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【SS】優雅な紫の味を知ったメイズ色

1 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 06:59:09 ???00
きな子ちゃんお誕生日記念SS
付き合ってる前提のきなマル
地の文

過去作の「優雅な紫と不釣り合いなメイズ色」の続きですが、今見返すと拙い部分が多かったため加筆修正したverをpixivに投下してます。

スレ版
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11224/1737360333/
pixiv版
https://www.pixiv.net/novel/series/13560467


2 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 06:59:46 ???00
「マルガレーテ、もう一度確認するぞ」

「何よ」

ある日の科学室の一角、メイ先輩と四季先輩が訝しげな目で私を睨む。
知らない人が今の私達を見たら恐喝か喧嘩にでも思われそうだが、当然実態は違う。
ただ、私がこの人に睨まれるようなことを言ってしまったのは確かである。あるいは言い方の問題か。

「きな子に仕返ししたいって、本気か?」

メイ先輩に相談した内容を復唱される。

「ええ、本気よ」

私も毅然として返す。エイプリルフールはまだ先だし、先輩と仲を深めるため冗談を言ったというわけでもない。
そう、私は本気できな子先輩に仕返しをしたいのだ。


3 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:00:28 ???00
「マルガレーテちゃん。仕返しというなら相応の覚悟はあるの?」

「ええ。もちろんよ」

四季先輩が横から口を挟む。遠回しに私にはまだ早いと言われているようだが、全くもって大きなお世話である。
そんな足踏みをし続けていよいよ差し迫った運命の日。この日に彼女へ意趣返しせねば、今後一生自分の人生をビルドできないまである。

「…わかった」

メイ先輩が深く息を吐く。

「それだけの覚悟があるなら私は止めねえ。お前の考える最高の仕返しをしてみろ」

熟考の末の答えなのだろう。メイ先輩は真剣な眼差しで私の背中を押す言葉をくれた。

「…私も、マルガレーテちゃんを止めるつもりはない。ただ、そこまで言う以上は結果に出してほしい」

「ああ、期待してるぜ…………その……」

敢えて厳しい言葉を投げかける四季先輩に続いて、メイ先輩も檄を飛ばそうと言葉を紡ごうとした。
紡ごうとした、のだが。

「……………………」

次の言葉が中々口から出ず、口をもごもごとさせるばかり。
いいセリフが思いつかないというわけではなく、ただ自分が次に言うべき単語を出すのを渋っているようだ。
そうして沈黙が何秒も続いた後、メイ先輩が顔を赤らめてようやく口を開く。



「……キスの、仕返しを…………」


4 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:01:20 ???00
ことの始まりは、私ときな子先輩がデートした日のことである。
カフェで食事を楽しんでいる最中、私は無作法にも顔にサンドイッチの具をつけてしまった。
それに気づいたきな子先輩が私の顔を拭いてくれると言い出したのだ。

ここまではまだ良いのだが、問題はここからである。
顔を拭くから目を閉じてほしいと言うので、好意に甘えるついでにご丁寧に目を閉じてしまった。
その隙にきな子先輩がなんと私の口元にキスをしてきたのだ。

その後は一応滞りなくデートは終わったものの、あの時のキスの感覚を忘れられず、以降悶々とした日々を過ごしていた。
してやられたという屈辱、気付かぬ間にファーストキスをされていたことへの不満、初めては私の方からしたかったという歯痒さ。
このモヤモヤをどう晴らすべきかと考えた結果、きな子先輩の誕生日プレゼントとして私からのキスを贈りつけてやることにした。
それも、向こうを驚かせてやれるような形で。
あの不意打ちキスなどという蛮行をしでかした恋人に、私はふんふんと言わせてみせようと誓ったのである。

「それを言うなら『ぎゃふんと言わせる』だと思う」

四季先輩、他人のモノローグに口を挟まないで。


5 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:02:08 ???00
ともかく、仕返ししようと考えたは良いものの、一人で何か企んだところで上手く行く保証はない。予想しない第三者に邪魔される可能性だって高い。
それならば誰かに協力してもらうのが良いと思い、メイ先輩と四季先輩に声をかけたのである。

メイ先輩は情に熱く他人の秘密はバラさないタイプだし、真っ先に味方候補に入れた。
次いで、冷静で(変なのばかりだが)役立ちそうな機械も作れる四季先輩。
この二人はLiella!の中でもかなり目ざとく、こちらが何か企もうものなら少なくともどちらかには勘付かれる。
それに二人は何かと通じ合っているので、片方のみを味方にしてももう片方が必ず気づく。
ならば最初から二人とも味方に引き入れてしまえば良い。
幸いにも二人は生真面目というわけではなく適度に馬鹿馬鹿しいことにノっかってくれるので、要件を伝えれば断りはしないだろうと踏んだのだ。

そして、その目論見は見事に的中。きな子先輩への仕返し作戦の準備は第一段階に入ったのである。
だが当然これで勝ったも同然、などと自惚れはできない。
むしろ私たちは第一関門にすら立っていないのである。


6 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:02:40 ???00
「…それで、きな子先輩が驚くようなキスの仕方って何か思いつく?」

「……そういうマルガレーテはどうなんだよ…」

「ただキスの仕方を思いつくだけなら何個かね。でも、どれも返り討ちにあうか、きな子先輩を泣かせるアイデアしか思いつかなかったわ…」

「だよなあ………」

きな子先輩への仕返し。字面だけ見れば決して難しそうには見えない。
だが、メイ先輩とこうして愚痴るくらいには、そして先ほどのように覚悟を問われるくらいには、

「…クリア条件がheavy、なんてものじゃない」

そう、クリアの条件があまりにも厳しいのである。


7 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:03:15 ???00
まず、逆転して攻めに回られるとこちらの負けが決まる。

きな子先輩は普段こそぽわぽわしていて無害そうに見えるが、やる時はやる女である。一度攻めに入ると、誰もが抗えないような破壊力を発揮するのが彼女だ。
この件は2期生の間でも周知の事実だったらしく、私が事の顛末を話すと意外なほどにあっさりと納得された。
特にメイ先輩は、きな子先輩がカードゲームで恋先輩を完膚なきまで叩きのめし圧勝した試合を見たことがあるらしく、

「あいつは攻めに回したらヤバい」

とまで言い切っていた。
去年までの私なら何を馬鹿な、と一蹴しそうなものだが、今の私なら心底納得できる。
あの人は無害な羊の皮を被りながら、中にはジョーズを飼っているのである。獲物の隙を見計らい、羊の皮を脱ぎ捨てて喰らわんとする獰猛の化身。
言葉にすればチープな映画のようだが、喰われた身としてはたまったものではない。サメを主題とした怪作の数々も、今なら犠牲者側に感情移入して少しは楽しめるかもしれない。


8 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:04:00 ???00
話が逸れたが、きな子先輩へ仕返しするにあたって問題はまだある。
ドッキリ系はアウトということ。
きな子先輩はナイーブで泣き虫なのだ。
ドッキリの類には素直に引っかかり、ホラー系は(かのん先輩ほどでないとはいえ)かなり怖がり、意地悪には傷ついて割と引きずるタイプ。
例えば白雪姫よろしく、死の病に侵された私をきな子先輩のキスで目覚めさせる、なんてドッキリを企画したとする。
まず、私が倒れているとわかった時点でボロ泣きする。もうこの時点で私としてはアウトである。
いくらキスの贈り物をするためとはいえ、きな子先輩を泣かせるのは流石に嫌だし、下手をすれば誕生日にトラウマを植え付けかねない。

「クワガタか蝶々のメカできな子ちゃんを追い回して、逃げた先でマルガレーテちゃんがキス、っていう作戦も思いついたけど」

「素直にマルガレーテのいるところに逃げてくれるか分からないだろ、それじゃ」

「通路を何かで封鎖するとか」

「理事長に怒られるぞ!」

流石にそこまで大掛かりにはしたくない。
というか、そんなことしたらクラスメイトとかに勘付かれてそこから本人に話が漏れる可能性もあるので、四季先輩の案は丁重にお断りさせていただいた。
ちなみに、夏美先輩に使ったらしい強制ランニングマシーンとやらはメイ先輩があらかじめ却下していたらしい。グッジョブ。


9 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:05:49 ???00
ならば素直に正面からキス、というのも無理である。
あんな不意打ちのお返しがごく普通の真正面からのキスなんて、きな子先輩としても多分あまり良い気はしないだろう。
もしも立場が逆なら、私は不意打ちの一つ二つくらい期待したくなる。
目には目を、歯には歯を、江戸の仇は長崎で討つべし。
私は、かの邪智暴虐の不意打ちキス女に目に物を見せねばならぬと決意したのだ。

「マルガレーテちゃん、後でこの前の現国のテスト結果見せて」

私が一人考えていると唐突に四季先輩からそう言われた。何でよ。


「…とにかく、3人揃って黙っていても何も浮かばない。みんなで思いついたことを片っ端から出して行こう」

「それ、意味あるの?」

「冬毬ちゃんが言ってたブレーンストーミングっていう手法。ビジネスで使われることもあるくらいだし、一定の効果はあるはず」

「…まあ、ダメ元でも言っていくしかないか」

うだうだと悩んでいた私達だったが、四季先輩の発案により、ひとまずは各々好き勝手に案を出すことにした。
した、のだが…。


10 : 名無しで叶える物語◆xKjkeBtk★ :2025/04/10(木) 07:07:06 ???Sa
ええな


11 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:07:33 ???00
〜〜〜〜
「…ダメだー!いいアイデアが思い浮かばねえー!」

その後3人であれやこれやと案を出してはいったものの、案の定というかやはりクリア条件を満たせず、あるいは実現不可能ということでボツになるばかりで全く決まらず。
そんな流れを繰り返すこと20回以上、とうとうメイ先輩の堪忍袋の緒が切れた。

「落ち着いて、メイ。叫んでも良い考えは浮かんでこない」

「そりゃ叫びたくもなるだろ!見ろよこのホワイトボード!!」

そう言ってメイ先輩が勢いよくホワイトボードを指差す。
そこに書かれていたのは思い思いに出し合ったアイデア…とは名ばかりの何かしら。
ポッキーゲーム、デュエット中に事故を装いキス、フォークダンス、
アメ玉の口移し、今日1日だけデレデレになる作戦、不正とヤラセだらけの王様ゲーム、
黒魔術、クワガタムシ、マルガトロイド-CHAN16号発進、etc...。
最初こそ比較的まともな案を出してきたが、良い案が思いつかず疲弊が重なった3人は次第に迷走し、後半あたりは明らかに非現実的なものまで出てきている。
改めて見ると酷い。私がどの案を出したのかもおぼろげだ。せめてマルガトロイドでないことを祈る。

「だいたい、誕生日プレゼントは普通に渡してキスの仕返しは後でも良いだろ!?まだ付き合って2ヶ月なんだし先は…………」

メイ先輩が私にそう言いかけてピタリと止まる。
さっきまでの苛立ちが滲み出た顔から一転し、何かに気づいたような顔。


12 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:08:17 ???00
「…な、何よ。私の顔に何かついてる?」

「いや…そういやマルガレーテの誕生日って2ヶ月前だったよな?」

今は3月末。私の誕生日は1月20日なので、まあ大体2ヶ月前である。

「んで、きな子とお前が付き合い始めたのもその日だろ?」

「え、ええ。私の方から告白したわよ」

「どういう流れで?」

四季先輩が横から口を挟んできた。

「どういう流れで告白されたとか、きな子ちゃんから詳しい話を聞かされてない。せっかくだから教えて」

「どうって、まあ、誕生日プレゼントにあなたが欲しいって…」

言い始めて気付いた。そうだ、あの手があった。
メイ先輩と四季先輩の顔を見ると、ニヤリ、という表現の似合いそうな悪い笑顔を浮かべている。
なるほど、知っててわざと惚けたわけか。意地の悪い。
だが、今回はその意地悪に助けられた。

「…ありがとう。私、やること決まったかも」


13 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:09:25 ???00
〜〜〜〜

4月10日の放課後。
きな子先輩の誕生日パーティーが無事に終わった。
生徒会長の仕事があったため当人の参加は遅くなったが、それぞれの用意したプレゼントとお菓子を渡して大いに盛り上がった。
特に、1期生からリモートでお祝いの言葉を貰った時のきな子先輩(と、横で見ていたメイ先輩)は嬉しさのあまりポロポロと涙をこぼしていた。
新生徒会長がこんな調子で大丈夫か、と知らない人は言うだろうが、卒業式の時は直前までわんわん泣いてたのが嘘みたいにきっちりと送辞をやり遂げた人である。何だかんだ大丈夫だろう。


14 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:10:07 ???00
そうして満足げなきな子先輩と一緒に帰る途中、私は今日渡したプレゼントについて聞いてみる。

「ところで、私からのプレゼントはどうだった?」

「紫のネックレスっすよね。すごく可愛くて嬉しかったっす」

「そう。喜んでくれて何よりだわ」

他の人のプレゼントに見劣りしてないだろうかと一応不安だったが、どうやら杞憂だったらしい。
満面の笑顔でプレゼントを喜ばれると、こっちも真剣に考えた甲斐がある。

「えへへ」

上機嫌な恋人が、浮かれた様子で笑い出す。

「今年でこんなに素敵なプレゼントをもらえちゃって、来年は何がもらえちゃうんっすかね」


15 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:10:50 ???00
「ああ、それ来年の分のプレゼントよ」

「へっ?それってどうい……」


私の言葉に振り向いた瞬間、きな子先輩と唇を重ねる。


16 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:11:33 ???00
あの時の数倍数十倍も長く濃密なキス。

何時間にも感じる数秒ののち、ゆっくりと唇を離して目の前の恋人の顔をじっと見やる。

驚きも恥じらいもなくただ呆けた表情には、夕焼けに負けない頬の赤らみが見える。
あまりに突然のことで、顔の筋肉が追いついていないのだろう。
言葉もなく、呼吸すら止まっていそうな様子のきな子先輩に私は言葉を投げる。


「あの時のデートの仕返しよ」


きな子先輩が一つ瞬きをする。


「これが私の仕返しついでのプレゼントってことでも私は構わないわ」


返事も待たないまま、私から一つ悪魔の囁きを贈る。


「別々に欲しいって言うなら、もう一度くらいはしてあげてもいいけど」


17 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:12:16 ???00
もう一度の瞬きの後、きな子先輩の目が少し見開いた。

そして数秒後、ゆっくりと目を閉じ、
私に笑いかけながら指を立てた。



人差し指と中指。


18 : 名無しで叶える物語◆i9LARlV3★ :2025/04/10(木) 07:12:42 ???00
嬉しさから来るピースサイン、

ではない。


照れくさそうな笑顔で、おねだりするような目をしながら立てられた、綺麗な二本指。



欲張りね。


まあ、仕返しもできて気は済んだし、誕生日くらい好きにさせてあげるわよ。




後日、私達のキスを見た新入生がいたらしく、二人揃って詰め寄られる羽目になったのは別の話。



おしまい


19 : 名無しで叶える物語◆QL99b9JJ★ :2025/04/10(木) 07:15:52 ???00
助かる


20 : 名無しで叶える物語◆WMFyGWuO★ :2025/04/11(金) 01:01:48 ???Sd
きなマルええなたすかる


21 : 名無しで叶える物語◆frZtb29T★ :2025/04/13(日) 22:06:25 ???00
良かった乙
きなマルも良いものだな


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