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【SS】果林「道に封筒を落とすだけで3万円もらえるバイト?」
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果林「何かいいバイトないかしら……」
果林「求人誌はいいものないし」ポイッ
スマホ
果林「またSNSで探してみましょう」スッ
果林「……」タップ
果林(私はニジガク卒業後、事務所所属の駆け出しモデルになった)
果林(でも、モデル業だけでは生活費と服のカード返済が成り立たないので、バイトを掛け持ちしてなんとか生活している毎日……)
果林(つい先週まで同じニジガクだった彼方の居酒屋でバイトをしていたが、彼方が肺炎にかかって入院してしまい、店は休業してしまった)
果林「ハッシュタグ、ホワイト案件、高収入……っと」ポチポチ
果林(一時的に無収入になった私は一時しのぎに、また短期バイトをすることにした)
果林「……相変わらず変なバイトばかりね」ハァ
果林「ん?これは……」
果林「……道に封筒を落とすだけで3万円もらえるバイト?」
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勤務内容:道路の上に封筒を落とす。
勤務時間:時間は自由。3日間やって頂きます。
給与:1日3万円。
条件:容姿に自信がある若い女性。誰にも気づかれず封筒を落とすのに自信がある方。街をぶらぶら歩くのが好きな方。
#ホワイト案件 #バイト #高収入 #秘密厳守
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果林「……道に封筒を落とすだけで3万円!?」
果林「ってことは、3日で9万円もらえるじゃない!」
果林「これならカード返済して、エマとデートして買いたかったロングパンツも買える!」
果林「でも……」
果林「破格の条件すぎて疑わしいわね」
果林「しかも道に落とすだけで、いったい何の意味があるのかしら……?」
果林「うーん……でもお金は欲しいわ……」
果林「……ダメもとで、とりあえず応募してみましょ!」タップ
果林(依頼者のアカウントにメッセージを送ってみると、すぐに返信があった)
果林(アプリ上で色々とやりとりしていると、あっという間に依頼主との話が進み……)
果林(さっそく明日からお願いしたいということで、即採用)
果林(そしてこれが──)
果林(──再び私にとって怖ろしい体験の始まりだった)
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こわい
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ホノカチャンの人かな?期待
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彼方ちゃん肺炎大丈夫か?
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怪しすぎる
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彼方ちゃんが心配
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また変なバイトしてる…
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でも果林先輩ならなんやかんやいい感じになりそうな信頼感あるよね
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果林てゃんは頼りになるssと全く頼りにならないssがある
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ホワイト案件とかアプリで連絡とか闇バイトの欲張りセットかよ
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ノレcイ´›´ω`‹) ゴホッゴホッ
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道に封筒を落とす……確か、どっかの国は道に落ちてる封筒を拾って中身を開いてしまうと、喪女と結婚させられてしまうなんて都市伝説があったっけか?
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翌日
果林(待ち合わせ場所の喫茶店へ)
果林(スマホで連絡を交わし、屋外のテラスに向かうと依頼主がいた)
「あなたが先日応募してくれた朝香果林さんデスね?」
果林「はい、遅れてすみません」ペコッ
「かけてくだサイ」
果林「はい……」ストン
果林(依頼主は濃いベージュの髪を後ろにまとめた、空のように青い瞳が美しい、鼻筋の通った少し年上の若い女性だった)
果林「唐突で申し訳ないんですが、あなた……外国──中国の方ですか?」
「あら?どうしてそう思うのかしら?」
果林「似たようなイントネーションをする後輩がいましたので、ね?」
「ふふっ、鋭い目をお持ちデス。なら、しっかりお話をつける必要がありマスね」
果林「それで……お仕事について教えてくれます……?」
「ハイ。では──」
果林(中国訛りの彼女から、封筒落としのバイトについて詳しく教えてもらった)
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可可か萌萌か……?
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萌萌と予想
まぁ当たってたところで何があるわけでよなさそうだけど
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スッ
「1日8封、3日分で合計24封。この赤い封筒を道に置いて欲しいのデス」
果林「これは……」
果林(封筒は赤一色で、厳重に封がされている。そして表には金文字で八の漢数字を逆さにした記号を中心に据えた奇妙な紋章があった)
果林「あの、封筒の中には何が……?」
「……それは言えマセン」
果林「!」
果林(ニコニコ余裕のある表情から急に真顔で言われ、少しビクッとなってしまった)
果林「わかりました……とにかく、この封筒を1日8封づつ道に置くだけですね?」
「ハイ。置いたら、その写真をSNSでこちらに送ってくだサイ」
果林「はい」
果林「他に何か注意事項とかありますか?」
果林(すると依頼主は何点か伝えてきた──要約すると以下の通りだ)
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封筒は3日間のうちに、渋谷と原宿の路上に置いてほしい。
1日8封を絶対に守ること。それ以上は決して置いてはいけない。
ただし封筒を落とすときは必ずひとつずつ。広範囲にしっかり置くこと。
地面に置いたあとは、決して封筒に触れてはならない。
当然だが、封を開けて中身を見てはならない。
以上を守れば、1日の日当として3万円を振り込む
──とのことだった。
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冥婚だあ
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あーTwitterで一時話題になってたやつね
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拾ったらダメやつか
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ハッシュタグにホワイト案件とか、自らヤバいバイトを探しにいってるような物なのよw
ってか裏バイトって漫画っぽい仕事内容だな
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実際のところ
この板で
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jΣミイ˶^ ᴗ^˶リ👉続き
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<削除>
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<削除>
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<削除>
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<削除>
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<削除>
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<削除>
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<削除>
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<削除>
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<削除>
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四季「メイ婚?」
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期待
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エタった?
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荒らしが湧いたのでいったん去ってました
明日から再開していきます
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やったー
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しゃあっ楽しみ
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楽しみです
果林てゃん
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果林(大体の条件を知ったあと、依頼主と別れた)
果林「せっかく渋谷駅まで来たんだから……」スタスタ
果林「この辺りから始めましょう」ピタッ
果林(カードの返済日が迫っている私は、さっそく封筒落としを始めることにした)
果林「うーん……」
果林「いざ落とすとなると……場所を探すのに手間取るわ……」キョロキョロ
果林「私物って、うっかり落とすものだし、ね?」
果林(24封の赤い封筒が入っているハンドバックを見た)
果林(さりげなく道にわざと落とすという行為の難しさに今さら実感する)
果林「ここで悩んでも仕方ないわ……とりあえず道玄坂までいきましょう」トコトコ
-
果林(表通りから裏へ歩みを進めると、飲み屋が立ち並ぶ通りに入る)
果林「ふふっ、予想通り」
果林(ここは賑やかで人通りも多いエリアだが、今は人通りがまばら)
果林(平日の昼過ぎ。サラリーマンは昼食からオフィスに戻ってるし、飲食業は仕込みで手一杯……)
果林(……誰も私に目を向ける人はいない)
果林(まず最初はこのあたりにしましょ!)
-
果林「……」パチッ
果林(挙動不審と思われないよう目線に気を配りつつ、歩くスピードを落として、さり気なくハンドバックのボタンをはずし、手を入れて封筒をひとつかみ)
果林「……」サワッ
果林(一切、手元の封筒に目を向けず指の触感を頼りに表を確認する)
果林「……」スッ
果林(靴ひもを確認するかのように素早くしゃがみ、目の前にあった街灯のポールの少し前に置く)
カシャ
果林(立ち上がってすぐスマホのカメラを起動。ある程度背景が見えるように封筒を撮影して、迅速にその場から離脱)
果林(あとは歩きスマホをしつつ、メッセージに画像を添付して送信っと)
果林「……」タップ
果林「……なによ、簡単じゃない」
果林(いざやってみると意外と簡単で──通行人も誰ひとり私の挙動を、落ちた封筒を気にしなかった)
果林「この勢いでどんどん封筒を置いていくわよ……!」
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待ってたぞ
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順調
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待ってた
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てゃん
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果林ちゃんは封筒落としもスタイリッシュ
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落とすというよりは設置だな……
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果林「ふう、これで今日のぶんは全部……っと」
果林(赤い封筒落とし、一度なれれば簡単ね)
果林(このまま渋谷駅周辺に8封すべて置いた私は、今日最後の報告をする)
カシャ
果林「このバイト簡単すぎよ、本当に払ってくれるのかしら?」
果林(1時間足らずで終わった業務。本当に報酬があるのか、思わず疑問を抱く私)
果林「……これで最後ですっと」ポチポチ
果林(画像を添えて送信すると、すぐに返事がきた)
3万円を口座に送金しました。
おツカレさまです。
果林(依頼主は返信は以上だった)
果林「ふふっ、誤字してるじゃない……おツカレって」
果林(中国の方みたいだし、誤字くらい仕方ないか)
果林「……さてと、口座を確認しましょう」タップ
果林「あら……本当に3万円が入金されてるじゃない!」
果林(ネットの銀行口座履歴には、匿名から3万円の振込があった)
-
果林(本当に払うんだ……封筒を道に落としただけなのに3万円……)
果林(とっても簡単でサクッと高額報酬ゲット)
果林(雇われの身として嬉しい反面、ある疑問がムクムクとわきあがってきた)
果林「……」スッ
赤い封筒
果林「……中身はいったいなんなのかしら……?」
果林(──赤い封筒の中身、気になるわ)
果林(奇妙な金の紋章をかたどって、厳重に封がされた封筒。興味から私はバックからひとつ取り出して、改めて調べてみる)
果林(封筒は質感の良い紙で作られていて、ひと目で祝儀袋とわかる感じ)
果林(まずは手触りで中身を推測してみる)
果林「……」サワサワ
果林「持った感じは軽くて……なんか厚め紙と小さな石のような固いものが入ってる感じがする……」
果林(きっと、3万円以上の価値があるものに間違いないのは確か)
果林「……」ドキドキ
果林(興味を通り越して、私の脳裏に魔がさす)
果林「開けても……いいわよね……?」
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おツカレ、、、
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あっ
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あかん
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ツカレ……あっ
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やめろッ
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怖いが続き気になる
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果林(つい魔がさした私が、封筒の封をされているへりに指をかけたそのとき──)
果林「……えっ?」
果林(何者かの強い視線を感じて反射的に周囲を見回した)
果林(が、ただ通り過ぎる通行人しかおらず、誰も私を見ている者の気配はない)
果林(その視線はとても強く、凝視されてるように感じたのだが……どうやら背後じゃないらしい)
果林(──何というか、その視線を放つナニカが私を見上げてるような気がする)
果林「……まさか」ジッ
果林(封筒に目を落とす)
果林(指をかけたその封筒から禍々しいオーラを感じた)
果林「封筒は開けるな、といってたわよね……?」
果林「……なら、やめておきましょう」スッ
果林(少し気味が悪くなった私は、封筒をバッグにしまう)
果林「とにかく、3万円を下ろしに行かないと」タッタッ
果林(気持ちを切り替え、コンビニのATMに駆け込んで現金を手にしたときには、すでに不気味な封筒のことは忘れ去っていた)
果林(こうして初日のバイトが終わった)
-
かしこい
-
果林さんは3歩歩いたら忘れちゃうんだ
-
危ない危ない
-
怖い
果林てゃん
-
翌日
果林(封筒落としのバイト、2回目は朝の代々木公園と明治神宮に決めた)
果林「……」キョロキョロ
果林「このあたりでいいかしら?」
果林(時計台前の広場に向かう)
果林「よし……」スッ
果林(時間は朝のラッシュアワーを過ぎて、ちょうどいい感じ。今日も平日なのであまり人がいない)
サッ
果林(誰の目を気にするそぶりもせず、さり気なく身をかがめて封筒を落とす)
カシャ
果林「……」スタスタ
果林「よし、っと」
果林(撮影後すぐに離脱して画像を添付、そして報告。手順はもう慣れており、すっかりプロ気分だった)
果林「ふふっ」
果林(……もう私、封筒落としのプロね)
果林「さ、あと7つ落としていきましょ」
果林(調子に乗った私はどんどん明治神宮外苑や公園に落としていったが──)
果林(──思わぬアクシデントが起きた)
-
果林「……」
果林(最後のひとつ、どこに落とそうかしら)
果林「うーん……あっ」
果林「そこにしましょう」タッタッ
果林(落とし場所を探していた私の目に入ったのは、公園と競技場にかかる展望デッキだった)
果林(階段を上がると、木陰のある遊歩道。その先は競技場側で、人通りは少ない)
果林「……よし」
スッ
果林(封筒を落とし、すばやく撮影してその場を去る)
果林(カメラで撮ったし、画像はあとで送りましょう)
果林(スタスタとその場から去ろうとしたとき──)
「あの、なにか……落とされましたよ?」
果林「!」
果林(ふいに、背後から声をかけられた)
-
待ってた
-
果林「えっ……」
果林(振り返ると、サラリーマンの男性が立っていた)
「あの、これを……」
果林(その手には──さっき落とした赤い封筒があった)
果林「あっ、いや……」
果林「わ、私のものじゃない、わよ?」
「えっ、でもさっき落とされましたよね?」
果林(いけない、落とした瞬間を見ていたみたいだ)
果林「えっと……」
果林(──落とした封筒は一切、触れてはいけない。依頼主が提示した条件を思い出す)
果林(もし、ここで受け取ったら……最悪、報酬はないどころかバイトを強制終了させられるかもしれない)
果林(だったら、やることはただひとつよ)
果林「……」ダッ
「あっ!待って!」
タッタッ
果林(逃げるのよぉ〜!!)
果林(背後のサラリーマンが何か叫んでいたが、そんなの気にせず遊歩道を走り抜け、競技場側へ逃げた)
-
あっ
-
「ちょっと……!」
「はぁ、なんなんだよ、あの女」
「……なんだろ、この封筒」
「中身は……」
ベリッ
「なんだよ……これ……」
.
-
タッタッ
果林「……」キョロキョロ
ピタッ
果林「ハァ……ハァ……ふう」
果林「走っても痛くないパンプスを履いてて良かったわ……」
果林(逃げ切った私は、サラリーマンが追ってくる様子が無いのを確認し、近くの縁石に腰かけて休む)
果林(危ない所だった……まさか私の落とす挙動をしっかり見ていた人間がいたなんて)
果林(相手に挙動不審と思われないように、あえてキョロキョロと周囲を確認しなかったのが裏目に出た)
果林「まあ、こんなこともあるでしょう……」スッ
タップ
果林「……今日のぶんは全部落としましたよ、っと」ポンッ
果林(息を整え、気持ちを切り替えた私は早速、SNSで依頼主に最後の画像を添付して、報告する)
送金しました
今日は以上です
おつかれさまでした
果林(いつもの事務的な返信をもらい、残高確認するとしっかり入金されていた)
果林「ふふっ、今日の私ったらホクホクね……明日、彼方のお見舞いにケーキ買って行こうかしら?」スクッ
スタスタ
果林(こうして、封筒落としのバイト2日目が終わった)
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おっぱい揺れてそう
-
男の人はまぁ、不運だったな……
-
ホクホク果林てゃん
-
果林(──封筒落としのバイト 最終日)
果林(彼方をお見舞いしたあと封筒落としのバイトを済ますため、私は夕方の原宿駅前を歩いていた)
果林「彼方、元気そうだったわね……」スタスタ
果林(ちょっといいお店で買ったケーキ片手に病室を訪ねると、すっかり体調は良くなっていて、聞けばもうすぐ退院するそうだった)
果林(ご心配をかけ申した、といつもの調子で話す彼方とお店の再開や近況についておしゃべりしていると、あっという間に時間が過ぎて……)
果林(半ば看護師につまみ出されるように病院を後にして、最後のバイトに来た)
果林「さて、始めましょう……!」
果林(最後のバイトを始めることにした)
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果林(まず竹下通りから)
果林「……」スタスタ
果林(前回の反省を活かして周囲の様子をさり気なくうかがって、タイミングよく封筒を落としていく)
果林(竹下通りに3封落とし、次は渋谷遊歩道をぶらぶらしている体を装って、また3封落とす)
果林(そのまま表参道に1封、最後の落とし場所を探して渋谷遊歩道を渋谷駅方面へ真っ直ぐ進んでいった)
果林「……あら?」キョロキョロ
果林「もしかして迷った?」
果林(途中の曲がり角をそのまま曲がったせいで、私は迷ってしまった)
果林(──どうせスマホの地図を見てもわからない)
果林「なんか住宅街?みたいなところに入り込んだみたいね……」スタスタ
果林(あてもなく歩いていくと、いつの間にか神社の前の通りにいた)
果林「ちょっと罰当たりかもだけど……最後はここにしましょう」スッ
果林(最後の封筒をバッグから取り出した瞬間──)
「見つけたったら見つけたわよ!!アンタが呪いをバラまく噂の赤い封筒女ね!!」
果林(怒気を含んだ鋭い声が聞こえ、振り返ると金髪の巫女がいた)
-
おっ!
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盛り上がってきたな
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おや?
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しゅみれ!
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期待
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果林「えっ……封筒女……?」
果林(金髪の巫女にいきなり名指しされて思わず固まってしまった。が、妙な言いがかりをつけてくる巫女を不快な気分で見つめる)
果林(そんな私に巫女は詰め寄ると──)
「なんのつもりか知らないけど、これはとても危険なものったら危険なものよ!」
「一体、どういうつもりでこんな強力な厄災をバラまいて……!」
果林「ちょっと、ちょっと待ちなさい!なにわけのわからないこといって……!」
果林(慌てて後ずさりをして、息まく巫女と距離をとった私)
果林「いきなり危険だとかどうとかいってるけど、私はただのバイト」
果林「赤い封筒を落とすだけで報酬がもらえるからやってるだけ、わかった?」
「……」
果林「……悪かったわね、迷惑なら別の場所に落とすわよ」スタスタ
果林(これ以上、意味不明な文句をいう巫女に付き合うのは時間の無駄ね)
果林(金髪で見るからにインチキっぽくて怪しい女だし、面倒だから場所を変えましょう)
バッ
果林「ちょっと……通してくれないかしら?急いでいるの」
果林(その場から逃げ去ろうとする私の行く手を、巫女は両手を広げて立ちふさがった)
「その封筒、渡しなさいったら渡しなさい!」
-
果林「……そこをどいてくれない?」
「いいからソレを渡しなさい!!」
「一刻も早くフツジョするったらするわよ!!」
果林(巫女は緑の据わった瞳で私をにらみつつ、通せんぼし続ける)
果林(その直後──)
バッ
果林(手に持った封筒を奪い取ろうと、巫女が飛びかかってきた──が、すんでのところで身をかわす)
果林「あ、危ないじゃない!!」
果林(とっさに叫び、全速力でこの場から逃げ出す)
「待ちなさい!!アンタもニエにされるわよ!!」
果林(背後から追いかける巫女の足音と叫び声が聞こえるが、気にも留めず必死に走った)
果林「アタマおかしいんじゃないの!!ホント!!」
果林(封筒を握りしめて必死に住宅街を逃げ回り……ようやく巫女を振り切ったときには、夜になって辺りもすっかり暗くなっていた)
-
祓除か……やっぱ呪物か呪具の何かか
-
果林も危険なのか
-
続ききてた〜〜〜〜
果林てゃんったら果林てゃん
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果林「ハァ……ハァ……最悪……」
果林(息を整えて周囲を見回すと、表参道にいた)
果林「さっさと封筒を置いて、終わりましょう」
果林「……」スタスタ
果林(それにしても……封筒の中身が一体なんなのか気になるわ)
果林(あんなに必死になって追いかけるほどのモノが入っていると思うと、再び怖いもの見たさの好奇心が私の中でせり上がってきて、もう抑えられなくなっていた)
果林「……呪いなんてあるわけないじゃない」
果林「ちょっとくらい中身を見てもバレないわよね?」
ペリッ
果林(思い切って指をかけると、意外と簡単に封を切ることができた)
果林(封筒を逆さにし、その中身を手のひらに全部出してみる)
果林「えっ……?」
果林(その中身は、出来心で開けたことを後悔するものだった)
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果林「……誰……?」
果林(まず最初に出てきたのは、ひとりの女性が写っている写真。丸みのあるボブカットの髪型で、クリッとした青い瞳が特徴的な制服を着ている女子高生だった)
果林「あら、可愛いじゃない」
果林「あとは……」
果林(引き続き中身を確認する)
果林「なに、これ……?」
果林(写真のあとに出てきた物に絶句した──)
果林(──それは爪と、灰色の髪の毛の束に、数珠玉くらいの小さな白い玉がひとつあった)
果林「えっ、これ、もしかして……全部……?」
果林(これは人間の、そして持ち主は写真の娘なのではないのか──ようやく理解が追いついたとき、私は反射的に身体が動く)
果林「ひぃいいいっ!!」バッ
パラパラ
果林(思わずしりもちをつき、足もとに写真と封筒そして中身が散らばった)
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果林「なっ、なによ、これ……!」
果林(背中から首にかけて悪寒が走り、ゾワッと鳥肌が立ち、ガクガクと足が震えた)
果林(こんなおぞましい物を何食わぬ顔で渋谷を歩き回って落としていた事実に、ただただ愕然とする)
果林「嘘、でしょ……?」
果林(ようやく立ち上がり、地面に広がる禍々しい物たちから数歩、後ずさった)
ブーッブーッ
果林「えっ……!」
果林(突然感じた振動音──その正体は、私のスマホで)
果林(画面を見てみると、依頼主からアプリ上でメッセージがきたという通知たった)
果林(よくも私にあんな恐ろしい物を、と抗議したい気持ちを抑え、平常心を維持してアプリを開いてみると──)
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開けたようですね
おめでとう、これでアルバイトは終了です
最後の報酬を振り込みました
オツカレさまでした
あの子もきっと喜びます
.
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あっ…😨
-
果林(──とだけあった)
果林(すぐに返信したが、依頼主はすぐに退会したようでメッセージが送信できず、それきり連絡が取れなくなってしまった)
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あああ
-
(ζル|´A`ル アァ……
-
こわすぎ
-
流石に果林さん敗北パターンか?
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ダレカタスケテー
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Tさん助けてくれ!
-
果林「どういうことなの……?」
果林(理解が追いつかない。これではあの封筒が何なのか問い詰めることができず、高額報酬につられた私はただ使われて切り捨てられたようなものだ)
果林(私は一体、なにをしてしまったのか……そう思うと、ますます悪寒がした)
これはとても危険なものったら危険なものよ!
果林(あの金髪巫女の声が脳裏にこだまするが、そんな非科学的なものを信じられるはずがない)
果林(穢らわしいただの気味の悪い封筒……そう、ただの封筒よ……まずは落ち着かないと)
果林「すぅ……ハァ……!」
果林「の、呪いなんかあるわけないわ!!」
果林(言葉では表せられない不安と焦りを必死に抑えて、強く自分に言い聞かせる)
果林「……帰りましょう。なんでか知らないけど、今日の報酬はもらったんだし!」
果林(私は地面に落ちっているハンドバックと封筒を拾い上げ、封筒のほうは写真と一緒にグシャグシャに握りつぶして側溝の穴に押し込んで、足早にそこから逃げ出した)
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果林「……」スタスタ
果林「あら?」
果林(表参道から原宿駅に向けて大通りを歩いていると、大きな交差点で人だかりができている)
「はい、止まらないで歩いてください!止まらないで!」
果林(人だかり越しに、大きな声で呼びかけて誘導する警官たちと救急車の赤色灯が見えた)
果林「いったい、何があったの……?」
果林(交差点の先に用がある私は、ぬうように人だかりをかき分けて横断歩道前に出ると)
果林(その先は立ち入り禁止の規制線が張られていて、その向こうに警官と救急隊員がいた。そして、大きな貨物トラックがハザードランプをたいて交差点の真ん中で不自然に停車している)
果林「……なにが起こってるの……?」
果林(騒然とする現場を見回すと、停車していたのはトラックだけで。横断歩道にはカバンとその中身、靴が散乱していた──どうやら、トラック単独の人身事故みたいだった)
「ヤダ、急に飛び出したんだって……!」
「赤信号だったのに、迷惑なオッサンだぜ」
果林(事故の状況をひそひそと語る周囲の野次馬たちに聞き耳を立ててみた)
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「しかも急に叫び出したんだってさ」
「来るなあ!ってわめき散らしてたんでしょ?あたおかじゃん」
「んでさー、オッサンはトラックのタイヤに頭踏まれて、パーンって弾けてさ!」
「うわっ、エグっ!即死じゃん」
果林(これ以上、聞き耳を立てるのをやめて救急隊員たちに目をやる。ちょうど救急車にストレッチャーをのせて搬送するところだった)
果林「えっ……!」
果林(私は見てしまった。警官が張った目隠しのブルーシートがかけられた隙間から一瞬、見えた被害者の手に──)
果林「嘘……!」
果林(──赤い封筒が握り締められていたことを)
果林(思わず私はその場から逃げ出すように去り、無我夢中で家に逃げ込んでいた)
果林(帰るなり、風呂も入らずそのままベッドにもぐりこんでうずくまっていると……いつの間にか寝落ちしていた)
果林(そしてその晩──私は恐ろしい夢を見た)
-
ヤバいヤバいヤバい
-
うああああ
果林てゃ、、、
-
怪異に追いかけ回される奴か
じゃあ怪異をボコボコにするしかない奴か
-
果林「ここは……どこ……?」
果林(夢の中で、私はどこかの建物の薄暗い一直線の廊下にいた)
果林「えっと……」
果林(あたりを見回してみた)
果林(窓や扉ひとつない、ステンレスの手すりがついているだけの白壁で、圧迫感がある無機質な空間。天井は等間隔に白色蛍光灯がついていて、つややかな床を仄暗く照らしている)
果林「もしかして……病院……?」
果林(思わず口に出す。この空間──彼方のお見舞いに行った病院のようなにおいがしたからだ)
果林(ここからさっさと出なきゃ、とすぐに振り返ってみると)
果林「えっ、行き止まり……?」
果林(背後には白壁がピッタリとあった)
果林「前に進むしかないわね」スタスタ
果林(そのまま進んでいくと、奥の方から)
果林「線香、かしら……?」スンスン
果林(いつもお盆のときに帰省する実家の仏壇から漂ってくる香りがしてきた)
果林「……」スタスタ
果林(なぜだか分からないが、私は線香の香り強くなっている方へ歩いていった)
-
果林(歩みを進めていくと、どんどん線香のにおいが強くなってくる)
果林「……寒い、わね……」ブルッ
果林(そして底冷えするような冷気が足元をなでる。まるで冷凍庫に近づいている気がした)
果林(自分の両肩を互いの手で包みながら寒さに耐えつつ、歩いていくと観音開きの部屋にたどり着く)
果林(足を止めて扉の真上にある、ネームプレートを見上げてみると……)
果林「霊安室……?」
果林(そこは、遺体安置の部屋だった)
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ガチャ
果林(夢の中の私は霊安室に一切動揺することなく、観音開きの扉に手をかけ、中に入った)
果林「なにこれ……」
果林(吹き出す冷気を浴びたあと、部屋を見渡して絶句する──中があまりにも異様だったからだ)
果林(そこは私たちが普段イメージする霊安室ではなく、バラや色とりどりの祝い花で飾られた祭壇があり、その中央に線香の煙で包まれた杉の棺があった)
果林「……まるで披露宴会場じゃない……」
果林(なんて気持ち悪い空間なんだろう、と顔をしかめる。そして棺の上に、黒いリボンを斜めに結んだ遺影。その人物に目をやると、見覚えがあった)
果林「封筒の娘と私……?」
果林(黒い額縁の中で笑みを浮かべる灰色がかったベージュの娘がいて、横にニッコリ笑う私の遺影があった)
果林(私はようやく気付く。ここは、告別式と結婚式が混ざった空間なのだと)
果林(そして、その相手は私──)
果林(この異様な儀式の主役にされたことに、ゾッと悪寒が走って立ちすくんでいると)
ガタッ
果林「ひっ……!」ビクッ
果林(突然、祭壇中央の棺が揺れ──フタが外れた)
-
果林(そしてフタが外れた棺桶から、ムクリと人の半身が起き上がる)
果林「えっ……」
果林(起き上がったソレは、髪の毛をダラリと垂れた横顔のままうなだれていたが……)
果林(ゆっくり首をもたげると、グルリとこっちに顔を向けた)
果林「ヒッ……!」
果林(蛍光灯のわずかな明かりに照らされたその顔を見て、私は戦慄する)
果林(その顔は──まるで地面に叩き付けて砕け散ったスイカの破片をくっつけて元の丸い状態に戻したような、いびつなものだった)
果林(砕けた顔をむりやり人間らしい形に修繕したせいか、黒い縫合の跡が顔中に広がっている。その糸に引っ張られているためか、口元が引きつって歯をむき出しにした不気味な笑みを浮かべていた)
果林(修繕した顔と遺影を見比べ、ようやく私はアレがあの娘だと理解する)
果林(そして、グリン、と濁った青い瞳を私に向けるとぎこちなく口を開け、抑揚のない声でこう言った)
「どれくらい痛いと思う」
-
果林(恐怖のあまり私が黙っていると、写真の娘は肩を震わせ腕を棺桶から出し、ゆっくり立ち上がった)
「どれくらい痛いと思う」
果林(どこかの学校の制服を着た彼女は、下手な操り人形のようなカクカクとした不気味な動きで祭壇を降りる)
「どれくらい痛いと思う」
果林「い、いやぁ……!」ガタッ
果林(逃げようとしたが腰が抜けてしまい、床に尻もちをついた)
「どれくらい痛いと思う」
果林(娘からなんとか逃れようと足をばたつかせ必死に後退)
「どれくらい痛いと思う」
果林(ギッギッと関節を鳴らし、どんどん私との距離を詰めてくる。一方、こっちは身体が鉛のように重くてうまく逃げられない)
「どれくらい痛いと思う」
果林「やぁ……やめて……お願い……!」
果林(絶望し、諦めて目を閉じ、私は声を振り絞ったその瞬間──)
「……」
果林(──あの声が急に聞こえなくなり、シンとした空間のなか、私は目を開けた)
果林「あ、あれ……?」
果林(正面から迫っていたはずの娘が消えている)
-
果林「ハァ……ハァ……!」
果林「……良かった……」
果林(ひと安心して、肩を震わせながら息を整えていると)
ガシッ
果林「ひぃ!?」
果林(背後から冷たい手が伸びて左右から顔を鷲掴みにされ、その刹那──耳元でささやく声がした)
-
「どれくらい痛いと思う」
果林「いやぁああああ!!」
-
ガバッ
果林「ハァ……ハァ……!」
果林「ゆ、夢なのよね……?」キョロキョロ
果林「ここは私の部屋……良かった……!」
果林(こうして私は悪夢から覚め、現実に帰還することができた)
果林「……!」
果林(ふと見たデジタル置時計は午前2時を示してた)
果林「……」ボフッ
果林(最悪な目覚めを味わい、二度寝を試みて布団にくるまったが一睡もできないまま朝を迎えた)
-
あかん…
-
お祓いに行こう
-
しゅみれたすけて…
-
ピピピピ
果林(設定していた時計のアラームが聞こえたので、私はくるまった布団から抜け出す)
果林(ちょうど顔を出したところに窓から朝日が差し込んでいた)
果林「まぶし……やっと朝ね……」
果林「はぁ、最悪……」
果林(下着姿の私はベッドから立ち上がり、頭を手でボリボリとかく)
果林(カーペットのあちこちに散乱した服をよけるように歩き、そのまま洗面所に直行して鏡を見る)
果林「……すごい顔」
果林(ボサボサの髪、厚ぼったい涙袋にクマ、生気のない瞳……本当に私は朝香果林なのかと思うほど憔悴しきった自分がいた)
果林「今日は撮影もないし、ある意味運がいいわ……」ハァ
果林(完全寝不足で肌のコンディションが最悪な自分にため息をつき、洗顔と歯磨きにシャワーを済ませ、バスタオルに身体を包んでバスルームを出ると)
果林「……エッ!?」
バサッ
果林(驚きのあまり手でおさえていたタオルを放し、裸体のまま立ちすくむ)
果林「な……なんで……!?」
果林(ふと横目でみた玄関に、あるはずのないものを見てしまった──)
果林(──昨日グシャグシャにして側溝に捨てたはずの、赤い封筒がドアと玄関の隙間に差し込まれていた)
-
果林「なん、で……!?」
果林「捨てたはずなのに……!」ガタガタ
果林(足元がガクガクと震え、さっきまでシャワーで温まった身体は一気に冷え切ってしまった)
果林「あ、あの封筒、よね……?」スッ
果林「やっぱり……」
果林(恐る恐る玄関のタイルまで歩き、拾い上げて中を見てみると──やはり昨日のもので間違いない)
果林(この呪いの封筒は、科学とか自然現象とか論理で説明できない恐ろしい力によって戻されてきたのだと──すべてがあらわになった裸の私はようやく悟った)
果林「私……きっと、あの交差点で死んだおじさんのように、むごい目にあって……」
果林「……いや、いやよ……いやぁ……」ポイッ
果林(絶望のあまり、私は封筒を放るとその場に座り込んで頭を抱えた)
果林「……おかしいじゃない」ボソッ
果林(が、しばらくして冷静になると、この理不尽な仕打ちに対して絶望より怒りがふつふつとわいてきた)
-
果林「……なにが呪いよ……!」
果林(顔をあげて封筒をにらみつける)
果林「ただの高額報酬が目当てのバイトなのよ!!ひどいじゃない!!」
果林「私はね!トップモデルになりたいし、セレブになってエマとずっと一緒に人生を過ごす将来があるの!」ググッ
果林「島の女がこんなことで倒れるわけないっきゃ!!」スクッ
果林「あっ……!」
果林「……まずは服、着ないと……」ゴソゴソ
果林(八丈島の家族や皆、エマや彼方のことを思い出して気を奮い立たせた私は、手がかりを頼りに小さな希望にすがるようにある人物のもとへ向かった)
果林「──と、いうわけなの。私、どうすればいいのかしら?」フフッ
「なにがというわけったらわけなのよ……」
果林(部屋を飛び出した私は、あの金髪巫女がいる神社を訪ねたのだった)
-
つよい
-
果林てゃん
-
高額報酬に釣られた果林の自業自得な気もするが、反撃できるのか?
-
しゅみれ助けて😭
-
「まあ、うちに来ることは予想してたわ」
「はぁ……封筒の穢れに触れちゃったんでしょ?祓除、してあげるわ」
果林(銀杏並木の参道の掃き掃除をしていた金髪巫女は呆れたふうにため息をつくと、道具を置いて)
「こっちよ」
果林(手招きされ、あとをついていくと開けた場所にある本殿の脇、社務所に通された)
「あ、おねえちゃん!掃除は──」
「──あとでったらあとで。奥の物置で祓除するから準備して」
果林(中にいた妹なのか同じ金髪巫女にそういうと、彼女はやや不満げな顔をしたが、私の顔をみると状況を即座に理解したらしく、姉の言う通りに動き出した)
「さあ、この座布団に座ってちょうだい」
果林「わかったわ。で、そのフツジョ、早速やってもらえないかしら?」
果林(いまどきの学生巫女バイトでも見かけない髪色に若干の不安がよぎる。果たして自分の運命をゆだねていいのか)
果林(でも、この巫女以外に頼れそうにないし……)
「ふっふっふ」
「慌てないで、いま道具を用意してるから。それに、私はショービジネスの経験を活かしてしっかり修行をしてるの、安心してったら安心してちょうだい」
果林「?」
果林(ショービジネス……芸能界かしら?関係あるの?)
果林(ますます不安になってきたわ……)
「とりあえず、封筒を見せてくれない?持ってきたかしら?」
-
助かることを祈る
-
頼むぞ
-
果林「ここにあるわ」スッ
果林(巫女の前に封筒をバッグから出す)
「これが……実物は初めてなの」スッ
果林「えっ、開けたことないの?どうして私が渋谷と原宿中に落としていたことがわかったのよ?」
「……何でも情報を筒抜けにする娘がやってる喫茶店で噂を拾ったの」
「ほら、喫茶店って色々おしゃべりする場所でしょ?そのツテで聞いたのよ──」
「──道に不気味な赤い封筒が落ちている、若い女が落としてる、代々木公園でみた、ってね」
果林「そ、そうなのね……」
果林(喫茶店で内緒の話をするのは今後やめておこうっと)
「祓除する前に、呪いと穢れの根源を探る必要があるわ。一緒に探っていきましょう」
果林「わ、わかったわ……」
-
「さて、開けるわよ……」ヒョイ
果林(巫女は手に取り、封筒を開ける──てっきり何か防御の呪文を唱えてから開封するかと思ったが、なんの迷いなく中身を確認した)
「髪の毛と爪」
果林(ひとつひとつ中身を確認しながら黒い布の上に広げていく)
「それに写真……」ピラッ
「!」
果林「どうしたの?」
「な、何でもないったら何でもないわ……」スッ
果林(ほんの一瞬、写真の人物を見た巫女が動揺したのを見逃さなかった)
果林(けどそんなこと根掘り葉掘り尋ねても悪いと思い、黙っておくことにした)
「あとは……」
果林(そして最後に白い数珠玉が一粒出てきたときに、巫女は驚いて大きく目を見開いた)
「あの娘の人骨念珠……!」
-
しゅみれ、、、
-
果林「じんこつねんじゅ?なによそれ」
果林(私の問いに、巫女は数珠玉を丁寧に布に置いて言った)
「──死者の骨で作った数珠よ。中国、特にチベット密教で使われる呪具よ」
果林「ひ、人の骨……!?」
果林(世の中には聞かない方がいいこともある……私は改めて思い知った)
「本来なら天寿を全うした高僧の骨から作ることで、長寿や徳を授かるという物なんだけど……」
「……逆に、この世に未練を残して悲惨な死を遂げた人の骨で数珠を作ると、強力な呪いを持った禍々しい物になるの」
果林「じゃあ、写真の娘はそういう亡くなり方をしたってことなのね?」
「ええ……」
果林(巫女は静かにうなずく。そこで私は昨晩みた悪夢と写真の娘の関連性について深堀りしてみた)
「そうよ。これが穢れの根源、封筒に触れた者を死に追いやる呪いの本質なの」
「やっぱり許すつもりはないのね……」ボソッ
果林「……」
果林「ねえ……写真の娘について教えてほしいの。どうしてあんな姿で人を呪うのかを、ね?」
「わかった……私が知ってる限りの事を話すわ」
果林(巫女は少しずつ言葉を選ぶように話し始めた)
-
呪物だったのか
-
全部の封筒に同じものが入ってたのか?
-
デカケツ&デカケツ
-
「その娘は中国からの留学生。自分のやりたいことをやりたくて、家族の反対を押し切ってまで来日したの」
「彼女はよく笑いよく泣く元気な娘で、日本の女子高で部活をやりながら充実した学校生活を送っていた……そして恋に落ちたの。相手は同じ学校のクラスメイトだった」
「でもそれは禁断のセカイ。彼女の国で同性愛は政府の規制対象になる」
「だからこっそり付き合っていたんだけど……ついに彼女の家族に知られてしまった」
「親が党幹部だったこともあり、彼女は激しく叱責され──別れるか、留学を辞めて帰国するかを選ばされた」
「酷な選択を迫られた彼女はひどく落ち込み、悩み……横断歩道の信号が赤になっていることに気付かないまま道路に飛び出してしまったの」
果林「そして、交通事故にあったのね?」
果林(すると静かに巫女はうなずく)
「大型車と接触して、そのタイヤに頭が巻き込まれてしまった……現場は悲惨なものだったらしいわ」
「彼女の友人たちや交際相手は最期の対面すらも許されず、彼女の姉によって遺体は引き取られた」
「その際、彼女の姉は絶対に許さないと恨み言をいっていたらしいの」
果林「……その姉が、今回の依頼主かしら?」
「きっとそう。アナタを利用してこの地に呪いを振りまいて、やり場のない怒りと憎悪が暴走してるのかも、ね……」
果林(最後はうつむきがちに小さくつぶやいていた)
果林「なるほどね……でも、どうして呪いの念珠を赤い封筒に入れたのかしら?ずいぶん手が込んでいると思うけど」
果林(わざわざ私を雇って渋谷と原宿に呪いをまき散らした理由と原因はわかったが、赤い封筒の謎についてさらに尋ねてみることにした)
-
「中国の一部ではね、年頃の女性が未婚のまま亡くなると成仏できず、この世を永遠にさまよう霊になるという言い伝えがあるの」
「そこで家族は浮遊霊にならないために、祝儀袋にその娘の写真、髪の毛と爪を入れて道に落として男性に拾わせて娘と結婚させる……」
「いわゆる、冥婚をさせて慰霊したの」
果林「お金の入った祝儀袋と勘違いしてうっかり拾ったら大変じゃない、死んだ人と結婚なんて御免よ」
「でも……コレは普通の冥婚とは違って、かなり強い呪術がかけられてるわ。生者と死者を無理やり繋げる冥婚の魔力を利用しつつ、封筒を拾った者を生贄として写真の娘に捧げる細工が施されてるの」
果林「細工?」
「ええ。ひとつは強力な人骨念珠。あとひとつは、この封筒よ」ピラッ
果林(巫女は空になった封筒を手に取り、私の前に置いて説明した)
-
「冥婚の場合は赤い祝儀袋なんだけど、これは封筒の表面に金文字の特殊な紋章が入ってるわ──ほら、漢数字の八を逆さにしてすり鉢状になってるでしょ?」
果林「確かに……まるで記号のよう……」
「本来、八は形からみて上から下へ末広がりと言われてて、陽の気が下へ降りるこでいい運気が降ってくることを言い伝えられてるわ。伝統的な祝い事には欠かさない数字なの」
「──でもこの封筒は、逆さ八の字。一定の場所にとどまっていた陰の気が広く拡散するように仕向けられているの。陰の気は具体的には瘴気や呪いとか悪い運気のことよ」
「つまり封筒に逆さ八の字を刻み、呪詛と魔力を拡散させ、確実に対象を娘の慰霊のための生贄にする死の呪い……」
「……これは祓除だけでは厳しいかもしれないわね」
果林「ちょっと……」
果林(ここまで来て無理とか勘弁して。焦りの気持ちが顔に出ていたのを悟ったのか、巫女はまっすぐこちらを見ていった)
「安心しなさいったらしなさい。力尽くで祓うのじゃなくて、対処する方向に変えてみるのよ」
「おねえちゃん、用意できたよ」スタスタ
果林(ちょうど巫女の妹がやってきた)
-
「あ、やっときたわね!遅いったら遅いじゃない」
「もうっ、簡単に用意できるものじゃないって前から言ってるよね?はい、どうぞ」
果林(妹の両手には神への供物に使っている檜の台座の三方を持っていて、そこには──)
果林(──なにやら紙を着物を着た人間の形に切り抜いた人形が一枚だけあった)
果林「紙の、人形……?」
「そう。これは大祓人形というの」
果林「おおはらいのひとがた……?」
「これであの娘の霊から解放させてあげるったらあげるわ!」
果林(巫女はその人形を手に取り、自信ありげに言い放った)
-
「まず、この人形に名前を書いてちょうだい」
果林「わかった……」
果林(前のめりになって、その紙人形の真ん中に名前を書き終えたそのとき)
「ちょっと失礼するわよ」ヒョイ
ブチッ
果林「いたっ!?何するのよ……!」
果林(いきなり私の大事な髪の毛を一本、抜いた。私が思わず抗議しようとすると)
「落ち着いて。これは人形があなたの身代わりになるために必要なの」
果林「身代わり……?」
「生贄を欲する悪霊にあえて生贄を差し出すの、この人形でね」
果林(そういうと、巫女は人形に私の毛をのせて丁寧に折り曲げる。そして、赤い封筒に入れると元から入っていた写真、念珠、爪、髪の毛を入れて厳重に封をした)
「……高天原に神留まり坐す皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等を……」
果林(なにやら古代の日本語のような呪文をつらつら述べ、そのあと鈴がたくさんついた棒を振って部屋中に音を響かせると──)
「……」ヒョイ
ボッ
果林(──持ってきた火鉢の中に封筒を放る。一瞬で紅蓮の炎に包まれ、灰に変えた)
「……これで祓除と人形御供は終了したわ」
-
果林「……終わった、のね……?」
「ええ。問題なくできたし、これで大丈夫よ」
「封筒の呪いは解けて、あの娘は人形をアナタと思って黄泉へ連れていったわ」
果林「……良かったわ」ホッ
果林「それで、その……」モジモジ
「?」
果林「……お代、なんだけど……」
果林(これで安心して眠れると思ったと同時に、この大掛かりなお祓いの費用が気になっていた)
果林(すると巫女はその心を見透かしたように小さく微笑むと)
「代金は結構よ。帰るときに賽銭を投げてくれればいいわ」
果林「ホント!?ありがと……!」パァッ
「その代わりったらその代わり!!」ビシッ
果林「!」
「雇われたとはいえ、あなたには写真の娘の暴走と封筒の呪いを止める義務があるわ。私に協力しなさい」
果林「私はどうすればいいの……?」
果林(すると巫女はあることをやるよう指示してきた。それは──)
-
エマ「──渋谷と原宿で道に落ちている赤い封筒を拾ってはいけない。拾ったら、死者と結婚させられる、かぁ……」
エマ「急にSNSで拡散希望の投稿してバズっていたから、どうしたかと思っちゃったよー」
果林「あはは……渋谷で撮影してたとき変な噂を耳にして、ね?」
果林(翌日。私はエマに呼び出されて麻布にあるカフェのオシャレなテラス席にいた──私のSNS投稿を見て、気になって連絡してきたとのことだった)
エマ「そっかぁ……いつも自撮りと汚部屋の写真しか投稿しない果林ちゃんがいきなりこんな投稿するから心配しちゃったの」
果林「もう、エマぁ……」
果林(だって、これがあの巫女が出した指示なんだから……)
果林(巫女が言うには、もう封筒が置かれている以上、下手に動かしたり回収するよりも、多くの人の目に留まりやすいSNSで注意喚起の投稿を拡散させた方が用心するから……という、いかにも現代的なもっともらしい理由だった)
果林(そこで真実性を高めるため、私が普段使う実名アカウントで投稿。そのせいか、フォロワーの元ニジガクメンバーや元スクールアイドル、そしてそのファンへ一気に拡散しトレンドに)
果林(生まれて初めてバズるを経験した私は、ちゃっかり便乗してモデルとしての自分も宣伝した)
果林(おかげで私に落とした封筒の目撃情報が多数寄せられ、拾ってしまった人からの相談には私が神社へお祓いするようすすめるメッセージをしたりと……数日間は通知まみれのスマホを手放せないときが続いた)
-
果林「でも、こういうバズりは……もうこりごりだわ」ハァ
果林(あんな不気味な物を落とすだけで高額報酬のバイトも、ね……)
果林「ちゃんと真面目に稼がなきゃ、ね」
エマ「そうだねー、闇バイトとか怖いもん。ね、果林ちゃん?」
果林「えっ!?えぇ……そうねったらそうね」スッ
エマ「……ホワイト案件、高収入……」ボソッ
果林「ゴホッ……と、ところでエマ」
エマ「うん?」
果林「スイス大使館文化情報部の若手ホープがこんなことで油売っていいのかしら?」フフッ
エマ「大丈夫だよー!誰も見てないから。見てるのはウチの衛星だけだよー」ユビサシ
果林「えっ!どこ!?」チラッ
エマ「空を見上げたって見えないよー」フフッ
果林「もうっ、エマぁ!からかわないでよ!」カァッ
アハハ
-
果林(あれから数日間、あの顔が歪んだ娘が迫ってくる悪夢はもう見ていない。きっと、お祓いが効いたのだと思う)
果林(バズった投稿も数日で新しい話題に埋もれ、周りはいつもの日常に戻っていった)
果林(私は今、退院した彼方と再開した居酒屋でバイトを始めている)
果林(撮影と繁盛店のバイト、そんな忙しい毎日だけれど……)
果林「いまでも朝のお風呂からあがったとき──」
果林「──玄関にあの赤い封筒が置かれてたらって、少しドキッとしちゃうの」フフッ
おわり
-
乙やで
汚部屋の写真投稿すな
-
果林ちゃんは無事で安心した
可可は…
-
乙
すみれは複雑な心境だな
-
しゅみれ、、、
くくちゃん、、、
-
ちゃんと怖くて読み応えあった乙
-
乙
彼方ちゃんも無事で良かった
-
乙
果林さんたちは無事でよかった
けどまぁ、やるせないものがあるというか、なんというか……
-
読んでいただいた方、ありがとうございました
もしまだ果林さん闇バイトシリーズに需要があればまたやってみたいです
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懲りずに手を出して怪異に遭遇する果林さんは需要ありまくりだからもっと見たい読みたい
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面白かったからまた読みたい!
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>>148
期待大
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