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【SS】第102期スクールアイドルクラブ非公式活動記録 Note.2
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※このSSは私の解釈で書いた102期の妄想であり、今後出るかもしれない公式からの102期描写や個々人の102期解釈を否定する意図のものではありません
※既出の情報は確認して書いていますが、取りこぼしがあるかもしれません
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前スレ
【SS】第102期スクールアイドルクラブ非公式活動記録 Note.1
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11224/1737024669/
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\前回のラブライブ!/
小鈴「決勝大会プレーオフを目の前に大倉庫の片付けを始めた徒町たち」
『ん?なんか落ちたね…ノート?』
『こ…これは…!』
小鈴「偶然見つけたノート、そこには…」
『表紙に何か書いてあるね…『第102期スクールアイドルクラブ非公式活動記録』?』
『記録者は…『大賀美 沙知』っっ……!』
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待ってました!!
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小鈴「徒町たちと入れ替わりに卒業した大賀美沙知先輩の残した、102期のスクールアイドルクラブの活動が書いてあったんだ」
小鈴「まずは綴理先輩たちの入部、そして…」
『つまり、私がこの学校で最初におもしろいと思ったのは乙宗さんで、乙宗さんのせいで私は今ここにいるってわけさ』
『一週間、あなたを見ててわかった…あなたも努力してここまできたんだって…わたくしと同じところもあるんだって』
『じゃあ、お互いこれからは仲良くなれるようにがんばろうか』
『よろしく!梢!』
『そうね。….これからは仲良くしましょう、慈』
クイクイ
『もちろん綴理も』
小鈴「ケンカしてばっかりだった梢先輩と慈先輩が仲良くなったところまで読んだよ」
小鈴「ようやく4月も半分過ぎて、102期4人での活動が本格始動だ!」
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待ってた!
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〜2025年1月16日〜
〜蓮ノ空女学院・大倉庫〜
姫芽「ふむふむなるほどね〜ぃ」
吟子「姫芽、口調がうつってるよ」
小鈴「こうやって今の梢先輩と慈先輩になっていったんだねー」
姫芽「雨降って地固まるってのがぴったりだ〜」
吟子「うん、さすが私たちの先輩」
小鈴「泉さんが言ってた互いの強みも弱みも知れるくらいわかりあうって、こういうことなんだと思う」
姫芽「ここまでやってれば互いの長所も短所も理解し合ってて当然だ、うんうん〜」
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小鈴「竜胆祭まではまだまだあるし、続きも読んでみる?」
吟子「うん…それに、もしかしたら」
吟子「慈先輩が怪我をしたってのも、梢先輩と綴理先輩がうまくいかなかったってのも、私たちが考えるほど大ごとじゃなかったのかも」
姫芽「…アタシも、ちょっとそう思いはじめてる」
姫芽「先輩たちが話したがらないのも、アタシたちに余計な心配をさせたくないだけだったのかなとか」
小鈴「ここまで来たら読むしかないんじゃないかな」
吟子「そうだね」
小鈴「えーっと、続きは…」
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【2022年4月3週】
早いもので4月ももう半分が過ぎた。
102期スクールアイドルクラブは毎日賑やかにやってる。
賑やかの大半は梢と慈によるものだが、最初のようにやりすぎることもなく、時には綴理が間に入ることで二人を止めてくれている。
あたしが考える以上に綴理の存在はプラスに働いているんだろう。
その代償として、綴理が原因で起こるトラブルも相当数あるわけだが。
そろそろ話を持ちかけてみようか。
我がスクールアイドルクラブの伝統、ユニット分けについて
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〜練習後〜
〜スクールアイドルクラブ部室〜
沙知「さて、今日はキミたちに話があって残ってもらったわけだが」
梢「慈、また何かやらかしたの?」ヒソヒソ
慈「真っ先に私を疑わないでよ。全然心当たりないから」ヒソヒソ
梢「…となると今回のやらかしは」
慈「綴理かぁ…」
綴理「ごめんなさい。ボクがやりました」
沙知「あ、いやいや!何かやらかしたから注意するとかじゃない。…綴理が何を謝ろうとしたかは後で聞くとして」
綴理「やられた」
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待ってた
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沙知「うちのスクールアイドルクラブには、代々ユニットで活動する風習があるんだ」
慈「ああ、梢が言ってたやつか」
沙知「ほう、既にご存知と来た」
梢「蓮ノ空のスクールアイドルとして押さえておくべき事柄は既にわたくしの方で叩き込んでおきましたので」
綴理「いつユニット決めるんだろうってこずが毎日わくわくしてたんだ」
綴理「夢が叶ったね。おめでとう、こず」
慈「うるさいことこの上なかったけどね」
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梢「なんとでも言いなさい。スクールアイドルにかける情熱に関してそう評価されるのはむしろ光栄よ」
梢「ついにユニット結成、ラブライブ!優勝へ一歩を踏み出せるわけですね」
沙知「ああ…ただな、ちょっと問題があってな」
沙知「どうユニットを組むのかというのがイマイチしっくりこないんだ。4人まとめて1ユニットだとユニット分けの意味がないだろ?」
梢「ならば、2人ずつの2ユニットが収まりがいいと思います」
梢「幸いわたくしは多少はスクールアイドルの知識もあるので、わたくしと沙知先輩を相手にそれぞれ一人ずつが組むというのが…」
沙知「うん、あたしもそれは考えたぞ」
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沙知(梢の言葉を遮る。この展開は予想してただけに)
沙知「で、梢が組みたいのは綴理だろう?」
梢「はい。慈は放っておいてもいいですが、綴理はわたくしが時間をかけてスクールアイドルとして鍛えたいと思っています」
慈「さらっと私をぞんざいに扱わないでほしいんだけど」
慈「私はユニットとか無理に組まなくてもいいと思いますよ?梢がユニット組みたいなら組めばいいとして」
梢「あなた、そういうわけには…」
慈「っていうか、早めに言っとくと私はユニット組む気はないし、ユニットやるなら私以外の3人でやればいいんじゃないですか?」
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沙知「ソロでやりたいってことかい?慈がそうくるとはちょっと意外だな」
慈「ソロでやりたいってのとは違うんですよね」
慈「私の隣はもう何年も前から予約済みなんです」
沙知「ほう?」
慈「絶対に一緒に世界中を夢中にしようねって約束した子がいて、やっぱり最初はその子のために取っておきたいといいますか…」
綴理「幼馴染の子?」
慈「はい、その通り!つづちゃん大正解」
綴理「やったー」
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沙知「幼馴染…?」
慈「あ、沙知先輩には言ってなかったですね」
梢「仲の良い一つ下の子に話したらしいんです。蓮ノ空に入学したって」
慈「その子、今は海外にいるんですけど、来年になったら日本に帰ってくるみたいで」
慈「機会を見てスクールアイドルになったことも言って、来年になったら蓮ノ空に入学したその子とユニット組みたいなって」
沙知「だったら今年一年はあたしらの誰かとユニット組んで、来年に組み直しでも」
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慈「そういう手間はなるべくかけたくないんで、あとさっきも言いましたけど…」
慈「ユニット組むなら、初めてはその子にとっておきたいんです」
沙知「珍しいな。勉強以外で慈がそこまで頑なになるのは」
沙知「そもそも、その子が来年蓮ノ空に入学できるかもわからないぞ」
慈「絶対に入学してきますよ。私のいるところならどこまでだって追いかけてくる子なんですから」
梢「言い方に不穏なものが見えるのだけれど」
慈「だいたい、梢がユニット組みたいのはそれはそれでいいんだけどさ。なんでユニット作るなんて風習があるかよくわからないんだよね」
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梢「ユニット制度は限られた時間でスクールアイドルとしていかに効果的な練習をするかという発想から生まれているの」
梢「近しい志の者どうしで方向性を絞ったパフォーマンスを磨くことができる、普段からユニットで活動することで先輩後輩の連携もとりやすくなる…いいことづくめね」
慈「なんで梢がドヤってんだか」
慈「沙知先輩、別にユニットじゃないとダメってわけでもないですよね?」
沙知「もちろんだ。ソロはソロで得るものもあるだろうしな。ソロでやりたいからといってあたしが慈の指導をやめることもない」
沙知「来週には大きなイベントもあるし、今週中には決めておきたいと考えてる」
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2022年4月3週・2】
ユニットについて持ちかけた結果は半分予想どおり、半分予想外といったところだ。
梢はやはり二つ返事でユニット編成に賛成した。自分を指導役に据えての構想を出してくるのも予想通りだ。
ただな…あたしはあまり梢にそういう役回りをさせたくない。
あくまでも梢は1年生だ。
まだまだ先輩に甘えていい立場だろう。去年のあたしなんか先輩方の好意を独り占めしてたんだぞ。
そういう意味では慈もだ。一人でやるなんて苦労を今から背負い込む必要なんてない。あたしがいるんだから。
綴理は、どうなんだろう。結局ユニットについては何も言っていない。
…まあ、結局のところ、あたしは先輩ってのをやりだけなのかもしれない
あたしのわがままで、あの子たちの意思を押さえ込んでいいのだろうか?
四人が納得できるやり方というのはあるのだろうか…
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>>19訂正
【2022年4月3週・2】
ユニットについて持ちかけた結果は半分予想どおり、半分予想外といったところだ。
梢はやはり二つ返事でユニット編成に賛成した。自分を指導役に据えての構想を出してくるのも予想通りだ。
ただな…あたしはあまり梢にそういう役回りをさせたくない。
あくまでも梢は1年生だ。
まだまだ先輩に甘えていい立場だろう。去年のあたしなんか先輩方の好意を独り占めしてたんだぞ。
そういう意味では慈もだ。一人でやるなんて苦労を今から背負い込む必要なんてない。あたしがいるんだから。
綴理は、どうなんだろう。結局ユニットについては何も言っていない。
…まあ、結局のところ、あたしは先輩ってのをやりたいだけなのかもしれない
あたしのわがままで、あの子たちの意思を押さえ込んでいいのだろうか?
四人が納得できるやり方というのはあるのだろうか…
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〜沙知自室〜
沙知「はぁ…」
沙知(いろんなパターンを思い描いてみたが、どれもしっくりこない)
沙知「あたしは、何がやりたいんだろうな」
沙知「やりたいこと、つまりはあたしの軸なんだが…」
沙知(理事長の孫として入学してきたあたしを一人の学生として迎えてくれたスクールアイドルクラブ)
沙知(あたしがあたしでいられる場所で、ただの大賀美沙知として過ごした1年間はこれまでのどんな時間よりも輝いていた)
沙知(だから先輩がそうしてくれたように、後輩たちに輝いた時間を過ごしてもらえる場を作りたい)
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沙知「…ってことなんだが、うーん」
沙知「それって実はユニットと両立難しくないか?」
沙知(あたしがいずれかのユニットに入る、そうなると"あたしのいないユニット"はあたしの手からは離れるわけで…いや、それでもノータッチにはしないが)
沙知(あたしの手の届かない場ができる時点でどうなんだろ、と思う…)
沙知(あたしは一人しかいないんだから、ひとつのユニットしか…)
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沙知「ん?」
沙知「んんんん?」
沙知(いや、さすがにそれは…)
沙知(頭をよぎったとある考え、どう考えても無茶で愚策としか言いようがない)
沙知(梢が語ったユニット活動の意味と照らし合わせば本末転倒なんてもんじゃない…だが)
沙知「まいったなこいつは」
沙知「あたしのやりたいことは、その本末転倒だったわけだ」
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〜2025年1月16日〜
〜蓮ノ空女学院・大倉庫〜
小鈴「ほうほう」
吟子「私たちは普通にユニット制を受け入れてたけど、それって先輩側がある程度揃ってる前提だもんね」
小鈴「沙知先輩はこの後…」
吟子「うん、私たちはその答えを知ってる…のはいいとして」
姫芽「はにゃ〜〜〜」
小鈴「姫芽ちゃーん、帰ってきてー」
姫芽「この〜めぐちゃんせんぱいの〜幼馴染ってのは〜もしかしなくても〜」
姫芽「てぇてぇ〜〜てぇてぇですよ〜」
花帆「あ!いたよ!吟子ちゃんたちーー!」
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吟子「花帆先輩たち!?なんで?」
花帆「なんでじゃないよー。もうそろそろ日が暮れちゃうから寮に帰らないと」
吟子「あ、あれ?いつのまにそんな経ってたん?」
さやか「整理整頓は大切ですが、熱中しすぎるのも考えものですよ」
瑠璃乃「そんで、ひめっちはどうしちゃったのさ」
姫芽「にゃ〜〜〜〜はふ〜〜」
小鈴「これは複雑な事情がありまして」
姫芽「…はっ!リアルるりちゃんせんぱいがここに!」
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花帆「寮母さんはあたしたちがなんとかするからすぐに帰ってくること、いい?」
吟子「うん、なるべく早く帰るね」
花帆「じゃあ行くよ。さやかちゃん!瑠璃乃ちゃん!」
さやか「しょうがありませんね」
瑠璃乃「三人が帰るまで寮母さんはルリたちが引きつけとくから」
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吟子「………さてと」
姫芽「このノートどうする〜?」
小鈴「先が気になるよね」
吟子「持って帰る?」
姫芽「そんで、機会見てまた読もうよ」
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すごく待ってました
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〜2025年1月16日〜
〜学生寮・吟子自室〜
姫芽「ということで〜お風呂上がりの集合だ〜」
小鈴「104期女子会開始ー!」
吟子「…なんで私の部屋なん?」
姫芽「ん〜、じゃんけんで負けたから?」
小鈴「大丈夫だよ。今回は吟子ちゃんの部屋だけど、次は決まってないから」
姫芽「勝てばいいんだよ〜」
吟子「せめて騒がないでよね」
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【2022年4月3週・3】
あれから一晩考えた。
あたしが今からやることは、ユニットという制度に込められた先輩方の想いを踏み躙る行為なのかもしれない。
それでもなお、あたしには貫きたいものがある。
だったら迷うのはもうやめよう。
あの子たちと自分に胸を張るために、あたしはこれから馬鹿げた理想を振りかざそう。
さあ、はじめようか…あたしら102期のユニット活動を。
善は急げだ!今日一日でばっちり決めてやる。
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〜1年生教室前廊下〜
はっ、はっ!
沙知(まずは朝一番、居場所がわかりそうなのから)
ガラガラガラガラ…
沙知「ちょっと失礼する!」
沙知「梢!乙宗梢ちゃんはいるか?」
梢「沙知先輩、どうしたんですか?」
沙知(梢ならかなり早くに教室に突撃しても会えると踏んだが当たったな)
沙知「ユニットの話なんだが…」
-
梢「はい…」
沙知「あたしと組まないか?梢」
沙知「あたしらで作ろうぜ。何者にも負けない花束を」
梢「…そうなりましたか。そうですね。慈が一人でやりたいというのを無理やり曲げさせてまでユニットをする必要はない」
梢「綴理と三人で目指しましょう。最高のユニットを」
沙知「おいおい、何を言ってるんだ?」
梢「???」
沙知「実はさ…」
沙知(唐突に浮かんだ最高にイカれたアイディアを発表する、すると…)
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梢「は、はい?……本当に…やるのですか?」
沙知「ああ!」
梢「ユニット活動の意義は、沙知先輩もよくわかっているはずでは?」
沙知「ああ、あたしはそれを知っていながらわがままを言っている。だが約束する」
沙知「大丈夫だ!あたしに任せてくれ!通したわがままに見合うものをキミらに見せてやる」
梢「………その大丈夫を信じる根拠などどこにもないと思います」
梢「ラブライブ!優勝を成し遂げるにはそんな不確実な大丈夫になど賭けられない」
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沙知「そうだな。だが、あたしからも言わせてもらう」
沙知「あたしが梢と組みたいユニットは何か…梢ならわかるんじゃないのか?」
梢「はい。花束を作るという文言からして…」
梢「スリーズブーケ、3ユニットの中で王道路線を征くユニットですよね」
梢「地道な努力と先人の作った基本を重んじるわたくしにはぴったりだと思います」
沙知「なるほどねぃ。そういう理由でのスリーズブーケだと思ったか」
梢「違うのですか?」
沙知「違いはしない。だが、50点だ」
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梢「残り50点は?」
沙知「それが知りたいならあたしとスリーズブーケになってくれ。そして、その答えこそが」
沙知「乙宗梢、キミがラブライブ!に優勝するために気付かないとならないことだと、あたしは思ってるぜ」
梢「優勝したければ二人でスリーズブーケをしろと、そう言いたいのですね」
沙知「ああ」
梢「沙知先輩の考えはわたくしには分かりかねます。わたくしが気付かないといけないこととやらも、出まかせとしか思えません…ですが」
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梢「わたくしとスリーズブーケをしたいという言葉に応えてみるのも、悪くないのかもしれませんね」
梢「慎んでお受けします。共に最高の花束を作りましょう、沙知先輩」
沙知「…梢は優しいな」
梢「わたくしが、優しい?」
沙知「ああ、まだまだ50点だが、梢はやっぱりスリーズブーケが似合ってる」
梢「自分にも周りにも厳しくあるのが信条のわたくしのどこが優しいのかは、後でじっくり聞きましょう」
梢「時間がないのではないですか?綴理も慈も思っている以上に手強いですよ」
梢「とはいえ、わたくしとしては沙知先輩の計画が頓挫してユニットの話が振り出しに戻る方がありがたいですが」
沙知「ははっ、心遣い感謝するよ」
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沙知(梢を攻略して、そのまま授業に向かう)
沙知(本音を言えば1秒だって惜しいんだが…学業をおろそかにはできない立場なのがつらい)
沙知(そして、昼休み。どうやら中庭でいきなりライブが始まったらしい)
沙知(ってことはだ)
沙知「さあてと、うちの天然天才ちゃんを迎えに行きますかね」
ザワザワザワザワ……
沙知「……しまった」
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沙知「おいおい、なんだよ…この人だかりは」
沙知「こいつは目測を誤ったな」
沙知(綴理はいる、あたしの周りの群衆を超えて聴こえてくる声がそれを証明している…だが!)
沙知(この人だかりをかき分けて綴理に突撃するなんて無理だ。そもそも見えない、綴理の姿が見えない)
ガスッ…
沙知「あ、すまな…ぎゃあああああ」
沙知(標準以下のあたしの体格では夕霧綴理に翻弄される人の群れに抗うのは無謀だったようだ)
沙知(気付けばあたしは五体投地で芝生に横たわっていた)
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沙知「う…うう…」
綴理「さち?」
沙知「お…おお、綴理…」
綴理「さちはお昼寝?」
沙知「そういうわけでもないかな」
綴理「さちも見てたの?さっきの」
沙知「ああ、なかなか大盛況じゃないか」
綴理「今日はいい天気だから歌ってみたんだ。そうしたらみんなが集まってきた」
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沙知「そっか、よかったな」
綴理「そう…なのかな?そうかも」
ザワザワザワザワ…
沙知「まーた騒がしくなってきたな」
沙知「……ま、ここはかわいい後輩を独り占めしちゃおうかな」
沙知「綴理、ちょっと部室行こう」
綴理「部室に?」
沙知「こう賑やかだと気も休まらないだろ。部室でまったりしよう」
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〜部室〜
沙知「ふぅ〜」
沙知「いやー、部室があってよかったよ」
綴理「ねえ、さっきのボクは」
綴理「さっきのボクはスクールアイドルだったのかな?」
沙知「あたしはそう思ってるが、最後にそれを決めるのは他でもない綴理自身じゃないかな?」
綴理「じゃあ、スクールアイドルじゃなかった…」
沙知「厳しいなー、綴理にとってのスクールアイドルはどれだけハードルが高いのやら」
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綴理「ねぇ、さち」
沙知「ん?どうしたんだい」
綴理「言われた通り、スクールアイドルクラブに入ったよ」
綴理「あとはどうやったら、ボクはスクールアイドルになれるの?」
沙知「んー、んー、んー」
沙知「スクールアイドルっていうのは、自分がスクールアイドルだと思えれば、みんなスクールアイドルなんだけども…」
綴理「?」
沙知(まあ、次のステップに進むためにもここらではっきりさせとくのもいいだろう…なんだかんだ4月も半分以上過ぎてしまったし)
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沙知「そもそもキミ有名人だろ」
沙知「外部のダンスクラブ含め、引く手あまただろうに…どうしてスクールアイドルクラブを選んでくれたんだい?」
綴理「みんなでやりたいし」
沙知「みんなで…なるほど」
沙知(最初に聞いた時は『スクールアイドルになりたいから』だけだったが、綴理なりに掘り下げはしたんだな)
沙知(みんなで…それを目指しているなら、たしかにさっきのあれはスクールアイドルではないのかもな)
沙知「…孤高の存在として持ち上げられていた裏側…なんて仰々しいことを言うつもりはないけども」
綴理「?」
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沙知「キミはもう、いつでもスクールアイドルでいいんだぜ?」
綴理「んー…だとボク、たぶん今『ス』だから」
沙知「スクールアイドルの『ス』ってこと!?み、道は険しいねぇ!?」
綴理「スクールアイドル見習いのスだよ」
沙知「道は果てしないねえ…」
沙知「でもそうだねぃ。こういうのはぱっと出来るものでもないか」
沙知「あるいは…ひとつひとつ、積み重ねていく他ないのかも…」
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沙知「……」
沙知(そのためにユニットをやろう、とか言えば綴理は受け入れてくれるだろう)
沙知(無批判に、あたしの言うがままに、スクールアイドルになるための段階として…でも、それでいいんだろうか)
綴理「さち?」
沙知(いや、今はそれでもあたしの理想のために進むしかない。そう決めたんじゃないか)
沙知「安心したまえ、綴理。キミはこの3年の間に、必ずスクールアイドルになれる」
綴理「ほんと?」
沙知「ああ、まず、その一歩目は…」
沙知「あたしとーーDOLLCHESTRAをやろう」
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沙知(言ってやった。屈託のない、晴々とした笑顔で)
沙知(今はこれでいい。この子が自分はスクールアイドルだと胸を張れるその日まで、あたしが見守ろう)
沙知(巣立ちのための居場所、DOLLCHESTRAでな)
綴理「ん?あれ…もしかしてボクとさちの二人でってこと?」
沙知「あ…ああ…」
綴理「めぐは一人でやるって言ってたけど、こずは?」
沙知「えーっとだな」
沙知(梢は黙っててくれたみたいだな)
沙知(って…あたしの目論見が外れた方が梢には好都合なんだから言わないか)
沙知「そのことなんだが……」
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〜同日夜〜
〜慈の自室前〜
沙知「ふぅ….さてと」
沙知「綴理には諸々黙っててもらったが、口止めして正解だったな」
沙知(それでも練習中に様子がおかしい綴理に慈が気づいた時は肝が冷えた)
沙知(そこは梢がナイスアシストしてくれたわけだが)
沙知「さあ、はじめようか。勝負だ、慈」
沙知(3人目、慈だが…実は秘策がある)
沙知(絶対にノーと言わせない秘策がな)
沙知「くっくっく…大賀美沙知をなめるなよー」
-
沙知(鍵は先日のこのメッセージ)
『慈:そろそろスクコネの配信?ってのやろうと思うんだけど』
『慈:やり方教えて!🙇』
沙知「その初配信が今日なわけだー」
沙知「いやー、楽しみだなー」
沙知「さてと、どんな感じでやってるかな?」
沙知(イヤホンを耳に挿し、すでに始まって数秒の画面を覗き込む)
慈『あ、えっとぉ…どーも(笑)』
慈『これでぇ、映ってますかねぇ〜?』
-
沙知(お…)
沙知(おい!なんだこりゃ!)
慈『私、機械のこと、あんまりわからなくてぇ』
沙知(へらへらしてんじゃない!あと、練習の合間にずっとスマホいじってるだろ!)
慈『いや〜個人配信とか、したことないんですよねぇ〜』
慈『今日はぁ、たまたま暇だったから、なんとなくぅ?みたいな〜(笑)』
沙知(ハキハキ喋れ!配信なめるな!)
沙知(これは…思った以上に……きつい!)
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沙知(何より…)
沙知(『私、本当はタレントですから⭐︎』とかいう態度を表に出して予防線を張りまくっているのが、一番きつい!)
慈『あ〜。なんで今回配信やろうかって思ったかっていうとぉ』
慈『先輩に、向いてるんじゃない〜?って、何度も何度も言われて〜』
慈『スクコネのアプリを入れてみたわけなんですけど〜』
慈『意味あるんですかね?こんなの』
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沙知(ああ、言ったよ!慈は配信向いてるんじゃないかってさ!)
沙知(だけど、それは普段の慈にであって、こんな媚び媚びのムカつくキミにじゃないんだが!?)
沙知(ていうか…何度も何度もは言ってない!!)
沙知(スクコネうんぬんも慈が頼んだから教えたんだがなぁ!?恩を仇で返すか、慈ぃ!?)
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慈『私、大きなカメラに撮られるのに慣れてて〜』
慈『こんなちっちゃいカメラじゃ、撮られてる気にならないかも〜⭐︎』
慈『ま、そりゃ、私に向いてるとは思いますけどね』
慈『喋りも上手で、何より顔面がいいですから、ね〜』
沙知「ぐおおおおおっ!!」
沙知(スマホを全力で殴りそうになって…思い留まる)
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沙知「…違うぜ…あたしが言ったのは」
沙知「あたしが、向いてるって言ったのはそういうことじゃない…」
沙知「ま、いいさ…」
沙知(そんなのは後でいくらでも気づけばいい)
沙知「まずは、あたしの目的を達成させてもらうよ」
ガチャ…
慈「それでね〜。こないだ初めてライブをしたんだけど〜」
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沙知(慈の部屋に押し入る。鍵?そんなものは寮母さんに話をつけて確保したさ、がははは!)
慈「いやーライブって…」
沙知「いい配信してるじゃないか!ん?」
慈「……………」
慈「……………ええ!?」
沙知「あ!みんな見てるかーい!この子の先輩の、蓮ノ空女学院2年の大賀美沙知だ、よろしくなー」
慈「なななななな!!なんで」
沙知「いんや、ちょっと用事があってなー、はるばる来たよ」
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慈「な、なにかなー?めぐちゃん、きいてないぞー?」
沙知「なーに、話はシンプルだ」
沙知「あたしとユニットをやろう。みらくらぱーく!を」
慈「ユニットー?ああ!蓮ノ空のですね。今は配信中なのでーあとでゆっくりと…」
沙知「ほう、ほうほうほう」
慈「だ、だいたい、いいんですかぁー?こんなとこでする話じゃないでしょ?」
沙知「おいおい、それを決めるのはキミじゃないぞ」
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慈「はい?いくら沙知先輩でも…」
沙知「まあまあ!!落ち着いて状況を見ようぜ」
慈「だから、そんなのは」
沙知「まだ気づかないのか?ん?」
沙知(指で慈のスマホを指差す)
慈「だからなに…って!?」
『おお!こいつはサプライズ!!』
『やっべ、盛り上がってきた』
『沙知ちゃんが後輩ちゃんとユニットかー』
慈「なにこの…みんな…だって、さっきまで…コメントほとんど………」
慈「しかも…こんなに人が来て…」
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慈「そういうことか…」
沙知「ああ、さっき存分に宣伝させてもらった」
沙知「あたしの自慢の後輩が初配信するから、みんな見守ってくれってな」
慈「ははっ…なるほど、ファン総出で作った地の利を使っての説得ってわけですね」
沙知「そうさ、キミが気づいてくれて助かったよ」
沙知「少々どころかかなり黒い手だが、こっちも本気なんでね」
沙知(慈は手強い、このくらいでやっとイーブン…ここからだって手は抜かない)
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慈「……はぁ……そこまでするんですか」
慈「………でもですねー、私がこんな程度で言うこと聞くわけないですよねー」
沙知(キャラ作りはやめないんだな。ま、そんなにハンデ付きでやり合いたいならいいさ)
沙知「聞いてもらうさ。力づくでも」
慈「…ソロでもいいって言ってませんでしたー?」
沙知「知らないのか?乙女心は秋の空よりも変わりやすいんだ。特にあたしのはな」
慈「それで後輩の配信にファン引き連れて乗り込んできちゃうとか、こわいですよー」
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慈「まあ、コメントのみなさんが沙知先輩のこと大好きなのはいいことだと思いますけどー」
『テンポあがってきたじゃん!いいよ』
『もしかして、最初のは生意気な新人というキャラ付け?」
『まさか断らないよね?"顔のいいめぐちゃん"?』
『だんだん面白くなってきた。これからも応援するよ慈ちゃん!』
慈「……」
沙知(慌ただしく流れるコメントをちらりと見た慈の表情が変わった)
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慈「沙知…先輩…」
沙知「ん、どうした?」
慈「沙知先輩が私の配信を宣伝したのは、いつ?」
沙知「ついさっきだよ。具体的にはこの部屋に突入するまさに直前だ」
沙知「あたしの登場後にファンが駆けつける、という展開を作る最高のタイミングはそこだったわけだし」
慈「一回だけ?」
沙知「まあ、そうだが」
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慈「そっか…」
慈「……」
慈「うん、私の負けだ」
慈「沙知先輩、私…沙知先輩とユニット組みます」
沙知「お、おい…どうしたいきなり?」
慈「知らないんですか?乙女心は秋の空よりも変わりやすいんですよ。特に私のは沙知先輩以上に」
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慈「えーっと、配信を見てるみんなー?どうも不意打ちくらっちゃったけど」
慈「私、藤島慈はユニットとして活動することになっちゃいました…なので」
慈「こっからは、みらくらぱーくの配信ってことでお願いしまーす!あはは…」
沙知「…いいのか?だって、さっきまで」
慈「さっきはさっき、今は今ですよ。そもそも沙知先輩がユニット組もうって言ったんじゃないですか」
沙知「そうだが」
慈「…あーあ、私、だっさいことしちゃったな」
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〜30分後〜
慈「ってことで…初配信からサプライズになっちゃいましたけど」
慈「アフターまで見に来てくれたみんなありがとー」
沙知「はっはっは。これからはユニットの先輩としてよろしくな」
慈「では、ぽちっ!」
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慈「………で、こっからなんですが」
慈「まずは改めて、同じユニットとしてよろしくお願いします。大賀美沙知先輩」
慈「っていうか、沙知先輩もうまいですね。動揺を隠してアレだけ盛り上がれるなんて」
沙知「あたしもそれなりに修羅場はくぐってるんでね。この件とは関係ないし、話す気もないが」
沙知「でだ。…なぜだ?」
慈「なんでいきなり引き下がったかですか?」
沙知「ああ、あたしがどれだけ言葉を尽くそうとキミは動かないだろうと思った。だからこそ受け入れざるを得ない場を作った」
沙知「だが、それすらもキミは跳ね除けた。なのに…」
-
慈「……」
慈「…ほんっと、お粗末でダサくてつまんない配信でしたよね。今日のソロ配信」
慈「配信始めて、笑顔振りまいてそれっぽいこと言ってれば…って思ってたら、反応も全然悪くて」
慈「沙知先輩が入って来たら、一気にそれが変わって…結局は沙知先輩とのユニット配信でなんとか楽しい感じで終わったけど」
慈「沙知先輩が来なかったら…ものすっっごく。つまんないままで終わってた」
-
慈「…でもね」
慈「いたんだよ。あんな私の配信を見て、それでも帰らなかった人たちが…がんばって楽しもうとしてくれてた人たちが」
沙知「あたしが入ってくる前に、キミの配信にすでにいた人たち……か」
慈「沙知先輩が私の配信を宣伝したのはここに入ってくる直前。だったら、それよりも前にいた人は大賀美沙知なんて関係なく藤島慈を見に来てくれた人なんですよね」
慈「つまんないことしちゃってた藤島慈を楽しもうって思って、私の分まで頑張ってた人たちがいた」
慈「でね、沙知先輩のこと頭にきて、とことんやってやるぞーってなった時に見ちゃったんだ」
慈「本当に楽しそうな、無理なんて全然してない、心の底から楽しそうなその人たちのコメントを」
-
沙知「なるほど。キミの心をへし折ったのはあたしの策でも、圧倒的に不利な場の力でもなかったわけだ」
慈「藤島慈を見にきてくれた人を、私は楽しませられなかった。沙知先輩の力を借りてようやく何かを返せた」
慈「それなのに、私は一人でもやれるんだーなんて身の程知らずなこと言ってられない」
慈「今のままるりちゃんと組んだところで、世界中を夢中になんてほど遠いんだから」
沙知「…そうか」
沙知(るりちゃん、というのは例の幼馴染ちゃんなんだろうが…こいつはかなりご執心だな)
-
慈「もう、ユニット始めるならるりちゃんとだー!なんて甘いことは言わない。るりちゃんの前で今日みたいな恥ずかしいことしたくないもん」
沙知「ふむ…」
沙知「予想とは違う展開だが、まあ結果オーライか」
慈「あ、でも沙知先輩と組むのは1年間だけですよ」
沙知「……るりちゃんとやらと組むためか?」
慈「はい。1年で沙知先輩から色々盗んで、沙知先輩なんか足元にも及ばないスクールアイドルになってやります」
慈「来年になったらユニット解消、私は運命の幼馴染と最強のユニットとなるわけです」
-
沙知「果たしてなれるかな?あたしは手強いぜ」
慈「そうですね。配信向いてるなんて言われてすっかり乗せられちゃいました」
慈「とりあえず、今日はここらでお開きにして、続きは明日からでどうです?」
沙知「そうだな。これからよろしく…そうそう、言い忘れてたんだが、実は梢と綴理にも」
慈「二人きりでユニットやろうって言ったんですよね?二人から聞いてますよ」
沙知「なんだ知ってたのか」
沙知「ああ…それとな…」
バタン!
ガチャ…
-
沙知「ドア閉めからの即鍵かけか、容赦ないなー」
沙知(仕方なくあたしの部屋に帰る。だが、足が軽い)
沙知(ユニット結成作戦を完遂できたからだけじゃない。他にも嬉しいことがあったから)
沙知「あー、まったく!突入前にした宣伝の投稿…余計だったなっ!」
沙知(あんなことしなくても、慈はあたしとユニットを組んだだろう)
沙知(慈を動かしたのはあたしが呼んだ大賀美沙知のファンじゃない、最初からいた藤島慈ファンかも怪しい数人だ)
沙知(あたしの登場でその人たちが心の底から楽しむように変わった。それでよかったのに…策士策に溺れるとはこのことか)
-
沙知「無理して楽しもうとしてくれてたーとか、なーにいっちょ前に気づかってんだ。初配信だろが」
沙知「あたしのファンが押しかけてもなお怯まなかったのに、最初からいた数人のコメントで負けを認めるとか、潔いにもほどがあるっての」
沙知「ていうかさ、ほとんどはあたしのファンのコメントだったんだぞ!人の数だってこっちが多いんだからさ!なのに、その中から…的確な言葉を見つけた?おいおい!」
沙知「慈。…慈は配信に向いてるって思ったのは、やっぱり間違いじゃなかったみたいだ」
沙知「なによりさ、キミは悔しかったんだろ?純粋にキミを見に来た人を楽しませる力がなかったことが」
-
沙知「そんで、その人たちを楽しませるためにあたしと配信どころか、ユニット活動まで決意した」
沙知「たいしたもんさ。画面に表示される数字でも文字でも無く、その向こうの一人一人をちゃんとキミは見ていた。あの土壇場でもな」
沙知「それはさ…どんなトークスキルよりも企画力よりも配信者に必要なことなんだぜ」
沙知「むしろ、負けたのはあたしの方だ。数なんてものに頼ってキミを動かそうとしてしまった」
沙知「ま、胸を痛めながら善良なファンまで使った思惑が外れてあたしも悔しいから、本人には言わんがなっ!!」
-
【2022年4月4週】
ユニット結成に1週間かかるとは予想外だった。
まあ、その甲斐あって3ユニット同時進行という無謀な計画の初動は上手く行ったわけだ。
あとはその成果を見せつけるだけだ。
うってつけのイベントがあるわけだしな。
-
〜スクールアイドルクラブ部室〜
沙知「えー、てなわけで4月末のスクールアイドルのイベントなんだが」
梢「本当に3ユニット全部で出るんですね…」
沙知「そうだな。あたしがバタバタする関係で3人にはあまり余裕のない動きをさせてしまうかもしれない」
梢「どこかの誰かさんが3ユニット掛け持ちなど始めなければ
、このようなことにはなっていないのでは?」
沙知「はい…そうでございます」
慈「ま、まあさ!ユニットどうしの間隔は空いてるみたいだし、いけるでしょ」
梢「慈…あなた、あんなに一人で活動すると言っていたのに」
-
梢「やはり、あの初配信のせい?かわいそうに」
慈「はは…あんたに同情される日がくるとは思わなかったよ」
慈「まあ、おかげさまでユニット組むのも悪くはないと思ってるから今は」
梢「慈がそうならば、それでよいのだけれど」
沙知「あー、で、話を戻すと、キミら3人のレベルを見て3ユニットすべての参加もいけると思ったわけだ。初の大きなイベントとなるが各自思う存分力を発揮してほしい」
梢「言われるまでもなく、そのつもりですよ。ねえ綴理、慈」
慈「あったりまえだっての」
綴理「……」
-
梢「綴理?」
慈「どうかしたの?」
沙知「そういや、ずっと黙ってるな」
綴理「スクールアイドルの…ライブ…」
綴理「ボクは、出ていいの?スクールアイドルじゃないのに」
沙知「えっと」
梢「またそれなのね…あのね、綴理」
梢「それだけの力があるなら、ステージに立ってそれから考えても」
綴理「ボクは…」
-
慈「綴理の言ってることは難しくてよくわかんないけどさ、私たちからしたら、綴理は立派なスクールアイドルだよ?」
綴理「でも…ボクは…」
沙知「綴理、この後ちょっと残れるか?」
綴理「さち…」
沙知「綴理が出たくないってなら、無理強いはしない。だけどな、綴理が言いたいのは出たくないってことじゃないとあたしは思う」
沙知「そして綴理は出るべきだともあたしは思う。だから二人で話そう。梢と慈がいたら話しにくいこともあるだろ?」
綴理「…うん」
-
沙知(部活も終わり、梢と慈には先に帰ってもらった」
沙知(寮の門限まではまだある)
沙知「綴理、そろそろ話をしよう」
綴理「そうだね」
沙知(夕日を背に壁へもたれかかった綴理の顔が寂しげなのは、あたしの勘違いではないだろう)
https://imgur.com/a/q0Qt2eL
-
沙知「綴理は自分はスクールアイドルじゃないって言うけどさ」
沙知「梢も慈も、あたしだって同じことを綴理に対して思ってるぞ。そこまで実力も実績もあるなら、あとは綴理の気持ち次第だろって」
綴理「そんなこと言っても、ボクは今…ただのス、だし」
綴理「なろうと思えばスクールアイドルになれるなら、今までのボクは何でもなかったのかな?よくわかんないや」
沙知「わからない…なるほどねぃ」
沙知「とりあえずはスクールアイドルだと思ってみる、ってのは無しなのかい?」
-
綴理「考えはしたんだ。でも……そんなの」
綴理「…そんなのやっぱりダメ、だって」
綴理「だって…ボクだけそんなのなんていやだ」
沙知「やっぱり、梢と慈と比べちゃってたか」
綴理「そうだよ。こずもめぐも、ちゃんと自分はスクールアイドルだって言えてる」
沙知「それは綴理がそう見ちゃってるだけって気もするんだよな」
沙知「綴理から見た二人と綴理自身ってのはそんなに違うのかい?」
-
綴理「まぶしいんだ。二人とも」
綴理「こずはこずの色があって、めぐはめぐの色があって、どっちも綺麗で力強く光っている。ボクが眩しいと思ったスクールアイドルみたいに」
綴理「だけど、ボクは光れない。どうやったら光れるのかもわからない」
沙知「そうか…うーん、そうか」
沙知「なる…ほど…ねぃ」
-
沙知(なんとなくであるが、ニュアンスは伝わってきた)
沙知(梢も慈も、今日の話し合いにしろ普段の練習にしろ自分の方向性がきっちり定まっている子だ)
沙知(スクールアイドルについてだけではないな。自分の目指す生き方があって、そこに誇りを持っている)
沙知(対してこの夕霧綴理という子は、そのあたりがふわっとしている…スクールアイドルになりたいと言いながらも、肝心のスクールアイドルとはなんぞやというところに答えがない)
綴理「今度のステージだって、こずとめぐはさちと同じスクールアイドルとして立つのにボクだけが…ただの夕霧綴理なんて」
綴理「そんなままでステージにいたら、ボクは自分がスクールアイドルだなんて、ずっと思えなくなりそうだ」
-
沙知「…なりそうだ、か」
沙知「綴理の言いたいことはよくわかった。そして確信した」
沙知「綴理、キミは出なきゃならない。あたしと一緒に」
綴理「なんで?だってボクは」
沙知「キミは言った。思えなくなり"そうだ"と」
沙知「雨が止まな"そうだ"というのは、雨が止まないってことじゃない」
沙知「"そうだ"なんてのは、一個人が己の与えられた情報からした主観の判断にすぎない」
-
沙知「雨が止まなそうだと言ったそばから雨が止むなんてことは往々にしてあるだろ」
綴理「止まないことだって…」
沙知「あるさ。だがな、重要なのはキミが主観での判断だって気づいてることさ」
沙知「実際キミは出たいんじゃないのか?」
綴理「出たいよ…だけど」
綴理「出て、それでもしボクがスクールアイドルになれないってわかっちゃったらって」
綴理「そう思うと、暗い水の底で息ができなくなるんだ」
沙知「綴理…キミは一つ勘違いしているぜ」
-
沙知「そもそもさ、キミは夕霧綴理ひとりとして立つわけじゃないってのを忘れてるんだ」
綴理「………あ」
沙知「あたしたちはDOLLCHESTRAだ。キミがステージに出て、何かを掴めたのなら儲け物、ダメになりそうならこう思ってくれていい」
沙知「夕霧綴理がどうであれ、DOLLCHESTRAとして立っているんだから、関係ないって」
沙知「出てみないか?スクールアイドルユニットDOLLCHESTRAとしてステージに」
綴理「でも…そんなのズルじゃ」
沙知「いいや、まったくもってズルじゃないさ」
-
綴理「……え?」
沙知「スクールアイドルになりたいんだろ?そして、その鍵はステージにあるかもしれない。だったら、探しにいくののどこがずるいんだ」
沙知「反論したいなら、一度キミ自身がステージに上がってステージにそんなものはないと証明したまえ。DOLLCHESTRAとしてステージに立ってな」
綴理「すごいね。さちは」
沙知「ああ、そうさ!だって…」
沙知「あたしは、スクールアイドルだからな」
-
【2022年4月第4週】
時間とはいうのはあっという間に過ぎていくものだ。
ついにイベント開催の当日となった。
3ユニットそれぞれの出来上がりも申し分ない。
1人で3ユニット掛け持ちなどどいうあたしの無謀っぷりも各所のサポートを受けてなんとか回りつつある。
梢とのスリーズブーケ、慈とのみらくらぱーく!、どちらも大成功のステージと言ってもいい
あとは、綴理とのDOLLCHESTRA
心配など微塵もない。だってあたしたちはスクールアイドルなんだ。
綴理はまだそう思えていないようだが、大丈夫だ。
あたしがちょっとだけ背中を押してやろう。
-
〜イベント当日・DOLLCHESTRA出番前〜
〜ステージ裏〜
沙知「はあ…はあ…ぜぃぜぃ……くくっ」
沙知「危なかったが、間に合ったぞ……」
梢「本当にギリギリでしたね」
慈「私とみらぱで出た時よりもやばいことになってんじゃないですか…」
沙知「ま、まあ…回復力には自信があるから、問題ない」
沙知「すー…はー…よし!」
-
綴理「本当に、ボクと一緒に出るの?」
沙知「ああ、だってあたしらはユニットだろ」
沙知「隣に立ってみたいと思ったから綴理と組んだ。だから一緒に出る。何もおかしなことはない」
沙知「……なあ、綴理。ステージに出る前に言っておくことがある」
綴理「なに?」
沙知「あたしは綴理ほどの力はない。でもな、だからこそ綴理にスクールアイドルを教えられると思ってる」
-
綴理「…スクールアイドル」
沙知「キミほどの才能があれば、どんなスクールアイドルだって追いつけないパフォーマンスができる」
沙知「言い方は悪いが、スクールアイドルは部活…アマチュアだ。
綴理「…そう思うんだ。さちも」
沙知「でもな、だからといってスクールアイドルがプロに劣ってるとは思わない」
-
沙知「あたしの予想だけどさ」
沙知「夕霧綴理にどれほどの賞賛が与えられようと、キミの欲しかったものはそこになかった」
沙知「そして、キミはスクールアイドルの中に、キミの欲しかったものを見たんじゃないのか?」
沙知「見てみようぜ。ステージの上から、キミがスクールアイドルに見たものを」
綴理「うん」
沙知「それと、このステージが終わったら…もっとすごいプレゼントをやるから楽しみにしてろ!」
-
沙知(ステージに出ると割れんばかりの拍手が聞こえる)
沙知(そりゃそうだ。あの夕霧綴理がスクールアイドルの舞台に立つんだからな…だけどさ、キミらはこれからもっとすごいものを見るんだ)
沙知「みんな、スクールアイドルのことは好きか?」
沙知「あたしはスクールアイドルが大好きだ。こんな3ユニット掛け持ちなんてするくらいな」
沙知「今から披露するのは、あたしらDOLLCHESTRAが代々受け継いできた曲だ!長い歴史のどれにも負けないあたしら二人のステージを刻みつけてやるから、よーく見ていてくれよ」
-
沙知(曲が始まり、あたしと綴理のDOLLCHESTRAがはじまる…それを観客は息を呑んで見守る)
沙知(みんな!スクールアイドル夕霧綴理が、胸を張ってスクールアイドルと言えるようになるための第一歩をその目と心に刻めよ)
沙知(綴理はもう立派なスクールアイドルだって、あたしも思う。だけど、綴理がそう思えないなら…それでいいさ)
沙知(そばで見守って待ってやる!この子が前に進むのを)
沙知(他人がどうとかじゃないだろ?結局のところ、最後の最後に)
綴理『決めるのは……自分だ!』
-
〜DOLLCHESTRA出番終了後〜
〜ステージ裏〜
沙知「ははっ!やってやったー!いやー爽快だ」
綴理「あのね…さち」
沙知「おう!なんだい?」
綴理「これまでね、ボクが踊ってた時に……みんなね、すごいって言ってたんだ」
綴理「ボクが歌って、踊って、そうするとたくさんの人がほめてくれたんだ…すごいねって」
綴理「だけど、みんなは…ボクを見ていなかった」
綴理「みんなが見てるのはボクじゃないから、そこにボクはいなかった」
-
沙知「そうか、綴理にはそうだったんだな」
沙知(…この子はずっと思ってたのだろう)
沙知(綴理の見せるものは素晴らしい。誰もが評価せずにはいられない)
沙知(だけど、それは夕霧綴理のパフォーマンスへの評価だ)
沙知(生まれ持った時点で本人の意志など関係なくあった才能…綴理の気持ちなど関係なく生み出される完璧で完全な芸術への評価)
沙知(ならばそこに夕霧綴理はいないんじゃないかと)
-
綴理「すごいって言われるたびに…チクチクしてたんだ」
綴理「でもね、出会ったんだ…チクチクしないすごいに」
沙知「それが、スクールアイドル?」
綴理「うん、みんながボクに感じてた"すごい"にボクはいなかったけど」
綴理「ボクがスクールアイドルに感じる"すごい"にはスクールアイドルがいたんだ」
綴理「それで、今日さちと立ったこのステージにボクはいた…気がする」
-
沙知「なるほどねぃ」
沙知(あいかわらず独特な言い回しで、あたしもちゃんと理解できてるかは怪しい)
沙知(そもそも綴理を見てきた人が、みな綴理の才能をだけを見てたなんてことはないだろう)
沙知(だが、感触はあった。そうか…やっぱりこの子は欲していた。自分の居場所を)
沙知「完全で、それでも燃え上がることのなかった天才が…スクールアイドルに価値を見出した」
沙知「なるほど、なるほどねぃ、そういうことか」
-
沙知「…キミの目指すものは、キミのスクールアイドルは見つかったかい?」
綴理「うん、ボクは…不完全でそれでも熱を持った………スクールアイドルになりたい」
沙知「よし!じゃあ、あたしが、予言しよう」
綴理「予言?」
沙知「ああ!出る前に言ってたプレゼントってやつだ」
沙知「もし、来年綴理が誰かとこのステージに立てたら…」
沙知「その時は綴理もスクールアイドルだぜ!」
綴理「……うん!」
-
〜2025年1月16日〜
〜吟子自室〜
小鈴「綴理先輩にこんな過去が」
吟子「『ボクたちはスクールアイドル』って綴理先輩が言ってる本当の意味、わかったような気がする」
姫芽「そうだね〜アタシたちにそう言えるようになるまでには、とてつもないレベルアップを繰り返してきたわけだ〜」
小鈴(徒町たちはそれからもノートを読み進めていった)
吟子「ね、ねえ…そろそろ消灯時間だよ」
姫芽「う〜、時間とは無情なものなのだ〜」
小鈴「もうすぐ5月のところが終わるからさ、きりのいいところまで今日読んじゃおう」
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【2022年5月第4週】
3ユニット出場のビッグイベントを乗り越えてから1ヶ月が経った。
あたしたち102期蓮ノ空の評判はうなぎのぼりだ。
1年生3人も一層活動に熱心になってくれている。
梢は隙あらば3ユニット同時進行に苦言を呈してくるが、実はユニット掛け持ちの負担を一番気にかけてくれていたりする。
まだ5月にもかかわらず部長の業務なんかも手伝ってくれているし、1年以上のあたしの任期を残して次の部長がもう決まったかもしれない。
-
綴理はまだ自分がスクールアイドルだとは思えないようではある。だが、自分にとってスクールアイドルとは何かを見つけたことで一歩先にすすめたようだ。
ここらでもう一つ刺激を与えたいところだ。
慈は初回の配信がよっぽど悔しかったらしい。
勉強そっちのけで配信に力を注いでいる。…まあ、勉強しないのはもともとなので、この表現はいささか不正確だが。
あたしを超えるとの言葉に偽りなく、めきめきと実力をつけている。
そんなあたしらに先日、とある誘いがあった。
近江町市場のれいかさんが、新入生のもろもろも落ち着いた頃だしそろそろ来てみてはどうかと声をかけてくれたのだ。
あたしも市場のみなさんには世話になったしな。
あの子たちを連れて行ってみよう。
-
〜早朝・近江町市場〜
慈「うー、ねむい…」
慈「睡眠不足はお肌の大敵なのにー、なんでこんな早く起きないとなんだよー」
梢「市場の仕事は朝早いのだから当たり前でしょう」
沙知「いやー、すまないねー。ま、これもあたしのわがままの一環だと思ってくれ」
梢「だいたい、睡眠時間の確保ならその分早くに寝ればいいでしょうに」
慈「んー、そだねー」
-
梢「かつてないほど気の抜けた受け答えね」
慈「そだねー」
梢「これで大丈夫なのでしょうか?」
沙知「ま、なんとかなるだろ…"それ"よりはまだ希望がある」
梢「….そうですね」
沙知(4人で来たのにまったく会話に参加しないもう一人を指差す)
沙知(参加しないのも無理はない。なぜならそのもう一人は)
綴理「むにゃ…」
-
沙知(もう一人、夕霧綴理は梢に背負われて、いまだ夢の中なのだから)
沙知「なあ、今更だけど重くないか?」
梢「ご心配なく。鍛えてますので」
沙知「そうか。なら安心することとしよう」
れいか「おーい、沙知ちゃーん!」
沙知「れいかさん、お久しぶりです」
れいか「いやー、あの沙知ちゃんがもう上級生かー!ちょっと前まであんなにちっこかった…」
-
れいか「……」
れいか「ちっこかったのにねー、あはは!」
沙知「今の間はなんですか」
梢「この方が、今日お世話になる?」
沙知「ああ、れいかさんだ。ここでプロのアルバイトとして働いている」
れいか「どうもー、今日はよろしくね」
-
沙知「この子らが今年うちに入ってきた新入生3人です」
梢「乙宗梢です。本日はよろしくお願いします」
慈「藤島慈です。よろしくお願いしまーす」
れいか「…で、あと一人は梢ちゃんがおぶってる」
綴理「……くぅ」
沙知「夕霧綴理です。はじまるまでには起こしておきます」
れいか「そっか、無理はしないようにね」
沙知(れいかさんの後について行って商店街へと向かう)
-
梢「あ…あの、沙知先輩」
沙知「なんだい?」
梢「プロのアルバイト、というのはどういう状態なのですか?」
沙知「あー、それか」
梢「アルバイトならプロではないのでは?」
沙知「気にするな。そこに本質はない」
慈「梢は細かいとこ気にしすぎだぞー」
梢「沙知先輩はともかく、慈にそのような態度をとられるいわれはないのだけれど」
れいか「ほらほら、こっちこっちー」
-
沙知「ふぅ…」
梢「よいしょっと」
沙知(梢が慣れた手つきで背負っていた綴理を下ろす。同じことがすでに何回かあったのかもしれない)
綴理「んんん…あ…こずおはよう」
梢「おはよう綴理…寮を出るなりいきなり眠らないでほしかったのだけれど?」
綴理「ここは、ボクの部屋ではない?」
綴理「もしかしてボクはこずに誘拐された?」
梢「…ここまであなたを背負ってきた人にずいぶんな物言いをするのね」
-
綴理「ごめんなさい。ボクが悪かったです」
慈「はいはーい、コントはそこまでだよ二人とも」
梢「コントではないわよっ!…まったく、わたくしがいなかったらどうするつもりだったのか」
れいか「アハハっ、今年の子は面白いねー」
れいか「で、そろそろお仕事の話をしたいんだけど」
沙知「すみません。手のかかる子たちで」
-
れいか「沙知ちゃんも苦労してんだね。今回は初めての子が3人いるし、まずはいろんなところ行って向いてるお仕事探してもらおうかなって」
慈「そっかー、私はどこがいいかなー」
梢「あくまでも手伝いにきたことを忘れないでちょうだい。くれぐれもお店の方々に迷惑をかけないように」
慈「うるさいな。梢こそ、そーんな仏頂面でお客さん怖がらせないでよ」
梢「ご心配なく。わたくしは人あたりの良さには定評があるのよ」
慈「はあ〜?つい数秒前のことも忘れてよく言うよ。ま、梢は自慢の腕力で裏方で荷物運びでもしてるのがお似合いじゃないかな」
-
梢「あなた…」
綴理「うん、いいと思うよ。こずは力持ちだから」
綴理「ボクをここまで運んできてくれたその力を活かすべきだと、ボクは思う」
慈「ほらー!綴理も言ってるぞ」
慈「よくぞ言った綴理、ハイタッチだ」
綴理「え?うん、たっちー」
梢「そんな…綴理まで…?」
-
沙知「そこまでにしとけ。れいかさんの話が進まないぞ」
れいか「……」
沙知「れいかさん?」
れいか「はっ!あまりにも息のあったネタに言葉を失って見入ってしまった!」
れいか「そうだねー。あちこち行ってもらうのは話したとおりだとして最初は…」
れいか「…沙知ちゃん、なんかアイディアある?」
沙知「さっそく丸投げときましたか。まあ、予想通りです」
-
沙知「梢はまずは全体をざっと巡っておかしなところがないか確認してくれ、それをやりながら入りたいところを見つけてほしい」
梢「全体を巡る?」
沙知「多分それが梢には一番やりやすいだろ?全体の動きを把握してやるべきことを見つけてくれ」
梢「はい」
沙知「慈は接客でいろんな店を回ってみるといい」
慈「おっけー、私にかかれば楽勝だよ」
-
沙知「おいおい、あんまりここを舐めない方がいい。売ってるものも相手してる客もそれぞれ違うからな、求められるものだって違うぞ」
沙知「それで綴理は…」
綴理「うん、ボクは?」
沙知「とりあえず呼び込みでもやってみるか」
沙知「ま、なるようになるさ!それでは検討を祈る!」
沙知(そんな感じで始まったスクールアイドルクラブ活動 in 近江町市場だったが)
-
梢「配送業者の方への引き渡しまであと20分ですか」
梢「そうなると雨が降りそうなので先にそちらをなんとかしたいのですが、しまったほうがいいものはありますか?」
梢「あ、はい、心配ありません。この程度であればすぐに運べます」
梢「………あら?どうかされましたか?」
梢「お孫さんへのプレゼントを買いたいけれど、いい店がわからない…ですか」
梢「お孫さんの年齢は……なるほど…でしたら、あちらの店に小さなお子様でも喜ばれるものが揃っています」
れいか「うおおお!今日が初めてとは思えない、まるで何年もここで働いていたかのような鮮やかな仕事っぷり!」
-
慈「どうかされましたか?」
慈「初めてで目につくままに入れていったら、思ったよりも入れすぎてしまった…絞ろうとしても決心がつかない…なるほど」
梢「そうですね。でしたら、考え方を変えましょう。買いすぎるのも含めて旅の醍醐味なのではないかと」
梢「そもそも買ってよかったかなんて後からじゃないとわからないんですから!」
慈「…え?なんか気が楽になった。そうですか、ありがとうございます」
慈「…どうしたのおばあちゃん?ほうほう、せっかく遠くから来たからお孫さんのプレゼントを探していると」
慈「でしたら、こちらなどいかがでしょうか?金城巻!ほっぺた落ちちゃうぞーってくらいにとろける味で、あ!でもこっちの焼きまんも食べてほしくて…」
慈「え?どっちも買ってくれる?ありがとうございます!おばあちゃん神様だよー長生きしてね」
れいか「なんかすごい勢いで売れてる!もの売るってレベルじゃねーぞ!」
-
れいか「…ふぅ」
れいか「私ともあろうものが、久しぶりにブルっちまってるよ。あんな子たちを入部させるなんて、どんな手を使ったんだい?」
沙知「そいつは企業秘密というやつです」
れいか「ほんと…私の想像をはるかに超えてるよ…三人とも」
沙知「そうですか、三人とも…ですか」
れいか「うん、まあね」
沙知「…すみません」
-
沙知(違う方向性で持てる力を存分に奮ってくれている梢と慈、先輩として胸を貼っていい状況だと思う)
沙知(じゃあ…なんでここまで申し訳ない空気になってるかというと)
沙知「綴理が、本当に本当に申し訳ないです」
れいか「あー、いいっていいって。なんというか、そういうのも含めてバランス取れた三人なんだなって」
沙知「いやーでもさすがに」
沙知(綴理はあたしの思う以上に曲者だったようだ)
-
綴理「君はどこから来たの?」
れいか「商品だから!戻して戻して」
沙知(商品のお魚さんと世間話を始めたり…そうかと思えば)
綴理「やすいよやすいよ。やす…すや?」
綴理「何度も言ってるとよくわかんなくなってくるね」
綴理「やすいって、やすいって意味?」
れいか「うおああああああ!私も分からなくなってきたー!」
沙知(某政治家も顔負けなトートロジーを繰り出したり)
-
綴理「合わせて2145円だよ」
綴理「そう、算数はできるんだ。出来ないことも多いけど、そこは目を瞑ってほしい」
綴理「最近はね、ボクに出来ることを精一杯やろうって風に思ったんだ」
綴理「得意ってほどじゃないけど、きっとおつりも計算できる」
れいか「後ろのお客さん待ってるから!綴理ちゃん!」
沙知(妙なタイミングでポジティブになってみたり)
沙知(そんな綴理に振り回されながら、気づいたら日が暮れかけていた)
-
沙知「ふぅ…」
沙知「やっと、終わったぁ」
れいか「おつかれー!沙知ちゃんが綴理ちゃんのヘルプに入ってくれて助かったよ」
梢「本当に…お疲れ様です」
沙知「うーむ、今日は一日でキミらの色んなとこが見れたぜ」
綴理「……」
慈「あのさ….梢」
梢「そうね」
-
梢「沙知先輩、わたくしと慈は寄るところがあるので綴理を任せてもよろしいですか?」
沙知「お、おう」
慈「綴理、沙知先輩、また明日」
綴理「あ…うん、また明日」
沙知「風邪ひくなよー」
沙知(梢と慈め…)
沙知(ま、そんなことしなくても綴理と話すつもりだったが)
-
綴理「……」
沙知「綴理、行きたい店があるんだが紹介も兼ねて一緒に来てくれないか?」
綴理「あ…うん」
沙知(心ここにあらずといった様子ではあるが綴理は着いてくる)
沙知「おでんは好きか?」
綴理「好きだよ」
沙知「そいつはよかった。ま、おでんが嫌いなやつなんていないか」
沙知(あたしの脳裏によぎる記憶、今の綴理みたいに落ち込んでいたあたしを先輩方がこうやって連れ回したっけ)
-
沙知「さて、ここがあたしのイチオシの…」
綴理「今日の話したいんだよね…さちは」
沙知「…ま、気づくよな」
綴理「ごめん…ボクはなにもできなかった」
綴理「言われちゃったんだ。ボクはいるだけでいいって」
沙知「いるだけでいい…か」
綴理「こずもつづも、たくさん動いてた」
綴理「たくさん動いて、たくさん感謝されてた」
-
>>124訂正
沙知「さて、ここがあたしのイチオシの…」
綴理「今日の話したいんだよね…さちは」
沙知「…ま、気づくよな」
綴理「ごめん…ボクはなにもできなかった」
綴理「言われちゃったんだ。ボクはいるだけでいいって」
沙知「いるだけでいい…か」
綴理「こずもめぐも、たくさん動いてた」
綴理「たくさん動いて、感謝されてた」
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綴理「だけどボクは、いるだけ。何もしてなかった」
沙知「ま、梢や慈が特殊な例だとは思うがな。れいかさんだってあのレベルを学生に求めちゃいなかったぞ」
沙知「だいたいな、綴理は誤解してる」
綴理「誤解?」
沙知「言われたのは、『何もするな』じゃない。『いるだけでいい』だったんだろ」
綴理「そうだよ。だけど」
沙知「『いるだけでいい』が『何もするな』を表していることは往々にある…だがな」
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沙知「それだとしても、綴理がここにいることの価値を綴理自身が証明しなきゃその言葉は出なかったんじゃないか?」
綴理「ここにいることの価値?」
沙知「綴理が今日この場所にいたことを嬉しく思う人が現れたってことだ。何もできなかったなんてことはない」
沙知「それにさ…できないことがあってもいいとあたしは思うぜ。綴理にとってスクールアイドルはなんだい?」
綴理「不完全でも熱を持ったみんなで作る芸術…あっ」
沙知「今日、綴理はできないことがたくさんあった。不完全だった。でもそれでもちゃんと全力を尽くした…だろ?」
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綴理「うん」
沙知「綴理だけじゃない。梢と慈もできないことはいっぱいあって、それでも全力を出した」
沙知「それこそが…」
綴理「不完全でも熱を持った、みんなで作る芸術…スクールアイドル!」
沙知「ああ、そうだ」
綴理「そうだったんだ。ここには、スクールアイドルがあったんだね」
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沙知「ま、今日できなかったことを反省するのは良いことだが、できなかったからといって下を向くな」
沙知「あたしは綴理がそばで笑っているだけで嬉しいんだからさ」
綴理「そうなんだ。そうだったんだね」
綴理「……さち」
綴理「ボクね。みんなでここに来れてよかった」
綴理「こずとめぐとさちがいてくれたから。ボクもわかった」
綴理「いるだけで嬉しいってこういうことなんだね」
沙知「そうだぞ。いるだけで綴理はみんなを幸せにできるんだ」
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綴理「ボク、またここに来たい」
綴理「ここにはボクのスクールアイドルがある気がする」
沙知「ああ、何度でも来い。手伝いなられいかさんに連絡はしたほうがいいがな」
綴理「あとね、もしもボクが先輩になって、今のボクみたいに元気になってほしい子に会ったら」
綴理「連れてきたい。この場所に」
沙知「そうだな。ここは綴理の大事な居場所だもんな」
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綴理「あ…でも、さちみたいにできるかな」
沙知「あたしも大したことはしてないよ」
沙知「だが、あたしのやったようにというなら、そうだな…今はあたしの頑張りを見ててくれ」
沙知「綴理に後輩ができた時に、その時に綴理は頑張ればいいとあたしは思うぜ」
沙知「じゃあ、そろそろ帰ろうか?蓮ノ空に」
綴理「うん、こずとめぐにありがとうっていいたい」
綴理「ボクをさちと話させてくれてありがとうって」
沙知「なんだ…そこも気づいてたのか」
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【2022年5月第4週・2】
近江町市場での1日は綴理にとって大きな刺激となったようだ。
次はいつ行こうかと胸を躍らせている。一人で行かせるのはいささか不安ではあるが、まあ一人でやらせてみることにしよう。
私のするべきことは外出届の書き方を教えるくらいだ。可愛い子には旅をさせよと先人も言ってるしな。
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綴理が何をしようと、それを受け止めるものがあの場所にはある。多少トラブルに頭を下げることになっても、夕霧綴理があの場所で得るものは大きいはずだ。
願わくばこのスクールアイドルクラブもそういう場所にしたい。
もう5月も終わる。この先に待ち受けるのは我が校の3大イベントの一つ、撫子祭。
みんなに見せてやろうじゃないか。
あたしの自慢の三人の後輩を、最高のステージで。
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〜2025年1月16日〜
〜吟子自室〜
小鈴「撫子祭…そっか、6月になったら」
吟子「いまだに想像できないな。あの三人にも初めての文化祭があったなんて」
姫芽「ものすごいステージでみんなを虜にするんだろうな〜めぐちゃんせんぱい…あ〜〜〜」
小鈴「姫芽ちゃん、帰ってきてー」
姫芽「はっ!またもや、天国に召されそうだった」
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吟子「続きが気になるところだけど…そろそろ」
小鈴「そうだね。続きはまた集まれる時に」
吟子「次は私じゃなくて小鈴か姫芽の部屋でやってね」
小鈴「覚えてたかー」
姫芽「さすが吟子ちゃんだね〜」
小鈴「だったら次は徒町の部屋でやろうよ」
姫芽「いいのかい?小鈴ちゃん?」
小鈴「いいよ!そんでノートは徒町が預かるね」
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吟子「…言っとくけど、抜け駆けして先を読むとか無しだよ?」
小鈴「ぐっ…バレたか」
吟子「やっぱり…」
姫芽「あ、今からノート預かるの取り消しとかは無しだよ」
小鈴「そんな。手元にあるのにおあずけなんて」
小鈴「ああっ、気になる、めちゃくちゃ気になる」
姫芽「では、今日は解散ということで〜」
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〜学生寮廊下〜
小鈴「そろーり、そろーり」
小鈴「まだ消灯時間までは時間があるけど、念のために誰にも見つからないように…」
小鈴(綴理先輩たちの撫子祭か…どんなだったんだろ?)
小鈴(凄かったんだろうな。徒町なんかとは比べものにならないくらい…)
小鈴「ちょっとくらい、読んでも…って、ダメだダメだ、約束したんだもん」
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小鈴「それにしても、6月…か」
小鈴「慈先輩が事故にあった竜胆祭まではまだあるし、大丈夫なとこまで読もうとは言ったけど」
小鈴「どこまで…読んでいいんだろ」
小鈴(そんなことを考えながら自分の部屋に戻って、ノートをしまって眠りについて)
小鈴(次の日からはプレーオフの練習もあって…さらにはセラスちゃんのラブライブ!参加のお願いやら瑞蓮祭やらで、あっちこっち忙しくなって)
小鈴(結局、そのノートを次に徒町たちが見るのはかなり後のことになるのだった)
現在、【5月4週】まで読了
続く
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【後書き】
ここまで読んで頂きありがとうございます
前回からほぼ1ヶ月かけてようやく2話目が終了しました
当初の予定では3月末までに最後までいくつもりでしたが、大幅に遅れています
102期撫子祭はどうなるか?
好奇心に突き動かれる小三角の結末は?
と煽ってみましたが第3話は現在ほぼノータッチでこれから書きます
とりあえずがんばるぞー、ちぇすとー
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乙!
公式で判明してる部分を盛り込むがめちゃくちゃ上手い…!
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乙
楽しみにしてます!
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乙!
待ってる
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Note.1から一気読みしてしまいました
ノートの中の4人が生き生きとしていてすごく面白いです
続きを楽しみに待ってます
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乙
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公式が102期出してきましたがこちらのSSも楽しみにしてます
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