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SSスレッド

1板</b><font color=#FF0000>(ItaYaZ4k)</font><b>:2002/07/11(木) 00:39
支援目的以外のSSを発表する場です

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85(編集人):2002/11/01(金) 03:16
『琥珀さんとおるすばん』琥珀・支援
2002年7月3日(水)2時38分
ROUND2.919レス目「奇譚」様によって投下。
 琥珀    (月姫)
 舞士間祥子 (月姫)
 臙条巴   (空の境界)
 天使    (Notes.)

86(編集人):2002/11/01(金) 03:18
(1)
 暗い中にさす、薄い光。光はやがて、その存在を濃くしていき、朝の到来を告げる。
遠野家の朝。遠野志貴の部屋。遠野志貴はいつものように朝の光をまぶたに受け、
いつもの声を聞いて、いつものように目を覚ます…。
「志貴さーん。朝ですよー」
はずだった。

『琥珀さんとおるすばん』

「ん…ぁ、ああ、おはよう、ひす…琥珀さん?」
「もう、志貴さん。休みだからってお寝坊さんは良くないですよ。
 寝過ぎも健康には良くありません!」
ぴしっと琥珀さん怒ってますのポーズを決められる。
…いや、そうでなく。
「あの…翡翠は?」
「翡翠ちゃんはお出かけ中です」
「え…?」
おかしい。翡翠はいつも屋敷から出たがらないのに…これは何かある。
「琥珀さん…何かたくらんでない?」
「あら、志貴さん、人聞きの悪い。何もたくらんでいませんよ。
 それとも…たくらんで欲しいんですか?」
「…いえ」
お気遣いはありがたいが、ここは遠慮しておくのが無難というものだろう。

琥珀さんが持ってきた着替えに袖を通し、私服に着替える。
「………」
いつもの朝は少しのズレが生まれるだけで、もう変化している。
この朝の変化がやがて、昼の変化、夜の変化につながり、
一日全体の変化となるのではないか…。
「…それでもいいか」
たまにはこういうのもいい。それに、琥珀さんに起こしてもらうのは新鮮な体験だった。
これからは時々琥珀さんに起こしてもらおうかな…と思った所で、翡翠の顔が浮かぶ。
あわてて思考を中断し、食堂へ入った。

87(編集人):2002/11/01(金) 03:19
(2)
いつもの朝食。けれど、とてもおいしい琥珀さんお手製の朝食。
「さあ、召し上がってくださいね」
「………」
こちらとしてもさっそく召し上がりたい所だが、確認しなければいけないことがあった。
「琥珀さん、秋葉は?」
「秋葉さまなら、株主総会に出席するため早朝に立ってらっしゃいます」
「…そうなんだ」
 大きなテーブル。その上に掛けられた真っ白いテーブルクロス。広く、そして寂しい食卓。
人が二人いないだけでそれはいつもより、さらに閑散としたものを感じさせた。
しかしそんな事はお構いなしに、琥珀さんはにこにこと笑って後ろに控えている。
…何か、気まずい。
「…琥珀さん、一緒に食べよう」
そんな言葉がふと、口に出ていた。
「え…?志貴さん、いいんですか?」
「うん、俺もその方が気が楽だよ。それに黙ってれば、ばれないばれない」
「あはっ、志貴さん、悪ですねー」
そうして、朝食は琥珀さんと一緒に食べた。
琥珀さんは、自分用の食事をテーブルに持ってきて、
俺は俺で琥珀さんの準備ができるまでさりげなく遅く食べ…。
朝食は二人同時に食べ終わった。
「それでは、お下げしますねー」
「あ、ちょっと待った」
「はい、なんですか?」
せっかくの機会だから、やっておこう。
「ごちそうさまでした」
ぺこり。
手をきちんと合わせて、琥珀さんに向かって頭を下げる。
「え…あ…も、もう、志貴さんたら」
琥珀さんは食器を持ってあわてて厨房に入ってしまう。
すこし、顔が赤かったかもしれない。
俺は、残った食器を持って琥珀さんの後へ続いた。
「あ、志貴さんそれは…」
「いや…有馬ではいつもこうしてたから、体が動いちゃうんだ」
「…じゃあ、遠慮なく。お皿はこれで全部ですね」

88(編集人):2002/11/01(金) 03:20
(3)
「さて、どうしたものか…」
カチ、カチ、カチ。
時計は絶えず、時間の経過を律儀に知らせてくる。
だから時間を有意義に使わなくては、という気持ちに駆られるが…。
「時間を有意義に使うって、どうすればいいんだ…」
そうして朝食後の昼下がりは無為に過ぎていく。
居間の豪華なソファーにだらーっと腕を伸ばし、
ぐでりぐでりとやる事もなくのんびりしている。
この時間は嫌いでもないが、好きというわけでもない。
秋葉がいたら、さぞかしお小言をちょうだいしただろう…。
「志貴さん、退屈してるんですか?」
顔の上にひょっこりと琥珀さんの顔が現れる。
琥珀さんの柔らかい髪がかすかに顔にかかり、くすぐったい。
「…ん、そうだな」
隠すこともない。何より、『退屈』と俺の体が訴えている。
「それなら、少し私につきあってもらえますか?」

春の日差しは柔らかい。
じょうろから流れる水は、
そんな日差しを受け止めて鮮烈に光り輝いた後、虹を残す。
俺と琥珀さんは屋敷の裏手に当たる庭に来ていた。
そこにあるのは大きすぎず、小さすぎない花壇。琥珀さんが作った花壇だ。
小さな花壇には花が咲き乱れている。
深く澄み切った氷のような青、深紅の大輪のような朱、
日の光を閉じこめたような黄色、そして羽のような儚い白。
様々な色が花壇の中で混ざり合い、その中で蜂が踊り、
風は優しく花たちをなでていた。
しかし最近は日差しが日増しに強くなり、雨も降らない。
きれいな花壇には水分が必要である。そこで俺が水の運搬役に抜擢された。
「あはっ、助かります、志貴さん」
「いや、俺も助かったよ。退屈で死にそうだったから」
ふふ、と琥珀さんが笑う。さわさわと風が流れ、木々がざわめく。
緩やかに髪を押さえる琥珀さん。
花壇は水に濡れて夢の中さながらにきらきら輝いている。
おだやかで、のんびりした春の陽気だった。
…こういう午後もたまにはいいかもしれない。

89(編集人):2002/11/01(金) 03:21
(4)
「ここで4連、さらに次で3連、合わせて7連コンボ!志貴さん、ギブですかー?」
「いや、まだまだ!」
…うららかな春の午後はいつからこうなったのだろう。
花壇での水まきが終わると、俺はあれよあれよという間に琥珀さんの部屋に移動しており、
現在、琥珀さんと格闘ゲームで対戦の真っ最中である。
「えいっ、対空ですよー!」
「うがっ」
…だめだ。レベルが違う。
「こ、琥珀さん、別のゲームにしない?」
「はい、いいですよ。つぎはどれにします?」
…これもだめ、これもだめ、これも…何で琥珀さん、こんなにゲーム持ってるんだろう。
「よし、これ」
「はい、受けて立ちますよー」
………

いつしか日が傾いていた。
「そろそろご夕食の用意をしますね」
琥珀さんはそう言って席を立つ。
俺はというと居間に移動して、お茶を飲んでいる。
ふと、今日の出来事を思い返してみる。
ほぼ一日琥珀さんと二人で暮らした。それで気づいたことがある。

 琥珀さんには笑顔がいくつもある。

 困ったような笑顔、悲しい笑顔、本当に楽しい笑顔、
ただそれは『笑顔』と言うだけでなく幾通りもの笑顔を持っている。
翡翠のように解りにくいけれども、琥珀さんと接しているうちにそれが徐々に解ってくるのだ。
 琥珀さんの笑顔を思い出しているうちにこちらも笑顔になっていく。
今日の琥珀さんは楽しい笑顔ではなかったか。
そうして自分と今日という日を過ごした。
俺といることで琥珀さんが楽しい笑顔になるならば…それは俺の笑顔の理由にもなる。
「志貴さーん、御夕食ができましたよー」

90(編集人):2002/11/01(金) 03:22
(5)
 夜。真円の月の下、俺と琥珀さんはテラスに出ていた。
琥珀さんの髪が、顔が、存在が月の光を受け、ぼんやりと輝いている。
静かで、心が透明になる月夜。そして琥珀さんは俺に語った。
「志貴さん、今日は楽しかったですか?」
「うん。今日は琥珀さんと過ごせて楽しかった」
「良かった」
そして沈黙。少し風が出てきた。
「…わたし、今日はわがまましちゃったんです。秋葉様は本当に株主総会ですけど、
 翡翠ちゃんは気を利かせて外に出てくれました。
 私が、志貴さんとおままごとがしたいって冗談交じりに行ったんです。
 それを翡翠ちゃんがまじめに受け取って…」
「琥珀さん…」
「けど、ただのおままごとじゃつまらないので、
 こうして現実におままごとみたいに暮らしてみたんです。
 朝、私が起こして、一緒にお昼ご飯を食べて、お花の世話をして、ゲームをして、
 そしてこうしてお話をする。そんな当たり前のことがとても楽しいんです」
「…琥珀さん、楽しいことはいつでもできるよ」
「志貴さん…」
視線が絡み合う。いつしか二人の顔は近づき、唇と唇が触れ…
バーン!
「ただいま帰りました!兄さん、琥珀、どこにいるんですか!」
…合うことはなかった。
「あらあら、秋葉さま、あの調子じゃ今日のことに感づいたようですね」
「…かなりやばいんじゃないかな、それ」
琥珀さんは、秋葉を迎えに玄関まで出て行く。…と、振り返る。
「志貴さん、また一緒におるすばんできるといいですね」
そうして琥珀さんは穏やかに笑った。俺もつられて笑った。
また、今度二人で…か。
たまにはこんな日もいいかな、とその時思った。
(おわり)


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