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【ss】綴理「さや、野菜もらってきた。これからボクが一人で作るよ」
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前したらばのどこかで書いたやつ
ちょうどこの時期の話だったなと思いだしたので微修正して再掲
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綴理「さや、野菜もらってきた。これからボクが一人で作ってみるよ」
さやか「綴理先輩が作ってくださるんですか? それは楽しみです」
綴理「……がんばっていっぱい作るから、早く帰ってきてほしいな」
さやか「お気持ちは嬉しいです。でも、余らせても困りますから、一人分でいいんですよ」
さやか「それに、心配しないでください。そんなにがんばって作らなくても、ずっとそばにいますよ」
綴理「さやに、一人でもできてるところを見てもらいたいんだ」
さやか「大丈夫ですよ。いつもちゃんと見ていますから」
綴理「ここはこうして、……こっちのほうがいいかな」
さやか「ああ、大丈夫ですか? 手伝いましょうか?」
綴理「困ったときは、さやならどうするか考えるんだ。そしたら大体うまくいく」
さやか「お手本になっていたなら嬉しいですが……、綴理先輩のやり方でいいんですよ」
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綴理「ほら、できたよ。見えるかな?」
さやか「素晴らしいです。……あれ、お馬さんはお上手ですけど、牛さんは、……何だかバランスが悪いような」
綴理「ゆっくり戻ってほしいから、牛さんは足をすごく短くしたんだ」
さやか「……」
綴理「さや、帰ってきてくれるかな」
さやか「……いますよ。ここにいますよ。綴理先輩」
綴理「いつもは何も答えてくれないけど、帰ってきたら声を聞かせてくれるといいな」
さやか「綴理先輩」
綴理「『しばらく見ない間に立派になりましたね』って言ってくれるかな」
綴理「……さや、さやにまた会いたいよ」
さやか「……ここにいます。ここにいるんです。……だから、泣かないでください、綴理先輩」
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😢
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……
さやか「今日は何を作っているんですか?」
綴理「……」
さやか「この材料だと、カレーでしょうか。でも、カレー粉がないから、……肉じゃがですね?」
綴理「あ、絹さや出すの忘れてた。絹さや、……さや」
さやか「はい、さやですよ。じゃなくて、そんなことで感傷的にならないでください。さやと付くもの全部にそんな反応する気ですか?」
さやか「でも、肉じゃがで当たりですね。肉じゃがを作れるようになるなんて、凄い進歩です」
さやか「……」
さやか「今のわたしは綴理先輩をただ見ているだけで、何もできないと思っていました。でも、少しだけなら干渉できるみたいなんです。知っていましたか?」
さやか「と言っても、本当に大したことはできないんです。だから、例えば今みたいに包丁を使っているときでも……」
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綴理「痛っ……あれ? 包丁、上手くなってきたと思ったのに……」
さやか「ほら、このとおり手を滑らせることくらいしかできません」
綴理「ダメだな。ボクはまだこんなことも一人じゃうまくできない」
さやか「そうですね。……本当に、先輩はわたしがいないとダメなんですから」
綴理「絆創膏、どこだっけ」
さやか「ああ、火がつきっぱなしですよ。連続でやるのは大変ですが、菜箸を落とすくらいなら……」
綴理「ん? あ、そうだ、 火消さなきゃ」
さやか「……全く、わたしがいなかったらどうするつもりですか?」
さやか「でも、逆に私が火をつけたら、いや、そこまでは無理ですけど、火を消してガスだけを出すくらいなら……」
さやか「いえ、……わたしは何を考えているんでしょうか。流石に火は冗談ではすみませんね」
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……
綴理「いらっしゃい、元気そうだね、かほ、ぎん」
さやか「……」
花帆「お邪魔しまーす! わあ、素敵なお家ですね! やっぱり寮の部屋とは違うなあ」
吟子「失礼します。……綴理先輩もお変わりありませんか?」
綴理「うん、元気だよ。二人とも、この間の配信もよかった。ちょっと待ってて、今お茶入れるから」
吟子「あ、手伝います!」
綴理「大丈夫、座ってて。ボクもちゃんとお茶を淹れられるようになったんだ」
綴理「こずみたいには、まだできないけど」
花帆「はい! あたしもまだまだ梢先輩みたいにおいしいお茶は淹れられません!」
綴理「うん、こずはすごい。……でも、いい香り、今日はうまくできたみたいだ」
さやか「……うまくできた?」
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綴理「あっ……」
花帆「綴理先輩! 大丈夫ですか!?」
綴理「ごめん、失敗した」
花帆「それより、火傷しませんでしたか? あ、割れたカップで指が!」
綴理「うん。でも、大丈夫。ボクはよく失敗するから、絆創膏はたくさんあるんだ」
花帆「片づけは私がやるから、吟子ちゃんは手当てお願い」
吟子「……」
花帆「吟子ちゃん?」
吟子「……あ、うん、わかった。綴理先輩、救急箱はどこですか?」
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😭
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救いは無いのかしら?
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つらい
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……
綴理「二人とも、今日はありがとう」
花帆「全然です! こちらこそありがとうございました! でも、すみません。ちょっとマットに色が残っちゃって……」
綴理「そうだね。……じゃあこれは、伝統の染みにしよう」
花帆「いいですね、伝統! この染みがこれから想いを繋いでいくんですね〜」
吟子「……」
花帆「あれ、吟子ちゃん? 伝統だよ? 伝統!」
吟子「うん。……あ、それより、早く帰らんと」
花帆「え〜、門限はまだまだ大丈夫……じゃ、ない、かも……?」
綴理「ごめん、ボクが失敗して時間を取らせたから……」
吟子「ああ、いえ、こちらこそ慌ただしくてすみません」
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吟子「それより、近いうちに、……いえ、明日また伺っても構いませんか?」
綴理「え? ……うん、いいよ。ボクは明日も大丈夫」
花帆「ええ〜! あたしは明日来られないよ、吟子ちゃん!」
吟子「どちらにしろ、私一人で来るつもりだから」
花帆「二人だけで楽しく過ごすの? あたしは〜?」
吟子「ああ、もう。……ちゃんとまた一緒に来るから」
花帆「本当? それなら、……まあ、いっか。えへへ」
綴理「かほも、またおいで」
花帆「はい! また来ます!」
吟子「それでは、今日は失礼します」
綴理「ううん、それじゃあ、また明日?」
吟子「はい、また明日」
さやか「……」
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……
綴理「いらっしゃい。ぎん、一日ぶり」
吟子「一日ぶりです、綴理先輩。連日失礼します」
さやか「……」
綴理「何か、話があるんだよね。かほがいると、できない話?」
吟子「はい。……綴理先輩、最近何かおかしなことはありませんか?」
綴理「おかしなこと?」
吟子「例えば、触っていないはずなのに小物の位置が変わっているような気がするとか、ちょっとした失敗や、怪我をすることが増えたとか」
綴理「どうかな。まだ、うまくできないことは多いから」
吟子「……綴理先輩は、決して不器用ではありません。やり方さえ覚えてしまえば、そういつも失敗はしないはずです」
綴理「……そう言われると、ある、のかな?」
さやか「……」
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吟子「……ちょっと話が唐突でしたね。一から説明します」
吟子「みんなには話していませんが、百生家には加賀繍の他にもう一つの家業があります」
吟子「突拍子もない話と思われるでしょうが、"清め"と言って、この世ならざるものを清め、あるべき場所へお帰りいただく役目です」
綴理「……うん」
吟子「ばあば……、いえ、祖母のまた祖母のころは、人ならざるものと対峙していたという言い伝えもあります」
吟子「もっとも今では、人やもの、場所などに強い想いを持って、この世に留まっている感情の相手をさせていただくことがほとんどです」
綴理「この世に留まる?」
吟子「はい、ご先祖様は、はっきりと見聞きできたようです」
吟子「私はなんとなく感じるだけですが、……昨日お邪魔したときから、綴理先輩の周りによくない気配がまとわりついているんです」
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綴理「そう、なのかな?」
吟子「……失礼ですが、この一年以内にご家族や親しいご親戚に不幸があったことは?」
綴理「……ない……よ。近しい人で思い当たるのは、…………さやだけだ」
吟子「でしたら、この気配は、やはりさやか先輩なのだと思います」
綴理「さやが、いるの……?」
吟子「半分は、正解です」
綴理「……もう半分は?」
吟子「それは、……今はさやか先輩とは呼べないものです」
綴理「どういう、こと?」
吟子「肉体という器を失ってなおこの世に留まると、この世に漂う悪い気に直接さらされることになります。私たちはそれを"汚れ"と呼んでいます」
吟子「すると、次第に自我を失い、人に害なす存在になってしまうと言われています」
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綴理「さやでも?」
吟子「はい、どんな聖人君子でも例外なく。でも、百生の教えでは、そうなった状態でしてしまうことを、その人のやったこととは考えません。それが、半分は正解ということです」
吟子「……綴理先輩、おかしなことが起き始めたのはいつごろからかわかりますか?」
綴理「はっきりとはわからない。でも、夏休みに入ってからかな」
吟子「そうですか。通常二、三か月ほどで周囲に影響を与えるようになるとされているのですが……」
吟子「そんなに長い間自分を保って、……流石ですね、さやか先輩は」
綴理「そっか、……さやだからね」
吟子「はい、さやか先輩ですから……」
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綴理「……それで、ぎんは、何をするの?」
吟子「汚れを払い、そしてこの世からお帰りいただくことになります」
綴理「帰るって? ……そしたらさやは、いなくなるってこと?」
綴理「それは、嫌だ。ボクが少しくらい失敗したって、怪我をしたって、さやが、……さやがいるなら!」
吟子「……綴理先輩はそれでよかったとしても、さやか先輩にそんなことを続けさせていいんですか?」
綴理「それは……」
吟子「それに、今は軽い怪我で済んでいますが、このまま汚れにさらされると、遠からずもっと深刻な状態になってしまうでしょう」
吟子「お気持ちはよくわかります。それでも、どんなに大切な人だとしても、いつまでもそばにいてもらうことはできません」
綴理「でも……だけど……」
吟子「時には、離れていく儚さを偲び、あるべき場所で、安らげる場所で眠ってほしいと願うのが、百生の、……私の考えです」
綴理「…………」
綴理「ごめん。……ぎんの言うとおりだ。……さやを、助けてあげてほしい」
吟子「はい。辛いご決断、ありがとうございます」
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吟子「……それでは、少し準備をしますね」
綴理「部屋が資料館みたいだ」
吟子「はい、清められた生地に、友禅、金箔、そして加賀繍をそれぞれ施して作った護符を、鬼門を除いた三方に配置します」
吟子「これでも昔に比べるとずいぶん簡略化されているそうですよ」
吟子「それぞれ謂れもあるのですが、ちょっと現代には通用しなさそうなものなので、実際のところはただの気休めなのかもしれませんね」
吟子「それより大事なのは、さやか先輩とのつながりを感じられるもの。……用意していただけましたか?」
綴理「うん、ボクとすずでリボンを一本ずつ貰ったんだ。これでいいかな」
吟子「はい、これ以上ないものだと思います」
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吟子「それでは、私がお手伝いしますので、片手でリボンを持って、もう片方の手を私の肩に置いてください」
綴理「うん、……これでいいかな」
吟子「はい。……それでは、力を抜いて、目を閉じて、さやか先輩の汚れが払えるよう想ってください」
綴理「それだけ? 意外に簡単……?」
吟子「そうですね。方法はあまり関係なく、結局は人の想いが大切ということなんだと思います」
吟子「そして、その想いを伝えるのが私の役目です」
綴理「わかった、やってみる。……さやが痛がったりしないかな」
吟子「大丈夫です。良くないものを払うので、むしろ苦しみから解放してあげられるはずです」
綴理「そっか。それじゃあ……」
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綴理(さや、さや、……近くにいてくれたんだ。気づかなくてごめん)
綴理(想いを持って留まるって、ぎんが言ってた。きっと頼りないボクを心配してくれていたんだね)
綴理(でも、そのためにさやがさやでなくなってしまって、きっと苦しんでいるはずだ)
綴理(ボクはさやが苦しんでまで、そばにいることは望まない)
綴理(だから、いいんだ。ボクが想うことで汚れが払えるなら、さやを助けたい)
綴理(たとえその先に、もう一度別れが待っていたとしても……)
綴理(ボクは、さやを……)
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吟子「……綴理先輩、もう……十分です」
綴理「……ぎん、うまくできたかな」
吟子「はい、もう嫌な感じはなくなりました」
吟子「でも、汚れを払えたということは、ここに留まっていられるのも、あとわずかだと思います」
綴理「そっか、ありがとう」
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さやか「ぐうぅっ! ああああっ!」
さやか「もう! ……すっごく痛いじゃありませんか!」
さやか「まあ、自分のしたことの報いとして、甘んじて受け入れますけど。……って、ああ、わたしは、わたしは何ということを!」
さやか「綴理先輩、すみません。わたしは——」
綴理「いいんだ、さや。ボクは気にしていない」
さやか「綴理、先輩……!?」
吟子「綴理先輩、何か聞こえるんですか?」
綴理「ううん。残念だけど、何も聞こえないよ。でも、こんなとき、さやが何て言うかはわかるから」
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綴理「さや、聞いて。……ボクはさやがそばにいてくれたって知って、嬉しかったんだ」
綴理「どんな形でも、もう一度会いたい。ずっとそう願っていたから」
さやか「私だって、そうです! 綴理先輩、綴理先輩……!」
さやか「突然のことで、お礼も、お別れも言えなかった……」
さやか「わたしは綴理先輩に出会って、救われました」
綴理「ボクは、さやに出会って、救われた」
さやか「綴理先輩……」
綴理「あのころ、先が見えなかったボクの道を、さやが照らしてくれたんだ」
綴理「さやがいなければ、ボクはまだ籠の中で震えているだけだったと思う」
綴理「ありがとう、さや」
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泣いた
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さやか「お礼を言うのは、わたしの方です!」
さやか「綴理先輩に出会って、わたしはもう一度夢に向かって進み始めることができました」
さやか「楽しかった。幸せでした……!」
さやか「もっとあなたと一緒にいたかった」
綴理「でも、これ以上さやが傷つくことはない」
綴理「たとえ遠く離れても、さやには、幸せでいてほしいんだ」
綴理「ずっと一緒にいるという約束は守れないけど」
綴理「一緒に過ごした思い出があれば、会えなくても前に進めるって、信じられるから。……どうかな?」
さやか「はい…………はい……!」
綴理「それに、さやがいなくなってから、ボクも色々できるようになったんだ」
綴理「自分のお弁当だって作れるように、なったよ」
さやか「綴理先輩、立派になりましたね……」
さやか「でも、そんなに泣いて……ふふっ、そんなことでわたしが死んだらどうするんですか?」
さやか「綴理先輩も、わたしがいなくても幸せになっ————」
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吟子「……綴理先輩」
綴理「……行ったんだね」
吟子「はい……」
綴理「ぎん、ありがとう。おかげで、さやにお礼を言えたよ」
吟子「さやか先輩にも、きっと伝わったと思います」
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……
綴理「ぎん、本当にありがとう。どうやってお礼をしたらいいかな。お金、いる?」
吟子「いえ、そんなの、……いいんです。私が個人的にお力になりたかっただけですから」
綴理「でも、家業って……」
吟子「そ、そうですけど。でも、あまり今日のことを気にしすぎないでください。……はっきりしたことはわからない、ただの迷信です。私はただ先輩のお話を聞かせてもらっただけです」
綴理「……うん、わかった」
吟子「だから、そんな風に怪しい人にお金を払っちゃ駄目ですよ!」
綴理「ぎんは怪しくないよ?」
吟子「うう、ええと、……じゃあ、実は小鈴がまた映画を撮ろうって言い出して、今日はその役作りに付き合ってもらった、ということで……ということなんです!」
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綴理「それでも、何かお礼をさせてほしい」
吟子「それなら、また花帆先輩と一緒に来るので、おいしいお茶、……いえ、できたらおいしい珈琲をご馳走してください。それで十分です」
綴理「うん、わかった。じゃあ修行してくる。楽しみにしてて」
吟子「修行、まではしなくていいですけど。……でも、楽しみにしています」
吟子「……それでは、そろそろ失礼します」
吟子「……綴理先輩、さやか先輩は私にとっても大事な人でした。だから、……ありがとうございました」
綴理「うん、ボクも少し気持ちを整理できそうだ」
吟子「よかったです。それでは、失礼します」
綴理「うん、映画楽しみにしてる」
吟子「ええ!? いや、あの……」
綴理「ふふ、またね」
吟子「もう! からかわんでください。……ふふ、それではまた」
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さや😭
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……
綴理「さや、ありがとう」
綴理「……今日の晩御飯は、どうしようか。さや、……うん、絹さやを使った料理がいい。絹さや、絹さや……」
綴理「……よし、肉じゃがにしよう」
おわり
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乙😭😭😭
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お盆時期に心に染みるss助かる
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乙…成仏してクレメンス
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泣いた
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