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【SS】こずさやの火

1 : 名無しで叶える物語◆rrn229Ml★ :2025/03/30(日) 23:54:54 ???00
3/28


「梢先輩、こんばんは」

「ええ、こんばんは」

わたしと梢先輩の決まり事。
月に一度。休日のどこか一日だけ。
わたしは先輩の部屋を訪ね、先輩はわたしを招く。
二人だけの休日。


2 : 名無しで叶える物語◆rrn229Ml★ :2025/03/30(日) 23:57:02 ???00
「ふう、もうす4月だというのに寒いですね」

「お茶を淹れましょう……と言いたいところなのだけれど、あいにくティーセットも片付けてしまって…」

「お構いなく、わたしの部屋から持ってきましたから」

「ありがとう、さやかさんの淹れてくれるお茶も美味しいから楽しみだわ……ふふっ」

「わたしのお茶"も"……ですか」

「?」

鈍いひと。
まあ、いつものことなのだけれど。


3 : 名無しで叶える物語◆3UyUybvL★ :2025/03/30(日) 23:59:53 ???00
こずさやの火を継げ


4 : 名無しで叶える物語◆ct9UVUyf★ :2025/03/31(月) 00:01:49 ???00
こずさやの火を絶やすな


5 : 名無しで叶える物語◆rrn229Ml★ :2025/03/31(月) 00:02:07 ???00




「紅茶を淹れるのも上手になったわね」

「先生の腕がいいですからね」

「あらあら、嬉しいことを」

何をするでもなく、ただゆるりと過ごす。たわいのない話をしたり、気になっているスクールアイドルのパフォーマンスを研究したり。部屋で二人きり、それ以上でもそれ以下でもない。

「部屋、ほとんど何もありませんね」

「ええ、31日が退寮日だもの……大きなものは今日のうちに片付けておかないと……蓮華祭まで時間もないし終わったあとはもう…ね」

「そうですね、きっと花帆さんと吟子さんが部屋に押しかけて来ますよ……ふふ、賑やかそう」

「そういうあなたも綴理と過ごすのでしょう?」

「ええ、蓮華祭のあとに小鈴さんと二人で綴理先輩へチョコケーキを……おっと、これは内密に」

「大丈夫、これでも口は固いのよ」

「確かに、大丈夫ばかりで肝心なことは何一つ言ってくれませんでしたもんね、綴理先輩にもわたしたちにも」

「……どうして私は刺されているのかしら」


6 : 名無しで叶える物語◆rrn229Ml★ :2025/03/31(月) 00:05:16 ???00




思えばこの関係は何なのだろう。付き合っているわけでもなく、かといってただの先輩後輩というわけでもない。わたしとしてはこれより先の関係に踏み込んでもいいと思ってはいるけれど、さりげなくアピールをしてみても響いたためしがない。もっとも、先へ進みたければ直接告白でもすればいい話ではあるけれど。やっぱり。

怖い。

「ねえ、梢先輩」

「どうしたの?」

「わたしのお茶、美味しいですか?」

「さっきも言ったけれど、とても美味しいわよ」

「……花帆さんよりも……ですか?」

「難しいわね、それぞれ個性のある淹れ方をしてくれるし……何よりあなたたちに順位をつけるということはしたくないの」

「そうですね、変なことを聞きました……えっと、やっぱりお茶の一つでも誰にも負けたくないので」

「さやかさんは向上心があるのね、やっぱり部長をあなたにお願いしてよかったわ」

「まだイエスと言ったわけではありませんけどね」

「そうね、でも……ふふ、答えが楽しみよ」

結局また誤魔化してしまった。
拒絶されるのが怖い。試すように少しだけ、少しだけと踏み込んでみたりはする。でも直接好きだと言う勇気はなかった。


7 : 名無しで叶える物語◆rrn229Ml★ :2025/03/31(月) 00:13:20 ???00




しばらく談笑し蓮華祭の予定を話し合っている最中、ふと時計を見る。

23:52

あと10分もせずに日付が変わる。
日付が変われば蓮華祭前の最後の調整、それが終わればそれぞれユニットメンバーと過ごす予定になっている。

だから。今日しかないのかもしれない。

「あの、梢……先輩」

「どうしたの? さっきも似たような顔をしていたけれど」

「あ、いえ……なんでもないです、はい」

また。
また逃げた。

あの自分に向けられる好意にとことん鈍い梢先輩のことだ。好きです。お付き合いしてください。そうでも言わないとわたしの気持ちには気づいてすらくれないだろう。そもそも彼女が女性を恋愛対象にしてくれるかすらもわからない。

こういう時、花帆さんならどうするだろう。花帆さんなら、わたしが花帆さんなら。もしそうだったら先輩はわたしの気持ちに気づいてくれるのだろうか。

「さやかさん」

わたしは結局何も言えない。そんな臆病で何も言えない人間が偉そうに先輩に嫌味を言えた立場だろうか。情けなくて涙が出てくる。……どうしよう。本当に涙が出そう。

「さやかさん? ええっと、さやかさん……あの…」


8 : 名無しで叶える物語◆rrn229Ml★ :2025/03/31(月) 00:23:50 ???00
「は、はいっ」

先輩が心配そうにわたしの顔を見つめている。
しまった、もしかして自分が気づいていないだけで本当に泣いてしまっていたんだろうか。

「……何か言いたいことがあるんじゃない?」

「わたしが……ですか?」

「ええ、思えばここしばらく何か言いたげだったような気がしていて……私の勘違いじゃなければだけれど」

「大丈夫です、先輩の勘違いですよ」

また誤魔化す。

「いいえ、大丈夫ではないわ」

「大丈夫ですって」

「その大丈夫を誰が信じると言うの、昔の私?」

「……根に持ってたんですね」

「ええ、さやかさんが話してくれるまで過去の言動を掘り返すわよ……そうね花帆から聞いた話だと入学式前のバスで…」

「どこから掘り返していくつもりなんですか! というかなぜ花帆さんはそれをよりにもよって梢先輩に…!」

「だったら話してくれるわね、誰とも仲良くする気がなかった村野さやかさん?」

「……はい」


9 : 名無しで叶える物語◆ct9UVUyf★ :2025/03/31(月) 00:27:13 ???00
期待


10 : 名無しで叶える物語◆rrn229Ml★ :2025/03/31(月) 00:29:59 ???00




こんな形で言うつもりはなかった。そもそも告白する勇気がなかったのだからつもりも何もないのだけれど。

「あの……ですね」

「梢先輩って……その、今までお付き合いされた方なんていたり……その…いなかったりしたり……」

「そうね、中学生の頃は学校の内外問わずに告白されることもあったけれどいつも断っていたわ」

「それはつまり……」

「さやかさんは?」

「わたしは……わたしもないです……わたしは普通ではなかったので……こんなところでカミングアウトすることでもないですが……わたしは…」

「もしかして…男性より女性の方が……?」

「はい、ずっと昔から恋愛対象は女性です……憧れの芸能人も初恋の人も……ずっと昔から」

「そう……言いにくいことを言わせてしまってごめんなさい……配慮が足りなかったわ」


11 : 名無しで叶える物語◆rrn229Ml★ :2025/03/31(月) 00:38:14 ???00
先輩に謝らせてしまった。こんなつもりじゃなかったのに。こんなことなら告白しようなんて思わなければよかった。先輩のことを好きになんてならなければ。

「いいんです、元々梢先輩に告白する時が来たらその時にカミングアウトするつもりだったので」

「そうなのね……え?」

「あ」

やってしまった。昔からこうだ。気が緩むと無意識に口が滑って人を刺してしまう。こんなことだから花帆さんや瑠璃乃さんからはジャックナイフだなんて言われるんだ。今日は遂にそのナイフの刃が自分に刺さってしまった。

「……」

「そんなつもりじゃなかった、そう言えば先輩は聞かなかったことにしてくれたりしませんか?」

「そうね、さやかさんがそう言うのなら忘れることにするけれど……本当にそんなつもりではないの?」

「……ごめんなさい、そんなつもりです」

「わたしは梢先輩のことが好きです……本当はこんな口を滑らせる形で告白なんてしたくなかったのですが」

「えっと、やり直す……?」

「……はい」


12 : 名無しで叶える物語◆rrn229Ml★ :2025/03/31(月) 00:52:14 ???00




「乙宗梢さん、わたし村野さやかはあなたのことが好きです……ユニットを組んだ時から、あなたのことが頭から離れませんでした」

「だからお休みの日はいつも私の部屋に?」

「はい、シャッフルユニットが終わって最初にここに来た日」

「その日に告白するつもりだったんです、でも勇気が出なくて、自分自身にもずっと言い訳を続けて」

今のままでもいいけれど、これ以上の関係に進むのもやぶさかではない。そんな消極的な言葉で自分を誤魔化して、いつしかそれが燃え上がっていた恋心を塗りつぶした。それからずっと燻るだけの半端な火。

「ありがとう、その言葉と気持ちはとても嬉しいわ」

ああ、断られる時の常套句だ。
わたしの情けない恋は今日、先輩の卒業を待たずに終わってしまった。

「でも返事の前に私からも伝えたいことがあるの」

聞きたくないなあ。

「無理やり告白させた形になってしまってごめんなさい、あなたの気持ちに気がつかなくてごめんなさい」

「……謝らないでくださいよ」

「そうね、じゃあもう謝らない」


13 : 名無しで叶える物語◆rrn229Ml★ :2025/03/31(月) 01:06:01 ???00
「さやかさん、私もあなたが好き」

「あなたが私の部屋に通ってくれるうちに……その、だんだんとあなたのことを考える日が増えていって」

「いつも間にか……その、好きになっていて……」

「わたしの性別、女性ですよ」

「私もよ」

「あと数日で先輩は……」

「そうね、卒業前に言えてよかった」

「わたし……あんな情けない告白で…」

「私もずっと勇気が出なかった、あなたが口を滑らせてくれなければこの思いを抱えたまま卒業していたでしょうね」

「私とあなたはよく似ているから……互いに気持ちをずっと先延ばしにしていて、その先延ばしの終わりが今日で、その終わりの今日が偶然重なってしまったのよ」

「そんな都合のいい偶然なんてあるんでしょうか」

「いいえ、やっぱり違うわ」

「運命ってこういうことを言うのかもしれないわね」

「……なんだかそんな歌詞を歌いましたね、わたしたち」

「いつかまた、二人で歌いましょう」

ずっと燻り続けていた小さな火。
言い訳をして目を逸らして覆い隠して。
でも。
少しでもその火が残っていたから今日また燃え広がって二人の関係を灯したんだ。

「先輩、約束ですよ」

「約束ね」






こずさやの火を絶やすな。


14 : 名無しで叶える物語◆rrn229Ml★ :2025/03/31(月) 01:09:14 ???00
終わりです。


15 : 名無しで叶える物語◆fbiV1ObX★ :2025/03/31(月) 01:11:50 ???00
終わらないよ


16 : 名無しで叶える物語◆5Y26g7Ug★ :2025/03/31(月) 01:47:53 ???00
こずさやは熱い


17 : 名無しで叶える物語◆ct9UVUyf★ :2025/03/31(月) 13:20:50 ???00
乙、このまま部長引き継ぎックスしそう


18 : 名無しで叶える物語◆ct9UVUyf★ :2025/03/31(月) 17:50:35 ???00
こずさや助かる


19 : 名無しで叶える物語◆ct9UVUyf★ :2025/03/31(月) 22:21:27 ???00
乙、こずさやの火を絶やすな


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