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羽娘がいるからちょっと来て見たら?

578二郎剤 ◆h4drqLskp.:2007/02/17(土) 20:18:24 ID:OVKeGQEU
 何処までも続く、そのような錯覚を覚える岩壁がある。山々は高く、羽根を持つ人々にすら努力を強いられる高さ、そして吹き上がる風。ミュトイの南端は大山に守られている。
「この高い山々、海から吹き上げる風、そして最新鋭のレーダー! シシュフォス山脈は鉄壁です! 無駄骨の事をシシュフォスワークと言うくらいなんですよ!」
 山々を背に、くるりと半回転。体のぶれすらも無くアンジェラは止まる。広げた両手と翼に、ミュトイのある大陸南岸を守る山脈を、そしてその広さを示すようにして、彼女は強く笑った。
「確かに……高いー……」
 呆れたような声を上げ、セリエは山頂までを目で追う。立った麓の地面より、ゆっくりと登山気分を感じながら少しずつ。
「おおおお……?」
 霞のかかる、未だ先端を見せぬ位置まで目を上げればバランスが崩れた。
「あわあわあわ」
 両手をばたつかせ、それでも踵だけで支える体は後ろに倒れかかり、しまいにはたまらず空へ飛び上がってしまった。
「でも……登れない訳じゃないと思うんですが……」
 ラプンツェルがセリエの様子を伺い、視線の登山を諦めてつぶやく。
「はい! 山頂に行けば解りますよ! ちょっと飛びましょうか」
 ラプンツェルの手を握り、アンジェラが飛び上がる。慌て、手を取られた彼女も、引く力をきっかけに飛び上がった。
「何があるんだろう……」
 少しばかり楽しみ、観光気分がかすかに感じられるのか、ユニーが微笑みつつセリエに同行するよう促した。
 三者の飛行は素早く、速度が空気を切り裂いていく。空気の温度が次第に下がり、少しずつ霞を切り裂き、求める山頂を顕してゆく。霞を切り裂くたび、湿度を体に感じ、下がった気温も相まって清涼な感覚があった。山肌も木々の緑がまばらになり、山肌の茶、そして先端は岩石の灰色だった。山頂を吹き下ろす風に乗れば、背後に押しやられるような感覚がある。しかし、風の道はあくまで山頂への道しるべになり、強くなる逆風がまるで山頂への距離計として働いているようだ。
「役得だったぁ……。っと。山頂そのものには行きませんよ!」
 ゆったりとした飛行をするアンジェラの声を背後に聞き、先を往く三人が振り返る。
「え?」
 声より最も近くに位置していたラプンツェルが振り返りつつ、
「あああっ! だめ! それより先は駄目ですー!」
 アンジェラの制止も虚しく、三者の最後尾、ラプンツェルまでもが山頂越えを完了しようとしていた。風切る音にアンジェラの叫びが聞こえた。
 先頭のセリエがそれに疑問を覚える頃、再びの叫びがあり。
「あーっ! も、もう時間だぁ!」
「ふえ……? うわぷっ!」
 飲まれた。そう、セリエは感じる。
「ひっ……!」
 冷たくてちょっと痛い。ラプンツェルはそう思った。
「わぁぁんっ!」
 まるで逆流した滝みたいだ。ユニーはそう思い。
「羽ばたいて! こっちに山小屋がありますから!」
 アンジェラの声にずぶぬれではじき飛ばされた三者が必死の飛行で避難する。
「な……なんなの」
 濡れた衣服に強い風、そして清涼な空気に寒さを覚え、体を抱きつつユニーはぼやいた。

 この状況では都合の良い山小屋だった。アンジェラはそう安堵し、タオルに包まれしゃがみ込み震える三者を困った、そして申し訳なさそうな表情で見つめる。
「すいません、説明が遅れました……。えーっと……ここはあんまり人が来なくて放置されているのですけど……温泉が湧くからある小屋なんです。こんな目にあった人が避難するために都合がよくって……乾燥機もあるんですよ。まだ案内には時間がありますし、暖まってくださいね」
 寒さに震えつつ、セリエが入り口とは別のドアを見た。ドアに取り付けられた硝子窓は温泉があることを伝えるかのように曇り、白くその先を示さずにいる。
「こんな事ってな……くしゅっ!」
「あああ、説明は入浴時にしますので! えーっと、早く入ってくださいー!」
 何故か赤面し、アンジェラが慌てた様子で山小屋を飛び出した。
「……?」
 首を傾げつつ、ユニーが衣服を乾燥機に放り投げる。
「どうしたんでしょう?」
 ラプンツェルも首を傾げ、とにかく暖まろうと衣類を脱いだ。


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