ᶘｲ^⇁^ﾅ川 ﾁﾝﾁﾝｼｬﾌﾞﾚ
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 ﾁｰｽﾞﾖｺｾ
第一次イナ川ブームが終わると同時に、街には捨てイナ川が溢れた。
一部のイナ川は野良に適応出来ず餓死し、それ以外のイナ川はゴミを荒らす厄介者と白い目で見られながらも何とか生き残っている。
こうして道を歩いているだけでも、ゴミを漁り、公園の雑草で無理やり腹を満たす汚れたイナ川達の姿が何匹も見られる。
もはや日常風景になってしまっているので、それらを見てもなんの感慨もない。
ᶘｲ^⇁^;ﾅ川 ま、待ってください！
目の前に薄汚れたイナ川が飛び出してくる。
汚い汁に塗れ変色した制服から、恐らく生粋の野良イナだろう。
ᶘｲ^⇁^;ﾅ川 三日前から何も食べてないんです……お願いですから、何か食べ物恵んでください……
こういった要求をしてくる野良イナは意外に多い。親から人間は危険と教わっていないのだろうか。
俺は無視をするだけだが、たまに思い切り蹴飛ばされている野良イナを見ることもある。
こうして無視をすれば、大抵のイナは諦める。意外と聞き分けのいい存在なのだ。
ᶘｲ^⇁^;ﾅ川 待ってくださいね！ 待ってくださいね！ ﾄｺﾄｺ
背後から響く声。
イナ川が短い手足で、必死に俺の後を追いかけてきているのが見えた。
こんなに必死な野良イナは珍しいな。
しゃがんで、イナ川と同じ目線になってから声をかける。
なんで食べられてないんだ？ 親は？
ᶘｲ^⇁^ﾅ川ﾉ ｲﾅｰ！
俺が返事をしてくれたことが嬉しいのか、イナ川はてってこてってことその場で踊るようにステップを踏んだ。
ᶘｲ^⇁^;ﾅ川 実は……三日前に母イナが死んじゃったんです。力が弱くてゴミ漁りの縄張り争いには負けちゃいましたし、公園の虫さんは早くて追いつけません
なるほど、落ちこぼれイナなんだ。
ᶘｲ;⇁;ﾅ川
泣くなよ……。
話を纏めると、イナ川は今まで親に食べ物を持ってきてもらうニートイナをしていたらしい。
しかし親が死んでしまい、自力で食料も取れず、弱肉強食の野良の世界で食事を分けてもらえるわけもなく。人間に声をかける以外の手が無かったわけだ。
どうしようか、多分こいつ放っておいても死ぬよな。
ᶘｲp⇁;ﾅ川 ﾁﾗｯ
うーん……。
ᶘｲ;⇁qﾅ川 ﾁﾗﾁﾗｯ
しょうがないな、じゃあ行こうか？
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 しお？
しお、じゃなくて。お前自分じゃご飯食べられないんだろ？ 行くぞ。
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 えっ？ えっ？ 行くってどこに……ま、まさか！
٩ᶘｲ^⇁^ﾅ川و 人間さんの家ですか？ 夢の飼いイナですかー！？ ｷｬｯｷｬ
はいはい、手ぇ繋いでいくぞ。
ᶘｲ^⇁^;ﾅ川 ……恥ずかしいです
あぁ、そうか。お前食べてないんだもんな。ええと……。
こんなもんしか無いけど、いいか？🧀
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 こっ、こここっ、これは！？
ᶘｲ^⇁^;ﾅ川 野良イナ川の憧れ！！ 6pチーズじゃないですか！！！
うおっ、急に凄い食い付き……餓鬼かな？
ᶘｲ^⇁^;ﾅ川 本当に貰っていいんですか！？
いいよ別に……また買うし。こんなもんでよければ。
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 モグ…… ﾄﾞｷﾄﾞｷｼｺｼｺ
ᶘｲ;〜;川 うまいなーうまいなー ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ
泣くなよこれくらいで。
とはいえ気持ちは分からないでもなかった。野良、しかも弱い個体にとっては産まれて初めてのチーズだろう。
イナ川という種は何故かチーズを異常に好む性質がある。イナ生で最初で最後のチーズだろうから、とくと味わってほしいな。
ᶘｲ;⇁;ﾅ川 ありがとうございます、人間さん……
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 あとはミイさんで見抜き出来れば言うことはありませんね
調子に乗るな。
お前らイナ川種が捨てられ倒した理由それだぞ。
何が悲しくて年がら年中ちんちんシコってる淫獣を飼わなきゃならんのか、ってのが世間の風潮だからな。
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 てへへ
ᶘｲ-⇁-ﾅ川 ……
ᶘｲ^⇁^ﾅ川（まさか私が飼いイナ川になれるなんて思いませんでした）
ᶘｲ^⇁^ﾅ川（これから私はこの人間さんの最高の相棒になるんです、楽しいときも悲しいときも一緒にいるんです）
ᶘｲ^⇁^ﾅ川（人間さんはお礼にってたくさんのチーズをくれて、綺麗なミイさんで見抜きをさせてくれるんです）
ᶘｲ^⇁^ﾅ川（それに感激した私は……）
ᶘｲ//⇁//ﾅ川（人間さんにち……ちゅっちゅをしてあげたりなんて、きゃっ）
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 楽しみですー！
おっ、ここだ。着いたぞイナ川
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 はい！ ここが人間さんの……
『野良イナ保健所 殺処分受け付けます』
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 い……え……
さ、行くぞイナ川。俺、この後用事あるんだよ。
ᶘｲ^⇁^;ﾅ川 ま、待ってください！ ここは駄目です！ 怖いところです！
ᶘｲ^⇁^;ﾅ川 母イナにも近付くなって言われてるんですぅ！！
我儘言っちゃ駄目だぞ。ほらほら、しっかり歩けって。
ᶘｲ;⇁;ﾅ川 やーです！ やーですぅ！！ ｽﾞﾙｽﾞﾙ
あのー、すいません。野良イナ川回収してほしいんですけど。
「あー、はいはい。野良イナね、どこの子？」
向こうにある公園の群れにいたみたいなんですけど、母親が亡くなってから餌が取れなくなったみたいで。
餓死する前にここに送ってあげようかな、と。
「よくあるパターンですねぇ。ありがとうございますね」
ᶘｲ;⇁;ﾅ川 飼ってくれるって言ったじゃないですか！！
俺そんなこと言ったっけ……？
「イナ川は思い込みが激しい種ですからね。ただの鳴き声だと思って気にしない方がいいですよ」
そういえば殺処分ってどうやるんですか？ 野良イナ保健所の仕組みってあんまり詳しくなくて……。
「あのー、しばらくはここで保護するんですよ。1ヶ月くらいかな？」
「その間に飼い主になってくれる方が見つかればお渡しすることになりますね。もし1ヶ月経っても見つからない場合は、ガスで処分ですね」
「その後イナ川用ミンチマシーンでドッグフードやイナ川の餌に加工される、って流れです。激安弁当のお肉なんかにも使われるんですよ」
へぇ、イナ川って意外と利用価値あるんですねぇ。
ᶘｲ;⇁;ﾅ川 ミンチ嫌ですー！ 飼ってくださいー！！
我儘言うなって。チーズもあげただろ？
それに、あのままだと今日明日にも餓死だったんだぞ。それが1ヶ月もご飯を貰えて生きられるんだ。寿命が伸びたんだからお前も幸せだろ？
ᶘｲp⇁qﾅ川 うあーん！！ うあーーーん！！！
はい、よろしくお願いします。
ᶘｲp⇁qﾅ川 イナァァァァっ！！ イナぁぁぁっ！！
じゃあな、イナ川。飼い主さん見つかるといいな。
ᶘｲ;⇁;ﾅ川 あ……う……
ああ、もうこんな時間か。早く行かなきゃ待ち合わせに遅れちまうよ。急がなきゃ……。
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 ……人間さん
ん？
ᶘｲ;⇁;ﾅ川 チーズ、ありがとうございました
ᶘｲ;⇁;ﾅ川 本当に、美味しかったです……
……気にするなって。じゃあな。
「さ、檻まで自分で歩けるかな？ お腹空いてるでしょ、すぐにご飯あげるからね」
ᶘｲ;⇁;ﾅ川 ……
何回か野良イナに声をかけられたことはあるけど、大抵は罵倒か自分本位な発言ばっかだったのに。
自分が保健所に連れて行かれた、って分かってお礼を言うか……。
……。
ᶘｲ;⇁;ﾅ川『チーズ、ありがとうございました』
いやいや、無いって。あんな汚い野良イナ飼うとか……。
ᶘｲ;⇁;ﾅ川『本当に美味しかったです』
………………。
いやいや、なんで俺イナ川の餌代とか調べてんだ？
それに俺の住んでるアパート、ペット禁止だし。ここ安いし立地もいいしな……。
うん……。
うん、飼うとかないよな。
……うん。
……あ、もしもし。すいません、ちょっと問い合わせしたいんですけど。
ペット可で安い物件とかってありませんかね……？
「今日で1ヶ月だね。結局飼い主さん見つからなかったね」
「ご飯もあんまり食べてないけど……美味しくなかった？」
ᶘｲ›´⇁`‹ﾅ川 あんまり食欲がないんです
「そっか。じゃあ、行こうか？」
ᶘｲ›´⇁`‹ﾅ川 ガス室ですよね、分かってますよ
「随分素直だね……普通のイナ川なら皆暴れるのに」
ᶘｲ›´⇁`‹ﾅ川 イナ生に希望が見いだせないだけですよ……
「……そっか。ごめんね、イナ川ちゃん」
ᶘｲ›´⇁`‹ﾅ川 謝らないでください。お姉さんも本当はイナ川種が好きなんだってことはこの1ヶ月で十分分かりました
ᶘｲ›´⇁`‹ﾅ川 でも全てのイナ川を救うことなんて出来ませんもんね……
「うん……」
ᶘｲ›´⇁`‹ﾅ川 ……
ᶘｲ›´⇁`‹ﾅ川（私のイナ生は終わる）
ᶘｲ›´⇁`‹ﾅ川（……お母さんと一緒に暮らしてる時が一番幸せだったなあ）
ᶘｲ›´⇁`‹ﾅ川（その次は……あの人間さんに手を繋いでもらった時）
ᶘｲ›´⇁`‹ﾅ川（暖かくて、嬉しくて、とっても……幸せで）
ᶘｲ›´⇁`‹ﾅ川 ……
ᶘｲ;⇁;ﾅ川
「うん……」
バンッ！！
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 ！？
「！？」
ᶘｲ^⇁^ﾅ川（あれから3ヶ月が経ちました）
ᶘｲ^⇁^ﾅ川（私は今日も生きてます。大好きな飼い主さんと手を繋いで散歩する、そんなしあわせな時間を送れています）
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 6pチーズ食べたいですー！
ᶘｲ^⇁^ﾅ川（こうして甘えることだって……ガス室送りになる瞬間には考えられなかったことです）
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 お願いしますよー帰ったら家事手伝いますから！
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 ね、ね！ ぴっぴさん！
ぴっぴさん「しょうがねぇなぁイナ川」
ぴっぴさん「ちゃんと皿洗い手伝えよー？」
ｲﾅｲﾅﾋﾟｯﾋﾟ
「おっ、飼いイナ川だ。やっぱ可愛いなイナ川」
まぁ、うん。そうだな。
「そういやお前イナ川飼おうか迷ってるとか言ってなかった？ あれどうなったん？」
あー、いや、うん。ほら、俺んちペット禁止だろ？
「うん」
ペット可の物件探したんだよ。
「おお、引っ越しまで！」
家賃が高かったから辞めた……。
「えぇ……？」
こうして、たまたまイナ川を貰いに保健所に来たぴっぴさんに引き取られたイナ川は、今も幸せに生きています。
大好きな飼い主さんと一緒に。
この後俺くんは会社をクビになり、車に轢かれて四肢断裂し、癌を発病してこの世の全ての苦しみを味わった後死んだ。
終わり
やっぱりぴっぴさんよ
サンキューぴっぴさん
ᶘｲ^⇁^;ﾅ川 ま、待ってください！ ここは駄目です！ 怖いところです！
ᶘｲ^⇁^;ﾅ川 母イナにも近付くなって言われてるんですぅ！！
何言ってるんだ、その隣だよ隣。
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 しお？
アパート見えるだろ？ あれ、俺んち。
……あれ？ まだ言ってなかったっけ、飼うって。
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 びっくりさせないでくださいよー、人間さん。野良イナ保健所送りかと思いましたよ
そんな地獄に落ちるような悪逆行為をするわけないだろ。
そんな事する奴は会社をクビになって車に轢かれて四肢断裂して癌を発病してこの世の全ての苦しみを味わう、ってお婆ちゃんから聞かされてるんだ。
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 じゃあ、本当に私を飼ってくれるんですね？
当たり前だろ？ 6pチーズも買い置きがあるから、好きなだけ食べていいぞ。
あ、ただペット禁止の物件だから引っ越すまで静かにな！
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 わ、私の為に引っ越しまで！？
ᶘｲ;⇁;ﾅ川 人間さんありがとうございますーありがとうございますー
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 おおっ！ こんなにいっぱい！
ᶘｲ;〜;ﾅ川 うまいなーうまいなー
ははっ、泣くなって。
こんなので良けりゃいつでも買ってやるからさ。
もうちょっと稼ぎがあったら高級チーズでも買ってあげたいんだけど。
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 私は6pチーズがいいです！ 大好物なんですよ！
そ、そうなのか？ 安上がりでこっちは嬉しいけど……。
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 当たり前じゃないですか！ だって……
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 人間さんから初めて貰った、大切なチーズですから
！ ふ、風呂入るか！ お前ちょっと臭うぞ
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 んもー、照れちゃって。一緒にお風呂入ってもいいですけど、そういう目では見ないでくださいね
イナ川はいつもハチャメチャで、飛んだり跳ねたり遊び回ったりと大忙しだ。
イナ川の希望で野良ミイリまで飼うことになったのは予想外だったけど、楽しい毎日を送っている。
イナ川を飼い始めてからいいことばかりだ。
会社では昇進した。
「俺くん、最近明るくなったな！ よし、課長に昇進させて給料を1731万円にしてやろう」
それに、恋人だって出来た。
ぴっぴさん「お前の飼ってるイナ川が楽しそうでさー。こんなに大切に飼ってくれる飼い主って、どんな奴か気になるじゃん？」
ぴっぴさん「私のことも同じくらい大切にしろよᴡ」
後、俺にぶつかろうとした車が何故か吹き飛んだり、癌だったらしいが秒で完治した。
これは全てイナ川のおかげだ。
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 俺さーん
お、どうしたイナ川。ミイちゃんで見抜きするんじゃなかったのか？
ᶘｲ^⇁^ﾅ川 えっと、えっとね…… ﾓｼﾞﾓｼﾞ
俺もお前のこと、大好きだよ。
そう言って、イナ川の柔らかな髪を撫でる。
ゴミと埃にまみれていた頃は分からなかったが、艷やかで綺麗な髪だ。
٩ᶘｲ^⇁^ﾅ川و ｷｬｯｷｬｯ
朗らかに笑うイナ川。
その手には思い出の6pチーズが握られている。
こうして、俺くんに飼われたイナ川は今も幸せに生きています。
きっと、これから先も幸せに暮らすことでしょう。
ずっと、ずっと一緒に。
終わり