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【SS】綴理「夕霧綴理くっきんぐー」

1 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:00:01 ???00
ガヤガヤガヤ…

綴理「あ……もう、おしまいか」チラッ

綴理(──ここは、大学の講義室。ボクの周りに座っていたみんなが、一斉に席を立って部屋から出ていった)

綴理「んー……今日のガイダンスは全部終わったから、帰らなきゃ、だけど……」

綴理「……」グゥ

綴理「…………おなかすいた、かも」

綴理(……ずっと前のボクは、お腹が減っても気付かないことが多かったのに。変わったのはきっと、さやのおかげだ)

綴理「さや……」ポツリ

綴理(……さやがボクに作ってくれた、いろんな料理のことを、ボクはふと思いだす)

綴理「さやの、からあげ…………からあげが、食べたいな」


2 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:01:00 ???00
綴理「からあげ……どうやったら食べられるだろう? 前までは、さやがボクに作ってくれてたけど……」ウーン

綴理(でも今、さやはボクの隣にはいない。離れた場所で……蓮ノ空で、スクールアイドルとして、きらめいてるから)

綴理「あ、そっか。大学生って“自分で”ごはんを作らなきゃなんだ」

綴理(ボクがボクのために、ボクだけの力で作る、さやに頼らない、一人だけの料理……)

綴理「…………決めた。帰りに、からあげの材料を買ってみよう」

綴理「作ってみるんだ。さやの、あのからあげを」グッ


3 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:02:00 ???00
────

──キッチン

綴理「夕霧綴理くっきんぐー」ルンルン

綴理「……ボクだって、さやが居なくてもできるはずだ。うん」グッ

綴理「んー、とりあえず……買ってきたものを並べてみよう」サッ

綴理「鶏もも肉、いろんな調味料、たくさんの粉……これで、全部だ」

綴理「…………えっと」

綴理「まず……さやは、いつもどうしてたっけ……??」


4 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:03:00 ???00
綴理「ひとまず……手はぴかぴかに洗ったし、最初は材料を切るところからかな?」

綴理(数学みたいに、ちゃんと答えはあるはず。この、からあげのレシピ本を参考に……)ジー

綴理「……? 『鶏肉を一口大に包丁で切る』……? 一口大って、どのくらいの大きさだろう……」

綴理「……えっと、鶏肉は後回しにしよう。先に、まぶす粉を……片栗粉と小麦粉、だっけ? これをトレーに……」パッパッ

綴理「わ、思ったよりも多い……ど、どうやって戻せばいいのかな……?」ワタワタ

綴理「あ、まず鶏肉を漬けるタレ? を作らなきゃいけなかったのか……どこに、どうすれば……??」ワタワタ


5 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:04:00 ???00
────

──数分後

綴理「……」

ババーン‼︎

\散乱した調味料&鶏肉/


綴理「あぁ…………ボクは、さやがいないと何もできないというのか……」シュン


6 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:05:00 ???00
綴理「……ううん。このままじゃ、ダメだ。……だってボクは、約束したんだから。卒業しても、頑張っていくって」

綴理「ボクは……胸を張って、さやに大丈夫だって言えるようにならなきゃなのに……」ハァ

綴理「…………確か、さやは今日……配信してたはず、だよね」スッスッ

綴理「……」ポチッ

──

さやか『同じく、蓮ノ空女学院三年の村野さやかです』

さやか『みなさん、本日も何卒よろしくお願いします』

──

綴理「ふふ、さや、元気そうだ」

綴理「……」ジー


7 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:06:00 ???00
────

──30分後

綴理「あ……もう配信、おわっちゃった」シュン

綴理(……やっぱり、さやには水色のきらめきがある。ボクが見つけた、さやだけにしかない、きらめきが)

綴理(さやは絶対、この先も蓮ノ空で輝き続けるんだろう。ボクは、遠く離れたところでそれを見守るのが役目だ。……だけど)

綴理「…………さや、今、何してるかな」ポツリ


8 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:07:00 ???00
綴理「配信が終わった今なら……」

綴理「……でも」

綴理(さやは、もう蓮ノ空の三年生だから……ボクが連絡して、さやの大切な時間を奪ってしまったら……)

綴理「……通話ボタンが、押せない」






プルルルプルルル‼︎

綴理「──!?!?」ビクッ


9 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:08:00 ???00
綴理「……え、ボクのスマホが鳴って……どうして……??」

綴理「と、とりあえず…………ぽちっ」

『綴理先輩? 聞こえてますか?』

綴理「! うん、聞こえてるよ──さや」

さやか『よかった、お久しぶりです。綴理先輩』


10 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:09:00 ???00
綴理「なんで、さやが……さや、さっきまで配信してたよね?」

さやか『ええ。その……配信も終わったので、今なら綴理先輩とお話できるかな、と……』

綴理「お話?」

さやか『い、いえ、あの……! ただわたしは、綴理先輩がきちんとご飯を食べられているか心配になっただけです、ええ』

綴理(? 電話越しのさやの声が急に、何かを誤魔化すように早くなった気が……? ……ううん、でも、そんなことよりも)

綴理「………………ごめん、さや」シュン


11 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:10:00 ???00
さやか『!? つ、綴理先輩、いきなり謝罪されても困るんですけど、何事ですか……!』

綴理「ボク……ごはん、まだ食べてない、から……」シュン

綴理(……さやがガッカリするんじゃないか、ってボクは少し怖くなる。頑張れって背中を押された分、安心させたかったのに)

さやか『あぁ……なるほどです。夜も遅いこの時間に、まだ食べていない、と。……綴理先輩、昼食は食べたんですか?』

綴理「え、う、うん。……あれ? さや、怒ってないの?」

さやか『怒る? ふふ、綴理先輩が、新しい場所で頑張っていることは、たとえ見ずともわかりますから。怒るはずがありませんよ』

綴理「! さや……」


12 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:11:00 ???00
さやか『大学という新天地での生活も始まり、体もまだ慣れずお疲れでしょう。少しくらい食生活が乱れても仕方がないです』

綴理「……うん」

綴理(その声を、優しいさやの声を、ボクは聞いて……あの頃みたいに、さやに少し甘えたくなってしまう)

綴理(でも、そうだなぁ……うん。きっと、今のボクが本当にすべきことは……)

綴理「ねぇ、さや。……一つだけ、お願いがある。聞いてもらってもいい、かな?」

さやか『……? 構いませんが……』

綴理「ありがとー、さや。あのね……」



綴理「ボクに──料理を、教えてほしいんだ」


13 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:12:00 ???00
さやか『え……料理、ですか?』

綴理「……うん。実はボク、今日、夜ご飯を自分で作ろうとしたんだ。結果は……」チラッ

ババーン‼︎

\散乱した調味料&鶏肉/


綴理「……散々だった」

さやか『ああ……なんとなく想像はつきました……』


14 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:13:00 ???00
綴理「えっと、だからボク……さやに、料理の作り方を教えてもらいたいんだ」

さやか『ふむ……そうですか、綴理先輩が……』

綴理「……やっぱり、ボクに料理はまだ早かったのかな……」シュン

さやか『い、いえいえ! 今なら大丈夫ですよ。それにほら、綴理先輩だって料理をしたことがないわけではないですよね?』

綴理「そう、だっけ……?」ウーン

さやか「はい。以前、わたしにおにぎりを作ってくれたじゃないですか。なので先輩も、料理の基本はできているはずです』


15 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:14:00 ???00
綴理「あれは……あのときは、すずも手伝ってくれたから。それに、レシピも簡単で、ご飯を丸めるだけで良かった」

綴理「でも、今ボクが作ろうとしている料理は……よくわからないんだ。…………ボク、片栗粉と小麦粉に溺れそうだ……」

さやか「え、片栗粉と小麦粉……? ということは、綴理先輩が作ろうとしているものはもしかして……」

綴理「うん。ボクが作りたいのは、“からあげ”だ」


16 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:15:00 ???00
さやか『…………は、初めての自炊で、からあげですか……』

綴理「え……ダメ、かな?」

さやか『い、いえ、ダメではないんですけれど……初心者向きかと言われると……』

綴理「? さや、料理にも、向き不向きがあるの?」

さやか『えっと、はい。本当は、前に慈先輩にもお教えしたように、最初はしょうが焼きなど簡単な料理の方が良いんです』

さやか『もちろんわたしは、綴理先輩のご意思を尊重しますが……その、どうして、からあげなんですか?』

綴理「! それ、は……」


17 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:16:00 ???00
綴理(さやの作ってくれるお弁当に、いつも居てくれてた──からあげ。きっとボクは、あの思い出の“そのまま”を食べたいんだ)

綴理「さやを……食べたい、から」ポツリ

さやか『!?? つ、つつ、綴理先輩!?!?』

綴理「うん。絶対そうだ。ボクは……さやの作ったあのからあげを、ボクの思い出の中のままで、また食べてみたいんだ」グッ

さやか『あ、ああ……そういうこと、ですか……』

綴理「?」


18 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:17:00 ???00
さやか『……こほん。綴理先輩はきっと、からあげを作ることで色々な感情を乗り越えようとしているんですね』

綴理「たぶん……そう」コクリ

さやか『ふむ。わかりました。でしたら……ひとまず今回は、凝ったものではなく、基本的なからあげの作り方をお教えしましょうか』

綴理「! いいの、さや?」

さやか『はい、もちろんです。綴理先輩の期待には、わたしも応えたいですから』

綴理「そっか、ありがとー。よろしくおねがいします、さやせんせー」ペコリ

さやか『わたしは料理の先生ではないんですが……そう、ですね。一緒に料理、頑張りましょう!』


19 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:18:00 ???00
────

綴理(ボクは、スマホを調理台に置いて、スピーカーの状態にした。こうすれば、さやとお話ししながら料理ができる)

綴理「──さや。まず……一口大、ってどう切ればいいの?」

さやか『そ、そこからですか……まぁ、大きさは好みにもよるとは思いますが……』

綴理「好み? だったらボクは、さやがいつも作ってくれていた大きさがいいな」

さやか『! ……わかりました。では、大きめに4、5cmほどのサイズで切ってみてください。後で二度揚げをして火をよく通すためです』

綴理「わかった。んー……」ジー

綴理「こう……かな?」トンットンッ

さやか『えぇと……電話なので“こう”がどうかはわかりませんが、多分そうです』

綴理「ふふ、さや、それじゃわからないよ」クスッ

さやか『綴理先輩から言い出したんじゃないですかー!?』


20 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:19:00 ???00
綴理「……っと、全部できたよー、さや」

さやか『流石です、綴理先輩。では次は、漬け込むタレ作りですね。醤油、生姜、ニンニクを袋に入れ、混ぜ合わせてください』

綴理「これとこれと……これ」サッ

さやか『タレができた後は鶏肉を袋に入れ、よくもみ込みましょう。お肉に味がよく染み込むようになります』

綴理「なるほど。もみもみー……」ギュッギュッ

さやか『本当はここで、この鶏肉を一時間ほど漬けておくんですが……』

綴理「え……ボクの晩ごはん……」シュン

さやか『で、ですよね……なので今回は、時短して10分漬けることにしましょう。その間、お皿を洗うと後で楽になりますよ』

綴理「ん、わかった」トコトコ


21 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:20:00 ???00
綴理「さや、大変だ」

さやか『……ど、どうしたんですか、綴理先輩?』

綴理「……洗うお皿、ない」

さやか『あ……そうでした、他の料理と合わせて作っているわけではないんでしたね……』

綴理「うん。からあげおんりー、だから」グッ

綴理(……そっか。さやはいつも、いろんな作業を一度にやっていたのか。だから、ボクが食べるお弁当はあんなに色とりどりだったんだ)


22 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:21:00 ???00
さやか『ふむ……ですが、10分間何もしないで待つというのも……』

綴理「! さや、それなら……ボク、さやと話したいな」

さやか『綴理先輩……? 何か、話したいことが?』

綴理「うん。大学生になって、さやに伝えたいこと、いっぱいできたんだー」ニコニコ


23 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:22:00 ???00
さやか『ふふ、そうなんですね。電話越しですが、その声色で綴理先輩の気持ちが伝わってきますよ』

綴理「……! そ、っか」

綴理(──不思議だ。離れた場所で、顔も見えないはずなのに……ボクは、さやと気持ちが繋がっている)

さやか『では綴理先輩。良ければ大学でのお話、お聞きしてもいいですか?』

綴理「ん、もちろんだよ、さや。あのね、ボクが行った大学では──」


24 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:23:00 ???00
────

──


さやか『──さて。漬け込みも終わり、次はいよいよ揚げの工程ですね。まずは油の温度を、170℃ほどにして……』

綴理「あぶらの……温度……? えっと……」チラッ

さやか『……あっ!? ぜ、絶対に、素手で直接、油を触っちゃダメですからね!! 綴理先輩なら、やりかねませんから……』

綴理「ボクなんなの。……流石に危ないことはしないよ、さや」

綴理(ボクが怪我をして、離れた場所にいるさやを悲しませるのだけは……ダメだ)


25 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:24:04 ???00
さやか『それなら良いんですが……えぇと、温度計がない場合、菜箸を使えば、油の温度を測ることができるんです』

綴理「さいばし……これ、かな? 長い箸だ……」サッ

さやか『おそらくそれですね。その箸を水に濡らし、水分を拭き取った上で油の中に入れてみてください』

綴理「うん、わかった。濡らして、拭いて……えいっ」

綴理「……! さや、泡が出てきた」

さやか『はい。その泡が静かに、絶え間なく上がっているくらいが170℃です』

綴理「なるほど……? 泡……」ジー

さやか『なんとなくで大丈夫ですよ。どうせ最終的には、じっくりと二度揚げをするので』

綴理「そうなんだ。わかった」


26 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:25:00 ???00
綴理「……」ジー

綴理「……ん。ちょうどいい温度になったと思う……たぶん?」

さやか『でしたら、油ハネには十分気をつけながら、粉をまぶした鶏肉を油の中に入れてください。まとめてではなく、一つずつゆっくりと』

綴理「おー」サッ

ジュワッ…‼︎

綴理「わ、ぱちぱちだ」

ジュー…パチパチパチ…‼︎

さやか『そろそろ、でしょうかね。衣が薄いきつね色になったら、からあげを一度上げてください』

綴理「きつね……こんこーん」サッ


27 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:26:00 ???00
さやか『そうして取り出したからあげを、次は4分ほど休ませます。その後、30秒〜1分の時間で二度揚げをしましょう』

綴理「? えっと、からあげを、休ませるの……?」

さやか『はい。からあげは休ませる……少しの時間、何もせず置いておくことで、外側の熱を中心部に伝えられるんです』

綴理「あぁ、そっか。からあげも疲れるから、休まなきゃなんだ」

さやか『ふふっ、そうかもしれませんね。それに二度揚げをすることで焦がさずジューシーに仕上げることができるんです』

綴理「なるほど。揚げ終わったら、どうするの?」

さやか『ふふ、そこまでできれば、お皿に盛り付けて──完成、ですよ』


28 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:27:00 ???00
────

──


綴理「………………できた?」

さやか『どうして疑問形なんですか……!?』

綴理(──あの後も、さやの言葉を聞きながら作業して……ボクにも不思議なくらい、いつの間にか、からあげが完成していた)

さやか『電話越しですが、綴理先輩は特に大きなミスもなかったように思えます。さっそく、食べてみてはいかがですか?』

綴理「あ……そっか。これ、食べられるのか……」

さやか『……からあげを何だと思っていたんですか……?』

綴理(さやが作っていたあのからあげが、今ボクが作ったから、目の前にある。そのことが、まだボクにはよく飲み込めない)


29 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:28:00 ???00
綴理「料理って自分で作れるのか……不思議だ……」ウーン

さやか『あの、早く食べないと、せっかくの出来立てが冷めてしまいますよ?』

綴理「! それは良くない。食べよう。……いただきます」パンッ

綴理(ボクは、こんがりと揚がった美味しそうなからあげを箸でつまんで……口の中に──)

綴理「…………!!」


30 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:29:00 ???00
さやか『お味は、どうですか?』

綴理「さや……」

さやか『! その反応、もしかして……』

綴理「…………」




綴理「……からあげ、焦げてた…………」シュン

さやか『え、えー……?』


31 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:30:00 ???00
綴理「たぶん……油の温度が高すぎたんだ。本当にその温度になってるか、ボクにはよくわからなかったから」

さやか『ま、まぁ……初めてで成功する方が珍しいですから。気は落とさなくても……』

綴理「あ、ううん。落ち込んでるわけじゃないんだ。むしろ……」

綴理(ボクが作った焦げたからあげは、さやが作ったそれとはもちろん違う味がした。でも……)

綴理「……離れていても、さやと繋がってる、そんな味がしたんだ」

さやか『!』


32 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:31:00 ???00
綴理「えっと、ちゃんと伝わってるかどうか自信はない。でも、さやと電話で話してるうちにボクは……』

さやか『大丈夫です、わかりますよ。……まったくもう、ズルイです、綴理先輩は』

綴理「? さや?」

さやか『…………実はわたし、そのために電話をかけたんです。綴理先輩と繋がっている、実感が欲しくて』

綴理「……!」


33 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:32:00 ???00
さやか『……今、わたし達は、今までと違う“新しい夢”に向かって進んでいます。そこは、先輩方の跡も無いまっさらな場所』

さやか『だから……わたしは少し、寂しかったんです。それを紛らわせようと、つい先輩に電話をかけてしまい……』

綴理「さや……」

綴理(電話だから、表情は見えない。でもボクは、今のさやがどんな顔をしているか、わかる気がした)


34 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:33:00 ???00
綴理「……そっか。同じだね、さや」ニコッ

さやか『綴理、先輩……?』

綴理「ボクも──寂しかった。さやのからあげが、食べられないから」

綴理(離れて、初めて気づいた。ボクの当たり前は、さやが作ってくれていたんだ)

綴理「思い出のからあげとは違ったけど、ボクは電話越しにさやと“今”で繋がれた。それは……すごく、楽しかったんだ」ニコッ

さやか『! ……ふふ、わたしもです』


35 : 名無しで叶える物語◆fD3I7cwC★ :2025/04/03(木) 21:34:00 ???00
綴理「こうやって電話でさやと話しながらお料理するの、またやりたいな。……どう、かな?」

綴理(離れていても、声を聞くだけで温もりが蘇ってくる。さやのきらめきが、ボクに、伝わる)

さやか『はい。やりましょう、また絶対!』

綴理「ん。新しい約束だ」ニコッ

綴理(きっと、この繋がりも……かけがえのない大切なものになるんだろう。ボクは、それが楽しみだ)フフッ


おしまい


36 : 名無しで叶える物語◆3kbtOcDx★ :2025/04/03(木) 21:46:05 ???Sr
良い距離感の会話だし、さくっと成功じゃないのもドルケっぽくてめちゃめちゃよかった


37 : 名無しで叶える物語◆KPAqmsKA★ :2025/04/03(木) 21:48:17 ???00
綴理かわいい
おつ


38 : 名無しで叶える物語◆arbojru0★ :2025/04/03(木) 21:58:15 ???00
おつおつ
素晴らしいSSをありがとう…次に会った時はから揚げと一緒に食べられちゃうのかね


39 : 名無しで叶える物語◆v6upTUdq★ :2025/04/03(木) 22:20:06 ???00
これは神ss


40 : 名無しで叶える物語◆XUaCOBEI★ :2025/04/03(木) 22:51:45 ???Sa
おつおつ
頑張れ綴理


41 : 名無しで叶える物語◆ct9UVUyf★ :2025/04/03(木) 23:53:59 ???00
乙、素敵なSSを見つけた


42 : 名無しで叶える物語◆C6ixrBje★ :2025/04/04(金) 07:50:50 ???Sr
素晴らしい
脳内で想像しやすいSSだった


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