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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2

355一六 ◆6/pMjwqUTk:2018/04/29(日) 13:07:27
「ゆかり。あんまりいちかを責めないで」
「シエル……」
 ゆかりが驚いたように闖入者の顔を見つめる。シエルはフッと表情を和らげると、驚いたようにこちらを見つめている仲間たちに視線を移した。
「昼間、スイーツを買いに来てくれた男の子が教えてくれたの。節分って、悪い鬼を追い出すイベントなんでしょう?」
「そうペコ……?」
 押し黙るリオとビブリーの隣で、ペコリンが不安そうに長老の顔を見上げる。
「だから、いちかはわたしたちのことを思って……」
「それは違うよ、シエル」

 さっきとは違う穏やかな声が、シエルの言葉を遮った。いちかが微笑を浮かべながら、今度はゆっくりとかぶりを振る。
「リオ君やビブリーは大丈夫だよ。もうこの街の仲間だもん」
「ペコ〜!」
 それを聞いて安心したのか、ペコリンの耳がぼうっと明るいピンク色に染まる。愛し気にその様子を見つめてから、いちかは地面に視線を落として、いつもより低い声で言った。
「でも……今日あの子たちに、キラパティで節分スイーツ作らないのか、って聞かれたでしょ? わたし、それ……作れる気がしないんだ」

――本当にバラバラの生き物が繋がる世界を作れると言うのなら、見てみたいものです。

 エリシオの言葉を思い出す。彼が初めて見せた静かな微笑みと共に、もう何度も何度もいちかの脳裏に蘇っている言葉だ。
 あの時キュアホイップは――いちかは、「任せて」とはっきりと答えた。その瞬間から、エリシオの言葉はいちかの中で、大切な約束になった。
 でも、節分の“鬼は外”という言葉は、その約束とはかけ離れたところにあるように思える。大昔から続いて来た、この国の伝統行事。いちか自身も、物心つく前から慣れ親しんできた行事だというのに……。

「……ごめんね。でも、このままにはしておけない、もっと多くのスイーツが消える前に何とかしなくちゃ、っていうのは分かってる。新作スイーツも、もう少し考えてみるよ」
 辺りがしんと静まり返ったのに気付いて、顔を上げたいちかは仲間たちを見回すと、少し寂しそうに笑った。


   ☆


 その夜。差し向かいで夕食を取っていた父の源一郎が、お茶をすすりながらこう言った。
「いちか。長い間早起きさせたが、寒稽古は今度の週末までだからな。来週からは、父の朝食を食べさせてやるぞ」
 源一郎は道場を構える武道家だ。冬場の寒稽古の期間は朝が早いので、その間はいちかがずっと朝食当番を務めるのが、宇佐美家では当たり前のことになっている。
 母のさとみが海外に赴任して、父一人子一人の生活になってもうすぐ二年。源一郎もいちかも、もうすっかり今の生活に馴染んでいた。

「そっか。まだ寒いのに、もう立春なんだね」
「ああ、暦の上のことだからな。寒稽古の最後の日は、節分だ。そろそろ豆まき用の豆を買って、道場の神棚にお供えしておかんとな」
「え……豆を、神棚に?」
「なんだ、知らんのか」
 ご飯を頬張りながら不思議そうに聞き返すいちかに、源一郎が、オホン、とわざとらしく咳払いをする。

「節分の豆は、邪気を祓うものだ。邪気とは、病気や災いをもたらす悪い“気”だな。家長が豆をまいて邪気を祓い、一家の幸せを願うのが、節分だ」
「そう言えば、うちではわたしが小さい頃も、お父さんが鬼のお面をかぶったりしなかったね」
「家長だからな。今は色々なやり方があるが、うちでは昔から、そうしている」
 そう言って、源一郎は得意そうにニヤリと笑った。

「誰が豆をまこうが、大事なのは皆の幸せを願う想いだ。昔の人は、「魔(ま)」を「滅(め)」っすると言って、その想いを豆に込めた。それを食べることで身を清め、「福」を願った。神棚に供えるのも、その想いからだな」
「お父さん、詳しいんだね」
「武道家の父をナメるなよ? 先人の志を尊び、己の魂に引き継ぐ。武道家の心得だ」
 重々しく言い放った源一郎が、箸を持ったままの右手の親指を、グイっと立ててみせる。そんな父に、もうっ! と口を尖らせてから、いちかはつやつやとしたご飯粒の表面を、じっと見つめた。


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