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羽娘がいるからちょっと来て見たら?

610二郎剤 ◆h4drqLskp.:2007/02/21(水) 22:46:22 ID:ZCW0nFd6
 この国、ミュトイで最も高き所、アトラスの屋上では、驚愕の風が吹き荒れていた。
「どういう事ですか!」
 声を荒げるのはスヴァンで、敬語の対象は無線機の先にある。
「少し見えたのよ!」
 戦闘は未だ終わらず、それでも足止めできているのは彼女らの実力か、シヴィルと教導隊の面々が加わった戦場で、状況を伝えるのはティアだ。
 ドリスとスヴァンが立つ屋上は、ただでさえ強い風が荒々しく、まるで伝えられた言葉に対してこの国がうろたえているかのような錯覚がある。その強風の中、立つ二人にも風は容赦なく吹きつけ、羽根を気まぐれに揺らし、彼女たちの本能なのか、力を逃がすかのように時折大きく開いた。
「きっとそうだわ、風イカダは三台ある!」
 ひときわ強い風が吹く。二人の翼は今にも飛び出しそうな、そんな主人に従わない角度を持っていた。
「上等兵。阻止お願いします」
「私……ですか?」
 真っ直ぐ、そして強い視線はドリスの物で、だが表情は夕日の始まりによって影となっている。
「今追いつける余裕があるのは貴女だけです」
「しかし……」
「かーっこ悪いなぁ白いの! あたしに肩を並べる速度を持ってるのはあんただろ!」
 通信に割り込むのは片割れとも言うべきシヴィルで。スヴァンは軽く息を呑んだ。
「だけど……今は装備が……!」
 非常時に備え、彼女は装備を用意してある。いつでも飛び立てる状況で通信役を行っていた。装備の懸念は一つ、槍に取り付けられた斧。それは高い比重を持つノルストリガルズ特産の材料で。
「ハンデで最速、格好いいじゃん?」
 笑いの吐息を通信機に吐く。
「いいの? 最速貰うわよ」
「やってみ?」
 どちらかとなく、微笑の音声があった。
「予測コースはそこの真下を通るはず。発見位置からして間違いないわ」
「了解です」
「サポートはお任せを」
 ドリスにうなずき、しかしスヴァンはひとつ、と告げる。
「簡単で構いません、速度計測をお願いします」
「流石ですね。負けず劣らずです」
「一緒はやめてください」
 冷静な空気が戻れば、強風が制されていく。
「速度を出すには十分な条件ですね」
「ええ……」
 そう言うと、獲物と目標のため、スヴァンの足はアトラスの縁へと向かう。
 出立を見守るドリスの瞳に、白翼が夕日に後押しされ、黄金に輝く様が映る。
――輝く翼に奇跡の速度を、なんてね。
 少しばかり少女趣味な事を思い、改めてノイズ混じりの通信機に耳をそばだてた。
「発見しましたよ。出発カウント――七分前です」
 ソフィアの通信に眠気を刺激されつつ、それをドリスは発声する。
「待ち遠しいとは思います。もう少しお待ちを、ね?」
 爪先を虚空に揺らすスヴァンに、外出の待てない子供を重ね合わせていた。
 唯一あったであろう大人の余裕は、風に押されぬよう閉じた翼にある。


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