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エルヴィン「あの黒い髪を梳いた時から」

1進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:03:11 ID:ApEdHtms0
*ミカサ「この長い髪を切る頃には」&エレン「この長い髪を切る頃には」シリーズのエルヴィン先生視点のお話。

*エルヴィン→リヴァイ×ハンジという複雑な恋愛模様ですが、本編の補足的な感じで外伝を書きます。

*エルヴィン視点なので「リヴァイは可愛い」を連呼しています。受けっぽいリヴァイが苦手な方はご注意。

46進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:42:18 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『ただいつまでも同じ味なのは本当は良くねえ。もっと美味くする工夫をして欲しいんだがな』

エルヴィン『リヴァイの味が無くなるよりはいいよ』

リヴァイ『いや、駄目だ。もっとスタッフ頑張れ(グビグビ)』

何故か応援しているリヴァイが可笑しかった。

エルヴィン『本当、リヴァイは可愛い』

リヴァイ『ん?』

エルヴィン『あ、すまん。ついつい』

リヴァイ『お前、眼鏡をかけた方がいいな。俺の顔が可愛く見えたら目が悪くなった証拠だぞ』

そんな事を言い出したら日本人の9割は眼鏡をかけないといけなくなるよ。

エルヴィン『んー眼鏡か。かける時期にきたのかな』

リヴァイ『似合いそうだけどな。エルヴィンも』

エルヴィン『ハンジには負けそうだよ』

リヴァイ『ハンジは黒縁と縁無し、両方持っているぞ』

エルヴィン『学校だと黒縁で、自宅だと縁無しが多いようだね』

リヴァイ『ああ。黒縁の方が度がきついそうだ。縁無しは度を落としてパソコンとかの作業や本を読む時にかけ替えるそうだ』

思い出す。その黒縁眼鏡のせいで元彼女と修羅場になっちゃった件とか。

リヴァイ『俺は………どんな眼鏡でも好きだが』

ほらな。もう恋する乙女のような顔をしている。

もうね。笑うしかないよな。これは。

エルヴィン『視力がこれ以上落ちるようなら俺も眼鏡にするよ』

リヴァイ『ほう……その時は見立ててやろう。エルヴィンに似合う奴を選んでやる』

エルヴィン『期待していいのかな?』

リヴァイ『鼻つき眼鏡は何処に売ってあるかな』

エルヴィン『言うと思ったよ。パーティーグッズ屋に行かないとないよ』

リヴァイ『ぐるぐるビン底眼鏡が似合いそうだ』

エルヴィン『絶対嘘だな』

リヴァイ『まあ、その通りだが』

本当に下らない会話をしてお互いに笑っていると、

リヴァイ『パーティーグッズで思い出したが』

リヴァイが目を細めて話題を少し変えた。

エルヴィン『ん?』

リヴァイ『以前、ハンジの奴が何故か俺にミニスカサンタの衣装をプレゼントしてくれた事があった』

エルヴィン『ぶほっ!』

流石の俺もこの時ばかりは噴いた。え? 何でミニスカサンタ?

47進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:43:08 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『俺の誕生日は12月25日で、クリスマスと被っているからとか何とか言って、パーティーグッズ屋に行ったら俺に似合いそうな衣装があったから衝動買いをしたそうだ』

エルヴィン『その衣装、まだ持っているの?』

リヴァイ『いや、流石に着られないから演劇部用の衣装として提供した。そしたらあいつに「折角プレゼントしたのにぃ」と文句言われたけどな。何で男の俺がミニスカサンタにならんといかん。ハンジが着てくれた方がよっぽど………』

と、そこまで言いかけて咳払いをして誤魔化すリヴァイだった。

リヴァイ『あいつ、たまに俺にわざと女装をさせようとする時がある。俺が女装してどうすんだって話だが、自分は女装を嫌がる癖に何で人にやらせようとするんだろうな?』

エルヴィン『さ、さあね……』

この時、俺は少しだけ感づいて言葉を濁した。

まさかとは思うが、ハンジの方は俺の想いに気づいているんだろうか?

確認した訳ではないが、余りその事に触れられない様にしたかったので、俺はさり気なく話題をハンジへ寄せていった。

エルヴィン『ハンジがスカートをはいた方が似合うよね』

リヴァイ『だろう? ハンジは足が長い。タイトスカートでもはいた日にはきっと……』

そんなにタイトスカート推しなのか。リヴァイ。

口元がにやけているのに自分でも気づいていないんだろうな。

リヴァイ『いや、タイトスカートでなくとも、ロングでもいい。フレアースカートでもいい』

スカートだったら何でもいいのか。ハンジが女性の恰好をすれば何でもいいのか。

呆れるくらいハンジの事ばかり考えている癖に。

どうして、その根底にある感情をさっさと認めようとしないんだろうか。

エルヴィン『リヴァイ。どうしてそんなにハンジの事が気になるのに自分の物にしようと思わないんだ?』

リヴァイ『は?』

エルヴィン『付き合っちゃえばいいじゃないか。いっそ、リヴァイがハンジを………』

リヴァイ『俺にはあいつは勿体ねえよ』

そう、言葉を被せる様に言いながらぐいっと酒を追加する。

リヴァイ『俺は今まで女関係でろくでもない事ばかりしてきたしな。俺みたいないい加減な奴より、モブリット先生みたいな若くて真面目な相手の方が結婚相手として相応しいだろ。どう考えても』

そう言って「勿体ない」ばっかり繰り返して酒を飲んでいく。

リヴァイ『あいつは……いい女だしな』

そう呟いて切なそうに両目を細める仕草に俺は天井を仰ぎたくなる。

もう何回目になるか分からない。リヴァイは酒に酔うと本性を露わにしてくれるけど。

これが所謂「教会が来い」って言いたくなる状態だとつくづく思った。

48進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:44:30 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『俺はあいつが幸せになるところがみてえんだよ』

エルヴィン『それは俺もそうだけど………』

リヴァイ『花嫁姿は似合うだろうな。白無垢でも打掛でも、ウエディングドレスでも何でもいい……』

勝手に妄想している時点で既におかしいんだけどな。

リヴァイ『あ、やばい……何か、泣きたくなってきた』

エルヴィン『おいおい……』

妄想の時点で泣いてどうするんだ。リヴァイ。

リヴァイが泣きたい時は喜んでいる証拠だが、酒が入ると本当に喜怒哀楽の振れ幅が大きくなるな。

適当な量の時は愉快な感じになるんだけど。少し飲ませ過ぎたかな。

リヴァイ『はあ…………ハンジの奴、今頃モブリット先生とうまくいってればいいが』

口と表情が真逆だな。リヴァイ。

青ざめている癖に。本当はうまくいって欲しくない癖に。

ややこしい性格をしていると思う。俺はついついリヴァイをじっと見つめてしまった。

酒に溺れて(本当は)好きな女について悩んで愚だ巻くのはいつもの事だが。

そんな憂いを帯びたリヴァイはとんでもなく色っぽい表情になる事に気づいていないようだ。

男に色っぽいという表現を使うのはリヴァイだけだ。

俺が今ここで手を出さないでおこうと思っている事に感謝して欲しいくらいだ。

リヴァイ『エルヴィン……?』

俺の視線に小首を傾げるリヴァイに思わずドキッとした。

いかん。可愛い。ほへっと無防備にこっちを見るな。リヴァイ。

エルヴィン『すまん。ついじっと見てしまった』

リヴァイ『そうか………』

エルヴィン『そろそろ帰るか? 明日に響くといけない』

リヴァイ『そうだな。帰ろう……』

居酒屋での飲みはそこまでにして、俺はリヴァイとタクシーで帰った。

自宅マンションに到着してから何故かリヴァイが俺の背中に頭をくっつけてきた。

エルヴィン『ん? どうしたんだ? リヴァイ』

リヴァイの方から甘えてくる仕草に内心、ハラハラした。

リヴァイ『いや………その……』

エルヴィン『ん?』

リヴァイ『すまん。もう少し飲みたい。エルヴィンの部屋で飲ませてくれないか?』

エルヴィン『……………』

自分の中で一瞬だけ、悪魔の囁きが聞こえた気がした。

自分のテリトリーに入れてしまえば理性が最後まで持つか自信がなかったが。

それでも、俺はリヴァイに甘えられると弱い。

断るなんて選択肢はなかった。

49進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:45:28 ID:ApEdHtms0
エルヴィン『仕方がないな。いいよ。延長戦だ』

これは明日は二日酔いコースだな。そう思いながらリヴァイを家の中に招き入れる。

リヴァイ『ハンジの部屋程ではないが、エルヴィンの部屋もいつも雑然としているな』

エルヴィン『座れる場所だけは綺麗にしているから大目に見てくれ』

リヴァイ『いや、甘い。今から掃除する……(いそいそ)』

エルヴィン『夜中だから自重してくれ。他の部屋に迷惑だ』

リヴァイ『ちっ……』

酔っているな。これは。理性がゆるゆるだ。

リヴァイ『何かつまめる物はあるか? 冷蔵庫をチェックさせろ』

エルヴィン『大した物は入ってないよ』

リヴァイ『どれどれ……ふむ。チーズと鶏肉があるな。オーブントースターで焼こう』

酒が入っていてもリヴァイは調理が出来る。むしろノリノリで料理をする。鼻歌まで出ているから可笑しい。

リヴァイが冷蔵庫の中身を掃除する意味で調理してくれた。これで明日の朝飯の分まで手間が省けた。

リビングに出来上がったつまみとジンやウォッカなどを用意してソファに並んで座る。

リヴァイ『乾杯』

エルヴィン『乾杯』

グビグビ………

明日は多分、起きられないだろうな。この分だと。

まあその時は俺がリヴァイの代わりに朝練習に付き合えばいい話だ。

リヴァイ『はあ………』

リヴァイの顔がどんどん赤くなっている。そろそろ20杯オーバーがくる頃かな。

そしてぐいっと一杯飲み終わると、リヴァイの目つきが変わった。

リヴァイ『……………』

目が完全に据わった。あ、これは来たようだ。

リヴァイ『…………はあ』

おや? いつものように叫んだり泣いたりグダグダしない。

酷い時は暴れたりするんだけど。どうしたんだ?

リヴァイ『もう諦めるしかねえかな』

エルヴィン『何が?』

リヴァイ『多分、結婚しているよな……向こうは』

エルヴィン『ああ。例の教習時代の彼女?』

リヴァイ『ああ。あの綺麗な女といつか会えないかとつい、探す時もあるが』

エルヴィン『探すの手伝ってあげようかって何度も言っているのに』

リヴァイ『いや、いい。もし再会したとしても、きっともう相手は結婚しているに違いねえ』

やれやれ。この茶番に付き合うのも何度目か分からない。

リヴァイ『一目見るだけでいい。遠くから………一目見たい』

エルヴィン『そんなに彼女が恋しいのか?』

リヴァイ『ああ。あんなにいい女は他にいねえよ』

お前のすぐ傍にいるんだけどな。こっちは目を細めるしかない。

50進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:46:10 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『幸せになっているといい。あの女も誰かと……』

エルヴィン『やれやれ。リヴァイは人の幸せを願うばかりで自分の事はいつも後回しだな』

リヴァイ『ん?』

エルヴィン『リヴァイ自身が幸せになりたいとは思わないのか?』

リヴァイ『何を言っている』

其の時、リヴァイは蠱惑的な笑みを浮かべて言い放った。

リヴァイ『今、こうやってエルヴィンと飲んでいるだけでも十分幸せだ』

エルヴィン『…………』

リヴァイ『これ以上望むのは贅沢ってもんだろ』

エルヴィン『リヴァイ』

其の時俺はそれ以上言わせたくなくて言葉を被せた。

エルヴィン『お前はもっと贅沢になっていい。欲深くなっていいんだ』

リヴァイ『エルヴィン……?』

エルヴィン『俺とずっと一緒にいるといずれ不幸になるぞ。それでもいいのか?』

リヴァイ『言っている意味が分からねえ。どういう意味だ。それは……』

エルヴィン『そのままの意味だ。良く考えろ。リヴァイ』

そう言いきってじっと見つめると、リヴァイの方が驚いた顔をしていた。

言葉に困った表情で俯いて唇を動かしている。

その八の字の眉毛が本当に可愛くてしょうがない。

もっと困らせてやりたい気持ちを無理やり押さえつけて俺は待った。

お前が本当にハンジを選ばないというのなら、遠慮する必要はないよな。

泣いても喚いても無理やりにでも、俺の腕の中に収める。

強硬手段に出てやってもいいんだぞ。リヴァイ。

リヴァイ『…………エルヴィンと一緒に居て不幸になる自分が想像出来ん』

エルヴィン『なるよ。俺が贅沢を言い出すようになるからね』

リヴァイ『どんな贅沢だ』

エルヴィン『それは言えない。聞いたらきっとリヴァイが後悔する』

リヴァイ『……そうか』

しゅんと落ち込む顔が本当に可愛い。

俺は今日一日で何回、リヴァイに対して可愛いと思えばいいんだろう?

51進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:46:58 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『でも俺は結局、エルヴィンに何も返してねえ気がする』

エルヴィン『ん?』

リヴァイ『本当にいいのか? それで』

エルヴィン『俺が昔、リヴァイに投資した件ならもう既に元が取れている』

リヴァイ『それはそうかもしれんが………』

エルヴィン『リヴァイ。明日も学校がある。今日はこの辺でやめておかないか?』

これ以上リヴァイに酒を飲ませたら要らん事を言わせる気がして俺はそう促した。

リヴァイ『………そうだな。すまん。今日はこの辺でお開きにするか』

真っ赤な顔で立ち上がろうとした其の時、珍しく足元がふらついて俺の方に寄りかかって来た。

うっ………。

密着されてしまってこっちも微妙に緊張してしまう。

リヴァイ。早く離れてくれ。こっちは抱き心地が良過ぎて困るんだが。

そう思いながらリヴァイの方を見ると、

リヴァイ『……………』

リヴァイは八の字眉毛のままこっちをじっと見ていた。

ぐっ……壮絶に可愛い。男だという事を忘れそうな程だ。

頼む。リヴァイ。俺の理性が持っているうちに早く……。

リヴァイ『エルヴィン』

エルヴィン『な、なんだ? (ドキッ)』

リヴァイ『エルヴィン……』

エルヴィン『だからなんだ?!』

甘い声で囁くな。何がしたいんだリヴァイ?!

リヴァイ『………やっぱり何でもねえ』

ズコーッ

気分はそんな感じだ。何がしたかったんだ? 本当に。

リヴァイ『…………』

リヴァイが無言のまま何故か離れない。

こんなに近い距離に居られたら、俺も流石に、その……。

仕方がない。俺はリヴァイの髪を梳きながら宥めた。

52進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:47:34 ID:ApEdHtms0
エルヴィン『飲み足りない気持ちは分かるが、今日はここまでだ。いいな?』

リヴァイ『ああ……』

エルヴィン『立てないなら送っていくから』

リヴァイ『ん……』

色っぽい声を出さないでくれ。いろいろ勘違いしそうになる。

俺も酒が多少入っているから、これ以上変に誘惑しないで欲しいんだが。

足取りが不安定なリヴァイを自宅まで送っていく。

下の階に送っていくだけだが、こけないように支えながら階段を降りた。

そしてリヴァイを自宅に送ってやる。

別れ際に、リヴァイがまたこっちをじっと見ていた。

潤んだ瞳で見上げるその愛らしさに俺はもう、ぎゅっとしたい気持ちを相当我慢した。

三白眼、可愛いな。その△の形になるぽかん口も可愛い。

ああ可愛い。リヴァイに対しては何回言っても飽きない程可愛い。

くどいと言われようがリヴァイは可愛い。リヴァイ自身は自分の愛らしさに全く気付いていないが。

リヴァイが女性だったらな。本当に。どんな手を使ってでも自分の物にしたんだが。

いや………。

ハンジの存在がなければもしかしたら俺は、リヴァイに手を出していたかもしれない。

強引に迫って、男同士でもいいからと、説き伏せて。

道を外れてもいいからリヴァイと共に生きたいと。そう願ったかもしれない。

リヴァイがまだ俺の方を無言で見つめている。

ん? やけに長くこっちを見つめてくる。どうしたんだ?

リヴァイ『エルヴィン……』

エルヴィン『ん? なんだ』

リヴァイ『お前が贅沢を言い出しても、俺は多分、不幸にはならねえよ』

エルヴィン『え……?』

リヴァイ『お前はよく俺に「自分の事はいつも後回しだ」とかいうが、お前も相当だからな?』

エルヴィン『…………』

リヴァイ『俺の事を優先し過ぎだ。たまには甘えてきたっていいんだぞ』

エルヴィン『…………………』

グラッと。眩暈がした。

酒の力があるせいか、いつもより理性が緩んでいるせいか。

そのリヴァイの優しい言葉がいつも以上に沁みて。

その言葉だけで救われる思いもあったけれど。

俺の右手は勝手にリヴァイの頭を撫でて、指を絡めていた。

駄目だ。

今のリヴァイは酒が入っている。

恐らく、ここで起きた事は記憶には余り残らない。

覚えていたとしてもぼんやりとした記憶だろう。

だったら。

その一歩を踏み出してしまえば。

53進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:48:16 ID:ApEdHtms0
エルヴィン『ありがとう。リヴァイ。その言葉だけで十分だ』

リヴァイ『…………』

ポンポンと頭を撫でて衝動を押さえこんだ。

ここで手を出したら今までの事が水の泡になる。

恐怖した。そんな未来が来る事を。

一時的な快楽に身を任せて、それ以後のリヴァイとの繋がりが消えたら。

俺はこの世から居なくなるしかなくなる。

エルヴィン『おやすみ。リヴァイ。明日の朝練は俺が代わりにやっておくから』

リヴァイ『……あ』

エルヴィン『朝練の事、すっかり忘れていたね?』

リヴァイ『すまん……根性で起きる』

エルヴィン『多分、無理だろうね。その赤い目じゃ』

リヴァイ『うっ………』

だから泣きそうな顔をするな。リヴァイ。そんな顔をされるとキスしたくなる。

そう言いたくなる自分を抑えつけて俺はリヴァイと別れた。

部屋に戻ってからベッドに入って眠った。後片付けも碌にしないままに。

そして夢の中でミニスカサンタのリヴァイが出て来て、いろいろ重症だなと思いつつ目が覚める。

キュートだった。ミニスカリヴァイ。足癖悪いサンタだったけど。

ちなみに俺はトナカイだったよ。こき使われているのに楽しかったな。

…………まあ、こんなヘンテコな夢を見るのは今に始まった事じゃないんだが。

リヴァイを好きだと思うようになってからはいろんなリヴァイが夢に出る。

メイドは勿論、花魁やナース、果てはポールダンスをするリヴァイまで出てきた事も過去にある。

腰をガンガン振っているリヴァイがいやらし過ぎてヤバかった夢を見た事もある。

そんな風に性的な意味で見ている事をリヴァイに知られたらきっと。

想像するだけでも怖い。リヴァイが縁切りする未来を。

俺は軽く身支度して、昨日リヴァイが作ってくれたおかずを腹に入れてから朝早く学校へ向かった。

54進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:49:12 ID:ApEdHtms0





ハンジ『リヴァイおはよー! って、あれ? 今日はエルヴィンなの?』

何も知らない元気なハンジが第三体育館にやってきた。

エルヴィン『ああ。リヴァイは二日酔いでちょっと寝坊しているよ。8時15分からの職員会議までには学校に来ると思うけど』

ハンジ『えええ? 珍しいね。リヴァイ、二日酔いになるほど飲んだって事は、多分、20杯以上飲んでいるよね?』

それだけの量を飲むのは久々だったな。酒に逃げたかったんだろう。

エルヴィン『すまない。ついつい面白く……んんー私が飲ませ過ぎたんだ』

昨日のリヴァイは本当に可愛かったよ。うん。

ハンジ『そーなの? どうしたんだろうね? 何かあったのかな?』

エルヴィン『ははは………まあ、そのうち落ち着くさ。ところで昨日はどうだったんだい?』

ハンジ『楽しかったよー♪ モブリットはそんなに飲めない方だったけど、いろいろ話して楽しかった。また時間が合えば飲みに行くかもね』

エルヴィン『そうか。それは良かった。ところで、リヴァイからあの話は聞いたかな?』

ハンジ『何? 何の話?』

エルヴィン『フィーリングカップルの件だよ。出来ればハンジに出て欲しいって話』

ハンジ『え? それは聞いてないよ? え? 何で私??』

おやおや。リヴァイが伝達ミスとは珍しいな。

エルヴィン『そうか。じゃあ私から説明しよう。独身の女性の先生が何人か出て貰わないと企画が盛り上がらないって事なんだよね』

ハンジ『私より、リコとかイルゼ先生の方が良くない? 私、多分、女性の先生の中では最年長だよ? いいの?』

エルヴィン『うん。構わないよ。とりあえず人数合わせに参加して貰えないかな』

ハンジ『ん〜まあ、人数合わせなら仕方ないか。いいよ。でも、野球拳の方が優先だからね』

エルヴィン『それは分かっているよ。大丈夫。調整するからね』

そしてその頃、体操部員がぼちぼち集まって来た。

ミカサも戻って来たのでこの辺でお暇する。

エルヴィン『じゃあ今日はこの辺で。明日からはまたリヴァイとの練習に戻るからよろしくね』

ミカサ『はい……(残念)』

エルヴィン『じゃあまた後で』

そして職員室に戻ると、朝の職員会議前には何とかリヴァイがやってきた。

凄くだるそうな顔つきだった。

でも休まないところを見ると、これは身体より精神的にきているようだ。

朝の職員会議が終わってからリヴァイは俺を捕まえて言った。

55進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:50:35 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『エルヴィン。昨日はすまなかった』

エルヴィン『いやいや。たまにはこういう事もあるよ』

リヴァイ『朝練も代わりに出てくれたんだよな。ミカサの様子はどうだった?』

エルヴィン『ん〜私との殺陣の方がやりやすいみたいな事を言っていたけど、概ね問題はないと思うよ』

リヴァイ『そうか……』

エルヴィン『そうがっかりしない。こればっかりは相性の問題だ』

リヴァイ『エルヴィンとの方がミカサは相性がいいのか』

エルヴィン『だろうね。ミカサからみたらきっとそうだ』

リヴァイ(ズーン)

エルヴィン『ははっ……可愛い教え子が取られたような気分?』

リヴァイ『いや………まあ、そうかもしれんが』

エルヴィン『ふふっ……リヴァイはミカサの事を気に入っているみたいだね』

リヴァイ『最近は特にメキメキと腕を上げているからな。あいつは努力家だ』

エルヴィン『ふーん』

リヴァイ『女であれだけ動ける奴はそうはいねえ。いろいろこっちの技を教えたくなるんだが』

俺は嫌われているからな。と、ぽつりと残念そうに呟く様が何とも言えない。

リヴァイ『まあ嫌われるのは役柄ともそう外れている訳でもない。最近は以前よりも台詞が棒読みではなくなってきたし、ミカサにとってもいい変化が起きていると思う』

その表情は教育者としての顔だった。二日酔いは残っているようだけど。

瞳の奥は柔らかい光を宿していた。

こういう表情をみる度に、俺はリヴァイを無理やりにでもこっちの道に引き込んで良かったと思う。

リヴァイ『問題はミカサより俺の方だな。台詞をとちらないといいが……』

エルヴィン『役者の経験は初めてだしな』

リヴァイ『ああ。俺のせいで劇が止まったらどうすれば……(顔覆う)』

エルヴィン『緊張し過ぎたら余計に間違えるよ。楽しまないと』

リヴァイ『ミカサじゃねえが、俺もテンパって変な台詞を言いそうで怖いな』

エルヴィン『まあその時は思いっきり笑われるだけだから。文化祭だし』

リヴァイ『だといいが……(青ざめ中)』

リヴァイはリヴァイで役者としてのプレッシャーを感じているようだった。

そんなリヴァイに対してついつい、頭を撫でようとして……。

ふいっと避けられて、手が宙を舞う。

56進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:51:38 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『エルヴィン、ここは学校だぞ。自重しろ』

エルヴィン『おっと。すまない……』

いかん。昨日の事があったせいか、俺の理性も緩みがちだな。

だけどリヴァイもリヴァイでちょっと照れているもんだから。

なんかもう、萌えてしまう。ついつい。

リヴァイ『じゃあな』

そう言って手をひらひら振って先を行く。

3年1組の教室に移動するリヴァイを見送って俺も4組へ移動した。








エルヴィン『おお? おやおや。遂に結婚を決めたのかい? ハンジ』

その日の放課後も演劇部の様子を見に来たら何故かハンジが綺麗な衣装を着ていた。

前の公演で使用した白いエンパイアドレスだ。なかなか似合っている。

ハンジ『あ、違う違う。リヴァイにプールに落とされちゃってさ。服がずぶ濡れになったから、着替えがなくて。とりあえず、ジャージ買ってきて貰うまで、この衣装に着替えさせてもらっているんだ』

モブリット『?!』

え? リヴァイにプールに落とされたって余程だな。

昨日、謝るって言ったばかりなのに。何をやっているんだ。リヴァイは。

モブリット『プールに落とされたって……なんて酷い事を』

ハンジ『あ、いやいや。なんか私がリヴァイを怒らせちゃったみたいだから。そのせいだから、しょうがないのよ』

モブリット『それにしたって酷すぎますよ。ちょっと抗議してきましょうか?』

ハンジ『あーややこしい事になりそうだから、いいって。大丈夫大丈夫』

ややこしい事になるって事は分かっているのか。

ハンジはどの程度、モブリット先生の事に気づいているのかな。

モブリット『そうですか。分かりました。でも、自分はリヴァイ先生を許しませんよ』

ハンジ『えええ? 何でモブリットが怒るのよ。怒っちゃやーよ♪』

57進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:52:22 ID:ApEdHtms0


ツン……


額をツンってやった。凄い技だな。

成程。ハンジは男をいい感じに転がす技を巧みに使い分ける事が出来るようだ。

モブリット『し、しかし……(赤面)』

ハンジ『大丈夫大丈夫♪ モブリットが怒る事じゃないんだから。私が悪いんだし。リヴァイ先生の怒りは、まあ、エルヴィン先生が何とかしてくれるよね?』

エルヴィン『ん? なんとかしちゃっていいのかな?』

ハンジ『おねがーい! とりあえず、怒りをある程度鎮めておいてよ。その後にもう1回、私から謝りに行くからさ』

エルヴィン『ふふ……ハンジのお願いなら仕方がないね。引き受けた』

リヴァイの怒りを鎮めるには手土産が必要だな。

エルヴィン『そうだ。折角だから記念写真を撮っておこう。ハンジ。エレン。ミカサ。モブリット先生も。4人を写してあげよう』

その場にいた人達を寄せ集めて写真に撮った。

後でリヴァイに見せてやろう。ウエディングドレス姿のハンジを見れば少しは顔色も変わる筈だ。

エルヴィン『うん。よく撮れた。綺麗だね。ハンジ』

ハンジ『ありがとー! いやーどうせ着る事もないと思ってたけど、着れる機会があって嬉しかったよ。こういうのも悪くないね』

エルヴィン『ん? 本番はしないつもりなのかい?』

ハンジ『あはは! 本物の式なんてあげるつもりないよー。もう36歳だし。無理無理』

モブリット『そ、そうでしょうか』

モブリット先生がすかさず反論した。

36歳なんてまだまだ現役だ。と言わんばかりの表情だ。

彼はきっと年上の女性が元々好きなんだろうな。顔に書いてある。

でもハンジは困ったように眉毛を寄せている。

ハンジ『うーん。だって、ねえ? 私、酒癖も悪いし、家事仕事も碌に出来ないし、女としての戦闘力、0以下だもん」

モブリット『戦闘力?」

ハンジ『ほら、今流行りの。違ったっけ? あれ?』

エルヴィン『それを言うなら『女子力』じゃない?』

ハンジ『ああ、それそれ! 女子力がないのよ。だから結婚は無理じゃない?』

モブリット『それって、家事仕事が出来る男性なら、ハンジさんの許容範囲って事ですか?』

ハンジ『あーというか、最低ライン? 出来て貰わないと生活が出来ないと思うよ?』

モブリット『そうですか……(ほっ)』

ミカサ『あの、すみません。ジャージ……』

モブリット『あ、すみません。ハンジ先生………着替えられるんですよね』

ハンジ『うん。ちょっと待っててね。アレでしょ? 野球拳の件だよね。すぐ着替えるから』

名残惜しそうなモブリット先生の表情が少し笑えた。

エルヴィン『そのままの姿で打ち合わせしても良かったのに、と思った?』

モブリット『ぐっ……な、なに言い出すんですか。エルヴィン先生』

エルヴィン『いやいや、明らかにがっかりされていたから。ハンジのドレス姿、見惚れていたでしょう?』

モブリット『まあ、それはそうですけど……本当に、結婚はされるつもりはないんですかね? ハンジ先生は』

エルヴィン『ずっとそう言ってるけどね。ただ、人間なんていい加減なものですからね。そういう人間に限って、ある日突然、結婚したりする例もありますよ。宿題を「やってない」という奴ほどやっている法則と一緒ですよ』

実際そうやってさくっと結婚する例なんて山程あるからな。

リヴァイとハンジの場合も実際、そうなってしまった訳だけど。

58進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:53:30 ID:ApEdHtms0
モブリット『で、ですよねえ〜』

エルヴィン『でも良かったですね。モブリット先生。貴方も、それなりに家事はこなせる方でしたよね』

リヴァイ程、神経質な方ではないが、彼もまたマメな人間であるのは知っている。

モブリット『え? まあ……そうですね。休みの日は自分の部屋の掃除くらいしかする事ない人間ですから』

エルヴィン『だとすれば、いいアピールになるかもしれませんよ。モブリット先生』

モブリット『ええ? そ、そうですかね〜』

もし彼がもっと早くその事に気づいていればもしかしたら2人の結果は違ったかもしれない。

機を逸するというのは本当に、残酷な事だ。

ハンジ『お待たせ! じゃあ行こうか、モブリット先生!』

ハンジとモブリット先生が立ち去るとミカサが嬉しそうに言った。

ミカサ『あの2人の方がお似合いだと思う。やっぱりリヴァイ先生が邪魔』

エルヴィン『おや? ミカサはモブリット先生を推すのかい?』

ミカサ『リヴァイ先生なんかより、よほど印象のいい先生なので』

あらら。リヴァイは完全片思いのようだな。ミカサに対しては。

ミカサの中の好感度ではモブリット先生にも負けているようだ。

エルヴィン『……じゃあ賭ける? あの2人がくっつく方に』

ミカサ『いいですけど。何を賭けたら……』

エレン『だ、ダメだミカサ! 賭け事なんて……』

この様子だとエレンはミカサに賭け事の件は話してないようだな。

エルヴィン『エレン、ダメだよ。ここは平等に。負けたらミカサ自身の恋話(以下略)』

ミカサ『その程度の事なら、むしろ賭けなくても、今話しても構わないくらいですが』

エレン『あああああ! (頭掻き毟る)』

エルヴィン『そこはほら、ゲームだから。賭けた方が面白いよ』

ミカサ『そうですね。では、それで』

エルヴィン『クリスマスまでにくっつくかどうか、賭けようか』

ミカサ『はい。きっとくっつくと思います』

エルヴィン『よしよし、モブリット先生側にも味方がついた。いよいよ面白くなってきたな』

エルヴィン『いい加減、そろそろときめきの導火線に火をつけてもいい頃だよね』

エレン『え?』

エルヴィン『ふふふっ……今年の文化祭は、実に楽しみだな』

そして先程撮影した綺麗なハンジの画像をリヴァイの携帯に送信する。

すると1分も経たないうちに返信が着て笑ってしまった。

59進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:54:23 ID:ApEdHtms0


『その衣装しか残ってなかったのか? エルヴィンがジャージを買って着せてやれ。それじゃ肩が寒いだろ』


プールに落とした人間が言う台詞じゃないよな。これは。

俺はすぐさま返事を返した。


『ミカサがジャージを売店で買ってきて着せていたよ。待っている間に着て貰っていたそうだ』


すると次は少し間が空いて、それでも返事がすぐ着た。


『成程。まあ、似合っているから良しとする』


何で偉そうなんだろうな。リヴァイは。

まあいい。文面からしてさほど怒っている様子ではないようだ。

大方、話がおかしな方向にいって、つい、足癖が悪くて蹴落としたとか。その程度だろう。

その日の放課後の活動が終わってからリヴァイの様子を伺ってみたけれど、別にハンジがいう程、リヴァイは怒り狂ってはいなかった。むしろ少々落ち込んでいるようにも見えて可哀想に思った。

エルヴィン『リヴァイ。ハンジをプールに落としちゃった件だけど』

リヴァイ『ん? ああ……』

お互いに帰り支度をしながら俺はリヴァイに聞いてみた。

エルヴィン『別にキレたから落としたとか、そういう話じゃないんだよな?』

と、確認するように聞いてみるとすぐ頷かれた。

リヴァイ『キレてねえよ。別に』

エルヴィン『なら何でわざわざ落としたんだ?』

リヴァイ『いや、ついノリで』

エルヴィン『どんなノリだ。それは』

リヴァイ『あいつが水泳の授業の成績表をつけるのを邪魔して俺にくっついて来たせいだ』

エルヴィン『ふーん。本当にそれだけ?』

そう付け足して問うと、リヴァイが目を細めて答えた。

リヴァイ『モブリット先生がいるんだから、今後は俺じゃなくてモブリット先生に世話して貰えって言った』

エルヴィン『あらら。成程。だからか』

納得した。そりゃハンジから見たら縋り付いてでもそれを阻止したかっただろう。

で、リヴァイにくっついて、それを蹴落としたって事なのか。

60進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:55:34 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『まあ……プールに落としたのはやり過ぎたかとは思っている』

エルヴィン『だったら謝った方がいいんじゃない?』

リヴァイ『………エルヴィンが伝えておいてくれ。面倒臭い』

エルヴィン『私は伝書鳩じゃないよ』

リヴァイ『………ちっ』

エルヴィン『舌打ちしない。ハンジはああみえて繊細な部分もあるんだからな?』

リヴァイ『あいつの何処が繊細だ』

エルヴィン『やれやれ。近くにいる癖に肝心なところはお互いに見えてないようだな』

ハンジが『怒りをある程度鎮めておいてよ』なんていう気遣いを見せているのに。

当の本人は怒るどころか、はてなマークを浮かべる始末だ。

リヴァイ『何の話をしている?』

エルヴィン『何でもないよ。さてさて。文化祭まであと少しだ。リヴァイもさっさと帰って寝るように』

リヴァイ『ああ……最近は帰り着いたら爆睡している。ソファに座ったまま寝ていた事もあった』

エルヴィン『あらら』

リヴァイ『俺は元々、座ったままでも眠れるが……歳とったなと思う。自分でも』

エルヴィン『でも殺陣の動きは現役の頃と遜色はないぞ』

リヴァイ『んな訳ねえだろ。若い頃に比べたら流石に下手くそになった』

エルヴィン『またまたご謙遜を』

リヴァイ『謙遜じゃねえよ』

と、いつものように下らない会話をしてその日は同じ時間帯にマンションに帰ったのだった。










9月30日。演劇部の練習も大詰めを迎える頃。

俺はふと気になってリヴァイに聞いてみた。

エルヴィン『そう言えばリヴァイ、自分のクラスの方の出し物の進行は大丈夫なのかい?』

リヴァイ『ああ。うちのクラスにはオルオとペトラがいるからな。あいつら2人に殆ど任せているから、俺の仕事は殆どない。劇部仕込みの手腕でうまくまとめてやってくれているようだ』

流石はリヴァイのクラスの子達だ。優秀だな。

エルヴィン『それは良かったな。うちももう、殆ど終わりかけだね。ミスコンの方の準備はほぼ終わっているよ』

リヴァイ『ミスコン出場者は決まったのか? なかなか候補が集まらないという話だったが』

エルヴィン『ふふふ……綺麗な子達を集めたよ。でもまだ誰が出場するかは内緒。本人たちにも箝口令(かんこうれい)強いているからね』

今回は記念すべき20回目だしな。楽しみだ。

リヴァイ『エルヴィン、お前、何か企んでないか?』

其の時、突然リヴァイが半眼になってこっちを見上げた。

61進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:56:55 ID:ApEdHtms0
エルヴィン『ん? 何の事かな?』

リヴァイ『いや、気のせいならいいんだが……』

何か言いたげなリヴァイだ。

ハンジは今回、出る予定はないけど。でもそんな事は言ってあげない。

リヴァイ『……………まさかとは思うが、そのミスコン、女性職員は出ないよな?』

エルヴィン『さあね? 詳細はまだ言えないよ。守秘義務があるからね』

女性職員で出るのはアンカ先生とリコ先生とイルゼ先生の3名の予定だ。

ハンジは9票だった。惜しかったけど、今回は出ない。

………と、この時はそう思っていたんだけどね。

リヴァイ『……………』

リヴァイ『ある意味、公開処刑だろ。それやったら……』

エルヴィン『失礼な言い方だね。まだ私は何も言ってないのに(ニヤニヤ)』

まあ、出るのか出ないのか、もやもや考えるのもいいだろう。

そして生徒達が全員、音楽室を出てからリヴァイが部屋の鍵を閉めて出てから言った。

リヴァイ『そう言えば今日のハンジはなんとなく元気がなかったな』

エルヴィン『ん?』

リヴァイ『朝から挨拶した時も、すれ違った時も、微妙に声に元気がなかった気がする』

エルヴィン『…………』

リヴァイ『まさか風邪とかひいてんのか? だとしたらやっぱり俺が……』

リヴァイ『いや、駄目だ。世話しねえって決めたんだ。今、余計な事をしたらまた……』

エルヴィン『まだ仲直りしてなかったの?』

リヴァイ『別に喧嘩している訳じゃねえよ』

エルヴィン『でも、今、ハンジの世話をしていないんだろ?』

リヴァイ『今の時期は仕方がねえだろ。俺も今年は例年より忙しいしな』

エルヴィン『…………』

ハンジの元気がないとしたらそれは、リヴァイがまだ怒っていると勘違いしている可能性があるな。

何だってこんな面倒臭い事になっているんだ。全く……。

リヴァイ『何か言いたげだな。エルヴィン』

エルヴィン『いや別に。何でもないよ』

リヴァイ『…………ん? 漫研の部室、まだ明かりがついているぞ』

エルヴィン『ああ……きっと漫研も今頃、追い込み作業中じゃないかな』

毎年いるんだよな。ギリギリにならないと原稿を仕上げられない子が。

62進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:57:40 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『もうすぐ9時だ。流石に家に帰してやらんと……』

エルヴィン『ああ。そうだな。ちょっと覗いていくか』

俺は前に漫研の顧問をしていたのもあって気安く中に声をかけてしまった。

するとそこには何故かモブリット先生とハンジがそこに居たのだ。

生徒の原稿を手伝っている様子だ。先生を駆り出すとはどういう状況だ。

ハンジ『あ、エルヴィン! リヴァイ! もう時間だっけ?』

リヴァイ『ああ。そろそろ学校も閉まるぞ。早く出る準備をしろ』

エルヴィン『モブリット先生。1年5組のおばけ屋敷の方はいいんですか?』

確か向こうも追い込み作業中の筈だ。モブリット先生は1年5組の担当教諭なのに。

ハンジ『私が無理言って頼んだのよ。モブリット先生、絵がお上手だって聞いたから』

モブリット『おばけ屋敷の広告を部誌に載せるのと、漫研の部室にも貼る約束と交換ですよ』

エルヴィン『ああ……成程』

いや、それは建前だな。恐らく。ハンジとの時間を優先したようだな。

さり気にやる男だな。モブリット先生は。

リヴァイの方は相変わらず無表情だったが、原稿を覗き込んで生徒に話しかけていた。

リヴァイ『余り根を詰め過ぎるなよ。帰りはバスか? 電車か?』

漫研女子『で、電車です……(ビクビク)』

残っていたのは女子生徒一人だけだったから、リヴァイは気を遣ったようだ。

リヴァイ『なら今日は送ってやった方がいいだろう。家は何処だ』

ハンジ『あ、それなら私が送っていく約束をしているから大丈夫だよ!』

リヴァイ『そうか。なら心配は要らねえか』

ハンジ『うん。大丈夫だよ』

そして一緒に学校を出て、ハンジが女子を送っていく様子を眺めながら一言。

リヴァイ『……………あいつ、何で目合わせねえんだろ』

だからそれはリヴァイのせいなんだけどな。

と、思ったけど余計な事は言わないでおこうと、ため息をつくだけにしたのだった。

63進撃の名無し:2014/12/30(火) 03:59:23 ID:ApEdHtms0








10月3日。文化祭の前日。


フラッ………


練習の途中で目の前で、リヴァイが片膝をついた時、少し驚いた。

ミカサ『? どうしたんですか?』

リヴァイ『……何でもない。ちょっと汗で足を滑らせた』

そんな雰囲気じゃなかったな。今のは。

エルヴィン『リヴァイ。今日の睡眠時間を言いなさい』

リヴァイ『ちゃんと6時間は寝ているぞ』

エルヴィン『それは、横になっただけで、本当は寝ていないんじゃないかい? 誤魔化してもダメだよ』

リヴァイ『………ちっ』

今思うと、この時のリヴァイは相当困惑した表情だった。

例の同一人物の件を知ったのが10月1日と言っていたから、この時点ではきっと殆ど寝ていなかったんだろうな。

長年、心の中にひっそりと咲かせていた恋の花の正体がハンジだと知って。

リヴァイの頭の中は混乱していたに違いない。

それでもそれを表に出さない様に堪えていたと言うのだから。

リヴァイを恨みたいような、愛おしいような。複雑な気持ちになってしまった。

リヴァイ『夕べ、紅茶を飲み過ぎたかな』

エルヴィン『自分を誤魔化すんじゃない。何か、気にかかる事でもあるんじゃないのか』

リヴァイ『……………』

リヴァイ『てめえのせいだろ。エルヴィン』

エルヴィン『私?』

リヴァイ『お前が意味深に笑うから、気になって仕方がないんだ。明日、何か仕掛ける気じゃないかって』

この答えは半分正解で半分嘘だったんだろうな。

リヴァイは俺の事じゃなくて本当はハンジの事が気になっていたんだろう。

エルヴィン『ああ、その事……別に何も仕掛けないよ。私は』

嘘はついてないよ。決して。

リヴァイ『本当か? ハンジの奴にも一応、確認したが、あいつはミスコンには出ないと言っていた。あの時笑っていたのは、その件じゃないんだよな?』

エルヴィン『うん。ハンジはミスコンには出ないからね。出るのはフィーリングカップルと野球拳の司会だ』

リヴァイ『そのどちらかで、何かする気なんじゃないのか? エルヴィン』

エルヴィン『だから、私は何もしないって。どうしてそう疑うんだい?』

リヴァイ『………お前、オレとハンジがくっつけばいいと心の中で思ってないか?』

それは半分正解で半分ハズレだ。

ずっと今のままの関係を続けて欲しいような、とっととケリをつけて欲しいような。

リヴァイがハンジを選ばないなら、俺が傍にいたいと思っている。

でもそれは言えない。お前は最初に俺に釘を刺しているからな。

64進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:00:37 ID:ApEdHtms0
エルヴィン『お似合いだとは前々から思っているよ。でも、それを決めるのは君達次第だろ?』

リヴァイ『いや、そういう類の物じゃなくてだな。……まあいい』

何か言いたげに表情を歪めたな。

もしかしたらこの時点で既に気づいていたのかな。リヴァイは。

俺の中にある矛盾した感情を。どうにもらならない思いを。

リヴァイは俺の気持ちを薄々察していたと言っていた。

どの時点ではっきりとそう確信したのかは分からないが。でもきっとこの時点では既に分かっていた筈だ。

リヴァイ『明日、ハンジとモブリット先生がフィーリングカップルに出るんだから、それを切欠に、2人が付き合い出せば、俺の役目も自然に消えていくだろう。俺はそれまでの、繋ぎでいい』

未練たらたらの顔で言う台詞じゃないな。

エルヴィン『そうやって、前もって最悪の事態を想定して心を準備する癖、相変わらずだね』

リヴァイ『最悪じゃない。むしろ最良だ。ハンジが幸せになる選択をして欲しいと、友人として、思っているからな』

友人ね。俺もハンジもその言葉にずっと甘えてきたような気がする。

エルヴィン『友人ね。便利な言葉に甘えているのはリヴァイだけなのかな?』

リヴァイ『は?』

エルヴィン『まあいい。今日の練習はここまでにしよう。体力温存も大事だしね』

という訳で、その日の練習は軽めに済ませて帰る事になった。

帰り際、エレンの表情がアレな感じだったので俺は彼に耳打ちした。

エルヴィン『明日のフィーリングカップル、爆弾仕掛けておいたから。今のやりとりで、着火準備は整ったよ』

エレン『!』

さて。これでサイコロを振る準備は整った。

後はどちらの目が出るか。明日の風がそれを決めるだろう。

もしエレンが事に気づいてその罠を未然に防ぐ事が出来たらモブリット先生の勝ち。

エレンが間に合わず、リヴァイが壇上に登ったらリヴァイの勝ちだ。

きっと運命の女神が決めてくれる。この恋の行方を大きく変えてくれると。

そう信じて俺はサイコロを投げ入れる覚悟を決めたのだった。

65進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:01:18 ID:ApEdHtms0









そして結果から言えばリヴァイが勝った。

なのに俺とピクシス先生は正座待機でリヴァイの説教を食らってしまった。

リヴァイ『おい、エルヴィン。お前言ったよな? 何も仕掛けないと。アレは嘘だったのか?』

物凄い形相だった。般若どころじゃない。鬼より酷い形相だ。

こんなに怖い顔なのにそれを見て綺麗だなと思う俺は重症だと思った。

エルヴィン『嘘はついてないよ。私は何も仕掛けていない。今回の事を仕掛けたのはピクシス先生だから』

ピクシス『すまんのう。舞台を盛り上げたくて、ついな』

リヴァイ『ピクシス先生。とりあえず、モブリット先生を何処に拉致して監禁したのか教えて頂きましょうか(ジロリ)』

エレン『あの、すみません……』

其の時、やっとモブリット先生をエレンが連れて来た。

一足遅かったな。モブリット先生は気絶しているようだ。

リヴァイ『エレン、でかした。モブリット先生を救出してきたのか』

エレン『え、いや…その……救出とはちょっと違うんですけど』

流石に拉致監禁する程の鬼畜な真似は出来ないよ。証拠が残るしね。

リヴァイ『良かった。無事で』

リヴァイ『全く………こいつがなかったら、ガチでキスする羽目になるところだったな』

エレン『そ、それは一体』

リヴァイ『透明のガムテだ。ゴミ取り用に常にポケットに少量、携帯している。ハンジにキスする直前、こいつをあいつの唇に貼りつけて、その上からキスしてやった』

そんな紙一重の攻防をしていたとは。侮れない。

でもキスした事には変わりないのにリヴァイは気づいてないのか?

眉間の皺は深く刻まれているけれど、口元はにやけているのに。

エレン『剥がしてあげていいですか?』

リヴァイ『ああ、構わん』

ハンジ『ぷは! いやーまさか口を封じられるとは思ってもみなかったよ。リヴァイ、策士だね!』

リヴァイ『どっちがだ! エルヴィン達に比べたら可愛いもんだろうが!』

エルヴィン『いやーまさかリヴァイが乱馬1/2のロミオとジュリエットネタを知っているとは思わなかったよ。懐かしいね。乱馬とあかねちゃんもそれで偽のキスシーンやったねえ』

リヴァイ『すまんがオレはマンデー派じゃない。乱馬のネタを知っていた訳じゃないが、これしか乗り切る方法が思い浮かばなかったんだ』

ピクシス『相性ばっちりのくせに、何でそう頑ななんじゃろうな〜』

本当にね。ハンジも首を傾げて困っている様子だよ。

リヴァイ『あれはあくまで、ハンジとの付き合いが長いから知っていただけだ。カンニングペーパー有りでテストを受けたようなもんですが?』

ピクシス『だったら何故、最後の問題も当てたのじゃ。アレは完全に「勘」の世界じゃ。エルヴィンのような変態でない限りは、それこそ、気をつけて常に見ていないと分からないと思うんじゃがのう……』

リヴァイ『たまたま当たっただけですよ』

本当かな? 俺にはそうは思えない。

66進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:02:05 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『偶然という事もある。気にするような事じゃ……』

ピクシス『本当かのう? お主、何故そんなにハンジから逃げておるんじゃ』

リヴァイ『は?』

リヴァイが露骨に動揺しているのが見えた。

手が震えているようだ。隠そうとしてもそこは無理だろう。

リヴァイ『言っている意味が分からない。何の話だ』

ピクシス『ふむ。まあいい。意味が分からんなら話しても無駄じゃ。ハンジ先生、次の野球拳の為の司会の衣装に着替えた方がよかろう?』

ハンジ『あ、そうですね。今のうちに着替えますね〜』

リヴァイ『エルヴィン、これ以上は何も仕掛けてないよな? 今度こそ、まともにやらせろよ?』

エルヴィン『だから私は何もしてないのに……』

リヴァイ『知っていて黙っているのも同罪だろうが! ピクシス先生もこれ以上、余計な事はしないで頂きたい』

ピクシス『しょうがないのう……』

リヴァイ『エレン、さっきのゴミ、渡してくれ。俺が後で捨てておくから』

エレン『あ、はい』

そして舞台裏から追い出されてピクシス先生が苦い顔になった。

ピクシス『ゴミくらい、彼に捨てさせればいいのにのう。どこまで独占欲が強いのじゃ。あの男は』

エルヴィン『まあ、そこが可愛いんですよ』

エレン『え?』

ハンジが触れた物ですらリヴァイは自分で管理したいんだろうな。

リヴァイは独占欲が強い方だから。自分で管理が出来る女に惹かれているんだろう。

ハンジはリヴァイにいつも丸投げだ。そしてリヴァイも嬉々としてそれを弄る。

凸凹がうまく噛みあい過ぎて、お互いの価値を分かっていない。

だから俺はもう引導を渡してやるつもりで、野球拳を終えた後にリヴァイに言ってやったんだ。

エルヴィン『リヴァイ、ちょっといいか?』

リヴァイ『ああ? なんだ。エルヴィン』

野球拳のサクラの生徒に説教をした後のリヴァイを捕まえて俺は言った。

エルヴィン『いや、何でフィーリングカップルの時にキスしちゃったのかなと思って』

リヴァイ『はあ?! キスコールを起こさせた奴が何言ってやがる! どうせあれも犯人はお前らだろ?!』

エルヴィン『まあ、そこはそうなんだけど。問題はそこじゃなくて』

リヴァイ『何が言いたい』

エルヴィン『いや……何も本当にする必要性はなかったんだけど』

リヴァイ『………は?』

唇を△の形にしてぽかんとなるリヴァイが本当に。可哀想で可愛かった。

エルヴィン『だから、キスはしなくても良かったのに。時間が来たら強制終了するつもりだったし、それまで二人がキスをごねていれば、そのまま幕を閉めるつもりだったのに、本当に2人がキスするとは思わなかった』

リヴァイ『………………』

そう言ってやった直後のリヴァイの顔は今でも忘れられない。

男なのに乙女な表情になって、全身が赤くなって、ゆでだことはこの事かな。

腰を抜かしそうになったのを寸前で堪えて、体育館の壁に寄りかかってしまった。

67進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:04:19 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『そ、それはつまり、ただあのまま、しゃべり続けていさえすればよかったという事か?』

エルヴィン『その通りだよ』

リヴァイ『………………じゃあ何で俺はハンジにキス、したんだ?』

いやいやいや。その台詞を自分で言っちゃうか? リヴァイ。

答えはもう分かり切っているだろう?

エルヴィン『仕事に格好つけて、本当はハンジにキスしたかっただけなんじゃないの?』

リヴァイ『!』

言い返す言葉はあるかな? リヴァイ。

あ、駄目そうだ。何も言えずに俯いている。

口元を隠して、両手で顔を全部隠してしまった。

隠れたいんだろうな。穴があったら入りたい。そんな雰囲気だった。

ずるずると座り込んで落ち込んだリヴァイは暫くそのまま放置する事にした。

視線を逸らしてキョロキョロ動揺する様が何とも言えない。

もうすぐ四十路に近い年齢の男だっていうのに。

まるで思春期の少年のような表情で自分の恋愛感情を持て余している。

エルヴィン『ほら、ハンジのところに行くよ』

リヴァイ(びくん!!!!)

警戒する猫の如くリヴァイが逃げた。そして言い放った。

リヴァイ『べ、便所に行ってくる!!!!』

エルヴィン『えええ………』

この期に及んでまだ逃げるのか。リヴァイ、お前はアホなのか?

やれやれ。俺は其の時、本当に天井を仰いでため息をついた。

そしてその直後に、例の連絡が入った。ハンジからの緊急連絡だった。

68進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:08:36 ID:ApEdHtms0






例の女子生徒を進路指導室に呼び出して事実を確認させた後、保護者も呼んだ。

しかし保護者の対応が、何というか、親らしい素振りが全くなかった。

淡々と、まるで業務連絡のような対応と言ったらいいか。

彼女が2年生の時に登校拒否を起こしていた理由が何となく分かった気がした。

取り敢えず退学処分まではいかないように配慮はされたけれど。

女子生徒の保護者が帰った後、リヴァイは青ざめた表情で俺にぽつりと言ったのだ。

リヴァイ『エルヴィン、手間をかけさせたな。すまなかった』

エルヴィン『いや、私は大した事はしていないよ。すぐに分かったのは居合わせた生徒達の協力もあったおかげだ。エレン達も協力してくれたんだよ』

リヴァイ『エレン達が?』

エルヴィン『勿論、生物部の子達も含めてだけど。全員で手あたり次第ビデオをチェックして犯人がすぐに分かったんだ』

リヴァイ『そうか……』

ハンジは既に席を外している。先に生物室に帰ってしまった。

きっと今頃、殺害された躯の処分をしているのかもしれない。

リヴァイ『…………』

リヴァイは憔悴しているようだった。無理もない。

リヴァイ『俺のせいだな』

そして自分を責めていた。その表情がとても痛々しかった。

リヴァイ『俺があの時、調子に乗らなければこんな事には………』

エルヴィン『リヴァイ』

責任という面から言えば仕掛けた俺達にもある。

しかしそれ以上に、受け取る側にも責任はある。

エルヴィン『舞台上の事を真に受ける側も悪い。彼女側にも責任はある』

リヴァイ『だが彼女は、泣いていた』

女子生徒の方は既に保護者と一緒に自宅へ帰している。

69進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:09:22 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『何がそこまで彼女を動かしたのか。俺には理解出来ない』

エルヴィン『……特別な事はしていないって?』

リヴァイ『ああ。登校拒否をしていた時期にマメに訪問していたのは事実だが。でもその時も、顔を合せたのは数える程度だ。殆どは手紙でのやりとりで、会話もまともにしていなかった』

エルヴィン『…………学校に来るようになってからは?』

リヴァイ『それも毎日、朝、「おはよう」と挨拶をする程度で、特別親しくしていた訳じゃねえ』

エルヴィン『まあ、毎日挨拶をするのは普通の事だよな』

リヴァイ『以前、「学校に行けば毎日先生から朝の挨拶をしてくれますか?」と手紙の返事に書かれて……俺は「勿論、挨拶する。約束しよう」と返しただけだ」

エルヴィン『………………』

其の時、ふと気になって確認した。

エルヴィン『本当に毎日? 1日も欠かさず?』

リヴァイ『ああ。その手紙のやりとり以降、ちゃんと学校に来るようになったからな。他の生徒との交流は殆どなかったようだが、それでも授業は真面目に聞くようになったと他の先生からも報告があった。普段余りしゃべらない大人しい印象の女子生徒だなと思っていたのに……』

成程。合点がいった。

彼女がリヴァイに惚れてしまった理由はそこか。

エルヴィン『成程。そういう事か』

リヴァイ『ん?』

エルヴィン『いや、それが本当だとしたら……リヴァイに惚れたのはそのせいだ』

リヴァイ『…………何がいけなかったんだ?』

エルヴィン『リヴァイは何も悪くないよ。ただ、毎日の朝の挨拶すらしない家庭環境で育った彼女が不運としか言いようがない』

リヴァイ『朝の挨拶のせいだっていうのか?』

エルヴィン『リヴァイの事だから本当に毎日、顔を合せたら彼女に挨拶をしていたんだろう?』

リヴァイ『そりゃそうだが……』

エルヴィン『その根気強さに彼女は次第に絆されてしまったんだろうな』

リヴァイ『………………』

リヴァイは何も言えないようだった。

俺は其の時のリヴァイの表情を見て考えを改めた。

エルヴィン『リヴァイ。少し時間を貰えるかな』

リヴァイ『なんだ』

エルヴィン『教えたい事がある。今まで隠していた事を』

進路指導室のパソコンからリヴァイの非公式ファンクラブの画面に入り中の様子を見せたのだ。

70進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:10:01 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『なっ……なんだこれは』

リヴァイが唖然としていた。無理もない。

リヴァイの隠し撮りの写真が加工されてトップ画面に貼りついている。

体育祭の時の恰好いいリヴァイが人気のようだ。

そしてリヴァイの様子を記事にして投稿し合う掲示板の様子にどんどん青ざめていく。

エルヴィン『リヴァイの非公式ファンクラブのサイトだよ。リヴァイを慕うのは何も彼女だけじゃない』

リヴァイ『は?』

エルヴィン『現在、メンバーは100人前後。OGも含めて愛でられている』

リヴァイ『ひゃ……100人?!』

声が裏返ってしまったようだ。酸欠状態のようだ。

リヴァイ『ちょっと待ってくれ。何だその規模は。訳が分からん……』

エルヴィン『事実だ。今日の事も早速、掲示板で騒いでいるようだな』

まあ、ここでその時の事を詳しく思い出すのもアレだから省略するけど。

掲示板は荒れに荒れまくっていたよ。嘆き悲しむコメントが多数あった。

ハンジとの噂は前々からあったけど、遂に表面化した事でハンジに対する罵詈雑言のコメントが酷い。

加えて生物室での出来事も既に書き込まれているようで、何故か「グッジョブ」のコメントも多数あった。

その文面を読み進める程にリヴァイの中に怒りが溜まり込んでいくのが目に見えた。

リヴァイ『なんなんだ。一体なんなんだこれは……』

エルヴィン『リヴァイ。見て欲しいのは今日の記事じゃなくて、それ以前の方だ。過去をずっと遡ってごらん』

リヴァイ『…………』

スクロールを戻していくと今度は平和なコメントが沢山あった。

キャッキャうふふなノリでリヴァイへの観察記事が書き込まれている。

たまにエロい視点で書かれている事もあったが、概ね平和な記事だった。

そこにはリヴァイへの愛情がこそこそと書かれていて、リヴァイ自身、反応に困っている様子だった。

リヴァイ『なんなんだ………これは』

混乱させているようだが俺は言ってやった。

71進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:10:41 ID:ApEdHtms0
エルヴィン『5年くらい前から活動が始まったそうだ。リヴァイの非公式ファンクラブがこっそり結成されていたそうだよ』

リヴァイ『5、5年も前からだと……?』

エルヴィン『そうだ。リヴァイはあの子だけじゃなく、他の女子生徒も魅了している。恐らくあの子もこのファンクラブに加入していたんじゃないかな』

リヴァイ『………どうしてそう言い切る』

エルヴィン『愛する余り、リヴァイ先生という偶像が脳内で肥大化し過ぎたせいじゃないかと俺は思っている』

リヴァイ『今回の事件の原因が……か?』

エルヴィン『ああ。だから偶像化したリヴァイ先生と実際のリヴァイの間にズレが生じて、許せなくなったんじゃないかな』

リヴァイ『………………』

エルヴィン『この件を隠していてすまなかった。もっと早く私がリヴァイに伝えておくべきだった』

リヴァイ『いや……それは仕方がねえだろ』

リヴァイは深いため息と共に俺に言った。そこには諦めに似た感情が見える。

リヴァイ『自業自得の部分もあるしな。俺はきっと今まで間違った事をしてきたんだろう』

エルヴィン『……………』

リヴァイ『ハンジもこの事を知っていたのか?』

エルヴィン『ああ。元々この件を知ったのは、リヴァイのロッカーを盗撮しようとする女子生徒が現れたせいだ。その現場をハンジが目撃して止めた事がある』

リヴァイ『なんだって? 個人ロッカーには鍵がかかっている筈なのに』

エルヴィン『針金か何かでこじ開けたんじゃないかな。多分』

そもそも鍵なんて物は開けようと思えばどうにでもなる。

リヴァイ『…………そうか』

リヴァイは納得した表情でいる。

リヴァイ『ハンジの今までの奇行の原因はそれだったのか』

エルヴィン『ん?』

リヴァイ『たまに怪しい行動をしていた時があった。アレはもしかしなくともファンクラブの人間との間で何かあったんだな』

エルヴィン『うーん。かもしれないな。私も詳しい話は聞いてないけど』

リヴァイ『………………だったら尚更、何で』

エルヴィン『ん?』

リヴァイ『あいつは俺にキスを許したんだ?』

エルヴィン『……………』

それはもう答えが見えているような物なんだが。

72進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:11:17 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『いや、今はその事はどうでもいい』

そうだな。今は考えている場合じゃないな。

リヴァイ『明日も文化祭はある。明日の準備をしねえとな……』

リヴァイはフラフラした足取りで次の準備に向かった。

その後姿はとても痛々しくて、でも俺はそれ以上の言葉を言えなかった。

今更だが、例の彼女とハンジは同一人物だと言えば良かったんだろうか。

もっと早くその事をリヴァイに伝えていたらまた結果は違っただろうか。

そう思い悩んでいた其の時、今度は進路指導室にピクシス先生がやってきた。

エルヴィン『ピクシス先生……』

ピクシス『ハンジの様子を見て来た。大分、やつれておったよ』

エルヴィン『そうですね』

ピクシス『すまん……今回の件はちとやり過ぎたかもしれんな』

流石のピクシス先生も反省中の様だ。

ピクシス『2人の意識を近づけさせる切欠になれば良いと思ったんじゃが……』

エルヴィン『……………そうですね』

今回の件は俺よりもピクシス先生の方が乗り気だった。

だから余計に責任を感じているのかもしれないが……。

エルヴィン『起きてしまった事は仕方がないです。今後、同じような事が起きないようにするしかない』

ピクシス『ふむ……加熱し過ぎたファンの熱を一度、冷ます必要があるのぅ』

エルヴィン『そうですね。このままではリヴァイにとっても良い事じゃない』

あいつは教師だ。アイドルではない。

しかしこの時の俺は具体的な案が浮かばずに悩むしかなかった。

ピクシス『例の女子生徒は反省しておるようじゃったか?』

エルヴィン『ええまあ、衝動的な犯行だったのもあり、我に返ってからは自己嫌悪に陥っていました』

ピクシス『そうか……リヴァイは本当に罪作りな男じゃの』

と言いながらしれっとポケットに忍ばせた小さなボトルの中身を飲み干すピクシス先生だった。

73進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:12:31 ID:ApEdHtms0








文化祭2日目。少々困った事態が起きた。

出場予定だったマーガレットが当日、具合が悪くなったという連絡を受けてドタキャンになってしまった。

今回は16人でトーナメント形式で進める予定だったから、出来れば16人きっかりで始めたかった。

まあ、棄権勝ちで上にあげてもいいんだけど、それだとやっぱり盛り上がりに差し障りが出る。

9票で予選落ちになった女性は1人だけ居た。ハンジだ。

そして男子の名簿の中で票を入れていない男子がいた。エレンだ。

俺はすぐさまミカサを使って事情を説明してエレンを呼んで貰うようにした。

エルヴィン『すまないね』

エルヴィン『名簿と照らし合わせて、投票していない男子の中から選出させて貰ったよ。エレン、今、ここでこっそり書いて貰えるかな?』

エレン『あ、はい』

エレンから紙を貰ってハンジに連絡する。

ハンジはとても微妙な表情だったけど、一応ピンチと聞いて来てくれた。

ハンジ『あー……集計ミスっていたってマジなの? 本当に私に10票入っていたの?』

エルヴィン『うん。ごめんね。こっちのミス。後、人数が1人、急遽足りなくなったから、お願いしたいんだが』

ハンジ『まーじかー! ある意味公開処刑じゃないのこれって』

エルヴィン『リヴァイと同じ事言わない。ハンジ、大丈夫だよ。君は美しい女性だから』

そう言い切ると、ハンジは口を突き出して言った。

ハンジ『えーでも、私、私服持って来てないよ? 確かテーマ別の私服の審査があるんだよね?』

エルヴィン『そこはリヴァイに協力して貰って、車でひとっ走り持って来て貰えばいい』

ハンジ『間に合うのかな……ギリギリじゃないの?』

エルヴィン『そこはこっちで調整するから心配要らない。今、必要なのはハンジの「イエス」だけだ』

ハンジ『んもー強引なんだから。分かった。じゃあ出てやろうじゃない。でも、あんまり笑わないでよ?』

笑うどころか、きっとリヴァイは喜ぶと思うけどな。

こういう強引な機会でもないとハンジは着飾らないだろう。

着飾るハンジを見るのは数年ぶりだ。リヴァイに頼めばきっと動いてくれる。

74進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:13:32 ID:ApEdHtms0
エルヴィン『ありがとう。じゃあリヴァイに連絡するから』

電話をかけると、ざわざわした音が背景に聞こえた。

どうやら向こうも忙しいそうな気配だが。

エルヴィン『リヴァイ。私だ。すまない。今、時間あるか?』

リヴァイ『ああ。大丈夫だ。今、1組の様子を見に来ていた。ブースに居る』

エルヴィン『ああ、1組の様子を見に行っていたのか。いやね、ちょっとこっちでトラブルが発生してね。急遽、ハンジにもミスコンに出て貰う事になったから、彼女の私服をいくつか持って来て欲しいんだ』

リヴァイ『何だって? 衣装だけでいいのか?』

エルヴィン『化粧道具も出来れば。分かるよね? 時間は……そうだな。10:20分までなら尺を稼げると思う。それまでに往復できるか?』

リヴァイ『大丈夫だ。問題ねえよ。すぐ用意して来てやる。ハンジにはシャンプーして自分で化粧前の準備をしておけと伝えろ』

エルヴィン『良かった。リヴァイならそう言うと思ったよ。では、頼むよ。また後で』

ピッ。

エルヴィン『ハンジ。すまないが、今からシャンプーして自分で化粧前の準備をしておけとリヴァイの指示だ。出来るね?』

ハンジ『じ、自分で洗うの? 今から? 乾かすの間に合わないんじゃ……』

エルヴィン『濡れていても大丈夫だよ。シャワー室は使える筈だから。ほら、自分で出来ない訳じゃないんだろ?』

ハンジ『うーん、出来なくはないけど雑だよ。私の洗い方は』

エルヴィン『緊急自体だから構わないよ。ほら、行って』

ハンジを押しやって俺は開演までの時間を打ち合わせに費やした。

インカムの調子を確認した後、舞台に出る。会場はほぼ満席で拍手喝采だった。

エルヴィン『男子諸君、男性諸君、そして淑女の皆様方。大変お待たせ致しました』

ざわざわざわ………

エルヴィン『我が校伝統のミスコン、第20回目を迎えるこの記念すべきこの日。天気も味方して快晴となり、美少女達の宴を祝福しているようです』

エルヴィン『今年も色とりどりの美しさを競い合って貰います。野郎ども! 心の準備は出来ているか?!』


おおおおおおおおお!


エルヴィン『ではこれより第20回講文祭ミスコンテストを開催致します! みなさん、拍手をお願いいたします!!』


わああああああ……

パチパチパチ………


エルヴィン『ルールを先に説明させて頂きます。このミスコンはトーナメント形式になっており、抽選で選ばれた女性はテーマに合わせていろんな課題をこなして貰い、一騎打ちをして頂きます。4回勝ち上がれば晴れて優勝となり、景品が贈られる事になります! 会場の皆様は、勝負の際、その都度、メダルを1枚ずつ配布いたします。メダルを一枚、集計籠に入れていただき、天秤が傾いた方が勝者として決定致します!』

エルヴィン『では、まずは第一回戦を行っていきたいと思います。一回戦のテーマはこちら!』


ジャジャン♪


『彼氏と初めての外出デート。その時に着る私服は?』


エルヴィン『初めての外出デートの時にどんな私服を着ていくのか。そのセンスを競い合って頂きます! 外出先の内容は自分で設定してOK! 海でも山でも遊園地でも、自分の想像で私服を選んで頂きます! ではまず、エントリーナンバー1! 1年1組のミカサ・アッカーマン!』

エルヴィン『対するはエントリーナンバー2! 1年2組マリーナ・イノウエ!』

エルヴィン『二人には3分以内に私服に着替えて貰います。私服の内容は予め自分で決めて貰っているので、それに着替えて貰います。時間が過ぎた場合はポイントが秒数毎に1gのマイナスポイントになるので、時間は厳守するように。では、早速着替えタイムに入って頂くよ! それでは、スタート!!』

進行は順調だった。問題なく進んでいる。

試合の途中で何度か裏に回って様子を見た。

リヴァイが時間通りにきっちり間に合わせて衣装を持って来た。

裏ではハンジが色気のない抗議をしていたけれど、押さえつけてリヴァイがセットしていた。

ハンジ『ぎゃあああ?! なんか凄い事になってない?! 髪型に気合入れすぎじゃない?!』

リヴァイ『文句言うな!! 衣装と合わせたらこれくらい盛っても当然だ!』

ハンジ『そうかもしれないけど! 痛い! ちょっと緩めてよ!』

リヴァイ『ああ? 時間ねえから我慢しろ! (グイグイ)』

裏でわいわい喧嘩しながら準備をしてくれている。

その様子に安堵して、俺は進行を順調に進めた。そしていよいよハンジの登場だ。

75進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:14:21 ID:ApEdHtms0
ハンジがなかなか出てこない。おかしいな。準備は終わっているよな。

エルヴィン『………おや? 着替え終わっているのにハンジの方が出てこないね』

エルヴィン『準備は終わっているんだろ? 早く出て来て』

ハンジ『えええ……本当にこれでいくの?』

エルヴィン『似合っているんだからいいじゃないか。ほら、早く』

ハンジ『とほほ……』

観念して出て来たハンジの姿を見て観客がざわめいた。

きっと別人のように見えたからだろう。うん。綺麗だ。

リヴァイがきっと今頃、裏でどや顔をしているに違いない。

社交ダンスの大会に出た時よりは少し抑えめのメイクだったけど、それでも十分美しい。

眼鏡を外して女性の恰好をさせられたハンジは恥ずかしそうにしていたけれど。

その普段見せない照れ臭い表情がより、彼女の美しさを引き出していた。

エルヴィン『気合入っているね。想定は何処かな?』

ハンジ『うーん、多分、ダンスパーティーとかかな? 創立記念パーティーとか。結婚式とか、セレブな方の誕生日会とか? もうその辺のレベルの衣装だよね。初デートとかに着る服じゃないってあれほど……(ブツブツ)』

エルヴィン『いや、それは相手次第だよ。ハンジ。もしお金持ちのご子息とデートするのでればそれで間違っていない』

ハンジ『ああそうか。いやでもね、これは幾らなんでも気合入り過ぎじゃない?』

エルヴィン『いいんじゃない? たまにはこういうハンジ先生もいいよね?』

男子生徒『いいと思いまーす!』

ハンジ『あ、そう? うーん。でもこれ買ったの、もう8、9年前くらいになるのよね。リヴァイが三十路になった時に買ったから、デザイン古くない? 大丈夫かな?』

男子生徒『買って貰ったんですかー?!』

ハンジ『あーうん。ちょっといろいろあって、ね。押し付けられたの。こっちは「要らないってば!」って何度も突き返したんだけどね。実は私、ダンスの講師の免許を持っているんだ。その資格を取った時に一緒にこれ、貰っちゃったのよ』

エルヴィン『という事は、社交ダンス用の衣装って事で頂いたんだね』

ハンジ『そうそう。だから踊ろうと思えば、今でも踊れるよ♪』

ハンジが踊っている姿を見たい気持ちはあるけれど。時間がないからまた今度だ。

エルヴィン『ふふっ…それは是非見てみたいけど、ちょっと時間がないからまた今度にしようか』

ハンジ『そうだね。ま、いつか機会があれば披露してあげるよ』

エルヴィン『という訳で、集計をお願いいたします!』

エルヴィン『ん〜これは微妙だね。2グラム差かな? 僅差でイルゼ先生の勝利だね。おめでとう!』

イルゼ『あ、ありがとうございます…(困惑)』

ハンジ『おめでとうー! (拍手)』

エルヴィン『惜しかったね。ハンジ』

ハンジ『いや、むしろ大健闘じゃない? 私、頑張った方じゃない? 十分だよ』

ハンジ『票を入れてくれた子達、ありがとうねー!』

そして無事に終わったと安堵した直後……事件は起きた。

76進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:14:51 ID:ApEdHtms0
ハンジ『リヴァイー! 頭外してーこれ重いんだけどー』

リヴァイ『ああ、ちょっと待ってろ(ゴソゴソ)』

ハンジ『んもう、何でこの衣装持って来ちゃったの。もうちょっと普通ので良かったのに』

リヴァイ『ああ? デート場所の設定は俺に任せるって言っただろうが』

ハンジ『いや、初デートだからね?! 初めてでこれって、ちょっと豪華絢爛過ぎるよね? 皆、びっくりしていたよ? 初デートで社交ダンスってどこのセレブ設定なのよ私は』

リヴァイ『………………すまん。そう言われれば確かにそうなんだが』

リヴァイ『ハンジには、その色の、深い緑色が一番似合うと思ってな。つい、それを咄嗟に選んでしまった』

ハンジ『ん〜……まあ、そういう事ならしょうがないけどさ。うん、でもありがとう。協力してくれて』

リヴァイ『ああ……無事に終わったなら良かった。………ハンジ』

ハンジ『何?』

リヴァイ『服を持ってきた俺が言うのも何だか、その服は確か俺が三十路になった年に買った物だったよな』

ハンジ『そうだよ』

リヴァイ『お前、その頃から体型全く変わってないんだな。よく考えたら、凄い事じゃないのか?』

ハンジ『あーそう言われればそうだね。体型変わってないね』

リヴァイ『普通はそのくらいの年齢から少しずつ、身体のバランスが崩れてきてもおかしくはないと思うが』

ハンジ『ん〜本当だね。珍しいよね。私、あんまり体重が変動しないんだよね』

ハンジ『やっぱり、ずっと、リヴァイのご飯を食べさせて貰っていたからじゃない?』


ざわざわざわ……?!


リヴァイ『…………そうか。だとすれば、飯を作り与え続けた甲斐があったな』

ハンジ『ん〜でも、もういいよ。リヴァイ』

リヴァイ『え?』

ハンジ『もう、私、あんたにこれ以上、甘えるの、やめる事にするからさ』


ざわざわざわ……?!


リヴァイ『え…………』

ハンジ『今まで、ありがとうね。本当に感謝している。でも、もう、あんたとはちゃんと線引きしないといけないって、分かったんだ』

リヴァイ『…………』

ハンジ『…………ごめ…(ブツ)』

会場のざわめきが遠くに聞こえる様な感覚だった。

この時の俺は頭の中が真っ白になっていて、すぐに動けなかった。

77進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:15:50 ID:ApEdHtms0
エルヴィン『えー……2回戦に向かう前に5分間の休憩を入れたいと思います。皆様、もう暫くお待ち頂きますようお願いいたします』

とりあえずそれだけ言って俺は舞台裏に駆け込んだ。

舞台裏ではペトラ、ニファ、ミカサの3人がリヴァイを支える様にしていた。

ペチペチ頬を叩いたりしているけれど、全く気付いていない様子だ。

体に全く力が入っていないのが見て取れた。

他の共演者もどうしたらいいのか分からない様子だ。

リコ『おい、これは一体どういう事なんだ?』

イルゼ『ハンジ先生を追いかけた方がいいんでしょうか? (オロオロ)』

アンカ『いや、今はそっとしておいた方が……』

女性職員も困惑していた。女子生徒はもっと混乱している。

ペトラ『リヴァイ先生! 気をしっかり!』

ニファ『何か飲み物を持って来た方がいいでしょうか?』

エルヴィン『いや……』

俺はリヴァイの正面にしゃがみこんで視線の高さを合わせてから声をかけた。

エルヴィン『リヴァイ、俺が分かるか?』

リヴァイ『……………』

目の中に光がなかった。まるで死んでいるかのようだ。

呼吸はしているし、脈もある。でも目に何も映っていない様子だ。

彼女達も必死にリヴァイに声をかけているが、何も聴こえてないようだ。

ミカサ『クソちびが……こんな風になるなんて』

ミカサですら困惑している。何を言ったらいいか分からないようだ。

俺はなんて声をかけたらいいか迷った。

迷った末、俺はこの言葉しか思い浮かばなかった。

エルヴィン『………リヴァイ、生徒達が見ているよ』

リヴァイ『!』

俺の言葉でようやく我に返ったのか、目に光が戻った。

リヴァイ『あ、ああ……すまない。見苦しいところを見せたな』

やっと正気に返ったリヴァイは立ち上がろうとして……。

グラッと体勢を崩しそうになり、慌てて支えてやる。

エルヴィン『誰かパイプ椅子を。座らせてあげて欲しい』

ペトラ『はい!!!』

ペトラが舞台裏の端っこにあったパイプ椅子を用意してそこに座らせた。

78進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:16:51 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『すまん……少し、そっとしておいてくれ』

エルヴィン『分かった。演目が終わるまでここで休憩するといい』

俺はそれだけリヴァイに告げて舞台に戻った。

リヴァイが落ち込んでどん底にいるのに。俺は何も出来ない。

今はただ、司会者として冷静に演目を終わらせる事に集中した。

舞台が終わってから舞台裏に急いで戻る。

エルヴィン『リヴァイ、立って』

エルヴィン『次の準備がある。ここにずっと居られると邪魔になるよ』

リヴァイ『あ、ああ……そうだったな』

だけどリヴァイは力を入れられなくて、こっちに凭れかかって来た。

リヴァイ『………すまん。足にうまく力が入らない。身体が自分の物じゃない様に重い』

エルヴィン『分かった。肩を貸して貰おう。私とでは身長差が大きすぎるから……アルミン。君に頼んでいいかな』

アルミン『分かりました』

リヴァイを体育館の外へとりあえず連れ出した。

アニが紅茶の缶を買って来てくれた。リヴァイはそれを無理に飲み込んでようやく一息ついたようだ。

リヴァイ『………………昨日、謝ったんだがな』

エルヴィン『うん。キスした事だね?』

リヴァイ『ああ。準備が全部終わってから、ハンジを捕まえて、少し話した。でもあいつはずっと「あんたが悪い訳じゃない」って言って、笑っていたんだ。だから、許してくれたんだとばかり、思っていたんだが、手遅れだったんだな』

エルヴィン『……………』

ハンジの事だ。きっとリヴァイの事を恨んじゃいない。

今頃自分を責めて泣いているんじゃないかと思う。

これがハンジなりのけじめのつけ方なんだろう。彼女らしい。

リヴァイ『俺はハンジに縁切りされたんだよな。友人としても、もう付き合えない。そういう事なんだろうな』

エルヴィン『リヴァイ。それは少し考えすぎだよ』

リヴァイ『だが、そうとしか思えなかった。ハンジに拒絶されることがこんなに、堪えるとは思いもよらなかった』

根深いところにハンジがいるんだよな。

分かっている。リヴァイにとってはハンジはもう、切り離せない存在だ。

リヴァイ『エルヴィン。前に言った事を覚えているか?』

エルヴィン『前に?』

リヴァイ『ああ。俺が前に、ハンジにはキスもセックスもしたいと思った事は1度もないと言った、アレだ』

エルヴィン『覚えているよ。はっきりと』

リヴァイ『すまん。アレ、よく考えたら記憶違いだった。正確に言えばたった一度だけ、昔、あった。かなり昔だが』

まあ、ない方がおかしいよな。

79進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:18:01 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『俺が三十路になる年の2月頃だったかな。突然あいつが「ダンスの講師の資格が取りたいから、パートナーとしてつきあって!」と無理難題を言い出した。それから10か月程度の時間をかけて、ハンジと社交ダンスの練習をした。その時の事を、覚えているか?』

エルヴィン『ああ。良く覚えているよ。私も練習指導につきあったしね』

リヴァイ『俺はあいつとコツコツ練習を重ねて、12月にT都で行われるダンス大会に出場する事になった。そこで優勝すれば成績が認められて資格も得られるという大会だった。俺達は初出場にして、初優勝を果たして無事にお互い、資格を得る事が出来た』

あの時はピクシス先生が荒れに荒れて大変だった。

『2人で旅行に行って来て何もないとか、ありえんじゃろうが!!!』と、怒鳴り散らしていたっけな。

リヴァイ『俺は資格を得てからハンジに聞いたんだ。そもそも何で社交ダンスをやろうと思たのかと。そしたらあいつ、何て言ったと思うか分かるか?』

エルヴィン『いや……分からないな。見当もつかないね』

リヴァイ『俺の三十路に間に合うように、俺の三十路の誕生日プレゼントに、ダンスの講師の資格を俺にあげたかったそうなんだ。社交ダンスはペアじゃないと大会に出場できないし、つまりあいつなりの、サプライズだったんだよ』

成程。通りで。

リヴァイが三十路を過ぎてから女の影が無くなった理由はそこか。

その時にリヴァイは完全にハンジに堕ちていたんだろうな。

でもそれを素直に認められなくて、今の今まで来てしまった訳か。

リヴァイ『それを聞いて俺は『それを早く先に言え!』と怒鳴ってしまったが。でも、嬉しかったんだ。ハンジは『私は家事とか女らしい事は殆ど出来ないし、プレゼントを買ってあげるのも下手だし、でもこれだったら、一生、体育教師のリヴァイの役に立つプレゼントになるかと思って』と言ってくれたんだ。確かに体育教師の俺にとってはこういう資格はないよりはあった方がいい。もしダンスを指導する立場になれば、そういう知識も経験も必要になってくる。でも、あいつは生物教師だ。必要があるのは俺だけで、あいつはただ、それに付き合ってくれただけなんだよ』

うん。そこまで距離を縮めておきながらなんでヤッて来なかったんだろうな?

リヴァイ『ダンス大会が終わったその日の夜は2人でツインのホテルに泊まった。あの時、俺は初めて、ハンジをいい女だと思った。でもあいつはその後『これからもずっと、友達でいようね。あんたは私の最高の親友だから』って言ってきてな。その言葉に対して俺はずっと約束を守ってきただけだったんだよ』

酷い話だな。そんな時ですら自分より他人を優先して考えてしまうのか。

リヴァイ『大会の時に借りたドレスを買い取って、ハンジにあげたのはせめてもの礼のつもりだった。だけどあいつは、ずっと「要らないから!」って跳ね除けていたんだが、俺もそこは折れなかった。あいつのクローゼットの奥の方に無理やり押し込んで、ずっと仕舞わせていたんだ。それを今朝見つけて、全部一気に思い出したよ』

エルヴィン『なるほど。だからあの深緑色のダンス衣装を持ってきたんだね』

リヴァイ『ああ。俺にはもう、アレしか思い浮かばなかった。初めて2人で旅行した時の、思い出の衣装だったからな』

思い出しているその表情は今までで一番、乙女な表情だと思った。

男に乙女というのも変な話だが。なんでリヴァイはこういう時に可愛い顔をするんだろうな。

リヴァイ『沈んでいた筈だ。地下深く、自分の気持ちが眠っていたのも、ただ、そう考えない様にしていただけだったんだ。俺は………』

その恋心の封印を解いたのは俺だ。

解かせない方が良かったのか。解いたのが正解なのか。それは分からない。

リヴァイ『俺はハンジの事が好きだったんだ。恐らく、あの日の、三十路になった誕生日のあの日から、ずっと……』

いいや。リヴァイ。それは間違っている。

リヴァイはハンジと出会った教習時代の時から既に彼女に心を奪われていた。

なのに随分と遠回りしてしまったんだよ。素直に認めないから。

今、そのツケを支払わされているんだ。

80進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:18:45 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『ハンジは俺が三十路を越えてからはしょっちゅう「三十路〜おっさんおめー」とか「三十路っていいよね! なんか響きがいいよね?」とか何とか言ってよくからかってきたりしたな。ハンジの中では恐らく三十路がひとつのステータスだったのかもしれんが、特別なものにしたかったんだろう。俺もあいつが三十路を越えた時は同じように「三十路を越えたから早く嫁に行け。結婚しろ」と言い放っていたが、よく考えたらそうやって言い合う事を楽しんでいただけだったんだな……』

エルヴィン『うん。そうだね。君達のそれは、ただの夫婦漫才だったよ』

リヴァイ『ははっ……今頃、気づいちまって、本当に俺は、馬鹿だ』

リヴァイは今、初めて自分の気持ちと向き合っている。

苦しいのは分かる。俺もそういう感情は理解出来る。

ただそこからどうするか。ここから先が問題なんだ。

まだ逃げ続けるのか。それともハンジと向かい合うのか。

リヴァイは決めなければいけない。

リヴァイ『自覚した途端にまさか振られるとは思わなかった。ははっ………はははっ……』

エルヴィン『リヴァイ。まだ振られた訳じゃないだろう』

リヴァイ『振られたようなもんだろう。もう、世話しなくていいと言われたんだからな』

エレン『それは違いますよ、リヴァイ先生』

其の時、エレンが前に出てリヴァイを励ましてくれた。

エレン『振られるっていうのは、ちゃんと自分の気持ちを相手に伝えて、相手から「ごめんなさい」と言われる事です。その過程を得てない状態ならまだ「振られた」とは言い切れないですよ』

リヴァイ『何で、そう言いきれる』

エレン『オレの時がそうだったからです。オレも危うく「振られた」と思い込んでしまいそうになったから。なあミカサ?』

ミカサ『う、うん……あの時は、誤解させてごめんなさい』

エレン『だから、リヴァイ先生はまだ、やるべき事をちゃんとやってないんだから、諦める必要はないんですよ』

リヴァイ『……………』

リヴァイの視線が揺れていた。

本心は今すぐにでもハンジを追いかけたくて堪らないんだろう。

リヴァイ『しかし、ハンジにはもう、モブリット先生とか……』

エレン『だったら尚更急がないと、手遅れになりますよ。リヴァイ先生。モブリット先生とハンジ先生が付き合いだしてもいいんですか?!』

リヴァイ『……………分からない』

リヴァイはまるで迷子の子供の様に不安げな表情だった。

リヴァイ『ハンジが決める事に俺は口を出せない。それはただのエゴの押し付けだ。あいつの判断に俺の感情は関係ない……』

ミカサ『だからクソちび教師なのね。最低』

エレン『!?』

おっと。ミカサのドS発言にちょっと俺もびっくりした。

いきなり何を言いだすかと思ったら、物凄い形相でリヴァイを睨んでいる。

81進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:19:30 ID:ApEdHtms0
ミカサ『このヘタレが。やっぱりハンジ先生にはリヴァイ先生には勿体ない』

エレン『ミカサ?!』

アルミン『あーごめん。僕も同意だ』

エレン『アルミンまで、何言ってんだよ!』

アニ『うん。異議なし』

エレン『アニも?!』

ジャン『はーさすがにオレもそれはないと思ったわー』

マルコ『だねえ』

わーお。今年の一年生はなかなか口の悪い子達が揃っているな。

流石リヴァイの顧問の部に入ってくるだけはある。

エレン『お前ら?! 言い過ぎだろ?! リヴァイ先生は教師なんだぞ?』

エルヴィン『うーん、教師である以前に、まず一人の「男」なんだけどねえ』

彼らの言いたい事は分かっている。

ここまできて尻込みするのは男じゃないよな。

エルヴィン『皆がキレるのも分からなくはないよ。ただ、リヴァイはもともとこういう性格だからね。自分の判断や感情を殺して、相手のやりたいように出来るだけやらせる。昔からそうだから、今更どうしようもないんだよ』

もしくは相手が危険な目に遭わない方を選択したり。相手が幸せになれる方を選んだり。

自分をもっと優先する我儘な奴だったら、ここまで拗れなかっただろうな。

ミカサ『でもそれでは、相手が動かない場合は自分から動かないって事ですよね? ずるい』

アルミン『ずるいよねえ。確かに』

アニ『指示待ち人間?』

ジャン『そうかもな。受け身過ぎるんだよ』

マルコ『時と場合によるよねえ』

エレン『あのなあ。一応言っておくけど、この中でカップルなのはオレとミカサだけ何だからな! 恋愛ってもんは、そう定規みてえにまっすぐうまくいくもんじゃねえんだよ!!』

おお? 1人だけ先輩面をしてエレンがリヴァイを庇っている。

ミカサ『ではエレンは何故、私と付き合いたいと思ったの? 好きだと自覚したのはいつ?』

エレン『ええ? オレの場合はアレだよ。夏の海で、その……ミカサがヤキモチっぽい素振りを見せた時、なんかすっげえ浮かれちまって。何で嬉しいんだろ? って自己分析してみたら、やっぱりミカサの事が好きだからとしかと思えなくて……』

ミカサ『本当に? それ以前に私にヤキモチは妬かなかったの?』

エレン『それ以前? あージャンとかミカサの中学時代の金髪の先輩とか? その辺は妬いていたよ。今思うと』

ミカサ『ほらやっぱり。ヤキモチ妬いている。ヤキモチを妬いたらそれはもう、相手を独占したい証拠』

エレン『まあそうだけど、え? 今、その話、何か関係あるのか?』

ジャン『つまり、リヴァイ先生はヤキモチ、妬かないんですか? って皆、言いてえんだよ』

エレン『あー………』

まあ、つまりはそういう事だな。

82進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:20:01 ID:ApEdHtms0
リヴァイ『ヤキモチ……だと?』

ミカサ『ヤキモチも妬かないような男は最低。度が過ぎるとダメだけど』

アニ『うん。同感。やっぱりそこは、女としては少しは妬いて欲しいよね』

リヴァイ『………………』

アルミン『でも、さっきモブリット先生、ハンジ先生と何か大事な話があるって言ってたよね』

エレン『あーなんか深刻そうな顔はしていたよな』

リヴァイ『!』

エルヴィン『2人が何処に行ったか分かるか?』

エレン『いえ、そこまでは。オレ達もすぐこっちに戻ってきたんで』

だとしたらこのタイミングでモブリット先生は動くかもしれないな。

アルミン『もしかして、モブリット先生の方が先に告白しちゃうんじゃないの? このままだと』

リヴァイ『?!』

可能性は大だな。どうするんだ? リヴァイ。

と、其の時リヴァイの携帯が鳴った。

リヴァイ『リヴァイだ。………何だって? マーガレットがそう言っているのか? 分かった。すぐそっちに行く』

リヴァイ『エルヴィン。ミスコンの病欠の辞退者っていうのは、マーガレットで間違いなかったよな』

エルヴィン『ああ。なんか少し体調が悪くて今、保健室で休んでいるそうだが』

彼女もハンジと同じくらい無茶な事をよくやる子ではあるんだが。

今回の件は恐らく母親の容体が落ち着いて、今頃疲れが出てきたんじゃないかと思う。

まだ彼女は高校生だしな。そういう事もあるだろう。

話し合いの末、今回の文化祭はマーガレットの代わりに俺が裏に入る事になった。

万が一の時に備えてスケジュールを空けていて正解だったな。

裏方プランを引き継いで、エレン達が昼飯を買いに行っている間、マーガレットは言った。

マーガレット『リヴァイ先生って寝顔が可愛いですよね〜うへへ。写真に撮ろうかな』

エルヴィン『駄目だよ。起きちゃうから今回は遠慮しなさい』

マーガレット『ちっ……勿体ない』

エルヴィン『リヴァイが可愛いのは認めるが。男にしておくのが勿体ないとは思う』

マーガレット『ですよね〜……なんかもう、押し倒したくなりますよね』

エルヴィン『マーガレット。女性のいう言葉じゃないぞ』

83進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:21:21 ID:ApEdHtms0
マーガレット『サーセンwwww』

エルヴィン『熱があるせいでテンションがおかしくなっているようだな』

マーガレット『まあ、そうですね。すみません。はい……(シュン)』

エルヴィン『お母さんの容体はどう?』

マーガレット『あ、母はもう殆ど大丈夫ですよ。おかげさまで元気になりました』

エルヴィン『なら良かったな。でもあんまり無茶し過ぎたら駄目だぞ』

マーガレット『はい。親子ともども馬鹿ですみません……』

マーガレット『ええっと、でも今回、エレンには本当に助けられました』

エルヴィン『ん? エレンに?』

マーガレット『はい。彼、うちにアシスタントに入ってくれた事があるんですけど』

エルヴィン『ああ。その件ならリヴァイ経由で聞いているよ。原稿がやばかったんだって?』

マーガレット『そうなんです。母が肺炎起こしちゃって。緊急入院しちゃったんですけど。其の時に、エレンに救急車を呼べって怒られました』

エルヴィン『そりゃあ怒られるよ』

マーガレット『まあ、そうなんですけど。あの時は私も今以上に頭が回ってなかったし。万が一の事があったらどうするんですかって、エレンに凄く叱られてしまって。確かに命は大事にしないといけないなあと、あの時は思いました』

エルヴィン『そうか。エレンがね………』

マーガレット『他の子達はそこまで言わなかったんですけどね。よその家の事だし。でもエレンだけは違った。あの子、凄く優しい子なんですね』

エルヴィン『確かに。そういうところはあるみたいだね』

さっきマーガレットが無理にでも出ようとした時、ムッとしていたのは頼られない自分に腹が立ったせいだろうな。

まだ1年生だっていうのに。小生意気なところもあるようだけど。

裏方プランを見る様子は他の誰よりも真剣だった。

きっと自分がしっかりしなきゃと思っているんだろうな。

そしてエレンがカレーを持って戻ってきてくれた。

頂いた物を腹に押し込んで準備をする。舞台裏に入るのは久々だが、何とかなるだろ。

84進撃の名無し:2014/12/30(火) 04:24:56 ID:ApEdHtms0
年末にエルヴィン先生視点をどうしても書きたくてやらかしました。すみませんorz
ミカサ視点の時間軸が追い付いたら続きを投下する予定です。
とりあえず今回はここまで。ではまた。次回ノシ

85進撃の名無し:2015/10/06(火) 22:35:04 ID:Rhe8Naj.0




文化祭の舞台は一度だけアクシデントがあったけれど、それ以

外は概ね無事に終わった。

小道具の刀が途中で壊れた時は流石にひやっとさせられたけれ

ど。

エレンの機転でどうにか舞台を止めずに済んだ。やはり彼には

咄嗟の対応力が備わっているようだ。

エンディングは音楽に合わせて適当にアドリブで踊った。

舞台で踊るのは何年ぶりだろうか。久々に体を動かして照れ臭

かったけれど。

青春時代を謳歌する彼らに混ざって、俺もダンスを楽しませて

貰った。

そして舞台が終わって見送りを済ませると、すぐさま撤収作業

をした。

次の舞台の演目が待っているからぐずぐずは出来ない。

裏方を中心に舞台の片付けを終えてから裏から出ると、リヴァ

イが生徒達に囲まれてわいわいやっているのが見えた。

あれは暫くは解放されないだろうな。相変らずの人気者だ。

リヴァイを目の端に入れつつも俺はハンジの事も気になった。

モブリット先生とまだ一緒にいるのだろうか。

連絡してみようかと思っていた矢先、モブリット先生の方から

連絡が来た。

エルヴィン『はい、エルヴィンです』

モブリット『エルヴィン先生、モブリットです』

エルヴィン『どうかされましたか?』

モブリット『いえ、その………』

少しの間が落ちてから、言いにくそうに彼は言った。

モブリット『どうしても確認したい事があります』

エルヴィン『なんでしょうか』

モブリット『フィーリングカップルの件です。エルヴィン先生

は最初から、リヴァイ先生の方を舞台にあげるつもりだったん

ですよね。だとしたら、何故、自分に声をかけたのかと』

エルヴィン『………すみません』

モブリット『過ぎた事を謝る必要はないですが、どうしても解

せません。エルヴィン先生の行動を理解出来なくて……』

エルヴィン『…………』

モブリット『あの、実はピクシス先生の方から、エルヴィン先

生の事情は伺っていました。だからこそ、自分はエルヴィン先

生が自分とハンジ先生の事を応援してくれているものだと勝手

に思っていました。僕とハンジ先生が付き合う方が、エルヴィ

ン先生にとっては都合が良いと思っていましたし』

エルヴィン『それは世間的には難しい話ですよ』

モブリット『そういう話ではないと思います。あなたは本当に

、心からリヴァイ先生とハンジ先生が結ばれることを望んでお

られたんですか?』

エルヴィン『…………』

すぐに返事が出来なかった。モブリット先生は薄々気づいてお

られるようだ。

86進撃の名無し:2015/10/06(火) 22:36:17 ID:Rhe8Naj.0
投稿の仕方を間違えたのでやり直します。すみません。

87進撃の名無し:2015/10/06(火) 22:37:02 ID:Rhe8Naj.0




文化祭の舞台は一度だけアクシデントがあったけれど、それ以外は概ね無事に終わった。

小道具の刀が途中で壊れた時は流石にひやっとさせられたけれど。

エレンの機転でどうにか舞台を止めずに済んだ。やはり彼には咄嗟の対応力が備わっているようだ。

エンディングは音楽に合わせて適当にアドリブで踊った。

舞台で踊るのは何年ぶりだろうか。久々に体を動かして照れ臭かったけれど。

青春時代を謳歌する彼らに混ざって、俺もダンスを楽しませて貰った。

そして舞台が終わって見送りを済ませると、すぐさま撤収作業をした。

次の舞台の演目が待っているからぐずぐずは出来ない。

裏方を中心に舞台の片付けを終えてから裏から出ると、リヴァイが生徒達に囲まれてわいわいやっているのが見えた。

あれは暫くは解放されないだろうな。相変らずの人気者だ。

リヴァイを目の端に入れつつも俺はハンジの事も気になった。

モブリット先生とまだ一緒にいるのだろうか。

連絡してみようかと思っていた矢先、モブリット先生の方から連絡が来た。

エルヴィン『はい、エルヴィンです』

モブリット『エルヴィン先生、モブリットです』

エルヴィン『どうかされましたか?』

モブリット『いえ、その………』

少しの間が落ちてから、言いにくそうに彼は言った。

モブリット『どうしても確認したい事があります』

エルヴィン『なんでしょうか』

モブリット『フィーリングカップルの件です。エルヴィン先生は最初から、リヴァイ先生の方を舞台にあげるつもりだったんですよね。だとしたら、何故、自分に声をかけたのかと』

エルヴィン『………すみません』

モブリット『過ぎた事を謝る必要はないですが、どうしても解せません。エルヴィン先生の行動を理解出来なくて……』

エルヴィン『…………』

モブリット『あの、実はピクシス先生の方から、エルヴィン先生の事情は伺っていました。だからこそ、自分はエルヴィン先生が自分とハンジ先生の事を応援してくれているものだと勝手に思っていました。僕とハンジ先生が付き合う方が、エルヴィン先生にとっては都合が良いと思っていましたし』

エルヴィン『それは世間的には難しい話ですよ』

モブリット『そういう話ではないと思います。あなたは本当に、心からリヴァイ先生とハンジ先生が結ばれることを望んでおられたんですか?』

エルヴィン『…………』

すぐに返事が出来なかった。モブリット先生は薄々気づいておられるようだ。

88進撃の名無し:2015/10/06(火) 23:02:25 ID:Rhe8Naj.0
モブリット『すみません。実は先程、ハンジ先生には直接、自分の気持ちを伝えました。望みは薄いかもしれませんが、伝えるなら今しかないと思いまして』

エルヴィン『そうですか』

モブリット『はい。ですので、エルヴィン先生のお気持ちはどうあれ、僕の方はやるべき事をするだけです。自分としては、エルヴィン先生もそうされるべきだと思いますけど』

エルヴィン『何を言われるんですか。ありえませんよ。そんな事は……』

モブリット『では自分の方から、リヴァイ先生に伝えましょうか?』

エルヴィン『止めて下さい。怒りますよ』

モブリット『怒られても構いませんよ。戦局を自分の有利に運ぶ為なら』

エルヴィン『…………』

モブリット『ターニングポイントだとは思いませんか? エルヴィン先生にとっても、僕にとっても』

エルヴィン『そうですね』

俺はモブリット先生をこれ以上、刺激しないように言った。

エルヴィン『分かりました。考えておきます。ですので、出来れば内密に』

モブリット『はい。良い報告をお待ちしていますよ。それでは』

モブリット先生はいつもより声が低かった。

内心は怒り狂っているのを抑え込んでいるのが伝わってきた。

無理もない。俺は結局、彼を犠牲にしたのだから。本人の承諾もなく。

考えておく、とは言ったが、俺としては伝える気なんて毛頭もなかった。

伝える気があるならとっくの昔にやっている。

それを今更、何を。

89進撃の名無し:2015/10/06(火) 23:19:48 ID:Rhe8Naj.0
文化祭はもうすぐ佳境に入る。

最後のバンド演奏まで時間があった俺は、とりあえず1人で休憩を入れる事にした。

食品ブースの空いた席に座って一人でミックスジュースを飲んでいると、そこに偶然、ミケとナナバ先生がやってきてたこ焼きを奢ってくれた。

ミケ『大分、疲れているようだな』

ナナバ『ハンジと連絡取れないんだけど、エルヴィンは知らない?』

エルヴィン『ハンジは今、モブリット先生と一緒にいるようだよ』

ナナバ『そうなんだ。それならいいけど……』

ミケ『ハンジが心配だ。思いつめていなければいいが』

エルヴィン『うん。ハンジは責任感の強い子だしね』

ナナバ『リヴァイの方は案外、大丈夫そうだったね』

エルヴィン『そうでもないよ。多分、舞台の事があったから持ち直しただけだろう』

ミケ『考えないで済むからか』

エルヴィン『そんな感じだろうね。むしろきついのは明日じゃないかな』

ナナバ『本当に、なんで2人はあんなに不器用なんだろうね』

エルヴィン『君達みたいに器用じゃないんだよ。婚約を隠しながら、フィーリングカップルに出るなんて事は出来ないさ』

実はこの時点で、ミケとナナバは既に付き合っている関係だった。

まだ籍は入れてないが、所謂婚約中という奴だったのだ。

舞台では全くそれを感じさせないのだから、2人とも役者だ。

90進撃の名無し:2015/10/06(火) 23:29:59 ID:Rhe8Naj.0
ミケ『ははっ……内心、バレないかひやひやしたがな』

ナナバ『わざと外すのって、結構難しいよね』

ミケ『リヴァイ先生もわざと外せば良かっただろうに』

ナナバ『それが出来る性格なら今、こんな事になってないでしょうが』

ミケ『それはそうだが……』

ナナバ『ハンジが戻ってきたら、後で話そうって言っておいてよ』

エルヴィン『ああ、了解。伝えておくよ』

そしてミケとナナバ先生は2人で去っていった。

残った俺は、今度はピクシス先生に捕まってしまった。

ピクシス『こっちにおったのか。エルヴィン先生』

エルヴィン『ピクシス先生……』

ピクシス『どうじゃ? 一杯』

エルヴィン『後夜祭はまだですよ。早過ぎませんか?』

ピクシス『飲まないとやってられんじゃろう。わしはやるせなくて仕方がない』

91進撃の名無し:2015/10/06(火) 23:57:34 ID:Rhe8Naj.0
ピクシス先生は自前のボトルをちびちび飲んでいる。

エルヴィン『うまくいかないもんですね。人生は』

ピクシス『全くじゃ。こうなったらもう、お主も動くしかなかろう』

エルヴィン『ん? 私がですか?』

ピクシス『そうじゃ。エルヴィン、お主も自分の思うままに行動するべき時が来たと、わしは思うぞ』

エルヴィン『ピクシス先生まで、何を言って……』

ピクシス『ん? 他に誰か、けしかけられたのか?』

エルヴィン『モブリット先生からも言われましたよ。でも私は彼に自分の気持ちを伝える気はありません』

ピクシス『それが正しい選択だと思っておるからか?』

エルヴィン『私はもう随分前からリヴァイとハンジを知っている。あの2人が幸せでいる姿を見守るだけでいいんですよ』

ピクシス『質問の答えになっとらんのう。まあ、わしは男に惚れた経験がないから分からんが本質的には同じじゃろう?』

エルヴィン『全然違いますよ。私は世間で言うところの変態だ』

ピクシス『ザックレー先生に比べたら可愛いもんじゃと思うがの……あ、今の発言はオフレコじゃぞ?』

エルヴィン『まあ、あの方は違った方向で変態ですけど』

ダリス・ザックレー先生が倒錯的な性癖の持ち主である事は一部の古株の先生達の中では暗黙の了解だった。

92進撃の名無し:2015/10/07(水) 00:13:19 ID:iUx1nZdk0
詳しい事はここでは割愛する。あまり詳しく説明したくはないからだ。

エルヴィン『話が逸れましたね。とにかく私は、祈るしかない』

ピクシス『2人が元の鞘に戻ることをか? 今回ばかりはちと難しいと思うぞ』

エルヴィン『今はまだ、お互いに頭の中が煩雑なだけですよ。時間がいずれ解決してくれますって』

ピクシス『わしはその言葉は余り好きではない。時間が全ての事を解決する訳じゃないからの』

エルヴィン『そうですか?』

ピクシス『年寄りの戯言と思うかもしれんが、その言葉を使うのはまだ早過ぎると思う。リヴァイであれ、ハンジであれ、お主であれ、まだ誰も、自身の本当の気持ちと向かい合っておらんだろうが』

エルヴィン『………………』

ピクシス『そういう意味ではモブリット先生が一番、まともに見えるぞ。勝ち目の薄い戦いに、それでも挑む姿勢は男らしい。お主らはいつまで同じ道を迷い続けるつもりだ』

エルヴィン『でも………』

ピクシス『関係を壊す事が怖いのは誰でも同じじゃぞ。そこに不平等はない。わしはリヴァイとハンジが結ばれる未来を応援しておったが、同時にエルヴィン、お主との未来でも良いと思っておる。この変則三角形をいい加減、どうにかしろといいたいのだ』

エルヴィン『変則三角形って……どんな図形ですか』

ピクシス『知らん。二等辺三角形なのか、正三角形なのか。わしにはどちらにも見えるから、何とも言えん』

エルヴィン『うーん……』

言葉に詰まってしまった。確かに図形で言えばどちらと言えばいいのか。

93進撃の名無し:2015/10/07(水) 00:23:33 ID:iUx1nZdk0
ピクシス『全く持ってつまらん。ええい、つまらん……』

エルヴィン『ピクシス先生、飲むペースが早いですよ』

ピクシス『お主らがグダグダするのが悪い』

そんなこんな感じで後はピクシス先生の機嫌を宥めながら飲んでいたら、後夜祭のアナウンスが始まってしまった。

グラウンドの方ではキャンプファイヤーの準備に追われている頃だろう。

文化委員の子達は毎年、ご苦労様だなと思いながら、たこ焼きを食べ終えた。

ピクシス先生と一緒にグラウンドの方に移動した。

酔っぱらったピクシス先生と話し込んでいると、エレンがミカサと共にこっちにやってきた。

エルヴィン『やあエレン。ミカサ。お疲れ様』

エレン『お疲れ様でした。あの、エルヴィン先生、この写真、どう思います?』

なんだろう? 突然。

写真を確認すると、リヴァイの面白い顔が。

ピクシス『いい写真じゃの!』

エルヴィン『どれどれ……ぷ! これは傑作だね。いつ撮ったの?』

エレン『文化祭1日目が終わって仕込みが終わった直後、リヴァイ先生と話す機会があったんで、その時に』

エルヴィン『いいねー。こういう顔が崩れたリヴァイは珍しい。画像くれる?』

エレン『あ、はい。それは勿論、いいんですけど。あの、エルヴィン先生から見たら、この画像をもし、ネット上で公開したら、どう思います?』

エルヴィン『ん? それはどういう意味かな?』

94進撃の名無し:2015/10/07(水) 00:25:23 ID:iUx1nZdk0
続きが遅くなりましたが、ぼちぼち再開します。
今回はここまで。次回またノシ

95進撃の名無し:2015/10/10(土) 20:30:19 ID:YtzjK9n60
エルヴィン視点があったのか!
気付いてなかった〜こっちも期待


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