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羽娘がいるからちょっと来て見たら?
632
:
二郎剤
◆h4drqLskp.
:2007/03/04(日) 15:58:29 ID:tJCfqFFo
18.二重の思い、二重の重い
――背に腹は代えられない、っていいますからね。
必要なときに規律を破るからこそ人なんです。
……きっと。
残る一機の風イカダを追うラプンツェルとアンジェラは、目標との距離を伸ばさず、しかし縮められず。過剰な羽ばたきに息が上がり、二人の通信にはマイクにかぶせられたスポンジを克明に記すような息づかいがある。
「追いつかなきゃ……!」
「ラプンツェルさん! 無理なさらず!」
『うむ。こちらで少しばかりの足止めは出来るはずだ。腕は劣ると思うが……』
アンジェラの言葉に、目的地、最終防衛戦の検問で待ち受けるテティスの通信が入り、誰にも見えぬとも構わぬと言った様子で、背後のアンジェラにも分かる頭を振る様子があった。
「駄目ですっ! 私には責任があります……!」
「誰もラプンツェルさんを責めませんよ! お手伝いして貰っているのはこちらなんですから……!」
先攻するラプンツェルの表情はアンジェラには解らない。ただひたすら前を向いている、そこに彼女の意志を見ることだけはできた。
「全力を出しきってません……私の周りに暇がある限り、それを潰してこそ全力ですッ!」
「は……はぁ……」
ざらつく苦笑、無線機越しの声が幾つもそれを作る。
『拡大解釈、しすぎ』
「え……えっと……!」
かつて、人生を暇つぶしとのたまった声がある。
『でも、それでいい。ラプンツェル』
「は、はいっ!」
やりとりに小さい笑みがこぼれた。ラプンツェルのそれよりも、アンジェラの笑みが先であったことは、本人しか知らぬ事だ。
『相手にだけは余裕を見せるように』
「解りました!」
「ラプンツェルさん……私はこれ以上速度は出せません……すいませんけど……」
「はい、任されます!」
即答に唖然とした。
「あ、あのっ! よわよわですけどお手伝いが出来なくて……一人でなんて……」
「私の危険は二の次です」
アンジェラにようやく向けられた視線は、大人しい瞳と麗しい口元ではなく。つり上がった眉に闘志があり、同じく上がった口角には強い意志と、頼りがいのありそうな笑みがある。
「私が動いて誰か一人でも良い方向に行くならって。だから軍部に居るんですから!」
――ああ、やっぱりこの人は……一生懸命な人。
冷たい風を切り裂いていた筈なのに、顔が熱く感じられた。
熱い頬は血流のもたらした物。勢いを持ち主を熱くさせた血流は行き場を無くし、頭そして体中に。暴れるような衝動に左手がポケットをまさぐり、携帯電話を取り出させた。なめらかなアクリルに反射する街並みを鬱陶しく思いつつ、操作はメールを素早く紡ぐ。
――使います。
返信は素早く。
――装備、訓練共に不十分であり、許可は出来ない。
――不許可。時期には不適当である。
否定の言葉は二通、肯定の言葉は一つすら無い。
携帯電話を握りしめ、沸騰した頭が計算を紡ぐ。
――ちょっとだけ甘い物が。
雑念を振り払い、前へ。かすかに甘い感覚を呼び起こされる後ろ姿を見つめた。
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