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デジモン02 回るメリーゴーランド

1みけ:2008/10/03(金) 01:10:51
初めまして。
みなさんの見てたら自分も書いてみたくなっちゃって、初めてですが書いてみます。

うまく続けられるかわかりませんが、頑張りますのでよろしくおねがいします。

2みけ:2008/10/03(金) 01:40:07
ミーンミーンミーンーーーーーーーーーーーーー



カリカリカリ.........



......


「ぁー...やっぱり俺には無理だあ」



ぽーいとシャーペンを放り出して、太一は問題集の上につっぷした。

「まだ1冊も終わってないんでしょー??受験生なんだからちょっとは勉強しなさいよ〜」

「母さんがこんなに買ってくるから、まじめな俺だってへこたれるんじゃないか」

タンタンと昼食の用意をしながら顔をあげずになだめる母をよそに、太一はだれたまま答える。なにがまじめよ、とつぶやく母。

「せめてなー光子朗がいてくれたらなー」


リンリンと軽く風鈴がなる音がする。
「おうちに呼んだらいいじゃないの」
「光子朗さんちは今旅行中」

カラカラとコップに氷入りの麦茶を注ぎながらヒカリが答える。リビングの机は兄が占領しているため、出来た妹は自室で宿題を終わらせていたのだ。

「..母さーんうちもどっか行こうよ〜」
「またそんな事言って〜。早く終わらしちゃいなさい」

がっくり、と机から落ちそうになっている太一の前に笑いながらヒカリがコップを置く。

3みけ:2008/10/03(金) 02:06:22
「光子朗、これなんかお友達にいいんじゃない??」




にこにことたぬきの人形を片手にもつ母に、光子朗もははは、と笑顔を返す。別にお菓子とかでいいと思うんだけど..




初めての家族旅行も、今日で遂に終わりを告げる。中学生になったにも関わらず、未だに家族と話すとき少しはにかんでしまう光子朗にとっては、大冒険の4泊5日の旅だった。
普通に旅行を楽しめていた泉家だったが、このお土産やさんにくるまでの道が悪かったため、母以外は軽くバス酔いしてしまっていたのだ。



「少し顔色が悪いわよ、お父さんと一緒に入り口のベンチに座ってたら??」


「いや、僕は大丈夫だよお母さん」


さっきからひきつった笑顔をキープしている息子が心配だ。どうも無理をしていると思った母は、気を使わなくていいからと息子の背中を軽く押した。



「...じゃぁ、お言葉に甘えて少し外の空気を吸ってきます..」



足を引きずるようにして売り場を去る光子朗を見て、母は微笑んだ。
自分を一人にしないように気を使っていた息子の気持ちも嬉しいし、そんな息子をさらに気遣え、休ませる事に成功した自分の事も、ほめたいくらいだ。

今回旅行の話を持ちかけて本当によかった..



手にしたたぬきを撫でながら思う。
考え事に気がいっていたせいで、店の自動ドアを開いて出て行く光子朗の姿を目に焼き付けなかった事を彼女が後悔するのは、その3時間後のバスの集合時間の事だった。

4みけ:2008/10/03(金) 03:28:12
八神家の電話が鳴った。

「はい、八神です」



『ヒカリちゃんか!?お、俺!!ヤマトだけど!!太一いる!?』





いつもは冷静なヤマトさんなのに、と首をかしげながらおにいちゃーんと呼ぶ。







「太一、太一か!?」


『何だよいきなり〜こっちは受験でいそがしーんだよ..』



よかった..駅のホームで携帯電話を片手にギターを背負った少年はため息をついた。
しかし落ち着いている場合じゃない。
隣で肩をふるわせている女性とそれを支える男性にちらと目をやると、再び少年は口を開いた。


「いいか、落ち着いて、よく聞けよ!!今俺東京駅にいるんだけどな、さっき、光子朗のご両親に会ってだな..」


『お!!何だ光子朗の奴帰ってきたのか??遅かったなぁ〜今朝ちょうど丈を呼んでさぁ..』


「....いなくなったそうだ」


『は??』


『一昨日、旅行先で光子朗がいなくなったんだよ!!!!』








ぁぁぁ!!と受話器の向こうでしゃくりあげる女の人の声が聞こえる。



「光子朗がいなくなった??」



口に出してみたところで全然現実味が足りない。妹や勉強をはかどらせようと呼んだ眼鏡の青年が怪訝そうに眉を寄せるだけだ。


パニックになりそうだ、でもヤマトだって光子朗の両親だって混乱してるに違いない。
俺が取り乱しちゃいけない。





そう心を落ち着かせると、今度は真剣な声で友人に話しかけた


「いなくなったって、何かあったのか??」

『俺もくわしくは聞いていないんだけど、土産やで外の空気を吸いにいくと言ったきり、戻ってこなかったそうだ。お母さんはデジタルワールドに行ったんじゃないかって言ってる』

「デジタルワールドにか??」

『ああ、でも俺はどうかと思ってる。旅行中光子朗のパソコンは、ずっとお母さんが持ってたらしいんだ。家族の時間を大事に出来るようにって..』

「そう、か..でもヒカリみたいにゲートを通らずに行くケースもあるし、一応みんなに連絡しておくな」

『頼む。あと親父に、ちょっと遅くなるから晩飯先食っとけって言っといてくれ』




カシャン。

ふと横を見ると、ヒカリが心配そうに太一の顔をうかがっていた。

「お兄ちゃん..」

「太一、何かあったのか??」


丈を呼んどいてよかったな。普段1番連絡がつきにくい奴だし、みんなに連絡付けるのに一役かってくれるだろう。


D3を目で探しながら、太一は話し始めた。

5みけ:2008/10/03(金) 07:48:43
*訂正*


4こめの最後のところ

×D3を目で探しながら
○Dターミナルを目で探しながら


です。寝ぼけちゃっててすいません;

6みけ:2008/10/03(金) 08:12:36








2日前ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






















「どこだろう、ここ..」




ぼーっとしながら歩いてきたせいか、近くの森に入ってきてしまったみたいだ。
早く戻らないと、お父さんとお母さんが心配する。



立ち止まって、赤い短髪の少年はジーパンのポケットから携帯電話を取りだす。最近のはGPS機能もついていて、光子朗のは周辺の地図まで出せるようになっている。
慎重な彼は、念のため旅行先の地図も何枚かインプットしておいたのだ。



ツールを開こうと、目の前に画面を持ってきて操作する。


ふと機械の向こうの木漏れ日から覗く丸いものに気づいた。



「かん、らんしゃ..??どうしてこんなところに....」




大きさから察するに、ここからそう遠いところではないみたいだ。



どうしてさっきまで気がつかなかったんだろうと訝りながら、ひとがいるかもしれないとひとまず電話をポケットにしまう。


電池があと少ししかなかったので、節約しておきたいのだ。



ポサッと物を落とす小さな音がしたのだが、光子朗は気がつかない。



何だかあの古そうな遊園地に惹かれているのだ。



何か大事なものがあるような気がする、そんな気さえした。










回りに誰かいれば、彼の夢見るような表情から異変を感じて警告してやる事が出来たのだが、運の悪い事に距離的には1番近いところにいる彼の父親は、乗り物酔いでトイレにこもってしまっていたのである。

7みけ:2008/10/03(金) 08:33:10
森の中を歩き続けると、間もなくして空が開けてきて、目の前にいきなり遊園地が広がった。




さっき見たときは心なしかおんぼろのイメージがあったのだが、見間違いだったようだ。どのアトラクションもペンキぬりたてと言ったようにつやつやとしている。



人が全くいないのが少し気になるが、光子朗は別の事で頭がいっぱいだった。





遊園地...


泉光子朗としては、一度も親と来た事はない。


でも、一度だけ。


本当に小さかったとき、家族で来たことがあるんだ。
両手とも2人につながれて、跳ぶように歩いた。


「本当の、お父さんとお母さんと....」





ふらふらと、夢遊病にかかったようにただ遊園地の奥に入っていく光子朗。



こうしてひとりの少年を飲み込むと、その遊園地はデータのように分解しながら元通りかき消えたのだった。

8輝竜:2008/10/03(金) 17:42:58
初めまして、みけさん!!
『DIGIMON ULTIMATE WORLD』と『紅に染まる世界』を書いている輝竜といいます!!
……本当に、初めてですよね?にしてはとても読みやすいし……話も面白いし……。
まあ、それはいいとして。では、感想の方に移りたいと思います。


家で受験の為に勉強をしていた太一に、ヤマトからの電話が。
その内容は……、光子朗が消えた!?
ぼーっとしていたため森の中に入ってしまった光子朗を待っていたのは、一台の観覧車。
それに惹かれた光子朗がその中に入った瞬間、観覧車は消えてしまう。
って、おおい!!光子朗がいなくなったら誰も分析などをしてくれる人が……相当やばいですよ、これは。
消えた観覧車は一体……そして、光子朗はどうなってしまったのか!?
続きが気になります。次回も頑張ってください、みけさん!!

9みけ:2008/10/03(金) 18:24:47













さほど広くはない一室に、7人の子供達と4匹のぬいぐるみ達が輪になって座っている。何人かは隅にある二段ベッドの一段目を使っているので、意外に窮屈さは感じない。


夏休みにこんな人数が集まっているのだから、何か遊びに行く計画でも立てているのだろう。そのわりにさっきおやつを持って行ったとき、みんな真剣な面持ちをしていたけど、何だったのかしら。


まぁいいわ、と八神家の母はバッグを手に持ち、買い物に行くことにした。





パタンと玄関のしまる音がすると、ふっと息をついて太一が切り出した。



「みんなよく集まってくれた。事情はメールした通り..で、例のパソコンがこれだ」



取り出された黄色のノートパソコンを見て、明るい髪の活発そうな女の子がため息をつく。

それを受けて、眼鏡をいじりながら落ち着かなげに丈が話す。


「確かに光子朗の物だよ。僕と太一で調べたんだけど、特に気になる情報はなかった..当然だよね、光子朗、これ持って行かなかったんだから」



「じゃぁ何でそんな物出してきたんだよっ!!パソコンなんかよりとにかくこれからの事をっ!!」


「話を最後まで聞け、大輔!!」


しょんぼりと今突き出した頭を二段ベッドの下に戻す大輔の肩を、苦笑を浮かべながらぽんと長髪の少年が叩いた。


気を取り直して丈。
「でも一つだけ引っかかる事実があったんだよ」


パソコンの電源を入れて、キーボードを叩く。


「光子朗は、自分のデジヴァイスを特定して、その位置が分かるようなプログラムを組んでたんだ。でも..」


ピーッピーッとエラーの音が鳴る。やっぱりか、と丈は首を振る。


「信じられないけど、今光子朗のデジヴァイスはこのプログラムに分かる範囲以内、つまりリアルワールドにはないんだ。」


「やっぱり、デジタルワールドに..??」


帽子の下から覗かせた蒼い目を光らせながら、タケルが口を開く。


「そう思って、京ちゃんにアグモン達とデジタルワールドを捜索してもらってる。テントモンもあっちから探してるから、リアルワールドの方は俺達で調べよう」


太一がしゃべっている間、丈はパソコンの画面をリアルワールドの地図に切り替える。


「今ヤマトとイオリが光子朗のご両親と一緒に現地に向かってる」


「えーーー!!何でイオリが!!??」(賢とチビモンに押さえられながら大輔)


「ったくいちいちうるさいやつだなー」


「イオリくんは、剣道の合宿で偶然近くにいたみたいなの」


「家に帰るところをそのままツノモンとアルマジモンと合流して、向かってくれたんだよ」


面倒くさくて頭をかく太一の代わりに、ヒカリとタケルが答える。二人の有無をいわさぬ雰囲気に、うう..と再び引っ込む大輔。

10みけ:2008/10/03(金) 18:25:57

「では、僕達はどうしましょうか」


大輔の背中を支えながら、賢が話を元に戻す。


「それなんだけど、警察も動いてるらしいから、現地は2人だけでいいんじゃないかと思うんだ。」


丈がパソコンの画面上をマウスで示す。


「やっぱり今の時点では、光子朗はデジタルワールドに行ってる可能性が高い。だから京ちゃん達と合流する人が二人。


他にも連絡役や、現地からの通信を受ける人がいるだろうから、それも二人。


あと..これは一番大変かもしれないんだけど..」


最近の丈には珍しく、言葉に詰まっている。なんだよ、と太一もその話はきいていないという顔で丈を見る。


「ふっふっふ〜..何だよ丈さん、水くさいぜ♪そーゆー事こそ俺達に任してくんなきゃ、なーチビモン!!」


「そうそうっ!!俺達に出来ない事はなーい」

「ぁ、本当かい??そう言ってくれると助かるよ〜どうしようかと思ってたんだ」


「一体なんなんだよ丈??」


「実はミミくんからメールが来ててさ、ほっといたら飛行機で日本に来ちゃいそうな勢いだから、一応アメリカの方からデジタルワールド捜索を頼んでおいたんだけど..」


嫌な予感で汗まみれになる大輔とチビモンをよそに、丈はミミからのメール画面を出す。


「いくらミミくんでも、成果が出る訳ないってキレちゃいそうなんだ。だからその手伝いに、一人」


「なぁーーにが手伝いだっ!!」
「そんなの、生け贄だっ!!」


騒ぎ出す勇気のデジメンタル保持者達。にひひ、ばかな奴らとこっそりにやける勇気の紋章保持者。


「残りの二人はどうするんです??先輩」


慣れた様子で話を進めようとする空。


「とりあえず待機かな、何かあったときのための助っ人役。まあおやつが減ってないと太一のお母さんも怪しむだろうから、しばらくは食べる係になってもらうと思うけど」


「えーと、やっぱり俺達そっちがいいかなーなんて..」


「何だお前たち情けないぞ。光子朗が大変な目にあってるって言うのに、そんな態度で言い訳ないだろう!!」


大輔達を叱る幼なじみを横目にしながら、空が決定打を放った。


「じゃぁミミちゃんとこには大輔と太一に行ってもらいましょ」


「ええええ!!??」


のけぞるリーダーを尻目に、空が淡々と続ける。


「だっておやつを食べるのに二人もいらないもの。デジモン達のお腹の分もあるんだし」


「それもそうね」

「さんせーーい♪」


テイルモンとパタモンも空に笑顔を送る。


「よし、じゃぁ僕とヒカリちゃんで連絡役をしよう」


「そうしよっか」


「じゃぁ私と丈先輩で京ちゃんを手伝いましょう。賢君は助っ人になってもらってもいい??」


「わかりました」


「わりとすんなり決まったな。それじゃぁみんな、動いてくれ!!」


丈が解散!!と言うように会議を締めると、それぞれが動き出した。
うなだれる2人と一匹を残して....

11みけ:2008/10/03(金) 18:33:35
輝竜さん、コメントありがとうございます!!


何か他の作者さん達みたいに、こんな風に次回予告みたいにしてもらえて感激です。

デジモン小さいときから見ててすごく好きだったので、この掲示板見つけたとき嬉しくて、皆さんのたくさん読ませていただきました。輝竜さんのも、ぜひ読ませて頂きますね^^


物語書くなんて小学生のとき以来なのでうまくいくか分かりませんが、ほめていただいて嬉しいので、頑張ります!!(笑)

12優飛:2008/10/03(金) 18:45:16
はじめまして、みけさん!
ここの掲示板で『デジモンアドベンチャー02next〜Link of Crest〜』と『デジモンフロンティアVISIONS〜the Last Spirit〜』という小説を書いてます、優飛といいます。
はじめてだとは思えない文章のうまさ、ストーリー性に、あっという間に引き込まれてしまいましたよ!
では、早速感想を述べさせていただきたいと思います!!


平凡な夏休みに発生した事件。
光子郎が消えた!?
悲しみに肩を震わせる泉家の両親、驚きと混乱の中、捜索を開始する子ども達…。
果たして、光子郎の行方と、その安否は?彼が見た遊園地とは?そして、子ども達は彼を見つけ出せるのか!?


続き、すごく気になります!
応援してますので、次回も頑張ってくださいね!!

13みけ:2008/10/03(金) 19:54:07


ーーーーーーーーーーーーーーと、その時。




「どこがすんなりなんだよ..ヒカリちゃんとタケルまで一緒だってのに....」

「俺だってデジモンなのに一人だけおやつぬき....」


「♪〜チャッチャララーチャラララララチャッチャララー〜♪」



「....ヤマトだ!!!!」



バッと母から急遽借りた携帯に飛び付く太一。


ピッ


『太一か??』


「俺だ。そっちはどうなってる??」


『イオリ達と合流して、例のお土産やさんについたとこだ。警察が探してくれてるみたいだが、森の中に誰かが入った痕跡はあるものの、途中で途切れてるらしいんだ』


「途切れてる!?それほんとに光子朗なのかよ??」


『たぶんな。充電切れの光子朗の携帯が落ちてたそうだ』


どういう事だ..??光子朗の奴どこへ行ったんだろう...
考え込む太一に、ヤマトがもう一度口を開く。


『とにかく俺達も森の中に向かってる。警察はもう別の方針で捜査してるらしいから、調べるにはいい機会だしな』


「ああ....何だよ別の方針て」


『..家出、かな』


光子朗さんがそんな事する訳ありません!!と高い声がとんだ。はは、と受話器を通した二人が思わず笑みをこぼすと、太一が気になっていた事をたずねる。


「...ご両親の様子はどうだ??」


『家出なんて言われてショックだったと思うけど、そこはやっぱり光子朗の親だよ。私達は息子を信じます、ってしっかり構えてたぜ』


「そうか..そこにいるのか??」


『いや、ずっと寝ないで心配してたから疲れてると思って、店で待っててもらってる』


やっぱりヤマトは優しいね、と穏やかな声がする。うるさいぞと返すヤマトを太一もひやかしていると、いきなり太一の携帯が取り上げられた。


「おいイオリッ!!お前そこにいるんだろ!?さぼらずちゃんと働けよな!!」


『....大輔さんじゃないんですから、当たり前の事を言わないでください』


「てんめー言わせておけば生意気な〜」


「おい大輔何すんだよ!!」


携帯電話を取り合う二人を見つめてはぁーとため息をつくヒカリとタケル。連絡役の意味は果たしてあったのだろうか....





ピピピピピピピピピピピ

「あっあの、太一さんこれ!!」


パソコンの異変に気づいた賢が画面を指差す。光子朗のデジヴァイスの位置が突然表示されたのだ。


「これ..土産物屋の前の森じゃないか!!おいイオリ!!その辺に何かないか!?」


慌てて携帯に向かって怒鳴る太一。


だが応答したのはピーーーーという通話の終了を表す機械音だけだった。

14みけ:2008/10/03(金) 20:00:26
優飛さん、ありがとうございます!!



ほめられ続きでうれしい限りです^^
実は昨日今日と風邪で学校休んでて、そのおかげで色々浮かんできたので、頑張って書いていきたいと思います!!笑゛
優飛のお話もぜひ読ませていただきたいと思います*

次も頑張りますっ!!

15みけ:2008/10/03(金) 22:24:02





「.....あれ??大輔さーん??」


おかしいな、大騒ぎしていると思ったら突然切れてしまった。
首をかしげて電話を耳から外してみると、画面は真っ暗になっている。


「イオリー、そいつ、壊れちまったのか??」

「いや、そんな事は....」


黄色い甲羅を背負ったようなデジモンは、自分も機械を調べようとして背伸びをする。イオリの方も電源を入れようとボタンを何度も押しているのだが、画面が明るくなる気配はない。電池はコンビニで買った充電器を使って満タンにしてきたとヤマトさんは言ってたはずだけど....


「お、おいイオリ」


思わず肩をすくませて返事をする。


「は、はいっすいません!!僕ヤマトさんの物壊してしまったかもしれません!!」


「あのさ....あんなもの、あったっけ」


「え??」


まるで聞いていない若干震えたヤマトの声に、イオリは思わず顔をあげた。


木々の隙間から見える、こんな場所には場違いなもの。真新しい娯楽施設が、いきなり広がっていた。



「なかったよなぁツノモン??さすがにあんなのあったら、もっと前に気づいてるよな??」

「うーん..でもまぁ実際目の前にあるからなぁ..」


動きがぎくしゃくしているヤマトに合わせてこの光景を否定してやりたいが、いくら気の利くツノモンでも難しい注文だ。それに何だか体がむずむずする。


ピカッとツノモンの体が光ると、毛皮を被った優しげなデジモンに姿を変えていた。


「ど、どうしたガブモン??」


「分かんない..急に体がむずむずして..」


いきなり現れた目の前の建物、その直後に進化したガブモン、使えなくなった電子機器.....
一人考えを巡らせていたイオリは、合宿所からそのまま持ってきた竹刀を構え直した。


「....やはり、光子朗さんの行方不明にはデジモンが関わっているとみて、間違いなさそうです」


アルマジモンもその横で身構える。


「この中に光子朗がいるんだぎゃ??」


「たぶんね。行ってみよう!」



スタスタと遊園地に向かって歩き出したイオリとアルマジモンを見て、ハッとヤマトも我に返る。


「あっおい待てよ二人とも!!まずは皆に連絡を..」

慌ててDターミナルを取り出しメールを打ちながら、二人を止めようと走り出すヤマト。
久しぶりなので、ガブモンが走るのがあまり得意でない事を忘れてズンズン走っていく。

「うわーー置いてかないでよヤーマトー!!」


いそいそと少し遅れて駆け出すガブモン。
そのせいで信じられない光景を目にする。








イオリ、アルマジモンがさっさと遊園地の門をくぐり、その後からヤマトが走って門を抜けたそのとき、ザザザとノイズが走り、二人と一匹を取り込んだまま消え去ってしまったのだ。





「うそだろ.......ヤマトーーーーー!!!!!!!!」








残されたのは今までと変わらず続く鬱蒼とした森と、パートナーを見失った小さなデジモン一匹のみだった。

16みけ:2008/10/04(土) 00:34:54






見慣れた教室。白いコンピューターが列をなして並ぶ机の一つに向かい、紫色の長い髪に帽子をかぶった眼鏡の少女が、画面に集中しながら右手でひたすらマウスを動かしていた。


彼女の忙しい手の横には、同じく画面を真剣に見つめているヘッドフォンをした小鳥のようなデジモンがいる。
実のところ彼は、誰かがデジタルワールドから交信してこない限り手持ち無沙汰のはずなのだが、珍しく自分のパートナーが長時間に渡って真面目に作業しているので、自分だけ遊んでいるのはよくないと思い、とりあえず自分も画面を凝視している事にしたのだ。



しかしかれこれ3時間も彼女はコンピューターと格闘しているので、そろそろ自分も画面から目を離したいところだと考え始めていた。



「....ふあーあ、いー加減休憩とるかー」


ググッと京は3時間ぶりに伸びをした。ホークモンも助かった..と言うように椅子から身を投げ、隣の机にコンビニのかんぴょう巻きを取りに行く。


「それにしても頑張りましたねぇ京さん!!もう半分のエリアは目を通したんじゃないですか??」

ガサガサと京の食べる物もビニール袋から取り出しながら、ホークモンはいたわるように声をかける。


「まだまだよー。他のデジモン達からも連絡ないし。ヤマトさん達からも連絡切れちゃってるみたいだし」


ぁーもう何だってのよ!!と京は机を思いっきり蹴る。そのためローラー式の椅子は、反動でカラカラと後ろに下がった。


「本当はあたしだって探しに行きたいのに。だって大事な先輩なのよ??ここまでパソコンについてくわしくなれたのだって、泉先輩のおかげなのよ??」


何だか涙が出そうになっている京のためにおにぎりのパッケージをむきながら、うんうんとうなづくホークモン。


「....なのに」


ボロボロと眼鏡の奥から水滴がこぼれる。


「あたしがパソコン強いからって、今回もデジタルワールドの捜索なんて作業任せることないじゃなーーい!!あたしだって現地に行きたーーい!!!!泉先輩をこの手で探したーーい!!!!!!」


うえええと湧き上がる悔しさに耐えきれず、大声で泣き出す京。
とりあえず食べ物を机に置き、ホークモンは黙って腕を組んだ。


「....京さんの言う事も、一理あります!」

「へ??」


「いつもいつも京さんばかりこの部屋で頑張っているのは、不公平です!!」


カッと瞳を開くホークモンの言葉には、普段以上の力が感じられた。


「確かに光子朗さんがいない今、コンピューターに強い京さんは皆さんにとってなくてはならない存在。しかーーしぃ!!」


ポンっと片足と片羽(?)を前に突き出し、歌舞伎役者が決めぜりふを放つように雄々しくそのデジモンは言い放つ。


「誰にも京さんの行動を決める権利はないっ!!個人のする事は、その個人にしか決定する権限を有さないのです!!!!だからして、京さんの行為は京さんの希望にそってしかるもの!!!!
さぁ〜京さんっ!!このホークモン、あなたの選ぶ道がいかなるものであろうとも、どこまでもついていく所存であります!!!!」


サッと身を翻し、役者は床に片手をつき、頭を伏せ、彼の一芸を満足げにやり終えた。











.............

静まり返るコンピュータールーム。頭を上げないホークモン。


何とか京は言葉を絞り出した。






「....あんた、それどこで覚えたのよ」


「....京さんのうちの、テレビでやってました」


「...........」

17みけ:2008/10/04(土) 01:02:33
「.....ぁははは、そうだよね、あたしの事はあたしが決めるべきなのよね」



ほんとにあたしって幸せ者よね、こんなに一生懸命考えてくれる友達がいて、と目の前で困惑した様子の鳥型デジモンを見やる。




とは言ってもなぁ、空さんと丈さんはデジタルワールドに行っちゃったし、現地にはタケルくんとヒカリちゃんが飛び出してっちゃったみたいだし。


これであたしまで好き勝手したら、太一さんちで頑張ってる賢君や太一さんに申し訳ないわよね。


そうよ、あたしがこっちで頑張るからこそ、他の皆が動けて、それが結果的に光子朗さんを助けることにつながるんだわ!!



そう!!選ばれし子供は、みんなでひとつ。





「京、さん..??どうしました??」


急に黙ってしまった京を不安そうに見つめるホークモン。もしかして私の行動は、逆に彼女を落ち込ませてしまったんじゃないだろうか....



そんなホークモンを見て、京は特大スマイルを浮かべてみせる。


「何でもないわ。やっぱりここで一緒に頑張ろう、ホークモン!!


さっ、パッパと食べて、チャッチャと残りのエリアも終わらしちゃうわよ!!」




言葉通りすぐに横のかんぴょう巻きを口に頬張る京。ほんとにホークモンがパートナーでよかった♪




「ぁ。それ....私のかんぴょう巻き。」


この時間帯で一番平和な二人の一時だった。

18みけ:2008/10/04(土) 02:13:17




ミーンミーンミーンーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





カリカリカリ............




「だあー!!何でこの緊急事態に勉強してなきゃいけないんだよ!!」


ぽーいと床にシャーペンを投げ捨てて、太一はおなじみのうつ伏せポーズをとる。


ヤマト達からの連絡がとぎれた後、タケルはいてもたってもいられず八神家を飛び出してしまい、ヒカリもパタモン達と急いで後を追った。
太一も現地に向かおうとマンションの階段を駆け下りたのだが、門のところで買い物帰りの母に出くわしてしまったのだ。



その約10分後、太一は八神家に連れ戻されたのである。


当然、ミミのところへは嫌がる大輔とチビモンが使わされ、賢は思わぬ助っ人になってしまったのだ。





「こんなんで集中できるわけ、ないじゃんかよ」


ポロリともっともな愚痴をこぼす太一の向かいでは、赤ペンを持った賢が真顔で会話を拾う。


「でも高校受験でこれしか勉強してないのって、確かにまずいんじゃ..」


「そうだよ!!太一さっきから賢ちゃんに教わってばっかりじゃないか!!」


「うるせー!!中3てのは勉強以外にもそれなりに忙しいもんなんだよ!!」


小さな緑の虫のようなデジモンの口を引っ張る太一達の悶着を耳にしながら、賢は遠い目で窓から見える電車が走るのを眺めていた。



















ガタンゴトンガタンゴトンーーーーーーーーー




「................」






「....................タケル」






窓の外をいらいらと眺めたまま、金髪に白い帽子をかぶった少年は沈黙を決め込んでいる。

かばんの中から声をかけた黄色い大きな羽をした彼のパートナーは、はぁーと一つため息をつく。


「仕方ないわよ、今はそっとしといてあげよう??」


少年の向かいに座っている短い髪の可愛らしい少女が囁く。彼女が抱いている猫のぬいぐるみの尻尾も、こっそりと黄色い動物の背中をポンと叩く。


ヒカリが目を上げると、タケルの蒼い目が落ち着かなそうにパタモンとヒカリ達を交互に見ている。ヒカリがいいのよ、と言うように微笑を浮かべると、タケルは帽子を引き下げ、八神家を出てから初めて口を開いた。


「ごめん、付いて来させちゃって。じっとしてられなかったんだ」


「そんなの言わなくったって分かってる。ヤマト達が心配なのよね」


テイルモンが低い声で答える。
ヒカリの横のかばんがゴソゴソと動き、ドサリと座席の下に落ちるとモゾモゾと斜め向かいの座席まで移動した。


タケルはそれを持ち上げて膝の上に乗せる。

「ごめんな、パタモン」


「何言ってるんだよ、僕達、パートナーじゃないか。前にも言ったでしょ。僕はタケルについていくだけっ」


クリクリと煌めく瞳をかばんの中から覗かせた相棒を、ギュッと抱きしめると、タケルは向かいでニコニコしている少女に目を向けた。



「ありがとう、ヒカリちゃん」



「どういたしまして。」



慌ててテイルモンが尻尾を振る。


「二人とも!!もう着いたみたいよ!!」

19みけ:2008/10/04(土) 03:27:24




パパーーーーーンーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






















今、電車が駅を通り過ぎる音がした。


「する訳ないよ、この辺は電車は通っていないんだよ」


でも、確かにしたんだ。ほんとだよ、お父さん。


「さ、次はどれに乗ろうか??」


どれでもいいや、お父さんとお母さんと一緒なら。


「じゃぁ、お化け屋敷、入ってみようか」


いいよ。僕は怖がらないって、お母さんも知ってるじゃない。


「どうかな〜??光子朗にだって、怖いものはあるでしょう??」


それはもちろん。でも二人と手をつないでいれば、お化け屋敷には僕の怖いものは出てこないよ。


絶対に。


「試してみようか??」


僕の方こそ、お父さんとお母さんを試してあげる。


でも約束だよ、絶対に手を離さないでね。

あと一番最後には、あのお馬さんに乗せてね。あの赤いお馬さん、きっと僕が行くのを楽しみにしてると思うんだ。


「いいよ、約束するよ、光子朗」







ピピピピ、ピピピピーーーーーーーーーーーー



こんな所で、目覚ましの音なんて。



「さあ行こう、光子朗」

























光子朗のズボンのベルトに下がったデジヴァイスが、点滅して音を立てている。画面には2つの点が表示されている。


でも光子朗は目覚めない。


彼はまだ、遊園地の中を手を引かれながら飛び回っていた。

20みけ:2008/10/04(土) 18:19:12



同時刻、デジタルワールドーーーーー





大輔とブイモンは、なぜか灼熱の太陽にジリジリと焼かれながら、延々と広がる砂漠に立っていた。


「「あーーーーぢいーーー」」


ゴーグルの辺りにたまっている滝のような汗をふるい落とすと、ツンツン頭の少年は先輩から譲り受けた品をパコッと両目にあてた。

隣で舌を出してヒィヒィ言っている青い友達の背中を、スローモーションでゼェゼェ言いながら、強く押す。


「ーーーブイモぉーーーン」


「ーーーなぁーにぃー??」


「ーーーしっかり、しろぉーーーー」


大輔の方がやばいんじゃないのー??と何とか返事をしながら、とにかくブイモンは健気に前に進もうとする。


ーーーーしかしなぜか進まない。


「いー加減にしろよぉ大輔ぇー....」


それもそのはず、彼の青い尻尾にしがみついている相棒が目に入った。普段は威勢良く先陣を切るこの少年も、暑さには弱いらしい。


「何でデジタルワールドにこんな砂漠があるんだぁぁ」


「俺に聞かないでくれよー」


こらーーーと遠くから高い怒声がとぶ。大輔には顔をあげる気力もない。







コォォォ....と砂原を通り抜ける風に乗せて、ブゥゥゥと薄っぺらい羽音が近づいてくるのが聞こえる。





「もー頼みますわお二人さん!!光子朗はんの命運はあんたがたにかかっとるんでっせ!!」


ようやく大輔が砂まみれの顔を上げると、暗いゴーグルを通して、触覚を振り乱して自分を急かす昆虫型デジモンが見えた。


「第一何でお前がミミさんといるんだよ〜..」

「あんさんらが来るのが遅いからですわ!!わてがミミさんを押さえとかんかったらどーなってたと....」


「なにか言った??」



だるそうに頭をかいていた大輔の手が止まり、ブイモンは自分の青い顔がさらに青くなるのを感じた。


頭上からいつの間にここまで戻ってきたのか、砂丘から怒鳴った張本人、ピンクのふわふわとした髪を持つ、ファンキーを身にまとったような少女ミミが大輔達を覗きこんでいた。

普段は明るい表情を絶やさない彼女だが、心なしかその顔に表情は見られない。



やっぱりミミさんも光子朗さんの事が心配なんだろうな、と大輔は朦朧とした頭を何とか動かす。

そりゃそうだ、二人は同学年で、おっちょこちょいなミミのフォローは常に光子朗か丈の役目だったと話にきいた。


「ほら、早く先へ進みましょ。男の子なんだからこれくらいでへこたれちゃダメよ」


さっさと歩き出すミミ。以前の彼女なら一番にダウンしているところなのに、と後を追って飛びながらテントモンは思う。
光子朗はんの事やから一生懸命になってくれてはるんやなぁ..
自分も頑張らな!!


ブブンと前に進む羽ばたきに力がこもる。





ザッザッザッザッ


ザッザッザッザッ


ブブーーーーーン












「なーんか忘れてる気がするんだよなぁ」


黙々と砂漠を進む一行の沈黙をブイモンが破る。


「なんだよ」

暑さでいらいらしながら尋ねる大輔。


「俺達、こんなずっと歩いてなくていいと思うんだけど..」


ぅーん何だったかな〜と腕組みを始めるブイモン。もっと楽に素早く移動できる方法があった気がするのだ。






ザッザッザッザッ ブブーーーーーン ザッザッザッザッ






パチンッ


「そーだよ大輔っ!!」


「だからっ!!何なんだよ!!??」


パァッと顔を輝かせて指を鳴らしてみせるブイモンに、とうとう大輔は立ち止まって叫んだ。


「俺が進化して、みんなを乗せて走ればいいんじゃないかーー♪♪」





デジメンタルアーーップの声が砂漠にこだまする。ピカッと一カ所が光り、その中から黒い姿に黄色い稲妻を額につけた大型のデジモンが姿を現した。


ライドラモンは軽々と2人と1匹を背中に乗せると、広い砂原を悠然と走り出した。

21みけ:2008/10/04(土) 19:11:56
「いや〜よく思い出してくれたなぁライドラモンッ!!」


「へへッ」


さっきまでと違う心地よい風を体に受けて元気を取り戻した大輔は、ナイスだぞと自分を乗せて走る獣の背中を親しげに叩く。


「こんな進化も出来るなんて、大したもんでんなぁミミさん!!」


無理してはしゃいでみせるテントモンをよそに、ミミはピンクの髪をなびかせながらあれみて!!と前方を指さしている。





砂漠の終わりだ。木々の固まりがちらほらと見え始めている。



「....光子朗さん、ここにもいなかったのか....」

もう砂漠を歩かなくていい事を喜びたい大輔だが、なかなか手がかりをつかめない無力感もいなめない。





「違うっ違うわよっ!!あれよあれ!!森の中を見てっ!!」


じれったそうに叫ぶミミの指先を黙って見据えていたテントモンも、前足を空に上げて騒ぎ出した。


「な、何やあれ!!結界の一種みたいに見えるけど..」











ちらほらと生えた木々の先に広がる森の中心には、少し歪んだ丸いドームのようなものがそびえたっていた。





ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ


「間違いないわ、光子朗くんはあの中よ!!」

デジヴァイスを確認しながらミミが勝ち誇った顔で言う。よっしゃぁぁと雄叫びが上がる。


「大輔、みんなに連絡しなくていいのか??」

みんなのテンションのあがりっぷりに少し不安を感じるライドラモンが尋ねるが、今のこのメンツの手綱を握るのは容易な事ではない。


「んなもん後々っ!!助け終わってからみんなをびっくりさせてやろーぜ!!」


「さんせーーい♪」


「ふわぁもー辛抱たまらんわっ



光子朗はーーーーん!!!!!!!!!!!!」




希望の光が見えてきた嬉しさに、たまらず大声でパートナーの名を呼ぶテントモン。


ついで大輔もテントモンの横に顔を突き出して叫ぶ。



「こーーしろーーさああああん!!!!あっあと


ヤマトさああああん!!!!ついでに、


イオリいいいい!!!!」



二人の真ん中から無理矢理顔を出すミミ。




「こーーしろーーくううううん!!!!


みんな、助けてあげるからねーーーー!!!」








3つの声が砂漠と森に響き渡る。
彼らの声が思う人たちに届くのを妨げるように建つ空間の歪みは、ちらりともその中身を見せる気配はなかった。

22みけ:2008/10/05(日) 01:57:25



誰かに呼ばれたような気がして振り返った。でもまさか、こんな霧に囲まれた場所で東京にいるはずの後輩の声なんて聞こえるわけがない。
ましてやアメリカにいるミミちゃんの声なんて。

「どうかしました??」


きっと空耳だ、とヤマトは一人首を振って、自分を不思議そうに見つめるイオリに言葉を返した。


「何でもない。気のせいだったみたいだ」

「ならいいんですけど。この場所どこか変な気がしますから、注意して進んだ方がよさそうですね。ただでさえ霧だらけだし」

背中の竹刀を担ぎなおすと再び進行方向に向き直り、イオリは歩き出した。ヤマトも俯きながら歩を進める。
金髪の青年の心の中は、消えた光子朗を心配する気持ちや謎の遊園地に対する恐怖でさっきまでいっぱいだったのだが、今ははぐれたパートナーの事しか考えていなかった。

ガブモン..お前どこ行っちまったんだ。


唇をギュッと噛みしめているヤマトに、少し歩く速度を落としたアルマジモンが声をかける。

「大丈夫だがやヤマト、ガブモンならきっと無事でやっとるに違いにゃーて!!」


..気休めはよしてくれ!!その一言を、ヤマトはグッとこらえた。
以前にも、タケルの事で元気づけてくれようとした太一に同じ言葉を使った事がある。その場しのぎの台詞、口だけの慰め、そんなもの大嫌いだった。
でも太一との友情を通して、どんな言葉の中にも相手の気持ちが込められている事に気づいたのだ。

ヤマトは柔らかい笑いを口元に浮かべ、目を細めてその大らかなデジモンにお礼を言った。そうだ、あいつを信じてみよう。

「..にしても意外にお前って気が使えるよなっ!!さすがイオリのパートナーなだけあるよ」

「そうかぁ〜??」

頭を撫でられてニカニカ笑うアルマジモン。これはイオリに報告せねばと後ろを振り返る。

「イオリ〜!!おれほめられただがや〜

........イオリ??」


彼らの視界には霧しか映っていない。二人が話しているのに気づかず、剣道少年は霧の中に入っていってしまったのだ。





「アルマジモーン!!ヤマトさーん!!」

困ったなぁとイオリはこぶしを握りしめる。本当にはぐれちゃったみたいだ。
どうしよう、こんなときデジモンが飛び出してきたりしたら..

一瞬不安のために鳥肌がたったが、背中の武器の重みを思い出し、いざとなったらこれを使おうと決意を固めた。
自分は大事な先輩を助けにここまで来たのだ。例え一人だって行動を起こせる事に変わりはない。


よし、と気合いを入れて先に進もうと顔を上げると、不思議な現象を目の当たりにした。
前が見えない程深く垂れ込めていた霧が、数秒のうちに退きだしたのだ。



霧が晴れると、イオリの目の前には煉瓦づくりの小道といくつかの小屋が立ち並んでいた。少し奥にはさっき見た観覧車、そのまた奥にもアトラクションが用意されているのが分かる。


いきなり広がった光景に困惑しながらも、イオリはぎごちなく煉瓦の上を歩き出す。

「本当に遊園地だったんだ....」

人っ子一人見られない事以外は、イオリが行った事のある普通の遊園地と変わらない。最後に行ったのはいつだったかしら。

警察官だったお父さんと来てみたかった場所の一つだ。もう遺影でしか顔を思い出せないくらいなのが悲しいが、やはり小さな彼にとっては大切な存在なのだ。


ブンブンと頭を振る。今は光子朗さんを探す事が先決だ。そうだ、D3ではデジヴァイスの位置を探知できないだろうか??

機械を取りだそうとポケットに手を突っ込むと、ふと何か聞こえたような気がしてイオリは動きを止めた。



ーーーーオリーーーーーーーーー





「イオリーーーーーーーーーーー」







「.......誰.........??」








懐かしいような声に、誰の声だったか思いだそうとしてイオリは声のする方を向き、問いかける。




突然背後から何かに身体を掴まれたのを感じると、抵抗する間もなくイオリは意識を失った。

23みけ:2008/10/05(日) 20:23:12


タケルとヒカリ達が行き過ぎた電車を見送り改札を出て少し行くと、割と大きめな土産やが見えてきて、その入り口横の日陰に設置されたベンチとそこに佇む一組の夫婦が目に入った。


光子朗の両親だ。

遅くなりましたとタケルが声をかけようとしたその時、ベンチの上でピョンとはねたものがある。


「ツノモン!!」


テイルモンの驚く声に、一同もはたと足を止める。彼は確か消息が消えた仲間達と一緒にいたはず...


泉夫婦もツノモンのはしゃぎだした理由に気づき、ほぼ二人同時にベンチから立ち上がった。







「兄さん達が消えた!?」

表情を固くするタケルから目をそらし、思わずうなだれるツノモン。ヒカリも無意識に手を口にあてる。



ツノモンに状況説明を受けながら、子供達は例の遊園地を探すべく森の中を進んでいた。光子朗の両親にも一緒に行きたいと哀願されたのだが、彼らの息子の気持ちを考えると両親を危険にさらすわけにはいかない。丁重にヒカリとテイルモンで話して、引き続きベンチで待っていてもらう事になった。

悔しそうに俯くご両親を見るのは辛かったが、ヒカリ達にも何が起こっているのか把握しきれていないのだ。
これが最善の処置だったはずだ。


「もうすぐだよ、この辺でいきなり...うわあっ!!」


音もなくピカピカの門が現れた。
おーとパタモンは圧倒されて口をポカンと開けたが、すぐに真面目な面もちになって、押し黙ったパートナーの頭上からツノモンに問いかける。


「この中にみんなが??」


「うん。でも俺だけの時は現れなかったんだけど..」


パタモンの言葉に答えながら首をかしげるツノモン。その身体は光に包まれている。


次の瞬間ツノモンはガブモンに進化した。


「あなた、ガブモン..??」


「ね。進化しちゃうんだ。やっぱりこの場所はデジタルワールドのどこかとつながってるのかもしれない」


この中に兄さんがいるんだ..!!
タケルは拳を握りしめた。


「....行こう!!」


先頭に立つタケルの声に、全員が覚悟を決めた顔で門を睨みつける。

ガブモンも静かに目を閉じて、彼もまた覚悟を決めたかのようにまぶたを開き、声を張って言った。


「俺はここにいるよ」


えっ??と驚いてヒカリが振り返る。


「また誰か来たら、案内役が必要だろ??光子朗のお父さんとお母さんの事も心配だし」

それにさ、とまっすぐなそのデジモンは続ける。


「俺、ヤマトを信じるよ。ヤマトだって俺がいなくなって心配してると思うけど、きっと信じてくれてると思うんだ。
だから、俺は今俺に出来る事をしたい。
みんなを助けるのは、おまえ達に任せるよ」


小さなそのデジモンの決意に光る目には不安は微塵も感じられず、パートナーに対する信頼が伺えた。




一瞬子供達とデジモン達の間に沈黙が走ったが、やれやれと言ったようにテイルモンが口を切った。


「分かったわ。こっちの事は私達に任せて、あんたはあんたの考えたようにやりなさい。」


「そうだよ、僕達に任せて!!君の気持ちはちゃんとヤマトに伝える!!」


パタモンも元気よく答える。
ありがとう、みんな、と笑顔を見せるガブモンの横にかがみ込みながら、ヒカリも微笑む。


「じゃぁ光子朗さんのお父さんとお母さんの事、頼むね」


「任せてよ、何があっても守ってみせる」


ドンと胸をたたくガブモンを見つめながら、タケルは自分の中の焦りが和らぐのを感じた。僕も負けてられない、兄さんを信じなくちゃ。
ふぅと息をつくと、兄の親友に感謝の意を向ける。


「ありがとう、ガブモン。みんなは必ずつれて帰るよ」


「うん。頑張ってこいよ、タケル」


柔らかい笑みとその言葉の中に兄を見たような気がして、タケルもフッと笑顔をこぼす。






こうして子ども達はガブモンに見送られてその門をくぐった。
その奥で子供達は何を見る事になるのだろうか。
門が消え失せるのを見届けると、ガブモンは踵を返してひとりで元来た道をたどり始めた。

24みけ:2008/10/06(月) 00:50:29
門をくぐると、子供達は遊園地の中にいた。空は霧で真っ白に染まり、後ろにあったはずの森は跡形もなく消え失せ、門の向こうにはただただ白色があるだけだった。



前には大きな観覧車とそれに続く煉瓦道、道を挟むようにして屋台が並んでいる。観覧車の向こうには高い丘があり、そこにも何かアトラクションが建っている。


「おっきーーい」


パタモンが耳をはためかせながら身を乗り出すので、タケルの帽子がずり落ちそうになる。
恨めしそうに帽子を直しながらそんな場合じゃないだろうと非難の声をあげるタケル。

「誰か、いる」


ぽつりとつぶやくヒカリに、素早く一同は身構える。




ヒカリの目線は観覧車のすぐ下をとらえていた。目をこらすと、3つの人影が見える。テイルモンが瞳を開く。



「真ん中にいるのは子供だ..」


若干小さい気がするが、あの赤い髪は..

目を細めて集中していたタケルが叫ぶ。


「光子朗さんだッ!!!!」



驚いてる暇も惜しんで長い煉瓦道を2人と2匹は走り出す。どうして彼が小さくなっているのかは分からないが、なにかしら手掛かりなのに変わりはない。


しかし走って追いかけているにも関わらず、3つの人影にはいっこうに追いつけない。


「ダメだッ速すぎる!!」


「どういう事!?」


「分からない!!でも何かが私達を妨害しているんだ!!」


先頭を走るタケルの頬に何かひんやりしたものが掠る。

何だろうと考え始めた瞬間、行く手が大量の細かい水分によって阻まれた。

霧だ。

道を見失った二人は立ち止まる。それを待っていたかのように、ボワンボワンと音を立てて霧の壁に左右に穴が開いた。


「やはり何者かがこの場所を管理しているんだ」


ヒカリの背中から、テイルモンが鋭く大きな目を光らせる。動揺して周囲を見回す少女の動きに合わせて、その尻尾を山なりに揺らす。警戒態勢のサインだ。


「この穴、道になっているみたい..」


「分散させるつもりか..!!」

「どうするの、タケル!!」


敵にしてやられた事に気づき、悔しそうに目を歪めるタケルをパタモンが見つめる。

そうだ、早くしないとこの穴もふさがってしまうかもしれない。


「一つ一つ全員で行ったんでは時間がもったいないわ」

「そうね、みんなが心配だしやっぱり分かれて進みましょう」


でも、と帽子の上のパートナーが喋るのに合わせて、少年は後ろの仲間の方に向き直る。

「それじゃぁ敵の思う壺だよ??」

「だけど、そうするしかないんだ」


目の前の少女の視線を受けて、タケルもその目をまっすぐに見返す。

そのまま結論をはきはきと口にした。


「別々に行こう。だけど危なくなったらすぐ引き返して合流、必要なら応援を呼ぼう」


うん、と真剣な顔でヒカリとテイルモンはうなづく。ちょっと厳しく言い過ぎたかもしれないな..


ふうっと肩の力を抜いて、タケルは片手を前に差し出し、頭を少し下げてもったいぶって言った。


「じゃぁ、お先にどうぞ??」

「こうゆうの、レディファーストって言うんだよね、タケルッ♪」


パタモンも楽しそうに体を揺らす。


「..だって。どうぞ、テイルモン♪」


思わずクスッと小さく笑い、おどけたようにヒカリは猫のような友達に目で合図を送った。それを受けてテイルモンはうーんと一つ唸ってから、優雅に空いている片手を右方向に流した。


「じゃぁ、僕たちはこっちだね」

「二人とも気をつけて!!」


もう一つの方の穴の前に移動しながら、パタモンとタケルはレディ達に声をかけた。

二人のレディも自分達の選んだ穴の前に立ち、仲間に手を振る。


「タケル君達も無理しないでね!!」

「後で会いましょう」




別れの挨拶を済ますと、パートナーと一緒に二人はそれぞれの穴と向き合い、確かな足取りで遊園地の深部に進んでいった。

25みけ:2008/10/06(月) 01:59:16


あれ??

意外とすぐ抜けちゃったみたいだ。



どうやら穴のような見かけをした門のデータだったらしく、思ったよりも早く視界が開けたタケルは拍子抜けしたようにあたりを見回した。


やっぱりさっきと変わらず空は霧で乳白色、この辺には射的などのお祭りに出るような屋台が並んでいるようだ。


屋台の間を走る煉瓦の小道に目をやったタケルは、思わず息を止めた。






見慣れすぎた二人組がそこにいたのだ。


金髪の肩くらいまで伸びたしなやかな髪をした女性と、その手をつないでいる少年。女性と同じ金色の髪を立たせたワイルドな髪型をしている。


自分がまだ小さいときの、母と兄だった。





誰かからの強張った視線に気づいたのか、その少年は女性と手をつないだまま振り返った。


見間違えようのない、切れ長のつり目が見えた。



「...........兄さん」



タケルの呆然とした顔を一瞬驚いたような表情で見つめたヤマトは、フッと柔らかく鼻で笑うと、母の手を離して体を後ろに向けた。

母は屋台の方を向いたまま動かず、彼女の豊かな髪だけが風に遊ばれてうねった。


「何しに来たんだよ、タケル」




「........えっ」




いつもの優しい兄からは想像もつかない冷たい口調に、タケルは言葉を失った。


「やっと気づいたよ。お前のせいで俺はずっとひどい目にあってばかりいたんだよな」


待てよ。


目の前の兄さんは小さいときの姿だ。ここの管理者が僕を混乱させるために作り出した偽物の存在なんじゃないか??


目の前のヤマトは何気なく屋台の端から鉄パイプを手に取る。


「タケル!!気をつけて!!」



危険を察したパタモンが警告を発した瞬間、ヒュォッと音を立ててタケルの頭を狙って金属が振り切られる。


体勢を瞬時に低くしてタケルは攻撃を避けると、サッと後ろに下がった。彼の白い帽子を手に飛び上がったパタモンも、タケルの横に身を構えた。


「そうだ、お前バスケやってたんだよな。

このくらい避けられて当然か」


冷ややかな目で自分よりも身長の高い弟を見据えながら、肩に乗せたパイプをポンポンと上下させるヤマト。


攻撃されてやっと頭が回り始めたタケルも、低くしていた姿勢を伸ばし、不敵な笑みを浮かべて返す。


「君さっきから僕の事知った風に言ってるけどーーーーーーーー本当に兄さんなのかな??」


小さなヤマトがスッと微かに顔を下に傾けたため、どんな表情をしているのかはわからないが、自嘲するような調子で答えた。


「言っとくけどな、俺がまがいものか何かみたいに考えてるなら大きな間違いだよ。

俺はお前の兄貴のヤマト本人さ」


言っている事が受け入れられない。


嘘だ、兄さんはこんな事....


「もし、もし兄さんなら、どうしてこんな事するんだよ!?一緒に光子朗さんを探しにいこうよ!!」


混乱したタケルは、大声で兄に問いかける。一人黙っていたパタモンも口を開く。


「そうだ!!ガブモンはヤマトを信じて、向こうの世界で待ってるんだよ!?」



ヤマトのパイプを持つ手が震えている。


「だから..??」


ギュッとその手に力が入るのがタケルの位置からでも分かった。


「だから、何だって言うんだよ!!!!俺と母さんの時間を、邪魔するなッ!!!!」



ヤマトの動きに合わせてタケルは身を縮めるが、飛び出す速度を利用したヤマトの突きの方が速かった。


タケルの頬に赤い線が走る。


「タケルッ!!!!!」


「攻撃するなパタモンッ!!!!」


態勢を崩さずにそのまま手を煉瓦につき、思い切り足を低空で横に流す。


思った通り、パイプを振った後のヤマトはそれに対応できず尻餅をついた。


その隙を逃さず鉄パイプに飛びつこうとしたタケルだが、ヤマトの刺すような蹴りをみぞおちに受け、吹き飛ばされてしまった。




今兄さんは、母さんの事を口にした....


一体何の事を言っているんだろう....


痛む胸をさすりながら、タケルはゆっくりと身を起こす。


ヤマトの方も煉瓦の上に手をついたまま、肩で息をしている。あの体の大きさで鉄パイプを振り回したんだもの、当然だ....



おそらくこの兄弟初であろう取っ組み合いの喧嘩に、彼らの母はただ背を向けて髪を風に預けていた。

26みけ:2008/10/06(月) 02:55:33






ヒュォォォォーーーーーーーーーー



砂漠の冷たい風が茂みを揺らしていく。




青かった空が、山裾から赤、オレンジ、紫、深青と言うように、幾層にもなって染まっていく。



このマジックアワーを合図に、寝ぼけまなこを擦りながら自分の巣から這い出てきた小さなデジモンは、背筋をうーんと伸ばすと、いつもと変わらず自分のテリトリーのパトロールに出掛けた。


とは言っても小さな彼の領域は森の端っこ、砂漠との境目だけだ。たまに砂漠からトカゲのような奴が迷い込んでくるくらいで、何か大事があった試しがない。


それでも習慣は習慣。


欠伸をしながら彼は出かけていった。が。ものの5分もしないうちに安全な我が家に飛び込んで、身を丸めてしまった。



それもそのはず。


黒い大型のデジモンともう一匹の小型なデジモンが、なぜか自分の狭い陣地ピンポイントで技を乱射していたのだ。




彼らはもう何十分もこの作業を繰り返していた。


わきで我慢して座り込んでいた女の子は、遂に彼女の欲求のままに行動した。



「なんでこの結界壊れないのよーーー!!!!これだけやっても傷一つつかないなんて、ルール違反よぉーーー!!!!!」


「確かに埒があきまへんな、こりゃ」


「ふえー疲れたあ」


その叫びに同調したかのように、テントモンと進化を解いたブイモンは白いドームの横にへたり込んだ。

一部始終を観察していたゴーグルの少年だけは、穴が開くほどデジモン達が攻撃していた場所を見つめたままだ。


確かにザッと見るとミミの言うとおり大きな傷は見当たらないが、よく目をこらすと細かい擦り傷のような物は出来ている。


大輔はそこにペタリと手のひらをつけたまま、しばらく黙ってドームを調べると、振り返ってブイモンに声をかける。


「ブイモン進化だ」


「えーッまたー??」

「またさっきの繰り返しになりゃしまへんやろか」

あからさまに残念そうな悲鳴を上げるブイモンの後ろを、テントモンが横滑りになりながらもっともな意見を述べる。


「一応様子見だけど、さっきとは違ってくるはずだ」


小竜にD3をかざしながら大輔は答える。


光を浴びて、小竜は兜を被ったような竜の姿になった。自分の手足を見て、元ブイモンもあ、ほんとだ違うと呟く。


「テントモン、プチサンダーをずーっと出しとく事って出来るか??」


「はあ、まあやろうと思えば」


「じゃ、やってくれ」


人が変わったようにきびきびと指令を下す大輔に、不思議そうな顔をしながらミミが寄ってくる。


「何をするの??」


「ま、見てれば分かりますよ♪」


ひょいと片手を上げて、自信ありげに大輔はウィンクしてみせた。

27みけ:2008/10/06(月) 14:06:54


「プチサンダー!!」


テントモンの両手から電撃が放出され、稲妻状に進んだそれは、ドームの擦り傷が出来ている箇所に当たった。


「いいぞ、そのままそこに当て続けてくれ」

フレイドラモンは、指令通り両手に炎の力を充満させている。


「よし、そのまま限界まで力を溜めて、一気にドームにぶつけるんだ!!」


大輔は自分も両拳を握り、二匹の攻撃の頃合いを見計らっている。

テントモンの攻撃でドームの表面は傷が出来始め、フレイドラモンの手の炎もかなり大きくなってきた。


「......今だッ!!!!」


「ナックルファイア!!!!」




ズゴッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


文字では分かりにくいが、大きな掘るような鈍い音があたり全体に響き渡った。




ガララと音がして、ドームに少しえぐれたようなくぼみができた。






「.........す、すごいわみんなぁ!!!」

「さっきとはえらい違いでっせ!!!!!」


このままいけば割れるぞやったぁ〜とはしゃぐミミ達に次ぎ、感動したフレイドラモンもやったな大輔、と声をかける。

しかし当の大輔は、いや、ダメだと首を振る。


「もっと高熱で熱して一撃で割らないとこいつは崩れない。ほんとは二人の役回りが逆ならよかったんだけど..参ったな」


頭をかく大輔に、若干知りたがりのテントモンが持ち前の大阪弁で説明を求め、ミミもなになにと瞳をキラキラさせる。


「あーつまりだなぁ。最初攻撃したときは、あれだけやったのに擦り傷しかつかなかった。これはドームが固いのに対して光線の攻撃しかしなかったからなんだ」


不慣れな説明役にも関わらず、悠長にドームを撫でながら話し続ける大輔。彼を見つめるパートナーも、期待で目を輝かせている。


「固いものは強い一撃で割るしかない。これだけでかいものを割るんだから、俺達の一撃を強めるためにドームをあっためて壊れやすくしたらと思ったんだ」


これで納得がいったとばかりにテントモンが相づちをうつ。


「だから大輔はんはわてに連続で技を使わせて、ブイモンをフレイドラモンに進化させたんでんな!!」


まるで光子朗はんがおるようやと目頭を熱くしている仲間の隣で、ミミもびっくりしたように目をパチクリさせてゆっくりと言葉を発する。


「くわしいのね、意外に」


「いや〜大したことじゃないです!!前家族でテレビみてたときに無理やり親父が雑学披露したのをたまたま覚えてただけでっ」


本当に大したことじゃなさそうに手を振ってみせる大輔だが、その頬は照れのために赤らんでいる。


「そんな事ないよッ!!!!」


いつのまにか退化したブイモンが、両手を固め、目の前の少年に対する尊敬でいまやピカピカと光り出した瞳を大輔に向けて言った。


「俺大輔の事見直したぜ!!俺もっと頑張るから大輔ももっと色々試してみてくれよ!!みんなでこのドームを壊すんだ!!」


「そう言ってくれるかブイモンッ!!」


「当たり前だよ、俺達パートナーじゃないか!!」


くううう〜っと感動で身を震わせた大輔は、次の瞬間には使命感をみなぎらせながら右の拳を空に突き出した。


「おっしゃぁやるぞみんなっ!!!!」


おう!!!!と仲間達の声が乾いた砂漠に響き渡る。

大輔の喝に応えながらも、知りたがりのデジモンはひとりさびしげにこの場にいない自分のパートナーに思いを馳せていた。


マジックアワーは過ぎ去り、暗い夜が訪れようとしていた。

28みけ:2008/10/07(火) 01:26:28



タケルがヤマトと対峙し、大輔達が気合いを入れていたとき、ヒカリはまだ穴の中を歩いていた。


彼女が進んでいる方の道はもう片方よりも長く続いていたようで、なかなか出口に到達しない。


しかし完全に真っ暗でないところを見ると、このトンネルを抜けるのはそう先の事ではなさそうだ。


ザッザッと自分たちの足音が響くのを耳にしながら、ヒカリの足元を歩いていた猫型デジモンは彼女のパートナーの様子がさっきから気になっていた。


「どうしたの、ヒカリ」


少女は先程から何か考え事をしているようだった。こういうときの彼女の発言は、この先の展開を的確に解決していくヒントになる事をテイルモンは経験から学んでいたのだ。

テイルモンの問いかけに応えるために、ゆっくりとヒカリは口を開いた。


「何だか..ここに来てからずっと思っていた事なんだけど..」


伏し目がちに慎重に言葉を選びながら話すヒカリ。


「....さびしい感じがするの。でも、いつも感じるデジモンの感情とは、少し違う気がする...」


「..違うって??」


「なんて言うか..心がそこから動けないような..」


うーん、どう話そうかと悩むようにヒカリは片手をあごにあてた。彼女にも的確に説明するのは難しいようだ。


テイルモンも何とか理解しようと、考えながら自分の解釈を述べる。


「..過去のもの、という事かしら」

「そう、そんな感じ!ずっと同じ[さびしい]のまま、止まってる..」


ここがデジタルワールドならありえるわ、とテイルモンが感慨深そうに言う。老朽化したデータの塊が何かの拍子でリアルワールドと接近してしまったのかもしれない。


なら、ヒカリの言うようにここの管理者も..

隣の少女も同じ事を考えていたようで、じゃぁどうやって助けたらいいのかしらと小さく呟いた。









パッと急に暗いトンネルを抜け、二人はさっきの煉瓦道の上に立っていた。


話に夢中になっているうちに歩みが進んだようだ。二人は霧深い遊園地のかなり深部にいた。




位置的には観覧車の奥に見えた高い丘のふもと周辺らしい。ゲームセンターや様々な見せ物小屋が集まっている。

さっきは見えなかったが、丘の上にあるのは大きなメリーゴーランドのようだ。


後ろを振り返るとトンネルは消えていて、濃い霧が視界を阻んでいた。



進むしかない、と二人がお互いに顔を見合わせて一歩進んだ瞬間、ヒカリははっとした。



「ねえ、次はミラーハウスに行こうよお父さん」



その小さな体に相応しい無邪気な表情を浮かべたおかっぱの少年が、自分よりも大きな人影の手をひっぱっている。その服装からして、警察のひとのようだ。


ヒカリが言葉を発するより先に、その少年はあっと声を上げ、ばつの悪そうな顔をして父親の手を離した。


まるでいたずらを見つかった子供のようなその所作に思わずヒカリは笑みをたたえ、黙り込むイオリのそばで膝を折った。


イオリの情けなさそうな顔を覗き込みながら、おだやかに尋ねる。


「....イオリくんのお父さん??」


こっくりとうなづくイオリの横で、その男性は軽くヒカリに会釈をする。

彼女も会釈を返すと、イオリが俯いたまま口を切った。


「すいません、僕....」


予想外の言葉に驚きながらも、黙って次の言葉を待つヒカリとテイルモン。


震えるイオリの声は、罪悪感でいっぱいな彼の気持ちを代弁するように響いた。


「僕....僕、分かっていたのに。ここがどういう場所なのかって....」




さっきトンネルの中で交わした会話と今の光景をみて、ヒカリ達にも何となく予想はついていた。


過去にとらわれた管理者、目の前にいる亡くなったはずのイオリの父親。


ここは過去に大切なひとを亡くした者に、そのひとの幻影を見せるのではないだろうか。



イオリの声はさらに震え、自分を責めるように言葉を繋ぐ。


「僕...お父さんが出てきても、わかってたのに...だって、.....お父さんはもう戻ってこないから!!」


なのに..とボロボロの心を抱えて話すイオリは、堪えきれず涙をこぼした。


「偽物でも、一緒にいたいって......我慢、出来なくて....僕、光子朗さんを助けなきゃって思ってたのに.......僕....」


「本当に、ごめんなさいっ!!!」



両手でとめどなく流れ落ちる涙をぬぐいながら、イオリは泣き声をこらえて深く頭を下げた。

29みけ:2008/10/07(火) 21:04:28



黙って聞いていたヒカリは、穏やかな表情のまま身を起こし、少年の横に申し訳なさそうに立つ幻影を見やった。

テイルモンもそんなヒカリを黙って見守っている。



そうしてしばらく考えを巡らすと、ヒカリは静かに言葉を切った。




「イオリくんのお父さんは、ここにいるよ」

「違う!!!」


噛みつくように激しく顔を上げるイオリ。


「これは悪いデジモンが創りだしたまやかしなんだ!!お父さんなんかじゃない!!」


「そうね、確かに外側はそうかもしれない」



でも..と涙で歪む目の前の少年の瞳を見据えながら続けるヒカリ。
イオリの瞳にはわずかに戸惑いが垣間見られた。


「イオリくんの心はここの管理者に干渉されていないみたい。きっと強い信念を持ってここに入ったからね....



だから、大丈夫だったのよ」


ふっと少年の隣の男性にヒカリは笑いかける。えっと言うイオリに、代わってテイルモンが進み出る。


「そうか....管理者はイオリの心に干渉できなかったから、外見的な父親しか再現出来ていないと言うことね」


「そう。だから中身はイオリくんの深層心理の中のお父さん、そのものなのよ」










光子朗の捜索と救出ーーーーーーーーーー


明確な目的があったにも関わらず、自分の心が赴くままに行動した自分。


そんな怠惰な自分自身を見つめるのをためらい、隣を振り返れずに固まるイオリの肩に、いつのまにか大きな手のひらが乗っていた。


暖かい感触にイオリが顔を上げると、実家の仏壇の写真立ての中から覗く顔が、そのまま無言で穏やかに自分を見下ろしていた。





濡れた頬に、また一筋熱いものが流れる。







「.........だから、話さなかったんだね」



父から目線をそらさず、イオリは震えながらも確かに言葉を落としていく。


ヒカリとテイルモンも、静かにそれに耳を傾ける。


「僕、不謹慎ですけど、僕の名前を呼ぶときのお父さんの声しか覚えていないんです」




だからきっと、僕を呼ぶときにしか口を開かなかったんだ。


僕の中のお父さんを、壊さないために。








またあふれそうになる涙の衝動を抑えながら、少年は顔を伏せ、大きく深呼吸して息をととのえた。




それでも、お父さんはもういないんだ。


僕は前に進まなくちゃいけない。





肩に優しく温もりを残すその手のひらを思い切ってとると、イオリは一歩後ろにさがり、幻影の瞳をまっすぐに見据えた。






「........ありがとう」



そうイオリが呟くと、幻影は微笑んで、ヒカリ達に深々と頭を下げると、はじめからいなかったかのように一瞬でその姿を消した。


二人の別れを見届けると、ヒカリはイオリを力づけようと前に踏み出した。


その瞬間。








「イオリくん!!!!!!!」



目の前にいた少年は、幻影の後を追うかのようにその姿を跡形もなく消してしまったのだ。


あっけにとられたヒカリとテイルモンは、為すすべもなく霧の中に取り残されていた。
























同じとき、イオリは絶え間なく流れる明るい音楽の中で、くるくると回る馬車の上で目を覚ました。

30みけ:2008/10/08(水) 00:41:26


時間は少し遡るーーーーーーーー






「もうやめてよヤマトー!!!」


パタモンはパートナーの帽子を抱え、下方で行われている戦いにやきもきしながら制止をかけていた。


以前からこの仲のよい兄弟を知っている彼には、二人が戦っているところを見るのは苦痛だったのだ。

それは地上で必死に攻撃を避けているタケルにとっても同じだった。



「俺だってやめたいさ!!」


そんな二人の気持ちを知ってか知らずか、鉄パイプの素早い一撃を繰り出しながらヤマトは叫ぶ。


「お前らが俺と母さんの邪魔さえしなかったらな!!!」




言葉と共に振り下ろされた渾身の一撃を何とかかわし、兄の攻撃範囲から逃れようとさらに距離をとったタケルは、さっきから胸にくすぶっている疑問をぶつける。



「何なんだよッ!!さっきから母さん母さんてッ!!」


タケルの言葉にも動じず、ヤマトは武器を構えた手を崩さない。


「何があったのさ!!」


かつてない兄の冷たい表情になぜか焦りを覚えながら、タケルは必死に言葉をかぶせる。
それでもヤマトは口を結び、光のない暗い目を弟に向けているだけだ。


「答えてよ兄さん!!」




悲痛なタケルの叫びが静かな遊園地に響き渡った。いたたまれない沈黙の後、ヤマトは構えていた金属を下ろし、フンと鼻で笑った。長い金色の前髪がその表情を隠している。



「やっぱり、分からないんだな」


その後に続く容赦ない言葉に、タケルは身を固くした。


「俺は、おまえのせいでずっと損な役回りばかりやらされてきたんだよ」








パタモンの翼がパタパタとはためく音だけが耳を打つ。黙り込んだと思ったヤマトが、再び重い口を開いた。




「.............父さんと母さんが離婚したとき.....本当は俺、母さんと行きたかったんだ」



タケルはその時初めてヤマトの目が光るのを見た気がした。



「そりゃそうだよな。

親父は仕事に夢中で家にはほとんど帰らなかった。俺達にとっては他人と同じくらいの感覚だったんだから」




そうだ。小さいときの事だからあまり定かではないけれど、僕らの父さんは家にはいなかった。いつも僕と兄さんと母さんの三人で過ごしていた。


ヤマトの声からはだんだん感情が抜けてくる。



「母さんだって分かってたはずだ。


だけどタケル...

小さいおまえがいたから...

だから母さんはお前を選んだんだ」


タケルは兄の顔を見つめてはいるものの、何も言えない。ヤマトは地面を見たまま畳み掛けるように声をぶつける。



「お前はいいよ!!泣いてれば必ず誰かが助けてくれる、何か欲しければすぐ与えてもらえる。


俺にとってもお前は大事な弟さ!!だけどな....」


ヤマトの激しい声が、途端に静かになる。







「俺は...泣いちゃいけなかった、本当のことも言っちゃいけなかった...」




空気のようにヤマトの背後には風に髪を揺らす母が背を向けて立っている。屋台の影でその金色の髪は暗褐色に濁って見えた。


「母さんの所に行くと言ったら親父も怒るし...ずっと自分の気持ちを抑えて今までやってきたんだ」



そこまで話し終えると、はははと空いた手で髪をかきあげながら可笑しそうにヤマトは声をあげる。



「ーーーーーーー笑っちゃうよな!!ここに来るまで俺は、抑えることに慣れすぎてその事を忘れかけてた。でも、やっと思い出したんだ...」


ようやく顔を上げたヤマトは、晴れ晴れとした顔でタケルに告げる。


「だから俺は好きにやらせてもらうぜ!!
母さんとずっとここで遊んで暮らすんだ。

家事だって、もう自分の気持ちにだって気を使わなくていい。思う存分やれるさ」



今度はタケルが俯く番だった。言葉使いや考え方、みんな自分がよく知っている兄さんだ。でも、兄さんが本気でこんな事をいっているのか..??


顔を上げないパートナーを心配して、パタモンも彼の頭上に移動する。

さっきまでの明るい口調とは打って変わった、無機質な冷たい低い声が淡々と言葉を放った。


「ーーーーそういう事だからーーー」
















「帰れよ」

31優飛:2008/10/08(水) 00:56:19
こんばんは、みけさん!
…っていうにはだいぶ遅いですが…;


さて…次々と遊園地に消えた子ども達。
…実の両親と遊び続ける幼くなった光子郎、何の心配もなく母の傍にいる為にとタケルを襲うヤマト、幻と分かっていながらも父の手を取る伊織……様々な「失った大切な人」の幻影の中、伊織はヒカリの助言もあり、ついに父の幻にさよならを告げる事ができた。しかし、それと同時に彼はどこかへ!
そして一方、ヤマトに帰れと冷たく告げられたタケルは?
大輔やミミ達は、遊園地の結界を破る事ができるのか!?
続きが気になります、更新頑張ってくださいねッ♪

32みけ:2008/10/08(水) 16:26:26
優飛さん、眠いのにコメントありがとうございます!



ヒカリ達の目の前でかき消えたイオリ。彼が目を覚ましたのは馬車の上。


様子がおかしい実の兄に、その信じたくない心の内を打ち明けられてしまったタケル。彼は兄を助けられるのか??

またヤマトと一緒にいたはずのアルマジモンの居場所にも注目です(笑)


一方デジタルワールドからデジヴァイスの反応がする結界を見つけ出した大輔達。彼らは結界を壊して光子朗達を救い出すことが出来るのか??



次回も頑張りますのでよろしくお願いします!優飛さんもLink of Crest楽しみにしています^^

33みけ:2008/10/08(水) 18:00:37



タケルは思い出していた。






はじめの冒険ーーーーーーーーーー

幼くて泣き虫な自分を必死で守ってくれたヤマト。その優しさをうっとうしく感じはねのけたときも、変わらず自分を信じてくれたヤマト。



あれから三年経った今も、兄は自分にとって一番頼れる存在だ。泣き虫だった頃から少しは成長した今こそ、兄の助けになろうと日頃から思っていた。







なのにーーーーーーーーー




『俺はヤマトを信じるよ』


ふわっとガブモンの笑顔が浮かぶ。

[信じる]って何だ.........??








無意識にタケルの口元から言葉がこぼれる。

「ーーーーーーーーーーずっと」


兄の普段のくしゃっとした笑顔を思い出す。


「ずっと..........そう思ってたの??」


「そうだよ」


用意されていたようにすぐに返事が返ってくる。

目頭が熱くなるのを感じる。さっき掠って出来た右頬の傷が、どくんどくんと脈打つのが分かった。



「ーーーーーーーーーーーーーでだよ」


「聞こえないな。いいからもう俺達の事はほっといてくれ」


「いやだ」


無関心な声に拳を強く握りしめ、こみ上げていたものを飲み込む。もう泣かないって、ずいぶん前に決めたのだから。


タケルが真っ赤な顔を上げたのをみて、ヤマトもその気迫から臨戦態勢に入る。

ほら見ろ、俺が本音を我慢するのをやめれば、すぐに何もかも壊れちまうんだ..


しかしそんなヤマトに投げかけられたのはパンチでもキックでもなく、落ち着いたタケルの声だった。




「何で相談してくれなかったんだよ」




固まるヤマトにさらに語りかけるタケル。


「ガブモンがね、兄さんを信じるって言ったんだ。僕には[信じる]ってどういう事なのか分からない。でも、どんな事を思う兄さんでも、全部兄さんとして僕は受け入れるよ」



本当は、タケルに優しく笑いかけてくれる兄だけ受け入れたい。でもそれじゃ、きっとガブモンの言う[信じる]という意味にはならない。


だから、思った事を言っていいんだよと笑いかけるタケル。兄の困惑した顔に合わせて、その後ろの母もぶれたような気がした。

「今まで甘えてばかりでごめんね、兄さん...

あ、そうだ!今度兄さんもうちに泊まりにくればいいよ!!父さんには僕からも言っておくから」


タケルの明るい声とは裏腹に、混乱したように頭を抱えるヤマト。足元の煉瓦にカランカランと音を立てて鉄パイプが落ちた。何故かその顔には恐怖の表情が浮かんでいる。

焦って駆け寄った弟も目に入っていないようだ。


「うわああああああああああああッ!!」



体をのけぞらせて空を引き裂くように絶叫するヤマトと、その肩を兄さん兄さんと必死で呼びかけながら揺さぶるタケル。


遂に一度も振り返る事なく、息子達を残して母の幻影は分解したデータとなって空中に飛散していった。



「兄さん!!兄さん!!」


ふと絶叫が止まり、ヤマトの瞳からおびえたような色が去った。


「........タケル。」


きょとんとした顔で目の前の弟を見上げるいつもの兄の顔がそこにあった。




何してんだお前と問いかけながら、弟との身長差にギョッとするヤマト。

なんじゃこりゃと悲鳴をあげる兄を見ながら腹を抱えるタケル。やっといつものなごやかな空気が兄弟に戻った。

















「笑うな!!」


と言いながらも自分も笑いをこらえきれずに弟を振り返ったヤマトは、そのまま姿を消した。


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