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羽娘がいるからちょっと来て見たら?

1代理 ◆Ul0WcMmt2k:2006/08/08(火) 18:57:48 ID:/i4UGyBA
どうぞ

448二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/02(土) 20:37:29 ID:Zp/hdOjM
>>447
俺かちゅ使いだからdat共用出来ないんだよねorz

449隣りの名無しさん:2006/09/02(土) 20:46:54 ID:gX4Y3BKk
俺ギコナビ使いですorz

450隣りの名無しさん:2006/09/02(土) 20:49:32 ID:IM/9pS46
まかせろー

451隣りの名無しさん:2006/09/02(土) 20:52:17 ID:IM/9pS46
ttp://wktk.vip2ch.com/upload.cgi?mode=dl&file=11186
pass: hane

どぞ。俺が持っているのはここまで

452二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/02(土) 20:58:40 ID:Zp/hdOjM
俺の手持ちは175までー

http://ex16.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1157198073/
開始ッ!

453二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/14(木) 20:42:33 ID:5hKc9Sno
ある夏の日でございました。それはそれは、暑い日の事でございます――。
「暑いですねー」
「暑いねー」
いつもと変わらぬ、セリエとドリーのやりとりでした。
窓際でなま暖かい風を受ける二人の奥、オフィスでは――。
「あぢー……」
「はー……」
白黒姉妹(強制)が同時に垂れていまして。
ええ――。
「……いい加減やめなさいな」
「これが……これが撮らずにいられますか!」
激写でした。
「ふんふんふん、っと。完了っす」
「お疲れさま」
こちらでは、何かむやみやたら改造された扇風機を囲んでいました。
「あらー?」
「まとめてみたんですけど」
編み上げてアップになったユニーがいました。
「うーん、これならもう少し落ち着いたリップの方が良いわね」
化粧大好き、ドリーさんと、
「逃がさんっ!」
「いい加減になさい……」
だが激写。
そんな緩やかな時間でした。
「はいはい、お疲れさまですわ」
「お昼ですよー」
オフィスに持ち込まれましたのは、巨大なざるでした。
「おっそばー!」
――ということです。

454二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/14(木) 20:43:06 ID:5hKc9Sno
「うふふふ」
「んふふふふ」
ひときわ幸せそうに蕎麦をたぐるのは、制作者の二人、夕子とラプ子でした。
周囲が唖然とする勢いで、かつ平和な笑顔で。
つるつる、ずるずると。
時折ずぞぞ、と。
「は……はっやー……」
顔は動かず、手の動きだけが的確で、
「蕎麦食いマシン」
ですねー。

さて、その蕎麦も終わりに近寄りまして。
最後をたぐるのは二人でして。
「うふふふふ……ずるずる」
「んふー……つるつる」
相変わらずの状態でして。
「おーい……?」
「映画であったねぇ……」
蕎麦大好きの二人がたぐる一本の蕎麦。
はい、一本でした。
「同じのくわえてるよ?」
「うふふふふ」「んふー……」
聞こえてないようで。
「あ」
ちゅぅ。
ええ、激写ですけど。
「うふふ」「んふー」
「吸いあってる……」
たった一本にかけられた勝負(?)は、それが切れるまで続いたそうで。

455隣りの名無しさん:2006/09/14(木) 20:46:14 ID:A4izs.q.
吸っとるwwwwwwwwwwwww

456二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/14(木) 20:48:59 ID:5hKc9Sno
ノイズの方は活発なのになぁorz

>>455
ちゅるちゅるとなフフフフフフフ

457隣りの名無しさん:2006/09/14(木) 20:58:19 ID:j/qTSgCc
ああ、未来永劫切れることなかれ二人の絆もとい蕎麦と百合の花 (*´Д`)ハァハァ

458隣りの名無しさん:2006/09/14(木) 21:03:43 ID:j/qTSgCc
そして私は、白黒コンビとユニさん&大佐にも同じことを要求するであります(`・ω・´)b

459二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/14(木) 21:54:36 ID:5hKc9Sno
>>457
別に百合ってわけじゃないさーw

>>458
おまwwwwwwwwwwwww

それだけで誰か解る発言だなwwwwwwww

460二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:03:21 ID:0p5tK0/Y
「ねこー、ねこー、どこいくのー」
「いくのー」

夕暮れ、定時後の軍部でありました。
塀の上を一本橋する、セリエとドミーの二人が追うのは台詞の通りで、
「にゃー」
ぶち猫でした。
仕事を終えた面々は、彼女らを残して一息入れていました。今日の仕事はもうお終いですし。
「うーん、いいわあ」
一名を除きまして――。
「給料の殆どがフィルムに消えるわけね」
一番長くつき合った人の発言は重いです。
重みを示すため息も超重量と言ったところでした。

461二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:04:07 ID:0p5tK0/Y
もう一人、ため息の発生源が居ました。ユニーです。
「猫いいなー……」
こちらのため息は軽く。
「猫はちょっと」
隣で苦笑したのは夕子でした。
彼女は手荷物を改め、両手に抱えていまして。
「あれ? 大尉、それどうするんですか?」
ユニーが振り返りますと、私物で一杯の両手が伺えました。
ええ、と相づちを打ちまして、
「今日で引っ越しますの」
「近場ですか?」
「勤務に支障のない程度には」
軽く告げた彼女は、私物を運んでいきます。
グラウンドに用意された、個人用の風イカダは彼女の物であるようです。
引っ越しの時はこういう個人用を購入或いはレンタルする物だったりします。
知られざる羽根生活の一端でした。
さておきまして――。
「なんだってゆーこちゃんは引っ越すんだろうねー」
シヴィルのもっともな意見に、いつもの鏡面さんもうなずいたのです。
「職場へ最も近く、安上がりで十分以上の部屋があるわけだものね」
「理由はとにかく……」
飛べば10分、といった所の引っ越し先に関する資料をモニターに映したドリーが顔を上げまして、
「海野大尉の食事が無くなるのは惜しいですね」
その意見にも、全員がうなずいたのでした。

462二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:04:37 ID:0p5tK0/Y
当の本人のおらぬ夕食後でした。
引っ越され蕎麦なる不毛な汁蕎麦は、すでに調理器具共々片づけを完了し、各々自由に過ごす時間においての事です。
「男ですよ! そーですよー!」
ゴシップ好きの本領発揮といったセリエのテンションは最高潮です。
残念(?)ながら、否定材料が全く――。
「婚約者を待つって言ってるじゃないっすか」
ありました。
「んー……なんだろう」
ドミーの声に、全員が首を捻り。
「何かあったのでしょうか……」
食後の珈琲作成へ心血を注ぐといった状態を、先ほどまで維持していたラプンツェルが落ち着き、言います。
「何かといやぁ……」
うろんげな視線を天井に、そしてため息一つ。
それから彼女――シヴィルは席を立ったのでした。

463二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:05:39 ID:0p5tK0/Y
「あーもしもし、あたしー」
電話をかけているのは、席を立ったシヴィルでして。
「ゆーこちゃんになんかあった? ここ一〜二週間くらいで」
「無いの? 雨ふるわけだわ」
「へいへい。悪い悪い。んじゃ、問題解ったからー。はいはい……」
それを最後に電話を切ったシヴィルは――。
「孝美じゃないのかぁ」
とまあ、失礼なのか妥当なのか解らぬ疑念を晴らしていました。

464二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:06:17 ID:0p5tK0/Y
――翌朝は休日でした(それを見越しての引っ越しなんですけどね)。
「よし、ここは思い切ろう!」
全員の意見をまとめ、シヴィルが立ち上がりました。
「ゆーこちゃんとこに電話する!」
流石切り込み隊長、
「……ベル子が」
「んな?!」
……次期候補。
「おおー!」
「頑張ってー!」
「さりげなく聞くのよ?」
よもや、後ろ盾はせり出す壁だったとは。
――ベリルに壁無し、でした。

465二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:06:47 ID:0p5tK0/Y
「あー……もしもし。クーデルカっす」
ベリルの声と同時、合図がありまして。
小さなスピーカーから夕子の声が。
「はいはい? どうなさいました?」
言葉を必死に選ぶベリルの後ろ、固唾を呑む第三者が数名。
ええ、しらばっくれモードと聞き耳が同時に発動していますね。
「……少し気になったんで、電話させて貰ったんすけど……」
「はい?」
「どうして引っ越したんすかー? ゆこさんの夕飯、大好きだったすからー……」
「あら……それは申し訳ありません……。実は――」
「実は?」

466二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 00:07:24 ID:0p5tK0/Y
「わんこちゃんが飼いたくなってしまいまして!」
「――はい?」
「もぉ……であったばかりですのにこの子ったら可愛くてもーっ!」
「ゆ……ゆこさん?」
「はい、たろちゃーん。ご挨拶なさい?」
「きゅうん?」
「きゃー可愛いっ可愛いっ!」
「ゆこさんって……犬好きなんすね……」
「もー大好き大好きっ! あ……こらあ、たろちゃん! それはめーですわ! ……っと、すいません……この辺りで失礼させていただきますわ」
「あ、電話すんませんー。犬と仲良くしてくださいっす」
「はい、ではまた明日……」

通話終了の音が響きまして、一同が微妙な表情をしていました。
「なるほどねー……」
「たいちょーたいちょー」
「? 何?」
「鼻血」
「え!? え!?」
平日は変わらぬ物ですね。

おしまい。

467隣りの名無しさん:2006/09/20(水) 00:26:47 ID:nqjpc5lc
もしや、今までは犬飼えない物件だったのかwwww
というより大統領はどうなんだwwwwwwwww

GJw

468隣りの名無しさん:2006/09/20(水) 00:42:18 ID:oo5obD3w
もう……タマリマセン。
犬に……なりたいです。

469二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/20(水) 01:38:30 ID:0p5tK0/Y
>>467
プライベートルームは基本ペット禁止ね
大統領にはやまれぬ事情が……
個人持ちはダメなのよねー

>>468
ふふふ……ふっふっふ……
「わんこちゃんは大好きですのー!」
「……隊長、鼻血」
「はっ?!」

470隣りの名無しさん:2006/09/21(木) 16:48:11 ID:lfxBgxao
じゃあ、きつねはー?(´・ω・)

471二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/09/21(木) 22:57:55 ID:wKQsnTPE
>>470
「……うーん」
「なつかない子は嫌いなんでしょうか……」
「そうじゃないですけど飼育が……」

472隣りの名無しさん:2006/09/22(金) 01:10:15 ID:EvX2nZbs
緑のたぬきはー?

473隣りの名無しさん:2006/09/22(金) 01:11:50 ID:sPUHZ7.s
緑のたぬきは、なな&リベッカにプレゼントしましょう

474二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:52:27 ID:Ggvnncms
>>472
「なんですか、それは?」


>>473
「「しらなーい」」

「「まねすんなー!」」


さて、久々の大きめ投下
サイドストーリー第一話です

475二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:53:27 ID:Ggvnncms
時は少し違い、場所はかなり違う。
いつもの物語とは違う、隣国のお話――。
たった一人で歌を叫んだ、ある人物のお話。
そのお話は、重要な。
大事な転機を担った話で。
この国ではそれを、
生まれたてのサーガと申します。

476二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:54:08 ID:Ggvnncms
ここは、隣国でも特に辺鄙な場所だった。
山がちで気温は低く、山脈の一角は万年雪。そんな場所。
大机で虚空を見つめるのは一人の娘で。
二十を過ぎた彼女は、平坦な視線で視線を泳がせていた。
どこかへと向ける視線は現在を見ていない。
過去を見ている。
過去視ではなく、ただの回顧、そういうことだ。
「Jarl?……ヤール! Undskyld.(失礼します)」
現在より来る声はおぼろげに、そして少しずつ明確に。
「あ……、何か?」
ようやく彼女は現在に戻り、視線を一人の娘へと向けた。
意識をようやく集中させた彼女専属のhouse karl(侍従)であり、huskarl(近衛兵)である娘に。
「エルヤ様……。いかに私のようなハスカールが居る時でも、それはヤールとしてどうかと……」
「ごめん、気を付けるよナンナ」
言われたとおり、彼女はヤールだ。
領主であり、騎士である。
伯爵位を与えられている。――例えその領地が辺境であろうとも、狭くとも。
若くしてヤールになった彼女へは十二分の評価があった。
「昔を……思い出されていたのですか?」
「内容は言わないよ」
無言、軽くうなずくのはナンナで。
「で、何?」
ため息一つ。それは苦労とも、心配とも――切なく、とも取れる複雑な物だ。
「いけませんよ、私以外にそんな軽くしては……。仮にも……」
「わーかってるって……」
外見も立場も下だが、ナンナは遠慮を見せず意見を続ける。
「いかにお父上の崩御とは言いましても、実力では折り紙付きなのですから……舐められないように……!」
「そういうプレッシャーは要らないよ……。ボクが上がり症って解ってんの?」
「ほらー! そうやってすぐボクって言う!」
「いいじゃないかよう! 二人っきりだぞ!」
今度はナンナが黙った。赤面を付随して。
「……エルヤ様。まだお昼です」
「いやいやいや、ごめん。……続けてくれる?」
「は、はいっ!」
ようやくの雰囲気を取り戻した一室――執務室――をナンナは動き、大机へと書類を置く。

477二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:54:45 ID:Ggvnncms
「反乱軍鎮圧への支援要請は午後三時とありますが」
ふむ、と一声。判断はそこで終わる。
「ヘルシール二人分、それでいいや」
「かしこまりました」
ヘルシール、戦場において指揮官の役割を担う者である。
ヤールは陣頭へはあまり顔を出さぬ存在で、必要あらば一騎打ち、あるいは総合指揮を担う程度だ。
「エルヤ様はどうなさいます?」
「開幕だけやる。あとは任せた」
「了解しました。では後ほど……」
一礼、そしてナンナは執務室を静かに立ち去ろうとする。
「ナンナ」
「……はい?」
「ごめん」
「忘れられないんですね。大丈夫ですよ。……気にしてません」
「そう言うことにしとく」
「はい」
挨拶をしつつ、ナンナは後ろ手でドアを開け、音もなく立ち去る。

478二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:56:02 ID:Ggvnncms
「はー……」
ナンナの雰囲気が消え、エルヤはため息一つ、机に突いた右肘を杖に頭を支えた。
手首にはリングが二つ、そして革紐が一つ。
二つのリングは君主より賜った物だ。この国では君主の配下にヤール、そしてその下の領民となる。
君主より、信頼の証としてリングを送ることは文化として残る物であり、名誉と実力を示す物。
この歳で二つのリングは異例だった。何せ殆どのヤールが一つのリングで人生を終える。
まだ続く人生の中、初期に二つを賜った彼女の実力は、それが物語る。
「落ち着かないなぁ……」
左手で革紐を撫で、昔を思い出す。
アザラシの皮で出来た紐だ。他国でもそうだが、十になるまで飛行は勧められていない。
それを七つの頃、己一人でしとめたアザラシよりなめした物で。
元は綺麗に切り開いた皮だった。
父に憧れ、それを被っていた事もある。
平民出の父は、己の腕一つでヤールに上りつめた。
単純なる一兵卒より、熊皮を纏った、狂戦士に連なる存在ウルフサルクへ、そしてヘルシールと。
熊皮に憧れたアザラシ娘は、ここまで成長した。
文句は多い。問題も多い、それでも実力溢れる若きヤールだ。
「ま……なるようになるよね、父さん」
今は無き、内乱で命を落とした父を思う。

479二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:56:33 ID:Ggvnncms
午後三時、隣の領地にて。エルヤは二個小隊を率いていた。
彼女も装備を調え、その赤毛の長い髪は、山猫をなめした革帽子が包んでいる。
「さ、準備はいい?」
男達が無言でうなずく。それに満足して視線を真後ろにまでやれば、そこにはビルがあり。
「まさか立てこもるとは……」
ナンナが一言。それは驚愕ではある。
別の意味で。
「好都合、っと!」
エルヤの一息、それによって物体が投擲される。
幅広の物体が空を切り裂き、窓硝子の向こう、内乱を起こす反乱兵の一人目がけ。
弾丸よりも巨大で、人が飛ぶ程の速度を持つそれは手斧だ。
この地域では製鉄技術に遅れがあった。
叩けば曲がり、踏めば戻る、そのような剣ばかりで、兵は斧を愛用するようになった、その名残でもある。
製鉄技術の向上した今でもそれは守られており、エルヤを始め全ての兵が槍あるいは斧を持つ。
手斧は確実にガラスを割り、反乱兵の頭へ食い込む。
「行け!」
エルヤの声と共に、配下の兵がビルへ殺到した。
斧を投げる。銃弾よりも速度は出ない。だが、機先を奪う心理効果では十二分の意味を見せていた。
エルヤはもう、戦闘態勢を取らない。
「エルヤがいるぞ! Himinglaeva(天の輝き)のエルヤだ! もうおしまいだ……逃げろ!」
斧が名刺となり、相手が浮き足立っているからだ。
空のある所でならば上空より襲いかかるそれを確認し、反乱軍は乱れていく。
「お疲れさまです」
誰よりも彼女を理解している(少なくとも彼女の領地では)ナンナがねぎらいの声をかけた。

480二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:57:04 ID:Ggvnncms
鎮圧終了を理解したのは午後四時。たった一時間の任務であった。
「被害は硝子窓を始め物損のみ。保証は要りません」
「そ。……じゃあ帰るぞ!」
鋭い視線はエルヤがヤールである時間の現れ。
「ったく……仲間内で争ってる場合じゃないのに……」
「全くです。他国へと視線を移すべきなのですが……。そういえば、鷲尾様よりメールが来ていました」
「解った。また厄介事かな」
「ヤール、疑念を抱く者もおります、何かと音便に……」
「解ってるよ。さ、今日の仕事は終わりだ。もうだらける」
「全くぅ……。そういう事をすぐに申されますから、移り気可変欲とラクェル様に言われて……」
「ナンナ」
「もー……もっとしっかりしてくれませんと、私も……」
「ナンナ・ライノッ!」
鋭い声がある。咎めることを第一に、相手の気遣いは全く感じられない遮る声だ。
「あ……申し訳ありません」
ナンナを見つめるエルヤの視線、それは再びヤールの鋭い視線で、
「もう、そんな事はないから。……じゃ、穴埋めね? 文字通り」
途端に笑った。
「そういう言い方はどうかと思いますーっ!」
抗議と赤面は、他の者には伝わらないニュアンスがある。

481二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/02(月) 22:57:59 ID:Ggvnncms
一糸まとわぬ姿、うつぶせで布団にくるまるのはエルヤで。
「まさか二度とはー……」
疲れた様子のナンナを隣に置く。
「今日はそういう気分だったんだもん」
文句を返すエルヤは、鋭さの欠片もない言葉を返す。
「ところで……鷲尾様からのメールは何と……」
「おさそい」
「ちょ、ちょっと! まさかOKとかしてないでしょうね?!」
「あの人、好みじゃないから」
「はぁー……。エルヤ様? 二度呼びましたよ、ラクェル様の事」
「……ごめん」
「いいですよ……代わりでも」
「……」
今はない。そう、帰ってこないラクェルを思い出す。
「忘れる努力はするよ……」
「忘れられる方では無いでしょう? ……昨日より一回減ったからいいです」
「ん……」
そこでつぶれた。頭まで布団を被り、何も言わない。
「いつか、私だけを見てくれるって思ってますよ」
「……ん」
数分の後、返事は布団の中から小さく響く。

*というわけで第一部終わり 今回は隣国から、北欧(デーン、ヴァイキング)風の文化です

482隣りの名無しさん:2006/10/02(月) 23:03:21 ID:UfFOOrMM
おーwwwwwwww

っていうか、大佐、割と顔が広いな(;´∀`)

483二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 00:01:18 ID:wALjVcpI
>>482
色々あってね
詳しく言うとアレだけど、大統領が送られてきたのはこの国からなのさ

さて第二部

484二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 00:01:58 ID:wALjVcpI
「戦いは楽でいいなぁ」
エルヤの何気ない一言は、一人の獲物を追いかける移動と共にある。
略奪者の集団を系譜の根幹に持ち、そして現在は戦士の家系、そんな国家では戦いが全てだ。
――相手が同郷じゃなきゃいいんだけどね。
不安定な国家ではなかったはずだ。
傭兵として、あるいは協力して、己の力を振るう国であったはずなのに。
「なんで……!」
長柄の斧を相手の頭上へ振り上げ、瞬間的に下ろした。
遠慮はない。
父を手に掛けた相手が同郷だと、反乱兵だと思うだけで、それだけで遠慮は消える。
今日は戦いたい、それだけの気分だったはずだ。
それでも、今では嫌な感情を感じている。
「エルヤ様ー!」
「ナンナ……」
無数の木、それがある森の中で立ちつくすエルヤへと、ナンナが飛び寄ってきた。
木立を縫う飛行は、この国では必須の技術だ。もう一つ、寒さに耐えること。
「終わりました」
「ん……」
無言、それを伴い、横へと着地したナンナを抱き寄せる。
「内乱は辛いよ……」
「早く、終わると良いですね……」
ナンナの手が彼女の髪をすく。
「父さんも……ラクェルも帰ってこない……」
ナンナは、胸に顔を埋めるエルヤには見えない表情を曇らせた。
色々な感情がある。
哀れみや、嫉妬や。平穏ではない感情で溢れていた。

485二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 00:02:28 ID:wALjVcpI
「エルヤ様」
ある兵卒の声だ。彼の言葉は執務室であり。
「何かあったか?」
「そろそろ、お気をつけて。……周囲の領が懐柔されそうだと、風の噂ですぜ」
「……解った。もしそうなれば」
「死ぬのが解って戦わないなぞ、この国の流儀じゃありやせん」
戦で死ぬ事、それこそが栄誉であった。この国ではそうだ。
戦士の国、その前の略奪集団。いつだって、戦いと共にある。
「違う。落ち延びろ」
「馬鹿な! 何を言いますか!」
「私は……」
そこで下を向いた。
色々な物が去来した。
「もう……仲間内で殺し合っているのはたくさんだ……!」
「だが……!」
言葉の代わりに音を出す。大机を拳で打ち付けた。彼女の拳は机に押しつけられたまま。
「父も……ラクェルも……! 理不尽に死んでいった! これ以上お前達に……!」
「らしくねぇ……! ヴァルキリヤとまで言われたエルヤ様が弱気ってのは……!」
「守ってきた土地だが……取り返せば済む! だが……人は帰ってこない!」
言葉は終わらない。
息継ぎの代わりに涙が溢れた。
「必ず取り戻す……だから……守ることを意識して死なせはせんからな……!」
「わかりやした。――奪還にはお付き合いさせて貰いますぜ」
「ああ……。尻の一つでも並んで叩こうか」
「何処の映画ですかい。エルヤ様がやったら俺らが釣られますわ」
「はは……。すまん」
「なぁに。俺らの認めるのはあんたです」
「ああ……」
「では、失礼を」
言ってからしばらく、その兵卒は立ち去らない。
ただ一つ、うなずきを。信頼を乗せた物を見せてから立ち去る。

486二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 00:03:01 ID:wALjVcpI
「エルヤ様?」
それは、領地の森でのことだ。
「ナンナ。もう、一旦引こう?」
判断を決めたのは、あの兵卒との会話から数日後だ。
「エルヤ様。一人で残るとか……駄目ですよ?」
「解ってる……それより、あいつらの目的は」
「今に納得していない、それでしょう」
つまり、君主を倒すこと。結論は簡単で。
戦士の国では間違った行動ではなく。
「……他の国が、すこし羨ましいね」
「クーデターはどこでもありますよ」
「今は争っている場合じゃないのに……。鷲尾さんから来たメール、変なことが書いてあったよ」
「は……何と?」
「良く分からない端末が出てきたって。ちょっと上の方で緊張してるんだ」
「上? うちの国ですか?」
「もう一つも……」
「テクノロジーなんて……あんまり欲しくないです」
「上は欲しいんだろうね。ボクらの気も知らないで」
風は冷たい。まだ八月ではある。
「ええ……」
季節はずれの、
「雪、か……八月に降るなんて早いな……」
「全部埋められたら……いいんですけど」
「辛い思い出が埋まってくれたら……」
空を見つめ、エルヤはつぶやく。
「埋めたいです……」
抱きつくナンナに暖かさを覚え。
「ナンナ……苦労を掛けるね」
「いいです」
愛情の数だけ抱きしめて、雪は二人の頭に積もる。

*第二部ここらへん うーんまったりペースな

487二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:45:38 ID:wALjVcpI
雪は続き。
例年より二ヶ月弱早い雪は、この地をいつもの姿へ変えていく。
「また……ここを使う季節か……」
エルヤのつぶやきにナンナが苦笑した。
「少し早いですけどね」
彼女らが座る椅子、その周囲には喧噪がある。
喧噪の源はエルヤ配下の兵卒らで、それぞれ模擬戦を繰り広げていた。
高さ三メートル、床面積は十かけ四十メートルの長方形くらいだろうか、それはとても広い平屋だった。
寝食、そして訓練をも内部で行われる、ヤール所持の越冬小屋、ロングハウス内である。
雪の中、鈍り、飢える配下を、それが終わるときまで戦力として維持するための建物だ。
確かに暖房器具や居住施設に問題はない。だが、戦士の国では鍛錬を怠らない事を良しとする。
「今日でしばらくはお別れだ。もうまもなく、反乱軍がここへ来る」
下へ向け、大声でエルヤは叫ぶ。
意志の声は強く、迷いはない。
「我々は一時、この土地を離れる」
ざわめきはあった。それでもエルヤの言葉を遮る者は居ない。
それだけの信頼がある。無論実力も。
「攻め込みが一番人員を割くだろう。占領後、他へ人員を割いたときに奪還を行う」
一息、
「いいか?」
周囲を見回し、エルヤは続ける。
「私は父を失った。そして愛しい人を失った」
そこで、ナンナの肩を抱く。
「ここにも愛しい人が居る。そして……」
肩を抱く力が増し、羽根がわずかに開いた。
「信頼できる者がこれだけいる……!」
まだ、言葉は止まらない。
「失いたくない! この地もだ! だから……最終的に負けぬ為、失わぬ為、一時の喪失を我慢する!」
杯を上げれば、全員がそれに従った。

488二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:46:25 ID:wALjVcpI
「誰も失われぬよう、取り戻すことを良しとする! 我等の自由は、我等の地が無くなったことで失われない」
だから、と次ぐ言葉は、いつまでも続くようで。
「解ってくれるか……?」
誰もが無言でうなずいた。
肩を抱かぬ彼女の手は、ナンナが握る。
「では――失い、取り戻すことから始めよう!」
杯を高らかに、一息あり
「Javel!」「ヤヴェル!」
それは、了解の返答。
「さあ、準備だ。隙があれば一撃くれてやれ。ただし、殺すな」
応答は、再び続く。

489二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:47:04 ID:wALjVcpI
「多分、ボクを狙う」
二人きりのロングハウス内。兵卒は準備を終え、食堂で英気を養っている。
二人はそのまま残り、来るべき時間までを待つ。
「囮、するからね」
「嫌です」
即答だなぁ、と苦笑しつつ頭を掻くのはエルヤで。
「嫌……っ……」
泣いてしまったナンナはエルヤを離さない。
「次は……エルヤ様がだなんて……もしそうなったら……!」
「大丈夫さ。ボクを信じて」
髪をすく、そして、優しく口づけ。
「やです……」
「だめ、かい?」
「もし死なれたら……私は取り残されてもいいんです……でも……あなたがラクェル様と出会ってしまいそうで……」
「……」
ナンナのうつむいた顔は切ない表情で。それは長く感じられる沈黙を伴った。

490二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:47:34 ID:wALjVcpI
「妬けちゃい……ます」
「……可愛い」
「初めて言いましたね?」
「え、そ……そうだった? ……愛してるよ、もしラクェルが居ても、今なら……君だけ……」
「はい……でも、なんかナンパ師みたいですよ」
「ううっ……両手に花はしなかったから許してよ」
「花一つじゃないですか」
「う……あ……えーと……」
頬をかきつつ、エルヤは告げる。
「待っていて。必ず戻ってくる」
「はいっ」
忘れ物の無いよう、ナンナの口づけは長く、長く。

491二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:48:19 ID:wALjVcpI
午前四時半。その気配は音を伴い始めた。
「そろそろ、だ。準備は良いか?!」
エルヤの声はヤールの声に戻り、そしてその声は皆をうなずかせる。
誰もが青の戦化粧をしていた。
ウォードという植物から抽出した物だ。
略奪の時に付けられていたそれは、今では戦の奇襲をもたらすため、そして願掛けを伴い付けられる。
「さぁ……囮は私がやる。信じてここを離れろ」
そこへは説得力があった。
彼女の腰に、四本の手斧があった。
いつもと形状の違うそれは、この領地を手に入れる前、エルヤの父、それよりも昔。
祖先より伝わる業物だ。
「ハーブローク、フギン、ムニン、ヴィドフニル」
四つの名前を告げ。彼女の言葉はまだ続く。
「不死の鳥、君たちは知っているだろう?」
異国では、
「ポイニクス、蘇る鳥はどこにでもいる。我々の蘇り。それを願う……」
そして、愛用のポールアクスを掴む。輝くたてがみ、グッルファクシと名付けられ、伝えられたそれを。
「行く……tre……en……to……」
カウントダウンをするエルヤに、皆の意識が集中。
そして、
「Nul!」
エルヤを残し、皆が飛び出す。
そして一息置き、エルヤが真逆より。
彼女は前だけを見つめ、倒すべき者と生かすべき者を思い浮かべた。

*三部終わり そろそろテンション上げて参ります

492二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 01:49:07 ID:wALjVcpI
ただ、心配そうなナンナの表情だけは覚えている。

493二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:08:21 ID:wALjVcpI
飛びだした空、そして森は雪に包まれている。足の速い雪だ。
「ああ……まだ降っている」
ちらちら、それが似合うような。
日常の雪の中、一番美しいと思う雪だ。心を落ち着け、彼女の初速は最高速度まで過たず上昇していく。
午前四時を、五時へと向かう時計のように、真っ直ぐと。
始めに行うのは、頭に被られた山猫の帽子に取り付けられた鈴を鳴らすことだ。
意識をこちらに集中させ、
「私はここだ! さぁ……この首取りたくば――かかってこいッ!」
言葉を吐けば、そばかすと三つ編みが特徴的な、愛しい娘を思い浮かべた。
そして、反乱兵とすれ違いざま、ポールアクスが遠慮無く羽根を千切る。
「ヒミングレーヴァのエルヤ! 参るッ!」
名乗りと同時、その名前――天の輝きを見せるがごとく手斧が四つ、不死鳥の手斧が舞った。
左手の一振りで舞う四本の手斧は全て重量配分を異なり、そしてそれは散開して獲物を抉っていく。
ハーブロークは一人の肩へ、フギンはもう一人の翼へ、ムニンは足を抉り、ヴィドフニルはポールアクスが弾き、そのまま弾丸として首を掠めていった。
拾っている暇は無かったが、
――これが絆だ。
ヤールの心でエルヤは小さくつぶやく。
ナンナの紡いだ長い紐、それは彼女のお守りで。
可愛らしい外見を彩る赤毛を一年間かけて紡いだ物。それを使い引き寄せ、再び不死鳥をエルヤは手にする。
――まだ、止まれないんだ。
普段ならばヤールの役目、一騎打ちで終わる仕事、この囮にはその終わりがない。
「さぁ、相手の欲しい壁の花は何処だ?」
再びの構え、そして打ち鳴らす五つの斧。
誰もが恐れ、近寄れず。されど離れることはない。
「なら――往くぞ?」
攻めの飛行ではない。エルヤの人生を考えれば、十年ほど昔にしたきりの行動だ。
いきなりの加速に泡を食う反乱兵の間、そして木立を抜ける飛行は淀みなく。

494二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:14:06 ID:wALjVcpI
――そう、それでいい。
「父さんっ?!」
声が聞こえた。

――願えば距離は近くなる。
もう一つの声は約束を告げる。

「父さん、ボク……行くよ――!」
勇敢な父の娘として声を放ち、
「一時はさようなら、我が領地――」
夢と悪夢を乗せ、己を作り、己を壊し、離れようとも共にあり。
そんな領地と一時の別れを、ヤールとして告げる。
――必ず取り戻しに。
広がった皆を思い、いつかまたここに集うため。
そのための逃走は、闘争を交えた物だ。
――もっと、行くところがある、そこまで行きなさい!
「ラクェル!? 何処へ行くの?」
――信じて。お願い。貴方にしかできないことを――。
「解った!」
理由は要らない。
とにかく、信じて、愛して。
そんな二人の声に従い、エルヤは空を走る。
血しぶきは幾重にも、戦化粧の青を消すほどに、灰色がかった翼を重くするまで。
「終わらない――私が死んだとしても――この地は終わらない! 誰も、誰も終わらない!」
聞こえる声は幾重にも。
「ヤール!」「エルヤ様!」
「私達……信じてます!」
背中が熱い。思いを乗せることに、エルヤは炎より蘇る不死鳥を見た。

495二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:34:28 ID:wALjVcpI
飛び続け、疲労を感じる午前十時。
聞こえてきた、失われたはずの声は、正しい。
たどり着いたこの森は、木立が多く飛びづらい。
それでもエルヤには当たりはしなかった。
その昔、ラクェルに教えられ。
そして、一人になってからは自分だけの場所にして。
今ではナンナと時を重ねた。
大事な森は、自分を守ってくれている。
迂闊に速度を落とした追跡者から、不死鳥らとポールアクスに落とされる。
――こんな、世界はこのまま変わってしまう?
異国の言語混じりで伝わるそれは、エルヤにも理解できる共通語。
――世界が?
童話を思い出し、そんな話もあったと思い。
叫んだ。己を知らせるために。
追っ手へ、そして見えぬ不安を持つ物へ。
「寂しいのか?! 変わるのが?! なら……変わってからでも間に合う……取り戻せ!」
それだけで追っ手は来た。十分な陽動は終わる、それでも――止まらないのは伝えるべき言葉。

496二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:36:10 ID:wALjVcpI
「失うことを恐れ、嫌だとおもうなら――取り戻すんだッ!」
――悔しいよ。悲しいよ。
あの気持ちを忘れずに。だから叫び続ける。
「悔しいんだ! 私も! 大事な人を失ったから――」
――ありがとう
父の声は優しかった。
「だから――強くなって、守れるようになった……そして」
――今のエルヤ、格好良いわ。
ラクェルも優しく、背中を押す。
「気持ちを――力にするんだよ! ボクだって……出来たッ!」
だから、翼は叫ぶ。
小枝をへし折り、敵を断ち、まだ見ぬ道を行く。
「寒いなら――寄り添って暖めてあげなよ!」
――さびしいよ。
誰かの声が聞こえた。
それはやさしく、寂しく。
歌うように、語るように、叫ぶように。
――想いを伝えるといった約束の声みたいだ。
「手を取れば踊ってやる……ボクは踊りだって得意なんだぞ!」
顔も見えない寂しがり屋に手を向ける。

497二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:43:13 ID:wALjVcpI
――もう、もう
それは心の叫びで。
「誰かが失われちゃいけないんだよッ!」
――そう、だから。ここにお墓を立ててくれた。
それはラクェルの声で。
――だから、お前はこのまま、行くべき場所へ。
夢でしか逢えぬ、二人の声に力と道しるべを。己の叫びに戦う力を。
それでも、彼女には叶わぬ事があり――。
「っあ!?」
不意の叫びは下からの衝撃だ。
「どこか……らっ!?」
「役に立ったか!」
追跡兵の声。
――異国の罠?!
対空クレイモアがエルヤを射抜く。
血を吐き、それでも、
「それでもッ!」
血が終われば、力は叫びとして口を開かせる。
ポールアクスが地の雪をえぐり、強引に高度を確保、そうすれば海があった。
ストラトフライヤーが飛んでいた。
かつて、彼女と会話した異国の女を思い出す。
「ああ、あの人のマーク……」
遠くから聞こえた絶望は、あの国の言葉だった。
ようやく思い出し、グライダーの滑空は脱力に。
――エルヤぁッ!
――エルヤ……エルヤ……!
二人の声だけが、高度を守る力だ。
「ナンナの……ところに……戻るんだっ!」
三人分でようやく、高さを上げていく。

498二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:52:52 ID:wALjVcpI
――もう少しよ。
――エルヤ……翼をもう少し下げるんだ。
アドバイスと励ましはエルヤを飛ばす理由となり。
――エルヤ様……エルヤ様……声が……聞こえます……!
ナンナの声は命を燃やし続けさせた。

「痛いよ……ナンナ……ラクェル……父さん……」
弱音一つで高度が下がり、緩んだ意識で集中力だけを取り戻す。
「痛いけど……もっと痛かったんだよね……みんな……!」
下がった高度を再び、そして海を抜けた。

――もう少し! そこ……その上空よ!
ラクェルの声、それが指すのは。
「この国の中心!」
――叫ぶんだ……あそこで、お前の気持ちを!
父の言う言葉、それは――。
「解ったよ……悔しかったこと、全部吐く!」

――エルヤ様……!
「みんな……」
 ――願えば距離は近くなる
「もう、仲間同士――兄弟同士で喧嘩なんかしないで……!」
こみ上げてくる熱い物を抑え、一息吸う。
「大事な物を無くしちゃうんだ! だから……」
――世界が……取り戻したい!
そんな声は、また聞こえてきた異国の言葉。
「世界が大変なんだぞぉっ!」
そこで吐血した。
それでも叫びは止まらない。
「みんなで……ごほっ!」
血が喉に絡まり、体中から力が抜けていく。
――もう……終わりかな……?
死は穏やかではなかった。
ラクェルも、父も。
告げた感慨は無く。不満がある。
言い足りない、と。

499二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 02:58:37 ID:wALjVcpI
「旦那様――」
声が聞こえた。
「ラクェル様――」
夢ではない。走馬燈かもしれない。エルヤはそう思う。
「私に……愛しい人を守れる力を――!」
意識が戻ってきた。抱き留められており。
「ナン……ナぁ……」
「エルヤ様! しっかりして……くださ……うくっ……」
エルヤの思い人の、暖かな涙が伝わってくる。
「まだ……終わってない……ん……だ……」
力を貰うような、涙。
「世界を救えッ! 仲間同士で喧嘩する前に――世界が危ないんだよぉ――ッ!」
叫び……。
「ありが……と……ナンナ……っ……」
――ナンナ……父さん……ラクェル……。

 ――ばいばい……だよ……。
声にならない声が、距離を無視して伝わる。
不覚にも、愛する人の涙と達成感で意識が薄れていく。
――なさけな。
最後の思い。

*第四部 終わり
使用曲:YUKI『長い夢』 ttp://www.sonymusic.co.jp/Music/Arch/ES/YUKI/ESCL-2651/index.html
歌手ご本人が若くして失った息子へ届けた曲。です。
俺の中で重くなっていて、使えなかった曲だけど。

――賞を出したことをきっかけに。
 叫んだ――!

500二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 03:02:27 ID:wALjVcpI
声は、幾重にも幾重にも響く。
距離を無視した。それだけの思いを込めて。
距離も、壁も突き抜ける声は、反乱兵にも、他のヤール達にも続き。

「エルヤ様……貴方の声……みんなに伝わってますよ……エルヤ様ぁ……っ……」
眠ったような、満足しているような愛しい寝顔がある。
ナンナの涙をひたすら受けるその寝顔は、動かない。

電子音――通信機だ。
「世界を救う戦いに、出ることにした」
「ほら……聞いてくださいエルヤ様っ! みんな……喧嘩してませんよ……ぉっ……うっ……うっ……ううう……っ……」
ただ一人、誰もが声だけを知る。そんな英雄が眠る。
「ヤール!」「エルヤ様ッ!」
皆に慕われ、愛する人に守られ――。

501二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 03:04:30 ID:wALjVcpI
――頑張った……ね。
ラクェルの声が響く。
エルヤをそっと抱くような声。

――自慢の娘だ。
父親の声が響く。
エルヤを労る声。

「エルヤ様……!」
皆の声が響く。
エルヤを慕う声。

「私だけの英雄でいて……欲しかったです……エルヤ様ぁ……っ……」
ナンナの声が響く。
我が儘を込めた、愛情の声。

502二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 03:08:05 ID:wALjVcpI
――でも、ばいばい。よ。
――ああ、まっている。焦るなよ。

「……え?」

――孫は無理そうだな。ははは。
――もうちょっと、頑張って貰うからね。

「な……んな……」
「エルヤ様ッ!」

――もっと戦いを知ってから、来い。
――二人とも、こっちに来たら――三人でかしら? 冗談よ?

「痛い……けど……ボク……」
「エルヤ様っ! エルヤさまぁぁぁ……」

涙と、
「ゆき……きれいだ……」

「君も……」
その声で終わる。力無く愛しい人の頬を撫でるエルヤの手。
それが崩れた。
ただ、
眠りを残し、ゆっくりと。
「よかった……よかったぁ……」
満足に満ちた寝顔の向こう。心を貫かれ団結した一同が、ストラマを目指す。

503二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/03(火) 03:09:37 ID:wALjVcpI
時をようやく同じとし、場所は動きませんが。
いつもの物語と同じ、隣国の気持ちをつづった――。
たった一人で叫び、多くの人に支えられたある人物のお話。
そのお話は、重要な。
一国の意志をを担った話で。
この国ではそれを、
生まれたてのサーガと申すのでしょう。

終わり

504二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:19:39 ID:3StvMh4Y
エルヤの声が届き、あの国は互いに向き直ることのできた、そんな話がありました。
それから、世間はストラマを存在として実感し、向き直ることは出来そうで。

さて、
元の時間を戻しますと。
色々なことが始まるのです。
終わりを止めれば、そこからの始まりが。

505二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:20:23 ID:3StvMh4Y
「ふへー……」
かったるい、と続けるのはシヴィルでした。
「大尉。しっかりして。今日だけは……」
へいへいと返事を返されたのはユニーでした。
「それにしても、寒いですね……」
「さっむいねー……」
二人の見つめる空は鉛色で、ちらほらと白い物が落ちていきます。
「始めて見たんですよ」
「あたしもー」
雪は、彼女たちの国には降らぬ物です。
珍しく、そして寒さがあれど、二人の気分は高まっており……。
「戻ってこーい?」
「ん。もう少し」「くけー」
ええ、盛大にはしゃいでいた人らが居ました。
「ほーら、早くする!」
「うわ、珍しい。雨ふるな」
「もう降ってるような」
「ん、雪が」
――というわけで、『珍しい孝美』の理由などを語る前に、少々時間を戻りましょうか。

506二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:21:03 ID:3StvMh4Y
「なんだって?」
いつものオフィス、そこでシヴィルは疑問を放ったのでした。
「要は交流なんだけど、向こうの国は武勇が物を言うのよ」
で、と次ぎまして、孝美は真面目な言葉を続けます。珍しいのはここから始まっていました。
「ヴァルキリヤ同志で交流するのが国交にいいだろう、ってさ」
「なんだ、そのヴァルキリヤって」
「戦乙女ね。向こうの伝承よ。死者の魂を導く役、戦いを重んじる向こうの住人には導き手になるんだって」
「へぇー。んで……あたし?」
「あんたなら十分でしょ。あたしと、あんた……後は……」
「ユニ子かねー。あと真理」
「……いい。シヴィル……それいい!」
「……藪蛇?」
失言でありました。

で――。
「大統領もつれてきたい」
真理の言葉でした。
「なんでまた?」
「だって、その国からの贈り物に紛れてきたし、里帰り」
「そういやそうだったなぁ……」
というわけで。
ちょっと不思議なメンバーでの外交でした。

507二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:21:48 ID:3StvMh4Y
時間を戻しましょうか、合図は簡単に。
「しっかし、なんだって外交役のドリーを連れてこなかったのさ」
「戦いの国だからよ。会談じゃなくて親睦を深めるなら強い者が行くべきってね」
シヴィルのもっともな意見はあっさりとした回答でかえりまして。
「ならフレアねーちゃんでいいじゃん」
「ま……色々あるのよ」
話しながら、一同は孝美に先導されていきました。
針葉樹の茂る雪の森、そこに一軒の巨大な家屋が。
「でっか!」
「ロングハウスって言うのよ。雪に埋もれる地域での訓練所兼寄宿舎みたいな物ね」
「おっきいですねぇ……。雪の間はここから出ないんでしたっけ」
「せーかい! さっすがユニーちゃんね!」
抱きつきはあっさりかわされまして。
「いつも通りですね、鷲尾さんは」
声がありました。
長身長髪の娘と小柄な三つ編み娘が、防寒具に身を包んでおりました。
背後には数名、腕の立ちそうな男達が待機しておりまして。
「エルヤ、ご無沙汰ねー!」
「ストップ。ここはプライベートじゃない」
「おっとっと。ん? 後ならいいのかなぁ……?」
「黙秘するよ」
長身長髪の娘――エルヤは笑いまして、
「ようこそ、ノルストリガルズへ。スピネン共和国の戦士達」
手を出しました、左手を。
先頭の孝美と左手で握手をしまして。
いかなる時でも利き手は武器のため、そんな風習故の握手でした。

508二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:22:18 ID:3StvMh4Y
さて、後ろの三人と一匹は。
「ノルストリガルズ……?」
聞き慣れない言葉、そこへは由来があると思ったのか、髪を伸ばしてすっかり可愛らしくなったユニーが首をかしげまして。
「北の国って意味らしいぞ」
「それにしても、孝美が代表でスピネンの意味は、怪しい」
「にひひ。どう紡ぐのかって?」
真理は否定的だわ、と心に思い、小声の会話はそこで終了です。
「ナンナ、ロングハウスへ案内してさしあげて。私は先に行く」
三つ編みの娘が恭しく一礼しました。
「かしこまりました、jarl」
そうして、エルヤは飛び去り、一同はナンナに連れられわずかな道を進みます。
「孝美ぃ。ヤールってなんだ?」
「伯爵位ね。簡単に言えば、だけど」
「へぇー……」
「家柄じゃないのよ。武勲次第」
つまり、と前置きしたのは真理で。
「手練れ、そういうこと」
「凄いなぁ……」
「あんたと同じ歳よ。シヴィル」
「うへぇ……」
国交というわりには、少しばかり遠足の匂いを漂わせる一行でした。
ナンナはその様に嫌な顔をしてはおらず――。
むしろ、微笑んでいました。
緊張していたんですよ、彼女。
手練れが来るって言われてたんです。
とにもかくにも、孝美以外の手練れもこんな感じかと安心したみたいで。
そんな事をやっている内、ロングハウスは目の前でした。

509二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:22:48 ID:3StvMh4Y
ロングハウス内、ここは会議室なのでしょう。
長机がありまして、長辺へ互いに、向かい合うように座りました。
「改めて、お久しぶり。鷲尾大佐。そして、初めまして」
一息ありまして。
「エルヤ・ブレイザブリクと申します」
「……あら?」
名前にすぐ、疑問を露わにしたのは孝美でした。
「前はヒミングレーヴァ、だったわよね……?」
「ああ」
えっと、とおずおず声をかけたのはナンナでした。
「ファミリーネームは無いのです。状況に応じてそれを変えます」
それで、といった前置きで。
「手斧の使い手から天の輝きという意味のヒミングレーヴァだったのですけど、この国をまとめ、ストラマと向き合えるようになったのはエルヤ様の声が通ったからなんです」
「思えば距離は近くなる……か」
シヴィルは思い出しながらつぶやきます。
誰もが、国交を考えていないような会話でした。
文句も出ませんし、いいのでしょう。
いい。と皆は思い。何より階級ではなく武勲が優先する国だからこそでしょうね。
「ええ、ですから――ブレイザブリク、私達の言葉で広がる輝き、といった呼び名になりました」
「だからなのね」
孝美の声と、視線は彼女の右手に注がれていました。
初めて会ったとき、腕輪は一つで、孝美が帰国する前に二つであったものが三つになっていました。
「ええ」
目を細め、エルヤは微笑みます。

510二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 21:47:31 ID:3StvMh4Y
「え、えーっと……、これは国儀なのでは……」
遠慮がちなユニーの声に皆が咳払い一つ。
「大丈夫です。あくまで交流ですし」
「この国での関心事は、あなた方のありのままですから」
「それはそれで……色々問題がありません?」
「特に孝美がなー」
視線は一点。でしたとさ。
本人は咳払いで、エルヤは笑っていて、ナンナはラクェルとエルヤから聞いた事実があるので、じと目でした。
「とりあえず――質問いいかな?」
シヴィルの一声でした。
「なんで、あたしを指名したの? もっと強い人なら居たはずだけど」
「それは――」
ナンナの返答は、エルヤの手で止められました。
彼女の言葉を継ぎ、エルヤはシヴィルを見つめました。
「前線で戦うからですよ。ヴァルキリヤとして評されるのは、先頭で配下や同胞を鼓舞する者です」
「なら、私はおまけ」
真理はつぶやきます。悪びれの欠片もない、率直な意見でした。
「お二方とも、実力は配下が見てくれました。本当なら全員お呼びしたいのですが……」
「無理は言わないさ。真理とユニ子はいいけどさ……あたしは勝手にやってるだけだよ? 見た目もいまいちだし」
「そうですか? とても可愛らしいです」
「エルヤ様っ!」
「はは……ナンナが一番だよ?」
「……もぉ」
「……惚気てる」
「エルヤー……私も私も」
「ごめん。鷲尾さんはちょっと……」
「わーんっ!?」

「なんだか普段と変わらない……」
「同感」
ユニーと真理は二人で思うのでした。

511二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 22:20:56 ID:3StvMh4Y
「お呼びしたのは他でもないんです」
改め、気を取り直したエルヤの言葉です。
「よろしければシヴィル大尉。模擬戦をお願いしたいのです」
「は?」
「認め合うのは杯を交わすこと、そして武器を打ち鳴らすこと。それがこの国なのですよ」
「あたしー……?」
「道理で……」
疑問の氷解した、そして声を上げたのはユニーでした。
「武器の持ち込みが問題なく行われたのは、そう言うことでしたか」
「戦いの国で武器は当然ですけどね。国儀に武器携帯を願ったのはそういう事です」
「うーん……あたしか……んー……」
「一週間ほど視察期間がありますから、その間にお考え下さいね」
「うーん……」
腕を組み、それっきりのシヴィルがおりまして、時間は今後一週間の予定を語る場になりました。

「以上。では……」
一息、そして目配せ。
両方を行うのはエルヤで。
それだけでナンナを残し、配下が去っていきました。
「ここからは、プライベートだよ」
口調を改め、合図のようなエルヤの声。
合図はもう一つありまして。
「エルヤーっ! ラクェルも居ない事だし私とふふふふ!」
「だ、だめーっ!」
「ぬう。貴方の物ってわけ?」
「そ、そうですよ?!」
「……ラクェルは?」
「……」
沈黙したナンナの隣、穏やかにエルヤが告げました。
「戦死しちゃった」
「……ごめん」
「いいよ。気にしてない。あれから一年だものね、色々変わったよ」
それと。
そんな、彼女の一息に迷いはなく。
「ストラマのおかげかな。あの時、ちょっと話せたよ。だから、気にしないでね」
でも、とありまして。
「だから、鷲尾さんのお誘いは駄目だよ。ナンナもいるし」
「えー……」
「だから、鷲尾さんは趣味じゃないの。いくら攻め上手でもね」
「わーん!」
あーあ。

512二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 23:02:40 ID:3StvMh4Y
本日は、それでお終いでした。
はからいもありまして個室をそれぞれ。
ええ、とある方の悪行を見越されてでしょう。
本人は――泣き寝入りのようで。
さてさて、ある個室にて、です。
その個室でへばっていたのは、先ほどからうなりつづけていた人で。
気楽なシヴィルとはいえ、流石に深刻です。
「模擬戦ねー……」
色々思うところはあるらしく、未だにまとまりはつかないようです。
落ち着かない異国の初日。そんな夜でした。
ノックの音に気づいたのは、二度目のノックでした。
そのくらい上の空だったようで。
「はいはい?」
「今晩は。……いいかな?」
エルヤ、でした。
「いいけど。なんか違うね」
「仕事とプライベートは別だよ」
笑顔は確かに、昼間よりも自然で明るい物でした。

513二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/07(土) 23:50:54 ID:3StvMh4Y
「さむっ」
「もっと寒くなるよ?」
笑いを含んだエルヤの声、それが聞こえるのはロングハウスの屋根でした。
屋根の上、シヴィルとエルヤが座っていました。
「寒いのは嫌だなぁ……」
「ははっ。ボクらは慣れてるからね」
寒い夜空は、綺麗な空気と共にありました。
星空を眺める二人には、沈黙と白い息があります。
「戦いは、嫌い?」
「あんまり」
「模擬戦も?」
「だから、かねえ……。練習が大事なのは解るさ。でもな……」
「ん……」
「やっぱり、相手の顔を見て、やらなきゃと思えないんだ」
「そう」
一息、それからエルヤは屋根に立ちまして。
「ボクは、君が嫌い」
シヴィルは無言で彼女を見ました。
「多分同族嫌悪かもしれないけど。嫌い」
「そっか」
「いざというときに戦えないのは、辛いんだよ?」
一息はシヴィルより。真っ白な息が続き。
「……ラクェルさんだっけ? 彼女のこと、良かったら話してくんないかな?」
「嫌いって言ったろ」
「それでもいいさ」
「そ……」
エルヤは再び屋根に座り、二人は同じ場所を、月を見ていました。
やりとりはとにかく。
二人の表情は微笑とも取れそうな、そんな穏やかな、平坦な表情でした。

514二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/08(日) 00:26:56 ID:i0Y8dC7I
ラクェルと出会ったのは、もう思い出せない昔だったよ。
小さい頃だった。隣の領地の娘でね、二つ年上の、いつもおねえさんぶった困った娘だった。
いっつもいっつも、ボクの事を子供扱いしてたんだ。

あの娘は、スカールドだった。
吟遊詩人が本当の意味。でもね、役職としては歴史を伝える為の存在なんだ。
この国には歴史書なんてほとんど無いんだよ。
伝えるのはスカールドの仕事で、あの娘は綺麗な声で、可愛くて。
変だったな、ボク。
20の頃に、久々に出会ったあの娘を見て、胸がどきどきした。
可愛い、って思えたんだよ。
女の子同士だったし、もちろん黙ってた。

ボクが22になって、鷲尾さんがね、視察に来たんだ。
そういえば――あの時と同じ三日月が綺麗だったなぁ。
ボクの事さ、鷲尾さんは気に入っちゃって、べたべたされたんだ。
――はは、あたしも。
そっか。あの人って節操ないね。ふふ。
で……凄く迫られた。
ボクの好みはラクェルで、鷲尾さんみたいな押しの強い人じゃない、おしとやかな人だから。
いきなり、さ。
鷲尾さんにビンタしたんだよ、ラクェルが。
エルヤは私の物です、いい加減にしてくださる? って。
嬉しくて、なんか……抱きついちゃったんだ。
おかげ、うん。
おかげで……ラクェルと気持ちを伝えられるきっかけが出来て……。
それから一年弱、幸せだったよ。

515二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/08(日) 00:28:35 ID:i0Y8dC7I
この国はね、いつも戦いがあった。
何かを変えるには力、戦いで勝てばいい。
だから……当然なのかな? 内乱が起きてね。
ラクェルは、ボクの戦いに付いてきてくれた。
あの頃は全然実戦慣れしてなくて、ラクェルの経験が凄く助かったんだ。
未熟だったんだよ……。

あの日、ボクの隊は孤立しかかっていた。
無茶したんだ。先走ってさ。
手斧、うん。
ラクェルがかばってくれた……。
最後に、諦めないでって言い残してあの娘は……。

ボクは強くなったと思う。
武勲は国民にとって大事な物だけど。
どうして大事なのか、本当の意味をやっと分かったんだ。
命を残して、それでもたどり着く高みに、武勲はあった。
だから、焦ったボクはあの娘を亡くしたんだって、今はそう思うんだ。

516二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/08(日) 00:30:41 ID:i0Y8dC7I
「ありがとう」
らしくない、言い方でした。シヴィルは故人を悼むより、感謝を選びまして。
「いいよ。今はナンナがいる」
「忘れきれる?」
エルヤには鼻で笑うような、――気持ちはそうではありませんが――微笑がありました。
「無理。でも、忘れなきゃって思う。この前の事件からこっち、ちょっとは忘れたと思うよ」
シヴィルも、そしてエルヤも、思い出話を噛みしめるように、輝く三日月は二人の瞳にありました。
「やっぱ、あたしもあんたの事嫌いみたい」
「そっか」
「忘れることなんか無いんだ。それが成長するって事だろ。弱点を覚えてなきゃ強くなった事にならないよ」
軽く息を呑み、エルヤは一つうなずき。
「そうだね。そうする」
「前に進むんだから」
小さく、エルヤが笑いました。それは息ではなく、言葉を伴う微笑で。
「大尉は――」
「シヴィルでいいさ」
「シヴィルは、最速なんだよね」
「一応、ね」
困ったような笑みはシヴィルにありました。
なるためになった最速ではなく、結果的な最速だった。それを思い出し。今では誇りになる速度の称号です。
「前を見たいから?」
「誰よりも……今あるゴールに走るためかな? 普段は寝てる兎でも、起きたら追い抜くつもりでね」
「あは……。やっぱ似てるよ。ボクはね、誰の心配も背負って、潰される前に進むために」
「にひ。かもね」
「「嫌いは好きの裏返し」」
「似てるなぁ」
「あはは。ボクはシヴィルのこと嫌い」
だけど、そんな前置きで月を見上げるシヴィルをエルヤは見つめまして。
「それ以上に好きかも」
はは、そんなシヴィルの笑みには悪戯っぽくも、困ったようでもあり。
「恋愛は勘弁だー」
「ボクにはナンナが居るって」
「浮気も駄目だぞー?」
「こら、ボクは真面目に言ってるのに。そう言う意味じゃないよ!」
可愛らしい。そうシヴィルは思っていました。
恋愛感情ではなく、素直に悪くない。そう思っていたのです。

517二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/08(日) 00:34:08 ID:i0Y8dC7I
「あたしも一緒かも。嫌い、だけどそれより気に入ってる。……だから、友達」
照れくさそうに、それでも満面の笑みでシヴィルは告げました。
「……んっ! 友達」
ヤールの仕事を果たしたときより、子供っぽい笑みでした。
同じ歳とは聞いていて、でも、それより、なにより。純粋な笑みだとシヴィルは思い。
「なあ、エルヤ?」
「何?」
「模擬戦さ、じゃれつくかもよ?」
いつもの、後輩いじりに最適な笑顔でした。
後輩にとっては悪戯顔とまでいわれた、そんな顔で。
「あははははっ! そんな事した覚えがないよ!」
屋根の上、足をばたつかせてエルヤが笑いました。
寒さを忘れる、そんな暖かさが胸にあると、二人は互いに思い。
「楽しみだぁ!」
「怪我は勘弁だぞー?」
「死なない程度に痛めつけるかもね?」
きっつ、と言ったシヴィルはひとつ、嬉しさの強い苦笑をしたのでした。

*音ここまで
OSTER project 様
Moonlit Monday (crescent style)
ttp://www.muzie.co.jp/cgi-bin/artist.cgi?id=a017591

518二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/08(日) 01:45:54 ID:i0Y8dC7I
一週間はゆっくりと、緊張もなく進んでいきます。
ただ、違和感はあったようで――。
ええ、エルヤとシヴィルの仲です。
「あれが、議事堂。定期的にヤールが集まって会議するんだ」
「会議はたるいなぁ……。エルヤも退屈じゃない?」
「そうでもないよ」
二人の会話が多くなりました。
「あ、あのー……大尉? エルヤ様は私の……」
「解ってるって、あたしはエルヤの友達ってだけ」
「ううっ……心配……」
「大丈夫ですって、ナンナさん。大尉はノーマルですよ……多分」
「め……目覚めたら私が狙うー!」
周囲『だけ』は放っておかないといった感じでしょうか。
「大統領、空気はどう?」
「くけっ!」
こちらはこちらで、平和ですね。

模擬戦を翌日に控えた夜でした。
あの日より、夜中の会話はありません。
シヴィルの気遣いというのもなんですが、ナンナの圧力とも言います。
――ジェラシーに勝る力無しってか。
女心は怖い、シヴィルはそう思っていたのでした。
そんな模擬戦前夜、今夜ばかりは一週の始まりと同じ、屋根での会話をしています。
「シヴィルは恋愛とかどうなの?」
第一声に唖然としたのは言うまでもなく。
「んー……前は彼氏とか居たけどね」
「男かー……ボクは前までそれでもよかったんだけどなぁ」
「今は女一筋って?」
「あはは。恋愛のこととか考えるとね。どうしてもナンナやラクェルしか思い出さないよ」
へぇへぇ、と投げやりな返事は現在思いつく相手が居ない事へのなんとやら、といったところです。
「ま……孝美には気を付けろー? 誰でも攻めるからなぁ……万が一もあるし」
「へ? 大丈夫大丈夫」
手をひらひらさせて笑うエルヤには全く心配事がない、といった感じで。
「いやぁ……意外とタチって攻められるときついって言うし……」
「ボク、ネコだよ?」
「なぬ!? ……意外だなぁ」
「そういうシヴィルだってノーマルなら、ね?」
「……なるほどねぇ」
なんとなく、納得して、
「ナンナ……だっけ? あの子が?!」
やはりしませんでしたね。
「うん」
「意外だなぁ……」

519二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/08(日) 01:47:14 ID:i0Y8dC7I
「ボクねぇ……」
頬を染め、うつむきながら言葉を紡ぐ、そんなエルヤが居ました。
見つめているシヴィルすら赤面してしまうほど可愛らしい、そんな表情で。
長身――とはいえ、二人とも羽根娘での基準であって、170もありませんが――で凛々しいイメージのつきまとうエルヤはどこへやら、といった様子です。
「おしとやかな子にちょっと意地悪されるの……好きかも」
「うわ……それはちょっと……」
いつもの調子ですぐ、シヴィルの顔を下から見上げまして。
「意地悪よくない?」
「うーん……趣味じゃ……あ」
「思い当たったね!? あたったねー!」
「いやいやいや! 無い! 無いってばー!」
前日を思わせないような、平和で。
二人にとっては間抜けな日なのでしょうが、それはまあ友人同士の特権という事で。
本日の月は昨日より細くなった物でした。
ラクェルの苦笑した瞳を思い出す、なんてロマンチックな言葉はエルヤの頭の中だけで。
今それを言えば別の意味で台無しと言ったところです。

*今日はこのへんで、あんまりテンション上げると明日の予定に響く物でorz

520隣りの名無しさん:2006/10/08(日) 17:37:30 ID:3dOaykho
戦場にいるのが戦士なのか、戦士のいる所が戦場なのか。
愛することは哀すること。それでも、―私は―愛を求める。曖昧な藍色の上。


名無しの戯言大変失礼

521二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/09(月) 00:19:36 ID:jTXZSVHM
>>520
ありがたい、ありがたい。
言葉があることに、どれだけの力を貰うことか。
ありがたい。
粋に答える意気は、ここから続けるさ!

というわけで――。

ここは、街の中心。
戦のまつられる場所、政治と思想の中心でもありました。
そんな中央にはそれらしく、競技場ともコロシアムともつかぬ物があり。
向かい合う二人の戦乙女、シヴィルとエルヤ。
二人の顔には緊張があり、しかし――。
それ以上に笑みがありました。
「エルヤ」
「何?」
「楽しいって思う?」
エルヤは微笑みのまま、得物を握りしめ。
長柄の斧、その刃はゲルで包まれていました。
このために孝美らが用意した模擬仕様のための器具で、それはシヴィルの槍にもありました。
「すごく楽しみだよ」
「あたしは――色々企んでる」
「楽しみだなぁ……」
「さ、やろ?」
「うん……!」
エルヤは斧を掲げ――今回に関しては長柄の斧、ポールアクスと手斧一つとなっていました――応じてシヴィルも槍を。
「戦を、歴史に捧ぐ! 両国の手を繋ぐ前に、武器を打ち鳴らし。対等にあらんことを!」
「応じる戦いに恨みはない! あるのは互いの認めるための物!」
覚えた言葉、二人の誓いはそれだけです。
「いざ!」
距離にして三メートル、それが二人の距離。
そして観客席の皆が、大きく声を上げず――固唾を呑みます。

522二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/09(月) 00:41:39 ID:jTXZSVHM
「いくぜぃ!」
「来いッ!」
笑顔から歯を食いしばり、シヴィルが数歩の走行。
対するエルヤは手斧を振り上げ上空へ。
つんのめるように体を寝かせたシヴィルは速度の動き、飛行に移り。
エルヤは投擲体勢への移行を完了する。
シヴィルの飛行準備、広がった背中はエルヤの的。
それでも、彼女は投擲を行わなかった。
速度に息を呑んだ。それが救いになった。
――速い!
上空、エルヤの真下にシヴィルは居た。
それも一瞬、そして背後へ速度はある。
「槍だなぁ……凄い。シヴィルが槍なんだ……!」
――でもね!
投擲体勢のまま、ポールアクスを縦に振りかぶる。
それは虚空を、かつてシヴィルの居た位置を薙ぎ、背後までを支配。
重みを利用した一回転と同時、上下逆さのエルヤから手斧が一つ飛び。
「斧……エルヤこわっ!」
「ははっ! シヴィルだって怖いよ!」
手斧を振り切らんとするシヴィルは軌道を変えられない。
半端な制動では追従するエルヤにたたき落とされる。
紙一重の挙動を行うしかない。それは簡単な行為で果たされる。
「いてっ! やっぱこれ無茶だったかな!」
「……! 頭回るね!」
地に突き刺さる、速度の先導。
槍だ。
突き刺さった槍の根元、急制動とわずかな上昇をしたシヴィルの下、手斧は通り過ぎる。

523二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/09(月) 00:53:09 ID:jTXZSVHM
「まぁだまだ!」
地の槍を抜き、姿勢と軌道を変える動き、それをシヴィルは果たす。
上昇により引き抜き、そしてそのままの勢いで逆上がり、振り抜いた槍は追いすがるエルヤへと向き。
「っ!」
剣のような軌道をした槍は、エルヤの斧が止める。
二人の加速は力となり、鍔迫り合いの形。
「ああ……やばいよエルヤ」
「ははは……シヴィルって……面白いなぁ」
「あたしも。模擬戦で熱くなったのは初めてかもしれないなぁ……」
「いいね。神様も笑ってくれる、みんなも!」
声と同時、鋭い膝蹴りはエルヤから、未だに上下逆さのシヴィルの羽根へ。
「甘ェ!」
両手を緩めた。
速度のつかえのないシヴィルはエルヤの横を飛び去り――、
「長さを利用したっ?!」
穂先に近い柄を持ち、再び槍の乙女へと戻る。
その様をエルヤは逃がさない。無理な姿勢ではある、それでも斧を振り。
「居ない……!」
速度はシヴィルと共にあった。だから、
――もっと遠くへ!
斧を手放し、それを投擲。
「っととぉ!」
横へ避ければ、エルヤが居た。
「減速はいけないね!」
彼女は拳を握り、槍の届かぬ懐へ。
「っ!」
拳を避ければ膝が来る。
「うわっと!」
「徒手戦闘も習ってるんだい!」
狙われたのは槍を握る手、それを離せば槍は落ちた。
「小手先も上手……ってかぁ……!」
笑っている。
シヴィルも、エルヤも。
歯を見せた、力強い笑み。

524二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/09(月) 01:08:28 ID:jTXZSVHM
「貰うッ!」
「そうは……させるかぁ――ッ!」
シヴィルは拳をこめかみへ。
エルヤは膝の勢いを利用した回し蹴りを側頭へ。
「当たれ……!」
「泣かせちゃるッ!」
二人の全力は武器のない、殺す気があれど不可能な力で。
それは、二人にとってどうでもいい事で。
とにかく、己の出せる力をぶつけたい。
この瞬間だけは二人は――、
恋人のようでもあり。
敵のようでもあり。
友人のようでもあり。
だから――、
全力を伝えたい。
遠慮したくない。
「傷つけてでも、手は抜かない!」
「こんなに楽しくしやがって……痣の一つでも土産にもってけ――ッ!」
最速を乗せた拳がこめかみを抉った。槍のような一撃がエルヤの頭を揺らす。
力の、まるで斧のような回し蹴りがシヴィルの頭に当たる。それは首から上を薙ぐように、埋め込みを混ぜた勢いがある。
「……!」
「同時」
観衆の中、ユニーが息を呑み、真理が辛うじて分析をした。
沈黙している孝美は一息、吐くべき言葉を大声で叫ぶための呼吸を行い。
「引き分けよ! これ以上はいけない!」
力強い笑みが、当事者二人にあった。
混信の一撃を食らおうとも、歯を食いしばった二人は笑みのまま、脱力から。
「担架!」
倒れる。
誰もが声を上げられぬ、短くも叫びを強く持った、捧げるにふさわしい戦いを、沈黙と遅れ気味の拍手が称える。

*音ここまで
OSTER project 様
crescent moon
ttp://www.muzie.co.jp/cgi-bin/artist.cgi?id=a017591

525二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/09(月) 01:14:19 ID:jTXZSVHM
意識を取り戻した二人は、驚きました。
時間を二時間ほど飛ばしていたこと、そのことに。
そして、たたえ合うことは、言葉ではありませんでした。
ナンナも、孝美も。
後ろではユニーと真理すら、嫉妬を覚えてしまうような。そんな無言の包容があり。
「最高だったよ」
「ああ、エルヤ。楽しかった」
その一言で、また友達を始めました。
「今夜はユニーさんとお話したいな。シヴィル、君の国の人に興味が出てきたよ」
「え、私です……か?」
「にひひ。嬉しいね」
その言葉は嫉妬を忘れるような。そう、ナンナは思っており。
「良かったですよ。シヴィル大尉」
「さんきゅ」
「明日は真理さんと、ね?」
「ん。でも、延長滞在になる」
「いいわよ。そのくらい」
「うん、仲良くなるためにね」
今晩のニュースはあの戦いで彩られていました。
それは互いを称える物で、国交の前に友人として、そんな言葉が印象的な物でした。

*今日はここまでー。まだ、隣国視察編は続きます。

526隣りの名無しさん:2006/10/09(月) 01:23:00 ID:3qDAWE5.
じろさんGJ!

今夜はお楽しみですね! >ユニさん&エルヤ

527二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/09(月) 23:06:23 ID:jTXZSVHM
>>526
素ーでねーよと言った俺に一言w

その夜は、約束通りの屋根より。
未だに少しばかり首を傾けたエルヤがおりました。
敬称も敬語も要らない。そんな前置きからの、何度目かの駄目出し、そういったやりとりがありまして。
「銃ってこの国では珍しいんだ。戦意を削ぐには、手斧が一番だから」
「銃は速いの。皆が銃を持てばそれだけ早くなんとかできるから」
それに、とユニーの言葉は続きまして。
「大尉達が楽になるから」
「ふぅん……集団戦なんだね。手斧は切り込みだから、ちょっと違うのか。っと」
戦術はいいや、そんな言葉は当初の話題をずらす物で。
「うーん、ユニーって可愛いなぁ!」
「ちょ、ちょっと! 私にそんな趣味はないよ……」
「素直に思っただけだって。ナンナ一筋だもん」
「そういうの、ちょっと羨ましいかな」
そお? といった言葉は少し遠く。エルヤが屋根の上に立ち上がったからなのですが。
「私ね、初恋もまだだから」
苦笑して、ユニーは髪をいじっていました。
ストレートに伸ばした髪は、あの日皆にこの性格を教えたときからの物で。
編み上げる三つ編みは長く長く。
「うーん。好きな人ってやっぱり……偶然かもね」
「運命の人はどこかなぁ……」
「勿体ないなぁもぉ」
「ふふふ……」
笑みは苦笑ではなく、少々危ない笑みで。
乾いた音は二つ。
森の木々、その小枝から垂れ下がる雪だけを払いのけまして。
狙いは確実、彼女の腕です。
「おおう、銃も凄いなぁ……」
「と……最近ようやく落ち着けるようになったんだけどね」
ようやくの苦笑でした。トリガーハッピーも抑えられるようになったようで。
「実戦じゃまだまだなんだけど」
「こわっ!」

528二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/09(月) 23:20:16 ID:jTXZSVHM
「えっとね」
一言は孝美より。翌日の朝でした。
「協議とかあって、一応来週一杯になったわ」
「おお、早いね」
「大統領、羽根伸ばしてる」
「くけー!」
「でも、何するの?」
「さぁ?」
「お話くらいでいいのでは?」
「それでいっか」
寒いし、とのまとめは皆の意見で。
初めて見る雪も、こう毎日では飽きてしまうようでした。

「寒い」
「はは、ごめんね。こっちの国はこんな奇行だよ」
エルヤと真理、屋根の上に二人は立ち。
「お話、何」
「大統領だっけ? 可愛がってるみたいだね」
「ん」
雪に指を走らせるのは真理で、そこには大統領らしき絵を描いておりました。
「いつもこんな感じなんだね。君は何を使うの?」
「刀」
あと、とは淀みなく続く言葉で。
「罠」
「いつ仕掛けるのさ……待ちの場面でしか意味が無さそうだけど……」
「いつでも。隙があれば」
ぽん、そんな音はいつもの波乱を生みまして。
「うわ、花ッ!」
「隙が無くても、このくらい余裕だから」
「はは……怖いなぁ。君の飛ぶ所、すっごいんでしょ?」
「練習したから。でも」
「でも?」
薄く笑うのは、意地の悪さではなく。素直に真理は笑いまして。
「あなたの飛行も面白いから、真似する」
「面白いんだ……」
ようやく、頭上の花を真理へ返しました。造花ではなくこの国で取れる花で。萎れていない所に仕込みの手早さが光っていました。
「振り回しの利用と、反発」
「よくわかんないなぁ。自然に飛んでるから」
「頭、使ってるの」
「……あやかりたいね」
改めて、計り知れない無表情に、別の寒さを感じていました。

529じろさん代理 ◆3i.7zy5ZPY:2006/10/09(月) 23:30:35 ID:6aDJwJG.
>>528
×「はは、ごめんね。こっちの国はこんな奇行だよ」
○「はは、ごめんね。こっちの国はこんな気候だよ」

530二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/09(月) 23:34:40 ID:jTXZSVHM
翌朝は、緊張からの始まりで。
「すいません! 今すぐ会議室に!」
慌ての色を見せたナンナの声で全員が起床しまして。
「ごめん、ちょっと慌ただしくなった」
内容はいきなりで。
「今回の講和をよく思わない集団がこっちと中央に来てる。裏切りも経験した国だからね……」
「まったく……大変だなぁ」
「のど元過ぎればって奴だね。手を取り合うのは国内だけで良い、ってさ……」
おかしいよ。そんなエルヤのつぶやきは皆をうなずかせる物で。
「どうしましょう……一旦引きます?」
「それは……屈することになるかもしれません」
「でもね? 今だけじゃないから、次もあるのよ?」
ははん、鼻で笑う声はシヴィルでした。
それには誰もが怪訝な顔をしており。
「この国はなんだよ? 戦いの国なんだろ」
エルヤとナンナ、彼女らは声を小さく上げ。それは、ただの相づちでした。
何も考えつかない思いがあります。
「手を取りたいのに邪魔をするなら、殴っていいんだなって聞いてるんだ」
間がありまして、ユニーと孝美は嫌な顔、真理は無表情で。
ナンナも怪訝な顔をしていました。
「あはははは! シヴィルってほんと……面白い人だなぁ!」
「怪我くらいなら許して貰えるかねぇ?」
「勿論!」
いいか、と言い含めるのはシヴィルの言葉で。
「あたしらとエルヤ達で協力してしばく。手を取り合って……」
「力を見せよう!」
エルヤとシヴィル、二人の言葉は力強く。
ですが、意地の悪い笑みは伝染しているようで――。

531二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/09(月) 23:45:06 ID:jTXZSVHM
「ゴム弾、ゲルコート、両方問題なし」
「準備、完了」
室内に戻ってきた真理は雪に包まれておりまして。
「仕込んでたのね……こわっ」
孝美ですら怖いような、両手に余る物体がどこにも見えない状況。
何が仕込まれているかは本人のみぞ知るのでしょう。
恐ろしい笑み、それは誰もが思ったことで。
空気を振り払って喋ろうとする、そんな音が一つ、息継ぎとして。
「なあ、エルヤ? 中央は猛者が居るんじゃないの?」
「見せるくらいはしとこ? それに……一番上は流石に歳だからねぇ」
「け、隠居かい」
「ひっどいなぁ。あはは。とっとと片付けて向こうに行けるといいんだけどね」
「配下もおります。なんなりと、ヤール」
「ああ、準備はおわったみたいだね」
この国の装備は軽装です。それでも儀式的な装飾を付けたナンナは大人しいイメージと共に、力強さもありました。
「話し合いから、始めよう」
でもさ、と言った声はシヴィルで。
「話し合ってからビンタくれるんだ?」
皆が笑いました。あの日、あの時。そんな限定は出来ない、だけど思い出せる笑みを。
任務前に放つ気楽な笑み。やる気が空回りして、緊張を振り切ってしまった。そんな雰囲気でした。

532二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 00:58:40 ID:JYnZCcww
「主のエルヤ・ブレイザブリクである! 申し出を聞こう!」
――方針変更。
それが、シヴィルから受けた言葉でした。何を見てそう思ったのかはとにかく。
後から告げられたアイデアは彼女らしい物で、そして、信頼に裏打ちされた物だったと、エルヤは判断しまして。
彼女は矢面、相手の主導者と思われる相手へと声を張りました。
ロングハウスでは殺気がみなぎり、そして、エルヤの側にはナンナすらおりません。
「隣国の友好を断り、特使にお帰り願おう」
「断る。認め合った戦友だ」
断固、それの伝わる声です。
「ならば、友好を進めようとする貴君らと、君主殿にはご退場願うことになるが? 我等はこの国だけあればよい」
「は、私の声を聞かなかったか? 広がる輝きを見つめたのだろう?」
答えによどみはなく。
「なればこそ、不要なさざめきを加える事はどうだ?」
「なにをいうか。手を取り合ってこその今だと言うのに……」
顔を下へ、そして苦笑したのはエルヤでした。
「つまらぬ輩だ」
エルヤの上げた顔、そこへは笑みがあり。
「戦、やるのか?」
返事は無く、配下の兵が少しずつ現れました。
「手を取り合いそこねた奴には教えねばならぬな」
そこには、真理、ユニーがおり。
「繋いだ手の強さを教えてやろう!」
声は合図。
そうでした。
「じゃ、さくっと行こうかァ!」
エルヤの背後より突風があり。それは彼女を後押しする物です。
「頼むよ、シヴィル! 最速を見せてやれ!」
手は確かに繋がれました。そして、最速は二人をどこかへと。
「逃げるか!」
「いいえ、お留守は私達が」
ナンナの静かな声、それより。
「さあ、主のおらぬ城は私が代理でお相手致しますよ?」
小首を傾げ。
でも、その仕草は戦の開始に飲まれていきます。

*音入れますよ

533二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 01:08:20 ID:JYnZCcww
「お相手。一人で十分」
大群の前、ナンナの構えを制するのは真理で。
彼女の抜きはなった刀はゲルに包まれていた。
「怪我だけ」
構えはなく、ただ掴むだけといった刀がある。
彼女は慌てず、静かに。
「土下座するまで、叩く」
一番槍の手斧は、静かに回避した。
弾道が逸れた。
「はははは……見やすい弾丸だ!」
トリガーハッピーの声、それは狙撃の完了。
弾丸に続き接近するのは、先ほど手斧を投げた男で、それでも真理は刀を振り上げるのみ。
「弱い」
感想は攻撃の前で、
その感想通り、彼女の上半身がひねりを終えればそいつは倒れた。
大群へと背を向ける真理の左手、何かを握っており。
「考え無しは、お尻ぺんぺんって言ってたけど」
乾いた音、スイッチだ。
雪の中、何かがせり上がる。
「エルヤ様を傷つけた……異国の罠でした……!」
ナンナの感想通り、それはおおぶりの球体を吐き出す罠、クレイモア。
「尻見せる前に百叩き。適当に」
入り口の一列を残し、散弾が集団を遅う。
「はぁい機先お疲れさまッ!」
上空の声は気楽。
なにより気楽と速度の塊であったシヴィルと長く友人である孝美は、代理のような声を上げた。
「極めれば無敵って本当なのよねぇ!」
適当な射撃、この場合はいい加減と訳す事にする。
「おいで? 蜂の巣じゃないけど叩いてあげる」
要求に応えたのは無機物で。
「もう少しお待ちを。まだ手斧は終わってないようです」
ナンナのささやかな声はささやかな行為と共にあり。
「わーお」
投げられた手斧は彼女の手中にあった。
「はい、お帰り下さいませ」
言葉の通り、投げ返しが相手へ――だれかへ――と突き刺さる。

534二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 01:17:03 ID:JYnZCcww
「試射にはもってこいだなぁ……ふふふ……ははは……!」
銃機関砲、そう言えばいいだろうか。
備え付けを目的に作られた物をユニーは放つ。
「軽くなっている、良いことだ!」
片手に一丁ずつ。
紫煙を吐き出す両手の長銃に目を細め、的確な射撃は中列から後列までの縫い止めと狙撃を行う。
「整備班――実に良い仕事だ! ふはははははは!」
声も聞こえぬほどに高らかなスタッカート、それをリズムに彼女は笑う。
「うーん、怖いわねぇ」
呑気な声で感想を告げる孝美にも仕事は回ってくる。前列の肉薄によって。
「じゃ、無敵を見せましょうか」
両手の拳銃が斧を弾き、蹴りを出したと思えばその相手を踏み台に空へ舞った。
宙返りにも似た軌道、その最中にも弾丸は放たれ、過たず標的へと。
着弾を確認せず、孝美は突撃を開始する。
「やーはー、って言うのよね、こういうときはね? ナンナっ」
上空、視線を支配した孝美が跳ねる。
飛行を中止した彼女は、着地の最後まで銃撃を止めない。
「弾丸は避けてくれるもの。手斧にはふられちゃったけど、斧はどうかしらね?」
ウインク一つ、左右へ銃撃。
そうすれば、
「ううん。熱烈なアタックは女の子だけでいいわ」
腕を交差させてもう一回。
「ゴム弾足りるかしら?」
――特にユニーちゃん。
他人の心配が出来るほどには愛されているようだった。

535二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 01:27:26 ID:JYnZCcww
「頭はどこにある」
「腕輪ですっ!」
低空飛行をするのはナンナと真理。
低い姿勢は足をふらつかせればそれだけで雪の床にあたる。
狙いにくく、そして足を狙いやすい。
だが、それは銃撃においてで、姿勢を変える近接行動を主とする二人にはさほど有利ではなく。
「はい、前失礼しますっ!」
有利ではない、それだけの事だった。
二人の視界を遮るように立つ一人、それの足をナンナは掴み、力感もなくそれを一回転させた。
「合気に、似てる」
「同じ戦闘法がありますか……! やはりあなどれない国です!」
対する真理は羽根の使い方ならば誰にも負けず。
「邪魔」
急上昇は刃と共に、呼ばれたとおりの邪魔を駆け上るが如く、蹴りが鳩尾から喉へ。
並の行動ならばそこから上空まで行ける。孝美も先ほどそうした。
教導隊という使い手の上を行ける。真理はそういう翼を持っている。
彼女の宙返りはコンパクトに、踏みつけられた男の頭へ頭突きが可能な高度で前進飛行へと。
「お土産」
閃光弾が男ののど元にあった。蹴り飛ばされ、離れる彼には解らない。
最悪の距離をわずかに離れた閃光弾が光を放ち、背後を見る必要は無い。
視力を一時的に、そして意識も奪われた男には気づかない。
頭に造花一つ。それが咲いていることに。

「……突撃可能だな!」
固定位置での射撃を止めたユニーは、トリガーを引く事だけはやめず、飛行に移る。
「固定は飽きたー!」
新たな病気ではあった。
アクション映画の見過ぎ、それは孝美も思っていることで。
「はい、次の拳銃ね!」
こちらも見過ぎであったが故、ではある。

536二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 01:37:15 ID:JYnZCcww
「孝美、頭取る」
戦闘の矢尻、それが真理だ。
「ったくもー! 臨時とはいえ上司を敬いなさいよ!」
文句と銃弾は同時の速度、真理を援護する為に放たれた二つの力は的確に。
「あれです! 小鶴少佐!」
印をつけんばかり、相手を投げ飛ばし目標を定めるナンナが居る。
「はははは! 部下をさておき逃げるか! 顔洗って出直してくるかッ?!」
銃弾の縫い止めは少しずつ距離を詰め、ユニーのテンションと共に高まりを見せた。
肉壁、そう言うにふさわしい直衛の集団、そこへ真理は空を滑っていく。
「新技、見せる」
声は短く、彼女の軌道が乱れた。
直線から上昇は斜め右、そして下降を含む定番の軌道で。
「バレルロールじゃないの?」
孝美の指摘はそこで終わる。
半周の螺旋軌道の中、真理が銃を抜き放ち。
「真似」
短い声と共に、お得意となった一回転を集団の頭上で行う。
「やーはー」
銃弾が彼女の前後一列をなぎ払う。
着地の軌道に入るであろう真理の先、そこへは目標の指揮官がおり。
「ちぇっくめいつ」
乱れもない着地に移る直前、剣先を前へ。
全体重と加速を込めた振り下ろしが指揮官を断つ。
「螺旋兜割り」
安直なネーミングは、安直な割れ方を見せた兜が物語る。

*音区切り!
TJ_MS-DOM 様
秘剣
ttp://www.muzie.co.jp/cgi-bin/artist.cgi?id=a003080

*次の音入ります

537二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 01:54:07 ID:JYnZCcww
木立を抜ければ、速度は最大まで。
シヴィルの翼に自由が点る。
「うわぁぁぁ……速い……!」
叫びを国中に行った、その海だ。
抱きしめられたエルヤの目、速度は未知の物で、新たな景色は新たな心情と共に、新鮮な海を見せる。
「エルヤ……! もっと速度出すぞー!」
「ええっ?! まだ出るの?! うん! 出して出してー!」
はしゃぐ子供、そんなエルヤを抱きしめ、速度の妨げ、空気抵抗を減らす。
「ははっ。ナンナに見られたら怒られそうだなー」
「その気なんて無い癖に。あははははっ!」
サービスのつもりか空中で体を一回転、姿勢を正す二人の足先で海水が跳ねた。
「うわ、つべた……やめときゃよかったかなー!」
後悔の声に非難はない。増加した速度の中、呼吸を定めることに精一杯だったからだ。
「気ぃ引き締めろぃ! そろそろ妨害が見えるぞー!」
「うぶっ……が、頑張るよ!」
羽ばたき一つ一つが大きく、そして速かった。
――すごいなぁ。
感動と感心と、それだけが一杯になり。
エルヤは一瞬だけ速度に任務を忘れていった。

「来たぞ……!」
声は、妨害を開始する合図に。
「邪ぁ魔……」
両手を離し、エルヤに持たせた槍を掴む。
空へ投げ出されたエルヤの右手は斧を掴んだまま、左手がシヴィルを向き。
「手を取り合う強みっての……みせたろじゃん!」
しっかりと左手が捕まれ、速度はわずかに落ちた。
「うん……これから続く友と戦うんだ!」
「あ……悪ぃエルヤ、このままあんたは中心突撃ね」
いきなり手を離された。
「うえええええ?!」

538二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 02:03:30 ID:JYnZCcww
「エルヤぁ……一気に駆け抜ける!」
「う……うん!」
右足首に力を感じた。何をしようとするのか、それは薄々感づいていたことで。
「さぁさぁ……ヴァルキリヤに道をあけろ――ッ!」
シヴィルの槍が突き出され、それだけで集団が避けていく。
挟み込むようにそれはまとわりつき、
「両手持ち甘くみんなよッ!」
エルヤを振れば、斧は最速で振り回された。
「ひーっ!」
叫びは情けなく、それでも己の翼で重さを殺し、振り回しを補助する。
振り抜かれたエルヤがシヴィルから外れ、エルヤの姿勢制御を確認すれば再びホールド。
誰よりも速い無茶が、たった二人で集団を切り開いていく。
「ほい、飛び道具」
「うわああああああああん! やだああああああああっ!」
風圧のスカートめくりはひるませる効果を持っていた。

「我慢しろい! そろそろ到着だ!」
ビルがある。改めて君主の城の役目を果たすそれ、最上階への上昇を開始した。
「ガラス破っちゃうよ!」
「おうさ!」
振り回されたエルヤが生体弾頭として、先端の斧をガラスに食い込ませる。

*音終わりィ!
OSTER project 様
Shining sky
ttp://www.muzie.co.jp/cgi-bin/artist.cgi?id=a017591

あるいはあるなら、Under the skyでもいいですよ

539二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 02:06:13 ID:JYnZCcww
537-538 間に抜けorz

「一緒がいいよー! 手を取り合う意味ないじゃん!」
速度にゆだねた体は減速をしない。
「はいはい、っと!」
再びシヴィルはエルヤを掴む。
「こっちのがいいかもなー!」
「いーやーだー!」
右足首を。
シヴィルの左手、まるで長い斧があるかのような姿が空を切る。

540二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 02:16:08 ID:JYnZCcww
「……っててて!」
倒れ込むまでには至らず、エルヤは室内へと滑り込む。
「よーし、案内!」
「はいはい!」
殺到するのは君主の直衛ではなく、侵入者の一団と思われた。
「敵を露骨に見せるのはどうだろうね!」
「まったくだよ! 鍛え直さないと!」
文句を吐く。
それだけでは飽きたらず、槍と斧が舞った。
「遊んでる場合じゃ……ねぇッ!」
「邪魔すんなぁ……ッ!」
加速を力にタッチダウンを目指す。
長い廊下、それを右折。
減速を忘れた二人は得物を突き立て、それを中心にターンを完了。
「ゴールはあそこ!」
「あいよ!」
速度差は室内において存在しない。
シヴィルの自由な羽ばたきに対し、この国で鍛えられた狭さを武器にするエルヤには最速の場だ。
「へへっ! ここでも同時か……!」
「仲良し仲良し!」
二人の武器が同時に、ゴールのドアを貫いた。

541二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 02:23:23 ID:JYnZCcww
「はいはい、シヴィル? うん。解ってる」
孝美と通信機、それがロングハウスの前で活動しない唯一の存在だ。
他は拘束、そして事後処理に追われている。
「もう放送されてるわよー? これで大丈夫かな?」
「うん……うん。君主がぽっくりいかないで安心したわまったく……」
「ドアも報道されてるのよねー、あはは!」
とにかく、とは彼女の表情を変えるための言葉で、孝美はゆっくりと笑いから微笑に、柔らかく変えました。
「手を繋いだって、みんな認めてる。気に入らない人は居るだろうけど、良いことよね?」

「良いことさ!」
「うんっ! ボクとシヴィルは友達!」
そんな笑顔で通信機に語る奥、年老いた君主は座っておりまして。
「無茶をするヴァルキリヤか……ははは、冥土の土産には十分だな……」
「何言ってるんですか、あたしらはもっと面白いことしますよ?」
「ええ、ですから。ちゃんと手を取り合うまで生きていてくださいな」

「手厳しいわい」
快活に笑う老人は、まだまだ元気なようで。

*今日はこのへんで
最後のシメかな、明日は

542二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 02:48:58 ID:JYnZCcww
>>536にミス発覚
真理少尉だってorz

543隣りの名無しさん:2006/10/10(火) 18:01:11 ID:hclnmuic
仲秋は過ぎましたが、月光浴にはもってこいの月です。
銀翼という言葉がありますが、彼女達の翼も、この月のように輝いているのでしょうか。


欠けりゆく月よ。願わくは、彼女達の舞台に輝きを。
影の落ちぬように。


再び戯言誠に失礼

544二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 23:06:49 ID:JYnZCcww
>>543
いえいえ、実は――ちょっとしたヒントを貰いました。
大感謝!

時間が過ぎれば、心は近寄りました。
ですが、時間は減っていく。
期限があるのですから。

別れの前夜、夜はいつも屋根の上でした。
「寂しくなるなぁ……」
「じゃあ、私が持ってかえって……」
「ナンナに転ばされるよ?」
「ぬぅーっ」
細くなった月を見上げるのはエルヤと孝美で。
彼女たちは杯を交わしつつ、そんな会話を繰り広げています。
残り半分、そんな消費を見せた小さな樽はしかし、二人に酔った様子も与えていません。
「飲むのも久々ねぇ……。シヴィルもユニーちゃんも強くないから」
「へぇ、意外だなぁー」
「飲むと色々変わっちゃうみたいで」
「見たいなぁ。あははは」
「私も見たいなぁ」
笑い、杯を煽り、エルヤは頬だけ赤くして孝美を見ます。
「明日が帰国じゃなかったらやるんだけどね」
酒が入ろうとも、少しばかり寂しげに。
エルヤにとっても実りの強い、そんな視察だったと思い。
「いい友達が出来たのに……ちょっと寂しいのは……」
「また会えるわよ。危なくなったら呼びなさいな?」
「あはは、孝美こそ」
笑いの後、そこからは沈黙で。
少しばかり熱い吐息が、濃い白色となって口元から出ていきます。

545二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 23:15:16 ID:JYnZCcww
「ちょっと酔ったかな……」
「……手出さないでおくから。……ほら?」
「ん」
体を寄せたエルヤは、孝美に抱かれ。
「なんでこんなに寂しいのかなー……」
「嬉しいことよ。また会うのが楽しみになるんだから、それでいいじゃない」
「ん……っく……うえぇ……」
服を掴み、泣いてしまったエルヤをそっと撫でるのは孝美の手で。
「ふふ、ほんっと純情よねぇ……」
「うえええ……」
「きっと……」
続く言葉は、他の方々に任せましょうか。
「寝付けないなぁ……」
「……。だめだー……寝られない」
そういう日は、いつでもあるんですね。

「なんかね。細くなる月を見てるのは……ちょっと寂しい」
「戻ってくるじゃない」
「何かがへっていくみたいで……いい気持ちはしないんだ」
「降り注いでるでしょ?」
細くとも、月夜は二人を照らしておりました。
「身を削ってまで光らせたいの……? 月は……」
「私達が大事な友達だったら、そうするんじゃない?」
「面白いこと言うんだね」
目を細めただけ、それでも視界からは月が欠けることはなく。
「細くても、強くあるんだね」
「またまん丸を待ってあげればいいのよ」
「うん……。孝美がちょっと格好いいなんてね」
「何よー」
優しい光に照らされて、輝く二人がおりました。
笑顔だって、涙だって。そんな平等の光が二人の夜を彩って、最後の滞在日は終わってゆきます。

546二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 23:40:39 ID:JYnZCcww
赤毛、そして赤目のエルヤに連れられ、最後の昼間は終わりまして。
夕刻の国境は、夕日も相まって寂しげな雰囲気を持っていました。
「また、来てね? 楽しかったんだから」
「勿論だい。エルヤもこっちきなよ?」
「また来るわよん」
「今度はゆっくり、話しようね?」
「里帰り、また来るから」
「くけっ!」
皆の返事に微笑み、そこから言葉を選んでいました。
伝えるべき言葉はあるのに、こみ上げる物があり。
「……すいません、エルヤ様ってこういうとき可愛くて……」
「惚気はいいって。エルヤー? 今生の別れじゃないんだから、な?」
「でも……さ……うぐ……。とまんないんだも……うえぇ……」
おいおい、とため息混じりに笑うのはシヴィルで。
「あたしまで泣いちゃうだろ、こら」
軽くエルヤの頭を小突きました。
「ほら、笑いな?」
「うえ……ぇ……」
「強くあろうよ」
空の月は殆ど無いほど、そんな細さで。
「この国の月は綺麗だったなぁ。また、思い出すよ」
「うん……うん……忘れない……っ……」
「なら、次のためにも、な? 泣き虫は嫌いになるぞー?」
「うぇっ……意地悪っ」
微笑んだエルヤは、やはり無理矢理な笑みで。
それでも、誰の目に見ても、一番だと言えるような笑顔でした。

*音いれます

547二郎剤 ◆h4drqLskp.:2006/10/10(火) 23:54:49 ID:JYnZCcww
「いつかまた……戦おうね?」
言いたい言葉の代わり、それが口を付いて出ました。
「またじゃれたるさ」
「あはは、もぉ、シヴィルは凄いね」
「張りつめすぎると前も見えないぞ?」
うん、と。
涙をぬぐう手を止め、エルヤはシヴィルの手を取ります。
両手で。
「気持ちの落ち着け方、いっぱい教わったよ」
「手を取るのが大事な事は、エルヤから習ったんだぞー」
月の光、それは昨夜の会話を思い出させる物で。
「誰かのために身を細くする月……ボクもなるんだ」
「消えるなよー?」
「大丈夫、疲れて消えても、また昇ってくるよ」
「ああ、待ってる。エルヤの根性ならいけるさ」
「あははは、何それっ!」
自然な笑顔に、シヴィルは釣られて笑いました。

もう、周囲は夜。
「ほら、そろそろ歩き出しな?」
「うん、歩くよ……」
両手を離し、落ち着いたエルヤは一歩下がって、隣のナンナから斧を受け取りまして。
「戦士達、また会いましょう!」
「手を取って、一緒に歩くのよ」
「友達、です!」
「こっちにも遊びに来て」
「いきなりの戦友だったなぁ。楽しかったよ!」
一言、忘れた物を思い出したのか、シヴィルはあ、と声を上げました。
「戦士はな、戦場でしか輝けないんだって」
でも、
「戦場を離れたら、友人で輝けば良いんだからな?」
「トンチ? もぉ、ボクの国じゃいつでも戦士なんだよ?」
そうは言っても、笑っていては説得力が無く。
「なら、こっちにきたら友人でいればいいじゃないか」
「あははっ! もぉー、シヴィルってば……」


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