り付き、白く変色した矢は階下へと寂しい音を立てて吸い込まれていく。
 アーチャーはそれを見て息を呑み、普通の矢が駄目と知ると、満を持す手から光り輝く魔法の矢を作り出して、再び悪魔の頭部を狙う。
 今度は一発ではなく、光り輝く矢が目にも止まらぬスピードで連射され、微かな後光さえも発生させて闇を照らす。だが再び、今度は魔法の矢が悪魔に近寄るそばから、次々と小さな光の粒へと分解されてしまう。
 弓では為す術がない――しかし、槍は悪魔に奪われてしまった。せめて戦士がさっさと人々を解放してくれれば……。
 「――悪魔が今度は何しに来たの! その槍を返しなさい!」
 アーチャーは眼前の悪魔になおも牽制を掛ける為に声を張り、奪われてしまった槍を返すようにと恫喝した。
 悪魔はそれを聞いてただ不気味に笑いながら闇に溶け込む翼を揺らすだけで、アーチャーは苛立つのを耐えて漆黒の鳥人間を睨み付けた。
 「すまないな、迷惑だろうが、もう少しだけ返すのは待ってくれないか、私のやるべき事が終われば、ちゃんと返してやるよ」

876名無しさん:2007/05/23(水) 01:46:09 ID:VhmEmxk60
チョキー・ファイル(78)
しかし、その後返してもらったのは「ようたー」だった

877携帯物書き屋:2007/05/23(水) 23:56:01 ID:PaV4iO2A0
プロローグ 前スレ>645
1日目>646>692 2日目>693-694>719-721 
3日目>762-764>823-825>874-878 4日目>>34-37>>73-75
5日目>>95-98 6日目>>185-187>>227-229 
7日目>>306-310 8日目>>383 9日目>>384
10日目>>461-465 >>556-559 >>634-638
11日目>>716-719 >>812-813 >>817-818 >>831-832
ネタ話>>123-125

あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>831-832

『孤高の軌跡』

数十の雷撃で編まれた、1条の閃光が巨人へと殺到する。
「――――――――」
「はぁっ――――!」
閃光が巨人の巨体へ到達し、雷撃がそこで停止する。
だがそれも一瞬。ニーナの雷撃は巨人の甲殻を剥ぎ、肉を霧散させ遂に胸を貫いた。
「ッ――――……」
そして巨人は今度こそ完全に沈黙した。


「はぁ、はぁ、あ、は―――」
静寂が戻る。辺りにはそれぞれの呼吸と、地面が焼ける音だけだった。
「まだ終わってはいない。行くぞアーチャー」
まだ戦いは終わっていない、まだ残っていると男が剣を構え直す。
呼応してニーナもその手に長槍を握る。
そして男が1歩を踏み込み――――
「な、に……?」
その場に停止した。
「嘘……」
ニーナも驚愕の声を漏らす。
2人の見る先、2人の驚愕の理由は沈黙した筈の巨人にあった。
「―――ル、―――」
巨人は死んでいた。いや、死んでいる筈だった。
胸に人間1人分の大穴が穿たれ、更に心臓が消失すればどんな生物も死ぬしかないだろう。
だが、眼前の巨人は生きていた。
失った神経や血肉は生成し、穿たれた穴は塞がっていく。
「止めを刺すぞっ! 急げアーチャー!」
「判ってる!」
2人は同時に駆ける。焦燥の為か、2人の速さは以前に増して尚速い。
しかし、巨人の再生速度は更に早かった。
大鎌が振り上げられ、殺到する2人を振り払うように神速の一撃が繰り出される。
「がっ!」「あうっ!」
一薙ぎで2人は弾き飛ばされる。
その培われてきた反射神経で辛うじて防いだものの、ダメージは決して小さくない。
2人が生前鍛え上げられた武人でなければ、両腕は防いだ衝撃で粉々だっただろう。

「グルルルオオオオォォォ!!!!」

耳をつんざかんばかりの咆哮が上がる。
巨人の眼は完全に生気を取り戻していた。

878携帯物書き屋:2007/05/23(水) 23:56:31 ID:PaV4iO2A0
もう誰にも止められない。最後の最後でエミリーは勝利を掴んだのだ。
「さあ今だエミリー。あの生意気な奴らをぶっ殺せ!」
洋介から非情な命令が下される。
しかし、
「? おい、何をもたもたしてるんだ、早くしろと主人が言っているんだぞ!」
エミリーは全く反応を示さなかった。
エミリーからの指示がないと動けないのか、巨獣もピクリとも動かない。
遂にエミリーは倒れ、身動き1つしなくなった。
「クソ、使えない奴め。動けよ!」
洋介からエミリーに向かって鋭利な蹴りが放たれる。
それを受け、エミリーはただ苦痛を漏らし、身を小さく痙攣させるだけだった。
「クソ、まだ――――」
「やめろ洋介っ!」
俺の叫びで洋介の足は止まり、視線がこちらへ向けられる。
「やめろ洋介。もうエミリーは戦えない」
「っ、有利になったからって勝利者気取りかよ」
「違う、俺はただ……」
ただ、こんな光景を見たくないだけだ。
確かに洋介のしてきたことは許せないが、それ以上にエミリーに手を上げることは許せなかった。
「小僧の言う通りだ。止めておけ、小娘はしばらく動けん。……元々人間が上級悪魔など、無理だったのだ」
剣を杖のように突き立て、騎士が洋介を冷たく見つめていた。
「ヨウ、スケ……これを……最後の、石」
意識があったのか、震える手でエミリーはなんとか洋介に手を伸ばす。
その手には何かが握られていた。
洋介がそれを掴み取るのと同時に、巨獣が光となり消えた。
「覚えてろよ矢島。お前は俺が殺す」
言うと、洋介は手に持った何かを地面へ叩きつけた。
瞬間、洋介たちの空間に歪みが生じ、2人はそれに包まれるようにして消えた。

「……帰還の魔石か。まだ残っていたか」
誰に言うでもなく、剣士がぼやく。
その剣士に向かって、1人の少女が駆けていた。
「私もショウタに駆け付けて欲しかったんだけど」
――――と。不意に背後から声がした。
「ああ、悪いニーナ」
「まあいいけど」
振り向くと、明らかに不機嫌なニーナがいた。
「体は大丈夫なのか?」
「まあね。私はほとんど傷を負っていない。消費したのは魔力だけよ。
酷いのはあっちの方よ。アレの直撃を受けてるんだからね」
ニーナが指差す方―――騎士の男は確かに俺から見ても重傷だった。
首から下は朱に染まり、尚も出血を続けていた。
「それで、どうするの?」
ふと、ニーナが男に声を掛けた。そしてニーナが男へ近付いて行く。
それに反応し、男がニーナに顔を向ける。
「私はここで決着をつけても構わないけど」
「私も構わんが……できれば後にしてくれると助かる。やるべきことができたからな」
「……あの子に止めを刺しに行くのね」
「まあな。あれは放っておけば後々脅威になる」
「判ったわ。でも貴方こそ大丈夫なの?」
「このくらい聖剣の力でなんとかなる。では行くぞリサ」
何か話し合った後、男と少女は闇に溶けていった。
それからしてニーナが戻ってきた。

「さて」
ふう、と息を吸い直し、ニーナの方へ向く。
「帰るか」
「ええ」
平和が帰り、軽い足取りで帰途につく。
「ところで何話してたんだ?」
「大したことじゃないわ」
「そうか」
――洋介は俺を己の手で殺すと言った。
だが、それは同じだ。
「――――ああ、お前は他の誰でもなく、この俺が倒してやる」

879携帯物書き屋:2007/05/23(水) 23:57:19 ID:PaV4iO2A0
「ふわぁぁ……」
平和な朝がやって来る。
今日は月曜。つまり、
「学校か……」
そういう訳で、いつもより数時間早い生活になる。
因みに昨夜のことで寝不足である。

2人分のトーストが食卓に並んだところで我が家の朝食は始まる。
「あのさ、俺考えたんだけどさ、うちは金欠だからさ、食費を節約することが第一だと思うんだ」
「ふーん」
「それでさ、俺は大発見をさっきしたんだ。食費を半分にする方法」
「へえ」
「ズバリ、1人分で大丈夫」
「ショウタ断食するの? 感心感心」
そう言いながらニーナはトーストをかじる。
「……お前、気付いてるだろ?」
「……何がっ?」
確信犯決定。特に“がっ?”の部分で残りを全て口に入れた辺りが決定的。
「よし、言え。生まれてこの方ごちそうさまって言え。今のが最後の晩餐ならぬ最後の朝飯だ。判ったか?」
「やめようよそういうイジメ。知ってた? 男の子って好きな女の子にイジメてしか好意を表せないんだって。ほら、ニュースもやってるわよ」
「言ってることに共通性が……ん?」
ニュースに目をやると、少し気になることを報道していた。
それは再びの殺人事件。犯人は不明。
「しかも近い。ニーナ、もしかしてこれ」
「昨日と同じ……?」
そう、あまり気にしていなかったが昨日も殺人事件があった。それが連続とは。
これでは学校の帰宅時間は早まるだろう。


「あ……」
学校に着くと、校庭が賑わっていた。犯人の内の1人が俺の脇の人だろう。
逃げるように教室に着く。
しかし、こちらでは例の殺人事件で賑わっていた。
だが、こちらはそんなことを考えている暇はない。
逆に、襲ってきたとしてもニーナが軽く撃退するだろう。
そんなことを考えているとHRが始まり、学生としての1日が始まった。


予想通り学校は対策を取り、部活禁止で生徒は早々に帰された。
夕食まで時間もあるので、ニーナに少し気になっていたことを手伝ってもらうことにしよう。
「おいニーナ。少し頼みごとがあるんだが……」
「却下。断固拒否」
物凄い勢いで断られてしまった。どうやら今朝のことを根に持っているのだろう。
「……判った。今朝のはチャラにするから聞いてくれ」

「―――で、例の白い線と何の関係が?」
「あるよ。思ったんだけど、あれは危険な物に反応すると思うんだ」
「だから、これを私に?」
そう言いながらニーナは足元に散らばっている内の1つを握る。
それは使いかけの消しゴム。その他にも同じような物が転がっている。
俺がニーナに頼んだこと。それはこれらを俺に向かって投げることだ。
俺の予想が当たれば、白い線は発生する。
「さあ来いニーナ!」
「いくわよ」
10メートル程離れたところからニーナが消しゴムを投擲する。
それは消しゴムとは思えない程に加速し、白い弾丸と化して――――
「痛っ!」
俺の額に命中した。
「あれ、おかしいな。もう1度だ!」


「なん、でだ……」
何度やろうと白い線は現れなかった。
その代わりに俺の額には無数のコブができた訳だが。
俺のやる気が削がれていくのに比例してニーナのやる気が上がっていくので中々やめることができなかった。
「はい、もう1回よ」
しばらく鍛練は続いた。

880携帯物書き屋:2007/05/23(水) 23:58:16 ID:PaV4iO2A0
その日の夜は雨だった。
空は雨雲で閉め切られ、月も今夜は姿を見せない。
それに倣うかのように家々も灯りを失っていた。

その中に1つ。物音を立てる場所があった。
そこはもう使われていない佐藤邸。その屋敷の奥からだった。
家の中は当然無人。しかし音は確実に近くなっていた。
音は下から響いていた。
屋敷の下―――そこは、佐藤邸の地下室だった。

遠い昔、佐藤家の人間が自らの屋敷に地下倉庫を設けた。しかし、倉庫は利用されることはなかった。
故に、この場所は倉庫と言うよりも地下室と言った方がいいだろう。
昨夜、その地下室に初めて利用者が現れた。
それは洋介とエミリーだった。
2人は以前、もしもの為に身を隠す場をここに決めていたのだ。
この屋敷で戦闘が起きた時は違う遠くの場所で身を隠したが、今回はこの場を選んだ。
その結果、追われるだろうこの身を守った。
これからでさえ、魔力を放出したりしなければこの場を知られることはないだろう。
そう、その筈だった。
今では洋介とエミリーしか知らない、佐藤家の人間しか入ったことがないこの場所に今夜、初めて客が訪れた。招かざる客が。

再び轟音。
この地下室は戦場となっていた。
「グルルルオオオオォォォ!!!!」
巨獣が猛る。この魔物――バフォメットは以前の無敵さを発揮していた。
対峙する敵は1人。武器も持たずに余裕の表情を浮かべている。
「グルルルオオオオォォォ!!!!」
大鎌が棒きれのように振るわれ、巨獣に群がる何かは粉々に散っていく。
対峙する敵の武器はエミリーと同じ魔物だった。
故に戦力は互角。しかし、エミリーがバフォメットを召喚するまでに追い込まれたのは相手の方が優れているからだ。
いや、魔物の質で言えばエミリーの方が1段か2段は上手だろう。
しかし、問題は量と召喚の速さだった。
もちろんエミリーとて人間の限界を超える量と召喚スピードを誇っているが、相手はそれ以上だ。
その上相手の魔物は時間により復活する。
初めは魔物のぶつけ合いだったが、少しずつ追い込まれ、バフォメット召喚まで追いやられたのだ。

「ひぃぃ……」
彼女の背後で守られている青年が悲鳴を上げる。
それは確実な死の恐怖。
エミリーも今までにない程に恐怖に顔を歪ませている。
自分がこれではいけないと必死に耐えるが、対峙する敵の眼を見てしまう度にそんな覚悟はどこか遠くに行ってしまった。
自分が持つバフォメットも、その姿を見るだけで圧倒敵な威圧感に敵を恐怖させるが、
眼前の敵は別種の、言わば鋭い恐怖だった。
「グルルル……」
敵の量による猛攻に遂に巨獣が怯んだ。
「嫌ぁ、バフォ……」



「何故人間がここにいる」
「――――」
それがこの2人の出会いだった。
生前、エミリーは同族の人間から逃げる為にこの洞窟へ辿り着いた。
何故ここまで足を運んだかはエミリーでさえ覚えていない。
だが、この瞬間は決して忘れることはなかった。
「何故人間がここにいるのか問うている」
「――――」
「そうか。この身で人間に問うても伝わりは―――」
「あなたはだれ?」
「なっ……」
それが初めてエミリーがこの巨人に対して放った言葉。
「見て判らんか。それより貴様、ロマだな。なら何故魔物を連れていない?」
「あなた、わたしが怖くないの?」
エミリーはただ突拍子もない問い掛けをするばかりだった。
「怖い? クク、何故我が人間ごときに臆さねばならぬ?」
「だって、わたしを見るとみんな悪魔って言って怖がるんだもん」
真っ直ぐ、エミリーは眼前の魔物を直視していた。
「確かに。貴様には人間以上の魔力を感じる。それに我と会話まで出来るのは珍しい」
「なら、怖くないの?」
「無論だ」
このとき、エミリーの表情は喜びを表していただろう。
「じゃあ、あなたの名前を教えて」
再びの突拍子もない問いに魔物は頭を掻く。
「我等は固有の名など必要としない。……だが、“我等”の名ならある。
皆は我等をバフォメットと呼んでいる。我を呼びたいなら好きに呼ぶといい」
「なら“バフォ”ね」
「クク、何とも簡単な名だな」
「あは、笑った」

881携帯物書き屋:2007/05/23(水) 23:59:11 ID:PaV4iO2A0
それから2人はしばらく会話を続けた。

「もう去れ。ここは人間が長居して良い場ではない」
「なんで?」
「さあな。貴様と話すのも飽きた。疾くと去れ」
そう言い、魔物はより深い闇へ消えた。
次の日、魔物は遠視でその場所を覗くと、未だ少女はいた。
その内諦めるだろうと思い、無視したまま10日程経ち、魔物が戻ると少女は未だに同じ場所にいた。
「あ、戻って来てくれた」
エミリーの表情が力なく笑う。
「貴様……何故?」
「だって、あなた以外に話してくれる人がいないのだもの」
しかし、エミリーの声には力が感じられなかった。
見れば、頭髪は好き放題に伸びきり、身を包む物は白布1枚。
女としての羞恥心がないのか、無数の空いた穴から白い肌が見え隠れしている。
元々女の魅力が感じられない体は、空腹で更に細く見えさせていた。
「……貴様、何日間食っていない?」
「わからない」
「ここにいても何も出んぞ。生きたければ帰れ」
「外にいても食べられない。それに、帰り道知らない」
確かにここは一方通行だ。1度来たら帰り道など無い地獄。
そこに少女は辿り着いてしまったのだ。
「………………ここで死なれても困る。行きだけ送ってやろう」
「ほんと? ありがとう、バフォ」
魔物は身を乗り出すと、片手に少女を乗せ出口へと歩み始めた。

「バフォって優しいんだね」
「同族にもよく言われる。そら、着いたぞ」
暗い洞窟の出口に着き、魔物は少女を地面へ降ろした。
だが、少女は動こうとしない。
「ここ、お家じゃない」
「…………どこだそこは」
「おっきい村」
「ビスルか、遠いな。待っていろ、この姿では外に居られんからな」
瞬間、魔物の姿が変わり、魔物は人間の姿になった。
「うわぁ、すごい」
「悪魔なら誰でも出来る。この体なら人語も使えるだろう」
魔物は確かに人間になったが、その姿は少女以上に野性的だった。
元々巻いていた布を衣服の代わりに使うと、魔物は少女の手を取り歩み始めた。
「どこに行くの?」
「町だ。それでは体が持たんだろう? ……ここからだとハノブが近いか」
そして2人はハノブへと向かった。
道中、何度か魔物に襲われたがバフォメットの敵ではなかった。

「うわぁ……」
「町は初めてか?」
2人は町の入口に立っていた。
少女は人の量と初めての町を楽しみ、魔物はそんな少女を見て楽しんでいる。
「こっちだ」
魔物が少女の腕を引っ張り、近くの建物へ入る。
そこは飲食店だった。
初め、店内の人間は2人を物珍しそうに眺めていたが、ここも冒険者の町。10秒もすれば元の雰囲気に戻っていた。
それから2人は注文を取り、かなり多目の朝食を食した。
それはもう、下品だっただろう。

「すごーい、バフォってお金持ちだったんだね」
「我に闘いを挑んで来る愚かな人間が絶えんからな。では次はそこだ」
次に入った店は散髪店だった。
その他にも魔物は、雑貨屋や衣服店へ少女を連れて行った。
「クク、これで少しは人間の女らしくなったみたいだな」
「…………」
髪を整え、着飾った少女は別人のようだった。
以前の野性さは無くなり、本来持つ可憐さをかもし出している。
「なんか、変」
「前が変だったのだ。準備はできた。休んだらここを起つぞ」
昼になり、2人はハノブを起った。
魔物の足でもビスルは遠い。魔物によればビスルまで2週間程。それまでは野宿をしなければならなかった。
それでも決して弱音を吐かず、少女は進み続けた。

そして遂に2人は目的地のビスルに着いた。
「久しぶりだなぁ」
「どうだ、久々の故郷は」
魔物の質問に対し、少女は表情を暗くした。
「みんな、わたしのことを認めてくれたらいいけど……あのねバフォ、お願いがあるんだけど」


「誰だい?」
「あの……村長さん……みんな」
「お、お前はエミリー! 何しに来た!」
今、エミリーの前にはロマの人々がいた。
老人や中年、青年や幼児と様々だが、共通していることはエミリーを拒絶していることだった。
「今日は、みんなに認めてもらうために来たの。来て、バフォ」
エミリーが少し後方の物陰へ手招きをする。
すると、そこから1体の巨獣が現れた。それは変身前の元の姿。
瞬間、悲鳴が起きた。
「これは幼少の頃から異端だと思っていたが、ここまでとは……」
「やっぱり殺してしまえばよかったのよ!」
「出て行け、この村から出て行け!」

「「「この悪魔め!」」」

人々は石などを掴むと一斉にエミリーに向けて投げた。
その1つがエミリーの額に当たり、血が滴る。
「なん、で……?」
更に無数の石礫がエミリーに命中する。
「っ――――!」
エミリーは身を翻し、石礫から、同じ種族の人間から逃げるように駆けた。

882携帯物書き屋:2007/05/23(水) 23:59:51 ID:PaV4iO2A0
少女は村の外の山にある木陰で佇んでいた。
そこへ、1つの大きな影が少女へ忍び寄る。
「……すまない」
「何で認めてくれないの?」
「それは……」
「何でわたしだけ仲間外れなの?」
少女の問いかけに魔物は答えることができなかった。
ただ、すまないとだけ繰り返す。
「……もうみんな嫌い。村長さんもみんなも、バフォも大嫌いっ!!」
「そうか……」
巨獣がゆっくりと身を引く。そして背を向け歩み出す。
「あ……」
それを見てエミリーは駆け出した。
気付くと手は魔物の腕を掴んでいた。
「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。行かないで。もう独りは嫌……」
ごめんなさいと少女は繰り返す。
それを見つめながら魔物は告げた。
「独りが嫌か人間。ならば――――」

それから少女は冒険者となった。
戦闘技術や知識は魔物に教わり、年を経て彼女は立派な魔獣使いとなる。
「ねえバフォ、赤い石って知ってる?」
「ああ。それがどうした?」
「私ね、バフォにたくさんいろんなものを貰ったから、お返しで私がバフォにプレゼントしてあげるの」
「ああ、楽しみにしておこう」



「嫌ぁ、バフォ……」
大量の魔物の猛攻に遂に巨獣が怯む。
低くなった体勢に、魔物たちは一斉に巨獣へ雪崩れ込んだ。
だが、
「グルルルオオオオォォォ!!!!」
この獣の無敵さは変わらなかった。
一撃で魔物たちは弾け飛ぶ。それを確認もせずに巨獣は突き進む。
その向かう先は未だ腕を組み余裕を見せる敵。
「フン、能無しめ。これが同じ悪魔の種と考えるだけで虫酸が走るわ!」
眼前の敵は遂に腕をほどき、片腕を迫り来る巨獣へ向けた。
「三鬼よ、彼奴を止めろ」
瞬間、その者の頭上から3つの巨大な影が飛び出した。
それらは巨獣に絡み付くと、獣の腕と足を封じた。
「グルルル……」
「どうだ、動けまい。これは我が誇る魔物の中でも最強の3体だ。そう簡単には外れん」
そう言いながらカツカツと音を立てそれは巨獣に近付いていく。
「最期は慈悲として我の手で葬ってやろう」
その男が虚空へ手をかざす。すると、その手には筒のような棒が握られていた。
「この手の敵は不死身と思われがちだがそれは間違いだ。これの弱点はつまり……」
男の腕が一閃される。すると、筒の先端に火が灯り、それは次第に灼熱となり巨獣の顔面を炭化させた。
「……脳そのもの」
「嫌あああぁぁっバフォォォォォ!!!!」
巨獣が崩れていく。
どんな傷を負っても死ななかった巨獣はただの一撃で死んだ。
巨獣は次第に全身が灰になり、飛んでいく。
その上に男の足が乗り、更に奥のエミリーへと近付いていく。
数歩手前で立ち止まり、エミリーの全身を舐め回すように眺めた後、エミリーへ向き直った。
「ふむ。女にしてやっても良いが、人間などに手を出したら我の身が汚れる。
それはやめておいてやろう。しかし――――」
男の腕が無造作に振り上げられる。
「ヨウスケ、早く逃げ――――」
そこで言葉は止まった。
「――――それは我の物だ。返してもらおう」
「がっ、あ、――――」
男の武器がエミリーの胸に深々と刺さり、その奥の赤く光る石を抜き取っていた。
「ヨウ、スケ……逃げて……」
エミリーが倒れる。
空いた穴からは大量の血と魔力が流れ出し、全てを石に吸収されていく。
遂にエミリーは吸収され尽し、その存在が消えた。
「ふむ。本体の2割と言えど、やはり強力なのに変わりはないか」
男がエミリーから抜き取った石を愛おしそうに撫でる。
「ひっ……」
男の背後で物音がする。それは男の魔物により逃げ遅れた洋介だった。
「おや?」
男の目が石から離され洋介に向けられる。
「ほほう、あの娘の男か。まだ居たのか、せっかく娘が体を張って逃がそうとしたのにな」
男はゆっくりと洋介へと歩み寄って行く。
「ひっ」
男は殺そうと手を振り上げたが、寸前で止まり、洋介の顔をじっと眺めた。
「人間。命が惜しいか?」
予想外の問い掛けに戸惑うが洋介は勢い良く首を上下させた。何度も何度も。
「契約成立だ。では、条件として貴様の魂を頂戴する」

883携帯物書き屋:2007/05/24(木) 00:01:13 ID:PaV4iO2A0
「おいニーナ、これはどういうことだ」
俺は目前の光景が信じられなかった。
目の前には洋介の屋敷が佇んでいる。だが、それは以前の面影とは遠く離れていた。
「ここから強い魔力の残滓を感じるわ。あの、魔物の魔力も……」
屋敷は更に破壊されていた。
これが、意味することは、つまり……。
「エミリーは、エミリーはどこにいるんだ!」
「ショウタ、あの子はもう……」
「――――」
全身から力が抜けていく。
信じられない。信じることができない。信じる訳にはいかない。
「恐らく、あの後ヘルベルトが行ったのね」
「ニーナ。お前はそれを知っていたのか?」
「え、ええ……」
「っ、何故黙っていた!!」
怒りが沸騰した。
許せない。黙っていたニーナも。エミリーに手を掛けたあの騎士も。
「くそぅ……約束、したのに」
「ショウタ……」
約束をした。俺とエミリーだけのたった1つの約束。守るべき約束を。

“―――俺がエミリーの兄になってやるよ”

俺がそう言うと、エミリーは喜んで頷いた。そして抱きついて、ありがとうと言った。
俺は守ることができなかった。
敵同士だと知っていても、ルール上生き残る者は1人だけと知っていても、俺はあの子のことを守りたかった。
あの子は幸せにならないといけなかった。過去にたくさん嫌なことがあった分、幸せになるべきなのだ。
「あ、――――」
温かい物が頬を伝わる。
瞬間、俺に暖かい物が覆い被さった。
それはニーナだった。
「ごめん。ごめんねショウタ、黙っていて。でもこれは避けられない。次にこうなるのは私かもしれない」
「――――ああ、ニーナは悪くない」


俺たちは最後に、屋敷にそっと花を添えた。
それはあの子のように白い花。
「行こうニーナ」
振り向かず歩き出す。
振り返れば再び裂くような悲しみが襲うだろう。
不幸だった少女。生き返ってまで裏切られた少女。ただ愛を求めた少女。
そして、暖かかった少女。あの少女―――エミリーは、もう帰ってこない。


――――悲しみの少女 Fin

884携帯物書き屋:2007/05/24(木) 00:19:22 ID:PaV4iO2A0
ずいぶん間が空いてしまいました。
微妙なところで切ってしまっていたので忘れられてそうですね……。
実はもっと早く書き終わっていたのですが、何故かネットが繋がらずその分自分にしては多めの投稿となりました。


>>856さん
初めまして。
ぜひお願いします。自分は携帯で火事編読ませてもらいましたがとても面白かったですよ。
あれが小説化してどんな風に仕上がるかとても楽しみにしています!

>落第生さん
初めまして。
自分も赤石は実質引退していてここに来るのみですよ。
小説の方も読ませて頂きました。
何というか短編が書けるのが羨ましい。自分は考えると何故か長くなってしまう傾向があります・・・
主人公が堕ちていく様がとても良かったです。こういうの好みだったりします。
特に花屋の少女の描写がとても良く表現されていると思いました。


他の方の小説も後々読ませていただきますね

885◇68hJrjtY:2007/05/25(金) 08:52:54 ID:sTBMgD1k0
携帯さん同様で最近ネットができませんでした、ハイorz
今日になってやっと皆様の小説を読む事ができました…。

>姫々さん
回想シーンに時間をかけるのは悪いとは思いませんよ。それもひとつのストーリーとしてじゅうぶん楽しめますし。
本編に関わるストーリーならばなおさらです。ということでセラ&タスカの姉妹カワエエ(*´д`*)
タスカ視点というわけで彼女の複雑な心境もちゃんと描写できてると思います。
お姉ちゃんは好きだけど能力が劣っている自分をさらけ出すのが嫌だ、みたいな…。
これは実際ありそうな悩みですよね。もちろん兄弟や姉妹のいない私には一生分からない問題かもしれませんがorz
回想シーン後編もお待ちしています!

>落花生さん
初めましてです!新規さん歓迎です(笑)
落花生さん自身の書き方やストーリーが本当に淡々に進むというか、どこか悲しくて切ない物語ですね…。
少年の名前が分からないままというのもストーリーの雰囲気作りに一役買っていますね。
そしてダメルが"悪魔に魅入られた町"として最後に出てくるのも物悲しいです。
ところで私もRSはしばらくINしてません…半引退というまでの事でもないんですが。
でもここで小説を読むとまたやろうかなというRS症候群が発症しそうです(笑)

>殺人技術さん
うーん…物語の主軸の一人だったチョキーが死んでしまいましたか。
魔法同士の戦闘は読んでいて妄想が大爆発してしまいます。ほんとに美しい戦いですよね。
カリオのDFフィーバーもまるでスズメバチの猛襲のように感じて実に恐ろしかったです(涙目)
ところで後半に出てきたウルフマンがカルスなのでしょうか。どっちにしろカルスも死んでしまったんですね…。
残る人間側陣はランサーと戦士ですか…これはW・Cとの戦いになりそうですね。続きお待ちしています。

>携帯物書き屋さん
冒頭のバフォ戦後のちょっとツンデレ風味なニーナに悶えています。おはようございます。
エミリーがついに、ですね…何か村を追い出されて洋介には利用されるだけされてとても悲しい存在でしたね。
でも最後はバフォと一緒に死ねたというのはある意味では良かったと思います。悲しいけど(´;ω;`)
やはりこのエミリーを殺したのが噂の殺人鬼なのでしょうか…となると、ニーナたちに勝ち目はあるのかどうかですね。
ヘルとの共同戦線にまた期待です!(こら)

886名無しさん:2007/05/26(土) 11:08:09 ID:pfdBf7IQ0
俺の朝は早い
かと言って、店じまいするのも、大抵人通りが少なくなる深夜になってからだから、なかなか身体は休まらない。
勘違いしてもらっちゃ困るが、売上が悪いわけじゃない。客足が絶えたことは、この街に来てから全く経験はない。
商売相手は決まって、冒険者を名乗る命知らずや、異形の奴らなんだがどう言う訳だか俺の持ってくる品物を喜んで買いあさって行く。
それも、ほとんどが同じ品物。
こんなものに価値があるなんて、フランテル東部地域は本当に変わった土地のようだ。


”今週は、ここで店を開くか”
いつものように、屈伸運動をして店を開くと、向こうから一人の男が早速やってきた。
下半身とブーツ以外には、ほとんど何も着用しておらず、見るからに冒険者さながらの客だ。
街中だと言うのに、剣を裸で持ち、危ないったらありゃしねぇ。
案の上、俺に向かって品物を見せろと迫ってくる。
だが、ここで簡単に売ってしまうほど俺はお人よしじゃない。
そ知らぬふりをして、いつものように売り渋る。
こうやって、品物の値段を吊り上げるのが、俺の常套手段。
まぁ、金にならないんじゃ商売にもならないから、最後には
  ”あー、わかった わかった”
って、折れてやるんだけどな。
品物を、鞄いっぱいに詰めたその冒険者は、満面の笑みで”ありがとう”と言い、その場を去った。
ククク・・・まいどあり。

そうこうしている内に、周りは人集りになる。
傭兵崩れの、ねーちゃん。
髪を切る金もないのか、ぼさぼさ頭の魔法使い崩れ。
聖職者気取りの、なまぐさ坊主。
武器も持たない、黒ずくめの泥棒。
仮面をかぶって、全く素顔の見えない得体の知れないチビ。
恐ろしいモンスターを従えた、頭巾の少女。
変わったとこでは、狼男や、あまつさえ、天使や悪魔までご所望ときてる。

みるみる内に、品物は売れて行くが、俺は一向に気にしない。
なんたって、材料はいくらでもそこらに転がっているんだからな。
こんなもので商売になるなんて、変わった時代だよ、まったく。
後で、分かった事なんだが、俺の名前は伝説のとある村のそれと、全く同じらしい。
だから、余計に奴らはありがたがって買っていくんだろうな。


こんな、ただの石ころを・・・・ククククク・・・・


さてと、今日もなかなかいい金になったな。
そろそろ店仕舞いするか。


ロマ繁盛記=シュトラセラト編= より

887◇68hJrjtY:2007/05/26(土) 17:50:20 ID:D4u1ckA.0
>886さん
前に攻速石を大人買いしようとしてカーソルがズレてて死ぬほど呪い抵抗石を買ってしまったのを思い出した(ノ∀`*)
もうあのロマさんの店だけは確かに客足が途絶えることはありませんね…。
っていうか詐欺なんですかこれは!私も余裕で引っかかりそうです(´;ω;`)

ところで"武器も持たない、黒ずくめの泥棒"に吹きました(笑) 殴りシーフを思い出した…。
一般人や第三者から見れば冒険者ってこんな風に映ってるのかもしれませんね。
剣士戦士なんかはモロ武器丸出しだし、ウルフマンや天使に至っては(苦笑)
しまいには街中メテオに火・氷雨…RSの一般人超頑張れ(笑)

888名無しさん:2007/05/26(土) 18:36:35 ID:7F3I8sOc0
前話 >>640-647


青年は歩みを止めない。

食べ物も滅多に口にせず、睡眠の時間を極力削ってまで歩いている。
見渡す度に死を感じる場所。生命が育つことのない砂漠で、日中は灼熱の太陽に晒され、日没後は凛冽の寒気に襲われる。
しかし彼の精神力は限界を知らない。この状況を乗り切ることができる精神力、それには常人は恐怖すら覚えるかもしれない。
死と隣り合わせの生活が続く彼が目指す先は一点のみ。
ただただ、東へ進むこと――――。
彼の目には、その信念だけが灯っている。

割れるような頭痛、悲鳴を上げる関節。
幸いなことに、砂漠での移動の途中には一匹のモンスターにも出会わなかった。
それが彼自身の運か、はたまたモンスターが彼を避けていたのか。それは誰にも分からない。
食料は底を突いた。己の魔力を消費して作り出した水もない。その魔力を使用するとしても、今の精神状態では成功確率はゼロに近い。

死を受け入れることができない彼を、神は哀れに思ったのだろうか。
体力の限界を十分味わい、膝をガックリとつく青年。彼は自分の無力さを知る。
刹那。砂嵐が吹きすさぶ砂漠に安穏が訪れる。
彼は顔を上げ、希望を掴もうとする。そして、掴む。
彼方に門のようなものが見える。それこそが希望。それこそが命。
一瞬、子供のころの微笑みを思い出す。彼の心は満たされ、そのひび割れを希望が潤す。

生きている!生きている!

彼は子供のように駆ける。あまりの喜びに咆哮し、体中を感情が走り回る。
その輝く表情は、彼が今まで誰にも見せたことのないものだ。


「待て」
突如、門の前に一人の男が現れる。青年は息が詰まったように咆哮を止め、今の行為を恥じるように顔を紅潮させた。
男は現在アリアン北西の門を守る傭兵。すなわち衛兵と呼ばれる職業に就いている。
なかなか値打ちがあると思われる長槍を片手に、青年を訝しげに睨み付けている。

「なんだ、貴様は。身分証明を見せろ」
男は冷たく言った。青年は熱気で上気した顔を見せる。
持っていた少量の荷物を砂の上に置いたのと同時に体から無数の粒が落ち、それらは風に乗って舞い、再び旅立っていった。

(なんだ、こいつ…。砂漠で何日も過ごせる格好には見えないが…)
砂漠という背景に全く似合わない風貌の青年を、しかしその背景に少しずつ馴染み始めた青年を、男はじっと観察した。
初めて見る人間を、ある意味条件反射のように観察すること。それは傭兵時代の癖のようなものだった。
一方青年は男の視線を気にする様子は全くなかった。ある程度落ち着いた段階で、青年は口を開いた。

889名無しさん:2007/05/26(土) 18:37:12 ID:7F3I8sOc0
未だ初夏だというのに、太陽は己の絶対的な力を地上へ放ち続ける。まるで自分が支配者だと言わんとばかりに。

水を殆ど必要としない植物でも生存が難しい砂漠、その一片の小さな天国。
今日もオアシス都市アリアンでは人の声が溢れている。


「…あ、すまない。もう一度言ってくれ」
活気に溢れた人々の声に気をとられ、男は目の前の青年の自己紹介を聞き逃していた。
青年の表情からは何も読み取れなかった。かすれてはいるが、砂漠に不似合いな涼しい声が耳を通る。
「――――――――――――?」
しかしそれは砂漠に不似合いな、異国の言葉でもあった。
「エリ…なんだって?」
思わず男の口から声が漏れた。青年が何を言っているのか、名前らしき音以外のほとんどを理解することができなかった。
しかし彼の耳に伝わる一瞬の心地よさは、男が以前学んだどの言語にもないものだった。
男は青年を見た。青年は不思議そうに男を見つめ返した。
突如、その場に妙な空気が流れた。なんとなく不安を誘う…しかし、不快ではない空気が。

青年は言葉が通じなかったことに動揺する様子もない。
「ブルン語だ。話せるか?」
男も特に疑問を抱いてはいなかった。こんなことは何百回も経験済みだ。
こいつは砂漠の向こうから来た人間だ。つまり、こいつのような旅人が俺たちの使う言語を使うとは限らないからだ。
「ブルーン?」
青年は自分の髪の毛をバリバリと掻き、無表情に質問した。その髪から砂の粒がパラパラと舞い上がった。
「ブルン語だ」
男は自分にかかった砂をほろいながら、無感情に訂正した。
その場に、少し前とはまた異なった空気が流れていた。
何故だろうか、それは張り詰めた緊張に近い気がする。
青年の口は再び、今度は滑らかに動かし、訛りの全くないブルン語を発声した。
「アー…、エリス・H=カティナです。エリプトから来ました」

「エリス・H=カティナ…。エリプトから、だと?」
男は青年の言葉を繰り返し呟きながら書きとめていたが、自分のその呟きの内容に一瞬驚嘆の表情を見せた。
さっと青年を一瞥したが、警戒を解くことはなかった。
「…身分を証明するものは?」
男は平静を装い、しつこく検問を続けた。
青年は男がまだ自分を疑っていることに腹を立てた様子で、くしゃくしゃに丸まった紙を取り出し、男に押し付けた。
「これで…。あの、水を…いただけませんか?」
青年はイライラしながらも、枯れた声で呻いた。

紙きれを眺めていた男の目の色は、疑惑から納得・感嘆へと変わっていった。
男は紙を青年に返すと自分のバッグから水筒を探り出し、「ほらよ」と言いながら放り投げた。
青年は軽く頭を下げた。
次の瞬間、男は頭を上げるやいなや、貪るように水筒に食らいついた。
がっつくので大分中身をこぼしてはいたが、それを一気に飲み干すのに時間はかからなかった。
青年は最後の一滴まで水筒の中身を飲み干し、満足そうに笑みを浮かべながら息を吐いた。

890名無しさん:2007/05/26(土) 18:37:36 ID:7F3I8sOc0
体感では50℃弱というところか。
とても6月とは思えない気温で、アリアンの砂漠としては珍しい。

たった今、子供たちがオアシスでの遊泳解禁の知らせと同時に歓声を上げた。
その情景が頭に浮んでくると、自分の子供の頃を思い出すと同時に、子供たちを羨ましく思ったりもする。
兵士になってからは、一度だって波立つ水面に反射する光をじっくり眺めたことはなかったな。
…まったく、懐かしい。


「お前、変わった名前持ってるんだな」
青年が水筒の中身を飲み終えるのを待って、男が青年に話しかけた。
「………」
青年は何の反応も見せないが、男はそれを気にもせずに続ける。
「俺はヨネスって雇われ兵士だ。傭兵ってやつだな。それでお前、エリプトからずっと歩いてきたのか?」
青年は水筒を男に投げ返しながら無言で頷く。
そのままふらふらと日陰になっている門に寄り掛かり、腰を沈めて座り込んだ。

何も話し出す気配はないので、男は話を続けた。
「何でこんなところまでやってきたんだ?」
「………」
相変わらず、青年は沈黙を続ける。
先ほどの荒い呼吸が嘘のように。まるで本当にその場で息絶えた者のように。
「…そうか」
男は青年の長旅の内容を察し、これ以上の質問を諦めることにした。

男は青年の血色の悪い顔をぼんやりと眺めた。
砂漠での長旅のせいか羽織っている長いコートはよれよれで、ローブはところどころ穴があいている。
髪は雑草のように伸び放題で、布切れのようなもので後ろに一本に纏めている。
柔らかい顔立ちで、細身のしなやかな体つきをしている。
ただ顔は血の気が薄く、ちょっとしたことでも卒倒してしまいそうな印象を受ける。
しかし特に印象深いのは目の輝きが非常に暗いことである。その目はまるで処刑台に上っていく罪人のようだ。

「……………」

男はその目を前に一度だけ見たことがあった。
実の父親が母親と長男を殺害し自身もその場で息絶えたとき、現場にいた次男はまさにその目をしていた。
あの子のその後の消息は、誰も知らなかった。
忘れようとしても忘れられず、仕舞いには夢にまで出てきたが、その記憶は長い年月をかけて奥深く潜っていってしまったのだろう。
そのときの泣きついてくる少年の顔が今、男の目の前に映し出された。

あの子は何故、あんな顔をしていたのだろうか。
あの子はどこへ行ったのだろうか。
あの子は今もあの目をしているのだろうか――――。


…ギシッ……
……ギリッ…

「……………?」

金属同士が擦れあうような音に我に返る男。
何か巨大なものが砂漠の向こうにちらついている。それは…

891名無しさん:2007/05/26(土) 18:38:03 ID:7F3I8sOc0
ほんの少し前まで正面から顔を覗き込んでいた太陽が、気づかぬうちに見上げるほど高く昇っていた。
熱気は止まることを知らず。気温50℃を超えた辺りだろうか。
だが、先ほどから潮風とは違う乾いた風が体を強く突き抜ける。
心地よい感じは受け辛いが、この灼熱地獄の中でのそれは正しく小妖精の救いの手。
体感些か暑さが和らいでいるようだ。


「幽霊鎧か…」

青年はすっと立ち上がり、男は門に立てかけていた槍を構えた。
「またあいつらだ」
男は面倒くさそうに呟いた。彼らが現れるのは珍しいことではない。
ゆったりとした足取りでこちらに近づいてくるそれらは、優に5mを超す化け物。
砂漠で最期を遂げた者たちの怨念の集合体、と伝えられている。
その体表は自然界には存在しない色が染み付き、集まった念の数が多ければ多いほど、その色は暗く濃くなっていく。

「ヨネス…さん」
初めて青年が男に対して話しかける。しかしその目は幽霊鎧に釘付けだった。
「なんだ?」
男は突然のことに驚きながらも、幽霊鎧を見据えたまま簡潔に応答する。
「この街から古都へ一番早く着く方法を教えてくれませんか?」
青年は一気に言葉を繋げ、単調に囁いた。まるでこの時が来るのを予め知っていて、幾度も練習したかのように。
男は横目でちらりと青年を見た。青年は一瞬たりとも幽霊鎧から目を離さない。
こんなときに妙な質問をするやつだな。
男はどことなく、青年を不気味に思い始めていた。

「一番早くならテレポーターだろうな」
男は少し考えながら、別段慌てる様子もなく答えた。
幽霊鎧のゆったりした足取りなら、アリアンの街へたどり着くのに相当な時間を要するはずだと見当をつけていたからだ。
「テレポーター」と言った瞬間、横にいる青年の表情が微かに曇った。
その小さな陰りは、男が理解し得ないものなのだろう。
特別ではない、人間らしい感情。
「ただし料金がかかるぞ、1万ゴールドだ。持っているのか?」
乞食でさえ与えられても喜ばないような、穴だらけで継ぎ目だらけのクロークを横目で覗きつつ、男が言った。
青年はようやく幽霊鎧から目を離し、首を振った。一瞬、男と青年は目が合った。


男の次の記憶では、青年は平然としていて、既に視線を幽霊鎧に戻していた。
見ていて3秒ももたずに飽きそうなほど動きが緩慢なそれらを、真剣そのものの表情で見つめている。
何が起こったのか分からないまま、男は沈黙の時間へと足を踏み入れた。

男は横目でちらっと青年の顔をにらむと、青年は何か考え深い顔を見せていた。
やはりここらで見る顔ではない。この青年に関する何もかもが不可解に思えて仕方がない。
優しい顔つきをしているのだが、薄い琥珀色の眼光の所為か、何か人に対して冷たい印象を受ける。先ほどの会話でもそうだった。
人の心は、冷たく扱われれば冷たくなってゆく。そして心の冷たい者は他人を冷たく扱う。
この青年の中にある厚く凍りついた心。それが何故そうなったのか、男には理解できるはずがなかった。
青年は不意に何かを思いついたようだ。顔色一つ変えず、青年はそれを口に出した。

「…あの幽霊鎧を僕が処分できたら、テレポート代を払ってもらえませんか?」

892名無しさん:2007/05/26(土) 18:38:30 ID:7F3I8sOc0
一瞬の沈黙の後、男の口からいきなり笑いが漏れた。
「っ、ふふっ!…はは…」
不快そうな青年の顔を見て笑いを口の中で留め、それでもにやにやとしながら言葉を紡ぐ。
「なかなか良かったぞ、今のは…幽霊鎧を『処分する』だって?それこそ冗談にも程があるってやつだ」
「冗談…?」
青年は今の言葉を自分に対する侮辱と受け取ったらしい。その顔は微かな怒りへと変わっていた。
流石にまずいと思った男は青年の両肩に手を置き、しかし、まるで駄々をこねる子どもに言い聞かすかのように説教を始めた。
意識していなくても人を下に見てしまう、それがこの男の悪い癖だった。
「まあ聞け、お前。一流の兵士でも1対1じゃ苦戦する奴らだぞ。お前みたいなひょろひょろの人間なんて、一発で殺され――」
「あの…」
男の話を遮って、青年は反論した。
「冗談じゃない」
このとき初めて青年は自分から男を真っ直ぐと見た。
グレーの暗い目に男の顔が映し出される――――

「あ………?」

その一言は男が笑いを押し殺して話している声よりずっと小さかったが、男はその声に頭を貫かれた。
馬鹿馬鹿しい、下らないなどと思っていたつまらない感情が全て、一瞬にして取り払われた。
男は頭の中が血のような赤一色に染め上げられたように感じた。
その赤が吐き気のするような黒に変わり、黒一色に染まったと同時に、その上に血のような赤がぶちまけられた。
男は目を大きく見開いた。自分がその赤と黒の中に沈んでいくのが見えたのだ。

「……………」

その口は今までに無く重かった。動かすことが苦痛でさえあった。
「…わかった、いいだろう」
男は自分の腕で汗を拭いながらボソボソといった。すると、青年は初めて微かな笑顔を見せた。
「じゃあ、契約内容を。こちらの希望は2万ゴールド、往復のテレポーター代です」
短くて纏められない前髪を振り払ってから、荷物の中から紙とペンを取り出した。
紙を自分の荷物の上に乗せてその場に座り込み、並々ならぬ速さで字を書き込み始めた。
…ただし、お世辞にも上手いとは言えない。

「それで、クエストの内容は…」
青年は紙に書きなぐっていた字を読み返して若干顔をしかめ、それから男に向き直って話しかけた。
若干顔色がよくなってきたように見えるのは気のせいだろうか。表情も明るく見える。
青年は男の渋い顔にも気づかず、トントン拍子で話を進めていった。
一方の男は少し呆れていたが、それでも安心した。
相手が普通の人間だとわかると、不思議と少し前の感覚が嘘のように思えてきた。
(気のせいか。)
男はそう思い込むことにした。

893名無しさん:2007/05/26(土) 18:39:05 ID:7F3I8sOc0
砂漠の風景は毎日飽きるほど見てきたが、地平線だけは飽きることがない。
理由となる言葉は見つけることができないが。

永遠の黒が渦巻く大地を乾いた悲しみに喩えられる黄土が覆い隠す様、それをじっと見守る底知れぬ青、そして浅き白。
その無限の地平線から悲しみを取り除くことを、強く望んでいる。
しかし、もしも…。
その無限の地平線から悲しみが消えたのなら、再び地平線を眺めることはあるだろうか。


「じゃあ…早速、行ってきます」
話をつけた後、青年はローブを取り上げながら立ち上がり、主に登山用に使われる杖を取り出した。
普通の杖より軽く長く、そして扱いやすい山登り杖。魔力を効率的に出現させる力こそ他の杖に劣るものの、愛用する魔法使いは少なくない。
「お前、ウィザードか?」
男は何気なく尋ねた。
「…いいえ」
青年は少しだけ顔を歪ませ、低く唸るような声で答えた。
その僅かな感情の動きに合わせて、男は青年の弱みをついたという満足感を確かに感じていた。
「鎧も着けずに奴等に突っ込む気か?ああ見えても相当手ごわいぞ。止めとくなら今のうちだぜ」
軽はずみな男は、口調に明らかな嘲りを含めて忠告した。心に自信という支えを取り戻した男は、平常心を取り戻しつつあった。
しかし青年はそれを聞かれることを知っていたかのように一言。

「ご忠告ありがとうございます。しかし、貴方等とは『やり方』が違いますから…」


「少し不自然だったな、今の…」
暑い真夏の昼下がり、広大な砂漠の東端の一片。オアシス都市アリアンの入り口から、意気揚々と出てくる青年が一人。そして、それを見つめる男が一人。

「糞ガキ…」
男は青年の後ろ姿に向かって唸った。

威勢の良いことを言いやがる。
あの装甲で幽霊鎧の攻撃を一度でも食らえば、即、死亡。
本気で行くつもりなのか?奴は。

幽霊鎧の破壊力は半端でない。重装甲装着時でも、奴の一撃をまともにくらえば骨の一本や二本は簡単に圧し折られるだろう。
打ち所が悪ければ軽く逝くことができる。
更に幽霊鎧は中身こそ霊体の集まりだが、それらを覆っている金属は有体物。並の打撃、魔法ではびくともしない。
…策があるのか。

――――奴は何を考えている?

894名無しさん:2007/05/26(土) 18:39:39 ID:7F3I8sOc0
人間の感覚には、数え切れないほどの種類があるだろう。
その中で、今の状況を説明するのは非常に難しい。

青年の感覚から辿ると、血が沸騰する、という表現が一番正しい。
それは既に致死温に達したのではないかと思えるほど。
しかし今の青年には、それすらも苦もなく易しく受け止める事ができる。
それは何故か?
ただ単に、「慣れ」ではないか。無限に在る同じ壁を乗り越え続けた、彼の場合。


私の中には、何がある?
私はさっき、何と言った?

『処分』、か……。それを口に出したとき、心が痛むことはなかった。
『灰色』と言うときには、あんなに苦しんだというのに…。

私と同じ。この世に生を受けた存在。
いても何も変わらない…。それどころか……。

こんな自分が、大嫌いだ。


青年の目に一体の幽霊鎧が映る。

大きい。その様はまるで不動の城壁。
青年自身、燃え尽きた怨念の延長線に存在するこの怪物の不気味さに感嘆する他なかった。
他の冒険者ならすぐにでも逃げ出したいところだが、この青年は違った。
十数もの幽霊鎧を目の前にして、恐れも慄きもしない。
それは何故か?

それは…。


幽霊鎧達が青年を囲む。
このまま何も起こらなければ、青年は五秒もかからずに絶命するはずである。
だが絶対的に不利に見えるこれこそが青年の望むカタチだった。

先に動いたのは青年。
この時点で勝負は決していた。
「苦界に留まりし者よ、在るべき場所へと還り給え……」
一瞬のうちに空気が、世界が氷結し、止まる。

やがて青年の体に一つの光の輪が重なり、

「ターン、」

青年が杖を掲げ、光の輪が己の領域を拡大させ、

「アンデット。」

光の輪の一片が幽霊鎧に触れた刹那。

ガラララ。
アァァアァァアァァア――……。

…還る。

「汝、冥き途を進まん。」

短い祈りを捧げた後青年は向き直り、もと来た砂の上を戻っていく。
その後ろには幽霊鎧の亡骸とも呼べる、既に風化が始まっている瓦礫の山が在る。
一見ドーム状の建物の跡のようにも見えるそれらは、存在価値を失ってしまっている。
だがそれらは、幽霊鎧たちが確かにここに在ったことを証明するもの。

在ることさえ許されないものなどない。
それが青年の信条であり、

青年が振り返ることのなかった理由だった。

895名無しさん:2007/05/26(土) 18:40:05 ID:7F3I8sOc0

「驚いたなぁ。お前、ビショップだったのか」
アリアン北西の門を潜るとすぐにヨネスの顔が飛び込んできた。
ただし、今までと1つだけ違いがあった。
彼は青年を、一人の立派な冒険者として認めていたのだ。
「まさか本当に『処分』できるとは思ってなかったぞ。ビショップってあんな魔法――」
「2万ゴールド、ですよ?」
青年は相変わらず無表情で言った。その目は男をしっかりと見据えていたが、もうあの感覚に襲われることはないだろう。
「…ちっ」
男はカバンからぐしゃぐしゃになった札を二枚取り出し、最初に青年が男に身分証明の紙を押し付けたときと同じようにして、それらを渡した。
「ありがとう。さようなら」
青年はそう言い残し、静かに歩き去った。少しの間、男はその後姿を眺めていた。

突然、男は青年を追いかけた。そして追いつき、追い越した。
「ついてこい。テレポーターまで案内してやるよ」
段々と後ろに見えていく青年に、男は軽い声で言った。
「いいですよ。自分で探します」
「そう言うな。俺はお節介なんだよ」
青年にしてみれば鬱陶しい事この上ない行為だったが、なんとなく――前を進む男についていくのが正しいような気がした。
そして青年は数歩遅れながら、男に道を任せることを選んだ。

男は街と反対側の、静かな居住区の中を進んでいく。
右手に見えるオアシスは吸い込まれそうなほど輝き、そこに人は集う。
力一杯騒ぎながら遊ぶ子どもたち、友人たちと一緒に泳ぎに徹する男の子、足だけを水に浸けながらおしゃべりする女性。
この世にある全ての幸せが、ここにあるとさえ思える。

「…ん?何だか騒がしいな…」
男のその呟きが脳に行き渡ると、青年はやっと我に返った。
後を追うと、男は荒々しい冒険者風の男と話し込んでいるようだった。
近くで待っていると話は終わり、二人は別れを言った。一人はこちらに向かってくる。
「テレポーターの奴が職務放棄してるんだ。冒険者が文句言ってるんだよ」
男はウンザリして言った。
「とりあえず裏口から入るぞ。表は全然駄目だ」
「どこに…?」
青年は声を潜めて聞いた。
「砂風酒場だよ」
男はイライラを噛み殺して唸った。

店の中はどこにでもある普通の酒場のようだった。
年代物のワインが並べられ、飲み続ける人間は皆胡散臭い格好で、薄明かりが独特の雰囲気を作り出し、それが店を支配している。
「あれだ」
男はその中の一人を指差した。
その服装から見ると、どうやらウィザードのようだ。横で一人の傭兵が半ば叫ぶように話しかけている。
男はそのテーブルに近づいていった。青年もそれに従った。
「ヨネス!頼む、手伝ってくれ。おいこら、パナパレ!客がいるんだぞ!」
その傭兵は冷静に叫び続けてはいるが、いつ怒り出すかも分からない。なにしろ、その言葉は彼女の耳に入っているようには思えないからだ。
「この人、ですか?」
「ああ、そう…この頭悪そうな女だ」

896名無しさん:2007/05/26(土) 18:40:28 ID:7F3I8sOc0
「うぅぅ…。気持ち悪いぃ…」
パナパレと呼ばれた女性は頬をテーブルに押し付けながら、いかにも具合が悪そうな声で呟いた。
テーブルには空の瓶が数え切れないほど積まれ、いくつかは床に落ちて粉々に割れていた。
「お…お水……。ちょ……だい…」
「やっと起きたな!いつまで飲んでるつもりなんだ。連れはとっくに帰ったぞ!」
傭兵はそれでも少し安心した様子で、叫び声も少し小さくなっていた。

「どうしたんだ、お前。誰かに潰されたのか?」
男が興味ありげにパナパレに話しかけた。
「うぅーん?そぉなの…。かっこいぃおにぃさんがねぇ、どーんどーん飲ませてくれたのぉ…」
パナパレは茶色い目をウットリとさせ、ボーっとしながら呟いた。
ウェートレスはその様子を見ながら水をテーブルに置き、そそくさと退散していった。
思えばこのとき、あのウェートレスと一緒に逃げていれば良かったのかもしれない。
「パナパレ、あの男は金払わないで出て行ったぞ。『御代はこの人が払いますから』って言ってな」
パナパレを横目で睨みつつ、バーテンダーが言った。
「そんなぁー!あの人、ぜーんぶおごり、だって…言ってた…のに…うぅっ?」
コップに手を伸ばしたパナパレは慌てて手を引っ込め、今度は口を押さえた。
…これは間違いない。

「お前さん、いくら飲んだと思う?合計すると…」
「おい、もう少し我慢しろ!ブロウ、こいつ吐きそ――」
「……………」

そして、ブロウと呼ばれたバーテンダーが金額を言い終えた途端。
「うぅっ!……そんな…無理――」



「やっと…終わりましたね」
青年が額の汗を拭いながら男に言った。
「畜生、何で俺が片付けさせられるんだっ!!」
男はする必要のない仕事を押し付けられ、完全に頭にきていた。傭兵というのはこのように、下らない理由で怒り狂うものなのだろう。
二人はパナパレの寝かされているソファーに向かった。
「この人いつもこうなんですか?」
青年が男に尋ねた。
「毎日じゃないが…酔っ払ってるのは毎日だ!クソッ」
男は怒るあまり、答えにならない答えを投げてよこした。
パナパレの横まで来ると、男は彼女の耳元で思い切り叫んだ。
「俺たちがお前の後始末させられたんだ!仕事ぐらいちゃんと――」
「うるさいっ!もう飲めないったらぁ!!」
寝言としては申し分ないありきたりな台詞を叫び、目にも留まらぬ速さで拳を繰り出した。
それは運悪く油断しきっていた男の顔面に命中し、倒れ様に床に叩きつけられた。

(…運悪く?いや…もしかすると、全ては計算済みだったのかもしれない…。
男の受けたダメージは相当なものだ。まさか…この人が酔八仙拳の継承者なのか?)

それで満足したのか、パナパレは再び静かな寝息を立て始めた。
「こ、こいつ…!」
男は鼻を押さえ、涙声で呻いた。
「寝てしまいましたね、この人」
青年は困ったように…いや、寧ろ可笑しさを隠すように囁いた。
「いつ起きるかわからねえぞ。待つか?」
「いいえ、歩いて行きます。道を教えてください」
青年がそういうと、男は頬の筋肉を少し上に上げたように見えた。
傭兵はケチなのだろう。青年には男が何を言おうとしているのかが手に取るように分かっていた。
「それなら、テレポーター代2万ゴー…」
「『クエスト』報酬!ですから。お返ししませんよ」
青年は当然のように突っ撥ねた。

897名無しさん:2007/05/26(土) 18:40:58 ID:7F3I8sOc0
結局テレポーターは使えず、無駄に数時間を過ごしてしまった。
計算外だった、この街でこんなに時間をとってしまうなんて。

…人間との触れ合いを、薄く何気ない触れ合いを、快いと感じてしまうなんて――。


男と青年は今、街の南東側の門をくぐっていた。
「そうだな…」
男は自分の地図を開き、道を指で辿っていた。
「この門を真っ直ぐ出ると、分かれ道がある。右側――つまり、南側だな。その道をいけば、リンケンに着く」
「リンケンの北東側の門から出て、更に真っ直ぐだ。森の中も、一番大きい道をそれずに真っ直ぐだ。まあ、言うとおりにすれば古都に着く」
言い終えると男はバサバサと地図をたたみ、カバンにほうり込んだ。
「………分かりました。ありがとう」
青年は再び男に背を向けようとした。

男は何か迷っている様子だったが、意を決して青年を呼び止めた。
「ちょっと…待ってくれ」
青年は動きを止め、無表情に振り返った。
「まだ、何かありますか?」
「最後に一つ、聞いていいか?」
男は何故か緊張しているようだった。もしかしたらあの感覚に襲われたときよりも強く、緊張の呪縛に囚われているのかもしれない。
「はい。どうぞ」
青年は素っ気なく了承した。
まさか、自分を追い詰めるような質問が男の口から出るとは思わなかったから。


「…ラヴァー=ブラウンを知っているか?」


青年の心の中が見える者がその場にいたとすれば、刹那の変貌に圧倒されただろう。

「…さあ。聞き覚えのない名です」
青年は相変わらず無表情で返答した。
しかし、これはれっきとした敗北。このままでは自分自身を許すことはできない――

「私も最後に質問しておきます」
青年は無表情のまま、男に語りかけた。
「何だ?」
男は低く言った。

「ヨネス、あなたは誰に操られているんですか?」


「…何を言っているんだ?馬鹿な」
男は眉を吊り上げ、自然に見える不可解な表情を作り出していた。
「いえ、何でも。それでは」
青年は三度男に背を向け、南側の道を真っ直ぐ進んでいった。
風はない。砂も日も、青年を阻むものはない。
(…お互いに答えを隠し切った。大丈夫だ。)
その青年の小さな油断は、後に青年の『完全』を決壊させることになる。

898名無しさん:2007/05/26(土) 18:41:32 ID:7F3I8sOc0

「ありがとう、素晴らしい働きだった。またよろしく頼む」

その男はゆっくりと歩き、南東門を潜る。

薄い灰色の短髪が目立つ戦士。自信に満ち溢れたその顔には些か高慢さを窺わせる。
男の身長を超える大斧を担いでいる背中にはいくつもの刀傷の痕、そして不気味な刺青。身体中の筋肉はスマートに、しかし隆々と形を整えていた。

「…あれ、ダイバー?」

アリアンのオアシスよりも澄み切った、清らかな声。それは真っ直ぐと、男に向けて発せられた言葉だ。
「――――ぉ、ぉ、お?…リンちゃん♪ひさしぶ…」
先ほどまでのヨネスの低く静かな声ではなく、何かふわふわした、飛び切り明るい声が男の口から発せられる。
そして流れるように、まるでいつものことのように男は若者に抱きつこうとする。
確かにこの地方ではそこまで珍しくない挨拶だが、若者はその頭を軽く押さえて受け流し、顔を引き攣らせる。

「本ッ当に久しぶりだね、ダイバー。今まで何所で遊び歩いてたんだい?」
声を低くし、まるで母親の様に叱る青年。彼の女性的な顔つきはその様子を際立たせる。
「ンー、それは言えないねぇ。頻繁に入り浸ってるし、そこ行けないと困るし〜」
ゆっくりした口調で言い終えると、男は親指の爪を前歯で軽く噛みながら、馬鹿にしたようにため息をついた。
「何て馬鹿なことをしてくれたんだ!ダイバー、彼は明日までアリアンに引き止めておく予定だったんだよ?」
青年は声を更に低くする。そして、沈黙が走る。

「…そうだっけ?」
「そう…、君の役目だよ?よりによってグレートフォレストを通らせるなんて…。もし彼が奴らと接触したら――」
やり切れない様子を表現しながら、青年は頭を抱えた。
「それはそれで面白いじゃないか♪」
男は相変わらず気楽に言った。
「面白い?面白いだって!?…そう、面白い……。全く、君と話すとイライラするよ」
確かにイライラするが…それ以上に、「適当でもいい」と、「しょうがない」と思わされる。
彼は、他人をそんな気にさせる力を持つ男だった。

899名無しさん:2007/05/26(土) 18:42:20 ID:7F3I8sOc0
「まあ、しょうがないか。で、どうだった?彼。自分から調査しようとするなんて、よっぽどあの子に興味を持ったんだね」
直前とは打って変わって青年ははっきりと男に興味を示し、急き込んで話しかけた。
その浮き足立った様子は何か、午後の3時を目前にした子どもを連想させた。
「ああ、ヨネスには悪いことをしたが。偽造した証明書まで持ってるとは思わなかった」
「悪いこと?人間が『あの人』にしたこととどっちが悪いか…!」
青年はいきり立って口を挟んだ。その美しい顔は普段の様子からは想像できないほど強い怒りで歪んで見えた。
「聞いてくれ!あの『灰色』は半端じゃない!」
男は本当に一生懸命に語っていた。何が彼をここまで真剣にさせるのだろうか?
「彼は…磨けば、おそらく…」
「……………」
おそらく何なのかは言わなかったが、若者はそれで全てを読み取った様子だった。

「もう二度と拝めないと思っていたよ。カイルのその真剣な顔……」
青年は男を、まるで某国王の婚約指輪を見るかのような顔で見つめた。
真面目な顔をすると驚くほどの美形である男。それは過去の彼にはなかったものだったが。
「『昔』の俺に瓜二つなんだよ。…だが時は未だ触れるなと仰る」
男はニカッとわざとらしい笑みを作り、はははっと笑った。
「酷だね、あんな美味しそうなのをお預けだなんてさ」
「うん、全くだ。僕もシュトラウスが取り上げられちゃったんだよ」
青年はつまらなそうに言った。
「メイのところに転がり込んだ子かい?」
男がわざとらしいほど不思議そうに尋ねた。
「そう。彼は素晴らしい腕を持ってるよ」
「確かにあいつは美味しそうだ♪」
その男の言葉に、細身の若者は思わず吹き出していた。

「明日の0時だよ、カイル」
「俺だってさ、それぐらい覚えてるよ。リンジェル」

「「またね」」

そして。
青年が消え…
男も姿を晦ました。

ただの人間は参加できない、明日0時に起こる大イベントに備えて…。


この日、フランデル大陸極東の地に12人の者が集った。



そして、その日が『赤に満ちた夜』の始まりでもあった。

900名無しさん:2007/05/26(土) 18:44:17 ID:7F3I8sOc0
どうも、お久しぶりです。
時間が空きましたが、>>640の名無しさんです。
まだ皆さんの作品を読み終えていないので、感想はまた後日に書こうと思っています。すみません…。

最初に間違えてageてしまいました。謝ってばかりです。すみませんorz

901名無しさん:2007/05/26(土) 19:32:25 ID:VhmEmxk60
そして、その赤き満ちた夜の始まりは
まさしく「ようたー」だった

902◇68hJrjtY:2007/05/27(日) 09:36:39 ID:2hs2QYBc0
>>900さん
舞台がついにこっち側になりましたね。というよりアリアンですが…。
シリアス話かと思いきやカイルとリンジェルの話し方などなんか面白そうな雰囲気が(笑)
でもこの二人も「人間は参加できない」というと、やはり人外なんですね…なんか残念(こら
まだまだ謎めいた部分が多いみたいで、今後の話の展開に期待です。

ところでエリプトやRS内での大陸以外も絡ませた話はとても好きです。
RS世界地図と睨めっこしながらMAPの作られていない地域には何があるのかと妄想が膨らみます。

903947:2007/05/27(日) 16:50:05 ID:RAn6BvyM0
ジョブに対する偏見とイメージを書くスレPART5の>>185 >>190 >>195 >>567 >>961
PART6の>>189 >>190
これがこの小説の元ネタです。読みたい方はどうぞ。
ちなみに私が書いたのは567と961と189と190です。

これを読むにあたっての諸注意
1,一応偏見スレのリメイクなのと自分には16人もの人物を一気に登場させる力はないので
ランサ&アチャ&BIS のようにそのとき全く同じ時間にそれぞれのキャラがなにをしていたのか という書き方をさせていただきます。
2、キャラの名前は全てアチャ ネクロなどのように職名です。
上記のように偏見スレからのリメイクなので偏見スレから来る人が読みやすいようにするためです。
実をいうとネーミングセンスがないので・・・(汗
3、できるだけないようにしますが、小説化するのでストーリーによっては
偏見スレのとは多少の矛盾が生じるかもしれませんがご了承ください(汗
4、処女作なのでつまらなくてすいません・・・

それでは今回は偏見スレには書かれなかった、地震が起こる前になにをしていたかを書きます。
私は書くのが遅いのでとりあえず「ランサ&アチャ」と「天使&悪魔」編だけです・・すいません・・
それでは始まります。

904947:2007/05/27(日) 16:50:57 ID:RAn6BvyM0
「惨劇の果てに−赤石地震編」

「あれ」が起こるまで・・・あと24時間

ランサ&アチャ
「ふんふん〜〜♪」
ランサとアチャは野原にいた。
「なーに?ランサ、機嫌よさそうね〜なんかいいことでもあった?」
「べ、別にないわよ・・・」
「うそおっしゃい お母さんにはなんでもお見通しよ!」
「あんたはいつから私の母になったのよ!」
「ふふー」
バカみたいな話をして二人は笑っている。
「・・でーなにがあったのよー ま、検討はつくけどね〜」
とにやにやしながらアチャは言った。
「戦士のことでしょ」
「ち、違うわよ・・」
明らかにぎくっとした様子だ。
「ふふ、あんた嘘はつけない性格あいかわらずねーなにがあったのよ。いいかげんにしないと戦士にあんたのあんなことやこんなことバラスわよ」
「・・・と・・った・・」
「ん?聞こえないわ、はっきり言いなさいよ」
「戦士くんと一緒に帰った・・・」
「帰ったぁ?たったそれだけ?」
「うん」
うれしそうな様子でランサは言った。
「なーんだ、そんなにうれしそうしてるから キスの一つでもしたのかと思っちゃった」
「そ、そんなこと・・!・・ところでさ・・ラッキーだったよね。こんなとこで夏休みをすごせるなんてさ」
「そ、姫に感謝しないとねー姫がワンコと自然で過ごしたいから別荘行くって言ってついでに私たちも連れてきてくれたんだもんねー」
「悪魔・・・天使に告白できると思う?」
「あーどうかな・・・あのこけっこうシャイだからねー天使の前では強がってるけど内心ドキドキだもんね」
「応援したいけど・・・あの子一人でなんとかしたいって言いそうだからね・・・」
「私たちは暖かく見守ろう」
「そだね・・・寒くなってきたね。そろそろ別荘に帰ろうか」
二人は腰を上げて別荘に方向に歩いていった。

905947:2007/05/27(日) 16:51:55 ID:RAn6BvyM0
天使&悪魔
二人は川のほとりにいた。
川のそばの石に二人並んで腰掛けている。
「このような自然の豊富な場所にいると心が癒されますね、悪魔嬢」
「そうね・・・」
「天界には光と花であふれていましたが、森や川などはありませんでした。地上界にもこんなに素敵な場所があったのですね・・」
「・・・地獄には花も光も川もなかったわ・・・あったのは火と・・闇だけ・・」
天使がハッとした様子で悪魔を見た。
「・・・つらいことを思い出させてしまい申し訳ありません・・・」
「ううん・・いいの・・・」
「・・・・」
風が悪魔と天使の髪を散らし、優しく頬をなでていった。
「天使・・・」
悪魔が天使の肩に頭をのせた。
「あ、悪魔嬢・・・・・」
「地獄の悪魔でも・・・人を好きになってはいけないのかな・・」
「・・・」
「天使・・・好き・・・」
「・・!?あ、悪魔嬢・・」
「地獄にいた・・・邪悪な悪魔で・・・人を愛すなんておかしいよね・・私は・・邪悪な・・あ、悪魔・・だか・・ッッ・・」
「・・・・悪魔嬢」
天使が悪魔を抱擁した。もろくはかない彼女が壊れないように・・そっと優しく・・・
「・・・天使・・」
「悪魔嬢・・私もあなたが好きです・・愛しています。悪魔かどうかなど関係ありません・・・
あなたはあなたなのですから・・どうかそんなこと・・言わないでください・・・どうかいつまでも今のあなたでいてください・・」
「天使・・・」
「悪魔嬢・・」
二人の顔が近づき・・・唇が触れあった。
「・・・悪魔嬢・・・歌ってください・・」
悪魔が分かったとうなづいた。
天使に肩をよせ、彼女は歌い出す。この時が永遠に続くことを願って・・・


私は願う どうかこの幸せな時が永遠に続きますように

私は歌う この時を永遠にわすれないように

蒼き空を飛んでいる鳥よ 私が想っている人のところへ私の心を飛ばしてください

緑の地を走っている風よ 私が想っている人のところへ私の言葉を運んでください

人を憎めば 人は壊れてしまう 人はもろいものだから

人を愛せば 人は苦しんでしまう 人は弱いものだから

私は願う どうかあの人のところに私の心が届きますように

私は歌う あの人を想う私の心が壊れないように

沈黙と共に流れている川よ どうか私の心を癒してください

快活さと共に吹いている風よ どうか私をあの人のもとへ連れて行ってください 

人を好けば 心は痛んでしまう 心はもろいものだから

人を想えば 心は壊れてしまう 心ははかないものだから

私は願う 私の想いとこの時が永遠に変わらないように


彼女の美しい歌声が森へ川へ空へと流れていく。彼女の想いと共に・・・
この幸せな時がもうすぐ無くなってしまうことも知らずに・・・

906947:2007/05/27(日) 16:54:05 ID:RAn6BvyM0
うわ・・結構書いたと思ったのに短い・・(涙
ランサとアチャ話してるだけだし・・・
天使と悪魔いきなりな展開だし・・
つまらなくてすいません・・・

907◇68hJrjtY:2007/05/27(日) 17:35:02 ID:2hs2QYBc0
>>906さん
キ、キタ━(゚∀゚)━!! お待ちしてましたよ!
なるほど、地震が起こる前から書いて頂けるんですね。
「戦士くんと帰った」ランサたん萌え(*´д`*) これを萌えずして何に萌えればいいのか。
そして悪魔と天使も大人っぽくて、でも切ない感じで…もうウハウハです(壊) 悪魔嬢って呼び方も何かイイなぁ…。
悪魔&天使編のラストの詩のような歌のようなものもきれいです。
こういうのを書くのはセンスが必要だと思うんですよ。偏見スレでもそうですが、やっぱり流石です。

続きを期待しながらも、これが全て壊れてしまうと思うと複雑な心境です…orz
でもお待ちしていますよ!

908意気地も名も無し:2007/05/28(月) 22:00:10 ID:Bo.D9pLc0
A・Kの記録
>>573 >>586 >>597 >>601 >>712 >>745 >>747 >>851

※この小説はネタバレを含みます

4月8日


「会長ォォォォ!!」
ケルビーとともに、スウェブタワーの最上階に崩れ落ちた。
あれから二日間の旅は非常に疲れたものだ。
「あ、二人揃ってゴールインなんて、仲がいいね」
会長はニヤリと笑って、読んでいた漫画を閉じた。
「でもさ、よくやったよね、ホント。ボク、この試験初めてやったんだけど」
おい、私らは実験台か なめんなクソガキ
「でさ、お疲れのところ悪いんだけど、その精霊の背中で寝てるおじさんは誰なの?」
ハッ!?
あのおっちゃん連れてきちまった!
会長がおっちゃんに近寄ってつつく。
「おーい」
おいおい、会長が「ヘイ☆キル!」とか言い出したら困るぜ・・・
っておっちゃん起きたァァァ
ティム!何か言い訳を考えるんだ・・・駄目だな、あの様子じゃ。
「君だーれ?」
おっちゃんはアイノ会長の顔を見ると、
「まったく、年上相手に君とは何だね!」
と立ち上がった。
よく見ると、腰に剣、白金の肩当。剣闘士のようだ。
「ごめんねー、ボクはねぇ、アイノって言うんだ。レッドストーンを探してるんだよ」
レッドストーンという言葉に、剣闘士は眉を寄せた。
「成る程、レッドアイのアイノ・ガスピル、話に聞いている」
「聞いてちゃまずいんだな・・どこで聞いたの?」
私は気付いた。アイノ会長の目に光がない・・
本気で殺されるぞ!
「このおじさんはですね!我々と共に赤い石を探そうと言うのです!
アイノ会長のことも私がお話しました!」
私は剣闘士の傍によって、「いいから合わせて!」と呟いた。
アイノ会長はそれを聞くとにっこり笑い、「なぁんだ」と言った。
疑いは浅そうだ。
「名前、なんていうの?」
アイノ会長が剣闘士に尋ねた。
剣闘士は息を大きく吸い込んで、
「我が名はカール・フォン・リヒャルトハイム!お見知りおきを」


( ^ω^)

(^ω^)

「えっ・・?」

アイノ会長が目を丸くした。
「カールって・・・あのカールだよね・・?」
カールは、頷いて「左様」と言った。

ちょっと待てwwwwwwwwwwwwwwwww
あのおっちゃんじゃないwwwwwwwwwww
似てるが良く見ると違うぞ?wwwwwwwww

よく考えると確かにあのおっちゃんとは別れた!
じゃぁこのカールは・・!?
「あ・・道端で倒れてた人・・凄い人だったんだ・・・」
ティムか・・・
交代で寝てたから気付かなかったようだ。

「え・・ああ・・えっと・・じゃ、入団テスト」
アイノ会長がちょっとひらめいたように言った。
「ボクの部屋の蚊が、漫画読むときにもうるさいんだ。ちょっと狩ってきて・・30匹でいいよ」
カールが無言でアイノの部屋に入っていった。
一瞬、部屋が震えた気がした。
おそらく、剣闘士が使う戦いの咆哮。
そして、カールが部屋から出てきた。
「ウォークライだけで倒したのか・・・」
アイノ会長がカールをまじまじと見つめる。
「これは、凄い人材連れてきたね!」

えっ?現実逃避にパナパレへの告白シミュレーションしてたんで聞こえませんでした><

909◇68hJrjtY:2007/05/29(火) 10:51:28 ID:2hs2QYBc0
>意気地も名も無しさん
ケルビーに轢かれたただのおっちゃんかと思いきや普通に凄い人だ(笑)
というかキャラまで変わって…でも、さりげなく三人PT完成してますけど(*´∀`)
相変わらずな適当でいい加減ででも殺意のあるアイノ会長最高です。
パナパレと出会えるゴールまで頑張れ、A・K君!(笑)

910名無しさん:2007/06/02(土) 17:15:25 ID:/0pYly3g0
age

911名無しさん:2007/06/04(月) 00:36:25 ID:s4GXOIQsO
誰もこないし
このスレもういらないな

912名無しさん:2007/06/04(月) 00:40:17 ID:3..XwcxAo
面白いし晒しもないしー
まったりでいいんじゃないー?

913名無しさん:2007/06/04(月) 12:49:06 ID:R.lJjcoM0
>>911
ROM専の人もいると思う。ここは書き込むだけのスレじゃないし。
書き込む人が少ないっていうのは分かる。
実際1ヶ月以上誰も書き込まないとかなら不要だと思うけど、執筆してる人が数人いるんだし。
愚痴スレや鯖スレの進むスピードと比べてるなら、その時点で間違ってる。

最後に、このスレいらないとか言いながらageるっていうのは意味分からん。

914◇68hJrjtY:2007/06/04(月) 20:30:42 ID:vVR09Tiw0
うーん、なんか荒れ気味でしょうか…。というより過疎気味なのかな。。
自分が何か小説書いてうpできればいいんですがorz

今長編を書かれてる皆さんの続編UPと新規さんを祈りつつ保守させてもらいます。

915名無しさん:2007/06/04(月) 21:58:38 ID:s4GXOIQsO
いらないって言って上げると作家さんが戻ってくると思ってたんだ
ごめんね

916947:2007/06/04(月) 22:28:14 ID:RAn6BvyM0
書くのおそくてすいません・・
今回はBIS&サマナ&シフ と農家&サマナです・・
前よりはマシになったと思いますので・・(汗
前作 >>903 >>904 >>905です。
それでは始めます。

「惨劇の果てに−赤石地震編」

BIS&シフ&サマナ
「できたー!」
「がんばりましたね、サマナさん」
とBISが微笑みながら言った。
「ありがとうございます!あれもこれもBISさんのおかげです」
「今頃やっている最中でしょうから届けてきてはどうですか?」
「はい!さっそくそうさせてもらいます」
とうれしそうな様子でサマナは厨房を出て行った。
入れ替わりにシフが入ってきた。
「おっ、サマナのやつうれしそうにして・・なにしてたんだ?」
「それがですね、サマナさん、修行でがんばっている農家くんになにか差し入れがしたいとおっしゃってましてね。私が疲れた体には甘いものがいいですよと勧めたんです」
「ふーん、あの恥ずかしがり屋のサマナがねぇ・・なに作ったんだ?」
「ちょうど私がタネを作っていたのでクッキーと疲れた体には水分補給が必要なのでスポーツドリンクですね」
「ほほぉ・・・よし!俺が様子を見てきてやるよ」
「え!およしなさいな、二人の邪魔をしてきてはいけませんよ」
「だいじょーぶだいじょーぶ俺気配消すのうまいから見つからないって」
笑いながらシフが答えた。
「そういう問題では・・!!」
「んじゃ行ってくるわ!後で報告してやるから心配すんなって」
シフが手を顔の前に振りかざしながら言った。
「あ!お待ちなさい!」
時すでに遅し。シフはすでにシャドウスニーキングで気配を消し部屋から消え去っていた。
「まったくもう・・・二人のお邪魔にならなければ良いのですが・・」

917947:2007/06/04(月) 22:29:19 ID:RAn6BvyM0
農家&サマナ(&シフ)
遠くからブンブンと風を切る音と荒い息づかいが聞こえる
「ハッハッハッ!!998・・999・・1000!」
農家が虚空に三連蹴りをかましていた。
「フゥーよし次は正拳突きだな・・」
近くにある木の前に立ち、拳を構えた。その木にはまるですでに何千発も拳をうけたようにへこんだ傷が付いていた。
「はぁー・・・・1!2!3!4!・・・」
ドンドンと木に拳を打ち込み始めた。拳を打ち込みながら農家は別のことを考えていた。
『あの子は今頃なにをしているだろう・・・きれいなサラサラとしたブロンドの髪・・風になびくマント・・触ったら壊れて消えてしまうような笑顔・・・召還獣に命令を下すときの凛とした顔・・』
農家はハッとした。
「いかんいかん・・・集中せねば・・あの子のことは一時忘れるんだ・・」
また修行をし始めたが、また意識は遠くへ飛んでいた。
『あの子・・周りに澄み渡るようなきれいな声していたな・・・清らかで・・なめらかで・・』
「農家くん」
『そうそう・・こんな声で・・』
「農家くん?」
『いやに近くから聞こえるな・・・』
「農家くん!」
「わ、わぁ!!いて!」
驚いて拳を打ち込むつもりが横にそれ、肩から木にぶつかってしまった。
「ッッッ痛ー・・・・・」
「だ、大丈夫ですか・・?」
「しゃ、サマナさん!!??だ、大丈夫です・・!」
緊張のあまり噛んでしまったので真っ赤になりながら農家は答えた。
「そうですか・・よかった・・」
「と、ところでどうしてこんなところに・・?」
「あ、そうなんです!えっと・・・しゅ、修行お疲れ様です・・あの・・さ、差し入れでもどうかなっと思いまして・・・ご迷惑でしたか・・・?」
「い、いいえ!!!とんでもない!!」
うれしさに気が遠くなりながらなんとか農家は答えた。
「よかった・・・あの良かったら召し上がってください・・」
「あ・・あの・・!い、一緒にど、どうですか・・?」
大胆なことを言う自分に驚きながら農家は言った。
「え・・・」
「あ・・迷惑なら・・」
「いえ!是非ご一緒させてください」
と微笑んでサマナは言った。
いよっしゃ!と心の中でガッツポーズをしながら農家は言った。
「じゃ・・あの木陰で・・」

918947:2007/06/04(月) 22:30:06 ID:RAn6BvyM0
「おーおーうまくいってんじゃん。農家のやつよく話せるようになったなー前なんてサマナと話すどころか目の前に立っただけで鼻血出そうになってたもんなー」
シフは植え込みの影に隠れながらしっかり監視?を続けていた。


カキッと農家がクッキーを歯で割り口に入れた。
「ど・・どうですか・・?」
「・・ん・・おいしい・・」
「そうですか・・!よかった・・」
と胸に手を当てながらホッとした様子でサマナは言った。
「本当にありがとう」
「いえ・・たいしたことじゃないです・・・」
農家は横に目をやった。そこにはいつの間にか召還したケルビーの喉元をかいているサマナの姿があった。
風が吹き彼女の髪を散らした。
しばらくの間、農家はサマナのその姿に見惚れていた。
突然サマナは言った。
「・・・農家くんはどうして武道家になろうっと思ったんですか?」
「お、俺がどうして武道家になろうと思ったか・・?それは・・俺・・親父が武道家だったんだ」
「そうだったんですか」
「母親については何も知らないんだ。物心ついた時から親父にフランデル大陸中を連れ回されてた。かなりしごかれたなー・・5歳なのにいきなりコボルトとタイマンさせられたよ」
「ご、5歳でですか!?」
「といってもまぁ病気の弱々しいやつだったけどな。それでも5歳のガキにとっては強敵だったよ・・危うく殺されかけた」
笑いながら言った。
「ふふ、それは大変でしたね・・」
サマナもつられて笑った。
農家は驚いていた。あんなにサマナの前に出られなかった自分がサマナと話していることに。
「それからどうしたんですか?」
「あ、あぁそれから13歳くらいだったかな、古都に連れてこられて お前はもう一人で生きられる。自分の力で生きろ って身の回りのものを少々渡されておいてかれたんだよ」
「13歳でどうやって生活してたんですか?」
「いろんな人のクエストをしたりして生活金を稼いだりしてたな・・でちょっと武道の才能があるとかなんとか言われて今の大学に無理矢理引っ張りこまれたんだよ。シフに会ったのもその頃だったな・・・」
『そして君に一目惚れしたんだよ』
「・・で今に至るわけですね・・大変でしたね・・」
「結構楽しんでたよ。自由だったし・・親父今頃なにしてっかなー・・サマナさんの両親はどんな人?」
「あ・・・私・・両親・・いないんです・・1歳くらいにロマ村にテイマ姉さんと捨てられて・・・今のおじいさんとおばあさんに拾われなかったら・・のたれ死んでたかもしれません・・」
「・・つらいこと聞いて・・ごめん・・」
農家はサマナに深く頭を下げた。
「いいんです。昔のことですから・・今から3年前くらいにおじいさんとおばあさんが息を引き取った時に、二人で村を出ようって決めたんです。それで大きな街の方が仕事があるだろうということで古都に来たんです。それからは二人で協力してクエストをしたりしてお金を貯めて、今の大学に入ったんです」
「大変だったね・・・」
「でも今は楽しいですよ。アチャさんやランサさんBISさんやシフさんや・・たくさんの友達ができました・・」
『そして・・・かけがえのない人もできました』
「でも・・・時々不安になるんです・・テイマ姉さんが・・みんながいなくなってしまったらどうしようって・・時々すごく不安になるんです・・」
とサマナは両腕を抱きながら辛そうに言った。
「そうなったら私は一人ぼっちになってしまう・・・」
「サマナさん・・・」
『こ、これは長い間考えてきたあのセリフを言うときでは!言え!言うんだ農家!「俺があなたをずっと守ってあげます」と!』
「お、俺が・・・」
「農家くん・・?」
サマナに突然顔をのぞき込まれた。
「あなたを・・・・・」
「・・?」
農家はだんだんサマナの顔の黒く輝く瞳に吸い込まれていって・・・目の前が真っ暗になった。
「・・農家くん?・・農家くん!?大丈夫!?」
農家は目を開けたまま気絶していた。


「あーなにしてんだよ農家のやつ・・めっちゃ良いところで気絶しやがって・・少しは変わったようだがあの悪癖を直さないことにはな・・・・しっかしサマナにあんな過去があったとはね・・・そろそろとんずらするか」
植え込みから出ようとした時にふとサマナたちのところに目をやり不思議に思った。
「あれ・・ケルビーがいねぇ・・どこいったんだ・・?」
ガサッと音がした。振り向くと目の前にケルビーが立っていた。どうやら怒っているようだ・・
「えーーっと・・・見逃してくれる・・・わけないよね・・?」
一瞬ケルビーの口元がニッとなった気がしたが、もうすでにしっぽには炎が宿っていた。


そのあとシフの腕に原因不明のやけどが付いたのは言うまでもない。

919名無しさん:2007/06/05(火) 00:09:56 ID:VL3.V0q60
>>915
こっちも言葉が悪かったみたいで、雰囲気悪くしてしまってゴメン。
また大人しくROMに戻ります。

その前に、今日は休みで暇だったんで、テンプレを改造してみた。
少し字数が多いけど、落ち着いた感じがすると思うんだ。どうだろう?


書いた赤石サイドストーリーをひたすら揚げていくスレッドです。
作品を書き込むだけでなく、他の人が書いた作品の感想を書いたり、書き込まずに読み専門として過ごすのもありです。
職人の皆さん、前スレに続き大いに腕を奮ってください。

【重要】
下記の項目を読み、しっかり頭にいれておきましょう。
※このスレッドはsage進行です。
※スレを上げるときには、時間帯などを考えること。むやみに上げるとスレが荒れる原因となります。
※下げる方法:E-mail欄に半角英数で「sage」と打ち込む。

◇職人の皆さんへ
※技量ではなく、頑張って書いたという雰囲気が何より大事だと思われます。
※短編長編はもちろん関係ありませんし、改変やRS内で本当に起こったネタ話などもOKです。
※エロ、グロ系はなるべく書き込まないこと。エロ系については別スレがあります。(過去ログ参照)

◇読者の皆さんへ
※激しくSな鞭叩きは厳禁です。
※煽りや荒らしは放置しましょう。反応してしまうと、その人たちと同類に見られても仕方ありません。
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。

【過去のスレッド】
一冊目 【ノベール】REDSTONE小説うpスレッド【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1117795323/

二冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 二冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1127802779/

三冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 三冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1139745351/

四冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 四冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1170256068/

920殺人技術:2007/06/05(火) 01:07:45 ID:E9458iSQ0
>>915
軽く釣られましたよっと。

チョキー・ファイル

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

32-36>>548-552
37-38>>568-569
39-42>>592-595
43-46>>617-620
47-51>>693-697
52-56>>760-764
57-62>>806-811
63-65>>825-827
66-70>>838-842
71-77>>869-875

921殺人技術:2007/06/05(火) 01:08:25 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(78)

 なぜ、私は生きている。
 目の前にある一つの亡骸を前にして、私は沈黙した。
 精神と肉体は一つ、今の私の身体は幻影ではなく隠して置いた肉体だが、精神はこの死体と同調していた。
 そして、この男――チョキーの肉体が死ぬ事で、チョキーの精神も死ぬ。同調していた私の精神は拡散し、この私は精神的にも肉体的にも死滅する筈だ。
 こんな事はありえない! だが目の前の現実はそれをまざまざと否定している。
 「私の認識が間違っていたのか……?」
 私は半ば途方に暮れる様に呟き、暗い闇の中で、上層の方で複数の足音だけが響くのを聞いた。
 ――そうだ、残念がる必要などないのだ。
 結果的に、私の命を脅かす唯一の懸念が取り越し苦労に終わった。そうなれば事は簡単だ。
 私は背中に残る鈍痛に耐えながら、魔力を集中して宙を仰ぐ。
 恐らくあの女性は人間を解放しようとしているだろう、いくら手練れでも足手纏いを引き連れた状態では戦えまい。
 「――?」
 唐突に、私は浮いて行く身体を静止した。――先程とは、何かが違う。
 誰かが居る。
 私の世界が緊張でぴんと張り詰めた刹那、私は見た。
 暗闇の中、存在を忍ぶかのように音もなく、光も無くふわりと落ちてくる、一枚の黒い羽根を。
 そして、微かな光すらも消し去る、羽根から迸った、黒の奔流。

922殺人技術:2007/06/05(火) 01:08:47 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(79)

 「久しぶりだな、F・F」
 目の前の黒い鳥人間は、闇に身体を溶け合わせながら、微かに灰色がかった黄色い嘴を上下させて言った。
 喋り方、漆黒の容貌、口調と声、そして先程の瞬間移動の能力。記憶の映像よりも全体的に少し荒んで見えるが、地下界の鳥人族の男――W・C、そのものだった。
 「――なぜ、ここに」
 それしか出なかった。他に何を言えと言うのだろう。
 本当は色々と問い詰めたかった、何故地上界に来てしまったのか、何時地上界に来たのか、地下界の様子はどうか、死んでユニークアイテムとなったのではなかったのか。まだ足りない。
 W・Cは明らかに動揺する私の顔を見てニヒルな笑みを浮かべると、嘴を引いて言葉を紡いだ。 「ユニークアイテムに化けるくらい、私には簡単なんだ」
 私はそれを聞き、微かに失笑を浮かべつつ、W・Cに訝しげな視線を送り続ける。
 「それは良かったが、何故今になって私の前に現れる? 人間に与するつもりか?」
 私は早口でまくし立て、W・Cは爪で頭を掻き毟りながら、溜め息の後に言った。
 「俺がここにいるのは人間の為ではない、第四位王位継承者の為でもない、ここに来てしまった原因は地下界の所為だが、私にはここ地上界で為すべき仕事が別にある」
 W・Cは笑みを奥にしまい込み、精悍な瞳を爛と光らせる。
 「そう、お前の為だ、しかし実行するのはお前自身でなければならない」
 「……どういう事だ? ……私は何も困っていないぞ」
 私は怪訝とした目でW・Cを見据え、その姿が再び口を開く。
 「いや、あるはずだ――私は以前から、お前が商人の男に憑依した頃から、ずっとお前をこの地上界で見守ってきた、お前にも心当たりがあるだろう」
 「心当たり――」
 それを聞いて、私はふと思い出した。
 ビガプールの宿、私がチョキーに記憶の映像を見せたとき、橙色に染まる窓の奥に一瞬だけ現れた、たった一羽だけの烏、そして何者かが灯した燭台。
 あれは、こいつだったのか。
 「――手短に話そう、F・F、お前は商人の屍の側に行け、そしてそこを離れるな」

923殺人技術:2007/06/05(火) 01:09:17 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(80)

 W・Cはごほんと咳払いをすると、ファイルにとって訳の分からない要求をして、ファイルは首を傾げた。
 「……どういう意味だ?」
 ファイルは小さく聞き返し、だがW・Cはそれには答えようとはしない。
 「説明している時間はない、急ぐんだ!」
 急にW・Cの瞳に必死さが宿り、ファイルは微かに動揺したが、眼下の死体を見下ろすだけで動こうとはしなかった。
 「しかし……」
 ファイルは口ごもり、次々と解放されていく人間達の足音を耳にして、その声に焦りと苛立ちを含ませる。
 「――そこをどけ! お前に構っている余裕はない!」
 ファイルは怒鳴り、W・Cはファイルの肩を手で強く押さえつけて、嘴を大きく開いた。
 「駄目だ! これは"何の根拠もない事実"なんだ!」
 「!」
 W・Cがそう言った瞬間、ファイルの怒りが止まる。
 ――何の根拠もない事実――
 「――お願いだ、この問題を解決出来るのは、お前だけなんだ」
 「………………」
 ファイルは沈黙し、W・Cは恐る恐る両手を離しながら、大きく息を吐いて、言った。
 「……ありがとう」
 ファイルは無言で足下の暗闇へと降下し、W・Cも後を追って、砕けてしまった大理石の上に足を降ろした。
 「――そうだF・F、君は一つ誤解をしている様だから、一応言っておく、私は常にお前達を見ていたが、燭台を灯したのは私ではない」
 「?」
 「……今となってはどうでもいいか、私はもう消える」
 W・Cは思わぬ事を言った後、翼を広げてそこから一本の羽根を抜いた。
 「待ってくれ!」
 ファイルは思わず呼び止め、W・Cは手に羽根を乗せてファイルを見る、ファイルは直前で質問を変えて問いかけた。
 「――地下界は、どうなっている?」
 W・Cはそれを聞いて暗闇の中で微かに目を伏せると、何処を見るでもなく呟く様に答える。
 「諦めた方が良い――戦うのだ、ファイル」
 そして、黒い閃光となって姿を消した。

924殺人技術:2007/06/05(火) 01:09:37 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(81)

 暗黒の世界に静寂が戻り、ファイルはチョキーだった物の前で一人、ただ黙して立っている。
 人々は全て逃げ出し、本来ならとっくに軍隊が大挙して押し寄せる頃合いだが、悪魔の耳には足音はおろか、物音の一つも聞こえない、まるでその空間がごっそりと永久凍土の中に封じ込められたかの様に時が止まっている。
 W・Cの魔法の威力だろうか、それとも単に悪魔に恐れを成して入り込めずに居るのか。定かではないが、ファイルには、少なくとも今は、そんな事はどうでも良かった。
 何の根拠もない事実
 いつの話になるだろうか、自分も何処かで言った事があるなとファイルは頭の隅で考え、W・Cの言っていた通り屍の側でただ黙して立ち、ほとんど無表情に近い顔でその死体を覗き見る。
 「……何をしている」
 ふと、頭の上から朗々とした、だが静けさを破る事を恐れる様な声が響き、ファイルは顎を上げて声の主を見る。
 瓦礫の隅に立ち、何らかの蔓が絡みついた白銀の翼をてらてらと光らせて、一人の追放天使――アドナイメレクがファイルを見据える。背後には翼が放つ光に隠れてカイツールが悪魔の姿で佇んでいる。
 「結局お前は本来の目的は達成できなかった様だが……何故だ? 恐らくお前の目的は魂を掻き集めて、地下界へ戻る儀式を行う事だろう。私が悪魔なら邪魔な冒険者や魔術師等には構わず、適当に逃げ回りながら無力な人々を殺し、魂だけを拾って逃げるが?」
 「……知らぬな」
 アドナイメレクのおよそ元天使とは思えない詰問に、ファイルはぶっきらぼうに答えた、相手には投げやりな返答に聞こえるだろう。
 だが、ファイルは本当に知らなかった。自分が何故効率的かつ迅速な方法を取れなかったのか――いや、何故その方法に気付く事すらできなかったのか。
 「……貴様、何者だ?」
 暫しの沈黙の後、アドナイメレクの赤眼が突然爛然とした光を湛え、ファイルの姿を、一人の悪魔の姿を見据える。
 「今一度地下界の風を渇望する追放者か? 人間を快楽の赴くままに狩る真の悪魔か? はたまた不当な追放による地下界への復讐者か?」
 アドナイメレクが最後の言葉を言い切った時、ファイルは背後のカイツールの顔が微かに歪むのを見逃さなかったが、ファイルはただ黙して立ち尽くした。
 「……それもわからぬか」
 アドナイメレクは厳つい顔に微かに落胆と諦観を混ぜた様な色を浮かべ、くるりと一回転してカイツールの方へ向き直る。
 「帰るぞ」
 アドナイメレクがそう呟き、カイツールが小さく頷いてそれに答えた。
 「待て、我を置いて帰るのか? まだ話は終わってないぞ」
 突然、二人をファイルが引き留め、カイツールは足を止め、アドナイメレクは半ばうんざりしたような表情で振り返った。
 そして、その顔が困惑に変わる。
 「この腑抜けが、我が目標を違えた物の助力など、もう必要ない」

925◇68hJrjtY:2007/06/05(火) 05:58:50 ID:ivyW5no.0
>>919
テンプレ改良いい仕事ですね。いちスレ住人として感謝です。
欲を言えばあと一文、この小説まとめサイト(http://www27.atwiki.jp/rsnovel/)を入れて頂けると嬉しいかなとか。
しかし、4冊目ですか…。最初から読み直すと色々な発見があってほんとに良いスレです。

>947さん
ついに…武道サマナキタ━(゚∀゚*)━!!
画面の前でニヤニヤしながらシフ君と同じようにして眺めてましたよ(*´д`*)
即鼻血&気絶からだいぶ成長しましたなぁ、武道君。普通に恋人同士だ…
しかしあと一歩なのに、もどかしくて仕方ない!それが武道君のいいところなのかもしれないけど(笑)
書くスピードについては気にしないで結構だと思いますよ。ご自分のペースでお願いします。

>殺人技術さん
アドナイメレクが初めて本当に怖いと感じてしまった…逆にファイルが何か頼りなく見えてしまいます。
物語がかなりの佳境に入ってきてだいぶ経ちますが、まだまだ残る謎と続きを読みたくて仕方ないです。
謎のひとつでまず燭台ですが…W・Cでもないとすると思い当たる人物は限られてきそうですね。うーん、気になる。
そしてチョキーの死体がどうなるか。物語の最後にどのような形で今の古都にいる物忘れチョキーになるのかがとても楽しみです。
終わって欲しくない気持ちも強いんですけどね( ´・ω・)

926169:2007/06/06(水) 00:36:19 ID:/dsnQ4z20
亀ですが947さん小説板デビューおめでとうございます。
私も偏見とイメージの新人研修書き終えたらこちらにお邪魔しようかと虎視眈々と伺っていたのですが、やっぱり最初は少し尻込みしますね・・・。

ではでは!雰囲気の違う947さんの作品で目尻を下げながら今回はこれで失礼しますー。
(ちなみにコテハン169は偏見とイメージスレの俗名ですのでこのスレの169さんとは関係ありません)

927◇68hJrjtY:2007/06/06(水) 16:07:13 ID:ivyW5no.0
>169さん
そうか、偏見スレから来てくれる職人さんも居るんですよね。
確かに同じ空気といいますか、創作系スレとしては同類みたいな印象です。
新人研修ですか、登竜門みたいになってるんですね(笑)
いきなりこっちに書いてくれるのも全然歓迎ですよ(*´д`)

947さんも169さんも気兼ねせず偏見スレからの延長のお話を書いてくれるのをお待ちしてます。

928947:2007/06/06(水) 17:35:16 ID:RAn6BvyM0
あちゃぁ・・・とうとう169氏に見つかっちゃった(笑)
いつかは見つかるだろうとは思ってましたが・・こんなに早いなんて(恥)
こんな私の駄文でよろしかったらいくらでもどうぞどうぞ
169氏の書く小説楽しみにまってますね。
それでは〜

929886:2007/06/06(水) 17:39:11 ID:pfdBf7IQ0
あぁ。。。。今日も冒険に出る勇気が僕には湧いてこない

そんな僕の横を、これまで何百人と言う冒険家が通り過ぎて行ったか、見当もつかない。
恐らく、僕と同じように、外界に飛び出すには危険の伴う”若葉”と呼ばれる立場にもかかわらず、彼らは、颯爽と森の奥へ姿を消していく。
そして、ぼろぼろに傷つきながらも街へ戻り再び冒険に赴く。
彼らの何がそうまでして危険に身を投じさせるのか、今の僕には全く理解ができない。
もちろん、冒険に出なくてはならない理由が僕にもないわけではない。
でも、どうしても最初の一歩を踏み出す勇気が出ないのだ。

今日こそは。。。。今日こそは。。。。
そう思いながら、もうどのくらいの月日が経っただろう。

でも、そんなある日、冒険に出る彼らのほとんどが不思議な呪文を唱えていることを発見した。
そうか、その言葉が、自分に勇気を与え、戦う力を沸き立たせてくれるんじゃないか?
その呪文があるからこそ、彼らは何の躊躇もなく冒険へ旅立てるんじゃないのか!?
そうだ、そうに違いない!
どれどれ、ちょっと、聞き耳を立ててみよう。。。
ふむふむ。。。なるほど。
意外と簡単な言葉みたいだ。

よーし!
これでもう、アリエルの家の前で、ただ何もできず傍観しているだけの自分から脱出できるかもしれない!
アトボンさんにも迷惑をかけることも、ストーカーと勘違いされる事もなくなるかもしれない!
明るい未来に向かって、今こそ叫ぶ時だ!
渾身の力を込めて、僕は叫んだ!


エンヘイよろっ!!


伝記:古都西冒険家 ヘバ より抜粋

930◇68hJrjtY:2007/06/07(木) 16:28:18 ID:ivyW5no.0
>886さん
「エンヘイよろ」
…うーん、若葉さんがいきなりパワーアップできるというのは否定できない事実ですね(苦笑)
もらうつもりがなくても走り抜けようとするだけでエンヘイをくれてしまうのがあそこですよね。
しかしヘバさんが旅立ってしまうとこっちも初心者クエができなくて困るんですが(笑)
前回のロマさん同様、こういうNPC視点からのお話は好きです。
〜記シリーズになるのでしょうか?楽しみにしています。

931886:2007/06/07(木) 17:28:50 ID:pfdBf7IQ0
>◇68hJrjtYさん
いつも(。。。と言っても、まだ2回目ですがΣ(ノ∀`*)ペチッ)、感想を書いていただいて、ありがとうございます。
つたない文章ですが、ネタが浮かんだら短編短編で書いていきたいと思っていますので、
よかったら、お付き合い下さい|ω・`)
ちなみに、最後の〜記の部分を考えるのが一番楽しいのは、内緒ですw

932NT:2007/06/08(金) 01:24:19 ID:Qa5cFrRg0
はじめまして 初書き込みです
皆さんの物語に刺激され自分も少々書いてみました。
大変稚拙ですがお付き合いください。

「復讐」

―あれは私からすべてを奪っていった。
 愛する家族、住み慣れた村、そして最愛の人をも…
 偶然にも難を逃れ
原型も留めていないかつて村だった荒野に私はひとりで立ち、
 そして復讐をここに誓う…



空は快晴、暖かい気候で絶好の旅日和。
私は今日も街道を相棒の槍とともに歩く。
旅をする目的…私は別に旅好きというわけではなく、ただ復讐するためだけに旅をしている。
出発してからかれこれもう5年はたつ。
ということはあの惨劇から6年も経ったのか…
こうして目をつぶるとあの光景が昨日のように思い出してくる。

 あの惨劇。
 6年前にある地方の町が何者かの襲撃にあいわずか一夜で原型も留めていないほどに壊滅した。住民は皆行方不明になったが、町の残骸の中から次々と死体で発見されたので全滅だろうといわれている。
 この町とは私の故郷である。つまり私は唯一の生存者ということになる。
 何もしていない住人たち、町を、すべてを壊す。こんなことが許されていいのか。
 国の治安部隊も必死になって首謀者を見つけようとしたが結局発見できずに探索を打ち切った。

 …だが、私はあれの姿を見た。
 見た瞬間の光景が、その姿が脳の奥深くに焼き付いている。今は霞みがかっていて思い出せないがあれをもう一度見れば必ず思い出す。これは間違いない。
 私は復讐を誓った。役立たずな治安部隊でもいつかはあれを見つけられるだろう。
 だがそれでは遅い、遅すぎる。
それでは私の、殺された皆の無念が晴れない。
 だから…私はひとりであれを見つけだし、そして殺す。
 
 私の父は娘の私が言うのもあれだが凄腕の槍使いだった。
私は父の書いた槍の本を見つけじっくりと鍛錬した。
 そしてそれから一年後私は復讐の旅にでたのだ…

つまり私は復讐者だ。復讐以外は何も望まない。

933NT:2007/06/08(金) 01:26:09 ID:Qa5cFrRg0
「ずいぶん長く物思いにふけってたが…どうした?」
奴の一言で私は眼を開けた。
私の三メートルほど横に男が一人立っている。
このいい天気なのに全身黒ずくめの服を着ているこの物好きな男。
「べつになんでもないわ。」
私はいつものように返した。
「ふーん、まあいいけど。それより先に進まないのか?」
五月蠅い。
その男…シーフは私が止まっているので止まっている。
早くどこかに行かないかな。正直邪魔だ。

あらかじめ言っておくが別にこいつと私は組んでいるわけではない。なぜかこいつが勝手についてくるのだ。
それも三年前からずっと。世の中にはほんとに変なやつがいる。
一度本気になって追い払う、もしくは殺そうとしたがこいつは相当な腕前のシーフで
結局私の槍は最後までかすりもしなかった。
それ以来ついて来るこいつを私は無視しながら旅してきた。
「…」
こうしてわたしは進みだす。
そして奴も歩きだした。私と同じ方向に。
…どこまで付いて来る気なんだ?

今日は快晴、絶好の旅日和。
うまくいけば昼過ぎには目的の場所につくだろう。
そこにあれがいると信じて私は進む…

いや今回はなにかあると確信している。
たとえあれがいなくてもその手がかりは見つかりそうだ。
私はそんな根拠のない確信を感じていた

934NT:2007/06/08(金) 01:31:03 ID:Qa5cFrRg0
―あれは俺からすべてを奪った。
 反抗ばかりしていたが本当は優しかった両親、いつか出て行こうと思っていたがそれなりに愛着のあった故郷を…
 でも俺は悩んでいる。
 本当に復讐をするべきなのかを。
 なぜならあれは俺の…


俺の名前はウィド、シーフをやっている
別に盗賊というわけではないしシーフギルドとも何の関係もない。
趣味はストーキングだ。…無論冗談だが
俺は今旅をしている。
だが明確な目的があるわけじゃない。
目的はある…が俺は悩んでいる。
それをすることが本当に正しいのかどうか…

今の俺の目的は彼女についていくことだ。
何でこんなことをしているのだろう?理由は分からない。(わかりたくない)
いつものように俺を無視して歩きだす彼女
もう三年も一緒に旅をしているんだからそろそろ認めてくれてもいいのに。
もう追剥とかそういう誤解も解けてるだろうし…
てか名前ぐらいは教えてほしい。なんて呼べばいいか困ってるんだから…。

…無視され続けて最近ちょっと悲しくなってきた。
彼女は基本的に街に行かない。だからおれの話し相手は彼女以外はたまたま道中で会う他の冒険者しかいないのだ。
今度街に行こうと進言してみよう。億万分の一ぐらいの確率で俺の意見が通るかもしれない。

彼女は今何をしているか俺は知らない。教えてくれないからな。
まあ大体想像はつくが。
だが今回彼女はなにかあると確信しているようだ。(…そんなものあるわけないのに)
だから彼女は今にも走り出しそうな勢いで進んでいる。
「なあ、速いよ。少しペースダウンしないとばてるよ?」
「…」
ああそうですか、無視ですか。
しかたないな。
俺は彼女に追いつくために少しスピードを上げた…


いきなり長編書くとはついに脳が腐ったか俺OTL
皆さんの文才がほしいです…
ご助言を頂けると激しく嬉しいです
一応構想は立ててあるのでかけたら次もUPしたいと思うのでよろしくお願いします。
求)文を書く才能

935◇68hJrjtY:2007/06/08(金) 08:32:11 ID:ivyW5no.0
>886さん
いえいえ…こちらこそ、感想ばかりで申し訳ないです。
小説に対しての指摘がなにぶん苦手なもので、書き手さんには参考になるような事も言えませんorz
でも886さん含め、皆さんの小説をいつも楽しみにしております。
記シリーズ確定ですか、是非とも886さん独特の視点からのお話を展開させてください。

>NTさん
おお、新規さんですね、初めまして!
二つの視点からのお話、でもどちらも謎めいてて何か惹かれるものがあります。
単純に復讐というだけで終わらなさそうな。そしてシフランサってのもイイなぁ(*´д`*)(こら
シーフ君とランサー嬢の関係あたりが重要なポイントのようですね。
続きのほうお待ちしています。助言らしいものができず、すみませんorz

936NT:2007/06/08(金) 22:07:39 ID:Qa5cFrRg0
>>◇68hJrjtYさん
初めまして。そしてご感想ありがとうございます!
かなり励みになりました。
ところで私が書こうとしてるのはシリアス(てか暗い話)100%です
というのも明るい話が書けないからですOTL
(誰か書き方を教えてください(殴)
もうすぐ1000スレっぽいので次のを投下したら5スレ目に次から投稿しますね

937NT:2007/06/08(金) 22:11:19 ID:Qa5cFrRg0
>>932-934の続き


―私には姉がいた。
上の姉は槍がとてもうまく、将来父の跡を継ぐだろうと言われていた。
下の姉は槍よりも弓がうまく弓使いだった母を喜ばせていた。
だが、私は何もなかった。
そのことが何よりも嫌で、劣等感を抱いていたことは覚えている…


「…ふぅ。」
私は持っていた書物を本棚に戻し、一度伸びをした。
今のところ収穫はゼロ、あの確証はやはり勘違いだったのだろうか?
いや、そんなことはない…はず。
まだ半分しか調べていない、きっとどこかにあるはずだ。
半ばあきらめている心に鞭を打ってはまた本棚を物色し始めた。


ここはレッドアイという組織が昔拠点にしていたといわれている古い遺跡である。
当時、この地域に疫病がはやりレッドアイはこの拠点を放棄したといわれている。
だが所員のほとんどが疫病で死に、撤収の時に運び出されずに放置された書物などがある。(もちろん最重要機密の文書などはないが)
私がこの話を聞いた時、直感でそこに行かなければならないと感じた。
そして、予定通り昼過ぎには到着したのだが、
「おお、手荒い歓迎だな」
あいつが言うとおり、着くと同時に思わぬ歓迎にあった。
長く放置されていたがここは強盗団のアジトになっていた。
探索の邪魔だったので全員に黙ってもらったが、おかげで時間を食ってしまった。
遺跡内は正直長居したい雰囲気ではない。なので早く探索を済ましてしまおう、と決めてただいま最後の本棚を物色中だ。
あいつは今はいない。きっと宝物でも探しているのだろう。
あんなのにかまっていると日が暮れるので私は一人で探索していた

そして私は手に取った。本の間に挟まれていた「本部の●●幹部殿へ」と書かれた封筒を。
私は始め何気なく手に取って読んでいた。
だが、
『…さて、ここのところ人の形に化けた悪魔が多数出没しています。
 どうも組織の機密文書を狙っているようです。
わが支部の近くにも現れ、多数の被害をこうむりました。
幸い単独なので見つけ次第抹殺しますが、本部にも十分な注意をするようにお願いします。
生き残った兵から聞き出したこちらの近辺に現れた悪魔の様相を同封しておきます。』
その封筒にはこの手紙ともうひとつ絵の描かれた紙が入っていた。
「…こいつ」
私はついに見つけた。

この同封されている人間の絵と悪魔の絵…
この悪魔のほうに私は見覚えがあった。
いや間違いない、こいつだ。
あの日見た姿は間違いなくこいつだ。
「悪魔、ラルド…」
私はついに手がかりを見つけた…!

ここにはもう用はない。
手早く片付け、荷物を持ち入り口に向かった。
気分はいい。
何しろやっと手掛かりが見つかったのだ。
と、入口の近くにあいつがいた。
「…」
珍しく黙っている。
無視して外に出ようとする、しかし。
私は動きを止めた。
今のあいつの目…
一瞬だが
殺気を帯びて
こちらを見ていた。
一瞬が永遠に感じる中
飛んでくる二本のダート…
そして鉄と当たるような甲高い音が聞こえて私は我に帰った。

938NT:2007/06/08(金) 22:14:24 ID:Qa5cFrRg0
―俺には姉がいた
長女は気のやさしい人で絶えず他の人のことを考えていた。
次女はとても勝ち気で父の跡を継ぐだろうと言われていた。
だが、俺には何もなかった。
姉たちとの差を実感する毎日の鍛錬も嫌だった。
幼いころの俺はそのことで劣等感を抱いていた…

「おーい」
とりあえず話しかけてみる。



無反応。
彼女は本棚を調べだしてから黙々と作業をしている。
邪魔すると槍が飛んできそうなのでその辺で暇をつぶすことにする。

正直彼女はとてつもなく強くなった。
20人はいたであろう強盗団をわずか一分で皆殺しにした。
ちなみに俺はその辺の柱の陰に隠れていた。
なぜなら加勢したら一緒に刺されそうだったからね。
まあいま彼女とやりあったら負けるのはおそらく俺だろう。
そんなことを考えながら彼女とは別の部屋を探索していた。
正直ため込んでいるだろう宝には興味がなかったので俺も本棚を物色することにした。
しかしいろいろなものがあるな…

悪魔辞典、錬金術、街道マップ、「商道について」、「完璧!転売法」、多少エロの入った雑誌…
「って最後のほうは強盗団の持ち物じゃん!。」
ひとりで突っ込んでみる…
微妙にエコーがかかる。
寂しいね。わかっていたことだが。
まあロクなものがなかった。
そして最後に取った本が「魔力とネックレスについて」という本だった。
始めは何気なく読んでいた。
だが、
「これは…」
最後まで読まずに
俺はこの本を自分の荷物の中に入れていた。
そして彼女を待つべく(ばれないように)遺跡の入り口に向かった。
待っている間俺はさっきの本のことを考えていた…
見間違いかもしれない。(そんなわけないだろう?)
見間違いではないなら
あれは、本当に…

そこに彼女が戻ってきた。
俺を見つけて不機嫌になる。
そこまで毛嫌いされるとさすがにへこむな…
そう思っていた時、
彼女の後ろに弓を構えた強盗団の生き残りが…!
言葉を出す暇はない。
殺気を一瞬彼女に見せ、警戒心を抱かせ止まらせる。
そうすることであの弓兵の狙いを限定させる。
とっさに投げれるダートは二本、あの弓兵も矢を二本つがえている。
間に合うか?
…冗談を
そして俺はダートを投げた…



私の後ろでダートと何かがぶつかる音がした。
とっさに振り向くとそこには矢とダート、奥に私を狙っている弓兵の姿が見えた。
すべてを察した私は槍を構え残された獲物へと突進していく。
そして相手が何かをする前に心臓を一回貫いた…
「××××」
後ろであいつが何かを言っていたがよく聞こえなかった。


「さすがに助かったわ、ありがとう。」
今のは危なかった。浮かれて弓兵の殺気に気付かなかったなんて…
「まあ無事ならそれでいい。」
こいつはぶっきらぼうに答えた。
…照れてる?
「それよりも、貸し一な。」
「はい?」
「あんたの命を助けたんだ。それなりの対価をくれ。」
…こいつは。
まことに腹立たしい、が助けてくれたことに変わりはない。
ここは素直になるか。
「わかったわ。で、何が望みなの?」
そういうとこいつは本当に驚いた顔をした。
「まさか俺の言うことを聞いてくれるとは、天変地異の前触れか…?」
小声でとても失礼なことをいった気がしたが今は無視する。
「わかった。じゃあ…」




そうして彼の言ったことはとても簡単なことだった…

939NT:2007/06/08(金) 22:19:30 ID:Qa5cFrRg0
夜。
彼女は寝ている。
見張り役は相棒の俺の役だ。
貸し一の対価、それは俺を旅の相棒として認めてもらうこと、あと俺を名前で呼んでもらうことだ。
まあもともと三年も一緒にいたわけだしそんなことならって彼女もOKした。
やっと無視されなくなるよ…
そう思って安堵し、これからの旅のことを考えて少し浮かれていた瞬間、
(俺はいったい何をやっているんだ?)
確かにそんなことが聞こえた。
俺は顔をあげた。
周りにはだれもいない。
いつもの寝言を言っている彼女しかいない。
(もう一度言う俺は何をしているんだ…?)
耳を澄ます。
木の葉が揺れる音もしない。
(俺は誰と一緒にいるかわかっているのか?)
だとしたらこの声は
内なる自分の声か…
(俺は誰と一緒にいるのか本当に分かっているのか…?)
内なる自分。
それは復讐を切に願う自分だった。
(わかっていないなら俺のために俺は言おう)
…うるさい
(俺がいつも一緒に)
…やめろ
(行動している)
…その先を言うな
(その女は)
…お前が言うくらいなら俺が言ってやる
(じゃあ言ってみろ?)

先ほどの遺跡でふと出た言葉。

「残念だったな。この女を殺すのは…」

この言葉が自然に出た時、俺は愕然とした。
やはり俺は復讐を望んでいるのかと。
「この女は」
内なる俺に告げる。



「俺の家族の、村の仇だ…!」


内なる自分は今はもういない、満足して表面から消えたのだろう
だが俺は今でも悩んでいる。
復讐をするべきなのか。
なぜなら…


To be continued

940◇68hJrjtY:2007/06/08(金) 23:25:37 ID:ivyW5no.0
>NTさん
何やらとんでもない裏事情が判明してきましたね。運命の輪みたいに繋がっている感じです。
交互に視点変更しての語りですが、NTさんのはとても読みやすいです。
重要なのはシーフ君はそれを覚えているのにランサー嬢は気がついていないという点ですね。
(君だの嬢だのすみませんorz)
なのに二人とも同じ境遇を過ごしていた…似たもの同士なのにちょっと悲しいです。
次回は次スレですか、続きが書かれるのを楽しみにお待ちしています。

ところで名前ですが適当に省略してくださって構いませんよ。
自分でも打つのが面倒ですorz

941携帯物書き屋:2007/06/09(土) 01:07:40 ID:PaV4iO2A0
プロローグ 前スレ>645
1日目>646>692 2日目>693-694>719-721 
3日目>762-764>823-825>874-878 4日目>>34-37>>73-75
5日目>>95-98 6日目>>185-187>>227-229 
7日目>>306-310 8日目>>383 9日目>>384
10日目>>461-465 >>556-559 >>634-638
11日目>>716-719 >>812-813 >>817-818 >>831-832 >>877-878
12日目>>879-882 13日目>>883
ネタ話>>123-125

あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>877-883

『孤高の軌跡』

空は晴天。爽やかな暖かさ。
そんな中、俺は父親と手を繋ぎながら、最高の気分で公園から家へと帰宅していた。
俺の父親は、良いお父さんだった。
いけない事をすればしっかりと叱り、それ以外では優しく、休みの日には子どもと遊んでくれる。
そんな父を持った俺は幸せ者だろう。

父さんは俺に笑い掛け、それを見て俺は無邪気に笑う。
手を繋ぎながら角を曲がる。その時だった。
――なんだろう、あれ。
角を曲がって見えた物。それは1本の白い直線だった。
周りを見回すが、父さんや、他の人たちもそれに気付いている様子がない。
――俺にしか、見えていない?
一見俺みたいな子どもが悪戯で引いた線のようだが、それは見れば見るほど何か惹かれるものがあった。
「お、おいっ、待て翔太!」
気付けば父さんの手を振りほどき、一直線にそれへと駆けていた。
ただ、それに触れたくて。線の果てが知りたくて。
歩道から車道へと飛び越え、線を辿る。線の果ては案外あっけなく判明した。

――――なんだ、つまらない。線はあの車から伸びていたのか。

線は迫り来るトラックから伸びていた。
俺と線との距離が縮むのに比例して、トラックとの距離も縮んでいく。
クラクションを鳴らされようと関係ない。俺にはもうこの線しか見えて――――
俺と線との距離が0になる瞬間、全身に激しい衝撃が走った。



声がして、ゆっくりと目覚める。
網膜に光が差し込み、視界が復活する。俺の眼前には見知らぬ中年の男がいた。
「おおっ、起きたか小僧! 良かった。お前まで死なれてしまっては俺は……」
「おじさん、誰?」
思ったままの感想を口にする。
気付けば、周りには他にも知らない人がたくさんいて、その全員が俺を見ていた。
「俺はこのトラックの運転手だ。お前を、撥ねてしまったな……」
「え?」
無意識に手をすくい上げる。
俺の手は、紅い液体で染まっていた。
「血……?」
それは間違いなく血であった。しかし、それほど体は痛まない。
とりあえず体を起こす。だが、それは上手くいかず、俺は再び倒れ込んでしまう。
そこで、俺は初めて俺を握る何かに気が付いた。
そのまま見下ろす。直視してしまったのが悪かったのか、俺は一瞬にして声を失った。
「父……さ……?」
俺を抱くモノ。それは俺を庇い変わり果てた父親そのものだった。
「うわああああああああ!!!!」


「――――」
俺は天井を見上げていた。
聴覚も復活したのか、ちくたくと時計の針の音が耳に入ってくる。
「夢、か……」
思わずほっと溜め息が漏れた。
それにしても嫌な夢だった。よりにもよって“あの時”の夢とは。
こういう時は早く学校へ行って忘れるのが1番だ。
びっしり掻いた汗を拭き取りながら時計を掴み眼前へ持ってくる。只今の時刻はっと……13時16分?
「って、うわああああああああ!!!!」
夢の中ではなく、今度は現実で絶叫する。
それもその筈。何故なら遅刻も遅刻、大遅刻だったからだ。
俺は見掛けによらず健康体で、これでも無欠席が自慢である。
そんな数少ない取り柄が今、崩壊せんとしていた!
「うーん……やだなぁ、今から行くのやだなぁ」
こんな風に寝台の上でごろごろ転がっていると、足音が1つこの部屋へ近付いてきた。
「どうしたの、ショウタ?」
「…………そうだ」
訪れたニーナを見上げながら呟く。
うん、そうだ。そうしよう。
「よし。ニーナ、町に行こう」
「町へ? 何しに?」
ニーナがいかにも疑問符を顔に浮かべながら訴えてくる。
それもそうだろう。俺自身、己の発言に驚いているのだから。
「いや、単純に遊びに。たまにはいいだろ? お前が嫌ならいいけどさ」
「そ、そんなことないわよ! だってショウタがいきなり珍しいこと言うもんだから……」
「なら嫌じゃないんだな? じゃあ、支度したら早速行こう」
そんな訳で、俺たちは町へ向かった。

942携帯物書き屋:2007/06/09(土) 01:08:25 ID:PaV4iO2A0
そびえ立つビルの群れ。溢れ返る人、人、人。
俺とニーナは今、町のど真ん中で歩いている。

さて。勢いで誘ってしまったわけだがこれからどうしたものか。
先日もここへ来たが、その時は予想外の人物たちに遭遇し、引っ張り回されてしまったし。
その後は楽しめる気分ではなく、しまいには襲われたりとあまり良い思い出がない。
「さすがに俺の趣味の店には連れていけないしな……」
参った。俺が女の子と町で遊ぶなんて経験皆無なことを忘れていた。
「どうしたの? 元気無さそうだけど」
ニーナが心配そうに顔を覗き込んでくる。
それを俺はなんでもないと手でジェスチャーを送る。
「本当に? もしかして、まだ昨日ことを……?」
――――昨日のこと。
それは、エミリーのことだ。昨日、俺はあの後何をするにも覇気がなく、帰るなり寝込んでしまったのだった。
仕方ないことだと頭では判っていても、心の奥底で諦め切れない自分がいるのだろう。
だから誘ったのかもしれない。
エミリーがいなくなった今、残るのはニーナとヘルベルトの2人のみ。
ならば、どちらが勝とうとニーナは俺の前からいなくなる。
それがどうしようもなく怖かった。
「いや、大丈夫だよ」
微笑んでみせるが、ニーナは表情を暗くするのみ。
ニーナも俺がエミリーをどう思っていたのかを知っていたのだろう。
エミリーが居なくなってしまったのは確かに悲しい。
これからも深く刻まれた心の傷は決して癒えることはない。
しかし、この事実は変えられない。俺は一生耐え続けなければいけない。
だったら、それを受け入れて進むしかないのだと気付いたのだった。
「あのことはもう大丈――――っ……!!」
瞬間、両目に激痛が走った。
思わず両目を閉じる。
「どうしたの、ショウタ!」
「いや、目にゴミが入っただけだ……」
痛みは一瞬だけだったみたいなのでゆっくりと目を開ける。すると――――
「え?」
そこは真っ白な世界だった。
何もかもが白く白く白く、人も鳥もビルも車も何もかもが白い。
全てが白い。まるで世界が白くなってしまったような錯覚。気が狂う。
危険だ。ここは危険だ。前も後ろも全部。目を閉じろ。目を閉じて闇に逃げろ。でもそこも白かったら……
「ショウタ?」
「――――!」
ニーナに声を掛けられ我に返った。
視界は元通りになっており、さっきのこと自体が嘘のようだ。
「ああ、すまん。ちょっと目眩がした」
「初めからそれじゃ困るわ。今日は目一杯楽しむんだから。ほら、行くわよ!」
ニーナは楽しそうに駆けて行く。
「待てって。その、そっち逆だ」
さっきのことも気になるが、今は楽しむことだけを考えよう。きっとこれが最後の――――――――

943携帯物書き屋:2007/06/09(土) 01:09:09 ID:PaV4iO2A0
日が暮れ、蒼白い月がその姿を露にする。
その月に照らされた一際大きい屋敷の下で、赤川梨沙とヘルベルト=ディンケラは討論をしていた。
「ではどうするのだリサ。私はいつでも良いが?」
そう言ったのはヘルベルト。しかし姿は消えており、今は声だけが聞こえている。
「そうね……今夜にでも仕掛けるわ」
返すのは梨沙。家柄に相応しい顔立ちをしているが、今は顔をしかめながら話している。
「了解。……しかし、まだ納得いかんな。リサ、君はどう思う?」
「エミリーって子の脱落? あたしは普通にニーナって弓使いが倒したのだと思うけど。
それとも、生き残ってる者がいるとでも?」
「いや、それはないな。以前あの女と打ち合った時、確かに石の気配を2つ感じたからな」
「なら、その人がやったんじゃない?」
梨沙が当たり前のように言うが、男は納得いかないように顔をしかめた。

先の夜。2人はエミリーたちを追った。
しかし一向に見つからず、見つけた時は既に消えた後だった。
「考えていても仕方がない。直接打ち合えば判るだろう」
周りを見張ると言い、男は姿を消したまま窓へ向かう。
「ちょっと待ちなさい」
「……?」
梨沙がヘルベルトを止める。
「……貴方は、これからどうするつもりなの?」
「無論、準備ができ次第戦いに行くつもりだが」
「違う。あたしが言っていることは。貴方は、戦いが終わってからどうするつもりなの?」
さっきより力を籠めて梨沙が問う。それでも男の表情は何一つ変わらなかった。
「生を取り戻し、元の世界へ帰るだろう」
「それも違う。貴方は生き返った後、どうするつもりなの? あの石を探していたということは望みがあったのでしょう?
今だから言わせてもらうわ。次の戦いで全ては決まる。そして恐らく貴方が勝つ。
そうなったら私たちは別れるから聞くのも変だろうけど、貴方は何を望んで……」
「それは違うよリサ。以前にも言ったように、私には特別な望みがない。石を求めた理由も、国の王に命じられたからだ」
「貴方はそれでいいの?」
「…………」
ヘルベルトに初めて表情の変化が起きた。
そして再び背を向け、口を開く。
「構わん。石が手に入れば私の居た国に敵う国はなくなる。そうすれば力により戦争は消え、結果平和になるだろう。
……だが、それとは逆の、誰も傷つかない世界などという物を夢見ている者がいる。私はそいつが許せないだけだ」
そう言い残しヘルベルトは屋根へ跳んだ。
残された梨沙は男が居た場所を見つめ、小さく呟いた。
「ヘル……」

屋根の上で、ヘルベルトは己のパートナーの言葉を思い返していた。
遠くから1陣の風が通り抜け、男の髪を乱す。
その風に乗せるように、男は小さく言葉を零した。
「望み、か」

944携帯物書き屋:2007/06/09(土) 01:09:39 ID:PaV4iO2A0
日はすっかり暮れて夜になる。
俺とニーナは様々な場所を巡り、最後にこの公園へ訪れていた。
この公園はここ一帯では最大の公園で、町と町を挟んで置かれている。
また、ここは以前殺人が起きた場所だが、今はそれを感じさせない。
近くには川が流れており、そこまでニーナと歩く。
川辺に着くと、俺たちは並んで芝生の上に腰を降ろした。
少し動かせば肩が触れ合いそうな距離。
無数に浮かぶ星空。
シチュエーションとしては最高なのだろうが、いまいち掛ける言葉が浮かばない。
「今日は楽しかったね」
俺の思いを察してくれたのか、ニーナから話し掛けてくれた。
「ああ」
それを俺は一言で終わらせてしまい、再び俺たちは沈黙する。
この雰囲気のせいなのか、俺が次に発した言葉はずいぶん感傷的なものだった。
「思えば2週間か。お前と出会ってから。いろいろあったけど、ここまで生き残れたんだな」
「言ったでしょ、私は強いって。それに、私は負けてはいけない」
ニーナの表情が暗くなる。それは、つまり。
「……国の為か?」
「うん。国民や、それ以外の人々の平和の為にも負けられない。
……今更だと思うだろうけど、私のせいで巻き込んじゃって、ごめんね」
う。卑怯な。そんな顔で言われたら、文句など言えるわけがないだろう。
「き、気にするな」
「ありがとう。…………今日は本当に楽しかったわ」
「え――――?」
ピシリと。その言葉を聞いて俺の心は凍り付いた。
だめ、だ。その先を言わせてはいけない。
「よし! また行こうニーナ。今度はもっと遠くへ。時間があるときは俺のお気に入りの……」
「……ごめんショウタ。それだけはできない」
俺の言葉を聞き、ニーナは悲しそうに俯く。
それは……つまり…………
「どう、して?」
俺は自分を傷付けるであろう言葉を放った。
絶対に言ってはいけない言葉を。
「それは……」
ニーナが言葉を濁す。
それはニーナにも判っているからだ。
その次の言葉を放てば、俺を、恐らくニーナをも苦しめることになることを。
「それ、は」
言うな。言わないでくれ。
言ったら、俺たちはその瞬間一緒にいることができなくなってしまう。
それでもニーナの口は次の言葉を紡ごうとしていた。
「それは…………っ、誰!」
「――――!」
ニーナが背後へ振り返る。
遅れて俺も振り返った。
「なっ……!」
俺の視界は最悪の人物を捉えた。
丘の上。そこに、蒼髪の剣士が佇んでいた。

945携帯物書き屋:2007/06/09(土) 01:26:19 ID:PaV4iO2A0
こんばんわ。また随分と遅くなってしまいました・・・・・・。
自分のは遅筆というより、書き始めるのが遅いのかな。

今回でも出てきますが、よく出てきたりする主人公の意味不明な能力は作者の都合です(汗
物語を展開しやすいようにと作ったら、いつの間にか能力化してしまったのです。

>947さん
今回は人気のサマナ・農家コンビですね!
2人の天然っぷりが良いです。やはりサマナはいい子ですね。
これからのオリジナルな話の展開に期待です。

>169さん
初めまして。
新参者大歓迎です! いつでも書き込んでやってください。

>NTさん
初めまして。
ブラックな話ですか。うん、主人公が堕ちていったりと暗い話は大好きですw
何やら2人の関係はそう簡単なものじゃないみたいですね。
今後に期待しています。
明るい話ですか。そういう話の本を読んでみると良いんじゃないですかね?
自分は逆にシリアスな展開が苦手です。

そして毎度赤石と共通性がない話でごめんなさいorz

946姫々:2007/06/09(土) 04:19:49 ID:uqnx7QdM0
さて、いい感じにグダってまいりました、妹様物語中編です。
私的にはシリアス苦手なので一回間を置きたいです('A`)
ていうか私に文才ください、お願いします。
後いい感じにスレ終了が近づいてきたので1000まで短編書いてみます。
では、前置きはこの辺で。>>858-862から続きます。

「唐突ですねー‥‥‥。私の魔力で足りるでしょうか?」
そうお姉ちゃんは尋ね返すが、クーンさんは「ふむ‥‥‥」と顎鬚を触り、
「五分五分じゃな。」
と言うだけだった。
「では、始めます。媒体が無いので降神と同じような事なのが不安ですが‥‥‥。」
そこで話を切ると、クーンさんは再び顎鬚を触りつつ言う。
「万が一の時はわしらに任せなさい。」
万が一って‥‥‥、それはどういう事なのか。考えるまでも無い、ただ考えたくは無い‥‥。
「酷いですねー、信用してくださいよー」
あはは、と笑みを見せる、けど、その笑顔には不安の色を隠せていない。けれど、
「じゃ、始めますね。」
そう言い、広間の中央で燃え盛る火の目の前まで近づき、目を閉じて手を向ける――。
「Оη――‥‥‥」
詠唱を始めると同時、周囲の空気が一気に広間の中央に向かって流れ込んでいく、蛍のような
淡く小さな輝きを放ち、収束する魔力達――。
その収束の中心に立ち、詠唱を続ける召喚師――、これがお祭りの一貫ならどれだけ幻想的に
見えたのだろうか‥‥。
「(けど‥‥、やっぱり、嫌だ‥‥‥)」
私はその場から立ち去ろうと、背を向ける。どうせ私に出来る事は無い、それなら避難所で
皆と一緒にいよう、そう思ったのだ。
「何処に行くのだ?妹殿。」
ティエルドさんの声が後ろから聞こえてきた。
「私には何も出来ないから‥‥‥、避難所に行こうと思います‥‥‥」
私はそう伝える。が、今度は肩に手を置き言う。
「セラ殿と一緒にいてあげなさい、それが妹殿のするべき事だ。それにこれは祭事ではないの
 だからな。」
「‥‥‥。」
逃げる事は出来ないだろう‥‥‥。けれど、真正面に見ることも出来ない‥‥‥。
「別に、見ておけとは言っていない。傍にいるだけで構わないのだ。」
と、私の心を読んだかのように、そう言われた。
「はい、分かりました‥‥‥。」
私は近くの木の下に腰を下ろし、膝を抱えてそこに顔を埋める。私は、このまま召喚が終わる
まで待つことにした。
・・・
・・・
・・・

947姫々:2007/06/09(土) 04:21:19 ID:uqnx7QdM0
P.M.XX:XX    〜Flowering〜
‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥、何分経っただろうか、20分、30分‥‥‥、いや、もっとかな‥‥‥。
辺りは完全に日が落ち、中央で燃え上がる炎で周囲が照らされている。
召喚はどうなっているのだろうか、まだ終わらないのだろうか、さっき伝令が来ていた、『ソゴム
赤山が陥落っ!悪魔達は数を減らしつつも、進撃を続け、もはや結界を破られるのも時間の問題で
すっ!!』だったっけ‥‥‥。
私達はどうなるんだろうか‥‥‥。
そんな事を考えていた時、周囲が一斉にどよめき、ティエルドさんが「セラ殿っ!!」と叫ぶ声が
聞こえた。あのティエルドさんが叫ぶくらいなのだからただ事じゃない。
「お姉ちゃっ―――!!?」
私は顔をあげ、炎に向かって走った、いや、走ろうとした。しかし、私の足は立ち上がると同時に
止まってしまった。
「く‥‥‥ぅ、ぁ‥‥ぅ‥‥‥‥‥」
立ち上がった瞬間に、何かが私を貫いた。物理的にではなく、精神的にである。
その瞬間、全身の力が抜け、私はその場に倒れこんでしまい、意識は途絶えてしまうのだった‥‥‥。
・・・
・・・
・・・
冷たい地面が私の頬に触れている、立たないと‥‥‥、立ってお姉ちゃんのところに行かないと。
そう思ったとき、今度は頭の中に声が響いた。
(『いってぇなぁ‥‥‥、あたしを呼ぶならもっと優しく呼べってんだ‥‥。』)
「え‥‥‥?」
耳から聞こえたのでは無い、本当に頭の中に響いたのだ。
(『あ〜?しかも降霊かよ、私何も出来ないじゃん、かったるいなぁ‥‥。』)
「何?誰?」
私は尋ねる、誰か分からない、そもそも人かどうかすら分からない物に。
(『うわっ、しかもガキの中と来たか。まぁ呼ばれたんだから役目位は果たすけどさー‥‥。つーか
 さ、自己紹介とかまずは呼んだ側がするもんだろ?先にあんたが言いな。』)
そこで何となく予想がついた、「これ」はお姉ちゃんが召喚した精霊なんじゃないかと。
「なんで、私の中に?」
(『そんなもん、あの召喚師の魔力切れに決まってるだろ?ほら、なーまーえ。』)
魔力切れ‥‥、それは無事なのだろうか‥‥‥。
「私。名前はタスカ‥‥。」
(『へー、タスカか。私の友達と二文字違いじゃん、覚えとくよ。』)
「それ、殆ど違うって事じゃないのかな‥‥‥。」
(『うっさいなー、別にいいだろ?あ、ちなみにあたしの名前はノヴァね、破壊担当の最高位精霊、よろしく。』)
最高位精霊って担当ってあるんだ‥‥‥と思いつつ、私も「よろしく。」と言っておいた。
「ノヴァ、お姉ちゃんは無事なの?」
そう尋ねると、『うん?』と首を傾げた後、『あぁ』と何かに納得したような仕草をして私に言う。
(『無事さ、あたしがこの星に繋ぎとめられているのがその証拠だよ。』)
(『で、何で呼んだのよ?あたしを呼ぶとか相当な事だろ?しょうも無い事だったら、腹いせに
 あんたの中身を消し飛ばすよ?』)
「私の村が悪魔に襲われてるの、それを救うために私のお姉ちゃんが‥‥‥。」
唐突に物騒なことを言われて、気圧されてしまったが、私は呼んだ理由を言った。正確に言うと
呼んだのも私ではないのだけれど。
(『んー?悪魔ねえ。面白そうだけど、あたしじゃ無理だわ、ごめんね。』)
「なんで‥‥?」
あまりにあっさりと無理と言われたので、私はそれ以上の言葉が出てこなかった。
(『さっきも言っただろ?今のあたしは精神体なの。形無い物は何とでもなるけど物理的な破壊は
 無理だよ?』)

948姫々:2007/06/09(土) 04:22:32 ID:uqnx7QdM0
「そんな、じゃあ私の村が、お姉ちゃんが‥‥‥。」
(『ったく‥‥、さっきからお姉ちゃんお姉ちゃんって‥‥。じゃあ自分でやりな。「あんたの」
 大切なもんなんだろ?なら精霊になんかに頼んな。』)
出来たらやってる、それが出来ないから、お姉ちゃんがノヴァを召喚したのに‥‥。
「私には何も力が無い、だから出来ないよ‥‥‥。」
(『それ、思い込み。いいか?あんたの力は封じ込められてる、なんでかは分からないけどね、
 あんたの中にいるから私には分かる。その封印をあたしなら「破壊」出来る。あらゆる物の
 『破壊』それがあたしの能力だから。』)
力?どういう事だろうか、私が尋ねる前に、ノヴァは淡々と話を続ける。
(『封じ込められてる力なんか、大抵碌なもんじゃないけどね。けど相当大きいからこそ、封じ込められ
 てるのさ』)
「その力ってどんな物?」
私は疑問をぶつけてみるが、ノヴァは溜息混じりに言う。
(『あたしに聞くな。いい?あんたは封印を「破壊」するか、力を「破壊」するか、どっちかを選びな。
 好きな方をぶっ潰してやる。時間はやる、ゆっくり決めな。どっちか潰したらあたしは帰るよ』)
「選ばないとダメ‥‥?」
(『あ?このあたしを呼んどいて何もさせずに帰らせる気か?』)
「ごめん、聞いただけ。」
あからさまにご機嫌斜めだが、どっちを潰すか選べなんて今更いわれても、そんな物、どっちにするか
なんか言われる前に決まっている。
「時間はいい、いらない。」
(『ほー、ガキの割にはやるねぇ、こういう物事をスパって決めれる奴って好きよ?で、どっちを潰す?』)
「私は力が欲しい、だから封印を壊して。」
私はそう言った、それ以外にこの村を救う方法が無いなら私は力を取る。それにそれでお姉ちゃんに
ちょっとでも近づける、そう思ったのだった。
(『いいのかい?進んだ道は自力じゃ戻れないし、あたしの力でも戻せないよ?』)
その最後の問いに、私は「うん」と首を縦に振った。
(『オッケー、分かった。行くよ、すぐ終わる。』)
そう言い、手を私に向けると同時、胸の辺りを「ドンッ」と強い衝撃が走った。
(『――――っ!!?』)
それに驚いたのは私ではなく、何故かノヴァの方「どうしたの?」と私が訊くと、「いや‥‥‥」
とだけ返事を遣してこう話す。
(『すげーもん引き当てたな、流石封印されてただけの事はある‥‥‥。悪い、あたし、もうここにはいれないわ。
 存在を乱されちまった。』)
そう言うノヴァの声はだんだんと小さくなっていく、私の中にいる「ノヴァの感じ」も次第に薄れていく。
「どうしたのっ!ノヴァっ!?」
(『はっ‥‥‥、その力、人間以外にはとんでもない毒だぜ?いいかい、悪魔の目を見るんだ、それで終わる。』)
そう言い切った瞬間、フッと感覚が消え、私の視界はさらに暗転するのだった。
・・・
・・・
・・・
「あれ‥‥‥?」
私はどうしたんだろう?ティエルドさんが叫ぶ声がして、立ち上がったら突然
気分が悪くなって、変な夢を見てて‥‥。
「あれ‥‥?」
それからどうなったんだろう、思い出せそうで思い出せない‥‥、変な感じ。ド忘れだろう
けれど、とても忘れてはいけない物だった気がする。
「ふむ、怪我は無いかね‥‥?」
「え?」
クーンさんにそんな事を尋ねられた、私は一体どうなっていたのだろう、気を失っていたんだと
思っていたのだけれど‥‥。
「私、どうなったんですか?」
「む?いや、転んでしばらく起き上がらなかったのでの‥‥‥、立ちくらみかの?」
そんな事を言われた。クーンさんが言うのだから実際に、眠っていた時間は本当に僅かだったのだろう。
それこそ1分か2分、下手すりゃ数十秒程度だったのかもしれない。
「どうされた、妹殿。顔色が優れないようだ‥‥が‥‥?」
気を失っているお姉ちゃんを運ぶティエルドさんだが、私と目が合うなり言葉に詰まる。
私の顔に何か付いているのかと思ったが、今はそれどころではない。
「お姉ちゃんっ!!」
私が走って近寄ろうとするが、クーンさんに「待て。」と止められる。
「気を失っているだけじゃよ。今は寝かせて上げなさい。」
それは知ってる、ノヴァに訊いたから。

949姫々:2007/06/09(土) 04:25:04 ID:uqnx7QdM0
(あれ‥‥?)
知ってる‥‥?何を‥‥‥?ノヴァって誰‥‥?
いや、誰かは分かっていた、さっきの夢に出てきた精霊の名前、ただあれは夢だと思っていた、
アレが事実なら、私は何も忘れていた訳ではなかった。ただ現実が受け入れられなかっただけ
と言う事になる。
「召喚は成功していたんですか?」
私は尋ねる、高位精霊を召喚すると、広場の炎が何倍も大きく燃え盛るとか聞いた事がある、
これで成功していたのなら、私の夢は現実に変わる。
それに対し、クーンさんは「ふむ‥‥」と呟いた後、
「成功はしたようじゃがの‥‥、セラがこうなっては失敗も同然じゃよ。」と、言うのだった。
「‥‥‥」
夢じゃない‥‥‥。私は確信する、あまりに状況がノヴァの言った事と合致し過ぎている。
だから‥‥‥
私はこう言った‥‥‥。

行ってきます――。

その言葉だけを。
「む?何処に行く?タスカ」
私はその質問に、「村の外へ」とだけ返す、止められるのは分かっていたが、私には理由がある。
「待て、外はどういう状況か分かっているのか?寝ぼけているのではあるまいな?」
「はい。」
そこで私は走り出した、これ以上時間を食ってるのも嫌だった、戦っている人達がいるのに、
その戦いを止められる力を手に入れたかもしれないのに、こんな所で止まっていたくなかった。
「ティエルド、タスカを止めるのじゃっ!!」
そんな叫び声を背中で聞いたが、ティエルドさんが来る事はなかった。
・・・
・・・
・・・
「ティエルド、タスカを止めるのじゃっ!!」
村長である老人がそう叫ぶ。が、右の羽が折れている天使は微動だにしない。
「クーン殿、分かっているのだろう?少し冷静になられよ。」
「‥‥‥ふむ‥‥。」
その村長も天使の言葉に何か思い当たる節があったのだろう、さっきまで叫んでいたとは思えない
ほど、一気に冷静になり、いつもの村長に戻るのだった。
「なぁ、ティエルドよ‥‥‥。」
「はい。」
いつものゆっくりとした言葉に、天使は短く答える。
「あの子の瞳に何を見た‥‥?」
そんな言葉を呟く。
「ビーストテイマーとしては強すぎる力、とでも。さらに言うとこの村のロマ達とは真逆の力とも
 言っておきましょう。」
彼は天使であり、人ではない。だからこそ見る事が出来たのだろう、少女の左目に宿った魔力を。
「もっと分かりやすく言って欲しいのじゃが‥‥‥。」
その質問に、天使は「ふむ‥‥」と考え、数秒後、答えを出す。
「天界、地上界、地下界全てを我が物に出来る力‥‥‥。とでも言えば分かるでしょうか。」
その言葉に「十分じゃ。」とだけ返した後、天高く燃え盛る炎を見上げ、「厄介な精霊を呼んでし
まったようじゃのぉ、セラ‥‥‥」と呟くのだった。
そして、視線を天使に戻し、天使に問う。
「この戦い、タスカが加わった事でどう変わるとお前は見る?」
「私の意見など、聞く必要も無いでしょうに。」
天使はやれやれと首を振る。
「ふむ‥‥‥、少し、不安じゃの‥‥‥。」
「そうですね。今から私が見に行きましょうか?」
天使がそう応えるが、村長は首を振っていう。
「そうではないのじゃ‥‥‥、杞憂で済めばそれでよい。とにかくティエルド、伝令を頼む。」
「はい、何と伝えましょう?」
村長は「そうじゃのぉ‥‥」と長い顎髭をさすりながら言う。
「最高位精霊の召喚に成功、全員撤退して怪我人の看護に務めよ――、とでも頼むかの‥‥‥。
 その後はティエルド、お前はタスカの元に向かうのじゃ。あの子は見た目ほど芯は強くない、
 出切るだけ急いであげなさい。」
「了解した。」
・・・
・・・
・・・
「さて‥‥。」
自分の補佐役の天使がその場を去った後、一人残された村長は広間で燃え盛る炎を見て呟く。
「そこまで心の狭い者達では無いと思いたいのじゃがの‥‥‥。」
やれやれと、外とは対照的に静寂に染まる空を見上げるのだった。

950姫々:2007/06/09(土) 04:26:49 ID:uqnx7QdM0
・・・
・・・
・・・
「はぁ‥‥‥、はぁ‥‥‥。」
私は村の外に向かって全力で走った、走ることは自信があった。
「っ‥‥、はぁ‥‥‥、はぁ‥‥‥。」
けれど、今は胸が痛い‥‥、降霊の反動だろうか、肺に空気が入って来ない。けれど、
何とか走っているうちに村の出口が見えてきた。
「はぁ‥‥、はぁ‥‥、着いた‥‥。」
「ん?タスカちゃんじゃないか。どうした?」
村の人に話しかけられたが、それを無視して私は息を整える。
「結界の外は危ないからクーンさんの所にもどってるんだ。」
結界は一度出ると外からは結界がある限り、戻れない。危ないのは分かってる、その先が
どうなっていようと、この戦いでこれ以上の犠牲を出さないためには、私が行くしかない。
「‥‥‥、よし。」
「‥‥?!!!おい、待てタスカっ!そっちは村の外だぞっ!!」
一瞬躊躇したけれど、村の人の声を耳から追い出し、その後は迷う事無く結界を出た。


外に出た私は振り返らずに走ろうとした、振り返ったら脚が止まっちゃいそうだったから、
だから、振り返らずに走り続けた。
走り続けようとした。
私はいつも山菜狩りなどで慣れた山道を走り続ける。
そこにはソゴムの山が延々広がっている。その中を私は走り続ける、見慣れていると思っていた
ソゴム赤山も、こうなってみると昨日までと雰囲気が全く違う。
「‥‥‥っ」
あぁ‥‥、汗かいちゃったなぁ‥‥。けど、目から汗なんか珍しいな‥‥。
「ははは‥‥。」
なんか変な笑いまで出てきた。おかしいな、何でだろな‥‥。
「はは‥‥、何でよ‥‥‥」
走り続けようとするのだが、どうも脚が動かない、疲れちゃったのだろうか、きっとそうだ、
じゃあちょっと休もう、見た感じ敵の姿は何処にも無いし、なら少しくらい大丈夫だろう。
「何でよ‥‥‥。何でなのよ‥‥‥」
私は傍の木にもたれ掛かり、周囲の景色を見回す。
「やっぱり‥‥、無理だよ‥‥‥。」
緑は燃え尽き、命は消え、火の粉が舞うソゴムに昨日までの面影はない。私の後ろの木だって、
多分「元は木だった」物だ。
村を出たのは勢いだった、「私には出切る」という漠然とした自信があった、けれど、そんな物
村を出て1分とたたずに折れてしまった‥‥。
「ねえ‥‥、ノヴァ‥‥、私に本当に力はあるの?村を救えるの‥‥?」
精霊とは思えないほど口の悪かったあの存在に問いかけてみる、もちろん返事は無いけれど。
「‥‥‥」
走る気力なんか無い、けれど座り込んでもいないのは、座るともう立ち上がれないと分かってい
るから。帰る場所は無い、私はやはり来るべきじゃなかったのだろうか‥‥‥
「ふむ、怖いのなら帰ってもいいのだぞ?ポータル位は開こう。結界位は通り抜けられるが。」
「きゃっ!!!」
っ――、突然後ろから話しかけられたので、変な声が出てしまった‥‥‥。
「おっと失礼、驚かれるとは思わなかった。」
「ティエルドさん‥‥。」
気まずい‥‥‥、泣き顔なんか見られたく無いから私は振り返ることができない。
「何でここに?」
「クーン殿に言われてな、妹殿の補佐に参った。」
クーンさんが?気を利かせてくれたのだろうか‥‥、嬉しいのだがタイミングは最悪だ、できれば
もう少しだけ早く着て欲しかった。
「では妹殿に問おう。進むのか、戻るのか、どちらにするのかを。」
孤独な状況で寄りかかれる人が来てくれると言う事は、どれだけ嬉しい事だろう‥‥、
それを今、こんな場所で実感する事になるとは思わなかった。
「先に進みます。私はまだ戻るわけにはいかないですから。」
だからこそ、私は即座にそう応える事ができたのだ――。

951姫々:2007/06/09(土) 04:36:39 ID:uqnx7QdM0
とりあえず中編はおわりです、今週来週中には後編っていうか完結編
書き終われるように努力します。

っていうかこれ、用はカスターの昔話なんですよね‥‥‥、書いてる
時たまに思い出すと自分でも対応に困る‥‥。

さて、とりあえず先に書いたように一度話はストップして短編を書い
てみます(気分転換)。
カップリング書きたかったので多分それですけどカップリングは
姫×シフ辺りが書きやすそうなんでその辺挑戦してみます。

952◇68hJrjtY:2007/06/09(土) 19:28:28 ID:ivyW5no.0
>携帯物書き屋さん
初めは普通の青年だったショウタ君が今はもう目が届かないくらい大きく成長しているような感じがします。
やっぱり死地をニーナと一緒ながらも抜けてきた事と、父を失った過去を乗り越えてきた強さがあるんだろうなぁ。
だんだん判明するショウタ君の逸話を読むたびに彼が好きになります。
ニーナとも上手くいってもらいたいですが( ´・ω・)
ついにヘル戦、…続きお待ちしています。

>姫々さん
タスカがどういう力を解いたのか、そしてそれをどう使うのか…。
ノヴァやスピカもそうですが、精霊がこうしてラフだと親近感が沸きますね(笑)
他にも色々な精霊が今後出てくるんでしょうか。それはそれで妙に楽しみだったり。
続きは次スレでしょうか、短編も楽しみにしています。姫×シフ…(*´д`*)
関係ないですが先日サブキャラであのクエをやろうとしてカスターに殺されてきました(笑)

953名無しさん:2007/06/10(日) 20:14:51 ID:jXK3ftGc0
みんなもうちょい話をちゃんと考えたら?wwww

954947:2007/06/10(日) 20:17:54 ID:RAn6BvyM0
感想はいただけるだけで涙出そうになるくらいうれしいです。

前作>>903 >>904 >>905 >>916 >>917 >>918 です。

今回は姫&ワンコです。
それでは始めます。

「惨劇の果てに 赤石地震編」

姫&ワンコ(・・狼です)

近くに森のある小高い丘に姫の姿があった。
「ワンコ〜ここきなよー風が気持ちいいよ」
姫が手を振ってワンコを呼んだ。
「あぁ今行く。あとワンコじゃなくて狼だ」
「はーい」
気の抜けた声で姫は答えた。
「あといつも言ってるが一応俺の主なんだから言葉遣いはちゃんとしろ」
「〜ですわ。とか言えないよーあとそういう主とかなんとか言うのやめてよ。友達でいいじゃない」
「いや主だ。お前が俺の命の助けた時から、俺の主はお前と決まっている」
「まぁ助けたけど・・でもあれよ人って助け合うのが当然じゃない。だからそういうのやめない?」
「いや、俺はお前のものだ。俺がそう決めた」
「勝手に決めないでよ・・・そういえばワンコと会ってからもう三年かぁ・・」
遠い目で姫は言った。
「もうそんなになるか」
「会ったのもここみたいな森だったね・・・」
「そうだな・・」
二人の意識は三年前のあの日に飛んでいた。

955947:2007/06/10(日) 20:19:03 ID:RAn6BvyM0
「・・・まー・・姫様ー!どこに行かれたのですかー!出てきてくださーい!」
遠くで執事が叫んでいる。
「そういわれて誰が出て行くっていうのよ・・たく本当にやってられないわよ。やれ礼儀作法だやれ言葉遣いだ・・私は自由に生きたいのよ」
木の上に姫がいて、つぶやいた。
「ここにいたら見つかりそう・・もうちょっと先行こう・・・たまには静かなところで過ごさないとね」
姫は木から降り、歩き始めた。
まわりには木が並んでいる。小鳥が歌う声が聞こえる。
しばらく歩くと川にぶつかった。
「わーきれいな川・・・」
姫が手を川の流れる水に手を浸した。
「冷たい・・・    !」
背後でガサッと音がした。
「・・なんだろう熊じゃないよね・・・追い払わなきゃ・・」
姫は使い込んだ様子のスリングを手にもった。
そして川辺のこぶし一つくらいの石を拾った。
そっと背後の草むらに振り向き、スリングをかまえ・・・
「せーの・・・やぁ!」
石を飛ばした。それは勢いよく草むらに飛び込んだ。
「ぐふっ!!」
ドカッとなにかにぶつかる音がして、くぐもった声が聞こえた。
「・・・ぐふっ?・・・」
姫は草むらに近寄ってのぞき込んだ。
「・・・!」
そこには全身毛に覆われた人の形をしたものがあった。
「・・・何だろう‥おっきい犬・・・かな?」
よく見ると上半身は裸で下にズボンをはいていた。しかしズボンはズタズタに裂けていた。体には所々に血がにじみ、一部毛がはげている。
頭にはたんこぶができていた。
「ひどいけが・・・手当しなきゃ・・・」
頭のこぶは見なかったことにして、姫は腕をつかみ川までずるずると運んでいった。

956947:2007/06/10(日) 20:19:34 ID:RAn6BvyM0
・・・冷たい・・・なんだ・・・?
薄く目を開けると目の前には、見知らぬ少女の姿
「・・・誰だ!!!」
がばっと跳ね起き、少女から離れた。
「!  目が覚めたんだね!よかったぁ・・・・」
彼には事情が全く分からなかった。なぜこの少女は喜んでいる?なぜこの少女は俺の近くにいる?
そう思った時に彼の膝になにか冷たいものが落ちた。
それは水で濡らした布だった。
「あぁ私は姫。そこの草むらにあなたが倒れていてひどいけがをしていたから・・・」
彼は少なくとも姫が敵ではないと分かったため警戒を解いた。
「・・・・手当・・・してくれたのか・・・」
「ええ‥」
「・・・すまない‥手間をかけた」
彼は深く頭を下げた。
「・・・!そ、そんな・・・たいしたことしてないよ。・・・ところでなんでそんなけがを‥?」
「・・・・それは言えない・・・助けてくれたことには礼を言う」
「・・・そう」
「世話になったな・・・もう行く」
彼はよろよろと立ち上がりながら言った。
「!?そんな!まだ痛むでしょう?無理しないで・・・近くに私の別荘があるからそこで手当を・・・」
「そこまで世話になるわけにはいかな うぐぅ・・・・!」
彼は肩を押さえひざまずいた。
「ほら!手当を・・・」
姫は彼に近づきながらいった。
「寄るな!!!!!来るんじゃない!」
突然姫を睨みながら彼は叫んだ。姫はビクッと止まった。
「俺に近づくんじゃ・・・ぐぅ・・・!」
突然彼の体中に激痛が走り、目の前が漆黒の闇に覆われた。

957947:2007/06/10(日) 20:20:12 ID:RAn6BvyM0

彼が目を覚ますとそこはベッドの上だった。
「・・・・・気が付いた?」
「ここは・・・お前の別荘だな・・・」
「うん・・・突然気を失ったから‥勝手に連れてきてごめんなさい・・・」
「いや・・・突然叫んで悪かった・・・これもお前が・・・?」
彼が見ている先には不器用に巻かれた包帯があった。
「うん・・・あ、うまくできてなくてごめんね ここには執事と私しかいなくて 今、執事は買い出しにいってるのかいなかったから‥」
「お前は・・・俺の命を助けた・・・」
「そんな大げさな・・・」
「・・・だから・・・」
「‥だから?」
「・・・俺の命はお前のものだ」
彼は淡々と言った。
「・・・え・・・?」
「つまりお前は俺の主だ」
「!!!え、あのその・・・・」
姫はしどろもどろした。
「俺は俺が命の危機に陥ったとき、助けてくれたやつを主と決めている。だからお前は俺の主だ」
「・・・」
「まぁ見たところお前は裕福なようだし、ボディガードみたいなものだと考えてくれたらいい」
「そ・・・そう・・・まぁいいや ところであなた名前は?」
「俺は・・・ウルフマンだ」
「えっと・・・う、うる‥」
「ウルフマンだ」
「ウルフマン・・・長くて呼びづらいなー・・・ワンコって呼ぶね」
「ワン・・・!?できればウルフと呼んでもらえないか・・・」
「ダメ もうあなたはワンコね 私が主なんでしょ?だったら決まりだね」
「・・・むぅ・・・」
彼・・・いやワンコは言葉に詰まってしまった。
「じゃワンコ今は体を休めなさい いいね」
「・・・了解した・・・」



「お前は・・・いまでもワンコって呼ぶのはやめてないな・・・」
「いいじゃない かわいくて あれからあなたと私が同い年って分かってびっくりしたよ。老けてるよねー」
「・・・ほっておけ」
「それから高校で不良グループのボスをぶちのめすは大学入って私にからんできた人を半殺しにするは・・・やりすぎだよ」
「それはお前に害を与えたからだ。主を守るのは従者にとっては当然のことだ」
「そう‥」
「冷えてきたな・・・戻るぞ。主に風邪を患わされては困るのでな」
「うん・・・」
二人は立ち上がり歩き出した。
少しして姫が言った。
「・・・ワンコ」
「なんだ」
「・・・・」
「なんだ」
「・・・手‥つないで・・・」
姫は顔を赤らめながら言った。
「・・・あぁ‥」
ワンコが姫の小さな手を握った。
彼の手は大きく・・・暖かかった。


姫は幸せだった。このときがずっと続けばいいのにとさえ思った。
しかしその願いは決して叶わない・・・・

刻一刻と別れの時が近づいていることを知らない。

958◇68hJrjtY:2007/06/10(日) 22:43:57 ID:NnV.bcJ60
>>947
ワンコ可愛いよワンコ…性格が老けてても可愛いと感じるから不思議なんです(笑)
恋愛っていうよりもまだそれに満たない、なんかとにかくほんわかとした関係が最高です。
おてんば系(死語)な姫様が親身に怪我の治療とかするシーンを見ると凄く良い子に見えます(ノ∀`*)
そして最後の二文で急に現実に引き戻されました。
そうだ、これは悲劇なんだ…orz

959復讐の女神:2007/06/11(月) 02:41:59 ID:N8Uvk0w.0
その日のうちに炎が沈静化したのを確認したジェシたちは、すぐさま村にやってきた。正確に
は、村だった場所だろうか。一面焼け野原となっており、家の柱が炭化したものや焼け崩れた
レンガが、家がそこにあったことを教えてくれる。不思議な事に、あの炎は村の外には飛び火
することなく、ただ正確に村のみを焼いたようだった。
足音は3つのみで他に聞こえるのは、風のふく音だけ。時々、風に煽られて倒れる炭が、む
なしさを強調する。
「ボイル、あなたこの村の地理は覚えている?」
「あぁ、もちろんだとも我がジェシ。このまま歩けばすぐに、村長の家にたどり着く」
淡々とした口調のジェシに、ボイルはいつもの調子で答える。
もっとも、ジェシにしてもボイルに聞くまでも無く、この村の地理は把握していた。ただ、自分の
記憶が信じられなかっただけなのだ。
一行が足を止めたのは、レンガで大きく枠を取られた場所、元村長の家の前だ。他の家に比べ
て大きく頑丈に作られていたおかげか、家の外観を多めに残しており…そのせいで、余計に虚
しさを感じさせる。
「いざというときはここに逃げ込んで、私達の到着を待つ予定だったのよね」
ドアなど既に焼け落ちており、そこから中に入ると瓦礫の山があるのみ。
「ジェシ、それ以上前に出るな」
フェリルに従うつもりは無いジェシは、そのまま中に入っていく。
「…………っ!?」
1箇所、瓦礫とは異質の焼け跡が残っていた。固まって山のように積み上げられているそれは、
原型をとどめるものを見れば嘔吐感が沸きあがってくる。それは、蜘蛛の死体だった。アレだ
けの炎を受けたのだ、恐らく全部死ぬでいることだろう。
「やれやれ、依頼失敗か」
気楽に言葉を放つボイルの胸倉を、ジェシはつかみ上げ引き寄せた。
「なにかね、我がジェシ。さすがに、この状況でキスをねだるとは思えないが」
「黙りなさい」
沈黙の怒りをはらむ声を発し、ジェシは乱暴にボイルを突き放した。
手にしている槍を大きく振りかぶり、蜘蛛の成れの果てを思い切りぶちまける。そもそも、これだ
けの蜘蛛が1箇所に集まっていること自体がおかしいのだ。それなりの理由があってしかるべ
きであり…理由など、考えるまでも無い。
「………」

960復讐の女神:2007/06/11(月) 02:43:18 ID:N8Uvk0w.0
想像道理というべきか、そこにあった非常用のドアは破壊されており、蜘蛛の死体が入り込ん
でいた。モンスターに村が襲われた際、逃げ込むために作られた隠し部屋だ。
それを確認すると、ボイルは二人に背を向けて歩き出す。
「どうしたのだろうね、ボイル君は?」
「ほっとけばいいのよ、あんな奴」
現在、ジェシの視界には、入り口を埋める蜘蛛以外映っていない。
ジェシは蜘蛛に、槍を突き刺した。ボロボロと崩れ去る蜘蛛の群れの中から、一糸の白い糸が
飛び出してくる。完全に油断した隙を突いた、逃げようの無い一撃だった。
「あら怖い。でもそれ、偽者よ?」
糸が捕まえたのは、確かにジェシだった。
だが、その隣にもジェシは立っており、槍を突き出す。
逃げ場の無い蜘蛛は、その一撃をよけることも出来ず、頭から体を突きぬかれる。
まさに、串刺しというべきだろう。
「ほう、気で一時的に自分のダミーを作り出したか」
感心するフェリルの目の前で、ジェシの型を保っていた気が霧散していく。そこから現れたの
は、炭になりかけた木の柱だ。
フェリルにとって、この技術は特に目新しいものではなかった。
少なくとも、フェリルがまだ若く旅をしていた頃は、戦場に行くたびに見ていたものだ。
「これだけ蜘蛛が群がっているのだもの、炎に当たっていない奴がいてもおかしくないわ」
淡々とつぶやく姿は、フェリルからして危険だと判断できた。
「ジェシ、あまりボイル君を責めてやるな」
「違うわ、彼なんかどうでもいい」
自分が全て悪かった。自分がエルフ達を食い止めることが出来なかった。自分が村に火がる
のを止めることができなかった。
蜘蛛の死骸を全て除去したジェシは、眉根をひそめた。
これまで盲目的に蜘蛛を除去していたので気づかなかったが、この部屋には人の痕跡
が一つもないのだ。
腕の一本どころか、人の血すら見当たらない。
蜘蛛達は通常、人間を丸のみには出来ない。そこまで大きな蜘蛛など、あの有名なミズ
ナくらいだろうか。少なくともジェシは、他に思い当たる例は無い。
「どういうこと…皆は、ここへ逃げたんじゃないの?」
困惑するジェシが確認するようにフェリルを振り返ると、彼は既に天使となり探索の手を
伸ばしていた。フェリルが目を閉じている数秒間が、ジェシには何倍にも長く感じる。
「ねえ、どういうこと?」
「…ふむ、なるほど。さすがはボイル君というところか」
羽を閉じて落ち着いたフェリルは、ボイルの立ち去った方向を感心したほうに眺め始めた。
瓦礫が邪魔になり、すでに彼の姿は二人の視線の先にはない。

961復讐の女神:2007/06/11(月) 02:44:17 ID:N8Uvk0w.0
「ジェシ、君の質問に答えるのにはやぶさかではないが…着いてきたまえ、そのほうが早いだろう」
フェリルに連れられ歩き出したジェシは、すぐにあるものを見つけた。
「蜘蛛の死骸…まだ新しいわ」
「死因は凍死かな? こげているので、焼死かもしれんがね」
これは、ボイルがやったのだろうか。
ジェシの冷静な部分が、この村にいた戦力、装備などを全て瞬時に列挙し、答えを導き出す。ボ
イルについて何も知らないと言うことを、ジェシはいま始めて知った。いや、今までは知ろうとも、
知りたいとも思ったことが無かったので、当然と言えば当然なのだ。
それでも、彼が一体どういう人間で、何ができるのか…これまでの長い付き合いでまったく知らな
いことに、ジェシは驚きを隠せない。
「おじ様。ボイルは…彼は、こんなこともできたの?」
「ふむ? いや、彼が直接戦う姿を見たことは無いからな。そうかもしれないし、違うかもしれない。
彼と共同した依頼では、あまり戦うことが無かったからな。戦うときは、戦士たちに補助呪文をか
けることを中心としていた」
何度か一緒に仕事をしたことがあるという、フェリルがそう言うのだ、ボイルは本当に戦う術を持っ
ていないのかもしれない。
今日、火玉をエルフに投げつけていたが、あれは魔術師が習う攻撃呪文の中でも最初に習うこ
とになるもの。寧ろ、知らないほうが
おかしいくらいのものだ。
「分からないわ。この村でいったい、何が起こっているの?」
「それは私にも分からん」
フェリルが向かっているのは、この村の入り口より右。農具などが仕舞われている、倉庫があっ
たはずだ。村の状況から察するに、火は回っていないはず。
「村の生き残りが、倉庫にいるの?」
倉庫はあまり大きくなく、この村人全員を匿えるほど大きくない。助かっても、せいぜいが5人
だろうか。それでも、生き残りがいるという情報は、ジェシを少なからず上気させた。
「先に行くわ!」
向かう場所が分かったのなら、フェリルの後を付いて歩く必要は無い。
ジェシは、倉庫に向かって走り出した。

962◇68hJrjtY:2007/06/11(月) 06:45:05 ID:O7z4q9vk0
>復讐の女神さん
ウッ…虫が苦手な私は焼けた蜘蛛の死体が積み重なっている光景を想像しただけでアウトですorz
ともあれ、当初のジェシたちの思惑は見事に外れてしまった結果になったようですが…まだ終わりではないですよね。
ボイル君の隠れた戦闘技術にも興味津々です。
そこでジェシが振り向いてくれればボイル君にとったら最高なのかもしれないですが(笑)
続きお待ちしています。

963名無しさん:2007/06/11(月) 08:56:26 ID:jXK3ftGc0
糞スレage
もっと話の構成考えたら?wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

964ageパン:2007/06/13(水) 00:39:55 ID:S5RP8Cs.0
  赤い髪の女

 コンコンコン・・・
 町は静まり返り夜空に星が満つる時間。私は夢の入り口手前で部屋のドアを叩くその音に
起こされた。目を開けると窓の外に星空が見える。カーテンを閉めるのを忘れ寝ていたよ
うだ。私はベッドから起き上がるとカーテンを閉じようとしたが、つかもうと手を伸ばし
た瞬間、誰かの戸を叩く音に起こされたことを思い出した。そうだ、来客だった。そのた
めに私は起こされたのだ。目をこすりながら枕もとの時計をみると0時を回っている。こ
んな時間に一体何の用だ……。目の前の壁にかけられた絵画の中にいる黒猫はソファの上
で丸くなり睡眠をむさぼっているというのに。私はその絵を横目に壁のハンガーにかけて
おいたローブを羽織ると部屋の入り口の戸を開けた。
「誰だい、こんな夜中に。」
 そこには誰もいなかった。目に入ったのは向かい側の壁。左も行き止まりの壁。右は暗闇
の中へと続くホテルの廊下。ところどころ窓から月明かりが差し込んではいるが人影は見
当たらない。
 夢だったのか?よくあることだ。私は自分にそう言い聞かせ大きくため息をつくと戸を閉
めようとした。
「にゃあ」
 その声に私は足元を見た。そこには一匹の黒猫が座っていた。猫だ。戸を叩いたのはコイ
ツか。なんでこんなところに猫がいるんだ。ここは動物のとまるホテルじゃない。誰かが
連れてきた猫が部屋を間違って私のところまできたのか?廊下を眺めたが戸の開いている
部屋は一つもない。じゃあどこから?考えるだけ無駄だ。野良猫に違いない、第一首輪が
ないじゃないか。どこかの隙間からホテルの中に入り込んだに違いない。
「いまから私は寝るところなんだ、悪いがかまってらんないよ。」
 私がそう言い戸を閉めようとしたが、その猫は何も言わない。しばらく猫と目が合った。
ふと猫は腰を上げると、私の部屋へと入ってきた。おいおい勘弁してくれ。私は猫を捕ま
えようとその後を追った。すると猫はうまいこと間合いをとって逃げてしまう。数分の間
そんな感じのことを繰り返していたが、私は猫を捕まえるのをあきらめた。
「勝手にしろ。ここの部屋に一緒にとめてやるから寝るのだけは邪魔しないでくれ。」
 私はそういいローブをソファに投げ捨てるとベッドに横になった。しばらく静かにしてい
ると猫がベッドのそばまで歩いてきてそこで小さく鳴きだした。
「にゃあにゃあ」
「なんだいお前、腹でもすいたのか?」
「にゃあ」
「ふう、仕方ないな。」
 私はベッドから起き上がると着替えをすませ部屋を出た。もう眠気などどこかへ行ってし
まった。
「飯、食べに行こうか。バーなら開いてるだろう。猫が入店していいかどうかは知らない
がね。」
 不思議なことに私がそういうと猫は私の後をついて部屋を出た。私は部屋に鍵を閉めホテ
ルを出た。

965ageパン:2007/06/13(水) 00:41:00 ID:S5RP8Cs.0
 建物を外に出ると、南東から吹くやさしい潮風が左の頬をなでた。目の前にはシュトラセ
トの中心広場がある。昼間なら数多くの露店がたちならび多くの人間が行き来するこの場
所では、夜は風の音と波の音と潮の香りに満たされる。昼間は空を飛び交い時折鳴き声を
あげる海鳥たちもいまでは羽音すら立てていない。私はどこへ行こうか考えていたが、そ
れよりも早く猫が歩き出したので私はそれに続いた。港へ向かう道の三つ目の交差点を横
切ったところで猫が突然左の道を眺め立ち止まった。
「にゃあ」
 猫は私の顔を一瞥しその視線の先に目をやった。見上げた先には暗闇の中にその姿を誇示
するかのようにそびえたつ高級ホテルオクトパス。神話に出てくる巨木を思わせるかのよ
うに、まるで空を支える支柱であるかのように、シュトラセトにあるオクトパスでなくオ
クトパスがあるシュトラセトといわせんばかりの存在感は、シュトラセト都市民の誇りで
ありそしてまた象徴であるに違いなかった。星空を覆う建物の影によって、真夜中の今で
もその姿がありありと確認できる。屋上以外客室の明かりはついていない。
私は鼻で深くため息をし言った。
「あそこで食べたいのか。なんて奴だ、たたき起こした上に身包みまで剥ごうっていうの
か?」
 私の言ったことをわざと聞き流すように、この猫は私の話を最後まで聞いてからホテルへ
向かう道を歩き出した。あんな高級ホテルに猫など連れて行けるはずも無い。どこか適当
な店で適当な食べ物でもくれてやればこいつも満足するだろう。私はそう思うと、オクト
パスへと続く道を行く猫の後へ続いた。だが立ち並ぶ店はどこも閉まっていた。港町だと
いうのに今日はばかに静かだ。それともここの区画にはもともとバーが少ないのかもしれ
ない。きっと海岸沿いの店には海の男達があつまって、まるで昼間の商店街のようなにぎ
やかさで日が昇るまで騒ぎ続けているに違いない。だが今はそんなところで酒を飲む気分
では無い。静かに一杯やりたかった。店を探しながら歩き続けたが、とうとうオクトパス
の前にたどり着くまで一軒のバーも見当たらなかった。私はオクトパスを横目に町を北へ
進もうとしたが猫はもうオクトパスへと進んでいた。
「おいおい、待てよ…。」
 私はその足を止め猫のあとを追った。
 猫は私を待つわけも無く、オクトパスのエントランスに向かう階段をトトトと駆け上がる
と、暗闇のエントランスホールへと吸い込まれていった。私が猫のあとを追って十数段ほ
どの階段を上がりきるとホテルのエントランスホールが目前に広がった。高級ホテルの名
にふさわしくその内装は目を見張るものがある。天井につるされている明かりの消された
豪華なシャンデリアが星明かりを乱反射し鈍い輝きを放っているため心なしか店内はうす
明るい。建物の奥には受付が見えるが夜のためか人影は見えない。猫は受付の隣で壁にか
けられた何かを眺めていた。私はその隣まで歩いていくとその視線の先にあるものを眺め
た。ホテルの案内表示板のようだ。エントランスホール、客室、浴場、カジノ。なるほど。
高級ホテルの名にふさわしい設備だ。そして最上階にはバー『フィロソフィ』。私が猫を見
下ろすと彼はもちろん私を見上げていた。何かを思うが早いか猫はもう屋上へのポータル
へと歩き始めていた。
「まだそこに行くとは言ってないぞ。」
 猫が言うことを聞くわけが無かった。私はその猫のあとに続いた。
「他に行くところも無いがな。」

966ageパン:2007/06/13(水) 00:41:52 ID:S5RP8Cs.0
 ポータルで最上階に転送されるとそこは静かな長い廊下だった。左手の窓の外には星空と
暗闇に包まれた地上とが世界を二分している。足元をのぞくとところどころに明かりが見
え、海岸線にある酒場は煌煌としている。私の人生でここまで高い場所に来るのは今日が
はじめてだが、まさか高きから見下ろした街並みが星空を見上げるものと同じだとは思い
もよらなかった。そのときふと後ろからピアノの音が聞こえてきた。薄暗いL字型の廊下
を奥へ進み右へとまがると部屋が開けた。壁に看板が掛けてある。「バー フィロソフィ」
私は店内へと入った。
 店内の空間を優しいオレンジ色の光が満たし、その奥ではピアノの演奏をしている女がい
た。どの席にも客はいない。猫を探したが見当たらなかった。私はカウンターの席へと進
むと腰を下ろし何を頼むか考えながらピアノの演奏を聴いていた。店内を眺めたがやはり
彼女意外誰もいなかった。しばらくその演奏を聴いていたが、女は私に気がつくと演奏を
やめてこちらに歩いてきた。
「いらっしゃいませ。こんな夜遅くにまで足を運んでいただいて嬉しいわ。でもごめんな
さい、今日はもう店をしめなければならないの。私、明日この町をでるのよ。」
「それは残念だ。だがどこの店も空いてないんだ。せめて一杯だけでももらえないか?」
「わかったわ。」
 心の奥で燃えあがる炎を表現したかのような赤い髪、真珠の輝きを思わせる輝きを放つ瞳、
触れると壊れそうなほど透き通った肌、過去の甘い思い出を香らせるピンクの唇、すらり
と伸びる足に器用で繊細そうな長い指、そしておもわず視線をひきつける魅惑の谷間。私
はそこから視線をはずすのに苦労した。しかし美しい女だった。薄紫色のドレスがとても
よく似合っていた。私がマティーニを頼むと女はうなずきカウンターに入った。液体がグ
ラスに注がれる音が聞こえる。目の前にグラスが置かれた。私は内ポケットから10000G紙
幣を取り出してカウンターに差し出したが、女は軽く首を振って受け取ろうとしなかった。
「いいのよ、今日はもうお店のマスターはいないわ。お金を勘定する人はいないの。私のおごりとでも思って頂戴。」
「受け取ってもらえないと飲めないんだが。」
「困った方ね。」
「困った店員だ。」
 私はそう言い紙幣を内ポケットに戻すと、代わりにタバコを取り出し口にくわえた。左手
でマッチを探そうとポケットに手を突っ込もうとしたとき、それより早く女は目の前に火
の点いたマッチを差し出していた。
「ありがとう。」
 私がそういうと女はにっこりと微笑んだ。
「なにかリクエストはあるかしら。」
「さっきの曲を。」

967ageパン:2007/06/13(水) 00:42:44 ID:S5RP8Cs.0
 女はピアノの席へ座ると演奏を始めた。窓の下シュトラセトの港を照らすいくつかの灯が、
港を夜の星空へ浮かぶ夢のように見させた。私はタバコを吸うとその煙を窓へ向けて吹い
た。窓の外に見える星空に煙がかかったがその煙も数秒で溶けて消えた。私は吸いかけの
タバコを灰皿におきマティーニを呑むと私は女の演奏に耳を傾けた。私の視線の先で暗闇
の中、見えないはずの海で波打っているのが見えた。彼女の演奏に合わせて踊っているの
かもしれない。………
 私の視線の先、窓ガラスに映る店内で彼女がピアノと踊っている。星空でピアノと踊る美
しい女。その息遣い、鼓動、躍動、すべてに赤い炎を感じた。それは常人には持ちえるこ
とのできない異常というまでの高温の炎。彼女がピアノを弾くときにあらわれる本性なの
か。先ほどのおしとやかそうな女性の内面がここまでも激しいとは。そのとき私は理解し
た。炎を宿す心の内面を映し出しているものこそ、あの燃え上がるような赤い髪なのだろ
うと。内側に隠しきれずにいた熱い炎が女の髪を赤く染めているのだろうと。今あのピア
ノから放たれるメロディー、それは彼女の指先からあふれ出した熱が、ピアノという濾過
器を通しこの美しい音楽へと昇華されたものに他ならないのだ。
 彼女は演奏を終えると誰もいない客席に向かい一礼をし、カウンターに戻り自分の酒を作
ると私の隣の席に座った。そこにいたのは氷のように美しくそして水面に静かに広がる波
紋のようにしとやかな女だった。
「どうしてまたこんな時間にここへ?本当はこの時間、お店やってないのよ。」
「ああ、そうだ猫がこなかったか?」
「猫?」
「そう黒い猫だ。結構細身で…このくらいの大きさの。」
 私が両手で体の大きさを示したが彼女は首をかしげていた。
「いいえ、みてないわ。ごめんなさいね。その猫がどうかしたの?」
「私は中央広場の近くに宿を取っていたんだ。さっき今にも眠りにつこうって時に部屋の
戸を叩かれて起こされてしまって、そのお客がなんと猫だったんだ。にゃあにゃあうるさ
いものだから眠気が覚めてしまっね。一杯やってから寝ようと思って、そのついでに猫の
餌でもやろうかとおもったんだが。肝心の猫がいない。」
「変わった方。それで、猫を連れてここまできたのね。」
「いや、猫に連れられてきたんだ。」
「まあ、本当に変わった方ね。」
 彼女はそう言うと思わず笑みをこぼした。
「でも残念だけど猫は見てないわ。」
 彼女はそういい店内を見渡した。誰も何もなかった。途中、彼女の視線がピアノで止まっ
た。私は言った。
「もうあのピアノを弾くのは今日が最後なんだね。」
「ええ、そういうことになるわね。できればこの仕事はもう少し続けたいと思ってるのだ
けれど。」
「なぜ辞めてしまうんだい。君の曲を聴くために来る客もいるだろう。」
 彼女は頬杖をつきながら自分の手に持たれたグラスの中を眺めていた。琥珀色の液体をも
てあそぶかのようにグラスを傾けるとグラスの中の氷が音を立てた。一口飲むと彼女は言
った。
「やりたいことがあるのよ。やらなければならないことと言ったほうがいいかもしれない
わね。」
「そうか、それなら仕方が無い。何をやろうとしてるんだい?」
「人を探してるのよ。十数年も前私がまだ幼かったときのこと、私たち家族はロマ村の北
にある集落にすんでいたんだけど、とある理由で家族がバラバラになってしまったのよ。
それ以来、世界各国を放浪しながら家族を探し回っていたの。そしてあるとき父と母がこ
の町にいることを知ったのだけれど…、ここまで駆けつけたときはもう亡くなっていたわ。
この町で私が来るのをずっと待っていたそうよ。父が病気で亡くなると、数週間後母もそ
れを追うかのように…。それでね、私には一人の兄がいるの。あまり顔は覚えてないのだ
けれど彼もこの世界のどこかでまだ生きていると思うの。父と母の話を伝えないといけな
いわ。そして何よりこの世に残された私の唯一の血のつながりのある人間にもう一度会い
たいの。もう誰も失いたくないのよ。」

968ageパン:2007/06/13(水) 00:43:52 ID:S5RP8Cs.0
「だからこの町を出るのか。」
「ええ。」
「行くあてはあるのかい?」
「古都に行こうと思うの。あそこは人も多いし情報を集めるにはいい場所だわ。あそこな
らば新しい仕事を見つけるにはいいと思うの。それに兄もあの町ならば兄に会える気がす
るのよ。」
 灰皿においたままにしていたタバコは半分が灰になっていた。私はその灰を落とすと軽く
タバコを吸った。私は言った。
「私は古都を拠点に活動するギルドの副マスターをしてるんだ。もし本当に古都で仕事を
探す気なら私たちのところへ来ないか。」
「ええ、本当?」
「ああ、20人ほどのギルドだが昔から続いている名の通ったギルドだ。情報を集めるには
いいかもしれない。」
「私なんかがお邪魔しても大丈夫なのかしら。」
「大丈夫、みんな歓迎してくれるよ。それに人手が欲しいんだ。」
「うれしいわ。まるで父と母が私の旅立ちを祝福してくれるかのよう。」
 彼女はそういうとドレスの胸元に閉まっていたペンダントを両手で握り締めた。
「素敵なペンダントだね。それは?」
「両親の形見よ。幼い日の私と兄が写っているの。」
 彼女はペンダントをひらき私に見せてくれた。ひし形にかたどられた写真の中
で可愛らしい少女と男の子が頬を寄せ合っている。
「手がかりはこれだけ…。でもね私、兄に会ったらきっとわかると思うの。たとえ決定的
な手がかりなんて無くても、私と兄とに流れる血がお互いを気づかせてくれると思うの。
私と兄お互いの眼が会った瞬間、お互いの存在を私たちの体に流れる血が私たちだけがこ
の世に残された血族であることを気づかせてくれると思うのよ。」
 彼女はそういいきった後、少しうつむいて目を細めていた。耐え切れずにこぼれた涙が彼
女の頬を伝った。彼女の方が小刻みに震えた。私はハンカチを取り出すと彼女に渡した。
「きっと見つかるさ。」
「ありがとう。」
「私はアレキサンダー・ヒューネン。アレックスでいい。君は?」
「メイ・リンよ。メイと呼んで、アレックス。」
 私はうなずいた。彼女もうなずいた。メイはハンカチで涙をぬぐうと「はぁ」と軽く息を
つき言った。
「さ、もうお店を閉めましょう。古都へ行く準備をしないと。朝まで少し休みたいわ。」
「わかった。だが最後にもう一度あの曲を聞かせてくれないか。」
「気に入ってくれたのね。」
「autumn leave's」
「え?」
「あの曲、autumn leave'sって曲のジャズアレンジだろう。」
「あなたあの曲を知っていたのね。」
「ああ。いい曲だからね。それに私のギルドも同じ名前なんだ。」
 私が胸元につけていた銀杏の紋章を指差しそういうと彼女の顔が笑顔で満ちた。先ほどの
涙がまるでうそのように。一点の曇りもない笑顔。やはり美しい女はこうでなければなら
ない。
「素敵な紋章ね。」
 彼女がピアノの椅子につくと白く美しい指が鍵盤の上を舞った。私は二本目のタバコに火
をつけると彼女のピアノの演奏に酔いしれた。そのとき店の入り口の方で物音が聞こえた。
私がそちらに視線をやると先ほどの黒猫がいた。猫は静かに私を見つめている。
「私をここへ連れてきたのは彼女を古都へ連れて行けって事だったのか?」
「にゃあ。」
 猫はそう鳴くと廊下の暗闇の中へと消えていった。私は彼に軽く手を振り別れを告げた。
飲み終えた空のグラスをテーブルに置いたとき、中の氷が音を立てて崩れた。水気を帯び
た氷の艶やかな表面に私とその後ろでピアノを演奏するメイの後姿が映っていた。夜空の
星が彼女の曲に合わせて瞬いていた。

969ageパン:2007/06/13(水) 00:46:29 ID:S5RP8Cs.0
 翌日、私たちはホテルをチェックアウトする時間に待ち合わせをしていた。カウンターで
手続きを済ませ外へ出ようとしたとき、ちょうどやって来たメイが私の襟首にギルド紋章
の徽章がついていないことに気がついた。私達は泊まっていた部屋に戻ると徽章を探した。
だがそれはすぐにメイが見つけた。
「やだ、なくさないでよ。素敵な紋章なんだから。」
「大丈夫、もうなくさないよ。ありがとう。」
 彼女がそういいながら私に徽章を渡そうとした瞬間、私は驚愕した。
ちょうど彼女の後ろにある壁にかかっている絵。昨日までその中で寝ていたあの黒猫がい
ないのだ。彼女のちょうど真後ろにあるため隠れているのか。私は身をよじってその絵を
覗き込んだ。しかしいない。昨晩私があの猫に起こされたときいたはずの、絵の中のソフ
ァの上で丸くなっていたあの黒猫がいない。
 目を丸くしてる私を横目に彼女はその絵を見て歓喜の声を上げた。
「まあ!この絵…、私の両親が描いたものなのよ!昔住んでいた私の家の絵。なんの変哲
もない絵だけどどこか落ち着くのよね。むかし父が亡くなったとき、生前お世話になった
お礼として母がこのホテルへプレゼントしたって聞いてたの。まさかこの部屋に飾られて
いるなんて。あなたがこの部屋に泊まっていたのはきっと何かの運命だわ。」
「黒猫も描けばよかったのに。」
「ええ、この絵を父が描いたころ、父は私と猫がもっと成長したらこの絵に描き加えてく
れると口癖のように言っていたわ。その猫ももう会えないところへ言ってしまったけれど。
でもなぜあなたはそれを知っているの…?」
 私は言った。
「行こう。古都できっと兄が待っているはずだ。」
 私はそういうと彼女の手から徽章を受け取り足早にその部屋をでた。
「ちょっと…、待ってよ!」
 そんな私に彼女は少々困惑気味だった。無理もない。だが私には確信があった。彼女は事
で再び兄に会うことが出来ると。天からの加護が彼女にはあるのだ。

 慌しくシュトラセトを後に古都へと向かう私たちを一匹の黒猫がいつまでも見守っていた。
「にゃあ。」


                 −fin−




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970姫々:2007/06/13(水) 03:07:10 ID:uqnx7QdM0
ガラッと話を変えて短編です。微妙に長いですけど読み切りです。
シフ×姫です。書き方も大分変えてます。では行ってみます、読みきり
第一弾です。
・・・
・・・
・・・
「待てこのゴキブリぃいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!!!!」
「待ってたまるかぁああああああああああああああああっ!!!!!!!!」

さて、俺はどうなってるか?見れば分かる通り追われてます。
誰にって?さっき立ち寄った市場の店主にだ。
なんでかって?そりゃ腹減ったから店の商品盗ろうとしたらバレた
からだ。

「くっそ‥‥‥、ってあれは分かれ道か‥‥。」
真っ直ぐ行けばこのまま大通り、右に曲がれば裏路地だっけか。
「どうするよ俺っ!?」



 無難に真っ直ぐ。
⇒んなもん裏路地に決まってるだろ。



「よし、曲がるっ!!」

俺は路地を曲がり逃げる、道幅は狭く、迷路のように入り組んでいる、
よし、これなら追いつかれな―――

「まてぇえええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」
ちょっ!待て、しつこ過ぎるぞお前。
「くそぉおおおおおおおおっ!!!!!」


俺はさらに逃げる、もうさっきから叫びっぱなしだが、そこは許して欲しい。


などと誰に許しを請うのか自分でも分からないまま走り続けていると、目の前に
ローブで顔を隠した小さな女の子がっ!!!!
え?何で顔隠れてるのに女の子って分かるか?んなもんスカート穿いてる上にアレだけ
髪長くて男だったら引くぞ。
「って、どけぇえええええええええっ!!」
「え?きゃぁあああっ!」
女の子は身構える、って防御じゃなくて回避にしてくれ、頼むから。


「うぉりゃぁああああああああああっ!!!!」
仕方ないので俺が体を強引に捻ってジャンプ
『ズガァアアアアッ!!!!!』と派手な音を立ててずっこけたが大丈夫、痛いけど大丈夫。
「おい、怪我は無いか?」
「あ、はい。大丈夫です‥‥‥。」
うん、相手を気遣う精神、俺って紳士。
「そのまま止まってろよぉおおおおおおおおおおっ!!!!」
って空気読め店主っ!!!
「じゃあなっ!!!」
俺は軽く右手を上げてそう言った後、また全速力で走り出した。
「あ‥‥、」
‥‥‥?何か声を掛けられた気がしたが、んなもん気にしてられん。
とにかく今は走れ俺。



「はぁ‥‥はぁ、くそっ、どれだけ体力あるんだあの店主っ!!!!」
俺は全力で走り続けるが店主はぴったり俺の十数メートル後ろをついて来る、
俺の脚が遅いわけは無いはずだ、と思うのだが流石に自信を無くしそうだ。
「隠れるならこっちですっ!」
「おうっ!!」
さっきの女の子に手招きされ、俺は道を右に曲がる。
ってあれ?なんか俺、女の子に足の速さ負けてね?
いやいや、先回りしたんだ、そうに違いない。
そんな事を思いつつ
「って何で普通に付いてってんだよ俺っ!!」
と、自分に今更のように突っ込んでみたりする。何でこいつはこんな所にいるんだ?
「うるさいです、今は黙ってこの中に入ってください。」
「おう、分かった。って言うと思ったか?」
少女の指差したもの、それはどう見てもゴミ箱です、ありがとうございました。
「捕まりたくないなら隠れてください、私がごまかしますからっ!」
「いや、これ中身はいって――。」
「あなたにお似合いですっ!急いでっ!」
「お、おう‥‥。」
俺は仕方なく中に入る。店主に捕まらないためならそれは仕方ない。
間違ってもこの女の子の勢いに押されて入ったわけじゃない。
っていうかお似合いって、お前もあれか?俺のことをあの黒くて薄っ
ぺらくて、触覚が長くて何処にでも現れやがるあの無駄に生命力ある
「あの」昆虫と同列視するのか?とか思ったが突っ込むタイミング
を逃したので無視することにしておいた。

971姫々:2007/06/13(水) 03:08:29 ID:uqnx7QdM0
しばらくして、俺は中から話しかける。
(おい、そっちどうなってる?)
「黙って、もうすぐあの人が来ます」
その言葉を聞いてとりあえず俺は口をふさぐ。
「くそ‥‥‥、あのゴキブリめ‥‥‥、次ぎ会ったらぶつぶつ‥‥‥‥」
最後の方はなんと言っているか分からなかったが、とりあえずあの店には
今後近づかない方が賢明だろう。
「どうかされました?」
「いや、どこぞの盗人に家の商品が盗まれかけてな、今追ってるんだよ。」
「まぁ大変、その方はどんな格好を?」
「あぁ、白の服の上に黒い帽子に黒いマント、あと黒い靴っていう物凄く
 目立つ格好だ。」
あれ?これ目立ってたの?俺出切るだけ地味になるようにチョイスしたつ
もりだったんだけど‥‥。
「あぁ、その方ならさっき私とすれ違いましたよ?おそらく向こうの方に‥‥」
「そうか、ありがとよ譲ちゃん、今度店に着てくれたらサービスするからなっ」
「あらそんな、ありがとうございます」
そんな会話の後、店主が走り去っていく足音が聞こえたので、一応外の女の子
に尋ねてみる。
「おい、行ったか?」
「ええ、もう出てきて大丈夫ですわよ。」
「ふいー‥‥、助かったぜ譲ちゃん‥‥。って何引いてんだ?」
「いえ、ゴミ箱から出てくる姿がもう‥‥‥」
はっはっは、こいつが大人だったら間違いなく刺してる。
「では、助けたので今度は私のお願いを‥‥‥あら?」





「はっはっはーっ!なんか嫌な予感がしたから逃げました。」
何で俺説明口調?まぁいいや。
とりあえずはテレポーターの方へ向かおう、港町にでも行ったら
なんか食い物が‥‥‥。
‥‥‥思い出した‥‥、俺今めちゃくちゃ腹減ってたんだった‥‥。
そして金が無いから食べれないわけ、そうなるとテレポーター代なん
か持ってるはずもなく‥‥。
「はぁあ‥‥、腹減ったなー‥‥。」
俺はその場にへたり込む。
「あら、お腹がすいているのなら何か食べますか?」
「お、食う食う――って何でじゃぁあああああああっ!!!」
「もう‥‥‥、そんなに叫ばないでください。いるのですか?
 いらないのですか?」
「く‥‥、いります。」
俺ってプライドもねえのか。と自分が情けなくなる。
「では。はい、どうぞ。」
で、何で空腹で行き倒れそうなやつに差し出すもんがケーキなのかねぇ。
「ネタか?」
「はい?何がでしょうか。」
どうやら本気らしい。とりあえず俺は差し出されたケーキを一口
で平らげ、続きを話す。
「いや、ケーキだよ。普通こういう時ってパンとかあげね?」
「持ってなかったのですから仕方ないじゃないですか」
「それにしたってなぁ‥‥」
「恵んでもらった身で文句は無しですわよ?それに大昔からこう言
 うじゃ無いですか。「パンが無いならケーキを食べればいいのに」
 と。」
どこの国の女王様の言葉だっけかなぁ‥‥、でもそれどっちにしても
こういうときに言った言葉じゃないよなぁ‥‥。
「つーかお前足速すぎ、俺だって速い方と思ってたんだぜ?」
「あら、魔力も無いような方に負けるはず無いじゃないですか。」
おほほ、と口に手を当てて笑っているのを見ると、無性に腹が立つ。
「つーか俺に頼みって何だよ、何かあるんだろ?」
「あら、今度は聞いていただけるのですね。」
こいつは何処までも追いかけてきそうな気がするし、ここまでして貰って
逃げ続けるのも流石に良心が痛む。
「まぁ話くらいはな。」
「では―――」

972姫々:2007/06/13(水) 03:10:43 ID:uqnx7QdM0

ここで俺は一瞬時間が止まった、その間に考えた事。


・え?こいつ何言ってんの?
・これなんて言うイベント?
・つーか流石にこんな年下は守備範囲外だぞ?



「私を盗んでいただけないd――」
「悪い、それは無理だ。」
「何でですかっ!!?」
「いや、だって流石に年下過ぎるぞ‥‥‥。」
「はぁ?」
うわ、物凄く訝しげな顔された。そして言ってから冷静になってよく
考えてみると、用は誘拐してくれって事か?身分の高いお嬢様の言う
事はよく分からんね。
「はっ、「外の世界が見てみたいわー」って願望かい?それなら俺じゃ
 なくて他を当たってくれ。」
「ヒック‥‥、そんなのじゃないです‥‥。」
うわ‥‥‥、言い過ぎたか?
「あー‥‥‥、泣くなって。な?」
「ヒック‥‥、ぅっ‥‥。」
うわー、周りの視線が痛ぇ‥‥。まるで腐ったゴキブリでも見るような
目をしてやがるぜー。
「あーっ!!分かった、分かったからこっち来いっ!!!」
泣いてる女のこの手を引っ張って走る俺って何さ?もう今日は厄日だ‥‥。


「ふぅ‥‥、なぁ、何で俺にんな事頼むんだ?」
「ヒック‥‥そんなのっ‥‥ヒック‥‥」
これさ、俺どうすればいいの?
「ヒック‥‥」
あぁ、俺が泣きたいよ。ほって行ってもいいんだけどさ、流石に色々
助けてもらったしさ、そりゃいくらなんでもあんまりじゃね?
「あー‥‥もう分かった、今日一日だけなら付き合ってやるよ」
「ヒック‥‥、本当ですか‥‥?」
俯きながらそう言ってくる。
「あぁ、嘘はつかねえよ」
「ありがとうございますっ」
で、さっきまで俯いてた顔を上げると満面の笑み。
「って待てお前っ!!泣いてたんじゃないのかよっ!!」
「あら、嘘泣きに騙されるようではシーフ失格ですわね」



今日の教訓
・とりあえず厄介事と思ったらなりふり構わず逃げろ。
・女の涙には騙されるな。

973姫々:2007/06/13(水) 03:12:11 ID:uqnx7QdM0
「では、約束ですので今日はお願いしますね。」
俺はこいつの将来が心配だ‥‥‥。
「あらあら、私の将来の心配ですか、それはどうもありがとうございます」
何でこいつ俺の心の中読んでんだよ‥‥。
「そんな事言われましても‥‥、あなたは分かりやすすぎるというかなんと
 言うか‥‥」
それ俺ってシーフ向いてないって事じゃね?
「人間誰でも得手不得手はあるものですよ。気になさらない方がよろしいかと」
「フォローになってねえよっ!!!!!」
「あら。ふふ、まぁそうですね、申し訳ありません。」
「ったく‥‥、つーか俺金ねーからさ、俺と一緒に居ても何も買ってやんねーぞ?」
「ええ、構いませんよ。あなたにそんな事は微塵も期待していませんので。」
こいつさ、絶対大人になったら悪女になると思うんだ俺は。だって黒いもん、
純粋じゃないんだもん。


「つーか俺に何しろって言うんだ?」
「この町の案内をお願いします。」
以外だ、案外普通‥‥っていうか普通すぎて一瞬言葉が出なかった。
「けどお前、それなりに詳しいんじゃねーの?あんな裏路地の事なん
 か普通しらねーぜ?」
「それは‥‥」
何故言葉に詰まる‥‥。
「まぁいいや。行くなら行こうぜ、何処行きたいんだ?」
「どこでも、今の私はあなたの物なんですから。」
あーあ‥‥、その台詞を美人のねーちゃんに言われたらどれだけ嬉しいだ
ろうね、まったく‥‥。
「あら、失礼しちゃいますわね。」
「‥‥、俺の心の中読むの禁止。」
「あらあら、それは残念。」
俺、早くもめげそうです。




「はい、ここが噴水、待ち合わせの場所としてよく利用され、クリスマス前には
 ツリーが立つという事で、古都の名物となっておりまーす。」
「ここがですかー、話には聞いていましたが実際に来るのは初めてです。」
「マジ?結構誰でも一回は来る所と思ってたんだが。」
「ええ、だって私箱入り娘ですもの。」
本当の箱入り娘は箱をぶち破って逃げ出すような真似はしないがな。
「つーかお前やっぱ家出?」
俺は何気なく直球で聞いてみる。どうせ変化球でせめても結果は同じだろうからな。
「ええ、まぁ似たような物です。とりあえず今は私の案内をお願いします。」
ニコリと笑われる、この笑顔は本心か作り物か‥‥。とか考えていたら
また小声で「本当に失礼ですね‥‥」と言う声が聞こえた、それなりに
気は使った上での小声なのだろうが俺の心を 読 む な 。


「はい、ここが議事堂。で、すぐそこに見えてるのがブルンギルド連合。どっちも
 普段は一般開放してるから、結構俺みたいな冒険者が屯ってる。」
「結構歩きますわね‥‥。」
「ん?疲れたか?」
「はい、少し‥‥。」
やっぱ箱入り娘ってのは本当なのだろうか‥‥、少々体力が足りていないご様子。
「じゃ、近くに公園があるからそこで休むか。」
「はい、申し訳ありません‥‥」

974姫々:2007/06/13(水) 03:13:36 ID:uqnx7QdM0
てな訳で公園に着きました。描写?疲れたと駄々をこねる女の子の腕を引っ張って
公園までやっとの事でたどり着きました。位しか書くこと無いし割愛でいいだろ?
「つーかお前、何で家出なんかしたんだよ。」
俺はとりあえずベンチに腰をかけ、訊いてみる。
「あなたには関係ないですわ。」
「はいはい‥‥。」
まぁ予想通り、か‥‥。
「ねえシーフさん、一つ尋ねてもよろしいですか?」
「んー?」
向こうからなんか尋ねてくるなんて珍しいな。
「何でシーフになろうと思ったのですか?」
「んー、何でだっけなー。レッドストーンを探そうとしてたらなんかシーフになって
 たって感じだったなー。」
「やはりあなたもレッドストーンを探しているのですか?」
「も」?こいつも家族か親戚の誰かに探している奴でもいるのか?
「あぁ、まぁ冒険者だしな。」
「その話、聞かせていただけますか?」
変な所に食いつくなー‥‥。まぁいいけど。
「じゃ、とりあえず最近探しに行った所の話でも―――。」



「でよー、そのダメルって街が遠いんだわ、なのにそこのビショップが何回も――
 ってそろそろ飽きてきたか?」
「いえ‥‥‥、ただ――」
「ん?ただ?」
「冒険は、楽しいですか?」
また変な質問だことで‥‥、まぁここまで来たら何も言わないさ。
「あぁ、楽しいさ、これ以上は無いってくらいな。」
「‥‥‥」
なぜ無言?俺、なんかまずいこと言ったか?
「飲み物でも欲しいですわね‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥‥、金はねーぞ‥‥。」
「私が持っていますので買ってきてください。」
俺パシりっすか。渋々手を出すとチャリンと小銭を渡される。
「っていうか多くね?一人分ならこんなに金いらねーだろ?」
「あなたの分ですよ。」
しかも俺より10歳近く年下であろう少女におごって貰う訳ですか。情けないにもほ
どがないか?俺。
「しゃーない、行ってやるよ」
けど喉の渇きには勝てなかった。俺プライドねぇなぁ‥‥。
とりあえず待ちくたびれたお姫様がまた騒ぎ出す前に、近くで飲み物を買って公園
に戻ることにするか。


「ほれ、おまたせ。」
「遅いですわ。」
うわっ、憎たらしい。と言いつつこいつの金で俺の分も買ってるんだからおあいこか。
「私が家出をした理由、聞きたいですか?」
「ん?いいさ。どうせ外の世界が見てみたくなったって落ちだろ?」
「ふふ、逆ですよ‥‥。見たくなかったのです、逃げたのですよ‥‥。」
「はぁ?」
俺を無視するかのごとく、そいつは話を続ける。
「私の家系は十二歳の誕生日に成人式を迎えます、そしてそれは明日なのですよ‥‥」
笑っちまうくらい早い成人式だことで‥‥と、言うべき台詞はこれじゃないな。
「いや待て、そりゃ拙いだろ、何でんな大切な行事の前日にこんな所にいるんだよ。」
「ふふ、本当にそれは成人式だと思いますか?」
まて、自分でそう言ったんじゃないのか?
「違うなら何なんだよ?」
「用は勘当ですよ。私の家系の血が混じっている女性は十二歳で成人を向かえ、家を
 放り出されます。これが500年前から続く仕来り、私に口を挟む余地などありません。
おいおい‥‥、どんな家系だよそりゃ‥‥。
「何でそんな――。」
「呪い、ですよ。」
「は?」
んなもん存在するのか?
「呪いってどんなだよ」
「十二歳で体の成長が止まり、数年後の自分と自由に入れ替わる能力が身に付く‥‥っ
 て言って信じますか?」
「‥‥‥、たまにいるよ、プリンセスって名乗ってるちっこい冒険者がな‥‥。」
あぁ‥‥、俺が子供の頃から、さぞあたり前のようにいたから気にしなかったが、やっぱ
ありゃそんな裏事情があったわけか‥‥。
「時に囚われた子‥‥、何故このような呪いが掛かっているのか‥‥、色々説はありま
 す。けれど今のところ一番関係しているといわれているのが――。」

『レッドストーン』

「って訳か‥‥。で、お前も探しに行くのか?」
「そうなりますね。」
「見つけてどうすんだ?」
「さぁ。」

975姫々:2007/06/13(水) 03:18:03 ID:uqnx7QdM0
さぁって‥‥、それでいいのか?
「適当なことで‥‥。」
「ええ。私もこの身体の事は諦めていますから。」
「じゃあ何で――」
「怖かったのですよ。知らない世界を見るのが‥‥。きっと誰かの後押しが欲しかったの
 でしょうね‥‥。」
あぁ‥‥、なるほど‥‥、旅に出るのはこいつの意思じゃないもんな‥‥。
聞いた話だと男には呪いは掛からず、旅に出なくていいだろうから血が絶えることは無か
ったって訳か‥‥。こりゃ災難だな、その家系の女の子は。
「へぇ、じゃあ何で俺なんだ?もっと強い奴とか冒険慣れしてる奴らは、この街ならごろ
 ごろいるだろうに。」
「何となく私と近い感じがしましたから。」
近いかねぇ‥‥、どっちかと言うと一番遠い人種だと思うんだが‥‥‥。
「同じ半人前どうし。」
あっはっは、何この不思議な感情。俺どうすればいいの?
「冗談ですよ。あなたに会う前にも何人かの冒険者に話しかけました。けど、実際
 こうやって話を聞いてくれたのはあなただけでしたから。」
これは‥‥、誉められてるのか貶されてるのか‥‥。
そう言い、ベンチから立ち上がり、俺のほうを向いてこう言った。
「今日はそろそろ帰ります。こんなワガママな子供の話を聞いていただき、ありがとうご
 ざいました。」
そう言い、背中を向けて歩き出す。まぁ帰るならそれでいいさ、俺もせいせいする。けど
そう言う理由で家を出てきたなら、一応訊いておきたい事があるわけで。
「俺で力になれたかい?」
そう尋ねてみると、少女は振り向き、にこりと笑ってこう言った。
「ええ、とても。」
「そりゃよかった。」
俺はそう返したが、今度は振り向く事無く歩いていってしまった。
俺は一人取り残されたベンチで、空を見上げ溜息をつく。
(まぁ頑張れ、プリンセスさんよぉ‥‥。)

その後、鞄の中を見ると1万ゴールドと手紙が入っていた。金はあいつなりのお礼のつもり
だったのだろうか‥。にしても手紙ねぇ‥‥、飲み物を買いに言ってる間に書いたのだろ
うか‥‥、年齢不相応のとんでもない達筆でこう書いてあった。

『私は必ずあなたに追いついてみせます。その時は、よろしくおねがいしますね。』

「けっ‥‥、一応俺のほうが上って認めてくれてたのかねぇ‥‥。」
そんな皮肉を手紙に向かって言った後、俺は手紙を鞄にしまい、その後は結局夜までその
ベンチに座っていたのだった。






エピローグ。

「だーっ!!!」
「いきなり叫ばないでいただけますか?」
本当に考えられないようなスピードでこいつは成長し、結局あっけなく俺はレベル的に
追いつかれてしまったわけで。
参ったねこれ、もう俺は意地もプライドもずたずた。
「何でお前こんなに強くなるの早いんだよっ!!」
「手紙に書いたとおりですよ、本当に努力したのですから。」
いや‥‥、俺も結構努力してたんだぜ?なんか悲しくなってくるな‥‥。
「あなたと一緒に冒険するために。」
「ん?お前、今何つった?」
「なっ、何でもないです。ほら、そっちに行きましたわよっ!」
「でかいだけの悪魔なんかにやられてたまるぅぁああああああっ!!!!!」
俺は悪魔に思いっきり投げ飛ばされてしまった。つーか大爆笑するなそこの女っ!!
≪アトハオマエダ≫
少女に悪魔が手を伸ばす。
「あら、私に触らないでいただけます?」
そう呟くと、手に持ったボトルをぽいと悪魔に向かって投げた。
≪グ‥‥ァ‥‥≫
カチンと凍る悪魔。こんな見た目だけどナパーム弾とか液化窒素弾とか催涙弾とか持って
るんだぜ?こいつ。何回催涙弾を枕に仕込まれたことか。
そんなこんなで俺はこいつとレッドストーンを探している。そりゃ色々あるけどさ、一人の
時より賑やかで楽しいのは確かだから別にこれはこれでいいんじゃないかな?
「後はあなたの仕事です、任せましたよ。」
「おう、任せろっ!!」




〜fin〜

976姫々:2007/06/13(水) 03:23:21 ID:uqnx7QdM0
シフの相方はテマサマが多いのかな?とりあえず姫とのカップリングは
少なそうなので書いてみました。
カップリングという事で名前は無しです。お互いにスキルを殆ど使って
いませんがそこはご愛嬌です。
では、次はまたタスカに戻ります。
中編はgdgd感が凄かったので後編はもうちょいすっきり纏められる
ように努力します。では眠いのでこの辺で。

977◇68hJrjtY:2007/06/13(水) 07:31:13 ID:O7z4q9vk0
>ageパンさん
港の夜話というか…なんとも不思議で「RS版」世にも奇妙な物語で出てもおかしくないお話ですね。
一方で大人でシリアスなストーリーでもありますね。ピアノ演奏シーンの描写は凄かったです。
前回のageパンさんの作品同様、RSという舞台で無くても通用するようないいお話でした。
ところでシュトラのオクトパスホテルってほんとに凄い外観なのに中に入れないのが悔しい…。
次回作もお待ちしています。

>姫々さん
思わず顔が緩みます(*´д`) ラノベ調なのもとっても読んでて楽しかったです。
ついFF9を思い出してしまった…別の言い方をさせてもらえばカリオストロの城のルパンとクラリスみたいな。
シーフ武道のあの服は確かに昼日中は目立つと思います。燕尾服みたいですし(笑)
私も武道やってて黒バッタと言われた経験が…本人はそんな見た目を楽しんでますけど!(デフォ黒服好き)
次回はタスカの過去の続きですね、期待してます。

978名無しさん:2007/06/14(木) 22:00:39 ID:CqaKZhoo0
ファイルが死んだらフォースフィールドになるのかな?

979殺人技術:2007/06/17(日) 22:37:49 ID:E9458iSQ0
>>姫々さん
前半の漫才ちっくな描写に笑ってしまいました。
かと思えば後半になるとちょっと重いムードになって。
最後はツンデレ(´ω`)
あの短い話によくそれだけの容量を詰め込めるなーと少し嫉妬しました(ぁ

>>ageパンさん
はじめまして〜。
何だか大人な雰囲気が漂う良い話でしたね、オクトパスホテルの情景も涼しげで良いです。
最後の締め方も神秘的で凄い良かったです。
ただ、素直に言うとちょっと読みにくいかな……と思いました。
改行や書き始めの位置がちょっと変かなー……と。
改行は一つの文が終わって。を付けた所で改行すると良いですよ、携帯からなら仕方ないですけど。
この掲示板、下のレスフォームではもの凄い右に伸びても勝手に改行してくれますから。
一つ一つの描写がとても豊富なので長くなるのは仕方ないですが、書き方という点で注意すれば見やすくなると思います。
具体例を出すと。

(元)
 町は静まり返り夜空に星が満つる時間。私は夢の入り口手前で部屋のドアを叩くその音に
起こされた。目を開けると窓の外に星空が見える。カーテンを閉めるのを忘れ寝ていたよ
うだ。私はベッドから起き上がるとカーテンを閉じようとしたが、つかもうと手を伸ばし
た瞬間、誰かの戸を叩く音に起こされたことを思い出した。そうだ、来客だった。そのた
めに私は起こされたのだ。目をこすりながら枕もとの時計をみると0時を回っている。こ
んな時間に一体何の用だ……。

(自分なりに改行しなおしてみた)
 町は静まり返り夜空に星が満つる時間。私は夢の入り口手前で部屋のドアを叩くその音に起こされた。
 目を開けると窓の外に星空が見える。カーテンを閉めるのを忘れ寝ていたようだ。
 私はベッドから起き上がるとカーテンを閉じようとしたが、つかもうと手を伸ばした瞬間、誰かの戸を叩く音に起こされたことを思い出した。
 そうだ、来客だった。そのために私は起こされたのだ。
 目をこすりながら枕もとの時計をみると0時を回っている。こんな時間に一体何の用だ……。

とかに?(文自体には手を加えていません)

……でしゃばってごめんなさいorz

980殺人技術:2007/06/17(日) 22:40:40 ID:E9458iSQ0
そろそろこのスレも終わりそうですね。
なんかもの凄い早く感じるw

チョキー・ファイル

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

32-36>>548-552
37-38>>568-569
39-42>>592-595
43-46>>617-620
47-51>>693-697
52-56>>760-764
57-62>>806-811
63-65>>825-827
66-70>>838-842
71-77>>869-875
78-81>>921-924

テラありきたり展開乙自分wwww

981殺人技術:2007/06/17(日) 22:41:07 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(82)

 その刹那、ファイルは無意識に悟った。
 十日前、ビガプールの宿で燭台に火を灯した人物の正体。
 憑依していたチョキーが死んだ後も、ファイルが生き長らえた理由。
 ブリッジヘッドで知った、ファイルの精神よりもチョキーの精神の方が、同調が早かったという事実。
 全て、こいつが原因だった。
 胸元から背中まで突き抜ける灼熱感を感じながら、ファイルは目の前の男に力なく身体を預ける。男の肩越しにあの天使の驚きの顔が見える。
 「お前の目的は何だ、地下界に戻る事ではなかったのか?」
 男は肩を後ろに引く様な動作をすると、ファイルの胸からずるずると、穴を塞いでいた手套が抜き放たれる、その手は白い炎を纏って燃え盛っていた。
 手が完全に抜き取られると、ファイルは胸にぽっかりと開いた風穴からくぐもった音を立てながら血潮を迸らせ、その場で瓦礫に倒れ込んだ。砕けた砕片の角が傷口を圧迫する。
 「貴様は一体……」
 アドナイメレクは魔力を集中して目の前の男と対峙すると、ゆっくりと呪文を唱える用に問いかける、顔は警戒に引き結んでいるが、微かに困惑と畏怖の色が伺えた。
 「我はピエンドのF・F、獄炎より生まれし悪魔だ」
 男はF・Fと名乗り、動かぬチョキーの死体を跨いでアドナイメレクに接近した。
 F・Fがアドナイメレクに歩み寄る、アドナイメレクはそれに合わせてゆっくりと後退する。
 アドナイメレクが背中を柱に付け、F・Fはそれを見て足を止め、突然口を三日月の形につり上げ、鋭く尖った牙を覗かせた。
 「……天使を見ていると何故か無償に苛々する」
 「……!」

982殺人技術:2007/06/17(日) 22:41:39 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(83)

 迂闊だった……
 ファイルは心の中でそう呟いた。
 今なら分かる、とうの昔に、チョキーの精神などという物は殆どなくなっていたのだ。
 だから、チョキーが死んでも、同調していた私には全くと言って良い程影響が無かった――同調していたのは自分自身だったのだから!
 「目障りだ、消えろ!」
 視界の外で自分自身の声が響き、ごうごうと炎が燃え盛る音がファイルの感覚を呼び覚ます。
 どうやら、自分――F・Fとあの天使が、戦っているらしい、天使が嫌いな所は自分と変わらなかった。
 せいぜい傷を癒す時間稼ぎになってもらうとするか――ファイルはそう考えて、起き上がりそうになった体から力を抜き、静止する。
 俗に言う、死んだ振りだ。
 左手をこっそりと胸と瓦礫の間に忍び込ませて、深緑の炎を発生させる、気付かれたら終わりだ。
 ファイルは二人の戦闘を耳に聞きながら、炎が体の縁から漏れ出ないように注意し、慎重に傷を癒していく。あと五秒……いや十秒……。
 「サボるな、悪魔」
 だが、突然、天使の恫喝を込めた言葉と共に、胸を強力な力で蹴り上げられる。不意を突かれたファイルは為す術もなく、そのまま蹴りの勢いで仰向けにされてしまった。
 「……なんだ、まだ生きていたか」
 ファイルの逆さまになった視界の隅でF・Fは言い、アドナイメレクは体の側でファイルを見下ろしながら、冷酷な瞳をファイルに浴びせる。
 「生憎だが、私にとって悪魔は敵でもなければ味方でもない、これ以上面倒に巻き込まれるのは御免だ」
 そう言って、アドナイメレクは白い光と共にファイルの視界から消失した。
 「…………」
 ファイルは仰向けになったまま唖然としたふうに中空を眺め、口の中で小さく罵倒した。
 議事堂内の静寂は破られない。どうやらまだアドナイメレクの結界は残っているらしい。
 「……あの天使は私の目的とは関係ない、まずはお前を殺そう」

983殺人技術:2007/06/17(日) 22:42:08 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(84)

 F・Fがそう呟くと、ファイルは逆さまに自分を見下ろすF・Fの顔を見据え、腰を屈めて床に転がる燭台を拾い上げる。F・Fがそれを握り締めたと共に金属製の燭台は波打ち、先端の蝋は一瞬で気化する、もはや原型を留めていない燭台が蛇の様にのたうち回ると、その右手の内に見慣れた形で収まった。
 そして、F・Fが燭台の剣をファイルの額に真っ逆さまに突き落とし、ファイルは目が覚めた様に起き上がるとその勢いでF・Fの顎を蹴り上げる。
 F・Fは小さく首を引いてそれを掠らせ、左手にも同様の燭台を握り締める。ファイルは瓦礫の上を転がりながら間合いを取り、両手にF・Fの剣と同じ白い炎を纏わせ、腰を落として両腕を開き、威嚇する様なポーズを取る。
 胸の傷はあの糞天使のお陰で完治してない、出血は止んだがファイルの胸元はそれ自体がズキズキと鈍痛を放ち、息を吸い、吐く度にファイルを苛んだ。
 ファイルは胸の痛みに冷や汗を垂らしている内に、F・Fは起伏の激しい瓦礫の上を俊敏に動いて間を詰める、ファイルは一瞬遅れて前進し、右腕を前方に翳して構える。
 膨張する白炎、触れる物皆舐め回す様に蠢く炎の塊が暗闇を吹き払い、千切れた絨毯、舞い散る埃、さらには崩れた瓦礫さえも燃やし、融解させる。だが本当に焼き尽くすべき物は炎をものともせず突っ切り、真っ直ぐ突きつけられた剣が炎を迸らせる掌に潜り込み、肉と骨を通して肩の裏から顔を出した。
 ファイルは余りの苦痛に蹈鞴を踏み、圧迫されて吹き出た血飛沫が止まぬ内にF・Fは素早く剣を引き抜く、蓋を失った血液が盛大に両者の体を染め上げた。
 ファイルは自分で把握して置きながら、相手が自分だという事を失念していた――単なる魔法だけでは何も出来ないと判断したファイルは、相手がもう片方の剣を突き出そうと肩を引くのを見て、渾身の力を振り絞って上空へと逃避した。
 何か武器になる物は無いか――ファイルは右腕の傷を癒しつつ階層を上がっていき、天井の絵画まで接近して下方から追ってくるF・Fを見ると、まるで鬼ごっこの様にF・Fの脇をすり抜け、重力に体を任せて暗闇へと落下した。
 やがてファイルが融解してのっぺりとした地面の付近まで来ると、地面ギリギリで向きを変え、瓦礫がまだ起伏を作っている場所へ接近した。
 「!」
 上空からとんぼ返りして追ってきたF・Fが急に静止すると、床に着地して無様な失敗を犯した自分を叱咤する様に舌打ちをした。
 「………………」
 ファイルはその様子を屍の傍らで息を殺して眺め、その手に大事そうに一つの杖を抱え込んでいた。
 まさか今になって古い友人に助けられるとは――ファイルは心の中で感嘆し、警戒の目でF・Fの一挙一動を凝視する。
 あいつは何故か知らないが私の分身、だとしたら戦闘能力も一緒の筈――完全に回復した状態で面を向いて戦えばやられる事はないだろう、とファイルは考えた。
 議場に静寂が戻る。だがそれは何時破られるかも分からず、静かだというのにその空気はこの上ない戦慄を孕んでいた。
 ――そして、静寂は再び破られる、だがそれは以外にも、荒々しさを感じさせない理知的な声によるものだった。

984殺人技術:2007/06/17(日) 22:42:44 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(85)

 「……一つ、聞きたい事がある」
 緊迫の中、F・Fが誰に問うでもなく、だが確実に特定の一人に対して言葉を紡いだ。
 「お前の目的は何なのだ?」
 F・Fは言う。ファイルは身動き一つ取らずに黙し、だがF・Fはそれを一つの答えと受け取ったのか、構わず続ける。
 「地下界に居た時、お前と私の目的は一つだった、"救いを無くした地下界を捨て、愛すべき者と共に地上界で暮らし、時期を見計らって地下界へと戻る"、そうだろう」
 「………………」
 ファイルは一瞬口を開き掛けたが、寸での所で言葉を飲み込む。
 「だが、今のお前の目的が私には分からない……なぜ、私の邪魔をする」
 理知的なF・Fの声、それはファイルが初めてチョキーと邂逅した時と同じ声だった。
 「私たちが愛すべき者を久方ぶりに目にしたあの時、私達は一つの感情を抱いた筈だ、嫉妬と憎悪を、地下界であれほど溺愛していた者が、見ず知らずのあろうことか天使に横取りされていたのだから」
 やがて、理知的だった声に少しずつ感情が込められていく、その感情は様々な物が綯い交ぜになった、不可知の物だった。
 「いくらお前の精神が人間の精神と同化しようとも、いつでも人間の肉体を操ってあの天使を殺す事は容易かった筈だ、なぜならその精神は最初から浸食された不純な物だったのだから!」
 チョキーとファイルは初めて出会った時、既にチョキーの精神は人間のそれを留めて居なかった、百余年もの間、ファイルを、F・Fの片割れを待ち続けていたのだ。
 「私はあのおぞましい三百余年の拷問の末に死に、お前は四百年に渡る"生刑"を終えて死んだ、お前と精神が同調していたお陰で、本来肉体に刻まれていない筈の記憶を感じ、思い違いしたのだ」
 私がW・Cの力を使った時、決定的なイレギュラーが地下界に発生した、そしてそれは地上界へ降り注ぎ、やがて罪なき一人の少年の人生を破壊したのだ。
 「――話を戻そう、お前はどうして、欲望のままに生きない? 私と同じ強力な力を持ち、私と同化すればその倍の力を発揮出来ると言うのに」
 F・Fの言葉が、強く熱気を帯びていく、ファイルは思わず杖を落とし、F・Fの視界の隅にその姿を晒す、だがF・Fはそれを無視して言葉を続ける。
 「その力を存分に発揮しろ! 己の苦悩を撒き散らし、他の者の喜びや楽しさ、安らぎを奪え! 野望を邪魔する者は殺し、愛を侮辱する者は服従させろ! 怒りに任せて破壊を繰り返し! 哀しみを拒絶し! 全ての命と自由をその手に握れ! 気に食わぬ者を永久に服従させるのだ!」

985◇68hJrjtY:2007/06/17(日) 23:20:34 ID:O7z4q9vk0
>殺人技術さん
どんでん返し…とは違いますが、意外も意外な人物が登場して驚いてます。
「登場」では無かったですね。最初から一緒だった人物でした。
あまりにも重い、あまりにも深いストーリーだったんだなとここに来て改めて思いました。
思いつきだけでは到底書ける代物ではないですよね…。良く練られたストーリーなのでしょうね。
さて、ラスト・バトルなのでしょうか。
戦い自体の結末、そしてどういう展開になって行くのか。楽しみにしています。

986NT:2007/06/18(月) 01:20:00 ID:/1xEPrjg0
お久しぶりです…
次スレまで投稿しないと言いましたが、
完成してしまったので投稿したいと思います。

>>携帯物書き屋さん
はじめまして。そしてレスありがとうございます。
明るい感じの本…というとライトノベルとかですかね?
今まであまり読んだことないですが、今度挑戦してみますね。
助言感謝です。
あとそのくらい書けていてかつ構成もしっかりとしていれば十分ですよ。

>>68hJrjtYさん
感想どうもです。
もともと登場人物が少ない(多くすると私では収拾がつかない)ので
基本的に2人称が多くなるので…
君でも嬢でもお好きなようにどうぞ(笑
あとコテハンは大事にするべきですよ。

他の方へ
初めまして。NTと申します。
この場を借りて駄文を投下していますが、(生)温かい目で見守っていてくださると幸いです(マテ
皆さんの文章を読ませていただいていますが、私は元々感想を書くことが大の苦手でありまして、
あまり気の利いたことが言えませんが、一言、

見ていてくれている方のためにも、そして自分のためにも、いい作品を作っていきましょう。

と偉そうなことを言ってみます。
まあ実際は皆さんの物語がとても素晴らしくて、ちょっとした自己嫌悪になっていたりしますので…

では次に会う時にまで

987NT:2007/06/18(月) 01:23:33 ID:/1xEPrjg0
>>937-939の続きです
―私は復讐者になった
 復讐の達成以外にはなにも求めない
 だから誰にも頼らず、また誰も助けようとしなかった。
 でも…
 こんな私をなぜ彼は助けてくれるのだろう…




 「お前が…俺が…やる。」

誰かの声が聞こえる。
とても苦しんでいる声が。(…この声は聞いてはいけない)

 「あの…」

でもよく聞こえない。
なぜだろう?(理由など考えるな)

 「…の家族…仇…」

何の事だか声の主に今すぐ聞きたいが
体が動かない(聞くな!)

「…俺の…人…」

この言葉を最後に静かになった。
声の主が寝たのだろうか



そうして私は思う。
ああこれは夢なのか。

そして再びまどろみの中に戻って行った…




「おはよう。」
朝、私は声をかけた。
これを他人に言うのは本当に久しぶりだ。
久々によく寝れて今日は元気がいい
「…うっす。」
対して彼は元気がない
寝不足だろうか?目のあたりにクマがある。
「ちゃんと寝ないとダメよ?」
一応注意してみる。
相棒に倒れられると困るから。
「少し考え事をしていただけだ…」
ぶっきらぼうに返される。
どうやらまだ本調子ではないようだ。
ここは調子が戻るまでそっとしておくべきか。
そう思い、
「じゃあ出発するわよ。」
と言い歩き出そうとしたが、
「出発ってどこにだ?」
と言い返されて私は動きを止めた。


…正直にいって
どこに行くか
まったく考えていなかった。(なぜだろう?こんなことは今までなかったのに)

988NT:2007/06/18(月) 01:30:24 ID:/1xEPrjg0
―俺は復讐者にはなりきれていない。
昔からそうだ。
俺は何をやっても中途半端だった。
だが、
昔、そんな俺でも愛してくれた人がいた。
今、俺の目の前には彼女がいる。
憎いのか、それとも…


らしくないポカミスだ。
俺は固まって考えている彼女を見てそう思った。
彼女はどんな時でも目標を目指して常に行動していた。
その目標以外のことを考えないので今まではこんなことはなかった。
では彼女は何を考えていたのだろうか?
…見当もつかない。
俺は彼女ではないから当たり前だが

「ぅ〜」
唸りながら可愛く考え込んでいる彼女に向って助け船を出すことにした
「昨日の遺跡で何か見つかったのか?」
すると彼女は、
「ええ、見つかったわ。」
「どんなのだ?答えられる範囲でいいから教えてくれ。」
「…内容は言えないけど、あの組織本部あての手紙よ。」
内容は言えない…か。
いい加減何をしようとしているか教えてくれてもいいだろうに。
まあ彼女の目的が「復讐」であるということはわかっている。
でも彼女が言わないので俺は知らない、ただそれだけだ。
「手紙か?報告書ではなくて?
報告書だったら本部を探せばそのことについて記録があるかもしれん。」
そう言うと彼女は何かに気づいたようだ。
「…そうね、内容は報告書に近い感じだったわ。でも本部の場所は分からない。
でも内容を考えると他の支部にも似たような資料があるかもしれない…」
よし、話は九割がた決まった。
「OK。じゃあ場所のわからない本部ではなく他の支部に行ってみるか。」
「そうしましょう。」

行き先が決まった。
彼女は歩きだした。
とても彼女が生き生き?しているように見える。
よほど復讐が大事なのか。
…それとも
復讐者にとってはそれが当り前で
俺のようなものが異端なのか
俺には分からない。

でも、俺はしっている。
よほどのことがない限り、
彼女の復讐は
最悪の形でしか果たされないことを…

989NT:2007/06/18(月) 01:30:49 ID:/1xEPrjg0
「…」
「…」
…気まずい。
歩き出して2時間、ここまで会話が全くない。
今まではそう感じなかったのだが、改めて「一緒」だと思うととても気まずい。
何か、話題を振らないと…!
「ちょっといいか?」
振る話題を考えている時、彼から先に話しかけてきた。
「なに?」
なぜか嬉しかったがそれを上に出さずに答える。
彼はぶすっとした表情で
「あんた、俺の名前はわかるか?」
と言った。
…なんでそんなことを?
「わかるわ、ウィドでしょう?」
「さすが、あんたは記憶力もいいのか。」
それっきり黙り込む彼。

何でこんなことを言い出したのかわからない。
「ウィド、結局何が言いたいの?」
聞いてみることにした。
「いや、あんたも抜けていて実に楽しいな、と思っているだけだ。」
…腹が立つ
人の言動を見て楽しむってどんな趣味だ。
「失礼ね。」
「いや、あんたに無視されることが多かったからな。
お望みならあんたの観察記録でも作ろうか?…冗談だ。」
私の殺気を感じて彼は黙った。
本当に腹がつ。
だいたいなんでずっと私のことあんたなんて呼ぶ………
「あ」
しまった。
「…ひょっとして私の名前教えてなかったっけ?」
恐る恐る聞いてみる。
彼はやれやれといった表情で、
「やっと気づいたか。で、名前は?」
…少し恥ずかしい。
でも私には…
「ごめんなさい。
でも私に名前はないわ。」
正直に答える。
「名前が…ない?」
彼は困惑しているようだ。
「そう、私には名前がないの。なんならあなたが勝手に名付けてもいいわ。」
私は『これ以上聞くな』と目で訴えかけつつこう言った。
すると、

「わかった。名前は俺が考えよう。」

などと言い出した。
…マジですか?

それから、少しの間考えていたが、
やがてこちらを向き
「よし、ならラミというのはどうだ?」
と言った。

それは、
その名前は、
「ラミ…」
「気に入った?」
彼が聞いてくる。

偶然なのか?
その名前は
「どうしてその名前にしたの?」
私は聞いた。
多分動揺は隠し切れていない。
そんな私を見て彼は苦笑いしながら、
「俺の昔の大事だった人の名前さ。」
そう答えた。

やはり偶然か。
その名前は
「やはり、こういうのはいやか?」
彼が聞く。
嫌とかそういう問題ではない。
その名前は

捨てたはずの、私の、本当の名前なのだから…

990NT:2007/06/18(月) 01:36:05 ID:/1xEPrjg0
彼女はその名前を拒否した。(まあ当たり前だが)
だが「俺が決めていい」という約束を盾に説得をし続け
「勝手にすればいい、でも私は認めないわよ。」
とyesともnoとも取れない返事を勝ち取った。
でもそんな彼女が妙に楽しそうに見えた。
そんな彼女を見て

俺は小さな、本当に小さな違和感を覚えた。



一日歩き続けて夜になると適当な場所で野営をした。
彼女はすでに寝ている。
出会ったころからいつも寝るのは早かったな…
いろいろ物思いに耽っている時、
(なあ俺)
俺の中に内なる俺を感じた。

―頭の中を切り替える
何の用だ?
(あの女にあの名前を付けたのはなぜだ?)
…そんなことか
(昔の罪を思い出させるためか?)
まあそんなところだ
(ふむ、さすが俺だ)
何がさすがなんだ?
(あの女と無駄話している時も復讐することを忘れていないからさ)

(まあこの調子でいけばすぐに俺の復讐は果たされるな)
…それは
(期待しているぞ?「俺」は俺を動かせないから「俺」は俺に期待しているんだ)
俺が
彼女を殺せと?
(当たり前だろう?それ以外にどんな方法がある?)

(皆の無念を晴らそうな…俺)
―何か言う前に内なる俺は消えた。


正直俺は復讐のことなどどうでもいいのでは、と考え始めている。
昔を思い出すと一層そう考えてしまう。
でも復讐したいと願う俺は
「昔」を大切に思っているからそう望んでいるはずなのに、
なぜ俺を苦しめている「あのこと」を無視するのだろう…?


「××××」
彼女の寝言が聞こえる。
俺は、
本当に俺は、
彼女を殺せるのか…

わからない。
内なる俺にはああ言ったが、
彼女にあの名前を…昔の名前を付けたのは、
彼女にはこの名前が一番合っていると思ったからだ。
「ラミ…」
彼女は答えない。当然だ。
夜は変わらずに更けていく。
そんな中、俺は今日も寝られそうになかった…


To be continued…

991◇68hJrjtY:2007/06/18(月) 20:48:44 ID:O7z4q9vk0
>NTさん
心の内面を克明に描写した文が多くて二人の事がどんどん理解できそうな感じです。
ウィド君の方は「もう一人の自分」との対話というもので板ばさみになってる様がとっても良く分かりますし。
ラミ嬢は最初は疎んでいたウィド君を既に相棒として見ているのがとっても微笑ましい。話振らないと、とか(笑)
こういう書き方もいいなぁ。続きの方、お待ちしてます。

しかし、シフ君とランサ嬢って呼び方でで了解しましたって言おうとしたら名前が判明ですね!
ここはちゃんとウィド君とラミ嬢にします(結局それかい)。

992殺人技術:2007/06/19(火) 21:22:12 ID:E9458iSQ0
>>982
どうやらまだアドナイメレクの結界は残っているらしい。

あれ……なんで自分こんな一文書いたんだ?(´・ω・`)
超恥ずかs(ry

993名無しさん:2007/06/23(土) 18:53:06 ID:.SlwqRq60
>>919さん、やはりROM専に戻られたんでしょうか。
何もしていない自分なんかが厚かましいですが、>>925さんの要望を取り入れたのを書いときます。
別サイトということで、最初のhを抜いておいた方がいいのでしょうか(一応抜いておきました)。
次スレの>>2に分けるといいかもしれません。

全く関係ないですが、現スレの1000さんに期待してます(笑


書いた赤石サイドストーリーをひたすら揚げていくスレッドです。
作品を書き込むだけでなく、他の人が書いた作品の感想を書いたり、書き込まずに読み専門として過ごすのもありです。
職人の皆さん、前スレに続き大いに腕を奮ってください。

【重要】
下記の項目を読み、しっかり頭にいれておきましょう。
※このスレッドはsage進行です。
※スレを上げるときには、時間帯などを考えること。むやみに上げるとスレが荒れる原因となります。
※下げる方法:E-mail欄に半角英数で「sage」と打ち込む。

◇職人の皆さんへ
※技量ではなく、頑張って書いたという雰囲気が何より大事だと思われます。
※短編長編はもちろん関係ありませんし、改変やRS内で本当に起こったネタ話などもOKです。
※エロ、グロ系はなるべく書き込まないこと。エロ系については別スレがあります。(過去ログ参照)

◇読者の皆さんへ
※激しくSな鞭叩きは厳禁です。
※煽りや荒らしは放置しましょう。反応してしまうと、その人たちと同類に見られても仕方ありません。
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。

【過去のスレッド】
一冊目 【ノベール】REDSTONE小説うpスレッド【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1117795323/

二冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 二冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1127802779/

三冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 三冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1139745351/

四冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 四冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1170256068/

【小説まとめサイト】
RED STONE 小説upスレッド まとめ
ttp://www27.atwiki.jp/rsnovel/

994◇68hJrjtY:2007/06/24(日) 03:19:43 ID:Hc7GmxCQ0
>>993
おぉ、自分の要望取り入れてのテンプレ作成。>>919さん同様ありがとうございます。
なるほど、別サイトの場合hを抜くのは常識でしたか…これはすみませんでした。
改めてテンプレを読み直して、読者さんへの項目の「直接的に急かす」…ドキッて感じですね(汗)
今までの感想含めた私のレスで急かされてるとか不快に思われた書き手さんがおられたら申し訳ありませんorz

1000さんに期待は自分もです(笑)

995携帯物書き屋:2007/06/26(火) 01:15:12 ID:PaV4iO2A0
プロローグ 前スレ>645
1日目>646>692 2日目>693-694>719-721 
3日目>762-764>823-825>874-878 4日目>>34-37>>73-75
5日目>>95-98 6日目>>185-187>>227-229 
7日目>>306-310 8日目>>383 9日目>>384
10日目>>461-465 >>556-559 >>634-638
11日目>>716-719 >>812-813 >>817-818 >>831-832 >>877-878
12日目>>879-882 13日目>>883
14日目>>941-944
ネタ話>>123-125

あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>941-944

『孤高の軌跡』

俺の視界は最悪な人物を映した。
そいつは草原の丘の上に悠然と立ち、静かにこちらを見据えている。
――――ヘルベルト=ディンケラ。
俺が今まで見てきた中で最強の男。単純な能力のみならばニーナをも超える。
以前俺に刃を向けた男。そして、こいつは弱ったエミリーの命を奪った男だ。

そいつは丘の上にパートナーの少女を残し、ゆっくりと降りて来た。
10m程手前で立ち止まる。しかし奴は襲い掛ってくる気配を見せない。
……いや、奴は待っているのだ。ニーナが戦闘体勢を取ることを。
「ごめん。ちょっと離れて」
耳元でニーナがそう囁き、俺は言われるがままに下がる。
つまり俺は戦闘に於いて邪魔でしかないのだ。
それは悔しいが、俺は無力で、戦いを見守っているしかない。
だからあの男も少女を置いてきたのだろう。

俺が下がるのと同時にニーナの体中に光が生じ、そこからいつもの金色の鎧が現れる。
続いて長槍が握られ、ニーナは完全に戦闘体勢を作った。
「大した自信ね。さっきのは大きな隙だった筈よ」
「この戦いが最後になるだろうからな」
男の手が鞘に掛けられる。
「決めよう。どちらの理想が強いかを」
「私は勝ち残る。ショウタの為、そして国の民の為にも」
互いの決意の言葉が決戦の合図となった。
ニーナは低く体を落とし、そのまま爆発したように疾走、停止。
その慣性の力のままに、槍を最大の力で投擲する!
矢のように放たれた槍は空を裂き男の胸へ疾走する。
一気に距離を縮めるが、男の眼前で槍が停止。それ以上の進行は男が許さなかった。
ヘルベルトの盾、ディバインフォートレスが槍とひしめき合い、火花を散らす。
瞬間、盾の真下から1つの影が飛び出した。
それは盾を手放し、双剣に持ち換えたヘルベルト。
「なっ……!」
流れるような男の動作に完全に虚を突かれたニーナ。それで判断が一拍遅れてしまう。
決断したのか、ニーナはその場に身構えた。
続いて取り出した弓で一気に間合いを詰めてきた男の剣撃を受け止める。
「がっ!」
しかし完全に威力は殺し切れず、放物線を描きながら吹き飛ばされる。
そして落下。ニーナは俺の近くまで吹き飛ばされたが、構わず立ち上がり、疾走を開始する。
並走するヘルベルト。月光を跳ね返す、2本の鈍色の刀身が不気味に光る。
一瞬足を止め、再び大地を蹴りヘルベルトは人間の弾丸となってニーナへ殺到する。
そう来ることを読んでいたのか、ニーナは横飛翔して回避。
空中のまま、ニーナが大きく腕を振るう。
すると、投擲された長槍が男の背後目掛けて飛んでいた。
男を突き抜く寸前、槍と同じように飛んできた盾が割り込み、槍を弾いた。
弾かれた槍は不自然な方向へ曲がり、ニーナの着地した地面に刺さる。
盾は浮遊したまま男の周りを旋回する衛星となった。
ヘルベルトは右に聖剣、左には魔剣、周りに盾を回す必殺の構え。
対するニーナは左に弓、右には抜き取った長槍と奇妙な構え。
2人は互いに必殺の機会を窺う。

俺は現在の戦況を自分なりに分析してみる。
これまでのことを考えれば圧倒的にヘルベルトが有利だ。
豊富な経験と技量。強靭な肉体。以前エミリーとの一戦でバフォメットに苦戦したが、
今のヘルベルトには盾がある。この盾が有る限りヘルベルトの鉄壁は崩れないだろう。
ニーナはというと、武器になるのは強力な魔力と正確無比な弓術だ。
だが、だからと言ってヘルベルトの鉄壁を崩せるという訳ではなく、ヘルベルトの優位は変わらない。
しかし、今のニーナの構えは見たことがない。
今までだけでも弓と槍を交互に使う戦術を見たことがあるが、同時に使うところは見たことがない。
そもそも片手では弓を使えない。
この意味はニーナにしか判らなかった。

996携帯物書き屋:2007/06/26(火) 01:16:02 ID:PaV4iO2A0
静謐な時間は一瞬だけだった。
奇妙な構えのニーナに警戒しながらも、疾走を開始するヘルベルト。
接近戦に持っていけばヘルベルトの勝利は揺るがない。
ヘルベルトの盾が一瞬本人の眼前へ回った時、ニーナの腕が前触れ無く振られ、長槍が投擲された。
槍は当然のように盾に弾かれ、空中に跳ねる。
しかし次の瞬間方向転換。穂先をヘルベルトの脳天へ向けた。
だがそれも横薙ぎに弾く盾に防がれる。
その内にヘルベルトは弓だけのニーナに接近し、一気に距離を詰める。
しかし何を思ったか、ヘルベルトは急停止、更に大きく後方へ飛び退く。
間髪無く、先程までヘルベルトが居た空間を幾本もの光が貫いた。
それらは地面に着弾した瞬間霧散し消失。
一般人の俺には視認すらできない程の一連の動作だった。
「……ふう。初めてやったけどやっぱり難しいわね、これ。これでも貴方の為に考えた必殺の戦術なのだけど?」
「詰めが甘い。先程のはテイルチェイサーか、いやインターバルシューターか。
どちらにしろ発動のタイミングが早すぎる。槍で私の盾を奪うのは良かったが、焦りが判断を鈍らせたな」
淡々と語るヘルベルト。しかしそこに一片の隙も感じさせない。
中段に構える右の聖剣に、逆手に持つ左の魔剣。周りを旋回する巨大な盾。
これのどこに隙が存在するのだろうか。
ヘルベルトは体重を前方に傾け爪先立ちの構え。
「行くぞ」
ヘルベルトの疾走。それと同時に打ち上げられるニーナの光の矢。
ヘルベルトが急速接近しているにも関わらずニーナは矢を打ち上げることを止めない。
打ち上げられた何本かが牽制代わりに降下するが、足止めにすらならない。
遂にニーナは打ち上げることを止め、ようやく矢を男に向けて番えた。
宙に浮かぶ槍の援護がヘルベルトの盾を無効化させる。
「いっけええぇっ!」
叫びと同時に極限まで膨張された矢が放たれる。それに応じるかの如く上空から幾本の矢が射出。
ヘルベルトは横飛翔して回避。続いて降下してくる矢を前転して躱す。
更に続く追い打ちを僅かに受けながらも横に跳んで避け、上空飛翔。
空中にいるヘルベルトをニーナは獲物を捕える猟師の表情。その目には勝利の確信。
ニーナの右手がヘルベルトに向けられる。それは合図だった。
「食らえっ!」
その言葉で上空にある幾十の矢が一斉に解放され射出。嵐のように吹き荒れヘルベルトに殺到する!
ヘルベルトは空中で身を捻り急降下。妨害を受けながらも強引に盾を引き寄せ、それに着地した。
前方から迫る矢の群れを双つの剣の閃光と灼熱で霧散させ、僅かにできた活路へ盾を走らせる。
まるで盾をサーフィンのボードのように扱うヘルベルト。そして追い付く矢の群れの応酬。
左右から上空から背後から、ヘルベルトは矢に体を貫かれながらも突進を止めない。
しかし、ニーナが意図的に残していた残りの矢が雪崩れ込んで来る。
「ぬ――おおおおおおおおおおっ!!」
ヘルベルトが乗っていた盾を蹴りつけ、弾丸のようにニーナに突進する。
背後には盾と矢の群れが衝突する甲高い音。
「なっ――――!?」
回避不能なはずの攻撃を躱され驚愕の表情を浮かべるニーナ。
しかし瞬時に状況を把握し、光の矢が放たれる。
正確無比のはずの矢は男の肩を掠めるだけ。
次弾は間に合わないと判断したニーナは後退する。
しかし男の刃の方が圧倒的に速かった。
肩口から脇腹へと2本の朱色の線が引かれ、血の花弁を咲かせながら、ニーナは吹き飛ばされ近くの川に落下した。

997携帯物書き屋:2007/06/26(火) 01:17:11 ID:PaV4iO2A0
「ニーナァァッ!」
俺の叫び声はニーナが川に落下した音で掻き消された。
一瞬の後、川の水が朱で汚されていく。
「ニーナ……まさか」
俺の思考はどんどん悪い方へ向かっていく。
「ぐ……」
後方で音。振り向くとヘルベルトが膝をついていた。
ニーナもそうだが、こいつも矢に貫かれかなりの重傷だ。
それでも奴は不屈の精神で立ち上がり、川の方を見つめる。
ふと、川に波紋が浮かんだ。
それを見たヘルベルトの表情が険しくなり、戦闘体勢を作る。
連動するように、川から水しぶきと共に白い手が現れた。
続いて、金砂の髪、黄金の鎧が現れ、陸に上がる。
立ち上がるニーナは水と朱に濡れていた。
髪が濡れ、顔が隠れている。水が滴る金の髪の間からは、微かに、燃え上がる真紅の瞳が覗いていた。
「はぁ、はぁ」
一歩を踏む度に切口から血が噴き出す。
治癒が施されているようだが、これだけ深い傷は簡単に癒えないらしい。
ニーナは手を伸ばし、槍を引き寄せる。
そして槍と弓を握る初めの構えを取る。
「――――行くぞ、騎士よ」
「……貴様には治癒があることを忘れていた。ここは腕を落としておくべきだったか。いいだろう、ならば来い」
瞬間、ニーナが地に沈み、そのまま地を蹴りつけ疾走を開始する。
途中で弓が投げ上げられ、槍と同じように宙に浮かぶ。
「やぁああっ!」
ほとばしる穂先。迎えるは双つの剣!
金属の衝突で青白い火花が散る。
ニーナが飛び退くと同時に頭上の弓が光を吐き出す。
それを盾が弾き、ヘルベルトがニーナに向かって疾走する。
続く金属音。2人の戦いは技術などなく、力だけの戦いになっていた。
2人の力が拮抗し、共に睨み合う。
「これは私だけの戦いじゃない。これは国民の為の戦い……だから負けられない!」
「ふん。貴様の理想には吐き気がする。そんな子供の理想、世界には通用せん。
……絶対的な平和など在りはしない」
「ならば、私が創る!」
ニーナの槍がヘルベルトを押し返す。続く連撃でヘルベルトが後退する。
「俺は兵士として数多の戦場を駆けてきた。そこにはそんな甘い物は存在しなかった。
在る物は生と死、勝者と敗者、憎悪と殺意だけだ!」
初めて現れた男の激情。下がる足を止め前進へと変える。
「ならば、私が無くす!」
「不可能だ。世界に戦いを無くす方法は1つ。1つの国が絶対的な権力を以って支配することだけだ!」
「そんなもの私は認めない。そんなもの、平和でもなんでもないわ!」
ぶつかり合う激情と激情。2人の打ち合いは激しさを増していく。
2人は互いに必殺の1撃を与える為に大きく後退する。
着地すると止まることなく走り出した。
「やぁぁあああっ!!」
「おぉぉおおおっ!!」

2人がぶつかり合う寸前、確かに俺は例の白い線を視た。
いや、これは線などではなく帯だった。

「「――――っ!」」
何かに気付いたように、弾かれたように飛び退く2人。
瞬間、2人が居た空間に灼熱が走った。
「誰だっ!?」
2人の目線が空中へと上げられる。
「……2人まとめて焼くつもりだったのだがな」
透き通るような声。
月の光でも照らし切れない闇色の装束。対比して映える灼熱の長髪。
全員が見つめる場所には、赤と黒の見知らぬ男が居た。

998携帯物書き屋:2007/06/26(火) 01:26:09 ID:PaV4iO2A0
またずいぶんと間が空いてしまった。こんばんわ。
どうやら最近自分はPCの不調と忙しさややる気の無さが重なってあまり執筆が進まないみたいです。
終わりも近いので次スレではもうちょっと早く書けるようにします。

今回は前回アクション皆無だったこともありアクションに重視してみました。
最後らへんは無理矢理こじつけた感がありますが・・・。

>NTさん
少しずつ2人の距離が縮んできましたね。
2人の交互の心理描写も掲示板だから成せる手法ですね。
少しずつ暴かれていく過去・・・2人はどういった関係なんだろうか。続きをお待ちしております。

あと、1000に期待です(笑

999◇68hJrjtY:2007/06/26(火) 07:01:09 ID:MXUHxZQI0
>携帯物書き屋さん
アクション連続でこちらもハラハラです(笑)
内心どちらに味方すべきなのか難しいところですよね、ニーナもヘルもそれぞれの理想と意思があっての戦いですし。
剣士もランサもアチャすらやった事のない私でも携帯さんの書き方は想像しやすい文章です。
やっぱりニーナ劣勢になっちゃったかぁ…と思っていたら例の人物登場ですか。
次スレでも楽しみにしています。

はっ、私が999を取ってしまったら1000の方にプレッシャーが行くのかな…(汗)

1000白樺:2007/06/26(火) 14:32:49 ID:RAn6BvyM0
えっと・・・ここだけのHNにしてみようかなと思ったので・・元947です(汗
私みたいな未熟者がこんな1000という者に書かせて頂いていいのか・・(涙
えっと今回は1000だけに話をまとめるために886氏と姫々氏にヒントをえて詩にしてみました。
テーマは「レッドストーン」です。それではどうぞ!(逃



この世、フランデル大陸にレッドストーンという魔石あり

それについて言われる様々なうわさ故に狙う者あまたあり

ある者は不老不死という甘美な誘惑に魅せられた者

ある者は大切な人を奪われた孤独な傭兵、復讐に染まりし暗殺者

ある者は古都ブルンネンシュティングに仕えし勇者、赤き悪魔を滅ぼすことに全力を尽くす者

ある者は古より存在する四元素に通ずる者、その肉体に呪われた宿命を宿す者

ある者は純粋に神に仕えし聖職者、天界より赤き魔石を取り戻すために追放されし者

ある者は赤き悪魔に一族を滅ぼされし四元素の神獣と通ずる者、その威厳により生物と通じ仕えさせる者

ある者は組織に属し隠密行動に徹する者、数々の武道を学びし者

ある者は古より伝わる呪いにより不老な者、別世界より現れし星の精霊と通ずる者

ある者は荒廃した地上界より現れた地獄の業火を纏いし者、死霊と通じ仕えさせる者

レッドストーンを狙いし者達よ、心せよ

赤き悪魔は強大であり狡猾である故・・・

レッドストーンが解き放たれる時がもう長くはない故・・・



‘レッドアイ’第一極秘ファイル・冒頭

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