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SSスレッド

1板</b><font color=#FF0000>(ItaYaZ4k)</font><b>:2002/07/11(木) 00:39
支援目的以外のSSを発表する場です

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91(編集人):2002/11/01(金) 03:23
『青い月と朱いツキ』七夜志貴・支援
2002年7月4日(木)1時16分
ROUND3.48レス目「奇譚」様によって投下。
 銃神[GODO] (Notes.)
 反転翡翠  (月姫)
 七夜志貴  (月姫)
 エロ学派  (月姫)

92(編集人):2002/11/01(金) 03:25
『青い月と朱いツキ』

(1)
「俺は今、目の前にあるリンゴを切る」
そう口に出して確認する。ナイフの刃がリンゴに入る。
と、ナイフはなんの抵抗もなく突き通り、すとんと下に落ちた。
静寂。
部屋の中には二つの割れて転がったリンゴが転がるわずかな音。
まるで最初からそう存在していたかのような疑問の余地もない切り口。
嘲り声が聞こえるような気がする。

 人間にはできない事ができるお前は何なのか。

俺は自分が普通の人間として暮らしていける余地があることを再確認しなくてはいけない。
リンゴを切る。きわめて単純な行動だ。死の線など視ない。
俺はただ手に持っているナイフで、無造作に切れ目を入れ、そこから力を加え、
リンゴの抵抗を感じながら押し切り、切ってしまえばいいのだ。
それは普通の人のやり方であり、俺はそれと同じ事をすることで自分を普通である、
と確認しようとした。
しかしあいつはそれすらも許しはしなかった。

93(編集人):2002/11/01(金) 03:26
(2)
 あいつの覚醒は唐突だった。
遠野家に帰ってきてからというもの、何度もおぞましい怪異をくぐり抜け、
様々な人外の者どもと対峙し、そして殲滅した。
それらはもはや、過去の出来事であり、町は静けさを取り戻し、
俺の周りにも不安げな空気はかき消えたかに見える。
しかし、それらの出来事は俺の中に変化をもたらした。あいつが目覚めたのだ。
 
 最初はけだるそうに頭をもたげただけだった。
しかし、覚醒するにつれて、あいつは自らの状況に疑問を抱くようになった。
オレはどうしてこのように抑え付けられながら生きているのだろう?
もともと、遠野志貴とオレという者は一つの体を共有している人格である。
言うならばコインの表と裏。決して切り離されない。
しかし現実は遠野志貴の方が表にばかり立ち、
七夜志貴の方は危険な時にしか解放されない。これでは不公平ではないか。
そう、あいつが考えてもおかしくはない。
そうしてあいつは行動を起こした。
自分の能力を表面に、徐々に、だが確実ににじませ始めたのだ。

 最初に気づいたのは夕食の時だった。
香ばしく焼き上げられた鮭のムニエル。
それをナイフで切ろうとした時、ナイフは不思議な軌道を残した。
普通、食事用ナイフで食べ物を切る時は直線的に切るものだ。
しかし、その切り口は所々でわずかに曲がり、
全体としていびつな切り口を残すと思われた。しかし、切り口は完璧だった。
綻びもない。肉のささくれもない。
まるで切られたそのままの姿で最初から存在していたかのような、肉。
それは、その切り口は酷似していた。
先生の目の前で木を切って見せた時。純白の吸血姫を自分の欲望のままに切り刻んだ時。
死徒を、元は人間であった者を、怪異を切った時のそれに、あまりにも似ていた。
死線など見えていなかった。しかし体は死線をなぞったかのように肉を切断していた。
それは、つまり。
死線が視える視えないは関係なく、無意識のうちに体が死線をなぞり、物を切ってしまう、
ということだった。

94(編集人):2002/11/01(金) 03:27
(3)
がたり、と思わず席を立っていた。おかしい、おかしいオカシイオカシイ…
「兄さん、どうしたんですか?」
何も知らない妹の声。
そうだ、俺はたった一人の妹すらも触れるだけで殺してしまいかねない。
秋葉は無邪気に俺に寄ってくるだろう。
俺は秋葉に触れるだけで、秋葉の体はあり得ない形に曲がり、呼吸は止まり、
死の床についてしまう。
避けなければ。誰も殺したくない。
俺はひどい顔をしていたらしい。秋葉が心配げな顔をしてやってくる。
翡翠も琥珀さんもやってくる。そうして、俺に触れようとしてくる。
死が、彼女たちの体中にみえるようだった。眼鏡はしていたが、解る。死線は俺自身。
俺はうごめく死そのものになっているというのに、彼女たちは無邪気に触れてくる。
俺は、決して、彼女たちに死んで欲しくないというのに。
「来ないでくれ」
それは拒絶の言葉。口から出たその言葉に、彼女たちは動きを止め、
そして怪訝な表情になる。
「兄さん、そんな疲れた表情をしているのに、近づくな、というのは酷というものです」
「解っている。済まない、本当に済まないと思っている。だが、来て欲しくないんだ。
 今の俺は何をするか解らない。…少し一人にしてくれないか。
 今自分に何が起こっているかが確認できたらちゃんと話す。それまで…頼む」
そう言って、俺は食堂を後にした。後ろで何か声が聞こえてきたようだが、
俺は耳を閉ざす。今の俺は危険だ。

 あれから、俺は自分の状態を確かめるべくいろいろなことを試した。結果、
たまにではあるが、死の線が見えなくとも体が勝手に死の線をなぞり、
物を切ってしまうこと、そんな暗い現実が発覚した。
俺は俺の家族にその事を話した。彼女たちはとまどい、考え込み、
やがて事態の改善に協力すると、答えてくれた。
そうして、俺とあいつの戦いが始まった。

95(編集人):2002/11/01(金) 03:28
(4)
 うすうす気づいてはいた。数々の怪異と向き合っていた頃からだ。
危機に陥った時、俺の性格はがらりと変わる。
冷静に状況を分析し、自分の行動力を計算に入れ、
確実に、素早く相手を殺すことにのみ執着する殺戮機械。
解らない、知らないフリをしていた。
しかし、その心は確実に俺の中にあるわけであり、
今現実に現れ、その存在を如実に示めさんとしている。
俺は、そいつに七夜志貴、と名付けた。
俺の中に流れる退魔の一族の血。数々の魑魅魍魎をその手で葬り去る能力。
そして殺戮を生業とし、何代も何代も殺しを繰り返す殺戮の日々。
そうした一族の血が俺の中に流れている。自分の知らない自分。
新しく知った自分に俺はそう、名前を付けた。

 夜。ベッドの中で俺は息を荒げる。何かを切り刻みたくてたまらない。
手はぴくぴくと動き、自分の物ではないかのようだ。
体中の筋肉が張り、臨戦態勢を整えている。
…決して嫌いになりきれなかった、自分の力。
何もかもを切り、殺してしまえる力に優越感を感じた事が無いと言えば、それは嘘になる。
大きくもなく、小さくもない、ただの人間の心に生まれたわずかな優越感。
そこにあいつはつけ込んできたのだ。

 肉を切った時の感触はどうだ?
オレの神経にかすかに振動が感じられたかと思うと、ナイフが相手の体に入っている。
相手はそれを驚愕の瞳で見つめている。そうして俺はナイフを静かに滑らせるのだ。
それに沿って肉も静かに切られていく。肉の内面がのぞかれ、肉は静かに死んでいく。
いつしか相手の顔には驚愕と絶望が見て取られ…俺はそれを嗤いながらナイフを滑らせる。
やがてナイフは肉の終点にたどり着き、やはり静かに肉から離れる。
それを合図に相手の体がずれ始める。ゆっくりと、ゆっくりと。
相手は自分の体を必死に元に戻そうとするが重力には逆らえない。
肉は切られた。後は墜ちるのみ。
そうして相手はその顔を引きつらせたまま死んでいく。
それを見下ろす俺の顔は…この上なく愉快で、おかしくて、たまらないといった笑顔で…

96(編集人):2002/11/01(金) 03:29
(5) 
 がばっと起きあがる。体中が汗をかいている。息も荒い。
いつの間に寝入ってしまったのか。あれは夢…なのだろうか。
そうだ、あれは俺じゃない、決して俺であるはずがない…。
しかし、心の片隅で何かが優しく反発する。
…愉しかっただろう?少しも愉しくなかったはずがない。
お前は心のどこかで望んでいるんだ。自らの手で、肉を切り裂き、相手の顔を…
やめろ!やめてくれ!
息はいっこうに落ち着かない。自己嫌悪で押しつぶされそうだ。
何か、自分の外に意識を向けなくては…そうして気づいた。
窓の外はすでに白んでいる事を。

 あの自分を責め、さいなみ続ける日々から何ヶ月も過ぎた。
みんな、俺に対して協力的だった。
いらだちや、不安から口に出る俺の無神経な言葉にも、彼女たちは変わることなく、
ただ、俺を気遣ってくれた。
その事で、彼女たちの前で不覚にも涙してしまった事も幾度か合った。
そうして、俺が人と接していくうちに、七夜志貴は影が薄れ、そして消えた。
悪夢は収まり、俺は今まで通り、望んでいた普通の生活に戻り、周りも元に戻っていった。
しかし、俺は知っている。七夜志貴は決して外部からのものではない。
俺自身の裏の顔なのだ。
俺が生きている限り、何度でも新しい七夜志貴は生まれてくるだろう。
俺はもはや昔の遠野志貴ではない。そしてあいつも昔の七夜志貴ではないだろう。
それでも、俺が人間でありたいと望む限り。周りの人々を守りたいと願う限り。
俺は遠野志貴で有り続けよう。そう俺は決意した。
ふと心の片隅で何かが、ざわめく。黒い影が鎌首をもたげたような異質感。

遠野志貴と七夜志貴の人生はまだ、始まったばかりだった。
(おわり)


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