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果南「ざぶん」
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果南(水音が聞こえた気がして、私はそちらへと視線をやった)
果南(海の中でAqoursの皆が楽しそうに泳いでいる。茹だるような暑さにやられている私と違って、とても気持ちよさそうに、涼しげに)
千歌「果南ちゃん泳がないのー? こっち来てよ!」
果南(私に気付いた千歌が楽しげにこっちに手を振る)
果南(あぁ、いいな。私も泳ぎたい。皆と一緒に泳ぎたい)
ダイヤ「……果南さんはブッブーですわ」
果南(ダイヤが冷たく言う。なんでそんなこと言うのさ。ほら、そんなこと言うから皆から睨まれてる)
果南(ふらふらとした足取りで、私は皆が待つ海へと歩き出して)
「何してるんですか!!」
果南(肩を掴まれた。同時に、目の前をトラックが通り過ぎていく)
果南(海は消えて、何の変哲もない道路が目の前にあった)
果南「……あぁ」
-
「あぁ、じゃないですよ! 轢かれるところでしたよ!?」
果南「……うん、そうだね。ごめんね」
果南(思考のまとまらない頭が、一先ず謝っておけと指示を出す。私は緩慢な動作で、私の肩を掴んだ少女へと頭を下げた)
果南「ありがとう、かもだけど」
「暑くてボーッとしてたんですか? 自販機で水でも……」
果南(少女の言葉はそこで途切れた。じっ、と私の顔を眺めている。数秒遅れて、ぽかんと空いた口から声が出た)
「Aqoursの松浦果南さんですか?」
果南「うん、そうだよ」
果南(知り合いではなさそうだ。Aqoursのファンの子かもしれない。ファンを邪険にしたら駄目だ、とダイヤが度々言っていたのを思い出す)
果南(私は曖昧な笑顔で微笑んだ。特に、もう言うことはなかった)
「……ボク、渡辺と言います」
果南「渡辺?」
「渡辺曜の従姉妹です」
-
果南「……あぁ。曜の。初めまして」
果南(ファンでは無さそうだ。曜とは昔から仲良くしていたけれど、この子のことは知らない)
果南(あんなことがあったからこの街に来たのかもしれない。あるいは、ただ単純に紹介されていなかっただけかも)
果南(考えても意味のないことだった)
「なんであんなことしようとしたんですか?」
果南「なんで、って」
「車道に飛び出そうなんて」
果南(渡辺さんは言って、軽蔑するような視線を私に向ける。確かに従姉妹で、事情を知っている──恐らくは、だけど──ならばそういう反応になるのもおかしくない)
果南(私はただ、海で泳ぎたいだけなんだけど。それを言ってもきっと理解はされないだろうことを理解出来るくらいには、私は正常だった)
果南「……いや、ただ。暑さでボーッとしてただけだよ」
果南(だから、そう誤魔化す。それが一番自然だった)
果南「渡辺さんは、曜の……なんだっけ、どう言うんだっけな。余り語彙力ないからさ」
果南「えっと、弔問?」
-
「……それもありますけど、ボクはこの街の住人ですよ」
果南(ただ紹介されていなかっただけらしい。そういうこともあるだろうと納得する。私だって友達に紹介していない親戚はいくらでもいる)
果南「そうなんだね」
果南(言って、黙る。渡辺さんも口を閉じた。渡辺さんと話すことはもう無い。曜のことを話せばいくらでも会話は続いただろうけど、私にはそんな気力はない)
果南(渡辺さんは男なのか女なのか分からない。中性的な顔立ちで、服装もどっちとも取れる。ボク、と言うからには声の高い男性だろうか。聞くのはデリカシーに欠けた)
果南「じゃあ、これで。止めてくれてありがとうね」
果南(短く別れの言葉を告げて、二歩ほど進んだ時、渡辺さんは唐突に言った)
「後追いなんかじゃないですよね?」
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果南「……なにが?」
「曜ちゃんの……Aqoursの皆の、後追いをしようとしたんじゃないですよね?」
果南「はは、まさかだよ」
果南(後追いと言われて、確かにそう見えるのだろうなと微笑む。現場もこの辺りだ)
果南(Aqoursの皆が。私以外の8人が死んだのは、丁度この辺りだった)
果南「死んだらさ、悲しいじゃん。私は後追いなんてする気ないよ」
「でも……」
果南「ないから」
果南(少し言い方が強くなってしまった。渡辺さんは何も言い返さず、何とももどかしげに下を向く。本当にそんなつもりなんてないのに)
果南(私は死ぬつもりなんてないのに)
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果南「じゃあね」
果南(また背中に声をかけられたが、今度は振り返らずに歩いていく。茹だるように暑い。太陽の光で反射したコンクリートの表面がキラキラ輝いているように見える)
果南(フェリーに乗り淡島へ渡る。人影はまばらだ。事故の影響は無いとは思うけれど、なんだか申し訳ない気分になる。申し訳ないと思う理由もないのだけど)
果南(家に付くと、郵便受けに一枚の封筒が入っているのが見えた。浦の星女学院からの配送物のようだった)
『廃校のお知らせ』
果南「……はぁ」
果南(封筒の上部を破り取り、取り出し広げた紙の一番上に踊る無機質な明朝体を見て、溜め息と共にそれをくしゃくしゃに丸めて屑籠に放る。続きを読む意味は感じられなかった)
果南「まぁ、そっか。そうだよね。理事長の鞠莉もいないんだから……」
果南(それに、Aqoursも。私達が輝いていたあの場所も、浦の星を廃校の危機から遠ざけていた。Aqoursが無くなった今となってはもう、廃校を食い止める方法は何もない)
-
果南「……」
果南(目を閉じる。暗くなった視界が揺らぎ、あの日のあの光景が、焼き付いてしまった瞼の裏から這い出してくる)
果南(私達は道を歩いていた。浦の星を出て坂を降り、千歌の家に向かっていたんだ。千歌と曜と梨子ちゃんは何がおかしいのか笑っていて、善子ちゃんを花丸ちゃんが揶揄いルビィちゃんがそれを見ていた)
果南(鞠莉は確か、父親か誰かと電話をしていた。そのすぐ前で、私はダイヤと話をしていた)
果南(会話の内容は覚えていない。そのくらいくだらないことだったからだ)
果南(そして──そして、ダイヤが叫んだ)
果南(丁度その時私は海を見ていて。驚いて振り向いた私の目の前をトラックが通り過ぎて)
果南(赤い物が飛び散って。ぐちゃぐちゃした肉が散らばって。どろどろの目玉が潰れて転がって。鉄の臭いと排泄物の臭いがぷんと鼻を突いて。赤く染まったトラックが止まって)
果南(私は、気を失った)
果南(気付いた時には病院で、奇跡的に私だけが事故に合わなかったと警察だったか医者だったかが話していた。覚えていない、どっちでもよかったから)
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果南(事故にあった皆は死んだ。即死だった)
果南「……なんで生き残っちゃうかな」
果南(死にたかったわけじゃないけど。私だけが生きてるというのもそれはそれで、なんだか気持ちが悪かった)
果南(奇跡を喜べないほどには、気持ちが悪かった)
果南「……」
果南(それからだった。海が見えるようになったのは)
果南(実物の海ではない。道路に海が見えるんだ)
果南(そこではAqoursの皆が楽しげに泳いでいて、とても気持ちよさそうで、とても嬉しそうで)
果南(早くこっちに来なよ、と私を呼んでくれる)
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果南「ダイヤは嫌みたいだけどね」
果南(呟く。皆が誘ってくれるのに、ダイヤだけは一度も誘ってくれたことはない。私の見ている幻覚なのだろうけど、例え幻覚だとしても理解しているのだろう)
果南(私が海に飛び込めば、死ぬと。だから一人だけあんなに嫌そうに、私にしかめつらを見せているんだろう)
果南(もし、ダイヤが私を呼んだら。きっと私は喜んで海に飛び込むのに)
果南「……暑いなぁ」
果南(茹だるような暑さの中、私は歩いている。照り付ける日光でコンクリートはいつも通り、海のようにキラキラと輝いている)
果南(今日、浦の星の廃校について全校集会が開かれた。三年生には何も関係ないのに三年生も呼び出しを受けた。何の意味もないのに)
果南(全校生徒が静真に編入するらしい。静真側では一部の生徒や保護者が反対しているらしい、とクラスの友人が噂していた)
果南「静真ってマンモスでしょ。たった三十人程度が編入するくらいで揺らぐものなの?」
果南(そう聞くと、ただの陰湿な言い掛かりだと言っていた。統合反対という政治的な絡みがあるらしい。使うなよ、子供をダシに)
-
😢
-
果南「まぁ、私には関係ないんだけど」
果南(独りごちる。傍から見れば、炎天下の道路でブツブツ独り言を言っている危ない奴で、救急車か経口補水液のお世話になるべき熱中症患者だろう)
果南(けれど今は問題ない。前にも後ろにも人はいない。車だって忘れた頃に通り過ぎるだけだ)
果南(こんな暑い日には、誰も外に出たくないのだろう)
善子「本当あっついわねー」
果南(善子ちゃんが手で扇を作りパタパタと仰ぐ)
ルビィ「果南ちゃんも泳ごうよ、涼しいよ」
花丸「こっちは快適ずら!」
果南(本当に涼しそうだ。そっちは涼しくて、楽しくて、何の悩みもなさそうで)
果南「いいなぁ」
果南(思わず声が出た。ダイヤが私をジロリと睨めつける。やだなぁ、なんで分かんないんだろ。私は海に入りたいだけなのに。ダイヤの海じゃないんだから、いいでしょ? 皆の海なんだから)
果南(その魅力に抗えず、ふらふらと前に進む。海に飛び込んで、それで皆と毎日一緒に……)
「果南さんっ!!」
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果南「う……?」
果南(トラックが目の前を通り過ぎる。また肩を掴まれていた。誰もいなかった筈なのに)
果南(前にも後ろにも、誰もいなかったのに。振り向いたそこには渡辺さんが顔を真っ赤にして立っていた)
果南(恥ずかしいのか、それとも熱中症かと考えて)
「何を考えているんですか!」
果南(怒っているのだ、と気付く)
果南「なにって、なにも」
「また道路に飛び出そうとしてましたよ! ボクがいなかったら……!!」
果南「どこから出てきたの?」
「は……?」
果南「前にも後ろにも、誰もいなかったんだよ。渡辺さんは何処から出てきたの?」
「どこからって……普通に向こうから歩いてきたんですよ。そしたら、果南さんが道路の方を向いてボーッと立ってるのを見つけて」
果南「へぇ、そうなんだ」
「声を掛けても反応が無くて、ボク、心配になって救急車を呼ぼうと思ったら……道路に向かって歩き出して」
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果南「そう、なんだね」
果南(誰も見えなかったのに。こんなに近くまで近付いてこれるほどに私は海を眺めていたんだろうか)
果南(いや、違うか)
果南「待ってたんだ」
果南(トラックを。皆みたいに轢かれるのを)
「なにがですか?」
果南(訝しげに渡辺さんが聞く。私は手を振って誤魔化した)
果南(誤魔化しきれなかったかもしれないけど)
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「あの、本当に大丈夫ですか?」
果南「大丈夫だって。本当に……」
果南(渡辺さんはまだ私のことを疑っていたようだけど、結局は私を解放し離れていった)
果南(大丈夫だよ。死のうなんて思ってないから。本当に、そんなことを考えたこともないから)
果南(ただ、Aqoursの皆と一緒にいたいと思っちゃっただけだから)
果南「はぁ!? 静真が受け入れを中止するかもしれない!?」
果南(思わず机を叩く。ダイヤ亡き後の生徒会長代理となった二年生が、怯えたように首肯した)
「は、はい。統合を取り止めたいと、その……連絡が……」
果南「なんで? ほとんど決まってたんでしょ!?」
「PTAや生徒の反対が強まったみたいで」
果南「その理由を聞いてるんだよ。なんで今更……」
果南(静真からの唐突な通達に、浦の星の在校生達の間では不穏な空気が流れていた。ほとんど編入が確定していたのになんで今更、断られるのか)
果南(理解が出来ない。意味が分からない)
「その、そのぉ……」
果南(代理はほとんど涙目で、言いづらそうに。途切れ途切れに言葉を吐いた)
「浦の星には……頭の、おかしい人がいる、と」
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果南「え……」
「せっ、静真の生徒の間で噂が拡がって、PTAにもそれが伝わったみたい、でっ」
果南(最後はほとんど泣いているような声だった。茹だるように暑いのに、身体が冷えていくような気分になった。頭のおかしい人、頭のおかしい──人)
果南(多分、私だった)
果南「……」
果南(車道に歩きだそうとする人間は確かに頭がおかしいだろう。どんな理由があろうと、狂っているとしか思われない)
果南(私が車道を見ているのを、あるいは飛び出そうとするのを静真の誰かが見ていたのかもしれない。それが広まって……皆に迷惑をかけた)
果南(友達を失った、とか。仲間を失ったとか。そういうセンチメンタルでナイーブな考えは、政治的な価値観の前では微塵も理解されないだろう)
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果南「……」
果南(茹だるように暑い道を歩く。歩く、歩く、歩く。私のせいで後輩達が編入先を失った)
果南(理由がなくとも最初から断るつもりだったのだろうか。だとしても、つけ入る隙を与えたのは私だ)
「あっ、果南さん」
果南「ん……」
果南(渡辺さんが暗い顔で近付いてくる。こんな普通な、一般的な邂逅は初めてだったからなんだかおかしくなる)
果南「今日は肩を掴まれなかったね」
「えっ、あはは」
果南(心なしか声が低い。少なくとも楽しい気分ではないことは明らかだった)
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果南「どうしたの? 顔、暗いけど」
「あの……えっと、その。ごめんなさい!!」
果南(突然謝られ、面食らう。謝られる理由が何もない)
果南(命を救ってもらったのだから此方が謝るならまだ分かるけど、なんで渡辺さんが?)
果南「なにが?」
「ボク、静真の生徒なんです」
果南(ぞくり、と。背筋に冷たいものが走った)
果南「……うん」
「果南さん、Aqoursの皆のこと、気にしてるのかなってつい友達に話しちゃって……そ、そしたら噂が変な形で広まっちゃって……本当にごめんなさい!!」
果南「……そっか」
果南(そう言われても、渡辺さんを責める気は起きなかった。どうしようもないことだ。渡辺さんだってこうなるとは思わなかったんだから)
果南「そっか」
果南(低く、言う。渡辺さんは何度も何度も謝罪をしながら私から離れていく)
果南(茹だるように暑いのに、冷たい。身体が──冷たい)
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ᶘイ^⇁^ナ川|c||^.-^|| イナとブッブは仲良しこよし♪
ᶘイ^⇁^ナ川|c||^.-^|| イナとブッブでイナブッブー♪
ᶘイ^⇁^ナ川 チョチョンガデンガラリンノ デンガラリンノ
|c||^.-^|| チョチョンガデンガラリンノ デンガラリンノ
ᶘイ^⇁^ナ川|c||^.-^|| デンガラリンノ ドン♪
果南「わぁイナ川とブッブさんだ。かわいいなぁ」
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果南(ぱしゃん、と。水の音が聞こえる)
果南(そちらへと顔を向けた。Aqoursの皆が海で泳いでいるのが見える。本当に楽しげで、本当に魅力的で)
果南(彼女達が死人だとしても。彼女達が私を呼んでいるだけだとしても)
果南(どうしてもそちらへ行きたくなった。海の中に飛び込みたくなった)
鞠莉「カナーン! こっちは最高よ!」
ダイヤ「……だから、来てはいけませんと何度も」
果南「ねぇ、ダイヤ」
ダイヤ「……」
果南「ごめん。ごめんね、限界っぽいや」
果南(言って、笑う。自然と目の端から涙が流れていくのが分かった。心が蕩けて、視界が滲んで。何かが外れる)
果南「ダイヤが守ってくれてさぁ、嬉しいけどさぁ。もう限界なんだよ」
果南「私のせいで静真との統合も無茶苦茶になっちゃった。私ねぇ、もうそっち行きたいんだよ。皆と一緒に過ごしたいんだよ」
果南(ダイヤは少しだけ迷うような素振りを見せた。けれども、すぐに溜息を吐くと、困ったような笑顔で私を見た)
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!?
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ダイヤ「いらっしゃい、果南さん」
果南(ダイヤがそう言ってくれることは分かっていた。だってダイヤは誰よりも──誰よりも、優しいから)
果南「うん。……うん!」
果南(一歩前に踏み出す)
千歌「果南ちゃん、やっと来たのだ」
曜「待ちくたびれたであります!」
果南(ごめんね、皆。ずっと待たせて)
梨子「これからはずっと一緒ですよ」
善子「果南も私のリトルデーモンに加えてあげるわ!」
果南(誰かの悲鳴が聞こえる。渡辺さんのような気がした)
花丸「皆でずーっとずっと、ここにいるずら」
ルビィ「また九人揃ったね!」
果南(ブレーキ音。金属の音。何かが迫ってくる気配がする)
鞠莉「一人だけ置いてきぼりにしちゃってごめんね」
ダイヤ「……もう、何も心配することはいらないんですよ」
果南(いつの間にか私は水着に着替えていた。大好きな海へ向かって、私は駆け出す)
果南「……うん!」
ざぶん。
終わり
-
辛い、つらすぎる
>>1
乙
-
乙…😭
なんか変なの通り過ぎた気がするけどきっと気のせいだろう
-
乙
-
…
-
サブリミナル効果ってすごいな、全部吹っ飛んだ
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