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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2

336一六 ◆6/pMjwqUTk:2018/01/21(日) 21:27:42
 ゴトン、と避難者の一人が椅子を取り落とす。そのまま床に崩れ落ちる者。言葉にならない悲鳴のような声を発する者――。
 やがて、さざ波のように部屋の中に広がったいくつもの声が、そこに突っ立ったままの少年の耳に入って来る。

「メビウス様だ……。とうとうメビウス様が復活した!」
「あの通達は、やっぱり本当だったのか……」
「私たちは、どうなってしまうの?」
「またメビウス様に、管理されるだけさ」
「い、嫌だ! 僕は、命令になんか……」
「そんなことを言っていられるのも今のうちだ」
「そうよ。私たちはきっと、制裁されるわ!」

「そんなことを言っていられるのも……今のうち……?」

 少年がまるで抑揚のない、間延びしたような声で呟く。
 仲間たちは皆モニターに釘付けになったまま、まるで金縛りにでもあったように動かない。そんな中、少年は重たいものを無理矢理動かすようなぎこちない動きで、ゆっくりと踵を返した。

「今のうち……。そうだ。俺に出来ることを……やりたいことをやるのは……今しかないんだ……」

 まだ半ば呆然とした頭の中に、さっき脳裏に浮かんだものが――ボロボロの戦闘服に身を包んだ傷だらけの少女の姿が浮かんだ。立っているのがやっとのように見えたのに、一緒に来ることを頑として拒んだ赤い瞳。その瞳に宿っていた強い光も、まるで霧の向こうで輝いているように、ぼんやりと浮かび上がる。
 その光に導かれるように、その姿を追いかけるように、少年の足取りは次第に確かなものになり、歩調も少しずつ速くなっていく。

 無理矢理にでも連れて来れば良かった――ここへ来る途中、何度もそう思った。あんな状態で手当てもせずに戦場に居て、大丈夫なはずがない。だが本人があそこまで嫌がっているのだから……そんな言い訳で納得しようとして、でもやっぱり放っておけなくて。

(今、俺がやりたいこと……。あいつに会って、言ってやりたい。無茶をするなって。ウエスターさんが、お前を心配してるって。それに、俺も……)

 やがて少年は、さっき出来たばかりのバリケードに辿り着いた。扉の前に立てかけてあるのは、仲間たちが三人がかりで運んだ大きなテーブル。それに無造作に手をかけると、少年はグッとその手に力を込めた。

「ぐうっっっ!!」

 喉の奥で、押し殺した叫びが上がる。それと同時に、カッと胸の中が熱くなった。
 悔しさなのか、怒りなのか、それともヤケになっているだけなのか――自分でも正体の分からないその熱がエネルギーになって、さっきまでやっと動いていた身体にようやく力が湧いて来る。
 ダーン、という大きな音と共に、テーブルが横倒しになる。その響きに、モニターの前に居た仲間たちや避難者たちが、呪縛が解かれた様に一斉に振り返った。
 少年はそちらを見ようともせずにテーブルを軽々と跳び越えると、扉を開けるのももどかしく外に飛び出した。

 少年が飛び出すと同時に、今出て来たばかりの建物が変化し始めた。破れた窓は元に戻り、壁は黒々としたメタリックな色調に変わる。だが少年には、それに気付く余裕は無かった。
 外へ出た途端、立っているのもやっとなほどの強風に襲われて、やっとのことで踏み止まる。少年は、目を閉じてもう一度少女の姿を思い浮かべてから、ゆっくりと細く目を開けた。身体を屈めるようにして、少女が居るはずの場所――さっき出て来た警察組織の建物の方向に向かって、一歩一歩、じりじりと前進を始める。
 空の高いところには、メビウスの巨大な姿がある。だが、地を這うようにして吹き荒ぶ強風と戦っている少年には、その姿は全く見えていなかった。


   ☆


「我がラビリンスの国民たちよ! もう心配は要らん。私が再び皆を管理してやる。そうすれば、もう二度とこのような突然の不幸に巻き込まれることもない。皆はただ、私に従っていればいいのだ」
 巨大モニターからメビウスの声が響く。重厚で威厳に満ちたその声は、以前と少しも変わることはない。
 臣下の礼をとったまま、満足げな表情でそれを聞いていた少女は、メビウスの言葉が終わらぬうちに再び空中へと跳び上がった三つの影を見て、不快そうに眉根を寄せた。

「はぁぁっ!」
「たぁぁっ!」
「どぉりゃぁっ!」
 鋭い雄叫びが響くと同時に、空の様子が一変する。張り巡らされていた無数のコードはことごとく切り落とされ、後にはどんよりと空を覆う黒雲だけが残された。


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