■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■
きな子「どうもっす!オニナッツファイナンスっす!」
-
居酒屋
「せーの、かんぱーい!」
「みんな久しぶりー!」
「まさかみんな北海道から上京して就職してるなんて、ね?」
きな子「偶然っす!」グビッ
きな子(今日は地元の仲良し三人組で飲み会。みんなそれぞれの進路を選んだけど、東京で偶然再会することができた)
「あ、そうそう。地元に残って就職したあの娘さ──」
「えー、もう結婚!?」
きな子「すごいっす……!」
ワイワイ
きな子(近況報告でひとしきり盛り上がったあと、今やっている仕事の話に話題が移った)
「そういうえば、何の仕事しているんだっけ?」
「えっとね、商社の営業だよ。見積つくるのと接待で残業多くて……」アハハ
「キャリアOLっぽくてかっこいいじゃん、私はコールセンターだよ!座りっぱなしでクレーム対応はキツくてさー。ま、給料いいからやってるんだけどね」
きな子「みんな大変っす……」シミジミ
「そういうえば、きな子ちゃん就職できたんでしょ?」
きな子「……まあ、うん……」モグモグ
-
「えっ、どこどこ」ズイッ
きな子「ふぇ!?」
きな子「えっと……」モジモジ
きな子「……き、金融関係っす……」
「ってことは銀行!?すごいじゃん」
「もしかしてメガバンクとか?」
きな子「違うっす!違うっす!そんな大きなところじゃないし、銀行じゃなくて……」
きな子「……お金を扱う仕事っす」
「じゃあ証券会社?」
「すごいねきな子ちゃん、世界を相手に取引してるんだ」
きな子「あ、いや、その……」
きな子「あはは……」
きな子(正直に言えないっす!)
きな子(だって、きな子の仕事は──)
-
朝 団地
ドンドン
メイ「おい、いるんだろ?」
メイ「夜勤明けで家に帰ってるって、コッチはもう知ってんだよ」
ドンドン
きな子「近江さん、いないっすか……?」
ガチャ
「あ、あの、どちら様ですか?」
きな子(しばらくしてドアを開けたのは、茶髪のロングヘアで幸薄そうな顔の美人な巨乳の中年女性。きな子たちを見た彼女は若干、怯えた目をする)
きな子「どうもっす!オニナッツファイナンスっす!」スッ
彼方ママ「はぁ……」
きな子(名刺を受け取った彼女は困惑していた)
メイ「……本題に入るぜ」
メイ「アンタの旦那がギャンブルで作った借金の債権、ウチが買い取った」
ピラッ
メイ「これ旦那が書いた借用書。今月から123万円の年利15%の36回払い──」
メイ「──毎月5万1963円。連帯保証人のアンタに払ってもらうぜ?」
-
彼方ママ「ちょっ、ちょっと待ってください……!」
彼方ママ「あのひとの借金は50万円のはずじゃ?」
メイ「あのな、借金には利息がつくんだよ……しかも旦那は高利貸しから借りてるんだ」
メイ「向こうは年利35%の複利。うちが買い取ったときはもう123万になってたぜ?」
彼方ママ「えっ!?」
メイ「怖いよな、高利貸しって。知らない間に元本より利息が膨らんで、ふと気付いたら借りた額の倍になってるんだからなー」
メイ「これは永遠に完済できねーよ」
メイ「でもその点、ウチは……なあ、きな子」チラッ
きな子「……弊社は法令遵守の精神で固定金利。36回のお支払いで完済できるっす!」
スッ
メイ「と、いうわけだから。今後の支払いはウチに頼むぜ」
彼方ママ「そ、そんな……」
きな子(知らないうちに旦那が作った借金の額が雪だるまのように増えていたことを知り、ガックリ肩を落としてうなだれたその時──)
「どぉしたの……?」
-
あ!続編だ!嬉しいっす
か、彼方ちゃん
-
彼方ママ「かな……!」
きな子(部屋の奥から聞こえたワンテンポ遅れた独特の口調の声。目を向けると、エプロン姿の若い女性がやってきていた)
「大丈夫……?」
彼方ママ「大丈夫、大丈夫だから……」ニコッ
「うん……」
メイ「……じゃ、私たちはこれで。きな子、行くぞ」
きな子「はいっす……」ペコッ
きな子(用件を済ませた私たちは、二人に背を向けて去った)
「あの……!待ってください!」タッタッ
きな子「はにゃ!?」
メイ「あ?」
きな子(振り返ると、さっきのロングヘアの若い女性が部屋を飛び出して追いすがってきていた)
彼方「お父さんの借金……彼方ちゃんに返させてください……!」
メイ「……」チラッ
きな子「!」
きな子「……わかったっす。この連帯保証書にサインと印鑑、お願いします」
彼方「はい……!」
きな子(──きな子の仕事は、お金を扱う仕事でも)
きな子(地獄に落ちかけてるひとから金を容赦なくむしり取るオニの金融屋っす)
-
お?続き?
-
年利15%って良心的じゃん
-
前作好きだったやつだ嬉しい
-
元の金利より安くして現実的なプランで返させるの草
-
前回も見てたでたすかる
-
続きなのか?期待
-
いいぞ
-
前作のURLください!
-
>>14
きな子「オニナッツファイナンス?」
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11210/1730613275/
-
>>15
過去ログに辿りつけたっす
ありがとうっす
-
アウディA8
バタン
メイ「きな子、事務所に戻ろっか」
きな子「はいっす」カチャ
きな子(キーを回し、エンジンをかけて発進。きな子がハンドルを握る)
メイ「……」
きな子「……あの」
メイ「あ?」
きな子(運転中の間、沈黙の時間に耐えきれなくなって声をかけた)
きな子「……近江さんの件、意外と良心的っすね、社長」
メイ「……どこが?」ジッ
きな子「年利35%の高利貸しから債権を買い取って、そこに15%の利息だけの返済でオッケーなんすから」
きな子「社長も債務者に優しい面もあるんすねー」ニコッ
メイ「……」
きな子(きな子の言葉にしばらく沈黙しているので、気になってチラチラ見ていると)
メイ「きな子、ウチに来て1年だよな?」
きな子「?……はいっす」
メイ「まだまだだな」フッ
きな子「ふぇ!?」
きな子(鼻で笑われたっす……)
-
メイ「あのな、社長が高利貸し……闇金から買った債権、あれいくらだと思う?」
きな子「確か123万円、っす」
メイ「残念。50万だ」
きな子「はにゃ!?」
メイ「しかも──あの客、計算通りなら50万の元本を完済してるぞ。残債は全部利息だ」
きな子「ふぇ!?」
きな子「……じゃ、じゃあどうして……?」
きな子(驚きのあまりハンドルから手を放しそうになったけど、すぐにつかんで尋ねたっす)
メイ「123万ってのはその闇金が提示した額なんだけどな、社長が値切って元本の50万で買ったんだ」
きな子「すごいっす!社長は交渉上手っすねー」
メイ「まあな。その闇金もすぐ現金が必要だったからコッチが足元みて値切ったってのもあるけど」
きな子「足元……?」
メイ「近々、その闇金に警察がガサ入れるって噂があったんだよ。ウチと違って非合法な金利でやってるアイツらはライバルだけじゃなく、警察や国税とか金融庁とか敵がすげえ多い」
メイ「だから短期間で稼いで、目をつけられたらすぐトンズラしなきゃいけない。そのための逃亡資金の調達と証拠の抹消で顧客情報をウチに売りにきたんだ」
メイ「──追い込まれた闇金は、どんなヤツよりも弱い。だから社長は連中の焦りをうまく利用して元本の50万で買い叩いた、ってわけさ」
きな子「……闇金はいつもすごんでるイメージあるけど、弱い一面もあるんすね……」
メイ「そこがアイツらの弱点で、ウチの強さでもあるんだぜ?」ニヤッ
-
きな子「それで、どうやって50万の債権を123万まで膨らませたんすか?」
メイ「そりゃ年利35%の複利で3年分にしたらそうなるだろ?その額にウチの金利15%を複利で上乗せしてあげたのさ。無限に膨らむ旦那の借金を月5万の36回払いで済むようにしてやったんだ」
メイ「今までのように母娘が協力して働けば、返せない額でもない。しかも3年で私たちと縁が切れる──」
メイ「──これって、良心的、だよな?」
きな子「そ、それって実質50万の借金を年利55%で貸し付けたことになるっすよ!?」
きな子「あんまりなんじゃないっすか?」
メイ「あのな……ウチは闇金が提示した債権額123万に、利息制限法に基づいた金利15%を乗せただけだぞ?法的におかしくないし、なんの問題もないんだぜ」
メイ「ま、あえて問題をあげるなら……がむしゃらに働いて借金を返すことに夢中で、何の疑問も抱かずにコッチが提示した支払いに同意したのが問題、だな」
きな子「……」
メイ「仕組みを知らない者がうっかり手を出したら、あっという間に食い尽くされる世界なんだよ、ここは。本人だけじゃなく家族も巻き込んで、な……」
きな子(それっきり、窓から見える景色を見たまま沈黙してしまった)
きな子「……」
きな子(金融のセカイは、食うか食われるか。生き残るなら常に食う側で居続けなければいけない──)
きな子(──その覚悟が無いなら黙って堕ちろ。こんな教訓を得る出来事がきな子をこのあと待ち受けていたっす)
-
はえ〜
怖いっす
-
オニナッツファイナンス
ガチャ
きな子「ただ今もどったっす」
メイ「戻ったぞ」
冬毬「二人ともお帰りなさい」
きな子(事務所に戻ってすぐ、近江さんの娘が署名した連帯借用書と保証書を渡す)
冬毬「……これは?」
きな子「近江さんの借金を娘さんも返済したい、そうです」
冬毬「そうですか、了解しました」クルッ
スタスタ
きな子(相変わらず冬毬ちゃんはドライな娘っす……)
メイ「あれ?四季どこいった?」キョロキョロ
冬毬「奥のサーバールームです。定期メンテナンスだそうです」
メイ「また機械いじりかよ……」ヤレヤレ
きな子(呆れたようにいうと自分のデスクについた。きな子もそれに続こうとすると──)
夏美「きな子ちゃん、ちょっといいですの?」
きな子「はいっす!」
きな子(呼び止められたので、すぐ社長デスクに向かったっす)
-
きな子「社長、なんでしょうか……?」
きな子(デスクにはタブレット端末片手に指を滑らせている社長──神妙にかしこまって用件を尋ねる)
夏美「きな子ちゃんは、ウチに来て何年ですの?」
きな子「えっと……1年、っす……」
夏美「そうでしたの……」タップ
きな子「……」
夏美「ガッテーム!?」ガタッ
きな子「はにゃ!?」ビクッ
夏美「日経平均全面安!?マニーが……マニーが……」
ヘナヘナ
きな子「あ、あの、社長?大丈夫、っすか……?」
きな子(抜け殻になった社長を介抱すると、ハッと我に返って)
夏美「……えっと、どこまで話しましたの?」
きな子「日経平均全面安、マニーが……っす」
夏美「違いますの!その前!えっと……」
きな子「きな子は入社して1年っす!」
夏美「そうですの!で、きな子ちゃん──」
夏美「──そろそろ、ひとり立ち、してみる気ありませんの?」
きな子「ふぇ!?」
-
きな子「ひとり、立ち……っすか……」
きな子(少し驚いたきな子の目を社長は真剣な眼差しでジッと見つめたっす)
夏美「そろそろだと思いましたの。いつまでもメイちゃんの後をピヨピヨついているだけじゃ、もらうものももらえないですの」
きな子「もらうもの、っすか?」キョトン
夏美「そんな豆鉄砲食らった顔で……就業規則に書いてありますの……」
夏美「インセンティブですの」
夏美「自分が取った客から全額回収したら、その利息総額から15%がインセンティブとして月給にプラスされますの」
きな子「じゅ、15%も!?」
きな子(ということは……貸付金額が高額になればルンルンっす!)
きな子(奨学金の繰り上げ返済に、気になってた高級店のスイーツもたくさん食べれるっす)
きな子「……」ニヤニヤ
夏美「月給にインセンティブがつけば、働くきな子ちゃんのビタミンサマーになるですの!ドリーミングココナッツですの!」
きな子「どりーみんぐここなっつ??」
夏美「……とにかく、ひとりで新規開拓と審査と融資と回収、やってみるですの!!」ビシッ
きな子「は、はいっす!!」
きな子(社長からハッパをかけられて、いざひとり立ちチャレンジっす!!)
きな子(──と、意気込んでみたものの)
-
きな子(……とりあえず名簿から、しらみつぶしに電話営業っす!新規開拓の基本っす!)
きな子「もしもし?私オニナッツファイナンスの桜小路と申します。ご融資についてお困り──」
「──」ガチャ
きな子「……秒でガチャ切りっす……」ズーン
きな子「でも、まだまだっす!!」ポチポチ
きな子「なにか融資でお困りのことはありませんか?良かったらお力添え──」
「──はい、とっても困ってます!!聞いてくれませんか?私の侑ちゃん、また浮気してて。この間もあとをつけたら他の娘とホテルに……」
きな子「……」ガチャ
きな子「……他人の醜聞は犬も食わないっす」
きな子「まだまだっす!諦めないっす!」ポチポチ
きな子「弊社は法令遵守で、最大月利1.25%でご融資が可能です──」
「──えっ!?闇金じゃない!!お断りったらお断りよ!!」
ガチャン
ツーツー
きな子「……きな子、闇金じゃないっすよ」ボソッ
きな子「……」
きな子「うぅ……なんでぇええー?」
きな子(客ひとり取れるどころか、誰も一切きな子の話をまともに聞かないっす……)
-
社長すこ
-
きな子「うぅ……」ズーン
きな子(最初の電話営業失敗。完膚なきまでに打ちのめされた)
きな子「……」
きな子「でも……七転び八起きっす!!インセンティブ稼ぐっす……!」
パンパン
きな子「闘魂注入完了っす!」ポチポチ
きな子「もしもし?私オニナッツファイナンスの桜小路と申します。ご融資でお困りのことが──」
メイ「……きな子、無駄に頑張ってるな」
メイ「がむしゃらにやればどうにかなると思ってやがる」
四季「助けてあげないの?」
メイ「社長にハッパかけられてやってるんだ、そのうち自分で気付くだろ──むぐっ」
メイ「なにすんだよ!?」バッ
四季「私の大好きなメイはそんな冷たくない……」ジッ
メイ「……あー、もうわかったよ」
メイ「かのん先輩の店でメシでもおごってやるか……」
四季「やった。おごり」
メイ「お前も一緒なのかよ……」
-
ミミズクのいる喫茶店
カランカラン
かのん「いらっしゃいませー!」
かのん「あ、メイちゃんにきな子ちゃんに四季ちゃん!」
きな子「お邪魔しますっす」
四季「久しぶりです」
メイ「……かのん先輩。いつもの席、空いてるか?」
かのん「空いてるよー」
メイ「どうせいつもヒマだから当たり前か」フッ
かのん「ちょっと、聞こえてるんだけどー?」ズイッ
メイ「よし……とりあえず日替わりランチセットみっつ」
かのん「セットのコーヒーは食後にする?」
メイ「食後」
かのん「はーい。ちょっと待っててね」スタスタ
きな子(しばらくして運ばれてきた、日替わりランチのトルコオムライスは最高だったっす!)
-
メイ「ふー、食った食った」
四季「デリシャス」
きな子「美味しかったっすー」
かのん「ふふっ、どういたしまして」スタスタ
メイ「ま、私のおごりだからな」ドヤッ
きな子(食後のあとはお代わり自由のコーヒー片手にカフェタイムっす)
メイ「……なあきな子、ウチで金を借りに来る人間ってどんなヤツだと思う?」
きな子「それは……お金に困ってる人っす」
四季「もうひと声」
きな子「えっと……すぐお金が必要、とか」
四季「もうもうひと声」
きな子「ふぇ!?えっと……」
きな子「えっと……他所で借りられないような人……すか?」
メイ「そう!その通り!」
四季「お金が今すぐ必要で銀行とか大手とか他所で断られたような人間がノンバンクのウチにやってくる」
メイ「──そういう客がウチの客だ。総当たりに電話営業じゃ、なかなか当たらないぞ」
きな子「はいっす……」
-
この世界観好き
-
メイ「まぁ、なんだ……」ポリポリ
メイ「腰を据えて、ひとりでも客を掴んだら少額融資には複利で借金をふくらませ、高額融資には単利で生かさず殺さずの精神で着実にインセンティブを増やしていくことだ」
メイ「そういう金利の計算方式の操作は違法じゃないから、きな子の判断でしっかりやっていけば良いぞ」
メイ「返せなくなったら追い込んできっちりカタにはめて回収すればいいから、その時はその時だ」
四季「つまり、時には待つことも大事。泰山の如し」
メイ「そういうことだ……って何勝手にまとめてるんだよ!」
きな子「なるほど……」
きな子(ところで泰山ってどこの山っすかね……?)
きな子(先輩二人から貴重?なアドバイスをもらい、午後の業務に励んだっす)
-
きな子(アドバイスを活かして、信用情報が少し怪しい人物から電話営業をかけたっす)
きな子(でも、やっぱりうまくいかなかったっす……)
きな子「うぅ……」
きな子(諦めかけたそのとき──デスクの電話が鳴ったっす)
きな子「はい、オニナッツファイナンスっす」
「あの、今月のうちに500万の融資を願いできますか?水素のために必要なんです!!」
きな子「!」
きな子(きな子は直感したっす──この客、逃したらインセンティブもらえないと……そんな気がしたっす)
きな子「では、お名前をお伺いしてもいいっすか?」
しずく「桜坂……桜坂しずくです」
きな子(彼女との出会いがきな子を大きく派手に振り回すとは、このとき思ってもなかったっす)
-
桜桜
-
>>31
訂正
誤 「あの、今月のうちに500万の融資を願いできますか?水素のために必要なんです!!」
正 「あの、今月のうちに500万の融資をお願いできますか?水素のために必要なんです!!」
-
きな子(突然の500万円融資希望。とりあえず名前と生年月日を聞き、審査にかけるということでいったん電話を切った)
きな子(そして若菜さん自慢のサーバー直結の、信用情報が詰まった専用パソコンに入力する)
きな子「確か、おうざかしずくだっけ……?」カタカタ
エラー
きな子「はにゃ!?」
きな子「該当者なしっす……」
きな子「もしかして偽名──」
四季「待った。入力ミスかも」ズイッ
四季「ハマサキとハマザキみたいに、濁音やイントネーションの違いかもしれない」
メイ「たまにいるんだよ、紛らわしい名字を利用して信用情報をごまかすのが」
きな子「わかったっす」
きな子「おうさかしずく、と──」カタカタ
きな子「──出たっす」
きな子「……」
四季「どうしたの」
メイ「ツマんでたか?」
きな子「……直近で200万円ツマんでるっす」
きな子(ツマむ──同業から金を借りて、現在返済中だということっす)
-
きな子「はぁ……っす」
ポンッ
メイ「……まあ残念だったな、多重債務は回収が難しくなるしな。論外だ」
四季「惜しかった」
きな子(ふたりの慰めの言葉を背に、電話の受話器をとる)
きな子「……」ポチポチ
きな子(せっかく大口融資の客を掴んだと思ってたのに……)
きな子「もしもし?桜坂さんですか、オニナッツファイナンスの桜小路っす」
しずく「あ!オニナッツさん、お金、貸してくれるんですか……!?」
きな子「ご融資の件ですが、申し訳ございませんが──」
きな子(審査結果を告げると、電話越しに残念そうな声のトーンで相づちを打っていた)
しずく「……そうですか……ダメですか」シュン
きな子「はいっす……」
きな子(しかし、彼女は諦めていなかった)
しずく「──でしたら保証人をつけますっ!同じ高校の同級生で、中須かすみといって、コッペパンを売っている個人事業主なんです!」
しずく「無限に広がる水素のポテンシャルを広めるため、ぜひとも融資をお願いします……!」
きな子「は、はいっす……まずは……」ヒキッ
きな子(桜坂しずくの電話越しにあふれる熱量に押され、しずくと連帯保証人に会ってみることにした)
-
更新ありがたい
-
スピってやがる…
-
かすみちゃん、、、
-
待ってた
続き楽しみ
-
きな子(桜坂しずくの事業所は都内の古びた雑居ビルの2階にあった)
きな子「有限会社、水素のしずく……ここっすね」
きな子「水素って液体になれるんすかね?」
きな子(疑問を抱きつつ、ドアに手をかける)
ガチャ
きな子「どうもっす、オニナッツファイナンスっす」
きな子「あの、桜坂さん……?」
きな子「……いませんか?」キョロキョロ
きな子(入って周囲を見渡す──応対の人物すらいないさびれた室内。窓はブラインドを下げたままで、電気もついておらず昼なのに薄暗い。ひとり用の事務机と作業台だけで従業員はいないみたいだった)
きな子(そして、最も目を引いたのは)
きな子「……なんすかね、この段ボール」
きな子(自分の身長と同じくらいの高さまで積まれた段ボール箱だった)
しずく「それは水素グッズです!!」スッ
きな子「ふぇ!?」ビクッ
きな子(いきなり真横からの登場にびっくりしたっす)
-
しずく「ようこそいらっしゃいました!!私、劇団員から一念発起して水素グッズの通信販売会社を起業して、ひとりでやっているんですっ!!」
きな子「はぁ……」
しずく「きな子さん、水素で健康に興味がおありですか!?おありですよね!?」
きな子「えっ、え……?」
しずく「お部屋の水素発生器から水素水をつくる浄水器カートリッジ、直接水素を取り込む吸入器、お風呂を水素水にする入浴剤に……」ゴソゴソ
スッ
しずく「……最近流行の高濃度水素ゼリーですっ!!」
きな子「ヒィ、ヒィィ……!」
きな子「あ、あの、今回は融資の件で来ましたので結構っす。また今度……」
しずく「ああっ、失礼しましたっ!つい夢中になってしまって……すみません!」ペコッ
きな子「だ、大丈夫っす」
きな子(段ボール箱からたくさんグッズを広げて商品の説明する必死さに圧倒された)
-
きな子「と、とりあえず保証人になる方のところへ行きましょう」
しずく「はい……!」
きな子(満面の笑みを浮かべて車に乗り込んで彼女のあとで、自分が運転席に座った)
きな子「……それで、中須さんはどこにいるんすか?」
しずく「お台場海浜公園までお願いします。かすみさんはそこでキッチンカーをやっていますので」
しずく「観光客に人気なんですよ、SNSのエルスタでも投稿されてて口コミも高評価で。あ、あと近くの学園でも販売してて……」
ペラペラ
きな子「そ、そうっすか……」
きな子(アウディA8のハンドルを握るきな子の横で中須さんの話を聞かされた。どうやら桜坂さんは会話中に熱が入りやすいタイプみたいっす……)
しずく「確か今日の出店は海浜公園駅近くの……あのビル前です!」
きな子「はいっす」キッ
きな子(桜坂しずくの指示で大きなオフィスビルの前に車を停める)
ガチャ
しずく「かすみさーん!」フリフリ
きな子(車から降りると、目の前にあるキッチンカーに手を振って近づいていった)
-
かすみ「しず子じゃん!久しぶり!」
きな子(明るい黄色と緑で可愛くラッピングされたウォークスルーバンから、エプロン姿のアシメショートの娘が出てきた)
しずく「元気だった?」
かすみ「元気だったよ!今日も忙しかったんだぁー、ランチタイム分は完売しちゃったんだ!」
しずく「そうなんだ、すごいね!かすみさん」ニコッ
かすみ「もっと褒めていいんだよぉ〜?」ドヤッ
しずく「うんうん、えらいえらい……」
しずく「……ところで、コペ子さんはいる?」キョロキョロ
かすみ「コペ子ならニジガクに出張販売だよ。学生のランチタイムは1時過ぎまであるから……なんか用事?」
しずく「ううん……じゃあ話がしやすいね」
かすみ「?」
かすみ「……で、しず子の隣は誰なの?」
しずく「あ、紹介するね。オニナッツファイナンスの桜小路さん」
きな子「どうもっす」ペコッ
しずく「あのね、かすみさん、お願いがあって……」
きな子(中須さんに500万円の連帯保証人になって欲しいと、言葉に熱量を込めて頼み込んだ)
-
かすみんの返答やいかに…
-
かすみ「うぇええ!?かすみんを500万円の保証人に!?」
しずく「お願い!名前をちょっと借りるだけだから!書いてもらうだけでいいから、ね!」
かすみ「でもさ、しず子ぉ……500万って大金だよ?」
かすみ「お金借りるのは簡単だったけどぉ……かすみん今年でやっとキッチンカーのローン、350万をコペ子と一緒に完済できたんだし。それに……」
かすみ「返すために働く姿って可愛くないというか、毎日が必死過ぎて可愛くなれないというか……」
スッ
かすみ「かすみんの指だってほら……もうあの頃みたいに可愛くないんだよ?」ポツリ
しずく「そんなことないっ!かすみさんは今も可愛いよ!」ギュッ
かすみ「し、しず子ぉ!?」カァッ
しずく「かすみさんの想い、わかってるよ、十分わかってる」
しずく「でも今、私の仕事がピンチで……まさに大嵐にもまれる船のごとく。私はその船長──」
しずく「──500万円でこの嵐を乗り切れば、曇天の割れ目から差す暖かい光明が私の足元を照らし、蒼空が天を覆い、いつしか降りそそいでいた冷たい雨と風はやみ、大海原に美しい大輪の虹がかかる」
しずく「……かすみさんが名前を書いてくれるだけで、私は嵐からそうやって救われる!!」バッ
かすみ「しず子……」
きな子(まるで芝居じみたセリフを並べ、潤んだ瞳で中須さんの手を握って懇願する桜坂さんを見て、役者だなぁ……と思ったっす)
-
かすみ「……わかった」
きな子(しばらく黙っていた中須さんは、ひと息おいて決断した)
かすみ「しず子は大事な友達だから、可愛いかすみんが助けてあげますよぉー!」
しずく「ありがとう!かすみさんっ!」ダキッ
かすみ「わっ、やめてよ、他人が見てるってばー!」
バッ
しずく「じゃあ、500万の融資……お願いしますねっ!」
かすみ「し、しず子ぉ……?」
きな子(連帯保証人になることを同意した瞬間、パッと抱き寄せていた中須さんを放してきな子に言ったっす)
きな子「わかりましたっす。さっそく会社に戻って審査にかけますので、これで……」ペコッ
きな子(何はともあれ、これでインセンティブ獲得できるっす!!)
きな子(──と、思ってたのに)
夏美「融資できませんの」キッパリ
きな子「なんでぇえええ!?」
-
オニナッツファイナンス 社長デスク
夏美「できませんの」
きな子「なんでっすか!?何でですか社長!?」クワッ
夏美「少し気になるところがあるですの」
夏美「まず、中須かすみの事業はどうなってますの?」
きな子「彼女のキッチンカーは真面目で繁盛してて、口コミも良くて……週末はスタジアムや競馬場で販売してるっす」
夏美「そうじゃないですの」
きな子「ふぇ?」
夏美「資本マニー、つまり運転資金はどうなってますの?」
きな子「運転資金、っすか……あっ……」
きな子「……確認してないっす」
夏美「最近ローン完済したところを見ると、そこは大して期待できないですの」
夏美「……次に、担保はありますの?」
きな子「キッチンカーがあるっす!」
夏美「キッチンカーの買い取り価格はせいぜい80万程度。もし、中須かすみのキッチンカーが中古だったら、中古の中古でさらに価値が下がりますの」
夏美「……桜坂しずくの事業は確実に倒れるとみて間違いない。それでも貸すなら、利息含めてオニ回収できる連帯保証人じゃなきゃダメですの」
夏美「かすみだけではマニー500万円の価値はありませんの」
きな子「……わかりましたっす」シュン
トボトボ
きな子(社長の許可が出ない限り融資はできない。その結果を伝えるのは、心が痛むっす)
-
夏美ちゃんしっかりしてるっすねえ
-
きな子「……」ポチポチ
きな子「もしもし?オニナッツファイナンスの桜小路っす」
きな子「ご融資の件ですが、誠に申し訳ございません──」
しずく「──そうですか……わかりました。はい……」
ガチャ
しずく「……かすみさんだけじゃダメ、か……」
しずく「こうなったら──」
しずく「──最後の手段でいきますか!!」グッ
-
きな子(桜坂さんの融資を断ってから数日後のことっす──)
きな子「幼馴染コンカフェ、ポムから集金したっす」スッ
冬毬「ご苦労様でした」スタスタ
きな子(相変わらず無愛想っす……)
プルルル
メイ「おい、電話鳴ってんぞ?」
きな子「はいっす!」タッタッ
きな子「もしもし?オニナッツファイナンスっす」
きな子(外線は最初に全てとる……新人の権利であり義務っす)
しずく「桜坂しずくです」
きな子「あっ……桜坂さん……その節は誠に申し訳──」
しずく「──やっぱり、オニナッツさんからお金を借りたいですっ!」
しずく「私の親族から譲り受けた新橋にある不動産を担保に……」
しずく「……2000万、貸してくださいっ!!」
きな子「はにゃ!?」
きな子(金額の大きさに思わず飛び上がったっす)
-
きな子「……失礼しますっす」ガチャ
きな子(オニナッツファイナンス入って初めての、2000万円の高額融資。しかも担保の土地があるという好条件)
きな子(これなら社長も納得して、きな子もインセンティブもらえてドーリミングココナッツっす)
きな子「新橋にいってきますっす!!」タッ
四季「いってらー」フリフリ
四季「でも、焦りは禁物──」
四季「──行っちゃった」
四季「じゃあ、集金いってくる」スタスタ
メイ「……おう」
きな子「ルンルンっすよー!」
きな子(その担保の確認のため、待ち合わせの駅まで車を走らせ、そこで桜坂さんを乗せて目的地へ向かったっす)
きな子「……新橋の土地はどういったいきさつで持ってたんすか?」
しずく「遠い親戚の土地で……その方が亡くなって、親から私に相続をしたんです。それを持ってたことをふと思い出したのです」
しずく「新橋は学生のとき、かすみさんと遊ぶときによく待ち合わせ場所にしてたのもあって……ちょっとした縁もあって」ニコッ
きな子「そうっすか」
しずく「あ、ここです、ここです」ユビサシ
きな子「停めるっす」キッ
きな子(その土地は新橋駅と虎ノ門ヒルズの中間にあり──雑居ビルとコインパーキングに挟まれた更地だった)
-
ガチャ
バタン
きな子「この空き地っすね……」スタスタ
きな子「カメラで撮影してもいいっすか?」スマホ
しずく「はい!もういらしてると思うのですが……」キョロキョロ
きな子(スマホ片手にきな子が土地と周辺を見て回ってるあいだ、桜坂さんは誰かを探すようにあたりを見回していたっす)
きな子(すると、きな子が構えていた画面の端からスーツ姿の女性が歩いて近づいてきた)
「やあ、しずく。久しぶりだね」
しずく「お久しぶりです……!」
しずく「きな子さん、ご紹介しますね。こちらは私の先輩で司法書士をされてる──」
園下木「──園下木と申します」スッ
きな子「あ、ありがとうございます。オニナッツファイナンスの桜小路っす」スッ
きな子(エンゲキという、一見すると肌の白い優男のようなスラッとした体格のショートヘアの女性と名刺交換をしたっす)
-
園下木「では早速ですが、本題に入らせていただきます──」
きな子(2000万円融資の担保としてこの土地を活用するため、いまこの場で法務局から取り寄せた権利関係を証明する書類を渡したいとのことだった)
きな子「ずいぶん用意がいいっすね」
園下木「はい。しずく──依頼人は早期にご融資を頂きたいそうなので」ニコッ
きな子「そうっすか……では」
きな子「この土地の登記簿謄本に、印鑑証明……確かに」
きな子(眉間に大きくかかる前髪が特徴的な、優男風の女司法書士がから書類をしっかり受け取った)
しずく「それでは、融資をよろしくお願いいたしますっ!」ペコリ
きな子「早速、審査にかけるっす!結果は明日までにお伝えするっす」
きな子「今度は期待に応えられそうっす!」ニコッ
園下木「良かったね、しずく……それにしても、本当に久しぶりだね。もう鎌倉に帰ったと思ってたよ」
しずく「いえ!いまはここで通販の会社を起業してて──」
園下木「へえ、それはすごいね」
ペラペラ
きな子「……」カシャカシャ
きな子(先輩後輩の間柄のような二人がおしゃべりに花を咲かせている間、きな子は確認用でスマホのカメラで土地と周辺を撮影したっす)
-
オニナッツファイナンス 社長デスク
きな子「──と、いう訳で新橋の土地を確認してきたっす」
きな子「それに司法書士から登記簿謄本と印鑑証明も受け取ったっす。この謄本によると、誰も抵当権つけてないのでウチが一番抵当をつけられるっす!」
夏美「……」
冬毬「このエビデンスによれば、虎ノ門ヒルズ付近は最低価格でも1億はします」フム
きな子「なんとかこの土地を担保に、桜坂さんに2000万の融資……できないっすか?」
冬毬「姉者、どうしますか?」チラッ
夏美「……」
夏美「……におうですの」
きな子「ふぇっ!?きな子クサイっすか!!」スンスン
きな子「もしかして帰りに立ち寄ったラーメン屋でヤサイマシマシ、アブラ少なめ、ニンニク、カラメを食べたせいっすかー!?」ガーン
夏美「違いますの!!」ガタッ
メイ「てか、よく食えるなソレ」
-
夏美「この話、どうも引っかかりますの……」ウーン
夏美「どうしてそんないい土地を持ってるのに、ウチみたいな街金から借りるんですの?」
夏美「担保が1億以上の価値なら銀行がヨダレたらして同額を融資するはずですの」ジッ
冬毬「確かにそうですね」
きな子「それなら気になって先に尋ねたっす!桜坂さんが起業するときに融資を頼んだら、行員にひどくあしらわれて以降、銀行が嫌いになったそうっす」
メイ「まあ、アレを売るために金を貸してと言われたら私でもそうするな」フッ
夏美「……」
きな子「2000万、融資できないっすか……?」ウルウル
きな子(デスクで腕を組み、無言のままの社長にひと押し、してみたっす)
夏美「わかったですの……マニーを融資、していいですの」
きな子「ありがとうございますっす!!さっそく抵当をつけるっす!!」ペコッ
夏美「ただし!!」ビシッ
きな子「はにゃ!?」ビクッ
夏美「……念のため、中須かすみを連帯保証人にするですの。それが条件ですの」
きな子「ふぇ?」
-
きな子「でも社長、中須さんはキッチンカーくらいで不動産担保はないっすよ?」
きな子「新橋の不動産を担保に入れるだけでいいんじゃ……」
夏美「いくら不動産が大事といっても、最終的には人間が強いですの。金融のセカイでは常識ですの」
きな子「わかったっす」
夏美「冬毬、マニーを用意しておくですの」
冬毬「はい、姉者」
夏美「土地と保証人で万全のオニ回収態勢ですの!」
きな子「はいっす!さっそく連絡を入れるっす!」
きな子(桜坂さんに条件を伝えると──)
しずく「ありがとうございますっ!すぐにかすみさんと話をつけるので……明日、融資をお願いします!!」
きな子(そして翌日──2000万の現金を手に監督役の米女さんと一緒に事務所を尋ねたっす)
-
桜坂しずくの事務所
しずく「お待ちしてました……!どうぞどうぞ」スッ
きな子「はいっす……あっ!」
かすみ「こんにちはー」ペコッ
きな子「こんにちはっす。では早速、ご融資を──」
メイ「──おっと、その前に」
しずく「はい……?」
メイ「担保として土地の権利書と実印、預からせてもらおうか?」スッ
しずく「えっと、その……ですね……」
きな子(すると、桜坂さんの表情が少し曇ったあと……申し訳なさそうに言ったっす)
しずく「……権利書を失くしまして、その、ちゃんと探したんですけど……」
しずく「すみません!園下木さんと作成した保証書でお願いしますっ!」ペコッ
メイ「はあ?保証書……?」
きな子「まあいいじゃないっすか?保証書も権利書と同じ効力があるっすから」
メイ「……しょうがないな。委任状もらっておけよ」
きな子「はいっす」スッ
きな子「こちらは委任状っす。法務局に申請して一週間後に抵当をつけさせてもらいますっす」
しずく「わかりました。一週間、ですね……」
きな子「?」
しずく「いえ、何でもないです」カキカキ
-
あわわわ…
-
きな子「では借用書に署名と印鑑、お願いしますっす」
しずく「はい」カキカキ
ポン
きな子「……確かに」
きな子「次は中須さんっす。連帯保証書に署名と印鑑をお願いしますっす」
しずく「かすみさん、お願いね」
かすみ「うん」カキカキ
しずく「……それでは、オニナッツさんに125万の約束手形20枚をお渡しします」スッ
きな子「はいっす──」
かすみ「!!」
かすみ「ちょっと待ってしず子!!金額おかしくない!?」
-
しずく「えっ……?」
かすみ「だって、125万の月20回払いって総額2500万だよ!?しず子が借りるのは2000万じゃないのぉ!?」
しずく「……」チラッ
きな子「!」
きな子「……弊社は2000万の20回払いで利息が500万になるっす。よって、中須さんが保証する金額は2500万っす」
かすみ「それってコペ子と借りた金融公庫より利息高いじゃん!!金額が大きすぎるよぉ……!」
しずく「聞いて、かすみさん……!」
ダキッ
かすみ「うぇええ!?しず子!?」
しずく「大丈夫、心配しないで……もしものときは土地を売却してお金を返すし、かすみさんに絶対迷惑かけないよ」
しずく「だからお願い、ね……?」ウワメヅカイ
かすみ「……わかった」カキカキ
ポン
きな子「……確かに」スッ
きな子(誰でも美人の腕をからめてからのおねだりには弱いっすね……)
-
ハラハラする
-
かすみん…
-
最もフィジカルで最もプリミティブでそして最もフェティッシュなSSだ
-
期待
-
あやしいよおしず子ぉ
-
きな子「それでは2000万円ご融資、いたしますっす」チラッ
メイ「……」スッ
アタッシュケース
メイ「……」カチャ
しずく「……」ゴクリ
きな子(アタッシュケースにある付帯された札束を、桜坂さんは野獣の眼光で眺めてたっす)
きな子「100、200、300……2000万です。改めてくださいっす」
トンッ
しずく「はい……確かに」ギュッ
かすみ「……」
きな子(20個の札束を重ねた山を鷲掴みする桜坂さんを、中須さんは不安げな表情で見ていたっす)
しずく「ありがとうございます……!」ペコッ
きな子「それでは、今月末から返済開始となります……失礼するっす」
メイ「……」ペコッ
しずく「あ、待ってください!!」ガタッ
-
しずく「えっと、この箱だったような……」ゴソゴソ
しずく「お礼といっては何ですが」
しずく「良かったら、この高濃度水素ゼリーのお試しセットをどうぞ」スッ
きな子「ふぇ!?あっ、えっと……悪いっすよ」
しずく「大丈夫ですっ!毎月いつも複数のメーカーさんから郵送されるので!」
しずく「さあどうぞ、さあ……」
グイグイ
きな子「ひぃ……」
メイ「おいきな子、ご厚意に甘えておけよ」ニヤニヤ
きな子「うぅ、わかったっす」
しずく「水素のパワーを、一緒にシェアしましょう!」バッ
きな子「し、失礼するっす……!」ペコッ
バタン
きな子「……あそこに長居すると、アタマに水素ガス注入されそうっす」
メイ「ハハッ、言えてる」
スタスタ
きな子(こうして桜坂さんに2000万を融資して、一週間が過ぎたころ──)
きな子(──いきなり、きな子にとって大きな試練が課せられた)
-
一週間後 オニナッツファイナンス
きな子(それは一本の電話からもたらされたっす)
プルルル
メイ「おい、電話鳴ってんぞ」
きな子「はいっす!」ガチャ
きな子「お電話ありがとうございます!オニナッツファイナンスの桜小路っす!」
「あ、きな子ちゃん!小泉司法書士事務所の小泉ですっ」
きな子「いつもお世話になっておりますっす!」
きな子(いつもオニナッツファイナンスが担保をとったとき、登記申請などの司法手続きを委任している、司法書士の小泉花陽さんからだった)
きな子「花陽さん、本日はどのようなご用件っすか?」
花陽「た、大変ですっ……!大変ですっ……!」バタバタ
きな子(電話越しからも焦っている様子がわかった)
-
きな子「どうしたっすか……?」
きな子「まずは落ち着いて用件を伝えてほしいっす」
花陽「あの、その……新橋のあの土地、法務局に抵当権を申請したんだけど……」
きな子「はいっす」
花陽「──提出した登記簿謄本と印鑑証明が不一致を理由に却下されたんですっ!!」
きな子「ふぇ!?それって……」
花陽「つまり、その……落ち着いて聞いてくださいね?」
花陽「依頼された登記簿謄本と印鑑証明が、法務局の登記原本と別名義だったんです!これじゃ抵当権を付けることができませんよぉ……!」
きな子「はぁあああああああああ!?」オオゴエ
花陽「ピャアアア!?ダレカタスケテー!」
-
きな子ちゃんと花陽ちゃんが慌てると大変な会話になりそうでかわいい
-
きな子「で、でもっ!園下木さんという司法書士が法務局から謄本の写しと印鑑証明を取り寄せたはずっすよ……?」
花陽「そこ気になってコッチでも調べたんです!そしたら……」
花陽「……園下木という人物、どこの司法書士会にも所属してないんですっ!!」
きな子「ふぇ!?」
きな子(いったいなにが起きてるっすか?きな子にはよく分からない──)
きな子(──いや、理解しているけど自分がきっかけで起きたアクシデントの大きさに、脳が理解することを拒否してる)
きな子「……」ソウハク
きな子(その事実を前に、グニャアと視界が歪み、頭が真っ白になった)
花陽「もしもし?もしもし桜小路さん?」
きな子「あっ、いや、ありがとうございますっす!またあとで……」ガチャ
きな子(小泉さんの呼びかけでハッと正気に戻り、いったん電話を切った)
-
きな子「……あっ!」
きな子「と、とにかく桜坂さんに確認しなきゃ」ポチポチ
プルルル
きな子「……」
プルルル
ガチャ
きな子「!」
──おかけになった電話番号は、現在使われておりません
きな子「……あぇ……」ガチャ
きな子「じ、自宅アパートは……」ポチポチ
──おかけになった電話番号は、現在使われておりません
きな子「……」ガチャ
メイ「おいどうした?顔色が良くないぞ?」
きな子「……よ、米女さぁん」ウルウル
-
メイ「なに!?抵当権がつけられないだって!?」
きな子「は、はいっす!」ビクッ
きな子「原本不一致が理由っす……!」
きな子「ききき、きな子はどうすればいいっすか!?」オロオロ
メイ「落ち着け。まずは桜坂の事務所とアパートに行くんだ」
メイ「問い詰めて、信頼関係の消失を理由に全額回収するぞ!!」ダッ
きな子「はいっす!!」ダッ
きな子(オニナッツファイナンスを飛び出したきな子たちは、二手に分かれてアパートと事務所に急いで向かったっす)
きな子(けれど……)
-
.
誠に勝手ながら、
海外旅行のため
臨時休業いたします💙
(有)水素のしずく
.
-
きな子「……」
きな子(人の気配のない事務所に貼られた一枚の、きな子たちを挑発してるかのような張り紙を前に立ちすくんだっす)
タッタッ
メイ「おいきな子、そっちはどうだった?」チラッ
メイ「……って、やっぱりな。金持って夜逃げしたみてえだな」ハァ
きな子(合流した米女さんは呆然とするきな子と張り紙を交互に見て、頭をかきながらつぶやいたっす)
メイ「アパートは数日前に引き払ってたよ。やたら急いでたらしい」
きな子「そうっすか……」
メイ「桜坂のヤツ、ハナから2000万の話を持ってきたときから夜逃げする気だったんだ」
きな子「……」
きな子「……きな子のせいっす」ボソッ
メイ「当たり前だ」
メイ「桜坂に2000万の大金をまんまと食われちまったんだからな」
きな子「申し訳ないっす……」
メイ「とにかく、社長に報告しに戻るぞ」スタスタ
きな子「はいっす……」トボトボ
-
サイテーだよしず子…
-
かすみん…
-
か、、、かすみん
-
かすみんも可哀想だけどコペ子はもっと悲惨だ…
-
かすみんだってエスポワールに乗れちゃいますよぉ
-
>>80
全勝しても足りませんねぇ
-
オニナッツファイナンス 社長デスク
夏美「……」
きな子「新橋の土地から、2000万回収できなかったっす」
きな子「本当に、本当にすみませんっす!!」ペコッ
きな子(桜坂しずくに騙されて2000万を持ち逃げされた報告を社長にする)
夏美「……見事にハメられましたの」
冬毬「しかし姉者、桜坂しずくはどこでこんな巧妙なスキルを身につけたのでしょう?」
冬毬「まるでアジャイルかつ、プロフェッショナルな地面師レベルです」
きな子「じめんし……?」キョトン
冬毬「──公正証書原本不実記載同行使及び有印公文書偽造行使詐欺」
きな子「???」キョトン
冬毬「つまり他人名義の土地登記簿の謄本を偽造し、あたかも自分名義の土地と偽って不動産会社に売却したり、金融機関から担保にマネーをだまし取る詐欺師のことです」
夏美「電話を使う振り込め詐欺、ネットを使うフィッシング詐欺そして、土地を使う地面師……」
夏美「詐欺にもいろいろ名前がありますの」
きな子「これ詐欺だったすか……?」
冬毬「おそらく。詐欺は罰金なしの懲役刑がつく重い罪です」
きな子「じゃ、じゃあ、偽の登記簿謄本を持ってきた園下木という司法書士も仲間っすか……?」
夏美「ですの。桜坂しずくが用意した偽者に間違いないですの。たぶん──三流役者か劇団員を雇って、きな子ちゃんの前でひと芝居をやったですの」
きな子「……」
-
メイ「融資のとき、土地の権利書が無いっていうのがなんか引っかかったんだよな……」
メイ「きな子、ハデにやらかしたな。2000万だぞ、2000万」
きな子「うぅ……」シュン
冬毬「恐らく桜坂しずくはもう東京にはいないでしょう。住民票を移した痕跡もないので夜逃げ確定です」
きな子「!?」
きな子「じゃ、じゃあ警察に通報するっす!」スッ
夏美「待つですの!!」バッ
きな子「ふぇ!?」
きな子(電話しようとするきな子を社長が大声をあげて止めさせたっす)
-
夏美「通報しても逮捕されて刑務所に行くだけで回収できませんの。子供じみた正義感を振りかざしてもビタ一文のマニーにもなりませんの」
夏美「マニーにならない事に労力をオニ割く必要はないですの」
きな子「……確かにそうっす……」
夏美「それよりきな子ちゃん、良かったと思いませんのー?」ニャハー
きな子「ふぇ?」
きな子(何が、と言葉を続ける前に社長は笑顔で言った)
夏美「──中須かすみを保証人につけておいて」
きな子「!」
きな子「えっ、でも……」
冬毬「アグリーです姉者。桜坂しずくより確実に回収できるでしょう」
夏美「そうですのー!マニーは取れるとこから取るのが鉄則ですの!」
きな子「そ、そんな……」モゴモゴ
きな子(詐欺を見抜けなかったきな子のせいっす、と今まさに大きな災難が降りかかろうとする中須さんへの罪悪感がこみ上げてきた)
夏美「今すぐ中須かすみを追い込むですの!!時はマニーなり、2000万全額回収ですの!!」クワッ
きな子「は、はいっすー!」ダッ
きな子(有無を言わせない社長の号令で、きな子はすぐに事務所を飛び出したっす)
-
マニーのオニですの
-
夕方 お台場海浜公園
かすみ「はい、かすみん特製コッペパン4個セットですぅー」
「ありがと、かすかす!」
かすみ「かすかすじゃなくて、かすみんですぅ!!」ムキーッ
「あはは、ごめーん!つい反応が可愛くてさー」
「お店の休憩のときにふたりで食べるね!バイバーイ!」スタスタ
かすみ「もうっ、愛先輩ったら……」
コペ子「まあまあ……あっ、あと数個で完売だね!かすみん!」
かすみ「うん!」
「すみません、そこにあるコッペパンを全部ください」
かすみ「はい!ありがとうございますぅー!って……あっ!!」
きな子「こんにちはっす」ペコッ
-
かすみ「ななな、何ですか?」
きな子「大事なお話があるっす……あっ!」
きな子「その前にコッペパンくださいっす」
かすみ「あ、はい……」
コペ子「かすみん、誰?なんの話……?」
かすみ「あ、あとで話すよ!はい、どうぞ」
きな子「ありがとうっす。これ代金っす」
かすみ「……確かに。じゃあ、あっちのテラスで……」
きな子「はいっす」
スタスタ
コペ子「……」ジッ
-
あー…ついに…
-
どうなるかすみん…
-
期待
-
最近ウシジマくんを読破したのでこっちの続きも期待
-
かすみ「うえええっ!?しず子が夜逃げ!?」
きな子「はいっす。アパートもすでに引き払われてました」
かすみ「そ、そんな……ウソでしょ……えっと」スッ
きな子(慌てた様子でポケットをまさぐると、スマホを取り出して何度も電話をかけ続けたが……)
かすみ「……出ない」タップ
かすみ「あ、メッセージアプリもアカウントが消えてる……」
かすみ「しず子、なんで……?」
きな子(信じていた旧友がトンで音信不通という事実に、中須さんは愕然としている)
きな子「……」
きな子(何も知らず、戸惑いうろたえる彼女を今から地獄に堕とす……こみ上げてくる罪悪感と後ろめたさを抑えて言い渡す)
きな子「中須さんは桜坂さんの連帯保証人っすよね?」
かすみ「え?うん」
きな子「他人名義の担保を自分名義と偽造していた以上、この借用証書にある……」ピラッ
きな子「……債務不履行と信頼関係の破綻を理由に直ちに全額弁済する、とあります」
きな子「よって──桜坂さんが音信不通になった以上、連帯保証人である中須さんに融資元本2000万円を一括請求するっす」
きな子(そう告げると、中須さんは目を丸くして絶句したあと)
かすみ「えっ?」
きな子(歯の隙間から漏れ出たかのような、なんとも気の抜けた返事が返ってきた)
-
かすみ「え?え?」
かすみ「えっとぉ……かすみん名前を貸しただけなんだけどー?」キョトン
かすみ「どうしてしず子が借りた2000万円を、かすみんが返さなきゃいけないのですかぁ?」
きな子「連帯保証人だからっす。中須さんがサインした連帯保証書は、債務契約者と同じように債務義務を負う責任を持った書類っす」
きな子「つまり債務者が返せない、返す気が無いとみなされた場合には返済を要求することも可能っす」
きな子「……知らないでサインしたんすか?」
かすみ「し、知らないよ!そんな細かい文章なんて読むの苦手だし、それに……」
かすみ「……友達のしず子を助けたかったから」シュン
きな子「とにかく、2000万、直ちに支払ってもらうっす」
かすみ「そんな……」
かすみ「私2000万なんてお金、払えないよ……」ガクッ
「かすみん!!」ダッ
きな子(絶望のあまり膝から崩れ落ちそうな中須さんのもとに、誰かが駆けつけて身体を支えてあげた)
かすみ「コペ子……?」
-
コペ子「……」ギュッ
きな子(支えてくれたのは中須さんのビジネスパートナー、コペ子さんだったっす)
かすみ「もしかして、聞いてた?」
コペ子「……うん」
ギュッ
コペ子「かすみん、なんで相談してくれなかったの?私たちパートナーでしょ?」
コペ子「ふたりの夢を叶えるためにお金関係は協力していこうって、約束したじゃない!!」
コペ子「あれ嘘だったの!?」
かすみ「ごめん、コペ子……」
きな子(涙目で肩にすがりつくコペ子さんの目をまともに見れてなかったっす)
コペ子「どうするのかすみん!?2000万なんてお金」
きな子「2000万、どうしても無理なら……せめて半分でも返済できないっすか?」
コペ子「1000万なんて払えないですよ!!」
かすみ「……実家がある」
コペ子「えっ……!」
かすみ「江戸川区新小岩の、私の実家なら……売ったら3000万くらいになるはず……」
コペ子「かすみんちょっとそれ本気!?」
かすみ「うん、大丈夫……ごめんね迷惑かけちゃって。ダメダメな私が全部責任をとるからもう心配しないで──」シュン
バシッ
.
-
コペ子「……」ジンジン
かすみ「こ、コペ子!?」ヒリヒリ
コペ子「かすみん、そんな顔で自分をダメって言わないで」キッ
コペ子「中須かすみは計画通りにいかなくても、ライバルに置いてけぼりされても、世界からNOと言われても……」
コペ子「……とっておきのキュートな笑顔で自分を信じる前向きな無敵級ビリーバーでしょ」
かすみ「でも……」
コペ子「あのとき一生懸命に輝いてるかすみんを見て、私はずっとついていこうって決めたの!」
コペ子「日本一可愛いコッペパン屋になっていつか全国展開する──卒業前に語り合った夢も、そのためにまずはキッチンカーから始めることも!」
コペ子「私たちパートナーでしょ?だから、降りかかってきた火の粉は一緒に振り払うよ……」
コペ子「……だから絶対にダメと言わないで!あと無敵級ビリーバーはすぐ簡単にあきらめたりしない、でしょ!?」
かすみ「うん、うん……」ジワッ
コペ子「だから……」クルッ
コペ子「オニナッツさん!この通りです!」
バッ
かすみ「コペ子ぉ!?」
きな子(冷たい路上に手をついて、コペ子さんがきな子の前で土下座した)
-
コペ子「2000万、今すぐには払えません!でも、かすみんの勝手は私の勝手。だから……」
バッ
コペ子「必ず、必ずお返しします!!ダブルワークでも何でもして!!」
コペ子「信用できないなら、私が学生のときから預けてた定期預金が200万あります!それを明日お渡ししますから!」
コペ子「だから……かすみんを信じて、2000万を分割返済させてください!」
コペ子「お願いします!!」バッ
かすみ「!!」
バッ
かすみ「お願いします!!私を……かすみんを信じてくださいっ!!」
きな子「……」
きな子(オニナッツファイナンスで働いて一年。他人の土下座は見慣れたつもりだったけど、やっぱり痛々しくて辛いっす)
きな子(とくにふたりの若い娘が覚悟を決めた土下座ほど、心にクルものは)
きな子「……わかったっす」
きな子「でも、条件があるっす」
-
メイ「なに、最初の返済は明日?で、たった200万?」
メイ「しかも相殺した1800万を利子つけて月50回の分割払いにしただって!?」
きな子「はいっす。中須さんのその債務の連帯保証人にコペ子さんをつけたっす」
メイ「……」
メイ「きな子お前……甘いんじゃないか?」ジロッ
きな子「!」ビクッ
メイ「なあきな子、桜坂に融資するとき、法務局にいって直に登記簿を確認したか?」
きな子「いえ」フルフル
メイ「あの園下木とかいうヤツ、司法書士会に照会したか?」
きな子「いいえ」フルフル
メイ「その甘さ、きな子のその甘さがすべての元凶なんだぜ?」
きな子「はいっす……」
メイ「わかってんのか?2000万だぞ、2000万!」
メイ「会社に大損害を与えてる自覚、あるかよ?」
きな子「……はいっす」コクリ
-
メイ「だったらな、その日のうちにかすみを追い込んで、さっさと新小岩の家を競売にかけろ。家族が邪魔で売れないなら、ふたりに街金を回らせて限度額いっぱいに金借りさせて……」
メイ「……足りない分は前借りさせた風呂屋に沈めるなりして、すぐ金を作らせろ」
メイ「何度でも言うぜ!!金融のセカイはな、食うか食われるかなんだよ!!」
バンッ
メイ「──金融のオニになれないんだったら、食われて地獄に堕ちるんだよ。わかってんのか」
メイ「オニになれない生ヌルい覚悟と甘さで生きていくほどコッチは甘くねーんだよ」
きな子「うぅ……」グッ
メイ「きな子、鏡見てみろよ。今のお前の顔──」
メイ「──追い詰められた債務者みたいになってんぞ」
きな子「!?」
スッ
四季「メイ、それくらいで、いい……」
メイ「……わかった」
きな子「本当にすみませんでした」ペコッ
四季「きょうは遅いし、もうあがっていいから。お疲れ様」
きな子「はいっす……」ペコッ
トボトボ
バタン
四季「……いつもごめん」
メイ「……いいさ。みんな優しいから叱るのは私の唯一の仕事、だからな」
-
表参道
トボトボ
きな子「はぁ……」
きな子(きっと今のきな子は周りから会社で叱咤を受けて落ち込んだOLに見えるんすかね)
きな子「……」
きな子(インセンティブに浮かれた自分の甘さのせいで)
きな子(会社に2000万の大損害を与え、夢を持った将来ある若い娘ふたりを借金地獄に突き落としたという事実)
きな子(──それが両肩に重くのしかかり、きな子の歩みをさらに重くさせる)
きな子(米女さんの言う通りっす)
きな子(きな子はオニになりきれない中途半端な金融屋っす)
きな子「……」ジワッ
グウウゥ
きな子「あっ……」
きな子「ショックでご飯が喉を通らないって、嘘っすね……普通にお腹が空くし」
きな子「近いし、かのん先輩のお店に行ってみるっす」
トボトボ
-
つらいけど続き気になる
-
メイちゃん怖いッス…
-
しず子ぉ…
-
きな子「あれ?お店の雰囲気が違う……」
きな子(ランチで通い慣れたる店のはずなのに、夜の先輩の店はなんか雰囲気が違ってた)
きな子(大きな窓はブラインドで閉じられ、中の様子は窺い知れない。それにピッタリ閉じられた木目調の扉は、ほんのりと電飾が足元を照らすだけの門構えがさらにきな子を戸惑わせた)
きな子(それはまるで、オーセンティックバーみたいだったっす)
きな子「ほ、本当にかのん先輩の店っすよね……?」ドキドキ
ガチャ
かのん「いらっしゃいませ」
かのん「って、きな子ちゃん!?」
きな子「あ、どうもっす……」
きな子(わずかな照明が店内を照らすだけのシックな雰囲気。そのカウンター越しにかのん先輩を見つけてほんの少し安心した)
きな子「なんか昼と雰囲気違いますっす。それに恰好もビシッと決まってるっす」
かのん「ふふっ、びっくりしたでしょー?昼はカフェで夜はバーをやってるんだ」
きな子「へえ、そうなんすねー」
きな子(かのん先輩はランチ時のエプロン姿とは打って変わった、真っ白い長袖シャツに蝶ネクタイ、黒いベストをつけたバーテンダー姿だった)
きな子「先輩かっこいいっす!」
かのん「えぇー?そんなことないってー」ニヤニヤ
きな子(言葉とは裏腹にすぐ嬉しそうな顔するの、やっぱりお昼のかのん先輩っす)
-
かのん「カウンター、好きなとこに座っていいよ」
きな子「は、はいっす」ストン
かのん「珍しいね、夜のうちは初めてでしょ?」
きな子「は、はいっす……あの……」モジモジ
かのん「ん?」
きな子「あんまり手持ちがないけど、大丈夫っすか……?」
かのん「大丈夫!リーズナブルで楽しく飲めるお店だから」
かのん「お腹すいてるかな?フードメニューもあるよ」スッ
きな子「本格的っす……このスペイン前菜セットってなんすか?」
かのん「おっ、お目が高いね。生ハムのハモンセラーノ、スペインオムレツことトルティージャ、スペイン産オリーブとチーズ、たこのガルシア風のワンプレート前菜5点セットだよ」
きな子「美味しそうっすー!じゃあお願いしますっす」
かのん「かしこまりました!あ、ドリンクはどうする?カクテルがおすすめだよ」
かのん「なかでもイチオシは……私のルーツ、スペインの人気カクテルのカリモーチョ!」
かのん「1:1の赤ワインのコーラ割りでグラスにレモン飾ってるんだ」
きな子「美味しそうっすー!お願いしますっす」
かのん「はーい!」
-
カランッ
きな子「……カリモーチョ、もう一杯っす」トン
かのん「ちょっと、きな子ちゃん飲み過ぎじゃない?」
かのん「もう9杯目だよ」
きな子「ふぃ……だい、大丈夫っすよ……」
かのん「そう?とりあえずお冷を置いておくね」スッ
きな子「ん……」ゴクゴク
トンッ
きな子「ルンルンっすー、今日のきな子はルンルンっすー」フラフラ
かのん「……」
かのん「ねえきな子ちゃん、何かあった?」
きな子「ふぇ?まあ……あることはあったすよ……」
かのん「よかったら話してくれるかな?ここに来た時、なんか思いつめた感じだったし」
かのん「頼りにならないかもだけど、聞いてあげることはできるから」
きな子「はいっす……」
きな子(洗ったグラスを丁寧に拭いているかのん先輩に打ち明けた)
-
かのん「そっかー、そんなことが……」
きな子「はいっす。自分の甘さでたくさんの人に迷惑をかけたっす」
きな子「寄ってきた人間にニコニコ顔で金を貸し、利息をむしり取って、返せなくなったら家族友人も巻き込んで地獄に落としてでも金を回収する……」
きな子「……それがオニの金融屋、きな子の仕事っす」
きな子「でも、きな子は借金を肩代わりさせられたふたりの覚悟を決めた土下座を見て、甘さが出たっす」
きな子「本当に今すぐふたりの夢や将来を叩き潰してまで金を回収していいのか、って」
きな子「……ふふっ、やっぱりきな子はオニになれないダメで半端な金融屋っすね」
きな子(酔って空のグラス片手に愚痴をこぼすきな子の今の姿を自嘲気味に笑い飛ばし、話を切り上げると、かのん先輩が口を開いた)
かのん「そうかな?」
-
きな子「ふぇ?」
かのん「私はそうは思わない。きな子ちゃんはきっといい金融屋になれる、と思うな」
かのん「──取り立て上手なメイちゃんや機械みたいに精密な四季ちゃんとは違う、優しさと厳しさを持った金融屋さんに」
きな子「……」
かのん「あっ、これ私のカンだから!あんまり真に受けないでね」アハハ
かのん「ここで色んなひとを見てきた経験で、なんとなくきな子ちゃんがそんな雰囲気をまとってるように見えただけだから」
きな子「……」
かのん「──でも、きな子ちゃんはこのままでいいと思っていないでしょ?」
きな子「!」
かのん「金融屋として、きな子ちゃん流のやり方でやってみるといいよ」
かのん「El que busca, encuentra.」
かのん「大事なのは、諦めないキモチ、だよ」
きな子「……ありがとうございますっす、かのん先輩」
きな子「そろそろ会計するっす」
かのん「かしこまりました!頑張ってね!」
きな子「はいっす」
きな子(金融屋としてきな子のやりたい事は……)
-
お台場海浜公園
かすみ「はい、今月の返済分」スッ
きな子「……確かに」
きな子(今日は1800万の分割払いの債務を抱えた中須さんの集金日っす)
きな子「あの……キツくないっすか?」
きな子「お昼のキッチンカーの営業が終わったあと、パン工場で深夜から早朝まで働いているそうっすね」
かすみ「あー、うん。もちろんキツいよ。3時間しか眠れないし、お肌は荒れちゃうし……」
かすみ「……でも、かすみんもう慣れました」
かすみ「コペ子と一緒に交代で休みをとりながら、頑張ってますよぉ……!」ニコッ
きな子「毎月58万円を4年2か月……大変だと思うっす」
かすみ「もちろん大変ですけど、かすみんとコペ子はパン製造技能士の資格を持ってますから、時給はちょっといいんです」
かすみ「それに、かすみん目が覚めたんです。本当に大事なのは──」
かすみ「──遠い旧友よりも身近なパートナーだって」チラッ
きな子(晴れやかな顔でいう中須さんの目線の先には──)
コペ子「かすみん、ただいま!ニジガク、今日も完売だったよ!」タッタッ
コペ子「あ、こんにちは!」ペコッ
きな子「どうもっす」ペコッ
かすみ「今、家賃を節約してふたりでルームシェアしてるんです」
コペ子「ちょっと狭いけど、毎日楽しいよね、かすみん?」ニコッ
かすみ「うん!かすみん日本一のコッペパン屋になってやるんだから、一緒に頑張ろう!」ニコッ
きな子「……それじゃ、失礼しますっす」ペコッ
きな子(借金地獄という絶望の中で夢を捨てず互いを励まし合い、絆を深めて必死にあがく──そんなふたりのひたむきな姿を見て、ようやくきな子は決心がついたっす!)
-
きな子のアパート
ガチャ
きな子「……」
バタン
きな子「ふぅ……」スタスタ
きな子(仕事を終え、誰もいないアパートに帰ってきた)
きな子「疲れたー!」ボフッ
きな子(ジャケットをハンガーにかけ、ベッドに頭から飛び込んだ)
きな子「きな子のやりたい事は……でも……」
きな子「うぅ……」
きな子「頑張ってみたけど、なにも手がかりがないっす……!」バタバタ
きな子(枕に顔をうずめ、悔しさで足をばたつかせる)
きな子「そもそも日本にいるのかさえ……」
きな子「諦めちゃダメっす!!きな子なりのケジメとふたりを助けるために決心したっすから!!」
きな子「……まずは落ち着いて、整理するっす!もう一度、手がかりを見逃してるかもしれないから」バッ
きな子(脳内で一連の流れをシーンごとに思い起こしてみた。その中で──)
きな子「──スマホで写真を撮ってたっす!」スッ
きな子(手を伸ばしてスマホをつかみ取り、さっそくフォトを開く)
きな子「やっぱり……!」
きな子(そこには、新橋の土地を下見したときの桜坂しずくと園下木の顔がバッチリ写っていた)
-
きな子「しずくと偽司法書士の園下木……あっ……!」
きな子(そういえば社長が言ってたっす!確か──)
夏美「桜坂しずくが用意した偽者に間違いないですの。たぶん──三流役者か劇団員を雇って、きな子ちゃんの前でひと芝居をやったですの」
きな子(──って!!)
きな子「もしも、園下木がどこかの三流役者か劇団員なら……!」バッ
きな子(きな子、手がかりを見つけたっす!)
ノートパソコン
きな子「今日は朝まで徹夜っす!!」
パンッ
きな子(顔を叩いて気合注入して、パソコンの電源を入れた)
-
翌日 都内某所 小劇場
「ありがとうございましたー!」
「座長!千秋楽、無事に終わりましたね」
「そうだね。みんなのおかげだよ、ありがとう」
「さあみんな、打ち上げに行こうじゃないか」
「やったー!」
「座長のおごりですよね!?」
「おいおい、参ったな……」
アハハ
「先にいっててくれ、あとでいくから」フリフリ
「はい座長!みんな行くぞー」
スタスタ
シーン
「やれやれ……」
パチパチパチパチ
「!?」
「やっと見つけたっす。あのときみたいに迫真の演技でブラボーだったっすねぇ」パチパチ
「だ、誰だ!?そこにいるのは」キョロキョロ
スッ
きな子「こんばんは、園下木さん。いや──」
きな子「──元虹ヶ咲学園演劇部部長さん」
元部長「!?」
-
かのん先輩かっこいい
-
部長ガチのクズで笑った
-
がんばれきなきな
-
元部長「えっ、あっ、えーと……」
元部長「ひ、人違い、じゃないかな?」
きな子(これが演技ならアカデミー賞主演女優レベルの最高に良いうろたえた表情を見せてくれたっす)
きな子「……これでもっすか?」
スッ
元部長「あっそれ……!」
きな子「小さな劇団の座長なさってて、ホームページに堂々と顔を載せてるじゃないっすかー、気合い十分な自己PR文までのっけて」
元部長「……」オロオロ
きな子「だって大事っすからね。こういう業界は積極的に顔を出していかないと、俳優として成功できないっすから」
きな子「そこで、この……」タップ
きな子「……このスマホとサイトの顔写真、どうみても一緒っすねー」
きな子「しかも、ご丁寧に桜坂しずくと一緒に当時の高校の広報誌にしっかり写ってるのもあったっすから、関係性も一致するっすねー」
きな子「これでも、人違いっすか?」ジロッ
元部長「あぇ……」
きな子「とりあえず事務所に来てもらうっす。ヒマそうだし、いいっすよね?」
元部長「はい……」
-
オニナッツファイナンス
ガチャ
メイ「いま帰ったぞ」
メイ「20万、キッチリ切り取って──」
メイ「おい……どうしたんだよ?」
四季「……静かに。きな子ちゃんがファインプレー、してる」
メイ「は?」
四季「衝立のすきまから応接間をのぞいてみて」
スッ
メイ「きな子と向かい合ってるのは……誰だアイツ?」
四季「桜坂しずくの共犯者、偽司法書士」
メイ「は!?どうやって──むぐっ」
四季「静かに。しばらく聞き耳、立てて」
メイ「わかったよ……」
-
元部長「あ、あの……」
きな子「なんすか?」ジッ
元部長「や、ヤクザとか、ですか……?」オロオロ
きな子「ヤクザじゃないっす。オニナッツファイナンス、オニ合法の金融屋っす」
元部長「よ、良かった……」ホッ
きな子「?」
元部長「しずくから再現ドラマの司法書士役になって、と頼まれて出たんだけど……まだギャラを全額もらってないんです」
元部長「……てっきり私にギャラを請求しに来たのかと」ホッ
元部長「数分だけの出演で破格の報酬だったし、ちょっと怪しいなーと思ってたんだ」
きな子「……」ジトッ
きな子「実は、桜坂しずくとお話がしたいっすけど、連絡がつかなくて困ってるっす」
きな子「だから教えてくれないっすか?桜坂しずくのこと」
元部長「はっ、はい!」ビクッ
きな子(借りてきた猫から情報を聞き出すのは簡単だったっす)
-
きな子「で、しずくはどこにいるっすか?」
きな子「こちらは今すぐ知りたいっすけど」ジロッ
元部長「ヒッ」
元部長「し、知らない……むしろ私も知りたいです……」
元部長「まだ約束のギャラ、1万円しか払ってないんです!携帯も連絡つかないし!」
元部長「来月の公演のハコ代も払わないといけないのに……どうしよ……」
元部長「いっそのこと、鎌倉にいって直接──」
きな子「!?」
きな子「ちょっと待つっす!今、鎌倉といったっすね!?」ズイッ
元部長「えっ!?う、うん」
きな子(確か、確か新橋での会話の最中でその単語が出てたっす!)
きな子「鎌倉が……鎌倉が何すか!?」ズイッ
元部長「えっ、ええ……えっと、しずくの実家は鎌倉なんですよ」
きな子「!?」
-
きな子「……あの会話、嘘じゃなかったんすね。鎌倉から東京に出てきたって話」
元部長「あ、それ、しずくが書いた台本にあったくだりだね」
元部長「台本っていうのは全て虚構の設定だけじゃないんだよ。これは基本的な脚本論で、真実らしく嘘をつくというのがミソなんだ」ペラペラ
きな子「はぁ……」
元部長「つまり、嘘のなかに真実を混ぜることで、観客にどこまでが真実でどこまでが嘘か分かりにくい状況にする。要するに、100の嘘は観客すぐにフィクションだと見抜かれるけど、60の嘘と40の真実なら観客はすぐに全体の虚構を見抜けず、そのストーリーは真実味を帯びていくという手法なんだ。この方法を台本に使うと、出演者の演技性のリアリティを高められる……というわけなんだよ」ペラペラ
きな子「ご講釈どうもっす……よく回るクチっすね……」
きな子「──桜坂しずくの実家は鎌倉」
きな子「……よし、またひとつ手がかりを得た」グッ
元部長「あ、あの……帰っていいですか……?」
きな子「あ、もういいっす」フリフリ
きな子(高校の先輩とはいえ、ただの雇われみたい。もう聞き出せる情報は無さそうっす)
-
スクッ
元部長「ど、どうも失礼いたしました……」ペコペコ
きな子「あっ、やっぱり待つっす」
元部長「えっ!?」ビクッ
きな子「……渡しておく物があるっす」
スッ
元部長「……オニナッツファイナンス、桜小路きな子……」
きな子「きな子の名刺っす」
きな子「さっき耳にしたっすけど、公演のハコ代でお困りのようでしたので」
きな子「弊社なら法令遵守の固定金利でお金、貸してあげられるっす」
元部長「えっ!?ほんと?」
きな子「はいっす。さらに保証人を連れて来てくれたら、最短審査で即金できるっす」
きな子「座長サンなら、実家の太い劇団員のひとりやふたり、いるっすよね?」
元部長「そ……そうだね!ぜひお願いしようかな」
きな子「では、またのお越しをお待ちしておりますっす」ペコッ
バタン
きな子「ふぅ、とりあえず一歩前進、っすね」
-
メイ「……」
きな子(応接間を出ると、そこに立ってたっす)
きな子「あっ、米女さん……」
きな子(怒られたあの日から少し気まずいままっす……)
メイ「しずくの仲間、見つけたんだって?」
きな子「はいっす」
メイ「どうやって見つけたんだ?」
きな子「社長がヒントをくれたっす。スマホのメモリに残ってた園下木の画像を、徹夜で片っ端から検索かけたっす」
きな子「ホント、都会は便利っすねー」
四季「ナイス」グッ
メイ「……それで、きな子はどうするつもりなんだ」ジッ
きな子「……」
きな子(真剣な表情の米女さんを前に、ひと呼吸おいて)
きな子「決めたっす。2000万を持ち逃げした桜坂しずくを見つけ出して、必ずキッチリ回収するっす!!」
きな子(声高に宣言したっす)
-
メイ「きな子……」スッ
きな子「!」
ポンッ
メイ「よく言った!!それでこそオニナッツファイナンスの人間だぜ!!」
きな子「ふぇ!?」
きな子(笑顔で肩を叩かれたっす)
メイ「チマチマと中須かすみから回収するより、しずくを押さえたほうがハッキリいって効率がいいんだ」
四季「うん、うん」コクコク
メイ「それに……」
きな子「……それに?」
メイ「最初から騙すつもりで金持って逃げたヤツには、キッチリ教えてやらねーとな」
メイ「──金融のオニを怒らせたらどうなるかってよ」グッ
-
きな子ちゃん強くなってるっすねえ!
-
きな子「そうっ、すね……」フワフラ
きな子「……社長に報告を……」フラフラ
きな子(あれ、すごい眠い──そこできな子の意識は飛んだっす)
メイ「あ、おい!」バッ
メイ「急に倒れるんじゃないぜ、危ないだろ……!」
四季「徹夜、してたんだよね。お疲れ様」
メイ「ソファで少し寝かせたら、タクシーで家まで連れていく」
メイ「で、明日はあさイチで鎌倉だ。桜坂の実家を調べる」
メイ「社長に報告、頼んだぜ」
四季「うん」
四季「良かったね、メイ」
メイ「なにが?」
四季「きな子ちゃんが期待以上に頑張ってくれて」
メイ「……さあな。これからが金融屋の腕の見せ所だ」
メイ「今はしっかり休んでもらわないとな」
きな子「すぅ……すぅ……」
-
更新ありがたい
このSSマジで楽しみ
-
がんばれきな子
-
利子はトイチっす!
-
きな子(翌朝。きな子は米女さんと一緒に鎌倉にいたっす)
メイ「いい家してんなー、こりゃ昔の華族とかじゃねーか?」
きな子(大きな青銅色の屋根が特徴的な二階建ての邸宅を見下ろせる、近くの丘の上からライフルスコープ片手に米女さんがつぶやいた)
きな子「……役所や近所の人たちも、鎌倉の桜坂さんって聞けばここだって教えてくれるくらい有名みたいっす」
きな子「ところで、華族ってなんすか?ファミリーみたいな?」
メイ「ちげーよ、かつて日本に存在した特権階級だ」
メイ「戦後すぐ占領軍が華族に特権剥奪と財産税って重税をかけて消滅させられたんだけど……桜坂家はまだ生き残ってるみてぇだな」
きな子「はぇー、いまでいう上級国民っすね」
メイ「この邸宅と周辺の山林と竹林は全部、桜坂家のものらしいぜ」
メイ「一部でも売り払えば、簡単に2000万回収できるかもな」
きな子「はいっす!」
-
きな子「早速、お宅訪問するっす!!」
きな子「きっとしずくもそこに──」ダッ
ガシッ
メイ「いねーよ、早まんな」
きな子「ふぇ!?」
メイ「こんな分かりやすい場所に逃げ込むわけねえよ。きっとロクに手続きをしないで入居できるどっかの安アパートだ」
きな子「そうっすか……じゃあ、居場所を聞き出すのはどうっすか」
メイ「ホイホイ借金取りに教える親がどこにいるんだよ……あとな、無理やり押しかけて警察呼ばれたらコッチが不利になるだろーが」
きな子「そうっすね……」シュン
きな子「じゃあどうするっすか?もう手詰まりっすよ……」
メイ「そうだな……」ウーン
メイ「……そうだ!まだ手はあるかも知れねーぞ」
きな子「あるんすか!?何すかそれ!」
メイ「落ち着け、きな子……アレまだ持ってるか?」
きな子「ふぇ?」
-
きな子「アレ、すか……?」
メイ「しずくに融資した日、アイツから変な水素グッズを持たされただろ?ソレだ」
きな子「あー、いちおう部屋の端っこにあるっす……捨てようにも捨てられないし」
メイ「よし、アレが最初で最後に役立つときが来たんだよ」
きな子「あんな持て余してる物、一体どう使うっすか?」
メイ「まあ見てなって……」ニヤッ
メイ「よっしゃ、東京に帰るぞ。親の資産はもう調べたし、住処を見つけるには四季の道具が必要だからな」
きな子「はいっす……!」
-
回収できるか…!?
-
おいついた、前作も凄く好きだったから続編嬉しい!!
きな子ちゃんも成長しててアツい!
-
追いついた更新楽しみ
-
エー!?返済かすみん!
-
オニナッツファイナンス
きな子「箱ごと持ってきたっす」ドンッ
きな子「……これをどうするつもりっすか?」
メイ「まず見せてみろ……おっ、ご丁寧に住所が書かれた伝票まで貼り付いてんな」
きな子「でもそれ、しずくの前の住所っすよ?」
メイ「わかってるって……どれどれ……」ジッ
メイ「よし、やっぱりゆうパックか」
メイ「なら大丈夫だ。四季、あれを持ってきてくれ」
四季「わかった」コクリ
スタスタ
きな子「えっと……何を始めるのか教えて欲しいっす」
メイ「だからコイツでしずくを見つけるんだって言ったろ」
きな子「どうやって?」
メイ「──ゆうパックにはな、転送サービスがあるんだよ」
きな子「転送?」
メイ「そうだ。届出さえ出しておけば、旧住所あての荷物を1年間無料で新しい住所に送ってくれるサービスなんだ」
きな子「へえー」
メイ「確か、しずくが言ってたよな?毎月いつもメーカーが水素グッズを郵送してくるって」
きな子「……あっ!言ってたっす!」
メイ「素晴らしい水素のパワー、それを利用してやるんだよ」ニヤッ
-
四季「はい、GPS発信機」スッ
四季「市販の小型機を改良して性能を向上させた。見た目は乾燥剤に見えるけど半径20キロまで確実に──」
メイ「あー、その説明はいいから」
四季「……」ムスッ
メイ「きな子あけてくれ」
きな子「はいっす」
メイ「……できるだけ包装を傷つけるなよ」
きな子「はいっす……」ペリッ
きな子「……あけるっす」
パカッ
きな子(中身はチューブの形状をしたゼリーがびっしりとあった)
メイ「よし、中身を全部取り出して……底に発信機をつけて、もとに戻せ」
きな子「はいっす」スッ
メイ「よし、あとは依頼主の欄に同じメーカーの住所を書いた新しい伝票に貼りかえて……」ペタッ
メイ「これでよしっと」
メイ「あとは速達で出して、追跡すんぞ」
きな子「はいっす!」
-
数日後 アウディA8
スッ
きな子「おやつ買ってきたっす」
メイ「おう、ありがとな」
バタン
きな子「ふぅ……」
きな子(きな子たちは今──夜景がきらめく夜の横浜にいるっす)
きな子(最後にGPS発信機が示したのは、そんな華やかなベイサイドから離れた、横浜スタジアムの裏にある地区。簡易宿泊所が乱立する寿町の一角にある古いアパート前っす)
きな子(車で張り込んで数時間──初めてここに着いて車から出た時に漂っていた、謎のニオイと淀んだ空気にようやく慣れてきた)
メイ「……」モグモグ
きな子「……よく食べれるっすね……」
メイ「あ?腹が減っては戦はできぬ、だろーが」
きな子「まぁ、そうっすけど……」
-
きな子「本当に現れるっすかね?もしバレてたら……」
メイ「心配すんな。ヤツは必ず現れる」
きな子「でも鎌倉のお嬢様がこんなところにいられるっすか……?」
メイ「アイツは元演劇関係者だ。そういうイメージの裏をかくことくらい出来るだろうさ」
メイ「……とにかくネガティブになるな。自分を信じろ」
きな子「はいっす」
メイ「それにな、お前がベロベロに酔っ払ってたときに、諦めないキモチが大事って先輩から励ましてもらっただろ」
きな子「はいっす……って、はにゃ!?」
きな子「あの夜のこと、なんで知ってるっすか!?」
メイ「まあいいじゃねーか、そういうの」
きな子「良くないっす!なんで知ってるすか!」ガシッ
メイ「いってぇ!?って、おい、アレ!」ユビサシ
きな子「その手には乗らないっす──って、ふぇ!?」
きな子(フロントガラス越しに見える、街の灯りがぼんやりと照らす路上に現れたのは)
きな子「……桜坂しずく、っす……!」
きな子(出会ったときよりも地味な服装でナチュラルメイクだが、頭についているあのデカリボンは確かにしずく本人だった)
メイ「いくぞ」
きな子「はいっす……!」
-
しずく「ふぅ……今日も飲みすぎちゃった……」フラフラ
しずく「でも今がサイコー!」バッ
しずく「小悪魔LOVE!LOVE!きゅるりん、きっとメロメロリ」
しずく「街金、サラ金、手玉に取って」
しずく「LOVE!LOVE!2000万、引き出して」
しずく「独り占め出来ちゃったら、イイネ!」
「よくないっすよ」
しずく「えっ!?だ、誰!?」
「──借りたものは返す。あたり前田のクラッカーっす」
スッ
しずく「!?」
きな子「どうもっす!オニナッツファイナンスっす!」
.
-
しずく「あ、あっ、あっ、あっ……」パクパク
きな子(ふた月ぶりの感動の再会。驚きのあまり、魚みたいに口をパクパクさせてるっすね)
きな子「やっと見つけたっすよ、桜坂さん……」スタスタ
しずく「ひぃ、ごめんなさい!!」
しずく「へ、返済方法をいま考えてたんですっ!必ず返しますから!」クルッ
ダッ
きな子「あっ、逃げるなっす!」
バッ
しずく「ひゃん!?」
メイ「おーっと、もう逃がさねーぞ」ガシッ
メイ「今すぐ返済したかったんだろ?だったら──」
メイ「──東京の事務所で詳しい話、聞いてやるぜ」
しずく「ひぃ……!」ダラダラ
きな子「……車の後部座席、乗るっす」ガチャ
メイ「ほら早く乗れ」グイッ
しずく「やめて!私に乱暴する気でしょう?エロ同人みたいに!」
メイ「しねーよ。とっとと入れ」ドンッ
メイ「きな子、出せ」
きな子「はいっす!」
ブロロロ
きな子(エンジンをかけ、素早くこの場から走り去ったっす)
-
替え歌ひどくてワロタ
-
タイトル回収アツい
-
替え歌草
-
更新たすかる
盛り上がってきたな
-
Hな展開はありますか?
とりあえずパンツは脱ぎました
-
更新来てた!
後はしずくが2000万をどれだけ使い込んだかってところか…?
-
オニナッツファイナンス
きな子(東京に戻ったときにはすでに深夜になっていたっす)
ガチャ
四季「……」ジッ
夏美「……」ジッ
しずく「ヒッ……!」
きな子(両脇に抱えたしずくを事務所に連れて行くと、遅い時間にもかかわらずみんなが出迎えてくれた)
冬毬「どうぞ、お掛けになってください」スッ
しずく「し……失礼します……」ペコッ
きな子(しずくを応接間に座らせ、相対するように社長と冬毬ちゃんが座る。きな子たちは威圧感を与えつつ、彼女を取り囲むように立ったっす)
しずく「あ、あの──」オドオド
冬毬「──まず、説明しておきます」
冬毬「出入り口のカギはかけていません、いつでも出られます。そして、電話はいつでもかけて構いません」
しずく「えっ?そ、そうなんですか……」ホッ
冬毬「そうしなければ監禁罪となりますので。これはあくまで軟禁です」キッパリ
冬毬「返済について有効なコンセンサスを得るまで、軟禁状態を維持させていただきます。よろしいでしょうか」
しずく「……はい」
きな子(観念したのか、すっかりしおらしくなって小さな声で返事したっす)
-
夏美「合意してくれて感謝ですの」
夏美「それじゃ──」チラッ
きな子「!」コクリ
夏美「──ウチの担当と今後のことについて相談してほしいですの。冬毬」
冬毬「はい、姉者」スクッ
夏美「あとは任せたですの」
きな子「はいっす……!」
夏美「あとはきな子ちゃんなりのやり方を、みせてほしいですの」
スタスタ
きな子(社長と冬毬ちゃんと入れ替わりで、きな子がソファに腰かけてしずくと対面する)
きな子「早速、本題に入るっす。まず──」
しずく「あ、あの……!」
きな子「なんすか?」ジッ
しずく「怒ってます?怒ってますよね?」
きな子「……」
しずく「怒ってますよね?」
きな子「しずく、黙るっす」ジロッ
しずく「はひぃ……!」ビクン
-
きな子「静かになったので、お伝えするっす」
きな子「今回、桜坂しずくさんに返済する金額は、ご融資した2000万円全額」
きな子「それに詐欺被害の損害賠償、探し出すのにかかった手数料、そして迷惑料コミコミの──」
きな子「──3000万円っす」
きな子「これにサイン、するっす」ピラッ
請求合意書
しずく「さ、3000万!?」ガクゼン
四季「!」
メイ「!」
冬毬「……」
夏美「……」ニャハー
-
>>149
訂正っす…
誤り
きな子「今回、桜坂しずくさんに返済する金額は、ご融資した2000万円全額」
訂正
きな子「今回、桜坂しずくさんがお支払いする金額は、ご融資した2000万円全額」
-
カバチタレかなんかにも出てきたな…監禁にしたらまずいってやつ…
-
社長すこ
-
スッ
きな子「ペンと朱肉っす」
しずく「……」
きな子「あっ、印鑑ないっすよね?じゃあ拇印で構わないっす」ニコッ
しずく「……えません」
きな子「はい?なんすか?」
しずく「払えません!!そんな大金!!」クワッ
きな子(今までの態度が一変。3000万を一括で払えないことを開き直って逆ギレしてきた)
きな子「そうっすか……」ハァ
きな子「……なら、借りたらいいっす」
しずく「へっ?」ポカン
スッ
きな子「これは借用証書っす」
きな子「返済のためにウチで借金するっす。もとの借金を新しい借金3000万で借り換えしたことにするっす」
きな子「実際は、ただ借金の額が増えただけっすけど」
しずく「……」
-
きな子「では、これにサインして返済の見通しを立ててもらうっす」
しずく「いやだから、払えないですって……!!」
しずく「もう2000万のほとんどをレズ風俗に使ってしまいましたし……手元にはもう……」
きな子「自力で返済できないなら、代物弁済してもらうっす」
しずく「代物、弁済……?」
きな子「はいっす、鎌倉の実家を調べたっす。立派な屋敷に、手入れの行き届いた山林に竹林……」
きな子「……3000万くらい、たくさんある山のうちひとつを売り払ったら簡単に返済できるっす」
しずく「そ、その土地は全部親の名義です!」
きな子「なら事情を話して名義変更を頼んでもらうっす」
しずく「ダメです……!親に借金を知られちゃうじゃないですか!!」
しずく「せっかくしがらみの多い実家を飛び出したのに、連れ戻されて強制的に好きじゃない男とお見合いさせられて、花嫁修業もさせられるんです!!」
しずく「自由が!!自由が奪われて、私は籠の中の鳥に戻されてしまうんです!!」バッ
きな子「……お芝居の主人公みたいなアツいセリフ言われても、コッチには関係ないことっす」キッパリ
しずく「そんな……」
-
2000万レズ風俗で溶かすのすげえなw
-
しずく「とにかく3000万なんて払えません!親にもバレたくないです!」
きな子「この状況で何いってるっすか……」ハァ
きな子(まだ開き直ったままの彼女に呆れてため息をつく)
しずく「確かにだまし取ったのは悪かったです。でも……」
しずく「……魔が差したというか、そんなつもりで借りたわけじゃないんです。心機一転、ビジネスをやり直すつもりで借りたんです」
しずく「でも、つい誘惑に負けてしまいまして……すみません!」ペコッ
きな子「すみませんで済みませんっす、キッチリ払ってもらうっす」
しずく「……じゃあ」
しずく「どうしてもというなら、何もない私からとってください」
しずく「さあ、どうぞ。さあ……!」
メイ「お前な、そろそろいい加減に……」
バッ
夏美「待つですの。これはきな子ちゃんの追い込み、手出し無用ですの」
メイ「……わかった」
しずく「……ふん」ウデグミ
きな子「……」
きな子「そうっすか、わかったっす。じゃあ──」
きな子「──ドバイで働いてもらうっす」
しずく「!?」
-
しずく「ドバイ……?」キョトン
きな子「はいっす。ドバイで出稼ぎしてもらうっす」
きな子「そこで1か月、お金持ちの豪邸で住み込みでパーティーに参加するだけっす」
きな子「その報酬だけで3000万、完済できるっす」
しずく「ほ、本当ですか!?たった1か月で!?」キラキラ
しずく「……てっきりパパ活か、ソープランドに売られるのかと思ってました!」ニコッ
きな子「大丈夫っす、それよりキツい思いをしてもらうだけっすから」キッパリ
しずく「えっ!?」
きな子「普通のプレイで満足できなくなったお金持ちの紳士たちのために、一日中動物としたり、裸吊りのままムチ打ちされたり、タチの悪いお人形遊びみたいに手足をボキボキにされるだけっす」
しずく「ひぃ……」ガタガタ
きな子「通称──ドバイの便所、っす」
-
きな子「どうっすか?桜坂さんのような、先進国の健康的で若くて体つきの良い娘は、もっと高い報酬を出してくれるはずっすよ」ニヤッ
しずく「い、嫌です!!そんなの!!」
しずく「ひどい!!あなたはオニです!!オニですっ!!」
きな子「借りるときは神様のように感謝感激して、返済を迫るとオニ呼ばわり……ひどいのはどっちっすか?」ギロッ
しずく「うっ……」
きな子「桜坂さん、選んでほしいっす。これは提案っす」
きな子「きな子の言う通りにやるか、ドバイの便所になるか」
しずく「……はい、わかりました……」シュン
きな子(究極の選択を迫られ、ついに折れたしずく。彼女の選んだ答えは──)
-
更新たすかる
-
これでドバイ行ったら笑う
-
クロミツ「😋」
-
まってるぞ
-
翌日 鎌倉
きな子(再び桜坂邸の前に、きな子はいたっす)
きな子「……遅いっすね……」
きな子(桜坂さんの出した答えを受け、わざわざここまで車を走らせた)
きな子「ちゃんと持ってこれるっすかね?」
きな子「──山林の権利書と印鑑」
メイ「安心しろ、ゴネたら親に教えてあげるんだよ」
メイ「やんごとなき桜坂家のひとり娘が地面師やって大金をだまし取ったって、さ」
メイ「金より家名を大事にするなら、喜んで3000万を払うだろうよ」
きな子「口止め料っすか……」
メイ「どんなカネでも、借りた金が返ってくれれば問題ない」
きな子「そうっすね……あっ!来たっす」
スタスタ
しずく「……お待たせしました」ペコッ
-
スッ
しずく「あの、山の権利書と名義変更の委任状です……」
きな子「どうもっす。確かに」
きな子「早速、抵当権をつけるっす」
しずく「頭を下げて親の出した条件すべて飲みました……これから実家で毎日花嫁修業と、毎月お見合いの強制参加」
しずく「明後日、どこかの実業家の七光り息子の豚さんとお見合いです……」シュン
バッ
しずく「これで私はカゴの中の鳥、塔の上のラプンツェル……!」
しずく「ああ、誰か!!私を縛る鎖と閉ざされた牢獄から解き放ってくれる、容姿端麗な王子様はいないのですか!!」
メイ「……いるんじゃね?知らねーけど」アッサリ
きな子「自業自得っす」キッパリ
しずく「ひどいですっ!!」ウワーン
きな子(相変わらず自分の立場を説明するたび、いちいち芝居がかってる人っす
-
メイ「よし……じゃあ東京に帰るぞ」
メイ「仕事が溜まってっからなー、気合い入れろよ?」
きな子「はいっす!」フンス
しずく「あ、あの、私は……?」
メイ「あ?帰っていいぞ」
しずく「えっ……?」
メイ「これで解放。借金はチャラだ、チャラ」
きな子「代物弁済の手続きはコッチでするっす。完済証明書は後日、郵送するっす」
しずく「……はい。わかりました」
-
メイ「良かったなー、これで肩の荷が軽くなって身軽になれたじゃねーか」
メイ「ただし、身軽になったからってまたフラフラ東京に出てくると──」
ズイッ
しずく「ひっ……!」ビクッ
メイ「──他の債権者に見つかっちまうぜ?オニよりこわ〜い連中によ」ニヤッ
きな子「……っす!」ニヤッ
しずく「はひぃ……!」ガタガタ
きな子(生まれたての子鹿みたいに、完全にビビって足を震わせる彼女にペコリと一礼。すぐに背を向けて立ち去り、車に乗り込もうとすると)
しずく「ま、待って……ください!」タッタッ
きな子(邸宅の門から走って飛び出してきた)
-
きな子「なんすか?」
しずく「あの、その……」モジモジ
きな子「?」
しずく「……かすみさんに、伝えてくれませんか?」
しずく「本当にごめんなさい、と……」
きな子「……無理っす」
きな子「それは時間をかけてでも桜坂さんが直接、その口で伝えるべきっす」
しずく「!」
きな子「──たった2000万の金っす」
きな子「自分自身も友人も心から信じる、前向きな志を持った大切な人とのかけがえのない関係を……」
きな子「……あなたはたった2000万円のハシタ金に変えてしまった。そして裏切ったっす」
きな子「そのことをしっかり反省できた、そのときにちゃんとごめんなさいするっす」
しずく「……はい」
メイ「……おい、出せ」
きな子「はいっす」バタン
ブロロロ
きな子(──こうして、金融屋としてのきな子が試された試練は、ようやく幕引きとなったっす)
きな子(そして数日後、出勤したきな子は社長に呼ばれた)
-
搾ちゃん
-
さすがにドバイは避けたか…
-
夏美「きな子ちゃん、ご苦労様でしたの」
夏美「騙し取られたマニー、2000万が3000万になったですのー!」ニャハー
夏美「そして、きな子ちゃんの独り立ちはこれで合格!」
きな子「ふぇ!?」
夏美「もう一人前の金融屋、オニナッツファイナンスの大事な戦力ですの」
きな子「ほ、ほんとっすか……?」
きな子「嬉しいっすー!」ウルウル
夏美「と、いうことで特別ボーナスですの。冬毬」チラッ
冬毬「はい」
スッ
冬毬「──50万円です、改めてください」
きな子「!」
きな子(冬毬ちゃんが差し出したトレーには、50万の現金があったっす)
-
きな子「ほっ、本当に……」
きな子「……い、いいんすか……?」オドオド
きな子(いきなり支給された50万を前に、びっくりした小動物みたいに何度も社長の表情をうかがっていると……社長がニッコリと笑みを浮かべて)
夏美「もらっていいですの。だって──」
夏美「──これも桜坂しずくから回収したマニーだから」
きな子「ふぇ!?山林の売却以外に回収できたっすか!?」
冬毬「はい。この50万は、桜坂しずくが賃貸借契約していた雑居ビルの大家が持っていた敷金の一部になります」
きな子「敷金……?」
夏美「物件を借りたときに大家に預けるマニーですの。契約解除したときに、そこから原状回復費を差し引いた残りが戻ってきますの」
きな子「はえー」
-
冬毬「夜逃げを確認してすぐに桜坂しずくの債権回収を名目に、弁護士を立ててビルのオーナーに請求したのです」
冬毬「そのあと一番安いバジェットで回復工事を請け負う会社に任せ、弁護士費用など諸経費を差し引いて余ったのが……この50万円になります」
夏美「だから、遠慮しないでもらうですの!」ニコッ
きな子(敷金からの回収……きな子も気付かなかったっす)
きな子(さすがマニーのオニっす!尊敬するっす!)
きな子「本当にうれしいっす!ありがとうございますっす」ウケトリ
きな子「でも……」
夏美「?」
きな子「今回の回収、きな子が頑張ったのは……お願いを聞いて欲しかったからっす」
夏美「……なんですの?」ジッ
きな子「はいっす。実は──」
きな子(真剣な眼差しを向ける社長に、意を決してお願いしたっす)
-
夜 かのんの店
かのん「へえー、きな子ちゃんすごい頑張ったんだ!良かったー」
メイ「まあな」ゴクッ
四季「先輩が励ましてくれたおかげ、感謝」
かのん「えっ?そんな大したこと言ってないよー」ニコッ
メイ「でもよ……」トンッ
カランッ
メイ「……そのままで良かったと思うんだけどな、きな子のヤツ……」
メイ「黙っていればインセンティブ増えるのに──あんな頼みなんかして」
メイ「……バカ正直すぎるんだよ。やっぱりどこか甘い部分があるよな」ハァ
四季「それがきな子ちゃんのいいところ」
メイ「でもよ……」
かのん「いいじゃない。それが金融屋としての、きな子ちゃんなりのやり方なんだから」
メイ「まあ、嫌いじゃ、ないけど……」
四季「ふふっ」
かのん「やっぱり優しいね、目つきは怖いけど」ニコッ
メイ「な、なに笑ってんだよ!あと、ネグローニもう一杯!」
四季「私は、グラスホッパー」
-
スッ
かのん「はい、どうぞ」
メイ「どーも……」ゴクッ
四季「デリシャス」
かのん「でも、夏美ちゃんがお願いを聞いてくれるなんて太っ腹だね。噂通りお金に厳しいオニだと思ってたよー」
四季「それは本当。だって」
メイ「今回の件で回収した総額は──5000万だからな」
かのん「え゛っ゛!?」
かのん「きな子ちゃんが回収したのは3000万でしょ?あとの2000万は……?」
四季「小泉司法書士事務所が加入していた詐欺被害の損害保険」
かのん「えっ、じゃあ……」
四季「……2000万は戻ってきた。きな子ちゃんが頑張っても、頑張らなくても」
メイ「──私らは命がけで金を貸してる。その覚悟を持ってほしくて、私は何も知らないきな子を追い込んだ」ゴクッ
四季「結果、きな子ちゃんは本当に頑張った。これで一人前の金融屋」ニコッ
メイ「フッ……そうだな」
かのん「こわっ、オニナッツファイナンス怖いって……!」
きな子(きな子の知らないところで、金が金を呼ぶ──金融のセカイは恐ろしくて、怪しい魅力があるっす!)
-
月末 お台場海浜公園
かすみ「コペ子、完売まであと何個ぉー?」
コペ子「3個だよかすみん」
かすみ「よーし、このあとも頑張りますよぉ……!」フンス
コペ子「あっ、今日は返済日だったね」
かすみ「うん。ちゃんと用意できてるよ!結構ギリギリだったけど」
コペ子「この調子でコツコツ返していこうね」ニコッ
かすみ「そうだね!」
「あの……コッペパン全部ください」
かすみ「いらっしゃいませー!って、あっ……!」
きな子「こんにちは!オニナッツファイナンスっす!」
かすみ「ホント、いいタイミング……ほら、今月分ですよぉ」スッ
かすみ「ちゃんと用意してましたからね!」フンス
きな子「もう必要ないっす」フルフル
かすみ「だーかーら、返済分の58万はここに……って、うえぇ!?」
かすみ「い、今なんていったの!?」
きな子「もう返済の必要はないっす」
-
コペ子「えっと、どういうこと……?」
きな子「夜逃げした桜坂しずくを見つけたっす。彼女に請求するから、もう保証人が返済する必要が無くなったっす」
かすみ「……借金、もう払わなくていいの?」
きな子「はいっす」
コペ子「良かったね!!かすみん!!」
かすみ「……」
かすみ「……しず子、見つかったんだ……」ホッ
かすみ「あのっ、しず子は元気ですか!?もしかして、ヤクザにもう売り飛ばしたとか……?」オロオロ
きな子「安心してほしいっす。代物弁済で借金を取り立てるつもりっす」
かすみ「よかった……」ホッ
きな子「彼女を……今でも心配するんすか?」
かすみ「だって、しず子はかすみんの友達、だから……」
かすみ「……あ、もちろんお金で迷惑をかけたことはダメですっ!もしまた会ったら、あのときみたいにデコピンして叱ってやりますっ!」フンス
コペ子「あはは、かすみんらしいね」
かすみ「きっと、かすみんの想いがしず子に届くと信じてるから……!」
きな子(あんな目にあっても、友人を信じていられる──無敵級ビリーバーはすごいっす)
-
きな子「あ、そうっす……これ」
スッ
きな子「──最初に受け取った200万、お返しするっす」
かすみ「へえっ!?」
コペ子「いいんですか……?」
きな子「はいっす。このお金は、きな子が覚悟を決めて一人前の金融屋になれた大事なものっす」
きな子「会社に頼んで取り戻したっす!受け取って欲しいっす」
スッ
かすみ「あ、はい……えっと、確かに……」
コペ子「ありがとう、ございます……」ペコッ
きな子「……どうしたっすか?」
きな子(てっきり喜ぶかと思ったのに、ふたりは何だか戸惑ってるっす)
コペ子「だって、ねぇ……?」チラッ
かすみ「借金がチャラになったのはともかく、お金まで返ってくるなんておかしいなーって」
きな子「ふぇ!?おかしいっすかね?」ポカン
かすみ「おかしいですって!」フフッ
コペ子「だね!」ニコッ
-
きな子「では、これで中須さんとウチとの関係は終了した、ということで」
きな子「……失礼するっす」ペコッ
かすみ「ま、待ってください!!」
きな子「ふぇ!?」
かすみ「ご注文のコッペパン3個です!」スッ
かすみ「あと……良かったら、この試作品もどうぞ!」
きな子「ありがとうございますっす!」
かすみ「ここ最近の出来事をイメージして作ったんです!名付けて……黒蜜きなこ揚げコッペ!!」
きな子「美味しそうっすー!いま食べていいっすか?」
コペ子「どうぞどうぞ!テラス席も空いてますよ!」
きな子「いただきますっす……!」パクッ
きな子「美味しいっすー!!サクサクの揚げパンを噛むと、ジュワーと染み出る黒蜜ときなこの組み合わせ、やっぱり最高っすねー」
きな子「ルンルンっすー!」モグモグ
-
ブーッブーッ
きな子「ふぇ!?電話……米女さん!?」タップ
きな子「もしもし……」
──おい、きな子!きな子が100万融資したロシアンパブ、エリチカがトンだぞ!!
きな子「はにゃ!?」
──さっさと連帯保証人の妹からキッチリ金を回収してこい!
きな子「は、はいっす……あの、黒蜜きなこ揚げコッペを食べてからでいいっすか?」
──あ?つべこべいわずにさっさと回収してこい!!
きな子「ひっ……は、はいっす……!」タップ
きな子「ごちそうさまっす!代金っす、お釣りは結構っす!」
かすみ「あ、はい」
きな子「きっと、日本一のコッペパン屋さんになれるっすよ!!」ダッ
タッタッ
きな子(一人前になったばかり!きな子の金融道はまだまだこれからっすー!!)
おわり
-
今回も大変面白かった乙です
-
おつ
きな子ちゃん成長したな
良いライブのあとにタイミングよく良いSSが見られて幸せ
-
前作に引き続き面白かった乙
-
毎回いい作品をありがとう
乙でした
-
面白かった
-
今回もおもしろかった〜ありがとうございます
有能社長の夏美ちゃん好きです
-
更新毎度楽しみだった
乙!!
-
乙
半沢直樹みたいで面白かった
-
遅ればせながら今読んだ
前作に引き続き面白かった!
-
乙
■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■